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獣人総合スレ 避難所

1名無しさん@避難中:2009/03/17(火) 20:14:12 ID:/1EMMOvM0
獣人ものの一次創作からアニメ、ゲーム等の二次創作までなんでもどうぞ。
ケモキャラ主体のSSや絵、造形物ならなんでもありありです。
なんでもかんでもごった煮なスレ!自重せずどんどん自分の創作物を投下していきましょう!
ただし耳尻尾オンリーは禁止の方向で。
エロはエロの聖地エロパロ板で思う存分に。

獣人スレwiki(自由に編集可能)http://www19.atwiki.jp/jujin
あぷろだ http://www6.uploader.jp/home/sousaku/

獣人総合スレ 5もふもふ
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1236878746/

【過去スレ】
1:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220293834/
2:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1224335168/
3:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1227489989/
4:http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1231750837/

400わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/23(金) 22:01:38 ID:qOcA2BFE0
自販機に明かりは灯っていなかった。しかし、これは節電の為。普通に飲み物を購入するには、なんら変わりは無い。
そう言えば、桜が咲く前よりも『あったかーい』のボタンが減ったような気がする。自販機も衣替えか。
タスクが小銭を自販機に入れて、ボタンを押す。一つ目は自分のもの。オトナに背伸びしたいけれど、ちょっと後戻りして
カフェオレを選択する。ブラックにすればよかったかなと思えども、とき既に遅し。そして、二つ目を買うときに手が止まる。

「……」
茜の分を考えているうちに、しびれを切らした自販機はタスクが入れたコインを吐き出した。
ばつが悪くなったタスクは、ヒカルに自販機の前を譲ると冷たいカフェオレの缶をぎゅっと握る。外は温かくなってきているので心地よい。
ヒカルもタスクと同じくカフェオレのボタンを押したのだが、缶を取り出すと先ほどのタスクのように固まってしまった。
「どうしたんですか」
「先生が『なんでもいい』って言うから」
目を細めたタスクは、同じようなコインが戻る音を耳に響かせていた。

「ヒカルくんって、兄弟がいるんですか」
「いないよ」
ヒカルの返答を聞いたタスクは、じっとヒカルが持つカフェオレの缶を見つめている。
羨ましそうにと言えば正しいが、如何せんその表現は直接過ぎる。ただ、タスクが羨望の眼差しで見つめているものは、カフェオレではない。
「姉ちゃんがいないって、平和な毎日が暮らせていいですね」
高等部のヒカルは、同じ学園の高等部のクラスに通う芹沢モエの顔を浮かべた。
モエはタスクの姉である。同じ血を分けた姉弟なのに、どうしてこうも違うのかヒカルは不思議には思わなかった。

「ヒカルくんって、姉ちゃんと同じクラスでしたよね」
「うん」
きょうもモエはやかましかった。男子生徒の尻尾ランキングと称し、同じ女子生徒であるネコのハルカとウサギのリオらが、
お昼休みのうららかな時間に教室の隅っこに集まり、ノート片手に査定をしているときのこと。
大きな洋犬の血を持つアイリッシュウルフハウンドの封土入潮狼(いしろう)に、ボルゾエの堀添路佐(みちざ)が二人して、
『簡単!炊飯器で作るケーキ100種』と書かれたムック本を捲っていた。他のイヌの生徒よりも長い毛並みを持ちつつ、
丁寧に整えられているために清潔感がある。封土の荒くもオトナの風格漂う毛並み、堀添の鋭くも優しさを感じさせる顔立ち故、
学園内の女子生徒から黄色い声を浴びることほぼ毎日。しかし、彼らはいたってマイペースである。

401わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/23(金) 22:02:18 ID:qOcA2BFE0
「封土(ほうど)の控え目さ!堀添の綿花のような華やかさ!他の男子と違って上品だよね!」
「リオー。もしかしてヤツラ狙い系?」
「ち、ちがうもん!ホンのちょっと背が高くて、大人しくて……。アイツらなんかよりも、ごにょごにょ……」
机の荷物掛けに掛けた洋服店の紙袋に入れて隠している『若頭』の同人本を気にしながら、椅子に座って頬を赤らめるリオ。その脇に立つハルカが、
ぽんとリオの肩を叩いていた。隣の机に腰掛けるモエは、脚をぶらせつかせながら携帯をいじっていた。
「ああ!タスクからだ。『今夜は天文部の活動で遅くなるから、よろしく』だって!アイツ、夜は冷えるのに大丈夫かな」
もともと体の弱い弟を案じて、温暖と寒冷を繰り返す季節の夜に外を出歩くことを憂うモエは、眉を吊り上げる。

「じゃあ、モエがタスクくんを迎えにいってあげたら?封土くんと、堀添くんをお供に連れてさ」
「あ、アイツら?そんなことしたら付き合ってるって思われるじゃない!」
モエがあまりにも脚をバタつかせるので、机からぶら下がるリオの紙袋に脚が当る。リオは少し気が気でなかった。
言うまでもなく、封土と堀添を狙うライバルが現れたということではない。
モエの携帯が持ち主のようにやかましく叫ぶ。『ロミオとシンデレラ』の着メールの曲に反応したリオは、モエの携帯を覗き込んだ。
「やっぱり、モエはタスクくん萌えだね?」
「タスクくんを独り占めするなら、お料理をがんばらないと!まずはオムレツからかなあ。今度教えたげる」
「ンモー!リオにハルカったら!」

横目でその光景を見ながら、一人で本を捲っていたヒカルは、タスクの話できょうの出来事を思い出していた。
モエの教室での姿しか知らないヒカルは、家での姿しか知らないタスクを気にして飲みもの代を奢ってやった。
ちなみに、ヒカルの尻尾ランキングは未だ不明である。

「ウチの姉ちゃんって、彼氏いるんですか」
「……」
「いや……。ちょっと、気になって」
あまりにもストレートな、そして純粋なタスクの問いかけにヒカルは口を閉ざし、何も答えないのはタスクに余計な心配をかけてしまうから、
わずかな情報でも言っておこうと一言伝える。確かでは無いかもしれないが、他のクラスの子からの話からすると
確かだと思うほんの一言。だけど、タスクにとっては非常に重要な一言が、小さく響く。
「多分、いないよ。芹沢は」
「多分ですか」
「うん。多分」
「多分かぁ」
タスクは自分の携帯を開き、姉から受け取ったメールを見てみる。

『あまりにも遅くなるようなら、わたしに一報を送ること!』

パチリと携帯をたたむ音を鳴らせて、タスクは俯き加減で誰もいないことをいいことに語りに入る。
タスクのことはモエを通じてよく知っているヒカルだが、普段とは少し違うとヒカルでも感じていた。
また、ヒカルのことはモエを通じてよく知っているタスクだが、普段もきっとこんな感じなのだろうとタスクは感じていた。
「ウチの姉ちゃんの彼氏になるヤツってどんなヤツなんだろうって……。でも、ぼくは姉ちゃんと少なくとも彼氏になるヤツよりかは、
姉ちゃんのことを知ってるし、長く付き合っているから姉ちゃんのことについては、誰にも負けない自信はあるんです」
「……」
「姉ちゃんが喜べば悔しいし、姉ちゃんが悲しめば悲しい。こんな感情持てるのは、世界でぼくぐらいですよ」
「……」
打消しもせず、頷きもしないヒカルは、黙ってタスクを受け止めていた。
俄かにヒカルの尻尾に冷気を感じた。ビクン!!ビクン!!反射で尻尾を丸くする。

402わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/23(金) 22:02:50 ID:qOcA2BFE0
「こらー!理由の無い居残りはいけないんだぞお!」
「……」
「ヒカルくんは、先生のお手伝いだから理由はあるよね?」
笑顔でヒカルとタスクを叱る若いネコの教員・泊瀬谷が買ったばかりの缶コーヒーをヒカルの尻尾に当てていた。
泊瀬谷は仕事を終えて帰宅する途中、自販機コーナーに寄ると二人を発見したのであった。
春めく召しものが、泊瀬谷を少なくとも子どものように見せるマジック。
「ヒカルくんが余りにも戻ってくるのが遅いから、自分で買っちゃったね。ごめんね」
きんきんに冷えたカフェオレの缶を握り締めて、泊瀬谷先生は仕事の顔を忘れていた。
茜の分の飲み物をすっかり忘れていたタスクは、頭を掻きながら泊瀬谷のカフェオレを見つめる。

「あの、ぼく。天文部の活動で」
「そうなんだ、百武先生ね。そういえば『春の大三角形が天に現れるまで部室で寝てくるよ』って言ってたっけ」
「そうなんですが……」
タスクとヒカル、そして泊瀬谷はそれぞれ飲み物を持って天文部の部室へ足を向けた。
「雑用はいいんですか」とヒカルは泊瀬谷に尋ねるも「ヒカルくんがあんまり遅いから、終えちゃったよ」とちょっと自慢気。
だけども、本当はヒカルを追いかけたいがために、明日できるからと理由をつけて、後回しにしていたことはナイショの話。
「天文部の活動って、星を見ながら『あの星座は何々の神話で』って話すんでしょ?楽しそうだね」
「冬は寒いですけどね」
夜空とケモノはよく似合う。もしかして、夜空の元ならヒカルと何でもいいから話す口実が出来るんじゃないかと、
泊瀬谷は天文部の活動を羨ましく思っているうちに、茜が待つ天文部部室に三人は到着する。

屋上に近い古びた部屋の扉から茜が角を見せて、タスクの帰りを待っていた。
彼女の様子から見ると、そら先生は未だ夢の中と推測される。
「あ!芹沢くん。こんなの見つけたんだけど」
「なにそれ」
サッカーボールほどの球体に、土台が付いた黒色の物体。段ボール箱に投げ入れられた雑誌に埋もれていたものを、夏目茜が発見したのだ。
物体から電気コードが延びている。少しほこりがかぶっているものの、軽く拭いてやれば、元の姿に簡単に戻るだろう。
ふと、思い出したようにタスクが口火を切る。

「これって、室内用のプラネタリウムだよね」
「そう言えば、部長さんが昔そんなのがあるって言っていたけど……。言っていたっけ……?」
自信なさ気な茜を気遣いながら、タスクは言葉を続ける。
「確か、どこかになくしたって言ってたんだよ。よく見つけたね」
タスクに誉められた茜は、まるで悪いことをしたときのように小さくなった。
誉められれば誰だって嬉しいが、こうも大勢から誉められると、ちょっと茜は萎縮する。
「すごいね!」
しいっと、口の前で指を揃えるヒカルで、泊瀬谷は部屋の中のそら先生のことを把握した。
そして、小さく謝った。
「そうだ。もしかして……これでちょっと」
「なに?ヒカルくん」
子供がいたずらを思いついたような目。ヒカルはそんな目をしていた。
うんうんと、ヒカルの話を聞く三人、そしてヒカル。一つになった気持ちがつぼみをつけた。
ヒカルは化学準備室へと向かうと言い残して、尻尾を揺らしながら階段を降りていった。

残された三人は、ヒカルから言われたようにまだまだ起きないそら先生を起さぬように、音を立てずに準備を始めた。

403わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/23(金) 22:03:22 ID:qOcA2BFE0
足音を立てないように、そっと三人は部室に入る。
窓が言うには薄暮の時間だと言う。街が遠く見える丘の上。きょうも一日を癒す夜が来る。
「そおっと、そおっと」
開いているダンボールを一枚の板にして、窓ガラスを塞ぐ。カーテンをかけて薄暗くなってきた光の進入を拒む。
「泊瀬谷先生。確か、暗いところで目が慣れるには、少なくとも15分はかかるんだって……」
「そうなの?」
「そうだね。観測会のときも薄暗いところで、しばらく待っているもんね」
茜は冬の観測会で一緒に凍てつく風を堪えながら、シリウスにうっとりしていたことを思い出した。
暗闇で一緒に目を慣らしながら、タスクと甘い(神話の)お話をしていたことを思い出した。

「持ってきたよ。タイマー」
小声でヒカルが科学準備室から戻ってきた。手には、コードが延びた小さな機械。箱一杯のダイヤルが目立つ。
タイマーをプラネタリウムに繋ぎ、電源をプラグに差し込むと、一同はにっと笑う。
本体のスイッチを入れて準備はOK。LEDが赤く灯り、ダイヤルが差す時間は15分後。それでも、そら先生はすやすやと眠る。
15分間、そら先生はすやすやと眠る……。

あと10分。
まだまだ目が慣れない。しばらく暗闇の中お互いの顔を見合って、目を慣らしながらそら先生の寝顔を覗き込む。まだまだ時間はある。
あと5分。
ヒカルと泊瀬谷の姿が白くぼうっとタスクと茜の目に映り始める。薄暗い中のケモノは、不思議と綺麗に映っていた。
あと3分。
ヒカルの尻尾が隣で据わる泊瀬谷の太腿に触れる。恥ずかしくも、ちょっと幸せそうに泊瀬谷はヒカルを注意する。
あと2分。
まだまだ暗いからと、泊瀬谷はヒカルの指を手探りで摘もうとする。摘めないまま諦める。
あと1分。
そら先生が寝返り打つも、椅子から転がり落ちないという神業を見せる。
あと30秒。
瞬き早くなったタスクは、茜のシャンプーの香りに惑わされる。
あと15秒。
茜が角のリボンを直す。
あと10秒。
いきなり『ロミオとシンデレラ』の着メロが響き渡る。

「いけない!マナーモードに!」
慌てたタスクは携帯を取り出すが、幸い暗闇に目が慣れている状態。
しかし、GOOD NEWS あふたー BAD NEWS。
「う、うーん……。ロミオはペルセウス、シンデレラはアンドロメダだよねー」

ぱぁあっ!!

