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( ^ω^)ヴィップワースのようです

1以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/07(火) 00:59:11 ID:iULO39J.0

タイトル変更しました(過去ログ元:( ^ω^)達は冒険者のようです)
http://jbbs.livedoor.jp/sports/37256/storage/1297974150.html

無駄に壮大っぽくてよく分からない内に消えていきそうな作品だよ!
最新話の投下の目処は立ったけど、0話(2)〜(5)手直しがまだまだ。
すいこー的ななにがしかが終わり次第順次投下しやす

822以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/25(日) 07:42:32 ID:FRO0HXZoO
久々に原作やりながら待ってるよー

823以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:29:51 ID:xwPbV.xE0

ワタナベとの約束通り、ブーンは部屋に戻ると陽も登らない内に、すでに目を覚ましていた面々を伝えた。
森に起きている異変には危険が潜んでいる事は間違いないが、自分もまた好奇心が勝ってしまっていると。

川 ゚ -゚)「私はどちらでもかまわん。元々乗り気ではなかった依頼だからな」

( ^ω^)「そうかお」

意外にも、今回同行したクーの方が調査に対して乗り気のように思われた。
三日近くの道程を経て仕事が頓挫するよりかは、多少の危険を承知で満額の報酬を受け取る事を選んだのだろう。

川 ゚ -゚)「だが、森に危険が潜んでいると解った以上、予定通り行うならば成功報酬についての交渉は行うべきだ」

( ^ω^)「交渉……吊り上げるって事かお?」

川 ゚ -゚)「当然だ。お前達だって、善意や施しのつもりで依頼をこなしている訳でもないだろう?
     予期せぬ危険が待ち受けているのならば、相応の報酬を受け取る権利がある」

( ^ω^)「なるほど、そういうものなのかお」

爪'ー`)y-「先輩冒険者の意見にも一理あるぜ。盗賊だって、伊達や酔狂だけでやっていける程甘くはねぇ」

824以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:30:19 ID:xwPbV.xE0

仲間たちもまた彼女の言葉を聞きながら頷き、納得している様子だ。
手引書には載ってなかった事柄だが、一人前の冒険者からすれば場面場面で臨機応変に立ち回り、
ある意味では”ずるさ”のようなものも身に着けていかねばいけないものらしい。

彼女自身の態度からは自分達を快く思っていないのを感じるブーンだったが、
こうした細かな配慮からは彼女には自分が見習うべき点が多いのだと感じていた。

ξ゚⊿゚)ξ「私は、皆の判断に従うわ」

(´・ω・`)「僕自身、学連の調査団が訪れたという事から、個人的な興味もある」

爪'ー`)y-「俺が居れば森で道に迷う事は……まぁないだろうさ。その点だけは保障する」

仲間にするならば、心強い面々が目の前にいる。
ゴブリン洞窟で孤独な戦いを強いられた初依頼の時には精神的にも追い詰められていたが、
彼らが一緒ならばゆとりを持って依頼に臨む事が出来るだろう。

気がつけば、いつの間にかブーンに主導権は委ねられていたようだった。

( ^ω^)「依頼者たっての希望でもあるからお、ね」

全員が起床して各員の出立の準備が整ったのを見計ったか、コンコンと部屋のドアが叩かれる。
ドアの向こうで、幼さを残した透き通るような声が響いた。

825以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:31:00 ID:xwPbV.xE0

「おはようございます」

ブーンが扉を開けると、変わらず穏やかな表情のワタナベがそこに居た。
その姿を目にするや、腕を組んで椅子に腰掛けていたクーがブーンと彼女との間に割って入る。

川 ゚ -゚)「異変が起きていると解っている森に入る以上、報酬には色を付けてくれるんだろうな?」

从'ー'从「あ……」

まだ10代も中頃といった少女に、クーはぐっと詰め寄る。
女性ながら、彼女に強く当たられれば、並の男でもたじろぐかも知れない。

そう危惧したブーンだったが、ワタナベはそのクーに言葉を返す。

从'ー'从「……という事は、皆さん薬草採りに付き合って下さるという事ですか?」

川 ゚ -゚)「報酬次第ではな」

从'ー'从「それなら、一人頭100sp……そうですね、計500spでどうでしょうか」

川 ゚ -゚)「………ふむ」

从'ー'从「どうでしょう……?」

826以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:31:50 ID:xwPbV.xE0

たかだか薬草採りの依頼で500sp、普通に考えるならば破格だ。
勿論それも頭数が居る分、より多くの採取が望めるからであろうが。

おずおずと室内の冒険者達の顔を見渡すワタナベだが、当初の倍額となった報酬には皆納得の様子だ。

爪'ー`)y-「異論はねぇ、ブーン。お前はどうだ?」

( ^ω^)「悪くないと思うお?」

川 ゚ -゚)「決まりだな。世話になったお前の叔父には、なんて告げるつもりだ?」

从'ー'从「……街へと帰る素振りを見せて、黙っていきましょう」

ξ゚⊿゚)ξ「いいの……?あなたの親戚の方、すごく心配してたけど」

从'ー'从「私だって背に腹は代えられません。ここまで来た以上、意地でもカタンの薬草を摘んで帰らないと」

どうやら、ワタナベの意思は固いようだ。
もしブーン達がワタナベとともに森へ向かうと知れば、引き止められるかも知れない。
その事実を隠してまで向かうという事は、実家の薬草屋もなかなかに逼迫した台所事情なのであろう。

827以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:32:16 ID:xwPbV.xE0

年端もいかぬ少女の口からいらぬ多くを語らせる前に、ブーンが皆に告げた。

( ^ω^)「今の森には何が起きてるかわからないお……十分に用心するお、皆?」

これにて、森行きの話は───────まとまった。


──────────────────

────────────


──────


从'ー'从「叔父さん、ありがとうございました」

「サン……それに皆さんも、気をつけてな!」

森と街への分岐路、そこへ行くまでに見送ってくれていたワタナベの叔父の姿は見えなくなった。
自分の身を案じる叔父に嘘をつきながらも、少女がそれを重荷にしている風でもなかった。

あと四半刻もこの道を進めば、カタンの森だ。
そして、冒険者達の仕事はここからようやく本番を迎える。

828以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:32:58 ID:xwPbV.xE0

(´・ω・`)「この広大な森だ……獣の一匹や二匹、歩いていても簡単に出くわすとも思えない」

ショボンの言葉に、ほぼ全員が頷いた。
獣や妖魔の類、そういったものとはまた異質な何かが、この森にはあるのだろうか。

自身の気を引き締める意味もあるのだろう、ブーンがワタナベに声を掛ける。

( ^ω^)「ブーン達は君に危険が及びそうな時、出来る限り守るつもりだけど……
       もしかしたら、それでも守りきれない時もあるかも知れないお」

从'ー'从「はい」

( ^ω^)「だから、もしそんな時が来たら依頼者の君だけでも……逃げるんだお?」

そんな会話を交わしているうち、森を飾り立てる木々は一段と多さを増していった。
─────どうやらこの辺りが唯一、人の手の入った入り口のような場所らしい。

そこで一旦は立ち止まった一同だったが、またすぐに何事も無い風に歩き始めた。

爪'ー`)y-「……ふぅん」

下を向いて歩きながら、そこらの地面を見渡しているフォックス。
ツンが怪訝な視線を投げかけていたのに気付き、彼女に説明する。

829以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:33:21 ID:xwPbV.xE0

爪'ー`)y-「どうやらここ一日二日の間に、先客が来てるようだぜ?」

川 ゚ -゚)「……分かるのか?」

爪'ー`)y-「あぁ、恐らくは二人組ぐらいだろうよ。僅かだが、足跡が森の中に続いてる」

(;^ω^)「ブーンには見えないお?」

爪'ー`)y-「まぁな、固い土だ。すぐに風にさらされて、見た目にはまっさらになっちまう……だが、間違いねぇ」

ξ゚⊿゚)ξ「へぇ、なんかアンタが言うと疑わしいけど……森の中でその人達に出くわしたら、
      注意を呼びかけてあげたほうが良いわね」

(´・ω・`)「その彼らが、生きていてくれればいいんだけどね」

ぞっとしない話だ。少し戻れば人里だというのに、自ら望んで森に入りわざわざ野宿をする人間も珍しい。
まして、フォックスが足跡を辿った感じでは帰り道にはそれが向いていないというのだ。

一日も二日も森に篭るなど、武芸の修行に身を置く者でもなければあり得ない話だろう。

830以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:33:50 ID:xwPbV.xE0

少女に先導されるまま、面々はその背後で常に気を張りながら森道を歩み続ける。
左右に木々が立ち並ぶだけの景色を抜けると、やがて彼らの視界には鮮やかな青が飛び込んで来た。

从'ー'从「この森は、中央にとても大きな湖があるんです」

そう話す彼女が指差した先には、陽光を浴びて煌く広大な湖が確かに見える。
緑に囲まれた森の中央、対岸にかすかに見える小屋の近くには、木船が浮かんでいるようだ。

この光景だけを見れば、とても穏やかな時間が流れているようなこの場所。
冒険者らにも、森の中に危険が潜んでいるかも知れないなどという様子は、微塵も感じられなかった。

森は─────とても静かだった。
そこらに寝転がって目を閉じれば、風にさらされてざわめく木々の音に、まどろんでしまいそうになる。

( ^ω^)「ここらで昼寝したら、気持ち良さそうだお」

ξ゚⊿゚)ξ「緊張感に欠けるわね……」

( ^ω^)「余裕があると言って欲しいお」

ブーンにそう苦言を漏らすツンの表情も、心なしか森に立ち入る以前より弛緩したように見える。

831以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:34:25 ID:xwPbV.xE0

実際に森に立ち入ってみて、全員が肩透かしを食らった印象だ。
この視界の開けた森の中で遭難者が続出しているという理由に、全く思い当たらないのだ。

从'ー'从「なんだか、気が抜けちゃいましたね?」

ワタナベの言葉通りかも知れない。
特に障害が立ちふさがるでもなく、一同の前には何の障害も現れず、どんどんと森の奥へと進んでゆく。

ふとクーは、”たまには自然に囲まれて新鮮な空気を吸って来い”などと言って自分を今回の依頼に
送り出したマスターの言葉を思い出すと共に、肩をすくめていた。

子供のお使いのような依頼ではあるが、都会育ちの彼女には確かにマスターの言うように良い気分転換になっていた。
最近自分の前で起きた嫌な出来事が少しばかり薄らいで行くのを感じ、言葉を口にする。

