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( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
609
:
名も無きAAのようです
:2013/12/05(木) 08:08:09 ID:8WmKYcdMO
イヤッッホォォォオオォオウ!
* + 巛\
〒| +
+ 。||
* + / /
∧_∧ / /
(´∀`/ / +
/~ |
/ュヘ |*
+ (_〕) |
/ | +
ガタン / /ヽ |
||| / / | ||||
―――――――――――
610
:
品質は
:2013/12/05(木) 11:41:05 ID:B0XG./Ug0
買います!
http://u.ttj.cc/2J
http://u.ttj.cc/2K
http://u.ttj.cc/2M
611
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:04:59 ID:ttGVJWA.0
俺と兄者は、二人になりそこねた一人だ。
.
612
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:06:06 ID:ttGVJWA.0
まともに産まれなかった、人間のできそこないと、言い換えてもいい。
俺ともう一人の俺――兄者は、つながったまま産まれてきた。
感覚や力を共有しているとでも言えばいいのだろうか。
肉体というイレモノこそ二つあるけれども、俺たち二人は根っこのところでは一つだった。
(´<_` )「なあ、おれ」
片方が怪我をすれば、どれだけ遠くにいたとしてもわかったし、その痛みを引き受けることだってできた。
力が足りないのならば借りればよかったし、貸すことだってたやすくできた。
足りないのならば二人ぶんの力を使い、負担はそれぞれ分けあう。
そうやって俺らはずっと過ごしてきた。
( ´_ゝ`)「どうした、おれ?」
俺たちにとってはそれが普通。
だから、感覚や力を分け合う“もう一人”がいない他の人間がいつも不思議だった。
それは、今だって変わらない。
.
613
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:08:27 ID:ttGVJWA.0
俺は兄者で。兄者は俺。
俺の考えることが兄者の考えることであり、兄者の考えることが俺の考えることだった。
十年前……少なくとも、あの日が来るまでは。
(´<_` )「なあ、おれ。探検にいかないか」
今でも、思い出す。
どうやっても、忘れ去ることが出来ない。
――その言葉が、すべての始まりだった。
( ´_ゝ`)「それはよくない。母者におこられる」
+(´<_` )「でも、気になるだろう。おれはそうじゃないのか?」
(;´_ゝ`)「……」
(´<_` )「なあ、おれ。おれはどうなんだ?」
( ´_ゝ`)「……そうだな、おれ。おれもそうだ」
俺は少し考えて、それから小さく頷いた。
.
614
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:10:27 ID:ttGVJWA.0
打ち明け話を一つするならば。
――元々、鏡なんてものは大嫌いだったのだ。
誰も彼もが、鏡に写るのは現実とそっくり同じ風景だと言う。
だけど、そんなものは嘘っぱちだ。
物心ついたときからずっと、鏡に写る全ての光景はニセモノだった。
そうでなければ、俺ともう一人の俺がこんなに違って見えるはずがない。
薄水色と、若草色。
青と、緑。空の色と、草の色。
似ているけれど、全く違う毛並みの色。
鏡は、俺と俺が違うものだと突きつけてくる。
兄者と弟者という名前と同じだ。俺は、俺ともう一人が違うものだと突きつけるもの全てが大嫌いだった。
だから、かもしれない。
屋敷の一角。
使われなくなったものをしまうための、一室。
そこにある鏡に、当時の俺は惹きつけられた。
.
615
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:12:28 ID:ttGVJWA.0
_ _
,、,j `´ !.,、
_ __r' \.Y./`ヽ__ _
,、/ `´ヽヽ .|. ,´,´ `´ \
,、_ノヽゝ (`´ヽヽ ..|.. //`´) ノノゝ_,、
〉-===−-ニニヽl | lニニ-−===-〈
/_ヽ_r−-、__--、_,ノl..|..l!.、_,--__,-−、_/_\
__/ /=/ `ー´  ̄ ̄ `ー´ \=!.\__
,-" 〉/= / ヽ=\〈゙-、
`)゙( ( (= i i= ) ))"(
( `Yミ=}_ _{彡Y´ )
<=--ヽ=、`、 ,´ ,=/ --=>
〈彡´ ̄ )) ) ( ((  ̄`ミ〉
//ミ≡/ \≡彡\\
\\\/ ヽ///
(ミ、.Y Y.,彡)
l≡ l l ≡l
l圭ヽ / 圭l
`l圭 ! ! 圭l´
(三=`, 、´=三)
lミミ i_ / _i彡彡l
`lミミ l / .l彡彡l´
lミミ l / / .l彡彡l
(ヽヽ } / / { / / )
/__ノ .ヽ / / / ゝ__ヽ
\三≡、\ / / /,≡三/
 ̄\彡ヽ / /ミ / ̄
\彡ヽ r−-' 二二`-−ヽ /ミ /
ゝ圭⌒ヽヽ ノ...|...ヽ //⌒圭ノ
〈彡´`ヽ_/..|..\_/´`ミ 〉
\三三//l\\三三/
 ̄ ̄ ̄
.
616
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:14:16 ID:ttGVJWA.0
ありとあらゆる装飾で飾り立てられた、古い鏡。
金属で作られた蔦や鳥の姿。
金剛石や紅玉、青玉などの高価な石たち。
湧き出る泉をそのまま形にしたような、透き通る鏡面。
その鏡に映る、俺と俺の姿は――まるっきり同じ真っ白な毛並みをしていた。
本当の俺。
緑色なんかじゃなくて、本物の俺の色。
それは物心ついてからずっと抱えていた違和感を打ち消す、魔法の鏡だった。
――まだガキだった俺が、その鏡に夢中になるのにさほど時間はかからなかった。
(´<_` )「なあ、おれ。おれはどうなんだ?」
( ´_ゝ`)「……そうだな、おれ。おれもそうだ」
探検という名目で俺は兄者を連れ出し、暇さえあればその鏡を見に行った。
.
617
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:16:12 ID:ttGVJWA.0
――馬鹿だったのだ。
俺は屋敷の中に、危ないことがあるなんて思っていなかった。
怪しいものに近づくとどうなるのか、わかっていなかったのだ。
だから、罰を受けたのだ。
.
618
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:18:36 ID:ttGVJWA.0
それはいつもと同じ、何でもない一日だった。
あの日も、俺たちは部屋に忍び込んで、鏡を見ていた。
( ´_ゝ`)「なあ、おれ。誰かに、呼ばれてないか」
(´<_` )「……?」
そして、兄者は『何か』の声を聞いたのだ。
兄者に聞こえる声は、他の奴らには聞こえなくても、俺にだけは聞こえる。
――でも、あの日のあの時だけは違っていた。
(´<_` )「……聞こえない。聞こえないぞ、おれ」
( ´_ゝ`)「じゃあ、気のせいか……」
そう言って、兄者が何気なく触れた鏡の表面が、水面のように揺れた。
水に触れたように、その手が鏡に溶けていた。
不思議に思ったのは、ほんの一瞬。
(;゚_ゝ゚)「逃げろ、おれ」
次の瞬間には、俺は兄者のもう片方の手によって突き飛ばされていた。
何が何だかわからないまま兄者へ視線を向けると、そこには――真っ黒な腕がいた。
.
619
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:20:47 ID:ttGVJWA.0
そう、腕だ。
鏡の中、水の様に揺れる鏡面から、黒い腕が伸びている。
鋭くとがった爪。
それはまだ子供だった俺たちの胴をあっさりと捕まえられるくらいに大きかった。
(´<_`;)::「……何?」
肌がざわざわと粟立っている。
魔力を感じた時と同じ感じ、それなのに「これは嫌だ」という言葉が頭を駆け巡る。
とても寒かった。
あの黒い腕以外、部屋の中は何も変わらないはずなのに体が震えて止まらない。
赤や青の光がぐるぐると回り、視界を邪魔する。
(♯ _ゝ )「いいから早く、逃げろ!」
――なんなのだ。なんなのだこれは。
もう一人の俺はそう呼びかけるだけで、自分は逃げようとはしない。
(´<_`;)「おれ! おれもいっしょに」
.
620
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:23:00 ID:ttGVJWA.0
そして、俺はようやく気づく。
兄者の手は鏡の水面に飲み込まれたままだ。
その鏡面は水のように揺れているのに、兄者がどれだけもがいても腕を引きぬくことが出来ない。
連れ戻さなければと思った瞬間には、俺の体はさらに遠くに突き飛ばされていた。
他ならない、兄者自身の手によって。
俺は、俺から拒絶された。
(;<_; )「おれ!」
(*´_ゝ`)「おれはほんとに、泣き虫だよな。
男だし直さなきゃはずかしいよなぁ、やっぱり」
俺は、こんな状況だというのに笑っていた。
俺がこんなにも泣いているというのに、笑っていたのだ。
わけがわからなくて。
それでも、俺はもう一人を連れだそうとして立ちあがった。
――今でも、その瞬間を覚えている。
.
621
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:24:10 ID:ttGVJWA.0
( ´_ゝ`) 《止まれ》
俺の口がはっきりとそう動き、言葉じゃない言葉がその音を響かせた。
魔法。
先生に教わったわけじゃないのに、もう一人のおれは魔法がとても巧かった。
(;<_; )「――っ」
動かそうとした足が、その動きを止める。
抵抗しようとする動きは全て、魔法によって抑えられてしまう。
止まれ
短くて強い、制止の魔法。
その短い言葉が、魔力がどうしても振り払えない。
黒い腕が、動けない兄者の体をがっちりと掴む。
もう一人の俺はどうにかして腕を外そうと、体を動かしていた。
だけど、鏡面と黒い腕の力はそれよりもずっと強かった。
(;´_ゝ`) 《 》
そして、最後の抵抗にとおれが放った魔法は――黒い腕には届かず、
.
622
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:26:28 ID:ttGVJWA.0
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!.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;-.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;__ _.;.;<
八.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;/  ̄  ̄
ヽ_.;.;.;.;_.;.;.;_.;.;.;.;/
.
623
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:28:13 ID:ttGVJWA.0
オ レ
兄者は、俺の目の前で――鏡の中から出た手に引きずられて
鏡の
なかへ
落ち――
……ぽちゃん
.
624
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:30:06 ID:ttGVJWA.0
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625
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:32:42 ID:ttGVJWA.0
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「弟者っ、どうしたんだい弟者っ!!」
( <_ )「――おれがいない!」
@@@
@# 、_@
( ノ ) 「しっかりしなっ、弟者っ!! ちゃんとそこにいるだろう!!」
( <_ )「ちがう、おれがいない!
おれはここにいるのに、おれがいないんだ!!!」
(;<_; )「おれはいるのに、どこにもいない
おれ……返事をしてくれ、おれ!」
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ああ、しっかりしろ弟者。兄者はお前じゃない。
兄者のことはちゃんと父さんたちが探すから、弟者はしっかりと気を持ちなさい」
∬´_ゝ`)「……馬鹿みたい」
彡⌒ミ
(#´_ゝ`)「姉者っ!」
(;<_; )「おれ……おれはどこ?
おれがいなきゃ、おれはここにはいないのに……」
.
626
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:34:32 ID:ttGVJWA.0
……そこからのことは、思い出したくもない。
誰も信じてくれなかった。
兄者は、鏡の中に落ちたのだと。あの黒い手に引きずり込まれたのだと。
どれだけ言葉を尽くして訴えても、無視された。
誰も、鏡のことなんて調べようとはしなかった。
ξ゚ -゚)ξ「元気出して」
(´<_` )「……」
ξ゚ -゚)ξ「いっしょにさがそ、兄者」
俺の言葉は、誰にも届かない。
母者の周りのヤツラの言葉を借りれば、俺はおかしくなってしまったのだそうだ。
なんでも一緒にしたがるくらい懐いていた兄が失踪し、正気を失ってしまったかわいそうな弟。
――どうでもよかった。
俺にとって大切なのは、どうやったら俺が見つかるのかというその一点だけ。
だけど、俺は見つからなかった。
誰もが見当違いの場所を探した。俺を探して出て行ったヤツラは、誰も俺を見つけられなかった。
(´<_` )「……おれが探さないと」
.
627
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:37:58 ID:ttGVJWA.0
兄者は死んだのだというヤツもいた。
――そんなはずがない。
兄者が死ぬときは、俺が死ぬ時だ。
そのくらい俺と、俺の半分はつながっている。
二人のなりそこない。できそこないの一人。
人間として不完全な俺は、片割れなしでは自分の肉体どころか精神さえも保つことさえできない。
(´<_` )「おれが、おれを見つけないと」
ξ;゚ -゚)ξ「どこ行くの、弟者!?」
誰もわかっていない。
わかっているのは、俺と俺だけだ。
( ´ー`)「どうしたかな、坊ちゃん?」
(´<_` )「おれが、おれを探さないと。おれじゃないと、おれを探せない」
俺だけが、俺が生きていることを知っている。
俺だけが、俺のいる先を知っている。だから――、
(´<_`#)「おれに、魔法を教えてください!」
.
628
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:38:54 ID:ttGVJWA.0
俺が頼ったのは母者と長い付き合いのある魔法使いだった。
大導師とも呼ばれていた彼――先生は、戸惑いながらも魔法を教えてくれた。
今にして思えば、ツンと先生だけは俺の話を聞いてくれたように思う。
しかし、その時の俺は、俺のことだけで頭がいっぱいだった。
( ; ー )「……魔神に呼ばれたか。これは厄介ダーヨ」
( <_ )「魔神」
――そして、俺は。
俺から俺を奪い取ったのが、人ではないと知った。
魔神
――魔力を振るい好き放題をする、神に等しい存在。
そんなものの気まぐれで、俺は俺を失ったのだ。
( ´―`)「……これは、生半可なことではいかないダーヨ」
(´<_`#)「それでもいい! おれは、おれがもどるなら何でもする」
.
629
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:40:40 ID:ttGVJWA.0
それから、二年の月日が過ぎた。
その間に俺の身長は伸び、体重も増えた。
先生について簡単な魔法なら扱えるようになったし、力だってつけたはずだ。
しかし、そんな俺をあざ笑うように、鏡は何を試しても俺を返すどころか何の反応も示さなかった。
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「いいから、呪術師でもなんでも連れてきな!!」
.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「すいませんが、協力をお願いします」
母者や父者も何をしなかったわけではなかった。
その頃になると、ようやく俺の言葉を信じ始めた母者たちは試せる手段はなんでも取るようになった。
旅回りの魔術師や、魔道具を使いなんとか俺を取り戻そうと手を打った。
しかし、その甲斐なく日々は過ぎ――その日。
(´<_` )「……ぁ」
何がきっかけだったのかはわからない。
それこそ、単なる魔神の気まぐれだったのかもしれない。
ただひとつ確かなことはその日、鏡と外との間に道が出来たということだ。
.
630
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:43:18 ID:ttGVJWA.0
ほとんど使われない、ガラクタだらけの部屋。
微動だにしなかった鏡面が揺らいだ。
銀色に波打つ水面が、かすかに光を放つ。
そう思った瞬間、鏡の中からあの青や赤に光るとても嫌な魔力がして。
そして、
目が開けられなくなって、
( ´_ゝ`)
土埃が舞うその部屋。
そっと目を見開いた先に、二年前と同じ姿の俺が立っていた。
あの日からまったく成長しない姿で、俺の顔を見上げた俺はぽつりと呟いた。
・ ・
――おれじゃなくて、弟者と。
( ´_ゝ`)「お……弟者、なのか?」
( <_ )「……おれ」
あの時のままの俺と、成長した俺。
――俺と兄者の間では、今でも二年の時がずれたままだ。
.
631
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:44:45 ID:ttGVJWA.0
(;´_ゝ`)「ああ、泣くなってば弟者。
ほれ、俺はここにいる。そんな顔するなってば、おい」
( <_ )「……」
俺は――、いや兄者は少しだけ、困った顔をした。
返事ができないでいる俺の顔を見て、少しの間黙りこみ。
そして、あの馬鹿は言ったのだ。
(*´_ゝ`)「……鏡の中ってさ、すっげぇ楽しかったよ」
こっちは泣きそうだったのに。……いや、泣いていたのかもしれない。
それなのに、兄者はへらりと楽しそうに笑って、言ったのだ。
(<_`#)「……」
(;´_ゝ`)>⊂(<_`#)
( ;゚_ゝ゚)「いだいいだいぃぃ!!!! 耳! 耳引っ張るのやめてぇぇぇ!!!」
.
632
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:46:53 ID:ttGVJWA.0
なんてことはない。
頭がおかしくなりそうな二年間を過ごした俺とは違い、兄者はどこまでも気楽だった。
そうでなければ、こんなにも陽気に笑えるはずがない。
・ ・
( <_ )「……兄者」
だから、俺は決めた。
(´<_` )「俺が、弟者というなら。俺は、弟者でいい。
だけど、……もう二度と魔法とか、変なものに近づくな」
( ´_ゝ`)「……」
( <_ )「頼む……兄者」
こんな鏡は、いらない。
人ではない生き物はみんな、敵だ。
――魔法だっていらない。使わせたりだって、しない。
嫌いだ。死んでしまえばいい。壊れてしまえばいい。消えてしまえばいい。
俺を、俺から引き離そうとするものは全部全部なくなればいい。
そうすれば、俺は俺でいられる。
できそこないの一人ではなくて、普通の一人のようにしていられる。
.
633
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:48:45 ID:ttGVJWA.0
そう。
あの日から俺は――もう二度と”そちら側”に兄者を近づけないと決めたのだ。
.
634
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:49:26 ID:ttGVJWA.0
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
.
635
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:50:07 ID:ttGVJWA.0
そのはち。 できそこないの一人
.
636
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:53:15 ID:ttGVJWA.0
(゚A゚)「兄者、どうした?!
やっぱさっきので、無理がっ!!!」
(; _ゝ )「……」
糸が切れた人形のように、兄者は動かなくなった。
何の前振りもなく崩れ落ちたきり、兄者の体は決して動こうとはしない。
いや、動かそうとはしているのだろう。
兄者は地面に倒れ伏しそうになる体をかろうじて支えながら、かなりの時間をかけて顔だけをかすかに上げた。
(´<_` )
表情を歪めた兄者が睨みつける先は、弟者。
弟者は動かなくなった兄の姿に、少しも表情を変えようとはしない。
まるで、そうなるとわかっていた様だった。
(#´_ゝ`)「弟者ぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
兄者が、吼える。
637
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:54:11 ID:ttGVJWA.0
直接、危害を与えられたわけではない。
魔法が発動したような形跡もなかった。
(#´_ゝ`)「やめろ、いいから今すぐに返せ!!」
(´<_` )「――俺が、それを許すとでも?」
しかし、兄者ははっきりとした確信を持って弟者を睨みつけている。
怒りと焦りを隠そうとしない瞳。
それに答える弟者の言葉も、自らが元凶であると認めているかのようだった。
(#´_ゝ)「馬鹿野郎。死ぬつもりかっ!!」
(´<_` )「……死ぬ気はない。俺が死んだら意味が無いからな」
弟者の視線が兄者から外れる。
その瞳が向くのは、岩で作られた人と荷馬車の中間のようなイキモノ。
ゴーレム。魂を持たない、機械のようなまがいものの生命。
(<_` )「……」
弟者が背を向ける。
兄者は弟を止めようと手を伸ばし――その手が動かないことに舌打ちをする。
.
638
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:56:18 ID:ttGVJWA.0
(#´_ゝ`)「ドクオ、弟者を止めろっ」
( )「その時は、ドクオを殺す」
(;'A`)「……」
弟者の低い声に、伸ばしかけたドクオの手が止まる。
弟者の表情は見えない。しかし、その声にはっきりとした殺意を感じてドクオはたじろぐ。
(#´_ゝ`)「どうしても行くっていうなら、力づくで止める」
(<_` )「兄者はおとなしく、ここで寝ていろ」
(; _ゝ )「――っ」
その言葉と同時に、兄者の頭がガクリと落ちた。
その表情が苦しげに歪み、荒げられた言葉は途中で止まる。
(; _ゝ )「――ばかやろう」
それでも兄者が辛うじて上げた声は、とても小さかった。
,
639
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 20:58:04 ID:ttGVJWA.0
弟者は兄者の姿を見ようとはしない。
その視線が向かう先は、相も変わらず岩の巨人の姿だ。
( )「知ってる」
自分に言い聞かせるように呟くと――、弟者の足は地を蹴った。
弟者が向かうのは、ゴーレムのいる先。
そこではブーンが魔法を放ち、奮闘を続けている。
(;'A`)「弟者っ!」
今度こそ弟者を制止しようとドクオが動く――が、その手は宙を切った。
弟者の姿はドクオが予想したよりも、はるかに先にある。
弟者の足は早い。ドクオもそれを知っていて、羽を動かし手を伸ばした。
間に合った、と思った。
それなのに――間に合わなかった。
('A`)「……あいつ、あんなに足速かったか?」
伸ばした手を引っ込め。ドクオはごくりと息を呑む。
弟者の動きは――、ドクオが今日一日で見た中で群を抜いて速かった。
.
640
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:00:59 ID:ttGVJWA.0
弟者はゴーレムを相手にしてから、ここまで疾走した。
それからろくに休んでいないのに、あの速さ。弟者の動きは落ちるどころかむしろ明らかに上がっている。
――兄者が動けなくなったのとは、ちょうど逆だ。
(-A-)「……」
ドクオは瞳を閉じて考える。
同じような光景を見たことがある、……ような気がする。
……たしか昼、二人組の盗賊に襲われた時だ。
盗賊の男を縛り付け、兄者を人質にした少女を拘束した弟者。
魔法使いである彼女を弟者は殺そうとして――、
ありえないほどに、弟者の動きが鈍った瞬間があった。
(´<_`; )「――な、」
弟者は信じられないという顔をしていた。
弟者の顔に張り付いて妨害していたドクオは、その姿をはっきりと見ている。
(*´_ゝ`)b「ちょっと、持って行かせてもらった」
動きの落ちた弟者。それとは対照的に、魔力封じを持った兄者の動きは別人のように速かった。
まるで、弟者のように。兄者と弟者が、そっくり入れ替わったように。
それこそあの時の動きは、――弟者の素早さが兄者へと『持って行かれた』ようだった。
.
641
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:04:10 ID:ttGVJWA.0
思えば、ずっと前から妙だなと感じることはあったのだ。
ニンゲンにしては恐ろしく素早い弟者と、並以下の兄者。
軽々と曲刀を振り回す弟と、弱い兄。
魔力に反応する罠の中で平然としていた弟と、意識を失い操られた兄。
単なる資質や鍛錬による成果だと思っていたそれらの違いが、違うことに起因しているのだとすれば。
弟者の速さや、並外れ体力は――何の上に成り立っていたのか。
「……仕方ないだろう。運動と名のつく能力の大半は弟者が持ってるんだから」
「ちょっと、持って行かせてもらった」
「根性を見せろって言われてもな……お前さんが加減さえしてくれれば、俺ももうちょっと」
「俺の体力が残念なのは、俺のせいじゃないやい! 弟者が悪いんだもん!」
「お前が強いのは知ってる。なにせ二人ぶんだからな。
だけど、それだけでどうにかなる相手じゃないだろうが!」
その答えを、ドクオはとうに知っていたのかもしれない。
兄者はずっと言っていた。それでも、ドクオはありえないのだと、その可能性をずっと却下してきた。
.
642
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:04:54 ID:ttGVJWA.0
――二人は同じだと、ブーンは言った。
人を構成する上で最も重要な要素。決して同じであるはずのない魂が、同じなのだと。
「同じだよ。弟者にとっては、な」
「――そうだろう、俺?」
双子。
人のできそこない。
二つの肉体がありながらも、魂を同じくするこの兄弟は――、その腕力を、脚力を、体力を、魔力を、
('A`)「――共有、しているのか」
(; _ゝ )「……そんなに、御大層なものじゃない」
('A`;)「兄者!?」
兄者は俯いたまま、苦しそうに声を上げる。
そこにいつも浮かべている陽気な笑顔の、面影はない。
(; _ゝ )「……考えてることがはっきりわかるわけでもない……性格だって全然違う……」
それでも、歯を食いしばるようにして兄者は声を上げた。
.
643
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:06:29 ID:ttGVJWA.0
( ´_ゝ`)「……俺と弟者は、別人だ」
動かない体を抱えて、それでもきっぱりと。
自分と弟者は違う生き物なのだと、兄者は告げた。
まるでそれだけは譲れないと言うように、兄者の言葉は強かった。
(#´_ゝ`)「そもそも……あの馬鹿、自分が死にかねんってわかってない!」
(;'A`)「おい、兄者。大丈夫なのか」
( ´_ゝ`)「もうだいじょ――っ、ぅ」
兄者の声の一旦明るくなるが――すぐに、うめき声に変わる。
ドクオは慌てて兄者の傍らに舞い戻り、「無茶するからだ」と、その肩を叩く。
(; _ゝ )「……あんにゃろ、容赦なく持ってきやがって」
(;'A`)「持って行って――って、やっぱりお前」
額から流れる冷や汗を、兄者は拭う様子すら見せない。
兄者は俯いたまま、苦しそうに顔を歪めて言う。
.
644
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:08:23 ID:ttGVJWA.0
(; _ゝ )「……問題ない。認めたくはないが、……概ねドクオの考えている通りだ」
兄者は笑い声を上げるが、それもどこか空々しかった。
体は動かさないまま、瞳を閉じ。兄者は、ぽつりぽつりと語っていく。
(; -_ゝ-)「俺とあいつは、双子だからな。……悔しいけど、こういうのだけは融通が利くんだよ」
('A`)「それじゃあ、」
(;´_ゝ`)「……弟者が言っていただろう、人間のできそこない。
イレモノは二つあるのに、魂は一つ。そのイレモノだって完全に別れているとは言えない欠陥品」
どうしてなんだろうな――と、兄者は呟いたのかもしれない。
しかし、その声は小さくて、本当に聞こえたのか、それとも気のせいだったのかドクオには判断ができなかった。
ドクオは少し考え込んだ末に今、一番確認したいことを尋ねることにした。
('A`)「単刀直入に聞く。
お前が動けないのは、弟者がお前の力を奪ったからなのか?」
(; ´_ゝ`)「……そう言うと、なんかエグいな。
せめて持って行ってるとか、借りてるとかもっとこうさ……」
兄者が少しずつ力を込めて、なんとか座る体勢まで体を引き起こす。
しかし、それで限界だったのか。兄者の口からは言葉が消え、動きも止まる。
.
645
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:10:22 ID:ttGVJWA.0
かなり長いこと沈黙した末に、兄者はようやく明るい調子の声を上げた。
(;´_ゝ`)「一つの体でふたりぶん動けるからな。使いようによっては便利なんだー。
できそこない様々。大いに万歳、だ」
(#'A`)「それで片方動けなくなってたら、ざまあねえだろ!」
(; _ゝ )「……まあな」
兄者は、ため息をつく。
反論の言葉が少ないのは、辛いからなのだろう。
どうしてそんな状態で、ペラペラしゃべろうとするかね。と、ドクオは怒りを通り越してもはや呆れにも似た気分になる。
兄者の言葉は、これまでの意見とぜんぜん違う。軽口を叩こうとするなら、せめて意見くらい統一しやがれというのに。
('A`)「さっきの、できそこない万歳っての。本気じゃないだろ」
( ´_ゝ`)「……おまえさんは、人の嫌がってるとこばかりに食いつくな」
('A`;)「うるせー」
兄者は、弟者の走り去った方向と視線を向ける。
弟者は既にゴーレムへと接触し、手にした武器を振るっている。
火花が上がり、風と魔力が渦巻く感覚が部屋には満ちている。
.
646
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:12:42 ID:ttGVJWA.0
( ´_ゝ`)「……弟者を頼む」
岩と床が起こす鈍い音。剣戟、魔法、草、風――あらゆる音が部屋中に響く。
その中で、兄者の小さな声はドクオにはっきりと届いた。
( ´_ゝ`)「虫のいい頼みだとはわかっている。
それでもあいつは、――俺にとっては弟なんだ」
('A`)「オレはブーンと違って、戦う力なんてないぞ」
ゴーレムが引き起こしたのか、床が震動する。弟者たちと岩の巨人の戦闘の影響はここまできている。
それでも兄者の表情だけは、とても静かだった。
( ´_ゝ`)「何かあったら、大声を上げるだけでいい」
._,
('A`)「それだけなら、」
(; _ゝ )「……少しだけ、休む…そ…間、……任せ……」
そのやりとりで、限界だったのだろう。ドクオの返答に小さく笑みを浮かべると、兄者は瞳を閉じた。
気絶したのか。それとも、眠りに落ちたのか。彼はそれ以上は喋ろうとはしない。
兄者の様子をひとしきり見てから、ドクオは顔をあげる。
視線を向けるその先は――、空気を噴き上げるゴーレムと弟者。そして、ブーンの姿だ。
.
647
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:14:15 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
耳元で風が鳴る。
駆ける足は軽く、体から重さというものが消失したようだった。
軽すぎてかえってふわつく体を、腹に力をいれて支えながら、弟者はまっすぐ前を目指した。
一歩、もう一歩と走りながら、腰からシャムシールを引き抜く。
いつもならばずしりと手にかかる重みも、今の自分にとっては鳥の羽のようだ。
(*^ω^)「――オト、」
d(´<_` )「……」
ブーンの声に、弟者は静かにしろと身振りで告げる。
ゴーレムは背後を向いている。
駆け寄る弟者に気づく気配は、ない。
/◎ ) =| )
見上げるような巨体に向けて、弟者は利き足に力を込めた。
.
648
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:16:36 ID:ttGVJWA.0
弟者の足が、地から離れる。
腕を振り大きく勢いをつけて、ゴーレムの体を支える足――、無限軌道へ。
そして、そこからさらに跳躍し、巨人の細い腕を支える部品の一つへと着地する。
(´<_` )「……」
左手で体を支え肩へとよじ登ると、弟者は頭頂部へと駆け上る。
足に岩の硬い感触が伝わり、視界が一気に開けた。
風が、薄紫のフードを揺らす。
慣れ親しんだ、土埃混じりのぼんやりとした世界ではない。
そよぐ草、穏やかな日差し、空気は透き通り、吸った息に砂の味はない。
――ああ。
弟者は目の前に広がる光景に一瞬、言葉を失った。
白い壁に囲まれた、楽園のような箱庭。
心臓が、ひときわ大きな音を立てて動く。
高みから見下ろす世界は、未知であふれていた。
外にはこんな光景があるのか――。
胸に浮かんだ、動揺は一瞬。
憧憬にも似た思いは、足元から伝わるゴーレムの震動によって打ち切られる。
.
649
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:18:52 ID:ttGVJWA.0
(´<_` )「行けっ!」
弟者の腕がひらめき、シャムシールが巨人の頭へと突き立てられる。
勢いよく振り下ろされた刀は、それでも岩の肌を貫くことはできなかった。
鋭い音とともに、火花が飛び散る。
ただ、それだけ。
/◎ ) =| ) i...i...gi gi
――しかし、ゴーレムは音を上げ、その体を大きく揺らした。
(´<_` )「――きいた!?」
ゴーレムの腕が頭上の弟者を捉えようと、激しく動き始める。
しかし、弟者がどこにいるのかはっきりとわからないのか、伸びた腕が弟者に届くことはなかった。
一度、二度と、腕は執拗に振るわれる。
効いている。
そう、弟者は確信した。
兄者の言うとおり、頭部が弱点なのだ。
はっきりとした手応えこそ感じられなかったが、確かにゴーレムは頭への攻撃を嫌がっている。
.
650
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:20:41 ID:ttGVJWA.0
(´<_`#)「存分に、喰らえ!」
弟者は腰に下げたもう一振りの刀を抜き、その頭へと叩きつけた。
大きな衝撃と共に、弟者の腕を攻撃の反動が駆け上る。
まるで自身が攻撃を受けたかのような痛み。しかし、弟者はそれでも手にした刀に力を込め続けた。
刀はやはり、岩の表面に傷をつけることすらかなわない。
それでもゴーレムは体を震わせると、弟者を追い立てるようにその体を右へ左へと大きく傾けた。
/◎ ) =| )
――ぎちり、ぎちりという音とともに、ゴーレムの上半身が回りはじめる。
次第に速度を増し始めた動きに、弟者は膝をつき足に力を込める。
(´<_` ;)「くそっ」
宙へと弾き飛ばされそうになる体を、弟者はかろうじて支える。
しかし、その背後から音を上げて巨人の腕が迫り来る。
弟者は立ち上がり退避をはじめようとするが、その動きは一歩遅かった。
ゴーレムの体の動きと震動に、弟者の体が大きく傾ぐ。
体勢をなんとか整えようと踏み出した足は、何もない宙を踏む。
.
651
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:23:09 ID:ttGVJWA.0
( <_ ;)「――あ、」
そのまま、弟者の体は落下をはじめる。
体勢を整えることも出来ない。
胃がせり上がるような不快感と、全身の毛が逆立つ感触。
落ちる。
それでも、弟者は目をしっかりと見開き――、
/◎ ) =| )
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
視線が交差する。
その瞬間、弟者の左手が動いた。
無骨な刀が驚くほど正確な動きで、ゴーレムの顔面を捉える。
/◎ ) =| ) ――a a a A a AAAA ! ! !
橙の光をあげ、火花が散る。
背を下にした、不恰好な姿勢で振るわれた刀。
力なんてろくにこもってないはずの一撃は、岩の巨人にこれまでとは比べ物にならないほどの衝撃を与えた。
.
652
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:24:56 ID:ttGVJWA.0
攻撃の勢いを利用して、弟者は上半身を、そして下半身をひねる。
そして、どうにか体勢を整えると、獣のように地に着地した。
ざっと地を踏む音とともに弟者の両足が、そして刀を握ったままの両手が地につく。
それと同時に風が止む。
その時、弟者ははじめてブーンが力を貸してくれていたのだと気づく。
(#^ω^)「――オトジャ、いくらなんでもムチャだお!」
(´<_` )「すまん」
必死過ぎてわからなかったが、あの無謀な着地が成功したのもブーンのおかげか。
弟者は心のなかで、感謝を告げる。
(´<_` )「行くぞ」
立ち上がり、動きに支障がないのを確認すると、弟者は再び地を蹴る。
それと同時に、振り下ろされたゴーレムの腕が弟者のいた場所へとめり込む。
(;^ω^)「おおおお、おうだお!」
ゴーレムの目――頭部の装甲に穿たれた溝がじっと弟者の姿を追いかける。
それを見やり、弟者は小さく笑みを浮かべた。
.
653
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:26:29 ID:ttGVJWA.0
/◎ ) =| ) i i a A
弟者が、再びゴーレムへと接近する。
右手がひるがえり、次いで左手に持った青竜刀が唸りをあげる。
シャムシールも青竜刀も本来、片手で振るうための武器だ。
しかし、それを一本ずつ両手に持つとなると話は別だ。
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
重みのある刀身を力で強引に振るいながら、弟者はゴーレムを睨みつける。
ギチリと音を立てる無限軌道に、二度シャムシールで刺突を繰り出す。
間髪入れずに、青龍刀の横薙ぎ。
ゴーレムの腕を三歩下がり回避すると同時に、軸足をめいっぱい踏み込み跳躍する。
(´<_` )「……」
高く飛び上がった体は、巨体の腕へと落下する。
着地もそこそこに、弟者はゴーレムの岩の腕を駆け上がると、再度踏み切り二度目の跳躍を遂げる。
勢いを上げて吹く風が、弟者の耳元でうなりをあげる。
しかし、恐れることはない。
今の弟者にとって、風は弟者を守る盾であり、武器だ。
.
654
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:28:47 ID:ttGVJWA.0
そして、二度の跳躍をはたした弟者の眼前にゴーレムの“顔”が迫る。
先ほどの攻撃で一番効果があった、顔の装甲。
後ろに流された弟者の右手が流れるように弧を描いて、シャムシールの刀身をゴーレムへと叩きつける。
一際上がる、大きな火花。
焦げ臭い匂いが鼻をつくと同時に、体勢が崩れ弟者の体は落下を――
(#^ω^)《足場になるお!》
風が、弟者の背と足元を抱きとめるように渦巻く。
柔らかい寝台を踏むかのようなおぼつかない感覚。しかし、体を支えるにはそれで充分だった。
(´<_`#)「いけぇっ!!!」
足を踏み出す。
目に見えない風の足場に、弟者がためらうことはなかった。
左手に携えた青竜刀を、顔面へと突き出す。
銀の刀身は光をあげ、顔にあけられた溝へと吸い込まれていく。
.
