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ソラの波紋

100心愛:2013/01/06(日) 10:44:19 HOST:proxy10006.docomo.ne.jp






「色仕掛けも実力の内ですわよ? 授かったものは生かしませんと」



「それ買うって言いませんから!」



「食い逃げ犯に言われたくはありませんわね」



「う」



返す言葉もない。



「では、これは空牙が渡してあげなさい」



―――素直じゃないなぁと空牙は思う。


空牙に買わせる気などなくて、最初から、自分で用意するつもりだったのだろう。……手段はどうであれ。

それなのに意地でも自分で渡そうとしないのは、彼女のプライドゆえか。



「空牙。余計なことを考えているようでしたら、これに相当する金額を次の依頼の報酬から前引きして」



「滅相も御座いません」



笑顔が眩しいリリスの脅しに、大人しく受け取ってコートのポケットに突っ込む空牙。

リリスは満足したように前に向き直り、




「―――あらあら」




すう、と瞳を眇(すが)めた。
その奥に冷徹な光が閃く。



「……どうやら、わたくしたちと遊びたがっている方がいるみたい。無謀ね」



複数の不穏な気配。
気取られないよう注意しながら、背後へ視線を走らせる。

街のごろつきだと思われる男が、喧騒に紛れて確実に二人の後を追って来ていた。
その周りに浮遊するのは、ゴーレム型の無骨な機械人形たち。



「ミュシアにも物騒な輩がいるのね。貴方のお仲間が五人、かしら」



「あんなのとミレーユを一緒にしないで下さいません?」



「まあお熱い」



軽口を叩きながらも二人は歩みを止めず、気づいていない風を装い徐々に彼らを人気のない場所へと誘導していく。



「ああ……美しいって罪ですわね」



「少しは謙遜したらどうですか」



「わたくしくらい美しいと謙遜は逆に嫌みになるの。こんな美人とデートしている男が絡まれるのはごく自然な流れね」



やがて、人通りの少ない路地裏に出た。
くるりと振り向けば案の定、酷薄な笑みを浮かべた男たちが。



「なあお嬢さん、ちょっとオレたち金に困ってるんだけどさ、貸してくんないかな」



「護衛連れ歩くお貴族様なら、ちょっとぐらい恵んでくれても困んねーよなぁ」



いかにも育ちの良い令嬢然としたリリスを見て楽勝だと高を括ったのだろう。
残念なことに、そのお貴族様とやらはエルゼリアを細腕一本で治め、纏め上げるいと畏(かしこ)き女王様であったのだが。



「生憎、わたくしも彼も無一文でしてよ」



威圧的な態度にもびくともしないで可愛らしく小首を傾げ、



「その代わり、腕には少しばかり自信がありますの」



怪訝な顔をした五人が行動を起こす前に。




「行きますわよ――――《散華魔鏡(フォル・モーント)》!」




リリスは異能を全面解放、とんっという音と共に空中へと舞い上がる。
魔力を瞬発力に変え、目標へと凄まじい速さで突撃。



「なっ」



鋭い蹴り。
リリスの何倍かというゴーレムの巨体が、まるでゴム鞠のように吹っ飛んだ。
衝突したゴーレムが壁を勢い良く抉る。



「くそっ」



慌てて人形遣いの男たちが魔力を集中させゴーレムを操作する。

全方位から彼女を押し潰さんと飛んできたゴーレムたちを、軌跡を“読んで”いたリリスは難なく、鮮やかに回避。
一体ずつ蹴り、殴り、叩き落としていく。



「…………」



男たちが余裕の表情を消し去り空中戦に気を取られ始めた頃合いを見て、空牙は下肢に力を込めた。

距離はほんの数メートル。

敵が並みの人形遣いなら―――魔力を練る前に、蹴りが、届く!



「俺のことも忘れんなっての!」



「なっっ」



強烈な一撃が突き刺さり、男の身体が宙に舞う。
集団に動揺が走り、目に見えて士気が崩れる。


すれ違いと同時に鋭く息を吐いて止め、力を抜いた両脚を全力で踏み込む空牙。

一歩で最高速度へ達した彼は男たちへと躍り掛かり、抵抗する間もなく組み伏せられた彼らの操るゴーレムのボディまでもが傾ぐ。



「《核》は流石に勘弁してあげる」



その隙に人形にとっての心臓、《核》の位置を把握したリリスは同時に、狙うべきゴーレムの弱点を幾つも視界へと浮かび上がらせて。
にこり、と微笑んだ。




「ごめんなさいね。……わたくしを狙った己の愚かさを呪いなさい」

101心愛:2013/01/06(日) 10:50:54 HOST:proxy10006.docomo.ne.jp
>>ピーチ

多分ここあが一番書きやすいタイプなんだろうなw


そんな可哀想且つ激ニブな空牙だけど、一応頑張ったよ!
肉弾戦しかダメだけど!

102ピーチ:2013/01/06(日) 19:17:33 HOST:EM114-51-207-43.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかの実力にしちゃう!?

リリス姫強いー! 空牙君も強いね!←

103心愛:2013/01/07(月) 10:07:00 HOST:proxy10004.docomo.ne.jp
>>ピーチ

エルゼリアは知能と体術に秀でた人が多いし、その王様のリリスは異能の種類的に結構何でもありだからねw
空牙はイレギュラーなんで生身で戦うしかないんだけど←


で、次からやっとミレーユとユリアスが出てくるよ!
長かった……!

104匿名希望:2013/01/07(月) 13:57:49 HOST:zaq31fa4b53.zaq.ne.jp
ウンコしてもいいですか?
ウンコスレ

105匿名希望:2013/01/07(月) 14:33:02 HOST:zaq31fa4b53.zaq.ne.jp
分けの分からないスレですが宜しく

106ピーチ:2013/01/08(火) 14:41:43 HOST:EM114-51-155-248.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

知能と体術かー…いーなー!←

ミレーユちゃーん! ユリアス様ー! 頑張ってねー!

107たっくん:2013/01/09(水) 12:16:04 HOST:zaq31fa4b53.zaq.ne.jp
↑何の話ですか?
メテオスマッシュとかないんですか?

108心愛:2013/01/11(金) 18:01:26 HOST:proxy10053.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ただいまー!

うん、ミレーユと空牙が揃えば喜劇ならぬ悲劇は避けられないけどねw

109心愛:2013/01/11(金) 18:03:45 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp







「リリス姫、空牙くん! お帰りなさい!」



淡い色の金髪をそよがせ、ぱたぱたと走ってきたユリアスが嬉しそうに出迎えてくれる。
つい新妻みたいだなと思ってしまった空牙だった。



「遅かったですね」



「申し訳ありません。少しばかり野良犬の躾(しつけ)をしておりまして」



「野良犬?」



「いえいえいえ気にしないで下さい!」



不思議そうに首をちょこんと傾げていたユリアスは、空牙の必死な形相を見て素直に追及をやめて。



「とにかく大事がなかったならよかった。ミレーユさんがずっと待って」



「はっ。ふざけるなです何故ミレーユが汚染物質と乳牛を待たねばならないのですか。ミレーユには到底理解不能ですね。むしろ汚いツラを視界に入れずに済んで清々していましたです」



「ついに無生物にまで落とされたっ!?」



「まぁ。わたくしたちに嫉妬する子が此処にも一人いたわね。すっかり忘れていたけれど……あらごめんなさい、悪気はありませんの」



「悪気ありありの癖に何をとぼけていますですか極悪肉女」



「あぁん空牙、わたくし下劣な人形の暴言にとっても傷ついてしまいましたわ! 慰めて下さるでしょう?」



「いやあのだから当たってますってば!」



「空牙から離れるですこの変態雌牛がっ!」



「あっあの皆さん、冷めちゃいますし食事にしましょうよっ! ねっ?」



これは自分が放っておいたらいつまでたっても終わらないと、勇気を振り絞ってユリアスが三人に呼び掛ける。



「わたくしの分まで? 却って気を遣わせてしまったようで申し訳ありません」



「せっかくですから、みんなでの方が楽しいですよ。 空牙くんも掛けて、ほらミレーユさんも!」



「……仕方ないですね」



ユリアスにいなされ、流石のミレーユも大人しく席に着く。



「おおぅ……! 数ヶ月ぶりのまともな食事……!」



「え、えと……、一杯、食べてね?」



テーブルに並ぶ皿に盛り付けられた料理たちを見て滂沱の涙を垂れ流している空牙に、ユリアスが少し引いていた。



「こほん」



「うう……美味すぎて死ぬ」



「こほん!」



「あー本当に美味いいいってぇぇぇ!?」



テーブルの下、ミレーユにガシッと足を踏まれた空牙が悲鳴を上げる。



「何すんだよ!」



「まったく愚鈍で愚昧で間抜けな水虫菌ですね。このいっそ天才的とも言える絶望的な間抜けぶりにはミレーユはうんざりです。失望しましたです」



「うん、食事中に罵倒すんな飯が不味くなる。結局何が言いたいんだお前は」



「……ですから……その」



恥ずかしそうに、ほんのりと頬を染めるミレーユ。




「ミレーユも、空牙に食べてほしくて……空牙がいない間、料理に挑戦してみたのです」




「えええっ!?」



驚愕した空牙はぎゅいんっと首をミレーユの方へ向ける。



「お前、料理なんかできたの!?」



「……言いたいことは色々ありますですが」



ミレーユは席を立ち、それから手に皿を乗せててくてくっと小走りに帰ってくる。



「どうぞです。空牙の大好物、魔界トマトの―――」



「あ、なんだサラダか。まぁ無難だけど安全圏だな」



ことん。




「―――ヘタの盛り合わせです」




「食えと!? これを食えと!?」



「飲み物はこちら。ミレーユ特製“まよねーず”です。はいどうぞどうぞ、遠慮なく」



「やーめーてぇー! 黄色っぽい何かが入ったグラスを無理矢理俺の口に近づけるの、やーめーてぇー!」



激しく無駄な攻防戦。
リリスは和やかに笑い、ユリアスは一人怯えた顔をしていた。

110ピーチ:2013/01/11(金) 22:41:01 HOST:EM114-51-196-240.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

おかえりー!

…ヘタの盛り合わせ? それはいったいどんな?←

ち、ちょっと待て、“まよねーず”ってあのまよねーずか………?

111心愛:2013/01/11(金) 23:30:33 HOST:proxy10067.docomo.ne.jp
>>ピーチ

マヨネーズ=卵黄・酢・塩・胡椒に油を加え、とろりとするまでかき混ぜてつくるソース。サラダなどに用いる。(by広辞苑)

…これを何の予備知識もなしに作っちゃったミレーユはなにげにすごいと思ふw


あ、ミニトマトの実を取り除いてヘタだけぶちこんだ緑色のサラダ(つまりただの生ゴミ)をイメージしてくれればわかりやすいかもです(*´д`*)

112心愛:2013/01/11(金) 23:33:36 HOST:proxy10068.docomo.ne.jp






「そういえばユリアス様、《煉獄の扉》の管理はまだよろしいんですの?」



「は、はい。今は兄が担当していますのでしばらくは大丈夫です。僕にできることは少しでも体力を温存しておくことくらいですね……ってリリス姫っ?」



平然とフォークで温野菜を切り分けているリリスに、ユリアスが『止めてあげましょうよっ』と目で訴える。
リリスはふう、と優雅に一息。



「あの子、厨房を借りたのでしょう」



「え? は、はい」



自分がいなかったときの出来事でさえ、リリスには全てお見通しだ。
空牙と怒鳴り合っているミレーユを見てにっこり微笑む。



「でも、空牙の為に色々試してみたけれどみんな失敗して黒コゲになってしまって、だからヤケになっているのですわよ。あの程度のお茶目、可愛いものではありませんか」



「そうで……しょう、か」



可愛いで済ませて良いものなのだろうかと、ユリアスは本気で首を捻った。






+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+






「ミレーユ」



もう遅いからこのまま泊まっていったら良いというユリアスの勧めに有り難く乗り、王宮内のやたらと立派な部屋に通された空牙はミレーユに呼び掛ける。



「何ですか」



「こっち来て。目ぇ閉じてじっとしてろ」



「……………はい!?」



顔の下から上にかけて、しゅぼぼぼっと勢い良く白い肌に朱が走る。



「あう、わ、ど、どういう心境の変化ですかっ?」



「いーから」



わたわたしている彼女の腕を引き、強引にベッドに座らせる。


ゆっくり顔を近づけながら真剣な眼差しで見下ろすと、ミレーユはびくんと身を竦ませて。
やがて覚悟を決めたように、ぎゅっと瞼を閉じた。


空牙は彼女の細い肩に手を掛け、



「大人しくしてろよ」



……そのまま、何故かミレーユの髪を弄り始めた。



やっぱりかと落胆半分、自分は何を勝手に妄想していたのだろうという羞恥が半分。

だから、空牙が一体自分の髪に何をしているのかというごく単純な疑問は、そのときのミレーユの思考回路には全くなかった。




「―――はい、お土産」




ほら。と指さされた鏡の中、ミレーユが驚いたように金の瞳を丸くしている。


そのまま流していた髪をツーサイドアップに纏めているのは清楚な純白のリボン。
それぞれに控えめな大きさの、虹色のスワロフスキーを散りばめた蝶が中央の位置に留められている。



「二つセットなんだってさ。絶対ミレーユに似合うと思って」



「……これ、空牙が?」



「あ、あああーうん俺が選んだ」



ちょっと気まずそうに顔を逸らした空牙は、すぐにへへっと笑った。



「お前、綺紗(キラサ)に憧れてるんだもんな。これでお揃いだろ?」



図星を指され、ミレーユは思わず動揺してしまう。



「……そんな、こと」



からかうような眼差しの温かさと仄かな甘さに、どきどきと音を立てているような感じがする《核》を、胸の上から手で押さえる。



「ミレーユは……綺紗さんの代わりになれたらって、思ってただけで……」



空牙の大切なものになりたかった。


機械人形の分際でおこがましい、なんて、十分すぎるくらい分かってる。
それでも、そう願わずにはいられなかった。


口を開けば可愛くない言葉ばかりで。
迷惑をかけて嫌な思いばかりさせている。


だけど。
ミレーユを救ってくれた、このひとは。



「バーカ」



こつんっ、とミレーユの額を軽く指で弾く。



「代わりなんて言うな。綺紗は綺紗、お前はお前だ」



ミレーユが一番、ほしいと思っている言葉を、くれるのだ。




「俺が必要としてるのはミレーユ、お前なんだから」




「………っミレーユはもう寝ますです! おやすみなさいです!」



かああっと熱を持った頬を隠そうと、ベッドに勢い良く寝転がるミレーユ。



「……リボンつけたまま寝んのかよ」



苦笑しながら空牙もベッドに潜り込んだ。

大きな寝台に、距離を置いて、お互いに背を向けて。



「……一応、礼は言っておきますです。特別にクズからカスに格上げにしてやるです感謝するです」



「いやそれどっちが上か分かんないから」

113ピーチ:2013/01/12(土) 13:29:02 HOST:EM114-51-186-68.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

やっぱりそれだったか!

…確かに凄いよね、ミレーユちゃん

緑色のサラダ…見栄えだけはよさそうに見えると思うのはあたしだけか←

114心愛:2013/01/12(土) 20:37:50 HOST:proxy10067.docomo.ne.jp
>>ピーチ

食べれないけどね!
緑色は普通だけど←


もうすぐずどーんっと重い話入れるんで反動でアホやらせてみたw
そろそろまじめに頑張るよ!

115ピーチ:2013/01/12(土) 21:22:05 HOST:EM114-51-132-35.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

食べれないよねそうだよねっ!←

ずどーんっと重い話かー……頑張れここにゃん!

116心愛:2013/01/13(日) 17:40:31 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp






「色々すみません。迷惑かけるだけかけちゃって」



「ううんっ、たくさんお話できて楽しかったよ」



そして迎えた翌日、ミュシア王宮の門前で頭を下げる空牙の姿があった。



「でももう、森を荒らしちゃだめだからね?」



「心から申し訳御座いませんでした」



「……同じく、です」



空牙だけでなく、ミレーユも一応そっぽを向きつつ謝罪。



「わたくしだって、王宮を抜けてまで見送りに来てあげたのですから。感謝なさい」



「そんな頻繁に遊びに出掛けてて良いもんなんですか。悪さを企むひとがいてもおかしくありませんよ」



「あら。空牙はわたくしが理由もなしに遊び呆けていると思っていたの? 悲しいわ」



リリスは物憂げに頬に手をやって溜め息をつく。



「違うんですか?」



当然。と肩を竦め、



「そんなもの、好きなだけ泳がせておけば良いのですわ。わたくしの留守を狙う不届き者を潰す人材は、とっくに手配してありますもの」



「……俺、姫だけは敵に回したくないです」



「最高の讃辞を有難う」



麗しく微笑む切れ者の女王は、次にミレーユへと視線を移した。



「まぁ、素敵なリボンね。似合っていましてよ」



ミレーユは風に靡くリボンを手で押さえてふんっと華奢な顎を突き上げる。



「雌牛が人形如きに下手な気を遣う必要など欠片もないのです気色悪い」



「あぁ。もしかして、わたくしが言ったことをまだ気にしているの?」



「まだとは何です!」



「ミレーユ、落ち着けって」



ワインレッドの双眸には軽蔑の色も嘲弄の色もない。



「確かに空牙が本気で命令すれば、操り人形の貴女は絶対にそれを遂行するでしょうね」



でも、と小さく言い、リリスが華やかに笑む。




「それは貴女が優秀であることの、何よりの証でしてよ」




きょとん、と一瞬、ミレーユは不思議そうな表情をした。
今自分が何を言われたのか分からない、とでもいうように。



「空牙を頼みましたわよ、ミレーユ」



「……ふん。どうしてもと言うのでしたら非常に不本意ですが頼まれてやるです」



どうやら一時休戦、らしい。
空牙は安堵に笑みを浮かべ、



「……姫」



ゆっくりと振り向く彼女。




「俺、キサラギに生まれて良かったと思ってるんですよ」




生まれ持った無力さゆえに、名門の一族から冷遇され、排斥されてきた異端児は言う。



「もしそうじゃなかったら、こいつと出逢うこともなかったし、家のしきたりで、姫の眷属になることもなかった」



彼が歯を見せて笑えば、新雪の如く輝く長い髪が蒼穹に踊る。




「―――貴女に逢えて良かった」




リリスはしばらく、言葉を失って空牙を凝視していたが、



「……はぁ。そんなことはどうでも良いのですが」



「え、どうでも良いって酷くないですか!?」



「空牙くんって罪作りだよね……」「天然でやってますですからね」などという外野の声も聞かず、頭を切り替えるようにぱんぱんと頬を叩いたリリスは、




「―――わたくしたちから、正式な依頼ですわ」




空牙とミレーユが、自然と顔を引き締める。



「実は、結界を抜けた魔獣がまた暴れ回っているみたいなんだ」



「場所はファローズ領、東の森付近。討伐、お願いできますわね?」



「確かに承りました」



随分とまともなハンターとしての仕事。
自然と気分が浮き足立つ。



「……“あの方”が向かうという情報も入っていますし……」



「姫?」



「……何でもありませんわ。空牙、ちょっと耳を貸して」



「? はい」



少し間を置いてから、内緒話をするようにリリスがそっと囁いた。




―――“ネクタル”に気をつけて。




不可解そうに顔をしかめた空牙に微笑み、身体を離してひらひらと手を振る。



「では、また」



「……はい。お世話になりました」



段々小さくなる二つの背中に、打って変わって何処か弱気な雰囲気になったリリスの声が掛けられる。




「これで、良かったのかしら……」

117心愛:2013/01/13(日) 17:53:00 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、ここあ史上最も流血が多い回になる予定だよ←

でもずっと書きたかったんだよねこのシーン!
明日あたりに更新しますw

118ちー:2013/01/13(日) 20:10:39 HOST:p3078-ipbf1807marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp
更新楽しみー^^私の、君江届も、読んでみてください^^
(なんか、ナルシストみたいですね…w私。)

119ちー:2013/01/13(日) 20:11:29 HOST:p3078-ipbf1807marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp
君江じゃなくて、君へでした…届け

120ピーチ:2013/01/13(日) 20:54:48 HOST:EM114-51-209-35.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかの流血!?

でも楽しみなのはあたしの頭が腐ってるからだw

121ちー:2013/01/13(日) 21:08:47 HOST:p3078-ipbf1807marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp
更新楽しみ^^
私もこういう文章が書けるといいのに…

122心愛:2013/01/14(月) 09:48:39 HOST:proxyag096.docomo.ne.jp
>>ちーさん

初めまして!

読んで下さってありがとうございます(o^_^o)
分かりにくいところがあったら遠慮なく言って下さいね(^-^;


>>ピーチ

流血楽しみなのか!
ちなみにここあも、書きたかったシーンだったら流血も結構好きだったことが判明した←
じゃ、載せちゃいますw

123心愛:2013/01/14(月) 09:49:05 HOST:proxyag095.docomo.ne.jp







それは遠い遠い、昔のこと―――




『……?』




数え年で十にも満たないだろう、幼い少女が暗雲の立ち込める空を見上げた。



透明感のある冴え冴えとした白い肌に、すっと細く通った鼻筋。花びらみたいに薄い唇。
さらりと零れる繊細な髪、瞼に淡い影を散りばめる長い睫は魔性の銀色。
ほっそりした指が触れる、花の女王たる薔薇でさえも消えて霞むその麗しさ。
美の化身というものがこの世に存在するのなら、きっとこのような姿をしているに違いない―――美しすぎて造り物めいた容貌は優美で危うく、砂糖菓子のように甘い。



雷鳴が響き、黒に澱む天空を稲光が走る。



少女は丁寧に棘を抜いた白薔薇の花束を大切そうに抱え、幾何学模様の宮廷庭園を抜け出した。

自身が暮らす離宮の中に入ると、すぐに青ざめた侍女が飛んでくる。



『姫様! 出歩いてはいけませんと散々申し上げたでしょう!』



『どうして?』



『どうしてもです! ご自分の部屋に戻って下さいませ、早くっ』



今日は自分の部屋に籠もっているように言われたのにもかかわらず、彼女の目を盗みこっそり庭園に行っていた少女は唇を尖らせる。



『そんなのつまらないもん。あとはお父様たちにこれを届けに行くだけだから、ね?』



『姫様ッ!』



するりとくぐり抜けて走り出すと、侍女は悲鳴を上げて追い掛けてくる。



『何をしているのです! 貴女も早く逃げなさい!』



『違うんです! 姫様が! ……っ離して!』



後ろで何か揉めているようだったが、その喧騒や、辺りに響く異常に切羽詰まった怒鳴り声は少女の耳には届かない。


何だか騒がしいな、くらいの気持ちでそのまま駆け抜けた。


回廊を通れば、すぐに王宮の大広間へ繋がる扉へと辿り着く。




『お父様、お母様、シリル! いらっしゃいますかっ?』




いつもの見張り役がいないことにもさして気を留めず、重い扉を苦労して開いた少女は笑顔で声を弾ませる。




『薔薇が咲きましたよ! 綺麗でしょう? ほら、薫りもこんなに―――』




その言葉が、止まった。



『………』



べっとりとした、どす黒い赤―――鮮血の色がこびりついた壁。
床一面に広がる同色の液体。
鉄のようにきつく、鼻を刺す独特な臭い。



小さな手から、花束が、ぱさっ、と乾いた音を立てて滑り落ちる。



血だまりに倒れ込んだ兵士の亡骸の中、少女が見たもの。



それは。




―――父の死体、だった。




まさか―――たちの悪い冗談だろう、と少女は笑おうとして頬を痙攣させたが、ひく、という音が僅かに漏れただけだった。




『お……父さ……』




隣に寄り添うように臥した母の透き通った銀髪が血にまみれ、床に散らばっている。


力を入れることを忘れたかのように固まった足を叱咤して一歩踏み出すと、靴の下で、ぴしゃ、と赤い水が跳ねた。




『……お母、様……?』




呼び掛けても、瞼を閉じた女性は二度と目覚めぬ深い眠りに落ちたまま。



そして。



ようやく、少女は“それ”の存在に気づく。

124心愛:2013/01/14(月) 09:49:54 HOST:proxy10035.docomo.ne.jp







傷を負った兵士たちに囲まれ、先程から耳障りな奇声を上げている、“それ”。



濁った眼、凶悪な牙、見上げなければ視界に入りきらない巨体を持つ、“それ”。



混沌と悪夢、無尽蔵の原初が渦巻く猛毒の都―――煉獄の、恐ろしき使者。




―――魔獣。




【グガァアアアアアアアッ!!】




ぐったりと弛緩した、少年の華奢な身体。
その心臓の位置を串刺しにした針の如く鋭い爪から、夥(おびただ)しい量の血が滴り落ちる。



ひっ、と青ざめた頬を引き攣らせる少女。
美しい顔が今にも泣き出しそうに、発狂しそうに歪む。




『シリル……っ! いやぁっ、シリルッ!』




掠れる声で彼の名を呼んだと同時、魔獣が無造作にその腕を振り上げた。


明らかに、既に絶命している少年―――兄の体躯が宙を舞って勢い良く壁に叩きつけられる。
ごぽ、と色を失った唇から赤黒いものが零れるのを、少女の大きく見開かれた、柘榴(ガーネット)の瞳がまるで鏡のように映す。




『う……ぁ』




温かくて少し硬い、父の大きな手の感触。

頼りないけれど優しい、母の笑顔。

気高く強く、少女の憧れだった、兄の声。

今はもう過去のものとなってしまった、この瞬間までの記憶が急速に少女の頭の中を駆け巡り、




―――こいつ、が。




こいつが!






『………ぁぁあああああああああああああああああッッ!!!』






理性が焼き切れる。



喉が壊れる程の絶叫が脳天を突き抜け、怒りが、悲しみが、愛しさが、恐怖が、狂気が、破裂する。



少女は目を血走らせ、床を蹴って我を忘れた獣のように突進しようとしたが、




『姫様っ!』




やっとのことで追いついた侍女に、背後から強く抱きすくめられる。
彼女は涙を零してカタカタと震えながら、それでも歯を食い縛り、必死になって少女を阻んでいた。




『いやぁああああああっ!!』




羽交い締めにされた少女は悲鳴と怒号が入り混じった、最早激昂と呼ぶにも生温い怨嗟の叫びと共に激しく暴れる。



『姫様、……姫様……!』



顔を涙でぐちゃぐちゃにしてしゃくり上げる侍女。



『おねが、……お願いです、おやめ下さい……っ!』



すぐにでも、一秒でも早く、こんな恐ろしい場所から逃げ出したいだろうに。
もしそうしたとしても、もう咎める者は誰もいないのに、自らの命を賭して主を守り抜こうとする彼女の懇願が耳元で切なく響く。




『姫様まで……、たら、王様も、哀しまれます……っ』




その余韻は鉛のように、ずしん、と重い感触を少女の薄い胸に残した。




『…………』




抵抗をやめた少女の腕が、だらりと力なく下がる。




『将軍! 応援が到着しましたッ!』




そのとき、荒々しく向かいの扉を開け放ち、雄叫びを上げながら新たな兵隊が突入した。




『王の……王家の仇だ! 死ぬ気で討て!』




朱が染み付いた左半身を庇い、頬を熱く濡らした老年の指揮官が声を嗄らして叫ぶ。




『やれ!』




返り血を浴びた醜い化け物へと数百もの毒矢が突き刺さり、死に物狂いで戦う兵士たちの妖気の炎が一斉に噴き上がる。




【ガァアアアアアアアアアッッッッ!!】




猛り叫ぶ魔獣の声と雷の轟きが、血に濡れた城を震わせる中。



不吉な程に美しく。



穢れなき純白の花片が、絶望の淵に立ち尽くす少女の足元で、ただ、深い紅へと染まっていた。

125心愛:2013/01/15(火) 17:30:08 HOST:proxy10059.docomo.ne.jp







ふわり、と何かが、月明かりの差し込む窓辺に降り立つ気配がした。




『―――……好い表情(かお)をするね』




“彼”の姿は、夜の黒に浮かんでいた。


闇の中に溶けきれない程の輝きを持つ肌は淡く発光し、その容(かんばせ)をさらに美しく彩っている。
切れ長で、血塗られたように紅い瞳に暗色の長い睫が柔らかな甘さを与える、性別という概念を超えた不可思議な美貌。


妖しく艶麗な微笑を湛えたその男の背で、ばさり、と漆黒の双翼が優雅に広がる。


魔界に棲むと云う、地獄の守りびとにして残虐なる断罪者。




―――悪魔。




空っぽの部屋の中心で、少女はその侵入者を真っ直ぐに見上げた。




『泣きたいのに、泣けない。……いや、泣かないと覚悟を決めた表情(かお)だ』




そう。

彼女は。



―――あの惨劇の間でさえ、たった一雫の涙も、零してはいなかった。



くす、と笑う少女の囀(さえず)るような、それでいて決して弱くない、はっきりとした声が響く。




『……王は泣くことを赦されない。だから、泣かない』




『流石だね。歴史上最強個体の侵攻に耐えた、ファローズ王家唯一の生き残り』




この青年はおそらく、少女が皆の優しさに守られただけで、何もできずに死んでいく家族を見送ったことを既に知っているのだろう。




『いや、死に損ない、と言った方が適切かな』




彼の口振りには、分かりやすい皮肉の色があった。


けれど、少女はその挑発に乗る程馬鹿ではない。




『どちらでも、貴方のお好きなように』




『……揶揄(からか)いがいのない娘だ』




楽しそうに笑う。


嫌いではない、と少女は思った。


軽薄そうな見た目とは裏腹に、芯の強さが窺える物言い。
頭の回転も良さそうだ。


どうせなら、話は早い方が良い。




『俺を呼んだのは、君?』




『そうよ』




昨日までの、子供らしく無邪気な様子とはまるで別人のように、悠然と構えた少女は鮮やかな唇の両端を上げた。
その手元で、ぱたん―――と、分厚く黄ばんだ本が音を立てて閉じられる。
悪魔を呼び出す儀式の手順が記された、正真正銘の禁書だ。




『悪魔である俺と、契約を結びたいということだね。その意味は分かってる?』




『代償のことなら承知してる』




悪魔は双眸を細めた。




『願いを聞こうか―――……いや、訂正。わざわざ聞くまでもない』




見透かすような視線を、少女は恐れることなく、強い眼差しで見返す。

悪魔が笑う。
彼女を誘惑するように、濡れた瞳に、薫り立つ媚態と僅かな知性の光を滲ませて。





『君の大切な家族のことだろう? 勿論、生き返らせることはできるよ。対価はその分―――』





『見くびるなッ!』





少女は吠えた。

目の奥に冷たい刃を閃かせ、憎しみに凍りついた瞳で、虚を衝かれたような顔をしている悪魔をきつく睨みつける。




『死者を辱めることは、たとえ誰であっても絶対に赦さない……ッ!』




誰よりも深く愛していた者たちを、死者と呼び。
痛みに耐えるように頬の内側を強く噛み締めながらも、甘言を撥(は)ね除けて。



己の、いや、王族としての矜持(ほこり)を優先したのだ。



この、幼姫は。




『……ふ、っははははは!』




嘲笑とは全く異なる、純粋な、可笑しくてたまらないとでも云うような笑い声を上げる悪魔。
少女の目つきが、真冬の月光のように鋭くなる。

126矢沢:2013/01/16(水) 12:23:45 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
下着

127ピーチ:2013/01/18(金) 20:03:35 HOST:EM114-51-30-88.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

おっひさー! 実力の訂正に追われていたピーチでございますです←

いや何かしばらく見ない間に進みまくってる神文章を一気読みできるのが最高に幸せだね! 一週間近くパソコンに触れなかったけど!←

128心愛:2013/01/18(金) 20:43:16 HOST:proxy10037.docomo.ne.jp
>>ピーチ

おつかれー!

