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ソラの波紋

1心愛:2012/09/16(日) 15:52:23 HOST:proxy10006.docomo.ne.jp



こんにちは、または初めまして。
心愛(ここあ)と申します。

拙くて見るに耐えない駄文ですが精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。
感想等戴ければ泣いて喜びます。
ですが、ここあは非常に小心者です。一つの批判にもガクブルしてしまうと思われます。
なので、厳しい御言葉はできるだけオブラートに包んで戴けると嬉しいです(>_<)

また、ここあが不要と判断した書き込みは、誠に勝手ながら反応しないことがあります。申し訳ありません。

内容は完全にファンタジーで、他のスレのこともありますのであまり長引かせないように心掛けるつもりです。





【心愛(元 月波)の過去作品】



『紫の乙女と幸福の歌』

『紫の乙女と愛の花束』



【関連作品】



『紫の歌×鈴扇霊』(上記作品のピーチとのコラボ)

『パープルストリーム・ファンタジア 幸運の紫水晶と56人の聖闘士』(同じく彗斗さんとのコラボ)

2心愛:2012/09/16(日) 15:54:58 HOST:proxy10052.docomo.ne.jp





「ミレーユ!」



「……分かってますです」



淡い燐光を発する翠(みどり)色の髪がふわりと広がり、金の瞳が獲物を捕らえて爛々と輝く。
とん。と乾いた地を蹴り、美貌の少女が蒼穹に舞い上がる。



「……空牙(クウガ)の第一人形(ドール)、ミレーユ。……覚悟するです」



無表情を貫く少女―――ミレーユは空中で小さな手のひらを唸る魔獣に向け、淡々と呟く。



「幻舞―――《胡蝶》」



後方に立つ少年、空牙から送られた魔力を練り上げ、彼女が生み出したのは虹色に輝く蝶々の大群。



「行くです」



抑揚のないミレーユの掛け声に呼応して、無数の蝶が光の帯を描きながら獣へと突進。
渦のように獣の周りを高速で回る。



【ガァアアアアアア!!】



魔獣は耳をつんざく大音量で吼え、視界を埋め尽くす蝶を振り払い、ミレーユと空牙に向けて声に込めた呪いを放った。



「させないのです。……《白銀の盾》」



複雑な魔法陣で構成された障壁が、具現化した呪詛を跳ね飛ばす。



「……空牙。今の間で構築は完了しましたが、展開するのに現時点の倍の魔力が必要となります。あと数秒持たせて下さいです」



「ったく……簡単に言ってくれんじゃねーよ……!」



顎まで伝う汗を拭いながら、空牙が笑う。



人形の所有者(マスター)、《人形遣い》の負担は大きい。
戦闘時はひっきりなしに人形に魔力を吸い上げられるので、断続的に疲労感に襲われることになり、気力と体力の磨耗が激しいのだ。



「その程度でくたばってどうするのですウジ虫野郎。男ならもっと気ィ張れや、です」



「今日も絶好調だなお前!」



ひらりひらりと身をこなして攻撃を回避するミレーユに罵倒され、少し涙が出そうになりながらも空牙はぐっと耐えて。



徐に目を瞑って空へと左手を翳し、薬指に嵌った指輪に軽く口づける。



「導きを…………《偽りの空を歌う星》」



そう呟いた途端。
空牙の足元に金色の魔法陣が生まれ、同時に彼の身体からは膨大な妖気が膨れ上がり、弾けた。
眩い白に輝くそれは瞬く間に空牙に纏わりつく。



「ははっ。せいぜい愉(たの)しく踊ってくれ―――俺の操り人形(マリオネット)とね」



血の気を失った顔で、しかし勝利を確信した空牙は紅い双眸を鋭く細め、暴れる魔獣に太々しくにやりと笑ってみせる。



「キモいから決め顔しないで下さいです」



「何その言われよう!?」



ミレーユは空牙の非難になど耳も貸さず、涼しい顔で滑空して魔獣から距離を取り、



「―――……展開」



キラキラと光る微細な粒子が少女の背に集まり、二対から成る虹色の翼を形作った。



「……これでも喰らえです」



ミレーユは上空で一度羽根を閉じ、身体に捻りを加えて宙返りする。

蹴りの体勢を取ると、煌めく鱗粉を撒き散らしながら蝶の羽根を大きく広げ、




「―――《闇を打ち砕く光》ッ!」




蒼天から稲妻のように、地上の魔物へと虹色の閃光が迸(ほとばし)った。

3心愛:2012/09/16(日) 15:58:27 HOST:proxy10036.docomo.ne.jp



「金がない……」


とあるカフェテラスに、情けない空牙(クウガ)の声が響く。


「当たり前なのです。報酬もないのにハンターなんかやってる馬鹿はただの間抜け野郎です。無駄な苦労にも程がありますです」


「仕方ねーだろ誰かさんの口と態度が悪すぎる所為で貴重な依頼もすぐに断られちまうんだから!」


対面に座る澄まし顔のミレーユに突っかかる空牙。


「……ミレーユはいつも本当のことを言っているまでです。すぐにキレる雇い主なんて此方から願い下げなのです」


「その調子だからいつまでたってもまともな依頼が来ねーんだよ!?」


叫び、空牙はぐいっと半ばヤケ気味にカップの紅茶を煽る。


後ろで一つに束ねた長く真っ白な髪、血のように紅(あか)い瞳に鋭く整った顔立ち。
ぴったりとした純白のコートは、彼のスタイルの良さをさらに際立たせる。
黙っていれば空牙はクールな美形に見えなくもなく、他の女性客が頬を染めてちらちらと彼を見ているのを察知したミレーユは、むっとして彼女らを睨みつけた。


空牙もそうだが、此方を心配そうに伺いながらテーブルを拭く若い男性店員から、ミレーユに気づいてサッと目を逸らしたご婦人方まで、彼ら全ての瞳は―――「紅い」。


紅い瞳は、魔力持ち―――“魔族”の証。


順に、天国、天界、人間界、冥界、煉獄、魔界、地獄。


天国を守る天使が住まうのが天界。
地獄を統べる悪魔が住まう場所が、魔界。
そして、煉獄を管理する為に生み出された魔族が暮らしているのが此処―――冥界という世界。


冥界には“マナ”と呼ばれる物質が満ちており、魔族はそのマナを体内に取り込み、自分の魔力に変換することができる。
魔力を消費することで、生まれ持った異能を行使することが可能になるのだ。


「……ふん。人形を介さないと異能も使えない能無しに言われたくないのです。ミレーユは第一人形(ドール)と名乗ってはいますが第二人形はいませんし、そもそもミレーユ一体で手一杯なのは空牙なのです」


「うぐ……だってお前は『特殊』だし仕方ねーじゃんか……」


「言い訳するなですゴミクズ」


ケッ、と今にも吐き出しそうな、明らかに主である空牙を見下した目つき。


「空牙ひとりでは魔獣一匹も狩れないのですから。ミレーユは仕方なく付き合ってあげてるだけなのです。忘れるなです」


「へいへい」


魔獣とは、煉獄から抜け出した獣が冥界のマナを取り込むことで凶暴化したものを指す。
煉獄と冥界の間には結界が張られているが、それも絶対的なものではなく、時折前世で残虐な行いをした獣や、稀に罪を犯した元人間や魔族の《咎人(アウフルーフ)》が結界の綻びを通じ煉獄から脱走することがある。
空牙はミレーユの力を借りて、それらを討伐するのを生業としているのだ。


「……本当に、空牙はミレーユがいないと駄目なんですから……。あの依頼主の女も、空牙のことを狙って色目を使ってたのに全然気づかないなんて、どうかしてますです……」


「あ? なんか言ったか?」


「まだボケるのには早いのです。一生口を開くなですエキノコックス風情が」


「今度は寄生虫呼ばわりかよ!?」


完全に涙目の空牙をあしらうミレーユは、ふんっとまた鼻を鳴らす。

4ピーチ:2012/09/16(日) 16:52:49 HOST:nptka104.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

み、ミレーユちゃん…凄い毒舌w←多分天音に負けないw

空牙君って何かヒースに似てるw

敬語少女w

5心愛:2012/09/16(日) 17:17:04 HOST:proxy10066.docomo.ne.jp
>>ピーチ

敬語+毒舌+美少女=最強☆

ちょっとオスヴァルトの面影があるけど、ミレーユははきはきってよりはぽそぽそ言う感じ。

天音ちゃんに負けないか! 最高のほめ言葉をありがとう!


やっぱり苦労する役はどうしてもヒース寄りに…(笑)
空牙は結構打たれ弱いし戦えないけどね!



魔法バトル万歳!

6心愛:2012/09/16(日) 17:20:22 HOST:proxy10065.docomo.ne.jp





背中に流れる神秘的な光沢を放つ淡い翠(みどり)の髪。
金の瞳は見る者を魅せる魔石の如く何処までも透き通り、毛穴ひとつないなめらかな肌や硝子を削り出したようにシャープな顎のライン、ストローをくわえる柔らかそうな唇、全てが人間よりもよほど人間らしい美しさに溢れている。
胸元や腹の部分がかなり大胆にカットされた衣装によって眩しい白に輝く薄い肩や綺麗な縦型のへそが露わになっており、たっぷりフリルが付いた短いスカートからはスラリとした細い脚が伸びていた。
花と見紛う可憐な容姿を持つ彼女、ミレーユは操者たる空牙からの魔力供給を受けて活動する等身大少女型人形。
……たとえ自らが使役する機械人形(マシンドール)とはいえ、絶世の美少女と一緒にお茶をしているという状況なのだから健全な年頃の少年としては、胸が高鳴ったり高鳴らなかったりするわけで。
空牙は少し照れたように笑う。


「はは、お前って本当見た目は可愛いよなぁ。完全無欠って感じ」


「……穢らわしい視線で犯さないで下さいです変態。吐きます。ハゲます」


「ハゲんの!? お前が!?」


「はいです。あまりのストレスに今にも毛根が滅びそうです」


―――こう口が悪くなければの話だが。


ミレーユの悪罵に俯いてぷるぷる震える空牙は、彼女の頬にうっすら差した赤みには全く気づいていない。


「う、ぐぅ……お、お前はなぁ……!?」


「ミレーユはともかくとして、もう白髪(しらが)になってますですし空牙はそろそろ本気で気にするべきです」


「白髪言うな! これは元からだ!」


「それに長髪はハゲやすいと言いますです」


「……ハハ……。髪型、イメチェンで変えよっかな……」


ふっと哀愁漂う表情を浮かべる空牙。


普段からの鉄面皮を取り戻したミレーユはそんな彼を見もせず、ちゅううう、とジュースを吸い、


「ところで空牙。疑問に思っていたことがあるのですが」


「あ?」


「さっき空牙はお金がないと言いましたですよね」


「言ったな」


じゅこー、と最後の一滴まで吸い尽くしてから、ミレーユは口を開いた。



「……このジュースと紅茶に払える程のお金は今現在皆無とミレーユは記憶していますが」



それを聞いた空牙は白い歯がキラリと煌めく爽やかな笑顔を作るや、スッと椅子から立ち上がって。



「よっしゃ逃げるぞミレーユ!」



「相変わらず根性腐ってますですねサナダ虫」



毒づきながらもミレーユは慣れた様子で、ちゃっかりケーキの皿を確保してから空牙に倣(なら)い席を立つ。



「お、お客様!? まだお支払いが済んで―――」



「ほんとすいませんいつか払いに戻りますんで!」



「ほんなことひっていふももろったことはありまへんへどね」



「お前は食うか喋るかどっちかにしろ!」



「……もぐもぐもぐもぐもぐ」



「食うんだ!?」



平然とフォークを動かしてケーキを啄みながら信じられない程の速さで疾走する人形の少女と、必死に彼女に追いすがる所有者(マスター)の少年の後ろ姿が、あっという間に地平線の彼方に消え去った。

7ピーチ:2012/09/16(日) 18:23:37 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>

ミレーユちゃん……食べるんだネ、そーなんだ←

空牙くーん!?君何歳ですかー!?

………打たれ弱いマスター=哀愁ネ。分かった。

ってゆーか、何かこっちもコラボやってみたくなってきた←スルーたのんます。

8心愛:2012/09/16(日) 19:03:00 HOST:proxyag113.docomo.ne.jp
>>ピーチ

…食べるんです。


空牙は16、7くらいかな?
サラッと食い逃げする程度には融通きく奴です。
根が真面目なヒースとはちょっと違うねw


すっごい嬉しいけど、コラボはもうちょい話進んだ方が良いかもしれないw
ちょこちょこ設定明かしてくしww

9ピーチ:2012/09/16(日) 19:48:40 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>

食べるんですネ、はい。

いや、ちょっとじゃなくて全然違うと思うよ!?

ヒースが食い逃げとかって想像できない((汗

10彗斗:2012/09/17(月) 00:29:27 HOST:opt-183-176-175-56.client.pikara.ne.jp
心愛さん>>
さ……流石…毒舌! しかも、今回のはとんでもないレベルですねww

魔法戦闘の描写技術も流石です……

……色んな意味で負けたっ!!(←何に?)

11心愛:2012/09/17(月) 11:02:19 HOST:proxyag109.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ヒースはむしろ食い逃げ犯捕まえる派だよね!



>>彗斗さん

スーパー毒舌家の女の子を書きたかったんです←

ここあにびょーしゃぎじゅつなんてありませんよ!? 皆無ですよ!?

12ピーチ:2012/09/17(月) 11:04:58 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>

あはは、確かにーww

あ、何かヒースと空牙君って似てそうで似てないww

13心愛:2012/09/17(月) 11:06:18 HOST:proxyag110.docomo.ne.jp
>>ピーチ

いじられ方はヒースとジルを足して割った感じ?

