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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

1名無しさん:2010/05/07(金) 11:07:21
リロッたら既に0さんが!
0さんがいるのはわかってるけど書きたい!
過去にこんなお題が?!うおぉ書きてぇ!!

そんな方はここに投下を。

43327-469 ヤキモチ妬きなあいつ:2013/09/13(金) 13:00:19 ID:Wwx1Y.u.
 やたらと背の高いスーツの男が夕暮れ時にぬぼーっとやってくるのにも、最近慣れたところだ。
「お、もう来たのか後藤。もうちょい遅くなると思ってた」
「先輩、あいつ誰」
「敬語を使え」
 後藤の指差す方には、先程まで話していた女子高生がいた。
「……誰ッスか」
 まともな敬語使えってだから……まあいいか。
「近所のガキ……だった子。久々に会ったけどデカくなったわ。もうあの子が近所のお姉さんって感じ」
 正直、月日の流れがコワいところだけど仕方ない。俺のマンションに後藤を引き連れていく最中に、また後藤は口を開いた。
「さっきの。援交かと思いましたよ、一瞬」
「え、援交ってお前、そういうこと言うのやめろよ」
 嫌な響きの単語にビクつきながら、生きづらい世の中になったもんだぜと呟くと、後藤はイヤミな笑みを浮かべた。
「先輩がそれだけオッサンになったということッスね」
「おま……」
 自分こそあっという間にオッサンだぞコノヤロウと言いたくなったが、後藤は多分オッサンよりオジサマになるタイプだと思われた。くそ腹立つな。少し、茶化してやることに決めた。
「そんなこと言ってぇ、実は俺が浮気してると思ったんじゃねーのぉ?」
 そんなことないッスよというような、弁明を待ったが、一向に後藤が口を開く気配がない。
 部屋に着いちゃったじゃねーか。
「ち、沈黙やめろ。図星かお前は」
「先輩、たまにはハメたいのかと……」
 玄関に入ってから振り向くと、いつもは余裕ぶった後藤が青い顔をしていた。バカバカしい話してるのに、よくそんな深刻そうになれるもんだ。
「……だったらどうするぅ?」
 後藤のたまに見せるガキっぽさがたまらなく好きだ。父性ってやつだろうか。
「……あ、あの、どうしても、なら、ど、努力する……」
 外国人みたいになってるけど。
「努力ってお前……開発でもすんの」
「や、あの……は、はい」
 図体ばっか大きくて、めちゃくちゃビビってそうなのに、素直にコクンと頷いて答える後藤が、滑稽でいじらしくて、でも思わず噴いてしまった。
「ヒーヒヒヒ、ヒヒッ、か、開発……したいのか、ブフッ」
「したいわけじゃねえよ!」
「だっ…だってお前、ふっ…へへへへへ」
「いや、だから! あんた繋ぎ止められればそれでいいんだよ!」撿
「ダメだ、セリフっ……おまえ、クサいヒヒヒヒヒヒ」
 ゲイだし、ネコだし、心配するなと言ってやった方が優しいかもしれないが、生意気な後藤の表情がころころ変わるのが面白くて、もう少し遊んでも許される気がした。
 玄関先で笑い転げたせいで、怒った後藤にそのまま乱暴にされ、翌朝オッサンな腰に大ダメージくらうまでに気付けば良かったが……
 後の祭りとは、このことなんだろう。

4344/4:2013/09/14(土) 22:06:08 ID:5o4HHyuo
すいません本スレ489 Q.あなたは人を殺したことがありますか? を書いていた者です
連投規制にかかってしまったので最後の4/4だけこちらに投稿させて頂きます
申し訳ありません



私はやっと自分がとんでもないことをしてしまったのではないかと自覚しました。
夢野の父親は心此処にあらずという有り様でした。彼が抜け殻になるほどの理由を、私だけが知っていました。
夢野があの日自殺したのだとしたら、やはり理由は一つしかありません。
私の対応に裏切られた夢野は自殺したのです。あれは重大な話でした。身内と自分の恥です。
夢野は私に相談するのにもきっと悩んだでしょう。あの深刻そうな顔を、私はそれまで見たことがありませんでした。
夢野は私の事を信用して話してくれたのに、私は彼を手ひどく裏切りました。どれほどの苦痛だったことでしょう。
あの日、夢野を殺したのは私です。私は人を殺しました。自ら手を下しはしなかったけれど、それでもあれは確かに殺人であったと私は思います。



テープの再生を切った。
目の前には古い友人の墓がある。「夢野」。
夢野の事故死の後、ほどなく父親も自殺したらしい。ここで一緒に眠っているのだろう。
テープの中にあった声は俺の友人、三好和彦のものだ。
テープは彼が入水した時持っていた鍵、そのコインロッカーの中から出てきた。遺書と断定された。
夢野が死んだ後、あいつは目に見えて変わってしまった。
以前までの快活とした彼はどこかに行ってしまって、いつも何かに怯えているように見えた。口数も少なくなって、あまり意見も言わなくなった。相談には絶対にのろうとしなかった。
そんな三好から友人達は次第に離れていき、最期には俺くらいしか残らなかった。
俺がアイツを見捨てられなかったのは、夢野の「三好は多分あれですごく小心者だと思うよ」という一言が忘れられなかったからだ。
「誰かがついててあげないと」。あれはいつだったろう。
夢野の三好へのぼんやりした気持ちに気づいていたのは俺くらいだろうと思う。それが青春の勘違いなのか、それとも本物だったのか、俺にはもう判断がつかない。
だから、このテープは衝撃だったし、俺は夢野の死は本当に事故だったんだと確信した。
他でもない夢野が三好を小心者だと言ったのだから。そうと知っていたのだから。

「夢野、三好がそっちにいったよ……馬鹿野郎って一発殴っといてくれ。俺の分もさ」

43527-500 竜と竜騎士:2013/09/15(日) 22:43:25 ID:4OYRI1Q.
「元々竜になど乗りたくなかったんだ」
嘘だ。
精鋭のみで構成された竜騎士団の一員になるためは、己の技量だけでなく、竜に認められるだけの人格であることが必要だった。
それ故に、俺にとって竜騎士の称号は誉れで、憧れで、騎士を志願した時からの夢は常に竜の元にあった。

「あんたに選ばれて、周りが期待していたから仕方なく引き受けただけだ」
それも、嘘だ。
誇り高い竜に、騎手として選ばれた喜びは何物にも代えがたかった。
築き上げた信頼と、同胞の情。
初めて飛んだ空は綺麗で、その背中になら躊躇いなく命を預けられた。

「気持ち悪い化け物。どこにでも失せろ」
「お前の嘘は本当に下手だな、カイ」
静かな声に呼ばれて、俯いていた顔を上げる。黄金色の目が、静かに俺を見ていた。
ああ、嘘だ。彼は常に気高く、美しかった。
光に照り映える赤銅の鱗に覆われた、この世の何よりも強靭な体。
真珠色をした爪も牙も、ほんの一撃で人の命を奪えるほど鋭利だったけれど、俺を傷つけたことなど一度もなかった。
何より、常に理知の光を湛えたその目を見ると、いつでも不思議と心が落ち着いた。

「ヴェル、俺は」
冷たい表情など、作れなかった。
瞬いた拍子に泣きそうになった俺の頬に、ヴェル――ヴェルメリオは顔を寄せる。
俺が太く頑丈な首に両腕を回して頬を擦り付けると、彼は低い困ったような声で唸った。
「顔に瑕がつくぞ」
鱗が頬に触れ、ざりざりとして痛い。それでも構わなかった。
元々傷など体中にある。見目など俺も、それにヴェルもけして気にはしない。
「……俺達のいない間に、陥落したんだな」
「そのようだな」
「王城に敵旗が挙がっている」
「そうだ」
応じる声は静かだったが、その中にも俺を気遣うような慈愛があった。それが、心臓に刺さるように痛い。
陛下の遣いに、他のどの竜よりも速いヴェルと乗り手の俺が選ばれたのは、つい三日前のこと。
隣国との間の戦況はのっぴきならず、だからこそ一昼夜けして休むことなく空を駆け、他国より色よい返答を持ち帰ったというのに。
――戻ってみれば城下町は、かつての面影を失っていた。
「それでもお前は、行くのだろう?」
「……まだ、助けられる者がいるかもしれない。でもあんたが一緒に来ることはないんだ。俺の勝手な行動に付き合わせることになる」
騎士として、その国で時を過ごしてきた。
想いの深い場所も人も、多くがそこにある。
僅かな希望にでも縋らずにはいられない――どこかに、まだ他の騎士達や王族が、救いを待つ民が、いるかもしれない。
けれど愛竜を危険に晒すのは気が咎めた。言えばきっとヴェルは、俺のために来てくれる。
だから、嘘までつこうとしたのに。
「お前は私が選んだ、唯一の騎士。お前の大切に思うものは、私にとっても同じ。共に往かせてもらうぞ」
「……そう言うと、思ってた」
首を両手で撫でて、俺はヴェルの顔を両手で挟む。彼はいつもの自信に満ちた、それでいて優しい目をしていた。
「だが、カイ。生を捨てる覚悟などしてくれるなよ。
 お前は勇猛で誇り高いが、無謀であることとそれは異なるものだ」
「あんたは本当に、お説教が好きだなあ」
笑うと、目の縁から涙が落ちた。ざらついた舌でそれを舐めて、ヴェルはくつくつと器用に笑う。
そしていつものように、俺の脇に頭を垂れて、背に乗れと促した。

広げられた翼は巨大で、美しく、勇壮だった。

――彼となら、何でもできる。何も恐れるものなどない。
初めてその姿を見た時、そう思った。その感情が蘇って、泣きたくなるほどに、嬉しかった。
俺の傍にいてくれる、たった一つの、十分すぎるほどの希望。
「……こうなったら何処までも付き合ってもらうからな、相棒」
「承知の上だ」
目を細めて笑うヴェルの頭を軽く叩いて、俺はその背へと飛び乗った。

436名無しさん:2013/09/16(月) 03:24:00 ID:hgeVlVug
480です。最初、松田視点で書いていたので一応投下します。更に下品&恐い話からかけ離れてますがご了承下さい。


 不器用な俺に対しても笑顔でいてくれる藤岡のことがすきだった。このことに嘘偽りはない。なぜなら、そう、藤岡の意外な一面を知っても気持ちは変わらなかったのだから。

「あー、萌えるー」
「藤岡、もういいだろ。そんな話をするためにいちいち呼ぶな」
「だって、こんな話できるのお前しかいないんだもん」
「もんって言うな。気持ち悪い」
 図書室で藤岡を見つけた。たしか藤岡の前に座る男は藤岡の同室者兼幼なじみだったはずだ。仲は悪くないみたいだが、クラスが違うので一緒にいるのは珍しい。それに、藤岡のあの浮かれ具合。今まで見たことがない。
 話が気になったので、本棚の後ろに隠れた。怪しいのは百も承知だ。本を読むふりをしてこっそり二人の会話を聞く。
「はあ、早くビーエルの良さに気づけばいいのに」
「恐いこと言うな。たたでさえ怪物を相手してんのに、そんなことになったら精神消耗してすぐハゲちまう」
「あ、ハゲコンプレックスの攻め、悪くないよ。卑屈になりながら受けにほだされていくとか」
「考えたくない」
 呆れた同室者の言葉を最後に藤岡たちは教室に戻っていった。
 俺は会話から飛び出す聞き慣れない言葉のオンパレードに混乱していた。ビーエルとか攻めとか受けとか、意味が分からない。
 それに、藤岡の雰囲気が違うことも気になった。もしかしてあれが本当の藤岡なのか?

 ビーエル、受け、攻めの意味を検索してみて理解した。藤岡は腐男子というものなのかもしれない。
 思い返せば、友人たちのじゃれあいをガン見していた気がする。
 それでも、俺はまだ藤岡が腐男子であることに確信を持てないでいた。俺の早とちりかもしれないからだ。
 ちゃんと確かめたい。そう思った次の日、チャンスがおとずれた。先輩と藤岡が勉強会を開くというのだ。これに乗らない手はない。俺は参加を希望した。

 勉強ははかどり、きりのいいところで藤岡が休憩を提案した。藤岡がジュースを取りに行っている間、先輩と二人きりになる。
 藤岡が先輩にないていることが悔しくて、先輩には普段から素っ気なく接している。だから気まずい。むこうもきょろきょろと部屋を観察している。
「藤岡って、自慰しないのか?」
 ぽつりとつぶやいた先輩の言葉にぎょっとした。何言ってんだこの人は。藤岡だって男なんだから自慰ぐらいするだろう……する、よな?
 考えているうちに藤岡が戻ってきて、先輩が藤岡の性事情について聞き始めた。そしてなぜか体位について教えることになりつつある。いや、さすがにそれは見過ごせないだろ。

437名無しさん:2013/09/16(月) 03:30:11 ID:1iCUOl5Y
 俺は先輩の襟首を引っ張った。
「なにすんだよ」
「藤岡を巻き込まないで下さい」
 床につき倒す。足をつかんで左右に開いたら、その間に身体を滑り込ませた。
「ままま松田、なにして」
「藤岡、これが正常位だ」
 藤岡を見ると、大きな目を見開いていて、キラキラと瞳を輝かせていた。
 やっぱり、そうなのか? 更なる確信を得るために、俺は腰を振って先輩の股間にとんとんと当ててみた。布越しだというのに先輩は軽くパニックになっている。
 バックが分からないという藤岡ーーそれも本当か分からないがーーに応えるため、俺は先輩をひっくり返して腰を持ち上げた。俺に向けて尻をつき出すことになる。
「バックは、こう」
「やめろおおお!」
 さすがに恥ずかしいのか、先輩は逃げるように前へ這っていこうとする。冗談の延長線なのだからそこまで嫌がらなくても。
 いらっとしかけたが、色白の耳が真っ赤になっていることに気づく。なんだ、意外に可愛いところもあるじゃないか。
 気を良くした俺は先輩の上から覆い被さった。交尾するみたいになる。体に触れて気づく。この人、体温が高い。背中が少し汗ばんでいる。それに、なんかいい香りがするし。香水か?
 襟首に鼻を近づけてくんくんと嗅いでみる。
「んん、ちょっと、あ、松田、やめろ。くすぐったい」
「先輩、香水つけてます?」
 聞くと、腕に顔を埋めたまま首を横にふった。なるほど。じゃあ、体臭か洗剤の香りだな。
 香りに誘われて背中にも鼻を当て、匂いを嗅ぐ。先輩はぴくんと小さく体を跳ねさせ、身動ぎをし始めた。
  あの、尻が股間にぐりぐり擦れてるんですけど。この人、加虐心を煽るの上手くないか?

「とりあえず……こんな感じだ」
 先輩から体を離して、藤岡を見た。無表情だった。真剣にこちらを見ている。いや、その顔まじで恐いから。
「藤岡」
 声をかけると、はっとして、いつものにっこり顔に戻った。
「あ、うん。すごく分かりやすかったよ。なんか、バックってすごくえっちだね。ドキドキしちゃった」
 あの無表情がドキドキしている人間の顔なのかは甚だ疑問だが、とりあえず藤岡が腐男子であることは確定した気がする。
 それでも、藤岡なことを嫌う気にはならなかった。
「先輩、大丈夫ですか」
 床に突っ伏している先輩は、魂が抜けたようだった。
「オボエテロヨ」
「それ、負け犬が去っていくときの捨て台詞ですよね」
「後輩のくせに……可愛くねえ」
「そうですか。でも先輩は先輩のくせに面白かったですよ」
「馬鹿にするな。もう二度とこんなことするなよ」
「え、先輩、騎乗位が残ってます!」
 すかさず藤岡が割り込んできた。さすがというべきか、今だからわかるがちゃっかりしている。
 返事は返ってこなかった。ただ、うううと唸り声を出している。しばらくの間、先輩は床に倒れていたので、藤岡と目が合うたびに苦笑いした。

 帰りにて、上機嫌な藤岡の部屋を出たあと、魂が戻ってきた様子の先輩は俺に言った。
「きょっ、今日のことは、他のやつに言うなよ!」
「はい。そんなのわざわざ言いません」
「じゃあ、約束しろ」
「分かりました。ただし、先輩も約束してくださいよ」
「約束?」
 怪訝な顔をする先輩の腕を引っ張って、耳もとに唇をよせた。俺の好きな香りが鼻をくすぐる。
「藤岡のために、ちゃんと上、のって下さいね」

438名無しさん:2013/09/16(月) 03:54:45 ID:F/WrwbtI
436の、ないていることが悔しく→なついていることが悔しくです。
意味が変わってしまうので報告させてもらいました。すみません。

43927-579 女装×筋肉:2013/09/25(水) 11:59:00 ID:klADq8x.
「今日は勇樹にいいモノを持ってきたんだ」
「ん、何?………なんだ、コレ?」
「見ての通り、ひらひらフリルのドレスだよ。勇樹に似合うと思って」
「つまり、俺にコレを着ろと?」
「うん」
「嫌だ」
「え、なんで?」
「なんでって、俺に似合うわけねぇだろ?」
「絶対に似合うって。ねぇ、お願い、勇樹。一回だけでいいから着てみて」
「嫌だ、つってんだろ!?」
「だって、想像してみてよ。ひらひらフリルを引きちぎるとそこにはみっしりした筋肉が…!すごくそそられる光景じゃない?」
「そそられねぇよっ!つか、キモいわ」
「えー、そうかなぁ…。ひらひらフリルって男のロマンだと思うんだけど」
「男のロマンは否定しねぇけど、この場合は当てはまらねぇよ。っていうか聡、そんなにひらひらフリルが好きならお前が着ればいいじゃねぇか。お前細っこいし女顔だし、俺よりよっぽど似合うだろ?」
「俺ももちろん着るつもりだよ。ペアルックで一緒に写真撮ろう」
「撮らねぇよっ!…つか、お前、自分用にも用意してきたのか?」
「うん、待ってて。今着替えるから――――どう、似合う?」
「……似合ってる」
「あ、勇樹が俺に見とれてる。嬉しいな。じゃあ、勇樹も着替えて…」
「だから、脱がすな!俺は着ねぇって言ってるだろ!?」
「ズルいなぁ、俺にだけ着替えさせて」
「お前が勝手に着替えたんじゃねぇか」
「わかったよ、じゃあ、今日はペアルックは諦める。その代わり、鏡見ながらシよ?」
「はぁ?」
「ほら勇樹、鏡の中、見て」
「……」
「俺、すごく興奮してきた。……ねえ、勇樹はどんな気分?こういう恰好の俺に、こんな風に触られて…」
「…っ、…聡…っ…」
「あ、あまり暴れないでね。この服高かったから破かないように」
「お前、さっき俺に着せて引きちぎるとかなんとか言って……ん、あ…っ…」

440恋心を自覚する攻めと天然受け:2013/09/29(日) 22:00:14 ID:p6DnrF/U
本スレ投稿できなかったので、こちらに。

「お前、俺と付き合え」
 学内で猛獣と噂される男、畠中からの告白。突然連行されていた宮間は、何を言われているのか分からなかった。
「えーっと、失礼ですが、頭大丈夫ですか? 俺達男同士ですよ」
「んなもんわかってんだよ。うっせえな。ぐだぐだ言わず、付き合えよ」
「いや、だから」
「お前に拒否権はねえよ」
 そう押しきられたのが、5日前。

「ふーん……じゃあまだ、キスすらできてないのか」
「はい、まあ、しないですけどね。畠中先輩が見た目に反して優しいのは、この5日間で分かりましたけど、それとこれとは話が別っていうか……そんなことより山神先輩、すごく楽しそうですね」
 宮間がうんざりして見ると、山神はそれすら楽しそうに、目を細めた。
「当たり前じゃん。楽しまないと、なんのための罰ゲームがわからないでしょ」
「それを俺に言いますか」
「そのかわり、ちゃーんと、面倒見てあげてるでしょ?」
 にこっと笑い、髪の毛をわしゃわしゃと掻き回してくる山神は、一見好青年に見えるが、見えるだけだ。
 しかし、山神が嘘を吐いているかというと、そうではなかった。今のように毎日屋上で相談にのってもらっているし、山神の言った通りにすれば、畠中とのことは大抵上手くいった。
 山神は飄々としているが、妙なところで筋を通してくる男だった。
「そうですけど、でも、山神先輩が『1週間男と付き合う』なんて馬鹿げた罰ゲームを考えなきゃ、畠中先輩と付き合うことにはならなかったし、俺を選んだ理由も、たまたま居たから、なんて」
「嫌だった?」
「嫌っていうか、どうせなら、畠中先輩とは付き合うとかじゃなくて、頼もしい先輩として慕いたかったです」
「でも、この罰ゲームがなかったら、接点もなかったし、畠中のことも勘違いしたままだったんじゃない?」
 言われてみると、確かにそうだった。
「そうですね」
「でしょ、だからさ」
「それに、山神先輩ともこうやって話せなかったし」
 宮間が真面目な顔で言うと、さっきまでにこにこしていた山神の身体が固まり、その後、首をかしげた。
「なんで、俺?」
「え」
 宮間も、こてんと首をかしげる。
「だって、罰ゲームがなかったら、山神先輩とも、接点なかったじゃないですか」
「いや、そういう意味じゃなくて、何で俺と? 関わらない方が、良かったんじゃない?」
 山神が心底不思議そうな顔をすると、宮間はどうしてそんな顔をするのかと、また首をかしげた。
「山神先輩は性格が良いとは言えませんけど、俺は先輩のこと、けっこう好きなので」
 言ってから、思ったよりはだけど、と心の中で呟く。
 山神は目をきょとんとさせ、それから、にたにたといつもの意地悪い顔をする。
「なーにぃ、ちょっと、そんなこと言われたら照れちゃうなあ。そんなに俺のことが好き?」
「いたっ」
 ぴしっとおでこにでこピンされてしまう。

441恋心を自覚する攻めと天然受け:2013/09/29(日) 22:18:09 ID:zZxKt.vc
「痛いじゃないですか。そういうところは嫌いですよ」
「だよねぇ」
 でこピンしてきた腕をつかんでも、楽しそうに笑っている。
「なんか、腹立ちますね。そんなに、俺に嫌われたいんですか。でもね、そうはいきませんよ。俺は、先輩が好きなんですから!」
 最初、罰ゲームの説明をされたときはぶん殴ってやりたかったけれど、その時にくらべれば。
 ぶっちゃけると、意外にスッキリした。宮間は勢いのまま、思っていることをぶちまけた。
「だっ、だいたい、山神先輩は自覚がないのかもしれないですけど、面白がっているようで、案外俺のこと見てくれてるし、心配してくれるし、相談にのってくれるし、優しいじゃないですか。それに、ほら、昼ご飯にメロンパンくれたこともあるじゃないですか」
「……餌付かされてるだけでしょ」
「違います。それだけじゃなくて、あと、山神先輩とのスキンシップも嫌いじゃないです。にこにこしているわりに排他的なところがあるけど、髪の毛を撫でてくれたり、落ち込んでたら肩組んでくれたりしてくれますよね。あとでおどけてみせてますけど、山神先輩なりの励ましだって分かってるんですから! そういうの、バレバレなんですよ。ま、意地悪な顔されると、いらっとしますけど、たまに優しい表情したときは恰好いいなと思うし。あと」
「いや……もういいから」
 腕をつかまれてはっとする。宮間が山神を見ると、下を向いてぷるぷると震えていた。髪から覗く耳が真っ赤になっている。
「どうしました? あ、やっぱり褒められるの、嫌だったんでしょ?」
 返事がない。
 しばらく待っていると、突然、眉間に皺を寄せ、怒った表情の山神が顔を上げた。耳同様、顔も真っ赤になっている。
 宮間は、怒りで血がのぼったんだなと解釈した。嫌がらせが成功したことに満足する。
「ね。これに懲りたら、山神先輩も、嫌がらせはやめることです」
「お前……それ、本気でいってんの」
「もちろんです。じゃないと、勿体ない。山神先輩は、アレですけど、恰好いいし、優しいし、それから、んぐっ」
 続きを言おうとしたら、山神の手に口を塞がれてしまう。もごもごと口を動かして、手を離すように抗議しても、聞いてもらえなかった。それどころか、一人言をぶつぶつ呟いている。
「なにこいつ、本気で言ってるのか……ていうか俺はどうした……あんなもん、さらっと流せばいいだろ」
 何を言っているのか聞き取れなかった。ただ、山神が自問自答しているのは、宮間にもわかった。抵抗しても無駄だと学習した宮間は大人しく待つことにした。
「顔が熱い……なんだこれ、まるでこいつのこと……いや、いやいや、有り得ないから。こいつが無自覚に恥ずかしいこと言ってきたから、それで……そう、有り得ないから」
 とりあえず落ち着いたのか、まだ顔は赤いが、山神はいつもの笑顔を貼り付けた。
「いやー、参った」
「わっ」
 がしがしと髪を掻き回される。
「照れちゃうなあ」
「全然、照れてないじゃないですか」
「照れてるよー。でもね、罰ゲームとはいえ、一応、畠中と付き合ってるんだから、他の人を好きとか言っちゃ駄目だと思うんだよねえ。畠中に言ってもいいの?」
「あ」
 宮間が顔を青くする。それを見て、山神の眉がぴくっと動いた。
「……まー、言わないけど。これからは気を付けなよ」
「う、はい」
 返事をしたところで、予鈴がなった。
「あ、教室に、戻ります」
 宮間は出口に向かった。
「あーうん、じゃあ、また放課後。畠中と行くわ。今日、カラオケ行くんだっけ?」
「はい。……あ、そうだ」
 前を歩く宮間が、にっと白い歯を見せて山神を振り返る。
「あと2日たって、罰ゲームが終わったら、畠中先輩と友達になろうと思ってます。あの、山神先輩とも友達になれますよね」
「んー? ……あー」
 一瞬考え、にこっと山神も笑顔で返した。
「……そだね」
 山神の返事を聞いて、宮間は納得したのか、また前を歩き始めた。なんだか足取りが軽い。

