したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

ミセ*゚ー゚)リ 怪異の由々しき問題集のようです

1名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 20:57:11 ID:WM1TjCNg0


 たとえば『人外』と聞いて人はどういうものを想像するのだろうか。
 細かな辞書的あるいは専門的定義を抜きにするのなら『怪異』や『妖怪』や『魑魅魍魎』でも構わない。
 だがにべどころか取り付く島すらなさそうな言い方である『化物』だけは私個人的には止めて欲しいものである。
 兎にも角にも今から綴られる文章はそういった世の理を外れた……
 いや存在している以上は物理法則ではなくとも何かしらの法則には基づいている。
 基づいているのだが、そんなことは健全なる読者諸君には関知し得ないことであろうことである故指摘しないでおく。
 だからつまりこれは――夜の理に生きる人以外の者々の物語。
 より正しくは人と人以外のモノの関係によって引き起こされる問題を集めたもの、ということになる。

 問題を集めた、問題集。
 フィクションではなくノンフィクション。
 フェイクではなくファクトな物語だ。



.

14名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:10:10 ID:WM1TjCNg0

ミセ;゚ -゚)リ「(うわちょっとヤバいって! 何してんのあの子!?)」


 馬鹿かよ!
 破滅系の中二病か!?

 とか思いつつも物影からこっそり窺うと、ちょうど主犯格らしい男の手がでぃちゃんに伸びるところだった。
 彼女は動かない。
 傷ついた誰かを庇うように当たり前のように立っている。

 直後だった。



 その男子が――――引っくり返った。 



ミセ;゚ー゚)リ「…………は、はあ?」


 でぃちゃんより頭一つ分以上高い男子生徒がいきなり地面に倒れ伏していた。
 服を掴もうとした瞬間、私がまばたきを一度した後にはもう、その人は動かなくなっていた。

15名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:11:10 ID:WM1TjCNg0

 何が起こったのか全く分からない。
 当事者だってそれは同じで、残りの奴等も訳が分からないままにいっせいに飛び掛った。
 が、それも無駄に終わる。


(# ;;-)「―――割と簡単ですね。がっかりなのです」


 全員が全員、まるで彼女が纏う結界にでも吹き飛ばされたかのように倒れ伏す。
 意味が分からない。

 魔法――そうとしか思えない光景が目の前で展開されたのだ。


 でぃちゃんはいじめられていた可哀想な少年A君に手を差し伸べ立たせ、
 「お礼は結構です。当たり前なのです」
 なんて、テンプレ過ぎて反対でカッコ悪く更に逆につまり一周してカッコいい台詞を言ってその場を後にした。

 後にした、というか、こっちに戻ってきた。
 もう自分の役目は終わった。そう言わんばかりの表情で。

 ええと……。
 "Let me see"。

16名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:12:05 ID:WM1TjCNg0

ミセ;゚ー゚)リ「ね、ねぇ……今の、」


 会釈をして私の隣を通り過ぎようとした彼女の背中に声をかけた。


ミセ;゚ー゚)リ「ま――『魔法』……」

(#゚;;-゚)「魔法なんて、そんなものこの世界にはありませんよ」


 零れた言葉を拾い上げて優しげな冷笑という器用な真似をしてみせる彼女。
 それはたとえば、出来の悪い生徒に講義をする先生のような、そんな微笑みだった。


(#゚;;-゚)「魔法がないのですから魔法使いがいないのも道理です。それに」


 最後に彼女はこう漏らした。
 独り言のような、伝わることを期待していない小さな声で。


(# ;;-)「……私はどちらかと言えばスタンドなので」

17名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:13:05 ID:WM1TjCNg0

 色々訊きたいことはあったけど、それを声に出せる状態までの疑問文にした時にはもう彼女は私の視界から姿を消していた。
 当たり前のように。
 最初からそこにいなかったかのように。



 ……一つ、分かったことがある。
 『朝比奈でぃ』というクラスメイトは容姿だけではなく中身もかなり変わっている、ということ。

 そう。


 まるで、人間じゃないみたいに―――。


.

18名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:14:04 ID:WM1TjCNg0
【―― 3 ――】


 「それを期に仲良くなった」――なんて、お約束な展開はなく、私達はクラスメイトのままだった。
 現実はギャルゲーのようにはいかない。

 始業ギリギリに登校する私と少なくとも余裕をもって来ているらしい彼女。
 彼女の意外な一面(いじめなんて私と同じく見て見ぬ振りをするタイプだと思っていたのだ)を見た後も別に私はわざわざ彼女に話しかけようとはしなかったし、それは彼女の方も同じだった。
 あの出来事の後も私達の関係性はなんら変化しなかった。

 別にどうでも良いことだったしね。
 "It doesn't matter to me + wh-節"。


 しなかったんだけど、直後に私にはとてつもない問題が降りかかった。
 そしてそれを期に私達の関係は変化していく。


 偶然のような必然。
 必然のような偶然。
 どちらでも構わないしどちらとも言えると思うけど、一つだけ言うとすれば「事実は小説より奇なり」である。

19名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:15:07 ID:WM1TjCNg0
【―― 4 ――】


ミセ;-3-)リ「うぅぅぅ〜……」


 口をアヒルにしながら生徒会室から続く廊下を進む。
 私の通う淳高には生徒会室が二つあり先ほどまでいたのは旧生徒会室と呼ばれる古い方の部屋だ。

 数年前にこの学校が近隣の学校と統合し淳中高一貫教育校になった時のこと。
 校舎の最も高い地点、五階六階に相当する場所にポツリと存在する生徒会室はあまりにも不便でかつ危ない。
 ということで玄関近くに新しく部屋を作り旧生徒会室は物置になった。

 ……のだが、先代の生徒会長の意向で先代の生徒会はあえて旧生徒会室を使っていた。

 現在の生徒会長も特に変える理由はなかったのでその生徒会室を使用することにしている
 そして新生徒会室は「生徒会室もどき」と呼ばれる今があるというわけだった。
 なんとかは高い所が好きなのだ。

 そんなやたら教室から遠く便が悪い旧生徒会室、もとい生徒会室に役員でもなんでもない私がどうしてわざわざ出向いていたかと言えば――それは、相談の為だった。


ミセ;゚ー゚)リ「まったくもぉ……」

20名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:16:05 ID:WM1TjCNg0

 私は訳あって「地域環境研究会」などという名の無茶苦茶胡散臭い(事実活動も胡散臭い)部に所属しているのだが、その部が廃部になりそうなのだ。
 顧問の教師が語るに、なんでも「明確な活動があり成果がなければ承認を得ることができない」らしい。
 承認を得ることができないなら何故今まで当たり前のように存在してたんだよ、とは思ったけど……。
 そこはどうやら先代の生徒会長が理解のある(言い換えれば物好きな)人だったので黙認されていただけらしく今期のあの会長はそこら辺には甘くなかった。

 生徒会長直々の視察だ。
 クリアしなければ部は即刻廃部になる。
 (ただし会長が承認した場合には風紀委員や教師側にも掛け合って研究会から部へ昇格させ、部室も用意してくれるという破格の条件なんだけど)。

 兎にも角にも、あの『一人生徒会』の視察の為に私達は準備を進めていたのだが……。


ミセ*;-ー-)リ「まさか、先輩達が全員寝込むことになるとは、なぁ……」


 あろうことか。
 視察の三日前のこの段階で、私以外の研究会の部員三人が全て病でダウンという洒落にならない事態になってしまったのだ。
 詰まる所、私が今回生徒会室を訪れたのは視察の延期の交渉だった。

 改善の余地があるはずだってことだ。
 "...leave much to be desired"。

21名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:17:05 ID:WM1TjCNg0

 ちなみにその回答は、


『どうして僕がソッチの都合で日程を合わせないいけないのかな? この視察は試験なら追試に相当するものなんだけど』


 という、血の涙もない、しかしこれ以上ないほどにご尤もなものだった。
 そりゃあそうである。
 何やってんのかよく分からない部活が部費をせしめてるだけでも問題なのに、存続の最後のチャンスをこっちの都合に合わせてくれなんてふざけた言い分が通るはずもない。

 しかし「そこをなんとか」とか「優しい会長お願いしますよ」とか「なんでもしますから」とか三十分ほど拝み続けた結果、会長は一枚の紙をくれた。
 綺麗な文字で住所が書かれた名刺程度の大きさの紙だ。

 「なんですかこれ?」と私が訊くと、会長は「紹介状みたいなものだよ」と面倒そうに言う。
 裏面を見てみれば会長のフルネームやアドレスが書いてある。
 なるほど、どうやら自分の名刺の後ろに走り書きをしたものらしい。


『部員三人が明明後日までに回復してればいいんだよね?』


 頷くと会長は続けて言った。

22名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:18:07 ID:WM1TjCNg0

『じゃあそこに行ってみればいいんじゃないかな? もしかしたら全部上手くいくかもしれないよ』


 “全部上手くいく”という意味が分からず、怪訝そうな顔をした私。
 そして。



ミセ;-ー-)リ「『どうせ地元の心霊スポットにでも行って体調を崩したんでしょ?』かぁ……好き勝手言ってくれるよ」


 ……まあその通りなんだけどね。
 「心霊現象だって地域のことだ!」と元気良く言い放った先輩は翌日には高熱でぶっ倒れていた。
 私の周りは馬鹿だらけだ。

 しかし……。


ミセ*゚ー゚)リ「会長がオカルト好きだったとはなぁ」


 専門家への紹介状ということなので多分霊媒師とかが住んでいる住所なのだろう。
 私は幽霊を否定することはできないけど、除霊は信じている。

23名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:19:08 ID:WM1TjCNg0

 どうせ大抵の心霊現象なんて思い込みなんだから要するに「除霊した」と信じ込ませれば良いのだ。
 それならば職業にしている人だっているはずだ。

 臨床心理士か精神医学系の医師か……よくは分からないが、そこら辺の人間か。
 流石に詐欺師ではないと思うけど。
 マジでイッちゃってるだったらどうしよう、逃げれば良いのかな……?