ジルだったら食い逃げもいけるいけるw

14ピーチ:2012/09/17(月) 12:15:44 HOST:nptka103.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

あー、分かる気がするw

ジルだったらよゆーだね←そしてヒースに捕まりそうww

15心愛:2012/09/17(月) 13:32:10 HOST:proxyag098.docomo.ne.jp





―――冥界は三大王家によって治められている。

まず、吸血鬼(ヴァンパイア)の一族が率いるファローズ王家。
その所有する民は人狼(ウェアウルフ)や戦乙女、死神(グリム・リーパー)などと攻撃的な種族が多いと言われており、他の領民からは非常に恐れられている。

次に、冥界政治の実権を掌握するエルゼリア王家。
エルゼリアの臣民は知力と身体能力に優れているという特徴があるが、空牙も此処の出身だ。
広大な土地を統べるのは吸精姫(サキュバス)の当主であり、空牙も彼女とは何度も謁見を通して話したことがある。

そして最後に、ミュシア王家。
原初は魔女(ヘクセン)が存在していたが、幾度となく仲間同士の諍(いさか)いを繰り返したことによって遠い昔に滅び、現在のミュシアの民は視覚と聴覚に優れたダークエルフがそのほぼ全てを占める。
……さらに、ミュシアの王族は煉獄に繋がる空間を持つ神殿の管理を任されているという噂だが、その真実は定かではない。


「で、どうしてミュシアの、しかも森に来たのです? あのいけ好かないクソ女がいるとはいえ、エルゼリアの方が街や宿は充実していますのに、敢えてこんな不便な所に来る必要はないと思いますですが」


ミレーユが言う通り、辺りは鬱蒼とした木々ばかり。
宿どころか、家一つ見当たらない深い森の中に、空牙とミレーユは佇んでいた。


「サラッと姫に暴言吐くんじゃない。……ミレーユ、ミュシアの森って言ったら何だ」


「水妖姫(ディーネ)とか人魚姫(マーメイド)とかですか?」


「なんで知識が女に偏ってるんだよ……」


「どスケベな空牙が喜びそうな答えを言ったまでです」


「ちょっと待て、俺のどこがスケベだって!?」


「とぼけても無駄です。空牙はいつもあの女に発情してみっともなく鼻の下を伸ばしているです」


「はつっ……!? ご、ごほん、それはまあ良い」


「全然良くないですエロ犬」


ミレーユのやや恨みがましい視線を、脂汗を流しながら完全スルーした空牙は、咳払いして話を続ける。


「とにかく、今お前が言った通り、ミュシアの森は、基本ダークエルフもそうだけど、平和的な魔族が多いってわけだ。当然生息する生物もそうだと言える」


「いちいち回りくどいのです。さっさと本題を言いやがれです愚鈍なウジ虫」


「人の話聞かない上にハエの幼虫呼ばわりですか!?」


すぐに彼を下等生物―――主に虫―――扱いするミレーユに空牙はしくしくと目元を押さえ。


「お前の性格って、もっとこう、何とかならないのかな……?」


「既に初期プログラムで設定されていますので不可能です」


「デスヨネー……」


大体、簡単に直せるものなら今こんなに苦労はしていない。

16心愛:2012/09/17(月) 13:33:29 HOST:proxyag078.docomo.ne.jp




「あーもうとーにーかーく! ここには大人しい動物がいっぱいいる! はいそこまではオーケーかなミレーユさん」


「空牙如きに馬鹿にされるとは屈辱の極みです」


「いちいち突っかかるなよ…………あ!」


ひゅん、と二人の前を影が横切った。
瞬く間にそれは樹海に潜り込み、見えなくなる。


「あれは……野生の鹿ですね」


「そう、鹿だな。これでもう分かっただろ?」


得意げな笑みを浮かべる空牙をミレーユは一瞥し、


「……なるほど。それではミレーユは必要ありませんね。ミレーユは此処で待っていますから思う存分楽しんで来て下さいです」


「は? 何でそうなんの?」


ミレーユは珍しく、本当に珍しく、空牙を気遣うような優しい微笑みを浮かべて。




「―――鹿をナンパしに行くのでしょう?」




「おい待て何処からその結論が出て来る」


「発情期に入った空牙は、魔族の女の子には相手にされないから仕方なく草食動物相手にそのたぎる衝動をぶつけようとして、その手始めとしてナンパを」


「しねェ――よ! 発情期じゃねーしってかどうやって口説くわけ鹿を!」


「『ヘイディアガール、すごく立派で素敵なツノだね! どうどう、一緒にお茶しなーい?』みたいな」


「俺、軽ぅッ! 鹿相手に軽ぅッ! い、いやそもそも立派なツノあんならそいつ雄だから!」


「……知りませんでした。空牙が男色趣味だったなんて……」


「そろそろ本気で泣くよ俺!? ほら、鹿っつったら肉だろうが! 別に鹿にこだわんなくて良いけど魔獣よかずっと楽だし狩れば食糧になんだろ単純に!」


「野蛮ですね」


「お前にだけは言われたくないよ!」


ぜえはあと息を荒げる空牙と対照的に、ミレーユは涼しい表情でひらりと宙に浮き上がる。



「ふん、そんなことなら最初からそう言えば良いのですノロマ。……わざわざ解放しなくても、ひと暴れするくらいなら今の魔力で十分足りそうですね」


「暴れんなよ森が荒れるだろ!? いいか、ちょこっと獲物見つけて捕まえるだけで」


「―――《天空を裂く雷(いかずち)の遊戯》」


「聞いてる!? ねえ聞いてる!?」


握り拳や靴をピリピリと帯電させるミレーユは、短いスカートを風に舞わせながら空中でくるりと回転、



「いっけえええええです!」



「行くなぁあああ―――――!?」



空牙の大絶叫と壮絶な破壊音が、静かなる森の奥に響き渡った。

17ピーチ:2012/09/17(月) 13:43:48 HOST:nptka403.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

ミレーユちゃーん!?

勝手に行っちゃだめだよー!?

18彗斗:2012/09/17(月) 18:21:57 HOST:opt-183-176-175-56.client.pikara.ne.jp
心愛さん>>
ミレーユちゃん行っちゃったww

勝手に何か魔法発動させてるしww

19心愛:2012/09/17(月) 20:37:11 HOST:proxy10041.docomo.ne.jp
>>ピーチ

たまに主従関係って言葉の意味が分かんなくなるよw

キャラの馴れ合いが多いぶん、こっちの方が書きやすいなぁ←
次あたりで新キャラ投入します!


>>彗斗さん

ミレーユは、空牙から魔力を吸い取るだけ吸い取ったらある程度自由に使えちゃうんでw




ちなみに「ディアガール」のディアはdeerとdearを掛けております(笑)

20ピーチ:2012/09/17(月) 20:52:57 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>

うん、あたしも主従関係なんて分からんよw←威張るな

いぇーい☆新キャラー!!

……ねぇ、もしかしてこれさ、あたしがこっちに載せたやつとかぶってる部分ないよね?

…あったらごめんなさい!!

21心愛:2012/09/21(金) 18:52:03 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp
>>ピーチ


新キャラは二人ですw
土日がちょっと忙しくなりそうなので、一気に今日がんばるよー!



そうなの?
でも冥界は煉獄と繋がってて、死者じゃなくて魔族が棲んでて、異能とか魔法使ったりするっていう突飛すぎる設定だから、あんまりかぶんないとは思うけど←

22心愛:2012/09/21(金) 18:54:13 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp





「……何か言いたいことは?」


「「こいつが悪いんです」」


それぞれ後ろ手に縛られて床に正座している空牙とミレーユは、お互いを睨みつけて視線でバチバチと火花を散らす。


「ミレーユは空牙の命令通り動きましたです。ミレーユは悪くないのです」


「嘘つけ、森で好き放題に暴れ回ったのも駆けつけた警備兵を叩きのめしちまったのも全部俺の話を聞かなかったお前だろうが! 俺はちょっと兎とか鹿とか猪とかを頂戴しようかとしただけで」


「……多様な精霊が宿るミュシアの《精霊の森》では、狩猟は禁止されているのだがね……」


「すいませんでした……」


ダークエルフと思われる老爺に怒りの滲む口調で諭され、空牙は素直に頭を下げる。


「干し柿みたいなツラの小煩(こうるさ)いジジイの言うことを聞く義理はミレーユにはないのです」


「あっははははどーもすいませんこいつ常識に疎いところがあって!」


空牙は引き攣った笑顔を浮かべ声を張り上げて、敵意剥き出しのミレーユの冷罵を掻き消そうと涙ぐましく尽力。


空牙とミレーユが連行されて来たのはミュシアの王宮。
森の一部を破壊した上に、無駄に抵抗して罪のない警備兵を傷つけてしまった件について、二人してこってりとお説教を食らっているところだった。


「君、その人形のお嬢さんは危険だぞ? 責任を持って管理してくれたまえ」


「肝に銘じます……」


そのやり取りを見て、ミレーユが不満げに唇を噛んで俯く。


「……ミレーユは―――」




「―――あ、あの、《精霊の森》で暴れたっていう人たちは此処かな……ってああっ!?」




そっと扉が開かれる音がし、一人の青年が姿を現した。
色素の薄い金髪を肩まで伸ばしたその貴公子は声を上げるや、慌てた様子でぱたぱたと此方に走って来る。


「ユリアス様!?」



「き、君たち大丈夫っ? もう、駄目だよこんな乱暴なことしてっ」



二人の後ろに回り、不器用そうな手つきで、一生懸命縄を解いてくれる青年。


「ユリアス様、その者たちに近寄ってはいけません!」


「でも、このままじゃ落ち着いて話もできないし……」


青ざめる老人に柳眉を下げ、ね? と頼み込むように小首を傾げてみせて見事に彼を黙らせた青年は、そのまま空牙の背中に貼られていた、彼の魔力を封じる呪符を迷いなく剥がす。


「んと……これでよし、と」


淡い紅の瞳を和やかに細め、柔らかく微笑む。
中性的に整った美貌は何処までも麗しく何処までも清らか。
キラキラ輝く光の粒子を纏っているかのような錯覚さえも覚える。


「あ、有難う御座います……」


「ううんっ、気にしないで! 怪我はない? ……ああ、やっぱり」


空牙とミレーユの手首についた微かな傷を見て、青年は痛ましげに長い金色の睫(まつげ)を伏せる。


「いや、このくらい、俺もこいつも自然治癒できますし、全然大丈夫ですよ」


「でも、あう、えと、……ちょ、ちょっと待っててね。君も」


青年が瞼を閉じ、ほっそりとした手を二人の掠り傷に翳(かざ)すと、ぽぅ……、とあたたかな輝きが生まれ、



「―――彼らに眩(まばゆ)き祝福(ひかり)を与えよ……《福音(シュテルン)》」



「「な……っ」」



空牙とミレーユが、同時に息を呑む。



傷はみるみるうちに塞がっていき、一筋の線も残さず、まるで何事もなかったかのように二人の肌から綺麗に消え去った。



「今のは、回復魔法です……!?」



「うん。ごめんね、僕なんかが生意気だよね……」



受け継がれた異能ではなく魔法を使える魔族は、魔女(ヘクセン)が亡き今、ほんの一握りの数に過ぎない魔術師(ツァウベラー)しか存在しないはず。


「まさか、魔術師……?」


この青年が?



「えええ!? ち、違……っ」




「―――もう。無知にも程がありましてよ、空牙」




ふくよかな甘い声が、面食らったように瞬(まばた)く青年の言葉を遮った。

23ピーチ:2012/09/21(金) 19:58:46 HOST:nptka402.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

ミレーユちゃーん!!主様を困らせたらだめだよー!?

…空牙君、忙しいですネ

24心愛:2012/09/21(金) 20:52:30 HOST:proxy10067.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ミレーユは空牙を困らせるのが趣味であり生きがいであり悦びだからね!

そのミレーユに突っ込みつつフォローしつつな空牙は確かに忙しいです←


ユリアスは気弱だけど、それ以外はここあキャラには超珍しく外見・中身共にまともな人だよ!

25ピーチ:2012/09/21(金) 22:02:24 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>

…………忙しすぎる身の上の空牙君に魂から同情致します。

食い逃げはどうかと思うけどね!?

ユリアス様優しそう←

26心愛:2012/09/22(土) 16:17:12 HOST:proxy10056.docomo.ne.jp
>>ピーチ

空牙はある程度融通聞く苦労性なので!

ユリアスは…うーん、癒し系になればいいなー(^_^;)

27ピーチ:2012/09/22(土) 17:15:59 HOST:nptka304.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

いやいやいやいや!!余計な融通はいらないと思うよ!?

……うん、もーちょいましなことに使おうね?

28心愛:2012/09/24(月) 21:10:20 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp
>>ピーチ

そんな空牙にも、ここあの男キャラでやたら出現しやすい「妙にやさしいとこ」もちゃんとあるから!
出すにはまだ当分かかりそうだけどねw

29ピーチ:2012/09/24(月) 22:24:40 HOST:i121-118-221-80.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>

あー、確かにここにゃんキャラは優しいのばっかだww

ユリアス様もそんな感じ?

30心愛:2012/10/15(月) 18:21:29 HOST:proxy10022.docomo.ne.jp





「その上こんな真似をして……。誉れ高きエルゼリアの名が泣きますわ」



ふわりと飛び上がって戦闘態勢を整えたミレーユが目を三角にし、現れた女性に向けて獣のようにガルルルと威嚇する。



「姫!? 何故此処にっ?」



「あら、お友達のお宅に遊びに来てはいけませんの?」



ウェーブがかったストロベリーブロンドの髪を揺らす美姫の名は、リリス=メグ=エルゼリア。
空牙が所属するエルゼリア領の若き当主だ。

ワインレッドの瞳を細め、妖艶な笑みをローズピンクの唇に乗せる。



「友達……?」



「ええ。この方はユリアス=イ=ミュシア様。現ミュシア王の弟君にあらせられる方ですわ」



くっきり甘く整った華やかな美貌と、薄布一枚で覆われた豊満な身体は吸精姫(サキュバス)という特殊な種族のものに相応しく、すべての男を問答無用で虜にさせる色香を放っている。

もっとも、ユリアスは彼女の背後でおろおろしているだけだが。



「……王弟殿下っ!? し、失礼しましたっ」



「ごっごめんなさい全然威厳とかないから分かりにくいよねっ」



「ユリアス様、そう謙遜なさらずに」



リリスはふふっと蠱惑的に笑いかける。



「ユリアス様を始め、ミュシアの王族は古き魔女(ヘクセン)の血を継いでいらっしゃるのですから。もっと自信を持って下さいな」



「なるほど、魔女の……。だから魔法が使えるんですね」



空牙は素直に驚嘆する。
なにしろ、魔女が滅びてから数千年は経つ今、魔法を使えるのは僅かな魔術師だけ。
その例外が存在したこと自体驚きだ。



「今使った《福音(シュテルン)》と、《黎明の歌(トレーネ)》だけだけどね……」



「? トレー……?」



「え、えっと」



「《黎明の歌》は結界魔法ですわ。……本当に何も知りませんのね」



おどおどするユリアスに代わり、リリスはふう、と溜め息をつく。



「ハンターを生業としているのですから、魔獣とは結界を抜け出た煉獄に棲まう獣(けだもの)が、マナによって凶暴化したもの。つまり煉獄と冥界とは結界で繋がれているということは、流石にご存知でしょう? ……これでもう分かりますわよね」



「女狐如きに見下される覚えは空牙はともかくミレーユにはありませんが、なるほど……ということは、この人が」



「え? え? ……なに納得してんだよミレーユ」



「馬鹿ですか? 阿呆ですか? 死ぬんですか? 脳みそに回虫が巣くっているとしか思えない低脳ぶりですね」



「うん、いちいち罵倒すんのやめろ?」



ミレーユは道端のゴミでも見るような冷たい視線で一通り空牙をなぶってから、面倒そうに説明してやる。



「ミュシアの王族は、《咎人(アウフルーフ)》や魔獣を閉じ込めた煉獄へと繋がる空間を持つ、神殿の管理を任されているという噂ですよね」



「そういえば何回か聞いたことあるな」



「つまり其処の……ゆ?」



「ユリアスです……」



「こほん。ユリアスさんとやらは、ミュシア王家に受け継がれた魔法を使って、」



「結界を作り出し、それを維持するというお務めを任されていらっしゃるのですわ。御家族と交代できるにしても約三日、不眠不休で。冥界が平和でいられるのはユリアス様たちの尽力のお陰なのですから、本当に頭が下がります」