川 ゚ -゚)「どうやら、杞憂だったな」

そう呟く彼女の後ろでは、フォックスが周囲をつぶさに見渡している。

爪'ー`)y-(どうかねぇ……)

目印となる木などの自然物の配置や造形を眺めては、周囲の景色を頭に叩き込んでいるのだ。

832以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:34:48 ID:xwPbV.xE0

昼前で陽光が差し込む今ならば道に迷い遭難の憂き目に遭う事はおよそ縁遠い事ではあるが、
これが夕刻となれば、周辺の景色はがらりと色を変える。

何の事は無い岐路であっても、緑深い場所にあっては人の身の感覚などそれほど頼りにならないのだ。
それは暗さを増すにつれ、あるいは森の意思であるかのように旅人の感覚をミスリードへと誘う。

万が一の時が訪れないように。はたまたそれがやってきた時にも対応出来るよう、フォックスは
盗賊としての目利きを生かしてリスクブレイカーとしての役割を人知れず務めていた。

从'ー'从「なんだか、すんなり過ぎて怖いですね」

( ^ω^)「いつ何が起こるか解らないお、警戒だけは……」

川 ゚ -゚)「………ッ」

”がさっ”

言葉を言い掛けたブーンの左手の茂みが、一瞬ざわめいた気がした。
そしてそれは、決して彼だけの思い過ごしではなかったようだ。

从;'ー'从「えっ?」

爪'ー`)(………)

833以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:35:16 ID:xwPbV.xE0

ワタナベが突然歩みを止めた彼らの様子に振り返ると、全員が既に茂みの方へと身構えていた。
フォックスが口元を指で押さえて「声を出すな」と全員に合図する。

( ^ω^)(………何が、出るかお)

背の剣の柄に手をかけながら、茂みの奥からこちらへ近づいてこようとする気配に神経を研ぎ澄ます。
最初、風にさざめく程度だった音は次第に大きくなり、奥の方の木々を揺らしながら向かって来ているのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「な、何なのよ……?」

(´・ω・`)「僕らの背後へ」

从;'ー'从「は、はいっ」

こちらの声が聞こえたか、音の主の動きは一段と激しくなったようだ。

どうやら、それも複数。

(;^ω^)(────来るっ!)

鞘から刀身の七分程を抜き出していたブーンは、それを完全に抜き去ると上段に構えた。
茂みを抜けて飛び掛ってきたそこに、一瞬で振り下ろせるように。

834以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:36:40 ID:xwPbV.xE0

やがて、その"何か"が勢い良くこちら側へ飛び出してきたのをしっかりと確認する余裕も無く、
そのまま剣を振り下ろす──────そう、思った瞬間だった。

皿のようにひん剥かれた眼と、視線が合った。
それとほぼ同時に、ブーンの背後でクーが大声で叫んでくれたお陰であったかも知れない。

川#゚ -゚)「─────止せッ!!」

(; °ω°)「お……おぉッ!?」

「な、な、なんでぇッ!?」

どうにか、すんでの所で振り下ろしかけた剣の勢いを止める事が出来た。
ブーン自身もそうだが、相手の"人間"の驚き方たるや、凄まじい狼狽ぶりだった。

なにしろ、人の声を聞きつけて急ぎ茂みを抜けたところに、長剣を振り下ろそうとした男が
大上段で自分の頭を狙い済ましていたのだから。

爪'ー`)「どうやら、あんたらか」

森の入り口付近でフォックスが観察していた足跡の主は、どうやら見つかった。
この───目の前で尻餅を付いて驚きに竦んでいる、二人組の冒険者風の男達のようだ。

835以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:37:12 ID:xwPbV.xE0

───────────────


──────────


─────


「俺が、ラッツ。んで、こっちがボアードってんだ」

(;^ω^)「ブーンだお。さっきはその……すまなかったお」

互いに冒険者だと分かると、そこからはこれまでのいきさつを説明した。

ブーン達が薬草採りにこの場所を訪れたように、木こりの傍ら冒険者をしているボアードは、
盗賊風の男ラッツを引き連れて、カタンの森の質の良い木材を採取に来たのだという。

「いやぁ、参ったぜ。昨晩はこの物寂しい森で野宿する事になってよ、俺が焚き火をしようと
 したら……”山火事になったら大変だからやめとけ”なんてこいつに止められたのさ」

「俺は暗所が落ち着くのさ……昨日ここに着いた時には、もう夕刻でな。
 丈夫な樫の木の群生地を確認するだけにして、仕事は翌日の今日やる事にしたのさ」

爪'ー`)y-「んで、成果とやらは?」

836以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:37:53 ID:xwPbV.xE0

「それがな……俺とした事が、何度も来た森だってぇのに道に迷っちまったんだ」

「俺だって、迷うはずはねぇと思ったさ」

体格の良いボアードに同行する、蛇のように鋭い目をした男も言った。
そのラッツを見て、フォックスは一目で盗賊家業だという事が分かる。

洞察力などに長けていなければ務まらない職業だというのに、あろう事か森の出口すら見失ったというのだ。

「んで、お前さんがたはどっちから来たんだ?」

川 ゚ -゚)「一目で分かるほどの一本道だと思うのだがな……あっちだ」

そう言って、今しがた自分達が歩いて来た道を指差すクー。
だが、ボアードは困惑の表情を浮かべながら、首を傾げる。

「……っかしいな、さっきもこの辺りを通ったと思ったんだが、こんなに拓けた道じゃなかったはずだけどな……」

「………」

傍らで沈黙を守るラッツの表情にも、どうやらボアードと同じ疑問が浮かんでいるようだった。

837以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:39:04 ID:xwPbV.xE0

川 ゚ -゚)「ふぅ……」

( ^ω^)「じゃあ、そろそろブーン達は行くお」

彼らの様子に肩をすくめたクーの仕草を合図に、二人の冒険者に別れを告げる事にした。

「おう、色々すまんな。出口の場所も分かった事だし……俺たちも昨日確認した樫を切って帰るさ」

ξ゚ー゚)ξ「気をつけてね」

挨拶も程ほどに、きょとんとしていたワタナベに声を掛け、再び先導を頼んだ。

从'ー'从「私、突然何が起きたのかとびっくりしました……」

(;^ω^)「ブーンも驚いたお」

ξ゚⊿゚)ξ「ホント早とちりなのよ……大体あんたは────」

先ほどの出来事をツンに突っ込まれながら、ブーンがばつが悪そうに後ろ頭をさすっていた。

一端の冒険者でも無い修道女が、同じ稼業に身を置く者を罵倒している光景───
彼女にとっては、それが恐らく自分の事のように感じられたのだ。

それは、かつてから今に置いても憧れている人物がただ単に冒険者だったから、という理由なのかも知れないが。

838以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:39:56 ID:xwPbV.xE0

川 ゚ -゚)「どうだかな」

ξ゚⊿゚)ξ「────え?」

尚も言葉でブーンを攻め立てようとしたツンの言葉は、クーに遮られる。

川 ゚ -゚)「さっきは私が瞬時に相手が人だと見抜いて止めさせる事が出来た」

ξ゚⊿゚)ξ「……ええ」

川 ゚ -゚)「だが、もし仮にあの時飛び出してきたのが強力な妖魔だったら、お前はどうしていた?」

ξ゚⊿゚)ξ「どうって……何が?」

川 ゚ -゚)「そいつが剣を振り切れなかった時、お前の中に……勢いのままに襲い掛かってくる
     強力な妖魔と対峙するような覚悟はあったか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「な、無いわよ!私には戦う力なんて……」

川 ゚ -゚)「なら、お飾りはお飾りらしくしていればいい」

ξ#゚⊿゚)ξ(………かっちーん)

839以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:40:41 ID:xwPbV.xE0

川 ゚ -゚)「制止が間に合わず、あのまま冒険者の男の一人を斬り殺してしまっていたとしても、
     私には仕方の無い───合理的な判断だと思えるんだがな」

ξ゚⊿゚)ξ

川 ゚ -゚)「仲間を危険に晒すぐらいならば、時としてそういった切り捨ての判断も必要なのさ。
     ――――ま、所詮男の庇護を頼りにするだけのお嬢さんには、わからんだろうがな」

ξ゚⊿゚)ξ「何よ……あんたの言い方」

川 ゚ -゚)「………」

にらみ合う、女が二人。
猛獣をも怖気づかせてしまいそうなほどの雰囲気が二人の間を取り巻き、足を止めて睨み合いを始めた。

どうやら、クーのきつい言葉にさしものツンも相当頭に来ているようだ。
自分よりも頭一つ近くは身長も体格も良いクーに対し、一歩も引く様子を見せない。

爪;'ー`)y-(お、おいブーン……このままじゃ進めねぇ。後ろの二人なんとかしろ)

(;^ω^)(……それだけは、無理な相談だお)

(´・ω・`)(危うきには近寄らず……それが最善だと思うけどね)

840以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:41:21 ID:xwPbV.xE0

男どもは震えているか気配を殺してやり過ごすばかりで、二人の間に介入する勇気など毛頭無かった。
だが、そこへ天からの助け舟を出してくれたのが、先頭を歩く少女の一声だ。

从'ー'从「あった……あの断崖の前に咲いているのが、"カタンの薬草"です!」

そこで初めてワタナベは年頃に合ったような明るい笑みを浮かべたかと思えば、小さく飛び跳ねる。
走っていく彼女の背中を追いかけるべく、背後でにらみ合う女性陣にブーンが消え入りそうな声で小さく促した。

(;^ω^)「ふ、二人共?や、薬草も見つかったみたいだし、その辺にしとくお……」

ξ゚⊿゚)ξ「はんッ………ほら、見つかったってさ?」

川 ゚ -゚)「………ふんッ」

辛うじて届いたブーンの声に応じて、二人はあからさまに不機嫌な表情で鼻を鳴らし、
互いに勢い良く視線を背けると、面倒臭そうにゆっくりと歩き出した。

いつの時代も女というものは強く、怖いものだ。
それを改めて実感しながら、一同はほっと胸を撫で下ろす。

841以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:41:51 ID:xwPbV.xE0

爪;'ー`)(……相性最悪だな、あの二人)

(´・ω・`)(あまり刺激しない方が身の為だよ?)

