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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part3
1
:
名無しリゾナント
:2012/11/24(土) 11:55:51
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第3弾です。
ここに作品を上げる → このスレの中で本スレに代理投稿する人が立候補する
って感じでお願いします。
(例)
>>1-3
に作品を投稿
>>4
で作者が代理投稿の依頼
>>5
で代理投稿者が立候補
>>6
で代理投稿完了通知
立候補者が重複したら適宜調整してください。ではよろしこ。
876
:
名無しリゾナント
:2013/06/07(金) 22:38:30
―― ―― ―
人間と異能者の間には、深くて広い溝がある。
その溝に橋を架ける事はできるかもしれないが、あまりにも脆い。
異能者にとってこの世界は、生きるためだけに生きることのできる世界ではない。
目的が無ければ生きてはいけない、という訳でもないが、重要な部分でもある。
生かすも殺すも、自分で考えなければいけない。
考えなければ、生きていけなかった。
異能者はどこかで人間を嫌わなければいけない、という節がある。
好きでも、自分とは違うからと線を引く。
同じ人間のはずなのに。
そんな二つの存在に共通するものがあるとすれば、覚悟。
命を失くす覚悟。
一時の勢いで生まれただけの覚悟であっても、それがどんなに
難しいものかを理解することが出来る。
異能に対峙する人間はある意味で恐ろしい。
特に子供の異能者。
命を危機に晒され続ける人生を歩んできたわけでもない。
ごくごく普通の生活を送ってきたであろう少女達。
普通に学校に行って、部活などをして、それなりの学校生活を
謳歌していた彼女達の日常の歯車を狂わせるきっかけ。
877
:
名無しリゾナント
:2013/06/07(金) 22:39:12
人間界での葛藤もあっただろうが、その中で異能者という存在を知り
出逢い、そして触れあってきた事による、理解。
信じてきたことも何度かあったが、それと同じくらいの裏切りもある。
その裏切りを絆として抱いている者はあまりにも救えない。
「正直、あたしのところに来るなんて思ってなかったです」
「それほど私も、なりふり構ってられなくなっちゃったって事よ」
「あたしは自分で決めたんです、それは後悔してないですよ」
「うん、分かってる。咎める理由もないよ、だからあんたを行かせた」
久住小春がリゾナンターを離反したのは、高橋愛が
失踪してから約半年後のこと。
光井愛佳と行動を共にしていたが、i914と遭遇した事によって
全てを理解した上で、自ら離れることを決意した。
その後は安倍なつみに拾われるように【ダークネス】の組織へ。
リゾナンターのメンバーとの間には溝が生まれてしまったが
久住本人は、何も言わなかったし、何もしなかった。
皮肉を言う者もいたが、久住は気にも留めず、それから半年が経過する。
「あんたはまだあっちでの生活だって出来る。
リゾナンターが何でできたのかが分かってる今、小春は
もうこの世界に居なくてもいい、だけど狙われてるのは変わらないからね」
「…何が言いたいんですか?」
878
:
名無しリゾナント
:2013/06/07(金) 22:40:48
i914によってダークネスを打ち倒され、組織が壊滅してからは
安倍や飯田と共に別の場所へと隠れ住んでいた。
芸能界での「月島きらり」も失踪中という扱いでメディアにも
報道され続けている上に、両親からも警察への捜索届が提出されている。
だが今i914の問題が片づかなければ、彼女は日陰者としての
日常を送り続けるしかない。
「あんたはいろいろと手間がかかったけど、あたし達以外を
巻き込もうとしたことは一度も無かった。
だから皆、内心では分かってるのよ。事実を知った今、小春の行動はむしろ正しい」
「…まさか、安倍さんに?」
「あの人はただ、見守ってくれるだけ。小春も選べるのよ。
だけど私にはこれ以上のことは言えない。
それはあんたの為にならない。あんたの思うことじゃない。
だから選んで、小春、私に、協力してくれるか、どうか」
久住小春はもうリゾナンターではない。
ただ、光井愛佳には離反するときに一度だけ、声をかけた。
その表情は久住を責めるわけでもなく、安心したようでもない。
ただ、見ていた、自分を。久住小春を見ていた。
新垣里沙は裏切り者だった。
リゾナンターという道具を使って人を蒐集し
エネルギーの媒体として利用されていた事実。
自分のためというのは偽善だった。
ただ"共鳴"のチカラによって高め、強化された異能だけが必要だった。
879
:
名無しリゾナント
:2013/06/07(金) 22:42:15
【ダークネス】の目的。シナリオ。
全てにおいて許さない。許さないのに。
「あたしは協力しない。だけど、このままじゃ自由になれない。
だから小春は、小春のために動く。
光でも闇でも、あたしはあたしのままで居続けてやるんだ」
イメージなど関係無い。認識なんてものは自分の目で十分。
見守るなんて真っ平ごめんだ。
信じるも信じないも、全て自分で決めて来たように。
「…分かった。でも、私達がこれからやる事と、場所だけ教えておくわ。
きっとあの子も追いかけてくるだろうから」
「新垣さん」
久住に名前を呼ばれて、新垣は思わず顔を見る。血のような燐光。
「あたしは、きっと殺せますよ。あの人を、殺せる」
「分かってる。分かってるよ、小春。私もきっと、そうするだろうから」
「うそつきですね」
「そうだね、私はずっと欺き続けて来た。
けど、やっぱり私も、私のために動いていたい、これは嘘じゃないよ。
もう隠す必要も、ないしね」
携帯電話が鳴る。表示をみて、新垣の表情がいっそう険しくなった。
それは絆が覚悟へ、変わる瞬間。
880
:
名無しリゾナント
:2013/06/07(金) 22:46:58
『異能力 -Invitation to the jaws of death-』
以上です。
最近は哲学やSFに対しても厨二病と罵る発言が増えてて悲しい。
881
:
名無しリゾナント
:2013/06/07(金) 22:47:37
----------------------------ここまで。
いつでも構わないのでよろしくお願いします。
882
:
名無しリゾナント
:2013/06/08(土) 10:20:55
>>881
行ってきたよ〜
最後の最後でガキこはですか(違
共闘の理由が己のためといのは真実なのかそれとも偽りなのか
883
:
名無しリゾナント
:2013/06/09(日) 22:55:43
譜久村聖と出会ったのは、亀井絵里が眠ってからだった。
とある経緯で譜久村と亀井が接触し、亀井が負傷の末に眠りにつき、それによって
もうかれこれ1年が経ち、道重さゆみは『リゾナンター』のリーダーになっていた。
譜久村は多く語らなかったが、自分の事や、亀井が助けてくれたことを
微かな声で説明してくれたのは覚えている。
謝罪の言葉もあった。
だがそれに対して道重は、責めることは出来なかった。
責めたところで現実は変わらない。
どこかで変えようと思っても、もう出てしまった結果は変えられない。
変えられない、代えられない。
亀井が居ないという現実、在るのに、有ると思えない。
空虚。なんて切なく、悲しく、寂しい。
ジュンジュンやリンリンが故郷へ帰ってしまった時も悲しかったが
それ以上になにか、心の底が欠けたようで。
譜久村は道重のことを尊敬してくれている。
尊敬の眼差しを受けていると、心の何処かで微かな違和感を覚えた。
落ちてしまった欠片が、小さく、割れる。
「やー久し振りだねえ、焼肉なんてさ」
「愛ちゃんのご飯も良いけど、やっぱりたまにはこういう油っぽさも大事だと思うの」
「ま、日々の頑張りによるごほーびですよ?」
884
:
名無しリゾナント
:2013/06/09(日) 22:57:21
その出来事がある前、亀井がまだ元気だった頃に二人で焼肉屋へ向かった記憶。
その店は食べたい肉を自分でとってくるビュッフェ方式であり、九十分以内なら
とる肉の量に制限が無い。
それを良い事に、二人は大量の肉を盛っていた。
種類はそれなりに考えたが、一度皿に持ってしまえば、それを残すことは
マナー違反となって追加料金を取られる。シビアな世界だ。
葱タン塩を食べている彼女が言葉を呟く。
彼女は食事制限もそれなりにある為、こうしたものは控えるようにと
念を押されている、だから数ヶ月に一度、というペースを約束していた。
もちろんその反動は大きい。
道重も網の上で何度もひっくり返してから、タンにネギを載せてレモンを
かけて、ご飯と一緒に食べる。
カルビをサンチュに巻いてみたりもしながら、一口ごとにしっかりと噛んで。
二人は食べ続け、最終的には全部平らげてしまった。
顔をつき合せて焼き肉を食べるという色気も何もない状況ではあるが
好きな人と食事をして、会話をして、というのはとても楽しい。
「ん、このアイス美味しー」
「デザート食べるとなんか、シメって感じがするよね」
嬉しいのも、落ち込むのも、悩むのも、それによって自分の心が
揺れ動くたびに、その思いが大切になっていく。
この思いがいつか終わる時が来たとしても、それでも道重は断言できた。
なんて、幸せなんだろう。
885
:
名無しリゾナント
:2013/06/09(日) 22:58:19
食欲が満たされているからなのか、それとも亀井との会話と久し振りの
外食に心が躍っているからなのかは定かではない。
だが、楽しい。全てにおいてこの瞬間は、幸せだったのだ。
「うへへ、さゆ、また食べに来ようね。今度はお酒も飲めたらいいな」
「うん、楽しみにしてる」
今の自分は、どこにでもありふれた幸せを思っている。
それは普通の女の子と対して変わらない。
"今"が大切だと痛感する。
――― その幸せの先にあるモノを、道重は遠くない未来に知った。
それは知りたかった事実であり、知らなければいけない事実であり
知らなければ良かった事実であり、そして知りたくない事実だった。
―― ―― ―
夢を、見ていた。
亀井絵里と焼き肉を食べる夢。
食べる夢というのは良いのか悪いのか分からないが、以前に
歯が抜ける夢を見た時は、起きた直後、恐ろしくて仕方が無かった。
縁起が良いと言われたが、二度と見たくない。
886
:
名無しリゾナント
:2013/06/09(日) 23:00:59
しかし『夢を見ていた』と今認識している自分は、目を醒ましているのかもしれない。
起きているにしてはやけに意識がぼんやりしているし
寝ているわりにはずいぶんと客観的に物事を考えている。
(…そうだ。私は…)
瞼がやけに重い。
目を開けるという単純なことが、すぐに出来ないなんて。
やはり自分は夢を見ているのだろう。
寝ているから、目を開けられないのだ。起きたい、と思っているのに。
「う……」
呻き声が聞こえた。やけに掠れた、小さな声。
自分の声だという自覚はあるが、これは夢の中で発したのか、寝言か。
(私、は…)
本当に目を覚ました、気がする。やはり今までのことは全て夢だったらしい。
