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90's バトルロイヤル

1名無しさん:2015/10/20(火) 00:14:42 ID:S/90BWeU0
こちらは90年代の漫画、アニメ、ゲーム、特撮、ドラマ、洋画を題材としたバトルロワイアルパロディ型リレーSS企画です。

90's バトルロイヤル @ wiki
ttp://www27.atwiki.jp/90sbr/

90's バトルロイヤル 専用掲示板
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17336/

地図
ttp://www27.atwiki.jp/90sbr/pages/13.html

5/5【金田一少年の事件簿@漫画】
 ○金田一一/○高遠遙一/○千家貴司/○和泉さくら/○小田切進(六星竜一)

5/5【GS美神 極楽大作戦!!@漫画】
 ○美神令子/○横島忠夫/○氷室キヌ/○ルシオラ/○メドーサ

5/5【ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の風@漫画】
 ○ジョルノ・ジョバァーナ/○ブローノ・ブチャラティ/○リゾット・ネエロ/○ディアボロ/○チョコラータ

5/5【ストリートファイターシリーズ@ゲーム】
 ○リュウ/○春麗/○春日野さくら/○ベガ/○豪鬼

5/5【鳥人戦隊ジェットマン@特撮】
 ○天堂竜/○結城凱/○ラディゲ/○グレイ/○女帝ジューザ

5/5【DRAGON QUEST -ダイの大冒険-@漫画】
 ○ダイ/○ポップ/○ハドラー/○バーン/○キルバーン(ピロロ)

5/5【幽☆遊☆白書@漫画】
 ○浦飯幽助/○南野秀一(蔵馬)/○幻海/○戸愚呂弟/○戸愚呂兄

5/5【らんま1/2@漫画】
 ○早乙女乱馬/○響良牙/○天道あかね/○シャンプー/○ムース

4/4【カードキャプターさくら@アニメ】
 ○木之本桜/○李小狼/○大道寺知世/○李苺鈴

4/4【機動武闘伝Gガンダム@アニメ】
 ○ドモン・カッシュ/○東方不敗マスター・アジア/○レイン・ミカムラ/○アレンビー・ビアズリー

4/4【サクラ大戦シリーズ@ゲーム】
 ○大神一郎/○真宮寺さくら/○イリス・シャトーブリアン/○李紅蘭

4/4【古畑任三郎@ドラマ】
 ○古畑任三郎/○今泉慎太郎/○林功夫/○日下光司

3/3【ケイゾク@ドラマ】
 ○柴田純/○真山徹/○野々村光太郎

3/3【ターミネーター2@映画】
 ○ジョン・コナー/○T-800/○T-1000

3/3【レオン@映画】
 ○レオン・モンタナ/○マチルダ・ランドー/○ノーマン・スタンスフィールド

2/2【ダイ・ハード2@映画】
 ○ジョン・マクレーン/○スチュアート

67/67

2名無しさん:2015/10/20(火) 00:17:23 ID:S/90BWeU0
執筆時は以下のルールを参照してください。

ルール
ttp://www27.atwiki.jp/90sbr/pages/16.html

制限案一覧
ttp://www27.atwiki.jp/90sbr/pages/17.html

【基本ルール】
全員で殺し合いをし、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品は基本的には全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨、アクセサリー、身分証明証・財布などは持ち込みを許される(特殊能力のある道具を除く)。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。

・「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。主催者の手によってか何らかの細工が施されており、明らかに容量オーバーな物でも入るようになっている。四次元ディパック。何を入れても感じる重さはだいたい1kg以内。
・「地図」 → MAPと、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
・「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
・「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
・「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。肝心の食料の内容は書き手さんによってのお楽しみ。SS間で多少のブレが出ても構わない。
・「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。ちなみにアイウエオ順で掲載。
・「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
・「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
・「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

【放送について】
 0:00、6:00、12:00、18:00
 以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
 基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。

【禁止エリアについて】
 放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
 禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
 禁止エリアに入ってから首輪が爆発するまでには数秒の猶予がある為、それまでに該当エリアから脱出すれば爆破は回避できる(その際には警告音を発する)。

【作中での時間表記】(基本的に0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24

3 ◆V1QffSgaNc:2015/10/20(火) 00:20:48 ID:S/90BWeU0
投票によって選ばれたオープニングを投下します。

4オープニング ◆V1QffSgaNc:2015/10/20(火) 00:21:09 ID:S/90BWeU0



 199X年──。
 来るべき21世紀を前に、恐怖の大王が堕ちてきた。







「──」

 声にならない声をあげながら、彼らはゆっくりと目を開け、次に上体を起こした。
 冷たい床に眠っていたようだが、果たして自分はいつの間に眠ってしまっていたのか──。そう、誰もが考えている。
 人が大量に詰められていても涼しさを覚えるほどに広い部屋にいる。周囲は薄暗い。
 そして、微かにその床が上下に揺れており、これがおそらく「船の上」であるのは、推察する事が出来た。

(ここは一体……)

 しかし、こんな場所に眠るような出来事は、おそらくここにいる誰の記憶にもない。その証拠に、見える範囲にいる者は「彼」と同じように周囲をきょろきょろと見回している。
 周囲には、自分と同じように、目を覚ましている人間で溢れていた。百人はいないだろうが、おそらくその半分は超えている。性別はばらばら、年齢もばらばら(小さな少年少女の姿も目に付く)、国籍はばらばら、酷い時は「人間か否か」さえばらばらなようにさえ見える。……ただ、こう薄暗くては全員を見る事は出来なかった。
 周囲にはアジア人が多いようだが、そうなると、彼──ジョン・マクレーンは、つまりその中では異端であるようだ。

 始めは人身売買の船の中にでもいるのかと思ったが、そうとは思えないのは──マクレーン自身が、サンフランシスコの有名な市警であるからである。刑事をその手の犯罪に巻き込む者はあまりいないだろう。
 逆に、そんな職業だからこそ恨みを買う事もあるのだが、これだけ多種多様な人間をマクレーンと同じ扱いで捕えているあたり、今回は特別そう言う訳でもなさそうだった。
 ──おそらくは、「いつもと同じく、偶々、事件に巻き込まれた」という事だと考えて間違いない。

(……ったく……どうしちまったんだ、一体……どうしてまたこんなついてない目に遭うんだ……!)

 マクレーンは、まず冷静に事態を順序立てて考える事にした。
 自分が何故、今突然、「周囲と全く同じタイミングで目覚める事になったのか」からだ──。今自分がいる状況を知るには、自分の記憶を探らねばならない。
 そうだ……先ほど、首元に小さな衝撃を感じたのである。それが彼ら全員の目覚まし時計代わりになっていた。
 それを確認する為に首に手を触れて……マクレーンは、一言。

「くそ」

 先ほどまで自分が眠っていた床よりも遥かに冷たい──金属の輪が首を一周している事がわかった。こんなに厄介な物が装着されているという事は、拉致されてから随分時間が経っている事になる。
 周りの人間を見てみると、誰もが同じ物を身に着けていたようだった。
 この人数に同じ物を付けたという事は、組織ぐるみと見て間違いないだろう。
 そして、マクレーンが気づいたのと同じように、周囲にいる人間たちそれぞれが首のブツに手をかけ始めていた。それを見て、マクレーンは血相を変える。

「おい、お前ら! 死にたくなければそれに触るな!」

 マクレーンは、思わず周囲に警告するようにそう叫んだ。
 彼の方を見てざわめいて怯える者もいれば、マクレーン同様に落ち着いて事態を考察する者も多数いたようである。
 マクレーンには、嫌な予感がしたのだった。わざわざ取り付けられているこの首輪──おそらくは、ただの飾りじゃない。
 むやみに外そうとしてはならないだろう、と、マクレーンはすぐに考察する事が出来た。

「──諸君、お目覚めのようだね」

5オープニング ◆V1QffSgaNc:2015/10/20(火) 00:21:28 ID:S/90BWeU0

 そんな時だった。部屋の四隅に設置されたスピーカーから、突如、加工された不気味な音声が鳴り響いたのは──。
 マクレーンは、そこから聞こえる日本語の音声を、どういうわけか、寸分違わず理解する事が出来た。
 だが、注目すべきは、その音声がかなり加工され、男女さえ定かではないような物であったという事だろう。相手は身元の手がかりを、「日本語を解する者」である事以外、全く残さないように注意を払いながら、我々に言葉だけを届けようとしているようだった。
 この場に来た時から薄々あった嫌な予感が、倍増する。

「なんだ……?」
「私の名は、『ノストラダムス』……とでもしておこう。──こうして諸君を呼びつけたのはほかでもない。これから、ここにいる皆さんには一つゲームをして頂きたいのだ。スティーヴン・キングの小説に出てくるようなデスゲームを……」

 マクレーンの予感は的中した。
 それでも、まだ誰も騒ぎ立てる事はなかった。世界中で訳されているベストセラー作家とはいえ、キングを知らない者も少なからずいるだろう。
 デスゲーム、という言葉の意味をすぐに思い浮かべる事が出来た者と、出来なかった者がおり──前者は、悉く冷静だったし、後者は騒ぐ事ができなかった。
 謎の声は続けた。

「ゲーム名は、『バトルロイヤル』」
「バトルロイヤル……?」
「そう。……これから向かう場所に着いたら、ここにいる者たちで──最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう」

 小さな騒ぎが始まったのは、そんな趣旨が明らかになった瞬間だった。まだそこにいる者が現実感を持つまでには至らないらしい。冗談だと一笑する者や、冷静に思考を巡らす者……反応は様々だが、少なくとも、マクレーンは黙りこんだままだった。
 今、周囲にいる人間がこれから殺し合いをする敵だとわかったのだ。そう聞いた時点でも、まず周囲を観察しておかなければならない。
 やはり、アジア人やヨーロッパ人の小さな女の子供がいる。
 マクレーンは自分の娘を思い出す。

 そして、少なくとも──ジョン・マクレーンだけは、その時点で方針を決めた。
 ──こんな事を言い出す馬鹿をぶちのめす、と。
 彼には『ノストラダムス』の言葉の本気度がわかり始めている。マクレーンがここに来る前に携帯していたはずの銃がどういうわけか奪われている事がその理由の一つだ。
 相手は、マクレーンが刑事であるのを理解した上で監禁しているらしい。
 そして、あらかじめ反抗の為の凶器を奪ったのだ。

「あの〜、すみませんちょっと待ってください」
「その声……古畑さん!?」

 そして、そんな時、やたらと襟足の長い黒ずくめのアジア人が片手をあげ、嫌に丁寧な口調でその場の騒ぎを止めた。猫背だが独特のオーラを持つ男である。薄暗いせいで顔や手しか見えないのが恐ろしく見えた(まさか、マクレーンも、彼が日本の同職の男だとは思わなかっただろう)。
 彼が現れた瞬間、誰かがその男の名前を呼んで駆け寄ったような音がした。その男がこの暗い中で、黒ずくめの男のもとに辿り着けたかは定かではない。

「──何だね。古畑任三郎くん」
「……えー、我々の言葉に返答できたという事は、あなた今、私たちの様子をカメラか何かで観察しているという事ですよね? だとすれば、どうです? んーーー……んっふっふっふっふっ、そんな面倒なやり方で会話をするよりも、我々の前に姿を見せてくださるつもり、ありませんか?」

 フルハタ・ニンザブロー。それが彼の名だ。
 まだ冗談だと信じ込んでいるのか、それとも、普段からそんな飄々とした口調なのか、彼は間に笑い声のような声を交えながら、そう訊いた。
 しかし、会話が成立している点を見ているのはなかなか目の付け所が良い。
 マクレーンにはイマイチこの男の正体や性格が掴めないが、古畑の口調は情報を引きだそうとしているようにも見えなくもない。
 それから、相手がこちらの名前を把握しているという事も今の会話でわかった。完全に無作為に選んだわけではなく、相手側には「名簿」が存在している。

「残念だが、それは出来ない」
「どうして? やはり〜……犯罪、だからですか?」
「……我々の事を知る者がこの中にいる。しかし、参加者の条件や情報は平等でなければならない。我々の正体を知る者がゲーム内に存在してはならず、それゆえ、私も『ノストラダムス』という仮名を使用しているのだ」

6オープニング ◆V1QffSgaNc:2015/10/20(火) 00:22:33 ID:S/90BWeU0

 我々──つまり、やはり複数犯、あるいは組織ぐるみだという事だ。
 果たして、口を滑らせたのか、それとも、そのくらいの情報は見破られる前提なのか。下手をすると、複数と思わせるブラフかもしれない。
 ただ、その言葉を切欠に、古畑という男の口調は変わった。まくしたてるように『ノストラダムス』を責めたてる。

「……平等ですか? あんな小さな女の子まで連れてきているのに? ……いや、自慢じゃないですが、私も体力に自信のある方ではありません。しかし、見てください。ここには何人も体格の良い男性がいて、逆にあんな幼い女の子もいる。平等を求めるならどうして子供や私を巻き込むんですか、あなたがた平等という物を少しはき違えてます」
「──古畑くん。あまり調子に乗らない事だ。我々も早々にルールを説明して話を進めなければならない。黙って聞きたまえ」

 『ノストラダムス』は、古畑の追及を無視し、少し強い口調で言った。
 この返答であっさり引き下がるあたり、古畑という男の様子は奇妙だった。
 あのまま情報を引きだすのが普通のやり方だが、両手をひらひらと挙げて歩きだす古畑の様子は、自然と何名かの参加者の目を引いた。

「……君が場を静めてくれた事はひとまず感謝しよう。それでは、ルールを順に説明する」

 そして、それと同時に、スピーカーの中から、説明は始まった。
 誰もが、声を殺してそれを聞く事になった。今から行う殺し合いゲームとやらが、本物か本物でないのか、見極める為だろう。
 まだ本気だと確定したわけではない。だからこそ、これがテレビゲーム大会かドッキリTVである僅かな可能性を信じて、説明を聴き続けようとしているらしい。

「会場に着いたら、諸君の手元にはデイパックが支給される。中には食料や水、ライトや島の地図、筆記用具、いま諸君の周りにいる参加者の名簿、時計が入っている。これらは全員共通だ。しかし、それとは別に参加者によって別々な武器や道具も支給されている……これは、アタリもあれば、武器ですらないハズレもある」

「それから、こちらで今行っているのと同じように、六時間ごとに主催側から音声による放送を行う。死者の名前や残り人数は、その放送で全て説明する。また、これから行く会場で立ち入ってはならない場所──禁止エリアを二時間ごとに定める事になるが、それもここで順番に発表される」

「既に気にしていた者も多いようだが諸君たちの首に巻かれている首輪……その首輪は、無理に外そうとした場合、──あるいは、我々に反抗した場合、それから、禁止エリアに立ち入った場合に、爆発するから気を付けたまえ」

 一通りの説明を終えた時に、小さなどよめきが始まった。
 今周囲にいる人間たちが敵であるという恐怖よりも──たとえ、隠れていても常に自らを縛る爆弾が装着されているという事実に。
 マクレーン自身の予感は的中した。
 この首輪は──触れてはならないものだと。そして、これは正真正銘、生身の肉体を使って行う殺し合いであると。
 そんな時、『ノストラダムス』の声が叫んだ。

「そう──たとえば、今、誰かの首輪が音を立てているようになったら注意だ」

 ──言われて、マクレーンの形相が変わる。焦って、耳を澄ませた。

 ピピピピピピピピピピピ……。

 小さな電子音が不意に、静まり返ったその場に聞こえ始めた。どこから聞こえるのか──自分の近くではあるが、自分の首元ではなさそうだ。
 そんな安堵感を覚える者もいたが、いや、そうではない。誰かの首輪が音を立てているという事は、誰かが死ぬという事だ。マクレーンはそれを許さない。
 あの小さなアジア系の子供か、それとも、あの小さなヨーロッパ系の子供か?
 電子音は、疎らなどよめきに隠れていく。

「わ、私……!?」

 突如、スポットライトが一人のピエロに浴びせられた。それが、どよめきに隠れていた一つの電子音を白日のもとに晒した。
 ピエロが首に巻いている金属の輪が、小さな赤色のランプを点滅させていた。そして、音も明らかにそこから発されているのがわかった。
 この時、そこにいる参加者たちは、自分のまいている首輪の姿を始めて見る事になったのである。自分ではないと知って、ほっと息をついた者などいない。
 誰の目にも、銀色の鉄の塊が凶器に見えた瞬間だった。
 あれと同じ物が自分にも巻かれているのだ。

7オープニング ◆V1QffSgaNc:2015/10/20(火) 00:23:00 ID:S/90BWeU0

「な、何故私が……!?」
「君がこの殺し合いの見せしめだ。首輪の効果を説明するのに命を使わせてもらう」
「い、いやだ! 他の奴に代わらせてくれ!」
「──悪いが、時間だ」

 ピエロが弁解を続けている間に、主催人物の冷徹な言葉が宣告される。
 すると、ボンッ! ──と激しい音を立てて、首輪の電子音が終わりを告げた。
 そして、そのピエロ──美しい魔闘家鈴木の生涯も。
 上体そのものが爆破したかのように、首から上が完全に吹き飛び、下半身が力を喪い倒れた。吹き飛んだ部分は、まるで木片のように小さく周囲の参加者に降り注いだが──それが男の身体だというのは、マクレーンにも一瞬理解できなかった。
 首から上は形を残す事もなく、粉々だ。首の下も抉れたので、両腕も体から離れてもげている。黒い焦げ跡が爆発の威力を示していた。

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」

 それにより、場内は悲鳴で溢れかえる。女性のものだけではなく、大の男さえもその姿に大きな悲鳴をあげた。初めて人の死を見た者もいただろう。それがこんな残酷な殺しであったとなれば、悲鳴も出よう。
 マクレーンでさえも口を噤みながら、強く恐怖したほどだ。長年刑事をやっていても、こんな残酷な殺し方には滅多に出会えるものではない。

「禁止エリアに立ち入った場合も、こうなる運命となる」

 あんなものが──全ての参加者の首に。その事実が戦意を削ぐ。
 これで、『ノストラダムス』に反抗する者はもう無いかと思われた。
 しかし──。

「貴様らの卑劣な行為……このオレが見逃すわけにはいかん! たとえ貴様らがオレの命を握っているとしても、理不尽に人間を殺され、むざむざ従うオレではない!」

 そう、まだ、いたのだ。
 こんな卑劣な悪事を許せず、どうしても立ち上がってしまうタイプの男が。──「やめろ!」と叫びたいところだが、マクレーンも思わず押し黙ってしまった。
 彼の元にも先ほどの鈴木同様、どこからかスポットライトが向けられた。

「!?」

 そこにいたのは、ピンク色の顔の二足歩行のワニであった。体は大きく、これから殺し合いをする相手というより、これから人間を襲う相手としか思えない。
 映画に出てくるような化け物がそんな声を発しただけでも何人かは驚かざるを得ない。
 被り物にしては精巧で、その口や目の動きはハリウッドでもなかなか再現できなさそうなレベルに達している。

「察するに、ここは船の上だ。……だとすれば、別室にはこの船を動かしている貴様らの仲間がいるはず。──どこだ! どこにいる! あのフルハタという男の言った通りだ、オレのたちの前に姿を現せ! さもなければ──こちらから見つけ出すのみ!」

 次の瞬間、ワニの怪物は、スピーカーに向けて、手から光を発する。マクレーンは、そんな姿に昔の子供向けテレビ番組のの電子レーザー銃を思い出した。
 スピーカーの一つにそれが命中すると、それは小さく爆発し、轟音を鳴らす。光が機械を爆破する姿は、さながら魔法のようであった。

「なっ──」

 しかし──それと同時に、怪物の頭部に向けて、真上から一本の太い槍のような矢が降り注ぐ事になった。
 その矢は、彼が気づくよりも早く、彼の頭部に突き刺さり、ぐちゃり、と腐った果実を潰すような音を鳴らす。
 それより少し遅れて、その怪物の最期の断末魔がその場に響き渡った。

「ぐわああああーーーーーッ!!」
「クロコダイーーーン!!」

 ワニの怪物──その名もクロコダインの身体は、一瞬で串刺しになり、それと同時におそらく彼の生涯は終わった。そんな彼に、知り合いらしき少年たちが二名駆け寄る。
 それが一瞬参加者たちの目に映ると同時に、クロコダインを照らしていたスポットライトは消える。しかし、そこに勇猛な怪物の死体があるのは変わらない。
 亡骸に寄っていったらしい、少年たちの涙声が痛ましく響く。

 ……少なくとも、主催側の用意は、この首輪だけではないという事だ。
 ここで反逆すれば、知る限りの残酷な殺し方を示す結果になるらしい。

8オープニング ◆V1QffSgaNc:2015/10/20(火) 00:23:17 ID:S/90BWeU0
 あれが本物の化け物であるかはわからないが、そこに駆け寄った少年の仲間を想う声が偽物であるとはマクレーンにも思えなかった。
 どういう事だかはわからないが、あんな怪物がいたとして……それさえも拘束できるのがこの主催者なのだ──。
 残念ながら……純粋な力では敵わないと見た。それでもマクレーンは主催側への反抗心を緩めはしないだろう。

「これでわかっていただけたかな?」

 クロコダインが破壊した物とは別のスピーカーから、再び『ノストラダムス』の声が聞こえた。まだ三つのスピーカーが残っており、それでも充分にこの部屋には音声が通る。
 二人も殺しておきながら、スピーカーから聞こえる声色には一切の変化がない。そして、その声は無情にルールを説明し続けた。

「残りは六十七名だ。このゲームの勝者には、商品としてどんな願いでも一つだけ叶えてやろう。不老不死、巨万の富、死者蘇生……あらゆる用意もある。信じない者もいるかもしれないが、その証拠を持つ者とは、生きてさえいればいずれ証人に会えるだろう」

 付け足すようにそう言ったスピーカーの音声だが、大部分の参加者は賞品よりも、自分の命を優先する。たとえ、本当に不老不死を得られるとしてもこんな事に巻き込まれるのは御免という者が多いだろう。

「……ちょっと待てよ。一つだけ教えてくれ」
「なんだね、金田一一くん」
「どうして俺たちを選んで、こんな事をするんだ? 人間をこんなに集めて手の込んだ用意までして殺し合いなんてさせたって、意味がないじゃないか!」

 正義感の籠った怒りの瞳でそう言う一人の高校生ほどの少年。
 誰にとっても気がかりな質問であったが、誰も問う事がなかった質問だ。
 だが、彼の場合は恐怖よりも真実の追及が勝っているのかもしれない。金田一なる少年は、臆する事なくその質問を『ノストラダムス』に向けた。
 スピーカーの音は少し待った後で、答えた。

「……その質問に答える事は出来ない。しかし、道楽に意味など求めない方が良いだろう」

 納得できる答えではなかったが、それ以上の追及は無意味という事だ。
 唯一聞こえた、「道楽」という部分に、少年は強い怒りを抱いたようだ。

「……わかったよ、あんたがそう言うなら、最初に宣言しておく……。──『ノストラダムス』、お前の正体は俺が絶対暴いてやる! ジッチャンの名にかけて!」

 彼が『ノストラダムス』への反抗の意思を告げた次の瞬間である。
 ふと、マクレーンは体がふらつくような感覚に苛まれた。そして、強烈な眠気がマクレーンを襲い始め、見れば、周囲の参加者が次々と膝をついて、眠りかけようとしている。
 主催側がここで全てのやり取りを終え、全員の意識を一度途切れさせようとしているのだ。

「……参加者諸君に、最後に一つだけアドバイスだ。勝ち残るには、力や武器だけではない。知恵も必要となる。今この状況になっても、そこの金田一くんや古畑くんのように、自分の置かれている状況を冷静に判断する切れ者がいる……上手に利用する事だ」

 ──薄れゆく意識の中で、『ノストラダムス』の有難くもないアドバイスだけが聞こえた。
 これ以上、反抗する者はいない。……いや、最初から、反抗した者を殺して強さを示す事を目的に、挑発していたのかもしれない。
 気づけば、マクレーンは揺れる床に顔をくっつけていた。
 最後の意識が、彼に告げる。

「さて……到着だ。君たちが次に目覚める時……殺し合いは既に始まっている……諸君らの健闘を祈る……」

 マクレーンたち、その場にいた者たちの意識は、次の瞬間、途切れた。
 次に目覚める時──彼らは、バトルロイヤルをする事になる。


【美しい魔闘家鈴木@幽☆遊☆白書 死亡】
【クロコダイン@DRAGON QUEST-ダイの大冒険- 死亡】


【主催人物】:不明(怪人名:『ノストラダムス』)
※主催者の音声は加工されており、口調も実際の主催者とはかけ離れている(作られている)可能性が高いです。
※おそらく複数人。ただし、ブラフである可能性もあり。

9 ◆V1QffSgaNc:2015/10/20(火) 00:24:28 ID:S/90BWeU0
投下終了です。

予約はこちらでお願いします。
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17336/1443792597/l50

10 ◆TA71t/cXVo:2015/10/21(水) 12:49:47 ID:.lEWO5Ig0
ダイ、ベガ投下します。

11 ◆TA71t/cXVo:2015/10/21(水) 12:50:38 ID:.lEWO5Ig0


「うわぁぁぁぁぁ!!」


鬱蒼と茂る森林の真っ只中。
勇者ダイは、大粒の涙を流し慟哭した。
怒りに任せ何度も地に叩きつけられた、破裂するんじゃないかというくらいに強く握られた拳からは、うっすらと血がにじみ出ている。


「クロコダイン……クロコダイイィン!!」


クロコダインは、ダイにとってかけがえのない仲間であり友であった。
いつも勇猛果敢に、敵がどれだけ強大であろうとも真っ先に立ち向かい、数多くの血路を開いてくれた。
またその強さのみならず、精神面においても人格者と呼ぶに相応しい漢でもあった。
その豪快ながらも義理堅く優しい性格に、自分も仲間達も何度助けられただろうか。


「うぅ……うぅ……!」


しかし……その大切な友は、もうこの世にいない。
ノストラダムスを名乗る悪に自ら立ち向かい、その命を目の前で散らせたのだから。
どれだけ願おうとも、もう二度と会えない。
それが、ダイはどうしようもなく悲しかった……悲しくて堪らなかった。






――――ゴトリ。


「……え?」


その時だった。
ダイの傍らにあったデイパック―――彼に支給されたそれの中から、何かが音を立てて零れ落ちたのだ。
地面を叩いた衝撃で、どうやら口が開いてしまったらしい。
彼はゆっくりと視線を物音の元へと向け、何が起きたのかを確認しようとし……

そして、現れたその武器を前にして言葉を失った。

12勇者の挑戦 ◆TA71t/cXVo:2015/10/21(水) 12:57:29 ID:.lEWO5Ig0

「……これは……クロコダインの……!」


クロコダインが愛用していた、怪力を持つ彼だからこそ扱える巨大戦斧―――真空の斧MARK-II。
それがダイに支給されたのは、まったくの偶然と言える事だった。
しかし……彼には、そうは思えなかった。


「……そう、か……」


かつて死の大地で超魔生物と化したハドラーと戦い、氷山に激突して海中に没した時。
潰されて死亡するかに思われたダイを救ったのは、彼の持つ剣であった。
ハドラーとの激突でその身に大きなキズを負ったにもかかわらず、剣は主を死なせまいとして彼の身を守りぬいたのだ。
確かな確固たる魂が、ダイの剣には宿っていたのである。

そう……これは、あの時と同じだ。
まるで、自身を失い涙するダイを慰め鼓舞するかの様に。
死してなお悲しみに暮れる友を救わんとするかの様に。


―――泣くな、ダイ。


その斧が……そしてクロコダインが、励まし語りかけてくれるかの様に思えてならなかったのだ。


「……うん。
 そうだよな……ありがとう、クロコダイン……!」

涙を拭い、静かに顔を上げた。
そうだ……死ぬと分かっていながらもクロコダインが命を捨てたのは、何の為だ?
このふざけたバトルロイヤルを止めるためだ。
だから彼は自ら選んで、ノストラダムスに立ち向かったのだ。
自爆呪文で散っていった師の様に。
同じくその真似をした最高の友の様に。
大魔王へ続く道を死を以って開いた父の様に。

ならばここで悲しみに暮れる事は、彼のためになるのか―――否、断じて違う。
成すべき事はただ一つ。
彼の死の意味を決して無駄にしない為にも、勇者としてこのバトルロイヤルを止める事だ。


「待ってろ、ノストラダムス……!
 俺は絶対に、お前を倒してこのバトルロイヤルを止めてやる!」


今も自分達をどこかで見ているかもしれない悪へと、ダイは声を上げて宣戦布告した。
そこにはもう、先程までの悲しみに暮れていた表情はない。
あるのは、毅然とした勇ましい勇者に相応しい顔であった。

13勇者の挑戦 ◆TA71t/cXVo:2015/10/21(水) 12:58:24 ID:.lEWO5Ig0



しかし。



「ムハハ……面白いことを言うではないか」


いかに木々がざわめく森の中といえど、大きな声を出せばそれを聞き取る者が近くにいても不思議ではない。
ダイの宣言は、皮肉にも思いもよらぬ者を呼び寄せてしまっていた。


「では、それだけの大口が叩ける器かどうか……このベガ様が試してやろうではないか……!!」


人の世を救う勇者―――その対極に位置する存在。
即ち、人の世を乱す者を。




■□■




「……お前は……!?」


目の前に現れ不適に笑うその男―――ベガの姿を前にして、ダイは息を呑んだ。

身に纏う真紅の軍服がはち切れんばかりの凄まじい筋肉。

その全身から放たれている、禍々しい圧倒的重圧感。

一切隠す事無く向けられる強大な敵意。

似ているのだ。
この男から視て感じる事のできる全てが。
襲い来るプレッシャーが……他でもない、あの恐るべき大魔王バーンとそっくりだ。
故に、ダイはすぐさま悟ることができた。

このベガという男が、敵であると。
絶対に倒さなければならない……凄まじき巨悪であると。

14勇者の挑戦 ◆TA71t/cXVo:2015/10/21(水) 12:59:09 ID:.lEWO5Ig0

「ヌゥンッ!!」


そうしてダイが覚悟を固めた、まさにその直後だった。
ベガは凄まじい勢いで地を蹴り、彼に肉薄してきた。
その右腕に禍々しい紫光を纏わせ、加速の勢いに乗せてダイの胴体めがけ拳を真っ直ぐに突き出してきたのだ。


「くっ!?」


命中寸前、ダイは咄嗟に両腕を胴の前で交差させ、更に竜闘気を放出した。
ただのガードではだめだ、出来る限りの防御をしなければまずい。
そうベガの様子から判断し、行動に移したのだ。
そして、その判断は間違いではなかった。


「ぐぅぅっ!?」


竜闘気を纏っているにも関わらず、ダイが腕へと受けた打撃は重く強烈なものであった。
それはベガ自身の豪腕よるだけのものではない。
彼が拳に纏う紫光―――闘気に似た何かが、竜闘気の防御すらも上回る程の威力を与えているのだ。


(暗黒闘気……いや、違う!
似てるけど、もっと重たい……すごく、邪悪な感じがする……!!)


それは幾度となく対してきた闇の闘気に近く、しかしどこか違う代物だった。
通常の暗黒闘気とも魔炎気とも、何かが異なる。
簡単に言葉には出来ないが……よりどす黒い、より極悪な印象があったのだ。
初めて戦う未知の強敵だ。
何の考えもなしにただ我武者羅に突っ込んではいけない……体勢を立て直し、仕切りなおさなければ。
そう瞬時に悟ると同時に、ダイはすかさず地を蹴り後ろへと距離をとろうとした。


「甘いわっ!!」


しかし、ベガはそれを許そうとはしなかった。
握り締めていた右拳を開くと同時に、彼はその掌に再び紫光を宿らせる。
それはすぐさまボーリングのボール程度の大きさを持つ球状へと変化し……


「喰らえぃっ!!」


腕を突き出すと共に、ダイ目掛けて射出された。
収束させたオーラを飛び道具として放つ、ベガの必殺の一つ―――サイコショットだ。

15勇者の挑戦 ◆TA71t/cXVo:2015/10/21(水) 12:59:42 ID:.lEWO5Ig0

「闘気弾……!
 なら、紋章閃で!」


それをダイは、竜闘気を弾丸として放つ紋章閃で迎え撃った。
両者が放つエネルギーは、激しく空中で激突し……



――――ズガァァン!!



「ぬぅ……!!」


轟音と閃光、そして衝撃を伴い弾けた。
両者共にそれを受け止めると、静かに互いの顔へと視線を向ける。
ダイは、未知の力を秘めたベガへの警戒心を込めて。
対するベガは、未知の力を見せるダイへの好奇心を込めて。
それぞれが、相反する感情を胸にして向き合っていた。


「ほう……随分、面白い闘気を持っているではないか。
 殺意の波動とはまた違うが、実に強固な闘気よ……」
「……そういうお前こそ……その力は一体……!」


額に汗の玉を浮かばせつつ、ダイは先程からの疑問をベガへとぶつけた。
ベガが纏い操るオーラは、竜闘気にさえも匹敵している。
そこまでに強大かつ不気味な力を、ダイは知らなかった。
力の強弱は抜きにして、これならばバーンの放った暗黒闘気の方がまだ形ははっきりしている。
故に……まるで底が知れない。


「ムハハハハ!
 よかろう……冥土の土産に教えてやろう!
 我が力の名は、サイコパワー……この世の頂点に君臨する力よ!!」


余裕か、あるいは更なる畏怖を持たせるためか。
ベガはその疑問に、笑みを浮かべて答えた。
自身の持つ力の名―――サイコパワーの名を。


「サイコパワー……?」

16勇者の挑戦 ◆TA71t/cXVo:2015/10/21(水) 13:00:17 ID:.lEWO5Ig0
「いかにも!
 我がサイコパワーは、悪意と憎しみこそを糧とする……あらゆる負の感情こそが、このベガ様の源よ!!」


サイコパワー。
その正体は、負の感情を大元とする極めて強大な超能力の一種。
自己はもちろん、その周囲に漂うありとあらゆる負の感情を力へと転化する恐るべき魔の力。
『人の世を乱す者』と呼ばれる巨悪こそが持ちうる、決して世にあってはならない強大な悪の力なのだ。


「ムハハハハ!!
 いいぞ、このバトルロイヤルとやら……中々に面白いものだ。
 このベガ様の命を握るという行いだけは気に食わぬが、我が力を高めるには最高の場よ!!」


自身に憎悪を向ける相手の感情をサイコパワーとして取り込み、力の増幅を図る。
より強き力を得るために、ベガは今まで数え切れぬ程にそうした相手を作り上げてきた。
時には、ただそれだけの為に一つの集落を完全に滅ぼし尽くした事すらもあった。
そしてこのバトルロイヤルは、まさに負の感情の溜り場といっても過言ではない。
生きて帰るには他者を殺すしかないという、非情の所業。
そこから生じる怒り・悲しみ・憎しみ―――負を伴う感情は、計り知れないものがあった。

それをベガは、嬉々として受け入れた。
この魔人は、邪悪な笑みを浮かべ……会場全体より漂うその感情を吸収し、己が力へと徐々に変えようと今まさに目論んでいるのだ。



■□■



「……何だよ、それ……!!」


ベガの力の正体と、その目的。
全てを聞き終えた時……ダイの中に湧き上がったのは、怒りだった。
サイコパワーの性質などは、どうでもいいと思えるくらいに強く激しい怒りであった。
あろう事かこの男は、このバトルロイヤルを悦んでいる。
自らの力を高める格好の場として認識し、他者の事など歯牙にもかけていないではないか。
どうしようもないぐらいに許せない……最悪を通り越した邪悪だ。


「どうした、何がおかしい?
 この世は力こそが全て、悪こそが人の持つ本質!
 言うなれば絶対の真理ではないか!!
 それを磨き高める事の何が悪いというのだ!!」
「違う!!
 そんな力が全てなんて……絶対に、間違ってる!!」


ダイは、ベガの言葉の全てを否定した。
力こそが全て、悪こそが人の真理など絶対に間違っている。

17勇者の挑戦 ◆TA71t/cXVo:2015/10/21(水) 13:00:47 ID:.lEWO5Ig0

アバン、ブラス、バラン。
彼らは自身に正しき力―――『正義』の意味を、心の意味を教えてくれた。
大切な誰かを守り助ける為に力はあるのだ。
平和を齎す為にこそ、力は振るわれるのだ。
その為に……『勇者』の力はあるのだ。
強大な悪を打ち倒し、人々を守る為に勇者は戦うのだ。


「お前なんかに……絶対に負けるもんか!!」


だから……勇者として、この魔人には絶対に負けるわけにはいかない!


「……気に喰わぬ小僧よ。
 虫唾が走るわ……!!」


そんなダイに対し、ベガは露骨に嫌悪感を露にした。
彼の主張が気に入らなかっただけではない。
彼が己に向ける敵意が、あまりにも不快だったからだ。
そこには確かに怒りがある……だが、強い怒りでありながらもまるで憎悪がない。
言うなれば、負を伴わぬ正しき怒り……正義の怒り。
ベガが忌み嫌うものの一つだ。


「その身を、砕き散らしてくれるわ!!」


怒声を上げ、ベガは強く地を蹴り宙へと高く跳躍する。
そのまま両の踵を揃え、急降下―――ヘッドプレスで、ダイの脳天を踏み砕かんとする。


「トベルーラ!!」


それを迎え撃つべく、ダイもまた飛翔呪文で宙へと飛んだ。
距離を急激に詰めつつ、その拳に闘気を収束させてゆく。
そして、迫り来るベガの両足目掛け……全力を込め、一撃を叩き込んだ。
足裏に拳は命中し、確かな手ごたえをダイに与えていた……しかし。


「ぬるいわっ!!」
「ッ!?」


逆にベガは、その一撃を利用した。
ダイの拳を蹴りの威力で受け止めるのではなく、ダメージを最大限に流しながらも衝撃をそのままに受け入れた。
彼の拳を踏み台にして、打撃を反動としてより高く飛び上がったのだ。
もしこれを並の格闘家が実践しようとすれば、両足を砕かれていただろう。
サイコパワーのみならず類稀なる格闘技術を持つベガだからこそ、出来る芸当なのだ……!


「ムハァッ!!」
「ベギラマ!!」

ベガはその両手にサイコパワーを纏い、空中よりの手刀―――サマーソルトスカルダイバーを繰り出した。
ならばと、ダイは閃熱呪文―――ベギラマをその手より放つ。
手刀が届くよりも先に、熱線はベガに襲い掛かった。
サイコパワーと閃熱呪文のぶつかり合い。
それは小規模な爆発を起こし、生じた煙が両者の視界を遮った。

18勇者の挑戦 ◆TA71t/cXVo:2015/10/21(水) 13:01:17 ID:.lEWO5Ig0

「……違うな、闘気ではない。
 貴様……その身にまだ、別の力を宿しているというのか」


白煙の向こうにダイを見据え、サイコパワーで空中に浮遊しつつベガは今の一撃を冷静に分析した。
この熱線は、先程の闘気を用いた一撃ともまた違っている。
これが例えば、自身がよく知る『波動』と『殺意の波動』の様な似通った力ならばまだ分かる。
しかし目の前の敵は強力な闘気を既に身に着けておきながら、その上でなお異なる力を喧嘩させる事無く両立させているのだ。
通常では考えにくい事を、この敵は成しえている。
それがベガにとって、強く興味を引いていた。


(……?
こいつ……魔法を知らない?)


一方ダイは、そのベガの様子に僅かな違和感を覚えた。
竜闘気の存在に疑問を思う事はまだ分かる。
他ならぬ自分自身が、父バランと出会うまではその詳細を知らなかったぐらいなのだから。
しかし……魔法を知らないというのは、流石に解せない。
戦闘のみならず医療行為にも、日常生活の補助にすらも使う者がいる程の力だ。
そんな魔法を、何故不思議に思っているのか……ダイには、それが分からなかった。
故に、心の中に奇妙な感覚が生じてしまったのだ。


「ムフフ……ムハハハハッ!!
 面白い……実にいいぞ!!
 小僧よ、名はなんと言う!!」
「……ダイだ」


しばしの静寂があった後。
ベガは、今まででも一番の笑みを浮かべ声を上げた。
そして名を名乗るよう、ダイへと問いかけた。
ダイもこれを受けて、自らの名を静かに返す。


「ダイ!
 分かるぞ……貴様のその肉体、普通ではないな?
 この力が何よりもの証拠……生半可な肉体で耐え切れる力ではないはずだ!!」
「ッ!?」

直後、ベガの宣言にダイは驚愕した。
理由は至極簡単……ずばり、言い当てられたからだ。
ダイの肉体は普通の人間のものではない。
彼は、神々の作り上げた究極の生物『竜の騎士』と人間との混血児だ。
実際に、彼が操る竜闘気はもし仮に通常の人間が操ろうと思えば、その力に耐え切れず肉体が崩壊する恐れをも秘めている。
竜の騎士の血統である彼だからこそ、竜闘気は扱えるのだ。
その事実を、そうした事情までは抜きにしてもベガは看破したのである。

そしてそれは……ベガにとって、何よりもの朗報であった。

19勇者の挑戦 ◆TA71t/cXVo:2015/10/21(水) 13:01:58 ID:.lEWO5Ig0


「ムハハハハッ!!
 よもやこの様な形で……このベガが望む肉体を見つけられようとは。
 何という行幸よ……!!」


歓喜の叫びを上げ、ベガはダイへと瞬時に接近。
勢いに乗せた強烈な蹴りの打ち下ろしを繰り出し、腕の防御ごとダイの体を地へと落とした。


「くっ……!!」
「受けてみよ……!!」


そして攻撃動作の終了と同時に、ベガは全身よりサイコパワーを発生させた。
今までの中でも最も苛烈で禍々しい紫の光が、その肉体を包み込んでゆく。
続けて、左手を添えた右の腕をダイへと力強く向ける。
その姿を見て、ダイは瞬時に悟った。
今から放たれる一撃こそが、ベガの最も信頼する必殺であると。


「サイコクラッシャァァァァッ!!」


猛烈な勢いで、右腕を先端にしたベガの身がダイへと迫った。
莫大なサイコパワーを身に纏い、自らを弾丸と成し敵を穿つ。
これぞ、ベガの代名詞ともいえる必殺の一撃―――サイコクラッシャーだ……!!


「……!!」


一目で分かる。
このサイコクラッシャーは、威力も勢いも今までの攻撃より上をいっている。
まともに受けて危険なのはもちろん、竜闘気による防御でもどこまで軽減できるか怪しい。
ならば取れる選択肢は、回避しかないか。


「……いや……!!」


否。
ダイがとった選択は、迎撃だった。
サイコクラッシャーは確かに恐るべき破壊力を秘めている技だろうが、同時にひとつの欠点もある。
それはこの技が、完全な肉弾での特攻であるという事だ。


強力なパワーとスピードでの突撃……ならばもし、それに合わせたカウンターを打ち込む事が出来たなら……!!

20勇者の挑戦 ◆TA71t/cXVo:2015/10/21(水) 13:02:29 ID:.lEWO5Ig0

「……クロコダイン。
 力を貸してくれ……!!」


ダイは傍らのデイパックから飛び出している真空の斧の柄を、力強く握り締めた。
ここまでの戦闘においても、この斧を使うと言う選択肢自体は考えていた。
しかし……扱った事のないジャンルの武器であった事は勿論、重量もあり取り回しが難しいこの巨大戦斧を手にして思うように動けるのかという危惧もまたあった。
その為、ダイは敢えてここまで徒手空拳での闘いに徹してきた―――実際、極めて高い格闘スキルを持つベガ相手にはそれで正解であった。
だが、この一撃へのカウンターだけは別だ。
素手では出せない、武器があってこそ可能な必殺の一撃が必要となる。
威力を生み出す必要があるからだ。
故にダイは、この真空の斧を今こそ使うと決めたのだ。


「うおおぉぉぉぉっ!!」


全力で斧を逆手に持ち上げ、竜闘気の力を開放する。
オリハルコンで作られた武器ではない以上、恐らく反動に耐え切れるのはこの一度のみ。
失敗は許されない。
迫り来るベガの姿を真正面に見据え、右手に構えた斧を力強く後方へと引き絞る。
この構えより打ち出されるは、勇者ダイの必殺剣。
師のアバンより受け継いだ、アバン流刀殺法の奥義……!!




「アバン……ストラァァァッシュッ!!」





■□■





「……ダイ……やってくれおるわ」


激闘を繰り広げた地から、やや離れたところに位置するその森の中で。
ベガは、自らに支給されていた薬草を複数枚纏めてかじりつつ、その身を静かに休めていた。

21勇者の挑戦 ◆TA71t/cXVo:2015/10/21(水) 13:02:53 ID:.lEWO5Ig0
サイコクラッシャーに対するアバンストラッシュでのカウンター。
ダイの狙いは間違ってはいない……この上ない正解ともいえる選択だった。
しかし、彼にも二つほど誤算があった。
一つ目は、サイコクラッシャーへのカウンター攻撃が、ベガにとって初めてではないという事だった。
発動中の隙を狙われる事など百も承知。
自身の決め技が持つ弱点など、ベガは当に分かっていたのだ。
故に彼は、ダイがカウンターを狙うと知った瞬間にその軌道を逸らした。
そうする事でタイミングを崩し、カウンターを封じ込めようとしたのである。
これがダイの二つ目の誤算―――サイコクラッシャーが真正面へとただ突っ込むだけの技だと認識してしまった事だ。
実際は、発動中でも多少のレベルならばサイコパワーでの軌道修正が可能なのだ。

だが、これでもなお完全にダイを封じるには至らなかった。
理由は至極簡単……ダイの放ったアバン・ストラッシュが、ベガの想像を超える一撃であったからだ。
結果、両者の必殺は完全に真正面から激突しあう形になった。
その衝撃は凄まじく、どちらともに弾けたエネルギーをまともに受けて吹き飛ばされるという決着に終わったのだ。


「ムハハ……だが、その方が面白みも増すと言うものよ……!」


恐らく、追いかければまだ追いつく距離には互いにいるだろう。
しかしベガは冷静に状況を分析し、追撃をしなかった。
摂取した薬草の効果でそれなりにダメージは回復したが、完全という訳でもない。
ダイの実力は、宿敵たるリュウやローズにも等しい……自身にも匹敵する領域にある。
あれだけの猛者を相手取るならば、それ相応に肉体を整える必要があった。


「ダイ……リュウと同じく、強き肉体と闘気を持った戦士か……!!」


ベガは、この強敵との出会いを喜んでいた。
何故ならば、ダイは己が求め望んでいた理想の肉体と言える存在だからだ。

ベガのサイコパワーはあまりにも強大。
しかしそれ故に、彼はひとつの問題を抱えていた。
その器たる肝心の肉体が、膨大すぎる力に耐え切れなくなり始めているのだ。
このまま時が経ち力を増せば、ベガの肉体は内より崩壊してしまう。
それだけはベガにとって絶対に避けねばならない事態だった……故に彼は、ある対抗策をとった。

魂の移し変え。
ベガはサイコパワーにより今の肉体からより強固なそれへと魂を移植する事で、問題の克服を図ろうとしていたのだ。
その為に彼が目をつけていたのが、サイコパワーに近しい性質である『殺意の波動』をその身に秘めた格闘家―――リュウだった。
彼の肉体を手にする事が出来たならば、完全無欠の状態として君臨が可能となる。
そう考え、彼が完全な殺意の波動に目覚めるようベガは幾度となく暗躍を続けていた。

22勇者の挑戦 ◆TA71t/cXVo:2015/10/21(水) 13:03:17 ID:.lEWO5Ig0

しかし。
今ここに、そのリュウにも匹敵する……或いはそれ以上のポテンシャルを秘めた肉体の持ち主が現れた。
これまで数多の格闘家をその目にしてきたが、ダイは群を抜いている。
殺意の波動にも比類しうる強大な闘気に、それに耐えうるあの肉体。
しかも彼はまだ子ども……あれでなおも発展途上にあるのだ。
では、もしその肉体を手に出来たならばどうか?
サイコパワーの器として……これ程の存在はあるまい。


「ムハハハハッ!!
 ダイよ……貴様は果たして、いつまでその純粋さを保っていられる?
 未曾有の憎悪が渦巻くであろうこの地で、貴様は果たしてどこまでその正義を貫ける?
 その身に絶望が降りた時……その時こそ、貴様は我が最高の肉体として完成するだろう!!」


このバトルロイヤルは、間もなく負の感情がより濃く漂い始める事になるだろう。
果たしてそれにさらされた時、ダイは希望を捨てずにいられるのか。
人の醜い面を見せ付けられた時に、純粋に正義を貫く事が出来るだろうか。

その身が絶望と失意に屈した時こそ……ダイは、ベガの理想の肉体に成りえるであろう。



【A-3/1日目/深夜】

【ベガ@ストリートファイターシリーズ】
[状態]:疲労(軽度)、肉体へのダメージ(小)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、薬草(残り二枚)@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-、不明支給品0〜2個
[思考]
基本:バトルロイヤルを勝ち上がり、またその過程で自らのサイコパワーを高める。
0:今は少し体を休め、肉体の回復を待つ。
1:ダイ及びリュウの肉体を新たな魂の器としたい。
2:他の参加者には一切容赦しない。

[備考]
※参戦時期はZERO3からになります。
 ファイナルベガ状態ではないですが、今後サイコパワーが高まれば変化する可能性もありえます。
※自身の近辺に漂う負の感情を取り込むことでサイコパワーの増幅を図っています。
 その範囲と増幅のレベルについては以降の書き手さんにお任せします。
 また、あまりに力が強大になりすぎると肉体が崩壊する恐れもあります。
※ダイをリュウと同等かそれ以上の代替ボディとして認めています。

【薬草@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
名前の通り、肉体に負ったダメージを回復させるための薬草。
回復呪文に比べればその回復量はそこまで高いとはいえないが、それでも呪文を使えない者にとっては貴重な回復手段といえる。
ちなみに、金属生命体の様に生身の肉体を持たない者には効果がない。

23勇者の挑戦 ◆TA71t/cXVo:2015/10/21(水) 13:03:46 ID:.lEWO5Ig0



■□■



「……なんて奴だ……」


奥義同士のぶつかり合いの末、ダイもまた吹き飛ばされた先で身を隠し体力の回復を図っていた。
あのベガは、決して野放しにしてはいけない存在だ。
このバトルロイヤルに、間違いなく悲劇を巻き起こすだろう。
しかし……今すぐに追撃を仕掛けることは出来ない。
肉体のダメージが少なからずあり、そして完全に扱える武器がない。


「……悔しいけど、今は……」


ベガは強大だ。
こんな不完全な状態で挑んでも勝ち目が薄い事を、ダイも理解していた。
大魔王バーンに剣を砕かれ、敗北した時の様に……
必ず勝利しなければならない相手だからこそ、体勢を整えなおす必要がある。


「けど……絶対に負けるもんか。
 絶対に……あいつの様な奴は……!!」


だからこそ。
必ず、次に会った時はベガを倒す。
そう心に決め、ダイはその勇気を奮い立たせた。

ベガの予測とは裏腹に。
人の世を乱すものという圧倒的邪悪を前にしても、彼の魂に宿る純粋な正義は微塵も揺らいではいなかったのだった。


「……ありがとう、クロコダイン。
 俺……やるよ。
 絶対に、このバトルロイヤルを止めてみせるから」


刃と核が砕け散り無骨な柄のみとなった真空の斧を、ダイは静かに地面に突き刺した。
予想通り、斧はアバン・ストラッシュの反動に耐え切れず粉々になってしまった。
しかし……この斧のおかげで、クロコダインのおかげで自分はこうして生きているのだ。

亡き友の為にも。
墓標代わりとなったその斧の柄に、ダイは強く誓った。
このバトルロイヤルをとめる。

それが……勇者の使命なのだ。

24勇者の挑戦 ◆TA71t/cXVo:2015/10/21(水) 13:04:09 ID:.lEWO5Ig0
【A-2/1日目/深夜】
【ダイ@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
[状態]:疲労(中度)、肉体へのダメージ(小)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2個
[思考]
基本:絶対にこのバトルロイヤルを止めてみせる。
0:体力が回復次第、探索を開始する。
1:ベガの様な奴は絶対に許せない。
2:バトルロイヤルを止めるために仲間を探す。
3:自分の力に耐えれる武器を手に入れたい

[備考]
※参戦時期は25巻、クロコダインとヒュンケルの救出後からミナカトール発動前のタイミングになります。
※A-2の森の中に、真空の斧MARK-IIの柄がクロコダインの墓標代わりとして立てられています。
 斧の刃と核は完全に砕け散っており、修復不可能です。
※ベガのサイコパワーについて知りました。
 また、ベガが魔法を知らないことについて違和感を覚えています。

【真空の斧MARK-II@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
クロコダインが愛用していた真空の斧を、パプリカの発明家バダックが改良して作り上げた武器。
核となる魔宝玉にはバギ系の魔力が宿っており、「唸れ、真空の斧」の掛け声と共にその呪文効果を発揮することが出来る。
高い攻撃力を持つが同時にサイズと重量も相当なものであり、事実上巨体と怪力を持つクロコダインのみが扱える専用武器といってもいい。

25勇者の挑戦 ◆TA71t/cXVo:2015/10/21(水) 13:04:26 ID:.lEWO5Ig0
以上で、投下終了となります

26 ◆7ediZa7/Ag:2015/10/21(水) 19:15:17 ID:TJWR71I20
投下乙です。
開幕から強者同士の激突……!
ダイのクロコダインへの慟哭、ベガの強マーダー感、過不足なくまとまった構成といい開幕にふさわしい投下でした

自分も投下します

27乾いた風を素肌に受けながら  ◆7ediZa7/Ag:2015/10/21(水) 19:16:29 ID:TJWR71I20

「“ここにいる者たちで最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう”」

……彼女がその文言を反芻すると、声が灰色の街に静かに響いていった。
くすんだ色をしたビルが乱立し、アスファルトで塗り固められた道と道が交錯する。無許可で電柱に張られたであろうチラシが冷たい風に煽られ、ぱたぱたと揺れていた。
コンクリートジャングル、などと揶揄されるその街は複雑に入り組み、空気はどこか寒々としている。

「“首輪は、無理に外そうとした場合、あるいは、我々に反抗した場合、それから、禁止エリアに立ち入った場合に爆発する”」

錆びついたガードレール沿いに歩きながら、彼女は街を一人歩いていた。
若い女だった。その顔立ちには未だあどけなさが残り、少女からようやく抜け出したばかり、といった風だ。
容姿こそ端正であったものの、彼女はあまり気を配らない性質らしい。髪は妙な方向に跳ねていて、身にまとうコートやマフラーもどこか野暮ったい印象を与える。

「“このゲームの勝者には、商品としてどんな願いでも一つだけ叶えてやろう。不老不死、巨万の富、死者蘇生……”」

彼女の手元には一冊の薄い本があった。
参加者名簿、と銘打たれた本を、彼女はチカチカと明滅する電灯を頼りに読み進めていた。

――宣告されたデスゲーム。“ノストラダムス”。船に揺られ、たどり着いた見知らぬ島……

意識を失う直前に告げられた情報はあまりにも突拍子もなく、ともすれば笑ってしまいそうな内容だった。
加えてあの場にいた、あのワニともヒトともつかぬ異形の存在。
全てが全ておかしな話だ。
仮にこのことを警察に告げることができたとしても、馬鹿馬鹿しくて取り合ってはくれないだろう。

けれど、現に彼女は首輪をはめられ、謎の島にいる。デイパックがあり、その中にはデスゲームの道具が一式揃っていた。
この事実を見れば、認めざるを得ないだろう。

――殺し合いは現実である、と

そう再確認した上で、ふと彼女は立ち止まった。
ぐしゃ、と音がした。道端に広がったガラス片を踏んだらしい。
一見整備されているように見える大都市においても、細部は散らかり、放ったらかしになっている。

「クローズドサークル。孤島での、デスゲーム――」

そんな冷たく、殺伐とした灰色街。世紀末近づく日本の風景。
見知らぬはずの、しかしありふれた街で、たった一人殺し合いに放り込まれた彼女は、

「――えくせれんと」

と、
感極まったように彼女――柴田純は呟いたのだ。






28乾いた風を素肌に受けながら  ◆7ediZa7/Ag:2015/10/21(水) 19:17:00 ID:TJWR71I20


柴田純は東大卒である。
東京大学法学部を首席で卒業。兼ねてより志望していた警察の道を歩むことになる。
その背景には義父、柴田純一郎の存在があった。優秀な参事官であり、難事件を次々に解決していた実績を持っている。
彼の殉職後、柴田はその遺志を継ぐべくも柴田は警察官を志していたのだ。
そしていわゆる“キャリア”として警察官僚となり、今後の昇進も約束された立場にある。
そんな折に、柴田はこのデスゲームに巻き込まれていた。
順風満帆な人生に、突如として舞い降りた災厄。しかし――

「こういうの、本当にあるんですね……」

――彼女は何故か感慨深い声でそう漏らした。

そして微笑む。どういう訳か彼女は少し楽しそうであった。

……言うまでもなく、柴田はこのようなデスゲームに参加するつもりは一切なかった。
人を殺してはいけない。元ネタよろしく用意された賞品にも一切興味はない。当然だ。人として、警察官として、当然のようにそう思っていた。
だからこの事件の犯人であるところの“ノストラダムス”を追い詰めるつもりである。目覚めてすぐその決意を固めた。
けれど――それはそれとして。

「“おれたちは死にたいのさ。だからこうして歩いてる”……」

犯人も口上で示していたデスゲーム小説の一節を諳んじ、彼女は息を吐いた。

船に揺られ行き着いた孤島。姿の見えない謎の男。強制されるデスゲーム。
何ともはや――ホラー・ミステリーの世界にしか存在しないようなパワーワードの目白押しだ。
そうした超常的な事態に遭遇すること、それ自体が“えくせれんと”なのである。

こんな面白い事件。俄然やる気が出てくるというものだ。
柴田は爛漫な微笑みを浮かべつつも街を歩き出した。
名簿より既にこの場に真山と野々村がいることは確認している。

彼らは共に警視庁捜査一課弐係の者たちだ。
警視庁捜査一課弐係。それは捜査一課の中でも特に難事件を担当する部署である。
長期的な捜査が必要とされた事件を扱い、数年規模、場合によっては十年以上に渡って事件と向き合っていく、そんな部署である。

――というのは建前だ

実際、弐係に期待されているのは事件の解決ではない。弐係は捜査一課ではない、などと揶揄されるような閑職というのが実態だ。
そもそも弐係に回されるのは一課が「解決は無理」と根を上げた事件ばかりなのだ。
それらはつまり“お宮”となった事件なのだが、しかし事件関係者に向かって「もう捜査していません」などと言う訳にはいかない。
建前としては「捜査は続いています」という必要がある。

“お宮”と呼ばれた事件を“継続”と言い換える為だけに存在する部署。
捜査一課のエクスキューズ。それが弐係である。

柴田もまたその弐係に所属していた。
キャリア組である彼女にとって、研修期間の三カ月間だけの所属ではあるが、しかし柴田はそこで精力的に事件に挑んでいたのだ。

「とにかく真山さんと係長を……」

ひとしきり感激し終わったのち、柴田は再び歩き出した。
捜査の基本は足だ、と色んな人も言っている。まずやるべきことは島の調査と真山らとの合流だ。
手始めにこの灰色の街に事件解決の糸口を求めよう。





29乾いた風を素肌に受けながら  ◆7ediZa7/Ag:2015/10/21(水) 19:17:33 ID:TJWR71I20



静寂が街を支配している。

かつん、かつん、と音がした。
誰もいない夜の街では異様なほど靴音が響き渡る。
外観は発展しているのに人もおらず、車ひとつ通らない街はひどく不完全な風に見えた。

「静かだ」

――そうして歩いていると、柴田はその男に行き遭った。

柴田は最初、彼が酔っているのかと思った。
公園。街にぽっかりと空いた空白。そのベンチにだらしなく腰掛けるその姿は一見して酔っ払いのそれだった。

白人だった。
黒みがかった茶髪に、無精ひげに覆われた顎もと。
その小奇麗なスーツを身に纏っているが、ネクタイはしておらず襟元ははだけている。
……と、独特のエロスを醸し出す容貌をした彼は、目を細め、恍惚の表情を浮かべながら、

「嵐の前の静けさは最高だな」

と。
やってきた柴田を見据えながら言い、それきり口を閉ざした。
言うことはそれだけだ、とでもいうように。

――そうして再び街に静寂が舞い降りた。

夜の公園。
柴田は男を見て、男は柴田を見ている。
その間は風が通り抜け、かさかさ、と塵が転がっていった。

その静寂は、確かに嵐の前の静けさだった。
殺し合いの参加者が出会い、デスゲームがまさに今この瞬間より始まるのだ。
互いが互いを知らない状況。不理解が軋轢を生むかもしれない。
もしかすると次の瞬間にはこの街に赤い血が舞う。
嵐が、殺人の嵐が巻き起こるかもしれない……そんな緊張を孕んだ静寂だった。

「あの」

――その静寂を破ったのは、柴田だった。

彼女は何と言うべきか思案したのち、男を見据え「私、警察官なんです」と告げた。
ここはとりあえず自らの社会的地位を示すべきところだ。彼は欧米人だろうが、しかし公的権力に属するものというのはそれだけ一定の信頼が得られるものだ。
信じてくれるに違いない。
そう考えたからこそ、柴田はまずそう告げ、同時に警察手帳を出そうとした。

「て、あれ……?」

声が漏れた。
懐にしまっておいた筈の手帳がない。あたふたとコートのポケットに手当たり次第手を入れるが見当たらない。
その事実に柴田は焦りを覚える。平時でさえ「警察官です」と名乗っても信用されないのだ。ここで変に疑われては困る。
どういうことだろう。まさかデイパックに入れた筈もない。しかし確かにこの辺りに――

30乾いた風を素肌に受けながら  ◆7ediZa7/Ag:2015/10/21(水) 19:17:48 ID:TJWR71I20

「…………」

――その様を見て、男は薄い笑みを浮かべた。

妖しげな笑みだった。
不敵で感情を滲ませない、それでいて心から状況を楽しんでいるような、矛盾した印象を与える笑みだった。
故に――妖しい。
そうとしか形容ができない。

嗤いながら、彼はおもむろに立ち上がり、柴田に近づいてきた。
手帳を探す手が止まる。にじり寄ってくる彼から柴田は目を離せなかった。
やってきた彼は、無言で柴田の首筋に顔を寄せ――

――臭いを嗅いだ。

「え」と柴田は思わず声を漏らした。理解が追いついていなかった。
けれど、くんくん、と髪から首にかけて鼻を効かせるその様は、臭いを嗅ぐといか言いようがない。
私今嗅がれちゃっているんだ。そう思うと「あ、あ」と変な声も出た。

「信じてやる」

不意に耳元で囁かれた。
背中を手でさすられ、抱きつかれるような形になりながら、柴田は彼の顔を見上げた。

「嘘は言っていない」

彼はどういう訳か満足げにそう言うと、再び嗤った。
どうやら――彼は柴田が警察官であると確信したらしい。
臭いを嗅げば、警察手帳など見ずとも彼は十分だった――ということなのか。

「しかし」

だが彼はそこで笑みを消し、顔をしかめながら

「臭いな」

……確かに、柴田はここ数日風呂に入っていなかった。






31乾いた風を素肌に受けながら  ◆7ediZa7/Ag:2015/10/21(水) 19:18:13 ID:TJWR71I20



ノーマン・スタンスフィールド、と彼は名乗った。
聞くに彼はニューヨークに住むアメリカ人であり、何と彼もまた柴田と同じく警察官であることが分かった。

「麻薬捜査官、ですか」

そう口にしながら、先ほど臭いをかがれた柴田は首筋に手を当てる。
嘘を吐いているかどうか臭いを嗅ぐだけで分かる――などという特技を彼は持っているらしかった。
“Almost Sixth-Sense”などと彼は言っていたが、流石の柴田もこれを“えくせれんと”と言ってのけるほど豪胆ではなかった。
麻薬捜査……確かに体臭などは重要なファクターになりそうではあるが。

「――――」

と、当のノーマンは柴田を置いて勝手に行ってしまう。
「待ってください」と柴田が声を張り上げると、彼は振り返り、ニィ、と薄く笑い、そしてどこか上機嫌な足取りまた歩き出した。
柴田は焦りつつ彼を追いかけた。

「あの、ノーマンさん。この事件についてちょっと考えをお聞きしたいんですけど――」

と、不意にノーマンは立ち止まった。
そして肩で、ちょい、と隣に立つものを示した。

それは公園にしばしば立っている、誰とも知らない人間の銅像だった。
柴田は一瞬呆気に取られたかが、しかしノーマンが示しているのは像そのものではないことに気付いた。
鎮座する像の下――普通ならば出自なり何なりが書いてある筈の場所に、奇妙な数字が書いてある。




1 1 1
1 3
1 1 3 1
1 3 3 1
1 2 3 2



……という数字が羅列され、そして最下段には空白の“□”が六つ並んでいた。
ノーマンはそれを示しながら、ニッ、と笑った。
「分かるか?」とでもいうように。

それを見た瞬間――柴田は目の色を変えた。
一気に像まで駆けより、ばっ、とその身を乗り出した。

意味ありげに羅列された数字。
用意された空白。
これは明らかに――パズルである。

32乾いた風を素肌に受けながら  ◆7ediZa7/Ag:2015/10/21(水) 19:18:45 ID:TJWR71I20

「1 1 2 2 3 1」

じっとそれを見据え、数秒の思考ののち、柴田は言った。
「ほう」ノーマンが声を漏らした。

「それはまた――何で?」
「これ、数列とかじゃないんです。そういう方向に考えるとドツボに嵌るんじゃないでしょうか」

柴田はノーマンに向き合い、静かな口調で説明した。

「これ、文章なんです。それぞれの数字が一つ上の段の数字を説明している。
 ええと、つまり……」

1 1 1
1 3

「この二段に絞ってみるとわかりやすいです。
 二段目の“1 3”というのは“1(が)3(つ)”と言っているんです
 この法則で全体を考えてみると……


 1 1 1
↑(は)1(が)3(つ) 
↑(は)1(が)1(つ)3(が)1(つ)
↑(は)1(が)3(つ)3(が)1(つ)
↑(は)1(が)2(つ)3(が)2(つ)


 、となるんですね。
 だから答えは――


1 2 3 2
↑(は)1(が)1(つ)2(が)2(つ)3(が)1(つ)


 となる“1 1 2 2 3 1”になるんです」


そう答えるとノーマンは満足げにうなずき、そして「じゃ、あれはどうだ」と示した。
それは公園の入り口に置かれた石碑だった。
そこに書かれているべきは本来、この公園の名前の筈だ。

33乾いた風を素肌に受けながら  ◆7ediZa7/Ag:2015/10/21(水) 19:19:25 ID:TJWR71I20


 1    2
■□   □□
□□   □■

3 4
■□   □■
□■   □□

5    6
□■
     □■

7    8
■■   □□
□■   ■□


……しかしそこにあったのは、またしも意味ありげなパズルだった。
柴田は先ほどと同じく猛然とその場へと駆けつけ、身を乗り出し思考を働かせ始めた。
□と■のパターンでそれぞれの数字が説明されている。5に当たる部分だけ抜け落ちているのはつまり――それを求めろということだろう。

柴田の視界が明滅する。駆け抜ける思考の嵐――はほんの数秒のことだった。

34乾いた風を素肌に受けながら  ◆7ediZa7/Ag:2015/10/21(水) 19:23:11 ID:TJWR71I20
すいません、ずれたんで>>33もう一度投下します
(これでも直ってなかったら、収録後に修正します。申し訳ない)



 1      2
■□   □□
□□   □■

3   4
■□   □■
□■   □□

5    6
  □■
  □■

7      8
■■   □□
□■   ■□


……しかしそこにあったのは、またしも意味ありげなパズルだった。
柴田は先ほどと同じく猛然とその場へと駆けつけ、身を乗り出し思考を働かせ始めた。
□と■のパターンでそれぞれの数字が説明されている。5に当たる部分だけ抜け落ちているのはつまり――それを求めろということだろう。

柴田の視界が明滅する。駆け抜ける思考の嵐――はほんの数秒のことだった。

35乾いた風を素肌に受けながら  ◆7ediZa7/Ag:2015/10/21(水) 19:24:16 ID:TJWR71I20

「上二つが黒」

柴田はそう一言漏らした。

「これ、要するに数字が隠れているんです」

ノーマンを振り返り、淡々と柴田は解説した。

――要するにこの図は四つの数字で1〜8の数字を示している図である、と。

「1、2、4、8の数字がこの□に隠れているんですね。 
 

 □□      1 4
 □□  =  8 2

と見てみてください。
例えば3なら……

  3
 ■□     1
□■  =  2

 となり、1+2で3になります。
 全部この法則で□と■は配置されているんです。
 だから求められている5は1+4ですよね? つまり――


 1 4     ■■
=   □□

 ――となればいい。だから“上二つ黒”が正解だと思います」

きっぱりとそう言い切ると、ノーマンは小さく口笛を吹いた。
ニッと笑い、またどこかを肩で示した。それは車道に立つ電柱で、そこに張られたチラシにはまたしても――





36乾いた風を素肌に受けながら  ◆7ediZa7/Ag:2015/10/21(水) 19:24:59 ID:TJWR71I20



「ええとだからこれはですね――」

ノーマンは次々にパズルを解いていく柴田を後ろから眺めていた。
その速度は驚嘆に値する。ひらめきが必要なものから精緻な論理を必要とするものまで猛烈な勢いで解いている。
その背中を、じっ、と見つめながら、ノーマンは懐に手を入れた。

ポケットの中には、黒光りする自動拳銃があった。

ノーマンは確かに柴田と同じ、警察組織に属するものである。
がしかし――彼は決して信用できる人物ではなかった。
何せ麻薬捜査官であるところの彼自身が麻薬に手を出し、麻薬密売組織を裏で牛耳っているのだから。

柴田が無防備に背中を見せている彼は――己の快楽の為に幾多者人間を手にかけてきた残忍な殺人者なのである。

ふとその気になれば、彼は柴田を殺してみせるだろう。
最初の出会いで即座に殺されていた可能性すらある。
ロジックも何もなく、彼の気分次第で、その引き金は引かれていた。

「今度のこれは、単に言葉の問題なんです。つまり――」

――爛漫な微笑みを浮かべ、揚々とパズルを解いている彼女は、今頃物言わぬ骸と化していただろう。

けれど幸か不幸かそうはならなかった。
穏便に柴田はノーマンと出会い、なりゆきで彼らは同行している。
懐で拳銃を弄りつつ、ノーマンは柴田の後ろをついていった。

――ノーマン・スタンスフィールドは残忍な男であるが、非常に狡猾な男でもある。

端的に言って、頭は回る。
レオンと呼ばれる殺し屋の正体を即座に看破し、追い詰めたのも彼の手によるところだ。
異様な残酷性を持ちながら、巧妙な立ち回りによって社会的地位を確保していたその手口は伊達ではない。

故に彼は柴田というアジア人が非常に頭の回る才媛であること、そしてその頭脳が有用であることを見抜いていた。

――この島はあからさまな“謎”が用意されている

島で目覚めたノーマンは、街に意味ありげに用意されたパズルをいくつか目撃した。
一見すると何の面白味もない、黄色人種の街なのだが、よくよく眺めていると柴田が今解いているような“謎”が用意されている。
それが何の意味を持つのかは分からない。だがこうしてわざわざ用意されている以上、全くの無意味という訳ではあるまい。

このデスゲームはただ単に暴力を競い合うものではない。
頭脳もまた重要視されているのだ。開始数十分にしてノーマンはそう判断を下していた。

そういう意味で柴田は明確な強みを持つ“強者”である。
そんな彼女を誘導し、上手く使うことができれば、このデスゲームでもうまく立ち回ることができるだろう――

――そこまで考えつつも、ノーマン自身はまだ何も“決めて”はいなかった

「なぁ」と彼は柴田に呼びかける。彼女は「はい?」と首をかしげながら振り返った。
街中に隠されたパズルを解くのに夢中で、自分が何をしているのか忘れているらしい。

「音楽は好きか?」

そんな彼女に、ノーマンは“目下第一目標”について尋ねた。

「俺は好きだ。愛している」

ベートーヴェン。ブラームス。モーツァルト……数々の名を熱を込めて彼は歌いあげる。
柴田は困惑に瞳を揺らす。彼が何を言わんとするのか分からなかっただろう。
だがそんなことは無視して、ノーマンはただ己の世界に浸り続ける。

「――音楽を聞けるマシンがあったら、渡してくれ」

そしてそう尋ねた。
“音楽”と“薬”。
それがノーマンがこの島に、まず求めたものである。
具体的にどんな風に立ち回るか、それは情報を集めなくては判断を下せないが、それだけはいかなる時でも必要だ。

故に――彼は“音楽”を求める。

ここがデスゲームであろうと、死と謎が跋扈する街であろうと、彼の世界に“音楽”は不可欠なのだ。

「え、あ、すいません。私、そういうの持ってないです」

だからこそ熱を込めて、心から願望を柴田に伝えたが、残念ながら彼女は首を横に振った。
途端、ノーマンの顔から熱が、すっ、と引いていく。
ない。ないか。ないならばやはりそれを探さなくてはならない。
とにかくまずは“音楽”を手に入れよう――

「あ」

――落胆しつつもそう決意を固めていると、不意に柴田が声を漏らした。
彼女は辺りをきょろきょろ見渡し、そして困ったようにノーマンを見上げ、

「ここ、どこです?」

……調子に乗ってパズルを解きまくっていたせいで、出会った公園から随分と遠いところまで来てしまっていた。
ノーマンは笑って、首を振る。ここがどこなのか、彼にだって分からなかった。
とりあえず、地図と顔を突き合わせて位置を確認するとしよう。

37乾いた風を素肌に受けながら  ◆7ediZa7/Ag:2015/10/21(水) 19:25:29 ID:TJWR71I20

そういう意味で柴田は明確な強みを持つ“強者”である。
そんな彼女を誘導し、上手く使うことができれば、このデスゲームでもうまく立ち回ることができるだろう――

――そこまで考えつつも、ノーマン自身はまだ何も“決めて”はいなかった

「なぁ」と彼は柴田に呼びかける。彼女は「はい?」と首をかしげながら振り返った。
街中に隠されたパズルを解くのに夢中で、自分が何をしているのか忘れているらしい。

「音楽は好きか?」

そんな彼女に、ノーマンは“目下第一目標”について尋ねた。

「俺は好きだ。愛している」

ベートーヴェン。ブラームス。モーツァルト……数々の名を熱を込めて彼は歌いあげる。
柴田は困惑に瞳を揺らす。彼が何を言わんとするのか分からなかっただろう。
だがそんなことは無視して、ノーマンはただ己の世界に浸り続ける。

「――音楽を聞けるマシンがあったら、渡してくれ」

そしてそう尋ねた。
“音楽”と“薬”。
それがノーマンがこの島に、まず求めたものである。
具体的にどんな風に立ち回るか、それは情報を集めなくては判断を下せないが、それだけはいかなる時でも必要だ。

故に――彼は“音楽”を求める。

ここがデスゲームであろうと、死と謎が跋扈する街であろうと、彼の世界に“音楽”は不可欠なのだ。

「え、あ、すいません。私、そういうの持ってないです」

だからこそ熱を込めて、心から願望を柴田に伝えたが、残念ながら彼女は首を横に振った。
途端、ノーマンの顔から熱が、すっ、と引いていく。
ない。ないか。ないならばやはりそれを探さなくてはならない。
とにかくまずは“音楽”を手に入れよう――

「あ」

――落胆しつつもそう決意を固めていると、不意に柴田が声を漏らした。
彼女は辺りをきょろきょろ見渡し、そして困ったようにノーマンを見上げ、

「ここ、どこです?」

……調子に乗ってパズルを解きまくっていたせいで、出会った公園から随分と遠いところまで来てしまっていた。
ノーマンは笑って、首を振る。ここがどこなのか、彼にだって分からなかった。
とりあえず、地図と顔を突き合わせて位置を確認するとしよう。


【E-4・街/一日目・深夜】
※街には意味ありげなパズルがあちらこちらに隠されています

【柴田純@ケイゾク】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本行動方針:事件解決
1:ここ、どこですか?
[備考]
時期は不明ですが、少なくとも真山ら捜査一課弐係ことは“知って”いますし“覚えて”います。


【ノーマン・スタンスフィールド@レオン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本行動方針:モーツァルトを聴く。ブラームスもいいぞ
1:情報収集。柴田を使いこの島の“謎”も解いていく

38 ◆7ediZa7/Ag:2015/10/21(水) 19:27:24 ID:TJWR71I20
投下終了。
最終レスは重複してますね……なんだか色々おかしくなっててすいません。
あと途中の諸々はttp://w3e.kanazawa-it.ac.jp/math/suken/を参考しました

39名無しさん:2015/10/21(水) 23:50:24 ID:rRRpickQ0
お二方とも投下乙です!

>勇者の挑戦
初っ端から実力者同士が全開バトル!
竜の騎士と互角に渡り合うベガも、サイコクラッシャーのカウンターを狙うダイも凄い。
強者同士にふさわしい迫力のバトルでした。

>乾いた風を素肌に受けながら
こちらはうって変わって静寂の幕開け。
会場に用意されたパズルは何の意味を持つのか?
曲者同士にふさわしい雰囲気のある話でした。

40 ◆V1QffSgaNc:2015/10/22(木) 00:15:52 ID:kTkCcgbk0
投下乙です。

>勇者の挑戦
いきなりオープニングを拾った名バトル。
ダイの感情や動きは、原作っぽさ全開でした。
剣没収された状態でのアバンストラッシュを上手くストーリーに活かしているのもお見事。
これからダイがどうやって再びあの技を使って戦っていくのかも楽しみの一つですね。
そして、クロコダインのおっさん、安らかに眠れ。

>乾いた風を素肌に受けながら
えくせれんと〜!
…こんな警察で大丈夫か?
っていうようなキャラですが、二人とも流石にキレ者ですね。警察としてはちょっとあれですし、スタンはかなり危険人物ですが。
頭脳が大事という本ロワの設定をいきなり掘り下げて、高いゲーム性が演出しているのには驚きました。
最初のパズルはこのまま続けまくるのもなかなか良い暇つぶしになりそうですね。
パズルとか好きだけど全然解けませんでしたわ…。

じゃあ、私も投下します。

41ふたりは平行線 ◆V1QffSgaNc:2015/10/22(木) 00:16:34 ID:kTkCcgbk0



 死骨ヶ原ステーションホテル。
 禍々しい地名にちなんでそう名づけられたホテルは、かつて──それも、二度に渡って──ある惨劇の舞台となった場所であった。
 ある一人の天才マジシャンのトリックノートを巡る、弟子たちの欲望の殺人。
 そして、その天才マジシャンの遺志を受け継ぎ、その欲望を断罪した一人の天才犯罪者による忌まわしき連続殺人事件。

 ……結果的に、これらの事件の真相は、天才的頭脳を持つ一人の高校生名探偵によって暴かれた。
 だが、それは、「天才探偵」と「天才犯罪者」の因縁の始まりでしかなかった。
 この後、彼らは幾つかの事件で再び合い見え、殺人計画と推理の対立を演じ続けてきたのである。
 トップアイドルの誘拐事件を発端とするマネージャー殺し。
 ベストセラー小説家の遺産を巡る、不思議な館の暗号殺人事件。
 複雑怪奇な事件を巡る二人の因縁に決着が着く日はだんだんと近づいていた──。

 そして。

 ──再び。
 彼らは、凄惨な殺し合いに引き寄せられるとともに、全ての始まりのこの場所に引き戻された。
 一切の恣意性のない完全なランダムの配置が、偶然にも彼らをここに呼びつけたのだ。
 あのオープニングから目を覚ました天才探偵と、天才犯罪者の前にあったのが、此処の天井だった。

 決して交わらない平行線の二人は、果たしてどう動くのか──。
 そして、この殺し合いは彼らをどう突き動かすのか──。







 ホテルの隣にある劇場──ここは死骨ヶ原ステーションホテルに来る客がマジックショーを見る為に作られた劇場だ、劇場の周囲は池になっている──の観客席に立ったまま、舞台上を物憂げに見つめる一人の美青年がいた。
 彼の名は、高遠遙一。
 殺人の罪状で全国指名手配を受けている犯罪者ゆえ、本来、安易に素顔を見せるべきではないのだが、今はそれを隠すのに適当な仮面や覆面もない。
 ……いや、この殺し合いの状況下、「高遠遙一」の名が名簿に載っている状態で仮面の男が混じっているというのも少し奇妙だろうか。
 まあいい。
 ともかく、相手が刑事事件の事情に乏しく、手配書をあまり見ない普通の相手である事を祈り、高遠はこの殺し合いで行動する事にしたのだが──

「……おや」

 ──いやはや、早速、この劇場で一人、他の参加者に見つかってしまったようである。
 高遠にとっては大きな不覚である。
 誰とも知らぬ人物にこんな殺し合いに連れ去られた事そのものが不覚と言わざるを得ないのだが、それを除いても──まず、この場ではいきなりの不覚だ。流石に状況をよく理解して警戒したつもりではあったのだが。
 これは、高遠自身が、初期位置が基本的に無人であると勝手に錯覚していた事と、まだ状況に慣れ切っていない中で、彼にとっていわくつきの場所に辿り着いてしまって気が抜けていた事が原因だろう。
 しかし、言い訳をどう繕っても意味はない。

 ──どうやら、舞台上の黒い暗幕(カーテン)の裏に、一人隠れていたようだ。

 高遠も観客席側にいた故、しっかりとはそれを確認できなかったが、彼にはわかった。
 その人間が、今、ちらりと顔を出して観客席の高遠を見てから、またすぐに慌てて同じ場所に隠れたのである。
 あのスペースに違和感なく忍び込み、体格を見せない事からも分かる通り、それはとても痩せた小柄な人間だった。皺の間に収まってもおかしくないほどだ。
 高遠にはその人間の姿が見えたが……ひとまず、気づかない振りをした。

(まあいいか……)

42ふたりは平行線 ◆V1QffSgaNc:2015/10/22(木) 00:17:00 ID:kTkCcgbk0

 ああしてカーテンの裏などに必死に隠れなければならないという事そのものが、戦力を持たない事と戦意のない事の証である。そして、相手はこちらを殺す為に機を伺っている様子ではなかった。ただ怯えて過ぎ去るのを待っているだけだ。
 何せ、そこに隠れていたのは──

(……どうせ、相手は“子供”だ)

 ──幼い、金髪の少女だった。
 一目見た所、それは日本人ではなかった。イギリスに住んでいた高遠が見ても、そのブロンドはなかなか見かけないほど綺麗な金色である。彼女は一昔前の洋服を着ていた。
 外見上のデータはたったそれだけだが、高遠はこの状況から、彼女のパーソナリティを、ただ一つだけ考察した。

 ──彼女は、少なからずマジシャンの素質がある、という事だ。

 普通、こうして自分が隠れる場所を探す場合、裏にある楽屋など、もっと隠れやすい場所に隠れる。そこが最も目につきにくい場所であるからだ。
 ──だが、本当に一流のマジシャンは、“わざと見えやすい場所に、最も見られたくない物を隠す”のである。
 そう、今の彼女のようにだ。
 高遠も、この劇場に来たばかりの時、まさかあんなに目立つ舞台上に子供が隠れていようなどとは思っていなかった。だから、油断して、向こうに姿を見られてしまったというわけである。
 とはいえ、やはりそこにいたのは幼い少女ゆえに手際が悪い。
 相手はまだ隠れているつもりだろうが、高遠にはもう彼女の形がしっかり見えてしまっている。もし顔を出さずに息を殺していればこちらに感づかれる事もなかっただろうに、その一点だけは残念だ。まあ……所詮真相は、「慌てて手近な所に隠れた」なのだろうが。

(こうして待っているのも少し意地が悪いか……?)

