[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
メール
|
1-
101-
201-
301-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
剣―TURUGI―
113
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/08/28(日) 21:41:07 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第三十八閃「決戦前」
「作戦は失敗したようね」
天界にある『死を司る人形(デスパペット)』のアジト。
廊下で靴音を鳴らしながら歩いていたマルトースは不意に背後から女性に声をかけられる。だが、その声は『女性』と呼ぶには幼く聞こえた。
彼が振り返るとそこに立っていたのは第八部隊隊長のエリザだ。
「これはこれは」
マルトースは一瞬不愉快な顔をしたが、すぐにいつもの怪しい笑みを浮かべて応対する。
大してエリザは腕を組みながら、
「ふん、ザマァ見ろってのよ。私が連れてきた奴を勝手に使うからこうなるの」
「おや?私は組織のためになると思ってやったのですが?」
瞬間、マルトースの目の前にエリザの槍が向けられる。
しかも『鎖砲牙(くさりほうが)』でも『神隠し(かみかくし)』でもなく、エリザが本気になった時にのみ発動する槍型の『蓮華(れんげ)』を。
おや、とマルトースは僅かに驚いた表情をする。
「組織のためって…クリスタを襲ったのも組織のため?」
「どうでしょうね。少なからず私情を挟んでます。しかし、彼女のことで怒るなど、貴女らしくない」
ふん、とエリザは鼻で軽く息を吐き、槍を引く。
彼女は槍を担ぎ、マルトースに背を向けて去っていく。
「アンタはいつか私が殺す。天子達との戦いが終わった後でね」
天子達との戦いが終わった後。
それは、決して遠くない未来だった。
昼の学校の屋上でメルティ(十六歳の格好)は口を大きく開けて固まっていた。
彼女の目の前にいるのは助けられた沢木叶絵。
メルティはぷるぷると震えて、
「カッワイー!私の情報網で顔を知ってはいたけど実物はこんな可愛かったなんてー!」
いまいちテンションの上がりどころが分からないが、メルティはきょとんとしている沢木にいきなり抱きつく。
抱きつかれた沢木は『ひゃぁ!?』と甲高い声を上げて顔を赤くする。
しかし、その程度の抵抗では十六歳メルティは決して離れない。
「にしても良かったわー。助けた翌日に学校に行けて」
ハクアはフェンスに腰をかけながらそう言う。
実を言うとメルティを学校につれてきたのもハクアなのだが。
「で、メルティ。サワの顔を見に来ただけじゃねぇんだろ?何か伝えることがあるんじゃねぇの?」
魁斗はメルティにそう問いかける。
それと同時にメルティの目に真剣さが現れ、レナ達の表情も真剣になる。
「そーだね。ここで彼女を助けれたってのが嬉しい誤算。今までは沢木さんを助けることが優先事項で突入時は『死を司る人形(デスパペット)』との必要以上の戦闘を避けることが必要だったけど…その必要もなくなった。真正面からぶつかって、奴らを倒すよ!」
魁斗達は頷く。
戦闘に参加できない沢木は不安だったが、皆の帰りを待つことが今の自分に出来ることだ、と自分に言い聞かせる。
つまりは魁斗達と『死を司る人形(デスパペット)』の全面対決。
「向こうに行くのはカイト君、レナさん、ハクアさん、桐生君、藤崎さん、そして私の計六人。出発は明日。丁度土曜日で学校ないしね。出発は朝の十時で」
明日に決戦が始まる。
そう考えると、いよいよ緊張してきた。
「各自明日に備えて、しっかり準備しちゃってね!」
「おう!!」
メルティの言葉に魁斗達は勢いよく返事をする。
決戦開始まで残り二十一時間。
114
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/02(金) 19:10:28 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ハクアは自身の薙刀状の剣(つるぎ)『帝(みかど)』に腰をかけ、空を飛んでいた。彼女の手にはコンビニのレジ袋がある。
彼女は偶然見つけた人気のなさそうなビルの屋上に着地して、袋の中をごそごそと漁りだす。出てきたのは紙カップのジュースにパンが二、三個。現在昼の三時だが、彼女は朝も昼も特に食べていないので、お腹はかなり空いていた。
ハクアはいくつかあるパンの中からメロンパンを出して、一口食べる。
それからフェンスから身を乗り出すような体勢でフェンスに寄りかかる。
「……全面対決、か…。物騒な響きね」
彼女は軽く息を吐く。
そして一緒に戦う仲間達のことを思い浮かべた。
「別に皆を心配してるんじゃないけど……ちょっと時期尚早なんじゃないかな。後は現場での成長を期待するしかないか」
ハクアの長い黒髪が風でなびく。
それはとても綺麗に見えた。ハクアは大して髪を気にせずに、黙々と遅めの昼ご飯を摂る。
夕方六時。
人通りが少ない、なるべく被害を最低限にするための場所で桐生仙一と藤崎恋音は修行をしていた。
しかし二人は向かい合ってはおらず、同じ方向を向いたまま、言葉を失っていた。
彼らの視線の先にあるのは何もない。だが、地面を見ると、四角い黒ずんだ染みがある。大きさ的にはビルの大きさぐらいだろうか。
「……すごいよ、藤崎さん…」
「……へ、嘘。い、今のって……私が、やったの…?」
藤崎は自身の手に持っている剣(つるぎ)と黒ずんだ染みがある所を交互に見ている。
桐生は笑みを零して、藤崎を見る。
「そうだよ、すごいじゃないか。たった一撃で廃ビルを完全に消失させるなんて」
藤崎は今でも信じられないように目を大きく開けて戸惑ったような顔をしている。
桐生は息を吐いて、
「名前が必要だね。技には」
名前!?と藤崎が甲高い声を出す。
藤崎はうーん、と小さく唸ってやがて思いついたように名前を口に出す。
「じゃあ、この技の名前は――――――」
「いよいよですね」
部屋から窓を眺めている魁斗にレナは後ろから声をかけた。
魁斗は聞き慣れた声に振り返ると、
「ああ。絶対に負けるわけにはいかねぇ。サワのこともそうだし、俺の中にある『シャイン』も一応守っとかないとな」
そうですね、とレナは相槌を打つ。
レナは左手で右手を包み、胸元に当てる。
「私も全力を尽くします。カイト様を、皆を。守るために。ですから…」
「硬いんだよ、お前はいちいち」
魁斗は呆れたように息を吐く。
その軽さに色々と思いつめていたことが恥ずかしくなったのか、レナは顔を赤くして、俯いてしまう。
魁斗は俯いたレナの頭に手を置いて、
「とりあえずは『護って』、『勝つ』!!それでいいんだ」
レナは何とも言えない、ぞんざいなそれでいて魁斗らしい言葉に笑みを思わず零してしまう。
「そうですね」