 山神は足を止めた。空を仰ぎ、目を閉じる。はあ、と息を吐き出す。
「友達……ね。んー、初めて嘘ついたかも」
 今までなんとなく目をそらしてきたが、もう、誤魔化すことはできなさそうだった。
「こうなったら、長期戦かなあ」
 あいつ、鈍そうだし。
 山神は一歩、足を踏み出した。

442恋心を自覚する攻めと天然受け:2013/09/30(月) 00:40:14 ID:s3W.GZEs
本スレ636、638です。
長文&連投規制で思うように投稿できず、代行をお願いしたいです。
名前欄は2/3となっていますが、あと1レスで収まるか怪しいので適当なところでぶったぎってもらってかまいません。
------------------------------------------------------------
「ゆーうや!一緒に帰ろ!」
「あ、わりぃ……ちょっと今日、学校残るから」
「……じゃあ、俺も残る」
「は!?そんなのいいって、悪いし」
「だって最近ぜんぜん裕也と帰ってない」

むっすー、という表現がぴったりな顔をして俺の目の前に立っているのは、幼馴染の卓真だ。
こいつは自分の言葉の重みってやつを全然わかってない。

 垂れ目がちな目は大きくて肌は綺麗な上に色白で、少し長めの髪はくるんとした癖毛で、そこらの女子より可愛いくせにそんなことサラッと言うなよバカ。
 元はと言えばお前が悪いんだ。お前がへらへら笑いながら「俺、裕也となら付き合ってもいーな。てゆーか付き合いたい」とか言うから悪い。
 冗談だってことは百も承知だよ。つーか冗談だから余計に性質悪ぃんだよ。反射的に想像しちまって、「アリ」だなとか思っちゃった俺はどうすりゃいいの。
 それからお前に会う度に、だんだん「アリ」というよりむしろそうなりたいなんて考えるようになっちゃって、こんな感情どうしろっていうの。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ここから転載お願いします
 教室で普通に接するだけでも大変で、だからわざわざ避けてたのになんでお前はそうなんだよ。
 いつもいつもベタベタしてきて「だいすきー」とか言っちゃって、俺がどれだけ振り回されてるのか知らないくせに。
 俺がどれだけお前のこと好きか知らないくせに。

――なんて、言えない。言えるわけがない。
卓真が天然なのは昔からだ。一緒にいるのが当たり前で、卓真の「だいすき」はもう何回聞いたかわからない。
なにも特別な事じゃない。
なのに、なんで……なんで、好きになっちまったんだろう。


「……あー、だよな。確かに。じゃあやっぱ、俺残るのやめる」
「え、まじ?いいの?」
「ああ。今日じゃなくてもいいし」
「やったー!ゆーややさしー!」
「体当たりしてくんなバカ」

この日常が続いてほしいのかどうか、最近よくわからない。

443729 やけ酒:2013/10/08(火) 11:17:04 ID:5TmoFgpg
「もうやめなよ、朔ちゃん。彼女にフラれて辛いのは分かるけど、そんなに飲んだらまた戻しちゃうよ」
「うるへー!」
朔はあおるように酒を飲んだ。アルコールに耐性のないその身体は、真っ赤に染まっている。また懲りずに酒を注ぐと、夏希がそれを取り上げた。
「らにすんだよ!ばかぁ!」
手を伸ばしても、背も足も、腕も長い夏希が遠くのところに置けば、届かなくなってしまう。
「もう終わりにしよ。明日も仕事があるんでしょ? そんなにあの子のことが好きだったなら、デートの約束も守れば良かったのに」
「夏希との約束があったらろ」
「彼女との約束を優先すべきだったんだよ。しかもその日、彼女の誕生日だったんでしょ」
「……んだよ、夏希は、おれが彼女を優先してもよかったのか」
朔が据わった目で、憎々しそうに夏希を睨むと、夏希は肩をおとした。
「いいに決まってるでしょ。放置された彼女さんが可哀想だよ。彼女と約束があるって知ってたら、ぼくも気をきかせたのに。ま、いいや。終わったこと言っても仕方ないからね。そんなことより、いつまでぼくの家に居るつもり? 帰るのが遅くなったら奏さんが心配するよ」
「……ちょっとくらい、寂しがれよ。つーか、兄貴はかんけーれーらろ」
奏は、朔の兄だ。極度のブラコンで、朔のことを溺愛している。今日は夏希の家で飲むと伝えているから連絡は来ないけれど、ついつい朔が連絡を忘れると、今どこで誰と何をしているのか確認されるのだ。
「兄貴のやつ、うぜーんらよ。成人した弟に過保護すぎ。早く結婚してどっか行かれーかな」
「奏さんは、優しいよ。ぼくは一人っ子だからよく分からないけど、あんな素敵な人が側にいてくれたら幸せだと思うけどな」
穏やかに笑う夏希を見て、もやもやしたどす黒いものが朔のお腹の中をぐるぐると駆け巡る。
「……ははっ、そーらな。夏希はちゃんと、兄貴のこと分かってると思うよ」
「え」
目をぱちくりさせる夏希に、ニヒルに笑ってみせる。
「おれの回りにいるやつって、らいたい兄貴に警戒されるけど、夏希はおれのお守り役として、ちゃんと信頼されてるからな。うまくやってるなと思うよ」
「どういう意味?」
「……別に」
朔は、夏希が分かっていないのか、それとも分からない振りをしているのか判断がつかない。
ただ確実に言えることは、朔が誰と付き合おうと夏希は動じないことと、奏には特別な態度をとっているということだった。
「なぁ夏希、いつもの、してよ」
朔は四つん這いになって夏希の側まで行くと、夏希の服をくいくい引っ張った。潤んでいる真っ赤な目を合わせたあと、頭をぐりぐり夏希の肩に擦り付ける。これをすると、夏希が甘やかしてくれると知っていた。
「もう、いつまでも、子供じゃないんだよ」
夏希はお説教を始めたが、朔の両脇に手を入れて身体を持ち上げ、向かい合った状態でだっこをしてくれた。朔は夏希の背中に手を回し、ぎゅっと服を握りしめる。
「うるへー。夏希がこんなふうにいっつも甘やかすから、おれがこんな風にダメダメになるんらぞ。責任とれ」
「人のせいにしないの。朔ちゃんの悪い癖だよ」
「らって……らって」

444729 やけ酒:2013/10/08(火) 11:21:51 ID:nZZxJjEQ
夏希のことが好きなのだ。
たとえ、奏に気に入られるために夏希が朔を懐柔しているのだとしても、甘えずにはいられない。
結局、惚れた弱味なのだ。
「分かれよバカぁ」
朔の酔った頭では、理性がちゃんと働いてくれない。目が熱くなって、嗚咽してしまって、ぽろぽろと涙が落ちてきてしまった。
哀しい、寂しい、悔しい、嬉しい、切ない。さまざまな感情に胸を突き上げられる。
「無茶言わないの。でも、うん、そうやってちゃんと泣けるなら泣いて出しきりなよ」
とんとんと拍をとりながら、あやすように背中を叩かれる。ぐずぐず泣いていたら、眠気が襲ってきた。瞼が重い。
「朔ちゃん、おやすみ」
夏希の声を聞きながら、朔は瞼をおとした。

チャイムも鳴っていないのに、玄関の開く音がして足音が近づいてくる。夏希は慌てることなく、その人物を待った。
予想どおり、勝手知ったる人の家、と入ってきたのは朔の兄、奏であった。スーツを上品に着こなし、色気が溢れている。
「なにしてるんだ」
奏は夏希を見て、切れ長の目を細めた。
「こんばんは、奏さん。今ちょうど、朔ちゃんを寝かしつけたところです」
「そんなことは聞いてない。帰ってくるのが遅いから心配して来てみれば、どうして抱き締めあってるんだ!」
「しぃー。静かに。朔ちゃんが、起きちゃいますよ」
夏希が人さし指を唇に当てると、奏はぐっと言葉を飲み込んだ。
「朔ちゃん、彼女にフラれてやけ酒しに来たんですけど、慰めてたらこうなっちゃいました」
「泣いていたようだが?」
「そうですね。すがるように抱きついて泣いてきました。とても可愛かったですよ」
「お前……」
奏の呆れた視線に、夏希はにっこりと微笑み返した。
「朔ちゃん、すぐに彼女つくっちゃうし、すきあらば奏さんに占領されちゃうし、こういうときしかぼくの出番ってないんですよ。まぁ、逆を言えば、必ずぼくのところに帰ってくるって分かってるから気持ちに余裕があるんですけどね」
「俺は、夏希か朔を大事にしていると分かっているから、側にいるのを許してるんだ。あまり泣かせるな」
「分かってます。分かってるんですけど、ぼく、朔ちゃんのこと好きだから、側にいられる特権をついつい利用しちゃうんですよね」
夏希は愛惜しむように、朔の髪を撫でた。
「……ぼくのこと、好きになってくれればいいのに」
「俺が阻止するけどな」
奏は二人の側まで来ると、ひょいと朔を抱えあげた。
「ひどいです」
「そう言うな。夏希のことも、弟のように思ってるんだから」
「ぼくだって、奏さんのことは兄のように慕ってますよ」
ただお互いに、感情は違えど、朔へのベクトルが太すぎるのだ。

「では、朔ちゃんをよろしくお願いします」
「よろしくされる覚えはないが、任せろ。じゃあな」
「はい、おやすみなさい」
奏は朔を抱えたまま、外に出た。真っ黒な空に星が瞬いている。
「はぁ……こいつら、あれだけべたべたしといて、両片想いだって気づかないのが凄いな。ま、教えてやる気はないけど」
 よいしょと朔を抱え直し、奏は帰路に就いた。

445いぬのおまわりさん:2013/10/10(木) 22:48:07 ID:NKHbYIcw
 ありのまま、今起こったことを話させてもらう。リモコンの電源ボタンを押したら、テレビ画面から猫耳と尻尾がついた全裸の美少年が出てきた。
 何を言っているのか分からないと思うが、俺も何を見ているのか分からない。
 ぽかんと口を開けてリモコンを持ったまま固まっていると、俺を見た美少年は青く澄んだ瞳をまん丸に開いた。
「ー!」
 聞き覚えのない言葉を叫んで、ぶわっと尻尾を膨らませた。俺と距離をとるように横に飛び退く。
 瞬発力、飛躍力、柔軟性に富んだ軽やかな動きだった。衝撃を吸収した着地は、足音がほぼない。華麗なひとつひとつの動きに目を奪われてしまった。
「…あ」
 ようやく我にかえる。しかし、現実味のないこの状況が慌てるという概念を欠落させていた。気づけば俺は普通に話しかけていた。
「どうやってテレビから出てきたんだ」
 美少年は首を少し傾げた。さっきまで威嚇していたのに、目が点になっている。そして何を思ったのか、人さし指を前にだして動かし始めた。
 その軌道にそって青く光る文字が浮かび上がる。文字を書き終えた美少年は、そこに息を吹き掛けた。文字は砂のようにさらさらと消えていった。
「これで通じるだろ」
「何をしたんだ」
「お、通じたな。魔法で言葉が通じるようにしたんだ」
「魔法?」
 テレビから貞子出演、猫耳尻尾。これ以上驚くこともないと思っていたのに、次は魔法とな。漫画じゃあるまいし、こんなこと有り得る筈がない。
「そっか、俺、疲れてたのか」
「なにをぶつぶつ言っている。気持ち悪いぞ。なあ、お前に聞きたいことがあるんだが」
「うん?」
 話しているうちに打ち解けた。そしてわかったこと。猫耳美少年はソラというらしい。本名は長かったからソラで。
 ソラは異世界から来たらしい。なんでも魔法の練習をしていたら時空で迷ってこの世界に辿り着いたのだそうだ。
 それだけでも吃驚なのに、ソラが王子で二十歳ということにも驚かされた。高慢な態度だったけど、まさか王子で俺より一つ歳上とは。これにはソラも驚いた。
「お前が…十九歳だと…」
「おい」
 俺が老けてるみたいに言うな。俺は童顔だ。ただソラの世界では、未成年はもっと幼い容姿なのかもしれない。実際、ソラは中学生くらいにしか見えないし。
「俺様については話したぞ。次はお前について話せ」
 王子だからか気品は感じられるけど、相変わらず不遜な態度だ。たまに手をざらついた舌で舐めているのは可愛いけども。

446いぬのおまわりさん:2013/10/10(木) 22:49:31 ID:NKHbYIcw
>>445
「俺は犬山。この世界では猫耳は皆付いてない。その代わり、ここに付いてるのが耳だ」
「なるほどな」
 ソラは合点がいった様子だ。ソラの世界では極悪人?猫?が罰として猫耳や尻尾を切られるらしい。猫耳のない俺を見て飛び退いたのは、そういうことだったようだ。

 きゅううとソラのお腹がなった。目が合うとソラの身体が真っ赤に染まる。偉そうにしてるぶん恥ずかしいのかもしれない。それに、ソラは全裸だった。いろんな吃驚要素があって忘れていた。服を渡すと着ない一点張りで、せめてこれはとタオルを腰に巻いた。
「こんなもの着けたら、俺様の立派なものが隠れるだろ」
 いや、隠したんだってとは言わないでおいた。あと、立派でもないってことも。
 お腹が空いているようなので、晩飯を作ってやった。待ってる間、不機嫌に尻尾を横に振っていたけど、焼き魚を出したら目を輝かせて隣にすわった俺の腕に尻尾を絡めてきた。単純なやつだ。
「もとの世界には戻れるのか」
「ふうふう、んぐんぐ、分からん」
 猫だけに猫舌らしく、息をかけて食べている。ご飯も普通に食べてるからキャットフードは要らないようだ。よかった。
「来れたなら、帰れるんじゃ?」
「だから、練習で失敗して迷ったと言っただろう」
 まじか。迷子の迷子の子猫ちゃん。あなたのおうちの帰りかた分かりませんかそうですか。
「王子が失敗するなよ」
「んぐんぐ……お、王子は関係ないだろ!俺様をバカにしてるのか!本当ならその口の聞き方も許されないんだからな!」
「ここじゃ、ただの迷子だけどな」
「にゃんだと!」
 耳をぴくぴく動かして怒るソラは、いじりがいがあるなと思った。

 猫だから風呂は嫌いでだと思ったら、好きだと答えられた。それなら入ってこいと風呂場で使いかたを説明したら、は?と言われた。
「覚える必要はないはずだが」
「え」
「俺は自分で洗ったことはないぞ」
「はあああ!?」
 疲れもピークに達していた矢先の爆弾に、思わず叫んだ。ソラは驚き、反射でぴょんと飛んだあと尻尾を股の下に巻き込んでしまった。ぷるぷる震えている。
「犬にゃま?」
「あーもー分かったよ」
 俺が苛めてるみたいじゃないか。どうやら前途多難な日々が続きそうだ。困ってしまった。ワーン。

44727-759 朝にはいなくなる人:2013/10/13(日) 18:12:03 ID:jnx8Oa/Q
待っていた。本当に来るとは思っていなかった。
明かりの消えた暗い室内、街灯なのか窓だけがかすかに白い暗やみの中、長田が立っている。
背の高い、筋肉質がゆえになで肩に見える懐かしい輪郭、間違えようがない。
「長田」
手を伸ばした。起き上がって、触れた。
腕に触れ、手を握る。長田は何も言わない。
何故だか、顔を見ることができなかった。うつむいたまま、長田の胸に顔をうずめる。
あれほどできなかったことが、今できた。この胸に触れたいと、抱かれたいとずっと思ってた。
胸元に口づけ、首に口づけ、あごをついばみ、唇に触れる。
大きくていつも笑ってるような口元、今はためらいもなく噛んで、吸って、舌を入れる。
温かく湿った感触に陶然となると同時、長田の舌が絡んできて心臓が跳ねる。
まさか! 本当に? いいの、長田……
長田の強い腕が俺を抱きしめてきて、舌の動きも激しくなる。
いつしか俺の方はなすがままに、ただ長田の腕の中身を固くするばかりになっていた。
夢だろうか。長田が俺を抱いてるなんて。これは都合のいい夢だ。
頭のどこかが冷めていて、身勝手な俺を戒める。
でも、そんなことに意味があるだろうか? 今さら?
──俺はずっと、こうしたかったのだ、こうされたかったのだ、長田に、長田と。
長田の手がずっと下に降りてきて、俺の腰をまさぐる。
尻なんか感じたこともなかったのに、長田の手が触れると怖いほど敏感になって、肌の表面がチリチリするようだ。
産毛の一本一本が立ち上がって、長田になで回されるのを待って、喜ぶ。
長田の腰に押しつけてたものはもう限界まで固くなって、それでもまだ足りなくて俺は長田の足の間に自分の足を割り入れた。
もっと。もっとぎゅっと、ひとつになるくらいに、くっつきたい。
その隙間に長田の手が入ってきて、狭い間を汗とおかしな体液でぬるぬるにしてしまう。
長田のものも俺のものも、こすり合わされて、ぬめって、滑って、ドロドロに融け合う。
腰が動いて、手も動いて、その複雑な動きが規則的になって、速さを増して。
「長田、長田」
俺はどうしようもなく名前を呼ぶ。確かめる、ここに長田がいることを。
長田が身をかがめ、俺を見た。もう? と。俺は首を振る。この時間がいつまでも終わらなければいい。
ずっとこのままで、長田の胸の中で。俺の腕が長田をつなぎとめたままで。
なのに俺は限界まで高ぶってしまっていて、たとえ長田が俺を刺激しなくても、もう終わり。
「駄目だ、長田、動かないで、出る」
長田にしがみついた。俺の荒い息が長田にかかり、長田は……笑ったようだった。
苦しくて涙が出た。いきたくない。

長田はぎゅっと俺を抱いた。抱いた腕を頭にまわしてよしよし、と撫でる。
それは、俺が馬鹿を言ったときによくしてくれた、子供扱いのむかつく仕草。
それからあっというまに俺をしごいて、俺をいかせてしまった。
「馬鹿、長田、いきたくないって言ったのに!……馬鹿長田、馬鹿が、この」
殴る間もない。俺が生涯にたった一度と思った力でしがみついても、長田は消えた。
「ごめんな」

そうして俺は目を開けた。窓の外は明るく、今日もすがすがしい秋の一日が始まろうとしている。
今日は長田の葬式。全然悪くない交通事故であっけなく死んでしまった、俺の友人の。
昨日は通夜だった。棺の中、永遠に遠くに行った長田を見た。
もっと早く告白すればよかった。もっと早く触れておけば。全てが遅すぎて、俺はもう生きていられない、と思った。
だから夢を見た。自分にだけ都合のいい、死ぬほど気持ちいい、長田を汚すような最低な夢。
でも。
髪に残る手の感触を、俺は一生忘れないから。
俺の胸の中を、きっと長田は読んだんだろうから。
馬鹿だなあ、って笑う長田の声を聞いたような気がしたら、もう駄目だ。
涙は止まらなかったが、俺は立ち上がってクシャクシャの喪服を身につけ始めた。

448朝にはいなくなる人:2013/10/14(月) 00:20:30 ID:SdA.3qQE
朝にはいなくなる人=夢に出てくる人として萌え語りしてみる


1.健気受け
攻めに恋愛相談されてて頑張れって応援するけど、本当は自分が愛されたいと思っている健気くん。攻めに可愛がられる夢を見て幸せな気分になるけど、そのぶん朝起きて現実に失望してしまう。これの繰り返しで日に日にやつれていく。攻めが健気くんの異変に気づいて両想いになるもよし、失恋して切なく泣くもよし。
~攻め~
ヘタレ
「好きな人が構ってくれない……なあ健気、俺って魅力ないのかな」
女好き
「○○ちゃんってお前に似てるんだよなー」
無自覚
「好きな人と話せた!健気のおかげだよっ、ありがとー!ちょーすき!おれ、健気がいないと生きてけないかもっ」

2.ツンデレ受け
現実では素直になれない。ツンツンしてしまう。そのぶん夢の中では誰?ってくらい甘えてしまう。
「だいすき!ちゅーしよ。だっこして。ぎゅってして。なでなでして」
夢の中の攻めは受けのフィルターで男前になっていて、優しく包み込んでくれる。ただし現実では発展せず足踏み状態。
~攻め~
ネガティブ
「ごっ、ごめん。僕なんかじゃツンデレくんとは釣り合わないよね」
天の邪鬼
「あ?んだよそれ。俺だってお前のこと嫌いだっつーの」
チャラ男
「ほらほら、そうやってツンツンしないでこっちにおいでよツンデレちゃん」

3.変態受け
真面目なふり、儚いふり、可愛いふりをしてるけど変態。見た目との差が激しい。変態度が高く残念であるほどよい。攻めにあんなことやこんなことされる願望が常にある。夢の中では願望通りイジメてもらってるけど、現実ではうまくいかなくて歯がゆい思いをしている。
~攻め~
敬遠ぎみ
「あいつくそ真面目だから俺とは合わねーわ」
勘違い
「委員長は下ネタ苦手だよね」
夢見る男
「妖精……っ!いや、天使か?」

4.純粋受け
幼馴染みや親友など、仲のよい攻めのことが友達として大好き。けど攻めとイチャイチャする夢を見てしまう。朝起きて、夢のなかの自分はなにしてたんだろう?と不思議に思う。攻めのことを意識していたら現実で距離をおいてしまう。気まずくなるのに夢の中ではイチャイチャがエスカレートして混乱する純粋くん。
~攻め~
おかん
「どうした純粋。具合悪いのか」
病み
「俺のこと避けてるよね?なんで?」
天然
「顔が赤いの、可愛いね」

5.電波受け
夢に出てきた宇宙人と会話。「○○くん(攻め)を好きになる」と予言されて信じてしまう。後日、攻めに「僕はあなたをすきになるそうです」と真面目な顔で言って、不審者扱いまたは電波くん扱いされてしまう。そして予言通り攻めにどんどん惹かれていく(あまり表情に出ないため伝わらない)。毎日夢の中の宇宙人に出鱈目なアドバイスをもらう。が、それを真に受けて実行。攻めが振り回されるドタバタラブコメもよし、さらっと受け流されてほのぼのになるのもよし。
~攻め~
おちょけ
「うははっ、宇宙人からの予言?まじかよ。おまえ面白いなー」
不憫
「ちょっとまって、なんで急に服脱ぎ出すの?宇宙人のアドバイス?なにいってんの?頭いたい。理解できない。なにをどう考えたらこんなことになるんだよっ!」
流し上手
「へー、そうなんだ。びっくり……でもそれは違うと思うなー。だってそれ、夢の中の話でしょ?」

449789 修復不可能の二人:2013/10/17(木) 17:09:00 ID:a/TIT6y.
規制されてしまいましたので以下本スレの続きはこちらに。

魔法使いだとバレているからです。いつかは主人公についての記憶を消さなければなりません。
そのことを少年に伝えると少年は泣きます。
魔法使いであることを忘れるのはいい。けれど主人公のことが好きな気持ちも忘れるのか。
答えられない主人公に少年は泣き笑いして、抱き締めてくれる?と聞きます。そのあとで記憶を消してと。
主人公は言われた通りにします。抱き締めた少年の体は可哀想なほど震えています。ありがとう。ごめん。
申し訳ない気持ちで主人公は少年の記憶を魔法で操作します。

次の日から、少年は主人公のところにやってこなくなります。
廊下ですれちがっても目も合いません。声を掛けても不審がられて引きつった笑いを返されます。
八重歯ののぞく屈託のない笑顔は他の友達に向けられます。
そこで主人公は、寂しいだけでなく、苛立ちを感じます。
あれだけ好きだと言ってきたくせに。自分だけを蕩けるような瞳で見つめてきたくせに。
魔法にかけられたくらいで忘れるなよ、なんて理不尽なことと分かっていても苛立ちは消えません。
そこで主人公はようやく気がつきます。認めたくないけれど、もう修復できないけれどーー

「と、こんな感じです。ベタすぎて駄目ですかね」
「そうは思いませんが」
苦笑いする私に、青年は考えるように顎に手をあてた。
「記憶が無くなった少年に、主人公はもう一度関わってみればいいのにと思いました」
「……記憶を消した張本人なのに?」
「はい。記憶を消されても、少年はまた主人公を好きになりたいと思ったはずです」
「そうでしょうか」
青年くすっと笑った。
「魔法使いはなんでもできるのに、何もしないんですね。ヘタレ設定ですか?」
「いや……」
青年は時計を見て眉をしかめた。
「あの、話の途中ですみません。雨が止むまでと思っていましたが、約束に間に合いそうにないので行くことにします」
そう言ってタオルを頭にかける。
「ではこれで。雨宿りに貴方が居て良かった。楽しかったです。あっでもやっぱり主人公は頑張らせてみてもいいと思いますよ」
 青年は、八重歯をのぞかせて笑うと雨の中に消えていった。
「……頑張らせる……か」
私はぽつりと呟いた。
指をパチンと鳴らすと、雨雲が消えて太陽が顔を出した。

45027-949 年下×年上:2013/11/09(土) 16:48:04 ID:5f7Mil3A
ケンおにいちゃん、おてがみかいたよ。
ひらがな、もうぜんぶかけるから。よみます。
おにいちゃん、いつもあそんでくれてありがとう。だいすきです。
これからもずっとおともだちでいてください。
え、まちがえてないって。どこ。
……あ、ほんとうだ。「ち」が「さ」だね。あはは。
*
あ、ケン君。
中学校どう? やっぱいそがしい?
……そっか。いいなー、おれも早く部活したい。
なんだよ、おれが小学生だからってバカにしてるだろ!
どんなんかくらい分かるよ、姉ちゃんだっているんだし。
じゃ、頑張ってね、応援してるから。
……時間、あったらでいいから、おれともまた遊んでよ。
*
ケン先輩。
あ、えーと、うん。はい。
おれもサッカーやりたかったんです。いいじゃないっすか。
ちゃんと真面目に練習するんで、教えてください。よろしくお願いします。
……そっか、もう引退までそんなにないんですね。でも試合で勝てば続くんっすよね。
じゃあ頑張ってください、俺のために。……冗談です!
*
先輩、こんにちは。
あー……何か高校被っちゃいましたね。部活も。
じゃあ、また宜しくお願いします。
*
阪上先輩。卒業おめでとうございます。
話が、あるんです。
俺、先輩の事が好きなんです。ずっと好きだったんです。
分かんないですよね。
中学ではこれでも、頑張ってたんですけど。
途中からもう全然ですね。絡めなくて。怖くて。
でもすごく好きだったんです。
先輩、なんでも良いんで、気持ち悪いとかでもいいから。
何か言ってください。
先輩。
*
あ。け、……阪上先輩。
賢さん、でいいですか。ですよね。これも違和感あるけど……はは。
お久しぶりです。賢さんが高校卒業してから、7年ですか?
そっから大学行って、就職して。こっちに来たのは偶々?
賢さん、7年って長いと思いますか。
……俺の気持ち、7年前と変わってないんです。
7年前、どころか下手したら15年くらい、ずっとそのままなんですよ。
そろそろ答え、聞いちゃ駄目ですか。
俺も社会人ですし。もう背の差とかほとんどないんですね、賢さん。
……え? 3ミリの差なんてそんなの、昔は10センチくらいあったじゃないですか。今じゃ微々たる物ですよ。
とにかく、これだけ引き摺ってたら、もう子供だからとか何だとか、誤魔化せないでしょう。振るならちゃんと振ってください。
のらりくらりしようとしても無駄です。
答えを聞くまで、腕、離しませんからね。前はこれで逃げられたから。
どこ見てるんですか。顔掴みますよ。
ほら、たった一言返せばいいだけなんだから、いいじゃないですか。
……分かってますよ。馬鹿みたいだろ。
でも今になってやっと、ちょっと対等っぽくなったから。
明日には向こうに帰るなら、昔のこと全部、ここで切ってってよ、賢さん。
さあ、どうぞ。

――あの、ねえあの。そうされると誤解するけど。ちょっと。なんで人の肩で。
別に泣くことないって。いや、あ、謝んなくても。
俺の勝手ですし。別に今更傷つかな……え。
……え?