天井は宙。
星屑がお喋りをはじめ、つられてケモノも目を覚ます。
ほんのひとくち口にすれば、砂糖と光りの味が舌一杯に広がるのだろう。
一粒一粒が狭い部室に広がって、手に取れそうな遥かなる恒星たちが地上のケモノの瞳に焼き付ける。
「うわぁ……」
見てごらん。あれが春の大曲線。天を廻る大きなクマの尻尾から、優しく伸びる曲線の先には一粒の赤い星。
きっと南国の果樹のような刺激的な甘さがするのだろう。うしかい座のアルクトュルスはて夜空をほしいままにしようとするクマの番人だ。
その漢をなだめようと側で微笑むのは、白く輝くおとめ座の星。スピカはきっと母性一杯のミルクの味がするのだろうか。
桜の季節の大きな弓は、言葉失うぼくらを惑わす。

404わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/23(金) 22:03:55 ID:qOcA2BFE0
「芹沢くん!夏目さん!今夜はとくにきれいだよ!!最高の夜空を楽しもうね!!」
弓の先にはたぬき座の……、いや。そんな星座、聞いたことが無い。乙女の足元で地上を見下ろすからす座も、見たことが無いと悩んでいた。
たぬき座に並んだ一等星は、どこの星図にも載っていない。ただ、どこの星よりも輝きを放っているようにも見えるのだ。
さっきまで眠りこけていたそら先生。人の創りし明かりだけども、天井の夜空を見上げて諸手を挙げていた。

「あの……先生」
「夏目さん!御覧なさい。うれしいね、うれしいね。あれ?はせやんも?犬上くんも?」
星を枕にしていたそら先生は、薄暗い中で天井の星粒に心奪われている生徒と同僚教師を見つけると、不思議がるどころか
「ようこそ!星たちが奏でる音楽会へ!」と小さな体を震わせながら喜びを表し、一方泊瀬谷は、ヒカルの側に座って
赤らめた頬がそら先生やタスクたちにばれていないか、ちょっと胸を熱くしていた。

さて、そのタスクはと言うと、携帯の明かりで星を消さぬように表に飛び出していた。相手は姉の芹沢モエ。
『遅くなるなら一報を送りなさいって言ったでしょ?今夜は冷えるからね!
きょうはわたし特製のオムレツがタスクを待ってるから、寄り道しないで帰ってらっしゃい!』
女の子スキルは彼氏ができるとレベルアップすると言う。姉の女の子スキルがもしかして知らず知らずのうちに上がっているのではないのかと、
そしてオムレツの出来具合を色々な意味で心配しながら、タスクは姉からのメールを閉じた。
タスクは窓から暗くなりつつ街を見つめて、エプロン姿の姉を思い浮かべる。

天文部部室内では……。
「芹沢くんがいない……よ」
茜の心配そうな声と共に、ヒツジの少女は部室から飛び出す。窓からは瞬き始めた春の星座が、彼女を歓迎していた。
今夜はよい星が見れそうだ。今夜はよい神話が語れそうだ。毎晩出ているはずなのに、この晩だけじっくり見るなんて、なんて贅沢な。
でも、たまには贅沢もいいんだよ。と、そら先生と共に彼らは空を見上げ続けるのだった。

天文部の部室に残された泊瀬谷とヒカルは、まだまだ続く室内の天体ショーに引止められて、言葉を失っているところだ。
「ヒカルくん。あの星、何て名前なんだろう」
「……どれですか」

405わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/23(金) 22:04:29 ID:qOcA2BFE0
ヒカルが困る顔を見てみたい。
ヒカルが悩む素振りを見てみた。
ヒカルが星を見上げる姿を見てみたい。

結局は、どんな星でもよかった。泊瀬谷は一際目立つ星を指差して、ヒカルの答えを待っていた。
特に星に関して知識があると言うわけでもないが、ヒカルにどうしても聞いてみたかった。
星を見つめるイヌは、何を思って見上げるのだろう。
手にすることなんかできやしないのに、ましてや天井に映るプラネタリウムだ。

夜は森羅万象、数多のものを生み出す時間だという。
太陽の光で育まれた息吹は、月の静かな明かりで癒される。
目に見えるもの、見えないもの。月の明かりと星の輝きで芽を伸ばし、つぼみを開かせ、月下の花のごとく花咲かす。
花は月の冷たい光に狂い、蔦を伸ばすと、知らず知らずのうちに恥じらいだけの一人のネコに絡みつく。
泊瀬谷は昼間見ているヒカルよりも、夜空の元のヒカルの姿を見て、今までよりも心締め付けられる思いをしていた。

ヒカルがそれに気付いているのかどうかは分からないが、ヒカルの一言が泊瀬谷に絡まる蔦を解く。
「……わかんない」
「そっかあ……。ごめんね」
結局は、どんな星でもよかった。泊瀬谷は星に願いを託して、初めて願いが叶った気がした。

「はせやーん。おとめ座が昇ってるよ!!」
部室の外からそら先生の声が届くと、泊瀬谷は立ち上がりヒカルの手を引いた。
ヒカルの手首の毛並みに泊瀬谷の指が埋まる。
二人は星空を映し出すプラネタリウムをそのままにして、そら先生と天文部部員の待つ日の入りの空へと駆け出した。
「それ!!ヒカルくん!寒いからって、部屋に閉じこもってちゃだめだぞ!」
屋上への階段を駆け上る。澄んだ空気が寒く心地よい。夜空とケモノはよく似合う。
もしかして、夜空の元ならヒカルと何でもいいから話す口実が出来るんじゃないかと、薄暗いことを言い訳に、泊瀬谷はヒカルの指を掴む。


おしまい。

406わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/23(金) 22:05:38 ID:qOcA2BFE0
お借りした主なキャラ。

封土入潮狼(ほうど・いしろう)&堀添路佐(ほりぞえ・みちざ)。
7スレ目・451
ttp://www19.atwiki.jp/jujin/pages/888.html
夏目茜。
3スレ目・861
ttp://www19.atwiki.jp/jujin/pages/422.html

もっと活躍していいキャラだと思う!!
投下おしまい。

↑ここまでです。よろしくお願いいたします。

407名無しさん@避難中:2010/04/24(土) 00:48:20 ID:R3y44l7EO
やばい、これはやばい
商業でもこれだけキュンキュンくるのはなかなか無いよやばいよ
夜空が!春の夜空が広がってる!

408名無しさん@避難中:2010/04/24(土) 02:38:02 ID:1nEFkU52O
っぐあああぁぁ!死んだ!俺死んだ!
みんなかわいすぎるだろ常考…
やっぱはせやん×ヒカルくんが最強だわ
芹沢姉弟もすげー萌える

409名無しさん@避難中:2010/04/25(日) 02:12:07 ID:8b4rj27YO
これはすごい
どうしてこうみんなかわいらしいんだ
キュンときたよはせやん

410名無しさん@避難中:2010/04/25(日) 06:38:20 ID:jj.f272MO
キュン死に必至のスーパーはせやんタイムごちそうさま

411名無しさん@避難中:2010/04/25(日) 11:27:40 ID:jj.f272MO
ただオロオロしてる茜っちも見逃せぬ

412わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/25(日) 16:29:54 ID:raiRMVXs0
本スレに代理投下していただいた方、有難うございます!
しかし、早く規制解除しないのかな……。

413名無しさん@避難中:2010/04/25(日) 16:43:20 ID:8b4rj27YO
たぶんみんなして規制されてるんだよね
本スレに投下したいなら代行スレに依頼したほうが確実かもしれない

414名無しさん@避難中:2010/05/04(火) 23:49:48 ID:V0B8BV6k0
本スレか避難所か悩んだけれども、こちらに。
ラジオの人がガイドブックみたいなものを所望していたので、思いついて相関図風なもの
を描き始めたものの思いの外サイズがでかくなってしまい、更には相互のコメントまで手
が回らず、単に画面上にばらまいただけになってしまいました。
なにか、使えるようでしたら…
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1059.jpg
今回初めて描いたひともありますが、描いてないひととかがまだまだいますねぇ。
案外大きい世界だなぁ、けも学って。

415名無しさん@避難中:2010/05/04(火) 23:54:23 ID:mnALV9L20
これはすげぇww!皆可愛いな!
こんなにいっぱいいたのかぁ、多分俺も全員は把握出来てないな…w

416名無しさん@避難中:2010/05/05(水) 00:21:38 ID:99BxUt3QO
すげぇw

417名無しさん@避難中:2010/05/05(水) 22:47:26 ID:99BxUt3QO
チビキャラな獅子宮せんせ可愛い

418名無しさん@避難中:2010/05/05(水) 23:36:16 ID:pisz8lxY0
なんと!みんな、めんこい!めんこい!
「保健委員の妹(弟)」って……。もしや男の娘だったのか?
水島センセwww  せめて作務衣着せてやってくれよwww

419名無しさん@避難中:2010/05/06(木) 01:48:05 ID:EvEe4iFI0
sugeeeeee!!
眺めてると顔がにやけてくる。みんなかわいいなー
こんだけキャラいてもさっぱり被らないってのがまたスゲーな
きっちり描きわける氏の画力もハンパない

420名無しさん@避難中:2010/05/06(木) 20:34:22 ID:uUr4FtvM0
こうやって実際に絵で見ると、ケモ学のキャラって本当に多いんだなって実感できるなー

421名無しさん@避難中:2010/05/06(木) 22:57:22 ID:w/oXKMKM0
楽しんでいただけたようで嬉しいです。 UPしてから見直したらまだ50にん位描いて
ないひとが残ってました。 それこそ今注目の喫茶フレンドのアリサさんとか。
 ところで、フレンドのマスターの種族って…?

あの画を印刷して、鉛筆で囲ったり繋いだり矢印描いたりハートつけてみたりすると、思
いの外楽しくて、時間があっという間です。 そのうち機会が有れば残りも描いてみたい
と思いますです。

#チラ裏
 集英社マーガレットコミックの「デカ☆うさ」(はまさきちい著)はこのスレ住人的に
 は如何でしょうか? 独り暮らし大学生男子の元に、体長2mの人語を解するミニうさ
 ぎがやって来るって話なんですけど(笑)

422名無しさん@避難中:2010/05/07(金) 00:52:03 ID:qYUhY1K60
>体長2mの人語を解するミニうさぎ

ミニとちゃう、それ全然ミニとちゃうw

423名無しさん@避難中:2010/05/07(金) 07:52:22 ID:FT2kH08cO
>体長2mのミニウサギ
「小さな巨人」みたいなものですね。

藤子F不二雄の「ヒョンヒョロ」を思い出した。

424名無しさん@避難中:2010/05/07(金) 11:55:43 ID:/oDM5tjIO
>>414
種族の違いがあるってのはすごい利点だなとつくづく思った
キャラがこれだけいるのに被らない

425名無しさん@避難中:2010/05/08(土) 01:27:11 ID:Q0xWNZ.U0
>>424
おバカキャラ一つ取っても三つ有るもんな

・塚本=下品バカ
・利里=純粋バカ
・甲山=完全バカ

426名無しさん@避難中:2010/05/08(土) 12:32:00 ID:Ua1fPhgUO
バカはバカでも担う役割が違うバカなんだね。
バカだからってバカにできないバカだぜほんと。
つーかこいつらは種族で個性出さなくても個性的w

427わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:05:32 ID:hvdRUvLI0
規制が長い……。
本当は「レス代行スレ」の方がいいのかもしれないが、順番待ちっぽいのでここで投下します。
以下、どなたか代理投下お願いいたします。

