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90's バトルロイヤル

154一瞬の花火 ◆V1QffSgaNc:2015/11/02(月) 23:40:18 ID:6PYifF5M0



 少年──ポップは、決して強い人間ではなかった。
 いや、むしろ、どんな人間よりも弱く、もしかすれば「あさましい」と言えてしまう人間だったかもしれない。
 自分が助かる為ならば仲間を置いて逃げる事だってあった。弱くて、卑怯で、どうしようもないほどに普通の人間だ……。

 しかし、そんな彼も、今は──誰よりも強い心を持つ人間になっていた。

 大事な師や旅で出会った人たち、そして心強い仲間たちと共に、バーン率いる魔王軍と戦ってきたこれまでの道程で、彼は悪に立ち向かう勇気を得た。自分に打ち勝つ正義を得た。
 それどころか、強敵を前にしても、その身一つで一生懸命に戦い続けるほど……強き戦士になった。
 勇気と正義だけは、勇者と──ダイと、並ぶほどである。

 そんな彼も、この凄惨な殺し合いに招かれた時は、すぐに……涙を流した。

 この前にあった出来事が彼にとって強い劣等感を煽る物だったせいもあるが、やはり、クロコダインという大事な仲間を喪った事が決定的だった。
 どれだけ回復呪文(ホイミ)を唱えても……死んだクロコダインには効き目はなかった。
 第一、矢に串刺しにされて死んでいるのだ──どうしようもない。それでも、何度も何度も彼にホイミを唱えた。
 結果、全てが虚しく……クロコダインはここにおらず、ポップはここにいるというわけだ。

「クソッ……間に合わなかった……クロコダインのおっさん……」

 あそこで見せたクロコダインによる反逆。
 それは、まぎれもなく彼の正義が発した強き意志。

 だが、ポップにはそれだけの勇気が無かった。
 仲間を殺されても、立ち上がる事さえできなかったのだ。
 アバンの使徒たちが持つ「アバンのしるし」が光り輝き起きるはずの大破邪呪文……ミナカトールを起こそうとした時もそうだ。
 自分は、クロコダインのように上手にやる事が出来ないのかもしれない。

 そう……。

 あの大破邪呪文を起こそうとしていた時に、ポップはこの殺し合いに招かれたのである。
 しかし、ただ一人、ポップのしるしだけが光らなかった。
 今も、その“お飾り”のしるしは、ポップの手元にある。
 少し前まではアバンという師から受け継いだ誇りだったその石を見つめても、彼の劣等感を煽り続けるだけだった。今にでも捨てたくなる。

 ……自分だけが。

 そう、五人もいて、自分だけが、この石を光らせる事が出来なかった。
 生まれながらの戦士や、勇者ではないポップのぶつかった才能の限界である。
 あの後、ミナカトールの呪文を起こす人間に“欠員”が出来たはずだが──それは一体、どうなってしまったのだろう。
 あの呪文が起こせなければ、何千、何万という人が死んでしまうとヒュンケルは言っていた。
 と、その時、ポップは思い出した。

「そうだ……ダイ……」

 クロコダインの亡骸に駆け寄ったのは、自分ともう一人。
 かけがえのない親友──勇者ダイだ。
 彼も大破邪呪文の為に必要なアバンの使徒の一人である。
 ……よりにもよって、二人も欠員しているわけだ。あの後、マァムやヒュンケルたちは──どうなったのだろう。
 とにかくあの呪文が中断された事に、安心してしまう自分の弱い心を、ポップはすぐに振り払った。

「……ダイ! いるか!? いたら返事してくれ!」

 ポップは、泣きながらも大きく叫んだ。
 しかし、彼の言葉は決して遠くまで響かない。大事な仲間の死の傷跡は思った以上に深く、声を殺して泣くのが精一杯だったのかもしれない。
 まるで喉の中だけで反響しているようだった。むせかえるような喉の痛みと、詰まった鼻では、遠くまで聞こえるほど騒がしく声を張れるわけもない。

「……クソォッ!」


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