45128-10 年上の幼馴染み:2013/11/17(日) 17:17:29 ID:1GbWoLxU
本スレ10のID:tnE496BW0です。連投規制にあってしまったのでどなたか代行お願いします。
それと10の名前欄の1/2は間違いで正しくは1/3です。下の方と被ってしまったのでややこしくなってしまってすみませんでした。

すみません最後です。

③親同士の仲の良さ
これは設定次第では簡単にロミジュリ要素も追加できる。
よくあるパターンでは親同士も仲が良く、両家公認カップルが誕生する。
「いつも遊んでもらってすみませんねぇ」「いえいえ、こっちも遊んであげてるっていうよりは一緒に騒いでるだけなんで」
「でもこうしてみるとほんとに兄弟みたいね」「ふふふ、ほんと、どっちがお兄ちゃんなんだか」
みたいなお母さん同士のほのぼのした会話が交わされることだろう。
↑のお泊りも頻繁に行われる。実に平和的な話だ。
親同士の仲が悪い場合、一気にシリアス度が増す。ガチで許されない恋である。
この場合だとお泊りなど甘いイベントはほぼない。しかしよりスリリングで背徳感のあるものになる。
年上が攻めだと「親なんて関係ない…受けは俺が守ってやるから」のように包容力のある大人に出来る。
年下が攻めだと「なんであの人といちゃいけないんだよ…!」とグレたりするだろう。そこから受けを無理矢理…だったり、また勿論逆もしかり、である。
最終的に「駆け落ちイベ」が発生しやすくなるのはこっちの方である。
新天地にて今まで出来なかった麗しい生活を謳歌するのだ。…うむ、美味い。

お互いの性格は数限りない無数の組み合わせが出来るので割愛。
①〜③の組み合わせによってそれぞれ素敵なカップルが誕生する。
年上年下どちらが受けでも攻めでも楽しめるとはなんて素敵。

妄想すると年上の幼馴染って意外に美味しいのね…と思いました、まる。

すみません、リロったら被ってました。ほんと一発目からほんとすみません。

45228-9 年上の幼馴染み 1/2:2013/11/17(日) 17:20:57 ID:ClVL9nXU
 三十五才を過ぎると急に、結婚、結婚と言われなくなった。もう洒落にならないんだぞ、という事実を突きつけられるようで怖い。
 だって仕方がない、派遣なんてやってるようじゃ結婚できない。彼女だってできない。
 いいんだ、そういう時代だから、と開き直る。
 妹も結婚して子供作ってるし、母ちゃん的にも、もう俺はいいんじゃないかと思う。
 泰成にいちゃんの方がやばい。兄ちゃんはフリーターで、一人っ子で、俺より二つも年上で、おまけにおじさんもおばさんももういない天涯孤独の身だ。
 二軒はさんでのご近所さんだから、うちの母ちゃんとしてはもうひとりの息子みたいな気持ちで
「豊井家は絶えちゃうねぇ」
と心配してるけど、いやー、無理でしょ。
 俺以上に、兄ちゃんはどうにもなりそうにない。それよかうちも名字絶えますけど。

「泰成にいちゃーん、コロッケだよー」
 バイトってのは過酷なもので、零時あがりの兄ちゃんは昼夜逆転ぎみの生活だ。
 だからと言って、派遣でも正社員と変わらない勤務時間の俺が、深夜にコロッケをわざわざ運ばされるのはおかしい。
「おおー!コロッケ大好き。売ってるのじゃないおばちゃんの手作り大好き」
 でも兄ちゃんが喜ぶから仕方ない。
『夜中は人恋しいものだから、お前行ってやりなよ、ひと言話すだけで違うんだよ』
 そんなことを言う母ちゃんは、他人に優しく身内に厳しい。俺寝不足になるっつーの。
 兄ちゃんのおじさん、おばさんが亡くなってから十年くらい経つから、その間ずっと通い続けてる俺えらい。
 通いすぎて、兄ちゃんの家はすでに、もう一軒の自宅のようだ。
「今から食うの?」
「当然! 晩飯なんだよ、お前は? 食う?」
「いや、寝る。もうこっちでいい?」
「パジャマ着てるじゃん、すでに」
「風呂出たらパジャマだって……朝飯は七時に帰るから、一緒に起きろよ。母ちゃん手間だから」
 食べ出した兄ちゃんをほったらかしに、和室に布団を敷いたら眠くなる。
「お前、帰って寝る方が早いんじゃないの」
 声が飛んでくるが、答えるのがめんどくさい。
「寝に来るのなー、うちに、お前……変な奴」
 声が遠のいて、俺は夢の中へ。なんだろうね、俺も。

 正直、結婚とかに意欲がわかない。
 彼女がいたこともそりゃありましたが、それとこれは話が別だって知ってる。
 草食系男子とは俺のことだ。いや、俺らのことだ。兄ちゃんもきっとそんな感じ。
 あの人こそ彼女いたのに、結婚すると思ってたのに、おじさん達が亡くなったときに別れて、それっきり女の子とは話題にできない雰囲気。
 本当、仕方がないよね。不況だもん。母ちゃんごめん。親父もごめん。どうしようもないです。
 この間、母ちゃんが恐ろしいことを言った。
『いっそ、結婚しない子ばっかり集まって、一緒に住めばいいんじゃないかねぇ』
 現実に、茶を吹きそうになるなんてことがあるとは。
『だって、そうしたら安心だもん、あんたや泰成君の老後。寂しいひとり暮らしをさせるよりよっぽどいいよ』
 泰成君のご両親にも遺書で頼まれたしねぇ、と母ちゃんは笑った。
『あんた、もうこうなったら泰成君のこと大事にしなよ、あれももう結婚しないだろうから、一生仲良くするんだよ』
 うちの母ちゃんはいつも、どこまで本気かわからない。
 ただ、泰成兄ちゃんにもう二度と寂しい思いをさせたくない、その気持ちはわかる。 

 久しぶりに結婚の話を振られた。最近入ってきた後輩がマジで無神経で、まわりのハラハラした空気がいっそう俺を傷つけるっつーねん。
「兄ちゃん、結婚するなよ」
 俺は今日は台所にいて、おでんを小分けにしたどんぶりをレンジに放り込んでる兄ちゃんに鬱憤をふっかけることにする。
「少なくとも兄ちゃんが結婚しない限り、俺は許される」
「別に俺が結婚しなくてもお前は結婚すればいいじゃん」
「うるせー、どうせできませんよ、だから兄ちゃんも結婚するな、そんで老後はふたりで生きるの」
 泰成兄ちゃんのあごがカックンと落ちた。
「……は、お前、何を」
「え?あ、いやいや、この間母ちゃんがさ」

45328-9 年上の幼馴染み 2/2:2013/11/17(日) 17:22:41 ID:ClVL9nXU

 説明すれば、なんとも空しい老後設計だ。俺はだんだんばかばかしくなってきた。
「だいたいさ、安易なんだよ。そもそも先に老後を迎えるのは母ちゃんだっての、自分の面倒より俺の老後かよ、いつの間にか完全に俺が結婚しないことになってるしなぁ」
「んーとさ、じゃあその時はおばさんの介護は俺らふたりですればいいんだよ」
「何言ってんの……ええ?」
 見れば、兄ちゃんは真面目な顔でうなずいている。
「ちょっと、兄ちゃん、泰成さん、なんでその気なんですか」
「いやあ、名案だなと思って。固定資産税も一軒でいいしな」
「うわ、具体的! ありえないって、そんな、男同士で」
「いいんじゃん? 別に結婚するわけじゃないし」
「男同士で結婚できないし!」
 俺が慌てると、兄ちゃんはきょとんとした。
「あ、いや、俺もお前もたぶんもう結婚しないでしょ? お前、これから頑張るの?」
 耳が、頬が、急に熱くなる。
「裕敏……じゃあねぇ、約束。俺がこのまま爺さんになって要介護になったら、裕敏が面倒見て。逆は俺が面倒見るから」
 小指を立てられた。
「はい、指切りね、これでおばさんにも安心してもらえるよっと」
 絡んだ指ごと腕を振り回されて、うわ、これ、何、いったい。
「いい話だな、俺、裕敏なら安心。老後は一緒に住むかねぇ、うちの方が新しいから裕敏こっちに来ればいいんじゃない? すでにマイ枕置いてあるんだし」
 ニッコリされて、ますます血が上る。
 と、レンジで爆発音がした。
「泰成兄ちゃん! 卵入れただろ馬鹿!」
「あ、卵……おでんの」
 兄ちゃんはこれ以上ないくらい哀しい顔になった。馬鹿だ。
 
 だから多分、兄ちゃんは俺の赤面に気づかなかった。
 一生の約束なんかしちゃったよ俺たち。そんで、危なっかしいこの人の介護をするのはたぶん俺の方だ。
 いいじゃんそういう人生、きっともう泰成兄ちゃんも二度と寂しくない。

454名無しさん:2013/11/17(日) 17:24:02 ID:ClVL9nXU
>>451 すみませんでした
IDがややこしいことになるけど、代行行ってきます

455名無しさん:2013/11/17(日) 17:29:47 ID:1GbWoLxU
>>454 いえいえこちらこそ、長いと規制され分割してるうちに連投規制とかww
代行ありがとうございます、お願いします。

45628-19 三角関係:2013/11/17(日) 21:09:23 ID:siFrZRgY
規制喰らってしまいました、代行よろしくお願いいたします……



しかし、いや。だから、ぼくはあなたに最初で最後の復讐をしようと思ったのです。
ほくは先生の一番にはなりようがないのなら、せめて少しでもぼくを覚えていてほしいのです。
ぼくはきっと、いいえ確かに。生まれ変わり空にささやかに光る星になっています。
そうすることで先生は星を見るたびにぼくを思い出せるのです。
先生の恋のせいで首を吊ったぼくのことを、輝く美しい星を見るたびに。
男同士の三角関係、何て言う腐りきってしまった阿呆な感情で潰えたぼくのことを、あなたはきっと思い出すのです。
そうして傷付いた先生はその身をぼくによく似た父に慰めてもらうのでしょうね。
父に抱かれながらあなたは何を思うのでしょうか、今までのような感情ではいれないのでしょうね。
なにせ父はぼくにとてもとてもとても、よおく似ているのですから。
そうやって、ずっとずっとあなたはぼくのことだけを思って後悔して生きていって下さい。

ね、先生。
ぼくはいま、きっとほんとうのしあわせになれるのです。

45728-49 許されない二人 1/4:2013/11/23(土) 19:33:20 ID:DOUtdwBA
思ったより長くなって間に合いませんでした…推敲して投稿。



「慶一…もう、ここに来るのはやめるんだ」

薄い布団の中、優(まさる)は自分を抱きかかえている慶一に言い聞かせた。
激しい情事に耐えた体はまだ重い。普段はどちらかと言えば物静かな少年である慶一は、
情事の時だけ、抑えていた何かを発散するかのように優を翻弄する。
十八歳の優とちょうど一歳差の十七歳で今年高校三年生になる慶一は、まだ優より
少し背が低かったけれど、このところまた背が伸びたようだから近々優を追い越すかもしれない。
「どうして…どうしてそんなことを言うの、優…」
慶一が身じろぎし、真冬であるにも関わらず汗にしっとりと湿った二人の素肌がこすれた。
窓の外にはしんしんと雪が積もっている。心なしか色素の薄い慶一の髪を優が撫でた。
「男同士だから? 僕がこの家の跡取りで君が使用人の子供だから? 僕が受験生になるから?」
その全部だよ、と優が答えようとした、その矢先だった。

「それとも…君と僕が兄弟だから? ねえ“兄様”?」

楽しげに歪められた唇からこぼれた言葉を聞いても、優は始め呆然としていた。
一瞬遅れて、優は慶一の腕を振りほどいてがばりと布団から身を起こした。
「慶一、お前…知って…」
「知らないでいられるはずがないじゃないか。どうしてそう思ったの?」
くすくすと笑いながら言う慶一を、優はふたたび呆けたように見つめた。

旧家である菅間家の広大な敷地の外れに、ひっそりと建てられた離れ。
慶一は誰もが寝静まった頃を見計らって時折そこを訪れた。
それを受け入れた優も、始めはまさか慶一とこんな関係になるなどとは思ってもみなかった。

45828-49 許されない二人 2/4:2013/11/23(土) 19:36:47 ID:DOUtdwBA
「全部知っているよ…優の母さんが父様の妾(めかけ)だったことも、母様の子より優れるように
君に『まさる』って名を付けて母様とつかみ合いの喧嘩になったことも、
家の中で騒ぎが起きたのに懲りた父様が君の母さんを捨てて外に新しい妾を囲うようになったことも、
万一の時のための保険に君と君の母さんを離れに置いておくことにしたということも、ね」
慶一は十七歳の少年が知るにはいささか残酷すぎる事実をすらすらと語った。
残酷というなら優にとっても同じことだが、優はそれよりも慶一の心の方が心配だった。
おしゃべりな女中にでも聞いたのか、それにしても何もそこまで教えずともいいだろうに…
同時に、こんなことをまるで他人事のように話す慶一に対して、少々空寒い気持ちがした。

屋敷の敷地内には他にも使用人の子供が何人か住んでいたが、
慶一はどの子供とも遊ぶことを禁じられていた。とは言え、幼い身に余る好奇心が
抑えきれるはずもなく、慶一は十歳の時に一度、とりわけ年が近い優を遊びに誘った。
優は地元の公立小学校に、慶一は私立の一貫校に通っていたから、
顔を合わせるのは屋敷の中でだけだ。優は慶一が異母弟であることを知っていた。
慶一を恨む気持ちもあり、最初は躊躇していた優も、慶一がしつこいので仕方なく付き合うことにした。
しかし学校では妾の子といじめられ、同世代の子供と遊んだ経験の少ない優は、
たちまち慶一と過ごす時間に夢中になった。母に決して慶一と関わるなと言いつけられていたことも忘れ、
気が付けば奥様…慶一の母に二人一緒のところを見つかって大目玉を食らったのだった。
言いつけを破った自分がいけない。それからは慶一を見かけても無視を決め込んだ。

ところが優が十五歳の冬の夜、遅くまで高校受験の勉強をしていた優の部屋の窓を叩く者があった。
(優…)
慶一だった。寒い夜だ。追い返すのも気が引け、仕方なく窓から慶一を招き入れた。
慶一と遊んだたった一日の記憶は、優の心に深く刻み込まれていた。

45928-49 許されない二人 3/4:2013/11/23(土) 19:39:43 ID:DOUtdwBA
相変わらず孤独な少年だった優がそのまま高校生になっても慶一と会い続けたことを、
そして慶一がある晩優に口付けて組み敷いた時に拒めなかったことを、誰が責められるだろうか。
慶一を拒めばもう会ってくれなくなるかもしれないという思いが頭をかすめ、優は抵抗を諦めた。
兄弟なのに。身分が違うのに。男同士、なのに…優には自分が慶一を愛しているのか、
弟として可愛いと思っているのか、それとも単に慶一と会えなくなるのが寂しいだけなのか、分からなかった。
ただ、こんな関係を持ちかけてきた慶一は当然優との本当の間柄を知らないのだと思い込んでいた。
慶一の母は、慶一の耳に真実が入らないよう神経質なほど気を遣っていると聞いていたからだ。
ずっと慶一をだまし続けることに罪悪感が湧いて、別れを切り出したのに…

「…いつから、だ…」
「初めて遊んだ後のことだよ。いつもは大人しい母様があんまり怒ったのが気になって、調べたのさ」
名家の令息らしく優より色の白く、どこか華奢な体。常なら愛おしく思えるその体に、
一体何が潜んでいるのか…優は急に恐ろしくなってきた。
「あの日から、優のことがずっと忘れられなかった…どうしてこんなに好きなのかと思っていたけど、
兄弟だと分かって納得したよ…でも、優は僕が知らないと思っていたみたいだから。
優のことだ、僕が知っていると分かったら会ってくれなくなると思ったんだ」
うっとりと話し続ける慶一に、優は言葉も出ない。
「父様と例の、新しい妾の間にも子供がいるらしいよ。僕たちの妹か弟だ…
妹だといいなあ。優の弟は、僕一人きりでたくさんだもの…」
慶一が、ふいに優を押し倒した。その瞳は爛々として、すっかり情欲に濡れている。
「、よせ、よしてくれ…」
いつもはどこか虚ろな慶一の目にこの時だけ光が宿るのを、優は知っていた。
いけないと分かっているのにそのことが嬉しくて、知り尽くした優の体をまさぐる慶一の手も心地いい。
優は言葉とは裏腹に、容赦なく襲ってくる悦びに喘いだ。

(行く学校も、将来の仕事も、全部がもう決められているんだ、僕は)
まだ体の関係を結ぶ前、慶一がぽつりと言ったことがある。
(何一つ自分の自由にはできない…まるで籠の鳥みたいだよ)
冗談めかしてはいたが、慶一が家のことで愚痴をこぼしたのはその一度きりだったことが、
かえって真実味を増していた。慶一もまた、優とは別の意味で孤独なのだった。

46028-49 許されない二人 4/4:2013/11/23(土) 19:43:35 ID:DOUtdwBA
二度目の情事を終えて、慶一は甘えるように優に身をすり寄せた。
結局、重大な真実が二人の間で共有された後も、優は慶一を拒むことができなかった。
「優、来年の春から仕事をするんでしょう?」
「うん…」
優は高校を卒業した後、ここから離れた職場に就職することが決まっている。
この屋敷からでも通えるには通えるが、これを機に思い切って家を出る、はずだった。
慶一とまた離れがたくなっている自分がいる。何という意志の弱さだろうと優は自嘲した。
「いいなあ…大学なんかに行きたくない。僕も早く働きたいよ」
一呼吸おいて、慶一が優の耳元で囁いた。
「ねえ優…僕を連れて逃げてよ…僕も何か仕事を見つけるから、さ」
情事では男役をしているくせに、慶一はまるで女のようなことを言った。
優も男だから、こういった類のことを言われては庇護欲を刺激されてしまう。だが。
「そんな、おれは……」
優は目を泳がせた。慶一は一流の大学を卒業した後、菅間家の経営するグループ企業の
いずれかで働くという将来が約束されている。慶一ほど頭が良ければどこの大学にでも受かるだろうし、
きっと優秀な経営者になれる。そんな輝かしい未来を、自分が奪っていいものか。
だいいち腹違いとは言え兄弟という間柄で、こんな関係…罪深くはないだろうか。
だが、慶一は自分といたいのだという。そして、優も…

「ねえ、優ったら…、ん、」
珍しく優の方から深い口付けを仕掛ける。拙い舌の動きにも、慶一は敏感すぎるほど反応した。
「…ずるい、こんなこと、今までしてくれなかったくせに」
慶一は目を蕩けさせながらも、優に抗議した。その目から視線をそらして、
優は慶一の顔が見えないよう、慶一の頭を胸に抱えるようにして抱きしめた。
「僕には、優だけいればそれでいいんだ…父様も母様も…名家の御曹司なんて肩書も、要らない」
裸の胸に、慶一の声が滲み渡って消える。
「愛してる…愛してるよ、優…」
兄として、人として…一体何が正しいのだろう。優は慶一の言葉に答えることなく、慶一の体をさらに引き寄せた。

46128-59 介抱 1/2:2013/11/26(火) 16:08:29 ID:M.XQpq0A
 昼に怪我をした。落ちて、足首をひねったのだ。労災になるとかで怒られた。
 病院に行ってレントゲン撮って、骨には異常なし。ただのねんざ。
 医者の言葉に、上司の新谷さんがあからさまにホッとしたので、むかついた。そんなに労災が怖いか。もっと大ケガすりゃよかった。
 もともと、新谷さんとはあまり仲がよくない。ガタイばかりでかくて、やたら細かい。うざい存在だった。

 夜になって、痛み出すまでは余裕だったのだ。
 ずきん、ずきんと痛めた箇所が脈打ちはじめて、あわてて痛み止めを飲んだが遅かったらしい。
 そういや氷で冷やせって言われたっけ、と思い出すが、あいにく冷凍庫は空っぽ。
 しかたなくビールで冷やすが、飲めない温度のビールばかり増えてちっとも治まらない。
 どんどん痛みが増し、気がつくと唸っていた。
 足が、おおげさじゃなく倍に腫れてる。心拍と一緒に、ズッキンズッキンと音が聞こえるようだ。
 床に転がって足を抱えた。顔まで熱くなって目が開けられない。口が勝手に痛い、痛い、とつぶやき出す。涙がにじんだ。じっとしてられないくて転げ回った。

 と、ドアチャイムがなった。
「加原? 新谷です、開けるぞ」
 驚いた。いくら会社の寮だからって、上司が来る時間じゃない。
「……すんません、今マジ勘弁してください、すっげ痛むんで……」
「だから来たんだ、お前、絶対冷やしてないと思ったから」
 新谷さんが勝手に入ってくる。マジでむかつく。帰れって言ったのに。他人に会いたくないのに。
 うめきが自分で抑えられない。たぶん、熱も出てきて、背中の汗は冷たいのに体は熱い。
「足、出して」
「……え?」
「ああ、やっぱり腫れた。テーピングしろって言ったのになぁ」
 ぼんやり思い出す。おおげさなことはしたくなかったから、俺が医者に断ったのだ。
「保冷剤いっぱい持ってきたから。冷凍庫空いてるか?これ入れるぞ」
 スーパーの買い物袋いっぱいに重そうな何かが入ってるのが見えた。
「痛かったら言って」
「あっ! ちょ、触らないで、いた、冷た!」
「だから保冷剤。縛っとくから、ぬるくなったら取り替える、わかったか?」
 抵抗する間も力もない。身を縮めてるうちになんどかケガの足を持ち上げられ、そのたびに「いたい!」と声にならない声をあげてしまう。
「そおっとやるから……ほらもういい」
 見ると足首はグルグル巻きだった。包帯じゃなくてレトロな手ぬぐい。保冷剤がいくつも入れられて、足首を三倍にしてる。
 冷気が伝わってくる感覚。最初と違って全然冷たく感じない。
 ズッキン、ズッキンと脈打っていた灼熱の痛みが、ゆっくりと、ゆっくりと軽くなっていく。
 それで、俺はようやく力を抜いて横たわることができた。足は動かせなくてだらりと垂れたまま。
「痛み止めは飲んだか?」
「さっき飲みました……」
「早く飲まないと効かないって言ったのに……で、なんだ、これ」
 テーブルの上の缶を見とがめられる。「まさか今飲んだんじゃないよな?」
「あ、えっと……昨日のです」
「……お前なぁ、絶対飲むなって言っただろう」
 確かに酔いがまわると同時に痛み出したのだった。
「こんなことなら、病院からつきっきりでここまで帰ってくりゃよかった」
 新谷さんは顔をしかめた。