>>392
初めてここで「佳望学園」ものを投下したときのイメージぴったりだ。
ちょうど電車を登場させるSSを書き終えたところでした。
烏丸さんをお借りします。

『太陽とケモノ』

びっくりした。
休みの日の昼下がり、図書館帰りの昼下がり。誰も通りかからない、ウチへの近道の細い路地。
たまたますれ違った、見知らぬイヌの男子の二人組み。尻尾がちょっと触れただけなのに、怖い顔して振り向いてきた。
「尻尾ぶつけといて、謝らないわけ?」
「……ごめんなさい」
「はあ?それだけで済むわけ?」
鈍く光る牙、濁った目。小さな子が目を合わせれば、泣き出してしまいそうな面構え。
二人とも目元の傷を隠さず誇りにする姿は、精悍と言えば聞こえがよいが、結局は柄が悪い。
謝れと言うから謝ったのに、言葉は通じても話しが通じないもどかしさ。目を合わせると、余計なことになりそうなのでわざと俯く。
早く帰って借りてきた本を読みたい。出来ることなら面倒なことは避けたいけれど、逃げ出すのは『片耳ジョン』の言葉に背くんだろう。
修羅場を潜り抜け、生きる勇気を諭す彼は、本の中だけでなくとも、ぼくに語り駆けてくる勇敢なオオカミ。
彼が語るには……、

「少年とは、困難が立ちはだかれば立ちはだかるほど喜ぶものさ」

しかし、困った。

「あぁ?突っ立てないで答えないわけ?」
「尻尾痛いわけ?」
彼奴の右手がぼくのカーディガンを掴みかけると、小さな風がぼくの目の前を駆け抜ける。
白く大きな尻尾がピンと上げて、ぼくは後ろに跳んで退く。本能的に右手でぼくの顔を庇う。
面倒なことに巻き込まれそうだと諦めかけたのだが、彼らと目が合うと事態が思わぬ方へと急転する。
「ちょっと待て。やばいぞ」
「あ?……まじ?ウチの高校の?」
「おう。アイツだよな」
「ここでシメてたら、狗尾高マジでやばくなるわけだよな?」
狗尾高。聞いたことはある。でも所詮、聞いたことがあるだけだ。彼らが何を意味して話しているのか分からないが、
とにかくヤツらは、目を見てぼくを『アイツ』だと勘違いしている。すると、尻尾を巻いてどこかへ消えて行った。

あっけに取られたぼくが彼らの背中を見つめていると、聞き覚えのある声がぼくの背中を叩く。
毎日聞いているような、明日も聞くような。若い女性の声だったのは間違いない。
「こ、こらー!!ケンカはいけないんだぞー」
一人のネコが立っていた。ぼくが教壇で見るような姿をしてはいないが、確かにあれは泊瀬谷先生。
ぼくのクラスの担任で、現国の泊瀬谷先生はネコの若い女教師。短い髪が印象的だ。
泊瀬谷先生はトートバッグをブンブン振って、尻尾を膨らませながら路地に向かって叫んでいたが、
縮こまった両肩と、頼りなくアスファルトに踏ん張る足元が先生の勇気を中和していた。
それ故、泊瀬谷先生は、ぼくの方に近づこうとせず、今だにぶらぶらとトートバッグを振っているだけ。
しかし、ぼくの方から先生に近づくと小首を傾げて、泊瀬谷先生が忘れかけていた少女の頃を思い出しているよう。

「ほ、ほら!先生のおかげでヒカルくんも助かったでしょ?」
「……」
「えへへ。怖かったんだ?先生がケーキでも奢ってあげるから、落ち着いて」
本当はヤツらの方から逃げていった。ホントのことを伝えるよりも、そのままにしておく方が幸せなのかもしれない。
大人びた真実は、オトナを傷付けてしまうかもしれないから、ぼくは黙って泊瀬谷先生について行くことにした。

428太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:06:22 ID:hvdRUvLI0
ぼくよりちょっと年上の泊瀬谷先生が、子どものように見えてくる。
淡い色のスーツを着こなして、胸元にはカメオで留めたリボン。歩道を鳴らすパンプスは、先生自身を背伸びさせている。
短い髪が初夏の風に揺れて、ネコでなくてもまどろみを誘う心地よさ。「こっちだよ」と、先頭を切るぼくのセンセイは、太陽よりも明るかった。

歩き慣れた大通りを歩く。路面電車が街の風を掻き乱す。クロネコの紳士の毛並みがなびく。
街の一場面を一瞬の風景画にして、泊瀬谷先生は大通りから外れた路地に入ると、ニコリ。
「ここだよ」
若いビルとビルの間にひっそりとたたずみ、老人のように街を見てきた一軒の喫茶店。
軒先からぶら下がる、古びた看板のかすれた文字が、店の年輪を刻む。
都心の喧騒を嫌ってか、切り取られた時間がそのあたりには漂っていた。
「喫茶・フレンド……」
「この間、学校の帰りに見つけたんだよ。入ろっ」
扉を泊瀬谷先生が開くと、鐘の音と若い女の人がぼくらを出迎えた。

ランプのともしび温かく、媚びない家具が心地よい。
店の主人と、若い娘。客はぼくらの他はいない。コーヒーの香りがぼくらを嫉妬する。
エプロン姿の若い店員さんは、長い髪を一つにくくってテキパキと仕事をこなしていた。
じっとよく働く彼女を見つめていると、椅子に座った泊瀬谷先生から「こらっ」といたずらっ子ぽく注意された。
にこりと微笑んで店員さんは、くくった髪を揺らしながらぼくらの席へ注文を取りにやってくる。
「いらっしゃいませ」
「……」
「ご注文はお決まりでしょうか」
「バニラアイスを二つね!アリサちゃん」

メニューを見ずに泊瀬谷先生は、お姉さんに注文を告げる姿は、お得意さま。
「かしこまりました」と、小さなクリップボードに注文をさらりと書くと、踵を返して長い髪を揺らしていた。
そうだ、もしかして泊瀬谷先生なら「狗尾高」のことをちょっとでも知っているかもしれない。
ぼくが「狗尾高」について、どうやって話を切り出そうかと考えていると、短い髪を頬にかけて泊瀬谷先生は、
もじもじと目を合わせることがいけないことの様に、テーブルに目線を落としてぼくに静かに話し出した。

「実はね……。おととい、実家から電話があってね、たまにはウチに帰って来いって言われてね」
「……」
「ヒカルくんにこんなこと話すのもなんなんだけど、家に帰ると……親から怒られちゃうんじゃないかなって」
尻尾の動きからすると、先生はウソをついていない。それよりも、ウソがつけない先生のこと。
「こんなことヒカルくんに話してもしょうがないよね。へへ」
「……」
先生の実家は、ぼくらの住む街から電車に揺られることちょっと。都会でもなく、田舎でもない郊外の町だという。
帰ろうと思えば、すぐに帰ることができるのだが、始めの一歩が重過ぎる。さらに重くなった足は、人を愚痴らせる。
自由気ままに生きているようでも、一抹の苦労を背負っていることに、泊瀬谷先生から読み取ることが出来るのだ。

429太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:07:07 ID:hvdRUvLI0
「どうしよっかなあ。親が待ってるしなあ」
「お待たせいたしました。バニラアイスです」
トレーに乗ったバニラアイスは、温かくなり始めたこの季節がいちばん美味しく感じると泊瀬谷先生は言う。
小さな音を木のテーブルに響かせて、懐かしい半球を器の上で描くバニラアイス。ウエハース突き刺り、泊瀬谷先生は歓喜の声。
アイスはオトナを子どもに引き戻す力があるんだと、他の誰かに言ったらきっと信じてくれるような、くれないような。
「おいしそうだね」
「はい」
スプーンが器に当たる金属音は、いただきますのごあいさつ。
ほんのちょっと、先生のゆううつを忘れさせることが出来るのなら、無邪気な姿をぼくに晒してもかまいませんよ。
しかし、ぼくはバカなことに先生の頬を緩ませる顔に連れられて、聞こうと思っていた「狗尾高」について聞き忘れた。

―――翌日の朝、学園のホールには人だかりが出来ていた。生徒たちは皆、刷りたての学園新聞を手に話しの種にしている。
女子は甘味店の紹介記事に、男子はクラスのヒロインの写真に、教師は委員会だよりにと人それぞれ興味を抱く。
だが、ぼくが目を止めてしまったのは他でもない『野球部・狗尾高との練習試合、ファインプレイ』の記事であったのだ。

昼休み、ぼくはいつも行き慣れた図書館ではなく、新聞部の部室に足を向けた。
ここなら何らかの情報が手に入るかもしれないと、学園新聞を片手に期待を抱き、不安を背中に扉を叩く。
「どうぞ」と部屋からの返事が、ぼくを迎え入れる。ゆっくりと扉を開けるとカメラのレンズの埃を取っている一羽のカラス少女と、
PC画面に向かってコントローラーを両手で握りながら、一喜一憂という言葉に振り回されるネコ少女がいた。

「あの、高等部の犬上といいます……」
「ああ、もしやあんさん、ヒカルはんなぁ?あんさんの噂は、おなか一杯聞いとりますわ。部長の烏丸どす」
カラスの少女は手を止めて、聞きなれない訛りでぼくをのほほんと見つめていた。
あまり話しをしたことが無いのに、彼女はぼくの名前を知っている。やはり新聞部の情報収集能力の賜物か。
烏丸は手を止めると、備え付けの冷蔵庫から「生八つ橋」を取り出して、殆ど初対面であるぼくに勧めてきた。
ひんやりとした生地が熱いお茶と愛称がよさそうだ。けっして目立つ色彩ではないが、見ていると心和むこの国のお菓子。
カラスは後姿をぼくに向けて、手際よくジャーポットから急須にお湯を注いでいた。

「うっひょー!さすが中ボスだよねー」
一方、ネコの少女は、PCのゲームに夢中だった。花火のような砲撃を放ちながら、深い森の上空を駆け抜ける一人の魔法使い。
相手が仕掛けてくる攻撃をまるで楽しむように、少女はコントローラーで魔法使いをひたすら操る。
騒がしい彼女を気にせずに、烏丸は緑茶を注いだ湯飲みをぼくの目の前に置いた。コトンと使い込まれた机が音を立てる。
「ところで、ヒカルはん。何か御用で?おや、早速最新号を読んでくれはったんやな」
「その……。この記事についてなんだけど」
「『野球部・狗尾高との練習試合、ファインプレイ』かいな。それはウチが低空飛行ギリギリで撮った写真どすえ。よう撮れとるやろ。
そうや。この間、狗尾高のチンピラどもにドつかれそうになっとたやろ?ヒカルはん、大丈夫かいな」
「……もう情報が。大丈夫、ケガはなかったです」
「うぎゃあああ!満身創痍!!」
静かにぼくが話し始めると、ネコの少女は寂しい画面にへばり付きながら、うるさくわめき出した。

430太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:07:49 ID:hvdRUvLI0
私立狗尾高等学校。佳望の街から電車に揺られること一時間ほど離れた海岸に構える男子校。
運動部が盛んで、特に野球部の功績は数え切れないほど。そして、いちばんの特色は。
「狗尾高言うたら、イヌの生徒ばっかりのとこですわな」
烏丸の言葉で、ぴくんとぼくの尻尾がはねる。にっとほくそえむ烏丸の瞳は、鳥類独特の円らなものと、
新聞部としての獲物を追う眼光の鋭さが同居して、彼女独特の色身を帯びていた。

「うちの取材によると、佳望学園・野球部との練習試合ではうちの学校は完敗やったそうでな。
なんでも、スゴ腕のピッチャーがおる言う噂ですわ。そして、そのピッチャー言うのがな……」
「犬上先輩っ。犬上先輩って言うんですね!ご紹介遅れました。わたし新聞部所属・中等部の美作更紗ですっ!
うわああ、真っ白でふわふわの尻尾……イヌ族の尻尾は激萌えです!うらやましいですう!!」
「美作はん、黙っとき!」
ゲームに飽きたのか、さっきまでPC画面に心奪われていたネコの少女は、くるりとぼくの方へと椅子に座ったまま回転した。
短く揃えられた髪、少しぶかぶかのカーディガン、オトナに憧れた紺色のハイソックスとスカートの間が白く光る。
美作と呼ばれたネコ少女は、ぼくの尻尾をにまにまと眺めた後に、妹のように上目遣いでぼくの顔を凝視する。
「これはなかなかなの人材ですぞ!因幡お姉さまにお知らせしなければ!キリッ」
人材?
「白い毛並み!豊かに実るたわわな尻尾!誇り高きイヌ耳!わたくし美作更紗は、犬上先輩に出会えて感激でございますう!」
美作と名乗る少女は、椅子に座ったままキャスターで移動して、本棚から薄っぺらなマンガ本を引っ張り出して
自慢げに見せびらかす。尻尾を立てて目を細める美作は、オトナっぽく決めた紺色のハイソックスを履きこなしても、
ばたばたとさせて落ち着きの無い子どもに逆戻り。烏丸が整理棚を探っているのを背景に、美作はぼくを舐めるように上目遣いで見つめ上げる。
「どんなコスが似合うかなあ。ねえ!い・ぬ・が・み・先輩!」
「コス?なにそれ」
「もっふもふの尻尾を生かして、「ぎんぎつね」の『銀太郎さま』もいいなあ。王道で烏丸部長と組んで『椛・文の……』」