(;^ω^)(本当、心臓に悪いお………)

──────────────────


────────────

──────


从'ー'从「皆さん、ありがとうございますっ!」

一通り採取を終えた頃には、全員の麻袋には一杯に薬草が詰まっていた。
一般に出回る際には高級な薬草であるこれを加工すれば、様々な病にも効力のある薬も取り出せるのだ。
これほどの採取が出来れば、恐らくは困窮しているであろう彼女の家業には大助かりだ。

( ^ω^)「礼には及ばないお、当初の予定通りの依頼だからおね」

842以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:42:42 ID:xwPbV.xE0

喜びを露にするワタナベだが、街に帰るまでは気が抜けない。
同行する依頼人をしっかりと護衛してやることも、今回の依頼には含まれているようなものだ。

爪'ー`)y-「随分と楽な依頼だったな」

ξ゚⊿゚)ξ「………まぁね」

川 ゚ -゚)「お前は居るだけだし、な」

ξ゚⊿゚)ξ「はぁ?……あんただって、別に大して仕事してる訳でもないじゃない」

(;^ω^)「ちょ、ツン……落ち着いて!ストップ、ストップ!」

依頼を終えたばかりだというのに敵意の篭った眼差しを向け合い、再び小競り合いを始める二人。
制止するブーンも神経をすり減らし、次第に手を揉みながらごまをするような格好になっていた。

そこへ、極力刺激しないようにと発言を控えていたショボンが言葉を発した。

843以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:43:12 ID:xwPbV.xE0

(´・ω・`)「お嬢さん、あの小船が停泊している小屋には、誰かが滞在していたのかい?」

両手一杯に薬草を抱えて、それを嬉々として麻袋に詰めている少女の後姿に言葉を投げかけた。
そのショボンの指先が向く方向には、確かに木造の小屋の屋根が遠くに見える。

从'ー'从「あ、はい。何でも以前この森に調査に訪れた人達が使っていたみたいで」

(´・ω・`)「確かに滞在を続けて調査するならば、船で湖を対岸に渡った方が早いか……」

魔術師学連の調査団が訪れたというこの森には、何があるのか。
そして、その調査結果は上がっているのか、ショボンにはその点が気になっていた。

一度好奇心が沸けば、それを自分の目で見るまでは気になってしようがないという性分、
それはどうやらブーン達とも同じで、冒険者としてよくあるタイプの性格なのだろう。

(´・ω・`)「ちょっと確認してみたい事があるんだ。あの小屋に行ってきて構わないかな?」

( ^ω^)「まぁ採るものも採ったし、ブーン達はかまわないけどお……」

844以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:43:38 ID:xwPbV.xE0

そう言って、クーの方へと振り向くブーン。
彼から向けられていた視線から言わんとしていた事を察知すると、短くクーが言い放った。

川 ゚ -゚)「私は構わん。だが、手短に頼むぞ」

(´・ω・`)「すまない、すぐに戻るよ」

爪'ー`)y-「それまで俺たちは、のどかな緑に囲まれて一服とでも洒落込みますか」

ブーン達に踵を返すと、盛り中央の湖のほとりにひっそりと佇む小屋へ、ショボンは一人消えていった。


───────────────

──────────


─────

845以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:44:23 ID:xwPbV.xE0

さほど古びてもいない小屋だ。恐らくつい最近まで人の出入りが多かったのだろう。

そこら中一面には書物や羊皮紙が投げ出され、乱雑な印象を受けた。
それも、何らかの聞きから逃れるために泡を食って飛び出した、というのなら頷けるが。

(´・ω・`)(これか……)

数冊の書物にまぎれて、そっけない室内の卓上に置かれた調査報告書らしきものを手に取る。
どうやら、この森に留まり何らかの経過を観察していた学連の諜報員の、手記だ。

ぱらぱらとページをめくっては、近い日付のものを探した。

(´・ω・`)(○月×日……これが、半年前か)

速読などお手のもののショボンにとっては、ただなんとなくページを捲っているだけで、
調査員が何の目的でこのカタンの森へ来訪し、調査していた事柄は何かまで、その全貌がすぐに読み取れた。

(´・ω・`)「数週間前は、これだね」

846以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:45:15 ID:xwPbV.xE0

『△月▲日 やはりこの森は静かで居心地が良い。温暖な気候で眠る時も快適だし、何より仲間たちと呑む
      夜のエールが一番の楽しみで、まるで調査が遊びみたいなものだ。

      しばらくここに滞在するのは、私個人まるで苦ではない』


(´・ω・`)「おやおや……」


数週間前まではまるで日記のような内容だったが、日付が最近に近づくにつれて、その内容は
だんだんと調査員としての本分を果たしているものになっていった。

ショボンも予想していた通り、このカタンの森へ2年前に降り注いだという隕石について調査報告だ。

「△月×日 隕石が落下した事が影響しているのか、この開けた視界の森で何故か道に迷う事例が増えた。
      どうやら磁場に何かしらの影響を及ぼし、それが感覚を狂わせているのだとは思うが……」

847以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:46:09 ID:xwPbV.xE0

何も変わった出来事の無い手記のページを、さらに捲り続ける。
そしてショボンの手は、あるページで止まった。

(´・ω・`)(………これは?)


『△月●日 今日は最悪の出来事が起こった。調査員の一人、カシェルの遺体が発見されたのだ。
      死因は外的な衝撃で、恐らくは胸を何かで強打されたものと思われる。

      気さくで、本当にいい奴だった……無くしたのは惜しいが、今は悲しんでばかりいる訳にもいかない。
      一体カシェルを殺したのが何者なのか、絶対に突き止めてやる』

どこか、楽観するようにして流し読んでいた手記の端に、物騒な文字が躍っていた。
調査員の一人が胸を強打され、殺されたというのだ。

一体────何に?


(´・ω・`)(続きを────)

クーやブーン達を待たせているが、どうやらこの調べものが終わるまで彼らには待っていてもらわなければならない

848以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:46:47 ID:xwPbV.xE0

未だこの森に潜んでいるであろう未知の危機をもたらす存在に対し、ぽっと火が灯された彼の好奇心。
それを識るべくして、ページを捲る手を止めさせようとは、決してしなかった。


『△月○日 一体どうなっているんだこの森は……頭がおかしくなりそうだ!!
      一昨日はルシオが、そして昨日はバドラックが遺体で発見された……残る調査員は、私を含め3人。

      皆の士気を見る限り、調査を続けるのも限界だ。学連には厳しく追及されるだろうが、
      事後報告でこの森から去る事に決めた。恐ろしいのだ、この虫の声一つ無い森に、我々の命を
      どこかで舌なめずりして狙っている、目に見えぬ"何か"が潜んでいる事が。

      また、それは本当に生き物なのかも分からない……まだ、誰も見た者は居ないのだ。』


(´・ω・`)(やはり、この森には何かが────)

849以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:48:12 ID:xwPbV.xE0

『追記 : 先ほどは遺体で発見されたと記したが、正確には全身の7割を致命的な大火傷に覆われた状態で
      発見されたバドラックの、最期の言葉をここに記しておこうと思う。

      その彼の言葉を聞いていた我々からすれば、彼は自分の意思で身を焼いたとしか思えないが───』




      『やってやったぜ 見たか 俺は他の奴とは違う   ……………燃えている。』


手記はそれきり何も書かれておらず、その謎めいた最期の言葉だけで締めくくられていた。
ゆっくりと両手でそれを閉じたショボンの手には、じっとりと嫌な汗が滲む。

850以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:49:08 ID:xwPbV.xE0

何とも言えぬ表情を浮かべながら、森の中にあって人一人に焼身自殺をさせてしまうほどの畏怖の対象を、思い浮かべる。
だが、当然ながらそんなものは妖魔ぐらいしか思い当たらず、何より逃げればよい話なのだ。

そう、逃げられる場所さえ────あれば。


(…… ……ぎゃああぁぁぁぁぁッッ…… ……)

(´・ω・`)「ッ!!」

思案に暮れていたショボンの耳に微かに届いたのは、どこかから響いた断末魔。
それが彼の背筋に電撃を放ち、弾き出されるようにして再び動き出したショボンは───ブーン達の元へと駆けた。


───────────────


──────────


─────

851以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:50:32 ID:xwPbV.xE0
大体半分投下したとこで区切りが良いので、今日はここまで……
これ以降は少しは面白くなる予定。

852以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:51:43 ID:mWLCpxlQ0

続き楽しみに待ってます

853以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 02:56:18 ID:xwPbV.xE0

「………ぎゃあぁぁぁぁぁぁッッ!!………」


(;^ω^)「!」

ξ;゚⊿゚)ξ「……何、今の声……!」


ブーン達にも、当然ながら耳に届いていた。
ショボンの向かった小屋の、更に奥の方から聞こえた、男のうめき声。

その声の主にも、大方の察しはついていた。

川 ゚ -゚)「今の声は……」

从'ー'从「今の悲鳴……もしかして、さっきの人達じゃないですか?」

爪'ー`)y-「───あぁ、多分な。さっき会った連中のどっちかさ」

今このカタンの森に訪れているのは、ブーンら冒険者5人と、依頼者の少女サン=ワタナベ。
それ以外の人物となると、やはり先ほど出会ったラッツとボアードとしか思えない。

川 ゚ -゚)「猛獣の類にでも、襲われたかな」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな………ブーン!」