ここあはピーチがこんなカス文章を読んでくれてることが最高に嬉しいよっヽ(≧▽≦)/


そんなわけで、美羽がリスペクトしてるあの人がやっとのことで登場でございます。
美羽と比べてみると面白いかも?

129心愛:2013/01/18(金) 20:44:16 HOST:proxy10038.docomo.ne.jp






『大したものだよ、君は。まだ幼いのに、こんなにも強い心を持っている』



『……わたしを愚弄しているの?』



『まさか』



不愉快そうに眉を跳ね上げた少女を宥めるように。



『君の覚悟に敬意を示して、一つだけ良いことを教えてあげる』




悪魔は彼女の耳に、その薄い唇を近づけて低い囁きを落とす。




『随分と酷い亡くなり方だったみたいだけど、君の御両親と兄上は、無事に天国へ運ばれたよ。これから永久に、神に愛されて幸せに暮らし続けるだろうね』




『……当然、よ』




ほっとして一瞬だけ緩んだ表情を誤魔化すように、少女はわざとらしく声を取り繕う。


宙に浮いた青年が微笑ましそうに表情を和らげ、空中で頬杖をついた。





『……それで? 君の、本当の望みは何?』




少女が顔を上げる。





『――――強さを』





悪魔の瞳が、濁った血の色から、熾火(おきび)の色に変わった。
鈍い光が灯る。




『兵の本隊が到着するまで、父も母も、兄も勇敢に戦ったと聞いたわ。それでも、敵を倒すには及ばなかったの』




おぞましい魔獣。
愛しいひとたちの命を奪ったあの化け物の姿を思い起こす。
怒りに狂い、哀しみに沈みたくなる過去の自分を必死に心の奥へと封じ込め、少女はさらに言葉を紡ぐ。




『……わたしは―――』




言いかけて。
少女は首を横に振り、




『―――ぼくは、兄に代わって、ファローズの家督を継承しなくてはならない』




今は亡き兄の、屹然とした口調を真似る。


いずれは王位を継ぎ、立派な王となるはずだった兄。
少女は、彼の務めるべきだった役割を全て引き受け、完璧に彼の代わりを果たそうとしていた。




『だから、託されたもの……ファローズの民を守れるだけの―――あの化け物を、滅すことができるだけの、強さを』




復讐の姫と化した少女は、凛然とした決意が輝く瞳を上げた。




『……大それた夢だね、と笑いたいところだけど』




優しく、悪魔が笑む。




『君なら案外、難しくないことかもしれないな。魔力的な強さ、とは、本人の精神力に左右されるから―――鋼のように強靭な、不屈の心を持つ君なら、ね』




悪魔が窓枠に腰掛け、巨大な翼を広げる。
黒い羽根がひらひらと舞い散り、少女の胸を軽く叩いた。




『俺はその成熟を早める手伝いをしようか』




少女の頬に手を伸ばす。
ぐい、と自分の方へと引き寄せ、口元を綻ばせた。




『絶対的な、この世界で一番の“強さ”を君に与える』




尖った爪が滑らかな肌に微かな傷をつけるが、少女は眉一つ動かさず、目の前の美しい青年を見据え続ける。




『じきに、この世界の誰もが君に跪くだろう』




『……そうなるよう、期待しているよ』




不敵な笑みを返す少女。

130心愛:2013/01/18(金) 20:45:18 HOST:proxy10065.docomo.ne.jp







部屋に満ちた闇でさえもが、彼らの美しさを畏れたかのように。
対峙する二人の姿は、自身から発せられる燐光に包まれ、くっきりと浮かび上がっていた。




『で、その代償として、何を俺に差し出してくれるのかな?』




『ぼくの力を使えば良い』




反論は赦さない。無言のうちにそう告げる。




『これから、ぼくが手に入れるだろう富、権威、名声。それを好きなだけ利用しろ』




男の表情から余裕のある微笑が掻き消え、




『……俺に、君の眷属になれと?』




その響きには僅かながら、確かな憤慨が感じられた。




『悪魔に、魔族の僕(しもべ)になれと、そう言うのか?』




『あくまで形式的な主従関係だ。立場は対等ということで構わない』




だから付いて来い、と。
お前の居場所は此処だと。

自分の傍にこそ、お前の安息があるのだと。


幼いながら、既に絶対なる王者の風格を備えた姫君は強烈な光で悪魔を射抜く。




『君の処遇は約束する』




長い、永(なが)い、沈黙の後。




『……面白い』




チロリ、と赤い舌が覗いた。




『気に入ったよ。君を、俺の主と認めよう』




尊大に言い、悪魔は心底楽しそうに長い脚を組む。




『俺の名はアレックス。魔界一の大悪魔、ついでに魔界一の色男だ』




『……良く言う』




張り詰めた緊張が解け、少女の唇から、ふっ、と小さな笑みが零れた。



『そのうちぼくから、君が冥界で生きていく為の名を贈ろう』



そして少女は息を吸い込み、厳かに己の名を明かす。





『ぼくはシルヴィア。天より紅薔薇の紋章を戴く、誇り高きファローズ王家の末裔―――シルヴィア=ファローズ』





『……シルヴィア、か。好い名前だね』



それはどうも、と冷たくあしらう少女。



『ファローズでの眷属との契約は―――』



『知ってるよ。主となる者の血を媒介とするんだろう?』



悪魔が軽く手を振ると、その中に細身の長剣が出現した。
刀身が月明かりを浴び、青みがかった淡い銀光を放つ。



『刺突剣(レイピア)か。剣技の心得が?』



『まあ、一応護身用にね。俺って魔界の中なら文句なしに最強なんだけど、冥界では今一調子出ないみたいで』



『……大丈夫なんだろうな?』



不審そうに軽く睨む少女に、悪魔は飄々と肩を竦める。



『信用できない?』



『愚問だな。信用するしか、道はないだろう?』



平然とした彼に同じく平然と言い、少女は涼やかな声を張る。



『なら、君を信じる。それだけだ』



『……ふふっ。やっぱり君は最高に面白いよ』



少女が差し出した指へ、悪魔がスッと刃を滑らせる。

走る疼痛に少女が顔をしかめたが、それも一瞬。


気高く、美しく、荒野(ヒース)に咲く一輪の薔薇のように。

少女は面(おもて)を上げ、透き通る声で告げた。




『汝、奈落の淵より来(きた)る者。我への従属を誓え』




指先に唇が寄せられる。
傷口から溢れた血を拭い取る熱い舌の感触に、少女の背が微かに震えた。




『―――仰せのままに、俺の姫君』




上目遣いに、嫣然と微笑む。





『悪魔の命は永遠。その全てを、貴女の為に捧げよう』

131ピーチ:2013/01/18(金) 23:04:08 HOST:EM49-252-50-34.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

いやカスどころか神だよ一文字違ってるぞここにゃん!

シルヴィアさんご登場しちゃったw

確かに口調とか一人称が同じだね、あと美羽ちゃんがなりきってるキャラの名前とw

何気に悪魔君が優しそうに思えたのはあたしだけか←

132心愛:2013/01/19(土) 12:14:43 HOST:proxy10027.docomo.ne.jp
>>ピーチ

シルヴィアは美羽の“理想”にとっても近いキャラなのです←
悪魔さんは基本優しいけど、ブラックな面もあるかもだよ(o^_^o)

美羽が自分の手切ろうとしてたことがあったのはこのシーンをパクろうとしてたからなんだぜ(^-^;


流血シーンがんばった!
こういうの苦手なここあにしてはがんばったんだよー!(涙)

133ピーチ:2013/01/19(土) 23:53:26 HOST:EM114-51-41-177.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

悪魔さんブラックないと悪魔さんじゃないよねw←

流血シーンお疲れ! 頑張ったよここにゃんいつもだけど!

134心愛:2013/01/20(日) 09:58:17 HOST:proxy10004.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ブラック悪魔大好物です←

ありがとうピーチ! ここあがんばった!(つд`)

135心愛:2013/01/20(日) 09:59:25 HOST:proxy10003.docomo.ne.jp







「……これは……」



「……冗談じゃねーぞ」



空牙のこめかみに一筋の汗が伝う。


指定通りの場所へと辿り着いた空牙とミレーユを出迎えたのは、魔獣の大群だった。
その数、優に数十個体。常に煉獄からの使いがもたらす危機に晒される、冥界に暮らしている者とはいえ、滅多に一度でお目に掛かれるようなものではない。



【グギャアアアアアアッッ!!】



独特の金切り声の多重奏に耳が悲鳴を上げる。

いくらミレーユが規格外の強さを持つといえど、相手にできるのは精々五体前後。それ以上はまず空牙の体力と魔力が持たないだろう。



「どうするですか」



「仕方ねーな……。とりあえず様子を―――ん!?」



蒼穹に、一筋の閃光が走る。


空牙の視線の先、突然小柄な影―――長い銀髪を持つ一人の少女が何処からか飛び出した。
そのままの勢いで、ひらりと魔獣の頭上に舞い上がる。


魔獣の濁った眼が一斉に、小柄な彼女の姿を捕捉。



「ちょっ……え、何やってんだよあの子!」



あの大群を前に身を投げ出すなんて自殺行為に等しい。



「空牙!」



「分かってる!」



こうなったら一か八か、誰かも知らないがとにかく彼女を助けなくては。
空牙がミレーユに指示を出そうとしたとき―――




「彼女のことなら心配いらないよ」




彼女の知り合いだろうか。
黒瑪瑙(オニキス)よりもより深みのある闇色の髪を持つ青年が笑み、空牙たちに声を掛ける。



「それより、危ないから離れてた方が良いんじゃない?」



「そ、それはこっちの台詞ですよ!」



宙に浮いたミレーユも、あからさまな警戒の表情を見せている。



―――この男、いつの間に現れた?



「あんな女の子一人……殺す気ですか!」



「残念だけど、そんな趣味はないかな」



涼しげに整った目鼻立ちに、深い彫り。
鼻梁は通り、睫は長く、唇は薄く形がよい。
すらりとした長身に見合う長い手足を持つ彼は、顔立ち、体格、どれを取ってもまさしく絶世の美男であった。

しかし物腰は柔らかなのに、血のように紅い双眸には、何かゾクリと背筋を冷たくさせるものが宿っている。

感覚で言えば、リリスを前にしている時に近いかもしれない。
こちらの手の内を全て知られているような、そんな、油断ならない者特有の雰囲気。



「シィだったら、あれでもまだ余裕だからね。到底俺の出る幕はない」



余裕綽々の彼の態度に、空牙とミレーユは半信半疑で“彼女”を見上げた。



激しい風に靡く、二つに結われた煌びやかな銀色の髪。
瑞々しく、練り上げたシルクのように輝く肌は洗練された麗しさ。
小さな顔が一層際立つ、大粒の瞳は深い紅。
華奢な体躯を包むのは、黒と白を基調にしたゴシック・ロリータ。豪奢なフリルとレースで膨らむそれは、禍々しくも全世界の乙女の夢を織り込んだように愛らしい。


透き通った深紅の妖気を身に纏うその少女が静かに瞼を閉じ、




「殲滅せよ―――《赫き煉獄の宴(ローゼン・クランツ)》」




そう、呟いた途端。

少女の肢体から先程までの比ではない程の量の、眩い妖気が迸る。
それは細い身体に纏わりつき、




「さぁ……懺悔の時間は終わりだ」




ふっと少女が微笑む。愚かな獲物を哀れむように、嘲笑うように。


その刹那―――




―――ッパァン!




ぴんと腕を伸ばした少女の右の手の平から生じた無数の薔薇の花弁が、弾けた。
それはまるで妖精の輪舞の如き幻想的な光景。
可憐な赤い花弁が勢い良く舞い散って、甘ったるい薫りが立ち上る。



【ッグギャアアアアアアアアア!!】



ミレーユが息を呑む。
空牙が目を見張る。



紅い光の奔流のように降り注ぐ花びらに触れた瞬間、魔獣は激しい苦痛の絶叫を上げ、



―――消滅、した。



あまりにも、美しく。
あまりにも、造作なく。


それはまさに蹂躙という言葉が相応しい、一方的な虐殺だった。
殺戮の姫は蝶が花から花へと飛び回るように光と共に舞い踊り、容赦なく地上の魔獣に猛毒の死を浴びせ、



―――トン、



最後の一体が苦悶の声を発しながら掻き消えたのと同時―――背中を編み上げる大きなヴェルヴェットリボンを揺らし、地面に降り立つ。

136ピーチ:2013/01/20(日) 17:11:15 HOST:EM114-51-128-112.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ブラック大好きー!←

あ、あれ? ひょっとして悪魔さんと姫君出てきちゃった?

137心愛:2013/01/21(月) 16:11:03 HOST:proxyag055.docomo.ne.jp






可愛い、とか、綺麗、とか、そんな生温い感想は一瞬で吹き飛ばされてしまう。

天から舞い降りた戦女神の如き、完全の美を体現した暴力的で圧倒的な美貌。

可憐な唇が僅かに開かれる様はまるで、咲きかけの紅薔薇がふわりと綻ぶかのようだった。

天工の芸術品に神の意思を幻視するような心地に眩暈すら覚える。



「お疲れ様、シィ」



にこりと笑んで話し掛ける青年の声を聞いているのかいないのか、冷ややかに透徹した氷の眼差しで。

光の加減によって色味を変える、大きくつぶらな柘榴石(ガーネット)の瞳を、動けずにいる空牙とミレーユに真っ直ぐ向けて。

馥郁たる薔薇の薫りと深紅の妖気を纏う、天使のように美しく、魔神のように猛々しい戦姫は。




「そんなことどうでもいいよ! ねぇねぇアレク、そのひとたち誰っ?」




「「……は」」



にっこにこ! と無邪気に美しい顔をキラキラ輝かせ、甘えるように高く幼い声音を弾ませた。


瞬く間に魔獣を残らず葬り去ってしまった少女と同一人物とは思いがたいあまりの豹変ぶりに、空牙とミレーユが揃って言葉を失う。


「あれ? あれあれ?」



どうしたのー? と目をぱちくりさせ、不思議そうに首を傾げる少女。

青年が苦笑した。



「ごめん、驚いた? 二重人格なんだよ」



「は、はぁ……二重人格」



「うん、ちょっと訳ありでね。普段はこんな風に子供っぽいんだけど、敵を前にすると人格が変わるんだ」



「子供っぽいって言うなー!」



ぷくっと可愛らしく膨れる少女には、やはり毒々しさや恐ろしさなど微塵もなく。



「………」



「あ、えっと、申し遅れました。こっちは相棒のミレーユ。俺はリリス姫の眷属、空牙という者です」



ミレーユの刺々しい視線に気づき、すっかり見惚れていた空牙は慌てて少女の問いに答える。



彼女は青年が持っていた、身の丈よりも大きい銀色の十字架を受け取りながら、



「リリスの! それじゃあ君が、あの有名なキサラギ家の人形遣い?」



この強さ。そして年下で、リリスを呼び捨てにできる人物などかなり限られているはず―――と、空牙は思考を巡らせかけ、少し遅れてから彼女の台詞の後半部分に驚く。



「え、有名なんですか俺」



「リリスに近いひとの中ではね。リリスのお気に入りで、連れている機械人形が物凄く強いって」



「当然です」



「俺じゃなくてミレーユの評判ですよねそれ……」



どうやら極度の話し好きらしい少女はにこにこと屈託なく笑い、




「ぼくはシルヴィア。仲良くしてね、空牙、ミレーユ」




やはり―――
魔獣の侵攻により、数年前に全ての血族を亡くしたという悲劇の姫君、シルヴィア=ファローズ。
あのリリスが唯一負けを認める存在であり、冥界中に若き最強の名を轟かせる彼女の噂は、世間に疎い空牙でさえも知っている。


そして、さらにその噂によれば。



「……じゃあ、貴方が」



空牙の確信の視線を受け止め、シルヴィアの隣に立つ青年が捕え処のない笑みを浮かべて。


ばさり―――


その背で、漆黒の翼を大きく広げてみせた。



「悪魔……ですか」



ミレーユの呟きに「うん」と頷き、




「俺はアレックス=リーヴィ。御覧の通り魔界出身なんだけど、シィの眷属をやってる」




シルヴィアが魔界の大悪魔と主従の契約を結んでいる、ということも有名な話。
まだ幼い魔族の姫が悪魔を手懐けた、と当時の各国の重鎮に少なからぬ衝撃を与えたものだ。



「なるほど。それで、シルヴィア姫は―――」



「あ、シィで良いよ! ぼくの方が年下なんだし……あ、敬語もなしね」



「えええええ」



王族に無茶な要求をされ困り果てていると、



「―――く、空牙!」



黒い影が空から落下してくるのに気づいたミレーユが声を上げる。
不格好な翼に独特の奇声―――魔獣だ。




【グギャァアアアア!】




こちらに狙いを定め、突進してくるそれに目もくれず、

可愛らしい笑顔で、可愛らしい声で、シルヴィアは空牙を見たまま、言った。




「―――舐めるな、下郎」




瞬間。シルヴィアの一閃した十字架、その衝撃波によって真っ二つに切り裂かれた魔獣の断末魔の叫びが木霊した。

138心愛:2013/01/21(月) 16:17:02 HOST:proxyag055.docomo.ne.jp
>>ピーチ

いえす!

二重人格最強美少女シィと、ちょいブラックな美形悪魔アレクです!
シィはシルヴィア、アレクはアレックスの愛称ね(o^_^o)

139ピーチ:2013/01/23(水) 20:42:52 HOST:EM1-115-14-104.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかの二重人格!?

………まぁでも確かに、あの人格のままだとちょっと怖いかも←

140心愛:2013/01/24(木) 16:55:41 HOST:proxyag086.docomo.ne.jp
>>ピーチ

シィはあの過去のせいで性格がちょっと歪んじゃった可哀想な子なのです(つд`)
でもどっちにしても根はいい子だし、やってることは正義だから大丈夫!

141ピーチ:2013/01/25(金) 06:05:39 HOST:EM114-51-162-116.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

悲しいよシルヴィア様ー!?

いや、確かにやってること正義だけどその時の言葉遣いある意味恐怖だよ!?←

142心愛:2013/01/27(日) 11:51:44 HOST:proxy10014.docomo.ne.jp
>>ピーチ

まぁ、家族の仇なのでちょっと厳しいこと言っちゃうんだよw

美羽の中二病がいかに可愛いレベルかが分かるね(^-^;

143ピーチ:2013/01/27(日) 14:28:35 HOST:EM49-252-73-193.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

美羽ちゃんレベルが初めて可愛く見えた、気がする…!

ま、まぁ普段は可愛いよねシルヴィア様っ!←

144心愛:2013/02/05(火) 12:14:21 HOST:proxy10025.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ちなみにシルヴィアは、美形揃いのここあキャラ中でも最高レベルの美少女です(^-^;
少なくとも見た目は可愛いんだ、見た目は!

145心愛:2013/02/05(火) 12:15:17 HOST:proxy10025.docomo.ne.jp







「「………」」



「ね、シィって呼んで?」



「……ハイ」



キラキラと粒子になって消えていく魔獣も、まるで関心がないように全く顧みず。
凶悪極まりない速度で振り下ろした十字架を鮮やかにターンさせて再び元の位置に戻し、純粋無垢を絵に描いたような至純の笑顔で、ねだるみたいに小首を傾げる少女。

引き攣った笑みを返す空牙は、背筋に物凄く薄ら寒いものを感じていた。



「……で、シィは、なんでこんなところに?」



「魔獣を始末する為だよ?」



それがどうしたの? とでも言いたげにきょとんとするシルヴィアに、ミレーユが非常に珍しいことに大人しく解説。



「ミレーユたちはハンターなのです。依頼を受けて、あれを討伐する為に来たのですよ」



「はんたー?」



「魔獣を退治する、専門の役職のことだよ」



アレックスの助け舟に、シルヴィアは数秒置いてからサッと綺麗な顔を青ざめさせた。



「えっ、え……ごめん! あれ、空牙の獲物だったの!? ぼく、全然知らなくて……自分で駆除しちゃったよ」



少々台詞が物騒なのが気になるが、シルヴィアは本当に申し訳なく思っているらしい。
泣きそうな声で「ごめんね」と繰り返す。



「そんな、気にすることじゃ」



「あれ、空牙とミレーユがやったってことにしていいから!」



「いや無理があるから」



それを聞いて、む。とミレーユが不穏に眼光を鋭くする。



「……聞き捨てならないですね」



空牙の何気ない言葉は、面倒な人形の闘争心に火を点けてしまったようだった。



「ちょ、……え、ミレーユ?」



ミレーユはやや眇めた純金の瞳でシルヴィアを真っ直ぐ映し、高らかに声を張って宣戦布告する。




「―――ミレーユと勝負するですっ!」




「うおおおいっ!?」



顔色を変えたのは空牙だ。



「何言ってんの!? お、おま、マジで何言っちゃってんの!?」



「んー……どうしよっかなぁー」



「シィ!?」



顎にほっそりした指を当てて考え込むシルヴィア。

彼女に本気を出されたら、こちらにとって良い結末はまず存在しないだろうことは、今までのやり取りだけでも十分推測できることだ。



「ま、待てごめんこいつすぐムキになるから、あー、今のはなしってことで―――」



「じゃあ」



しどろもどろな空牙の弁明を遮り、シルヴィアはにっこりと微笑んだ。




「そこのアレクを倒せたら、ぼくが相手するよ」




「俺?」



怒涛の展開を黙って傍観していたアレックスが、初めてその涼しげな双眸を僅かに開いた。



「いいでしょ? 体力有り余ってるんだし」



「シィ」



「勝負なんて肩肘張らないで、遊ぶような感じでさ!」



シルヴィアの無責任な笑顔に、アレックスが深い溜め息をつく。



「……今回だけだよ?」



「ふん。仕方ないですね」



「俺の意志は何処に……?」



ガックリうなだれる空牙に、アレックスが微笑を向けてくる。



「実は俺も、噂の人形遣い君の実力を一度見てみたかったんだよね」



「ますます後に退けなくなった!?」



「役立たずの腐れ犬の癖にうだうだ言ってんじゃないです。口汚く騒ぐしか能がないのですか?むしろ脳がないのですか?」



「……いやあ、随分と歪んだ主従関係だね。見ていて面白いけど」



「激しく他人事!?」



「ぼくはこの辺でテキトーに見てるから、あとよろしくー」



とにもかくにも、機械人形(マシンドール)を従えた少年と、余裕の笑みを湛える悪魔が対峙した。

146ピーチ:2013/02/09(土) 09:26:54 HOST:EM114-51-13-111.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかの最高レベルっ! え、じゃあアレックスは男の中での最高?←

空牙君! 勝てるさ大丈夫っ! ミレーユちゃん居るから!←

147心愛:2013/02/09(土) 18:07:29 HOST:proxyag088.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、アレクもそうかなw
シュオンと並ぶよ!

ソフィアとシィの銀髪二人も同等?


ってことはシィに似てる美羽、アレクに似てる苺花もそうだよね(*^-^)ノ


どうだろう、仮にも悪魔だしアレクは結構手強いよ?(笑)

148ピーチ:2013/02/14(木) 05:32:02 HOST:EM114-51-138-2.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

銀髪ってもてるんだー…←

だよねー! あれ、でもそしたら美羽ちゃんたちだけ髪の色が…

大丈夫! 空牙君とミレーユちゃんだからっ!

149心愛:2013/02/14(木) 18:20:23 HOST:proxyag103.docomo.ne.jp
>>ピーチ

それは単純にここあが銀髪大好きだからだなw

美羽とシルヴィアはじめ、似てるといっても顔立ちとか雰囲気とかの話だよ(^-^;
そっくりさんが登場しても面白いけどねーw


ありがとう! ピーチがそう言ってくれるなら、ミレーユと空牙も頑張ってくれるさ!

150心愛:2013/02/18(月) 16:45:55 HOST:proxy10061.docomo.ne.jp







「手加減はしなくていいかな?」



「愚問ですね」



ミレーユが嘲弄するように笑う。



「さっさと掛かってきやがれです!」



ごうっ―――!

空気中に浮遊するマナを取り込み、瞬時に魔力へと変換。
空牙の痩身から溢れ出した、密度の濃い乳白色の妖気が膨れ上がる。



「……白、か」



白い肌、白い髪、白いコート。
アレックスの呟きを拾い、空牙は自嘲するように笑んだ。



「ええ。何もない、虚無。俺にぴったりでしょう?」



魔族が先天的に授かる能力―――異能を持たない空牙の特異体質については、アレックスも知っているらしい。
彼の血のように紅い双眸には、静かな理解の色があった。



「確かに、君らしいかもしれないね」



謳うような口調で、アレックスは言う。



「決して何色にも染まらない。穢れなく、強く、誇り高い色」



「……嬉しいことを言ってくれますね」



そんなことを言われたのは初めてだ。
空牙の本心からの言葉に、青年悪魔はおどけるように肩を竦める。



「お世辞は得意なんだ」



「……お喋りはそこまでです」



痺れを切らしたミレーユが割って入る。



「仕方ねーな」



苦笑した空牙の足元に、突如として同心円を作るように暴風が巻き起こった。
金色の輝きが螺旋状の複雑な紋様を描き、波紋が広がるように魔法陣が展開。




「導きを……《偽りの空を歌う星》」




魔力が行き渡ったミレーユの身体が虹色の燐光を帯びる。
ひらりと水平に飛翔、ミレーユはこの期に及んでも微笑を絶やさないアレックスを上から睨みつけた。



「変わった解放序詞だね。それにそれは……まさか、魔法陣?」



「俺たちは『特殊』なので」



興味深そうに空牙を見て。



「―――それじゃあ、こっちもいくよ?」



瞬間。紅い双眸に、ギラリと残忍な光が輝いた。




「塗り潰せ―――《闇淵の黒翼(フリューゲル・ヴェルト)》」




ずばんっ、と大気を切り裂いて、爆弾が破裂するような勢いでどす黒い光の刃が空(くう)を吹き飛ばし、凪払った。
突風を起こし、ごうごうと音を立てて溢れ出る妖気。
魔力が充実し、アレックスの姿が燃え上がる。


吹き荒れる嵐のような暴風の中心で、黒髪を踊らせる彼は艶麗な微笑を湛えていた。



空牙、そしてミレーユに緊張が走る。



―――この男……強い!



「うーん、やっぱり魔界より随分威力は落ちるけど」



余裕綽々、挑発するように唇の端を吊り上げる悪魔。



「―――……好い表情(かお)だ」



ふふっと笑みをひとつ。



「さて。お相手願おうか、お嬢さん?」



「……っ上等です!」



ミレーユが空中を蹴る。
凄まじい加速。一気に間合いを詰め悠然と構えたアレックスに肉迫する。



「これでも喰らえ、ですっ」



飛び蹴りのように身を浮かせ、ブーツの底でアレックスを狙う。
強烈な一撃だったが、アレックスは難なくかわした。


さらに勢いを減速させるために空中で蜻蛉返り、続けざまに攻撃をはかる。




「《幾千の夢眠る檻》!」




突き出した小さな手のひら、そして二の腕までを隠すフリルつきの長手袋(ドレスグローブ)までもが眩い虹色の光に包まれた。


アレックスが僅かに目を見張る。



「魔法……?」



触れた箇所から侵蝕し、広がり、雁字搦めにしようとしてくる光の網。
しかし、アレックスはあっさりと片手でそれを弾いてしまう。




「《天空を裂く雷(いかずち)の遊戯》!」




いきなり雷電の花が咲く。
剥き出しの両肩、背中、申し訳程度に身体を覆う妖美な衣装を帯電させ、
残像を尾のように曳(ひ)き、宙を駆ける。まるで稲妻。


ビリビリと鋭い電流を纏った拳を繰り出すミレーユに対し、アレックスは防戦一方だ。
漆黒の巨大な翼を広げて身を守る。




「《月華乱舞》ッ」




地上の空牙が苦しそうに歯を食い縛り、魔力の出力を上げた。


ミレーユを包む輝きが一層に増す。


蹴って、蹴って、廻って蹴って、猛火の如く攻め立てる。

151ピーチ:2013/02/20(水) 05:50:06 HOST:EM1-114-47-35.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

いや待てアレックスー!

空牙君のこと考えてあげてよ手加減してよー!

何かごめんねいきなり! 最近テスト期間に入っちゃって!←

152心愛:2013/02/20(水) 22:51:29 HOST:proxyag067.docomo.ne.jp
>>ピーチ

アレクは全力出したらすごいよw

ここあも今週定期試験終わったぜ! 2つの意味で!
テストは大事だから無理はしなくていいからね、そりゃ来てくれたらすっごく嬉しいけどさ!