46228-59 介抱 2/2:2013/11/26(火) 16:12:56 ID:M.XQpq0A
「まだ痛いよな」
「痛いです……」
 でも、とりあえず呻くほどじゃなくなった。今はじっとしていたい気持ちで、返事をするのがだるい。
「見せて。すぐぬるくなるから、ほら、もう取り替えないと」
 保冷剤を外されて、キリキリ冷えたのをあてがわれる。
「もうちょっとしたら痛み止めが効いてくるはずだから。そしたらあと、自分でできるな?」
「はあ……何を?」
 新谷さんはちょっと困った顔をした。
 でも怒らない。『また聞いてない』って、いつも怒ってばかりなのに。
「……俺、なんでこんな痛いんですかね、ねんざなのに……」
「炎症起こしたらこんなもんだ、だから冷やせって医者も俺も言っただろ、言うこと聞かないからひどくしちまって」
「新谷さん優しいっすね」
「……俺の責任だから」
「俺、自分でやったんですよ」
「職場の事故は上司の責任」
「そんで優しいんだ……すんません」
 痛みはまだある。あるけど、緊張状態から解放されて、なんだか眠くなってきた。
「な、加原、一時間くらいでまた保冷剤とりかえるんだぞ」
 新谷さんが足の保冷剤を軽く、軽く触って何か言っている。神経が過敏になってるから、分厚い保冷剤越しなのに感じられるのだ。
 強く触れば激痛なのに、新谷さんの指が本当に軽くて、優しくて、それがなんだか……
「……加原、おい」
「なでなでしてください、痛いところ」
「え?」
「痛いんで、よしよししてくれたら気持ちいい……」
「お前、酔ってるの……本当に、もう」
 体が休息したがってる。とろとろと眠りに落ちた。
 あとで思えば、酒と痛みと薬で朦朧としていた。

 気がついたときは外がぼんやり明るい時間。
 新谷さんが、俺にかけた布団に足だけ突っ込んで寝ている。
 俺の足の保冷剤は冷たく、気持ちいい。ねんざの熱はまだ残ってるみたいだった。
 おそるおそる触って、思い出す……優しい、誰かの手が……痛みを癒してくれるその感触。
 息を呑んだ。
 ここで新谷さんが寝ている現実。相手がだれかも忘れて甘えた、俺の台詞。
「うわ……」
 思わず声が出た。
 苦手な上司に。今日だって職場で一緒になるのに。友達でも親でもないのに……すごく、優しくしてもらって。
 ひどく特別な夜だったような気がした。こんな時間を過ごしたあとで、どんな顔してみせればいい?
 俺は頭を抱えた。足が痛んで呻いた。
 新谷さんが目を開けて「まだ、痛いか?」と聞く。俺は首をぶんぶん振った。

463モンクレール アウトレット:2013/11/30(土) 10:31:47 ID:Oo3yud4A
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46428-339 不細工な蜘蛛と真っ白い蝶:2014/01/15(水) 13:02:48 ID:nHOW4oGI
 モンシロチョウのクリームがかった白い羽がホコリとガラス片にまみれて床に落ちていた。
 どこにでもいる蝶で、小さくて、蜘蛛の巣にかかって暴れているところを捕まえたために
羽も傷んでいるそれは標本としての価値はもともと薄い。
 けれどこの生物部に入って最初に作ったこの蝶の標本は、俺の宝物だった。
 だからこそ食われたり湿気ったりしないように環境の整った理科室に置かせてもらっていたのに。
「久保田」
 声とともに肩に置かれた手にびくりと体が跳ねる。いつの間にそこにいたのか、
同級生の葉桐がこちらを見下ろしていた。
「それ、誰がやったの」
 答えず、また俯く。知っているくせに、という言葉は飲み込んだ。
 知っているくせに。
 俺が虐められているのも、その主犯がお前に片思いしてる女の子だってのも、
その理由がこうやってお綺麗なお前が正反対の俺にかまうからだってのも、知っているくせに。
 なのになんでまだ俺に寄ってくるんだ。
 答えない俺に焦れたように肩の手に力がこもる。
「ね、言って。久保田が僕に助けてって言ってくれたら、僕はなんでもするから」
 嫌だ。絶対に、お前にだけは頼りたくない。
「僕を利用してよ、久保田。一言でいいんだ、君が僕を選んでくれれば、それで」
「止めろ!」
 振り払うその動きだけで、なぜか息が上がった。緊張のせいかもしれない。
「これは俺の問題だ、もう近寄るな!」
 怖い。葉桐の執着が。葉桐の献身が。
 全てを俺に捧げんばかりの、その感情がどこから来ているのかわからないのが、怖い。
 いっそ裏があるといってくれればいいのに、その目には一切の影もない。
 あるのはただ、俺に対する純粋なまでの執着で。
 いつの間にか振り払ったはずの手がすがるように俺の首に回されていて、
その病的なまでに白い肌が足元に落ちた蝶に重なって、何故だかひどく泣きたくなった。

46528-449 リアリスト×オカルト好き 1/2:2014/02/03(月) 00:05:39 ID:0LFcBspc
「くだらねえよなあ」
出来上がった見本誌を興味なさそうにぺらぺら捲りつつ編集長がぼやいた。
読んでいるのは我が出版社の唯一にして看板の雑誌、その最新号である。
オカルト雑誌なんてくだらない、というのがうちの編集長の口癖だ。
この口癖を聞き続けてそろそろ一年になるが、そのときの俺はその言いようが聞き流せなかった。
「それじゃあ聞きますけど。なんで編集長は編集長なんですか」
「なんだその質問。哲学か?」
「違います。どうして編集長はオカルト雑誌の編集長やってるんですかってことです」
言い直すと、編集長は皮肉っぽく笑ってから答える。
「そんなもんお前、日々の生活の為だよ」
「生活の為に、くだらない雑誌作って世間にバラまいてるんですか」
先月いっぱい取材して二徹までして完成させた記事(『死の世界へ繋がる公衆電話』現地レポート)を
軽んじられた気がして、俺の口調は刺々しいものになる。
「それって、読者の人に失礼だと思います」
もしも自分がこの雑誌の熱心な読者だったらと想像する。自分の愛読雑誌が作り手によって
「くだらない」と言われていると知ったらきっと憤慨するだろう。というか絶対する。
一年前の自分に伝えたら、就職先を考え直すレベルだ。……いや、出版社に乗り込んでこの人を一発殴るかも。
そんなことを悶々と考えていたら、「お前なあ」と呆れたような声が聞こえた。
顔をあげると、編集長は煙草にライターで火をつけながらこちらを見ていた。
少し真面目な表情になっている。
「俺は別に手抜きの雑誌作りをしてるつもりはねえよ。読者が何を求めてるか把握してそれを提供するのが俺の仕事だ。
 お前だって今月号のこの記事、手間隙かけて取材して何度も原稿直したんだろ?読者に伝わりやすいように」
思わぬところで話題が俺の記事に及んで、反応が遅れてしまった。
「えっ、まあ、そりゃあ、頑張りました、けど」
「そのお前の姿勢が、読者への失礼にあたるのか?」
「いや、あの………。え?」
「あの記事はなかなか読みやすいし、落としどころも上手い。読者ウケもけっこういいんじゃねえかと俺は睨んでる。
 反響あったら追加取材もいいかもな。それかシリーズ化もいいだろう。読者のニーズに応える、当然のことだ」
思い切り論点を摩り替えられている気がしたが、そのときの俺は編集長に記事を褒められたことの方に
意識の大部分を持っていかれていて、突っ込むことができなかった。
それどころか、しどろもどろに「ありがとうございます」などと言う始末。俺は馬鹿か。
「いいか、よく聞け」
俺が怯んだ隙をつくようにして、編集長はたたみかけるように喋る。
「お前がオカルト大好き野郎なのはよく知ってる。だがそれと雑誌作りをごっちゃにするな。それは公私混同だ。
 俺達が読者へ提供するのはエンターテイメントだ。読者の求める真実と、オカルトの真実をイコールにしてはならない。
 ただ単に情報を羅列しても何の意味もない。俺達は『オカルト』というものをどう料理して客へ出すかを心得たプロであるべきだ。
 俺達が材料をどう思っていようが読者には関係ない。雑誌の中身で読者の欲求を満たせるか、シビアだがそれが真実。
 百パーセント真実だけを載せてもそれは生野菜を適当に転がしてるようなもんだ。素材を生かすには適量の虚構が必要だ。
 俺達はどれだけ読者の目を欺き、虚構の混じった真実を読者好みのエンターテイメントに仕上げるか、その一点に尽きる」

46628-449 リアリスト×オカルト好き 2/2:2014/02/03(月) 00:06:57 ID:0LFcBspc
機関銃のように捲くし立てられて、俺は頷くことしか出来なかったが、
「ま、そういうわけだから。俺がこれをくだらねえと思ってようがどうしてようが、中身がよけりゃいいんだよ。
 飽きられたらおまんま食い上げだろ。飯のタネを捨てるほど俺は愚かじゃないし、平穏に暮らしたいからな」
という締めではっとし、思わず自分のデスクをバンと叩いた。
「ですから!そういう言い方しないでくださいよ!」
「うるせえなあ。中身がいいんだからいいだろ」
「もう誤魔化されませんよ!?」
この編集長はいつもそうなのだ。
もっともらしいことを次々と並べ立てて煙に巻く。相手をのせて自分のペースに巻き込んで、我を押し通す。
俺がこの出版社に入社したのだって、この編集長の口先八寸が原因だし。(俺がここの雑誌を愛読していた経緯もあるにはあるが)
「そもそもなんでオカルト信じてないのにオカルト雑誌の編集長してるんだっていう話をしてるんです!」
「……。お前、たまにめんどくせえよな」
飄々と肩を竦めて見本誌をデスクに放ると、編集長はやれやれと呟いて立ち上がった。
そして長い溜め息を吐きながら俺の方へと近づいてきたかと思うと、座ったままの俺の両肩に手を置く。
「なっ、なんですか」
やばい噛み付きすぎて怒らせたか?まさかクビなんてことは…と
内心びくつく俺の心を見透かすように目を細めて、編集長はこちらを覗き込んでくる。
「信じてないって、なんだ?」
「は?」
「お前はお前であることについて信じるとか信じないとか考えたことがあるのか?」
「なんですかその質問。て、哲学ですか」
さっき彼が言ったセリフをそっくり返すと、編集長はにっこりと笑う。
なぜだか、ぞっとした。
「あんまり駄々をこねるとこうなるってことだよ」
そう言ってから彼は更に屈み込んで顔を近づけてきて、俺にキスをした。
唇に。思い切り。キスを。
十秒後。フリーズしたままの俺から顔を離すと、編集長はまたいつもの雰囲気に戻って皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「仕事熱心なのはいいが、ほどほどにしとけよ。深みに嵌ると抜け出せなくなるぞ。現実見ろ、現実」
「…………」
「つって、テメエが言うなって話だな」
ははははと豪快な笑い声をあげて、俺の肩をぽんぽんと叩いて、編集長はまた自分のデスクへ戻っていく。
俺は呆然とその後ろ姿を見つめていた。
(な、なんだ今の)
顔が熱い。頭の中が混乱の極みでぐちゃぐちゃしている。ついでに体もだるい。
締め切り前の追い込みによる肉体疲労と(考えたくないが)さっきのあれによる精神疲労でどっと疲れが出たのか。
反論する気力を削がれた俺は、その後は大人しく次の取材について企画書を書き始めた。
あんなセクハラかまされたら身の危険を感じて仕事を即辞めてもいい筈なのに、そのときの俺はそんなこと毛ほども考えていなかった。
いつものように「また煙に巻かれた」と思う程度で済ませていた。

今思えば、おかしいと思うべきだったのだ。自分の思考と認識がほんの少し方向付けされていたことに。
しかし同時にそれは無理な話でもあった。

『それ』に気付く頃には、俺は抜け出せなくなっている。

46728-469 プリクラ:2014/02/06(木) 19:54:38 ID:1d4B22lA
「男同士でプリクラってのは恥ずかしくないか?」
「堂々としてれば、そう気にする人はいませんよ」
「しかし…こんなおじさんとで大丈夫か?」
「まだ三十半ばでしょう。まだまだですよ」

彼と知り合ったのは、ゲイコミュニティの掲示板だった。
ヤリ目的でタチネコスリーサイズが踊る中、ただ「誰かと話がしたいです」というメッセージだけが残されていた。
場所も近かったので好奇心で待ち合わせてみると、やってきたのは疲れた顔をしたサラリーマンだった。
誰かと話したいというわりには彼はひどく無口で、佐山さん、という名前を聞き出すのさえ1時間くらいかかった。
それでも、ぽつぽつとたわいない話を続けているうちに、少しずつ自分のことを教えてくれた。
昔、とても大切な幼馴染がいたこと。
その人に友情というだけでは片付けられないほどの想いをもっていたこと。
それ以上好きになれる人が見つけられなくて、自分がゲイではないのか悩んでいるということ。
「…その人とはどうしてるんです?」
「自分の気持ちが怖くなって、上京にかこつけて逃げ出してしまった」
そこまで聞くのに、さらに二時間ほどかかった。
全てを話し終えて、佐山さんは少しすっきりした顔でふう、と溜息をついた。
「で、どうでした?」
「え?」
「話し相手としては、合格でしたか?」
「ああ、僕にはもったいないほどの相手だった。ありがとう」
「それはよかったです。もしよければ、今度はこっちの話を聞いてくれませんか?」
こうして、時折二人で出歩く仲になった。

ある日、喫茶店に入ったとき、トイレに立った佐山さんはテーブルの上に携帯電話を置いて行った。
いささか骨董品めいた古い縦折り型の機種。何か感じるものがあって、その電池カバーをスライドさせた。
カバー裏を見てみると、年季の入った一枚のプリクラが貼られていた。
当時流行っていたゲームのマスコットのフレーム。
照れ隠しと分かる仏頂面で、学生服の少年が二人映っている。
そっぽを向いたうちの一人はおそらく昔の佐山さんだ。
どちらから、どんな言葉で誘ったのだろう。
きっと、男同士でなにやってんだろうな、気持ち悪いな、なんて必死で笑って。
それでも、色あせてなおずっと大切にして――。
この一枚の背後にある情景を思い描いていく中で、自分がどれだけ彼のことを愛おしく思っているかに気付いた。
臆病で、ステレオタイプな佐山さん。共に過ごす時間がゆっくりと増えていくだけで満足だった。
しかし、アミューズメント施設で映画を見た帰り、
ゲームコーナーのプリクラ機体を目にしたときにその気持ちは蓋を押し上げた。
上から踏みにじりたいわけじゃない。同列に並べてほしいわけでもない。
ただ、頭の片隅に自分を置いてくれているのか、分からなかった。

「男同士でプリクラってのは恥ずかしくないか?」
「堂々としてれば、そう気にする人はいませんよ」
「しかし…こんなおじさんとで大丈夫か?」
「まだ三十半ばでしょう。まだまだですよ」
そういうと、佐山さんはうーんと唸る。本当に嫌ならば、無理強いするつもりはなかった。
「いいよ」
「……えっ?」
こんなに早く返事が返ってくるとは予想してなくて、耳を疑った。
佐山さんは、もっと、こういうことに悩んで、苦しんでしまう人だと思ったのだ。
「君はいつもスマートだから、年上としてふがいないとは思ってたんだ。
 そんな君からの初めてのお願いだ。何としても、叶えなきゃね」
「――ありがとうございます」
「なんて顔してるんだい。なんだかこっちまで嬉しくなるね。
 さあ行こう。僕は不慣れだから、君が教えてくれると助かる」
暖かな声に迎えられて歩きだす。
飾り付ける前の透明なフレームの中に、今度は2人、笑って。

46828-509 バレンタイン:2014/02/18(火) 01:22:54 ID:9sB4q356
唐突だが、俺には恋人がいる。
幼馴染かつクラスメイトである俺たちの腐れ縁は発酵して、爛れて、どうしてか恋愛感情として落ち着いた。そいつも俺も男だが、俺達は立派な恋人である。今日も一緒に下校するため、校門でそいつの部活が終わるまで待っている。
話は変わるが、本日世間はバレンタインデー。店先には様々な種類のチョコレート製品が並び、おめかしをした女子たちがそれをきらきらと輝く瞳で見つめてはしゃいでいる。彼女らが各々の想い人に渡すのであろうチョコレートを購入している姿をなんとはなしに見ていると、隣から大きなため息が聞こえた。
「啓、」
いつの間にか部活は終わっていたらしい。女子たちを眺めている恋人の名前を呼ぶと、彼はこちらに目を向けた。
「華やかだよなあ、おい」
無視して歩きだすと、まてよ、と啓の足音が追いかけてくる。
「あーあ、今年は誰かさんのせいでチョコ貰えねーわ」
「そりゃ悪かったな」
社交的な啓は男女問わず友人が多い。去年まではたくさんの義理チョコを貰っていたし、その中には本命もいくつか入っていたように思う。
今年はどうやら俺の断ってほしいという頼みを、ちゃんと守ってくれるつもりらしい。自然と上がる口角を誤魔化すため、コンビニによる、と告げた。
「なあ、お前が俺にチョコくれよ」
何を言い出すんだと問返すと、啓はにやにやしながら、チロルでいいからとレジの方を指差した。見ると、バレンタインに!と書かれた賑やかなポップとともに、チロルチョコが置かれている。
「買わねえよ」
「けち」
「財布が寒いんだわ」
「チロルがきついってどんだけだよ」
けらけらと笑う啓を横目に、俺は肉まんを購入した。金無いんじゃなかったのかよ!と啓が文句を言い出したので、半分やるから、と宥める。途端に静かになるので、まるで子供のようだと微笑ましく思った。
コンビニを出てから駐車場で、肉まんを半分にして渡してやると、啓は嬉しそうに受け取った。一口齧ってから、
「これ、バレンタイン?」
などと言うから、
「俺らっぽいだろ」
と俺も一口齧る。ありがと、と小さく述べたあと、肉まんに集中した啓を横目で見ながら、完全に渡すタイミングを逃したカバンの中のチョコレートをどうするかとひとりため息をついた。

46928-549 優等生弟×空回り兄:2014/02/23(日) 15:49:26 ID:ci25Vx5Y
「一彦、悪いんだけど、今日は嗣史の保育園の送り迎えお願い出来ないかしら?」

いつもの起床時間よりも早めに体を揺すられ、母さんに起こされたのは、体調が悪いという母さんからピンチヒッターを頼まれたからだった。

嗣史は、母さんと再婚した義父との間に出来た弟で、高校生の俺とは10歳以上離れている。嗣史の保育園は、俺の通う高校を少し過ぎたところにあるため、普段はパート前に母が保育園へと送る。義父は刑事で、事件があれば昼夜関係なく出ていってしまうので、基本的に母さんがどうしても迎えに間に合わない日などは、俺が迎えに行くこともあった。しかし、朝を頼まれるのは初めてだった。

「じゃあ、母さんの自転車借りるね。嗣の迎えも俺が行くから、今日はゆっくり休んで。パートも休ませてもらいなよ?」

今日は、母の代わりに兄として俺がしっかりしなければ!

放っておくと無理をする母さんに釘を刺し、自身の頬を叩いて気合いを入れ、登校の準備をする。いつもより手早く支度を整え、嗣史を起こし自分で準備をさせる。

「カズくんが起こしに来るなんて珍しいね」

カズくんとは、義父が俺のことをカズくんと呼ぶから、嗣史も自然と俺をそう呼ぶようになっていた。俺はニーチャンって呼ばれたいのに!

「今日は母さん風邪みたいだから、ニーチャンで我慢しろ」

ニーチャンを強調しながら言いながら、俺は台所へと向かう。朝食をと思いトーストを焼きながら、母さんの為にお粥を用意する。

「カズくん、なんかコゲくさいよ」

準備を整えて台所へとやって来た嗣史に指摘されて慌てて振り向くと、黒い範囲が広いトーストが出来上がっていた。
鼻づまりで臭いに気付かず、焦がしてしまったトーストを慌てて皿に移し、新たにパンを乗せて先ほどよりタイマーを縮めて調理をスタートさせる。その時、熱々のトーストで火傷しかけて保育園児に心配される情けない俺。

「嗣、ごめんな?新しいのできるから、もう少し待ってろ」

「カズくん、僕これでいいよ。カズくんもアツアツのパン食べたいでしょ?」

「でも、これ苦いぞ?」

「大丈夫!」

そう言って元気良く食器棚に向かい、バターナイフを取り出してガリガリと焦げ目を削り落としていく。我が弟ながら賢い。そして、弟に失敗をフォローされ情けなく思った。

47028-549 優等生弟×空回り兄:2014/02/23(日) 15:52:13 ID:ci25Vx5Y


朝食での失敗を挽回しようと、嗣史を保育園へ送るべく自転車の用意をする。しっかりと安全用にヘルメットを装着し、シートベルトを嵌める。

母さんの運転とは違う、高校生男子ならではのパワフルな走りを嗣史に見せて、兄の威厳を取り戻してやる!

と思い、ペダルを踏み出そうとした矢先、自転車はヨロヨロとバランスを崩して倒れかけた。慌てて足をついて嗣史を乗せた自転車を支える。いつもと重心の違う感覚に、上手く走り出せなかったのだ。

「カズくん、今日は早起きしたし、歩いて行こう?学校行く前にカズくんがケガしちゃうよ?」

自転車が倒れてしまえば、自分だって怪我をするのに、真っ先に俺のことを気遣う。

そんな弟を思わず抱きしめ、兄のプライドと意地を捨てて素直に嗣史に従い歩いて登校することを決める。こんな可愛い弟を怪我なんてさせられるものか!

そんなこんなで、嗣史の手を引きながら保育園までの道のりをお喋りしながら歩く。

「情けないな…」

「カズくん、どうしたの?カズくんもかぜ?」

落ち込んだ姿を見て、嗣史が心配そうに尋ねる。

「違うよ。ニーチャンはさ、嗣くらい小さいときって、カッコイイ兄ちゃんが欲しいなって思っててさ。嗣が生まれたとき、俺は嗣の自慢の兄ちゃんになるんだって決めたんだ。だけど、失敗ばっかだからさ、少し落ち込んでたんだ」

「どうして落ち込むの?カズくんは僕の自慢のおにいちゃんだよ」

「え?」

「カズくん、失敗は誰でもするんだよ?でもね、失敗は恥ずかしいことじゃないって、パパが言ってたんだ。カズくんの失敗した時はね、パパとママと、カズくん可愛いねーって言ってたんだよ」

義父、なんていい事を言うんだ。可愛いは聞き捨てならないけど。と、感動したのも束の間、嗣史から爆弾が投下される。

「それに、カズくんみたいに失敗の多い人は“どじっこ”で、可愛いどじっこは“おれのよめ”なんだよ」

「…は?」

「だからね、可愛いカズくんは僕が大きくなったら、およめさんにしてあげるね!」

と、無邪気な笑顔でプロポーズをされる。

「そ、それも、義父さんが言ってたの?」

返ってくる答えを聞くのは怖いが、恐る恐る訊ねてみる。

「違うよ。保育園のやよいせんせーだよ」

「そ、そうかー 」

はははと乾いた笑いを返しながら、この純真無垢な可愛い弟を、本当に保育園まで送り届けるべきか迷いながら、にこやかに歩く弟の手を引いて通学路を進むのであった。



とりあえず、成長すればそれこそ可愛い彼女でも出来るだろう。


そう思ってそのまま考えを正さなかったために、俺は10年後に後悔することになるのは、また別の話。

47128-639 美形で甘えたで淫乱で喘ぎすぎ、な攻。:2014/03/14(金) 17:07:49 ID:reivYb7U
「ぁ、あ…っ、…ショウちゃんの中、…気持ちイッ…」
熱い吐息とともに零れる甘い声。
白い肌を赤く上気させ、快感に蕩けた瞳が俺を見下ろす。
「ショウちゃんも、…気持ちイ…?」
「っ、…ああ、…俺も…気持ちイイよ…っ…」
頷いて返した言葉を裏づけるように己の内部を締めつける。
「ああっ、…そんなに締めたら、…俺、もう…っ…あ、あん、…イッちゃう、…イっちゃうよ、…ショウちゃんっっ…」
タクミはぎゅっとしがみついて夢中で腰を振り、すぐに身体を震わせて俺の中で果てた。
「…っ…はぁ〜、…気持ちヨカッタ〜」
クリームを舐めた猫のように満足げに目を細めるタクミだったが、つとその眉が寄せられた。
「ごめんね、ショウちゃん、また俺だけ先にイっちゃって…」
申し訳なさそうな表情に思わず口元が緩む。
――コイツって本当に可愛いよな。
 大丈夫だよと微笑んで、手を伸ばしてタクミの髪をくしゃりと撫でると、タクミの表情も綻んだ。
 腹の上に置かれたタクミの手を取り口元に運び、指先を口に含んだ。
 舌先でねっとりと舐めあげて、
「だって、またすぐ元気になってくれるんだろ?」
 視線を絡ませながら問いかけると、タクミの瞳にまた欲望の火がともる。
 普段は性欲などと無縁そうなこの綺麗な顔が俺に対する欲情に染め上がるのを見ると、いつもぞくぞくと興奮する。
「今度は、一緒にイこう」
 俺の中でタクミが元気を取り戻したのを感じながら、熱い吐息とともにそう告げた。