 高遠がクスクス笑っている間にも、その少女は今も、心臓をバクバクと高鳴らせている事だろう。今、彼女の側には高遠のスタンスを読む材料がない。
 距離があるので、高遠から逃げようと思えば逃げのびる事もできるだろうが……かといって、この状況だ。
 信頼できる大人に会う事ができなければ、彼女は残酷な人間の手にかかるかもしれない。

「……」

 さて。
 高遠はどうしようか考えた。

 相手が子供となれば、高遠の顔や名前もそこまで認知されてはいない。ただでさえ、ミステリーマニアでもない限りは滅多に看破されないくらいである。
 また、犯罪者となってからは日本を拠点に活躍してきた関係上、高遠の名は海外には知れ渡ってもいないので、相手が日本人でなければ、高遠を知る事はほぼないだろう。
 まあ、エトランゼの子供であるとはいえ、おそらく日本語理解のある相手である可能性は高く、更にもっと高い確率で日本住まいだと思われるので、そこは安心できない点でもあるが(何せ、日本語で行われた説明を聞き、日本語で書かれた名簿を支給されているのだから、全くそれらが理解できない人間では殺し合いも成り立たない)。
 あの身なりから、おそらくフランス人と推測したが、だとすると、「イリス・シャトーブリアン」、「マチルダ・ランドー」あたりが彼女の名前ではないだろうか。

 あのまま放っておくか、いっそ殺してしまうというのも“殺人者”らしい手のように思う。しかし、もとより無関係な人間を無差別に殺すのは高遠の主義ではない。
 果たして、どうしようか、とほんの少し考えた。

 そして──あっさりと答えは決まった。

「……大丈夫だよ。姿を見せてごらん」

 高遠は、屈託のない笑みで、その少女に、ひとまず日本語を投げかけた。フランス語がわからないわけではないが、日本語圏であるかどうかをまず確かめておく為である。
 もしこの姿を、高遠という男を知る者が見ていたのなら、その笑みは邪心がないからこそ、不気味に映ったに相違ない。
 何と言っても、この男は今日この時までに四人の人間を手にかけてきた生粋の殺人鬼なのだから。
 周囲を軽く眺め、他には人がいないのを確認してから、高遠はデイパックを舞台に投げて、両手を挙げ、舞台にそっと近寄っていった。
 ばっ、と音を立てて、震えていたカーテンをめくる。

     !?

43ふたりは平行線 ◆V1QffSgaNc:2015/10/22(木) 00:17:46 ID:kTkCcgbk0

「きゃあっ!」
「──大丈夫。お兄さんは、きみの敵じゃないよ」

 と、高遠は驚き怯える彼女の前で屈んで見せた。
 藍色の瞳を広げる彼女は、まるでフランス人形のようだった。
 ブロンドの髪の上にはピンクの大きなリボンが結ばれており、どうしても年齢より幼い印象を感じさせる。黄緑色の生地に真っ白なエプロンを縫い付けたような服は、高遠に『不思議の国のアリス』を思い起こさせた。
 しかし、何といっても──殺し合いの場に呼び出すには、あまりにも明るく不釣り合いな姿だと思えて仕方が無い。

「お嬢さん、お名前は?」
「……お兄ちゃんは?」
「僕かい? そうか、先に名乗るべきだったね。……僕は、高遠遙一」
「……私はアイリス。本当はイリス・シャトーブリアンだけど、アイリスでいいよ」
「アイリスか。良い名前だね。じゃあ、そんなアイリスにプレゼントをあげよう」

 少女が全く怖がっていないのを確認した高遠は、本名を名乗った。
 それから、高遠は、彼女の前で両手を広げて見せて、手首を回して表と裏を確認させてから、右手を左手で強く握って少し唸る。

 う〜ん、う〜ん……と。
 その時、アイリスという少女の瞳は、高遠の右手に注目した。じっくりと無防備に高遠の右手だけを見つめるアイリス。
 再び高遠は、左手で右手の拳を撫ぜた。

    !?

 ──すると、次の瞬間、高遠の右手からは、一輪の薔薇が煙のように現れたのである。

「え……!? どうやったの……!? 教えて! ねえ、教えて!」
「ダメダメ! お兄さんは、マジシャンなんだ。だから、タネは教えられないんだよ!」

 くすくす、と不敵に笑い、そっとアイリスに棘のない薔薇の花を一輪渡す高遠。
 アイリスの目は、プレゼントされた薔薇など忘れて、すっかり高遠のマジックの虜である。
 種を明かせば簡単で、懐にあった薔薇を握り込んだだけだ──ローズマジックと呼ばれる基本動作だった。
 高遠も、殺傷能力を持つようなマジックアイテムはほぼ奪われていたが、普段仕込んでいる幾つかの簡単なマジックのタネは身体に幾つも残っている。
 しかし、武器が没収されている事だけわかれば充分だ。それは、これが本当に危険と隣り合わせの状況なのだと彼に実感させる根拠になった。彼は言う。

「──もう少し、マジックショーを見たいかい?」







「参ったなぁ〜」

 金田一一(きんだいちはじめ)もまた、偶然、このステーションホテルの近くに配置されており、長いボサボサの後ろ髪を掻きながら劇場に近づいていた。
 先ほど人が死んだのを前にしたというのに、一般的な高校生と比べると嫌に冷静に事を運んでいた。

 それもその筈である。
 彼は、一見すると頭の悪そうな容姿とは裏腹に、かの名探偵・金田一耕助の血を受け継ぐIQ180の天才少年だった。やはり血は争えないのか、これまで幾つもの難事件に偶然遭遇し、それを鋭い頭脳で解決してきたのである。
 しかも、その大半は、不可解な連続殺人事件だった。
 彼は、今日まで30件以上の連続殺人事件に偶々遭遇し、あらゆる悲しい死を目撃して修羅場をくぐった少年なのだ。
 その度に彼は怒り、悲しみ、命の大切さを知ってきた。
 その中でもう一つ知った事がある。死んだ人間に対して出来る事は、『前に進む事』、『彼らの無念をわかってあげる事』、そして、彼にしか出来ない『謎を解いてやる事』なのだ。
 勿論、彼もそれだけ正義感の強い人間だったから、二人の人間(片方は人間に見えなかったが……)が殺された事には強い怒りを覚えている。しかし、それによって冷静さを失うのではなく、まずは自分らしく、“考える”のである──。

44ふたりは平行線 ◆V1QffSgaNc:2015/10/22(木) 00:18:28 ID:kTkCcgbk0

「ったく、よりにもよってこんな場所に来るなんてな……それに、あの“10を、1に変えちまうトリック”……」

 ブツブツ呟きながら歩くはじめ。
 名探偵の金田一少年にとっても、まずこの殺し合いは不可解な事だらけだ。

 まずは、東京タワー、蒲生屋敷、死骨ヶ原ホテルという、ばらばらな土地にあるはずの場所が一つのマップに集約された不可解な地図だった。
 物理的には不可能ではない事であっても、東京タワーをもう一つ建造するだけでもはじめが想像しえない莫大な資産が必要とされる事になる以上、やはり無理だと考えて良い。
 だが、少なくとも、マップにはそれらは、「ある」という事になっている。
 実際に確かめなければ、そこに東京タワーがそびえたっているのかはわからない。嘘かもしれない。──だが、もし、このホテルと同じように、そこに本当に“あったら”?
 第一、このホテルだって、貸し切りなんて難しいだろう。従業員も多かったし、ホテルの性質上、無人という事はありえない。まして、目的が殺し合いなのだ。
 東京タワーなど存在しておらず、このマップそのものが「錯覚」させる為のトリックだという事をまず考えたが──こればかりは、この外に出て見なければわからない話だろう。

 それから、高遠遙一はともかく、今は逮捕されて少年院で服役している筈の親友・千家貴司までが参加させられているという事が書かれている参加者名簿だ。
 何せ、少年院にいるはずの千家を連れ出すのは難しいし、高遠だって、神出鬼没の指名手配犯だ。決して簡単にこんな風に捕まりはしない。

 ──強いて言うなら、高遠という男は、むしろこういう事を考える側の人間だ。
 しかし、もしこの殺し合いとやらを考えたのが彼ならば、この名簿に彼の名前がある事自体がおかしい事になる。
 彼は、他者の復讐計画を作り上げる事をしたとしても、そこに絶対に手を貸さず、堂々と姿を現そうとはしない人間なのだ。このゲームならば迷わず主催側を選ぶに違いないし、参加したとしても、絶対に「高遠遙一」という名前を明かしたりしない。
 だとすれば、やはり彼も巻き込まれたと言う結論で間違いない、とはじめは推理する……。

 それから、──おそらく、同姓同名だと推測したが──それでも気にかかるのは、亡くなったはずの「和泉さくら」や「小田切進」の名前だ。
 どちらも、ごく平凡な名前で、探し出せば何人も見つかってもおかしくない。いや、実際、はじめもきっとそうなのだろうと思っている。苗字・名前ともによくある物で、高遠や千家に比べると、同姓同名が何人も存在していても不思議ではないだろう。

45ふたりは平行線 ◆V1QffSgaNc:2015/10/22(木) 00:21:01 ID:kTkCcgbk0
 特に、「さくら」という名前は名簿に四つも存在しているくらいだ。やはり珍しい名ではないのだろう。
 しかし……そう割り切ったはずだが、どうも引っかかる。
 主催者──『ノストラダムス』という人物の言葉によれば、人間を生き返らせる技術があるとかないとか……。
 ──あの言葉に、何か関係がある気がしてならない。これは、はじめらしい推理ではなく、どちらかといえば、時折命中する彼の勘であった。
 だが、いつもは当ててきた勘も、今度ばかりは簡単に信じる気にはならない。
 人の命が生き返る方法など存在しない。──それは、常識である。

(そうだぜ、金田一! これまでだって、死者の呪いなんて嘘だったじゃないか……! さくらたちが生きてるなら、それに越した事はないけど……そんな事はないんだ……絶対に)

 考える事を放棄してはならない。死から逃れてはならない。全ての事象は推理で説明がつく。オカルトに逃げてはならないのだ。
 ──これは、日本では有名な偉大な祖父の教えだ。
 金田一は──耕助も、はじめも──、これまでどんな事件に遭遇しても、それを決して不可能なオカルトの事象だと結論づけようとはしなかった。
 その信念を持ち続ける彼は、ワニの怪物もこれまでの“怪人たち”同様、人間が被った着ぐるみだという前提で考えているし、周囲にちらほらといた変わった姿の人間たちも本当にそんな姿だとは思っていない。
 参加者とされている側にもサクラがいる……と考えると、殺し合いが本当に行われているかも疑わなければならないはずだが、この首輪が巻かれている事などからも、ひとまずは「殺し合いは行われている」という前提で、警戒して歩いた方がいいだろう。仮に、いつかのようなテレビのドッキリ企画だとしても……まずは注意に越した事はない。
 しかし……やはり、ここにもまた、『重大な見落とし』をしている気がしてならなかった。
 それに、クロコダインと呼ばれたあのワニの怪物に駆け寄った子供たち──彼らの悲痛の叫びが偽物とは到底……思えない。

「ん……?」

 そんな事を考えながら歩いていた彼の目の前に、池を跨ぐ橋が見えていた。
 考える事に夢中になると、周囲が見えなくなるはじめだ。今も、こうして、ほとんどホテルの外に出ている事に全く気づいていなかったらしい。
 しかし、目の前に見えて来た物を見つめると、そんな思考が一瞬遮断される。
 そう、元々、今はこの場所を目的に歩いていたのである。

46ふたりは平行線 ◆V1QffSgaNc:2015/10/22(木) 00:21:50 ID:kTkCcgbk0

「やっぱり……ここにあったのか」

 この橋を渡ると、ステーションホテルの劇場に繋がっているのだ。
 彼の前には、ドームのように丸い屋根の小さな劇場が見えてきていた。
 この建物は、確かにはじめも過去に見た事がある。……いや、以前ステーションホテルに来た時、まさにここに足を運んだのだ。

「……」

 ……だが、はじめも、まさか、こんな時にまたここに来るとは思わなかった。

 あの天才犯罪者──『地獄の傀儡師』が生みだされる原因になった、ある不幸な事件が起こった場所が、ここなのだから。







     !?

 ──そして、劇場に入ったはじめの前では、至極奇妙な光景が繰り広げられていた。
 どこか暗い面持ちでこの劇場に入ったはずの金田一の顔が、「空いた口が塞がらない」を体現するように、どこかマヌケになった。
 劇場には、小さな外国人少女の高い声が響いている。
 少女は、全く邪心も見せずにはしゃいでぴょんぴょん跳ねていた。

「すご〜い! これどうやったの〜!? ねえねえ、教えて!」
「だからダメだってば! 自分で考えないと、名探偵になれないぞっ!」

 はじめの顔見知りの“ある男”が、何やら奇妙なマジックショーを一人の少女にだけ向けて行っている。
 それを眺めて、その男も笑っていた。
 ……“顔見知りの男”、“ある男”という言い方では、少しじれったいだろうか。



「『地獄の傀儡師』──高遠遙一……!」



 それは──ここで犯罪者として誕生した男・高遠遙一である。
 彼は、ニコニコと笑いながらアイリスの方を見て、トランプを宙に浮かせてシャッフルしていた。しかし、劇場にはじめが入った事に気づいたようで、一瞬、きりっと真面目な顔付ではじめを遠く睨んだ。
 子供相手にも、割と本格的なマジックを見せているようだ。──さすがはプロ、と思い、はじめは少しばかり苦い顔で高遠を睨み返した。

「どうしたの……? お兄ちゃん」
「……いや。どうやら、もう一人、お客さんが来たようだね。──でも、大丈夫。嬉しい事に、あれは僕の友達だから」

 はじめと高遠──因縁の二人は、思ったより早く出会えたようである。
 再びここで出会った二人の視線が重なっているのを、アイリスが少し不安そうに見つめていた。
 彼女も、そこで二人の間に渦巻いた悪意を、どこかで直感していたのかもしれない。
 このアイリスという少女の正体は後ほど明かす事になるが、ひとまず、今ははじめと高遠の事だけを見てみよう。
 はじめは、ゆっくりと舞台に近づいて行った。
 はじめが一度舞台の前で止まったが、それを見て高遠が言った。

「ステージに上がっても構いませんよ、金田一くん。今日ばかりは歓迎します」
「じゃあ、お言葉に甘えて! よっと!」

 そう言い合いつつも、どこかピリピリしたムードがはじめと高遠の間に流れ、アイリスは不安げな表情を見せていた。
 高遠の顔付きも、どこか先ほどより強張ったようで、アイリスに直感的な恐ろしさを植え付けた。
 この二人……ただの仲が良い友達には見えない。

「あ、このお兄ちゃん……」

 アイリスは、近くで見てみて、金田一一という男にどこか見覚えがあったのを思い出す。そう、あの凄惨な殺人現場で、主催に最後の質問を行ったのが、彼だったのだ。

47ふたりは平行線 ◆V1QffSgaNc:2015/10/22(木) 00:22:13 ID:kTkCcgbk0
 あの時の事を思い出し──戦争を嫌うアイリスは、ぐっとスカートの裾を握った。
 やはり、どう楽しい記憶で塗り替えても、先ほど人が死んだのは確かだった……。

「……」

 はじめも黙り込んだまま、近づいて来る。
 はじめという男は、あの船上での様子を見るに、おそらく──悪い人間ではない。アイリスもそう思っている。しかし、真顔の彼はどこか恐ろしかったのだろう。
 アイリスの前で、はじめは、ふぅ、と息を吐いてから、強張った表情を崩して、少し高等部を掻いて、高遠に、馴れ馴れしく言った。

「……ったく、気が抜けるぜ。まあ、正直言うと、あんたに会いたくなかったわけじゃないけどさ。まさか、こんな時にもマジックショーなんて」

 はじめの顔は、緊張しながらも、どこか高遠を前に肩の力を抜く事が出来たようだ。

「……おや。これはこれは。意外にも私と同意見のようですね。少なくとも、一度は……金田一くん、君と会っておきたかった」

 高遠も、どこか薄く笑っているような表情で、はじめを見つめていた。
 それで、アイリスはすぐにほっと息をついた。
 はじめと高遠は、どうやら険悪な関係に見えたが、そういうわけでもないらしいと思った。それで、安心しきったまま、アイリスは高遠に訊いた。

「えっと……お兄ちゃんのお友達……なんだよね?」
「そうだよ、アイリス。このお兄ちゃんは、金田一一。有名な名探偵の孫なんだ」
「へへっ……。いや、友達っていうとちょっと違うような気もするけど」

 はじめは否定したいように冷や汗をかいていたが、高遠は淡々と「友達」などという言葉を口にする。まあ、厳密な関係を口にすれば、それこそ誰も人が寄らなくなるので致し方ないとも言えるが……。

「……ふふ。アイリス、それじゃあマジックショーは終わりだよ。裏の楽屋でこっちのお兄ちゃんとお話があるから、その間だけ別の部屋に居てもらえないかな?」
「え〜……マジック終わりなの〜? つまんな〜い!!」

 丁度、はじめも高遠と二人で話したいと思っていた所だ。
 そもそも、高遠の正体を前提とした上で話し合うならば、他の人間はその場に置いておくわけにはいかない。
 しかし、アイリスは、高遠のマジックに夢中だったらしく、どこかはじめを疎ましそうにも見ていた。
 よりによって、殺人鬼の方が子供に懐かれてしまうとは、はじめとしても癪だった。

「大丈夫、すぐに終わるからね。それまで良い子にしていたら、今度は金田一のお兄さんが面白いマジックを見せてくれるよ」
「アイリス子供じゃないもん!」
「そうかそうか、ごめんごめん!」

 そう宥める彼の姿は、彼をよく知るはじめにさえ、四人の人間を殺した犯罪者には見えなかった。







 劇場の楽屋であった。楽屋では、舞台上でどんな姿を演じている者も、素の姿を現す事が出来る。──まさに今は、彼らの舞台裏であった。
 はじめと高遠は、それぞれ越しかけながら、日常でも殺人を演じてきた者とは思えないほどにくつろいで、友人とでも会話するかのように向かい合っている。
 額やに置いてある幾つかのマジック道具を高遠は興味深く見つめていた。近宮のトリックに使われる道具ばかりである。
 しかし、すぐに興味を失った。
 今は──目の前には、もっと興味を示すべき人物がいる。

「……さて、金田一くん。訊かせてもらおうか。君ともあろう物が、この『地獄の傀儡師』と会いたいとは、一体どんな理由があっての事なのか」
「この状況だぜ? 理由くらいわかるだろう」
「だからといって、君が私の力を借りたいなどと言うはずがないでしょう?」
「……そう思うかい?」

48ふたりは平行線 ◆V1QffSgaNc:2015/10/22(木) 00:22:44 ID:kTkCcgbk0

 どこか調子の良いはじめである。
 彼は、順序立てて高遠に対して、自分の高遠遙一という人物の認識に関する「推理」を教える事にした。

「まず一つ。俺は一応、あんたの知能や才能だけは認めている。これが大前提だ」
「ほう。しかし、それだけ、という事は、私の人間性を信用しているわけではないのでしょう? それこそが、ここが本当に殺し合いの現場ならば──最も重要な前提となりそうですが」

 確かに、連続殺人鬼である高遠を仲間に引き入れるというのは、はじめらしくはない。
 しかし、彼はそれを選ぶ事にしたのだ。──決して、高遠の本質を信頼せずに、高遠の主義を信頼する、という形で。

「それが、もう一つの理由だよ。確かにあんたは信用できないけど、これが“あの”高遠なら、『他人に殺人を強要させる』事はあっても、『他人が強要する殺し合いに乗る』事はない」
「なるほど」
「……そして、それからもう一つ。少なくとも、あんたは自分にとって恨みがない人間や、復讐計画を遂行する犯罪者以外には殆ど手を出さない事だ。……そう、例えば、ああいう子供なんかを殺したりはしないと思ってる」
「流石だ、金田一くん。この私の性格を概ね言い当てていると言っていいでしょう。私も、別に無差別殺人犯というわけではないからね」

 いや、お前はむしろそっちに近いだろ、よく言うぜ……とはじめは思ったが、刺激しても仕方が無いので黙っておいた。
 幻想魔術団のメンバーを殺害したのは私怨や復讐かもしれないが、『道化人形』を利用して始末したのは、無差別的な愉快犯としか言いようがない。
 だが、それでも、やはり彼なりのポリシーというのは存在するのである。
 地獄の傀儡師──高遠遙一はそういう意味で、不思議な犯罪者だった。
 警戒するに越した事はないが、それでも一定の信頼値の置ける相手だというのは、ある事件を通して知って間もない事だった。

「……で、まあ、正直言っちゃえば、俺もお手上げなんだよね。この殺し合いってやつ。今んところ、あんまり実感もないしさ」
「そうですね。……ただ、最初の二件の殺人。あれだけは、まず考えておく必要がありそうです。お互いの結論を言っておきましょう」

 まるで明智警視と会話をしているような気分だが、まあ、高遠が刑事だったとしてもあんな感じになるのだろうな、とはじめは思う。
 それから、口を揃えて二人は言った。



「「────あれは本物だ!!」」



 つまり──オープニングの時点で、二人の人間が死んでいるという事だ。あれは人間を怯えさせる偽物の死などではない。
 普段、死体を見慣れている二人だから、それがよくわかったのだろう。
 はじめにとっては、それは直感でしかなかったのだが、高遠にはマジックと本物の死の区別はもっとよくつくらしい。

「あの死体は、確かに作り物なんかじゃない。確かに一瞬でスポットライトが消えて見えなくなっちゃったけど、本当に人が死んでいたと思う」
「同感です。ワニ男の方は……おそらく、外装は精巧な作り物でしょう。──いや、これは、あくまで触れる機会もなかったので確かめる事はできませんが、常識として、その可能性が高い。……しかし、気になるのは、そこまでしてあんなサクラを用意する必要があるか、という事です」
「それなんだよ。どうも引っかかる。よほど人相が悪くない限り、あんな所で着ぐるみなんて着る意味はないし。それに、駆け寄った子供だ……。あれは、テレビのスター怪獣の最期を観ちまったってわけでもなさそうだった。知り合いの亡骸に抱きつくみたいで……」

 死体という“モノ”を理解する高遠と、死体に駆け寄る人間の“感情”を理解するはじめ。
 その点において、過程は対立しているが、結局、二人の結論は同じだった。

「とにかく、あのクロコダイル・マンを知っている少年たちを探す必要もありそうですね。できれば、最初の道化師の知り合いも」
「ああ……。色々と事情も聞いておかないとな」

 二人の意見は、そこについても同じだった。
 それから、またはじめはまくしたてるように高遠に問うた。

「……でも、それを除いても、もう一つ疑問が残るんだ。この殺人劇の目的だよ」
「……」
「こんな事をしたって、何の意味もないだろ? それに、あの『ノストラダムス』とかいう奴だって、目的は教えてくれなかった」

49ふたりは平行線 ◆V1QffSgaNc:2015/10/22(木) 00:23:06 ID:kTkCcgbk0
「……」
「あの二人に恨みがあったとか、ここにいる人間に何か特別な共通点があるとか……そういう理由があるんじゃないかと思ってさ」

 彼が素直に疑問としている部分は、おそらく高遠に訊くような意味だった。
 はじめも多くの犯罪者を見てきたが、それでも、これだけの事をする犯罪者はこれまでいない。逆に、高遠ならばそうした犯罪者側の心情もよくわかるだろうと、ひとまずカマをかけてみたのだ。
 しかし、高遠は“動機”については深く考えようとはしていなかった。

「確かに、随分手の込んだ事のように思いますね。──しかし、露西亜館の事件を忘れましたか? 金田一くん。大がかりな犯罪を行うのに、大した理由など必要ありません。いえ、大がかりであればあるほど、快楽以上の意味はないのです。復讐ならば終えれば済むだけですからね。山之内恒聖もそうだったでしょう?」
「……忘れてなんかいないさ。でも、俺はあの時言ったはずだぜ? 俺はあんたのような人間は認めないって……! こんな事をするからには、何か必ず理由があるはずなんだよ!」
「私はそうは思いません。いいえ、むしろ、手間と金をかけてまでこんな事を目論む愉快犯の方が、私にはずっと共感できる……まあ、巻き込まれた手前、素直に褒める気にはなりませんが」

 淡々と言う高遠である。
 実際、はじめも、高遠の言っている事は理解できる。
 たとえば、高遠が殺人を犯した理由は、当初こそそれなりに納得できたかもしれないが、今となっては、殺人者を教唆してはじめを嘲笑う愉快犯になっている。あんな真似をしても、高遠にとってメリットなんてないはずだというのに、彼は殺人を行い続けるのだ。
 そして、彼らが話している露西亜館の事件では、犯人の目的は金であったし──更にそれを操っていた“もう一人の犯人”山之内恒聖の動機で、はじめと高遠は、真向から意見を対立させたのである。
 はじめが認めていないとしても──完全な愉快犯の犯罪者は、“いる”のだ。

「くっ」
「この話はそれこそ平行線です。やめておきましょう。……他に、何か私に訊きたい事は?」

 高遠は巧妙に話題を逸らした。
 はじめの方も熱くなりすぎたので、一度熱を冷ます。こうして、根本的な考えの食い違いを議論しても仕方が無い。
 今すべきは、この犯罪者に協力を仰いででも、殺し合いについてもっと推理を深める事だ。

「そうだな。あんたとこんな話をするのはやめにしよう。……で、今あんたに一番訊きたいのは、このデイパックについてだよ」
「ほう」

 腕を組んでいた高遠も、その時、少し興味深そうにはじめを見た。
 誰もが持っている小道具の名前が出て来た事に少し驚いているのかもしれない。

「実は、このデイパックにもちょっとしたトリックが仕掛けられてるんだ。これくらいなら、あんたならもしかしたら解けるんじゃないかと思って、あんたを探してみたわけ。ホテルを探すよりも、こっちの劇場を探した方が、あんたがいるんじゃないかな〜と思って来てみたら、案の定いるんだもん、流石に驚いちゃったよ」
「……それで、君が解けなかったトリックというのは何かな?」

 はじめは、無理して少し普段通りのおどけた口調で熱を冷まそうとしていた。
 しかし、高遠はそれを見抜いており、簡単にその要件だけ聞こうと考えていた。
 それを悟って、はじめは、すぐに言った。

「ヒスイだよ」

 それでも少し勿体付けた言い方になってしまうのは、はじめの悪癖だ。彼特有の演出癖と言ってもいいかもしれない。
 しかし、高遠はしっかりと彼の言葉に訊き返す。

「ヒスイ?」
「ああ、ずっと前にどっかの誰かさんが間抜けにも置き忘れて、この俺にヒントを与えた、あのヒスイと全く同じ物さ」
「……その下手な皮肉はひとまず置いておきましょう。そのヒスイがどうかしましたか?」

 死骨ヶ原ステーションホテルに設置されているヒスイの石は、かつて高遠の犯罪が暴かれる証拠となった物である。
 はじめも、今思うと高遠のあのミスは間抜けすぎて笑ってしまうのだが、もしかすると、それも含めて、わざと手がかりを残したのではないか──と思ってしまう。まあ、余裕ぶった本人を前にしても、真相は藪の中だが。
 とにかく、はじめは答えた。

50ふたりは平行線 ◆V1QffSgaNc:2015/10/22(木) 00:23:31 ID:kTkCcgbk0

「実は俺、さっき、あの部屋にあったヒスイを二つとも貰ってきたんだ。部屋は、あの事件の時のままだったからね。……流石に死体まではなかったけどな」
「……夕海の死体が吊るされていたら、とうに腐っているでしょう」
「それもそうか。……で、話を戻すけど、俺が覚えているところだと、あのヒスイの重さは一つあたりだいたい5kg程度。だから、今俺は10kgのヒスイを持ってきている事になる」
「10kg?」
「ああ。普通に考えれば、俺みたいにそんなに力もない人間じゃあ、片手で軽々とは持てないだろ? ……だけど、ホラ!」

 はじめは、デイパックを片手で平然と持っている。いや、それどころか、そんな物が入っているデイパックは、少し形がいびつになる物だろうに、それは綺麗な形を保持していて、到底、二個の翡翠が入っているようには見せなかった。
 はじめは、それを高遠に渡した。

「試しにあんたも持ってみなよ」

 そう言うと、高遠はあまり警戒せずに片手で受け取った。
 あまり重くはない──。
 いや、どう見積もっても10kgはない。トランプ一枚の重さがわかる高遠が見積もっても、これは1kg丁度の重さだ。

「私のデイパックの重さと、変わらないな……。いや、これは1kgもない……中を確認しても?」
「ああ、構わないぜ」

 高遠が確認すると、二個のヒスイが取りだされる。それは、片手で取りだすには大きく歪で、その重さは確かに5kgあった。──以前、抱えたのと同じ重さだ。
 それを見て、高遠は呟いた。

「……信じられない。確かに、不思議な“魔法”だ」

 はじめも、高遠がこれほど驚いている顔は初めて見たような気がする。
 しかし、高遠ならこれくらいの魔法を可能にしてしまうトリックくらいは持っていてもおかしくない。
 はじめですら解けなかった物だが、奇術のプロならばどうだろうか。

「だろ? どう考えたって、10kgのヒスイをデイパックに入れてたら、重くて歩いていられないよ。でも、このデイパックに入れると、急にその重さがなくなったんだ。一体、どんなトリックが仕掛けられてたらこんな風になるのか、って思ったんだよ。マジシャンのお前なら、このくらいわかるかと思ってさ」

 それで高遠を頼ったのだ。はじめも、マジックは祖父に多数教わっているので得意としている所だが、それでも本業マジシャンには敵わない。このトリックはどれだけ考えても全くわからなかったのだ。
 それで、──彼らしくはないが──答えを探ろうとしたのである。
 高遠が、デイパックと翡翠を見つめながら、少し頭を悩ませた。
 それから、少し躊躇して口を開いた。

「ええ、本来ならば、そうですね。ですが、これに関しては……トリックは、ありません」
「何だって!?」

 今度は、はじめの方が驚いてしまった。
 いや、流石に──はじめも、お手上げだったとはいえ、トリックがないという言葉が高遠の口から出てくるなど、信じがたい事である。
 彼らほど、トリックというものに精通している人間はいないだろう。

「君も薄々勘付いているでしょうが、重さを感じなくなるトリックは、だいたい別の場所に荷物を隠していたり、重さを感じにくいように持たせたり──というタネがあります。しかし、現に君はホテルからここまで何なく10kgのヒスイを持ち歩いている……。君はここまで歩く間、背中にそれほどの重さを感じなかったんでしょう?」
「ああ……でも、だからってそんな……」
「……それならば、トリックはありません。つまり、このデイパックに物体を入れれば、その質量が一時的に軽減する効果を持っている、という事になります。君が嘘をついているわけじゃなければね」
「質量がなくなるだって……!? そんなバカな!」

 はじめが驚きを露骨に表しているのに対して、高遠は至って冷静に言った。
 彼も驚いていないわけではないが、少なくとも、あらゆる事態に冷静に──あるいは冷徹に対処する性格であった。
 自分の信念さえも、時には冷徹に覆して現実を見る事が出来るのが高遠のある種の長所だ。

51ふたりは平行線 ◆V1QffSgaNc:2015/10/22(木) 00:23:59 ID:kTkCcgbk0

「……残念ながら、我々は認めざるを得ないようだ。主催側が持っている力は決して単純ではない、と」
「そんなものを認めろだって!?」
「私だって……いええ、私の方こそ、こんな事を簡単に認めたくはありませんよ。仮にもマジシャンの一人として、ね。よりによって、こんな物が出来てしまえば、私たちの商売は上がったり無しだ。──いや、それは探偵の君も同じ……か」
「くそっ……! どうなってるんだ! きっと何かトリックがあるはずなんだ!」

 はじめは、オカルトや魔法を簡単には認めない性格だ。
 現実に、不思議な事は山ほどある。──以前、ある場所で起きた怪事件では、『死体の服が赤いちゃんちゃんこのように塗られていた』という怪現象が起きた事もあるが、その時には図書館で必死に勉強を初めて、美雪たちを呆れさせたほどである。
 はじめは、もう一度デイパックを確認し、焦りながら中身を見つめている。
 そんなはじめを、「無駄だ」と思いながら見下ろしている高遠。
 彼も、とにかく一つだけ、はじめに胸の内を言ってやる事にした。

「……金田一くん。どうやら、ここでは私の求める芸術犯罪を行う価値は本当になくなったようです」

 そんな高遠の意外な言葉に、一瞬、はじめの動きが止まった。
 はじめは、そんな高遠の方を凝視した。

「私は自然界の法則と人間の心理の穴を駆使してこそ、私の計画は芸術として完成される。そう、推理小説もマジックも、その条件で作られたからこそ、一つの芸術になるのです。……しかし、こんな魔法は、私を侮辱しているとしか思えない。──君も同じでしょう?」

 はじめは、そう言われて、デイパックの仕掛けを見抜こうとする動きを止めた。
 ……認めたくはなかったが、やはり、高遠の言う通りなのだろう。
 いや、むしろ──こんな魔法を最も忌避するであろう高遠が認めたのだ。こうしてトリックを探そうとする事こそ、駄々をこねる子供のようだった。
 はじめも、すぐに諦めた。
 犯罪は芸術なんかじゃない──と言いたかったが、これも無駄だろう。

「ああ……! くそ……まったく、わけわかんねえぜ。でも、一度認めるしかないみたいだな……。これは、トリックなんかじゃないよ!」
「ええ。仮にトリックがあるとしても、それは、今の私たちにはまだわかりません。しかし、私も、ひとまずは、“こんな魔法のデイパックが存在する”という前提で動きましょう。……まあ、我々の主義や性格に目を瞑って認めてしまえば、こんな鞄も便利ですしね」

 クスクスと笑う高遠を、はじめは何か言いたげな目で見つめる。
 はじめも、別に納得はしていないが、納得せざるを得ないのだった。
 と、そのクスクス笑いをやめて、高遠が思い出したように言った。

「そうだ、私からも、君に頼みがあるんでした」
「……あんたが俺に頼みだって?」

 それから、高遠は少し躊躇した。
 頼み事をするだけで驚くはじめである。高遠がこんな事を口にすれば余計に驚くのではないかと──高遠は、そう思った。
 しかし、やはり、彼もすぐにはじめに要件を伝える事にした。
 案の定、それははじめを驚かせる事になる。

「あのアイリスという少女についてです。──彼女を、君の手で保護してもらえませんか?」
「何だって!?」

 はじめは、魔法の存在を知るよりも、彼がこんな事を言い出した事の方がずっと驚いているようだ。
 いや──確かに、露西亜館の事件では、高遠は己の主義を守って、はじめたちの前で犯人の命を守ってみせた。
 しかし、だからって、高遠の方が先にこんな事を頼むなどとは思いもしなかったのだ。

「……こう見えて、私もマジック好きの子供は嫌いではありません。しかし、『殺す』のはともかく、『守る』というのは、少しニガテでね。明智警視や剣持警部もいない以上、こんな事を頼むならば、君くらいしかいないと思っていたんですよ。それが、私が君に会いたかった理由の一つです」
「あんたがそんな事言うなんて……流石にそこまで考えてなかったぜ。だけど、それなら俺とあんたが一緒に行動するっていうのも一つの手じゃないか?」

 はじめは、まるで誘い込むかのように言ったが、自分でもそんな言葉が出たのが不思議だった。
 高遠との協力……? ──自分はそう言ったのだろうか。

52ふたりは平行線 ◆V1QffSgaNc:2015/10/22(木) 00:24:17 ID:kTkCcgbk0
 しかし、やはり──高遠の返答は、否定だった。

「……私と君は決して交わる事のない平行線だ。共に行動しても反発するだけに過ぎない。──たとえば、いくら殺し合いに乗らず、芸術犯罪が完成しないとしても、もしこのゲームからの脱出に邪魔な人間が現れれば、その時は──」
「やめろ!!」

 高遠が何を言うかを読んだはじめは、思わず遮るようにそう叫んだ。それから、震えるように息をあげた。
 そうして高遠の本質を忌避した時に、はじめも、なるほど、と思った。
 確かに──はじめと高遠は、時に協力出来たとしても、結局“平行線”なのだ。
 しかし、それを確認して、はじめ自身がどこか安心していた。

「……フッ。そう。だから、私と君とは、同じ目的を持っていても、たとえどこか一か所理解し合ったとしても、結局は対立せざるを得なくなるという事です」
「……」
「それでは、二人きりの話はこれくらいにしておきましょうか。改めて、またアイリスも交えて情報交換をしましょう。この場で選ばれたという事を考えると、やはり彼女にも二、三は特殊な部分があるかもしれないし、そろそろ一人が怖いでしょうしね。……まあ、プロフィールを明かすという程度でも構いません。そこから先は別行動です。そうですね、その後で、また会う約束でも取り付けておくべきでしょうか」

 意外な事ずくめで、流石のはじめも困惑していたが、彼も状況を飲み込むのは早い。
 数秒の沈黙が流れた後で、彼は、納得を示して言った。

「……ったく、仕方ねえな。でも、高遠。一つだけ訊かせてくれ」

 いまだ高遠という男を完全には理解できなかったはじめは、ふと疑問を口にした。

「もし……あんたがこの殺し合いの主催者だったら、あれくらいの子供も巻き込むのか?」

 そう。そんな疑問である。
 アイリスを守れといった彼であるが、それは「マジック好きの子供」という非常に限定的な理由によるものである。それとも、彼自身は本質的に「子供を巻き込まない」のだろうか?
 少し迷った後で、高遠は答えた。

「どうでしょうね。私にもわかりません。神のみぞ知る……という所でしょうか」

 はじめは、思った。──やはり、こいつが刑事じゃなくて良かった。
 あの“明智警視”みたいな上司が二人に増えたら、剣持のオッサンや捜査一課の人たちが心労で倒れちまう、と。
 だが、それでも──こんな人間でも、殺人者にはならないでほしかったのははじめの本心だ。高遠にとっても、殺人など知らないただのマジシャンであるのが本当は一番幸せだっただろう。
 はじめは、誰よりも犯罪を憎み、許さない人間であると同時に、誰よりも犯罪者を憎まず、許す心を持った少年なのだ──。







 その裏で──。

 彼らが“魔法”の話をしている横の部屋で、実は──、“魔法”は起きていた。
 隣の楽屋に準備されていたマジック道具は、空中に浮いている。
 本来なら糸で釣るトリックがあるはずなのだが、今はそんな物が全く使われておらず、本当に、マジック道具たちはふわふわと空を飛んで、少女を囲んでいる。

「アイリスだって出来るも〜ん。ホラ! アイリスすご〜い!」

 これは、なんと、アイリスの仕業であった。
 別に、あの僅かな時間で高遠のマジックを覚えたというわけでも、ここにある道具を浮かせるトリックを看破したわけでもない。
 彼女は、強い“霊力”を持っていて、こうした魔法のような芸当が本当に出来るのである。
 しかし、霊力の事は基本的には、「ヒミツ」なのだった。使えるのは緊急時か、あるいは、こうして、隠れてこっそり使う場合だけだろう。

(う〜ん……でも、高遠のお兄ちゃんは霊力がなくてもこういう事が出来るんだよね……本当にあんな凄いマジックが出来るのかなぁ。──一体、どうやってるんだろう?)

53ふたりは平行線 ◆V1QffSgaNc:2015/10/22(木) 00:25:27 ID:kTkCcgbk0

 そんなアイリスですら、高遠のマジックのタネは全くわからない。
 それだけ高遠の手際が良いと言う事である。まるで本当の魔法のように見せなければ一流のマジシャンにはなれないというのだ。

(まあいっか……! ……それより、早くお兄ちゃんたちと合流する事を考えなきゃ)

 マジックのタネを考えるのをやめたアイリスが次に考えたのは、ある特殊部隊の仲間の事である。
 実は──ここからが、アイリスの正体の確信である。
 彼女が無邪気な一人の少女であるのは確かだが、それでもただの少女ではない。
 帝国華撃団。──実は、アイリスは、この幼い年齢にも関わらず、高い霊力を認められて、その特殊部隊の戦士の一人をやっているのだ。
 そして、この殺し合いの現場には、同じ帝国華撃団の大神一郎や真宮寺さくら、李紅蘭という頼もしい仲間もいる。三人は特にアイリスと仲の良い団員でもある。
 一刻も早く彼らと合流し、この殺し合いを終わらせなければならない。
 あの“ピエロさん”や、あの“ワニさん”のように、誰にも悲しい目には遭ってほしくないのだ……。

(まあ、いざとなったら、アイリスが、高遠のお兄ちゃんも、金田一お兄ちゃんも守ってあげなきゃね……!)

 大人ぶりたいアイリスは、二人に対してそんな姉のような使命感を持っていた。
 高遠のマジックに惹かれている姿は子供そのものだというのに、彼女は自分が子供扱いされる事をとにかく否定する。
 そして、何より、自分を大人に見せたいのだ。
 何より、彼女は、力ある者として、力なき二人を守ってあげる義務がある。守られたくはないのだ──。

(それにしても、あの金田一のお兄ちゃん、随分変な恰好してたなぁ……)

 それから、外見年齢だけ見ていると全くわからない、彼ら自身は全く理解していない、ある“差異”も存在していた。

(最近の流行りなの……? でも、帝都にもあんな変な恰好している人、いなかったけどなぁ……)

 そう──実は、このアイリスという少女の生年は、なんと金田一一の祖父・金田一耕助と同じ、1913年なのである。はじめからすれば、少女というより、「ばあちゃん」である。
 だから、彼女やその仲間たちに、「金田一耕助」などという戦後の有名な名探偵の名前は全く伝わっていなかった。
 大神も、さくらも、紅蘭も、金田一耕助という名前を聞いてもピンと来ないだろう。
 ……まあ、実年齢や人生経験は、現時点でははじめより下でる。
 彼女たちは、1925年(太正14年)やその前後から連れてこられたのである。

 これらの事実は、邪魔が入らなければ、これからの情報交換ではじめや高遠たちにも明らかになっていく事だろう……。







次 回 予 告 (嘘)

へっへーん、アイリス、この二人よりもずーーーっと年上だったんだよ!!
これなら、アイリスも、立派に大人の仲間入りだよね?
じゃあじゃあ、こう呼んでもいいでしょ?“はじめちゃん”に“遙一くん”!

次回!
90’s ばとるろいやる!
タイトルは、えっと……まだわかんな〜い!

とにかく、太正櫻に浪漫の嵐!
お兄ちゃんの〜名にかけて〜!!

※この予告は仮のものです。
 実際の内容とは異なるかもしれませんし、こういう内容になるかもしれません。





54ふたりは平行線 ◆V1QffSgaNc:2015/10/22(木) 00:26:03 ID:kTkCcgbk0



【G-4 死骨ヶ原ステーションホテル・劇場の楽屋/1日目 深夜】

【金田一一@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済)、ヒスイ×2
[思考]
基本行動方針:殺し合いを止め、脱出する。
0:高遠、アイリスとの情報交換。その後、高遠とは別れる。
1:高遠との約束通り、アイリスを守る。高遠の正体はなるべく教えない。
2:クロコダインの死体に駆け寄った少年を探す。
[備考]
※参戦時期は、「露西亜人形殺人事件」終了〜「金田一少年の決死行」開始までのどこか。
※トリックでは説明できない事象をそれなりに認める事にしました。

【高遠遙一@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済)、マジック用のアイテム(没収漏れ)
[思考]
基本行動方針:殺し合いから脱出する。
0:金田一、アイリスとの情報交換。その後、金田一とは別れる。
1:殺し合いからの脱出を行う。ただし、邪魔な者は容赦なく殺害する。
[備考]
※参戦時期は、「露西亜人形殺人事件」終了〜「金田一少年の決死行」開始までのどこか。
※マジック用のアイテムは、殺傷能力を持つ物(毒入りの薔薇など)や、懐などに仕込めない大き目の物や生物(ボックス、鳩など)のみ没収されています。簡単なテーブルマジックならば行う事ができますが、基本的に戦闘では活かせません。
※トリックでは説明できない事象をそれなりに認める事にしました。

【イリス・シャトーブリアン@サクラ大戦シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3、作り物の薔薇一輪
[思考]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0:高遠のマジックがもっと見たい。
1:大神一郎、真宮寺さくら、李紅蘭との合流。
2:霊力は人前では使わないが、いざという時はそれを使ってみんなを守る。
[備考]
※参戦時期は「サクラ大戦2」のどこか(太正14年の為)。

55 ◆V1QffSgaNc:2015/10/22(木) 00:26:25 ID:kTkCcgbk0
以上、投下終了です。

56名無しさん:2015/10/22(木) 09:39:37 ID:S/4ufElc0
投下乙です
アイリスと高遠の触れ合いから、金田一と高遠、奇妙な共闘? 関係、金田一勢の今後が気になる登場話でした
金田一耕助とアイリスって同じ歳に生まれていた、という設定面での一致も面白かったです

57名無しさん:2015/10/22(木) 14:45:08 ID:xmrAjYY.0
細かい点ですが、「真空の斧MARK-II」は「帰ってきた真空の斧MARK-II」かな?
ダイVSベガ、いきなり熱かったです
ポップは今ごろどうしてるんだろう

58 ◆TA71t/cXVo:2015/10/22(木) 19:57:40 ID:b1D.xS0A0
>>57
ご指摘ありがとうございます。
作中で正式名称を呼ばれたこともなかったのですっかり忘れてました……
したらばに修正案投下いたします、ありがとうございます

>乾いた風を素肌に受けながら 
この状況で音楽を求めるブレのなさはあらゆる意味で流石……
そして頭を使えと言うこのロワならではの要素が早速出ましたね。
この奇妙な組み合わせとなったコンビ二人ですが、果たして上手くこのまま進めるか……

>ふたりは平行線
アイリスの生まれた年はじっちゃんと同じ。
これは言われてみればその通り……まさか一もそんな相手と出会うとは思わなかっただろうに。
そしてデイパックの謎に気づいたことから、金田一と高遠もこの状況を認めざるを得なくなったか。
人外盛りだくさんなこの魔境で、二人がはたしてどこまでやれるか……

59 ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:52:38 ID:zK2P4TTY0
投下します。

60翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:53:01 ID:zK2P4TTY0



 ──プレミア・マカロニ。

 D-4の街角にあるこの小さなレストランのテーブル席で、未だバブルの余韻を匂わせる恰好の男女が向かい合っていた。
 男は美男、女は美女と言って良い容貌であるのに加え、男は男に磨きをかけ、女は女に磨きをかけて高級なファッションで仕立てているのだから、全く、恐ろしい程に高い次元で釣りあいが取れているカップルだ。

 ことととととと……。
 美男は、美女のグラスにワインを注いでいく。

「客に注がせるなんて、サービスの悪い店だぜ」

 と、男は、冗談めいた悪態をつく。それもそのはず。店は全くの無人なのであった。まったくの二人きり、貸し切りだ。壁にかけられた大量の白黒写真だけが彼らを見ている。
 とはいえ、彼も邪魔者がいないのは悪くないと思っている。
 キャンドルの揺れる灯りが、二人の夜の雰囲気を醸し出していた。アロマではないが、やさしい匂いを発しているような気がした。

 丁字色のスーツを着た、どこか遊び好きな印象を思わせるこの男の名は結城凱。ちなみに、このバトルロイヤルに招かれてから、目の前の女性を口説くまでに要した時間は一分にも満たなかった。
 そうして、凱に一分で口説かれた女というのは、美神令子だ。チューブトップにミニスカートで非常に肌の露出の多い紫のボディコンを纏っている。
 艶のあるオレンジ色の髪は、立ち上がればスカートの裾よりも下に来るほどに長くのびていた。

 お互いこんな外見だが、二人とも、本気で相手を愛してしまっているわけでも──まして、そこから、愛のない邪な関係になろうというわけでもない。凱も女ならば誰でも良いわけではないし、令子も決して尻が軽い性格ではないのだ。
 まず、凱はこんな状況だからこそ、自分にとって最も理解のしやすいやり方で相手が信用に足る人間が見極めようとしたのであった。それが、「口説く」という手段である。
 愛を育むのも、信頼に足る相手かを見極めるのも同じだ。
 とにかく人を知るには手順というものがある。
 凱にとって、その段階の一つが、男女二人きりの世界に誘う事だった。

 令子は令子で、この殺し合いでいきなり、無警戒に女を口説く男というのが、果たしてどんな人間なのか、確かめようとしたのだった。悪い企みのある相手だったなら、令子は相手の悪意さえも上手に利用して自分の利益にしようとするだろう。
 だが、少なくとも、今のところ、凱には悪い印象はなかった。誘い方は、相応に紳士的であったが、反面で彼からは隠しきれない野性味が漂っている。女好きであるという点においてもある意味純粋で、それこそ、ワルさの中にも可愛げの感じられる男だった。

 最初に出会った異性をよく観察し、これからの殺し合いに臨もうとしているふたり。
 そんな二人を、店内のライトが、静かに照らし続けていた。
 ワインが二人分注がれた後、先に口を開いたのは、令子だった。彼女はテーブル上に置かれたワインボトルを手に取り、ラベルを一目見ながら言った。

「まったく、“ノストラダムス”さんも粋な事をしてくれるわね。こんな物配ってどうするのかしら。……ねえ、ロマネ・コンティの単価ってどれくらいだかわかる?」
「──おっと、俺を舐めるなよ。いくら学歴ってやつがなくても、俺は酒と煙草とギャンブルと女にだけは詳しいんだぜ。こいつは、近頃は一本二百万円だっていう最高級品さ。……まっ、本当なら普通の奴には一生縁のないワインだぜ」

 令子は、そっとボトルをテーブル上に戻して訊いた。

「……ノストラダムスに感謝する?」
「ああ……。今夜のこの特別なワインと、この夜一番の美女に会わせてくれた恐怖の大王に……乾杯」

 かたん、と。
 二人の持つグラス同士がどこか心地良い音を鳴らし合った。

 ロマネ・コンティ。高価なワインの代名詞とも言われるそれは、凱の支給品だった。
 武器ではないのだが、彼らにとっては外れではない。
 酒を愛する凱にとっては、短い人生の中で一度は口にしたいワインであった。特に、90年代初頭といえば、ロマネ・コンティの当たり年であり、百万円や二百万円を優に越す値がつく事もある。

61翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:53:19 ID:zK2P4TTY0
 金を愛する令子にとっては、度々、ビール感覚で口にする機会のある酒──多くは今と同じように男に奢らせるのだが──でもあったが、やはり金目の物が手近にあると少し士気が上がる彼女である。
 グラスを口元に手繰り寄せ、最高級ワインの匂いを嗅ぐ。

「ん……?」

 と、その時。令子の鼻孔から侵入したのは、飲み慣れたロマネ・コンティの芳醇な香りではなく、嗅ぎ慣れない違和感だった。
 凱も、令子と同じように、ワインの香りには違和感を抱いたようである。
 一瞬、毒物の混入を警戒したようだが……いや、高級酒の香りにしては随分と安っぽいように感じただけで、別に飲むのを警戒するような物というわけではなかった。
 それでも、令子は口をつけずに、凱の様子をちらりと見た。

「──なんだか随分安い香りだな。高級ワインってのはこんなもんなのか?」

 流石、金がないなりに酒に詳しいと豪語する凱である。
 飲んだ事が殆どないとしても、それを嗅いだだけで看破するとは、相当飲める男らしい。
 令子が、グラスをそっとテーブルの上に置きながら言った。

「いいえ……。これ、やっぱり偽物よ。ラベルだけすり替えてあるわ」
「なんだって!?」
「中身はただの安物。……まあ、男女ふたりで飲むにはちょっとチープなワインよね。悪いけど、私はもういらないわ」

 こうして誘われながらも、酒の値段でそれを断るというのは、なんともこの令子らしいやり方であった。凱の逆鱗に触れるかもしれないが、彼女は男の性格を見て、そうした行動を平気で取れる性格でもある。
 だが、凱はやはり肝心な部分では紳士であり、令子に向かって腹を立てるという事はない。……というよりも、自分が安い酒を飲ませようとしたのだから、この反応は当たり前のように思っていた。
 仮に令子が気を使って飲もうとしたならば、それこそ、彼は取り上げて捨ててしまうだろう。
 彼にとっては、それこそが酒と女に対する愛情であった。

「あんのヤロ〜! 俺をおちょくりやがったな! ちょっと期待させやがって!」

 凱はグラスを持つ手を震わせた。乱暴にテーブルの上に叩きつけるように置いて、“ノストラダムス”への怒りを叫んだ。
 バトルロイヤル。……それが始まってから、最も主催への怒りが強まったのは、もしかすると今この瞬間でもあったかもしれない。
 金属製の首輪をつけられて犬のように扱われた事よりも、こうしてからかわれた事の方が、ずっと彼にとって耐えがたい屈辱だった。デイパックから高級ワインが出て来た時のときめきを返せと言いたかった。それを嘲笑ったのだろうか。
 ふぅ、と令子は一息ついた。

「……まあ、島や船まで貸し切って随分贅沢だと思ったけど、いざって時はハリボテだらけみたいね。主催者のお財布の事情がよく伝わるわ。……こうまでしてバトルロイヤルなんかさせたいのかしら」
「ああ、まったくその通りだぜ。……だが、これじゃあ俺の腹の虫が収まらねえ! 待ってな、店の奥に行って、もっと高い酒を探してくる!」
「まあまあ……」

 苦笑いでそう言う令子であった。
 こうした凱のちょっとした暴走を、令子はまだ微笑ましく見られる。
 勿論、過信はしていないが、凱が変な算段を持ち合わせている人間でないのはよくわかった気がする。
 ……まあ、よくよく考えてみると、令子にとって仲間であったあの横島忠夫よりもずっと信頼できる人間性を持った男かもしれない。
 彼女が来た時間軸では──仲間、というには微妙な所だったが。

(……とは言ったものの、早いとこ脱出手段を考えないとね。わざわざ見栄張って支給したワインが安物って事は、他にもどこか抜け道があるはずだわ。それを見つけちゃえば後は楽な仕事になりそうね)

 令子は凱が激しく席を立った時の余韻で揺れ続ける安物ワインを見ながらそんな事を考えていた。
 勿論、彼女も殺し合いには乗らないと決めた人間の一人である。
 自分の命や金は大事だが、他人の命と引き換えにそれを得たいかというとそういうわけでもない。悪い奴ならば知った事ではないが、子供やらこんな男やらを見ていると、やはり、なるべくそれを犠牲にして生き残るのは躊躇う所である。

62翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:53:39 ID:zK2P4TTY0
 ましてや、助手(兼うらぎりもの)の横島に、おキヌちゃんまで纏めて参加しているのだ。
 彼らが死ぬのは……令子にとっても、もしかしたら……ちょっと、不快……かもしれない。

「──あの、君たち」

 と、突然、声がかかって、令子は心臓が飛び出るほど驚いて我に返った。思わず、「おそ松くん」のイヤミのようなポーズになって、血の気が引いた間抜け顔を晒している令子である。
 声の主が立っているのは、ほぼ背後だ。
 ついつい、おキヌちゃんの事を考えていて(本当は横島の事も考えていたのだが、令子はそれを認めない)、我を忘れていたらしい。
 凱以外の人間がこのレストランに来ていた事に令子が気づいたのは、その瞬間だった。
 令子を庇うように、凱は速足で令子とその男の前に立ち塞がる。黒い手袋を嵌めた両手を顔の前に出して、どこか威嚇するように、凱は訊いた。

「……おい、なんだお前?」
「いや、さっきからそこにいたんだけど……」

 二人きりの貸し切りレストランは、どうやら、いつの間にか、二人きりではなくなっていたらしい……。店の隅に(普段なら老人が眠っている所に──)、一人の男がいたようだ。声をかけるタイミングを逃して、放置していたのだろう。

 この男の変わっているのは、その髪型である。短い髪は全て逆立ち、一目でそれが相当の剛毛だと悟らせる。
 見る人が見ればハンサム──よく見れば色男だとわかる──といっていい顔立ちだが、凱にはそれがモテる男の顔には見えなかった。
 白いシャツの上から、橙色と黄色を配色したベストを羽織った彼の姿は、妙に毅然としているようでもあった。
 令子と凱が目を丸くして彼を警戒しながら見ていると、その空気を察したのか、彼は自分の素性を明かし始めた。

「えっと……そうだな、まずは俺の自己紹介からしておこう。俺は、帝国海軍中尉、大神一郎です」

 そんな自己紹介を聞いた凱は、少し眉を顰めた。

「……海軍中尉だあ? なんだか知らねえが、それにしちゃ随分頼りなさそうなツラじゃねえか。そんなんで俺たちを保護だなんて笑わせるぜ。……まっ、軍人なんて意外とそんなもんか」

 この手の男に随分と絡むのは、凱が「納豆と男が大嫌い」とする性格だからである。
 ましてや、軍人などと言われたら、そう簡単に受け入れないのも彼だ。規律などに縛られているご立派な人間を、凱のような遊び人が好くはずもない(ただ……彼にとっては、少しだけ、例外的な“親友”や“仲間”の軍人もいるのだが)。

「むっ」

 そんな凱の捻くれた態度に、眉を顰める大神であった。彼も、自分が馬鹿にされているのならまだしも、「軍」という枠組みで仲間ごと馬鹿にされて、腹を立てないはずがない。
 そして、凱に対して、不機嫌な眉のまま訊き返した。

「君は、軍人が嫌いなのか?」
「へっ、わざわざドンパチやろうなんていう奴の気持ちは俺にはさっぱりわからねえな。ひでえ時は、俺みたいな一般人も巻き込みやがる……」
「……。それについては、日頃も申し訳なく思っているよ。だが、俺はこれでも、たくさんの人たちを守りたいと思って帝国華──あ、いや、帝国海軍に入ったんだ」

 そう言う大神を見て、凱は少し意外そうな顔になった。
 大神の瞳は至極真剣なのである。演技でなければ、余程、「くそ真面目」な人間だというのがそれだけで伝わった。
 そして、そんな彼の姿は、凱の中でとある一人の男と重なる。
 くそ真面目で、実直で、「俺は戦士だ」とか、「人を守りたい」とか、そんな事を言い出すどこかのバカな友人の姿だ。
 それで少し押し黙った凱だが、慌てたように表情を変えて、また大神に捻くれた絡み方をした。男に対してそう素直に対応するわけがない凱である。
 大神という男が誰かさんに似ているのはともかくとして、凱は得意そうに言う。

「──なるほどなぁ。あんたのお気持ちはよぉくわかったぜ。……しかし、俺はあんたがどこまでやれる奴なのか、まだちゃんとはわかってねえ。口だけって事なら承知しねえぜ!」
「……君の名前は」
「結城凱だ。あんたとは全く正反対の遊び人だ。──だけどな、これでも場数は踏んだつもりだぜ。軍人さん如きに負ける俺じゃ……ないってことさ!」

63翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:54:03 ID:zK2P4TTY0

 凱は少し歩きだし、自分の席の前でそっと、先ほど飲みかけていたグラスを掴むと、それを親指と人差し指で挟んで、大した力も入れた様子なしに、粉々に砕いた。
 中に入っていた安物のワインがレストランの床に零れ、その上をガラスの破片が散っていく。黒い手袋に、ワインが染みた。

「……」

 大神は、そんな彼の様子を、少し黙って見つめる。
 あのグラスも、流石に飴の細工ではない。それなりの強度が保障されているもので、そう簡単に砕け散ったりはしないはずだ。凱という男の握力が、ああ見えて人間離れしている証だろう。
 凱は、濡れた右の手袋を脱いで、手をひらひらと仰いだ。

「どうだい、こいつが乾くまで、腕相撲でもして力比べでもしてみるか、海軍中尉さん」
「……望むところだ!」

 挑発する凱に、それに乗るように腕をまくる大神。
 初対面でここまでいがみ合うというのは、令子のような性格でも滅多にない。普通は、もう少し丁寧に接してから、相手の輪郭が見えて初めて対立が起きるものではないか?
 令子のように成熟した大人では、全くその辺が理解できなかった。

(男の子ってやっぱりわけわかんないわ……こいつらもミニ四駆とか好きなわけ?)

 男同士でヒートアップしていがみ合っている中、全く置いてけぼりで、呆れたように頬杖して半目で二人を見ていた令子が、横から訊いた。

「あの……男と男の熱いバトルはいいんだけど、その前にちょっと一つだけ訊いてもいいかしら、大神さん。あなた帝国海軍だっけ? それって、なんか随分変な言い方ね」
「はい?」

 凱を睨んでいたはずの大神は、令子の突然の横槍に、きょとんとした。大神はすっかり令子の事を忘れていたようである。
 しかし、何故、今そんな事を言われるのかもわからなかったし、そもそも帝国海軍が何か気に障るような言い方だっただろうか。

「いや、帝国海軍、なんて、まるで戦前や戦中の人みたいな言い方じゃない。……あの、もしかして……右の思想の人とか?」
「……は?」

 令子の質問の意図どころか、意味すらもよくわからない大神である。
 センゼン、センチュウ……これらの言葉は、そもそも、ある一つの巨大な戦争が終わった前提でなければ殆ど使われないような物である。戦前の人間が、「戦前」などという言葉ができるはずないのだ。それゆえ、大神はその質問が暗号のようにさえ思えた。
 強いて言うならば──日露戦争か、対降魔戦争か?
 そんな大神の様子を察して、令子は一つの質問をする。

「ああ、わからないなら別にいいんだけど。──それならそれで、ちょっと一つ訊いてもいい? 今は西暦何年?」
「はあ……太正14、いや15年……西暦でいうと、1926年になったばかりですが」

 と、その瞬間にぎょっとするのは、凱である。

「なあ、大神。あんた、もしかして、頭おかしい奴なんじゃねえか? まともに相手して損したぜ。だって、今はせんきゅうひゃくきゅうじゅう──」

 相手がその手の人間なら、、真面目に張り合うのも大人げない、と凱は思った。
 やたら理路整然としているので全く気にならなかったが、もし変な奴ならば、凱ももう少し上手く大神と関わり合わないように配慮するだろう。
 大神は、凱の一言に若干不快そうな顔をしたが、何か言う前に、令子が口にした。

「──いいえ。多分、彼にとっては違うのよ。言っておくけど、彼は変人でも幽霊でもなさそうだわ。……じゃあ、タイムスリップしてきたと考えるのが、一番合理的じゃない?」

 過去にタイムスリップも経験した令子は、驚くわけでもなく、そんな結論に達した。
 頭がおかしい人間と割り切るには、やはり大神には落ち着きがあり、軍人のステレオタイプをなぞるような演技でもない。
 たとえば、自分が軍人であると思い込むような性質の人間は、凱に軍人を馬鹿にしただけで、もう少し露骨に暴力を振るったり言い返したりするのではないだろうか。
 あくまで、軍属の士官にもう少し近い横暴なイメージになりきろうとすると思う。しかし、大神はそれを演じているわけではなく、あらゆるタイプが存在する軍人の内の、多少変わった一人でしかなく──それが、大神一郎という人間の真実の個性にしか見えなかった。

64翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:54:19 ID:zK2P4TTY0

「おい、本気で言ってるのか?」

 その問いに堂々と頷いて返答する令子を、もしかしたら凱は少し変人チックだと思ったかもしれない。
 しかし、タイムスリップ、か……。
 その理論を聞いて、凱もある程度は納得していた。そこらの人間を捕まえてくるよりは、ずっとありえる話だろう。彼自身が、不思議な体験を幾つか行っていたせいもある。
 たとえば、あの最初の説明でワニ人間を見て全く驚かなかったのも、凱がこれまでしてきた不思議な体験の賜物だ。

「ねえ、大神中尉さん。わかりやすく説明すると、あなたの言っている年──1926年はね、私からすれば、70年くらい前なのよ」
「は……!?」
「……まっ、簡単には信じていないかもしれないけど、服装から見ても、おそらくずっと前のものね。まさに、大正時代で士官級の軍人なら、私服がそれくらい立派でもおかしくないんじゃないかしら」

 真顔でまくしたてるように言う令子に、大神も凱もかなり驚いている。
 しかし、すぐに、大神はその意図を理解した。
 令子が嘘を言っているとは思えない。

「うっ……そうか。……俺も何か変だと思っていたが、君たちは、未来の人間なのか!」
「嫌にあっさり認めるじゃねえか。……なあ、こいつが本当に大正時代の人間だってのか? 大正時代の人間はこんなにSFじみた空想がわかるってのか? もう少し土人文化だと思ってたぜ」
「あなた、それ随分失礼よ……」

 令子は苦笑いしながら言う。
 流石に大正時代が土人という事はないだろう。……確かに、コンピュータや携帯電話といった現代の技術は殆ど存在していないかもしれないが。
 しかし、凱も納得した──いや、完全には納得していないかもしれないが、そうして話を合わせておかねばならないのだろうとは理解した──ようであった。
 大神が、言った。

「俺だって簡単に認めるわけじゃないさ。ただ、君たちがそんな嘘をつく理由はない」
「私もそう思ったから、あなたの言った年を信じたのよ。嘘言ってるようにも見えないしね」
「そうか……」

 と、そう言いながら、大神は令子の方をじっと見た。

「しかし、さっきから気になっていたが……君も、普通の人じゃなさそうだね」
「ええ。私はゴーストスイーパー……美神令子よ」

 ゴーストスイーパーなどという肩書は、先ほどから一緒にいる凱も初めて知った。
 その胡散臭い言葉は訊いた事がないのだが、凱はそのニュアンスを察する。
 昔、そんな名前の映画もあった気がする。……いや、あれは「ゴーストバスターズ」か。

「──って、そんな横文字も、大正時代じゃあまだわからないか。霊を鎮めたり、妖怪を倒したりするのが私の本職よ」

 そして、それを聞いた時、凱は──思った。
 ジェットマンやバイラムなんて単語を聞く事になった一年前の驚きが、自分の中で繰り返されているのだ、と。
 こいつは、もしかすると、本気で、またとんでもない話に巻き込まれたらしい。
 凱のように平和に暮らしてきた遊び人に、運命は──これ以上何をせよというのだろう。

「……俺だってわかんねえよ、ゴーストスイーパーなんざ」







「本来なら機密事項だが、まず俺の仕事を話そう。実は俺は、ただの海軍の人間ではないんだ。秘密裏に構成された秘密防衛組織──帝国華撃団・花組の隊長だ」

 十分前まで二人きりのムードが繰り広げられていたレストランは、今や会議の場であった。大神一郎は、簡単に経歴を述べる。
 この経歴は、彼が大正時代(大神が言っているのは「太正時代」だが口頭では伝わらない)の人間である事などよりも、遥かに驚くべき事実だ。

65翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:54:43 ID:zK2P4TTY0
 秘密防衛組織……? こいつは何を言ってるんだ……? と。
 しかし、凱も凱でそう言えない立場にあるのはまた同じだ。何せ、彼も似たような物なのだから……。
 大神は続ける。

「帝都東京に現れた降魔という魔物を倒すのが俺たちの使命だ。その為に必要な高い霊力を持つ女性の集団が帝国華撃団で……俺は、男だけどその霊力を持っていて、その隊長を任された」
「確かに元々、高い霊力は女性を中心に宿るものだったみたいね。安倍晴明のような例外はいるけど……。ただ、現代では、男性のゴーストスイーパーも珍しくはないわ。この名簿にある、横島クンも一応その一人よ」
「横島忠夫、か……」

 名簿上の名前を令子が一人教えて指示する。
 なるほど、と大神は首肯した。未来になると、霊力を持つ男性がもっと見つかっているらしい。──大神の霊力の高さが着目されたのも軍属者だからこそテストされる機会があったからである。
 知られていないだけで、高い霊力を持つ男性はまだまだいるのかもしれない。
 まあ、大なり小なりあるが、全ての人間が持つ力であるのは確かだ。それが特別高いのはやはり女性という話である。
 大神は、テーブル上に置いている名簿をふと見て、もう一度指示した。

「そうだ。名簿の名前といえば、俺も知り合いもいるんだ」
「教えていただける?」
「ほら、この名前──イリス・シャトーブリアン、真宮寺さくら、李紅蘭……みんな、花組の仲間たちだ。彼女たちなら、きっと俺や君たちと一緒に殺し合いを打ち砕いてくれる……! 早く三人を探さないと……!」
「……へえ。確かに女性名ばかりね。色んな国籍の女性が集まっているみたい」

 随分と多国籍の軍隊らしい。後々の歴史を考えると、その隊も分裂してしまうのかもしれないが──今はそれを口にするのをやめておいた。

「……随分羨ましい奴だな。野郎のいない、女に囲まれた戦隊って事か」

 凱が横槍を入れた。まるで軽口を叩くようにそう言う彼は、相変わらず女好きな性質を口に出している。

「で、そいつらを語る時の大神のその慌てよう。その中の誰かとデキてたりって話か?」
「うっ、それは……」
「おっ、その反応は図星だな? いるのか、その中にお前の恋人が──見かけによらず、やるじゃねえか! まあ、俺が入っても同じ事になるけどな」
「そ、そんな話はいいから、君も知り合いがいないか教えてくれ!」

 大神が慌てて誤魔化すと、凱は、名簿をちらっと見た。
 もう一度、彼はそれを確認した。「あ」行と「か」行の間あたり、「は」行の始まりあたり、名簿の一番後ろあたり……を再確認する。
 やはり、巻き込まれた仲間は一人。その他は全員敵だ、と思い、既に確認済だった名前を二人に伝えた。

「天堂竜、ラディゲ、グレイ、それから女帝ジューザ。これでいいのか? それじゃあ、教えて見ろよ。誰がお前の恋人で、誰が一番美人だ?」

 まるでノルマを果たすように早口で話すと、そこからはいつもの凱である。
 大神は凱に詰め寄られ、両手を胸の前で開きながら押されていた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ……! 君の言った名前の中にも、いくつか気になる名前があるぞ!」
「──そうよ。さらっと言ったけど、女帝ジューザとかいう名前が気になるわ。……っていうより、はっきり言って、この名簿の中で、トップクラスに気になって気になって仕方ないんだけど!!」
「女帝ジューザとは、一体何者だい!?」
「何!? 女帝って! この名前見た時、この名簿絶対頭おかしいって思ったわよ! もしかして、あなたが一番変なんじゃない?」

 大神と令子の言葉に、凱は煩わしそうに耳を塞いだ。
 一番まともそうな凱が一番強烈な名前の知り合いを持っていたインパクトが巨大だったのだろう。

「いっぺんに話しかけるなよ! だいたい、俺が変だって? 俺は、あんたたちと違って元々ただの一般人だぜ?」
「元々、でしょ? 今は何なのよ。フツーに暮らしている一般人が女帝ジューザと知り合いになる機会はどう考えてもないわよ!?」

66翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:55:00 ID:zK2P4TTY0
「──あーあ、まどろっこしい説明は面倒だな。仕方ねえ。一度しかやらねえから、よく見てろよ?」

 凱は、面倒な説明を避けるようにして、右手のブレスを左手でプッシュした。令子も、大の大人の男がつけるには随分と変わったブレスレットだと思っていたが──実はそれは、ただのブレスレットではない。
 その正体は、凱の叫びとともに露わになった。

「クロスチェンジャー!」

 すると、凱の身体は光を発し、透明なエネルギーが彼を覆っていった。
 そして、次の瞬間、結城凱は人間ではなく、黒き鳥人へと一瞬で姿を変えたのである。
 コンドルの力を持つバードニックスーツの戦士──そう、彼もまた、人々を脅かす悪魔と戦ってきた人間だったのである。
 彼の両手のブレスは、その変身の為のアイテムである。

「「──!?」」

 大神と令子が口をあんぐりと開けて声にならない衝撃を間抜け面で表現しているのを横目に、彼はその姿の名を叫んだ。
 かつては煩わしい称号だったのかもしれないが──それは、今の彼にとっては、友と共に戦った己の誇り。

「俺は、竜たちと一緒に……この力でその女帝ジューザやラディゲを倒す為に戦った戦士──ブラックコンドルだ!」

 ブラックコンドル。
 偶々、「バードニックウェーブ」という力を浴びてしまった為に、裏次元の怪物──バイラムたちと戦う宿命を背負った鳥人戦隊ジェットマンの熱き勇士である。
 所謂、変身ヒーローである。

「やっぱりあなたが一番変よ!!」

 令子は、目玉を大きくして凱にそう言った。







 ────で、それから。

「つまり、確実に敵対するような相手が何人もいるという事か……」

 大方の情報の交換を終えると、大神は腕を組んで眉を顰めた。
 このバトルロイヤル、というゲームにおいて、ほぼ確実に殺し合いに乗るような連中は少なくない。本当に、その手の人間が呼ばれているという事である。彼の場合、仲間しか呼ばれていなかった為、あまり激しい殺し合いにはならない可能性は少なからずあると認識していたのだ。
 しかし、やはり、殺し合いに乗るようなタイプの人間も多数招かれているらしい。

 特に危険なのは、ラディゲ、女帝ジューザ、メドーサだ。
 次に危険なのが、グレイ、ルシオラ。──こちらは、おおよそ殺し合いに乗らない可能性が高いが、念のために警戒すべし相手という事だ。

 バイラムに所属するラディゲという相手については、「ジューザを倒す為に共闘する」という提案を申し出れば直接戦闘を避けられる可能性もあるらしい。しかし、いずれ戦闘になる可能性は少なくない為、最重要危険人物には違いないだろう。
 それから、グレイという人物もジェットマンの敵対者であるが、これは凱の直感で、どういうわけかそこまで積極的に人を殺し歩くような性格でもない気がするらしい。彼の言った「黒いロボット」という特徴は嫌でも目立つ事になるだろう。
 ルシオラも敵対者だがそこまで悪意に満ちているというわけではなく、むしろ危険なのはメドーサだが──それくらいならば、令子の腕でも何とか対処できるだろうという話だ。ルシオラの方が強く、こちらが「アシュタロス」なる巨大な悪の手下であるらしいものの、横島を可愛がっている様子を見るに、横島の名前を出せば何とか対処できると令子も推察している。
 そして──これは今更だが、凱と令子の来た時代、あるいは来た世界が根本的に異なる事もすぐにわかった。
 アシュタロスやバイラムといった敵の規模がそれなりに巨大であるのに対し、お互いが全くそれを知らないというのは実に不自然な話だからである。根本的に、来た世界が違うというのも令子はすぐに理解した。

67翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:55:18 ID:zK2P4TTY0
 そして、異世界の侵略を受けた凱もまた同じだ。
 大神も概ね、二人の説得で意味を解したようである。

「……こうしちゃいられない。一刻も早く、人々を守らなければ……!」
「チッ……本当にどっかの誰かみたいな奴だぜ」

 変身を解除していた凱は、足を組んだまま、大神を冷やかに見つめる。
 情報を提供する度に焦燥感に包まれる大神には、やはり──そう、「天堂竜」という男の姿が重なった。
 凱のような一般人を巻き込み、正義の戦士に仕立て上げてしまったあのくそ真面目な軍人野郎──全く、大神にはそれに近い物を感じてしまう。

(まだこんなクソ真面目な奴がいるの……流石に勘弁だわ)

 令子としては、別に彼と重ねる人間など周囲にいなかった。
 彼女も情報交換の度に、「ヤバイ」とは思い始めていたようだが、それは、決して多くの人が被害を受けるからではなく、自分の身が危険に晒される危険があるからだろう。
 そして、不機嫌そうな顔で呟いた。

「あ……そうだ、ギャラ……」
「は?」
「ねえ、これって、主催者倒したら、どっかからギャラ出るかしら……?」

 むすっとした顔のままそう言う彼女。
 余裕のあった令子を苛立たせたのは、何と言っても、バイラムの連中の話を聞いてからだ。
 特に、女帝ジューザとかいう参加者。……いくら再生怪人が弱いと言っても、凱の話を聞く限り、ジェットマンとバイラム幹部が協力して戦わねばならなかったような相手らしい。
 それが同じ殺しあいに招かれている──。
 アホか。死ぬだろ、それ。戦いたくない。金よこせ。金もないのに戦えるかバカ。

「──ははははっ! こんな時に考える事かよ」
「……報酬は、出ないんじゃないかなぁ」

 凱と大神も、どこか令子に呆れた様子である。
 凱は思い切り笑い、大神は割と真面目にリターンがなさそうな事を考えている。

「……まっ、もし、金が欲しいなら、優勝するしかないんじゃねえか」
「馬鹿言わないでよ」

 凱の冗談めいた提案には、令子は真面目につっぱねた。
 それというのも、幾つか理由がある。
 まず、人の命まで奪って金を得るのは流石の金の亡者でも不愉快な事。
 それから、そもそも優勝するのが脱出より遥かに難しそうな事。
 そして、主催者はロマネ・コンティ支給するフリして安物を支給するような人間な事。
 ──金にもならない殺し合いに乗る理由はない。

「主催者側も貧乏性みたいだし……くっ! あんな奴の言う事はいくら金の為でも絶対に聞くつもりないわよ! それでも、ヤミ金でもなんでも借りさせて、賠償金を三億はふんだくってやるしかないわね!」
「おーおー、凄い凄い」
「っていうか……女帝ジューザとかラディゲとか……あんた、私の力が通用しなさそうな余計な奴らを連れてこないでよ! 脱出が面倒じゃない!」
「別に俺が連れて来たわけじゃねえよ……!」

 令子と言う女が、命と金を大事にしている女なのは、大神にも凱にもだんだんとよくわかってきた。
 しかし、不思議と嫌いになれなかった。







 すぐに簡単な情報交換を終えると、三人は勿論、レストランの外に出た。
 そして、二百メートルほど離れた道路脇に置いてあるものが大神の支給品だ。

 930型ポルシェ911カブリオレ。
 大神も流石に運転が難しいだろうと判断し、この支給品をひとまず放置して、付近の捜索にあたったのである。

「大神さん、あなた最高よ! 随分ステキな物を支給して貰ったじゃない!」

68翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:55:55 ID:zK2P4TTY0

 と、令子が喜ぶのにはワケがある。
 それというのも、ナンバープレートも含め、100パーセント確実に令子の愛車そのものだったからである。
 大神が、それを運転して動かすという判断をしなかったのも彼女にとっては最高だ。
 下手に運転されて派手に事故でも起こされていたら、大神を相手に巨額の賠償金──それこそ、安くとも実車の値段の倍の値段──を請求する所だったが、大神も運が良い。
 ただし、もし仮に、ここに放置した結果、どこかの馬鹿が「ボーナスステージ」などと称してブッ壊していたらそれこそ、「管理責任」と称して大神からふんだくったかもしれないが。

「……しっかし、よりにもよって、私のこの子を盗んで支給なんて──ノストラダムスだかなんだか知らないけど、ブッ殺してやるわよ、マジで!」
「あーあ、完全に口説く女を間違えたぜ……」

 だんだんと本性を露わにしていく令子を前に、凱は肩を竦めて言う。
 女を見る目はあったつもりだが、まったく、とんでもない女を口説いてしまったらしい。
 凱の好みは、もうちょっと純朴そうな女なのである。金が大好きな女は対象外だ。それこそ、凱がこれまで最も愛した女というのは、金持ちでありながら──それをひけらかしたりはしない女だったくらいである。
 尤も、その女は、別の男に惚れてしまっているのだが。

(ま、巻き込まれてたのが竜だけだったのは不幸中の幸いってやつか)

 鹿鳴館香。
 そう。
 それが、凱の愛した女の名前だった。──隊員と恋人関係にあるらしい大神にああして詰め寄ったのも、凱が愛する鹿鳴館香という女が、ジェットマンの一員だったからである。
 しかし、彼は、よりによって竜の事が好きときた。
 そして、その竜は、今……。

 いや、そんな色恋の話は置いておこう。
 凱は、本心から、ジェットマンの仲間たちがバトルロイヤルに巻き込まれなくて良かったと思っている。
 元気の良い女子高生、早坂アコ。農家をやってる田舎者、大石雷太。優しく厳しく──何より強い長官、小田切綾。
 一年前の凱は、自分がこんな連中とつるんで、変な仲間意識まで芽生えて、地球の平和を守っているなどと言っても信じてくれないだろう。
 今の凱ですら半信半疑だ。
 そうして──少し仲間の事を考えていた時、大神の声が轟いた。

「おい……二人とも!! あそこに誰かいるぞ!」

 その時、令子は、運転席でエンジンをかけていた。凱は、考え込んでいた。
 それゆえに、それに気づいたのは大神一郎だった。
 しかし、大神の声で残りの二人も後方を見るに至る。

 ──遥か後方、百メートルほど後ろ。

 見れば、街灯が照らしているのは、縮れた長い髪を持つ、小柄な男性だ。
 黒を基調とした服は、そこに人間がいる事をわからせ難くしていた。

「ありゃ……チッ、女かと思ったが、男だな……」
「ああ、髪は長いが──」

 後ろの男は、こちらが自分に気づいた事を察知したらしい。
 ぶつくさと何かつぶやきながら、その怪物はゆっくり歩いて来る。
 敵か味方かはわからない。
 だから、令子は愛車のヘッドライトを灯し、すぐに逃げられる警戒体勢を作る。
 三人の顔が顰められた。──それは、敵か味方か、というには、あまりに敵らしい雰囲気を悟ったからであろう。

「くくくく……ようやくほかの連中に出会えた」

 近づいて来る彼の声は、まだ聞こえない。
 しかし、不気味に笑っている彼の様子は、よくわかった。
 令子は、そっと、すぐにでも走りだせるように準備する。

「どうやら、奴らが、オレのここに来て最初の相手らしいな。……久々に蔵馬以外の奴と殺し合いが出来ると思ってウズウズしていたところだ……このゲームがようやく始まってくれた気分だよ……」

69翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:56:54 ID:zK2P4TTY0

 断片的に聞こえ始めた、彼──戸愚呂(兄)の声。
 それは、ただひたすらに不気味な笑いが混じっており、いかにも、ヤバい奴の香りがした。
 大神も、凱も、令子も強い警戒を示したが──相手の出方を伺うように、そこから張り付いて逃げようとはしなかった。
 ただの怪しいだけの人間かもしれない──仲間になりうるかもしれない──という僅かな期待ゆえだろうか。何せ、相手はまだ何もしていない。
 そして──次の瞬間、戸愚呂の高らかな叫びで、それぞれが行動を決めたのだった。

「──そう……完全再生したオレの身体で、ようやく久々に人間を切り刻める時がきた!」

 そう、殺しの宣言。
 戸愚呂は己の狂気を露わにすると同時に、その右手を巨大な刃へと変形させた。
 木の葉のような形の剣へと変形した右手を見て、三人は思わずぎょっとした。
 しかし、そんな人外の敵と何度も出会ってきた三人である。──そんな怪物がいる事そのものを納得するのは早かった。怖くて足がすくむという事はない。

「ひゃはははははははーーー!! カスども……死ねえええええ!!」

 そして、それと同時に、戸愚呂は走りだした。
 まるで殺人をするのを、ずっと待ちわびていたかのようだった。
 とにかく、彼らが最初に出会った「殺し合いに乗っている」側の人間が彼だったのだ。
 これが確かに──「超人」どもとの殺し合いであるのは、その瞬間に実感となった。
 駆け寄ってくる戸愚呂の姿に、凱と大神は少したじろいだ。

「な……なんだあいつ! 自分の腕を武器にしやがった!!」
「あ、あれが妖怪なのか……!?」

 不気味な相手に、思わず正体を探りたくなる。
 しかし、令子は二人のように相手の正体に関する疑問を議論するよりも、逃げる方が遥かに賢い手段だと理解するのが誰より早かった。
 エンジン音を再度、激しく鳴らして、二人の注意を引いた。
 凱と大神はそちらを見直す。令子が答えるように叫んだ。

「そんなの知らないわよ! わかる事は二つだけ……あいつが私たちの敵で、トンデモない化け物って事よ!」
「──そうか……。ならば、俺たちがやる事は一つだ……!」
「ええ、一つ! ──逃げるが勝ち! 早く車に乗りなさい! 一人くらいなら余分に乗れるから! 後ろに張り付いてでも乗りなさい!」

