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( ^ω^)ヴィップワースのようです
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タイトル変更しました(過去ログ元:( ^ω^)達は冒険者のようです)
http://jbbs.livedoor.jp/sports/37256/storage/1297974150.html
無駄に壮大っぽくてよく分からない内に消えていきそうな作品だよ!
最新話の投下の目処は立ったけど、0話(2)〜(5)手直しがまだまだ。
すいこー的ななにがしかが終わり次第順次投下しやす
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たとえばの話をしよう。
たとえば君という人物が、たった一人で絶望を覗く深淵の淵に立たされたとする。
仮にそれを一人で乗り越える事が出来たとして、天恵に恵まれていたに他ならない。
たった一人で困難に打ち勝ち続ける事が出来るほど、人は強い生き物ではないからだ。
だが、仲間という存在があるのならばどうか?
同じ過程を辿るにせよ、結果は違ったものになる可能性も無いとは言い切れない。
互いが互いを助け合い欠点を補い合う事で、人は、普段以上の力を発揮する事が出来る。
目には見えず、言葉で言っても陳腐になるだけの───不確かなもの。
それは───”絆”というものなのかも知れない。
誰にも断ち切る事の出来ない、真に強き”絆”の力があるとするならば、
恐らく人は、きっとどんな困難にも挫ける事なく立ち向かっていけるはずだ。
その人と人との結びつきが生み出す”光”は、きっと暗闇の中でこそ一層光り輝く事だろう。
大陸暦893年「ショボン=ストレートバーボン」の手記より
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( ^ω^)ヴィップワースのようです
「序 幕」
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───────────────
──────────
─────
夜の帳も降りた頃、とある森の奥深くに5人の若者の姿があった。
虫たちの声だけがしんしんとあたりに響く中、
彼らの周りを包むのは、薄ぼんやりとした暗闇ばかり。
星も見えない程の木々に覆われ、唯一光を灯しているものと言えば、小さな焚き火だけだ。
時折、ぱちぱちと音を立てるその薪の音も、すぐに森の静寂へ吸い上げられる。
5人の男女は火を囲みながら談笑しあったり、薪火をぼうっと眺めては、
旅の疲れを癒している所だ。
そこで、突然一人その場を立った長髪の女性の一人が仲間へと語り掛けた。
「歩哨が一人居れば十分だろう、お前達は休むといい」
その言葉に、全員が黙り込んだ。
これまでの道程で、確かに全員に疲労は溜まっている。
だが、一同は頷きもせずただそれに返す言葉を探し当てていた。
何も一人で歩哨の苦労を負担する必要はないからだ。
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その中で、一番早く思い立った銀髪の男は立ち上がると、彼女に言った。
「無理しなさんな、この人数なら二人のローテーションで十分さ」
ローブのフードを深く被り、膝を抱えてぼうっと薪の火を見つめていた
金髪の女性も、はっと気づいたように飛び起きると、彼の言葉に続く。
「そうよ、あなただけじゃなく、皆長旅で疲れてるんだから……なんなら、私が引き受けるわ」
最初に歩哨を請け負おうとした女性が、彼女のその言葉になんとも言えぬ表情を
浮かべたのを確認すると、地べたで地図を開いていたローブの男は割って入った。
「止した方がいい。僕たちと彼らとじゃ元々身体のできが違うからね」
─────ぐおぉぉ……ぐおぉぉ……─────
そんなやり取りの中で、既に豪快ないびきをかいて眠りに落ちている者がいた。
仲間たちが傍に居るためか、完全に安心しきったような安らかな寝顔を浮かべている。
大の字に寝そべりながら、そしていびきはますます大きさを増していった。
彼以外の全員が「やれやれ」とばかりにそのあられもない姿に白い目を向けていたが、
ローブの女性はそれに怒り心頭と言った様子で、つかつかとその枕元に歩み寄った。
「ふぅ……あんたってばッ……!」
一度大きくため息をついてから、枕代わりに頭の下に敷いていたその薪を、思い切り蹴飛ばす。
「……あqwせdrftgyふじこlpッ!?」
夢うつつの中、突然現実に引き戻されると、硬い地面に後頭部を打ち付けた。
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「なぁ、いい考えがあるんだけどさ……」
「……聞こうか」
「俺らの内誰か一人ずつをニ交代にして、もう一人はこいつに全部やってもらうってのはどうだ?」
頭を押さえてうずくまる男を尻目に、銀髪の男はそんな冗談めかした事を言った。
「……フッ、それもいいな」
長髪の女性が含み笑いを漏らした後、その場に小さな笑いが巻き起こった。
だが、そんな和やかな仲間内での談笑も束の間。
─────「”ウオォォォォォンッ”」─────
「!?」
直後、全員の身に戦慄が走った。
全員がすぐさまそれぞれの武器を手に取り、その場から飛び跳ねるようにして立ち上がる。
そう遠くない場所から確かに聞こえたのだ。
声からして獰猛極まり無い事を連想させる”獣”の、尋常ならざる咆哮が。