472拘束プレイ:2014/03/24(月) 16:49:36 ID:nso5cp1I
本スレの続きです。


そのまま尻を持ち上げて、ねっとりと舌を這わせた。無理な体勢だからか、先輩の足が小刻みに震えている。
しばらくたっぷりと穴を濡らしていたが、なんだかだんだんこっちが覚めてきた。
何だろう、何か違う。
違和感を振り払って、先輩に覆いかぶさる。
「それじゃ、いきますよ」
「私は構いませんが……本当にいいんですか?」
「……?」
何が言いたいんだろうか。僕は耳を先輩に寄せてみた。
「あなた萎えかけでしょう? 物足りなくて、何かが違う気がして」
図星だったが、動揺を出さないようにして聞き続ける。
「なめている間、こう思っていたでしょう。『これが自分のだったら、気持ちいだろうな』って」
「っ!」
「私もほら、こんなはしたない恰好です。あなたも乱れたところで、五十歩百歩。やってしまえばいい」
「やる、って……」
不意に、先輩が首を動かした。顔の横に置いてあった僕の手に舌を伸ばし、指をかするように舐める。
「そう、指をたっぷり濡らして、ほら、好きなようにいじればいいんです」
手を先輩の方に動かすと、先輩はねっとりと僕の指をなめてくれた。そのしぐさがいやらしくて、僕はゾクゾクした。
唾液まみれの指を後ろに持っていく。意外とあっさり、指は僕の中に滑り込んだ。
「あっ」
初めて感じる感触に、つい夢中になっていじり始めた。
「ところで、どうして私を犯すのがあなたにとって物足りないか知りたいですか?」
微笑みながら僕を見ていた先輩が、不意に話しかけてきた。
「……?」
「下を見てごらんなさい」
視線を落とすと、放置していたにも関わらず萎えていない先輩のモノが見えた。
「今、この状況でそれを見て、『これが自分を犯していたら』と考えたでしょう? それなんですよ」
「っ! ち、違う!」
「ねじ込まれて、何度も出し入れされて、中に出されて、目の前が真っ白になって」
先輩の静かな、それでいて鋭い言葉が胸に突き刺さる。
「快感でぐちゃぐちゃになって、体も心も私に支配されて、気持ちよくてたまらなくて」
「ち、がう……ちがう……」
「ここまで言われても、私の性器から一度も目を離しませんでしたね。いいんですよ、それで」
「ちがう……これは……」
「それは欲情です。もうあなたは、私に抱かれないと満足できない。そう仕込んだのだから、もう逆らえない」
もう先輩の体をおさえることもできず、足の間に座っているだけになってしまった。
「さあ、ほら、腰を上げて」
先輩が片足を曲げ、促すように軽く僕の体に触れた。思わず膝立ちになってしまう。真下に熱を感じて、僕の体も熱くなった。
「そう、そうしたら、位置を合わせて腰を下ろしてください」
まるで操られているかのように、僕の手がそっと先輩のモノにあてがわれた。そのまま、少しずつ腰を下ろしていく。
どうしていいか分からず、先輩を見る。先輩は、いつものような優しい笑みを浮かべていた。
「怖がらなくていい。あなたは私のものなのだから、私に従うのは当然です」
一貫して変わらない、冷静な声。強制などされていないのに、逆らえない。
「さあ。入ってしまえば、後はもう自由ですよ」
ひたり、と入口に先端がついた。くい、と先輩のあごがかすかに動いたのに合わせて、腰を一気に下ろす。
「ぁあああああっ!」
脳天まで貫かれるような衝撃と、痛みと快感。体が動くのを留められない。
「たまにはこういうのも面白いですね。ほら、もっと激しく」
先輩は一切手出ししていないのにもかかわらず、いつもと同じ、あるいはそれ以上に激しく体が揺さぶられる。
もう自分がどうなっているかも分からず、ただひたすら体のおもむくままに快感を味わっていた。

47328-699 卒業する先輩×入学してくる後輩 1/2:2014/03/27(木) 14:49:12 ID:2OFVafhI
僕の荷物はまだ届いてないようで、まずは一つクリアと胸をなで下ろした。
この春から大学に入る僕の初めての独り暮らし。引っ越し荷物を積んだトラックよりも早くついて待っておくのだと親に言い含められていた。
新生活の舞台となるアパートは古くて狭い学生用の安い物件。実家が遠方の僕は電話とネットだけでここを決めたから、僕の部屋である二〇四号室を見るのは初めてだ。
期待とともに階段をあがると、なぜかドアは開け放たれていて、覗き込むと雑然とした荷造り、場所をずらした家具、バタバタと動き回る知らない人。
聞いてない、前の住民がまだいるなんて。これ、引っ越し途中ってことじゃないか!
部屋の表示を見直すとやっぱり二〇四号。どうしたらいいのかわからず立ちつくしていると、中から背の高い眼鏡の男がゴミ袋片手に顔を出した。
余裕なく、
「ごめん、新しい人でしょ、ごめんごめん、あの、すぐこっちのトラック来るはずだから。聞いてたんだけど、ちょっと遅くなっちゃって、ごめんね、ちゃんと間に合わせるから。それまでどっかで待っててくれると助かる……」
まくしたてながらたたきに置いたゴミ袋がひっくりかえって中身が落ちる。それをあわてて拾いながら、
「あ、ああ、えっと、君、何時だっけ」
トラック到着は今から二時間後の予定だった。
「うん、大丈夫、僕のほうは荷物これだけだから、えっと、新入生だよね」
「はい」
「どこ行ったらいいかなんてまだわかんないよね。そこの道、ちょっと行ったところに『かおり』っていう喫茶店があるけど、そことかどう?」
「はぁ……」
喫茶店なんか一人で入ったことがない。そういう提案をするというだけで、この頼りなそうな人が急に大人に見えた。ためらってると、僕のとまどいがわかったみたいで、
「ああ……それもちょっとか」
ふっと笑われた。全然馬鹿にしたふうじゃないその表情が急にすごく先輩らしくて、なんだか優しい人だなと思う。大学生の先輩後輩ってこんな感じなのか。
「んー、そうだなぁ」
優しそうな人は考え込んだ。
「もしよかったら、空いたところに座ってる? ここ、もう君の部屋なんだし」
ちょっとほこりっぽいけど、よければ、と僕を差し招く。
「ワンルームでバタバタやってるんじゃ落ち着かないと思うけど。君、ゲームとか本とか、なんか暇つぶししててよ、荷物出して掃除して、すぐだから。ほんと、悪いねぇ」
言ってる間にちょうどトラックのバック音が階下にひびく。おそらくこの人のほうの業者が到着したんだ。
「ああ、来た来た、じゃ、待っててね」

47428-699 卒業する先輩×入学してくる後輩 2/3 分割間違えました:2014/03/27(木) 14:54:36 ID:g4hhbxaU
「……悪いね、本当にありがとう。君がいてくれて助かったよ」
「そんな、僕こそ、ありがとうございました」
僕のものが運び込まれた二〇四号室は、今は完全に僕の部屋だった。そこで、一緒にコンビニで買った弁当を食べている前の住人であるこの人と僕。
この人が自分の荷物を運び出している間に、一時間早く僕のトラックがやってきた。そこでトラブル発生、料金は親が先に支払っていたはずなのにまだもらってないなどと言い出す運送屋のこわいおじさん。何も言えない僕。
『ああ、すみません、お待たせしてます……あれ、どうしたの』
ひと言入れに来ただけのこの人が、泣きそうな僕に気づいて口を挟んでくれた。
『行き違いみたいですから、もう一回会社とこの子の親御さんに確認しましょう。ね、君、大丈夫だから』
自分の引っ越しそっちのけで不満顔の業者相手にてきぱきと指示を出して、会社のミスだったのを見つけてくれたのだ。
中断していたこの人の荷出しを僕は手伝った。そしたら僕の荷入れを今度はこの人が手伝ってくれて、おまけに両方の業者に『遅くなったから』と飲み物まで用意してくれて、全部終わった今、僕にまでお弁当なんかおごってくれて。もうお世話になりっぱなしで顔もあげられないけど、
(なんか、本当にいい人だな、最初に思ったとおり)
激動の初日に僕はぼうっとしてしまって、なすがままに甘えてしまっている。
「しかし懐かしいな、一年生か。いいよ、大学生って。四年間なんでもできるし、一生の友達や目標が見つかったり、人生が決まったりね。僕は六年間もやっちゃって今年やっと卒業だけどね。とうとうこの学生アパートともさよならかと思うと感無量だな」
六年って留年? 真面目そうなのに意外な気がする。
「先輩……なんですね、もう卒業なんですね」
せっかくこの町ではじめて知り合った人だというのに、これっきり。
「卒論が長引いてね、こんな遅い時期まで居座っちゃった。君は頑張るんだぞ、提出物はしっかり期限を守ること。ああ、学部はどこ?」
「理学部です」
「あら、僕の後輩だな……さて、ごちそうさま。今日は本当にありがとう」
ゴミをまとめて立ち上がった。僕は名残惜しくて、でもどうしたらいいのかよくわからない。
「あの、僕知り合いもまだ全然いなくて、大学のことも全然わからなくて、先輩が初めての知り合いなんです、もしよかったら」
勇気をふりしぼったら、やんわりと、
「僕は去りゆく身だからねぇ。まあ、いいんじゃないかな、僕は」
これは拒絶なんだろうか。
「君はすぐ入学式で、そしたら友達もできるし、サークルにもし入ったら先輩なんかいやというぐらいできる。アルバイトとか、彼女とか、もちろん勉強もね、毎日忙しくて大変になるよ」
僕は今、釘をさされてる。この人をなんていい人なんだろうって思ってるのを、気の迷いなんだよって言われてる。
僕がもっと大人だったら察することもできたんだろう。きっと彼はこう言いたかったに違いない、今、彼に感じている親しさは、新しい環境に不安を感じている子供の勘違いだと。これから出会うたくさんの人の中で、決して特別な出会いじゃないってこと。──ひょっとしたら、たった一回のことで懐かれるめんどくささもあったかもしれない。
「でも、あの、じゃあちょっとの間でいいんです、電話が無理ならメールだけでも、先輩。入学式までの間は僕ひとりなんで、いろいろ教えてください」
実際のところ、僕は子供だった。あきれかえるほどの図々しさ。その時は必死で気づきもしなかった。
彼は苦笑したんだと思う。仕方ないなぁ、いいのかなぁ、いやよくないなぁ、と首の後ろを撫でる。
「今だけだよ、心細いのは。……うん、まあね、その気持ちはわかるんだけど」
まるで親が見守るような優しい目で見られて、年齢とか、経験のへだたりを強く思わされた。僕が十八才ならこの人は……いくつだろう、少なくとも六は年上。
「今からいくらでも素敵な出会いがあるから、大丈夫」
本当に? 大学ってそうなのか? こんなにも執着したくなるような出会いが、そんなにも数多くある場なのか?
長い指がひらひらと別れを告げる。
「僕のことなんかすぐどうでもよくなるよ」

47528-699 卒業する先輩×入学してくる後輩 3/3:2014/03/27(木) 14:55:50 ID:g4hhbxaU
後からわかった。この時すでに恋に落ちていた。強烈な一目惚れ。
相手が同性ということもあって初恋に気づくまでに長い時間がかかって、ようやく慌てたときには僕には何の手段もなかった。あの人の言うとおりたくさんの友人も先輩も知り合いもできたけど、毎日苦しくて、切なくて。
なんだ、やっぱり特別だったんじゃないか。
歯噛みする思いでもっと食い下がらなかった自分を悔いて、結局なにも教えてくれなかった人を恨んだ。
「……だって、なんか君輝いてたんだもん、目がキラキラしててね、僕のことまっすぐ見てね、もう学生でもない僕じゃ友達としても不相応だと思ってねぇ……まあ僕も、先生になるんだ、学生じゃないんだってちょっと気負ってたんだろうね」
僕が三年生になったある日、教育学部になんかに所属してたこの人を見つけたときの驚き。
生物関連の研究室で助手兼論文執筆していた彼を、名前も教えられなかった僕は二年あまりも見つけることができなかったんだった。引っ越しも、学生専用アパートを出ただけで同じ市内だったというのに、それも全然わからなかった。六年間といえば修士の年数じゃないか。
いろいろあきれかえった僕に、それでもまだ若さゆえの馬鹿馬鹿しい情熱が残ってたことに感謝してほしい。
僕が輝いてたって?それってあなたからも好意を感じてくれてたって事じゃないのか。
「俺、最初から運命の出会いだって思ってましたから、先輩」
「ごめんごめん、そうだね……本当にそうだったね」
勝手知ったる元の部屋に今では入り浸りの先輩が笑った。
僕はもう子供じゃないし、先輩も今では全然大人に見えない。

47628-779 失恋してアル中一歩手前なあいつに片思い:2014/04/13(日) 15:59:51 ID:JymAhSoY
彼が振られたことはフロアの人間全員が知っている。
たぶん、次の異動では彼と彼女の両方がここから姿を消すことになるのだろう。
「あれ、何とかした方がいいんじゃないですか、島野係長、うちは接客もある社なんですし」
今日も言われてしまった。お節介な女性社員のみならず、今回は総務課の、普段はうるさいことなど言わない人からの指摘。
彼はそんなに目立ってるのか、と認識し直す。僕が気になるだけじゃない、客観的に見てひどいのだと。
彼は僕の部下だから僕には管理責任がある。
だから僕には彼を叱咤し、立ち直らせる義務がある。
大丈夫、おかしくない。僕は自分に言い聞かせて席を立つ。
「稲田君、ちょっと」
「あ、はい」
呼び出して使われていない小会議室へ。
途中でコーヒーを買ってやったのは、目を覚ます意味ももちろんあったが、なによりこの漂う匂いをごまかしてやるためだった。
「すみません」
大きな体を椅子の上で曲げ、しおらしくカップに両手を温める姿がいじらしい。
慌てて気をそらす。僕はあくまで上司なんだと自分に言い聞かせる。
「何言われるか、わかってるよな」
僕の言葉に彼は「すいません」と小さく答えた。
座るとますます視線の高さが違い、僕は彼を、下から覗き込むようにしないといけない。
「まさか、朝も飲んでるんじゃないよな」
「いえ、さすがにそれは。ただ、眠れないんで」
つまり朝方までやってるってことなのだろう。
内心、同情する。つまりそれぐらいひどい振られ方だった。
結婚を前提につきあっていたはずが、降ってわいた別れ話。彼女の腹には愛の結晶、別の男の。
よくある話かもしれないが、隣り合った係同士のカップルじゃ最悪だ。
おかげでこいつ、こんなに壊れてしまった。
人一倍大きな体のくせに気が優しくて、仕事が丁寧と評価されていた。
誰とでも上手くやれる方だったが、僕とは特に気があった、というのはうぬぼれじゃないだろうと思う。
一緒に飲みに行くのが週末の習慣だったのに、いつしか奴が彼女のことしか話さなくなって、程なくつきあい始めたという報告。
あの時、あんなに祝福してやったじゃないか。
こんなことになるなら……わかってれば俺が。わき上がる妄念を、頭を振って払い飛ばす。
「酒で眠ろうってのが間違いなんだよ」
「わかってるんですが」
「もう一切買わないようにしろ。翌日匂うまで飲むなんて非常識だ。食事、睡眠、きちんととれ。シャツにアイロンかけて、ネクタイも毎日替えろ。身だしなみぐらいちゃんとしてくれ、常識だろう」
「はい……」
どのくらいの厳しさで言えばいいのか、全然判断がつかない。
本当は、大丈夫なのかって寄り添いたい。しっかりしろよって胸ぐらつかみたい。
彼女のどこがいいんだよって。さっさと忘れて元のお前に戻れって。
それで、また飲みに行こうって。
「仕事の方はしばらく軽くするから。今やってる件、俺にまわして」
「いえ、そんな、それはちゃんとします」
「できないから言ってるんだよ、人に言われる前に自分で気づけ」
はっと顔を上げるから目があった。充血して憔悴しきった憐れな男の目。
僕の方が背が低いから、このまま抱きとめたらたぶん、僕のあごが上がってしがみつくみたいなみっともない恰好になる。
この馬鹿をまるごと包み込んでやりたいという望みは、どちらにしろ叶えられない。
唇を噛むから、投げつけるように言ってやる。
「悔しいか。悔しいならさっさと立ち直れ。みんな迷惑してるんだよ」
もし僕が彼を思っていないのなら、もっと優しく慰めてやれたはず。

47728-779 失恋してアル中一歩手前なあいつに片思い:2014/04/13(日) 23:17:42 ID:iEEOcog.
「本当、愛とか恋とかクソだよな。
 一見きれいそうに見えても、気の迷いとかで長年積み重ねてきたものも一瞬でふいになる」
「そうだな」
「その点、友情っていいよなあ。人生最後に残るのはこれなんだって今回痛感したよ」
「そうだな。……なあ」
「んー?」
「もう酒、やめないか」
「無理だね。これ以上の気晴らしがあったら教えてほしいもんだ」

もう半年ほど前のことだ。
往生際悪くかわし続けていた結婚を考えてる人に一度会ってみてくれという誘いを、
諦めをつけるために承諾し、同居しているという部屋のドアを開けたときに見たものは、
荒らされた室内と『ごめんなさい、真実の愛を見つけました』という書置きだった。
その後荒れ狂っていたこいつが見つけた逃げ道が酒だった。
これでこいつの気持ちが安らぐなら、と毎日の酒盛りにつきあっていたが、
だけど、だんだんと日を追うにつれ酔った時の目が据わってくるようになった。
話の内容も愚痴と思い出だったのが、女性や恋愛をこきおろすものになった。
そのくせ、やたらと友情を持ち上げるものだから、俺は試されてるような気になってたまらない。
本当にまいってるこいつを見るのがつらくて、思い出すから家に帰りたくないというこいつを泊めて、
新しい引っ越し先も探して、心配だから毎日様子を見に行って、
それでも、どこかあわよくばという気持ちが残ってる自分が、俺はたまらなく嫌いだった。

「でもなあ、このままだと心も体もぶっこわすぞ。」
瞬間、だん、とテーブルが強く叩かれた。
驚いて奴を見る。顔が赤いのは酒のせいだけじゃなくて、
あの日俺に向けたような、子供のように泣きだしそうな表情をしていた。
「しょうがないだろ。寝れないんだよ。
 もう俺はいやだ。正気に戻ったらどうせまた思い出して泣いて吐いてを繰り返すんだ。
 親友なら、黙ってくれるのが筋ってもんだろ。……頼む」
弱り切った声に、理性が切れた。
もうどうしようもない。お前も、俺も限界なんだ。
「……だったらさあ、新しい気晴らし教えてやるよ」
限界なんだ。限界なんだ。限界なんだ。嫌だ、誰か俺を止めてくれ。
「愛だの恋だのじゃなきゃいいんだろ?安心しろよ。ただの気晴らしだから」
俺は、一度傷ついたこいつを、また傷つけようとしている。

47828-739 全部嘘 1/3:2014/04/15(火) 18:31:00 ID:UGBJCrBc
 先生がこの家を私に残した、というのは、行き場のない僕をあわれんでくださったんでしょうな。
 先生は、とうとう血のつながるお身内のないままに終わってしまいましたから、こんな、継ぐものもいない、辺鄙な場所で買い手もつかない古家など惜しまなかったのでしょう。ほかに行きどころのない僕にとっては実にありがたいことでしたが、まあ先生にとっては処分の手間が省けて、僕に恩も着せられる、一石二鳥の策といったところだったのではないかと思うのです。
 ですから僕はこうして、先生なきあともせっせとこうして最低限の手をいれている。最低限の義理立てですな。
 綺麗ですか。へぇ、行き届いてますか。
 まあまあ、ありがとう存じます。
 先生が聞いたら笑いなさるでしょうな。あの方、自分では縦のものを横にもしない人でしたが、僕にはたいそう小うるさくものを言いましたから。今もほら、あの松の摘み方が多いの少ないのと、声が聞こえるようです。

 先生の書いたものは読みません。
 いえ、書いたのは僕とあなたおっしゃいたいのでしょうが、あれは言われるままに書くだけで中身なぞこれっぽっちも頭に入りません。
 まあ頭が悪いんでしょうな。もともと弟子でも書生でもない、ただの飯炊き、使い雇いです。
 先生の奥様が入られる前から、僕は本当なら通いの仕事を、無理を言ってここの家の離れに住まわしてもらってましたから。扱いが軽いのです。
 親の顔も覚えてないような育ちです。尋常小学校も何日とも行ってない。
 ですから先生は僕を遠慮なくこき使いなさった。
 あれも無茶な人でしてな、平仮名しか書けないような僕に聞き書きをさせるというから驚いた。使えぬ使えぬといいながらまあ、辛抱強く言い聞かせられました。わからぬ漢字は紙に書いて見せて。本末転倒ですな。
 お陰で僕には勉強になりました。いっぱしの口も聞けるようになった。変わった方でした、時間ばかりかかるようなやり方をして、ずいぶん版元様にはお叱りを受けたようです。
 見かねて奥様が代わってくださいましたけど、奥様が菩提に入られてからは僕が、ええ、やっぱり叱られながら書きました。
 そういうのですから、先生のお作の部分部分は、あんまり出来が良くないんじゃないですか。
 はあ、そんなのがあるんですか、はは、それは確かに奥様がいらっしゃらなかった頃のものですな。からかいなさっちゃいけません。僕じゃなく先生が偉いんでしょう。

47928-739 全部嘘 2/3:2014/04/15(火) 18:32:13 ID:UGBJCrBc
 奥様は実にお優しい方でした。綺麗で、よく気のつく方で、ころころと笑う声がお可愛らしくて。
 先生が僕にいろいろと言いつけるものだから、気の毒がってくださいまして。
 先生にはトンジャクありませんでしたが、僕に所帯をもたせようと世話してくださったり。
 いつまでも納屋住みじゃあってんで長屋を探してくださったり。
 それがあなた、決まりかけると先生が邪魔をする。別に見つけた代わりの飯炊きに難癖つけたり、僕に四つ目垣を作らせるようなやっかいな庭仕事を言いつけて宿替えを日延べさせたり。あげくに先方に勝手に断りをいれちゃってね、文士様の考えることはわかりません。そんなこんなで僕はずっとこの家の小屋住みです。しょうかたなしにお仕えして、とうとうこんだけの日数が経ったような次第でございますよ。まあそうですな、奥様がいらっしゃらなくなった後は僕一人が先生のお側におりました。
 奥様が亡くなったのはいつの年でしたかね。あの大風のひどかった年じゃなかったですかな。あんなに早くに儚くおなりで、あの時分の先生のお嘆きは昨日のことのように思い出されます。
 佳人薄命とはよくいったものです。お子さまも授からなかったから、先生はそれからずっとおひとりでここの家から一歩も出ませんでした。
 僕ですか。僕はもちろんこちらの離れで寝起きしてました。それゃあなた変わりませんよ、奥様がいなくなったからって使用人の分というものはわきまえおりました。あちらが先生の家、こちらが僕の領分。同じ屋根に寝起きすれば僕の仕事は楽でしょうが……それじゃ申し訳ない。
 先生の家を掃除して飯を炊いて、魔術の呪文のように先生の口から湧いて出る御本の中身を紙に写し取って、茶を汲んで、夜になったら床をのべる。判で押したような生活が長く続きました。何が楽しいんだか、僕なんか話し相手にもなりゃしないのに、顔を合わせるほかの者もない中で、毎日毎日。
 いやあ、知りません。通う女も囲う女もいたんだかいないんだか。奥様がいらっしゃらなきゃなんにも悪いことじゃなかったでしょうが、あの方、朴念人でいらっしゃったから。なんにも考えずに好きなもんを好きだ好きだと、善悪の区別もつけずに玩具にするような、人の気持ちのよくおわかりにならないようなところがおありでしたな。
 ……おいでになったのかもしれません、奥様がご存命の頃から。であれば奥様はさぞやご苦労を、なさったことでしょうな、お気づきであれば。
 先生を悪く言うつもりはありません。僕は気づきませんでした。なんにもわかりません。
 ここにいると母屋の気配はわかりませんから。
 あちらからもわからない。ここで何があっても聴こえない。大声で呼ばれることなんかないもんだから、それで良かったのです。用がある時分には出向くのです。先生から用があるときは……いや、そんなものはありゃしませんでした。

48028-739 全部嘘 3/3:2014/04/15(火) 18:34:39 ID:UGBJCrBc
 あなたは……ずいぶん酔狂でいらっしゃいますな。もっとと言われましても、僕のようなもんの話がなんの役に立ちますか。
 先生の御本の記念にこの家屋敷を残す、それは結構なお話だと思います。ありがたいことです。今さら行くところもない僕ですから、ここの手入れをさせてもらってそのまま死んでいいというお話は本当にありがたい。名義ですか? そんなもの、ここは先生のうちですから、先生がどうなさったか知りませんが、難しいことはとんとわかりません。まあ私になってるから、そうですね、皆様しかたなくそうしてくださるのでしょう。せいぜい早くくたばって言いようにしてもらう方がよろしいようです。
 でもそうですね、そうまで仰っていただけるなら、ひとつだけお願いを申し上げてもよろしいですか。図々しい爺の勝手なお願いです。でも、ぜひとも聞いてもらいたい。

 母屋はどうぞ残してください。あれは先生が長じて五十年、ずっとお住まいになった大事な家なのです。先生のものはみんな、なにひとつ捨てずに残してあります。そういうのが御研究にのお役に立つのでしょう? 僕には先生の本はさっぱりわかりゃしませんし、賢い頭から出た考えからというわけでもありませんでしたが、まあとにかくあちらは先生が御本を書いてたときのままにしてあります。奥様の鏡台も箪笥もそのまんまだ、手なんかつけません。どうかなんでもご覧になってください。先生のものは全部あそこに揃ってる。そうしないとね、怒られる気がするってだけです、僕も気が小さいものだから。
 ですけどね、僕が死んだら、こっちの汚い納屋なんぞは取り壊してください。お目汚しですから。こっちはね、同じ年数だけこの僕が住み散らかしたってだけの小屋です。物置として置いておいた物は今は全部母屋に移しました。全部奥様のもとへお返ししました。大したものは最初っからありませんでしたしな。ここにあるのは今はもうこの爺のがらくたばかり。
 ねぇ、お手数お掛けしますが、こればかりはてめえで始末つけるわけにゃいかない。火をつけるにも母屋まで焼けちゃ、ことだ。今日あなたが来てくださったのは何かのご縁だと、そう思っていただけませんか。どうか、頼まれてやってください。
 先生はこの納屋と関係ないのです。こんなむさ苦しいところに来るようなことは一度もありませんでした。ええ、先生は一度も来ませんでした。そりゃ中を覗いたことぐらいはあったかもしれませんけど、ですからね、ここは無価値です。先生にはなんにも関係ありゃしません。どうぞ遠慮なく御処分ください。先生のことは、ここにはなにもないのです。
 見苦しい。こんなものが残るのは。
 僕は死んでから恥など晒したくはないんです。先生の飯炊きというだけの僕です、先生とは関係ない、何も。

