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ソラの波紋
204
:
心愛
:2013/03/27(水) 12:55:35 HOST:proxy10066.docomo.ne.jp
「長々と説明どーも。お陰で腹が括れたよ」
ミレーユと同じく唖然としているサミュエルに、空牙は太々しい笑みを向けた。
「っつーか、あんな脅しに屈するとでも思ったのか? 俺も甘く見られたもんだな」
「君は―――」
「昔が極悪人だったって? こいつが今も、危険だって? そんなこと関係ないね。相棒を売る馬鹿が何処にいる?」
ミレーユの冷たい、剥き出しの肩を引き寄せ。
「俺の相棒はミレーユただ一人」
サミュエルに向けて、言い放つ。
「誰にどう言われたって―――こいつは世界最高の機械人形(マシンドール)だ」
ひっ、とミレーユが小さくしゃくりあげた。
とめどなく、溢れる涙の雫が次々と転がり落ちる。
サミュエルは空牙を見つめ、しばらく押し黙っていたが、
「……分かった」
仕方ないとでも云うように、こくりと頷く。
「今はまだ、内密にしておこう」
視線で助手に扉を開けるよう命じてから、再び空牙に向き直って。
「三日間、待つ。心変わりしたら、此処を訪れてほしい」
「誰がするかよ」
ハッとせせら笑い、空牙はミレーユの手を引いた。
「ミレーユ、行くぞ」
「……は、はいっ」
慌てて頬を拭い、ミレーユがさっさと歩き出した空牙の後に続く。
背中にサミュエルを含む研究員たちの不穏な視線を感じながら、外に出た。
しばらくの無言の後、空牙がぽつりと呟く。
「……確かにお前、あのときよりちょっとだけ伸びてるもんな。身長」
今のミレーユは、魔術回路を埋め込まれた機械人形であると同時に魔女。
魔族の少女の肉体は、時間が経つにつれ、少しずつだけれど成長していた。
「今まで、何で気づかなかったんだろうな」
「空牙……」
「姫は、ずっと前から知ってたのに」
空牙の紅い双眸が、遠くを見るように霞む。
「つらかっただろうな。俺たちの為に一人で秘密を抱え込んで、知らないふりをしてくれた」
リリスは王で、常に正しくあらなければならない。
すべてを知りながらも真実を隠し、空牙とミレーユに接する。
その葛藤は大きかったはずだ。
「ほんとに一生、あの人には敵う気がしないよ」
ミレーユをわざと傷つける言葉をかけて、空牙の反応を見て。
安心したように、微笑んでいたことを思い出す。
きっとあのとき、空牙の覚悟、ミレーユへの想いを確かめていたのだろう。
これなら、大丈夫だと。
いくらその結末が“視え”、想像がついても、自分自身できちんと確かめたかったのだろう。
「姫は真実を自分たちの力で知るように仕向け、選択肢を俺たちにくれた」
この線を越えたら、敵同士。
今までの関係ではいられない。
リリスは慈悲深くも、賢明な君主だ。
その判断には一片の曇りもない。
たとえ対立相手が、自分の眷属であろうとも。
尊敬する主君だからこそ、その優しさに甘え、特別な待遇を求めるわけにはいかない。それはリリスも望んでいない。
たとえエルゼリア―――いや、冥界中から追われて、主と敵対することになっても。
―――掴み取った自分の意志、自分だけの答えを貫いて見せろ。
それが、リリスからの言葉(メッセージ)。
「……ごめんなさい」
力なく俯いたミレーユの震える謝罪に、空牙は笑って言う。
「俺がしたいことしてんのに、お前が謝ることなんかねーよ」
乱暴にがしがしと頭を撫でられ、ミレーユが反射的に、抵抗するように手を伸ばして上を向いた。
視線が合う。
「だから。お前が負い目に感じる必要なんて、まったくない」
「……………っ」
くしゃりと、情けなく表情が歪む。
空牙が苦笑した。
「そんな顔すんなよ。お前らしくない」
「はい……」
ぼろぼろ泣きながら、ミレーユはしっかりと頷いた。
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