何かの名前を言い切れないまま、烏丸からキャスター椅子を押されて美作はぼくの視界から消えていった。
PCの主導権を烏丸が掌握する。画面は素っ気無いブルーのデスクトップに戻して、棚から取り出したCD-ROMをセットする。
唸り声を上げたPCは、部屋の主人である烏丸には従順であり、抗することなく画像ファイルを開いてくれた。
使い慣れた光学式のマウスを滑らせて、マイ・ピクチャのファイルに並んだ画像の整列には、狗尾高校の野球部員たちが
青い海を背景に球を投げ、バットを振り、自分の毛並みが汚れることを臆することなくホームに滑り込む姿が写っていた。
しかし、烏丸が見せたかったのは、そういうどこにでもある青春のいちページではない。
そんなものなら、オトナたちからの昔話で聞き飽きた。

431太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:08:48 ID:hvdRUvLI0
「ほら、見てみ」
「……そっくり」
初めてだ。
ぼくにそっくりなヤツを見るのは初めてだ。
烏丸が取材のためにこっそり写した野球部員たちの休憩時間。その中の一枚に写る白いイヌの少年。
確かに、彼は狗尾高のユニフォームを身に包み、野球帽から白い髪をはみ出していた。
地面に付きそうな長くてたわわな尻尾が、ブルペンのマウンドに突き刺さりそうだ。
ぼくと同じく真っ白い毛並みで包まれた彼は、まぎれもなくぼくらの野球部を破った、狗尾高のピッチャーであった。

「どうどすえ?興味湧いた?」
「……」
言葉にせずにぼくは烏丸の言葉を肯定すると、せっせと烏丸は毛繕いをしていた。
「すまんのう。うちら鳥はなあ、毛繕いを怠ると空を飛べんさかいな」
「わたしも犬上先輩の尻尾の毛繕いをしたいですう!」
「美作はん、黙っとき!」
烏丸曰く「休みの日の正午に狗尾高に行くと、犬上はんならわかることがある」らしいが、これ以上、烏丸は口を挟まなかった。
「ありがとう」と一礼をして、美作更紗が少しうるさかった新聞部をあとにする。

教室に戻る途中、一人のウサギの少女が廊下でそわそわとしていた。その名は、我らが風紀委員長・因幡リオ。
ボブショートの髪の毛は清潔感に溢れ、理知的なメタルのメガネは正義感が満ちている……、と思う。
「あ!犬上!あんた、新聞部に行った?見たんだよ!あんたが文化部の部室の方へ歩いていく所!」
「行ったけど、何か?」
「そこにさぁ。ちっちゃくて、短い髪のネコの女の子……居たよね?」
ぼくが「うん」と答えたのがいけなかったのか、彼女はポンと手を額に当てて、真っ白な上靴で廊下を慣らす。

「むあああ!新聞部に『委員会だより』の原稿渡さなきゃいけないのになあ。あのさ……犬上。代わりにね、原稿、持ってってくれない?」
「なんで?」
「なんでもないの!!なんでもないんだから」
因幡が力を込めれば込めるほど、ぼくの背中に感じる氷よりも冷たい風。
一方、ぼくの真向かいで因幡は、じりじりとぼくの方から後ずさりをしている。
殺気は本気に変わり、本気は因幡を危機に陥れる。「時間を取らせてゴメン!」と言うものの、ぼくにはどうでもいいことだ。
「ああ!因幡お姉さまぁーーーあ!わたしはどんなキャラにも対応できるように、髪の毛を切ってきたんですよ!!
そうそう!わたし、おこずかいを溜めてやっと手に入れたんですよ!あの制服!因幡お姉さまには『くろこ』、わたしが『みこと』のコスで……」
先ほど新聞部の部室で大騒ぎをしていた美作更紗がすっ飛んで来た。しかし、因幡が目を泳がせる理由と、美作が言っている意味が良く分からない。

「はいはい!分かったから、徹夜で書いてきた『委員会だより』の原稿、渡してあげるから、とっとと新聞部に行こうね」
「ままま!まって!犬上先輩!これ、烏丸先輩からの……やだー!犬上先輩っ」
頬を赤らめる美作は、ぼくに和紙で包まれた封筒を両手で差し出した。毛筆で達筆な烏丸の名が麗しい。
封書を受け取ると、何故か因幡から足を軽く蹴られた。

432太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:09:18 ID:hvdRUvLI0
―――休みの日の午前。処は古浜海岸駅のホームにて。
街の中心部からやや離れた古い木造建築の駅舎のターミナル。時代に取り残された電車が、櫛形のホームで体を休める。
中心の駅とは違って、賑やかさは無いが、高校生のぼくにでもどこか懐かしさを感じる。
元々線路が敷かれていた場所なのか、ぽっかりと不自然に空いた敷地から雑草が生える。遠くの目地へと単線の線路が伸びていた。
閑散としているホームも休日を楽しみたいのか、のんびりとした時間が流れていた。駅員は見るからに暇そうだ。
電車も発車のベルを待ちぼうけ。郊外行きの小さな電車は、わずかな乗客と共に青空を仰ぐ。
天井からは夏を告げるデパートの広告と、カバーを被された扇風機が近い出番を待って釣り下がる。
廃材になるはずだったレールを使った柱は、多くを語ることは無いが、少なからず街の歴史を知っている。
ぼくは街のことをこの柱ほど知らない。若い駅員は、念には念を入れて指差し確認を繰り返していた。
そして、ぼくは烏丸から手渡された一通の封筒を読みかけの文庫本に挟んで、繰り返して見つめていた。

「あれ?ヒカルくん」
「……泊瀬谷先生」
この間言っていた。「今度の休みに実家に帰ろうかどうか」と。
迷った挙句、帰省することにした泊瀬谷先生。イヤイヤながらも、ちょっとは楽しみにしている顔は隠せない。
遅れてきた春の日差しのような白いスカートに、乙女心をくすぐるパンプス、そして、いつものトートバッグは外せない。

「ヒカルくんもこの電車?」
「……はい。狗尾高校に行ってみようと思いまして」
「どうして」
「なんとなく」
学園のとき以上の笑顔で泊瀬谷先生は電車に乗り込み、ぼくもあとに続く。
横一列のシートは暇そうにぼくらを迎え入れた。
「こっち側に座ると、海が見えるよ」
尻尾を先生と反対の方向に向けて、ぼくは少女のようなオトナのネコの隣に座った。
ただ、ぼくには泊瀬谷先生との座席の隙間を詰める勇気はなかった。そっと文庫本を仕舞う。

休日だからとは言え、乗客が少なすぎる。心配する筋合いはないが、ぼくらの他にいる客といえば小さな子どもを連れた
ヒツジの母子と他数名。ぼくらを乗せて、ゴトゴトと単線を走りながら揺れる電車は、ひと息付こうと次の駅に止まるも、
乗客には動きがなかった。遠慮がちに閉まる扉を見つめる以外に出来ることは、隣で座っている泊瀬谷先生の横顔を一瞥すること。

「気付いてくれたかな。お休みの日だから、思い切ってシャンプー変えてみたんだよ」
頭を垂れる泊瀬谷先生の髪の毛が、開いた扉から吹き込む風で揺れる。クラスの女子たちよりも、瑞々しくも甘い香り。
電車が発車する為に扉が閉まると、泊瀬谷先生の髪の毛の香りは一旦落ち着くが、ぼくの鼻をくすぐる香りは忘れられない。

床下のモーター音が低く唸り、電車がカーブをゆっくりと通過すると、つり革が揃って揺れる。
座ることを遠慮して立っている若いオオカミの男性の尻尾も同じように揺れる。
あんまり電車が張り切るので、ソイツは座席に座っているぼくらの背中を、背もたれ越しに押してくる。

433太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:09:48 ID:hvdRUvLI0
いつしか電車の中に居たヒツジの親子は下車し、オオカミの弾性もいない。気が付くと車両はぼくらだけになっていた。
どのくらい電車は走っていったのだろう。どのくらい人々が乗り降りしたのだろう。
そして、どのくらい隣に座る先生はぼくに何かを話しかけたかったと思ったのだろう。
悔やんでも、悔やんでも、いくら尻尾を膨らませても、電車はぼくらを下車する駅へと運び続ける。
「佳望電をご利用いただきまして、有難うございます……。この電車は……」
ときおり入る車内アナウンスに助けられ沈黙から逃れていると、ぼくらの顔が反射していただけの車窓に海が写り込む。
初夏の海は新しい季節を迎えることに必死で、すっかり春の景色を忘れてしまっているのが非常に印象的な海岸線。

こっちの席に座ってよかった。誰もいないのをいいことに、泊瀬谷先生の手の甲がぼくの手の甲に当たる。
「先生も、この海を見ながら毎日学校に行っていたんだよ」
やっと口を開いた泊瀬谷先生は、ぼくと話すことを避ける素振りを見せていた。
だけど、ぼくは授業のときではない先生の声が、好きだ。

出来ることなら、泊瀬谷先生から「先生」を奪い取ってしまいたい。
「先生」という肩書きを失った泊瀬谷先生は、きっと迷いネコになってしまうんだろう。
しかしぼくは、迷いネコを放っておこうと悪しき考えを浮かべたり、独り占めしてしまおうと思ったりはけっしてしない。
なぜなら、ぼくも迷いイヌ。道に迷ったお巡りさん、迷子の子ネコに聞いても困るだけ。泣いてばかりのお巡りさん。
どうしていいのか分からない。何していいのか分からない。誰に尋ねればいいのか、まったく見当がつかない。
それでも側にいてくれて「これからどうしようかな」とまぬけだけれども、一緒に同じ目線で道を探したい。
教えてもらうんじゃなくって、いっしょに「せんせい」と歩いてみたい。
だけど、誰もこんな感情は分かってくれないんだろう。そんなことは心得てるけど。

車窓近くの立木は物凄いスピードですっとんで行き、遠くに湛える湾の波はゆっくりと流れ、遥か彼方の白い雲はのんびりと浮かんでいた。
ふと、泊瀬谷先生を見てみると、トートバッグをぼくの方ではなく、反対側の肩に掛けているのに気付いた。
泊瀬谷先生の横顔は、授業では余り見せることはない。というより、見せる機会はない。
ぼくが横顔に見入っている間に、先生がぼくの方を向いてしまったらと思うと、言葉にならないほど恥ずかしい。
幸いなことに、泊瀬谷先生は俯き加減で小さな声で話し出した。
「もうすぐ、狗尾に着くね……」
電車の速度が緩むことに比例して、先生と同じ席に座ることができなくなるという、間違った思い。
ブレーキ音が軋みつつ電車が止まる準備を始めると、ぼくは隣で頬を赤らめる小さなオトナの肩が触れた。

434太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:10:17 ID:hvdRUvLI0
電車は間もなく目的地である駅へと到着する兆しをみせる。時間は午前11時半すぎ。
重いモーターの音とはしばしのお別れ。ハンドルを握る運転者が、慌しく運転席の窓を開くと古い設備を操作して扉を開ける。
「狗尾ー、狗尾ー。狗尾高校前ー。電車とホームに隙間がございます。降りる際にはご注意ください」
あっ。
「ぼく、ここで降りますっ」
席を立って扉の前にぼくが立つと、泊瀬谷先生がぼくに隠れるように側に立っていた。
緩いカーブの上に建つホーム。泊瀬谷先生は無邪気に電車とホームの隙間を跳ねる。
そこまでして跳ぶ隙間ではないが、アナウンスに素直な先生の後姿が初々しい。
狗尾駅のホームは、二つに並んだ線路の間に浮かぶ。こせん橋は無く、駅構内の踏切で線路を渡って改札口に向かう古いタイプの駅だった。
駅から伸びる草にまみれた線路は、再び一つにまとまり、知らない遠くの街へと繋がっていた。
ぼくらが乗ってきた電車が駅を出る寸前、構内の踏切が警報音を巻き散らせて、ぼくらの歩みをさえぎる。
「寄り道しちゃった……。いいよね?」
「……はい」
早くここから歩き出したいのに、意図せぬ足止めが泊瀬谷先生を意地悪くくすぐる。