夜なのか、視界は薄暗い。その暗い視界の中で、誰かが寝ている自分を
見下ろしているのが見えた。
「やあ、おはようさゆ、といってももう夜なんだけどね」
すぐ近くから聞こえる女性の声、まだ目が暗闇に慣れないのか
しっかりとは見えないが、聞き覚えたあった。まるで笑っているようなその声を。
887
:
名無しリゾナント
:2013/06/09(日) 23:08:16
『異能力 -Battlefield at the back of the chest-』
以上です。
スレ内でも雑談してくださいね。
過去の思い出話だったり、今のメンバーの事だったり。
888
:
名無しリゾナント
:2013/06/09(日) 23:08:53
----------------------------ここまで。
いつでも構わないのでよろしくお願いします。
889
:
名無しリゾナント
:2013/06/10(月) 01:21:23
>>887
です。
すみません、最後の1レスの最後1列目の文章に誤字が
あるかもしれません、よければ修正して頂けると幸いです。
890
:
名無しリゾナント
:2013/06/10(月) 05:51:40
しかし『夢を見ていた』と今認識している自分は、目を醒ましているのかもしれない。
起きているにしてはやけに意識がぼんやりしているし
寝ているわりにはずいぶんと客観的に物事を考えている。
(…そうだ。私は…)
瞼がやけに重い。
目を開けるという単純なことが、すぐに出来ないなんて。
やはり自分は夢を見ているのだろう。
寝ているから、目を開けられないのだ。起きたい、と思っているのに。
「う……」
呻き声が聞こえた。やけに掠れた、小さな声。
自分の声だという自覚はあるが、これは夢の中で発したのか、寝言か。
(私、は…)
本当に目を覚ました、気がする。やはり今までのことは全て夢だったらしい。
夜なのか、視界は薄暗い。その暗い視界の中で、誰かが寝ている自分を
見下ろしているのが見えた。
「やあ、おはようさゆ、といってももう夜なんだけどね」
すぐ近くから聞こえる女性の声、まだ目が暗闇に慣れないのか
しっかりとは見えないが、聞き覚えがあった。まるで笑っているようなその声を。
891
:
名無しリゾナント
:2013/06/10(月) 05:56:32
>>889
本スレと間違えてこっちにアレしたけど転載完了
誤字は…motorさんを意識したわけではないですよねw
892
:
名無しリゾナント
:2013/06/10(月) 16:19:17
>>875
代理投稿ありがとうございます。
徐々にステップアップしていきたいと思っています。
それでは続きを投下いたします。
893
:
名無しリゾナント
:2013/06/10(月) 16:22:18
>>513-520
の続きです
喫茶リゾナント。
優樹が攫われたと亜佑美に一報を入れた遥だが、攫った人物を追うとしてそのまま電話を切ってしまった。
それと同時に爆発事故の現場を報じていたテレビの画面が、ふっと暗くなる。
次の瞬間にテレビが映し出したのは、煌びやかな衣装を身に纏ったアイドルが歌い踊る姿だった。
「ちょっと、誰ですか!?テレビのチャンネル変えたの!」
しかもこんな時にアイドルの番組だなんて。
亜佑美は先輩である聖を反射的に見てしまう。が、聖は自分ではないと言いたげに首を大きく横に振った。
「この人、松浦亜弥やん」
聖と同じくアイドル好きな衣梨奈が、言う。
チャンネルを変えたのはこっちのKYか。と思いきやそうではなさそうだ。いや、それ以前に。
「おかしいです。どこのテレビ局も爆発事故を報じているはずなのに」
そう言う春菜の指摘は、正しかった。
ついさっきまで、ザッピングしながら他の報道番組を見ていたばかり。いつもは重大な事件が起きているのにアニメを放送している
あの局ですら、特別報道番組に切り替えていたはず。
「それにこの時間はこんな歌番組、やってません」
きっぱりと言い切る春菜。
すると、画面の中でおかしなことが起こる。それまで歌い踊っていた松浦亜弥が、カメラにゆっくり近づき、そしてまるで画面を隔て
たこちら側に向かって話しかけてくるような態度を取ったのだ。
「いやいや、鋭いね。そう、これは喫茶リゾナントだけで見ることができる特別番組」
カメラにアップで映るその顔は、既に国民的アイドルのそれではなかった。
まるで月が雲に隠れるかのように、表情の闇が増してゆく。
894
:
名無しリゾナント
:2013/06/10(月) 16:23:27
「はじめまして。芸能人『松浦亜弥』は世を忍ぶ仮の姿」
ぱちん、と指を鳴らす。
きらきらした衣装は、瞬く間に処刑人のローブへと姿を変えた。
手に持つ桃色の刃を携えた大鎌は、死神のそれによく似ている。
「あたしはダークネスの粛清人、『赤の粛清』」
テレビを見ている全員の背筋に、寒気が走る。
先輩の話でしか聞いた事のなかったダークネスの幹部が、ついに姿を現したのだ。
「まず説明します。あなたたちの仲間を攫った人物は、あたしです」
カメラが、「赤の粛清」がいる場所の背後に焦点を合わせる。
柱に縛られ、ぐったりしている少女は。
「まーちゃん!!」
「そのとおり。ま、気を失ってるだけだからそういきり立たないの」
まるで、こちら側の様子が見えているかのように。
優樹が捉われの身となっている事実に憤る四人を窘める、「赤の粛清」。
「で、ここからが本題ね。これから、あなたたちは道重さゆみと田中れいなを除いた7人で、あたしが待つ
この撮影スタジオに来て貰います」
にこりと笑みを見せつつ、そう説明する粛清人。
「どうして道重さんと田中さん以外で」
「明らかな罠です!!」
敵が提示した条件に疑問を持つ聖に、春菜が強く牽制する。
だが、次に「赤の粛清」が取った行動により選択肢は消滅した。
895
:
名無しリゾナント
:2013/06/10(月) 16:24:24
画面に向け、翳した大鎌の刃。
桃色の刃が、まだらに光る。何かが、滴り落ちている。
刃の上には、毛の生えたボールのような物体が、数個。よく見ると。
それは見知らぬ中年たちの生首だった。
「安心して。スタジオの責任者のおじさんたちはもう口が利けません。堂々とスタジオに乗り込んできてく
ださい。でも、あたしの誘いを断わったり、先輩たちにこのことを知らせた場合」
「赤の粛清」が、鎌を背後の優樹に向ける。
勢いで生首が転げ落ち、バウンドしながら床に赤い染みを作った。
「生首がひとつ、増えることになるけどね」
その台詞が、最後まで語られることはなかった。
衣梨奈が、手にしたピアノ線をテレビに巻きつけ粉々に破壊したからだ。
「行こう、聖」
「うん」
衣梨奈の呼びかけに聖が、力強く頷く。
最早一刻の猶予も無い。罠だろうが、何だろうが、手をこまねいていては優樹の命が危ない。
「道重さんや田中さんには…」
「優樹ちゃんのことを考えるとそれはできないよ。大丈夫、優樹ちゃんを助けたら逃げればいい」
春菜の提案を、やんわりと否定する聖。
相手はダークネスの幹部だ。普通に考えればとてもではないが太刀打ちできる相手ではない。
ただ、相手の虚を突きその隙に場を離脱することくらいなら可能なはず。
さゆみ、れいなに続き聖はリゾナンターでも三番目の年長者になっていた。
状況を考え、最善の手を打つという考え方は、新しいリゾナンターたちのまとめ役である彼女の中にも育ち
つつあった。
ただ、それでもやはり聖の考えは甘かったと言わざるを得ない。
896
:
名無しリゾナント
:2013/06/10(月) 16:26:31
●
まるで忍者漫画に出てくる忍者のようだ。
人攫いは民家の屋根を飛び、電信柱を足場にして、さらにマンションの屋上へと飛び上がる。
しかし、追いかける里保もまた、「水軍流」によって鍛えられていた。故郷の切り立った崖や谷に比べれば、
都会のコンクリートジャングルなど比ではない。
追跡していた赤いスカーフが、大きな建物に入る。
建物の玄関に降り立った里保はそこが、テレビ撮影に使用されているスタジオらしき場所であることに気づく。
誰か人がいるかもしれない。
しかし、躊躇している時間はない。
里保は息を大きく吸い込み、それから意を決してスタジオの中に乗り込んでいった。
実に奇妙だった。
受付、建物の中。まるで人の気配がしない。そもそも、こういった類の場所の玄関ににいそうな警備員すら見当
たらなかった。
既に敵の手がこの建物に伸びている、と考えるのが自然。とすればこれから先どんな罠が張られているかわから
ない。
里保は自戒の念を込め、ゆっくりと探るように建物の内部に入ってゆく。
「こっちだよ」
不意に、声が聞こえてくる。
第五スタジオ、と書かれたスタジオの入口が開放されていた。
周囲に最大限の注意を払いつつ中に入ると、声の主が大鎌を立てかけて待っていた。
「あたしの足について来れるなんて。なかなかやるじゃん」
頭上の照明に照らされているその顔に、里保は見覚えがあった。あのTVによく出ているアイドルか。ただ、今
はそんなことはどうでもいいことだ。
897
:
名無しリゾナント
:2013/06/10(月) 16:27:35
「まーちゃんは?」
「そういうのってさ、お約束でしょ」
言いつつ、大鎌の切っ先を里保に向けた。
力づくで聞けか、ならば望むところだ。
腰の刀の鍔にかけていた親指を弾き、ゆっくりと刀を抜いた。
「お、水軍流ってやつ?見せてよ」
「言われなくても!!」
両手に構えた愛刀「驟雨環奔」を片手に持ち替え、空いた手を懐に忍ばせる。
水の入ったペットボトルの封を切り、あふれ出した水でもう一本の刀を作り出した。
二刀流。
本来ならば里保の切り札である流法を真っ先に出した理由は、相手の得体の知れなさ。
誰にも気づかれずに、優樹に接触し、攫ったやり口。侮れない。
走りながら刀を交差させ、ぎりぎりまで溜めた力を相手の前で解放する。
「さすがリゾナンターの次期エース。けど、ダークネスの幹部を相手にちょっと舐めすぎなんじゃないの?」
交差した刀の先には、大鎌。
行き場のなくなった里保を、前蹴りで弾き飛ばした。
その威力を最小限に抑えるかのように、後ろに飛び、再び間合いを取る里保。
この人、ダークネス。それも、幹部って言ってた…
心臓が跳ね上がりそうになるのを、努めて冷静に抑える。
普通に考えれば、到底自分が相手になるような状況ではない。
ただ、そんなものは実際にやり合わないとわからない。能力の相性もあれば、戦略の有利不利もある。名前で物
怖じするなど、水軍流の名前に泥を塗る行為に他ならない。
再び、「赤の粛清」に正対する。
体を半身にし、「驟雨環奔」を持つ手を相手に向ける。俊敏さを優先した、水軍流剣術の構え。
898
:
名無しリゾナント
:2013/06/10(月) 16:28:07
「いいね、その表情。ぞくぞくするよ」
「いざ、参る!!」
里保が飛び出した。
「赤の粛清」が、向かってくる相手の首を薙ごうとその凶刃を振り上げる。
勝負は一瞬。鎌の軌跡が自らに届くより前に、相手を斬らなければならない。
桃色の刃が、弧を描く。
その軌跡上を、里保が駆け抜けた。
「ぐあああああっ!!!!!」
叫び声とともに、得物を取り落とす音。
斬られたのは、「赤の粛清」だった。
胸を十字に斬られ、鮮血が赤いスカーフをさらに赤く染め上げる。
あっけない結末。
相手の奢りがあったからか。それとも里保の実力が上回るほどに成長していたのか。