153たっくん:2013/02/22(金) 01:03:17 HOST:zaq31fa4bcb.zaq.ne.jp

アホのサカタ元気か?
いや・・ドクター・ゲロか?
>>1さんのアダ名は色々あるからな〜


あんたのアダ名だよ
超人気キャラだから喜びなさい

あんたは幸せものだ

154たっくん:2013/02/22(金) 01:04:20 HOST:zaq31fa4bcb.zaq.ne.jp
>>1
これからはもう少しマシなスレ立てて下さいね
では
君達も私を見習って欲しい
私が以前立てたカードダススレッド良かったでしょう?
ああいう感じのを立てて欲しい

155ナコード:2013/02/22(金) 19:35:44 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
 >>153 人のあだ名を、特に関わりもない外野が決めるのは止めて下さい。
 皆が迷惑です。

 >>154 人の作品にケチをつける程、貴方は偉いんですか?
 立場を少し理解してください。

156心愛:2013/03/01(金) 22:00:49 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp







アレックスは巧みにミレーユを捌きつつ後退。



「機械人形(マシンドール)って、皆こういうものなのかな?」



彼を黙殺し、体重を載せた踵落としを仕掛けるミレーユの追撃を左腕で受け、弾き飛ばし、
くすりと笑む。




「好いね……面白くなってきた」




ばさ―――



悪魔は艶やかな微笑みと共に、己の双翼を一度だけ羽ばたかせた。


漆黒の羽根が舞う。
ひらひら踊る黒き欠片がミレーユを取り囲むように徐々に優しく広がっていく。

―――風に、流されることなく。



「ミレーユ、避けろっ」



「言われなくても分かってますです!」



危険を察知したミレーユが滑空して距離を取る。

あの羽根が、彼の異能に関係していると見てほぼ間違いない。



「はは、そんなに警戒されると哀しいなぁ」



紅い瞳を細め―――愉しげに一言。




「―――……始めようか」




―――ピシッ


ふわふわ優雅に辺りを漂っていた羽根が、一斉に凍結した。
……いや、違う。
ギラリと鈍い光を放つ―――硬質の鋼に変化したそれは、ミレーユに向けて四方八方から飛来する。



「くっ―――!」



ミレーユは持ち前の反射神経を生かしてさらに上空へと逃れる。
間一髪で直撃は避けたが、凶悪な刃と化した羽根がミレーユの柔肌を掠めた。

傷口から赤いものが滲む。



「へぇ。血も出るんだ」



明らかに面白がっている。
お気に入りの玩具を見つけた子供のように、アレックスは笑う。



「ふふっ……最高だね。噎せ返るように濃厚で甘美な、禁忌の薫りがするよ」



「……っ」



まるでそれ自体が意思を持っているかのように、逃げても逃げても執拗に追ってくる鋭利な羽根。
埒が明かない。



「《白銀の盾》っ!」



振り返りざまにミレーユは手を翳し、目の前に魔法陣でできた障壁を出現させる。


衝撃波。しかし、相殺ではない。ミレーユが圧された。

幾億もの数が集まり、黒い塊となった羽根の猛攻が彼女を襲う。
必死に踏ん張るけれど足元が滑り、じりじりと後ろに下がざるをえない。
両手で陣を支え、歯を噛み締めて衝撃に耐える。


一方、アレックスはといえば離れた場所から魔力を使って、己が生み出した羽根の動きを操作するだけ。
薄い笑みを浮かべた彼の余裕の態度が、ミレーユの苛立ちをさらに煽る。



「……ッ《世界の夢、願う月影》!」



障壁で身を守りながら羽根の海をくぐり抜けて突進、電光石火の勢いで攻撃を放つ。

視界が潰れる程に協力な光線が、悠然と構えたアレックスを貫き通そうと迫る。



「ねえ、地獄と云う場所を知っている?」



凝縮した羽根の盾がその光を阻み、周りに激しい火花が散る。


愛の言葉を歌う詩人の如き恍惚とした口振りで、アレックスは独り言のように語りかけた。



「雨は酸、足場は腐肉。罪を犯しても悔い改めない者が、苦しみを受ける場所。救われない魂が陥る絶対の監獄」



隠しきれない愉悦に輝く血の双眸が、さらに妖しさを増した熾火の色へと変化する。



「その中で、俺たち悪魔は罪人共を引き千切り、切り刻み、直接的な痛みを与えるんだ―――永劫に、ね」



反射的にミレーユが身体を硬くした。
沸々と込み上げてくる純粋な恐怖。



「だから悪魔は、君たちのように高潔な魂が大好物なんだよ」



薄い唇から、真っ赤な舌がチロリと覗く。



「地獄や魔界では決して見ることができない、美しく澄んだ魂が奏でる、これまた美しい悲鳴―――」



「黙るですっ」



畏怖を闘志で塗り替える。
威勢良く吠え、ミレーユは流れるように片手を突き出した。




「幻舞―――《胡蝶》!」




生み出したるは蝶々の大群。

彼らが撒き散らす儚い粒子が羽根に触れた瞬間、火花を散らしてそれを拒絶した。


アレックスが目を見張る。



「これは、俺の異能の対抗策か」



「打開策と言ってほしいですね!」



ミレーユが力むと、かつて羽毛だったものは虹色の燐光に押し潰され、もろもろと黒い灰になり―――


呆気なく、崩れ去った。

157ピーチ:2013/03/02(土) 10:40:56 HOST:EM49-252-90-230.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

久しぶりー!!

と思って読んだらいきなりこの展開!?

…アレックスが一瞬悪魔の本性見せた気がするの気のせいか←

158心愛:2013/03/02(土) 18:59:24 HOST:proxy10030.docomo.ne.jp
>>ピーチ

久しぶりー!
テスト期間は終わったのかな?


裏表あるキャラってここあ結構多いかもw
二面性を隠す派としては世渡り上手なシュオン、美空、あと春山かな。
美空と春山については後々深く突っ込みたいw

隠さない派ってゆーか素なのはアレク、シィあたりでしょうか。
ルイーズとかヒースも、敵認定すると若干性格かわるしね←


アレクは鬼畜だよ! ネチネチいたぶるよ!

159ピーチ:2013/03/02(土) 21:45:10 HOST:EM49-252-124-211.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

テスト終わって色んな意味で終わった&狂ったピーチですw

シュオン様は代表的存在だよねw←

美空先輩も言われてみれば二重人格っぽいw

160心愛:2013/03/03(日) 18:41:26 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp
>>ピーチ

え、狂っちゃったの!?( ̄◇ ̄;)


シュオンは分かりやすい裏表だよねーw
王子様な外面、気を許した人限定の毒舌諸々、それからソフィア限定の甘々……三つか!

美空も結構黒いんだよー。ドジだけど←

161ピーチ:2013/03/03(日) 18:47:26 HOST:EM114-51-64-43.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

狂ったのですッ!←

シュオン様が一番わかりやすいかも←

え、美空先輩が!?

162心愛:2013/03/04(月) 15:33:07 HOST:proxy10070.docomo.ne.jp
>>ピーチ

く、狂ったのか…(汗)


シュオンは分かりやすいし書き分けしやすいよね! 書いてて楽しんじゃう←


美空は…ちょっとシュオンと似たとこがあって、利益を計算してそれが美羽や自分のためになるなら、どんなことでもするような子なのね。
めったに本音出さないから分かりにくいけど、結構色々考えてるよ!

163ピーチ:2013/03/05(火) 05:13:53 HOST:EM49-252-6-237.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

あはは、どーしよー治らないよーw

シュオン様は読んでても分かりやすい! ヒースが気の毒だと思う以外は面白い!←

美空先輩の意外な一面発見!?

164心愛:2013/03/05(火) 17:04:25 HOST:proxyag110.docomo.ne.jp
>>ピーチ

治れー! 治れぇー!


シュオンの黒さは周りが被害被るのがねー。
それもまた愛ゆえに!……歪んでるけど。


うーん。美空と昴の話、早く書きたいなぁ…←
そろそろ昴が忘れ去られそうだしなぁ…。

165たっくん:2013/03/06(水) 11:55:13 HOST:zaq31fa58ac.zaq.ne.jp
>>ピーチさん

ピーチさん貴方・・
馬鹿を超えた馬鹿を更にもう一歩・・超えてみる気ありません?
現時点で既に馬鹿を超えてらっしゃいますが・・その領域を更に凌駕するなどという事が可能なのか?
誰もが最初はそう思うんです。

非現実的な事を可能にする。それこそが私の拘り
普通人の何百分の1の頭脳を持つ、100分の1
第3者から見れば、人間以外の何ものかなんです。
見込みのある人、大募集!

>>1さん
ピーチさん
貴方は見込みがあります。
馬鹿を改造し、更にその領域を超える

166たっくん:2013/03/06(水) 11:57:55 HOST:zaq31fa58ac.zaq.ne.jp
女性の方でもOK!
性別は問いません。ではまた

夢に描きながらも実現できなかった
あの究極の無能人アホ3(スリー)・・・
貴方ならできるかもしれない

>>1さん、そしてピーチさん
期待しています。

あの2chサイトの馬鹿住民を更に上回るチャンスです。

167ナコード:2013/03/06(水) 17:43:00 HOST:i118-17-185-78.s41.a018.ap.plala.or.jp
 >>165 >>166
 人の事を馬鹿呼ばわりするのもいい加減にして下さい。
 荒らしでしか目立つ事の出来ない人はこの世では馬鹿以下の分類ですよ?
 学習能力をつけてください。

168ピーチ:2013/03/13(水) 05:13:22 HOST:EM114-51-28-190.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ここにゃんのおかげで治った! 多分!

シュオン様、は……まぁしょうがないと言えばしょうがない←

昴さん忘れてませんよー! ちゃんと覚えてますよー!

169心愛:2013/03/13(水) 21:57:39 HOST:proxy10009.docomo.ne.jp
>>ピーチ

それはよかった!


昴忘れてない!?
極端に登場回数少ないからね、昴…。
彩あたりも最近出てないけども←

170心愛:2013/03/13(水) 21:58:04 HOST:proxy10010.docomo.ne.jp





「……ふふっ。本当に、大したものだよ」



異能を封じられたも同然だというのに、アレックスの余裕は微塵も揺らがなかった。



「これは、そろそろ俺も約束通り本気を出さなくてはならないみたいだね」



ミレーユの背筋に戦慄が走る。

残酷さを増した嗜虐的な笑みを浮かべ、アレックスはゆっくりと己の右手を持ち上げた。



「二対一って不平等(アンフェア)だと思わない?」



謳うように。
悪魔は紅い双眸を細め、




「昏(くら)き闇、古の唄―――我が契約に応え、奈落の淵より顕現せよ」




―――怒号のような吼え声が突風となり、ミレーユの髪を揺らした。


猛烈な地響きを立てて地面に亀裂を生み、その奥から竜巻そのものが出現する。



「―――――ッッ」



空中を滑るように飛び、すかさずミレーユが距離を取る。




【ォォォ………ッッォォォ……】




暴風の中央に、“何か”がいた。

逞しく発達した巨大な腕、二対の翼。
鱗に覆われた長い尾から連なる、しなやかで強靭な胴体が翻る。
大きく開かれた上顎と下顎から覗く、氷柱のように鋭い牙。



―――竜。



「俺の可愛い使い魔(ペット)さ」



唇の端をつり上げ、悪魔が笑む。




「折角だし―――遊んでやってよ」




主の命を受け、竜が凄まじい轟音と共に漆黒の火炎を放射した。
破裂した飛沫が瞬く間に氾濫し、津波の如く膨れ上がって大地を蹂躙する。



「……は、っ」



間一髪で逃れたミレーユが思わずと云うように身震いした。


その脅威は炎の威力だけに留まらない。
暴力的な光が奔流となって押し寄せ、迸り、空間を深い黒へと染め上げる。
続く形で襲い来るのは猛烈な熱波、そして音の衝撃波。



……もう出し惜しみは利かない。



「空牙、既に構築は完了していますです! 『あれ』を!」



魔法陣の盾で防御するミレーユが地上に向けて声を張る。



「……空牙? どうしたのです、早く―――」



返事がない所有者(マスター)を訝しんでミレーユが眉を寄せた瞬間、供給されていた魔力がふつりと途切れた。
盾が儚い粒子となって霧散し、掻き消える。



「……空牙ッ!?」



白いリボンが悲鳴のように揺れた。



はあ、はあ、と短く荒い呼吸。
今にも崩れ落ちそうに痩身が傾ぎ、とめどなく溢れる脂汗は血の気が失せた頬を伝い、地面に落ちる。
鋭さをなくした瞳は、ただぼんやりと虚空を映していた。


ミレーユがサッと青ざめ、すぐさま降下して空牙へと向かう。



「空牙! しっかりするです、空牙!」



涙混じりの叫びを上げるミレーユが空牙にすがりついた。


無防備にもがら空きになった彼女の背中に、勢い良く振り下ろされた竜の腕が迫り―――




「―――其処までだ」




涼やかな美声。


フリルとレースに飾られた、華奢な後ろ姿―――シルヴィアが、ミレーユと鉤爪との間にその身体を割り込ませていた。
冷え冷えとした厳しい視線を、空中のアレックスへ投げかける。



「いくら性格が歪んだ君でも、手負いの女をいたぶるなんて趣味は持ち合わせていないだろう?」



ミレーユを弱者や敗者でなく手負いの女と称したのは、彼女なりの気遣いだろうか。



「やだな、分かってるって。ちゃんと寸前で止めるつもりだったよ」



「はっ。信用できないな」



シルヴィアを前にした途端にその動きをピタリと止めた竜が、アレックスを不安そうに窺う。

アレックスが頷くと、竜はそれを解したかのようにゆっくりと頭部をもたげて。


―――やがて、キラキラと光る細かい粒子となって、消滅した。


それを冷たく透き通る瞳で見届けたシルヴィアは次にくるりと振り返り、可愛らしく眉を下げて。



「ミレーユ、空牙、大丈夫っ?」



「……なんとか……」



消耗した魔力の波と息とを整えながら、弱々しく笑う空牙。

彼に寄り添うミレーユの肌に刻まれた傷が、時間が経つにつれて徐々に塞がっていく。


もし空牙がミレーユの実力を全て生かし、発揮することができたなら、勝負の結果は違ったかもしれない―――と思うと、仕方ないとは分かっていてもやはり情けなくなってしまう。

171ピーチ:2013/03/15(金) 05:51:06 HOST:EM1-115-76-248.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

良かったよー!

昴さん忘れないよ! あんなにいい人忘れないよ!

極端でも悪役よりはずっといい←

あ、でも確かに高校の文化祭やってたもんね! 仕方ない!

172心愛:2013/03/16(土) 11:13:17 HOST:proxy10068.docomo.ne.jp
>>ピーチ

文化祭長かったからね…←

ありがとう!
もうちょい忘れないでいてくれ!


ソラの波紋も、次の次くらいから要の部分に入ります(つд`)
終盤戦が長いんだこれが←
むしろ今までが前振りみたいな感じだしね。

紫の歌ラストに近いシリアス突入かも!

173ピーチ:2013/03/16(土) 20:51:20 HOST:EM114-51-179-122.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

文化祭長かった! でも面白かった!←

忘れない忘れない!

い、今までが前振り……!?

紫の歌ラストに近いってあれシリアスだけじゃありませんでしたかね…?←

174心愛:2013/03/18(月) 17:15:52 HOST:proxyag096.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ありがとうごぜえます…!
デート(?)は短めだから、あと秋あたりに長いイベント一回はさんで、冬で事件起こして終わりかなぁ。


ソラの波紋は今からがメインです!
ドシリアスいきます! ここあなりに!
ミレーユのポジションがソフィアに近い感じになるかもね←

175ピーチ:2013/03/19(火) 05:40:00 HOST:EM114-51-37-149.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

デート短めなんだー←

あれ、冬の事件とやらが無性に気になるのは何でだろう←

ドシリアス頑張って! 応援するよ!

ソフィア様のポジション? 一番最初の?

176矢沢:2013/03/19(火) 13:53:17 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
すごいね。

177心愛:2013/03/19(火) 20:21:39 HOST:proxy10051.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ここあ作品の流れは、

主人公や中心人物が色々苦労する

出会い

コメディ入れつつ日常

急にシリアス展開、日常が揺らぐ

解決、ハッピーエンド


みたいなパターンだと思ってくれればw


邪気眼少女の冬の事件もシリアス予定だよー。

ソフィアのポジション…囚われの姫的な?←
これ以上言うとネタバレなのでやめとくw

178ピーチ:2013/03/19(火) 22:03:33 HOST:EM114-51-160-122.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

了解! 分かった!

な、何か美羽ちゃんの目の前でシリアス起こったらどーなるんだろ…←

ミレーユちゃんが囚われって印象は……あんまり浮かばないかも

179心愛:2013/03/20(水) 10:14:07 HOST:proxy10056.docomo.ne.jp
>>ピーチ


美羽は微シリアスな過去背負ってますので、その関係かな←

囚われっていうか囚われる前に敵をぶちのめしそうだよねw

180ピーチ:2013/03/20(水) 19:30:54 HOST:EM1-114-57-214.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

それか!

あれ、何でだろう、何かミレーユちゃんが空牙くんに八つ当たりしそうなイメージが←おい

181心愛:2013/03/20(水) 23:27:49 HOST:proxyag095.docomo.ne.jp
>>ピーチ

「空牙がふらふらふらふら頼りないボウフラな所為でミレーユがこんな目に遭ったです! 責任取りやがれですクソ虫!」…みたいな?←

ただ、今回はどうだろう(~_~;)



邪気眼少女が一区切りついたんで、こっちを優先的に進めたいと思いますw
ただ内容が重いとスローペースになっちゃうかも←

182心愛:2013/03/22(金) 20:19:23 HOST:proxyag112.docomo.ne.jp





ミレーユの消耗はたいしたことはないが、彼女に魔力を供給する空牙の方が限界だった。



「ごめんね、アレクってばドSで、つい愉しんじゃうんだよね……。刺突剣(レイピア)を持ち出さなかっただけましだけど」



「まだ何かあるのかよ……」



「あはは。それにしても、相手がぼくじゃなくてよかったよ」



シルヴィアは手に持っている銀色の十字架に唇を押し当て、柘榴石(ガーネット)の瞳を妖艶に細めた。




「―――うっかり殺しちゃうかもしれないから」




ゾクッ―――と冷たいものを感じ、空牙とミレーユが一様に顔を引き攣らせる。



「でも、アレクとこれだけやり合うなんてすごいよ。冥界でも五指に入るんじゃない?」



「……あ、はは……そ、そうかな」



最強の名を冠するシルヴィアに誉められた嬉しさより、純粋な恐怖が勝る空牙だった。



「仕方ないですね。今日のところは勝ちを譲ってやるですよ」



「うん。君はかなり強いけど……今度も負けないよ」



敵意の火花を散らすミレーユに、アレックスは悠々とした笑みで応える。



「ふう。空牙が役立たずな所為で不本意な結果になりましたが、思い切り暴れてゴミ虫との二人旅の間のストレス発散ができたですから、良いとしますですか」



「酷い言われよう……」



空牙が回復してきたとほぼ同時にミレーユの毒舌も復活。
ふわりと浮き上がり、ミレーユは空牙のコートを引っ張って彼を急かす。



「さっさと行きますですよ、空牙」



「そんな急に!? み、ミレーユさーん? 俺、まだ動きたくないなー、なーんて」



「このまま引きずって行くです?」



「やめてお願いだから!」



渋々立ち上がった空牙に、シルヴィアがにこやかに微笑んでみせる。



「二人から奪っちゃった仕事については、目を瞑ってくれるようリリスに頼んでおくよ」



「それは助かる。……あー、ところでアレックスさん、最後に訊いておきたいことが」



「俺に?」



アレックスが器用に、片眉だけを上げる。
空牙は、己を打ち負かした彼をしっかりと見て言った。



「はい。貴方はかなりの才人のようなので」



「……へぇ。逢ったばかりなのに、案外良く見てるね」



アレックスが感心したように。



「その通り。永い刻を生きているから、それなりに物は知っているんだ」



「それじゃあ」



不思議そうにしているシルヴィア、ミレーユ。
同時に彼女らの反応をも窺うように―――




「―――“ネクタル”って、ご存知ですか」




瞬間、悪魔の双眸に不穏な光が輝いた。



「何処でその名を?」



「姫―――リリス姫から聞いたんです。気をつけろ、って」



アレックスはしばらく黙って考えている様子だったが、



「……なるほど」



やがて、納得したように呟く。



「そういう、ことか。流石は彼女」



「アレク? どうしたのさ」



「……ああ、ごめん。話の途中だったね」



何もない風を装い、空牙に再度向き合う。




「ごく小さな魔術組織だよ。機械人形(マシンドール)の生産や開発に関わっているらしい」




「機械人形……!?」



空牙は息を呑む。


あのリリスが、意味のない忠告をするはずがない。
おそらく―――いや、間違いなく、ミレーユに関係があると考えるべきだ。



「ネクタル? 機械人形? ……何の話です?」



当のミレーユは何も知らないようで、金の瞳をぱちくりさせている。



「どうする、空牙」



アレックスは、にやりと野性味溢れる笑みを浮かべた。
上品さが漂う絶世の美貌も相俟ってか、そのような表情も妙に様になる。



「本部の研究所は、此処から割と近いよ?」



彼がつらつらと述べた座標は、確かにこの地点から遠くはない。



「……ミレーユ」



空牙は訝しげな顔のミレーユを見つめた。



「お前の謎が、分かるかもしれない」



ミレーユが緊張で身体を強ばらせる。


―――圧倒的な美しさと機能性、さらには確固たる自我の所有。激しすぎる魔力の消費量。

彼女を取り巻く、数多の謎。

183ピーチ:2013/03/23(土) 09:46:40 HOST:EM1-114-3-215.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

シルヴィア様怖いよ!? 何か怖いよ!?

ミレーユちゃんの謎…楽しみだ!←おい

184心愛:2013/03/23(土) 18:40:46 HOST:proxyag099.docomo.ne.jp







「姫の忠告を無駄にすることになるけど……」



空牙は真剣な顔で。




「―――行ってみないか」




彼の言葉を受け、ミレーユはほんの一瞬だけ間を取ると。



「……仕方ないですね」



腕を組んで尊大に胸を反らし、ふんっと鼻を鳴らした。



「良く分かりませんが、空牙は頼りなくて一人では何もできない唐変木でタコスケで虫ケラですから、ミレーユが特別に付いて行ってやるです。感謝するです」



「あーはいはい感謝感謝」




耳慣れた罵倒を聞き流す。
彼女はむっとしてむくれていた。



「決まった?」



「ああ。このまま、その……“ネクタル”ってとこに、行ってみることにするよ」



首を傾げて見上げてくるシルヴィアにそう答えた後、空牙はアレックスに向き直った。



「色々教えて下さって有難う御座います。あと、手合わせも。良い経験ができました」



「こちらこそ。久々に楽しませてもらったよ」



柔らかに笑むアレックスに手を差し出され、握手を交わす。



「シィもまたな」



「うん!」



歩き出す空牙たちに、幼き姫君は愛らしく無邪気な微笑みを浮かべて手を振った。



「いつかぼくと、妥協も引き分けも一切なしの真剣勝負しようね!」



「の、望むところですっ! ミレーユは準備万端です、いつかと言わず今すぐにでも―――」



「いやほんと勘弁してください!」



ミレーユを引っ張って猛ダッシュで走り去る空牙。



彼らの姿が地平線の彼方に消えるまで見送り、シルヴィアはくるりと己の眷属を振り返った。



「ねぇアレク。ぼくたちまた、リリスの手のひらの上ってこと?」



「珍しい、シィも気づいたか」



「なんとなくね」



立てた十字架に寄りかかって、視線だけをアレックスに向けるシルヴィア。



「わざとぼくたちと逢わせて、アレクから情報を掴ませて。空牙たちとその組織を引き合わせるように仕向けて……。何がしたいんだろう、リリスは」



「それだけじゃないよ」



片手で主の美しい銀髪を梳き、アレックスはくすりと笑った。



「彼女は、ずっと後のことまで視通してる」



不思議そうに見てくるシルヴィアの頭をごく軽く、ぽんぽんと叩く。



「とにかく、俺たちは一体でも多く、魔獣を倒そう」



「もちろんだけど……また、空牙たちの仕事の邪魔しちゃうかな」



まったく、この娘は。とアレクは苦笑した。
幼いゆえの冷酷さと未熟さを兼ね備えた、何処かアンバランスで危うい少女。



「大丈夫だよ、シィ」



アレックスはそんな主に言い聞かせるように、声を潜めて微笑む。




「空牙たちも―――それに、俺たちも。じきに、それどころじゃなくなるからね」







+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+ +.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+







それから半日後。
寂れた街に、賑やかに話す二つの影があった。



「参ったな……このへんで合ってるはずなんだけど―――おいこらミレーユ、勝手に誰かの屋根に乗ってくつろぐなよ」



「此処からなら簡単に、空牙を見下(くだ)せるです」



「見下(お)ろせるの間違いだよな!?」





「―――ミレーユッ!?」





突然後方から発せられた叫び声に驚き、空牙とミレーユがそちらを見る。



「や、っ……と、見つけた……!」



ミレーユを真っ直ぐに映して輝く、暗い色合いの紅い瞳を驚愕と歓喜に見開いた、深紫色の髪を持つ青年。
知的に整った相貌とくたびれた白衣は、近寄りがたく独特な雰囲気を放っていた。



「知り合いか?」



「……」



ミレーユがふるふると頭(かぶり)を振る。
どうやら、以前の主でもないらしい。



「えーと、すみませんが……どちら様ですか?」



「これは失礼!」



ハッと我に返ったように瞬いてミレーユから目を離し、男は空牙に向けて丁寧な礼をした。




「申し遅れました。私は《ネクタル》所属の研究者、サミュエル=ノヴァと云う者です」

185心愛:2013/03/23(土) 18:45:13 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp
>>ピーチ


シィは怖いよねw
可愛いのに怖い、を目指しつつ←


やっとのことで《ネクタル》登場!
サミュエルの名前は今テキトーに考えたことは秘密ですw

186ピーチ:2013/03/23(土) 22:05:12 HOST:EM49-252-247-164.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

可愛すぎるせいで怖さ倍増w

ネクタルーw←

こ、ここにゃんそればらしてる秘密じゃなくなってる!

187心愛:2013/03/23(土) 23:51:37 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp
>>ピーチ

サミュエルは超重要キャラのはずなのになぜだろう…。

ここあ初・極悪非道なるか!

188心愛:2013/03/23(土) 23:52:50 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp






話したいことがある、と男―――サミュエルは言った。


《ネクタル》が本拠にしているという研究所は、灰色の小さな建物だった。

錆び付いた扉が、ギギギ、と甲高く耳障りな音を立てる。



「散らかっていて悪いね」



優れた弦楽器のように澄んだ声が、沈黙の中響いた。


足元に幾つも転がるのは、人形のものと思しき部品(パーツ)―――否、残骸。


ミレーユが怯えて竦み上がり、空牙は不快感も露わに眉を寄せた。


サミュエルは二人を奥のソファへと招き、自分はその正面に座る。
助手らしい若い女に茶を淹れさせ、彼女が退出するのを見届けた後に脚を組み、こう切り出した。



「話というのは他でもない」




「ミレーユを売れ、ってことですか」




「――――ッ!!」




ミレーユが、今にも泣き出しそうな表情で空牙を見る。
『黙ってろ』と視線で命じた。



「話が早いね。もしかしてエルゼリア出身かい?」



「そんなことが今、関係あるんですか?」



「いや、特にないな」



くっくっと愉快そうに喉の奥で笑い、サミュエルは長い脚を組み替えた。



「そう、君の言う通りだ。其処のミレーユを、私に譲ってほしい」



「どうしてミレーユを? こいつのことを知っているんですか?」



矢継ぎ早に尋ねると。



「あまり急かさないでくれよ。だが、その問い自体は意義があるな」



ミレーユを見つめるサミュエルの暗い双眸に、強い光が宿った。




「―――私が、ミレーユの製作者だからだよ」




ミレーユの肩が跳ねる。

空牙はすかさず、目の前の男を観察した。

まだ若い。
空牙と十も変わらないように見える。

本当に彼がミレーユを造った張本人だとして、ミレーユが他の人形遣いに使役されていた時間を考えると、計算が合うとは思いがたい。



「ミレーユ、記憶はない? 君の生みの親だよ?」



数秒遅れ、こくりと弱々しく頷いたミレーユの透き通る頬は、僅かに青ざめているようだった。



「何か証明できるものは」



「証明……か」



サミュエルは薄く笑い、立ち上がる。



「私がこれからする説明が、きっとそのまま証明となる。ミレーユを造り出した私の、研究成果がね」



こっちに、と誘われて、空牙とミレーユは彼の後に続いた。


サミュエルは再び助手の男を二人呼び、設置されていた本棚をずらすように押させる。
何をしているのかと訝しんでいると―――本棚の裏にあった壁に、古びた扉が出現した。


隠し扉だ。



「君たちをこの部屋に入れる前に、ひとつ約束がある。これから見るものの存在を、他の誰にも言わないでくれ」



二人が頷くのを確認し、サミュエルは白衣のポケットから鍵を取り出し、扉を開けた。
現れた空洞の中へ、空牙たちを先導して歩き出す。


ひんやりとした冷気が空牙の身体を包み込む。


サミュエルの持つおぼろげな灯りに照らされ、闇の中浮かび上がったのは整然と並べられたガラスの円筒。

そして。




―――液体の満たされた容器に、生物標本のような少女の裸体が、収められていた。




「………っ、!」



吐き気が込み上げ、ミレーユが口を押さえる。
空牙も顔を険しくした。



無惨に切り裂かれた胸から覗くのは新鮮な色の肉、内臓。
造り物では有り得ない。



「ご覧の通り、私は禁術の使い手」



サミュエルだけが、心底楽しそうに微笑んでいた。



「研究内容の情報が流出したら大惨事だからね。それゆえの少数運営、それゆえの隔離施設だ」



可笑しくてたまらないとでも云うように。
サミュエルはくすくすと声を零す。




「私は禁じられた魔術を扱う研究者―――そして、一種の魔術師(ツァウベラー)だよ」

189ピーチ:2013/03/24(日) 00:21:12 HOST:EM49-252-247-164.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

空牙くーん! ミレーユちゃん売らないよね? ね!?

製作者とか何とか関係なくないですかねぇ!?

190心愛:2013/03/24(日) 18:11:53 HOST:proxyag089.docomo.ne.jp
>>ピーチ

そっか、この時点では製作者がミレーユを欲しがってるとか、関係なく思えるよね…!

ありがとうピーチ!
そういう疑問とか不自然なとことかあったら、遠慮なく言ってくれ!
後で分かるようにするつもりだから!