それでやっと空牙にも分かった。
この華奢で、一見頼りなさそうな青年は、陰で冥界を支えている救世主にも等しい存在。

たとえほんの短い間でも、魔力を行使するには身体に相当の負担を強いるというのは、そこそこ体力がある空牙でも十分に分かっていることだ。
それなのに、何十時間も休まず、精神を集中して絶えずマナを魔力に変換し続けるとなると。



「……すみませんでした。本当に俺、全然知らなくて……」



「そんな、気にしないで! せっかく一応魔法が使えるんだからそれを生かすのは当然のことだもの。それに、僕はまだまだ至らないから、結界も完全には程遠くて……。魔獣を逃がしちゃうことも結構多いから、申し訳ない限りだよ」



大切な森を荒らした犯人の上に、冥界に生きる者としての最低限の常識も身に着けていなかった無礼者である空牙相手に、ユリアスは本気でその言葉通り申し訳なく感じているらしい。
しょぼん、として肩を落とす。

31心愛:2012/10/15(月) 18:22:35 HOST:proxy10048.docomo.ne.jp







こういうタイプにはそんなことはない、といくら否定しても無駄だろう。

空牙は少し考えて、



「でも、その『おこぼれ』がなければハンターの仕事はできないし、俺らが食っていけませんから。むしろ完璧だったら困りますよ」



「……有難う。優しいんだね」



力が抜けたようにふわりと微笑む笑顔は愛らしく、普段から礼を言われるどころかまともな扱いを受けることすらない空牙はちょっと泣きそうになった。
彼がれっきとした男なのが悔やまれる。



「……待つです女狐。ミレーユが話しているのに割り込むとはどういう了見ですか」



「あら、もしかして空牙とのお話を邪魔したから傷つけてしまった? ごめんなさいね、悪気はないのですけれど」



「栄養がその下品な胸にばかり行って頭には回っていないようですねクソ女」



……本当に、悔やまれる。



「ばっこらミレーユ! 姫相手に失礼なこと言うなよ、下手したら打ち首だぞっ!?」



「巨乳星人は黙ってろです。これはミレーユと乳牛との問題なのです」



「きょ、きょにゅ……っ!?」



「まあ。男なら大きい方が好きに決まっているでしょう? ねえ、空牙」



「当然のように同意を求めないで下さいますかねえ!? あと近いです押し付けな……っ! わ、あ、当たってますから!」



赤面して鼻を押さえる主を見るミレーユの軽蔑の目つきがそろそろ尋常ではなくなってきている。



「脂肪の塊の何が偉いと言うのですか。ミレーユには理解不能です。そんな障害物あっても邪魔なだけに決まってますです」



「うふふ。わたくしも、遺伝で元々大きかったから貧乳の虚しさは理解できませんけどね」



「……ミレーユの胸部装甲は別に小さくないです」



カチンと来たように頬を痙攣させたミレーユは、大胆に開いた胸元を押さえる。

しなやかで均整の取れた、抜群のプロポーションを持つミレーユだが、確かに『無駄のなさ』を追求した体型(ボディ)は、肉付きがあまり良いとは言えないかもしれない。



「それはどうかしら? ふふ、その程度では空牙も満足できないのではなくて?」



「何に満足しろってんですか何に!」



空牙の言葉を曲解してムキになったミレーユは、金の瞳に涙を浮かべてキッとリリスを睨みつける。



「そんなことないです! ミレーユは毎晩空牙の『お人形』として可愛がって貰っていますですしベッドの中でもきちんと御奉仕していますからっ!」



「勢いで何言っちゃってんのお前ぇ―――!?」



一気に護衛のダークエルフたちの目が路傍の変態を見るものに変わり、ユリアスは「は、はわわわわ」と顔を真っ赤にした。



「堂々と嘘をつくな! そっそりゃあ人形遣いとの距離が近い方が、魔力の供給がスムーズになって傷の修復が早まるから、一緒に寝たことは結構あるけどそれでも妙なことは全然」



「心配なくてよ、空牙。たとえ貴方が人形遊びする変態でも、わたくしは決して有能な臣民は見捨てませんわ」



「姫も普通に受け入れないで下さい!」



「このいやらしい服も空牙の趣味なのです。ミレーユを辱めて悦んでいるのです」



「た、確かに……ちょっと目のやり場に困る露出度だよね……」



「納得された!? 違いますって、これは俺の意志は関係なく単純にミレーユが動きやすいからって理由で」



「ベッドの中で?」



「無理に下ネタに繋げないで下さいます!? 貴女絶対分かっててやっているでしょう!?」



「えっと……ミレーユさん、大変だね……」



「それはもう、です。空牙の性欲は留まることを知らずミレーユはいつもがっ」



「頼むから黙ってて下さいお願いします!」



結局、ユリアスとその側近たちの誤解を完全に解くのに半刻もの時間を消費した。

32心愛:2012/10/16(火) 09:03:54 HOST:proxy10025.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ユリアスは通常モードでも優しいよ←

優しいというか気弱さが勝っちゃってますが\(^o^)/

33心愛:2012/10/16(火) 09:05:35 HOST:proxy10025.docomo.ne.jp





「……えっと、それで、どうして空牙くんとミレーユさんは、《精霊の森》を壊そうとしたのかな。……あ、怒ってるわけじゃないんだけどっ」



遠慮がちに訊いてくるユリアスによってやっとのことで本題に入り、空牙はびくっとした。

まさか、あまりのハンターとしての依頼のなさから金欠に陥り無銭飲食までしでかし、それでも食糧に困ったからわざわざこのミュシアまでやって来てミレーユを使い野生の動物を狩ろうと目論んだが肝心のミレーユが意図的に暴走した結果、神聖な森を穢してしまっただなんて、そんな情けない話を主であるリリスの前で言えるわけがない。


言えるわけが、ないのだが。



「……ふうん。あまりのハンターとしての依頼のなさから金欠に陥り無銭飲食までしでかし、それでも食糧に困ったからわざわざこのミュシアまでやって来て其処の人形を使い野生の動物を狩ろうと目論んだけれど肝心の人形が意図的に暴走した結果、神聖な森を穢してしまった、と。……本当に情けないですわね。空牙、わたくしの眷属としての自覚はおあり?」



「人の心を勝手に読まないで下さいよ!」



平然と空牙の考えたことをそのまま反芻してみせるリリスに、空牙は精一杯に噛みつく。



「それはできない相談ですわね。わたくしの《散華魔鏡(フォル・モーント)》はどんなモノの考えも知らずのうちに読み取ってしまいますから」



リリスは異能《散華魔鏡(フォル・モーント)》の所持者。
生けるもの全ての心を読み取る能力を従えた聡い彼女に、誤魔化しの類は一切通用しない。



「覗き見とは雌豚にお似合いの最悪な趣味ですね」



「そっ、そっか! 空牙くんも色々苦労してるんだね!」



喧嘩腰のミレーユの声を消すように、ユリアスが非常にわざとらしく話題を変えた。

空牙は内心彼の協力に惜しみない拍手を送りながら、ユリアスに加勢する。



「いやぁそうなんですよ。特にこいつが俺よかよっぽど食うんで、ほんと大変で」



「………?」



それを聞き、ぱちぱちとユリアスは不思議そうに瞬いた。



「ええっと……失礼だけど、ミレーユさんは人形、なんだよね」



「……そうですが」



さすがのミレーユも、邪気の全くないユリアスが相手ではいつもの毒舌ぶりを発揮しにくいらしい。
大人しくこくんと頷いた。


ユリアスは困ったように首を傾げ、



「人形って……その、ものを食べられるの?」



「そうなのです」



ユリアスのごくまっとうな問いに同調するように、リリスが頷き腕を組む。

……胸の下で腕を組むとその大きさがさらに強調されるわけで。ばっちり直視してしまった空牙は気まずくなって、サッと視線を逸らした。



「食べることも飲むことも当たり前のようにできる。それだけではなく見た目も、さらに動作も……空牙の魔力だけを頼って稼働している機械人形(マシンドール)にしては、あまりにその人形は人間に酷似しています。わたくしたちのような魔族の存在なんて知らず、冥界は死者が彷徨える場所だと頑なに信じている、可愛い人間たちにね」



肌はシルクのように瑞々しく、輝く宝石の瞳には確かな生気が灯っているミレーユ。
彼女のずば抜けた美しさは、魔族によって造られたモノであることを見る者に忘れさせてしまう。



「それだけじゃないですよ」



空牙は、急に自分の話をされて所在なさげにふよふよと浮いているミレーユを見上げて笑った。




「―――こいつは、魔法が使えるんです」




リリスは既に知っている話なので何も言わなかったが、ユリアスはぽかんと口を開いた。



「……へ?」



生まれ持った異能とはまた別の、魔法を使えるのは現在ではほんの僅かな魔術師と、
それから、魔女の血を引くミュシアの王族のみ、のはずだ。



「え、え? 人形って、魔法が使えるものなの?」



「いや、……何て言うか、『特殊』なんですよ、ミレーユは」



空牙はぽりぽりと頭を掻く。



「それも一つだけじゃない。攻撃系や防御系、幾つもの魔法を連続して展開できるんです。俺は正直キツいけどこいつはぴんぴんしてるし」

34心愛:2012/10/16(火) 15:59:51 HOST:proxyag062.docomo.ne.jp





それがどうしてなのか、空牙も、果てにはミレーユ本人でさえも分かっていない。



「……実はわたくし、魔力を解放した状態でこの人形をこっそり“視(み)た”ことがありますの」



リリスがぽつりと呟く。



「はあっ!? そ、そんなの初耳ですっ! 勝手に何をしてくれやがるですかっ」



「……で、どうだったんですか?」



好戦的に食ってかかるミレーユを抑えるように、空牙はリリスに続きを促した。



「そっか。リリス姫の本来の能力は、心を読むことじゃなくて“全てを視通(みとお)す”ことだもんね。それならミレーユさんについて、何か分かるかも」



同じく魔法を使う者として知的好奇心を刺激されたのか、ユリアスが身を乗り出す。



三人の視線に後を押され、リリスはそっと艶めく唇を開いた。




「そう、ですわね。その人形は、人間に似せて造られたと言うよりも、むしろ―――」




「むしろ……?」




言いにくそうに言葉を濁し、俯く彼女を見て、空牙は眉を潜める。
彼女のことは幼少の頃から知っているけれど、こんなリリスはあまりに―――らしくない。

吸精姫(サキュバス)の肉体と色気を駆使して、ウブな空牙をからかうことを楽しんでいて。
かと思えば、強大な魔力やその知力、異能を使うことを惜しまず、打って変わって冷静に空牙を助けてくれる―――悪戯好きで、眷属に対して遠慮は一切なくとも、その実は慈悲深い主。
それが、弱冠六つにして女王の座にまで登り詰めた天才、リリス=メグ=エルゼリアだ。



「……どうしました? リリス姫」



「ごめんなさい。このお話は……今はまだ、やめておきましょう」



ユリアスの気遣いの声を聞き、リリスは力なく頭(かぶり)を振った。
そして曖昧な微笑を浮かべる。



「貴方たちは何も知らなくても……いいえ、知らない方が幸せでいられるから。このお話はこれでお仕舞い」



「なんですかそれ! ふざけるなです!」



「ミレーユ、やめとけ。姫が無駄だと判断したことは絶対言わない」



「ヘタレてんじゃないですイトミミズ! ……っそれならせめてあの牛女をぶち殺す許可を下さい! この機会にあの目障りな乳付近を重点的にボコボコにしてへこませてやるです、さっさと魔力を寄越せです!」



「そんな物騒極まりない理由聞いて渡すわけがねーだろ!?」



ぶんぶんと腕を振り回すミレーユをたしなめる空牙のやり取りを見て、リリスは安心したようにふっと笑んだ。



「姫は俺の大切な恩人でもあるんだから。馬鹿な真似はよせってこら落ち着けちょ死ぬっ死ぬから首を締めるんじゃなっ……うぐぐぐ」



空牙の紅い双眸に優しい光を見出したミレーユは途端に殺気立ち、ギリギリと彼の首を締め上げる。


ユリアスが止めるべきか止めないべきか迷って、焦ったようにきょろきょろし、護衛たちは呆れきった表情で嘆息した。




「……それにしても、不可解ですわね」




花蜜みたいに甘ったるい声が響き、大広間にいた全員が一斉に彼女の方を向いた。

リリスは妖艶な笑みと共に、可愛らしく小首を傾げ、




「それだけの魔力を持っていながら、空牙はどうして、その人形を《強制支配》してしまいませんの?」




ミレーユが空牙から手を離した。


そのまま俯き、短いスカートの裾に付いたフリルをぎゅっと握る。



「リリス姫、そんな……ミレーユさんに失礼ですよっ」



「嫌ですわ、わたくしは素直に思ったことを話しているだけですよ?」



慌てるユリアスににっこりと笑いかけ、リリスはさらに続ける。



「空牙。昔、言いましたわよね? 貴方は人並み外れた魔力の絶対量―――言うなれば《器》を持っている。わたくしには手に取るように分かるのです。それを生かしきれてはいませんし、練り上げた魔力の精度は随分劣りますが、それでもわたくしなどの王族や、もしくは……シルヴィア様を凌(しの)ぐほどの《器》の大きさが、貴方にはある」



「……シルヴィア姫っ?」



ユリアスが刮目した。



「まさか……シルヴィア姫は、ファローズでは言うまでもなく冥界最強と謳われているほどの猛者ですよ? いくら何でもそんなことが」



「あるのですよ、ユリアス様」



空牙は喋らない。
ミレーユの隣で、黙ってリリスを見つめているだけ。

35心愛:2012/10/16(火) 16:11:26 HOST:proxy10046.docomo.ne.jp






「ただし空牙には、まるでその代償のように……どう足掻いても埋めようのない『欠陥』があるのですけれど」



「……黙るです」



ミレーユが顔を上げ、怒りに燃える瞳でリリスを睨(ね)めつけた。



「……空牙の欠点は、ミレーユが補えます。余計な口を利かないで下さいです」



「黙るのはお前ですわ、“人形”」



ストロベリーブロンドの髪が妖しげに波打ち、溢れ出した薄桃色の妖気がリリスの身体を取り巻く。



「空牙に拾われたガラクタ風情がこのわたくしに刃向かうとでも言うのかしら、分からず屋のお人形さん? ……ああ、わたくしが制裁を加えずとも、空牙さえその気になれば一時的にお前の身体の自由を奪って、制御するなんて簡単なことですわよね」



「……っ!」



リリスは言外に、自分の眷属である空牙にミレーユを《強制支配》しろと命令している。


強大な魔力によって無理矢理ミレーユの意識を乗っ取り、服従させろと言っているのだ。


いつもミレーユを自由にして、されるがままになっているけれど、優れた人形遣いである空牙にはそれができる。



でも、空牙は―――



「リリス姫っ! それ以上はっ」



「うふふ、ユリアス様はお優しい。でもね……良く覚えておきなさい、人形。本来人形とは、主の命に逆らえない、絶対服従を約束されたただのモノ。お前は空牙の奴隷と同じにすぎないのですよ」



