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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part29

1■■■■:2015/12/07(月) 21:01:15 ID:WEwdZ/zM
上条さんと美琴のSSをじゃんじゃん投下していくスレです!
別に上条さんと美琴だけが出てくるスレじゃありません。
上条さんと美琴が最終的にいちゃいちゃしていればいいので、
ほかのキャラを出してもいいです。そこを勘違いしないようにお願いします!

◇このスレの心得
・原作の話は有りなのでアニメ組の人はネタバレに注意してください。
・美琴×俺の考えの人は戻るを押してください。
・このスレはsage進行です。レスする際には必ずメール欄に半角で『sage』と入力しましょう。
・レスする前に一度スレを更新してみましょう。誰かが投下中だったりすると被ります。
・次スレは>>970ぐらいの人にお願いします。

◇投稿時の注意
・フラゲネタはもちろんNG。
・キャラを必要以上に貶めるなど、あからさまに不快な表現は自重しましょう。
・自分が知らないキャラは出さないように(原作読んでないのに五和を出す等)。
・明らかにR-18なものは専用スレがあるみたいなのでそちらにどうぞ。
・流れが速い時は宣言してから書き込むと被ったりしないです。投稿終了の目印もあるとさらに◎。
・創作しながらの投稿はスレを独占することになりますので、書き溜めてから投稿することをお勧めします。
・このスレはsage進行です。レスする際には必ずメール欄に半角で『sage』と入力しましょう。
・以前に投稿したことがある人は、その旨記述してあるとまとめの人が喜びます。
・ちなみに1レスの制限は約4096byte(全角約2000文字)、行数制限は無い模様。

◇その他の注意・参考
・基本マターリ進行で。特に作品及び職人への過度なツッコミや批判は止めましょう。
・このスレはsage進行です。レスする際には必ずメール欄に半角で『sage』と入力しましょう。
・クレクレ(こうゆうのを書いてください)等はやりすぎに注意。
・読んだらできれば職人にレスしてあげましょう。職人の投稿するモチベーションを維持できます。
・誰か投下した直後の投下はできれば控えめに。
・倫理的にグレーな動画サイト、共有関係の話題はもちろんNG。
・書きたいけど文才無いから書けないよ!
  →スレの趣旨的にそれでも構いません。妄想と勢いでカバー(ネタを提案する程度でも)。

◇初心者(書き手)大歓迎!◇

前スレ
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part28
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/6947/1415780549/

まとめページ
とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫 / 上条さんと美琴のいちゃいちゃSS
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/81.html

まとめページの編集方針
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/213.html

スレ立て用テンプレ
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/82.html

793■■■■:2016/11/15(火) 19:40:32 ID:QpcHdOwo
「これだから・・神様風情は困ったものよね・・ひねくれすぎよ」

「アンタには力があるじゃない。でも現実に何かしたの?」
「アンタが偽善者と言うアンタから見ればささいな空海なんて誰でも知っているわ」
「どんな小さくても一歩を踏み出した空海のほうが、文句だけぶーたれるアンタより
何倍もましよ」

「ははは・・はおぬしに何がわかる」
「儂を勝手にこの世から奪おうとしたお主に・・」

「勝手・・ね。アレイスターの運命を狂わし、全人類に2度の大戦を起こし
おもちゃのように運命を操ってきた貴方達にそんな事を言う資格なんてないわ・・」

「余計なお世話じゃ。70億人を一度殺したお主にも儂を裁く資格なぞないのでは
ないか」

「ええ・・だから・・私ではなく当麻に判断してもらうわ・・」

美琴のアルトボイスが空間に響き渡る。その刹那無数の光の柱が僧正の体に
突き刺さる。あれだけ飄々とした僧正がうめき苦しみ始める。
「何を・・」
「これはね・・呪詛・・よ。貴方達の不作為や思いつきで命を奪われた無辜の民の
慟哭よ」

「当麻・・今なら幻想殺しで僧正を倒せる。当麻がどうするか決めて」
「ああわかった」

正直言ってどっちが正しいのか俺にはよくわからない。だが、常に少しでも前進して
前向きに事を運ぼうとする僧正、あり余る力をただ自分の思い付きのまま行使する
僧正に率直に言ってひとつも同情する気にならない。

まあ考えるまでもないか・・

「僧正、俺はお前の信念や気持ち、歴史は知らない。だが、いきなり話もせず、力
のないものを嬲り殺すようなやり方にちっとも賛成できない。お前が、力で脅せば
すべて済むなんてそんな幻想を抱いているなら、幻想ごとお前をぶち殺す」
俺はただの右手を、突き出し僧正の骨だらけの体をぶっ飛ばす。

魔力をほとんど失ったほとんど質量のない体は、一撃で9割以上崩れ去った。
・・その瞬間俺の意識は飛んだ・・

///////////
11日 午前4時

私は、回収した当麻と一方通行をベッドの上に寝せている。

木原唯一と上里ハーレムを全員拘束し、研究所の地下倉庫に人の脳を昏睡させる
低周波音波攻撃で黙らせている。

まあ無事終わったわね・・・・
(正直・・ヒヤッとしたわ・・僧正に当麻を殺されるかと思ったわ・・間一髪ね)
一方通行はまだ昏睡しているが、当麻は瞼をもぞもぞ動かし、目を覚ます。
私は、頑張ってくれた当麻に軽く接吻を交わす。
(本当に帰ってきてくれてよかったわ・・)

私は、ミルクティーとバームクーヘンを接客テーブルに準備し、当麻を
進める。
「当麻お疲れ様」
「美琴・・終わったぞ」
「ありがとう」

私は冗談半分で当麻へ苦言を言う。

「だから・・言ったじゃない。本人が直接行くなんて」
「悪い、本当美琴言う通りだったすまん」
当麻は、
「で・・僧正はどうなる」

「死なせないわ・・ふふ・・・死なしてなるもんですか・・」
「美琴ならそう言うと思っていたよ」
「私はね・・あんな奴を簡単に殺したくないのよ。」

794■■■■:2016/11/15(火) 19:41:17 ID:QpcHdOwo
「そうだな・・。」
「私はね、少なくとも力を持つものにはそれなりの責任と矜持がいると思うのよ」
当麻が私の事を真剣に見つめる。普段はどことなく、チャラ男的なとこもなくはない
上条当麻が私と真剣に心のやり取りをするときの、鋭いまなざし。
(・これがあるからころ私は当麻を愛したのだから・・)

「ああそうだな」

「彼は、挫折の末に、魔神になった」
「だけど、その得た力を何ら有効に活用しなかった」

「正直・・・私にはわからない。ただこの世界を滅ぼす力を得ただけであれほど
狂う理由がね」

「彼は・・仏教界に絶望し、即身仏になることさえ否定され、その恨みで魔神
なった。その絶望を私は理解できない」
「それでもやっぱり・・彼を肯定できない」

私は当麻の傍へ体を預け、当麻は私の頭を撫で始める。
私は、当麻が撫でるままに任せる。
「やっぱり当麻の体は暖かい、そばにいてくれるだけで心が休まるわ」
「ああ、俺もだ」

「ね・・当麻は今日は休もう?」
「え?学校が・・」

「いいわよ、どうせ授業なんて聞かないでしょ。大丈夫、風紀委員の特別任務で
公休を申請するわ。だから・・美琴様に感謝して・・ね・いいでしょ」

「俺に拒否権はなさそうだな・・」
「ふふ ありがとう・・」
「じゃ・・まずお風呂に入ろう」
「ああ・・」
「楽しませてね」
続く

795■■■■:2016/11/15(火) 19:43:19 ID:QpcHdOwo
以上とある科学の超荷電粒子砲 Ⅲ 10話 ;2章-5
の投稿を終わります。

796■■■■:2016/11/15(火) 19:47:58 ID:QpcHdOwo
すいません上げてしまいました。

797■■■■:2016/11/22(火) 23:12:23 ID:EKVDtXrc
保守

798・・・:2016/11/23(水) 18:59:10 ID:AB8LutN2
ども、・・・です。
勤労感謝の日なのです。
まずは鎌池センセーサンキュー

では、昨日のいい夫婦の日です
ではは〜

799日常3:2016/11/23(水) 19:01:14 ID:AB8LutN2


AM8:30

燦々と日光が照らす寝室。
起き上がったのは、新婚生活満喫中の上条当麻だ。
2週間前に式を挙げたばかりの嫁は上条美琴。
今はキッチンにいるのだろう。

「ん〜、ふぁ〜〜」

ぐぐっと背伸び。
ベッドはシングルベッドだ。
原因は予定より多いクローゼット、
もとい中のゲコ太グッズである。
ベッドの大きさに最初は反対した美琴だが、2人一緒にシングルベッドで寝ると狭くて窮屈だ、と聞いた瞬間賛成しおった。
わかりやすい子である。

「さてと」

立ちあがり、リビングに向かう上条。
パジャマは美琴とおそろいのモフモフゲコ太である。当初は大反対した上条だが、「着てくれなきゃ一緒に寝てあげない!!」という言葉に折れた。
今なら絶対にないな、と思うのだが、若干悔しいことに着心地のよさは折り紙つきなのだった。

「おはよう、美琴」

リビングに入ると、トテトテと新妻が台所から出てきた。
さらに、赤面してもじもじしているのだった。
彼女は「あ、あのね」を数回口にして、ようやく本題に入る。

「あの……その…………ご、ご飯にする? それとも、わ、わたしにしゅる? それとも、わ・た・し?」

瞬き数回、美琴の虜となっている上条は、すぐに答えを出すのだった。

「えーと、新聞新聞…………どれどれ? ふむ、あの自動車メーカーの株上がってるじゃん、今度の取り引きも有利に「無視すんなやゴラァァァアアアアアア!!」ぬおっ!!」

ソファに押し倒される上条。
セクシーな感じでない。
どちらかというと、はっけよーい、のこった!!である。

「ア!ン!タ!は、結婚しても相変わらずスルーすんのか!! やんのかコラ!!」
「うっせぇ!! 朝一からアホなこと言われりゃスルーもしたくなるわ!!」

ドタバタとソファの上でじゃれる2人。
5分後、勝者は美琴に決まった。
拳を掲げ立つ美琴の背を見ながら、
ソファに寝そべる上条さんである。

「……もう、お嫁に、いけない」
「もう嫁になってるでしょ」
「なったのは旦那だっつの」
「……誰の?」
「美琴さんの」
「……えへ〜」

ニマニマ〜と幸せを噛み締める嫁。
ふわふわしている。地に足がついていない。
実際、ちょっと浮いてる。
あまりの可愛さに、旦那はついついギュムーっと抱き締めた。

「ふぁ?」
「いやー、その、先ほどの質問にまだ答えていないなと思いまして」
「あ、あの……」

両者真っ赤である。

「…………本番は夜だけど」
「ふにゃー」

ふにゃー、まで1秒もなかった。
しかし、手慣れた動作でゲンコロする当麻。
気絶した嫁を抱き締めて、ソファでゆっくりするのだった。

800日常3:2016/11/23(水) 19:02:52 ID:AB8LutN2
AM9:00

気絶から復帰した美琴は台所にいる。
冷めた朝食を温めなおしているのだ。
食器を早々に準備した上条は新聞を読む。

仕事のために。

(あの自動車メーカーには浜面が入り込んでる、さすがだな。西の紛争に関わってるのはあの武器商社か? 魔術業界の臭いがすんな、インデックスに聞いとこう。あの国の和平は……一方通行が関わってたな。今後の流れは打ち合わせとこう)

とはいえ、規模が変わっただけで、
やっていることは高校の頃から変わっていなかったりする。
ちょうど読み終わった時に、美琴の呼ぶ声が聞こえた。

テーブルの上に並ぶのは、
ごはん、味噌汁、おひたし、焼き魚、煮込み料理、漬物。
完璧な朝食だった。
同棲初期はこうはいかない。
イベリコ豚と若鶏とチョリソーのパエリア、佛跳牆、ウォルドルフサラダ、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナが食卓に並んだ。
朝食に。
夕食は推して知るべし、である。
当初は喜んでいた上条だったが、
数週間後に胃が悲鳴を挙げた。
頑張ったと思う。

「「いただきます」」

美琴は上条の向かいではなく、右隣に座っている。
遠いのはイヤなのだった。
しばらく黙々と食べる上条に、少ししておずおずと尋ねた。

「どう、かな……?」
「メチャクチャウメェ!!」

即答。
小さく息を吐く美琴を見て、上条は考え込む。
そして、幸せそうに微笑んだ。
再びふにゃーしそうになるのを我慢し、
美琴はとりあえず話を続ける。

「な、なによ、ニヤニヤして、どうせ、昔は世間ずれしてたわよ」

パチクリと瞬きする上条。
そして、笑いながら否定した。

「違う違う、この味、母さんから習ったんだろ?」
「うん、そうだけど?」
「オレには子供の頃の記憶がないはずだ」
「え? うん」
「でもさ、最近美琴の料理を懐かしく感じるんだ。きっと、頭じゃなくて心が覚えてるんだよ」
「…………きっと……ううん、絶対そうよ」
「そこまで考えて、いずれはこの味がさ、オレ達の子供の母の味になるんだなぁって「ふにゃー」はいはいゲンコロ」

美琴は気絶し、当麻の肩に倒れてきた。
能力を右手で打ち消す。
夫は妻の背中を撫でながら、自分の頭を彼女の頭に重ねた。

(なんかさ、そう考えると幸せだなって、思ったんだ)


AM10:00

「デートしましょう」

美琴は不思議な言葉を聞き、コーヒーの入ったマグカップをテーブルに置く。

「え? なに当麻死ぬの?」
「生きたい!! すぐ殺すな!!」
「だって、当麻がデートなんて、なにかあるとしか…………」
「え? 不幸がってこと? じゃあ見せてやろう、幸せなデートってやつを!!」
「……………………まぁ、いっか。で、最初の予定は?」

上条が、固まる。

「…………へ?」
「だから、予定」

唸り始める旦那。
コイツ、予定もなく誘ったのかよ。

「じゃ…………映画」
「……アンタにしては及第点ね」
「映画レベルで!!?」

落ち込む旦那を無視して準備開始。
心のなかでは嬉しすぎてゲコ太たちがパレードしてることは秘密である。

801日常3:2016/11/23(水) 19:04:17 ID:AB8LutN2


AM:11:00

外は快晴。
風が冷たい。
しかし、心はポカポカなのである。

「で、旦那様、なに見るんでせう?」
「ちゃかすなよ。そうですねぇ……」

ついでに腕もぬっくぬくだ。
腕組みしながら歩く2人に、
周囲にいる隣が涼しい方々は極寒の視線を送る。
しかし、人生の春を満喫中の上条夫妻には、効果はないようだ。

「アクション映画は、さんざん見たしな」
「恋愛ものは、我慢できなくなるので却下」
「ん? なんか我慢してんの?」
「なに聞いてるのよスケベ!!!!」
「……どう考えても我慢できない嫁さんの方がスケベだろ」
「…………ホームドラマ?」
「それは間違いなく寝る」
「アンタねぇ…………ま、ムリか」
「ってことで、コメディ」
「昨日テレビで見たじゃん」
「ほかに何があるよ」
「ん? ……アニメ!!」
「!!!! や、やだーー!! ゲコ太地獄はもうやだーー!!」
「さあ、いっこう♪ すっぐいっこう♪」

腕組むんじゃなかったと、ちょっと後悔した当麻さんである。


PM03:25

今日の戦績。
・近年新しく登場した魔神(♀)の撃破
・同上に当麻がフラグを立てる
・木原唯一の影響を受けた新level5(♂)の撃破
・同上に美琴がフラグを立てる
・助けた男女10名前後にフラグを立てる
・昼食を戦闘の途中でいただく

「あぁ、もう、やってらんねー」
「疲れたー、さすがハプニング遭遇率100%ね」
「やめて、落ち込む」

事件現場からなにくわぬ顔で出てきた夫婦。
世界崩壊レベルの戦闘だったのだが、
当麻も美琴もピンピンしていた。
服がちょっと汚れた程度である。
いや、戦闘中では夫は血も吐いたし、いくつか骨から変な音が聞こえていた。
しかし、病院に行くほどではないそうだ。
高校の、正確には新約12巻からである。
あまりの回復ぶりなので、後になにかの伏線になるかもしれない。

「とはいえ、すまんな美琴。オレの不幸のせいで…………」
「…………映画に興味があまりわかない理由がわかったわ」
「???」
「私たち、日常生活がアクションじゃない、新鮮味ないわよ」
「いや、まぁ、そうかもしれないけど」
「ファンタジーものも、SFものも取り揃えております」
「まぁ、そうだけどさぁ」
「それに…………」
「それに、なんだむぐっ!!!?」
「…………ぷふぅ、ラブロマンスも扱いがあ、あり、ましゅぅ…………」
「…………なに無理してんだよ」
「無理してにゃい」

嫁は旦那の胸に顔を埋めた。
こんなの抱き締めるしかない。

「無理なんて、してない」
「わかったわかった」
「…………私は、こんな、ドタバタも含めて、アンタとの生活が、好き……」
「…………」
「アンタは、わたしといて、不幸…………?」
「そんな訳ないだろ? 幸せですよ、最高にさ」
「…………よかった」

抱き締めるふりして、美琴の頭を押さえつける当麻。
いま、上を向いてもらうわけにはいかない。

「…………いいかもしれないな」
「なにが?」
「美琴とみるなら、ホームドラマもいいかもと思ったんだよ」
「…………見るのはゲコ太だからね」
「くそぅ、うまくいかないもんだ」

口ではそういうものの、旦那の顔はいろいろとぐしゃぐしゃだったりする。

802日常3:2016/11/23(水) 19:05:47 ID:AB8LutN2
PM3:40

『どうしたの? ぴょんぴょん?』
『ぴょんぴょんじゃなくて、ぴょん子!! 名前は覚えてよー』

スクリーンに映る、かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこ、あわせてぴょみょみょ…………。
しかし、

「すこー、すかー、みこ……むにゃー」
「すぴー、とぅ、ま、すー、すー」

彼らの意識は、夢の中である。
健やかな寝息をたてる2人だが、

「……と、うま……すやゃ」
「……みこ、と……ぐこー」

寝言で互いの名を呼び、安堵の笑みを浮かべている。
さらに、恋人繋ぎをしているそれは、いっさい解かれることはないようだった。






PM:5:00

「不覚!! ……寝てしまうなんて」

映画館からの帰り道、
心底悔しそうにする美琴さんである。
しかし腕は組んだままだ。

「確かに、金払って寝たようなもんだもんな」

現在、映画の料金くらいなんてことはないはずなのだが、
高校時代【生まれたとき】からの考え方は容易には変えられないのだった。

「……もう1回見るしかないか」
「ふざけんな、もう3回目だろうが、内容も覚えただろうが」
「むぅ……しょーがない、美琴センセーが折れてあげませう」
「こっちが折れてゲコ太見たのに、なんでまた折れてもらってるのオレ?」
「じゃ、代わりに夕飯お願いね」
「ん〜、ミコッちゃんの料理がいいなー」
「たまにはいいじゃない」
「ま、いっか、任せなさい」

PM6:27

「とはいったものの、ご飯に野菜炒めに、味噌汁とか、料理っていう料理じゃねーよなぁ」

テーブルの上に並んでいるのは、
チンジャオロース、酢豚、中華スープ、チャーハン、杏仁豆腐(市販)。
それなりに作り込んでいるが、
美琴の料理を毎日食べる上条には三流以下にみえる。
箸を動かす手も重い。
やっぱり、美琴の料理の方がよかったよ、と声をかけようとした上条は固まる。

「お、おいびぃ〜、ぐすっ、おいじぃ〜」

号泣されてやがった。

「ど、どないしたん?」

ティッシュを彼女の鼻に持っていく。
チーン、という音が鳴ったあと、ゴミ箱に投げた。

「ご、ごりぇからも、じゅっと、とうまの゛ ごばんをだゃべられるにゃんで……」
「同じようなことを、オレが朝言った気がしますが?」

というか、同棲中もたまには担当していたと思う。

「じあわ゛ぜでずー」

当麻はため息を吐きながら抱き寄せた。

「これくらいで喜ぶなよ、もっといろんな幸せが待ってるんだからさ」
「ほんど……? うれじぃよ〜!! びゃ〜」

抱き締めながら、当麻はテーブルの上を見る。
視線の先には、半分ほど消えているボトル。
苦笑しつつも、胸の中で泣く嫁とともに、彼は幸せを噛み締めた。

803日常3:2016/11/23(水) 19:07:25 ID:AB8LutN2
PM7:46

「酔いはある程度覚めましたか?」
「……はい」

ソファの上、旦那に抱っこされている美琴。
抱きついてはいるが、当麻の顔を見ることはできない。

(にゃにしてんのよ……わたし……)

旦那に
「ア〜ンしなさい!!」
と命令し、
「口移しじゃないとやだー」
と、駄々をこね、
「ねぇ、キス、して……」
と、ねだった。

さらに旦那は全部こなしてくれた。

もうすぐ、ふにゃる。
それが理由なのか、当麻は頭から手を放さない。

「……なぁ、美琴」
「な、なんでしょう? 当麻さん」
「なぜ敬語? まぁ、それはともかく、お風呂沸いてますよ」
「あ、そそう? じゃあ、先に入ってよ」
「やだ」

なぜかの拒否。
断固の拒否だ。

「……? じゃあ、わたしから入ればいいの?」
「いやです、一緒に入りましょう」

かぽーん

「な、なに言ってんのよ!!! スケベ!!」
「いや、オレ達夫婦だし、もっとすごいことをもうやっ「わーわーわー!!!」

美琴の頭から湯気が出ている。
きっと食パンを口にいれたらこんがり焼けるだろう。

「だって、それは、その……でも、お風呂は、明かりが……」

上条夫妻は電気を消して行うことが多いご様子だ。
ナニをかは知らんけど。
とにかく、見られるのはいろいろといっぱいおっぱ……いっぱいいっぱいなのだった。
しかし、

「ダメ。あんなにいうこと聞いてあげたのに、こっちのお願いは聞いてくれないのか?」

旦那は鬼畜で元気だった。
もう、トラブルと遊ぶヤンチャボーイの時間は昼に済ませている。
これからは大人のお時間なのだった。

「ぁう、その、あの……」
「行くぞ」
「ぁぅ……ちーん」

トーストが焼けたらしい。

「美琴」
「あぅ、あ、あ…………むぅ」

口づけ。
へにょへにょと旦那に倒れ込む嫁。
もう、抵抗力0である。
騎士隊長もびっくりの効力なのだった。

「おっと、そうそう」

旦那は、なにかを思い出し、

「悪いな、こっからは見せらんねぇんだ」

おもむろにその右手を掲げた。

804日常3:2016/11/23(水) 19:09:09 ID:AB8LutN2



パキーーーーーン

805・・・:2016/11/23(水) 19:12:01 ID:AB8LutN2
以上でーす

806■■■■:2016/11/23(水) 21:19:13 ID:buAR4iAk
乙です。今回も良き上琴でした

ところで、
>>803
>とにかく、見られるのはいろいろといっぱいおっぱ……いっぱいいっぱいなのだった。
つまりもうこの頃のみこっちゃんは………いっぱいおっぱ……いっぱいいっぱいなのですな!!

807■■■■:2016/11/26(土) 17:26:53 ID:O7nWxM2o
とある超荷電粒子砲 Ⅲ 11話 :3章- ①

9月18日  (金)  5時

さすがに9月も後半になると5時でも日は昇らずまだ薄明るいくらいで、朝の
散歩もだんだんつまらなくなる。これで涼しくなればまだましだが、地球温暖化は
着実に進捗し、肌にまとわりつく熱気は一向に収まる気配がない。

能力さえ使えば、大気から放出される赤外線を操作していくらでも暑さを凌ぐこ
とはできるが、それでは風情がないので、能力は使わず、まとわりつく暑さを甘受する。
(まあ当麻にはそんな芸当はできないし、まあいいでしょ)

私は、婚約者が律儀に婚約指輪を忘れずに付けてくれていることを確認し、わざと
体を密着させて、ゆっくりと歩く。当麻は面倒くさいのか、私と密着させて歩くのが
恥ずかしいのか、急ぎ足で歩きたがるが、意地悪な私は袖をひっぱり当麻をしばしば
止める。
(まったく・・今更照れることないじゃない。婚約式までしたんだからさ・・)
私は、手を絡ませ、ほとんど競歩選手のように先を急ぐ婚約者を引き留め、声をかける。

「ね・ねえ・・」
「ん?」
「んはないでしょう。そんな急いでどうするの?」
「いや暑いし。さっさとエアコンの効いた部屋に帰りたい」

(まったく・・当麻て結構わがままよね、)
「ハイ・どうぞ」
私は、携帯しているカバンから緑茶のPETボルトを当麻へ差し出す。
「あ・ありがとう。美琴は用意いいな」
「まあ・・学園都市は何が起こるかわからないからね・・宇宙空間でも使える衛星通信
電話くらいはいつも携帯しているわよ」

「風紀委員会副委員長は大変だな」
「本当、2足の草鞋はつらいわよ。でも、当麻と一緒に風紀委員できてうれしいわ」
「そうか・・」
「それに・・」
「ああそうだな。明日からは大覇星祭だな」
「ええ」
・・・・・・

私は、エプロンを装着し、手早くあらかじめ下ごしらえをした朝食を作り始める。
朝食は、時間がないこともあり、生野菜のサラダを除きある程度下準備をしている。
まな板で手早く、生野菜を丁寧にカッティングし、軽くドレッシングをかける。
前日に調理した味噌汁と、焼き魚を電子レンジで温め、素早く配膳する。

まだ朝食を作り始めて、3週間だがもう手慣れたものですっかり習慣づいた。

家事も、やるべきことを定め、計画を作成し実施するのは能力開発と同じ。
理屈がわかれば、どんどん楽しくなり、のめり込む。

当麻が、食事を待つ合間に英語のリスニングを行っているのを微笑ましく眺め
ながら配膳を終える。

「さあ、当麻朝食食べよう」
「ああ ありがとう」
食卓に並べられた焼き魚と海苔と味噌汁が、グルタミン酸をベースとするうま味
成分を放出し、食欲をそそる。
「珍しいじゃない、いつもはフランス・パンとオーリブオイルをベースにしたカリ
カリサンドとオニオンスープかクラムチャウダーなのに」

「まあたまには和食を食べたい時もあるのよ」
「そうか・・あ・・なるほど」
「なるほどて?何よ」
「いやなに、美琴も多忙なひと時が終わって少し気分を変えたいのかなと思ってさ」
当麻が味噌汁をすすりながら話を続ける
「でも・・本当多忙だったな」

「ええ、でも本当楽しかったわ」
「この学園都市には様々な研究者や教師、生徒がいることを実感できたし」
「私にとってはいい経験だったわ」

「そうか・・、でも無理するなよ。美琴の体は美琴だけじゃない」
「ふふ・うれしいわね。ありがとう」

808■■■■:2016/11/26(土) 17:28:31 ID:O7nWxM2o
私は、味噌汁を飲み終え、当麻を食べ終えた食器を洗浄機に入れ、朝食を終える。
「当麻も無理しないでね」
私は、当麻を背中からぎゅうと抱擁する。当麻の吐息と心臓の鼓動が心に響く。
「もう魔神と対策なしに戦うなんて私がさせない」

「美琴まだ気にしているのか」

この前も僧正に対峙し死にかけたのに、何事もなく軽く返事を返す当麻に少し
腹が立つ。私が安全策を提示したのにそれを無視し、敢えて縁もゆかりもない上里と
いう訳のわかんないやつにために命を張った、底知れないお人よしである上条当麻

私はこれからあと何回、結婚してもいないのに未亡人になる危機におびえなければ
ならないのか?私は詰問するように口調を強める。

「当たり前じゃない。当麻だって当麻だけの体じゃないのよ。」
私は少々涙目になり当麻を見つめる。
「ああそうだったな。でも、・・俺は絶対死なない。だから・・」
「ええ、でも本当に当麻がいないと私は生きていけないわ」
当麻はいつにもなく真剣な表情で私を見つめる。
「ああ」

私には分かっている。上条当麻という男は、目の前の不幸を見逃すことができな
い、熱い心を持つ男、これからも何度でも全力を尽くして死にかけるだろう。そん
な難儀な男を愛してしまった私。だけど、そんな上条当麻だから、私は愛してし
まったんだ。だから・・私は冷静にいつもように答えを返す。

「私が絶対当麻を死なさない。何が起きてもかならず地獄の底から救い出す。」
(ふふ・・ちょっと臭いセリフかな)
「アア俺も絶対何があっても死なない。かならず美琴の元へ帰る」
「じゃ・・約束しよう、ね」
私は子供みたいに、当麻に手を差出し、指切りげんまんを促す。
ジンクスみたいなものだろう。でも今はこんなことで心が安らぐ。

///////////////
私は、久々に当麻の学校へ一緒に手を繋いで登校する。
もう婚約自体はとある高校の面々に知れ渡っているので、隠す事に意味
がないと思うが、当麻にいまだに私との登下校をあまりに喜んでくれない。
今日は無理やり私がねじ込んで久々のデートのような登校に持ち込んだ。
当麻が何も喋ってくれないので、退屈な私が話を振る。

「美琴は大覇星祭で選手としてでるのか」
「正直今年は多忙を理由に断るつもりだったわよ」
「でもできないか・・客寄せパンダは大変だな」
「まあ莫大な奨学金や研究協力費をもらっているからね・・断れないわよ」

「でも警備責任者だろう」
「まあ私の仕事は、警備計画作成でほとんど終わっているけどね」
「そうか」
「まあ警備責任者の一人しては少々憂鬱な気分かな」
「というと?」
「大覇星祭は外部の特に学園都市の敵対勢力が流入するじゃない、それに抑えるの
が結構大変なのよ」
「そうか」

「まあ親御さんも含めて大量に観客が入国するからね。どうしても防ぎきれない」
「いくら計画しても不安はつきないわ」
「そうか、まあ完璧主義者の美琴ならそう思うだろうな」
「責任者は面倒くさいわね。いくら完璧な計画でも実施は皆の力が揃わないと
計画は失敗する」
「そうか、まああんまり無理すんなよ。」
「ありがとう」
私は校門で立ち止まり当麻の頬に接吻をかわす。
「じゃ・・」
「あ・・あ」
周囲で黄色い歓声と悲鳴が聞こえたような気もするが、私は無視を決め込み
立ち去る。

(まあ、当麻のファンにはそろそろ諦めてもらないわと私もつらいわ)
(だから当麻・・もう無駄なフラグなんて立てないでお願い)

809■■■■:2016/11/26(土) 17:29:53 ID:O7nWxM2o
/////////////////
12時
常盤台中学 談話室

私は、研究所での事務作業を終え、
明日からの大覇星祭で、外部のアンチスキル・風紀委員が立ち入りできず
いつも警備計画の穴になりがちな学び舎の園の警備員と計画の打ち合わせという
名目で母校の常盤台中学を訪問する。もっともそんなのは単なる口実にすぎない。

久々に悪友の食蜂に会いたくなっただけだ。上条当麻と違った意味で私が社会生活
を営む上で盟友的な存在食蜂。

「御坂さ〜ん 久しぶり」
「食蜂、久しぶり」

「なんか御坂さんがいないと寂しいわよ」
「へえアンタからそんな事聞くなんてね。でもお世辞でもうれしいわね」
私は、微笑みを浮かべ食蜂を眺める。食蜂の顔はわずかに赤く染まる
「御坂さんは無自覚力のたらしよね」
「へ?」
「まったく・・戦闘力満載でカッコイイくせに、笑顔力が可愛いなんて反則でしょ」

「褒めてくれるのはうれしいわ」
食蜂が見慣れないびっくりした表情で私を見つめる。
「なんか素直力満載な御坂さんて結構新鮮ね」
「え?そう。まあ、婚約して考え方が変わったかもね」
「上条さんのおかげで階段を上ったわけエ・・☆」

「御坂さ・・ん?」
「私は、多くのファンから上条当麻を奪ったその責任は命を賭けてとるわよ」
食蜂がシイタケのように目を光らせる。
「御坂さん、やっぱり変よお」
「この1月、切った張ったを続けたからか、それとも・・」
「やっぱり婚約者ができるとつまらない意地を張る暇もなくなるのかな」