なんかもうバレバレな気もしなくもないけど、引っ張りに引っ張ったミレーユの正体ばらしいくぜー↓

191心愛:2013/03/24(日) 18:12:25 HOST:proxyag089.docomo.ne.jp





……禁断の魔術。

嫌な汗が滲む。



「おかしいと思わないか?」



魔術師は、まるで役者がするように大袈裟な動作で両腕を広げ。



「ミレーユには自我があり、魔法が使える―――そう、我々魔族―――特に最も、ミュシアの王族に近い」



ミュシアの王弟、ユリアスを思い出す。
魔族の身でありながら異能を宿さず、その代わりに魔法を行使する極めて異例の存在。


……と、いうことは。


空牙が一つの、途方もない推測を弾き出すと同時、ミレーユが声を上げた。



「そんなことはどうでもいいですっ」



おそらく、恐怖が理性を上回ったのだろう。
冷静な思考を失ったミレーユは、カタカタと震えながら叫ぶ。



「答えて下さい! どうしてミレーユを欠陥品にしたのです!?」



彼女の金色の瞳には、うっすらと涙が溜まっていた。



「ミレーユは、ずっとずっと、ミレーユを造ったひとを憎んできました……! いくら強くても、主の魔力を大量に吸い取ってしまうミレーユは、空牙と出逢うまで……、凄く、つらい思いをしてきたのですよ……っ?」



「お前は欠陥品ではない」



否定するサミュエルの静かな声が、部屋中に広がり、沁み渡る。



「話を戻せば、それどころか。元々、人形でさえもない」



「な―――」



「兵器だよ、ミレーユ」



歪んだ愛情を彷彿とさせる慈しみの視線に、背筋が泡立つ。



「これを見てごらん」



少女たちの遺体が浮かぶ透明な容器を、サミュエルは笑顔で振り仰いだ。



「ミレーユ、お前はこれらと同じ」



自らの成果を誇る研究者の顔。
ミレーユはただ困惑し、空牙は黙ってサミュエルを鋭く睨みつけた。


ふふっとたまらず笑みを漏らし、サミュエルは高らかに声を張る。




「魔族の肉体に、禁断の魔術を注ぎ込んだ―――私の最高傑作さ!」




そして、ミレーユは。

ようやく、理解した。



この少女たちは―――空っぽの《容器》なのだ。


生きものを《容器》として、機械の《部品》を組み込むことで、必要な養分や水分を生体に供給させ―――《容器》が死ぬまでの時間、極めて完成度の高い機械人形(マシンドール)として、稼働させることができる。


つまり。


ミレーユも、彼女らと同じ。



かつて魔族の少女として生まれながら、サミュエルの手によって人形に改造されたもの。


肉を裂かれ、部位を切り落とされ、機械人形として機能するために必要な《部品》を埋め込まれた―――実験動物。


数ある禁忌の中で最も嫌悪される、存在さえも赦されぬ、罪深き仮想生命。




『ふふっ……最高だね。噎せ返るように濃厚で甘美な、禁忌の薫りがするよ』




『人形というよりは―――』




背筋を痺れるような恐怖と嫌悪感が走り抜け、手足が強張り、呼吸が止まる。
毒を塗った爪で、心臓―――《核》を鷲掴みにされたような感覚に、悲鳴を上げそうになる。


ミレーユはたまらず空牙のコートにすがりつき、怯えながら彼を見上げた。



「……まどろっこしいな」



対する空牙は冷静だった。
サミュエルを射るが如き炯眼で睨み、低い声で言う。



「まだ一番大事なこと、話していないんじゃないですか? 勿体ぶってないで、さっさと言ってほしいんですけど」



「ははっ、本当に君は話が早い! その頭の回転の良さ、是非ともうちにスカウトしたいくらいだよ!」



サミュエルは一通り笑い、それから恍惚とした双眸でミレーユを映した。




「おそらく君の推察通り。かつてのミレーユは、魔族の中でも異例の存在―――」




最もミュシアの王族に近い、という言葉。
複数の魔法のストックを持つこの身体。


ミュシアの永い永い歴史の跡―――その系譜を遡れば、やがて辿り着くのは―――



いやだ。


嫌だ。


これ以上、何も聞きたくない!



ミレーユが瞼をきつく閉じ、歯を食い縛り、耳を押さえるその前に。
無情にも、彼女の優秀な聴覚は、男の声をはっきりと捉えた。





「―――魔女」





ミレーユの全身を、稲妻のような衝撃が貫いた。

192心愛:2013/03/25(月) 11:06:28 HOST:proxy10017.docomo.ne.jp






「お前は魔女の中でもさらに規格外の、恐ろしく強大な力を持った実力者だったんだよ」



サミュエルは、膝が崩れて空牙に支えられているミレーユを、かつての彼女の面影を重ねるように熱い眼差しで見つめる。



「……今最強と謳われている、あの身の程知らずの小娘よりも、ずっとね」



今の最強。シルヴィアのことだ。
一瞬だけ鋭い憎しみに凍りついた双眸が、再び心酔に潤む。



「彼女は己の力に溺れ、殺戮を繰り返し、暴虐の限りを尽くした。すぐに冥界は荒れ果て、魔獣の処理どころではなくなってしまった」



空牙は自分に寄り添って力なく震えている、人形の少女を見る。
もしミレーユの人格が残忍で、闘争心がより強く、今は眠っている力を、自分の意志で全て生かすことができたなら―――。



「そしてついに、彼女の行いを見かねた王家が手を打った。三人の王直々に、彼女を捕縛する為戦線に立ったんだ」



それぞれ当時のエルゼリア王、ミュシア王、ファローズ王。
リリス、ユリアス、シルヴィアの祖先に当たる人物か。



「彼女は、それはそれは強かったからね。かなり苦戦したものの、冥界中に罠を張り巡らせ……やっとのことで彼女の身柄を拘束することに成功した」



サミュエルは可笑しげに肩を揺らし。



「彼女は勿論、即煉獄行きの運びだったのだが―――刑吏の目を盗み、牢に忍び込んだ輩がいた」



くすくす、くすくすと小さく笑って。



「そう、ファローズ王家直属の研究者として勤務していた、私たち《ネクタル》だよ」



美しく、狂喜に満ちた微笑を湛えた。




「これほどまでの逸材を、このまま殺すなんてできない。だから私たちは魔術と知恵を総動員して、連戦で弱った彼女を抑えつけ、生きた肉体を改造したんだ。
機械人形として、その力を引き継ぐ為に―――」




―――彼の口によって明かされたのは、あまりに凄惨で、残酷な過去だった。


ひっ、とミレーユが喉を鳴らし、両腕で戦慄く自分の身体―――犯罪者の肉体を抱きしめる。



ミレーユがごく当たり前のように魔法を使えるのも、膨大な量の魔力を欲するのも、自身がそれだけの力を持つ魔女だったから。
造り物の人形とは思えぬ美しさも、はっきりとした自我も。《容器》として使われたのが、かつて確かに生きていた、ひとりの魔族だったから―――。




「……ちょっと待って下さい」




衝撃を受けて黙り込んでいるミレーユに代わって、声を発したのは空牙だった。



「魔術師も魔女も所詮魔族。生もあれば死もあります」



サミュエルを真正面から見つめ、言葉を連ねる。



「魔女はとうの昔―――数千年前に滅びたはず。なら、ミレーユも、魔女がいた時代に生きていた貴方も、どうして今生きていられるんですか?」



ミレーユも、はっとしたようにサミュエルを見る。

そう……この話は、どう考えてもおかしい。

悪魔と違い、魔族には定められた寿命がある。
人間よりは長寿とはいえ、数千年もの間、この魔術師が生きていられるはずがない。



サミュエルは若々しい美貌で、「至極当然の疑問だね」と微笑んだ。




「彼女の改造手術が見つかってすぐ、勿論私たちも煉獄に幽閉されたんだけど……くくっ、少し前に這い出して来たんだよ」




―――お前に逢いたくてね。



サミュエルの微笑を絶やさない顔を、空牙は戦慄と共に凝視した。



この男は……《ネクタル》の研究者は、死者。


正真正銘の《咎人(アウフルーフ)》だ!



部外者にする作り話にしてはあまりに出来すぎている。
真実と受け取るべきだ。



……とにもかくにも、これで二つの理由ができた。
《ネクタル》は法で禁じられた魔術を扱っており、さらには煉獄を抜け出した罪人、《咎人》の集団だ。


どうにかして、彼らを捕らえてしまえば―――
……いや、その結論に至るにはまだ早い。




「それから、ミレーユの方だけど―――魔力が断絶したら仮死状態に陥るように、特殊な保護封印(プロテクト)をかけておいたからね。魔力が供給されている間は普通の少女として生きるけれど、魔力が切れた途端に刻は止まり、ミレーユは只の、完全な人形となる。良い保存方法だろう?」

193たっくん:2013/03/25(月) 11:27:46 HOST:zaq31fa52d6.zaq.ne.jp
 【貴方がフィギュアをおごってくれなければ即フリーザに乗り換えます】

貴方はフリーザと悟空どちらを愛しますか。
16号と18号どちらを欲しますか?
雑談しましょう。
フリーザの身体をなめまわせよお前ら

まあそれは置いておいて・・
単刀直入に言いますが、18号のフィギュアを私におごって下さい。
貴方のおこづかいで。

もし買っていただけない場合は、 18号のこと諦めます。
フリーザに乗り換えます。フリーザのほうを好きになります。

私がフリーザを好むか、18号を好むかは
>>1さんのサイフにかかっているのです。

それにしてもいつも18号のフィギュアだけ入手できないのだろうか・・?
何度入札しても落札できない。

超サイヤ人孫悟空およびフリーザのほうが比較的簡単に入手する事ができます。
この文をご覧になってもし、18号のほうを愛せよとおっしゃる方がいらっしゃいましたら
フィギュアを私に譲って下さい。お願いします。
寸法20cm以上希望。最低でも20cmは欲しいです。

でなければ即フリーザに乗り換えますからね
フリーザでも別にいいんですよ私は
元々、超サイヤ人覚醒時の孫悟空が好きでしたから。
フリーザのエピソードです。

194たっくん:2013/03/25(月) 11:57:49 HOST:zaq31fa52d6.zaq.ne.jp
サイフから金出たか?
早く出さないとフリーザになるぞ

やっぱりフリーザのフィギュアを買う事にします。
では

195ピーチ:2013/03/25(月) 20:51:57 HOST:EM1-114-34-228.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

サミュエル意味わからん!

まさかここにゃんキャラでこんな悪役が登場するとは夢にも思わなかった!←

ミレーユちゃんが只の人形になるわけがないっ! ミレーユちゃん大丈夫だよ!

196心愛:2013/03/25(月) 22:29:42 HOST:proxyag113.docomo.ne.jp
>>ピーチ

う、うん、魔力途絶えるとほんとに人形化するんだ…。
空牙との出逢いのときのミレーユを思い出してみてくれ!


そんなわけで、ミレーユ(の身体)は魔女でしたw
しかも悪い魔女です…←


サミュエルは冷酷非道で性格がちょっとクレイジーなんだね、うん。
ここあ頑張ってるよ…! 優しさの片鱗も見せないように頑張ってるよ…!

197ピーチ:2013/03/25(月) 22:39:02 HOST:EM1-114-34-228.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

出逢いのときのミレーユちゃんはまだ意識(?)あったぞー!←

ミレーユちゃんあんなに優しいのに!? あれで悪い魔女!?

……まぁ、空牙くんに対する言葉は除いてね!

サミュエルだけはどーやっても好きになれない…

198心愛:2013/03/26(火) 11:00:12 HOST:proxy10043.docomo.ne.jp
>>ピーチ

さすがピーチ、そうきたか!

意識が残ってたのは、そこらへんに漂ってる物質のマナ(空気中の酸素みたいなもの)を吸い込んで、自分で細々魔力を作ってたからなのね。

完全に密閉された空間なら、マナがなくて機能停止しちゃいますw
ケースに入れられるとかね←


ミレーユの人格は新しく生まれた別のものだよ!
悪い魔女なのは身体だけだよ!


うん、サミュエルは好きにならなくていいと思いますw
まず好きになれる要素ないしね!

199ピーチ:2013/03/26(火) 13:54:05 HOST:EM114-51-147-230.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

マナのおかげで意識残ってたの!?

………まさかサミュエル、本気でミレーユちゃんをケースに入れようとしてるんじゃ……

じゃあミレーユちゃん別に負い目感じる必要ないよね! ね!←

200心愛:2013/03/26(火) 16:57:35 HOST:proxyag073.docomo.ne.jp






「そして彼女―――ミレーユは、忠実な家臣の手によって代々厳重に管理されてきたはずなのに、私たちが冥界へ戻り、城に侵入したときには既に、何処かに持ち去られた後だった。おそらく、金目のもの目当てに潜り込んだ盗賊の仕業だろうけれど」



ミレーユは、この世界に現存する唯一の魔女。
となれば、彼女の力を“保存”した研究機関《ネクタル》は、おそらく躍起になってミレーユを探し回ったのだろう。


しかし彼らの尽力にもかかわらず、かくしてミレーユは何者かの手によって持ち出され、人形遣いによって使役される、機械人形となったのだ。

自我が目覚めても過去を思い出すことはなく。
複雑すぎる魔術回路を持つ不良品の、ただの戦闘特化型の機械人形と自分で思い込んで。
何人もの魔族の手に渡っては、捨てられることを繰り返し。
最後に、空牙と出逢って―――



「そうそう、それにね。魔女を滅ぼしたのも彼女……お前なんだよ、ミレーユ。彼女は自分以外の魔女を嫌っていたからね」



青ざめるミレーユに、サミュエルは笑顔で、容赦なく追い討ちをかけた。


それでミレーユは、もう何も、信じられなくなる。
空牙と過ごすうちに忘れかけていた、自分は生まれてきてはいけなかったものなのだという思いが燃え上がり、一気に膨張し、破裂しそうになる。




「さて、君……空牙君と言ったかな? 此処まで話を聞いて―――君に、ミレーユの主であり続ける気は、まだあるかい?」




はっとして、ミレーユが空牙を見上げた。
そして―――新たに生まれた恐怖に、涙の溜まった瞳が凍りつく。



「ミレーユが暴走したら、とても君の手には負えない。それに、そんなミレーユを所有していることが公になれば、君だってただじゃおかないだろう」



不敵な笑みを浮かべるサミュエルが話している間中、空牙は一人で考えていた。


―――こいつらを捕らえて訴えても、ミレーユのことを話されたら終わり。


ミレーユは違法の、禁忌の魔術によって生まれた機械人形だ。
加えてかつての王家、冥界の敵。
危険視され、十中八九押収されるだろう。


しかしサミュエルは知らないだろうが、空牙はミレーユの主であると同時、エルゼリア王リリスの眷属でもある。

だからきっと、空牙は助かる。
何も知らずにミレーユを所有していたのだと、リリスが口添えしてくれればそれであっさりと赦されるから。

だから結局は―――サミュエルを捕らえることを選べば、ミレーユが処分されることになるというだけの話。



「其処で、この提案だ」



サミュエルと空牙、二人の視線がぶつかる。




「協定を結ばないか。ミレーユは、製作者である私が責任を持って管理する。お互い、この話は聞かなかったことにする」




それは一番手っ取り早く、安全な選択肢だった。


サミュエルの言う通り、何かの間違いでミレーユの巨大な力が暴走したなら、下手をしたら所有者である空牙の死に直結する。

さらに、ミレーユに愛着を持っているサミュエルなら、彼女を始末したりは決してしない。

あらゆる意味での危険性を孕むミレーユを、彼に返却する。

ミレーユ本人にとっても、最も自然で、幸せなこと……なのかもしれない。



「人形遣いに人形を手放せというのも酷な話かな。望むだけの金は払うし、代わりにミレーユより遥かに使いやすい機械人形をプレゼントするよ。……ほら、良いことだらけじゃないか」



―――つうっ。


ミレーユの頬に、絶望に染まった瞳から転がり落ちた、ひとつの雫が伝う。


それを見て。



空牙は、決断を下した。



「……指名手配犯になっても良いのかい? 君にだって、立場というものがあるだろう?」



刃の如き鋭さを宿した紅い瞳で、サミュエルを射抜く。




「―――それがどうした?」




サミュエルが怪訝な顔になる。


ミレーユが息を呑む。



「密告したけりゃすればいい。嫌われるのは慣れてるよ」



「な……、っ」



「逃げ足はこれから鍛えるさ」



ミレーユは愕然とした。


彼女の正体を知った今でも。

ミレーユという爆弾を抱え、リリスを、冥界全体を敵にしてでも逃げ回ってやろうと―――空牙はそう言っているのだ。

201心愛:2013/03/26(火) 17:03:46 HOST:proxyag105.docomo.ne.jp
>>ピーチ

や、サミュエルの目的はミレーユを完全な人形にしようってことじゃないんでw
だいたい予想つきそうですけども←


うん、ミレーユに悪気はなくても、こればっかりは仕方ないよね…。


ミレーユを手放さないっていう空牙の決断は、リリスとの敵対に繋がっちゃうんですがはたして!

202ピーチ:2013/03/26(火) 22:17:54 HOST:EM114-51-188-154.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

空牙くん優しいよー!!

そーだよサミュエルに渡したら絶対ダメ!

リリス姫なら物分かりいいから大丈夫! …って思う反面、容赦なく追っかけてきそうな気もするよね←

203心愛:2013/03/27(水) 12:55:16 HOST:proxy10065.docomo.ne.jp
>>ピーチ

そのとーり!
リリスも切ないよねー、ミレーユに空牙取られるって分かってたもんね…。

これで、前半で思わせぶりなこと言ってたのがようやく分かっていただけたかと!

204心愛:2013/03/27(水) 12:55:35 HOST:proxy10066.docomo.ne.jp







「長々と説明どーも。お陰で腹が括れたよ」



ミレーユと同じく唖然としているサミュエルに、空牙は太々しい笑みを向けた。



「っつーか、あんな脅しに屈するとでも思ったのか? 俺も甘く見られたもんだな」



「君は―――」



「昔が極悪人だったって? こいつが今も、危険だって? そんなこと関係ないね。相棒を売る馬鹿が何処にいる?」



ミレーユの冷たい、剥き出しの肩を引き寄せ。




「俺の相棒はミレーユただ一人」




サミュエルに向けて、言い放つ。




「誰にどう言われたって―――こいつは世界最高の機械人形(マシンドール)だ」




ひっ、とミレーユが小さくしゃくりあげた。
とめどなく、溢れる涙の雫が次々と転がり落ちる。



サミュエルは空牙を見つめ、しばらく押し黙っていたが、



「……分かった」



仕方ないとでも云うように、こくりと頷く。



「今はまだ、内密にしておこう」



視線で助手に扉を開けるよう命じてから、再び空牙に向き直って。



「三日間、待つ。心変わりしたら、此処を訪れてほしい」



「誰がするかよ」



ハッとせせら笑い、空牙はミレーユの手を引いた。



「ミレーユ、行くぞ」



「……は、はいっ」



慌てて頬を拭い、ミレーユがさっさと歩き出した空牙の後に続く。


背中にサミュエルを含む研究員たちの不穏な視線を感じながら、外に出た。


しばらくの無言の後、空牙がぽつりと呟く。



「……確かにお前、あのときよりちょっとだけ伸びてるもんな。身長」



今のミレーユは、魔術回路を埋め込まれた機械人形であると同時に魔女。
魔族の少女の肉体は、時間が経つにつれ、少しずつだけれど成長していた。



「今まで、何で気づかなかったんだろうな」



「空牙……」



「姫は、ずっと前から知ってたのに」



空牙の紅い双眸が、遠くを見るように霞む。



「つらかっただろうな。俺たちの為に一人で秘密を抱え込んで、知らないふりをしてくれた」



リリスは王で、常に正しくあらなければならない。
すべてを知りながらも真実を隠し、空牙とミレーユに接する。
その葛藤は大きかったはずだ。



「ほんとに一生、あの人には敵う気がしないよ」



ミレーユをわざと傷つける言葉をかけて、空牙の反応を見て。
安心したように、微笑んでいたことを思い出す。


きっとあのとき、空牙の覚悟、ミレーユへの想いを確かめていたのだろう。
これなら、大丈夫だと。

いくらその結末が“視え”、想像がついても、自分自身できちんと確かめたかったのだろう。



「姫は真実を自分たちの力で知るように仕向け、選択肢を俺たちにくれた」



この線を越えたら、敵同士。
今までの関係ではいられない。


リリスは慈悲深くも、賢明な君主だ。
その判断には一片の曇りもない。
たとえ対立相手が、自分の眷属であろうとも。


尊敬する主君だからこそ、その優しさに甘え、特別な待遇を求めるわけにはいかない。それはリリスも望んでいない。


たとえエルゼリア―――いや、冥界中から追われて、主と敵対することになっても。



―――掴み取った自分の意志、自分だけの答えを貫いて見せろ。



それが、リリスからの言葉(メッセージ)。



「……ごめんなさい」



力なく俯いたミレーユの震える謝罪に、空牙は笑って言う。



「俺がしたいことしてんのに、お前が謝ることなんかねーよ」



乱暴にがしがしと頭を撫でられ、ミレーユが反射的に、抵抗するように手を伸ばして上を向いた。


視線が合う。




「だから。お前が負い目に感じる必要なんて、まったくない」




「……………っ」



くしゃりと、情けなく表情が歪む。


空牙が苦笑した。



「そんな顔すんなよ。お前らしくない」



「はい……」



ぼろぼろ泣きながら、ミレーユはしっかりと頷いた。

205ピーチ:2013/03/28(木) 07:07:39 HOST:EM114-51-160-221.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

優しいよ空牙くんっ!

…こんなに優しいのになんで遊ばれるんだろう←

206心愛:2013/03/29(金) 09:17:32 HOST:proxy10049.docomo.ne.jp
>>ピーチ

優しさゆえ、かなぁ。
みんな、特にミレーユは空牙の安心できる優しさを感じ取って、色々好き放題言ってるんだよw

信頼感ってやつさ!



次でキリがいいので、いったん止めようかなと←
やたら長い最終決戦は近いですよ(`・ω・´)

207心愛:2013/03/29(金) 09:18:11 HOST:proxy10049.docomo.ne.jp






「……空牙。寝ましたです?」



すう、と穏やかな寝息。

ミレーユはそっと上半身を起こし、眠る空牙の顔を覗き込んだ。

彼女の表情が、柔らかに―――少し切なげに、綻ぶ。



「……空牙は優しすぎるのです」



純白の新雪よりも透き通る髪に、伸ばした指先で触れて。



「馬鹿で、外道で、どうしようもない、役立たずのくせに……」



瞼を閉じる。

恐ろしさを感じる程に整った彼女の横顔を、零れる月の光が淡く彩る。




「馬鹿みたいに、優しくて」



名残惜しさを感じながら、指を離す。
金色に輝くふたつの瞳を和ませ、



「空牙」



ふわりと、微笑む。



「ミレーユは……もう、十分ですよ」



静まり返った闇の中、ミレーユの静かな声だけが響く。



「こんなに想ってもらえて、今、こんなに幸せで」



胸に手を当てる人形の少女のあたたかな眼差しは、何処までも美しく、水面のように澄み渡っていた。




「生まれてきて……良かった、です」




悪と罪に塗れたこの身体は、彷徨の果てに、眩しく尊い、一筋の光を見つけた。


貴方と、出逢うことができた。



この命より、ずっとずっと、大切なものがあるのだと、貴方自身が教えてくれた。



「だから」



するりと、髪を結んでいたリボンを解く。

それが宙に舞い、地面に落ちるその前に―――





「―――さよなら、です。空牙」








+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+








「ミレーユ?」



扉を開けたサミュエルは、驚いて目を見張り、ミレーユを中へと招き入れた。



「どうしたんだい、こんな時間に。空牙君は?」



「寝てますです」



今にも震え出しそうになる脚を必死に踏ん張り、ミレーユは顔を上げて、サミュエルを睨んだ。



「ミレーユは……ミレーユの意志で、此処に来ました」



「……話を聞こうか」



拳を握る。
ぎゅっと、強く。痛いくらいに。



「空牙には、もう、逢いません」



「と、言うのは?」



「空牙は多分、気づいたらあちこちミレーユを探し回って。最後には怒って、此処に来ると思うのです。そのときには……ミレーユが望んだことだと、伝えて下さい」



サミュエルが、ゆっくりと顎を引く。
負けるものかと、強い視線で見返す。



「それから空牙に、一切の迷惑を掛けないで下さい」



空牙に、自分よりも使い勝手の良い機械人形を付けること。
ミレーユの情報を、部外者に流さないこと。



「だったら、ミレーユは……虫酸が走りますが、貴方たちの言いなりになってやるですよ」



真っ直ぐ顔を上げ、凛と声を張る。




「―――ミレーユは……空牙を守る、機械人形(マシンドール)ですから」




ミレーユの決意をしっかりと聞き、サミュエルの表情が和らいだ。



「優しいんだね」



くくっ、と笑いを零す彼。



「お前も、彼も」



「………」



「でも、私はね。決してお前を苦しめたいわけではないんだよ、ミレーユ」



ミレーユの正面で、サミュエルはにこやかな笑みを作る。



「それにどうせ、煉獄から抜け出している以上、この身体は長くは保たない。無理をしてこの世界に留まっているから、実を言えば結構なダメージなんだ」



だからね、と前置きし、身を乗り出して。



「お前にはひとつの、ある研究に付き合って貰いたいんだ」



「……ひとつ」



「そう。私がお前を造った目的でもある研究。それが終わったら、すぐにでも君を解放しよう」



「―――え」



信じがたい台詞に、ミレーユは硬直する。



「それ、は……どのくらい、かかるのですか」



「一日。……と言いたいところだけれど……お前の頑張り次第だから、こればかりは分からないな。でも、五日はかからないだろう」



ミレーユの耳に、吹き込まれた低い囁きが反響した。




「―――約束するよ」

208ピーチ:2013/03/29(金) 21:10:07 HOST:EM114-51-148-105.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

優しすぎるのもアレだよね! 特に空牙くんは!

確かに、ミレーユちゃんはいい代表例かも←

空牙くん大丈夫だよね! 何があってもミレーユちゃん取り返してくれるよね!

あ、ヒナさんたちのコラボ進めてからソラの波紋とのコラボ、そろそろスレ立てていいですかね…?

209心愛:2013/03/30(土) 15:02:08 HOST:proxyag074.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、ただミレーユいないと空牙完全無力だけどね!
…と、ここで空牙の人脈が役に立つわけだようん。


もちろんだよー!
待たせてごめんね←
ただ、ミレーユのこと知ってるのと知ってないのとじゃ、それに触れなくてもキャラの見方が全然違うと思ってさw

大丈夫? キャラの説明とかしなくていい?

210ピーチ:2013/03/30(土) 20:59:34 HOST:EM114-51-184-84.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

無力じゃないよ空牙くん! 大丈夫だよ!

リリス姫辺り? もしくはシルヴィア様?

ありがとー! あたしなんかとのコラボOKしてくれてありがとう!

だいじょーぶだよ! たぶん分かるよ!

…でも分かんないときはその都度聞くかも、ごめんね←

211心愛:2013/03/31(日) 20:47:58 HOST:proxyag111.docomo.ne.jp
>>ピーチ

さて、空牙はどうなってしまうのか!


うん、シルヴィアとかそのあたりw
リリスはちょっと一筋縄ではいかないけどね、建前があるから(o^_^o)


いつでも訊いてくれたまえー!

212ピーチ:2013/03/31(日) 20:51:00 HOST:EM114-51-186-14.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

空牙くんだから大丈夫だよ絶対!

シルヴィア様優しいし可愛いもんね!←

ありがとうほんとにありがとうございますー!

213心愛:2013/04/11(木) 22:31:54 HOST:proxyag115.docomo.ne.jp






―――白亜の神殿。
ミュシア領に属するこの壮麗な建造物は、冥界の丁度中心部に位置する。


純白に金のラインが入った法衣を身に着けるユリアスは、緊張に震える拳をぎゅっと握った。

自分の力を最大限にまで拡張させ、冥界全体を覆う結界を作る。
煉獄という猛毒の海に囲まれた冥界に生きる、民全ての命を担う大役だ。


―――こんなことでどうする。もう何度もやってきたことじゃないか。


瞼を閉じ、心を鎮め、清めていく。



誰よりも純粋な願いを抱き、祈り、想え。
永い永い刻をかけてこの世界を支えてきた、ミュシアの血を継ぐ者として。



「ユリアス様」



「……はい」



時間だ。



ダークエルフの女に促され、ユリアスは前へ進み出る。

結界を徐々に弱める兄の後ろ姿へと歩み寄り、それを引き継ごうと手を伸ばして。




「―――待て」




ユリアスを止めたのは他でもない、今まで黙って結界を維持し続けていた兄だった。
眉間に、深い皺が刻まれている。



「兄、さ……?」



「何かが、おかしい」



ユリアスが問い返そうとした、その刹那。



―――ぞくり。



凄まじい悪寒が、背筋を駆け上がった。






……リッィィ、ィ……ィィッ……






ガラスが砕け散ったような、切ない泣き声のようなか細い音色。




「――――――ッ!!!」




「う、そ……っ」




掠れた声を漏らし、ユリアスは口を両手で覆う。





―――結界が、破られた?




「くそっ、やられた……!」




煉獄を封じていた結界が、突破されたのだ。



結界の統制権が譲渡される、それの効力が最も弱まる瞬間を狙った襲撃。


この僅か十数秒の間に、開いた小さな綻びから無数の獣が、この世界へと躍り出た。


彼らに好き放題暴れられては―――



冥界は、ひとたまりもない!



「兄さん!」



忙しない足音、悲鳴が反響する中。



「ユリアス」



瞬時に冷静さを取り戻した兄だけは額に汗を滲ませ、既に結界の修復を始めていた。



「今、この手を離すわけにはいかない。お前に託すのはもう少し後だ」



「で、でも、っ……そんな、無茶ですっ」



此処五日間、兄は不眠不休で魔力を消費してきたのだ。
いくら回復の早い魔族の身体でも、もう体力の限界のはず。



「馬鹿、何の為の訓練だ」



瞼を閉じながらユリアスを一蹴し、



「一刻も早く安全な場所へ避難せよと、外に伝えろ。それから、既に逃がした魔獣の対策を考えてくれ。……俺も、あと一日は保たない」



驚異的な集中力。
ほぼすべての意識を結界維持に注ぎ込みながらも自分に指示を出す兄の凛々しい姿に、ユリアスは。



「行け!」



「……分かりました。リリス姫に指示を仰ぎます!」



彼に見えていないのを承知で頷き、法衣の裾を翻す。
淡い金髪を揺らし、神殿の外へと駆けた。







*・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・*







「……おかしい。いくら何でも、早すぎますわ……」



エルゼリア王宮の私室で、リリスは一人佇んでいた。

美しい光を湛えるワインレッドの瞳が、物憂げに沈む。



「これでは、対策が……」




「―――何の騒ぎだ!?」




ふわり。


突如として、開いていた窓から銀髪の美少女が現れた。

強い意志を秘めた柘榴石(ガーネット)の双眸、甘やかで耽美なゴシック・ロリータの衣装。



「シルヴィア様」



「リリス! これは一体―――」



幼げな美貌を硬く強ばらせたシルヴィアがまくし立てる前に、彼女らの後方に新たな客人が舞い降りる。




「リリス姫、いらっしゃいますか!」




「……ユリアス様まで」



かくして、冥界を統べる三大王家の筆頭が集った。
リリスは翳りを帯びた表情で息を吐く。



「率直に言って……とても、まずいことになりましたわ」

214心愛:2013/04/11(木) 22:34:18 HOST:proxyag115.docomo.ne.jp
>>ピーチ

一週間ぶりー!

大丈夫…だと、いいよね…!
シルヴィアも何だかんだで優しいからねw



そんな感じで冥界が大変なことになってきたようわぁい←
…このタイミングってことは…ね?

215ピーチ:2013/04/12(金) 05:59:28 HOST:EM114-51-151-123.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

久しぶりー!

いーやーだぁー! 何だってこのタイミングでぇー!?

シルヴィア様は優しいのー! アレックスも大丈夫なのー!

ユリアス様だって絶対大丈夫なのー!←

216心愛:2013/04/12(金) 19:02:03 HOST:proxy10029.docomo.ne.jp
>>ピーチ

役立たずな空牙を庇って数名に頑張ってもらう予定!
でも最後は決めてくれるよね、主人公…! と淡い期待をしつつ←

217ピーチ:2013/04/13(土) 19:24:31 HOST:EM114-51-187-34.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

役立たずじゃないよ空牙くん!

淡い期待じゃなくて頑張ってくれるよね!

……え、ちょっと待ってこれまさかミレーユちゃん関わってないよね?←

218心愛:2013/04/16(火) 20:15:52 HOST:proxy10040.docomo.ne.jp
>>ピーチ

さてさてどうでしょう(o^_^o)

なんといってもこのタイミングだからね!