 令子は早口に叫んで言った。
 その時、大神だけは、既にデイパックから剣を取りだしていた。
 それは──大神の支給品である真魔剛竜剣である。剣士である彼のもとに剣が来ていたのは幸いか、あるいは作為か。
 そうして、大神は真面目に戦闘準備までしていたのに、令子の判断は「逃走」であった。
 少し崩れた表情で、絶叫するように指示する令子を見て、大神は慌てる。

「──いいっ!? さ、三人で倒すんじゃないのかい!?」
「金にならない妖怪退治は、お金と! 気力と! 体力の! 無駄よ!」
「ケッ、俺だって御免だぜ。あんな変態妖怪野郎!」

 凱が、クロスチェンジャーを使用しかけていたのをやめて、令子の車に乗りこんでいた。それが何より賢明な判断だと気づいたのだ。
 こうしている間にも、戸愚呂との距離は近づいている。
 ──そう、ごく間近まで。

「くっ……!」

 だから、大神も、やむを得なかった。
 座席ではなく──頭部をカバーする座席シートに左腕をかけ、文字通り張り付くようにして飛び乗る。
 それと同時に、令子はアクセルを踏み込んだ。
 一瞬で加速するポルシェ──。

「ヒャッハー! 余裕ぶっこいてグダグダ話す暇もねェぜ! 最高だ!!」

 一秒前まで大神がいた場所で、戸愚呂が右腕を振りかぶった。
 地面にまで叩きつけられた刃は、アスファルトの地面に軽い亀裂を作る。
 もし、大神が瞬時に、この判断をする事が出来なかったら──あるいは、大神が腕を滑らせて落ちてしまっていたら──そこにあったのは、真っ二つになった大神の死体だっただろう。
 戸愚呂は、そのまま右腕を小さな刃へと変えて、蔦のように伸ばした。

70翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:57:11 ID:zK2P4TTY0

「ひゃはは……待ちやがれェェェーーーっ!!!!」

 何メートルか先まで蔦を伸ばすと、それを今度は地面に突き刺す。
 そして、その右腕が戸愚呂の全身を引っ張る事で──半円を描くようにして前に進んでいく。
 確かに何メートルかの距離を一瞬で飛ばしながら進んでいる為、スピードは速いものの、令子の運転からすれば、そう難しい話ではない。アクセルをフルに踏み込んでも彼女はぶつけない自信に溢れていた。

「……見てみな、大神! あいつは、相手にするだけ無駄だ! だが、こいつのスピードなら、追いつかれずに何とかなりそうだぜ!」

 凱は、煙草でも吸いたい気分になりながら、真後ろの戸愚呂を冷やかに見ていた。
 何とか戸愚呂の追跡からは逃れられそうである。
 その間にも、凱の座る席のシートに足をかけるような体勢で、大神が後部ボンネットに座り込んだ。大神の足が凱の両脇を挟んでいる。男が嫌いな凱としては結構嫌な気分だ。
 しかし、よくこんな器用な真似ができる物だ。怖くないのだろうか。
 このスピードだと、ほんの少しでも気を抜けば振り落とされると思うのだが……。

「……」

 そんな凱たちを見ている中で、大神は何とも腑に落ちない気分になっていた。
 令子の真剣な運転。凱の落ち着いた余裕。
 そして、大神の思案。
 そっと、大神は答えを見出して──口を開き、後方に身体を向き直した。

「……そうだな。確かに、美神くんと結城さんの言う通りだ。奴と戦う事は、時間や体力の無駄かもしれない……だが」

 折角、シートにかけていた足を、大神はまず片足だけ外した。余計にバランスが悪くなり、大神にとって危険な体勢になる。
 まるで降りる準備でもしているかのようだ。
 それを見た令子は、慌てて大神に言った。

「ちょっと、何する気!?」
「──俺が奴を倒す! 二人で先に逃げてくれ」

 大神は、この車から降りようとしていたのだ。
 逃げる為には重荷でしかない大神だが、降りればおそらく死ぬ。
 それを考えると、令子は大神が自ら降りるような真似をしても知った事ではないのだが、流石に狂気じみているように見えて、文句を言った。

「何言ってるの!? この手の奴らからは上手く逃げながら脱出の方法を探ればいいじゃない! 相手するだけ時間の無駄よ!?」
「一人でも多くの人を守る為に、悪を滅する! それが、俺たち帝国華撃団だ! 帝国華撃団の隊長として──あんな奴を野放しにしておくわけにはいかない……!」

 大神は、己の意志を表明する。
 そう──仮に、戸愚呂から逃れたとして、他の参加者たちが大神たち同様、徒党を組めているとは考え難い。
 こうして逃げる手段がない者たちはどうすればいいのだろう。戦う手段がない者は──。
 そうして人々が危うい目に遭うのを未然に防ぐのもまた、帝国華撃団の使命だ。

「そうだ……俺たち帝国華撃団は、悪を前に背を向ける事はない! 俺が正義だ!!」

 あのピエロやワニの男のように――犠牲者が出るのを防ぐ。
 その為に──。
 大神は、走行する車の上から飛び降りた。

「!?」

 令子は、慌ててブレーキを踏み込んだ。このままだと大神を見捨てる事になると判断し、反射的にそうしたのだ。
 大神は地面で受け身を取ったらしく、転がりながらも、全く無傷に立ち上がった。霊力によって身体を守ったのかもしれない。

「ひゃははははははは!!!」

 その間にも、戸愚呂はしつこく、先ほど同様追ってくるのが見えて来た。距離は近づいている。
 令子と凱は、大神に大声で問い詰めた。

71翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:57:36 ID:zK2P4TTY0

「あんた本当に馬鹿じゃないの!? 悪いけど私たちはあんたを置いて先に行くわよ!?」
「そうだぜ! さっさと戻れ! 俺たちは死にたくないんでな、先に行くぞ!」
「構わない。──いや、それでいいんだ。戦う事は、力を持つ人間の権利だとしても、義務じゃない。……だが、それならば俺は、俺の力で、俺が信じる正義を選ぶ!!」

 大神は、真魔剛竜剣を両腕で握り込んで、向かい来る戸愚呂に立ち向かおうとしている。
 そして、高らかに叫んだ大神──。



「──花見の準備をせよ!」



 普段は帝国華撃団・花組を出動させる為の台詞であるが、今日ばかりは自分一人の為にこう叫んだのだった。
 その場がシン、となった。
 戸愚呂はごく近くまで接近してきている──。

「チッ……! あの馬鹿野郎がっ!」
「本当に馬鹿よ……何が花見よ……マジで錯乱してんじゃない!?」
「ああ、でも、だからこそ放っておけねえ! ──クロス……チェンジャー!!」

 凱は、激しく車から飛び降りると、次の瞬間──ブラックコンドルへと変身した。
 彼がそんな行動を取ったのは、ほとんど反射的であった。
 大神一人で戦えるという保証はない。ましてや、相手は化け物だ。それこそ、裏次元の化け物と戦ってきた実感のある凱の方が専門だ。

「ちょ……ちょっと、あんたもそっちなわけ!? あんたたち、本当にどうかしてるわっ! それなら一人で逃げるからね……っ!! 悪く思わないでよっ!!」
「ああ、逃げたきゃ先に行けっ!」
「そう! 本当に行くわよ……っ!」

 令子が躊躇しながら、アクセルを踏んだ。
 それから、また思い切ってもっと強くアクセルを踏むと、ポルシェは一瞬で遠ざかってしまった。
 令子がこれを後悔したのか、それとも、やはり自分こそが賢明だとしたのかは、わからないままだ。
 しかし、大神は、自分の隣に一人残った事に少しだけほっとした。

「結城さん……」
「おい大神っ! 俺は男と納豆が大嫌いだ──。あんな奴でも目障りだからな、一緒にあの納豆野郎を片づけるぞ……! それともう一つだ、結城さんなんて言われてもピンと来ねえぜ、俺の事は凱様と呼べ!」
「あ、ああ……。あれはとても納豆には見えないが……ありがとう、凱!」
「ケッ、あの髪型が納豆みたいに粘ついた性格を物語ってるんだよ! それにあの腕を見てみやがれ!」

 そんなブラックコンドルと大神の前で、戸愚呂は足を──いや、手を止めた。
 彼は、二人の目の前まで着地する。もはや逃げられないほどまで距離を縮めたのだ。
 そして、人間のような姿に戻ってから、薄ら笑いを浮かべた。

「納豆野郎とは失礼だなァ……! ま、予想通りこのオレが納豆みたいに粘っこくしつこいって事は認めるがねェ!!」

 ──戸愚呂は叫び出す。
 まるで堪えきれなかったかのように。
 久々にナマのエモノを狩れる事を、激しく喜び──祝福せずにはいられなかったのだ。
 下衆の匂いがした。

「ひっひっひっ、テメェら二人は逃がさねえぜ!! あの女もよく見りゃ良い女だったからな……あとで犯して殺してやるよ!! ひゃはははははは!!」

 そんな言葉に大神と凱は強い不快感を覚える。
 二人ともおおよそ同じような事を思っただろう。
 そして、戸愚呂は、二人の内──いずれかの声を聞いた。

「おお、感じるぜ……!! お前ら随分怒ってやがる……!! お前はゲスだ、最低野郎だ、女の敵だ、この結城凱様がブチ殺してやる!! ってな具合か──!?」

 戸愚呂の言葉に、凱はブラックコンドルのマスクの裏で眉を顰めた。
 それは、一字一句違わず、凱の思考そのままであったからだ。

「こいつ、心をまるっきり読んでいやがるのか!?」
「ひひひ……その通り……! オレはお前らの心が読める! それだけじゃない……俺は、不死身の身体で、他人の能力をオレの物に出来る! オレは無敵なのさ!!」

72翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:58:17 ID:zK2P4TTY0

 ごくり、と大神たちは息を飲んだ。
 次の瞬間、再び、巨大な剣の姿へと変身した戸愚呂の右腕。
 その刃は、大神とブラックコンドルに向けられていた。

「貴様らのチンケな能力もいただいてやるぜェーーーーーー!!!」

 叫びながら向い来る戸愚呂の前に、腰の銃を抜いた。
 照準を戸愚呂の胸部に合わせ──引き金を瞬時に二度引いた。

「させるかよっ! バードブラスター!!」

 ぴひゅん、ぴひゅん。
 バードブラスターの光線射撃は、戸愚呂の刃へと命中する。彼が身体の前に翳し、盾としたのだ。刃は光線を跳ね返すわけでもなく、直接彼自身の身体に命中しているはずなのだが、それを痛みとして受け取っていなかった。

「効かねェーーー!!」
「チッ、じゃあこいつでどうだ! ブリンガーソード!! ハッ!!」

 今度は左腰の剣──ブリンガーソードを抜く。ブリンガーソードの翼が拓く。
 至近距離まで接近した戸愚呂の大剣をそれによって防ぎきり、戸愚呂の腹を蹴とばすと、ブリンガーソードでよろけた戸愚呂の身体を一閃する。
 火花が散った。

「ひひひひひ……そいつは攻撃か!? 全く効かないねっ!!」

 ──だが、戸愚呂は左腕を伸ばし、ブラックコンドルの首を思い切り掴む。
 そして、思い切り持ち上げた。ブラックコンドルは抵抗するようにブリンガーソードで何度も戸愚呂の身体を斬り裂く。

「効かないってんだよ!」
「ぐああっ……! な、何故だ……!」
「わかってないかもしれないが、オレたちの能力は大なり小なり制限があるらしい。そんだけ武器を持ってるんだ……威力が軒並み弱まってるのかもなァー! さあ、貴様の最期だぜェ……! 首を斬り裂いて殺してやるよ!!」

 そう戸愚呂が叫んでいる時、横から大神の声が聞こえた。
 ブラックコンドルの耳に入った大神の声。それは──。

「──剣だ! ……その剣を貸してくれ、凱!」
「くっ……何だ!? こいつを使うってのか!?」

 ブラックコンドルは、自分の手に握られたブリンガーソードを見下ろした。
 すると、大神が頼むように言う。

「俺の武器は二刀流……だから、もう一つ剣があれば──!」
「くそっ……なんだかわからねえが、使え! 大神!!」

 大神の戦法を全く知らない凱である。
 仕方なしに、ブラックコンドルは、抵抗手段の一つであるはずのブリンガーソードを大神に投げた。
 彼に策があるというのなら、そちらに賭けるしかない。

「よし……!」
「させるかァーーー!!」

 空中を舞うブリンガーソード。
 右腕を伸ばし、戸愚呂もそれをキャッチしようとする。
 大神が前に駆け出し、ブリンガーソードを取ろうとする。
 善悪、ふたりが同じ物を得ようとして手を伸ばす。
 そして──次の一瞬で、空中でブリンガーソードをキャッチしたのは。

「──はぁっ!」

 ──大神の方だった。
 しかし、そんな大神の目の前には、刃へと変身した戸愚呂の腕が待ち構えている。
 大神はそれを見下ろし、両腕の剣を構えたまま霊力を込めた。
 空中で、まるで時間が止まったかのように思考し──迫ってくる戸愚呂の腕に向けて、二つの剣を重ねた。

「──いまだ! 狼虎滅却ゥ……天地、一矢ッッッ!!」

73翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:58:34 ID:zK2P4TTY0

 そこから繰り出される必殺技──。
 それは、二天一流を極めた大神の隠し種の一つだった。本来段差では使えないが、落下しながらならば──。

「ぐっ……」

 至近距離で、高霊力が込められているのを感じ取った戸愚呂は慌てた様子を見せたが、その次の瞬間には、二つの刀が戸愚呂の身体に向けて叩きつけられていた。
 戸愚呂の腕さえもバラバラに砕いて大神の剣が突き進んでいく。

 こいつがまさかこんなに強かったとは──。
 これは、暗黒武術会に参加しうる実力──。

「……きひっ! ……何、だとォ……!?」
「はああああーーーーッ!!」

 次の瞬間──爆裂。
 戸愚呂の身体の表面で、大神の霊力が膨れ上がり、戸愚呂の身体は見事に引き裂かれて、その斬り口からばらばらに砕け散っていた。
 首をつかまれていたブラックコンドルも地面に落ち、もげた左腕を気味悪がり、慌てて取り払った。はぁ、はぁ、と肩で息をするブラックコンドル。
 そして、爆煙の中、戸愚呂に背を向けて歩きだす大神のもとに、ブラックコンドルは駆け寄る。

「……おい、癪だが、助かったぜ、大神。しっかし……初めて見たが凄え技だな、腕相撲しなくて正解だ」
「ああ……俺もだよ。とてもじゃないけど、君には敵いそうにないからね……。これは君のお陰だ。──返すよ、凱」

 ブリンガーソードをそっとブラックコンドルに返す大神。
 少なくとも、大神が本領を発揮するにはこのブリンガーソードが要るらしい。力を使うのに二つの剣が要されるというのはなかなか限定的だ。
 とにかく、それで一人敵を倒したはずだ……。
 これで──要は、大神の要望通りというわけである。
 しかし、そんな大神の前で、ブラックコンドルは視覚上にある光景を捉えた。

「──あっ、大神……避けろッ!! 奴は生きてる!」

 それは、ニヤリと笑う戸愚呂の顔だった──。
 彼は、手足がもげるほどバラバラにされても生きているというのだ──。
 どういう身体の構造をしているのかわからないが、これが妖怪だというのか。
 そして、彼が大神たちを狙わないはずが無かった。

「なっ……!?」

 ブラックコンドルが声をかけた瞬間に、戸愚呂は右腕だけを再生し、ナイフに変形させ、それを伸ばしたのだ。
 大神が気づくのは少し遅れた。
 ゆえに、ブラックコンドルの手が慌てて大神の手を引きよせる。

「ぶはははははははっ!!!」

 大神の背中を引き裂いた。
 大神の服の背中が破れ、皮膚さえも突き破るナイフの一撃。
 辛うじて、ブラックコンドルに引き寄せられて、ぎりぎり一歩前に出たせいか、致命傷とはならなかったが、大きなダメージには違いない。

「ぐあああああッ!!!」

 背中に、左肩から右脇にかけての巨大な赤い血の線を作った大神の絶叫が轟いた。
 死んだフリをして攻撃してくるなど──本当に、納豆のようにしつこく、粘っこい敵だった。
 凱にとって最悪の敵である。
 せめてもう少し美学のある敵とやり合いたい物だが、なるほど、バトルロイヤルはそういうわけにもいかないわけか。

「くくくく……ダメージを与えたつもりか? 言っただろう、オレは不死身だってな。いつもより修復に時間がかかるみたいだが……腕一本くらいなら充分時間があってね。この刃渡りじゃ足りなかったかな!! ひゃははははははは!!!」

 だが、凱は──ブラックコンドルに変身したままである事を幸いだと思った。

74翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:59:04 ID:zK2P4TTY0
 静かな怒りを秘めながら、ブリンガーソードとバードブラスターを合体させる。
 まさか、こんな機能があるなどとは戸愚呂も知らないだろう。

「──御託はどうでもいいぜ、納豆ヤロー!! こいつならどうだ……!!」

 いくら制限されているとはいえ、──大神がダメージを与えたのと同じに、自分も奥の手を使って戸愚呂にも少しはダメージを与える事くらいは出来るはずだ。

「ジェットハンドカノン!!」

 そして、ブラックコンドルの右手に握られたジェットハンドカノンは、戸愚呂の眉間に向けて引き金を引いた。
 それは、戸愚呂の顔面で大爆発を起こし、彼の視界をシャットアウトした。







 令子のポルシェは、徐々にスピードを落としていた。
 調子が悪くなったわけではなく、アクセルを踏む令子の足に惑いが残っている所為であった。戸愚呂も追って来ないし、今のところそれによる不満足はないので別に良いが。
 令子は、ぶつくさと呟きながら、のんびりドライブでもするような運転をする。

「何なのかしら、あいつら……二人して……」

 結局、追ってくる敵を迎え撃つ選択をした大神と凱の方が不満だった。
 一人で逃げるというのは、いつも不快感を人に及ぼしてくる。
 まるで背中から責められているようだ。それから「後ろ髪を引かれるような思い」というのも、よく言ったものである。
 別に自分が間違っているわけではあにとしても。

「……横島クンなら、絶対一緒に逃げてるわよ。これが一番賢いのよ。私は悪くないわよ。化けて出られたら迷わず成仏させてやるわ……!」

 既に大神と凱が死んだような前提で語っているが、それも仕方がないだろう。
 彼女はまだ、二人の実力を知らないし、こういう時は大抵、物事を悪い方に考えがちになるものでもある。──たとえ、相応に前向きな彼女でも。
 まるで、自分自身の後悔を再確認するかのような言葉しか出てこない。
 言い訳をしているみたいだった。

「それに、仕方が無いじゃない。私の武器、これなんだから……」

 令子は、片手でハンドルを握りながら、胸の間に隠した武器を手に取り見つめた。
 普段の愛用武器が没収されている代わりに、ある物が支給されている。

 試しの剣。
 霊気を吸い取り、形にする剣らしい。令子が普段使っている神通棍よりも遥かに強く、自在な攻撃が出来るのだろうが、その代わりに令子自身の霊力が消費されてしまう。
 令子の持つ高霊力は、商売道具であり、生きる道でもあるのだ。これを代替にして戦わなければならないというのは、令子にとって命を削りながら戦うのと同義だ。

「……」

 気づけば、ブレーキを踏んでいた。
 そこは信号のない交差点である。信号がないのに何故止まってしまったのだろう。
 いや、信号はないが──考えてみると、ここでは、道路の幅が大きくなるので、自動車でのある動作が少々しやすくなるのだ。
 令子はそれをするつもりはない。

 するつもりはないのだが──

「あーもう! わかったわよ! ちょっとだけなら大丈夫! 本当にちょっとだけ様子を見に戻るのよっ!!」

 ──令子は、Uターンをしていた。

75翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 01:59:22 ID:zK2P4TTY0



【D-4 街・東京タワー付近/1日目 深夜】

【美神令子@GS美神 極楽大作戦!!】
[状態]:健康
[装備]:試しの剣@幽☆遊☆白書、930型ポルシェ911カブリオレ@GS美神 極楽大作戦!!
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本行動方針:殺し合いから脱出する。
0:……ちょっとだけ大神と凱の様子を見る為に戻る。
1:金にならない戦いは避ける。ましてや命が危険な状況なら尚更。
[備考]
※参戦時期は、原作30巻終了あたり(横島がルシオラたちと行動を共にしている)。
※大神、凱とは来た時代や世界が違う事を知りました。
※大神の知り合い、凱の知り合いについて知りました。

【試しの剣@幽☆遊☆白書】
美神令子に支給。
見せしめで死んだ鈴木がヒル杉から作った、柄だけの剣。
持った者の気(霊力)を吸い取り生長して霊力の剣に変える事が出来るが、「吸い取る」ので、使いすぎると霊力が眠ってしまう。

【930型ポルシェ911カブリオレ@GS美神 極楽大作戦!!】
大神一郎に支給。
美神の愛車である高級オープンカー。最高速度280km/h。







「……はぁ……はぁ……危ない所だったぜ……まったく」

 ジェットハンドカノンで苦しむ戸愚呂から、無事に逃げ出した凱と大神であった。
 暗い路地裏に入りこみ、そこからジェットウイングで大神を連れたまま空を飛んで、上手く戸愚呂に見つからないようにE-4エリア側まで来る事が出来たらしい。
 大神の背中からは、まだ血が流れ続けている。結構な出血だが、止血しなくてもまだ何とか平気そうでもある。
 傷はあまりに大きく、ハンカチで拭くくらいの事しかできない。
 映画でやっているように、何かを巻いて止血するのは少々無理があった。やはり、付近にあるはずの病院でガーゼなどを調達するしかないだろうか。

「ギリギリ致命傷は回避できたみたいだな……ったく、たとえ男でも、俺の前で死なれちゃ寝覚めが悪いからな!」

 そう言いながらも、大神に肩を貸してやる凱だった。大神の背中の傷をハンカチで拭いてやったのもなんだかんだで彼である。
 別に大神の事を認めたわけではないが、こうしてやるのも「ジェットマン」とやらの義務だろう。

「すまない、ありがとう凱……」
「へっ、さっきから気になってたが、男に感謝されるのは好きじゃねえ。礼を言うのはよしてくれ。……しっかし、あんたのその性格、考えれば考えるほど、誰かさんにそっくりだ」
「もしかして……天堂竜という人の事かい?」
「おっと、そいつは言いっこなしだぜ」

 あまりその名前を出されるのは好きじゃない。特に──自分やその仲間以外が、竜の名前を口に出す事など、彼は好まなかった。
 それが、まだ大神と凱の間にある壁だった。
 そこで、彼は話題を変えた。

「しっかし、令子の奴……一人でさっさと逃げやがって」
「仕方がないさ。無理に戦う必要なんてない。……それに、俺は殺し合う意志のない者全員で生きて帰りたい。その為には、ああいう行動も必要になるさ」
「まあな。まっ、それなら俺も令子と一緒に逃げとくべきだったかもしれねえぜ……」
「はは……」

 素直じゃない凱に思わず笑みをこぼす。
 しかし、自分ひとりならば死んでいたかもしれない事を大神は感づいていた。
 彼は、今から病院に大神を連れて行くつもりだろう。

(竜……お前もこの大神とかいう奴みたいに、自分は平和を守る戦士だって言っていた時があった……なのに、今のお前はどこか違う……絶対見つけ出してやるぜ……)

76翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 02:01:13 ID:zK2P4TTY0

 凱は、この場にいる竜の事を再び思い出した。
 竜は──そう、凱が知っているあの竜は、ラディゲによって昔の恋人を殺され、空元気を見せていた。
 凱がこの殺し合いに招かれたのは、そんな竜を見た後の事だ。
 だからこそ、大神の語った「帝国華撃団」にいる恋人の事も気にしている。彼は、その恋人が死んでしまったら、竜のようになるのだろうか。
 それは何となく不愉快だ。

(──まあ、そいつは俺が死なせねえぜ。女だけは、この俺だって喜んで守ってやる)

 それに──女が死ぬ、なんていうのは結城凱としても御免の話である。
 ヒーローである以前に、生粋の女好きなのがこの凱という男だ。



【E-4 街(D-4付近)/1日目 深夜】

【結城凱@鳥人戦隊ジェットマン】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)
[装備]:クロスチェンジャー@鳥人戦隊ジェットマン
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本行動方針:殺し合いから脱出する。
0:大神を大凶病院まで連れて行く。
1:竜、大神の仲間、令子及び令子の仲間との合流。
2:戸愚呂兄(名前は知らない)をいずれブチのめす。
3:グレイとは、出会えば決着をつける事になる予感がする。
[備考]
※参戦時期は、第49話開始直後、竜が脱退を表明する直前です。
※大神とは来た時代が違う事を理解しましたが、「太正」と「大正」、「蒸気」と「電気」のような根本的な世界観の違いには気づいていません。
※大神の知り合い、美神の知り合いについて知りました。

【大神一郎@サクラ大戦シリーズ】
[状態]:背中に裂傷によるダメージ(大)、霊力消費
[装備]:真魔剛竜剣@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本行動方針:人々を守り、殺し合いから脱出する。
1:帝国華撃団のみんなや、天堂竜、令子及び令子の仲間と合流。
[備考]
※参戦時期は、「サクラ大戦2」の第10話終了後(天武に乗り換え済)。ルートは、さくら、アイリス、紅蘭のいずれかである以外不明。
※体が勝手に風呂場に動く体質は、普段に比べて多少抗いやすいように制限されています。ただし、選択肢は出ます。
※信頼した相手には、本来話してはならない機密(帝国華撃団など)についても話す事にしました。
※凱の知り合い、美神の知り合い、彼らとの世界観の違いについて知りました。


【偽ロマネ・コンティ@金田一少年の事件簿】
結城凱に支給。
「仏蘭西銀貨殺人事件」にて登場した、安物のワインにロマネ・コンティのラベルを貼っただけの偽物。

【真魔剛竜剣@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
大神一郎に支給。
ダイの父・バランが愛用していたオリハルコン製の史上最強の剣。
竜の騎士たちが代々受け継いだ武器であり、これを持つのは竜の騎士である証である。
高い攻撃力と自己修復能力を持ち合わせており、多少の刃こぼれならば自然に治っていく。
それ故か、本ロワでは竜の騎士の血を継ぐダイ以外の参加者が使用した場合、真価を発揮する事はなく、攻撃力は本来の力の半分にも満たない(ただし自己修復能力は健在)。
また、この剣を持つ者の近くにダイがいた場合、彼が呼べば光を放って彼の方に味方するかもしれないが、遠距離から呼び合う事は制限されている。





77翼よ!あれが帝都の灯だ ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 02:01:36 ID:zK2P4TTY0



(回復速度が落ちているのか……? 制限が多いようだな……)

 顔面を思い切り吹き飛ばされた戸愚呂だが、目玉のあたりが修復されて脳と結合を始めると、どうやら視界が戻り始めたようであった。
 脳を首元に移動させていた彼は、身体をバラバラにされても、頭部を吹き飛ばされても再回復が可能であった。──しかし、見れば、頭部と胴体がくっついている以外、まだ完全には身体に馴染み合っていない。
 両腕は特に結合が甘く、普段よりも回復スピードが遅くなっているのを感じさせた。

(……訳も分からずに蔵馬と戦い続けていたオレを救ってくれたのはありがたいが、こいつは厄介だ)

 やはり、首輪──だろうか。
 これがまた厄介な代物で、戸愚呂が身体を変形させても外れない。
 いざとなれば、爆発させてしまうのが早いが、それも再生スピードがこうして遅れている以上、その賭けは危険でもある。

(まあいい。ゲームには乗ってやろう。元の身体に加えて能力までしっかり残されている以上、ノストラダムスには感謝しなきゃな。誰だか知らんがね。──あんたの流儀に則って、この首輪も外さずに取っておく)

 そして──。

(それに──これは、出来の悪い弟や蔵馬に復讐するチャンスでもあるしな……! ひゃはははははははは!!)

 名簿上にあった名前を、戸愚呂は思い出した。
 戸愚呂兄弟が揃って参加しており──弟の方もいたのである。
 それに、俺を蔵馬──南野秀一も。
 桑原がいないのは残念だが、自分にとって屈辱的な最期を彩った二人には死んでもらわなければならない。
 そう──何よりも残酷なオブジェとして。
 ついでに幻海や裏飯までいると来た。

(こいつは、もしかすると、このオレの為の殺し合いなのかもな……!)



【D-4 街/1日目 深夜】

【戸愚呂(兄)@幽☆遊☆白書】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、欠損した手足を再び繋いで身体修復中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本行動方針:皆殺し。
1:とにかく全員殺す。
2:何より優先的に殺すべしは蔵馬、弟、幻海、裏飯。
3:美神、凱、大神は逃げたので殺す。特に美神は犯して殺してやろうか。
[備考]
※参戦時期は、蔵馬の邪念樹で蔵馬の幻影と戦い続けている頃から。身体は完全修復されており、暗黒武術会編同様の姿で、あの時代と同じ戦法が可能。
※それと同時に、「美食家(グルメ)」と「盗聴(タッピング)」の能力を吸収して保持していますが、二つの能力には次のような制限がかかっています。
※「美食家(グルメ)」は、死体しか食えない。つまり、殺害後、もしくは、遭遇した死体の人物を食う事でしか能力を奪えない。
※「盗聴(タッピング)」は、複数の人間の思考を同時に読む事は不可能。また、その時点で考えている事しか読めない為、相手が持つ情報を得るのも少し難しい。
※再生能力も限度あり。通常より再生スピードは遅め。再生限界を超えると死亡する。首輪は離れず、首輪が爆発すると即死。また、仙水に送ったような信号も遅れない。







【共通備考】
※D-4 プレミアマカロニには偽ロマネコンティ@金田一少年の事件簿が放置されています。

78 ◆V1QffSgaNc:2015/10/25(日) 02:04:06 ID:zK2P4TTY0
投下終了です。
戸愚呂兄は仙水編の参戦ですが、コイツは仙水編出典でも多分、実力が幽助、蔵馬、幻海、弟を大きく上回ってしまう事もなさそうなのでそちらから参戦という形にしました。

79 ◆vBmg.f7Zg.:2015/10/25(日) 04:43:43 ID:j366JKTE0
投下乙です。

凱と令子、なんとも絶妙な時期からの参戦ですね。
大神に竜を重ねてしまう凱を見るとはやく竜に出てきて欲しくなりますね。
戸愚呂兄はにじみ出る下衆さが最悪でいいですね。

では、自分も投下します。

80美少女と魔獣 ◆vBmg.f7Zg.:2015/10/25(日) 04:45:17 ID:j366JKTE0
千家貴司は殺人犯だ。
怪物「ケルベロス」に扮し、廃研究所にて3 人もの命を奪った。
彼が成人であれば、死刑になっていた程の重罪を犯した歴とした犯罪者である。
しかし彼は元来、決して殺人など行うような人間ではない。
彼を良く知る人物は、殺人犯などということを到底信じることなどできないだろう。
なぜ普通の学生であった千家貴司が大犯罪者となってしまったのだろうか?

千家貴司には最愛の彼女がいた――名前は水沢利緒。
春先に出会った、犬のトレーナー見習いをしていた明るく健気な彼女。
後に重い病気で余命があと半年だと知ったが、そんなことは関係無い、半年で一生分愛すると千家は誓った。
何もなければ、彼女と共に幸せな時間を過ごすはずであった半年間。
しかし、それらの幸せな日々は、 4 人の大学生達の手で奪われてしまった。
水沢利緖は、彼らの新薬実験のモルモットされ――殺された。
あろうことかその大学生らは悪びれもせず「ちょっと死ぬのが早まっただけだ」と笑った。
その言葉が普通の学生として生きていた彼を、復讐鬼へと変貌させてしまった。

千家貴司は殺人犯だ。
しかし、復讐を終え、親友の金田一によって全ての犯行を暴かれた今、彼は利緖の本当の気持ちに気づき元の優しい青年に戻っていた。
金田一と共にふざけ合い、勉学に励んでいたあの頃の千家貴司に―――

◆   ◆   ◆

(ここは……?)

目を覚ました時、千家は空港のロビーでベンチに座っている状態だった。
人工的な白い光がうるさいほどに辺りを照らしているが、窓の外が真っ暗な誰もいない空港というのは普段やかましい分、余計に孤独を感じさせる。
目線を上げると、電光掲示板が次のフライトの時刻を示している。
もっとも、この空港に外部からの飛行機など通っているはずもなく、それは無意味な文字の羅列を写しているだけなのだが……


そんな寥寥とした光景を無気力に眺めていると、千家の寝惚けていた脳が段々と覚醒を始めた。
多少の空調設備が聞いているとはいえ、深夜の広大なロビーに1人というのは薄ら寒さを感じる。
だが、それが逆に頭をしゃきりとさせ、眠りに落ちる前の出来事を少しずつ蘇らせる。
千家の脳内で、記憶が順に巡ってくる。
金田一の推理によって自分が「ケルベロス」であることが発覚しまったことや、金田一の説得で自分は利緒の本当の願いに気がついたこと。
もう憎しみは湧いてこなかった。後は警察の到着を待ち、素直に逮捕されるのを待つのみだった。
しかし――次の瞬間に意識が飛び、いきなり《アレ》が起こったのだ。

自分の記憶だというのに前後の脈絡が全く無く、千家は本を1ページ飛ばしてしまったかのようだと思った。
あの場所で意識が飛ぶ寸前に、金田一の姿を見たことも引っかかる。
 千家の中で突然、「怖い」という感情が膨らみ始めた。
混乱する頭を整理するためにベンチに長く座っていたが、よく考えればここではあまりに無防備過ぎる。
『殺し合い』などというのが本当であれば、こんなだだっ広いところで長々と座っていては「さぁ殺してくれ」と言っているようなものだ。
荷物の中身も気になるが、千家はとにかくここから離れたかった。

81美少女と魔獣 ◆vBmg.f7Zg.:2015/10/25(日) 04:47:17 ID:j366JKTE0

狭い個室でも探そうと思い立つと、千家はベンチを立つ。
その際、いつもの癖か忘れ物がないかつい周囲やポケットを確認してしまう。
――すると、ズボンのポケットに微かに異物感があることに気づいた。
ポケットの中を弄ると、そこにあるのは細く節くれだった形の冷たい金属。
それは、千家にとって非常に慣れ親しんだ感触だ。
それは、あの時落としてしまったはずの―――犬笛だった。

(利緖……)

それがノストラダムスによるものなのか偶然なのか、真意は定かではない。
だが、利緖の形見の犬笛は恐怖や混乱で焦った千家の心を落ち着けるには十分だった。
千家はあの時感じた利緖の気持ちを思い出し、しばし殺し合いの場だということを忘れて吹き慣れた号令を吹いた。
―――すると、大きな鳴き声とともに、どこからかタッツタッツと犬の駆け寄って来る音が聞こえた。
音のする方を振り返ってみると、物凄い速さで一匹の犬が千家の方に向かって来ていた。

「うおっ!」

 犬はスピードを落とすこと無く千家に飛びつき、じゃれているつもりなのか千家の顔をベロベロと舐め回す。
突然のことでつい犬笛落としてしまい、千家は止めるすべを失ってしまった。

「ぅわぷっ! ちょ……やめろっ! やめっ」

千家はなんとか引き剥がそうとするものの、力任せに押しのけるわけにもいかず、犬もじゃれついてくるのをやめる気配はない。
千家は犬を調教していた時の事を想起しつつ、諦めて犬が満足するまで撫でながら好き放題させることにした。

「大丈夫ですか?」

女の子の声がしたと思うと犬はようやく千家から離れ、声の方へ向かって歩いて行く。

「申し訳ありません、この犬さんが勝手に走って行ってしまいまして……」

 そこにいたのはまだ小学生位のふんわりとした雰囲気の少女だった。
 さっきの犬は、まるで騎士でも気取っているかのように少女の足元に誇らしげに付き従っている。

「いや、大丈夫大丈夫。 むしろなんだか懐かしくて安心したくらいだし」
「それならよかったのですが……ああ、顔がびしょびしょですわ。
これ、お使いになってください」

そういって少女はハンカチを差し出した。
殺し合いの場だというのに全く緊張感が感じられないが、すでに少女は千家が悪人ではないと判断したのだろう。

「ああ、わるいね、えっと……」
「申し遅れましたわ、わたしは大道寺知世と申します。
この子は、デイバッグの中に居たのですが、名前は書いてありませんでしたわ」
「俺は千家貴司、不動高校の 2 年だ。 よろしくね、知世ちゃん」
「はい、千家さんですね。 こちらこそよろしくお願いいたします」

二人は自己紹介を済ませると、そのまま軽く今までの状況を確認した。
――と言っても、千家は目覚めたばかりであるし、知世も軽く支給品を確認しただけだという。
二人は、千家の提案でとりあえず安全が確保できる場所に移動してから、詳しい情報交換を行うことにした。

82美少女と魔獣 ◆vBmg.f7Zg.:2015/10/25(日) 04:48:42 ID:j366JKTE0

◆   ◆   ◆

 
「……から、そいつはジャーマン・シェパード・ドッグだと思うよ。
たしか日本では警察犬としてよく知られてる犬種じゃないか?」
「あっ、警察犬だということは支給品の詳細にかかれていましたわ。
それにしても、千家さんは犬のことについてとてもお詳しいのですね」
「はは……まぁ、な。 っと、ここなら大丈夫そうか?」

ちょっとした雑談で少し仲良くなった二人は、警備員用の管理室を一先ずの休憩場所にすることにした。
管理室なら外からも見えず、監視カメラで見張ることもできるので一石二鳥だ。
二人とも適当な椅子に腰掛けると、机の上にデイバッグを置いて情報交換を始めた。
手始めに、知世はデイバッグから参加者名簿を出して知り合いの有無を千家に確認する。

「これには、どうやら知り合い同士が固まって書かれているようなんです。
わたしは先ほど確認したのですが、わたしのお友達が 3 人も参加させられているんですわ」

そう言って、知世は『木之本桜』から『李苺鈴』までを指差す。

「さくらちゃんも李くんも苺鈴ちゃんもみんなお強いのですが、まだみんな小学生ですし、特にさくらちゃんはぽややんですから、変な人に出会わないか心配で……
千家さんのご友人などは大丈夫でしょうか?」

知世は友達を案じ、心配そうにしている。
千家も最初の時点でわかってはいたが、名簿で改めて金田一の名前を確認した。

「俺の友達……でいいのかな? まぁ知ってる奴は金田一くらいだよ。
小田切ってのは教師にそんな奴がいたけど、下の名前覚えてねえし。
間に知らない名前入ってるし関係ないと思うぜ」

「金田一さんっていうと、あの船で最後に質問をなさっていたあの方ですか?」
「そうそう、そいつだよ! あいつ、俺の幼馴染でさ。
金田一耕助っていう有名な探偵だかの孫で、凄い難事件とかをどんどん解決する凄い奴なんだよ。
殺し合いなんてのが本当かわかんねぇけど、あいつなら解決してくれるかもな……」

 俺の時みたいにな……、と千家は小さくつぶやいたが知世には聞こえていたのか聞こえていなかったのか。
同時に、千家は心の中で確信していた、金田一がすでにこの事件を止めるために動いていることを。

「あいつには迷惑っつーか、嫌な思いをさせちまったままだからな。
何かできる事があるならしてやりたいよ」

千家は、金田一には最後の殺害を止め、利緖の気持ちを気づかせてくれた恩があった。
今度は自分が金田一を助ける番だと決意を固める。
知世も言わずもがな、さくら達を探すことを選ぶだろう。

 次に知世が取り出したのは地図だ。 千家も初めて地図を見るが、変な地図だと思った。
東京タワーやコロッセオなどよく知る名所や、公共の施設などが乱雑に詰め込まれている。
 千家はどうやらここはダレス国際空港であるらしいと推測した。
 一方、知世は疑問に思っていた事を千家に問うために、地図を指差しながら説明を始める。

「わたし、先ほど地図を確認した際、とても不思議に思ったのですが……
“マトリフの隠れ家”や“蒲生の屋敷”などといった、所有者の名前が付いている建物が結構ありますでしょう?
他にも……これを見てください」

83美少女と魔獣 ◆vBmg.f7Zg.:2015/10/25(日) 04:49:27 ID:j366JKTE0

知世は除けてあった参加者名簿を引っ張り、ある名前を指差した。
そこには“美神令子”という参加者の名前が書いてある。
それから、また地図に戻って千家に問いかける。

「ここに“美神令子除霊事務所”と書かれた施設がありますでしょう?
 ついでに言いますと、ここの“大道寺邸”はおそらくわたしの家だと思いますわ。
 参加者の中で地図の中に名前があるのはわたしとこの美神さんの二人だけですが、他の場所も固有名詞のついた物が多くありますし、殆どの建物は誰かにちなんだ場所なのではないでしょうか?
千家さんは、なにか気になる建物はごさいますか?」

「そう言われても、東京タワーとかコロッセオとか誰でも知ってる所くらいしか……」

 なんど見返しても、千家に縁があると言える場所などなかった。

「それにしても、こんな島に空港とか東京タワーとか普通作るか?
ノストラダムスって奴はどんだけ金持ちなんだよ」
「……そのことなんですが、わたしは人の手によるものではないと思ってるんです」
「……? 人の手によるものじゃないって……
まさか自然にできたわけでもないだろ?」
「とても突拍子もない話だと思われるかもしれませんが、魔法で作られたのではないでしょうか?」

 知世の口から出てきた言葉は、宣言通り千家にとって突拍子もないものだった。
 千家の中では知世の印象が、『聡明な少女』から『変わった子』少し変わりつつある。

「魔法、ね。
確かにこんな状況だと魔法を疑いたくもなるけど……」
「そういう可能性もあるということですわ。
第一、ピンク色で喋る大きなワニさんなんて魔法でしかありえませんでしょう?」
「あれは確かにグロテスクでリアルだったけど……
ピエロとキグルミなんていかにも“ショー”って感じじゃないか」
「それでも、ワニさんが倒れた後のあの男の子達の悲痛な叫びが演技だとはとても思えませんわ……」

このバトルロイヤルのことは、いくら聡明な二人でもわからない事だらけだ。
二人は他の意見を求めるためにも、人を見つけるにはどこへ行くべきか考える。
千家には特に行きたい場所もなく、空港で人を待つのもいいと思ったが知世は大道寺邸に行きたいと提案した。
自分の家ということもあるが、さくらや小狼達なら友枝遊園地よりもこっちを目指してくれるという確信に近いものを知世は感じていた。
すぐにでも行きたいところだが、空港の周囲には殺風景が広がっており、滑走路の誘導灯しか明かりのない状態で移動するのは危険だ。
第一、この島が地球のどこに位置するのかもわからないため、ここから目視で満潮、干潮の判断をするしか無いのだ。
二人の方針はこの管理室で夜明けを待ち、外の安全等を確認してから灯台へ向かい、ロープウェイで対岸に渡るというもので決まった。
場合によっては灯台で待機することも想定に入れておく。

84美少女と魔獣 ◆vBmg.f7Zg.:2015/10/25(日) 04:50:51 ID:j366JKTE0

千家は朝まで時間も多分にあるので、自分の支給品を確かめることにした。
知世はどうやら全て確認済みのようで、犬以外は武器に見えるものは無いらしい。
物騒な物は困るが、犬笛があるとはいえ犬に攻撃させるわけにもいかず、千家にとっては手頃な武器が欲しいところだった。

――が、結果は千家にとってあまり良いものだとは思えなかった。
入っていたのは 5kg のダンベル 2 つ、金色の鱗状のヘアバンド、そしてビデオカメラの 3 つだった。
千家は鈍器として使えるダンベルぐらいしか収穫はなく、手放しに喜べる程ではない。
――しかし、それは千家にとっての話である。
千家が最後にデイバッグからビデオカメラを出した瞬間、知世は突然目の色を変えた。

「千家さん、そのカメラ見せてもらっても構いませんか?」
「あ、ああ……いいけど」

 今までの大人しい少女からは一変して、少し興奮気味にビデオカメラをいじり出した知世に、千家は驚いた。
 千家は内心、(やっぱり変な子だ……)と思ったのは内緒だ。

「これはキャノンのビデオアイUC1Hiですわ!
 ロゴの部分がCamonになっているのは少し気になりますが……この形は間違いありませんし、贋造品というわけでもなさそうですが……
 このカメラは、1991年の少し古い型ではありますが、まだ現役で十分使える性能のものですわ。
 わたし、ここに連れてこられる前は確かに自分のカメラを持っていたのですが、先ほどお渡しししたハンカチ以外は没収されてしまっていまして……
 カメラなど求めている場合では無いと思い自重していたのですが、こんな形で出会えるとは思っていませんでしたわ!
 わたしは編集なども行いますので常に最新型を揃えていますが、いつも使用しているCCD-TRV91そこまで性能差はありません。
もちろんわたしは大画面でさくらちゃんの勇姿を見るために画素数の多いものを選びますが、6 万画素程の違いなら小さい画面ならあまり変わりませんし……
悩みの種はバッテリーですわね、せっかく最近山ほど持ち歩かなくて良くなったのに、このカメラに入っている物では精々150分ほどで切れてしまいますかr」

「ちょ、ちょっと待った! 一旦落ち着け!」
「すいません、つい嬉しくて……」

知世自身は気づいていなかったが、実はこの状況に知世もかなり緊張を覚えていた。
 本当にビデオカメラを求めていたことも手伝って、自分の趣味や知識を確かめることで精神を安定させることができたのだ。
 そんな知世の事情を知らない千家は、少しひきつつもなんとなく抱いた疑問を問いかけ、知世を落ち着かせようと試みる。
 知世の好きそうな話題なら、知世も答えてくれるだろう。

「そーいえばさっき、そのカメラが古いって言ってたけど、カメラ業界っていうのはそんなに成長早いのか?
あと、キャモンって言えば俺でも知ってるカメラ会社だぜ? 
キャノンの方が聞いたことないけどなあ」

千家にとって今は西暦 1992 年であり、キャノンというパチモン臭い名前のカメラメーカーなど聞いたこともなかった。

85美少女と魔獣 ◆vBmg.f7Zg.:2015/10/25(日) 04:56:59 ID:j366JKTE0

「そうなのですか? わたしはキャノンというメーカーは知っていてもキャモンというのは知りませんでしたわ。
それと、古い型というのは、なにぶん7年も前のカメラですので……」
「7年前? さっきから言ってることがおかしくないか!?
今は1992年の秋だぞ!?」

 もはや千家の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになっていた。
 千家は完全に知世のことを変な奴だと認識し始めている。
 その様子を見て、知世は疑念が確信に変わったようで、千家に質問する。

「……千家さん、大道寺トイズコーポレーションという会社をご存知でしょうか?」
「……聞いたこともないよ」
「名前からお察しの通りかと思いますが、この会社をは母が経営しているもので、それなりに大手のおもちゃ会社です。
テレビでCMも流れていますから、余程のことがなければ目に入っているはずですわ」

少しづつ平静を取り戻してきた千家に、知世は冷静に語り続ける。

「今操作していて見つけたのですが、このビデオカメラの中にはいろんな映像が入っていました。
わたしの知らない映像もたくさんありましたが、よく知っている映像も入っていました。
それは、つい先週初放映された大道寺トイズコーポレーションの新CM、つまり1998年夏のCMですわ」
「それで……知世ちゃんはなにが言いたいんだ?」

 混乱しているとはいえ頭のいい千家は、知世の言いたいことに大体の検討は付いている。
 しかし、その検討に納得できるかといえば話は別だ。
 利緖のことや、自分の罪、他にも沢山のことが知世の言葉を待つ数秒の間、まるで走馬灯のように脳内を駆け巡った。

「つまり……わたしにとって、千家さんは……
いえ、千家さんにとって、わたしは――――パラレルワールドの人間かもしれない、ということですわ」





【G-7 ダレス国際空港/管理室・1日目 深夜】

【千家貴司@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康、軽い混乱
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、犬笛@金田一少年の事件簿、ダンベル×2@現実、小竜姫のヘアバンド@GS美神 極楽大作戦!!
[思考]
基本行動方針:金田一を探し、手助けをする。
     1:……パラレルワールド?
     2:夜明けを待ち、知世とともに大道寺邸を目指す。
     3:他者の意見、情報を集める。
[備考]
※参戦時期は「魔犬の森の殺人」解決〜逮捕までの間。きのこ狩りなので勝手に秋と仮定。
※犬笛では一般的なトレーナーの『集合』『行け』『伏せ』『待て』の他に犬側の訓練次第で『噛め』の指示を出せます。
※知世の友達について知りました。魔法等のことは知らされていません。
※今回は説明を知世の支給品で行ったため確認していませんが、千家の名簿は五十音順になっています。

【大道寺知世@カードキャプターさくら】
[状態]:健康 、犬連れ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、 ランダム支給品0〜2(確認済み)、警察犬@古畑任三郎、佐木竜太のビデオカメラ@金田一少年の事件簿
[思考]
基本行動方針:さくらちゃん達とともにここから脱出する。
     1:千家さん……。
     2:夜明けを待ち、千家とともに大道寺邸を目指す。
     3:他者の意見、情報を集める。
     4:このビデオカメラでさくらちゃんの勇姿を撮りたい。
[備考]
※参戦時期は劇場版カードキャプターさくら 封印されたカード終了後。
※金田一一について知りました。
※知世の参加者名簿はタイトル(世界)順です。

【支給品説明】

【小竜姫のヘアバンド@GS美神 極楽大作戦!!】
支給品に付属の詳細には小竜姫の写真と(この子の私物です。)という書き込みのみが書かれている。
※小竜姫の頭についているヘアバンドで、強力な竜神の力を秘めている。竜神族の力が使えるようになるが体はボロボロになる。
 今ロワでは、制限によって身体能力の上昇と無酸素状態での活動程度になっている。その分負担は少ない。死ぬ気なら超加速もできるかも…?

【警察犬@古畑任三郎】
古畑任三郎によって一時期訓練されていた。犬笛の号令を理解できる。1994年生まれの5歳。

【佐木竜太のビデオカメラ@金田一少年の事件簿】
1991年11月にキャモンより発売されたビデオカメラ。
※知世の補足:ビデオアイシリーズのUC1Hi(8mm)。バッテリーの録画可能時間は150分で、画素数は41万画素。フィルム・バッテリー合わせても1kgも無い手軽なビデオカメラなので、女性や子供でもどこにでも持っていけます。

86 ◆vBmg.f7Zg.:2015/10/25(日) 04:57:49 ID:j366JKTE0
投下終了です。

87名無しさん:2015/10/25(日) 10:25:18 ID:zK2P4TTY0
投下乙です。
このロワでは貴重な一般人の小学生&高校生のコンビですね。
犬に狂犬病のフリを仕込める千家が警察犬を仲間にすればもはや鬼に金棒。
そして、小竜姫アイテムも一般人と超人との壁を少しでも縮めてくれれば…。

88 ◆emwJRUHCH2:2015/10/25(日) 23:31:33 ID:zB2rB7rk0
お二方とも投下乙です!

>翼よ!あれが帝都の灯だ
おお凱と令子が大人の男女だ……と思ったら全然違ったw
案の定マーダー化した戸愚呂兄は相変わらず厄介な能力をしてるなぁ
決める所は決める大神の必殺技がかっこよかったです

>美少女と魔獣
千家は色々背負ってて難しい立場だな
知世が考察するとは意外でした
小竜姫のヘアバンドも支給されてバトルもいけるか?

自分も投下します

89大魔王降臨 ◆emwJRUHCH2:2015/10/25(日) 23:34:22 ID:zB2rB7rk0
深い夜の闇に浸された岩場は、全てが影で染められていた。
切り立った岩の茶色も、所々に生える草の緑も不明の黒に冒される。
そしてそこに佇む一人の少年も
年若いまだ小学生くらいの少年の名は李小狼。
小狼は、かの伝説の魔術師クロウ・リードの遠戚に当たる李家の末裔である。
そのクロウ・リードが残した魔法カード『クロウカード』を回収するために、香港から日本にやって来ていた。

小狼は殺し合いが始まってすぐに、自分の荷物を確認していた。
デイパックに入っていた照明を灯し、支給品を一つ一つ検める
食料や地図などから支給武器、そして名簿。

「……さくら!!」

名簿に載っていた想い人の名を呼ぶ。
日本で出会った少女、木之本桜。
『クロウカード』を全て自らのカードである『さくらカード』に変えた継承した者。
そしてつい先刻、小狼がその想いを伝えた相手。
そのさくらが、殺し合いに参加している。

小狼は急いで照明を消して荷物を纏め始める。
さくらが殺し合いに参加している以上、一刻も早く合流して守らなければならない。
小狼は武器とデイパックを携えて、出発を急ぐ。

「待て」

先を急ぐ小狼に声が掛けられたのは、出発してすぐのことだった。
沈着でありながら有無を言わせぬ力にある言葉。
重々しく冷たい、まるで声自体に逆らえない重力があるかのようだった。
あれほど急いていた足を止めた小狼は徐に声がしてきた後方へ振り向いて、天を仰ぐ。
声は確かに上空から聞こえてきたのだ。
そして声の主は確かにそこに居る。

顔に深い皺を湛えた老人だった。
角のある厳めしい冠や全身を覆うマントと言った仰々しい衣装が、老人にはまるで違和感が無い。
それは荘厳でありながら浮世離れした、まるでファンタジーの世界の王族を思わせる姿。
しかし何より強烈なのは、老いた男自身が放つ威。
威圧感を。重圧を。何より底知れぬ威厳を放っていた。

老人はまるでそれが当然のありようであるがごとく宙空に佇み、小狼を見下ろす。
しかし小狼を圧倒しているのは、宙に浮かんでいる事実ではない。
それは老人の存在そのもの。
その底知れぬ威厳だけに尽きない。
自身も年に見合わぬ腕の魔術師である小狼は見抜いていた。
目の前に居る男の尋常ならざる魔力と、
――――そして人にあらざる凶々しい気を。

小狼を見下ろしながら、徐に地へと降り立つ老人。
その場を動けない小狼は、無意識に武術の構えを取る。
それは警戒以上に、ただ対峙するだけで受ける老人からの重圧に耐えていた。
対する老人は泰然とした表情で、相変わらず小狼を見下ろしている。

90大魔王降臨 ◆emwJRUHCH2:2015/10/25(日) 23:35:44 ID:zB2rB7rk0
やがて薄い笑みを浮かべ口を開いた。

「ふふふ……そう構えずとも良い。もっとも、余を前にして強張るなというのも無理な話か。
だがそなたにその気が無いならば、余にも事を構えるつもりは無い。」

老人は重々しい声で、しかし何ら気負う様子も無く小狼に話し掛ける。
その様子からは小狼はおろか、殺し合いの状況にすら余裕を持っているかに見えた。
ただ話し掛けられただけで押し潰されそうな老人の威圧。
しかしそれは、生来反骨心の強い小狼の反意を招く結果となった。

「……じゃあ何の用だ?」
「余は話し合いを求めているだけだ。何しろこの状況だ、情報を集めたくてな。
そなたも情報は欲しいのではないか?」

老人の呼び掛けにも小狼は警戒を解かない。
小狼は生来、李家の魔術師として教育を受けてきた。
様々な魔法や外法の知識や、それに対応する術を。
それゆえ小狼は老人の邪な気に強く反応してしまう。
それに何よりこの場は殺し合いであり――さくらも参加していた。

「お前の言うことは信用できない」
「ほう……理由を聞こうか」
「お前は人間じゃないだろ。……そして、人間に害する存在だ」

小狼の指摘にも老人に動揺する様子は無い。
ただ興をそそられたとでも言うように、目を細める。
それでも冷たさと鋭さの増した老人の視線に、小狼は背筋を寒くするのを禁じ得なかった。

「ふむ……確かに余は人間と敵対する立場にある魔族だ。だが余自身が直接人間を害したことはほとんど無い。
何しろほとんど人間と接触したことが無くてな」

老人はあくまで小狼に話し合いを求める。
しかし老人の話を聞いた小狼は、怒りを表す。

「流暢な日本語を話しておいて、何が人間と接したことが無いだ!」

小狼にしてみれば、老人の話は到底信じることはできない。
人間と接触したことが無いならば、その言葉を覚える必要が無いはずだからだ。
老人は小狼の反応にも慌てることは無く、むしろ思考を深めている様子だ。

「日本語? …………それは日本という世界……違うな。世界全体の統一言語ならば、それ自体を指す固有名詞を必要としない。
日本という国の言葉か」

老人は小狼に話し掛けるでもなく、一人ごちる。
小狼にはまるで意味が分からない。

「余の言語がその日本語に聞こえると? その日本語とは、名簿や地図に使われた言語ではないか?」
「さっきから、何を訳の分からないことを言っているんだ!」
「その態度から察するに、余の問いへの答えは”YES”か……。なるほど……少しは話が見えてきたな」

やはり老人の言うことを小狼は呑み込めない。
しかし一方的に情報を得られていることは理解できた。
そのために益々老人への反意を強める。

「……お前はやっぱり信用できない、危険な奴だ」

いよいよ老人への敵意を露にする小狼。
小狼にとって老人はただの危険因子ではない。
この場を殺し合いであり、さくらも参加している。
さくらを守るためにも、老人を放置しては置けない。
老人を倒す決意をする小狼。

「……ふむ、どうやら余の”魔”に近い暗黒闘気を察知して、それに強く反応しているようだな」

小狼の敵意を承知したであろう老人は、あくまで余裕を崩さない。
だが威圧感が。重圧が。凶々しい気が増していく。

「……余は大魔王バーン。最後に名を聞いておこう」

大魔王バーン。
やはり老人は有象無象のごとき、そこらの魔物ではなかった。
大魔王の尊称に相応しいバーンの威風に負けじと小狼も返す。

「李小狼だ」
「…………良かろう。小狼よ、これ以上の情報はお前との戦いで得るとしよう……首輪と共にな」

首輪を得る。そう宣言するバーン。
即ち首を狩るという宣言に等しい。
大魔王の宣戦布告を受け、小狼が仕掛けた。

バーンに飛び掛る。と同時に蹴りを放つ小狼。
小狼は魔法と同時に武術の修行も修めている。
その腕前もまた、年齢に見合わぬ域に達していた。
蹴りは精確にバーンの顎へ目掛け打ち放たれた。

「……!」
「余を恐れず攻める胆力は大したものよ。だが勝算の無い相手に挑むのは勇気とは言えぬ。無謀でしか無いな」

しかし蹴りはバーンに届いていない。

91大魔王降臨 ◆emwJRUHCH2:2015/10/25(日) 23:37:56 ID:zB2rB7rk0
蹴りが届く前にバーンの指に阻まれていた。
小狼の渾身の蹴りがバーンの指に止められていたのだ。
小狼はそこから自分の身体ごと捻り、追撃の蹴りを放つ。
しかしその蹴りも届かない。
バーンの手から光が放たれた。
光そのものが圧力を持って、小狼を身体ごと後方へ吹き飛ばす。
空中を何メートルも飛び、岩肌を転がった。
小狼の全身を痛みが襲う。
岩肌を転がった痛みもあるが、何よりバーンの光から受けた衝撃が大きい。
それでも小狼は闘志を振るい立ち上がる。

「余の暗黒闘気を受けて無事とはな。力を抑えすぎたか……いや、どうやら力を制限されているな」

小狼へ向け無造作に手をかざすバーン。
またも暗黒闘気が放たれる。

(早い!!)

先刻以上の速度を持つ暗黒闘気。
左右への回避は不可能と判断した小狼は、咄嗟に膝の力を抜いて前に転がる。
暗黒闘気は身を屈めた小狼の上を通り抜けた。
通過した暗黒闘気は、小狼の後方に在った岩に着弾。
岩を原型すら留めぬほどに、粉々に破砕された。

「ふふっ、今度は力を入れ過ぎたようだ」

岩の惨状を見て、小狼は思わず震える。
暗黒闘気を喰らっていれば、原型を留めていないのは小狼の方だ。

バーンの戦力は尋常ではない。
おそらく小狼の武術は通用しない。
後勢に回れば暗黒闘気の餌食となる。
小狼に残された戦術は、魔法による遠距離戦だった。

小狼は自分に支給された武器である、護符をかざす。
支給されたと言っても、護符は元々小狼の持ち物。
小狼はいつもそれで以って、魔法を使ってきた。

「雷帝……招来!!」

護符から雷鳴と共に閃光が奔る。
それは小狼の魔法によって形成された電撃。
常ならば剣と併用して行う魔法だが、護符だけでも使用は可能。
電撃ならば、多少威力が落ちてもバーンの動きを封じることができる計算だった。
電撃は真っ直ぐバーンへと襲い掛かる。
光の壁に遮られるまでは。

(いつの間にあんな壁が!!)
「知らぬらしいな……これがマホカンタだ……!」

光の壁に当たった電撃は、今度は真っ直ぐ小狼へと返っていく。
しかし今度は回避も防御も手段が無い。
電撃は小狼に被弾。
小狼の全身に電撃が奔り回り、声にならない悲鳴を上げる。

「今のはデインではない……」

失いそうな意識を必死に繋ぐ小狼。
バーンの言うマホカンタは、どうやら反射魔法らしい。
呪文を唱える間も無かったはずなのに、そんな物をいつどうやって使用したのかは分からないが、
現にマホカンタがある以上、真正面から魔法を使えない。
打つ手を見失った小狼は、それでも手持ちの戦力から打開策を練る。
バーンを相手にしての打開策は――見付かる。

92大魔王降臨 ◆emwJRUHCH2:2015/10/25(日) 23:39:50 ID:zB2rB7rk0
今度こそ賭けだと自嘲して、小狼は護符を振るう。

「風華招来!」

護符から発生する突風。
小狼が使用したのは風の魔法。
それをバーンではなく、自分の足元に向けて放った。
地面に当たる突風に押されて、小狼の身体が空に舞う。
空高く、バーンの頭上へと。
バーンの頭上に位置取った小狼は、デイパックに手を入れた。

小狼が荷物を確認した際に知ったことだが、デイパックには幾つかの不可思議な性質があった。
一つはデイパックの内部には、不可能な質量が収められること。
小狼のデイパックには、明らかに入り切らないはずのそれが入っていた。
一つはデイパックの中の物は、重量を無視して出し入れできること。
どういった原理でかは定かではないが、小狼の腕力では動かせないはずのそれを、
小狼は軽々とデイパックから取り出した。

デイパックの中から空中に、巨大なタンクローリーが現出する。

小狼もデイパックも巨大な質量を引き出した反動を受けて、
デイパックは小狼の手から離れ、小狼もバーンの頭上を離れた。
頭上に残ったタンクローリーは重力に引かれ、バーンへ向けて落ちて行く。
巨大な質量がバーンに襲い掛かる。
バーンは少しも慌てる様子は無くタンクローリーに暗黒闘気を発射。
暗黒闘気の直撃を受けたタンクローリーは岩の時と同様に破砕する。
細かい金属片や機械部品、そして内蔵されていたガソリンが、
雨霰のごとくにバーンと、その周辺へと降り注いだ。

「火神……招来!!」

小狼が落下しながら魔法を使用。
護符から火の玉が発生して、地面に散乱したガソリンへ撃ち出される。
ガソリンに着弾。引火。
火は瞬時に周囲一面に燃え広がる。
バーンを巻き込んで。
バーンはその全身を、紅蓮の炎に包まれた。

小狼の目論見は成功した。
ガソリンを伝わっての引火ならば、マホカンタに反射されることは無い。
周囲を火で囲まれれば、バーンと言えど回避も防御も不可能だろう。
そして全身を火で焼かれれば、絶命は免れまい。

消耗もダメージも大きいが、ともかく小狼は賭けに勝った。
バーンは何をするでなく、全身を炎にまかれている。
その目は、あらぬ方向を見つめていた。

(…………あいつ、何を見てるんだ?)

よく観察すれば、バーンの様子がおかしい。

93大魔王降臨 ◆emwJRUHCH2:2015/10/25(日) 23:41:56 ID:zB2rB7rk0
バーンはあらぬ方向ではなく、確かな一点を見つめている。
それは岩に引っ掛かった機械部品だった。

「…………ふむ、この火を発する油を燃料にして走る車のようだな。
地上の人間の文明で作られた機械とは思えぬが……おそらくお前の世界では珍しくない物であろう、小狼よ」

バーンの視線が機械部品から小狼に移る。
全身を火に焼かれながら、平然と。

「お前の使った雷と風と火の魔法……デインでもバギでもメラでもない。
どれも系統そのものが余の知らぬ体系の魔法、お前の世界の魔法か」
「な、なんで平気なんだ?」
「ただの火で魔族を殺せるなどと、思い違いも甚だしい……まして大魔王をな!」

突如バーンの全身から周囲へと衝撃が走る。
その一撃で、バーンを焼く火も周囲の火も全て消し飛んだ。
魔術師である小狼には、その衝撃の正体が分かった。
それは純粋な魔法力。
魔法力を全身から開放しただけで、火が消し飛んだのだ。
しかしそんな真似は、並大抵の魔法力の量では不可能。
それこそクロウ・リード並の魔術師でもなければ。
バーンの底知れぬ実力に戦慄する小狼。
当のバーンは再び笑みを浮かべた。

「ふふふ……やはり戦いは良い。両者が真剣であるほど確度の高い情報が得れる……。
小狼よ、お前には情報の礼に褒美をとらせよう。ただの人間には過ぎた栄誉だ」

全て消え去ったはずの火が再び灯る。
バーンの右手の中において。
先程の炎とは熱も強さも、まるで桁が違うと一目で分かる高密度の炎。
そして炎は双翼を広げ、鳥の姿を形どる。
それはまさに伝説の神獣、不死鳥の姿だった。

「これが余のメラゾーマだ……その想像を絶する威力と優雅なる姿から太古より魔界ではこう呼ぶ……、
カイザーフェニックス!!」

バーンの右手からカイザーフェニックスが飛び立つ。
小狼へ向けて。
その全身を飲み込む大きさのカイザーフェニックスが小狼に襲い掛かる。
しかし小狼はそれを予測していた。

「風華……招来!」

横に翼を広げる形のカイザーフェニックスは、上方に隙があった。
小狼は風の魔法で再び宙へ飛ぶ。
全体重を風に乗せて、カイザーフェニックスの上方を飛び越えた。

「……!!」

その小狼の眼前に、不死鳥の姿があった。
飛び越えたはずのカイザーフェニックスが居るのだ。
何が起きたのかまるで理解できない小狼。
カイザーフェニックスの向こうでバーンが、
先程カイザーフェニックスを放ったのと逆の手、左手をかざしている。
その姿を見て小狼は悟る。
バーンは小狼の回避にタイミングを合わせて二撃目を放っていたのだ。
小狼の魔術師としての常識を超えた早さによる魔法の連発。
小狼の回避を更に予測しての精確な魔法の発動。
小狼はバーンの魔術師、そして戦闘者としての力量を悟ったのだ。
そして空中に居る自分は、もはやカイザーフェニックスを回避する手段が無いことも。

「……さく……ら…………」

想い人の名を呼びながら、カイザーフェニックスにのまれゆく。
それが李小狼の最期であった。





【李小狼@カードキャプターさくら 死亡】





戦いの後、小狼に残されたのは首から上だけだった。

94大魔王降臨 ◆emwJRUHCH2:2015/10/25(日) 23:43:31 ID:zB2rB7rk0
首から下はカイザーフェニックスの熱と威力によって完全に消失。
それでもその首にある首輪は無事残されている。
ちょうど首輪から上は残るように、バーンは狙い撃っていたのだ。

「余のカイザーフェニックスを受けて最期を迎えるとは、これ以上無い栄誉であろう」

小狼のデイパックを拾ってきたバーンは、そう語りながら小狼の首に歩み寄る。
バーンに皮肉を述べているつもりは無い。
本心からそう思っている。
あるいは大魔王。
あるいは魔界の神。
天地魔界に並ぶ者無き存在として、呼ばれているのがバーンなのだ。
しかし今は自分の手足で、デイパックを回収しなければならない。
そして首輪も。

「カイザーフェニックスの余波を浴びたにも拘らず首輪は無事か……やはり尋常の物ではあるまい」

小狼の首輪を拾いデイパックに仕舞うバーン。
そもそもバーンが小狼と接触した目的は、まず情報を得るため。
だからバーンにとって小狼との戦いは、自分の状態を確かめる実験を兼ねていた。
そして上手くすれば、自分の手足として動かせる部下として引き入れる。
無理ならば首輪を回収するためだった。

首輪は解析のためのサンプルが必要なのである。

普通に考えれば、バーンがこの小さな首輪に内蔵された爆弾で死ぬはずが無い。
しかし首輪の爆発で、あの頑強で名高い獣王クロコダインの首が断たれたのだ。
多少の爆発でクロコダインの首を断つことはできない。
しかしクロコダインの首を断つほどの爆発ならば、あの船上でもっと周囲への被害があったはずだ。
内部への指向性の爆発とも考えられるが、威力と指向性を併せ持つには、
バーンの知識をも絶する技術が必要になる。
そう、この首輪はあらゆる意味で規格外なのだ。
そしておそらくバーンにも未知の技術が使用されている。
天界・地上・魔界の三界のあらゆる知識を持つ、叡智においても並ぶ者無しと謳われたバーンの、である。

それはおそらく天界・地上・魔界の三界以外の世界が在る。

根拠は幾つも見付けられた。
地図や名簿や、そして小狼が使い、
そしてバーンも”使わされている”日本語。
そこから推測される日本という国を、バーンは存在すら知らない。

小狼に支給されていたであろう、油を積んだ車。
小狼はあの車をデイパックから淀み無く取り出し、作戦を遂行していた。
おそらく小狼はあの車を知っていたのだ。
更に車の形状や、そこから推測される使用状況からして小狼の私物ではない。
バーンが指摘した通り、小狼の世界では一般的な物と思われる。

そしてバーンの知らない系統の魔法。
小狼の使用していた魔法はどれも、バーンの知らない系統の物であった。
しかし小狼の使用した雷・風・火の魔法は、既にデイン・バギ・メラの系統がある。
わざわざ別系統を作り出す意義はほとんど無いはずだ。
おそらくあれは『別世界で発生・発達した魔法力の運用系統』なのだ。

これらを総合的に分析するに、至った結論が、
天界・地上・魔界の三界とは全く別位相・別次元の世界が存在している。

95大魔王降臨 ◆emwJRUHCH2:2015/10/25(日) 23:44:54 ID:zB2rB7rk0
全く別の世界から参加者が集められているとしたら、バーンにとっても未知の能力を使う者も考えられる。
バーンと言えど、未知のものだけは警戒しておく必要がある。

そしてあの主催者『ノストラダムス』は只者ではない。
何しろ複数の世界からのみならず、バーンまで参加者として召集したのだから。
バーンの能力に制限まで掛けて。
船の上の時からルーラもリリルーラも使えない。
魔法の消耗が常より多い。
暗黒闘気の威力が落ちている。
肉体のダメージは瞬時に再生するはずが、再生が遅い。
もっとも小狼との戦いでは、ほとんど問題は無かった。
消耗した魔法力はすでに回復している。
ただの人間相手ならば暗黒闘気の威力は充分。
火で焼かれたダメージもすでに再生してる。

問題は魔法・暗黒闘気・肉体の再生という各々原理の違う制限を、主催者が掛けたことだ。
しかもバーンを相手にそんな真似をするなど、天界の神々にも到底不可能。
『ノストラダムス』はそれをやってのけた。
『ノストラダムス』は天界の神々をも越える存在だということだ。

「…………面白いな。『ノストラダムス』を倒すことは、あるいは太陽を手にする以上の難事やも知れぬ」

かつて天界の神々は、魔族と竜を魔界に押し込め太陽を奪った。
だからバーンは神々への反逆を決意した。
数千年に渡って力を蓄え、地上を消し去る準備を整えてきた。
大魔王を。
魔界の神を。
バーンを押し留めることなど出来はしない。
それは神々を越える『ノストラダムス』であろうと変わりはない。
バーンはバトルロイヤルのルールなど歯牙にも掛けない
ここでもまた『ノストラダムス』への反逆を決意する。
大魔王を。
魔界の神を。
バーンを押し留めることなど出来はしないのだ。

【C-4 岩場/1日目 深夜】
【バーン@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2、ランダム支給品2〜4、首輪
[思考]
基本行動方針:殺し合いから脱出する。
1:首輪の解除方法を探す。
2:情報を収集する。
3:未知の存在を警戒。
[備考]
※参戦時期は第23巻終了後です。
※魔法・暗黒闘気・肉体の再生が制限されています。
※参加者は未知の別世界から集められていると考えています。
※小狼の首と護符@カードキャプターさくらとタンクローリー@幽☆遊☆白書の破壊片がC-4に残っています。

【支給品説明】
護符@カードキャプターさくら
李小狼が魔法を使う際に使用する紙製の符。

タンクローリー@幽☆遊☆白書
刃霧要が死紋十字斑の弾に使用した大型自動車。
ガソリンを大量に搭載している。

96 ◆emwJRUHCH2:2015/10/25(日) 23:47:06 ID:zB2rB7rk0
投下を終了します
問題点があれば指摘をお願いします

97名無しさん:2015/10/26(月) 14:53:08 ID:5wXVwzsI0
投下乙です
いよいよ最初の脱落者が出てしまったか…さすがにバーンが相手では分が悪すぎた

一つ指摘なんですが、
>しかし首輪の爆発で、あの頑強で名高い獣王クロコダインの首が断たれたのだ。
とありますが、OPではクロコダインは首輪の爆発によって殺されたわけではないのでこの辺りは修正した方がいいと思います。

98 ◆emwJRUHCH2:2015/10/26(月) 19:19:44 ID:bzCPZhVA0
>>97
了解しました。したらばの修正案投下スレに修正案を投下したいと思います

99 ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 20:59:27 ID:lL/hbJbs0
投下乙です。

>翼よ!あれが帝都の灯だ
この状況で安物にケチをつけるあたり本当ぶれないなぁ、令子。
しかしそこからこのロワに隙があると見るあたりは流石というべきか。
大神と凱も色々と対照的なところはあるけど、今後いい感じのコンビになれそうで期待したいところ。
そして戸愚呂兄が予想以上に厄介。
どこか小物感が拭えない印象はあるけど、能力自体は相当に高いからなぁ……

>美少女と魔獣
千家……そのタイミングからの参戦とは。
重い過去と向き合いながら生きていく事になるが、どうにか耐え抜き頑張って欲しい。
そしてまさかのパラレルワールド説に最初に気づいた知世。
支給品もいいものが手に入ったし、一般人枠のダークホースとなるか。

>大魔王降臨
小狼……よく頑張ったが、流石に相手が悪すぎたか。
大魔王としての貫禄たっぷりな上、きっちり首輪についても考察を進める隙のなさ。
最強マーダーの一角として、この上ない恐ろしさを見せつけてくれてるぜ。
この先も波乱を巻き起こす台風の目になりそうな予感が凄まじい……

では、自分もこれより投下させていただきます。

100『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:01:46 ID:lL/hbJbs0
(……バトルロイヤル。
頭のいかれたゲームだな……!)


閑散としたショッピングモールに設置された、喫茶店の一角。
その男は、チェアーに深く腰掛け自身に宛がわれたデイパックの中身を確認しつつ、状況を整理していた。
もし、見るものが見たならばこの男の姿に戦慄を覚えただろう。

明るいピンク色に緑のまだら模様という特徴的過ぎる髪形。
一見下着か何かかと見間違うかのような、レース網の特徴的過ぎる肌着。
それ越しに見える、確かな筋肉がついた屈強な肉体。

あまりに特徴的・個性的過ぎる格好だが……それすらも小さなことに思えかねないのが、その全身から発される圧倒的な威圧感だ。
幾多もの死闘を繰り広げ、修羅場を潜り抜けてきた……それを自然と分からせる風格が、いわば『凄み』がこの男にはある。
実際、このような異常な事態に陥っているにも関わらず……冷静に、この男は今のこの状況を分析している。
困惑の感情はもはやなりを潜め、既に向かうべき次を定めている。


この男の名を問われれば、尋ねられた者―――もっとも、その名を知るものはこの世に両の指で数える程にしかいないのだが―――はこう答えるだろう。


悪魔―――ディアボロと。





しかし。



(……参加者名簿を見る限り、ジョルノもここにいる。
ミスタとトリッシュの名前がないことは気がかりだが……全員、無事であってくれよ)


それはあくまで、外見のみの話。
そう……この男は姿こそディアボロそのものだが、そこに宿る魂は別人である。
彼の名は、ブローノ・ブチャラティ。
暴走したシルバーチャリオッツ・レクイエムの能力により魂をディアボロの肉体へと移し変えられた、正しき黄金の精神を持った男なのだ。

彼はつい少しばかり前まで、仲間達とともにシルバーチャリオッツ・レクイエムの追跡に当たっていた。
レクイエムが持つ『矢』を手にできたものこそが、恐るべきボス―――ディアボロを討つ可能性を手にすることが出来る。
ゆえに、ボスにだけはなんとしてでもこの矢を奪わせてはならない。
例え命と引き換えになったとしても……そうブチャラティは、自らの死すらも覚悟の上でレクイエムとの対峙に臨んでいたのだった。

101『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:02:20 ID:lL/hbJbs0
だが、その最中にこの異変は起きた。
仲間であるナランチャを失い、それでもなおボスを倒す為に追跡を続けようとしたタイミングであった。
シルバーチャリオッツ・レクイエムが最初に発動したときと同様に、彼はいつのまにかその意識を完全に失ってしまったのだ。
そして目が覚めた時には、あの船に立たされていた。
後は他の参加者同様、このバトルロイヤルに突如として参加させられる羽目になったのだが……


(……新手のスタンド能力か。
それとも……これも、暴走したレクイエムの一旦なのか?)


ブチャラティはこの事態を、新手のスタンド攻撃……或いは暴走するレクイエムの一旦なのかと考えた。
あの船ではこの事態を認識できず困惑する者も大勢いたようだが、スタンドという超常の能力を知る身としては寧ろそういうものなのだとある程度受け入れることが出来た。
特に状況からして、後者の可能性は十分考えられる。
レクイエムの最初の発動時と状況が酷似していることもだが……もうひとつ重要なのが、この『首輪』のことだ。


(この首輪……どういうことか、ジッパーが出来ない。
スタンド能力が通用していない……無効化されている)


ブチャラティは目が覚めてすぐさま、自身の首輪に対してスティッキー・フィンガーズを発動させた。
ジッパーをとりつければ、首輪をはずすことは極めて容易だったからだ。
しかし……事態は、予想できない方向へと動いた。
確かにスティッキー・フィンガーズの拳は首輪に触れた。
それにもかかわらず……この首輪に、ジッパーが『つかなかった』のだ。
そして、馬鹿なと思い試しに地面を叩いてみたところ、そちらには正常にスタンド能力が働いた。
つまりどういうわけか、この首輪相手にはスタンド能力が無効化されてしまうのだ。

まさか自分のスタンドが通用しないとは、ブチャラティも予想だにしていなかったが……しかし。
彼はすぐ、自分のスタンドが通用しなかった相手が他にも一体いる事に気づいた。
そう……今まさに追跡中だったシルバーチャリオッツ・レクイエムだ。
レクイエムはスタンド使いに『矢』を渡さぬよう、強力な防御能力を備えている。
もし矢に触れようとするスタンド使いがいた場合、そのスタンド使い自身のスタンドが本人の意思とは無関係に発動し、レクイエムを自動的に守ろうとするのだ。
この首輪とレクイエムの防御能力は、確かに似通っている。
そして自身が眠りに落ちて拉致された事も含めれば……この事態は、レクイエムの暴走が進んだ結果ではないのか?


(だが……それにしては不自然な点もある。
レクイエムの暴走として安易に片付けるには、何か……違和感がある)


しかし、断言までは出来なかった。
状況証拠だけでみればレクイエムの暴走と片付けられるかもしれないが、それにしては不自然な点が多いのだ。
『矢』を守ることを全てとするレクイエムが、何故この様な事態に及んだのかが見えてこない。
この現状は、守るという行為から明らかに逸脱している。
加えて……今目の前に広げられている名簿の名前だ。

102『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:02:54 ID:lL/hbJbs0

(……ディアボロ。
何故、誰も知らなかった筈の奴の名前が記載されている?
それに、このチョコラートという男の名は……あの地中を自由に動けるスタンド使いが口にしていた、ヘリの男の名前だ。
奴はジョルノとミスタが倒した筈……何故その男の名前が、ここにある?)


ディアボロとチョコラート。
この二つの名は、ブチャラティにとって明らかに異質としか言いようがなかった。
過去の全てを秘匿し自身の正体を隠し続けてきたディアボロの名前が、何故こうしておおっぴらにされているのか。
ノストラダムスがそれをどうして知っているのか。
チョコラートに至っては、ジョルノとミスタが確実に始末した男だ。
死亡して既にこの世にはいない筈……それが何故、ここにいるのか。

何かがおかしい。
その何かがなんなのかを口にすることは出来ない。
だが確実に、このバトルロイヤルには単純に片付けられない何かがある。
それだけははっきり断言できる。
そしてまずはその謎を解かない限り……あのノストラダムスという男に拳を届かせることは出来やしないだろう。
得体の知れない相手にただ闇雲に挑んでも、結果は目に見えている。


(……分からない事が多すぎるな。
情報が不足している……この状況を分析するにも、レクイエムがあの後にどうなったのかを確かめるにも、今のままじゃ不十分だ。
危険はあるが、他の参加者と接触してみなければ……)

 
故にブチャラティは、他の参加者と接触を図ることにした。
もしかすると、あのノストラダムスという者に心当たりのある人物がいるかもしれない。
戦力として頼れる人物がいるかもしれない。
離れる形になったジョルノとの合流を果たすきっかけになりえるかもしれない。
首輪の解除に繋がる者と出会えるかもしれない。
誰かと情報を交換できるという事は、希望を見出すことにつながる。
無論、危険人物と接触する可能性も勿論ある。
その場合は全力で迎え撃つしかないだろうが……場合によっては『拷問』という形もとれるだろう。
どういう形にせよ、一人でいる限りは状況に変化はない。


(人が比較的集まりそうな場所に向かうか。
だとすると、ここから近いのは……)



―――コツッ。



「!?」


卓上の地図に目を走らせようとした、その瞬間だった。
前方より、石垣を踏む確かな足音が聞こえたのだ。
ブチャラティはとっさに視線を向けると共に荷物をしまい、スタンドを発現させる。
まさか考えていた矢先にいきなり接触の機会が訪れようとは、流石に思ってもみなかった。
しかし、どちらにせよこれはチャンスととるべきだ。

ブチャラティは前方に確認できる男の姿を、よく観察した。

103『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:03:34 ID:lL/hbJbs0
まず一目で分かるが、着ている制服からしてこの男は警官だ。
年は二十代の半ばから三十代前半くらいといったところか。
スマートな体つきをした白人男性だが……気になるのはその表情だ。
感情がまるで感じられない、能面の様とでも言えばいいだろうか。
落ち着いていると片付けるには、何かが不気味だ。
いくらなんでも感情が感じられなさ過ぎる……この状況下でその様な事が、ありえるのだろうか?


「そこのあんた、止まってくれ!」


故にブチャラティは、男へとまずは警告を出した。
距離はおよそ50メートル程度……スティッキー・フィンガーズならば、拳銃を撃たれたとしても十分に反応できる範囲だ。
もし殺し合いに乗っていないのであれば申し訳はないが、ここは警戒させてもらう。
相手とて警官ならば、この行動が決して間違ってはいない正当なものであるとも理解できるだろう。
安心できるまでは、この感覚で交渉を行う……最大限の注意を払い、ブチャラティはそう判断したのだった。


「すまないな。
 あんたに悪意がなかったとしてもこの状況だ……警戒はさせてもらう。
 まず聞きたいが、この殺し合いに乗っているのか?」


そして変に出方を伺うよりも、こういう場合は直接疑問をぶつける方がいい。
殺し合いに乗っているか否か。
それは相手もまた気にする情報であるだろうし、はっきりと提示すべきだ。

そんなブチャラティの問いに対し、眼前の男はその場で立ち止まりしばしの沈黙をした。
即答をしなかった。
乗っていないならば、この殺し合いを良しと思わないならばすぐに答えられるはずだ。
ならば最初に感じた不気味さの通り、この男は……




――――ダッ!!