ローブの男は、すぐに声の聞こえた暗闇の方を注視する。
「今のは……近い───ここから、4半里も無いだろう」
-
先ほどまでいびきをかいていた男も、すでに背の剣をいつでも抜ける体勢だった。
「ただの狼……って訳でもなさそうだおね?」
銀髪の男は、かったるそうにしながら女性達に声をかける。
「悪いなお二人さん。どうやら、今晩の野営はお預けみたいだぜ」
長髪の女性は、それに腰元の小剣を取り出しながら答えた。
「なら、とっとと終わらせよう。正直に言って、私は眠い」
最後尾で身構えるローブの女性は、恐怖心を跳ね除けるようとしているのか。
その様子から、あえて気丈な態度で振舞っているのが少しだけ見て取れる。
「ま、後方支援は私にお任せってとこね」
─────「……”グルオォォォォォァッ”……」─────
今度は、更に近くでその声は聞こえた。
敵意を剥き出しにしたような、その吼え声は、明らかにこちらへ向けられている。
どうやら、戦闘は避けられない事態になりそうだ。
そう思っていた矢先────
気づけば暗闇の向こうからは、既に赤々と輝く眼光が5人の若者達を射抜いていた。
茂みの向こうからこちらへ近づくにつれて、その獣の威圧感は更に強まってゆく。
並の妖魔ではないだろう──────だが、この状況では立ち向かう他ない。
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「────行くお、みんな!」
臆することなく、先頭に立つ剣士は走り出した。
それに続くようにして、他の面々も側面から彼を支援する。
真っ向から巨大な獣とやりあおうと長剣を振り下ろした彼の眼前に、
打ち込みの合間を縫って飛んできた、獣の鋭爪が迫っていた。
だが、銀髪の男は瞬き一瞬ほどの間に胸元からナイフを取り出すと、
獣の眼を目掛けて指先から投擲し、見事狙った場所へと突き立てた。
「ったく、ヒヤヒヤさせんなよ」
獣が大声を上げて怯んだ一瞬の隙を突いて、ローブを纏った男の手から巨大な炎が発現している。
それは意思を持ったかのように彼の指先どおりの軌道を描いて宙を飛ぶと、獣の身体に直撃した。
「……どうやら、火力が足りなかった」
片目を潰され、身体に燃え移った炎の苦痛。
不気味な声を上げながら、それを紛らわそうとしているのか、獣は狂ったように暴れ始める。
「チッ……あぶねぇぞ、離れろ!」
「やはり、手負いの獣は危険極まるね……!」
後退してゆく彼らと前線を入れ替わるように、淡い黒髪の女性が躍り出た。
ゆっくりと背後を振り向くと、そこに居たローブの女性へ目で合図を送った。
「任せろ」
その一瞬だけで、通じ合えたようだ。
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(………うん)
互いに無言の中、ローブの女性はこくりと小さく頷くと、
【 聖ラウンジの名において 】
口にした────救いの力をもたらす、その聖なる御名を。
【 ヤルオ=ダパートの名において 】
彼女の身体の周囲からは、純白に包まれた粒状の光が漂い始め───やがて、
【 神の庇護の元 彼の者の身を あらゆる外敵から護り賜わん!】
ローブの女性がそう唱えて手を組んだその瞬間、やがてそこから閃光が生まれた。
舞い降りるようにして瞬く粒状の光は、苦戦を強いられる剣士に助太刀する機を
今か今かと待ち望む、小剣を携えた女性の身へと降りかかると、纏わりつく。
まるで、力を付与するようにして。
「はぁッ!」
それを受けて、依然として暴れ続けていた獣の懐へと彼女は飛び出した。
辛うじて見えるのは片目だけ、その憎悪に身を任せ、まるで目の前にある
全てをなぎ払おうとするかのように鋭い爪を尚も振るい続ける。
だが、俊敏な身のこなしの彼女には、そのどれもが当たらない。
「……助かったお!」
-
獣の攻撃の直後を狙い澄まし、ほんのわずかな隙を小剣が一度、また一度と突く。
一合ごとに、獣の身には刺し傷が増えている。
が、その身から血を流す度、更に獰猛に力強く、牙や爪は襲い掛かる。
剣士は、得手とする己の剣を力強く握り締めていた。
自分のものよりも遥か小ぶりな小剣で、果敢に剣技を繰り出し続ける彼女を前に。
自らの持つ速力を大きく上回るであろうその攻防に、自らが枷となるのを拒んでいたのだ。
だが、さしもの獣も深傷をいくつも負わされ、そこいらの猛獣を凌駕するであろう
その敏捷性にも、徐々にではあるが陰りが見えつつあった。
────剣士は、その隙を見逃さなかった。
「────お」
大きく、大地が揺らぐ程の一歩を踏みしめた。
「────おおおおおッ」
次いで、天高く跳躍する自分を想像しながら、跳んだ。
瞬きするほどの一瞬の内に全力を込め、両の足は既に地面を離れていた。
獣の背後へと、回り込んでいるのだ。
-
その頭上、天を突くような威容で構えていた剣。
「────おおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァッ!!」
自らの全体重を乗せた落下の勢いに任せて、裂帛の気合と共に振り下ろす───
やがて、鉄塊のような剣を比類なき速度で打ち込まれたその巨体は、ゆっくりと崩れ落ちた。
再びその場に訪れる静寂─────その静けさこそが、戦闘の終わりを告げる、合図だった。
────
────────
────────────
-
その後、傷ついた体を一晩の間だけ休ませて、すぐに次の旅の目的地へと向かった彼ら。
自分達が倒したあの巨大な獣が何であったのかなど、知る余地もないだろう。
ここ10年ばかりも山の頂上付近に出没し、近隣の村人達に恐れられていたという、