219心愛:2013/04/16(火) 20:16:18 HOST:proxy10039.docomo.ne.jp





数百、あるいは数千体―――過去最大規模の魔獣がこの世界に解き放たれた。

圧倒的な戦力差、迎撃態勢が十分に整わない現状を鑑みれば、



「……エルゼリア兵の第一隊は向かわせたものの……このままでは……」




―――魔族が壊滅の危機に陥ることは、明白だった。



唇を引き結ぶリリスを見て、ユリアスが力なく俯く。

対照的に、シルヴィアは幾分冷静なように見える顔を上げた。



「とにかく、最善を尽くそう」



揺るぎない実力ゆえの自信か、この場で最も年少の彼女は大粒の瞳に、不屈の輝きを灯していた。



「ぼくの異能なら、一人でもかなりの数を始末できる。アレクや他の家来にも前線で戦わせて―――」



「……いいえ、シルヴィア様」



リリスが首を振り、艶やかなストロベリーブロンドの髪をふわりと揺らした。



「実は……シルヴィア様には他に、やって戴きたいことがありますの」



「他に?」



シルヴィアが訝しげに訊き返すと同時、




「―――失礼しますッ」




純白のロングコートを羽織る少年が、突然扉を開け放った。
擦り傷をつけた顔に汗を浮かべ、苦しそうに肩で息をしている彼。



「空牙!」



「シィ、ユリアス様!?」



空牙は部屋にいた先客に驚き、鋭い双眸を大きく開いた。



「く、空牙くんっ? その怪我は!?」



「ミレーユは? 姿が見えないが」



矢継ぎ早に質問を繰り出す二人に、空牙は「すみません、少し待ってくださいっ」と頭を下げ、改めて主君に向き直る。



「姫―――」



「……そう。知ってしまったのね」



ふっと切なそうに微笑んだリリスは手を伸ばし、空牙の傷口から滲む血を拭った。



「いくら予測ができても、わたくしの異能では未来を視ることはできない―――……ごめんなさいね、空牙。最善の選択というものが、どうしても……わたくしにも、分からなかったのです」



空牙は黙り込み、自分より幾分下の位置にあるワインレッドの瞳を見つめた。



「それも……これも。此処まで辿り着く途中、ミレーユがいなくなってしまったから身を守る術がなくて、魔獣に付けられた傷でしょう?」



互いに困惑の視線を交わすシルヴィアとユリアス。

空牙はリリスの指先をそっと外し、深く腰を折った。



「姫。こんな事態にも関わらず、馬鹿なことを言っているのは分かってます。でも、どうかミレーユを―――」



「……その話は後ですわ」



空牙が悔しげに俯く。
ユリアスが魔法で空牙の治療を始めるのを確認してから、リリスは再びその唇を開いた。



「あまりお二人を待たせる訳にはいきません。とにかく……まずは、わたくしの意見を簡潔にお話しさせて下さいませ」



「……君の、とは……何か分かったのか?」



「ええ。この件には、確かな計画性が感じられる。魔獣でなく、《咎人》が中心と考えるべきでしょう」



ユリアスが頷く。



「確かに、結界が弱まった瞬間を狙うなんて今までの魔獣とは明らかに違いますよね。僕たちが交代で結界を維持することも、把握していたということですし」



「そうです」



煉獄という名の檻にひしめく彼らは、自分たちの計画を実行に移す絶好の機会を窺っていた。
とすれば、知能の点で劣る魔獣による仕業とは考えにくい。



「それでわたくし、《散華魔鏡》で、反逆の首謀者の特徴を探ってみましたの」



あっさりと言ってのけるリリスに、驚愕の視線が集中する。

たとえ優秀な彼女とはいえ、冥界全体にその能力を広げ、意識を飛ばして膨大な情報の中から一定の人物像を特定するなど、決して簡単なことではないはずだ。

リリスは淡く微笑んでみせてから、



「……その《咎人》は、わたくしたちと同じ魔族。少し前からこの世界に潜り込んで、結界にまつわる情報を入手していたようですわね」



「その者の素性は?」



そこで、リリスは空牙をちらと見上げるようにしてから。




「……禁術に溺れた、曰く付きの魔術師、ですわ」




空牙の表情が強張る。

そして新たに宿ったのは、厳冬のように厳しく、剣呑な眼差し。




「その名を―――サミュエル=ノヴァ」

220ピーチ:2013/04/17(水) 05:14:34 HOST:EM114-51-166-96.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ミレーユちゃーんっ!! もどってきてよー!

あ、とうとうサミュエルの存在気付いちゃった←

空牙くん大丈夫? 傷っていってもそんなにひどくはないよねきっと!

221心愛:2013/04/18(木) 21:32:42 HOST:proxy10047.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、魔族はそこそこ回復力あるから、よっぽどの致命傷でない限りはすぐに治るよ! 大丈夫!


そんなこんなで黒幕だったサミュエルがしゃしゃり出てきたけど、ミレーユはどうなるのかな…?

すぐに戻ってはこなそうだね←

222ピーチ:2013/04/20(土) 21:59:59 HOST:EM49-252-202-34.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

良かったそーだよね!

そんなこんなで出て来なくていいですサミュエル…←

すぐ戻ってきてよー! 空牙くんが怪我するよー!

223心愛:2013/04/21(日) 20:39:28 HOST:proxy10004.docomo.ne.jp
>>ピーチ

捕らわれたお姫様を助け出せ! 的な意味で紫の歌要素がでてきたねw

みんなで協力してがんばってもらおう(*´д`*)

224心愛:2013/04/21(日) 20:39:53 HOST:proxy10003.docomo.ne.jp






「……あいつだ……ッ!」



ギリッと歯軋りし、空牙が拳をきつく握った。



「あいつ、まさかミレーユを使って……ッ!?」



「……空牙」



リリスがいたわるような視線で、彼を促す。



「お待たせしてしまいましたわね。わたくしたちに、全てを正直に聞かせて戴けるかしら?」



迷っている暇はなかった。


空牙はサミュエルに会い、彼からミレーユの過去、素性を教えられたこと、そして今朝からそのミレーユが行方不明になっていること、おそらくは《ネクタル》に捕らえられているだろうということを、血を吐くように苦々しい声で三人に話した。



「ミレーユさんが……」



少なからずショックを受けたようで、動揺を隠すこともせずに複雑な反応を返す二人。



「かつて冥界を混沌に陥れた魔女についての文献を読んだことがあるが……まさかそれが……」



「……とにかく空牙の話をもとに、これからの対策を考えましょう」



リリスが腕を組み、瞳を細める。




「ミレーユが、何らかの形で奴らに利用されていることは確かですわ」




彼女の明らかに確信しているような口振りからして、おそらくすでに、その事実は《散華魔鏡》で視ていることが窺えた。



「敵の目的はおそらく冥界の破壊、煉獄との同化。何かしらの方法でミレーユの強大な力を引き出して、戦況をさらに有利に導く……。勝手知ったる製作者なら、難しいことではないのかもしれません」



「……っ」



自分が不甲斐なかった所為で。


ミレーユによって、冥界が滅亡する……?



絶望感に襲われる空牙。
彼を見て、ユリアスがそっと口を開いた。




「ミレーユさんを助けに行かなきゃ」




「―――え」



思いがけない台詞に、唖然とする。

そしてユリアスに続いて、シルヴィアまでもが当然のように。



「ミレーユを奪い返すのが、解決への近道なんだろう?」



「それは、……」



「それに、首謀者がそんなに執着しているのなら、ミレーユの傍にいると考えるのが妥当だ。つまりそいつを叩けばこの茶番も終わる」



シルヴィアの言葉にユリアスがこくりと頷き、



「危険な目に遭ってるのかもしれないのに、友達を放ってはおけないよ。……あっ、ミレーユさんにとっては分からないけど、少なくとも僕はそう思ってるっていうか……っ」



わたわたと慌てる彼に、目頭が熱くなる。


意を決して、胸にあたたかく広がる感謝の念を二人に伝えようとしたとき。




「―――……わたくしは、悪と罪を見過ごすことはできない」




厳しく冷たい、リリスの声。
はっとして、空牙は己の主を仰ぎ見た。


リリスは道理を重んじる、明哲な君主。


無事にミレーユを救出することができたと仮定しても、その後の処遇は分からない。


最悪の場合、彼女の敵に回ることは―――すでに、覚悟しているけれど。


黙って空牙を見つめたのち、リリスは表情を緩め、おかしそうに笑った。



「……ふふ。冗談でしてよ」



空牙の心を読み取ったのか、そうでないのか。

そんな顔をしないで、と優しく微笑む。



「姫……?」



「確かに、わたくしは王として、公正な判断しかできない。それがわたくしの誇り」



唇の端を、僅かにつり上げて。




「つまり―――証拠がなくなってしまえば、わたくしのすることは正、ということですわ」




「ええ、と?」



混乱し始めた空牙に、リリスは詠うように言う。



「今の状況、ミレーユの秘密を知っているのは、この四人。それぞれ、口の固さはわたくしが保障します」



ユリアス、シルヴィアが顎を引き、肯定の意を示す。

満足げにリリスが微笑。



「かつてのミレーユについての書類を跡形もなく焼き尽くして、《咎人》の一味を反抗する気をなくすまで徹底的に痛めつけて。彼らを煉獄送りにしてしまえば、ミレーユは今までと同じ、ただの機械人形でいられるというわけですわ」



「はっ。何とも君らしい、物騒な意見だな」



「あら、それをシルヴィア様が仰るの?」



鼻で笑うシルヴィアに、リリスは眩しい笑顔を向けた。

225ピーチ:2013/04/22(月) 03:27:40 HOST:EM114-51-23-74.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

そういう意味か!←

リリス姫が物騒に見えるー! シルヴィア様よりもずっと物騒に見えるー!?

226心愛:2013/04/22(月) 23:01:19 HOST:proxyag069.docomo.ne.jp
>>ピーチ

結局理由つけて庇っちゃうあたり、リリスも大概空牙に甘いよね…←

言うこと物騒なのも、わざと茶化したからってのもあるw

227ピーチ:2013/04/23(火) 04:36:13 HOST:EM114-51-23-101.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

やっぱり眷属には優しいよねリリス姫!

ミレーユちゃーん早く帰ってきてー!←

茶化すために物騒なこと言うんだ!?

228たっくん:2013/04/25(木) 14:21:42 HOST:zaq31fa48ea.zaq.ne.jp
アホのピーチさん
クソスレ立て過ぎです。

今度またアホソング歌いますね。

229心愛:2013/04/29(月) 21:55:23 HOST:proxy10067.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うーん、っていうかやっぱり空牙だからってゆーのもきっとあるよねw
恋愛感情持ってる相手を見捨てられないんだよ!

で、そんな自分に自己嫌悪してぐるぐるしちゃう系?←
リリスはやっぱり普通の女の子ですw



久々だからかいつもよりさらに低クオリティな気が↓

230心愛:2013/04/29(月) 21:55:59 HOST:proxy10068.docomo.ne.jp






「空牙」



絶句する彼へと、リリスが一歩近づいた。



「ミレーユが暴走したなら、その身で喰い止めればよいのです。彼女が間違ったことをしたなら、今からでも、その手で正せばよいのです」



間違ったこと―――とは、ミレーユの身体の持ち主がかつて犯した過ちのことか、それとも。



「できないとは言わせませんよ」



柔らかに、にこりと微笑む。



「貴方とミレーユの絆は、そんなにも脆いものなのかしら?」



強く優しく背中を押す主君に、空牙は頭を垂れた。



「姫……有難う、御座います」



見放されると思っていたのに、空牙とミレーユを救ってくれると言うリリス。
どんなに感謝してもしきれない。



「本当に、貴女に逢えて良かった」



ほんの一瞬だけ、切なげな光がリリスの瞳をよぎって、しかしすぐに消えた。



「覚悟は決まりましたわね?」



「はい」



空牙から視線を放し、ぐるりと見渡す。



「ミレーユの事情を部外者に知られないよう、内密に動く必要があります。護衛をつける訳にはいかないということは、分かって下さいましね」



長い話に苛立っている様子のシルヴィアに微笑みを返してから、リリスは再度口を開いた。




「そこで、本題。単刀直入に言いますと―――わたくしは指揮を離れることができない。ですから空牙、貴方を直接助けることは不可能」




こくりと頷く空牙に対し、ユリアスが「そんなっ」と青ざめた。



「ミレーユさんがいないのに、リリス姫まで……そんな、無茶ですっ」



「ふふ。ユリアス様はやはりお優しい」



大丈夫ですわよ、とリリスはユリアスに向けた輝くような笑顔の対象を、シルヴィアへと移して。




「―――シルヴィア様。わたくしの代わりに、空牙に付いて行って差し上げて」




「……え」



予想外の台詞に、空牙とユリアスが揃って目を丸くする。



「……ぼくが?」



それはシルヴィアも同様で、訝しげに頭一つ分背の高いリリスを見上げた。



「それは……構わないが。しかしぼくの異能は魔獣相手に有効なのだから、そちらの討伐に生かした方がいいのではないか?」



「敵が魔獣を引き連れている可能性は捨て切れませんし、並大抵の戦力では勝ち目はありません。最強の名を冠するシルヴィア様であるからこそ、こうしてお願いできるのですわ」



優雅に一礼するリリスの動きに合わせ、艶やかなストロベリーブロンドがさらりと揺れる。

ふう、とシルヴィアが嘆息した。



「リリスに其処まで言われては、仕方ないな。……分かった。空牙、君に協力しよう」



「シィ……本当に良いのか?」



「ああ。ファローズ軍の統率は、アレクに任せることにする」



そう言うシルヴィアは酷く頼もしく、空牙は安堵に顔を緩ませた。

「決まりですわね」とリリスが話を纏めに入り、




「―――ぼ、僕も行くよっ」




「ユリアス?」



それを遮って、焦ったように宣言したのはユリアスだった。
きゅっと両の拳を握る。



「……ユリアス様」



すぐに立ち直ったリリスが、彼を視界に映した。



「貴方は《黎明の歌(トレーネ)》を使う、ミュシアの王族。たとえ他の誰を犠牲にしても、結界を支える為に生き延びなくてはならない存在なのですよ」



「た、確かに、そう、ですけど」



所々つっかえながらも、必死に訴えるユリアス。



「でも、皆が頑張っているのに僕だけが安全なところで、何もしないでいるなんて……耐えられない、ですから。―――戦えない僕がいたって、まるで役に立たないし足を引っ張るだけだろうけどっ」



空牙を見ながら、遠慮がちに―――しかしはっきりと、その意志を表した。




「こんな僕でも、守ることなら、できる……から」




決心は固いようだ。
仕方ない、とでも言うようにリリスが微苦笑、黙って肩を竦めて了承のサイン。



「……ユリアス様」



「ユリアスでいいよ」



淡い色の双眸が和やかに綻ぶ。



「僕たちは、ミレーユさんを助ける仲間なんだから。こんな状況で、身分なんて気にしていられないでしょう?」

231ピーチ:2013/05/01(水) 04:20:20 HOST:em1-115-125-169.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

あ、空牙くんじゃなかったら分かんなかったんだ!

リリス姫かわいーw

全然低クオリティじゃない! 続きすごく気になる!

というわけでこーしん待ってるねー←

233心愛:2013/05/02(木) 23:14:43 HOST:proxyag053.docomo.ne.jp
>>ピーチ

分かりにくいけど可愛いとこもあるリリスw
恋敵のはずのミレーユをやっぱり助けちゃうとこもリリスならではだよ……。


次は、空牙たちを送り出してお城に残ったリリスサイドでお届けする予定! あくまで予定!
ゆっくりいきます…w

234ピーチ:2013/05/03(金) 16:08:29 HOST:EM114-51-9-68.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

分かりにくい優しさ可愛さ、何かオスヴァルト様みたいw

リリス姫サイドか! じゃあいつもみたく楽しみにしてます!←

235黒ネコ:2013/05/05(日) 09:02:23 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
 どうも、黒ネコです^^
 っあ、荒しとかではないのでご安心下さい←

 えぇ、私……この掲示板を使用したくてコメントをいろんな処に書き込んでいます←
 心愛さんの作品は、他にも拝見する予定です。
 そして、本日読ませて頂いたこの小説は
 時に面白くっ! 時にシリアスなっ! とっても、充実感あふれる面白みたっぷりの作品だと思います^^
 これからも、更新頑張って下さい^^

236心愛:2013/05/07(火) 22:15:08 HOST:proxy10053.docomo.ne.jp






「―――プリンセス・リリス」



ノックの音と自分の背後から発せられた声に、リリスは驚くこともなく振り返った。



「お待ちしておりましたわ、羽音様。久しいですわね」



青みの強い灰色の髪と瞳を持つその少女の名は、羽音=リン=エルミール。
冥府の辺を統べる由緒正しき家柄の令嬢―――否、姫君と称した方が的確か。

何しろエルミールと云えば、今やファローズ、エルゼリア、ミュシアの三大王家と並んで数えられる血統の名家。
領民からの絶大な支持を得る彼女らの協力は有難い、とリリスは素直に頬を緩めた。

ゆっくりと再会の挨拶をしたいところだが、この状況でそれを許す余裕はない。言葉少なに、最低限必要な会話を交わす。



「何か、私たちにできることは」



「……有難う御座います。そうですわね―――」



背筋を伸ばして立つ彼女の真摯な思いが滲む眼差しに応えるように、リリスも真剣な口振りで現在の戦況、それに対する対策などの情報を伝えていった。



「では、全面的に『そちら』は任せましたわ。頼みにしています」



「はい」



お気をつけて、と互いに慌ただしい挨拶を交わして羽音と別れる。


自身を落ち着かせたいときにいつも一人で籠もる、広々とした部屋。
膨大な情報を整理し、新たな突破口を見出す戦略を組み立てる作業に戻ろうとしたが―――リリスは複雑な思考を放棄して、ふっと宙を見上げた。


エルミール家を始めとした数々の有力者の協力を取り付けた今、一番の問題は。



……クウガ、と唇に淡く音を乗せる。
その切ない響きに、リリスは歯を噛み締めた。


彼には『あの』シルヴィア、そしてユリアスが付いている。
しかし敵の力が計り知れない以上、決してこちらにとって楽な戦いにはならないだろう。
それを承知で、既に手は打ってある、が―――




「―――……報われませんね」




突然すぐ隣に出現した姿に、動揺を顔に出す寸前で耐える。
……全く気配を感じなかった。この、リリスが。


やはり、悪魔(この男)は苦手だ―――と、リリスはシルヴィアの番犬をきつく睨みつける。



「……わたくしの許可もなく上がり込むなんて、全く無礼な男ですわね。ふらふらとほっつき歩いていても大丈夫なのかしら?」



「その心配は要りませんよ。シィからの頼み事は済ませましたし、彼女の身に危険が迫ったらすぐに分かります」



漆黒の悪魔、アレックス=リーヴィがわざとらしく優雅に微笑む。
その飄々とした態度が気に食わなくて、リリスは黙って眼光を強めた。


《散華魔鏡(フォル・モーント)》で“視”ようにも、永い年月を生きてきた彼は読み取るべき情報量が多すぎ、リリスの限界を優に超えてしまう。

リリスの異能が通じない切れ者。彼女との相性は最悪と言っても過言ではない。



「少し、気になることがあったもので」



「……手短に頼みますわ」



「そのつもりですよ」



薄い笑み。
アレックスの血塗られた紅い双眸が、僅かに細められ。




「最初から“こうなった場合”にシィの協力を取り付けるつもりで、わざわざ事前に空牙と俺たちを引き合わせて”―――つまり、“こんな展開”になることを、知恵者の貴女はとっくの昔に予期していた」




リリスが息を詰める。
酷く愉しげに、アレックスが首を傾げた。




「なのに、どうしてでしょうね? 今回のやり方は、どう考えてもスマートじゃない。予め知っていたのだから、他に策はいくらでもあるはずなのに―――頭の切れる貴女らしくもない」




揶揄うような口調で、アレックスが微笑。




「貴女が彼に、ミレーユを廃棄せよと命じて、それを断行していたなら、冥界は魔獣の侵攻に遭うこともなかった」




「……黙りなさい」




「しかも邪魔者がいなくなれば、貴女は晴れて愛しの空牙と―――」




「黙りなさいと言っているのです」




王者の誇りを傷つけられた怒りに、ワインレッドの瞳が燃える。
悪魔の囁きに屈するなど、彼女の矜持が赦さない。




「相変わらず、余計なことばかりぺらぺらと喋るお口ですわね。わたくしの決定に刃向かうつもり?」

237心愛:2013/05/07(火) 22:22:38 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp
>>ピーチ

最初だけ羽音ちゃんに御登場戴きました(*´д`*)
ちょっとだけ、だけどね!


微妙にオスヴァルトちっくなリリスさんの天敵登場ですw
アレクは思考を読もうとするとリリスの方がパンクしちゃう的なイメージ?←

なんでもお見通しアレクー!




>>黒ネコさん

初めましてー!
こんなド下手な素人小説に目を通して戴きまして有難う御座います…!
ちょっとずつ精進致します(o^_^o)

238ピーチ:2013/05/09(木) 04:47:22 HOST:EM114-51-29-243.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ありがとうございますわざわざ羽音を出してくれてありがとうございます!

あ、まさかのリリス姫の天敵さん←

…まぁ、アレックスの方がずっと永く生きてるからね! しょうがない!

何でもお見通しw

239たっくん:2013/05/14(火) 01:02:41 HOST:zaq31fa543a.zaq.ne.jp
私が書き込んだ後、回答下さい。

つかぬ事をお聞きしますが、どなたかピーチさんのウンコ
所有されていないでしょうか?在庫等御座いましたらお取引しましょう。
迅速に対応しますので宜しく。

前置きが長くなったけど
アホのピーチの小説なかなかおもろいわ

と言っても文筆業界には程遠いか(笑)

240心愛:2013/05/15(水) 16:27:23 HOST:proxy10058.docomo.ne.jp






「まさか。姫君のことは敬服していますよ」



薄っぺらい笑み。
自分を見透かされていることに、言葉にしようもない羞恥と悔しさを覚える。


報われない、とアレックスは言った。

空牙を想い、自分の信念をねじ曲げてまで、彼の望みを叶えても。
リリス本人に見返りは、ない。



「―――『彼女』に、情でも移りましたか?」



揶揄うように声を転がすアレックスを、リリスは再び睨みつける。




「ミレーユもわたくしの民。彼女を犠牲にしてこの世界を救う、という下劣極まりない考え方をわたくしは軽蔑します」




模範的すぎる答え。綺麗事。本心とは違う言葉。
それがどうした、とリリスは屹然とアレックスを見据えた。

空牙だけでなく、ミレーユ本人のことを思う気持ちだって、それがどれほどのものだとしても、決して嘘ではないから。


口が悪くて可愛げの欠片もないけれど、どうにも憎めない―――魔術師の手によって機械人形(マシンドール)にされた少女。

どんな危険を冒してでも、優しい空牙は精一杯に、リリスにとっても大切な、彼女を救い出そうと足掻いてくれるだろう。

なら、自分の為すべきことは一つだけ。



「これ以上何か言うのであれば、ミレーユとわたくしへの侮辱と受け取りますわよ」



「これは手厳しい」



完全に面白がっている表情で、アレックスが腕を組む。


何てことはない、リリスの所にやってきたのも、暇つぶしにリリスの反応を見て楽しみたかったからだけなのだろう。
つくづく悪趣味な男だ。



「これで話はお仕舞い? では、わたくしはこれから会議がありますので」



「……会議、ねぇ」



唇の端を吊り上げるアレックス。



「自分たちも戦え、なんて命令、頭の固い家臣が納得するとは思えませんが」



また、読まれている。


シルヴィアがいない今、リリス自身も参戦し、冥界全体を挙げての総力戦に持ち込むつもりだった。
その為には兵士以外の魔族、手始めに直属の臣下の協力が必須。
だが、確かにエルミール家の令嬢のように親切な者ばかりというわけではない。
相手のほとんどは自尊心の高い貴族だ、渋る輩の方が多いだろう。



「臣下の気持ちを理解するのは良いことです。でも、自分が臣下になってはいけない」



既に扉へと爪先を向けていたリリスはくるりと振り返り、口元に淡い笑みを浮かべた。



「足元ばかり見て『利益にならない』と言うことなら彼らにもできる―――けれど」



「……」



「王の立つ場所は誰のものよりも高い。だから誰よりも遠くまで見渡せる」



そう。リリスのすべきこととは。




「一度決断したらそれが正しいのだという顔をし続ける。そして、実際に正しいものにしてみせる。それが、王の役目ですわ」




この世界を守る為に必要なら、どれだけ反対されようが卑怯と罵られようが、どんな手でも使って自分の判断を現実のものにしてみせる。正しいと証明する。
それが、全てを背負う者としてのプライド。



「この冥界では、わたくしが絶対」



リリスは一度、空牙の飾らない心と言葉に救われた。

恋心なんて関係ない。
今度は、リリスが彼を信じ、助ける番だ。



「忠誠には富を、裏切りには罰を―――。良く覚えておくことですわね」



仕返しとばかりにリリスは微笑み、追い抜きざまに小さな一言を残した。
ほんの僅か、アレックスの柳眉がぴくりと動く。



―――貴方こそ。
シルヴィア様を泣かせたら、容赦しませんわよ?



「……食えない女だ」



扉が閉まる重苦しい音が、部屋に響く。

くくっと喉を鳴らし、悪魔は愉しげに笑った。

241心愛:2013/05/15(水) 16:31:40 HOST:proxy10058.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ちょっとでごめんね羽音ちゃんー!


空牙とミレーユだけじゃなく、最終的にはアレクとシィの関係が変わるとこまでなんとか書きたいのよね←

とりあえずこれからラストバトルだ! がんばってくれ戦闘員!

242ピーチ:2013/05/16(木) 05:33:44 HOST:EM114-51-35-209.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ちょっとでも出せてもらえたからいいんだよー!

お、何か今回主従関係の変化が多いぞ?

家臣を納得させるのがリリス姫なんですアレックスさん←

243心愛:2013/05/24(金) 15:10:51 HOST:proxyag044.docomo.ne.jp
>>ピーチ

家臣を口八丁で丸めこんだり、リリスはわりとしたたかでいいと思ってる←
そんなリリスを、シィとはまた違った意味で面白がってるアレクはちょっかいかけるというねw


次から急に空牙たちサイドだよあの人が出てくるよ!

244心愛:2013/05/24(金) 15:11:26 HOST:proxyag044.docomo.ne.jp






空一面に、視界を埋め尽くす無数の影。
目を凝らせば、その魔獣一体一体が放つ爛々と輝く眼光が確認できる。



「んー……リリスによると、あそこみたいだね。敵が立てこもるには分かりやすい場所だけど」



彼らに見つからないよう低空飛行する三人の先頭、シルヴィアがすっと指を差した。
その遥か先の前方には、悠々と聳える砦。



「要塞、みたいだね。この辺にあんな建物があるなんて、聞いたことないけど……」



「敵の異能のひとつかも。物質創造能力、ってとこ?」



ユリアスの素朴な疑問にシルヴィアが答え、



「とにかく、迷ってる暇はないね」



銀色の十字架を片手でくるくると回し、弄ぶ。



「ミレーユを助け出すっていうのももちろんだけど。いくらあいつらをリリスが食い止めても、親玉を叩かないことには冥界の煉獄化は防げない」



高く愛らしい声を紡ぐシルヴィアの隣で、ユリアスが此処まで乗ってきた有翼馬(ペガサス)―――ミュシアの聖獣で、彼と仲が良いそうだ―――の頭を撫でて微笑む。



「そう、ですね。……お願い、もう少し力を貸して」



同じくその背に跨る空牙が、シィ、と呼びかけた。
緊張で固く強ばらせていた頬を緩め、こちらを向いた彼女に笑ってみせる。



「頼りにしてるぜ」



「……とーぜん!」



にこりと微笑んだその瞬間。
シルヴィアの幼げな美貌から、無邪気な笑顔がスッと消える。




「―――さぁ」




十字架を再度くるりと回し、静かな決意を秘める紅い瞳を妖艶に細めた。
見る者に畏怖すら抱かせる、完全な美を体現する姫君の唇が開かれる。




「始めようか」




たっ、という軽やかな音からは想像もできない速度で、シルヴィアは弾丸の如く突進。
紫電のように空を裂き、瞬く間に門前でたむろする魔獣たちへと突撃する。




「殲滅せよ―――《赫き煉獄の宴(ローゼン・クランツ)》」




深紅の妖気が全身から噴き上がる。

雪の結晶よりも小さい光の粒。
花吹雪が覆うように、淡い輝きが渦巻いて風を起こし、裾のフリルを揺らした。



「邪魔を、するなッ!」



敵を認知した魔獣が雄叫びを上げ襲いかかるその一瞬前。シルヴィアが威勢良く吼えると同時に、彼女の妖気が一際大きく膨れ上がる。




【ッッッギャアアアァアァァァアアア!!】




シルヴィアが操る、万物を灰燼に帰す猛毒の薔薇。


降り注ぐ花弁の弾雨が群れを一度に吹き飛ばし、消滅させ、眩い閃光を生み出した。
視界が暴力的な程鮮烈な紅に染まる。



「……超破壊力と、繊細なコントロールの両立」



ぽつりと呟く、ユリアスの横顔。
厳しく研ぎ澄まされたその表情は、年下の少女であるシルヴィアへの憧憬、そして、“守る”者としての精神的な強さを感じさせる。



「それこそが、高貴な血統の証明」



シルヴィアの猛攻。
剣呑な稲妻を思わせる大量の花びらを放ちながら、飛び越え、蹴って、殴って打ち倒す。
血飛沫をかいくぐり、十字架で攻撃を弾き、薙ぎ払う。


最強の名に相応しい、一方的で圧倒的な戦いぶり。


しかし、その凶悪な力を以てしても―――



「数が、多い……っ」



シルヴィアの後についている二人は確実にじわじわと前進してはいるものの、シルヴィアが消しても消してもなお奥から新たな魔獣の群が出現する。



「くそ、キリがねーな……!」



「! ――……っ避けて!」



背後からの襲撃に、空牙が息を呑む。
極めて高い知能を持つ有翼馬(ペガサス)は、主の悲鳴じみた突然の命令にも忠実に従おうとすぐに身体を捻ったが、



「しまっ―――」



間に合わない。


完全に不意を打たれ、短くも詠唱を必要とするユリアスの結界魔法も無意味。
攻撃の術を持たない二人へと、大きく振り下ろされた鉤爪が迫る。


シルヴィアの冷たく整った顔に初めて焦燥が浮かんだ、


―――そのとき、だった。





「燃やし尽くせ―――《緋焔の神解け(レーツェル)》」

245ピーチ:2013/05/24(金) 22:36:45 HOST:EM1-114-1-127.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかのシルヴィア様に多いって言わしめるか魔獣さんたち!