リリスはふふっと笑って空牙を流し見た。



「さあ、空牙。この不愉快な人形を今すぐに黙らせて頂戴」




「―――お断りします」




ミレーユとユリアスが、びくりと身を震わせた。


空牙は微笑んでいた。
唇の端を上げ、皮肉げに。



「まあ、空牙。わたくしのお願いが聞けないと言うの?」



「はい」



まさに一触即発。


ピリピリと空気が張り詰める。
絶対なる王者の風格を漂わせたリリスと、彼女に圧倒されることなく静かに見返す空牙。
笑みを浮かべた両者の間で目に見えない火花が散った。


空牙は縮こまったミレーユをちらりと見上げる。



「どうして? いくら美しく強力でも人形は人形、ただの木偶の坊ですわ。主人の言うことを聞くのは当然でしょう?」



「それは違いますよ、姫」



降下してきたミレーユの頭を撫でながら、空牙は言う。




「どういう仕組みだか俺なんかには分かりませんが。こいつには自我があります。痛みも悲しみも、喜びもあります。……心が、あるんです」




不安そうに見上げてくるミレーユに、空牙は笑いかける。




「ガラクタなのは俺の方です。俺が無力だから、こいつにはいつも痛い思いばかりさせている。俺はどんなに代わってやりたくても、ミレーユが傷つくのを見ていることしかできないんですよ」




空牙は魔族として、異能を持つのが当然である魔族として生まれながらも、自分の魔力を自分の為に使えない。

それが、空牙に課せられた―――致命的な、『欠陥』。


だから彼は、ミレーユを媒介として力を使う。
自分がこの冥界という過酷な世界で生き延びる為に、ミレーユを利用しているのだ。


ハンターなんてとんでもない。ミレーユがいなければ、魔獣に襲われたときの為に空牙は外をふらふらと出歩くこともできないだろう。




「いつも生意気な口を利いてても、こいつは不出来な俺の為に身体を張って戦ってくれてる。人形だろうと何だろうと構いません―――俺の相棒は、世界最高ですから」




だから、と空牙が笑ったその途端―――轟音と共に、彼の痩身から妖気の炎が噴き上がった。


ユリアスがひっ、と悲鳴を上げて後ずさり、リリスは艶(あで)やかに笑って彼を見守る。


凄まじいまでの魔力。

後ろで束ねた真珠色に輝く髪が生まれた突風によって激しく靡き、鋭く紅い双眸は餓(う)えた獣のように爛々と輝いた。


膨大な量の乳白色の妖気を纏わり付かせ、空牙は高らかに宣言する。




「俺の相棒を侮辱するのであれば―――この世界も敵に回してやりますよ」




「―――――!!」




ミレーユは赤面した。



ああ―――だから、


だから、だめなんだ。


空牙がこうだから。


ミレーユは心の底から望み、願う。


このひとの力になりたい。


自分を救ってくれたこのひとの、盾になり、剣になりたい―――と。

36ピーチ:2012/10/16(火) 18:43:42 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>

空牙君やっさしー!!

ミレーユちゃんも優しすぎるよね、普段口酷くても←

37心愛:2012/10/16(火) 19:33:29 HOST:proxyag073.docomo.ne.jp




「ふ、ふふっ」



居たたまれない沈黙の末、リリスが手を口に当てて横を向き、笑い声を零した。
そのまま、何事か小さく呟く。



「……ふふ。なるほど、ね……やはり貴方はそうですわよね……」



「……俺が何か?」



「いいえ、何でもありませんわ」



くすくすと笑いながら、妖気を霧散させた空牙に近づく。
そして、腕を伸ばすと空牙の頬にちょん、と人差し指を当て、ワインレッドの瞳を細めた。



「やはり貴方は面白いですわね、と言っただけですわ」



「は、はあ……ってまた! また当たってますから!?」



「だって当てていますもの」



「あーもうそういうのほんと勘弁して下さい!」



豹変したリリスの態度を怪訝に思っていた空牙は瞬く間に赤くなり、密着してくる彼女を引き剥がそうと躍起になる。


彼で遊んだリリスはそのまま、空牙の背後に隠れてびくっとしているミレーユに視線を投げて。



「さっきは悪かったですわね、ミレーユ。言い過ぎましたわ。許して下さる?」



「……許すわけ、ないです。調子に乗るなです乳女」



口ではそう言いながらも、ミレーユはそっぽを向いて頬をちょっと赤くしていた。
きちんと名前を呼ばれて照れたらしい。



「そんなことより空牙からさっさと離れるです有害物質。尻軽は尻軽らしく人間の男とでも乳繰り合ってろです」



「だっからお前はいつもいつも!?」



リリスは余裕の表情で空牙に腕を絡ませ、挑発するようにミレーユに向けて唇の端を上げる。




「―――うふふ、そうでしたわよねぇ。本当にただの“モノ”なら、空牙を想うことなんて、ありませんものね」




「………なッッ」




ミレーユは硬直した。



淡い翠に発光する髪をわなわなと震わせ、なめらかな頬をひくつかせる。



「な、な、なっ」



「貴女に、わたくしたちと同じような心があることなんて、わたくしの能力が使えた時点で分かっていましたのに。……空牙が貴女を連れて謁見に来たあの日から、ずううっと」



「よ、……読みましたね!? ミレーユの考えてること、ずっと読んでたんですねこの覗き魔!」



「今もですわよ。ええと、なになに? 空牙にばれたらどうしてくれるんですかって? 大丈夫、空牙はこのわたくしがどんなに迫っても最後までさせる勇気はないくらい女性に免疫がなくて、しかも激ニブですから。相当はっきり言わないと気づきもしませんわ……うん? この胸の奥にある疑問は……貴女が空牙のタイプかどうかって? うーん、それは内緒かしらね。本人の口から聞きなさい」



「ひゃぁああ――――ッ!?」




「……へ? 俺を、思う……?そりゃ二人きりで旅してるんだから俺のことは嫌でも考えるんじゃ」



「空牙くん……」



本気で首を捻っている空牙に、ユリアスは残念なものを見る目を向けた。



リリスはミレーユのがむしゃらな蹴りを軽くいなしながら、空牙に呼びかける。



「空牙。今からちょっと気晴らしに外に出たいのですけれど、護衛の代わりとして付き合って下さる?」



「構いませんけど……」



「良かった。それでは街でデートしましょう。二人きりで」



「……っはぁ!?」



ミレーユは攻撃を休めると空中にひらりと飛び上がり、リリスの頭上から叫ぶ。



「デ、ー……って……! ふざっけんなです! それならミレーユも、空牙が雌牛に妙なことをしでかさないか監視する為について行きます!」



「心配しなくても何もしでかさねーよ!」



「ミレーユは乱暴で落ち着くこともできませんもの。わたくしもたまには政務から外れてゆっくりしたいのです」



「じゃあ其処のユリアスさんを連れて行けば良いじゃないですか! 毒牙に掛けるのはそっちにしろです!」



「だって、ユリアス様はからかっても反応が面白くないですし」



「面白くなくてごめんなさい……」



「でもっ」



「ミレーユ」



リリスはぴかぴかした笑顔で。



「言うことを聞いてくれないと、わたくしうっかり、誰かさんにでも理解できるような分かりやすーい言葉で、口を滑らせてしまいそう」



「ぁ、ぐ……っ! この女狐ぇ……っ!」



「何とでも言いなさいな」



空牙とリリスが連れ立って出て行くのを、残されたミレーユは歯軋りして見送った。

38心愛:2012/10/16(火) 19:36:34 HOST:proxyag074.docomo.ne.jp
>>ピーチ


基本、ここあキャラに優しくない奴はいないの法則w

ミレーユも空牙も、アレなとこもあるけど優しいんだぞ!



とりあえず次からはミレーユ&ユリアスで、ミレーユと空牙の出会いなんか書いちゃおうかとw
それが終わったらリリスと空牙かなー。


でも一応一段落ついたから、こっちはちょっと空けようかな(・∀・)

39ピーチ:2012/10/16(火) 23:00:08 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>

空牙君にミレーユちゃんにユリアス様にリリス様みんな優しいってことだよね?

あのダークエルフのおじいさんも優しいんだよね?←

空牙君……恋なんて一切免疫ないあたしでも分かるぞ、ミレーユちゃんの考え…

40心愛:2012/10/17(水) 18:10:15 HOST:proxy10037.docomo.ne.jp
>>ピーチ

脇役はどうだか知らないけどね!
レギュラーで悪い奴はいないと思うw


ここあは書きたいシーンがあるとノンストップになっちゃって困る←

……邪気眼少女の、柚木園&夕紀の秘密暴露な日常編初回か、空牙とミレーユの出会い話か、コラボどれ次に書けばいいと思う?w((こら

41ピーチ:2012/10/17(水) 21:57:56 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>

まさかの脇役は放っとくの!?

あたしも一緒だー!! 書きたかったらひたすらにノンストップw

えっーと…空牙君とミレーユちゃんの話見たい←単純にファンタジー大好きなだけだからスルーおっけーですw

42心愛:2012/10/17(水) 22:54:26 HOST:proxyag076.docomo.ne.jp






「ミレーユ、さん?」



「……………」



「あの……リリス姫はああ見えて意外とガードが固いし、頭も良いから、その、大変なことにはならないと思うよ? あ、あと空牙くんの安全はリリス姫が守ってくれるんじゃないかな。体術にも優れていらっしゃるから」



「…………空牙も、運動神経だけは良いです……。馬鹿で間抜けで鈍感で、魔力だけはある癖に一人では異能も使えない、ただの能無しですけど……」



膝を抱えて顔をうずめたミレーユは小さく、すん、と鼻をすすった。



「え、……ミレーユさん、もしかして泣いて……るの?」



「……寝ぼけないで下さいです。全然泣いてなんかないです」



ひく、としゃくり上げる音まで聞こえた。



ユリアスは途方に暮れて、部屋にいた側近たちに目で合図をして退室させ、それから迷いながらも、同じようにミレーユの隣に腰掛けた。


剥き出しの肩がぴくりと震える。


ユリアスは壁に頭を預け、優しく言った。




「ちょっとでも離れるとそんな風になっちゃうくらい……君は、空牙くんのことが大好きなんだね」




「……可笑しいでしょう?」



精神的に弱っているミレーユは、否定しなかった。


ぽそりと力なく呟く。



「ミレーユは機械でできた人形、空牙は今も生きている魔族。この隔たりは、ミレーユがどんなに努力してもなくせないのですよ」



長い翠色の髪が、絨毯の上に流れ落ちる。



「たとえこのように人格があっても、ミレーユは便利な道具に過ぎません。空牙は変に優しいですから、相棒だって言ってくれますけど……それ以上の関係には、なれないのです」



ミレーユはこつん、と膝頭に額を軽くぶつけた。


か細い声が揺れる。



「本当は……ミレーユは人形なんかじゃなくて、魔族に生まれたかった。空牙と同じ、対等な立場に立ちたかった。そうしたら、空牙にこの気持ちを、伝えられたかもしれないのに……」



「……でも」



ユリアスはこの少女を傷つけまいと一生懸命に考えながら、



「でも、君が普通の女の子だったら、空牙くんは君と一緒に行動することもなかったんじゃないかな」



「…………」



「空牙くんには魔族の女の子じゃなくて、ミレーユさんが必要なんだよ。彼の能力を最大限に生かして、空牙くんの手足となって戦うことができる君だからこそ、空牙くんは君が大切なんだと思う。だ、だから、えっと……これはミレーユさんにしかできないこと……なんじゃ……な、い?」



顔を上げたミレーユの濡れた瞳と目が合って思わず動揺し、最後の方は何だかしどろもどろになってしまった。


ユリアスが自分の不甲斐なさと情けなさに肩を落としていると、



「……はい」



そっと、ミレーユが頷いた。



「そう、ですね……。ミレーユにはミレーユなりの、やり方がありますですよね……」



「うん」



「ミレーユは世界最高の機械人形(マシンドール)。空牙を一番近くで支えることができる、第一人形なんですから」



「うん!」



いつもの自信を取り戻したように意気込むミレーユを、ユリアスは微笑ましく見守る。



「空牙くんとリリス姫が帰って来たら食事会にしよう。うんと豪華なのを料理人に頼んでおくよ」



そのとき―――見事すぎるタイミングで、きゅるるるる、という音がした。

カフェテラスで軽食を摂ったものの、此処数日はろくに食べていないのだから仕方ないと言えば仕方ない。



「あー……いや、二人が帰って来る前でも良いから、できるだけ早く出来上がるように言っておこうか」



「……面目ないです」



両手で薄い腹を押さえて、ミレーユは恥ずかしそうに頬を染めた。


ユリアスは笑って立ち上がり、扉まで歩いて行って控えていた家来に話し掛け、すぐに戻って来た。



「元気な人たちがいなくなっちゃうと暇だよねー」



「……はい」



「料理ができるまで、僕らは話でもしてよっか」



「はい」



「じゃあー、……んーと」



自分から話題を提供したり場を仕切ることが極端に苦手なユリアスは、かなり頑張って頭を働かせる。



「ミレーユさんって、いつ空牙くんの人形になったのか……とか、教えてくれるかな」



「……面白くも何ともないですよ」



言い、ミレーユは瞼を閉じた。

43心愛:2012/10/17(水) 23:00:47 HOST:proxyag075.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ありがとうピーチ!
ここあは自分の欲望のままに書き散らすことにします!