恐るべき”山の主”であったという事実など───あるいは、知ろうとも思わなかったのか。
その権利を持ちながら名声を得る事もなく、彼らは人知れず山を降りていった。
彼らは”冒険者”達。
身に余る名声など良しとせず、時には地位や富すらもを自らの誇りや、
その信念の為にはかなぐり捨てると言われる者達だ。
違う人生を歩みながらも、同じ宿で出会って、今では共に冒険をする仲間同士。
その彼らに共通する事は、皆が自由の風に吹かれて生きる事を選んだという事だ。
今日も────彼らはどこかの大地を歩いている。
芽吹き始めたばかりの5人の絆は、今はまだ限りなく心細い一本の線だ。
だが、冒険を共にする仲間の存在が、いつしか彼ら一人一人を今以上に強くするだろう。
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( ^ω^)ヴィップワースのようです
「序 幕」
─了─
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( ^ω^)ヴィップワースのようです
第0話(1)
「出会いの酒場」
-
ここでは、”聖ラウンジ”の教えが広まり、その統治下に置かれている。
呼び名を交易都市”ヴィップ”、近年急速に拡大してきた新興都市だ。
多くの商業施設では、冒険者や魔術師達に、果ては、聖ラウンジお抱えの騎士団の姿も見られる。
それというのも、同じ職を生業とする者達で助け合いながら、
仕事を斡旋する共同体、”ギルド”が多種多様に存在しているのが理由だ。
魔術師達にとっては己の研究を広め、研鑽を積むもの同士で情報を共有しあう場。
その一方では、主に戦ごとに用いられる傭兵斡旋所や、盗賊ギルドなどもあり、
表だってこそないが、やはり街が大きいほどに、日陰に生きる者も多分に存在する。
だが、大陸の中心に位置し、貧民層から富裕層までの多くの人々が住み暮らす
この街は、今や行き交う商人達にとっても決して素通り出来ない場所だ。
その広大な敷地を誇る街の入り口の立て看板の前で、青年は一人、肩を落としていた。
( ω )「はぁ…なけなしの50spを落とすとは、ツイてないお…」
ずた袋を背負い、決して傍目からは小奇麗とは言いがたい服装。
とぼとぼと歩く後姿には哀愁を誘うものがあった。
ただ、その背中に背負う一振りの長剣だけは光り輝いて見える。
業物の装飾を施した鞘に納まり、彼自身とは見合わぬ程だ。
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みすぼらしい服装や、生々しい擦り傷の数々。周囲の人々には
かなりの長旅を経てこの場所へ辿り着いたのだと思わせる事だろう。
だが、肩を落としながらでも彼の足取りは一歩一歩が力強く、
疲れなど感じさせない。その一挙手一足は、それなりの場数を
踏み越えてきたであろう、戦士としてのものによく似ていた。
この大陸では、貴族や商人などといった身分の住み分けこそあれど、
それぞれの人々は安定した暮らしを築く為、日々を精一杯仕事に打ち込んでいる。
だが、自由の風に吹かれて生きる事を目標とする者は、非常に多い。
────それが、彼のような冒険者という人種。
冒険者というのは、取るにも足らない雑用から、揉め事の仲介、遺失物の探索など、
それら”冒険者宿”で張り出されている依頼を受け、日銭を稼ぐ人々の事。
腕利きの冒険者ならば、時に騎士団や領主直々に破格の報酬を与えられることもある。
だが、高額の依頼になれば当然、危険な依頼も多い。
そんな中で金や名誉を急く、経験の浅い駆け出しの若者達の大半は、
志半ばで命を落とす人間ばかりといっても過言ではないだろう。
-
彼らの中での冒険の目標は、この大陸の未開の地が踏破される度、常に移り変わる。
ある者は、伝説と語り継がれる秘宝を手に入れ、莫大な富をその手にした識者。
また、ある者は精鋭の騎士団を幾度駆り出して討伐しようとも倒せなかった魔物を、
たった一人で倒したという猛者。
冒険者達は、そうして聞こえてくる風の噂に、一抹の思いを馳せる。
ある者は名誉のため、またある者は、知識の探求に明け暮れて。
大陸全土において、日々冒険者を志して行動し始める者は後を絶たないのである。
やがて、一軒の宿の前で、彼の足は止まった。
木製の看板には、書き殴ったような筆記体でこう書かれていた。
─────「”失われた楽園亭”」─────
酒や食事を提供し、各地方からの依頼ごと扱う、いわゆる”冒険者宿”だ。
このヴィップの街がまだ今のように栄える前から、この場所に建てられた。
一見して作りは小汚いが、ヴィップでは腕利きの冒険者達がよく立ち寄ると評判の、
良質な冒険者宿として繁盛している。
だが、そんな事も知らない若者は、看板を見ながら一人呟く。
( ω )「何とも、キザったらしい名前だおね…」
使い込まれた木扉を押して中に入ると、その瞬間に活気が溢れて来た。
まだ日も高い内から、それぞれの卓では酒盛りがなされ、賑わっている。
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(’e’)「───いらっしゃい」
マスターが一瞬入り口の方を一瞥する。
彼が一見の客である事、それに、風貌から冒険者である事。
それらの確認をまばたき数度の内に終えると、また少し俯き加減に
エールグラスを磨きながら、酒盛りをしている冒険者達と談笑に戻った。
マスター同様に、店の娘も一瞬だけマスターの方をちらりと見たが、
彼が談笑に戻ったのを見て、若者の元へと駆け寄ると、注文を尋ねる。