…え、ちょっと待って最後のこの呪文ってまさか……

何か予想つく気もするけどだとしたら何で!?←

246心愛:2013/05/26(日) 10:01:28 HOST:proxyag119.docomo.ne.jp
>>ピーチ

せっかくだし、シルヴィアにも苦戦してもらおうかとw
魔法バトルは味方が必死じゃないとつまんないしね←



…リリスに抜け目はない!

247心愛:2013/05/26(日) 10:02:12 HOST:proxyag119.docomo.ne.jp






ごうっ!


突如として現れた緋色に燃える茨の鞭が、鉤爪を魔獣ごと吹き飛ばした。
熾烈なる狂炎が燃え盛り、シルヴィアを阻んでいた群れを一気に焼き尽くす。



「なっ」



「間一髪、でしたね」



声の主は天女の如く、風に乗ってゆっくりと舞い降りてきた。

炎そのもののように猛る緋色の妖気に、透明感のある純白の髪が激しく靡く。




「―――……兄様」




滑らかな肌に、朱鷺色の唇。小動物のように愛くるしい胡桃型の瞳を縁取る真珠色の睫。
幼さが抜け、僅かながら大人びた相貌が懐かしげにふわりと和む。
レースの半衿をつけた撫子紋様の矢絣に、牡丹と菊の花丸紋。頭頂部で結んだ幅広のリボン。
爆ぜる火の粉を纏う、清楚可憐を絵に描いたような立ち姿。

こちらに向けて微笑む彼女は間違いなく、数年ぶりに目にする―――




「お前っ……綺紗(キラサ)!? どうして―――」




「はい。お久しぶりです、兄様」




空牙の窮地を救った和装の少女が唖然としているシルヴィアとユリアスの方を見て、深く腰を折る。



「非礼をお赦し下さいませ。私はキサラギ家現当主、綺紗(キラサ)=凜(リン)=キサラギと申します」



「……君が、キサラギの……。危ないところを助かったよ、有難う」



「ぼくからも礼を言わせてくれ。シルヴィア=ファローズ、そしてそちらがユリアス=イ=ミュシアだ」



「存じ上げております。お目にかかることができて光栄です」



キサラギは伝統ある古株の一つ、冥界全体でも屈指の名家。
またとない才を授かり“神童”と謳われる正当な後継者の話は、一国の君主のような立場にあるユリアスとシルヴィアにも行き届いていたようだ。



「ちょっ、待てよ! な、なんでお前が此処に!?」



当然のように挨拶を進める三人に、空牙が耐えきれず割って入る。



「そんなこと、決まっているじゃないか」



「兄様。腐ってもエルゼリア臣民たるもの、鈍いのは異性関係に関してのみで十分ですよ?」



シルヴィアに当然のように言われ、ユリアスに困ったように苦笑され、再会を果たしたばかりの妹にまでさらりと遠まわしに馬鹿にされたような気もするが、空牙はまだこの状況を理解していなかった。


「……本当に分からないのですか?」と愛らしい仕草で唇を尖らせ、綺紗が仕方なくといった様子で答えを言う。




「リリス姫の命令で、綺紗……私が、兄様たちの支援をすることになったのです」




「姫、が……そんなことを?」



「はい。間に合って良かったです」



無論、綺紗もリリスの眷属のうちの一人。
兄妹といっても、空牙は自分の意志で家を出た身。しかもミレーユを連れて旅をしていたから、今まで直接会うことも主から話を聞くこともなかったけれど―――彼女も空牙と同じくリリスに忠誠を誓い、同じ主に仕えているのだ。



「つまり、リリスが遣わした援軍というわけだな。一人ながら、下手な兵の数倍の戦力になる」



キサラギの血が持つ異能《緋焔の神解け》は、エルゼリアよりファローズの特徴に近い攻撃型。
つまり、綺紗を投入することでシルヴィア一人の負担を減らし、勝率を上げることができる。

そして何より、リリスが彼女を選んだだろう最大の理由は。




「……ミレーユさんの秘密は、守ります」




ミレーユと面識があり、空牙を慕う実妹である綺紗は、ミレーユの生い立ちを聞いても二人を裏切ることはない。
それどころか理解を示して力を貸してくれる、これ以上ない程心強い味方だ。



「黙って兄様を見送ることしかできなかった綺紗に代わって、ミレーユさんは今日まで、兄様の助けとなってくれました」



「……綺紗」



「ミレーユさんがただの機械人形(マシンドール)であろうとなかろうと、何処の誰であろうと、関係ありません。受けた恩は返さなくては」



穏やかに微笑する綺紗。
空牙が声を震わせた。



「……本当に……お前はこんなダメ兄貴には勿体ない、良くできた妹だよ」

248ピーチ:2013/05/26(日) 13:00:15 HOST:EM114-51-191-143.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

やっぱ綺紗ちゃんだった!

へー! 綺紗ちゃんもリリス姫の眷属なんだー!

……だとしたら綺紗ちゃん大変だよね←

249心愛:2013/06/03(月) 19:03:17 HOST:proxyag061.docomo.ne.jp






「……惜しいところだが、感動の再会はこれくらいに留めておこうか」



シルヴィアが肩を竦める。



「敵は待ってはくれないようだからな」



―――囲まれている。


ユリアスが空牙と自分を守るように結界を展開し、シルヴィアと綺紗が油断なく身構える。




「これ以上、悠長に話している訳にはいきませんね。……参りましょう」




数体の魔獣と共に、行く手に立ちふさがるのは研究者風の男三人。
そのうちの一人が前へと進み出る。



「申し訳ありませんが、此処は通しませんよ」



精緻で冷たい美貌に刃物のように酷薄な微笑を浮かべ、シルヴィアが彼らをまっすぐに見た。



「―――では、力ずくでどいてもらおう」



「っ!?」



威嚇代わりの、ごく単純な魔力の放出。
シルヴィアの身から溢れ出す深紅の妖気が三人の足元へ槍の如く突き刺さった。
さらにそれは龍のようにうねった軌道を描きながら瞬時に駆け抜け、内部を蹂躙―――する前に細かな粒子となって霧散。

直撃を受けた硬質の床は焼け、焦げ、深く抉られていた。


―――格が違う。


三人が一様に青ざめるが、すぐに表情を引き締める。せめてもの抵抗とばかりにそれぞれ妖気を放出し、戦意を示した。



「シルヴィア様、そちらは任せます!」



突然上がった火柱に呑み込まれ、取り囲んでいた魔獣が断末魔の悲鳴を上げた。

阻もうとする男たちが異能を使う前に十字架を振るって蹴散らし、なお追いすがろうとする者を容赦なく攻撃して地に沈め、シルヴィアが突き進む。

ひとつひとつの威力が凄まじい花弁や火の粉が飛び交い、作り出した結界に衝突するたびに、ユリアスが苦しそうな声を漏らした。



「ユリアス―――」



「だ、大丈夫だよっ。気にしないで」



額に汗を滲ませ、慌てて笑顔を取り繕う彼。



「僕より、二人の方が大変なんだから」



「……限界がきたら、見捨ててくれて構わないから。……悪いな」



周囲に意識を配りながらの高度な集中力を求められるユリアスは、肉体的な面だけでなく精神的な疲労も激しいだろう。
彼は冥界を支える柱だ、空牙などを庇ってこんなところで倒れてもらう訳にはいかない。



「綺紗、お前は? 無理はしてないだろうな」



「……いつまでも子供扱いはやめて下さい、兄様。綺紗だって、自分の限界くらいわきまえています」



彼らの後ろを守る妹が不満げに訴えた後、「ですが」と付け足して。



「普通の方より消耗が激しいので、長期戦は不利です。あくまでシルヴィア様の補佐役といったところでしょうか」



“神童”と呼ばれる彼女は、生まれ持った異能の何倍もの威力を引き出すことができる能力者。
ただし、その代償として身体に掛かる負担は並大抵のものではない。


実際、綺紗の存在は大きかった。
背後を気にせずにいられる分、シルヴィアも心置きなく自分の力を奮うことができる。



「無茶はするなよ」



「……兄様らしくありませんね。ミレーユさんを助けるのでしょう?」



和服の袖を靡かせて立つその姿は、昔のものからは想像もつかない程に凛々しく、勇ましく。



「綺紗は、一度決めたら梃子でも動かないくらい頑固な兄様の妹です。……少なくとも今は、無理はしていませんが」



燃える茨が追撃を見舞い、突進してきた魔獣の一体を叩きのめす。
頬にかかる髪を払いのけながら、綺紗は冷然と言い放った。




「必要があれば、限界などいくらでも超えてみせますよ」




不敵で頼もしい微笑みを浮かべる妹を見て、空牙は本当の意味で、肩の力を抜いた。


「……そう、か。確かに、俺らしくなかったな」



空牙とミレーユが原因となった騒ぎに三人を巻き込み、にもかかわらず自分自身が何もできずにいることに、まだ申し訳ない気持ちを感じていた。


先頭に立ち、驚異的なまでの実力差を見せつけながら道を切り開いているシルヴィア。
共に空牙を有翼馬(ペガサス)に乗せ、彼に怪我をさせないよう必死になって結界を維持してくれているユリアス。
キサラギの持つ攻撃魔性を生かして他の三人をサポートし、兄の背中を押す綺紗。


たとえリリスを介する形ででも、自分の意志で、空牙とミレーユの危機に立ち上がってくれた仲間たちだ。

250心愛:2013/06/03(月) 19:32:38 HOST:proxyag061.docomo.ne.jp
>>ピーチ

キサラギの当主様だからねw

綺紗はいつかまた登場させよーって決めてたんです(`・ω・´)

251ピーチ:2013/06/04(火) 03:41:58 HOST:em114-51-5-253.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

綺紗ちゃん強ぇ!←

あのシルヴィア様が心置きなくってよっぽど強いんだよね綺紗ちゃん!

強いだけじゃなくて優しいっていうか優しすぎないですかみなさん!

252【下平】:2013/06/04(火) 04:03:24 HOST:ntfkok293007.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
【モブ共わ、零がヤッつけるからよ、ピーチちゃんわ安心しろよ。不安になるなよ、キュアピーチ。】

253心愛:2013/06/09(日) 19:14:42 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp
>>ピーチ

綺紗は強いよ!
ふんわりした大和撫子が実は強いってなんかいいよね←


それでこそここあキャラ! 基本みんなお人好し!
その数少ない例外がサミュエルさんなわけですがw

254心愛:2013/06/09(日) 19:15:12 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp





今更何を迷っている。
冥界を守る為、空牙とミレーユを助ける為に集まってくれた、彼らの厚意を無にしてどうする。



「俺にできるのは、信じること……か」



仲間を信じる。
情けない話だが、空牙にできることはそれしかない。

だから、彼らの協力に絶対の信頼を返す。
申し訳なさや後ろめたさではなく、心の底からの信頼を。




「―――早かったね」




研究員を倒し、魔獣を撃退し、彼らが出たのは見上げる程高い天井のある、大きく開けたホールだった。



「これはこれは。随分と豪華なパーティじゃないか」



石柱に悠然と腰掛けていた深紫の髪の男―――サミュエルが乱入してきた空牙たちを認めるなり、麗しく笑む。



「やあ、空牙君。久しぶり……でもないかな。君のことだから、“彼女”を探しに来たんだろう?」



「……ミレーユ!」



彼の傍らにあるものを見て、空牙が顔色を変えた。


ガラス製の円筒の中、瞼を閉じる美しい人形の乙女。
手首を高い位置で吊られ、ぐったりと意識のない様子。滑らかさを失った肢体からは数本の配線が伸びており、その上を途切れ途切れに弱い光が伝っていく。
《ネクタル》の研究所で目にした少女の肉体と同じような有様で、ミレーユの身体は容器の中に閉じ込められていた。


全身の血が沸騰する。



「ミレーユに、何をした……っ!」



死んだように眠る今のミレーユは空牙と出逢ったときと同じく、原動力たる魔力を絶縁され。しかも他者の手によって、無理矢理機能を停止させられている状態だ。


鋭利に凍てつく視線をものともせず、サミュエルが「さあ?」と肩を竦め。



「そんなに気になるのなら……私から奪い返して、自分で確かめてみたらどうかな?」



挑発的な台詞に歯噛みする。
自分の手では何もできないことが、悔しくてたまらない。



「シィ。……頼む」



シルヴィアは全てを察した表情で一度だけ頷いてみせ、次に綺紗の方を向いた。



「綺紗は此処にいてくれ。空牙とユリアスに万一何かあったら困る」



「はい。この身に代えても二人をお守りします。……どうか、お気をつけて」



唇の端に不敵な微笑を刻んだシルヴィアが彼らから視線を外し、ふわりと浮き上がる。
空中を滑り、ホールの中央、サミュエルのもとへ。

ルビーの瞳を不穏に細め、十字架を構えた。



「空牙の怒りはぼくが引き受けた」



お相手願おう、と言い放つシルヴィアを眺め、サミュエルが僅かに首を傾けた。
その眼差しは穏やかだが、何処か剣呑な色を孕んでいる。



「やはり。ファローズの小娘……か」



「……何?」



シルヴィアが眉を跳ね上げる。
サミュエルは笑った。



「しぶといものだね。折角皆と一緒に逝けるチャンスを作ってあげたのに、勿体無いことをした」



「………」



「何を思ったのか知らないけれど、悪魔などと契約して、“最強”を気取って。まさか本当にそうだと―――」



「……待て」



相手を射殺さんばかりの眼光。
小鳥の囀りを思わせる愛らしい声が、地を這うように低くなる。



「……答えろ。何故……あのことを知っている?」



ファローズの王族全員が幼い姫君一人を残し、魔獣によって惨殺された数年前の事件。
シルヴィアが体験した悲劇の内容を、この男は手に取るような口振りで話した。


『死ぬチャンスを作った』とは、何だ。
どうしてそんな話ができる。



「まさか、」



「その通り」



肯定し、サミュエルが可笑しげに喉を鳴らす。




「あの日、内側から煉獄を封じる結界の一部を破り、王城に魔獣を差し向けたのは私だ。当時のファローズ王には世話になったし……今日の為の様子見に、ね」




シルヴィアは、その事実を黙って受け止めた。
瞼を閉じ、十字架を胸に抱く。
亡くなった者たちから受け継がれ、その身に流れるファローズの血を、感じる。




「……ではぼくは、この機会(チャンス)に感謝しよう」



ふ、と唇が綻んだ。
顔を上げる。




「―――ぼくの全てを懸けて、貴様を倒す」




プラチナの輝きを放つ美しい銀髪が翼のように広がった。


―――瞳に狂気を宿す有毒の花が、今、咲き誇る。

255ピーチ:2013/06/10(月) 02:36:09 HOST:em1-114-98-115.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

基本になっちゃったよここにゃんキャラのお人好しがー!←

数少ないどころか今まで見たことありませんよサミュエルさんほどの極悪人!

256【下平】:2013/06/10(月) 07:53:41 HOST:ntfkok293007.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
【玄(boku)も話たいよ(・ω・)】

257【下平】:2013/06/10(月) 07:55:53 HOST:ntfkok293007.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
【荒らしは全滅しろ。零わトリックスターだぞ。零の真似すんなよ。】
【心愛ちゃんマジ熾天使】

258心愛:2013/06/15(土) 19:27:46 HOST:proxyag062.docomo.ne.jp






ユリアスが、空牙と綺紗を覆う結界を展開する。

それでもなお、ビリビリと肌を刺すような刺激が空牙を襲った。
それは周囲に満ちた魔力、攻撃の意志だ。




「―――出でよ、《雷毒針(クーゲル)》」




サミュエルの声がホール全体に響き渡るその前に、地に亀裂が走った。

既に身構えていたシルヴィアは、真下から繰り出された鋼の針を危なげなくかわす。
しかし息をつく間もなく、足元から無数の針が突き出してきた。
弾丸のような速度で、彼女を串刺しにせんと繰り出される突起物。
シルヴィアは避けるのを諦め、自ら生み出す薔薇の鞭で薙ぎ払う。
鋼の針は先端から黒焦げにされ、モロモロと砂のように崩れ、塵と化して空気に溶けた。



「……成程。これが極限まで強化されたファローズの異能……なかなかに、厄介だな」



ふむ、と顎に指を当てるサミュエルを、シルヴィアはせせら笑う。



「そんなことを考えている余裕が?」



サミュエルはくすりと笑い、迫る薔薇の鞭を防ぐ為、更なる針を呼び起こす。
即座に十字架で一閃し、シルヴィアはそれらを斬り捨てた。

そうしたやり取りが数秒の間に数百回と繰り返される。
そして針の一本がシルヴィアの頬を掠め微かに傷をつけるのと、花弁の槍がサミュエルを狙ったのは、ほとんど同時だった。



「《反逆の盾(クローネ)》」



サミュエルも読んでいる。攻撃を中断し、とっさに防御に専念。新たな魔法を紡ぎ出す。
サミュエルの眼前に堅固な盾が展開され、花弁の渦はそれに激突し、軌道を変える。結局、床を焦がしたにとどまった。

両者がそれぞれ後方に跳び、距離を取る。

シルヴィアが身構える間もなく四方八方から大量の針が突き出した。
針の乱打。直撃すれば、少女の身体など即座に穴だらけだ。
が、黙ってやられる彼女ではない。機敏な反応―――左右の数本を叩き落とし、とんぼを切ってかわしにかかる。

最強を自負するシルヴィアにとって、怒りで我を忘れるなど有り得ない。
激情を凍れる殺気と気迫に変え、眉間に迫る一本を撃ち落とす。
心臓を狙う一本を十字架で薙ぎ、飛来する方向を冷静に見極め、肌に突き刺さる寸前に最小限の動きで防ぐ。さらに攻撃の隙をついて新たな花弁を放出した。

紅い奔流と鋼鉄がぶつかる。火花が散り、凄まじい轟音が生じる。
歪な蛇のようにうねった輝きは目にも留まらない速度で空間を切り裂き、迫り来る針の群れを撃ち落とし、真正面―――サミュエルへと真っ直ぐに突き進む。

これは決まるか―――とシルヴィア自身思ったが、再度盾が弾雨を弾いた。
その後ろには、流石に苦しげに顔を歪めるサミュエル。詠唱の為、唇が開く。魔力の集中。

―――この男、まだストックがあるのか。

シルヴィアは表情には出さず驚く。
生粋の王族たるユリアスでさえ、使える魔法は二種類だというのに―――




「―――《穢れ亡き幻想(シュピーゲル・シュロス)》」




その声が耳に入り込んだその刹那、ふ、と一瞬意識が急速に遠のく。
気がつけば、シルヴィアは一人、見覚えのある城の内部に立っていた。



「……何……?」



眉を潜め、周囲を見回したところで―――名を、呼ばれた。
懐かしい声。はっとして振り返る。

こちらに向けて微笑んでいるのは、亡くなったはずの父、母、兄だった。

シルヴィアは息をするのも忘れて呆然とし、彼らを見つめ―――




「……幻影、か。なかなか精度が良い」




禍々しい嘲笑を、その唇に浮かべた。


これがおそらく敵の切り札。
弱さにつけ込み、戦意を喪失させるのが目的か。
いや―――靄がかかったようにぼんやりと霞む頭では、普通の者ならあっさりと騙されて夢に溺れることは安易だろう。


だが、相手はこのシルヴィアだ。
幼い日に悪魔と対等に渡り合って契約を交わし、誰よりも誇り高く、栄えある三大王家の筆頭として君臨し続けてきたこのシルヴィアだ。




「残念だったな。その程度で、ぼくの心は揺らがない」




十字架を握る。
渾身の魔力を込めた斬撃が、愛する者たちの姿を斜めに切り裂いた。

259心愛:2013/06/15(土) 19:32:46 HOST:proxyag062.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ!((いい笑顔
サミュエルこそここあキャラ唯一の極悪人かつ明確な憎まれ役なので!


で、シィ対サミュエルは一段落ついた感じだけど…これで終わりじゃないんだな(=_=;)

260ピーチ:2013/06/15(土) 19:33:33 HOST:em49-252-234-80.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

シルヴィア様が凛々しい!←

その上強いよやっぱり!

小さい頃から悪魔と契約してただけあるよね!

261心愛:2013/06/16(日) 20:10:50 HOST:proxyag080.docomo.ne.jp







「口ほどにもないな」



幻を破ったシルヴィアの冷ややかな視線の先には、うずくまるサミュエルの姿があった。
倒された魔獣と同じく、こうなれば煉獄行きは免れない。
シルヴィアは着地すると、サミュエルに降伏を宣言させる為十字架の先端を彼へ突き立てようとして。


初めて、この期に及んでも魔術師が口角を上げ、不敵な笑みを湛えていることに、気づいた。




「……これで終わりだと思った?」




くくく、と喉の奥で笑う男。



「私は強欲なんだよ、お姫様。すべてを手に入れて、すべてを壊したい」



サミュエルはふらつきながらも、手をついて立ち上がる。
ごぽ、と傷口から大量の血が溢れ、床を不吉な色に濡らした。



「私は魔術師……。もう少しだけ、この肉体を此処に留めておくことができる」



「シィ!」



いち早くサミュエルの変化に気づき、固唾を呑んで見守っていた空牙が声を上げた。
シルヴィアも危険を察し、素早く後方に飛び退る。



―――ごうっ、と音を立てて、サミュエルの肩から、瞳から、魔力の炎が噴き上がった。
同時に、容器に閉じ込められた人形の少女の身体が、強く発光し始める。魔術回路に魔力の火が入る。


まさか!




「さぁ、目覚めの時間だよ。……ミレーユ」





―――リィィィッッッィィィ……!





円筒が内側から破壊され、ガラスの破片となって砕け散った。


なめらかな白磁の肌が淡い光を放ち、翠に輝く髪が爆風に煽られて波打つ。


固く閉ざされていた瞼が今、カッと大きく開かれた。
かつて美しい金色だった瞳は一面、毒々しい紅に染まっている。



「ミレーユ!」



「無駄だよ。君の声は届かない」



手負いの身体で無茶をした為だろう。負荷に耐えきれず膝をついた体勢で、サミュエルは空牙を視界に入れて笑む。



……油断した。
この男にとって、空牙から奪い取ったミレーユこそ真の切り札。
シルヴィアとの戦闘は、最初からこの本命を生かす為の時間稼ぎでしかなかったのか。




「私による数々の調整を経て、魔女だった頃の力を完全に受け継ぐ機械人形(マシンドール)として復活したんだよ。―――嗚呼、この時をどんなに待ち望んだことか!」




時折血を吐きながら、恍惚とした表情でサミュエルがミレーユを眺める。
その愉悦に酔いしれた口調は、神を崇拝する信者のようでもあった。



「“最強”対“最凶”。是非とも、最高のゲームを楽しませてくれ」



シルヴィアは、胸中で空牙と、それからミレーユに謝罪した。


―――悪い、手加減はできそうにない。


ミレーユの全身から発せられ、ひしひしと感じる威圧感。これまで会ったどんな者よりも、強い。

感情の色をなくした瞳に映され、背筋を悪寒が這い上がる。


確かに……化け物だ、これは。
本来の力を取り戻し古より甦った、魔女。


だが、空牙たちにとっても、冥界全体にとっても、シルヴィアが最初にして最後の砦。
こんな怪物を野放しにすれば、冥界の滅亡は免れない。
何としてでも、自分が此処で止めなくては。



「面白い」



内心の焦燥と裏腹に、シルヴィアは冷え冷えとした声で告げる。




「受けて立とう」




瞬間―――ふっ、とミレーユの姿が消えた。
瞠目する。有り得ない速度。音より速い!

本能で危険を感じ取り、シルヴィアは真上に十字架を寝かせて掲げた。
その直感は正しく、頭上にミレーユが唐突に出現。一回転し、重く鋭い蹴りを叩き込む。
シルヴィアはかろうじて受け止めたが、勢いを相殺しきれず吹っ飛ばされかける。空中でバランスを取り、体勢を立て直した。

ミレーユは止まらない。拳を繰り出す。緩急自在の動きに翻弄されまいと、シルヴィアは際どく対応しながら好機を待つ。


―――アレックスとやり合ったときより格段に、速い。
けれど、リズムは掴んだ。


不意を衝き、シルヴィアは大きく十字架を振るった。
衝撃波でミレーユのボディが軋み、白い肌がざっくり裂ける。

262心愛:2013/06/16(日) 20:15:50 HOST:proxyag080.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うちの魔族の強さ=精神力の強さだからね!


そして、やっと真のラスボス・魔女版ミレーユさん登場(;゜ロ゜)
ミレーユを倒さない限り冥界滅ぶよどうするシィ!←

263ピーチ:2013/06/16(日) 20:28:00 HOST:nptka204.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

うそでしょミレーユちゃん!?

そしてサミュエルに対して純粋にいらっときたことは言わない←

シルヴィア様頑張って大丈夫だよねいざとなったらアレックス居るよね!

264たっくん:2013/06/18(火) 10:15:27 HOST:zaq31fa4b08.zaq.ne.jp
ちなみに貴方達をノックアウトするのは
アッコちゃんという女性です。

アッコちゃんが貴方達をノックアウトしてしまうんですよ。

アッコさんという方は私の味方です。
貴方達は敵です。

265たっくん:2013/06/18(火) 10:15:49 HOST:zaq31fa4b08.zaq.ne.jp
ちなみに私はアッコさんを応援します。

266心愛:2013/06/24(月) 16:02:00 HOST:proxyag080.docomo.ne.jp
>>ピーチ

サミュエルは嫌われるように書いてるから遠慮なくいらっとしちゃっていいのよ?w



…………(・∀・)

267心愛:2013/06/24(月) 16:02:23 HOST:proxyag080.docomo.ne.jp






瞬間、バランスを崩したミレーユの暗い双眸が、妖しい光に満ちた。




「―――……《黒き刃の夜想曲》」




虚ろな声と共に―――大気が凍結した。

俊敏な動きで咄嗟に飛び退いたシルヴィアのすぐ目の前に、巨大な氷柱がそそり立った。
空気中の水分を瞬時に氷結させたのか。冷気と共に死の凄みを放つそれは、シルヴィアの背筋を固く凍らせる。
仮面のような無表情のミレーユが突き出した拳は何もない虚空を切り裂き、衝撃波で氷を砕いた。
破片が膨張し、鋭い円錐となってシルヴィアを八方から襲う。まさに刃。
サミュエルのときと同じ要領で、シルヴィアは飛来する氷槍を焼き尽くしていく。




「……《煌めく星の狂詩曲》」




光の乱舞。
細く収斂した光の剣に貫かれ、衣装に穴があく。
シルヴィアは薔薇の花弁で威力を相殺し、身を守った。
その隙にミレーユが素早く跳躍。一瞬目標を見失い、シルヴィアが戸惑う。



「シィ、上だ!」




「……《紅き月影の輪舞曲》」




ミレーユの手のひらから放たれた光芒、それはさながら光の大砲。
下方に位置するシルヴィアへと巨大な光線が襲いかかる。
シルヴィアはこれもまた恐るべき反射神経を以て反応し、十字架で弾いた。
射線が反り返り、ホールを縦断。分厚い石の床が砕け、巨大な亀裂が蜘蛛の巣状に走り、大穴が穿たれる。

続けざまに真正面から猛烈な蹴りを放つミレーユ。直撃すれば間違いなく、シルヴィアの背骨がへし折れるような一撃だった―――が、それを万物を灰燼に帰す猛毒の薔薇が迎え撃つ。
ずばんっ、と空気を裂き、ミレーユのスカートを掠めた花弁の鞭はそのまま進む方向を転換し、後方からミレーユへと直進。




「《凍れる残影の奏鳴曲》」




突如、氷壁が出現した。
密度が高く、固く締まっている様子だ。シルヴィアの《赫き煉獄の宴(ローゼン・クランツ)》にも、一瞬なら耐えうる。

力の拮抗は僅か一秒未満。壁が破壊され、花弁の突進を氷の破片が迎撃する。

同時に、相手の懐に飛び込み十字架を振るったシルヴィアの重い一撃が、空中のミレーユをとらえた。
ミレーユは両腕を交差してブロックするが、空中では勢いが殺しきれず吹っ飛ばされて床に転がる。が、反転してすぐに起き上がった。息をつく間もなく新たな攻撃を見舞う。



「………っく、ぅ」



呼吸が荒い。骨がしなり、筋肉が悲鳴をあげている。
それでも、シルヴィアは魔力の収束を緩めない。限界を超えて、力を絞り出そうとする。



「………っ、!」



薔薇の渦が天を衝いて猛り、轟音を立てて荒れ狂う。荒れ果てたホールの中を旋廻し、爆風が砂礫を飛ばす。

僅かに怯み、ミレーユが身を退いた。
暴力的で圧倒的な美貌を体現するかのような深紅の奔流が、シルヴィアを中心に猛烈な激しさで渦巻く。



「……悪い、な。一方的にやられるのは性に合わないんだ」



ミレーユへ向け、凝集された花弁が解き放たれた。
シルヴィア渾身の一撃には流石のミレーユも無傷という訳にはいかず、ガードはしたものの少なからずダメージを負った。ふらりと身体の重心が揺らぐ。


華奢な肩を上下させながら、憔悴に歪む表情をぐっと引き締め、シルヴィアが再度魔力を練る。


その間に反撃に転じようと体勢を整えたミレーユの鼻先で―――
不意に、炎の花が咲いた。
緋色の猛火が一瞬にしてミレーユを包み込む。
予想外の事態に、シルヴィアが瞠目した。



「なっ」



背後を振り返れば、―――綺紗だ。
真珠色の髪と和服の袖とを風に煽らせ、手のひらを突き出し遠距離から炎をコントロールしている。

さらにその後ろでは、ユリアスが申し訳なさと心配が入り混じった眼差しで、空牙が厳しい顔で、こちらを見ていた。


ユリアスの結界を一旦解き、綺紗の力で奇襲をかけ、シルヴィアを援護しようというのか。
これ以上はシルヴィアの命に関わるという、彼らにとっても苦渋の判断だろう。

シルヴィアは悔しさに歯噛みした。



「ふぅん……それは少し、困るな」



ある程度まで回復し、今までミレーユに魔力を供給していたサミュエルの唇が、その形に動く。


その視線の先には、今度は空牙と自身だけを覆う結界を展開し始めたユリアスの姿があった。

268ピーチ:2013/06/25(火) 06:53:56 HOST:em114-51-24-71.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

あ、りょーかいですw

ていうかちょっと待ってユリアス様危ないじゃん!

逃げてぇー! 二人ともとりあえず逃げといてー!←

269たっくん:2013/06/25(火) 12:08:27 HOST:zaq31fa50e8.zaq.ne.jp
  [もしもピーチさんがお亡くなりになられたら]

ピーチさんが死んであの世へ旅立ったら・・どうしますか?
本人はおそらく自分が天国へ行けない・・。きっと地獄だろう・・?と思っているのでしょう。
しかし!しかしですね・・どうか御安心下さい。

もしピーチさんが地獄へ落とされそうになった
私が閻魔大王様に『閻魔様・・お願いします!どうかピーチさんを許してやって下さい。
ああ見えても根はいい奴なんです。お願いします!天国へ行かせてやって下さい』と
頼んであげます。

270心愛:2013/07/02(火) 15:42:29 HOST:proxyag057.docomo.ne.jp






「ふふ、そうだね。そちらが邪魔をする気なら」



つい、と、サミュエルは人差し指を上げて。




「こちらも、遠慮なくそうさせてもらおうか」




地面が割れた。
鋭い棘を持つ巨大な重量の塊が、此方へ向けて雪崩のように押し寄せる。


空牙は目を剥いた。
なんという力業。ミレーユの稼動に魔力の大半を割きながら、同時に自身の異能を発動させるとは!