「くっ…舐めてたのは、あたしのほうだったか」
大鎌を拾いあげ、息も絶え絶えに「赤の粛清」が言う。
その表情にはもう、余裕はない。
必死の形相で襲いかかる粛清人。
鎌の持ち手を短くし、斬撃のストロークを短縮する。
だが里保もふた振りの刀を器用に使いこなし、凶刃を捌く。
左からの刃を「驟雨環奔」で弾き、返す刀をさらに水の刃で止める。
鎌の一撃をかわしながらも、里保の本能が必死に訴えかける、違和感。
何かがおかしい。
足元を掬う鎌の刃をジャンプで回避した時に、それは起こった。
899
:
名無しリゾナント
:2013/06/10(月) 16:29:00
「もう、いいよ。大体『わかった』」
「赤の粛清」が発した言葉ではなかった。
むしろ彼女自身、声の主を探そうと、スタジオの方々に首を向けていた。
「誰?出てきなよ!」
「赤の粛清」が睨みつけた先の空間が、歪む。
暗黒の虚、ゲートの出口から出てきたのは。
「だから言ったじゃん。大体わかったんだってば」
里保は目を疑う。
そこには、「赤の粛清」に寸分違わず同じ造形をした、「赤の粛清」がいた。
「あんた…クローン?」
「いいから。あんたの役目は終わったの。さっさと交代」
「クローンの分際で生意気な!!」
赤き粛清人の言葉は、そこでぷつりと途絶える。
いつの間にか首を攫われていた「赤の粛清」は、自分が何をされたかすらわからないまま、永遠に意識を失った。
「はい、ご苦労さん。て言うかあんたがクローンでしょうが」
目にも止まらぬ動きで、たった一撃で相手を死に至らしめた。
先ほどから里保を襲っていた違和感。今なら理由がわかる。
後からやってきた女性こそが、本物の「赤の粛清」であると。
900
:
名無しリゾナント
:2013/06/10(月) 16:29:50
>>893-899
更新完了
お手数ですが代理投稿をお願いします
901
:
名無しリゾナント
:2013/06/11(火) 10:54:28
>>900
行ってきますた
多方面で展開するバトルとかちょい意外な展開とか嫌いじゃない
902
:
名無しリゾナント
:2013/06/11(火) 23:00:58
大多数の認識とは違って、世界は歪んでなどいない。
ただ、人間の意思とはまったく関係なく荒れ狂う熱力学第二法則と
混沌係数増加の法則があるだけである。
我らは局所的に係数を減らす。それだけを愛と錯覚できるからだ。
―― ―― ―
科学者は人間ではない。
そう言ったのは誰だったかは忘れてしまったが、似た様な考えは彼女にもある。
理論とは、画家が使う絵の具の様なものだ。
いかに日々の研究を積み重ね、光沢の絵の具を作り出そうとも
どのような絵を描くかは其れを手にした者の自由だ。
そうして描かれた絵によって誰かの人生が変わったからと言って
責任の一端でも作った職人に求める事は出来ない。
ところが、そんな当たり前の理屈が人々には理解されないでいる。
科学技術を毛嫌いして自然回帰を訴える連中の中には、人類の歴史を引き合いに出し
有史以来多くの時代でその時々に生まれる最新の科学技術が戦争の為に
利用された事実を根拠として、科学技術を邪悪な物と主張する愚か者さえ存在する。
科学の理論。
自然界の法則はいかなる存在理由も無く、ただそこに「在る」物だ。
仮にその理論を最初に見つけた科学者が兵器としての利用を目指して研究を
積み重ねていたのだとしても、彼等が見出したその数式のどこかに
「この理論は人殺に行使する」と書かれていた訳ではない。
新たな技術を平和目的ではなく兵器として利用する事を選択したのは
最終的には世界であり、其処に生きる人間自身。
理論や、其れを生み出した科学者に責任を求めること自体が筋違いにも良い所だ。
903
:
名無しリゾナント
:2013/06/11(火) 23:02:04
「夢」や「ロマン」と言った俗物根性が抜けきらない人間ではあるものの
例えば自身の基礎理論が誰かの手で応用に応用を重ねて巡り続けた結果
新型の爆弾を生み出すきっかけになったとしても。
その爆弾で死んだ人々の墓に参ろうなどとは思わない。
齢二十歳を過ぎた女性に言わせれば
功罪の「罪」どころか「功」まで完全に突き抜けてしまうだろう。
彼女の研究を元にして生み出された画期的な脳外科治療術によって命を救われた
患者団体の表敬訪問を、あろう事か「スウィーツの時間なので」と一蹴した事がある。
少なくとも彼女にとって、そういう代物なのだ、科学とは。
例え他人に無責任に罵られようと、自分の発見した理論の行く末。
その理論によって生み出される数多の罪など知った事ではなかった。
逸脱した人間。
世間の評価や大衆の声などには毛ほどの価値も見出しては居ない。
だが、人類の最先端に立つ科学者とはそうあるべきだと思う。
誰も知らない、全く未知の理論を発見すれば、それは良い結果だけを生まない。
相対する悪い結果は必ず現れる。
人類はそうやって発展してきた。
そしてこれからも、立ち止まっている時間など何処にも無い。
時間など止めて見せよう。幾らでも。
だが、それを敢えて自身で拒んだ。
絵の具職人の本分を踏み越えて、自らの力で美しい絵を描く事を望んだ。
904
:
名無しリゾナント
:2013/06/11(火) 23:02:48
世界の常識を塗り替え、全てを変える画期的な理論の創始者に成りたいと。
思えばそれは、科学者としての本能ではなかった。
――― 彼女の科学者になっての最大の不幸は、ただの人間だという事だった。
―― ―― ―
「無理して喋んなくていいよ。貴方の"半分"が奪われてる状態なんだから。
君達の共存は解離性なんてもので説明できる代物じゃない。
なるほど、学者が異能者を"生き物"と捉えるなら、科学者は"現象"とも捉えれる。
【言霊】による具現化がそれを証明してるんだ、不可能なわけがない。
特にこの子達は共鳴者なのだから」
白衣の女性が何かを話していたが、道重は全てを思い返していた。
地面に叩きつけられる身体。
その前の刹那、飯窪が【粘液放出】で道重をカバーし、石田亜佑美が
【加速】で水の速度を弱めたのを視界に収めている。
だがそれでも二人は倒れ、道重も全身の痛みに苛まれた。
飯窪と石田に近寄ってきたi914が頭を掴んで何かをしていたが
そこで自分も力尽きた事で何が起こっていたかは分からない。
一つだけあるとすれば、止められなかった、という事実だけ。
幼い子供達を巻き込んでしまった罪悪感もある。
道重に協力してくれた少女達、何も関係のない8人を。
i914に一方的に攻撃された譜久村。
亀井が自分の命を賭けてまで救った彼女。
独りになった自分に尽くそうとしてくれた彼女を、守れなかった、事実。
905
:
名無しリゾナント
:2013/06/11(火) 23:03:31
「人工的なんてものじゃない、人為的な一種の呪詛だよ。
制約という言霊の下で抑えられてなければ、それは神域に値する。
全く、君達は私の考えをことごとく突き破ってくれるねさゆ……さゆ?」
道重は全身打撲だけで済んでいた上に、【治癒能力】による
自然治癒によって既に完治しかけている。
彼女は静かに泣いていた。
紺野あさ美は慰める事はしない、彼女は掌で視界を隠して泣いている。
悲しんで生き続けていた道重。今はただ、泣かすだけ泣かすのが良い。
そう遠くない未来、道重には悲しい未来が待っている。繰り返される。
それが"共鳴"の制約だ。
悲しみは強さを呼び、強さは繋がりを呼ぶ。
感情論の中で悲しみは喜びよりも継続性が高い。
世界において希望よりも絶望が多いように。
それがリゾナンターと呼ばれる所以、"共鳴者"はだからこそ強い。
自身の命を削る強さ。
紺野が果たしたい願いは既に、世界へ還元されていた。
劣化コピーとしての自分には、とうてい到達することは出来ない領域だ。
だが。
「…さゆ、亀井絵里を起こすことは可能だよ。そしてあなたの行動で
この子達を救うこともできるわ」
906
:
名無しリゾナント
:2013/06/11(火) 23:04:14
道重は腕を上げて、紺野の顔をみつめた。
「今からある人に連絡させる、その答えでやるべきことが決まるはずよ。
起きなさい、そして、この子達を助けるために走りなさい、リーダー」
それはいつか、あの子に言ったことのある言葉だな、と思った。
道重の輝きが強まったのを見逃さない。
紺野は静かに口角を歪めて、笑った。
―― ―― ―
無慈悲な傷跡が君と私の街角に横たわっている。
だからといって、君の哀しみが癒されるわけでもない。
君の哀しみは、どこまでも君自身にしか属さない、属せない。
だからこそ私は哀しく、愛しいのだ。
907
:
名無しリゾナント
:2013/06/11(火) 23:16:32
『異能力 -Battlefield at the back of the chest-』
以上です。
なんて真面目な雑談なんだろう…w
便乗と言わずにわいわいしてくださいな。
>>580
やっぱり美少女戦士とか魔法少女のイメージが強いんじゃないですかね。
今の娘。も死と隣合わせではないですが、自分の肉体と精神を
削って活動してる訳ですし、その姿が被るのも理由の一つかなと。
>>582
断絶しなくても、当時のメンバーも織り交ぜてもいいんじゃない
かというのが個人的な意見です。だってリゾスレだもの。
908
:
名無しリゾナント
:2013/06/11(火) 23:18:16
-------------------------------ここまで。
いつも代理投稿ありがとうございます(土下座
今回少し長くなりましたので、お暇がある時に
よろしくお願いします。
909
:
名無しリゾナント
:2013/06/13(木) 00:43:52
2ちゃんが重かったので遅くなりましたけど転載してきました
話自体は終盤に差し掛かりつつあるんでしょうけどスレの始めの頃の雰囲気もそこはかとなく感じさせられた内容でした
910
:
名無しリゾナント
:2013/06/14(金) 20:10:48
それは少女の過去。
未来よりも過去に悔いを残し、やり直したいと求めていた過去だ。
その方法や手段を持っていたが、それ以上のことは想わなかった過去。
神を否定し、未来を抱いてそれでもなお歩み続けようとする信念。
だからこそ、少女は気付かない。誰も囁かない。
その未来に希望があるかは、誰にも分からないからだ。
――― 毎日顔を突き合わせていれば、色々なことが起きる。
諍いだってよくあること。
それがすぐに治まることもあれば、長引くことも無論珍しくはない。
特に少女は母子家庭でもある。
その上、幼少時代の事件によって母親との折り合いは悪い。
だが世間体を考ると母親は娘である少女を放置することも出来ない。
そんな母親に対して、娘もまた悩みを抱えていたが、通っている学校
での出来事を含めると、少女の方があまりにも悲惨な状態だっただろう。
「出て行って!」
「出て行くわ!」
などと叫んで部屋を出た後に、外が大雨で雨具も財布も持っていない
事に気付くのは、よくある事では無かったが。
様々な要因と共に少女は家を飛び出したが、早々に後悔していた。
(…………あーあ)
911
:
名無しリゾナント
:2013/06/14(金) 20:11:21
少女は心の中だけで、大きくため息を吐いた。
口に出したところで、雨の音にかき消される。