854以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 02:57:21 ID:xwPbV.xE0

ツンが言葉を掛ける前から、既にブーンは立ち上がっていた。
先ほどの悲鳴の上がった方へと助けに行くつもりなのだろう。

( ^ω^)「分かってるお、フォックス……一緒に来るお!」

爪;'ー`)y-「あー……へいへい、お前さんも物好きだぜ」

川 ゚ -゚)「私はこの場に残るぞ、まだショボンも戻らない」

ξ#゚⊿゚)ξ「(ムカッ)……じゃあ、私も行くわッ!」

どこか冷ややかな視線で彼らを見送るクーの横顔に一瞥し、ツンが走り出そうとした時、
その肩はクーによって掴み止められた。

川 ゚ -゚)「大人しく待っていろ……依頼者の少女がこの場に居るというのに、足並みが乱れ過ぎだ」

ξ#゚⊿゚)ξ「………ッ」

遺恨を残したままのお互いは、またもこの局面で睨み合う。
だが、今ばかりはそんな二人のやり取りに気を揉んでばかりいる訳にもいかぬだろう。

何しろ、人命が懸かっている可能性がある───それほどの悲鳴だったのだ。

855以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 02:58:40 ID:xwPbV.xE0

(;^ω^)「ツン、クーさんの言う事はもっともだお。ブーンとフォックスが帰ってくるまで待ってて欲しいお」

ξ#゚⊿゚)ξ「チッ……分かったわよ」

爪'ー`)y-「ったく、どーしてお前らもそう何にでも首突っ込んじまうかねぇ……」

川 ゚ -゚)「ま、安心しろ。しばらく待っても戻ってこなかったら、私は遠慮無しに彼女を連れて森を出る」

ξ#゚⊿゚)ξ「この………!」

爪'ー`)y-「あぁ、正しい判断だぜ。こちらとしてもな」

先ほども、今もクーが口にしたのは、仲間を冷静に切り捨てるかのような発言。
それに対してツンはまたも食って掛かりそうになったが、フォックスのフォローによって事なきを得た。

最悪の状況は、常に想定しておいて損は無い。
ただそれは時として、"仲間"というものを見捨てる事に対して割り切れるかどうかが枷となるのだが。


ワタナベとクー、そしてツンの女性三人だけを残して、ブーンにつられるようにフォックスも走り出した。

856以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 02:59:12 ID:xwPbV.xE0
───────────────

──────────


─────


声の聞こえた南西へとひた走ると、すぐに少し拓けた視界の場所に出た。
さきほどボアード達が言っていたように、丈夫な樫が群生している場所のようだ。

そしてすぐに目にしたのは─────その一本の木の前にうつ伏せに倒れている、一人の男の姿。

(;^ω^)「………大丈夫かおッ!」

爪;'ー`)「こりゃあ……」

力なく倒れている彼の身を抱き寄せると、やはりそれは青みがかった黒髪の男、ボアード。
もはや意識も完全に失われて、瞳は混濁している。

抱き寄せたその胸元は大きな衝撃に穿たれた痕跡があり、完全に胸を潰されていた。

爪'ー`)「即死だったんだろうぜ────恐らくは、な」

(; ω )「そんな……」

857以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 03:00:56 ID:xwPbV.xE0

道すがらで出会っただけでも、多少なりとも言葉を交わした同じ冒険者を、放ってなどおけなかった。
だからこそ助けたかったブーンに、フォックスは辛らつな事実だけを冷淡に述べた。

大きく肩を落としていたブーンだが、開ききったボアードの瞳を手で閉じてやると、
彼の亡骸をそっとその場へと横たえてから、ゆっくりと立ち上がった。

(; ω )「もう一人、居たはずだお……」

何故ボアードはこの場で死んでいたのか、そして一体、"誰"にどうやって殺されたのか。
湧き上がる疑問と共に、今この自分達の周りにもその危険が取り巻いているという事実に、戦慄を覚える。

爪'ー`)「……あぁ。今、来たようだぜ」

フォックスが親指を差した方向の茂みを揺らしながら、同じように悲鳴を聞きつけたのか、先ほどまで
一緒に行動していたラッツはようやく姿を現した。

自分達に目が合うよりも先に、相棒の変わり果てた姿を目の当たりにすると、彼は叫んだ。

「!?……ボアード、おいッ!」

858以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 03:01:32 ID:xwPbV.xE0

口と胸から血を流している彼へ駆け寄ると、ラッツもまたブーン同様の反応を示した。
彼が既に死んでいる事を確認すると、瞳を強く閉じこみながら、ゆっくりと首を左右へと振った。

「あんたら………何があった?」

爪'ー`)「そりゃあこっちが聞きてぇ」

(  ω )「ブーン達が悲鳴を聞きつけてここに着いた時には───もう………」

「そうか……」

だが、共に行動していたはずの彼が何故この場にいなかったのか、という事実。
それに端を発してか押し寄せる疑念が、ラッツに対して鋭い視線を送っていた。

自らを訝しむ視線に気づき、ラッツ口を開く。

「俺は……こいつが木を切り倒してる間に何か採取できる野草はねぇかと、探しに出てたんだ……」

爪'ー`)「少しの間か?」

「あぁ、ものの数分ってとこだろうよ……ほれ見ろ」

そう言ってラッツが指差した先には、木を切り倒そうとしていたのだろう。
先ほどまではボアードが手にしていたと見られる伐採用の斧が、木の中ほどにまで突きたてられたままだった。

859以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 03:02:22 ID:xwPbV.xE0

( ^ω^)「その最中に……どうしてボアードは……」

その手斧の柄を何気なく引き抜きながら、浮かぶ疑問を口にした。
木を切り倒している間に、しかも斧を突き立てた状態で。

どこから、誰に、どうやって狙われれば───────
丈夫な人間の肋骨を、こうまで粉々に砕く事が出来るのだろうか。

「人ぐらいの力じゃ、こんなこと………」

そうラッツが呟き、またブーンが見上げた先にはただ一本の太い木が聳え立つばかりだ。

爪'ー`)y-「わからねぇ……だが、やっぱりこの森はどこかおかしいぜ」

(;^ω^)「そうだおね、ツン達が心配だお」

先ほどまでは何の変哲も無い平和な光景が、瞬時に謎めいた危険な場所に感じられ、
残してきた面々もまた同じ目には遭ってやいないかという焦燥、頬には冷たい汗が伝う。

(;`ω´)「ラッツ、ボアードを連れて、一緒に森を出るお!」

「………あぁ、すまねぇな」

860以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 03:02:58 ID:xwPbV.xE0

ぼうっとボアードの顔を眺めていたラッツだったが、緩慢ながらそのブーンに言葉を受け、動き出した。
ボアードの両肩をそれぞれブーンとラッツが抱きかかえるようにして、彼を森から運び出してやるのだ。

(;^ω^)「これは形見だけれど……悪いけど、置いていくお」

ラッツが手にしていた伐採用の斧を、再び同じ木に突き立て、それに背を向ける──────



────────そこから、静寂に包まれていた森は 途端にその色を変えた─────────




───────────────


──────────


─────

861以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 03:03:46 ID:xwPbV.xE0

ξ゚⊿゚)ξ(大丈夫かな……皆)

誰かの危機となれば、それが見ず知らずの他人でさえも例外ではない彼ら。
ツン自身が彼らと出会った時も、そうだった。

何にでも首を突っ込むとは良く言ったものだが、ツンもまた同じ種類の人間だ。
だからこそ彼らと共にこの場を飛び出して行きたかったのだが、それはこの隣に並び立つクーと、
たった少しの間でも一緒に居たくなかったからという理由も大きい。

川 ゚ -゚)「あと5分だけ待つ……それを過ぎれば、何かがあったということだ」

从;'ー'从「本当に、ブーンさん達を置いて行くんですか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あんたは冒険者が長いのか知らないけど……こちとら!」

だが、クーの言う事にもあながち道理が通っていないという訳でもない。

862以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 03:05:16 ID:xwPbV.xE0

依頼者と共に同行し、ましてや彼女はまだ14、15ぐらいの少女だ。
何か不測の事態が起きたとして、今この場に居る二人でまともに戦力となり得るのは、クーだけ。
適切な判断を行え、行動力においても人並み以上である彼女に反論するツンだが、その要望は聞き入れられない。

ξ゚⊿゚)ξ「あんた……さっきも言ってたけど、こういう事?同じ仲間を、切り捨てる判断って……」

川 ゚ -゚)「先ほど、あの銀髪の男達にも告げたはずだがな。本人達もそれを望み、了承は得ている」

ξ゚⊿゚)ξ「へぇ、随分と非情なのね─────自分が助かりたいからってワケ?」

川 ゚ -゚)「お前のように、個人の感情に振り回されたりはしないさ……私達が守ってやらなければ
     たちどころに妖魔の餌食になるような子供を置いて、あいつらは何をしている?」

ξ;゚⊿゚)ξ「でもさっきの悲鳴は、きっとただ事じゃない!もし助けが必要だったらどうするのよ!」

川 ゚ -゚)「それならば、きっとこの森にはやはり危険が潜んでいるという事だ。
     なおさら、こんな所でまごまごしている訳にはいかんだろう」

ξ#゚⊿゚)ξ「どうして……そんな風に割り切れるの!?同じ依頼の仲間じゃない!」

863以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 03:07:43 ID:xwPbV.xE0

川 ゚ -゚)「だからこそ───最小限に被害を留めるべきだ。そんなに待っていたかったら、お前はここに居るといい」

从;'ー'从「あ……あの二人とも……その、落ち着いて下さい」

おずおずと二人の間に挟まれおろおろとするのは、ワタナベ。

気丈で大人びているといえど、自分を護衛してくれるパーティーが分離してしまっている現状に、
ツンらをたしなめる彼女の表情にも、さすがに不安さが覗いた。

だがツンとクーの言い分にはどちらにも一理があり、根本的な部分では同じなのだ。

窮地に陥った仲間を思いやる気持ち。
また、より多くの仲間が助かるように苦渋を飲む決断。

それはどちらも仲間の事を想っての行動、考えであり、それほど大きくは違わない。
ツンの感情にまかせたきつい言葉に、さらに態度を硬化させてそれを跳ね除け続けるクー。

864以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 03:10:19 ID:xwPbV.xE0

そうした二人のやり取りをたしなめ続けてばかりいたワタナベが、突如覚えた違和感に周囲を見渡した。


从;'ー'从「………え?」


ざわ・・・

    ざわ・・・

        ざわ・・・



川 ゚ -゚)「………待て」

ξ゚⊿゚)ξ「何よ?」

鳥の鳴き声一つ聞こえなかった周囲が、途端にざわめきだす。
それは、自然の中にあるならば普通の事だ。

風があれば───木々は揺らぐのだから

865以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 03:18:22 ID:xwPbV.xE0

だが今は頬を撫で付けるような風はほとんど感じない、無風。

だのに──────驚くほど急激にざわめきだした"それ"。
それはまるで木々達が、舞いを踊るかのようだった。

从;'ー'从「ひっ……」

ξ;゚⊿゚)ξ「な、何なのよ……これ!」


              … キチキチキチキチキチ …
… ウケケケケ ……

         … ケタケタケタケタッ …


川;゚ -゚)「………」

次第に、不快な雑音がそこら中から奏でられ、怖気さに肌を泡立たせる。
音ではなく明らかに"声"として耳へと伝わるざわめきは、悪意に満ちていた。

周囲全方位を覆う全ての木々達が、足を地面から抜くような動作で根を抜いて"歩き出す"。
その光景はもはや、ハロウィーンの悪戯かと思い込んでしまいたくなるような悪夢だった。