「ユリアス!」



「ユリアス様っ」



狙われているユリアスは結界の構築途中で、集中する為に一切の物音を排除している状態だ。
立て続けにシルヴィアたちが激しく消費した所為でホール内のマナが薄く、魔法を発動させるのに時間がかかっているのだろう。
綺紗が慌てて炎の茨を差し向けようとするものの、彼女の攻撃系の異能では二人を巻き込む可能性がある。その、一瞬の迷いが命取りだった。


回避は不可能。
空牙は咄嗟にユリアスを自分の後ろへ突き飛ばし、全てを覚悟して固く目を閉じた。


肉を切り裂く鈍い音。

一秒、二秒……まだ痛みを感じない。
不審に思い、恐る恐る目を開く。

最初に視界に飛び込んできたのは、黒い影だった。それが少女の背中だと気づくのにさらに数秒を要する。




「―――シィ!」




シルヴィアの細い身体が、文字通り身を盾にして、空牙を庇っていた。
何本かの針が背中を破り、顔を出している。傷口からは鮮血が溢れ、衣装をぬらぬらと濡らす。


綺紗が声にならない悲鳴を上げ、瞼を開けたユリアスがその場に凍りついた。



「う……、っぁ」



小さな身震いと共に血を吐き、シルヴィアの瞳が焦点を失う。

銀色が儚く閃き。
ぐらりと傾いた身体は、為す術もなく針に貫かれたまま―――深い亀裂の中へと、吸い込まれた。




「シィ―――ッッッ!!」




眼下を見る。
一面に広がる闇。怪我の上にこの断崖から落ちては……到底助からないだろう。



「……な、んだよ、それ」




シルヴィア相手にやってのけたのだから、ユリアスや空牙の足元から針を出すこともできたはずだ。油断を狙うのならその方が確実に仕留められる。
にもかかわらずわざと隙を作ったのは、シルヴィアが空牙たちを守る為に動き、その身を犠牲にすることを計算に入れていたということだ。


全身の血が燃えたぎる。
頭が灼熱し、怒りと嘆き、感情が荒れ狂い、空牙を翻弄する。



「ふざけんなよ! ……シィ! シィ……っ!」



取り乱し、シルヴィアの後を追うように身を乗り出す空牙を、鋭い声が止めた。



「空牙くん!」



先ほど空牙に突き飛ばされたユリアスだった。
青ざめた頬を引き締め、つい、と人差し指を突き出す。



「……あれ、見て」



光を纏い、不意に出現したのは漆黒の羽。
シルヴィアの消えた闇へふわふわと落ちていくそれには、見覚えがあった。



「ア……レックス、さん?」



ミレーユと空牙を圧倒した美貌の青年悪魔。
彼の双翼から放たれた羽根それと、目の前のそれは明らかに酷似していて。



「彼がついてる。だから、シルヴィア姫はきっと大丈夫。……今は、そう信じよう」



やはり声は震えていたけれど、それでも、淡い紅の双眸には確かな信頼の輝きが灯っていた。

猛る心が、徐々に鎮められていくのが分かる。



「……そう、だよな。シィが、このくらいでくたばるわけねぇよな……」



一筋の希望を見いだし、精一杯平静を取り戻そうと努力しながら空牙が頷く。
流石は王族、窮地に陥った際の切り替えが見事だ。


今はとにかく、シルヴィアなしでこの最悪な状況を切り抜けなくてはならないのだから。




「……綺紗が、行きます」




動揺と身体の震えを必死に押し殺し、宣言する綺紗。
妥当で当然とも思える判断だったが、空牙は「いや、」と首を振った。




「俺にやらせてくれ」




予想外の台詞に呆ける綺紗とユリアスにも構わず、ミレーユと、その向こうに控えたサミュエルに向き直る。



「……まさか君が、ミレーユの相手を?」



驚いたように、または揶揄(からか)うようにサミュエルが笑う。
無言で返し、空牙は指輪に口づけた。





「導きを…………《偽りの空を歌う星》」

271心愛:2013/07/02(火) 15:44:51 HOST:proxyag057.docomo.ne.jp
>>ピーチ

二人は無事だったけど…(´・ω・`)


急ぎ足だけど、シルヴィア救済回も後でちょこっとやるんで大丈夫だよ!

あとはマジギレした主人公が頑張ってくれるはずさ! …異能魔法使えないけど!

272ピーチ:2013/07/05(金) 03:18:50 HOST:em1-114-73-103.pool.e-mobile.ne.jp
ちょっと待ってぇー!?

なんでシルヴィア様なのなんでアレックス羽しかないの!?←落ち着け

大丈夫だよね! 異能使えなくても空牙くんとミレーユちゃんの絆があるもんね!

273心愛:2013/07/05(金) 22:16:50 HOST:proxy10007.docomo.ne.jp
>>ピーチ

アレックスのあれは一応後から補足するからね!
羽根だけかよ!って感じだけどもw


空牙とミレーユなら大丈夫さ、きっと!

274心愛:2013/07/05(金) 22:17:17 HOST:proxy10007.docomo.ne.jp





空牙を案じ、自らの身を投げ出したミレーユを無理矢理操り、空牙たちを攻撃させるという仕打ちを与えているサミュエル。
それだけではない。
怨敵に対しても気高く堂々とした態度で挑んだシルヴィアの、仲間に対する真っ直ぐな想いを利用し、誇りを踏みにじった。
たとえ己の悲願を達成する為だとしても、その手段は卑怯で、下劣で、赦されるべきことではない。




「……俺もいい加減、我慢の限界なんだよ」




身体の奥、魂の根源から、膨大な量の魔力が溢れ出す。
体内で熱を持ち暴れるそれを、空牙は一気に解き放った。


轟ッッッ―――!!!


妖気の放出。
空牙を中心として突風が激しく渦巻く。暴力的なまでに眩しい白に、空間と視界とが塗り潰される。

サミュエルが息を詰め、
ミレーユは警戒してか紅く染まった瞳を細めた。


シルヴィアとミレーユ。いや、もしくはそれ以前か。仲間が戦闘をしている間ずっと、空牙は密かに少しずつながらマナを溜め、魔力を練り込んでいたということだ。

しかも、空牙の足元に花が咲くが如く拡(ひろ)がった金の紋様は輝きを増し、次第に濃くなっていく。
彼を取り巻く妖気の勢いも衰えるどころか、ますます大きく、強まっていく。



「まさか」



魔力の源たる周りのマナが薄まっていく感覚に、ユリアスがはっとして目を見開いた。

この魔力は、空牙が溜め込んでいた量だけではない。


このホールに満ちた残り全てのマナを、吸収している……?


獣が獲物を喰らい尽くすように荒々しく。
空牙は絶え間なくマナを取り込んで魔力に変換し、妖気として空気中に出していく。

それは途方もなく、作戦とも呼べない、あまりに単純で、そして無理が過ぎる筋書きだった。


―――この場のマナを使い果たしてしまえば、ユリアスと綺紗、だが例に漏れず、サミュエルも戦闘不能になる。



「そんなっ、無茶だよ! 空牙くんの身体の方が……っ」



先に限界を来(きた)し、壊れる。
そう叫ぼうとしたユリアスを、綺紗がそっと遮った。



「私も兄様も、こう見えてエルゼリアの眷属です」



真珠色の髪が暴風に煽られて激しく踊り、兄を見つめる真剣な横顔を彩る。



「主と同じく行動力と度胸、そしてそれに見合う知能を備えています。相応の覚悟や自信がなければ、無理はしないはずです」



それに、と綺紗が続ける。口元にはごく淡い笑み。




「―――生身の身体能力に関しては、他の臣民を遥かに超越している」




とんっ。
空牙が軽く地面を蹴って助走、そこから徐々に加速。
風の悲鳴が耳をつんざき、周囲の光景が流れるように移り変わる。


サミュエルの指示を受け、ふわりと舞い降りたミレーユが空牙の行く手を阻んだ。


やはりサミュエルは相当手練れの術者だ、まだ余力があるのか。
シルヴィアとの戦いで消耗し、さらにミレーユを稼働させ続けた上にこの環境下でも動けるとは、驚異的な実力と言っても良い。
が、流石に派手な魔法は使えないらしい。ミレーユは傍にあった石柱を思い切り蹴りつけ、それを粉々に砕いた。


鎌鼬にも似た衝撃波。がら空きの腕、肩、脇腹、両脚に尖った破片が突き刺さる。
身体を貫通するかの如き激痛に、空牙が顔を歪めた。
異能も魔法も使えない、だからブロックすることはできない。
空牙はそれらを全て受け止め耐えていたが―――その刹那、全力で地面を蹴り、高く、高く飛び上がった。
宙で身を捩り、砕けた石の欠片のひとつを爪先で蹴る。



「な……っ?」



浮力も何もないただの小さな破片は、少年の体重を支えるには質量が足りない。
とんっ、その僅かな、一瞬の跳躍が次なる石へと空牙を届ける。
それが落ちるより早く、速く、空牙は飛ぶように足場を跳び移り、空中でひたすら前へと駆けた。

ついにミレーユの真正面に辿り着き、追い抜きざまに声を発する。



「ミレーユ」



直接攻撃を仕掛けようと構えていたミレーユの動きがぴたりと止まる。
感情の消えたはずの瞳の奥にごく弱い葛藤を見つけ、空牙は笑った。




「言ったよな? お前は俺の、ただ一人の相棒だって」




きっと声は届かない。
けれど―――想いは、届く。




「俺はお前を信じてる」

275たっくん:2013/07/06(土) 14:06:18 HOST:zaq31fa4955.zaq.ne.jp
【昔のVHSをピーチに買い取ってもらうスレ】


平成元年のビデオ販売です。
89年、90年に撮影したVHS(ビデオ)の販売です。
お求めの方は【YES】と、ご記入下さい。

価格=100円 送料290円〜320円


1990年5月〜現在に至るまでの新幹線映像です。

【1990年 8ミリビデオ撮影】
この時点ではまだ300系はデビューしていません。
当時の花形は100系、グランドひかりでした。
16両編成の0系新幹線、100系共食堂車ビュッフェを連結してました。
山陽新幹線こだまの一部に6両編成、東海道新幹線こだまの一部に12両編成がありました。


【1994年】

94年になると、300系のぞみがデビューしてます。
当時の主な新幹線は、0系ひかり、100系グランドひかり、300系のぞみ

【1996年】
新大阪〜京都間で高速走行シーンが鑑賞できる、阪急京都線との供走区間。
新幹線と阪急の中間フェンスが、現在とは異なり若干低いのが分かります。

96年当時の新幹線
0系こだま、0系ひかり、100系グランドひかり、300系のぞみ

VHS価格=100円
発送料金=290円〜320円

本体価格ですが
今回は特別に無料で差し上げます。

送料だけはご負担下さい。

276たっくん:2013/07/06(土) 14:06:38 HOST:zaq31fa4955.zaq.ne.jp
平成元年のビデオ販売です。
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【1990年 8ミリビデオ撮影】
この時点ではまだ300系はデビューしていません。
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【1994年】

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当時の主な新幹線は、0系ひかり、100系グランドひかり、300系のぞみ

【1996年】
新大阪〜京都間で高速走行シーンが鑑賞できる、阪急京都線との供走区間。
新幹線と阪急の中間フェンスが、現在とは異なり若干低いのが分かります。

96年当時の新幹線
0系こだま、0系ひかり、100系グランドひかり、300系のぞみ

277ピーチ:2013/07/07(日) 00:55:14 HOST:em1-114-140-221.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

うっわサミュエルここまで使える術者だったの!?

だったらいい方向に使えばよかったのに!

どーしたらいいと思うここにゃん、名ゼリフ多すぎるよ……!?←

278【下平】:2013/07/08(月) 16:46:11 HOST:ntfkok293007.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
【ジャクソンかよ】

279心愛:2013/07/09(火) 17:26:45 HOST:proxyag085.docomo.ne.jp
>>ピーチ

魔女ミレーユを崇拝するあまり変な方向に突っ走っちゃったんだねサミュエルw
台詞……そ、そうかなぁ(;゜ロ゜)


そんなサミュエル戦もやっと終了です←
邪気眼少女更新の前に完結させちゃうかも!

280心愛:2013/07/09(火) 17:27:44 HOST:proxyag085.docomo.ne.jp







仮面のようだったミレーユの表情に、一瞬、躊躇と困惑の色が浮かんだ。
空牙はそれを見ずに空中で立ち尽くす彼女をその場に置き去りにし、さらに疾走して―――そしてついにサミュエルの正面へ躍り出る。
地に足がつくと同時、今自分の持てる全ての魔力を引き出し、解放した。




「っっあああああああああ!!」




純白の輝きが迸り、凄まじい轟音がホールを揺らす。

爆風の中心で、喉を嗄らして叫ぶ少年。
狂気じみた迫力に、サミュエルが一歩後退した、
そのときだった。


突如として何かが空牙の腕、背中、足元の床を突き破り、その姿を現した。



―――茨だ。



大樹の幹のようなそれは無数の茨が絡み合った、綱のようなものだった。その表面には鋭い棘が刃を光らせ、丈が急激に成長し分厚い天井をやすやすとぶち抜く。


衝撃から立ち直り、いち早く、その正体に気づいたのは綺紗だった。





「……《緋焔の神解け(レーツェル)》!?」





空牙の生み出した茨は抜けるように白く、緋色の炎を宿してはいないものの、キサラギに伝わる異能そのままの姿で。



「そんな、馬鹿な……っ」



サミュエルが絶句する。



空牙は異能を使えないのではなく、その才は《散華魔鏡》でも視通せぬ程の奥底に眠っていた、と。
空牙が異能を起動するには、その化け物じみた《器》に見合った莫大な量の魔力が必要で。己の限界を突破することで、今ようやく初めてその条件が満たされた……と、そう、云うのか?



空牙にとっても、この結果は完全に予想外だったらしい。
自分自身でも意味が分からず呆けたのは一瞬、不敵で野性的な笑みを浮かべる。




「……コレで一発、ぶん殴ろうかと思ってたけど」




特大の魔力の炎を纏う拳をぶらりと下げ、全身に漲る独特の感覚を確かめる。

どんなに願っても手に入れられないものなのだと、ずっと思い焦がれてきた。
不格好で不完全な、けれど確かに存在する、空牙の異能。





「テメーを倒すには、これで十分だ!」





茨の槍が叫びに呼応してほどけ、軍勢と化して魔術師の男に殺到した。

281ピーチ:2013/07/10(水) 04:57:39 HOST:em114-51-2-136.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

どうしようここにゃん空牙くんがとんでもなくかっこいいよっ!

やっぱり凄いよ空牙くんとミレーユちゃんの絆!

むしろ名ゼリフしかありません! 何か凄く羨ましいですそんなに才能ある人が!

邪気眼少女の前! ……でもなんか寂しいな…

282ピーチ:2013/07/10(水) 09:22:49 HOST:zaq31fa5a1a.zaq.ne.jp
【もしピーチさんの祖母がお亡くなりになられたら・・。】


作詞・たっくん   

さよならするのはツラいけどの替え歌です。ではお聴き下さい。



ババアが死んだ〜♪ババアが死んだ〜♪
いい死に顔だ〜♪いい死に顔だ〜♪
さよならす〜するのはつら〜いい〜けど〜♪

寿命だよ♪仕方がない
ピーチが逝くまでごきげんよう♪

ババアが死んだ〜♪ ババアが死んだ〜♪

ピーチ
『私もいつかあの世へ旅経ちます。その日までごきげんよう!』


ピーチさんもそのうち逝くと思いますが
その時までごきげんよう!

283【下平慎(シン)】:2013/07/10(水) 13:05:37 HOST:ntfkok293007.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
【いじめんなよ、ピーチを。】

284心愛:2013/07/10(水) 21:55:30 HOST:proxyag033.docomo.ne.jp
>>ピーチ

かっこいい…かな!?
頑張ってかっこよくかっこよく…って念じてたんだけど、ちゃんとそうなってればいいなw
やっと空牙、主人公の意地見せました!


ここあもちょっと寂しい…(´・ω・`)
でもピーチがうっすらとでも覚えててくれるかぎり、空牙とミレーユたちは不滅さ!

285心愛:2013/07/10(水) 21:55:48 HOST:proxyag034.docomo.ne.jp






―――やった……の、か?


茨の輪郭が崩れ、光の粒子となってきらきらと輝きながら、上空へと昇っていく。死者の魂が天に帰っていくような、美しくも幻想的な光景だった。
その中に、魔術師の姿はない。

……果たして、サミュエルは無事に煉獄へ送られたのだろうか。


そこまで考えて―――空牙はふつりと糸が切れたように、力尽きて膝から崩れ落ちた。



「兄さ―――」




「空牙っ!」




すぐさま飛んできたミレーユが空牙の身体にすがりつく。
操者のサミュエルが消えたことで、自我を取り戻したようだ。機械人形の少女の金色に輝く瞳から、ぽろぽろといくつもの涙が零れ落ちた。



「ごめんなさい……ごめんなさい……っ」



手で顔を覆い、しゃくり上げるミレーユ。



「ミレーユが馬鹿なことをしたばかりに、空牙も、……シルヴィアさんまで……っ」



サミュエルに支配されていたときのことも記憶してしまっているらしい。
カタカタと震える背中に、近づいてきていたユリアスと綺紗が声を掛けようとして言葉に詰まる。



「どんな処分を受けても足りません……。ミレーユは……ミレーユは、どうやって償えば……!」




「……お前が何度、俺の命を救ってくれた?」




空牙が笑む。
淡い翠の髪を手で梳き、ミレーユの濡れる瞳と視線を合わせた。



「俺を守ってくれたのは、いつもミレーユ……お前だろうが」



波紋のように、空牙の声色が弱々しくも優しく広がる。




「俺の相棒はお前だけだ。だから、俺を捨てないでくれ」




刹那、ミレーユの表情が崩れた。
くしゃりと顔を歪め、また涙を溢れさせる。



「なんですかそれ……何なんですか」



ひく、ひくっ、と小さな嗚咽。



「捨てないで、なんて、格好悪いです……」



「ああ」



「格好悪いし……空牙は馬鹿です。空前絶後、前代未聞の大馬鹿野郎です」



「知ってるよ」



コートの中からリボンを取り出し、そっと結んでやる。
一度は捨てた、空牙との繋がりのようなそれに手で触れ、ミレーユは泣きながら微笑んだ。



「本当に……後悔、しませんか」



「するわけねーだろ、バカ」



ミレーユの緩んだ頬を、またひとつ、ぽろりと水滴が転がった。
彼女の頭を最後にくしゃくしゃと撫でてやり、空牙がほっとしたような表情の二人に礼を言う。



「綺紗、ユリアス。お前らのお陰で、本当に助かった。有難う」



「ううん。とにかく……ミレーユさんが無事で良かったよ」



「当然のことをしたまでですよ、兄様」



言い、綺紗が小さく縮こまっているミレーユに向き直る。
こちらも数年ぶりの再会だ。



「お久しぶりです、ミレーユさん。御無事で何よりです」



「いえ……迷惑を掛けました、です。他の方々にも」



殊勝に目を伏せるミレーユは、やはりまだ相当堪(こた)えているのだろう。
綺紗は膝を折って、柔らかな口調で話しかける。



「……ミレーユさんには何一つ非はありません。ですから、どうかご自分を責めないで下さいね」



「、………!」



「ミレーユさんだからこそ、兄様を安心して預けられるのですから。本格的に愛想が尽きたらいつでも綺紗のところに来て下さって結構ですが」



「おい綺紗!?」



「は、い。……有難う御座いました、です」



それでいい、と微笑み、空牙と同じように綺紗も頭にぽんぽんと手を乗せる。
兄妹で変なところが似ているな、とミレーユはふやけた思考でぼんやりと思った。



「いつまでも過ぎたこと気にしてんなよ、ミレーユ。それより、今は―――」



言いかけて、空牙の身体からかくりと力が抜けた。



「く、空牙っ?」



「おそらく魔力の負荷に耐えきれなくなったのでしょう。大丈夫、気を失っているだけです」



むしろ良く保ったと言うべきか。
かなり無理をしていたらしい兄の姿に、綺紗が苦笑する。



「とにかく、今は戻ろう。この要塞も崩れるかもしれない」



ユリアスが足元の亀裂に目をやりながら言う。
今まで誰も敢えて口にはしなかったが、ずっと気になっていたこと。



「魔獣の軍も退いてる頃だよ。シルヴィア姫のことも含めて、リリス姫ならきっと、全て分かっているはず」

286ピーチ:2013/07/11(木) 03:35:23 HOST:em114-51-3-85.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

大切な人のために力使い切って結局気絶するってかっこいいよね! ていうかかっこいい人しかできないよね!

ミレーユちゃんお帰り! 大丈夫だよきっとシルヴィア姫なら大丈夫だよ!

ねーここにゃーん……空牙くんとミレーユちゃんの台詞に泣きかけてるんですけどー…←

287心愛:2013/07/12(金) 22:22:54 HOST:proxyag044.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ありがとう色々とありがとう!

空牙とミレーユの会話は割と大事なとこのつもりだったのでそう言ってもらえると嬉しいw
お帰りミレーユ!


↓のシィ&アレク回は分割してるから、分かりにくいとこあってもちょっと我慢してくださいな(=_=;)

288心愛:2013/07/12(金) 22:23:55 HOST:proxyag044.docomo.ne.jp






―――ごめん、



―――ごめんね、シィ。




微睡みの淵で、そんな声が聞こえた。
子供をあやすように優しく、何度も、何度も。



……何故君が謝る。



なんだか釈然としない。

彼女は曖昧なものが嫌いだから、きちんと尋ねる為に口に出そうと―――



「!」



―――したところで、シルヴィアは寝床から跳ね起きた。
眩しい光に思わず目を瞑り、もう一度時間をかけて開ける。するとすぐに、黒髪の従者が視界に入った。



「気がついた?」



捕らえどころのない妖艶な笑みを向けてくるアレックス。
その背で漆黒の翼が揺れる。



「ぼくは、一体……」



ぐるりと周囲を見回す。
昔から使っている気に入りのベッド。豪華絢爛な薔薇模様のカーテン、絨毯。そして、アレックスの姿。
そのどれもが、嫌という程見慣れた光景だ。

が、おかしい。自分は確か、空牙たちと共に要塞にいて……戦って、不本意ながらもサミュエルに倒された、はずで。

訝しみながら記憶を探るうちにひとつのことに気がついて、掴みかからんばかりの迫力でアレックスに尋ねる。



「ミレーユは!? ミレーユはどうなったんだ!?」



「無事だよ」



アレックスはシルヴィアを落ち着けると、実際に体験してきたかのように事の顛末を話す。
シルヴィアもそれには驚かず大人しく聞き入り、話が終わると「……良かった」と小さな呟きを漏らした。

しばらく黙ってシーツを見つめた後、ぽつりと言う。



「………ぼくは、負けたのか」



シルヴィアが授かり、アレックスによって威力を増大させた異能《赫き煉獄の宴(ローゼン・クランツ)》は絶対的な“強さ”を約束するもの。
ならば、このような結果になったのは自身の異能を使いこなせなかったシルヴィアの責任だ。


思い詰めた顔で俯くシルヴィアに、アレックスが微笑んで。



「そう言って良いのかどうか。小細工なしの真剣勝負なら、シィは文句なしに最強だよ? あの魔女は特別としても」



ひょい、と肩を竦め、



「第一、あの男にトドメを刺さなかったのはシィでしょう?」



変なところで甘いんだから、と言われれば黙るしかない。
シルヴィアはむっとして、拗ねたように唇を引き結んだ。



「まぁ、気にすることはないんじゃない? シィが相手を消耗させたからこそ、『彼』の切り札も生きたんだし」



「……次の質問だ。ぼくは何故、無傷で此処にいる?」



実を言えば、一番最初に浮かんだ疑問がそれだった。
シルヴィアの身体に怪我は一切なく、全く痛みを感じない。怖いくらいに不自然だ。



「俺が運んだんだよ。気取られないようにこれを使って」



己の双翼を指差すアレックス。あいにくその意味はシルヴィアには分からなかったが、彼をじっと見ているうちにある違和感に気づいた。



「君……魔力の波長が弱くないか」



「あー、うん。脱出したは良かったけど、魔獣にやられてね。シィを庇いながらだから力も上手く使えなくて、流石に大変だったよ」



「怪我は!」



前のめりになるシルヴィアに、アレックスが苦笑。



「全然大丈夫だって。俺より、自分の心配をした方が良いんじゃない?」



「……ぼくには嘘をつくな、アレク。絶対にだ」



厳しい声で言い放ったシルヴィアが、服の上からアレックスの腕を掴む。途端、白磁の美貌が痛々しく歪んだ。



「……っこの馬鹿!」



シルヴィアはすぐに手を離し、目の前の眷属を怒鳴りつける。



「自分の魔力を、ぼくの治療に使っただろう!?」



「……」



無言が肯定の証だ。
この悪魔が自分の怪我を回復できなくなる程に、シルヴィアの治療には魔力を必要としたらしい。

相変わらず大事なことを言わない、と心の中で毒づき、シルヴィアはベッド脇にある呼び鈴の紐に手をかけた。



「ユリアスを呼ばせる。異論はないな?」



―――話はそれからだ。


怒りの表情のシルヴィアに、アレックスがすかさず茶々を入れる。



「ユリアス様はお疲れの上に、結界譲渡の時間でそれどころじゃないと思うけど?」



「君が平然と言うな! ならミュシアの王族を片っ端から当たるまでだ!」

289ピーチ:2013/07/13(土) 09:57:00 HOST:em114-51-137-187.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

アレックス優しいよね! シルヴィア様も!

え、ちょっと待って悪魔って不死だよね? 魔力使い過ぎてもすぐ直るよね……?

シルヴィア様怖いよー! 闘ってないのに怖いよー!?←

290名無しさん:2013/07/13(土) 10:57:12 HOST:zaq31fa5a1a.zaq.ne.jp
       【ピーチの顔面を殴りつけるスレ】

しまいに顔面、潰すぞアホピーチ

291心愛:2013/07/15(月) 18:12:14 HOST:proxyag103.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、ちょっと自分の魔力使いすぎて身体に負担かかって、一時的に新しく作れないようになってるだけですぐ治るよ!


シルヴィアも、一応アレックスも優しいといえば優しいんだけど……?↓

292心愛:2013/07/15(月) 18:13:21 HOST:proxyag104.docomo.ne.jp






「……そろそろ、本当のことを吐いたらどうだ」



「うん?」



「とぼけるな。まだ、ぼくに隠していることがあるだろう」



アレックスに半ば無理矢理回復魔法を受けさせた後、シルヴィアは再び、呑気に部屋をぶらつこうとする彼を問い詰めた。
それでも、アレックスの飄々とした態度は変わらない。
シルヴィアは嘆息し、そして、この不利な局面を打破する一言を告げる。




「『ごめん』とは何だ」




初めて、アレックスの紅い双眸がちらりとシルヴィアを見た。



「……どういうこと?」



「君が言ったんだろう。ぼくが覚えているのに、君が覚えていないとは言わせない」



立場は対等とはいえ眷属に遠慮など、シルヴィアにはする気はない。
顔を上げ、相手を屹然と見据える。

ひとまずこれで相手の興味を引いた。
なら、自分の話に持ち込むのみ。



「君がぼくを、自分を犠牲にしてまでこの状態にしてくれたことは分かった。……だが、」



一瞬だけ、躊躇う。
けれどシルヴィアは決意を固め、最後まで言い切った。




「ぼくは死んだ。……死んだ、はずなんだ」




空牙とユリアスを守って全身を針に貫かれ、深い亀裂に落ちた。
いくら回復力に長けた力ある魔族といえども、此処まで徹底的に痛めつけられれば死から免れることはまず不可能。
致命傷に夥しい量の出血、さらには猛烈な勢いで地底に叩きつけられたのだ。あまりの痛みに意識が攫われる直前、シルヴィアが感じたのは紛れもなく、死という名の恐怖だった。



「いくら悪魔の力でも、容易に死者を甦らせることはできないはずだ」



今この瞬間も、鼓動を刻み続ける心臓を胸の上から押さえる。


アレックスが誤魔化そうとしているのは、多分このこと。
シルヴィアはさらに言い逃れできないよう付け加える。



「そして全快したはずなのに、君からは今までのような魔力を感じない。……答えろ。ぼくをどうやって甦らせた?」



……嫌な予感がするのだ。


シルヴィアの至極真剣な様子に、茶化すのをやめて微苦笑を漏らすアレックス。


いつまでも隠し通せるわけじゃないしね、と小さく笑った。



「その通り」



一言も聞き漏らすまいと神経を尖らせるシルヴィアの様子を見て、アレックスはまた、ふふっと笑みを零す。




「俺はシィを生き返らせた。ちょっとだけ、特殊な手段を使って」




「……はぐらかすな。率直に言え」



「酷いなぁ。最初から、ちゃんと言うつもりだよ?」



本人曰く“規格外”の悪魔であるアレックスは自身の異能の他に、他者の回復を含む一通りの術を扱うことができる。
だが、神の領域に手を出すにも等しい蘇生術となれば話は別。もっと複雑なものが絡んでくる。


天と地をひっくり返す。不可能を可能にしてしまう。
そんな常識破りの方法が、あるとするならば。


やはりと言うべきか、アレックスはこう告げた。





「―――魔力を使って、俺は、俺自身と契約したの。本来ならかなり無茶なことだけど、何と言ってもこの俺だし、」





「代償は!?」



彼を遮り、シルヴィアが叫ぶ。


―――相応の代償を支払った上での、悪魔との取引。


運命に逆らい、一度死んだ者に命を与えるのは、この世界全体の倫理、掟に反すること。禁忌と言い換えても良い。
その罪に釣り合うだけの価値のあるものを、差し出さなくてはならないはずで。



そして無慈悲にもシルヴィアの耳が捕らえたのは、彼女が想像していた中で最も悪い、残酷な返答だった。




「……俺の、命」




脳が理解するのを拒否するように、いや、理解しているのに受け入れることを心が拒む。
蒼白になるシルヴィアに対して、アレックスはいつも通り余裕綽々といった様子だ。




「うーん、そう言うと誤解があるかな。永遠の命……つまり、不死って言った方が分かりやすいか」




「……それ、は」




「俺も死ぬようになった、ってこと」




にこやかに言ってのけるアレックスに、絶望と怒りに染まるシルヴィアの理性が切れた。

293ピーチ:2013/07/15(月) 18:15:50 HOST:em49-252-59-192.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

だよね大丈夫だよね!