「上条当麻は真心をぶつけないと彼の心を掴むことはできない・・かあ」
「ええ」
「本当に幸せなのね、今の御坂さんは」
「ええ、本当に世界中の誰よりも幸せよ」

食蜂の瞼からうっすら涙のような水滴が零れ落ちることに私は良心の呵責のような
ものにさいなまされる。上条当麻は記憶障害で食蜂を認識すらできないことを
私は知っている。・・それを知りながら婚約の事実を進め、なおかつ婚約式の司会
まで厚かましくお願いした私。(なんて・・残酷な私)

(でも・・私は誰にも当麻を譲るつもりもないし、誰よりも当麻を愛する)
私は、脱線しかける話題を、本論へ戻す。

「そろそろ本論に入るわ、縦ロールさんはずいぶんお世話になったわ」
「警備計画の件?」
「ええ、まあ学び舎の園自体は外部へ公開しないから直接は関係ないけど、それが
逆に警備の穴にならないようにする必要がある」
「なるほどで、御坂さんの腹心の初春さんを送り込んできたわけエ」

「私が提唱するAIによる犯罪の阻止という観点で、彼女の力は必要不可欠
だから私の代わりにシステムを組んでもらっているわ」
食蜂が意外な顔で見つめる
「御坂さんも変わったわね・・。大事な仕事を人に任せるなんて」

「まあ、食蜂も分かっているとは思うけど、超能力者もできることは知れているわ」
「だから事情を話して、みんなの力で少しでもこの街を変えていきたいわ」

「ふふ・・青臭いのは変わらないわね、御坂さんは」
「でも・・やる気力満載なのは事実よね」

「ありがとう。食蜂にはいつも感謝しているわ」
私からの素直な好意になれていない食蜂が顔を赤らめる。
(さてそろそろ本論へ移るか)

「私はね、そろそろ自分の派閥を作ろうと思っているのよ」
「むろん、その神輿は上条当麻」
「私と食蜂が核で上条当麻を支える」

810■■■■:2016/11/26(土) 17:31:33 ID:O7nWxM2o
「え・・それてどうゆうこと?」

「もう、あまり時間がない」
「私が何をしたいか、何をするべきか旗幟を鮮明しなければならない日が」

「私は甘かった。私が絶対能力者にさえなれば、しばらくは当麻と私とこの
街に安寧が訪れると思っていた」
「だけどそんなことはなかった。先延ばしどころからどんどん事態は迫っている」
「この街の独裁者は上条当麻を放置することはない」

「プラン・・か」
「でも、私たちの計画はまだ‥何もかもが足りないわよ」
あの普段は甘たるい耳障りな口調の食蜂が、ビジネスライクに変わる。
「それはわかっている」
私は食蜂に現実を突きつける。
「だけど木原唯一や上里もこのままでは収まらない」
私は席を外し、床に這いつくばり、頭を深々と下げ土下座を始める。
そして、腹の底から力を籠め、声を振り絞り一言を発する。
「力を貸してほしい」

「御坂さん卑怯なんだぞ・・断るわけないじゃない・・私達・・親友でしょ」

食蜂の目から透明な液体が滴り落ちる、それが諦めきれない乙女の後悔の念か
私へのアンビバレントな感情か私にはわからない。が、私はさらに言葉を紡ぐ。
「ありがとう」
その一言が私にとってなによりうれしかった。

//////////

午後 4時 風紀委員会本部

私は、来客に会うため本部へ急ぐ。常盤台での、警備員の会議が終え、なぜか
大覇星祭の決起集会で、全校生徒の前で選手宣誓をさせられ、行事を終えたころには
面会時間の5分前だったので慌てて、能力で高速移動する。

いつもなら当麻と一緒にとある高校から一緒にタクシーで、本部へ移動するところ
だが、余裕がないので当麻には一人で予約したタクシーで移動するように告げる。
(テレポートを使えば・・一瞬だけどさ、そんな目立つことはできない)
(その事実を身内以外に最終決戦の日までは明かすわけにはいかないし)
(今は、準備期間なのよ・・)

なんとか、エレベータまで無理やり制御し1分前に到着する。
(まあドアくらいは静かに開けたいわね10秒前では無理だわ)
16時ちょうどにアポを取っていた珍客は、秘書の子に案内され応接室に座っていた。

私の実質的な能力開発者にして、SYSTENの権威、木原幻生、私を極大の生体砲台に
変えた男。

「お久しぶりです。幻生先生」
「まずは封印の解除の件おめでとう」
「ありがとうございます。先生に解析をお願いした玩具はお役に立ちましたか」
「理想送りの件かね?ああ解析中だが幻想殺しや八龍以上に興味深いね」
「先生が相変わらずなのでホッとしました」
「君が相変わらず元気でうれしいよ。」

「それで、先生にぜひお願いがあるんですか」
私は、木原幻生に私が関知する範囲の五行機関と虚数学区に関するデータを
渡し、私のプランへの協力を求めた。
「なるほど、ぎりぎり及第点かな」
「だが・・まだ粗削りだな」

「ええ・・さすがに先生の採点は辛口ですね」
「僕は、生徒に妥協は許さない性格でね」
「だが、君が一番出来のよい生徒であることは保証するよ」
「ありがとうございます」

「まあ分かっているとは思うが、アレイスターを甘く見るなよ」
「ええ、・・」
「それさえわかっているなら私から言うことはない」

私は深々と敬礼し、私の師匠を見送る。

811■■■■:2016/11/26(土) 17:33:05 ID:O7nWxM2o
もう多分・・私は彼に会うことはないだろう。そんな気がした。

・・・・・・・
風紀委員会本部 副委員長室
午後4時30分 

私が、幻生先生へ依頼を終えたころ、当麻が本部へ到着した。
当麻の学校でも大覇星祭の決起集会があり、30分ほど到着が遅くなる。

今日は、風紀委員も私の部署以外は、警備に駆り出され、本部にはほとんど他人
がいない。
「決起集会お疲れ様」
「ああ、だけどなんかわくわくするね」
「私はどちらかと言えば裏方だけどなんか楽しいわね」
「でも美琴は、今年はそんなに出ないだろう。どっちかと言えば実行委員だし」

「まあでも合同開会式の選手宣誓とかやるけどね。それと何種目か配点の高い競技
には出るように常盤台から言われているわ、今年こそ総合1位になりたいとか」
「ふーん、人気者はつらいね」
「まあ、自分が学園都市の客寄せパンダの自覚くらいはあるわよ」

「それと警備計画の責任者と兼務ね・・重労働だな」
「そうね、でも一応応援もいるのよ、だからなんとかなったわ」

「応援?」
「先週から177支部の初春さんに協力いただいているわ」

「初春さん?」
「黒子の同僚よ」
「ひょっとして凄腕ハッカー?」

「ええ、書庫の守護神と言われている凄腕SEよ」
「美琴が凄腕SEと言うくらいだから相当な腕だろうね」
「それは間違いないわね、暗号解析・構築の技術なら学園都市のトップレベルだ
と思うわ」


「へえ・・で・・初春さんを本部へ上げたと」
「ええ、私も過労死したくないし背に腹は変えられないわ、もちろん黒子とコン
ビでね。その上司の固法さんも含めて支部ごと私の応援に回ってもらっているわ」

「でもさ美琴の事務処理能力なら計画なんてさっさと作成できるだろう?」

「不思議に思う?確かに計画作成くらいなら1日で終わったわよ。
だけど会議とその事務局までさせられて親船理事も人遣い荒いわよ」
「まあ、私が仕事を断らないのがいけないけどね」

「美琴はワークホリックだよな・・」
「今は種まきの時期だからしょうがないかな」

「え?」
「大人を批判するには、大人がなぜそうしているか、一回は大人の理屈をしらなきゃ
ないということよ」
「まあ統括理事長の指示で風紀副委員長なんてさせてもらっているけど、想像以上に
面倒な仕事なのは確かだわ」

「そうだな・・」

私は、気晴らしにちょっと運動したくなったので当麻に声をかける。
考えがネガティブになったときはそれが一番頭の回転を柔軟にする。

「ね 久しぶり運動しない?」
私の事を気使かってくれたのだろうか
いつもは余りいい顔をしない当麻が珍しくやりたそうな顔をする。
「え・・まあいいか・・」
私は、当麻を地下の訓練場へ案内する。

///////////
俺は、美琴に案内されて訓練場に案内される。
美琴が俺に運動したいと言うのはバトルしたいという意味だ。
(だけど何にもない河原でも対抗しようがないのに、狭い空間じゃ
逃げ場もない)

812■■■■:2016/11/26(土) 17:35:03 ID:O7nWxM2o
もともと、電撃使いだった美琴は、電子操作能力を拡張し、その根源の素粒子の
運動を司る超能力者になり、封印解除後は、運動を司る源のエネルギーを創生、かつ
そのエネルギーでいかなる物質も操作する絶対能力者になった。

そんな彼女に、狭い空間で対峙するのは自殺行為に等しい。異能を打ち消す俺の
幻想殺しは、飽和攻撃に相性が悪く、この空間自体を瞬間的に超高温プラズマに
変える美琴にはあらがいようもない。

多忙な美琴がそんな決まりきった勝負なんて今更するはずもなく、美琴は意外な
事を提案してきた。

「ね・・今日は能力なしに、純粋に体力だけで勝負しない?」
「え?」
「もちろん磁力を使ってズルなんてしないし」
美琴の磁力を使った高速移動は、レベル4の肉体強化系も真っ青な能力があり
それを使われれば勝ち目がない。それすらも封印すると言っている。

(どうしたんだろうな・・まあ怪我させるわけにいかないし、適当に
やるか・・美琴も汗かいてじゃれたいだけかもしれないし)

「ああわかった。でルールはどうする」
「一応・・私は能力がなければか弱い女子だから顔面パンチはなしね。
それで15分1本マッチでいいかしら」

「わかった」

(美琴も慣れない調整事でストレス溜まっているのかな)
(だけど、能力なしの14歳の女の子に格闘技・・ね)

俺は、ボクサーのようにアンチスキルの黄泉川先生から教わった要領でボクサーの
構えをする。路地裏の喧嘩ではない構え。

正拳で体重を乗せ踏み出す。
「やあ・・」
だが・・すんでのところでかわされる。
「さすがに女子にしちゃ破格の体力はあるな・・」
「たいしたことはないわ。せいぜいレベル4の肉体強化系くらいよ」
「それって結構すごいんじゃねえ」

(さりげなくレベル4をdisてるじゃねえか・・)
俺は、ジャブを小刻みにぶつけ態勢を崩そうとするがまったく当たらない。
極限まで神経を研ぎ澄まし、隙を狙うが、事前に避けられる。
美琴は華麗ともいえるバックステップで躱し続ける。

「でも・・当麻の体の頑丈さも大概じゃない」
「まあ右腕一つで路地裏の少女を助けまくったからな・・」
俺は、あらゆる小技が交わされ続けるので、少々やり方を変える。
体重を移動し、パンチとみせかけてタックルをかける。咄嗟のことで
美琴も態勢を崩す。

(もらった、このままマウント・ボジションをとり関節技で締めあげる)
が・・
美琴はすんでのところで態勢をよじり、回転して、肘を使い反動を器用に使い
立ち上がる。

「甘いわよ、・・当麻の動きてアンチスキルの教本どおりなのよ・・そんな教本
通りでは動きを読まれるわよ」

「さすがだな。・・」

「私はもともと低レベルの能力者、能力だけでは身を守れなかった、だから
護身術は結構まじめにやったわよ。空手、剣道、柔道、キックボクシング」
「だから当麻の付け焼刃の武道なんて、怖くないわよ」
(俺は勘違いをしてた、確かに美琴の言うとおりだ、型どおりでは、武道を
本式にやった奴には勝ち目がない。)

「ありがとうな美琴、確かにその通りだ。」
俺は、型を取り繕うのを止め、今までどおり喧嘩殺法へ切り替える

俺は、目をつぶり美琴の気配を感じる。美琴ならそれを演算で分析できるだろう。
細かな生体電流の流れさえ、電子の単位で操作できるほどの頭脳。

813■■■■:2016/11/26(土) 17:36:01 ID:O7nWxM2o
俺は、感覚としてしか理解できない。だが、目をつぶり真贋を研ぎ澄ますことで、
コンマ・ミリ秒の単位で細かな佇まい、挙動を感じる。
(今なら・・当てられる・・)
俺は右手に力を籠め、一心に美琴の腹へ拳を打ち抜く。
(え・・・?)

俺の右腕は空をきり俺はおもいっきり前のめりになる。
だが、無様に態勢を崩した俺に美琴は自ら負けを宣言する。

「さすがね、当麻・・私の負けよ・・避けきれず、能力使って緊急回避しちゃった」
「後1分しのげば・・終わりだったけど」
(美琴は嘘をついている・・能力なんて絶対使っていない。美琴が能力を使った
気配なんて感じなかった。)

「ありがとう、当麻、久しぶりに運動できて気が安らかになったわ」
「美琴・・俺は美琴の能力を使った気配なんてかんじなかったぞ」

「さすがね・・そこまでわかるんだ」
「え?」
「私は今回の緊急回避は、脳と神経細胞にしかごくわずかな生体電流を使ってい
ない。だから気配を感じるはずがない。だからそこまでわかるのがさすがよ」

「はあ・・それじゃ神経細胞の動きにしかすぎないじゃないか」
「ふふ・・当麻・・一般人に最高度の訓練なしに神経細胞の伝達速度をマックス
まで上げるなんてできないわ・・だから私の負け・・能力を使ったのは事実」
「でも・・負けは負けよ」

あの負けず嫌いな美琴は、さして悔しいそぶりもせず、柔らかなアルトボイス
で語り掛ける。
「ね、当麻・・最近当麻が武道を黄泉川先生に習っていると聞いたわ」

「ああ、知っていたか」
「私は、表向きレベル0の当麻が強くなりたいのはわかるし、それを止めるつもり
もないのよ。でも・・今は自分の右手を信じてほしいのよ」

「それは・・」
「私は当麻と違って本式に護身術は知っている。だけど、それでもプロとは言えない」
「結局最後は自分の誇りである能力に頼る」
「だから・・当麻も・・自分の右手をもっと信じていいんじゃないかな」

「ね・・」

「当麻が魔神を見て悩むのはよくわかるわ」
「私が、一方通行に昔蹂躙されたときもそうだった」
「本当に自分だけの現実を壊されるほど」
美琴は過去を思いだしたのか、遠い目をした。

「でも、当麻には私がいる。」
美琴は俺を後ろから抱擁する。
「何があっても私は当麻を守る」
俺は、美琴のまっすぐな棲んだ瞳を見つめ声をかける。

「俺も・・美琴をかならず守る」

「ありがとう」
俺は、美琴に軽く接吻をかわす。

問題は山積し、敵は少なくない。自分を見失うことなく強大な敵に
立ち向かう。美琴は折れそうになる心を俺とのふれあいで耐えている。
過酷な日常な仲で美琴の言う通り自分を見失っていた自分。

適度な運動で2人のすべきことを思い出した。
自分を見失わず、焦らず、勇気を振り絞り、でも冷静に心眼をすまし相手に
立ち向かう。原点を確認した気がした。

続く

814■■■■:2016/11/26(土) 17:48:25 ID:O7nWxM2o
以上とある超荷電粒子砲 Ⅲ 11話 :3章- ①
の投稿を終わります

815■■■■:2016/12/07(水) 19:11:57 ID:yajI6IZY
とある科学の超荷電粒子砲 Ⅲ 12話 :3章―②

9月19日(土) 午前5時

9月も終わりが近いのに、残暑がぶり返し、日の出前なのにむせかえるように
熱気が路面から遠赤外線を放射し、湿気もあり27度という気温以上に蒸し暑さ
を感じる。

日の出前だが、東側に薄明が大地を縁取り雲ひとつない晴天が季節外れの
猛暑を予感させる。風紀委員が日射病で倒れるわけにはいかないので、今日は
能力を使い、赤外線を多少操作し私と当麻の体感温度を下げる。
(まあある意味能力の無駄使いだけど、今日はしょうがないわね)

(この時期に何人日射病で倒れるかしらね・・)
確実な天気予報をもとに、各学校への注意喚起や、給水施設の確保など
万全な対策を実施してはいるが、各校の名誉を競うを大会の性格上、無理しない
と言っても無理をする生徒はいるだろうし、相当数の患者は覚悟しなければ
ならないだろう。

それにしても祭事は裏方に回らないと見えないものは確かにある。

180万の学生の合同運動会、通常警備はアンチスキルが主体とは言え、外部勢力
魔術や、反AI、反科学主義のテロリスト達の横行にはどうしても、風紀委員組織犯罪
対策部という名前の、ある程度合法化された新暗部が対処するわけで、その長である
私にはイベント成功の重責がのしかかる。

私はいつもように当麻と手をつなぎながら、ゆっくりと薄明の街を歩く。

「正直面倒くさいわね」
「え?」

「誰が、何をするか全部分かっている、だけど事前に手出しできない」
「なんかね・・治安機関の責任者という地位に限界を感じるのよね」

「へえ?」

「結局は火消にすぎない」
「目の前の危機だけ表面的に取り繕ったところで、この学園都市そのものの
害悪を抜本的に直すことはできない」

「そうか・・でもさ」
「あれを使って・・窓のない・・」

「当麻・・それは今は言わないで。アンダーラインを無効化しても、誰が聞いて
いるかわからないわ」」
「悪い・・」

「まあ、ゆっくりしましょ」
(でも・・今は幸せよね
私は今やっと手にいれた幸運を反芻し、穏やかな、当麻との平穏な日常
をかみしめる。

レベル5になって以来、毎日が実験、研究の連続で、兵器開発に追われた
日常。

いつもと同じ、多忙な私にとってささやかな朝の散歩のひと時という安らぎ、
だが、私は、その安息に満足しきっていたかもしれない。

多忙にかまけて自分の周りがいかに危機に溢れているかを忘れていたのもしれない。
少し感覚が鈍くなっていたかもしれない。正直奢っていたかもしれない。

これだけ、敵が多くいつもハリネズミのように研ぎ澄ましていたはずの、私の
危機管理能力が、自分が構築したAI捜査支援システムというブラックボックスに
摩滅し、皮膚感覚で感じるべき危機を感じる力を失っていたかもしれない。

だが、現実は常に残酷で、予想を超える。
たったひとつの情報が、平穏な日常を終わらせてしまうことだったあるのだから。
(こんな時間に・・初春さんからメール?)

私は携帯のメール着信に能力で気がつき、直接脳へ信号を送る
暗号の電気信号を、テキスト情報へ変換し、確認する。
内容が内容なので画面を通さず、返信文を脳内で作成し、送信者へ暗号文章を送信する。

816■■■■:2016/12/07(水) 19:16:01 ID:yajI6IZY
(なんてこと・・)
(完璧だったはずなのに・・?なぜ)

だが・・・現実は現実
私は意識を不都合な真実へ切り替え、脳を高速で回転させ
危機対応モードに切り替える。1回エンジンがかかれば後は早かった。
(初春さんをせめても仕方ない、私が任した以上私が責任を負わなきゃない)

「当麻、緊急事態よ、すぐに風紀委員本部へ行きましょう」
「え?」
「説明は後急いで」
「オイ・・どうした」
「ちょっと急ぐから・・右手で私を触んないでよ」

「え・」
私は、久々に当麻を抱え上げ、磁力で高速移動を開始する。たった1分ちょっと
だが、それが長く感じられる。
 
ビルの合間を磁力でレールを作り、自分を亜音速で飛ばす。

冷静に考えれば、1分や2分遅れたくらいで何も事態は変わりようがない、
普段の、自分の怜悧な頭脳があればそんなことをわからないはずがない。

だが、血が上ってしまった私は、もう止まらない。
最短距離をほとんどビルにぶつかりそうになりながら飛ばし続ける。

こんなに鼓動が乱れるのはいつ以来だろう、生体電気を操り感情や、筋肉を
完全に制御できるはずなのに震えが止まらない。

呼吸は乱れ、思考がまとまらない

後悔と、自分の思慮の浅さに、自分を責めたくなる。
自分は甘かった。信じてはいけないものを信じてしまった。


(私は、なんという間違いをしでかしたんだ・・)
どんどん思考がマイナス方向へ誘導され、ここ3週間の様々な意思決定を
秒単位で振り返る。
(どこで・・なんで間違った・・)
それがわかるくらいなら、間違うわけなどないのだ。
気がつかないから、間違う。これも冷静な時なら気がついただろう。

私は屋上からエレベータを使うのももどかしく、非常階段を高速で駆け下る
入室に必要な複数の生体認証と18桁のパスワード入力を強引に能力で突破
する。

余りの高速移動にグロッキーになった当麻をソファに寝かし、異変に
気がつき駆け付けた初春さんに私は声をかける。

初春さんが、私の鬼気せまる表情に、事態の緊急性を再認識したのか
いつもより固い表情で声をかける。気のせいかその声には震えが混じって
いる。

「み・・御坂さん・・大丈夫ですか・・?」
「大丈夫なわけ・・」
ここまで言って、私は初春さんが何におびえていたのかにようやく気がつく
髪の毛からあふれ出す放電が作り出す、プラズマ火球におびえていたのだと。
私は、放電を抑え込み、話を続ける
「初春さん 御免・・てんぱっていた」
「いえ・・」
「で・・状況はどうなの?」
「み・・御坂さんに連絡した時点から特に進展はありません」

放電こそ収めたものの初春さんのおびえは止まらない、圧倒的な能力の片鱗を
見せつけられ、声に怒りが混じっている。雲の上の存在でかつ上司が怒髪天を
つく状況で冷静にいられるはずもない。
(これじゃ・・単なる上司のパワハラだわ。)
(御坂美琴・・落ち着かなきゃだめよ・・アンタの判断に数千人風紀委員そして
大覇星祭の運命かかっている)

「初春さん・・ごめんなさい。ちょっと一息つくわ・・」

817■■■■:2016/12/07(水) 19:17:10 ID:yajI6IZY
私は、冷蔵庫から、500MLのPETのミルクティー2本を取り出し、初春さんに1本渡す。

「飲みましょう」

マイナス思考に打ちのめされていた私は冷静さを取り戻し、初春さんは落ち着きを
取り戻す。
「本当にありがとう。システムの改竄に気がついてくれて」
「いえでも、私のミスで御坂さんにご迷惑をかけてすいません」
「いいのよ・・初春さんの維持しているシステムへハッキングするなんて
誰も想定できないし、そのことは気にする必要はないわ」
「いいんですか・・?」

「起きてしまったことを悩むより、今は対策を立てる方が先」
「警備計画自体は・・変更しないわ」
「もう数千人のアンチスキルと風紀委員の予定をいまさら変更できない」

「ええ、御坂さんのおっしゃるとおりだと思います」

「それに・・」
私には見当がついていた。こんなことができる人間、こんなことをしそうな人間
私は、初春さんにある科学者の居場所を調査させる。
木原唯一、学園都市統括理事会の先端技術関係の責任者。
アレイスターの腹心中の腹心の一人。
私のライバルにして、私を何度も殺そうとした女

それにしても、懲りないやつね・・
(結局・・殺さない私が悪いでしょうね。・・それとも・・これも闇を浄化するのに
必要なプロセスなのかしら)
「システムが改竄された時点で、やつはまだ拘置所にいた」
「頼むわよ」

私は、意識を取り戻した当麻に声をかける
「ごめん説明するわ」

・・・・・・・・・・・・
「そうか」
「結局・・私の譲歩も、当麻の説教も効き目はなかったようね」
現時点で、木原一族との決定的な対立をさけ、保釈した私が誤った
それだけのことだろう

私は、エアコンが効いた執務室で、当麻と会話を交わす。
レンジでチンした冷凍おにぎりをおにぎりで腹を膨らます。

「まあ、腹が減っては・なんとかというし まずは腹ごしらえをしましょう」
「ああそうだな」

「しかし美琴がテンパるなんて珍しいな」
「そりゃ・・当てにしていた、自分が自信満々で設計したシステムが、改竄されて
いたなんてショックよ」

当麻が溜息を吐く

「木原唯一か反省しねえ厄介なやつだな・・」
「まあアイツらしいかな。諦めが悪いとこが」
「そうか・・でどうする?」

「後3時間でけりをつけなきゃないのが面倒くさいわね」
「アイツは私の立場に打撃を与えられればそれでいいはず」
「なるほど・・攻める方が守る立場より楽というわけだ・」
「私が失敗すれば相当立場がなくなる」
「受け身ではまけるわ」
「確かにそうだな」
私は、大きく息を吐き、自分なりの結論を婚約者につげる
「simple is best うだうだ悩んでもしょうがない、根を断ちましょ」
「それにそろそろ木原唯一の居場所も解るころでしょ」

「御坂さん・木原唯一容疑者の居場所が判明しました」
私は、大凡その場所が予想ついた。
そして初春飾利は、予想通りの場所を私に告げる。
「窓のないビルです」

818■■■■:2016/12/07(水) 19:18:45 ID:yajI6IZY
「初春さんありがとう、でシステムの再計算にはどのくらいかかりそう?」

「トラップと改竄部分の解析が終わりましたので、大凡3時間くらいかと」
「ありがとう」

「美琴、殺すなよ」
「風紀委員が殺人するわけにはいかないでしょ」
「でも心を折らなきゃね・・」

結局は、彼女の自分だけの現実をまずは叩きのめすしかないのだろう。
曲がりなりにも学園都市の軍事部門を掌握した木原の敏腕研究者、狂った
学園都市を象徴する人物、木原唯一はそうしてやっと止めることができる。

  当麻は悪人さえも殺すことができない私の性格を危惧したのだろうか
  私に決意を促す。
「どうする?」
「当麻、己の信ずるところに従い行動すべし・・じゃないの?」
「原点に返るか・・そうだな」
「アイツにはアイツなりの正義がある。どんなゆがんでいても、独りよがりでも
ね。それを真正面からぶつかって叩きのめすしかないわ」
「ああそうだな、元美琴の上司で今はライバルだろう」
「ええそう・・だからこそ全力で叩きのめさなければ失礼というものよ」

「じゃ・・いきましょ」
「窓のないビルへ」
「それは・・ふふ・・まあみてなさい」
私と当麻は、初春飾利にシステムの復旧をたくし、すべてにケリをつけに
窓のないビルへ向かう。
・・・・・・
6時ちょうど 窓のないビル

俺と美琴は、空間そのもの座標を交換する方法で久しぶりにテレポートを
行い1秒未満で窓のないビルのアレイスターの水槽のあるはずの空間に到達
する。
テレポート以外に侵入できず、核兵器でも破壊できない、学園都市の独裁者の
居城

だが、そこにあるべきものがないことに俺は驚愕する。
(水槽がない?)
粉々に砕けた、水槽の残骸らしきものが散乱し、血のようなものが床にしみついている。
まさか・・木原唯一が殺したのか?統括理事長を

俺は戦慄を隠せない。科学者を手のひらに転がし、学園都市で完全な独裁
を行い、エイワスという最強の守護神と、脳幹先生というAAAを操る科学の
法皇が簡単に死ぬのか?

美琴はある程度予想していたのだろうか。さほど驚いていなかった。
そしておもむろに木原唯一に話かける。木原唯一はテレポートに使った案内人
結標を従えている。

「まさか・・自滅してくれるとはねえ」
虚勢なのか余裕なのか木原唯一は高笑いを始める
「言ってくれるじゃねえか・・テメエは内心喜んでいるんだろう」

美琴は乾いた口調で話しを続ける
「エイワスがいる限り、理事長は死なないわよ」
「貴方の手持ちの札では両方を抹殺するのは不可能よ」

「は・・そんなことはテメエに言われるまでもない」
木原唯一は、笑っているのか怒っているのか、微妙な表情を作り、私に対峙する。
「なあ御坂美琴、上条当麻・・手を組まねえか」
「テメエが魔神を成仏させ、上条が最後の生き残り僧正を殺した、法の書は
テメエが解析し、完全版のAAAは完成した。アレイスターもそのプランも
もういらねえんだよ 木原にも学園都市にもな」

美琴は、表情を消し、いつもより乾いた声で応答する。
「犯罪者と組む手はないわ」

木原唯一は、冷笑するように私に話かける。
「はあ・・綺麗ごとだな・・テメエは人格破たん者揃いのレベル5の中で
いつも手をよごさず、表を歩き、いつも賞賛だけを浴び続ける」

819■■■■:2016/12/07(水) 19:20:01 ID:yajI6IZY
「テメエのような、世の中は善意で成り立つなんて思っている小娘なんて反吐が出る」

「そうかもね」
「でもさ・・それて嫉妬じゃないの?私に対する」

「何?」
美琴は、エンジンがかかってきたのかマシンガンのように悪態攻撃
を始める。基本は善人の美琴だが、どこで学んだのか正論だが、どぎつい
悪口はとどまるところをしらない。
「結局・・泥水へ自分から進んで飛び込んだだけじゃないの?」
「アンタはようするに脳幹先生の劣化コピーにしかすぎないわ」

それまで薄ら笑いを浮かべていた木原唯一の表情が怒りに変わる。
自分が今まで必死に守っていた脳幹の一の弟子という立場を否定されたことが
悔しかったのだろうか?