655
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:31:03 ID:ttGVJWA.0
手にかかる鈍い衝撃と、刀身が何かを傷つけた感触。
その瞬間、確かに手応えがあった。
弟者は手にした刀を更に深く、押し込んでいく。
/◎ ) =| ) Ga gi ga GA
ゴーレムが、悲鳴じみた音――声を、上げる。
一際、大きなその声とともに、巨人は体を捻るように動きはじめた。
弟者は右手のシャムシールによる突きを繰り出そうとして、ゴーレムの二本の腕が臨戦態勢となっていることに気づいた。
(´<_`#)「ちっ」
舌打ちとともに、背後へと跳躍する。
ブーンが上手く支えているのか妙な具合に足元が揺れるが、弟者の体が落下することはない。
宙へと逃げた弟者の体をかすめるようにして、岩の腕が振り回される。
そして、巨人の二本の腕はそのまま顔をかばうように、構えられた。
(; ^ω^)「ずるいお! あいつ弱点をかくす気だお!!」
(´<_` ).。oO(……どうする?)
.
656
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:32:20 ID:ttGVJWA.0
あの岩の体で守りの体勢に入られてしまえば、弟者が取れる攻撃手段が無くなる。
頭部の装甲以外の攻撃は、ほとんど効果がない。
それに対してゴーレムは、人間など容易に轢き殺せる足――無限軌道がある。
このままでは、圧倒的に不利だ。
(´<_` ;).。oO(どうすれば……)
(#^ω^)「オトジャ、横っ!」
思い悩む弟者に、ブーンから警告がとぶ。
弟者がはっと顔をあげると、その横を黒い何かが通りすぎて行くところだった。
( _ :::)
弟者は慌てて、通り過ぎたそれを視線で追いかける。
同じくらいの背丈の、男。
――宙を飛ぶ弟者とすれ違った、何かはそう見えた。
しかし、それはおかしい。
人間はそもそも空を飛ばない。
魔法や道具、ブーンたち精霊や竜などといった存在の手助けなしでは不可能だ。
弟者だってブーンの魔法によって、宙に踏みとどまっている。
それにこの最奥の間の唯一の出入り口は封鎖され、誰かが出入りできる状況ではないはずだ。
.
657
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:34:21 ID:ttGVJWA.0
(´<_` ;)「……」
弟者は目をこらすが、その男の顔や服装は判然としない。
猫のようにぴんと立った耳。そして、武器とマントらしきもの――かろうじて、それだけが弟者の目に留まる。
/◎ ) =| )
男らしき姿は、一直線に宙を飛ぶとゴーレムと対峙する。
敵……というわけではない、らしい。
ゴーレムに立ちふさがる男の姿は、ギコではない。しかし、それでも誰かに似ているような気がする。
弟者は呆然と視線を漂わせて、
(:::: _ )
新たに現れたのは、その男一人ではないことに気づいた。
猫のような耳を持った男の姿。その顔はやはり、暗く陰りよく見えない。
そんな男の姿が一人、二人……。
(; ゚ω゚)「人がこっちにもいるお……」
(´<_` ;)「これは……一体、」
.
658
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:36:22 ID:ttGVJWA.0
突如現れた人の姿は、五人。
その誰もが、確かにそこにいるはずなのにはっきりとは見えない。
――人なのか、もっと別の何かなのか。
弟者の額から、汗がつと落ちる。
( _ :::)つ==|ニニニ二フ
五人の男が一斉にゴーレムへと向かう。
音をたてない滑るような動きは、やはり人にできるものではなかった。
(#'A`)「弟者ぁぁぁぁっ、つっこめ攻撃しろぉぉぉっ!!!」
(´<_` )「……ドクオ?」
弟者やブーンの戸惑いを切り裂くように、上がったのはドクオの声だった。
いつの間にか、弟者の間近にあらわれていたドクオは凄まじい勢いで怒鳴りつける。
(#゚A゚)「いいから早くっ!! そのデカブツをぶっ飛ばせ!!」
その声の剣幕に押されて、弟者は駆け出す。
右手にはシャムシール、左手には青龍刀。
二振りの刀を構えた弟者が向かう先は、ゴーレムの顔面。
二本の岩の腕で守られた、巨人の唯一の弱点。
.
659
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:38:11 ID:ttGVJWA.0
/◎ ) =| )// g
(:::: _ )
突如現れた五人の男の姿に、ゴーレムが弾かれたように腕を振り回し始める。
――そして、その瞬間。弱点である顔面が、はっきりと晒される。
(´<_`#)「くらえっっ!!!」
弟者が繰り出したシャムシールは、巨人の腕をかいくぐり、その顔面を鮮やかに貫いていた。
力を込めその刀身を深く押し込むと、弟者は左手に力を込める。
(´<_` )「もう一撃っ!」
青龍刀が、ゴーレムの“目”を深く突き刺さす。
突き刺さった刀を引き抜き、もう一撃。
弟者の放ったそれは寸分たがわず、同じ場所へと突き刺さった。
/◎ ) =| )// A A AAAA A!!
弟者がゴーレムの顔面を捉えるたび、巨人は声を上げて激しく腕を振るう。
その一振りに、ゴーレムへと向かった黒い男の姿が無残にも千切れ飛ぶ。
.
660
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:40:14 ID:ttGVJWA.0
( _ :::)つ==|ニニニ二フ
しかし、すぐ後ろに現れた別の影が巨人へと向かう。
腕をふるって対抗するゴーレムへ向かって、飛びかかったのは――
(:::: _ )
つい先程、ゴーレムの腕の一振りによってちぎれ飛んだはずの男の姿だった。
男は攻撃を食らったなど嘘のように、再び突撃を始める。
( ^ω^)「……アレは、何なんだお?」
(;'A`)「オレの作った“影”だ」
_,
( ^ω^)「カゲ?」
.
661
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:42:32 ID:ttGVJWA.0
五人の男たちはどれも似たり寄ったりの体つきをしている。
よく見ればそれは、――兄者や、弟者そっくりの体つきだ。
はっきりと顔の見えないその姿は薄っぺらで、自由に動き回ること以外は影と言われれば、なるほど納得できる姿だ。
('A`)「オレの力じゃ、目眩まし程度にしかならない。
弟者……がんばってくれよ」
影は手にした武器――青龍刀のような影を振るう。
が、その攻撃はゴーレムに命中した気配はない。
軌道は確かに合っている。避けられた形跡もない。
影の刀は、ゴーレムの体へと影を落とすだけ。
目眩ましという言葉の通り、ドクオの作り出した影たちは攻撃を加えることは出来ないのだろう。
(:::: _ )
五体の影は動き――、あるいは走り、ゴーレムの注意を逸らし続けている。
ゴーレムの腕に霧散し、それでも再び出現する。
影は痛みを感じないような動きで、ひたすら飛び、ゴーレムに接近してまわる。
その間を縫うようにして、弟者の持つ刀の銀の閃きが巨人の顔へと振るわれる。
.
662
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:44:25 ID:ttGVJWA.0
(´<_` )「行ける」
弟者は刀を振るい続けながらも、手応えを感じていた。
弟者の振るう刀は、大きな打撃を加える事はできない。
しかし、それでも今の弟者はゴーレムへ着実にダメージを与えていた。
巨人の顔面。この部分の装甲は他よりも柔らかいのだろう。
突き出され、薙ぎ払われる二振りの刀は、巨人の“目”周辺に無数の小さな傷をつけ始めていた。
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
ブーンの巻き起こす魔力の風は、弟者の動きに応じてその方向を自在に変える。
上と言えばその体を上空に持ち上げ、下と言えばその体を下降させることだってできる。
突如として現れた五つの影に気を取られ、動きの鈍くなった巨人の腕を上へ下へとかいくぐりながら、弟者は腕を振るい続けていた。
(´<_`#)「――死ね」
/◎ ) =| )//
弟者と、ゴーレムの視線が交錯する。
両者は、再びにらみ合う。
.
663
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:46:53 ID:ttGVJWA.0
かちりという――、音がなる。
何だ、と弟者が思ったのはほんの一瞬。
(゚<_゚ ; )「!?」
(; ゚ω゚)「オトジャぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
次の瞬間、ゴーレムは体から莫大な量の蒸気を噴き上げた。
とっさに顔はかばったが、熱と一面の白はオトジャから一気に視界を奪い去った。
目を開けるもの苦しい熱、べたりと体にまとわりつくした不快な湿気――。
(´<_` ;)「――ぅ」
(゚A゚)「……影、が」
白い熱をもった霧に阻まれて、ドクオの作り出した影が一つ。また一つと消えていく。
そして、残ったのはゴーレムの眼前。
ブーンの作り出した風によって支えられた、弟者本人の姿。
(゚<_゚ ♯)「――っ!」
迫り来る岩の腕を、弟者は下方に逃れて回避する。
そして、白くけぶる視界の向こうから迫り来るもう一方の腕を回避しようとして、弟者は息を止める。
.
664
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:49:44 ID:ttGVJWA.0
――ゴーレムの腕は、これまで見てきた姿とはまったく違う形をしていた。
腕の先に取り付けられた、岩の塊。
それが蠢き、細長く伸び――幾つもの針がついた拷問器具のような形へと姿を変えていく。
( <_ ;)「――くっ」
弟者は白い霧によって利かない視界と体を襲う熱に息を呑みながらも、致命的な一撃だけは回避した。
でも、それだけだ。
(;'∀`)「よしっ、避けた!」
(; ゚ω゚)「大丈夫かお!!」
ドクオも、ブーンもまだ気づいてはいない。
腕は二本。
視界を隠す灼熱の霧の向こうから、唸りを上げてもう一方の、岩の塊が迫り来る。
/◎ ) =| )
(´<_` ;).。oO(くっ)
.
665
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:50:27 ID:ttGVJWA.0
射程が読めない。
――どう避ければいいか、判断できない。
つ==|ニニニ二フ
とっさに盾にしたシャムシールに、迫り来る巨石がぶつかる。
痛いとか、重いという余計な感覚は浮かばなかった。
火花が上がり、支えようとする腕ごと引きちぎるかの衝撃が弟者の右腕にかかる。
(´<_`;)「――くっ」
(゚A゚)「なっ」
衝撃に抗いきれず、曲刀を握る手が緩む。
それで、最後。
支えを失ったシャムシールが手から離れ――飛んでいく。
行方はわからない。
それでも、このままではいけない、と弟者は左手の青竜刀をとっさに眼前へと差し出した。
.
666
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:52:20 ID:ttGVJWA.0
――後退する、余裕もなかった。
(゚<_゚ ♯)「チッ」
空中という不安定な足場は、いまいち踏ん張りが利かない。
受け流しきれず、刀が鋭い音を上げる。
手の感覚に違和感を覚えたのはほんの数秒。
一瞬、銀の光が落ちるのが見え、手のなかが一気に軽くなる。
( <_ ;)「――っ」
どうやら、青龍刀はダメになってしまったらしい。
曲がったか折れたか、それを確認している余裕は弟者にはない。
退避も出来ない不安定な体勢。頼りの武器も使いものにならず、敵との距離が近すぎる。
(ii ゚ω゚)「 !!!」
全身を覆っていた、風の魔力が止まる。
落下によってなんとか回避させようということなのだろう。だけど、それも遅い。
巨人の腕は、のっぴきならないところまで迫っている。
.
667
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:54:37 ID:ttGVJWA.0
助からない
時間が、いやに長く感じた。
これだけあれば、離脱することだってできるだろうというくらい長い感覚。
しかし、体はピクリとも動かない。
死を待つための、永遠とも思える時間が続き――、
(ii ゚ω゚)「オトジャぁっ!!!」
(#゚A゚)「兄者ぁぁぁぁぁ!!!! 聞けっ!! 起きろぉおおおおおおお!!!」
ブーンとドクオの大声が聞こえる。
だが、その声も遥かに、遠い。
( <_ ;)「 」
くそったれと――叫んだのかもしれない。
何と言ったのか自分でも自覚することのないまま、弟者の意識は
――それっきり、途絶えた。
.
668
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:56:46 ID:ttGVJWA.0
からんと何かが転がる音をしたのは、その直後。
転がったのは無骨な銀の刃。
弟者が手にしていた青龍刀の一部だった。
頑丈だった刀身は今や真っ二つに折れ、武器としてはもう使えない。
(ii ω )「オトジャ」
しかし、そんなものの姿はブーンの目には入らない。
ブーンが凝視する先は、ゴーレムの腕が振るわれた先。
岩の腕は弟者の体をとらえ、そのまま遠くへと吹き飛ばした。
弟者の体はろくな受け身も取れないまま、弾き飛ばされる。
そして、壁へと叩きつけられその動きが止まる。
鈍い嫌な音とともに、はっきりと赤の色が見えた気がして、ブーンはとっさに瞳を閉じた。
( <_ ;)「――ぐ、あ、」
そして、ブーンの耳は小さな声を拾う。
苦痛にまみれたうめき声。
それでも、声が聞こえたということは弟者は生きているということだ。
.
669
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 21:58:42 ID:ttGVJWA.0
シュゥという音は、ゴーレムのものか。
ゴーレムの攻撃を再び食らえば、弟者の微かな声は今度こそ完全に止る。
それはダメだ。
(#゚ω゚)《守るお! 全力で吹くお!!》
ブーンの声とともに魔力が吹き上がる。
弟者の体を守ろうと、風が大きく吹き荒れ……
(#゚A゚)「ブーン!!!!」
/◎ ) =| )
(iii ゚ω゚)「――あ」
弟者に気を取られたブーンの視界に入る、岩の腕。
いつの間にと思うよりも早く、腕の巻き起こす猛烈な勢いの風がブーンの体を叩く。
腕が触れたというのはブーンの錯覚なのか、それとも事実か。
ブーンの体は飛ばされ、地面に叩きつけられた。
弟者の体を守るように、吹く風が止まる。
――そして、ブーンの声は途絶えたまま、ドクオから見えなくなった。
.
670
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:01:16 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
弟者は動かない。
ブーンにいたってはどうなってしまったのか、姿さえも見えない。
(;゚A゚)「おい、弟! しっかりしろ弟!」
気配を消し、ドクオは弟者の元へと駆け寄る。
いつもはふらついてしっかり飛べない羽も、この時ばかりはドクオの思うまましっかりと動いた。
( <_ ;)「――ぐ」
(;'∀`)「よかった、息はある」
弟者の息は、止まってはいなかった。
ドクオは弟者の顔を覗き込みながら、ほっと息を呑む。
予想よりもはるかに軽い怪我だ。これなら、安静にさせておけば、すぐにでも動けるようになりそうだ。
('A`)「……俺の力でできるのは、せいぜい目眩ましだけ。だったら、……」
.
671
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:03:40 ID:ttGVJWA.0
ドクオは、魔力を込めて言葉を放つ。
ゴーレムの目をそらす。それだけの効果しかない、目眩ましの結界。
弟者は激怒するだろうが、死ぬよりはマシだろうとドクオは覚悟を決める。
兄者の言葉じゃないが、羽の一枚の犠牲で、どうにかなるなら万々歳というやつだ。
('A`)「これで……、持ってくれよ……」
弟者から伸びる影に、ドクオは潜り込む。
三三三三三三三ニニ==―:;:;'' .,.,' ,:' :; . :;. , ':;., ';:;.,.:;:;―==ニニ三三三三三三三
三三三三三三ニニ==―:;:;:;:;:;:;:'' ,:;' ,.;: ,: ; ;:;:,. ':;:. :;:;:,., '':;:;―==ニニ三三三三三三三
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三三三三三三ニニ==―'',.,.;:;:'' ;:;:;:;:;:;:;: ;:;: :; ; ;:;:..:;:;:―==ニニ三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三ニニ==―:; ;:.;:;:,.,.;:;::;―==ニニ三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三ニニ====ニニ三三三三三三三三三三三三三三三
('A`)「……ここは静かだな」
影という領域に属するものだけが入り込むことのできる暗い世界に、ドクオは降り立つ。
暗い影の世界は、ドクオの領域であり我が家だ。
その温かい安寧の世界の中で、ドクオは小さく息をつく。
.
672
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:04:21 ID:ttGVJWA.0
――ブーンについていかなければよかった。
盗賊なんて怖いもんは襲ってくるし、挙げ句の果てにはゴーレムなんてデカブツだ。
こんなことなら、いつもみたいにこの暗い影の中でまどろんでいればよかった。
影の中は暗いけれど、静かで――何も起きない。
安心安全安泰な我が家。オレが生まれた源にして、本体。
何もなくたっていいじゃないか。寝ていれば10年や20年なんてすぐに過ぎていく。
なのに。
どうしてオレはこんな事に付き合わされているのだろう。
羽は引きちぎられる。
投げ飛ばされる。
絞め殺されそうになる。
……ほら、ろくなことなんてないじゃないか。
こんなところは嫌だ。
でっかいバケモノと戦うなんてオレには無理だし、消滅したって嫌だ。
立ち向かっていく弟者やブーンの気が知れない。
オレには無理だ。
体が震えるし、痛いのは嫌だ。怖すぎる。
さっきまでのことは忘れて、とっとと寝てしまいたい。
――だけど、
.
673
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:06:32 ID:ttGVJWA.0
(#'A`)「ほっとけるかよ、クソッ。ブーンのせいだぞ!!」
ドクオは影の世界から、兄者の影へと移る。
躊躇うように何度か息を呑んだが、それでもドクオは外の世界へと飛び出していった。
('A`)「――おい、兄者!! 弟者のやつが!!!」
そう言って、ドクオは兄者の肩に手をやる。
寝ている様なら叩き起こそうと、ドクオは兄者の顔を覗き見て、その表情が凍りつく。
わけがわからない。理解できないという動揺に体を震わせながら、ドクオは声を上げる。
(;゚A゚)「……お前」
( _ゝ )「……」
兄者の口から血が一筋、首筋へと伝った。
兄者の薄水色の毛並みは血で赤黒く変色し、今やほとんど動かすことのできない手は、腹を強く押さえている。
(;゚A゚)「ずっとここにいたはずだよな
……弟者の武器だって、こっちには飛んでないはずだ……」
.
674
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:09:04 ID:ttGVJWA.0
兄者は動けなかった。
だから、ゴーレムに接近できたはずもないし、そもそも攻撃を食らう余地なんてなかった。
だけど、現に兄者は今にも死にそうな姿で――。
(;゚A゚)「……どういうことだ?」
( <_ ;)「――ぐ」
呟くドクオの脳裏に、弟者の姿が浮かぶ。
弟者の怪我はゴーレムの攻撃を食らったにしては、軽かった。
いや、軽すぎたのだ。あのバケモノの攻撃を食らって、ただで済むはずがなかったのだ。
(#゚A゚)「まさか、弟者のやつ」
(; _ゝ )「……ちが……う……」
兄者から根こそぎ力を奪ったように、受けたダメージを兄者に押し付けようとしているのか?
そう、口にしようとしたドクオの声を兄者が遮る。
兄者の顔からは血の気が失せ、その息も絶え絶えだ。
兄者が言葉を呟く度に、その口からは血がこぼれ落ちる。
.
675
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:11:50 ID:ttGVJWA.0
(#'A`)「何が違うだ。現にこうして」
( ´_ゝ`)「……弟者に……は……悟らせるな……」
そこから先は言葉にならなかった。
目を閉じ強く呻くと、大きく息を吐いた。
その言葉で、ドクオは理解した。
――さっきの逆だ。こいつは自分の意志で、弟者の受けた負担を肩代わりしている。
(; _ゝ )「俺たちは二人になりそこねた、できそこないの一人だ。
忌々しいことだが、俺がどれだけ否定した所でその事実は変えられない」
これが兄者の本音なのだろう。
兄者の顔は蒼白で、それでも開いた瞳はまっすぐだった。
( ´_ゝ`)「だけど、そんな産まれぞこないだからこそできることがある」
(#'A`)「それで無茶か。倒れたら、お前が死んだら意味ないだろう」
( ´_ゝ`)「……俺は死なないよ。
俺が死んだら、つながってる弟者が危ないからな」
.
676
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:13:18 ID:ttGVJWA.0
そして、兄者はゆっくりと動き始めた。
兄者の腕が時間をかけて、腰へと動く。
そこからさらに時間をかけて取り出されたのは、ナイフだった。
(; _ゝ )「――く」
(;A;)「おい、兄者もうやめろ。これ以上無理をするな」
(;´_ゝ`)「やなこったい」
兄者は手にしたナイフをゆっくりとした動きで振りかぶる。
その拍子に傷口が開いたのか額から血が流れ、顔を濡らしていく。
( ´_ゝ`)「俺は、――お兄ちゃんだからな」
これまでの動きが嘘のように、兄者の腕はなめらかに動いた。
振りかぶられたナイフが、岩の巨人へと向かって放たれる。
その速度は決して早いものではない。しかし、巨人へと向かってまっすぐに飛んでいく。
(;'A`)「お前、今何を……」
ニンゲンのように涙を流していたドクオは、兄者の動きにはっと息を止めた。
兄者は、今何をした? なぜ、身を守る唯一の武器を投げたのだ。
.
677
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:15:31 ID:ttGVJWA.0
(iii´_ゝ`)「……」
(#'A`)「兄者、こたえろ!!!」
兄者の力を振り絞った程度では、ナイフは早く飛ばない。
それどころか、それほど飛ばないうちに落下して地面に落ちる。
カランと高い音が響き、地に落ちる。
ただ、それだけ。
/◎ ) =| ) ……g
しかし、巨人の意識を逸らすにはそれだけで十分だった。
魂を持たない巨人は、武器を投げつけた生き物をはっきり敵として判断する。
ぎちりと無限軌道が動き、その体が兄者に向けて動き始める。
最奥の壁。その近くに座り込んだ標的。
動こうとはしない獲物へと向けて、巨人の体は動き始める。
( _ゝ )「……ドクオ、俺が言ったこと覚えてるか?」
(#'A`)「なんかあったら、大声を出せってやつだろ」
( ´_ゝ`)「……そっちじゃない。もっと前の方だ」
.
678
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:17:51 ID:ttGVJWA.0
いろいろありすぎて、覚えていない。
いや、今はそんなことを言っている場合じゃないだろう――と、ドクオは叫びかける。
そんなドクオの表情から言いたいことを読み取ったのだろう、兄者の口元が小さく緩む。
( ´_ゝ`)「もし何かあったら、俺は無視して祭壇を壊せ……それでどうにかなるはずだ」
(#゚A゚)「大馬鹿野郎!!! お前まさか」
( ´_ゝ`)「大馬鹿野郎か。よく弟者にも言われるな」
兄者の顔に浮かぶのは飄々とした、表情だ。
さっきまでの、真剣な表情は何処にも見られない。
この、嘘吐き野郎。――ドクオは、そう叫ぼうとして、ぎちりという異音を聞いた。
ぎちり
ぎちり、ぎりぎり、ぎちり
耳障りなそれは、この部屋で幾度となく聞いた音だ。
ゴーレム。岩で作られた、魂をもたないバケモノ。
/◎ ) =| )
その顔面に穿たれた溝は、はっきりと兄者の姿を見据えていた――。
.
679
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:20:18 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
( <_ ;)「――ぅ」
体が崩れ落ちる衝撃で、弟者は目を覚ます。
……意識を失っていたらしい。頭がはっきりと働かない。
ゴーレムの気配は間近にはない。しかし、奴がどこにいるのか、ぼんやりと霞む視界ではわからない。
全身が鈍く痛む。頭の中を支配するのは、痛いという言葉だけだ。
( <_ ;)「てき、……は?」
痛みをこらえながら、弟者は目を開く。
霞んではっきりとは見えない視界の中に、ゴーレムの姿は見えない。
助かったと弟者は思い――次の瞬間、頭から血の気が一気に引く。
痛む頭を振り、震える足を無理に支え立ち上がる。
その瞬間、体を覆う魔力が霧散した感触を覚える。
ドクオの結界が消失したためだったが、目覚めたばかりの弟者にはわからなかった。
……ブーンの風だろうか? そう思いながら、弟者は足を踏み出す。
(´<_`; )「……あにじゃ、……ブーン」
.
680
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:21:33 ID:ttGVJWA.0
体の至るところが痛みを訴えてくる。
しかし、動けないかと思った体は――意外なほどに自由に動いた。
歪む視界は何度か瞬きをすれば、ようやくまともに像を結んだ。
( ´_ゝ`) (゚A゚#)
最奥の壁に座り込む兄者とドクオの姿が見える。
そして――、そのすぐそばには、間近に迫った岩の巨人の姿。
/◎ ) =| )
熱をはらんだ空気を排出しながら、巨人の腕が大きく動く。
胴体を中心として、円を描くように振るわれた腕が狙う標的は――、
(;´_ゝ`)「――やっぱ、来るか」
兄者。
身体能力の大半を持っていかれた今の兄者は、満足に動くことも出来ないはずだ。
弟者の顔から血の気が引く。しかし、ゴーレムの動きは止まらない。
ぶしゅぅと間の抜けた空気の音が響くと、巨人の腕が縦に向かって振り下ろす動きへ切り替わる。
.
681
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:28:44 ID:ttGVJWA.0
兄者は動けない。
そして、弟者も体勢をたてなおすだけで精一杯。
オ レ
( <_ )「――――兄者っ!!!」
巨人は岩と砂でつくられた巨体を震わせて、その腕を兄者に向けて振り下ろし、
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:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:29:31 ID:ttGVJWA.0
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683
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:31:24 ID:ttGVJWA.0
瞬間。
床から黒い何かがゆらりと立ちあがった
黒いうすっぺらな、水のようなそれは、動けない兄者を飲み込みながら天井に向かって伸びる。
(゚<_゚ )「――――兄者っ、兄者兄者ぁっ!!!」
身を裂かんばかりの声を上げ、弟者は黒いそれにむけて突進する。
しかし、遅い。
弟者の動きでは、黒い影にも、巨人の腕にも間に合わない。
そして、弟者の向かうその先。
黒い何かに飲み込まれた兄者の頭上――下に向けて振り下ろされようとしていた巨人の腕が
ぴたりと
止まった。
( A ;)「――どうにか間に合った」
(; _ゝ )「弟者っ、ブーン! 俺は無事だっ!」
黒い影の向こうから声が上がるのを、弟者は聞いた。
その声は反響し、どこから聞こえてくるかわからない。
しかし、それは間違いなく兄者とドクオの声だった。
.
684
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:33:34 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
( A )「目眩ましの結界を張った、こっちはこれでしばらく持つ」
(; _ゝ )「ちょっ、これ目眩ましだけなのか」
急に暗くなった空間のなかで、兄者は目を見開いた。
兄者とドクオの体は、先ほどの場所から移動していない。
ただ、その周囲は黒く陰り暗い影に覆われている。
少しだけひやりと涼しいが、それ以外は何も変わったことはない。
息苦しくもないし、空気の肌触りも変わらない――、ただ日差しが遮られて暗いだけ。
この黒い影がドクオの言う“目眩ましの結界”というものだろう。
兄者はふむと小さく息をついた。
兄者の位置からはゴーレムや弟者の姿が先ほどまでと変わらず、はっきりと見える。
しかし、不思議なことに弟者やゴーレムからは、兄者とドクオの姿が見えないらしかった。
('A`)「悪いか。どうせオレ程度じゃこれ一つが限界だよ」
(;´_ゝ`)「いや助かった」
.
685
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:35:06 ID:ttGVJWA.0
首を動かすのも辛いのか、兄者はこの状況だというのに微動だにしなかった。
ただ正面を向いたまま、口と表情だけを微かに動かす。
(#'A`)「そう思っているなら、自分で勝手に納得して先走るのはやめやがれ!
お前がナイフ投げて注意を向けんでも、弟者にはちゃんとこれと同じ結界が張ってあったんだよ!!」
( ; ゚_ゝ゚)「……なんと、な」
ヽ(#'A`)ノ「こっちを守ったせいで、弟者の方の結界はダメになったし、ったく!」
ドクオは声を振り上げながら、ゴーレムの姿を見やる。
巨人は兄者やドクオの姿が見えなくなったことに動揺でもしたのか、上半身を回転させて周囲に目を走らせている。
ゴーレムは目でしか、標的の位置を判断出来ないのだろう。目の前の兄者やドクオに気づく様子はなかった。
('A`)「はぁぁっ、上手くいった。
あとは、ブーンと弟さえどうにかできれば」
( ´_ゝ`)「……」
('A`)「この部屋の結界を解こう。もう、オレたちだけじゃどうにもならん」
この状況を突破するための手段は、もうこれしか残されていない。
兄者だって何かあったら、結界を壊せといったのだ。同じ意見だろう。
ドクオはそう思って、動き出そうとするが――、兄者は首を縦に動かそうとはしなかった。
.
686
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:37:46 ID:ttGVJWA.0
(; _ゝ )「……ドクオ。その前に、一つだけ頼めるか?」
('A`)「なんだ。いまさら、結界は解けないなんてワガママはもう聞かないぞ」
兄者はドクオの声には答えず、視線を横に向けた。
その視線が向かう先は、ゴーレムではなくその向こうの草むら。
( ´_ゝ`)「……アレを取ってきてくれ」
('A`)「あれ?」
踏み荒らされた緑の草の中。そこに、投げ捨てられたものがある。
細かな模様や金具によって装飾が施された、大振りの袋。
見覚えのあるそれは、弟者が出かける時からずっと手にしていた鞄だ。
(;'A`)「何をいきなり」
( ´_ゝ`)「……この状況だからな、出来る限りのことはするべきだと思われ。
説明は後でするから、頼む」
そう言い切った兄者の顔に、諦めの色は見えなかった。
頭から血を流した姿のまま、兄者は口元に笑みを浮かべるとそう言い切った。
.
687
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:40:08 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(´<_`#)「――ぁあああ!!!」
弟者は駆けた。
体の痛みはもはやどうでもいいものへと変わっていた。
それよりも、アイツだ。岩でできたバケモノ、あいつは俺――兄者を殺そうとした。
許せない。
アイツだけは、壊さなければ気がすまない。
――弟者の頭を支配するのは、もはや怒りだけだ。
折れた刀を振り、弟者がゴーレムの足へと迫る。
そのまま一閃。
青龍刀の残された短い刀身部分はそれでも、主の命を果たそうと火花を上げる。
戦略だとか弱点をつこうといった考えは、その動きからは欠片もみられない。
弟者の動きは相手に攻撃を加える。それだけしか考えていない動きだ。
(゚<_゚ ♯)「ぁぁああああああ!!!」
.
688
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:42:12 ID:ttGVJWA.0
弟者の口から上がるのは、獣のような叫びだけ。
壊れた武器をただひたすらゴーレムに振るい続ける。
一撃、二撃。
折れた刀が悲鳴を上げ、わずかに残された刀身が醜く歪む。
しかし、弟者の動きは止まらない。
( <_ ♯)「――っああああああ!!!!」
攻撃を避けざま、突きを放つ。
短くなった青龍刀は、それでもゴーレムへと届いた。
手首を捻り刀の軌道を、切りつける動きへと変える。
右手に走りこみ、位置を変えてもう一撃。
/◎ ) =| )
( <_ ♯)「ちぃっ!」
ブーンの援護はない。
武器も、壊れた異国の刀が一本だけ。
刀を振るう腕は重く、打ち込むたびに硬い岩の衝撃に腕を持って行かれそうになる。
攻撃の効果は見えず、武器を振るえば振るうほど体力が失われていく。
.
689
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:44:23 ID:ttGVJWA.0
――元より、弟者に勝ち目などはない。
それでも戦うのは、完全に意地であった。
弟者は、折れた武器を振るいながら、ゴーレムを睨みつける。
(´<_`#)「俺は――、もう二度と俺を」
失わないと決めたのだ。
そうなるくらいならば、自分が先に死んだほうがマシだ。
それで、結果。兄者が死ぬ形になるとしても、何もしないよりはるかにいい。
と(´<_`#)
ゴーレムの腕に、片手を掛ける。
腕の力で這い上がり、顔面の装甲へと跳躍しようと腰を落とす。
体が揺れる。それでも、ゴーレムの頭に一撃を加えようとしたところに、巨人のもう片方の腕が迫り……
回避は間に合わない。
もとより、回避をできるような場所にはいない。
それでも、避けようと力を込めた足がずるりと滑り――
弟者は、何もない空へと放り出された。
.
690
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:46:34 ID:ttGVJWA.0
体を捻り、弟者は辛うじて受身の姿勢を取る。
そして、そのまま弟者は地面にたたきつけられた。
( <_ ;)「――くっ」
落下の衝撃に息が詰まるが、動けないほどではない。
痛みがあるが、骨は折れていない。手にも青竜刀の柄が残っている。
まだ、戦える。
(´<_`#)「動け」
弟者は立ち上がろうとして――、その動きを止めた。
見上げた視線の先に、兄者とともにいるはずのドクオの姿がある。
ブーンを助けに来たのかと弟者は思い、すぐにその考えを打ち消した。
弟者の顔を、嫌な汗が伝う。
ドクオの気配を、感じなかった。
この状況だからこそ普段以上に、気を張っているにもかかわらず弟者は気づけなかった。
ドクオは気配を隠していたのだろう。そこまでして、ドクオが向かった先にあるのは――何だ?
(´<_` ;)「何、を……」
.
691
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:49:19 ID:ttGVJWA.0
弟者は視線をドクオへと向ける。
ドクオが向かう先、そこにあるのは弟者が投げ捨てた鞄だ。ドクオの細くて小さな腕が、鞄へと届く。
(゚<_゚ ; )「……まさか、」
あの鞄には、魔法石板が入っている。
ブーンやドクオたち精霊は、魔法を使うのに石板を必要としない。
魔道具や石板を使って魔法を使うのは、人間だけだ。
――この状況で、石板を必要とする人間は一人しかいない。
(´<_`#)「やめろ、ドクオ!!」
( _ゝ )
兄者だ。
兄者が、魔法を使おうとしている。あの時のように、兄者が――
.
692
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:51:13 ID:ttGVJWA.0
――今でも、思い出す。
物置代わりの、ガラクタが押し込められた小部屋。
《止まれ》
魔力を込めた、絶対の制止の言葉。
振り払えなかった忌まわしい力。
魔法さえなければ――あの時動けてさえいれば、その後の展開は変わっていたはずだ。
兄者だけが、鏡に落ちることもなかった。
俺が、俺で無くなることだってなかったはずだ。
使わせてなるものか。
それだけは、絶対に避けなければならない。
.
693
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:53:49 ID:ttGVJWA.0
(゚<_゚ ♯)「……ドクオぉぉぉ!!!」
弟者の足が土を踏み、その身を立ち上がらせる。
ふらつく体を押さえつけ、ドクオの元へ向かおうと力を込める。
('A`)「……スマン、弟者。兄者の頼みだ」
殺気を込めた弟者の視線が、ドクオを貫く。
弟者はこれまでドクオに対して、攻撃をためらったことはない。
ドクオのもとにたどり着けば、弟者は手にした武器を振るうことだろう。
――しかし、ドクオの表情は静かだった。
('A`)「オレは薄情だが、意地が悪いわけじゃない。だから、お前の命令は聞けない。
このままだと死ぬってわかってる奴を、放っておけるかよ」
弟者に向かって言い放つと、ドクオは背後へ向かって叫んだ。
('A`)/「ブーン!!! こいつを兄者のところに!!!」
.
694
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:55:44 ID:ttGVJWA.0
ドクオの近く、草むらの中から魔力が湧き上がるのと、弟者が駆け出すのは同時だった。
弟者の位置からでは、魔力の持ち主の姿は見えない。
しかし、ドクオの声がなくとも間違えることなんてヘマはしない。
これは、ブーンだ。
無事だったのかという安堵の気持ちと、ドクオなんかの味方をするのかという思いに、弟者の足が一瞬鈍る。
(#^ω^) 《兄者に飛ぶお!》
(´<_`; )「――くっ」
弟者の戸惑いをつくようにして、ブーンの魔法が放たれた。
一陣の風が、大振りのバックを載せて暗いうすっぺらな影へと飛び去っていく。
(#'A`)「兄者ぁぁぁっ、後は任せたぁぁぁっ!!!」
(;'A`)と( <_ #)
弟者の腕がドクオの首を捕らえる。
しかし、その頃にはもう全てが遅かった。
.