「要は勝てばいいんだ!さて、今日は早目に寝ておこうぜ」
メルティは公園のベンチに座っていた。
俯いて目を閉じている。寝ていないと分かるのは彼女の呼吸が寝息ではないからだ。
彼女はスッと目を開けると、顔を上げて呟く。
「午後十一時……か。こんな夜中に子どもがいたら補導されそうだけど……ま、いっか」
決戦開始まで後十一時間。
思うことは思うが、口には出さない者。前日まで鍛錬を怠らない者。明日のため万全のコンディションを作ろうとする者。
それぞれの前日を過ごす六人の戦士。
そして、決戦の時間は刻一刻と迫っていた―――。
115
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/02(金) 23:42:50 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「ふーむ、揃ったね」
メルティは集まった魁斗達を見て、満足げに頷いていた。集まった場所はメルティが一夜を過ごした公園である。今はメルティが何らかの細工でこの周辺には人が集まらないようにしているらしい。
何でも『全員自主的に十時に指定された場所に集合』ではなく『メルティの連絡で十時に集合』らしいのだ。今回ばかりは全員に連絡を送れたらしい。
彼女は左手を腰に当てて、右手でハルバード状の武器を立てて持っている。
「……時にカイト君」
メルティの視線は意中の少年へと向けられる。
当の彼はというと、明らかに眠たそうな顔で着いてから今まで五回くらい欠伸をしている。
メルティはちょっとだけ黙って、
「何で君だけ緊張感がないの」
「いや、今日のこと考えると寝れなくて…」
全員無言になる。
「前日までは緊張感があったんだね」
「大晦日の小学生か」
桐生と藤崎から色々とバッシングを受ける。
しかし、明らかにメルティだけが違う反応を見せる。
「まあ……可愛いから許す」
「やっぱメルティさんってカイト君だけには甘いわね」
ハクアは半分呟くように言ったため、メルティには聞こえていない。
メルティは授業を教える先生のように、説明をする。
「今、ここには私が必死こいて張った陣があるの。天界へ繋ぐ扉を出すためのね。場所は奴らのアジトに近い森に繋がってるよ」
陣とか必要なのか、と魁斗は眠い頭を動かしながら考える。
メルティはカッと音を鳴らして、ハルバード状の武器を地面に突き刺すように押し当てる。
すると、彼らの目の前から巨大な扉が現れる。
灰色で、高さは三階建ての建物と同じくらいだろうか。たった六人入るだけなのにこんなにも荘厳な物が必要なのか、と思わせるぐらいだ。
「私は扉維持のために最後に通るよ。ささ、早く行っちゃって」
「待ってくださいっ!!」
唐突に後方から声がかかる。
急いだように走ってきたのは沢木叶絵だ。
「……な、何も言わずに行っちゃうなんて……あんまりじゃないですか……!」
沢木は息を整えて、真っ直ぐに魁斗達を見つめる。
「頑張ってください!私、力になれませんけど……ずっと待ってます!皆が、帰ってくるのを!」
魁斗は笑みを零す。
そんなこと分かってるから呼ばなかった、と言わんばかりに。
だが、直に聞けて全員決心したような表情になる。
「ああ、終わらせてきてやるぜ!!」
ハクア、レナ、藤崎、桐生、魁斗、メルティの順で扉の奥へと消えていく。
遂に、魁斗達と『死を司る人形(デスパペット)』の戦いが幕を開けたのだ。
116
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/03(土) 00:38:46 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第二章もようやく描き終えれました。
ですが、まだまだ先が見えないものですね…こっから更にちょい長くなります…。
ここで一応キャラを載せときますね。僕と皆さんの整理のために…。
切原魁斗
主人公。高校一年生のごく平凡な少年。
脚力が常人よりはるかに高く、50メートル走は五秒代後半を記録する。
実は天界という世界の王の子・天子で足が速いのは天子の素質。
身体に『シャイン』という未知の物質を宿し、それを狙う『死を司る人形(デスパペット)』から自身を護るためにやって来たレナと知り合う。
始めは半信半疑だったが、自分のために戦うレナを見て、戦いに参加する。
使用剣(つるぎ)は双剣の『祓魔の爪牙(ふつまのそうが)』。
レナ
本作の準主人公。天界では魁斗の養育係をしていた。
魁斗を護るために天界からやって来て、彼と共に戦う。
魁斗を常に見張っているため二十歳ではあるが、学校にまで潜入している。その時の名前は『神宮玲那(じんぐうれな)』。
魁斗に対しては好意に近い敬意を表しており、彼に抱きつく者は必死に引き剥がそうとする。
使用剣(つるぎ)は『神浄昇華(かみじょうしょうか)』。
ハクア
レナの親友。
長く黒い髪を持つ美女で、レナとは対蹠的な印象を与える。
何事も楽観的に見てしまうことがあるのが悪いところだが、戦いでは冷静を保つこともある。
また、武器の性質や自身の戦い方を見て多対一を得意としている。
使用剣(つるぎ)は通常の刀から薙刀へと変えることが出来る『帝(みかど)』。
藤崎恋音
魁斗と同じ学校に通う同級生。
『RE-ON!』の芸名で芸能活動をしている現役のアイドル。モデルからバラエティの出演など、幅は広い。
最初は魁斗達に反抗的だったが、エリザ戦で助けられてからは友好的。
相手に心を開くのが苦手だが、桐生には多少心を開いている。
使用剣(つるぎ)は『桜紅蓮(さくらぐれん)』。
桐生仙一
魁斗達と同じ学校に通う同級生。
眼鏡をかけた中々の美青年で、頭が良い。
失った魁斗達の記憶を戻したことで関係を持つ。
魁斗達には最初から友好的で接触したのも協力するため、とのこと。
意外にモテる。
使用剣(つるぎ)は『絶対零度(ぜったいれいど)』。
沢木叶絵
本作のヒロイン。
魁斗と同じ学校に通うクラスメイト。中学から魁斗と同じクラスで最初の席替えでは決まって彼の隣になっている。
戦う力はないこそ、ハクアから貰った『神王の聖域(しんおうのせいいき)』で結界を張ることが出来る。
負の感情をプルートに入り込まれ、魁斗と交戦する。
戦いの中で心の声を聞いた魁斗がかけた言葉でプルートから解放され、自分もみんなの役に立っていると自覚する。
魁斗に好意を寄せている。
メルティ
通称『幻の情報屋』。本名はメルトイーア。
見た目十歳の幼女だが、実際は『時の皇帝(タイムエンペラー』という道具で年齢を自在に変えている。
十歳でいることが多いが『買い物の時にサービスしてくれやすい』という理由で十歳の姿が多いだけ。限界は二十五歳らしい。
魁斗に好意を寄せており、同じく好意を寄せている沢木に反して果敢にアタックを試みている。
使用剣(つるぎ)は伸縮自在の斧型の『無骨神斧(ぶこつじんふ)』。
これでちょっとはわかってもらえたでしょうが?