「糞 いいたいことだけ言いやがって」
「テメエの善人面もテメエの甘ったるい理想論も全部が気にくわねえ」

それまで冷笑を浮かべていた美琴の表情が、憐憫に変わるのを俺は見逃さない
そろそろこのマシンガントークもおしまいだ。
「ええ、でもアンタのやり方ではアンタが救われないわ」
「私は貴方の過去の功績を考慮して何度も手を差し伸べた」
「だけど・・アンタは結局私の手を取らなかったわ」

「それは、きれいごとでなくアンタの自業自得じゃないの?」
「ケ・・上から目線だな・・」

「もういいわ さっさとケリをつけましょう」
まさに瞬間だった俺が気がついたときにはすべてが終わっていた。

結標がコルクを転移させようとするが、演算を終える前に、鈍器で殴られた
ように、昏倒する。木原唯一の演算銃器は発射前に暴発して砕け散る。
そのすきに美琴が、右手を伸ばし、引っ張る動作を行う。
木原唯一から金属製のもろもろの装備一式が回収される。それが、電撃見るも
無残に黒焦げに原型をとどめずに破壊される。

木原唯一は、脳内の生体電気をいじられたのか。激痛に頭を痛め始める。
美琴はさらに昏倒した結標を、磁力かなんかの力に引っ張りの前に倒れこませる。

この間わずか1秒に満たない、その秒にも満たない時間のうちに、実質レベル5と
最強の学者が無力化される。
(勝負にすらならねえな・・)

美琴は、唯一への見えない攻撃を終え、俺に簡単な依頼をする。
「当麻、右手で結標の頭を撫でて」
「ああわかった」

それまで洗脳されしいたけのような目をしていた結標が呆然自失の状態で
意識を取り戻す

「やっぱり洗脳されていたのね」
「当麻、コイツの目的・計画が判明したから、ちょっと現場へ行くわ」

「え?」
木原唯一が意外そうな顔をする。
「テメエは心理とか精神系じゃねえだろう?なんで記憶が読めるんだ」

「さあね、教える義務はないわ」
「でも・・エクステリアの制御は貴方でなくもできるんじゃないの?」
  木原唯一が唖然とした顔を見せる。
  「いつのまに・・」
  「さあね。しゃべっている5分の中でじゃないの?」  
  美琴は、俺に申し訳なさそうな顔で、肩を寄せ謝罪する。
  「本当にごめんなさい、私のミスで当麻に迷惑をかける」

  「じゃ・・木原唯一を頼むわ」
  「美琴も油断するんじゃねえぞ」
 俺は、木原唯一の顔を見据え、美琴を見送る。
 切り離す力ではなく、繋ぐ力で事態を収拾する。

 続く

820■■■■:2016/12/07(水) 19:22:42 ID:yajI6IZY
以上とある科学の超荷電粒子砲 12話 :3章ー②
の投稿を終わります

821■■■■:2016/12/09(金) 03:05:02 ID:L6XEqrOw
痺れるねえ

822■■■■:2016/12/12(月) 20:18:00 ID:YAC2XN9.
とある科学の超荷電粒子砲 Ⅲ 13話 3章―3

すでに時刻は7時を刻み、朝日が学園都市を照らしている。
開会式は9時に設定され、それまでに木原唯一が企てた計画を阻止しなければ
ならない。

木原唯一は、エレメントという最大全長100mに達する巨大昆虫形態の兵器を
を使い、学園都市を物理的に機能不全にする予定だった。
決行開始は午前8時。開始後エレメントは幾何級数的に増殖し、半日で
学園都市を食いつぶす予定だった。

(だけど・・種さえわかれば・・どうということはない)
まずは・・・右手を伸ばし、窓のないビルの地下下部空間全体を超高圧電流で荷電
させ、空間をプラズマで満たす。

プラズマで満たされた空間から軟X線が放射され、あらゆる機器が火を噴いて
ぶっ壊れる。数万度に達する高温大気に耐えられる元素など存在しない。
莫大な軟X線が空間を包み、瞬間的に蒸発する。その空間に存在していた、あらゆる
物質が、蒸発し、プラズマに還元される。

耐熱被膜も、耐電磁シールドも関係ない。高温プラズマはあらゆる、防護を無力化
する。あらゆる物質が、電荷と磁力が支配する、プラズマへ変換され、私の得意分野に変換
させる。形を失い、電荷と磁場に支配されたプラズマが保護膜へ吸収され雲散霧消する。

(ついでに、あれ壊しましょう・・)

私は、右手を伸ばし、ロケットブースタをマイクロ波で破壊する。
数万度に加熱し、固体だった物質は、液体を飛び越え気体・プラズマへ変わり、雲散
霧消する。本来なら燃料へ誘爆し、窓のないビル自体が雲散し最悪は学園都市自体が
消滅するだろう。だが・・私の保護膜はすべてのエネルギーを吸収し、ロケットブースター
だけを破壊する。

卑屈な志がない独裁者が、魔神に地球をぶっ壊されたときに
脱出する為に作り上げた
窓のないビル=脱出ロケット、全人類70億人を見捨てても自分だけが、助かろうという
浅ましさ・・

そもそもアレイスターが、クローン製造や非人道的な木原の実験を放置し、
ラスボスのふりをして尊大な態度をとれるのも、自分が長を務める街の住民が
全員死のうが、プランは誤差の範囲だとぬくぬくとぬかす。

そんな無責任な態度が取れるのも、自分だけがどんな兵器でも破壊できない要塞、窓の
ないビルにいるせいだろう?自分だけが、安全地帯にこもり、そこからアンダーラインで
監視し、暗部と呪詛で抵抗する人間、不要な人間を暗殺する。

(本当、これを保護者と180万人学生が知ったらどうなるかしら・・)
木原一族は、学生を、能力者を実験動物と言う。だが・・公的な場でそんなことを
言わない。彼らとて彼らの言い分が受け入れられないことは分かっているのだ。

いったい舌が何枚あるのかしらね・・
私は、表向きは科学の発展といいつつ欲にまみれ、学園都市を食い物にする悪党
が大半を占める木原とそれを放置するアレイスターに嫌悪を感じ始める。

ふう・・

(つまらない奴・・結局復讐で、人生を狂わせた男)
だけど、その歴史ももう終わり、アレイスターが使い捨てにした木原唯一に、寝首
をかかれ生命維持装置と指揮管制システムを失った窓のないビルは無力化された。

そして彼が、独裁者としてその尊大さを維持できた根本要因の安全地帯を保証した
保険、脱出装置のロケットブースターも私がついでに破壊した。
(結果的には・・これでアレイスターは窓のないビルを捨てるしかない)

安全地帯から、高見の見物を決め込み超越者を気取った独裁者は、居城を失い
地べたへ突き落とされた。
(皮肉な話ね、私は木原唯一の行為を肯定はできないけど、彼女の狂気が腐った学園都市
に大きな風穴を開けたことも事実・・)

この機会を逃したくない。

そのためには、・・もう少し工作が必要でしょうね・・
私は、やり残した仕事を片付けに窓のないビルの地下から、現場へ向かう。

823■■■■:2016/12/12(月) 20:20:21 ID:YAC2XN9.
///////
俺は窓のないビルという密室で、美琴に託された、凶暴な科学者と
さしで対峙している。

本来なら、核兵器でさえ壊せない、独裁者の要塞。
だが、そこに独裁者はおらず、血の跡しかない。散乱した水槽と、独裁者の1700年の寿命を保証した、医療用機器などのコードが雑然と散らかっている。

美琴は、結標とともに退出し、木原唯一が引き起こした惨事の鎮圧に取り掛かっている。
(まあ美琴の事だ、・・なんとかするだろう)
俺は目の前の狂人の相手だけすればいいだけだ・・

(それに、発条包帯も、演算銃器もない。横紙破りも・・そのほかあらゆる武器を美琴
が破壊した)
(まあ1時間もすれば・・どうせ美琴は唯一を回収しに来るだろうし)

少し、電撃の痛みが治まったのだろうか木原唯一は、美琴に生体電流を弄ばれた
痛みに顔を顰めながら俺に苦笑いを浮かべるという器用な顔を形作る。

まだ、逆転する方法でもあるのだろうか?それとも諦念かその表情から、本音を読み取る
ことはできない。
(唯一は呼吸するように嘘を吐くはったり野郎と美琴は言っていたしな)

やがて痛みが収まったのだろうか、木原唯一がおもむろにしゃべり始める。
「ナア上条、・・テメエは御坂美琴をどう思っている?」
「はあ?・・俺の一番大事な婚約者・・だが」
痛みに顔を顰めていた表情を緩め。木原唯一が溜息をつき始める。

「正直、悔しいよ」

「私は、すべてを、時間を、人生を、先生のためにひいては学園都市の為に捧げた」
「だが、アレイスターは先生と私を切り捨て、あの女と幻生を選んだ」

それまで痛みに顔を顰めていた木原唯一が、彼女の屈辱を思い出したかのように
切々を、顔を歪ませながら話始める。

「あれだけのことをしでかしたあの女は、何一つ失うことなく、表から
落ちることもなく、世界有数のお嬢様学校を優等な成績で卒業、表の顔を維持したまま
裏さえも掌握し、私のような存在を追放した。」
「アイツと、アイツを贔屓する学園都市が許せねえ」

俺は、狂人にいいたいように言わせていたが、狂人の半分妄想が入った、戯言に付き合うの
に徒労感を感じ始めていた。俺が知る限り、美琴が積極的にアレイスターに取り入ったことなどないはずだ。風紀副委員長だって面倒くさげに最初は嫌々やっていなかったか?
婚約者として、これ以上なじられるわけにはいかない。俺は事実を告げ始める。

「そうか?美琴はアレイスターと嫌々立場上付き合っていただけだと思うけど」

木原唯一の顔が怒りにゆがみ始める。
「テメエは婚約者の傍にいる癖になにも知らないんだな」
「結局テメエも御坂美琴サクセス・ストーリに騙された口じゃねえのか?」

俺は、あまりに嫉妬に満ち溢れた狂人の戯言に付き合いきれず、反論を始める。

「はあ?」
「能力開発唯一の成功例の御坂美琴を取り上げ、広告宣伝活動に使いまくった
ことをしらないわけじゃないだろう」
「はっきり言って、能力開発と言ったところで、レベル0がレベル5になるなんて、ありえ
ない話だ。」

「レベル1から、レベル5に到達した唯一の例外御坂美琴」
「だが、その裏側を知っている立場からすれば、くだらねえ話だ。素養格付けで
確実にレベル5に到達することが予想され、その予想に従い莫大な巨費と手間をかけて
やっと作り出した、アイドル御坂美琴」
「アイツは、学園都市が外から学生を招くための偶像、アイコンにすぎない」
「それがテメエの婚約者、御坂美琴の不都合な真実という話だ」

俺は、何度も聞かされた、美琴の代わり映えのしない裏話に胸糞が悪くなる。
人間の感情で一番くだらない非生産的な感情は、妬みだ。自分がなすべきことをなさず
成功した人間を、自分の下劣なひん曲がった心で事実を見ようとしない、卑しい性根。
俺は腹に力を籠め、木原唯一に残酷な事実を告げる。

824■■■■:2016/12/12(月) 20:22:18 ID:YAC2XN9.
「木原唯一は、御坂美琴よりチャンスが無かったのか?そんなはずないだろう?」
「美琴は、言っていたぞ、研究者として2年前唯一先輩は仰ぎ見る存在だったと、私にはすべてが眩しく見えたとな」

「けえ、御坂美琴は食えねえな、正義の味方面をしながら、裏社会にさえ敵を極力作らねえ」
「裏社会に触れつつも、決して裏社会に落ちない。ある意味化け物だよ。あの女は。」

怒りに満ち溢れていた木原唯一の表情が柔らかくなるのを俺は見逃さない。
御坂美琴には不思議な魅力がある。敵にさえも魅了する不思議な力。
裏とか暗部は、表の人間からは強く見えることもある。だが、裏を知り、裏に触れつつ
決して裏に落ちない人間こそが一番強いのかもしれない。

「なあ上条、ひとつ最後の頼みを聞いてくれねえか」
「なんだ?」
「お互い能力なしで肉体言語で会話をしねえか?」

「はあ 俺はレベル0だけどな」
「私もレベル0だよ。」
「そうか・・テメエも苦労したな」
「上条、正直表街道を突き進む御坂美琴を嫉妬していたのは事実だよ」

「そうだろうな、分かっていたよテメエが美琴を羨んでいたのは」
俺は、すっかり憑き物が取れたような木原唯一を見つめる、怒りも自嘲も取れ
アレイスター側近の誇りを取り戻し、聡明な顔つきを取り戻す。

俺は、拳を握りしめ、木原唯一に対峙する。

////////////////////////
「さて、これで全部終わりかしら」

木原唯一が準備した数々の破壊工作活動を、部員で手分けして阻止する。
本人の思考を読んだおかげで手間が省けた。

ファイブ―オーバや、様々な駆動鎧、エクステリアに操られた能力者など。
木原唯一は、大覇星祭妨害にとどまらず、この学園都市自体を破壊するつもり
だったのだろうか?

この事態が表ざたになれば、もはや学園都市機能できなくなるほどの混乱が
巻き起こされたことは間違いない。

だが、それももう終わり、2万体もの駆動鎧、1000機の無人ヘリ、500基のファイブ
オーバーも私と一方通行が全部破壊し、後は未元物質を吐き出す工場を破壊するだけ。
それが終われば、食蜂とともにエクステリアを破壊するだけ。

木原唯一は、垣根帝督の脳細胞を培養し、未元物質を吐き出す、工場を維持していた。
垣根帝督は私と、当麻に敗北後、不可解な事故で行方不明になっていた。
その事実は、木原唯一に隠ぺいされ、誰も知らぬ間に未元物質を吐き出す、装置へ
変容を遂げていた。

私は、その装置から、垣根帝督だったものが、世に放出される前に阻止すべく
地下空間に鎮座する垣根提督の脳細胞から作成された、巨大脳と対峙していた。

地下に巨大空間に設置された、脳を培養する水槽
超硬質プラスチックに保護され、スペック上はいかなる地震も、気化爆弾でさえ破壊
できない装置。その装置と無数の配管とコードがつながり、未元物質を吐き出す装置
と化している。

「こんな気色悪い装置はさっさと破壊しましょう」
私は、その木原の製造した装置を破壊すべく、右手を前に突き出し、手の平からX線
レーザを放出しようとする。

だが私が装置を破壊しようとした瞬間に人らしきものが現れる。
その人もどきは私に声をかける。

「久しぶりだな、御坂美琴」
「アンタ誰?」

垣根帝督の脳が作り出した人もどきが話を続け始める。
「人を殺そうとして、ご挨拶だな・・」
「人?アンタはただの未元物質じゃないの?」
垣根帝督もどきが、人語をしゃべり始める。

825■■■■:2016/12/12(月) 20:24:17 ID:YAC2XN9.
「は・・俺は人じゃねえか・・まあ常識ならそうかもな」
「だが、・・そもそも生物とは何か?テメエはそう思ったことはないか?」

「はあ?」
「俺は、エクステリアを使った木原唯一に無理やり、意識を操作され溶解工場で
体を奪われ、こんななりへ変貌を遂げた」
「そうね。木原唯一はそう言っていたわね」
「俺は培養液で脳として生きていた」
「俺は、いったいなんだ?テメエに定義できるのか?」

私は、事態の複雑さに頭を抱え始める。確かに知能と自我のある存在である以上
この人もどきも風紀委員の保護の対象にすべきかもしれない。
(面倒くさいことになったわ・・時間もないし)
私は、垣根帝督もどきに声をかける。

「ごめんなさい、確かにアンタの言うとおり垣根帝督として、アンタを保護すべき
かもしれないわね、ただ・・・少し私に時間をくれない?」
「大覇星祭実行委員として・・か?」

「くだらねえな」
「悪いが、テメエを叩きのめさないと気が済まねえ」

「破壊しようとしたことは謝罪する。だけど、私とアンタに戦う理由がないわ」
「怖いのか?人もどきに負けることが?」
垣根もどきが賢しげに何やら語り始める。
「あの時の俺とは全然違うぞ」
「アンタが、多分強いことは認める。生身のアンタよりもずっと」

私が言い終える前に、垣根がイキナリ攻撃を始める。
羽をとがらせ、羽の先端から未元物質で形成された刃物で私を突き刺そうとする。

だが、・・
私は、硬X線レーザで未元物質剣を粉砕する
「まあ未元物質たって、無限の強度があるわけじゃないわよね」
「こんな攻撃じゃ届かないわよ」

「さすがに、1位様か・・」
「じゃ・・これでどうだ」
突然、私の周りに、妹たち、一方通行に殺されたクローンのドッペルゲンガーが発生し、
私を取り囲む。
「お姉様は、力があるにも関わらず、なぜ実験を止めなかったのですか?」
「お姉様のことなかれ主義がいったい何人殺したんですか?」
妹たちは、口々に私の非道をまくしたてる。私が触れられたくない心の暗部、私の
トラウマ。だが・・
私は、頭をぼりぼりと書き、垣根に相対する。

「垣根もどき・・つまんないわね」
「本物の妹ならまだしも未元物質の人形に、へいこらするほど私は安くないわよ。」

私は、小細工に無性にイライラし始める。垣根もどき・・ひいては木原唯一が
仕組んだ私への心理攻撃にあまり高くない私の心理的沸点が一気に沸点に達する。
「ああ・・せっかく紳士的に対応するつもりだったのに、もう限界だわ・・」

地下空間が、私のAIM拡散力場のゆらぎの反響で大きくきしみ始める。
γ線をベースにした莫大なAIM拡散力場の干渉波は、人形達を内部から崩壊させる。

「お・・おねえ・さ・・ま」
垣根まがいの人形達も含め私のクローンのような、人形も跡形もなく消滅する。

私は、垣根の巨大脳に相対する。

「アンタが未元物質で作った、人形は全部壊した」
「確かにアンタの言うとおり知能のあるアンタを壊すかどうか、統括理事会の判断を得てからにする。だけど、アンタをこのまま放置はできない」

(私は結局アマちゃんかもね、こんな憎たらしい存在すら殺すことができない)
垣根の脳が危機を悟ったのか思念波を私に送り、懇願し始める。
「な・・なにをするつもり・・だ」
「少し眠ってもらえないかな」

私は、強力な睡眠薬を培養液へテレポートし、巨大な垣根の脳を黙らせる。
(それと・・これは保険・・)

826■■■■:2016/12/12(月) 20:26:24 ID:YAC2XN9.
私は、保険にある物質を水槽にテレポートし、その場を立ち去る。

(さあそろそろ、仕上げにかかるか)
一通りの鎮圧作業を終え、私は当麻の元へ急ぐ。

・・・・・・・・・・
(ただの学者だよな・・)
俺は、木原唯一とさしで能力なしで戦っている。
木原唯一は、ただの女性で卓越した頭脳以外に特別の能力を持たない存在だったはず。

だが、発条包帯もないはずなのに、俺の渾身の右アッパーはかすりもしない。
数々の能力者や魔術師を、黙らせた前兆の関知・・その技が全く通用しない。

俺は息を切らし、肩で呼吸を始める。
(ハア・・かすりもしねえや・・)
木原唯一は合気道か空手の有段者なのかそのフォームに無駄がなく、的確に俺の
攻撃をかわし続ける。
(こんな化け物だったのか・・木原唯一は)
正直俺は木原唯一を甘く見ていた、美琴が瞬殺したので大した奴ではないと
軽く見ていた。だから科学機材、駆動鎧、薬品を奪われた木原など恐れるに足らないと。
だが、科学の尖兵たる木原唯一は自分の体の制御さえ極限まで尖らせまったく、ひとつ
ひとつの所作に無駄がない。俺の自我流のパンチは全く通用せず、時間だけがむなしく
流れ続ける。
(美琴は、こんな化け物を捻りつぶしたのか?)

(このままでは勝てない)
俺の一瞬の雑念を木原唯一は、見逃さない。能力者用に特化し、木原の対能力者戦闘の
決めてのひとつである木原神拳がさく裂し、俺を突き飛ばす。
肋骨でも折れたのだろうか・・激痛が俺を襲う。恐らく、工学的に極大の効果を得るように
極限まで研ぎ澄ました、木原の拳法が俺を打ちのめす。

が・・ァ  俺はノーバウンドで数メートル吹っ飛ばされる。
(なんて強さ・・・だ・・)
背中に激痛が走る。呼吸さえも苦しく痛い。

俺は、何度も体脂肪率数%の100KG越える、スキルアウトと肉体言語で会話をした。
それでもこれほど効果的に能力なしに俺に打撃を与えた奴はいない。
(・・くそ・・このままじゃねじ伏せられる)

木原唯一は、執拗に俺の脇腹をけり、意識を奪おうと攻撃する。まるで残虐性こそが
木原の神髄と言わんばかりに責めつける。

「ケ・・あの御坂美琴の婚約者というからどんなすげえ奴かと思えば、異能を打ち消す
右手以外はただのモブかよ・・がっかりだな」
「オイオイ上条さんよ、仮にも1位の婚約者だろう?御坂美琴には敵は多いんだぞ、
そんなんで、自分の身一つ守れるのか?」
口撃の合間も唯一の攻撃に切れ目がなく、木原の華奢な右手から信じがたい、まるで
駆動鎧のような強烈なパンチが俺の腹を直撃する。
(糞・・なんて強さだ・・下手な肉体強化系より強いぞこりゃ)
(このままじゃ・・美琴がくるまでに殺される)

俺は、木原唯一の戦慄すべき戦闘力に今更ながら驚愕する。
俺は御坂美琴という異常な存在に関わりすぎて、木原唯一のような強者を正当に評価する
目を失っていたかもしれない。
だが、(美琴を侮辱した下衆野郎には負けられネエ)その一念が俺にパワーを与え、痛み
を軽減する。まだ立てる・・よし・・

俺は目を細め、ひたすら唯一の気を目でなく、全身で感じる。極限まで気を
伺い、右手に力を籠める。まるで、呼気の分子、生体電流のわずかな変異、筋細胞
のATPわずかな合成の力場さえ感じる。そんな気さえする。

俺は、態勢を整えつつ、唯一を挑発する。
「何度も、テメエは美琴の邪魔をした」
「ああ?」
「美琴は、邪魔をされ、侮辱されたにも関わらず、テメエを許し、保釈さえ自分で手続を
した」
「そんな三下は美琴が許しても俺が許さねえ」
「な・・なんだと・・」
木原唯一が正気なら、そんな安い挑発には乗らなかっただろ、だが、もともと気に食わない
御坂美琴を擁護され、冷静さを失った、唯一は安い挑発に乗り、大降りに腕を回転させ、上条の意識を刈ろうとする。

827■■■■:2016/12/12(月) 20:28:04 ID:YAC2XN9.
(チャンス・・)俺は、ワンチャンスをものにして木原唯一に渾身の一撃をくらわす。
轟音が響きわたり、木原唯一の顔面はゆがみ、口から血をはき、10M以上ぶっ飛ばされ、壁に激突する。白目をむいた唯一はぴくりともしない。
(ふ・・なんとか、倒したか・・?)

安心したのだろうか、骨折箇所がずきずきという表現では陳腐なほど、痛み始める
(まあこれで、少しでも木原唯一が反省してくれればいいんだがな)

ふっと俺が顔を上げると、いつ到着したのだろうか、美琴が俺を見つめている。
「ごめんなさい、もっと早く到着するつもりだったけど、トラップが幾重にあって
手間取ったわ」
「ああ・・いいよ、で、処理は終わったか」
「ええ、AI捜査支援システムも復旧作業も終わっているから、もう安心よ」

「そうか」
美琴が、嘲笑を始める。
「当麻、御免なさい。私は婚約者さえ守れない最低の女だわ」
「他にいくらでもやりようがあった、あげくにシステムを過信し、木原唯一の暴走を
防げなかった。」
美琴が、深々と最敬礼を俺にする。それでもダメなら土下座しかねない勢いで。
「私は、当麻に合わせる顔がない」

御坂美琴は人の痛みを自分の痛みとして感じることができる高潔な人間だ。
そんな人物が、自分のライバルであった、木原唯一を自分への妬みで自滅させ、その
自滅に多くの風紀委員を巻き込み、さらに婚約者に重症を負わせた、その事実に
心を痛めないはずがない。

俺は、そんな美琴が大好きだ。だったら、傷心に苦しむ女にできること・
そんなこと、言うまでもない。そしてどんな言葉も必要ない。

俺は無言で、美琴を抱き寄せる。
美琴の瞼から透明な液体がこぼれ落ちる
他人の前では誰にも見せない涙、俺にしか見せない美琴の涙。
感情をため込んでいたのだろうか、美琴の嗚咽は止まらない。
俺は頭を撫で、美琴の気が収まるの待つ。

やがて、5分が経過し、美琴は涙を拭き、いつもように凛とした表情を取り戻す。
目に輝きが戻り、意思と聡明さに溢れた表情を作り出す。
(やっぱり美琴はこうじゃなきゃな)

見る人に力と勇気を与え、気分を晴れやかにするその笑顔。
俺は、そんな美琴に惚れたんだから。その笑顔を守るためになんでもすると
誓ったのだから。
だから、俺だけは、上条当麻は、いつでも美琴の味方になる。

「当麻、本当にありがとう」
「いつまでもいじいじしてられないわ」
「まずは、このビッグイベントを終わらせましょう」

「ああそうだな」
「じゃ・・そろそろ開会式よ。」

「ああ、で・・これはどうする?」
当麻は、死んだ魚にように無言の木原唯一を指さす。
「そうね、」
「簡単に殺さないわ、犯した罪に見合う、方法で処理する」
美琴は、米俵のように唯一を抱え、俺に告げる。
「じゃ・・本部へ急ぎましょう」

午前9時、木原唯一の反乱は鎮圧され、大覇星祭は何事もなく
無事開会式を迎えた。そのことを知るのは御坂美琴の関係者十数人だけだった。

続く

828■■■■:2016/12/12(月) 20:29:30 ID:YAC2XN9.
以上とある科学の超荷電粒子砲 Ⅲ 13話 3章―3
の投稿を終わります

829■■■■:2016/12/21(水) 16:08:02 ID:8Xdg.fB6
とある科学の超荷電粒子砲 Ⅲ 14話 3章―④

9月19日(土)10時

私の選手宣誓で始まった大覇星祭は、朝方の内戦まがいの大トラブルが嘘のように
実行委員会の式次第どおり進行している。

私は、回復したシステムを午前中は初春さんに任せ、自分は競技に専念させてもらう。
最初の競技は、4校合同借り物競争、さっさと済まして義務を果たしたい。

(それにしても借り物競争ね・・)
(高速移動すれば一瞬だけどね・・)

磁力による高速移動で音速移動すれば、半径15kmにすぎない狭い学園都市など
ほぼ中心に位置する第7学区からどこでも往復2分で移動できる。

当然、そんな話では学園都市のアイドル御坂美琴を撮影することを目的に集まった
観客や、マスコミがしらけてしまうので、この競技では干渉数値5以上の能力
発動と、時速50km以上の移動ができない能力制限がかかっている。

また参加者でただ一人、私にだけ、他の競技者への能力による攻撃が禁止されている。
ようは、化け物である私に枷をはめなんとか競技として成立させるという涙ぐましい
話だ。そんな御坂美琴と呼べない僅かな戦力しか与えられていない私に敗北は許され
ていない。観衆も常盤台も、マスコミもなにより上条当麻が私の勝利を望んでいる。

(正直、レベル3くらいの能力者よ・・これじゃ)
私は心の中で悪態をつきながら、借り物のくじを引く

くじには、すでに競技を終えた高校男子と記載されていた
(どうやら私のツキは消えていないようね)
私の脳裏に上条当麻の顔が浮かぶ、予定では当麻は開会式直後の競技を終えたばかりな
はずだから。
////////////

私は、神経細胞の伝達速度と、筋繊維の伸縮を生体電流の操作で最適化し、限界速度
の上限値ぎりぎりの時速49KMで移動している。

カーブや、歩行者などの障害物を極限まで演算を駆使し、避けつつ進む。磁気による高速移動という裏技が使えない以上ロス時間は許されない。
(まあ信号をハッキングで無理やり青に変えたのは許容範囲よね、能力は使ってないし)
私は約5KMの道のりを6分ちょうどで移動する。時計で移動時間を確認しにんまりする。

(よしロス時間0と・・)
(当麻は・・いたいた)
「当麻・・」
「あ?そうか俺が借り物?」
「ええ、悪いけど、時間ないからおんぶするわ」
「あ・・ああ」
よいしょ・・と
私は当麻をおんぶして、走り始める。見せかけの勝利に向かって。

「しかしまあ、干渉数値5なんてレベル3くらいだろう?」
「ええそうよ」
「レベル3の電撃使いにできる芸当か?」
「ああ・・でも・・レベル3の肉体強化系なら可能よ」
「なるほど・・頭を使えば済む話か」
「まあ生体電流を使えば、10分くらいは筋力を10倍にできるそれだけの話よ」
私は、歩行者や自転車をジャンプで飛び越え、ゴールを目指す。

「でもさ、美琴が磁力で高速移動したほうが観客やマスコミが喜ぶんじゃねえの?」
「まあね、でもさ・・私が本気だしたら勝負にならないじゃない」
「まあテレポートはともかく秒速300Mで移動すれば40秒よ」
「まあ確かに」
「他に、外部に私の能力を誇示する場はあるわけだから、ここで見せびらかす必要もない」

「まあ一方通行や垣根に言わせれば大覇星祭なんて夢を信じる子供の遊びだそうだけど」
「私は、一応表の顔だから、ルールの範囲で青春ごっこを演じるだけよ」
「そうか」

「でも・・もうそれも今年でおしまいかな」
「え・・ああ大学院生か来年は」
「ええ、もう子供の遊びもおしまい。」

830■■■■:2016/12/21(水) 16:09:55 ID:8Xdg.fB6
「だ・か・ら今年だけは楽しもう」
私は、時速49KMを維持し最終コーナを曲がる。

・・御坂選手、後続を遥かに引き離し圧勝です・・
・・まったく疲れもみせず、肉体強化系も真っ青な高速移動を見せ圧倒的な差をつけ
借り物をおぶりその力を見せつけ・・

私は、借り物の内容を見せ、1位の旗を受領する。
スポーツタオルと、スポーツドリンクを50%水で薄めたドリンクを受領し
当麻に渡す。

「当麻ありがとう」
「え・・いや・・まあ」
「ふふ・・でも借り物が競技を終えた高校男子でよかったわ」
「そうか・・まあデート見たいなもんか」
「そう、これで当麻をアピールできたし私も母校に貢献できたし、めでたしめでたしよ」

「そうか」
「で後もうひとつ競技あったな」
「ええ」
「障害物競争よ」
「エースはつらいね・」
「まあ、実際には能力使用の干渉値の限界もあるし、攻撃は禁止されている
レベル5の御坂美琴でできることなんて大覇星祭じゃ知れているのにね」
「常盤台も学園都市も私に幻想抱きすぎじゃないの?」

私は、やや苦笑いを浮かべる。

「それでも勝つんだろう」
「ええ、出る以上私に敗北は許されない、微弱な電撃すら禁止され、磁気による高速
移動もできない、まるで両手両足を縛られている状況でね」
「つらいな」
「ええ、でもそれが、ルールとか法の番人の矜持なのかもね」
「じゃ・・がんばれな」
「ええ、またね」
私は、なんとか初戦を制したことを喜び、協力してくれた婚約者に特上の笑顔で
報酬を支払い、別れを告げる。

///////////////////
12時

AI捜査支援システムは順調に作動し、流れの魔術師や爆弾テロ犯、反科学主義者を
公務執行妨害で犯行直前に摘発している。私はあれだけのトラブルを3時間で復旧させた初春飾利の技量に舌を巻く。

昼を迎え当麻と再会した私はあらかじめ予約した、少々こじゃれたカフェに入店する。
ささやかに警備責任者という権力を行使させてもらい、当麻とゆっくりとできるように
贅沢に個室を確保させてもらった。
むせ返る熱気が収まり、適度の調整されたエアコン冷気が心地よさを感じさせる。

店員が、程よく冷えた氷水を机の上に置き、立ち去る。
日替わりランチは予約済みなので、10分ほど待つこととする。
「当麻、お疲れさま」
「朝のごたごたが嘘みたいだな」
「それも部員総出の頑張りのおかげ、当麻や初春さん、一方通行に本当に感謝だわ」
当麻の顔が、ほのかに紅くなり、私の常盤台の競技用体操着の上に手を添える。

「で・・借り物競争は俺でよかったのか?」
「え?」
「競技を終えた高校男子なら数万人はいただろう?実行委員の美琴なら、他の部員や
風紀委員の競技日程なんか全部把握済み、もっと近場で都合のいい学生を確保する
ことも可能なはず、それなのになぜ・・?」
「それはねえ・・当麻と少しでも一緒にいたいだけよ」

美琴の顔が真っ赤に染まる。もう1月ちょっと同棲しているのに、意外に初心な美琴の
反応に俺もなんか変な気分になる。
「そうか・・まあ」
「迷惑だった?」
「いやまあ・・美琴なら・・全然悪くないし」

「若いのはいいわね・・でも美琴ちゃん、未婚の母だけはダメよ」
そこに美琴の母の美鈴さんが、いきなり俺の隣に座っているのに気がつく

831■■■■:2016/12/21(水) 16:11:45 ID:8Xdg.fB6
「え?お義母さん」

「当麻君、愛しのラブリー美鈴ちゃんでーす」
そこには、一部を除き美琴の姉にしか見えない、大学生風の美人が座っている。
美琴は、それまでの満面の笑みから、いかにも不機嫌そうな顔へ変える。

「ママ急に入国申請しちゃだめよ・・いくら私の親族でもね」
本来なら学園都市へ簡単には入域できない。通常申請して1週間待たされる。それも
身分がしっかりとし、正当な理由がないとまず門前払い。大覇星祭期間中基準は緩くなるが
当日の朝に申請して入域なんて一般人にはまず無理。

はっきり言うと学園都市1位で実質的な治安責任者である美琴の母でありかつ保護者の代表者的な地位だから特例で入国できただけの話。特権扱いを嫌う美琴には忌々しい話だ。

「いや・・急に当麻君の顔が見たくなってさ・・」

「まったく迷惑な話よ。アンチスキルから苦情が来るでしょうね」
美琴の顔が苦笑いに変わる。

「でも・・あんなことがあったのに来てくれてありがとう」
スキルアウトや暗部を整理中に、美琴を逆恨した暗部に暗殺されかけた御坂美鈴
一般人ならトラウマになりかねない出来事なのに、何事もなく軽口をたたく、その姿に
御坂遺伝子の強靭さを思い知らされる。

「美琴ちゃんに助けられたから、平気・平気」
俺は、美琴が無理に笑顔を作りながら、お義母さんに相対していることに
奇異な感じを向ける。
難しい顔をしながら美琴が口を開く
「ママ、正直この前の状況でわかるとおりあんまり学園都市の治安はよくない」
「だから、・・この指定ルート以外の場所にはいかないでほしい」

「え?」

美鈴が呆然とする。娘が何を言ったのかすぐには理解できないようだ。
やっと口を開く
「でも、・・この前の暗殺犯は全部摘発したのよね」
美琴が、言葉の選択を誤ったと事に気が付き、表情をやわらげ、言い直す。
「一応念の為よ。念のため」
美鈴さんが、いたずらぽい顔を取り戻す。
「ね、美琴ちゃん、私の立場を知っているわよね」