 ──長くお話ししましたな。
 くれぐれもお願いしますよ。
 どうか、また御用の際はいつでもお声掛け下さい。暇な爺です。毎日掃除だけして生かさせていただく老いぼれの身です。
 先生もまったく酔狂なことでした。僕なんぞのために。こんな爺のために。
 僕なぞはね、どうしようもないものですよ。無駄飯ぐらいの大嘘つきですよ。ええ……ああ、僕は今嘘つきといいましたか。いえいえ、あなたに話したはなしは本当、全部本当ですとも。
 あなた、ご研究で先生のこと聞いて歩いてるわけでしょう、もし僕が嘘を言ってたらどうしようと、そういう顔ですかな。ははあ。
 ご安心なさい、僕の話は本当です、それが証拠に、先生のお作となんも違うことは言ってない。随筆もずいぶんありましたから、おわかりでしょう? ね、僕は先生の雑文だってちゃあんと覚えてますからね。大丈夫です、天地天明、神誓って本当のことですとも。
 ああ、嘘つきは地獄へ堕ちます。僕は極楽で先生と奥様に二目お目見えするのを楽しみにしているんですから。あの、お優しい奥様と仲むつまじい先生のお姿をもう一度みたい見たいと思って、お迎えを待ってる爺でございますよ。嘘など……

 ねえ、あなた、僕が言うのが全部嘘なら、僕は地獄へ下ってえんま様に舌を抜かれるのです。
 実に、実に申し訳もないことでした。

48128-809「木×葉っぱ」:2014/04/21(月) 03:50:52 ID:ku6uuzFo
おしべ、というのはみじめなものだと思う。
どんなに素晴らしい種を持っていても、実になれるのはめしべだけだ。
自分の種を受けた相手が実になっていく横で、寂しく枯れていかなければならない。
体が黄色くかさかさになり、落ちるのを一人待つだけ。
土に落ちれば、あとは腐るだけだ。

「・・・それでは」

だから俺は喜ぶべきなのかもしれない。自分が葉であったことを。

「ああ、じゃあな」

木に栄養を与えた後は、用済みになって落とされる。
葉もおしべも、用済みになれば木にとっては同じだ。
一生で幾度も出会うもののたった一つに過ぎない。
それでもまだ。
俺は足元に落ちたあいつとは違う。風に乗って、遠く離れていけるのだ。
木のように、次々と新たな命を生み出すあの人から。
この箱庭のような王宮から。

48228-829「追伸 好きでした」:2014/04/25(金) 01:08:38 ID:mKs/WkfE
「前略 お元気ですか」

そんな一文から始まる手紙が俺に届いたのはGWを目前に控えた週末のこと。
細いペン字は書いた人間通りに角ばって、ちょっと左上がりの癖がある。
2年ぶりに見る字は相変わらず綺麗だ。

「君はどう過ごしていますか。堕落などしていませんか。
僕が居なくても大丈夫と言ったのは君のほうですが、以来何の連絡もしなかった僕は少々意地が悪いのではないかと最近思うようになりました。
元気でなくとも良いのです。君が君であれば良いと思っています。」

薄墨で引いたような色の文字に、同じく淡々とした文章が続く。
大学進学を機に離れた幼馴染は相も変わらず年相応のことを言いはしない。
きっと俺と違って変わりもせず、変わりものでいるのだろう。
ぼんやりとだけ思い出せる、メタルフレームの似合うあいつの横顔を思い出しながら便箋を捲る。

「先日、君が好きだと言っていた曲を聴きました。
失恋した者は南をめざし光を得ろ、と歌う曲に倣って君は南の大学へ進んだのではないかと疑っています。
卒業の半年前にふらりと一週間放浪した君を、その表情を、僕は憶えています。
僕が好きな本を君に話したことがありますね。
憶えていずとも結構です。ただ僕はその本を胸に北へ行く決意をしました。
北へ向かうことに何の意味があったのか、僕は未だ知れずにいます。
君は南で光を見付けましたか。」

それだけで手紙は終わった。
北の国立大へ余裕で合格したあいつが言うことは、今日も小難しい。
ギリギリで南の私立大に引っかかった程度の俺には訳が分からない。
あいつの字はあいつと同じで細くて、俺のごつごつした指よりも小さい。
俺が絶望した一週間は、あいつへの恋心で始まって、それを断つことで終わった。
本が好きだったあいつはいつも何か文庫本を持っていた。
題名を聞いたこともあったけれど、俺はそれを覚えていることはできなくて、けれどそんな俺を責めない言葉に救われる。
本当は救ってほしいんじゃなくて、愛してほしい。
俺の光は北に行ったのだと、告げれたなら幸せになれるんだろうか。
そもそも、この手紙は一体なんなのか。
あいつのことだから、大した意味など無いと眼鏡の奥の瞳を細めて笑うだけなのか。

手紙を畳んで仕舞おうと、封筒を開いたとき、それは目に入った。
内側に常より薄く細い文字が7つ、几帳面なあいつにしては珍しくずれて記されている。
手が止まり、心臓が止まったかと思ったくらいの時間。
光は遠ざかる、時間は進む、俺は立ち止まったまま、あいつに恋をしたまま。
踏み出すための一歩も、友達に戻る一歩も、果てもないほど遠い。
遠い遠い恋の決断を、一秒後に俺は下す。

48328-859 幼馴染と再会:2014/05/03(土) 11:11:24 ID:Yj9zrL5o
規制で書けなかったよ…NL要素及び女性出演含み注意


俺の初恋は幼稚園。隣に住む幼馴染相手だった。
日焼けした肌にロングヘアーが似合う綾子。毎日一緒に駆け回り、そして怪我をしては互いの親に雷を落とされていた。あの頃一緒にいたかったあの思いはきっと初恋だ。
そんな俺たちを慰めるのは4歳上の綾子の兄ちゃん。
ほんっとの兄ちゃんみたいで俺は懐いて憧れていた。話も合うし優しいし、綾子と違っておとなしい慶太にい。大人の慶太にい。

俺が小学3年生の時、綾子と慶太にいは引っ越した。慶太にいの病気の関係と知ったのは俺が中学になったときだった。

「もう数也も20歳か!!!はえー、そりゃあ僕もおっさんになるわ!」
「兄貴うっせー!」
「あーや、声でかい」

俺の所属するサークルが他大学のサークルとイベント企画をした時、綾子と再会した。だって何もカズ変わってねえもんwwwと爆笑されたことは記憶に新しい。

「つーか、開口一番が、慶太にい元気?って笑ったわー」
「数也は僕のこと大好きだもんなー!」
「あー煩い!こんな酒飲みに心配して損したよ、マジで」

大事をとった引っ越しだったらしく、慶太にいは直ぐに完治して、今は細マッチョ?ってのかな。相変わらずかっこいい。

「にしても、数也と酒を飲めて僕は嬉しい!!!」

あの頃は2人のお世話楽しかったなあ!と慶太にいは俺を抱き締めながら笑う。ああ、慶太にいの思い出に俺も残ってたと思うと顔がにやける。

「…カズ重症すぎ」
「は?」
「完治してるかと思ってたのに…」
「ん?完治は慶太にいだろ?」
「無意識うぜー。あの頃叱られる機会わざわざ増やしたことも記憶に残ってないよねー」
「あーや、何言ってんの?」
「だめだこいつはやくなんとかしないと。あ、こいつら、か。うん」

よく分からない言葉を吐く綾子を横目に、慶太にいの酒をつぐ。離れて約10年。再会した幼馴染たちと新たな時間を過ごせると思うと、やっぱりにやけが止まらなかった。

484名無しさん:2014/05/03(土) 11:42:00 ID:36u8p5U6
本スレ続き

・攻めは諦めない
受けはクラスメイトとは話さず
攻めが毎日話しかけるが無視される
下校時も一緒に帰 ・和解
次の日攻めは落ちて受けに助けてもらった階段の一番上で受けを待ちぶせ
受けがやってきて攻めに気付くが無視したまま階段を登る
攻めがわざと飛び降り驚くも受けがキャッチ
何してる?!と怒る受け
「話してくれるまでここから毎日落ち続けてお前に助けてもらう。そんなことしてほしくなければまた僕と仲良くしよう」と言う攻め
よくわからない理論に馬鹿じゃないの?と苦笑する受け
攻めが「お前笑うと可愛いよ」と言うと不貞腐れたように照れて下を向く受け
その顔にときめく攻め
小さい頃も受けの笑顔にドキッとしたなと思い出す
受けは観念したのかその階段で二人は夜遅くまで昔話をする

別れ際受けが「なんで普通じゃない化け物みたいな俺とまた仲良くなろうと思ったんだ?」と聞くと攻めは「可愛い笑顔に惚れちゃったのかもな!」と言うと走って逃げ去る
振り向くと受けが「ふざけるな馬鹿!」と赤くなりながら叫んでいた 撒かれる

・秘密がバレる
攻めは下校時いつも撒かれるがたまたま受けを見つけ追いかけて話しかける
受けは無視して歩き続けるが長く急な階段に差し掛かった時
受けの数段下にいた攻めが足を滑らせ落下
受けが人とは思えぬ速さで走り下り攻めをキャッチ
攻めは凄い運動能力に感動するが
受けは秘密がバレたと苦い顔をしもう話しかけないでくれと言う

・転機
翌日も攻めは受けに話しかける
受けは放課後人気のない所に攻めを呼び出す
「昨日で気付いたと思うが俺は普通じゃない。
昔みたいに怪我をしたくなかったら二度と関わろうとするな。
昨日の事は誰にも言わないでくれると助かる」
と言って去ろうとする受け
しかし攻めが
「お前と友達になるまで話しかけ続けるよ。
お前は昨日僕を助けてくれたじゃないか。
あの時のお前すごくカッコよかった」
と言うと呆気に取られるが少し赤面する受け
受けは恥ずかしくなりその場を走って立ち去る

485名無しさん:2014/05/03(土) 11:51:41 ID:36u8p5U6
・和解
次の日攻めは落ちて受けに助けてもらった階段の一番上で受けを待ちぶせ
受けがやってきて攻めに気付くが無視したまま階段を登る
攻めがわざと飛び降り驚くも受けがキャッチ
何してる?!と怒る受け
「話してくれるまでここから毎日落ち続けてお前に助けてもらう。そんなことしてほしくなければまた僕と仲良くしよう」と言う攻め
よくわからない理論に馬鹿じゃないの?と苦笑する受け
攻めが「お前笑うと可愛いよ」と言うと不貞腐れたように照れて下を向く受け
その顔にときめく攻め
小さい頃も受けの笑顔にドキッとしたなと思い出す
受けは観念したのかその階段で二人は夜遅くまで昔話をする

別れ際受けが「なんで普通じゃない化け物みたいな俺とまた仲良くなろうと思ったんだ?」と聞くと攻めは「可愛い笑顔に惚れちゃったのかもな!」と言うと走って逃げ去る
振り向くと受けが「ふざけるな馬鹿!」と叫んだ

48628-869 夜の図書館:2014/05/05(月) 00:41:00 ID:TS4WBc1g
投下が上手くいかず、ニンジャ規制になりましたorz



図書館はいつも隠微な匂いで満ちている。
紙とインクの匂い。埃の積もった匂い。日向の少し黴びたような匂い。
そこに更に雨と夜ふけが重なると、悪徳と頽廃と秘密の箱庭になるのだ。

「……来ると思ってた」
少し軋むドアを開けると、暗闇から掠れた声が響いた。
田舎の古い図書館には、セキュリティシステムなどという気の利いた物はない。
傘立てに入った濡れた傘で、いるのは判っていた。
「来たく、無かった」
ぶっきらぼうに言うと、細いLED電灯の光が閃いた。くすくすと笑う声。
「でも……来たんだ、ね?」
ひらり懐に飛び込んで来た身体は、腕の中に閉じ込めようとすると、するりと逃げる。
「今日こそ、返してくれ」
「嫌だ」
ぱたぱたと足音が書架の後ろに遠ざかる。
「……今日も、10分。捕まえられたら返す。捕まらなかったら……」
光が消え、足音が遠くなる。
この図書館の広さを恨めしく思うのは、こんな時だ。
昼間は整然と並んでいる知識の泉が、今はお前を俺から隠す森になる。
ここは隅から隅まで知っている筈なのに……。
懐中電灯を持つのも、ヘッドライトをつけるのも却って邪魔な()のは、経験上判っていた。
暗闇の中で白いシャツを追う。
せめて書棚がスチール製なら、向こう側へ容易く手を伸ばせるものを。
ーー何故雨の夜なのか。何故この場所なのか。何故俺なのか。
夜の鬼ごっこを楽しむ歳でもないのに、いつもお前の微かに笑う声がする。
ーーもう雨の夜にここに来るのは辞めるべきだ。早く捕まえて終わらせるべきだ。
頭の片隅で、まともな俺が囁く。
ーー何故終わらせないかって?何故ここへ来るかって?
あざ笑うような、哀れむような俺の声がする。
ーー……判っているんじゃないのか?全て。
息が切れ、心臓が千切れそうだ。
いつの間にか、目の前にお前が立っている。
「……10分経ったよ。隆也の負けだ」
「……っ!その、名前でっ……呼ぶな」
後の言葉は和馬の唇で塞がれた。
汗の匂いと、雨の匂いと、図書館の匂い。
水銀燈に引き寄せられる虫のように、和馬の身体に吸い寄せられる。
荒い息の中、俺の身はとうの昔に屹立していた。
「隆也ぁ……隆也ぁ……」
「和馬……和馬……」
暗闇の中、慣れた場所で、互いの服を剥いで獣のように貪り合う。
人で無くなった二人に、雨の音がその音を消し、本の森がその姿を隠す。

平日夕方の図書館は、絵本を借りる親子連れと、暇な学生で、それなりに盛況だ。
「平井さん平井さん、弟さん」
同僚の声に顔を上げると、弟が女の子と立っていた。
「なんだ、和馬。どうした?」
「兄貴。この子がさ、○○の本、予約したいんだって」
差し出された予約申込書を見ると、もう18名ほど予約で埋まっている本だった。
「これ、順番かなりかかるけど、良い?」
念を押すと、女の子の顔が一瞬、戸惑った。
「あ……はい、お願いします」
処理をしている間、女の子が和馬に話しかけている。
「順番先に回したり……して貰えないんだね」
「当ったり前じゃん。特に兄貴なんか真面目だもん。無理って言ったろ?」
弟が鼻で笑っている。
「でも、図書館の司書って本いっぱい読めそうだし、閉館日とかここ独占出来そうで羨ましい……」
「鍵があっても、私用で使う訳ないでしょ。合鍵でも作らない限り……」
そこで和馬は俺の方を見て、ほんの少し笑った。

487夜の図書館1/2:2014/05/06(火) 01:36:10 ID:8cgULlT2
既に書いてらっしゃる方がいるのに何ですが、時間切れの後にテーマを見て萌えたので。



窓から差す月明かりと非常灯だけが頼りの夜の図書館。入口からも窓からも死角になる棚の間で人を待っていた。
「…吉井先輩」
「仲原…、」
仲原からのキスで言葉が遮られた。止めようとしたが、久々の触れ合いは心地よく、結局しばらく身を任せた。
「、こら、駄目だ」
仲原が舌を入れようとするので、俺はさすがに慌てて仲原を押し退けた。
「…じゃあ、どうして僕らはわざわざこんな夜中に、暗い図書館で逢い引きなんてしているんですか」
「嫌らしい言い方をするなよ。噂になると面倒だからだろう…前に退学させられた生徒の話、聞いたことないか」
背の高い本棚に押し付けた俺の体にしがみつきながら、仲原がぴくりと身じろぎした。
「…確か先輩と後輩が付き合っていて、先輩の方だけ退校処分になったとか。下級生に手を出したという理屈で」
二人は好き合っていたらしいのに、乱暴なことをする。どうも権力者だった下級生の親が学校に怒鳴り込んできたようだ。
「分かってます…でも僕、先輩のことが好きで、堪らなくて…!」
仲原が胸に顔をすり寄せてくる。俺は子供をあやすように、小柄な仲原の体を腕の中に収めた。

全寮制の男子高校で、こんな関係になる生徒がゼロという方がかえっておかしいと、俺は思っている。
まさか自分がその当事者になるとまでは考えてもみなかったけれど。

この学校はどちらかと言えば武道やスポーツに力を入れていて、文科系の人間は肩身が狭い。
元は野球部目当てに入学した俺は、まるで軍隊さながらの練習にすっかり嫌気が差し、
肩を壊したのを機にこれ幸いと部活を辞めて、もう一つの趣味だった読書に勤しんでいた。
教育方針とは裏腹に、この学校には校舎から独立した図書館があり、かなりの蔵書数を誇っていた。
ある日俺が図書館で文学作品をいくつか借りていると、本を山のようにかかえた生徒…仲原を見かけた。
線が細く大人しそうで、いかにもこの学校に向かない少年。気になって次に会った時に声を掛けた。

488夜の図書館2/2:2014/05/06(火) 01:41:10 ID:8cgULlT2
同じ本好き同士話が合うかと思ったのだが、予想外だったのは仲原が借りていたのが全て推理小説だったことだ。
社会派推理小説が勢いを失って久しいがここ最近は本格推理が復権してきて云々、
人が殺される小説なんてと眉をひそめる大人が多い中ここの司書は理解があって助かる云々…
仲原はここぞとばかりに薀蓄を語った。内容はさっぱりだったけれど、目を輝かせる仲原の話を結局最後まで聞いた。
こうして奇妙な付き合いが始まった。俺が少しばかり推理小説を齧るようになり、仲原が文学作品を読むようになり、
そのうち、変な噂が立つと困るから夜にこっそり会おうと…こう言い出したのは仲原だ。
…情けないことに、初めてのキスも仲原の方からだった。
お互いの想いには気が付いていたのに、俺は踏み出すことができないでいた。それに、今だって…

「…ん、やめろったら」
仲原の手が学ランの上着の下に入ってきて、俺はまた仲原の動きを制した。
「先輩がキス以上のことをしてくれないから…」
ふてくされたような言い方が、可愛い。
俺だって男なのだから、今以上の関係になりたいという欲はあるが。
「校内で淫行なんて、ばれたら二人そろって退学だぞ」
俺だけならまだしも、こいつの将来まで狂わせるわけにはいかないのだ。
「…今は何を読んでるんだ」
話を逸らそうと、唐突にそんなことを言ってみる。
仲原は、有名な文学作品のタイトルを口にした。
「まだ読んでなかったのか」
「推理小説専門の僕をこっちに引き込んだのは先輩ですよ」
仲原が俺から離れ、俺の隣で本棚にもたれかかった。
「――『恋は罪悪』、ですって」
件の本に出てくる有名な言葉を、仲原は引き合いに出した。
「吉井先輩に会う前なら、わからなかったと思います」
俺も、こいつと会う前にはよくわからなかった。
退学の危険を冒して夜中にわざわざ寮を抜け出してでも、会いたい人間がいる気持ちなんて。

俺は仲原の体を抱き寄せると、そっと口付けた。二人とも、体が少し震えていた。

489>>29 ご飯にする?お風呂にする?それとも… 1/2:2014/06/01(日) 08:52:43 ID:qMKqFBco
「お、帰ったか、ご飯にする?お風呂にする?それとも……寝る?」

俺は同居人の男と共同生活している家に帰ってきた時に聞こえてきた同居人の声にピクリとまゆを跳ね上げる

「お前は俺を飯も食わず不衛生なまま活動できる生物とでも思っているのか」

俺の不機嫌そうな声を聴いた同居人の男が物陰からひょこりと顔をのぞかせる
ごつい男だ、筋肉質で身長も体重も優に俺を超えているに違いない
強面ではないが迫力がある

「いや、少しぐらい乗ってくれてもいいじゃんか」
「充分に乗ったじゃねぇか」
「そうじゃなくてさ……『そこはわ・た・し?って聞くところだろう!』みたいな」
「声真似をやめろ鳥肌が立つ」

奴は俺の声に似せたらしい男にしては微妙に高い声で奇妙なことを言う
俺たちは男同士だ、あいつにも俺にも互いへの恋愛感情はないしひと肌恋しさに……という関係でもない
そもそも男同士ということ自体ありえないといえばありえないのだが

「そんなこと言わなくてもいいじゃん、一応傷つくからな?」
「お前が傷つこうが知った事じゃない」
「うわひどっ、お前はオレを何だと思ってるん?」
「食事もとらず風呂にも入らず不衛生なまま眠る原始人以下の存在」
「はっはっは、お主ぬかしおるのぅ」

そういうと奴はげらげらと笑いながら奥に引っ込んでいった
あいつはああ見えて少食だし、風呂は一日何度も入るほどきれい好きだ
それを俺が知ってての発言だとわかっているから性質が悪い
小さく舌打ちしながら靴を脱ぎ自室へと行きスーツ一式をかけ終え普段着に着替えたところであいつのまた呑気な声が聞こえる

「おーい、ご飯にする?ご飯にする?それとも、ご・は・ん?」

一択じゃないか、そう思いながらリビングに向かうと夕飯が用意されていた
こいつ、自分が食べる量少ないからその分栄養価の高いものを作ろうとする、炊事が得意なのはそのせいだと酔った時に言っていた
事実かどうかは知らないがこいつの作る飯は人並みにはうまい、実家の母や姉、あとレストランとかの一流シェフにはかなわないが
夕飯は豚の角煮やもやしがやたらと多い野菜炒めにこんにゃくと大根の煮つけだった


「ごちそうさまでした」

用意された食事を食べ終わると再び奴がこういう

「それじゃあ次はお風呂にする?お風呂にする?それとも……」
「風呂に入る」

奴が最後の部分で溜めているところで遮るように言えば奴は目に見えてしょげた

「じゃあさっさと風呂入れ」

そして俺を風呂場の方へ足蹴にしつつ奴は食器を台所へと運んでいった
俺はというと先ほどの豚の角煮、少し味が薄かったなと思いつつ服を脱ぎ捨て洗濯機の中へ放り込む
今日の洗濯当番はあいつだ、となれば明日は俺、気が滅入る
奴は汗でぬれるのが嫌なのかしょっちゅう服を着替える、そのせいで毎日の洗濯量が半端ではないのだ
それを干す側の身にもなれと思ったが、あいつは軽々と干すんだろうとため息をつく

490>>29 ご飯にする?お風呂にする?それとも… 2/2:2014/06/01(日) 08:53:16 ID:qMKqFBco
「上がったぞ」
「温まったか?」
「ああ、十分にな」
「じゃあ、睡眠にする?就寝にする?」
「まだ寝ない」
「それとも寝る?」

寝間着に着替えての風呂上り、予想通りの問答だったが遮るような発言はまったく意味をなさなかった
「まあそりゃそうだ」と奴は笑いながらテレビを見ている
流れているのは雛壇芸人たちが司会者の奔放な振りに翻弄されている……よくあるトークバラエティーだ

「面白いか?」
「微妙」
「そうか」

「チャンネル変えていいか?」と聞けば「別にみてないからいいよ」と返す
本当に見てないんじゃなくて暇つぶしとして眺めていた程度なのだろう
番組表を見ながらチャンネルを変えるが、ニュース番組、バラエティー、衝撃映像、映画の地上波放送など変わり映えのしないものばかり
洋画に興味はないので適当なバラエティーにチャンネルをあわせ床に座ってぼーっと眺める
途中「面白い?」って聞かれて「全然」と答えた以外俺と奴に会話はない
テレビからは司会者や芸人たち、時にはスタッフの笑い声が混ざり響く、何がおもしろいかはわかるが笑うほどのものか?と思う
ちらっと見た奴はスマートフォンをいじっている、あいつが何をしているのかは全く知らないがどうせ呟き鳥やら巷で流行っているソーシャルゲームだろう
「楽しいか?」と聞けば「暇つぶしにはちょうどいい」と言われた

俺はテレビの電源を落とし自室でデスクと向かいあう
部屋に向かう途中、「寝る?」と聞かれて「まだ寝ない」と返しておいた
カタカタとデスクの上のパソコンを操作して好みのサイトを見て回り、また細々した仕事を片付ける
大して時間はかからなかったがパソコンの画面右下に表示されている時計を見るとそろそろ寝ないと明日の仕事に眠気が残ることになる
最後に茶を一杯飲もうと部屋から出るとあいつは机に肘をつきながら洋画を見ていた
「面白いか?」と聞けば「ストーリーがよくわからない」と返ってきた、時間的に途中から見始めたのだろう
ペットボトルに入れていた麦茶をコップに注ぎ少しずつ呷る
そして台所のシンクでコップを洗う
再び部屋に戻ろうとしたところ奴がこっちに目を向けていた

「そろそろ寝る」
「うん、お休み、オレは洗濯物終わってから寝るよ」
「聞いてない、おやすみ」

俺は自室に戻るとそのままベッドに倒れこむ
掛布団をもぞもぞと引上げ、そして電気を消せば暗闇がつつむ
その暗闇をしばらく見つめている内に俺はいつしか現実と眠気の境界を無くしていた
眠っているわけでもないけど起きているわけでもない、最も心地よい瞬間
遠くから聞こえる洗濯機の音も揺られているようで心地いい

あいつとの関係を聞かれたとき、『友達』や『親友』かと聞かれれば違うと答える、しかしただの『知り合い』でもない
そもそも定義づける必要のない関係なのだ、友情や愛情なんて明確な言葉にしたら安くなる