ミセ*-3-)リ「まっ、なんでもいっかぁ」


 使えるものは最大限使えば良いのだ。
 "make the most of..."。

 会長の視察まで、あと三日。
 それまでの間に事態を解決してくれる人なら誰でもいいし、もし先輩達の体調不良がただの偶然で何も進展しなくとも、部活がなくなるだけだ。
 良い暇つぶしというなるだけで十分、正直に言えばどっちでも良かった。

 実態のない部活に愛着なんてなかったから。

24名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:20:06 ID:WM1TjCNg0
【―― 5 ――】


 また出会った。


ミセ*゚ー゚)リ「あ。」

(#゚;;-゚)「……どうも」


 二年生の自転車置き場。
 丁寧な会釈をしたのは折り目正しい少女。

 つい先日いじめられっ子を助けた私のクラスメイト、でぃちゃんだった。


(#゚;;-゚)「最近はよく会いますね。縁があるのです」

ミセ*^ー^)リ「そうだねぇ……っていうかでぃちゃんも自転車通学だったんだ」

(#゚;;-゚)「はい。ここは少し、遠いので」

25名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:21:08 ID:WM1TjCNg0

 その艶やかな髪と同じシックな黒色の自転車を動かしながら彼女は言う。
 肩口より少し長く、一纏めにされた髪が尻尾のように揺れた。


ミセ*゚ー゚)リ「遠いって言うと……どの辺?」

(#゚;;-゚)「西側なのです。一駅か二駅か……電車を使うか迷う距離ですね」


 この淳中高一貫学校は近隣の中学校と高校が統合してできたものなので、中にはでぃちゃんよりも遠い場所から通学してくる人もいる。
 一学年に十三ものクラスがあるマンモス校なので生徒の事情にも色々あるというわけだった。
 ちなみに私とでぃちゃんは文系進学科の十一組、生徒会長は四つある進学科の特権階級、特別進学科十三組の生徒である。

 普通科、進学科、特別進学科はそれぞれ授業の終了時刻が違い、私もそれを待って会長に会いに行ったので眼の前の彼女も何か用事があったのかもしれない。
 前に訊いた時は帰宅部と答えていたからおおよそ図書室で本でも読んでいたのだろう。

 そういう静謐な雰囲気が、よく似合う子だ。


ミセ*-3-)リ「西側っていうとぉ……あの観覧車がある辺り?」

(#゚;;-゚)「そうですね。そこら辺なのです」

26名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:22:06 ID:WM1TjCNg0

 ちょうどいいや、と私は手を打つ。
 名刺に記された住所はその辺りだったはずだ。


ミセ*゚ー゚)リ「じゃあお願いなんだけどさ、そこまで案内してくれない?」


 彼女は不思議そうに首を傾げ、こう訊ねてきた。


(#゚;;-゚)「ミセリさんは私とは逆方向の新都側だったはずですが、商店街に何かご用事ですか?」

ミセ*-3-)リ「まーねー」


 まさか除霊の依頼に行くとも言えず、適当に返す。
 私の返答にも奥床しい少女は「そうですか」とだけ答えて追及はしなかった。
 察してくれたのか興味がないのか、どっちだろうか。

 どうでも良い、かな?
 "be + indifferent to ..."。

27名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:23:08 ID:WM1TjCNg0

 それとも、もしかするとそれが彼女のスタンスなのかもしれない。
 いじめられているわけではないもののクラスに仲の良い友達は一人もいない彼女。

 孤立――は、流石に言い過ぎか。


ミセ*-ー-)リ「(『孤高』くらいかなぁ……)」


 英国などの社交界では一人で佇んでいる人間には無理に話しかけないと聞いたことがあった。
 喧騒を離れ、孤独を楽しむ。
 そういう生き方と距離の取り方を肯定する。

 彼女も。
 その類の人間なのかもしれない、とふと思った。

 一人で生きる……わけではないけれど、気を許す数人とだけ過ごす。
 無理に友達を作ろうとしない。
 他人と違うことに悩んだり戸惑ったりしない類の人間。

28名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:24:05 ID:WM1TjCNg0

 だとするならば私の申し出もひょっとすれば心の中では迷惑に感じているのかもしれないが、そこはクラスメイトのよしみということで、我慢してもらうことにしよう。
 三百六十五日ある日の一日、その夕方の一時間にも満たない時間くらいなら、どれほどの人嫌いでも許容範囲のはずだから。

 控えめに言ってもさ。
 "...to say the least of it"。


(#゚;;-゚)「では、行きましょうか」

ミセ*^ー^)リ「はいはーい」


 彼女に続き、私も自転車を出して跨る。
 校門に立っていた研修で来ている大学生(そこそこイケメン)に挨拶をして私達は走り出す。

 気まずくなるかもしれない道中、何を話そうかなあなんて考えながら。

29名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:25:04 ID:WM1TjCNg0
【―― 6 ――】



ミセ*^ー^)リ「ここでいいよ」


 ですが、と目的地まで案内をすると主張したクラスメイトの頬は、少し赤い。
 道中は結局女子高生の鉄板である恋の話をすることにし、私は今付き合っている相手はいないこと、
 そしていかにも奥手っぽいでぃちゃんには好きな人がいることなどをきゃいきゃい言いながら話していた。
 (正しくは盛り上がっていたのは私だけで彼女は終始恥ずかしがっていた)。
 照れたようなバツの悪そうな顔はその結果だ。

 可愛いなあ。


ミセ*゚ー゚)リ「ここまで来たら分かるし。分からなかったら近所の人に訊くから」

(#゚;;-゚)「……そうですか」


 少し申し訳なさそうな表情をした彼女に、私は精一杯の笑顔で別れを告げた。

30名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:26:07 ID:WM1TjCNg0

ミセ*^ー^)リ「んじゃっ、また明日! 今日はありがとねー!!」

(#^;;-^)「はい。楽しかったです、また明日」


 ブンブンと手を振る私と最後にもう一度丁寧なお辞儀をしたでぃちゃん。
 物静かで人見知りと思っていたんだけど、ひょっとすればひょっとすると……誰かとわいわい話すのも嫌いではないのかもしれない。
 私は商店街の入口、私の進行方向とは別の道を歩む彼女の背中を見送りながら、


ミセ*゚ー゚)リ「……ひょっとしたら仲良くなれるかも」


 なんて、一人で思っていた。


 ……ここまでの道のりが楽しくて忘れていたけど、私にはこれからもやらなければならないことがある。
 クラスメイトと恋の話をするのは本題ではなかった。

 仲良くするのは楽しかったけど、"get along with+人"。

31名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:27:29 ID:WM1TjCNg0

ミセ*゚ー゚)リ「ええっと、確か商店街の先の……白い建物……」


 商店街の端には大きな観覧車が鎮座している。
 場違いにも程があるそれを見上げながら、意外と活気に溢れている町を行く。


 ここ、VIP州西部の西地区はおよそ三つに分けられている。
 最も東側の新都、西側州境に近いこの商店街のある地域、二つの間に挟まれている住宅地という風に。
 この地域を更に西へ行けば山脈と樹海があり、そこは古い家柄の人々が住んでいる(らしい)。

 淳高は住宅地エリアにあり私は新都の出身なので、西側ではメジャーなここの商店街も初めてだ。
 思っていた以上に人も多く、明るい場所という印象を受ける。 

 目的地は商店街の先。
 小高い丘にほど近い白い建物――と。


ミセ*゚ー゚)リ「あれかな……?」

32名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:28:11 ID:WM1TjCNg0

 住所を見ながら進んでいって、条件に合うものを探し、辿り着いたのは診療所だった。

 周囲にはもう店はなく、ポツポツと住宅があるのみのその場所。
 型の古い自販機と妙に新しい電柱に向かい合うように白く大きな建物が建っている。

 何の変哲もない二階建ての診療所で、出ている看板には「高岡診療所」と営業時間が書かれていて、その右下に「現在はやっておりません」との但し書きがあった。
 プラスチックのプレートを打ち付けての訂正であることから察するに休業中というわけではなく廃業になったのだろう。
 もうやっていないのなら看板は下げてしまえばいいと思うけど、それすら面倒な億劫な人が家主なのか……それとも愛着があるのかな。

 塀の内、庭に停めてある軽自動車(スバル360、いわゆる「てんとう虫」)とポップなデザインの黒の原付(ヤマハ・ビーノだ)を見るに、中々可愛い物好きな人が住人らしい。


ミセ*-ー-)リ「さて」


 玄関先、後から付けられたらしき真新しいインターホンを押す。

 ピンポーンという間の抜けた音。
 鬼が出るか、蛇が出るかと考えていたら、返ってきたのは若い女性の舌足らずな感じのする可愛らしい声だった。

33名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:29:29 ID:WM1TjCNg0

 会長の紹介でやってきたということを伝えると「少々お待ち下さい」なんて丁寧な言葉で対応される。
 紹介はどうやら本物だったらしい。
 ぶっちゃけると騙されているんじゃないかと内心ビクビクしていたので何事も無く済んで良かった。

 ……まあ。
 この先も何事も無く、事情を話して最終的にその専門家さんとやらに「気のせいじゃない?」とあしらわれる気がするんだけど。


 そんな風に考えているとドアが開いた。
 外開きだったようで危うく頭をぶつけそうになり、一歩下がりながら顔を上げると―――。



ミセ*゚ー゚)リ「……あ。」

(;#゚;;-゚)「…………ど、どうも」



 ―――またまた会った。

 そこには、先程別れたばかりのクラスメイトがブレザーを脱いだブラウス姿、信じられないことに頭から猫耳を生やし立っていた。
 更に一歩下がって表札を見れば、書かれていたのは彼女の苗字である「朝比奈」だった。

34名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:30:19 ID:WM1TjCNg0
【―― 7 ――】


 旧高岡診療所――現、朝比奈家。

 通された応接間は元は診察室だったのか、変則的なリビングダイニングのような作りである。 
 廊下に続く入り口とは反対側、その左右は壁がなく通れるようになっている。縦棒の部分が太いT字路のような感じだ。
 私をこの部屋に案内したでぃちゃんは真っ赤な顔で右側の通路を通って何処かに走り去ってしまった。

 ……なんだったんだろう、あれ。
 可愛かったけど(それはもう思わず襲いたくなるほどに)。


 部屋の中央にテーブル、その両側にソファー。そして小さな椅子。
 それ以外には観葉植物くらいしかない。
 私が「居間」ではなく「応接間」と表現したのはその為で、お客さんを一時的にもてなすスペースでしかないことが如実に理解できる空間だ。