結構深く突っ込んだ話になっちゃいそうだからさっさと終わらせないとなんだよ←
ちなみに『ソラの波紋』は美羽の妄想の世界観と微妙にかぶってるとこがあります(≧∀≦)

44ピーチ:2012/10/18(木) 07:03:20 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>

欲望のままに書き散らしちゃってー!←

あ、なるほどw

まさかの美羽ちゃんとかぶるかw←

45心愛:2012/10/19(金) 21:16:17 HOST:proxy10068.docomo.ne.jp







『………………』



廃材置き場。



それらに埋もれるようにして、翠の髪を持つ等身大の少女型人形―――ミレーユは俯(うつぶ)せに倒れ込んでいた。

美しかった髪や肌は煤(すす)け、かろうじて彼女の身体を覆っている服はぼろぼろに引き裂かれており原形が想像できない程。
華奢で長い腕や脚には、酷く痛々しい傷が残っていた。



『…………………』



魔力の供給がなければ、機械人形(マシンドール)はただの人形(ドール)。
喋ることも、動くこともできない。

前の主に捨てられた今は、奇跡的に思考を繋ぎ止められている状態だった。
……それさえも、いつまで保つか分からない。

自我が消えたらどうなってしまうのだろう。
これからどうなるのだろう。

……分からない。
何もかも、分からない。


それでも仕方ない、とミレーユは思う。

疲れた。
もう、全てが億劫だった。



ミレーユは戦闘特化型の機械人形だった。

自分が何処で、どのようにして造られたのかは記憶されていない。
ふと気づいてみれば、《人形遣い》の魔族に使役される日々を当たり前のように送っていた。


近距離、中距離、遠距離。
どのタイプの戦闘でも通用する様々な魔法のストックと物理的な攻撃力、さらに並外れた見目の麗しさによって、ミレーユはどの《人形遣い》にも歓迎され、もてはやされた。


けれど、それは長くは続かない。


ミレーユの魔術回路は複雑で、稼働させるだけでも多大な魔力―――人形を支配する強い精神力が必要となる。
魔力の消費が激しい戦闘となればそれはまた格別で、ミレーユがいくら平気でも主である操者の方が魔力が尽き、へばってしまうのが常だった。


これでは使い物にならない。

出される結論はいつも同じ。

いくら強くとも、過剰に魔力を吸い上げてしまうミレーユは、役に立たない不良品同然と見なされた。
すぐに売り飛ばされ、そしてまた誰かの所有物となり、
ミレーユの能力を知れば勝手に期待され、ミレーユの欠点が分かれば失望される。


だから、



―――……もう、終わりにしたいです。



ミレーユは閉じられない瞼を閉じるような気持ちで、そう心の中で呟く。



このまま誰にも見つからず、自分という存在が、ふっつりとこの世界から消えてしまえたら良い。


このように中途半端で、人形の癖に自我を持つようにミレーユを造った者を恨むには、あまりにも時間が経ちすぎていた。



―――……ああ……。



視界が白んでいく。
感覚がなくなった指先が冷たくなっていく。



―――やっと……死ねるんですね……。



ミレーユは最後に微笑もうとしたが、人形の身ではそれさえも叶わなかった。



死んだら、人形でも天国に行けるのだろうか。

それとも―――





『―――……おい!』





まだ高さが残る、少年の声が響いた。



ミレーユはすんでのところで、意識を取り戻す。




『おい……っ、大丈夫かっ!?』




誰かにがっしりと手首を掴まれ、瓦礫の山から引き上げられる。


それを他人事のようにぼんやりと感じながら、地面に崩れ落ちたミレーユは、相手の姿を見た。



『ええっとこういう時どうすんだっけ……そうだ、脈だ脈!』



慌てふためいている、十代の後半に届くかどうかという年齢の少年。


後ろで纏めた真珠色の髪、細身ながらも程良く筋肉が付いていることが分かるシャープな体つき。



『……あ、れ? 嘘だろ、脈な……うあ!?』



初めてミレーユの顔、不自然に開いた瞳を見て、少年が飛び退く。


柘榴の色をした双眸、鋭く整った美貌を持つその少年はしばらくそのまま呆然とし、それから恐る恐る近付いて来て、ミレーユを観察し始めた。
そっと球関節に触れ、思わずと言ったように。



『人形……っ!?』



この少年は、魔族が生き埋もれたと思ってミレーユを救出したらしい。


人形だと分かったのだから、彼はミレーユをどうするのだろう。
落胆して、やはり《人形遣い》に売るのだろうか。



だが、



『……くそ、ひっでえな……』



少年はミレーユの傷を撫で、悔しそうに、くしゃりとその顔を歪めた。



『ちょっと待ってろよ』



ミレーユに話し掛け、少年は彼女を背に負ぶう。

そして、身も軽く何処かへ向けて走り出した。

46ピーチ:2012/10/19(金) 22:37:22 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>

これがミレーユちゃんと空牙君の出会い!!

空牙君がさり気なくかっこいい←

47心愛:2012/10/20(土) 10:55:23 HOST:proxyag082.docomo.ne.jp
>>ピーチ


ほんとはもっとじっくり長めに書きたかったんだけど、あんまり長すぎると止まらなくなっちゃうので巻き気味ですw
違和感あるかもだけどごめんね!


さり気なくかっこいい(多分)空牙くんとミレーユの過去話はもうちょいだけ続きます(^-^;

48彗斗:2012/10/20(土) 13:27:14 HOST:opt-115-30-133-28.client.pikara.ne.jp
心愛さん>>
まさかの捨てられてたって感じですか……ミレーユちゃん可哀そうに……

それはそれとして今とは空牙の態度がかなり違ってますね(笑)

過去と現在の間に何があったのかな〜?ww

49心愛:2012/10/20(土) 15:41:53 HOST:proxy10034.docomo.ne.jp






『―――……空牙(クウガ)=迅(ジン)=キサラギ……―――』




風を斬る音と共に、ざわめきが耳に届く。



『あの』



『落ちこぼれの』



『キサラギ一族の面(つら)汚し』



『暁月(アカツキ)殿もお可哀想に』



『また、薄汚い人形など拾って―――』



『笑い者にされる訳だ』



空牙は何も言わなかった。

苛立ちも怒りも見せず、ただ、ミレーユを支える腕に力を込めて走り続けた。








*・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・*








『……兄様!?』



機械人形を背負って戸口から入ってきた空牙を見て、彼を出迎えに駆け寄って来た少女が紅い瞳を丸くした。


空牙は心なしかほっとしたように、彼女に優しく笑い掛ける。



『ただいま、綺紗(キラサ)』



『はい、お帰りなさいませ……い、いえ、そうではなくっ』



淡い桜色をした着物の袖をふわふわとさせ、少女が慌てる。



『兄様、その方は……どうされたのです?』



兄とお揃いの真珠の髪は品の良い幅広のリボンで飾られており、楚々として可憐な少女に華やかな美しさを添えていた。
その少女は困った様子でリボンを揺らし、愛らしく首を傾げる。


『散歩してたら、廃棄品置き場の中にこいつを見つけたから助けたんだよ。手当てしてやらないと』


空牙の言葉を聞き、少女は頷いた。


『そうですね。……余程酷く扱われたのでしょう……。お可哀想に』


眉を八の字にし、少女は空牙がしたのと同じように、細い指先でミレーユの傷にそっと触れる。


お可哀想に―――


先程も聞いた言葉だ。
でも、少女のそれは響きが全く違う。

心からの想いが感じられる、深みのある声。


『女の子に、こんな……』


『魔力がなければ、自分で治癒もできない。つらいだろうな』


本当のところ、視覚と聴覚以外の感覚が凍結しているミレーユは、もう痛みを感じていない。

けれど―――二人の言葉は、不思議なぬくもりと共に、ミレーユの心に確かに届いた。



『そうです、早く魔力を送って差し上げませんと………あ』



少女はそこで、はっとしたように兄を見上げた。



『兄様……まさか、この方を……』



『待てって綺紗、こいつを見てみろよ。このナリで戦闘型だと思うか?』



―――……?



ミレーユは意味が分からずに困惑する。

この兄妹は何を言っているのだろう。



『……そう……ですよね。こんなに綺麗なお人形ですもの。きっと小さな子の遊び相手や、愛玩用ですよね……でも、もし』



『もし戦闘型なら、俺は今すぐにでも例の話を実行できるんだけどな』



少女は肩を落とした。



『兄様……本当に、出て行ってしまわれるのですか』



『ああ』



空牙は頭一つ分背が低い少女の髪を撫でる。



『俺がいたって、キサラギの名を貶めるだけだ。良いことなんて何もない……親父だってそう言ってるだろ?』



『でもっ』



『綺紗、お前には本当に申し訳ないと思ってる。俺が不甲斐ない所為で、長男の俺が背負うべき責任を押し付けてるんだからな』



『そんなの、綺紗は全然平気です! ……綺紗はっ』



『そう。お前は《緋焔の神解け(レーツェル)》を所持するキサラギ一門の正統な後継者―――綺紗(キラサ)=凜(リン)=キサラギ。この家を生涯守っていかなくちゃいけない』



『兄様……』



『だから大丈夫だって。“神童”のお前が当主になれば、お偉いさん方も大満足だろうよ。そうと決まれば、出来損ないの俺はもう必要ない』



『………………』



『姫も、キサラギを捨てたら自分の正式な眷属になるように言ってくれてるんだ。俺の評判がこれ以上下がらないように、強力な後ろ盾が必要だからな。有難いだろ?』




『―――綺紗ッ!』




突然の太い怒鳴り声に、少女が飛び上がる。



『いつまでも何をしている!』



『……ほらほら、暁月サマのお呼びだぜ?』



『はい……兄様、また。今参ります、お父様っ』



少女がぱたぱたと走り去る。
空牙はそれを見届け、ミレーユを担ぎ直すと踵を返した。

50心愛:2012/10/20(土) 16:00:37 HOST:proxy10030.docomo.ne.jp
>>彗斗さん

多分、旅してる間にミレーユに良いように調教されたんですね☆





さてさて、空牙の本名初公開でした←
だってカタカナと漢字の組み合わせってカッコいいじゃんと美羽みたいなことを言ってみるw

綺紗(キラサ)は、一番名前を決めるのに時間が掛かった子です!
登場一回きりのモブキャラだったんだけどまた出そうかなー…どうしようかなー…

51ピーチ:2012/10/20(土) 17:09:04 HOST:nptka106.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

空牙君の初本名!

妹ちゃんの着物の色あたしも使ってたことあるよ!←何の自慢だw

52心愛:2012/10/20(土) 19:49:34 HOST:proxyag108.docomo.ne.jp
>>ピーチ

桜色いいよね!
着物とかじゃないと、普通の服じゃなかなか出てこない色だから折角だし使ってみたw
綺紗はほんのりした桜色が似合う大和撫子のイメージです\(^o^)/


空牙も苦労してる奴だったんだよ…(^-^;
ミレーユも、しつこいくらいに伏線張りまくってるけど壮絶な過去を背負っております←
そんな二人を無理矢理ハッピーエンドに引きずっていくよー!

53ピーチ:2012/10/20(土) 22:32:08 HOST:nptka101.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

大和撫子!

あたしは大和撫子に見せかけた和風少女←

まさかの強引にハッピーエンドか!

54心愛:2012/10/21(日) 17:36:19 HOST:proxy10063.docomo.ne.jp





『……んー……と、まずは』



一つの部屋に入ると空牙はミレーユを畳に下ろし、せわしなく廊下を行き来して何かを手に持って来た。



『手拭いでいっか。うあー……罪悪感が……半端ねーなぁ……』



幾枚かの布を重ねて置くや何故か苦悩の溜め息を吐き出し、眉間に皺を寄せる空牙。



『こういうのは綺紗にやってもらいたかったんだけど……稽古の最中なら仕方ない。ごめんなほんと。ちょっとだけ我慢してろよ』



空牙はためらいつつもミレーユのスカートに手を掛け、


そのまま―――ぺろんっと、勢い良く捲り上げた。



―――なッ……!



一瞬何が起こったのか事態を処理仕切れず、ミレーユは絶句した。



空牙はやはり微妙に目を逸らしながら、繊維が崩れかけているミレーユの服を脱がせていく。



ラバーシートの肌やすらりと伸びたふともも、シンプルな下着に腰、折れそうに細いウエストや、ささやかなふくらみがある胸部のボディパーツが露わになり―――



―――な、……っ何をしやがるですこの変態ッ!?



当然の如く、ミレーユは怒り狂う。
身体が自由な状態なら、まず問答無用で殴り飛ばしているところだ。


何という恥辱。
ミレーユは怒りや羞恥と共に沸き上がるどす黒い殺意を必死に抑え込んだ。



『み、見てない。俺は何も見てないから。うん』



―――嘘ですっ! ならどうしてそんなに赤面しているのですか!



『すみませんほんとすみません』



会話が成立しているはずもないのに、空牙は赤らんだ顔でひたすら平謝りしながら作業を続ける。



『……これで良し。あとは』



それから彼はあの少女―――綺紗のものらしい、白地に金色の蝶の柄が飛んだ和服をばさりと広げ、ミレーユの裸体を覆い隠した。
家の内装や綺紗の格好、空牙自身も着流し姿であることも鑑みると、この世界では一風変わった、少々独特な趣味を持つ家系なのかもしれない。


いや、そんな脳天気ことを分析している場合ではなく。



―――つ、次は何をするのです……!?



半狂乱になり、物凄く警戒しているミレーユにも気づく訳もない空牙は、濡れた布を手にするとせっせと肌の表面を拭き始めた。



『風呂にでも入らせてやれば良いのかもしんないけど』



どうやら、消毒を兼ねて汚れを拭き取ってくれているらしい。


彼の表情は真剣そのものだ。



―――……理解、不能です……。



この少年は、ミレーユを利用する為に拾ったのではないということは分かっている。
けれど、人形如きを相手にこんなに熱心に世話を焼く彼の本心が、ミレーユには想像がつかなかった。


先程は、手当て、などと言っていたような気もする。


優しい言葉も、眼差しも、一時の気まぐれではなかったのだろうか―――



『……ん。やっぱり』



金属繊維でできた髪の埃を落として慎重に梳き、空牙は満足そうに笑った。




『綺麗になったじゃねーか』




―――…………!




ミレーユは自分の顔が、火を噴いたかの如く一気に熱を持ったような気がした。


勿論それは気の所為に決まっているのだけれど。


一体の人形でしかない自分に対して、まるで一人の少女にするように真剣に向き合ってくれる。

話しかけ、笑いかけてくれる―――。



ミレーユは、今までこんな相手に会ったことがなかった。



恥ずかしい?

……いや、違う。

彼の目につかない何処かに隠れてしまいたいような、なのにもっとこのままでいたいと願いたくなるような、

自分の中に生まれた意味の分からない感情に翻弄され、ミレーユは戸惑う。




『……俺さ、この家を出ようと思ってるんだ』




ミレーユに和服を着せてやりながら、空牙はぽつりと言った。



―――何故……です?



『……俺は異能を授からなかった』



ふっと笑む。



『どんなに訓練しても、自分の為に魔力を使うことができなかった』



それは、普通ならばとても信じられないことだった。
《咎人》たちを幽閉した煉獄と隣り合わせの、この過酷な世界―――冥界。
其処に生きる魔族は皆、自分の血族に代々伝わる異能を受け継いで生まれる。

かつてのミレーユの主たちも、ミレーユを操るときには使わなかったけれど、当たり前のように異能を持っていた。

55心愛:2012/10/21(日) 20:22:27 HOST:proxy10063.docomo.ne.jp
>>ピーチ

和風少女いいじゃん!

ここあは至上ハピエン主義なのでw
最後に結構、『紫の歌』のクライマックスらへんに近い暗さが出てくると思うけど気合いで乗り越えるぜ!