695
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:58:03 ID:ttGVJWA.0
(´<_`#)「――殺しておけばよかった」
('A`)「そりゃ、勘弁だな」
弟者の射殺すような目に言葉に、ドクオはそう答えた。
その言葉遣いは兄者のようだ。弟者はそう思い、そう思ったこと自体に舌打ちをする。
(;^ω^)「おおおオトジャ! こわいのはやめるお!」
(´<_`#)「……」
弟者はドクオを睨み続けている。
その手に力を込めることはない。そんなことをすれば、兄者を守る結界は消失してしまう。
弟者は力を込めそうになる手を、必死で押さえつけながら、ドクオに――
(# ゚ω゚) 《弟者、飛ぶお!!》
(´<_` ; )
ブーンの巻き起こした風が、ドクオごと弟者の体を押し流す。
そして、次の瞬間、弟者はブーンが起こしたのとは違う風と、震動を感じ取る。
.
696
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 22:59:27 ID:ttGVJWA.0
/◎ ) =| )//
高い位置から、振るわれた腕。
それはゴーレムの繰り出す、攻撃だった。
巨人の腕は、先ほどまで弟者がいた場所を寸分違わず押し潰した。
(;゚A゚)「あああ、アブね。死ぬぅ、死ぬからぁぁぁぁ!!!」
(´<_` ;)「――っ」
怒りに、完全に我を失っていた。
ブーンがいなければ、兄者を守るどころか自分の命さえなかった。
弟者の背を、冷たい汗が伝う。
ドクオを掴む手を放す。開放されたドクオは、小さく悪態をつくと羽ばたき始める。
弟者はドクオを睨みつけながらも、唯一残された武器――青竜刀の柄を握る手に力を込める。
(´<_` )「すまなかった」
(*^ω^)「大丈夫だお!!!」
弟者は顔を上げる。
今、向かうべきなのはドクオではなく、ゴーレム。
弟者は倒すべき敵へ向けて、折れた青竜刀を構えた。
.
697
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:01:24 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
影の中を、一迅の風が吹き抜ける。
魔力を帯びたその風は、兄者の肌を粟立たせ、ドサリと何かを落とすと掻き消える。
兄者のすぐ正面、落ちたそれは――、兄者が求めていた弟者の鞄だ。
( ´_ゝ`)「……でかした、ブーン」
動かない右腕に力を込める。
だらりと力なく垂れた腕は、どれだけ力を込めても感覚がない。
まるで体に棒がぶら下がっているような、強烈な違和感。
それでも力を込めて動かし続けると、どうにか鞄に届いた。
(;´_ゝ`)「……あと、ちょい」
汗が頬に伝う。
動くたびに傷を刺激して、鋭い痛みが走る。
全身をじくじくと覆う鈍い痛みとは正反対の刺激に小さく呻きながらも、兄者は動きを止めない。
額から流れる血が汗と混ざって、兄者の服を汚していく。
.
698
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:03:16 ID:ttGVJWA.0
指をひっかけ、鞄を引き倒す。
ごとりと重い音がして出てきたのは、石板が三つ。
(;´_ゝ`)「……届いた」
黒いつややかな、石材。
大市で濃紺色のヴェールの女から買った魔法石板と、遺跡で拾ったただの石板。
文様とともに刻み込まれた魔法は――、今の兄者にとって最後の武器だ。
最後の力を込めて、石板の一つを引き寄せる。
黒の盤面、刻み込まれた魔力は火の色をしている。
( -_ゝ-)「……」
瞳を閉じて、意識を落とす。
自分の下、意識の底――“自分”の内側に手を伸ばして、魔力を汲み上げる。
ゴーレムとの戦闘やドクオに気を取られ、弟者の意識は乱れている。
今ならば――、弟者に持っていかれた魔力を奪い返すのは、それほど難しくないはずだ。
( ´_ゝ`)「……魔力の扱いは、俺のほうが得意なんだ。
長年、俺に魔力を預けたのが仇になったな、弟者よ!」
.
699
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:05:18 ID:ttGVJWA.0
弟者の抵抗をすり抜けて、魔力を取り戻す。
そして、炎の魔法が組み込まれた石板に、兄者は指を下ろした。
( ´_ゝ`)「……いくぞ」
青い指が、黒の盤面をなぞる。
右から左。
刻み込まれた凹凸を確かめるように。軽やかに、指は動く。
::( ´_ゝ`) ::「…」
体の内側を走る、魔力を指へと集中させる。
初めは弱く、それから徐々に強く。
石板に込められた魔力に、自分の魔力を上乗せし、増幅させていく。
( ´_ゝ`)「ひっさーつ!」
縦に横に。
指がたどる軌跡と、魔力は淡い光を放つ。
――それは、かつて描かれた言葉。ふきこまれた奇跡。
( *´_ゝ`)「なんかスゴイ炎っ!!!」
.
700
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:07:27 ID:ttGVJWA.0
兄者の指が最後の軌跡をたどると同時に、石板に刻み込まれた神秘は発動した。
――それは、初め弱々しい光をあげる小さな火だった。
それがイキモノのように動き勢いづくと、赤々と燃える蛇のように大きくなった。
ぐるりと炎が意志を持つように、動く。
(#´_ゝ`)「いけぇぇぇぇぇ!!!」
兄者の視線は、ゴーレムの顔だけを見つめている。
その視線に応えるように、赤へ白へと色を変えながら炎はゴーレムへと向けて走り始める。
駆け抜ける炎は、兄者の魔力と風を取り込みながらうねり、その大きさを増していく。
('A`)「なんだありゃ!!」
(;^ω^)「魔力だお!」
ドクオを越え、ブーンを越え炎は走る。
うねる炎の輝きは、青へと変わり――
(<_` #)「兄者っ」
ゴーレムの顔を、直撃した。
.
701
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:11:04 ID:ttGVJWA.0
/◎ ) =| ) G AAAAaaA G
炎が巨人の体を焼く。
鈍色の岩石には炎に焼かれても、大きな変化は見られない。
しかし、ゴーレムの上げる、悲鳴じみた音はこれまで以上に大きい。
巨人の腕が苦しむように、蠢く。
体をよじるように、上半身が右へ左へと振られる。
炎を纏ったままゴーレムはその身をよじり続け、その動きがある一点で止まる。
/◎ ) =| )
顔面にあけられた二筋の溝。
目のように穿たれた淵が向いたその先は――弟者の向こうに広がる、影の結界。
兄者のいるはずの、その空間。
結界に守られた兄者の姿は、弟者と同様にゴーレムからは見えないはずだ。
しかし、その目に当たる部分の空洞はじっと兄者のいる先を向いている。
――見えているのか。それとも見えていないのか。
わからない。
それでも、ゴーレムは兄者のいる方向から目をそらす気配はない。
.
702
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:13:23 ID:ttGVJWA.0
青かった炎は色を失い、巨人の腕の一振りを最後に掻き消えた。
そこにはもう炎の名残はない、辛うじて白く変色した一部の色だけが熱の激しさを伝えてくるだけだ。
ゴーレムの体が揺れ、ぎちりとその無限軌道が動き始める。
――向かう先は、不自然に漂う影の霧。
ドクオの影によって編まれた結界、その中。
/◎ ) =| ) gi t
巨人は、結界に守られた兄者を最大の脅威と捉えたらしい。
すぐ傍らにいる弟者のことなどもう、目に止めずにその足にあたる機関を動かし移動をはじめる。
(´<_`#)「やめろぉぉおおお!!!!」
弟者は大声を上げる。
しかし、敵は止まる気配をみせない。
まるで、あの時の再現のようだ。
現れたバケモノ、おそらくは俺を守ろうとして魔法を放った兄者。
そして、バケモノは兄者へと標的を変え……
――今でも、思い出す。
泣くことしか出来なかった幼い自分。最後に笑って、鏡へと引きずり込まれた兄者。
.
703
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:15:35 ID:ttGVJWA.0
違う。
自分には力があって、自由に動く手足がある。
腕はまだちぎれてはいない、足はまだ潰れてはいない。
そして、手にはまだ振るえる武器がある。
ならば、まだできるではないか――。
(´<_` )
弟者の目が、ゴーレムの顔を見据える。
そして、その足が地を踏む。
辛うじて手放さなかった、青龍刀の柄を握り締める。
武器は、もうこれしかない。
しかし、今は幼いあの時とは違う。
lニニ|==と(´<_`#)
それを、ゴーレムの脚部。
体を支える無限軌道の起動部へ、渾身の力を込めて突き立てた。
.
704
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:18:13 ID:ttGVJWA.0
/◎ ) =| ) g?
一際、耳障りな音とともに、ゴーレムの動きが止まる。
体を支える駆動部に突き立てられた柄が、足を動かすのに必要な要の機関の動きを止める。
ゴーレムが動こうとするたびに、折れた刃からは火花があがり。耳を潰さんとするほどの怪音が轟いた。
/◎ ) =| ) g u?
ほんの一瞬できた隙を、弟者は見逃さなかった。
走りだそうとする視界の中に、かすかに光るものを弟者は見つける。
――それは兄者がゴーレムの注意をそらそうとして投げた、ナイフ。
( <_ )「うぉぉおおおお!!!」
転がっているナイフを手に取る。
そして、そのまま動きを止めた巨体へと向けて突っ込んでいく。
大きく踏み込み、一度目の跳躍。
無限軌道を支える岩と砂と何かの材質で形作られた、帯状の機関の上に着地する。
さらに跳躍、向かう先は動かない体に動揺するその腕。
.
705
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:20:58 ID:ttGVJWA.0
/◎ ) =| ) g
弟者を振り払おうと、ゴーレムの腕が動く。
しかし、弟者の跳躍はそれよりも早かった。
踏み込んだ足が解き放たれ、弟者の体は宙を舞う。
(<_゚ ♯)「死ね!」
三度目の跳躍で弟者の体は、その頭部へと行き着いた。
顔に穿たれた隙間。
そこに向けて、弟者はためらいもなくナイフの刃をねじ込む。
/◎ ) =| ) aaaaaaaaaa
(<_゚ ♯)「死ね! 死んでしまぇぇぇ!!!」
片腕をゴーレムの顔面の隙間にかけ、落下を始めようとする体を押しとどめる。
炎の魔法で熱せられた岩が弟者の手を焼くが、弟者はそれでも怯もうとはしない。
もう片方の手に握った、ナイフをさらに押し込んでいく。
隙間の向こうにあるものを貫くようにして、ナイフは深く突き刺さっていく。
ゴーレムの体が大きく揺れる。
弟者は腕と足で不安定な体を支えながら、ナイフを持つ手に力を込める。
.
706
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:24:22 ID:ttGVJWA.0
このまま死ね。死んでしまえ。
弟者の口からあふれるのは、殺意をこめた呪詛の言葉だ。
(<_゚ ♯)
弟者の声に思いに反応するように、ナイフは突き刺さり。
そして、とうとう
――ピシッ
頭部に異変が起こる。
かすかな音が断続的に走ったと思うと同時に、薄い線がその装甲に浮かび上がる。
ナイフの突き刺さったすぐ近くの場所から始まったそれは、瞬く間に頭部を貫くひび割れとなる。
弟者はさらに装甲を割ろうと、ナイフに力を込める。
/◎ ) =| ) aaaaaaaaaa!!! ag! aaaaaaaalgia
その衝撃に弟者の手が、とうとうゴーレムの顔面から外れる。
支えを失った体は地面に向けて落下を始める。
(´<_`#)「――ちっ」
.
707
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:25:44 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
ゴーレムの装甲に、致命的な一撃が与えられたのに兄者は気づいた。
はっきりと目で捉えたわけではない。
しかし、ゴーレムの悲鳴が、頭部のその傷から漏れだした魔力が、はっきりと伝えてくる。
――やつを倒すには、今しかないと。
弟者はきっちりと役割をこなした。
ならば、兄である自分もやらなければならない。
(; ´_ゝ`)つ「もういっちょう!」
力のこもらない腕を引き上げ、もうひとつの石板を引き寄せる。
刻まれているのは先程とは違う文様。それは、《水》を司る魔力を込めた文字だ。
魔力を込めながら、兄者はそこに刻み込まれた文字を指でたどっていく。
.
708
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:28:21 ID:ttGVJWA.0
兄者の魔力が石板に流し込まれるたびに、石板にこめられた魔法が。その力が強くなる。
( -_ゝ-)
石板は蒼く輝く。
指で辿られた部分が光をあげ、石板に込められた魔法を発動させる最後の鍵となる。
ぽたりと、しみだした水滴が地を濡らす。
石板から流れだした水は溢れ続け、勢いを増すとやがて水の柱となった。
そして、――
( ´_ゝ`)「お水さんお水さん、ヤツをやっつけろぉぉぉ!!!!」
兄者の言葉とともに、巨大な水の柱がゴーレムへと襲いかかる。
影の中でも透き通り勢いを失わない水の流れの向かう先は、巨人の頭部。
熱せられて変色し、ひびが走るその目に水の柱は直撃した。
/◎ ) `=,/、 ) AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
濁流のような水の流れに、体の至るところから蒸気が吹き上がる。
音を上げてひびは広がり、細かな破片が飛び散る。
.
709
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:29:02 ID:ttGVJWA.0
が、それまでだ。
水の流れはゴーレムの体を大きく揺らすも、装甲を完全に砕くことも、体を倒すことのできないまま消える。
打撃を与えることは出来た。
巨人は、確実にその体力を失っている。
しかし、その体が巨大すぎて倒すことまではできない。
(; ´_ゝ`)「――くっ、無駄に頑丈」
.
710
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:30:26 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(#^ω^) ≪受け止めるお!!≫
(´<_` )「――!」
――空に放り投げられた弟者の体が、地面に叩きつけられることはなかった。
ブーンが引き起こした風が弟者の体を受け止め、その体を無事に地面に下ろす。
そして、それと同時に水の柱がゴーレムの頭を捉えるのを、弟者は見た。
/◎ ) `=,/、 ) AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
.
711
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:32:46 ID:ttGVJWA.0
蒸気が、弟者の視界を埋め尽くしていく。
その向こうがどうなっているのかは、はっきりと見えない。
しかし、弟者は体勢を立て直すやいなや地を蹴った。
(´<_`#)「……」
その手には、もう武器はない。
シャムシールはどこかに飛び去り、青龍刀の柄はゴーレムの足を支える機関を貫いている。
唯一、手に入れたナイフも今はゴーレムの頭部へと突き刺さったまま。
弟者は地へと目を走らせる、そこに武器は見えない。
.
712
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:34:37 ID:ttGVJWA.0
(#'A`)「ナイフだ! あそこなら攻撃が通る」
(;^ω^)「でも、どうするんだお!」
ドクオの声に、弟者は視線をゴーレムの頭部へと向ける。
白い蒸気の向こうにそびえる巨体の姿は、はっきりとは見えない。
しかし、そこに武器はある。まだ、打つべき手はある。
(´<_`#)「そんなもの、後で考える」
ゴーレムの腕が向かってくる弟者を妨害しようと、無秩序に振るわれる。
それに対して、武器を持たない弟者の手が、もぞりと動いた。
その手が懐へと入り、何かをつかむ。
(´<_`#)「――クソが!」
紫のマントが翻り、中から取り出したそれを弟者は投げつける。
放たれたのは小さな何か。
それがいくつも、ゴーレムの腕に向かって飛来する。
/◎ ) `=,/、 ) !
.
713
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:38:41 ID:ttGVJWA.0
飛んできたそれから、身を守ろうとゴーレムの腕が一瞬止まる。
弟者は敵だという認識が取らせた、行動と判断。
それはゴーレムに、決定的な間を生んだ。
/◎ ) `=,/、 ) …
動きの止まったゴーレムの腕に、べたりとした何かが張り付き、あるいは跳ね返り飛んでいく。
投げつけられたそれは、武器でも、脅威でも、罠でもなかった。
しぃが調査隊本部で出した茶菓子。それから、硬貨がいくつか。
子供だまし以下の抵抗ともいえない抵抗。
しかし、それは目眩ましとしての役目を十分に果たした。
(#'A`)「そのままよじ登れぇぇぇ!!!」
止まった腕の間をすり抜けて、弟者は巨人の足元へと飛び上がる。
動きの止まった腕の上を走ると、その肩へとよじ登る。
そして、跳躍をはたすと、弟者はひび割れ変わり果てた巨人の頭部へと、たどり着く。
ナイフはゴーレムの動きにも、水の奔流にも負けずに巨人の“目”に突き立っていた。
(´<_`#)「死にさらせぇっ!!!」
.
714
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:40:07 ID:ttGVJWA.0
振り上げられた弟者の足が、小さなナイフをさらに押しこむように蹴りつける。
゛(´<_` )「――っ」
( ^ω^)「手伝うお!」
それと同時に、弟者の体を守るように吹いていた風がその流れを変えた。
ブーンの号令とともに、風が鎌鼬へと形を変え、ゴーレムの頭部へと襲いかかる。
物理的な衝動と、魔力による風。
/◎ ) `=,/、 )// W A A G A A
弟者とブーンの全力を込めた攻撃は、ナイフごとゴーレムの装甲の奥を貫いた。
その衝撃で、装甲の欠片がいくつか剥がれ落ちる。
しかし、そこまで。
装甲を破壊するには、まだ届かない。
(#'A`)「――まだ、ダメなのかよっ!?」
限界まで押し込まれたナイフは、それ以上は動かせない。
弟者の手に、もはや武器はない。
あと一歩というところまで迫りながら、弟者にはこれ以上は打つ手が無い。
.
715
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:42:17 ID:ttGVJWA.0
(´<_`#)「――ちっ」
( `ω´)「オトジャ、いったん下がるお!」
弟者の周囲に魔力混じりの風が吹き、その体を受け止める。
敵を捉えようと伸びたゴーレムの手を交わし、弟者の体は空中に逃れる。
(;'A`)「……どうする?」
このままでは、ゴーレムは倒せない。
兄者の魔法に期待するか、なんとかして結界を破壊し脱出するか。
どうする。どうすればいい――?
('A`)「何か手は……」
答えを出せないまま見回したドクオの視線が、銀色に光る何かを見つけた。
銀にひらめくそれは、折れた青龍刀の切っ先。間違いなく武器になり得るものだ。
これを弟者に手渡すことができれば――。
('∀`)「見つけたっ!!」
ドクオは青龍刀の欠片に、必死で手を伸ばした。
.
716
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:44:13 ID:ttGVJWA.0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
ゴーレムの頭部を覆う装甲は、あと少しで壊れる。
しかし、完全に破壊しきるには、まだ足りない。
( ´_ゝ`) 《砕
とっさに、叫びかけた言葉を兄者は慌てて切る。
無意識のうちに巡らせていた魔力を根性でねじ伏せて、魔法の発動を力づくで止める。
出口を失った魔力が体じゅうを暴れまわるが、それもやがては沈静化する。
(;´_ゝ`)「……くっ」
無意識のうちに魔法を放ちかけていた自分に、兄者は舌打ちをする。
この十年間、決して魔法を使わないように気をつけてきたのに、一度魔力を使えばすぐにこのザマだ。
.
717
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:46:39 ID:ttGVJWA.0
魔法は使えない。少なくとも、弟者の前でだけは使いたくない。
(;´_ゝ`)「……どうする?」
弟者が魔法を受け入れられなくなった原因は自分だ。
10年前のあの日、とっさに放った《止まれ》という魔法が、今も弟者を縛っている。
魔法がなければ、俺に魔法を使わせなければ……弟者は今もそう思っているはずだ
( ´_ゝ`)「……」
今でもあの時の決断は、後悔していない。
しかし、今は違う。今はまだ取るべき選択の余地がある。
だから、俺はあいつが平気になるまでは、あの時のような魔法は使えない。
それがあいつの兄貴としての精一杯の矜持だ。
だから――、
.
718
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:48:07 ID:ttGVJWA.0
兄者の視界に、それが映る。
火と水の石板。そして、その横。鞄に収められていた、黒いつややかな傷一つない石板。
まだ何の魔法も込められていない、まっさらな板。
媒介や魔道具を使っているから大丈夫だというのは、詭弁だ。
言葉を使って発する魔法と、本質的に何ら変わりがないのはわかっている。
それでもこれが、今考えうる限りで最良の選択肢だ。
(;´_ゝ`)「……ええい、面倒なことはあとで考える」
振るえる指を動かして、石板に手を伸ばす。
思うように動かない腕と、体に走る痛みに舌打ちをしながらも、どうにか石板を引き寄せる。
兄者は口元から流れる血を指で拭う。
(; _ゝ )「――間に合えっ!」
そして、その指を漆黒の石の表面に乗せた。
そこには、辿られるべき文字の刻は刻まれていない。
代わりに指を濡らす血が、赤の線を残した。
自分の内側にある、魔力をあつめる。
井戸から水を汲み上げるイメージ。
汲み上げた魔力を全身へと巡らせ、組み上げていく。
.
719
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:50:42 ID:ttGVJWA.0
(; ´_ゝ`)「――上手くいってくれよ」
ありったけの魔力を込めて魔法を刻む。
要になる文字はわかる。――体をめぐる魔力が、感覚が告げている。
組み上げた魔力を纏めあげる。そして、火と水の石板にあった魔法を増幅させるための文句と共に、血で刻みこむ。
一度もてば十分なほど雑に作られた、石板。
それに向けて兄者は全身の魔力を流し込み、血で描き上げた文字をなぞりあげていく。
黒い石板に浮かぶ、血で書かれた文様の一つ一つが兄者の魔力を受け白に、青に輝く。
(♯゚_ゝ゚)「いけぇぇぇぇっっ!!!」
刻み込まれた魔法は、《凍結》。
そして、それは瞬時に発動した。
――熱せられた巨人の体に染み込んだ水が、周囲に漂う白い蒸気の霧が、石板に呼応するように一斉に凍り出す。
岩で作られた装甲の、至るところから氷柱が突き出していく。
/◎ ) `-i=,/、 )
装甲が大きな音を上げ、ひび割れていく。
今や巨人の頭部の装甲は、薄くひび割れ無事なところは何処にもない。
しかし、決定的なダメージには一歩及ばない。
.
720
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:52:24 ID:ttGVJWA.0
――攻撃しなければいけないのは、装甲ではなく、その向こうにある核。
そのためにはまず、邪魔な装甲を完全に崩さなければならない。
魔力をかき集め、練り上げる。
体の中を駆け巡り勢いをました魔力は、熱くて内側から体が焼かれるようだ。
それでも、まだアイツを倒すには足りない。
あのゴーレムを打ち砕くには、もっと魔力が必要だ。
――昔から、普通、人が見えなかったり使えなかったりするものの扱いだけは得意だった。
だから、今回もきっとどうにかなる。どうにかならなくても、してみせる。
(♯゚_ゝ゚)「――まだだっ!!」
(;'A`) !
そして、兄者は手を伸ばす。
伸ばすのは肉体そのものではなくて、イメージの手。魔力を操るその感覚の手を周囲に巡らせる。
兄者の回りを取り囲む影の結界。
それを支える魔力に手を伸ばす、結界を支える術をバラバラにして、魔力を飲み込む。
結界は霧散し、兄者の頭上には一気に青空が開ける。
(;゚A゚)「結界が……。まさか、兄者のやつ」
.
721
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:54:34 ID:ttGVJWA.0
(♯゚_ゝ゚)「まだ、足りないっっ!!!」
ドクオの戸惑いには気づかずに、兄者は声を張り上げる。
はっきりと見えるようになった視界。
宙に逃れた弟者と、ブーン。草陰の中でドクオが、信じられないものを見る表情を浮かべている。
……あいつらを守らなければならない。
そのためには魔力を。もっと集めなければ――。
兄者は大気に目を凝らし、その中にある魔力を感じ取る。
土の中にも、風の中にも、草にも魔力はある。
それをできうる限り引っ張って集め、取り込む。
(♯゚_ゝ゚)「――っ、く」
――全身が、炉になったようだ。
魔力を取り込み、回し、増幅させ、形を整える。
それだけの機関、それだけの機能。
そうして練り上げたありったけの魔力を、片っ端から石板に叩きこんでいく。
(♯ ゚_ゝ゚)「――っぁぁぁああああああ!!!」
兄者は吼える。ありったけの声と魔力をあげて吠え続ける。
そして、その声に応じるように、表中はより鋭く、大きく、力を増していく。
.
722
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:56:25 ID:ttGVJWA.0
/◎ ) `-i=,/、 ) gi
ピシリと音がする。
急激にその大きさを増していく氷の柱、広がる亀裂。
ピシ
そして、
ピシ
それがついに、
ゴーレムの体を、頭を貫いた。
.
723
:
名も無きAAのようです
:2013/12/06(金) 23:58:13 ID:ttGVJWA.0
しかし、装甲はまだ崩れない。
兄者の息はつまり、目が霞むが、それでも兄者は魔力を操るのを止めない。
まだ、足りない――。
だから、
(♯゚_ゝ゚)「弟者ぁっ、全部借りていく!!!」
(´<_` )「いくらでも持っていけ!!!」
弟者の体から、ありったけの魔力をもっていく。
息を吸うよりも自然に、腕を伸ばすよりもはるかに簡単に、魔力は兄者の体へと流れる。
その魔力の感覚は、どこからかき集めた魔力よりも馴染む。
あたりまえだ。
これは、弟者の魔力であると同時に自分の魔力だ。
――できそこないの、一人。
不吉な存在、本来ならば殺されなければならなかった命。
不安定でいびつな命と引き換えに得た力が、まっすぐとゴーレムを貫き壊していく。
そして、
ありったけの魔力をこめた氷の柱が
.
724
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:00:29 ID:yZraviHw0
/ / \
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く、 /
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ヽにノ '´ [,-1 /|ヽ ,. '´ /‐'´ ,/
ノ / / ,ト、 '-―'´ / r' |
く∠-┘ '‐ ' , / /`丶、 !
__ /_, ‐'´ _,.>!
l´\/ / ̄| _,.-'´
 ̄ / ! /
岩の巨人の装甲を粉々に打ち砕いた――。
.
725
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:02:28 ID:yZraviHw0
そして、崩れ落ちた装甲のその向こう。
――埋め込まれていた、核がついに姿を現す。
古びた粘土板。
いつのものかすらわからない、その板には――今では失われた言葉が刻まれている。
(;^ω^)「あそこだけなんか違うお!」
(#'A`)「それが、奴の本体だ!」
粘土板に刻まれたその言葉。
それこそが、巨人を動かす魔法そのものであった。
古の伝承曰く、ゴーレム。
はるかに魔法が発達した時代に作られた。石板を触媒とした魔法の祖にして頂点。
疲れることを知らず、痛みを知らず、命令のままに従う、岩の巨人を作り出す秘術。
創りだされた巨人に命はなく、核に記された文字がある限り――無限に再生する。
(#'A`)「あの核をぶち壊せ! そうでないと、いくらでも再生するぞ」
(;´_ゝ`)「……なん、とぉ」
先ほどの攻撃で全ての力を使い果たしたのか、兄者は力なくへたり込む。
その視線こそ装甲による守りを失ったゴーレムへと向けているが、兄者の口からはそれ以上の言葉は出てこなかった。
.
726
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:04:23 ID:yZraviHw0
兄者は、動けない。
弟者にはもう、攻撃の手段がない。
/◎ ) 、/、; )
(#^ω^)≪切り裂くお!!!≫
その硬直した状況を、ブーンの魔法が打ち砕いた。
魔力を帯びた鋭い風の刃が、粘土板を襲う。
(;^ω^)「なんで?!」
――が、その風は粘土板に直撃する前に霧散した。
まるで粘土板自体が、魔法の力を拒否したかのようだった。
(´<_` ;)「魔法が、きかないのか?!」
(;´_ゝ`)「……なん……だと」
兄者と、弟者が言葉を失う。
最後の最後まで追い詰めたと思った。――しかし、それもここまでというのか?
誰もが言葉を失いかけた、その時。
.
727
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:06:13 ID:yZraviHw0
(;'A`)「……」
ドクオはふと、手元に目を落とす。
……そこにあるのは、弟者に渡そうとしてそのままになっていた刃。
輝くそれは、最後に残った武器だ。
('A`)「――弟者っ、受け取れ!!」
そして、ドクオは声を上げる。
必死の力で刃を持ち上げると、弟者に向けて掲げてみせた。
兄者以上に非力なドクオが必死に持ち上げたそれは、――へし折れた青龍刀の切っ先。
弟者は宙から降りると、その刃をひったくるようにして奪い取った。
(´<_` )「恩に着る」
(*'A`)「お、おう!」
ドクオの返事を聞くよりも先に、弟者の体が弾丸のような速度で動きはじめる。
.
728
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:08:36 ID:yZraviHw0
(#´_ゝ`)「弟者っ、やれっ!!!」
(´<_` )「把握した」
兄者の声が響く。
オレ
――兄者がやれといったのだから、それは弟者にとって絶対だ。
二人分の力を込めた渾身の速度。
巨人の顔から落ちた瓦礫の山を駆け上がりながら、ゴーレムの核を目指す。
(´<_`#)「今度こそ終わりだ!!!」
.
729
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:10:09 ID:yZraviHw0
崩壊した体を抱えたゴーレムが、最後の抵抗といわんばかりに蒸気を噴き上げた。
周囲をすっぽりと覆う、熱く白い霧。
体の守りの大半を失いながら、それでも岩の巨人は腕を伸ばす。
( < ::)
そして、ゴーレムの腕は人影を見つける。
振るわれる腕は、その人影をはっきりと捉えなぎ払う。
ゴーレムは歓喜の音を上げ、
(#゚A゚)「オレの影をなめるなぁぁぁぁ!!!」
はじけ飛んだのは、ドクオの創りだした影だった。
ゴーレムの創りだした白い蒸気の幕に、黒い影がいくつも動く。
蠢く影の群れ。
その影の間を縫って、走り出たのは。
(´<_`#)「砕けろぉおおおお!!!!」
――弟者。
.
730
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:12:33 ID:yZraviHw0
折れた刃ごと、弟者の手が粘土板へ振るわれる。
しかし、握りのない刃では上手く力を込めることが出来ない。
弟者の手から血が流れ、粘土板を濡らしていく。
(´<_`#)「――くっ」
渾身の力を込めた一撃は、粘土板に浅い傷を作る。
しかし、そこまで。
粘土板は未だ健在で、砕かれるまでには至らない。
(;'A`)「くっ、あと少しなのにっ!」
(#゚ω゚)「まだだお!!!」
立ちあがった、ブーンの体から魔力が湧き起こる。
風がうなり、小石が舞い上がり、草が倒れ、千切れ飛んでいく。
その光景の中で、ブーンはとうとうそれを見つけた。
逆転のための最後の一手。
残された希望。
(#゚ω゚)「オトジャっ、手を伸ばすお!!!」
.
731
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:14:45 ID:yZraviHw0
(´<_` )つ
弟者は返事の代わりに、腕を伸ばす。
(#゚ω゚)≪飛ぶお!!!≫
ブーンの魔法が起こした強い風が、それを舞い上げる。
舞い上げられたそれが向かったのは弟者が伸ばした腕のその先。
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
弟者の手がそれを掴む。
目で確認するまでもなく、握り慣れた感触がそれが何かを伝えてくる。
愛用の刀、シャムシール。
銀の軌跡が翻り、その手は一直線にひらめく。
.
732
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:18:10 ID:yZraviHw0
(´<_`#)「――トドメだぁぁぁぁぁっ!!!」
“獅子の尾”の名を持つ刀は、軽やかに翻り――主の命を完遂した。
.
733
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:19:09 ID:yZraviHw0
そのはち。 できそこないの一人
おしまい
.
734
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:21:26 ID:PA7Y3QRs0
乙!すげーボリュームだった
735
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:21:37 ID:nESRoQx20
おつうううううううう
736
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:23:43 ID:yZraviHw0
オマケ10レス行きます
737
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:24:44 ID:yZraviHw0
彡⌒ミ
.( ´_ゝ`)「姉者。父さんこれから母者さんと交代してくるけど、ひどいことはしないでね」
∬#´_ゝ`)「……はぁっ?」
彡⌒ミ て
.(;´_ゝ`) そ ビクッ
彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)「えっと、えーっとー、オワタやブームくんたちは大切だけど。
儂はみんなのことも好きだから、疑うとか犯人探しとか怖いことは……」
∬#´_ゝ`)「父者は、私や母者に任せておけばいいの!!拒否権などない!!」
彡⌒ミ
.(;´_ゝ`).。oO(なんか、母者さんと話してるみたいだなぁ)
∬´_ゝ`)「わかったら、とっとと行く! 交代が遅れると母者、怒るわよ」
彡⌒ミ
.( ´_ゝ`) ハーイ
.
738
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:25:40 ID:yZraviHw0
グッ∬´_ゝ`)q「よしっ、父者は行ったと……」
.
739
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:26:23 ID:yZraviHw0
,--, __〃 ̄⊃
/ / (,, /
(,〜〜〜〜〜/
彡三 ミ 〉 ノ /
(´く_`*)´ /
/.|^,ミ彡,^|ヽ、三三´
(^o^) / i |、 y ,| i \ー´ (|^o^|)
ヽ|〃 (__.i_|`''―‐'''|_i__) ヽ|〃
\(^o^)/
ヽ|〃
愛する花に囲まれる 父者=流石氏
おまけ劇場 l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです
.
740
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:27:14 ID:yZraviHw0
∬´_ゝ`)「妹者ちゃぁん」
l从・∀・;ノ!リ人.。oO(あの声は怒ってる声なのじゃ)
l从・−・;ノ!リ人「な、な、な、なんなのじゃー?」
∬´_ゝ`)「父者の花が踏み荒らされてるんだけど、何か知らないかしら?」
l从・∀・;ノ!リ人「はへ?」
l从・∀・ノ!リ人「お花? えっと、どのお花なのじゃ?」
∬´_ゝ`)「中庭」
Σ l从・д・ノ!リ人 ビクッ
.
741
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:27:56 ID:yZraviHw0
∬´_ゝ`)「中庭の花」
l从・д・;ノ!リ人
∬´_ゝ`)「知ってるわよね?」
::l从・Δ・;ノ!リ人:: アワワワ
ガシッ∬´_ゝ`)つl从・Д・;ノ!リ人 て
.
742
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:29:00 ID:yZraviHw0
∬´_ゝ`)「あんた。中庭の花、踏んだでしょ」
l从・∀・;ノ!リ人「……あ、うぅ、えーと」
∬^_ゝ^)「そうやって挙動不審になったりするのが何よりの証拠よ、妹者ちゃん」
l从・〜・ノ!リ人「……きょ、ど?」
. . .
∬*´_ゝ`)「正直に話して謝れば、父者は怒らないわよ。
ほーら、素直になりなさいなー」
l从・Δ・;ノ!リ人「い、い、妹者はやってないのじゃ!」
.
743
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:29:42 ID:yZraviHw0
::::∬*::::_ゝ::)::::「じゃあ、中庭の花はどうしてぐちゃぐちゃなのかしら?
お姉ちゃんに教えてほしいわぁ〜」
l从・д・;ノ!リ人「それは! ……それは……」
∬´_ゝ`)「それは?」
l从・∀・;ノ!リ人「……」
l从- 、-;ノ!リ人「……言えないのじゃ」
∬#´_ゝ`)つl从・−・;ノ!リ人 ビクッ
∬#´_ゝ`)「妹者ちゃんは、お姉ちゃんが身内に対しては気が短いのはしってるわよね。
お姉ちゃんこのままだと怒っちゃうわよ。いいのね?」
l从・−・;ノ!リ人「……」
.
744
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:30:38 ID:yZraviHw0
l从- -;ノ!リ人「……」
l从-∀-ノ!リ人.。oO(妹者は、やくそくしたのじゃ)
l从・д・ノ!リ人「妹者は、言わないのじゃ」
∬#-_ゝ-)「……そう」
スッ∬#-_ゝ-) l从・−・;ノ!リ人 …
∬´_ゝ`)「私からはもう何も言わないわ。
でも、母者には報告することになるけど、それでいいわね」
.