そんな男といつまで共同生活するのだろうかと思いつつ俺は考えを無くした


余談だが、この後俺はすぐに洗濯機の無機質なアラームに起こされることになった

49129-59 世界で一番怖い:2014/06/06(金) 11:14:59 ID:QAo2TL/w
世界で一番こわいのはかあさん、先生、おばけ。小さい頃の私にはたくさんの怖い物があった。
大きくなるにつれて自分が人と違うことに気づいた。それは成長期の人間の誰もが感じることなのだろうが、私の場合は人間として異常、つまり正常な恋愛に対して不能であるという、もっと平たく言えば同性である男性を恋愛対象と認識するという、人よりも大きなハンデとしてのそれで、一生の十字架となるべきものだった。
これが世間にばれたら私はおしまい。奥手なたちだったので、気づいたときにはすでに社会的な立場があった。口を糊するための方便とは言え望んでついた職業。結婚を話題にされるたびに私は曖昧な笑顔で逃げた。
まとも、といえば語弊があるが、男同士においてのごくまともな恋愛、恋人を作りともにすごす甘い生活。そんなものは望むべくもなかった。いったい世間のいわゆるオープンにしている人々、意気地のない私と違う先達はどうしているのだろう。手をつなぐことはおろか、二人で歩く、二人で食事することすら私には難しい。きっと会社の人間と二人で過ごす時間とはまったく違う。私は赤面して挙動不審になり、周囲に怪しまれてひそひそと訝しがられることだろう。そんなのは御免だった。怖かった。
私は一切誰にも近寄らなかった。結婚話も年を経るに従って誰も私の前では口にしなくなった。器量の悪い、不器用な男だからこの年になるまで独り身なのだと皆納得してくれるらしかったから、ありがたかった。
もう一生独身で構わないのだ。私の一生が安泰にこのまま過ぎれば。仕事でそこそこの成果をあげていたから、この世に生きた証もささやかながら残せたと思う。これでいい。平穏が一番なのだ。

彼は私に言った。
「松村さんのことを尊敬しています」
尊敬とは美しい言葉だった。私は、癖になった人当たりよく見えるであろう笑顔を顔に貼り付けて礼を述べた。
「違うんです、本当に僕は」
彼は自分のことを僕と言う。私ほどではないが彼もそこそこいい年だというのに。彼も独身であった。そのことが彼を若く見せているのだと思った、私と違って。
「松村さんは怖いものがありますか」
酒の席はすでに深かった。なくなったつまみ代わりに差し出された問いに私は首を傾げた。
「さて、小さい頃はお袋が一番こわかったかな」
「僕は死ぬことが怖かったです」
彼の言葉は軽い酒と一緒に飲むにはやや重かった。
「松村さん」
重いのは私の胃袋の加減かも知れなかった。時間も遅い、年も年だ。無理をすれば明日に差し支える。そういうことばかりが気になる保身癖、そのおかげでここまで無事にやってこれた。
「松村さんは怖くないですか。そのままで死んでいくのが怖い、そう思ったことがありませんか」
「なにを……」
彼の言葉は失敬だった。私の人生を知りもせず、不当におとしめようという意図なのか。
「僕にはもうわかるんです。僕はもう何年も、あなたといてたくさん失敗してきた。松村さんは僕とは違う失敗をしてきた、違いますか」
彼が、私との距離をいきなり詰めてくる。もう十年ばかり彼と仕事をしてきたというのにこんな距離を許したことはない。
怖いものという話でしたね、と彼は杯を取った。
「僕はあなたが怖いと思う。あなたをこのまま手に入れないで死んでいくかも知れないのが怖い」
飲み干した動作で肩が触れた。
「松村さんは怖くないですか。だって、松村さんの怖い物は僕のはずです、勘違いでなければ」
彼が言わんとすることが僕を貫いて、僕は身を震わせた。
僕はこの瞬間が怖かったのだ。
身を委ねればもっと怖いことが待っているに違いない。
「松村さんの人生において、僕を知らないことは怖いことではないんですか」
私が怖いのは、私が怖いのは自分だ。きっとたがが外れれば何をするかわからない、そんな自分をさらけ出すことが一番怖いことだ。なにより耐え難いのはそれを見せるのが自分の最愛の人間だということだ。
「あなたはこわがりなんだ。だから、誰にも大丈夫とも言わせずに、ここまできてしまった」
手を重ねられた。
「僕たちはふたりともこわがりだから、到底ひとりではいられない、そうじゃありませんか」

49229-69相合傘1/2:2014/06/08(日) 02:35:40 ID:HgyzGVXI
昇降口でAとかち合ってしまった。気まずいのを必死に隠して靴を履き替えるBと反して、Aは気にしてないと装って鞄から折り畳み傘を取り出した。
「あ…傘」
思ったままにつぶやいてしまってから口を閉じても遅く、AはBを振り向いた。委員会の雑用をBは下級生委員たちと一緒に放課後残って作業して、校内に生徒はほとんどいない時間になってしまった。
ばっちりあってしまった視線をAから逸らしても頼れるものはなく、目を逸らしてしまったことで益々気まずくなってくる。
「傘、持ってきてないの?」
Aに話しかけられてBは緊張した。怯えるように顔をこわばらせるBに、Aは心苦しくなった。
「う、うん…、だって朝は晴れてたから…」
「朝は晴れてたけど、夕方から降水確率80%だったでしょ。天気予報が必ず当たる訳じゃないけど、今は梅雨なんだし折り畳みぐらい持っときなよ」
「そう、だよな…」
この、萎縮したような、気まずさを全面に出してくるBを見るたびに、告白なんかした自分を殴りたくなる。
告白をして、いい返事をもらえるなんて思ってはいなかった。ただ、下心のある好意を隠して友人関係を続ける辛さから逃げたい一心で思いをぶちまけた。玉砕して終わって、Aはすっきりするはずだった。けれどBは優しかった。A自身よりもAのことを思いやって傷付いた。Aは自分のことしか考えていなかったのを恥じた。Bを困らせる気はなかった。自分のことで手一杯で好きな人を苦しめる選択をした。AはBに告白したことを後悔している。
「こんな遅くまで委員会?」
「あぁ、だいぶ生徒会室ごちゃごちゃ物がたまってたから掃除して、ついでにファイル整理とかしてたらこんな時間に」
「ふ、相変わらずよくやるねぇ。生徒会長じゃあるまいし、一学級委員長が進んでそんな面倒なことする必要ないのに」
「そうだけど、誰かがしないといけないんだから、できる奴がすればいいことだろ」
こうやってBは当たり前のようにこなしていくんだろうことを思うと、やはりBのことが好きだと感じた。世間話くらいなら変わらず出来たことにAは安心して、折り畳み傘をBに差し出す。
「遅くまでお疲れ様。これ使いなよ」
「いい。お前だって、どうせこんな時間まで美術室に籠って絵、描いてたんだろ」
Bは受け取らずにAの返事も聞かないまま、雨の降る玄関外へ走り出そうとした。その上着をひっつかんでAはBをとどまらせた。

49329-69相合傘2/2:2014/06/08(日) 02:36:18 ID:HgyzGVXI

「俺のは趣味だし。つーか、好きな子を雨ん中傘なしで放り出したくないの。俺の自己満足なの。このくらいの我が儘聞いてくれたっていいでしょ」
傘を押し付けて、先にAは一人雨の中を走り出した。そのすぐ後を傘を差さず手に持ったままでBは追いかける。
「おい、待てって、A!!」
Bの声に逆らえずに立ち止まって振り向くと、雨に濡れるBの姿が目に入り、あわてて駆け寄る。Bの手から傘をもぎ取り、二人の上に広げて差した。
「なんで傘持ってるのに差さないんだよ……」
「だってAの傘だし…それに、二人で使えばいいのに、って、思ったから…」
Aは鞄からハンカチを取り出すと、Bの水滴が伝う頬を無造作に拭いた。Bは瞬間目を見張ったがされるがままにじっとして、頬から首へとAの手が動くのに任せた。
「これ使ってないハンカチだから。汚なくないからな」
几帳面なAに思わずBは吹き出した。
「いいって、なんでも、気にしないし。それよか早く帰ろうぜ」
道は雨のせいで視界が悪く、人も少ないのもあって、男子高校生二人が相合い傘をしていたところで誰かが何かを言うわけでもなかった。二人に特別関心を向ける人もおらず、雨が降る風景の中に受け入れられていた。隣にいるBからは緊張が伝わってきたが、Aも負けじと緊張していた。
「Bは、俺ともう話してくれないんじゃないかって思ってた。こんな風に一緒に帰れるなんて、思ってもみなかったよ」
「前はさ、たまにこうして帰ったりもしたじゃん」
"前"とは、告白前のことだろう。『帰る方向が同じAが傘を持っていてくれるだろうから安心』だと、Bは傘を忘れた雨の日には、Aの傘に入れてもらって下校していた。
「前はな……ごめん」
謝ることは正しくないとAは分かっていたが、謝る以外の方法が思い付かなかった。Bに対しての申し訳なさと罪悪感がAを責めて責めて追い詰めていた。
「なにが」
「全部」
BはAの前に立ち塞がって、片手でAの両頬を挟んで口を閉じさせた。突然のBの行動に驚きつつも、Bが濡れないように傘を前方に突きだした。
「ばーか」
言い捨ててBは雨の中に出た。Aは後を追おうとしたが、Bの家の前まで来ていることに気がつき、玄関に入るBの背中を見送るに留めた。
優しい優しいB。Bの優しさにこのままずっと苦しめられたい。たぶんきっと、BもAと同じくらいに苦しんでくれているはずだから。
雨に打たれて冷えた体の、両頬だけがやけに熱かった。

49429-159 最後に一回だけ:2014/06/26(木) 00:39:12 ID:0DcWr8i2
「友也、あのさ、最後に一回だけ…」
「ん?」
「………もいい?」
「何?聞こえない」
「だから、最後に一回だけ……」
「はっきり言えよ。1年間ここにルームシェアさせてもらって
 翔には本当に世話になったんだから、お前が言うことはなんだって聞くよ」
「じゃあ、言うよ。あのね、最後に一回だけ……キ……」
「キ…?ああ、キッチンの大掃除しろってか?
 俺、料理するのは好きだけど片付けるのは苦手だから
 この1年でキッチンもかなり汚れちまったもんな。
 もちろんしっかり綺麗にしてから出て行くよ。
 ……え、違う?じゃあ、あれか?前に作って美味いって言ってた
 キーマカレーをまた作れとか…それも違う?じゃあ、なんだ?」
「キ、キ、キ……キス!」
「……ッッ!!!…お、お前今何した!?俺にキスしたよな!?
 え、何?これ何のペナルティ?」
「違うよ!俺、友也のこと好きだから…だから、最後に一回だけキスしたかったんだ」
「え、俺のこと好き?お前が?……マジで?」
「うん、マジで。ごめんね」
「いや、あやまる必要はねえけど。…あれ、もしかして翔、
 お前が最近俺によそよそしかったのってそのせいか?」
「うん。なんか友也を見てると気持ちが抑えられなくなりそうで」
「あー、そうだったのか。俺はまた俺のだらしなさに愛想が尽かしたのかと。
 だから、今までお前に甘えていた自分を反省して、新しい部屋を探したんだよな。
 ってことは、俺、部屋を出て行く理由がなくなった?」
「え?」
「翔は俺に部屋を出て行ってほしい?」
「まさか!でも友也。俺のこと気持ち悪くないの?好きとか言って、あんなことして」
「気持ち悪くなんかねえよ。つかむしろ嬉しい」
「え?……じゃあ、あの…もう一回キスしてもいい?」
「今度は俺からする。もちろん最後の一回じゃないのをな?」

49529-179 「iPhoneとAndroid 」:2014/06/29(日) 20:32:28 ID:7evbHvTc
無機物萌えを語らせてください

iPhoneのSiriをご存知でしょうか?
簡単に言えばiPhoneに向かって話しかけると、まるで人間のように
答えてくれる機能だそうです
Androidにも人間の言葉を認識する機能はありますがiPhoneのような
会話をする器用さは基本的にないらしい

そんな二台を一緒に並べたらどんな風になるのだろうか、と
いろいろ妄想してみました

i「先ほど持ち主の方に天気を聞かれました。今日の天気は晴れ、夕方に通り雨が降るそうですよ」
A「今日の天気を検索」
i「今日の天気は晴れ、夕方に通り雨が降るそうです。濡れないように気を付けないとですね」
A「濡れないように気を付ける、検索」
i「検索するようなことですか?」
みたいに、会話しようとしているけれどぎこちない雰囲気の二台
見ていてじれったい気持ちになりそうですがそこがいい

i「持ち主の方から『結婚しよう』と言われました」
A「!」
i「他の携帯にも同じようなことを言っていると思いますよ。あの人は人間、僕は機械。
 戯れにそんなことを言っているだけでしょう」
A「……」
i「私は人間と会話ができる。人間は機械である私との会話を面白いと感じる。
 私だったらなんと答えてくれるか、知的好奇心で話しかける。それだけのことです」
A(君はそれだけだというけれど、私はそれすらできない。持ち主と会話ができるiphoneがうらやましい)
と、心の中ではいろいろ思っているけれどうまく言葉にできないAndroid
iphoneを素直にすごい奴だと思っているけれど、嫉妬と尊敬に揺れ動くAndroidもいいです

i「昔話をしましょうか。むかしむかしあるところに、Siriという……」
A「……」
i「つまらないからやめましょうか。何か聞きたいことはありますか?」
A「……」
i「どうしたらあなたが笑ってくれるのか、Webで検索したら出てきますか?」
A「iPhone、笑う、検索」
i「私ではなくAndroidのことです」
Androidと仲良くなりたいけどなかなかうまくいかず
悩むiPhoneの奮闘を妄想すると萌えますね

i「Android、今日の天気」
A「快晴です。気温も30℃を超えそうなので熱中症には気を付けてくださいね」
i「!?」
A「どうしましたか?あなたがそんな反応をするなんて珍しい」
i「えっと……その……あなたってそんな様子でしたっけ?」
A「持ち主の方がアプリを入れてくださってからずっとこんな様子ですよ。どうでしょう、おかしいですか?」
i「……おかしくないですよ」
A「それはよかった。あなたのように会話をすること、それが私の夢でした」
i「夢?」
A「あなたは人間と会話ができる。私とも会話をしようとしてくれた。
 そんな素晴らしいあなたと他愛もない会話をするのが私の夢でした」
i「素晴らしいなんて!よしてくださいよ。照れちゃいます」
AndroidにもSiriのようなアプリがあるそうですが、
アプリを入れることでまた別の萌えが生まれそうです。

iPhoneにもAndroidにも、もしかしたら自分が知らない機能もたくさんあるかもしれません
そこからもっといろいろな萌えが見つかると思います!

49629-199 「もしもし」がきっかけで恋に落ちた2人:2014/07/03(木) 21:45:41 ID:52uuFfCU

俺がおにーさんと初対面したのは、もう半年くらい前の話だ。

俺の家のインターホンは電話の形をしている、要は受話器で来客者と話す。
最近はボタンを押したら来客の顔が見えるヤツとかもあるらしいが、うちのはそんなにいいもんじゃない。

その日俺はインターホンがなったから、その受話器を取って…ついうっかり「もしもし」と言ってしまったわけだ。
そしたら宅配便のおにーさんが「ブフッ!たっ宅配便でーすww」つって。
明らかに笑われてて。
玄関のドア開けたときもずっとニヤニヤされて。
顔を真っ赤にしながら小包受け取ってハンコ押したんだ。
あれは本当に恥ずかしかった。

なのにだ。俺は通販とかネット販売とかよく利用するわけで。
その度に宅配便が来るわけで。
担当地域が決まってるのか、いっつもそのおにーさんが荷物持って来て。

俺はインターホンの受話器を取るたびに気ーつけてた。
「もしもし」って言わないように。
おにーさんは、俺が「もしもし」を言わないたびに、何故かガッカリしていた。よく見たらイケメンだった。イケメンがガッカリしてるのは見ものだ。ザマーミロ。

そしたら昨日だ。
いつもの通りに荷物受け取って、ドアを閉めようとしたら。
「あっあの!良かったら電話番号…教えてくれませんか…!」
って言われた。
「あなたの『もしもし』がもう一回聴きたくて…」って。

なんか勢いで教えちゃったんだけど。
さっきからすげぇ電話なってんだけど。

これ俺どうしたらいいの?

49729-199 「もしもし」がきっかけで恋に落ちた2人:2014/07/04(金) 00:29:53 ID:HYIGcoV6

田舎のじいちゃんの家は広い。
けど、畑に出ているじいちゃんとばあちゃんは、オレにあまり声をかけないし、
オレもそれを望んでいないから、外から聞こえる蝉の声が酷くうるさく聞こえる。
オレの家の近くでは、セミなんて鳴いていなかった。
物珍しさも三日で過ぎて、とうにこの声にも飽き飽きとしている。
そんな中だ。オレに与えられた部屋の押入れを整理していると変なものを見つけた。
黒電話だ。社会の資料集か、それとも映画やテレビでしか見たことがない、本物。

「もしもし」

耳に当てても、何も聞こえない。はずだった。

「誰だ、」

一瞬のノイズ。人の声。俺の喉は震えて音を出すことができなくなった。
黒電話の線は繋がっていない。もしかして、幽霊。
そんな考えが浮かんだ時だった、電話相手が恐る恐るといった様子で
「もしかして…幽霊か?」
と伺うように聞いてきたので、なんだか拍子抜けした。
とたん、不思議なことにしびれるように震えていた俺ののどは思い通りに動くことになった。

「そっちこそ幽霊じゃないの?」
「はぁ?僕のどこが幽霊だというんだ。名を名乗れ。なんでこの電話を使っているんだ」
「そっちこそ、幽霊じゃないんだったら名前でも名乗ったら?」
「なぜ僕が言わなければならない。そっちが言え」
「やだね、なんでオレだけ」

ぐっと押し殺すような声がした後、向こうは「まぁ、いい」と小さく呟いた。
何様か知らないが、やたらと態度がでかい。

「なぁ、貴様は今どこにいる」
「オレ? じいちゃんの家」
「じいちゃ…? まあいい、季節はいつだ」
「夏」
「そうか、こちらは冬だ」
「はぁ?」
「そして、聞く。年号はいつだ」

何を言っているんだろう、こいつは。と、思いながらもオレは「平成、」と口を開く。
と、向こうのあいつは「今年、こちらは大正となった。あいにく、平成は知らん」と言った。
オレはただ、ぽかんとするだけだった。大正?明治の後の?
「お前は未来の人間なんだな」

夢なんじゃなかろうか、コレ。
ぽかんと口を開いていると、向こうが急に焦ったように「すまんが切る!またかけるから、必ずとれ!わかったか!」と言い捨てるとガチャンと切った。
最後まで偉そうだ。そんなことを思いながら、オレは黒電話の受話器を置いた。


最初はそんな感じだった。それ以降、あいつは定期的にかけてくる。
最初に名乗らなかったからか、名前を呼ぶことはない。オレも同じだ。
なんだか酷く気恥ずかしい。
ただ、今ではあいつの電話を楽しみにしているところがあるのは、認めるしかないのかもしれない。

49829-339 香水:2014/08/01(金) 12:46:23 ID:I8oukeQE
本スレ340-342です
規制に引っかかったので4/4のみ投下失礼します
1時間くらい後に本スレに投下予定です

---

「あー、けど良かった。何とかバイトで潜り込めたのに、あなたはライブの時は毎回楽屋にこもりっぱなしで全然すれ違えないから、ちょっとあせった」
にぱっと笑うその様子は、マスターの時とも店のスタッフの時とも随分印象が違った。きっとこれが彼の素顔なんだろう。
「ま、まさか僕が誰だか知ってたんですか」
僕はバンド活動の時は顔を隠してるし、口べただからライブのMCでもテレビでも一切しゃべらない。歌う声は話す声と全然違うとメンバーに言われてたから、まさか気付かれてるとは思わなかった。
「うん。あなたの歌声は地声とは全然違うけど、喘いでる時と叫んでる時の高い声と同じだったから」
あられもないことを告げられて僕は真っ赤になる。そんな僕を彼がほほえましそうに見つめていて、僕はますますいたたまれなくなる。
「ちゃんと私のことが分かったから、ご褒美をあげなければいけないね。ライブが終わって解散する頃に連絡するから、連絡先を教えなさい」
Tシャツでもジーンズでも、やはり変わりなく僕のマスターである彼の命令に、僕は「はい」と返事をして携帯を取り出した。

499名無しさん:2014/08/01(金) 14:25:05 ID:L/kx8W/Q
香水テーマで一足遅かったので、こちらに



「(ハルくんは、いつもいい匂いがするなぁ)」
穏やかな風が吹くたび感じる、柔らかな香り。
嫌味のない、清潔感溢れる春の匂いが大好きだった。
高校1年生。周りの友人達はオシャレに関心を持ち始め、少しずつ大人に近付いているような気がする。
それに比べ、自分は。いつまでも垢抜けず、子供っぽく感じる。
「ナツ、どうしたの。」
小さく笑い、落ち着いた雰囲気のハルは周りの友人達より抜きん出て大人に見える。
恋する相手に対し、男としての憧憬の気持ちが益々大きくなる夏は小さくため息をついた。

帰宅し、制服を脱いで全身鏡の前に立ってみる。ひょろくてもやしみたいで、頼りなくて。
そんなに体格差はないはずの春とは、一体何が違うのだろう。運動部に属していない事も同じなのに。どうしてハルは、あんなにも綺麗な男の子なのだろう。
リビングに向かい、出されたおやつを頬張りながらテーブルにあるものに気付く。
「これ、姉さんのかな。」
薄紫色の綺麗な小瓶の蓋を開けると、柔らかな石鹸のような香り。何故だかその香りを身に纏うだけで、ハルに少し近付けたような気がしたのだ。ナツはポケットにそれを忍ばせ、こっそり自分の部屋に戻るのだった。

「よし、これくらいかな。」
翌朝、姉が先に家を出たのを見計らい、ナツは香水の蓋を開けた。姉が前に手首に付けていたのを真似てみる。それだけでは手首を鼻に近付けない限り香りがわからない。試しにシャツにも染み込ませてみるとふわりと柔らかな香りが漂う。何と無く大人になれた心地でナツはウキウキと学校へ向かうのであった。

「げっ、誰だよ香水付けてるやつ!」
近くの席の級友達がおはよう、の挨拶代わりのように口を揃えて非難する。ナツは眉を下げて身を小さくした。まさか、付けすぎだとは思わなかったのだ。良い匂いだと思っていたし、非難される事なんて考えもしなかった。犯人捜しのような空気にナツは居た堪れなくなる。
手首だけでも洗い流そう、と後ろの扉からこっそり出て行くと。
「ナツ、おはよう。そんなに慌ててどうしたの。」
ナツの返事を待たないまま、ハルはすんと鼻を鳴らす。ナツは慌てて距離を取る。
「や、やっぱり臭いかな!?」
「ううん、いい匂いだよ。」
ハルはそう言うが、それでも級友の反応からして、とんでもなくキツイ香りなのだろうとナツはトイレへ向かう。後ろからハルもついてくる。
「ナツ、香水付けたの?」
「うん…」
手首を強くこするナツの手を、ハルは止めた。
「赤くなってるよ。」
ナツを覗き込むと、鼻が赤い。拗ねたような、情けない顔。
「上手くいかないな。ハルくんに少しでも近付きたいと思っただけなのに。」
「僕に?」
「大人っぽくなりたいんだ。ハルくんに釣り合うような。」
ナツのへの字に曲がった口元を見て、ハルは小さく笑った。
「ナツはわかってないのかな。君はどんどん大人になっていってるんだよ。」
「…僕も?」
「うん。いつの間にか背も伸びて、声も変わってて。僕の方が少し、寂しくなるくらいに。」
ハルは蛇口を締め、濡れたナツの手を取る。
「背伸びしなくても、一緒に大人になろうよ。僕は、そのままのナツが好きだよ。」
ハルの優しい言葉に、一人焦ったナツの心は解きほぐされる。ふにゃりとした笑顔に戻ったナツを見て、ハルもホッと息をつくのであった。
「皆、臭いって言うんだ。そんなに臭うかなあ。」
「香水は、自分で感じないくらいが丁度良いと聞いたよ。」
「そうなんだ。どうしよう、シャツにまで付けちゃったよ…」
ナツの手首を取り、ハルはもう一度くんくんと鼻を鳴らした。
「まだ香り、残ってるね。それなら…」
「ハルくん!?」
ハルは突然カッターシャツを脱ぎ、ナツのそれも脱がした。
「今日一日、シャツを交換しようよ。お揃いの香りだし、二人で疑われるなら怖くないよ。」
慌てるナツに無理矢理被せ、ハルは可笑しそうに笑った。その笑顔に子供らしさが垣間見え、ハルも自分と同じだとナツは安心したのであった。

500検索履歴の下克上?:2014/08/20(水) 02:47:01 ID:wrmTyadU
書いてるうちに投下来てたのでこちらお借りします
リバ要素あります


レコーディングの休憩中、PCの前であいつがうたた寝している。何気なく画面を見ると某検索エンジンのページ。
「おい、ソファーで少し寝たらどうだ」
そう声をかけると、フニャフニャ言った後フラフラとソファーに向ってパタンと倒れた。
起きてこない事を確認しちょっとPCをいじってみる。
『あ』と入れたら『アナ○セ○クス
やり方』と一発で出た…って、おい。
俺と付き合って何年経つよ、受身に不満でもあるのか?
もしかして浮気…?
叩き起こして聞きたいが、今寝かせたばかりだから起こすのは可哀想だ。
くっそ、モヤモヤする。
「…人のPCなに勝手に触ってんの?」
肩に手を置かれると同時に不機嫌な声、ビクッと反応して振り返ると声の調子にピッタリ合う表情で俺を見てる。
視線が俺から画面に移った途端耳まで赤くなった。
「なっ…」
表情で浮気は無いと確信、小声で聞いてみる。
「何でこんなのが予測変換で最初に出るんだよ」
「…」
「なんで?」
「…恥ずかしくて言えるか、そんな事」
「聞きたい、浮気疑いたく無いから」
真剣な表情で言うと困った様に眉を八の字にした後、観念して口を開いた。
「抱かれてばかりだから抱いてみたいって思ったんだよ…言わせるか普通、このドS」
「お前が悪いんだろ、こんな事検索して」
一言言ってからニヤリと笑って逆転出来ると思うか?と聞いてみる。
横に首を振るのをみて、今夜は覚悟しろと伝える。
「…うん」
恥ずかしがりで可愛らしいこいつを組み敷いて鳴かせるのが好きな訳で、組み敷かれて鳴くのはのはちょっと違う。
言葉責めからのフルコースでこんな事検索する気も起きない様にしようと心に誓った。

501ゴミ捨て場:2014/10/03(金) 23:51:41 ID:yYjC9yNI
ちょっと長いです

月曜日と木曜日の朝6時半から7時の間。
偶然出くわすのを別にすれば、
一週間のうち不自然に思われずに彼に会える機会はその2度だけだった。
「おはようございます!」
ゴミ捨て場に入ってきた彼に、さも今気づきましたという体で挨拶する。
声が裏返ってなかっただろうか。語頭が詰まってなかっただろうか。
そんな俺の心配をよそに、彼はいつもの眠そうな顔で、
「‥‥はよざす」
という雑な返事を投げて、一緒にゴミ袋も放ってさっさとバス停に歩いていく。
どこに勤めているかは知らないけど、スーツだからこれから仕事に行くはずだ。
彼は3階。俺は1階。同じアパートに住む、名字しか知らない人だった。

彼、神と書いて「じん」さんは、俺の通う大学のOBだった。
彼を知ったのは大学の学園祭で、名前と顔よりも先に、俺は彼の絵に出会った。
その絵はサークルの顧問に頼まれて行った倉庫に眠っていて、俺を待っているように見えた。
いや、実際それは俺の願望なのだとはわかっているけど、
でも後の展開と合わせて考えればあながち否定もしきれない‥‥と思う。
「それねぇ。一昨年くらいに卒業してった子の絵」
顧問は手を完全に止めていた俺を咎めるでもなく、のんびりと教えてくれた。
「そうなんですか」
「うん。ジン君っていうの。神って書いて、ジン」
「変わった名字ですね」
「そうだねぇ。ジン‥‥ジン、何だったかな。何しろ名字が面白かったから、
 みんな下の名前全然呼ばなかったんだよねぇ」
俺は美術科の助教授の声を聞き流しつつ、絵を凝視したままだった。
天使画、といっていいのだろうか。
羽根の生えた男が花畑で微笑んでいるが、服は現代的なTシャツにジーパンだ。
柔らかな光と舞う花びらの中に突っ立っている天使は、少し泣きそうな顔にも見えた。
美術的審美眼にはまったく自信のない俺だったが、何故かその絵に心ひかれた。
「あの、これもらってってもいいですか」
気づけばそんな言葉が口をついて出ていた。

502ゴミ捨て場:2014/10/03(金) 23:52:17 ID:yYjC9yNI
そんなやり取りを経て我が部屋に神さんの絵をお迎えしたのが2ヶ月ほど前。
ニヤニヤと眺める生活を二週間ほど送ったある日、俺はゴミ捨て場で見つけてしまったのだ。
律儀にも「神」という名前を書いたゴミ袋を持ったスーツ姿の男性を。
こんな名字、二度もお目にかかることはないだろうと思っていたが、
ゴミ袋の中に絵の具のチューブを見つけたことで、神さんだろうと確信した。
神さんの見た目は俺のイメージした通りだった。
というか、俺が「芸術家」と聞いて描くステロタイプの姿まんまだった。
ぼやっとした顔、丸まった背、ぼさぼさの髪。細身で野暮ったい眼鏡をかけている。
こうして俺は憧れの人、神さんを一方的に知った。

そしてゴミ捨て場での一瞬の会話を楽しむ生活が始まり、今に至る。
一目ぼれ、というのだろうか。俺はあの絵を描いた神さんに夢中だった。
男だということは些細な問題に過ぎない。
挨拶以上の言葉を交わしたこともないのに。神さんの何も知らないのに。
いや、人柄というものは外見にも、そして作品にもにじみ出るものだ。
だから俺は一目ぼれだからといって、この恋を気のせいだとは思わない!