 二分後くらいだっただろうか。
 することもなく、黙ってソファーに腰掛けて手持ち無沙汰に待っていると扉が開いた。

35名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:31:06 ID:WM1TjCNg0

 入ってきたのは少し背の低い男性だった。


(,,^Д^)「こんにちは。んで……はじめまして」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、はい。はじめまして」

(,,-Д-)「ごめんね、レポートの資料を探してたら手間取っちゃって」


 童顔の男の人の挨拶に同じくだけの笑顔で返す。
 私服の上からとりあえず白衣を羽織った、みたいな妙な格好のその人は「朝比奈擬古と言います」と自己紹介をし、私の正面に座った。


ミセ*゚ー゚)リ「“ギコ”って変わったお名前ですね。どんな字を書くんですか?」

(,,^Д^)「ふつーの字だよ。古いやり方を真似るっていう意味の擬古。君の名前は?」

ミセ*-ー-)リ「水無月ミセリと言います」


 軽く頭を下げるとその人、ギコさんは少しだけ驚いたような顔をした。
 そしてなんだか懐かしむように「良い名前だね」なんて呟いて、小さく笑った。

36名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:32:16 ID:WM1TjCNg0

 年で言うと私の少し上くらいだろうか。
 男の人には珍しい幼く可愛らしい顔立ちで、笑顔がとてもよく似合っている。
 親しみやすさもここまで至るかというレベルで見るからに優しそうだ。

 おそらくはでぃちゃんのお兄さんなのだろう。
 "Perhaps"あるいは"maybe"。

(,,゚Д゚)「あれ」


 と、自己紹介を終えたところでギコさんが言った。


(,,゚Д゚)「もしかしてでぃちゃん、お茶出してなかったりする?」

ミセ;゚ -゚)リ「あー……そうですねぇ。ネコミミ見られて恥ずかしかったみたいで、どっか行っちゃいました」


 それなら外してくればいいのに、とは尤もだけど、外すことを忘れるほど馴染んでいたんだろう。
 いつも通り、というか。
 多分、あの物静かな子は家ではいつもあんな感じなのだ(コスプレが趣味、とか)。

37名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:33:15 ID:WM1TjCNg0

 ギコさんは「そっか」とだけ言うと、一度部屋を出ていき急須とコップを持って戻ってきた。
 家の雰囲気は洋風だが住人の好みは和風らしい。

 お茶を注ぎながら、猫耳娘のお兄さんは言う。


(,,^Д^)「アレは僕の趣味みたいなものでさ。あんま気にしないでくれると嬉しいな」


 …………やべぇ。
 お兄さんの趣味だったんだ……。

 うわー……。
 妹に家の中で猫耳つけてもらってるお兄ちゃんとか……想像を絶する。
 可愛らしい顔してなんてプレイを強要してんだ、この人!

 なんて残念な人なんだろう、"What a shame that ...!"。


ミセ;゚ー゚)リ「……でもまた、どうしてネコミミ?」

(,,゚Д゚)「え、だって可愛いでしょ?」

 ……いや、可愛いけど。
 可愛いけども!

38名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:34:11 ID:WM1TjCNg0

 それは……そうじゃないでしょ!!

 叫びたい衝動を抑え、「そうですね」とにこやかに返事をする。
 頬が引き攣ってるがどうにか誤魔化せたようで、「だよねー」と間延びした同意を頂く。

 ま、まあ。
 単に可愛い物に目がない乙女な人なのかもしれないし。
 車も原付も可愛かったしね、うん。


(,,-Д-)「そろそろでぃちゃんも戻ってくるだろうし……じゃあ、世間話はここまでにして」


 少しだけ気を引き締めた風にギコさんは言った。
 自然と私も背筋を伸ばす。


(,,゚Д゚)「あの子――君の言うところの生徒会長さんから事情は聞いてるから話してくれるかな? 君の先輩達が遭遇したっていう心霊現象の話をさ」


 あるいは怪異のね、と彼は笑った。

 それは何処か先ほどまでの朗らかな笑いとは違う。
 いや、明らかに何か壮絶な経験を積んできた、専門家らしい笑みだった。

39名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:35:06 ID:WM1TjCNg0
【―― 8 ――】


 物凄く簡単に言うと、「よくある話」なのだ。

 高校生三人がその場のノリで心霊スポットに行くことにしました。
 懐中電灯とカメラをもって出発し、結局何も出会えず適当に写真撮って帰ってきて……次の日には全員高熱でダウンしていた、と。
 もう、これ以上ないくらいにお約束でよくある話だ。


(,,-Д-)「……よくある話だね」

ミセ*-3-)リ「馬鹿なんです、あの人達は」


 一通り話を終え、お茶を飲もうと手を伸ばす。
 熱いお茶は何故だかガラス製のコップに注がれている。
 ……熱くて持てない。

 私は諦めて手を引っ込めソファーに深く腰掛けた。


ミセ*゚ー゚)リ「それで……どうですかねぇ。やっぱりただの偶然ですか?」

40名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:36:06 ID:WM1TjCNg0

 探りを入れるような私の発言にもギコさんは笑って応じる。


(,,^Д^)「偶然ってことはありえないよ。あの子が僕に連絡してきた時点でね」

ミセ;゚ -゚)リ「え、じゃあ―――」

(,,゚Д゚)「うん。今回の件は確実に怪異の仕業だよ」


 『怪異』……って。
 妖怪とか化物とか魑魅魍魎とか、そういう?


ミセ;゚ー゚)リ「そんな……。眼鏡で巨乳な委員長が化け猫になって暴れ回ったりとか、そういう?」

(,,-Д-)「またえらく限定的なイメージだねそれ。何の影響?」

ミセ;-3-)リ「い、いえ?」


 今見てるアニメの影響です、とは流石に言えなかった。

41名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:37:06 ID:WM1TjCNg0

ミセ*゚ー゚)リ「でも、そんな非現実的なものがこの世に実在するんですね。超能力とか魔法とかと同じで……ほとんどは空想のことだと思ってたのに」

(,,^Д^)「そうだね」


 ほんの少しだけ寂しそうな笑みを浮かべて、彼は言った。
 「でも人外も魔術も実在する」と。

 しかし専門家を前にしても未だ半信半疑な様子の私(当たり前だ)を見かねたのか、


(,,゚Д゚)「君が良いなら僕の仕事を見せてあげてもいいよ」

ミセ*゚ー゚)リ「え?」

(,,-Д-)「君が話半分でしか聞いていない、面白半分でしか信じていない『怪異』ってモノを……実際に見せてあげようって言ったんだ」


 その言葉に、私は絶句した。

 そういったことを言う――幽霊とかお化けとかをのたまう――詐欺師は「見せてあげよう」なんて言わない。
 だって、騙しているだけなんだから。
 存在しないものを「存在する」と言って騙しているだけで、だからはなから存在しないものを誰かに見せることなんてできやしない。

42名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:38:10 ID:WM1TjCNg0

 それはカルトの教祖サマだって同じだし、言ってしまえば神職の人達も同じだ。
 「私達には見えるけどあなたには見えないんだ」と主張するのが常で、そんな科学みたいに「目に見える証拠を見せますよ」だなんて。


(,,-Д-)「君が話半分にせよ、面白半分にせよ、ここまで……いかにも怪しげな専門家の所までやってきたのはさ。“何か心当たりがあったから”じゃないの?」


 話半分に聞くキッカケとなった出来事。
 面白半分に信じるしおとなった出来事。

 たった半分、されど半分。
 「その“半分”の部分を支えているのは一体なに?」と彼は訊く。


(,,゚Д゚)「もしかして君さ、ずっと昔に見てるんじゃないかな。どう考えても怪異の仕業としか思えない問題を」

ミセ* ー)リ「う……」

(,,-Д-)「だからこそあの子に勧められるがままにここまで来た」


 ……そうだ。
 あの頃は確かに私はそういうのを信じていた。

43名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:39:07 ID:WM1TjCNg0

 だってそうとしか思えなかったから。
 そうでしかない。
 そうじゃないと辻褄が合わない出来事で、だから―――。


 と。
 私が狼狽し始めたその時だった。



「―――いけません。そんなのは、駄目なのです」



 向かって右、私が入ってきた扉が開き、彼女が姿を現した。
 もう猫耳はつけていない。


(#゚;;-゚)「そんな軽々しく誰かを巻き込もうだなんて何を考えているのですか。おかしいのです」


 そう言ったのは「清楚」としか言い表せない顔立ちの可愛らしい声の少女。
 私の同級生。

44名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:40:15 ID:WM1TjCNg0

 でぃちゃん――朝比奈でぃだった。


(,,^Д^)「ギコハハハ。おかえり、でぃちゃん」

(#゚;;-゚)「おかえりじゃないのです。私がいない間に当たり前のように一般人を巻き込もうとしないで欲しいのです」


 ましてや私のクラスメイトを、と些か声を荒らげながら彼女はギコさんの隣に腰掛ける。
 尻尾があればピンと立っているだろうな、という口調。
 そう言えばさっきは猫耳と一緒に尻尾も生えていたけどそっちも取られている。


(,,-Д゚)「でぃちゃん、そういう『一般人を巻き込む』とか痛々しいことは言わない方がいいよ。引かれるから」


 そんなツンとした態度のでぃちゃんには慣れっこなのか、お兄さんはサラリと凄いことを言い放つ。

 いや……アンタもだから!
 さっきのお兄さん、冷静に考えてみると無茶苦茶怪しかったから!!