駅から出ると潮風が心地よい、海岸沿いの道に当たる。
見ていて気付いたのだが、泊瀬谷先生は初めてここに来たような感じではない。
すいすいと足取り軽く、目的地である狗尾高へと吸い込まれそうな勢いだった。
パンプスの音がいつもより軽く聞こえる。ぼくは黙って泊瀬谷先生の後を追った。
「先生の住んでいた町もこんな感じだったんだよ」
「そうなんですか」
「うん。懐かしいな……。まだ、あのタバコ屋さんあったんだ」
駅で降りるとき「寄り道しちゃった」と言っていた。暮らしていた町ではないけれど、どこか先生にとっては思い出深い町なのには違いない。
もしかして、これから向かう狗尾高と関係があるのかもしれないが、あまり深い詮索はよろしくない。

休日の昼前。人通りはぼくら以外にいない。
「ヒカルくーん。着いたよ!」
泊瀬谷先生が手を振って居る場所は、狗尾高の正門でも通用門でもない。海岸近くの細い道を歩く。遠くには漁協の建物。
グランドの脇を通る細い路地。確かに狗尾高の側にいるのだが、金網のフェンスがぼくらをさえぎる。
しかし、学園の息吹は予期せぬ来訪者であるぼくらに確かに届いていた。
「本当だ」
「うん。わたしが初めて来たときとちっとも変わってないね」

グラウンドでは、野球部員たちが海風と砂埃にまみれて練習に明け暮れていた。
金網越しに彼らを見ると、本当だ。イヌ、イヌ、イヌ……。
誰も彼もぼくと同じイヌの男子生徒ばかり目に付く。白球追う彼らの姿は、ぼくら「ケモノ」ではなく、野性に返った「獣」のよう。
ただ、尻尾の動きは「ケモノ」のときを忘れていない。純粋に、純粋に、そして純粋に。
本当に愚直とも揶揄できるぐらいに、彼らは一握りのボール目掛けて走っていた。
愚直も過ぎると美しく見える。汚れがない分に本能のまま、競技の魂に導かれる分、混じりけがないスピリッツ。

435太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:10:47 ID:hvdRUvLI0
「烏丸の言っていた通りだ」
狗尾高の野球部員たちは、丁度紅白練習試合をしているところであった。
ぼくはあまりスポーツが得意ではないのだが、そんなぼくにでも彼らの技術は卓越したものだと断定できる。
腕の良い料理人が包丁を裁くよう、炎を手に取るように扱うように、そして最高の一品を創り上げるように。
ピッチャーがボールを投げる。心地よい音を立ててバットに当たる。天高く走り去る球を彼らが尻尾をなびかせ追い駆けて、
魔法のようにグローブに吸い付けると、間髪いれずにファーストに送球する。気持ちがよいほど無駄のないプレイだった。
スポーツに励むというよりも、芸術を創り上げるといった方が、彼らには相応しいのかもしれない。
「……カッコいいね」
「……」
「そうね……。佳望学園の子も頑張ってるんだよね」
無意識に飛び出した泊瀬谷先生の爪が、金網に引っ掛かる。
きょう、狗尾高のグラウンドにやってきたのは他でもない。自分の目で確かめること、それに尽きる。

「あの子」
急に泊瀬谷先生が叫んだので、周りのみんなが驚かないか、ちょっとばかり気になった。爪を引っ込ませた指が一人の少年を差す。
しかし、子どもに戻った泊瀬谷先生は、大人の会話は通用しないほどまでに、背丈が小さく見える錯覚がする。

白い毛並みは生き写し。
大きな尻尾は生き写し。
「目元がすんごく似ているよ」と、泊瀬谷先生が言うものなので、きっと瞳も生き写し。
ただ、違うことは、彼は狗尾高野球部のピッチャーだったのだ。

噂には聞いていたが、びっくりするぐらいに、ぼくに似ている。
ひと球ひと球に魂を込めて、相棒であるキャッチャーに投げると、重い球の音がずしりと響く。
これで最後かと思わんばかりに、彼は息を切らして尻尾を落ち着かせる。尻尾の動きでバッターに悟られたら、
名ピッチャーを名乗れないのは、何となく分かる。冷静に、そして冷徹に。孤独な戦いは慣れているのだろう。
練習とは言え、試合さながらの投球にぼくらはすっかり彼に飲み込まれてしまった。
「よーし!いいぞ!いいぞ!」
仲間からの声援に頷いて答える彼は、一旦呼吸をして投球。そして、ストライク……。
「わー!よーし!あと一人!あと一人だぞ!!そろそろ押さえこんじまえ!!」
「もうそろそろかもね」
「……あ」
泊瀬谷先生の声に、先日の烏丸の声が重なった。
いつの間にか太陽はぼくらを残して、てっぺんに上り詰めていた。

436太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:11:19 ID:hvdRUvLI0
遠くに見える校舎の時計は正午を告げる。いきなりのことだった。
針が合わさると同時に、白球を追っていた生徒たちがいきなり試合をやめて、グランドに整列する。
そして、帽子を脱いで美しい一列を保つ。
「……」
「ごらん。ヒカルくん」
ぼくに似た彼も例外なく列を成し、一同が野球部の帽子を脱いだ刹那のこと、海岸の方からサイレンが響き始める。

「うおぉおーーん!!うおぉーーん!」
「うおぉおーーん!!うおぉーーん!」
「うおぉおーーん!!うおぉーーん!」
サイレンに負けじと、野球部員たちは天高らかに声を上げて、野生の血を沸かせる。
まるで使えし君主から剣を授かったように、彼らは勇気と誇りを尻尾に太陽に向かって吠え続ける。
剣を振り上げる代わりに、遠吠えを。
災いもたらすものを斬り裂く代わりに、己の牙を。
そして、大切なものを守るために、優しい毛並みの尻尾を……。

「まだ残ってたんだぁ、コレ。よかった」
「……そうなんですか」
確か、烏丸は「犬上はんなら分かることがある」と、言っていた。なるほど、彼らの遠吠えを聞いているうちに、
ケモノの血を取り戻す気になってくる。同じように、大地を駆け巡りたくなってくる。イヌだけに分かる不思議な感覚だ。
サイレンが鳴り止む頃には、彼らも遠吠えを止めて帽子を再び被ると、練習試合のポジションへと戻っていった。
無論、ぼくに生き写しである彼も、大きな尻尾を揺らしながらマウンドへと登る。
「狗尾高って言えば、この光景が有名なのよね」

グランドに面する金網にしがみ付きながら、狗尾高のエースを見守る大きな影がある。
見覚えのある、厳つい二人組み。耳に残る荒い言葉遣い。不安がよぎる。
「本物が投げているところ見るけど、やっぱカッケーよな」
「おれもだよ。噂に聞いていたけど、マジで真っ白なわけ?」
「ああ、白いわけ。この間のことは、勘弁してやろうってわけ」
佳望の街で遭って、そして泊瀬谷先生に助けられた(と、なっている)ときの荒くれ二人組み。
彼らはどうやら、狗尾高の生徒らしい。この間は、マウンドに登る彼と見紛って退散したのだが、
やはり彼らも狗尾高で学ぶ若人とあって、ぼくに似た彼を大事にしたいらしい。と、思うことにする。
誰だって、自分の学び舎が恋しいし、愛しい。

「先生の家族が待ってますよ」
ソイツらの影を見るや否や、ぼくはそそくさと泊瀬谷先生の手を引っ張ってその場を後にした。
今思えば、なのだが……。ぼくは、どうして先生の手を引っ張っていったんだろう。
ぼくのような青二才が、大人である先生の手を引っ張って先導をきって歩くなんて、若輩者の思い上がりだ。
泊瀬谷先生の顔を見るのは、今はちょっとできない。ただ、泊瀬谷先生は、ぼくをにっこりと見つめているのだろう。
取り戻したばかりの、ぼくの中のケモノはネコの優しさで消えてしまった。

437太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:12:17 ID:hvdRUvLI0
―――
「先生。怒られに帰ってくるから」
「……」
不思議と泊瀬谷先生の顔は落ち着いていた。

先に泊瀬谷先生が乗る電車が近づき、ホームの踏切が鳴り響く。恐る恐るホームに寄せる電車は、ピタリと扉を泊瀬谷先生の横に合わせた。
ごろごろと扉が開く。ここに来たときのように車両の乗客は皆無。隣の車両には二、三人ほどの静かな時間。
「じゃあ、また学校でね」
ホームの隙間を気にしてぴょんと電車に飛び乗ると同時に、ぼくが乗る佳望ゆきの電車もやって来た。
明日会うんだろ。明日どころか、毎日会うんじゃないか、と当たり前の事実がまかり通らない想い。
発車する電車をお互いに見守りながら、ぼくらはそれぞれの街に帰っていった。
それにしても、おなかがすいた。

電車に揺られ揺られてつり革を眺める。リズムよく揺れるつり革に飽きて、朝読んだっきりの文庫本を開く。
「あ」
開けることのなかった烏丸の手紙が挟まっていた。表には「いざというときに開けなはれ」の一文。その内容を、今初めて知ることになる。
封筒には和紙に筆ペンで書かれた手紙が添えられている。揺れる電車で文字がぶれて見える。
「もしかして、もしかして必要なときには、これを見せなはれ。狼藉を働く不逞な者が近辺に居るらしゅうてな」
大人のような毛筆は、京都訛りの烏丸の言葉が聞こえてきそうであった。
手紙にもう一つ同封されていたのは、小さな紙片。それには印刷された文字が載っていた。一言で言えば名刺だ。
『佳望学園・新聞部部長 烏丸京子』

のほほんとしている割には、抜け目のない烏丸の考えそうなこと。
そりゃ、乱暴を働いて、記事にされちゃ困るだろう。巡り巡って騒ぎになって、狗尾高野球部の迷惑になったらそれこそだ。
それで烏丸はぼくに名刺を持たせたのだった。いや、もしかしてぼくらが狗尾高にいる頃、何処かの木の陰から覗いていたのかもしれない。
そんなに烏丸のことは知らないが、烏丸のやりそうなことだ、と想像できる自分がちょっと照れくさい。

「ウチはこう見えても、佳望学園以外でも顔が通るんでな。狗尾高はんにはお世話になっとります」
「わたくし、新聞部の美作更紗ですっ!野球部のピッチャーさんで、真っ白で尻尾の大きな先輩がいらっしゃるそうで。
もっふもふの尻尾を生かしてどんなコスが見合うかなあ!もっふもふ!!もっふ!」
「美作はん、黙っとき!」
新聞部の二人の会話を思い浮かべながら、街までの電車に揺れられる。午後の太陽を背に浴びながら、ぼくは小さく「わおーん」と呟く。


おしまい。


以上です。よろしくお願いいたします。
早く規制が解けますように。

438名無しさん@避難中:2010/05/11(火) 02:56:44 ID:/8NWh4kwO
遠吠えで気合い入れ!
スゲー燃える!
ほんと、獣人さんが野球やったらそんなんやりそうだなー
ヒカル似のピッチャーかっけぇ

439 ◆/zsiCmwdl.:2010/05/11(火) 19:06:08 ID:yoFGVT720
うむむ!? 市電以外の鉄道が出てきただと!?
烏丸先輩は相変わらず腹黒い、そして更科さん染まりまくってるw
にしても、ヒカルと泊瀬谷先生は相変わらずキュンキュンさせるなぁ……


あ、それとエロスレの方で投下したので、18歳以上の分別をわきまえた方はどうぞ

440名無しさん@避難中:2010/05/11(火) 19:16:10 ID:bZL5TWWUO
ケモスレって単発でしれっと投下しずらいんだけどいいのかな?

441名無しさん@避難中:2010/05/11(火) 19:57:24 ID:BpcS3njg0
>>440
早く投下しろーーーーーー!!!単発でもオリジナルでも版権でも
何でも来おおおおおおおい!!!!