「っ!?」


直後。
立ち止まり沈黙を貫いていた男が、いきなり駆け出してきた。
ブチャラティはすぐさまスタンドを前方に出したが、驚いたのはそのスピードだった。
尋常ではない……常人とは思えぬ程に速いのだ。
一流のスプリンターであってもこれだけの瞬発力をもって走れるだろうか。
この思わぬ挙動に、どうしても彼は驚愕を禁じえなかったが……

本当に驚かされたのは、このすぐ後だった。

104『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:04:03 ID:lL/hbJbs0

「な……!?
 こいつ、腕が……!?」


男の右腕が、突如として変化した。
肌色のなんて事ない普通の細腕が、いきなり洋服の袖ごと銀色の金属に『溶けて』変わった。
そして一秒にも満たない内に、形状を変化させて再び液体から固体へと変化したのだ。
相手を刺し貫き、斬り殺すための文字通りの『刃』へと。
男の腕が、刀剣そのものへと変化したのである。


「っ……スティッキー・フィンガーズ!!」


自身を貫かんと一直線に向かってくる男に対し、ブチャラティは迷わずにスタンドの拳を向けた。
この男は確かな『敵』であり、自分を殺すべき対象と認識している。
ならばここで排除しなければならない。



―――――ガキンッ!!



刃と化した男の右腕が、ブチャラティの喉元へ迫り突き出された瞬間。
スティッキー・フィンガーズはその刀身を左拳で横からはじき、軌道を大きくそらす事によってこれを回避。
同時に、がら空きとなったその胴体へと右の拳を叩き込む!


「喰らえ!!」


スティッキー・フィンガーズは近距離パワー型のスタンドだ。
ジッパーを取り付ける能力を抜きにしても、まともに直撃すればその威力は相応になる。
ましてスタンド相手ではなく生身の人間に全力でぶち当てようものなら、胴体に風穴をも空けかねないだろう。
それが今、目の前の男にまっすぐに叩き込まれた……



が。



「何……!?」


男の胴体をぶち抜き倒すという展開。
拳から伝わる感触が、それを否定していた。
肉でもなければ骨でもない……柔らかいのだ。
まるでトリッシュのスパイス・ガールで柔らかくした物体を殴ったかの様に。
叩きつけた拳が、胴体に『柔らかく受け止められている』のだ。

105『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:04:44 ID:lL/hbJbs0

(こいつ……着るタイプのスタンドか!
 液体状の金属で全身を覆って、防御を……!!)


その正体を、ブチャラティはすぐに察した。
拳を突きつけている男の胴体が、ゴムボールのように撓んでいるのだ。
銀色の液状金属と化して、スティッキー・フィンガーズの打撃を包み込んでいるのである。
剣に変化した右腕と同様に。
この男の全身は、液状の金属で覆われているのだ。


「だが……ダメージはなくとも、命中はした……!」


しかし。
打撃によるダメージを与えられなくとも、拳は確かに命中した。
ならばスティッキー・フィンガーズの能力は、発動させられる……!


「走れ、ジッパー!!」


男の胴体から肩にかけて、逆袈裟にジッパーが走る。
生半可な打撃を吸収するなら、その肉体ごとバラバラに切断して倒すまでだ。
迷うことなく、ブチャラティはそのジッパーを開いた。
男の上半身と下半身が、斜めに切り裂かれる。
ここにきて、それまで無表情だった男の顔にもようやく驚愕の色が浮かんだ。
思いもよらぬスティッキー・フィンガーズの能力と、それを甘く見た己自身への油断からか。
どちらにせよ、これで致命的ともいえるダメージを男は負う羽目になったのだ。
一瞬で、勝敗が決まった。


「……終わりだ。
 お前のスタンド能力には驚かされたが、こうなっちゃ何も出来ないな……
 トドメを刺させてもらうぞ」


地面に転がる上半身のみとなった男のもとへと、ブチャラティはゆっくりと歩を進める。
この男は自身に対し、一切の躊躇もなく明確な殺意を持って襲い掛かってきた。
危険な存在だ。
ここから尋問して情報を吐き出させるよりも、即座にトドメをさしたほうがいい。
迷うことなく、ブチャラティはスティッキー・フィンガーズの拳を男の脳天へ叩き込もうとした……

106『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:05:07 ID:lL/hbJbs0

「……!!」


が。
拳が今まさに男の脳天を打ちぬかんとした瞬間に、ブチャラティはとっさに後ろへと跳んだ。
攻撃を中断し、男との距離を取ったのだ。
確実にトドメをさせる瞬間であったにもかかわらずにである。
傍から見れば不可解すぎる行動。
何故その様にしたのか……疑問を抱かれても当然の行動に出たのはなぜか。

答えは簡単だ。
『確実にトドメをさせる瞬間』だと、ブチャラティには判断する事が出来なかったからだ。
何故ならば、拳が脳天を砕き死をもたらそうとしているにもかかわらず、男の表情に恐怖がなかったから

男がたしかな笑みを浮かべたからだ。


「ッ!?
 馬鹿な、これは……!!」


そして、その判断は正しかった。
ジッパーによって分断された男の下半身。
脳からの命令が届かなくなり、もはや身動きなど一切取れない肉片と化したはずのそれが……動いている!
剣の右腕と同様溶けて銀色の流体金属となり、分かたれた上半身めがけて突き進んでいるではないか!


「違う、着るタイプのスタンドじゃない!!
 こいつは……こいつ自身の肉体が、この液状の金属そのものなのか……!!」


蠢く金属を前にして、ブチャラティは理解した。
目の男は、液状の金属を身に纏っているのではない。
男の全身そのものが、この液体金属で構成されているのだ!
そしてこの金属には再生能力がある。
分断された下半身が、上半身に吸収され……男の肉体が、復元されていく!!


「くっ……させるか!!」


敵の回復を黙って待つ訳にはいかない。
回復途中の今ならば、敵とて攻撃にすぐ反応は出来ない筈だ。
すぐさまブチャラティは地を蹴り男との距離をつめ、再びスティッキー・フィンガーズの拳を叩き込んだ。
それも一発ではない。
全力をこめた、必殺のラッシュだ!


「アリアリアリアリアリアリアリアリアリッ!!!」


大量の拳が男の全身をくまなく突き、それに伴いジッパーが体中に刻まれてゆく。
これを一斉に開けば、男の肉体は細切れとなり無残に地面に転がることになる。
真っ二つで再生されるなら、よりバラバラにするまでだ。


「アリーヴェデルチ!!」


そしてラッシュのとどめに渾身のストレートを叩き込むと同時に、全ジッパーが開かれた。
男の肉体はバラバラになり、無残な惨殺死体と化して地面にばら撒かれる。
細切れどころかミンチといってもいいレベルだ。
ここまでしてしまえば倒せたか。
そう希望を持ち、男だった肉片へと視線を注意深く向けるが……

107『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:05:41 ID:lL/hbJbs0

「くそっ……これでも、まだ……!?」


希望は裏切られた。
バラバラになった男の肉片はまたしても銀色の流体となり、雫の一つ一つが一箇所に集合し始めたのだ。
このままいけば、再び元通りの形へと復活するだろう。


(まずい……この男、相性が最悪だ!
 俺のスティッキー・フィンガーズでは、ダメージが与えられない……!!)


ブチャラティは息を呑んだ。
目の前の男との相性は、最悪というしかない。
流体金属で出来た肉体には打撃は吸収され、斬撃は加えても即座に復元される。
出来る攻撃の全てが、この敵には一切通用しないという有様なのだ。
ではどうするか。

支給品の中に、通用するような武器はあるか―――否。
残念ながら手持ちの道具では、この男に致命的なダメージを与える事はできないだろう。

コロッセオ前での戦いで実行した様に、ジッパーでこの男を地中に叩き落とし生き埋めを図る策はどうか―――否。
流体金属という性質上、地中に埋めたとしても隙間をぬって脱出される可能性は高い。
そうでなくともあの手をスコップやドリルにでも変形させられれば、あっけなく終わりだ。


(ダメだ……こいつにダメージを与えるなら、打撃や斬撃じゃない。
火炎や冷気、或いは電撃やレーザーの様な化学変化を伴う攻撃を使わなければ……!!)


この男にダメージを与えられるであろう攻撃の種類は、大凡推測できる。
しかし、この場ではそれを実現する事はどうあってもできない。
言うなればブチャラティは、将棋でいう詰み・チェスで言うチェックメイトに嵌ってしまったのだ。
こうなれば撤退して体勢を立て直す他にないが……先ほど見せた動きからして、スピードで彼より相手の方が上だ。
逃げ切れるかどうかと問われれば、非常に厳しいと言わざるを得ないだろう。


「…………」


再生を果たした男が、今度はその両手を刃と成す。
ブチャラティの行動から、男の方もまた彼に決定打を与える手段がないと気づいたのだ。
ならば警戒し恐れる必要はない。
攻撃重視の形態へと肉体を切り替え、一気に殲滅するのみ。

108『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:06:16 ID:lL/hbJbs0

素早く地を蹴り、男は疾走する。
眼前に立つブチャラティの喉元を掻き切り心臓を穿つべく、距離を詰める。
ブチャラティもまた、迫り来る敵へとその防御を試みた。
スティッキー・フィンガーズの両拳で、それぞれ左右より振るわれる剣を弾く。
地を駆けるスピードでは負けたものの、接近戦での反応速度ならば軍配が上がるのはブチャラティの方だ。

しかし……当たり前の話ではあるが。
その反応速度も、肝心の反応が正常に働かなければ意味はない。


「何……!?」


ブチャラティの目が驚愕で大きく見開かれた。
スタンドで左右の剣を防いだその刹那に、男の肉体に恐るべき変化が生じたのだ。
両手を弾き上げられ無防備となったその胴体より、新たな『三本目』の剣が出現したのだ。
肉体を変化させ、新しい腕を一本丸まま生やしたのである。
スティッキー・フィンガーズが防御で両腕を使わざるを得ない状況に追い込まれた、このタイミングで……!


(瞬時にスタンドの動きを見抜いて、奇襲を……!?
ダメだ、防御が間に合わない……やられる……!!)


男の攻撃は、完全にブチャラティの虚を突いた。
これでは、どうやっても防御が間に合わない。
刺し突かれる……やられる。

自らに迫り来る凶刃を前に、ブチャラティはそう覚悟を決めるしかなかった。



しかし……その切っ先は、彼を刺し貫く事はなかった。

109『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:06:45 ID:lL/hbJbs0


「何……?」


男の胴体から生えた新たな剣は、ブチャラティへと僅か数ミリの距離で静止したのだ。
いや、第三の剣だけではない。
男の全身が、ピタリとその場に静止したのである。
この予想外の展開に、ブチャラティは助かった安堵よりも困惑を覚える他なかったが……


「……!?」


それ以上に驚いているのは、仕掛けた男の方だ。
信じられないと言わんばかりの形相で、目を見開いている。
当然の反応だ。
どれだけ力を込めようとも、肉体が全く動かせなくなってしまったのだから。
体の自由が、一切効かなくなってしまったのだから。



「……動きを封じるのは容易い。
 貴様の全身が、液体金属で出来ているというのなら……」
「―――!?」


その刹那。
ブチャラティとは違う別の声が、男の耳に入った。
声の方向は、ブチャラティの更に後方……モールの奥。
二人の立ち位置から、ちょうど死角になる地点からであった。
やがてその男の声は、小さな足音と共に近づきボリュームを増していく。



「俺の『スタンド』にとって……相性がいい……」



そして、その男は両者の前へと完全にその姿を現した。
黒い頭巾を頭に被る、ブチャラティとほぼ同年代程度に見える年格好の長身の男。


(こいつは……サルディニア島で死んでいた……?
死んでいなかった、生きていたというのか?)


ブチャラティはその姿に見覚えがあった。
ボスの手掛かりを得るべくサルディニア島に上陸した時、彼は確かにそこで倒れていた。
エアロスミスの弾丸で全身をうち貫かれた、物言わぬ死体となって。
その記憶に間違いがなければ、彼はボスかその側近と思わしき男と戦い倒れたと推測されていた筈の暗殺チームのリーダー。
まさか、あの状態から奇跡的に生き延びていた―――そういうブチャラティ自身も、死んだ状態から生き返ったので不思議はないが―――というのか。

110『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:07:07 ID:lL/hbJbs0

「お前は……一歩も俺に触れることはできない」


その名を、リゾット・ネェロ。
磁力を操るスタンド『メタリカ』の能力者であり。
ドッピオというハンデがあったとは言え、ディアボロを単身で追い込みその正体にも当たりを付けた程の屈指の実力者。
それが今……この場に現れたのだ。
皮肉にも、彼を苦しめ死に至らせた男の姿をしているブチャラティの、まさに目の前に。


「メタリカ!!」


リゾットは自身のスタンド能力を全開にして発動。
強力な磁力を肉体から発し、目の前に立つ男へと真正面より叩きつけた。
全身が金属そのものであるこの男に、それを回避するすべは一切なく。



―――――ドガッシャァァァァンッ!!



レールガンに乗せられた弾丸が、電磁力によって加速され打ち出されるかのように。
轟音を伴い、壁をぶち破ってショッピングモールの外部に排出されたのだった。




■□■




(……助けられたと見るべきか。
だが……)


凄まじい勢いで吹き飛んだ男―――まさかあの攻撃を受けて生きているとはさすがに思えない―――の軌跡をしばし眺めた後。
ブチャラティは、目の前に現れたリゾットにその視線を移した。
あのままだと確実にやられていた以上、助けられたことには素直に感謝すべきだろう。
しかし……暗殺チームのリーダーが、よりにもよって自分を助けるとは。
暗殺チームにとっては寧ろ、不倶戴天の敵である筈なのに……
まさか、姿がディアボロと入れ替わっているから気が付いていないのだろうか。

111『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:07:32 ID:lL/hbJbs0

「……ブチャラティだな?
 姿は全く異なっているようだが……そのスタンド能力がある以上は、別人ではない筈だ」


否。
やはりと言うべきか、リゾットは先の戦いを視て状況を判断した上で割り込んできていた。
つまり、スティッキー・フィンガーズを完全に視認している……
明確に、容姿が変化しているにも関わらず、ブローノ・ブチャラティだと認識している様だ。


「……暗殺チームのリーダーだな。
 ああ……何故、俺を助けた?」


仲間の仇の筈なのに。
言外にそう匂わせながら、以前警戒を続けながらブチャラティはそう問いかけた。
とはいえ、彼には大凡そうした理由に検討が付いていた。
もしこの場にいるのがブチャラティではなく、ジョルノやミスタ達といった他のチームメンバーならば問答無用で攻撃を受けていただろう。
ここにいるのがブチャラティだからこそ、リゾットは助けたのだ。

何故なら……彼には、力があるから。


「……お前の考えているとおりだ。
 お前のスタンド能力……スティッキー・フィンガーズの力が俺には必要だ」


ブチャラティが予想したとおりの答え―――スティッキー・フィンガーズが必要であるという理由を、リゾットは答えた。
物体にジッパーを取り付けるこのスタンド能力は、首輪の解除を行える可能性を持った文字通りの『希望』なのだ。
だからこそ、リゾットはブチャラティを助けたのである。


「……お前達は、仲間の仇だ。
 ホルマジオ、イルーゾォ、プロシュート、ペッシ、メローネ、ギアッチョ……
 あいつらの無念を晴らすためにも、俺はお前達やボスを必ず始末する。
 それがリーダーとして、あいつらの為に出来るせめてもの手向けだ」
「…………」

112『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:08:01 ID:lL/hbJbs0
「だが……あのノストラダムスは、その手向けすらも俺から奪おうとした。
 俺は断じて、それを許すことはできない……!」


リゾットとて、ブチャラティの事は恨み骨髄に入っている。
しかしそれ以上に、この様な真似をしたノストラダムスを許すことが出来なかったのだ。
あの男は大勢の人間に文字通りの首輪をかけ、その魂を穢した。
失ってはならない『誇り』を奪おうとしたのだ。


「ここでお前を殺すことは容易だ……だが、それでその後はどうする?
 ノストラダムスが望むように、殺し合いを進めるのか?
 冗談じゃない……優勝したところで、願いを叶えられる保証などどこにもない。
 何より、誇りも信念もなくただ言いなりになって動き……果てに待つのは、惨めな末路でしかないかもしれない。
 そんな結末など俺は望まない……こんなところで無様に死んでどうする!
 貴様のチームの仲間も、ボスもまだ残っている!
 ならば……あいつらの魂に報いるためにも、今本当に倒すべき敵は奴らだ!!」


真に仲間のことを思うからこそ。
チームリーダーの責を果たすためにも、目先の相手ではなく本当に倒すべき相手を倒す。
例え、憎き仇が目の前にいるとしても……その力が必要ならば、怒りの矛先を抑える。
確固たる『誇り』をもって、リゾットはそう宣言したのだ。


「……いいだろう。
 俺達にとっても、お前達暗殺チームは許せない敵だ。
 だが……お前のその言葉には、心から共感できる」


ブチャラティは、それを受け入れた。
己とてチームのリーダーだ。
彼の言う事はよくわかる……同じ立場ならば、きっと自分も同じ行動をとったに違いない。
仲間を思い信念を貫き通そうとする魂には、例え敵同士といえど共感する事ができる。


「協力しよう、暗殺チームのリーダー……名前を聞いても構わないか?」

「リゾット……リゾット・ネェロだ」




■□■




「……つまり、首輪にはスタンド能力がきかないということか?」

113『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:08:38 ID:lL/hbJbs0
「ああ、残念ながらこいつの解体はできない。
 どういう仕組みかはわからないが、俺のスタンド能力を無効化しているようだ」


それからしばらくして。
両者は、互いに情報の交換を行っていた。
自分を参加者として放り込む時点で予想は出来ていたことだが、この首輪には自身のスタンド能力を無効化する何かがある。
それが全てのスタンド能力なのか、スティッキー・フィンガーズに限定されることかまでは流石に分からないが。
少なくとも、首輪をスタンド能力で解体することが不可能なのだけは確かだ。


「気になる点はもうひとつある……さっきの男のことだ。
 奴の体なら、首輪を外す事は容易な筈……」
「だが、どういうわけか奴は首輪をつけたままだった。
 それも、バラバラにされてから再生した後でも……か」


この首輪について不可解な点はもうひとつある。
先ほど襲撃を仕掛けてきた、あの流体金属男だ。
あの能力ならば、肉体を変形させて首輪を外すことなど容易い筈である……
だが、不思議なことにあの男はそれをしていなかった。
それどころか、バラバラの状態から再生された後でさえも首輪が首に巻きついていた。
つまり……この首輪には、単にスタンド能力を無効化するだけではない別のなにかまで有るかもしれないという事である。


「……こっちはどうなんだ?」


その答えを聞いて、しばし考えた後。
リゾットは、自分の首を指差して問いかけた。
首輪にジッパーが通用しないと言うならば、装着者の首を切断して首輪を取り外すことはできないのか。
こちらならば、首輪の性質を関係なしに解除できる可能性がある。


「……結論だけ言えば、可能性はある。
 だが……」
「ワニ顔の男の最後、か」


しかし、それを実行するには大きな問題があった。
首輪を取り外そうとした瞬間、それをノストラダムスに感知され攻撃をうける可能性が高いのだ。
最初に広間で大柄なワニ顔の男が殺害されたように、この首輪に頼らない処刑方法をノストラダムスは持っている。
仮にそれを防げたとしても、首輪自体が引っこ抜こうとした瞬間に爆発するかもしれない。
脈拍や血圧の類を感知しているなら、十分あり得るだろう。


「こいつの正体がなんなのか、それを突き止めるまでは行動に移すのは危険だ。
 まずはその点から探る必要があるだろう」

114『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:09:12 ID:lL/hbJbs0
「情報を集めなければはじまらないか……そうだな。
 それに……この会場にボスがいるというならば、なおのことだ……」


そして彼等が共有し合った情報の中には、リゾットにとって首輪以外にも有力な情報があった。
追い求めてきたボス―――ディアボロの名前と、そのスタンド能力について。
ボスがあろうことか自分の娘を自分の手で始末するために、護衛任務を与えていた事だ。
最初にその話を聞いた時、リゾットはただただ驚愕するしかなかった。
まさかブチャラティ達までもが自分達と同じ裏切り者になり、ボスを討とうとしていたとは。
正体を秘匿し続けてきたボスが、そこまで恐るべき存在であったとは。


「……皮肉な話だな。
 任務に忠実にトリッシュを守り続けてきたお前達が、そのボスからトリッシュを守ろうとしているなど……
 そして挙句は、お前とボスの姿が入れ替わったときたか」
「ああ……問題は、ボスが今どんな姿でいるかが分からないという事だ。
 もっとも、この会場にいる限りはどこかで必ず鉢合わせをするだろうが……」


この時、ブチャラティはリゾットに自分の姿の変化を「あるスタンド能力の暴走」とのみ伝えていた。
レクイエムと矢の存在については伏せている……ポルナレフの言ったとおり、矢の力はあまりにも未知数で危険だからだ。
あの時コロッセオにいた者達以外に、この事実を伝えることはできない。
もし万が一、矢の力が悪用されることがあれば……最悪の事態を招きかねない。


「……そろそろ行こうか。
 ここでじっとしていても仕方ない」


とにかく、今は動く事が先決だ。
二人は互いに頷き合い、モールの出口へとゆっくり歩を進めていった。


「そうだな……ブチャラティ。
 さっきも言ったが、どうあってもお前達は俺達暗殺チームにとって倒すべき敵だ」


その最中、リゾットは静かに口を開いた。
ブチャラティとは共通の目的を果たすため、こうして協力しあう形になった。
しかし……それでも尚、チームの仇という事実には変わりはない。

115『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:10:05 ID:lL/hbJbs0

「だから宣言させてもらおう。
 この場を切り抜けることができたならば、その時は……必ず、俺はお前達を始末する。
 全てが終われば、敵同士だ」


だからこそ、最後には必ずこの手で命を奪う。
それだけは絶対に、譲ることはできない。


「それまで、お前に死ぬことは許されない……いいな?」
「……ああ。
 約束しよう……お前のその誇りに誓ってな」


ブローノ・ブチャラティとリゾット・ネェロ。
本来ならば互いに手をとることはありえなかった、戦う事を運命づけられていたふたりのリーダー。
しかし今……この数奇なバトルロイヤルという場を前に、協力し合う道を選んだ。

互いに生き延び……そして最後に、決着をつけるために。



【G-3 ショッピングモール内/1日目 深夜】
【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の風】
[状態]:健康、ディアボロの姿
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考]
基本行動方針:殺し合いから脱出する。
0:リゾットと行動を共にする。
1:首輪の解除方法を探す、首輪がどういう物なのかを調べる。
2:情報を収集する。
3:液体金属の男を警戒……あれで倒せたのだろうか?
[備考]
※参戦時期は62巻、ナランチャの死亡直後からになります。
※チャリオッツ・レクエイムの影響でディアボロと肉体が入れ替わっています。
そのため、会場内にいるディアボロもまた別の何者かの姿に成り代わっていると推測しています。
※液体金属の男(T-1000)の能力を知りました。
  少なくとも不明支給品の中には、彼に明確なダメージを与えられるようなものは無いようです。
※リゾットに情報を提供しました。
  しかし矢とレクイエムについては、危険性を考慮して話を伏せています。
※首輪に対してスティッキー・フィンガーズを使用しましたが、能力が通用しませんでした。
  このことから、首輪にはスタンド能力を無効化する何かがあるのではないかと考えています。
  また、T-1000の様子から他にも何か特殊な機能があるとも予想しています。
※死亡したはずのチョコラートの名が名簿にある事に疑問を抱いています。
  またリゾットについては、自分同様に死亡してから息を吹き返したのではないかと思い何も尋ねていません。

【リゾット・ネェロ@ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の風】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考]
基本行動方針:殺し合いから脱出する。
0:ブチャラティと行動を共にする。
1:首輪の解除方法を探す、首輪がどういう物なのかを調べる。
2:情報を収集する。
3:ブチャラティやその仲間達との決着は必ずつける。
[備考]
※参戦時期は58巻、ドッピオとの遭遇直前です。
※首輪解除のためにブチャラティの能力が必要と考えています。
  そのために敢えて彼と協力しますが、このバトルロイヤルが終わった後には決着をつけるつもりでいます。
※ブチャラティからボスについての情報を聞きました。
  しかし矢とレクイエムに関する話だけは、敢えて聞かされていません。
※首輪については、スタンド能力を無効化する何かがあると考えています。
 また、T-1000の様子から他にも何か特殊な機能があるとも予想しています。

116『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:10:22 ID:lL/hbJbs0



■□■




「…………」


ブチャラティとリゾットがモールから去って、しばらくした後。
流体金属の男―――T-1000は、自身の肉体に不備が無いことを確認してゆっくりと起き上がった。
磁力による攻撃。
自身にとって天敵ともいえるその技に、T-1000は流石に脅威を感じていた。
あの黒頭巾の男が如何なるモノで磁力を操っているかは知らないが、あの能力は危険だ。
再度戦闘を行うにも、どうにかして無効化を図らない限りは絶対に勝ち目がない。


(……それだけではない)


また、脅威を感じたのはあの黒頭巾の男だけではない。
スティッキー・フィンガーズという謎の人形を操っていたピンク髪の男も同じだ。
明確なダメージこそ通じなかったものの、あの人形には異様な力があった。
接触した物体にジッパーを走らせるという、原理不明の力……あの様な技術はデータにない。
いや、そもそもあれを技術と呼んでもいいのだろうか。


(……ノストラダムス……)


T-1000は人間ではない。
未来の世界において、人類抹殺を図る人工知能スカイネットによって生み出された殺人兵器―――ターミネーターである。
彼はスカイネットの指令によって、人類を勝利に導く英雄ジョン・コナーを殺害すべく過去へのタイムスリップを行った筈だった。
しかし転移を終えた時、立っていた場所は過去の世界ではなく……あの未知なる船内であった。
ありえない、不可解な現象だった。
何らかの不具合が生じて、時間転移にズレが起きたのか。
だとすると、ここは一体なんなのか。
この肉体と完全に一体化して離れない首輪といい、先程の者達といい……自らのデータにない技術が多すぎる。
過去ではなく、未来……それも相当に技術の発達した遠い未来に転移してしまったというのか?

117『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:10:45 ID:lL/hbJbs0

否。
それでは名簿の中にジョン・コナーがいる説明はつかない。
この世界はあまりにも異質だ。
単なる時間転移ではない……仮に当てはまるものがあるとすれば、かつて人類の化学者が提唱した並行世界説ぐらいか。
そんな突拍子もない説を持ち出さなければならないぐらいに、この状況には説明がつけられない。


「…………」


とは言え。
今この場において最も重要なのは、それではない。
自身がこうしてこの場に立ち、そして抹殺対象の人類も、ジョン・コナーもまたここにいるという事だ。
ならば成すべき事は一つ……この場にいる全てのものを殺害し、スカイネットに与えられた使命を果たすのみ。
目的そのものには、変更はない。


「…………」


その為にも、状況は大いに利用すべきだ。
T-1000は自身の姿を、警官のそれから大きく変容させていく。
このバトルロイヤルにおいて、大きく効果を得られるであろう容姿に……

つい先ほどまで交戦していたピンク髪の男と、瓜二つに。


「……スティッキー・フィンガーズ」


発声にも、問題はない。
あのピンク髪の男は、このバトルロイヤルを止めるべく動いているようだ。
では、その男の姿をそっくり真似してしまえばどうか。
このまま殺人を行えばどうか。
きっと参加者同士で疑心暗鬼となり、同士打ちの結果に持ち込めるだろう。
T-1000は唇を持ち上げ、にやりと微笑んでみせた。



まさかその姿が……他人に姿を知られないよう、己の全てを秘匿している悪魔のそれとも知らずに。

118『誇り』のバレット  ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:12:35 ID:lL/hbJbs0

【F-3 路地/1日目 深夜】
【T-1000@ターミネーター2】
[状態]:ダメージによる金属疲労(軽度)、ディアボロの姿
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本行動方針:全参加者の抹殺。
0:ジョン・コナーを優先して見つけ出し殺害する。
1:ピンク髪の男の姿で行動し、人類の同士打ちを狙う。
2:黒頭巾の男を警戒。
3:この状況が何なのかを可能ならば確かめる。

[備考]
※参戦時期は映画冒頭からになります。
※肉体の性質上、打撃や斬撃の影響を受けません。
 しかしあまりに強力な攻撃でダメージが蓄積され続けると、金属疲労を起こし異常をきたす可能性はあります。
※首輪が完全に肉体と一体化してます。
  その為取り外しができず、液状化したりバラバラに砕け散っても、再生した際には必ず首輪ごと再生されてしまいます。
※ブチャラティとリゾットの能力を知りましたが、その正体がわからず困惑もしています。
  特にリゾットの能力は自身にとって最大の天敵であると考えています。
※このバトルロイヤルを、時間転移だけでは片付けられない何かとしてとらえています。
  その候補として「並行世界説」を一考に入れてます。
※ディアボロとそっくりの姿に変化しています。

119 ◆TA71t/cXVo:2015/10/26(月) 21:12:51 ID:lL/hbJbs0
以上で投下終了です。

120名無しさん:2015/10/26(月) 22:46:23 ID:fPwK2Fk60
投下乙です。

ブチャラティはまさかのディアボロ姿での参戦か、リゾットと手を組むというのも予想外だった
T-1000…やはりしつこさに定評のある男、生半可なことでは死なないなww

一つ気になったのですが、「チョコラート」という名前は一部の範囲で使われてしまっていた名前ですが、「ハイエロファント・エメラルド」などとは違い完全な誤植のようです。
正式には「チョコラータ」で、後の文庫版などでは全てチョコラータで統一されているようです。

121 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:40:49 ID:0BWA3FE.0
投下乙です。

>大魔王降臨
大魔王からは逃れられない……。
とはいえ対主催なので、小狼くんも上手くすればどうにか出来たかもしれませんねぇ。
桜と苺鈴にとっては、やっぱり精神的にも大ダメージになりそうです。

>『誇り』のバレット
対立する……と思いきや、誇りを武器に協力し合う事になったブチャラティとリゾット。
「俺が殺すから殺すな」というギャングらしい約束を交わした二人も、どう転ぶかかなり見ものです。
しかし、二人のギャングの相手は、これまで数々のスタンド使いと戦ったブチャラティにとっても相手にしたくないような液体金属のターミネーター。
予約見た時は、ブチャラティが死ぬのかリゾットが死ぬのかと思ってしまいましたが、なんとか二人とも無事で安心です。
で、ディアボロが普通にディアボロとして出て来たら、ブチャラティ、ディアボロ、T-1000でディアボロだらけですね(丁度予約されてますが)。

指摘等は既に指摘されている部分のみです。
遅いので誰も見てないかもしれませんが、私も投下します。

122爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:42:47 ID:0BWA3FE.0



 えー、御無沙汰しています、古畑任三郎です。
 皆さんに、始めに言っておきたい事があります。
 私この度、不思議な殺し合いに巻き込まれてしまいました。なんでも、最後の一人になるまでバトルロイヤルをしろとの事です。
 その為……今回の私は、今までとは違い、警察組織の一員や、絶対死なない無敵の主人公ではなく、古畑任三郎という一人の人間として立ち回らなければならないんです。……んー、困りましたねぇ、ふふふ、私を守ってくれる物がなくなりました。

 ……と、いう事は、ですよ。
 今回のように、冒頭と最後にほんの少ししか出てこない話も出てきてしまいます。私のファンの方はぜひ、今回はオープニングと、最後の部分だけ見て行ってください。
 いやあ、しかし……ふふふふ……えー、やっぱり、私の性なんでしょうねぇ、こういう現場に、たまたま立ち会ってしまう宿命は切っても切れないわけで──。


♪〜


     □■
       □□□


   ♪〜


      古畑
       任三郎









【Climb Part】──ステルスマーダー



 平凡な顔立ちの二十代の男がいた。
 男の顔の印象はおおよそ髪型で決まってしまうらしいが、彼の髪型は少しだけ伸びた坊ちゃん刈りで、非常に飾り気がない。
 柔和で、どちらかといえば童顔のその容貌は、この殺戮の現場とは無縁に見えるだろう。
 真っ白なシャツにネクタイを巻いて、その上から地味なセーターを着こんでいるそのファッションは、ただの気弱な社会人であると推定するに違いない。
 本当にどこにでもいる。写真で見ても、おそらく、誰の印象にも残らない。集合写真の中では絶対に注目される事がない。

 彼の名は小田切進。
 それと偶々出会ったのは──ショートカットの髪型の、少し普通じゃない一人の女子高生だった。

「へえ、小田切さんって先生だったんだ……」

 街中で、その女子高生──天道あかねも、その男に出会って話を聞いて、仕事が教師なのだと知ると、妙に納得してしまった。まさに女子高生をやっている立場だからだろう。
 気弱で情けなく、授業を静かにさせる事も出来ない先生。
 きっと、高校生よりずっと弱そうで、コミュニケーションがあまり得意でもなく、不良生徒を叱りつける事が大の苦手で、教えるのもそんなに上手くない。
 いつかやめてしまうんじゃないか、と生徒の方は思ってしまうが、彼もいつの間にか気弱な教師のまま中年になっているのだろう。

「ああ。……一応、不動高校で先生をしているよ」

 本当にどこにでもいる。
 あかねの高校……そう、今この小田切先生とのんびり目指そうとしている風林館高校でも、たまにそういう教師はいるくらいだ。
 きっと、高校に通っていた人なら、大方、見かけた事があるはずである。

123爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:43:07 ID:0BWA3FE.0
 彼はそんな普通の人だった。

 ……だからか、あかねは、何故だか放っておけなかった。
 あかねはこれでも格闘術に関してはかなり自信のある方だが、実のところ、このバトルロイヤルの異常性というのはそれ故に早い段階で感じ取っていた。
 知り合いである早乙女乱馬、響良牙、シャンプー、ムースの四名の一筋縄では行かない格闘家仲間たちが捕まえられている事もまず異常だったし、最初の船上でそれ以外の人間の異様な闘気も感じた。
 このゲームがかなりの強者によって開かれた物なのは間違いない。

 普通の人が生き残れるような状況でないのはあの船上の時点でも確かだった。
 そんな彼女が最初に見かけたのは、体力もなければ、知力もさして高いわけでもない……普通の人だったのである。一応、教師をやるという事は何かの分野において、教えられるだけの知識を有しているという事らしいが、やはり能力はその程度だ。
 本来、生徒を守るのが教師の勤めなのだが、それが反転する形になるのもまあ致し方ないだろう。
 武道家であるあかねの性だ。

 彼女はそんな小田切進に、少々情報を明け渡した。

 まずは自分について。
 天道道場の三女として生まれたあかねは、三姉妹で唯一、格闘を習っている事。
 これが強みになるが、おそらく普通の人では生き残れないような殺し合いになりそうだという事。
 乱馬と良牙とシャンプーとムース──四人知り合いがいるが、最も優先して探したい人間が一人いるという事。

 そして、それは、彼女の許婚の早乙女乱馬。ではなく──響良牙だった。

「良牙くんだけは、早く探してあげないと……!」

 もし、あの方向音痴の良牙がこのまま孤立してしまったら、禁止エリアに迷い込んでしまう可能性が非常に高い。
 確かに良牙はかなり強いが、今後禁止エリアが指定されたら……超高確率で彼はそこに行きつくだろう。

 ちなみに、小田切の方は、あの船上にいた「金田一一」というあかねと同世代の少年を知っていた。教え子で、なんでも金田一耕助の孫でとても頭が良いのだというそうだ。
 あかねは、金田一耕助は小説の中の人物だとばかり思っていたので半信半疑だったが、小田切が言うには、実在していたのだそうである。かなり意外な事実だった。
 彼からの情報といえばそれくらいである。

「ねえ、小田切先生、あれがこの『大道寺邸』じゃない?」

 あかねは地図をランタンで照らしながらそう言った。
 小田切とあかねが二人で歩いているのは、丁度、マップの左端──南西のA-8のあたりである。

 これから風林館高校を目指すには、現在地はあまりにも遠い。だが、少なくとも、会いたい人間と会う場合に、おそらく目印になる場所は高校だろうと思っていた。一辺が3kmだとすると、あかねの普段ランニングする距離から逆算してもそこまで長くはない(──普通の人間を前提に考えれば勿論、相当長いが)。
 ここから近いのは、むしろシャンプーたちの実家の猫飯店の方であるとはいえ、高校ほど機材も揃っていないし、人も入れず何らかの拠点として利用する事は困難だ。
 こちらも後で一度試しに寄ってみて、それから風林館高校に行く事にしたいと考えている。やはり人が集まる可能性が高いのはそちらだという事だ。
 ただ、本当にそこに風林館高校や猫飯店があるかはわからない。しかし、共通して配られた地図に示された目印としては充分だ。
 そこに着く前にも、なるべく、気になる施設はとにかく寄っておきたい所である。本当にそこにあるのか、を少しでも考える為だった。
 そして、──丁度、それが見えたようだ。
 この、『大道寺邸』に。

「ああ、表札にはそう書いてあるね」
「やっぱり大道寺知世さんの実家なのかしら……? それにしても……随分大きなお屋敷ね」
「本当。凄いなぁ……」

 施設を目立たせる為か、大道寺邸の灯りはともされていた。
 あまりにも大きな屋敷だったので、流石に民家も多い街中で施設としてマップに名が乗るものだなと思う。

124爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:44:01 ID:0BWA3FE.0

 例えるなら、まるで宮廷の庭である。
 何度か、変な豪邸を所用で訪ねた事のあるあかねも、少しだけ恐縮するくらいだった。
 門を開けて、噴水のある庭を横切り、玄関に辿り着く。その間、庭を見回さずにはいられなかった。本当に、まるで、皇族かハリウッドスターの邸宅のようだ。
 そっと、玄関のドアを開けた。鍵はかかっていない……。

「入りましょう」
「ああ、うん……」

 中に入ると、巨大な靴箱やカーペットが出迎えた。いまどき、ホテルでももう少し窓口が狭いのではないだろうか。
 廊下は長く、いくつもの巨大なドアがある。壁には絵がかかっていて、観葉植物が並んでいる。二階の踊り場が玄関からよく見えた。今にでも家政婦が現れそうだ。

「……あの……すみませーん!」
「ちょっと、小田切先生! こっちから呼んで、変な奴が来たらどうするの……? 家の主もいないみたいんだから、来るとしたら他の参加者よ」
「ああ、そうか……ごめん。でも、人はいないみたいだし……」
「だからって、何もそんな大きな声出さなくても──」

 かなり恐縮している小田切に対して、あかねはやたらと強気だ。
 あかねもこういうタイプの教師を放っておけない性格ではあるが、勿論イライラしてしまう事もある。危険な状況なのでピリピリしているのだろう。
 そんなあかねの少しの苛立ちに、気づいていないのか、小田切は訊き返した。

「……でも、中にいるのは、金田一くんや、その響くんとか早乙女くんみたいな友達かもしれないよ?」
「……それもそうね」
「天道さん、とにかく一度部屋をくまなく探してみよう」

 小田切はそう言うが、部屋には無数のドアがある。はっきり言って迷宮のようだった。
 こんな所に普段人間が住んでいるというのだろうか。
 この玄関から見てもいきなり廊下が三叉路のように分かれており、一つ一つ探すのは気が滅入った。
 だが、とりあえず、真っ直ぐに進む事にした。

「しかし、色んな部屋があるなぁ……」

 一人で行動しても他者に襲われないようにと、小田切は常にあかねと二人で行動していく事にする。
 はっきり言って、どの部屋が居間なのかもよくわからないほど広い部屋ばかりだ──。
 順番に歩いていき、ある部屋のドアを開け、中を見た時、あかねの動きがふと止まった。

「ん? どうかしたのかい?」

 小田切は、訊いた。
 あかねが入っていった部屋の奥を見ると、そこにあるのは子供用の勉強机だ。
 ここもまるで客間のように大きな部屋で、最初見た時は、それが子供部屋だとわからなかったほどである。
 高校生のあかねの部屋が十個ばかり収まりそうだ。

「子供の部屋かしら?」
「確かに……信じられないけど、子供の部屋のようだ。確かめてみようか」

 小田切は、部屋の周囲をちらちらと見始めた。
 普通の子供の部屋……とは思えない。
 ホテルの一室がこんな所だろうか。少なくとも、自分には全く、縁のない生活である……と、彼は思った。

 そうだ。もしかすれば……“あの異人館”の人間は、……子供の時の“彼女”は、……こんな部屋に住んでいたのかもしれないが……。
                                  ──先生……
                               ──小田切先生……

 ……何かを考え込んでいた小田切の耳に、ある一人の女性の声が響いた。
 頭の中に流れる声の残響と重なったが、それは、あかねの呼びかけである。

「先生、小田切先生!」
「──……あ、ああ。……何かな、天道さん」
「……ちょっと、見て、これ! 大道寺知世って書いてあるわ。もしかして、大道寺知世ってまだ子供なんじゃ……!」

125爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:44:32 ID:0BWA3FE.0

 と、あかねは明らかに憤る声色で言っていた。
 彼女の手に握られているのは、学習ノートだ。小田切もそれを見てみると、「算数」と書かれているのがわかった。中学以降に習う、「数学」ではない。

「そう、みたいだね……」

 この殺し合いに子供が巻き込まれているのは、あらかじめオープニングで知っていたはずなのだが、あかねはその子供の普段の生活が見て取れるこんな部屋を見つけた時、余計に怒りを膨らませているようだった。
 クローゼットの中には、どこにも売られていないような、丁寧に刺繍された子供用の衣装などもあったが……それを確認するに、それは、本当に幼い少女が、可愛らしく着飾るような妖精の衣装なのである。

 生活感が見え始めた時、その人間の命だけではなく、感情まで見えてくる。
 ……この服を着た時、どんな気持ちだったのか。
 この服を作った人間は、これを着てもらう時に、その子がどんな気持ちでそれを着るのを想定したのか。
 そこまで考え始めた時に、その人間を殺させようとする者への怒りは急速に働きだした。

「許せないわっ! 子供まで巻き込むなんて……」

 まだどこか楽観的だったあかねの心境が改められたようである。
 小田切からすれば、まあ金田一も乱馬もあかねも良牙も、高校生ならば子供の範疇だ。
 しかし、それよりも更に下の人間がいる以上、あかねたちもその人間と対比すれば、「大人」になるのである。
 まだ、高校生活はおろか、中学生活さえ経験した事がないであろう、本当の子供──。

「これも……これも、これも……全部、子供の服……!!」

 そうして、まだまだ怒りを膨らませる為になのか、それとも、そんな現実を認めたくない気持ちが却って全てを知り尽くそうとしたのか、あかねはクローゼットの中を漁り続けた。
 だが、やはりたくさんの服が入っている。女の子用の小さな服。それらは、小学生の女の子の──大道寺知世の服であろう。
 あかねは、それを必死になって漁った。

「──そうか」

 ──そして、怒りは格闘少女に隙を作った。

 たとえ、あかねが格闘技において、どれだけの実力を持って居ようとも、背中を見せた瞬間は、全くの無防備だ。
 現実を忘れて、何かに集中してしまった瞬間など、下手をすれば一生に一度の失態の瞬間と言っていいかもしれない。
 クローゼットの中の服を取り出し、再びその中のハンガーに衣服をかけるあかねの口元──そこを、小田切は、次の瞬間、ある物を握った右手で狙っていた。

「え……!?」

 あかねが驚くのも無理はなかった。
 それは、まさに疾風のように一瞬の出来事である。
 そう……一瞬だけ、あかねは真後ろに小田切進という男がいるのを完全に忘れていた。
 常に命を狙われているようなこの状況下、そんな行動はあまりにも不用意だったと言わざるを得ない。……ましてや、初対面の人間と、二人きりの時などは、だ。
 あかねの口元は、何か布で押さえつけられているようだった。だんだんと麻酔の匂いが染み始めていく……。
 それは、クロロホルムだった。

「んーっ……! んーっ!!」

 あかねは、かつてもクロロホルムでこうして眠らされた事がある。
 これは、まさにその時と同じ感覚だった。
 麻酔の匂いの中で、だんだん薄れゆく意識の中で、あかねは思い切り、背後から忍び寄ったその右手の甲に爪を立てる。
 それが小田切の右手だとは、彼女はまだ気づかないが──おそらく、気づく機会が巡ってくる事は永遠にない──、少なくとも、彼女は、自分が今殺し合いにいる事だけは思い出したのだ。
 だからこそ、“謎の襲撃者”に──小田切の右腕に血がにじむほどに思い切り、爪を立ててやった。
 四本の線が小田切の右手の甲に作られていくが、すぐに、あかねの指先には力は通わなくなった。

「んーっ!!」

126爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:44:52 ID:0BWA3FE.0

 そして、思った。
 油断した……、と。
 それだけ。

 本当ならば、自分の最後の時には、許婚の顔くらいは思い出したかもしれない。
 その人が守ってくれると、きっと、どこかでそう思っているのだ。
 いつも助けてくれたからだった。
 パンスト太郎に人質にされた時も、ヤマタノオロチに狙われた時も……。
 だが、今回ばかりはあかねは、自分の力で乗り切れるような相手に敗れたのだ。

 だから──今、呪ったのは、自分の不覚だった。
 乗り切れるべき場面で、選択をミスしたからこそ、責めるのは自分自身だけだ。
 心のどこかで愛しているはずの人が──早乙女乱馬が頭に浮かぶより前に……。
 自分の力で乗り越えようとしている時に……。

「んーっ! ……」

 彼女はそのまま、ただハンカチを含まされた口の中で、悲鳴を響かせる事さえできずに眠りに落ちた。
 彼女は、最後まで乱馬を考える事は出来なかった。
 自分の力で乗り切れると信じ込んだが、むしろ、強敵と対峙して戦いで散る方が、最後に浮かぶ物の顔で安らかに眠る事が出来たかもしれない。
 しかし……残念ながら、そうではなかった。

「フンッ……!」

 そして──ドサッ、と音を立てて、床に倒れ込んだあかねの首元を見て、小田切は、デイパックからワイヤーを取りだした。
 あざけるように、眠っている彼女を見下ろす邪悪な微笑は、到底、あの冴えない小田切進と同じ物には見えなかった。







「……チッ。余計な手間をかけさせやがって。……痕が残るじゃないか」

 手の甲の傷はこれから先、怪しまれる……そう思い、あたかも少し前からあった傷であるかのように包帯を巻いていた。これだけの大きな屋敷である──これくらいの物はすぐに調達できた。
 その頃には、既に、天道あかねは生命活動を停止し、「死体」となっていた。
 死因は“絞殺”だ。
 あかねの首元に残った真っ赤な細い痕を見れば、専門家でなくても一目瞭然であろう。
 彼は、ワイヤーを使って、眠りに落ちたあかねの首を思い切り絞めたのである。呼吸がなくなっていくのは感覚でよくわかった。
 まさか、彼女も自分が眠っている間に死んでいたとは思うまい。……まあ、そんな事考える暇もないのが、「死」という物なのだが。

 しかし、厄介なのは爪痕だ。
 あかねが眠りに落ちる前に引っ掻いた、彼の右手の甲である。
 そこには、まだ、痕跡が残っている。

「──若葉の時は、こんな事には……」

 ──かつて。
 時田若葉という女子高生の首を、小田切が同じようにワイヤーで絞めようとした時、彼女は抵抗をしなかった。小田切は、それを思い出した。
 ショートカットの髪型と女子高生の制服は若葉を思い起こさせ、絞殺という手段も似通っていたからだろう。
 だが……普通は、こうして痕が残る物らしい。
 彼に、“殺人術”を教えた母もそう言っていたのである。

 ……そうだ。若葉は、一切抵抗をしなかった。

 しかし、その事について、深く考えてしまうと、小田切の目にさえも、不思議と涙が滲みそうになった。
 だから、慌てて考える事を切り替える。

(やめよう……)

127爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:45:10 ID:0BWA3FE.0

 別の事を考える。
 ──そう、これは必要な犠牲だった、と。

 まだ、俺は、俺たちの復讐を終えていないのだから……。
 俺は、復讐を終えるまでは死ねない……。
 何としてでも生き延びなければならないのだ……。







 小田切進の本名は六星竜一と言った。
 東北地方に位置する六角村で、その村の権力者たちに殺されかけながら、なんとか逃げのびた一人の女性・六星詩織の子として産み落とされたのが彼だ。
 詩織が竜一を生みだしたのは、その村の人間たちへの復讐を自分の代わりに行わせる為であった。
 詩織は、父と母と六人の姉妹たちを殺され──そして、細やかな幸せさえ奪われたのである。
 それが強い憎しみとなり、自らの子さえも復讐の道具と成そうとしていた。

 幼い頃から、竜一は詩織にあらゆる殺人術を教えられ、村人たちを殺す事だけを考えて育てられてきた。
 それが、復讐の為に生まれた殺人マシンの竜一の生き方であり、彼はそんな生活に何の疑問も持たなかった。
 そして、詩織は、殺人術の仕上げとして、自らを竜一に殺させたのである。

(……これでいいんだな、母さん。邪魔な人間は一人残らず消していけば……)

 それ以来、彼は何人の人間を殺しても何も感じなくなっていった。
 相手に罪があろうと、なかろうと。
 相手が子供であろうと、老人であろうと。
 今回の場合は、ここから帰れれば何でも良いのだが──その方法の一つとして優勝も考えている。
 ゆえに。
 何人かの参加者は、上手く殺していこうとも思っていた。
 特に、生き残る為に使いようがなさそうな、このあかねのようなタイプだ。

(怯える顔が拝めなかったのは残念だが、まあ、この女には大した恨みもない……。この程度で勘弁してやろう)

 結局は、彼にとって、人間を殺すのは、虫を殺すのと変わらない。
 虫より遥かに長く生きていようが、こうして、「殺害」という作業は五分で終える事ができてしまう。
 天道あかねの十七年の人生の幕を閉ざしたのは、僅か一瞬の怒りと油断である。
 所詮、人間とはこんな物だ。

(しかし……)

 問題は、その後だ。
 虫を殺すのは罪ではないが、人を殺すのは、何故だかやたらと大騒ぎされる。
 下手をすれば、警察に逮捕され、最悪の場合、死刑にもなるのが殺人者の末路である。
 だから……復讐を行う前にそうなるわけにはいかなかった。

 そして、この場にも警察はいないが、それでも、なるべく見つかるべきではないのは確かだった。──殺し合いに乗っているとバレてしまえば、それこそ、この無法地帯では、「殺し合いを乗っていない者」たちに不穏分子として消される心配だってあるだろう。
 更には、早乙女乱馬、響良牙、シャンプー、ムースなる奇妙な名前の“格闘家”たちもいる。
 勿論、小田切も格闘術には自信がある(それこそ警察が数人束になってかかってきても倒す事はできる)ので、彼らを倒す事も出来るかもしれない。
 だが、油断は禁物だ。──油断によって死んだ人間が、目の前にいるのだから。

 そうだ。
 それならば、「工作」を行わなければならない。
 これは、疑惑から逃れたい殺人者たちの通過儀礼だ。
 竜一も殺人の副次的なイベントの一つとして、密かにそれを楽しみにしている。

 幸い、この殺し合いの場に検視官などいない。指紋などの厳密な調査は行われないので、基本的には素手で工作を行っても問題はなさそうだ。髪の毛などが残る事もないだろう。

128爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:45:28 ID:0BWA3FE.0
 ……問題は、彼女の右手の指に引っ掻いた人間の皮膚が残っている事と、小田切の右腕に四本の傷跡が残ってしまっている事だ。
 この二つの合致だけで、もしかしたら……あの金田一のようなめざとい奴には、充分怪しまれる事になる。

 だから、今回もまた、「工作」を行い──そして、「死体」を芸術にする。

「──さて、どう料理しようか」

 彼は、あかねの支給品を既に抜き取り、全て自分のデイパックに移し替えている。
 彼女の支給品は、パプニカのナイフというナイフだった。それに、おあつらえ向きにリボルバー拳銃のスターム・ルガーGP-100まで支給されている。
 こいつはいい。竜一は銃撃も得意だ。ナイフなどよりもずっと強い武器になるだろう。

 ……あかねの支給品はこの二つだけのようだが、これだけで充分だった。







 ビデオ室。
 子供部屋の奥にある、小さな映画館のような豪勢な部屋だ。竜一は、そこをあかねの死体の処理場にする為、彼女をそこに運び込んだ。

 あかねの死体の、小指の付け根に、竜一はそっとナイフを突き立てた。
 そして、力を籠める。──彼の力で、いともあっさりとあかねの指は千切れた。
 普通の人間ならば、死体であっても躊躇するような行為だが、彼は平然と行う事が出来た。彼にとって、殺しへの不快感は無いに等しく、それゆえにストッパーとなるような物が何もなかったのだ。
 次は人差し指、次は中指、次は薬指……。リズミカルにそれを行ってのけた。
 親指には「痕跡」は残っていないので、別に切り取る必要はない。

「──」

 次だ。
 今度は──左手も同じにする。
 そうだ。死体はシンメトリーでなければならない。
 より、猟奇的で、人の目に印象の残る死体を作るのだ。
 それが殺人者の、死体への礼儀──そう、死体さえも殺す事が、真の芸術というやつだろう。

「ふふふ……ははは……」

 少し時間が過ぎると、八本の長い指が、全て竜一の手の中にあった。
 代わりに、あかねの死体からは指が親指だけを残して、全て切り取られていた。
 これくらいの作業は彼もすぐにやってのける事ができる。

 何せ、今まで死体をもっと大雑把にバラバラに切り刻んできたのだ。
 首。足。腕。
 今回も……そう。

 同じように──やってみようじゃないか。

 彼は、何の躊躇もなく──あかねの首を、野菜を切るかのように狩り取った。
 首輪がころころと地面に転がったが、こんな物には興味がなかった。首元に、輪投げでもしていたかのようにかけておけばいい。
 あかねの瞳は、いつまでも開いたまま、天井をじっと見つめ続けていた。
 ……もう二度と、その瞳が誰かに笑いかける事はありえなかった。

 それから、血の文字を残していこうと思った。

 ……だが、『七人目のミイラ』と書きこむのはルール違反だ。
 そう、今この少女を殺したのは、六角村の罪人たちを裁く復讐鬼『七人目のミイラ』ではないのだ。
 ただその復讐の仕上げの為に生還を目論んでいる、殺人マシン。
 穏やかな顔をして、その裏で牙を剥き、他者を欺き続ける猟奇殺人者。

 今は目的そのものではなく、過程を行っているだけなのだ。
 彼女に送られるべき名前は、『七人目のミイラ』であってはならない。
 別の名前が必要なのだ。

129爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:45:46 ID:0BWA3FE.0
 少し悩んでから、その名を、彼は天道あかねの背中に、彼女の血で描かれた文字のメモを貼りつけた。紙は屋敷を探せばいくらでもある。

『STEALTH MURDER(ステルスマーダー)』

 影に潜む殺人者、ステルスマーダー。
 竜一にぴったりな名前だった。
 よく思いついたものだと思う。

 ……そして。
 これで、竜一が求めた芸術的な死体が一つ、完成した事になる。
 あらゆるカムフラージュに満ちた、最初の死体は、知世の部屋の奥にある「ビデオ室」の客席に座らされた。

 早期発見を回避する為、その部屋のカーテンは閉ざされる。一人の死体が暗闇の中に置き去られた。
 竜一の胸は、これがいつ発見され、それを発見した者がいかに驚き嘆くのかを見たい気持ちになっていた。
 しかし……どうなるかはわからない。もしかすると、この場所を後にする事になるかもしれない。間近で発見を見る事が出来ないのは残念だ。
 次に誰かを殺す時には、もう少しわかりやすくてもいいかもしれない。
 今回は、「引っかかれる」というハプニングが大きかったが、上手くカムフラージュする事が出来たようだ。だが、今度はヘマをするわけにはいかない。
 それでも……今度は、「人差し指」でも残して、同じように殺すのも良いかもしれない。
 竜一は、部屋を出た。



 暗い客席に座る、全裸の女性の胴体。
 ──その腕の中に抱えられ、スクリーンを虚ろな目で見つめながら、自分の四指をポップコーンのように“貪る”、女性の生首。
 竜一にとっては、至高のオブジェだった。



【天道あかね@らんま1/2 死亡】
【残り65人】







【名探偵登場】──古畑任三郎



 コン、コン、コン。
 三回の、あまりに規則的なノックが鳴った。

「誰かいますかー!?」

 やがて、小田切がその大道寺邸で、いくつか、「小田切進以外」がいた痕跡を作り終えた時に、おあつらえ向きに誰かの声が響いた。
 死体の発見者となるかもしれない男が現れたのである。

 竜一は、少し警戒しながら、玄関に小走りで向かっていった。
 竜一が玄関に着いたのは、丁度ドアが開いて、襟足の長い黒服の中年紳士が入って来たタイミングだった。
 玄関より、「左方」の廊下から走って来た小田切を見つめながら、その男は丁寧な物腰と薄い笑顔で挨拶する。──どこかで見た事のある顔だった。確か、あのオープニングの船上で……。

「──あ、どうもこんばんは、私古畑任三郎です」
「古畑さん? えっと……あ、ああ、どこかで聞いたと思ったら、最初に──」
「ええ、私、ふっふっふ、これでも刑事なもので。こういう事はねぇ、やっぱり許せないんですよ、刑事の端くれとして。……あ、そうだ、ちなみにSMAPの事件解決したの私です、以後お見知りおきを。……で、あなたは?」
「はぁ。……僕は、小田切進です。つい先ほど、ここに着きまして……色々確認していたんですが、一人で心細くてほとんど何もできずにいたところです……」

130爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:46:22 ID:0BWA3FE.0

 世間では、何かSMAPの事件と呼ばれる有名な物があったのだろう。
 ──竜一の記憶には全くないが、最近、生徒がたまに話題にしているアイドルグループの名前がそんな感じだった気がする。
 まあ、話題の中心ではないので、そんな事はどうでもいいのだ。

 問題は、相手が刑事であるという事だろう。
 あまり強そうには見えないし、いざとなれば格闘術で対抗できるのだが、相手の出方を伺うのが何より優先だ。相手は銃を持っている可能性だってある。
 少年探偵、刑事、殺人鬼。
 ノストラダムスも、随分と面白いカードを揃えたものである。

「……えー、私も丁度、大道寺邸なる豪邸が見えたので来てみたのですが、まるでハリウッドスターの家ですねぇ、私も一度でいいからこんな家に住んでみたいものです、ええ。……んっふっふっふっふっ……」

 殺し合いが始まった時と同じだった。
 この古畑という男には、全く掴みどころがない。
 なるほど。話術に長けている人間なのだろう。
 金田一と同じく、何もかもを見通した目がそこにあるのは、何とも言えぬスリルがある物だ。──名探偵の瞳、という奴かもしれない。

「あ、えっと、古畑さんは……、刑事さん?」
「はい」
「……丁度良かった。ほっとしました」
「と、言うと?」
「いや、こんな状況で警察の方が来てくれたら、誰だってほっとしますよ」
「こんな状況にうかうか連れてこられてしまう刑事を? ……うっふっふっふー……いや、光栄です。市民に頼りにされるのが警察な物ですからね、……勿論、ノストラダムスと名乗る犯人の正体を明かし、我々警察で必ず彼を逮捕してみせます、その点については、ぜひぜひご安心を……」
「……はぁ。頼りにしています」

 竜一としても、それに越した事はない。
 殺しは好きだが、殺し合いというのは例外だ。──勿論、立ち回る術も必要になってくる。
 必ずしも、直接的に殺しまくるのが有効とは限らないし、そもそも、殺し合いの始まりには、「知力も必要」と言っていた。
 特に、金田一と古畑はその例として名指しされたくらいである。
 できれば活かしておき、利用したい人材だが──場合によっては、殺すしかないだろう。
 それまでは、どうにか、相手の話を聞き、殺すのは保留だ。

「あっ。……あの、小田切さん。右手、どうかなさいました?」
「え?」
「ほら、その右手。随分、包帯巻いてるじゃないですか、もう痛そうだ〜。私ね、そういうの見るだけでも立ちくらみしちゃうんですよ。……掌ですか、手の甲ですかぁ?」
「手の……甲です」
「それはどうしてまたそんな所を?」
「えっと……ちょっと前に、飼い猫に引っ掻かれてしまいまして……あはは、大袈裟に巻いておいたんです」
「ああ、そうですか〜。私も猫にはよく困らされるんですよ〜」
「古畑さんも猫を飼ってらっしゃる?」
「ええ、飼いたくて飼った猫じゃないんですがね」

 目ざとい、と竜一は思う。
 既に何か怪しまれたか……?
 ジロジロとこちらを見る古畑の目に、少し退きそうになった。
 殺した女の血の匂いがするはずはないのだが……。
 と、そう思っていた時、古畑は竜一に訊いた。

「……ちなみに〜、小田切さん。あなた、この家全部調べてみました?」
「いや……それはまだです。さっき着いたばかりですから」
「ああ、そうでしたねぇ。で、この家の家主の名前覚えてます?」
「大道寺邸……ですから、大道寺さん」
「そうそう、そうなんですよ。この家、大道寺邸というんです。参加者にも大道寺知世という名前がある。──もしかしたら、大道寺知世さんと関係あるかもしれない。この人の写真とか残されてるかもしれない、どんな人なのか調べて見たいと、そう思ったんです」
「なるほど……」
「案の定、でした。一つだけ、わかった事があります」
「何ですか?」

 竜一は、「子供」である事でももう割りだしたのかと思ったが、古畑が告げた言葉は単純だった。

131爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:47:53 ID:0BWA3FE.0

「──大道寺さんという人は、とてもお金持ちだという事です」







 ──ここで、周囲は途端に暗くなり、古畑にスポットライトが当たった。



 えー、私がたまたま入ったこのハリウッドスターの自宅のような広いお庭の屋敷。
 まだ、ここに来て私が遭遇したのは、右手の甲を怪我した、温和そうな男性教師だけです。……ええ、事件の気配は今の私にも微塵もしていません。
 ただ、今の私が何を持っているのか、どうやってここに来たのか、私はこれまで誰とも会ってないのか、私の真意も背景も、今現在のこの時点ではさっぱりわからないわけです。
 この男性に何かおかしな所があるかもしれないし、この男性は心優しい青年かもしれない。私がどう認識しているのかは、今回の話ではまだまだ情報不足です。
 つまり、「後続の書き手さんにお任せします」という奴です。
 ええ、今回出番が少なくてすみません。ただ、次回以降は…………えー、多分……んっふっふ、少しは出番が増えてほしいですねぇ。



 ……以上、古畑任三郎でした。



【A-8 大道寺邸/1日目 深夜】

【小田切進@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康
[装備]:パプニカのナイフ@DRAGON QUEST-ダイの大冒険-、スターム・ルガーGP-100(6/6)@レオン
[道具]:支給品一式×2、ワイヤー@現実、クロロホルム@現実、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本行動方針:元の世界に帰り、六角村の村人に復讐を行う。
       その過程で、使えない人間、邪魔者は消し、利用できる者は利用する。
0:まずは、古畑に対処する。
1:基本は相手の出方を伺う。どんくさい男のフリをしておこう。
2:殺す時にはただ殺さず、芸術的に殺すべし。
3:金田一、古畑は少し厄介だ。
[備考]
※参戦時期は「異人館村殺人事件」にて、金田一一に謎を暴かれる直前。
 ただし、兜礼児の殺害のみ遂行出来ていない。

【古畑任三郎@古畑任三郎】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本行動方針:殺し合いからの脱出。
0:館の捜索。
1:?????
[備考]
※参戦時期は、少なくとも「VS SMAP」より後。
※ここまでの動向や心情が一切謎である為、彼が現在何を考えているのか、本当に単独行動なのか、非武装なのか、小田切にどんな印象を抱いたのか……それらは後続の書き手さんにお任せします。







【大道寺邸に放置されたあかねの死体の状況】
あかねの死体は、知世の部屋のビデオ室の客席に座らせてあります。
ただし、あかねの死体には首がありません。
あかねの首は、あかねの死体の腕に抱きかかえられ、その口には、切り取られた八本(左右の小指、薬指、中指、人差し指)の指が、指先を奥にして、まるで押し込まれるかのように詰め込まれています。
知世の部屋は既に犯人の手で片づけられており、既に幾つかの死体工作が行われているようです。
首輪は、首の上にかけたまま放置されています。

132爪を立てた少女 ◆V1QffSgaNc:2015/10/27(火) 03:53:05 ID:0BWA3FE.0
投下終了です。
えー、二点だけ、執筆中の名残的なミスを発見したので修正します。

>>129
あかねの死体は全裸ではない(制服を着たままである)はずなので、

>暗い客席に座る、全裸の女性の胴体

>暗い客席に座る、制服の女性の胴体。

>>131
小田切進の状態表

>[状態]:健康

>[状態]:ほぼ健康、右手の甲にひっかき傷(包帯で処置済)

に修正をお願いします。

ちなみに、クロロホルムでは簡単に気絶しないらしいですが、「金田一少年の事件簿」にも「らんま1/2」にもそういう描写があるので、もうそれはあんまり現実に準拠しない感じにしました。
古畑の状態表も、「健康」とか書いてありますが、ここに辿り着くまでの過程を謎としているので、後続の方が色んな都合で付け加えたければ状態表の内容は無視しても良いかと。

133名無しさん:2015/10/28(水) 08:26:59 ID:kFMEA5As0
投下お疲れ様です
古畑任三郎の独白といい、周囲が暗転してスポットライトが当たるシーンといい再現がすごいですね
読んでる途中であのBGMが聞こえてきました

134名無しさん:2015/10/28(水) 21:29:15 ID:gj2mZh.E0
投下乙です

六星が一話目から、その恐ろしさを発露させましたね。
ステルスマーダーとしてどう動くか期待しちゃいます。
そして前の人も言っていますが、古畑の再現が上手いですね。
飄々とした雰囲気で、これは六星との会話劇が楽しみです。

135名無しさん:2015/10/28(水) 23:04:21 ID:KeTyl8XM0
投下乙です!

>『誇り』のバレット
ブチャラティ、まさかのボスの肉体で参戦!
しかも暗殺チームのリーダーと同盟を組むとは!
原作では考えられなかったif展開に期待ができす。
T-1000の不気味さもよく出ていました。

>爪を立てた少女
古畑はロワでもオープニング再現するとはw
とことんマイペースな古畑はロワでもどこまでその調子でいくんだろうか?
あかねも強いんだがロワで油断したのが運の尽きでしたね。

136 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:46:44 ID:vVp0OtkI0
投下します。

137暁に死して、月に再び黄泉返り。 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:47:11 ID:vVp0OtkI0


 長い浜辺を海沿いに歩いて行く一人の女子高生がいた。丈を上げたセーラー服のスカートや、額に巻いた白いハチマキは海風が吹くにつれて、大きくはためいている。ショートカットの髪とそのハチマキ、そしてスカートから覗く太い脚を、見る人に、彼女が何らかのスポーツをやっている印象を与えるのは言うまでもない。
 彼女の名前は春日野さくら。
 スポーツをやっているというのは、まさにどんぴしゃりである。彼女は、ストリートファイトに明け暮れる、格闘少女なのだ。
 それも、決して弱くない。類まれな才能を秘めたその肉体は、これまでも見様見真似で多くのファイターを倒してきたほどである。

「うーん……確かにあの人だったよね」

 そんな彼女の手元には、革製の写真入れが握られていた。これは、通学の際もいつも、常に持ち歩いていた物だ。
 そして、その中に収められているのは、彼女の「心の師匠」とでもいうべき屈強な男の精悍な後ろ姿である。

『リュウ』

 写真の男は、そんな名前だった。彼も、額に白いハチマキを巻いているが、この事がまさに、さくらがハチマキを巻く理由だ。
 このさくらという少女は、ある時見かけたこの男に追いつく為に、ストリートファイトの世界に足を踏み入れたのである。
 一度は、師匠になってほしいと頼んだ相手だった。

 そして、彼は「憧れの人」だった。
 ……これではまるで恋をしている少女のようだが、恋心があるわけではない、と思う。
 ただ、強さとは何なのか、ストリートファイトとは何なのか──それを考える切欠をくれた、憧れの人に会いたいと、これまでずっと願ってきたのだ。
 以前、ようやく追いついて、一戦交えて……今はそれから少しした時だった。

 いつものようにそれを確認するように見つめながら浜辺に足跡を刻んでいるわけだが、今日は少しそれを見つめる意味が違った。

「やっぱり、この戦いに参加させられちゃってるのかな……」

 この殺し合いに参戦させられた際も──薄暗い闇の中で、確かにさくらは、その男らしき影を見ていたのである。写真ではなく、そこにいたのは生身の彼だ。
 だが、ほんの一瞬で視えなくなってしまったので、それが本当に彼なのかはわからない。もしかしたら他人の空似という事もありうる。
 少なくとも、それは幻影などではなかった筈だ……。
 そう、ここには、リュウが来ているのだ。きっと勘違いなどではない。

 ひとまずは、この殺し合いの中に“いる”という前提で、さくらは、のんびりとこの浜辺を歩きながら、その人に再び会う事を考えた。

 今も、……たとえ殺し合いが行われている真っ最中だとしても、結局、彼と会う事が、さくらの目的である。
 彼はまだまだ強くなっているのだろうか。
 さくら自身も前に戦った時よりずっと強くなっている。
 今度戦ったら、どのくらいやれるだろうか──。

 ここで会ってもまた、あの男と一戦交えて、強くなった自分を見てもらいたい。
 まあ、当面の方針はそんなところだ。

 それからは、その後ではあの人とともに、この殺し合いを始めた『ノストラダムス』も倒そうと考えている。そっちがついでになってしまうのは自分としても少し妙に感じるが、それが彼女らしい一本気な性格であった。

「ん?」

 そんなさくらの視界に、また、別の参加者の姿が映った。
 波打ち際に立ち、何か海の方をずっと見つめている、何者か……。
 背の高さを見た所では、おそらく男性だろう。しかし、少なくとも写真の男ではないのは誰の目にも明白だった。
 彼は、凛として立ち構えながら、腕を組んで海の向こうをじっと見続けている。

「誰だろう?」

138暁に死して、月に再び黄泉返り。 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:47:27 ID:vVp0OtkI0

 さくらは止まる事を知らなかったので、その男との距離は徐々に近づいていった。
 中国で出会った人たちが着ていたような服を着ている……口髭の生えた初老の男性。
 そして──これは勘に近い蛾、数多のストリートファイトを経た経験からか、その男が只者ではないのをすぐに感じ取った。
 もしかしたら、結構強い相手かもしれない。……いや、おそらくそうだと思う。

 それならば。

(……あの人の事、知ってるかな? ついでに、ストリートファイトできるかも聞いてみよう!)

 そう、あの人も、あのハチマキの男の人の事を知っている可能性がある。
 その想いがさくらを突き動かす。
 さくらは通常の女子高生よりも少し無警戒であった。あらゆる情報を戦って得て来た性格のせいもある。

 今行うべきが殺し合いだとしても、彼は殆ど躊躇なく、その人に話しかけようとするかもしれない。
 さくらは、初老の男性のもとに走りだしていった。







 東方不敗マスター・アジアは、水面に映る夜の月を見ていた。
 ゆらゆらと美しく揺れる月を見ていると、──どうにも気が狂いそうになる。

(何故だ……)

 いや、実際そうなのかもしれなかった。
 自分は、おそらく気が狂っている……。
 そうでなければおかしいくらいだ。

(何故、ワシは今ここにいる……)

 自分は、かつて一度死んだ筈であった。
 弟子との死合の果てに、自然とは何か、人とは何かを知った東方不敗は──暁の下に見送られ、病魔に命を落とした。
 ……その筈であった。

 弟子の腕の中で、死と言う実感さえ覚えた。安らかでありながら、恐怖に抱かれているような想いが肉体を蝕み、やがて、遂に感覚は心だけになり、それも遂に消え去った。
 それがここに来る前の彼の最期の記憶だった。
 あまり良い気分とも言えないが、あれを経験した後は、本来ならもう二度と目を覚ます事はない……。
 しかし、彼は、どういうわけか目覚めた。
 目覚めた時はまるで、長い眠りから産み落とされたような心地である。
 死んだ記憶があるのに五代満足など、気が狂っている以外の理由で説明できるものであろうか。

(……何故、ワシを呼んだのだ) 

 波が高鳴る音を聞きながら考えた。
 自然をいくら愛しても、自然は人の疑問に答えてはくれない。

 ……殺し合い。
 又の名を、バトルロイヤル。
 その始まりに、東方不敗は『ノストラダムス』なる者の言葉を聞いたが、それはまるで東方不敗に課された『地獄』のように聞こえた。

 かのガンダムファイトを人と人との間で繰り返すような不気味な行い。
 そして、その対象者はファイターだけではなく、殆ど無作為に選ばれている。

 それを取り行う『ノストラダムス』なる者は、人を甦らせる術さえも持っているという。
 東方不敗は、ひとまずは、それを信じた。言うならば──自分自身がその証人の一人である。
 その点はノストラダムスが言った通りだ。死者の蘇生を経験した者がいるという話もされたが、そう言われた時点で彼はそれを実感していた。
 自分はまさに、その蘇った人間なのだと。
 ……しかし、納得はしなかった。

139暁に死して、月に再び黄泉返り。 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:48:03 ID:vVp0OtkI0

 再三言うが、これはまるでガンダムファイトを人と人とで行うかのような、無益な争いだ。
 爆弾付の首輪などという罪な人工物を人間の首に嵌め込み、六十七名もの人間を殺し合わせようと画策する。
 この殺し合いを開いた者──『ノストラダムス』。

 なんと悪意に満ちた催しか。
 彼は、わざと東方不敗に、繰り返される過ちを見せようとしているのではないか?
 ガンダムファイトが正しい闘争などではなかったように、これもまた、戦争と同じ歪み切った争いに過ぎない。
 これが人間のする事だろうか。
 やはり、──醜い人間はいるのだと思った。

 それでも──もう二度と彼は、少数の人間の悪意に屈する事はない。
 人間も自然の一部だと……弟子たちが教えてくれた。
 人間を殺すも許されざる行いであるが、死んだ人間を蘇らせるもまた、自然に反する行いである。
 今こうして自分が生きているのもまた、その道理に合えばあってはならぬ事だろう。

 しかし。
 今から、自然の摂理に逆らい生きる自分の命を絶とうとはしない。
 これは、言うならば一つの機会だといえよう。
 かつて試みた、誤った償いは、今こそ本当の償いとなるべき時なのである。

 そう。東方不敗は一度死んだ。

 ならば──今宵の月にかけて。
 そう、この馬鹿げた殺し合いを止めるのが己の役目だ。
 たとえその過程で死が待っていようとも、何せ一度死んだ身。
 後に生きる人間や自然の為に使えるのならば、自由に使ってみせよう。
 自然に身を任せ、去りゆくのはその後で良い。

「おーい、おじさーん!」

 と、東方不敗は、後方から突きつけられた甲高い声に耳を貸すように、振り向いた。
 彼の真っ白なおさげ髪が、それと同時に風に靡いた。
 誰かが近くにいるらしい。
 とはいえ、至近距離というほどでもないので、まだ気配を察知していなかった。

「ヌゥ……」

 彼が振り向いたその先にあるのは、セーラー服の少女だった。無警戒にこちらに向かって大きく手を振り、駆け寄ってくる若い娘だ。
 ここから五十メートルほど離れた地点。
 見た所は女子高生だが、まともな女子高生に比べると少々、明るいというか、物怖じしない性格であるようだった。
 しかし、やはり、その性格はこの場においては、必ずしも長所とはなり得ない。あまりに無警戒すぎるだろう。
 こんな何もない場所で大声を出すのも警戒心が足らなさすぎるとしか言いようがない。

「……なんだ、小娘。ワシは今忙しい」
「えー。何してたの……? 暇そうにしか見えないけど」

 ザーッ、と、両脚でブレーキをかけるように止まるさくら。
 東方不敗もこういうが、結局は月を見ていただけである。
 だが、どうもこの手の軽い娘は苦手であり、つっけんどんとした態度で返したのだった。
 単に関わりたくはない。礼儀知らずな今どきの若者だ。

「……まあいいや。あたしの用はすぐに済むから!」

 彼女はあっさり話題を切り替えて、そう言った。

「ねえ、おじさん! 頭にこーんなハチマキした男の人知らない!? 探してるんだけど」
「──ハチマキ、だと!?」
「知ってるの!?」 

 この時、東方不敗が、愛弟子のドモン・カッシュを連想したのは言うまでもない。
 彼女が着用しているハチマキは白色、ドモンのものは赤色であったが、色そのものは問われなかったので、その特徴からふとドモンが捜索されているのかと思った。
 だが、彼女は、すぐに手元に写真があるのを思い出し、それを東方不敗に見せた。──そこに映っているのは、ドモンとは似ても似つかぬ男だ。

140暁に死して、月に再び黄泉返り。 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:48:30 ID:vVp0OtkI0

「あ、ほら……この人!」
「なんだ、ドモンではないのか……。ならば、ワシは知らん」
「そうか……人違いか。うん……でも、ありがと!」

 目上に敬語一つ使えない娘なのかと思ったが、何故か不思議と不快感は覚えない。敬意がないわけではないのが手に取れるからだ。
 むしろ、ただの純粋な子供のような少女だった。
 思った印象とは少し違った。

(しかし……)

 本当に警戒というのを知らない。
 それはもしかすると、それは己の強さの過信が故かもしれない、と東方不敗は思う。

(ふむ……)

 東方不敗は、その少女の全身を見つめた。
 ──見れば、両腕、両脚には、女性としてはかなり発達した筋肉が備わっている。
 見た所では、ただの女子高生ではなさそうだ。ファイターとしても成り立ちそうな体つきである。
 ──だからこそ、自分は平気だと思っているのだ。
 自分ならば、たとえ相手が悪意を持つ者であろうが敗北を喫する筈がないと。
 彼女はそう思っているのだろう。

 だが、世の中には常に上には上がいる者である──頂点に立つにはその挫折を相当経験する。
 この若さでは、まだそれに気が付くより前なのかもしれない。
 本来ならば、自ずとそれを知るのが良いのだが、この状況ではそれに気づいた時には命がない可能性もあるわけだ。
 相手は殺しにかかってくるのだから。
 ……だとすれば、東方不敗はその身を以て教えるのが良いだろうか、などと考えていた時である。

「あ、それからもう一つ!」
「なんだ? 小娘」

 忘れていたかのように大きく声を張り上げたさくらに、東方不敗は答えた。
 この娘にも、これ以上、まだ用があるというのだろうか。

「ねえ、おじさんって、もしかして格闘とか拳法とかやってるの?」
「……何?」
「こんな時に何だけど、あたしとストリートファイトしない?」

 彼女が積極的に「戦闘」を求めてくる性格であったのは意外であった。
 すぐにでも東方不敗の方から彼女の油断を突いて一撃喰らわせ、一度痛い目を見せてみようと思った程なのだが、彼女自ら「ストリートファイト」なる物を望んでいるらしい。
 おそらく、近頃の若者の流行だ。路上の喧嘩試合のようなものだろう。
 東方不敗自身は、遥かにハードな「ガンダムファイト」のファイターなのだが……。
 まあ良い。受けて立たない理由はない。

「……小娘。名は?」
「春日野さくら! 高校二年」
「ほう。ならばさくらよ。……ワシの名は知っているか?」
「……えーと、ごめんなさい! わかんない!」
「フン……ならば教えてやろう!」

 格闘をやりながらにして、知らぬのかと思う東方不敗であったが、だからこそ名乗り甲斐という物がある。
 呆れながらも、どこか乗り気で、彼は張り上げた声で叫んだ。








「ワシこそ、かつて東方不敗マスター・アジアと呼ばれた男よ!!」








 ザパァ!
 まるで彼の高らかな名乗りに呼応するかのように、波が激しく跳ねた。
 東方不敗のバックで荒れる高波が、彼の凄みを伝える。
 稲妻が轟いたような気がしたが、それは気のせいである。

「……」

141暁に死して、月に再び黄泉返り。 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:48:52 ID:vVp0OtkI0

 その名前を聞いたさくらが、少し首をひねりながら、考えた。
 なんだか凄そうな名前には感じたが、さくらは全くそんな名前に心当たりはなかったようだ。

「……誰?」

 東方不敗は思わずずっこけそうになるのを抑えた。
 こやつ、格闘の道を志しながら、ワシの事を知らんのか……と。
 しかし、知らないならば知らないで結構だ。
 そう、東方不敗は格闘家なのだ。実力さえ教えれば、名前や権威など必要はない。

「……まあ良い。知らぬならば、実力を以て教えてやろう」
「へへ……そう来なくっちゃ!」

 二人の格闘家が向かい合う。
 構えた後の二人の眼差しは、実に真剣な物であった。
 まるで殺し合いを始めた者たちのように……。



 浜辺を舞台にしたストリートファイトが始まる──。







──Round 1──

──Fight!!──


「ハァッ!」

 さくらは高く飛び上がり、足を伸ばして突き出した。
 まずは上段からいきなりの飛び蹴り。
 だが、東方不敗は両手を顔の前で組んでガードする。
 落下したさくらは、東方不敗の身体に向けて何度かキックを叩きこむ。
 しかし、手ごたえらしい手ごたえはない。

「フンッ」

 ──東方不敗は、攻撃を仕掛ける様子は一切なく、さくらの攻撃方法を見極めているようだった。
 それこそが隙になるであろうと考え、赤いグローブを巻いた腕を突きだし、東方不敗に向けて高くパンチを振りかざす。
 回転をかけたアッパー──その名も、咲桜拳。
 彼女は、思い切りその技の名を叫ぶ。

「咲桜拳!」
「ぬぅ……弱いわぁっ!」

 しかし、まともに受け、高く跳ね飛ばされたはずの東方不敗にダメージを与えた実感がない。
 彼の耐久値が高すぎたのだろうか。

「はぁっ!」

 着地しても尚、次の攻撃を仕掛けてこない東方不敗に向けて、もう一度攻撃を仕掛ける。
 回転蹴り──。
 スカートがめくれて、赤いブルマーがめくりあがる。まるで駒のように回りながら、相手の顔面に踵を叩きつける技。

「春風脚!」
「まだまだぁ!」

 東方不敗のガードは固い。
 それでも、波打ち際にまで追い詰められた東方不敗には逃げ場はないはずだ。
 この距離ならば──あの技も。

142暁に死して、月に再び黄泉返り。 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:49:32 ID:vVp0OtkI0

「波動拳!」

 さくらの両腕から、青い波動が放出される。
 それは、リュウの使う技から唯一ほぼ性格にコピーした技──波動拳。
 流石の東方不敗も、石破天驚拳にも似た気功の技に少しは驚いたようである。

「ぬぅ……!? なかなかやるな、小娘……だが」

 しかし、彼は残像が見えるほどに素早く後方に飛び、十メートルほど離れたところで波の上に右足を乗せて立つ。
 真の達人は水の上に立つ事さえも容易なのである。

「──気力が足りんわッ! それでは余程距離を詰めねば当たる事はないッ!!」

 水上に立つ東方不敗に、さくらはぎょっとする。

「ええっ!? そんなのアリ!?」

 距離が遠ざかったゆえに、波動拳のエネルギーは空中に消える。──これがさくらの波動拳の弱点である。
 リュウの放つ波動拳に比べて、その射程があまりに短い。
 壁際に追い詰めたつもりだったさくらだが、この東方不敗を前には、海は壁ではないのだ。
 そして、次に構えたのは──呆気に取られ思わず戦いを忘れたさくらではなく、東方不敗の方であった。

「──知るがいい、小娘ッ!! この戦い、強さで生き残りたいならば……このくらいの芸当はやってみせい!!」

 東方不敗の右手に、少しだけ時間をかけてエネルギーが溜まっていく。
 これが武道を極めた者にこそ可能となる、流派東方不敗の必殺の技であった。
 本来なら滅多な事では使わないつもりであったが、この状況下、目の前の小娘に戦いの厳しさを教えるには丁度良いだろう。
 エネルギーが充分に満たされた時、

 ──東方不敗の右拳が突きだされる。

「石破天驚拳!!」

 “驚”
 掌の形のエネルギーが猛スピードでさくらに迫った。
 それは、さくらの目にもあまりに見慣れぬ攻撃であり、このさくらさえも戦慄させる技であった。
 巨大な掌が、海を裂き、波を立てながらさくらを襲う。

「くっ!」

 さくらは慌ててガードを行うが、東方不敗の一撃はあまりに強かった。
 まさに、巨大な壁が圧し掛かってくるような攻撃である。
 さくらのHPは次の瞬間、満タンの状態から丸ごと全て持って行かれていた。
 判定は言うまでもない。



──K.O.!!──



 倒れたさくらの身体を、波が一度撫ぜて引いていった。








 さくらがあっさりと敗北を喫した後、Round 2はなかった。
 これ以上戦闘を行う意味がないとはっきり悟ったのである。
 起き上がったさくらの目線の先には、海に半身を浸かりながら、こちらへゆっくりと向かい歩いて来る東方不敗の姿があった。
 尻を突きながら、まだピヨピヨとひよこの飛んでいる頭を何とか叩く。

143暁に死して、月に再び黄泉返り。 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:49:54 ID:vVp0OtkI0

「やるね、おじさん……」
「わかったか、小娘。……これに懲りたら、二度と不用意に他人に声をかけん事だ。ワシが以前までのワシならば貴様は死んでおったぞ」
「……あはは。参りました」

 これはつまり──東方不敗からさくらへの手荒い教育的指導だったのだと、彼女もすぐに理解した。
 世の中にはこんな強い相手がいる……。
 この場では、あまり迂闊にこういう強い相手に戦いを申し込んでいたら死んでしまうかもしれない……。
 そういう事を、東方不敗は教えてくれたわけである。
 その想いは、確かに受け取ったさくらであった。流石の学習能力だといえよう。
 東方不敗も、さくらの態度を見て、彼女が少なからず反省しているのを理解したのか、すぐに告げた。

「……まあ良い、小娘。その白いハチマキの男に会った時は、貴様の事を話してやる」
「あ。ありがと、おじさん」

 なんとか手加減を受けていたお陰か、さくらは、すぐに立ち上がった。もう一度、自分の頬をぽんぽんと叩いた。
 もう一戦出来るといえば出来るのだが、それに意味はないであろう。お互い、敵意がない事も、どの程度の強さを持っているのかも理解したはずだ。それに、東方不敗はリュウの手がかりも持っていない。
 東方不敗は、それからもう一言付け加えた。

「──だが、その代わり、赤いハチマキをしたドモンという男に会ったならば……ワシに会うた事は内密に頼む」
「どうして?」
「……今更、顔を会わせようなどという物ではない。ワシが奴に教える事などもう何もないのだ」
「へえ、そのドモンって、おじさんの弟子なんだ」
「ああ」

 その直後に、東方不敗は、デイパックの中から取り出した武器をさくらに向けて投げた。
 さくらの足元に、一つのアイテムがどさりと落ちる。
 何だろう、と見てみた。
 それは、トンファー型警棒である。東方不敗がデイパックを確認した際に入っていた道具であったが、武器ならば腰に巻いた帯を使えば充分である。
 ましてや、こんなトンファーなど彼には必要なかった。

「ワシに武器は必要ない。身を守る為に持っていけ、小娘。いらなければ捨てても構わん」
「え? 本当に?」
「ワシにはこの身体一つあれば充分よ」

 さくらにとっても、それは随分と説得力のある一言に聞こえた。
 東方不敗は初老の男性の見た目に反して、あまりに強すぎる。それも、一切武器を使わずにして……だ。
 さくらですら、殆ど手も足も出ずに敗北を喫したほどである。
 ……まあ、さくらも武器を使うタイプではないのだが。

「あたしもそのつもりだったけど……。まあいっか! もしかしたら、何かに使えるかもしれないしね」

 さくらは、屈んで、トンファー型警棒を拾い上げ、適当に構えた。
 初めて構えたにしては、かなり上手く右腕の上でトンファーを弄んでいた。
 なかなか様になっている、と自分でも思ったようだ。
 それから、彼女はすぐに走り去る事になった。

「ありがとう! おじさん」

 そんなお礼だけを東方不敗に残して。
 しかし、東方不敗からすれば、礼も必要なかった。彼女が目の前から去り、もう少し落ち着く暇が出来ただけで充分だ。
 彼女もしばらくは平気だろう。
 ……そう、忠告をちゃんと聞いていればの話だが。





144暁に死して、月に再び黄泉返り。 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:50:16 ID:vVp0OtkI0



(力が弱まっているのか……?)