…さて、今週は試験、今週末は塾の模試、来週は学校の模試に課題がわんさかとハードスケジュールに襲われていますのでここあの出没率がしばらく低下すると思いますがご了承下さいませ。

ああまた連載が長引くぅ……っ!○| ̄|_

56ピーチ:2012/10/22(月) 20:19:23 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>

和風少女大好きー!!←和風好きw

ハピエンかw あたしは逆だなw←

主没率低下……寂しいよー…((泣

57心愛:2012/10/24(水) 20:13:58 HOST:proxy10021.docomo.ne.jp






『うちって、冥界でも屈指の、しかもかなりお堅い感じの名門なんだよね。だから当然、異端児の長男なんかに家督を継がせる訳にはいかないって話になった』



ミレーユはやっとのことで得心する。
先程此処に来るまでに聞いた噂は、家の跡継ぎとして生まれた空牙のこの致命的な『欠陥』のことを言っていたのだ。



『でも、大人たちが頭悩ませてた間に、数十年に一度って言われる天才―――“神童”が生まれたんだよ。……それがさっき会った俺の妹、綺紗。綺紗は勿論、俺と違って異能を継いでいたし、しかも魔力の波長が極めて高い水準で安定していた。だから親父は綺紗を、俺の代わりにキサラギの次期当主に任じた』



空牙の声は、穏やかで優しい。
彼の眼差しが、自らの運命も、何もかもを受け入れてきたことを物語る。



『俺がいても、綺紗への風当たりが強くなるだけ。せめて、あいつの兄貴としての最後の意地って言うのかな……情けないけど、足手纏いにだけはなりたくないんだよ。あいつには未来があるんだから、それを邪魔する訳にはいかないんだ』



空牙は、綺紗と離れることを望んでいない。
けれど彼は、自分や妹の感情よりも、綺紗の幸せを選んだ。



『だから、俺はこの家を出てく。その為には、俺の魔力を媒介して魔獣と戦ってくれる機械人形が必要なんだけど……戦闘型人形は最高級品。なかなか手が出せるもんじゃない』



へへっと笑って、ミレーユと視線を合わせながら彼女の頭を撫でた。




『いつになるか分かんないけど、そのときにはお前も一緒に来ると良いよ。三人で気ままに旅ってのも楽しそうだろ?』




―――ミレーユは、まるで稲妻に身体を貫かれたかのような衝撃を受けた。


この少年は、ミレーユが彼が探している戦闘型人形だということを知らない。


なのに―――ミレーユを連れて行ってくれると言った。
ミレーユの力を利用するんじゃなくて、ただ、一緒に旅をしようと言ってくれた。



身体の芯に、あたたかいものが広がっていく。



―――……この人の、役に立ちたい。



この人の為に戦いたい。



この人を一番近くで守る剣に、盾になりたい。



それは、ミレーユの中で初めて芽生えた―――あまりに愚かしく、我儘な感情だった。



並みの機械人形とは違う、特別な魔術回路を持つミレーユは、魔法を一つでも使えば空牙の魔力をすぐに吸い尽くしてしまうだろう。



ミレーユを救い出してくれた空牙を、ミレーユはこの手で救うことができない。



『あ、そっか。起動させないと答えられないよな』



空牙は頷いて片手を出し、少し躊躇したようにそれをぴたりと止めた。



『また……だけど、ごめん』



ミレーユの左胸に、手を当てる。


瞼を閉じ、



『……《偽りの空を歌う星》』



白い閃光が迸る。



ミレーユは驚愕した。



―――嘘、でしょうっ?



ミレーユに注ぎ込んでいるというのに、それでもまだとめどなく溢れ出す、凄まじい量の妖気。


……これ、なら。



これなら―――!



ふわりと浮き上がった肢体を、虹色の輝きが包み込む。


強大な魔力が身体の隅々まで行き渡り、力が漲るのが分かる。


硝子玉の瞳に生気が―――金に輝く光が灯る。


ラバーシートでできた皮膚はよりなめらかな、シルクのようにキメの細かい柔肌へと変わっていく。


鼻、耳、関節、爪先、全てが生けるモノのものへと変化し、心臓の位置に嵌め込まれた《核(コア)》が目覚め、プログラムが次々と活性化する。


魔力の渦によって生まれた突風に煽られ、瑞々しい光沢を放つ翠の髪が激しく靡いて広がった。



……やっと、巡り逢えた。


ミレーユは込み上げる涙を必死にこらえた。


ミレーユの力を全て引き出せる者に、ようやく巡り逢えたのだ。



空牙を、身を賭して守ることができる。


信じがたい喜びに、うち震えそうになる。


虹色の光の中心で、ミレーユは耐えるようにぎゅっと拳を握った。


空牙を見る。


みっともなく畳に尻餅をついて、目を見開いている、新しい主を、見る。


ゆっくりと、その唇を、開く。


そして―――



『……歯を食い縛りやがれですゴミ虫野郎』



『ほぐっっ!?』



―――乙女の身体を弄んでくれた不埒者に、鉄槌を下した。

58ピーチ:2012/10/25(木) 20:32:05 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>

まさかの鉄槌!? それはありなのミレーユちゃん!?

いやあのね、嬉しいなら嬉しいであっさり認めるべきだと……((

59心愛:2012/10/27(土) 15:25:44 HOST:proxy10015.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ミレーユの毒舌と暴力はたまに照れ隠しにも使われるから!

どっちにしても被害者は空牙ですけどねw

60ピーチ:2012/10/27(土) 16:51:51 HOST:nptka405.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

照れ隠し…

…あくまでも被害者は空牙君だけね!?

61心愛:2012/10/27(土) 18:48:21 HOST:proxy10030.docomo.ne.jp






「―――と、こんな感じ、ですかね」



ミレーユは照れたように無骨な編み上げブーツで包まれた爪先をもじもじと動かした。



「……ちょ、ちょっと待って! て、鉄槌って……具体的には何をしたの?」



「ミレーユ渾身の飛び蹴りを額に思いっきり」



「そ、そう……」



ユリアスはミレーユのかなり固そうなブーツを見て、密かに冷や汗を流す。



「裸を見た上に胸を触りやがったですから当然のことなのです」



「あー……うん。そうだよね」



ふんっと吐き捨てるミレーユ。


ユリアスは過去と現在、両方の空牙に深く同情を覚えながら、



「空牙くんって、リリス姫も言ってたけど……そんなに魔力があるの? 確かに、さっきのは凄かったけど」



「はい。唯一と言っても過言ではない空牙の美点ですね」



「唯一は可哀想じゃないかな……」



「何を言うです。ミレーユにとっては最大級の讃辞ですよ?」



確かに、毒を吐いてばかりいるように思えるミレーユが主を素直に褒めたということは凄いことなのかもしれない、とユリアスは納得した。



「全力を出したミレーユを支えきれる魔族は、空牙以外にミレーユは見たことがないです。そのくらいの力を持っていながら……自分を責めた空牙は当主の座を綺紗(キラサ)さんに譲り、家を出たのですよ」



言葉を続けるミレーユの眼差しが僅かに翳(かげ)る。



「本当は、綺紗さんが大切で、……心配で、大好きで仕方なかったですのに」



「異能を授からなかったばかりに、か……」



「……はい」



まるで自分のことのようにしょんぼりとしているミレーユを、ユリアスは励ますように笑った。



「それなら僕だって同じだよ。魔女の血を受け継ぐミュシアの王族は、異能を持ってないから」



「……そうなのですか?」



驚いたように、ミレーユはユリアスを見上げた。


「うん。僕にあるのは魔法だけ。全然戦いに使えるものじゃないしね」


「でも、ユリアスさんにはとても大事なお仕事があるです。他の愚民がどう足掻いてもできないことです」


「……うん。有難う」


邪気の全くないユリアスの笑顔から、ぱっと思わず目を逸らしてしまう。
ミレーユは感謝されることに慣れていないのだ。


「べ、別に大したことじゃないです。事実をそのまま言っただけですしミレーユの主観は入ってないです」


「そっか」


にこにこするユリアスの優しい視線から顔を背け、ミレーユは声を張る。


「とっとにかくミレーユが言いたいのは空牙が馬鹿で間抜けで能無しで結局ミレーユが付いていないと何もできなくて考えなしのボウフラで」


「でも、好きなんだよね?」


「ううううるさいですふざけるなです黙ってろです!」


「ご、ごめんなさいっ!」


激昂してばっしばっしと髪で壁を叩くミレーユに、ユリアスは涙目になってすぐさま謝罪。


「そ、そのー……、つい調子に乗っちゃって……すみませんでした」


「分かれば良いのです」


腕を組み、つーんとそっぽを向く少女。


それを見たユリアスは、ふっと苦笑を漏らしてしまう。


「……何ですかその笑いは」


じとりと据わった目で睨まれ、ユリアスは慌てる。


「ご、ごめん! あ、あの、……ミレーユさんと空牙くんって、お似合いだよね、って思って」


それは、完全に人形であるミレーユを同じ立場と考えた上での発言だった。


「な」


「だって、空牙くんはミレーユさんがいないと、ミレーユさんは空牙くんとじゃないと戦えないんでしょう?」



致命的な『欠陥』を互いに補い合うことができる二人。



「空牙くんとミレーユさんは、きっと最高のパートナーだよ」



空牙は、自分の相棒が世界最高だと言った。


それはきっと、彼の心からの言葉。


ミレーユも空牙も、一人では成り立たない。


二人が一緒になって初めて、この世界で戦うことができる。



「だから、……えっと、つまり、」



金の瞳をまんまるにして見てくるミレーユ。



少し迷ってから、ユリアスは屈託のない笑みを浮かべた。



「ミレーユさん、上手くいくと良いね……ってこと、かな」



「…………………」



ミレーユは何も言わずに、先程と同じように―――膝頭に額をこつん、とぶつけた。

62ピーチ:2012/10/27(土) 19:03:54 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>

唯一の美点……うーん、何か可哀想←

え、じゃあ空牙君っていつミレーユちゃんが戦闘人形だって知ったの?

63心愛:2012/10/27(土) 19:21:11 HOST:proxy10070.docomo.ne.jp
>>ピーチ

被害者は『主に』空牙だよ!
たまに他のひとまで及ぶかもw


ミレーユが戦闘特化型機械人形だって知ったのは、書いてない場面だけどミレーユと落ち着いて話ができる状態になってからです(≧∀≦)
いや、むしろ飛び蹴りの時点で、威力で分かってたかもしれない←





というわけで、とりあえず『ソラの波紋』はまた一段落です(・∀・)

次はリリスと空牙のデート(偽)ですけどそれはもう少したってからにしようかなと。

色々と哀れな空牙ですが、ちゃんと見せ場は用意してありますのでごゆるりとお待ち戴けたらと存じます\(^o^)/

64ピーチ:2012/10/27(土) 20:18:34 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>

主に、空牙君なんだ!? たまに他の人に影響行くんだ!?

……ミレーユさーん? 飛び蹴りはかなーり危険だと思いますよー…?

ここにゃんのだったらゆるーりと待てる←え

65心愛:2012/10/28(日) 20:32:55 HOST:proxyag116.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ミレーユは歩く災害なのでw


ありがとう!
ゆるーりと待っててくれ(^-^)/

66ピーチ:2012/10/28(日) 20:53:38 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>

あ、歩く災害……?

怖い、怖いよミレーユちゃん!?

ゆるーりと待つ!←

67心愛:2012/12/24(月) 20:03:53 HOST:proxy10047.docomo.ne.jp
>>ピーチ


長らくお待たせしましたリリス&空牙編です!

なんかまた時系列ぐちゃぐちゃだけど許してね…。
次からちょっと、空牙がミレーユに会う前の過去話挟みますー!

68心愛:2012/12/24(月) 20:05:00 HOST:proxy10047.docomo.ne.jp







【姫はまだ幼い】



―――大人たちは皆、小さなリリスを利用しようとした。


まだほんの幼い頃から、血族の中でも突出してエルゼリア王として相応しい程の実力と知力に恵まれていたリリスは、すぐに年老いた母から王位を譲り受けた。
母は既に、この世界を支えきれる程の余命を持ってはいなかったから。


右も左も解らぬ未熟な姫など格好の傀儡。
有力な臣下や野心を持つ親族たちは、我こそがエルゼリア―――果てにはこの冥界の政権を握ろうと躍起になった。


彼らは優しく笑う。
心の中では馬鹿な子供だと見下しながら、気持ち悪いくらい丁寧に、笑う。



『姫は何もせずとも良いのです』


『難しいことはお考えにならず、どうぞ全て私たちにお任せ下さい』



悔しかった。


子供だからと蔑視され、それなのに口先だけのおべっかを使われる。
悔しくて仕方がなかった。


だから、リリスは持ち前の器量や頭脳を存分に使った。
相手に気取られないよう細心の注意を払って異能で思考を見透かしながら、小さな頭で考えた。
どうしたらすり寄ってくる輩の裏を掻き、逆に利用し、さらに“幼く頼りないお姫様”の体を保っていられるか―――王族の筆頭として恥ずかしくない、愛らしく美しい微笑を浮かべながらも腹の中では必死に計算をする日々。


でも、時折―――どうしようもなく、寂しくなった。


疲れて、泣き出したくなった。
もう嫌だと、全て放り捨てて叫びたくなってしまって。



―――そんなときは人間界へ赴き、男たちとの遊びに耽った。

人間は良い。

単純で、純粋で、リリスの美しさだけを見てくれる。


まだ幼さを残す吸精姫(サキュバス)の少女。
彼女を取り囲む魔族は皆、遜(へりくだ)りながらも、陰で軽蔑し、嘲笑う。


そう。
自分は穢れた、卑しい覗き魔の一族―――。




『姫様。本日の客人、空牙(クウガ)様がお見えです』




侍従の声にハッと我に返ったリリスは、すぐさまわざとらしい大人びた笑みを取り繕った。

ぱたんと広げていた本を閉じる。



『通しなさい』



今日は、新しい眷属との契約を交わす日だ。
まだ子供だが、上手く事を運べば『あの家』との結びつきがさらに強まる。
反逆を目論める程の力のある名家とは、できる限り温厚な関係を築かねばならない。


リリスの思惑もつゆ知らず、謁見の間へと入って来たのは一人の少年。

透明感のある純白の髪に同色の肌。

緊張でこわばっていた口元が、唖然としたようにぽかんと開く。


エルゼリアが誇る古くからの名門、キサラギ家の―――曰く付きの、子息。



リリスはすっとワインレッドの瞳を細める。

相手の表層意識程度ならこうして見つめるだけで、簡単に読み取ることができる―――。リリスが編み出した独自の方法だ。
魔力を解放せずとも、いついかなる時でも異能の一部を意のままにコントロールし続けるというこの荒業。
魔族でもおそらくほんの一握りの、天賦の才を持つ者―――おそらくリリスにしか不可能な芸当。