442蛇と平和 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/11(火) 20:49:39 ID:bZL5TWWUO
>>441
 鋼鉄の檻が眼前に広がる。冷たい空気と独特の臭いが立ち込めるが、その前に立つ二人には慣れた空気だ。
 突如、檻が轟音を立てる。柵には巨大な手がかけられ、中で唸るそれはもはや知性を感じさせない。
 さながら『動物園』とでも言うべき光景だった。

「……先祖帰りだな」

 檻の前に立つ者の一人が言った。
 もう一人がすぐに返す。

「確認しただけで六人……。本人がこれじゃ事情聴取も出来ない」
「実際はどうだと思う? 久藤」
「本人は単なる生活の一部として犯行に及んだ。最初の事件から日付から考えれば……」
「そうか」

 久藤と呼ばれた人間は檻に近づき、スプレーを吹き掛けた。中に居た熊は叫んで、奥へと待避する。

「止めろ久藤。あとで訴えられたら面倒だ」
「ほっとくわけにもいくまい。この怪力じゃ壊されかねない。お前には出来ないしな。薮田?」
「イヤミのつもりか?」

 薮田と呼ばれた蛇はするすると檻の前まで行き、久藤と並ぶ。

「……こうなってしまえば、どうにもならないか」
「ああ。おそらく精神病棟にブチこまれるだけだ。治療しようにも本人に理解出来るだけの知性が無くなってる」

「悲しい事だな」
「フン。殺された被害者の前では言えないな。熊が相手じゃほとんどの連中じゃ手に負えない
 今回も結局は実弾使って、それでもまだ生きている程だ」

 薮田はチロチロと舌を出しながら、中の『野獣』をじっと見つめる。

「私ならこんなマネはしでかさないがな」
「冗談言え。お前ならもっと狡猾にやるだろう?」
「そうだ。もっと上手く、確実に。自分に被害が及ばないようにやるだろう。だから私はやらない」
「警官にあるまじき発言だぞ」
「警察は甘くないと言ったんだ」
「……蛇め」
「それは侮辱のつもりか?」

 二人は留置所から外へ出る。

443蛇と平和 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/11(火) 20:50:04 ID:bZL5TWWUO
 久藤は紙コップのコーヒーを飲みながら、先程の容疑者について思いを馳せる。
 何故か防ぎようがない、『先祖帰り』による殺人。

「知性の代償かもな」

 薮田は言った。

「どういう意味だ?」
「……いくら知性を得たとて、所詮は我々に根差す本能は消えはしないって事だよ。
 だが、知性を得た事によって危機を防ぐ能力は大分衰えた」
「それを進化と言うんじゃないのか」
「さぁな。どちらにせよ、本能は消えない。私もお前もな」
「捻くれてるな」
「そういう種族さ」

 二人は車に乗り込み、街へ出る。
 仕事は無いほうがいい。何事も無く、皮肉屋の蛇の小言と一緒に街を流す。それだけでい。
 久藤はそれを平和と呼んでいた。

444名無しさん@避難中:2010/05/11(火) 20:52:57 ID:bZL5TWWUO
投下終了

445名無しさん@避難中:2010/05/12(水) 21:08:21 ID:qxsZQToI0
わんこさんのを代理投稿してみましたが、さるさんを喰らってしまったよ
うです。あとふたつだったのですが… 10時になれば解除になるんです
よね? それまでじんわり待って続きを投稿したいと思います。

446名無しさん@避難中:2010/05/12(水) 22:16:34 ID:qxsZQToI0
>>427
本スレへの代理の投稿、完了しました。
 初めてなので、色々不手際が有ったけど、何とか出来ました。

447わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/12(水) 22:29:29 ID:pGIx9hVk0
ありがとうございます!
投下されたイラストは、イマージどおりでびっくり!
古い電車は大好きです。

448名無しさん@避難中:2010/05/13(木) 06:12:08 ID:/3/oC5H6O
駅の絵いいなー

449名無しさん@避難中:2010/05/13(木) 06:17:34 ID:/3/oC5H6O
>>443
乙。
蛇の獣人さんはスレ史上二人目。
レアキャラ狙いましたね。

450名無しさん@避難中:2010/05/13(木) 23:41:35 ID:JkzlAUow0
>>443
どこかで見たトリと思えば。単発大歓迎!
短くて世界観が出せるのはすごいなあ。

>>414
「相関図的なもの」作者様へ。
以前うpされた相関図を、自分なりにPC上で切り貼りしてみました。キャラ多いなぁ。
佳望学園を初見の方にも少しでも把握できるように、それをうpしても差し支えはないでしょうか?
よろしくお願いいたします。

451 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/14(金) 01:23:10 ID:xqVKu1DsO
>>449-450
わんこ様に何度か心臓握り潰されそうになったんで真逆の超ドライなの書きたかったんだが、まだムリですた。

しかし投下が多くてええスレや。

452名無しさん@避難中:2010/05/14(金) 11:06:03 ID:SM/HdQcs0
>>450
相関図の者です。 御存分に御利用くださいませ。
 といいますか、是非とも皆さまの自由な感覚でアレンジしてくださいな。その
 ための素材になれれば幸いだと思いますので。

>>447
古浜海岸駅がそんなに間違ってなくて良かったです。 イメージではあの向こう
側少し行ったところに浜辺が広がってるって感じかなと思ってます。
小さいころにあまり電車と接していなかったせいか、ノスタルジックな電車とい
えば就職してから出会った東急の緑の芋虫電車になってしまい、それを元に描い
てみました。

453名無しさん@避難中:2010/05/14(金) 20:11:57 ID:LvVf8gF60
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1076.jpg
>>452さん
ありがとうございます。
「佳望学園・相関図」作ってみました。見やすいでしょうか?間違え・ツッコミあれば何なりと。

454名無しさん@避難中:2010/05/14(金) 21:17:08 ID:UR/f8Go.O
うおおお乙!すっきりしてわかりやすい!
まあ気付いた点もいくつか
まず元絵からの話だけど、正しくは「浅川・シュルヒャー・トランジット」「ルイカ・セトクレアセア」
伊織さんが不思議なことになってる件。あれ?義姉さーん
鈴鹿さんは惣一に片想い(いやいやパラレルではなくちゃんと本編で)
サン先生と英先生…はどう繋げばいいのかよくわからん
こんなとこかね

455名無しさん@避難中:2010/05/14(金) 21:25:05 ID:X8Uf9Xvo0
相関図すげえー。見やすくて良いなあ。
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1077.jpg


…ルイカと淺川、こっちも間違えられやすい名前で作ってすまぬううう/(^o^)\

456名無しさん@避難中:2010/05/14(金) 22:09:41 ID:v3Nh1rfY0
>>453
おおすげえ! こいつは見事な相関図!

だが俺も少し気になった所が何箇所か。
先ず一つ、鈴鹿さんは元女子プロレス部で現在は飛行機同好会です。
二つ、上でも書いた通り、女子プロレス同好会ではなく女子プロレス部です。
三つ、血の繋がりは無いですが御堂 卓、御堂 謙太郎、御堂 利枝は一応親子関係にしてください
四つ、卓、朱美、利里の三人は悪ガキトリオで通っていると同時に鉄道研究部に所属しています。
(しかし鉄研部の入部に関しては卓、利里は同意していない)
五つ、佐藤先生、兎宮かなめは射撃部。ただし、かなめは狩猟同好会と掛け持ち。
六つ、上でも書いた通り、かなめの所属する狩猟同好会には美弥家 加奈も所属(絵には描かれていないけど三島 瑠璃も所属)
七つ、飛行機同好会のメカニック担当は跳月先生と真田 勉の二人。松来さんは部品の供給元。

む、ちょっと多いけど……こんな所かな?

457453:2010/05/14(金) 22:56:50 ID:LvVf8gF60
おおお。みなさん、ありがとうございます。
修正してまたうpしますね。

458名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 09:00:36 ID:C9TvPImA0
元図の者です。

>>455
ううう、名前を間違えてしまって申し訳ないです。

>>454,456
そーだったそーだった。
忘れている関係とかイベントとか、存外有ることに気付かされましたですよ。

>>453
と言う事で、最低限図に必要そうなキャラを追加したものをこれから描きますので、少々
お待ちいただけますか?
 えーと、ミミ、葉狐、更紗、瑠璃、堅吾、蜂須賀、アリサ、ナガレの両親、木島&緋野
 くらいですかね?(結構残ってたなぁ)。

459名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 12:00:40 ID:C9TvPImA0
ただいま、上記11にんの追加と二名の名前修正したものをアップしましたので、存分に
いじって下さいませ。
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1080.jpg

460名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 17:00:31 ID:yRiOOeM.0
>>459
おお! 今までイラスト化されてなかったキャラが何人も。
特にカブト虫の堅吾はこう言う姿だったのかと感心w

461名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 21:45:02 ID:qU7U0zeA0
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1081.jpg
相関図ver1.1

修正してみました。

462名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 22:01:30 ID:qU7U0zeA0
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1082.jpg
相関図ver1.1

ちょっとまた、修正しました。

463名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 23:14:14 ID:DhYNHLlA0
獣人スレはパート2くらいまでしか把握できてないぜ
コレッタは確かケモ学の最初期キャラだったはず

464名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 23:14:35 ID:DhYNHLlA0
誤爆

465名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 23:41:12 ID:l035HkTg0
誤爆先を教える権利をやろう

466名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 23:42:13 ID:DhYNHLlA0
>>465
ラジオスレ

467名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 23:48:36 ID:l035HkTg0
見に行ったら既に終わっていたぜ

468名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 23:51:56 ID:ZmE0F.1E0
うpを待つんだ!

469名無しさん@避難中:2010/05/17(月) 13:00:44 ID:6Z/T7QiU0
ああ、何度見直してもかわゆい
けもかわゆい相関図ケモかわゆいよ
ラジオのDJさんへおすすめとか言えなかったのが悔やまれるよ

470名無しさん@避難中:2010/05/17(月) 13:31:11 ID:fK0vbD8wO
ラジオDJ氏もここ見てるかも。

471名無しさん@避難中:2010/05/17(月) 13:38:32 ID:seyEJ3z6O
本当にねえ
リアルタイムで聞けてたなら語りまくってたのに

472蛇と銃弾 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/17(月) 19:10:28 ID:WPjUDqF2O
「今日は冷えるな」

 薮田が言う。
 小雨が降っていた。車の屋根を叩く音はさーさーと心地よく車内に響いてくる。
 薮田はしっぽの先で器用に缶コーヒーを持ち、久藤の運転する覆面パトカーの助手席に丸まって座っている。
 人間である久藤にとっては涼しい程度だが、蛇の薮田には多少堪える気温だった。

「そんな薄着だからだ」
「これ以上着込む必要もない。私にとってはジャマなだけだ」

 薮田の来ている蛇用の衣服は薄手だが特別な保温性を有している。蛇の身体特性を失わない程度の柔軟性と、体温の低下を阻止す機構を備えた優れ物だ。

「制服着てた頃が懐かしいか?」
「あんなのはもうゴメンだ。蛇に帽子はいらないさ」
「今よりは暖かいだろう」
「動きにくいだけだ」

 なんて事の無い会話だった。今日も、このまま薮田の小言に付き合って一日が終わる。そのはずだった。
 二人の乗る車は墓地の辺りを通る。雨は既に霧となり、雰囲気はB級ホラー映画のようだった。
 警察署から市街へと向かう近道として、彼らはよくここを通る。昨日は徹夜で仕事に追われていた二人はさっさと家に帰ろうと、この道を選んだのだ。
 時刻は、朝の五時半をちょうど回った頃だった。

「なんだあいつら?」

 久藤は霧の奥の人影に気づく。車を止め目を懲らすと、猪と体格のいい虎が何やら話し込んでいる。

「こんな時間に墓参りするか?」
「さぁな。私ならやりかねないが……。墓参りの雰囲気でもないな。墓を見ていない」
「よし、行こう」
「また徹夜かもな」

 二人は車を近づけ、素早く横付けにする。車を降りながら警察署手帳を見せつけ、職務質問だと告げた。

「ここで何してる?」

 久藤の質問に猪はありきたりな答を返す。

「墓参りだよ。今しか時間が無かったんだ」
「花も持たずにか? 墓参りならなぜ道路の脇で話し込む?」
「たまたまだよ。もう終わったし帰る所だ。」

 やはりと思う。
 猪の解答は筋が通っている。あらかじめ用意された解答のように。

473蛇と銃弾 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/17(月) 19:10:50 ID:WPjUDqF2O
「持ち物検査を行う。協力してくれ」
「持ち物検査? 冗談じゃねぇ。俺が何したってんだ」
「さぁね。それを今から調べるんだ」

 猪は明らかにうろたえている。普通なら怪しまれれば身の潔白を正銘しようと協力的になるか、より攻撃的になる。それならば最初の段階で取り付く島も無いはずだ。
 持っている。
 久藤の勘はそう言っている。

「拒否するなら公務執行妨害だ。どうする?」
「ふざけんじゃねぇよ! 俺が何かしたかよ!!」
「うろたえすぎだ。観念して指示にした――!」

 突如、横に居た虎が久藤を突き飛ばす。
 体格差が有りすぎた為か久藤は紙屑のように飛ばされ、派手に尻餅を付いた。

「ううううううぅうう………」

 虎の声はもはや言葉となっていない。憎しみを込めて唸っているだけだった。

「やりやがって……!」

 久藤はなんとか立ち上がり、目線で虎を追う。それを見ていた猪は虎とは反対の方へ逃げだそうと走りだす。
 待て! そう言おうとした矢先、猪の膝に鞭のような物で一撃が加えられた。薮田だ。
 たっぷりとしなりを効かせたしっぽの一撃は並の威力ではない。
 猪は情けない声を上げて転倒し、薮田はそれに瞬時に絡みつく。