ζ(゚ー゚*ζ「いらっしゃいませ!…ご注文は?」
そんなやりとりに気づく節も無く、若者はただ壁面に
びっしりと散りばめられた、様々な依頼の文字を追っていた所だ。
そこへ突然後ろから注文を聞かれると、驚き、振り返った。
( ;^ω^)「あ───申し訳ないんだお、その……」
「今日は持ち合わせがないので……依頼だけ……」
ζ(゚ー゚ ;ζ「え?」
その言葉に、周りに居た冒険者と思しき人間達は、
彼らの方へと振り返った。突然多数の視線に晒されて、
若者は少しばかり目が泳いでしまっている。
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こういった冒険者宿では、張り出した依頼を閲覧する際に、
飲み物の一杯も頼むのが冒険者同士では暗黙の掟というものなのだ。
もちろん、気恥ずかしそうにするその態度から、彼がこういった
”常識”を疎んじていたという訳でも、なさそうだったが。
店の娘も困惑気味だったが、気まずい空気は一人の男性客によって破られる。
_
( ゚∀゚)「小僧」
エールグラス片手にカウンターでマスターと談笑を続けていた男。
その彼が、突然若者の方を振り向いて一言漏らした。
彼の物と思しき灼熱色の軽甲冑は傍らに脱ぎ捨てられ、
浅黒い肌に映える爛々と輝く青い瞳は、真っ直ぐに彼の瞳を射抜く。
自分よりふたまわりも年長者である雰囲気だが、その顔立ちは端正に整ったものだった。
(;^ω^)「?」
_
( ゚∀゚)「俺のオゴリだ。そこに座って、一杯飲み干してからじっくりと選びな」
そう言って身の丈ほどの大剣を背にした小柄な男は、言われた通り席に腰掛けた彼の前へ、
なみなみと注がれた一杯のエールを滑らせた───ピタリと、彼の目の前で止まる。
-
「ははッ、ジョルジュの旦那らしいぜ」
「まぁ……俺らもあいつくらいの時分にゃよぉ……」
お辞儀をしてカウンターの奥へと去ってゆく店娘の背中を見送ると、
目の前のエールグラスを手に取り、ちびり、とグラスの端を口につけた。
( ^ω^)「あの……」
_
( ゚∀゚)「礼ならいらねぇ、高々銀貨1枚の酒だ」
( ^ω^)「……いや、ありがとうございますお」
_
( ゚∀゚)「お前、冒険者か?」
( ^ω^)「まだ駆け出しですが、お……自分は」
名乗ろうとした矢先、彼はは手でそれを跳ね除けるようにして、紡ごうとした言葉を振り払う。
どうでもいい、とばかりに苦々しい表情で。
_
( ゚∀゚)「名前なんか聞きたくもねぇよ……駆け出しの名前なんか聞いても、
季節が移り変わる頃には、どうせ土の下で眠ってる奴ばっかりだからな」
( ;^ω^)「お…」
_
( ゚∀゚)「俺と酒を酌み交わした帰り道の数刻後…ってやつもいたさ。
酔っ払ってたばかりに夜盗どもに襲われて、ぽっくりとな」
( ;^ω^)「はぁ……ですお」
_
( ゚∀゚)「んで、お前はどっから来た?」
-
( ^ω^)「……ここからずっとずっと西の、田舎の農村ですお。
多分名前を言っても誰も思い当たらないほどの」
_
( ゚∀゚)「サルダか……あそこは僻地だが、のどかで人も良かった」
( ^ω^)「行った事があるんですかおっ?」
_
( ゚∀゚)「まだまだ大陸も未開の地は多いが、お前なんかより
万里はあっちこっち旅してるさ。なめんじゃねぇ」
( ^ω^)「……ですお」
_
( ゚∀゚)「俺は、いつかある竜を仕留める為に旅を続けてる」
( ;^ω^)「ドラゴン…ですかお?あれは、人の手に負えるものじゃ…」
ほんのりと酒が回ってきたのか、はたまた、ただの気まぐれなのか。
ジョルジュと呼ばれた男は、また新たに運ばれてきたエールグラスを呷りながら、
一人語知るように語り始めた。
-
_
( ゚∀゚)「…まぁ、こいつはただの昔話なんだがな。かれこれ、15年も前の話になるか…
奴がねぐらにしていた山の、とある麓の村が襲われたんだ」
_
( ゚∀゚)「当時その地を治めていた坊ちゃん領主が、手柄を立てたいと思ったんだろうよ。
突ついちゃいけねぇ奴の腹元を突いて、逆鱗に触れちまったのさ」
_
( ゚∀゚)「50人以上からなる騎士団は壊滅…命からがら帰って来たのは、
気が狂った奴か、もう生きてる方が辛い風体の奴ばかりだった」
_
( ゚∀゚)「その翌日だよ。腹の虫が収まらなかったそいつが、麓の村の人間を皆殺しにしたのは」
( ^ω^)「………」
_
( ゚∀゚)「女、子供、老人…皆食い散らかされるか、奴のブレスで焼き殺されたさ」
_
( ゚∀゚)「───今はねぐらを変えて、どこに身を潜めてるんだかな……」
そう言って、遠くを眺めるような瞳で、ジョルジュという男はエールグラスの底に残った
琥珀色の液体を揺らしながら眺めていた。押し黙りその様子を見ていた若者は、そっと尋ねる。
( ^ω^)「ジョルジュさんは………ご家族をそいつに?」
-
若者の方を振り向くともせず、エールを一気にあおり、グラスをそっと置いた。
相当量の酒を飲んでいるであろう事は窺えるが、その横顔は、酒に呑まれている様子はない。
_
( ゚∀゚)「…ま、昔の話よ。期待したほど面白くもねぇだろ」
( ^ω^)「………いや」
_
( ゚∀゚)「”邪龍ファフニール”…500年以上も生きてるっつぅ、怪物よ」
( ;^ω^)「!…ファフニールと言えば自分の住んでた片田舎でも、噂くらいは聞いた事がありますお」
_
( ゚∀゚)「どんなだ?」
( ^ω^)「生きる伝説。数百年を生きる竜は、人語すら理解する知恵を持って…」
_
( ゚∀゚)「……ハハハッ!」
若者が言葉を続けようとしたところで、それを聞いたジョルジュはカウンターを