45名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:41:07 ID:WM1TjCNg0

(#゚;;-゚)「痛々しかろうが事実なのです。とにかく、普通の人を巻き込むのは……」

(,,-Д-)「別に巻き込んでなんかいないよ。ただちょっと訊いてみただけ」

(#゚;;-゚)「おんなじです、むしろ決定権を相手に委ねてる分そっちの方がより悪いのです」

ミセ;゚ー゚)リ「―――あ、あのっ!」


 ピリピリとした雰囲気に辛抱ならず、小学生が授業中に手を挙げるような元気溌剌な挙手で言葉を捻じ込む。


ミセ;^ー^)リ「でぃちゃん、猫耳もう外しちゃったんだね……。可愛かったし、もう一度見たいなぁ〜……なんて」

(#// -/)「ひぅ!」


 そんな可愛らしい悲鳴。
 ビクリと身体全身を震わせ、さっきまでの怒りオーラは何処へやら、ふにゃふにゃと丸まるように萎縮し、顔を真っ赤にしながら。


(#// -/)「さっきのは……忘れて欲しいのです……」


 と、酷く小さな声でそう言った。

46名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:42:05 ID:WM1TjCNg0

 そんな彼女を尻目にギコさんは「そうだ」と何か閃いたように手を打つ。
 ニコっとした笑顔。


(,,^Д^)「でぃちゃんの猫耳の件を黙っていてくれたら、『怪異』という存在を見せてあげる」

(;#// -/)「ふえっ!?」

(,,-Д-)「交換条件だよ。黙っているって約束してくれるなら君の言う非日常を、少しだけだけど見せてあげる」


 それに、と前置いて彼は続ける。



(,,゚Д゚)「君が解き損ねた問題と知り損ねた答えに関しても――俺が助けてあげる」



 私があの時、解き損ねた問題を。
 私がその時、知り損ねた解答を。

 その、どちらもが。
 『怪異』。

 どうにかなってくれるって言うのなら―――。

47名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:43:08 ID:WM1TjCNg0

ミセ* ー)リ「…………分かりました」


 しばらくの沈黙の後。
 全てを投げ打つつもりで私は答えた。


ミセ*゚ー゚)リ「私の知らない『怪異』なんてものがいて……私の知らない世界があって、それで私の知っているべき答えに説明がつくというのなら――お任せします」

(,,^Д^)「……うん。任せておいて」


 これでも専門家だからね、とギコお兄さんは笑って応じる。
 それは幼さの残る笑顔なのに、何故か見ていてとても安心する不思議な魅力のある笑み。

 この人なら。
 私の言葉にちゃんと耳を傾けてくれるかもしれないと。
 幻想かもしれないけれど、私はそう思った。


(;#// -/)っ「なにちょっと良い感じに纏めようとしてるのですか! おかしいです、私損しかしてないのです!!」


 なんかでぃちゃんが色々文句を言ってたけど、まあ可愛いしどうでもいいか。

48名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:44:07 ID:WM1TjCNg0
【―― 9 ――】


 私は車の後部座席にいた。
 そうと決まれば早速ということで、あの後すぐに診療所を出発したのだ。

 少し手狭だけど、所々に残る傷みさえ除けば新品にしか見えないよく手入れされた車内。
 私とでぃちゃんは後ろのシートに並んで座っている。
 そしててんとう虫を運転するのはもちろんギコお兄さんで、若者には珍しい丁寧なドライビングだ。

 
(#゚;;-゚)「あの……シートベルトをしておいた方が良いと思います」

ミセ*^ー^)リ「やっぱでぃちゃんはそういうの結構厳しいんだねぇ」


 私の言葉を彼女は「いえ」と否定し、私の耳元に口を寄せ小さな声で。


(# ;;-)「あの、その……。ギコさんはあまり運転が得意ではないので……。命が大事ならば……」


 ……命が大事ならばって。
 どんだけ危ないんだよ、この車。

 笑えないなぁ、"It's no laughing matter"。

49名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:45:10 ID:WM1TjCNg0

 一々ツッコミを入れるのも面倒なので彼女の言葉を素直に聞き、シートベルトを着用する。
 ギコさんの運転は特に荒いものではなくむしろ丁寧なもの。
 速度にしたって法で定められた速度よりやや速い程度――他の自動車に比べると少し遅いくらい――で、全然危ない感じはしないんだけど。
 でぃちゃん、結構心配性なのかもしれない。


 そんなやり取りもあったけど、私がギコお兄さんと話しているうちに(学校でのでぃちゃんのこととかだ)特に問題なく先輩の家に到着した。
 やっぱり「命が大事ならば」は言い過ぎだったらしく、でぃちゃんの心配は杞憂だった。

 一人目の先輩――部長の家の前に車を停め降りると、ギコさんは羽織っていた白衣を脱ぎ畳んで助手席に置く。


(,,゚Д゚)「んじゃ、でぃちゃんはここで待ってて」

(#゚;;-゚)「分かりました、了解なのです」

(,,^Д^)「ミセリちゃんの方は部屋の前までで良いからついてきてくれるかな。僕は君の先輩の友人って設定にして……そのことを家の人に説明してくれる?」

ミセ*^ー^)リ「了解しました」


 敬礼の真似事をしながら返事をし、車から降りながら気になっていたことを訊ねる。

50名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:46:29 ID:WM1TjCNg0

ミセ*゚ー゚)リ「白衣、脱いじゃうんですねぇ」

(,,-Д-)「まあね。雰囲気出す為に着てるだけだから」

ミセ*^ー^)リ「サイエンティストの正装ですもんね!」


 マッドな感じで。


(;-Д-)「いや……君の知識は偏りがちな気がするんだけど、何処でその知識は得たのかな」

ミセ*゚ー゚)リ「一般教養ですね」


 今やってるゲームです、とはやっぱり言えなかった。
 冗談に過ぎない私の発言を間に受けたのか「白衣着るのやめようかな……」と頭を抱えるお兄さんの背中を押し、部長の家の玄関に向かう。

 一人目の先輩の家はよくある一戸建て。
 インターホンを押すと部長の弟君が対応してくれ、ギコさんのことを部長の友達で心配してお見舞いに来たと言うとアッサリ信じて二階に上げてくれた。
 ……無垢だ。

 何度か訪れた部長の部屋のドアノブに手をかけたところで静止が入る。

51名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:47:28 ID:WM1TjCNg0

(,,゚Д゚)「あ、ミセリちゃんはここで待っててね」

ミセ*-3-)リ「ぶぅ〜……。なんでですかぁ?」

(,,-Д-)「なんでって危ないからに決まってるでしょ」


 素っ気無く言って私を押しやるように避けて、ギコさんは一人で部屋に入っていった。
 扉を開けた瞬間に呻き声のようなものが聞こえた気がするんだけど、ひょっとして「親しい人が苦しんでる姿なんて見たくないだろうし、本人も見せたくないだろうから」という配慮だったのだろうか。

 あの部長が苦しんでいる姿は長い付き合いである私も全く想像できず、こっそり覗くかどうかを本気で悩む。
 悩んで、悶えて。
 最終的にS心が押し切り覗くことにしたその瞬間、ガチャリと扉が開いた。

 ……前屈みになっていた私はしこたま頭をぶつけた。


ミセ*うー;)リ「……いたいよぉ」

(;゚Д゚)「…………大丈夫? ていうか、何やってるの?」

52名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:48:24 ID:WM1TjCNg0

 おでこを撫でながら顔を上げるとギコさんの左手にはカメラがあった。
 部長の私物だ。


ミセ*-ー-)リ「ぐすっ……そのカメラ、部長のやつですよね」

(,,-Д-)「あ、うん。部屋にあったんだけど、本人のなんだ。よく分かったね」

ミセ*゚ー゚)リ「そりゃ撮られたことありますし」


 なるほど、と頷くとそれを私に渡す。


ミセ*゚ -゚)リ「?」

(,,-Д-)「ネガ。車の中でも見てみたら良いと思うよ。見るからにおかしなものが写ってるから」


 それ以上は説明せず、ギコさんは黙って階段を降りていく。
 その隙を見て扉を数センチ、開けてみる。

53名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:49:08 ID:WM1TjCNg0

 もう呻き声は聞こえることもなく、部長は静かに寝息を立てていた。


ミセ*゚ -゚)リ「……気のせいだったのかな?」


 もしくは聞き間違い?
 あるいは、除霊したのか。
 どっちかは分からないけれど、唯一確かなのは私のS心は満たされないということだった。

 ……車ででぃちゃんでも軽くいじめることにしよう。


 とにかく部長殿。
 お大事にね、"Take care of your self"。

54名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:50:19 ID:WM1TjCNg0
【―― 10 ――】


 三人目、最後の一人のアパートを訪問し終え、私達を乗せた車は街中を走る。
 結局ギコさんに止められた為一人もどんな状態だったのかは見れず、また後でこっそり見た後にはもう穏やかに眠っているだけだったので分からないが、彼の弁では。


(,,-Д-)「一人目の人は高熱、二人目の人は高熱と腹痛、三人目の人は半狂乱って感じだったよ」


 らしいので、案外病状は深刻だったようだ。

 現在向かっているのは最後の目的地、先輩達が訪れた心霊スポット。
 郊外、街外れ。
 都市部に近いその場所、小さな山の山道の前に車を停車させて今度はでぃちゃんも一緒に車から降りる。

 彼女の手には藍色の竹刀袋がある。
 見るに杖よりも少し長く、大体竹刀や木刀と同じくらいのものが収納されているらしい。


ミセ*゚ー゚)リ「お祓いの道具ってやつですか?」

(,,-Д-)「まあね。僕は魔法らしい魔法は二つしか使えないから、あんまり道具はいらないんだけどさ」

55名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:51:11 ID:WM1TjCNg0

 一つはさっきやってた解呪ってやつ、と車に鍵をかける。


(,,゚Д゚)「ま、おまじないと思ってくれたらいいよ」

ミセ*゚ー゚)リ「へぇ〜……」

(,,゚Д゚)「んで、これもおまじない」


 ドアにちゃんと鍵がかかっているかをチェックしたギコさんはジャケットのポケットから何かを取り出す。
 見ればそれはお守りだった。
 神社などで売っているような至って普通のお守りだ。


(,,-Д-)「それはプレゼント。何か危なくなった時は握って祈ればいいと思う……相手が大したことない怪異なら助かるから」

ミセ;゚ -゚)リ「…………大したことある相手なら?」


 そういうのは病気と同じで最初から遭わないようにするのが大事なんだよ、とギコさんは笑った。
 でぃちゃんは呆れたようで笑わなかった。

56名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:52:07 ID:WM1TjCNg0

 荒れ放題の山道を進む。
 もう使われていない、全く手入れもされていない道はどちらかと言えば「獣道」という表現が似合う有様だ。
 でぃちゃんから貸してもらった虫除けスプレーをかけながら薄暗い道をひたすら歩く。

 向かう心霊スポットは静養の為の病院があった場所、廃墟の近く。
 そこには変わった形の白い石があり、写真を撮るとかなりの高確率で幽霊が写り込むのだとか。
 肝試しをする場合は山道の入り口から始め石に触れてゴールとする場合が多いらしい。