「うご………! 放せ! 放しやがれ!」
「喚くな猪風情が。このまま締め上げて殺す事も出来るぞ。全身の骨を砕いてな」

 薮田は感情の無い目で言う。ただの脅し文句だが、暴れる犯人を震え上がらせるには十分だ。

「久藤! 逃げた虎を追え。コイツは私に任せろ」
「わかった。すぐ戻る」

 久藤は懐から拳銃を取り出す。相手は虎。それも錯乱している可能性がある。嫌な予感が頭を過ぎっていた。
 スライドを引いてチャンバーに弾薬を送り込み、安全装置を外す。

「朝から撃ちたくねぇけどな」

 走りながら愚痴を言うが、誰も聞いてはくれない。
 虎はフラフラと歩いたり走ったりを繰り返し、半地下の納骨堂の前につく。
 ちょっとしたレンガ造りのトンネルに入り、壁に寄り添いうなり声を上げていた。

474蛇と銃弾 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/17(月) 19:11:43 ID:WPjUDqF2O
「警察だ! 止まれ!」

 銃を構えお決まりの事を言う。
 映画ではこれで止まる者などいないが、実際はこれ以上の脅しは無い。ほとんどの連中は大人しく従う。
 一方虎は、壁に頭をズリズリと擦りながら声を上げ続けている。

「警察だ! こっちを向いて止まれ!」

 もう一度怒鳴る。虎の耳にも届いたのか、ゆっくりと久藤の方を向いてくる。
 その顔は既に感情に飲まれている。
 目は血走り、口からはよだれがだらだらとこぼれ、野獣のような唸り声を漏らす。

「両手を頭の後ろに置いて地面に伏せるんだ! 今すぐ!」

 虎は一歩前に出る。指示に従う様子は無い。その視線からは明確な敵意が伝わってくる。

「指示に従わなければ発砲する! もう一度言うぞ! 止ま――」

 久藤が言い切る前に虎が飛び掛かる。
 猫科特有の瞬発力を用い、その巨体が久藤の上にのしかかる。
 上を取られた久藤はあえなく下敷きになる。

「うううう………。うあアアッァァァアア………!!!」
 もはや声とは呼べない。錯乱した虎は爪を久藤の身体に食い込ませようと何度も爪を立てるが、下に着込んだボディアーマーが邪魔をする。
 うまく行かないとみるや、今度はその長い牙で喉元に噛み付こうと大口を空け顔を近づけてくる。

「舐めやがって……!」

 久藤は銃を握ったまま鉄槌を虎の顔面に打ち込む。グリップの底が虎の牙に当たり、久藤は確かな手応えを感じた。虎が叫ぶと同時に、今度は耳の下の急所にも同じ攻撃を加える。
 虎が一瞬怯んだ隙を見て久藤はそこから脱出し、距離をとって再び銃口を向ける。

「うううううううううううう…………!!!」

 虎はまだ敵意を表す唸り声を上げていた。
 口からは血が流れている。最初の一撃で牙が折れていたのだ。

「今度こそ止まれ。次は警告無しだぞ」

 その言葉は届かないだろう。事実、虎はまた久藤ににじり寄るってくる。
 そして、霧のかかった朝の墓地に銃声が二回、連続して響いた。

475蛇と銃弾 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/17(月) 19:12:03 ID:WPjUDqF2O
※ ※ ※


「虎からLSDが検出されたわ」
「そうか。あの猪野郎も持っていた。奴が売人だな」

 薮田は警察署で鑑識の女性警官と話をしていた。
 彼女は久藤が射殺した虎の鑑識を行い、薮田の指示で行った薬物検査の結果を告げに来たのだ。
 シロサギの彼女の羽は幾分かバサバサになっている。彼女もまた署内での缶詰業務に追われていた。

「忙しい所悪かった。邪魔をしてしまったな」
「いいわ。これも仕事よ。久藤さんは?」
「医務室だ。LSDでパニックになった虎と立ち回ったんだ。無傷のはずが無い」
「そう。遺体を確認した皆が驚いてるわよ。……凄い射撃の腕だって」
「心臓に二発か。基本に忠実だ」
「知ってたの?」
「銃声は二回だった。それは久藤が射殺すると決めて撃った時だ」

 薮田はするりと椅子から降り、その場から立ち去ろうとする。あまりに素っ気ない態度。
 しかしそれが薮田だ。蛇そのものの生き方。

「どちらへ薮田刑事?」
「取り調べさ。あの猪を締め上げてどこからLSDを持ち込んだのか吐かせる」
「あなたが言うと冗談に聞こえないわね」
「冗談をいうタチじゃないさ。しかし……」
「しかし……。何?」
「この街で薬物犯罪が無かった訳じゃない。だがLSDが出て来たのはここ最近だ。それまではコークが主流だった」
「売人が乗り換えたんじゃないの?」
「違うな。コカインを転がし続けた連中がそうそう他のに手を出すはずがない。それにLSDは競合する薬物になる。
 そうなればコカインの売上も落ちる」
「どういう事?」
「商売敵がこの街に来たって事さ」

 薮田の推測が当たっているかは解らない。だがそんな事は当の薮田には関心は無い。

「あとは麻取と麻薬科の仕事だ」

 薮田はそれだけ言った。彼は彼の仕事をするだけだ。
 己の職務をまず第一に全力で行う。それが薮田の信念だった。
 彼はそのまま、医務室に居る相棒を迎えに行く。そしてそのまま、持ち前の狡猾さで取り調べを行うだろう。

476蛇と銃弾 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/17(月) 19:12:26 ID:WPjUDqF2O
投下終了

477名無しさん@避難中:2010/05/21(金) 20:20:06 ID:PRTBDwNUO
これはなんとハードな雰囲気
蛇刑事とは新しい。かっこいいな

478 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/21(金) 21:19:31 ID:STQjZeVkO
いつの間にか代行されてた件。
乙でした。

479名無しさん@避難中:2010/05/21(金) 21:46:16 ID:3WT3wOT2O
塚本「口蹄疫オソロシス」

来栖「どげんかしてほしいですマジで」

ライダー「ユンケルがどうかしたの?」

馬&鹿「「……」」

ライダー「え?俺なんか変な事言った?」

塚本「ツッコミが救えるボケばかりだと思うなよハゲ!」

来栖「当事者意識ひきーんだよ巨大昆虫が!」

ライダー「…………ごめんなさい」

蜂須賀(蜂大量死したときはスルーしてたくせに……)

480名無しさん@避難中:2010/05/21(金) 21:57:51 ID:STQjZeVkO
>>479
ワロタけどワロエないwww

481名無しさん@避難中:2010/05/22(土) 01:55:35 ID:1HT9qI3MO
塚本「口蹄疫オソロシス」

来栖「と、いうわけで対策を教えてもらいにきた」

シロ「お前達ヒマ人だなあ」

塚本「コーシーくれよー」

シロ「サ店じゃないんだぞ…(言いつつコーヒー差し出す)」

塚本「(ズゾゾー)ウマー」

来栖「で、俺たちは死ぬのか?」

シロ「死なんわ口蹄疫くらいで」

来栖「え?死なねーの?」

シロ「人間の病気に口唇ヘルペスってのがあるんだが、それに似てるんだ。
顔面神経にウイルスが取り付いてしまって、一度感染するとウイルスを全部除去出来なくなる」

来栖「困るじゃん」

シロ「うん。でもヘルペスウイルスは日和見感染症で、免疫が働いていると全然症状が無い」

来栖「口蹄疫も同じ?」

シロ「いや、口蹄疫は結構症状が現れやすい。完治しようが無い理由は同じだけどね。
くわえて口蹄疫の場合は感染力がべらぼうに強いから、畜産の場合は殺処分する」

塚本「(ゲップ)ごっつぉーさま。オカワリ」

シロ「お前始めから全く聞いて無いだろ」

塚本「失礼な!しっかと聞いてたわ!」

来栖「じゃあ俺とシロちゃんの会話、要約してみろ」

塚本「ああん?えーと、うー……口のヘルスは、顔に付くと、困る?アレかな、メイクが落ちるからかな」

シロ「カエレ」

482名無しさん@避難中:2010/05/22(土) 09:55:30 ID:7aUHYxj.0
口蹄疫って、偶蹄目の病気なんで、来栖はまずいけど塚本は大丈夫なんじゃないかしら?
花子先生とかいのりんとかトンコは気をつけないと。wikipediaによると大吾もか。

483名無しさん@避難中:2010/05/22(土) 11:17:35 ID:1HT9qI3MO
塚本「俺は大丈夫だと、途中で気付いた」

来栖「だからサ店気分だったのか」

484名無しさん@避難中:2010/05/22(土) 16:30:43 ID:tPbogZH6O
保健委員も大変だな

485 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/26(水) 23:19:01 ID:UnAl3IDEO
本スレ>>736
薮田が俺のイメージ通り過ぎる件wwwwwwwwwwww

486名無しさん@避難中:2010/05/29(土) 07:40:53 ID:QtBNmH16O
チェンジリングにあの正義の味方が現れた模様です

487361:2010/05/29(土) 09:31:40 ID:XTrk/m2YO
ご名答。
ただ知らない人にとっては謎の人物ってことにしておきたいので、
話の中でネタバレするまではケモスレの話題は出さないでくれると助かります。

488名無しさん@避難中:2010/05/29(土) 09:57:11 ID:QtBNmH16O
そうでしたか、すみません!
ちゃんと黙っておきますんで。
SSでの動きとか拾っててくれて非常に嬉しかったです。
続きwktkしてます

489名無しさん@避難中:2010/05/31(月) 12:55:08 ID:O6QOf/UoO
吹奏楽部かわいいよ吹奏楽部
噛み付きに特化した肉食獣の口だと息吹き込むの大変そうだなあ

490 ◆/zsiCmwdl.:2010/06/19(土) 02:59:46 ID:KtWOKf/60
ちょいとお知らせなのでここで。
来週の金曜に投下する予定の第2部【承】ですが、
諸所の事情の為、来週の火曜日の投下へと変更します。

お知らせは以上です。

491 ◆akuta/cdbA:2010/06/19(土) 22:53:54 ID:BZtTSGwk0
ムオオー
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1167.jpg

492名無しさん@避難中:2010/06/19(土) 23:14:04 ID:JW/JpIOQO
>>491
なんかかわいいw

493名無しさん@避難中:2010/06/21(月) 05:51:13 ID:3htNoXMoO
かわいいなー

獅子宮先生って眼帯っ子だったね
その過去って明かされてたっけ

494わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/06/24(木) 23:24:37 ID:CXf7ZP6k0
>>491
獅子宮センセに萌えた!

本スレでは長編が進行中なので、ここで投下しよっと。

495そよ風の憧れ ◆TC02kfS2Q2:2010/06/24(木) 23:25:21 ID:CXf7ZP6k0
「助けてっス!!!ボクの人生最大の危機を助けて欲しいッス!!」
いつもは静かなそよ風吹き抜ける午後の佳望学園の図書室で、けたたましい悲鳴がいきなり広がった。
声の主は保健委員。ケモノの尻尾をふりふりと、ケモノの脚をぶらぶらと、そしてパニくるこえはぎゃあぎゃあと。
他でもない。ちょっと高めの本棚の一番上の本を取ろうとしていただけのことだ。しかし、無理してジャンプしたのがいけなかったのか、
片手を棚に引っ掛けて地上50cmの宙ぶらりん。いつも被っている海賊の帽子もこのときばかりは勇ましさも感じられなかった。

保険委員の声を察知してか、白くて大きな尻尾を揺らしながらやってきたのはイヌの少年・犬上ヒカル。
ついインクの香りに誘われて小説もいいけどエッセイも、と思いながら背表紙の文字だけで今日借りる本を選りすぐっていたところ、
この部屋に似つかわぬ声を耳にした。声の元は、『保健』に関する本棚の方。借りようかと思っている本を手に現場へ向かう。
今、危機に陥っている保健委員を助けなければと、ヒカルは暴れる一方である保健委員の脇を抱えて、そっと母なる大地に下ろしてやった。

「ふう……。助かったっス!ありがとう!ヒカルくん!」
「……図書室では、静かにね」
「分かったッス。で、あのー……ヒカルくんにお願いが」
遥か高く見える本棚の頂上、お目当ての本が取りたくて恐る恐る視線で指差す保健委員。
コスプレの眼帯もこのときばかりはちょっと格好が付かない。ヒカルは保険委員の目を一瞥すると何も言わずに、本棚上段に手をかけた。
「そう、その本っス」
小柄な保健委員が取りたくても取れなかった本を軽々と手にするヒカル。いや、保健委員が小さすぎる為だろう。
ヒカルはじっと注射器や聴診器の絵が描かれた本の表紙を見つめて、大きな尻尾を揺らした。

「そう!ボクの夢は立派な保健委員になることっスよ」
「……」
司書さんが待つカウンターへと、本と志を胸に抱きながら保健委員はヒカルと並んで静かにじゅうたんを踏み鳴らす。
図書室の窓が額縁のように校庭に立つ大きなイチョウを描き、梅雨の合間の光を受けていた。そして、そのおこぼれを頂く一人の子ネコ。