745
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:31:28 ID:yZraviHw0
ll从・∀・;ノ!リ人「……ははじゃ」
ズシン
∬´_ゝ`)「そ。母者は家長なんだから、何かあったら報告するのが当然の義務でしょ」
ドシン
ll从・∀・;ノ!リ人「……ううっ」
∬´_ゝ`)「今なら、お姉ちゃんが聞いてあげなくもないわよ」
ガッ
ll从・Д・;ノ!リ人「だめなのじゃ!!!」
.
746
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:32:15 ID:yZraviHw0
∬´_ゝ`)「話をすればほら、母者のお帰りだわ」
::l从・д・illノ!リ人:: ガタガタ
つぎのはなしに つづく
747
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:33:04 ID:PA7Y3QRs0
妹者かわいい
748
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:39:29 ID:rQ.Jnv2.0
ラスボス終わったと思ったらまたラスボスとな
乙
749
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:41:15 ID:mwwkQGYAO
超乙。
ここ来てから気に入った作品が逃亡ばっかで、ずっと待ってた現行にリアルタイム遭遇するの今回が初めてで、20時からずっとアホみたいにリロードしてた。
待ってた現行をリアルタイムで読めるってこんな嬉しいんだな。
作品の結末を知る事ができるのってこんなわくわくすんだな。
書いてくれてありがとう。
投下してくれてありがとう。
書きながら「俺キメェwww」と思ってるけどどうしても謝意を伝えたい。
完結も後日談もものすごく楽しみにしてる。
750
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:42:13 ID:yZraviHw0
以上で投下終了です
最終話になる「そのきゅう。」は明日の夜、後日談は月曜日の夜に投下できたらと思います
751
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:45:16 ID:yZraviHw0
長時間の投下にもかかわらず乙や感想くれて、本当にありがとう
長かったこの話もなんとか終われそうだ
752
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:52:28 ID:rFEOdAMo0
乙乙!
明日の夜も楽しみに待機してるわ
753
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 00:54:38 ID:wPZQZ7uw0
乙乙!
続きが読めてよかった、面白かった!
次も楽しみにしてる
754
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 01:11:34 ID:PA7Y3QRs0
いよいよ最終話か、寂しいぜ
でも楽しみにしてるからな!!!
755
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 02:25:11 ID:DJ1Z7hbk0
おつ!超ボリュームおつ!
熱い戦いだった!最終回も楽しみにしてるよ
756
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 12:17:56 ID:VPyeQ90g0
おつ!
757
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:01:42 ID:yZraviHw0
/◎ ) 、/、; ) gu gi gi
一刀のもとに切り伏せられ、粘土板が崩れ落ちた。
ゴーレムを動かしていた、失われた文字が薄れ消えていく。
核の崩壊。その瞬間、ゴーレムを構成していた魔法は完全に消滅した。
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
(;^ω^)
ごとりと音がして、ゴーレムの腕が落ちた。
無限軌道が潰れ、岩の重みに耐え切れず体が大きく倒れ込む。
( ´_ゝ`)
(゚A゚)
倒れてきた岩の衝撃に、地面が大きく揺れる。
ゴーレムはもはや、単なる巨大な岩の塊と化していた。
.
758
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:04:29 ID:yZraviHw0
_.◎ ) 、/、; :::
岩の巨人は動かない。
崩れ落ちた体を再生しようとする気配もなかった。
(*´_ゝ`)「おお」
ヽ('∀`)ノ「やった、やったぞ兄者!」
ゴーレムを構成していた岩たちが、砕けはじめる。
音もなく崩壊は続き、最後には大量の砂と岩の欠片が残るだけとなる。
(*^ω^)「すっごいお、オトジャ!」
(´<_` )「……やった、のか?」
もはやそこにゴーレムの原型はない。
――そして、石の巨人は死に至り。その動きを永遠に止めた。
.
759
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:05:29 ID:yZraviHw0
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
.
760
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:06:21 ID:yZraviHw0
そのきゅう。 ――そして、旅の終わり
.
761
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:08:05 ID:yZraviHw0
ゴーレムが完全に動かなくなったのを見届けると兄者はその場に完全に倒れ込んだ。
もう自分の体を支えることも出来ないらしく、倒れこんだ姿のまま兄者は動かない。
ただ、その口だけを動かして、兄者は大きく息をついた。
(; _ゝ )「流石にこれは――」
( <_ ;)「――疲れたな」
弟者もそう返事を返すと、兄者の傍らに座り込む。そして、そのままその場に転がった。
さっきまで剥き身の刃を握っていたせいか、弟者の手からはまだ血が流れ続けている。
ともに満身創痍な状況。兄弟そろって、命があるのが不思議なくらいだった。
(; ^ω^)「大丈夫かお!」
そんな兄弟たちの傍らに、ブーンは飛び寄る。
ドクオはその場に浮いたままだったが、ブーンが動くのを見て慌てて飛びはじめた。
兄者も弟者も倒れこんだまま、ぴくりとも動こうとはしない。
(; _ゝ )「おい、弟者。いい加減に体力とか力とかその他もろもろを返せ。
もう口と指くらいしか動かんのだが……」
( <_ ;)「兄者が持っていったままの、疲労痛み傷その他もろもろを返せば考えてやろう」
.
762
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:10:25 ID:yZraviHw0
(;´_ゝ`)「ハハハー、何のことかなー」
(´<_`#)「ハハハー、もちろん兄者のことだ」
動こうとはせず、口だけを使って兄弟の応酬は続く。
視線だけを動かして睨み合うが、互いに限界なのか殴りあうような気配はない。
弟者は拗ねたように顔を尖らせ、兄者といえばそっと弟から視線をそらした。
(´<_`#)「いいから、早く返せ」
(;´_ゝ`)「ちょっ、やめ、おねがいやめ!」
視線を逸らした兄者の胸ぐらを、弟者が掴む。
力を使い果たしたように横になっていた弟者が、動くとは思っていなかったのだろう。
突然の弟者の動きに、兄者の顔が驚いたかのように歪む。
兄者は弟の腕になんとか抵抗しようと大声を上げ、その瞬間顔面を真っ青にした。
(; ゚_ゝ゚)「っう――!!」
(´<_`#)「さっさと返せと言っているだろう。この阿呆!」
(iii ´_ゝ`)「えー、大丈夫だってぇ。全然、大したこと無いし……」
.
763
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:12:17 ID:yZraviHw0
(´<_`#)「何度同じことを言わせる気だ、この馬鹿」
(#´_ゝ`)「いいや、決めましたー。ダメーですぅー」
兄者はそう言い切ると、弟者から全力で目をそらす。
弟者はそんな兄の姿を睨みつけるが、殴りかかるわけにもいかなかったのか手を放す。
(;´_ゝ`)「っう……」
( ;ω;)「あばばばば、やめるお。やめるおー」
(;'A`)「お前ら兄弟は、どうしてこう仲が悪いんだ……」
ドクオの声が聞こえたのか、弟者から開放された兄者の口元がわずかに歪む。
しかし、何も告げる気はないのだろう。兄者の口からは言葉は出てこなかった。
( ;ω;)「アニジャー、だいじょうぶかお? こういうときは、だいじょうぶでいいんだおね?」
( ´_ゝ`)「ふむ。この場合は、大丈夫であってるな」
( ;ω;)「ほんとかお? アニジャはだいじょうぶかお? だいじょうぶ?」
.
764
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:15:11 ID:yZraviHw0
兄者の口元の歪みが消え、変わりに笑みが浮かぶ。
(*´_ゝ`)「なんて言ったって俺は流石だからな。
この程度ならば、全然平気だし。ものすごーく、元気な件」
( <_ )「……」
('A`;)::「――っ」
かわりに弟者の顔から表情らしいものが根こそぎ消えたのを、ドクオだけが見た。
(´<_` )「兄者、聞かせてくれ。
俺に痛みを返さないのは、本当に大丈夫だからか?」
(;´_ゝ`)「う、え?」
風向きが変わったことを悟ったのだろう、兄者の表情に困惑が浮かぶ。
弟者の声は静かで、感情らしい感情が見えない。
……これはマズい傾向だ、という思いが、兄者の脳裏に小さく広がる。
(;´_ゝ`)「えっと、ちょっとくらいは痛い件?」
( ;゚_ゝ゚)と( <_ )
.
765
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:16:13 ID:yZraviHw0
とりあえずそう告げてみた兄者に向けて、弟者の腕が伸びる。
弟者は兄者の服の胸元を掴み、力任せにぐいと持ち上げた。
(iii ゚_ゝ゚)「――っ」
兄者の顔が一気に白くなり、呻き声とも呼吸とも付かない声が喉から漏れる。
(iii _ゝ )「ぐっ……っカ……ハッ」
と(´<_`#)「これでも大丈夫だというのか!?
本当はとっくに限界なんじゃないのか!?」
兄者の喉からは言葉にならない息が漏れるだけだ。
やめろと言いたいのか、何度か同じ形に口が動くが、それすらも声にならなかった。
(;゚A゚)「おい、兄者のやつ。やばいぞ!」
(#^ω^)「やめるお!!」
と(゚<_゚ ♯)「ろくに動けないんだろう? 話すことだって、つらいはずだ。
なのに、なんで兄者はそうやってヘラヘラと笑っていられるんだ!!!」
.
766
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:18:31 ID:yZraviHw0
ドクオとブーンが弟者の肩をひっぱり、彼を止めようとする。
しかし、一度激高した弟者は止まらない。
(iii _ゝ`)「……っぃ」
と(<_゚ #)「俺がいつもどんな思いでいたか、兄者はわかってるのか!!!」
(#^ω^)≪放すお!≫
なおも兄者を締め上げようとする弟者の動きを、魔力の流れが断ち切る。
ブーンの使った暗示の力により、弟者の手の力が緩み兄者から離れる。
(*'A`)」「よしっ、ブーンよくやった!」
(;^ω^)「オトジャだめだお! そういうのぜんぜん楽しくないお!」
( <_ #)「なんで……」
弟者の目が、魔法を放ったブーンを捉える。
その口が歪みブーンに向けて怒りの声を上げようとし――、響いた声がそれを止めた。
(iii _ゝ )「……わか……って……た」
.
767
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:20:48 ID:yZraviHw0
途切れ途切れに響いたその声の主は、兄者だった。
弟者の動きが止まる。
一方の兄者は浅い呼吸を何度か繰り返し、ようやく深く息をついた。
(iii ´_ゝ`)「……ほんと……容赦ないの……な」
(;'A`)「おい、兄者。本当に大丈夫か?」
(iii ´_ゝ`)「あー、骨が何本かいってるかな? 命には別状はないと思われ」
そのまま動かずに呼吸を繰り返すと、兄者の顔色はようやく落ち着いた。
「痛かったー」と呟く表情は、もういつもの兄者のものだ。
本気なのか、それとも表情を取り繕っているだけなのか。人間の感情に疎いドクオには理解できない。
(;^ω^)「……オトジャ」
( <_ )「……」
弟者の顔からは、怒りの色は引いていた。
代わりに浮かぶのは、途方に暮れ呆然とした表情だった。
(´<_` )「……わかっていたとは、どういうことだ?」
.
768
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:22:30 ID:yZraviHw0
辺りに沈黙が落ちる。
弟者の視線は今や、ブーンではなく兄者に向けられていた。
( ´_ゝ`)「……」
('A`)「おい、答えてやれよ兄者」
(;^ω^)「……」
ドクオが促すように、兄者の肩を叩く。
ブーンは黙りこくって、兄者の姿を見守っている。
沈黙は長いようにも短いようにも思えた。そして、兄者は黙り込んだ末に、ようやく口を開いた。
(;´_ゝ`)「……やっぱ、話さなきゃダメだよな」
こういうのは柄じゃないんだよな、と頬をかきながら兄者は言う。
「むむー」とか「ふむー」とか意味のない言葉を呟いた後で、兄者はようやく語り始めた。
(;´_ゝ`)「あー、お前が10年前の件で後悔してるのは知ってた。
魔法や神秘のたぐいに俺を近づけないようにしてたのもな。まあ、やたらと暴力的ではあったけど」
.
769
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:24:19 ID:yZraviHw0
(゚<_゚ ; )「気づいていたのか……」
弟者の瞳が、驚愕に見開かれた。
その声はかすかに震え、信じられないと呟いている。
そんな弟の態度に、失礼だなと言うように兄者は口元を歪ませた。
( ´_ゝ`)「だって、昔そう言ってたし。あれだけ露骨だと、流石の俺でも気づくわ。
というか、弟者は俺が気づいているって知らなかったことに驚きな件。
ブーンやドクオとかに対する態度とか、本当にもうひどかったし」
(;^ω^)て「そ、そうだったのかお!! オトジャはブーンがキライだったのかお?!」
('A`)「……ブーン。お前ってやつは、本当にいいやつだな」
心の底から驚いたような声を上げるブーンの姿に、ドクオはしみじみと言った。
ドクオとて弟者の行動原理を理解していたわけではない。しかし、嫌われているということくらいはわかっていた。
しかし、あれだけ無視され続けていたのに、嫌われていると思わなかったとは……。ブーンの脳天気さが、ドクオは少しだけ羨ましくなる。
(´<_` ;)「なら、どうして」
(;´_ゝ`)「いやぁー。俺もなぁー。
弟者が頑張ってるなら、その通りにしてもいいかな〜って思ったこともあったさ」
.
770
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:26:22 ID:yZraviHw0
( -_ゝ-)「でも」
ドクオの戸惑いなど気づかないように、兄弟の会話は続く。
兄者は瞳を閉じて沈黙した後、意を決したように言葉を告げる。
( ´_ゝ`)「世界はさ、俺らがまだ知らないものや、面白いもので満ちてるんだ。
それを見ないふりをするだなんて、俺にはできない。ブーンじゃないが、そういうのは楽しくない」
そうやって、告げられた言葉はなんとも脳天気なものだった。
深い考えがあるだけではないその言葉に、ドクオは思わず声を上げようとする。
しかし、その言葉が向けられているのはドクオではなくて弟者だ。ドクオは出かかった声を、なんとか抑えた。
(*´_ゝ`)「お前が嫌いな、魔法や神秘のたぐいだってさ。悪いことだらけじゃないよ」
(´<_`#)「だが!」
弟者の声が怒りの色を帯びる。
しかし、弟のその様子に兄者は気分を害した様でもなく平然としていた。
( ´_ゝ`)「ブーンは悪いやつだったか?
今日起こった出来事は、本当に散々なことばかりだったのか?」
.
771
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:28:19 ID:yZraviHw0
( <_ ;)「――っ!」
そして告げられた問いかけに、弟者はとうとう言葉を失った。
何度か口を開いて反論しようとした末に、弟者はブーンの顔を見た。
(;^ω^)「……あうあう」
(´<_`; )「……」
弟者の口からは言葉が出ない。
かわりにその眉がひそめられて、表情の薄い顔に困った様な色が浮かぶ。
兄者はそんな弟の表情を見て取ると、それ以上はたたみかけようとはせずに話題を変えた。
(*´_ゝ`)「それにだなー。お前が心配するからちゃんと、魔法は使わなかったんだぞー。
石板だけ……魔道具だけでなんとかしちゃったお兄ちゃんマジ偉い、マジ立派!」
(*^ω^)キャーカッコイイー シンデー('A`*)
(*´_ゝ`)「ほら、石板魔法ってもさー、魔力なしで誰でも使える便利アイテムだからさー。
技術の進歩って偉大だよねー。こんなに使えるんだって、わかったろ? だから今後も使用の許可をオネシャス」
ドゲシッ(#´_>`)つ)#)゚_ゝ゚)アイヤー
.
772
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:31:58 ID:yZraviHw0
(´<_`#)「こ の 大 嘘 つ き が !」
怒りが限界を超えたのだろう、弟者は兄の顔を殴りつけると、とうとう大声を上げた。
さっきまで「とっくに限界なのだろう」と問いかけていたのと同じ人間とは思えない殴りっぷりに、ドクオは言葉を失った。
(#);_ゝ;)「ひどいっ、弟者たんのおにちくっ! 悪魔の所業っ!」
(´<_`#)「マッチ程度の火しか出せないシロモノで、あんな大火力出しておいて何言ってやがる!
さんざん魔力を使い倒しておいて、何が便利アイテムだ! それに最後の攻撃、お前その場で魔法石板作っただろ!
”使う”と”作る”じゃ大違いだ、この阿呆!」
(;´_ゝ`))「ヤ、ヤダナーソンナコトシテナイデスヨー。
そ、それに仮についさっきというか今作ってたとしても、石板使ったことにはかわりないじゃないですかー」
(;'A`)「……お前ら、なんだかんだ言って本当は元気だろ」
殴られたと文句を言う兄に、怒り顔で詰め寄る弟。
その姿は兄者が動かないことさえ除けば、朝から見慣れた二人の姿そのものだ。
⊂(´<_`#)「俺に気を使ったつもりだろうが……全然気遣いになってないぞ。
わざわざ面倒くさい真似しやがって、このアホ兄貴! 馬鹿たれ!」
.
773
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:34:30 ID:yZraviHw0
( ´_ゝ`)「……だって、かっこつけたかったんだもん」
弟者に言われるがままになっていた兄者が、ぼそりと声を上げる。
その声は小さかったが、弟者はしっかりと聞いていた。
(´<_`#)「は?」
(#´_ゝ`)「俺だってお兄ちゃんだから、弟に対してかっこつけたくなるんですぅぅ!!!」
弟に聞きつけられて開き直ったのか、兄者は大きな声を上げる。
しかし、そう言い切ったことで満足したのか、兄者は怒りの表情を引っ込める。
( ´_ゝ`)「俺は、お前や妹者の兄貴だからな。こういう時くらいは、かっこつけさせてくれ」
そして、あげられた言葉は、先ほど上げた声とは対照的に落ち着いていた。
その真剣ともいえる言葉に、弟者の表情が固まる。
弟者の顔から興奮した様子が掻き消え、浮かんでいた表情が消える。
( <_ )「……」
一瞬、和らいだ空気が再び凍っていく。
兄者がしまったと思う頃には、もう遅かった――。
.
774
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:36:52 ID:yZraviHw0
(;^ω^)「お? どうしたんだお?」
弟者の表情の変化に、ブーンが声を上げた。
しかし、ブーンの声に言葉を返すものは誰もいない。
(´<_` )「……兄者は俺だ」
長い長い沈黙の末、弟者は口にする。
絞り出したようなその声は、とても小さかった。
(´<_` )「俺の考えることが兄者の考えることで、兄者の考えることが俺の考えることだろう?」
泣くのを我慢する、子供のような声だった。
それでも、弟者の顔には何の表情も浮かんではいかなった。
(´<_` )「だから、兄貴なんて言うのは止めろ……」
泣くわけでも、すがるでもないその姿に、兄者は黙り込んだ。
.
775
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:39:18 ID:yZraviHw0
( -_ゝ-)「……」
再び沈黙が流れた。
兄者は長い長い時間をかけて、弟者へ向ける言葉を探しているようだった。
沈黙は重く、どう反応していいのかわからないらしいブーンが辺りを飛び回りはじめる。
( ´_ゝ`)「弟者。お前も本当はわかっているんだろう?
こうしてつながってしまってはいるけど、俺とお前は別の存在だって」
そして、沈黙の末。
兄者はようやく答えを口にした。
(´<_` )「……兄者が何を言いたいのかわからない。俺は兄者で、兄者は俺だ」
('A`)「……」
それが、兄者と弟者の間にある決定的な考えの違いなのだろうと、ドクオは悟る。
遺跡の中でドクオが兄者に問いかけた、仲が悪いだろうという問いの答えはきっとこれなのだろう。
双子だから、魂を共有しているからこそ発生する、決定的な価値観の相違。
「仲が悪いわけじゃないんだ」という兄者の言葉の意味が、ドクオにはようやく理解できた気がした。
.
776
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:40:33 ID:yZraviHw0
(;´_ゝ`)「あー、違うって言っても通じないんだろうなぁ、お前さんには。
お前の言いたいこともわかるが、それは違うんだ。間違ってる」
兄者の言葉は、途切れ途切れではっきりとしなかった。
しかし、そこには紛れも無く真剣な響きがあった。
( ´_ゝ`)「俺とおまえは確かにつながっている。それは変えようのない事実だ。
だけど、さ。一度別れてしまったものは、もう取り戻すことなんて出来ないんだよ」
兄者の言葉に、弟者の眉がぴくりと動く。
弟者は顔をしかめ不愉快だという表情を隠しもしなかったが、兄の言葉をじっと聞いていた。
( ´_ゝ`)つ「お前の毛並みは若草の色だろう? 俺は、空の色だ。染めたってもう元には戻らない。
お前の背は俺よりずっと高いよな。誰も、俺がお前の兄貴だなんて思わない」
( ´_ゝ`)「お前は星が読めるか? 風は、空は読めるか? 無理だよな。
俺だってお前から力をぶんどったとしても弟者みたいに動けないし、料理だって作れない」
「ほら、違うだろう?」と兄者は言う。
そして、彼は真剣な表情のままさらに続きを口にする。
.
777
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:43:40 ID:yZraviHw0
オレ オレ
( ´_ゝ`)「兄者は弟者じゃない。
だって、そうじゃないと俺らが別の人間として生まれた意味がないだろう?」
――それは、弟者にとって致命的な一言だった。
兄者がそれに気づいているかどうかは、わからない。
しかし、その言葉は兄者がこれまでの思いを何とか言葉にしているようにも見えた。
(´<_` )「……俺は!」
オレ オレ
( ´_ゝ`)「それにさ、兄者は弟者であるよりも、お前や妹者の兄貴でいたい」
弟者の言葉を遮るようにして、兄者が最後の言葉を口にする。
言い切ると同時に、兄者の顔にようやく笑みが浮かんだ。
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)σ「まあ、お兄ちゃんとしては、弟者はちょっとばかし俺に甘えすぎではないのかと思うのだが。
俺にばっかりべったりしてないで、少しはお兄ちゃん離れしなさいってことだ」
そして、出た言葉はかなりふざけた口調だった。
これまでの真剣な様子を恥ずかしいとでも思ったのか、兄者の口調にはさっきまでの真面目さは欠片もない。
.
778
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:45:07 ID:yZraviHw0
( <_ ;)「そんな子供みたいなことはしていない」
( ´_ゝ`)「ええ? そうかぁ?」
(´<_`#)「だが、しかしっ!」
弟者の言葉は激しかった。
しかし、怒りの表情を浮かべながらも、弟者の口からそれ以上の言葉が出てこない。
ドクオは兄弟の姿をまじまじと眺め。そして、弟者に向けて助け舟をだすように、口を開いていた。
(;'A`)「……話し中のとこすまないが、兄者の話に説得力が皆無なんだが」
自分でも、どうしてそのようなことを言い出したのかドクオ自身もわからない。
ただ、一度話しだすとそれから先は意識しないでも、言葉はあふれだす。
(;´_ゝ`)て「なんと!」
.
779
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:48:11 ID:yZraviHw0
('A`)「あっさりと盗賊の人質になった姿をオレは忘れない」
(;´_ゝ`)「ぐ、ぐぬ?!」
('A`)「砂クジラにふらふら近づこうとした姿をオレは忘れない」
(;´_ゝ`)て「はひぃ?!」
ドクオの言葉に、兄者の言葉の調子が面白いほど変わる。
先程までの真剣な色は薄れ、ろくに意味を成さない声が兄者の口からあがる。
それに調子を良くして、ドクオは思うがままに語り始めた。
('A`)「弟者の思惑に気づいてたのに、そのまま放置。
思うところがあってもなかなか言えないで、その挙句に兄弟仲悪化!」
::::( ∩_ゝ∩)::「ごめんなさい、俺が悪かったです」
途中から兄者が涙目になるが、ドクオは止まらなかった。
影の精霊の性質なのだろう。ドクオは意識しないまま、兄者が言われたら嫌であろう言葉を投げつけていた。
('A`)σ「ぶっちゃけ、学習能力ないだろお前……」
(;^ω^)て「もうやめてあげてー!!!」
.
780
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:49:05 ID:yZraviHw0
('A`)⊂(´<_`#) ガシッ
そして、その瞬間。横から伸びてきた腕に、ドクオの体は掴まれた。
ぎりぎりと力を込めて、ドクオの細い体が握りつけられる。
ドクオを潰さんばかりに力を込めるその手は、弟者のものだ。弟者は、怒りの色を隠さないまま叫ぶ。
(´<_`#)「俺に何を言う、このクソ精霊!!」
(;´_ゝ`)「だから、俺はお前じゃなくて兄者でぇぇぇ!!!」
(´<_`#)「どっちも同じだろ、クソ兄者! どうせ半分は俺だ」
::(;゚A゚)::「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
(;^ω^)「あばばばば」
ピントのズレた弟者の言葉に、兄者の悲鳴にも似た声が重なる。
しかし、弟者は兄の声に、罵声にも似た言葉を投げ返した。
ただ一人、その場の会話の流れに置いて行かれたブーンは、どうすることも出来ずに言葉にもならない声を上げる。
.
781
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:51:36 ID:yZraviHw0
(;´_ゝ`)「だぁーかぁーらぁー!! もう大人なんだからやめなさいって!
お前がお兄ちゃんのことを俺というたびに、家庭内の空気がどんどんと悪く」
(´<_`*)「……誰も居ないところならいいのか、俺?」
兄者の言葉に、ずっと機嫌が悪そうにしていた弟者の表情が輝く。
その表情を見て、兄者はとうとう頭をガクリと落とした。
体の具合が良ければ頭を抱えたり、両手を振り上げていたであろう勢いで兄者は大きく嘆く。
(#´_ゝ`)「そういう問題じゃない! 嬉しそうにするのもやめ!
自分と他人はしっかりと区別しなさいというお話だ!」
_,
(´<_` )「む? よくわからんぞ、兄者。だって兄者は俺なんだろ?」
(;´_ゝ`)「ああ、もう! これだから嫌だったんだ俺は!
こんなもん子供のうちに、自然とわかる問題だぞ」
(;^ω^).。oO(なんだかわかんないけど、たいへんだおー)
兄弟の話の流れに置いて行かれた、ブーンは首をかしげながら思う。
そして、精霊のもう一人。弟者の手に握られているドクオは、ふと思った。
('A`).。oO(あ、これオレ助かったんじゃね?)
.
782
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:53:23 ID:yZraviHw0
(´<_` )「?」
( _ゝ )「もうやだ、お兄ちゃんやめたい。
なんで、本気でわからないとかそんな顔してるの?」
(´<_` )「……つまり、俺の方が兄をやればいいのか?
まあたしかに、肉体的には俺のほうが2年ほど年上になるが……」
(#´_ゝ`)「ダメー、お兄ちゃんの座はゆずりません!!」
(´<_` )「……? 違うのか?」
双子は互いにしかわからない話をずっと続けている。
ドクオは兄弟の言葉を、なんとなく聞きながら。彼ら兄弟がもめている根本的な原因に気づいた。
なるほどそういうことか、とドクオは弟者に握りつけられているのをすっかり忘れて、呟いた。
('A`)「つまりは、弟者が兄離れできない心配性だったのが全ての原因だと」
('A`)⊂(´<_`#)ギリギリギリ
その言葉と、弟者の腕に力がこもるのはほぼ同時だった。
弟者は兄者との言い争いに必死だったのを忘れて、腕に力を入れドクオの体を締め付けていく。
その力は、細いドクオの体を引きちぎろうとするほど強力だ。
.
783
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:55:37 ID:yZraviHw0
(;゚ω゚)て
(;´_ゝ`)「ちょ、弟者弟者! 顔が真顔! やめて!」
弟者の行動に、ブーンの表情が凍る。
突如黙り込んだ弟を不思議に思った兄者も、顔を上げて真っ青になった。
(;゚A゚)「イダイイダイ!! 羽もげちゃうぅぅ!!!」
(´<_` )「オレとしては死んでくれても問題はないのだが」
( ;ω;)「おーん! やめるおー!!!」
ドクオを握る弟者の手にさらに力がこもる。
締め付けられる力は一向に緩む気配はなく、やがてドクオの意識が遠のいていく。
.
784
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 20:57:26 ID:yZraviHw0
(#´_ゝ`)「やめろ!!」
兄者の声が聞えると、ドクオは思った。
――そう思うと同時に、弟者の手の力が急に弱くなる。
(*'A`)「勝つる!」
しめたと思いながら、ドクオは弟者の手の間から脱出すると、あわてて距離をとった。
(;'A`)「ふぅ。たすかったぁぁぁ……」
(´<_`#)「このっ!」
弟者が、逃げたドクオを再びつかもうと腕を伸ばす。
それを押さえ込んだのはブーンと、動けなくなっていたはずの兄者だった。
.
785
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:00:04 ID:yZraviHw0
(#´_ゝ`)つ「いい加減にしろ。これ以上やるなら、日干しにするぞ!」
兄者の一喝が、弟に向けて飛ぶ。
さっきまでちっとも動けなかったのが嘘のように、兄者の体はがっちりと弟を押さえ込んでいる。
(゚<_゚ ii)「――ぐっ」
一方、押さえつけられた弟者の顔は真っ青だ。
その唐突な弟者の変化に、ドクオは兄者が弟者の力を奪ったのかとようやく気づく。いや、痛みを戻したのかもしれない。
そうか、兄者にも出来たのかとドクオは弟者の姿を眺めながら思った。
(∩#´_ゝ`)∩「弟者っ、返事っ!」
(´<_` ii)「とてつもなく痛いのだが……」
( ´_ゝ`)「安心しろ、俺はもっと痛いから」
顔を青くした弟者は、先ほどまでとは一転してかすれた声で言う。
そんな弟に視線を向けながら、兄者はきっぱりと言い切った。
.
786
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:02:42 ID:yZraviHw0
(´<_` ii)「なんだと……よくもそれで、大丈夫だと言ったな」
(;^ω^)「いたいのはよくないお……」
(;´_ゝ`)「あー、正直すまんかった」
兄弟とブーンの会話に、ドクオは今度こそ本当に助かったらしいと悟る。
しかし、このままでいれば、また下手なことを呟いて弟者に握りつぶされかねない。
ドクオはなんとか弟の前から脱出できないかと、辺りを見回し――気づく。
('∀`)「結界が解けてるじゃねーか!!!」
ゴーレムの出現以後、部屋にかかっていた結界が消えている。
どういうわけで、結界が消えたのかはドクオにはわからない。
しかし、脱出を阻んでいた障害が消えたことに、ドクオは心の底から喜んだ。
(;´_ゝ`)「なんと!!」
(; ゚ω゚)「え? え? どうしたんだお?!」
('A`)>「というわけで、オレは助けを求めに行ってくるから!」
.
787
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:04:16 ID:yZraviHw0
兄者やブーンの驚きの声に言葉を返さないまま、ドクオの姿が掻き消えた。
どうやら影に潜り込んだらしい。と、兄者は少し遅れて理解する。
(;^ω^)「おーん、ドクオまつおー!!」
ブーンも少し遅れて理解したのか、ドクオの消えた先――、影へと飛び込もうとする。
が、ブーンの体は音を立てて、固い地面へと激突した。
ブーンは起き上がると、ドクオが潜り込んだ草むらの影ヘ向けて腕を伸ばす。
( ´ω`)ノ「入れないお……」
影を叩いてみるが、地面の硬い感触が返ってくるだけで何も反応がない。
ブーンは肩を落とすと、兄者や弟者の元へと舞い戻る。
(;´_ゝ`)σ「逃げたわけじゃないよな……さっき思いっきり、弟者に握りつぶされてたし」
(-<_- ii)「知らん。俺は兄者のいうことはもう聞かん」
(;´_ゝ`)「……弟者のやつまた、スネてるし」
ブーンが舞い戻った先では、双子の兄弟はまた言い争いをはじめた。
しかし、その空気は先程までと比べると幾分か柔らかい。
.
788
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:07:03 ID:yZraviHw0
(-<_- ii)「拗ねてない」
(;´_ゝ`)>「ちぇー、スネてると思うんだけどなぁ」
兄者は大きく溜息をつくと、ブーンに向けて苦笑いをしてみせる。
兄者はさてどうしようと辺りを見回し、草むらへと視線を向ける。
( ´_ゝ`)「弟者の尊い犠牲のお陰で動けるようになったし。今のうちに……」
( ^ω^)「アニジャ、どうしたんだお?」
( ´_ゝ`)「ちょっと忘れ物をだな」
兄者はブーンの言葉に応えると、壁へと向かって足を向ける。
顔を時折、引きつらせるのはまだ胸や体が痛むからなのだろう。
弟者が不機嫌そうに眉をひそめたが、兄を力づくで止めようとまではしなかった。
(*´_ゝ`)「よしっ――」
兄者は草をかき分けて進むと辺りを見回し、そしてその場に屈みこんだ。
何かを拾い上げているようだが、それが何かまでは弟者の場所からは見えない。
それは何だと弟者が問いかけるよりも早く、兄者は拾い上げたそれを懐へと仕舞いこんでいた。
.
789
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:08:39 ID:yZraviHw0
_,
(´<_` )「……」
( ^ω^)「うーん、何だおねー?」
(´<_` )「さてな」
( ゚ω゚) !
弟者の短い素っ気ない返事に、ブーンの瞳が大きく見開かれる。
なにかおかしな事でも言っただろうかと弟者は内心で首を傾け、ブーンに向けて短く問いかける。
(´<_` )「……どうした?」
(*^ω^)「オトジャがお話してくれたお! うれしいお!!」
話すだけならもっと前から話しているだろうと弟者は言いかけて、その言葉を飲み込む。
弟者がブーンにしっかりと話しだしたのは、ゴーレムが出現した時からだ。
ブーンからしてみれば、非常事態に対応するための一時的な手段と思っても不思議ではないだろう。
.
790
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:10:16 ID:yZraviHw0
喜ぶのはそれでか。
弟者は、ブーンの考えを推測すると小さく笑みを浮かべる。
(´<_` )「そんなことが嬉しいとは、ブーンは変なやつだな」
(#^ω^)「そんなことじゃないお! ブーンにとってはすっごく大事なんだお!」
ブーンの様子が真剣なものだから、弟者はつい笑ってしまう。
そして、笑ってから弟者は、あれだけ毛嫌いをしていた精霊相手に笑える自分に驚いた。
_,
( ^ω^)「むぅぅ、なんでオトジャは笑うんだお?」
(´<_` )「さてな」
(;^ω^)「オトジャがいじわるするおー」
不思議と嫌悪感は湧き上がってこなかった。
むしろ、こうなってしまえばもっと前から話せばよかったとすら思えるから不思議だ。
(´<_`*)「はいはい」
ブーンの言葉に弟者は笑って、空を見上げた。
脇腹をはじめとした体の至る部分が痛みを訴えてくるが、そう嫌な気持ちではなかった。
.
791
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:13:16 ID:yZraviHw0
・
・
・
ドクオが帰ってくる気配はなかった。
逃げてしまったのか、それとも本人の申告の通り助けを呼びに行ったのか。
確かめることが出来ない弟者にはわからない。
(´<_`; ).。oO(流石にいつまでもこのままというわけには、いかないな)
しかし、外に出る気力や体力は、尽き果ててしまっている。
痛みを訴える脇腹や、疲労にあえぐ全身が、もう寝てしまえと強烈に誘いかけてくる。
それでも、どうにかして外に出なければならない。
(´<_` )「兄者、いつまでそうしている。
動けるならばそろそろ助けを――」
意を決して声を上げた、その瞬間。
弟者の目の前に、薄水色の毛並みの手がつきつけられる。
驚いて視線をあげると、そこには辺りを歩いて満足したらしい兄者の姿があった。
.
792
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:14:59 ID:yZraviHw0
( ´_ゝ`)「ほい、忘れ物。これを忘れるなんてとんでもない」
(´<_`;)「あ……ああ」
兄者の手から差し出されたものを弟者は受け取る。
一体なんだろうと手を開いてみれば、そこにあるのは金貨や銀貨だった。
――そういえば、ゴーレムに向けて投げつけていたのだった。
弟者はそう思い、礼を言おうとして――扉の外が、急に騒がしくなっていることに気づいた。
( )「…い!……、 ! …か!?」
( )「 える? 、… !」
ドンドンと何かを叩きつける音、それから扉越しではっきりしないが呼びかける声も聞こえる。
(´<_` )「兄者、何か聞こえ……」
弟者がそう声を上げた瞬間、足元が揺らぐ。
一体、何事だと弟者はシャムシールの柄に手を掛ける。
敵か? だとしたら戦わなければならない――。
.