屋根があるから雨はしのげるが、それでも時たま吹き込んでくる水滴は冷たい。
このままほとぼとりが冷めるまで立ち尽くしていたら、風邪をひいてしまいそうだ。
暦の上では既に夏とはいえ、梅雨の季節であるこの時期はまだ肌寒い。
(もっと用意してから出てくれば良かった…)
戻って、着替え直して、傘と財布を持って出て行き直すというのも
馬鹿らしい話である。
たいていこんな喧嘩は、二、三時間ほど間をおけば済んでしまうものだ。
"普通の関係"なら。
「そこで何しとお?」
「あ、えっと、あ、雨宿りです」
そこはアパートの屋根であり、住人かもしれない女性が立っていた。
傘をさして買い物袋を持っているところを見ると、今帰ってきたばかりだろうか。
制服を着込んだまま、しかも夕刻を過ぎた時間に見知らぬ学生が
突っ立っていれば、誰もが怪訝な顔をする。
「傘、持ってないと?」
「あ、はい…くっ」
少女はくしゃみが出そうになるのを必死で堪える。
そんな彼女の心情を知ってか知らずか、女性は空を見上げた。
少女は濡れた地面が、ひどく寒々しく見える。
912
:
名無しリゾナント
:2013/06/14(金) 20:12:07
「天気予報だとまだまだ降るみたいやけん。
もしかしたら雷も鳴るかもしれんね。…れな、部屋に戻るけん」
「あ、はい、私もすぐに帰りますから…」
「でも一人でおっても暇やけん、付き合いいよ」
「はい?」
女性の言葉につられて、アパートの一室へとお邪魔する。
間取りは、玄関を開けた左に小さな台所、右に洗面所と
ユニットバス、ささやかな廊下の先には八畳の部屋とロフト。
そこには驚く要素など何も無い。
驚く要素としては、室内の物品だ。
テーブルの上に置いてある電話と数台の家庭用ゲーム機。
少し離れたところに置いてあるテレビと、小さな本棚と衣装ケース。
クッションが一つ、座椅子が一脚。
あとは部屋の隅に寄せてある漫画など。
一言で表すなら、とても殺風景な部屋だった。
「そこら辺に座って、あ、座布団いる?」
「あ、はい」
「んー…ちょっと余りモンっちゃけど、これでも食べり」
そう言って女性が出してきたのは、スーパーで298円の袋詰め
で売っていたようなミカンを数個、テーブルに置いた。
女性が買いこんできた袋からは夕食だろうか、レトルトや惣菜やら
を取り出して、そういったものもテーブルへ乱雑に並べていく。
ふと、何か違和感を覚えた。
913
:
名無しリゾナント
:2013/06/14(金) 20:12:40
「あの、ここには一人で住んではるんですか?」
「んーん、もう一人おるっちゃよ。って言っても、あんまり帰ってこんけどね。
なのにさっき急に帰るって電話入ったっちゃん、こんな日に買いものに
行きたくなかったんやけどねーま、しょうがないっちゃよ」
「あの、私が居てもいいんですか?」
「何が?」
少女の言いたいことが何となく分かったのか、女性は「あぁ」と呟く。
「言うとくと、親じゃないよ。それにれなも勝手に住みついてるだけやけん」
「…はい?」
女性が言うには、孤児院に住んでいるらしく、何かがあるとここの家主
を頼って、熱が冷めたら帰るということを何度かやっているらしい。
呆気ないほどシリアスな内容を挟んできたような気もするが、女性は
あまりそういった所を気にしない性格なのだろう。
そんな女性に対して、少女も、呟くように自分の経緯を話し始めた。
励ましてほしいからではない、ただ、誰かに聞いてほしかった。
女性、田中れいなは、少女、光井愛佳の言葉をただ聞いていた。
頭を撫でるでもなく、励ましの言葉をかけるでもなく。
それだけでも光井には有り難かった。
彼女にはそれだけの友達も居なかったから。
914
:
名無しリゾナント
:2013/06/14(金) 20:18:59
『異能力 -Afterglow of wing-』
以上です。
>>643
難しいと思うのは卒業したメンバーと現実で交流してる姿を
見てないから想像しづらいように感じる部分があるのかな、と。
当時のリゾスレもコミカルなものが多かったですよ。
リゾブルの世界観は書き手のイメージなので。
915
:
名無しリゾナント
:2013/06/14(金) 20:20:19
----------------------------ここまで。
いつも代理投稿ありがとうございます。
お暇なときにでもよろしくお願いします。
916
:
名無しリゾナント
:2013/06/15(土) 10:08:19
914を取られたw
しかしスパムが多いなあ
917
:
名無しリゾナント
:2013/06/17(月) 13:21:03
「あの、簡単にできそうなのってどれですか?」
「えーと、魔法を使って敵を倒すのとか、天下統一とか
全国争覇とか、正義の味方とか」
「…全部勝ち負けが多いヤツですね」
「盛り上がれるヤツが好きっちゃからね、あと簡単なヤツ」
沸いたお茶を茶碗に注ぎ、冷めるのを待ちながら光井は
棚にあったゲームソフトを選んでいた。
田中がゲームをしようと言ったからだったが、それにしては
どこか戦闘系が多い上に、光井はあまりゲームをした事が無い。
いくつか電源をつけてやってみたが、コントローラーの使い方が
分からないのを理解すると、二人はテレビ番組に専念することにした。
雨が降りしきる音、テレビが流す番組が、空々しく聞こえる空間。
「なあ、愛佳」
「はい?」
「愛佳は今、寂しい?」
唐突な発言に、光井は目を丸くした。
どうして、と聞き返せなかったのは、何故だろうか。
その時に光井はどう返答したのだろう。
田中はただ、「愛佳は優しいっちゃね」と笑っていた。
その出来事が過去になる頃に、二人はまた、再会する。
あの頃のような寂しい空間ではなく、人間らしい、温かい気配の中で。
918
:
名無しリゾナント
:2013/06/17(月) 13:21:40
―― ―― ―
鈴木香音との出会いはそれからの未来。
光井にとっては来てほしくなかった未来の中で生まれた少女だった。
久住小春が居なくなり、ジュンジュンが暴走し、リンリンと共に故郷へ
帰り去ってしまってからの未来。
光井が見る世界は全てが"結末"への軌跡。
それは結末を知るには十分な要素が詰み込まれていて、正直に言えば。
あまりにも無慈悲。
欺くことも隠すことも出来ない、純粋な真実。
足掻くことを否定され、絶望ですら肯定する。
「だけどこれには一つだけ欠点があるねん。
『このチカラの保持者の"結末"は見えない』
多分これが、新垣さんが言ってた制約なんやわ」
鈴木香音は光井愛佳が『リゾナンター』という組織に入っていた事を
知ると、自分も入りたいと志願した。
異能者である彼女が入ることを新垣里沙は承諾するだろう。
だが、光井自身はそれで良いのかと思っていた。
自分が触れ、感じ、想ってきたことを今度は鈴木が思い知ることになる。
それがリゾナンターだ。
全てが同じものではないにしても、自身が命を削るという事実に鈴木は
ちゃんと向き合う事が出来るだろうか。
919
:
名無しリゾナント
:2013/06/17(月) 13:22:33
「あんたの"結末"が分かっても、それをあんたが受け止められるとは限らへん。
あの時の私が決められへんかったように、だからどうしても
耐えきれなくなったら、その時はすぐに逃げな。
諦めるんやない、その時だけ、自分が生きる為に、逃げるんやで」
自己犠牲なのは自覚していた、少女だった自分。
それがどれだけ周りの人間に迷惑をかけていたか気付かなかった自分。
自分を大切にしてくれた人間に対する裏切りを行っていた自分。
久住小春は正しくなかったけれど、正しかったと思う。
【ダークネス】へと歩んでしまった彼女に対して呟く言葉が見つからなくて。
久住の後ろ姿に触れることも出来なかった。
それから間もなくして、"あの人"が現れた。
リゾナンターのリーダーであり、突然の失踪を遂げたあの人。
あの人の"結末"を視てから、10ヶ月もの時間が経過していた。
高橋愛と呼ばれたあの人は、両手を血に染めて、佇んでいた。
誰の血かは分からない。誰の命かは分からない。
ただ、誰かが死ぬかもしれないほどの致命傷を受けたのは解った。
高橋の足元に倒れ込むのは、倒れ込むのは…。
「鈴木!あの子を助けて逃げるんや!亀井さんはうちが助ける!」
「愛ちゃん、私、言いましたよね?死なないでって。
なのに、なんで、"こうなってしまはったんですか"」
920
:
名無しリゾナント
:2013/06/17(月) 13:24:46
「解ってたんじゃないの?高橋愛、いやi914が
仲間を殺そうとする未来を、視てたんじゃないのかい?
だから言ったんだろ死ぬなってさ」
心を殺すなってさ
―― 氷の魔女の言葉が、心臓を貫く。
"予知夢"の残像が見せた光景が思い出されたその時
i914が無面のまま、自身の眼前に立っていた。
鈴木の叫び声が上がる。
光井は最後の力を振り絞るように、高橋愛に呟く。
血に染まった両手が、光井の顔を掴んだ。
温かくぬめった、人の、気配。喰らうのは黄金に煌めく瞳の鬼。
「ごめんなさい、うちは、愛ちゃんを ――」
―― ―― ―
921
:
名無しリゾナント
:2013/06/17(月) 13:26:16
意識を失った譜久村聖を喫茶『リゾナント』まで抱きかかえてきたのは、鈴木だった。
身長差のある譜久村を背負うのは容易ではなかっただろうが
何かに気付いたように飛び出した鞘師と生田が【非物質化】を解いた鈴木の姿を
見つけ、途中から三人で店まで抱えてきた。
鈴木の言葉に田中と道重が飛び出し、倒れ伏す光井と亀井を発見。
すぐに救急車に運び込まれたが、二人の意識は既になかった。
亀井は吐血し、心臓へ重度の負担をかけ、光井は片足に重症を負って。
光井の母親と亀井の両親が駆けつけ、何があったかと問いただされたが
その瞬間、新垣里沙が、現れる。
「さゆみん、私は、愛ちゃんを追うよ。
だからリゾナンターをお願い、勝手なことだけど、ごめん」
「待つっちゃんガキさん!なんで、愛佳が狙われたと?」
「…あの子が最初に欲しかったのは、未来だった。
そして仲間だった。ただ、それだけだったんだよ」
膨大な【精神干渉】の操作のあと、新垣里沙も、失踪した。
様々な記憶の改ざんの中で、田中れいなと道重さゆみは
残された"未来"の中で、生きるしかなかった。
誰かを救いたくて"未来"を肯定したかった光井愛佳。
そんな彼女がもう一つだけ、夢を見ていた。
田中れいなへの微かな想いだったのかもしれない。
それは絶望に彩られた、小さな欠片の夢だった。
922
:
名無しリゾナント
:2013/06/17(月) 13:32:28
『異能力 -Afterglow of wing-』
以上です。
ズラッと並べてもらうと、ほぼ未完に近いですね皆さん。
何人か作者さんの生存を確認してますが、お早い復帰を願ってます(微笑み
個人的にはXOXOお待ちしてます、インフィニティは言わずもがな。
923
:
名無しリゾナント
:2013/06/17(月) 13:34:12
-----------------------------------ここまで。
ホントだ914気付きませんでしたw
いつでも構わないのでよろしくお願いします(平伏
924
:
名無しリゾナント
:2013/06/17(月) 22:12:25
本スレにカキコもあったので行って来ますかね? 大丈夫ですか?