「最近、学園都市で起こる不穏な事件が、都市伝説のように外でも書かれていることを
知らない?」
「ネット、夕刊誌結構面白可笑しく、学園都市1位御坂美琴の・・」
美鈴のぶっそうな発言に美琴が突然立ち上がり、発言を止める。
「ママそれ以上は危険・・」

「ママの言いたいことはわかった。突然観戦を申請したママが安心して、大覇星祭を観戦することが、保護者会の不安を抑える方策なわけね」

「さすがに聡明なわが娘ちゃんとわかっているじゃない」
俺は、聡明でしたたかな御坂美鈴が、なぜ娘を困らせるような、アポなし入国という
娘の顔をつぶす暴挙をした本当の理由を悟る。
(なるほど、保護者会代表の美鈴さんが・・アポなし訪問で最近評判が下落した学園都市
の名誉を回復する役を買って出るという訳ね)

「だから美琴ちゃんとかアンチスキルの警備とかなしよ」
腹が座ったのか、美琴は母親の顔をにこやかに見つめる。

「わかった、でも・・これだけはつけて」

美琴は、カバンから注射針を取り出す。
「追尾装置を取り付けたナノマシンを注射するから腕だして」
「え?ああそう」
「まあ、念のためよ、念のため」
美琴は、手慣れた手つきで注射を終える。
「すぐに危険を感じたら、私に電話してね」

注射を終えたのち、10分ほどで食事が運ばれてくる。
食事じたいは、5000円ほどのランチだが、「場所代」と思えば安いものだろう。

美琴は、朝のトラブルの収拾にいまだに、頭を悩ましているのか、しきりに携帯情報

832■■■■:2016/12/21(水) 16:13:14 ID:8Xdg.fB6
端末を眺め、恐らく本部の初春委員とひっきりなしにメールで通信している。
恐らく能力でも使っているのか、目をつぶり莫大な情報を脳で処理しているのだろう
情報端末が超高速でスクロールを繰り返し、文字情報が高速で流れている。

「美琴、食べないのか?」
ほとんど瞑想状態の美琴はまったく反応しない
その様子に呆れたのか、美鈴さんが俺に話かける。
「ねえ、当麻君 美琴ちゃんていつもあんな感じ?」
「いや・・普段はきちんと会話するのですが、今日はピリピリしていますね」

「そうか・・美琴ちゃんも風紀副委員長で緊張しているのね」
「ここ2週間ほど責任者として相当緊張状態ですね」

「当麻君はちゃんと美琴ちゃんをみてくれているのね。安心したわ」
美鈴さんが、俺に微笑みかける
「これは娘を溺愛する親の勝手なお願いだけどね」
「美琴ちゃんは、のめり込むと周りが見えなくなる子だから、当麻君にしっかり
見守ってほしい」
俺は、すがるように娘の安全を婚約者に託す母親の思いに心を打たれる。

「はい」
「ありがとう」

///////////////

私は、結局オレンジジュースを10秒で飲み込み、ミックスグリルもパンも一口も
口をつけず、食事を切り上げる。
私は、知らないうちにママが退出していることに気がつく。

「当麻、ごめんね。ママ押し付けちゃって」
「いいよ、忙しいだろう」
「ありがとう」
「美鈴さん美琴を心配していたぞ」
「そうね。ママのある意味配慮なのかな」
「え?」

「正直あのバカ母が、アポなしで訪問するなんて困ったわと思ったけどね」
「ああそうだな」
「まあ悪意はなさそうだし、いいわよ、どうせ「周りが見えなくなる娘を頼みます」なん
て言っているでしょう?」
「聞いていたのか?」
「当たり前じゃない、忙しいから無視したけど」

「で、午後は予定通り競技するのか?」
「そうね・・キャンセルできないし、ただ初春さんに昼飯食べてもらわなきゃない
から1回本部に戻るわ」

「そうか・・じゃ予定通り7時に、ホテルで再会な」
「じゃ・・ね」

私は当麻を見送り、本部へ急ぐ
//////////////////////
同時刻 風紀委員本部

「ふ・・そろそろ御坂さんが来る時間かな」

朝5時から複数の画面に目を凝らしていた初春飾利が背伸びをする。
木原唯一の反乱自体は、御坂と上条、一方通行と結標が制圧したが、その後
の事務処理と、AI捜査支援システムの復旧は初春がほぼ全部を処理した。

初春は、レベルこそ1だが、その情報処理能力はレベル5に匹敵するとも
言われ、もしも、情報処理の樹形図を脳内で自分だけの現実として構築
できれば間違いなくレベル5に昇格できるとさえ言われている。

ただ実際には、そこまでの妄想(自分だけの現実)を構想できず、レベルは1
のままにとどまる。とはいえ、その卓抜した情報処理は春先に碌な準備なしに
面白半分で初春飾利にハッキングを挑んだ美琴が引き分けに追い込まれたこと
でもわかるだろう。

御坂美琴が作った、AI捜査支援システムは概念や構想は突き抜けていたが
穴も少なくなかった。美琴が風紀副委員長に決まってから実質1日で作成したシステム
粗削りの部分も少なかった。それを、初春が詳細に作り直したと言っても過言ではない。

833■■■■:2016/12/21(水) 16:14:52 ID:8Xdg.fB6
(まあ今回の改竄もある意味御坂さんのうっかりミスが原因だしな・・言えないけど)

相手は、学園都市1位、初春から見て仰ぎ見る存在。大学レベルと言われる、名門
女子中を飛び級卒業し、いきなり大学院へ進学する化け物。あれこれ言える立場じゃない。

情報処理技術の1点だけは彼女に対抗できるかもしれない。だが所詮はそれだけ。
統括理事会から風紀委員会の管理を任され、なによりレベル5の一位、能力者の頂点
すべてが違う。それに・・権限という格差はどうにもならない。

樹形図の設計者、書庫、軍事クラウドあらゆるデータべースのフルアクセス権を持つ
風紀副委員長御坂美琴、自分はその権限を一部譲渡され、その範囲内でしか処理を
許されていない。軍事機密という名の重苦しいカーテンが引かれ、自分はその内側に
関与できない現実。その現実が初春飾利の心をささくれさせる。

いつか、このシステムの裏に横たわる、学園都市の奥底に触れてみたい。恐らく
世界の頂点であろう、サーバー群を操りたい。初春はその野心に胸を躍らせる。
いつか、上司の御坂美琴を出し抜いてやると。さえ思っている。
だが・・今は・・まだ早い。自分の行動(ログ)はすべて上司に監視されているの
だから。

予定通り13時に到着した御坂さんを確認し、声をかける。

「御坂さんお疲れ様です」
「お疲れ」
「本当ありがとうね、全部事務作業を押し付けて」
「いえ・・御坂さんや上条さんが短時間で制圧しなければ全部おしまいでしたから」
「ありがとう、そうそう」
御坂さんはカバンから、マネーカード1万円分を取り出す。
「少ないけど、これで昼でも食べて」
「いいんですか・・」
「いや、ここんとこ多忙にさせたし、気持ちよ・気持ち」
「御坂さん。ありがとうございます。」

「じゃ・・14時55分には戻ってね、私次の競技でなきゃないから」
私は、初春さんを見送り、ログを確認する。初春さんを信用していないわけではないが
食蜂クラスの精神系能力者の攻撃を防げる能力者が私と当麻しかいない以上、確認する
必要はある。学園都市とは人間など簡単に操れる街なのだから。

私は、能力で短時間にログを解析する。電子の動きひとつひとつまで見逃さない。

「まあ当然、異常なことはないわね」
「アンダーライン、ツリーダイアグラム、素養格付け、そしてあれね」
「初春さんは、あれの存在に気がついたら正気でいられるかしらね」
「AI捜査支援システムの裏コマンドにあるあれに気が付いたらね」

初春飾利のような表しかしらない人間にいくら有能とは言え、美琴が構成した新暗部の
情報処理の中枢を担わせることに、良心の呵責はある。

だが・・
(まあほかに代わりもいないし、それに・・初春さんが情報処理技術者として学園都市
で生きなおかつ治安関係者である以上いづれ、闇に対峙する日がくる)
(だったら、私とともにかかわったほうがいいんじゃないかな)

私は短時間でログの解析を終え、研究所の決裁作業を始める。
風紀委員・研究者の職務をこなし、なおかつ、手足をしばられた状態で人間の世界で
子供のお遊びにニコニコと笑いながら参加し広告塔の業務を果たす。

(怪獣が人間世界で暮らすにはそれなりの自己抑制が必要な話よ。一方通行や垣根、麦野
はそれに失敗し、一度は闇に落ちた、私がその轍を踏むわけにはいかない)

私は、最低限の仕事を終え、画面をシャットダウンする。

さあそろそろ、お遊戯の時間かな・・
大覇星祭で勝ちの決まりきった勝負をつけに私は走り出す。

////////////////
19時

白井黒子との二人三脚とバルーンハントで圧勝し、お遊戯を終える。
さすがに、私と呼吸ぴったりの黒子、摩擦系数操作能力者の妨害を、磁力で
ぶち壊し、さらに発火系能力者の暴走事故さえ防ぎ、賞賛すら浴びた。

834■■■■:2016/12/21(水) 16:15:53 ID:8Xdg.fB6
又バルーンハントでは、壁を高速で駆け回り、屋根から屋根を磁場で飛び越え
あらゆる能力者の攻撃をかわし母校の勝利に貢献した。攻撃できない以上
逃げ回るしかないが、磁場を巧みに使用し、マスコミ的にもいい絵柄の写真
や動画が提供できただろう。

(まあ、あれちょっと操作を誤ると、干渉数値の制限にひっかかるからやばいけど)

結局、壁を自在に駆け回り、生体電流で握力を350KGにできる能力者など
常盤台でも少数派にすぎないという話だ。

私はレベル1からという底辺からの出発だったので、低レベルで工夫することに頭を
精一杯使ってきた。その経験が大覇星祭で生きてくる。

出場した全試合で勝利に貢献し、面目は保ったのではないだろうか?
他のレベル5は削板以外は出場しないので、(食蜂は棄権)個人部門は
私と削板の争いだが、削板は、あの根性男は予想どおり、干渉数値違反で
レッドカードをくらい、恐らく私の個人総合1位は間違いなさそうだ。

あらかじめ予約した少しこじゃれたホテルの展望室レストランで当麻を待つ。
18時30分から始まった、ナイトパレードを見るためだ。

すでに、テーブルの上に水と前菜の冷たいスープが置かれている。
当麻は約束どおり、19時ちょうどに到着し、テーブルに腰かけている。
あらかじめ注文したウーロン茶が運ばれ、乾杯し、夕食を始める。

ナイトパレードの照明が星空を覆いつくす。

冷たいスープを食し、白身魚のムニエルに手を付ける。

「本当綺麗な景色ね」
「ありがとうな美琴、ここ特等席だろう、高いだろう」
「ええ、普通ならね」
「普通なら?」
「まあ実行委員の役得というやつよ、フルコースで一人1万5000円」
「安くないじゃないの?美琴さん」
(しまった・・当麻の金銭感覚を忘れていた)
「相場なら5万円よ」

当麻が目を丸くする。
「でも、どんな夜景も美琴の笑顔には適わないよ」
(はあ・・たまに気障なことを言うのよね)
「ありがとう、で・・どうだった」
「ああ、不幸もなく結構うまくいったよ。あ・・それと美琴の表彰シーン見たよ
さすがだな」
「ありがとう、でも当麻の学校も結構いい点とっているじゃない」
「まあ、常盤台よりは低空飛行だけどな」
当麻が私の学校を褒めてくれるので私もうれしくなる。

「まあ、母校へ少しでも恩返しできてまずはよかったかな」
当麻が意外な表情で私を見つめる
「美琴は謙虚だな、でも今のところはまだ常盤台が美琴離れしてないけどな」
私は、苦笑いを始める。

「いつか忘れてほしいけど、まだ無理みたいね」
「そうか、でもさ、そうやって後輩に慕われることは凄いことだと俺は思うぞ」
「ありがとう。久しぶりに、黒子とか、食蜂とカラオケでもしない?」
「いいじゃないの?」
「じゃ、今日はよろしくね、旦那様」
「ダメ亭主をよろしくな 美琴」

私と当麻は、デザートのメロンと、エクレアを食べ終え、黒子が手配済みのカラオケ
会場へ向かう。

独裁者が、失踪し先が見えない異常事態の学園都市、でも今の私は一人じゃない
きっとどんな事態にも立ち向かえるそんな気がした。

続く

835■■■■:2016/12/21(水) 16:17:11 ID:8Xdg.fB6
以上とある科学の超荷電粒子砲 Ⅲ 14話 3章―④
の投稿を終わります

836■■■■:2016/12/23(金) 14:35:51 ID:UuRSg4Pw
クリスマスの奇跡 1話 

12月19日 (月)

12月上旬に、木原唯一と無数のエレメントにより壊滅させられた常盤台は
昨日18日に無事復旧を終えることができた。

学校法人常盤台学園理事会には食蜂が根回しを行い、設計、施工は私御坂美琴の
分担で、大手ゼネコンの見積もりでは最低3月はかかるはずの復旧工事を実質
1週間で、終える事ができた。

私と食蜂は、この襲撃が、あのいまいましい、木原唯一の犯行である動かぬ証拠を集め、アンチスキルに告訴し、最終的に統括理事会が使用人である木原唯一への使用者責任を認め
常盤台学園の損害数千億円を100%負担することとなった。

私がAAAの技術を応用し、建設工事用に組み上げた土木用駆動鎧は通常の10倍以上の速さで工事を進め、常盤台中の生徒ほぼ総出で再建に取り組んだ成果が私の目の前に
現れる。

(本当・・夢みたいね)

あの惨状が嘘のように、荘厳な校舎が朝日に輝く。

疲労は蓄積しているが、一仕事を終えた爽快感に包まれ、校門へ向かう。

そこへ同じく昨日再建が完了した、内部寮から同級生達が吐き出され、私に挨拶
をかわしてくる。前は一匹オオカミとか言われた私だが、エレメント騒動以来
常に先頭に立って陣頭指揮をしたこともあるのだろう、ぐっと距離が近くなった。

(仲間、かな。やっと私もここの輪の中に交わった気がするわ)

その中に食蜂を見つけた時も、不思議と心が安らいだ。
その脂肪の塊も、能力も、ぞろぞろ大名行列のように、派閥メンバーを引き連れて
歩く姿も、全部が嫌だった。だが、非常事態はすべてを変えた。

学校崩壊の非常事態、お互い手を組みなんとか、今日を迎える事が出来たその事実が、今まで感じたこともない、女の友情を感じるほどの関係を構築したかもしれない。

それに、お互いが、お互いの力を認識したのも事実

短期間の再建と、木原唯一の犯罪の摘発は2人の協力なくしてあり得なかった。
電子情報と機械に対して無双な私と、人間に無双な2人の天才(レベル5)の協力
が不可能を可能にさせ、きわめて早期での復興を可能にした。

その事実が、・・・2人が友達と言えるほどの距離感へ近づけた。

「食蜂 おはよう」
「御坂さん、おはよう」
「なんか、こんな普通に挨拶できる関係になるなんてね」
「そうね・・まさか・・私と御坂さんがねえ」
食蜂が少し表情を変える。
「御坂さん、あれどうするの?」
「?」
「いやだあ、呆け力はいいわよ・・AAAの事よ」

「ああ、・・まだ使うわよ」
「正気?御坂さん・・、副作用力は分かっているわよね」
「分かっているわよ。でも・・これを手放すことはできないわ」
「え?」
「きっとAAAがアイツの役に立つ日が来る」

食蜂が呆れはてた顔で私を見つめる、

「でも・御坂さんは1回死にかけたわよね」

私は、「魔術」に触れ、当麻におぶられ意識を失ったあの日を思い出す。
当麻と学園都市を救うために命を投げ出したことを。

「そうね、リスクは否定できない、だけどこれが、絶対アイツの役に立つ」
食蜂は、顔に笑みを浮かべ、上条当麻に惚れ切った私を眩しい目で見つめる。

「御坂さんは頑固ね、でも・・私にはその強さが羨ましいわ」

837■■■■:2016/12/23(金) 14:38:29 ID:UuRSg4Pw
私は、自分の非力さと、足らざるを自覚させた恩人の顔を思い浮かべる。

食蜂の手を握り、決然と答える。
「私は、常盤台のあの子達も、上条当麻も何があっても守るわ」
「どんな犠牲を払ってもね」

・・・・・・・・・・

午前中、講堂で校舎再建記念集会が行われ、私と食蜂が
全校生徒と教職員の満場一致で
表彰された。以前の私なら辞退するような話だが、自分
とともにAAA運用に協力し、常盤台防衛に立ち上り、あの
絶望的な状況でなんとかエレメントを追っ払い、傷ついた仲間を
病院へ搬送し、さらに再建工事に尽力した仲間のために、表彰を受ける。

以前は、自分ひとりで強敵に立ち向かえばいい。そう思っていた。

学園都市の中では、間違いなく、成功した自分。学校教育の
中では、明らかな優等生。
それは、常盤台でも同じ、この学園都市で最上層である
この学校でも「御坂様」である
事には変わらない。

だけど・・それだけじゃ レベル5なんかじゃ全然足りない

上条当麻の対峙する敵のステージは突出して、自分の
超電磁砲では通用しない。
それが、現実。見たくもない不都合な真実。

そんな荒み切った心理状態でつかみ取ったAAA・
それだろう。自分は変わった。AAAを運営する部活を立ち
上げ、学校の協力で整備場
を立ち上げた。

代償は小さくはなかった。木原唯一に敵対し、常盤台は壊滅した。だけど・・

AAAのおかげで救えた命もあったことも事実。
何より、2度もあの上条当麻を救出し、なおかつ、木原唯一にある
程度対抗しえる力を
手にした。それは事実なのだから。

だから・・副作用はあっても私はAAAを使い続ける。上条当麻を
追いかけるために

・・・・・・・・・

授業は午前で終わり、久々に上条当麻の学校へ行く。

ここしばらく常盤台再建に全精力を傾けたせいもあり、もう10日も
会っていない。
前の携帯番号へ電話したが、一度もつながらない。

私は、事前に、崩壊したとある高校の生徒たちの避難先を確認し、初春
さんに調べてもらった、当麻の避難先の総合学校へ向かう。

私は、微笑みを浮かべながら、脳裏にアイツの姿を思い浮かべる。

「はあ、何を言えばいいかな」
(そんなことはもうわかりきっている)

「当麻の前で冷静でいられるかな」
(なにをかまととぶっている)

「ツンツンしないなんてできるかな」
(もうそんな無駄なことは言わない)

以前は聞こえなかった、冷静なもう一人の自分が、さっさと行動しろという。

自分の限界を知り、学園都市の異常さ知り、生死をさまよった
自分が、今一つ素直になれない自分に突っ込みをやめない。

単純な話、上条当麻を慕う人間は数えきれない。その一人が告白を
成功させれば、もう
自分には上条当麻を愛することはできない。

「ALL IS FAIR IN LOVE AND WARよね」
「恋愛は勝者は一人、あとはすべて敗者」
「もういつ死ぬかさえ、定かではない身、もう先延ばしはしない」
「それが、彼の慕うすべての女の子を不幸にしようとも、私は先へ進む」

私は、決意を固め上条当麻の元へ向かう。
(それが、どんな結果になろうとも、私は後悔しない)

838■■■■:2016/12/23(金) 14:40:28 ID:UuRSg4Pw
・・・・・・・・・

「ここかあ・・随分大規模校ね・・」

私は、あらかじめ、ネットで申請した、来訪届を携帯情報端末の
画面で見せ、面会室で
待機する。

いまひとつ素直にならない自分は、あのバカと言いかける。
(まったくすぐにため口とツンがでる)
「なんなのよ・・この性格は」
私は溜息をつき、自分のツンな性格を呪う。
( あれだけ昨晩、予行練習したのに・・)

運命の人だと思っても、経験が邪魔して素直になれないなんて・・なんか
の歌詞か。

(ああ・・)
私は、何度も繰り返した、自分の性格分析を再試行する。

(結局・・臆病なだけよね、多分)

私と、アイツ・・上条当麻との関係は喧嘩友達から始まった。
気兼ねなく全力が出せるアイツに私は依存し、絶対能力者進化計画の
悪夢から右手一本で救われたあの日から、・・
はっきり意識はしないけど、愛していたんだ。

それをはっきり意識したのは10月以降だけど、・・・でも8月21日
のあの日から
私ははっきりアイツを運命の人だと意識し始めた。

それを、恋と認識できない幼い私は、偽デートとか、罰ゲームと称して
ラブコメのような三文芝居を、だらだらと続けていた。

私は、甘えていたかもしれない。この三文芝居をきっとアイツが
理解してくれる日がくる。

だけど・・、目の前の・・困っているだれかを助けることを
生きがいとするアイツに
とって私は、助けた一人にすぎない。その現実を私は受け入れることが
できていなかった。

最後に分かれた、あの日だって、アイツを救い、救われたあの日
だって、アイツは結局謎の女を同時に助けていた。
それも・・あの熱波を作り出した・・上里の取り巻きの一人
を。だから・・この膠着状態を打破するには私が一歩動くしかないのだ。

それにしても・・なぜかわからない、口で伝えれば、わずか2文字が伝えられない。
臆病な、見栄っ張りな、不器用な私は、自分のパーソナルリアリティを変容させる
ほどの溢れ出す、莫大な感情を伝えることができなかった。
(でもそんな臆病な自分も今日で卒業)
「だから、今日こそは、・・思いを伝える」

///////////////////////
(それにしても遅いわね)

待合室で待たされること、20分アイツはこない。

(それにしても変ね・・面会自体は今朝事務局へ通しているはず)
(やっぱり変だわ・・絶対変・・)

私は、事務室へ電話をかける。
「すいません、今朝面会を予約した常盤台中学の御坂美琴ですが、とある高校
1年7組の上条当麻さんが面会にこないのですが」

私の、必死さが通じたのか事務局の女性が気を回してくれる

本人の携帯で確認してくれるそうだ

「は。そうですか、では、上条の携帯に電話してみますので
少々お待ちください」

回線ごしに、発信音が聞こえる、どうやらアイツはでないようだ。
私は、アイツがまた何かに巻き込まれたことを悟る。

「すいません、上条は出ないですね・・」
「そうですか、」
「担任の先生には伝えておきますので、少々お待ちください」
「ありがとうございます」

839■■■■:2016/12/23(金) 14:42:01 ID:UuRSg4Pw
(しょうがない、監視カメラのサーバーをハッキングするか)
私が待合室の監視カメラからサーバーへのハッキングを考え出
したころ、私の携帯へ別の電話がかかってくる。恐らくは、アイツの
担任だろう。私は当たりをつける

「常盤台の超電磁砲の御坂美琴さんですか?上条の担任の月詠です」
「はい御坂美琴ですが」
「実は上条ちゃんが行方不明になりました」
「え?」
(やはりそうか)

「驚かないでください、昼休みに忽然と消えました」
「そうですか・・ご連絡ありがとうございます」
「アンチスキルには通報しましたので、すぐに居場所は判明します」
(絶対にすぐにはみつからないわ)

「本当にありがとうございます」

私は電話を切り、頭を搔き揚げる。
(もう、悲しみに打ちひしがれる無力な少女は卒業よ)

「何があっても、どんな手段を使っても、たとえアイツが拒否しても
私がアイツを地獄の底から引っ張り出す」

・・・・・・・・・・・
私は、心を完全武装状態に切り替え、食蜂へ電話を入れる。

食蜂操折が、私と同様にアイツになみなみならない関心を持っていることは
知っていた。

だから、アイツのために食蜂にも動いてもらう・・
(恋愛と戦争は手段を選ばないのだからさ)

「食蜂、上条当麻がXX総合高校から拉致された」
「え?」
「時間がない、今は手を組みましょう」
「え?御坂さん、今なんて?」
「無駄口は後、手分けして、上条当麻を探しましょう」

「随分切羽つまっているのね?」
私は、すっと息を吐く
「なんとなく・・嫌な予感がする」
(まちがいないわ)
「御坂さんらしくないわね、そんな根拠のない話をするなんて」
(アンタもわかっているでしょ、変だってさ)

食蜂が電話ごしに苦笑いを伝える。
「まあいいわ、御坂さんの直観力を信じるわ」

「で、発見したら連絡すればいい?」
「ええ、それでいいわ」

私は、食蜂との通話を切り、意識を脳で感知した無線LANへ切り替える。
(さあ作戦開始よ)

(ちょっと前なら、見境なく、監視カメラを確認したんだろうな )
(でもそんなことは・・もうしない)

思った通り、市販品に毛の生えた程度のセキュリティで、洗いざらい調べることが
できた。この学校のサーバをハッキングして監視カメラのデータを、丸ごと入手して、
前にアクセス経路を確保したアンチスキルのサーバーの顔認証システムで上条当麻の
顔を検索する。

(まあ、発想の転換よね、どうせデジタルデータ、全部一遍に調べたほうがいい)
(あ・・こいつらね・・当麻が拘束したのは)
(あとは、解析ソフトにかけて、人工衛星のデータと照合すれば1時間くらいでわかる
でしょう)

「さあ御坂美琴行動開始よ、アイツを助けるわよ」

続く

840■■■■:2016/12/23(金) 14:44:31 ID:UuRSg4Pw
以上 クリスマスの奇跡1話の投稿を終わります。

841■■■■:2016/12/28(水) 15:17:16 ID:mMszZMFw
クリスマスの奇跡 2話

12月19日 14時

当面できうるすべての準備を終え、少し時間の空いた私は、上条当麻の学寮へ急ぐ
常盤台のハンガーから土木工事管理用に制作した、飛行用の駆動鎧を遠隔操作で到着
させ、それを見に纏い、一気に到着する。

前に自分用に作成したAAAをさらに、着脱を容易になおかつ、遠隔操作が可能に
なる改良を加え、パーツごとに軽量化を図り、女性である自分が操作しやすいように
最適化を図る。飛行装置も容易に携帯可能なサイズへ圧縮している。

その飛行装置を駆り、1分ほどでアイツの学寮へ到達する。
背中の飛行装置を畳み
アイツの部屋に到着する。

(ここにはインチキシスターがいたはず)

本来なら、恐らくアイツが庇護し、なおかつアイツを慕う爆食シスターは、私
にとって告白をするうえで一番邪魔な存在だ。
(だけど、・・アイツはあのシスターの庇護をやめることはないだろう)

結局もしも本気で告白を成功させようとするなら、あの妖怪爆食シスターごと、上条
当麻を愛するほかに道がない。

心の中の臆病な自分が、ささやく
(このまま、曖昧な関係を続けて、自己満足を充足させるほうがいいんじゃないの?)
(どうせアイツは、鈍感で誰も選びはしない。私が戦力(主に胸)を充足させるまで
明確にしないほうがいいんじゃない?)

だけど、障害を乗り越えなければ、気が済まない、私のもう一つの声が、声を荒げる。
(時間がアンタの味方なんて、そんな幻想にあなたはすがるの?時は万人に平等なの
よ・・あのインチキシスターだって、戦力が整う日が来るわよ)
(それに・・私は一度死にかけた)

私は腹をくくる。この事件が終わった暁には、アイツの心の本音を聴く。
あのインチキシスターとこの場で決着をつける。

ドアは・・
(鍵かかっていないわね・・)
(嫌な予感がする、まさか・・)
外の世界の三文サスペンスドラマでは死体が転がっている場面だ。

私は最悪の結果も、想定しながら恐る恐るドアを開ける。
「お邪魔します」
(やっぱりね・・いないか)

ひととおり部屋を見渡すが、猫一匹いない。
(ちぇ。空振りか・・)荒らされた形跡もなく、どうやら杞憂だったかもしれない。
(まあ・・あのシスターに捜査情報は期待していなかったけど)

分が悪いな・・。誰もいないアイツの部屋を眺めながら私はつぶやく。

食い散らかされた鍋、机の上に乱雑に重ねられた食器、菓子の袋、そして、乳児のような甘い香りのいかにもあのシスターが寝ているようなベット
ここには、幼い子供が日常起居している佇まいに満ち溢れている。

あの銀ギラシスターは、私の知らないアイツを毎日眺め、まるで小鳥が親鳥から餌をもらう
ように自然に啄み、一緒に寝る。明らかに私は2歩も3歩も親密度の点で周回遅れである
事を自覚する以外にない。

幸い・・アイツが無自覚なのが救いだが、いつの日かあのシスターを女として意識する日が来るだろう。

(そうなれば終わりだわ)
私は、乳臭い幼女の匂いを感じながら、自分の立場の薄さを改めて自覚する。
(もう一刻も猶予はないわね)

私が、決意を新たにしたころ、携帯の着信を感じる。
微弱な電圧の変化を感知できる私は、着信音なしに携帯の着信と誰からの発信かを能力で
検知できる。
(食蜂か・・)

842■■■■:2016/12/28(水) 15:18:52 ID:mMszZMFw
「食蜂?何か分かった?監視カメラの検証はもう少し時間頂戴・・で?なんか
分かった?」
「今回の事件を引き起こした奴がわかったわ」
私は、食蜂の情報収集網に舌を巻く。8月に絶対能力者進化実験で、素早い対処で私の
サイバーテロを阻止し、私を自殺同然の特攻へ追い込んだ男。それを手駒に持つ食蜂の
情報収集力は、一学生の枠を遥かに超える。

だが、食蜂を素直に賞賛する気のない私は、蓋然性のあるカマ掛けで対抗する。
「食蜂早いわね、で木原一族の誰?」
「あらあ、だいたい予期していたの? ポルタガイスト事件て覚えているわよね」
私は、8月に超電磁砲でぶっ飛ばしたある女を脳裏に浮かべる。
私は、苦笑いを浮かべる。結局殺すべき時に殺さないとだめなのか?

「あの時、殺すべきだったわね。木原 ライフライン テレスティーナ」
食蜂がクスクス笑う、表の世界の顔の御坂美琴に殺しなどできないと告げるように。
「御坂さんに殺しは無理でしょ、で因縁の女をどうするつもり?」

「ねえ食蜂、アンチスキルに情報提供して解決できると思う?」
「御坂さんもう答えは分かっているじゃない?多くの事件を結局解決した
御坂さんならね・・、
どうせアンチスキルなんて役に立たないとね」

「そこまで馬鹿にはしていないわよ。相手が悪いだけよ。木原一族は一筋縄には行かない」
「で御坂さんに勝算はあるの?」

「愚問ね。この日の為に土木駆動鎧に偽装して戦力を蓄えてきたのよ」
「私の劣化コピーごときに負けないわ」
毒気を抜かれたように食蜂が私の顔を見つめる。
「御坂さんて結構したたかなのね」
「食蜂ほどじゃないわ」

食蜂が、電話の前で笑い始める。
「そろそろ居場所なんてわかったんじゃないの?」
(こいつさすがに勘はいいわね・・それとも合理的な推論?)

「ええ、今データを送るわ。それと・・これは私の喧嘩、助太刀無用、アンタの
とこの子も含めてね、手だしはいらないわ」
食蜂が乾いた笑いで私に言葉を返す。
「私達食蜂派閥が戦闘できないなんて幻想はぶっ壊すわ」

「アイツの真似・・似てないわね・・」
「でも、頑張りましょう、アイツの為に」
/
/////////////////

15時:とある研究施設

(もしも小賢い人ならこんなリスクは負わないだろうな・・)

私は、自分で突き止めた、アイツの監禁場所を見渡せる超高層ビルの屋上で
センサーを操作しながら、独り言を言う。

自分が普通の女性なら、アイツが行方不明になってことをアンチスキルへ伝えて
終わり、そこで一般人としての義務は終わりだろう?

でも・・人任せにした結果が、アイツの死亡・・という結果に終わるなら
私は生きていけるだろうか?