 先頭を行くのはギコさんで、今は黒い手袋を嵌めて懐中電灯で前を照らしている。
 その後ろに私で、一番後ろにでぃちゃんが控えている。


(,,-Д-)「それで……ネガは見てくれた?」

ミセ*゚ー゚)リ「はい。でも、変なものは写ってなかったですよ?」


 ネガを見たが、あったのはただの森の写真だけ。
 特に妙なものは写っていない。

 そう主張した私に後ろからでぃちゃんの訂正が入る。

57名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:53:18 ID:WM1TjCNg0

(#゚;;-゚)「写っていたじゃないですか、女の方が」

ミセ;゚ -゚)リ「あー……でもアレは部長の趣味みたいなものだしねぇ」


 山中の写真の中には一枚だけ女の人が写っていた。
 あの部長は街で可愛い女の子を見かけると節操無く写真を撮ろうとする欲求に正直な趣味があるのだ。
 一度許可なく撮って補導された時以降はちゃんと許可を取るようになったけど。


ミセ*^ー^)リ「どうせ、歩いてる途中で肝試し中の人に会ったから撮らせてもらったんですよ」


 綺麗な長い金髪の凄い美人だったし。


(,,-Д-)「……そうだね。普通に考えれば、多少無理はあるけど筋は通る」


 そう呟いて、彼は振り返る。
 思いの外短かった山道を登り終えての、廃墟の前。
 湛えるのは笑顔。

58名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:54:06 ID:WM1TjCNg0

(,,-Д-)「でもさ、『魅力がある』の“魅”っていう字には一匹鬼がいるよね」

ミセ*゚ー゚)リ「え?」


 ただ、その笑みは診療所で浮かべていたものと違う。
 冷笑と言ってもいいようなシニカルな笑み。


(,,゚Д゚)「よく分からない力で人を惑わすからこその『魅力』なんだよ。だから魑魅魍魎という言葉にも入っている」


 そこまで言って、彼は両手を軽く広げて――気取って続けた。




(,,^Д^)「―――さ、じゃあこの問題を処理することにしよっか」



.

59名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:55:11 ID:WM1TjCNg0
【―― 11 ――】


 静謐な空間。
 宵闇。
 薄暗く、この世とあの世が入り混じってしまったような世界。

 打ち捨てられた建物は閑散としている。
 壁には派手なヒビも幾つか見られ、酷いところでは穴が空いてしまっている。
 割れたガラスを踏んでしまったのか小さく高い音がした。

 懐中電灯はもう消され、今は窓辺から差し込む僅かな月灯りのみが部屋の輪郭を浮かび上がらせている。
 まだ冬には遠い、夏にすらなっていない五月だというのに何故かここは空寒い。


ミセ*゚ー゚)リ「あ……」


 思わず声が漏れた。
 視線の先。
 多分、かつては裏口として機能していたのであろう外へと続く四角い空白の辺りに白い石があった。

 荒れ果てた人工と生い茂る自然の境目に鎮座する石は人の頭程度の大きさ。
 ゴツゴツした岩石で、いつだったか教科書で見た火山岩に似ていた。

60名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:56:07 ID:WM1TjCNg0

 そして―――。




('ー`*川「…………こんばんは」




 その前に、人がいた。

 腰まで届きそうな金色の髪は実際に見ると橙に近く、それが夜風に吹かれて舞い、月光に照らされキラキラと輝いている。
 服は緩やかな白のワンピースだけど、その清楚な服を穢すような強い魔性が感じ取れた。
 陶磁のように白い肌と官能的な身体付きは男ならば誰でも見蕩れ、たとえ女でも息を呑むだろう。

 端正な顔立ちで最も目立っているのは八重歯だ。
 猫のように縦に裂けた瞳も相俟っていたずら好きのような、小悪魔的な可愛らしさがある。


('ー`*川「皆さん連れ立って、どうしたんですか?」

61名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:57:04 ID:WM1TjCNg0

ミセ;゚ -゚)リ「あ、う……」

('、`*川「ここは幽霊が出るとかで危ないらしいですよ。早く帰った方がいい」


 彼女は優しげな口調で勧めてくるが、そんな言葉は耳に入らない。
 目を見開いて、それを凝視する。

 なんだあれ。
 なんだ、あれは。
 アレは―――。


('、`*川「どうしたんですか? 何か……」

(,,-Д-)「いや――帰らないよ。俺が用があるのは幽霊じゃなくて、君だから」


 ギコさんが一歩前に進み出ながらそう言った。


(,,゚Д゚)「というか、君にしか用がない」

('ー`*川「へぇ……デートのお誘い?」

62名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:58:06 ID:WM1TjCNg0

(,,^Д^)「まさか! 俺には可愛い奥さんがいるからさ、どんなに美人でも――まさしくの傾国の美女に誘われたって靡かないよ」


 更に、一歩。
 全く恐れずに果敢に距離を詰める。


(-、-*川「……そう。アタシは一緒に行くつもりだったんだけどね」


 指先で長い髪を絡めて遊んでいた女は寂しげに呟く。
 在りし日々を懐かしんでいるかのような雰囲気。

 人は過去を思い出す時は右斜め上を見、未来を思う時は左斜め上を見ると聞いたことがある。
 彼女の縦に裂けた瞳がどうなっているかは瞼に遮られて確認することは叶わない。
 だけど彼女の目は右上でも左上でもなく、しいて言えばきっと真下を見ていたのだろう。


(,,-Д゚)「一緒に行くのは……黄泉路でしょ?」

('ー`*川「あったりー♪」

63名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 21:59:04 ID:WM1TjCNg0

 だって、後悔したことを思う時。
 何かを省みる時は誰だって俯いてしまうから―――。



(ー *川「じゃあ――――死んで」



 一閃。

 その言葉が聞こえるのが早かったか、彼女がギコさんに跳びかかるのが早かったか、どちらかは分からない。
 とにかく私が見たのは直後に跳躍し一瞬で間合いを詰め腕を振り下ろす彼女の姿だった。

 空間を染め切るような力の爆発。
 キャンバスに濃い黄色をぶちまけたような、そんなイメージ。
 刹那の間合い。

 金色に輝く――血のような死の気配。


(,, Д)「―――ふっ!」

64名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 22:00:12 ID:WM1TjCNg0

 瞬時に拳を構えたギコさんは軽いフットワークで一歩下がり、その攻撃を回避。
 続いて振るわれる腕を拳で弾く。
 ボクシングの世界では「パーリング」と呼称される、相手の拳を自らのパンチで打ち落とす高等技術。

 そして身体が触れ合った瞬間、バチィッ、という音が響き渡る。
 瞬くのは紫雷。


('、`*川「!!」


 コンセントが漏電したような凄まじい音と光を契機とし、その女は思い切り後ろに飛んで距離を離した。
 訝しむような瞳を敵対者に向け、八重歯を剥く。

 腕をダラリと下げ、さながら四つん這いになるような姿勢の女とファイティングポーズを取るギコお兄さん。
 互いに大きな円を描くようにしながらの移動。
 自らにとって最も有利な距離を見極めているのだ。


 一方、私。


ミセ*;ー;)リ「何アレ!なにあれ!! なにあの暴走ア●クみたいなの!!」

(;#゚;;-゚)「ミセリさん、落ち着いてください。危ないですから」

65名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 22:01:07 ID:WM1TjCNg0

ミセ*;ー;)リ「なんで落ち着いてんのでぃちゃんは!」


 目の前で唐突に展開された異能バトル、話半分面白半分のもう半分の方が当たり前のように展開されている空間で死ぬほどビビっていた。
 泣きそうになりながらでぃちゃんに縋り付く。

 足が震える。
 目の前の光景が信じられず頭が回らない。
 あの時と――同じような。

 恐怖。
 戦慄。

 どちらもを肌で感じる。
 怖いよ。
 来なきゃ良かった、見なければ良かった。

 耳を塞いで目を閉じて知らないフリして過ごしていれば良かったんだ。
 ずっとそうしてきたのに、どうしてまた。


(,,-Д-)「……なんか連れの子が思いの外怖がってるし、さっさと終わらせるよ」

('、`*川「余裕ね、人間風情が」

(,,゚Д゚)「そっちも俺が何やってるかも分からないだろうに。今ならまだ『ごめんなさい』で許してあげるよ」

66名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 22:02:10 ID:WM1TjCNg0

 ギコさんの言葉に彼女は巧笑した。
 国を滅ぼすような悪女の高笑い。


('ー`*川「はははははっ!“何やってるか分からない”!? 馬鹿ね、あんまりにも古臭い技術だから驚いてただけよ」

(,,-Д-)「……古臭くても、俺はこれしかできないからさ」

('、`*川「それを専門にやってる奴は久々に見たわ。でも、本当にねぇ……」


 ―――そう。

 私には――何故か見えてしまっていたのだ。
 アレが。



('ー`*川「アタシを許すなんて……人間一人が、随分吠えるものね」



 彼女の頭に生えた金色の獣耳と。
 辺りを蹂躙するように広がる九本の大きな尻尾が。

67名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 22:03:21 ID:WM1TjCNg0

 空間を侵食する金色が。


(ー *川「―――噛み殺す」


 その言葉のまた――直後。
 二度目の交錯。
 今回の特攻は更に速く、最早人間の目には追い切れない。

 後に残るのはただの残像。
 廃墟を両断する金色の気配のみ―――。

 だけど。


(,, Д)「……取った」


 呟く。

 神速で振るわれる両手、その必殺の間合いに一歩踏み込みながら。
 入身、転換。
 振りかぶった右腕の真下から手首と肘を掴み、相手の振り下ろす力を利用し身体を回転させてそのまま投げ飛ばす―――!