925
:
名無しリゾナント
:2013/06/18(火) 23:27:39
>>901
代理投稿ありがとうございます。
多方面と思いきや…もともと一つの場面に人数出すのは苦手なんですが
またやってしまいましたw
そんなこんなで、続きを投下します。
926
:
名無しリゾナント
:2013/06/18(火) 23:31:54
>>588-595
の続きです
一方、ここは爆発のあった都心のオフィスビル。
建物の周囲は関係者以外立ち入り禁止のテープで囲われ、さらにその周りを野次馬やマスコミたちが取り囲
んでいた。
そんな喧騒を余所に、建物内では必死の救助活動が行われる。
警察関係者である「瞬間移動」の能力者の手によって、次々と現場に送り込まれた治癒能力者。
数はさほど多くはないが、すぐに駆けつけることができた人数としては妥当なところ。救急部隊が到着するまで、
数分の時間差がある。さゆみたちの仕事はそのタイムラグの間に落としてしまう命を、救うことだった。
崩れた壁、粉々になった窓ガラス、そして血まみれで倒れている人々。
まだ先代リーダーの愛が在籍していた時。さゆみはニューヨークのとある場所で発生した爆弾テロ事件の負傷
者を治療する機会があった。あの時は異国の地ということもあり、状況をいまいち呑み込むことができなかった。
しかし、いざ自分と同じ日本人が血を流し苦しんでいるのを目の当たりにすると。その凄惨さはよりリアルに、さ
ゆみの心に刻みつけられるのだった。
フクちゃんを連れてこなくてよかった…
さゆみは心からそう思う。
いかにリゾナンターとは言え、彼女はまだ16歳だ。もちろん、さゆみやれいなを含めたかつてのリゾナンターた
ちも同じような年齢でこの世界に飛び込んでいるという事実はある。しかし、その経緯やアフターケアなどは今
とは比べものにならないほど劣悪だったのもまた、事実。免疫の少ない聖、いや今の若いリゾナンターたちを
できればこのような現場には連れて行きたくはない。
さゆみの目の前に倒れている女性の肩口の傷に手をかざしながら、過去のことを思い出す。
運命に導かれ、集うこととなった9人の仲間。それぞれが抱えていた心の傷は、容易には癒せないほど深かっ
た。愛に声をかけられるまで、各々が過酷な道を歩んできた。中には、その手を血に染めたものも。
― リゾナンターは、殺人集団やないんやよ ―
愛がかつて残した言葉が、いつまでもさゆみの胸の奥には残っている。
ダークネスとの争いが激化する中、思いがけず敵の命を奪ってしまうこともあった。若い小春や、秘密組織に身
を置いていたリンリンやジュンジュン、そして甘さが死を招くような環境にいた里沙は「仕方ない」と割り切った。
それを覆したのが、先の愛の言葉だった。
自らの内包する「i914」と戦い、打ち克ったものの、同時に「i914」の犯した過去の罪を共に背負うこととなった愛
だからこそ、その言葉は誰が発するものよりも、重かった。
927
:
名無しリゾナント
:2013/06/18(火) 23:33:02
「…あの、大丈夫ですか?」
不意に、声をかけられる。
見ると、自分より5、6歳は年下のように見える少女が傍らに立っていた。
黒髪の、色白な少女。黒目がちな瞳と首のほくろが印象的だ。おそらく警察関係者が招聘した治癒能力者の一人な
のだろう。
「あ、ごめん。考え事してて」
手当していた女性の傷口は既に塞がっていた。過剰な治癒は、肉体を傷つける可能性がある。
さゆみは慌ててその場を離れ、近くに倒れていた人のところへ移動する。
が、間の悪いことにその人間は一目見て死んでいることがわかるくらいに、損傷が激しかった。
爆風で飛び散った瓦礫をまともに受けたのだろう。無事なのはすすけた顔のみで、その下は首や胴体が千切れかけ
ていた。
「…こんな若い子まで」
浅黒い肌に、意志の強そうな顎。
生前はきっと活発な少女だったのだろう。
亡骸に手を合わせていると、
「もう、いい加減にしてよ!」
と、特徴的な声が。
先ほどさゆみに声をかけた少女だった。
「え?どういう…」
「ごめんなさい。この子、うちの子なんです」
「うちの子?」
意味が呑み込めないでいるさゆみを尻目に、少女が遺体に向かって話しかける。
928
:
名無しリゾナント
:2013/06/18(火) 23:34:23
「ほら、お姉さんが困ってるでしょ!早く起きて!!」
すると、死んでいたと思っていたその肉体がやおら動き出す。
千切れかけていた首や胴体が、急速に成長する血管や筋組織によって繋がれ、再生してゆく。そして常人と変わら
ぬ状態で、少女がゆっくりと起き上った。
「憂佳は頭固いなぁ。もうちょっと『死んで』たかったのにさ。被害者だったのは事実なんだし」
「だって紗季ちゃんが『死んでる』と紛らわしいでしょ。お仕事の邪魔になるし」
さゆみの頭が混乱する。
あれ?ちょっとこの子さっきまで死んでたよね?何で起き上れるの?ゾンビ?って言うかもう一人の子かわいいな
あ。色も白いしお人形さんみたい。どさくさに紛れて抱きつこうかなでもこんな場所でそんなことしちゃだめ…
「あの、お姉さん?」
「えっあっ別にやましいことなんて全然考えてないよ!!」
「何のことですか?まいいや、自己紹介しますね。この子は、小川紗季。そして私は前田憂佳。警視庁が新設した
能力者部隊の一部署『スマイレージ』のメンバーです」
能力者部隊「スマイレージ」。聞いたことのない名前。
さゆみはしばらく二人の顔を交互に見て、それからまた混乱するのだった。
929
:
名無しリゾナント
:2013/06/18(火) 23:35:48
●
圧倒的な絶望感。
里保自身、ダークネスの手のものと相対することは初めてではない。
しかしながら、「幹部」という肩書きがついただけでこれほどまでに差があるものなのか。
「ごめんね鞘師ちゃん。時間調整が必要だったからさ」
里保の恐れなどどうでもいいとばかりに、そんなことを言う「赤の粛清」。
すると、後ろから複数の足音が押し寄せてきた。
「里保ちゃん!!」
指定されたスタジオへとやって来た聖、衣梨奈、春菜、亜佑美。それに、途中から合流した香音と遥だった。
「予想以上に鞘師ちゃんの動きが早かったからさ。クローン使って時間稼ぎをしてたってわけ。他の子たちが到着
するまでのね」
「何言ってるかわからないけど、まーちゃんをどこへやったんだよ!!」
相手の都合などどうでもいい。
まずは優樹の安否、と遥が大声で叫んだ。
「あの子なら無事だよ、ほら」
「赤の粛清」が頭上を指す。
照明のケーブルに絡め取られているかの如く、優樹が天井から吊るされていた。
そこには、聖たちが喫茶店のテレビで見た、そして里保が「赤の粛清」を追跡している時に見た優樹。ただ。
「まーちゃん…?」
吊るされていた体が、二つ。
まるで双子のような優樹「たち」が、気を失ったまま縛られていた。
930
:
名無しリゾナント
:2013/06/18(火) 23:37:53
「どうしてまーちゃんが二人も」
「大丈夫はるなん、片方はきっとクローンだよ」
動揺する春菜を、里保が落ち着かせる。
里保は目の当たりにしていた。さっきまで本人と見分けのつかないくらいに酷似した粛清人のクローンが、自分の
前に立ちはだかっていたのを。だが、その推測を否定するように「赤の粛清」は空っぽの笑みを見せた。
「ちょっと違うんだよね。ま、さっきのを見たらそう思ってもしょうがないかな」
言いながら、手にした大鎌を。
天井の優樹に向けて投げつけた。
誰も、動く事ができなかった。
里保の洞察力でも、春菜の超聴覚を持ってしても、彼女の行動を読むことはできなかった。
結果。鎌の刃が、優樹の胸を刺し貫く。
拘束していたロープごと断ち切られたせいで、ずるりと、落下してゆく優樹。
そこではじめて亜佑美が走り出す。間一髪で床面に墜落するのを防いだものの、傷口から噴き出し、着ていた制服
を染め上げる血の量が命に関わる傷を負っていることを証明していた。
「まーちゃん!!」
「そんな…約束が、ち、が…う…」
腕に抱きかかえられた優樹はそれだけ言うと、糸が断たれたかのように事切れた。
「…嘘でしょ」
悪夢のような出来事。遥は、目の前で展開された事態が呑み込めない。
しかし亜佑美は仲間たちの懸念を払拭する。
931
:
名無しリゾナント
:2013/06/18(火) 23:39:15
「この子、まーちゃんじゃないです」
その言葉のとおり、少女は優樹ではない見知らぬ少女だった。
胸に刺さっていた大鎌が独りでに引き抜かれ、再び「赤の粛清」の手に収まる。
「その子は、擬態能力者。さすがにあんたたちのクローンはまだ作れないからね。譜久村ちゃんたちが見たあの映
像あるじゃん。あれ、あたしのクローンとその子だったんだよ」
ダークネス。心を闇に食われたものたち。
さゆみから、そしてれいなから。遡れば、里沙や愛佳、そして愛から。どんな連中かは、聞いてはいた。だが、聞
くのと実際にその所業を間近でみるのとでは、わけが違う。
人が簡単に、死んでゆく。
用済みとあらば、何の躊躇もなくその命を奪う。
春菜と遥は、元々は能力者を教祖とした新興宗教組織に攫われた子供たちだった。後にその組織自体がダークネス
の息がかかった存在だと知るが、その悪辣な教義、行動原理。
今となれば納得できる。
「てめえ、何か昔のことを思い出してムカつくんだよ」
「あなたのしたこと、許すわけにはいきません」
ずっと育ってきた組織の中で日々体を蝕んでいた、不快感。
それは、目の前の女が放つ闇の吐息と寸分違わず重なっていた。
「にゃはは。ボルテージ、上がってきた?いいよ、全員でかかっておいで」
二人が放つ敵意を、そよ風を受けるが如く気持ちよく受け流す「赤の粛清」。
亜佑美が体勢を低く構える。香音と聖が全員のバックアップのために後方に下がる。衣梨奈が両手から伸びるピア
ノ線を靡かせ、里保が愛刀を握り直した。
932
:
名無しリゾナント
:2013/06/18(火) 23:40:57
「みんな、優樹ちゃんを確保して、逃げるよ!!」
聖の叫び声。
そう、最初から戦うつもりなどなかった。
まずは、全員無事でリゾナントに帰還すること。聖はそのことを最優先としたのだ。
衣梨奈が、相手の大鎌にピアノ線を巻き付ける。さらに高速移動の亜佑美と素早さを持ち味とする遥が相手の目を
撹乱。その隙に、聖が屈み床に手をつける。床張りのリノリウムが大きく裂け、飛び出してきたのは太く堅い木の
根。聖が自分達を付け狙っていた能力者の一人から複写した植物操作能力だ。
俄かに作られた足場を器用に辿り、里保が天井に吊り下げられている優樹を拘束するロープを一閃のもとに断ち切
る。落下地点には香音が。
「みんなに透過の力をかけたから、壁をすり抜けて脱出して!!」
優樹を抱え、最初に壁をすり抜ける香音。
だが。
勢いよく壁に突入した香音が”何か”に阻まれて、壁から弾き出される。
床に転がり、蹲る香音。その顔には、血の気がまったくない。
「ダメだよ、逃げちゃ。あたしがこの状況をお膳立てするのにどんだけ苦労したと思ってんの。どっかの知らない
オフィスビル爆破までして、あんたたちと先輩二人を引き離したのに。そうだ、ちなみに壁の中は零度以下の超低
温になってるらしいよ」
「入ると、その子みたいに全身凍傷になるから」
その声と共に姿を現す、ゴスロリファッションの女。
「氷の魔女」が、底意地の悪い笑みを浮かべる。
「ここに誘い出された時点で、あんたたちの命運は決まってるの。だったら、精々全力出してさ、あたしを楽しま
せてよ」
血をたっぷりと吸った鎌の刃を、「赤の粛清」が突きつける。
何もかもが、全てが綿密に仕組まれた、策略。
聖は自らの至らなさを、激しく後悔した。
933
:
名無しリゾナント
:2013/06/18(火) 23:43:35
>>926-932
更新終了 代理投稿をお願いします
934
:
名無しリゾナント
:2013/06/19(水) 10:40:57
>933
2ちゃんねるに書き込む際には行数制限というのがあって(ry
一応行単位の幅を再現することを優先したのでレスごとの割付とか変わってます
935
:
名無しリゾナント
:2013/06/19(水) 23:21:46
新垣里沙が知るi914の弱点。
それはヒト型であるが故に、【光使い】の使用を不可能に
させるには絶好の領域というものが存在する。
それは―― 海だ。
【瞬間移動】を保持する彼女ではあるが、標的はi914ではない。
i914は「蓄積」する事に特化した疑似精神体であると同時に
そのヒト型に形成した人格『高橋愛』の情報を持っている。
新垣里沙が知る高橋愛の弱点、それは「水」だ。
川や湖だと行動不能に陥るまでにそれなりの時間を要するが
深海に浸けてしまえばそうもいかない。
ヒト型が最も恐怖する空間に放り込むのが、新垣の目的だった。
その状態に持ち込むことが出来れば、そこから自分にとって有利な
体勢に向かうことが可能、これは何よりも大きい。
だが彼女を"放り込む"という行為は、恐ろしく至難の業だ。
その場所にまで誘導することは出来る。
彼女の目的が自分達だとすれば、否が応にもやってくる。
人目を避けるために最も効率的な海は近辺にないため、事後処理の
ことを考えると遠方へと思っていた。
『結界』を張るのも手だが、相手の能力に頼って今後の方針を
決定するわけにはいかない。
―― この期に及んで事後処理のことを考えている自分に苦笑する。
936
:
名無しリゾナント
:2013/06/19(水) 23:22:49
誰かに丸投げしてしまえば楽かもしれない。
それが解っていても、それが出来ないのが新垣里沙だった。
「それで、どこに行くと?」
「今日と明日は晴れらしい、夜景を見に行く人がいるかもしれないけど