事件は解決しました。でもアイツは死にました、では私は悔やんでも悔やみきれない。

すでに自分だけの現実を覆いつくすほどアイツへの思いが、浸食している現実。
人任せにはできない。
(そのために、力を蓄えてきたんだから)

美琴から見て科学者という人種は、あのバカ・・もとい上条当麻に比べて、種が
自分の知識で対応できるだけ、対処しやすい相手だ。

その打つ手が、電子とか、既存の工学系なら、自分の生の能力で基本どうでもなる。
木原唯一は、美琴が10日前まで種がわからない、謎の力を駆使していたので敗北
を喫したが、
(わかってしまえば・・どうってこともないのよね)

木原唯一の悪行を調べ上げた時に、奴の手口や研究成果を徹底的調査させてもらった。

843■■■■:2016/12/28(水) 15:20:55 ID:mMszZMFw
駆動鎧、AAA、そんなのならどうでもなる。
だけど、
(一番の問題はアイツが人質に取られていること・・よね)
だから・・建設工事用AAAを活用する。

「さあ始めるわよ」

「手始めにまずは目つぶし」

建設工事用に、開発したリモートセンシング装置で走査した、施設のMAP情報をもとに
あらゆる電子制御機器の制御を奪い、稼働を無理やり停止させる。
駆動鎧、ファイバーオーバー、あらゆる精密機器が火を噴き、回線から火花が飛び散る
相手が、兵器の類で武装する限りは私の脅威になりはしない。

発電能力をベースに、マイクロ波・磁場をベースとしたEMP電磁バルス)で機器
を破壊しつくす。さらに、送電線を砂鉄の嵐で断線し、外部電源を奪い、同時に
無停電装置や自家発電装置、
分電盤の制御をネット経由で奪い、施設を無力化させる。
軍隊なら、猟犬部隊なら準備だけに半日かかる作業を完了まで秒単位で終える。

装置に据え付けの警備装置や、AIMジャマ―、キャパシティーダウン木原が小細工に
使いそうな道具の数々、そんなものは種さえ割れれば・・大したことはない。
( それが有ることを前提に叩きつぶす )

ひととおりセンサーで小細工に用いる機材の破壊を確認し、躯体の解体に焦点を移す。
爆破物で自爆テロをされないようにするためだ。

「さあ時間もないし、一気に行くわよ」
( 原子崩しだっけ?)
恐らくは、第4位の能力をベースとしたと思われる、電子が波動と粒子の性格
を持つことを活用した兵器を壁の解体撤去用にアレンジした遠隔操作の装置
で、監禁された部屋の周囲をはぎとり丸裸にする。

メカと一体化した能力をベースとした電子制御は効率的に同時多数の駆動鎧
の遠隔操作を可能とし、瞬間的な躯体解体工事を能率的に実施する。
能力だけでもない、メカだけでもない、AAAの解析で上積みされた力が
ただの破壊ではない作戦を遂行する。

学び舎の園の多くの建築物を解体撤去した、遠隔操作の駆動鎧がテレスティーナの
立てこもるビル効率的に破壊する。廃材を、磁力で周囲に整頓し、研究所は丸裸
になる。

(もともと全部能力でできたことだけど、組み合わせが大事よね)
多くの駆動鎧を能力で遠隔操作し、効率的に同時作動させることで、1国の軍事力に匹敵
するというレベル5本来の力が具現化する。

10秒ほどで、広大な施設は、上半分が消え、見通しがよくなる。

その圧倒的な力で8月に小技で、追い詰められた女を、追い詰める。
キャパシティーダウンや耐電磁装甲を持つ駆動鎧に私は追い詰められた。
私は心の中で、つぶやく
(考えてみれば、そのおかげで、EMP攻撃や砂鉄の嵐を覚えたのよね・・超電磁砲
を砂鉄コーティングして射程を伸ばすとか工夫したのも・・そのおかげかもね)

(さて・・この糞女を殺せればどれだけ楽か・・砂鉄の剣で頭をミンチにしたいくらいよ)
(だけど それをすれば木原唯一の二の舞になる)

私は、当麻の傍で、動きを停止させられた、犯人と対峙する。
「さっさと上条当麻を解放しなさい。もうアンタの手品はネタバレなのよ」
「おとなしく刑務所で刑期を過ごしていればいいものを無駄な努力ね」

電磁パルスとマイクロ波の照射で、動きを止められた駆動鎧を身に着けた、
テレスティーナが、当麻を腕で抱きながら薄ら笑いを浮かべて悪態をつく。

「テメエは、木原唯一に嵌められて、常盤台をぶっ壊されたそうじゃねえか・・」
「いい気味だな・え?」
(馬鹿・・アンタの奥の手なんて全部分かっているのよ)
「私が、いつまでも木原の手の平の存在なんて幻想はぶち壊すわ・・」
「はあ?」

「マグネティク・デブリ・キャノンだっけ・?アンタ自殺はいいけど、他人を巻き込みの
はよくないわよ」
余裕をかましていた、テレスティーナの顔色が変わる。

844■■■■:2016/12/28(水) 15:26:23 ID:mMszZMFw
「え・・テメエ・・なんでそれを・・」
「アンタのやりそうなことはお見通しなのよ」
「アンタの脳波認証をハッキングで無効にしているわ・・」
テレスティーナは最後の切り札を無効にされ悪態をつく
「糞・・テメエ・・実験動物の分際で邪魔しやがって・・」
「その実験動物に2回も完封されたのは誰かしら?」
「後ろ盾がいない今・・アンタにお似合いは電気椅子よ」

テレスティーナが、精神のバランスを崩したような馬鹿笑いを始める。
「悪党をさっさと殺さねえテメエなんぞ怖くねえんだよ」
テレスティーナは突然、抱きしめていた当麻へ顔を寄せる。
「テメエの大事な物を全部奪ってやる・・」
「さらば・・かみ

だが、テレスティーナがその一言を言う時間を与えられることもなく、
蒼天から巨大な電流の奔走が貫く。駆動鎧から顔を出していた彼女にはそれを
防ぐすべもなく、もろくも崩れ去る。

2週間前同じ状況で私は、木原唯一の魔神偽装に取り乱し、AAAに染まることになったが、
その経験が余裕を持った対処を可能にした。
(馬鹿なやつ、駆動鎧を耐電磁装備にして顔を露出させるなんてさ、電流が全部・・自分の
体表を通過するのにさ・・)

「死なない程度には加減しているわ、しばらく寝なさい」
救急車とアンチスキルを手配し、食蜂に電話を入れる。

食蜂はすでに熱波襲来時にテレスティーナの脱獄を手配した、腐ったアンチスキルとその
後ろ盾を摘発していた。学園都市に幅広い人脈を有する食蜂は、容赦なく犯罪を
暴く。その力量に再度私は衝撃を受ける。
(まあ適材適所よね・・敵に回したら恐ろしいわ)

(とりあえず、これで終わりね・・)
後はアイツさえ回復したら、すべて終わる。

私は背伸びをしてその場を立ち去った。

・・・・・・・・・・・・・
19時 病室

アイツはこの前の木原唯一の常盤台襲撃のさいに、私を除くすべての常盤台生がお世話にになった
あの病院に収容された。
本来なら完全下校時間を過ぎ、帰宅しなければならない時間だが、風紀委員経由で外泊届を
申請し、事なきを得る。

医師の話では睡眠薬の効果が19時くらいで切れるという事なので、リンゴの皮を
むきながら待つ。
決死の覚悟で告白をしようとしたのにぶち壊しにされイライラする。
しばらくして意識を取り戻したのか当麻がもぞもぞしだす。

私は、リンゴの皮むきをやめ、当麻の手を握る。
しばらく当麻は蕭然としていたが、やがて意識が回復したのか
しゃべり始める。

「起きた・・?」
「ああ、美琴か・・助けてくれたのか?」
「ええ」
「心配かけてすまないな」
「いや・・でも本当なんともなくてよかった」
「アイツは、テレスティーナは何者なんだ?」

「私に危険な実験を妨害され、収監された学者よ。刑務所を脱走して私と
学園都市へ復讐するためにアンタを監禁した」
「そうか・・でも・・あの熱波の時も、AAAの起動の時も、そして今日も美琴には助けて
もらっている。ありがとな」

顔色を見る限り、恋愛感情とか、関心のある女の子を見る感情ではないだろう。
結局は、喧嘩友達から始まった、信頼できる友人の一人・・それくらいの
感情だろう。このまま話を続けても結局はいつも繰り返し、何も変わりはしない。

(私にはわかる。 これでは何も変わらない)

上条当麻の平常運転は変わらない。
目の前の乙女の身を焦がす熱い思いなど感じとることなどないだろう。

誰が、恩だけで死線をさまようのだ・・

845■■■■:2016/12/28(水) 15:28:56 ID:mMszZMFw
誰が、友情だけで、命を投げ出すのだ・・

(乙女は愛があるから何があっても身を投げ出すのだ)
だから・・私は行動を変える。
(コイツの感情にもう振り回されない。自分がしたいようにする。)
(今しかないわね・・何かが起こる前に)

私は、自分の思い伝えるべく意識を変える。
「私は、アンタに伝えないといけないことがある」
「これは、素直になれない一人の少女の話よ」

私のただならぬ雰囲気に、上条当麻はうつむきながら目をつぶり
話を聞き始める。

「8月21日にアンタに私と1万人の妹達は救われた・・私はアンタ
・・いや上条さんにかえしきれない恩がある」

私が呼び方を変えたことに気が付いたのか当麻が顔色を変える。
いつもなら、何かとちゃちを入れるのだが雰囲気を察したのか何もいわない。

私は、話を続ける。
「上条さんは目の前の不幸な女の子の一人を助けただけと言うでしょう?」
「でも、・・」

私はあふれ出す莫大な思いに胸を焦がし始める。臆病な自分はその思いを上条
さんへ伝えることができなかった。

「最初は、助けられた恩を返すとか、とても自分では太刀打ちできない
一方通行を叩きのめした上条さんへのあこがれだったかもしれない」

「私は、その感情を理解できなかった。私は理解できないまま、上条さん
へ罰ゲームと称して、デートを強制した。ペア携帯電話を契約させた。」
溢れる思いが、涙腺を満たし、目から涙が滴り落ちる。

「これほど、上条さんを思っているのに、素直になれない自分は
・・一言が言えなかった」
「だから・・もう私は自分を偽らない」
「どんな結果になろうとも自分の気持ちに素直になる」
決然と拳を握り臆病な自分と決別し最後の一言を腹の底からいう。

「わた・・私、御坂美琴は・・8月21日にあなたに助けられたその日から
上条当麻を愛しています」

正直怖かった。告白することで、今の儘のあいまいな関係が、
心地の良い、友人以上恋人の居心地の良い空間が壊れることを恐れていた。
(だけど、・・仮に告白したことで壊れるくらいならそんな関係なんかあきらめたほう
がいい)

上条はうつむいたまま言葉を返さない。

いつものお茶らけた雰囲気は一切見せず、沈思黙考を続ける。
客観的な時間なら10秒くらいだろう。だが、その10秒がとてつもなく長く感じる。
緊張が辺りを包み、ピリピリした感覚が全身を覆う。

やがて・・上条はおもむろに口を開く。
「俺は、御坂程、語彙もないし、うまく伝えることはできないと思う。
だけど、今から言うことは・・俺の気持ちだから聞いてほしい」

「正直・・俺は、御坂は凄いいい奴だと思っているし、頼りになる存在だと思っている」
「それだけでなく、何度も助けてもらった、命の恩人でもある」
「だから・・だからこそ簡単に告白を受けてハイと言えない」
当麻が、感情をうまく伝えられないのか、言い淀む。

「それって、・・どうゆうこと?」
「いや・・どうもうまく言えない。御坂という存在は俺にとってそんなに軽い
存在じゃねえ」

「だから・・、悪い・・御坂少し俺の気持ちを整理させてくれないか?」
否定はされてはいないが、今の返答ですぐには納得できるほど人間はできては
いない。だけど・・まあいい・・気持ちは伝えた。

私は若干顔ひきつらせつつ笑顔で答えを返す。

「ハハハ・・アンタらしいわ・・わかったわ、じゃ・・あとで・・・・」

846■■■■:2016/12/28(水) 15:29:55 ID:mMszZMFw
「後、リンゴ切ったから食べてね」
私は自己嫌悪に陥る。確かにいきなり告白したのは軽率だったかもしれない。
(だけど・・まあいい)
少し様子を見よう。私は気持ちを切り替える。

だが、異変はすでに始まっていた。
(ツ・・鼻血・・・)
「御坂・・鼻血がでているぞ・・ま・・まさか又AAAを使ったのか・・?」
別に逃げる必要もなかったかもしれない、だけど、なぜか見られたくなく気持ち
が私を襲う。

「ごめん・・今は一人にさせて・・・」
自分でもわかっている。AAAの副作用を
でも・・力のない私がアイツに寄り添うには、これを否定されたら
アイツの傍にいられない。
私は、いいようもない負の感情に包まれて逃げ去るように走り出す。

続く

847■■■■:2016/12/28(水) 15:31:02 ID:mMszZMFw
以上 クリスマスの奇跡 2話 の投稿を終わります。

848■■■■:2017/01/02(月) 07:59:48 ID:0B0mGKPg
第3話
楽しみに待ってます

849■■■■:2017/01/05(木) 14:12:39 ID:JCK3Pxh2
感想ありがとうございます。
では投稿します。

850■■■■:2017/01/05(木) 14:16:38 ID:JCK3Pxh2
クリスマスの奇跡 第3話

12月19日 午後9時 8月21日のあの橋の上

なんでここに来たんだろうな・・?
街をさまよいなぜか来てしまったここ。

なぜ逃げ出したんだろう?
(そうね、多分アイツにAAAを使っていることをやましいとおもっているからかな)

妙に鋭いアイツは、あの鼻血がAAAの、アイツが「魔術」という異形のテクノロジー
の副作用を感知している。それは間違いない。

多分アイツの言うとおりなのだ。学園都市でも殊に電子制御系でトップの自分、御坂
美琴はこんなものに頼らなくも十分すぎる戦力を持っていると・・

10日前の私の状況とは違う。木原唯一を訴追する過程で膨大な情報を入手した私は
迷えるか弱い乙女は卒業した。食蜂に教わり、食蜂と手を携え、木原唯一とその後ろ盾に
完全な報復を果たした。

学校は再建され、その事業の中で私と常盤台生は格段に強くなった。
だけど、そんなものではアイツに全然足りない。
魔神を知った私は、魔神が別世界に隔離されたことを知っても安心できない。

だから・・アイツになんと言われようとAAAを手放すつもりなどない。
だが・・アイツの正論に私は立ち向かえるだろうか?
私はその件については今一つ自分を信用できない。
だから・・弱い自分は、アイツに立ち向かうことができない私は逃げてしまった・・

・・・・・・・・
どこをどう走ったかわからない。気がつけばここへきてしまった。
私の心の闇の中を示すかのように多摩川の川面から欄干を北風が吹き抜ける。
あの晩夏の夜、私は一方通行と言う怪物へ、ささやかな・・でも自分にとっては
最後の特攻をしようとしていた。

今となっては、あの時の心境はどこか悪夢のように漠然としつつあるものの
雷としかいいのようのない飾り物ではない、本気のそれをぶつけた事実だけが
この腕に感覚として残っている。

あの時に膝上の死にかけたでもとても暖かい上条当麻の、一旦止まった鼓動が、滴り落ちる
涙とともに、復活し、命を懸けて化け物へ立ち向かった、魂のやり取りが、心の中でよみがえる。私のクローン 9969人と、そして私を悪意に満ち溢れた学園都市から救いあげた。その大恩に比べたら、何をしても小さく感じてしまうのだ。

私は、いつも彼の為に何かをしようと焦っていた。受けた大恩を1日でも早く返そう
と気がせいていた。だけど、世界の最深部で、そして世界の頂点で戦う彼の姿はいつも
遠く、追いかけては置き去りにされた。

やっとデンマークの雪原でファイブオーバーの大群から彼を守ることで追いつけたと思ったのもつかの間、あの僧正に、そして彼の右手に私の自分だけの現実は木っ端みじんに打ち砕かれた。

あの晩、私はベッドへふさぎ込んだ。
アイツが遠く感じた。所詮自分は、安定戦力の自分は尖った個性がないゆえに彼の力になりえない、周回遅れの存在。もう私は、上条当麻の傍で戦うこともできないのか?
大恩を返すこともできないのか?

本来なら、好きな男に打ち勝ちたいとか、一緒に戦いたいとか、そんなことは
普通の女の子は考えないだろうな・・

(まあ、守られる女なんて、私には似合わないわね)

小学校のころから、男にだけは負けたくなかった負けず嫌いの自分
その負けん気が、私のパーソナルリアリティの根本を形成する。

今もそれは基本変わらない。上条当麻に守られるだけの女になんかなりたくもない。
彼と共に、支え合う関係になりたい。
だから泣いた、あまりに遠いアイツの距離に打ちひしがれた。

だから・・AAAを知り、閉塞が打ち破られた時は本当に嬉しかった。
ためらいはあった。だけど私は一歩を踏み出した。
(そうだから、これを掴んだことは後悔はしない。)

851■■■■:2017/01/05(木) 14:19:30 ID:JCK3Pxh2
全部は守れなかったかもしれない。失敗もあった、だけど私は一番大事なものを守ることはできた。

(私には全部を守る力はない、だから自分の一番大事なものだけを必死に守る)

私は拳を握り、欄干を軽くたたく。気合を入れなおす。

(そうね、アイツはまだ私を振っていない、だから自分の気持ちだけは確定させない)

諦めない気持ちが今の私を作ってきたのだから。
私はすべてをアイツにぶつける。今度こそ逃げないと・・

気持ちが固まり、ホテルへ向かおうとする。
(今日はもう遅いし・・寮はやめましょう、もともと外泊予定だし)

だが、私が困ったときにいつも駆け付けるアイツは、・・
こんな時も私にとっても都合のいいヒーローをやめなかった。

私が踵を返したその時、息を切らしたアイツが病院を脱走してアイツが
私の視界へ現れる。

そして、・・・アイツは、上条当麻は言い放つ、私の一番聞きたかった言葉を

「御坂美琴・・俺は魂をぶつけに来た、だから逃げるな」
「ええ上条当麻、私も全力をぶつける、アンタをこの場で叩きのめす」

すべてが似通った、本質的にヒーロー体質の2人があの日のように、ぶつかり合う。

・・・・・・・・・・・
その1時間前、病室

御坂美琴が病室を去った後、俺は呆然としてすぐに後を追うことができなかった。
美琴に告白されたという事実が、俺にはすぐに自分のものとして理解できなかった。

ましてやAAAの副作用をちょっと言っただけで美琴が逃げ去るように退出
した事はなおさら理解できない。

(それにしても、告白か・・)

俺が御坂美琴をどう考えているか?
恋愛というものを、不幸という幻想に包まれていた俺には、自分のモノとしてどうに
も実感を持って理解できない。

美琴は、普段は、俺の前では、不器用な情緒も不安定な年相応の女の子だ。
だが、訳もわからず、ただ目の前の女の子を助けた、最初はそんないつもの
俺の日常の一コマにすぎなかった。

だが、・・8月31日にアステカの魔術師に「御坂美琴とその周りの世界を守る」
と約束したその瞬間から運命の糸に導かれるように何かが変わり始めた。

そして・・あの僧正襲来の中、フィアンマという俺が知る限り最強の男が
まったく歯が立たない、危機的な状況で、自分の能力が全く役に立たない状況
で、臆することなく、最善手を模索し続けていた美琴。

美琴は、自分の役割が不満でしょうがないようだが、客観的に見て、あの僧正を
いらいらさせるほど、美琴の頭脳は冴えていた。

何より、あの絶望的な状況で、美琴がいるだけでどれだけ心が落ち着いたか。
魔術の事なら、確かにインデックスやオティヌスはいる。だけど・・あの
状態で、美琴なしにどれだけ落ち着いたか俺にはわからない。

何より、美琴は命を懸け、俺の為にAAAを起動させ、死にかけても、俺の
手を振り払った。
守っているつもりだった。だけど、俺はそれが俺の思い上がりであることを
いやでも認識せざろう得ない。

客観的に、俺は御坂美琴がいなければ、ここにいない。
「何が都合のいいヒーローだ」
俺は手を握りしめる。
「はっきり言って、俺は美琴にとって本当にヒーローなのか?」

俺は、「御坂美琴」という存在に何を感じているのか?
いろいろ考えるが、はっきり思考がまとまらない。
はっきりしているのは、アイツは凄いいい奴だ。どんな状況でも折れず、自分を

852■■■■:2017/01/05(木) 14:22:09 ID:JCK3Pxh2
投げ出して周りを守ろうとする。善性の塊、いるだけで、心地の良さと安心感と
爽快感を周りにもたらす。

そして俺にとって御坂美琴の存在がとてつもなく、大きな存在であること。
その事実は、はっきりわかる。

だけど、・・それが恋愛対象かどうか・・

美琴を大事な存在に思うがゆえ、俺は簡単に告白を受けいることができない。

とても、身近で頼りになる存在だから、それだからこそ、俺は考え込む。

この学園都市、いや日本という、さらに言うなら世界的に見ても
屈指のお嬢様学校、その頂点に君臨する御坂美琴。

その本物のお嬢様の御坂美琴は、何に恋しているのか?

俺にも、答えは分かっている。要するに、この右手が一方通行を叩きのめしたからだろう。
美琴の目には、俺は地獄の底から引き揚げた、とてつもない能力者・・そう映っているだろう。
だが、美琴の目には、俺の学校の悲惨な日常は見えているだろうか?

御坂美琴の目には、竜王の首を持つ、とんでも能力しか見えてないかもしれない。
それが、俺自身にも制御不能で、簡単には使いこなせない、能力である事さえ、多分
知らない。

だけど・・俺は頬を叩く

結局は御坂美琴に本気の告白にどう考えるかそれだけじゃねえか・

御坂美琴という本気の告白が俺の鈍感な心を揺り動かす。

そして、彼女と積み上げた激動の特に12月以降の日々が脳裏を駆け巡る

そうだな、
俺は気が付いてはいなかった、でも俺も心のどこかで、美琴を求め続けて
いたのかもしれない。
それがどうゆう感情か、俺は知らないだけだったのかもしれない。

だが、今なら言える、俺にとって御坂美琴はかけがえのないそして
俺が命をかけるべき唯一の存在であることを、
だから、・・俺はそれを告げる。

・・・・・・・・・・・・・・・

再び橋の上

私は、上条当麻とあの因縁の橋の上で対峙している。
ある意味くだらない素直になれない男女の意地と意地のぶつかり合い。
だが、その関係も終わりが近づいている。2人ははっきりと、似た者同士
の性根にひかれあい、その惹かれ合う心に気が付こうとしている。

「なあ美琴」
「何?」
私は、当麻が初めて、私を美琴と呼んだことに心音が高くなる。

「俺は、この前までお前のことを異性と思っていなかった」
「ふ・・アンタらしいわね、どうせ喧嘩友達くらいにしか思っていないでしょ」

「はは、確かに、な・・」
「だけど、お前は、いつも俺を体を張って助けてくれた。ロシアでもハワイでも
東京でも、そしてデンマーク、でも」
「何より、熱波でもな・・俺とその仲間をエレメントから救ってくれた」
「本当にありがとうな」

私は胸が熱くなる、手段はともあれ、上条当麻にはっきりと頼っていると
言われた。まだまだその背中は遠く、簡単には届きそうもない。
、だけどしっかりと、一歩づつ、彼の力になれている。
顔を綻ばせ、しっかりと彼に答える。
「ありがとう、少しは頼ってもらえるようになったかな」
「正直、12月以降は美琴がいなければ俺は詰んでいた、それが事実だよ」

私は、当麻のいつもの鈍感さに警戒心をいただきつつ、答えを期待してしまう。
それに、もう曖昧にしたくない。

だが、現実は甘くなく、当麻は私の触れられたくない不都合な真実に触れてくる。

「俺は、美琴を信頼できる友人だと思っているし、とても頼りになる存在と思っている」

「だから、お前にとって不都合な事実でも言わなくていけないと思っている」

私は大凡当麻が言いたいことは理解し、身構える。どちらにせよ、この問題は

853■■■■:2017/01/05(木) 14:25:17 ID:JCK3Pxh2
避けては通れない。だから私はこの目の前の男を論破しなければならない。
場合によっては殴り飛ばしても

「はっきり言う。もうAAAは捨てろ」
「電子制御系で圧倒的な能力者、あらゆる駆動鎧を制作・運用できる御坂美琴には
無用なはずだ」

私はおかしくなる。そう・・レベル5で済む事態ならAAAなんていらない。
木原唯一の研究成果を調べ上げ、あらゆる小細工の仕組みと制御方法を脳
コピーした今では、大概の敵はどうにでもなる。
だけど・・そんなものは上条当麻の八竜には遠く及ばない。

「心配してくれてありがとう。だけど、まだAAAを手放すわけにはいかないわ」
「確かに副作用はある、死にかけたこともある。だけど、私はこの奥底にある
アレイスタークロウリーも、魔術も全然理解できていないわ」
「そんなんじゃ、魔神達には全然足りない」

・・・・・・・・・

俺は、美琴の心に僧正が残した傷跡の深さに愕然とする。表面上に毅然と、常盤台
中学のエースを貫いている美琴が心の奥底で、魔神に踏みにじられた、自分だけの
現実の喪失感にさいなまされている現実に、身を焦がされる。

「美琴はまだ僧正の事を気にしているのか?」
「気にしていないと言えば嘘になる」
「正直、こんなAAAに頼りたくなるほどね、自分のポリシーをまげてまで、
副作用があるとわかりつつ、でも・・やっぱり捨てられない」

(俺は、美琴が自分だけの現実が崩壊するほどのショックに耐え、必死に周り
の世界を守り続けるようもがき苦しんでいた現実に、その心が痛む)

「私は、AAAに手を出したことは決して後悔しない」
「失敗したこともある。でも、守れた命もある、それに・・」
「常盤台中学の件、覚えている?」

美琴の目が真剣なものに変わるのを俺は見逃さない

「ああ確か校舎が全壊した・・」

俺は、胸が締め付けられる、俺の力不足で、早々にリタイヤし、結局美琴一人に押し付け
てしまった常盤台防衛戦、美琴は絶望的な状況の元、一人で惨劇に立ち向かった。

「私はあの崩壊した常盤台を仲間とともに再建した」
「え?・・」
「私は、自分の力不足で、木原唯一に敗北し、学校のみんなに迷惑を掛けた」
「それを、みんなの支えによって、どうにか取り戻すことができた」
美琴の顔に決意がみなぎり始める。責任感、自責の念、そして悪意や、闇に立ち向かう
「お姉様」の凛とした顔に変わる。

「今の私のパーソナル・リアリティ(自分だけの現実)は、AAAの使用を前提に
最適化している、今更それを捨てることはできないわ」

「それでも・・」

俺は悟る。御坂美琴は、常盤台・学舎の園を守れなかったことを、自分自身の自責の
念として心に深く刻み込んでいる。

(だけど、このままではロシアンルーレットのようにいつか美琴は致命的な重傷を追う)
俺は、美琴にどうにか説得しようと試みる、美琴は本質的には理性的で話せば分かる
タイプの人種だから

だが、俺が言う前に美琴が先に口を開く
「私はね、正直僧正くらいでこんなに取り乱したりしないのよ」
俺は美琴に意外な話に耳を傾ける
「上条当麻の右腕に潜む、八竜の力に絶望させられたのよ」
「私は、アンタの傍にいた、アンタの力に少しでもなれると思っていた、だけど上条当麻
の右腕は、日常の世界に住む私の理解では想像すらできない性質のものだった」
「だから・・こんなものに手を染めたのよ」

俺は、あの誇り高い強靭な精神を持つ御坂美琴を苦しめていたのが俺の右手だった
現実にぶちのめされる。

「だけど、今の私はある意味AAAに救われたわ、これで失敗をなんとか取り戻した
木原唯一の一味を打倒し、壊れた学舎の園の日常を短期間に再建した」
「だから・・これを手放すわけにはいかないわ、何より」
「私は、決めたのよ。上条当麻が、私とその周りの世界を守るなんて幻想は私が
ぶち壊してやるとね」
「神は自らを助けるものにしか手を伸ばさない」
「私が、自分の手で周りの世界を守り、アンタを、上条当麻をその周りの世界ごと守るとね

854■■■■:2017/01/05(木) 14:32:25 ID:JCK3Pxh2
そのためには手段は選ばないわ」
「もちろん、あのシスターも、元魔神の妖精も猫もね」

俺は、覚悟を決めた美琴のただならない雰囲気に圧倒される。
あの8月21日の橋の上なんて比べようもないほどの圧力を感じる腹をくくった
本気の御坂美琴

学園都市の闇の木原一族の狂気を知り、それでも折れることなく立ち向かうとても
強い少女。あのデンマークの頃よりもさらに科学を極めた女。

だけど・・その少女が本当は性根の優しいただの少女であることを俺は知っている
そしてその少女を何があっても守ると決めた以上は・・

俺は・・・俺がなすべきことは・・ひとつしかない
俺に取って御坂美琴はただ一つの守るべき存在である事実を今告げる。

「美琴、・・俺は・・御坂美琴のすべてを受け入れる」
「お前一人で戦わせない、俺も一緒に立ち向かう、だから」

俺は美琴の前に進み、華奢な腰に手を回す。美琴を引き寄せ、顔をみつめる
こわばった美琴の顔色が驚愕につつまれ、ほのかに紅く染まる

俺は、美琴の端正な顔に頬を寄せる。
「だから・・もう一人で悩むな、命を捨てるなんて言うな」

美琴が万感の思いに、包まれたのか、目から透明な液体がこぼれ落ちる。
よほど耐えていたのだろうか、常盤台のお嬢様たちの前で決して見せることのない
表情を俺に向ける。
やがて少し落ち着いたのだろうか、涙を拭い、端正な顔を作り直す。

そして美琴は形のよい唇を俺の頬に寄せ、意思の籠った声で語り始める。

「当麻はずるいわ・・私の心のなんて、すべて当麻のものよ。8月21日からね」
「だから・・」
「これは、私からのファースト・キスよ」

美琴の、端正な顔、意思の強そうな瞼、その今まで気がついていなかった異性
としての美琴に俺の鼓動が高まる。

(よく見れば、美琴て本当綺麗な女の子だな・・今更だけどな)

俺は、美琴軽く抱擁し、接吻を促す。
美琴が、俺の口に、軽く口を合わせる。

そして・・・

その瞬間、二人の距離が0になる。
2人の口がひとつになる。熱い何かが通い合い、魂が交わり合う
とても似通った、自分の命よりも周りの世界を大事にする2人がお互いを認め合い
一つになった瞬間、感極まった美琴が、その意思の示す凛とした瞼をつぶり枯れたはず
の液体を滴り落とす。

漆黒の闇の中、数々の試練を乗り越えた2人はしばし、お互いの思いを知った喜びに
身を任せ、時の流れに身を任せていた。

だが、・・歩み寄った2人が本当にひとつになるまでまだ、大きな課題が残っている
事を2人はまだ知らない。

だけど、共に手を取り合った2人なら、どんな艱難辛苦も乗り越えるだろう。
2人はそう信じていた。

続く

855■■■■:2017/01/05(木) 14:34:13 ID:JCK3Pxh2
以上 クリスマスの奇跡 3話 の投稿を終わります。

856■■■■:2017/01/15(日) 08:28:09 ID:DzCAFOdQ
お!3話で纏まり切れなかったか
最後まで完走がんばれ

857■■■■:2017/01/16(月) 06:44:14 ID:xEsYFjKo
感想ありがとうございます
近々に投稿します

858■■■■:2017/01/17(火) 14:33:07 ID:ZNZ7f8Ms
とある科学の超荷電粒子砲 Ⅲ 15話: 3章―5

9月25日 (金)午前5時 大覇星祭 最終日

さすがに、9月末となると日の出も遅くなる。北風と乾燥した気流が生み出す冷気が辺りを
包む。異常な残暑も底を見せ、遠からず夏は終わりだろう。
最高気温も28度という予想で、今日は余りに日射病の心配もなさそうだ。

5時という時間が、朝から夜へと移行しつつある肌身で感じる。
本来なら一緒に散歩の時間だが、当麻は、前日の競技での頑張りすぎがたったのかまだ
起きない。

最終日・・初日の戦争まがいの大トラブル以外に大きなトラブルもなくタンタンと
日程をこなしている。私の開発したAI捜査支援システムの初期不具合はほぼすべて
初春飾利が塞ぎ、より強化されたセキュリティシステムが正常な稼働を保証している。

依然として統括理事長アレイスタークロウリーの行方は不明だが、どうせ死んだふり
作戦だろうと、気にしない。大覇星祭は問題なく滞り実施されるだろう。親船統括理事
長代行の元で。