68名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 22:04:11 ID:WM1TjCNg0

(、 ;川「がはっ……!」


 合気道の技――立ち投げ。

 ……今分かった。
 あの時でぃちゃんがやったのはこれよりも速い、超高速の合気道なんだ。
 動作が終わるまでがあまりにも速いものだから目で追い切れず、目に見えない結界に弾かれたように見えたのだ。


('、`;川「この……っ!」

(,,-Д-)「以上、俺のおじさん達が冗談で作った超攻勢護身術、『コンバット合気』でした」


 それよりもやや劣る速度で敵を制圧したギコさんは、倒れた女の胸倉を掴む。
 いや、違う。
 胸倉を掴んだんじゃなく――何かを貼り付けた。

 長方形の紙。
 この国の文字ではない言語で書かれた何かのお札。

69名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 22:05:20 ID:WM1TjCNg0

(,,-Д-)「有名過ぎて綺麗過ぎると大変だね。誰にだって名前が分かってさ」

('、`;川「やめ―――」


 そしてギコさんは言う。
 唱える。
 二つしか使えない彼の魔法、その一つを発動させる。

 最後の一手は―――。




(,,゚Д゚)「告げる。君の名は――――」






【――――そこまで。第一問、終わり】

70名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 22:08:02 ID:WM1TjCNg0


 「嘆くとも 痛むものから くゆまじな」


【歌意】
たとえ心が嘆き悲しんだとしても、私は後悔だけはするつもりはない。
身体は痛むけれども、ここで崩れてしまってはいけないのだ。

【語法文法】
『嘆く』はカ行四段活用で、終止形と連体形が同じ「嘆く」という風に活用するが、ここでは終止形。
次の『とも』が終止形に接続する接続助詞のであるため。
この接続助詞『とも』は逆接仮定条件を表し「(もし・たとえ)〜だとしても」という意。
『痛む』はマ行四段活用の連体形。「痛みを感じる」「悲しむ」「迷惑がる」等の意味があるが『嘆く』を踏まえると「痛みを感じる」か「悲しむ」になる。
続く『ものから』は逆接確定条件(若しくは順接確定条件)の接続助詞。活用語の連体形に付き「〜けれども」「〜ものの」という風に訳す。
平仮名の『くゆ』はヤ行上二段活用の「悔ゆ」の終止形にも、ヤ行下二段活用「崩ゆ」の終止形にも訳せる。
『まじ』は終止形接続の助動詞で打消推量・打消当然・打消適当・禁止・不可能推量・打消意志という風に様々な意味がある。
上記の歌意では一文目は打消意志として、二文目は打消適当として訳してある。
最後の『な』は終助詞だけでも三つ存在するが、ここでは「感嘆」あるいは「念押し」を表す『な』が妥当だろう。
「花の色は 移りにけりな いたづらに」に含まれるものと同じ意味である。

【特記】
参考にした歌は特にない。全て一人で作った。その為に不適切な部分があるかもしれない。
また『悔ゆ』は、普通は「人知れぬ 心の内にも 燃ゆる火は 煙もたたで くゆりこそすれ」のように「燻る」との掛詞として使う。

71名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 22:09:07 ID:WM1TjCNg0


というわけで『怪異の由々しき問題集』の第一問、もとい第一話でした。
この作品はブログに掲載していた同名作品を十二話編成にし加筆修正したものです。

月一回のペースで投下したいと思っています。




「色々な意味で勉強になる作品」をコンセプトにしており、この和歌もどきや語り手の口癖は高校レベルの古典や英語を意識してます。
新高校三年生や大学に落ちて浪人した方がこれを読んだ際に少しでも勉強になればなーと思います。

72名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 22:58:30 ID:S0.YGTYk0

語法文法解説のあるブーン系小説ははじめてみたので、すごく新鮮だ
これからじっくり読む

73名も無きAAのようです:2013/04/14(日) 01:27:47 ID:hnb2k2oc0
九尾のくせに弱いなーメジャーなものが強いってわけでもないのか

個性的で面白かったよ。乙

74名も無きAAのようです:2013/04/14(日) 04:05:31 ID:yG2uzyBsO
タイトルが見たことあったのはそういうことか 
 
月一なんて言わず、週一投下ぐらいでもいいのよ

75名も無きAAのようです:2013/04/14(日) 04:18:55 ID:MIAaCqCk0
またニーイチ先生の自分語りが読めるの?

76名も無きAAのようです:2013/04/14(日) 18:57:35 ID:HOjZsAMEO
ブログにある作品ですよね?

77名も無きAAのようです:2013/04/14(日) 19:16:05 ID:2T02/VkoC
五つ前のレスくらい読もうぜ

78名も無きAAのようです:2013/04/16(火) 19:00:08 ID:X5.C3nIg0
でぃちゃんかわいい。

79名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:30:36 ID:otC/LjQw0




ミセ*゚ー゚)リ 怪異の由々しき問題集のようです



※この作品には性的な描写が(たまに)出てきます。
※この作品は『天使と悪魔と人間と、』他幾つかの作品と世界観を共有しています。
※この作品は推理小説っぽいですが、単なる娯楽作品です。
※この作品はフィクションです。実在の逸話を下敷きにした記述が存在しますが現実とは一切関係ありません。





.

80名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:32:04 ID:otC/LjQw0



 第二問。
 穴埋め問題 解答編。

 「魔法を失った魔法使い」





.

81名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:33:04 ID:otC/LjQw0




 永らへば このうき世こそ 悲しけれ



.

82名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:34:09 ID:otC/LjQw0
【―― 1 ――】


 ギコさんは、告げる。



(,,-Д-)「君の名は『玉藻前』――――君の存在を、禁じる」



 瞬間――――世界が、捻れた。

 バキリ、という音。
 それは個人の存在が世界から封じられた音。
 白いキャンバスを染めた色を覆い隠してしまったような、そんな。


:(、 ;川:「あ――あぁぁぁぁぁああっっっ!!!」


 絶叫。
 咆哮。
 絹を引き裂いたようなそれは獣の如く。

83名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:35:09 ID:otC/LjQw0

 いや、違う。
 そもそもこの人は獣だったのだ。

 いくら私でも、その名前くらいは知っている―――。


(#゚;;-゚)「『玉藻前』――日本では能で有名です。絶世の美女でありながら、その実『白面金毛九尾の狐』という妖狐の中でも最強の、」


 そこまで言って、いえ、と訂正し。


(#゚;;-゚)「全世界でも最高レベルと言って相違ない……ほとんど神の位に存在する妖怪なのです」


 玉藻前、九尾の狐。
 有名過ぎてわざわざ説明することさえ愚かしいその妖怪。

 何よりも美しく、そして何よりも強かった化物。

84名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:36:08 ID:otC/LjQw0

 ……思えばヒントは沢山出ていた。
 金色の髪、陶磁のように白い肌、そして絶世の美貌。
 国さえも傾けてしまうほどの“魅力”。

 でも。
 そんな妖怪が、あんなお札一つで……?


(#゚;;-゚)「玉藻前は平安時代、八万の軍勢に討伐された後、石に姿を変えたそうです。その白き石は全国に飛び散り『尾裂狐』という妖怪を生み出したり、人を祟殺したりしたそうなのです」

ミセ;゚ー゚)リ「じゃ――あの、石は」

(#゚;;-゚)「はい。おそらくそのうちの一つ、『殺生石』と呼ばれるモノなのです」


 ここにいる彼女はあくまで分身に過ぎないのです、とでぃちゃんは纏めた。
 だからこそ最強の妖怪はあっさり討伐されてしまったのか。


(、 ;川「ぁ……うぁ……」


 迸っていた閃光が治まった。
 彼女、九尾は冷たいコンクリートに伏したままだ。

85名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:37:04 ID:otC/LjQw0

 空間そのものを金色に染め上げているようなイメージはもう見ることはできない。
 あの光は魔力の逆巻き。
 世界最高峰の力の渦、その一部は最後の一片まで完全に封じられた。

 いや――禁じられたのだ。


(,,-Д-)「……『禁呪』って言う」


 倒れた九尾から背に黒い革手袋を外しながらギコさんは語る。
 目を凝らしてみれば、それにはあのお札と同じような妙な歪みのようなものが見えた。

 砂糖を水に溶かして煮ているような。
 真夏の陽炎。
 そこにある“何か”が揺らめいている感じ。


(,,゚Д゚)「道士が使う術でさ、物事の本質に作用しそれを禁じる呪術。このグローブは魔力を禁じる術式を施してある」


 そう、だから弾くことができた。
 九尾の猛攻、応戦することができていたのは交錯の瞬間ごとに彼女の呪力を封じていた為。
 そしてきっと私に手渡したお守りも同じような効果があった。

86名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:38:08 ID:otC/LjQw0

 火を禁じれば燃えることはなく。
 水を禁じれば沈むことさえもない。

 『禁呪』――ならば。


(,,-Д-)「かつて道士が蛇や鬼を封じていたように相手の存在を禁じてしまえば……ちょっとした金縛りみたいな感じにはなるよね」


 私の元まで戻ってきたギコさんは「どう?」と笑いかける。
 自慢するように、と言えるほど自信はない、しいて言うなら気恥ずかしそうな笑み。
 冷笑よりもよほど彼に似合う笑顔。


(,,^Д^)「これが君の見たがってた『非日常』だよ。そして俺が使える唯二の魔法」

ミセ;゚ー゚)リ「…………すごい」


 本物。
 本当の怪異。
 神秘、不思議不可思議。

87名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:39:16 ID:otC/LjQw0

 私の知っていた、知っていたのに知らないフリをしていた世界の真実。
 解答への足掛かり。



ミセ* ー)リ「(……この人なら)」



 この人なら、私の問題だって―――。


(,,-Д-)「なんて言うか、呪禁道なんてあんまりメジャーじゃない魔術だからアレだけどさ……」


 と。
 ギコさんが頭を掻いたその時だった。

88名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:40:09 ID:otC/LjQw0
【―― 2 ――】



「ははは……」

 
 それは地獄のような。
 あるいは恋獄のような。 

 地平の彼方まで響くような巧笑。



(ー ;川「――はは「ははははっ「はは「ははははははっ!!!」



 立ち上がった。

 先ほどまでコンクリートの上で禁じられていた九尾が、ほとんど死にかけの体でありながらも立ち上がる。
 ふらつきながもその両足で。
 またダラリと両腕を下げ、猫のような――狐のように縦に裂けた瞳を血走らせ。