すぐにリリスの脳内に、少年のものだろう狼狽した声が響いた。




【む、胸、でか……っ】




『ぷっ』



リリスは噴き出した。



『っふ、ふふふ』



笑いが止まらない。


それは。
それは確かに、年頃の少女にしてはリリスの体つきはかなり豊満な部類に入るだろう。

でも、第一印象がそれ、って。



『ふふ……初対面なのに、それは流石に酷すぎだとは思いません?』



『え? え?』



少し赤らんだ顔の少年はと言うと、目を白黒させている。



【し、失礼……? 意味が分か……ってぅーわ……笑っても美人……!】



『ふふふっ……それは有難う』



意味が分からずに狼狽える少年―――空牙(クウガ)に、リリスは顔を近づけ、とっておきの種明かしをするように囁いた。

69心愛:2012/12/24(月) 20:07:46 HOST:proxy10017.docomo.ne.jp






『わたくしは心が読めるの』



『……心?』



『そう。心の声を聴くことができる。全てのものが視える』



リリスは万人が褒め称える、艶っぽく麗しい笑顔で言った。



『わたくしの異能ですわ、落ちこぼれさん?』




空牙はしばし黙って紅い双眸を大きく開き、彼女を見つめていたが、




【……つらく、ないのかな】




ぽつりと、そう胸中で呟いた。



『……どういう意味ですの?』



それを聞き流すリリスではない。
問い詰めるように、身を乗り出した。



『つらい、とは』



『えっ……あ、あの、すみません』



空牙は慌てたようにまくし立てた。



『ひがんでるわけでも、馬鹿にしてるわけでもなくて。ただ、その……俺だったらつらくて頭おかしくなるだろうなっ……て、思って』



それが彼の、偽りなき本心だというのは―――思考を読まなくても、明らかなことだった。
一生懸命に考えながら、たどたどしく説明する彼。



『全部視えるっていうのは、この世界の全部を知る……全部を一人で背負い込むってことでしょう? それは、凄くつらくて、大変なことですから』



『……そんなこと』



『ありませんか?』



言葉に詰まる。
らしくもなく、リリスは狼狽していた。


それに、と空牙は不意ににこりと笑って。



『姫はとても努力家なのですね』



『……だから、何を言っていらっしゃるの?』



『これだけの本―――全部専門書ですよね。俺を待つ時間まで惜しんで、勉強していたのでしょう?』



机に積み上げた本を見て、空牙が感心したように言う。

そんなことか、とリリスは肩を竦めた。



『王として当然のことですわ。冷静で公平な判断には、あらゆる知識が不可欠ですもの』



『凄いですね』



リリスは眉を潜める。
本気で。
本気でこんなことを言う、この少年の意図が全く分からない。




『俺とそんなに変わらない年齢なのに、つらい思いをして、それでも民の為に努力して下さっている。やっぱり姫は、凄くて―――優しい方です』




リリスは目を見開いた。



『や……優しいだなんて! わたくしは、そんなこと考えたこともありませんわ!』



声を荒げる。
努力しているのは確かだけれど、そんな立派な理由じゃない。


こんな発言をしたことが知られたら、自分の今後にとって不利なのに―――それでも、何故だろう―――言わずにはいられなかった。



『わたくしはただ、自分の立ち位置を守りたいだけでっ―――』



『でも、結局そうでしょう?』



彼の前で、リリスは一人の少女だった。

ただの、……本当にただの子供にすぎない、か弱い少女。



『父も母も、街のひとたちもみんな言ってます。新しくエルゼリア王になったお姫様は、まだ小さいのに凄い方だって』



そして、空牙は、きっとリリスが生涯忘れることができないような―――そんな、眩しく晴れやかな顔で。




『お姫様が頑張っているお陰で、このエルゼリアは平和でいられるんだって』




―――だから、有難う御座います。




じわ、と熱くなった目もとを誤魔化すように。
頭を下げた彼を視界に入れないように、とっさに俯いた。



……そう思ってくれているひとが、いる。



勿論全員じゃないけれど、
それでも。


リリスが必死にしてきたことで、喜んでくれる。
有難うと、言ってくれる。

そんなひとがいる。


いた、のだ。




『俺は、異能が使えないし……キサラギでも発言力も何もない、一番の役立たずですけど』




極めて真剣に、空牙はリリスを見据えた。




『ずっと、俺が尊敬し続けている貴女の為に―――この俺に、どうか力を貸させて下さい』

70名無しさん:2012/12/24(月) 20:27:46 HOST:EM114-51-208-89.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

リリス姫と空牙君の出会い編!

……空牙君って最初っから素直且つ優しい子だね←

71心愛:2012/12/25(火) 09:13:19 HOST:proxy10017.docomo.ne.jp
>>ピーチ

空牙は女殺しです…。
無自覚なのがね…。うん。


リリスがちょっとでも好きになってもらえたらいいなーw

72辰魅:2012/12/25(火) 11:25:29 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
心愛さん

初めましてっ! 初めから読ませて頂きましたっ!!

お話の展開とかこれからのコトとか、空牙君のコトとか全部気になりますっ!!!

第6スレ目は空牙君のミレーユさんに「食うんだ!?」といった所が面白かったですっ!

これからも頑張ってください! 応援してますっ!!

73心愛:2012/12/25(火) 18:03:17 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp
>>辰魅さん

初めまして!
こんな読みにくくて意味分からん話に目を通して戴いてありがとうございます…!


「食うんだ!?」はなかなか好評のようで嬉しいです(笑)←


空牙やミレーユ、他のキャラたちのこともゆっくり明かしていきたいなと思っております。
これからも宜しくお願い致します(〃▽〃)

74辰魅:2012/12/25(火) 19:04:07 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
心愛さん

正体不明の人ってなんかそそられますよね……(笑

そしてソレを暴いていくのも面白いですよねぇ…(笑×2


心愛さんは、ギャグや作文力がすごくて惹かれますっ!

今後とも応援していきますので、頑張って下さいっ!!

75ピーチ:2012/12/25(火) 23:20:18 HOST:EM1-114-215-92.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

リリス姫と空牙君の出会い編!

やっぱり相変わらず神文章だー! スムーズに読めるー!

76チェリー:2012/12/26(水) 10:50:43 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
おう、>>1は天才やで。結婚したい。

77心愛:2012/12/26(水) 15:08:36 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp







『……っ、今から結ぶのはあくまで仮初めのもの。正式な契約ではないのですから、そんなに大袈裟なものではありませんわ』



熱くなった頬をさり気なく手のひらで冷ましながら、リリスは必死に平静を装った。



『儀式を始める前に、貴方の魔力の波長を見させて貰いますが、よろしくて?』



『はい』



軽く息を吸い、未だ動揺の残る感情を切り替える為に瞼を閉じる。




『顕現なさい―――《散華魔鏡(フォル・モーント)》』




解放序詞(ちからあることば)。


封じていた膨大な薄桃色の妖気が外界へと解き放たれ、それに空牙が息を呑む気配がした。

眩い光の奔流が轟音を立てて荒れ狂い、リリスの身体を覆い尽くすように纏わりつく中、カッ、とより深みを増した瞳を開く。


思考だけではなく、対象の“全て”を視通(みとお)すことができるようになった状態で、空牙を視界に映した途端。


彼に関するあらゆる情報が怒涛の勢いで流れ込む。
今までの記憶の波や様々な感情を掻き分け、押し流されそうになる自我を保つようその一点に集中し―――




『っ……!』




額に汗が滲む。


―――彼の内でとぐろを巻く、猛烈な“気”の、流れ。


ふ、と息を吐き出した。




『……驚き、ましたわ。貴方は、魔力に優れている』




人並み外れた魔力の絶対量。
潜在的な、才能。
精神力。



『此処までの大きさの《器》、冥界全体でもどれだけいるかどうか』



自身の魔力に絶対の自信を持っているリリスや、莫大な力を有す彼の父親にも決して引けを取らない程の。



『そう……なんですか?』



疑うように首を捻り、空牙は白い妖気を放出する。



『でも、俺はこの通り十分な魔力も外に出せませんし……。異能が発揮できないんじゃ意味がないです』




『人形を使えば良いのですわ』




知恵者であるリリスはくすっと笑って助言する。

空牙は思ってもいなかったように瞬きして。



『人形?』



『そう。戦闘用の機械人形(マシンドール)……。普通なら、異能の力量が足りない者が補佐で使うものですけれど』



するり、と彼の頬に指先を滑らせる。



『貴方の力を媒介して戦える。使い様によっては、貴方にとっての最高の武器になり得ますわ』



『でも』



『心配は要りませんわよ。後で、キサラギの―――《緋焔の神解け(レーツェル)》とはまた別の、貴方だけの特別な解放序詞を授けましょう』



至近距離で―――本心から、にっこり微笑(わら)う。



『……そんな、ことが』



『このわたくしを甘く見ないで下さる?』



そう、彼女はまだ年端もいかない少女にして誉れ高き女王、リリス=メグ=エルゼリア。
ちょっとした不可能を可能にするくらい―――可愛い臣民を一人助けることなんて造作もない。


今までの処遇から、空牙は劣等感を植え付けられてしまっていて。
それを完全になくすことはできないけれど、彼のこれからを良い方向に向かわせることならできるのだ。


この、リリスなら。

78心愛:2012/12/26(水) 15:09:54 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp







『それで、解放が出来るようになったら経験を重ねて。段々に慣れてくれば、大分調整が利くようになりますわ』



『姫……。有難う、御座います』



『ふふ。お喋りはお仕舞い―――空牙、目を瞑って』



言われるままに瞼を閉じた空牙に、ゆっくりと顔を近づける。


ほんの、一瞬。




―――リリスの柔らかな唇が、空牙のそれを掠めた。




「……………………」



リリスが離れた後も、彼はたっぷり数秒間はピシッと凍りついたように硬直していたが、




『ひ、……!? ひゃ、ひゃわっ』



覚醒した刹那真っ赤に茹で上がって手で口を押さえ、ずざざっと飛び退る。



『な、なん、……何するんですか!』



『え? 新しい眷属からの口づけが契約に必要だからしたまでですけれど?』



『聞いてませんよそんなの!』



『……まぁ、普通は手の甲などで済ませてしまいますが』



『じゃあ俺もそれで良いじゃないですか!』



『魔が差しましたの』



『それ女が言う台詞じゃないですよねぇっ!?』



涙目で拳を握り、うち震える空牙。


リリスはころころと笑った。

今まで生きてきて、こんなに何もかも忘れて笑うことができたのは初めてかもしれない。

いつも荒んでいた胸の中に、あたたかな感情が満ちていく。



心を読む必要がないくらいに素直な彼が、可愛くて仕方がなくて。




―――愛しい、と思う。




『もう、黙って目を閉じていなさい。進まないではないですか』



でも。

彼の秘められた魔力と共に、もう一つ、悟ったことがあった。


リリスの能力では、その未来だけははっきりとその形を視ることができない。


できないけれど、ぼんやりとは分かる。……分かってしまう。



いずれ空牙が選ぶ、たった一人の大切なひとは、このリリスではない―――ということを、もう、彼女は予感してしまっていて。



それが誰なのかまでは分からない。

彼が今から出逢うであろう、誰か。



……確かに。


聡(さと)すぎるというのもつらいものですわね―――と、リリスは内心苦笑する。


初めて恋をしたその日に失恋、なんて。
この、数多の男を虜にしてきた絶世の美貌を持つリリスが。

とんだ笑い種だ。



……もし、その娘に逢ったなら。
彼女の素性をこっそり調べ上げて、空牙に害を及ぼさない、彼に相応しい娘だと自分が判断したのなら。


賢い自分は笑顔で身を退くだろう。


何もないような顔をして、空牙をからかって。
当たり前のように祝福できるだろう。



だったら。



―――たった一度のキスくらい、許してくれたって良いでしょう?





コゥゥゥゥ……!



リリスが生み出した光がくるくると廻りながら空牙の薬指に蛇のように絡みつき、それがやがて硬質な指輪へと変わっていく。




『汝、空牙(クウガ)=迅(ジン)=キサラギ』




彼が、自分から離れられないように。


今は―――今だけは、契約という名の鎖で繋ぎ留めておきたくて。




『我が名、我が命、我が冠(ほまれ)』




嬉しくも虚しい、主従の関係。



リリスは一抹の寂しさを感じながら―――その始まりを、そっと告げた。




『朽ちて滅ぶ其の刻(ひ)まで、汝との契約を誓う―――』

79心愛:2012/12/26(水) 15:25:12 HOST:proxy10053.docomo.ne.jp
>>辰魅さん

徐々に暴いていきたいですねーw
空牙はけっこう出尽くしてるんで最終目標はミレーユかな。
リリスの裏話がそこそこ進んだので、ワンクッション挟みつつ次は新キャラ…という流れで!

ギャグ多すぎですけどね←
ありがとうございます!



>>ピーチ

神じゃないけど最下層だけどスムーズに読めたなら良かったー!
すらすら読める、っていうのはここあの目標なので(´ー`)




余裕ぶってましたが、実はリリスは空牙のことが好きなのでした←
なのにわざとふざけてミレーユや空牙をからかったり。……切ないなー。
まず人形を使うよう教えたのもリリスですしね。

こういう目で、もう一度リリスの登場回を見直して戴けるとまた違った感じで受け取ってもらえるかもです(つд`)

80名無しさん:2012/12/26(水) 21:25:48 HOST:EM114-51-172-214.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

最下層はあたしだぁー!!←

リリス姫お優しい……←おい

確かに無茶苦茶賢いよねリリス姫!

81心愛:2012/12/26(水) 23:08:36 HOST:proxy10059.docomo.ne.jp
>>ピーチ

頭が良いゆえに損しちゃう優しい子なんです(T^T)

なのに女二人の気持ちに微塵も気づいてない空牙です。
しかも無意識にやさしー言葉吐いちゃうから、二人にとっては生殺しという←

ミレーユが特にリリスに敵意剥き出しなのは、リリスの好意が行き過ぎてることを知らずのうちに悟ってるからなのね(~_~;)


あ、邪気眼少女の契約のとき、美羽が勝手に想像して赤くなってたのはこのエルゼリア式の契約方法を思い浮かべたからなんだ(^-^;

82ピーチ:2012/12/27(木) 14:02:00 HOST:nptka405.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

気付け空牙君ー!

女二人のこと考えろー!

83心愛:2012/12/27(木) 19:14:03 HOST:proxyag094.docomo.ne.jp
>>ピーチ

こういうモテる鈍感主人公っていうのも書いてみたかったんだ←
気づく日は来るのかね…?
ミレーユはともかくリリスの感情には一生気づかなそうだ(~_~;)


ただこれは恋愛メインじゃなくて異世界バトルファンタジー(のはず)だから、早くバトルやりたいよー(つд`)

84ピーチ:2012/12/27(木) 23:02:41 HOST:EM49-252-69-209.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

無自覚主人w

だってリリス姫隠してるじゃん! ミレーユちゃんに譲ってるじゃん!

あたしもバトルみたいよー! 気長に待ってるよー!

85心愛:2012/12/28(金) 16:12:31 HOST:proxy10049.docomo.ne.jp
>>ピーチ

そうなのよー、本人以外知らないから、リリスがカミングアウトしない限りはありえないよね(~_~;)


ありがとーう!
そう言ってくれると嬉しいです(〃▽〃)
そろそろリリスの能力をバトルに生かしたい←

86ピーチ:2012/12/28(金) 17:23:13 HOST:EM1-115-30-179.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

リリス姫カミングアウトしちゃえー!←

あ、あれ? リリス姫って確か人の心が読めるだけじゃ……

87心愛:2012/12/29(土) 16:07:07 HOST:proxy10009.docomo.ne.jp
>>ピーチ

魔力解放前→心を読むだけ
魔力解放後→ありとあらゆるものを「視る」


これがどう戦闘で生きるかって感じだよね。
リリスは王様らしく、知覚系異能では最強&無敵です!

88ピーチ:2012/12/29(土) 16:09:17 HOST:EM49-252-63-97.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

なるほど!

最強かー、色んな意味で凄いよね!