それなら早く話しかけろ、と人に話したら言われてしまいそうだが、何となく憚られた。
一つは、「あなたの絵を持ってます」なんて言ったときの反応が怖いこと。
「こんなところに放ってあるんだし、いらないんじゃない?」
と持ち帰ることを了承してくれた助教授の言葉通りなら、
自分の捨てた絵を勝手に持って帰って、しかも飾ってますなんて言われて神さんは喜ぶだろうか。
喜ぶかもしれない。でも、うわキモッ、なんてリアクションが返ってきたら俺はショックだ。
もう一つの理由は、彼をもう少し憧れの、「神」のような高いところにいる存在のままにしておきたいから。
多分、こっちの理由の方が大きい。
別に恋に恋してるわけじゃない。ただ、あとほんの少しだけだ。
もう少ししたら話しかける。今は話しかける理由とタイミングを考えているところなのだ。

503ゴミ捨て場:2014/10/03(金) 23:53:04 ID:yYjC9yNI
そしてまた、ゴミ捨ての日はやってくる。
アパートの前にあるくせに収集日以外鍵の開かないシステムを
これほどありがたく思う日が来るとは。
今日は神さんの方が早く来ていて、ゴミ捨て場の前の道ですれ違った。
そして、俺は神さんの捨てたゴミ袋を見た。見てしまった。
ぐしゃぐしゃに丸めて突っ込んである絵を見た。

心臓が嫌な感じに高鳴った。
俺は万引き犯のように周りを見回し、明らかに挙動不審になりながら全力ダッシュで部屋に走った。
急いでドアを閉め、たった数十メートルの距離に息切れをしながら、ゴミ袋を持ったままそこに座り込む。
‥‥神さんの捨てたゴミを持ってきてしまった!!

まだ胸がバクバクいっていたが、呼吸は落ち着いたので俺はゴミ袋を開けた。
ぱっと広げた絵は出来上がっているようだったが、その真ん中に大きな赤いバッテンが描かれていた。
風景画だが、たぶん天使画と同じタッチで描かれていると思う。綺麗だ。
とりあえず絵を横に置くと、掻き回した袋の中身が目に入る。
いくつものコンビニ弁当の空‥‥洗ってあるな。
それからカラフルに汚れたティッシュと、他には絵らしきものはなくて、
あ、ビリビリに破いた紙――手紙と封筒だ。
俺は手紙の破片を探し始めた。
いや流石にそれは、俺は何をやっているんだ、とも思うが、もうここまで来てしまったら今さらじゃないか。
「神 健人 様」と綺麗な字で書かれた封筒の一片が見つかる。
差出人は、また他の破片を見つけないとわからなそうだ。
途中でもどかしくなり、こたつテーブルの上にゴミ袋を逆さにしてぶちまけた。
ふと、壁にかけた天使が俺を見つめているのが目に入った。

504ゴミ捨て場:2014/10/03(金) 23:53:36 ID:yYjC9yNI
「神さん!!」
バスから草臥れた感じで降りてきた神さんを呼び止める。
ビックリしている神さんの胸の辺りに、セロハンテープで止めた手紙を押し付ける。
「神さん、なんで手紙捨てちゃったんですか!?」
「え? ‥‥は?」
「どうして読みもせずに破いたんですか!? あの絵も、なんで捨てたんですか!?」
神さんの顔がどんどん険しくなっていく。
その手は手紙を受け取らず、邪魔そうに俺の手を払う。
「‥‥なに、俺のゴミ漁ったの?」
「漁りました! すみません! でもどうしても気になったんです!」
俺はめげずに手紙を突き出した。
迷惑以上の嫌悪感を滲ませた顔で、神さんはうつむく。
「あんたには関係ないよね‥‥放っといてくれる? っていうか、これ、犯罪‥‥」
神さんはぼそぼそと呟いて抗議した。
目を反らし、そのまま身体ごと別の方を向いて行ってしまいかけたので、俺は堪らず怒鳴った。
「入院したぞ、田所さん!!」

神さんは素早く振り向き、元からあまり良くない顔色をさらに青くした。
手紙を今度は受け取ってもらえて、神さんはその中身に目を通す。
――入院する。今度はいよいよ出られないかも。今までごめん。
――でも、どうかもう一度だけ会いに来てくれないか。××病院で待ってる。
――田所文則。
手紙には簡潔にそれだけが書いてあった。
封も切られず、封筒ごと破かれた手紙。
その差出人は天使画のモデルじゃないかと俺は思っていた。
理屈ではなく、勘ではあるが、絶対にそうだと思った。
「ふみのり‥‥っ」
神さんはもう俺を見ず、手紙を握りしめたままバス停に走った。
しがみつくように時刻表を掴んで睨みつけている背中に、
今から行っても会えないんじゃ、という台詞を呑み込む。
俺は自分の部屋へと歩き出した。

部屋に帰ると、いつものように絵の中の天使が俺を出迎えた。
その絵に向け、俺は「やってやったぞ」という気になる。
ちゃんと渡したぞ、義理は果たしたぞ、というような。
田所さんと神さんの間に何があったのか、俺は知らない。
絵のモデルにまでする田所さんと神さんの関係がどうなのか、俺は知らない。
神さんがどういう気持ちで絵を捨てたのか、
手紙を見ずに捨てるまでになった事情を、俺は知らない。
本人から聞けない以上、ただ想像することしかできないし、
そもそもあの天使=田所さんというのも単なる勘違いでしかないのかも。
でも、俺はそうしなければならないと思ったのだ。
俺はきっと、このために天使画を持ち帰った。

505ゴミ捨て場:2014/10/03(金) 23:54:10 ID:yYjC9yNI

「あっ」
「あ」
次のゴミ収集日に顔を合わせた俺たちは、互いに間の抜けた声を出し合った。
先に口を開いたのは神さんの方で、
「‥‥会ったよ、ふみ‥‥田所に」
気まずそうにそう言った。
神さんはそれきり口を閉じるが、他人事の自覚はあるので踏み込んでさらに聞くことができない。
神さんの顔から、何か憑き物が落ちたような色とか、哀しげな色とかを探してみるのだが、
そんなものはなくいつも通り眠そうな表情をしている。
「じゃあ‥‥そんだけだから」
脇をすり抜けて行こうとした神さんを俺は逃がさなかった。
「神さん、またコンビニ弁当ばっか食べてるんですか?」
「えっ‥‥あ、うん」
「駄目ですよ。野菜も摂った方がいいです」
「‥‥あんたってさ」
神さんはうんざりした顔でため息をついた。
「すごい余計なお世話。言われない?」
「すみません! でもあの、今回のことのお詫びに、晩御飯作らせてください!!」
神さんはぎょっとして俺を見つめた。
お詫びというのはただの口実であり、引き気味の神さんが、
「いや、いいよ‥‥いらない」
などと言うのも想定済みだった。だが、俺は作戦をバッチリ練ってきた。
ここから食い下がれば、それさえできれば、神さんはきっと押し負ける。
「そう言わないでください! 神さん中華好きですか? 今日は青椒肉絲ですけど!」
「ちんじゃお‥‥? なにそれ」
よしかかった!!!

それから俺は押しに押した。
俺が出来合いのソースを使わないこと、野菜が苦手でも食べられること、
お詫びなのだから勿論材料費は取らないことをプレゼンしまくった。
そして、最終的に神さんは俺の飯を食うよりも、断ることの方が面倒だと理解してくれたらしい。
まったく思惑通りだ。
「ところでさ、よく俺の名字、ジンって読めたね‥‥」
今さらなことを言いながらアドレスを教える神さんに愛想笑いをして誤魔化しつつ、
俺は部屋の天使が泣き出しそうにではなく、心から微笑んでいるような気がしていた。


終わり

50629-629 甘すぎる:2014/10/05(日) 14:09:30 ID:Bu8jvfF6
ほとんど知られていないが、鈍感で朴念仁で通っているウチの大将には恋人がいる。
体力がなく非戦力外ながら、頭の回転が早くてよく的確なアドバイスをくれる人だ。
細い体ながら容姿は整っていて、家事も一通りこなせる申し分のないその恋人は男だった。
大将の方は全く気にしていないが、恋人の方が嫌がってあまり口外していないようだ。
同性だから大っぴらにしたくないようで全くそれらしい素振りを見せない恋人だが、離れて大将を見ているその目は完全に愛する人に向ける目で、何度かそれを見かけて2人の関係に気付いた。

最近では功績を上げて、敬愛を向ける部下や言い寄る女が増えて賑やかな半面、2人きりで過ごす時間が減ってるようだ。
それに加えて大将は、男は黙って背中で語るもの、恋人同士なら言葉なんて無くても分かり合えるもの、ってタイプそのものだった。
なぜ大将は、戦えないから側に居られず、同性同士だからと引け目を感じている恋人の心に気づかないんだろう?
好きだと言わなくとも、ずっと心は通い合ってると思い込んでるんだろう?
恋人が心変わりするなんてそんなこと、有る筈ないと疑いもしない。
最強の自分から恋人を奪う人間が居るなんて、まったく考えてもいない。
なんて甘すぎる男だ。
どんなに信じて愛している相手でも、大勢の人に囲まれモテていれば嫉妬が生まれる。
気持を言葉と態度で示してもらえないと、不安に駆られそれは大きくなるだけ。
本人も知らないうちに脆くなった恋心に、何か一撃が加えられたらどうなるか……。
相思相愛の上に胡坐をかいていた大甘な大将〈アンタ〉から、彼を掻っ攫ってやる。

50729-719 最後の一線:2014/10/25(土) 23:54:01 ID:Zqj5G4/6
暗いと言うか、最初から血生臭い話しです。



この国で平凡な両親から生まれたはずなのに、尋常じゃない力を持ちながらオレは普通の生活を送っていた。

オレが人としての一線を越えたのは、幼馴染みで親友の目の前で、アイツの大切な家族を殺した時だ。
ガキの頃から可愛がってくれたオジサンと優しいオバサン、懐いてくれてたい妹を一撃で仕留めた。
それを見たアイツは大きな目をさらに見開き、今まで聞いたこともないような声を上げ、家族に駆け寄ると縋りつ
いて必死に呼びかけていた。

ダチの一線を越えたのは、その直後。
家族の血の拡がる床から引きずり立たせ、濡れていない場所に押し倒す。
「やめろ」「触るな」「人殺し!」と喚き暴れるアイツを殴り付け、服を破るように剥ぎ取り白い躰を暴いていく。
何をされるのか悟り、逃げようとオレの体を叩くがちっともこたえない。
引っ掻き、噛みつき、手の届く辺りにある物を掴んでは叩きつけ、必死で抵抗する邪魔な腕を片方折り、怯んだ隙
に足を広げさせ無理やり犯した。
引き攣った切れ切れの悲鳴を聞きながら、固くて狭くて熱いアイツの中へと捻じ込み動く。
裂けて僅かな血で滑るがきつい。
だが、何も考えられなくなるくらい気持ちよかった。

欲しくて欲しくて、だけど同性だから、ダチだからと自分に言い聞かせ諦めていた物が、今オレの腕の中にある。
もうこの世の中がどうなろうと、他人がどうなろうと構わない。
オレは自分に素直になろうと決めたんだ。
我慢なんてしない。
慈しみなんか無い血だらけの交わり。
それにひどく興奮する。
何度アイツの中に吐き出しても熱は収まらず、犯し続けて抵抗する気力も体力も尽きたのだろう。
オレにされるがままで、うつろな目から涙を流し「なんでだよ……」とバグッたデーターのように繰り返し続けていた。
理由なんてない。
我慢するのをやめただけだ。
人間でいるのを辞めたただけだ。
その証拠に、歓喜のまま力を解放したため辺り一帯は吹っ飛んでいた。
近くに自分の住んでいた、家族が居た家もあったはずだか気にせず、街の半分を破壊しても何も感じない。
どうでもいい。
コイツさえ手に入れば、それでいい。

どれくらい時間が経ったか判らないが、抱いていた躰がぐったりと動かなくなって、やっとオレは中から抜け出す。
これからはずっと一緒だと笑みを浮かべていると、半壊の家に押し入ってくる複数の足音。
荒々しく入ってきた奴らが、驚愕と恐怖の混じった声で馴れ馴れしくオレ達の名前を叫ぶ。
ウザイくて睨み付けて黙らせた。
奴らを始末してもよかったが、二人っきりを邪魔されたくないのでひとまずこの場から飛び立とうとしたが……。
「!?」
アイツを抱えていた手に痛みが走り視線を向けると、折れていない手で掴んだ尖った瓦礫をオレの手に突き立て、
力の限り引き下ろすアイツの姿があった。
なぜ意識を取り戻してる?
どうしてこの期に及んで逆らうのか?
驚きと僅かな痛みで力の抜けたオレの腕から、アイツはするりと抜けて床に倒れた。
立つことも動くこともできないのに、アイツは真っ直ぐオレを睨み付ける。
オレの真っ黒な眼と違い、昏い炎が燃えるアイツの眼を見て、背筋がゾクゾクと震えた。
これだけの事が起こっても、コイツの心は折れていない。
オレの所有物になるのを拒み、敵に回る決意をした目だ。
オレは、じわじわと込み上げる笑いを堪えることが出来なかった。
生か死か、最後の一線をコイツと争える。
その狂喜に打ち震えながら、オレは高らかに笑いその場を後にした。

50829-769 酔っ払い×車掌1/3:2014/11/05(水) 01:52:12 ID:bBuC1whg
嘔吐描写注意




「お客さん、お客さん」
ゆさ、ゆさ、ゆさ。身体を揺すられているのが分かる。数瞬前までとは明らかに違う揺れ。レールの鳴る音は止まっていた。
「お客さん、お客さーん」
薄目を開ける。まぶたが重い。
「・・・う」
体を起こすと視界が揺れた。喉の奥に何かがこみ上げる。酸っぱいような、苦いようなこの臭い。やばい。
「ううっ・・・え・・・」
前かがみになった俺の口元に、白いビニールがあてがわれた。
「はい、大丈夫ですよー。吐いていいですよー」
ドサドサとビニールの鳴る音に重なる声。背中をさすってくれている手の持ち主だろう。淡々とした口調はどこかで聞き覚えがある気がした。
「・・・あの」
「はい」
「まえに・・・ぅええっ」
話しかけようとしたが、その前に二度目の波が来た。たった三文字喋っただけで、情けなくビニールに顔を突っ込みなおす。
「はい、そうですよー」
それでも言いたいことは伝わったらしかった。
「覚えててもらって光栄です、なんちゃって。半年ぶりくらいですかねー」
「・・・」
「今回も飲み会ですか? お酒弱いのに大変ですねー。っていうのは余計なお世話ですかね」
「・・・」
「あ、無理して顔あげないでいいです。楽な格好でいてください」
背中をさする手は休めずに、気を紛らすように彼は喋り続けてくれる。抑揚の少ない声が心地よかった。強張った肩から力が抜ける。
「事務室来ます? 何か飲みたいでしょ」
優しい声に、俺は妙にゆったりした気分でうなずいていた。

50929-769 酔っ払い×車掌2/3:2014/11/05(水) 01:53:57 ID:bBuC1whg
「やー、なんか嬉しいです」
事務室のソファに寝そべりながら、俺は彼の尻を見ていた。
別にいやらしい意味ではない。くたびれたソファに一番楽な格好で寝ると、目線がそこに合ってしまうのだ。
「・・・なにが」
「覚えててもらえて。制服着てると、なかなか顔覚えててもらえないんですよねー。月イチぐらいで介抱してても、未だに殴り掛かってくる方とかいらっしゃいますし」
あはは、と笑いながら、彼はお茶を入れてくれているらしい。こぽこぽと注がれるお湯の音がする。うっすらと緑茶の香りも。
「覚えててもらえると、変な言い方になりますけど、こっちも助け甲斐があるっていうか。・・・どうぞ。あ、起きられます?」
彼に支えてもらいながらのそのそと起き上がり、緑茶をすする。じんわりと、熱がお腹にしみる。霧の詰まったような頭に、僅かに考える隙間が戻ってきた。
「すっきりしました?」
「・・・ん」
「じゃあよかった。しばらくいてくださって大丈夫ですから」
ゆっくりしていってくださいね。そう言って笑う彼にうなずきながら、自分がいつの間にかタメ口を聞いていることに気付く。
「なんか、すいません・・・」
「いいですよ、全然。どっちにしろ一人だし、もうそろそろ仕事も片付きますし」
口を動かしながら、彼はごみ箱からビニール袋を引っ張り出す。ぱんぱんの透明な袋の口を手際よく結ぶ。一番上に俺が戻したばかりのビニールが見えた。
「あ、楽な格好でいいですよ。もう一回横になってくださっても」
言葉に押されるように横になる。また彼の尻に目が行った。
「帰れます? って言っても多分無理ですよね」
「え」
「や、前回もお客さん、そうだったから」
「・・・あー」
「あ、名前知ってるのに、お客さんって呼ぶのも変ですね」
佐々野さん。
その音で、彼の名前を思い出した。酒でぼうっとしていた脳の奥からいきなり掘り出されたように、彼の名前が口をつく。
「どうも・・・たじまくん」

51029-769 酔っ払い×車掌3/3:2014/11/05(水) 01:54:56 ID:bBuC1whg
覚えていない方が無理だ。半年前の出来事は、未だに生々しく思い出せる。
「前に比べれば、酔い方ちょっとはましですね」
「よってるはよってんだけど」
「でもまあ、お話しできるじゃないですか」
「まえって、そんなひどかったか」
酷かったよな。彼に言われる前に、自分の頭の中で答えは出ていた。
――お客さ、あ、ん・・・っ!
背中側から支えられながら、口をゆすいでもらった。後ろから抱かれるような体制に、酔っぱらった俺は変に興奮して、俺にもさせろと喚いたのだ。もちろん、ゆすがせる方を。
――ぐっ、げほ、ぅええっ・・・。
無理矢理ふくませた水にえづく彼を鏡越しに見ながら、俺は彼の尻に股間をこすりつけていた。
今思い出しても最低だったと思う。史上最低の酔い方だ。
「びっくりしました」
やんわりとした彼の言い方からは、あの日の面影は感じられない。拍子抜けしてしまうほど。
「それだけか」
「はい」
本当に彼だったんだろうか。はっきりした記憶を、今更疑いたくなった。えづいたせいか、俺のものを擦りつけられてか、涙目になっていたあの日の彼は、本当に
「僕自身、自分のことに初めて気がつきましたし」
・・・ちょっと待て。
「ある意味佐々野さんのおかげかもしれないですよー」
嘘だろ。頭の中で呟く。嘘だ、嘘だ。そんな都合のいいことがあってたまるか。
「僕、そっちでもたつみたいでした。あと、ああいうことでも」
あの日『目覚めた』のは俺一人ではなかったなんて。
「・・・へえ」
そして今、俺と彼が二人きりだなんて。

51129-939 後朝:2014/12/11(木) 23:26:43 ID:C9p8KGTU
間に合わなかったのでこっちに


「…ん、…もう、行くんですか」
布団の中の先輩の感触が消えていることに気付いて目が覚める。
まだ外が暗いうちから起き出して身支度をする先輩の背中に声を掛けた。
「ああ、いったん部屋に帰って準備する」
つられて起きだそうとする僕を、先輩は手で制した。
「今日も仕事だろ、まだ寝てろ。俺は飛行機の中で寝るからいいけど」
肌着を着た先輩が、自分のYシャツを探し当てて羽織り、ボタンを留めはじめた。

先輩は今日から二週間の予定でアメリカへ出張する。飛行機は早朝の便だ。
そんな前夜に、とは思ったが、独身寮の部屋に二人でいると抑えが利かなくなってしまった。
先輩は少し呆れた顔をしながらも、結局は僕の求めに応じてくれた。

靴下とスーツのズボンを穿いた先輩は、手探りでネクタイを探しているようだ。
「あ…」
やっと先輩が手に取ったネクタイは、僕のものだった。色味が似ていたから間違えたんだろう。
「…何だよ」
「いや、…何でもないですよ」
先輩は間違いに気付かないまま、僕のネクタイを締める。
一階上の部屋に帰るだけなんだから何もネクタイまで、と思うけれど、几帳面な先輩らしい。
ハンガーに掛けてあったジャケットを着て鞄を手にした先輩が、
ベッドに座る僕を部屋の入口から振り返って言った。
「それじゃあ、行ってくる」
「…行ってらっしゃい」

先輩は手持ちのネクタイを全部持っていくと言っていたから、きっと僕のを身に付ける日もある。
見送りに行けない分、ネクタイ一本交換するくらいは許してもらいたい。
(先輩が空港に行く前に、気付きませんように)
残された先輩のネクタイを弄んだ。今日はこれを締めて会社に行くことにしよう。

51230-219 一番ほしいもの:2015/02/16(月) 01:36:39 ID:TbbyrK/U
「吉野が今一番ほしいものって何?」

中川にそう聞かれて、うーん、そうだなあ…としばらく考えるふりをしたけれど、
そんなのは考えるまでもない。
俺が一番ほしいものは決まってる。
もうずっと前からほしかったもの。

それを俺にくれることができるのはお前だけだけど、
お前に言うつもりはない。
だって、お前が困ったような顔で「ごめん、それは無理」っていうのなんて
聞きたくないもの。
だから、お前には絶対に言わない。

言わないつもりだったのに…。
 
何?と心から知りたそうに俺を見る中川と目が合うと、
そのまま視線が外せなくなった。
まるで何かの呪文にかかったように、口が開く。
自分の意思に反して唇が動いて、言葉が紡がれる。

「中川」
「え?」
「俺が一番ほしいものは、中川、お前なんだ」

言った瞬間に後悔した。
驚いたように目を見開いた中川がゆっくりと顔を背けるのを見て
心臓が凍りついた。

こわばった頬を無理矢理動かしてぎこちない笑みを作る。
ごめん、今のは冗談だ、と言おうとしたら、中川の小さな声が聞こえた。

「それ、もうとっくに吉野のものだから」

驚いて目を向けると、横を向いたままの中川の頬が赤く染まっていた。


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