89名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:41:05 ID:otC/LjQw0

 狂気に満ちた。
 笑みを浮かべる。


(ー ;川「こんなもの……。こんなもので、アタシが封じられるとでも思ったのかしら……?」


 そう、気丈に笑って自身の胸に手を当てる。
 そして枷となっていた札を、途中不可視の結界に阻まれながらも、純粋な力技でも以て制圧し、引き剥がした。

 呟く。


(ー ;川「アタシは、死なない」

(,,-Д-)「…………」

('ー`;川「アタシはまだ、全然喰らっていない。まだ全然、生き足りない……!」


 まるであえて、またしいて自らに言い聞かせるように。
 何度も何度も幾度と無く。

 「アタシは死なないんだ」――と。

90名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:42:10 ID:otC/LjQw0

 生への執着。
 人間よりもよほど人間らしい。
 人間のような貪欲さ。

 それを見てどう思ったのか、竹刀袋を携えた彼女は一歩前に進み出る。


(#゚;;-゚)「何方に唆されたは知りませんが当時の万分の一の妖力、一般人から吸精してやっと現界できる程度の力では、どれほど時間を使おうとも元に戻ることなど不可能なのです」

('、`;川「そんなの……やって見なくちゃ分からないじゃないの!」

(#゚;;-゚)「分かりますよ」


 私には分かるのです、とでぃちゃんは繰り返す。


(#゚;;-゚)「ちゃんとした吸精ができるモノであれば、それこそ一瞬で人を喰らい尽くせたはずです」


 ……そうだ。
 まだ彼女に襲われた三人は、生きている。
 どころか、回復に向かっている。

91名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:43:08 ID:otC/LjQw0

 それが何よりも確かな証拠。
 証左。

 最強の妖怪にまともに祟られて生きていられる人間なんていない――だから。


(#゚;;-゚)「もう既にあなたは人間どころか地縛霊にさえも劣る……取るに足らない存在に堕ちてしまっているのです」


 世界を震撼させる妖狐なんかじゃなく。
 ただの世界の誤差でしかない単なるバグに、と。

 けれど。


(、 ;川「うるさいっ! アタシはなあ、アタシは、アタシは、アタシは……!!」

(#゚;;-゚)「…………」

(、 ;川「アタシは強いし、可愛いし、色んな人から愛されて! 思い通りにならないものなんて何処にもなくて……!!」


 泣きそうな声で叫ぶ彼女の姿はもう揺らいできていた。
 禁呪のせいではない。
 不完全な姿で無理やり力を使ったせいだ。

92名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:44:05 ID:otC/LjQw0

 まともな肉体も持たず、ロクな魔力もない状態で戦って、霊体である彼女が現界し続けていられるはずがないのだ。
 姿が薄れてきたのは死の兆候。

 血のような――死の気配。


(ー ;川「そうだ! アタシだって思い出した、知っているぞ!!」


 唐突に九尾は敵対者である青年を指差す。
 震える指先に殺意を乗せ、叫ぶ。


(ー ;川「お前はもう魔法を使えない! 魔法を失っている! アタシにトドメを刺すことなんでできないんだ!!」


 魔法を失った――魔法使い。


 それがギコさん?
 どういうこと?

 私の疑問など知らぬようで九尾は叫び続ける。

93名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:45:06 ID:otC/LjQw0

(ー ;川「お前もアタシとおんなじだ! 最強だったあの頃のお前と違って、今の『ギコール・ハニャーン』は何も助けられない人間モドキだ!!」

(,,-Д-)「…………うん」


 ギコさん。朝比奈、擬古。
 『魔法を失った魔法使い』と呼ばれた青年は深く首肯し、もう一度「うん」と呟く。


(,,゚Д゚)「確かに俺は……というか厳密には俺じゃないけど、まあ俺は、もうほとんどの魔法を使えない」


 九尾の狐どころか、幽霊すら祓えないんだ。
 私に説明するように彼は言う。
 「使える魔法は二つだけ」と言っていたのは正味その通りで、彼は――“今の彼”はほとんど魔法を使えない。

 ずっと昔に失ってしまったから。
 ……らしい。


(,,-Д-)「だけどさ、」


 と、ギコさんはでぃちゃんを抱き寄せながら続ける。

94名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:46:14 ID:otC/LjQw0

(,,゚Д゚)「なんて言うか、俺は“魔法を使えなくなった”わけじゃなくて“魔法の使い方が分からなくなった”だけだから、」

(;#// -/)「えっ――あ、もしかしてご主人様……?」


 右腕に抱かれたでぃちゃんが顔を真っ赤にしながらぐずるように首を振る。
 身体を悶えさせ、何かを拒否するように。 
 恋人のように抱かれて、それが恥ずかしくて仕方がないという風に。

 ……ん?
 ていうか今なんか「ご主人様」とか凄い危ない言葉が聞こえたような……?


(;#// -/)「無理です駄目なのですご主人様! だってその、あ……うぅ、ミセリさんがいて……!」


 必死に逃れようとする少女の手を、指を絡めるようにして握り――そして。


(,,-Д-)「だから――――こういうのはできる」

(#// -/)「っ……!」

95名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:47:07 ID:otC/LjQw0

 キスした。
 兄妹で。
 恋人同士のように。

 それも軽いやつじゃなく、見ているコッチが恥ずかしくなってしまうような深くて甘い口づけ。
 親愛を示す為ではなく気持ち良くなる為にするキス。


(#// -/)「ふぅ――っ、ん……!」


 ピンと強ばっていた身体の力が抜けた。
 見開かれた目がトロンとしてくる。
 ああ、多分舌入れられちゃって気持ち良くなっちゃってるんだろうなー、と見ていて分かる。

 うわ。
 うわああ……。


(#// -/)「はっ、んぅ……ぅ……」


 堪らなく淫らな表情。
 頬を紅潮させて、撫で撫でされる猫のようにされるがままになっていたでぃちゃんがやっと開放されたのは十秒以上後。
 つつ、と合わさっていた唇同士が糸を引いた。

96名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:48:06 ID:otC/LjQw0

 ぬらぬら光る彼女の唇は、淫靡で。
 普段の様子からは想像もできないしイメージにも全然合わないんだけど、何故かとてもそれっぽくて。

 力が抜けたのか膝から崩れ落ちたでぃちゃんはイッてしまった女の子特有のやらしい顔をしていた。


ミセ*//-/)リ「うわー……」

( * Д)「こういうのは……できる」


 恥ずかしそうに真っ赤になった顔を背けつつ、ギコさんは落ちてしまった竹刀袋を拾い上げて、その中身を取り出す。
 中身は竹刀でも木刀でもない。
 何の変哲もない、テレビなどではよく見るような黒く光る凶器。

 日本刀だった。 


(;#// -/)「ん……うぅ。クラスの人の前で、こんな……」

( *-Д-)「さ、でぃちゃん――行っておいで」


 へたり込んだままのでぃちゃんにその刀を渡す。
 ウジウジ言いながらも受け取った彼女は立ち上がり、それを抜き放った。

97名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:49:05 ID:otC/LjQw0

('、`;川「なによ……それ。そんなのアリ……?」


 鯉口が切られ、白銀の刃が晒される。
 と、同時。
 先ほどの九尾と同じような現象がでぃちゃんにも巻き起こり始める。

 白いキャンバスに絵の具を零したような、世界を侵食するような力の渦。
 彼女を中心に巻き起こる魔力は綺麗なオレンジだった。 

 狐火のような――あるいは、猫の瞳のような。


(# ;;-)「ご主人様……恨みますよ。私は怒ったのです」


 そして現れるのは耳と尾。
 診療所で私が見たのと全く同じ、九尾が出したものとほぼ同じ、彼女から生えた猫の耳と尻尾―――。


(,,-Д-)「うん。後でいくらでも聞くから」

(# ;;-)「そうですか……では、ご命令を」

98名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:50:09 ID:otC/LjQw0

 朧気ながら刃が瞬く。
 その双眸も。
 猫のように縦に裂けた――猫そのものの両目が敵を射抜いた。


(,,゚Д゚)「彼女を終わらせてあげて」


 主人の命に猫の少女は恭しく頷き、そして。




(#゚;;-゚)「分かりました――――では流派なし、朝比奈でぃ。参ります」




 そして、吸精を終えた半妖が。
 人間と猫又のハーフである少女が、死に損ないの狐に飛びかかる―――!

99名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:51:04 ID:otC/LjQw0
【―― 3 ――】


 幕切れは呆気ないものだった。

 猫のようなしなやかさ――いや、猫そのものの俊敏さで踊りかかったでぃちゃんの大上段からの袈裟斬り。
 仄明るく橙に輝く白刃は金色の魔力を断ち切った。

 数多くの人を惑わし、数多の国を滅ぼしてきた悪女。
 その最後。
 それは彼女が殺してきた人間達と変わらず、惨めで悲哀に満ちたもので。


(;、; 川「あ、あぁ……」


 もう叫び声は聞こえない。
 もう叫ぶ気力さえないのだろう。

 手を伸ばしても、その手が消えてしまう。
 立ち上がろうにも、その為の足がない。
 積み上げてきた栄華と絶望は今、光の粒子になって空間に溶けていく。

 静かに、静かに、溶けていく。

100名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:52:04 ID:otC/LjQw0

(;、; 川「死にたくない……死にたくないよぉ……。許して……誰か、助けて……」

(,,-Д-)「きっと君が殺してきた人達も、そんな風に思っていたんだろうね」


 ギコさんは彼女にそれだけを告げて、背を向けた。
 手を貸すことはなく。
 ましてや、助けることはない。 

 縋るように伸ばされた消えかけの右腕を、瞼に映ったその残像を振り払うように背を向け、息を吐いた。
 深い、深い溜息を一つ。

 廃墟の暗闇に食われるように緩やかに薄れていく九尾は――今際の際はただ、すすり泣くのみだった。


(,, Д)「……慣れないよね、こういうのは」


 いつまで経っても慣れないよ――と。
 つい先程自分を殺そうとした相手の最後にも関わらず、彼は酷く哀しそうな顔をしていた。

 慣れない。
 今も。
 敵だからといって容赦なく殺せる鬼には、なれない―――。

101名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:53:07 ID:otC/LjQw0

(#゚;;-゚)「…………ご主人様」

(,,^Д^)「お疲れ様」


 戻ってきたでぃちゃんを抱き、頭を撫でる。
 向ける為に無理に作った笑顔は泣き顔よりも切なくて。

 何故か。


ミセ*;ー;)リ「っ……」


 私まで――泣けてきてしまって。

 その涙は今まさにこの世から消えようとしている誰かの為を想ったものか。
 それとも、必死に似合わない、初対面の人間から見ても偽りと分かる笑みを浮かべた彼を想ったものか。

 どちらか分からないけれど。
 それでも私はずっと。
 意思とは無関係に零れ落ち続ける涙を拭っていた―――。

102名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:54:06 ID:otC/LjQw0
【―― 4 ――】


 翌日、珍しく早く目が覚めてしまった為一番乗りを狙って意気揚々と登校してみると。


ミセ*゚ー゚)リ「……あ。」

(#^;;-^)「おはようございます、ミセリさん。今日はお早いですね、二番乗りなのです」


 教室後方の扉を開けた瞬間にでぃちゃんと目が合った。
 ちょっと気まずい気分で挨拶を返し、彼女の隣、自分の席に腰掛ける。

 始業のチャイムまでは一時間近くあるのに、二番。
 ……ひょっとして彼女はいつもこんな早い時間に来ているのか。
 遅刻常習犯の私には考えられない。

 猫は夜行性なのに、ねえ?
 そんなことは些細な問題かな、"It doesn't make any difference"。


(#^;;-^)「……半分ですから。半分は、人間なのです」

ミセ;゚ー゚)リ「あー……声に出てた?」

103名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:55:06 ID:otC/LjQw0

 はい、と首肯する彼女の笑顔は心なしか柔らかくなったような気がする。
 気のせいだろうか?