89心愛:2012/12/30(日) 13:05:37 HOST:proxyag062.docomo.ne.jp







「……姫」



「なぁに、空牙(クウガ)」



靴屋、洋服屋、骨董店、宝石商に魔術用品の店。


空牙は建ち並ぶそれらを横目に、



「その服装はどうかと……。せめて隠すとかしたらどうですか」



幻想的な色合いをしたストロベリーブロンドの髪を揺らす麗しの姫、リリスが振り返る。



「あら。どんなに着込んだところでわたくしの美しさを隠しきれるとでもお思い?」



「自分で言いますか……」



「事実ですもの」



けろりと言ってのける彼女。


妖艶な裸身を包むのは薄地のドレス一枚。
それなのに厭らしさが微塵もないのは、奇跡と彼女自身の完成されすぎた肉体の為せる技だと空牙は思う。

今にも零れ落ちそうに盛り上がった、しかし綺麗な楕円形を保つ見事な二つの膨らみ。
きゅっと引き締まった細いウェストの下には扇情的で豊満な、それでいて無駄な肉は一切ない腰回りが続く。


絢爛たる美貌と相俟って嫌でも人目を惹きつける容姿のリリスを連れる空牙は、先程から羨望と嫉妬の視線をこれでもかというくらいにザブザブと浴びまくっている。


ひっそりと陰口を言われることには慣れていても、これは居心地悪いことこの上ない。



「はぁ。……で、姫」



「ミュシアもなかなか良い場所ですわね。この平和的な雰囲気は是非とも見習いたいところで」



「姫!」



空牙はむっとして半ば無理矢理彼女を呼び止める。



「いい加減はぐらかすのはやめて下さい」



こちらについ、と視線を投げるリリスを真っ直ぐ見つめた。



「俺を連れ出したのは、話したいことがあるからでしょう?」




「……流石は腐ってもエルゼリアの民、鋭いですわね。たまに、ですけど」



リリスはくすりと笑い、



「でも、貴方と一緒にデートがしたかった、というのは本当でしてよ?」



う。と空牙は赤くなる。
拗ねたように言うリリスは問答無用で可愛らしく、こほんこほんっと思わず目を逸らして咳払いをしてから。



「冗談はやめて下さい。……あのとき……ミレーユの中に、一体何が視えたっていうんですか」



空牙はこれでも一応、ミレーユを使役する人形遣いだ。
主として、それを知る権利がある。



「ミレーユにあんなこと言って誤魔化す程のことなんですか」



本当にミレーユを《強制支配》させたかったなら、それに逆らった空牙を咎めるはず。
空牙がいくら強がってみせたところで、リリスなら空牙一人を捻り潰すことなんて指先一つでできてしまうのだ。
なのに、リリスは満足そうに、安心したように笑っただけだった。



「教えて下さい。姫は、何を隠しているんですか」



二人の間に沈黙が立ち込め、

……やがてリリスが根負けしたように瞼を閉じた。




「……今はまだ、その時ではありませんわ」




儚い笑み。
幾つもの痛みを隠し持ち、それに耐える者の笑みだった。




「貴方も、そしてあの子も。全てを知るにはまだ早すぎる。……でも、これだけは話しておかなくてはと思いましたの」




ふ、と艶やかな唇が告げる。




「あの子は、記憶していないだけで……人形として使われる前のことですけれど―――壮絶な過去を背負っている」




「……それは、どういう」




「その過去が、いずれ……あの子の未来をも縛り付けることになる」




わざと空牙の言葉に重ねるように言い、美しく孤を描く長い睫を伏せたリリスは、



「でもね」



ふわり、とふくよかに微笑んで。




「空牙、貴方がいればきっと大丈夫」




心からの信頼が伺える、はっきりした口調で、リリスは続ける。




「貴方なら、深い深い絶望の闇から……あの子―――ミレーユを、救うことができる」




黙ってリリスを見つめていた空牙は―――やがて、はあっと溜め息をついた。



「……姫がそう言うなら、間違いないでしょうね」



「当然ですわ。わたくしを誰だと思っていらっしゃるの?」



「俺の尊敬する主君ですよ。……悲しいかな、あいつと一緒にいると厄介事には慣れっこなんで」



空牙は笑った。




「これ以上、無理に聞き出すことはしません。―――安心して任せて下さい、姫」

90ピーチ:2012/12/30(日) 15:58:49 HOST:EM114-51-157-47.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

空牙君&リリス姫ー!

……空牙君も可哀そうにね←

やっぱりここにゃんキャラって優しい人しかいないよねー!

91心愛:2012/12/30(日) 18:09:06 HOST:proxyag105.docomo.ne.jp
>>ピーチ

あはは、どうしても優しくない人は書けない←

極悪非道で完全に根性ねじ曲がってる人……にこの最後で挑戦してみようかと画策中だけどねw

92ピーチ:2012/12/30(日) 18:18:11 HOST:EM114-51-44-25.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

だーよねー! ここにゃんは優しい人しか書けないよねー

極悪非道で完全に根性ねじ曲がってる人…頑張れここにゃん!!

93心愛:2013/01/04(金) 17:57:51 HOST:proxyag091.docomo.ne.jp






「……ええ」



切なげにワインレッドの瞳を細めたリリスに、空牙はさらに言う。




「姫―――あまり、お一人で抱え込まないで下さいね」



また、こうだ。
リリスは自分たちを守るために、こうして笑みを浮かべながらも一人で無理をしていて、なのに守られている自分たちは何も分からなくて。
重圧に耐え、華奢な双肩に責任を背負い、音を上げることもせず。



「わたくしはそんなに柔(やわ)ではありませんわよ」



空牙の思考をわざわざ視透かさずとも、この程度なら簡単に想像がついてしまうリリスは不服そうな顔をした。



「王とは全てを背負うもの。弱音を吐くなんて以ての外―――ですけれど」



一旦言葉を止め、空牙を見て。

それから悪戯っぽく、ふふっと笑った。



「……承知していますわ」




安心して僅かに力を抜いた空牙へと、リリスはにっこり微笑みかける。



「さて、あんなことを言ってしまった手前、ミレーユにもお詫びをしなくてはね。空牙、何か買って差し上げなさいな」



「話の筋が通ってませんよね!?」



油断したところに、自然な流れでさらりと丸め込まれそうになり、空牙は慌てて抗議する。



「何で俺なんですか!」



「これだからミレーユに馬鹿にされるのですよ。あの子に嫌われているわたくしにものを貰ったって嬉しくも何ともないでしょう」



「いや、俺に貰ったらもっと嬉しくも何ともないんじゃ」



ふう、とリリスは哀しげに眉を下げ。



「空牙。過ぎた鈍感は美徳にもなりませんわよ」



「哀れまれた……!?」



「とにかく命令です。ミレーユへのお土産を選びなさい」



屹然とした口調。
空牙は目を逸らして頬を掻き、



「あのー……俺、金持ってないんですけど……」



「………はー………」



これだからこの馬鹿は、という顔をするリリス。



「し、仕方ないじゃないですか! あの通りミレーユが依頼客を片っ端から追い払うから」



「そちらではありませんわよ」



「へ?」



言いながら、リリスは一つの露店へちらりと視線を投げて男の店員を確認。



「空牙。あの中で、何か良いと思うものは」



「はい?」



美しく並べられているのは色とりどりのリボン。
言うまでもなく空牙はこういう女物にはさっぱりだが、品の良い光沢からしてなかなか上質なもののようだ。



「強いて言うなら……あれですかね、左から三番目の白のやつ」



少し迷った後、中央に宝石が付けられているのか、遠目にもキラリと光るのが分かる一品を指し示す。



「ふぅん。趣味は悪くないですわね」



「あの、だから俺は」



「黙って。邪魔だからあっちに行ってなさいな」



邪険に追い払われた空牙はすごすごと大人しく退散。


リリスは彼の姿が見えなくなるのを確かめてから、目をつけた店へと近づいて行った。



「ど、どうしましたお嬢さん」



エルゼリアはともかくミュシアの民には、まだリリスの顔は知れ渡っていない。
女神の如く眩い美少女の登場に、若い店主が見惚れて挙動不審になってしまうのもむべなるかな。
自分がどうしたら一番美しく見えるか知り尽くしているリリスは、うるうるっと瞳を潤ませて力なく俯く。
さりげなく胸の谷間を強調しつつ、青年から見える角度もばっちりだ。



「素敵なものばかりね。……でも残念。わたくし、お財布を忘れてしまって」



しょぼん、としてみせる。


若者は赤い顔で両手をぶんぶんと振り、



「いやいやそんな、お代なんか取れないよ!」



「まあ……!」



リリスは驚いたようにパッと顔を上げる。
それからトドメとばかりに必殺上目遣い。



「本当に良いんですの? どれでも?」



「もちろん!」



「ああ、なんて優しい人! ありがとう!」



キラッキラした笑顔を向けられた青年は、真っ赤になってしまいながらもリリスに目的の物を手渡す。

リリスは何度も振り返ってお礼を言い、空牙が隠れた場所までやって来ると、



「―――と、いう具合ですわ」



「最低ですね!?」



けろっとした顔でウインクするリリスに、耐えきれず空牙が突っ込んだ。

94心愛:2013/01/04(金) 18:00:02 HOST:proxyag092.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ここあがんばる!
でもすぐ極悪人になっちゃったわけとか書きたくなるのがここあだから耐える!←



……主従って似るんだね!(お金ケチる的な意味で)

95ピーチ:2013/01/04(金) 20:35:34 HOST:EM1-114-144-142.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ここにゃんがんばれ! 耐えて!

……最早家族とか兄弟とか?←

96心愛:2013/01/04(金) 21:35:29 HOST:proxy10046.docomo.ne.jp
>>ピーチ

家族? 兄弟?(?_?)


次くらいからやっとバトル入りまーすw
魔法バトルやりたくて始めたのに全然書けてないという。

ミレーユなしの空牙はリリスの足手まといになるだけなのか! そしてあとでミレーユに馬鹿にされまくるのか!
乞うご期待((しねぇよ

97ピーチ:2013/01/04(金) 22:46:24 HOST:EM1-114-144-142.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

家族ってケチなこととか簡単に許せることとか似てない? ってことで←おい

……ここにゃんのキャラってなんかさー、男キャラに必ず一人は馬鹿にされない?(ひでぇ

98心愛:2013/01/05(土) 17:10:00 HOST:proxy10028.docomo.ne.jp
>>ピーチ

なるほど!w


馬鹿にされるというか哀れなポジションの奴が一作品につき必ず一人はいるというw
だいたいツッコミ役だよね←

99ピーチ:2013/01/05(土) 23:22:03 HOST:EM49-252-160-154.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

哀れなポジション………あ、分かるかも←

ヒース然り空牙君然りヒナさん然りw

空牙君はともかく、二人はツッコミも交じってるしねw

100心愛:2013/01/06(日) 10:44:19 HOST:proxy10006.docomo.ne.jp






「色仕掛けも実力の内ですわよ? 授かったものは生かしませんと」



「それ買うって言いませんから!」



「食い逃げ犯に言われたくはありませんわね」



「う」



返す言葉もない。



「では、これは空牙が渡してあげなさい」



―――素直じゃないなぁと空牙は思う。


空牙に買わせる気などなくて、最初から、自分で用意するつもりだったのだろう。……手段はどうであれ。

それなのに意地でも自分で渡そうとしないのは、彼女のプライドゆえか。



「空牙。余計なことを考えているようでしたら、これに相当する金額を次の依頼の報酬から前引きして」



「滅相も御座いません」



笑顔が眩しいリリスの脅しに、大人しく受け取ってコートのポケットに突っ込む空牙。

リリスは満足したように前に向き直り、




「―――あらあら」




すう、と瞳を眇(すが)めた。
その奥に冷徹な光が閃く。



「……どうやら、わたくしたちと遊びたがっている方がいるみたい。無謀ね」



複数の不穏な気配。
気取られないよう注意しながら、背後へ視線を走らせる。

街のごろつきだと思われる男が、喧騒に紛れて確実に二人の後を追って来ていた。
その周りに浮遊するのは、ゴーレム型の無骨な機械人形たち。



「ミュシアにも物騒な輩がいるのね。貴方のお仲間が五人、かしら」



「あんなのとミレーユを一緒にしないで下さいません?」



「まあお熱い」



軽口を叩きながらも二人は歩みを止めず、気づいていない風を装い徐々に彼らを人気のない場所へと誘導していく。



「ああ……美しいって罪ですわね」



「少しは謙遜したらどうですか」



「わたくしくらい美しいと謙遜は逆に嫌みになるの。こんな美人とデートしている男が絡まれるのはごく自然な流れね」



やがて、人通りの少ない路地裏に出た。
くるりと振り向けば案の定、酷薄な笑みを浮かべた男たちが。



「なあお嬢さん、ちょっとオレたち金に困ってるんだけどさ、貸してくんないかな」



「護衛連れ歩くお貴族様なら、ちょっとぐらい恵んでくれても困んねーよなぁ」



いかにも育ちの良い令嬢然としたリリスを見て楽勝だと高を括ったのだろう。
残念なことに、そのお貴族様とやらはエルゼリアを細腕一本で治め、纏め上げるいと畏(かしこ)き女王様であったのだが。



「生憎、わたくしも彼も無一文でしてよ」



威圧的な態度にもびくともしないで可愛らしく小首を傾げ、



「その代わり、腕には少しばかり自信がありますの」



怪訝な顔をした五人が行動を起こす前に。




「行きますわよ――――《散華魔鏡(フォル・モーント)》!」




リリスは異能を全面解放、とんっという音と共に空中へと舞い上がる。
魔力を瞬発力に変え、目標へと凄まじい速さで突撃。



「なっ」



鋭い蹴り。
リリスの何倍かというゴーレムの巨体が、まるでゴム鞠のように吹っ飛んだ。
衝突したゴーレムが壁を勢い良く抉る。



「くそっ」



慌てて人形遣いの男たちが魔力を集中させゴーレムを操作する。

全方位から彼女を押し潰さんと飛んできたゴーレムたちを、軌跡を“読んで”いたリリスは難なく、鮮やかに回避。
一体ずつ蹴り、殴り、叩き落としていく。



「…………」



男たちが余裕の表情を消し去り空中戦に気を取られ始めた頃合いを見て、空牙は下肢に力を込めた。

距離はほんの数メートル。

敵が並みの人形遣いなら―――魔力を練る前に、蹴りが、届く!



「俺のことも忘れんなっての!」



「なっっ」



強烈な一撃が突き刺さり、男の身体が宙に舞う。
集団に動揺が走り、目に見えて士気が崩れる。


すれ違いと同時に鋭く息を吐いて止め、力を抜いた両脚を全力で踏み込む空牙。

一歩で最高速度へ達した彼は男たちへと躍り掛かり、抵抗する間もなく組み伏せられた彼らの操るゴーレムのボディまでもが傾ぐ。



「《核》は流石に勘弁してあげる」



その隙に人形にとっての心臓、《核》の位置を把握したリリスは同時に、狙うべきゴーレムの弱点を幾つも視界へと浮かび上がらせて。
にこり、と微笑んだ。




「ごめんなさいね。……わたくしを狙った己の愚かさを呪いなさい」


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