説明力が足りないのも把握済みです((
次は多分敵キャラを載せると思います。
117
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/03(土) 03:56:05 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
一応敵キャラも記載しておきますね。
あくまで整理のためですから。
キルティーア
『死を司る人形(デスパペット)』第二部隊隊長。
銀色の髪に、常に笑みを浮かべている好青年。
集会の際は自身の部下がやられたことに対しても眉一つ動かさないなど、仲間意識は薄いと思われる。
スノウによると妹のことを気にかけているらしい。
使用剣(つるぎ)は関節剣の形状をしている。
スノウ
『死を司る人形(デスパペット)』第三部隊隊長。
手入れを怠っていない白い髪に、透き通ったような青い目が特徴的。
集会中も常に冷静でどこか余裕がある。『言ってくれるじゃない』が口癖。
キルティーアによれば向こうの世界にいる知り合いを気にかけているらしい。
使用剣(つるぎ)は今のところ不明。
ルミーナ
『死を司る人形(デスパペット)』第四部隊隊長。
赤い髪にアホ毛が下向きに出ているのが特徴的。
見た目はかなり幼く見え、常に怯えているようだが、エリザ曰く『見た目だけが子ども』らしい。
使用剣(つるぎ)は不明。
マルトース
『死を司る人形(デスパペット)』第五部隊隊長。
全身白一色という奇抜な衣装に身を包む。
あまり表立って戦うことはなく、ほとんどが機械や部下任せ。
使用剣(つるぎ)は不明。
エリザ
『死を司る人形(デスパペット)』第八部隊隊長。
『天童』の異名を取るほどの天才児で、わずか十歳で隊長に上り詰めた。
可愛らしい見た目に反し、性格は残虐。
使用剣(つるぎ)は『光薙(こうなぎ)』、『鎖砲牙(くさりほうが)』、『神隠し(かみかくし)』、『蓮華(れんげ)』の四つ。
クリスタ
『死を司る人形(デスパペット)』第九部隊隊長。
十八歳程度の容姿で右目に眼帯をしている。語尾に『〜な』とつける。
過去に兄をエリザに殺されたことがあるらしい。
使用剣(つるぎ)は不明だが双剣である。
ザンザ
第八部隊の第一小隊隊長。
目つきの悪い青年。魁斗が初めて戦った相手。
三度目の出撃で魁斗に破れ、エリザに粛清される。後にハクアによって一命を取り留めるが、消息は不明。
使用剣(つるぎ)は『大宝の御剣(だいほうのみつるぎ)』。
カテリーナ
第八部隊の第二小隊隊長。
桃色のポニーテールが特徴。剣(つるぎ)のコレクターでもある。
レナに破れ、ザンザと同じくエリザに粛清されるが、ハクアによって一命を取り留めた後の消息は不明。
使用剣(つるぎ)は『帯雷剣(たいれいけん)』、『魂狩り(たまがり)』の二つ。
一部省いていますが…。
多分名前が判明して書かれていないのはたった一回のお話しか出なかったり、これ以上出番のない人達です。
次のレスから本編入ります。
第三章の始まりですね!
118
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/03(土) 10:21:42 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第三十九閃「迷いの森」
メルティの言った通り、魁斗達は扉を抜けると森に到着した。
辺り一面が木に覆われ、上を見上げても木の葉などで遮られているため、僅かな光しか漏れてこない。
ふむ、とメルティは小さく呟いてから、
「さあ、行こうか。ここは通称『迷いの森』と呼ばれている程複雑だけど……こっからが一番近いんだよ」
メルティの言葉に全員が頷く。
彼女を先頭として森の中を歩いていく。
レナは辺り一面の木の景色を見て、苦笑いを零す。
「……にしても、ホントに迷いそうですね。ここが本当に『死を司る(デスパペット)』のアジトへの近道なのでしょうか…わぷっ!?」
レナが前の何かにぶつかる。
彼女は前を見ながら歩いていなかったため、自分がぶつかったのが何か分からなかった。前を見るといたのは魁斗。彼女がぶつかったのは魁斗の背中だ。
止まってしまっている魁斗にレナは、
「……カイト様……?どうなされました?」
魁斗はあれ、と呟いて固まったままでいる。
前を見たまま、次の言葉を口に出す。
「……見失った」
はい!?とレナは魁斗の横に立って辺りを見回す。
確かにメルティやハクアの後姿らしきものは見当たらない。
魁斗が一瞬目を離した隙にメルティ達がいなくなってしまったのだ。どれほど注意してても必ず迷ってしまう。故に『迷いの森』なのだ。
「あらあら?随分とお馬鹿な奴らがいるようね」
そんな女性の声と共に黒ずくめの男達が魁斗とレナを囲む。
魁斗は人影に気がつき、顔を上げる。
そこにいたのは、ピンクの髪を三つ編みにして束ねている巫女装束の女が、木の枝の上に立っている。
彼女の左腕には手甲が付けられており、蝶のような蛾のようなデザインの手甲の先端は横に大きく広がって、そこから何かを出すような形だ。
「……お前は?」
「私は第五部隊副隊長のカルラ。でも私を呼ぶ時は敵である貴方達も『カルラたん』と呼んでね」
彼女は優雅に木の枝から地面へと降り立つ。
カルラは腕を組んで余裕の表情を浮かべている。数で勝っているからか、それとも勝てる自信があるからか。
「……レナ、ここは一旦逃げるぞ」
魁斗は耳打ちするような声のトーンで告げる。
レナはきょとんとしていたが、数の不利を見て、小さく頷く。
「行くぞ」
魁斗がそう言うと、魁斗とレナは同じ方向に走り出す。
カルラはそれに反応すると、
「逃がすものか。追うのよ!」
「はっ!カルラ様!」
「返事はいいけど、私を呼ぶ時にどうしても様をつけたいなら『カルラたん様』と呼びなさい」
カルラを含む第五部隊は魁斗とレナを追いかける。
天界での初戦が始まった。
119
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/03(土) 12:53:43 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗とレナは後ろから追ってくる第五部隊から必死に逃げていた。
第五部隊の隊員の前を走っているのがカルラだ。動きにくそうな巫女装束を着ているのだが、何故か動きにくそうな素振りを見せずに普通に走っている。
「くそ、あのカルラって奴速いぞ!」
「褒めてくれるのはありがたいけど、私のことは『カルラたん』と呼びなさい」
距離は縮まらないのが唯一の救いか。
魁斗は人よりはるかに速く走れるが、レナはそうはいかない。万が一追いつかれた時は無理矢理に戦うハメになってしまうのだ。
「むむー、埒が明かない」
カルラは腕に装着している蝶のような、蛾のようなデザインの手甲を前に構える。
銃の照準を合わせるように走りながら、魁斗の背中を狙う。
「……狙うのは、天子君ね」
そう言って、カルラは手甲から二本の小さい矢のような物を射出する。
意外にもスピードが早く、気付いた魁斗だが、身体がついていかず、その矢が背中に刺さり、魁斗の身体がうつ伏せに倒れる。
「カイト様!!」
レナがそう言って魁斗を抱きかかえる。
すると、魁斗に異変が起こっている。
荒々しい呼吸を繰り返し、苦しんでいるように見える。
背中から血はそれほど出ていない。矢が刺さったままのため、傷口から出る血が曲がりなりにも塞がれているのだ。
失血でもない。傷が深いわけでもない。レナはカルラの腕に装着されている武器を見る。
「……、まさかそれは『毒蛾(どくが)』?」
「よく気付いたわね。猛毒が塗り込まれた矢を射出する剣(つるぎ)『毒蛾(どくが)』。一時間もあれば、凶暴な猛獣でも昏倒させれるわ」
遂にレナは囲まれてしまう。
魁斗を護りながらこの人数と副隊長を相手にするのは不可能だ。
レナが魁斗を背負い、どうするか思案していると、
「この森で騒がしくしないんで欲しいんですが」
唐突に上から無数の光の矢が降り注ぐ。
それにレナや第五部隊の者達も気を取られる。
そして、レナの腕がいきなり引っ張られる。思わず転びそうになるレナだが、何とか持ち直し手を引かれるまま、走るスピードを合わせる。
矢によって巻き上げられた土煙の中から出ると、レナの腕を引っ張った相手の姿が見えてくる。