ばんばんと叩きながら、どこか自嘲気味に笑うかのような仕草を見せた。
_
( ゚∀゚)「どいつもこいつも、”ドラゴン”ってバケモンがよっぽど高尚で、お上品な存在だと口を揃えやがる」
-
( ^ω^)「確かに、数百年を永らえる知恵とその力から、龍たちは絶対的強者ですお」
_
( ゚∀゚)「絶対的強者ねぇ……そいつぁいいや」
_
( ゚∀゚)「いいか、若造……俺はな。俺の身内を、何の感情も無く旨そうに喰らってやがるあいつの姿を見た。
その時はまだフヌケたガキだった俺は、小便も大便も漏らして、ただ震えていたさ」
( ^ω^)「………」
_
( ゚∀゚)「人間を食い散らかし、本能のままに殺す必要の無い命を奪っていきやがった。
俺から言わせれば、奴らも、ゴブリンも、豚オーク共も」
「何の変わりはねぇ、ただの化けもんだ」
そういって、何口目かでグラスを満たしていたエールは底を突いた。
一つ大きなため息をついてから、ジョルジュという男は甲冑を着込み、身支度を始める。
(’e’)「今夜は、泊まっていかないのかい?」
_
( ゚∀゚)「悪ぃなマスター。次の依頼がまたでかいヤマでな…その下準備があるのさ」
(’e’)「それなら……次は、上等な酒を用意して待ってるさ」
実に手馴れた動作で、甲冑を着込み、使い込んだ手甲の紐を歯を使い器用に縛る。
その一連の動作を終え、男が宿を後にしようとしたところで、若者はその背中に声を掛けた。
-
( ^ω^)「あのっ」
_
( ゚∀゚)「あ?」
( ^ω^)「エール、本当にありがとうございましたお」
_
( ゚∀゚)「…チッ、調子狂うぜ」
家族をドラゴンに殺され、その仇討ちをするために旅をする冒険者。
その去り行く背中を最後まで見送ると、若者もまた席を立った。
壁面を飾る依頼状へ、再びじっくりと目を走らせる。
( ^ω^) 「依頼は……この辺がいいかおね」
そこから剥ぎ取った依頼書を手に、おずおずとマスターの元へと差し出した。
そこに書かれていた依頼は”ゴブリン退治”というものだ。
(’e’)「おっ、依頼かい。どれどれ……」
差し出された依頼書の内容を確認しながら、それを差し出してきた駆け出しの姿をちらりと見る。
(’e’)「……ゴブリンといえど、油断はできんぞ。
ましてや、それが駆け出しならよっぽどな」
-
( ^ω^) 「わかってますお。僕も、死ぬつもりはないですからお」
言って、背中の鞘へと収まった長剣の刀身を少しだけ抜き出すと、
半身になってマスターへと見せた。すぐにぱちんと鞘へと収めたが、
朝露さえも断ち切れそうな程の切れ味は、輝きからも見て取れる。
(’e’)「冒険者としてはどうだか知らないが、そっちの方は達者そうだな」
( ^ω^)「ありがたいけど、ご心配には及ばないと思いますお」
「────ま、悪くないか」
冒険者宿を切り盛りするマスターともなれば、駆け出しから熟練まで
多数の冒険者達の顔を嫌でも覚えてしまうものだ。
しかし、長く付き合いを続けていける人間など、その一握りに満たない。
多くの人間は命を落としたり、怪我や病気で足を洗う人間などが大多数なのだ。
そんな中で、この”失われた楽園亭”のマスターは、依頼を受諾しようとする
冒険者の力量を判断し、相応しくないと判断した場合には断る事もある。
一部からは”融通の利かない偏屈親父”として有名だった。
が、それというのもかつて冒険者を志して旅に出たという息子が、
若くして命を落としたという事実から来ているのだろう。
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その人柄の良さと料理の旨さ、また、店娘の愛嬌もあいまって、
この冒険者宿は日々繁盛しているのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「はーい!ただいまお持ちしますからね〜!」
慌しく働く店の娘を見やりながら、依頼書に自分のサインを記すと、
マスターはそれを再びこちらへと返し渡そうとした。
(’e’)「…そういや、お前さんの名前が要るな。教えてくれるか?」
( ^ω^)「ブーン、”ブーン=フリオニール”ですお」
(’e’)(フリオニールという名……はて、どこかで……)
(’e’)「ま、いいか……明日の朝ここを出て、東のリュメで依頼人に会うんだ」
( ^ω^)「分かりましたお」
(’e’)「そのナリじゃ、どうせ無一文だろう?お代はツケといてやるから、
今日は2階の空いてる部屋を寝床に使いな。ベッドはないがな」
( ^ω^)「!……ありがとうござい───あ」
(’e’)「ん?他に情報が必要か?」
-
( ;^ω^)「ば……晩メシの方は……お召し上がれますかお……?」
(’e’)「……ハハッ、何かと思えばそんな事かい。
心配すんな、今晩も明日の朝も、腕によりをかけてやるさ」
( *^ω^)「あ……ありがとうございますだおぉッ!」
腹の虫を大きく鳴らせながら、今晩の食事に思いを馳せ、喜びを露わにする。
これから歩む、冒険者としての道────その、第一歩を踏み出した。
”ブーン=フリオニール”、彼が何故旅をするのか、今はまだ誰も知らない。
( ^ω^)「(一先ずはこれが───最初の一歩、だおね)」
その理由は、いずれ彼自身の口から語られる時が来るかも知れない。
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( ^ω^)ヴィップワースのようです
第0話(1)
「出会いの酒場」
─了─
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乙!