 浜辺にただ一人残った東方不敗は、違和感を覚えていた。
 春日野さくらが軽く気を失う程度に手加減するつもりで石破天驚拳を放ったつもりが、さくらはノックアウトされても気絶まではいかなかった。
 それは、決してさくらの耐久性が高かったからではないであろう。
 思いの外、実力が発揮できなかったという実感が東方不敗の中には残っている。

(まあ良い……これだけの力が残っていれば、モビルファイター程度には負ける事もないだろう……)

 東方不敗は、それだけ考えて、その身を黒衣と仮面に纏った。
 これは東方不敗が唯一必要としたランダム支給品だ。
 これを纏う事で、東方不敗は今後、弟子に会ったとしてもその正体を明かさずに済む。

 シュバルツ・ブルーダーがそれを行ったように──。

 そう、これから先、ここに居るのは「東方不敗マスター・アジア」ではない。
 罪に惑い、弟子に完敗した一人の死者なのである。

 ──覚悟は決まった。

 この命、主催者を撃退し──この先、新しく自然を守る者たちの為に使ってみせようぞ、と。



【D-6 海辺/1日目 深夜】

【春日野さくら@ストリートファイターシリーズ】
[状態]:健康、疲労(小)、全身びしょ濡れ
[装備]:トンファー型警棒@ターミネーター2
[道具]:支給品一式、リュウの写真、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本行動方針:リュウを探して、共にノストラダムスを倒す。
1:リュウを探す。
2:ドモンに出会っても、東方不敗の事は教えない。
[備考]
※参戦時期はZERO2終了後。
※デイパックの中身をろくに見ていません。

【東方不敗マスター・アジア@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:健康、放課後の魔術師の仮面と衣装着用(普段の服はその下にちゃんと着用)
[装備]:放課後の魔術師の衣装セット@金田一少年の事件簿
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:人間も自然の一部と認め、それを汚すノストラダムスを倒す。
2:ドモンに直接会うつもりはない。姿と正体を隠しておく。
[備考]
※参戦時期は、死亡後。
※東方不敗を蝕んでいた病魔は取り除かれていますが、それによって減衰していた分の体力はそのままです。


【トンファー型警棒@ターミネーター2】
東方不敗マスター・アジアに支給。
精神病院の警備員たちが所持していたトンファーの形の警棒。
作中ではサラ・コナーが奪って使用しており、警備員たちを攻撃。腕を折る者まで現れた。
トンファーと言うと両手に一つずつ装着するイメージがある人もいるかもしれないが、これは片方だけ。

【放課後の魔術師の衣装セット@金田一少年の事件簿】
東方不敗マスター・アジアに支給。
「学園七不思議殺人事件」に登場する怪人・放課後の魔術師の衣装。
仮面はパプアニューギニアの仮面で、衣装はただの暗幕。つまり、衝動的な殺人を誤魔化す為に即興で怪人のフリをしていた事になる。

145 ◆V1QffSgaNc:2015/11/01(日) 01:50:44 ID:vVp0OtkI0
以上、投下終了です。

146名無しさん:2015/11/01(日) 19:04:53 ID:mC/ZNCCw0
投下お疲れ様です
ストリートファイターの再現のラウンドコールと格ゲーの常識とは違ってラウンド2がないという演出が、
格ゲー出身の女子高生VS非格ゲー出身の最強ファイターという構図を表現で来ていて非常によかったです
それにしても展開だけ見ると東方不敗がラウンド開始から程なくテーレッテーしてゲームを終了させたように見える…w

147名無しさん:2015/11/01(日) 23:49:56 ID:mOUxfRy60
投下乙です。
死亡後参戦の東方不敗は相変わらず強いなぁ。
ファイターのさくら相手に1ラウンドで決着をつけるとは。
一撃K.O.されたさくらだけど、これは相手が悪かった。

148 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:37:34 ID:6PYifF5M0
投下しますね。

149一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:38:00 ID:6PYifF5M0



 幾つもの難事件や悲しき復讐鬼たちを目の当りにしてきた少年名探偵・金田一一にとって、最も悲しかった殺人事件はなんだったのろう。

 恋人の復讐の為に凶行を繰り返した、オペラ座館のファントムの事件か。
 愛した人間を──涙を流しながら、しかし──殺すしかなかった悲しい殺人マシンの、六つの館の事件か。
 友人・佐木竜太が殺された、あの赤い部屋の事件か。
 小学校来の親友が起こした、魔犬たちの巣食う研究所の事件か。
 些細なすれ違いを切欠に、金田一のかつての友達たちが殺し合わなければならなかったあの雪の降る村の事件か。
 はたまた金田一がその館に足を踏み入れたばかりに起きてしまった、悲しい誤解の事件か。

 それとも……この、一面のラベンダー畑の中で起きた、夏の青森を彩る事件なのだろうか。

 結局、どれが最も悲しかったのかは、当人すらもわからないし比べる事もないだろう。
 ただ。
 ──これだけの悲しい事件の結果を目の当りにした名探偵も、その中で共通していた事を一つだけ見抜いていた。
 そして、“その事”は同時に、殺人劇のもう一人の主人公たる多くの犯罪者たちも、名探偵と同じように知っていったのだ……。

 たとえ悪魔のような人間に出会い、大切な何かを奪われ、その人間を“殺す”しかないほど憎んだとしても、復讐の果ての殺人の後に残るのは、耐えられないほどの罪の意識と、悲しみと、虚しさだけだという事だ。

 復讐を果たした後も、かつての自分が失われていく恐怖や、止まる事のない手足の震えは止まらなくなる。
 どんな目的で始まったとしても、犯罪はやがて、後悔へと形を変えていく。
 誰にも許されない事をしてしまったという自責が、大切な物は決して元に戻らず浮かばれないという結果が、当人を苦しめる。
 殺人の悪夢は絶え間なく殺人者の夢の中に出てくる。
 血で汚れた手をどれだけ拭っても、それは決して簡単には落ちない。
 かつて、悪魔たちに殺されてしまった大事な人との優しい思い出を時に思い浮かべようとするなら……それと一緒に、自らの罪が纏わりついて放れなくなっていく。
 戦場の兵士たちが、残酷に敵を殺しながら、家で家族に温かい子守歌を歌うその切り替えが──“自分の恨みの為”に人を殺した彼らには、絶対に許されなかった。

 そして、中には、自らの死を以て幕を引こうとした者も──そして、本当にその命を自ら絶つ事で幕を引いた者もいた。

 悲しい動機を知って、──決して許されない事だとわかっていながらも──お互いがどこかで共感し合っていたはずの“名探偵”と“犯罪者”の間に、最大にして決定的な認識の違いが生まれるのは、いつも、その最期の時だ。
 確かに殺人という手段が許される事ではなかったとしても……それだけの憎しみを抱えた復讐鬼たちの気持がわかる事は、金田一にもあった。

 しかし、最後に、その罪の果てに自殺し、身体の力と、最後の心を失った犯人たちの亡骸を前にした時には、彼はこう思い続けるだろう。



 ──どんなにどん底でも、どんな暗闇の中を生きていても、やり直しのきかない人生なんてないはずなのに。
 ──生きてさえいれば、罪は償えるはずなのに。本気で望めばやり直せるはずなのに。



 ──どうして。



 ──どうして……。





150一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:38:29 ID:6PYifF5M0



 ……ラベンダーの香がした。

 それは、和泉さくらが、そして、彼女の亡き父が最も好きな花の香だった。その温かい香が、彼女を暗闇の中から目覚めさせた。
 少しの躊躇と共に起き上がって見てみると、周囲は見紛う事なきラベンダーの紫色に囲まれている。どこか懐かしい、一面のラベンダー畑。暗闇の中でも星の灯りに照らされて、充分に映える不思議な色。

 彼女自身の偽りの家──それが、この蒲生邸のラベンダー荘だ。
 有名画家の蒲生剛三が資産で建てた巨大な敷地の家の別館……かつて、忌まわしき殺人事件の起きた場所であった。この屋敷の中で、二人の人間が殺された。
 ……忘れる由もなかった。

「……」

 さくら自身、その殺人事件が“終わり”を迎えた後だというのに、こうしてこの場にいるのが不思議でならなかった。
 少なくとも、さくらがこのバトルロイヤルに招かれる直前までは、さくらの周囲には何人もの観衆が見守っていた筈だ。
 そっと首に手を触れてみると、彼女の首には金属の固い物が押し付けられるように巻かれている。間違いなく、船の上で二人の命を奪った首輪がさくらの首にも巻かれているという事だった。
 つまり、バトルロイヤルは夢でも何でもなく、確かに行われているのである。

「……」

 この場所に来たせいで、あの冷たい感覚の後にここに招かれたように感じたが、いや、決してそういうわけではなさそうだ。本館で殺人事件の全貌が暴かれ、一度船の上で殺し合いの説明が行われ、再びこのラベンダー荘に来ている……というのは奇妙でしかない。
 ここに来るまでの時系列を纏めてみると、矛盾が生じた。
 バトルロイヤルの説明の後に殺人事件の説明が行われたわけではない。だが、さくらがいる場所からはラベンダー荘が見えている。

 ……“地獄”に、来てしまったのだろうか?
 それとも、自分が混乱しているだけなのだろうか?

 さくらは、ふと、自分の足元に転がっていたデイパックに目をやった。こんなデザインの鞄を持っていた事はないし、さくらのように大豪邸のお嬢様があまりデイパックなどを背負う物でもない。

「これは……?」

 思わず、声が出た。
 それを手繰り寄せて、ファスナーを開け、中の物をそっと取りだした。……やはり、自分の物と見て間違いなさそうである。
 彼女が最初に手にしたのは、地図だ。
 そういえば、“ノストラダムス”と名乗る人物は、同じように地図を支給していると言っていた覚えがある。
 地図を見ると、知っている場所の名前が書いてあった。

「“蒲生の屋敷”……ここが?」

 さくらは、自分がいるのは、見た事もない島の一角であり、そのB-2というエリアに属する場であるのを、その地図を見てようやく知った。
 蒲生の屋敷があるのは、本来なら青森県の某所である。
 いや、それだけではない。マップ中には「東京タワー」まである。「コロッセオ」があのイタリアのコロッセオならば尚の事不思議だし、どう考えてもこの場は常識では考えられないミステリーに満ち溢れていた。

 しかし──。
 さくらは、すぐに、その事に頓着しなくなった。

「……!」

 さくらの手が、わなわなと震えた。
 彼女が次に取りだしたのは、この殺し合いに招かれている人間の一覧がリストアップされた用紙だったのだ。
 和泉さくら、という彼女の本当の名前が書かれたその名簿をずっと下に辿っていくと、忘れてはならない名前がある。

151一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:38:50 ID:6PYifF5M0

「金田一君……!」

 金田一一……そうだ、彼も参加していたのだ。
 あの場で、“ノストラダムス”が二人の人間を殺した時、さくらの頭の中は、恐怖とショックで真っ白になった……。だから、その後で、誰かがノストラダムスに声をかけた事の印象が少し薄れていたのかもしれない。

 ──いや、きっと、そうだった。

 さくらは、誰かが目の前で死んだ事に、恐ろしさに震えずにはいられず──そして、大好きな人がその後で、また正義感の行動を取った瞬間を見逃すほどに、心が不穏に騒ぎ続けていたのである。
 しかし、……考えてみれば、彼は、あの広間で確かにノストラダムスに反目した。まるでBGMのように聞き流していたのは、彼の声に違いない。
 思い返してみると、いつもの「ジッチャンの名にかけて」という台詞も確かにこの耳で聞いたような記憶があった……。

 金田一一──キンダイチハジメ。
 さくらの友人であり、さくらを何度も助けてくれた想い人であった。──片想い、と言ってしまえばそれまでだが。

 しかし、それがより一層、ここが地獄であるという事の信憑性を高めた気がした。
 さくらは宗教を信じていたわけではなかったが、もしかしたら、──「地獄」というものが本当にあって、それが罪人にとっての苦痛を煽る物ならば、金田一がここに連れてこられるというのは、さくらにとっても、至極の苦痛の一つだろう。
 どうして……。────どうして?

「……どうして!」

 たとえば。
 さくらだけがここに連れてこられるならばまだわかる。
 しかし、金田一が、さくらのせいで連れてこられたというのなら、それは許されてはならない。
 何故なら。

 “さくらは死んでいて、金田一は生きているはずなのだから……“

「どうして、金田一君が……」

 さくらは、その場にへたり込んだのだった。
 かつて、さくらが死ぬ時──最後に感覚を停止する聴力は、金田一の言葉を捉えていた。

──バカだよ……お前は……──

 本当に、自分は馬鹿だったのかもしれない……。
 自分でも悲しくなるほどに……。







 ──和泉さくらは、殺人者だった。

 人を殺したくて殺したわけではない。──理由もなしに殺人を行う人間ではなかったし、むしろ、大人しく、純粋で、心優しい部類の少女であった。
 そして、それは全く、演技などではなく、何かの歯車で狂ってしまったわけでもない。彼女は、今も決して、殺人などをしないだろうし、もし、困った人間がいれば手を貸そうとするかもしれない。

 そんな人間が殺人を犯す理由のパターンは絞り込める。
 事故によるもの、正当防衛によるもの、そうせざるを得ない状況に追い込まれたもの……大方そんなところだろう。

 ──彼女の場合は、彼女の純粋さを憎しみで上塗りさせるほどにあくどい人間が、彼女の殺人の被害者だったのだ。





152一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:39:12 ID:6PYifF5M0



 さくらが殺したのは、さくらの父を殺した人間たちだった。
 彼女の父・和泉宣彦は芽の出ない画家で、さくらたちの家族は、北海道の高原で、貧しいながらも幸せに暮らしていたのだ。
 そんな宣彦の才能を見つけた蒲生剛三という男が、彼の絵を自分の絵として発表する為に、彼を利用し、用済みとなった時に殺した。
 蒲生の協力者には、海津という女医もいた。
 ……さくらが殺したのは、蒲生と海津──この二人の人間だ。
 そして、蒲生もさくらの身体を狙っていたし、海津はさくらを殺そうとさえしていた。──真性の下衆たちであり、さくらも、もし彼らの殺害を実行できなければ、死んでしまっていたかもしれない。
 結果的に、さくらが“勝利”した。
 順調に殺害計画は遂行され、二人の人間の命を奪うに至ったのである。

 しかし、そんなさくらの胸中に残ったのは、決して、父の無念を晴らす事が出来た達成感などではなく──むしろ、あの幸せだった家庭から遠ざかったような……いや、もう二度と手が届かないように閉ざされてしまったような、そんな感覚だった。
 ただただ、不快な物が纏わりついていた。

 だから──さくらは、全ての殺人計画を終えたら、後は自らの命を絶つつもりだった。

 ……最初はそんなつもりはなかったかもしれない。
 怪盗紳士に罪を着せたのは、「あんな連中を殺して罪に問われたくはない」からだったかもしれないし、「神出鬼没の怪盗ならば罪を着せても捕まらない」からだったかもしれない。
 画家の子供に生まれただけに、美術品を盗む怪盗紳士を許せない心は少なからずあったと思う。

 つまり、最初は上手く逃げるつもりだったという事だ。
 それでも、ある時から、全てを終え、金田一たちが館から去ったら、自ら死を選ぶつもりになった。
 もう自分には何もないと思ったからだ。もうさくらには、父も母もない。

 ……そして、何より、生きていく度に纏わりつく、忌まわしき殺人の記憶に耐えられない事も、よくわかったのだ。
 たとえ、どんな人間が相手でも、誰かを殺した時に平気ではいられなかった。

 ──そして、彼女は、金田一たちの目の前で、隠していたナイフで自らの胸を刺した。

 そう、最後の記憶──さくらの友人、金田一一がその明晰な頭脳と推理力を以て、さくらが犯した罪を全て暴いた後の事だった。
 去ったはずの彼は、真相を全て突き止めて帰って来たのである。
 真相を暴かれた時、彼の言う事には一切反論をしなかった。
 何せ、それは全て事実と寸分違わぬ物ばかりだ。
 まさに、反論の余地がないのである。“本物の怪盗紳士”の正体を暴いた時もそうだった。……彼は、本当に、偉大なる祖父・金田一耕助の血を引く名探偵として、貶す所がない。

 以前、不良の女子生徒に絡まれたさくらを助けてくれた時もそうだ。
 そして、殺人事件に巻き込まれた“振り”をしていたさくらを、勇気づけた時も……。
 あるいは、さくらが犯した罪を全て暴いた時の金田一も、それは強い正義感が成した行動だったのだろう。

 ……彼は本当に凄い。
 名探偵と殺人犯でありながら──二人は対立する関係でもなく、むしろ、お互いを少なからず大事に想う友人同士だったと言えよう。
 さくらは、金田一の事が純粋に好きだった。
 教室でいつも明るく笑っているクラスメイト。ちょっと馬鹿にも見えるが、いざという時には優しく、機転が利いて頼りになる男子。
 うちのクラスのみんなを笑わせてくれる太陽のような存在だった。

 本来なら決して巻き込みたくはなかったし、金田一の前で事件の全貌を明かされたくなどなかった。

 ……とはいえ、これが因果応報なのだろう。
 人を殺した報いが、“最も知られたくなかった人に、その罪を暴かれる”という結末だったに違いないのだ。





153一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:39:39 ID:6PYifF5M0



 今、殺し合いの場に来たさくらの手の中には、その時と同じように、刃が握られていた。
 ナイフというにはあまりに大きい。それは、まさしく、刀そのものだった。
 刃渡りは、ギリギリデイパックに入る程度という所で、よくこんな物を持ち歩いていたのだと思ってしまう。
 しかし、結局のところ、さくらにとって、そんな事はどうでも良かった。

 いずれにせよ、死んだはず──決して、一命を取り留めたなどと言う事があるはずなかった──のさくらがこうして生きている限り、あらゆるミステリーが許される状況になっているのかもしれない。
 異常な事が付きつけられているとしても、さくらはもう“正常”など求めない。

「金田一くん……」

 感情がある限り、苦痛は決して止まない。
 心を閉ざす唯一の手段は、死ぬ事だけだ。
 たとえ、一度死んだとしても……やる事は変わらない。

 切っ先を自らの腹部に向けてみた。
 ──あの時と同じように。

「お父さん……お母さん……」

 剣を持つ手は、一瞬止まった。
 ──そうだ。
 さくらは、かつて自分が死ぬ時、もしかしたら、父や母に会えるかもしれないと少し思っていた。
 しかし、それは決して叶わなかった。この殺し合いに巻き込まれたからだ。
 だからか、あの時のように、思い切りがつかなかった。

「──」

 それに、この場には金田一がいる……。
 もし──仮にもし、自分の罪が何らかの形で、彼を巻き込んでしまったというのなら、まずはそう……彼に謝りたい。
 彼は大事な友達だった。恋人には、なる事はできなかったが……。

 昔、さくらが死のうとした時、金田一は真っ先に駆け寄り、必死になっていた。
 力を失っていくさくらの目の前で、金田一が力を振り絞り、声をあげていたのがわかった。
 そして……さくらがゆっくりと目を閉ざした時、金田一の声が死にかけた脳に届いたのだ。

──バカだよ……お前は……──

 これまで、いじめられて罵倒される事はあっても、こんなに優しく、悲しそうな語調が耳に届いた事はなかった。
 彼がどういう意味で言ったのかは、さくらにもわからない。
 しかし──少なくとも、さくらを本心から貶す意味でそんな事を言う人間でないのは、さくらもこれまでで重々理解していた。

「駄目だぁーーーー!!!」

 さくらが手を止めた時、誰か、男の声が響いた。
 はっとしてそちらを見ると、さくらとそう変わらない──といっても、少し年下だろうが──年齢の、妙な恰好をした男の子が慌てて駆け寄って来たのだ。
 その姿に、さくらは思わず、はっと、かつての金田一の姿を重ねた。

「!?」

 彼は、呆然とするさくらの元まで、すぐに近づいていた。
 そして、息を荒げ、さくらを睨むように見つめながら、刀を、強い力で思い切り奪い取ったのだ。
 だが、刀は空中で彼の手を離れ、空を舞って地面に突き刺さった。
 流石に驚いて、さくらは彼の瞳を見た。

 彼の瞳は──真っ赤になっていて、泣いているのだとわかった。





154一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:40:18 ID:6PYifF5M0



 少年──ポップは、決して強い人間ではなかった。
 いや、むしろ、どんな人間よりも弱く、もしかすれば「あさましい」と言えてしまう人間だったかもしれない。
 自分が助かる為ならば仲間を置いて逃げる事だってあった。弱くて、卑怯で、どうしようもないほどに普通の人間だ……。

 しかし、そんな彼も、今は──誰よりも強い心を持つ人間になっていた。

 大事な師や旅で出会った人たち、そして心強い仲間たちと共に、バーン率いる魔王軍と戦ってきたこれまでの道程で、彼は悪に立ち向かう勇気を得た。自分に打ち勝つ正義を得た。
 それどころか、強敵を前にしても、その身一つで一生懸命に戦い続けるほど……強き戦士になった。
 勇気と正義だけは、勇者と──ダイと、並ぶほどである。

 そんな彼も、この凄惨な殺し合いに招かれた時は、すぐに……涙を流した。

 この前にあった出来事が彼にとって強い劣等感を煽る物だったせいもあるが、やはり、クロコダインという大事な仲間を喪った事が決定的だった。
 どれだけ回復呪文(ホイミ)を唱えても……死んだクロコダインには効き目はなかった。
 第一、矢に串刺しにされて死んでいるのだ──どうしようもない。それでも、何度も何度も彼にホイミを唱えた。
 結果、全てが虚しく……クロコダインはここにおらず、ポップはここにいるというわけだ。

「クソッ……間に合わなかった……クロコダインのおっさん……」

 あそこで見せたクロコダインによる反逆。
 それは、まぎれもなく彼の正義が発した強き意志。

 だが、ポップにはそれだけの勇気が無かった。
 仲間を殺されても、立ち上がる事さえできなかったのだ。
 アバンの使徒たちが持つ「アバンのしるし」が光り輝き起きるはずの大破邪呪文……ミナカトールを起こそうとした時もそうだ。
 自分は、クロコダインのように上手にやる事が出来ないのかもしれない。

 そう……。

 あの大破邪呪文を起こそうとしていた時に、ポップはこの殺し合いに招かれたのである。
 しかし、ただ一人、ポップのしるしだけが光らなかった。
 今も、その“お飾り”のしるしは、ポップの手元にある。
 少し前まではアバンという師から受け継いだ誇りだったその石を見つめても、彼の劣等感を煽り続けるだけだった。今にでも捨てたくなる。

 ……自分だけが。

 そう、五人もいて、自分だけが、この石を光らせる事が出来なかった。
 生まれながらの戦士や、勇者ではないポップのぶつかった才能の限界である。
 あの後、ミナカトールの呪文を起こす人間に“欠員”が出来たはずだが──それは一体、どうなってしまったのだろう。
 あの呪文が起こせなければ、何千、何万という人が死んでしまうとヒュンケルは言っていた。
 と、その時、ポップは思い出した。

「そうだ……ダイ……」

 クロコダインの亡骸に駆け寄ったのは、自分ともう一人。
 かけがえのない親友──勇者ダイだ。
 彼も大破邪呪文の為に必要なアバンの使徒の一人である。
 ……よりにもよって、二人も欠員しているわけだ。あの後、マァムやヒュンケルたちは──どうなったのだろう。
 とにかくあの呪文が中断された事に、安心してしまう自分の弱い心を、ポップはすぐに振り払った。

「……ダイ! いるか!? いたら返事してくれ!」

 ポップは、泣きながらも大きく叫んだ。
 しかし、彼の言葉は決して遠くまで響かない。大事な仲間の死の傷跡は思った以上に深く、声を殺して泣くのが精一杯だったのかもしれない。
 まるで喉の中だけで反響しているようだった。むせかえるような喉の痛みと、詰まった鼻では、遠くまで聞こえるほど騒がしく声を張れるわけもない。

「……クソォッ!」

155一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:40:48 ID:6PYifF5M0

 ポップは、この時、一度、座り込んでしまった。
 彼の周りは、一面、紫色の植物に囲まれている。鼻が詰まっていて気にならなかったが、凄く温かい香がした。
 紫の綺麗な植物、この香り……なんという名前なのだろう。

 それで……少し落ち着いてから、ポップは手元にあったデイパックの中身を確認した。
 そう、考えてみれば、この中に入っているものは、今日を生きる糧だ。上手くすれば、意外な使い方をする事で主催打倒の手がかりになるかもしれない。

 少なくとも、どれだけ打ちのめされていようとも、ポップは「正義感」だけは捨てない人間だった。
 こんな時でも、大魔王バーンや、ノストラダムスを倒す事は頭から外していないのである。
 むしろ、それを強く願っていたからこそ、しるしが光らなかった事や、クロコダインが死んだ事にあまりに強いショックを受けていたのだろう。
 ──みんなでやり遂げる、という事が出来なくなったからだ。

「ん? 名簿……?」

 ポップは、この殺し合いに招かれた者の名前が載ったリストを手に取っていた。
 ダイを探す彼の意思が呼応したのかもしれない。
 すると、その名簿には、ダイ以外にも、ポップの知る名前が幾つか載っているのがわかったのだった。

「キルバーン……バーン……ハドラー……だって!?」

 そこにあったのは、今、ダイやポップたちが倒そうとしている者たちの名である。
 大魔王や、かつての魔王が敵になっている。一応、名目上、ポップはダイや彼らと「最後の一人」の座をかけて争っている事になるわけだ。
 ノストラダムスの言葉に乗る気はないが、もしポップが最後の一人を志す場合、実力の時点で大きな壁が出来ている。
 流石に正攻法での勝利は不可能なのは明らかである。
 彼らが同名の別人や偽物でない限りは、ポップの実力の遠く及ばない所にあるだろうし、現状ではポップも負けを認めよう。
 ダイですら、バーンなどとは今、真正面から一対一で戦って勝てるのかは微妙な所であるといっていい。
 だが……それ以上に気になったのは──。

「ノストラダムスは……あいつらより強いってのかよ!」

 そう、あの三人を拉致して連れてくるノストラダムスの実力だ。
 おそらくは、彼らより上にあるといっていい。何らかの魔法や術でも使えば別だが、彼らがそんな物に引っかかるだろうか。
 大魔王を倒すには、クロコダインを含めた何人もの仲間が絶対的に必要だった。

 ……いや、しかし、考えようによってはプラスな部分もある。
 バーンやハドラーがここに連れてこられてきているという事は、元の世界で戦っている者たちも大破邪呪文の中断以上の混乱に見舞われているわけだ。魔王軍も地上侵攻を進める事ができないという事になる。

 それに、ポップの目的は最後の一人になる事ではなく、ノストラダムスを倒す事だ……。
 もし、バーンやハドラーが同じ目的を持っているとするなら──いや。
 ハドラーはともかく、バーンやキルバーンともなると、ポップや弱者は必要とせず、そもそも協力して脱出を寝返るほど対等な関係とはしないかもしれない。

 やはり。
 ポップがすべきは、ダイとの合流だ……。
 仮にバーンたちと出会っても、上手く行くかはわからない以上、うっかり遭遇しない限りは、上手にバーンたちを避けながらダイたちを見つけたい。

(よしっ! ……泣いてても仕方ねえよな。
 今俺がやるのは、大破邪呪文(ミナカトール)を完成させる事じゃなくて、ノストラダムスを倒す事だ!
 それなら、こいつが光らなくたって……これまで通り、ダイと一緒に、勇気で乗り越えればいいんだ!)

 ポップは、そう思って思い切り立ち上がった。
 すると、ポップの視界には、先ほどまで全く見えなかった、“別の参加者”の姿があった。背の高いラベンダーたちに囲まれた場所では、お互いの姿が見えにくかったが、確かにポップはそれを確認した。

 どうやら──ポップより多少年上程度の女性である。

156一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:41:26 ID:6PYifF5M0
 そして──彼女は、その手に剣を持ち、今にも自分の身体に突き刺そうとしているのである。
 あれは……。

「!?」

 ポップは、飛び上がりそうなほど驚愕した。
 苦しんで死ぬより、自らの手で命を絶とうとしたのだろうか。そう、まさにその瞬間である。──刃を自らに向けるなど。
 しかし、その少女の命がこのまま尽きるのを、ポップは強く嫌悪した。

 頭の中に浮かぶのは、やはり……。
 やはり……。

(おっさん……!!)

 クロコダインが──大事な仲間が死ぬ姿が、脳をちらついて、離れなかった。
 ポップは、止んだはずの涙を再び流し、奥歯を噛みしめた。
 いつか──そう、いつか、幼い日に両親に問うた、答え難い質問と、その答えを彼は不意に思い出した。

──どうして……──

 誰かが死ぬというのは、どういう事か。
 誰かが生きると言うのは、どういう事か。
 そして……目の前に、自ら命を絶とうとする人間がいたら、ポップは──どうすればいいのか。
 今度は、彼が泣いたまま発した叫びも、遠く響いた。

「駄目だぁーーーー!!!」

 彼は、少女の自殺を止める為に、駆け出したのだ。
 それは勇者の証や意志などではなく、彼の根っこの部分が脊髄反射を起こしたゆえの行動と言い換えても良かった。







──どうしても人は死んじゃうの!? どうしてずっと生きていられないの!?──







 そして、時間は、“現在”に戻った。

 五十メートルほどの距離を、ラベンダーをかき分けながら疾走したポップは、肩で息をしていた。
 この程度の距離では、普通はそうそう息が切れる事もない。
 しかし、泣きながら──嗚咽とともに、必死でもがくようにして、彼は、和泉さくらが死のうとするのを止めたのだった。
 さくらも、直前には躊躇していたので、結果的にはそれは無意味だったかのように思える行為だったが、実際のところ、ポップ自身が大事な事に気づくのに、大きく意味のある瞬間だった。
 遠い日の夜の事が頭に浮かぶなど……。

「──どういう理由が……あんのかは……知らないけどさ……、今……こうしてわけのわからない状況で怖いのかもしれないけど……!」

 さくらは、呆然と、彼の姿を見つめていた。
 何故か、それが、金田一少年の言いそうな事に思えたからだ。
 はっとして、目を大きく開いているさくらの顔面に、ポップは、自分が今──この殺し合いにいる誰よりも強く思っている感情を叩きつけた。

「──だけど、自分から死んじゃ駄目だ!」

 目をぎゅっとつぶり、肘で両目を擦ってから、ポップは言った。

157一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:43:26 ID:6PYifF5M0
 その手の中──拳は、固く閉ざされている。何か、強い想いが、彼の拳を強く握らせていた。

「……俺の……俺の仲間だって……クロコダインだって……死にたくなかったはずなのに……あいつらに殺されちまったんだよ……!
 なのに、……なのに……、生きてる奴が、自分から命を捨てようなんて、絶対変だ……! 俺は認めねえ……!」

 唖然とするさくらを余所に、ポップは続ける。
 さくらも、彼の知り合いが──あの広間で殺されたピンクのワニ男だったのだと悟った。
 あれは作り物のようにしか見えなかったが、しかし、ポップの表情や言葉は偽物ではなかったし、さくらの思考は混乱を極めたようである。

「どうして!? どうして自分から命を捨てちまおうとするんだ!」

 ポップは激しい語調で問うた。
 何故か、その言葉がさくらの胸には、鋭利な刃物のように深く突き刺さる。
 どこの誰ともわからない人間の言葉であるが、他人のような気はしなかった。
 まるで、目の前に金田一がいるような気分だった。

「……君は?」
「そんな事どうだっていいだろ! わけを話してくれよ……!」

 ポップの息が整い始めた。
 ここでさくらの声を初めて聞いてから、今、自分は会話をしているのだという事に気づいたのだろう、息は整っていくのではなく、整わされ始めた。
 ポップは少し、頭の中で考えをまとめる。……あまり上手に纏まったわけではないが、ポップは落ち着いて、言った。

「俺は……俺は、みんな一緒に生きて、こんな所から脱出したいんだ……。だから、誰にも死なないでほしい……」

 さくらの瞳は曇ったまま、ポップの方を見つめていた。
 彼が誰なのかはよくわからない。……いや、彼は今、名乗る事さえも拒んだ。
 ただ単に、自殺という行為への怒りが彼を突き動かしていたのである。だから、もう一度冷静に名前を聞けば、答えてくれるかもしれない。
 だが、そんな事は、今はいい。
 彼は、そんな事よりも、さくらが死のうとした理由を知りたいらしかった。

「……」

 さくらも少し悩んだ。
 相手は初対面の人間だ。何かを打ち明けるには抵抗がいる。ましてや、それは、本来、あまり他者に向かって話す事でもなかった。
 しかし……。
 初対面の人間だからこそ、容易く打ち明けられる事というのもある。
 さくらが犯した罪とは、全く無縁な少年だ。

「……あたし、人を殺したの……」

 呟くように、俯いてそう言ったさくらに、ポップは驚いたようだった。
 殺し合いが始まって、まだそう時間は経過していなかったが……まさか、と。
 しかし、そんな様子を察してか、さくらは首を振った。

「……ううん……ここに来てからじゃないわ。ここに来る前の話よ。
 お父さんの命を奪った奴らを二人、この手で殺したの……」

 ポップは、饒舌にさくらに言葉を投げかけていたはずの口を噤んだ。
 何も言われず、ポップが少し恐れているように見えたさくらは、却って気が楽になった。
 まるで置物を相手に話しているようで、──あまり気がねする必要が無い。

「……でもね、その人たちを殺したその時思ったの。
 お父さんたちとの思い出は……私自身が、穢してしまったんだって……」

 ポップの目は、殺人を犯した人間を見る目ではなかった。
 普通の人を見て、人を殺した事のない普通の人の悩みを聞いているような気持ちになっていた。
 結局は、ノストラダムスもさくらも同じ殺人者に分類されるかもしれないが、彼女だけは除外しても良いような気持ちになる。

「あなたが誰だかはわからないけど……もし、本当に脱出したいなら、私を仲間に入れない方がいいかもしれない……」

158一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:48:53 ID:6PYifF5M0

 ごくり、とポップは唾を飲み込んだ。
 さくらの重い言葉は、まるでポップの心臓を締め付けていくようだ。
 しかし、意を決して、彼は言った。

「でも……でも俺、よくわかんねえけど、──人を殺すのも悪い事だけど、自分の命を捨てるのも同じくらい悪い事だろ?
 ……それに、罪の意識ってやつを感じるなら、あんた、やっぱり悪い人じゃねえよ! ……死んじゃったら勿体ねえよ」

 今度は上手く言葉が纏まるかわからず、少し手探りになった。
 ポップには人を殺した経験などないし、それを踏まえて相手に納得のいく言葉をかけられるのかは全くわかなかった。
 ただ一つだけ。──やはり、それでも、自ら死ぬのは間違っているという意見だけは変わらなかった。

「それに、やっぱり……償う方法が死ぬしかないなんて事はないはずだぜ!
 だって、そうだろ……? 今からやり直しちゃいけないなんて、誰が決めたんだよ!」

 そして──まるで紡ぐように出たその一言が、何か、さくらをはっとさせた。
 やり直す──その言葉が、さくらの中で引っかかったのだ。
 そんな言葉をいつか、語りかけられたような……そんな気もした。

「え……?」

 そんなさくらにも気づかぬまま、ポップは続けた。
 今ポップが口にしているのは、さくらを説得する言葉というより、彼自身の願望と言った方が近かった。
 しかし、それが却ってさくらの心を揺さぶったのかもしれない。

「だって……人は必ずいつか死ぬんだ。──だから、一生懸命、生きてるんだ!
 あんただって、最後の時が来るまで、一生懸命生きて、今からだってやり直せばいいじゃないかよ!
 俺、もう誰にもクロコダインみたいに死んで欲しくないんだ……! どんな人間にだって、あがいてもがいて、一瞬でも長く生きてほしいんだ……。
 そいつが……そいつが、俺たち人間の、一番の強さだって、思ってるから……」

 クロコダインと言う仲間の死を受けたばかりだからこそ……彼は、ひたむきにそう言い続けたのだろう。もう、目の前で誰かが死ぬのを見たくは無かった。
 そして、生きている誰かが、大事な命を捨てて行くのも……。
 目を丸めたまま、さくらは、彼に訊いた。

「きみ、名前は……?」
「……俺は、ポップ。あんたは?」
「和泉、さくら……」

 苗字と名前の概念は殆どなかったが、何となくどこが名前かはポップにもわかった。
 とにかく、さくらが唖然としているのはポップにもよくわかる。
 初対面の人間をこれだけ強く説得したのだ。──誰だって少しは驚くだろう。

「……イズミ・サクラ、か。なら、サクラ……一緒に脱出したいなら、絶対大丈夫だぜ! 俺の仲間もきっと、サクラの事をわかってくれる。
 ダイっていってさ……凄く良い奴なんだぜ! まあ、俺と違って、あいつは女の子の事には、鈍感だけど……」

 それから、ポップはもう少し元気で前向きな気持ちでさくらに語りかけた。
 さくらが少しでも心を開いてくれたと思ったからだ。それはポップにとっても純粋に喜ばしい事だった。
 少なくとも、今ここで命を絶つ事はないだろうし、少しはポップの言葉を胸にしまってくれたような気がする。
 ふと、知り合いの話題で、ポップも気になる事があった。

「そうだ、サクラは……?」
「え?」
「サクラは、ここに知り合いが来てたりしないのか?」

 そう問われて、さくらは、少しだけ躊躇してから、金田一の名前を告げた。
 考えてみれば、脱出したい人間にとって、金田一はきっと、最大のブレインになる。
 彼は頭が良いだけではなく、正義感も誰よりも強い──ポップとは、きっと仲良くやれるのではないかと思った。
 さくらも、ポップに悪印象は全く無い。彼が純粋に脱出したいというのが、さくらにも伝わったのだ。

159一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:49:22 ID:6PYifF5M0

「……金田一くん、っていう友達がいるわ」
「キンダイチ? ……それって、確か、ノストラダムスの正体を暴くとか言ってた奴じゃねえか! 詳しく教えてくれよ!」

 やはり、船の一室で金田一が啖呵を切ったのは間違いないらしいと、さくらは知る事になった。

 金田一は、やはりあの時も……名探偵だったのだ。
 そんな彼に想いを馳せながら、さくらは一度、ポップとちゃんと話してみる事を決めた。



【1日目 深夜】
【B-2 蒲生の屋敷・ラベンダー畑】

【和泉さくら@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康、恐怖と震え
[装備]:神刀滅却@サクラ大戦
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本行動方針:?????
0:ポップと話す。
1:金田一くんに会いたいような、会いたくないような…。
2:自分は生きていて良いのだろうか?
[備考]
※参戦時期は死亡後。
 金田一の説得は、「バカだよ……お前は……」まで聞き取ったようです。
※金田一と同じクラスだったので、小田切進の事は知っているはずですが、現在のところ特に意識はしていないようです。

【ポップ@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
[状態]:健康、悲しみ
[装備]:アバンのしるし@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:打倒ノストラダムス。 誰にも死んでほしくない。
0:サクラと話す。特に、キンダイチという人間の事が気になる。
1:ダイを探し、一緒にノストラダムスを倒す。
2:バーン、キルバーンを警戒。ただし、ハドラーは…。
[備考]
※参戦時期は26巻「大破邪呪文の危機…!!!」終了後。
 その為、アバンのしるしを光らせる事が出来ていません。


【支給品紹介】

【神刀滅却@サクラ大戦】
和泉さくらに支給。
「二剣二刀」の一つであり、帝国華撃団総司令・米田一基中将が持つ、霊力を帯びた直刀。
所持者を正しい方向へと導く力を授けられると言われる。
後に大神一郎に託され、「二剣二刀の儀」に使われた。

【アバンのしるし(勇気)@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
ポップの所持品(ただし支給品枠1減)。
アバンに教えを受けた「アバンの使徒」たちだけが卒業証書代わりに持つ石。
輝聖石という特殊な石で作られており、敵から受けるダメージを軽減し、所有者の力を高める事が可能。つまり、強力なおまもりである。
いざという時には、彼らの身を守る魔力を発動するが、確実に生存を約束する物ではない。
五種類あるが、ポップが持っている石は、「勇気」の力に呼応する。

160 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:49:41 ID:6PYifF5M0
投下終了です。

161 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:33:19 ID:B.ilgdx20
投下乙です。

>暁に死して、月に再び黄泉返り。
東方不敗は死亡後からの参戦か…大好きなキャラなのでドモンの説教後で良かったです。
優しくも厳しいおじいちゃんという感じで嬉しいですね。 さくらもハツラツとしていて見ていて元気になります。

>一瞬の花火
こちらは打って変わって和泉の暗い話。バトルロイヤルを地獄と捉えていましたがあながち間違いでも無いですね。
ポップは本当にかっこいなぁ…バーン攻略の方法を知らない時期とはまた大変になりそうですね。

筆が早くておもしろいなんて凄いです。
大変遅くなりましたが、自分も投下します。

162復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:35:28 ID:B.ilgdx20
『このコートは絶対渡さねええええええーーーッ』

――― バッ……バカなッ!

                       『健康な肝臓だわ、とてもいい色』

―――― まさかッ!これはッ!?

『大丈夫ですか? そんなところにうずくまって……』 

――――― オ、オレは何回死ぬんだ!?

             『おじちゃん、オナカ痛いの?』

―――――― オレのそばに近寄るなああーーーーーーーーーーーーッ


『オマエは……ドコへも……向カウコトハナイ………
特ニ……「真実」ニ到達スルコトハ……決シテ!』


-  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -

―――!?

 夢に魘され大量の汗をかいた男が、悪夢から逃げ出すかのように勢いよく飛び起きた。

――ハァーッ……ハァー……ハァー……

 心臓の鼓動が激しく、男は息を整えようと深呼吸している。
 その男はピンク色の髪に派手な革のパンツ、そして上は服とも言えぬ様な紐状の下着のみと、一見すると変態かパンクロッカーの様な服装をしている。
 そんな服装から首にはめられた「鉄の首輪」が妙に似合っているが、実際の男は変態でもパンクロッカーでもなかった。
 その男の名前はディアボロ、かつてイタリアで主に活動しているギャング「パッショーネ」のボスだった男だ。
 自分の正体を隠蔽し続け、ローマひいては世界を裏から牛耳る帝王になろうとしていた男だ。
 そんなディアボロが、状況を理解しようと頭を回転させる。

(……夢、なのか? いや、俺は……また―――『死んだ』のか?)

 ディアボロは、可能性の高いものとして一つの結論を導き出した。
 それは一見すると奇妙だが、ディアボロにとっては当たり前の考えといえた。
 この島に来る前、ディアボロは自分のいる場所や時間などが一切わからないような状態だった。
 なにしろ彼は様々な場所を巡り、死に続けているからだ。
 一見意味不明だが、それはジョルノ・ジョバーナのスタンドによって引き起こされた事象である。
 ディアボロは、彼によって《永遠に「真実」にたどり着くことができない》という状況に陥っているのだ。
 難しい能力だが、ディアボロは《死》という「真実」にたどり着けぬまま、死ぬという運命をたどり続けるということになっている。
 それは下手な死よりも辛い、不死のようなもの――精神が壊れる前にこのバトルロイヤルに呼ばれたことは、むしろ彼にとって幸運だとさえ言えるかも知れない。

(オレは、今度はいったいドコに飛ばされたんだ……?)

163復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:37:13 ID:B.ilgdx20

 ディアボロはすでに何度も死を経験してきているため、急な場面転換は死によるものだと直結して考えてしまう。
 そのためか、あの薄暗い船内とこの島の出来事が延長線上にあるとは思わず、ここは船内とは別の時空間だと思い込んでいる。
 今のディアボロにとって、最も恐ろしい物は不注意による事故だった。

 ディアボロは少しでも死の可能性から遠ざかる為に辺りを見渡す。
 目前に広がるのは広大な海、きつい潮の匂いがディアボロの鼻を刺激している。
 周囲には照明など見当たらず、満天の星空と丸い月だけが辺りを照らしていた。
 ――どうやら今度は砂浜に飛ばされたようだ、とディアボロは自分の状況を把握する。
 とりあえず海岸から遠ざかり、草原を目指すことにする。
 些細な事で死に至る今のディアボロには、海など死の塊以外には見えなかったからだ。
 突然倒壊する恐れのある小屋のようなものから遠ざかることも忘れずに、ディアボロは草原地帯にたどり着いた。

 いくらか気分が落ち着いたところで、ディアボロはようやく体の気持ち悪さに気づく。
 汗だくで倒れていたために全身に砂が付着しており、髪まで砂だらけになっている。
 ディアボロは背負っていた肩掛け型のデイバッグを漁ると、2Lのミネラルウォーターが入っているのを見つけ、惜しみなく使って頭と体の砂を流した。
 その際、ディアボロは飛ばされた先で持ち物を持っていたのは初めてだということに気づいた。
 果たしてこれは自分の持ち物なのか、他の誰かの持ち物なのか、確かめてみる必要がある。
 ミネラルウォーターの時は手探りで漁っただけだが、中身を引っ張り出してみるとその軽さに反して実に色々なものが入っている。
 水や食料だけでなく、ランタンやコンパスなどまるで山にでも入るのかと思うほどだ。
 ディアボロは明らかに自分のものではないが丁度良い、とランタンに火を灯して手を翳す。
 季節がわからないとはいえ、深夜の水浴びは流石に少し体が冷えた。
 船中の出来事とこの島を完全に切り離して考えているディアボロは、自分以外の人間がこの場に居ること―――まして殺し合いをしていることなど、考えてもいなかった。

◆   ◆   ◆

 体を乾かしながら、ディアボロは疑問を抱き始めた。
 今までは目を覚ました瞬間にすぐに死が訪れていたが、今回は長く生き延びられているし、周囲に死を感じさせる物も今のところ見当たらない。
 誂えたかのように準備のいい荷物を持っていたりと、今回だけやけに毛色が異なっている。

(まさか……ジョルノのゴールド・E・レクイエムの能力が消えたのか?)

 ゴールド・E・レクイエムに果たして有効範囲やジョルノの死による効果の消滅があるかは分からないが、開放されてこの島に流れ着いたと考えれば辻褄が合う。
 このバッグも漂流されている間に絡みついたのかもしれない、賞味期限など気にしている場合ではないが一応食料や水は口に入れないほうがいいだろう。
 まずはどうにかしてローマに戻らなくては、とディアボロが腰をあげようとした時―――背後から低い男の声が聞こえた。

164復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:38:25 ID:B.ilgdx20
「この少年についてなにか知っていることはないか?」

 ディアボロが背後からの声にビクッと驚きつつも振り返ると、そこには黒い革ジャンにサングラスの筋骨隆々な厳つい男が立っていた。
 その手には名簿を持っていて、ある一点を指差してディアボロに近づいて来る。
 レクイエムが消えたことは可能性として考えてはいるものの、勘違いで死んではたまらない、ディアボロは男に静止を呼びかけた。

「待て! それ以上近寄るんじゃあないッ! 聞きたいことがあるならその位置からにしろッ!」
「わかった。 俺は人を殺すつもりはない。
 ただ、“ジョン・コナー”という少年についての情報が欲しいだけだ」

 そう言って、男は名簿をランタンの光のもとへ投げ渡した。
 そこには“参加者名簿”と書かれていて、名前の数々が羅列されている。
 確かさっきの荷物にも入っていたな、とディアボロは思ったが、構わず男の投げた名簿を手に取る。
 すべて日本語で書かれているが、何故かディアボロは理解することができた。

「……これはなんの名簿だ?」
「このバトルロイヤルとやらの参加者の名簿だ、ノストラダムスという奴が言っていただろう」
「……ノストラダムスだと?」

 その時初めて、ディアボロの脳内で船とこの場所とが結びついた。
 “殺し合い”というワードやピエロ達の死で、すっかり自分もあの場で死んだつもりだったが、どうやら眠らされていただけのようだ。
 ならば、自分たちは『ノストラダムス』という新手のスタンド使いによって集められ、殺し合いを強要されている最中ということになる。
 ―――とすると、どうだろうか? あの船内から眠らされてここまで運ばれたなら、今までの傾向からいって2〜3回は死んでいなければおかしい。
 しかしディアボロはこうしてここにいるし、すぐに死にそうもない。

「ああ、奴はそう名乗っていた。 覚えていないのか?」
「……いや、今、思い出した」
「そうか、なら知っていることがあれば教えてくれ」
「ちなみに聞いておくが、なぜそいつを探しているんだ?」
「大切な存在だ。 守らなければならない」

 男の言葉を聞きながら、ディアボロは参加者名簿に目を落とす。
 『日本語』の五十音に従って並んでいる名前には、確かに男の言っていた“ジョン・コナー”という名前が書かれている。
 しかし、ディアボロはその名前よりも一つ上に書かれた文字に釘付けになった。

165復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:40:21 ID:B.ilgdx20
(―――――――ジョルノ・ジョバーナッ!!!)

 なぜコイツの名前がここにあるのか?
 認めたくはないが、ディアボロはゴールド・E・レクイエムの能力はかなり強力だと身を持って知っている。
 奴の能力に囚われてからは情報を得る機会など無く、その後の動向を知ることはできなかったが、あれから弱くなったということは考えられない。
 それならば、『ノストラダムス』という奴はジョルノのゴールド・E・レクイエムを超えるスタンドを持っている事になるのだろうか。
 もしかすると本当にゴールド・E・レクイエムの能力が消え去っているのかも知れないが、同時にジョルノを上回るスタンド使いにディアボロはほんの少しばかり恐怖を抱いた。
 名簿を見て動揺しているディアボロに、男は無表情のまま聞いてくる。

「――なにか思い出したか?」
「……いや、そいつについては何も知らん」
「そうか、邪魔をしたな」

 そういうと、男はニッカリと笑う。
 口角は上がっているが、目が笑っておらず不気味な笑みだ。
 男は、言葉と笑顔をディアボロが受け取ったことを確認し、そのまま赤い塔の見える方向へ去っていこうとする。
 その後ろ姿をみて、ディアボロに一つの考えを巡らせた。

「待て。 オレもおまえに聞きたいことがある」
「……なんだ」
「おまえも、スタンド使いか?」
「……電気スタンドのことなら俺は使わないが、ランタンが欲しいならやってもいいぞ」
「いや、必要ない……そうだな、最後におまえの名前を聞いておきたい」

 ディアボロには、今の言葉がハッタリの類には思えなかった。
 ジョルノ、自分とスタンド使いが集められているのだから、この男やジョン・コナーとやらもスタンド使いかと考えたが、この男は違ったようだ。
 ディアボロは、ジョルノの能力が消えた可能性がある今、この男でキング・クリムゾンの能力を試してみようと考えた。
 今はゴールド・E・レクイエムの能力によって、時間を消し去ったという「真実」にたどり着けなくなっている。
 もし、キング・クリムゾンが使えたならば、完全に開放されたといえるだろう。
 この男がスタンド使いなら、不用意にスタンド像(ビジョン)を晒すのは危険だったが、そうでないなら存分に試すことができる。
 ディアボロは男が油断した隙を狙い、奇襲をかける算段を企てる。

「名前か……名簿に載っている名前で言うなら、T-800というのが俺の名前だ」

 そう言いながら男が名簿に目を落とした瞬間――― 

「『キング・クリムゾン』!!」

 ディアボロはキング・クリムゾンを発動させた。
 そのままの勢いで、キング・クリムゾンはT-800の顔面を殴り飛ばす。
 妙に固く感じたが、久しぶり故に力が安定していないのだろうと当たりをつけた。
 衝撃でT-800の体は5mほど吹き飛ぶ、普通の人間ならもう生きてはいないだろう。
 だが、問題はここからである、ゴールド・E・レクイエムの能力の影響下であれば、ここから時間が逆行し何もなかったことになってしまうが――――

166復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:42:54 ID:B.ilgdx20

「時間が……逆行しないッ! フ、フハハハハハハハハハハッ!!
 ついに……ついに打ち勝ったぞッ! ゴールド・E・レクイエムにッ!」

 ディアボロの予想は当たり、キング・クリムゾンは時間を消し飛ばした。
 消し去ったのはたったの5秒ほどではあるが、これによって完全にディアボロの不安材料は無くなったのだ。
 ディアボロはこの時、真の復活を遂げたことを感じた。

「さて……T-800といったか、不思議な名だが……
 おまえの名は覚えておくぞ。 このディアボロの復活の生け贄としてな」

 そう言ってディアボロは、T-800の死体の元へ近づいていく。
 ディアボロは自身のキング・クリムゾンに絶対的な自身を持っていた。
 久しぶりとはいえ頭から上を吹き飛ばす程の威力で殴ったのだ、生きているはずもない。
 ―――そう、人間があの威力のパンチを食らって生きているはずがなかった。
 しかし今、ディアボロの腕にT-800を殴った時の違和感が蘇る。
 重く、硬い―――まるで金属を殴っているようで、結局頭は吹き飛ばずに奴は体ごと飛んでいった。
 もしや……と、ディアボロは最悪のケースを考えている。
 倒れているT-800の腕は、偶然なのか必然なのかデイバッグの中に入っている。
 ディアボロは細心の注意を払い、エピタフで予知してからT-800に近づく。
 なぜだかエピタフもキング・クリムゾン同様、5秒程度の未来しか見ることができない。

 5秒後の未来では、奴は動いていない。 予知を見ながら、ディアボロは近づいていく。
 T-800まで…………4m。

 ………3m。

 ……2m―――――!?

 その時、5秒先の未来で確かに、T-800が起き上がりデイバッグから出したボウガンをディアボロに向けて放っていた。

「な、なにッ! やはりコイツ……生きていたのかッ! 『キング・クリムゾン』ッ!!」

 迷わずディアボロは時を消し飛ばす。
 放たれたボウガンの矢を軽く避け、ディアボロはT-800に接近する。

「フンッ! 死んだフリなどと浅い知恵を働かせたようだが、このキング・クリムゾンの前にはカスの様なものよッ!」

 ディアボロはデイバッグの中から支給品の中にあったオレンジジュースを取り出し、T-800の顔面にぶち撒けた。

「これでおまえは再び時が刻み始めても目が曇って何も見えんッ!」

 キング・クリムゾンの時間跳躍が解ける。
 しかし、ディアボロはもう既にT-800の真横まで迫っていた。

「終わりだ、くらえッ!」

167復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:46:51 ID:B.ilgdx20

 スタンド使いでない相手にキング・クリムゾンのパンチは避けられまい。
 ディアボロは勝利を確信した、しかし―――――ガシィッ!!
 T-800の左手は迫り来るキング・クリムゾンの拳を受け止めていた。

「バ、バカなッ!? おまえ、なぜキング・クリムゾンをッ!」

 ディアボロは驚愕をあらわにする。
 T-800は時を飛ばしたというのに素早く対応し、目潰しを物ともせずにスタンドを掴んでみせた。
 スタンドが見えている事はあの発言がハッタリだったで済むことだが、生身でスタンドを掴むなどあり得ないことだ。
 その時、T-800の頭部の最初に殴った部分が捲れ、中身の銀色が少し見えた。

(コイツ……まさかコイツ自身が自立型のスタンドッ!?)

 ディアボロは実際に見たことは無いが、部下のうちのポルポという男が自立型のスタンドを持っているという話を聞いた覚えがあった。
 だが、T-800の首には自分と同じような首輪が見える。 スタンド事態が参加者などというのはありえるのだろうか?
 大方、コイツの言っていたジョン・コナーというやつがスタンドの主なのだろう。
 コイツがスタンドというなら先ほどの名前にも納得がいくが、同時にT-1000という名前も思い出しフクザツな気分になる。
 まさか同じ人間が2体スタンドを持っているのか? もしもT-800と似たようなスタンドなら見た目で判断できない分やっかいだ。

「貴様を敵だと判断した―――排除する」

 ――T-800は立ち上がり、そのままキング・クリムゾンの拳を万力の如き力で握り潰そうと試みる。
 それと同時に、右手で器用にボウガンの矢を装填し、キング・クリムゾンへ向けて発射する。
 今、キング・クリムゾンの右腕を拘束されているため、殴り飛ばす様な大きな動作ができない。
 ディアボロは、キング・クリムゾンの左腕を射線上に出してガードする。

「―――ぐぅ! な、何ィッ!?」

 ボウガンの矢は、キング・クリムゾンの腕に弾かれずに突き刺さった。
 ディアボロは自分の目を疑った、ボウガンは支給品だということは確認したはずである。
 ジョルノのようにスタンドで創りだしたものでも無く、本来ならキング・クリムゾンを傷つけることなどできるわけもない代物だ。 
 しかし、実際はキング・クリムゾンの左腕には矢が深々と突き刺さっており、自分の腕にも激痛が走っている。

(スタンドに物理攻撃が効いてるッ!!?)

 T-800はディアボロではなく、キング・クリムゾンを優先的に狙っていた。
 キング・クリムゾンの時間飛ばしを認識ミスだと判断していた為である。
 おそらくディアボロの支給品のロボットか何かだと当たりをつけ、電磁波か何かで認識を狂わせているものだと考えている。
 実際はピンポイントでT-800だけに効果がありそうな機能などありえないのだが、時間を消し飛ばすなどT-800からは考えられない超常能力だ。
 確かに5秒ほどの間認識ができず、時間が飛んだかのような違和感を覚えたがメモリにはきちんと映像記録が残っている。
 映像の中でT-800は直前のプログラムに則って動き、状況の変化を認識できていなかった。
 それ故にT-800は認識阻害だと判断したのだ。
 意識が戻った時、即座にセンサーが左側のディアボロを感知していなかったら、T-800はパンチに気づくことはできなかっただろう。
 一々映像記録を確認して何が起こっていたのか確認していては、対応が追いつかない。
 ならば、脅威はディアボロではなくキング・クリムゾンの方だという結論に至った。

168復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:52:45 ID:B.ilgdx20
「――ぬぐぅ!ぐ、ぐあああああああああああ」

 T-800はそのままキング・クリムゾンの拳を潰し、右手のボウガンを捨ててキング・クリムゾンの右腕を叩き折った。
 キング・クリムゾンが傷つくたびにうめき声を上げるディアボロ。
 ディアボロの右腕は折れ曲がっており、手からも血が流れていた。

「このッ……タンカスがァッ! よくも、やってくれたなッ!!
 このディアボロの腕をッ!――もう容赦せんぞッ!!

 ―――――『キング・クリムゾン』ッ!!! 」

 キング・クリムゾンの能力が発動し、時は再びディアボロの支配下に入った。
 もうディアボロに油断はない。
 T-800の左腕を殴り、右手を開放させる。

「人間に化けるだけのカス能力がッ!
 我がキング・クリムゾンを倒そうなどという幻想を見たことを後悔するがいいッ!」

 キング・クリムゾンの左拳がT-800の腹に突き刺さる。
 貫通した拳に、機械じみた配線のコードが大量に絡みついている。

「最もおまえには後悔する時間など与えんがなァッ!
 おまえは自分が死んだことにすら気づかずに死んでいくのだッ!」

 ディアボロは左腕を突き刺したまま、壊れた右拳で痛みに構わずT-800の顔面を殴り付ける。
 T-800の顔の皮が剥がれ、ロボットのようなメタリックな内側が剥き出しになる。

「それがおまえの本来の姿かッ! 
 とどめだッ! そのまま死ねェーーーーーーーッ!!!」

 最後にディアボロはT-800の心臓部に貫手のように左手を突き刺した。
 ―――そして、時は再び刻み始める。

「ハァーー……ハァー、ハァー……」

 ディアボロは用心を重ねて距離をとったが、T-800はさすがに起きる気配はない。
 怪しく赤い光を灯していた瞳にも、もう光は無くなっていた。

「復活の、祝杯にしては、高くついたが……
 頂点に立つのは我がキング・クリムゾン……このディアボロだッ!」

 首輪やデイバッグの回収も忘れて、ディアボロはその場を立ち去る。
 このまま海沿いに南西の方角へ行けば、診療所があるはずだ。
 一刻も早く治療し、体を休めなければならない。

「クソッ! 忌々しい自立型スタンドめ!
 ジョルノを始末した後は、ジョン・コナーとT-1000とやらも必ずブチのめしてやるッ!」

169復活の帝王 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:55:07 ID:B.ilgdx20

 ディアボロは憎悪を滾らせ、診療所への道を急ぐ。
 ―――――だが、ディアボロは気づいていなかった。
 
 T-800がスタンドではなく、サイボーグであるということに。
 T-800がスタンドであれば、死んだ瞬間には消えていなければおかしいということに。

 ディアボロは知らなかった。
 T-800は腹と心臓をブチ抜いただけでは死なないということを。
 T-800が、かつて下半身が千切れた状態でサラ・コナーを追い詰めた存在であることを。

 そして、今の攻防によってプログラムに異常をきたしたT-800がサラ・コナーを殺すために1984年にやってきた、あの化物に戻りかけている事を。
 ディアボロは――――まだ、知らない。



【C-5 草原・1日目 深夜】

【ディアボロ@ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の風】
[状態]:疲労(中)、右拳・右腕骨折、左腕に矢傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(ミネラルウォーター1本消費)、不明支給品0〜2、オレンジジュース@鳥人戦隊ジェットマン
[思考]
基本行動方針:ジョルノ・ジョバーナ、ノストラダムスのような強いスタンド使いを倒し、真の帝王として絶頂であり続ける。
     1:早く移動して腕を治療しなければ……ッ!
     2:ジョルノ・ジョバーナを始末する。
     3:ジョン・コナー、T-1000も始末する。
     4:傷が癒えるまでは、他の参加者と手を組むのもアリか……?
[備考]
※キング・クリムゾンによる時間跳躍及びエピタフによる未来視は5秒程度に制限されています。
※このバトルロイヤルにいるものは全てスタンド使いだと思い込んでいます。
※ポルナレフのシルバー・チャリオッツ・レクイエムによって死亡したため、ドッピオにはなれません。

【T-800@ターミネーター2】
[状態]:一時機能停止、腹部・左胸部が大破、顔の皮が無い、プログラムに異常
[装備]:ボウガンの矢×4
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜2、ボウガン@ケイゾク
[思考]
基本行動方針:ジョン・コナーを守る→人類、ならびに指導者のジョン・コナーを排除する。
     1:……………。
[備考]
※参戦時期は少なくともジョンとハイタッチの遊びをした後です。
※過度なダメージとジハンキジゲンのオレンジジュースによって深層に眠っていたプログラムが蘇ろうとしています。
※再び起動するまで時間がかかります。 起動前にチップを抜き差ししなければプログラムの目的が人類の殲滅に変わります。
※ボウガンはT-800の脇に転がっています。

【支給品説明】

【オレンジジュース@鳥人戦隊ジェットマン】
ジハンキジゲンのオレンジジュース。 飲むと心の奥底に隠れていた感情や性格が出てきてしまう。
人外にも有効。 通常はランダムに切り替わり、一定時間経つと解除される。
※T-800には内部へ浸透したことや頭部へのダメージによって効果が変化しています。

【ボウガン@ケイゾク】
真山徹のボウガン、矢は全部で6本支給。

170 ◆vBmg.f7Zg.:2015/11/03(火) 02:56:10 ID:B.ilgdx20
投下終了です。

171名無しさん:2015/11/03(火) 03:27:44 ID:eQOuJDds0
投下お疲れ様です。
スタンド使いとターミネーターは惹かれ合う…?
というくらいにスタンド使いとターミネーターとのバトルが多い今ロワですが、頼もしい仲間のはずのT-800に物凄く不穏な展開の匂いが…
ディアボロは戸愚呂兄と同じループからの救済参戦
まさか自分の肉体持ってる奴がいるとは思わんだろうに…
もしブチャラティと会ったら、自分の肉体を傷つけるのか、少しはためらうのか…

172 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:20:40 ID:XkQeIA9c0
投下します。

173これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:21:29 ID:XkQeIA9c0



「はぁ……はぁ……」

 微かな潮の香りは、埃塗れの冷たい空気が鼻孔へと運んでいった。それを少しずつ摘まむように吸い込みながら、荒ぶる息を必死に押し殺す者がいる。
 空の蒼茫を塗したような青いチャイナドレスを纏った、齢二十に届くか届かないかの美女である。女性としてはやや高い身長とスタイルは、整った容姿と合わせて、さながらモデルのようであったが、彼女が選んだ道は、その美貌を売る道ではなく、その格闘の才能を発揮する道であった。

 この美女──春麗は、インターポールの捜査官なのである。
 中国拳法を極め、その実力は並み居る屈強な男性職員が、手加減抜きで挑んでも誰も敵わぬほどだった。一目見ただけならば華奢にも見えるが、脚部──特に大腿部──を見る機会があれば、いかに彼女が鍛え上げられた肉体をしているのかは判然とするだろう。
 彼女は、足技の達人であった。長い足から放たれるキックは猛獣すらも昏倒させるほどだ。腕も華奢には見えるが、これもやはり体重を軽々支えるほどの筋組織が、細い腕の中に綺麗に収まっているというだけだった。

 しかし、そんな彼女も、今回は普段と違って、能動的に事件に首を突っ込むわけでもなく、事件の方に招かれてしまった為、些か状況判断が遅れたらしい。
 いきなり、変な仮面の娘の襲撃に遭い、こうして倉庫群の間をすり抜け、無様にも逃げ回った結果、その中の一つに姿を隠したわけである。
 生半可な不意打ちならば返り討ちにも出来たはずが、相手も相当の格闘の達人であったらしく、おまけに春麗のよく知った武器を装備していた。
 それから先は、何の面白味もない防戦一方という状態で、何とか逃げおおせたものの、袖ごと破れた左腕の外皮からは、既に鮮血が流れ落ちている。春麗は、そんな左手を抑え、流血が床に痕跡を残すのを避けながら、一時休息している訳だった。

「はぁ……はぁ……」

 彼女自身、わけもわからぬまま飛び込んだこの倉庫群の一角。
 大麻のシンジゲートを追っていた春麗にとっては、こんな港を張りこむ時間は警察署の机に向かう時間よりも長い程お馴染みの場所だ。
 大凡、どの辺りにどういった物資が並べられているのかは察しが付く。
 ここに逃げ込めば、後は視界に入る物を巧みに利用して、追跡者の攻撃を撒く事も出来るかもしれない。
 ……尤も、背中に襲撃者の視線を残したままここへ逃げ込んだわけではないし、春麗も一時の休息を得る為にここへ入りこんだに過ぎない。
 左の二の腕あたりを見下ろすが、怪我はさほど深手でもない。これまでの戦いでも負うのも珍しくないような傷口である。しかしながら、敵の実力を見るに、今の状態では春麗の分が悪いと見えた。

「……はぁ……はあ……」

 そっと、音を殺すようにゆっくりとデイパックのファスナーに手をかけ、中の物を取りだしていく。必要なのは、灯や地図や名簿などではない。
 目当ての物──ペットボトルを掴み取ると、キャップを回す。そこからは、少し乱雑に左腕にさらさらと中の水を塗した。消毒薬も包帯もないが、血液を垂らしたままというのも気が引けたのだろう。

(何もないよりは……ちょっとマシよね)

 止血できるような物を探した所、出て来たのは女性用のパンティストッキングである。こんな物を一つの武器として支給した意図は春麗にも理解しかねたが、とにかく、今は止血という用途において、意外にも活躍しうる状況になっている。
 春麗は、それを少し引きちぎり、左腕に巻いて、口で端を加えながら結んだ。少々恥ずかしい気持ちになったが、案外、それを腕に巻いた外見は大きな違和感もなく、怪我を止血する布として、却って本来の用途が判然とし難くなっていた。
 それから、春麗はこのパンティストッキング以外に何らかの装備が無いかとデイパックを探る。
 そう……敵は既に、武器を装備していたのである。

(あのマスク……確か、シャドルーの幹部──バルログが身に着けていた物と同じだわ。
 もしかして、あんなのが流行ってるのかしら? それとも……)

 彼女を襲撃した人物は、春麗同様に中華民族衣装を纏った娘のようだったが、その相貌は両目の位置だけを細く繰り抜いたその白面に隠されていた。そして、右腕に装着されたサーベルタイガーのような鉤爪。──あれは、憎き犯罪組織シャドルーの幹部・バルログが愛用している物と全く同じであった。

174これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:22:00 ID:XkQeIA9c0
 故に、パンストの下に隠れた春麗の左腕の傷口も、三本の縦線型のひっかき傷だった。
 あれを早速もって見事使いこなし、春麗を翻弄したのだから、あの襲撃者は、武具の使用に慣れているか、あるいは余程順応性が高い人間であると言えよう。
 春麗は、考えながらも自分のデイパックから、武器を取り出した。

(……こんな状況だもの。こっちも得意なモノで対抗させてもらわないとね)

 春麗の手で、カチャリと音が鳴る。
 先ほどは一時撤退させて貰ったが、捜査官としての誇りと正義感は、あの手の危険人物を野放しにして、自分だけ平然と逃げのびるのを許してはくれなかった。
 格闘で真っ向から勝負させて貰えるシチュエーションではない今、一介の捜査官として、使用できる武器は懐に入れさせてもらう事にしよう。
 射撃が得意な春麗も、支給された、このオートマチック式拳銃“グロック17”を上手く扱えるかは微妙であるし──相手によってはリュウたちのように易々と弾丸を避けてしまうかもしれないが、ひとまずそこに弾薬を込める音を聞くとともに、彼女の中には覚悟の意思が溢れたのだった。
 まさに──この倉庫群の光景など、シャドルーを追いかける仕事をしている時の自分ではないか。
 鋭利な武器を持った敵と、少し対等な状況になった気がした。

「よしっ……」

 軽く自分の気持ちを奮い立たせるように言った。
 それから、大量に積み重ねられた麻袋の影を、春麗は屈む事さえなく進んだ。
 敵もまだ倉庫内への侵入は果たしていないであろう今、本来ならば警戒する必要があるはずなのだが、麻袋は所によっては春麗の身長くらいまで高く積まれており、そこまでする必要はないように思った。
 とはいえ、まだあの仮面の娘が付近にいた場合、先に姿を見せるわけにはいかないが……。
 ──などと、考えていた時である。

 この薄暗い倉庫の入り口を、ランタンの小さな灯が倉庫の一角を照らす。無警戒に歩を進める足音がコツコツと響く。
 春麗の目の前では、壁に大きな影が映ったり、映らなかったりしていて、相手のランタンを右へ左へ動かし、何かを探そうとしている仕草を容易に想像させている。

 ──来た!

 仮面の娘は、倉庫の中を順に探索していたのだろう。
 春麗を追う影は思った以上にしつこく春麗を捜索していたらしい。付近に人影がなかった為、一度見つけた獲物を逃がさぬよう心掛けたに違いない。本格的に勝ち残りを目指す場合、敵を泳がす訳にはいかないようだ。
 しかし、春麗の準備は既に万端である。
 最後に、タイミングを見計らって再び麻袋の陰から少しだけ顔を覗かせ、その人物の姿を目に焼き付けた。──そこにあるのは、間違いなく、先ほど春麗を襲った仮面の娘だ。右腕は三本の刃を尖らせ、切っ先には微かな血の痕がまだ残っている。
 恨みは充分。理由も充分。

 そして、先に姿を見せた方が──今は、不利!

「はぁぁぁぁっ!!」

 春麗は、高く声を上げながら飛び上がると、麻袋の真上に右手を置き、跳び箱の上を撥ねるように、両脚でその上を飛び越えた。
 恐るべきはその軟体で、足は綺麗に一本の横線を作るように開いている。いわば真横に果てなく広がった跳び箱の上を飛び上がるような物だ、それくらいの芸当が出来ずしてここから不意打ちを浴びせる事は出来まい。
 力がなかったのなら、とうに逃走の道を選んでいる。

「!?」

 完全に不意を突かれたらしく、仮面の娘が少し遅れて春麗を見上げ、愕然としている。
 仮面の下が美人かどうかはわからないが──その下の目玉を広げた表情を想像して、春麗は勝気に微笑んだ。
 そして、次の瞬間、着地よりも早く、目の前の仮面のど真ん中に、左足を叩きこんだ!

「ぐぅっ……!」

 仮面の真下からの呻くような声が、春麗に手ごたえを与えた。
 それから、春麗は自分の耳に着地音が鳴ると同時──仮面に叩きつけた左足を軸に速度をつけて背中から回転する。
 右足を高く上げ、その踵が仮面の娘の右腕に激しく叩きこまれた。

175これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:22:24 ID:XkQeIA9c0

 ──回し蹴り!

 相手の弱点を二か所、ぶつけたような物だった。
 最初に、顔面。あの白面がいかほどの防御能力を持っているのかはわからないが、ああして密着しているという事は、そこに攻撃を受ければ、当然ながら、盾ごと押しつぶされるような痛手を追う事だろう。
 相手が娘であるのはわかっているので、同じ女として心苦しいところだが、先に仕掛けてきたのは向こうだ。
 次が、攻撃の拠点である右腕。あの鉤爪攻撃を予め封じておく事が出来る一撃。上手くすれば、一撃で骨が砕けるようなキックであるが、そんな手ごたえはなかった。余程頑丈な身体をしていると見える。
 しかし──確かに効果的だった。
 ここからは、攻撃の隙も与えず、更に攻めるのみだ。

「えいッ!」

 よろけている敵に、まるで床を滑らすようにして左足の蹴りを叩きこみ、確実にバランスを崩す。──相手は春麗の奇襲と猛攻に、かなり怯んでいるようであった。
 あまりに一方的にやりすぎて、少しは手加減もしてやろうかと思った矢先、敵は渾身の力で右腕を動かし、その研ぎ澄まされた三本の刃を春麗に向け構えた。
 それが、春麗に思い浮かんだ躊躇を完全に殺した。

「イヤァーーッ!」

 春麗は、そう叫んで、アクロバティックに身体を回転させながら、仮面娘の頭上を飛び上がる。人間の身長を優に超える高さを軽々飛び越える、人間離れした身軽さ──。
 弱った仮面娘の揺れ動く視界が、それに気付けるはずもなかった。
 これで敵に充分すぎるほどの隙が出来たわけだが、あまり激しく痛めつけまくるという程でもない。
 ──しかし、少なくとも、地面には伏してもらう。

「百裂脚!」

 そのまま、敵の真後ろに立った春麗は、片足だけを軸に立ち、恐るべきスピードとバランスで、何発もの蹴りを敵の背中に放った。
 幾つもの脚が、見る者の瞳の中に残像として焼きつけられるほどである。
 ダダダダダダダダダダダダダ……!
 仮面娘の背を、尻を、髪を、何度も叩きつけるキックの連打。
 一瞬で、百に届きかねないほどの蹴りを放つ事もできるが、春麗自身の疲労も大きく、あまり無理に百回の蹴りを叩きこむ必要もなかった。
 その四分の一でも過剰なほどであったが、多少過剰なくらいでなければ犯罪者を捕縛する事は出来ない。──そして、そのボーダーラインが、見事に敵の限界だったようである。

「ぐぁ……っ!」

 仮面娘も、後方からの連撃に耐えられず、あっけなく沈んだ。──春麗の脚が止まる。
 倉庫の床にマスク越しに叩きつけられるように倒れた仮面娘の右腕第二関節を、春麗の右脚が踏みつける。体重は強くはかけなかったが、それでも充分に右腕の自由を奪える力加減であった。
 スチャ、と音を立て、春麗が懐から銃を取り出し、仮面娘の背中に銃口が向けられた。手際は見事である。

「ふぅ、一件落着──『やったぁ!』って、両手を上げて喜びたいところだけど」

 この娘の殺意を春麗は感じ取った。故に、ここまでの行為に容赦はない。
 ──だが、これ以上は、あくまで職務を逸脱しない尋問である。

「くっ……」

 不覚を取り、奇襲とはいえ敗北を喫した仮面娘は、悔しそうな声をあげている。
 じたばたと抵抗を続け、右腕が未だ必死に動かされようとしているのを、春麗の右脚はブーツ越しに感じ取れた。
 どうやら、この娘の殺意は簡単には拭い去れない物らしい。
 一応、事情を訊こう。

「インターポールの春麗刑事です。公務執行妨害及び傷害の現行犯で簡単に事情聴取をしておきたいところですが──その前に、まず、その仮面を取ってもらおうかしら?」

 形式的な敬語の挨拶を即座に取りやめ、少々横柄に仮面娘に尋問する春麗だった。
 仮面を身に着けた相手というのは何ともやりにくい物で、会話ともなると透明な壁と戦わされているような気分だった。
 その前に、まずは仮面を取らせようとする。

176これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:22:51 ID:XkQeIA9c0
 春麗自ら仮面に手をかけるより、彼女の空いた左腕に頼った。右腕の自由が奪われ、床に伏し、銃を背中に突きつけられている手前、普通の犯罪者ならばここで指示に従わない事はほぼありえない。
 ──が。
 彼女は、その“ほぼ”の例外に属する人間だった。

「春麗、か……。覚えたある。……ならば、春麗! 私を甘く見るな……!」

 そう啖呵を切ったかに思われた次の瞬間──仮面の娘は、拘束されていない左腕を胸の下に潜ませ、そのまま、左腕を思い切り伸ばした。床を蹴とばして飛ぶように、彼女は、左腕だけで、身体を飛ばしたのである。
 そして、彼女の右腕もまた、身体に釣られるようにして少し持ちあがった。──いや、春麗の身体ごと、持ち上げたのだ。力なき右腕ならば、当然ながら持ちあがる事もなく、左半身だけが寝返りを打つように天井を向くだけである。

「えっ!?」

 ──伸びきった仮面娘の右腕は、まるで、胴体と繋がった鉄骨のようだった。
 勿論、春麗は、それが宙に浮くとともに、そのままバランスを崩した。
 仮面の娘は、春麗の拘束を逃れて、宙に飛んだかと思いきや、そのまま後方に回転して見事、着地せしめたのである。

「──!」

 嘘でしょ、という春麗の心の声は、声にならない。
 愕然としたまま、少女に向き合う。

 少女の背中に突きつけていた拳銃の引き金を引く事は、結果的にはなかった。
 もしその引き金を引いてしまえば、春麗はこの少女を“殺害”する事になってしまうのが明らかだったからだ。──致命傷となりうる場所に銃を向けたのは、“威嚇”の為であって、“殺害”の為ではない。
 この少女は、おそらく、その躊躇を読んでいたわけではないが、おそらく、春麗が発砲するリスクも読んだ上で、拘束を逃れようとしたのだろう。

(半端な実力じゃない……!)