身長は150センチ前後で、小柄で恐らく女の子だ。彼女は肩くらいの黒髪にマントを羽織っているため服装はよく分からない。
「あの、貴女は……」
「今は何も言わなくて良いです。とりあえず、貴女の仲間らしき人達は一応僕の小屋に連れていきました」
少女は続けて、
「僕はこの森の中で薬草師をやってます。詳しい話は後で。家の中で貴女のお仲間とさせてもらいましょう」
120
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/03(土) 14:02:00 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
小さな少女がレナと魁斗を連れて来たのは人が二人くらい入りそうな小屋だった。
少女はその小屋の扉を開ける。すると中にはメルティ、ハクア、桐生、藤崎の途中ではぐれた四人がいた。
「み、皆さん!?何故ここに?」
「驚いてんじゃないわよ。こっちはアンタとカイト君が急にいなくなって焦ってたんだから」
椅子に座り、足を組んだまま溜息混じりにハクアは言う。
レナは小さく『すいません』と謝ると、ハクアは息を吐いて、視線を外す。
「僕らはこの娘にここへ連れられて来たんだ。『はぐれた仲間を探してくる』って言ってたけど…本当につれてくるとはね」
桐生はそう言った。
どうやらレナの窮地を救った彼女はメルティ達にも救いの手を差し伸べていたようだ。
少女は背負われて、ぐったりしている魁斗に視線を向けると、
「さ、とっととその少年を下ろしちまってください。どういう症状かみねぇといけないんで」
彼女の喋り方は雑な敬語だった。
親の喋り方を真似て、間違った敬語を覚えてしまったらしい。
レナは言葉にハッとして背負っている魁斗を床に寝かす。
少女は魁斗の額に手を当て、胸に耳を澄ませ、容態を確認する。
「貴女と相手の会話の節々は聞き取れました。『毒蛾(どくが)』の毒にやられてんですね。だったら……ここに解毒剤が……!」
棚には小さな瓶がいくつもぎっしりと並べられていた。
他には何も置けそうにないほど隙間がない。彼女は上の方にある薬を取ろうとするがジャンプしても背が低いため届かない。結局椅子に乗って棚からリップの様な物を取り出す。
「……それは?」
「『毒蛾(どくが)』の解毒に必要な薬草を使いやすいように固体にしたリップです。今からやり方を説明します。ここにいる誰か一人がこのリップを口に塗ります。んで、あそこに寝てる少年に口付けすれば解毒されますよ」
はい、と全員が声を合わせて頷くが思考にブレーキを掛ける。
何か恥ずかしい言葉が入っていたが、聞き間違いだろうか、と思いハクアは、
「すいません。もう一回言ってくれますか?」
少女は小さく息を吐き面倒そうに、
「だから、貴方達の内、誰かがこれを口に塗ってあそこの少年にチューすればいいんですよ。ま、誰でもいいんですけど、同性はあんまオススメはしませんね」
その言葉に桐生は『じゃあ皆頑張って』と素早く部屋の片隅に移動する。
「ええぇ!?ちょっと、待ってくださいよ!!私か、ハクアか、メルティさんか、恋音ちゃんの中から誰か一人が……」
「カイト君にキス……」
四人の女子は顔を赤くして俯いている。
恥ずかしいのか、それともただしたくないだけなのか。
四人の女子の熾烈な争いが繰り広げられる。
ちなみにいち早く戦線を離脱できた桐生は『キスをしたくないという理由で争っている皆を見たら切原君はショックだろうなあ』と完全に他人事だと思っている。
121
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/03(土) 16:42:21 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十閃「キス」
レナ、ハクア、藤崎、メルティの四人はそれぞれが四角形を描くように配置していた。全員腕を組み、歴戦の猛者顔でお互いを睨み合っている。
こんな重苦しい空気を打破するように藤崎が口を開く。
「……えと、私も抜けさせてもらうね」
すすー、と離れようとする藤崎の襟をハクアが掴み、引き戻す。
「何するの、ハクアさん!!」
「ダメよ、抜けようと思っちゃ」
いきなり引き戻された藤崎は若干むくれている。
それから、自分が抜けるべき理由を述べだした。
「だ、だって私一応アイドルだよ!?ほら、こんなとこでキスとかしたら、もう週刊誌に載っちゃうってば!」
「キスくらい見た目でバレるワケないじゃない。だからダメよ」
えー、と藤崎は最後まで不満な声を出している。
すると、自分達三人と並んでいるせいか、一際小さい人物に視線を落とす。
「め、メルティさんでいいんじゃないの?た、確か私の記憶では切原君のこと好きって言ってたし……」
いきなり指名されたメルティはえぇ!?と甲高い声で驚く。
メルティは珍しく顔を赤くして、自分の顔の前で手をぶんぶんと振って、
「い、いや、違うよ!確かに好きは好きだけど……そんな、それに私は男性の方からしてもらうのが好きであって…よってこんな卑怯なやり方は……」
あまりの恥ずかしさのせいか目に涙を浮かべて必死の反抗を開始する。
男性の方からキスして欲しい、というのはレナ達も共通していた。
「……これじゃ埒が明かないんで、早いトコじゃんけんで決めたらどうですか?」
横合いから薬草師の声が入る。
レナ達はハッとして顔を見合わせる。
「なるほど、その手がありましたね」
「そうね。じゃんけんは極めて平等だわ」
「そうだね。これで恨みっこナシだよ」
「うん。激しくサンセー」
レナ達四人はそれぞれ握りこぶしを用意する。
彼女達の目は今からじゃんけんをしようという目ではなかった。今にも掴み合って殴り合いになりそうなほど目が血走っている。
そんな光景を外野から見ている桐生と薬草師の少女は、
「……貴女はしないんですか」
「僕は薬草師であって医者ではないんです。名前も素性も知らないような人にファーストキスを捧げる義理はないですよ。貴方こそ、参加しなくていいんですか」
「同性はオススメしないって言ったのは貴女ですよ。生憎、僕にはそういう趣味はないんでね」
そうですか、と少女は適当に相槌を打った。
少女は最終決戦(という名のじゃんけん)が開始間近のレナ達を見て、
「いいですね、ああいうの。見てるだけで馬鹿馬鹿しくって笑っちまいますが」
ふふっと少女は可愛らしく笑みを零す。
桐生も笑みを浮かべながらレナ達の方へと視線を戻す。
「……皆さん、準備はいいですか?本当に後で文句はナシですよ」
全員がコクリと頷く。
「じゃん、けん……ぽん!!」
そして、敗者が決まった。
122
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/03(土) 21:34:27 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「………………ほ、ホントにしなければいけないのですか……?」
レナは寝かされている魁斗の隣に腰を下ろして、顔を赤くしながらハクア達に訊く。彼女達は無言で頷いた。
じゃんけんの結果はレナ以外がパーを出して、レナ一人がグーだったため、一人負けとなってしまった。後で何も言わない、と自分で言った手前、何も言えない。レナは震える手で自分の唇にリップを塗って、後ろを振り返ると、
全員がガン見していた。
「せめて!!せめて後ろを向いていてください!!恥ずかしいじゃないですか!!」
はー、とハクアは溜息をついて、
「はいはい、まったく注文が多いわね。はーい、皆。後ろ向きなさーい」
ハクアがそう言いながら後ろを向くと全員後ろを向く。
何とかいった、と胸を撫で下ろすレナ。
しかし、彼女にとっての問題はここからだ。
魁斗は目を閉じて眠っているものの、主である相手にキスをするなどさすがに抵抗がある。
しかし、こうしている間にも一時間というリミットはどんどん近づいてきている。
レナは顔を真っ赤にして、目を閉じ、魁斗の口へと自分の口を近づける。そして……。
「………ん」
魁斗は目が覚める。
目を開けると覗き込んでいるような角度で顔が見える藤崎とメルティ。
「あ、起きた」
魁斗が身体を起こして、藤崎がそう言うとメルティは勢いよく抱きついてくる。
「っつーか、ここ何処だ?俺、森を走ってる辺りから記憶がないんだけど……」
「ここは私達を助けてくれたフォレストって娘の家なんだって。薬臭いのは薬草師やってるからご了承ください。らしいよ」