初めて読んだが面白いな
-
おっ、タイトル変えたのか
壮大なのは大歓迎だがよくわからないうちに消えたら承知しないからなwww
-
>>30-31
消えないように頑張るお。
今回は地味にプロローグを追加しとりまふ
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( ^ω^)ヴィップワースのようです
第0話(2)
「怒りを胸に刻んで」
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光あれば、闇もまた然り。
聖ラウンジの奇跡とは対極の存在として、常日頃研究されつづけているものがある。
─────それが、”魔術”
名の通り、一つ使い方を間違えれば、魔に取り憑かれ己の身を滅ぼす事さえある。
弱き者を救う術として存在している聖ラウンジの秘術とは違い、これは弱者が強者に対抗する術なのだ。
その為、魔術師たちが用いる術は、他人を呪うもの、対象を焼き焦がす炎を発現するものなど様々。
様々な術をこなせる半面、魔を究めようと、それに魅入られた者も多い。
その中でも、大陸全土において絶対の禁忌とされ大多数の魔術師から忌み嫌われるのが”死霊術”
命を失った肉体や朽ち果てた亡骸を蘇らせ、己の意のままに操る事さえできる。
多くの人間の死が必要で、またその亡骸を弄ぶという事で、もし発覚すればその場所場所に
よっては、拘束され、処断される事さえあり得るのだ。
高等魔術に位置する死霊術の研究だが、それゆえ魔術の道に魅入られた者達の中にも
人々の目を欺きながら研鑽を積み、研究に没頭している者も存在する。
人は、禁忌というものが自分の目の前にあると、触れずにはいられない生物なのだから。
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(´・ω・`) 「ふぅ…全く、聞いた話とはえらい違いだ」
全ての魔術師たちが志す場所があった。その名は、”賢者の塔”
その名の通り、魔術の道を求道して研鑽を積み続けた者たちが立ち入れる場所だ。
幾多の術を用いる名のある魔術師や、大きな発見で魔術研究に貢献した者など、
ここにはそんな魔術師のエリートばかりがひしめいている。
一定の成果を上げられない人間は、研究途中であろうと塔を追われる事さえある。
逆に、見込みのある研究成果を上げられる術者たちには快適な研究環境があてがわれ、
じっくりと自分の研究に没頭できるという訳だ。
青年は、沢山の魔道書を両手一杯に抱えながら、陽光の差す渡り廊下の窓から外を眺めていた。
”ショボン=アーリータイムズ”──────
生まれた時の名であるストレートバーボンの名を捨て、魔術師としての現在の彼の名前だ。
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南の名家、”ストレートバーボン家”の次期当主となるはずだったショボンは、
物心つく前から既に魔術へとのめり込んでいた。
8歳の時には、老齢の魔術師であっても習得が困難とされる移送方陣を独学にて完成させると、
12歳の頃には、森で遊んでいた際に襲い掛かってきたオーガを、炎の球で撃退したりもした。
気品に溢れ、知に富んだショボンが領主としてその手腕を発揮するのを、
ストレートバーボン家の人間のみならず、領民達も待ち望んでいたほどだという。
だが、20になったショボンは、父であるシャキン=ストレートバーボンの制止を振り切り、
僅かな手荷物だけをもって生家を後にしたのだ。広大な敷地と大きな富を有する領主の地位を放って。
その後は大陸各地を転々としながらも魔術の研鑽を積み、やがてその才覚がこの賢者の塔の
アークメイジの目に留まり、こうして今この場に呼び寄せられているのだ。
だが、どういうわけかこの頃は研究の合間に、雑用ばかりを余儀なくされていた。
(´・ω・`) 「(使用人にご機嫌伺いをされるのも懲り懲りだが、こう雑用ばかり頼まれるのもな…)」
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常人の数倍の速度で知識を吸収してゆくショボンに、賢者の塔の魔術師達も舌を巻いていた。
ついこないだも、ショボンの倍以上も生きている老魔術師が、
転移方陣によって自分の身を遠方へと転送する事に成功したと言う。
喜びを露にしてそれをショボンに伝えてきた老魔術師だったが、
そこへ彼が言い放った言葉がいけなかったのかも知れない。
(´・ω・`) 『それはそれは、おめでとうございます。苦労なされたでしょうね……
ちなみに私は、それを15の時には既に独学で習得していましたが』
事実、今の段階でショボンに比肩する叡智を持つ魔術師は、指折り数えるほどしか存在しないのだ。
しかし、いかに有能といえど賢者の塔にはきちんと術者同士の上下関係というものもある。
才覚ではショボンに劣る者もいるが、これまでの下積みによって魔術の研究に大きく貢献してきた者達なのだから。
(´・ω・`) 「(妬み、か………だが、収穫もあった)」
そうして冷静に自分へと向けられている周囲の感情を分析しながら、
窓の外の風景を眺めていたところだった。廊下ですれ違う人間と、ふと目があう。
( ・∀・)
”モララー=マクベイン”。彼もまた北の名家、ローゼンマイヤーの名を捨てたという話だ。
ショボンを上回る程の才覚を持ち、また独自の魔術の研究にも余念が無い。
