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90's バトルロイヤル
232
:
灰色の男
◆V1QffSgaNc
:2015/11/13(金) 11:08:05 ID:5XOn0UoM0
何か思う所があったようだが、大方、「T-800」とか「T-1000」あたりがグレイの名だと思ったのだろう。しかし、生憎ただの型式番号に縛られるつもりはない。
自分の名は……「グレイ」。
無慈悲で無感情な型式番号を授けられた者たちも、おそらくは、いつぞやの「G2」のようなロボットたちであろう。
グレイは、吸殻を持った右腕を、そっと下げた。
と、その時、おキヌが大声をあげた。
「あっ、グレイさん!」
「何だ」
「──煙草を吸うのは良いですけど、ホラ、吸殻はあたしに預けてください!
あとで、ちゃんとゴミ箱見つけたら捨てておきますから! 『ぽいすて』は、駄目なんです!」
彼女は毅然としてそう言う。
グレイは今まさに吸殻を捨てようとしていたし、グレイの足元には、一本の吸殻が落ちている。先ほど、吸い終えた粕を地面に放り捨てた証だった。
確かに言われてみれば、人間にとって吸殻を捨てる場所は定められているらしい。その規則に則るならば、グレイは違反である。……が、彼にはそんな事は関係ない。
ただ、おキヌがそれを拾おうとした時、グレイはそれに先んじるように自らが捨てた吸殻を拾い上げた。
「構うな。俺が、自分の手で片づける。……他人に借りを作る気はない」
グレイは、自分の撒いた種を他人に摘まれるのを嫌う性格だった。
自分の所作には、自分で蹴りをつける。他人には関わらせない。
誰にも会わなければこのまま捨てただろうが、こうして他人に拾われ作業を押し付けるとなると話はまた別だ。
……二つの吸殻を丁寧に指先でつまんだグレイを前に、おキヌは呆然とする。
そんなおキヌの方をグレイは見つめた。
「……一つだけ訊こう。お前は、私が怖くはないのか?」
そう問われると、ふと我に返ったおキヌは顎の下に手を置いて少しだけ悩んだ。
それから、すぐに答えを出した。
「私は、マリアさんっていうロボットの知り合いもいますし……今更これくらいじゃ驚かないっていうか……」
「……私が訊きたいのは私がロボットであるからという話ではない。
──この状況で、武装した敵に対面する事も含めてだ。今は、誰もが武器を持っている。他人を怖れず、ただ信用するのは……愚かだ」
おキヌの不可解な所は、そのある種能天気な部分だ。
グレイは、今この時を「戦争の只中」のように解釈している。これまでも幾つもの次元でそんな激しい戦いに身を投じて来た。
中には、味方に裏切られた者もいる。
そして、グレイの手に命を奪われた者もまた数知れない。
しかし、そんなグレイを彼女はあっさり信用しようというのだろうか。
「ああ、それなら大丈夫ですよ……グレイさんも良いロボットでしたし。美神さんも横島さんも悪い人じゃないし、あの二人ならそう簡単に死にません。
そして、美神さんや横島さんは、きっと私と一緒にこんな戦いを終えてくれるって信じてるから」
「……甘いな、氷室キヌ。生き残るつもりならば、もう少し考えて行動した方が良い。
たとえ、生き残る事が出来るのが、この中のただ一人だとしても……」
と、そこまで言った所で、グレイは考えた。
彼女は何と言ったか。──そう、「戦いを終える」と言ったのだ。
グレイには、その発想そのものがなかった。……つまるところ、ノストラダムスを打倒し、バトルロイヤルそのものを破綻に導くという事だ。
だが、一度始まってしまったゲームを根底から崩すのは難しい。いかに理不尽な決闘であっても、ゲームマスターには、簡単には歯向かう事の出来ない仕組みが出来ている。
たとえば、このバトルロイヤルにおいては、「首輪」である。
だから、グレイにはその選択肢はなかったのだ。
しかし、目の前のおキヌはおそらく、その、最も過酷な「戦い」を行う意思を持っていた。……ただの能天気かもしれないが、考え方としては面白い。
グレイは、おキヌの目を見て、彼女の言う事を解した。
「……だが、なるほど。この戦いを終える為に戦う……それがお前の戦い方か」
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