そっか、とメルティの説明に魁斗は適当に返事を返す。
それから魁斗は二人を見る。
藤崎とメルティ。なんとも意外な組み合わせだ。普段ならレナがいてもいいはずなのだが……。
「そーいや、レナは何処行った?皆無事なのか?」
うーん、と藤崎は僅かに言い淀む。
「皆大丈夫だけど、レナさんだけ精神的ダメージがあるみたい。でもすぐに回復すると思うよ」
意識を失っていた魁斗には何のことかさっぱりである。
むしろ、魁斗が事実を知ってしまった場合、顔から湯気を出して卒倒しそうな気もするが。
「まあ、皆無事ならいっか。それと、そのフォレストって人は何処に居るんだ?」
「屋根の上だと思う」
魁斗はそれを聞くと、部屋を出る。
一番広いと思われる場所に桐生とハクアが何やら会話をしているが、隅っこで背中を向けて三角座りしているレナがかなりの恐怖を煽っている。桐生とハクアは魁斗を見ると、軽く手を振ってくれた。レナはこちらを向こうともしない。
何か話しかけようと思ったが、どうもそんな気にはなれないし、この鬱の矛先が自分に向けられそうで怖い。
魁斗は小屋を出て、フォレストがいると思われる屋根へと上っていく。
「……何の用ですか」
後ろから迫る魁斗にフォレストはそう声を発した。
魁斗はビクッ!!と肩を震わせると、
「……バレたか。自分なりに気配を消したつもりなんだけど……」
フォレストはつまらなそうに、
「気配って……。ただ足音を消してただけでしょ。それでも僕には分かっちまうんですよ。それより、無事で安心しました」
ああ、と魁斗は短く返す。
「お前が助けてくれたんだってな。ありがとう」
キス事件は話してないのか、と思ったがそれはそれで安心するフォレスト。
もし話していたら中にいる銀髪養育係が大暴れしそうで怖い。
「……えっと、フォレスト、でいいのか?」
フォレストはそれに返答せず、自分の隣の辺りの屋根を軽く叩いている。『ここに座れ』のサインだ。
「話すならこっちに来てください。それと、僕のことは『フォーちゃん』か『フォー』と呼んでください」
魁斗はフォレストの隣に座り、彼女を『フォー』と呼ぶことにした。
123
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/04(日) 00:55:34 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「んで、まずこっちから訊きたいことがあんですけど」
ん、と魁斗はフォレストの方へと顔を向ける。
彼女は魁斗の方へ目だけを向けて、
「貴方からはこっちの世界のにおいがします。でも、異界のにおいも……貴方は何者なんですか」
フォレストの質問に魁斗は僅かに面食らった。
『自分が何者か』。そんなもの、自分が聞きたいくらいだ。自分でさえもよく分かっていない。いや、天子だということは分かる。むしろ分からない、と思っているのは『シャイン』についてだ。
「俺が何者か……か。一言で言えば、天子だ。天界の王の子ども」
「そんな人がなんでこっちの世界と違うにおいが混ざってんですか」
「それは、俺が何か知らんけど向こうの世界に送られたから。こっちでの記憶はないから、すんげー小さい頃だと思う」
続けざまに質問していたフォレストの口が止まった。
今のだけでも魁斗が何となく壮絶な人生を送ってきたのが分かったのか。天界の王の子。自分は昔ほどではないが、今でもそんな存在になりたいと、なってみたいと思っている。だが、今側にいる彼は自分が思い描いた甘い幻想など軽く打ち壊してしまった。
二人とも黙ってしまい、重い空気が漂う。
魁斗はこの空気を払拭させようと、
「あ、そーだ!フォーってここに住んでんの?」
「……、前は人がいました。僕の前にここで薬草師をしていて、僕を拾ってくれた恩人が。僕はその人を守れませんでしたけど」
フォレストの言葉は平淡なものだった。
悲しさや儚ささえも感じない。唯一感じるものといえば自分への悔しさだ。
「僕はあの人と薬草師をするのが夢でした。必死に勉強して、作り方を頭に叩き込んで。今ではその夢は絵空事になっちまってますが、これはこれで結構楽しいモンですよ」
「だったら良かったじゃねーか」
魁斗はフォレストの頭にぽんと手を乗せる。
「お前が楽しいなら、それでいいんじゃね?俺だってレナから『貴方は天子だ』なんて言われた時は嘘くせーし、信じる気もなかった」
でも、と一度区切って、
「アイツと出会えたから、ハクアさんと桐生と藤崎とメルティと……んでお前にも会えた。そこだけは感謝してる」
フォレストは懐から袋を取り出した。
空ではなく、中にはパンがいくつか入っている。フォレストは適当に一つ取って、ずいっと魁斗の方へと差し出す。
?と思っている魁斗にフォレストは、
「さっきの言葉は嬉しかったです。お礼に一個どーぞ」
さんきゅー、と魁斗はパンを受け取る。
フォレストは別に一個取り出して、パンを食べ始める。心なしか、笑っているように魁斗は見えた。
そこへ、
「逃がした時は悔しかったけど、こんなトコにいたなんてねー」
不意に魁斗は何となく聞き覚えのある声を捉える。
フォレストも聞こえたらしく、パンを食べるのを止めて、屋根から下りる。魁斗も同じく屋根から下りると前方からカルラと彼女が率いる第五部隊が森の中から姿を現した。
「……『死を司る人形(デスパペット)』……!」
「あら、貴方は『毒蛾(どくが)』を打ち込んだはずだけど……なるほど、そこの薬草師さんが一役買ってるわけね。それと私のことは組織名ではなく『カルラたん』と呼びなさい」
魁斗は剣(つるぎ)を発動して一歩前に出ようとするが、丁度腹の辺りに何かがぶつかる。
それは横にいるフォレストが伸ばした腕ではなく、その伸ばした腕に握られている銀色の弓だ。
これは意思表示。『奴は僕が倒す』という。
「まさかまさか?薬草師さん戦えるの?」
「ふん。勝てないと踏んでるなら前に出ませんよ。僕は単に『勝てる』から出たんじゃないんです。貴女ごとき、彼の手を煩わせるまでもねえってことですよ」
へぇ、とカルラの顔が不愉快に染まる。
「だったら教えてあげる。第五部隊副隊長カルラたんの恐ろしさを!!」
「自分自身にたん付けって……痛々しいことこの上ないですね」
124
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/04(日) 10:49:21 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十一閃「フォレストVSカルラ」
「一体何なの!?」
外から敵の声が聞こえたためかハクア達が小屋から出てくる。さすがにレナも小屋から出てきていた。
「皆!……で、レナ。お前大丈夫なの……?」
「ふぇっ!?あ、はい!大丈夫でございますっ!!」
明らかに動揺しまくっているが、とりあえず今はそれどころじゃない。
カルラの実力もよく分かってないし、フォレストがどの程度戦えるかも分からない。何にしても『副隊長』という響きは危ない。
「弓……ねぇ。そんなんでカルラたんに勝てると思ってるの?」
「だから言ってんじゃないですか。勝てると踏んでなければ前に出ませんって」
カルラは『毒蛾(どくが)』を前に構える。
そして、銃の照準を合わせるように、
「だったら見せてもらおうじゃないの!」
カルラの手甲から小さい矢のようなものが二本射出される。
それにフォレストはかわす素振りを見せない。
「……」
フォレストは弓を掴んでいる手と、もう一つの手の間に光の玉を作り出す。
その玉を矢を引くように引っ張ると、姿を玉から矢の形へと変えていく。
「弓で勝てるのかって?勝てるに決まってるじゃないですか」
ビュビュン!!と風を切る音が鳴り、フォレストに向かって飛んでいた『毒蛾(どくが)』の矢が空中ではじける。
「僕の剣(つるぎ)『銀嶺光矢(ぎんれいこうや)』は自身の魔力で矢を生み出す。さっきみたいに。つまり、僕の疲労が重なんねぇと僕を打ち負かすことは出来ませんよ」
カルラはぎりっと奥歯を噛み締める。
「そんなの……っ!実力でカバーよ!」
「面白いですね。だったら試してみますか?」
カルラが『毒蛾(どくが)』から大量の矢を、フォレストが『銀嶺光矢(ぎんれいこうや)』から大量の矢を放つ。
図的にはカルラが放った矢をフォレストが打ち落としているような図式だ。
(……くっ、あの小娘……!どれだけ連射できるのよ……!?)