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光の屈折率を捻じ曲げ、己の姿を不可視にするという魔術は、未だ彼以外に大陸中で習得した者は居なかった。
どこか同じ雰囲気を持つ二人、だが、どちらからも話かける事はなかった。
互いの研究が忙しいというのもあるのだろうが、相容れない、ショボンはそんな印象を彼に持っていた。
(´・ω・`)「どうも」
( ・∀・)「あぁ、どうも」
会釈をしたままその背中を見送るショボンは、視線を落とした際に、一つある事に気づいた。
(´・ω・`)「(………血?)」
( ・∀・)「………では」
大きめの黒い道衣に身を包むモララーの手首に、血を拭ったような痕跡が僅かに見受けられた。
だが、モララーは別段視線も合わせず、ゆっくりと歩を進めて廊下の奥へと消えていった。
たったそれだけ、普通の人間ならば気に留める事もないようなそんな事が、
この時は何故か、やけにショボンの好奇心を煽った。
(´・ω・`)「(尾けて……みるか?)」
モララーの背中が見えなくなったのを確認して、抱えていた魔道書を傍らへと置き、静かに歩き出す。
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モララーの背中が見えなくなったのを確認して、抱えていた魔道書を傍らへと置き、静かに歩き出す。
一度興味が沸くと確かめるまでは抑える事が出来ない性分だとは、彼自身も解っていた。
それだけにその好奇心こそが、今日までの彼を形作ったのかも知れない。
決して尾けているとは気取られぬ程度に、一定の歩調で彼の後を追う。
専用の研究室まで与えられているモララーという魔術師の存在は、以前から気にはなっていた。
自分が魔術研究者として招き入れられるよりも以前から、彼は既に大陸全土の魔術師ギルドから
一目を置かれている存在であったからだ。自分とさほど変わらぬ若輩が、だ。
確かに、自分は常人が数年頑張っても習得できない高等魔術を、難なくこなすことができる。
だだ、それらは決して自分一人の研究によって得られた成果ではないのだ。
尤も成功の可能性が高いその道を模倣し、必要とあらばそれらの修正点を洗い出す。
それが出来れば、後は自分なりの解釈を添えて必要であろう行動をこなすだけ。
たったそれだけの事で、自分より遥かに長く魔術に携わる人間達の頭上を、何度も越えてきた。
これまでの間、大きな壁にぶつかったことすらなかった。
決して自分の口から周囲へと放つ事はない、が、恐らくは自分が魔術師として
一流の部類に入る人間なのであろうという事も、自覚している。
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当然そこらの貴族が抱えているような、プライドだけは一人前といった、
半人前未満の魔術師たちと比較すればなおさらの事だ。
有事においての判断力、集中力、蓄える知識の量も、センスも。
己への糧とする為に魔道に打ち込んできた時間が、絶対的に違うのだ。
名ばかり売り込む事に躍起になってきた者達は、遅かれ早かれいつか必ず
大きな壁にぶつかり、己の才能の無さを言い訳に道を違えて行く。
今日の自分を形成するものは、飽くなき探究心と、効率の良い努力で裏打ちされた自信。
それにより、今まで他人を羨んだりした事もなかった。
だが、それも────モララーという男が、自分の先を行く男が居ると、知る時までは。
初めて自分の興をそそられる人物と出会った。
だからこそ、少しばかりの事に、敏感に反応してしまっているのだろうか。
(´・ω・`)「(僕が……彼を羨んで?)」
(´・ω・`)「(………いや)」
それは違う、ただのいつもの悪い癖だ。そうやって自分を納得させながらも、
自分の足跡はモララーを辿ると、やがて彼の研究室がある辺りまでたどり着いた。
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簡素で、何の飾り気も無い研究室の扉。
その前に立ち、そっと指先で扉の取っ手に触れてみた。
ぽぅっと、ほのかに黄色く発光する指先。
物体に遮られた場所の様子などを調べる為の”探知魔術”だ。
目を瞑り、扉の向こうの様子を探ろうとした所ではっと我に返り、その手を離した。
(´・ω・`)「………全く、僕は何をしているんだ」
ただ単に興味を惹かれた、遊び半分の気持ち。
たったそれだけの事で、同じ屋根の下で寝食を共にしている身内に対して、
侵してはならない領域を、あともう少しで侵してしまうところだった。
一旦冷静になると、自分への嫌悪感さえ押し寄せて来た。
それらを噛み殺しながら、一人自嘲気味に呟く。
(´・ω・`)「本当に、この癖は治さなければね……」
短時間の探知魔術で把握できたのは、モララーは研究室には戻っていないという事だけだ。
手首に血の跡?それが何だ、研究道具か何かで引っかいたり、自分自身の血液を媒体とする術式だってある。
下らない事に頭を突っ込むよりも、いち早く完全なる自分だけの魔術を完成させなければ。
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踵を返して、研究室の扉の前から立ち退く。
モララー=マクベインといういち魔術師に対し、申し訳ないと思う気持ちさえ沸いてきた。
だが─────その時。