866以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 08:26:54 ID:2/OQPfJAo
待っていたぜ

867以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/01(土) 03:33:54 ID:NlWNeIzU0
来たか

868以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/01(土) 06:28:31 ID:iq1bW106O
ワクワク

869以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/01(土) 06:38:35 ID:u8wu3.i.0
仕事とハードセックスの兼ね合いで、今日の深夜から明け方までの間に出来れば投下を…

870以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/01(土) 18:22:24 ID:wMtmpPZc0
どんだけハードセックス強調する気だww

871以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/02(日) 08:14:55 ID:a7D1kpKUo
これはやりすぎて寝たなww

872以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/03(月) 09:14:56 ID:Uilg4SsYO
申し訳ない、腰が立たんのでもう2〜3日必要そう

873以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/04(火) 00:48:02 ID:f2PQReBA0
サキュバスか何かと交わったのかww

874以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/04(火) 13:19:48 ID:WzMOyESIO
おとなしく待ってるから養生しとけよwww

875以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/11(火) 02:00:40 ID:mTvKoJx2O
いくらなんでもハードすぎやしないか?
作者が早く回復しますように

876以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/19(水) 19:07:48 ID:LAVPz0UA0
いつまで待たせやがるコンチクショウ!!
やり過ぎてミイラにでもなってんのか?

877以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/24(月) 02:24:49 ID:BByN9FBEO
この作品はもっと評価されてもいい

878以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/28(金) 22:04:35 ID:YhbDJj6I0
・・・・・・まさか

879以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/01(火) 02:02:33 ID:09550NKcO
>>877 
埋もれてるという意味なら 
十分ではないけど評価はされてると思う 
今あるなかの冒険物では一、二を争うという認識は読んだ人はもっていると思う 
まとめられるのが全てではないがそんな話もあったし 
普段荒らしてるやつもこれははまったと言ってた

880以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/01(火) 22:22:15 ID:DWCu0072O
創作板でなくこの板で、しかも基本sage進行するしな
ときどきVIPの総合とかで名前はでるのみるけど

これが冒険物で一番おもしろい、過去現在問わず
まだストーリー的には序盤なんだろうが


だから応答頼むよ作者……

881以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 04:15:24 ID:fyiiO8eo0
どうしても欲しいAAを自作しようとしても、全く上手くいかず。
どーしてもそれが欲しかったんだけど、諦めたので文章だけにしました。
しばらくそれで挫折してましたね。今はその分しっかりすいこーしながら書いてます。
後は興が乗ったら一晩のウチに書きあがる量なのれすが…待っててくれてる方々、すんませんなぁ。

882以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 04:44:27 ID:fyiiO8eo0
───────────────

──────────


─────


爪;'ー`)「なんだよこりゃあ……一体、どうなってやがる!?」

(;^ω^)「どうもこうも無いお……木が───”歩き出した”としかッ!」

「や、やべぇ、完全に囲まれちまってる……ひぃッ!」

ボアードの亡骸を運び出してやりたかったが、どうやらこの状況ではそうも行かない。
全方向から一斉に根を足代わりにして、木の化け物達が自分達の元へと向かって来るのだ。

いつの間にか、この場所まで来る時に通った道は2〜3本の木の化け物に塞がれている。
その幹には全て、裂け目のようにして出来た顔が現れて─────それが、笑っていた。


  … チキチキチキチキ …

           … ウケケケケケケケケ …

 … クキュキュキュキュキュ …

883以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 04:45:37 ID:fyiiO8eo0
ただの"木"が意思を持って、この自分達を嘲り笑っているとでもいうのか。

(; ω )「すまないお、ボアード」

ラッツと同様に、脇へと差し込んでいた腕を抜いて、その身をゆっくりと地面へと下ろした。
亡き彼に一言を告げると、代わりに、背中の鞘へと仕舞われていた長剣の柄を力強く握り込んだ。

(; ω )(君を連れて行けそうには……ないお)

  … ケタケタケタケタ …

 … イギギギィ ギッ …

奇怪な声色は、そこら中から聞こえる。
拓けた場所であったはずだが、その周囲にあったはずの樹木との距離は、既に目に見えて縮んでいる。

人間さながらの厭らしさを含んだ笑みは、自分達に向けられている。
屍鬼や妖魔ともまた違う未知なる敵は、まさか、この森全体とは。

爪;'ー`)「……この正面を真っ直ぐ突っ切れば、ツン達の場所に出るはずだ」

「う、後ろからも来てるぜぇッ!?」

ブーンの背後から迫る木の化け物の存在に気付き、ラッツが狼狽する。
これらが相手では、フォックス達の手持ちの武器では厳しいだろう。

884以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 04:46:23 ID:fyiiO8eo0

ブーンの背後から迫る木の化け物の存在に気付き、ラッツが狼狽する。
これらが相手では、フォックス達の手持ちの武器では厳しいだろう。

対抗できる手段があるとすれば、厚みのあるブーンの剣だけ。
枝一本叩き斬るだけならば難しい事ではないが、それも、太い樹木に大してはさして効果は望めない。

今では、空が赤くなっているかのようにすら錯覚してしまっている。
それはこの森を覆う周囲全体が、人間に敵意を向ける化け物だらけである事への危機感によるものだ。

全てでは無いにせよ、この森に生える樹木の大半が目の前に居る化け物と同じならば、
そしてその一つ一つが人一人を軽々と圧殺してしまう程の力を持っているとしたら────絶望的状況だ。

(;`ω´)「ふぅ、ふぅ……」

爪;'ー`)「いいか、落ち着いて…まずはツン達を助けるんだ。1、2の3で行くぞ」

… ケタケタケタケタッ …

目の前の、窪んだ眼窩の奥に不気味な眼光を光らせる一本、いや、一体に視線を走らせる。
器用に足元の根を這いずらせ、こちらへと近づいてきている。

こいつの左右を抜ければ、この場を走り抜けられる。

885以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 04:49:19 ID:fyiiO8eo0
爪;'ー`)「1……2の………」

「ひゃあぁぁぁぁぁッ!!」

(;`ω´)「! ラッツ、待つおッ」

フォックスの号令を待たずして走り出したラッツに、木の化け物の腕が振るわれる。
先ほどボアードを葬り去ったのは、恐らくこの太い幹から振るわれた一撃によるものだ。

「ひぃッ!」

脇を抜けきれず、すれ違いざまにしなるその豪腕が振り下ろされようとしていた。


(; °ω°)「おぉぉッ!」


”ごっ”

木と何かがぶつかりあう、鈍い音だけが周囲へと拡散した。

886以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 04:52:57 ID:fyiiO8eo0
(; °ω°)「………くッ」

ラッツを狙い済ました"人面樹"の一撃だったが、辛くも即座に前に出たブーンの剣が、それを正面から弾き返していた。
刃の腹で受ける格好になってしまったため、切り落とすまでには至らなかった。

だがそれでも、確実に"痛がって"いる。

「… ギギ、ギィィィィィ …」

無機物と有機物の中間のようなそれが、声を上げて仰け反る。
後ろで尻餅を付くラッツを守りながら、ブーンの目は数瞬だけその様子に奪われた。

目も口も付いているその姿に、昔おとぎ話で聞いた事のある森の妖精、エントやトレントを思い出していた。
だが、これは妖精などといった可愛げのあるものでは無い。

凶暴な表情を覗かせる彼らの姿は、人に仇なす凶悪な妖魔が木に乗り移ったかのようだ。

爪;'ー`)「ったく……お前さんも盗賊なら、窮地こそもっと冷静になりな」

号令を無視して飛び出したラッツを叱責しながら、フォックスが強引に立ち上がらせる。
ここでもたもたしている暇はない、自分達が襲われているように、ツンやショボン達の身も危ないのだ。

(;`ω´)(無事で居てくれお……皆!)

爪;'ー`)「急ぐぜッ!」

大木が怯んだ隙に、ブーン達はその脇を素早く抜ける。
一路ツン達の元へと向かい、駆けた。

887以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 04:53:26 ID:fyiiO8eo0
───────────────

──────────


─────


(´・ω・`)【 穿ち貫け 魔法の矢 】

 … ウォォォ …     

          … アァァァァァァ …

    … ギギギギギチィ …

数体の木の化け物の身体を、同時に光の矢が刺し貫いた。
それでも、活動を停止させるまでには至らない。

幾重にも折り重なった悲鳴が、生ぬるく感ぜられる風に乗って耳の中へぼう、と響く。
不快な感触に、ショボンは思わず手でその音を拭い去った。

888以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 04:55:04 ID:fyiiO8eo0
(´・ω・`)(……木は木らしく、ひとつ燃やしてでもやりたい所だが……)

小屋を出て、叫び声の方へと向かおうとした時、いつの間にか森には異変が取り巻いていた。
これまでひっそりと佇んでいた木々に足が生えてそこらを歩き回り、不気味な声は辺り一面に木霊している。

カタンの森の遭難者が激増した原因など、一度この現実を目の前にすれば考えるまでも無い。

(……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!……)

(´・ω・`)(今の声は……!)

