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ソラの波紋

288心愛:2013/07/12(金) 22:23:55 HOST:proxyag044.docomo.ne.jp






―――ごめん、



―――ごめんね、シィ。




微睡みの淵で、そんな声が聞こえた。
子供をあやすように優しく、何度も、何度も。



……何故君が謝る。



なんだか釈然としない。

彼女は曖昧なものが嫌いだから、きちんと尋ねる為に口に出そうと―――



「!」



―――したところで、シルヴィアは寝床から跳ね起きた。
眩しい光に思わず目を瞑り、もう一度時間をかけて開ける。するとすぐに、黒髪の従者が視界に入った。



「気がついた?」



捕らえどころのない妖艶な笑みを向けてくるアレックス。
その背で漆黒の翼が揺れる。



「ぼくは、一体……」



ぐるりと周囲を見回す。
昔から使っている気に入りのベッド。豪華絢爛な薔薇模様のカーテン、絨毯。そして、アレックスの姿。
そのどれもが、嫌という程見慣れた光景だ。

が、おかしい。自分は確か、空牙たちと共に要塞にいて……戦って、不本意ながらもサミュエルに倒された、はずで。

訝しみながら記憶を探るうちにひとつのことに気がついて、掴みかからんばかりの迫力でアレックスに尋ねる。



「ミレーユは!? ミレーユはどうなったんだ!?」



「無事だよ」



アレックスはシルヴィアを落ち着けると、実際に体験してきたかのように事の顛末を話す。
シルヴィアもそれには驚かず大人しく聞き入り、話が終わると「……良かった」と小さな呟きを漏らした。

しばらく黙ってシーツを見つめた後、ぽつりと言う。



「………ぼくは、負けたのか」



シルヴィアが授かり、アレックスによって威力を増大させた異能《赫き煉獄の宴(ローゼン・クランツ)》は絶対的な“強さ”を約束するもの。
ならば、このような結果になったのは自身の異能を使いこなせなかったシルヴィアの責任だ。


思い詰めた顔で俯くシルヴィアに、アレックスが微笑んで。



「そう言って良いのかどうか。小細工なしの真剣勝負なら、シィは文句なしに最強だよ? あの魔女は特別としても」



ひょい、と肩を竦め、



「第一、あの男にトドメを刺さなかったのはシィでしょう?」



変なところで甘いんだから、と言われれば黙るしかない。
シルヴィアはむっとして、拗ねたように唇を引き結んだ。



「まぁ、気にすることはないんじゃない? シィが相手を消耗させたからこそ、『彼』の切り札も生きたんだし」



「……次の質問だ。ぼくは何故、無傷で此処にいる?」



実を言えば、一番最初に浮かんだ疑問がそれだった。
シルヴィアの身体に怪我は一切なく、全く痛みを感じない。怖いくらいに不自然だ。



「俺が運んだんだよ。気取られないようにこれを使って」



己の双翼を指差すアレックス。あいにくその意味はシルヴィアには分からなかったが、彼をじっと見ているうちにある違和感に気づいた。



「君……魔力の波長が弱くないか」



「あー、うん。脱出したは良かったけど、魔獣にやられてね。シィを庇いながらだから力も上手く使えなくて、流石に大変だったよ」



「怪我は!」



前のめりになるシルヴィアに、アレックスが苦笑。



「全然大丈夫だって。俺より、自分の心配をした方が良いんじゃない?」



「……ぼくには嘘をつくな、アレク。絶対にだ」



厳しい声で言い放ったシルヴィアが、服の上からアレックスの腕を掴む。途端、白磁の美貌が痛々しく歪んだ。



「……っこの馬鹿!」



シルヴィアはすぐに手を離し、目の前の眷属を怒鳴りつける。



「自分の魔力を、ぼくの治療に使っただろう!?」



「……」



無言が肯定の証だ。
この悪魔が自分の怪我を回復できなくなる程に、シルヴィアの治療には魔力を必要としたらしい。

相変わらず大事なことを言わない、と心の中で毒づき、シルヴィアはベッド脇にある呼び鈴の紐に手をかけた。



「ユリアスを呼ばせる。異論はないな?」



―――話はそれからだ。


怒りの表情のシルヴィアに、アレックスがすかさず茶々を入れる。



「ユリアス様はお疲れの上に、結界譲渡の時間でそれどころじゃないと思うけど?」



「君が平然と言うな! ならミュシアの王族を片っ端から当たるまでだ!」


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