でも人が一番少ないところを狙うとすれば、埠頭しかないと思ってる」
「そこはガキさんのチカラでっちゃろ?」
「…そうだね、確かにそっちの方が簡単か」
田中れいなの言葉に、新垣里沙は同意する。
再会したのは、約4ヶ月ぶりだった。
携帯の表示に驚きはなかったが、どんな挨拶をすればいいかは迷った。
だが田中に会ったとき、言葉よりも先に拳が眼前に向かって振り抜かれる。
新垣はそれを素直に受け入れ…なかった。
それなりに全力だったストレートパンチを難なく受け止める。
乾いた音に佐藤がビクリと肩を震わせたが、新垣と田中は互いを睨む。
「残念だけど、今は怪我をするのも惜しいから、今度受けるよ」
「今度、そうやね、今度、これよりももっと強いのをおみまいしてやるけん」
田中はそれだけで一歩身を引いた。
いつもはしつこいぐらいの拳の連撃が来るはずだが、新垣はその違和感と
彼女が"何度も腕の調子を確かめている"ことに思考を巡らせる。
時間がない。
そう、時間がなかった。だけど田中にとって、新垣に対しての反抗は
しなければいけないものだった、そうしなければ自分ではないとでも言いたげに。
今思えば、普段通りの自分を保とうとする咄嗟の行動だったのかもしれない。
937
:
名無しリゾナント
:2013/06/20(木) 00:28:57
新垣はそこまで思い返すと、田中に言った。言わなければいけなかった。
「田中っち、佐藤、覚悟はいい?」
田中は視線だけをこちらに向けて静かに佇んでいたが、佐藤優樹は
何処か戸惑いを見せるかのように視線が揺らいでいる。
新垣が口を開く前に、田中が動いた。
「佐藤優樹、あんたをどこか安全なところに逃がしてやりたいけど
あん人にはもう顔を見られてるし、別行動をとったらあんたが先に
狙われるかもしれん。だからあんたも来るんよ。いい?」
「…わたしはくどぅーに言われました。たなさたんを呼んできてって。
だからたなさたんを呼んで、くどぅーのところに戻らなきゃいけないから。
くどぅーが呼んでるから、はるなんもあゆみんも。だから、戻ります!」
「…よく言った」
田中の笑顔に、ようやく佐藤にも笑顔が浮かんだ。
そのまま佐藤は甘えるように田中へ抱きついたが、彼女は拒まなかった。
新垣はその光景に、微かに口角を上げる。
そして顔を引き締めると、二人を背に歩き出した。
進路は一つ。退路は、もはや何処にも無い。
―― ―― ―
938
:
名無しリゾナント
:2013/06/20(木) 00:29:53
―― 少女の瞳の奥には、強化ガラス製の培養槽に注がれた新緑の液体が輝く。
液体には、人間が浮かんでいた。
意識があるのかは分からない。分からないが、とても苦悶の表情を浮かべている。
その群れ、数十の培養液全てに人間の姿をしていた。
人間の肉体を改造し、遺伝子を弄り、作り上げられてしまった異能者という人間。
何重もの生命維持装置がついている。
それはつまり、この異能者は今現在、生きている事だ。
狭い狭い、濁った液体の中でただ漂っている。
そこには感情も、意志も、無い。
だが、狂気の産物でもない。
怜悧な頭脳の理性と理論をもって生み出され、正確な分類札を貼られ
整然と並べられている。つまり、これは、正気の沙汰なのだ。
解剖刀を体に突き立てられた実験体が泣き叫ぼうと、苦痛に身を捩ろうと
醜い姿にされて哀しもうと、関係ない。
実験者たち自身の身体と心は、なにひとつとして痛くも悲しくも無い。
その答えは唯一つ。
知能に優れ、知識に溢れても、彼らには心と想像力が存在しなかったのだから。
自分たちの崇高な目的の前には、仕方のない犠牲として。
使命感に燃えて行った実験だったのだから。
組織的かつ計画的に非道をつくすには
むしろ燃え上がるような使命感や正義感がなくてはできない
939
:
名無しリゾナント
:2013/06/20(木) 00:32:25
少女の目からは、感情の一切が消えていた。
少女が見つめるのは、中央の手術台。
無残な死体、ではない。少女と同じ、少女が拘束されて横たわっていたが
その周囲に居る医師達の手には禍々しい器具が握られている。
機械から伸びた電極、解剖刀に鉗子。
そこで扉が閉じた。
其処で何が起こっていたかは分からない。
底で何を思っていたかは分からない。
少女にはただ、現実しかなかった。
液体の中で漂う日常。非日常とは思わなかった。
感情の発達と育成が施されていない人間にとって、それがどれほど
この世界の法則と常識から逸脱されたものか分からないからだ。
だが異能者はどこまで言っても人間、やがては気付く。悟る。
恐怖を、畏怖を、苦痛を、静寂を。
自滅する。犯される。劣位。失敗。欠陥。
水に浸けられる。漬けられる。
人ではなく、物のように。心は殺され、壊された。
一人だけ、少女だけは、其処に居た。
中央の手術台を囲うように、血の海と斑点が彩られている。
裸身に電極や針が差し込まれていたが、その表情には何も無い。
流れでる死者の血潮が、少女の素足に触れ、熱さを感じたかのように跳ね退く。
熱病に犯されたように全身が震えだす。
940
:
名無しリゾナント
:2013/06/20(木) 00:33:36
「神経系を支配して自滅させた、か。これはまた、怖い子が生まれたわね」
「でも実際、こういう子を待ってたんだよ、私達は」
二人の話し声が聞こえ、本能的に憎悪と殺意の膨大な【精神干渉】が
全身から放たれ、目も眩むような爆光が、二人に襲いかかる。
自滅へと追い込む為に。
だが、一人が言葉を紡いだ。
≪止めなさい≫
ビタリと音が鳴った様に、爆発が突如、止まった。
途端、少女の頬に誰かの手が添えられる。
微笑んだ女性が次に言葉を紡ぐと、少女の目から水が溢れた。
感情が分からない。だが溢れだす水は、培養液の濁ったそれではなく
熱を帯びた人間の、涙と呼ぶそれだった。
水に漂う、何も感じず、何も想える事のできない世界。
女性は、安倍なつみは言った。
「ガキさんが井戸の底の蛙のように世界を知らなければ
こうなることは無かったのかもしれない。けれど、あの子もまた
それを拒んだ一人だったんだよ、あの凄惨な実験の中で生まれた、君と同じ命だ。
水面に見える自分を掻き消すように生きるあの子を、頼んだよ、ガキさん」
水面に映された新垣里沙の瞳が蠢く。
全ての意志を抱いた其処に、数多の命を抱えるように。
941
:
名無しリゾナント
:2013/06/20(木) 00:41:20
『異能力 -Night comes. Inky night comes-』
以上です。
>>732
生田なら打撃系のイメージですね、あの筋肉なら頭部ごと
破壊できるんじゃないですかHAHAHAおや誰か来たようだ。
>>733
凄惨に描けというのあればそうできたらいいですね。
でも、ガキさんよりは弱いっていう。
942
:
名無しリゾナント
:2013/06/20(木) 00:42:44
----------------------------ここまで。
うわごめんなさい。ちょっと今回は長いですね(汗
投稿しやすい形にしてもらって大丈夫なので
お暇がありましたらよろしくお願いします…。
943
:
名無しリゾナント
:2013/06/20(木) 06:04:07
>>942
行ってきました
クライマックスが近づいてきたのか?
にしても1時間の中断は何を物語っているのか
944
:
名無しリゾナント
:2013/06/23(日) 19:14:14
両腕が―― 肘の先で千切れていた。
そして、首が有り得ない方向に捻じれ、血だまりの中で、死んでいた。
見知った顔だ。何度か一緒に現場に赴いたことのある顔だ。
笑顔を浮かべていた口は赤く染まり。
希望を輝かせる瞳には生気がない。
血の破片。血だまり。
あの矮躯のどこにこれだけの血が溢れていたのか。
たっぷりと、たゆたう矮躯。
骨が覗く腕。腕はどこだ?千切れた腕はどこに。
こまぎれて、血だまりのあちこちに肉塊と、肉片と、捻じれた首と。
邪悪そのものを見たかのように瞳孔は開ききって、だが表情は恐怖に
歪むでもなく悲壮に凍るでもなく虚ろそのもの。
伸びた髪が乱れてなんて無残。無残。無残。
神話級の獣にでも蹂躙されたかのような征服と、冒瀆さ。
それは生贄の様に。それは餌食のように。それは暴食のように。
凌辱され、破壊され、破壊され、破壊されて。
殺戮。血、肉、骨、血、肉、肉だ。
肉の破片、血の匂い、血だまり。肉、肉、肉、肉、肉肉肉肉肉!
笑顔が可愛かった彼女。
生い立ちは平凡と簡単に片づけられるものではなかったが
自分の異能者としての自覚は誰よりも強く、それを誇りに思っていた。
純粋な彼女には悪趣味も悪興味も満たせるほどの物語はない。
語って聞かせるほどの物語は無く、聞き耳をたてられるほどの物語も
そこにはない。
945
:
名無しリゾナント
:2013/06/23(日) 19:14:56
思わず駆け寄り、血だまりに脚を踏み入れた。
まだ微かに乾ききっておらず、びしゃりと音がする。靴が汚れた。
汚れた?
人の血が付着することを、汚れたなんて言うなど。血だ、血なのだ。
人間の一部分だ、それを冒瀆するのか。
『M。』の先代である自分が、人間を冒瀆することはあまりにも惨い。
ならば受けて立とう。
仲間を殺した存在が誰であっても、異能者の前に人間なのだ。
死など恐れない。
畏れない。怖れない。
だがその心が覆るほど、濃度の高い【闇】が其処には在った。
拷問だった。牢獄だった。断頭台だった。
何の希望もない、絶望だらけの暗闇だった。
劣化コピーになって初めての夢を見た。
それはあの頃、あの時、自分達に破滅がやってきたあの日の夢。
涙が血の色に変わるまで泣いた、地獄の情景だった。
「…そうか。ああ、分かったで。なっちも、元気でな。
矢口はそれなりにアンタのこと、気にしてたんや。
ああ、そうやな、うん。まあ、ほんでな。
あの子がなっちに言うといてっていう伝言があるんや。
『今までありがとう』―― だ、そうや。はは、自分で言えってなあ。
ああ、また会えたら…」
946
:
名無しリゾナント
:2013/06/23(日) 19:15:59
安倍なつみから連絡を受けた中澤裕子が
最初にしたのは、目を閉じ、自身の額に手をやった事だった。
椅子の背もたれに全体重をかけ、これまでを思い返す。
視界が滲んでいるのは、年のせいだと、思った。
【ダークネス】によって"蘇生"された者達。
そしてこれまでに再び闇へ還された者達は数知れず。
あとは"寿命"を待つ者の一人として、中澤は現在も生き続けている。
"蘇生"された者達は否応なく自覚している。
だが、前以て死が訪れることを知ったら平静ではいられない。
慌てふためくか、周囲の人間に当たり散らすか。
事実、自身の生を嘆き、自身の創造主を恨み、自身の死に恐怖し、それらの
感情を上手く扱う事ができずに操られるがまま人類への反抗を見せた者も居た。
それなのに、それなのに、と、想う。
これがダークネスが想ってやまなかった救済への願望か。
皮肉にも、違う道を辿った所で自分達への救いは変わらなかった。
―― それを覚悟した上で、中澤達は行動していたが、いざその時に
なったと思うと、酷く悲しくなった。
この悲しさがどんな感情によるものなのかは分からない。
他人の死に悲しむことなどないと思っていた。
自分の死さえもはや悲しくないと思っていた。
中澤裕子がアサ=ヤンとして、『M。』としての活動をしていた過去。
今の国家の法律では裁くことのできない異能者達。
被検体として生死を分かたれる異能者達。
947
:
名無しリゾナント
:2013/06/23(日) 19:17:31
自分達は一体、何の為に正義を掲げ、向けて来たのか。
しかし、全て自分の中心にあった組織は瓦解し、ダークネスと呼ばれた存在は
自身が生み出した我が子によって殺された。
しがらみは、無くなった。自分の居る存在意義が、無くなった。
中澤は静かに、声を押し殺して泣いた。
こんな涙など何の意味もない。
自身で満足するためだけに泣いているのだ。
何と心の籠らない、どうでもいい涙なのだろう。
もう素直に泣くこともできないのだ。
年を取れば幼稚になるともいうのに、自分はこんな時でさえ
泣くのを拒もうとしている。
こんな時に限って年齢で突っ込まれていたのが嫌だった自分が
年齢の所為にしていることが可笑しく思えた。
そう考えたあと、中澤は自分がもう十何年も異能者をしてきた事に気付く。
劣化コピーでも人格の情報は"元"の自分なのだから。
自分達の最期が来ても、この世界は回り続けるという事実にも。
存在よりも確かに感じていたかったものが、あった。
あの頃には残せなかった"何か"に縋る自分達のエゴを、中澤は
密やかに笑う。泣くよりは、笑っていたかった。
それはあの時、高橋愛が覚悟を決めた時のように。
948
:
名無しリゾナント
:2013/06/23(日) 19:18:31
絶望はとうに見飽きている。
どんな"結末"であろうと、信じてみようと思ったのだから。
泣きながら笑おうとしていた中澤の行為を中断させたのは、卓上に
置いてある電話から流れて来た静かなメロディだった。
中澤に対して連絡をする人物はそう多くはない。
液晶画面に並んでいる電話番号。
普段ならすぐに出たであろう電話に、中澤はしばし迷ったが
自分の声が震えないよう細心の注意を払ってから声を発する。
「誰や?」
『………』
「この電話は特定の人間にしか教えてへん。
そもそも普通の回線すら使ってないからな。…紺野か?」
『中澤裕子さん…ですか?』
その声に、中澤は今までの出来事よりも驚愕した表情を浮かべた。
同時に、この電話の意図が掴めない。
何故今頃、しかもこのタイミングでコンタクトを取る必要がある?