カルラの表情から焦りが表れる。
一方のフォレストは涼しい顔で相手の矢を打ち落としている。
唐突に、フォレストが口を開く。
「いくらやったって無駄ですよ。こっから本気なんで」
フォレストが矢を放つスピードを上げる。
『毒蛾(どくが)』の矢を打ち落としていき、矢に当たらなかったのはカルラの身体を目掛け直進していく。
ドドドドドド!!とカルラの元に矢が当たる音が響く。土煙でカルラの姿は見えない。だが誰もが蜂の巣になってしまっているカルラを想像したろう。
土煙がはれる。そこにいたのは、
顔の前を腕で庇って目を閉じているカルラだった。
「……?」
全員がカルラを見て、目を丸くする。
傷一つない。
あれだけ打ち込まれれば傷の一つや二つできても可笑しくないのに。
「……ふっ。失策ね!敵に情けをかけるからこうなるのよ。薬草師は人を助けるもの。貴女の職業が攻撃させるのを躊躇わせたのよ!!」
カルラは再び『毒蛾(どくが)』を構える。
だが、フォレストは背中を向けて、戦おうとしない。
「確かに、僕は貴女を傷つけていません。さて、僕が傷つけたのは何でしょう?」
バキィ!!と構えた『毒蛾(どくが)』が唐突に砕ける。
驚愕を顔に見せているカルラに更なる攻撃が襲い掛かる。バッ!!と着ていた服が一瞬にして破け、カルラは顔を真っ赤にして、裸になってしまった自分の身体を隠す。
フォレストは息を吐いて、
「人を傷つけるのを躊躇ったんじゃないんです。貴女は、その価値すらねぇって思われただけですよ」
フォレストは背中越しに勝利の余韻に浸りながら告げた。
125
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/04(日) 12:59:28 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「くそ……!覚えてなさいー!!」
裸になってしまったカルラは身体を手で覆い、そのまま走り去ってしまう。
置いていかれた第五部隊の人間は『カルラ様ー!』と言って追いかける。『カルラたん様と呼んでー!』などと聞こえ、彼らの姿は森の中へと消えていった。
「ふん、まあこの程度ですね」
フォレストが魁斗達の方を見ると魁斗と桐生が手で目を覆っている。
彼女もここら辺のことは考えていなかったようだ。
「……何かすいません。配慮が無くて」
「いや、いいよ」
とりあえず当面の危機は去った。
魁斗達は小屋の中に戻り、フォレストの勧めで今日は泊まらせてもらうことにした。
「なるほど。つまり、貴方達は『死を司る人形(デスパペット)』を倒すためにこっちに来たってわけですか」
魁斗達はこっちに来た理由を知りたがるフォレストに事情を話した。
彼女は協力的で傷を負った時のための薬は渡してくれるらしい。
「フォレストさんはずっとこっちにいたんでしょ?だったらアイツらのこと、何か知らない?」
僕のことは『フォーちゃん』と呼んでください、とフォレストは言って、
「知ってることは無いに等しいですよ。そもそもこんな森の奥に奴らが来ることもないですしね。まあ一回だけ『死を司る人形(デスパペット)』を抜けた命知らずを匿いましたが」
そんな奴がいたのか、と魁斗は思った。
協力してくれそうだが、名前は伏せるように、とフォレストは言われていたため誰だかは分からない。
「まあ天界にいる奴なら奴らと戦おうなんて正気の沙汰じゃないと思われるでしょうね。奴らについて全く知らないわけじゃないからですが、要注意人物は五人ほどいます。第一部隊、第二部隊の隊長はもとより『氷帝(ひょうてい)』と呼ばれる第三部隊隊長も要注意です」
第一、第二、第三部隊の隊長は三人合わせて『三強』と呼ばれており、三人の内誰かを倒せば『死を司る人形(デスパペット)』も動揺する。
それほど信頼されている人物と同時に、組織全体を揺るがすほどの大きな存在でもあるのだ。
フォレストは続けて、
「そしてもう二人。話によるとエリザとはもう戦ってるようで。二人のうち一人は確かに彼女ですが……もう一人。第四部隊の隊長が要注意ですよ。ま、どんな奴か知りませんが『四』って数字が酷く恐ろしいですね」
フォレストは軽い口調で言った。
魁斗達は彼女の言葉を聞いて、改めて敵に回している存在の大きさを知った。
だが、それで諦める魁斗達ではない。
彼らは話を聞いて、さらに燃えていたのだ。
フォレストは息を吐くと、
「明日に備えて寝た方がいいですよ。寝れないって言うなら膝枕してあげましょうか?」
フォレストが冗談半分に言うとメルティが彼女の元に飛び込む。
本来ならメルティの方が年上なのだが、それを知らないフォレストは了承すると、メルティはネコのようにフォレストに甘える。
「んじゃ、おやすみ」
魁斗と桐生、レナとハクアと藤崎、メルティとフォレストで部屋に分かれ、天界で一夜を過ごすこととなった。
126
:
ライナー
:2011/09/04(日) 15:42:51 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
ども、ライナーです^^
以前より、キャラの個性が出てきて良くなっていると思います。
にしても魁斗君が羨ましいです((殴
以前にも言った人間ドラマも中々にレベルが上がっていますね。フォレストさんの過去泣けました(笑)
でも、魁斗君が羨ましいです((殴
アドバイスですが、これまた以前にもしたんですよね^^;
擬音です。これが直っていませんね〜(まあ、例えを作るのは難しいですからね)
もしかして、と思うんですが、出てない擬音と間違えてませんでしょうか?
例 出てない擬音
訳が分からずポカンとしていた。
出ている擬音
ズドン!!その音が響くと辺りは一気に静まりかえった。
御覧の通り、出ていない擬音は見た感じの音です。これは使用オーケーですが、出ている擬音は安っぽく聞こえるので比喩表現を上手く使いましょう!
