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90's バトルロイヤル

179これが私の生きる道 ◆V1QffSgaNc:2015/11/05(木) 00:24:07 ID:XkQeIA9c0

 一歩を踏み出そうとしたシャンプーの背後で、大きな影が崩れだした。
 それは、積み上げられていた小麦粉の麻袋の山であった。
 
 下の麻袋が形を変え、穴の開いた方から崩れていった時──その上に積み重ねられていた麻袋はどうなるか。
 自らを支えていた麻袋がそれまで保っていたバランスを崩した時、真上にいっぱいに小麦粉を詰め込んだ麻袋の山は、当然ながら──小麦粉の量が減ってしまった方に傾く。
 そして、それが春麗の身の丈ほどまでに積まれていたのならば、元々のバランスも決して良い物ではない。
 ──結果。

「なっ……!?」

 シャンプーが一歩を踏み出しながら、奇妙な崩落音に気づいた時には遅い。
 それは、振り向いたシャンプーの視界を覆い、そのまま彼女の上に重たい豪雨として降りかかった。──一つあたり何キロというほど、ぱんぱんに膨らんだ袋だ。並の人間ならば首の骨を折ってもおかしくない。
 一斉にそれが全身に叩きつけられ、シャンプーは悲鳴をあげる事もなく、地面に倒れ込んだ。中には、今の衝撃で破れた袋もあったので、下敷きになったシャンプーは小麦粉まみれである。
 粉塵となった小麦粉はその一角にだけ真っ白な霧を作る。

「やったぁ!」

 春麗は、今度こそ両手を挙げて大喜びをした。
 見事──シャンプーをノックアウトできたようである。
 まあ、たとえ勝利せしめたにしても、警察組織のバックアップがないので、小麦粉まみれで伸びたシャンプーをどうするかという所まではいかないが、ひとまず無力化したわけだ。
 手錠もない現状、ひとまずは武器を奪い、例のパンストを両手にでも巻いて拘束するくらいしか出来ないが──それは絵面的にどうかと思い、春麗も内心では躊躇を禁じ得ない。
 が、それくらいしか拘束方法はない。
 仮にも危険人物であるシャンプーを前に、あまり迂闊な行動はとれないだろう。

「えっ……!」

 と、大量の麻袋の下敷きになった、小麦粉まみれのシャンプーに近寄った時である。
 鉤爪を装備したシャンプーの右手が、微かに動いた。
 ──ぴくり、と。
 そして、彼女の瞳は、──はっ、と、突然に開いた。

「──ッ!」

 まるで何かに揺り起こされたかのように、彼女は、力強く起き上がった。
 全身を結構な重量で打ち付けられ、挙句に真っ白の粉塗れになったシャンプーは、苦渋に満ちた表情で、肩を大きく上下させた。
 しかし、春麗としては、それだけでもまるでゾンビを目の当りにしたかのような憮然とした表情で見つめるしかできなかった。

「嘘……あなた、まだ戦えるの!?」
「忘れたあるか……。──私に勝った“よそ者の女”、地獄の果てまで追いかけて、殺す!」
「そんなくだらない掟の為に……なんて執念なの……!?」

 優位な春麗でさえ、そんな彼女には悪寒がした。
 ストリートファイターならば、かなり敬意を表せる相手であると思う。
 並々ならぬタフネスと執念。それは、既に彼女を人間の実力を越えた格闘者に育て上げていた。
 だが、彼女は、格闘の力を使い、“戦う”のではなく、たとえ誰であっても“殺す”道を選択した。──ならば、春麗も、捜査官としての顔を見せなければならない。
 おそらく、春麗よりも年は下だが──本気を出させてもらう。

「──」

 ここでは狭い。
 春麗は、ちらりと自らの後ろを見ると、急いで倉庫の外へと駆け出す。
 ──シャンプーは、よろよろと身体を揺らしながらも、春麗を追うように倉庫の外へと出た。それはさながら、亡霊であるかのようだった。
 冷えた潮風の香りは、より一層きつくなる。
 まるで世界そのものが広くなったかのような、暗い港。

「はぁ……はぁ……──でやぁぁぁぁっ!!」


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