 やがて……構える春麗の前で、少女はその白いマスクを取った。
 春麗の要望に応えたわけではないのは、状況を見て明らかだ。もはや彼女の言う事を聞く必要は、拘束を逃れたこの少女にも皆無だ。
 それを取り去ったのは、彼女自身の都合による物である。

「……!」

 春麗も、その姿には驚きを隠せなかった。
 真っ直ぐに春麗を睨むその大きく円らな瞳も、仮面に隠されていた顔の輪郭も、幼い少女のようでありながら、大人びたようにも見えてしまう、不思議な色気のある美少女であったからだ。
 よもや、こんな少女の顔面に蹴りを叩きこんだのか、と春麗も思う。
 しかし、その瞳は憎悪に満ち、春麗への殺気立った思いを隠さなかった。

「ちょっと……あなた……」

 思わず見とれた春麗は、こちらへ向かってずけずけと速足で歩いて来る彼女を前に構えたが、それに対して、全く構う事なく、彼女は歩み寄ってくる。
 しかして、攻撃の気配がなく、それが春麗の反撃を躊躇させた。何かが彼女にストッパーをかけているような気がした。
 仮面をつけた時以上に、彼女の雰囲気は不気味に映った。

 そして──その仮面の少女は、春麗の眼前すれすれに立つと、思いもよらぬ行動に出た。

「──!?」

 春麗の顎に左手をそっとかけると、そのまま、春麗の頬に唇をつけたのである。
 所謂、キスだった。
 女同士である故、彼女が突然にそんな行為に出た理由は春麗にもまるでわからない。しかし、唇と唇で行うのではなく、頬に向けてそっと行うのは、何か挨拶や儀式のような“意味”を感じさせた。

「……」

 彼女は戦いを通して同性の春麗に惚れこんだわけではないらしい。──宣戦布告、と捉えるのが普通だろう。

177これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:23:12 ID:XkQeIA9c0
 柔らかい感触を頬で味わい、まだ少し濡れた左の頬をゆっくりと拭った春麗は、“接吻”を終えた少女の、凛然とした瞳を見つめた。やはり、思った通りの意味であるらしい。
 そして、その気になれば本当のキスが出来てしまうほどのこの距離──何かとてつもない恐怖を覚えた。

「お前も覚えておくね、私の名はシャンプー」

 中国娘は、自らの名前を名乗る。
 ぶっきら棒で、不良めいた言い回し。黙っていれば大人しく無邪気な少女に見えるだろうが、闘争の場に相対した時、彼女の存在は悪魔にさえ見える。
 そして、彼女は即座に、再び三本の刃をぎらつかせた。仮面を外させる事に対して、この鉤爪を奪うのは格段に難易度が上がる。故に、まだシャンプーの右手は刃に覆われたままだった。
 ──殺気。
 春麗は後ろに飛ぶ。

「春麗……おまえ、殺す!」

 シャンプーの声が響くのと、鉤爪が春麗のチャイナ服の胸の下を横一文字に裂くのは、ほぼ同時だった。──今度は、肉体へのダメージはないが、少々嫌な所を破られたらしい。
 胸と腹とを繋ぐ空洞の“段差”のあたりに穴が開く。
 春麗は、もう何歩か後ろに飛び、先ほどより固く構えた。

「──フゥッ! ……あなた、やっぱり勝ち残りを望んでいるみたいね」
「……お前は違うあるか!」
「ただの格闘大会なら喜んでそうさせてもらうわ……でも、生憎、人の命を奪う趣味はないのっ!」

 春麗は、グロックを構え、シャンプーの脚を狙って引き金を引く。まずは無力化を狙った。春麗はこれでも捜査官の中で指折りの射撃の名手である。格闘戦だけでなく、警察官としてのあらゆる能力において、男性にも引けを取らない名刑事だ。
 胴のように、ずぶの素人でも命中させられるわかりやすい的を狙う必要はなかった。
 たんっ! と、銃声が鳴る。──しかし、シャンプーは、それが命中するよりも早く、右方に回避し、速度を増して春麗に肉薄した。

「アイヤァッ!」

 春麗の胸があった場所に向けて鉤爪の切っ先を向けながら、シャンプーは駆けだす。
 だが、それよりも早く、春麗は足を地面の上に置くのをやめ、飛び上がった。──シャンプーは、空中で膝を曲げる春麗の真下を駆け抜けていく。

 猪突猛進に春麗を狙ったシャンプーの一撃は、そのまま、春麗の背にあった麻袋へと突き刺さった。腹立たしそうにそれを思い切り引き抜くと、麻袋には相当大きな穴が開いたらしく、真っ白な粉が大量に零れて落ちる。
 どうやら、春麗の背にあったのは、小麦粉の山だったらしい。

「──……理由は何かしら? それだけ実力を磨きながら、こんな戦いに乗る理由は……!」
「教える必要はないあるっ!」

 再度、シャンプーの背後にいた春麗に向けて、鉤爪は空を掻く。
 春麗に接近し、一振り、二振り、鋭い刃たちが空ぶった。
 シャンプーの攻撃の角度やタイミングを読み始めていた春麗が、軽いフットワークで回避に徹したのだ。
 対して、春麗にはまだ幾つか使用していない切り札もあった。

「教えてくれなきゃ、困るのはあなたの方だけどねっ!」

 言いながら、春麗は二つの掌を床につき、倒立をするように自分の体重を持ち上げた。しかし、倒立と決定的に違うのは、両脚を開いている事である。
 そして、その手を放し、そこから繰り出されるのは、腕を床の上で回し──全身を駒のように回しながら、回転蹴りを何度も敵に叩きつける荒業。

「スピニングバードキック!」

 なんとこの技、本来なら手を一度地に着かなくてもやってみせるというのだ。
 何発もの蹴りがシャンプーの頬に命中する。春麗の脚線を見れば、まるで丸太の直撃を受けるほどのダメージを受けるのではないかという心配をする者も現れるだろう。
 シャンプーが動機を秘匿する限り、春麗も“理由なき殺人者”として、シャンプーを冷酷に追撃しなければならない。──同時に、説得も不可能になってしまうと来ている物だから、シャンプーにとってはデメリットの方が大きい。
 こんな荒業をぶつけるにも躊躇がなくなる、というわけである。

178これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:23:34 ID:XkQeIA9c0
 シャンプーの身体は、その攻撃の勢いのあまり、地面を離れ、勢いよく車にでもはねられたかのように、麻袋の山に向けて叩きつけられた。

「くっ」

 吹き飛び、晴れた右の頬を左の手の甲で拭いながら、まだ戦意を喪失しないシャンプーであった。──どうやら、負けられない理由でもあるようにさえ見える。
 だが、たとえ理由がどうであれ、人を襲うスタンスである限り──そして、自らに敵対する限り、春麗はシャンプーと戦い続けなければならない。
 シャンプーは、ずきずきと痛みの残る右の頬をしきりに拭った。

「……今のは、さっきのキスのお返しよ!」
「“死の接吻”の事あるか」
「死の接吻……?」

 どうやら、先ほどの接吻にしても、何か物騒な意味があるらしい。
 そう、やはり儀礼的な何かであるようであった。──「死」という意味の。

「私たち女傑族の村の掟──もし、よそ者の女に負けたら、その相手、地獄の果てまで追いかけて殺すべし! 死の接吻はその証かし!
 中国の村の掟、絶対ね! 中国人のお前にもわかるはずある!」
「全然わかんないわよ! あなた、どこの田舎者!?」

 中国の悪い噂がまた広まってしまいそうだと思った春麗は、少し頭を抱えつつも、シャンプーの殺意は偽物ではないのを実感する。
 根本的に彼女が殺し合いに乗った理由はわからず終いであるが、いまどき殺戮の掟がある部族である以上、下手をすれば、この殺し合いに乗る事もまた宗教的な理由や儀礼的な理由による物である可能性は否めない。
 となると、真正面からの対話は不可能と見ていい。現代社会の法律を逸脱する常識が刷り込まれている以上、説得にはかなりの時間を要する事になってしまう。
 ここは、春麗も体力を消費するよりは、──手早く、自由を奪うのが良いと決定した。

「──」

 春麗は、グロックを構え、狙いを定める。
 敵は銃撃を恐れていない。──しかし、銃口の向きで回避を企てている。
 と、なると。
 ──命中率は僅か。
 だが、それでも。
 いや、だからこそ──。
 ここで決める!

 たんっ! ──と。

「──!」

 銃声が轟き、弾丸は目の前の物体を抉るように突き進んだ。──視認できないほどに素早く、それは、春麗の手の中の物体から離れて行く。

 だが……シャンプーには当たっていない。

 それどころか、シャンプーは、回避という手段さえ取らなかった。
 春麗は、全く的外れな所に弾丸を命中させたらしく、彼女が避ける必要は皆無だったのだ。それは、銃口を見ても明らかだった。
 シャンプーの脚と脚の間をすり抜けるようにして進行した弾丸は、シャンプーの真後ろにあった麻袋の山に命中した。
 何段目の麻袋かはわからないが──いや。
 しかし。
 それこそが、春麗の狙いだったのだ。

「……どうした、外したね。──撃たないならば、こっちからいくある!」
「どうぞ──」

 さらさらさらさら……。
 小麦粉が、床に零れていく。まるで砂時計が時を刻むように。
 焼けこげた小さな穴は膨れていき、下から三段目の麻袋は、形を歪ませて萎んでいった。
 四段目の麻袋が傾く。
 五段目の麻袋はそれにつられて傾いて行く。
 六段目も、七段目も……もっと大きく──。
 中身がさらさらと落ちていくのを見つめながら、春麗はニヤリと笑った。

「──ご勝手に!」

179これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:24:07 ID:XkQeIA9c0

 一歩を踏み出そうとしたシャンプーの背後で、大きな影が崩れだした。
 それは、積み上げられていた小麦粉の麻袋の山であった。
 
 下の麻袋が形を変え、穴の開いた方から崩れていった時──その上に積み重ねられていた麻袋はどうなるか。
 自らを支えていた麻袋がそれまで保っていたバランスを崩した時、真上にいっぱいに小麦粉を詰め込んだ麻袋の山は、当然ながら──小麦粉の量が減ってしまった方に傾く。
 そして、それが春麗の身の丈ほどまでに積まれていたのならば、元々のバランスも決して良い物ではない。
 ──結果。

「なっ……!?」

 シャンプーが一歩を踏み出しながら、奇妙な崩落音に気づいた時には遅い。
 それは、振り向いたシャンプーの視界を覆い、そのまま彼女の上に重たい豪雨として降りかかった。──一つあたり何キロというほど、ぱんぱんに膨らんだ袋だ。並の人間ならば首の骨を折ってもおかしくない。
 一斉にそれが全身に叩きつけられ、シャンプーは悲鳴をあげる事もなく、地面に倒れ込んだ。中には、今の衝撃で破れた袋もあったので、下敷きになったシャンプーは小麦粉まみれである。
 粉塵となった小麦粉はその一角にだけ真っ白な霧を作る。

「やったぁ!」

 春麗は、今度こそ両手を挙げて大喜びをした。
 見事──シャンプーをノックアウトできたようである。
 まあ、たとえ勝利せしめたにしても、警察組織のバックアップがないので、小麦粉まみれで伸びたシャンプーをどうするかという所まではいかないが、ひとまず無力化したわけだ。
 手錠もない現状、ひとまずは武器を奪い、例のパンストを両手にでも巻いて拘束するくらいしか出来ないが──それは絵面的にどうかと思い、春麗も内心では躊躇を禁じ得ない。
 が、それくらいしか拘束方法はない。
 仮にも危険人物であるシャンプーを前に、あまり迂闊な行動はとれないだろう。

「えっ……!」

 と、大量の麻袋の下敷きになった、小麦粉まみれのシャンプーに近寄った時である。
 鉤爪を装備したシャンプーの右手が、微かに動いた。
 ──ぴくり、と。
 そして、彼女の瞳は、──はっ、と、突然に開いた。

「──ッ!」

 まるで何かに揺り起こされたかのように、彼女は、力強く起き上がった。
 全身を結構な重量で打ち付けられ、挙句に真っ白の粉塗れになったシャンプーは、苦渋に満ちた表情で、肩を大きく上下させた。
 しかし、春麗としては、それだけでもまるでゾンビを目の当りにしたかのような憮然とした表情で見つめるしかできなかった。

「嘘……あなた、まだ戦えるの!?」
「忘れたあるか……。──私に勝った“よそ者の女”、地獄の果てまで追いかけて、殺す!」
「そんなくだらない掟の為に……なんて執念なの……!?」

 優位な春麗でさえ、そんな彼女には悪寒がした。
 ストリートファイターならば、かなり敬意を表せる相手であると思う。
 並々ならぬタフネスと執念。それは、既に彼女を人間の実力を越えた格闘者に育て上げていた。
 だが、彼女は、格闘の力を使い、“戦う”のではなく、たとえ誰であっても“殺す”道を選択した。──ならば、春麗も、捜査官としての顔を見せなければならない。
 おそらく、春麗よりも年は下だが──本気を出させてもらう。

「──」

 ここでは狭い。
 春麗は、ちらりと自らの後ろを見ると、急いで倉庫の外へと駆け出す。
 ──シャンプーは、よろよろと身体を揺らしながらも、春麗を追うように倉庫の外へと出た。それはさながら、亡霊であるかのようだった。
 冷えた潮風の香りは、より一層きつくなる。
 まるで世界そのものが広くなったかのような、暗い港。

「はぁ……はぁ……──でやぁぁぁぁっ!!」

180これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:24:29 ID:XkQeIA9c0

 早速だ。
 シャンプーは、春麗を仕留めようと、鉤爪の切っ先を向けたまま駆けだしてきた。前と同じく、猪突猛進に──。
 春麗はそれを回避するが、タイミングは些かずれ込んだ。シャンプーの攻撃が、疲労によって大きく鈍っているせいで、却ってタイミングが崩れてしまったのだ。それくらいの事も読めなかったのは不覚であったかもしれない。
 次の瞬間、彼女が我武者羅に決めた、突き上げるようなアッパーは、春麗の胸部を盾に引っ掻いた。──春麗の衣服は、胸の部分だけ、T字を逆さにしたようにめくれ上がり、真っ白な両乳房を露わにする。

「──あっ!」

 ……いや、シャンプーの疲労が読めなかったのではない、と春麗は思った。
 自分も、彼女との激戦で想った以上に疲労を蓄積したのだ。やはり、シャンプーは相当な実力者である。こんな物を使わなくても春麗を渡り合えるだろう。

「アイヤァッ!!」

 シャンプーもまた、脚を振り回すように春麗に蹴りを叩きこもうとする。
 だが、それが命中するよりも前に──。
 春麗は、シャンプーの頭上を飛び越えるように、高く飛び上がり、シャンプーの後ろに立った。──そして。

「百裂脚!!」

 先ほどと同じく──春麗のつま先から、何発もの蹴りがシャンプーの身体にめり込んだ。
 シャンプーは直前に春麗に振り返ったが、反撃の余地はない。待っていたのは、無数のキックの嵐である。──そして、それは、シャンプーの顔面にも、胸にも、腹部にも、等しく向けられた。
 しかし、賛辞であるのか、それとも、春麗が恐怖を抱いたという事なのか、先ほどよりも過剰な連撃が、シャンプーに浴びせられたのだ。
 そして、シャンプーの背には、今度は、海があった──。
 彼女は、ついに力を失い、背中から、海に向けて、吹き飛ばされて落ちていったのである……。



──K.O!!──



 やりすぎただろうか、と、水面を見下ろしながら春麗は思った。
 ……しかし、揺れる水面を見つめる春麗の前にあったのは、驚くべき光景だった。






 倉庫群の陰には、そんな中華美女二人の争いの一部始終を監視している者がいた。
 彼の名はスチュアート大佐。
 かつてまで軍人であったが、今やテロリストという汚れた役職で呼ばれて然るべき男だった。──彼は、目的の為に民間の旅客機を一機、巧妙な手段で撃墜した程である。彼の上司であるエスペランザ将軍と共に、おそらく半世紀は語り継がれる悪魔の名となるであろう。
 彼も格闘技においては軍部でも右に出る者がないほどの実力者であったが、だからこそ倉庫の中で繰り広げられていた恐るべき闘争に絶句せざるを得なかった。

(あのアジア人の娘たち……かなり腕が立つ。いや、かなりという次元じゃない)

 スチュアートは、垂直跳びで人の体重さえも超えてしまうような女の戦いを目の当りにしていたのだ。それは、手から砲撃を出したピンク色のワニの死(スチュアートはこれをあの光景をあまり過信してはいないが──)よりもずっと、身の危険を実感させる光景となった。
 とはいえ、スチュアートには、この殺し合いで勝ち残らなければならない理由が存在している。
 今の光景はスチュアートの大義を揺るがす決定打とはなり得なかった。

(──私は勝ち残って遂行すべき任務がある。
 故に、彼女たちもターゲットの一人として抹消せねばならない)

 そう。彼の目的は、エスペランザ将軍の奪還。

181これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:24:50 ID:XkQeIA9c0
 その為に、大勢の部下を従え、ダロス国際空港において、空港の管制中枢を乗っ取って、その機能を麻痺させた。
 そのダロス国際空港も、どういうわけか日本の東京タワーやイタリアのコロッセオなどと共に、この場に同名の施設があるようだが、彼としてはそれがそのまま存在している事実には懐疑的である。
 その座標に存在する物に関する何らかの暗号、あるいはコードネームとして「ダロス」、「東京」、「コロッセオ」などのシンボル的名称を用いていると解釈している。
 何にせよ、彼の目的は、多くの部下を従える一介の軍人としての“勝ち残り”。──その為ならば、如何に冷徹な手段も厭わない。

(ジョン・マクレーン……貴様も同様だ)

 たとえ、あの有名なニューヨーク市警(いや、今はサンフランシスコ市警だったか)が相手であっても同様である。
 奴には、空港で多くの部下を殺された。
 我々の作戦を妨害しようとしていた男だが、おそらくスチュアートが真正面からぶつかれば敗北するような相手ではないだろう。

(だが、いかにこの私といえども、今の連中と正面からの戦闘で勝ち残るのは分が悪い)

 問題は、マクレーンではなく、春麗やシャンプーのような、スチュアートも及ばないレベルの超常的な格闘能力を持った連中だ。
 これまでに見て来た中国人の兵隊たちを凌駕したその格闘の実力を見るに、この殺し合いに呼ばれた連中は、「驚異的な戦闘能力」あるいは「卓越した知力」など、何らかにおいて優秀な能力を持つ者たちであろう。

(……だとすれば、ひとまずは、マクレーン以外の連中は上手く仲間として取り入るのが最善の策か)

 あの春麗という娘──奴もインターポールなどという素性を明かしていたが、だとすれば、スチュアートも安易に接触するのは不味い。
 ひとまずは、この場からは上手く去り、彼女たちと戦闘にならないように心がけ、周囲の連中を利用する。
 ──そうだ。
 それより前に、倉庫に残っている筈の、シャンプーの支給品を奪っておくのが得策であろう。武器は多い方が良い。幸いにも、このデイパックは何故か重さを感じない。
 戦場とは違い、武器を持ちすぎる事が首を締める事にはならない筈だ。

「──」

 スチュアートは、春麗の方を見た。
 彼女は、どうやら、シャンプーを追って水面まで飛び込んだようである。──ならば、ひとまずは、彼女の目はないわけだ。
 彼は、急いで倉庫内に立ち入り、彼女たちの戦闘が繰り広げられていた場所へと駆けつける。──思った通りだ。
 シャンプーのデイパックと、彼女が装着していた仮面が残されている。
 武器類があるか確認するのは後だ。春麗と遭遇しない内にこれらを回収してここから出て、不要物を捨てて武器を得る。
 これが得策と見た。
 彼は、すぐに倉庫から外を見たが、春麗はまだ陸に上がってこないようなので、すぐに倉庫の外に出た。

「にゃー!」

 と、その瞬間、真後ろから、変な鳴き声が響いた。
 流石のスチュアートも心臓が飛び出そうだったが、どうやら、ただの野良猫のようである。
 水でも被ったかのように全身びしょ濡れだったが、スチュアートは、そんな野良猫を小声で追い払おうとする。

「なんだ、猫か……あっちに行け! シッ! シッ!」

 そう言って、発情期のようにうるさく泣きわめく猫を背に、スチュアートは走りだした。番犬に吼えられている泥棒の気分だ。だが、少しでも早く逃げなければ、目立って春麗に見つかってしまう。
 その猫は、少しだけスチュアートを追いかけようとしたようであったが、どうやらその猫も相当の疲労に参っていたようで、すぐに追い払った。
 幸いにも、春麗にも見つからずに済んだようである。





182これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:25:08 ID:XkQeIA9c0



 一方、春麗は、港を見下ろしながら、自分が一つのミステリーを目の前にしているのを実感していた。

「……どこに消えたのかしら」

 春麗は、海を見つめていたが、そこに浮かんでいるのは、シャンプーの着用していたチャイナ服と、鉤爪だけだった。
 彼女が逃げのびたならば、何故、彼女は服を脱ぎ、武器を捨てたのだろうか。
 それは春麗にもわかりかねる。
 まるで脱皮したように──というか、シャンプー自身の身体が、まるで水の中に溶けて消えてなくなってしまったようだった。
 春麗が目を離したのもそんなに長い時間ではなく、シャンプーが水に落ちてすぐにそこに目をやったはずなのに、既にそこに彼女の姿はなかったのである。
 ……ただ。

「……これじゃあ、流石に表を歩けないもんね。悪いけど、ちょっと貸してもらおうかしら」

 春麗は、その豊満な両乳房を覆っていた服が引き裂かれて、手で押さえなければ乳房が曝け出されてしまうような状態にある。こんな状態で歩いていれば、まるっきり痴女だ。
 小麦粉の白色がこびりついた上に、びしょ濡れであるものの、後で乾かしてどうにか着替えとして使わせてもらおう。
 ……体格も違うし、やはりサイズに無理があるだろうか?
 しかし、まずはそれを深く考えず、春麗は、海に飛び込み、シャンプーの衣服とバルログの鉤爪を回収する事にした。







 一匹のびしょ濡れの猫が港を歩いていた。
 首輪はサイズが縮小され、猫の首についている。
 この雌の猫もまた、この殺し合いの“参加者”の一人である。

(あの男……最低の泥棒ね!)

 スチュアートが“自分の”デイパックを持ち逃げするのを、この猫は見ていた。
 必死に罵倒したが、それは猫の声帯では鳴き声以上の何にもならない。──言ってしまえば、彼女はこの“体質”のせいで全部、失ってしまったわけである。
 これも、何もかも春麗のせいである。

(ああ、これで全部なくなってしまった)

 この猫はもう素寒貧だ。
 支給品なし、武器なし、服なし。
 さて、この猫の正体──それは、何者か。

「くちゅんっ!」

 くしゃみする猫は、つい先ほどまで、冷たい水の中に浸かっていた。
 あの春麗に突き落とされたのである。
 ──そう、この猫の正体は、勿論、あの仮面の格闘家・シャンプーであった。
 一見すると愛らしい猫のようでありながら、それは、この殺し合いに乗り、春麗の命を狙う中国の刺客なのである。

(やはり──乱馬以外の者、皆邪魔者……! 殺す!)

 スチュアートに支給品を奪われた事で、彼女の中の覚悟は風船のように膨らんだ。
 ああして巧妙に人目を盗んで武器を強奪する者もいる。──やはり、このバトルロイヤルに乗っている人間は自分以外にも大勢いるのだ。
 元々、性質の悪いあの手の参加者は、殺害を躊躇する必要はない。
 ……今も同じだ。早乙女乱馬以外、全員殺してみせる。

(見ていろ春麗。すぐにまたお前を殺しに行くね……そして、天道あかねも)

 女傑族の彼女には、「殺人」の掟もある。
 かつては天道あかね、そして、今、春麗にその口づけを施した。これから先、シャンプーは、掟に従って彼女たち二人を殺す為に戦わねばならない。
 それに限らず、ここにいる者たちは容赦なく六十五人殺し尽くし──そして。

183これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:25:31 ID:XkQeIA9c0
 早乙女乱馬を、優勝させる。

(待っててほしい、乱馬……。私は、女傑族の戦士ね……これが、忘れかけていた私の本質──)

 彼女にとって、殺し合いの始まりと、二人の人間の死は、自分の本当にあるべき姿と目的を思いださせてくる起爆剤となった。
 勿論、あの説明を聞いた時は、誰が言う事を聞くものかと思った。
 しかし、その直後、何故自分は──誰かを殺す事を忘れてしまったのか、ふと考えてしまった。殺し合いに忌避や嫌悪の念を抱く自分に気づいてしまった。
 そして、二人が死んだ時に、彼女は思った。

 ──自分は、こうしてあかねを抹殺しなければならない、女傑族の一員なのだと。

 絶対の掟を忘れ、あかねやムースと親しくなりつつあった自分──それは武闘民族の一人の女として、本来ならば恥ずべき姿だった。
 女傑族の長たる曾祖母も見逃していたようだが、そうであるようで、もしかしたら戦士としての何かを忘れて行くシャンプーを見張っていたと言えるのかもしれない。
 法治国家日本──まともに殺し合う事は許されず、武闘ではなく労働で暮らし、掟もなく自由に恋愛をする大都会。その甘美な蜜を吸い、だんだんとシャンプーの心は甘くとろけてしまっていたのかもしれない。
 だが、本当に殺し合わねばならない今──それを再び、正す必要がある。

(あかねも、殺す……)

 いつの間にか、天道あかねの顔を見ても殺そうなどとは思わなくなった。
 ただ、乱馬との仲を引き裂ければそれで良いと──シャンプーは、あかねに対してそう思い始めていた。
 しかし、掟に従うならば、それは決定的な過ちとしか言いようがない。
 死の接吻を施した相手に、何故甘い顔を見せようか。

(それに、ムースも……)

 幼馴染のムース。
 最低の男だが、今も共に働いているほど付き合いは長い。仮にも、一図にシャンプーを想い続けている馬鹿な男だ。
 彼も、乱馬の為に消さなければならない。
 いずれにせよ、彼は掟によりシャンプーとは結婚する事が出来ないのだ。

(最後には、私自身も……)

 そして、仮に乱馬以外の全てを殺したとして──最後には、乱馬と自分だけが残る。
 その自分も、結局、“最後のターゲット”になるわけである。
 勿論、二人で上手に生き残れるならば、どんなセコい手を使っても、シャンプーはその手段を使うつもりだが、逆に二人以外の存在は抹殺するしかない。
 自分が女傑族である事を、思い出す為に。
 自分の本来の目的を、忘れぬ為に。
 それを試されている気がした。

 あの場には幼い子供もいた。シャンプーも、実のところ、女傑族という枷を外せば、子供をかわいがるような側面も持っている普通の少女だ。
 ──しかし、そんな子供たちも今は敵だ。

 いつか、こんな日が来るかもしれないとは、シャンプーも薄々思っていたのかもしれない。
 いかに、これまでの日々にシャンプーが少なからず楽しいという感情を抱いていたとしても、結局は、シャンプーの目的は元々、乱馬を殺す為だったし、一時はあかねを殺す事も考えていた。
 今は、かつての自分に戻っただけだ。
 感傷に浸る暇はない。

(乱馬なら、しばらく放っといても平気ね。私は邪魔者を消していくだけある……)

 乱馬は──早乙女乱馬は、初めてシャンプーに勝てた男なのだ。
 中国の村の掟は、絶対だ。

 女傑族の娘がもし余所者に負けた時、その者が女だったならば、殺すべし。
 しかし、男だったならば、夫とすべし。

 シャンプーに勝利した男・乱馬はシャンプーの婿として迎えなければならないのが掟だ。──そして、そんな掟に縛られる事もなく、シャンプーは純粋に乱馬を愛している。自分の命さえ投げ捨てて奉仕できるほどに。
 日本での日常に呑まれて忘れかけていた掟。

184これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:26:06 ID:XkQeIA9c0
 それを、“ノストラダムス”は思い出させてくれたのだ……。

「あら? 子猫? びしょ濡れじゃない……」

 と、色々考えながらとぼとぼ歩いていたシャンプーに、ふと、聞き覚えのある女の声がかかった。
 慌てて振り向くと、そこにいるのは春麗である。
 春麗もまた全身に水を被ったように濡れていたが、それは、おそらくシャンプーをあの水の中で探していたせいだろう。
 随分馬鹿な事をするものだが、シャンプーは何も知らない春麗に向けて唸る。自分が目の前の猫に嫌われている事も知らず、呑気にシャンプーの身体を持ち上げる春麗。

「……うん? この猫も、私たちと同じ“首輪”が巻かれているわね」
「ニ゙ーーー!!!」

 シャンプーは思いっきり、春麗の手の甲を引っ掻いた。
 流石に、あれだけシャンプーの攻撃を回避し続けた春麗とあっても、この一撃からは逃れる隙が無かったようである。
 春麗は、先ほどより小さく作られた三本のひっかき傷に冷たい息を吹きかけながら、赤子にでも言い聞かせるようにシャンプーを咎めた。

「いたたたたた……! 駄目よ! 引っ掻いちゃ……めっ!
 ……でも、この猫、小麦粉塗れね……。うろうろ歩いてて、あれを被っちゃったのかしら」

 早速以て、春麗の心の油断が見て取れる。
 どうやら、猫の子一匹殺すつもりはないらしい。日本ならばともかく、中国では猫料理など珍しくないので、彼女も猫くらいならば殺してしまうと思っていたが……。
 まあ良い。こんな女に抱かれるよりは、

「──……と、風邪ひいちゃう……こんな所にいられないわね。早くお風呂を探さないと」

 ふ、と。
 その時、シャンプーは、春麗の手から逃れようとする手を、ぴたりと止めた。
 春麗は、冷たい水の中に入ったせいで、びしょ濡れなのである。このままでは風邪をひいてしまうリスクがあると恐れたのだろう。これ以上夜風に晒されていては、お互い危険というわけである。
 どうせ、この姿では春麗を殺す事も出来まい。
 それならば、上手に利用して彼女に温かいお湯に入れてもらおう。

「……この子も一緒に入れてあげようかしら。びしょ濡れみたいだし……」
「にー♪ にー♪」

 ご機嫌を取るように、先ほどまでの態度とは打って変って、春麗の胸の中にうずくまるシャンプー。
 春麗もそれを見て妙な猫だとは思ったが、気にする程ではなかった。
 だが、春麗は知らない。この猫こそが、シャンプーそのものだった事。
 彼女は、“水を被ると猫になり、お湯を被ると元に戻る”という不思議な体質であり、今まさにその変化が行われていたという事など……。

(ふふふ……私がお湯につかった瞬間、お前を殺す事になるとは知らずに、馬鹿な女ね)

 シャンプーは、胸中で元の姿に戻り、春麗を殺すチャンスが巡って来た事で、胸中、爪を研ぎ始めていた。



【H-3 港町/1日目 深夜】

【春麗@ストリートファイターシリーズ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、左二の腕に切り傷(パンストで)、左手の甲に猫のひっかき傷、全身びしょ濡れ
[装備]:バルログの鉤爪@ストリートファイター、グロック17(15/17)@ダイ・ハード2
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜1、シャンプーのチャイナ服(びしょ濡れ)、パンスト@らんま1/2、シャンプー(猫)
[思考]
基本行動方針:ノストラダムスを倒す。
0:まずは猫を連れてお風呂に入ろう。
1:殺し合いには乗らないが、危険人物には対処を。
2:シャンプーの行方が心配。
[備考]
※参戦時期は「Ⅱ」の最中。少なくとも、シャドルーを壊滅させてはいません。
 また、口調や性格などは「ZERO」シリーズ以降の設定も踏襲し、パラレルワールド扱いの「ZERO」シリーズとも一定の相互関係がある物とします。
※春麗のチャイナ服は、シャンプーとの戦闘によって胸元が大きくはだけて露出しています。

185これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:26:35 ID:XkQeIA9c0

【シャンプー@らんま1/2】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、猫化
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:殺し合いに乗り、乱馬の優勝を目指す。
0:猫のフリをして春麗についていき、風呂で元に戻って奇襲。
1:天道あかね、春麗を優先的に殺す。
2:最終的には自分の死もやむを得ない。乱馬の優勝が絶対の目的。
[備考]
※参戦時期は、本編終盤。
※「死の接吻」を春麗に対して施しました。
※自らの女傑族としての覚悟が弱まっていた事を実感し、殺し合いに乗る事でかつての誇りを保とうとしています。その一方で、良牙、ムース、子供などを手にかける事に対しては一定の抵抗もあるようです。

【スチュアート大佐@ダイ・ハード2】
[状態]:健康
[装備]:バルログの仮面@ストリートファイター
[道具]:支給品一式×2、ランダム支給品1〜3、ランダム支給品0〜2(シャンプー)
[思考]
基本作戦方針:どんな手を使ってでも帰還し、任務遂行に戻る。
0:奪還したシャンプーの支給品の確認。
1:正面からの戦闘は避け、上手に武器を確保しながら敵を殺害。
2:マクレーン、及び春麗のように国際警察の手の者との接触は避ける。
3:また、勝ち残る以外の術が見つかればそれに乗る。
[備考]
※参戦時期は、少なくともダグラスDC-08機の大破を確認した後。
※「ダロス国際空港」、「東京タワー」、「コロッセオ」などの存在は座標に位置する別の物のコードネームであると解釈しています。そこに現物があるとは思っていません。



【支給品紹介】

【バルログのマスクと鉤爪@ストリートファイターシリーズ】
シャンプーに支給。
バルログが使用している白いマスクと鉤爪(片手用)。
鉤爪は攻撃力やヒットを上げ、マスクは「ZERO3」では防御力を上げる効果を持っている。
ただし、いずれも攻撃を受けすぎると装着が外れる。

【パンスト@らんま1/2】
春麗に支給。
パンスト太郎が武器や包帯代わりに使用するパンティストッキング。
作中では複数のパンストを結んで繋いでいるように、一応複数枚支給されている物とする。

【グロック17@ダイ・ハード2】
春麗に支給。
グロック社が開発した自動拳銃。装弾数は17発。テロリストたちが使用。
この出典の「ダイ・ハード2」の作中では、「強化プラスチック製である為、X線に映らない」などと言われているが、実際にはこれは誤った情報。しかし、この作品によってこの銃もまた大きく知名度を上げた。
また、警察署長がマクレーンに「アンタの給料全部投げ出しても買えない」と言われているシーンなどから、高価だと誤解される事もあったりするらしい。

186 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:26:52 ID:XkQeIA9c0
投下終了です。

187名無しさん:2015/11/05(木) 08:42:01 ID:9B./IKOM0
投下乙です。

やはりシャンプーはマーダーになってしまったか…
素手では春麗に適いそうにないけど、風呂場でお互い全裸だとどうなるのか…狭いし
そしてスチュアート大佐wwこちらも全裸のイメージが強い
あそこだけ見ると格闘技強そうだけど、マクレーン戦では振るわなかったのでこのロワではぜひ強いところを見てみたいです

1つ訂正が…ダレス国際空港ですが、ダロスになっています。
何度も出てるので仕様なのかな?とも思いましたが一応報告しておきます。

188 ◆RXReCDx0kI:2015/11/09(月) 05:33:05 ID:w1tlNLUE0
投下します

189 ◆RXReCDx0kI:2015/11/09(月) 05:35:06 ID:w1tlNLUE0
「まいったなぁ……」

今泉慎太郎は巡査である。上司の古畑から最低の評価を下されてはいるが。
しかし今泉は確かにお人好しで頭は足りないものの、このバトルロイヤルという狂ったゲームを許しておける人間では決してなかった。
古畑と同様に、目の前で起こった惨劇に対して強い怒りを感じていた。彼はやはり警察官なのだ。

「とりあえずは古畑さんと合流しないと……」

名簿を見たところ、あの忌々しい小男の名前はなかった。
過去に古畑が逮捕した犯人の名前があるのは気になったが、それを除けば知り合いといえるのは古畑ぐらいしかいない。
確かに古畑は自律神経失調症の原因になるほど人使いが荒く、過去には殺害計画を立てたこともあったが、頼れる人物であるのは認めざるを得ない。

辺りを見回すと、少し離れた場所にある人影が目に入った。

「ちょ、ちょっとそこの君ぃ」

こちらを振り向いたのは小学校高学年ほどの白人の少女。
今泉は少女のもとに駆け寄る。

「…………」

「え、えっと、名前はなんていうのかな」

「……マチルダ。マチルダ・ランドー」

「ええとマチルダちゃん、マチルダちゃんはいくつなの?」

「……18歳よ」

「う、嘘をついちゃいけないよ。おじさんはこれでも警察官なんだからね」

「警察……」

「そうさ。安心すると良いよ! あのノストラダムスとかいう奴は必ず捕まえてあげるからね。おじさんには頼れる知り合いもいるんだから!」

それを聞いたマチルダは今泉の腕にしがみつく。

「……ごめんなさい。怖いの……。お願い、助けて……」

「も、もちろん」

「私のパパも巻き込まれているの……一緒に探してくれる……?」

「分かったよ。おじさんがパパと必ず会わせてあげるからね!」

「ありがとう……」

今泉は自分が古畑などよりも遥かに頼もしい存在であるように思えるのだった。

190 ◆RXReCDx0kI:2015/11/09(月) 05:40:16 ID:w1tlNLUE0

名簿を確認したところ、知っている名前は2人。最も信頼する人間と最も憎む人間。
マチルダにとってはここがどこなのか、そんなことは二の次であった。
ただ自らの目的を達成するために都合の良い舞台が用意されたという事実が大事であった。
しかし肉体的に弱い立ち位置にある自分は、殺し合いに乗っている参加者から狙われやすいと考える。
レオンと合流できればよいのだが……。
この男は警察官だという。見るからに頼りなさそうではあるが、何もないよりはましだろう。
警察は善良な市民を守るのが職務である。……例外を知ってはいるが。
しかしこの男に知り合いがいるのならば、その人物も警察の人間である可能性は高い。
そうなると少々厄介なことになる。警察の人間はスタンスフィールドでもない限り、自分の復讐を止めようとするだろう。
また、殺し屋であるレオンに対してもどのような反応を示すか分からない。
この男1人ならなんとかなるかもしれないが、流石に2人ともなるとそうはいかない。
そう考えると、当面の方針としてこの男が知り合いと合流する前になんとかレオンと合流する必要がある。
それが難しいようであれば、都合の良いところでこの男を切り捨てる。
やはり単身スタンスフィールドに立ち向かうことになるかもしれない。
幸いなことに、この場に奴の仲間はいない。
そして麻薬取締局の捜査官という立場もこの場では役にたたない。
言ってしまえば奴は自分と同じ位置で対峙しているのだ。

この好機を逃すわけにはいかない。

【D-6/1日目 深夜】

【今泉慎太郎@古畑任三郎】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、 不明支給品1〜3
[思考]
基本行動方針:事件解決
1:古畑との合流
2:マチルダの保護
[備考]
※参戦時期は、少なくとも「VS SMAP」より後。


【マチルダ・ランドー@レオン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本行動方針:スタンスフィールドの殺害
1:可能ならばレオンと合流したい。
2:この男は最大限利用する。用済みになる、もしくは目的の遂行に邪魔だと判断すれば切り捨てる。
[備考]
※参戦時期は、レオンに置き手紙を残してスタンスフィールドの元へ向かった直後。

191 ◆RXReCDx0kI:2015/11/09(月) 05:40:50 ID:w1tlNLUE0
投下を終了します

192 ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 01:57:28 ID:E309ccdE0
投下乙です。
今泉はロワでも頼りないなw
マチルダにまで切り捨てるとまで思われてるなんて
そのマチルダもスタンスフィールド狙いが気になります。

遅れてすいません。
私も投下します。

193世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 01:59:14 ID:E309ccdE0
「……………………な、何よこれ? 何で私がこんな首輪を付けられなくちゃいけないのよ!!」

一面に広がる草むらの中、まだ幼さの残る少女が途方に暮れていた。
友枝小学校に通う少女、李苺鈴は先ほど船上で繰り広げられた惨劇を思い出す。
ピエロと鰐が首輪の爆発によって死んだ。
元来、苺鈴は怖いもの知らずと言える性格である。
小狼を追って日本まで来たほどだ。
そして日本においてクロウカードを巡る様々な事件を、小狼らと共に解決してきた。
しかしそんな苺鈴も何者かの死、それも人の死には接した経験は無い。
今でもはっきりと思い出せる。
生々しい血の匂いと、それに伴う死の実感。
まだ小学生である苺鈴には、あまりにも強い衝撃だった。
未だにそれが癒え無いほどに。
そして、ピエロと鰐の命を奪った首輪が苺鈴の首にも嵌っている。
これが爆発すれば、自分も同じ運命を辿ることになる。
今までの人生において、意識したことも無かった自分の死。
殺し合いに勝ち残らなければ、その運命は不可避なのだ。
それに考えが至った途端、苺鈴を耐え難いほどの恐怖が襲う。

「……………………だ、大体なんなのあの喋るピンク色の鰐は!?
あんなの香港でも日本でも、見たことも聞いたことも無いわよ!
あんな物で誰が騙されるって言うのよ!!」

耐え難いほどの恐怖。
ゆえに苺鈴はその原因を否定する。
自分が見たはずの、ピエロや鰐の”死”を。
そして自分を欺く。迫り来る”死”など偽物だと。
否、その心底においては実は欺き切れてはいない。
苺鈴自身がそれを見て、そして感じ取っていたのだから。
あの生々しい血の匂いと、それに伴う死の実感を。
それゆえに苺鈴は無理やりにでも、船上での惨劇が紛い物だと自分に言い聞かせていた。

「本物だったわよ。霊力は感じ取れたもの」

不意の声に、苺鈴は飛び跳ねそうな勢いで全身を振るわせる。
恐る恐ると言った様子で声の方を向く苺鈴。

194世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:01:06 ID:E309ccdE0
そこに居たのは一人の女だった。
形容しようの無い奇妙な衣装に、頭から虫の触覚のような物を伸ばしている。
他に人影が見えない以上、声を掛けて来たのはその女のはずだ。
しかし女は苺鈴を向いてはいない。
物憂げな視線を、どこか遠くにやっている。

(何こいつ? 自分から話かけといて……)

不可解な容姿と態度の女を、苺鈴は不審感を露にする。
それにも構わず、女は遠くを見つめながら話し続けた。

「……ここからだと、朝焼けが見えるかしら?」
「知らないわよ! 私も来たばっかりなんだから!」

女の素っ頓狂な質問に思わずつっこむ苺鈴。
その様子に女は微かに目を丸くした後、笑みを浮かべた。
しかしその笑みを見た苺鈴は、何故かより不安感を強めた。

「もうすぐ朝焼けの時間がくる……夜と朝の一瞬のすきま。
でも私は昼と夜の一瞬のすきま、夕焼けの方が好き……」
「……さっきから何の話してるのよ?」

話を続ける女は、苺鈴ではなく自分に語り掛けているようだった。
それはまるで何かを、と言うより全てを諦めたような、
諦念を漂わせていた。
それが余計、苺鈴の不安感を煽る。

「自分を重ねているのよね、夕焼けに。私は一度夜を迎えて、死んだはずだった……。
そして生き返ったと思ったら、今度は殺し合い……ヨコシマも一緒に」
「ねえ…………私に何の用なのよ……」

女が何の用かは、薄々勘付いていた。
殺し合い。
その見せしめを本物だと言った。
話によれば知り合いと殺し合いに参加している。
そして諦念に満ちた態度。

苺鈴はその場から、逃げ出そうと走り出す。
女はその背に向けて手をかざした。

「きっと私は長く生きられない運命なのよ。でも命の長さなんて関係無い。
私はヨコシマのために、アシュ様も裏切った。きっと何だって出来る……ヨコシマのためなら」

女の手に霊力が集まり、光を放つ。
そして霊力は霊波・波動と化して発射。
霊波は瞬時に走る苺鈴を捉える。
しかし苺鈴は霊波に当たる直前に、それを両腕で防いでいた。

李家で生まれ育った苺鈴は、武術もそれなりに修めている。
霊波から逃げ切れないと悟った苺鈴は、咄嗟に防御の体勢を取っていた。
問題はそれでも霊波の威力を抑え切れなかったことだ。
身体ごと衝撃で持っていかれる。
苺鈴は為す術無く、地面に倒された。

「変ね……霊力が弱まってるの?」

しかし苺鈴を倒した霊波の威力に、女は納得がいっていない。
女はその気になれば人間一人など容易に殺すことができる。
女は魔族。その中でも超上級魔族たるアシュタロスが、来るべき神族・魔族との決戦のために
直属の部下として作り上げた三姉妹の一人。
蛍の化身、ルシオラ。

「まあ、直接殺すのが確実よね」

ルシオラは苺鈴を殺すべく歩を進める。
苺鈴が立ち上がった時には、既に目前にルシオラが居た。

195世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:03:11 ID:E309ccdE0
苺鈴をその腕で殺せる距離。

「……いや…………助けて小狼!」

怯える苺鈴は、思わず想い人に助けを求めた。
苺鈴が日本まで来たのは、小狼の助けになるためだった。
しかし現実に、自分に危険が迫った時には、
心底にある小狼を頼りにする気持ちが、図らずも表に出てしまう。
それほど今の苺鈴は恐怖に震えている。

そしてルシオラもまた、かつて無い悪寒に襲われた。

魔族の、蛍の化身としての直感が告げていた。
何か途轍もなく恐ろしい物が、近付いていると。
強力な魔族である自分が恐れるほどの物が?
苺鈴を前に、不可解な想いに囚われて惑うルシオラ。

そのルシオラの腹から拳が生えた。

拳がルシオラを背中から腹に貫いたのだ。
苺鈴に当たる寸前、鼻先で止まる拳。
血と肉片が苺鈴に飛び散る。
その光景が、苺鈴に思い知らせる。

あの船上での惨劇はやはり本物だったと。
殺し合いの脅威は自分に迫っていると。
そして、途轍もなく恐ろしい物が目前に存在すると。

ルシオラを貫いた腕は、正に筋骨隆々にして赤く凶々しいオーラを纏っている。
腕はそのまま持ち上がり、ルシオラの上半身を縦に引き裂いた。
一片の慈悲も無い殺意。
それを纏った男が、ルシオラを引き裂く。
男はルシオラの死体を無造作に投げ捨てる。
目前で呆気無く行われた殺人。
何よりそれを容易く行った男が怖かった。

鍛え抜いたと言うのすら生温い、強大で高密度の筋肉。

そこから溢れ出る狂猛で凶々しいオーラ。

その形相は正しく”鬼”その物。

「我、拳を極めし者!! 妖とて敵に非ず!」

拳を極めし者。
自らをそう呼んで憚らぬ者は、ストリートファイターの世界においてもただ一人。
拳の修行の果てに、殺意の波動を身に付けた、
この豪鬼のみである。

豪鬼は苺鈴を無造作に見下ろす。

196世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:05:10 ID:E309ccdE0
苺鈴は射竦められたがごとくに、動けない。

「死合いの気構えも無き童、我が拳に値せず」

吐き捨てるように言い放つ豪鬼。
突き放すような言葉に、苺鈴は一瞬自分が見逃されるのではないかと期待する。
しかしすぐにそれは思い違いだと悟る。
先刻よりむしろ強まっているからだ。
豪鬼の叩き付ける、どころではない大気を震わすほどの”殺意”が。

「殺意の波動が高まる我が前に立つ、己が不明を恨めい!!」

苺鈴は武術を習っていると言っても、自分にとっては無きにも等しい力量であることを、
豪鬼は一目で見破っている。
まるで敵に値しない存在だと。
それでも、いかなる由縁とは言えここは殺し合い、即ち死合いの場。
一度死合いに立てば、それに対する意思や力の有無に関わらず、容赦するほど豪鬼は甘くない。
そして今の豪鬼には、ここが死合いの場であることすら関係無い。
それほど、今の豪鬼は殺意の波動が強まっていた。
今の豪鬼は、悪鬼羅刹も同然の存在と化していた。

「ぬうん!!」

全く前触れも無い状態から、豪鬼が飛ぶ。
同時にその脚で、回し蹴りを放った。
丸太と紛うがごとき豪脚が、その速度で空を鎌鼬のごとく切り裂く。
その名に違わぬ旋風脚。

旋風脚は空を裂く際に発生した衝撃波のみでも、苺鈴を切り刻んだ。
肉が裂け、鮮血が飛ぶ。

苺鈴の耳を鋭い痛みが襲う。
手を伸ばすとそこにあるはずの耳朶が――無い。

(私の耳が、無くなってる!!)

豪鬼の旋風脚それで収まらない。更に容赦無く攻め立てた。
旋風脚が直接胴体に打ち込まれる。
肉を潰し、骨を歪ませる。
直接打ち込まれたルシオラは、木っ端のごとく吹き飛んだ。

豪鬼の旋風脚は、背後に居る――死んだはずのルシオラに打ち込まれていた。

苺鈴には何が何だか分からなかった。
ただ一つ確かなのは、異常な危機が自分に迫っていることだ。
そして耳に残る痛みと、何より喪失感が苺鈴を打ちのめす。

197世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:07:28 ID:E309ccdE0
苺鈴は狂乱したがごとく叫び声を上げて、その場から走り出した。

豪鬼に背後から奇襲をかけようとして、旋風脚に迎撃され倒されていたルシオラは、
呻き声を上げながら立ち上がる。
豪鬼の旋風脚は常人ならその一撃で死んでいる威力だが、ルシオラは人間ですらない魔族。
一撃で勝負が決まるほど脆弱ではない。

「くぅ……よく幻覚を見抜いたわね」
「殺意の波動を前に、幻惑など児戯も同然!!」

蛍の化身たるルシオラは、幻覚を操る能力を有していた。
最初、豪鬼の拳で貫かれたルシオラは幻覚。
更に自分自身は周囲の風景に隠れて、豪鬼の背後から襲い掛かった。

ルシオラの誤算は、豪鬼が殺意の波動を制御し得るほどの達人であったことだ。
いかに精巧な幻覚でも、手応えで虚仮か否かを見抜くことができる。
そして殺意の波動を自らの物とする豪鬼は、殺意・敵意を感じ取る能力に誰よりも長けていた。
豪鬼はルシオラの幻覚を見抜いた上で、その殺意・敵意を察知して迎撃したのだ。

「……あんたの所為で一人逃がしたじゃない」

ルシオラは逃げ去る苺鈴を見送り、豪鬼に向く。
豪鬼の戦力はおそらく上級魔族に匹敵、あるいは凌駕している。
ルシオラにとっては、隙を見せられない相手だった。

「うぬと相対して、益々殺意の波動が強まっている」

対する豪鬼は、何故かルシオラではなく自分の拳を見ている。
その身体からは相変わらず、魔族のルシオラですら凶々しいと感じるオーラを放っていた。

「うぬはただの妖ではない。世の摂理から外れた者か」

豪鬼の指摘にルシオラは驚きを隠せない。
まさか会ったばかりの人間に、自分の出自を言い当てられるとは思わなかったからだ。
しかしその驚きの表情は、すぐに憂いを帯びた笑みに変わった。

「……あんたの言う通りよ。私はアシュ様の計画のために作られた。
その計画が成功すれば、神・魔族のバランスは大きく崩れる。
私は世界のバランスを崩すために生み出された存在と言えるわ……」

ルシオラはアシュタロスの真意、死を望んでいたと言う事実は知らない。
それでもアシュタロスのクーデター計画の大枠程度は把握している。
従って世界のバランスを崩すために生み出された存在と言うのは、概ね間違っては居ない。
しかしそれはあくまで出自についての話だ。

「でも今は私が私の意義を決められる。ホレた男のためなら、ためらったりしない!」

ルシオラの両手をかざし、そこに光が集まる。
それがエネルギー、霊力であると見抜くのは豪鬼にはあまりに容易かった。
しかしそのルシオラの姿が一つでは無い。
同じ構えのルシオラが何体も出現。
そして霊波を一斉に発射した。

198世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:09:15 ID:E309ccdE0
それでも豪鬼に動揺は無い。

「我に虚仮は通じぬ!!」

豪鬼は瞬時に手に殺意の波動を集め、迎撃のための構えを取る。
霊波を幾つ撃たれようと本物のルシオラは一人なら、本物の霊波も一つ。
他の霊波は幻影なのだから構う必要は無い。

霊波に次々と襲われても、豪鬼はまるで意に介さない。
豪鬼の身体を霊波が通り抜けても反応を示さない。
そして豪鬼はルシオラの狙いに気付いた。

「ぬん!!」

両手を合わせ、腰に溜める豪鬼。
そこに気が、殺意の波動が集中・凝縮される。
大気をも震わすエネルギーの凝縮は、さながらブラックホール。
そして居並ぶルシオラへ向けて発射された。
古より気の奥義を、殺意の波動により更に高めたそれは正に必殺技。
豪波動拳。
凝縮されたエネルギーは、居並ぶルシオラの下に着弾。
解放されたエネルギーは、居並ぶルシオラを全て巻き込み消滅させた。

全てのルシオラは光の粒子へと還っていく。
ルシオラは全て幻影だった。
ルシオラの幻影が消え去った地の、更に向こう。
そこに単車に跨った人影が一つ。
それは全速力で豪鬼から逃げるルシオラの姿だった。



「全く……危うく殺し合いに乗ってる者同士で潰し合うところじゃない……」

ランダム支給品の一つ蒸気バイクを駆って、ルシオラは豪鬼から逃げ去る。
口調は軽いが今のルシオラに余裕は無い。
アクセルは全開で、それでも背後への警戒の念は緩まない。
もし再び豪鬼に捉まったら、ルシオラとて無事では済まないだろう。
人間であるはずの豪鬼から、それほどの危険性を感じ取っていた。
何よりルシオラは殺し合いに乗っているであろう者と、潰し合う訳にはいかない。
ルシオラの目的は殺し合いの優勝なのだから。
自分ではなく横島忠夫の。

ルシオラが創造主のアシュタロスを裏切ったのも、
姉妹やアシュタロスと戦ったのも、
そして東京タワーで死んでいったのも、
全て横島忠夫のためだった。

人類の味方に付いたのも横島に迷惑を掛けないためだ。
ルシオラの行動原理は、今や全て横島に向けられている。

『私がやってきたことは全部おまえのためなのに……!!
おまえがやられちゃったら、意味ないじゃない!!』

東京タワーで死の直前に言ったこの言葉が、ルシオラの嘘偽りの無い本心。
そしてそれは今も変わらない。

だからそれが殺し合いならば、最も早く確実な手段で横島を救うために最善の方法を取る。
何を犠牲にしようと迷いは無い。

(そうよ、ホレた男のためなら……私はためらったりしない!)

ただ一つの目的のために、ルシオラの戦いが再び始まった。

【C-5 草原/1日目 深夜】
【ルシオラ@GS美神 極楽大作戦!!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:蒸気バイク@サクラ大戦シリーズ
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2、
[思考]
基本行動方針:ヨコシマを優勝させる。
1:参加者を見つけ次第殺す。
[備考]
※参戦時期は、原作34巻東京タワーでの死亡直後です。

【支給品説明】
蒸気バイク@サクラ大戦シリーズ
李紅蘭が製作した蒸気機関を動力とする単車。
太正時代の乗り物としては高性能。
もしかしたら爆発するかもしれない。

199世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:11:10 ID:E309ccdE0
(……殺意の波動の高まりが収まらぬ。やはりあの妖一人が所以ではない)

ルシオラの姿が見えなくなり、豪鬼は再び自分の身体の調子を確認する。
やはりルシオラと離れても殺意の波動の活性化は収まらない。
そう、豪鬼はこの殺し合いの始まり。
あの船の上から、殺意の波動がかつて無いほど活性化していた。

本来、殺意の波動は制御が非常に困難な物である。
多くの武道家がそれに飲み込まれていった。
飲み込まれれば、ただ闘争と殺戮を求める”鬼”となる。
豪鬼ほどの修練の結果として、やっと制御を可能とする物。
あるいは拳の歴史において、豪鬼ほど殺意の波動を制御し得た者は居ないだろう。

このまま殺意の波動が活性化し続ければ、その豪鬼ですら制御し得ぬ域に達するやもしれない。
そうなれば豪鬼自身がどうなるかは想像も付かないことだった。

(元より修羅道は承知の上! 我に退く道無し!!)

理由もわからない活性化に、それでも豪鬼に恐れは無い。
危険は元より承知の上で、殺意の波動を選んだのは豪鬼自身。
それが更なる高みに行かんとしているのだ。
豪鬼に躊躇する理由は無い。

より強きを求め、殺意の波動を身に付けた豪鬼は、
更なる強きを求め、バトルロイヤルと言う死合に臨む。

【D-5 草原/1日目 深夜】
【豪鬼@ストリートファイターシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3、
[思考]
基本行動方針:死合を勝ち抜く。
1:殺意の波動が求めるまま死合う。
2:殺意の波動が高まるに任せる。
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺意の波動がかつて無いほど活性化しています。

200世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:14:33 ID:E309ccdE0
(小狼、小狼、小狼、小狼小狼小狼!!!)

ルシオラと豪鬼から逃げ出した苺鈴は、二人の姿が見えなくなっても一心不乱に走り続けていた。
ただただ怖かった。
ルシオラと豪鬼だけでは無い。
船上での惨劇も。
首輪も。
自分が耳を失った事実も。
殺し合いが始まってからの何もかもが怖かった。
現実に起こった何もかもが現実だと信じたくなかった。

目を瞑り自分の心中の声だけを聞き、現実の全てを拒絶して走るは苺鈴は、
ここが何処だかも分かっていない。

(早く助けて小狼!!)

苺鈴はまだ名簿も見ていない。
李小狼が参加していることも、知らないはずである。
それでも小狼に助けを求める苺鈴。
今の苺鈴には他に縋る物が無かった。

しかし目を瞑ったまま、まともに走り続けられはしない。
苺鈴は石に躓いて転倒する。

「いったぁ…………ここどこよ?」

気付くと苺鈴は岩場にまで来ていた。
自分の置かれた環境を知りたくて、辺りを見回す。

そして彼女は求めていた再会を果たす。

始めはそれが何なのかは、分からなかった。
岩場にポツンと、置かれた球体状のそれは、
上部に髪が生え、
眼も、
口も、
鼻も、
耳も在る。
それは人間の頭部だった。

「…………嘘よ。嘘……だってそんなはず無いもの…………」

苺鈴は恐る恐るその頭に近付く。
それを確かめたくは無い。
しかし確かめずにはいられない。
なぜならそれは苺鈴の想い人、李小狼の生首だった。

嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘

頭の中に鳴り響く言葉が、口をついて出てこない。
今や苺鈴は完全に狂乱状態だった。
いつか結婚すると思っていた。
結婚を諦めた後も、好きという気持ちの抑えられない。
誰よりも大切な人。
それが生首になっているのだ。

なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ

これも殺し合いの故なのか?
自分もいずれ同じ運命を辿るのか?
狂乱を収める答えなど無い。
はずだった。

201世界の理を壊すモノ ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:16:01 ID:E309ccdE0
しかし苺鈴は答えを出す。

「…………あは……あはは…………あはははははははは!!」

苺鈴は笑い声を上げる。
それは激しいのに虚ろな、心底からなのに乾いた、
異様な笑い。
まるで人間が壊れたかのような笑いだった。

「あはははははははは! なんだ、やっぱり全部嘘だったんじゃない……馬鹿みたい」

それは現実の全てを嘘だと言う答え。
根拠も理屈も全てを拒絶して、
それゆえに現実の全てを拒絶する答え。
しかしそれだけが、今の苺鈴が現実を受け入れる手段。
苺鈴を狂乱から救う手段だった。
しかしあるいは、より深く狂ったとも言えた。

いずれにしろ苺鈴は、この現実を否定しなければならない。

「バトルロイヤルをやって勝てば良いんでしょ? そうすればこの訳の分かんない嘘も、全部終わるのよね」

主催者は勝てば死者も蘇生させると言っていた。
それはつまり小狼が実は生きていると判明すると、苺鈴は解釈した。
だって本当は小狼は生きているのだから。
現実だと思っていた全てが嘘なのだから。

苺鈴は、ただただ小狼は生きていると言う答えに都合の良い解釈をする。
それだけが、今の苺鈴が現実を受け入れる手段なのだから。
そして、最早殺し合いを拒む理由も無かった。
誰を何人殺そうと、全ては嘘なのだから。

「あはは……ほら、小狼も一緒に行こ!」

苺鈴は小狼の生首を持ち上げて、本人にそうするように話し掛ける。
全てが嘘なら、それは偽物のはずだが、
今の苺鈴にはもうどんな根拠も理屈も関係無い。
それは偽物だろうとやっと出会えた小狼であり、
苺鈴の寂しさを紛らわせる物であり、
それでも本当は小狼は生きているのだ。

小狼の生首をデイパックに仕舞い、苺鈴は歩き出す。
もう目を瞑ることも、恐れることも無い。
ただ殺し合いを勝ち進むことだけ考えれば良いのだ。

そう決意する苺鈴は、壊れたかのような笑身を浮かべていた。

【C-4 岩場/1日目 深夜】
【李苺鈴@カードキャプターさくら】
[状態]:疲労(中)、左耳欠損、精神崩壊
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3、小狼の生首
[思考]
基本行動方針:殺し合いを優勝する。
1:殺し合いを勝ち進む方法を考える。
[備考]
※参戦時期は第60話終了後です。
※支給品はまだ確認していません。
※バトルロイヤルは現実ではないと思っています。

202 ◆emwJRUHCH2:2015/11/10(火) 02:17:47 ID:E309ccdE0
投下を終了します。
重ねて言いますが遅れてすいませんでした。

203 ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:27:34 ID:MQYImfzM0
投下乙です。

>>120
遅くなってすみませんでした。
手元の単行本が誤植されてた代物だったので、釣られて間違えてしまったようです……
wiki掲載時にはチョコラータで統一してもらえるよう修正が入ったら幸いです。

>これが私の生きる道
中国武術対決は無事に春麗の勝利。
しかし猫化によって懐に潜り込んだし、シャンプーにもこれは反撃のチャンスがあるか。
乱馬の為に乗ってしまった彼女だが、果たしてここからどう動くか。
そしてスチュアートの反応がごもっとも……そら、一般人からすりゃ次元が違うよこの人ら……

>豹
マチルダに切り捨てられる感が半端ないな、今泉……
仕方がないとはいえ、果たしてこのロワで彼は無事にやっていけるんだろうか。
しかし仮にも警察、マチルダの目的が分かったら必死で動いてくれるだろうことを期待します。

>世界の理を壊すもの
豪鬼が半端ない……そら殺し合いなんてなったら、殺意の波動も喜んで暴れるわな。
最強クラスのマーダーですが、果たして誰がこの怪物を止められるのか。
そして苺鈴……小狼の死を見て、壊れてしまった……
可哀想でならない彼女が、この先狂気に走って何をやらかすか……不安だ……

さて、遅くなりましたがこちらも投下をいたします。

204拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:28:28 ID:MQYImfzM0


一陣の風が吹く。


星の光が唯一場を照らす、荒涼とした地の上で。


一人の男が、風を一身に受けつつ静かに瞳を閉じ佇んでいた。



純白の胴着に身を包む、屈強な肉体を持つ格闘家。



その名はリュウ。



『真の格闘家』を目指し、拳に生きる一人の求道者だ。



(……殺し合い、か)


このバトルロイヤルという謎の催しに対し、リュウは己の中である答えを模索していた。

格闘家の本懐とは、拳に生きる者が目指すべき地点とは何かを。


あの日と同じ……強大な実力を持つ帝王サガットを打ち倒した時と同じ迷いが、彼の中には生じていた。
サガットは帝王の名に恥じぬ力を持っていた……当時のリュウにとって、あれ程の強敵はいなかった。
故に彼は、恐怖を覚えてしまった。
圧倒的実力を持つ敵への恐怖を、敗北―――死ぬかもしれないという恐怖を。

そしてその感情は、リュウに眠る強大な力―――殺意の波動を呼び起こさせてしまった。
殺意の波動を持って放たれた一撃は、サガットを見事打ち倒した。
帝王を地に下し、リュウを勝利に導いた。
しかし……その勝利にリュウが抱いたものは、歓喜でも安堵でもなかった。
言葉では言い表しにくい冷たさ……悲しみにも似た、空虚さであった。


これが自分の目指していた『真の格闘家』だというのか?

格闘家の行き着く先とは、勝利を得る為の絶対的な力―――相手を屠り滅ぼすだけの黒き力だというのか?

205拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:28:59 ID:MQYImfzM0


「……ほう。
 こんなところで瞑想する奴がいるとは……驚いたね」


その時だった。
リュウの前方―――このコロッセオの入場口より、一人の男がゆっくりと歩き入ったのは。
長身の、こちらもまたリュウに負けず劣らずの屈強な肉体をした男だ。
身に着けているサングラスのおかげで表情は読み取りにくいが……その身から発する闘気で、リュウは感じ取る事ができた。

この男は……この状況に対しての迷いがない。
バトルロイヤルでの闘いを望んでいる……殺し合いを望んでいると。


「見たところ、同じ武道家の様だが……このバトルロイヤルに思うところがあるといったところか?」

「ならお前は、この状況に何も思わないというのか?」


それを理解した上でなお、リュウは男に問いかけた。
同じ武道家というならば、何故そうしたのかと。

これは、単に殺し合いに乗ったか乗らないかというだけの問題ではない。
何故、拳に生きる上でその道を選んだのか。
その意味を問いかけるものでもあった。


「何とも思わない、か……そうだと答えれば嘘にはなるな。
 いきなり何の前触れも無しにこんな場に放り込まれちゃ、流石に驚きもする。
 もっとも……お前の望んでいる答えは、こんな感想じゃないようだがな」


男もまた、リュウの問いの真意を理解していた。
武道家として、血塗られた道を選んだのは何故か。
どうしてこのような道を、選ぶ事ができたのかと。


「武は、力は、敵を倒す為のモノ……命を奪うためのものだ。
 強さを突き詰めようとすれば、自然とそこに行き着く。
 命の取り合いに辿り着く……闘いに生きる者の道は、より強くなるか死ぬかの二択しかない」


武道とは突き詰めれば、敵を倒し殺す為の力だ。
ならばそれを極める為に人を殺めるのは、当然のことではないか。
故に男はその道を選んだ。
それが己が目指すべき強さの行き着く頂点であると、信じているが為に。

206拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:29:42 ID:MQYImfzM0

「違う!
 ただ相手を倒すだけの力が……命を奪うだけの黒い力が、格闘家の行き着く先であってはならない!
 皆が目指す真の格闘家への道が……無為に死に追いやるだけの悲しいものであってはならないんだ!!」


だが、リュウはそれを否定した。
あの黒き殺意の波動が……それが齎すあの空虚な闇が、本当の力である筈がないと。

今まで幾度となく、多くの者達と拳を交わしてきた。
その中で、かけがえなき多くの友と出会ってきた。
彼等と闘い競い合う中で、リュウは何度も思ってきた。


「大切な友との、ライバル達との闘いがあったからこそ俺は強くなることができた。
 尊敬すべき多くの猛者達と拳を交える事で多くを学んだ。
 互いに認め合い競い合う中で、俺は強くなれた!
 ただ屠るだけの力を振るう者には、決して得られない力がある!
 俺はそう信じている……お前の目指す道を、認めるわけにはいかない!」


こうして互いに力と技を磨きあう事で、共により高みへと行けると。
また再び、拳を交えたいと……そう何度も思ってきたのだ。
拳を交わすことで分かり合えた友との絆があるからこそ、今の自分はあるのだ。


「……甘いな。
 そんなもので得られる強さなど、タカが知れている……」


男がその言葉を受け入れられる筈もない事は、言うまでもなかった。
血塗られた道に自ら身を置き、強さを極めようとしているこの男にとって……
リュウの言葉は、甘い戯言以外の何物でもないのだから。
許す事など出来る訳がない。

まして……一目見ただけで『強い』と分かるだけの存在ならば、尚更だ。



「……戸愚呂だ。
 闘う前に、名前を聞いておこうか?」

「リュウだ……戸愚呂。
 お前がその道を歩むというなら……俺は全力でお前を止める……!」


両者が静かに構えを取った。
どうあっても譲れぬものがある。
言葉で分かりあう事などできない。

ならば、拳に生きる者として……ただ、拳を交えるのみだ。

207拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:30:26 ID:MQYImfzM0




■□■




「小手調べ……まずは30%といったところか……!」


先に仕掛けたのは戸愚呂だった。
自らの上着を脱ぎ捨てると、全身の筋肉を隆起させ、上半身を大型化させていく。
彼が持つ能力―――筋肉操作で、筋肉を発達させたのだ。
そしてそのまま間を置かず、勢いよく地を蹴り疾走。
戸愚呂はリュウに、真正面から右拳を叩きつけにかかった。


「ぬぅん!」
「ハァッ!!」


リュウはそれを左の手の甲で打ち払い―――ブロッキングし、右の拳で胴を狙いにいく。
しかし戸愚呂もまた、この一撃にすばやく反応した。
リュウの拳が胴に到達するよりも早く、右の掌で受け止めにかかったのだ。
そのまま強く握り締め、リュウの拳を封じようとする。


「ほう……!」


が……出来なかった。
リュウの一撃が、戸愚呂が想像していた以上に鋭く重たかったが為に。
掌を通じて、衝撃が腕から全身へと駆け上がっていく。
これ程の打撃は、久しく感じていない。
確かな強さを感じられる一撃だ。


「せいっ!!」


さらにリュウはそこから前に踏み込んだ。
戸愚呂が拳を受けて怯んだ瞬間、素早く右拳を引き、体ごと彼の懐に飛び込んだのだ。
そしてその左腕を両手で掴み、後ろへ振り向きつつその背に彼の巨体を背負う。
実にスムーズに、流れるような背負い投げを繰り出すリュウに成す術もなく、戸愚呂の体は宙を舞った。


「背負い投げか……俺を掴んで投げる奴なんて、本当に久しぶりだ……!」


否。
戸愚呂は投げられ宙を舞った様に見えているだけだ。
彼はリュウの投げから抜け出すのは不可能と瞬時に察知し、逆に自ら勢いを利用して高く跳んだのである。
そうする事で、地面へと叩きつけられるダメージから見事に逃れたのだ。
リュウも投げの瞬間に感じた違和感から、それは察せていた。
しかし、言うには簡単だが実際にそれを実行するのは相応の力量がなければ出来ない。
苦もなく両足から地面に着地する戸愚呂を見て、リュウもまたその事実―――戸愚呂が相当な強さを秘めている事を悟った。

208拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:30:47 ID:MQYImfzM0


「波動拳ッ!!」


故に、彼は追撃の手を緩めなかった。
戸愚呂の着地に合わせ、すかさずこの技を放ったのだ。
内なる闘気・波動を練り合わせ相手へと打ち放つ飛び道具―――波動拳を。
着地直後の不安定な体勢では、タイミングからして回避は出来ない。


「フンッ!!」


いや、そもそも回避は必要なかった。
戸愚呂は迫りくる波動拳を、拳を振り払い打ち払った。
豪腕による強引な一撃で、掻き消したのである。


「まだだ!!」


しかし、その僅かな動作の隙に。
リュウは前方へとステップし、戸愚呂との間合いを詰めていたのである。
波動拳を防御されること・迎撃されることは既に予測していた。
今の戸愚呂の様に拳の打ち払いで波動拳を破る相手とて、初めてではないのだから。

間合いに入ると共に、まずは左の拳を素早く連続で突き出す。
威力よりも速さを重視した牽制、言わばジャブの連打だ。
対する戸愚呂は、またしてもこれに素早く反応し、腕を交差させてガードをする。
しかし、そこから動きが取れない。
リュウの攻撃による固めがきいており、迂闊に反応が出来ないのだ。
ここで下手に動けば逆に拳をもらい、思わぬダメージを受けてしまいかねないが為に。


「ッ!」


だがそれは、リュウもまた戸愚呂の硬いガードを切り崩せないままでいるという事。
速さこそあれど軽い拳の連打では、戸愚呂のこの防御は到底抜けれないだろう。
ならばと、リュウは行動を切り替えた。
左拳を引くと共に、素早くその場に屈み足による攻撃へと移ったのだ。
真っ直ぐに蹴りを突き出し、その脚部を狙う。

209拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:31:25 ID:MQYImfzM0


「くっ!」


今度は防御が間に合わない。
リュウの動きが思うよりも速いからか、脚への一撃が命中することを許してしまった。
戸愚呂の体勢が僅かに崩れる。
その隙を見て、リュウは動いた。
立ち上がる勢いを乗せ、右拳を突き上げてのアッパー。
それが戸愚呂の顎に吸い込まれるように入る。
更にそのまま、上体を捻りつつ跳躍。
脚部に力をこめ、戸愚呂の側頭部目掛けて放つ……!


「竜巻旋風脚!!」


竜巻旋風脚。
前方への跳躍と共に繰り出す、空中での連続回し蹴りだ。
それは見事に戸愚呂のこめかみを捕らえ、彼を勢いよくふっ飛ばした。
その巨体が、コロッセオの闘技場に倒れ伏す。
防御の反応すらも許さない素早いコンビネーション攻撃で、リュウは見事戸愚呂を切り崩したのだ。





■□■





「……ふふっ。
 ここまで圧倒されるとは……30%の力じゃ、流石に失礼だったか」


ゆっくりと起き上がりつつ、戸愚呂は目の前に立つ男を静かに見据えた。
かけていたサングラスは今の一撃で砕け散っており、両の眼でしっかりと捉えている。
元々、30%の力では勝てる相手ではないとは踏んでいた。
あくまで小手調べのつもりであり、どれくらいできるかを確かめるために敢えてこの状態で挑んだのだが……流石にここまで圧倒されるとは思ってもみなかった。

210拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:31:51 ID:MQYImfzM0
強い。
それも道具に頼ったものでも、兄の様な特異体質に頼ったものでもない。
純粋に磨き上げた、武の力だ。
目の前の男の強さは、紛れもない本物だ。


「……嬉しいぞ。
 久々に、期待できる闘いになりそうだ……!!」


戸愚呂が歓喜の声を上げると同時に。
その上半身が、更なるパンプアップを遂げた。
一気に、筋力操作を倍の60%まで引き上げたのだ。
目の前に立つ男には、少なくともここまでの力を見せる必要があると感じたが故に。

さあ、これならばどこまでやれる?
どこまで自分の力に、この男の強さは届く……!!


「ハアァァァァッ!!」


戸愚呂は間合いを詰めることなく、その場で全力の拳を放った。
拳が届く距離ではないにも関わらず繰り出された一撃は、当然ただ空を切るのみ。



――――――ゴウッ!!



しかし……その剛拳を突き出す事で生じる風圧ならば、リュウへと届く。
60%まで力を引き上げた事で、こういった芸当も不可能ではない。
そして純粋なパワーが生み出すそれは、命中すれば拳打と同等以上の威力を発するに違いないだろう。
戸愚呂はこの攻撃を80%より低い段階で使った事はなかったが、元々80%の段階でも軽く腕を振るう程度で出来た代物だ。
やや劣るこの60%の時点でも、ビルを一棟更地に余裕で変えるだけのパワーはある。
ならばこうして全力を込めた拳を放てば使うこと自体は不可能ではないと踏んでおり、現に実現したわけである。



「波動拳ッ!!」


リュウはそれを、波動拳で迎え撃った。
波動と拳圧がぶつかり合い、掻き消える。
その瞬間、両者は同時に動いていた。
互いに真っ直ぐ、前へ。
その拳を、全力で突き出しに向かっていた。

211拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:32:32 ID:MQYImfzM0



――――――ドンッ!!



「ぬぅ……!」
「くぅ……!」


真正面から右拳同士が激突しあう。
どちらともに、拳より伝わる強い衝撃を感じつつも、一歩も下がらない。
通常、こういった場合には力の弱い方が押し合いに負けて吹っ飛ぶものだ。
だがこの二人は、微動だにしていない。
その両足がコロッセオの舞台に皹を入れつつも、力強く留まっている。
つまり、両者の威力は互角という事になるが……


「ッ……!!」


僅かに、戸愚呂の体が後ろに動いた。
リュウの拳が、戸愚呂のそれを僅かながらも押したのだ。
踏ん張っている以上、足は使えない。
ならばと、戸愚呂は空いているもう一方の拳をリュウ目掛けて繰り出した。
お互いに右拳を精一杯に突き出し合っているこの状況では、直接体へは届かない。
先程の様に拳圧で吹き飛ばすにも、この力比べの体制からでは完全には威力を発揮できないだろう。


「はぁぁっ!!」


故に狙うは……ぶつけ合っている右の拳。
そこに横からの一撃を打ち込み、リュウの体勢を強引に崩す腹だ。


「……見えたっ!」
「何……?!」


だが……同じ体勢にあるリュウもまた、考えていたのだ。
この状況下で出せる追撃は何か、敵の間合いに届く一撃は何かを。
故に戸愚呂の攻撃を察知し……反応することができた。



――――――パァンッ!!



「ぬっ……!!」


絶妙のタイミングで、リュウは左の拳を打ち下ろし。
向かってくる戸愚呂の左フックを、下へと捌いた。
剛力から繰り出される一撃を防御するのではなく、僅かに力を加えることでさばき受け流したのだ。

212拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:33:02 ID:MQYImfzM0
ザンギエフや本田をはじめ、パワーを武器にしてきたライバル達は大勢いた。
そんな闘いの中で、リュウは確かに学び成長していた。
強力なパワーを相手に打ち勝つならば、ただ真正面から受け止めるだけではいけない。
時には敢えて受け入れ、受け流すことで見えるものもある……!


「くっ!!」


命中でも防御でもない。
拳のぶつける先を見失ってしまった事で、戸愚呂の体はバランスを崩さざる得なくなってしまった。
振り払った自らの力に、引っ張られる形で……!


「オオォォォッ!!」


それに合わせて、リュウは強く右拳を突き出し戸愚呂を押し切った。
当然、戸愚呂にはこれを踏ん張れる道理などない。
後方へと下がらざるを得ず……そこへリュウの追撃が入る。



――――――ドゴォッ!!


力強く前へと踏み込んでの、上段足刀蹴り。
無防備な戸愚呂の喉元へと、その強力な一撃が叩き込まれる。


「くっ……ぬおおおぉぉぉっ!!」


しかし、戸愚呂はそれで倒れず。
逆にリュウの両足を掴み、そのまま横へと大きく振り回しにいった。
まるでプロレスのジャイアントスイングの様に、リュウの肉体を軽々とぶん回し……投げ捨てる!!


「ッ……波動拳!!」


だが、リュウとてただではやられない。
空にその身を投げ出されながらも気を練り上げ、激突寸前に地面へと波動拳を放ったのだ。
落着の衝撃を緩和し、ダメージを抑える為に。
更に、波動拳によって土煙がもうもうと舞い上がる。
リュウの姿が、その中に入り隠されてゆく。


(目くらましか……だが、狙ってやったのじゃあないな。
 あくまで意図せず起きた副産物……こいつの性格上、こんな小細工はしない。
 武道家同士の一対一での闘いである以上……!)

213拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:33:28 ID:MQYImfzM0

戸愚呂はその煙を真っ直ぐに見据えていた。
リュウがこれを利用してあらぬ方向から奇襲を仕掛けてくることは、恐らくないだろう。
一対多の戦いならばともかく、あくまで武道家同士のサシでの決闘と彼が考えているならば……小細工を用いた決着など望まない筈だから。
つまり、リュウが来るならば……それは真正面から以外ありえない。


「いいぞ……それでこそ、闘う価値がある!!
 期待した甲斐がある!」


その姿勢を、戸愚呂は心から喜んだ。
ならば自分もつまらない真似をせず、正面から相手をしようではないか。
腰を深く落とし、呼気とともに右拳に力を集中させる。
全力を込めた正拳をただ打ち込み、その拳圧を真正面より叩き込むのみだ。


「ハァッ!!」


そして繰り出された一撃は、闘技場の地を抉りながら真っ直ぐに突き進んでゆく。
やがてそれに伴い、舞い上がっていた土煙が掻き消えてゆく。
その中心には予想通り、リュウが立っていた。
迫り来る戸愚呂の攻撃を、真正面から堂々と迎え撃つべく。


「真空……!」



その両の掌に……強力な波動を込めて!



「波動拳ッ!!」


真空波動拳。
通常の波動拳よりも更に強力な波動を練り上げ放つ、必殺の一撃。
それは戸愚呂の放った拳圧と、真正面からぶつかり……



――――――ゴゥッ!!



打ち破り、なおも突き進む!

214拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:33:54 ID:MQYImfzM0

「ぬっ……ぬぅぅおおぉぉっ!!」


戸愚呂は咄嗟に両手を突き出し、その波動の一撃を受け止めた。
何と重く力強い一撃か。
自分の攻撃を相殺するどころか、貫きなおも襲いかかろうとは。


(これだけの霊力……いや、霊力とは少し違うようだが……!
 どちらにせよ、ここまでのものを練り上げるには相応の鍛錬がなければ出来ない……
 リュウ、この男……!!)


強力な波動をその身で受け、素直にリュウの実力に感心をしながらも。
戸愚呂は腕に力を込め、開いていた指を徐々に握り締めていく。
真空波動拳を、強引にパワーで圧殺しようとしているのだ。
見る者が見れば、それが如何に無茶苦茶な手であるかはよく分かるだろう。

しかし……!


「喝ッ!!」


戸愚呂は、それを成した……!
同等の闘気を込めるのでもなく、技によって威力を抑えるのでもなく。
リュウの放った必殺の波動は、ただただ強力なパワーの前に打ち消されたのだ。


「何ッ!?」


だが……驚愕の声を漏らしたのは、リュウではなく戸愚呂の方であった。
何故ならば、目の前の波動を打ち消した瞬間に彼の視界に飛び込んだのは、既に至近の距離まで近づいていたリュウだったのだから。
リュウは戸愚呂が真空波動拳を受け止めにかかったそのタイミングで、間合いを一気に詰めていたのだ。
必殺の波動ですらも、攻撃を打ち込む為の布石に変えて……!


「オオオォォォッ!!」


強く前へと一歩を踏み出し。
拳に闘気を、波動を込めて。
天へと昇る龍が如く……跳躍と共に打ち出す!


「昇龍拳ッ!!」


打ち出された拳は、真っ直ぐに……戸愚呂の胴体を打った!

215拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:34:21 ID:MQYImfzM0




■□■




「グゥゥッ!!?」


リュウの放った昇龍拳を受け、戸愚呂は思わず苦悶の声を漏らしてしまった。
自身の筋肉を突き抜け、肉体の内にまでこうも衝撃を届かせるとは。
30%では圧され、ならばと60%まで力を引き上げたが……それでも尚、勝負はリュウの優勢ときた。
何という事だ。


「……ふふ……フフハ!」


何という、嬉しい事だ。
まだまだこの男は、自分に力を出させてくれる。
こんなものではない、更なる力を引き出させてくれる。
これだ……これを期待していたのだ。
浦飯幽助に自分を上回る何かがあるかもしれぬと感じた、あの時と同じだ。
全力を出してもいいと、そう思わせるだけの強敵との勝負。
目の前の相手には……それが望める見込みがある!


