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ソラの波紋

213心愛:2013/04/11(木) 22:31:54 HOST:proxyag115.docomo.ne.jp






―――白亜の神殿。
ミュシア領に属するこの壮麗な建造物は、冥界の丁度中心部に位置する。


純白に金のラインが入った法衣を身に着けるユリアスは、緊張に震える拳をぎゅっと握った。

自分の力を最大限にまで拡張させ、冥界全体を覆う結界を作る。
煉獄という猛毒の海に囲まれた冥界に生きる、民全ての命を担う大役だ。


―――こんなことでどうする。もう何度もやってきたことじゃないか。


瞼を閉じ、心を鎮め、清めていく。



誰よりも純粋な願いを抱き、祈り、想え。
永い永い刻をかけてこの世界を支えてきた、ミュシアの血を継ぐ者として。



「ユリアス様」



「……はい」



時間だ。



ダークエルフの女に促され、ユリアスは前へ進み出る。

結界を徐々に弱める兄の後ろ姿へと歩み寄り、それを引き継ごうと手を伸ばして。




「―――待て」




ユリアスを止めたのは他でもない、今まで黙って結界を維持し続けていた兄だった。
眉間に、深い皺が刻まれている。



「兄、さ……?」



「何かが、おかしい」



ユリアスが問い返そうとした、その刹那。



―――ぞくり。



凄まじい悪寒が、背筋を駆け上がった。






……リッィィ、ィ……ィィッ……






ガラスが砕け散ったような、切ない泣き声のようなか細い音色。




「――――――ッ!!!」




「う、そ……っ」




掠れた声を漏らし、ユリアスは口を両手で覆う。





―――結界が、破られた?




「くそっ、やられた……!」




煉獄を封じていた結界が、突破されたのだ。



結界の統制権が譲渡される、それの効力が最も弱まる瞬間を狙った襲撃。


この僅か十数秒の間に、開いた小さな綻びから無数の獣が、この世界へと躍り出た。


彼らに好き放題暴れられては―――



冥界は、ひとたまりもない!



「兄さん!」



忙しない足音、悲鳴が反響する中。



「ユリアス」



瞬時に冷静さを取り戻した兄だけは額に汗を滲ませ、既に結界の修復を始めていた。



「今、この手を離すわけにはいかない。お前に託すのはもう少し後だ」



「で、でも、っ……そんな、無茶ですっ」



此処五日間、兄は不眠不休で魔力を消費してきたのだ。
いくら回復の早い魔族の身体でも、もう体力の限界のはず。



「馬鹿、何の為の訓練だ」



瞼を閉じながらユリアスを一蹴し、



「一刻も早く安全な場所へ避難せよと、外に伝えろ。それから、既に逃がした魔獣の対策を考えてくれ。……俺も、あと一日は保たない」



驚異的な集中力。
ほぼすべての意識を結界維持に注ぎ込みながらも自分に指示を出す兄の凛々しい姿に、ユリアスは。



「行け!」



「……分かりました。リリス姫に指示を仰ぎます!」



彼に見えていないのを承知で頷き、法衣の裾を翻す。
淡い金髪を揺らし、神殿の外へと駆けた。







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「……おかしい。いくら何でも、早すぎますわ……」



エルゼリア王宮の私室で、リリスは一人佇んでいた。

美しい光を湛えるワインレッドの瞳が、物憂げに沈む。



「これでは、対策が……」




「―――何の騒ぎだ!?」




ふわり。


突如として、開いていた窓から銀髪の美少女が現れた。

強い意志を秘めた柘榴石(ガーネット)の双眸、甘やかで耽美なゴシック・ロリータの衣装。



「シルヴィア様」



「リリス! これは一体―――」



幼げな美貌を硬く強ばらせたシルヴィアがまくし立てる前に、彼女らの後方に新たな客人が舞い降りる。




「リリス姫、いらっしゃいますか!」




「……ユリアス様まで」



かくして、冥界を統べる三大王家の筆頭が集った。
リリスは翳りを帯びた表情で息を吐く。



「率直に言って……とても、まずいことになりましたわ」


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