遠くに聞こえた悲鳴だが、しっかりとショボンの耳に届いた。
恐らくは残してきた仲間たちの声───助けに行かなければならない。

だが、正義感や仲間意識に従い行動するは易いが、この状況でその判断は命取りだ。

往路は既に木の化け物たちによって塞がれているのだ。
移動速度は人よりもはるかに遅い、だがその動きには共通の目的意識の為か、統率が取れている。

この人面樹達の目的は果たして何か、食うためか、殺すため?────同じ事だ。

889以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 04:56:20 ID:fyiiO8eo0

だが、化け物とはいえ体面を覆う表皮は木、そのものだった。

ゆえに魔法で火を放ってから安全な場所まで逃げる事が出来ればこの状況を打破できるであろうが、
パーティーから離れてしまった現状では、仲間たちをも炎に飲み込んでしまう可能性が高い。

好奇心のままにパーティーから離れ単独行動を取った己の浅はかさを、責める。
ツン達の叫び声から離れ、逆方向への後退を余儀なくされながら、ショボンは歯噛みした。

(´・ω・`)(もう……追ってはこないのか?)

背後の木の化け物たちの様子に何度か振り返りながら、目の前にはやがて小さな洞穴が飛び込んできた。
どうやら、ある程度の距離を取れば、彼らは各々の持ち場を離れすぎるという事は無いらしい。

だが、再び近場の木々が妖魔化する危険性を鑑みて、目の前の洞穴へと一旦身を隠した。

本来は自然の岩壁だった場所なのだろう。
人の手により岩を切り崩し、森の東西を行き来出来るようにしたのだ。

中はがらんどうとなっているが、片腕で抱えられそうなほどの小さな樽が何個か転がっていた。

890以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 04:57:31 ID:fyiiO8eo0

その中の一つ、転がった樽から漏れ出していた液体の臭いが洞穴中に充満し、鼻を突く。
その場に腰を下ろして、指でひとさじをすくい上げてみた。

液体の特性に気付くと、ショボンは一人無言で頷く。

(´・ω・`)(これは─────なるほど)

本当に最後の最後、ある手段としてこの上ない道具─────そう思った。
しかし、その前にはまずやるべき事があるのだ。

(´・ω・`)(先ほどの悲鳴、間違いなくツン達だった……)

ブーン達全員が一緒に行動してくれているのならば安心だが、あのような状況ではパニックに陥り、
全員が散り散りに解散して逃げている可能性がある。もしそうならば────最も危険だ。

ツンやクー達の元までは、そう離れた距離ではなかったはずだ。
だが、木々の化け物達が移動する事により、つい先ほどまでの土地勘は全く頼りにならない。

行く手を完全に塞がれて、最後囲まれてしまえば、もはや逃げ場は無い。

(´・ω・`)(一度、このまま洞穴を抜けて東から再び回り込む……それしかないか)

ツン達を救うために、洞穴の反対側へと抜けて、ショボンは再び動き出した。

891以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 04:58:18 ID:fyiiO8eo0
───────────────


──────────

─────

从;'ー'从「な、何なの……何なのよ……これぇッ」

森に隠されていた脅威、これだったのだ。
顔のある木の化け物達は、笑い声ともつかぬ気色の悪い音色の協奏曲を奏でる。

周囲の木はばきばきと音を鳴らせながら、次々にその異形を顕にしてゆく。
足元に伸びる背後の影では身を捩じらせながら、歓喜に踊っているように思えた。

まるで、彼女達の必死と恐怖を嘲り笑うかのように。

ξ;゚⊿゚)ξ(───ブーン……皆っ!)

ブーン達の消えて行った方向を遠くに眺めて一瞬躊躇したツンの肩を、クーが強引に手繰り寄せる。
この状況でまごまごしていれば、たちまちあの木々に行く手を遮られてしまう。

分断されたこの状況では、やはりクーに言われた通りだ。
ツン一人ではこんな危機から身を守る術を持たぬ、一人の女性だという事を痛感させられる。

892以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 04:59:40 ID:fyiiO8eo0

从;'ー'从「ど、どうすればっ」

ξ;゚⊿゚)ξ「………ッ」

ツンの道衣の袖をつかみ、うろたえる少女。
二人で顔を見合わせる中、彼女の恐怖はやがてツンにまで伝染しかけていた。

だが、この混沌の中にありながらも、しかとまだ強い意思を瞳に宿して道標となったのは、彼女。

川;゚ -゚)「……走るんだ。幸いにして動きは鈍い、脇を抜けて出口を目指す」

クーが二人に目配せを送ると、三人は同時にゆっくりと頷いた。
そして彼女の合図を機に、全員ともがその場からはじき出されるようにして走り出す。

… ギチギチ …

  … ギギ、ウェハ…ウェハハ …

川;゚ -゚)「離れずについてこい!」

一定の距離を保ってとり囲んでいた木達もまた、それに気付いて動き始めた。
器用に根を地面で這わせて伝い歩く光景だが、背後を確認してそれを目にする余裕もない。

893以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 05:07:02 ID:fyiiO8eo0

ξ;゚⊿゚)ξ「はっ、はぁっ……!」

自分達の置かれた状況をまるで把握できぬままに、悪夢で彩られた森の中を走り続ける。
目的地は森の外────だが、行く先々には顔を持つ木の化け物達が姿を潜めているのだ。

从;>ー<从「!? きゃぁッ」

川 ゚ -゚)「!!」

後方を走るワタナベの横合いから、突然目の前に向かって何かが振るわれた。
恐怖に思わず頭をかばいながらかがむ事で、偶然にもそれをかわす事が出来た。

ξ;゚⊿゚)ξ「ワタナベちゃん!」

だが頭のすぐ上を通過した、木の急襲が刻んだ恐怖は、計り知れなかった。
体つきの華奢な女でなくとも、今のを受ければただでは済まなかっただろう。

運良くそれを避けられたものの、恐怖からかワタナベはしゃがみ込んだまま動けずにいた。

膝が笑っている彼女では立ち上がる事もままならず、さらに悪いことに顔を上げた先では、
そのワタナベを見下ろしていた人面樹と、眼が合ってしまったのだ。

从;'ー'从「あ─────」

894以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 05:09:03 ID:fyiiO8eo0
眼窩の奥に自分を見下ろす光、そして幹が上下に引き裂かれて現れた、笑みを浮かべる口。
その異形と対峙してしまった少女には、恐怖に抗う術もなかった。

「ギギギ……ウェハ、ウェハ!!」

ぽつりと声を上げて、がちがちと歯が震える。
────────このままではただ喰われるのを待つばかり。

ξ;゚⊿゚)ξ「────早く、起き上がって!」

だが、そこへすぐさま引き返したツンが彼女の手を掴むと、再び立ち上がらせる。
その助けが、今を取り巻く悪夢のような現実へとワタナベを立ち返らせた。

从;'ー'从「ツンさ……ありが──」

ξ;゚⊿゚)ξ「いいから!走るのよッ」

ワタナベの背中を強く押し出して、その走りを促した。
二人へと振り返っていたクーが一瞬だけ安堵の表情を浮かべ、また先頭を走りながら叫ぶ。

川;゚ -゚)「気をつけろ!すぐ傍にまで近寄らないと、本物の木かそうでないか見極められん!」

895以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 05:14:37 ID:fyiiO8eo0

どうやら、このカタンの森の全ての木々が人面樹たちではない。
恐らくはクーの見立て通りであろう、中には一見して普通の樹木もある。
だが、それらの中には近づいた瞬間に、捕食者としての顔を浮かび上がらせるものもある。

森の出口まではそう遠くない場所にまで来たはずだ、森に入った時に過ぎた湖畔が左手に広がる。
だがここに来て、クーは歯噛みをしながら表情を歪めた。

川;゚ -゚)「ちぃッ!」

从;'ー'从「ど、どうしたんですか?」

道が、二手に枝分かれしているのだ。

片方は恐らく森の出口へと通ずる道。かなり地形が変わっているが、自分達が入ってきた方だ。
そしてもう片方は道を外れた、樹木の茂った森深くへと続くであろう道。

川;゚ -゚)(罠……だろうな)

歩いた記憶の中にある湖沿いの道には、今びっしりとその先を覆い隠す木々がひしめいている。
これまで以上に多くの木に妨げられている事から、恐らく"木々たち"は自分達を外へと逃がしたくないのだ。

遠目からには一見すると普通の樹木だが、踏み入れば瞬く間に全ての木々が化け物へと豹変するだろう。

896以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 05:18:15 ID:fyiiO8eo0

そして────もう一方は不自然なほどに開け放たれた、山林への道。
その中へ入って人里へと通じる道へと出られるかは、大きな賭けになるだろう。

この地の土地勘も持ち合わせていない上に、森の中では方向感覚を見失いやすい。
加えて、"動く木"にかかって本来あるべきはずの道を塞がれてしまっては、人の感覚など完全に狂わされる。

それでも、人里へと確実に繋がる出口の近くからであれば、森を抜けられる可能性もゼロではない。

ξ;゚⊿゚)ξ「確かにこの道だったと思ったけど……あれって」

川 ゚ -゚)「恐らくな、全てが木の化け物だろう」

从;'ー'从「道が、塞がれて……」

川 ゚ -゚)「あぁ、白々しいまでに堂々と森の出口を塞いでいる……近づけば、すぐさま叩き殺されるかもな」

从;'ー'从「それじゃどうしたら!?」

一介の町娘であるワタナベという少女にとっては、今がきっとこれまでで初めて味わう程の恐怖。
理不尽にもこの"非日常"へと落とし込まれた彼女の精神は、半狂乱で喚く一歩手前にまで追い込んでいた。

その姿は、呼吸を落ち着けながらも淡々と目の前の状況を分析するクーとはまるで対照的なものだ。

川 ゚ -゚)(───ふむ)

897以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 05:19:12 ID:fyiiO8eo0

ξ;゚⊿゚)ξ(私の聖術が役に立ちそうな相手でも……ない)

攻略の糸口は見つからない。しかし、同時にクーと共にこの場に居られて良かったと思う。
あの場でツンとワタナベの二人きりであれば、混乱のままに化け物たちの餌食となっていただろう。