793
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:16:16 ID:yZraviHw0
しかし、弟者の警戒は杞憂で終わった。
弟者の足元を一瞬だけ揺るがして登場したのは、ドクオだった。
(;'A`)「おい! 人を呼んできたぞ!」
おそらくは、影から出たのであろう。
ドクオは自らの言葉通り、ちゃんと仕事を果たしたらしい。
逃げたのではなかったのか、と弟者は反射的に言いかけて、精霊ではあるとはいえ流石に失礼かと思い直す。
(*´_ゝ`)「おお、本当に助けを呼んできたのか! てっきり逃げたのかと!」
<(;'A`)>「もう、それは忘れてくれ!」
一方の兄者は、ドクオに驚いたような表情を浮かべると、すぐにそう言い放った。
どうやら兄者は思慮という言葉をどこかに置き去りにしてきてしまったらしい。
( ^ω^)「ドクオ、呼んできたって誰をだお?」
(;'A`)「そうだ! そうだよ、聞いてくれよ!」
.
794
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:18:14 ID:yZraviHw0
ドクオは兄者の言葉に頭を抱えてのたうちまわった末、扉を指さした。
(;'A`)ノ「ちゃんと連れてきたぞ、麗しのしぃさんを!」
(,,#゚Д゚)「ゴルァーーっ!!!」
ドクオの声と、男の野太い声が聞こえるのはほぼ同時だった。
全身の毛を逆立てたギコが、扉をこじ開けその中へと入ってくる。
(,,#゚Д゚)「坊主ども、いるか!?」
( ;_ゝ;)「しぃ者、随分とゴツくなって!」
(;^ω^) !?
兄者たちのいる最奥の壁際と、入り口の扉は遠い。
だから、あまりにもひどいその言葉はギコには届かなかった。
(,,*゚Д゚)「よかった! そこにいやがったか!」
(;゚ー゚)「みんな、大丈夫?!」
.
795
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:20:13 ID:yZraviHw0
ギコの後に続くようにして、しぃの姿が現れる。
黒のドレスと赤の飾り紐が風に揺れ、しぃの桃色の毛並みが鮮やかに見えた。
広間の一番奥に兄者や弟者がいることに気づくと、しぃはドレスが汚れるのにも構わず駆け出した。
(;゚ー゚)「血まみれじゃない!? 大丈夫なの兄者くん」
しぃは長い距離を駆け抜け兄弟のすぐ傍らにたどりつくと、顔を青くした。
手当も何もしていない兄者の頭は、流れだした血で赤く染まっている。
( ´_ゝ`)「あー、これは俺じゃなくて弟者が」
(#゚ー゚)「兄者くんは、黙ってて!」
(;´_ゝ`)て「なんと理不尽な!?」
そう叫んだ瞬間に、口の中が切れたのか、兄者の口元から血が溢れ出る。
兄者はあわてて血を拭うが、その行動は遅かった。
しぃは真っ青な顔で兄者の怪我を見、弟者の様子を尋ねた。
(;゚−゚)「弟者くんは、大丈夫なの?」
(´<_`; )「俺は、兄者に比べればマ」
(#゚ー゚)「やっぱり、血が出てる。それに、全身ボロボロじゃない」
.
796
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:22:56 ID:yZraviHw0
(,;゚Д゚)「おい、本当に何かあったのか?」
最奥の間は、ギコが知るものとは異なっていた。
何か大きなものに滅茶苦茶にされた地面と、踏み荒らされた草。
部屋の奥には何処から出現したのかわからない、大きな岩の塊――ゴーレムの成れの果てがゴロゴロとしている。
祭壇の周りは割れたり倒れたりした壺や燭台が散乱している。
そして何より目を引いたのは、部屋の最も奥に位置する壁が焼け焦げたかのように黒く汚れていることだ。
( ´ω`)「すっごいいろいろあったんだお……たいへんなんだお……」
(,,;゚Д゚)「二人はボロボロだし、一体どうしたんだ」
武器を構え周囲を警戒し、何もないことを確認したところでギコはそう口にした。
しかし、ギコの疑問に答えるものはいない。
正確にはブーンが答えているのだが、ブーンの言葉では説明にはなっていないし、精霊を見ることの出来ないギコにはわからない。
(,,;゚Д゚)「おい、兄者」
(;゚ー゚)「ギコくん。今はそれより応急処置を」
(,,;-Д-)「……だな」
.
797
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:24:21 ID:yZraviHw0
ギコは背負っていた荷物から、何やら袋を取り出すとしぃに手渡した。
そこには包帯や塗り薬らしきものが入れられている。
(;゚ー゚)「怪我の具合はどうなの?」
(;´_ゝ`)「そう言われると、説明のしづらい……」
(*'A`)ノ「しぃさん、お手伝いしますぅ!」
しぃは袋の中から布を水筒と取り出すと、兄者の被り布を外し傷の観察をはじめる。
兄者はそれに、居心地悪そうに視線を外すと、言葉を濁す。
ドクオはといえばしぃと一緒にいるのが嬉しいのか、ニヤニヤと笑顔を浮かべしぃの周りをひたすら飛び回っている。
(*'∀`)「しぃさん! しぃさん!」
(;´_ゝ`)「お前はちょっと黙ったほうがいいと思う件」
(;゚ー゚)「ほら、兄者くん。おしゃべりしてないで、ちゃんと怪我を見せて」
(#'A`)「ずるいぞ! オレだってしぃさんに優しく手当てされたい!」
しぃは兄者の怪我の具合を見ると、困ったように息をついた。
(;゚ぺ)「どうしよう、仙丹で足りるかしら。あまり具合がひどいようなら、もっと他のお薬を……」
.
798
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:27:16 ID:yZraviHw0
(,,゚Д゚)「弟者は手を出せ。薬の前に怪我の方をどうにかする」
と(´<_` )「把握した」
( ^ω^)「いたいのいたいのとんでいけーだお!」
一方、弟者にはギコが慣れた手つきで治療の準備を始める。
弟者の手を眺め「無茶しやがって」と口にすると、鞄の中から布を引っ張り出した。
(´<_` )「それは何だ?」
( ^ω^)「オマジナイってやつらしいおー」
(,,;゚Д゚)「え? 止血用の普通の布だが……」
弟者の問いかけに、ブーンとギコが同時に言葉を返す。
両者の答えに弟者は「ふむ」と呟くだけだ。
弟者の様子にギコは「そんなに変なものに見えるか?」大きく首をかしげると、弟者の腕を縛り上げ止血をしていく。
(´<_`;)「また、あの胡散臭い薬を飲まされるのか……」
弟者はギコにされるがままになりながら、小さく呟いた。
.
799
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:28:58 ID:yZraviHw0
・
・
・
治療にはそれほどの時間はかからなかった。
弟者は「あんな胡散臭い薬は嫌だ」と抵抗していたが、それも虚しく終わった。
しぃの笑顔と、ブーンの「おクスリのまなきゃダメだおー」という言葉が効いたらしいが真相は定かではない。
ヾ(*´_ゝ`)ノ「見ろ、ブーン!! 俺、復活! 俺、ふっかーつ!!」
( ;ω;)「よかったおー」
兄者も弟者も受けたダメージが大きすぎたためか、仙丹を使っても完全回復というわけには行かなかった。
とはいえ、一時は完全に動けなくなっていた兄者にとってはそれでも嬉しいのだろう。大はしゃぎだった。
(;゚ー゚)「もう、あくまで応急処置なんだから無茶しないで」
(´<_`;)「……応急処置ってことは、まだあるのか?」
(,,;-Д-)「しぃは胡散臭い薬を集めるのが好きだからな。覚悟しとけ」
(*'A`)「しぃさん……なんて素敵な趣味なんだ」
.
800
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:30:36 ID:yZraviHw0
( ´_ゝ`)b「まぁ、何事も経験だ。諦めろ」
眉をひそめて嫌そうな表情を浮かべた弟に向けて、兄者は言い放つ。
弟者はその言葉に言葉を返そうとして、ギコが何かを言おうとしていることに気づいた。
弟者が顔を向けると、ギコはそれを会話終了の合図と見たのか、大きく口を開いた。
(,,゚Д゚)「――で、何があったんだ?」
(*゚−゚)「……」
猫の耳をピン立てて告げたギコの言葉に、兄者の顔がひきつり固まる。
兄者は助けを求めるように視線を右へ左へと泳がせたが、誰からも助けを出そうとはしない。
兄者は「ぐぬ」と奇声を発すると、答えを考えこむように黙った後ゆっくりと声を上げた。
(;´_ゝ`)「……いや、ちょっと大冒険みたいな?」
(´<_` )「ゴーレムが出た」
(,, Д ) ゚ ゚
.
801
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:32:47 ID:yZraviHw0
おそらくは話が穏便に済むようにと考えられた言葉は、弟者によって即座に打ち砕かれた。
その言葉に、ギコは絶句し、目玉が飛び出さんばかりに目を見開いた。
青い毛並みに覆われた顔が青ざめ、尻尾が一気に逆立つ。
(,,ii゚Д゚)「な、ななななな」
(;゚ 。゚)「そ、それってどういうこと?」
ゴーレムという言葉は、ギコにもしぃにも覚えがあった。
その昔に、猛威を振るったという人工の怪物。その名は老人の口や、お伽話によって聞かされている。
さらに言えば、しぃはソーサク遺跡の調査の責任者を務める学者だ。
ゴーレムが出現した時の恐ろしさは、彼女が誰よりもよくわかっていた。
_,
(´<_`#)「どういうことだもない。ここは安全なんじゃなかったのか?」
(,,ii゚Д゚)「何十回も調査してるんだぞ、何でよりにもよってそんなことに」
( - -)「ギコくん。もういいわ、これはこちらの落ち度よ。
本当にごめんなさい」
動揺を隠しきれないギコとは対照的に、しぃは冷静さを取り戻していた。
責任者らしくピンと背筋を伸ばして、彼女は謝罪の礼をとる。そこには先ほどまでの動揺は微塵も見られない。
代わりに、緊張をたたえたような硬い表情だけがそこにあった。
.
802
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:34:33 ID:yZraviHw0
(;´_ゝ`)「ギコ者やしぃ者が悪いわけじゃないんだから、時に落ち着け弟者!
しぃ者もそこまで深刻にならなくとも、俺らは平気だし。大事には……」
(*゚−゚)「ダメよ。責任はちゃんと取らなきゃいけないわ。
申し訳ないのだけれど、ここを出たらもっと詳しく話を聞かせて貰える?」
(;´_ゝ`)「……ぐ、ぬぅ」
しぃの言葉は正論だ。
それがわかってしまうから、兄者もそれ以上庇い立てするような言葉が出せない。
(,,;-Д-)「……」
(´<_`;)「……」
( ^ω^)「……お?」
しぃの言葉を否定するものは誰もいなかった。
弟者はしぃの言葉に毒気を抜かれたように黙り込み、ギコは悔しそうな表情を浮かべ小さく舌打ちをする。
ただ一人、状況をあまり理解できていないらしいブーンだけが、首を横にかしげて飛んでいた。
.
803
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:36:09 ID:yZraviHw0
( ゚−゚)「じゃあ、話は後ですることにして、とりあえずは外に出ましょう?
ここじゃあ、何かあっても対処できないわ」
(*'A`)「素晴らしいです、しぃさん!」
(*゚ー゚)「ギコくんも、ね?」
(,,-Д-)「……わかったよ」
誰からの答えがないのを、肯定の合図ととったのかしぃが話をまとめる。
彼女はなだめるようにギコの肩を叩くと、兄者と弟者を扉へ向かうように促す。
( ´_ゝ`)「うーむ。名残惜しいような気がするが、この場所とはお別れか」
(´<_`;)「名残惜しいなどとよく言えたものだな。俺はこんなところはもう御免だ」
( ´ω`)「もう出れないかと思ったお…」
そんな会話を繰り広げながら、兄弟は立ち上がる。
治療の甲斐もあって、二人の足取りは軽い。遺跡から出るのには何の支障も無いだろう。
先ほどまで大怪我をしていたとは思えない彼らの気楽な様子に、ギコは大きく溜息を付いた。
.
804
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:38:08 ID:yZraviHw0
(,,;゚Д゚)「まったく、お前ら二人は。
どうしてそう毎度、毎度、厄介事に巻き込まれるんだ?」
それは、ギコにとっては心の底から出た言葉だった。
信じられないという気持ちと、おそらく自分ならば耐えられないだろうという感服の気持ちを込めてギコは告げる。
(´<_`#)「そんなの俺が知りたいくらいだ」
(,,-Д-)「ほんとに、毎回命があるのが不思議なくらいだぞ」
(*´_ゝ`)「うむ。退屈な日常にはこれくらいのスパイスがないとな」
(´<_`#)「兄者はっ――、」
ギコと兄者の言葉に声を荒げながら、弟者の思考は一瞬止まった。
兄者は余裕な様子で、笑顔を浮かべている。
あれほどひどい目にあったのに、笑っていられる兄者が不思議で……。
自分はこんなにも苛ついているのというのに、どうして兄者はそうなんだと声を上げようとして、弟者はふと気づく。
(´<_` )「……」
.
805
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:40:20 ID:yZraviHw0
――俺と、兄者が違うというのはこういうことか。
.
806
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:42:16 ID:yZraviHw0
考えてみれば当たり前なことだったが、それは弟者にとってはじめての感覚だった。
こんな簡単なことに、なぜこれまで気づかなかったのだろう。
そう不思議に思いかけたところで、弟者は先ほどの兄者の発言に聞き逃せない部分があったことにようやく気づく。
( ´_ゝ`)「ん? どうかしたか?」
(´<_`#)「こんなことがそう毎度毎度あってたまるか。
お前はアホか! 馬鹿か! 死ぬのか!」
('A`)「同じようなこと兄の方も言ってなかったか?」
( ^ω^)「んー、おそろいなのかお?」
(´<_`#)「こんなのと一緒にされてたまるか!!!」
気づけば、兄者はにやにやと笑顔を浮かべている。
何が面白いのかわからないが、兄者は笑いながら口を開いた。
( ´_ゝ`)「でも、ま。大丈夫だろうさ。
俺だけなら死ぬかもしれんが、俺にはよくできた弟がいるしな」
(´<_` )「……なんというか。兄者はたまに本気ですごいな」
.
807
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:44:23 ID:yZraviHw0
「俺」ではなくて、弟扱いされたのは癪だった。
けれども、いつもの笑顔でそう言い切れる兄者は、実はすごいやつなのではないか。
――気づけば弟者は、そう自然に思っていた。
\(*´_ゝ`)/「そうかそうか〜。お兄ちゃんは本当にすごいか〜
かっこよくてイッケメーン!で、道行くおにゃのこたちも惚れちゃう感じか」
(´<_` )「ああ、自分一人で必死だったのがアホらしくなった。
でも、イッケメーン!じゃないし、道行くおにゃのこたちは惚れないから安心しろ」
\( ;_ゝ;)/「ひどい」
「俺」というくくりを外して、兄者を別の人間としてみる。
兄者の言うことは今はまだ正直よくわからないが、少しずつ気づいて、慣れていけばいい。
いくらでも時間はあるのだから――。
弟者ははじめて、自分とは違う存在である兄へと向けて、言った。
(´<_`*)「流石だよ、兄者は」
弟者は笑顔を浮かべている。
それは人ではないブーンやドクオのような精霊ではなかなかできない、少年のような笑みだった。
.
808
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:46:38 ID:yZraviHw0
(,,゚Д゚)「おい、いつまで話してるんだ? さっさと行くぞ!」
(*゚−゚)「もしかして、まだ具合が悪い?」
ギコとしぃが、呼ぶ声が聞こえる。
いつの間にやらギコは、しぃとともに扉の間近へと進んでいた。
(*'∀`)「しぃさん待ってくださーい!!」
(;^ω^)「おいてかないで、だおー」
二人の呼びかけに、ドクオとブーンが飛んで行く。
そして、残された兄弟も笑い合うと、扉へと向けて走りだした。
ヾ(*´_ゝ`)ノシ「今行くぞー」
(´<_` )「急ぐのはいいが、転ぶなよ」
走りながらも、弟者は最後に一度だけ振り向いた。
崩れ落ちた巨大な岩の欠片、焼け焦げた壁、荒らされた祭壇と地面。
――戦闘の傷をいたるところに残しながらも、遺跡はひっそりと、静かに眠っている。
弟者は小さく頷くと、今度こそ振り返らずに走り始めた。
.
809
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:48:18 ID:yZraviHw0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
そこからは驚くほど何事も起こらなかった。
ゴーレムとの死闘が嘘だったように、遺跡はただ静かに横たわっていた。
荒れた庭を抜け、浮き彫りの施された廊下を通り、そして黒い鉄の扉を開く。
行きにはとても長いように感じられた道のりは、あっけないほど短かった。
(#*゚;;-゚)「……!」
そして、調査隊本部では、でぃが待ち構えていた。
一人で留守番をしていたらしい彼女は、半分泣きそうになりながらも一同を出迎えた。
(*´_ゝ`)ノシ !
(#;゚;;-゚)「……」
黒い大きな天幕で治療の続きを受け、休息をとる。
それから、しぃによる長い長い質問が終わった頃には、かなりの時間がたっていた。
.
810
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:50:23 ID:yZraviHw0
(;´_ゝ`)「時に弟者よ、日の高さがえらいことになっているのだが……」
(´<_`;)「なんと」
天幕の下から空を見上げた兄者の声は曇っていた。
弟者はその声に慌てて空を見上げて、日がかなり傾いていることに気づいた。
ソーサク遺跡に到着した時には太陽はまだ真上に近い所にいたはずだから、あれからかなりの時間が過ぎたことになる。
柔らかくなっている日差しが、夕暮れはもう近いことを告げている。
(*゚ー゚)「あら……もう、こんな時間?」
(#゚;;-゚)「……みんなが……帰ってくるね」
(,,゚Д゚)「寝床なら用意できるから泊まっていけ」
しぃとでぃの姉妹と、ギコが宿泊を薦めてくる。
しかし、兄者と弟者はその言葉に首を縦には振らなかった。
(; ´_ゝ`)「いや時に待てギコ者よ。俺らは今日中に帰らなければマズイのだ」
(´<_` )「そうだな。今からでも帰らないと差し障りがある」
.
811
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:52:59 ID:yZraviHw0
空に落ちかかる太陽を見上げて、弟者は眉根をよせる。
予定よりも遥かに時間がたってしまっている。このままだと、日暮れまでに流石の街にたどり着くことは出来ないだろう。
となると……、
(´<_` )「夜行で強行軍か。どれだけかかることやら……」
( ;゚_ゝ゚)「夜行だと……。そんなことしたら、お兄ちゃん死んじゃう!
もうちょっと早く帰れないの!? 明日は、妹者たんと遊ばなきゃいけないんだぞ!」
(´<_` ;)「そんなこと言ったって、荒巻や中嶋の足ではどうやったって時間がかかるぞ。
それにこのまま帰らないと、兄者が一番まずい件」
兄者と弟者のやりとりに、ブーンは首を傾げた。
街に帰らなければならないのはわかったけれども、それはどうして美味しくないことになるのか。
( ^ω^)「んー、何でだお?」
(´<_` )「何でって、……そりゃあ、兄者は母者お抱えの星読み師だからな。
大商隊の逗留の間は治安が不安定になるから、兄者が抜けるのはマズイ」
(*゚ー゚)゛
(i;゚ー゚).。oO(あの、弟者くんが精霊とお話してる……)
.
812
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:54:28 ID:yZraviHw0
(;'A`)「お前、実はすごかったのか?」
(*´_ゝ`)b「流石だろ、俺」
(´<_` )「タダ飯食らいなんだから、せめてそのくらいは働け」
(;´_ゝ`)て
しぃの内心の動揺に気づかないまま、兄弟たちの話は進む。
精霊などを嫌い、完全に目の敵にしていた弟者の豹変。
しぃの内心の動揺は相当なものだったが、彼女の心情に共感してくれるはずのギコやでぃは残念ながら精霊が見えない。
「どうしたの?」としぃは問いかけようとして、その言葉をそっと胸に押さえ込んだ。
せっかくの弟者の変化だ。このまま見守ってあげたいと思うのは、年長者としても、弟者の姉の友人としても間違っていはいない気がした。
(,,;゚Д゚)「おい、お前らまさか本気で帰るつもりじゃねぇだろうな」
(´<_` )「帰るつもりですが、何か」
(,,#゚Д゚)「駄目だ駄目だ。旅慣れてないお前らお坊ちゃんじゃ無理だ。
特に、兄者。あれだけの大怪我だ。いくら回復したといったって、限界があるわボケ」
(;゚ー゚)「うーん。星読みは水鏡で伝えるというのじゃ、ダメなのかしら?」
(;´_ゝ`)「だがしかしだな……」
.
813
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:56:26 ID:yZraviHw0
( ´_ゝ`) !
眉根を寄せて真剣に思い悩んでいた兄者の脳裏に、雷光のようなひらめきがよぎる。
兄者はその考えを手繰り寄せ、少しの間考え込む。
そして、思いついた考えが実現可能だと確信すると、兄者は笑顔を浮かべた。
(*´_ゝ`)「要するにだ、夜になるまでに帰れればいいのだろう?
流石だよな、俺。完璧じゃないか!」
(´<_` )「……兄者。それができるのならば、そもそも俺らはここまで思い悩んでいないのだが」
(,,-Д-)「弟者に賛成だ。ここからだと、どれだけ急いでも途中で日が暮れるぞ。危険だ」
弟者やギコの反対にあっても、兄者の表情は崩れない。
むしろ聞いてくれといわんばかりに弟者とギコの顔を交互に眺め、笑顔を浮かべる。
( ^ω^)「飛べばひとっ飛びだと思うんだけど、ちがうのかお?」
('A`)「ブーン。それは、お前しかできない」
(;^ω^)「そ、そうなのかお?」
('A`)「弟者が言ってただろう。人は、飛べないってな」
.
814
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 21:59:25 ID:yZraviHw0
(*´_ゝ`)「ふっふっふー」
兄者は笑顔を浮かべ、弟者やギコの反応を待ち続ける。
しかし、兄者のその期待はすぐに打ち砕かれた。
(*゚ー゚)「とりあえず水鏡で連絡してみたらどうかしら?」
( <_ )「水鏡……」
(*゚ー゚)「あくまでも一つの手段だけどね。無理にとは言わないわ。
使いたいということなら、弟者くんたちのかわりに私かギコくんが連絡を取るから安心して」
(,,゚Д゚)「まあ、お前らはここで休んでいればいいってことだ」
( <_ )「……」
誰も聞いていない。
それどころか、弟者は鏡という単語に意識を奪われ沈黙すらしている。
表情すら浮かべない完全なる真顔。弟者のことは心配ではあるが、今はそれよりも……
ヾ(;´_ゝ`)ノシ「俺って無視されてないか? なんで、なんで?」
( ;_ゝ;)ブワッ (^ω^;) ('A`)
.
815
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:00:30 ID:yZraviHw0
( ;_ゝ;)ヾ(^ω^ )ヨシヨシダオー ('A`;)
('A`;).。oO(兄者のヤツ、やっぱアホなんじゃないか?)
兄者はひとしきり大袈裟に泣いてみたが、ブーン以外誰にも相手をしてもらえない。
それを悟った兄者はブーンの頭を撫でると、そばにいた弟者のマントを引っ張り声を上げた。
( ´_ゝ`)「だーかーらー、そんな顔しなくても帰れるんだって! ちゃんと、夜までに!」
(´<_` ;)「え? あ……よかった、な?」
(#`_ゝ´)「ちゃんと聞けって! 弟者が協力さえしてくれればどうにかなる!」
_,
(´<_` )「……」
弟者は眉をひそめると、兄者の姿を見た。どうやら兄者がまたろくでもないことを考えている、と思ったようだ。
一方の兄者は大きく頷くと、弟者の顔をまっすぐに見据える。
兄者の表情はいつのまにか真剣で、自信のなさそうな様子は微塵も見られなかった。
.
816
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:02:41 ID:yZraviHw0
( ´_ゝ`)「弟者、何があっても協力してくれるな」
(´<_` )「……」
弟者はその問いに返事をしなかった。
先程までのふざけた態度とはまったく違う真剣な様子に、弟者の視線が小さく泳ぐ。
( ´_ゝ`)「……」
弟者は何も答えない。
兄者もまた、真剣な顔を崩さないまま、弟者の返事を待つ。
(;'A`)「一体、兄者のヤロウは何する気なんだ?」
( ^ω^)「ブーンにはわかんねーですお」
そして、長い沈黙の末、弟者は大きくため息をついた。
(´<_` )「兄者のことだから根負けして、冗談の一つでも言い出すのかと思ったのだがな」
( ´_ゝ`)b「お兄ちゃんだってやる時はやるのだ――とでも、言っておこう」
.
817
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:05:19 ID:yZraviHw0
兄者と弟者のやりとりに気づいた、ギコとしぃが顔を上げる。
しかし、2人の会話だけでは兄者が何を狙っているのかはわからない。
ギコとしぃは顔を見合わせると、ちいさく首をひねった。
(-<_− )「把握した。不安なことこの上ないが、ここは俺が折れよう」
(*´_ゝ`)「つまり、何が起きても文句はないと」
(´<_` )「……文句は言う。が。協力するといった以上はつきあおう」
弟者の言葉に兄者は、眉を寄せる。
しかし、ここが妥協点だと思ったのか、「ふむ」と頷く。
(*´_ゝ`)「よし、約束したからな。
絶対、ぜぇーーったい協力しろよな!」
(,,゚Д゚)「おいおい、危ないことはすんじゃねーぞ」
(;゚ー゚)「……」
ヾ(*´_ゝ`)ノ「ギコ者も、しぃ者大丈夫だって! このお兄ちゃんを信頼しなさいって!」
.
818
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:06:04 ID:VPyeQ90g0
あのシーンくるか
819
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:08:12 ID:yZraviHw0
兄者は天幕の中から出ると、空を見上げた。
そして、大きく息を吸うと口元に指を当てる。
兄者が息をはくと同時に、空に鋭い音が響く。
指笛だ。
その音は、砂煙にけぶる空へと溶けて消える。
ただ、それだけ。しばらくしてみてもそれっきり何も起こらない……ように見えた。
(*゚ー゚)「……?」
(,,;゚Д゚)「何も起きねえじゃねぇか」
ギコが青い尾をくねらせて、溜息をつく。
しかし、そうではないことをギコとしぃ以外の全員が知っていた。
⊂二(*^ω^)二⊃「きたお!」
('A`)>「こんな場所まで、よくもまあ」
それは、まるで朝の繰り返しだった。
ブーンとドクオの精霊二人が、空を見上げて呟く。
.
820
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:10:26 ID:yZraviHw0
砂で霞みながらも、それでも青い空に黒い影が浮かんでいた。
影はみるみるうちに大きさを増し、驚くほどの速さで近づいてくる。
それは、大振りな牛や馬ほどの大きさだった。
がっちりとしたその体は鱗に覆われ、背には薄い飛膜を持った巨大な翼が生えていた。
夕暮れの空のような、薄桃色の光がきらめく。
:::(,,;゚Д゚):::「ななな、な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!!」
(*゚ワ゚)+「竜よ。飛竜だわ!! すごい、こんなに近くに!」
(#;゚;;-゚)「……っ!」
黄金の色を湛える瞳が揺れる。
その巨体には不釣り合いな、愛らしい顔つき。
夕暮れ色に輝くその体は、竜そのもの。生ける伝説とも讃えられる、空の王者がそこにいた。
(*´_ゝ`)ノシ「ピンクたーん!! こっち、こっちだ!!!」
(´<_`; )「……まさか」
兄者の顔が輝き、弟者の顔が引きつる。
対照的な表情を浮かべる兄弟に向けて、ピンクたんと可愛らしい呼び名で話しかけられた竜は唸るように声を上げる。
そして、翼を大きく羽ばたかせると、薄桃色の竜は兄者の正面へと着地した。
.
821
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:12:59 ID:yZraviHw0
(Σ Οw)
ずどんという音と共に、大地が揺れる。
しぃは大きく瞳を輝かせ、ギコは大きく口をあけて、でぃは無言で息を呑み、竜の姿を見つめている。
ヾ(*^ω^)ノシ「ピンクたんだおー」
(*´_ゝ`)ノシ「よしよーし、よくぞ来てくれたなピンクたん!」
兄者の声に、竜は子猫のように頭を兄者の体へとこすりつけた。
喉の奥でぐるぐると鳴る声は甘えた生き物そのもので、空の王者らしき威厳はない。
(*゚ー゚)+「ねえ、兄者くん。この子どうやって懐かせたの?
噛まれたり、暴れたりしない? やっぱり賢い? 何を食べるの? 生態は?」
(,,;゚Д゚)「しぃ、落ち着け! そんなホイホイと、近づくんじゃねぇ!」
(*^ー^)「あら、学問の探究って大事なことよ」
(∩;゚Д゚)∩「しぃ! 落ち着け、危ない! これだから学者ってヤツは…」
(#;゚;;-゚) ビクビク
.
822
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:14:15 ID:yZraviHw0
好奇心収まらぬしぃをギコがなだめ、立ち直ったしぃがでぃを落ち着かせる。
興奮の時間は過ぎ、辺りにはようやく落ち着きが訪れた。
( ´_ゝ`)「荒巻たちラクダがダメなら、竜のピンクたんにお願いすればいい」
(´<_`; )「まさか、ここでこいつを持ってくるとは……」
(*´_ゝ`)「どーだ、びっくりした?」
夏の出歩くことすらままならない季節も過ぎ去り、それでも暑さを失わない秋。
日は傾き、夕暮れの気配が漂い始めたその時刻。
兄者はよっと声を掛けると、竜の背に軽々とまたがった。
( ´_ゝ`)「まあ、いろいろあったが……」
砂漠の真っ只中。
オアシスの麓にひろがる故郷から離れたソーサク遺跡。旅の終着の地。
災難も終わったし、ここから先は帰るだけ。
(*´_ゝ`)つ 「さあ、行こう」
そして、兄者は双子の片割れに向かって、手を差し伸べた――。
.
823
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:16:58 ID:yZraviHw0
差し出されたその腕は、まるで朝の繰り返しだった。
(-<_- )
弟者は兄の背を眩しそうに見やって、その瞳を閉じる。
ためらいはほんの少し、もう言われるまでもなく返事は決まっていた。
(´<_` )「流石だよな、兄者は」
( ´_ゝ`)b「知らなかったのか? 俺は、流石なのだ」
(´<_` )「悔しいが、約束してしまったからな。こうなったら付き合ってやるさ」
ふてぶてしいまでの片割れの言葉に、弟者は笑みを浮かべる。
口元を上げるだけの小さな笑顔。でもそれは、弟者の本心からの表情だった。
弟者の足が、地を蹴る。
⊂(´<_` )
――差し出されたその腕を、弟者はとった。
.
824
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:19:02 ID:yZraviHw0
(*´_ゝ`)ノシ「じゃあなー、しぃ者もギコ者もでぃ者も元気でー!!」
( ^ω^)「アラマキとナカジマをおねがいだおー!」
(´<_` )「ラクダを頼むな」
(#*゚;;-゚)「……わかってる。……二人とも、元気で」
(,,゚Д゚)「達者でな―。こっちの調査が終わったら顔を出すから、その時は歓迎しろよ!」
(*゚ー゚)「みんな気をつけてね。危ないことだけはしちゃダメよ……」
<(*'A`)>「わかりました! わかりましたよ、しぃさん!!」
(;゚ー゚).。oO(どうしてあんなに嬉しそうなんだろう。あの子)
二頭のラクダをでぃたちに譲り、別れの言葉を交わす。
ラクダは砂漠の民たちにとっては財産に等しい。
だから、荒巻と中嶋は大切に扱ってもらえるだろう。
( ´_ゝ`)「よーし、懐かしき我が家へ出発だ!!」
.
825
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:21:41 ID:yZraviHw0
(´<_`;)「た、頼むな。ピンク……たん」
(Σ*Οw)
弟者が恐る恐る声を上げると、竜は喉を鳴らして返事をした。
案外いいやつなのかもしれない……と、弟者は一瞬思いかけてすぐに気を引き締める。
何しろ竜に乗って飛ぶのなんて初めてだ。これから何が起こるのか、わからない。
(´<_`;)「おい、兄者。気をつけろ」
(*´_ゝ`)「大丈夫だって! ピンクたん、飛べ!!」
(\(Σ*Οw)
^^
夕焼け色の竜の翼が広げられ、二度三度と上下に動かされる。
羽の動きは力強さを増していき、やがては完全な羽ばたきとなった。
(゚<_゚ ; )「時に待てぇ!!! 心の準備が」
弟者の叫びも虚しく、竜の足が地を離れる。
竜の翼は大きな風を起こし、その体躯を空へと浮かび上がらせる。
.
826
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:23:50 ID:yZraviHw0
(;゚A゚)「ちょ、オレを置いていくなぁぁぁ!!!」
兄弟をその背に乗せて、竜の背は高く高く舞い上がっていく。
地面は遠のき、飛び降りたら命がないような高度まで舞い上がる。
(*^ω^)ノシ「ブーンもいっしょにいくおー!!」
(\(Σ*Οw)
^^
そして、竜の体は街へと向けて飛び立つ。
風は兄者の頭の飾り布や、弟者のマントを飛ばさんとばかりに吹き荒れる。
(゚<_゚ ; )「と、と、と、飛んでる!!!」
(*´_ゝ`)「あったりまえだろ、ピンクたんは飛んでいるのだ!!」
兄者は竜の首にしがみついて笑い、弟者は表情を凍りつかせる。
ドクオはなんとか竜にしがみつき、ブーンは風を捉え気持よさそうに飛ぶ。
ttp://buntsundo.web.fc2.com/ranobe_2012/illust/11.jpg
.
827
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:25:56 ID:yZraviHw0
( ^ω^)「お? 雨のにおいがするお」
(´<_`;)「なん、だと……」
空を覆う雲は、暗く厚い。
確かに兄者も雨が降ると言っていたが、まさかそれが今とは……。
こいつは雨でも大丈夫なのだろうか?――と、弟者は竜の顔をそっと伺う。
(Σ;Οw)
弟者の視線を受けてか。それとも、本能的に天候の変化を感じたのか。
竜は小さく唸ると、背の翼を大きく羽ばたかせる。
いつの間にか、肌を撫でる風は、空気がじとりと水気を含んでいる。
(*'A`)「影が出てきた。これはオレにも勝機が」
( ´_ゝ`)「――きた!」
雲から滴り落ちた雨粒が、兄者や弟者の体へと落ちる。
しかし、その毛並みを湿らせる程度でそう勢いは強くない。
雨粒は細かく、視界を白にゆっくりと染めていく霧のような雨だった。
.
828
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:28:33 ID:yZraviHw0
弟者は何気なく視線を地面に向け、そして息を呑んだ。
その動きにつられたのかドクオも地上を――、一面に広がる砂の丘を眺め声を上げた。
(;'A`)「へっ?」
見下ろした地面は、雨に濡れていなかった。
降りしきる雨は、大地に届かずに消える。
熱を吸った大気があまりにも暑すぎて、雨は降るそばから乾き地面には届かない。
(´<_` )「……」
飛ぶことの出来ない弟者にとって、それははじめて見る光景だった。
伸ばした片手ははっきりと雨に濡れている。それなのに、砂丘はこの雨など知らないように横たわっている。
その不思議な光景を、弟者はただ見つめていた。
( ^ω^)「アニジャの天気よほーがあたったお! すごいお!」
d(*´_ゝ`)「晴天。砂嵐なし。風、気温ともに良好。夕暮れに雨が降るけど、霧雨。地面には届かず。
バッチリだろ! なんと言ったって、外したことはないからな!」
.