「いいぞ……リュウ。
 もっとだ、もっとお前の強さを見せてみろ……俺と闘え……!!」


戸愚呂の肉体が、更なる変化を遂げる。
現段階の更に上……80%まで、自身の力を引き上げたのだ。
その姿は、今まで戸愚呂が出してきた最強の形態。
これまでその姿を見て生きてきた者は極僅かしかいない姿だ。


「戸愚呂……!?」


もはや人の範疇を超えたその異形の姿には、さすがのリュウも驚きの感情を抱かざるを得なかった。
ここまで見せてきた30%・60%の筋力操作は、まだ人間の範疇に入る姿だ。
寧ろ、全身から電気を放つ野生児や手足が自在に伸び口から火を吹くインド人を見てきたリュウからすれば、外見上は些細な変化でしかなかった。

だが……流石にこの80%の力にまでなると、話は別だ。
全身の筋力は明らかに人の範疇を逸脱しており、何より全身から放たれているこの異常とも言える闘気。
力の弱いものならば、相対しているだけでも体力を削られるであろう程だ。


「その姿……それが、お前の目指す力のあり方なのか……?」

216拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:34:47 ID:MQYImfzM0
「ああ……そうだ。
 力を、強さを求め俺が行き着いた……人を超えた力だ」


人を超えた力。
戸愚呂は自らの今の強さを、そう言い放った。
それは間違いではない。


「人を越える妖怪へと転生する事で、俺はこの力を手に入れた。
 強さを極める為に……人間を超えたのだ」


話は、50年前にさかのぼる。
かつての戸愚呂は、リュウと同じく拳に生き強さを日々磨く武道家であった。
自身の強さを何よりも信じていた。

だが……ある一度の敗北が、彼の全てを変えた。
敗れた末に、彼は大切な者達を失ってしまった……己の強さが、足りなかったが為に。
だからこそ、彼はその強さを永久に高め保つことを目指した。
そしてそれは、年と共に老いてゆく人間では成し得ない。
故に彼は、妖怪へと転生したのだ。
人あらざる存在になることで、より己の武を高めるために。

ただひたすらに、強さを得るために。



「……違う……!」


その戸愚呂の言葉を、リュウはまたしても否定する。
彼の力は間違っている……そんなあり方が、目指す強さの到達点であるはずがない。


「戸愚呂……それは人を超えた力じゃない!
 人を捨てた力だ!!」
「捨てた、か……どちらにせよ、同じ事だ!」


間合いを詰め、戸愚呂が迫る。
先程までと比較して、段違いの爆発的な勢いだ。

217拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:35:25 ID:MQYImfzM0

「人間である以上、得られる強さには限界がある!
 だからこそ俺は、人間である事をやめたのだ!!」


リュウを射程に捉えると同時に、戸愚呂は右の中段の廻し蹴りを放つ。


「違う!
 戸愚呂、お前は怖かったんだ!!
 人間のままであり続け、強さを磨く事から……お前は逃げた!」


その蹴りを力強く左の腕で受け止め、リュウは右の拳を真っ直ぐに放つ。


「俺が逃げただと……!?」


戸愚呂はその一撃を上体を逸らして回避し、蹴り足を戻すやいなや両の拳を組み、リュウの顔面めがけて打ち下ろす。


「そうだ!
 お前の言うとおり、人間は弱いかもしれない生き物だ。
 だが同時に、己を磨き高める事で強くなれる可能性を秘めている!
 それはただの力や技によるものだけじゃない!
 友との絆……自分以外の誰かの支えがあってこそ得られる強さだ!!」


鉄をも容易く砕きかねないその豪打を、リュウはバックステップで回避し、同時に波動を練り上げる。


「だからどうした!
 強さを得るのに他者の存在など不要……!
 全てを切り捨て、純粋に己のみを高める事で強さは得られる!!」


放たれた波動拳を、戸愚呂は手刀の一撃で両断する。


「それが逃げていると言うんだ!
 お前は強さを極める為に絆を捨てたんじゃない……絆から得られる強さを信じる事が出来なかったんだ!
 だから、人を捨てて得られる容易な力に走った……人である事から逃げた!!」


リュウは竜巻旋風脚で戸愚呂との間合いを詰めつつ、その頭部に蹴りを狙う。


「グゥッ……!?」


腕を上げて頭部へのダメージを防ぐも、戸愚呂の顔が苦痛に歪む。

218拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:35:55 ID:MQYImfzM0

(違う……さっきの攻撃とは!!)


威力が明らかに違う。
これはただの竜巻旋風脚ではない。
より力を、闘気を込めた必殺の奥義……!


「真空……竜巻ッ!!」


真空竜巻旋風脚。
より強い闘気を込めて放たれたその蹴りは、戸愚呂の体を大きく揺らした。
80%まで高められた戸愚呂の肉体にも、なお通用する威力が秘められていた奥義だ……!


「ウオォォ!!」


踏ん張る戸愚呂の肉体を、音と砂埃を立てて強引に後退せる。
この真空竜巻旋風脚には、これまでリュウが放ってきたどんな攻撃よりも重かった。


「俺は……お前にだけは負けるわけにはいかない!
 真の格闘家の行き着く先が、人を捨てた強さではないと……そう証明するためにも!!」


それは単なる威力だけの話ではない。
彼の魂……拳にかける想いが、しかと乗せられた攻撃であったからだ。
真の格闘家を目指すものとしての譲れぬ願いが、力を与えているのだ。


「証明、か……なら、リュウよ。
 俺がお前に勝てば……正しいのは俺の求める強さということになるな……!!」


しかしその一撃を受けてもなお、戸愚呂はその思いを否定した。
あくまでも自分は、自分の求める強さを信じると。
リュウの求める強さなど、甘い戯言でしかないと。


「ウオオォォォォォォォ!!」


唸りを上げ、戸愚呂が拳を繰り出す。
リュウの掲げる信念を、その肉体ごと打ち砕かんとするかの様に。



――――――バシィィッ!!!



「くっ……!!」


リュウはその拳を、真正面から両の腕で受け止める。
防御越しですら、肉を越え骨まで響く衝撃と威力。
まともに当たれば容易く体を吹っ飛ばされていただろう……だが、リュウはそれを受け止め踏ん張っていた。
全く後ろに下がらず……まるで、戸愚呂の信念を拳ごと受け止めるかの様に。

219拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:36:24 ID:MQYImfzM0


「なら……何故だ、戸愚呂」


その体勢のまま、リュウは静かに言葉を紡いだ。
目の前に立つ、己の強さを否定しようとする男へと……


彼は、悲しき瞳で告げた。



「何故……お前の拳からは、悲しみが伝わって来るんだ……!」


拳を通じて伝わった……戸愚呂の思いへの疑問を。





■□■




「……!?」


リュウの言葉を聞いた瞬間。
大きく目を見開くと共に、戸愚呂は咄嗟に拳を引いた。
引くしかなかった……できなかったのだ。


「……悲しみ、だと……?」


自身の拳から悲しみを感じたというこの男に……あのまま、拳を突きつけ続けることが。


「ああ……そうだ。
 お前の拳は、ただひたすらに強さを……
 敵を倒す事のみを追求するだけの拳じゃない。
 口ではそうだと言っても……拳から伝わる想いには、それ以外のものが確かにあった。
 少なくとも、俺にはそう感じられた……」


戸愚呂が強さをひたすらに追い求め続けているという点に、一切の間違いはない。
紛れもない事実なのは、疑いもないだろう。
だが……本当にそれだけなのかと、リュウにはどうしても思えてならなかった。
何故なら……彼の姿が、拳がそれを否定しているからだ。
自分と闘う中で、徐々に全力を出せる事を喜んでいる戸愚呂の姿が、その想いが。


「まるで……俺には、お前が『自分を倒せる相手を望んでいる』かのように思えてならないんだ」


闘いの中で……自己を越える存在を待ち望んでいるのではないかと。
それを自分に求めているのではないかと……そう感じさせたのだ。

220拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:36:43 ID:MQYImfzM0




■□■




「……まったく。
 くだらない事を言ってくれるな……白けちまったよ」


そんなリュウの言葉を聞き、戸愚呂は小さくため息をついた。
興が削がれたとでも言うべきか。
80%まで膨れ上がっていたその肉体が、徐々に元の体型へと戻りつつあった。
先程まで放たれていた圧倒的な闘気もまた、同様になりを潜め始めている……戦意を消したのだ。

これ以上……少なくとも今は、彼の中にリュウとの闘いを続行する意思はなかった。


「……リュウ。
 何を感じたのかは知らないが、それはお前の勝手な思い込みに過ぎない……お門違いもいいところだ」


戸愚呂は地に落としていたデイパックを拾い、コロッセオの入退場口へと足を向けた。
リュウに背を向け、ゆっくりと静かに外へと歩いてゆく。


「俺はただ、強さが欲しいから闘うだけだ。
 お前との闘いならば、更なる強さを得られると感じたから……だから闘いを望んだまでのことだ」
「戸愚呂……」


去りゆくその背を、リュウは追おうとはしなかった。
ダメージが抜けていないことも、もちろんあるが……それ以上に。
拳を通じて感じた悲しみと同じものを、その背から感じてしまったが為に。
今ここで闘いを挑んで……それが本当に正しいのかと、迷いを感じてしまったがためにだ。


「まあ……そういう意味では、俺とお前はどこか似た者同士なのかもしれないか。
 リュウ……このバトルロイヤルには、俺と同じ様な奴は山ほどいるはずだ。
 それでもなお、お前は……その甘い道を歩もうって言うんだな?」
「……ああ。
 ただ闇雲に命を奪うだけの力は、本当の強さじゃない……俺はそう信じている。
 だから、戸愚呂……お前は絶対に俺が止めてみせる」


それでも、この決着だけはいずれ必ずつけなければならない。
この拳への想いにかけて……必ず。

221拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:37:02 ID:MQYImfzM0

「ふっ……そいつは、次に出会う時が楽しみだな……」


その思いへと戸愚呂は静かに笑みを浮かべて答え、去っていった。



リュウと戸愚呂。
同じく拳に生き、しかし互いに違う頂きを目指す二人の求道者。
その第一戦は、引き分けに終わった。

果たしてこの先……決着となる第二戦は、無事に巡り来るのであろうか。

それとも……



【A-5 コロッセオ/1日目 深夜】
【リュウ@ストリートファイターシリーズ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3、
[思考]
基本行動方針:格闘家としてこのバトルロイヤルを否定する。その為にもノストラダムスを倒し、バトルロイヤルを終わらせる。
0:ひとまずは体力の回復を待ってから行動する。
1:戸愚呂(弟)との決着をいずれつける。
  彼の求める強さを認めるわけには行かない。
2:バトルロイヤルを終わらせる為に、共に戦う仲間を探す。
[備考]
※参戦時期はZERO2のED〜ZERO3からです。
  その為、真・昇龍拳をまだ会得していない可能性があります。
※殺意の波動に目覚める兆候はなく、安定した状態でいます。
  ただし、置かれている状況次第によっては殺意の波動が昂ぶり、目覚める可能性もあります。

222拳に生きる者達  ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:37:20 ID:MQYImfzM0




■□■




(……倒してくれる相手を望んでいる……か)


コロッセオの外回り。
出入り口を出てすぐの地点で、戸愚呂はリュウの言葉を静かに思い返していた。

彼は、自分が妖怪へと転生したのは、人であり続ける事への恐怖に負けたことからの逃げだと言った。
自身の拳からは、悲しみが感じられると言った。
自分が……本当は誰かに倒される事を望んでいるのではないかと言った。


(案外……そうなのかも、しれないな……)


100%の力を出し切り闘える、そんな相手を求めるのは……そんな想いが根幹にあるからなのかもしれない。
ああ、リュウの言うとおりだ。

50年前のあの日……暗黒武術会決勝で、潰煉に弟子達を皆殺しにされたあの時から。
潰煉を倒し敵を討ってもなお、彼らを守れなかったという罪の意識が消えなかった、あの時から。
弱い自分自身を許せず、妖怪となることで強さを手に入れようとしたあの時から。

ずっと……きっと自分は、望んでいるのかもしれない。
強さを求める反面で、心のどこかでは、彼の様な己とは違う強さを持つ男と出会い闘う事を。


「それでも……今更、後戻りなんかも出来ないんでな……」


それでも尚、戸愚呂は己の歩む道を曲げようとは考えなかった。
自分はこうして、全てを捨てて強さを得る道を選んだのだ。
だから……試してみたいのかもしれないのだ。

リュウが言った強さは、本当に正しい強さなのか。
自分が目指す強さこそが、本当に正しい強さなのか。


武道家として……どちらの強さが正しいのかを。


【A-5 コロッセオ外/1日目 深夜】
【戸愚呂(弟)@幽遊白書】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3、
[思考]
基本行動方針:優勝を狙い、全ての参加者と闘う。
0:自分に100%の力を出させるだけの相手を探し、闘いたい。
1:リュウとの決着をいずれつける。
  彼の目指す強さと己の目指す強さと、どちらが正しい強さなのかを確かめたい。
2:可能なら、一応兄者とは合流する。
[備考]
※参戦時期は暗黒武術会決勝戦前。
  準決勝終了後から玄海殺害までの間になります。
※リュウを強敵と認識し、80%までの力を発揮しています。
  彼ならば100%の力を出せるかもしれないと期待をしています。
※100%の力を出して全力で闘った場合、肉体が耐え切れずに反動で崩壊する恐れがあります。

223 ◆TA71t/cXVo:2015/11/10(火) 03:38:43 ID:MQYImfzM0
以上で、投下終了になります。

224名無しさん:2015/11/10(火) 08:46:11 ID:uV7zuQOk0
投下乙です
登場早々からの熱い展開、両者の死力を尽くした格闘に感嘆させられました!
後々の再戦も匂わせてますし双方の今後がとても楽しみです
…それにしても早速ストファイ勢はこれで全員出揃ったのか

225 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:03:40 ID:5XOn0UoM0
皆さま、投下お疲れさまです。
感想は後ほど書く形にして、今日期限の作品を今の内に投下したいと思います。

226灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:04:58 ID:5XOn0UoM0



 ──暗闇の中、赤いネオンが小さく光っていた。



 夜の風が冷たく染みわたり、「グレイ」の身体は一層ひんやりとした感触を伴っている。
 グレイは、その冷えきった口元で、一本の安い煙草を吹かしていた。
 彼の支給品だ。彼に支給された「武器」はこれだけだったが、むしろ彼にとっては、不味そうなパンや安上がりのミネラルウォーターよりも、この一服の方が生存にとって有意義な必需品といっていい。
 まだ吸い始めて間もないのか、先から燃え尽きた巻紙がぼろっと崩れ落ち、塵は冷風の中に溶け込んだ。
 煙草から発された煙は、夜風に流れて空を泳いでいく。
 グレイは、煙を見つめながら、今は亡き愛する女に想いを馳せた。

 ところで、この「グレイ」、というのが何者なのかを伏せて見てみると、何ら普通の情景が浮かぶかもしれない。
 少なくとも愛煙家であり男性であり、体温が低いという事だけが彼の特徴として挙げられたが、そんな人間はこの世にいくらでもいるのである。
 ……ただ、「彼」が何者か知った上で、それが映像として頭に浮かんだ時、多くの人はおそらく、幾許かの違和感を覚えるであろう。
 おそらく──こんな奇怪な者に会った事のある人間は、そうはいまい。

「……」

 彼は、グレイは──ロボットだった。

 その名の通り、深い黒の身体を持ち、人間のように「肉」や「皮膚」を持たない、完全な"メカニック"なのである。
 たとえば、この殺し合いに招かれたT-800やT-1000らターミネーターは人間の貌を被っていたが、そうして人間の姿形を借りる事もグレイにはなかった。
 胸部などを見れば彼が持つ回路の姿なども拝む事が出来るし、体表はブラックのメタルが包んでいて、目は赤いネオンランプとして光るのである。
 全身には無数の装備が着装されており、それらは隠される事もなく、腕や背中に露出していた。
 キャノン砲、バルカン砲といった、日本では滅多に目にかかる事のない兵器を人間大の身体一つに詰め込んでいるその姿は、もしかすれば近未来に戦争を行う兵器の姿のようであったかもしれない。
 この"地球"の出身ではなく、裏次元の世界のロボットであはるが、いつの日かこんな兵器が実線投入されれば、人間など一瞬で制圧されてしまうのではないかとさえ思えた。

 そして、そんな存在である故に、呼吸を行う器官はなく、勿論、煙草の味を吸い込む為の肺が動いている訳でもないのだった。
 いや、言ってしまえば、そんな機能は本来、どこにも「必要はない」のである。彼は戦う事さえ出来れば、充分に製作者の構想する用途に適える存在のはずだ。
 ……だが、これは果たして、製作者の悪戯か、製作者の意地か、あるいは、グレイ自身に"魂"でも宿ってしまったのか、もしか彼もかつては人間であったのか──グレイは、煙草の味や、酒の味までも覚えていた。
 時には、音楽の心地よさや迫力に、心を休ませる事もある。下手をすれば、文学も読めるかもしれないし、名画の魅力も理解できるかもしれない。美食に舌鼓を打ち、動物を飼ったとしても何ら可笑しい事ではないだろう。
 目先の安い楽しみや煩いだけの音楽に毒され、クラシックを愛する事のなくなった現代人よりも、遥かに先人たちの文化を愛する「人外」だったのだ。

 そして──そんな彼は、愛も覚えていた。

「……」

 ──マリア。

 それが、彼にとって、本当の女神にも等しい最愛の女性の名であった。
 マリアは、かつて葵リエという名の人間であったらしい。だが、グレイはリエとして彼女を見た事は殆どない。
 彼女は、「次元戦団バイラム」の元幹部。──つまりは、グレイの仲間だ。

 彼女の美しい五指が奏でる戦慄が、初めにグレイの心を奪った。
 そして、グレイは、その美しい容貌に見惚れた。並び立ち敵と戦う事はグレイの誇りであったし、共に飲む美酒は最高に美味かった……。

227灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:05:42 ID:5XOn0UoM0

 決してマリアがグレイを愛する事はなかったが、いつの日にか自分の女にしてみせたい、といつも……ただ純粋に想っていた。
 それは、彼女が生物で、彼がロボットである以上、果たされる事のない虚勢であったのかもしれないが──。

「……」

 だが、もう、マリアという女も、葵リエという女も、この世にはいない。
 死んだのだ。

 その最期は、皮肉にも、機械であるはずのグレイが拝む事になった。それこそが唯一、女神が齎したグレイとマリアの間の絆である。
 ……彼女が「リエ」を取り戻した時、マリアは当然、グレイの敵に回るかに思っていた。しかし、リエとなったマリアは、まだグレイの仲間のままだった。
 マリアは、最後には、「リエ」の心を取り戻しながらにして、グレイの名を呼び、グレイを信頼し、そして微笑みかけたのだ。
 思えば、マリアと過ごした一年で、唯一その時が、マリアがグレイに──それは確かな意味で、「本心」から──心を許した瞬間だっただろう。
 彼女の亡骸は消え去り、葵リエも、マリアも……この世からは消え去った。

 そして、彼女の最期を看取った時、鋼の身体を持つグレイも、生まれて初めて──赤く光るその瞳から、涙を、流した。

「……」

 彼女の死は、グレイにとって悲しき物であると同時に、尊き物であった。
 最後まで誇り高く戦い、散ったマリア。
 決して、グレイの一時の恋は報われなかったし、マリアを愛したあらゆる男たちも、マリアを殺した男や、マリアに愛された男でさえも──報われたとは言い難い。
 バッドエンド、と言っても何ら可笑しい物ではないだろう。

 だが……マリアの死は、どういうわけか、穢してはならない尊い瞬間だった。
 あの時、全ての男の願いさえ跳ねのける女の強さを見せつけられた気がした。その強さこそ、彼女の持っていた最大の尊さであったのかもしれない。
 そして──。

「……」

 ──そして今。
 マリア亡き今、グレイに残ったのは、「戦い」だけだった。
 強き者と戦い、いつか、誰にも見られず──ひっそりと、どこかで、野良犬のように……機能を停止する。
 それが、マリアを亡くした後に残されたグレイの生きがいであった。

 そう。最後まで戦う……それが、グレイの生き方。
 マリアと共に戦った、グレイという男の「戦士」の姿。
 近い内、その終わりの時が来るであろう事は、グレイ自身も「第六感」で悟っていた。おそらく、それは回路にすら組み込まれていない感覚。
 誰かによって、グレイの終わりは齎されるという未来が──何となく、感じ取れていた。

 ──もう、俺は長くない。
 勿論、体は万全だ。「機械」は永久に生き続ける事も出来る。
 しかし、俺は死にたい。
 ……いや、戦う事で、「永久に生き続ける」という機械の定めから脱したいのだ。
 その時が近づいている。
 そんな実感が全身の回路を駆け巡っている。

「……」

 ここで、「殺し合い」と聞いた時も、グレイは何も思わなかった。
 バイラムの一員である以上、彼は、いかに人間らしい「愛情」や「誇り」を持っていても、「正義」は持っていないのである。
 だが、正体も明かさない誰かの「命令」を素直に聞くという事は、ひとまず拒んだ。それは、いわば「誇り」という感情が、拒絶した結果だと言っていい。
 少なくとも、「誰か」でしかない者の命令には、靡かない。──これは、一個のロボットとして当然の理でもある。

 しかし、次に、「命令を聞くか、聞かないか」ではなく、「これを一つのゲームと問われた時──ゲームに乗るか、乗らないか」という選択がグレイに向けられた。
 ……そして、選択肢がそう変わった時、彼は、「バトルロイヤル」というゲームそのものは自在に選択を出来る物であるのだと再認識する事になった。
 なるほど、命を握られているとはいえ、こちらで自由に行動を決められるわけだ。

228灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:06:00 ID:5XOn0UoM0





 ──ゲームに乗るのも、悪くはない。





 ……グレイはそう思った。
 売られた喧嘩は買う、とどこかのチンピラの言うような事を考えているわけではないが、少なくとも今そういう場にある自覚だけはしっかりと持ち合わせている。
 デイパックや禁止エリアといった諸々のルールは、単純ながらに隙が無く、なかなかに凝っていて面白味があるし、おそらくこの首輪も相当な威力を持っていてグレイたりとも破壊するのだろう。
 普通の人間であってもグレイに挑めるよう、武器は煙草に限らず幾つか支給されているはずだ。個々の運勢も含め、ある意味では、非常にフェアーだ。どんな相手もただの弱者と見るつもりはない。
 生身の身体に実力の差異があったとしても、それを埋める方法はいくらでもある。
 これは、グレイに仕向けられた「ゲーム」としては、これまでに課せられたあらゆるゲームのルールとは随分と異なっていた。
 確かに面白い。──自分に相応しいゲームだ。

 ただ、あくまで、その「ゲームに乗る」とは、単に「殺し合いをし、優勝する」という事とは、やはり少し食い違ってきている。
 何せ、この殺し合いの中には、グレイにとって「殺すわけにはいかない相手」もいるし、「戦士としての誇り」もグレイの中には確かに内在し続けている。──最後のプライドが、ただ運に敗れただけの「誰か」と戦うという行為を邪魔した。

 戦いだけが残ったからこそ……その戦いだけは、自分の戦士としての誇りに適うものでありたい。
 グレイの目的は、戦いで死ぬ事だ。
 無差別に他者を襲うのではなく、その中で自分の敵と見極められる者だけがターゲットだ。──そう、たとえば、あの結城凱のように。
 ……それ以外の、戦う意思なき人間には興味はない。

 グレイの目的は、「殺戮」ではなく、「ゲーム」と「戦い」。
 その結果、勝負を決したいずれかが死ぬのは、戦士である以上やむを得ない事であるが。

「……」

 結局、何かにおいて強い戦士と、面白い戦いを行う──それが彼のゲームなのである。
 勿論、勝つ。そのつもりで戦う。
 死は勝ち続けた褒美として、いつか、誰かがグレイに齎すという物であろう。その時が来るまで戦い続ける事が、グレイに残った誇りなのだ。

「……」

 ……そういえば、この状況下、ノストラダムスは「頭脳」が必要などと言っていたが、これもまた面白い話であった。
 チェス、ポーカー、コイントス……面白い戦いは幾つもある。単純な戦闘だけではない。
 古畑任三郎や金田一一などはそれらの能力が高いらしいが、電子頭脳を持つグレイにとっては、どれを置いても人間など上回る。
 しかし、時として──凱のように、グレイさえも不意を突かれるような方法で勝利を掴む者も現れる。
 もしかすれば彼らとは、そんな戦いが来る事もありうるだろうか。
 戦士ではなく、一人の趣味人として戦ってみたい相手である。

「……」

 それから、忘れてはならないのは優勝の賞品だ。──だが、そんな物にも、縋る気はない。
 勿論、グレイの願いといえば、葵リエの蘇生であろう。
 しかし、それはやはり拒んだ。

 仮に……それでマリアが甦るとしても、グレイも、マリアも──誰も幸せになれようはずはないのだろう。
 何故だか、そんな予感がした。──そんな予感と反している、マリアの最期の声も、グレイの中にデータとして残っているはずだというのに。

『本当は……死にたくない……もう一度、一から竜とやり直したい……』

229灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:06:34 ID:5XOn0UoM0

 マリア……いや、葵リエの最期の姿が再生される。
 きっと、それがリエの確かな本心の願いであったのだろうと、グレイは思う。
 それが、一人の「戦士」の中に残った、人間としての……女性としての部分だった。

 ロボットであるグレイにも、不思議と人間が何を考えるのかはよくわかっている。
 人間たちは、迷う。グレイ同様、決して単純な想いだけが口からこぼれるわけではないし、自分の本心さえも詳しくは理解していない。──だが、最後の時に、本音らしき物が漏れる事もあるだろう。
 リエの最期の言葉は、死に直面した瞬間の、それに違いなかった。
 そう、その瞬間に見えたのが、リエの真実の姿だ。
 グレイだけが知っている、彼女の本当の願い……。
 グレイにも、その願いを叶えてやりたい気持ちはある。
 そして、確かにグレイにはそれを叶える力もあるかもしれない。

 ……だが。
 そんな願いを秘めた彼女は、最後に何をしたか。
 その言葉を竜に届かせる前の──彼女が見せた、人間の誇りをグレイは再生した。

『もう助からない! 最後にお願いよ、竜……! 忘れて……私の事を! 貴方の胸から私の記憶を拭い去って……』

 ……ああ、確かにそれは彼女の虚勢だったかもしれない。
 しかし、彼女が自分の求めた幸せと引き換えに、強がりながら見せた誇りだった。

 彼女が選んだのは、自分自身ではなく、愛する男の幸せだったのだ。
 グレイが彼女を想ったように、彼女は竜を想った。それだけの話だ。
 その時の意地を、グレイは、消してやりたくは無かった……。

 グレイが戦士であるように、リエもまた戦士だったのだから。
 その誇りを、グレイの甘い思いやりで消し去りたくは無かった……。
 そして、それが、グレイが、マリアを──いや、葵リエを「戦士」と認めた事の証明だった。
 ……結局は、彼女は正義の為に戦った戦士だったのだ。
 グレイは、かつて彼女を魔獣にする事を拒んだように、「人間」として最後を迎え、そして、「戦士」としての誇りを見せた彼女の姿を穢してやりたくは無かった。
 だから……グレイには、マリアの願いではなく、自分自身の「戦士」だけが残った。

「……」

 グレイが味わっていたラークマイルドが、一本切れた。
 普段、高級な葉巻を味わっているようなグレイには、些か安すぎた気もするが、無いよりは遥かにマシであるし、どうもこの味は嫌いになれない。
 もう一本、ラークマイルドの箱から煙草を取り出し、自らの機能で火を灯す。

 夜の闇の下に晒されながら、グレイは、ただ、ずっと、何かが起こるのを待ち続けていた。
 不意でも良い。
 奇襲を仕掛けられたとしても構わない。
 襲撃ではなく、誰かが訪れるだけでも良い。

 どんな形でも──。

 ……そうだ。確実に激突する事になる戦士がいる。彼らが良い。
 ブラックコンドル、いや、結城凱……ジェットマンの戦士。
 ラディゲ……マリアの命を奪った同胞。マリアの命を奪ったのは確かであるが、同じ定めに生まれた者として、そして仲間として、決して手にかけたくはない相手。それでも、ここでは戦う宿命があるかもしれない。
 女帝ジューザ……何故いるのかはわからないが、ジェットマンと協力の果てに倒したバイラムの首領だ。
 仮に、彼らと出会う事があったのなら、そこでグレイとの間に激突は避けられない。
 ラディゲならば、たとえ仲間といえども、グレイと相反する結果になるかもしれないだろう。

 強いて問題を挙げるならば、レッドホークこと天堂竜で、リエの最後の願いに報いるとするのならば、彼を「殺す」わけにはいかない。
 彼は、ある意味ではグレイに勝利し、リエの最後の心を受け続けた人間だ。
 彼が仮にもし、戦士の最期を迎えるとして、その相手はグレイであってはならない気がした。勿論、向かってくるならば手加減をするつもりはないが、その可能性も決して高いとは思えない。

(ブラックコンドル……いや、結城凱……)

230灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:07:10 ID:5XOn0UoM0

 逆に、凱が相手ならば、──それこそグレイ個人にとって奇妙な共感を覚える男なのだが──最後にもう一度、一勝負行い、決着をつけたい所だ。
 いや、本来ならば凱との戦いにより散るのが最も望まれる形であると、グレイ自身も何処かで感じていた。
 それこそが本来のグレイに残っている望みであるような、そんな気が……。

「……あのぉ〜」

 と、そんなグレイの元に女性の声がかかった。
 既に人間が接近している事はグレイも感知していたので、驚く事は勿論、振り向く事もない。その参加者がどう動くかは、こちらで観察しているつもりだった。

 ──グレイを避けるか、襲い掛かるのか……。
 そして、結果的に彼女はグレイに「声をかける」という選択をしたわけだ。
 珍しい判断と言えよう。そうなるとは思わなかった。

 グレイは、ラークを指に挟み、ふぅ、と息を吐いた後で、一言。

「……用があるなら少し待て。私の一服の邪魔をするな」
「はぁ……」

 そう言われて、その少女は、グレイのすぐ隣にちょこんと座り、グレイが葉巻を吸い終えるのを待った。
 グレイは、ひとまず彼女の登場にも心を動かすわけでもなく、自分の至福を味わい続けた。

「……」
「……」

 ──しかし、やはり人間にしては珍しい、とグレイも思う。
 ただの人間ならば、グレイのようなロボットに話しかける事も、こうして無警戒に隣に座る事もない。
 年齢は、少なくとも、純粋さが薄れ始めるが、まだ少女と言って良い年代──あのジェットマンのブルースワローよりも少し年下か。
 そのくらいで、さして好奇心を持つわけでもなくグレイに当然のように声をかけ、隣にちょこんと座るというのは変わった性格だ。
 それに着ている服も、少し変わっている。巫女装束という奴だ。
 どこかの神社の巫女なのだろうか?
 ……まあ、そんな事はいい。







 時間が経てども、両者は全くお互い障らず、マイペースに自分の行動を保つ。
 グレイは、一本のラークを吸い続ける。
 彼女は、ずっと不安そうな瞳でぼーっと座り込んでいる。







「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」

 ……グレイのラークが、また一本、吸殻となるだけの時間が経った。その間、二人はただ無言を維持し続けていた。
 吸い終わるのを見計らったかのように、彼女はグレイに再び声をかける。

「あのぉ〜」
「……娘。私に何の用だ」

 まるで彼女の言葉に重ねるように、グレイは言った。
 何かの用があるから、こうしてグレイを待っていたはずだが、少なくともそれが勝負でない事は確かだった。グレイにとって、彼女に用はない。

231灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:07:32 ID:5XOn0UoM0
 ……とはいえ、ここで最初に会った参加者だ。何かの縁として少しは話を聞いておこうという気になった。
 彼女が変わり者であった事も、少なからずグレイの興味を引いた。
 一切の躊躇なく、「全身武装」のグレイに話しかけるとは、一体どんなメンタリティを持った相手なのか……と。

「えっと、大変な事になっちゃいましたね。殺し合いとか」
「……」
「あ、あの、えーっと……」

 冷や汗をかきながら言葉を取り繕う彼女は、どこか気まずそうだった。両手の人差し指の先端を重ねて、目を逸らしている。
 彼女もグレイに対して一定の距離感があるようだが、グレイも他者を突き放すような生き方をしているので仕方が無い話である。

 グレイは目を光らす。
 流石に、グレイの感情のない瞳に無言で見つめられると威圧感もあるのだろう。
 しかし、結局、そんな事はグレイには全く関係がなかった。

「……用はそれだけか」

 グレイは、呟くようにそう言った。
 何の用もないならば、わざわざ一緒にいる必要はない。
 彼はただ一人、孤独な戦士だ。……殊に、トランザやマリアがいなくなり、ラディゲとグレイも反目し合い、実質的にバイラムが解体された今となっては。
 だが、話を切り上げようとしているのは察されてしまったのか、彼女は少し焦りつつも、グレイに訊いた。

「あ、そうじゃないんです! ……あなた、ロボットの方ですよね?」
「その通りだ」
「うわぁ! やっぱり! マリアさんと同じだ〜」

 当然、その一言がグレイの注意が彼女に向くきっかけになった。
 マリアという名前を聞いて、グレイがあのマリアを連想しないはずがない。
 彼にとって、マリアという名前は特別なのだから。

「──お前は、マリアを知っているのか」
「え!? やっぱりマリアさんとお知り合いなんですか〜!? ……『ロボット友達』? いいな〜、私も幽霊友達とかいっぱい欲しかったかも……」
「……」

 この反応を見て、何となく、グレイが知っている「マリア」とは別の存在だとわかった。……少し、肩を落とす。
 考えてみれば、こんな気の抜けるような喋り方の小娘がマリアと知り合いのはずがないし、マリアなどという名前は地球上に大勢いる。
 世界一有名な教祖であるイエス・キリストの母と、全く同じ名前のロボットが地球で作られるのは何らおかしい話ではない。
 マリアがマリアと名付けられたのも、同じ由来による、バイラムの皮肉だ。
 グレイにとって特別な名でも、ありふれている名前らしい。

「……どうやら、私の知っているマリアと、お前の知っているマリアは別のようだな」
「え?」
「私の知るマリアは、ロボットではない……人違いだ」

 そう言った後、グレイは、そういえばお互いが名前を把握していない事を思い出した。
 この娘の名は知らないが、そんな人間と、「マリア」というこの場にいない人間の名前の話をしていたのだ。
 少なからず誤解が生まれても仕方ないと言えよう。

「……娘。お前の名は?」
「氷室キヌです。一応、美神さんの除霊事務所で働いています。……ここでも、今のところ、そこを目指そうと思ってるんですけど……」
「……」
「そうだ、ロボットさんのお名前は?」

 おキヌと名乗る少女は、殆どグレイに臆する事なくそう訊く。敵意がない相手だと認識したからに違いない。
 グレイにしても、ここで名を偽ったり、名を隠したりする必要はなかった。

「……グレイ」
「グレイさん……ですかあ」

232灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:08:05 ID:5XOn0UoM0

 何か思う所があったようだが、大方、「T-800」とか「T-1000」あたりがグレイの名だと思ったのだろう。しかし、生憎ただの型式番号に縛られるつもりはない。
 自分の名は……「グレイ」。
 無慈悲で無感情な型式番号を授けられた者たちも、おそらくは、いつぞやの「G2」のようなロボットたちであろう。
 グレイは、吸殻を持った右腕を、そっと下げた。
 と、その時、おキヌが大声をあげた。

「あっ、グレイさん!」
「何だ」
「──煙草を吸うのは良いですけど、ホラ、吸殻はあたしに預けてください!
 あとで、ちゃんとゴミ箱見つけたら捨てておきますから! 『ぽいすて』は、駄目なんです!」

 彼女は毅然としてそう言う。
 グレイは今まさに吸殻を捨てようとしていたし、グレイの足元には、一本の吸殻が落ちている。先ほど、吸い終えた粕を地面に放り捨てた証だった。
 確かに言われてみれば、人間にとって吸殻を捨てる場所は定められているらしい。その規則に則るならば、グレイは違反である。……が、彼にはそんな事は関係ない。
 ただ、おキヌがそれを拾おうとした時、グレイはそれに先んじるように自らが捨てた吸殻を拾い上げた。

「構うな。俺が、自分の手で片づける。……他人に借りを作る気はない」

 グレイは、自分の撒いた種を他人に摘まれるのを嫌う性格だった。
 自分の所作には、自分で蹴りをつける。他人には関わらせない。
 誰にも会わなければこのまま捨てただろうが、こうして他人に拾われ作業を押し付けるとなると話はまた別だ。
 ……二つの吸殻を丁寧に指先でつまんだグレイを前に、おキヌは呆然とする。
 そんなおキヌの方をグレイは見つめた。

「……一つだけ訊こう。お前は、私が怖くはないのか?」

 そう問われると、ふと我に返ったおキヌは顎の下に手を置いて少しだけ悩んだ。
 それから、すぐに答えを出した。

「私は、マリアさんっていうロボットの知り合いもいますし……今更これくらいじゃ驚かないっていうか……」
「……私が訊きたいのは私がロボットであるからという話ではない。
 ──この状況で、武装した敵に対面する事も含めてだ。今は、誰もが武器を持っている。他人を怖れず、ただ信用するのは……愚かだ」

 おキヌの不可解な所は、そのある種能天気な部分だ。
 グレイは、今この時を「戦争の只中」のように解釈している。これまでも幾つもの次元でそんな激しい戦いに身を投じて来た。
 中には、味方に裏切られた者もいる。
 そして、グレイの手に命を奪われた者もまた数知れない。
 しかし、そんなグレイを彼女はあっさり信用しようというのだろうか。

「ああ、それなら大丈夫ですよ……グレイさんも良いロボットでしたし。美神さんも横島さんも悪い人じゃないし、あの二人ならそう簡単に死にません。
 そして、美神さんや横島さんは、きっと私と一緒にこんな戦いを終えてくれるって信じてるから」
「……甘いな、氷室キヌ。生き残るつもりならば、もう少し考えて行動した方が良い。
 たとえ、生き残る事が出来るのが、この中のただ一人だとしても……」

 と、そこまで言った所で、グレイは考えた。

 彼女は何と言ったか。──そう、「戦いを終える」と言ったのだ。
 グレイには、その発想そのものがなかった。……つまるところ、ノストラダムスを打倒し、バトルロイヤルそのものを破綻に導くという事だ。
 だが、一度始まってしまったゲームを根底から崩すのは難しい。いかに理不尽な決闘であっても、ゲームマスターには、簡単には歯向かう事の出来ない仕組みが出来ている。
 たとえば、このバトルロイヤルにおいては、「首輪」である。
 だから、グレイにはその選択肢はなかったのだ。

 しかし、目の前のおキヌはおそらく、その、最も過酷な「戦い」を行う意思を持っていた。……ただの能天気かもしれないが、考え方としては面白い。
 グレイは、おキヌの目を見て、彼女の言う事を解した。

「……だが、なるほど。この戦いを終える為に戦う……それがお前の戦い方か」

233灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:08:29 ID:5XOn0UoM0

 グレイはそんな言葉を、思わず発した。
 ざっと見た所、このおキヌの性格ならば、確かにそれを行おうとするかもしれない。能天気である以上に、結構な楽天家だ。
 通常の人間ならば警戒するような相手に、何のブレーキもなくこうして寄ってくるのは、ある意味ではどこか狂っている人間のようにさえ思った。
 そのお陰か、おキヌは、グレイにとって、凡庸な人間ではなく、少しは話す価値のあった面白い人間として認識されたのだろう。
 グレイは、自らに支給されていたデイパックをふと一瞥し、それをがっしりと掴むと、おキヌの手に渡した。

「──これは私には不要だ。少しでも長く生きる為に、持って行くと良い」
「え? これ……私に……?」

 おキヌは、少々驚いた様子を見せている。
 この状況下、自らの支給品を明け渡す者は流石にいないと彼女も思っていたのだろう。実際、グレイも人間ならばこんな事はしまい。
 だが、グレイはそのロボットだ。
 ロボットである彼にはその鞄の中に押し込まれている物全てが嵩張るだけである。

「ああ。私にとっては邪魔なだけだ」
「……でも、地図や名簿とかは?」
「地図や名簿も情報として記憶した。メモなど取る必要はない」
「うわぁ。凄いんですね〜。私なんか忘れっぽくてぇ……この前も……」
「世間話をするつもりはない」

 グレイがデイパックを渡したのは、不要であったと同時に、おキヌに興味を示したからでもあった。
 彼女がいなければ、吸殻と同じくその辺りに捨てていただろう。

「……ありがとう、ございます」
「……」

 照れたように礼を言ったおキヌに対しても、グレイは何も思わなかった。

「あ、でも、グレイさん、知ってます? このデイパック、実は凄く変なんですよ」
「……何がだ」
「あたし、『誰かの肉体』が支給されていたみたいなんです。外国の人だと思うんですけど……」

 おキヌは不可解な事を言い出した。「誰かの肉体」……? それはつまり、どういう事だろうか。
 普通に収まるような三箱の煙草だけが支給されていたグレイは、その辺りの話は知る由もない。
 少しだけ、おキヌの話に興味も湧いた。おキヌの方を見る。

「ほら、これ……」

 すると、おキヌは、自分の方を見たグレイに見せるように、息を飲みながら、そっとデイパックの口を開けた。
 そこから出て来たのは、非常に濃い顔立ちと高い身長をしたボブカットの男性の姿だった。色っぽい姿は女性のようにも見えるが、体格上、それは男性である可能性が高い。……勿論、おキヌも確認してたわけではないが。
 ただ、おキヌの言っているように、彼は眠っていた。
 まるで死んだように冷たい身体で、そこには血液の循環すらもない。
 何より、デイパックの開け口よりも、彼の身体は大きかった。

「……」
「変ですよね? やっぱり、ドラ●もんのポケットみたいになってるのかな……。
 ……えっと、ちなみに、他にも、カードとか、私の笛とか色々入ってました」

 今度はおキヌの懐から、数枚のカードや、横笛が出て来た。
 トランプのカードでも、マリアの奏でる草笛でもない以上、グレイの興味はやはり、デイパックに入っていた人間の肉体の方だ。
 グレイは、サーモグラフィでその人間の肉体のデータを確認する。

「……この人、死体じゃないみたいですよ? 心臓とかは動いてないですけど……」
「肉体の構造は人間そのものだが、体温もない。心音、脈拍ともにゼロ。呼吸も当然していない。──死体と同じだ」
「ええ……でもやっぱり違います。『ぶろーの・ぶちゃらてぃー』さんという人の身体だそうです」
「名簿にあった名だ。……なるほど。少し興味はあるが、関係のない話だ」

234灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:08:54 ID:5XOn0UoM0

 そこまで確認して、グレイは、すぐに興味をなくした。
 要するに、これは魂をなくした肉体というわけだ。
 これがデイパックの中から出て来た事実は不可解ではあるが、一度おキヌに明け渡したデイパックを取り返すつもりもない。
 幾つかの謎も、バイラムの幹部であらゆる次元を旅したグレイには、大した事ではなかったのだろう。
 そんなグレイに、背後からおキヌが声をかけた。

「あ、グレイさん……私も」
「ついて来る気か? だが、私はお前に用などない」
「だって……私が向かっている場所も、そっちに行かないと行けないし……」
「……」

 グレイが向かった方角は、確かに、彼女が目指すと言っていた「美神令子事務所」があるG-5エリアの方である。
 結局のところ、グレイからすればどこに向かっても良いつもりであったが、やはり人気のある場所は、もっとマップの中央寄りの位置であろう。
 こんな隅にいるよりは、その方が良い。たとえおキヌがついてくるとしても、それで自分の選んだ道を変えようとは思わなかった。
 ただ……煩わしいが、もしついてくるならば、一言だけ忠告をしておくのが礼儀と思い、立ち止まったグレイは、おキヌに一言だけ言った。

「……キヌ。一つ、言っておく。私はゲームに乗っている」
「え? そんな人には見えませんけど……」

 おキヌは気楽な口調で言う。
 だが、グレイにとっては事実だ。
 彼は、バトルロイヤルというデスゲームには乗っている。
 ただ、おキヌをその刃を向ける対象としなかっただけである。

「……それは、私には私のルールがあるからだ。お前を倒す気にはならん。
 強い者と戦う事……それが私の、戦士としてのゲームだ。
 だが、ゲームに乗っている者はいる。──それを忘れるな。
 特に……ラディゲという男や、女帝ジューザには気を付けろ」

 グレイは、それだけ言うと、おキヌの方を見る事もなく歩きだした。
 そんなグレイの背にはおキヌがついてきているが、二人が会話をする事は、またしばらく無かった。
 夜の街のどこかに二人の姿は消えていった……。

235灰色の男 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:09:45 ID:5XOn0UoM0



【H-6 街/1日目 深夜】

【グレイ@鳥人戦隊ジェットマン】
[状態]:異常なし
[内蔵装備]:グレイキャノン(背中)、ハンドグレイザー(腕)、マルチショットガン(腕)
[追加装備(支給品等)]:なし
[道具]:ラークマイルド三箱(残数は18/20・20/20・20/20)@鳥人戦隊ジェットマン
[思考]
基本行動方針:ゲームには乗る。ただし、ノストラダムスの言った通りにはせず、自分のルールに沿い行動する(少なくとも積極的に殺して回るつもりはない)。
1:結城凱とは決着をつけたい。ラディゲ、ジューザとも殺し合う事になるかもしれない。
2:天堂竜を殺すつもりはない。少なくとも今はマリアの意思を尊重する。
3:優勝した場合も、マリアの誇りを穢すつもりはない。
[備考]
※参戦時期はマリア死亡〜凱と決着をつけるまで。
※名簿や地図は電子頭脳に記憶しています。死亡者や禁止エリアも聞いてさえいればすぐに記憶する事ができるでしょう。

【氷室キヌ@GS美神 極楽大作戦!!】
[状態]:健康
[装備]:ネクロマンサーの笛@GS美神 極楽大作戦!!
[道具]:支給品一式×2、ブローノ・ブチャラティの肉体@ジョジョの奇妙な冒険、クロウカードセット(雷、雨、霧、雪)@カードキャプターさくら
[思考]
基本行動方針:ゲームからの脱出。
1:美神令子除霊事務所を目指す(今は同じ方向に向かっているグレイについていく)。
2:美神令子、横島忠夫との合流。
3:ラディゲ、女帝ジューザに気を付ける。
[備考]
※参戦時期は不明(ただし少なくともネクロマンサーの笛を使うようになってから)。巫女服を着ているので、大きな騒動の最中ではないと思われます。
※幽体離脱によりブチャラティの肉体と氷室キヌの肉体を行き来する事も可能ですが、長時間、ブチャラティの肉体に入りこむ事は不可能です。
※幽体離脱中は元の肉体は睡眠状態になります。ちなみに、その間に元の肉体が死亡レベルの損壊を起こすと幽体も消滅します。
 また、幽体のまま移動できる距離も短距離に制限されています。



【ラークマイルド@鳥人戦隊ジェットマン】
グレイに支給。
結城凱が度々咥えている煙草の銘柄。
20本入りが3箱支給されている。ライターはついていない。

【ブチャラティの肉体@ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の旋風】
氷室キヌに支給。
ブローノ・ブチャラティの肉体。
基本的には人間の肉体や死体などが支給される事はないが、ブチャラティがディアボロの姿で参戦した為、参加者の本来の器として支給された。
ただし身体の機能は停止しており、氷室キヌの幽体離脱などによって入りこむ事はできても、長時間彼の身体に入り続ける事はほぼ不可能。

【クロウカード@カードキャプターさくら】
氷室キヌに支給。
月属性「水」に属し、天候などを操る以下の四種類のクロウカード。
・「雨」=雨を降らす事ができる。
・「雲」=雲を操る事ができる。
・「霧」=金属を腐食させる事ができる(ただし首輪には無効で、グレイやT-800にはチョコラータのカビ同様の制限がかかる)。
・「雪」=雪を降らせる事ができる。
これらはいずれも、使用の際には、ごく局地的(戦闘を行う狭い範囲)に行われるよう制限されており、1エリアすべての天候が変動するわけではない。

【ネクロマンサーの笛@GS美神 極楽大作戦!!】
氷室キヌに支給。
霊、霊能力を持つ人間、妖魔などを操る事が出来る笛。この笛を使う事が出来る者は、ネクロマンサーの資質を持つおキヌだけに限られる。
ただし、首輪をつけた参加者を根本的に操作する事は不可能であり、上記の条件を満たす場合であっても、「パワーダウン」もしくは「パワーアップ」程度の恩恵しか与えられない(この条件を同時に使い分ける事は不可能)。
一方で、参加者外の霊や妖魔に対しては、原作通りの能力を発揮する事もできる。

236 ◆V1QffSgaNc:2015/11/13(金) 11:10:21 ID:5XOn0UoM0
以上、投下終了です。

237名無しさん:2015/11/14(土) 00:49:01 ID:UO7upKQI0
投下乙です

グレイ渋くてかっこいいな。マイペースなおキヌちゃんとのコンビでどう動くんだろう

238名無しさん:2015/11/14(土) 22:41:30 ID:JUOcgF9s0
投下乙です
グレイは良く知らないものの、独特なキャラに引かれるなあ。
出会うキャラによって展開も変わりそうな二人だ。

239 ◆V1QffSgaNc:2015/11/15(日) 01:27:42 ID:gD/bgRyo0
感想をば。

>豹
マチルダ、別にマーダーではないけど殺し屋の卵なだけあって少しは危険で打算的。
今泉くんの無能ぶりを考えると、今泉くんが頑張れとしか言いようがないwww

>世界の理を壊すモノ
マーダーになるか対主催になるかきわどいラインだったルシオラとかも一斉にマーダーに
更には、一般人の苺鈴もいきなり発狂モードで殺し合いに乗る形に…
結構チートマーダーが多いせいもあってか、このロワもだんだんとマーダー比率が上がって結構ヤバい感じですね
強マーダー、奉仕マーダー、発狂マーダーの三人が揃ったエピソードですねコレ

>拳に生きる者達
リュウと戸愚呂、筋肉モリモリの格闘バトルですねこれは
ていうか、リュウ流石に強え…
マーダー側の戸愚呂も魅力的なキャラなだけあって、かなりド直球な熱血バトル回でした

240名無しさん:2015/11/30(月) 11:21:08 ID:NJsIUwYQ0
掲示板に仮投下ありー

241名無しさん:2015/11/30(月) 16:05:20 ID:yomSERZU0
マジですか

242 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:01:02 ID:82Fn.W3U0
投下します。

243不屈の超魔生物 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:03:10 ID:82Fn.W3U0
「…………まさか、ダイやバーンとこんなことに巻き込まれるとはな……。
何の因果…………いや、やはり宿命と言うべきか。あいつと決着を付けるための……」

殺し合いの地に立つ一つの人影。
人のシルエットを為すそれは、しかし明らかに人では無かった。
全身から露になる異形は、数多の魔物の長所を移植手術によって魔族の身に宿した戦闘生物、
超魔生物たる証。
かつては地上を席巻した魔王ハドラーは、一介の戦士たる超魔生物ハドラーとなっていた。

ハドラーはその生涯において、栄光と破滅の繰り返しだった。
魔王として軍を率いて地上を侵攻し、勇者アバンに打倒される。
そして大魔王バーンの下で復活を果たし、勇者アバンを倒して魔軍司令として権勢を振るうが、
アバンの残した使徒を相手に幾度も敗北を繰り返した。
アバンの使徒に勝利するために、ハドラーは決断をする。
それは自らの肉体を超魔生物へと改造する決断。
魔族の肉体と魔王としての過去を捨て、ハドラーはダイとの決戦に臨んだ。
しかしそこで判明したのは、自分の身体に伝説の超爆弾”黒の核晶(コア)”が埋め込まれていた事実だった。
黒の核晶(コア)の爆発によってダイとの決着を付けることは叶わず、バーンとも決別したハドラー。
ハドラーは魔族の肉体も、元魔王のプライドも、地位も名誉も失った。

「……ある意味、この状況は好都合と言えるな。ダイと邪魔の入らない状況で決着を付けるのには」

それでもハドラーは目的を失ってはいない。
その意思は揺らぐことは無い。
ハドラーの目的はアバンの使徒打倒のみ。
魔族の肉体もプライドも地位も名誉も、目的のために自らの意思で捨てたのだ。
目的は明確である以上、不必要に思い悩むことも無い。
殺し合いと言う状況に巻き込まれたならば、それに沿って目的を達成するまでだ。
気に掛かる点は別にあった。

「問題はオレの崩壊しかかっている身体が、どこまでもつか……か」

ハドラーの巨躯をより際立たせている超魔生物の威容。

244不屈の超魔生物 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:05:27 ID:82Fn.W3U0
しかしそれは完全な物とは言い難かった。
欠けた角。胴体に大きく開いた穴。
本来、超魔生物は強い回復能力を持っている。
しかし今のハドラーはそれを十全に発揮することができない。
既にその血肉と化していた黒の核晶を摘出したことで、ハドラーの肉体は崩壊しかかっていた。
おそらくハドラーの肉体は、もう長くは保たない。
殺し合いの時間程度は保つだろうが、ダイに出会うまでにおそらく戦闘は避けられない。
今の状態で戦闘を重ねれば、無事にダイの所まで辿り付くことは叶わないだろう。
何か危険を避ける手段が必要になる。
そう考えながらハドラーはデイパックの中を検め、目ぼしい支給品を手に取る。

もっとも既に手遅れのようだった。

「……オレに何の用だ?」

背後の気配に振り向くハドラー。
ハドラーが振り向いた先には一人の女が居た。

「へぇ……あたしの気配に気付くとはね」

長く髪を伸ばしたその女は、まだ少女と呼んでも差し支えの無いほど若い娘だった。
しかし若さに見合わない怪しげな空気を纏っている。
その気配からも人間でない、それも相当の力量を持っていることは容易に察せられた。
背後から隙を窺うように近づいて来た女を、ハドラーは睨みつけるが、
女は怖じる様子も無く、尚もハドラーに気安く話し掛け続ける。

「あんたは見た所魔族みたいだけど……」
「かつてはな……今は魔族の身体は捨てた」
「ふふふ……それでも強いことには違いないわよね?」
「もったいぶった話をする前に、名前くらい名乗ったらどうだ」

女の含みのある口振りを遮るハドラー。
今のハドラーにあるのは自分の目的のみ。
他者を無闇に撥ね付けるつもりは無いが、愛想を振り撒くつもりも無い。
他者からの情報が無くとも、殺し合いが進んでいけばダイとは自ずと行き当たるはずだ。

「私はメドーサ。竜神族だけど、これでも魔族には通じていてね」

ハドラーが只者ではないと睨んでいた通り、メドーサは神族の者だった。
主に天界に棲む神族ならば、ハドラーを知らずとも不思議は無い。
今のハドラーは自分の知名度などに関心は無いが。

「もったいぶった話が嫌なら、単刀直入に言うわ。私と組まない?」
「……組んでどうする? 二人は生きて帰れんのだぞ?」

メドーサの提案は、おおよそハドラーにも予想できた。

245不屈の超魔生物 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:07:07 ID:82Fn.W3U0
そして実の所、そのメリットも理解できる。
殺し合いを優勝するのだろうと、脱出するのだろうと強い協力者が居ればメリットは大きい。

「優勝したいのなら最後の二人になるまで組めば良い。
脱出したいのなら協力者は多いに越したことは無いわよね」

ハドラーの態度も意に介さず薄い笑みさえ浮かべているメドーサ。
その様子からメドーサの己の力量に対する自信が感じ取れた。

「いずれにしても神族である私とあんたが組めば、殺し合いの中でも敵は居なくなる。
見た所殺し合いの参加者のほとんどが人間、下等なゴミに過ぎない連中なんだから」

それでもハドラーは、何故かメドーサと組むつもりにはなれない。
メドーサの言葉の中に引っ掛かるものがあるからだ。

「……下等なゴミ? 随分と人間を見縊るのだな」
「無闇に人間を見縊るつもりは無いわ…………。
油断さえなければ……人間にしてやられることは無い。そうでしょ?」

メドーサはここで初めて、その態度から余裕を無くす。
余裕を無くす、どころでは無い。
思わず歯を食いしばり、目を血走らせる。
人間を見縊る、という話題から思い出したのだ。
メドーサにとって最大の屈辱を与えた人間、横島忠夫の存在を。

神族でありながら魔族のアシュタロスと繋がり、数多の陰謀をめぐらしていたメドーサにとっては、
人間など、陰謀のための駒に過ぎない矮小な存在だった。
しかしその矮小な存在であるはずの人間、その中でも取るに足らない下らない存在であるはずの横島に、
何度も自身の計画を妨害され、その末に倒された。
メドーサにとってこれ以上ないほど屈辱的な事実だった。

だからメドーサの最優先事項は横島の殺害である。
それさえ達成すれば、後は優勝を目指しても脱出してもどちらでも構わない。
もっとも、参加者にはその横島の他に美神令子も居るために脱出は容易くは無さそうだが。

「その人間に……随分してやられてきたらしいな」

まるでメドーサの心中を見透かしたようなハドラーの口振り。
メドーサの苛立ちがハドラーに向かう。

「……あんた、私を知ってるの?」
「おまえのことなど知らんな。だが、おまえの見せた怒りには覚えがある。
見下していた相手に勝てぬ苛立ち、下らんプライドに固執する者の怒りだ」

メドーサの抱える憤りは、ハドラーにとってはよく理解できる物だった。
自分のプライドに固執して相手を見縊り、それゆえに敗北を重ねる。
アバンとその使徒を相手に失態を積み重ねてきた時の心情。
先刻のメドーサの様子は、ハドラーにそれをありありと思い出させた。

246不屈の超魔生物 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:08:46 ID:82Fn.W3U0
しかし今のメドーサはハドラーにその怒りを向けている。

「知った風な口をきいてくれるね……魔族の身体も守れずに魔物に身を落とした分際で」
「種族の別は関係無い。神族だろうと魔族だろうと、自分も相手も見誤っている程度だということだ」

ハドラーにとってメドーサは、己の愚かな過去を思い出させる存在である。
当然、そんな相手と組むつもりなど無い。
そしてそれは最早、メドーサにとっても同様であった。

「…………馬鹿な奴ね。素直に手を組んでいたら、使える内は生かしておいてやったのに!!」

メドーサは最初からハドラーも使い捨ての駒にするつもりだった。
その使い捨ての駒に屈辱を思い出させられて、見透かされたようなことを言われた。
それを黙っていられるようなメドーサではない。

地を蹴るメドーサ。
その一蹴り何メートルもあるハドラーとの距離を、文字通り一足飛びに詰める。
メドーサは跳躍ではなく飛行している。
何も持っていなかったはずのその右手には、二又の刺又槍が握られていた
右手から現出させた刺又槍に、霊力を込めてハドラーに向けて振るう。
並の魔族や魔物ならば絶命を避けられない一撃。
その一撃がハドラーに届く、寸前に止まった。

「竜神族か何か知らんが……」

刺又槍はハドラーの手の甲から突き出るように伸びた爪、地獄の爪(ヘルズクロー)に止められていた。
メドーサは両手に持ち更なる霊力を込めるが、地獄の爪に挟まれた刺又槍は突端は全く動かない。
ハドラーは並の魔族や魔物ではない。
かつての魔王にして今や超魔生物であるハドラーの力は、竜神族をも上回る。

「オレをなめるなァッ!!!」

今度はハドラーが地獄の爪を振るった。
挟まれた刺又槍はおろか、メドーサの身体ごと軽々と吹き飛ばされる。
メドーサは地面に叩きつけられ、それでも勢いが収まらずに転がる。
ハドラーはそこへ更に追い討ちを掛けるべく、両肩を広げ推進力を得る。
跳躍力でメドーサとの距離を一足飛びに詰めるハドラー。

247不屈の超魔生物 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:10:24 ID:82Fn.W3U0
そのまま地獄の爪で貫いた。

「――――!?」

地獄の爪が貫いたのは地面。
転がっていたはずのメドーサの姿が、地獄の爪に貫かれる前に消えたのだ。
否、ハドラーはその影を捉えていた。
メドーサの影が消え去って行った右後ろを振り向く。
同時に右肩に走る痛みと衝撃。右手に持っていた支給品を落とす。
ハドラーの右肩に刺又槍が刺さっていた。

「チッ、超加速の加速度が低い!」

ハドラーを奇襲したメドーサはしかし、自分の動きの遅さにごちる。
メドーサが使ったのは一部の神族が使える秘術”超加速”。
物理法則をも超えて加速できるこの術は、しかし常より加速度が劣っていた。
加速度の低下の原因は制限によるものだが、今のメドーサに原因を探っている余裕は無い。

「地獄の鎖(ヘルズチェーン)!!」

右肩を刺されたハドラーだが痛みも意に介さず反撃に出る。
ハドラーの左腕から伸びる鎖、地獄の鎖(ヘルズチェーン)がメドーサに襲い掛かった。
巻き付かれる寸前に超加速で回避。

捕まれば力で劣る自分は負ける。
しかし速さであれば超加速が使える自分が勝る。
自他の戦力を分析したメドーサは、勝利のための戦術を導き出す。



(速い! 速さならヒムやシグマをも上回るか……)

地獄の鎖すら回避されたハドラーは、メドーサの速さに瞠目する。
ハドラーの反応速度を上回り、超魔生物の視力でも追うのがやっとと言う有様だ。
地獄の鎖を回避したメドーサは、一瞬でハドラーの左側に周り左肩に刺又槍を刺す。

「イオ!!」

それにも構わずハドラーは即座に反撃。
魔法力を爆発させる爆裂呪文”イオ”を放つ。
自身の左側、メドーサの居た場所を爆発させた。
はずが、やはりそこにはメドーサは居ない。
次の瞬間、ハドラーの背中に痛みが走る。
背後からメドーサが刺又槍で刺していた。
ハドラーが振り返った時には、メドーサの姿は消えていた。

メドーサの取った戦術を、ようやくハドラーも把握することができた。
それはヒット&アウェイの戦術。
一撃離脱を繰り返し、ハドラーの消耗を狙う戦術である。
単純であるがゆえに対応に難かしい。
ハドラーが万全であれば、対応法もあっただろうが。

幾度かの交戦の後、遂に刺又槍がハドラーを貫通した。

248不屈の超魔生物 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:11:49 ID:82Fn.W3U0
ハドラーの右掌をメドーサの刺又槍が刺し貫いたのだ。
しかしハドラーは痛みの中、右掌を握り締める。
刺又槍の動きが、メドーサの動きが一瞬止まる。

ハドラーの地獄の爪がメドーサを刺すのと、
メドーサが超加速で刺又槍を引き抜くのは、ほぼ同時。

地獄の爪はメドーサの左肩に刺さったが、
鮮血だけを残して、再びメドーサは姿を消す。

しかしハドラーには、次にメドーサの来る方向が大よそ読めていた。
ハドラーは左後方に目をやる。
そこに現れた人影。そして鮮血の色。
ハドラーはそれが何かを確認する前に地獄の爪で刺し貫いた。

何かが砕け散る乾いた音。
光や肉片、そして液体が飛び散る。
ハドラーは瞬時に、自分が破壊した物がメドーサではないと気付いた。
それはメドーサの鮮血が塗られた、ホルマリン漬けの人間の肉片だった。

ハドラーには知り得ないことだが、それはメドーサの支給品『輪切りのソルベ』。
それでもメドーサの罠に掛かったことには瞬時に気付いた。
同時にハドラーの胴体に激痛が襲う。
そこはちょうど、バランの手によって黒の核晶を摘出された箇所。
バランの手によって刺し貫かれたのと同様に、メドーサに正面から刺又槍で貫かれた。

「下等なゴミは、あんたもだったねハドラー」

勝ち誇り、ハドラーを見下ろすメドーサ。
ハドラーの全身から力が抜け、膝から崩れ落ちていた。

(馬鹿な……オレはこんな所で終わるのか…………ダイにも辿りつけず…………)

無念を抱え、未だ闘志は衰えないハドラー。
しかし身体がまるで追い付いてこない。
身体の全ての力が完全に抜けていく中で、ハドラーは自らの死を実感する。
身体を支える全ての力が完全に抜け、ハドラーは自分が落とした支給品の上に倒れ伏した。

ハドラーが落とした支給品、それは本来世に二つと無い物であった。

249不屈の超魔生物 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:13:15 ID:82Fn.W3U0
それは本来、美神令子の魂と融合した一つしか存在しない。
しかし美神令子が過去にタイムスリップした際、
美神令子の前世であるメフィストフェレスと融合した固体のもう一つと同時に存在した。
そしていかなる所以か、このバトルロイヤルにおいてももう一つの固体が支給されていた。
それは霊力の高い人間の魂を集め造り出される、エネルギー結晶と呼ばれる物だった。

エネルギー結晶は倒れて来たハドラーの傷口から体内に入り込む。
エネルギー結晶は侵入した存在と融合する性質を有していた。
そして黒の核晶を失っていたハドラーの肉体は、エネルギー源となる代替物を欲していた。
エネルギー結晶はハドラーの肉体と融合していき、
ハドラーの肉体はエネルギー源を利用して、生来の回復能力を発揮する。

ハドラーの肉体が再び超魔生物の威容を取り戻していく。



「…………しつこい奴ね」

徐に身体を起こすハドラーを見て、メドーサは吐き捨てる。
超加速がある限りメドーサの有利は揺るがない。
しかしこれ以上、ハドラーを相手に手間取りたくは無かった。
今度は胴体の傷を貫通してやると決意するが、その胴体の傷が泡を吹いて治癒して行っている。
ならば治りきる前に貫ぬく。
そう決意してハドラーへ向けて飛ぶ。
ハドラーの胴体の傷目掛け、刺又槍を突いた。

「――――!?」

甲高い粉砕音。
中ほどから切断されて、宙を舞う。
メドーサは切断されて宙を舞った刺又槍ではなく、
刺又槍を切断したハドラーの剣を信じ難いと言った表情で見ていた。
ハドラーの右腕から噴出する光の剣を。



「フフフ……生まれ変わった気分だ」

ハドラーにはエネルギー結晶がどういう物かも、自分に何が起きたのかも分からない。

250不屈の超魔生物 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:15:15 ID:82Fn.W3U0
そしてエネルギー結晶は、本来の持ち主であるアシュタロスでなければ完全な融合・活用は不可能。
それは不完全な融合・活用に過ぎない。
しかし取り戻された回復能力。
当然のように発現できた生命エネルギーを噴出して武器に転化する、生命の剣。
ハドラーはかつてない力が自らの身体に漲るのを実感する。

「今ならばかつてない力が出せる!! 幾らでも掛かって来いメドーサ!!」

立ち上がったハドラーは再び完全に超魔生物の威容を取り戻す。
こうしてハドラーのバトルロイヤルが始まった。



【H-4 海岸付近/1日目 深夜】

【ハドラー@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
[状態]:健康、エネルギーの結晶と不完全融合中
[装備]:生命の剣@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2、
[思考]
基本行動方針:ダイと戦い決着を付ける。
1:バーンを倒す。
2:メドーサを倒す。
[備考]
※参戦時期は、原作23巻終了後です。
※エネルギー結晶と融合しました。融合は不完全な物でエネルギー結晶を活用しきれません。
※回復能力を取り戻しました。
※生命の剣を発現させることが可能になりました。

【支給品説明】
エネルギー結晶@GS美神 極楽大作戦!!
ハドラーに支給。
霊力の高い人間の魂を集め造り出されるエネルギー集合体。
侵入した存在と融合する性質がある。
宇宙処理装置(コスモ・プロセッサ)の起動に使用される。

【メドーサ@GS美神 極楽大作戦!!】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2、
[思考]
基本行動方針:横島を殺す。
1:ハドラーを殺す。
2:殺し合いを優勝するか、脱出するかは保留。
[備考]
※参戦時期は、原作34巻で復活直後です。
※刺又槍を現出させることができます。
※超加速は制限されています。
※輪切りのソルベは破壊されて、周囲に散乱しています。

【支給品説明】
輪切りのソルベ@ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の旋風
メドーサに支給。
暗殺チーム一員ソルベがディアボロによって輪切りにされ、
透明のケースに入れてホルマリン漬けにした物。

251 ◆emwJRUHCH2:2015/12/02(水) 23:16:35 ID:82Fn.W3U0
投下を終了します。

252名無しさん:2015/12/04(金) 19:40:12 ID:oPwJqizcO
投下乙です

覇者の剣没収されてるとはいえ、いきなり生命の剣はダイ戦まで保たないと思うが、メドーサがそこまでの強敵ってことか

253名無しさん:2015/12/05(土) 12:14:44 ID:louiqRVw0
age

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257名無しさん:2016/02/20(土) 23:03:23 ID:9xAw.zgU0
あれ…?
参戦作品一通りチェックしてから久しぶりに来てみたらこんなことに…
うそー終わっちゃうのー?(´・ω・`)
lみんな戻ってきてよー楽しみにしてたのにー…(´;ω;`)

258名無しさん:2016/02/20(土) 23:42:54 ID:pff/NqdE0
終わって欲しくないなら自分で書けばいいだろ

259名無しさん:2016/02/21(日) 18:26:07 ID:/KYTuiqc0
簡単に言ってくれるねえ…

260名無しさん:2016/02/23(火) 23:19:04 ID:5FrJpeJQ0
イッチが書く気無いから仕方ないね

261名無しさん:2016/02/26(金) 22:32:40 ID:jUZayGcs0
更新来たのかと思ったら雑談か
せめてsageてくれよ

262 ◆uuM9Au7XcM:2016/03/29(火) 17:57:50 ID:mBVUxkME0
投下します

263あなたはどっち? ◆uuM9Au7XcM:2016/03/29(火) 17:59:00 ID:mBVUxkME0
GS(ゴーストスイーパー)。
それは人々のために日々命の危険を顧みず、妖怪や悪霊を退治する過酷な職業である。
厳しい国家試験を勝ち抜き、危険の代償として高額な報酬を得る、いわば選び抜かれたエリートなのだ。


横島忠夫。
殺し合いのゲームに招かれた参加者であり、一見どこか間の抜けたような風貌のこの少年もまたGSの一人。

GSの仕事での経験のおかげなのだろうか。横島は殺し合いの場に巻き込まれたというのに、静かに物音を立てず目標を窺っていた。
目には支給品としてデイパックに入っていた暗視ゴーグルを付け、じっくりと観察している。

(うーん、遠くてちょっと見えずらいな)

まだ気付かれてはいないようなので、じわじわと近づき、もっとはっきりと観察できるように試みる。
目標に気付かれる危険があるが、この非常事態において他の参加者を見極めるのは重要事項であるため仕方がない。

(焦るなよ……慎重に行動するんだ)

そう自分に言い聞かせ、緊張からか高まる気持ちを抑えつけながらゆっくりと進んでいった。















「ちくしょう。あのノストラダムスって野郎、絶対にぶん殴ってやる」

横島が進む先には、浜辺に座り込み脱いだ上着を絞りながらぶつくさ文句を言っている、ずぶ濡れの少女がいた。
赤毛の髪をおさげにした可愛らしい顔立ちでありながら、粗暴な口調で独り言をつぶやき、豊かな乳房を堂々と晒したまま人目を気にする様子もないという、なんともミスマッチな少女であった。

なぜ彼女が不機嫌なのかというと、殺し合いなどという馬鹿げたことに参加させられたのはもちろん、さらに気付いたら海に落とされていたからである。
混乱しながらも浜辺までたどり着き、落ち着いたところでふつふつと沸いてきた怒りに任せて、ノストラダムスを打倒する決意を固めていた。
名簿を確認したところ、許嫁のあかねをはじめ数人の知り合いの名前があり、尚更殺し合いに乗るわけにはいかない。
あかねは可愛くはないが一応は許嫁だ。早く合流して、自分が助けてやらねばならない。

264あなたはどっち? ◆uuM9Au7XcM:2016/03/29(火) 18:00:24 ID:mBVUxkME0



(ん?誰か見てやがるな)

ひととおり上着を絞り終えたところで、ふと自分へ誰かの視線が向けられている気配に気付く。
注意深く見てみると、暗闇に紛れて一人の男がほふく前進をしながら迫ってきているのが見えた。

「おい、てめえ!!そこで何してやがる!!!」

明らかに怪しいこの男は、殺し合いに乗っているかもしれない。
水分を落とした上着を足元に放り捨て、熟練者と思わせる構えをとり、戦闘態勢に入りながら不審者に怒鳴りつける。

すると、男の身体が固まったように硬直したのもつかの間、すぐさま目に付けていたゴーグルを外し物凄い勢いで走り寄ってきたのである。
少女は思わず攻撃しそうになるが―――――

「すんまへん、すんまへん、すんまへーーーん!!ほんの出来心だったんや〜」

目の前に来た途端、泣きながら土下座を始めてしまう。
謝っている内容から察するに、裸を覗き見ていたことを詫びているようだが。
怒りよりも先に、こんな状況でなんとも胆の座った奴だと、呆れ半分に感心してしまっていた。




「で、お前は殺し合いに乗っているのか?そうなら半殺しにでもしてやるが」
「も、もちろん乗ってない!」

一応確認を取ってみるが、やはり殺し合いをする気はないようだ。
何が起こるかわからないので、無駄な戦闘は避けるに越したことはない。

「そうか、とりあえず信じてやる。俺の名前は早乙女乱馬。お前は?」
「横島忠夫です、よろしく」
「……ああ、よろしくな」

どことなくキリっとした表情で握手を求めてくる。どうやら今更好印象を持たれようと画策しているらしい。
面倒そうに握手に応じてやると、乱馬は次の話題を切り出した。

「ところで横島。お前、お湯持ってないか?」
「お湯?生憎デイパックの中には入ってなかったみたいだけど、風呂にでも入るのか?」
「まあそんなとこだ……」

できれば早くお湯を手に入れて万全な状態に戻したかったが、ないのならば仕方がない。
力やリーチは劣るが、幸いこの状態でも戦えないことはないので、どこかで調達するまで我慢しようと諦めかけていたのだが。



「なんとかできないこともないぜ?」

いきなりそんなことを言い出すと、ずいと手を差し出してきた。
いつの間にか横島の手には小さな玉が握られており、そこには『湯』という文字が記されている。

「冗談に付き合うつもりはねえんだ、無いのならさっさといくぞ」
「まあまあ、それは今から証明―――おっと滑った!」

何をふざけているのかと乱馬が困惑しているなか、横島はその玉を持って近づくとわざとらしくこけ、玉を乱馬の頭上に放り投げた。
すると不思議なことに玉が光ったかと思うと、頭上から乱馬とドサクサに紛れて彼女に引っ付いている横島へお湯が降り注いだ。
水をかけたのではなく、横島は紛れもないお湯を生み出してみせたということになる。

265あなたはどっち? ◆uuM9Au7XcM:2016/03/29(火) 18:01:56 ID:mBVUxkME0




「お湯で暖まれたことだし、これは事故ってことで。ん??」

何かがおかしい。
横島が乱馬に抱きついた直後には、たしかに極楽のように柔らかな感触に包まれていたはずだ。
しかし、今は固く筋肉のような感触しか伝わってこない。
そう、まるで男に抱きついているような。


「おお〜助かったぜ。何やったんだ?」


聞こえてくる声も初めて聞いた男の声。


「ありがとよ。でも気持ち悪いから、さっさと離れろよ」


横島は恐る恐る顔を上げて確認する。


「よう、早乙女乱馬だ。改めてよろしくな」


そこにいたのは、服装や髪型は同じでも明らかに別人な黒髪の男。


「ど、どちら様で?」
「だから言ったじゃねえか、早乙女乱馬だ。
 ほんとは男なんだけどよ、水を被ると女になるって厄介な体質でな」

いや〜ほんと助かったぜと、目の前の乱馬と名乗った男は嬉しそうに笑っているが、震えている横島には途中から聞こえていない。

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「うおっ!!」
「男は嫌じゃーーーーーーー!!!女がいいんじゃーーーーーーーーーー!!!!」

などといきなり叫びだすと全速力で走り去っていってしまった。



「なんだったんだ……世の中には変なやつがいるんもんだな」


第三者から見たならば、同じく変人に分類されるであろう乱馬は横島が走り去る様を呆然と見つめていた。

266あなたはどっち? ◆uuM9Au7XcM:2016/03/29(火) 18:03:03 ID:mBVUxkME0



【C-7 海辺/1日目 深夜】




【横島忠夫@GS美神 極楽大作戦!!】
[状態]:健康、びしょ濡れ、霊力消費(中)、精神的ショック大、錯乱中
[装備]:
[道具]:支給品一式、暗視ゴーグル、ランダム支給品1(確認済)
[思考]
基本行動方針:殺し合いから脱出する
1:男は嫌じゃーーーーーーー!!!
2:女に会いたい
3:死にたくない
[備考]
※乱馬と自己紹介しましたが、知り合いなどの情報交換までは至っていません。
※乱馬の体質を知りました。
※名簿未確認。
※少なくとも文殊を使えるようになって以降からの参戦。
※叫びながら北に向かって入っています。


【早乙女乱馬@らんま1/2】
[状態]:健康、びしょ濡れ
[装備]:
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考]
基本行動方針:ノストラダムスをぶん殴る
1:知り合いと合流する
2:あかね最優先
3:お湯を確保しておきたい
[備考]
※横島と自己紹介しましたが、知り合いなどの情報交換までは至っていません。
※パンスト太郎戦以降からの参戦。


【支給品説明】


【暗視ゴーグル@現実】
ゴーグル型の暗視装置。
装備すると暗闇でも視界を確保できるようになる。

267 ◆uuM9Au7XcM:2016/03/29(火) 18:03:43 ID:mBVUxkME0
投下終了です

268名無しさん:2016/03/30(水) 19:23:01 ID:f3IitRr60
乙です
横島…お前ってヤツはどこでも変わらないな

269名無しさん:2016/04/01(金) 17:47:03 ID:t3q3f//g0
投下おつーw
予想可能回避不可能な展開に笑ったw
これはいい横島かつ乱馬なコメディ

270あなたはどっち? ◆uuM9Au7XcM:2016/04/03(日) 12:33:07 ID:QiveXJTE0


【C-7 海辺/1日目 深夜】




【横島忠夫@GS美神 極楽大作戦!!】
[状態]:健康、びしょ濡れ、霊力消費(中)、精神的ショック大、錯乱中
[装備]:
[道具]:支給品一式、暗視ゴーグル、ランダム支給品1(確認済)
[思考]
基本行動方針:殺し合いから脱出する
1:男は嫌じゃーーーーーーー!!!
2:女に会いたい
3:死にたくない
[備考]
※乱馬と自己紹介しましたが、知り合いなどの情報交換までは至っていません。
※乱馬の体質を知りました。
※名簿未確認。
※少なくとも文殊を使えるようになって以降からの参戦。
※叫びながら北に向かって走っています。


【早乙女乱馬@らんま1/2】
[状態]:健康、びしょ濡れ
[装備]:
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考]
基本行動方針:ノストラダムスをぶん殴る
1:知り合い(あかね、良牙、シャンプー、ムース)と合流する
2:あかね最優先
3:お湯を確保しておきたい
[備考]
※横島と自己紹介しましたが、知り合いなどの情報交換までは至っていません。
※パンスト太郎戦以降からの参戦。


【支給品説明】


【暗視ゴーグル@現実】
横島忠夫に支給。
ゴーグル型の暗視装置で、装備すると暗闇でも視界を確保できるようになる。

271 ◆uuM9Au7XcM:2016/04/03(日) 12:34:05 ID:QiveXJTE0
誤字等があったので少し修正しました。

272 ◆uuM9Au7XcM:2016/04/03(日) 12:36:40 ID:QiveXJTE0
投下します。

273愛と憎しみのハジマリ ◆uuM9Au7XcM:2016/04/03(日) 12:37:07 ID:QiveXJTE0
「バトルロイヤル……」

いつもならば、すでに眠りについている深夜。
自分の置かれた状況が信じられないのか、真宮寺さくらは確認するかのような独り言を呟きながら、配られた参加者名簿を見ていた。
神社の境内で姿勢よく座っているその袴姿は、真っ暗な闇のなかランタンの灯りに照らされ、見惚れてしまうような凛とした美しさを醸し出していた。

「大神さん……それにアイリスと紅蘭まで……」

名簿に記されていた名前のなかにあったのは、愛しい人と帝國歌劇団の仲間たち。
そんな大切な者たちが、自分と同じく殺し合いの場に連れてこられているのは悲しいことではあるが、同時に心強さも感じる。
一人だけなら混乱もしよう。
しかし、共に苦難を乗り越えた頼もしい仲間と、何よりもその仲間たちと自分を支え導いてくれた隊長がいる。

地図を眺めてまず目についたのは、大帝国劇場。
ほぼ島の中心に位置していることから参加者が集まりやすく、危険も高まるかもしれないが、見慣れたこの場所に知り合いが向かう可能性も同じく高い。
迷った結果、知り合いとの合流を最優先するという結論になり、最初の目的地を大帝国劇場に決めた。
先ほどまで感じていた不安はどこへやら、彼らを探さねばと立ち上がり歩き出そうとする。
月峰神社へ新たな客人が訪れたのは、ちょうどそんな時であった。











「…………先客がいたか」

姿を見せたのは、甲殻類の殻のような兜と奇妙な鎧を身にまとい、怪しい気配を漂わせる男であった。
その瞳には友好的に接しようなどという意思を欠片も感じさせることはなく、自分以外すべてのものを見下し支配する、そんな邪悪さを放っていた。
かつて戦った、黒之巣会の叉丹を思い起こさせる。


「!?……止まりなさい!!」

すぐさま危険な相手と判断したさくらは、デイパックの中から支給されていた刀を取り出すと腰の位置に添え、構えながら警告する。

「ほう……このラディゲに無礼な口をきくだけあって、なかなかの覇気を持っておるようだな」
「あなたは何者ですか!!その場で答えなさい、近づけば斬ります!!」

274愛と憎しみのハジマリ ◆uuM9Au7XcM:2016/04/03(日) 12:38:44 ID:QiveXJTE0

口調は気丈に努めてはいても、相手から発せられるプレッシャーから、刀の柄を握るさくらの手のひらには汗がにじんでいく。
さくらの警告を気にも留めていないのか、男はゆっくりと近づきながら問いに答える。

「ふん、私が何者かだと?我が名は次元戦団バイラムが幹部、ラディゲ。
 そして、いずれは全次元の頂点に立つ者だ。このラディゲの手にかかって死ねることを誇るがいい!」
「くっ!?」

そう言うと、右手からムチのようなものを発生させ、さくらのいる場所へ向かって勢いよく振るった。
さくらが刀を構えた状態のまま、横っ飛びをするように回避したと同時に、背後にあった境内の一部が音を立てて崩れていく。
すでに警戒態勢に入っていたことから、いきなりの攻撃にも対応でき、なんとか躱すことに成功する。

ラディゲは即座にさくらが移動した場所にもムチを振るうが、またしても手ごたえはない。
さくらたち帝國歌劇団の面々は、妖魔たちと対していた際には、神武と呼ばれる霊子甲冑に乗り込み戦っていた。
だが、さくら自身も、魔を祓う破邪の力を持つ真宮寺一族であり、北辰一刀流免許皆伝の腕前を誇る凄腕の刀士である。
その実力を発揮し、次々と繰り出されるラディゲのムチによる攻撃を躱し続けるさくら。




「どうした、なぜ攻撃してこない。
 私に届くかはともかく、攻撃を仕掛けることはできたのではないか?」

十数分間そのようなやり取りを続けながらも、まだ余裕の表情のラディゲは、途中から抱いていた疑問を投げかけた。
ラディゲの言う通り、攻撃に移ることのできるタイミングは何度かあった。
躱し続けていても、誰かの救援が望めぬ以上、事態を好転させることが難しいのもわかっている。
さくらは手に持っている刀に目を向け逡巡する。


「来ないのならばそれでもよい、そろそろ終わらせてやる」

それまでムチを振るっていた右手を掲げる。
するとその手から衝撃波が放たれ、さくらは勢いよく傍にあった木の幹へ叩きつけられた。
ぶつかった衝撃によって、たまらずうめき声をあげてその場に倒れ込む。
なんとか目だけを向けると、再度ムチを発生させたラディゲが、今まさに止めをさそうと寄ってきていた。

(このままでは、やられる……)

もう迷っている暇はない。

「大神さんに会えずに、こんなところで死ぬわけにはいかない」

「真宮寺さくら、参ります!!」

さくらは決断し、急いで体勢を立て直すと、構えてた状態から刀を抜き斬りつけた――――――






「なにっ!?」

ラディゲとて、けっしてさくらを侮っていたわけではない。
しかし、その放たれた斬撃には、思わず驚きで目を見張った。
優れた刀士であろう、さくらによる斬撃の鋭さは予想できていた。
問題なのはその数。
なんと同時に八つの斬撃が放たれたのである。