それについては、前回の例えを参照にして下さい^^;
127
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/04(日) 17:49:47 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
ありがとうございます^^
魁斗が羨ましい…まああれはちょっと…ね?((
はい、そこは頑張らせていただきました!フォレストの過去についてはまた詳しくやるので、それを待ってくださいね
って、魁斗をそんなに羨ましがらなくても…。
はい、確かに難しいのでついつい出しちゃうんですよね…
控えめにしようとは思ってるんですけど…
毎回感想&アドバイスありがとうございます!
かなり参考にさせてもらってます^^
128
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/04(日) 21:04:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「世話になったな、さんきゅー」
翌日、魁斗達は小屋の前でフォレストに礼を言っていた。
フォレストは腕を組んだまま、言葉を聞いている。
「いえ、僕としても誰かと一緒にいるのは久しぶりだったので、楽しかったですよ」
そう言うと、フォレストは足元に置いてある小さい袋を魁斗へと差し出す。
何かは分からないが、一応受け取って、眉をひそめていると、
「薬ですよ。人数分入ってますから。傷を負った際に使ってください」
「…ありがとな、フォレスト」
魁斗の言葉にフォレストは、むっとして、
「僕のことは『フォー』か『フォーちゃん』と呼んでください」
「あ、ワリィ……。つい……」
魁斗はその言葉に顔を引きつらせる。
フォレストは軽く息を吐いて、
「『死を司る人形(デスパペット)』を倒す……か。大きな目標ですね。まあ頑張ってください。僕は祈りでもしてますから」
「ああ。大胸に乗ったつもりで任せとけ!」
「カイト様。『大胸』ではなく『大船』です」
馬鹿馬鹿しいやりとりにフォレストは呆れたような息を吐く。
「死ぬとかはダメです。生きて、もっかい遊びにでも来てください。幸い年中暇なので」
「ああ、分かった」
魁斗はそう言うと、背を向けて森を抜けるために歩き出す。
フォレストはその背中を見送りながら、ふと思う。
「……あの中にいたら、楽しいんだろうなぁ……」
微かな笑みを零して、彼女は小屋の中に戻っていく。
「しかし、驚いたね」
目の前の光景に桐生は眼鏡を上げ、そう答えた。
広がるのは草も生えていない、ただの大地。焼け野原とは違うが、地面が岩の砂漠といった感じの景色が広がっていた。
「森を抜けるとこうなっているのか。こんな景色だと、道が合ってるか疑いたくなるね」
「あ、アレって本拠じゃないかな?」
藤崎が指を差した先には遠くて黒にしか見えないせいか、黒色の塔のようなものがそびえ立っている。
つまり、敵の本拠はもう目と鼻の先。このだだっ広い大地を歩けば、もう本拠にたどり着ける。
「っしゃー!俺が一番乗りだぁ!!」
「あ!カイト君ずるい!!」
「ちょっと待ってよ!置いていかないで!」
「ふん、走るより剣(つるぎ)に乗った方が早いわ!」
魁斗、メルティ、藤崎、ハクアは緊張感を思いっきり潰して子どものように競争を開始した。
その光景をしばらく眺めていたレナと桐生。
レナは苦笑いを浮かべて、
「……私達も、行きましょうか」
「そうだね」
大人な二人は駆け足で四人の後を追って行った。
六人の前に立ち塞がったのは巨大な石で出来た門。
際限がなく横に広がっているこの門は上を眺めると逆光でどれだけ続いているのかも分からない。
「これ、ぶっ壊せばいいのか?」
魁斗がそう呟くと、不意に上から声がかかる。
「無駄だよ。それは私の魔力を通わせてるから。私を倒さないと、その門の強度は変わらないよ」
聞き覚えのある、少女の声。
上から聞こえたこの声の持ち主は門の上にいたらしく、そこから飛び降りる。
音もなく着地した、その少女は口の端に笑みを浮かべている。
見た目十歳前後の顔立ちに、金髪の髪をツインテールのように分けている幼女。
魁斗達の最初の鬼門だ。
「ハァーイ!久しぶり。元気にしてた?」
第八部隊隊長エリザ。
最初に現れた隊長は『天童』と呼ばれる魁斗達の因縁の敵だった。
129
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/04(日) 21:27:51 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十二閃「石門の守護者」
魁斗達は現れたエリザにいろいろな思いを抱いていた。
エリザはそれを知ってか知らずか、煽り立てるように言ってみせた。
「ちぇー!何も反応ないんじゃつまんないよー!子どもはいつだって遊んでほしーのにー!」
それでも魁斗達は反応しない。
はぁ、と重苦しい息を吐いて、エリザは口を尖らせる。
それは徐々に不機嫌になってきている証だ。
(……短気なのは全員直したみたいだけど……乗ってこないんじゃ挑発しても意味ないか。にしても、全員いい表情ジャンしてるじゃん。これは以前より楽しめるかな)
エリザは幅の広い剣(つるぎ)『光薙(こうなぎ)』の切っ先を魁斗達に向けて、
「反応しなくてもいいや。それより、ここを通るには私を倒して門の強度を弱めるしかないんだけど……どーする?前みたいに五人でくる?それともタイマン?」
エリザの言葉に、ようやく魁斗が返す。
「はっ。俺らはお前を倒すために強くなったんだぜ?全員でなんてするわけねぇだろ。ここは俺が……」
前に出ようとする魁斗の前に腕が伸びる。
その腕を追っていくと、伸ばしているのは藤崎だ。
「ここは私がいく。切原君は休んでなさい」
藤崎は剣(つるぎ)を解放して前に出る。
何故か藤崎の表情は楽しそうに見える。遊園地で長い時間を待って乗りたいアトラクションに乗る時のように。
「……思わず譲っちまったけど…何でいきあんり戦おうとしたんだ?」
「簡単だよ」
魁斗の言葉に桐生は眼鏡を上げながら答える。
「僕らは会ったのは二、三回あるけど、負けたのは一回だけだ、そう。藤崎さんを除いてね」
そう。
藤崎がエリザと戦いたがっている理由は、負けたからだ。
一回は魁斗達と一緒に五人で挑んだ時。手も足も出ず、まったく歯が立たなかった、あの時。そしてもう一回は、
彼女とタイマンを張った時。
つまり、藤崎がエリザに対する執念は魁斗達の倍以上だ。
「えぇー、アイドルちゃん?私は天子君と戦いたかったのに……」
するとエリザの顔の横を何か熱いものが横切る。
後ろの門にぶつかり、彼女は振り返る。
ぶつかったと思われる場所からは煙が出ている。門には少々焼けたような跡が残っている。
「……」
エリザが静に藤崎を見ると、明らかに何かをしたようなポーズをしている。
彼女が火の玉を放って、エリザを挑発したのだ。
「……ガッカリさせないから、安心しなよ」
いや、と藤崎は一度区切る。
「安心させる暇も、与えない!!」
「やってみな、最弱のアイドル風情が」
唾を吐くようにエリザは不機嫌な表情で藤崎を睨む。
130
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/09(金) 17:18:23 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤崎は片手で器用に刀の柄の部分を回している。