優しいよね! たまに方向性が代わることがあるだけだよね!←

294たっくん:2013/07/16(火) 00:31:50 HOST:zaq31fa5a6f.zaq.ne.jp
アホのピーチは今日もゆく

295たっくん:2013/07/16(火) 00:32:03 HOST:zaq31fa5a6f.zaq.ne.jp
アホのピーチは今日もゆく

296心愛:2013/07/18(木) 19:30:01 HOST:proxy10008.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、本当に方向性おかしいけどね!

最後の最後にさらっとアレクが主役攫ってた気がするけど気のせいだ気のせいw

297心愛:2013/07/18(木) 19:30:39 HOST:proxy10008.docomo.ne.jp







「……ふざけるなっ!」




彼の服を掴み、声の限り怒鳴りつける。
が、無意識のうちにその声音が震えた。



「君という奴は……! どうして、そんな……っ」



「別に不自然な代償ではないよ。シィがあのとき家族を生き返らせてたら、そのまま地獄に連れて行くつもりだったし。女の子一人の命なんて、いくつ要求しても足りないからね」



「そういう問題じゃない!」



悲鳴じみた叫びを上げるシルヴィアの瞳には、小さな雫が溜まり始めていた。
目の前で惨劇を見せつけられても涙一つ落とさなかった鋼の心が、今、確かに揺らいでいた。



「そんな顔しないで、シィ。これは俺が望んだことなんだから」



彼女の滑らかな頬に指を滑らせ、アレックスが淡く微笑む。



「俺は、永劫に続く苦しみから解放されたんだよ」



「、…………?」



困惑して見上げてくるシルヴィアに、そっと語り聞かせるように。
いつも本心を見せようとしない彼が、胸の内をさらけ出す。



「愛する者が死んでいくのを、何度も見てきた」



愛。
この男と無縁なように思われる単語が口から出たという事実にシルヴィアが一瞬固まると、「そこ、驚くところじゃないんだけど?」とアレックスが笑った。



「地獄で意地汚い罪人ばかり見てると、たまに気分が荒むんだよね。昔から良く、気分転換を兼ねて魔族や人間を眺めていたよ」



血のように紅い双眸が、懐かしげに細められる。



「……でも俺が恋した女の子は皆、他の男と添い遂げて、すぐに老いて。俺のことを知らないまま、儚く消えていくんだ」



それが悔しくて、つらくて……少しだけ、羨ましかったんだよね。


少し照れたように、唇の端を上げる。



「数千、数万、数億。面倒だから一々数えてもいないけど、気が狂いそうになるような年月を、俺はそうして生きてきた」



不死とは、孤独。
何度地獄の業火に灼かれても、その身を滅することはない―――裏を返せば、どんなに望んでも死ぬことができないということ。
大抵のものが手に入っても、本当に大切なものは、その両の手から滑り落ちていく。



「悪魔は愉悦を感じることはあっても、嬉しさ、喜びを持つことは滅多にない。幸せというものから遠ざけられた種族なんだよ」



シルヴィアの瞳に溜まりかけていた雫は、いつの間にか綺麗になくなっていた。
耳を澄ませ、一言一句を聞き逃さないように声を拾う。

298心愛:2013/07/18(木) 19:31:24 HOST:proxyag049.docomo.ne.jp






「そして、何度も何度も自分の運命に絶望することを繰り返して―――やがて俺は、俺を呼び出した小さなお姫様の、気高く美しい魂に魅せられた」





“ぼくはシルヴィア。天より紅薔薇の紋章を戴く、誇り高きファローズ王家の末裔―――シルヴィア=ファローズ”





「……もう沢山だ。俺は自分の意志で、シィの命と引き換えに、俺の不死の身体を捨てることを選んだんだよ」





“―――仰せのままに、俺の姫君”





あのときと同じ、何処か含みのある微笑で、アレックスが告げる。





「これで、本当の意味で君の隣で生きられる」





―――“悪魔の命は永遠。その全てを、貴女の為に捧げよう”





「……そう、だったのか」



元から端正な顔立ちの男だ。
優しげな眼差しで微笑まれれば、胸の奥で変に気恥ずかしいような、いたたまれないような、じんわりとしたくすぐったいものが生まれる。



シルヴィアの為とはいえ勝手に命を捨てるような真似をしたのは許し難いが、それも当の本人が強く望んだ結果なら仕方ない、のかもしれない。


照れるべきか怒るべきか、それとも悲しむべきなのか、シルヴィアは真剣に迷った。


が、それを決める前にこれだけは確かめておこうと口を開く。



「……アレク」



「うん? 何、感動しちゃった?」



アレックスの混ぜっ返すような発言は無視することにする。
一旦思考を切り替え、シルヴィアは彼に疑いの目を向けて。



「ぼくの杞憂だと良いんだが……この話、偶然にしては出来すぎていないか?」



黙ったままにこりとする悪魔の笑み。

シルヴィアは自分の考えが正しかったことを確信した。


アレックスは今回の事件の流れのことをあらかじめ全部分かっていて、サミュエルの動きもリリスの決断も、全て最初から知っていて。
それでも敢えて手を出さず、自分の“利益”の為に事態を傍観していたのだ。

事前にシルヴィアに知らせていたなら、このような大事に発展する前に回避できたにもかかわらず。



「だから、ごめん、って言ったでしょう? 自分の欲の為に、シィに痛い思いさせたんだから」



……確かに負傷の点で見れば、今回の一番の被害者はシルヴィアだ。

シルヴィアはわなわなと震えた。



「優秀な指揮官のお陰で奇跡の犠牲者ゼロ。シィも復讐の機会を得られたし、あいつはこれで、地獄行きが決定されたし。何より、これが一番面白くて、最も盛り上がる展開だろう?」



「こ、の悪魔……っ! ミレーユたちに土下座して詫びてこい!」



やはり怒るべきだ。

シルヴィアはようやく決断すると、迷わず傍にあった枕を悪びれない眷属に叩きつけた。

299ピーチ:2013/07/19(金) 03:14:28 HOST:em114-51-161-122.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

この際方向性は気にしない!←

気のせいだよ主役はちゃんと居るから!((

300心愛:2013/07/20(土) 21:33:06 HOST:proxyag054.docomo.ne.jp





とん、と窓枠を踏む小さな物音が、客人の訪れを知らせる。
月影の下、夜風に煽られ輝くストロベリーブロンド。



「おや。いと畏きエルゼリアの姫君が、こんな時間に何の御用ですか? 女性から夜這いとは大胆ですね」



「それ以上頭の悪いことを仰ると殴りますわよ」



冷ややかなワインレッドの視線をくれるリリスを見て、アレックスは軽やかに笑った。

自身の城を抜け、ファローズ王宮までお忍びで来たらしい。
あのときとほぼ真逆の状況だ。


リリスは我が物顔で当然のように部屋へ上がり込み、アレックスと向き合った。
面白いことを好むアレックスは疑問を呈することなく、流れに身を任せることにする。



「……お怪我は治ったようですわね」



小さく呟いたきり、ふっと黙り込む。
こちらを見透かすような静かな眼差しにも臆することなく、アレックスは笑みを返した。



「夜遅くに申し訳ありませんわね。貴方に、是非とも言っておきたいことがありまして」



「俺に、ですか?」



彼女の心を読み取ることはできなくはないけれど、敢えてスリルを楽しむ為にアレックスは自然体のままでいることにする。



―――さあ、どう来る。



リリスは唇で弧を描いた。
挑むような目つき、表情。
そして甘い毒を含んだ、嫌みたっぷりの猫なで声を発する。





「―――良かったですわね、長年の片想いが叶って。それで、今のは何人目の“シルヴィア様”なのです?」





動揺は一瞬。
高速で巡る思考を経て、そしてだんだんと、胸の奥から歓喜のようなものがせり上がってきた。

……面白い。

しかし決して顔には出さない。にこやかな笑顔を保ちながら、黙って続きを促す。



「お怒り心頭のシルヴィア様から、色々とお聞きしましたの」



―――何が『俺が望んだこと』ですか、白々しい。

腕を組むリリスはアレックスを糾弾するかのようだった。



「へぇ……驚きましたね。話を聞いただけで、そこまで?」



「正確には違いますわね。お話だけではありませんから」



小首を傾げ、愛らしくにっこりとする。




「わたくしに貴方の心は読めなくても、貴方に関するシルヴィア様の記憶を視させて戴くことは容易ですわ。お陰で全部繋がりました」




全部、とは。
最初の発言から鑑みるに、この騒動の件だけでなくシルヴィアと出逢った時点の過去にまで遡って、彼女の記憶を“視た”ということ。


逆に言えば、それ以前のアレックスについては分かるはずがないのだから、後は完全に彼女の推理だと言って良い。



「覗き見ですか?」



「ミレーユのようなことを仰いますのね。無論、本人の許可のもとです」



くすくす笑うリリス。



「ご安心を。シルヴィア様には適当に誤魔化しておきましたから、貴方の重すぎる愛情については言っていません」



「………」



「『愛する者が死んでいくのを、何度も見てきた』―――何度生まれ変わってもたった一人の存在を愛し続けるなんて素敵ですけれど、思いに任せて事に及ばなくて正解でしたわね。ファローズの王位継承者が、危うく地獄に連れ去られるところだったのですから」



「……この数億年余りの間に、俺はすっかり、綺麗で純粋すぎるシィの魂に惚れ込んでしまいましたからね。色々と限界だったんですよ」



アレックスをやり込められることが嬉しくてたまらないらしい。
仕返しですわ、とウインクを決めてみせる。


アレックスは降参の意を示して肩を竦めた。



「まさか、魔族の身で転生のことまで知っているとは」



「わたくしの知識量を甘く見ないで下さる? どんな時でも、努力は怠らない主義ですの」



常にその気概を以て、冥界を纏め上げているのだろう。
改めて、好い君主だ、と思う。



「……とは言っても、肝心のシルヴィア様はお気づきになっていないようですがね。最低限の条件は揃いましたけれど、あのシルヴィア様が相手では報われるかどうか」



「はは。姫君こそ、不毛な片恋は諦めてしかるべき相手を見繕うお年では? ……ああ、そういえばユリアス様も適齢期でいらっしゃいますね」



「余計なお世話ですわよ性悪男」



月下、若き女王と悪魔は笑顔で毒の応酬を交わしていた。

301ピーチ:2013/07/20(土) 23:10:32 HOST:em114-51-159-112.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

怖いよリリス姫ぇー!? いや殴っちゃ駄目だって可哀そうだよ!

毒の応酬って、しかも笑顔でって!

……何だかふたりとも怖いと思うのはあたしだけですかね?←

302心愛:2013/07/21(日) 09:32:32 HOST:proxyag024.docomo.ne.jp
>>ピーチ





二人とも頭脳派だから衝突しちゃうんだよw
お互い賢いから、口だけで大事にはしないけどね!


複雑な上にここあの書き方に問題があるからごちゃごちゃしてるんだけど…
アレクの事情、わ、分かった…か、な?



太古の昔、アレクがシィに惚れる
→シィが転生を繰り返す(人間だったり魔族だったりするシィが死んでいくのを、そのたびに歯がゆく思いながら見てた)
→ファローズの姫として生まれ変わったシィがアレクを召喚して契約成立(初対面みたいに振る舞ってたけど、シィが家族甦らせようとしたら代償と称して攫ってやろうと思ってた)
→サミュエルにやられてシィが一回死んだけど、アレクが不死を捨てて生き返らせる(狙ってた)
→これで先立たれずに、シィと一緒に生きられるよ良かったね



っていうw
まあとりあえずアレクはずっと昔からシィが好きで、傍にいる為なら周りもシィ本人も利用して、自分の命だって犠牲にしちゃうよ、って奴だったってことで!

アレクの誤魔化しと本人の鈍さの所為でシィは微塵も気づいてないけどな!

303たっくん:2013/07/21(日) 10:56:21 HOST:zaq31fa59cb.zaq.ne.jp
昨日まこちゃんとお話してました。
ちなみに、まこちゃんというのは私の愛人(彼女)の名です。
御紹介が遅れて申し訳御座いませんピーチさん

304たっくん:2013/07/21(日) 10:57:05 HOST:zaq31fa59cb.zaq.ne.jp
当スレは私の知り合いを
ピーチさんに紹介するスレで御座います。

305ピーチ:2013/07/21(日) 18:38:10 HOST:em49-252-192-63.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

その衝突で火花が散ったように思えたんですが!?

アレックス一途すぎる! やっぱ不死ってそういう意味では羨ましい!

攫ってくつもりだったのかアレックス……←

306心愛:2013/07/21(日) 20:35:30 HOST:proxyag068.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うーん、ここあはどんなにつらいことがあっても死ねないって嫌だなあとか思っちゃうんだよね。焼かれても埋められても死ねないとか…

アレクも好きな相手が死ぬのを見るのが耐えられなってこういうことになっちゃったし! 寿命あっても、大切な人と最期まで一緒にいられるのが一番幸せだと思うのよね!

…でも不老ならいいな←(ぇ


リリスも割と寛容な方だよ、アレクのせいでかなーり危ない橋渡ったのに、腹いせに弄るだけなんだからw



あと二回、全員でわいわいして完結になります! ここまで本当にありがとう!
……邪気眼少女……番外編込みで終わるか……?(絶望の顔)

307ピーチ:2013/07/22(月) 05:25:46 HOST:em1-114-73-120.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

焼かれてもまたすぐ再生するってことなんだよね…確かにそれは可哀そう

確かに! ……不老は羨ましいけど←

腹いせに弄るだけって寛容な方の部類に入るの!?

空牙くんミレーユちゃん始めとする皆様方ー! 寂しいよー!

308心愛:2013/07/23(火) 16:18:44 HOST:proxyag098.docomo.ne.jp
>>ピーチ

痛いのつらいのやだけど不老なら大歓迎w


ありがとう!
今までで、空牙もミレーユも一回り成長したんじゃないかなw


次で本当に最後になります、二人の結末を見届けてやってください(`・ω・´)

309心愛:2013/07/23(火) 16:23:36 HOST:proxyag098.docomo.ne.jp






「空牙! ミレーユ!」



エルゼリア王宮の門前。
満面の笑顔で駆け寄ってくるシルヴィアを、空牙たちは驚いて出迎えた。



「シィ! だ、大丈夫なのかよ、そんな走って」



「うん、もうすっかりいつも通りだよ!」



ほらほら、と軽快なステップでくるりと回ってみせる。

確かに『こちら』の人格がでているのだから、ある程度余裕がある状態なのだろう。
リリスから無事だと聞いていたけれど、改めて良かったと胸を撫で下ろす。



「……それでも、シィには一人で危ない目に遭わせた。ごめんな」



「ううんっ、ぜーんぜん大丈夫だよ! 空牙が謝ることなんかないって! ……むしろ、悪いのは全面的に……」



「シィ?」



「全くですわね」



一瞬だけリリスと共に、素知らぬ顔をしているアレックスにじとっとした目を向けたような気がしたが、シルヴィアはすぐに視線を戻すと愛らしい微笑みを美貌に浮かべた。



「ミレーユも無事で良かったね」



「……です」



ミレーユがぺこりと頭を下げる。
まだ苦手意識はあるらしいが、これでもミレーユなりの努力の現れだろう。
シルヴィアの意識が他に逸れた途端、空牙の背後にささっと隠れた。



「有難う。こうしてまたミレーユが戻って来れたのも、シィのお陰だ」



「戦ったのはぼくだけじゃないけどね。ほんのちょっとでも役に立てたなら良かったよ……あれ、綺紗は?」



「綺紗ならさっき挨拶しに来て帰った。色々ミレーユの世話焼いてったんだけど……すれ違いだったみたいだな」



「そっか、それは残念」



そのとき、ぱたぱたと忙しない足音が聞こえ、空牙たちがそちらを見る。
此処まで走ってきたのか、肩を上下させているユリアスだ。



「ま、間に合った……!」



「ユリアス様」



一息つくと、にっこり笑う。



「良かった。まだ出発してなかったんだね」



「わざわざ来てくれたのか」



申し訳ないような嬉しいような、と空牙もつられて苦笑した。



「これは、ユリアス様。結界の方はもうよろしいのですか?」



「あ、アレックスくんっ?」



アレックスに声を掛けられるなり、ユリアスはぱっと嬉しそうに表情を輝かせた。



「うん、さっき兄と交代してきたから」



「それは御苦労様です」



尊敬、いや、憧れのようなものを滲ませ、キラキラした眼差しでアレックスを見上げるユリアス。



「アレックスくんこそ、やっぱりシルヴィア姫を助けてくれたんだよね! 凄いよ!」



「いえ。大したことではありませんよ」



ぽかんとする空牙に、リリスが呆れたように声を潜めて。



「……何故か、ユリアス様はアレのことを酷く気に入っていらっしゃるのです。穢れなき心の持ち主は、真逆のものを魅力的に感じるのでしょうか」



「魔族と悪魔と言うより、天使と悪魔だな。……悪い影響を受けなければ良いが」



がらりと口調を変えて、シルヴィア。

確かに清らかな金髪の貴公子には、ダークエルフよりも天界の住人の肩書きの方がしっくりくるような気がする。
対して優しげな、また見ようによっては裏のありそうな微笑を湛えるアレックスは翼の色も相俟ってなんとも悪魔らしい。
……それにしても酷い言われようだが。


と、空牙は不意にある疑問に思い当たって首を捻った。



「……あれ? そういえば、アレックスさんがいれば大丈夫、みたいなことユリアスが言ってたけど、本当に何かして」



「深く突っ込まない方が身の為ですわよ?」



「は、はあ」



リリスの笑顔とシルヴィアの無言の圧力に押され、空牙は素直に黙った。




「―――……それより、空牙」




リリスのその一言で、全員の顔が空牙へ向けられる。



「本当に、行くのですね?」



「はい。……俺たちはこれからも、旅を続けようと思います」



ぴくりと身動ぎしたミレーユに『大丈夫だ』と伝え、空牙は背筋を伸ばした。

310心愛:2013/07/23(火) 16:25:56 HOST:proxy10003.docomo.ne.jp







「覚醒したとはいえ異能もないようなものだし、コントロールも利かない。ミレーユのことだって、色々不安はあります」



そして、飾らない笑顔を見せる。




「―――でも、やれるだけやってみようと思うんです。こいつと二人で戦って、助け合って生きていくのが、俺にとっては一番大切なことだから」




戦闘特化型の機械人形(マシンドール)、それが今のミレーユにとっての存在意義。
欠陥はあれどそれを含めて受け入れてくれると言う空牙の言葉に、照れたミレーユはもじもじと爪先を動かした。



「うん。空牙くんにとってもミレーユさんにとっても、それが一番良いと思う」



「ぼくたちも、もしまた何かあったら喜んで助けるよ。いつでも頼ってくれていいからね」



「……有難う、二人とも」



じーんと感じ入る空牙。
リリスが微笑んで、皆の意を纏めるように口を開く。



「安心なさい、空牙。貴方は才能より、もっと大事なものを持っているのですから」



不思議そうに瞬いた空牙に、リリスはふふっと小さく笑う。




「お人好しであること。貴方ほど、打算抜きで機械人形の―――ひとの為に親身に、真剣に、身を投げ出せる者をわたくしは知らない」



空牙たちを囲む全員が、優しく微笑んでいる。
二人にとって、新たな意味を持つ旅立ちを祝福するかのように。



「その気持ちは誇るべきもの。いつかきっと、かけがえのない財産となります」



リリスはそこで空牙へと一歩近づき、ミレーユと視線を合わせると。



「貴方たちなら、大丈夫。……本当に、良いパートナーを持ちましたわね、ミレーユ」



「……ふん。言われるまでもないです」



ミレーユは頬を染め、ふいとそっぽを向きつつも。



「どうも、この件では世話になりましたですね端た女。礼を言ってやるです」




「有難く受け取っておきますわ。あと、あまり空牙を振り回さないようにね」



リリスの対応も慣れたものだ。
最後ににっこりとすると、二人からすっと離れる。



「それでは。いつでも帰っていらっしゃい、わたくしは此処で待っていますからね」




「が、頑張ってね!」



「お気をつけて」



「またねー! 次会ったら、今度こそぼくと力比べしよっ!」



「の、望むとこ―――」



「それは勘弁して!」



彼らに見送られ、手を振ると空牙とミレーユは前へと進み出した。



「色々大変だったけど、あのひとたちと逢えて良かったよな」



「……ですね」



そしてしばらく歩いた後、ミレーユが何度も話しかけようとして口を開いたり閉じたりを繰り返した末に、やっとのことで小声で尋ねた。



「あの、それで……一緒に生きる、ってことは、空牙は、み、ミレーユを、大切に思ってる……ん、ですよね?」



「ああ。勿論、凄く大切だ」



「そ、それは、どういう意味で……」



緊張に所々突っかかりながらもなんとか言い終え、僅かな期待を込めて隣の少年を見る。



「うん? どういうって、大切な相棒だからに決まってるだろ?」



「………そうですか………」



やっぱりです、と肩を落とすミレーユ。
きょとんとしていた空牙は、可笑しそうに笑うと沈み込む彼女の背中をぽんぽんと叩いた。




「良く分かんないけどさ……そんな暗くなんなよ、ミレーユ。可愛い顔が台無しだぜ?」




「だ、誰がかわ………………え?」



不意打ちの一撃に、ミレーユの肌がぶわわっと赤らむ。

相棒の明らかな異変には気づかず、それに、と空牙は首を傾げて。




「ミレーユが笑ってた方が、俺も嬉しいような気がするんだよな。……何でだろ」




「………こ、この天然! ドニブ! 無自覚たらし! ふざけんなです!」




「何で蹴るのっ!? 妙なエラーでも起こしたか!?」




「虫ケラ! タコスケ! 腐れ犬! 空牙なんか、空牙なんかっ、とっとと行き倒れて鳥に啄まれて菌や虫に分解されて土に還りやがれですーっ!」




「え、今度は魔法っ!? 三途の川にプチ旅行は遠慮させてくれ!」




―――人形遣いと機械人形の賑やかな、いや、やや賑やかすぎる叫び声が、今日も遥かな空へと響き渡る。

311心愛:2013/07/23(火) 17:02:56 HOST:proxyag042.docomo.ne.jp


*あとがき的な何か



一日二桁時間勉強って…つらいよね…(´・ω・`)
えー、それはともかく。ソラの波紋、ようやく完結致しました! いやー長かったね! 短めに抑えるとか言ってたのどこのバカだろうね! ここあだけど!


そんなこんなであんまり時間も余裕もないんで、ちょっとだけ喋って終わろうと思います。


で、ソラの波紋は人形遣いと人形の魔法バトル書きたいなーと思ったここあが、中二心と遊び心のままに書きなぐったお話でございます。ぶっちゃけ最後のバトル書きたかっただけですえへ。

あと異能とかのルビは全部超にわか知識のドイツ語を無理矢理当てはめた。

フォル・モーント(リリス)…満月
シュテルン(ユリアス)…星
トレーネ(ユリアス)…涙
ローゼン・クランツ(シルヴィア)…薔薇の十字架。まんまだな!
フリューゲル・ヴェルト(アレックス)…翼の世界
レーツェル(綺紗)…謎
シュピーゲル・シュロス(サミュエル)…鏡の城

って感じです。すごいテキトーなんで使っちゃダメ絶対。
空牙とミレーユの異能&魔法は、異端アピールってことであえてカタカナつけてないんですよー。


邪気眼少女と微妙にリンクさせるため、あと設定だけ作って放置してた話からシィとアレク、リリスとユリアスを引っ張り出すために書いたいわばおまけ的な話だったんですけど、こうして終わってみるとやっぱり愛着はわいてしまうもので。これで空牙たちとお別れなのか…と思うとちょっと寂しいです(つд`)

でも、紫の歌のときも思ったけど、放っておいてもみんな、何だかんだでうまくやっていくんじゃないかな。
空牙とミレーユも、シィとアレクも恋愛的には全く進展してないんだけどそれなりにわいわい楽しくやってそうだし。
空牙たちは相棒カップル(?)のジルとユーリエみたいになればいいと思うよ!
空牙とられちゃったリリスがユリアスに励まされて微妙にいい感じになったり、それをアレクにからかわれてリリスがぷっつんしたり。
ふらっと立ち寄る空牙とミレーユを、綺紗がリリスと一緒にお城で待ち伏せしたり…うわあん短編できそうな勢いだよー!(>_<。)
でも書かない! 妄想だけ!


だってまだ邪気眼少女が残ってるんです。ええ。どうしようね。終わる気がしないよね。
忙しい身の上なんで、夏で小説終わりにする! と宣言しているここあですが、どうしてもだったら美空と昴の話はカットするか…と泣く泣く考えております。
でも、いくら短く圧縮してもやりたいな。これだけ引っ張ったし…


とか何とかつぶやいていても仕方ないのでそろそろ。


紫の歌に引き続きコラボもやってもらって、ソラの波紋は本当に幸せな作品でした! ピーチありがとう! 愛してる!(ぇ
話としては終わってしまいましたが、まだまだ空牙たちの旅は続きます。
本当に今までありがとうございました!

ではまた、邪気眼少女でお会いしましょう!

312ピーチ:2013/07/24(水) 07:14:56 HOST:em114-51-134-142.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

終わっちゃったよ……とうとう終わっちゃったよー……←

読者としては長い方が嬉しいんだよ! 終わっちゃったのは寂しいな…

紫の歌に引き続きコラボやらせてもらったあたしの方が幸せだよ! あたしだって愛してるもん!

空牙くんもシルヴィア様も早く気持ちに気付いてあげればいいのにね! アレックスはポーカーフェイスだからだけど!

邪気眼少女も待ってます!

313心愛:2013/07/25(木) 16:27:33 HOST:proxy10015.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ありがとううう…!

そう言ってもらえると、本当に今まで書いてきて良かったなって思うよ…!
ここあは幸せだー!

アレクはポーカーフェイスなぶん損しそうですが頑張ってもらおうw



邪気眼少女は、ここに来て大忙しで伏線回収しまくります! 新しい人出てくるし!
あともうちょい(だと思いたい)お付き合いくださいませ(`・ω・´)

314たっくん:2013/07/25(木) 18:49:23 HOST:zaq31fa59cb.zaq.ne.jp
↑貴方も頭悪いです。

315ピーチ:2013/07/25(木) 18:56:24 HOST:em1-114-139-120.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ここにゃんがずっと書いてきてくれてよかったよ! だってそのお陰で神文読めたんだもん!

ポーカーフェイスってカッコいいなーって思ったことあるけどそういう面では損しちゃうよねやっぱり←

あともうちょいかー……永遠に続いてほしい((こら

316心愛:2013/07/26(金) 16:52:06 HOST:proxyag113.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うううう(TOT)
こんな駄作をずっと読んできてくれて本当にありがとう……!


ここあも永遠にやってたいとこだけど、ずるずる書いてたら決意が鈍るんで…
スッキリ終われるように頑張るよ!

317ピーチ:2013/07/26(金) 22:38:46 HOST:em114-51-65-67.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

こんな神文を読ませてくれたここにゃんに感謝感激だよ!

スッキリ終わって欲しくないのもあるけど仕方ないよね!←開き直り

頑張ろーねお互い!((

318名無しさん:2013/09/29(日) 15:14:19 HOST:wb78proxy07.ezweb.ne.jp
あげい

319ピーチ:2013/10/30(水) 00:40:01 HOST:zaq31fa4964.zaq.ne.jp
あたしピーチだよ〜(*^_^*)
鉄拳はじめたんだけど、みんなやろ〜よ〜♪



         【様子見】
レバーを←に入れ常にガードしておく。相手の出方をうかがう行動。
ガードしてる間は攻撃できない状態なので、攻め込まれるというリスクがありますが
相手の技が空振った際に反撃できるという利点があります。
開幕時は必然的に後ろダッシュをする事が多くなる(^−^)

注)様子見は基本的に壁際がないステージ有効!
壁際で様子見やガードばかりしていると気がついたら画面端に追い込まれていて抜け出せなくなっていた!
なんて事になりかねません。その場合いは横移動などで対処して下さい。

          【けん制技】

向かってくる相手に対して、けん制技を繰り出しヒットされる
右アッパーなどの比較的スキの小さい浮かせ技等を繰り出すという選択肢。
ガードされても大きな反撃を受ける心配は多分ないと思います(確証はもてませんが)
技を置く・・と表現される行為です。



          【暴れ】

相手の攻撃をどう対処していいのか分からなくなって困った場合いは、
暴れという選択肢もあります。発生の遅い技に対して、発生の早い技で対処します。
相手が技と同格もしくはそれ以上に発生の早い技を繰り出し、先にヒットさせるという選択肢です。

     
           【当て身投げ】

こちらは、ここぞ、という時に使用します。
通常は打撃技で攻めますが、たまには当て身投げを使ってみるのも良いかもしれません。
当て身投げというのは、いわゆる返し技です。相手の技をいなす、相手の力を利用する、跳ね返す、みたいな技です。
この技が成立すると相手の打撃技ダメージを無効にした上に、投げ飛ばす事ができるのでお得です。
ただし、失敗すると空振りモーションが発生し大きなスキを与えるので反撃されてしまいます。

注)当て身で返せるのは基本的に、立ち技のみ
一部の技、しゃがみ技、遠距離技等は跳ね返せない場合が御座いますので予めご了承下さいませ。



        【確定反撃】

確定反撃というのは、相手がガード不能の硬直中に技をヒットさせる事です。
ガード後、自分側が有利な状況になる技の中には、その後に即座に技を繰り出す事で
相手の無防備状態に反撃を決められるものが存在します。
浮かし技や下段技の多くはガードしてしまえば確定反撃のチャンスが訪れるでしょう。


           【対戦中の選択肢】

細かく分けると・・『様子見』 『立ち技』 『下段技』 『中段技』 『上段技』『しゃがみステータス技』 『ジャンプステータス技』 『投げ』 『当て身投げ』 『上段ガード』 『下段ガード』 『ジャンプ』

大きく分けると・・・『通常技の攻め』 『様子見』 『ガード』 『投げ』 『返し技』 『けん制技』

↑選択肢は数多く御座いますが、正解は存在しません。相手のクセを読み取ってそれに勝つ選択をするのみです。

320たっくん:2013/11/01(金) 01:37:26 HOST:zaq31fa4964.zaq.ne.jp
>>371
ピーチさん最近スレッド立て過ぎですよ
いくら鉄拳好きだからってあれは頂けない

これからスレッド立てる時は、一つにして下さい。

321たっくん:2013/11/05(火) 12:07:44 HOST:zaq31fa5299.zaq.ne.jp
おいっピーチ
早く酒買ってこいや
お前のこづかいでな

322レトロマニア:2013/11/09(土) 16:06:10 HOST:zaq31fa4826.zaq.ne.jp
貴方に一つ忠告しておきます。
この世の中にね〜無駄なんて言葉は存在しないのですよ。
もしあるとしたらそれは、ピーチさんと千春さん、その他の女性の雑談文くらいかな・・あれ以上の駄作は無いでしょう。


扇子、茶碗、陶器、全ての物に生命が宿っているのだという事をまず理解してもらいたい。


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