「クロも風に乗ってみたいニャ」
イチョウの枝に腰掛けて、衣替えしたばかりの制服の裾なびかせて、クロネコの佐村井玄子が水無月の風を感じていた。

―――図書館でお気に入りの一冊を借りると、ヒカルと保健委員は好きな本のことを話しながら下駄箱へ向かった。
犬上ヒカルという子は普段は物静かなのだが、本のこととなると話が止まらなくなるらしい。
初めて読んだ絵本、先生に薦められた童話、父から贈られた詩集。高校生になるまでに積み上げてきた小さな読書歴が、春を待ち望んだ花のように咲き誇る。
負けないッスよと保健委員も頷き返しながらアンリ・デュナンやナイチンゲールの偉人伝を思い出す。
幼いころ読み漁った本はいつか思い出と、記憶の糧になるとは誰が言ったのか。

496そよ風の憧れ ◆TC02kfS2Q2:2010/06/24(木) 23:26:00 ID:CXf7ZP6k0
話に夢中になっていたからか、二人はいつの間にかクロの登っている木の下にやってきていた。
「何してるッス!落っこちたらケガするッスよ!骨折して……」
「……」
保健委員は子ネコが木の登る姿に肝を冷やしているが、冷静に考えれば杞憂に過ぎない。何故ならクロはネコの子。
それを分かっているヒカルは、子ネコを通り越してグラウンドから響く声の方が気になっていた。
いつも聞きなれた中等部の生徒の声に混じって、聞き覚えのある若いお姉さんの声が届いたのだ。
「来てるのかな……」
「誰っスか?」
「杉本さん……」

―――そのころ、グラウンドで小さな巨人・イヌのサン・スーシ先生が『コンダラ』を引っ張ろうとして、空中で足を空回りさせていた。
もっとも『コンダラ』と言う呼び方は正しくないと理解している者は多いと思われるが、おそらく国内では『コンダラ』で通じるアレ。
その『コンダラ』の重量を制しきれず、握り棒を持ったまま宙ぶらりんなサン先生は、ひたすら足を永久機関の如く回し続ける。

「あははは!サンったら本気出せー」
サン先生だって、狙ってやっているわけではない。なのに、笑い声が聞こえてくるなんて、台本なしのコメディ映画が大ヒットするようなもの。
さて、その声の主とはバットを杖代わりにし、ケラケラと笑いながらサン先生の本気ぶりを眺める若い女のネコ。
Tシャツから覗く白い毛並みと、ショートの金色の髪が健康的。すらりと伸びたGパンの脚はお子ちゃま体型のサン先生と対照的。

いや、お子ちゃま体型と言うより「見た目は子ども!」を体現した立派な成獣男子なのだが、如何せん言動がお子ちゃま以上オトナ以下だ。
実際にサン・スーシ先生は、初等部の子たちと比べても大差がない。むしろ先生の誇りといっても差し支えはない。
それに『コンダラ』の握り棒は丁度、サン先生の顔あたりに当たるので『コンダラ』はサン先生を軽く持ち上げることができる。
「まったく、ミナは何しに来たんだよ」
「理由なんか後付で十分だよ」
彼女は学園外部の者。教師にしては自由すぎるし、生徒と考える道筋は、はなから間違え。だが、親しげにサン先生に話しかける。
第三者から見れば凸凹だけど、離れ離れになったピースがぴったりと合うようなネコとイヌは、放課後の佳望学園を賑やかす。

「あのー、サン先生。全然進んでいないんですけど」
「動いてる!動いてる!」
「ちっとも、そうは……」
サン先生、中等部の生徒たちにまで心配されているようじゃ、そろそろ誇りを守ることを考えたほうがよろしゅうございませんか?
ほら、御覧なさい。中等部のお気楽三人組タスク・アキラ・ナガレが手に野球用のグローブをはめて心配そうに見つめる姿が滑稽に映ったのか、
若い女のネコは使い込まれたスニーカーで駆けつけて、意地っ張りな仔犬をからかいにやって来たではないですか。
「ミナはまったくなにしに来たんだよ」
「面白いな、コレ」
「あの、杉本さん……」
「ミナでいいよ!アキラくん」
オトナのオンナノヒトと話が出来ただけで、アキラはちょっと舞い上がった。
オトナのオンナノヒトが笑っているのを見ただけで、タスクはちょっと尻尾が揺れた。
オトナのオンナノヒトのTシャツが捲れただけで、ナガレはちょっと瞬きが多くなった。
弟みたいなオトコノコたちに囲まれて、杉本ミナは少年のような無邪気さを垣間見せる。

497そよ風の憧れ ◆TC02kfS2Q2:2010/06/24(木) 23:26:29 ID:CXf7ZP6k0
「いい加減、諦めなよ」と、言い終わると同時に空を突き抜ける気持ちの良いサン先生の音。
頭を擦りながらサン先生は目の前で満面の笑みのミナを見上げていた。「コレでも教師だぞ」と抗議するも、ミナには届かず。
手をはたいて『コンダラ』を諦めたサン先生は、両脚揃えてとび跳ねる。
「あの。ボール持って来ました」
「でかしたっ。気の利く男子は女の子にモテモテだ」
バケツ一杯にソフトボールを詰め込んで、両手でふらふらと抱えるイヌの芹沢タスクは、反射的に頬を赤らめた。
グローブに拳を叩き込んで、気合だけはいっちょ前のアキラ。物静かにメガネを光らせるナガレ。そして、生徒以上に生徒なサン・スーシ。
透き通る空と、汗ばむ季節に誘われて。グラウンドに白球の虹を架けてみせると、杉本ミナは意気込んだのだ。

「さあ!みんなバックバック!!わたしの球をキャッチしたいなら、相当後ろに行かないと取れないぞー!」
男子4人組よりも活発で、空色のような声を上げてバケツから球を拾い上げ、軽く上に投げる。腰を落とし、脚に力を込める。
音が出るぐらいの勢いでバットを振ると、ポカチーンと音を立てて白球は大空に吸い込まれた。
タイミングを合わせたように風が吹く。ミナのTシャツの裾が揺れ、白い毛並みのへそが顔を出した。
おっと、健全かつ不健全な思春期の少年にはちょっとこのご褒美は早すぎる。いや、奴らはそれ頃じゃない。
愚直にまっしぐらに、そしてケモノの本能そのままに白球を追い駆けているのだから、そりゃ残念でした!

「タスクくん!走れー!!」
一度地面に落下した球は勢いをそぎ落とし、幾ばくか跳ねながらグラウンドの外へ向かって逃げ出す。
ワイシャツ乱しながらタスクは一心不乱に球を追い駆け、グローブでキャッチ。下手投げでホームのミナに送球するも、
地面を駆け抜けるネコに追われたネズミのように、球は素早く転がっていった。しかし、悔しそうなのはサン先生。
「あ、あれは……ミナが打つのがヘタクソだったんだよな」
「ヘタクソの癖にヘタクソ呼ばわりなんて、サンには千本ノックだよ!!ヘタクソ!」
白い歯を見せて、白い毛並みを揺らし、球を一つ拾い上げて、さあマシンガンの如くミナの千本ノックがサン先生に浴びせ……。
いや、意外にも球はゆっくりと垂直に飛んでいった。地上の一堂、天を仰ぎ各々両手を上げる。

革の響く音!清々しい爽快感!そして、一瞬の静寂!一人だけが浴びることを許された視線!

498そよ風の憧れ ◆TC02kfS2Q2:2010/06/24(木) 23:26:57 ID:CXf7ZP6k0
「あ……」
マヌケな声を上げたのはタスクだった。両手を挙げて一旦掴んだ球が転がり、頭にコツリ。
「わたし、ヘタクソだから簡単に取られちゃったね!」
「へたくそ!!」
「言ったね……、サン・スーシくん」
ミナの本気がみなぎる。動き出した機械仕掛けの時計のようにゆっくりとバットは地上から天を指し、ボールを持つ手も力が入る。
構えたポーズからはゆらゆらと陽炎のような空気のゆれ。そんなに暑い季節でもないのに、ミナの周りはとみに濃い影が出来ているようにも見えた。
ぱあっ!と天空に放たれたボールは一瞬のうちにミナの振り切るバットに吸い込まれ、この夏いちばん快い音。

取るか?
取れぬか?
取るか?
取れぬか?
取るか?

白い雲に吸い込まれそうなボールを追い駆け、両手を挙げるサン・スーシ。
丸いめがねに丸い球が映る。大きくなりつつある白球。地面のイヌに向かって、すっと……。

―――クロがヒカルの肩に飛び込んだ。
予期せぬ出来事にヒカルは目をちょっとだけ丸くした。初等部の児童とはいえ、いきなり背中にオンナノコが乗ってきたんだから。
「ヒカルくんのお陰で、空を飛べたニャ!!」
ほんのわずかだけど、鳥のように空を独り占めできたクロが珠のような歓喜の声をあげる。ヒカルはその声だけで、全てを許していいとも思った。
あまりにも一瞬の出来事だったので、保健委員も口を開く暇さえなかった事実。クロはヒカルの若々しい白い髪に顔を埋める。

「くんくんするニャ」
「……」
けっしてヒカルは声を荒げることは無い。小さく細いクロの脚がヒカルの両腕に掛かり、くすぐったいクロの手が首筋を擦る。
クロの黒曜石のような毛並みがヒカルの雪に埋まり、ただでさえ小さなクロが小さく見える。
「くんくん……ニャ」

夢は見えた?夢は叶った?

クロは「今度は大空を飛ぶニャよ!」と目をつぶってヒカルに抱きついた。
「おや?ヒカルくんじゃない。これまた背中にかわいい子をおんぶしちゃって」
「あ、あの……。杉本さん」
「ミナでいいよ!」
ヒカルはちょっと頬を緩めた。自分と同じような格好をしているミナとかち合ったのだから、当然と言えば当然だ。
ただ、ミナが背負っていたのは『かわいい子』ではなく、頭にたんこぶ作ったサン・スーシだった。
「たいしたことない!たいしたことない!!」と、大声を出して抵抗するサン・スーシだが、ミナに全てを掌握されて
だだをこねる子ども以上に金切り声をグラウンド一杯に溢れさせていた。後を追う中等部の三人組も見守るだけ。
とみにヒカルの背中が軽くなる。サン先生の声で目を覚ましたクロが、恥ずかしそうな顔をしてヒカルと保健委員の間にぴょんと割り込んだのだ。

499そよ風の憧れ ◆TC02kfS2Q2:2010/06/24(木) 23:27:22 ID:CXf7ZP6k0
「大変ッス!取り合えず患部を冷却するッスよ!!ヒカルくん、おんぶッス!」
「ええ?」
「ちょ、ちょっと!白先生は勘弁だぁぁ!!」
クロの代わりに今度はサン先生かぁ、とぼやく暇も無くヒカルは暴れるサン・スーシを背負い中等部三人組引き連れて保健委員と共に保健室へと急いだ。

「お姉さん……は、ニャ?」
「先生のお友だちよ」
スカートの裾を引っ張り、背を丸くするクロの目線にミナがしゃがむとミナのTシャツから白い毛並みの背中が見えた。

「もしかして、お姉さん……。わたしをお子さまって思ったニャね!だって、だって、ヒカルくんにおんぶされて!
わたしだって立派な『れでぃー』なんだから、おんぶなんかされても嬉しくないニャだもん!だって……だって」
「ふふふ」
「空を飛びたかったんだもんニャ」
クロのすねたような、恥らうような、爪先立ちの子どもの背伸び。
ミナはクロの目線まで腰を落とし、頭を撫でながらクロをなだめる。
「気持ちよかった?」
「うん」
「そうなんだ、わたしも飛んでみたいなあ」

―――
街が一休みする時間なのに、未だ外は明るい。佳望学園からの坂道を一台のバイクが風を切って下りてゆく。
ちょっと昔のデザインだけど、古さを感じぬミナの愛機。白いヘルメットから顔を出すミナの短い髪が涼しげになびいた。
エンジンの振動は心地よく、夏の香りをかぎ分けながら、目下に映る街を望む。空の雲は白い。
「コイツで空を飛べたらいいのになあ」

風は味方。
風はよき友。
ネコだって、ケモノだって、風さえ心許せば空を飛べる。愛機に乗っていると、そんな錯覚さえ事実だと思い込んでしまう。
「まったく、ミナは何しに来たんだよ!」
後ろからサン・スーシがポケバイに乗って追い駆ける。グランドにいたとき以上にやかましい声を聞きながら、杉本ミナはスロットルを噴かす。

「理由なんか後付けで十分だよ」


おしまい。


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