実際のところ、今の学園都市学生の関心は、あまりに順調すぎる常盤台の完全総合優勝
が達成されるかどうかに移りつつある。個人総合1位が私であることは事前に想定されて
いたので誰も文句は言わない。それに唯一私に対抗しえる削板がレッドカードを食らい
私の個人総合1位は変わりようがない。

(だけど勝ちすぎはよくないのね)
いつもなら、常盤台対長点上機で盛り上がる頂上対決もすべて常盤台が、私が開発した
AI シミュレータによる効果的な選手配置と作戦提示で、すべて制し、大差になってしま
っている。

いままでレベル4を47人有し、圧倒的に質の面では優位なはずの常盤台がしばしば苦杯
を喫していたのは、主に協調性のなさと、実戦経験の不足だが、私の圧倒的なカリスマと
食蜂の人心掌握術により、統制のとれた軍隊として、動き、結果圧倒的な成果を達成した。

だが・・常盤台が圧倒的に圧勝するのも、大覇星祭の盛り上がりと、来年以降の干渉
数値面であまり望ましくなく、結局一部プログラムを変更し、今日の特別イベントを
実施し、長点上機学園に逆転の可能性を残すことにした。

(まあ、外のお笑い芸人がよくやる手法だけどね・・・)
ゲームは華やかな目立つものにする、常盤台対長点上機の頂上対決
それも1対長点上機の全校生徒 勝った方が総合優勝というご都合主義
(まあ、このくらいの余興は許容範囲でしょう・・)

/////////////////

さすがに、私も当麻も多忙で食事を作る暇もないので、コンビニ弁当で済ます。
それにカップみそ汁を加え、とりあえず腹を満たすだけの食事で腹ごしらえをする。
コンビニ弁当も、幕の内弁当なら食品添加物や、中国製の農薬まみれの食材が多い
事を除けば、それなりの味と品質なのは最近理解した。
(少し薬品臭いけどね・・正直)

「当麻、おはよう」
「今日で最終日だな、で、えらい盛り上がりだな、御坂美琴対長点上機?」
「実態はそうね、建て前は常盤台対長点上機だけど」
「しかしまあ・・これ長点は敗北すれば大恥じゃねえの?」

「まあいいじゃないの。負けたところで来年はその御坂美琴を獲得できるわけだから」
「なるほど・・ある意味双方の利害が一致したわけね」
私は溜息をつく、本来はたかが子供の遊びにここまで糞真面目になる、学園都市関係者の
滑稽さと、その裏にある利権という名のドロドロした大人の都合に

「まあ、たかが運動会じゃないの、本質は。気楽にいきましょう」
「どうせこれが最後だし・・」
「は・・それは甘いんじゃない?美琴」
「え?」

「長点上機が美琴先生を大覇星祭に出さないわけないじゃん」
「結局・・美琴は客寄せパンダの価値がある以上それから逃れるのは無理じゃないの?」
上条当麻は時々いや本質的に鋭いところがある。私以上に世の中を突き詰めてみる目を
持っている。
(だからこいつに惚れたわけだけど)
「そうね。マスコミ的に絵柄のいい写真を提供できればいいわね」

859■■■■:2017/01/17(火) 14:35:00 ID:ZNZ7f8Ms
「結婚式に使えそうな映像をな」
「ふふ・・いいわね。頑張るわ」

・・・・・・・・・
9時

緑地公園に数百名の生徒がたった一人を倒すために集まっている。
本日最大のイベント 御坂美琴対長点上機学園は様々なイベントを行い、1試合でも勝てば長点上機学園の勝利というルールで行われる。

第一試合は、私が数百人の生徒が防衛する、大将を1分以内に気絶させるというもの。
全員電撃を警戒し、晴天にも拘わらずゴム製の雨合羽を装着している
当然のことながら、私には空を飛ぶことも、当然超荷電粒子砲も禁止され、ぎりぎり
レベル5の能力行使ができないので、「電撃」くらいしか攻撃手段がない。

それに風紀副委員長という立場上、殺人はおろか、重傷で病院送りも望ましくない
だから、超電磁砲のような、殺傷力のある攻撃手段も使えない。

だから・・先方は安心して、にやにや笑っている。
たかが電撃、・・その油断。雨合羽を着込んだくらいで・・攻略した気になっている。
(まあそのくらい油断してもらわないと参加者を集められないしな・・)
(まあレベル3くらいの電撃使いには有効かもね雨合羽も)
(だけど、甘いわよね・・砂鉄を使える私には)

号砲と同時に、地面全体から砂鉄を巻き上げ、そこへ電撃を加える。砂鉄嵐+電撃攻撃で
500人中475人が気絶して昏倒する。空気中を浮遊する砂鉄を電流が伝わり大気全体が帯電する。顔から電流が体表を伝わり地面へ流れる。少々の耐電装備ではまったく意味がなく、大局的には生理食塩水に過ぎない人体を電流が伝わる。

(そもそも「素粒子そのもの」を自在に操作できる私に、雨合羽で耐電対策は無謀でしょ)

もしも美琴が記録画像の絵柄を考慮して、手加減しなければ、砂鉄電磁嵐でほぼ全員昏倒
していただろう。そんな片手間のような攻撃でほぼ長点上機軍団は壊滅する。

電撃にある程度耐性のある残り物の能力者が気を取り直し、攻撃しようとするが、ち密な演算が必要なテレポータは電撃の痛みで演算できず戦力外になり、念能力者は電磁砂鉄嵐が作り出す、磁場に妨害され対象物を操作できない。同系統の電撃系の能力者は余りの力量
格差に意気消沈して震えているだけだ。

唯一発動が容易で激痛でも発動できる発火系能力者だけが抵抗を試みるが、・・・・
レベル4の3000度くらいの火炎など、最低でも数万度に達するプラズマを形成
する高圧放電をいつも扱っている、私にはとってはなんらの脅威になりはしない

その様子に、攻撃の効かなかった男性が震えだす。
「糞・・効かねえのか・・化け物が・・」

「ね、私の通り名て知っている?」

「え?超荷電粒子砲・・?」
「荷電粒子て、通常の物質とはまったく性質が別なのは知っているわよね?」
「え?」
「燃焼は、酸化する現象・・でも、酸素分子が分子結合を失い、酸素元素になったら?」
「あなたの自分だけの現実はそれを観測し、確定できるかしら」
発火系能力者は火を生成しようとするが、まったく発生しない。

焦りでがたがた震えだす。
「えーえ・・そんな・・発動すらしないなんて」
「電撃使いを舐めてもらっては困るわね、物性の変性も可能なのよ」
その現実に打ちひしがれレベル4の最強クラスの発火系能力者は戦意を喪失する。

(さてひと通り戦意は喪失させたし・・)

残り20秒か・・そろそろ終わらせるか
( 電気と言えば水よね・・・)
湿気もちょっどいいし・・

私は、カメラ目線で、よくとおるアルトボイスで言い放つ。
「ねえ、まだ30度近い外気温のあるこの時期に、一気に0度まで、冷やせばどうなるかしらね」
腕を伸ばし、大気を構成する窒素と酸素分子から振動エネルギーを奪い急速に氷点下に
下降させる。たちまち大気から水蒸気が凝結し、地面を濡らし始める。
(これもレベル4の分子運動操作能力でいいかな・・ルール上は)

860■■■■:2017/01/17(火) 14:36:18 ID:ZNZ7f8Ms
解答などなく、そんなものは期待していない。動画の鑑賞者への謎かけ
「砂鉄と食塩交じりの結露が地面を覆う。そこを、高圧電流が流れればどうなるかしらね・・」

さきほどの、電撃で筆舌に尽くしがたい痛みを味わった残り物の能力者達は、今度こそ
絶望を味わう。

「処刑開始」
青白い火花が当たりを包み、大気の膨張に伴う轟音が辺りに響き渡る。
スイッチが切れたように、残り物の能力者が抵抗することもなく一瞬に倒れる。
「ミッション・コンプリート」

あたりにオゾンの匂いと、タンパク質が醸し出す焦げた匂いに包まれる。

会場は、あまりに凄惨な光景に最初沈黙に包まれていたが、最後は私への賞賛へ変わる。
結局強い者が賞賛を浴びる学園都市、その中で、行き過ぎた破壊や、残虐行為をしない私は
広告宣伝活動の安全牌、強さと美しさを兼ね備えた存在として不動の地位を保っている。

その地位や評判を守るため、事前にある程度心臓まひの可能性を調べ、可能性がある人間はこの試合への参加を排除している。

「おおいなる力には大いなる責任が伴うか・・
(安全第一よね・・長点上機能力開発主幹と細部を詰めたある意味茶番)
(でも、基本電撃だけでもなんとかなるものね・・)

分かり切った結果を、大げさに伝える、マスコミのインタビューに適当に答えつつ、思考
を巡らす。難しいのは、目立つことのメリットとデメリットを勘案することだ。

( まあ・・ある意味色物扱いされたほうが、いいかもね )

と適当に割り切り、思考を断ち切る。さて・・私は、当麻の姿を観客席に見つけ声をかける。

「当麻、見てくれたの?」
「美琴の晴れ舞台だからな」
「そう・・?見世物みたいなものよ」
「見世物・・まあそうかもな・・TVとか動画でバンバン流すだろう」
「当麻の幻想殺しのほうが、本当は凄いのにね・・素人にはわからないわね」
私は、マスコミというもののくだらなさをあざ笑う。
「美琴の技は映像映りがいいからな」
「ありがとう。今日はいい映像が提供できればいいわね」
「それにしてもさ、干渉数値で縛られ、重傷者も出さず、しかも敗北もできない。
なかなかシビアだね、おまけに綺麗な絵柄まで要求される」
「まあそれができることが期待され、その対価をいただいている以上はそう思う
しかないわね」

私は、少し面倒くさそうに溜息をつく
当麻が私を心配そうに見つめる。

「大丈夫か?他に、研究所や風紀委員会、多忙すぎないか?」
「心配してくれてありがとう。まあ、このイベントが終わったら少し考えるわ」

「無理すんなよ」
「ありがとう」

私は、別の競技へ向かう当麻へ手を振って見送る。
私は手を握り、ささやかなイベントを再開する。

「さて残りをこなしましょう」
学園都市の広告塔の御坂美琴の役目を果たすために

・・・・・・・・・・
同時刻

風紀委員 副委員長室

副委員長室は、御坂美琴の執務室、応接室、マシン室、仮眠室など
まるで官邸のような広大なスペースを占有し、そのこと自体がこの部屋の
主の権限の大きさを示しているようだ。

この部屋の主は、あくまでも風紀副委員長だが、実際には、委員長が飾りであるのは
周知の事実である。

861■■■■:2017/01/17(火) 14:38:05 ID:ZNZ7f8Ms
だが・・それも一皮むけば、AIという名のブラックボックスのお告げこそが
治安機関の主なのではないか?

それを操る初春飾利こそが、アレイスター失踪後の学園都市の影の支配者かもしれない。

副委員長室奥のマシン室で数十台のモニターを眺めながら、初春がAI支援システム
の御守を続けている。人工衛星や監視カメラ、車載コンピュータ、携帯電話の音声記録
携帯電話のGPS発信装置、ICタグ、LAN回線の交信記録あらゆるデータが、集約され、AI支援システムの初期値にUPDATEされる。

書庫、軍事クラウド、樹形図の設計者、莫大な演算処理能力と、自己学習機能が、正確な
指示を形成し、お告げのように取り扱われる。
そのお告げに従い、警備は決定される。万を超す、風紀委員とアンチスキルがまるで
神様のお告げのように、初春の管理するシステムの指示を疑いもせず、従うのだ

イベントは、裏方なくして成功しない。実質的な警備責任者が、運動会ごっごに興じて
いられるのも、その裏で有能な実務者が定められたプログラムを忠実に実行しているか
らだろう。その筆頭の初春飾利には、2つのコンプレックスがあった。

お嬢様への憧れと、前線で戦闘できる能力者への憧れである。
いつもその両方を兼ねそろえる、白井黒子や御坂美琴へ熱い羨望を向けていた。

そもそも初春が風紀委員を志した最初の理由こそ白井黒子への憧れだった。
たまたま、小学校のころ広域社会見学で知り合った白井黒子が、日本で最大級の流通Gの
創業家の一族だと知り、かつ風紀委員ということで、風紀委員への関心を一気に燃え上がらせた。日本で有数の資産家の一族でなおかつ、戦闘のできる高位の能力者、初春はそんな
白井黒子と一緒に仕事のできる風紀委員へ憧れを募らせた。

そして、何度も風紀委員へ志願したのだ。だが、風紀委員はそもそもそう簡単になれるものではない。筆記試験の他に、身体能力をチェックされ、能力も重視される。
必然的に高位能力者や身体能力が優れた者がなりやすい。

初春飾利は、学力はまあまあだが、致命的なほど身体能力が低い。短距離走も、持久走
もダメ。体力の点では到底合格点には及ばない。
ただひとつ、とびぬけた情報処理能力を評価され、1点突破で合格できた。

とはいうものの、能力はレベル1で体力もない初春に前線勤務は許されるわけもなく
白井黒子のバックアップとして堅実に業務をこなしていた。

だが、現場に出ることができない初春にとって、憧れの風紀委員は想像以上に平凡で
退屈な日々の繰り返しだった。もともと風紀委員は、アンチスキルの補助、白井黒子は
独断専行で、始末書の山だが、それでも原則はあくまでも補助。

学校の中の犯罪をアンチスキルへ突き出すお手伝いに尽きる。後は交通整理や、迷子の案内など、犯罪捜査などは原則しない。そんな地味なしかも、事務処理に追われる日々に
少々倦んでいた。だが・・・そんな日々も御坂美琴と出会い激変する。

だが、初春はまだ、その意味をまだ知らない。
御坂美琴の強烈な光芒に隠された学園都市の異形の意味を

そして、御坂美琴が抱える闇の深さを
だが、その闇を今日初めて思い知らされる。捜査指揮を行うある暗殺未遂事件で。

・・・・・・・・・・・・

9時30分
第2試合:障害物競走

第2試合は、私が長点上機学園の全生徒の妨害を受けつつ、制限時間内に、複数の
ポイントで襷をもらい、ゴールへ到着する競技である。

私は、応援に駆け付けた常盤台の生徒、ことにここぞとばかりに体を密着させてくる
白井黒子と会話を続ける。

白井黒子は非常に複雑な演算を有するテレポートを行うだけに、クレーバな頭脳を
有し、今は風紀委員本部で話相手になってもらっている。

「しかし多忙極まりないお姉様がよくこんなしょうもない企画にOKだしましたね」
「まあ、企画自体は外のお気楽お笑い番組でありがちな企画だけどね」
「いいじゃないのこのくらいお気楽な企画でも・・」

「ですが・・」

862■■■■:2017/01/17(火) 14:41:27 ID:ZNZ7f8Ms
聡明な黒子が何が言いたいか大丁想像はつく、「目立ちすぎるのはよくない」と
「逆、逆、どうせこんなお笑い企画に出るなら大したことないと聴衆は思うわよ」


「はあ・・お姉様は、いつもポジティブシンキングすぎて・・」
「客寄せパンダの自覚くらいあるわよ」

「なんにせよどさくさに紛れて、よからぬことを企んでいる輩もいるようですから
警戒を」
「ありがとう警備のほうはよろしくね」
「お任せください、もっともあのシステムさえあれば・・」
白井黒子の顔と口調に、私とあのシステムへの過剰の過信を感じ打ち消しに入る。

「油断は禁物・・でしょ。だから・・」
「あ・・すいません。お姉様への信頼が過信に変わっていました」
「いいわよ、私もブラックボックスに過信していたわ」
「だから、お互いに足元を見ましょう、ね」

それにしても、よくもまあ、こんなしょうもないルールを考えるわね・・

制限時間は60分

その間に私は約30KMを移動し、5ケ所のチェックポイントで襷を受領する。
突っ込みどころは多々あるが、妨害を受けながら30KMをたった1時間で移動
するというのは、どうなんだろうか?

しかもこっちは干渉数値と、移動速度で時速50KMの速度制限を受け、相手の
攻撃手段・攻撃方法は無制限・・
(まったく何の罰ゲームだか・・しかも敗北はできないと)

それでも・・まあなんとかするしかないわよね・・私には敗北が許されない。
どんな茶番でもお遊びでも・・
・・・・・・・・・

号砲と同時にたった一人の障害物競争が始まる。
そもそも30kmの能力なしのランナーの世界記録は約1時間26分
それを60分で妨害されながら走ること自体が相当なレベルだ。

サイコキネシスト(念能力者)がマンホールや看板を私にぶつけてくるのを
ぎりぎりレベル4どまりに抑えた磁力で躱す。
火炎や、電撃、氷あらゆる能力者がスタート地点で妨害を図る。
敵は、無粋にもどうやらスタートさせないことに全力を尽くしているらしく
レベル3〜レベル4弱の多彩な攻撃が私を翻弄する。
それに・・
射撃の発射音やヘリのシャフトの回転音、敵は私を殺そうとでもしているのだろうか・・
(武装ヘリやスナイパーまでいると・・)
(だけど・・ようはレベル4程度の様々な手段を使えばいいだけの話よね)

私は、小細工を弄し、活路をこじ開け始める。
筋肉を操作し、細かなステップで多彩な攻撃を躱す。
そしてある程度スペースを確保したところで、攻撃に転じる。

まず厄介なスナイパーをぎりぎりレベル4どまりに抑えた3億V未満の電撃で打ち倒す。
ヘリを磁力でロータ制御装置を破壊し、撃墜させる。

さらに、人間の脳は、想像以上に音響や、電磁波に弱い。指向性のある音波で、演算を妨害する。
生体電流を操り同士討ちを誘い、残り物の能力者が自滅を始める。

瞬く間に残機が減り、この段階でほぼすべて攻撃が止み、その間隙を縫って、磁力線に沿って体を時速49KMで移動させる。磁力線をワイヤーのように、見えない糸を伝って、結構な高速で戦場を離脱する。

(それに条例違反は・・排除する権利はあるわよね)
私は、インカムを使って、初春飾利へ指示を出す
「もう泳がせる必要はない、条例違反者を全員摘発して」
「了解です」
2分もしないうちに、業務完了の連絡がインカムから伝わる。
(別に銃や戦闘ヘリなんかこわくないけど、・・観客に怪我をさせるわけにはいかない)

今回の茶番劇の目的のひとつに、私の手足足かせを利用して私を殺害しようとする
テロ集団をあぶりだすこともあるのだから・・
・・・・・・・

863■■■■:2017/01/17(火) 14:42:43 ID:ZNZ7f8Ms
御坂美琴が大人の事情でくだらない茶番劇を行っているころ、上条当麻はくだらない
女達の復讐劇が始まるのを待っていた。
美琴には、人手は余っているからいいとは言われたが、どうしても気になり、競技をキャンセルして犯行予定現場へ向かう。

単純に言えば、美琴がレベル5の能力を使えない隙を利用して暗殺を企てる
それだけの話。普通に考えれば人工衛星で常に動向を監視されている殺害対象を
いくらレベル5の能力が使えない状況とは言え殺害するなど無謀の極み。

だが、復讐の鬼にそんな道理が通用するはずもなく、女達は凶行に至ろうとしている。

麦野沈利は、ゴール地点を見下ろす、超高層ビルの屋上でターゲットの到着を待ちかねて
いた。空中を効率的に浮遊する能力を持たない、麦野が、一撃必殺で強敵を葬る確実な
方法は、相手が確実にいる場所に、能力暴走体晶を使い強度をかさ上げした原子崩しで葬ることになる。
しかも・・相手は干渉値の制限を受け、能力に制限がある状態。

麦野は、再編された暗部で、実質的に格下げに近い扱いを受け、学園都市殊に、暗部
を再編した美琴に逆恨みに近い感情を抱いていた。
その恨みの感情が本来は、冷静で怜悧なはずの麦野の思考を狂わせる。

「来た・・」
麦野は、AIMストーカの滝壺の支援を受け、美琴の到着を確信する。
2発目はない。慎重にゴール地点へ照準を合わせる。
なんとかゴールに時間ぎりぎりに到着しようとしている美琴に気がついた様子はない。
「よし・・向こうは気がついていない・・」

麦野は原子崩しのエネルギーを充填し、発射態勢を整える。

圧倒的有利を確信し麦野の顔が喜色に歪む。
それに・・
思えば、3年前に順位がぬかされて以来、あの女が憎らしくてしょうがなかった。
同系統、同性、はっきり言って器用なだけで持て囃される御坂が気になってしょうがない。
(だから・・ここでアイツを一撃で殺す)
よし・・麦野は勝利を確信しほくそ笑む
だが・・

え?・・・
麦野は起きたことが理解できなかった。
原子崩しが・・届かない・・
まちがいなく御坂美琴を貫いた一撃必殺の原子崩し、・・だがその光芒は標的に届く前に
上空へ弾かれ虚空へ消え去る。

何事もなかったように、ゴールテープを切る御坂美琴、麦野は天を仰ぐ。
人工衛星ですべて監視されている学園都市、言い逃れようもない。
風紀副委員長への紛れもない殺人未遂。

やがて原子崩しを弾いた光学迷彩を施した磁性シールドの姿を視認し、麦野は
仕組まれた茶番に気がつく。
(糞・・あの女全部分かっていたのか・・)
そして、音もなく近づいた複数の風紀委員が視界に現れる。

男が、低い声で罪状を告げる。
「そこまでだ麦野、アンタは終わりだ。」
・・・・・・・・・・・
俺は美琴が無事ゴールへ到達したのを確認して胸をなでおろしていた。
罠とは言え、自分の命を天秤にかける度胸のよさと言うのか無謀さに呆れる。
「さて・・言い訳は本部で聞くとして、さっさと手を挙げて投降してくれないか?」
「テメエの犯行はすべて動画に映像・会話が撮られている」

俺は淡々と事実だけを告げる。腐ってもレベル5、不利と判断すれば自分から引く
だろう。たくらみは玉砕し、逆転の目がないことさえ認識させれば

麦野は、それでも・・目に籠った復讐の炎を消さない
「ふ・・正義の味方御坂美琴の婚約者、上条当麻参上か、カッコつけやがって」
「テメエと後ろの風紀委員皆殺しにして学園都市の外へ脱出するだけよ」

(腐ってやがる・・たった1度の完膚なき敗北がここまでコイツを狂わせるのか・・)
「上条・・2度負けるほど私は弱くない、覚悟しろ」
俺は、後ろに控える風紀委員を下がらせ麦野に対峙する。

麦野は拡散支援半導体を配置し、いつでも原子崩しを発射する態勢を整える。

864■■■■:2017/01/17(火) 14:44:11 ID:ZNZ7f8Ms
麦野が、口を開く
「なあ上条、・・お前は婚約者をどこまで知っている?」
「は?」
「まさか・・あの笑顔を振りまいている、人畜無害なアイドルフェイスがアイツの本性
なんて思っていないだろうな」

「ふ・・つまんねえ、精神攻撃だな・・知っているよ、アイツの本性くらい。」
麦野の綺麗な女子大生のような端麗な顔が醜くゆがみ始める。
「ならなぜアイツを断罪しない。御坂美琴の手は真っ黒に汚れている」
俺は、アイツの敵対者のありきたりな断罪の世迷言に内心腹を立てる。

「愚問だな、・・アイツは・・自分の過ちを決して忘れないからだ」
「そして、真摯に自分の犯した過ちを人にせいにせず自分の過ちとして受け止める心の
強さを持っている」
「だから・・俺は何があろうとアイツを信じる」
「ふ・・つまんねえなあ・・恋は盲目か・・だがな上条、御坂美琴は・・一度は世界を・」

「それは過去の事、本人に責任はない、単なる事故だ」
俺はきっぱりと婚約者を擁護する。

麦野は歪めた顔から、場違いな気色悪い声音で、クスクス笑い始める。
「甘いな・・テメエは超荷電粒子砲の本当の威力を知っているだろう。
アイツは自分の意思でいつでも70億人を抹殺できる奴だ」
「まあいい、お互いの正義を語ってもしょうがねえ、死ね 」

麦野は頭部の周辺に莫大な電子を蓄え、原子崩しの発射態勢を整える。
拡散支援半導体で拡散させれば、右手一本しか武器のない俺は、全身を光線に貫かれ
死ぬと。
(まあそんなとこだろうな)
莫大な、まばゆい光芒が・・あたりをつつみ光圧さえ感じるほどの圧迫感
破壊力だけなら、大したものだ。戦艦を一撃で葬ると言われるほどの威力

だが・・
(遅いなあ・遅すぎる)

美琴や木原唯一の攻撃を見慣れた俺には麦野の動作が止まっているように見える。
慣れだろうか・・AIMの制御による力場を俊足で感知できる俺には、見えないはずの
力場の振動が、力の波動がはっきりわかる。 
 
俺は、右手を麦野向け、発射寸前の原子崩しを丸ごと抑え込む。
唖然とした表情で麦野が立ち尽くす。

「お前が、原子崩しで全部壊せるなんて幻想は俺がぶち殺す」
俺の右アッパーがさく裂し、心が砕けた麦野はただの人形のように脆くも崩れ落ちる。

・・・・・・・・・・・・・・
レースが終わり、長点上機とのある意味茶番だが、死闘を制した美琴が
表彰式を終え、俺の元へ駆け寄る。

その後予定されていた2試合は長点側がみじめな敗北で終わることを恐れ、放棄となり
この時点で常盤台の総合優勝が確定する。

すでに美琴の個人優勝は確定しているので常盤台は2冠となり、常盤台を代表して
美琴が学校部門の優勝旗と個人総合優勝のメダルを受ける。
「美琴、優勝おめでとう」
「全部、麦野を排除した当麻のおかげよ」
待合室へ俺を連れ込んだ、美琴が、俺の腰に手を回す。ごく自然にイチャイチャ
し始める。軽く唇を頬に接触させる。
「ご褒美のキスかな」

俺は照れ隠しに憎まれ口をたたく
「まったく、そのうち投稿サイトにのるぞ」
「いいじゃない、どうせ婚約者でしょ、それに・・初春さんがなんとかするでしょ」
「まあそうだが・・」
美琴はさらに体を密着させる。

「でも、本当助かったわ・・」
俺は、用意周到な美琴が万事滞りなく打った芝居の種明かしをする。

「どうせ、本当は光学迷彩電磁射出ステルス弾で射撃する予定だったんだろう」
「あら、分かっていた」
美琴がいたずらのばれた、子供のようなまばゆい笑顔を返す。

865■■■■:2017/01/17(火) 14:45:13 ID:ZNZ7f8Ms
「麦野は下半身くらい飛ばされても文句は言えないわよね」
美琴の笑顔に少々影が浮かぶ。
「殺したところで刑法36条の正当行為で免罪される」

「美琴・・」
美琴が自嘲気味に話しを紡ぐ
「私は、危なく麦野を殺しかけた」
「正義という名の合法的な権力でね」
「だから・・それを止めてくれた当麻には感謝よ」
俺は美琴の心情の吐露を黙って聞く。

「私は、これから何度もこうやってこの街の歪みや悪意にさらされ続ける」
「独裁者が、食い散らかした箱庭を正常化するには並大抵の努力では解消しない」
「だから・・」

美琴の目からわずかに涙が零れ落ちる。だがすぐに表情をもとに戻す。
眼圧を感じるほどの、真摯なまなざしで美琴が俺を見つめる。

「当麻にだけは、私の事を信じてほしい」
「そして、支えてほしい」

「ああ、婚約したその日から・・俺は何があっても美琴とともに生きると決めた」
「だから・・ともに、駆け抜けよう。何が起きてもな」

俺は、美琴の小さなだが、大きな運命を背負った肩を寄せ、腕を回す。
抱擁しながら、汗を吸った体操着越しに鼓動を感じ、声をかける。

「死ぬときは一緒だ」
「当麻、・・・これからも頼りない私を支えてね。お願いよ」

美琴の瞼からきらきらと眼光が輝き、しっかりとした足取りで、祝賀会場へ
向かう。俺はそんな美琴を支えて生きていこうと心から誓う。
道のりの険しさと、やりがいを感じ、不思議な充足感を感じながら

続く

866■■■■:2017/01/17(火) 14:46:17 ID:ZNZ7f8Ms
以上とある科学の超荷電粒子砲 Ⅲ 15話 3章ー5の投稿
を終わります

867■■■■:2017/01/26(木) 17:49:50 ID:F1hcrTYI
クリスマスの奇跡 4話 (完結)

12月19日 (月)22時 とある高校 学寮前

あの橋での決死の告白から1時間、冷静になった別の自分は、自分の
状況の困難さに頭を抱えていた。

いや・・・本当はとても幸せなのだ。当麻と手を握りながら当麻の学寮へ向かう。

自分の空回りしがちだった労苦は、意地悪な神様の心すら打ち破ったのか
あの・・驚異的な鈍感男の心を打ち破り、ついに私の思いは届いた。

少なくとも、彼も自分の心を受け止めてくれた。
その事実の重みに、私の心は歓喜のワルツに奏でる。

だが・・正直問題は解決したのだろうか?