829
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:30:17 ID:yZraviHw0
やがて、しとしとと竜や兄者たちの体を濡らしていた雨も止む。
雲の間からは強い日差しが再び現れ、砂丘を明るく染める。
そして、弟者は見た。
(´<_` )「……っ!!」
空に、虹がかかっている。
赤や青に色づく光が、光の橋を地上へと向けて投げかけている
こんなものめったに見れないとか、すごいとか言いたいことはいくらでもあるはずなのに言葉にならない。
兄者は気づいていない。きっと、ブーンやドクオもだ。
早く伝えなければと思いながらも、弟者は虹から目を離すことが出来ない。
(´<_` )「……」
美しかった。
空の上を飛んでいるという怖さも、もしこの竜が暴れたらという不安も頭のなかから消え去っていた。
弟者の体から緊張が解け、体の震えも止まる。
.
830
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:32:27 ID:yZraviHw0
(;´_ゝ`)「おい、弟者大変だ! 見ろって!! にじ、虹だって!!!
あっ、消え――」
兄者が虹の存在に気づいた時には、その形は空に溶けて消えようとしていた。
それでも、なんとか弟にその存在を知らせようと手を伸ばして、虹を指し示す。
(;゚A゚)ノ「もう限界! 兄者、影かせ影っ!」
( ;`、ゝ´)「今は影より見るものがだなぁ!!」
しかし、それを邪魔するように、竜をしがみつくのも限界になったドクオが兄者に飛びかかる。
兄者はドクオを振り払いながらも、皆の視線を虹へと向けようとするが、その時にはもう遅かった。
虹は半ば以上薄れ、はっきりとした形を失っている。
( ;_ゝ;)「そ、そんな……」
(; A ) ツカレター
( ^ω^)「……オトジャ? オトジャはにじ見れたかお?」
落胆する兄者から目を話し、ブーンは弟者へ問いかける。
その質問に、弟者は大きく頷く。
瞬く間に薄れ、もう消え失せて見えない虹の残像を弟者はひたすら追い続けていた。
.
831
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:34:56 ID:yZraviHw0
・
・
・
嘘のように、空の旅は快適だった。
(´<_` )「……」
一度、風にのってしまえば大きく揺れることもなかったし、風に吹き飛ばされるようなこともなかった。
落ちればひとたまりもないだろうが、広くしっかりした背は安定感があり、よほど馬鹿なことをしない限りは落ちる心配もなさそうだ。
⊂二( ^ω^)⊃「おっおー、楽しいお」
気づけば、弟者の体から余計な緊張は解けていた。
そもそも、冷静になって考えてみたら、ここにはブーンがいるのだ。
風を操ることが出来るブーンの力があれば、万が一落ちたとしても命の心配はない。
(´<_` )「……そうか」
……そんな風に考えられるほどに、いつの間にかブーンを信用している自分に、弟者は小さく苦笑いをする。
精霊なんて見るのも嫌だった自分は、一体何処へ行ってしまったというのか。
怖がりすぎてるだけという言葉が、ふいに脳裏に浮かんだ。
それはいつか、でぃが言っていた言葉だった。今日の事なのに随分前の出来事に感じる。
怖がりすぎているだけ……か。と弟者は息をつく。
何事も踏み込んでみたら、意外と大したことではないのかもしれない。
.
832
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:36:40 ID:yZraviHw0
遺跡を見て回り、ゴーレムと戦い、竜に乗る。
今日はなんという一日なのだろう。朝、目覚めたときは、こんな未来が待っているなんて思ってもいなかった。
(´<_` )「とんでもない一日だったな」
視線を下向けると、どこまでも広がる砂地が見える。
これなら予想よりも早く帰れそうだと考えながら、弟者はふと思い出した。
――そうだ。今日が終わる前、帰る途中に寄ろうと思った場所があったのではなかったのか?
(´<_` )「……そうだった。途中で下ろしてもらいたい所があるのだが」
弟者は前に座る兄に向けて、声を上げる。
兄者は弟の言葉にビクリと体を大きく震わせると、声だけで返事を返した。
(;´_ゝ`)「ま、まさか気持ち悪くなったのか?! それとも大自然が呼んでる的な」
(´<_` )「違う」
( ^ω^)ダイシゼン?
('A`)ベンジョ ダ ベンジョ
( ^ω^)ニンゲンッポイオー
(´<_` )「違うといっているだろうが……」
.
833
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:39:20 ID:yZraviHw0
兄者や精霊たちの掛け合いに、弟者が気を悪くした様子はなかった。
竜の上で動くのを嫌がったのか、それとも単に精霊たちに慣れたのかはわからない。
弟者は視線を地上に投げかけたまま、淡々と声を上げる。
(<_` )「花が見たいんだ」
( ^ω^)「花だったら、オトジャの家にあるんじゃないかお?」
(´<_` )「そうじゃなくて、明日は妹者の……」
後ろから聞こえた弟者の声に、兄者は肩を震わせ始める。
気分が悪いのは兄者ではないかと、弟者が声を上げようとする。
が、兄者の震えはそのまま笑い声へと変化する。
(*´_ゝ`)「ふっふっふー」
(;'A`)「兄者、気持ち悪っ!」
( ;´_ゝ`)「流石に失礼だぞ、ドクオ者よ!」
兄者はドクオに言葉を返しながらも、懐を探る。
そして、そこから何かを取り出すと、それを弟者に向けて差し出した。
.
834
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:41:16 ID:yZraviHw0
(; ゚_ゝ゚)つ「うわぁぁぁっと」
(#゚ω゚)「あぶないお!」
その拍子に、兄者の体がぐらりと揺れる。
空の上にいるということをすっかり忘れたのだろう、兄者の体は大きく傾き、そのまま倒れ込みそうになり、
――その体を弟者の手がぐいと掴んだ。
弟者は慌てることなく、服の背を掴むと兄者の体をピンクたんの背へと引っ張り上げる。
(´<_`#)「兄者は学習というものをしないのか!」
(;´_ゝ`)「正直すまんかった。――って、今はそうじゃなくて!」
兄者は手にしたものを弟者に向けて差し出す。
弟者は目の前に差し出されたそれに、怒鳴るのを忘れて息をのむ。
.
835
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:43:05 ID:yZraviHw0
兄者の手にしたそれは、花に見えた。
六枚の花弁を持つ、決して派手ではないけれども可憐な形をした花。
しかし、それはただの花とは違っていた。
(´<_` )「……これ、は?」
兄者の手にしたその花は、淡く色づきながらも透き通っていた。
まるで繊細なガラス細工だ。
触れた感触はガラスのように硬質でありながら、淡く透き通るその色は水のように移り変わっていた。
( ´_ゝ`)「なんでも、西方に咲く花らしい。
こっちでも育てることは出来るらしいのだが、暑すぎてどうしても花が咲かないらしい」
(´<_` )「そんなものが、どうして……」
( ´_ゝ`)「ソーサク遺跡の最後の広間。あそこ、涼しかっただろ」
弟者はその言葉に、兄者が今日一日の間何を企んでいたのかようやく察した。
ソーサク遺跡の奥にこの花が咲くことを、兄者はギコから聞いていたのだろう。
そして、兄者はギコの言葉から思いついたに違いない。
( ´_ゝ`)b「ソーサク遺跡のあの場所はどういうわけか、西方に近い環境らしいんだ。
だからなのか、あの部屋ではこの花がよく咲くらしいのだよ!」
.
836
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:46:00 ID:yZraviHw0
明日は、妹者の誕生日だ。
大商隊を迎える準備のために、ひたすら空や星を読んで働かされていた兄者は、妹者への贈り物を用意できていなかったに違いない。
残り短い準備期間の中で、兄者は妹者へ何を贈ろうと考えただろうか。
l从・∀・ノ!リ人
まだ十にも満たない妹者に贈るのに、装飾品はまだ早すぎる。
自然と妹者に贈るものといえば、少女の好むかわいらしいものになる。
異国の鳥、猫。リボン。装飾の施された綺麗な布――候補になりそうなものはいくつかあるが、兄者はきっとこう思ったのだろう。
そうだ。花はどうだろうか。
(-<_- ).。oO(俺だけあって、考えることは同じなのだな)
ソーサク遺跡には、珍しい花がある。
父者の育てる中庭では見ることのできない、きれいな花だ。
これを贈り物にしよう。妹者はきれいなものが好きだから、きっと喜ぶ――そう、思ったのだろう。
.
837
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:48:04 ID:yZraviHw0
(*´_ゝ`)「旅に出るぞ!」
今日一日の兄者の唐突な言葉と行動の意味が、今ならわかる。
兄者は妹者の誕生日に間に合わせるために、今日中にソーサク遺跡に行って帰ってくる必要があったのだ。
(´<_`#)「兄者は、もう少し根性をみせようか」
(;´_ゝ`)σ「根性を見せろって言われてもな……お前さんが加減さえしてくれれば、俺ももうちょっと」
(´<_` )「ふむ。そういえばそうだったな」
日頃から弟者に力や体力を回している兄者一人では、この遺跡まで来ることが出来ない。
体力の問題もあるし、万が一のことを考えれば護衛だって必要になる。
それで兄者は、休みで家にいて、なおかつ護衛も出来て、自分と同じく妹者への贈り物を用意できていないであろう弟に目をつけた。
( ´_ゝ`)「弟者ぁあ、いるかぁぁぁぁあ!!!」
つまりはじめから、弟者は妹者への贈り物を手に入れるための相方として選ばれていたということだ。
.
838
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:50:16 ID:yZraviHw0
(´<_` )「ふむ、なるほど。それで、その遺跡には何をしに?」
(;´_ゝ`)「――えっ?」
(´<_`;)「――えっ?」
l从・∀・;ノ!リ人「――えっ?」
目的を問われた兄者がすぐに答えられなかったのも当然のこと。
あの時、兄者のすぐそばには妹者がいた。
大方兄者は、本人を目の前にして、これから誕生日の贈り物を取りに行くのだと言うのをためらったのだろう。
魔法石板用の石板を取りに行くというのは口からの出任せだ。
妹者がいなくなってからも、石板と言い続けたのはきっと引込みがつかなくなったからなのだろう。
だから、石板を拾ったから帰ると主張する弟者に対してボロを出した。
η(#´_ゝ`)η「大体、目的のブツはこれじゃな」
兄者の目的は、はじめからこの花だった。
だから、石板を拾ったあの段階では帰るわけには行かなかったのだ。
そして、兄者は花を探して最奥の間に辿り着き、ゴーレムに襲われ部屋に閉じ込められるはめになった。
それでも兄者は戦いの後のごたごたの間に、探していたのだろう。
.
839
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:52:44 ID:yZraviHw0
――そして、旅の終わり。
兄者は無事にこの珍しい花を手にしている。
要するに、今日一日の出来事は全て兄者の計画通りだったというわけだ。
(´<_`;)「……よくもまあ、ここまで俺を騙してくれたものだな」
(;^ω^)「だました? アニジャだましてたのかお?!」
やっと呟いた弟者の言葉に、兄者はにんまりと笑う。
顔を見なくても弟者にはその声の調子でわかる。今の兄者は絶対に調子にのっている。
(*´_ゝ`)「ふっふっふー。
ギコ者やしぃ者からこの花のことは聞いていてな。これが今日、遺跡へ行った真の目的だったのさ」
(´<_`; )「――今日、最大にやられた気分だ」
弟者は息をつく。
兄者のことだから何も考えていないと思っていたのに、実際のところは大違いだった。
それにまんまと乗せられていたのだから、弟者としてはもう苦笑いをするしか無い。
(*>_ゝ<)「ほめてもいいのだよ、弟者くん」
(´<_` )「あー、はいはい。流石流石」
.
840
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:54:43 ID:yZraviHw0
(*^ω^)「あー、みんな見るお!」
('A`)「えー」
そんな兄弟たちの会話を遮るように、ブーンは手を翼のように広げながら声をあげる。
その声にドクオが面倒そうに声を上げ、溜息をついていた弟者も顔を上げる。
(;´_ゝ`)「ねぇ、ちょっと俺への褒め方ゾンザイじゃない?」
(´<_` )「お前のような嘘吐き、知るか」
兄者の言葉に返事をしながら、弟者はブーンが言った先を眺める。
弟者は下を見下ろし。そして、息を呑んだ。
(´<_` )「――あ、」
砂の丘のまっただ中に見えるのは、湖の姿がくっきりと見える。
慣れ親しんだ、“流石”の街。
それを取り囲むように、どこまでも続いていく砂の丘が見える。黄金の大地は、風が作り出す模様に彩られていた。
日は大きく傾き、砂の地平に落ちかかる太陽は火のように赤い。
.
841
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:57:52 ID:yZraviHw0
('A`)「もうこんなとこまで来てたのか」
(*^ω^)「あとちょっとで、街だおねー」
世界が少しずつ、赤へと染まり、闇へと沈んでいく。
それは、決して恐ろしいものではなかった。
(*´_ゝ`)>「おお!!」
自分が生まれる前から、魔王の時代から、それよりもずっと前の時代から。
ずっと続いてきた一日の終り。夜へと続く、夕暮れのほんの一瞬。
落ちゆく空の色は、竜の鱗のきらめきと同じ色をしている。
それを見ながら、弟者は思う。
(´<_` )「……こういうのも、悪くないな」
空は橙に、赤に、紫に、青にかわり、やがて漆黒の夜が訪れようとしている。
星がその数を増し、柔らかい月の光が太陽に変わり空を明るく照らしはじめる。
そこにはもう、昼の名残はどこにもない。
.
842
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 22:59:48 ID:yZraviHw0
(;´_ゝ`)「うう、さぶぃー。
こりゃあ、早く帰らんと凍死しちまうわ」
(*^ω^)「お? これくらいで寒いんですかお?」
( ´_ゝ`)b「俺は人間の中でもそうとう貧弱な部類に入るぞ!」
太陽が落ちるのと同時に訪れる風の冷たさに、前に座る兄者の体が大きく震えた。
灼熱で満たされる昼が嘘のように、この地の夜は寒い。
そうか。今日も、もう終わるのか。
弟者は不思議と名残惜しい気持ちになり、ふと口を開く。
どうせ今日はとんでもない一日なのだ。
もうーつや二つくらい、普段ならば絶対にあり得ないことが増えたって、別に悪くはないだろう。
(´<_` )「……ドクオ」
そして、弟者はドクオに話しかけた。
今日一日を共に過ごしながらも、決して話そうとはしなかった相手。
それどころか、死んでいなくなればいいとさえ思っていた、憎い敵のような存在。
そのドクオに向けて、弟者は言葉を発した。
.
843
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:01:23 ID:yZraviHw0
(;'A`)「ん?」
ドクオは小さく声を上げた後に、その声の主が弟者であることにその表情を固くした。
兄者の姿を見て、それから辺りを見回す。が、声の主は弟者という事実に変わりはない。
( ;A;)「ごごごごごめんなさい」
(´<_` )「いや、今はまだ怒ってはいない」
(#'A`)ノ「まだって、やっぱ怒るんじゃねーかよこのおにちく!!」
ドクオの反応に、弟者はふむと息をつく。
実際に声をかけて話してみれば、ドクオとの会話もまた、それほど不快ではなかった。
ドクオの方も、弟者によって散々な目に合わされているというのに、その言葉はこれまでとそう変わりはない。
良くも悪くも、精霊という生き物は単純なのかもしれない。
――と、弟者は考えて、これも今日までは決して考えようとはしなかったことだな。と、小さく苦笑する。
(´<_` )「いろいろと悪かった」
(;゚A゚)「は? お前、ついに頭おかしくなったんじゃねーか?」
弟者が苦笑いを浮かべたまま、今日一日のあまりにも遅い謝罪をすると、ドクオは途端に妙な顔になった。
その顔があまりにも変なので、弟者はつい笑ってしまう。
――何が精霊は楽しいぐらいしか感情が残っていない、だ。人間と変わりはしないじゃないか。
.
844
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:03:10 ID:yZraviHw0
なんだか、何もかもが愉快でおかしかった。
今日一日は本当に散々だったが、最後にこんなにおかしいことが待っているとは思わなかった。
(´<_` )「そうかもな。長年の苦労がたった一日でダメになって、ヤケを起こしてるんだ」
(;´_ゝ`)「え? なんで、俺の頭を叩くの?
てか、なんでお前は爆笑してるの? そもそも、何で急にそんなに素直になっちゃってるのさ?!」
これまでの十年間が間違っていたとは思わない。
兄者は危なっかしいし、危険だという自覚もないまま、これからも妙な出来事に突進するだろう。
だから、これからも自分は兄者を止めたり、諌めたりしなければならないだろう。
(-<_- *)「さてな」
――けれども、それも必死になって抱え込む必要は無いかもしれない。
馬鹿でヘラヘラとしているけれども、俺の半分はそれなりにすごいやつだった。
だから、一人で背負い込まなくても、きっと二人ならなんとかなる。
それに自分が気付けていなかっただけで、助けてくれる奇特なやつもちゃんといる。
かつてのツンや、先生のように。
そして、今日のブーンや、ドクオのように。
――だから、俺はきっとこれからも大丈夫だ。
ちゃんと、弟者として。普通の一人のように、やっていくことが出来る。
.
845
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:05:55 ID:yZraviHw0
(;´_ゝ`)「ちょ、おま。このお兄ちゃんに嘘つくって言うのか?
考えてることがだだ漏れの、あの弟者くんは一体何処へっ!?」
(;'A`)「あれでだだ漏れだというのか、お前は!!!」
(´<_` )「人をなんだと思っているのだ、失礼な」
( ^ω^)「……」
(*^ω^)「ブーンもまざりたいおー!!」
弟者の口元が、自然とゆるむ。
たまには、こんなのも悪くはない。と、弟者は思う。
(\(Σ*Οw)
^^
竜の背から見る世界は、なんだかとっても広く見えた。
それこそ、
.
846
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:06:41 ID:yZraviHw0
――彼が、ずっと嫌っていた、魔法のように。
.
847
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:07:22 ID:yZraviHw0
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
おわり
.
848
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:18:35 ID:mwwkQGYAO
面白かったー!乙!!
伏線回収も心境変化もすごく綺麗にまとまってて、読んでて爽快だった!
風景や天候と心理の合わせ方がすごく上手い。情景がすんなり目に浮かんだ。
完結ありがとう、後日談も楽しみにしてる!おまけも!
849
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:22:16 ID:PA7Y3QRs0
ついに終わってしまったー・゚・(つД`)・゚・
楽しかった!面白かった!
850
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:32:27 ID:yZraviHw0
休憩おわり。オマケ投下します
851
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:33:06 ID:kbZ3Xh2M0
おわ、来てたか!
なんか勝手に明日夜=日曜夜と思ってて不意打ち食らった
これから読んでくる!!
852
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:33:23 ID:yZraviHw0
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「今、帰ったよ」
::l从・д・illノ!リ人:: ガタガタガタ
∬´_ゝ`)「おかえり、母者。時に母者に報告したいことがあるんだけど……」
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「ただいま。妹者、挨拶は?」
::l从・∀・illノ!リ人::「おおおおかえりなのじゃ!」
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「ただいま、妹者。
で、姉者。報告したいって言うのは何だい?」
.
853
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:34:47 ID:yZraviHw0
.@@@
@ _、_@
/(# ノ`)\
_/__〃` ^ 〈_ \
γ´⌒ |i、___/|ヽ⌒ヽ
/ ィ ┘ `i´ L ) `ヽ,
/〜〜〜ノ~~~~~~~~~~人〜〜〜
! ,,,ノ |\.=┬─┬=く ^ > )
( <_ .| | | | / /
ヽ_ \ | | | 〃 /
ヽ、__」 .| | 〈__ソ、
〈J .〉、| | |ヽ-´
/"" | | .|
/ | | ヽ
/ | | ヽ
/ | | ヽ
<_,、_,、_,、_,、_,.| |,、_,、_,、_,>
y `レl | | リ
/ ノ |__| |
l / l;; |
〉___〈 〉_|
/ヽ__ノ| (_ヽー\
(_^__ノ `ヽ__>
おまけ劇場 l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです
.
854
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:36:58 ID:yZraviHw0
て
@@@ そ
@#_、_@
( ノ`) 「一体、どういう事なんだい!!!」
::l从 д illノ!リ人:: アワワワ
∬´_ゝ`)「どういう事なんだいも何も、話した通りよ。
他ならない父者本人がそう言ったんだし、私だって確認してる。母者も見てきたら?」
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「あの中庭をダーリンがどれだけ大事にしてたか」
∬ ゚_ゝ゚)゛「……ブッ」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「どうしたんだい、姉者。風邪ならさっさと治しな」
∬;´_ゝ`)「いえ、何でもありません……」
.
855
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:38:15 ID:yZraviHw0
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「まぁ、いい。それで続きだけど」
∬´_ゝ`).。oO(今、ダーリンって呼んだ。ダーリンって……)
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「原因は何かわかっているのかい?」
∬´_ゝ`)「それがさっぱり、父者は侵入者を疑っていたけどその線は無いわね」
@@@
@ _、_@
(; ノ`) 「ダーリンかわいそうに……」
プルプル::.∬; _ゝ )::.。oO(だから、ダーリンって……)
l从・∀・;ノ!リ人 アワワ
.
856
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:40:17 ID:yZraviHw0
∬;´_ゝ`)q コホン
∬´_ゝ`)「――で、最後に中庭に入ったのは、妹者というわけなの。
中庭の立ち入りの件についてはさっき話した通りだから、怒らないであげて」
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「花を踏んだのは妹者かい?」
l从・∀・;ノ!リ人「ちがうのじゃ! ちゃんと気をつけてお水くんだのじゃ!」
∬#´_ゝ`)「妹者、嘘は」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「姉者は黙ってな」
∬;´_ゝ`)「……、はい」
.
857
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:41:45 ID:yZraviHw0
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「妹者。花を踏んだのがアンタじゃないってことは、他に犯人なり原因なりがあるはずだ。
アンタは何か心当たりがあるかい? 気づいたことは?」
l从・−・;ノ!リ人「……」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「妹者、返事は」
Σl从・ 0・;ノ!リ人 ビクッ
:: @@@ :::::
:::@#_、_@ ::::
::: ( ノ`) 「妹者?」
l从・−・;ノ!リ人「……」
.
858
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:42:32 ID:yZraviHw0
l从・〜・;ノ!リ人「それは……、のじゃ」
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「返事は大きな声で」
l从>д<;ノ!リ人「……し、し、知らないっ、の じゃっ!」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「知らない? 本当に?」
l从・∀・;ノ!リ人「ほ、ほんとなのじゃ!! 妹者はなんにも知らない、のじゃ!」
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「今の言葉は、本当だね」
l从・−・iiiノ!リ人.。oO(ほんとじゃないのじゃ)
.
859
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:43:27 ID:yZraviHw0
l从・д・iiiノ!リ人.。oO(ウソっこはいけないのじゃ。母者はウソは怒るのじゃ)
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「妹者、ちゃんと返事をしな。
妹者が返事をしないのなら、こちらも妹者が犯人と思うよ」
l从・−・iiiノ!リ人「……」
l从- -;ノ!リ人「……ぃ」
@@@
@#_、_@
( ノ`)m グッ
l从・д・iiiノ!リ人「言わないのじゃっ!! ゲンコツしてもムダなのじゃ!!」
.
860
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:44:20 ID:yZraviHw0
@@@
@#_、_@
( ノ`)m 「分かった。そう言うならゲンコツだね」
l从;д;ノ!リ人 グスッ
l从>д<;ノ!リ人「いもじゃは、お花さんをふんだのはダレかなんて、
ぜったいのぜったいに、しらないのじゃ!!」
l从;∀;ノ!リ人「いもじゃはっ、やくそくしたからっ!
ぜったい、ぜったいに言わないのじゃ!!!」
@@@
@#_、_@
( ノ`)m 「……妹者っ!!!」
l从;∀∩ノ!リ人 グシッ
l从・−∩ノ!リ人「いもじゃは、ぼーりょくには、くっしないのじゃ!」
.
861
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:45:23 ID:yZraviHw0
∬;´_ゝ`)「……約束したって、それほとんど話したも同然じゃない」
l从・дqノ!リ人「……?」
∬´_ゝ`)「約束って自分で言ってる。
……妹者のことだから、そんなことだろうとは思ってたけど」
l从・д・;ノ!リ人「なななんで約束したって知ってるのじゃ!?」
∬;´_ゝ`)「何でって、ねぇ……」
@@@
@ 、_@
( ノ ) 「……」
∬´_ゝ`)「母者?」
.
862
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:47:01 ID:yZraviHw0
::l从・−・;ノ!リ人:: ビクッ
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「妹者、嘘っていうのは必ずしも悪いとは限らない。
生きているならどうしたって、嘘が必要になることだってある」
l从・∀・;ノ!リ人「……?」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「だけど嘘っていうのはね、使うのがとても難しいもんだ」
l从・〜・;ノ!リ人「……よく、わかんないのじゃ」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「今はそれでいいんだよ。アンタはまだ小さいからね。
でも、母さんはいつも言ってるはずだよ。嘘の重みがわかる大人になるまでは、絶対に嘘をつくなって」
l从・д・;ノ!リ人「う、うん」
.
863
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:47:58 ID:yZraviHw0
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「妹者、アンタは嘘をついたね。
約束したってことは、妹者はちゃんと知っているんだろ?」
l从・−・;ノ!リ人「……」
l从-д-;ノ!リ人「ごめんなさいなのじゃ」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「妹者は嘘をついた。
アタシは妹者を叱らなければいけない。わかるね?」
(( l从・−・ノ!リ人 コクン
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「じゃあ、これがおしおきだ」
.
864
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:49:58 ID:yZraviHw0
@@@
@#_、_@ ペチン
( ノ`)σl从>д<;ノ!リ人 イタッ
ヒリヒリ
l从;∀;ノ!リ人「いたいのじゃー」
∬´_ゝ`)「このくらいで済んでよかったじゃない。
母者のことだから、鉄拳の1つや2つくらい来るかと」
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「姉者、アンタも一言多い!」
@@@
@#_、_@ ペチン
( ノ`)σ(´く_`;∬
( く_ ;∬「――痛っ」
.
865
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:51:00 ID:yZraviHw0
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「まぁ、こうして妹者を叱ったわけだけど」
∬;´_ゝ`).。oO(私は完全にとばっちりだったわ)
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「アタシがあれだけ怒ったのに、妹者は約束の内容を話さなかった。
何事にも信頼は大切だ。ちゃんと約束を守ったのは、褒めてやろう」
l从・∀・;ノ!リ人
@@@
@ _、_@
(* ノ`) 「よくやったよ、妹者。流石はアタシの娘!」
∬´_ゝ`)「確かに、あの状態の母者に立ち向かったのはすごい度胸よね」ワタシハムリ
l从・∀・*ノ!リ人 !
l从>∀<*ノ!リ人「ほめられたのじゃ!母者、だいすきなのじゃー!!」
.
866
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:51:42 ID:yZraviHw0
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「ただし、今度からは、していい約束なのかどうか、はじめにちゃんと考えるんだよ。
悪い約束は、はじめっからしない事。いいね」
(( l从・∀・*ノ!リ人「わかったのじゃ!!」
∬´_ゝ`)「よかったわね、妹者」
@@@
@# 、_@
( ノ ) 「……だけど、元凶には拳でちゃんとお話しないとねぇ」
l从・∀・*ノ!リ人「え?」
.
867
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:52:41 ID:yZraviHw0
「ついたぞぉぉぉ!!!」
ヤッタオー
「なんとか、帰れたな」
オレモカエル…
l从・∀・*ノ!リ人"「あ、兄者たちの声なのじゃ!!」
∬´_ゝ`)「さて、噂をすれば、お帰り見たいね」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「そうだねぇ、二人にはちょっと話を聞かなきゃいけないね」
∬´_ゝ`)「遺跡とか、精霊がどうとか……すごく聞きたいことが、いっぱいあるのよね」
.
868
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:53:43 ID:yZraviHw0
@@@
@ _、_@
(; ノ`) 「そりゃどういうことだい?」
カクカク @@@
@ _、_@
∬ノ´_ゝ`)( ノ`) シカジカ
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「…事情は、よーくわかった。
あの馬鹿息子共は……!!!」
.
869
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:54:31 ID:yZraviHw0
l从・∀・;ノ!リ人「母者? 姉者もどうしたのじゃ?」
∬*´_ゝ`)「妹者ちゃんは、お部屋でちょっと遊んでようね。
お姉ちゃん、ちょっと兄者達にお話があるから」
l从・∀・;ノ!リ人「え? え?」
@@@
@# 、_@
( ノ ) ゴゴゴ
l从・∀・;ノ!リ人「な、な、なんかこわいのじゃぁ!!!」
∬*´_ゝ`)「ほら、部屋行くわよー」
∬*´_ゝ`)つl从・∀・;ノ!リ人 三 ズルズル
.
870
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:55:47 ID:yZraviHw0
タダイマーカエッタゾー イモジャターン!
アニジャ エラソウダゾ
エッ ハハジャ
ナニヲ
モンドウムヨウ アンタタチー
.
871
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:56:37 ID:yZraviHw0
ギャー
.
872
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:58:23 ID:yZraviHw0
l从・∀・ノ!リ人「兄者たちどうしたのじゃー?」
(ノ<_` )「別に」
(♯ノ_ゝ`)「ちょっとラスボス戦をな」
l从・∀・*ノ!リ人 ?
今日も、流石邸は平和です
でざーと×しすたー おしまい
.
873
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:59:21 ID:VPyeQ90g0
おつかれっした!
874
:
名も無きAAのようです
:2013/12/07(土) 23:59:52 ID:yZraviHw0
本日の投下ここまで
後日談は、9日(月)に投下の予定
875
:
名も無きAAのようです
:2013/12/08(日) 00:01:02 ID:zeDgnt.AO
乙!
面白かった!!
876
:
名も無きAAのようです
:2013/12/08(日) 00:18:48 ID:raGJlf9k0
乙!月曜も楽しみだ
877
:
名も無きAAのようです
:2013/12/08(日) 09:11:53 ID:c1Wy3Osc0
乙乙!
ブーンがかわいかったな
878
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 01:21:24 ID:bgEwTgMU0
作者も4人も長旅乙!
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1421.jpg
後は後日談で終わりか…読みたいけど寂しいな
879
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 12:41:45 ID:nnePnEts0
>>878
ありがとうございます!!!
弟者の表情がすごくよくて、うれしい。書いててよかった
880
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:03:33 ID:nnePnEts0
兄者と弟者の旅は終わった。
――かといえば、そうではなかった。
大市へと赴き、砂漠を進み、盗賊と戦う。
100年に一度とも言われる神秘と出会ったかと思えば、遺跡を探索し、命をとしてゴーレムと戦いを繰り広げる。
そして、竜の背に乗り、屋敷へと帰りつく。
思えば長い一日だが、話はそれで終わらなかった。
家へと帰った彼らを待ち構えていたのは、母者と姉者による説教という名の暴力と、大商隊出立の知らせだった。
彼ら兄弟は“流石”の街の住民だ。
街を束ねる母者の息子としての、義務もある。
だから、街にとって大きな出来事があれば、どれだけ疲れていても動かなければならない。
大商隊は年に三度、東方から西方、西方から東方へと大陸を横断する。
商人や護衛の数はかなり多く。それに加えて、大量の荷物と荷馬車。それに、ラクダや、安全を求めて多くの旅人が同行する。
膨れ上がったその規模は、下手な集落よりずっと大きい。
そんな彼らの出立となれば、街中総出の大騒ぎとなる。
流石の兄弟が一日のうちに体験した出来事は、本人たちにとっては人生観を変えるほどの大事件だった。
しかし、母者をはじめとする街の人々にとってもそうだったかと問われれば、否である。
結局、彼ら兄弟は休む暇もないまま、仕事へと駆り出された。
.
881
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:04:56 ID:nnePnEts0
そして、慌ただしい夜は明ける。
――これはいわゆる、後日談。
砂漠へと向けて大商隊は旅立ち、そして、穏やかで何でもない一日が始まる。
.
882
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:05:48 ID:nnePnEts0
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
.
883
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:06:28 ID:nnePnEts0
おしまいのあと。 いわゆる、後日談
.
884
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:07:39 ID:nnePnEts0
市場のすぐ横にある大きな建物は、自警団の本部だ。
今そこには、黒い揃いの服を着た者達が勢ぞろいしていた。
晴れやかな顔をした者、床に倒れこみ惰眠をむさぼる者、疲れきった顔をした者などがあふれ、部屋は一種の混沌と化していた。
至るところから喜びの声や、雄叫びと、いびきの混じった音が響き渡る。
从*゚∀从「いやほぉぉ、飲むぜぇぇぇぇ!!!」
( ^Д^)「まだまだあるけど、とりあえずはこれで一段落ぅぅぅ!!!」
イェーイ!
ヾ从*゚∀从人(^Д^*)ノシ
大商隊を送り出した自警団員たちは、ひたすら浮かれ、舞い上がっていた。
お互いに肩を抱き、飛び回り、まだ昼前だというのに、机にはなみなみと注がれた酒や、沸かしたての茶がいたるところに並べられた。
普段は書類やら武器やらが並べられたその部屋は、今は飯屋や宿屋のような体をなしている。
(;´∀`)「おーい、まだ仕事は終わってないモナよー」
大商隊到来時における、治安の維持は彼ら自警団員にとって最大の仕事だ。
それに加えて、大商隊の到着時や、出立時の手伝い。役場や商人組合の手助けなど、普段はない仕事が押し寄せる。
彼ら自警団員は数日用意された休み以外は、ほとんど寝る間もなくこき使われていた。
.
885
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:09:20 ID:nnePnEts0
(;´∀`)「あー、こりゃあ誰も聞いてないモナ」
爪'ー`)「ここんとこ、ろくに休む暇もなかったからな」
休みの団員まで駆りだされた夜通しの作業がようやく終わりを迎えた頃には、倒れこむ団員と叫びだす団員で阿鼻叫喚の地獄と化していた。
まだ辛うじてやる気のある団員が、本部へ団員をなんとか押しこみ、そして今の惨状がここにある。
(;Д; )「長かった。忙しすぎて死ぬかと思った」
从 ;∀从「荷運びにも、盗っ人や酔っぱらいにも、人とか物の整理や、母者様にも姉者様にも、天候にも負けなかったもんな。
城門警備とか、ほんと一瞬の幻だったし。役場の連中とはケンカだし、酔っぱらいが盗賊化するし。
がんばったよ、今期も本当にがんばったよ!!」
(;Д; )「ハインさん。オレ、一生ハインさんについていきます!!」
从*;∀从「よせやい、照れるじゃねぇかよ」
先輩も後輩も、老いも若きも、男も数は少ないが女も、果ては普段は仲が悪いもの同志までもが、楽しそうにはしゃぎ合っていた。
寝ているものは不幸にも踏まれ、何処から持ってきたのか次々と料理が運び込まれる。
誰もかもがこんな状態なものだから、何か騒ぎが起こったらどうするつもりかというモナーの心配は誰にも届かなかった。
.
886
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:11:10 ID:nnePnEts0
( ; ゚¥゚)「あー、これは完全に、大仕事をやり終えておかしくなってますね。
どうせ見るなら、麗しい女性同士の戯れの方がよかったものです」
爪;'ー`)「お前さんも、そうとう趣味が悪いねぇ」
(-、-*川.。oO
乱痴気騒ぎに参加しない面々も、昨夜から続く夜通しの作業で力が尽き気味だ。
そんな彼らを誘惑するように、食べ物の匂いが辺りに漂う。
从*-∀从「弟者の野郎には逃げられたが、こっちはこっちで楽しくやろうぜ!」
(-Д- )「弟者さん、ひと仕事終えたら今日は用事があるからですもんねぇ。冷たいですよ」
从*゚∀从ノ「まあいい、今日は飲むぜぇェェェ!!!」
(*^Д^)9m「いよっ、ハインさぁぁぁん!!!」
はしゃぐ団員の姿を眺めながら、モナーが一つ大きな息をついた。
やれやれと言わんばかりの表情は、それでも不快そうではなかった。
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887
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:13:22 ID:nnePnEts0
爪'ー`)「さてと、私も羽目を外してみようかね。
モナーの旦那。旦那も、たまには飲んでみるかい?」
( ´∀`)「モナは酒はやらないから……」
( ゚¥゚)「ああ、モナー氏は信仰の徒ですものね」
同僚の声にモナーは不敵な笑みを返すと、何やら大きなものの入った袋をひっぱりだす。
一体何かと年かさの男が見守れば、そこから出てきたのは水煙草のための器具だった。
爪*'ー`)「やるじゃないか、旦那も」
( ´∀`)「やっぱり、モナにはこれモナ」
爪'ー`)「ご相伴させてもらってもいいかな?」
(*´∀`)「いいモナよ。フォックスの旦那もイケる口モナ?」
( ゚¥゚)「さてと、私は向こうでつまみ食いでもしてきましょうかね」
年長の男たちは顔を見合わせると、いそいそと準備にとりかかる。
そこに浮かぶ表情は完全に少年のそれだ。
.