先ほどまで口げんかしていた時の態度とは打って変わって、今では頼もしくも生還への道を
必死に探りあてようとするクーの瞳が、まだ二人に希望を与えてくれているのだ。

そして、その彼女が指で一つの方向を指し示した。

川 ゚ -゚)「────右だ、山林へと入り、そこから人里に抜ける道を探す」

ξ゚⊿゚)ξ「……本気?さっきの木の怪物がうようよいるわよ?」

川 ゚ -゚)「どの道退路は絶たれている。だからこれは、一つの賭けになるだろう」

从;'ー'从「もし……道が見つからなかったら?」

川 ゚ -゚)「その時は……三人仲良く、この森の養分になるだろうさ」

ξ;-⊿-)ξ「………ふぅ」

898以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 05:22:29 ID:fyiiO8eo0

クーの言葉に頭を垂れて大きくため息をついたツンだったが、再び顔を上げた時、
その少しばかりあきれたといった表情の中には、僅かな笑みを浮かべる余力も残っていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「大したタマだわねあんたも……」

川 ゚ー゚)「ふっ、昔から言うだろう?女は度胸……だとな」

ξ゚⊿゚)ξ「────いいわ。乗ってやろうじゃない、その賭け」

从;'ー'从「ほ、本当にこの中を行くんですか?」

川 ゚ -゚)「あぁ。お前も依頼人なら、覚悟を決めろ」

ξ゚⊿゚)ξ「ワタナベちゃん───あなたも女なら、ここは腹を括るわよ!」

从;'ー'从「そっ……そんな理屈は無茶苦茶ですよぉ!」

ここに来て、初めて芽生えつつあった共通意識は"生還する事"
同じ苦難を共闘を経て乗り越えれば、それまでいがみ合っていた間柄にも何らかの仲間意識は芽生えるものだ。

今この場にいるツン達3人の団結力。
それがこの危機に瀕した今、ようやく高まりつつあった。

899以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 05:27:08 ID:fyiiO8eo0

川 ゚ -゚)「それじゃあ……行くぞッ!」

再びのクーの合図を機に、三人ともが走り出した。

逃げるため、ワタナベは両手一杯に抱えていた薬草は投げ捨てて、今では各人の鞄の中にあるのみだ。
ツンも、走る際に邪魔となるという事が実体験を通してよく理解できたために、修道服の裾を詰めている。

これは、仲間であるブーン達に置いていかれぬために。
そして、その彼らの足でまといにならぬ為にと、わざわざ自ら裁縫したものだった。

未だ動きにくい衣服ではあるが、その心がけが早速役に立っている。
両手を大きく振って全力で走る事に集中できているのも、この為だ。


  … ギ、ギギギィィ …

 … キチキチ キチキチキチキチキチ …

从;'ー'从「こっちにも!」

「やはり」といった感想しか出てこないが、走り去るうち次々と移ろい行く景色。
その視界の端々には、次々と妖魔化してゆく人面樹達の姿があった。

900以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 05:28:48 ID:fyiiO8eo0

川;゚ -゚)「だが……数はそれほどでもないぞ!」

クーの言う通り、緑が辺り一面中を包む場所にあって、想像していたよりもはるかに化け物の数は少ない。

人面樹は当然の事ながらいるが、ひっそりと佇む普段の姿の樹木も同じぐらいだ。
森の出口を塞いでいた中には、本来はこちらに群生していた樹木達も数多くあったのだろう。

この現状こそが、クーが勝算を見出して賭けに臨んだ理由でもあった。
ブーン達やショボンもこの異変に気付いているのなら、恐らく彼らも襲われているだろう。

その彼らや自分達を狙った人面樹達が、生い茂った獣道から逆に中央の湖畔沿いへと移動してきていると踏んだのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「これなら、行けるかも!」

小枝や身の丈ほどの葉っぱを手で払いのけながら、山林を奥へと進む。

ざわざわと木の葉を揺らしながら追走してくる気配は、すでに幾つもある。
それでも恐怖を押し殺しながら、ただ見えかけた光明を手繰り寄せるべく、前へ、前へと進む。

从;'ー'从「はぁっ……ふぅっ……!」

ξ;-⊿-)ξ「振り返りたくないわね……」

901以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 05:55:11 ID:zNpDrQAU0
おお久しぶりだね
支援支援

902以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 06:22:01 ID:fyiiO8eo0

段々と足場が悪く、木や葉に邪魔されて道が険しくなってきた。
自分達を追う人面樹達との距離も、次第に狭まりつつある。

思うように身動きが取れない険しい道を、じたばたと身を捩じらせながらどうにか進んでいく。
そのワタナベとツンの焦燥が、限界近くにまで達した時だった。

川;゚ -゚)「────先に、行け」

一度立ち止まったクーが、ツンとワタナベに告げる。
その彼女へ振り返った方には、ぎょろりとした人の目玉のような眼が窪みに収まった人面樹が、すぐ背後にまで迫る。

ξ;゚⊿゚)ξ「クー!?どうする気よっ」

川;゚ -゚)「少しだけ時間を稼ぐ。お前達は気にせず先へ進め!」

「ギチギチギチ」

威嚇するようなその怪音を意に解する事もなく、腰元の小剣をすら、と抜き出した。
そのまま人面樹へと立ちふさがり、力強く言い放った。

从;'ー'从「クーさん!?」

川;゚ -゚)「人里へと降りられる道を探すんだ!私も……すぐに行くさ!」

903以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 06:23:20 ID:fyiiO8eo0

クーがその言葉を最後まで言い終えるよりも早く、人面樹が無造作に伸ばしてきた腕。
それを掻い潜ると同時に、指の役割を果たしているであろう先端から枝分かれした小枝の数本へと剣を振るった。

「… ギアァァァッ …」

川#゚ -゚)「…・…せぇぇぇッ!」

切り落とされた小枝からは、血のように赤黒い樹液が噴き出させた。
その痛みと怒りに任せてか、人面樹が反射的に逆の太い腕を振るうも、すでにその場にクーの姿は無い。

果敢に化け物の懐へと踏み込みながら、胴体である幹へと勢いのままに剣を突きたてた。
その一連の動きは、まるで流水のようにしなやかでそれでいて、無駄の無い洗練された剣技だった。

「… !?ブギイィィィィ …」

从;'ー'从「……クーさん、すごい!」

そうして勇猛な彼女の姿をぼうっと見ていたワタナベの腕が、ツンによって引っつかまれた。
一瞬呆気に取られていた彼女だが、クーの背中に一瞥してから、また走りだす。

ξ;゚⊿゚)ξ「行くわよ、クーが時間を稼いでくれてる間に、アタシ達が突破口を見つけなくちゃ!」

从;'ー'从「は、はいッ!」

904以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 06:24:22 ID:fyiiO8eo0

「… ヴァアァァァァァッ! …」

川;゚ -゚)(チッ……もう限界か)

やはりこの剣だけで、そう簡単に倒せるような相手ではないらしい。

幾度か剣で斬り浴びせた後、怒りを露にする人面樹の後ろに、更に2〜3体の姿が見えた。
クーは小さく舌打ちしてから剣を素早く鞘へと収めると、殿を務めながらすぐにツン達を追う。

すると先頭で、何かに気付いたワタナベが悲痛な面持ちを浮かべ、精一杯の声量を搾り出しているのが映った。

从;ー 从「────だめ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「何かあったの!?」

川 ゚ -゚)「………?」

頭を抱えながら、ワタナベはとうとうその場にしゃがみこんでしまった。
ツンが声を掛けると、おずおずと腕を上げて、その方向を指差した。

木々を掻き分けて、ツンが覗き見た先──────

ξ;゚⊿゚)ξ「────そんな」

905以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 06:25:29 ID:fyiiO8eo0

視界を沢山の樹木や緑葉に遮られて、これまで気付くことが出来なかった。
彼女達の眼前には、切り立った断崖が憎らしいほど高くそびえ立っていたのだという事に。

この道から人里へと出るのは────不可能だという事だ。

川;゚ -゚)「くっ………待て!壁沿いを伝っていけば、まだ……」

事態に気付いたクーだったが、まだ諦めてはいなかった。
別の進路をたどればあるいは可能性も残っているはずだ、と。

生存への諦めに絶望した様子のワタナベの傍で、その彼女を奮い立たせようとするツン。
すぐ後ろには数体の人面樹達が迫っており、もはや一秒たりともまごまごしてなどいられぬ状況だ。

遅れてその場へたどり着いたクーが、二人へ声を掛けようとしたその時だった。

川; - )「なんッ─────」

906以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 06:42:52 ID:fyiiO8eo0

突如としてクーの脛から下の自由は奪われ、そのまま地面へと倒れ伏してしまった。
少しだけ遅れて、その箇所へは鋭い痛みが訪れた。

"がちゃん"

がっしりとかみ合わさったような金属音。
それが聞こえた足元へと、直ぐに視線を向けた。

川;゚ -゚)(な……トラバサミ……だとッ!?)

クーの足首へと錆びかけた歯をめり込ませ、完全に歩行の自由を奪っている。

それは、かつて狩猟などを生業とする者達にこの森で使われていたであろう、鉄のトラバサミ。
本来ならば肉食の獣へと仕掛ける罠であるそれが、運悪くこの場に取り残されてしまっていた。

それがクーの足首へと力強く噛みついたのだ。
目の前には断崖、背後からは化け物が迫ってきているという最悪の状況下で。

川;゚ -゚)「あ……くそッ、くそぉッ!」

大型の肉食獣用の罠なのか。
膝を畳んで引き寄せ、両手で口をこじ開けようと全力を込めるも、僅かに緩むばかりだ。
一刻を争う状況で、致命的なトラップに引っかかってしまったクーの顔が、苦痛や焦燥に歪む。

907以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 11:10:18 ID:OwcN4q3.O
おおおきてた
今から読む!
毎日確認しててよかた

908以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/03(木) 22:53:18 ID:QWrmaCosO
まさかの歩く木
なんかメルヘンだけど物性考えたら確かに怖いな

909以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/04(金) 00:10:41 ID:35fdUKP.O
創作板嘘予告スレの>>92って作者?