『お願いします。私を、ダークネスのいた場所に連れてってほしいんです。
…i914が生まれた場所へ、海上の孤島へ!』
道重さゆみは叫ぶように懇願する。
全てが生まれ、全てが終わった場所。
誰かの命を救うために、自分の命を削る為に。
949
:
名無しリゾナント
:2013/06/23(日) 19:24:53
『異能力 -Night comes. Inky night comes-』
以上です。
>>829
偉大なる第1話を立てた人が行ってるみたいですよ。
皆さんは舞台とか観に行ったことはあるのかな?
950
:
名無しリゾナント
:2013/06/23(日) 19:26:46
--------------------------ここまで。
また長くなってしまった…。
いつでも構わないのでよろしくお願いします(平伏
>>943
単なる加筆です…w
951
:
名無しリゾナント
:2013/06/23(日) 19:52:57
あ、
>>947
の下から7列目にある「十何年」を「何十年」に変えてください。
952
:
名無しリゾナント
:2013/06/23(日) 21:21:07
>>934
お手数掛けてしまい申し訳ありません。
どんぶり勘定はもうしませんorz
では行数オーバーに注意を払い続きの更新です。
953
:
名無しリゾナント
:2013/06/23(日) 21:23:45
>>746-753
の続きです
さゆみの前で、死んでいたはずの少女、小川紗季。
偶然現場に居合わせ、そして爆発に巻き込まれたのだという。彼女が持つ「不死能力」がなければ本当に死んでいたところだ
った、と当の本人はあっけらかんと話した。
「そうなんだ。あなたたちが、『エッグプロジェクト』の」
道重さゆみは、爆発事故で偶然出会った二人の少女。紗季、そしてもう一人の前田憂佳から話を聞き、そのプロジェクトの名
前を思い出した。
確かPECTの任務遂行能力に限界を感じた警察の上層部が、若い能力者を集めて育成するプロジェクトだったはず。
そういう動きがあることはさゆみも知ってはいたが、まさか実戦投入されるまでになっていたとは。警察も、各地で犯罪者の人
材バンクと化している反社会的能力者集団への対策に本腰を入れ始めたということなのだろうか。
「私たちも道重さんのこと、知ってますよ。リゾナンターって有名じゃないですか」
活発そうな少女・紗季が、笑顔で言う。
後ろでもう一人の少女である憂佳が、失礼だよぉ、と嗜めた。
「でも、憂佳たち、研修期間中ずっと聞かされてたんです。リゾナンターさんたちは、たった9人でダークネスに立ち向かった英
雄だって」
「そんな、英雄だなんて」
憂佳の言葉に、さゆみは照れくささと同時に居たたまれなさを感じる。
954
:
名無しリゾナント
:2013/06/23(日) 21:26:10
確かに自分達はダークネスという巨大な組織に対抗してきた。たった9人の能力者に対して、数百、いや末端組織まで含める
と数千の戦闘要員を抱えるダークネス。まるで巨象に立ち向かう小動物のような状況。それでも、諦めず、戦ってきた。
全ては、二度と自分達のような悲しい人間を生み出さないために。
「でも、『銀翼の天使』には負けちゃった」
「ちょっと紗季ちゃん!」
鋭い、紗季の一言。
闇に抗う意思が、砕かれたあの日。
一度は、目的を見失った。絵里が倒れ、小春や愛佳が能力を失い、ジュンジュンとリンリンが故郷に帰っても。リゾナンター
が解散しなかったのは、リーダーの愛の存在があったからだ。
その意志は、受け継がれる。
「そうだね。確かに負けちゃった。けど、1回の負けなんかでさゆみたちは終わらない」
さゆみは言いながら、強い光の宿る瞳で二人のことを見つめた。
「なるほど。さすがはリゾナンターのリーダーですね」
憂佳が、得心したように言う。そして。
「でも。ダークネスを倒すのは私たち『スマイレージ』ですから」
955
:
名無しリゾナント
:2013/06/23(日) 21:27:26
さゆみの視線を、挑戦的な態度で返す、紗季。
あえて言うなら、それは敵意にも似ていた。
「紗季ちゃん、ほら、お仕事お仕事」
「忘れてた。それじゃ私たち、負傷者の治療の続きをしてきますね」
展開された空気を収拾するように声をかける憂佳に、何事も無かった風な口調で紗季が挨拶をして立ち去る。それが逆に、先
ほどの時間の異質さを際立たせていた。
なんなの、あの子たち…
さゆみの胸に、いつまでも違和感が纏わりつく。
それを振り払うように、再び負傷者の救護活動に専念するのだった。
956
:
名無しリゾナント
:2013/06/23(日) 21:28:35
「もう紗季ちゃん、あんなこと言わなくてもいいのに」
崩壊したロビーの瓦礫の陰。
非難めいた憂佳の言葉だが、紗季はものともしない。
「かにょんだったらきっともっとひどいこと言ってたと思うよ。それに、どうせいずれは敵対することになるんだから」
「それはまだ、わからないよ」
憂佳は否定するが、その表情には暗い翳が差していた。
「そう言えばさ、『エッグ』の落ちこぼれたちがリゾナンターの子たちにちょっかい出したんだってさ」
「ほんとに?でもなんで…」
「さあ。どうせ手柄あげて復帰でもしたかったんじゃないの?みっともない話だよね」
紗季の、明らかに悪意のある口調。
「エッグ」と名づけられた若い能力者集団は、警察組織に登用されるに当たって、一種の篩い分けをされた。結果、紗季や憂
佳は残留し、7人の少女は組織から切り捨てられた。リゾナンターに奇襲をかけたのは、再評価してもらうための一手だった
のだ。
「よしなよ。昔の仲間のことを悪く言うのは…」
「憂佳は綺麗ごとばっかり。つまんないよ」
顔を顰め、苛立ちを見せる紗季。だが、すぐに笑顔になる。
957
:
名無しリゾナント
:2013/06/23(日) 21:29:32
「でも、これからはきっと面白くなる。名ばかりのリゾナンターなんかよりも先に、あたしたちがダークネスを倒すから。邪
魔をされたら、あいつらごと潰せばいい」
言いながら、紗季は足元の瓦礫を思い切り蹴飛ばす。
砕け散った建材の破片が、耳障りな音を立てて飛び散っていった。
958
:
名無しリゾナント
:2013/06/23(日) 21:31:30
>>953-957
短めですが、更新終了
お手数ですが代理投稿をいつでもいいのでお願いします
959
:
名無しリゾナント
:2013/06/24(月) 06:16:19
>>949
行ってまいりました
朝から目にするには少しばかり刺激的な冒頭だった
960
:
名無しリゾナント
:2013/06/25(火) 08:13:07
>>958
どんぶり勘定えもええんやで
スマの二人には微妙に死亡フラグが立ったような
961
:
名無しリゾナント
:2013/06/26(水) 01:52:39
銭琳は船の甲板で思いに耽っていた。
正規ルートでは故郷に居場所が知れてしまう可能性がある為だ。
違法ではあるといえど、信頼をおける故郷の仲間による手引きで
この船は並の人間、異能者ですらも認識されないようになっている。
そういった異能保持者が船乗りだから、というのもあるが。
李純は自室で眠っている。というよりは、この船に乗るまでの間
彼女の意識は戻っていない、まるで赤子のようになっていた。
肉体を変容させる異能を保持する李純が、以前の様に動くかは分からない。
それほど彼女の肉体に傷痕を残してしまった『i914』という存在。
だが、そんな非情な存在が、瀕死の状態だった銭琳と李純を
追ってでもとどめを刺そうとしなかったのは何故だったのか。
【瞬間移動】は相手の位置を把握し、座標を知らなければ行使は難しい。
だがあのi914であればそれを推測することは容易かっただろう。
もしかしたら、とは思う。
『蓄積』という行動原理によって、"何か"を得た疑似精神が多少なりとも
"情"というものを悟っているのだろうか。
だが、肉体は分かっていてもi914の本能に抗えるとは思えない。
あの強く、たくましく、だが人の悲しみを誰よりも感じてくれた人。
そんな中で、心の底から湧き出て、全身を支配する畏怖に抱かれる時。
きっとそれが、彼女の中に眠っていたi914だったのかもしれない。
今でも、逃げる事を考えている自分が居た。
しかし逃げずに真っ当ではない方法で戦うことも模索し続けている。
死の予感をいつの頃からか抱いてしまってから。
962
:
名無しリゾナント
:2013/06/26(水) 01:53:37
それでも予想以上に、冷静だ。
自棄になっているのかもしれない。自身の心情を、今一つ理解できない。
生への執着。死への覚悟。
目的を達成するまで生きていたいと思うと同時に、命を賭けて
戦うことを厭わない自分も居る。
そしてあの人も。
―― 高橋愛と『i914』は対極のようで、同極だ。
片方は人を愛し、守り、生きてほしいと思う。
片方は執着し、征服し、蹂躙したいと思う。
矛盾しているようで、あまりにも最も過ぎる感情。そして根源は同じ。
それが同時に影響を与え続けている。本来ならば理性に抑制されるはずの本能。
暴力的な衝動。
蓄積された事による機械人形には無かった状況判断。
生かさず殺さず、ただただひたすらに殴り、痛めつけ、圧倒し
踏み躙り、自身の破壊的衝動をぶつける。
そのi914としての本能が優先された時、高橋愛の本能は歪んだ。
全て推測。
だが、彼女の温かみを直に触れて来たからこそ、想う。
自分がいつか、本当に壊れてしまうことを自覚した時。
"仲間でさえも縋れなくなった彼女に残ったのは、たった一つの拠り所"。
(…もっと話をすれば良かったな)
963
:
名無しリゾナント
:2013/06/26(水) 01:55:08
そんな事を今更ながらに思う。
それが何の解決にもならなかったとしても。
もう一度、会って、話をしたかった。
他愛の無いものでも構わない。好きなアニメや、好きな食べ物。
それを笑って、喜び合ってみたかった。
i914の干渉がある前に。これも多少の執着が込められるのだろうか。
高橋愛が求めていたものは、あまりにも自分達とは変わらない。
それをただ人よりも【蓄積】するに特化した存在というだけで、こんな
事態へと追い込んでしまった。
銭琳は考える。考えなければいけない時だった。
逃げない為に、戦う為に、そして出来る事なら高橋愛を。
もしもを考える、ただただ考える。
"if"なら、救いがあるような気がしたから。
―― ―― ―
久住小春が立ち止まったのは、隠れ家を後にしてから十分経った頃。
音と色と命が恐ろしく薄い空間が、騒音と色彩と存在が溢れた
ものに変わっている、大きく吸って、大きく吐く。
走り続けた身体がもう限界の兆しを見せている。運動不足。
久住は体重が増えたかな、なんてことを心配してみた。
心配することはいくらでもあったが、自分で言って失笑しか出ない。
失敗か、と思ってようやく笑みが浮かんだくらいだ。
964
:
名無しリゾナント
:2013/06/26(水) 01:56:53
あまり見覚えの無い、だが通った事があるような気がする路地裏。
大通りの喧騒が僅かに伝わってくるこの道には、それなりの人通りがある。
