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ソラの波紋

184心愛:2013/03/23(土) 18:40:46 HOST:proxyag099.docomo.ne.jp







「姫の忠告を無駄にすることになるけど……」



空牙は真剣な顔で。




「―――行ってみないか」




彼の言葉を受け、ミレーユはほんの一瞬だけ間を取ると。



「……仕方ないですね」



腕を組んで尊大に胸を反らし、ふんっと鼻を鳴らした。



「良く分かりませんが、空牙は頼りなくて一人では何もできない唐変木でタコスケで虫ケラですから、ミレーユが特別に付いて行ってやるです。感謝するです」



「あーはいはい感謝感謝」




耳慣れた罵倒を聞き流す。
彼女はむっとしてむくれていた。



「決まった?」



「ああ。このまま、その……“ネクタル”ってとこに、行ってみることにするよ」



首を傾げて見上げてくるシルヴィアにそう答えた後、空牙はアレックスに向き直った。



「色々教えて下さって有難う御座います。あと、手合わせも。良い経験ができました」



「こちらこそ。久々に楽しませてもらったよ」



柔らかに笑むアレックスに手を差し出され、握手を交わす。



「シィもまたな」



「うん!」



歩き出す空牙たちに、幼き姫君は愛らしく無邪気な微笑みを浮かべて手を振った。



「いつかぼくと、妥協も引き分けも一切なしの真剣勝負しようね!」



「の、望むところですっ! ミレーユは準備万端です、いつかと言わず今すぐにでも―――」



「いやほんと勘弁してください!」



ミレーユを引っ張って猛ダッシュで走り去る空牙。



彼らの姿が地平線の彼方に消えるまで見送り、シルヴィアはくるりと己の眷属を振り返った。



「ねぇアレク。ぼくたちまた、リリスの手のひらの上ってこと?」



「珍しい、シィも気づいたか」



「なんとなくね」



立てた十字架に寄りかかって、視線だけをアレックスに向けるシルヴィア。



「わざとぼくたちと逢わせて、アレクから情報を掴ませて。空牙たちとその組織を引き合わせるように仕向けて……。何がしたいんだろう、リリスは」



「それだけじゃないよ」



片手で主の美しい銀髪を梳き、アレックスはくすりと笑った。



「彼女は、ずっと後のことまで視通してる」



不思議そうに見てくるシルヴィアの頭をごく軽く、ぽんぽんと叩く。



「とにかく、俺たちは一体でも多く、魔獣を倒そう」



「もちろんだけど……また、空牙たちの仕事の邪魔しちゃうかな」



まったく、この娘は。とアレクは苦笑した。
幼いゆえの冷酷さと未熟さを兼ね備えた、何処かアンバランスで危うい少女。



「大丈夫だよ、シィ」



アレックスはそんな主に言い聞かせるように、声を潜めて微笑む。




「空牙たちも―――それに、俺たちも。じきに、それどころじゃなくなるからね」







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それから半日後。
寂れた街に、賑やかに話す二つの影があった。



「参ったな……このへんで合ってるはずなんだけど―――おいこらミレーユ、勝手に誰かの屋根に乗ってくつろぐなよ」



「此処からなら簡単に、空牙を見下(くだ)せるです」



「見下(お)ろせるの間違いだよな!?」





「―――ミレーユッ!?」





突然後方から発せられた叫び声に驚き、空牙とミレーユがそちらを見る。



「や、っ……と、見つけた……!」



ミレーユを真っ直ぐに映して輝く、暗い色合いの紅い瞳を驚愕と歓喜に見開いた、深紫色の髪を持つ青年。
知的に整った相貌とくたびれた白衣は、近寄りがたく独特な雰囲気を放っていた。



「知り合いか?」



「……」



ミレーユがふるふると頭(かぶり)を振る。
どうやら、以前の主でもないらしい。



「えーと、すみませんが……どちら様ですか?」



「これは失礼!」



ハッと我に返ったように瞬いてミレーユから目を離し、男は空牙に向けて丁寧な礼をした。




「申し遅れました。私は《ネクタル》所属の研究者、サミュエル=ノヴァと云う者です」


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