910以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/04(金) 08:29:46 ID:Yq/n.YWI0
>>909
なぜわかったしwww息抜き

911以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/06(日) 17:33:10 ID:U6FnUNlM0

──── …ギギィ… ――――

奇怪な影は、地を舐めるクーのすぐ傍にまで伸びて来ていた。
いくら力を込めようとも、女性の柔腕では到底こじ開けられるような物にないらしい。

ξ;゚⊿゚)ξ「クーッ!」

川; - )「あ……あぁ……」

うつ伏せで地面を殴りつけた後、力なく仰向けに寝転がるクー。

泡を食って自由を奪われたクーの元へとたどり着いたツンだが、彼女の足に食い込む罠を見て、血の気が引く。
食い込んだ場所からは衣服に薄ら血が滲んでおり、立ち上がるのさえ困難な状況なのだと、解ってしまった。

川; - )「まさか……こんな所で、とはな」

これまで道を指し示してくれていたクーが、初めて諦めにも似た言葉を口にした。

ξ;゚⊿゚)ξ「大丈夫よ!背負ってあげるから、早くこの場所から───」

川; - )「私がこの足ではもう───無理だ」

ξ;゚⊿゚)ξ「何言ってんの!肩を貸すだけでも、まだ───」

川; - )「……お前達だけでも、逃げろ」

912以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/06(日) 17:34:03 ID:U6FnUNlM0

そのクーを必死に鼓舞するツンの言葉も、届かない。
この一刻一秒を争う事態の中で歩行不能に陥った事実は、既に彼女に絶望を認識させていた。

川; - )「いい、戻れ……どうにか、さっきの場所まで」

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン達だってまだ無事かも知れないんだから、皆と合流すればなんとか───」

川#゚ -゚)「───うるさいッ!!解れ!」

ξ゚⊿゚)ξ「……ッ」

問答をしている余裕など無いのだ。
この一言で、クーの言わんとしている事をツンは理解しただろう。

『仲間を危険に晒すぐらいならば、時としてそういった切り捨ての判断も必要なのさ』

先ほどツンに告げた言葉、その状況こそが、"今"なのだ。
このまま全滅するくらいならば、一人だけでも逃げ延びる事が出来れば、きっとそれこそが上策だ。

まさか、自分がこんな立場になってみるなどとは思いもしなかったが────

川 - )「………行け、あいつらと」

913以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/06(日) 17:34:46 ID:U6FnUNlM0
自分はこの身動きのままならぬ状況で、生きたままあの人面樹達に食われるのであろうか。
身体全体に微かな震えが来たが、それが大きくなってツンに悟られる前にと自分を見捨てるよう促した。

ξ ⊿ )ξ「――――解ったわ」

川 - )「………」

すっくと静かに立ち上がったツンの姿は、すぐにクーの視界から消えた。

そう、それでいい。

己の生死が懸かった状況だというにも関わらず、あまりにも冷静な指示を下せた自分に、少しばかり驚きだ。

思い返してみれば、自分の人生はいつも誰かに置いてけぼりにされてばかりだった。
たとえそんな事ばかりでも、女だてらに周囲の男に負けないぐらい一人でも強く生きてやろうと思った。

父や母の死───あれからが自分の不運の始まりだったのだろうか。
悲哀に打ちひしがれていた自分に手を差し伸べ、再び生きる力を与えてくれた"彼"も、いつか自分の元を去った。

いつもたった一人。孤独という名の暗い牢獄へと、囲繞されていたのだ。
この不運はもしかすると、自分がこの世に生まれ落ちた時から、既に約束されていたのだろうか。

914以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/06(日) 17:35:13 ID:U6FnUNlM0

──── … ギギッ ギィィッ … ────

化け物の声が、さらに近くに聞こえる。
それと同時に、これまで強い自分を保ってきたクーの心の外殻は、剥がれ落ちようとしていた。

川; - )「……はぁッ、はぁ……」

呼吸は上ずり、次第に周囲の音もぼぅ、と遠くに聞こえる。
これから訪れる死の恐怖を遮断する為に、五感が鈍くなってでもいるのだろうか。

もう目も開けていたくなかったから、思わず顔を塞ごうとした時だった。
ふと─────足元でもぞもぞと違和感を覚え、飛び上がるように身を起こす。


川;゚ -゚)(────なんッ)


「動かないでッ!!」

915以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/06(日) 17:36:21 ID:U6FnUNlM0

川;゚ -゚)「………お前、どうして………」

クーの脚にがっしりと食い込んだトラバサミ。
その口をこじ開けようと、真っ赤な顔で立ち膝しているツンの姿が、そこにはあった。

小鼻を膨らせながら一心に全力を込めているその指先からは、既に手首を伝う程に血が滲んでいた。
修道服の袖を紅に染めながらも、それでもその手を緩めようとはしない。

ξ;゚⊿゚)ξ「私が神に仕える信徒であろうが、今はそんな事はどうでもいいわ……」

川;゚ -゚)「馬鹿者め、早く逃げるんだ!」

困惑するクーの視界に、いよいよ三体ほどの人面樹の姿が見えた。
だが、ツンはそちらには目もくれず、クーの脚にかかるトラップを解こうとしている。

事の次第に気づいた彼女達の前方に座り込むワタナベも、ようやく正気に立ち返り叫んだ。

从;'ー'从「あ……ツンさん! 後ろ、逃げて下さぁいッ!!」

その言葉にも、ツンが動じる様子はなかった。
ただがむしゃらに、自身の指に食い込む鋭利な鉄の痛みに時折顔をしかめながらも、その場を動こうとしない。

ξ;゚⊿゚)ξ「私の目の前で助けられるかも知れない人をよ……」

川;゚ -゚)「もう……いい」

ξ;゚⊿゚)ξ「ふぅッ……この私が、諦められる訳……ないじゃない!」

916以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/08(火) 19:40:22 ID:RnAnUHvsO
待機中

917以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/14(月) 16:26:16 ID:S6PDxH6cO
そろそろ次スレいる時期だな

918以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/15(火) 21:17:11 ID:FzNiYzXY0

川; - )「どうしてッ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「………今は聖職者だからとか関係ない。そんなの、"アタシがイヤだから"ッ!」

川;゚ -゚)「────!」

有無を言わさぬツンの剣幕に、さしものクーも一瞬たじろいだ。

伊達や酔狂で出来る事ではないのだ、ましてやこんな場面で。
拾えるかも知れない自分の命を、他人の命を救うために投げ出す事など。

ツンの、決して諦めようとしない姿に。
クーはこの時、心を揺さぶられる何かを感じていた。

川;゚ -゚)「その手……」

ξ;-⊿-)ξ「いっ、つつ……」

痛みに一瞬手を離したツンの手のひらを見て、制止しようとするクーの言葉が詰まった。
尖った部分に構わずに指を掛け力を込めていた為か、手のひらはもはや血だらけだ。

それでも再度、閉じた口を両手でがっしと握り締め、諦めるつもりなどないとばかりに、叫ぶ。

919以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/15(火) 21:17:45 ID:FzNiYzXY0

ξ;゚⊿゚)ξ「─────ワタナベちゃん!お願い、手を貸して!」

だが、もはやツン達の背後に迫る人面樹に恐れをなしたワタナベは、その場から尻餅をついたまま動けない。
半開きに開いた口はカラカラに乾き、ワタナベはただただ救いを口にする事しか出来ずにいた。

从;'ー'从「あ………あ……神、様……」

──── … ウェハハ、ギチギチ … ────

ξ#゚⊿゚)ξ「ふんぬッ!ふんっ!」

川;゚ -゚)「もう……いいんだ」

ξ# ⊿ )ξ「くっ……!」

川;゚ -゚)「私を見捨てて──────お前達だけでも、逃げてくれ」

ξ; ⊿ )ξ「………聞こえない、わよ」

川;゚ー゚)「”ありがとう”………な」

ξ;⊿ )ξ「そんな言葉……聞きたくない」

920以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/15(火) 21:18:23 ID:FzNiYzXY0

    … グフフフフフフ …
            … ギヒヒ …

       … チキチキチキチキ …

静かな木々のざわめきに入り混じって聞こえる、あざ笑う声。
ツンの背後に、もはや悪夢は覆いかぶさろうとしていた。

ξ;⊿ )ξ「……………なんなのよ、もう」

必死に誰かを救おうとする彼女の心にも、とうとう影が落ちようとしている。
諦めようとしている────心が折れ掛けてしまっていた。

ξ;⊿ )ξ「女の子ほっぽり出して、一体どこをほっつき歩いてるんだっつーの……」

しかし脳裏には、あの能天気な面々の顔が一瞬過ぎる。
これが走馬灯というものだとすれば、憎たらしい事この上の無い最期だ。

だから、こんな形での旅の終わりは絶対に認めない。

諦めを認識しそうになった間際、ツンは半ば無意識に、最後の望みを託してその名を口にした。
喉の奥が震えて、そこから血を吐き出しそうになるほどの大声量で。

ξ; ⊿ )ξ「─────ブウゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーンッ!!」

そのツンの叫びにかぶさって、どこかから声が聞こえた気がした。

921以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/11/15(火) 21:18:52 ID:FzNiYzXY0

───( 我が前に立ち塞がる敵 其はその一切を 業火の元に滅せよ)───

ツンの背後に迫った人面樹の一体が、ギリギリと幹をしならせて腕を大きく振りかぶる。
直後、それを彼女の頭部へと叩きつけようと、狙いを済まして振り下ろそうとした、瞬間だった。

…… ギチギ……ブッグゥ ……

突如、人面樹の胴体部分の幹が、中心部分から丸々と赤みを帯びてゆく。

ξ゚⊿゚)ξ「─────!」

川 ゚ -゚)「………これは!」

─────────「【炎の玉】!」

”どむっ”

瞬間、辺りを赤い閃光が照らした。

胴体部分が紅蓮の赤熱を帯びたのが見えたかと思えば、即座にその身が爆散していた。
遅れて吹き荒れる熱風はツンやクーらの衣服をはためかせ、やがて過ぎ去る。

ξ;-⊿-)ξ「きゃっ!」

川; - )「なっ……!」




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