私が、ただの恋愛脳に侵された夢見がちな乙女なら、問題は解決した・・そう言ってよいだ
ろう。愛しの彼に想いを伝え、彼はそれを受け入れた。
めでたしめでたし・・だが・・

食蜂に言われたが、私はそんなもので満足するにはあまりに、難儀な性格だ。
はっきり言って守られる女なんてそんな関係なら、私はいらない。

どちらかと言えば、私は守られるより、守りたい性格。頼るより頼られたい性格。
いつもの、黒子、初春さん、佐天さんの4人組でもそう、常盤台でも、学び舎の園でも
はっきり言えば学園都市全体さえも守りたいタイプの性格。

それはたとえ対象が上条当麻でも変わらない。

そんな私にとって、AAAを手放すのは、はっきり言って理屈ではわかっても、感情では
納得できないことだ。

前の何も知らない、私ならそんな疑問すら抱くことはなかっただろう・・

だが、12月以降魔神、上里勢力、アレイスター、木原唯一、天使、etc..が跳梁跋扈
する現実を知り、もはや素のか弱い自分には戻りたくとも戻れない。

誰かを守るには力が必要だ。だが・・それはレベル5では到底足りない。
その現実に打ちひしがれたからこそリスクを承知でAAAに手を出した。

(だけど・・当麻に約束した以上AAAなしで私は上条当麻を守らなければならない)

(それに・・)
もっと大きな問題はイギリス清教、必要悪の教会のシスター魔術の最終兵器 
禁書目録との関係を解決すること・・

故人曰く、言うは易く行うは難しと言う。
そう・・今の私がその状況だ。

2つ解決困難な問題を抱えている。
私は、その2つを、解決しなければ先に進めない。

食蜂なら、洗脳して終わりかもしれない。雲川なら曖昧にして、問題をうやむやにするかも
しれない。だけど・・私は逃げない。不器用かもしれない。だけど、これが私の現実なのだから。

覚悟を決め、当麻とともに学寮へ向かう。

卵かかみつきか、それとも泣き落としか・・私はあのインチキシスターと対峙に
戦場へ向かう。

・・・・・・・・

対して広くもない学寮の上条当麻の居室
そこへ3人入るとさすがに狭苦しい。

インデックスが、緊張した趣で当麻の顔を見つめている。
いつもなら冗談めかしたことを言って、その場をごまかす当麻もさすがに今日は
言わない。元々デリカシーに欠けきらいはあるがさすがに、この場がどうゆう場面か
理解しているのだろう。神妙な顔つきをしている。

868■■■■:2017/01/26(木) 17:51:27 ID:F1hcrTYI
私は、口が重い当麻に変わり、開口一番直球を投げる。

「ねえ、当麻・・ちゃんと話そう、彼女には知る権利があるわ」
「私から全部話してもいいけど・・結局これは当麻の問題でしょ」
「ああ・・そうだな」
「インデックス・・俺は美琴と恋人として付き合うことにした」

静寂が一帯を支配する。インデックスは何やら考え込んでいるようだ。
嚙みつきも、怒りもせず、ただ佇んでいる。まるで来るべき日が来てしまったかの
ように。

インデックスは、鈍感なはずの上条当麻が御坂美琴をしきりに気にかけることに
はっきり気が付いていた。あの熱波の中でも・・そして、その後のごたごたの
中でも。さらにインデックスは、短髪とよぶ御坂美琴が上条当麻へはっきりと
好意を向けていることに気が付いていた。

そんなインデックスにとって御坂美琴がはっきりと告白し、なおかつ当麻がそれに
応えること自体に意外感はなかった。

だが・・

元々インデックスは、誰とでもすぐに親しくなり、すぐにファースト・ネームを呼ぶ
ほどの人物・・だが例外はある。御坂美琴だけは「短髪」と呼び敵意を隠そうとしない。

いや・・おそらく本能的にわかっていたのだろう。御坂美琴の存在が自分にとって
大事な上条当麻を自分から奪いさる可能性のある存在であることを・・

そんなインデックスにとって・・想定はしていたが、来てほしくない瞬間だった。

少し間をおいてインデックスが口を開く。弱弱しくまるで許しでも請うかのように。
「当麻・・私はここに居ていいの?」

当麻が、言葉を選びつつ口を開く。
「インデックスは・・俺にとっては肉親も同じ・・」
インデックスが当麻の顔を凝視している。インデックスは下手すれば私以上に、この
上条当麻に心身ともに依存していたはずだ。そんな彼女にとって、居場所を失うことは
耐えがたいはず、私は同性として彼女の立場に同情を禁じ得ない。
「俺は、お前が居たい限り、ここに居て欲しい」

インデックスが不安そうに声を発する。
「本当にいいの?」

上条当麻が力強く、語り始める。
「インデックスも美琴もどちらも俺にとっては大事な存在だ」
「美琴と付き合うからお前を放り出すようなことは絶対しない」
「だからお前は安心して暮らしてほしい」

私は、少しの落胆と大きな安堵を心の中でつく
(恋する乙女としては、・・敵に塩を送りたくはないけど・・この子が当麻にとって
切り捨てできない存在であることは事実)
(私は・・当麻を不幸にする選択を選ぶことはできない)
私は、目に意思を籠め当麻を見つめる。
(ふふ・・当麻らしいわね。本当・・そうあってほしいと思う私も大概なお人よしだけど)
「美琴・・これでいいよな」
私ははっきりと意思を当麻へ伝える。
「ええ・・。インデックスも私の家族・・それでいいわ、当麻」

「美琴ありがとう。だからインデックスも家族として一緒にいよう」
戦争と恋愛は手段を選ばないとは言う。
本来なら、私はインデックスを追い落とすべきかもしれない。
だけど、私には、インデックスの当麻への思いを知ってそんな選択を選ぶことはできない。
(私はそんなつまらない女にはなりたくない)

それまで、緊張の糸で重くしずんでいたインデックスが目から涙をこぼしつつ、鼻を赤くしながら笑うという器用なことをしながら、私の顔を眺めつつ、抱き着いてくる。
「とうま・・それからたん・・いやみこと・・これから一緒に生きていくんだよ」

私は、インデックスを抱きかかえる。
「ええ・・インデックス、一緒に家族になりましょう」

当麻が私とインデックスを抱きかかえる。まるで・・最初から家族だったように・・
(収まるところに収まったのかしら・・でも・・まだ問題のすべては解消していない。)

869■■■■:2017/01/26(木) 17:53:06 ID:F1hcrTYI
能力者にとって一大事のパーソナルリアリティの再構築が残っているのだから。

・・・・・・・・・・・・・・
12月24日(土) 16時:とある高校 再建工事現場

「出来たわね・・」
高尾山系に早すぎる太陽が沈みかけその残照が学園都市を照らす。

私は、あの僧正により全壊した、とある高校の解体・再建工事現場で、自分が設計・施工
した作品の出来栄えを確認していた。

もっとも、元がスタンダートを極めたごく普通の校舎のため再建自体に手間はかからない。
費用もたかだか50億円ほど、常盤台の100分の一にすぎない。

費用は、常盤台の建設工事の剰余金が500億円ほどあったのでそれを流用しても
十分賄えたが、食蜂が親船理事と交渉し、統括理事会の予備費で建設することとなった。

ちょっと前までは、とてもお互いに協力するなんて、それが如何に利益があろうとも
やれなかった。だが、強敵にぶつかり学校存立の緊急事態に、2人で立ち向かう道
を選択し今に至る。

その経験が、ごく自然に私の脳裏に食蜂に依頼するという
選択肢を提示する。はっきり言って統括理事会の根回し関しては食蜂の手腕は見事
としか言いようがない。あっさりと必要な物を分捕ってくる。

(まあ私も少しは成長できたかな・・)
(それに・・)
正直な話、いまだAAAなしで、上条当麻のステージに存在する化け物達に匹敵する
自信はないが、学園都市に散在するAIM拡散力場のリソースを使い自分の演算力
をかさ上げする方法はある程度、効力を発揮し、通常より短時間でこの工事を終える
事が出来た。

(通常なら工期1年、どんなにゼネコンをせかしても3月、それを3日でできたのだから)
(そしてそれをAAAなしで達成できた。小さいけど一歩でも成し遂げる事ができた)

常盤台の私の設置した、機械工学部のメンバーが駆け寄ってくる。
先日の熱波以来私とともに、数々の困難を共にした仲間達。
時に、常盤台再建工事に時は、工期が厳しい中、私とともに数々の難問に立ち向かって
くれた。私の同志達に思いっきり握手をする。
(この子達が献身的に尽くしてくれたか、全部予定どおり終わった)

私は声を一人一人へかける。
「ありがとう。みんなの協力で予定通り終わった」

部員達は私をほめたたえる。
「いえ、御坂様のご指導のおかげです」
私は、大げさな美辞麗句に恐縮する。熱波の時も、常盤台再建の時も私への過剰な過信は
結局収まることはない。
(私は、賞賛を受けるほどの人物じゃない。ほかの人よりほんの少し、電子制御や機械
工学に長けているだけが、それに全部を自分一人でやり遂げたわけでない)
(アイツは、神様のような奴に右手ひとつで立ち向かった・・それと比べれば自分なんて
まだまだだ・・でも・・やっぱり少しでもやり遂げたことがうれしい)

私は、簡単に賞賛の声に答える。
「そうね、でもみんなよく頑張ってくれたわ・・建設工事はこれでおしまいだけど、
機械工学部の部活は継続してもいいわよね」

部員全員が私を見つめる。
(でも・・弱い私は、こうやってみんなと力を合わせてこの街の闇に立ち向かなければ
ならない。そのために常に嗅覚を研ぎ澄まし、自分を研鑽して、みんなの模範になら
なければならない、間違っても傷ついても何度も立ち上がらなければならない)
(だがら・・そのためには)

私は、一歩前へ踏み出す。
「これからも、いろいろあるでしょ、だけど皆と一緒に力を合わせて立ち向かって行こう」
「微力な私に力を貸してほしい、私は何があっても先頭に立って戦う」

部員達が感極まったのか目に涙を浮かべつつ、歓声を上げる。
食蜂がみたら派閥の決起集会に見えるかもしれない。そう・・今になってわかる。

古来より、弱い人間は、群れて外敵に立ち向かった。
その群れは、かならずリーダーを必要とする。少しでも能力のあるものは、弱い者の

870■■■■:2017/01/26(木) 17:54:20 ID:F1hcrTYI
先頭に立って外敵に立ち向かう。それが世の中の習わし。そして真理。
だから・・私は皆の先頭にたって戦う。命がけで。

(そんなものではアイツの世界には立てないかもしれない・・だけど)
今の私には、一人で全部を解決する力はないだろう。だけど、駆動鎧や木原の
最先端技術、それを運用する、電子制御に特化した頭脳。

それでひとつひとつ問題に立ち向かっていく。自分のやれる範囲で、自分の手で
掴めるものを掴む。これが私の選択。学校教育では天才だが、世界の頂点にはあと
少し能力の足りない安定戦力の選択。

そして常盤台の、学び舎の園の、ひいてはアイツの住む学園都市を守る。
そして、・・本当に困ったときは、・・みっともなくともアイツに頼る。

私は、右手一つで、世界の頂点に立ち向かい、何度も世界を丸ごと救った男を見つめる。
その男は、私の周りに集まった常盤台生に会釈をしながら、私に向かってくる。
気配を察した部員が道をあけ、当麻は私の目の前に寄り添う。

「当麻・・来てくれたの・・」
「ああ・・だけど・・美琴は凄いな・・大人の会社でも半年はかかるものをわずか3日
で、完璧に完成させるなんて」
「ありがとう。でも私一人の力ではないわ、ここにいるみんなのおかげよ」

「みんな・・あ・・そうだな。美琴は現場監督なんだよな」
「ええ、私が図面や工程表、組み立てや打設用の駆動鎧は作成したけど、それの整備
や運用なここにいる皆の協力がなければできなかった」

「だから、・・当麻には常盤台生みんなも褒めてほしい」

「ああそうだな」
当麻が深々と礼をする。自分の学校を再建したお嬢様軍団に感謝の意を込めて。
部員たちは、あの熱波のさいに私が拾ってきた、謎の男が深々と最敬礼を
したことに好奇の目を向ける。

私は部員に声をかける。
「みんなに報告することがある」

「私はある事件で死を覚悟した。その時、巨大な敵に立ち向かい、私を闇の中から
引き上げてくれたのが、こちらの上条当麻さん」
「上条さんは、私の命の恩人で、私は上条さんに救われました」
お嬢様たちは、私の意外する告白に驚愕の表情を浮かべる。
当麻は当麻で私の突然のカミングアウトに、思考を停止したような唖然とした表情を
見せる。
「美琴・・?」
私は、一気加勢に話を続ける。

「それだけではなく、大覇星祭、9.30事件、第3次世界大戦、東京事変、12月の僧正事件以来の大熱波事件、そのすべてで彼はその身ひとつで、学園都市を守ってきました」
「私には、上条さんのように右手一つで、学園都市を救う能力などありません」

「ですが、こんな微力な私でも、クリスマスの前に何か一つでも恩を返すことが
できるのでないか、そう悩んでいました」
「そんな中で、先日以来皆さんと、一緒に取り組んできた常盤台再建工事」
「私にも、できることがあることに気が付きました」

「常盤台を再建した皆さんにわかるとおり、学校は、学生にとって心のよりどころ
です」
「彼の学校は僧正の無差別攻撃により、崩壊させられました」
「彼は心のよりどころの学校を失い、いまだに別の学校に間借りの身です」
「本来なら学園都市は、恩人である彼の学校を最優先で再建するべきなのに
彼の学校は高位能力者偏重という学園都市の偏った政策によりいまだに正当な扱いを
受けず放置されていました」

振り絞るように話を続ける。

「微力な私にとって、彼への大恩を返す機会はこんなことくらいしかありません」
「私が、今回この学校の再建工事を皆さんとともに始めたのも少しでも大恩ある、
上条さんへ感謝の気持ちを込めた、実施しました」

私は、みんなが話を咀嚼できるように敢えて間をあける。
そして思いをはっきりと告げる。
「本当に多忙な中、私の勝手な思いに、協力してくれてありがとう」

871■■■■:2017/01/26(木) 17:55:51 ID:F1hcrTYI
私は深々と部員の前で頭を下げる。

「最後に、私の今の思いをみなさんに伝えます」

「私は、命の恩人、そして学園都市とともに私達全員を救ってくれた上条さんへ
心より感謝します。そしてこの学校は私達から上条さんのへ感謝の気持ち
です。いまこそ上条さんへ感謝の気持ちを伝えましょう」
唖然としていた部員達は、上条当麻を賞賛し、たたえ始める。
ネットやSNSでほぼ完成を聞きつけたほぼすべての常盤台生や教師、そして
とある高校の面々が満場一致で拍手を送る。

(これこそが、私から上条当麻への感謝の気持ち、そして、AAAを手放した私の着地点)
(本当に小さな一歩だろう。だけど・・これこそが、私にとってのクリスマスの奇跡)
(臆病な私が、胸襟を開き、告白し、そして彼の日常を必死に自分の仲間とともに
取り戻した)

彼が、上条当麻が私の手をとりそして、深々と礼をする。
そして訥々と心境を語り始める。

「まず初めに、美琴は思い切り美化したけど・・俺はただのレベル0だ」

「成績もさえない三流学校の平凡な普通の高校生」
「美琴が言った数々の戦績は、決して俺一人の力で成し遂げたものではない」
「ここにいる学園都市の多くの人、とりわけ・・」
俺は美琴の目を見つめる。
「美琴には危ないところを何度も救ってもらった」

「それに、美琴は返しきれない大恩と言った。だが・・僧正以来、いつも美琴は
体を張って、俺の為にそして学園都市の為に戦っていた」
「正直、美琴がそして常盤台の皆さんがここまで必死に俺たちの学校再建に取り組んで
くれたことに言い尽くせないほど感謝している」

「俺は・・まず、常盤台中学の皆さんに心から御礼を申し上げる」

俺は美琴の手をとり、自分の思い人となった少女に感謝を心からはっきりわかるように
しぐさで示す。

「そして12月以来全身全霊学園都市の危機為に勇気を振り絞り、立ち上がった、御坂美琴
へ感謝の意を示しそう」

周囲の、聴衆が万来の拍手で同意を示す。
さらに当麻が話を続ける。

「俺から見て、美琴は紛れもなくヒーローだ」
「俺はそんな美琴を心から・・愛している」

俺は美琴の背中に手を回し、抱擁する。御坂美琴の不器用な、だが真摯な思いは、鈍感
大王の心を貫いて彼女の恋心を認識させた。そして、彼の口からはっきりと明確に思い
を聞けた。集まった、関係者の拍手は鳴りやむことはなく、この小さな奇跡を祝福するようだ。その昂揚した気持ちの中で私は当麻に抱擁されながら滲み出る女としての幸せを
心から満喫する。

私は当麻に精一杯の謝意を締めす。
「当麻・・本当にありがとう」
そして、一息ついて、深々とお辞儀をして感謝を示す。

関係者の拍手は、しばらく止むことはない。
今生まれたカップルの将来を祝福するかのように。そしてそのカップルが、混迷する学園都市を照らす新たな光の象徴であることを示すかのように。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
12月24日 (土)18時 展望レストラン 特別室

私は、1月の前にあらかじめこの日の為に予約していた特別室に当麻と入室する。
インデックスは、しっかり事情を説明し、納得の上月詠先生と焼肉パーティに
行ってもらった。正直2人には悪いことをしたが、今日だけは当麻と今後を語り
会いたいので、気持ちを伝え相応の費用を負担した上で了解してもらう。

50階の窓の外には、夜景が広がり、東には新宿新都心や東京駅周辺のビル群まで
見える。机の上にはクリスマスケーキと、贅を尽くした料理が運ばれる。

最先端兵器や、駆動鎧、そして生身で10億Vの最大規模の雷に相当する
電力を扱う超能力者であっても、本質は乙女な私、ロマンチックな場所で

872■■■■:2017/01/26(木) 17:57:10 ID:F1hcrTYI
告白にあこがれがあった。

「当麻、本当にありがとう」
「美琴・・びっくりしたぞいきなり公の場でカミングアウトして」
「ごめんなさい。でも・・当麻への気持ちを隠すことはできなかった」

「美琴は、まだ僧正の事がトラウマなのか?」

「気にしていないと言えばうそになる。だけど・・いやだからこそ」
私は腹に力を籠める。
「トラウマの元をもとに戻した。」
「そうか・・美琴らしいな。AAAを止めるために俺の学校を再建するとか
やっぱり美琴はスケールが違うよ。俺と違ってな」
一歩を超えて私は素直に、そして正直に答える。
「まずは褒めてくれてありがとう。」
「でも、当麻には全然かなわないわ、世界をまるごと救う当麻には」
私は、アップルサイダーを飲みながら当麻を褒める

「美琴は・・俺に夢見すぎだよ。」
「はっきり言えば俺の右手に」
私は当麻の顔を凝視する。いつにもない真剣なまなざしに心打たれる。
その熱い視線に心を震わせながら言葉を発する。

「当麻はいつも言う。不幸だ・・神の加護さえ打ち消す右手で幸福をも打ち消すと」
「でもね。当麻・・私はその右手に救われたのよ」
「妹も、学園都市も・・いや世界さえも」
私はさらに言葉を続ける
「もちろん・・当麻の右手の限界も知っているわ・・」
「それが無敵でないことも、当麻に多くの不幸をもたらしたことも」
「八竜を当麻の意のままに操ることができないことさえもね」

「私は、当麻と違って、一人で世界を救うことなんかできない」
「だけど、・・自分の周りの世界ぐらいは自分で守る、インデックスも当麻も
守る。いつかは学園都市そのものだって守れるようになる」
「当麻の不幸も私も背負う、一緒に不幸に立ち向かいましょう」

当麻が、嘆息したようにしゃべる
「美琴は・・本当に前向きで強いな・・」

「でも・・無理しなくていい。あ・・美琴に期待しないわけじゃない。もちろん
美琴の能力のすごさや、強さは分かっている。」
「だけど美琴は頑張りすぎる」
「美琴は意思が強すぎるから、どんな強敵でも立ち向かうとする」
「でも・・そんなに頑張りすぎなくてもいい」
「立ち止まって周りを見回して、頼ることも覚えてほしい」

「それに・・」
「御坂美琴とその周りの世界は俺も守る」
「だから・・、自分ひとりだけで立ち向かう必要なんてない。俺のことも頼ってほしい」
当麻は私の顔にそっと軽く唇を頬によせる

私の瞼から涙が零れ落ちる。常盤台の子達の前ではみせない私の涙。
その涙を拭い私は当麻へ声をかける。
「ありがとう、当麻、・・ええ・・私は今回の騒動で自分だけの能力でできないことも
力を対処することを学んだ・・だから当麻の力がいるときはもちろん当麻にも頼る」

「当麻・・」
「美琴・・」
私と当麻は立ち上がり、当麻は両手を腰に回し、しっかりと抱擁する。
耳元で当麻は私に囁く
「何があっても俺は美琴も守る」
私も囁く
「私も、当麻の周りの世界を守る」
「そして・・死ぬときは一緒よ」
そして・・2人の距離が0になり、・・熱い接吻の感覚が私の脳裏を駆け巡る。

紆余曲折の末、相思相愛となった2人。アレイスターの負の遺産の解消はそんな
簡単ではなく、多くの困難が2人を襲うだろう。だが・・どんな困難も・・
上条当麻の熱い心と、御坂美琴の技術で乗り越えるだろう。
これは後に統括理事として辣腕をふるい、学園都市を文字通り科学の世界の中心と
して名声を博す基礎を作った2人のなれそめの始まりにすぎなかった・・

FIN

873■■■■:2017/01/26(木) 17:58:08 ID:F1hcrTYI
以上でクリスマスの奇跡4話 (完結)の
投稿を終わります。

874■■■■:2017/02/09(木) 13:29:54 ID:RTuyQ23Y
とある科学の超荷電粒子砲Ⅲ 16話:4章―①

9月26日 (土)5時

薄暗い早暁の街並みを、いつもように散歩する。
長すぎた夏は終わりを迎え、乾いた冷涼な空気が辺りを包む。
昨夜は、深夜まで祝勝会でどんちゃん騒ぎで結局床に就いたのは午前2時だった。

生体電流を操作し精神の制御ができる能力は便利なもので、
生体電流を操作し2時間死んだように眠り、何事もなく起きる。
(まあ電極までぶっこんで能力者にもなってこのくらいできなきゃメリットないわ)

婚約者にはその恩恵はなく、いまだに死んだように眠っている。
叩き起こすのも可哀そうなので一人で歩く。私は選手兼警備責任者としての
慌ただしい日々が終わり、いつも通りのリズムを取り戻す

過酷な能力開発時も雪が降ろうが欠かしたことのない朝の散歩。現時点の
自分の位置を確かめ、将来への道のりを再確認する場。20分ほどだが、眠気もとれ頭の回転をよくする
儀式として欠かせないもので私の生活のリズムに組み込まれている。

落ち着いてみると、この街の大人の事情に嫌でも関わる自分の立場に気づかされる。
木原の乱の後処理は何も終わっていないのだから。

・・・・・・・・・・
7時

私は、久しぶりにブルームバーグの経済ニュースを聞きながら、朝食
を作り終える。
ECB(欧州中央銀行)が、金融危機対応で量的金融緩和政策とマイナス金利政策を決定した
以外に特に大きなニュースもなく、淡々と作業を続ける。

久しぶりに、朝食に時間をかける。かぼちゃの冷製スープ、オニオンと大根、ニンジンとレタスに軽くオリーブ油を軽くかけたサラダ。そこにいり卵と軽く焼いたベーコン、カットして軽く焼いたフランスパン
(まあささやかな朝食だけどね・・)

パンとベーコンの香りが食欲を誘う。寝坊助の婚約者を起こしにベットルームに向かう
婚約者は、まだ眠そうだが一応起きていた。

「おはよう目は覚めたようね。朝食ができたわよ」
「ありがとな・・でも美琴て本当タフだな・・」
「まあ体力は自信あるからね・・それに能力で最適化できるし」
「さすがだな・・でも無理するなよ」

私は当麻を連れて食卓へ向かう、久々の休日思いっきり当麻に甘えよう。
一山超えた安ど感が2人を包む

当麻が食卓に座り、目を凝らす
「久しぶりに手間かけたね」
「まあ、普通の朝食メニューだけど」
「いやいや、本当に食欲をそそります」

私と当麻は、呼吸を合わせて唱和する
「いただきます」
15分ほどで食事を食べ終え、一方通行の影響で飲むようになったブラックコーヒー
を飲みながら、私は話を切り出す。昨晩突然急きょ決まった出張その話を婚約者に
告げなければならない。私は、コーヒカップを食卓におき、おもむろに語り始める

「当麻、突然なんだけどフランスへ出張することになった」
「え?」
「私もびっくりよ、本当なら木原唯一が主宰するAI兵器開発の国際学会に統括理事会から
直々のご指名で代わりに私が指名されたわけよ」
「だけど・・」
「代わりがいないそうよ」
「そうか・・まあ美琴ならそうかもな」

「学園都市のAI兵器開発部門の元締めは木原唯一だった」
「その穴を埋める存在は私しかいない。そうゆうわけよ」

「でいつからいつまで?」
「現地時間で9月27日から9月29日までよ。明日正午に出国するわ」
「えらく急だな」
(まあ当麻がそう思うのも、無理はない私が聞いたのも昨晩だしな・・)

875■■■■:2017/02/09(木) 13:32:11 ID:RTuyQ23Y
「で・・風紀委員会副委員長はどうする?」
「まあ、AI任せかな、その辺はいつもと一緒」
私は少しいたずらっ子のような表情を作り、話を続ける

「それと・・当麻にはボディーガードを頼みたいわ」
「はあ?美琴にそんなものいるのか?」
当麻が釈然としない顔をする。学園都市のレベルファイブとは軍隊に比肩する存在
一人で戦争ができるレベル・・ましてやその1位。お遊びで本気のレベル3〜4の
能力者1000名を片手間で捻りつぶした存在だ。

私は多少笑いながら話を続ける
「もともとレベル5の出国には制約があるのよ?それに能力の使用は原則禁じられている」
「何枚の誓約書を書かされて、やっと出国ができる」

「え?まあ・・だけど・・美琴は無視するじゃん」
当麻はイギリスやアメリカで私が少々実力行使をしたことを指摘している。
後で大量の始末書を書かされたことは当麻はしらないだろうけど。

「前わね、緊急事態だったし」
「それに・・あの時と違って今回私はただの科学者としての身分・・」
当麻が、まじまじと私の顔を見つめる。

「どうせ、刑法36条の正当防衛とか言うつもりだろう?」
ふふふふ・・・私は声を出して笑い始める。

「当麻わざと言っている?」
「え?」
「まったく・・そんなの建て前に決まっているじゃない」
当麻がきょとんとしている
「え?」

「婚約旅行したいだけよ・・実際は」
当麻が申し訳なさそうな顔で私をみつめる
「ああ・・そうか御免・・」
私はわざとらしく溜息を聞こえるようにつく

「ふ・・まあもう少し乙女心の機微に敏感にならないと当麻は砂鉄剣か電撃の槍で刺されるわよ」
当麻が苦笑いする
「ああ怖い怖い、そのうち殺されそうだ」

「馬鹿ね・・そんなことするわけないじゃない」
「愛しているからね」
「俺もだ・・」

私は軽口をたたきながら、化粧を整え、出立の準備をする。出張前の準備をするために

玄関で軽くいつもようにキスをかわし出勤する。
・・・・・・・・・・
9時

私は、久々に研究所へ出勤する
約1週間ぶりの出勤だ。実際には、ウエアブル端末を脳に直接脳につなぎリアルタイムで
研究員の研究状況や体調もデータで把握はしているが、やっぱり顔を見たい時もある。

それに今日は、私にとって大事な日でもある。
唐突な人事異動なのだから。

「所長1週間ぶりに出勤しました」
「いや悪いね、フランスなんかに付き合わせて」

「いえ私たちの研究成果が学園都市幹部に認められた成果ですから」
「木原唯一も失脚したしな」
「ええ・・その分面倒なことも増えますが」

「で・・今日は」
所長は立ち上がり机の上の辞令を取り出す
「御坂君へ新たな任務を付与しなきゃな・・」

「御坂美琴:9月26日付けで、統括理事会兵器開発部開発主幹に任ずる」
「それと当面はここの副所長は兼務ね」

「え?」

876■■■■:2017/02/09(木) 13:34:21 ID:RTuyQ23Y
私は絶句する。統括理事会兵器開発部開発主幹?
(まあ確かに・・木原唯一の後任だけど・・いきなり?)
(14歳の若造がやる仕事じゃないでしょ)

所長がにやにや私の顔を眺める。
「まあ御坂君も疑問に思うのも無理はない」
「実は私も昨日付で開発部長になった」
(なるほど・・論功行賞か・・)

私は頭の中で統括理事会の権力抗争の見取り図を描く。
(統括理事会の中で親船統括理事代行が、木原幻生派を重用するという話か・・)
(その子飼いの所長と私を重用すると・・)
(まあ、学園都市のパワーバランスなんかどうでもいいけどね)
まあ、統括理事長でない今所詮は宮使えの身、ありがたく受けることにするか・・
私は、常盤台で叩き込まれた完璧な作法で、恭しく辞令を受理する。

「学会の出発前に親船統括理事代行に会わなくてよろしいですか?」
「いや・・帰国後でいいと本人から聞いた」
「親船さんは、能力者の人権について殊の外、考慮されている」
「本来なら、まだ14歳の御坂君にこれほどの重責を負わせることについて、
代行も忸怩たる思いだが、現状は余人に代えがたいそうだ」
「そうですか・・」

所長は私の顔を眺めながら、少々含み笑いを籠めて話始める。
「ところで、婚約者さんも連れていくそうだが」
「ええ、欧米では夫婦同伴というのがレセプションの決まりですから」
「まあそうだな、南仏はそろそろ秋だしな。まあ婚約旅行を楽しみたまえ」

私は、所長に黙礼をし、話を切り上げる。
急遽決まった、出張前にどうしても済ます行事があるのだから

・・・・・・・・・・・・・
10時 風紀委員会本部

「御坂さん、おはようございます」
私は、ほとんどこの部屋にいないので、実際の主はこの花飾りの女性と言っても
過言ではない。その部屋の実質的な主に私も返礼する

「おはよう、初春さん」
「あれ・・でも今日は休みじゃないの?」
初春飾利ははきはきと返答する
「御坂さん・・犯罪者に休みなんてないですよ」
生真面目で、なおかつ情報システムの構築に全精力を注ぐ彼女は、土日も関係なく
大覇星祭のさいには、ほぼ泊りがけで捜査の管制指揮をここでとっていた。

「まあそうだけど、ほぼ完全オートなシステムだからログ解析と、ウイルスチェックだけ
してくれればもう十分よ。ほぼ1月運用して初期不具合も解消したでしょう?」
「もう一覧端祭までは、1日5分間のリモートコントールでいいわよ」
「まあ釈迦に説法かもしれないけど」

私は、この糞真面目で職人肌の彼女に言い聞かせる。まだ13歳の女の子、少しくらい、気を楽にしてほしい。それに大学院へ入学した私と違ってまだ高校入試だってある。この
能力偏重の学園都市でレベル1の生徒が、進学するのは結構大変な事だ。

風紀委員活動は確かに内申点の底上げになるが、それでもレベル3以下ではきつい、ましてや恐らく彼女が行きたがっている長点上機では・・今のままでは、学力点・・特に語学は大丈夫だろうか?まあ英語くらいは大丈夫だろう。
でも第2外国語はどうだろう?フランス語が今の状況で手が回るだろうか?