そこで、ショボンを再び疑念へと駆り立てる要素が芽生える。
(´・ω・`)「(……ッ!?)」
日ごろから頭を使う事ばかりしているせいか、俗世の人間達が好む珍味などの味覚にも疎く、
魔道書の活字ばかり追っている眼は、最近では近づきすぎるとぼやけてはっきりと見えなくなってきた。
だが、自然に群生した葉などを調合したりもする実験柄、嗅覚というものは大事な五感の一つだ。
間違える筈はない。
本当に微かながら、自分の鼻腔を突いたのは─────僅かな、死臭。
(´・ω・`)「(これは……)」
今度は躊躇わなかった。再びの探知魔術によって、扉の向こうに誰も居ないのを
しっかりと確認した後、取っ手をしっかりと掴み、押し開けようと試みた。
だが、扉はうんともすんとも言わない、それどころか、手から伝わってくる感覚に違和感を覚えた。
しっかりと力を加えているはずなのに、少しのあそびもない扉からは、きしむ音すら聞こえない。
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(´・ω・`)「(鍵じゃ、ないな……魔術による錠の感じでもない)」
(´・ω・`)「(だとすれば、結界か?)」
(´・ω・`)「(ますます気になるな)」
大きく一歩を後ずさった後、ゆっくりと掌を扉へと向けると、詠唱した。
(´・ω・`) 【 行く手を阻みし魔の効力────打ち消えろ 】
その一言を言い終えると、固く閉じられていたはずの木製の扉は、軽く押すだけで呆気なく開いた。
”解呪の法”、簡潔な呪いの類や、魔術によって張られた障壁などの魔力を中和する魔法だ。
結界によって隔てられていた空間と空間。それが破られると、扉の向こうからは
重苦しいような、息苦しいような、そんな違和感が流れ込んでくるのを、ショボンは肌で感じ取った。
(´・ω・`)「随分と、小奇麗なものだ」
研究室の中へと一歩踏み入っただけで、感じていた重圧がより一層強いものに増した気がした。
同時に、鼻を突く死の臭いも、だ。
きょろきょろと部屋の中を見渡し、私物や研究成果をしたためた書物などに目を配る。
そこで、ギクリとするような題名のある一冊の書物を見つけて、急ぎ手に取った。
(;´・ω・`)「まさか……これは」
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”死をくぐる門”
古ぼけた魔道書の題名には、そうあった。
この著書には、多数の人間の死が密接に関わっていると及び聞いている。
今より数十年も昔、ある村で全ての住民が忽然と姿を消してしまうという事件が起こった。
幾度も近隣の騎士団は捜索を試みたが、村中、果ては森狩りをしてまで原因を追究したが、
いくら月日が流れても、手がかりを発見するに事さえ至らなかった。
種明かしをしてしまえば、犯人はこの魔道書を書き綴った人物というのが、三年後に発覚した事実だ。
村の離れにぽつんと建っていたあばら家の地下で、この著者の亡骸と、
村人達の者と思しき異常なほどの量の人骨が発見されたのだという。
一人の魔術師が、夜な夜な”実験材料”として村の人間達を捕らえ、
その命を奪っていたらしい、というのが事の顛末である。
”死霊術の実験”としての大量虐殺、後に騎士団はそう断定した。
だが、実際にはそれを一歩進めた外道にも劣る儀式を行っていたのだという。
その惨い過程を書き綴ったこの著書から明らかとなったのが、5年ほど前だったか。
この世で唯一、死神と同一視さえされる程に強力極まりない悪霊、”レイス”
その霊体を、自らの肉体と数多の人間の死を媒体として、降霊させようとしたのだ。
魔術の道を志す者達には、絶対に破ってはならないタブー。”禁呪”として伝え広められる死霊術。
果たしてレイスを呼び出す事に成功したのか、そのまま取り殺されたのかは誰も知らない。
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頁をめくる度に犠牲となった人間の悲鳴すら聞こえてきそうな、この外法の魔術書に数えられる一冊。
今重要なのは────それが、何故この場にあるのかという事だ。
(;´・ω・`)「(何という物を見つけてしまったんだ……しかも、これは)」
死霊術において、死者の魂を捕縛するための道具である、”黒魂石”が傍らに置かれていた。
混じり気のない黒曜石を削りだし、様々な材料を塗した上で7夜を満月の光で照らし続ける。
確か、昔何の気無しに目を通した書物にはそう書いてあった。恐らくこれは、その手順にも忠実だ。
それらが何を示しているのかは、たとえショボン以外の術者であっても、簡単に理解が出来る。
(;´・ω・`)「(バカな………死霊術だと?)」
(;´・ω・`)「(この賢者の塔に出入りする魔術師が、そんな外法を研究していたなど知れれば…)」
肩をわなわなと震わせ、ショボンの心中には様々な感情が交錯していた。
こんな事実が外部に発覚すれば、魔術師ギルド全体、はたまた大陸中の魔術師一人一人の沽券に関わる。
何より、大陸でも指折りの優れた能力を持ちながら、死者を冒涜して人間の尊厳を貶める、
死霊術などという外法に手を染めているのが、一緒に魔術の発展に貢献していこうとしていた筈の
身内に存在している事実に、ショボンは背筋の冷たくなる思いをしていた。
「……おや、そこで何を?」
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