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ソラの波紋

274心愛:2013/07/05(金) 22:17:17 HOST:proxy10007.docomo.ne.jp





空牙を案じ、自らの身を投げ出したミレーユを無理矢理操り、空牙たちを攻撃させるという仕打ちを与えているサミュエル。
それだけではない。
怨敵に対しても気高く堂々とした態度で挑んだシルヴィアの、仲間に対する真っ直ぐな想いを利用し、誇りを踏みにじった。
たとえ己の悲願を達成する為だとしても、その手段は卑怯で、下劣で、赦されるべきことではない。




「……俺もいい加減、我慢の限界なんだよ」




身体の奥、魂の根源から、膨大な量の魔力が溢れ出す。
体内で熱を持ち暴れるそれを、空牙は一気に解き放った。


轟ッッッ―――!!!


妖気の放出。
空牙を中心として突風が激しく渦巻く。暴力的なまでに眩しい白に、空間と視界とが塗り潰される。

サミュエルが息を詰め、
ミレーユは警戒してか紅く染まった瞳を細めた。


シルヴィアとミレーユ。いや、もしくはそれ以前か。仲間が戦闘をしている間ずっと、空牙は密かに少しずつながらマナを溜め、魔力を練り込んでいたということだ。

しかも、空牙の足元に花が咲くが如く拡(ひろ)がった金の紋様は輝きを増し、次第に濃くなっていく。
彼を取り巻く妖気の勢いも衰えるどころか、ますます大きく、強まっていく。



「まさか」



魔力の源たる周りのマナが薄まっていく感覚に、ユリアスがはっとして目を見開いた。

この魔力は、空牙が溜め込んでいた量だけではない。


このホールに満ちた残り全てのマナを、吸収している……?


獣が獲物を喰らい尽くすように荒々しく。
空牙は絶え間なくマナを取り込んで魔力に変換し、妖気として空気中に出していく。

それは途方もなく、作戦とも呼べない、あまりに単純で、そして無理が過ぎる筋書きだった。


―――この場のマナを使い果たしてしまえば、ユリアスと綺紗、だが例に漏れず、サミュエルも戦闘不能になる。



「そんなっ、無茶だよ! 空牙くんの身体の方が……っ」



先に限界を来(きた)し、壊れる。
そう叫ぼうとしたユリアスを、綺紗がそっと遮った。



「私も兄様も、こう見えてエルゼリアの眷属です」



真珠色の髪が暴風に煽られて激しく踊り、兄を見つめる真剣な横顔を彩る。



「主と同じく行動力と度胸、そしてそれに見合う知能を備えています。相応の覚悟や自信がなければ、無理はしないはずです」



それに、と綺紗が続ける。口元にはごく淡い笑み。




「―――生身の身体能力に関しては、他の臣民を遥かに超越している」




とんっ。
空牙が軽く地面を蹴って助走、そこから徐々に加速。
風の悲鳴が耳をつんざき、周囲の光景が流れるように移り変わる。


サミュエルの指示を受け、ふわりと舞い降りたミレーユが空牙の行く手を阻んだ。


やはりサミュエルは相当手練れの術者だ、まだ余力があるのか。
シルヴィアとの戦いで消耗し、さらにミレーユを稼働させ続けた上にこの環境下でも動けるとは、驚異的な実力と言っても良い。
が、流石に派手な魔法は使えないらしい。ミレーユは傍にあった石柱を思い切り蹴りつけ、それを粉々に砕いた。


鎌鼬にも似た衝撃波。がら空きの腕、肩、脇腹、両脚に尖った破片が突き刺さる。
身体を貫通するかの如き激痛に、空牙が顔を歪めた。
異能も魔法も使えない、だからブロックすることはできない。
空牙はそれらを全て受け止め耐えていたが―――その刹那、全力で地面を蹴り、高く、高く飛び上がった。
宙で身を捩り、砕けた石の欠片のひとつを爪先で蹴る。



「な……っ?」



浮力も何もないただの小さな破片は、少年の体重を支えるには質量が足りない。
とんっ、その僅かな、一瞬の跳躍が次なる石へと空牙を届ける。
それが落ちるより早く、速く、空牙は飛ぶように足場を跳び移り、空中でひたすら前へと駆けた。

ついにミレーユの真正面に辿り着き、追い抜きざまに声を発する。



「ミレーユ」



直接攻撃を仕掛けようと構えていたミレーユの動きがぴたりと止まる。
感情の消えたはずの瞳の奥にごく弱い葛藤を見つけ、空牙は笑った。




「言ったよな? お前は俺の、ただ一人の相棒だって」




きっと声は届かない。
けれど―――想いは、届く。




「俺はお前を信じてる」


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