888
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:15:17 ID:nnePnEts0
( ´∀`)y‐~~ フゥ
爪'ー`)y‐「やはり、この瞬間こそが至高だな」
(*´∀`)y‐「モナモナ」
火を灯し、水で冷ました煙を吸う。
満足そうな顔で紫煙をくゆらせる二人の男のそばに、派手な足音を立てて人が押し寄せた。
何人かの顔が赤いのは、既に酒が回っているからだろう。
从*゚∀从「うぉ、いいな! ちぃとばかし、よこせよ!」
(*´∀`)「だめモナ。ハインは向こうで酒でも飲んでるモナ」
从*゚3从「ちぇー、しゃーねーな。
オラッ、起きろやペニサス!!!」
(-、q;川「なぁにぃー、少しくらい寝させてよ。
昨日は渡ちゃんと遊んでて、ぜんぜん寝てないのよー」
ヤーメーテー('、`;川⊂从*゚∀从 ヨッシャイクゾー
宴は続く。
――時は昼前。太陽は高く、酒宴はまだまだ始まったばかりだ。
.
889
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:18:05 ID:nnePnEts0
広場からは少し離れた、職人街。
建物が密集したその一角に、ある工房があった。
細工物を扱うその小さな工房は、独立したばかりの若き職人モララーのものだった。
その工房に、少年の大きな声が響いた。
(#゚∀゚)「いいかげんにしろよ、このバカ! アホ! マヌケ!」
( ・∀・)「あーあー、聞こえないんだからなー。
それ終わったら、井戸に水汲み行って来いよ!」
声を上げる少年の手には、拭き掃除に使ったらしいボロ布が一枚。
小さな工房の中は片付けられ、彼の間近にある机の上は綺麗に磨き上げられていた。
それは、少年が昨日から今日にかけて行った仕事の成果だった。
(#゚∀゚)「なんでお前のためなんかに働かなきゃなんないんだよ!」
∧_∧ ゴツン
( ・∀・)o彡゜ て
(;>∀<)> そ アデッ
( -∀・)「なんでって、僕の丹精込めた大切な商品を盗んだからに決まってるだろ。
あれを一つ作るまでに、僕が何日かけたのか知ってるのかい?」
.
890
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:20:18 ID:nnePnEts0
(;>д<)「だからって、コキ使いすぎだろ!」
(σ・∀・)「そんなに不満なら、今から懲罰に切り替えてもらう?
きっとムチ打ちか、死なない程度の日干しで済むと思うからな」
('(ii゚∀゚∩て「水くみだいすき!! ろーどーほーしサイコー!!!」
少年は壺を手に取ると、一目散へと出口に向けて走りだす。
この街にほとんど馴染みのない少年には、井戸の場所はわからない。
しかし、少年にとってはモララーの手から逃れることが最優先だった。
(*-∀-).。oO(くそう。水くみ行くふりして、逃げてやる。ばーか、ばーか!!)
( ・∀・)「坊主、それが終わったら。
ちょっと道具をさわってみるか?」
内心で考えを巡らせる少年に向けて投げかけられたのは、彼にとって予想もしなかった言葉だった。
水汲みにかこつけて逃げようとしていた少年の足が、ふと止まる。
その顔には信じられないという驚きの色が浮かんでいた。
(;゚∀゚)「え゛?」
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891
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:22:27 ID:nnePnEts0
( ・∀・)「どうせ、商隊にくっついて来た宿なしだろう?
その商隊も行っちゃって住むところもない、と」
(#゚∀゚)「な、それはお前が!」
( -∀・)σ「捕まったお前が悪い。盗っ人なんて、殺されたって文句は言えないんだからな。
そもそも、この母者様のお膝元で盗みなんてしようとする方が馬鹿なんだよ」
モララーの言葉に、少年は悔しそうに顔を朱に染める。
そんな少年とは対照的に、モララーの表情は落ち着いていた。
( ・∀・)「まあ、細工でも何でもいいけど技さえ身につけりゃあ、少なくとも食うには困らないよ。
こそ泥なんかよりも、そっちの方がよっぽど飯の種になるんだからな」
真っ黒い瞳で少年を見つめながら、モララーは淡々と話す。
モララーの常に笑顔を浮かべた口元は、その心情を容易に他人に読み取らせない。
それは人の女に手を出すのが好きという彼の悪癖によるものだったが、それを知らない少年にとっては恐怖そのものだった。
(;゚∀゚)「そ、そんなこと言ったってだまされねーぞ!」
( -∀・)「泥棒は嫌いだけど、この僕の細工に目をつけたのだけは褒めてやる。
なんて言ったって僕の細工は、一流品だからな!」
.
892
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:25:33 ID:nnePnEts0
(#゚∀゚)「な、なんだよ変なやつ!」
少年は必死に反抗するが、それは怯えた犬が吠えているのとそう変わらなかった。
それでも少年はなんとかモララーよりも優位に立とうと必死で声を上げ、続くモララーの言葉に息を呑んだ。
( ・∀・)「この僕が何を言いたいかというと。
……働きによっては弟子にしてやってもいいってこと」
(;゚∀゚)「え?」
( ・∀・)「まぁ、どうするかは坊主の自由。
いっとくけど、僕は男には厳しいから、覚悟するといいからな!」
( ゚∀゚)「……」
モララーの真意は、少年にはわからなかった。
しかし、それは少年にとっては何年かぶりに人から向けられた、正真正銘の好意だった。
甘い言葉は、大抵ろくでもない結果にしかならない。そもそも、モララーは何を考えているのかわからない男だ。
それでも、彼の言葉は少年にとって純粋に嬉しかった。
.
893
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:27:12 ID:nnePnEts0
(*゚∀゚)
少年の顔が赤く染まり、その顔に笑顔が浮かぶ。
どこか刺のあった顔つきは緩み、年相応の子供らしい顔つきとなる。
騙されるならそれでもいいやという思いで、少年は声を上げた。
(*゚∀゚)「師匠」
( ・∀・)「え?」
シショー ナニスレバイイー
チョ、オマエキガハヤインダカラナ
オマエジャナクテ、ツーダゾ!
ハイハイ
――それはまさしく、一人の職人の誕生の瞬間だった。
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894
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:29:10 ID:nnePnEts0
広場の一番奥にあるツン=デレ商会では、金の髪の娘が所在無さげにうろついていた。
彼女は同じ場所で行ったり来たりを繰り返し、苛立ったように両手をばたばたと動かした。
ξ#゚⊿゚)ξ「あー、もう気になる!!!」
ζ(゚ー゚;ζ「もー、お姉ちゃん少しは落ち着いてよ〜」
そう声を上げたのは、彼女と面差しがよく似た娘だ。
彼女――デレは、先程から所在無さ気にしている娘――ツンの妹である。
ξ#゚⊿゚)ξ「何であの二人は、連絡の一つも寄越さないのよ!」
ζ(゚、゚;ζ「荒れるなぁ、もぅ……」
ツンは昨夜からずっとこんな調子だった。
一応、仕事には出ているものの、ずっと上の空。
昨日、兄者と弟者を街から送り出した時はよかったのだが、それからいくらたっても帰宅の報がないと知ったとたん、ツンの様子はおかしくなってしまった。
兄弟とはそれほど縁のないデレからすれば、姉がどうしてこれだけ取り乱すのかわからない。
ξ;゚⊿゚)ξ「兄者も弟者も、大丈夫だったのかしら。
……ねぇ、デレ。食料は足りたかしら? 水はちゃんと多めにしたわよね!!」
ζ(´、`;ζ「落ち着こうよぉ、お姉ちゃんー」
.
895
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:31:31 ID:nnePnEts0
ツンはひとしきり声をあげると、眉根を寄せ不安そうな表情になった。
いつもは毅然とした声は震え、今にも泣き出さんばかりだ。
そんな態度も、やっぱり姉らしくなくて。デレはこっそりと息をつく。
ζ(゚、゚;ζ.。oO(お姉ちゃん、私がいない時もこんな感じなのかな。
……遅くなる時は、気をつけよう)
ξ;゚⊿゚)ξ「本当に大丈夫かしら……」
そんな妹の内心には気づかずに、ツンは所在なさげに声を上げ続けている。
お客に対してはいつも愛想よく、しっかりしている姉だけに、その姿はデレにとってなかなか新鮮だ。
ξ;゚ぺ)ξ「……あいつら昔からよく厄介事に巻き込まれてたし。まさか」
ξ;゚⊿゚)ξ「何か事故とか、バケモノとか出てたらたらどうしよう。怪我とかしてないわよね?
薬……薬を入れておけばよかった」
ξ; ⊿ )ξ オロオロ
.
896
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:33:18 ID:nnePnEts0
ツンは再び、その場をうろうろと歩き始める。
歩きながらも時折あげる「どうしよう」という声は、普段の彼女とは打って変わって弱気だ。
ζ(゚ー゚;ζ「お姉ちゃんって、意外と心配性だよねー。
大丈夫だって。兄者さんはアレだったけど、弟者さんしっかりしてたし」
ξ#゚⊿゚)ξ「あの二人だから、心配なの!!
兄者は気を抜くと変なものを追いかけてどこか行っちゃうし、弟者は昔っからすぐ泣くし」
ζ(゚、゚;ζ「……お姉ちゃんの考え過ぎじゃない?
兄者さんならともかく、弟者さんが泣くなんて、ありえないよー。冷静でかっこいいもん。
それに二人とも一応、大人の男の人だよね?」
ξ-⊿-)ξ「……」
デレのとりなしに、ツンは足を止めた。
見れば、顔に浮かんだ焦りの表情はいつの間にか消えている。
ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃん、少しは落ち着いた?」
ツンはデレの言葉にしばらく黙り込んだ後に、ようやく口を開いた。
しかし、ツンの眉はひそめられ、顔にはいぶかしむような表情が浮かんでいる。
.
897
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:35:23 ID:nnePnEts0
_,
ξ;゚⊿゚)ξ「……デレ、まさかあの二人に惚れた?」
Σζ(゚、゚;ζ「お、お、お、お姉ちゃんしっかり!!!」
ξ;-⊿-)ξ「まさか、デレが。私のかわいいデレが、あんなのに惚れるなんて。
でも、姉としては祝福しないわけには……。いやいやここは、止めるべきか」
ζ(゚、゚;ζ「お姉ちゃんがぜんぜん冷静じゃないってことはわかった。
しっかりしてよ、お姉ちゃんー」
ξ;゚⊿゚)ξ「も、ものすごく冷静だし!」
ζ(-、-;ζ「えぇー」
ツンは冷静どころか、まともに頭が回っていない。こんな様子ではとてもじゃないが、仕事なんて任せられない。
デレは至極冷静に姉の今の状態を悟った。
もうこうなったら姉の心配事を解決しないことには、今後の仕事すべてに支障が出る。
そう理解したデレは、何とかして姉を普段の状態に戻せないかと計算を始めた。
.
898
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:37:06 ID:nnePnEts0
ζ(゚、゚*ζ「……そんなに気になるなら、行ってみたら?」
――そして、計算の末に出されたのは、こんな言葉だった。
ξ;゚⊿゚)ξ「で、できるわけないじゃない。仕事中なのよ」
ζ(^ー^*ζ「ところがー、ここに流石邸へのお仕事があるんですー!
流石邸の妹者お嬢様に、特別製のお菓子を手配!です」
ξ゚⊿゚)ξ「……あ」
デレの言葉に、ツンは不意をつかれたように声を上げた。
彼女の表情に驚きの色が浮かぶ。しかし、それはすぐに喜びの表情へと変わる。
それを好機とみたデレは、ツンの背中を押すように言葉を続ける。
ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんも、妹者お嬢様に何か用意してたよねー。
それに、妹者お嬢様なら、兄者さんや弟者さんについてきっと知ってるんじゃないかなー?」
ξ*゚⊿゚)ξ「そっか、そうよね!!」
そう言うが早いが、ツンは棚から伝票を取り出すと凄まじい速さでめくりはじめる。
そして、お目当ての項目をみつけると、店の奥へと向かって駆け込んでいく。
出かけるための準備をしているのだろう。デレはそんなツンに向けて、イタズラっぽい笑顔を浮かべた。
.
899
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:39:46 ID:nnePnEts0
ζ(゚ー゚*ζ「そうだ、お姉ちゃん!
行くなら兄者さんに、今度一緒にお食事でもって伝えておいて」
ξ;゚⊿゚)ξて「まさか、デレ。本当に、バカ兄者に惚れ」
ζ(^ー^*ζ「ちがうってー、私と兄者さんと、弟者さんと。それからお姉ちゃんで行くの。
うちのお姉ちゃんにこんなに心配かけたんだもの、兄者さんにはこれくらい奢ってもらわないと」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ツンはデレの言葉に、考えこむように足を止めた。
デレの位置からはツンの表情は見えない。
だけど、ツンが笑顔を浮かべたということが、デレにはなんとなくわかった。
ξ*゚⊿゚)ξ「そうね」
ツンの頬が、赤く色づく。
この砂漠には珍しい白い肌と相まって、彼女は何よりも魅力的だった。
ζ(゚、゚*ζ.。oO(お姉ちゃんって、けっこう面倒な性格だよね。やれやれ)
ツン=デレ商会から荷台を抱えたツンが外へと飛び出していったのは、それからほんの少ししてからだった。
.
900
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:41:47 ID:nnePnEts0
_
( ゚∀゚)「よう、ツンちゃん。今日はこれから遊びに行くの?」
ξ゚⊿゚)ξ「仕事よ、仕事!」
知り合いへの挨拶もそこそこに、彼女は歩き始める。
ツンの歩みは、はじめはゆっくりと。しかし、その足は徐々に早まり、とうとう走り始める。
( `ハ´)「おじょーちゃん、ウチの香辛料買うよろし!」
( ゚∋゚)「ヤキトリ クエ」
J(*'ー`)し「カーチャン特製、手作りパンもあるからねー」
从;'ー'从「ふぇぇー」
朝最後の稼ぎどきとばかりに盛り上がる露天の数々を抜け。
職人街の脇を駆け抜け、湖のすぐそばを通り過ぎるが、彼女の足はその速さを緩めない。
ξ*゚⊿゚)ξ「今度あったら、とっちめてやるんだから」
――目指すは流石邸。
腐れ縁の兄弟と、その妹の元へと彼女は急ぐ。
.
901
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:43:37 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――
“流石”の街から少し離れた、小さな町。
湖はない代わりに、大きな井戸がいくつかあるその町で一人の男が声を上げた。
<#ヽ`∀´>「アイゴー!!
何でウリがかくも艱難辛苦をぉぉ――!!!」
そこは、東方の料理を出す食堂だった。
男とその連れの少女は、路銀を稼ぐべく昨夜からここでお世話になっていた。
叫び声を上げる男――ニダーの手には、湯気を立てる竹製の蒸籠が握られている。
(゚A゚# )「ニダやんうっさい!!」
ΣΓ<`Д´*;>Γ 「アイヤー!!」
少女の頭につけられた、真新しい花の飾りがきらりと輝く。
よく似合っている、とニダーが思ったその瞬間。少女の体から、ニダーめがけて蹴りが放たれていた。
宙を浮いた彼女の体は、見事にニダーの尻に強烈な一撃を加える。
ttp://buntsundo.web.fc2.com/ranobe_2012/illust/30.png
.
902
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:45:33 ID:nnePnEts0
(゚A゚* )「そないしゃべらはったら、お客さんたちに迷惑やろ!」
<`Д´*;>「のののののーちゃん!!」
(゚A゚# )「ウチらはろくな荷物もお金もないんよ。ここクビになったら、どないしはる気?
大事なお金で、こないな花飾りなんて買うなんて、ニダやんはほんまにアホやなぁ」
昨日、襲いかかったはずの弟者に返り討ちにあった彼らは、この小さな町にたどり着いた。
大きな井戸のあるその町は小さかったが、それでもしっかりと施設がそろっている。
そこでニダーが真っ先にしたのは、髪飾りをのーへと買い与えることだった。
弟者によって壊されたのーの髪飾り。それによく似た花の飾りをニダーは選んだ。
<;ヽ`∀´>「アホってウリをそんな、無為無能、無芸無能の無知蒙昧みたいに」
(゚A゚* )「そんなむつかしいこと言わはっても、ウチはごまかされんよ」
それは、のーを守り切れなかったことに対する、彼なりの謝罪の気持ちだった。
のーも、それに気づいていたのかもしれない。
ニダーの無計画さを叱りながらも、贈り物の髪飾りを大切そうに身につけ続けている。
.
903
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:47:54 ID:nnePnEts0
(゚A゚# )「はよ、お客さんにこれ運ぶ!」
<ヽ`∀´>「ううっ……なんでウリがこんな薪水之労を……」
(゚A゚* )「ニダやんがアコギなことばっかしとるからや。
これにこりたら、まっとうな仕事をせんとあかんよ」
東方の民は同胞には、寛容だ。
しかし、いつまでろくに働こうとしない者をいつまでも養ってくれるほどは甘くない。
ここから先の生活は、自分たちの力で成り立たせなければならないのだ。
(゚A゚* )「……あれが外れたら、まだいいお金になったんやけど」
<ヽ`∀´>「のーちゃん……」
( A )「堪忍な、ニダやん」
少女の裾の下では、水晶がはめ込まれた腕輪が輝いている。
魔力を封じるこの銀の腕輪は、彼らが何を試しても外れなかった。
これがあるかぎり、のーは普通の少女と変わらない。魔法の使えない彼女は、単に口が達者なだけの足手まといだ。
<ヽ`―´>「……」
( A )「ウチがいなければ、ニダやんはもっと楽に」
.
904
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:50:07 ID:nnePnEts0
<ヽ`∀´>「……ウリを見くびるのはのーちゃんでも、許さんニダ。
ウリは才気煥発、全知全能の天才ニダ! ウリ一人でものーちゃんくらい、養えるニダ!!」
( A゚*)「……」
ニダーの手が、のーの頭に置かれる。
そのままぐりぐりと撫で回すと、あちちと声を上げながら蒸籠を抱え直す。
<ヽ`∀´>「ウリはウリのしたいことしかしないニダ!
のーちゃんがなんと言ったって、絶対についてきてもらうニダ!!」
(゚A゚* )「ニダやん……」
<*ヽ`∀´>∩「まず手始めに、伝説の料理人としてのし上がるニダ!
そうと決まったら、誠心誠意働くニダ!!」
のーが笑顔を浮かべるのを、ニダーは満足そうな顔で見た。
( ;曲;)「いい話じゃねぇか」
(;TДT)「……饅頭冷めてる」
小さな町の昼下がり。
元盗賊の男と、魔法使いだった少女の話は、まだまだ続きそうだ。
.
905
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:52:12 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――
ソーサク遺跡の最奥部。
草がなびく草原に、幾人もの人影が集まっていた。
人影の中にはギコの他に、しぃやでぃの姉妹の姿もある。
(*゚ー゚)「ギコくん、こっちをお願い」
(,,゚Д゚)「わかった。ちょっと待ってろ!」
ギコは掛け声を上げると、岩を持ち上げる。
その岩の固まりは、ゴーレムの欠片だ。
見た目はただの岩と変わりないが、それが動き出したらどうなるかは考えるまでもなく明らかだ。
<_フ;゚ー゚)フ「重い」
(;=゚ω゚)ノ「しっかりだよぅ!」
('(;゚∀゚∩「……つかれたよ! たよ!」
ギコと同時に岩を持ち上げた男たちが、呻き声をあげる。
それを見て、しぃは少しだけ苦笑いを浮かべた。
(#゚;;-゚)「これが……動いた……の?」
(*゚−゚)「ええ、そうみたい」
.
906
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:54:53 ID:nnePnEts0
彼らは今、ソーサク遺跡にそびえ立つ神殿の再調査に来ていた。
ソーサク遺跡の中でも神殿と呼ばれる第一史跡は、真っ先に調査対象となった遺跡だ。
この最奥の間にもこれまで何度も調査の手が入り、大体調査し尽くしたと思われていた。
しかし、その考えは、昨日の兄者と弟者の一件で大きく崩れた。
(# ;;- )「……こんな、……こわいこと、……あったなんて」
(;=゚ω゚)ノ「で、でぃさんのせいじゃないよぅ」
('(;゚∀゚∩「でぃちゃん、元気だすよ! だすよ!」
そして、本日改めて調査した最奥の間は、かなり荒れ果てていた。
部屋の中にはゴーレムの欠片が散乱し、土や草は踏み荒らされ、血が染み込んでいる。
焼け焦げた最奥の壁、祭壇の周辺は割れた壺や燭台が散乱し、床に描かれた図式が刃物でめちゃめちゃにされている。
……神殿に据えられた鏡も壊されていたが、こちらについては弟者がやったと事前に聞いていたため、ギコもしぃも特に口にはしなかった。
<_フ;゚Д゚)フ「巻き込まれたの、母者様の息子だろ?
すげぇ。母者様だけじゃなくて、息子も腕が立つんだな」
(# ;;- )「……」
.
907
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:56:47 ID:nnePnEts0
<_プー゚)フ「大丈夫だって、でぃちゃん。
笑いながら帰ってったんだろう? しかも、竜に乗ってとか。大した野郎どもだぜ」
(# ;;- )「……でも、……私、……弟者さんにここは怖くない……って。
それに、……ギコさん連れて行ったの……私っ」
沈み込んだでぃをなぐさめるように、調査隊の仲間たちが声を上げる。
だけど、でぃの言葉は弱々しく今にも泣き出さんばかりだ。
(,,゚Д゚)「元気を出せよ、でぃ。あんなことが起こるなんてだれも予想できん。
大体悪いのはお前じゃなくて、どっちかって言うとあのクソ女の方で」
(*^ー^)「ギコくん?」
(,,;゚Д゚)「だってそうだろ? あの女のワガママさえなきゃ、俺だっていっしょに遺跡へ……」
(=゚ω゚)ノ「ギコはこーんな岩のかたまりと戦えるのかよぅ」
(,,; Д )「ぐ」
ギコはごにょごにょと言葉を返そうとしたが、思わぬ所から飛んできた声に声を失う。
悔しそうな表情を浮かべ、言葉を投げかけてきた相手――ぃょぅを睨むが、笑い声で返されてしまった。
.
908
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 20:59:04 ID:nnePnEts0
(,,;゚Д゚)「でもだな、オレがいるといないじゃ」
(*゚ー゚)「――ところで、ギコくん。
でぃから聞いたんだけど、姉者に言われた『例のこと』って何かしら?」
(,,;゚Д゚)「え、あ?」
なおも何かを言おうとしたギコの言葉は、しぃの声によって遮られた。
しぃは普段と同じ穏やかな表情で話しかけている。口調だって普段と変わらない。
しかし、その声だけは刺々しかった。
(*^ー^)「ギコくん。何か隠していることがあるなら、私に教えてほしいなぁ。
それとも、私たちには言えないことなのかしら?」
しぃは笑顔を浮かべた。
元から柔らかい印象のある彼女だが、笑みを浮かべると表情が幼くなり、柔らかい印象がさらに強くなる。
が、彼女がたった今浮かべている表情は、なぜかその柔らかさが見えない。
一体何故だろうと考え……、
(*^ワ^)「ねぇ、ギコくん」
ギコは悟る。……これは、怒っているときの顔だ。
しぃは確実に怒っている。そして、怒りだした女は大抵、手に負えない。
.
909
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:01:13 ID:nnePnEts0
(#;゚;;-゚)「……お姉……ちゃん……?」
姉の異変に気づいたのか、でぃは恐る恐る声を上げる。
しかし、しぃは妹に対して何の答えを返さなかった。
しぃの足元で、じゃりりと地面が音を立てる。
(,,;゚Д゚)「……」
(*^ワ^)「……」
('(゚∀゚∩「どうしたのかな? かな?」
<_フ;゚ー゚)フ「ちょ、なおるよは黙ってろって」
しぃとギコは無言で黙りこむ。
なぜだか知らないがしぃは怒っている。しかし、だからといって自分の秘密を暴露するほどギコは思い切りが良いわけではない。
そもそも話すにしても、これだけ人がいるとなると話せるものも話せない。
どうする、どうする俺!!――ギコはそう悩んだ末、
(,,;゚Д゚)「そ、そ、そういえばラクダの具合はどうだったかなー」
戦略的撤退を選択した。
.
910
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名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:03:13 ID:nnePnEts0
(#;゚;;-゚)「あ、……アラマキさんと、ナカジマさんなら……」
突然、ラクダと言い出したギコに、でぃは小さく声を上げる。
家畜の世話はみなで交代をしてやっているが、その中でも一番頻度が高いのが動物好きのでぃだった。
特に荒巻と、中嶋の二匹は昨日でぃが預かったばかりだ。彼らの様子ならば、でぃが一番詳しかった。
(,,;^Д^)「いやー、ちょっと様子でもみてこようかなぁ。
あのがめついクソ女のことだから、ウチのラクダ返せって言いかねんからゴルァなー」
('(゚∀゚∩「わざとらしいよ! らしいよ!」
<_フ;゚ー゚)フ「あんにゃろ、逃げる気だぞ!」
(;=゚ω゚)ノ「つかまえるんだょう!」
ギコは言うが早いが、岩を放り投げ走りだした。
しぃや、仲間の男たちがギコを止めようと声を上げるが、ギコはそれを振り切り扉へ向かって駆け出す。
彼の足元で草が揺れ、涼しい風がギコの青い毛並みを揺らしていく。
(*゚ 、゚)「もう。逃げても、また後で顔を合わせるのに……。
良くも悪くも正直なのよね、ギコくんって」
ギコの姿はもう扉の向こうへと消えていた。
ギコを追いかけて何人かが仕事を放り投げて出て行ったが、きっとギコには追いつけないだろう。
.
911
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:05:29 ID:nnePnEts0
(#;゚;;-゚)「……あのね、……お姉ちゃん」
(*゚ー゚)「ん? どうしたの、でぃ?」
扉に向けて軽く溜息をつくしぃに、でぃは恐る恐る声を上げた。
でぃにとって姉は、誰よりも綺麗で優しくて、そして引け目を感じる存在だ。
だから、でぃはしぃに話しかけようとすると、なかなか上手く声が出せない。
しぃだけではない。でぃはいつだって、人とうまく話すことが出来ないのだ。
(#゚;;-゚)「……ギコさん……ゆるしてあげて……」
(*゚ー゚)「どうして?」
(# ;;- )「……ギコさんは、……私を、……かばって……くれただけ……」
(*゚ー゚)「……そう?」
(#; ;;- )「そう。……それに、……お姉ちゃんも」
しぃはでぃの途切れ途切れの言葉を、聞いていた。
相槌をはさみながら、それでも急かすこと無く、彼女はただ妹の言葉が続くのを待った。
何度も言葉をつまらせながら、でぃは懸命にしぃへと訴えかける。
(#; ;;- )「……私が元気ないから……話、変えてくれた……ん、だよね…」
.
912
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:07:04 ID:nnePnEts0
でぃの言葉に、しぃは笑顔を浮かべる。
その表情はギコに向けていた時よりもずっと柔らかく、優しい瞳をしていた。
(*^ー^)「さあ、どうかしら?」
(#゚;;-゚)「……ありがとう、お姉ちゃん」
(*^ー^)ノ( ー;; #)
しぃは返事をする代わりに、妹の頭を撫でた。
でぃの口元がかすかに緩み、ぎこちない笑みを浮かべる。それを見て、しぃはさらに微笑んだ。
(#゚;;-゚)「あのね……私も、……アラマキさんのとこ、……行っていい?」
(;゚ー゚)「うーん。ギコくんも、エクストくんたちも行っちゃったから、しばらくは休憩のつもりだけど。
……でも、急にどうしたの?」
(#*゚;;-゚)「……みんなにね……庇われるだけじゃなくて……自分もがんばりたい、の。
それに……兄者さんと弟者さんに、……アラマキさんたち頼まれたの……私、だから」
たどたどしいけれど、真剣にでぃは告げる。
緊張と興奮で顔を赤らめた彼女は、姉によく似ていた。
.
913
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:09:16 ID:nnePnEts0
・
・
・
神殿と呼ばれる建物から外に出た先。
調査隊が本部として利用する天幕から少し歩いた場所で、ラクダやロバは飼育されていた。
しぃの追求や、追いかけてきたエクストから見事に逃げ切ったギコは、一息つくとターバンを整えた。
( "ゞ)「よう、ギコ。どうした?」
(,,;゚Д゚)「どうしたもこうしたもあるか。いろいろ言われるから逃げてきた。交代だ交代!」
_,
( "ゞ)「サボりの片棒は勘弁なんだが」
調査隊の一員でもある男はギコに悪態を付きながらも、大して不機嫌そうな様子ではなかった。
それどころか上機嫌な様子で、「後は任せた」と声を上げると、ギコが来た神殿の方に歩き始めた。
(,,゚Д゚)「俺はどっからやればいい?」
( "ゞ)「餌やっといて」
(,,;-Д-)「わかった。お前があっさり、交代するはずだ」
ソーサク遺跡には家畜の数が多い。
調査隊の面々の移動手段や運搬役として連れてきたものもいるが、大半は遺跡を調査するための条件として飼育しているものだ。
本部のそばに植えている植物同様、環境調査の一環らしいが、その数は増えに増え世話も大変になってきている。
.
914
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:11:40 ID:nnePnEts0
( "ゞ)「あとは任せた」
(,,-Д-)「へいへーい」
男――デルタを送り出すと、ギコは並ぶラクダやロバの群れを眺めた。
威嚇しあったり、座り込んで眠っていたり、繋がれた紐から逃れようと動きまわったりと、家畜たちは思い思いの行動をとっている。
こいつら全部に餌をやるのかと、ギコは内心うんざりする。が、交代するといった以上は、サボるわけにも行かない。
(,,゚Д゚)「えっと、あらまきと、なかじま?……だったか?」
ここにいる家畜には識別表が付いている。
しかし、兄弟から預かった二頭のラクダにはそれが無いはずだ。
ギコはラクダたちに視線を走らせ、そして見つける。
荒巻と、中嶋。
二頭のラクダは、ラクダの中でも一際温厚そうな顔つきして、地べたに座り込んでいた。
そして、何をしているのかといえば、のんびりと眠りこけている。
(,,゚Д゚)「おーい、お前ら元気かー? 死んでないかー?」
/ ,' 3
ギコの声に、荒巻のほうが軽く目を開ける。
彼もしくは彼女は、しばらくギコの姿を眺めていたが、すぐに興味をなくしたかのように再び瞳を閉じる。
.
915
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:13:36 ID:nnePnEts0
(,,゚Д゚)「ま、死んではないみたいだな」
荒巻と中嶋は死んでないどころか、大いに暇を楽しんでいるようだ。
ざっと見た限りでは、おとなしい気性のようだし、他のラクダたちとも上手くやっていけるだろう。
(,,゚Д゚)「まぁ、気楽にやれや」
ギコはそう呟くと、空を見上げる。
最奥の間の柔らかい日差しと違って、外の日差しは暴力的なまで強い。
そんな日差しに焼かれながら、ギコはどうやってしぃをごまかそうと考え始める。
(,,;-Д-)「しぃのヤツ何が、『何か隠していることがあるなら、教えてほしいなぁ』だよ。
言えるわけねぇだろうが、……」
(,,* Д)「しぃが好きだなんて……」
ボソリと呟いた、ギコの顔は赤い。
他人から見れば大したことのないことだが、ギコにとっては一世一代の問題だった。
できればしぃと所帯を持ちたいギコにとって、彼女への愛の告白はその後の人生を左右するものだ。
.
916
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:15:32 ID:nnePnEts0
なのに、だ。
姉者はよりにもよって、ギコの一生の問題を、からかいのネタとして事あるごとに持ち出すのだ。
むしろ、この話をチラつかせれば、ギコが何でもいうことを聞くと思っているフシすらある。
それはギコにとって、どうしても我慢ならない事だった。
(,,;Д;)「畜生、俺のこの思いを散々弄びやがって」
姉者=流石。
あの女は悪魔だと、ギコは思う。
どれだけ乳がでかかろうが、腰は細いのに肉付きのいい尻と、むっちりとした太ももをしていようが、そんなのギコには関係ない。
そりゃあ、あの女の本性を知らないガキだった頃は、たしかに騙されかけたこともある。
しかし、そんなことは知ったことか。
( ,'3 )
荒巻が、そして中嶋が迷惑そうに鳴き声を上げたが、ギコの言葉は止まらない。
(,,#゚Д゚)「あのクソ女ぁぁぁぁぁっ!!!!!」
ソーサク遺跡の只中、砂埃によってくすみながらも、なお青い空にギコの声が響いた。
.
917
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:18:16 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――
∬´_ゝ`)「――何か今、妙な声が聞こえたような気がする」
“流石”の街で一際目を引く建物、流石邸の一角で女は呟いた。
波打つ豊かな髪に豊満な体つきをした彼女は、街を切り開いた女傑・母者=流石の最初の子供である。
名は、姉者=流石。兄者と弟者。そして、妹者の姉である彼女は、兄弟によく似た面差しの顔を少しだけ曇らせた。
|゚ノ ^∀^)「どうかしましたか〜、姉者様?」
∬´_ゝ`)「なんでもない。どうせ大したことじゃないわ」
彼女に声をかけたのは、金の髪に赤い髪留めをした女性だった。
レモナという彼女は、兄弟の妹である妹者の家庭教師を勤めている。
明るい顔をした彼女の頭の上で、白い猫の耳がピクリと揺れる。そんな彼女に向けて、姉者は声を上げた。
∬´_ゝ`)「そうだ。今日の午後からの、家庭教師はお休みね」
|゚ノ ^∀^)「あら、そうですか。いかがいたしました?」
∬´_ゝ`)「ああ、別に何か起こったわけでも、貴女の仕事ぶりに不満があるわけではないの」
.
918
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:21:46 ID:nnePnEts0
姉者の刺のある口ぶりに、レモナの表情が心なしかこわばる。
ともすると鋭い言葉を放つのは、姉者の悪い癖だった。
その傾向は、彼女と親しくなればなるほど強くなっていっている気がする。
|゚ノ;^∀^)「……そうでしたら、よいのですが」
∬´_ゝ`)「あら、ごめんね。本当に他意はないの」
姉者の真意を読み取ろうと、レモナは表情を引き締める。
しかし、彼女の顔は平然とした表情のままで、何の感情も読み取れない。
|゚ノ;^へ^)「ほんとですか?」
∬´_ゝ`)「ええ、本当よ」
レモナが恐る恐る口にした言葉は、姉者にある変化をもたらした。
姉者の口元が緩み、その顔に柔らかな笑顔が浮かんだのだ。
その笑顔に、レモナは今度こそ本当に息を呑んだ。
……姉者は普段、母者の後継者としての勤めからなのか、あまり感情を表情に出そうとはしない。
しかし、その時の彼女は本当に嬉しそうに、無邪気な子供のように笑って告げた。
∬*´_ゝ`)「だって今日は、妹者の――」
.