 いやそもそも……でぃちゃんって笑う子だったっけ?


 私の疑問など知らないようで、でぃちゃんは黙って微笑んだまま手を動かしている。
 彼女は机に置かれたノートに筆を走らせていた。


ミセ*゚ -゚)リ「……なにそれ」

(#゚;;-゚)「手記のようなものです」

ミセ*-3-)リ「ふぅん」


 特に興味も沸かなかったので早々に視線を前に戻し、そのまま机に突っ伏した。
 多分、昨日あったことを纏めているんだろう。
 編纂や蒐集といったちゃんとした行為はギコさんがやっているだろうし、彼女のそれは「手記」っていうか「日記」なのかな。

 ……ギコさん。
 そう言えば。

104名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:56:06 ID:otC/LjQw0

ミセ*-ー-)リ「そういやさ、でぃちゃん。でぃちゃんが言ってた好きな人って……ギコさんのこと?」


 私の言葉にでぃちゃんは頬を僅かに染め、「はい」と今度は控えめに首肯する。


(* ;;-)「ずっと昔から……好きだった人なのです」

ミセ*^ー^)リ「人前でちゅーするくらいだもんねぇ」


 言わないでくださいよ、と更に赤く、真っ赤になる。
 ……なるほど。
 今時珍しいくらいに清楚で可愛らしい子だ。

 これはキスもしたくなる。


ミセ*゚ー゚)リ「んじゃー二人は付き合っているんだ」

(#゚;;-゚)「え? ええ、まあ……そういう言い方もできなくはないですね」

105名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:57:13 ID:otC/LjQw0

 歯切れの悪い言い方に小首を傾げると、私のクラスメイトは直後に超弩級の爆弾を投下した。



(#゚;;-゚)「少し前に婚姻届を出したので、もう付き合ってはいないのです」



ミセ;゚ー゚)リ「…………は?」

(#゚;;-゚)「あの、彼は戸籍的にやや面倒な境遇なので、婿養子という形になっていて、だから姓は『朝比奈』……」


 いや、そこじゃねぇよ。

 え?
 いやいやいやいや――え、マジすか?

106名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:58:15 ID:otC/LjQw0

ミセ;゚ー゚)リ「えっとぉ……じゃ、でぃちゃんって結婚してるワケ?」

(#゚;;-゚)「戸籍の上ではそうです」

ミセ;゚ー゚)リ「女子高生で、人妻ってこと?」

(;#゚;;-゚)「ま、まあ……そうですね」


 うわ、うわああ。
 前言撤回、なんて淫靡な設定を持ってるんだ、この子!

 キスで吸精できるだけでも十分アレなのに!
 それに加えて結婚だと!
 猫耳尻尾を生やして二人で仲良く暮らしているだとぉ!?


ミセ* ー)リ「うわー……。じゃ、じゃあ『ご主人様』って呼び方も家でのプレイの……」

(#// -/)「ちっ――違うのです!」


 手を振って、必死の訂正を試みる人妻女子高生。

107名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 01:59:10 ID:otC/LjQw0

(* ;;-)「あれは私がご主人様の使い魔であった頃の名残で……」

ミセ;゚д゚)リ「主従関係だったの!?」
 

 なんてえろい!
 いやさ――なんてエロゲ的!!

 何がスタンドだよ、サーヴァントじゃん!!


(#// -/)「も、もう……私の話はいいじゃないですか」


 と、いい加減羞恥心が限界なのか、下を向き小さな声で言う彼女。
 ありえん。
 こんな子がもう結婚してるだなんて……。

 世の中どうなってるんだ。
 私の知らない世界があり過ぎだぞ色々。

108名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 02:00:09 ID:otC/LjQw0

(#// -/)「ほらほら! ミセリさんの恋の話でも……ほら! 部活の先輩方で好きな人とか……」

ミセ*-ー-)リ「あー、アイツらね」


 馬鹿共の顔を思い出しながら私は言う。


ミセ*゚ー゚)リ「三人ともセックスするだけの友達だからなぁ」

(;#゚;;-゚)「…………だけ?」

ミセ*-ー-)リ「そ。それだけの友達」


 今度はでぃちゃんが絶句する番だったのか、驚き目を見開いて私を見つめてくる。
 動物園でパンダを見る目つきに近い、物珍しそうな瞳。

 ……そしてちょっと怖がっている。


ミセ*-3-)リ「部室が手に入ったら学校でもヤりまくれるなーとでも思って頑張ってたんだろうねぇ、アイツら」

(;#゚;;-゚)「ヤりまくるって……」

109名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 02:01:10 ID:otC/LjQw0

 別に今時の子なら珍しいことじゃないよ、と私。
 なんだか助けたのを少しだけ後悔してきたのです、と彼女。


 そんなこんなで時間が過ぎていく。

 穏やかな早朝の一時は今までの関係では考えられないほどに親密で、愉快な。
 冗談交じり。
 お互いに気の抜けた、肩の力の抜けたやり取り。

 世間話を交わして笑い合ってる時に私はなんとなく分かってしまった。
 ギコさんが私を巻き込んだ意味。


 ……昨日、診療所の玄関ででぃちゃんは猫耳を生やしていなかったんだ。
 正しくは隠していなかっただけで、それは霊感のない普通の人にはまず見えないレベルでしかなかったのだろう。

 でも、私は見てしまった。
 見えてしまった。
 なんだか分からないままにそれを捉えてしまって。

 私に強い霊感があることに気づいたギコさんは思ったのだろう。
 「この子なら秘密をバラしてしまってもいいかもな」なんて。

110名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 02:02:08 ID:otC/LjQw0

 孤立気味だったでぃちゃん。
 可愛い奥さんのことを心配して、あの人は秘密を共有できる友達を作ってあげようとしたのだ。 
 思えば車の中では学校での彼女の話がやたらに多かった。


ミセ*-ー-)リ「(なるほどねぇ)」


 童貞っぽい可愛い顔して、中々やり手じゃん。
 ……まあでぃちゃんみたいな子と暮らしている以上童貞はありえないだろうけど。


 ま、兎にも角にも。
 その問題も彼は解決してしまったのだ。 

 本当にあの人、職業としては何なんだろう?


 『魔法を失った魔法使い』。
 というか――何者なんだろう?

111名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 02:03:09 ID:otC/LjQw0
【―― 5 ――】


 学校終わって、放課後。
 私は例の場所にいた。

 でぃちゃんからギコさんの「良かったら昨日の場所までおいで」との言伝を聞き、やることもなかったのでシャーっと自転車を走らせやってきたのだった。
 宵闇ではおどろおどろしい感じしかしなかった山は、昼間、日の高い時間に見ると単なる小高い丘モドキだった。
 木が生い茂っているので丘には見えないが、山と言うほどに高いわけじゃない、なんと呼ぶか困る類のその場所には既に二人の人がいた。


「だからよー。何度も言ってるが、こういう些細な用事で呼び出すのはさー……」

「ほらほら請負人、仕事なんだからちゃんとやって」


 童顔に人の善さが滲む雰囲気、今日も昨日と同じくジーンズにパーカーの上に白衣を羽織っている。
 今日の笑顔はちゃんと彼に似合っている。
 路肩に停めたヤマハ・ビーノの座席に腰掛けているのはギコさんだ。

 そして、もう一人。
 上質なワインのような深い紅色の髪をした、不良っぽい感じで八重歯が目立つイケメン。

112名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 02:04:14 ID:otC/LjQw0

( ・∀・)「……お、できた。っつーか、あの子なんじゃねーか?」


 山道の入り口、公道に面した場所で作業をしていたその人が振り返る。
 銀のネックレスを身につけたその人は正面から見ると……うん、なんだか分からないけど悪い感じがした。
 悪い悪さじゃなく、良い悪さだけど。

 意味が分からないって?
 そうだなー、たとえて言うなら教室での席が一番後ろの魔王様みたいな感じ。

 そんなことを思いながら私はペダルに力を込め、一気に原付の隣まで行く。


ミセ*^ー^)リ「こんちわー!」

(,,^Д^)「ギコハハハ、こんにちは。今日も元気一杯だね」


 自転車を停めて降り、敬礼の真似事をしつつギコさんに挨拶。
 少し方向を変え何故か右手に金槌を持っているイケメンさんにも声をかける。

113名も無きAAのようです:2013/04/19(金) 02:05:19 ID:otC/LjQw0

ミセ*゚ー゚)リ「こんちわですっ!」

( ・∀・)「こんにちわ。俺は、まー……ボランティアだよ」


 はぐらかすような言葉にギコさんから補足説明が入る。


(,,-Д-)「僕の知り合いでさ、請負人なんだよね。だから手伝ってもらってたの」

( -∀-)「だから請負人とか恥ずかしげもなく……」

ミセ*゚д゚)リ「請負人!!」


 人類最強と同じくの!?


(・∀・ )「なんか好評だし……なんでだよ。このネタ、分かるの?」


 祈るように両手を組んでキラキラとした目で見てくる美少女(私)を見、苦笑するように髪を掻き上げる。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板