名門校の受験はレベル1、2の学生にとってはたやすいものではない。能力値の下駄
がない彼女には相当つらいはず・・だから彼女には早く日常へ復帰してほしい。
だが・・彼女は私の想いとは違う返答を始める。

「御坂さんが今、私の成績や学校を気にされて、仰ったことは感謝します」
「ですが、私はこれに命をかけています。」
普段は、穏やかな彼女が心境を吐露し始める。私はそれを黙って聞く。

「私は・・実戦で司令官ができる御坂さんと違って、これしかできません」
「国際学会を主催できるほどの学識も、ほぼすべての言語を流ちょうにしゃべること
も、できません」
「御坂さんが構築したこのシステムを一から立ち上げるなんてこともできません」

877■■■■:2017/02/09(木) 13:37:06 ID:RTuyQ23Y
「だから、御坂さんが私に預けたこの子を完全なものにさせてください」
「私はこの子に人生をかけています」

正直、過大評価もいいとこだ。
(学園都市のありもののリソースを繋ぎあわえた、アレに人生をかけるなんてね・・)
(だけど・・初春さんは本気だ・・)
私は、腫物をさわるように慎重に言葉を選ぶ
「初春さんありがとう、でも無理はしないでね」

「ええわかっています」
私は、初春さんの表情を確認し、さきほどの激情が収まったことを確認し、話を続ける
「初春さんが倒れたら、佐天さんやご両親に申し訳ないわ」
「だから絶対無理しないで、私だって力になれるから」
「御坂さんありがとうございます。」

初春さんの少しにこやかになった笑顔を確認し、私は離席する。
他に何か所か回らなければならない私は初春さんのサインに気が付くことはなかった。

だが、私はもう少し、初春さんの立場で考えるべきだったかもしれない。
もの見え方や視線が立場によって異なり、その認識のずれがもたらす問題に
だが私のその時点でその問題に気が付くことはなかった。

それが引き起こす問題の深刻さに
・・・・・・・・・・・・・
12時 常盤台中学 談話室

私が社会生活を営む上で必要な資金を拠出するために盟友である食蜂とはどうしても
会う必要があり、いつもようにここで幕の内弁当をテークアウトして食べる。

味の事はよくわからない。ただようは時間の節約。ある程度の品質と栄養バランス
をしっかり管理栄養士が判断している点で安心だ。

まあ、アウトソーシングよね。
時間は無限ではなく、人生は有限。専門家にある程度権限を譲渡しなければならないこともある。私は、統括理事会の兵器開発の実質的な長になった以上、今の広げすぎた手を縮小して、非中核事業を他者へ引き渡す必要がある。

その一つが、投資ファンドの実質的な共同経営者の地位。私はそれを、全部食蜂へ引き渡すつもりを固めている。もうちょっとした国家の年金ファンドに匹敵するほどの規模のそれを、片手間でやること自体に無理がある。

学園都市の幹部、殊に統括理事会や、常盤台の父兄、つまり日本の政財界に巨大なコネを
持つ食蜂なら私の資金も含めてうまく運用してくれるだろう。
所有と経営の分離は近代資本主義の原則、私は一株主の立場として経営からは身を引こう。

食蜂が幕の内弁当を食べ終え、ナプキンで口を拭きながらしゃべり始める

「御坂さん、正気力ある?投資ファンドの経営から手を引くなんて」
「ええ?ああ・・まあコンプライアンスの観点でね」

「統括理事会事務局入りするからァ?」
「ええ利益相反取引とかいわれると面倒だしね」

食蜂のしいたけのような目が、いたずらぽい輝きを発し始める
「御坂さんも変わったわね。権力者になりたがるなんて・・研究と金さえ
あればそれでよかったんじゃないの?」

「別に権力に色気があるわけじゃないわ」
食蜂が愉快げに笑い始める
「権力は目的のための単なる手段とでも」

私は食蜂に聞こえるように溜息をつく
「私は不幸な婚約者を不幸から救いだけよ。究極的にはね」

「え?」
食蜂があっけにとられた顔をする。が、しばらくして私の意図を理解したかのように
少し真面目な顔に変わる。
「なるほど、彼の不幸力の根を断ちたいと?」

私は苦笑いを始める。
「まあ、私の力なんて微力だけどね」
「せめてこの街だけでもきれいにしたいわ」

878■■■■:2017/02/09(木) 13:40:26 ID:RTuyQ23Y
食蜂が音と立てて笑い始める
「御坂さんて難儀な性格ね、御坂さんならなれないものなんてないでしょ。
そうゆう面倒な事をせずに世俗的な成功を求めるだけなら」

はっきり言ってそんなものならもうすでに達成済みだ。
金、地位、研究成果、14歳の少女では過分すぎるほどのそれを
だが、・・・

「そうね・・でもアイツは、上条当麻はそれで止る男ではないでしょ」
「この街が非人道な街であり続ける限り、アイツは不幸であり続ける」
「私はアイツを幸せにしたい」
「誰よりも不幸や不条理を許せない目の前の不幸な奴すべてを救おうとするアイツをね」
「だから私は少しでも内側からこの街を変えたい」

私は水で飲みながら話を続ける。
「簡単な話じゃないでしょ。実験動物と学生を呼んで憚らない
研究者、それを放置し、わけのわからないプランを推進する
独裁者に取り入り得体のしれない実験を、壁に囲まれた閉鎖
空間でマスコミの監視もない、親御さんのけん制もない環境で
ひそひそ行う、いかれた研究者の意識を変えるのは」

「それが私は微力という本当の意味」

食蜂が面白そうに私の顔を眺める
「で、微力と言いはる学園都市1位の御坂美琴さんは
この街をどうしたいの?」

そんなのは簡単な事だ。私ははっきりと言う。
「上条当麻が右手で幻想を壊す必要がない学園都市にしたい」

「で?・・統括理事長でもなりたいの?」
「それが上条当麻を幸福にできるならね・・どんな手も使う。
手段は選ばない」
食蜂が溜息をついて語り始める。

「そうね・・私も旗幟を鮮明しなきゃないかな・・」

食蜂が私の手をしっかりと握る。うんちで握力が25KGくらい
しかないはずなのに
以外にしっかりと握ってくる、まるで決死の覚悟でもあるかと
告げるように

「美琴、私の命と派閥の力を全部貴方に捧げる」
「ありがとう、操折。あなたの力を無駄にしない。」

私と食蜂は立ち上がり、がっちりと抱擁を始める。

人の心理を操るエキスパートと、機械・兵器のエキスパートが
がっちりと手を握る
これ自体がささやかなでも重大な転換点かもしれない。

「上条当麻を、一緒に幸せにしましょう」
「私達の力で」

こうしてささやかだが、重大な意味を持つ同盟が成立し、私は
食蜂に深々と礼をして退出する。顔さえ覚えてもらえない少女は、それでも
彼を信じて、その婚約者である
私ともともに立ち上がる。

・・・・・・・・・・・・
16時

私は、学会出席前に必要な挨拶をすまし、自宅へ戻る。
婚約者はリビングでPCの端末でせっせと、学校の課題をこなしている。
だいぶ、学習も慣れてきたのだろうか、動作が洗練され板についている。
その光景が微笑ましい。
私は婚約者がやる気を出してくれたことを素直に喜ぶ。

「ただいま」
「おかえり」
「どう?はかどっている」

「ふ・・、まあ徐々にですよ・でも少し勉強も楽しくなったかな」
「よかった」

「でもさ・・前に美琴が言った通り小さな結果積み重ねは大事だな」
「そうね。どんな小さな一歩でも自発的にやることが大事よね」

「まあそれも美琴の開発したアプリのおかげだけどな」

879■■■■:2017/02/09(木) 13:45:02 ID:RTuyQ23Y
「それも当麻がやる気をだしてくれなきゃ意味がない。
当麻が一歩前に進んでくれた」
「それがどんな小さな一歩でもね」
「だから私は全力で当麻を支える」
私は立ち上がり、こぶしを握り、上条当麻の顔を見つめる。

「美琴・・」
当麻がほほえましい表情を作り私を見つめる。
「ああそうだな、2人で不幸を卒業することにした」
「小さな幸福を積み上げ、幸福のためを作るだったな」

私は、当麻の言葉にうなづき、さらに言葉を繋ぐ。
「そう。ヒロインを救う主人公が不幸だなんて、シャレにならないわ」
「ジャンヌ・ダルクのように一つの国家を奇跡で救い、死後聖人になっても、処刑されて
は意味がない」

「私は、当麻にはガンジーやマンデラのように最後は成功し、盛大な葬式の元死んで欲しい」
「私は、そのために必要な事はなんでもする。能力・人脈・財力・科学知識すべてを捧げる」
「だから・・ともに荒海へ漕ぎ出そう」

私と当麻は立ち上がり抱擁を始める。無言で2人の体温を、吐息を、鼓動を感じながら
(もう言葉なんていらない)
熱い何かが、まるで生体電流の奔流のように私の体を貫いていく。
(やっぱり私にはコイツしかない。それは理屈じゃない)

だから、・・私はこいつを、上条当麻を何があっても支える。

限界なんて知らない、意味ない、この力が光り散らすその先まで

続く

880■■■■:2017/02/09(木) 13:49:18 ID:RTuyQ23Y
以上とある科学の超荷電粒子砲Ⅲ 16話 4章―①の投稿
を終わります

881■■■■:2017/02/11(土) 00:18:21 ID:3blkAcc6
ここも投稿者減ってるけどガンバって最後まで書ききってくださいね
陰ながら応援してます

882■■■■:2017/02/14(火) 18:11:39 ID:9vY1CdV.
感想ありがとうございます
完結まで頑張ります

883■■■■:2017/02/14(火) 18:22:41 ID:9vY1CdV.
とある乙女のバレンタインデイ・キス 1話

私は忘れていた。
記憶から抜け落ちていた。恋する乙女にとって最も重要なあの日を

これは、明らかなチョコレートメーカーの戦略に出遅れたうぶな、恥ずかしがりの少女の
決死の告白とそれに伴う大騒動を書き残したものである。

2月13日(月) 午前7時

(正直眠い・・)

私は、寮生の前であくびを噛み殺しながら、急いで朝食を食べる。

12月の熱波事件、クリスマスの最後の審判事件で壊滅的な大損害を
受けた学園都市。その傷跡は決して浅くはなかった。

幸い学びの園は、熱波事件の教訓で私と食蜂が防備を固め、クリスマスの最後の
審判事件での打撃を受けず、年明けに授業を再開することができた。

私は、上条当麻と命を懸けた果し合いの末、彼の説得に応じ、AAAを手放したが、空白
部門を除き、AAAの単なるAIM拡散力場の投射装置としての機能を利用した駆動鎧と
して建設工事に活用する装置へ改良し、9割以上破壊された学園都市の再建事業のお手伝いを行った。アレイスターの隠し遺産約100兆円を利用し、数万もの土木用駆動鎧を効率的に運用することで、急ピッチに再建工事は進み、10年かかると言われた再建工事は
2月10日(金)に無事完了した。

ローラの原型制御崩しによる暴露戦術により、アレイスターの過去の非人道的な実験のほぼすべてが明らかになり、魔術師、反科学原理主義者の特攻攻撃を受けた最後の審判事件。

その中で唯一生き残った学び舎の園。私は多少なりともそこへ避難した
200万人を守り抜くことに貢献できた・・とは思う。

だが・・上条当麻の最後の決戦に、彼一人を生かせたこと。あの子とともに、見守ることしかできなかったことが、釈然としないわだかまりを作ったことは事実。

もう周回遅れではなかったとは思う。原型制御を外され、この世の真の姿は分かって
いたとは思う。だが・・AAAの空白部分は理解できても、結局彼の心を私は理解できて
いたのだろうか?そんな空虚な気持ちを補うように必死に働いたのだろうか?

私は、多くの学び舎の園の学生とともに、まるで何かにとりつかれたように再建工事を
成し遂げた。・

だが・・なぜか・・いや・・意図的にか・・彼の事を・・忘れていた。

無力な自分に触れる事を恐れていたのだろうか?
それとも、彼の真の姿に向き合うことができなかったのか?
それは私にはわからない。だが、約40日本当に忘れていたのだ。

・・・・
食後、疲れの溜まった私は5分ほど食堂でうとうと眠っていた。

疲労というよりは、成し遂げた達成感による、安心感なのか心地のよい疲労感。
張りつめた糸がまるでぷっつり切れた、安ど感なのだろう。昨日は16時間以上
寝ていた。それでも・・まだ眠気は取れない。

意思の力で起きようとするが、体がそれを拒否している感じだ。
(はあ・・こんなことなら、生体電流を操作して無理やり疲労を取ればよかった・・)
私は、ここ2日の選択を悔やむ

私は生体電流を操作することで、強引に疲労を解消することはできる。
現に正月以降の復興工事では、ほぼ2時間程度の睡眠を40日続けていた。
それを強引に生体電流操作という力技で乗り切った。

でもすべてが終わった今それをする気にならなかった。私は自分の体力には過信というべきほどの自信があり学校では化け物級の体力と呼ばれるほどだから、普通に乗り切れると思っていた。だが体の隅々までたまった疲労は想像以上だった。

結局丸2日休んでも全く体調が回復しない。
(所詮は・・生身の女子中学生か・・ああ・・能力使えばよかった・・)
(本当・・今日は休みたいけど・・いっそ風邪ひいたことにして休むか・・?)
私は、ずる休みを思案し始める。

884■■■■:2017/02/14(火) 18:24:24 ID:9vY1CdV.
(だけどな・・今日は復興式典だったしな・・一応学生代表なんて大役を
しなきゃないし・・)

結局は、周囲の期待や要望に流される私は、ずる休みという選択を拒否し、のろのろと
朝の支度を始める。
(ああ・・面倒くせ・・・食蜂に押し付ければ・・な・・)
私は、式典で生徒代表を拒否し私に押し付けたあの女の顔を思い出し苦笑いを浮かべる。

確かに、学園都市復興事業で、事業計画、施工管理、駆動鎧の作成・制御・運営に貢献したことは自分でも達成感はあるし、誇りには思っている。

自分は多くの学生の先頭には立ってはいた。だけどそれは電子制御系の最高の
能力者として当然のことをしただけにすぎないのでは?なんて自分では思っている。

あの上条当麻は、右手ひとつで、プランを破壊されたことに逆上し、「すべて」を壊そう
とした独裁者を完全にぶち壊した。そんなことは彼一人にしかできない。

( はあ‥結局は蚊帳の外か・・)
負の感情に包まれそうになる。

最後の審判事件の流れ弾の襲来から学び舎の園へ避難した約200万人の
避難民を守ることくらいしかできない。それ以上の事は・・私にはできなかった。

だけど・・無力感にさいなまされる必要なんてない
そんなことは分かっている。私は一生懸命自分にできることはしたつもりだ。

誰にも後ろ指刺されることもない。市民を暴虐から守り抜き、そして灰燼に帰した学園都市
を再建した。これ以上、14歳の女の子に無慈悲な神は何を望むのか?

そんなとりとめもない非生産的な後悔の念を頭に抱いていた私は、縦ロールが似合う
知り合いの問いかけによって目を覚まされた。

「御坂さん、どうかされましたか?」
「え?ああ・・最後の審判事件を思い出していた」
「まだうなされますか・・?」
「ええ・・でも私は無我夢中だったけど、他の子のほうがつらいんじゃないの?」
縦ロールさんが首をかしげる
「でも御坂さんと食蜂さんのおかげでこうして生きています」
「は・・本当ね・今もこうして自分が生きていることが信じられないわ」

私は、誰にも知られることなく、一人でこの宇宙そのものを崩壊から救った上条当麻を
思い浮かべる。だが・・そのことを知っているのは、数人くらいしかいない。
「でも・・御坂さんはすごいですね・・本当、200万人を生物兵器や隕石の襲来から
守り抜き、再建工事の陣頭指揮をとられて・・」

上条当麻の功績は・・すべて伏せられており学園都市でも限られたものしか知らない。
(私なんてたいしたことはしてないけど、・・でもアレは知られない方がいいだろうな)
私は一般人の無責任な会話に適当に話を合わせる。

「まあ、でもみんなの協力のおかげよ・本当」
縦ロールさんは、にこやかに話しを続ける
「御坂さん、明日のバレンタインデーに女王が御坂さんの慰労会を開くのでぜひ出席していただけませんか?」

私は、すっかり仲良くなった食蜂の側近に、肯定の合図をする。
「え?ああそうね。じゃ・・あとで食蜂によろしくね」
目もすっかり覚めたが・・私はある単語を思い出す・・
「バレンタインデー?」
「え?御坂さんまさかお忘れでした?」
「ああ・・そうか・・」

私はすっかり忘れていた。あの男とともにチョコレート会社の策略で始まった
行事の事を・・
(くそ・・出遅れた・・なんの準備もしていない・・)
私は、慌てて部屋に戻ろうとする縦ロールさんを呼び止める
「悪い・・急用を思い出した・・慰労会はパスするわ・・」
縦ロールさんが悲しそうな顔をする。
「え?ですが・・主賓の御坂さんが来ていただかないと・・」

正直悩ましい・・少し前ならともかく、今は食蜂とは良好な関係を構築している。
あの木原唯一の乱以降、盟友のような関係になりつつある。そんな食蜂の顔に泥をぬる
事態は避けたいところだ。

885■■■■:2017/02/14(火) 18:26:39 ID:9vY1CdV.
(はあ・・なまじ立場とか、目立つとつらいものね・・公的な立場を持つという事は)

正直フットワークのよさを維持するために帰宅部や孤高を維持していたが、一人で対処
できない異常事態に対処するために、派閥のようなものを作り、食蜂と手を組みかなり濃密なネットワークを形成した自分には無視できないしがらみがある。
(はあ・・・めんどくさ・・)
(しょうがない・・狙いは見え透いているがあんな奴でも今は「親友」だ)

私は、折衷案を提示する。
「そうね・じゃ・・途中で抜けると伝えて」
縦ロールさんが明らかにほっとした顔をする。
「御坂さん本当ありがとうございます。では女王に伝えますので、
明日は宣しくお願いします」

( ああ・・中途半端にえらくなると大変だな・・)
学園都市を救ったヒロインなんて実体に合わない過大な肩書が独り歩きを始め、身動きが
とれなくなりつつある自分。公的な立場を今まで嫌ってきたがそれが自分を縛る。

(昔のように気楽になりたいなんて・・無理だろうな・・)

本当憂鬱な気分になる。自分が望みもしない、
学生のトップに祭り上げられ、食蜂とともに権威が失墜し、親御さんの信頼を失った学園都市の最後の希望としてコテコテに飾りつけられる。アレイスターの負の遺産が、その呪縛が私の進路をふさぐ。
(はあ・・たかが客寄せパンダならよかったけど・・正直救世主扱いはつらいわ・・)

だけど・・この崩壊した街がなければ、能力者は生きられない
だから・・私は彼との約束を守る・・「御坂美琴とその周りの世界は自分で守る」という
約束を

私は気を取り直し、背筋を伸ばし、顔を叩く。
「さあ・・御坂美琴・・自分の勤めを果たすのよ」

なんとか、学生たちの生存本能だけでかろうじて生き残っているこの街を支えるために
私は微力を尽くす。
・・・・・・・
親船統括理事長代行と学園都市の最高幹部が列席する中の復興式典はしめやかに
執り行われた、灰燼に帰した学園都市・・だがわずか40日で復興させた
ボランティア・・殊にその中心で尽力した私は最大限の賞賛を浴びた。

だが、本当に賞賛を浴びるべき存在の彼は賞賛を浴びることがない。
その現実に私の心は揺れ動く。

だが、公式には自殺したアレイスター・クロウリーが
実際には宇宙ごとこの世界を抹殺しようとした事実とそれを防ぐため右腕一つで特攻
した彼の功績は永久に表には出ない。

私は叫びたい・・本当に祝福されるべきは上条当麻だ・・
だが・・彼は・・その彼は・・

私は不意に思い出した。なぜ・・上条当麻を愛していた私が、莫大な感情で闇落ち
すらしかけた私が彼を忘れていたか・・

上条当麻は・・・昏睡状態になったことを・・その事実に耐えられず、私が彼を忘れた
事を・・

・・・・・・・・
私と命を懸けた果し合いの末、私を黙らせ完全に覚醒した上条当麻は
アレイスターとの最終決戦の後、身も心もボロボロになり、昏睡状態になった。

まるでHPを使い果たしたように。シスターインデックスの回復呪文も全く効力を示さず、蛙顔の医師の治療も徒労に追わり、すべてを終えた彼はすやすやと笑顔を浮かべ眠っている。

その光景をフラッシュバックのように思い出し、あのシスターが泣き崩れた
光景がまざまざと脳裏によみがえる。なぜか・・いやその光景に耐えられなかった
私は、地獄のような、隕石や異形の化け物どもが、学園都市を蹂躙するそんな
状態に耐えた、雷神になり、身をもって盾になったそんな私が、上条当麻の凄惨な
その姿に耐えられず、気絶したことを今思い出す。

(アイツはどうしているだろう?・・)

886■■■■:2017/02/14(火) 18:28:52 ID:9vY1CdV.
常盤台の仲間達と表彰を受けながら、私はアイツの顔を思い浮かべる。
傷つき、しかも賞賛されることもない、アイツ。
75億人類のすべての業をしょって神降ろしの術式を飲みつくした上条当麻
その真相を唯一見た私がなぜかその事実を失念していた。
なぜだろう?本当に40日前の自分が理解できない。

まあいい・・しでかしたことはしかたない。私は、ひな壇の学園都市のお偉方を
眺めながら、挽回計画を立て始めた。ほかの子達に勝つために・・
・・・・・・・・・・・・

式典がつつがなく終わり、常盤台の理事長や校長、教職員の賞賛を受けつつ
私は式場を去り、忘れてしまった上条当麻へ会う準備をする。

だが・・上条当麻は信じ難いことにまだ昏睡しながら昏睡中だった。

昔の、12月以前の私と違うことは手段を選ばなくなったことだ。
学園都市復興ボランティアの長のような地位に祭り上げられた私は、書庫や
軍事クラウドへのフルアクセス権を有している。そんな私にとって一学生の
所在を掴むことなどたやすい。書庫にアクセスし、上条当麻の居場所を掴む。

同時に病院のサーバーにアクセスし、電子カルテも読み込む。
(いまだに・・原因も不明?あのヘブンス・キャンセラーが?)
私は信じがたいアイツの惨状に吐き気を覚える。

正直昏睡状態なら彼に会ってもしょうがない。だが・・
( やっぱり顔を見たい・・)数少ない真相を知る、もっとも彼に
近い人間として・・

・・・・・・・・・・・・
私は、あらかじめ掴んでいたアイツの病室へ急ぎ足で進む。

アイツは病床へ横たえ相変わらずスヤスヤ眠っている。蛙顔の医師の話では、いろいろ覚醒措置を試すが、カルテに書かれている通り起きない。ということだ・・

まるで上条当麻の魂が現世への復帰を拒否しているかのようだ。
心電図、血圧、脈動にはなんら問題なく、意識だけが現世への復帰を拒んでいる
そんな感じだろうか?
(ふふ・・だらしない顔・・)
まるで安ど感に包まれた彼は本当にすこやかに、すやすや眠っている。
(不幸な彼を現実へたたきおこす権利は私にあるのだろうか?)

私は反問する。アイツは本当に起きて幸せになれるだろうか?
不幸しかしらない上条当麻、その苛烈な人生にアイツは、アイツの魂はもはや
耐えられなくなっているのではないか?

だとしたら・・そのままアイツが自分の意思で起きようとするのを待つのが正しい
選択じゃないか?そう思う。

私はアイツの見舞いに持ってきた日持ちのきくチョコ・クッキーを机の上におき、そろそろ
完全下校時間も近いので帰ろうとする。

だが・・思わぬ声を聴き足を止める
「御坂美琴ちゃんですか?」
「あれ・・月詠先生?今日は・・」
身長135cmの小さな博識の教師を私は見つめる。
「上条ちゃんは私の大事な生徒です、なので毎日通っています」

「そうですか・・」
「上条ちゃんは、御坂ちゃんを大変気に言っていました。アイツはずごい、アイツには
何度も助けられたと」
(へえ?アイツがねえ・・私の事をそんなに評価していたんだ・・意外だな・・)
思わぬアイツの高評価に私は顔にほっこり笑顔を浮かべる。
だが、その後の月詠先生が語った思わぬ事態が私を動揺させる。
「正直・・上条ちゃんは今微妙な状況です」
「へ?」
「上条ちゃんは今留年の危機です」

「へ?・・でも彼は最後の晩餐事件の被害者では・・」
「ええ他の真面目に通っていた子には何ら問題はありません」
「ですが、上条ちゃんはもともと熱波事件の前から留年の危機でした・・」
「私は、上条ちゃんを守るためにいろいろやっていました。ですが・・今のままでは
、もうかばいきれません」
私はおかしくなる。75億人を3度も救った彼がたかが出席不足だけで断罪される。

887■■■■:2017/02/14(火) 18:29:49 ID:9vY1CdV.
そのしょうもなさに、呆れる。正当に評価できない大人とはいったいなんだろう・・
「ですが・・上条当麻は多くの事件で人類を・・・」
言いかけて私は口噤む・・人類を抹殺しようとしたアレイスターの所業は触れる事さえタブー私はそのことを改めて思い出す。
月詠先生はさらに痛いところ突いてくる。
「御坂ちゃんは、学業成績はどうですか?」
「まあ・・悪くはないとは思いますが・・」

「奥ゆかしいですね・・御坂ちゃんは・・ものすごく良いの間違いではないですか?」
「御坂ちゃんは人助けと自分の立場をちゃんと両立させています。しかも文句のつけようがないレベルで」

「ですが・・」
「ええ・・、ですからここからは私のお願いです」

「御坂ちゃんに上条ちゃんを託したいのです・・」
月詠先生がロリ顔に真剣な表情を浮かべる。
「少し具体的な話をしましょう・・正直期末試験で80%以上の評点がないと
留年させるしかありません」
「まず・・上条ちゃんを叩き起こし、しかも後2週間で80%の評点を取らせる
そんなことが可能なのは学園都市で御坂美琴しかいない・・とそう思ったわけです」

「ですが・・」
「御坂ちゃんは上条ちゃん大好きですか?」
まるで私の恋心などお見通しなようにみかけ10歳のロリ教師は話を続ける。
「私は残念ながらクラスの担当にしかすぎません・・ですが・・御坂ちゃんはどうですか?」
月詠先生が深々とお辞儀をする
「今上条ちゃんを救えるのは御坂ちゃんしかいません」

「月詠先生顔を上げてください」
「私は上条当麻に何度も命を救われました。ですから先生に頼まれなくても、私は上条
当麻を助けるためになんでもします・・ですが・・・」
「正直、あのシスターがいては・・無理ではないですか?」

「御坂ちゃんはなかなかするどいですね」
「そういうと思っていました。上条ちゃんが危機状態を脱するまで私が預かります」
(もう受けるしかないだろうな・・アイツは私の命の恩人だ)
「分かりました、微力を尽くします」

私は月詠先生に深々とお辞儀をして退室する。
まずはアイツを叩き起こす、そんな決意を秘めながら

私は、冥土返しの医師から上条当麻の症状を聞き、すべきことを頭に描き始める。
恐らく生半可ことでは起きないだろう。

普通の医学的な方法では無理だ。
しかもインデックスさえ方法を思いつかないとなると・・

(食蜂でも使うか・・それでだめなら・・・)

私は、アイツを、アイツの留年回避のためになんでもすると誓う
そして、・・その手段は選ばないと・・
まるでこの世を捨てたアイツを、この世へ戻すために・・私は走り始める。

2話へ続く

888■■■■:2017/02/14(火) 18:30:42 ID:9vY1CdV.
以上とある乙女のバレンタインデイ・キス 1話
の投稿を終わります

889■■■■:2017/02/17(金) 19:46:12 ID:xVLGpr5E
歴史上では高卒や中卒で総理や社長になった人とかもいるし
上条当麻の実績や能力や学園都市暗部での扱いなどを考えると
中退でも金や職などには困らないんじゃないかなあ。

890■■■■:2017/02/24(金) 19:03:00 ID:XuQ7L.6g
感想ありがとうございます
おしゃるとおり人間の価値は学歴では測れません

が、学歴のない人間は実際には苦労するのは事実だと
私は思います

891■■■■:2017/02/24(金) 19:05:01 ID:XuQ7L.6g
とある乙女のバレンタインデイ・キス 2話

2月13日(月) 夕刻17時

私は、食蜂に会う前に大丁の提案を纏める。
あの女にはノープランで会うのは危険で誘導されるのも嫌なので
こっちペースで進めることにする。
正直食蜂の力を借りるのは癪だが、他に手段もない以上
選択も余地もない。そもそも上条当麻はなぜ昏睡しているのか?
心電図にも脳波も異常もない、つまり自分の意思で起きることを拒否している。
そういう結論になる。

だとすると、叩き起こすというよりは、アイツがこの世へ復帰する意思を促すよりほかに
ないという結論になる。クリスマスの最後の審判事件とそれ以降の学園都市の復興事業
で気が付いたことだが、アイツのアレイスターによって作られた不幸と、オティヌスとの
対峙で無限ともいえる期間繰り返された一方的な虐殺、アイツはその不条理に耐えた。

私は怒りがふつふつ沸いてくる。何がこの世の基準点だ。何がこの世の審判者だ。
だけど、それは自分にも突き刺さる。自分も含めて誰もアイツの苦悩を理解できていな
かった。アイツの右手を過度に信頼し、知らないうちにアイツなら何があっても大丈夫
と思っていなかったか?

そんな周囲の過度の、過信とも言うべき信頼が知らず知らずのうちにアイツを追い詰めて
いたのではないか?後悔の念が私の脳裏をよぎる。もっとアイツに触れ、アイツの悩みに
アイツの立場に立って考えることはできなかったか?

だけど、覆水盆に返らず、起きてしまったことはどうにもならない。
これから、自分の本当の気持ちを伝えて行こう。そのためにはどんな手を使う。たとえ
自分が苦手な奴だろうが、そんなことは関係ないのだと、自分を納得させる。
・・・・・・・・・・・
私は再建された常盤台中学の生徒会室にいる。食蜂が副会長で私が会長だ。
あの女は、私を焚き付け、「この非常時には御坂さんの野蛮力が必要なの」
なんていい半ば強引に生徒会長に据えた。
(まあそのおかげで金集めもボランティア集めをはかどったのは事実だけど・・)

私は、この女が苦手だ。どちらかと言えば余り関わりたくない。ドッペルゲンガー事件
以来腐れ縁になりつつあるがその関係性にはさほど変わりがないと思っている。
だが、・・上条当麻の事なら話は別
それに、これはおそらく私だけでもダメ、食蜂だけでもダメだろうから・・

私は、会長席に座りながら対面の女に話かける。ほかの委員は席を外している。
「慰労会の件、ありがとうね」
私はとりとめもない世間話から話を始める。
「で、今日はどうゆう風の吹き回し、御坂さんからわざわざ私に依頼ごとなんて・・意外力
一杯ね」
私は席が立ち上がり、防弾仕様の窓から外を眺める。改装時に、木原唯一襲撃や熱波事件
の教訓から、学園の主要部分は核戦争を想定した作りへ私が改装した。

「アンタの事だから知っているだろうけど、上条当麻が昏睡状態なのよ」
食蜂は笑い始める。
「え・・まさかァ知らなかった?」
「意外?正直必死だったのよ・・200万人の家を失った学生や教師のためにこの街の日常
を取り戻す活動でそれ以外の周りが見えていなかった」

「そう?・・」
私は自分の古傷をえぐりそうな食蜂に待ったをかける。
「それ以上は言わないで。ええ・・私は彼の悲惨な姿に心を閉ざしていたかもしれない」

それまでいたずらっ子のようにクスクス笑いをかみ殺していたあの女の表情が真剣なものに変わるのを私は見逃さない。

「それでエ・・御坂さんは今さらどうしたいの?」
「彼は科学力的な方法では覚醒しないわよ。もちろんオカルト力でさえもね・・」
私は溜息をつく。まったくこの女の情報網には適わない。いつも私が知らない情報を
どこからかかき集めて私を焚き付ける。
(それでも・・コイツも結局常識の範囲を超えない・・)

「ええ・・普通の方法ならね・・」
私は、低音で少しドスを効かした声に変える。
「だけど・・アイツを殺す気でやればどうかな・・」
食蜂がぶるぶる震え始める
「正気?」
「このままでは・・アイツは、人生を踏み外すわ・・人助けの末にアイツが人生をふみはず

892■■■■:2017/02/24(金) 19:07:02 ID:XuQ7L.6g
すような事は絶対あってはならない」
「だから私がアイツを叩き起こす」

食蜂が驚いたような半ば呆けた顔で私を見つめる
「本気なのね・・」
「ええ、大嫌いなアンタに頭を下げるほどには・・ね」
私は食蜂へ深々と頭を下げる。

「残念ながら今回も微力な私の力では、上条当麻を正気に戻すことができない」
「だから今回も食蜂操祈の全力を貸してほしい」
2人の間には微音の空調音のみしか聞こえない。

沈黙を破り食蜂が声を発し始める。
「御坂さん・・頭をあげて・・御坂さんは簡単に頭を下げてはいけないわ・・」
「私を変えた彼のことだもの、私も微力を尽くすわ・・」

あの飄々とした食蜂の目から涙が零れ落ちていることを私は確認する。
(食蜂も・・私と同じように彼に救われた一人だから・・)
「ありがとう」
食蜂は目から流した液体をさりげなく、ハンカチで拭き私に囁きかける
「で、・・具体的にはどうする気?」
「科学もオカルトを見逃した彼をどうやって救う気?」

私は、食蜂の服越しでもはっきりわかる豊かな胸を眺めながら口を開く
「ね・・なんで上条当麻は覚醒を拒否しているのかな・・」

「それは・・・・」

「脈動も呼吸も脳波も正常、普通なら8時間も睡眠すれば起床する」
「これは、医学の問題ではないと思うわよ。」
「だから・・これはどっちかというと食蜂の領域だと思うわ・・」
食蜂は慌てて、否定し始める。あらゆる幻想をぶち壊す幻想殺しに洗脳などできない
とでも言いたいように。

「だけど・・御坂さんも知っているように彼の洗脳はできないわよ・・」
「ええ・・全身に効果が及ぶ能力は彼に効き目はない。だけど、確かテレパスなら
私と同じく、貴方の能力も上条当麻へ届くはずよ・・」
「え?・・」
「ダメ元とも言う・・諦めることを確定する前にやれることは全部やろう」

「分かっているわよ・・」

・・・・・・・・・・・・・
病院 2月13日 20時

アイツは、上条当麻は本当に幸せそうな顔で目を覚まさない。
(本当に幸せそう・・正直・・コイツにとって何が幸せか・・私にはわからない・・だけど
私は幸せになるためにコイツに起きてほしい)
それは、私のエゴかもしれない。だけど・・コイツには笑って生きてもらいたい。
それは隣にいる食蜂も同じだろう。それだけでなく、コイツに救われた多くの
不幸な運命をコイツに救われた女の子達の願いだろう。

私はコイツの左手を握る。
「さて始めるわよ」
私は頭に紫電を蓄え、数億Vに達する静電気を作り出す。
「まずは・・これを左手に流す・・」
私は右手でアイツの左手を掴み、左手で頭を触り電流の回路を作る。
青白い眩い輝きが当たりを包む。

「そろそろいいかな・・」
私は夏休みのレベルアッパー事件を思い出す。木山春生を電撃で気絶させた後で
偶然つながった電気回路ごしに、伝わった彼女の記憶。

もちろんそれだけでは、上条当麻の心のドアを開ける事はできない。
だから、
「食蜂・・今回路がつながっている・・私の心の声を彼につなげてくれる・・?」
食蜂が、ち密な操作で私の心の声を上条当麻へ繋ぐ。

食蜂には足りない電気的な出力を私がこじ開け、私ではできないち密な精神回路制御を
食蜂が行うことで、上条当麻の強固な精神に風穴を開ける事に成功する。
とはいえ、強大な電流でまだ心をこじ開けただけにしかすぎない。
私は精神を研ぎ澄まし、繋いだ回路で呼びかけを始める。




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