919
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:23:22 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――
“流石”の街を取り仕切る役場は、火でも出たかのような大騒ぎだった。
大商隊こそ出立したものの盗賊への警戒や、天候悪化の場合の対処は絶やせない。
商隊が持ち込んだ物資の流通や、周辺の町への分配、通常業務への切り替えと、考えなければならないことも多い。
仕事はいくらでもあった。
しかし、それ以上に忙しさに拍車をかけているのは、ひとえに母者側の事情によるものだった。
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「今日は誰がなんと言おうとも、さっさと帰るよ!」
母者はこともあろうに、この状況の中で帰ると言い放ったのだ。
普段ならば、この役場には流石夫妻か姉者のうち誰かが滞在するようになっている。
しかし、今日に限っては流石家の者は誰も役場には残さないと言い放ったのだ。
(;´・ω・`)「これを夜までに片付けろなんて無理ですよぉぉ!!!」
母者の言葉が嘘ではないと示すように、共に朝まで働いていた姉者はすでに流石邸へと戻ってしまっている。
その中でもなんとか役場は動いていたが、とうとう忙しさに精根尽き果てたように、青年が嘆きの声を上げた。
困ったように下がった眉をしたこの青年は、若くして母者の仕事を支える補佐官の一人である。
.
920
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:26:13 ID:nnePnEts0
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「いいから手を動かしな!! 何のために、昨日休みをくれてやったんだい!!」
(;´・ω・`)「わかってますけど、無理なものは無理です!!」
(`-ω-´)「諦めろショボン。そんなことで、母者様が止まるはずがないだろう。
儂らはおとなしく、街のために働くのみだ」
(;´-ω-`)「……父上」
なおも無理だと言い募る青年の肩を、よく似た面差しの年かさの男が叩く。
青年の父親でもある彼は、街の成立当初から母者を支える重鎮だった。
父親に諭されて、青年は半ば泣きながら仕事へと舞い戻っていく。
(;´-ω-`)「昨日はせっかく精霊様を見たっていうのに、ついてない」
(`・ω・´)「ショボン、次はこっちの書類だ!」
(´;ω;`)「はーい」
泣きながらも書類仕事をこなす青年や、他の役人たちの姿を見て、母者は大きく溜息をついた。
ここで働く者達は仕事ぶりは悪くはないのだが、根性のない者が多い。
これが文官のさがというものだろうかと考えてみるが、母者にはいまいち理解の及ばない領分だった。
.
921
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:28:45 ID:nnePnEts0
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「まったく。あたしらがいないと仕事の一つや二つ片付けられないっていうのかい」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「母者さん、落ち着いて。
みんな疲れちゃってるだけなんだよ」
そう漏らした母者をなだめたのは、彼女の夫である父者だった。
母者はその声に、じっと父者を睨みつけはじめた。
母者はこの街を作り上げた立役者であり、並みの兵士じゃ太刀打ちできないほどの腕の持ち主だ。
父者もそれは身にしみている。だから、彼女に睨みつけられるとわけもなく緊張するのが、彼の長年の習性だった。
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「……」
.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ど、どうしたのかな。母者さん……」
夫を睨みつけたまま何も言おうとしない母者に向けて、父者は恐る恐る声を上げた。
父者の顔色は悪く、その声はみっともないまでに震えていたが、それを笑うような輩はこの場にはいなかった。
彼らにとっても母者は頼りになる主であると同時に、恐ろしい存在なのであった。
.
922
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:30:28 ID:nnePnEts0
@@@
@ _、_@
(* ノ`) 「ダーリン。あんたって人は、本当にやさしいね」
そして、母者は沈黙の末にそう言った。
彼女の声は甘く、瞳も熱く潤んでいる。どうやら彼女は夫を睨みつけていたのではなくて、単に見惚れていたようだ。
母者のその言葉に、懸命に仕事をこなしていた何人かが、ぎょっとしたように目をむいた。
.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「母者さん。ダーリンっていうのは、せめて二人っきりの時くらいに…… ヒトガミテルシ」
(´゚ω゚`).。oO(ダーリン!? ダーリンって)
(;`-ω-´)「息子よ。何が言いたいかはわかるが、決して口にはするな」
ハハ;ロ -ロ)ハ「……父者様スゴイ方、思マス」
彼らの驚きは、母者の「ダーリン」という言葉を父者自身が否定しなかったことによって、頂点に達した。
もはや仕事の手はとうの昔に止まっている。
黙り込んだ一同の心に浮かぶのはみな同じような言葉だったが、幸いな事に母者は気づかなかった。
.
923
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:32:05 ID:nnePnEts0
@@@
@ _、_@
(* ノ`) 「やだよぅ、恥ずかしいじゃないかい!」
.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「は、はは……」
父者は妻の言葉に乾いた笑いを上げるが、助け舟を出すものは誰もいない。
誰もが流石の街を支配する女傑の、意外な姿に言葉を失っている。
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「にしても、いつになったら一段落つくのかねぇ。
あたしゃさっさと帰りたいよ」
母者はひとしきり父者の背をバシバシと叩くと、ため息をついた。
もうそこには、少女のように顔を赤らめていた先ほどまでの面影はない。
母者は戦場に立つ武人のように毅然とした面持ちで、そこに立っている。
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「大丈夫。みんなで力を合わせれば絶対にできるよ、母者さん」
@@@
@ _、_@
( ノ`) 「そうだといいんだがね」
.
924
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:34:10 ID:nnePnEts0
※44
母者は腕を組んで唸り声をあげる。
言葉だけ聞くと諦めているようにも見えるが、彼女の立ち姿は誰よりも自信に満ちていて、諦めなど微塵も感じられなかった。
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「まあ、無理だと言われたって帰るんだがな」
.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「それはもうちょっと頑張ってからにしよう、母者さん」
父者が恐る恐る上げた声に、母者が「がはは」と笑い声をあげた。
ひとしきり笑うと、母者は「わかってるよ」と声を上げ、書類に印章を押した。
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「アタシが仕事放り投げたとあっちゃ、大騒ぎだからね。
こうなったら意地でも終わらせて、晩までには帰るよ」
彡⌒ミ
(*´_ゝ`)「そうだね、母者さん。だって、今日は――」
父者の嬉しそうな声が、部屋に響く。
その言葉は慌ただしい役場の中に一時の癒やしをもたらしたそうだが、真偽は明らかではない。
.
925
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:37:25 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――
“流石”の街でも、盗賊だった男と魔法使いだった少女がいる町でもない、どこか。
そこに、女が一人立っていた。
川 ゚ -゚)「ふむ」
肌を覆い隠すゆったりとした濃紺色の服に、そろいのヴェール。
流れる黒髪は絹のように艷やかで、瞳は夜空を切り取ったような漆黒。
顔の半ばを隠しながらも、それは美しい女だった。
川 ゚ -゚)「大団円というやつだな。いささかつまらん結末だ」
“流石”の街よりも遥かに大きくて華やかな町並み。
人であふれる市の雑踏の中に立ちながらも、彼女の周りはひどく静かだった。
これだけ美しい女ならいくらでも人目をひきそうなのに、誰ひとりとして彼女に目を留めるものはいない。
川 - -)「せっかく魔力封じをくれてやったのに、あんなつまらん使い方をするとはな。
まったく、期待はずれもいいところだ」
女は全てを見ていたかの様に語る。否、彼女には全てが見えていた。
彼女の首元や手元を彩る銀の装飾品が揺れる。
その中の一つ。静かに光を放つのは、彼女が弟者に手渡し、盗賊の少女に嵌められた腕輪と瓜二つだ。
魔神の持ち物とも呼ばれる腕輪。
それが、彼女の腕の中でひっそりと輝いている。
.
926
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:39:16 ID:nnePnEts0
川 ゚ -゚)「魔力で動くゴーレムは、魔力封じを使えば瓦解する。
使いようによっては、魔力を食う砂クジラにも対抗できただろうに、あいつらは」
川 - )「まぁ。一番面白い使い道は……」
腕輪を撫でていた女の口元が釣り上がる。
くつくつと声を上げて笑うが、誰一人として彼女に目を留めるものはいなかった。
川 ー )「あの半分が片割れに使っていたら、だな。
アレの存在は不安定だ。外部から強い干渉を加えれば、どう崩壊したか」
女は笑いながら、露天に飾られた鏡へ触れる。
客が商品に触れたというのに、店主は素知らぬ顔であらぬ方向を見ている。
まるで、女の存在そのものが見えていないようだった。
川 ゚ -゚)「まあ、いいさ。退屈しのぎにはなった」
気づけば、女の姿は消えていた。
単に人混みに紛れたのか、それともどこかへ去っていったのか。
あとに残るのは市の賑やかな雑踏と、露天に飾られた鏡だけ。
飾られた鏡。
――その鏡面がちゃぽんと揺れたことに、気づいた者はいない。
.
927
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:41:18 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
そして、流石邸の一角。
中庭を望む露台の上に、彼ら兄弟はいた。
.
928
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:43:58 ID:nnePnEts0
体の色と背格好以外は、全て一緒の双子の兄弟。
魂を共有する、できそこないの一人。
( ´_ゝ`)
片や、肉体的には二歳年下となる兄、兄者=流石。
寝間着同然の格好をした彼は、薄水色の毛並みを風になびかせながら長椅子に横になっていた。
(´<_` )
もう一人は、片割れを自分と解する弟、弟者=流石。
兄とは対照的に、豪奢な服をきっちりと着た彼は、背を伸ばして椅子に座っていた。
l从・∀・ノ!リ人
そして、そんな彼ら二人のそばを動きまわる青い髪の少女は、妹者=流石。
まだ十にも満たない彼女は、彼ら双子の最愛の妹であった。
.
929
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名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:45:34 ID:nnePnEts0
秋になったとはいえ、まだ鋭い日差しは、じりじりと体を焦がしていく。
それでも風の通る日陰にいれば、熱も少しずつ引いていく。
( -_ゝ-).。oO
昨夜から今朝にかけて、“流石”の街に住む男たちは総出で夜通し働いていた。
それは、兄者も弟者も例外ではない。
だから、横になっていた兄者の瞳が徐々に落ちはじめたのは、仕方の無いことだった。
l从・∀・#ノ!リ人「おきるのじゃー!!!」
といっても、この小さな妹にそれは通じなかった。
昨日、弟者と遊びそこねた妹者は、今日一日、大好きな兄たちと遊べるはずだった。
しかし、急遽決まった大商隊の出立という一大行事によって邪魔されてしまった。
結局、妹者が兄たちとちゃんと顔を合わせることが出来たのはようやく昼に差し掛かるというこの時間で、彼女はひどくご立腹だった。
l从・д・#ノ!リ人「おーきーるーのじゃー」
(く_゚(⊂(<_`#) ドゲシ
.
930
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:47:57 ID:nnePnEts0
弟者の拳が、もう半ば夢の国へと入りかけていた兄者を殴りつける。
その衝撃で、兄者は慌てて跳ね起きた。
(;´_ゝ`)>「え、え、何で殴られてるの俺?!」
ヾ(#`_ゝ´)ノ「もうちょっと寝かせてくれたっていいじゃないか、弟者のケチ!」
(´<_`#)「妹者の前でよく寝れたものだな」
l从・∀・#ノ!リ人「妹者はぷんぷんなのじゃー!!」
( ´_ゝ`)て
不満の声をあげようとしていた兄者の表情が、妹者の声に凍りつく。
兄者の耳はしょんぼりと下がり、顔の前に掲げた両手はぶるぶると震える。
その末に、なんとか妹に向けた声は情けないほどに震えていた。
(ノ;´_ゝ`)ノ「と、時にもちつけ妹者。話し合えば分かり合える」
(´<_` )「落ち着いてないのは、兄者の件について」
.
931
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:49:34 ID:nnePnEts0
(;´_ゝ`)「昨日はあれから母者と姉者相手にラスボス戦をやって、それから徹夜で星読みで寝てないんだぞ。
っていうか、アレだけ必死だったゴーレムちゃんの後に、まだラスボスがいるなんてこの世は地獄か」
兄者はまるで言い訳のように昨夜の出来事を話す。
竜――ピンクたんに乗って街まで帰って来れたのまではよかったが、そこから先が大変だった。
庭への立ち入りと、花を踏みつぶした件と、妹者への口止め。それから、無断で遠くまで外出したこと。
それに加えて、ギコやしぃに迷惑をかけ、遺跡をめちゃめちゃにしたことまでもがバレてしまい、兄弟は母と姉から折檻を受ける羽目になった。
兄者にとっては、夜通しの仕事よりも母者や姉者と対峙することの方が辛かったのだが、それを言い出すと家にいる姉者に聞きつけられかねない。
なので、兄者はぐっと堪えることにした。
l从・〜・ノ!リ人「妹者も母者たちに怒られたからいっしょなのじゃー」
(;´_ゝ`)「怒ら……そうか」
昨夜の地獄と姉者に思いを馳せていた兄者は、妹者の声にはっとする。
そうだ。この妹は、自分が軽い気持ちでした口止めを律儀に守って、母者に叱られたのだった。
( ´_ゝ`)「ごめんな、妹者。俺が余計なこと頼んだばっかりに、」
ヨシヨシ( ´_ゝ`)ノl从>〜<*ノ!リ人 キャーナノジャー
.
932
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:52:12 ID:nnePnEts0
l从・∀・*ノ!リ人「なでなでされたし、あやまってくれたから、ゆるすのじゃー
でも、次はないからカクゴするのじゃよ!」
(*´_ゝ`)「流石だよな、妹者。妹者たんマジかわいい」
(´<_` )「兄者は、本当に妹者に大甘だよな」
( ´_ゝ`)>「褒めても、何も出ないからな」
兄と妹の様子を黙って眺めていた、弟者がぽつりと言う。
妹者に甘いのは弟者自身も同じなのだが、幸か不幸かそのときの彼は気づかなかった。
一方の兄者は弟の言葉を深く追求せず、いつもと同じ表情で「えっへん」とわざわざ口に出して返事をした。
それに、弟者は「褒めてない」と言葉を返すと、大きく溜息をつく。
(´<_` )「そういえば、兄者よ。兄者は先程、寝てないと言ったな」
( ´_ゝ`)「そう。だから、お兄ちゃんは眠いというわけだ」
(´<_` )「俺は兄者が明け方、しっかり寝ていたと聞いているのだが」
<(;´_ゝ`)>「……な、なぜそれを」
兄者の言葉は、弟者の言葉を認めたも同然だった。
顔からは冷や汗が流れ、動揺しているのはどう見ても明らかだった。
.
933
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:54:25 ID:nnePnEts0
l从・∀・ノ!リ人「妹者なのじゃ。
妹者はちゃんと朝お勉強したのに、おっきい兄者はひどいのじゃよー」
(-<_- )「こっちは夜通し荷物運んで、酔っぱらいをぶん殴って、人を誘導して、労働に勤しんだというのに。
飲み会だのなんなので騒ぐ奴らを押しのけて帰るのが、どれだけ大変だったか」
(;´_ゝ`)「……」
妹と弟の言葉に、兄者はぐっと息を呑んだ。
二人の言葉はどこからどう見ても正論。兄者には返す言葉もない。
(´<_` )「時に兄者、言いたいことは?」
問い詰める側である弟者は、その表情を消した。
しかし、その顔は追い詰められた時の無表情とは違い、瞳がいたずらっぽく輝いている。
それを瞬時に見て取って、兄者はやれやれと笑った。
( ´_ゝ`)「弟者さんは、ずいぶんと楽しそうで」
(´<_` )「何のことだか」
.
934
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名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:56:21 ID:nnePnEts0
ol从・〜・ノ!リ人o「おっきい兄者に、ちっちゃい兄者ー、そろそろ妹者はあそびたいのじゃー」
妹の声に兄二人は会話を止め、全く同時に「ふむ」と頷いた。
兄者は妹者に笑顔を浮かべ、弟者の口元が少しだけ緩む。
( ´_ゝ`)「妹者よ、何をして遊びたいのだ?
今日はこのお兄ちゃんと、弟者ができる限り相手をしてやろう」
l从>∀<*ノ!リ人「砂山つぶしっこするのじゃー」
(´<_`; )「……砂山だと」
「砂山潰し」とは、砂漠もしくは砂地でやる遊びだ。
やるためには、妹者を流石邸から連れ出す必要がある。姉者や母者がそれを許すとは思えない。
そして、兄者も弟者も昨日、無断で街の外に遠征したことで散々怒られた身。昨日の今日で遠くに出る許可はおりないだろう。
(; ´_ゝ`)「そういうのは、母者か姉者のお許しのある時にしてくれ。オレ カ ゙コロサレル
おうちか、近場でできるものにしなさい。メッ!!」
l从・д・`ノ!リ人「えー、つまんないのじゃー」
(´<_` )「それならば、質問あてっこはどうだ? よく市場の子供がやっているぞ」
兄者を助けるように、弟者が言う。
「質問あてっこ」は、いくつか質問をして、相手の考えていることを当てる遊びだ。
この遊びならば今すぐできるし、面倒な許可も体力も必要ない。と、弟者は考えていた。
.
935
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 21:58:46 ID:nnePnEts0
l从・д・´ノ!リ人「おっきー兄者は妹者の知らないことばっか言ってイジワルするから、やんないのじゃー」
(´<_` )「……」
弟者が無言で、兄へと視線を向ける。
弟者は何も言わなかったが、兄者はその視線を受けて「ぐぬ」と奇声を発した。
( ´_ゝ`)「……時に弟者よ。視線がとても冷たい気がするのだが」
(´<_` )「気のせいだ、兄者。俺は大人げないなど思ってはいない」
(; ´_ゝ`)「思ってるんだな」
兄者の問いかけに、弟者は言葉を返さなかった。
かわりに妹者へと視線を向けると、兄者に対するのとは打って変わって優しい口調で言う。
(´<_` )「人形遊びはどうだ?」
l从・〜・ノ!リ人「人形あそびさんは一人でもできるのじゃー。
妹者は兄者たちといっしょじゃないと、できないことがいいのじゃー」
(´<_` )「そうか。ならば、点数をつけるような遊びにするか」
(;´_ゝ`)「……あれ、俺は無視?」
.
936
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:00:16 ID:nnePnEts0
l从・∀・*ノ!リ人「点数……だったら、ビーズとばしっこがいいのじゃー!」
(´<_` )「ビーズが必要になるが、妹者は持ってるか?」
ol从>∀<ノ!リ人o「妹者、いっぱいもってるのじゃー!!
持ってくるから、まっててなのじゃー!!!」
元気よく返事をすると、妹者は立ち上がる。
そのまま兄者や弟者が止めるまもなく、屋内へと走り寄っていく。
( ´_ゝ`)「流石だよな、弟者。今日の予定があっさり決まったぞ」
(´<_` )「流石に今日一日ビーズ遊びは御免こうむりたいが、とりあえずはだな」
( ´_ゝ`)b「……ところで、弟者。そろそろだと思うのだが」
妹者を見送っていた兄者が、ふいに声をひそめた。
その顔に浮かぶのは真面目な表情。それを見た弟者は、兄者が何を言いたいのか瞬時に悟る。
(´<_` )"
弟者が小さく頷くと、隣の部屋に用意していた大きな籠を露台の隅へと運ぶ。
「準備万端だな」と、それを見た兄者は呟いた。
.
937
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:02:33 ID:nnePnEts0
・
・
・
l从>∀<ノ!リ人「ビーズさんみっけたのじゃー!」
それから、しばらくして足音を立てながら妹者が現れた。
その手に抱えられた大きな袋には、ビーズが沢山入っているのだろう。
妹者は走りながらも何度も、袋を抱え直している。
(´<_` ;)「転ぶなよ、妹者」
l从・∀・ノ!リ人「だいじょーぶ、だいじょーぶなのじゃ!」
妹者は危なげなく、露台に出ると椅子に袋を置いた。
どさりという重い音がして、椅子が揺れる。
どうやら、妹者は相当張り切っているらしい。走ってあがった息を落ち着け、妹者はじっと二人の兄の顔を見た。
l从・∀・*ノ!リ人「あっそぶのじゃ、おっきい兄者にちっちゃい兄者!」
(*´_ゝ`)「おお、ご苦労だったな、妹者たん!
ところで、遊ぶ前に一つ俺と弟者から話があるのだが」
l从・∀・;ノ!リ人「……」
話があるという言葉に、妹者の笑顔が固まる。
妹者は兄者が話しの続きをするよりも前に、妹者は両手を耳にやって首を横にふった。
そのまま、絶対聞かないぞとばかりに両目を閉じる。
.
938
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:04:44 ID:nnePnEts0
ol从>へ<;ノ!リ人o「あそばないって話しなら聞かないのじゃ! 妹者はぜったい、あそぶのじゃ!」
(; ´_ゝ`)「いや、そうではないのだが」
l从・へ<;ノ!リ人「……だったら、聞くのじゃ」
片目だけをそろりと開け、妹者はそう口にする。
その言葉に、兄者は弟者はおかしくてたまらないと言った調子で、同時に顔を崩す。
そして、二人は言った――
( ´_ゝ`)「お誕生日おめでとう、妹者」(´<_` )
意識するまでもなく、その声はピッタリと重なっていた。
弟者が隅に置いた籠から、箱を取り出す。
そして、それをそっと妹者に手渡した。
l从・∀・ノ!リ人「これ……」
妹者はきょとんとした顔で箱を見ていたが、小さな手を動かしてそれを開く。
木で作られた小箱、その中には透き通る一輪の花が飾られていた。
ガラス細工のような花は、見つめていると色が少しずつ変わっていく。
.
939
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:06:13 ID:nnePnEts0
それは昨日、二人がソーサク遺跡で手に入れた花だった。
ゴーレムや、弟者たちが暴れても散らなかったその花は、今は妹者の手の中で可憐に咲き誇っている。
派手さはない、可愛らしい花。
その花はどんな金細工や宝石よりも、妹者に似合っていた。
l从・∀・*ノ!リ人
妹者の頬が赤く染まる。
じっと花を眺めて、空に透かして見せて、興奮したようになんども「おぉ」と声を上げる。
キラキラと輝く瞳が、彼女が何よりもこの贈り物を気に入ったことを示していた。
l从・∀・*ノ!リ人「ありがとうなのじゃ。すっごく、すっごく」
じっと花を見つめていた瞳が兄者を、そして弟者の姿を見た。
何度も「すっごくすっごくを」を繰り返して、妹者は二人の兄にむけて言葉を紡ぐ。
l从^∀^*ノ!リ人「うれしいのじゃ!!!!」
――そして浮かんだ笑顔は、兄者と弟者の疲れと苦労を吹き飛ばすような威力だった。
.
940
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:08:24 ID:nnePnEts0
(*´_ゝ`)「時に弟者、我らが妹がものすごく可愛いのだが」
(´<_` )「何を言う、兄者」
(´<_`*)「言われなくても、そんなことは知っている」
兄者と弟者は顔を見合わせ、はしゃぎ合う。
その喜びようは、自分たちのほうが贈り物を受け取ったかのようだった。
そして、彼らは同時に声を上げ、お互いをたたえ合った。
( ´_ゝ`)「流石だよな、弟者」
(´<_` )「流石だよな、兄者」
( ´_ゝ`)b グッ d(´<_` )
l从・∀・;ノ!リ人「あー、妹者もやるー!! まぜるのじゃー!!!」
.
941
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:10:21 ID:nnePnEts0
グッ グッ
( ´_ゝ`)b dl从・∀・*ノ!リ人b d(´<_` )
三人で格好を付けると同時に、妹者が笑い声を上げる。
その笑い声に答えるように兄者も笑い、少し遅れて弟者も口元に笑みを浮かべる。
兄者は笑ったまま、「そうだ」と声を上げると、籠の方へと妹者を誘った。
( ´_ゝ`)「ちなみに、こっちが妹者が昨日見たがってた、魔法石板な」
l从・∀・*ノ!リ人「おおー、なのじゃ」
籠の中には二枚の魔法石板が入っていた。
兄者はそれを指さしながら、「これは水の魔法が刻まれててなぁ」などと妹者に説明する。
妹者は腕を伸ばして石板に触れようとするが、その手は兄者の手によって遮られた。
l从・∀・#ノ!リ人「なんでさわったらだめなのじゃー! つまんないのじゃ!」
(<_゚ )「……」
(;´_ゝ`)「……弟者が怒るから、見るだけなー。
ついでに、弟者さんがすっごぉぉぉく怖い目で見てるので、俺も触ることが出来ません」
(-<_- )) コクリ
.
942
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:12:40 ID:nnePnEts0
l从-へ-ノ!リ人「ちっちゃい兄者のけちー」
(´<_` )「ダメなものはダメだ」
妹者の声にも、弟者は折れようとはしない。
それでも、魔法に関するものをすぐに壊そうとしていた昨日に比べると、大きな進歩だ。
(;´_ゝ`)「……弟者よー。もうそろそろ、魔法嫌いを克服するいい機会なのでは?
魔法も、精霊も、不思議なものも怖くないぞ。うん」
(´<_`#)「兄者は、もう少し危機管理というものを覚えろ」
( ´_ゝ`)「へいへーい、わかってますよ」
ビクッ(;´_ゝ`)て と(´<_`#)
l从・∀・#ノ!リ人「おっきい兄者も、ちっちゃい兄者も、めーっなのじゃー!!!」
兄者と弟者。それから、妹者の話し声は尽きること無い。
籠をしまい、袋の中からビーズを選ぶ、それだけのことでも次々と言葉を交わしはしゃぎ合う。
.
943
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:15:00 ID:nnePnEts0
( ´_ゝ`)「じゃあ、遊びますか!」
l从・∀・*ノ!リ人「妹者が勝つまでやるのじゃー!!!」
∩(; ´_ゝ`)∩「なんと!」
太陽はまだ高く、寝るまで時間はたっぷりある。
父者と母者が帰宅すれば、そこからはじまるのは家族勢ぞろいでのお祝いだ。
(´<_` )「あきらめろ、兄者。今日は妹者が主役だ」
l从>∀<ノ!リ人「なのじゃー!」
(#´_ゝ`)つ「漢、兄者! ゲームといえど、手は抜かんからな!」
だけど、今は兄妹三人だけの時間。
ゲームをして、笑い合って、それからご飯とおやつを食べよう。
それからブーンや、ついでにドクオにも今日のことを話してやろう。
――これからのことを考える弟者の口元に浮かぶのは、柔らかな笑みだ。
今日も忙しい、一日になりそうだ。
(´<_` )「――ああ、平和だな」
空は高く、柔らかくふく風が、弟者の薄緑の毛並みを揺らしていく。
彼らの楽しそうな笑い声は、いつまでもいつまでも響いていた。
.
944
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:17:04 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――
流石邸の屋根の上。
そこに兄妹たちの姿を見守る、二つの姿があった。
人よりも遥かに小さな体。背には透き通る羽。
( ^ω^)「おー、楽しそうだおー」
('A`)「だな」
それは、ブーンとドクオ。二人の精霊の姿だった。
( ´ω`)「ブーンもいっしょにあそびたいお……」
('A`)「弟者のヤロウは兄妹水入らずなんだから、ぜってー来るなとぬかしやがったが。
……それじゃあつまんねぇよな」
(;^ω^)「お?」
('A`)ノ「オレたちも、妹ちゃんを祝ってやろうぜ」
露台を見下ろしながら、ドクオはニヤリと笑う。
細い手を伸ばして、指さしたのは今まさに兄妹たちのいる場所。
(*'A`)「見てな」
.
945
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:19:06 ID:nnePnEts0
ドクオは伸ばした指を上下へ、それから左右へと動かす。
指の動きに従うように、露台に落ちていた影が淡く薄くなっていく。
(*^ω^)「おお!!」
(*'∀`)「ドクオ様の本気を見やがれってんだ!」
ドクオが再び指を動かすと、椅子の影だけが伸び色を濃くした。
薄い影の中に落ちる、濃い影。
それはドクオの指の動きにしたがって、山の形へと変わった。
(*'∀`)ノ「どうだ」
(*^ω^)「すっごい、すっごいお!」
それは、ドクオの意志によって自在に動く影絵だった。
影の中に作られた空に、雲が流れる。
蝶が飛び、影の草むらに花が咲き乱れていく。
――それに、最初に気づいたのは妹者だった。
l从・∀・ノ!リ人「……お花なのじゃ!」
.
946
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:21:05 ID:nnePnEts0
(´<_` )「花?」
(*´_ゝ`)「……ああ、これはドクオか」
次に兄者が気付き、それに遅れて弟者もようやく何が起きているのかが悟った様だった。
影が動き様々な景色を作り出す。
その姿に兄者は笑い、妹者は目を奪われ、見とれている。
神秘の類が嫌いな弟者もこの時ばかりは、何も口を出さなかった。
――そんな兄妹たちの姿を遠くから眺めて、ドクオは心底満足そうな笑みを浮かべた。
(*^ω^)「やったおドクオ! 楽しいみたいだお!」
(*'A`)b「物より思い出。最高な贈り物だろ!」
ドクオの言葉に嬉しそうにしていた、ブーンの表情が曇る。
ブーン自身は気づいていないようだったが、隣ではしゃいでいたドクオはブーンが何を考えているのかすぐに理解した。
(;^ω^)「むむむ、だお……」
(;'A`)「おいおい、無理はしなくてもいいんだぜ」
おそらくブーンは、自分も妹者に何かをしようと思っているのだろう。
しかし、相手は精霊を見ることも出来なければ、声を聞いたり、気配を感じることさえ出来ない。
どう考えても無茶だ。ドクオはそう思い、ブーンをどうやって慰めるべきか考え始める。
.
947
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:23:18 ID:nnePnEts0
( ^ω^) !
しかし、ブーンの顔はすぐに明るくなった。
何かを考えついたのか、ブーンの顔に赤みがさす。
(*^ω^)「じゃあ、ブーンもいくお!!」
('A`)「……行くって、どういうことだ?」
ブーンは息を吸うと、魔力を巡らせはじめる。
その目は兄者たちのいる露台ではなくて、中庭を見下ろしている。
精霊であるブーンの様子に呼応してか、風がざわざわと騒ぎ出すのにドクオは気づいた。
(;'A`)「おい、ブーン」
(*^ω^) 《吹き上がるお!》
ブーンが魔法を使うと同時に、一際大きな風が吹いた。
風は中庭の植物たちを揺らし、土を舞い上げ、中庭にある小さな泉まで到達した。
魔力を纏った風が、泉の水を吹き上げていく。
舞い上がった水は太陽の光を浴び、飛沫を散らしながら落ちてくる。
それはまるで、雨のようだった。
.
948
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:25:26 ID:nnePnEts0
l从・∀・*ノ!リ人「わぁぁぁぁ」
そして、その雨がやんだ後、空に浮かんだのは――虹だった。
l从・∀・*ノ!リ人「すっごいのじゃ、あれは何なのじゃ!!」
( ´_ゝ`)>「虹か!? 妹者、さっきの影といい、すっごいものをもらったな」
(´<_` )「あれはブーンか」
太陽の光を受けて、吹き上がった水の飛沫が七色に輝く虹を浮かびあがらせていた。
露台から見える範囲に掛けられた小さな虹。
それは、まぎれもなくブーンから妹者へと向けられた贈り物だった。
l从・∀・*ノ!リ人「にじ。あれが、にじ」
兄者は空を見上げる。
弟者もまた虹をじっと見上げる。その口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。
l从・∀・*ノ!リ人「はじめて、みたのじゃ」
妹者は贈り物を、見上げる。
妹者の頬は真っ赤に染まり、その目は食い入るように虹を追う。
砂漠にかかる虹。
彼女は初めて見る不思議な光景を、じっと見つめ続けた。
.
949
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:27:39 ID:nnePnEts0
(*'A`)b「やるじゃねーか。虹なんてよく思いついたな」
(*^ω^)「アニジャとオトジャは昨日、虹にすっごくよろこんでたお
だから、きっとよろこぶって思ったんだお!」
興奮したような妹者の声に、ドクオとブーンは満足そうに顔を見合わせた。
女の子が一人、喜んでいる。それだけなのに、ブーンの心は暖かくて、とてもうきうきした。
(*^ω^)「世界って、とっても楽しかったんだお」
('A`)「おいおい、いくらなんでも大袈裟じゃねぇか?」
今日は、昨日と違って冒険をしたわけでもない。
それでも、昨日と同じくらいにブーンの気持ちは晴れやかで、楽しかった。
l从>∀<*ノ!リ人「精霊さーんありがとうなのじゃぁぁぁー!!!!」
(*'∀`)(^ω^*)
露台から、まだ小さな女の子のお礼の声が響く。
自分たちの贈り物を受け取った女の子の顔は、嬉しそうな笑顔だ。
それだけで、ブーンは居ても立ってもいられなくなった。
.
950
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:30:36 ID:nnePnEts0
(*^ω^)「ブーンもいっしょにあそぶおー!」
('A`)「おい待て、オレもまぜろ!!」
とうとう我慢しきれなくなったブーンが、屋根から飛び降りた。
それを見ていたドクオも、不格好ながらも羽を動かし追いかけはじめる。
光をまき散らしながら、精霊たちは飛ぶ。
目指すは双子の兄弟と、その小さな妹の所。
(*´_ゝ`)l从・∀・*ノ!リ人(´<_` )
露台に三人と二人の精霊の声が響く。
彼らの盛り上がりは、ブーンたちが混ざっても変わらない。
兄者やブーンが話し、精霊たちの声を弟者が伝える。妹者はそれに、「おお」と息を呑む。
彼らはいつまでも、楽しそうに話し続けた。
⊂二(*^ω^)二⊃(´<_` )
(*´_ゝ`)σ(;'A`)ノ l从・∀・*ノ!リ人
彼らの日々はこれから先もずっと続いていく。
たとえ今日という日が終わっても。日は昇り、何かが起こり、そして日常は続いていく。
.
951
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:32:04 ID:nnePnEts0
季節は、秋。
まもなく砂漠にも、短い冬がやって来る――。
.
952
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:33:05 ID:nnePnEts0
おしまい
.
953
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 22:35:44 ID:nnePnEts0
これで完結となります
お付き合いくださいました方々本当に、ありがとうございました!
,___
/∧_∧、 ∧_∧
ノ( ´_ゝ`)> (´<_` )
<γ@^ソ^@ >^>⇔<^_<
( <====,|ゝ ~|_i 〕\〔ヽ_ヽ
と/_∧_|_) と/i____|=(_ノ=|ニニニ二フ
< /=/ |=| ゝ /= /ヽ=ヽ┐
ヽ_)(_つ と__ノ `ー.J
オマケ:予告スレに放り込んだけど使いドコロがいまいちなかったAA
954
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 23:14:04 ID:w8JirO2U0
うおお乙ー!
月並みなことしか言えんが、すごく面白かった!
妹者と精霊たちがかわいい…
955
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 23:24:08 ID:wfZ2VIa.0
乙
とても楽しかった
ニダーとのーでイラストもう一枚使われてたのはにやっとしたよ
956
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 23:25:44 ID:kAu8Wro.0
乙!盛大に乙!
凄く面白かった!
妹者は可愛いなぁ
957
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 23:29:19 ID:54BottrUO
乙!!!
毎回投下が楽しみだった!
面白かったよー!!
958
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 23:41:43 ID:x8VtzC960
乙乙!
次回作とかは予定あるの?
959
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 23:48:38 ID:nnePnEts0
乙ありがとう
>>958
間に合ったら、祝福祭あたりにいるかもしれないです
960
:
名も無きAAのようです
:2013/12/10(火) 00:23:53 ID:KDtdyQRU0
おつ
面白かったー!
961
:
名も無きAAのようです
:2013/12/10(火) 00:47:48 ID:SONkfYfM0
楽しかったよー!
962
:
名も無きAAのようです
:2013/12/10(火) 02:12:47 ID:TLMRVcn20
色々、思うことはあるんだけど
うまく言えないので
乙
963
:
名も無きAAのようです
:2013/12/10(火) 16:30:01 ID:cx7rfOSQC
350レス一気に読んだ、今さらだけどこれラノベのやつだったのね
これが完結したのでラノベの未完は残り2作品となった
964
:
名も無きAAのようです
:2013/12/10(火) 21:53:24 ID:q9Nlb7eM0
感動的乙!
ほのぼのありガチバトルありで楽しすぎたよ!
965
:
名も無きAAのようです
:2013/12/18(水) 22:45:18 ID:K.LAUj7Y0
久々に見つけたら完結してただと……!
双子の話とかいろいろ伏線あって最終回まで楽しかった
精霊二匹とかでぃとか妹者とか可愛かった
最後のクーのところはゾクッとした
今まで乙!!
966
:
名も無きAAのようです
:2014/08/10(日) 00:53:30 ID:044qn3VI0
久々に来たら完結してた。乙
王道の冒険物で気持ちのいい終わり方だった
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