真宮寺さくらに支給された刀の名は、『八房』。

人狼によって作られ、一振りで八つの斬撃を繰り出すことのできる妖刀である。

慣れた獲物である刀を支給されたのはありがたかったのだが、説明書に妖刀と記されていたので使うことをためらっていたのだ。

275愛と憎しみのハジマリ ◆uuM9Au7XcM:2016/04/03(日) 12:39:23 ID:QiveXJTE0


まだ十分に制御できていないのか、あらぬ方向に飛んだ斬撃もあったため、ダメージを与えることはできなかった。
にも関わらず、警戒しているのかすぐに攻撃に移らずに、何かを考えるようにじっとさくらを見つめている。

これは好機とばかりに八房で斬りつけると、突然ラディゲの姿が欠き消えた。

「えっ?」

戸惑いの声をあげたのもつかの間、続けて背後からわき腹を蹴り上げられる。

「がふっ」

すかさず身体をずらし、ダメージを和らげながらその方向に斬りつける。
が、ふたたびその姿は消え、斬撃は辺りを破壊する。


「さすがに今のままでは、それを相手に無傷とはいかなそうだ。
 この勝負、預けておくぞ」

別の方向に現れたラディゲは、などと勝手なことを言いながら闇夜の中に姿を消していった。

「逃げた……の?」

緊張が解け、力が抜けたように座り込む。
さっきの戦闘で、精神肉体ともにだいぶ消耗してしまったようだ。

「でもすぐに移動しないと。音を聞いて、また危険な人が寄ってきちゃう」

「それに、早く大神一郎を殺さないといけないしね」

立ち上がるさくらの腰元のあたりには、見慣れないブローチが輝いていた。











(これは当たりだったようだな)

傍に潜み、気配を殺して様子を眺めていたラディゲは、満足そうに笑みを浮かべた。
見つけた参加者へ攻撃をしながら観察をしていた最中、誰かの名前を口走ったので支給品を試してみることにしたのである。
『反転宝珠』という、逆さまに付ければ愛情が憎悪に変わるブローチ。
あの言動から察するに、思惑通りにいったようだ。

(くくく、愛などという愚かな感情を持つから、己の身を亡ぼすことになるのだ。
私のために、せいぜい暴れてくれよ)

ラディゲといえども、ジェットマンやグレイ、そしてなぜか甦っている女帝ジューザ、奴らがいる以上たやすく優勝できるとは思っていない。
会場を混乱させる要素を作っておいた方が、人数も減りやすいだろう。

(とりあえずの問題はジューザか)

女帝ジューザは、ジェットマンたちとも協力して、ようやく倒せたほどの存在だ。

(誰かと手を組む必要があるな、まずは蒲生の屋敷とやらに行ってみるか)

方針を決めると、さくらが向かったのとは逆の方向へ向かって歩き出した。

276愛と憎しみのハジマリ ◆uuM9Au7XcM:2016/04/03(日) 12:40:06 ID:QiveXJTE0



【D-2 月峰神社付近/1日目 深夜】




【真宮寺さくら@サクラ大戦シリーズ】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、反転宝珠(逆向き)の影響下
[装備]:妖刀『八房』
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1(確認済)
[思考]
基本行動方針:ノストラダムスを倒す
1:知り合い(アイリス、紅蘭)と合流する
2:大帝国劇場へ向かう
3:憎き大神一郎を殺す
[備考]
※八房の斬撃を当てると霊力を吸収できることは知りません
※反転宝珠(逆向き)が腰の後ろあたりにつけられています
※1本編終了後からの参戦
※まだ八房を使いこなせていません



【ラディゲ@鳥人戦隊ジェットマン】
[状態]:疲労(中)
[装備]:
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本行動方針:優勝する
1:手を組める参加者を探す(今のところグレイ最有力)
2:蒲生の屋敷へ向かう
3:ジェットマンとジューザはできるだけ早く始末したい
[備考]
※少なくとも女帝ジューザ戦以降からの参戦



【支給品説明】

【妖刀『八房』@GS美神 極楽大作戦!!】
真宮寺さくらに支給。
一振りで八つの斬撃を繰り出せる妖刀。斬った相手のエネルギーを取り込むことができる。
フェンリル狼の封印が、使用者にどう影響を与えるかは後の書き手さんにお任せします。


【反転宝珠@らんま1/2】
ラディゲに支給。
笑顔と苛立ちの表情が上下に描かれたブローチ。
正位置につけると愛は豊かになるが、逆につけると愛が憎悪に変化する。

277 ◆uuM9Au7XcM:2016/04/03(日) 12:40:44 ID:QiveXJTE0
投下終了です。

278名無しさん:2016/04/03(日) 22:35:38 ID:tkzUwUfIO
乙です
まさかこういう流れになるとは大神さんやばす
限定的ながら厄介なステルスだあ
ラディゲの今後の立ち回りも楽しみな一幕でした

279名無しさん:2016/04/24(日) 23:46:55 ID:aYZEDiNg0
投下乙です
さくらが…大神さん

280名無しさん:2016/05/06(金) 17:25:10 ID:3yjNbx5gO
予約きた

281 ◆uuM9Au7XcM:2016/05/11(水) 22:03:07 ID:3QljqbYE0
投下します

282咆哮 ◆uuM9Au7XcM:2016/05/11(水) 22:04:21 ID:3QljqbYE0
人類が宇宙へ新しい発見を求めて旅立ち、国家ですらもスペースコロニーへと移転した未来世紀の時代には、ガンダムファイトと呼ばれる世界のリーダーを決める代理戦争が行われてい

た。
ガンダムファイトは、コロニー国家間での全面戦争を防ぐためにと考案され、地球をリングとして『ガンダム』と呼ばれる兵器を用いて行われる。
アレンビーも国家の代表としてガンダムに乗り、闘っていた一人である。
まだ17歳の少女ながらも、新体操の動きを取り入れた軍隊式格闘術を駆使する凄腕のファイターだ。

今現在、彼女が置かれている状況はガンダムファイトと似たようなものではある。
ただ違うのは、ガンダムに乗って闘うのではなく生身の人間同士で競い合うということ。
そして、勝ち残った一人しか生き残れない殺し合いだということ――――――





(こんな子どもまで参加させられてるなんて……)

アレンビーは一人の少年と共に、広い草原を線路に沿って歩いている。
少年の名前はジョン・コナー。
10歳という幼さにも関わらず、取り乱した様子はない。
つい先ほどアレンビーと出会った時も、自分は殺し合いに乗っていないから協力しようという提案をしてきた。

話を聞いてみると、ターミネーターというロボットに命を狙われ、同じく別のターミネーターに守られていたという。
「襲ってくる奴の方が、規格外の化け物だったけどね」
とジョンは言っていたが、味方のターミネーターのことを語る表情から察するに、かなり頼りになる存在だったことが伺える。
これだけ落ち着いているのも、そのターミネーターが自分を見つけ出して守ってくれると信じているからなのだろうか。
殺し合いの場だというのに、弱音を吐かず歩みを進めている。

(まだ可愛い顔してるのに、ずいぶんとしっかりしてるのね)

それにしても、冷静過ぎのように思える。
アレンビーを先導するように目の前を歩くジョンへ視線を向けながら、心中感心しつつも訝しむ。

「あのさ……」
「うん?どうかした?」

そんなことを考えながら歩いていると、不意にジョンが立ち止まり、後ろを歩くアレンビーに話しかけてきた。

「あのノストラダムスってやつは何がしたいんだと思う?」
「何がって……道楽だって言ってたけど……」
「でも、あいつは答えることはできないって言ってた。
 遊びならそれが楽しいからで済むはずでしょ?」

283咆哮 ◆uuM9Au7XcM:2016/05/11(水) 22:05:04 ID:3QljqbYE0

そう言われてみればそうである。だが改めて考えてみても、何が目的かなど見当がつかない。
ガンダムファイトのように大規模な戦争を防ぐための手段としてでもなく、こんな殺し合いに多数の人を無理やり参加させるなんて、普通の人間が考えるようなことではない。
見世物として金儲けをするか、本当に道楽だという方が納得できる。
金と変人の欲求というのは、常人が理解できない状況を生み出すものだ。
とにかく、推理するにはまだ情報が足りない。

「ジョンくんは何か心当たりでもあるの?」
「ううん。でもさ、相手の目的が分かれば何か弱点も分かるんじゃないかと思ったんだ……」

そう話すジョンの表情には、どこか不安げな感情が読み取れる。
こんな状況で初めて会った人間だ。おそらく、アレンビーがいくら殺し合いに乗っていないとわかったとしても、多少警戒したまま接していたのだろう。

「大丈夫だって。
 あいつが何をしようとしてるかはわかんないけどさ、私が守ってあげるから」

こう見えてもほんとに私強いんだよ、と元気づけるようにジョンへ向かって笑いかける。
これ以上続けても進展はないと思ったのか、ジョンも話題を切り上げて曖昧な笑みを浮かべた。

「ガンダムファイターだっけ?」
「うん、もう一人ドモンていう私よりも強いファイターも参加者にいるよ。
 でも絶対にこんなゲームに乗るような人じゃないから安心して」
「ドモン……あった、ドモン・カッシュ」

話を聞きながら名簿を確認してみると、たしかにその名が載っていた。
アレンビーは自分のことを話す時よりも、生き生きとドモン・カッシュのことをジョンに語る。
アレンビーがここまで熱弁するほどなのだからよほど屈強な人物のようだ。
そしてその話す様子から、彼に対する淡い想いを感じることができた。

「それにレインはガンダムのメカニックもしてたから、この首輪を外せるかも」
「首輪を――――うわ!?」

ジョンが持つ名簿を覗き込み、続けてレイン・ミカムラという名を指さす。
本当に外せるものなのかと思い、後ろから覗き込んできているアレンビーへ向くと、女性特有の甘い匂いと共にその顔が至近距離にあったことに驚く。

「ちょ、ちょっと!近いよ!!」

顔を赤らめながら、思わずアレンビーとの距離を取る。
ジョンもそういうことを意識してしまう年齢だ。年上の美女の顔がいきなり至近距離にあれば、狼狽するのは当然といえる。

「あはは。ごめんごめん、もしかして照れてる?」
「ち、違うよ。ちょっと驚いただけさ」
「………」
「……何?」
「ううん、ちょっと安心しただけ」
「??」

目の前であからさまに狼狽えている少年を見ながら、その年相応な反応にアレンビーはどこかほっとした気持ちになった。
いくら落ち着きのある行動を取れていたとしても、やはりまだ子どもなのだ。
これから先、どのようなことになるか予想できないが、自分が彼を守らなくてはとの思いを堅固にする。

284咆哮 ◆uuM9Au7XcM:2016/05/11(水) 22:05:54 ID:3QljqbYE0



「あ、誰か来る」

そんなやり取りをしていた時、向かい合って話していたジョンが、視線の先を指さしながらアレンビーに告げる。
振り返って少年の緊張の眼差しの先を見てみると、たしかに一人の女性がこちらに向かって歩いて来ているのが見えた。
その足取りとただならぬ雰囲気から何かを察したのか、アレンビーは自然とジョンを庇うような位置を取っている。
近くまで来た女性は異様な格好をしており、まるでコミックから出てきたようなその様相は、この異常な状況においてより一層の不気味さを醸し出している。

「私たちは殺し合いをする気は―――」
「ジェットマン、ラディゲ、グレイ。こいつらの居場所に心当たりはあるか?」
「え?……知らない、ここであったのはあなたが二人目だから」
「そうか、ならば貴様らの首輪を貰うとしよう」
「な!!!?」

まずは対話を試みようとしたアレンビーを無視して、一方的に自分の要件を済ませる。
さらに聞き捨てならない言葉が発せられると、危険性を確信したアレンビーがすかさず攻撃に移ったが――――

「嘘……」
「この程度で私に抗うとはな」

思わず驚愕の声を漏らすアレンビーであったが、それも無理もない。
標的の頭部目がけて放たれた上段蹴りは、相手の不意をつくには十分な速さと威力を備えていたはずだった。
しかし、その攻撃が事も無げに受け止められ、そのまま足を掴み取られてしまったのである。
それもそのはず、彼女が攻撃を仕掛けた相手は裏次元を征服した武装集団、次元戦団バイラムの首領でありバイラムいちの実力者。
見た目は妙齢の女性だが、女帝ジューザといえば部下をもその存在を恐れる女傑なのだ。

「まだまだ!!」

一瞬面食らったアレンビーだったが、すぐさま足を掴まれた腕へ絡みつき関節技を試みる。

「ふん、小賢しいわ」
「がはっ」

ところが、そのままアレンビーもろとも腕を地面へ叩きつけるという荒業へ出る。
衝撃音が鳴り響き、地面に倒れ込み悶えるアレンビー。
すると今度は片手で首を掴み軽々と持ち上げると、満足気に微笑んだ。

「このまま絞め殺してやる」
「あ……ぐ……」

「アレンビーッ!!」

デイパックから取り出した銃を構えて援護しようとするも、ジョンの腕前ではアレンビーに当ててしまう可能性もあり、構えたまま立ち尽くしてしまう。
早くも勝負は決したかに見えたが、ここでこの場にいる誰もが予想していない事態が起こる。

285咆哮 ◆uuM9Au7XcM:2016/05/11(水) 22:06:37 ID:3QljqbYE0

「なんだッ」

ジューザの立っている地面が、いきなり爆発したかのように弾けたのだ。
その際に見せた隙をついてアレンビーは拘束から脱出し、少し離れた場所から様子を窺っている。

「ここはどこだ……」

土煙の上がる地下から現れたのは、中華風の服を着て黄色いバンダナを頭に巻いた男。
まるで迷子のようにキョロキョロと辺りを見回している。
そしてジューザの姿を目にすると、ぎょっとしたような顔をして後ずさる。

「な、なんだてめえは!」
「私の邪魔をしておいて無礼な口まできくとは、そんなに殺してほしいのか?」
「殺すだと?まさかお前、こんな馬鹿げたゲームに乗ってやがるのか」
「ノストラダムスもお前たちも同じよ。私の邪魔をする者は殺す。
 お前のでも構わん、そのために首輪のサンプルを貰うぞ」
「うおっ」

ジューザから放たれる拳をなんとかガードするも、その凄まじい威力から、バンダナの男はさらに後ろへ押し出された。
そこへ背後からアレンビーが受け止める。
そして静かにバンダナの男へ向かって話しかける。

「す、すまん。助かった」
「いいえ、気にしないで。私はアレンビー、そっちにいる子はジョン君。
 二人とも殺し合いには乗ってない」
「俺は良牙、響良牙だ。俺も殺し合いには乗ってない」
「じゃあ、あいつをどうにかするの協力しない?
 正直言って、一人じゃとても敵いそうにないの」
「同感だ、あいつはヤバい」




響良牙とアレンビー・ビアズリー。
二人とも達人といってもいい格闘技術を持っている。
しかしながら、相手も常識破りの怪物だ。
最初のような一方的な展開にはならずとも、決定打を与えることができないまま疲労だけが蓄積していく。
その様子を悔しそうに見つめるジョンは、戦いに向かう際に良牙が投げ捨てたデイパックへ目を向けた。
その中に何か役に立つ支給品があるかもしれない。
そう思い立ち、中を探り始める。

(あった……)

運よく武器になりそうなものを探し当て、見つけた支給品をアレンビーへ渡そうと顔をあげる。

286咆哮 ◆uuM9Au7XcM:2016/05/11(水) 22:07:16 ID:3QljqbYE0

「ぐあっ」
「きゃあっ」
「そろそろ煩わしくなってきたぞ。お前はもがき苦しみながら死ね」

吹き飛ばされた二人と、まだ余裕のありそうなジューザ。
そのジューザの額にある石が光り、アレンビーに向かって光線が発射される。

「あああああああああああっ」

なんと、光線を受け叫ぶアレンビーの腕からは結晶のようなものが生えてきているではないか。
心配して駆け寄ったジョンが見たものは、皮膚を破って血を滲ませながら結晶が生えてくる痛々しい姿だった。

「ちくしょおおおお」
「お前も終わりだ」

最後の力を振り絞るように突進していった良牙だったが、腹部を打ち据えられジューザの足元に倒れ伏す。
アレンビーは正体不明の光線を受け戦闘不能。良牙もジューザの力の前に屈してしまった。
今度こそ本当に終わりかと思われたその時、倒れていた良牙の手がジューザの足を掴む。

「なあ、俺はこのまま死ぬのか……」
「そうだ。だが私の役に立つのだ、誇り思って死ぬがいい」
「くそぉ…………」
「……ん、なんだ!?」

ジューザが良牙の異変に気付た。
突然、良牙の身体から凄まじい闘気が発せられたのだ。

「逃がさねえぞ」
「くっ!!」

離れようとするジューザを、掴んだ手に懸命の力を込めてその場に食い止める。

「ああ…憂鬱だ……獅子!!!咆哮弾ーーーーーーーー!!!」

良牙が叫び声をあげると、巨大な光の弾が頭上に現れ落下。
放たれた技の威力を物語るように、中心部にいた良牙の周辺はクレーターのように大きくへこんだ状態になっていた。
そこにはジューザの姿はなく、良牙が一人ゆっくりと立ち上がる姿だけが確認できた。

287咆哮 ◆uuM9Au7XcM:2016/05/11(水) 22:07:55 ID:3QljqbYE0

「だ、大丈夫なの?」
「ああ、なんとかな。
 獅子咆哮弾の直撃を食らえばあいつだって―――」


振り返った良牙の誇らし気な顔に安心したのもつかの間。
その言葉が途切れる。
強大な敵を打倒したはずの男の口からは血が流れ、その胸を剣が刺し貫いている。

「ごふっ……」
「この剣を見ると思い出す。あの忌々しい裏切り者の顔をな」
「あ…かね…さん」

抉れた地面の下から現れ、良牙に致命傷を与えたジューザは、膝をついた彼の首をその剣で切り落とした。
さっきまでジューザと激闘を繰り広げていた男の首が、あっさりと体から離れ地面への落ちていく。


「さあ、小僧。次はお前だ」

「…………」

「安心しろ、手早く済ませてやる」

「…………」

「私はいいから……早く…逃げて…」

呆然と立ち尽くすジョンへ、アレンビーが逃げるように促す。
あそこまでの威力の攻撃を受けて生きているような相手に、銃だけで敵うわけがない。
だが今更逃げられるかと問われれば、それもNOだ。
乗り物も持ってない子どもが逃げ切れるとは到底思えない。
悩みぬいたジョンは、自身が生き残るために危険な賭けに出た。


「俺は役に立つよ」
「なに?」
「その首輪を調べるあてがないんなら、俺がやれる」
「ほう……」

ジョンの言葉を受け、歩み寄っていたジューザは足を止めて思考する。
はっきりいって首輪を解析する手段に心当たりはない。
だが、トランのような例があるにせよ、このような子どもがそれをできるなど信じがたいことだ。

「……いいだろう」
「!?」

しかしながら、ジューザは了承した。
嘘であったとしてもその時に殺せばいいことであり、この首輪がジューザにとっても最大の懸念事項であるからだ。

「ただし、裏切れば殺す。役立たずだと判断しても殺す」
「……わかった」
「よし、では行くぞ。
 その女は放っておいてもそのうち死ぬ」

この場を立ち去ると促すジューザに対して首肯すると、アレンビーの傍に置いていたデイパックを取りに戻っていく。

「おい、早くしろ」
「は、はい!!」

デイパックを取りに行く際の一瞬、苦しむアレンビーへ視線を向けるが、ジューザの呼びかけに応え後を追って走っていった。
嵐が去った後に残されたのは、悪に立ち向かった男の物言わぬ骸と得体のしれない現象に苦しみもがく女の叫び声。
そして、女のそばには一つの支給品が目立たぬように置かれていた。

288咆哮 ◆uuM9Au7XcM:2016/05/11(水) 22:08:28 ID:3QljqbYE0




【響良牙@らんま1/2 死亡】




【D-3 1日目 深夜】





【女帝ジューザ@鳥人戦隊ジェットマン】
[状態]:疲労(大)
[装備]:秘剣ブラディゲート
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜1、首輪(響良牙)
[思考]
基本行動方針:ノストラダムスを殺す
1:ジョンに首輪を解析させる
2:ジェットマンと裏切り者(ラディゲ、グレイ)は見つけ次第絶対に殺す
3:邪魔をする者、目障りな者は殺す
[備考]
※参戦時期はラディゲに殺された直後
※結晶化現象はジューザが一定の距離離れたら解除されますが、ジューザはまだ気付いていません


【アレンビー・ビアズリー@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:疲労(極大)、全身打撲、左腕に結晶化現象進行中
[装備]:
[道具]:支給品一式、ランダム支給品2〜3、
[思考]
基本行動方針:殺し合いから脱出する
1:ジョンを守る
2:知り合い(ドモン、レイン)と合流する
3:白いローブの女(女帝ジューザ)を警戒
4:東方不敗を警戒
[備考]
※同作参加者たちを知っている時期からの参戦
※ジョンからターミネーターの話を聞きました
※倒れているアレンビーの傍に支給品(魔甲拳)が置かれています
※響良牙のデイパックは戦闘した場所の周辺に落ちています


【ジョン・コナー@ターミネーター2】
[状態]:精神的疲労(大)、良牙・アレンビーへの強い罪悪感
[装備]:ベレッタM92F
[道具]:支給品一式、ランダム支給品2
[思考]
基本行動方針:母の元へ生きて帰る
1:逃げるチャンスが来るまでジューザに取り入って生き残る
2:T-800と合流したい
3:T-1000を警戒
4:アレンビーの知り合い(ドモン、レイン)と会ったらどうしよう……
5:天道あかねが良牙の知り合いなら良牙のことを伝えたい
[備考]
※T-800、サラと共に逃走中からの参戦
※アレンビーからガンダムファイター・ドモンたちの情報を聞きました




【支給品説明】


【秘剣ブラディゲート@鳥人戦隊ジェットマン】
女帝ジューザに支給。
次元をも切り裂くことができる裏次元伯爵ラディゲ愛用の剣。


【魔甲拳@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
響良牙に支給。
魔界の名工ロン・ベルク作の武器。
利き腕と逆側に装着し「鎧化」の声に反応し手甲の一部が鎧に変わる。
鎧化後は呪文が効かないが金属のため雷系は防げない。


【ベレッタM92F@レオン】
ジョン・コナーに支給。
イタリアのベレッタ社が設計した自動拳銃。
マチルダがレオンから使用法を習っていた銃の一つ。

289 ◆uuM9Au7XcM:2016/05/11(水) 22:09:03 ID:3QljqbYE0
投下終了です

290 ◆uuM9Au7XcM:2016/08/21(日) 16:29:59 ID:5j7TAO9U0
投下します

291誰がために我は行く ◆uuM9Au7XcM:2016/08/21(日) 16:30:59 ID:5j7TAO9U0
暗闇が支配する草原を猛スピードで駆け抜ける物体。
ヘッドライトが照らす僅かな範囲を視界に捉えながら、ルシオラはそのスピードを緩めることなく蒸気バイクを走らせ続けている。
背後にはすでに豪鬼の姿は見えず、追って来ているような気配も感じない。
だが、だからといってすぐに警戒を緩める気にはなれなかった。

それほどまでに豪鬼は異質な存在であった。
魔族である自分や、その主であったアシュタロスとも違う。あそこまでむき出しの殺気を平然と放っている相手に会ったのは初めてだ。
魔族には欲求のままに殺しを行い、それをなんとも思わない者は多い。
しかしあの男は、もっと純粋に意識することなく、感情に左右されずに殺気を放っている。
殺し合いを円滑に進めるため、しばらくは乗っている者たちと潰しあいをするつもりはないが、いずれは戦うことになるだろう。


「さすがに、あんなのがごろごろいるってのは勘弁してほしいわね」


初っ端から会ってしまった規格外の参加者のことを考えていると、つい愚痴が漏れてしまう。
強者相手でも死なない自信はあるが、なにしろ未知数な状況だ。
それに自分は絶対に失敗できない。


ヨコシマを―――愛する人を優勝させるという目的があるのだから。






「あれは…………死体?」


しばらくの間蒸気バイクを走らせていると、進行方向に人らしきものが倒れているのが見える。
怪我でもしているのか、あるいは寝ているだけなのかもしれないが、今この状況を考えればすぐに死体だと連想された。
ルシオラ自身もすでに戦闘を経験していて、他の参加者を殺そうともした。
別の場所で誰かが殺されているというのは十分にありえる。

何か情報を得られるだろうかと思い、バイクを減速させ死体とおぼしきものに近づいていく。
近くまでいくと、遠目では曖昧だった輪郭もよく見えてくる。
倒れていた人物は大柄な男のようだった。


(反応がないし息をしてる様子もない、やっぱり死体みたいね)

292誰がために我は行く ◆uuM9Au7XcM:2016/08/21(日) 16:32:16 ID:5j7TAO9U0


しかし、ランタンの灯を照らしてみるとふと違和感に気付く。


「こんな大きな傷があるのに周りに血がない?」


おそらく死因であろう。腹部や胸に何かで貫かれたような傷を確認できたが、それほどの傷を負っているにも関わらず血が流れた痕跡がない。
吸血のような能力を持つものにでも殺されたのだろうかと考察しつつ、ランタンの灯を頭部にまで進める。


「え!?……ロボット?」


そこにあったのは皮膚が剥がれむき出しとなった機械の顔。
ロボットが参加者の中ににいるという事実に一瞬驚きの表情を見せたものの、すぐに落ち着きを取り戻す。
アシュタロスの部下であった時、直接の上司である土偶羅はロボットであったし、ヨコシマの仲間にも、人間の女性にそっくりなアンドロイドがいた。ありふれていたというほどではな

いにしても、ありえないことではないのだ。

わかったことは2つ。
バトルロイヤルにはロボットも参加していると言うこと。そして、その明らかに戦闘型と思われるロボットを倒しうる存在がいるということ。
先ほど出会った男といい、普通の人間に出会う方が稀なように思えてくる。


「これは……ちょっとやり方を考え直す必要がありそうね」


今まではヨコシマを優勝させることを最優先に、まずは参加者を積極的に減らすよう行動する方針だった。
けれども、想定していたより危険人物や得体の知れないものが多いようだ。
ヨコシマを優勝させるという方針に変わりはないが、ヨコシマが死んでしまっては本末転倒になってしまう。
ノストラダムスの言う、どんな願い事も叶えるという優勝賞品も本当かどうかは怪しい。


「ヨコシマは強い。けれど、絶対なんてないもの……」


そう呟き周囲の様子を確認すると、目の前に転がっている無機物の身体へゆっくりと手を伸ばしていった。

293誰がために我は行く ◆uuM9Au7XcM:2016/08/21(日) 16:33:07 ID:5j7TAO9U0






                 ◇






「成功したみたいね」


機能停止の状態から再起動を果たしたT-800の前には、見降ろすようにボブカットの女が立っていた。
先ほど交戦した男はもうこの場にはいないようだ。


「申し訳ないけど、武器は預からせてもらってるわ」


T-800が何かを探す仕草をしたのを見て察したのだろう、女は手に持ったボウガンを掲げて見せる。
ボウガンをデイバッグに仕舞いながらさらに言葉を続けた。


「言葉は理解できる?それともまた眠りたいかしら?」
「……何が目的だ」
「話が早くて助かるわ。単刀直入に言うと、殺し合いに乗っているのなら手を組みましょうってこと」
「私が殺し合いに乗っておらず、そして断ったとしても破壊するということか」
「……そういうことになるわね。早く返答を聞かせてくれない?」


T-800が作られた理由は人類の殲滅および人類軍リーダーの抹殺。
故に、人間と協力するなどありえないことだ。
だがもし任務遂行の役に立つのなら、本来の目的を秘し利用するのも有効な手段だろう。


「殺し合いに乗ってはいる。だがその前に質問がある」


女は無言でその先を促す。


「見たところさほど時間が経っていないようだが、再起動にはまだ時間を要するはずだ。お前が処置をしたのか?」
「ええ、前にメカニックをやっていたことがあるの。
 とは言っても、あなたの身体はわからないことも多かったから成功するかどうかはイチかバチかだったけどね」
「他に質問は?」
「いやない。……わかった、そちらの提案を飲もう」

294誰がために我は行く ◆uuM9Au7XcM:2016/08/21(日) 16:33:50 ID:5j7TAO9U0


T-800は女の提案に乗ることにした。
相手に機械についての知識があり、自身の身体に手を加えられたというのなら、提案に乗った方が無難だ。
戦力として役に立つのかは判断できないが、標的であるジョン・コナーを探すには人数が多い方がいいという利点もある。
未だ寝そべっていた身体を起こし、右手を差し出し握手を交わす。


「これで交渉成立ね。私の名前はルシオラ、短い付き合いになるでしょうけどよろしくね。
 あと、他の参加者を殺すうえで注意してほしいんだけど、ヨコシマタダオという参加者は殺さないようにお願い。
 そちらは何か要求はある?」
「T-800だ。
 ジョン・コナーという少年を探している。できれば私の手で確実に殺したいが、発見したならば優先的に殺してもらいたい」
「へぇ―――恨みでもあるのかしら」
「お前が知る必要はない」


一度愛する男を失ってしまった女は二度と同じ過ちを犯さぬために突き進み。
少年を守るためのターミネーターはバトルロイヤルという渦にその存在意義を歪められた。



本来ならば別の形で協力できたであろう二人の異端者が、凶行へ向かうべく手を結んだ。





【C-5 草原/1日目 深夜】
【ルシオラ@GS美神 極楽大作戦!!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:蒸気バイク@サクラ大戦シリーズ
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2、
[思考]
基本行動方針:ヨコシマを優勝させる。
1:参加者を見つけ次第殺す。
2:ヨコシマを殺す可能性のある危険人物とジョン・コナーを優先して殺す。
3:T-800と組む。
[備考]
※参戦時期は、原作34巻東京タワーでの死亡直後です。



【T-800@ターミネーター2】
[状態]:腹部・左胸部が大破、顔の皮が無い、プログラムに異常
[装備]:ボウガン、ボウガンの矢×4
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜2、ボウガン@ケイゾク
[思考]
基本行動方針:人類、ならびに指導者のジョン・コナーを排除する。
1:ジョン・コナーを殺す。
2:ルシオラと組んで参加者(人類)を殺す。
[備考]
※参戦時期は少なくともジョンとハイタッチの遊びをした後です。
※ルシオラがT-800を再起動させましたが、チップの抜き差しは行わなかったため目的が人類の殲滅に変わりました。

295 ◆uuM9Au7XcM:2016/08/21(日) 16:35:14 ID:5j7TAO9U0
以上で投下終了です
ご指摘等あればよろしくお願いします

296 ◆uuM9Au7XcM:2016/12/03(土) 02:12:27 ID:pELL9T0I0
投下します

297希望の道しるべ ◆uuM9Au7XcM:2016/12/03(土) 02:15:37 ID:pELL9T0I0



「くそッ!なんなんだこれ!!」


功夫は大声で毒づきながら手近にある人形を蹴り飛ばした。
おそらく、バトルロイヤルが開始されてからずっと暴れていたのだろう。博物館に飾られていた展示物の大半は、その価値を知るものが目を背けたくなるほどに無残な状態となっていた


それでも怒りが収まらないのか、持っていたデイパックまでをも床に叩きつける。

思い返せば、今日はずっと想定外のことばかり起こっている。
上手く観覧車に爆弾を設置できたまでは良かった。しかし、自転車のカギを落としたことがきっかけで、警備員に見つかってしまったのがケチのつきはじめ。
それから爆弾を仕掛けた自分が警察に呼ばれてしまうわ、そこにいた鬱陶しい刑事がしつこく自分を疑ってくるわでイライラが募るばかりの一日である。
本来なら、今頃はあの邪魔な観覧車を作ったやつらから3000万円を手に入れていい気分に浸っているはずだったのだ。
それがどうしたことか。殺し合いをしろと言われ、得体の知れない島に放り出される始末。


「……あいつのせいだ」


名簿には、あの古畑とかいう刑事が載っていた。
古畑の他に自分の知り合いが載っていないことから、あいつに関わったせいで巻き込まれた可能性が高い。
どうせ犯罪者の恨みでも買っているのだろう。
自らの古畑への印象を根拠に、功夫はそう結論付ける。


古畑のせいにすることによって、少しばかり心の平穏は得られたものの、自分が危険な催しに参加させられているという状況は変わらない。
優勝を目指すかという考えも浮かんできたが、1人や2人を隙を付いて殺せることはあっても、大人数での殺し合いを格闘技の経験もない自分が無事に勝ち抜けるとは思えない。
せっかく警察がいることが分かっているのだから、刑事である古畑に保護を求めるのが賢明であろう。
観覧車への爆弾設置の犯人だと疑われている身ではあるが、この非常事態だ。
大事の前の小事ということで自分に構っている暇はないはず。

古畑はどこにいるだろうかと、ふと見上げた窓の先に一際目立つ輝きが目に入った。













李紅蘭はその紫色の髪の隙間から瞳を覗かせ、目の前にそびえ立つ灯台を見上げた。
灯台へ来たのにそれほど深い意味はない。
大神たちと合流しようにもどこにいるのかわからないので、とりあえず自分がいる周辺を高い場所から見てみるかという程度であった。


「入るのなら早くしよう。殺しに乗ったやつが僕らと同じようにここへ来るかもしれない」
「せやな、目立つ場所やからさっさと済ませてしまおか」


隣に立つ白衣姿の男――――林功夫の提案に賛同する。
功夫とは数分前に出会った。
こんな状況だから仕方のないことではあるが、会った当初の功夫は紅蘭をひどく警戒していた。
自分が殺し合いに乗っておらず、ノストラダムスを打倒するよう動くつもりだと必死に訴え、どうにか信用されこうして同行しているというわけである。

298希望の道しるべ ◆uuM9Au7XcM:2016/12/03(土) 02:18:54 ID:pELL9T0I0

また、ここまでの道中で簡単な自己紹介なども済ませている。
功夫によると、古畑という知り合いの警察官の名前も参加者名簿に載っていたらしい。
紅蘭も大神たち帝国華撃団の面々が殺し合いに乗ることはないと伝え、彼らとの合流を目指すことで一致した。


「なあ、林はん」
「……なに?」
「林はんて電子工学の専門家言うてたやろ。これ、どう思う?」


灯台の内部にある上部へ続く階段を登っている途中、前を歩く功夫に紅蘭は自身の首に嵌められている首輪を指さして言う。
『どう思う?』とは『解除できると思うか?』という意味なのだろう。
後ろへ振り返ったまま功夫がどう答えたものか返事に窮していると、返事を待たず紅蘭は続けた。


「いや、ウチもそこそこ機械には自信あるんやけどな。
 専門家なら林はんの意見もちょっと聞いときたいって思っただけなんや」
「下手に触って爆発したら元も子もない。サンプルを手に入れるまでなんとも言えないな」


気楽に気楽に―――と軽く質問しただけだと強調する紅蘭。
だがそう促されたことでかえって不快に思ったのか、功夫は声のトーンを落として応える。


「せやなぁ。でも誰かを殺して首輪を取るってわけにもいかへんやろし、死体見つけてそこから回収するしか方法あらへんかな」
「あんたはどうなんだよ。見たところ、外す自信があるみたいだけど」
「さっき林はんも言うたように、まだわからんよ」

紅蘭は功夫の指摘を静かに否定する。
しかし、
「ただな、システムや道具がどれだけ優れていても、使うてる人が完璧なんちゅうことはありえへん。
 絶対に綻びや付け入る隙があるはず。ウチはそう思ってるだけや」
「だから、林はんも諦めんと生き残るために一緒に頑張ろうや」


立ち止まっている功夫の位置まで歩み寄りながらそう告げると、ニコリと笑いかけた。
それで納得できたのか、あるいは到底共感できることではなかったのか。
功夫は道中口を開くことはなく、紅蘭もまた無理に話しかけようとはせず、しばらくは二人の階段を上る靴音だけが響いていた。





黙々と階段を登るっていると、踊場が設置してある部屋へ辿り着く。
二人して入口から顔を覗かせ別の参加者がいないかどうか中の様子を確認してみる。


「誰もおらへんみたいやな」
「…………」


紅蘭がふっと息を吐き緊張を緩めたのと同時に、近くにいる功夫も同じようにほっとした様子が伺えた。
だが奇妙なことに、部屋の中央には台座のようなものがあり、そこに電子レンジ程の大きさの箱が置いてあるのに気付く。
まるでお伽話で主人公が伝説の塔を踏破して、宝のある場所に辿り着いたかのようである。


「なんや、これ見よがしに取ってください言われてるみたいで怪しいな」
「……でもこのまま何もせず帰ったら、わざわざここまで来た意味がないでしょ」
「そりゃそうやろけど―――――って、ちょっ待ちいや!」


紅蘭はその様相を怪しむが、功夫は部屋に入り足早に台座まで進んでいく。

299希望の道しるべ ◆uuM9Au7XcM:2016/12/03(土) 02:20:45 ID:pELL9T0I0
「もし生き残るために役に立つものがあったのなら、他の参加者に横取りされる前に手に入れないと」
「だから、そう思わせて焦らせること自体が罠かもしれん言うてるんやて!」


警戒する紅蘭は声を荒げ制止を試みる。
その声を意にも介さず、歩みのペースを落とすことなく功夫は台座の前まで到着し、四角い箱に手をかけた。
箱は木製で、ところどころ金具の意匠が施されており、どこか味わい深さを感じさせる。
意外なことにカギはかかっていないようで、フタの部分を持ち上げるようにするとゆっくりと開いていく。
完全に開いた状態になると、考え込んでいるのか功夫の動きが止まる。


「林はん、どうないしたんや。大丈夫なんか?」


何も反応を示さない功夫を不思議に思い、ゆっくりと近づきながら紅蘭が訝しげに尋ねる。
その言葉にハッとしたようにビクリと肩が動くのが見え、とりあえずの無事は確認することができた。
すると振り返りざまに、無言で一枚の紙を差し出してきた。
紅蘭は手を伸ばて受け取り、何事かと広げてみる。


「……導きの光により道標が現れるであろう?」
「そう……入ってたのはその紙だけ。なんのことかサッパリだ」
「これがノストラダムスの言うてたことなんやろか」
「言ってたこと?」
「ほら、おさげの男の子と黒ずくめのおっちゃんと話した後に…………
 あ!?そういやあのおっちゃん古畑て呼ばれとったな!林はんの知り合いてあのおっちゃんかい!」


紅蘭が今更な驚きに直面している横で、功夫はその時のノストラダムスの言葉を想い返す。

『最後に一つだけアドバイスだ。勝ち残るには、力や武器だけではない。知恵も必要となる。』

たしかにそう言っていた。
そうなるとこれは、知恵を絞って解いてみろということなのであろう。
こんな推理小説みたいなことまでせねばならぬのかと、功夫が頭を抱えたい気分になっていると―――


「ちょっと待っといてや」


一人で騒いでいた紅蘭だが、ツッコミがこないとわかると灯台の最上部へと続く梯子を登り始める。
紅蘭はチャイナドレスを着ているため、慌てて目を反らす功夫。
急に梯子を登り始めた紅蘭の行動の意図を図りかねていた功夫だったが、行こうとしている目的地に思い至るとすぐにその意図を理解する。


「導きの光というのは灯台のライトのことか!?」
「せやせや。そしてたぶん、道標が現れるということはこうしてっと。
 ほらな、これで正解や」


灯台の頂上部分に着いた紅蘭は、デイパックから地図を取り出すとそれを灯台のライトへ掲げ、一度確認すると功夫にも見るようにと渡してきた。
それによって現れた変化は微細なものであったが、明らかな変化であった。
地図上のいくつかの箇所に、星の形をした印が浮き出ていたのである。
数分の間、印の出た地図をしげしげと眺めていたが、降りてきた紅蘭へ向けて目線を上げ口を開く。

300希望の道しるべ ◆uuM9Au7XcM:2016/12/03(土) 02:21:35 ID:pELL9T0I0


「これでとりあえずの目標ができたってことかな」
「そこへ行ったところで、いい事があるのかわらへんけどな」
「……いや、有利になる何かがあるはずだ」
「まぁ……元気が出てきたようで何よりや。
 ウチは上のライト調べときたいやけど、しばらく待っといてもらってええやろか?」
「……ああ、わかった」
「じゃあ、すんまへんけどここで待っといてや」


そう功夫に断り再び梯子を登っていく。
登っている最中、紅蘭は内心少し安心していた。
出会ってから同行していてずっと、功夫には自暴自棄にもなりそうな不安定さを感じていた。
さっきの一件によって生きて帰る希望が見えたのか、地図から顔を上げた時の功夫の表情は、気力が湧いてきているように見えた。
どんな絶望的な状況でも、諦めてはいけない。
紅蘭が華撃団の仲間と一緒に戦ってきて学べたことだ。
きっと、隊長である大神はもちろん、さくらやアイリスだってノストラダムスを倒すために―――
そして強引に殺し合いをさせられている参加者たちを助けようと、諦めず懸命に頑張っているに違いない。
絶望する力なき民衆へ希望を与えるのも、自分たち帝国華撃団の仕事であり使命なのだ。

再び回転するライトの前まで到着し、構造を調べるべく作業に取り掛かる。とはいっても必要な道具類もないので、簡単な確認作業となってしまう。
その結果、ライトに何か変わった仕掛けが発見できたなどということはなかった。
地図にも特殊なインク等が使われている形跡はなく、首輪解除の一助になるかと思い調べてみたものの、どのような仕組みで印が浮き出てきたのかは謎のまま。
数分頭を悩ませ、諦めて戻ろうかと思った時ふと思い浮かぶ。

『霊子甲冑のように、霊力あるいはそれに類するものを利用しているのではないか』


「林はん!!ちょっと気になることが……ありゃ?」


功夫にも意見を聞くべく、箱のあった部屋まで勢いよく下りた紅蘭を待っていたのは無人の空間。
ここで待っているはずの同行者はおらず、なぜか部屋の隅に彼の白衣が放り捨ててある。


「なんや、待ちくたびれて先に出てしもたんか。
 しゃあないな……。上着忘れていったみたいやしウチも急いで降りるか」


そう呟きながら白衣を拾い上げる紅蘭の顔が、呆れ顔から驚愕の色へと染まる。













時限装置付き爆弾。
メッセージの書かれた紙と一緒に、灯台内で発見した箱に入っていたものである。
紙はすぐさま紅蘭へ見せたものの、独り占めするため隙を見てこっそりと自らのデイパックへ入れることに成功した。
灯台の頂上部から中に入る姿は確認できたが、灯台の外へは出てきておらず、タイミング的に爆発の直撃を受けたものと見れる。


「ごめんな。最初は殺すつもりなんてなかったんだけど、生き残るための手段はできるだけ持っておきたいからさ」


「殺すつもりはなかった」その言葉に偽りはない。
正確には「危険を冒してまで殺し合いをするつもりはない」であるが、その根本的な考えが変わったわけでもない。
ではなぜ紅蘭を殺したのか。
やはりきっかけは、灯台内での新たな支給品の取得と地図の仕掛けの発見。
他の参加者よりも有利な情報はそれを知る人物が少ないだけ重要度が増し、邪魔者を簡単に始末できる道具も手に入れることができた。
この場所には生存者は彼一人で、目撃者もいない。


(諦めないで頑張ろう……か。おかげでちょっとは生き残る希望ってやつが見えてきたよ)


功夫へ希望をもたらした灯台は脆くも崩れ去り、そのきっかけを与えた女を飲み込んだ。
それを引き起こした張本人は、もはや一瞥もせずにその場を後にした。

301希望の道しるべ ◆uuM9Au7XcM:2016/12/03(土) 02:22:20 ID:pELL9T0I0




【D-7 灯台付近/1日目 深夜】
※爆発により灯台が崩れました。


【林功夫@古畑任三郎】
[状態]:疲労(小)
[装備]:
[道具]:支給品一式、ランダム支給品2〜3、時限装置付き爆弾×4
[思考]
基本行動方針:生き残って元の生活へ戻る。
1:古畑と合流する。
2:地図に出た印のある場所へ行ってみる。
3:首輪解除の方法を探す。
4:生き残るために邪魔と判断した参加者はばれないように殺す。
5:紅蘭の知り合い(大神、さくら、アイリス)は信用できそう。
[備考]

※紅蘭の知り合いの情報を得ました。
※印の出た地図は持参しておらず、印の位置を記憶しています。
※地図に出た印のうちの一つはEー4です。


【李紅蘭@サクラ大戦シリーズ】
[状態]:???
[装備]:
[道具]:支給品一式、ランダム支給品2〜3
[思考]
基本行動方針:ノストラダムスを倒す。
1:知り合い(大神、さくら、アイリス)と合流する。
2:首輪解除の方法を探す。
[備考]
※功夫から古畑が刑事であるという情報を得ました。
※紅蘭がどうなったのかは後続の書き手さんにお任せします。



【支給品説明】

【時限装置付き爆弾@現実】
灯台内部にて取得。
時限装置が付いている爆弾。
デジタル式の時計が使用されており、時間は1分から1時間まで自由に設定できるようになっている。

302 ◆uuM9Au7XcM:2016/12/03(土) 02:22:58 ID:pELL9T0I0
以上で投下終了です

303 ◆uuM9Au7XcM:2017/01/11(水) 00:17:35 ID:ftIs30W60
投下します

304竜は再び昇る ◆uuM9Au7XcM:2017/01/11(水) 00:19:06 ID:ftIs30W60
多くのひとが集い、夢や感動あるいは恐怖や悲しみを感じることを楽しむ場所。
本来、映画館とはそういう場所なのだろう。

しかし現在ここにいるのは自分ひとりだけ。
上映室の最後列の席から眺める景色はなんとも寂しげだ。
この薄暗い空間が今の俺には相応しい。
生きることに絶望し心を暗闇に染めてしまった俺には、暗い場所でひとり座り込んでいることしかできないのだから。

かつては地球のため人類のために、覚悟を持ち戦士として戦っていくのだと信じていた。


そのはずだったのだ。


だがそれは偽りの覚悟だった。
戦士としての俺は、リエを2度失ってしまったことで完全に死んでしまった。
2度もリエが目の前にいたのに助けることができなかった。

今はもう戦う気力も、戦うことに意味を見出すこともできない。
まるで自分の身体が鉛にでもなったかのように動こうとしないのである。
バトルロイヤルが始まり、近くに映画館を見つけてそこに入ってから支給品や名簿の確認すら行っていない。
ノストラダムスはこんな俺に何をさせたくて参加者として選んだのか。
このまま映画館があるエリアが危険エリアとなって、首輪が爆破されるという最期も悪くない。そうなれば、これ以上後悔や絶望に苛まれることもなくなるだろう。

そんなことを思い、無理やりにでも自分を納得させ安心を得ることに成功していた俺を現実に戻すように、不意に映画の上映が開始された。


「――――誰かいるのか!?」


俺は驚愕した。

その役割を果たすことはないと思っていた場所で、いきなり映画が上映されたことにではない。
生きることを諦め、死ぬことを是としていたはずの自分が、予想外の出来事に命の危険を感じ警戒したことをだ。
自ら戦士であれと生きてきた影響がまだ残っていたのだろうか。
それとも……俺はまだ生きようとしているのか……?

上映室には相変わらず人の気配はしない。
どうやら自動で上映される仕組みになっているようだ。
スクリーンのなかでは主人公とその恋人と思われる女性が映し出され、ふたりは仲睦まじく浜辺で語り合っている。
その様子を眺めているとリエとの楽しかった思い出が甦り、今はそれがどうしようもなく辛い。
リエを失った現実から逃げたように、リエとの思い出から逃げるためデイパックの中から名簿を取り出してみる。
だがそこには、更なる衝撃が待っていた。

305竜は再び昇る ◆uuM9Au7XcM:2017/01/11(水) 00:19:41 ID:ftIs30W60

「女帝ジューザだと……あいつは俺たちが倒した……そう、たしかに死んだはず」


名簿の記入ミスか?
いや、殺し合いを催すような組織がそんなくだらないミスをするだろうか?
これがミスではないのだとしたら、ジューザが実は生きていたことになる。
もしくは――――


「生き返ったということなのか……?」


ノストラダムスは言っていた。
『このゲームの勝者には、商品としてどんな願いでも一つだけ叶えてやろう。不老不死、巨万の富、死者蘇生……あらゆる用意もある』と。


そして、
「『その証拠を持つ者とは、生きてさえいればいずれ証人に会えるだろう』とも言っていたな」


ジューザがノストラダムスの言う証拠を持つものなのかはわからない。
ただし、その可能性は高い。ということはリエを生き返らせることも可能であるということだ。

名簿を隣の席の上に置き、支給された食料であるパンをデイパックから取り出し豪快に噛り付く。
そのまま味わうこともなく咀嚼し、水で流し込んでいく。
腹が減っては戦はできぬというように、戦うためにはエネルギー補給が必要だ。
そう―――俺は再び戦うことに決めた。
リエを生き返らせることができるという確証はないが、希望を持つことはできる。彼女のためになら、俺は鬼にでもなってみせる。
考えるのはこれで終わりにしよう。
あとは無心にバトルロイヤルでの優勝を目指すのみ。

これから大罪を犯すことになるであろう自分は生きていくことは許されないが、リエを生き返らせることさえできるのならそれでも構わない。

参加者名簿には、ジェットマンとして共に戦った結城凱の名もあった。


「あいつは……きっと止めるだろうな」


凱ならば止めるどころか、俺が殺し合いに乗ったとわかると殴りかかってくるだろう。
普段クール振ってはいるが、その心は正義の炎で熱く燃えている男なのだ。
凱と自分が相対してしまった場合を想像すると苦笑してしまう。
好きな女のために戦士としての義務を放棄しようとする自分と、その行いを正そうと叱りつける凱――――


なんとも皮肉な話ではないか。
あれはジェットマンになってまだ間もない頃、俺たちふたりが喧嘩をしていた時と逆の立場になっているのだから。



【D-4 街/1日目 深夜】


【天堂竜@鳥人戦隊ジェットマン】
[状態]:健康、満腹
[装備]:クロスチェンジャー@鳥人戦隊ジェットマン
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考]
基本行動方針:優勝して藍リエを生き返らせる。
1:参加者を殺す。
2:女帝ジューザに会って生き返ったのか確認したい。
3:バトルロイヤル終了後、自害する。
[備考]
※参戦時期はラディゲによってマリア(リエ)が殺された後です。

306 ◆uuM9Au7XcM:2017/01/11(水) 00:23:49 ID:ftIs30W60
投下終了です。

申し訳ありません、場所を記載ミスしていました。
正しくは【A-7 映画館/1日目 深夜】です。

307名無しさん:2017/02/01(水) 19:07:15 ID:9bcabzDA0
乙です。
林ナチュラルに悪党やなあ……猫箱の中の猫になった紅蘭のその後は如何に。
竜は……不安定な精神状態な時に連れてこられたから、仕方ないかな。
どちらも納得して楽しめる話でした。状態表の満腹にほっこり。

308 ◆uuM9Au7XcM:2017/03/20(月) 20:08:46 ID:ZufKuwkY0
投下します。

309さくらとあぶない刑事さん ◆uuM9Au7XcM:2017/03/20(月) 20:10:03 ID:ZufKuwkY0
「バトルロイヤルねえ……。まったく……面倒なことに巻き込んでくれたもんだ」


暗闇に包まれた草原に座り込んでいるスーツ姿の男――――真山徹は面倒そうに、しかし苛立ちを含んだ物言いで呟いた。
その声はすでに疲労を感じさせ、息遣いも荒く肌には汗が滲んでいる。
すでに殺し合いに乗った者と戦闘をした後―――
というわけではなく、バトルロイヤルが始まる以前にある事情から警察に追われ、銃撃を受け負傷しているのである。


(殺し合い……もしかして……朝倉の仕業か?)


真山は刑事として数年間働いてきたが、数十人を拉致して殺し合いをさせることができる人物などそうそういるわけがない。
どこかの国のイカれた独裁者か、刺激を欲した金持ちの道楽か。
考えを巡らせても、そんなぼんやりとした可能性しか浮かばないなか、具体的な人物として思い至ったのが朝倉裕人。
真山徹の妹を同級生たちに輪姦させ自殺に追い込み。
大沢麻衣子を洗脳し自殺させ。
真山の同僚の谷口剛までも操って死に至らしめている。
真山徹が最も憎み、殺したいとさえ思っている凶悪犯罪者だ。

朝倉は何人もの人間を自分の都合のいいように操り、弄んできた男である。殺し合わせるなんてものを催したとしても不思議ではない。
だが、いくら朝倉でもここまで大規模なことをできるだろうか。
それに説明を受けた場所で死んだワニの化物はいったいなんなのか。
などといったいくつもの疑問点が湧き、朝倉の仕業だと想定したくとも確信できない現状に、思わず頭を掻き毟る。

しばらくそのような考えに頭を悩ませていた真山だったが、纏まらない考察は後回しにしようと決め、ランタンを草の茂った地面へ広げた名簿に掲げ視線を落とす。
そこにはよく知る名前が載っていた。
柴田純と野々村光太郎。

二人とも警視庁捜査一課弐係の同僚で、今年配属されたばかりの新人とどこか抜けている係長である。
殺し合わなくてはならない参加者の中に殺したい朝倉の名前はなく、知った顔がいるというのは真山の心情をさらに騒めかせる。
参加者に朝倉がいないということは、朝倉が主催している可能性も捨てきれない。


(ちっ……また朝倉か)
(朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉朝倉――――
 くそっ!何をしていてもあいつの顔が浮かんできやがる……)


「朝倉ぁ!お前は絶対に俺の手で――――」

「ほえっ!?」


真山が朝倉裕人への恨み言を口から吐き出そうとすると、背後から驚いたような声が聞こえ、思わず出しかけていた言葉を止める。
後ろを振り向くと、小学生くらいの少女が怯えた表情で立ち尽くしていた。
真山は気付かなかったが、おそらく声をかけようと後ろから近づいていたところ、いきなり朝倉の名前を叫んだので驚いて反射的に声を出してしまったのだろう。
学校の制服と思われる服を身にまとい、栗色の髪をショートカットにした可愛らしい顔立ちの少女であった。

310さくらとあぶない刑事さん ◆uuM9Au7XcM:2017/03/20(月) 20:11:07 ID:ZufKuwkY0

「おいッ!そこから動くなよ」

「は、はいっ!!」


真山はすかさず支給品のサブマシンガンを構え、少女に銃口を向けると、その場で静止するように警告する。


「あ、あの……わたし、木之本桜っていいます。
 ノストラダムスって人の言いなりになって、おじさんを殺すつもりなんてあ、ありませんからっ」
「……悪いけどな、初対面の人間をはいそうですかとすぐに信用できるようなお人よしじゃないんだわ、俺」
「そんな……」


拒絶する真山の返答に、桜と名乗った少女は残念そうに肩を落とす。
真山とて、目の前の少女が自分を害するために近づいてきたと決めつけているわけではない。
だが、同僚の谷口剛ですら豹変して襲ってきたのだ、年端もいかない少女とはいえ簡単に信用しろというのは無理な話である。
しかも出会ったのが殺し合いを強制されている場所だ。
人間というものは己が死ぬかもしれないとなったら何でもやるものだ。
たとえそれが人殺しとは無縁に見える子どもであったとしても。


「それでも、……桜ちゃんだっけ?君みたいな女の子殺すのも寝覚めが悪いからさ。
 さっさとどっか行ってくんない?」


信用できなくても殺すことは躊躇われる。
そう桜に告げ、この場から立ち去ることを促す。


「でも、おじさん腕を怪我してるみたいだし1人じゃ危ないですよ」


殺し合いをしろと放り出された場所で、酔狂にも銃を持った見ず知らずの男に手を差し伸べようとしてくる。
桜からすれば純粋な善意からくる行動であったのだが、真山はその善意を受け入れることができない。
心優しい少女を演じているのか、あるいは本当に心配しているのか。
今の自分はそれを正常に判断できる精神的な余裕がなく、もし危険人物だった場合に対処できる保証もないのだ。
だからこそ、殺すことはせずこの場から離れさせるという対処法を取ったのである。


「気にするな、早く立ち去ってくれる方が助かる」
「じゃあ!1つだけ質問がありますっ。
 李小狼、大道寺知世、李苺鈴って子たちに会っていませんか?」
「……いいや」
「そうですか……ありがとうございました……」


ようやく真山を説得することを諦めたのか、桜は真山に背を向け歩き出そうとする。
ところが、その小さな背中に向かって――――


「……ちょっと待て」


真山が銃口を向けたまま呼び止める。

311さくらとあぶない刑事さん ◆uuM9Au7XcM:2017/03/20(月) 20:12:07 ID:ZufKuwkY0


「その子たちは友達か?」
「……ええ、そうです。
 とっても大切なお友達なんです。」


桜は少し驚いた表情に変わるが、振り返らずに一歩踏み出した体勢のまま止まる。


「……そうか、会えるといいな」


それだけを言うと、小さな声で「行け」と再び促すようにして言葉を締めくくった。
次に驚くのは真山の方であった。
真山から遠ざかるように歩き出すと思っていた桜が突如反転、しかも猛然と走ってきたのである。
予想外の事態に身体に力が入ったのか、左腕の傷が痛み、構えていたサブマシンガンを手放してしまう。
慌てて右手で拾い上げ顔をあげるも時すでに遅し、桜は至近距離まで迫っており、気が付くと草原に押し倒されていた。


「おい、何のつもりだよ」
(くそっ……信用しないとか言いながら油断してどうすんだよ……)


眼前には先ほどの怯えた表情と違い、意志の強さを感じさせる瞳。
押し倒されたドサクサで、真山が構えていたサブマシンガンも桜の手にある。
後悔を胸に抱きつつ、返答を期待せずに問いかけた。


「ハァ……ハァ…………やっぱりおじさんは……悪い人じゃないって……思ったから」
「大丈夫……わたしは絶対におじさんを殺そうなんて……しないから」


全力で走った影響で息切れしながらも、桜は必死に作ったような笑顔でそう応じた。
しかも、証拠とばかりにせっかく奪った武器を放り捨て、困惑顔の真山に向かって再度微笑んだ。


「…………わかった、降参だ」









「闇の力を秘めし鍵よ。
 真の姿を我の前に示せ。
 契約のもと桜が命じる。
 レリーズ!」

「……なんだこりゃ」

312さくらとあぶない刑事さん ◆uuM9Au7XcM:2017/03/20(月) 20:13:03 ID:ZufKuwkY0
桜が病院へ行って真山の左腕を治療するべきと主張し、じゃあ歩いていくかと真山は応じた。
そして、その必要はないと桜が言い出したのが数分前。
歩いて行かなきゃどうするんだ、車でも出してくれるのかと馬鹿にした物言いで真山が吐き捨て、それに桜がムッとしたのが数十秒前。
桜がペンダントを取り出し、何やら呪文のようなものを唱えると急にピンク色の杖が出現。
それを見て、真山が狐に化かされたような顔になったのがつい先ほどである。

真山の混乱はまだ続く。
次に桜が取り出したのは1枚のカード。そこには鳥の絵が描かれているのがチラリと見えた。


「クロウの創りしカードよ。
 我が鍵に力を貸せ。
 カードに宿りし魔力を
 この鍵に移し我に力を!」


取り出したカードを宙に投げたかと思うと、桜がそのカードに向かって杖の先端部分を叩きつける。
すると叩きつけた杖に翼が生え、桜は当然のようにその杖に跨ると、ゆっくりと宙へ浮かび箒に乗った魔女のように真山の周りをくるりと華麗に1周してみせた。


「さあどうぞ!おじさんも後ろに乗ってください。
 これで一緒に病院へ行きましょう」

「……おじさんじゃない。真山さんと呼びなさい」


何が起こったのか理解できない真山は、とりあえずずっと気になっていたおじさん呼びを改めさせることにした。




 
【E-3 草原/1日目 深夜】


【真山徹@ケイゾク】
[状態]:左腕負傷
[装備]:H&K MP5K@ダイ・ハード2
[道具]:支給品一式、赤いテープの巻きついたマガジン(30/30)×3、ランダム支給品1〜2
[思考]
基本行動方針:殺し合いには乗らないが危険な参加者は殺す。
1:桜と共に大凶病院へ向かう。
2:柴田や野々村係長のことが少し心配。
[備考]
※参戦時期は谷口剛の死亡現場から逃げ出した直後です。
※朝倉裕人がバトルロイヤルを主催しているのではと考えています。
※木之本桜の知り合いの名前を知りました。
※MP5Kに現在装着されているマガジンには青いテープが巻きつけてあります。


【木之本桜@カードキャプターさくら】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(小)
[装備]:封印の杖@カードキャプターさくら
[道具]:支給品一式、クロウカード(フライ他2枚)@カードキャプターさくら、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考]
基本行動方針:友達と一緒に殺し合いから脱出する。
1:真山さんを大凶病院へ連れていく。
2:知世ちゃんたちと早く合流したい。
3:ケロちゃんはいないのかな……。
[備考]
※まだ真山徹と情報交換をしていないので、彼の苗字が真山ということしか知りません。


【支給品説明】

【H&K MP5K@ダイ・ハード2】
 真山徹に支給。
 ドイツのヘッケラー&コッホ社が設計した短機関銃。 
 ダイ・ハード2ではテロリストらが使用していた。

【封印の杖@カードキャプターさくら】
 木之本桜に支給。
 クロウカードを封印・解除するアイテム。
 普段は鍵の形をしており、桜が紐をつけてペンダントのようにして持ち歩いている。

【クロウカード(フライ)@カードキャプターさくら】
 木之本桜に支給。
 封印の杖に翼を生やし飛行能力を付加する。

313 ◆uuM9Au7XcM:2017/03/20(月) 20:13:50 ID:ZufKuwkY0
以上で投下終了です。

314 ◆uuM9Au7XcM:2017/05/28(日) 01:13:17 ID:5M7EDqZ20
投下します。

315それぞれの道 ◆uuM9Au7XcM:2017/05/28(日) 01:14:20 ID:5M7EDqZ20
バトルロイヤルが始まってすぐにムースが感じたのは、殺し合いを開いた主催者への怒りであった。
そして支給品や地図、名簿の確認を行っていく過程で、怒りは焦りと不安へ変わっていく。
眼鏡を没収されなかったのは不幸中の幸いであった。彼は視力が低く、眼鏡をかけていないと銅像と人間の区別もできないほど、対象の判別ができない状態になってしまう。
名簿にはムースの知人の名前が複数人記されており、その中には彼の想い人であるシャンプーの名前もあった。
それは即ち、シャンプーが殺し合いのゲームに参加させられ、命の危険にさらされていると言う事に他ならない。
もし眼鏡まで没収されていたのなら、名簿を読むことができずにシャンプーが参加していることに気付くことができなかった。
この状況に気付くことができただけでも、本当に不幸中の幸いだったといえる。


「ここにおればいいが……」


差し当たっての目的地と定めた風林館高校へと到着したムースは、違和感を感じつつもその馴染みのある建物を見上げ呟いた。
この場所へ来た目的は、知り合いと合流しシャンプーを捜索する助力を得ることである。
強制的に殺し合いをさせられている以上は、初対面の人間は信用できないため、知り合いが立ち寄るであろう彼らの母校の名と形をしたこの場所へ赴いたのだ。
乱馬、あかね、良牙の3名のことは好きではないが、このような催しに乗るような人間ではない。むしろ抗うのが容易に想像できる。
ただし、シャンプーはどうだろうか?
ムースにとっては心底口惜しい事実であるが、彼女は乱馬に好意を抱いている。熱情的で直情的な彼女ならば乱馬のために殺し合いに乗るのではないか?
ムースは想い人が殺し合いに乗り、その結果死んでしまうことが恐ろしくて堪らない。
そんなことを考えながら校内へ入っていくと、奇妙な光景を目にした。


「これは……寝ておる……のか?」


中学生か高校生か、つまりはムースと同い年か年下ということになるが、その程度に見える少年が校舎に背を預け座った状態で熟睡していた。
一瞬、既に殺された参加者の骸かとも思ったが、寝息によって上下する肩を見て寝ているのだと理解した。
余程疲れて眠っているのか、近付いたムースを意にも介さず気持ちよさそうに眠りこけている。


「なんとも。豪気と言うべきか、滅多におらん馬鹿なのか迷うところじゃのう」


殺し合いの舞台において、まさか始まって早々に寝ている参加者がいるとは予想していなかったムースは困惑する。
しばらく少年を見下ろしながら逡巡していたが、張り詰めた神経が背後から人の気配を察知すると、少年へ向けて手を伸ばした。






316それぞれの道 ◆uuM9Au7XcM:2017/05/28(日) 01:15:42 ID:5M7EDqZ20


「人の気配がしたから来てみれば……なんだコイツは」


先ほどのムースと同じ場所に立ち、同じような反応をしているこの男の名はドモン・カッシュ。
ネオジャパン代表のガンダムファイターであり、世界の調停者『シャッフル同盟』の一員キング・オブ・ハートの紋章を受け継いだ青年である。
鋭い目つきにボサボサの黒髪には赤いハチマキをし、右頬に十字の古傷を付けたその姿はどこか近寄りがたい雰囲気を漂わせている。


「おい!こんなところで寝ていると危険だぞ起きろ!」


ドモンは眠っている少年に声をかけながら、軽くゆすって起こそうと試みるも、一向に起きる気配がない。
悠長に起こしている場合ではないと、今度は頬を叩いてでも起こそうと手を振り上げた。
すると、


「――――なんだとッ!!}


攻撃する相手に反撃してカウンターをいれるかのように、頬を叩こうとしたドモンへ向かって風を切るように少年が拳を繰り出してきたのだ。
腹部へ放たれた拳をドモンは咄嗟に左腕でガードしてみせるも、彼を警戒させるには十分な威力を持っていた。


「眠ったふりをして攻撃を仕掛けてくるとは卑怯な!!
 そのつもりならば相手になってやる!!さあ、かかってくるがいい!!!」


少年に敵意があると思ったドモンはすぐさま構えをとり、戦闘態勢に入り相手に出方を窺う。
しかし、もう寝たふりをする必要のなくなったはずの少年は未だ起きる気配がない。
ドモンがどういうことだと再び困惑していると、


「それは彼が本当に寝ているからですよ」


急に背後から声をかけられた。
それは女性のような柔らかさと凛々しさを併せ持ったような、中性的な声。


「はじめまして、オレの名前は蔵馬。
 名簿には南野秀一とありますが、蔵馬と呼んでください」
「……コードネームみたいなものか?」
「ちょっと違いますが、そのような認識でも構いません。
事情を説明すると長くなるので割愛させてください。貴方の名前を伺ってもいいですか?」
「ドモン・カッシュだ」


振り向いた先にいたのは、声からの想像通りの中性的な人物であった。赤く美しい長髪に女性と見紛う整った顔立ち、『オレ』という一人称を聞かなければ女性と勘違いしてしまってい

たであろう。
蔵馬と名乗ったその少年は、丁寧な口調でドモンに目の前の少年が寝ていることを説明した。
ということは、彼らは顔見知りと言う事になる。名前の説明にも引っかかったが、そちらは後回しにしてさらなる説明を求めることにした。

317それぞれの道 ◆uuM9Au7XcM:2017/05/28(日) 01:16:48 ID:5M7EDqZ20


「寝ているとはどういうことだ?コイツは俺に攻撃を仕掛けてきたぞ」
「寝ているというのは本当ですよ。体力を回復させるため睡眠をとっているのでしょう。
 反撃してきたのは……まあ彼の本能で、というしかありませんね」
「要するに、こいつはこのゲームに乗るような奴ではないと言いたいのか?」
「……ええ。そして、オレもノストラダムスの思惑通りに殺し合いをするつもりはありませんよ。
 もちろん、仕掛けてくる相手に手加減するつもりもありませんけどね」


説明になっているのか疑問な説明をしながら、蔵馬は少年の元へ向かい彼の傍にしゃがみ、顔を覗き込む。
ドモンは、横を通り抜けていく蔵馬の美麗な横顔に見惚れてしまいそうになりつつも、二人の様子を注意深く見つめていた。
手加減するつもりはないと口にした時のほんの僅かだけ、蔵馬の雰囲気が冷徹なものへの変わった。
ドモンはそれを感じ取ると、蔵馬が見た目通りの男ではないと察する。


「おい、幽助。いくら君でもこんな所で呑気に寝ていたら危険だぞ」
「……グゥ…………ムニャムニャ……」
「だめだ……しばらく起きそうにないな」
「そういえば、その幽助というやつのデイパックが見当たらんが」


蔵馬も幽助を起こそうと試みてみるが、ドモンの時と同様に効果がないということが判明したところで、ドモンがある事実に気付く。
彼らバトルロイヤルの参加者全員に配られているはずのデイパックが、幽助の傍にないのである。
殺し合いのゲームにおいて命を繋ぐために必要不可欠な、地図や食料などが入っており、いくら実力者であったとしてもそれらなくしては死亡率は跳ね上がることだろう。
ドモンと蔵馬は二人して周囲を探してみるも、見つけることはできない。


「どこかに隠しているのか?」
「いえ、そこに気を使うのならばこんな無防備なところで寝ていないと思います。
 オレ達よりも先に、この場所にいた何者かが持ち去ったと考えるのが自然かと」
「ならば取り返すのは難しそうだな。
 何しろ手がかりがまるでない。犯人がどちらの方向へ逃げ去ったのかすらも分からん」
「ちょうどこういう時に便利な物が、俺の支給品にあるんです」


そう言って蔵馬がデイパックから取り出したのは、木製の箱に突き刺してある、指をさしたポーズの人形であった。


「見鬼くんという名前の道具なのですが、首輪を探知してその方向を指さすらしいです。
 オレが見鬼くんを使って幽助のデイパックを盗んだ参加者を探すので、もしよろしければミスターカッシュ――――」
「ドモンでいい」
「ではドモンと―――ドモンは目が覚めるまで幽助についてやっていてくれませんか?」
「…………すまないが、俺の知り合いも参加させられていてな。あいつらを放ってここに留まるわけにはいかないんだ。
 それにこいつと一緒にいるのはお前の方がいいんじゃないのか?」
「それが、この見鬼くんは妖気や霊気を使って動く仕組みのようで……」


妖気や霊気というドモンの常識の範疇から外れた言葉が出てきたが、今は問いただすのを後回しにする。
とにかく、限られた者にしか扱えないということらしい。
しばし考え込んだドモンだったが、蔵馬に一つの提案をした。

318それぞれの道 ◆uuM9Au7XcM:2017/05/28(日) 01:17:30 ID:5M7EDqZ20


「蔵馬、お前はそいつを使ってデイパックを探してくれ。俺は幽助を背負って移動する。
 そして、俺の知り合いに会ったら手助けをしてやってほしい」
「わかりました。では、軽く情報交換をして、待ち合わせの場所と時間を決めておきましょう」


基本方針が決まると、二人はすぐさまデイパックから地図と名簿、そして筆記用具を取り出し情報交換を始めた。


「まずはドモン、貴方の探し人を聞いておきましょう」
「レイン・ミカムラ、アレンビー・ビアズリーの二人だ。
 そしてもう一つ言っておくことがある。東方不敗には手を出すな」
「それは危険だから?それとも何か因縁があって自分が手を下したい相手ということですか?」
「…………両方だ」
「わかりました。こちらも伝えておきますが、戸愚呂兄弟には関わらないようにおススメします。
 少なくとも、幽助が目を覚ますまでは」

蔵馬の重苦しい物言いに、ドモンは深く肯いた。


「次に待ち合わせ場所ですが。互いに成果がなくても、二回目の放送頃にD-4地点のプレミアマカロニで落ち合いましょう。
 それまでにD-4が禁止区域となっていた場合には、E-3の駅に変更ということで如何でしょう?」
「よし、それでいこう」



蔵馬は見鬼くんが指し示す方角である西へ向かって駆けていく。
彼はドモンに伝えようか迷った結果、確証が持てずに伝えられなかったことがあった。
それは、幻海という名前が名簿に載っていることについて。蔵馬の認識では、彼女は戸愚呂弟によって殺されたはずであった。
幽助のように何らかの事情で生き返っていたのかもしれないが、どうもそう単純な話ではない予感がしたのだ。


(幽助の荷物やドモンの知り合いも大事だが、もう一つ確かめなければいけない事があるみたいだな…………)









ドモンと蔵馬が今後どうするか話し合っている頃、風林館高校から程なく離れた場所を移動していた。
その手には、先ほど風林館高校で寝ていた参加者のデイパックを持って――――


(すまぬッ!シャンプーのためにオラには多くの武器が必要なんじゃ)


暗器使いのムースが本来の力を発揮するためには、手持ちの武器を没収された状態をどうにかしなければならない。
ムースに与えられた支給品のなかにも戦闘に役立ちそうな物があったものの、暗器として用いる類の物ではなかった。
支給品が必要ではあったが、デイパックごと持っていくつもりではなかった。
人が来たため咄嗟にとった行動だったとはいえ、彼に死ねと言っているのと同じようなことをしてしまったことには、罪悪感が拭えない。


「駄目じゃ!駄目じゃ!駄目じゃ!!
 支給品を持っていくだけでも十分。よく知りもせん他人に同情しておってはシャンプーを救えんぞムースッ!!!」


ムースは自らの基準で許容範囲とした罪を抱きつつ、愛する女のために、その道をひた走る。

319それぞれの道 ◆uuM9Au7XcM:2017/05/28(日) 01:19:13 ID:5M7EDqZ20




【F-5 風林館高校周辺/1日目 深夜】


【ムース@らんま1/2】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式(2人分)、ランダム支給品4〜6(浦飯幽助の分は未確認)、
[思考]
基本行動方針:シャンプーを連れて脱出する。
1:シャンプーと合流する。
2:乱馬たちと合流する。
3:知り合い以外は信用しない。
4:可能ならば他の参加者から支給品を奪取する。


【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式、ランダム支給品2〜3
[思考]
基本行動方針:打倒ノストラダムス。
1:浦飯幽助を連れてレイン、アレンビーを探す。
2:第二回放送頃にD-4プレミアマカロニまたはE-3の駅で蔵馬と合流する。
3:東方不敗は自分が倒す。
4:戸愚呂兄弟を警戒。
[備考]
※参戦時期は東方不敗死亡前です。
※蔵馬と知り合いについて情報交換をしました。


【浦飯幽助@幽☆遊☆白書】
[状態]:疲労(極大)、熟睡
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本行動方針:????
[備考]
※参戦時期は霊光波動拳を継承して寝ている最中です。


【南野秀一(蔵馬)@幽☆遊☆白書】
[状態]:健康
[装備]:見鬼くん@GS美神 極楽大作戦!!
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考]
基本行動方針:バトルロイヤルを壊す。
1:幽助のデイパックを奪った犯人を追う。
2:ドモンの知り合いに会ったら保護する。
3:東方不敗と戸愚呂兄弟を警戒。
4:幻海の存在を確かめる。
[備考]
※参戦時期は戸愚呂チームとの対戦当日です。
※ドモンと知り合いについて情報交換をしました。



【支給品説明】

【見鬼くん@GS美神 極楽大作戦!!】
 南野秀一(蔵馬)に支給。
 作中では妖気を探知する道具として使われていたが、首輪探知機として改造されている。
 半径50メートル以上で一番近い首輪に反応し、指先を向けることでその方向を知らせる。
 少量の妖気や霊気を消費することで使用することができる。

320 ◆uuM9Au7XcM:2017/05/28(日) 01:20:02 ID:5M7EDqZ20
以上で投下終了です。

321 ◆uuM9Au7XcM:2017/05/29(月) 01:00:04 ID:7iJnnJiA0
投下します。

322放たれた怪物 ◆uuM9Au7XcM:2017/05/29(月) 01:01:28 ID:7iJnnJiA0

病院というものは人の命を救う場所であるが、必然的に死が発生してしまう場所でもある。
そのため怪談の舞台になることも多く、どこか居心地の悪さを感じるものも少なくはないだろう。
夜間の大病院ともなれば、その広大さと昼間の喧騒から一転しての静けさにより不気味さはさらに増すことになる。
命を奪い合うバトルロイヤルの会場に設置された施設の一つ、大凶病院。
ゲームが開始され、この無人の病院に飛ばされた男が一階の待ち合いフロアの椅子に腰かけている。
彼の名前はチョコラータ。


「素晴らしいっ!!なんと心躍るイベントだ!」


その口から発せられたのは主催者への恨み言や嘆きではなく、最大限の賞賛の言葉。
彼の手には支給された名簿があり、そこに記された67人の名前を喜色をあらわにしながら眺めている。
それはまるで、腹ペコの子どもがご馳走の並んだメニューを手渡され、どれを食べようか迷っているかのようであった。


「この名簿に載っている者たちが殺し合うのか。
 くくく……私が主催者となってそのすべてを観察したいところだが、自ら好きに殺して回るのも悪くない」


舐めるように名簿に目を通していたチョコラータだが、ふと見覚えのある名前に目が留まった。


「ブチャラティとジョルノ・ジョバァーナ。……そしてリゾット・ネエロか」


彼らがこのゲームに参加していようと、チョコラータの行動方針に影響を与えることはない。
知った名前ではあるが、顔見知りでも親しいわけでもなく、むしろ積極的に殺しておきたい人物だといえるだろう。
ここに呼ばれる直前、チョコラータが始末しようと動いてた標的がブチャラティとその部下たちなのだ。
報告にあった人数はボスの娘を入れて5人だったはずだが、名簿に記されているのは2人だけ。チョコラータの相棒であるセッコがゲームに参加していないのと同様に、ブチャラティたちも全員が参加しているわけではないようである。
ボスから裏切り者たちを始末しろとの指令が下り、与えられた情報にはブチャラティたちの能力も含まれていた。だが、新入りのジョルノだけは能力が不明のままであった。
よりにもよって……と思わず顔をしかめそうになる。
だが、所詮は新入り。自分のスタンド、グリーン・デイに敵うはずはないと高を括り心の中で問題はないと断じる。

唯一注意すべきはリゾット・ネエロ。
同じく組織の裏切り者であるが、組織では暗殺を専門としており、手練れであるのが容易に想像できる。
また、その能力も不明なため、いくらグリーン・デイが強力なスタンドであろうとも慎重にならなければいけない。


「まあいい……能力がわからずともやりようはいくらでもある」

323放たれた怪物 ◆uuM9Au7XcM:2017/05/29(月) 01:02:51 ID:7iJnnJiA0


一通り名簿を見終えたチョコラータは、次にデイパックの中身を確認し始めた。
食料などと共に入っていたのは、加工された鳥の羽と囚人用の手錠。


「おいおいおい、ビデオカメラがないぞ!
 気の利かない連中だな。これではせっかく殺しても死の瞬間を撮影して楽しむことができないではないか」


それまで上機嫌だったチョコラータだったが、お目当てのものが支給されていないことに怒りを露わにし、賞賛していた主催者へ理不尽な批判を吐き出した。
苛立ちが収まらないのかブツブツと愚痴を零しながら、取り出した支給品と院内を周って調達したメスなどの医療器具をデイパックへしまっていく。


「おや、客が来たようだな」


デイパックへ荷物をしまい終え、チョコラータが立ち上がりかけた時、正面入り口の自動ドアがゆっくりと開く音が鳴った。
人の気配を察したチョコラータは、狂気を隠すようににこやかな表情を作り人影の方へ歩き出す。
狂人の待つ病院へ、それを知らない参加者が足を踏み入れたのであった。





【E-4 大凶病院/1日目 深夜】


【チョコラータ@ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の風】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式、キメラのつばさ、アルゴの手錠(鍵付き)
[思考]
基本行動方針:殺しを楽しむ。
1:ビデオカメラを探す。
2:スタンド使いは優先して殺しておく。
[備考]
※参戦時期はブチャラティたちを待ち構えていて遭遇する直前です。
※ボスの名前を知らないので参加していることに気付いていません。
※グリーン・デイには何らかの制限が加えられています。


【支給品説明】


【キメラのつばさ@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
チョコラータに支給。
キメラという鳥型モンスターの羽を加工したアイテム。
使うと一度行ったことのある場所へワープすることができる。


【アルゴの手錠(鍵付き)@機動武闘伝Gガンダム】
チョコラータに支給。
ネオロシア代表のガンダムファイター、アルゴ・ガルスキーに付けられていた手錠。

324 ◆uuM9Au7XcM:2017/05/29(月) 01:03:42 ID:7iJnnJiA0
以上で投下終了です。

325名無しさん:2019/02/02(土) 18:07:10 ID:9M/.Jvmc0
僕はポップさ・・・今は道端で拾ったカメラで遊んでるのさ!。偶然ある男と出会う。あれ・・・あなたはあなた僕和久田春彦は

326名無しさん:2019/02/02(土) 18:07:47 ID:9M/.Jvmc0
僕はポップさ・・・今は道端で拾ったカメラで遊んでるのさ!。偶然ある男と出会う。あれ・・・あなたはあなた僕和久田春彦さ、では

327名無しさん:2019/02/04(月) 18:18:49 ID:dTRVSbnY0
【和久田春彦@金田一少年の事件簿】 状態:健康 装備:望遠鏡、お寿司

328名無しさん:2019/02/09(土) 10:22:43 ID:aNJtzMFA0
「ここは何処だ。」ポップはそうつぶやいた。そこにいた一人の中年男性が言った「ああ、」男の名前は甲田征作

329左近寺ェ・・・:2019/02/09(土) 11:02:24 ID:aNJtzMFA0
カードマジックの道化師戸愚呂兄がとある大岩「エアーロック」なる岩の中に入り、ワイヤーで吊るされた。しかしその中では「おい、事故だ。開けろ!!!あああああーアチー、開けろーあ開けてくれぇぇギャアアアアアアアーーー」なる断末魔が聞こえ、舞台に戸愚呂兄が落下してきた。その姿はまるで某・カードマジックの道化師の様な凄惨でグロデスクな死にざまだった。【戸愚呂兄@幽遊白書 死亡?】

330左近寺ェ・・・:2019/02/11(月) 13:21:25 ID:u5GEGY5I0
その頃、山神と夕海は、夫婦競演マジックを行っていた。

331名無しさん:2019/02/25(月) 16:39:21 ID:OcACmTuo0
投下します。

332名無しさん:2019/03/25(月) 12:27:59 ID:EdkT2Ljc0
偶然迷い込んだ天道なびき「あれ、ここはどこなの・・・もー。」【天道なびき@らんま1/2】[支給品]コナンの蝶ネクタイ 、変な眼鏡。「ああ、なびきちゃん。こんにちは」「都築さん!どうしたらいいの?」「私も分からないよ。」【都築哲雄】[所持品]:ビデオカメラ、放送機器一式

333名無しさん:2022/03/30(水) 22:05:55 ID:Td2jKHVQ0
「灯台が、崩れてしまっただと...」
功夫は大声で喚き散らした。
そこですれ違った自分より6cm前後低い男とすれ違った。
その直後、功夫は腹に激痛を感じた。そして、腹は赤く染まっていた。
刺されたのだ、彼はそう思った。
「テメェ!よくも刺しやがったな!」
功夫は立ち去っていく男―――小田切にそう叫んだ。
だが、小田切は素知らぬ顔で立ち去って行った。
【林功夫@古畑任三郎 死亡】

334悲劇は突然に:2022/03/30(水) 22:06:31 ID:Td2jKHVQ0
「灯台が、崩れてしまっただと...」
功夫は大声で喚き散らした。
そこですれ違った自分より6cm前後低い男とすれ違った。
その直後、功夫は腹に激痛を感じた。そして、腹は赤く染まっていた。
刺されたのだ、彼はそう思った。
「テメェ!よくも刺しやがったな!」
功夫は立ち去っていく男―――小田切にそう叫んだ。
だが、小田切は素知らぬ顔で立ち去って行った。
【林功夫@古畑任三郎 死亡】

335名無しさん:2022/04/07(木) 17:44:07 ID:jsOjFzgc0
久しぶりの書き込みだな


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