だが久住は【念写能力】で自身を景色と同一化することで、視界には見えない。
誰かに見つかっては厄介だ。
仮にもこの街では有名人としての自覚はある。
だから見つかってしまってはいけない。
――巻き込んではいけない――
新垣が提示した埠頭までは時間にすると約30分かかる。
今なら大通りへ行けばタクシーでも捕まえて最短距離を走れば
10分は早く到着できるだろう。
電車でも良い。とにかく新垣や、田中れいなよりも早く着きたい。
ズクリと、腕に痛みが走る。
怪我は完治している腕が、過去を引きずる。
らしくないと、舌打ちをした。
過去ではなく、未来があることを告げてくれた仲間の顔が浮かぶ。
まだ眠っている仲間の顔が浮かんでは消えた。
―― 違う。
これはそういった類の衝動ではない。
自身の中から湧き出る衝動は、自身の想いでしかない。
自分の為に。
自分の為の決着を。結末を。
―― ―― ―
965
:
名無しリゾナント
:2013/06/26(水) 01:57:33
腕が疼く。目尻からじわりと黒い"血"が滲み出ているような気がして。
田中れいなは包帯の上から押さえる。
表面は乾いていた。
だが瞼の下で何かが蠢いている様な気がした。
抉りだしたい衝動に冒されながらも、それが出来ないことを悟る。
「田中っち!」
新垣里沙の言葉でハッと顔を上げる。
大通りの車道にまで歩みを進めていた田中を、新垣が制したのだ。
隣に居た佐藤が服を引っ張ってくれなければ、そのまま突っ込んでいた。
「ご、ごめん。ちょっとどっか行ってたけん」
「…田中っち、身体、大丈夫なの?」
新垣の言葉に、田中の表情が固まる。
佐藤にはそれが先ほどの戦闘によるものだと思っていただろう。
だが新垣は、確信を持ってしまった。
田中の身体が今にも"崩れてしまう"寸前だということに。
緊迫した空気の中、佐藤の腹から小さな音が発せられた。
二人の視線が彼女に注がれ、しまった、という表情を浮かべる佐藤。
そういえば、夕食を食べていなかったことを思い出す。
「あ、あの、おなかすいたんですけど、おなかすいてないんです」
「こんなときだけそんな下手な言い訳せんでいいけん。
れなもお腹に入れときたいっちゃけど」
「そうだね…多分まだ時間はあるから、佐藤、なにが食べたい?」
「いいと?そんなにのんびりしとって」
「大丈夫だよ、ほら、なんでも言ってみな。好きな食べ物とか」
966
:
名無しリゾナント
:2013/06/26(水) 01:58:21
「えと、ラーメン以外のめん類、です」
「あはは、なにその言いまわしー。ラーメン以外って、うどんとかそばとか?」
「う…はいっ」
「そっかそっか、田中っちも良い?」
「…しょうがないっちゃね」
田中が折れた。
彼女は佐藤にとってはどこか甘くもあり、厳しい。
年下の子との壁が厚かった田中だが、これまで出逢ってきた中で
今の『リゾナンター』に参加する佐藤達とは気が合うのかもしれない。
新垣自身との関係は、正直良くは無かった。
今も共同戦線を張っているだけで、心を通わすことは無いのだろう。
そんな人間と食を囲むというのだから、佐藤が空気を緩和してくれているような気もした。
彼女がいなければきっと、こうして落ち着けることもなかった。
田中の話では、後藤真希の【空間支配】に"隔離"されたとあった。
自分達へ全てを預けているのだとすれば、あの亜空間から
出るにはまだ時間がかかるはずだ。
気まぐれな人ではあるが、自分達が不利になるようなことはしないだろう。
喫茶『リゾナント』でご飯を食べていたあの頃を思い出す。
生涯最後の食事になるかもしれないということは、考えないようにした。
967
:
名無しリゾナント
:2013/06/26(水) 02:01:23
『異能力 -Restart each-』
以上です。
前回の冒頭は特に人物は決めてなくて、仲間の
誰かってことだったんですけど、小さい人のイメージ恐るべし。
968
:
名無しリゾナント
:2013/06/26(水) 02:02:33
---------------------------ここまで。
また長くなった…いつも代理投稿ありがとうございます。
いつでも構わないのでよろしくお願いします(平伏
969
:
名無しリゾナント
:2013/06/27(木) 05:59:35
>>968
行ってまいりました
>特に人物は決めてなくて、仲間の
誰かってことだったんですけど、小さい人のイメージ恐るべし。
そら矮躯とか矮躯とかあんなに強調してたら
970
:
名無しリゾナント
:2013/06/29(土) 21:26:39
>>960
代理投稿ありがとうございます
死亡フラグとは、へし折るためにあるものと思ってますがこの二人はどうなんでしょう
というわけで続きを投下します
971
:
名無しリゾナント
:2013/06/29(土) 21:30:04
>>869-873
の続きです
香音のうめき声が、広いスタジオに絶望を彩る。
壁に侵入した時点で異変に気づき、優樹を先に出し、自身も最低限の接触で壁の中で凍結は免れたのは不幸中の
幸いか。しかし、ディフェンスの上での貴重な戦力を失ってしまったのは間違いない。
「敵前逃亡しなきゃ、あたしは手を出さないから」
スタジオの入口に立ち、面倒そうに言う「魔女」。
ひとまずは二人がかりで攻撃、ということはなさそうだった。
「やっぱ持つべきものは友達だよねえ」
「は?ビジネスでしょ。これも大事なお仕事の一つだから」
「仕事熱心じゃないあんたが言っても説得力ないから。ま、好意はありがたく受け取っておきますか」
終始、リラックスした魔女と粛清人のやり取り。
里保は、入口を塞いでいる女もまた「赤の粛清」と似たような地位にいる人物という事を見抜く。それだけに、とりあえ
ずの不参加表明は額面通りに受け取ればありがたいことだった。
「戦えば、あなたは満足するんですか」
「とりあえずはね。言ったでしょ、この機会を作るだけのためにあの爆破事故を起こしたって」
亜佑美は、喫茶店で見た凄惨な事故現場を思い出し、頭に血が上りそうになる。
あれを、あんなことを、私たちをおびき出すだけのためにやったなんて…許せない。
だが、「赤の粛清」に問いかけた里保は至って冷静だった。このことのために数々の策を弄したということは、それだ
け強いこだわりがあることの、裏返し。そう判断した。
972
:
名無しリゾナント
:2013/06/29(土) 21:31:05
「みんな、よく聞いて。今、私たちに残されている選択肢は。目の前の相手と戦うだけ。そのことだけに、集中して」
里保の一言が、全員の空気を変える。
怒りに震える衣梨奈、春菜、遥、亜佑美も。後悔の念に駆られている聖も。今やれること、やらなければならないこと
に目を向ける。
「赤の粛清」を、打ち倒す。
もちろん、相手は組織の幹部だ。生易しい相手ではない。
だが、ダークネスと全面対決する時にはそういった部類の人間ともやり合うだろう。幹部たちの相手を、全てさゆみや
れいなが引き受けなければならないのか。否。今いる若いリゾナンターたちが、倒さなければならない。
六人の能力者たちが、一斉に駆け出した。
目標はただひとり、朱き凶刃を手にした粛清人。
真っ先に飛び出した里保が、間合いを一気に詰めて斬りかかる。
クローンとは言え、一度「赤の粛清」とは手合せ済み。他の仲間たちと比べて有利に相手と対峙できるはず。
「クローンって言ってもさ、オリジナルと同じ動きができるとは限らないんだなあ」
里保の思考を読んだが如く、大鎌の柄で器用に斬撃を弾く「赤の粛清」。
疾さも、力強さも、クローンとは比べものにならない。
その一瞬の戸惑いが、隙を生んだ。軸回転させた鎌の切っ先が、無防備な里保に襲い掛かる。
973
:
名無しリゾナント
:2013/06/29(土) 21:32:27
「しまっ…!!」
しかし赤い刃は里保の体には届かない。
大鎌が掬い取る前に、亜佑美が里保を確保しその場を離脱したのだ。
「大丈夫ですか鞘師さん」
「あ、ありがとう亜佑美ちゃん」
里保の戸惑いは。
亜佑美が見せた、圧倒的な迅さ。確かに、これまでも彼女は「高速移動」能力で常人の域を遥かに超えたスピードを見
せていた。が、今のは。
「亜佑美のやつ、やるじゃん」
「私の視覚強化でも、捉えられませんでした…」
同期の二人も亜佑美の成長に舌を巻く。
今までよりも、ワンランク上の高速移動。そして遥は、千里眼の能力で、その能力の根源を垣間見ていた。
なんか今、青いライオンみたいのが見えた気がしたんだけど…
遥の直感は正しく、そして。
亜佑美はふとした偶然から出会ったリゾナンターの先輩・ジュンジュンの言葉を思い出していた。
― お前の力、ジュンジュンの力に少シ似テいル ―
974
:
名無しリゾナント
:2013/06/29(土) 21:33:29
最初は意味がわからなかった。
もしかしたら自分も獣化できるのかと思い、どや顔で鏡の前で練習したが何の変化もなかった。
しかし、ジュンジュンの言葉は日に日に亜佑美の中で具現化してゆく。自らの心の裡に棲む、一匹の獣。
その獣のことを意識しはじめてから、亜佑美の能力は向上した。
と言っても、実際に行動に移したのは先ほどが初めてではあったけれど。
「へえ、だーいしちゃんそんなことできるんだ」
「赤の粛清」が言うより早く、亜佑美が行動する。
鎌の内側に入り込み、そこからの攻撃ラッシュ。鎌の柄でそれを受ける粛清人の前に、再び里保が急襲する。
「行くよ、亜佑美ちゃん!」
「はいっ鞘師さん!!」
体捌きの得意な二人による、コンビネーション。
里保が足元を刀で掬えば、亜佑美は上段からのハイキックを繰り出す。上段からの袈裟懸けには、下段からの足払いで合わせる。
その動きは、まるで二人でダンスを踊っているかのよう。
「なかなか。じゃああたしももう少し頑張ろっかな」
背後から姿を現す、二本の大鎌。
粛清代行者とも言うべき凶刃が、宙を彷徨いながら里保と亜佑美に狙いを定めた。
975
:
名無しリゾナント
:2013/06/29(土) 21:34:32
「そうはいかんったい!!」
鎌の動きが、止まる。
ピアノ線を操りその軌道を止めたのは、衣梨奈だった。
「聖、衣梨奈たちは里保と亜佑美ちゃんのサポートやろ!?」
「そうだね。みんなは二人が戦いやすいように、後方援護をお願い!」
聖の指示で、春菜と遥が後方に下がる。
さらに春菜が付与した五感強化の力で、衣梨奈のピアノ線による攻撃は普段より速度、強度ともに冴え渡る。
「凄い!衣梨、新垣さんになったみたい♪」
彼女のようなタイプは、調子に乗ると手がつけられないほど勢いが増す。
春菜の能力とは相性がいいのは間違いない。
衣梨奈の攻撃が大鎌を凌ぐ一方で、里保と亜佑美による連携攻撃は激しさを増す。
そして互いに目配せをすると、
「じゃんけんぽん!」
「あっち向いてホイ!!」
「赤の粛清」を挟んでの、じゃんけん遊びに見立てた攻撃。
里保が刀を上段から打ち、亜佑美は水平からの手刀。
そして怯んだ所でお互いに肩を組み、体を支えながらの連続蹴り。まともに喰らった粛清人はその場から大き
く後退する。
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