余裕にも見えるその光景を背後から見ている魁斗達はただならぬ緊張感を抱いていた。
「……まあ、藤崎がエリザと戦いたがるのは分かるけどさ……勝てるのか?」
「私は最後に見たのはアリス戦までだからね。私の知る中では勝てないかな」
魁斗の言葉にメルティはそう答える。
聞こえてるかどうか分からないが、藤崎の肩がぴくっと動く。
彼女は、柄を回すのをやめて両手で柄を握り、構える。
対してエリザは『光薙(こうなぎ)』を構えたまま、笑みを浮かべている。
「来なよ」
『敬意を込めた先制攻撃』ではなく『相手を下に見ての先制攻撃』。
藤崎は眉間に僅かにしわを寄せて、エリザに突っ込む。
(……ばーか)
エリザは真っ直ぐ向かってくる藤崎に向かって『光薙(こうなぎ)』を前に突き出す。それと同時に三角形の平たい光の刃が藤崎に向かって飛ぶ。
しかし、藤崎は避けもせず、刀で軽々と光の刃を弾いた。
「!?」
エリザの目が僅かに見開かれる。
続いて、懐から『鎖砲牙(kすありほうが)』の刃を射出する。
藤崎は身体を横に逸らして、これもまたかわす。
エリザの前にやって来た藤崎が刀を振るおうとした瞬間、
エリザがまさに『神隠し(かみかくし)』を横に傾ける寸前だった。
ガァン!!と耳を突くような金属音が響く。
その音の正体は藤崎がエリザの『神隠し(かみかくし)』を完全に横に傾ける寸前に、弾き飛ばした音だった。
「……ッ!!」
がら空きのエリザに藤崎は刀を横に振るう。
だが、エリザは後ろへ一歩退き、それをかわす。退いてすぐに、懐から『蓮華(れんげ)』を突き出す。
咄嗟に反応した藤崎が横へ逸れ、僅かに頬を掠める。
二人は一気に距離を開け、お互い睨み合う。
エリザは『蓮華(れんげ)』を持ち、他の剣(つるぎ)を横合いへと放る。
つまり『他の剣(つるぎ)は決して使わない』という意思表示だ。
「……ふ」
エリザは僅かに笑みを零し、
「ふふふふふ……。あっははははは……面白い、面白いよ」
不気味な笑いだ。
十二歳の少女が出すとは思えないくらいの不気味な笑い。藤崎や魁斗達は背筋に何か冷たいものが這うような寒気を覚える。
「まっさかここまで成長してるとは思わなかったなー。あの時とは別人じゃん」
「そりゃあね。切原君も言ったけど、私達はアンタを倒すために強くなった。つまり、アンタが目標……」
藤崎はエリザに刀の切っ先を向ける。
「そのアンタを倒せないで、先へ進めるなんて思ってないッ!!」
ふーん、とエリザは適当に相槌を打つ。
「だったらぁ……見せてみなよ。その手に入れた『強さ』を本気の私に!!」
131
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/09(金) 21:27:24 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「スゲェ!藤崎の奴、いつの間にあんな強くなったんだ!?」
魁斗はエリザと互角、もしくはそれ以上の戦いぶりに歓声を上げていた。
レナ達も安心したように息を吐く。
「君が見てない間に強くなったのさ。僕がずっと修行に付き合ってたからね。今の彼女の強さは僕がよく知ってる」
桐生は眼鏡を上げながらそう言う。
ハクアは黒い髪を手でなびかせて、
「でも、問題はここからよ」
「うん。情報によるとエリザは『蓮華』を使いだした時が本気。つまり、今までのは小手調べって奴だね」
メルティお得意の情報で解説する。
魁斗達も息を呑む。
一気に緊張感が辺りを包む。
藤崎とエリザは数秒睨み合い、お互いに踏み出したところで、緊張の糸が切れる。
藤崎の刀とエリザの槍が何度もぶつかり合い、激しい音が響く。
「……ここでも互角、ですね」
「いや。よく見れば藤崎さんは結構精一杯だ。それにエリザは表情からしてまだ余裕がある」
桐生の言うとおり、藤崎の表情からは頑張っている、という感想が出るような歯を食いしばって相手の攻撃を防いでいるが、エリザは笑みを浮かべたまま、激しい連撃を繰り返している。
エリザの強烈な一撃を刀で防いだ藤崎は、立ったまま滑って、何とか踏みとどまる。
息切れが目立つ藤崎に対し、エリザは息が切れていない。
ここでも実力差が明らかになってしまう。
「ふーん、まあ前よりは出来るようになったんじゃない?前は小手調べでグロッキーだもんね」
「はは、褒めてくれてありがと」
藤崎は引きつった笑みを浮かべながらそう言い返す。
エリザは首を鳴らして、
「んー?褒めたつもりはないんだけど……むしろ『無駄な努力をどうも』みたいな感じかな?だって……」
エリザは軽く空を槍を上に向けて横に薙ぐ。
すると、薙いだ場所に鋭利な光の矢がたくさん現れる。
「ッ!?」
「『蓮華(れんげ)』の能力は光でいろんな物質を構築、およびそれを使役した上での攻撃なんだよ。だぁーかぁーらぁー!」
エリザが上に向けたままの槍の切っ先を藤崎へと向ける。
「こういうことも出来る。飛べ。『千光矢(せんこうや)』」
思ったよりも矢の速度が早く、藤崎にかわす暇を与えなかった。
藤崎はかわせずに、その場が土煙で包まれる。
「藤崎!!」
魁斗は思わず叫ぶが、煙の中から藤崎の返事は無い。
誰もが最悪の状況を想定した。
「さぁーて、次は誰が……」
「勝手に終わらせるなぁ!!」
煙の中から声がする。
そこにいたのは多少の傷は負っているものの、案外元気そうな藤崎だ。
エリザもこれくらいで倒せると思っていなかったらしく楽しそうな笑みを浮かべている。
「げほげほ、防ぐのにちょい炎を使ったか……」
「藤崎さん」
桐生の言葉が藤崎の耳に届く。
藤崎は振り返ると、桐生は眼鏡を上げながら伝える。
「そろそろアレ、出してもいいんじゃない?」
アレ?と全員が首をかしげる。それはエリザも同じだ。
藤崎だけは分かったように笑みを見せながら頷き、再びエリザの方を見る。
振り返った彼女の手に握られている刀には炎が纏っていた。
「っしゃー、いっくぜー。藤崎恋音ちゃんの新技『煉獄(れんごく)』!!」
132
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/09(金) 22:41:25 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十三閃「煉獄」
「……煉獄……?」
藤崎が言った新技の名前に藤崎と桐生以外は首を捻る。それはエリザも例外ではなかった。
藤崎の自信に満ち溢れた表情を見るに、期待できるが、それを直に見ていない魁斗達にはいまいち実感が湧かない。
気になった魁斗は桐生に、
「なあ、その煉獄ってどんな技なんだ…?」
桐生は、軽く息を吐いて答える。
「ああ、期待していいよ。老朽化しているとはいえ、廃ビルを一つ消し去るほどの威力だったからね。僕は実際に見てるし」
桐生の言葉に全員が絶句した。
廃ビル一つを消し去るなど、到底出来ることではない。魁斗は当然無理だと思ったし、レナ達も出来ないような顔をしていた。
エリザは桐生の言葉が聞こえたのか、珍しく引きつった笑みを浮かべている。
「藤崎さん。今の炎のメーターはどれくらいだい?」
「……うーん」
藤崎は僅かに言い淀む。
「大体、今なら五割はいけるかな」
充分だ、と桐生は笑みを浮かべる。
藤崎もニッと笑みを浮かべて、刀を覆っていた炎が一際強く燃え上がり、巨大な炎の塊が刀を包む。
「な……!?」
炎の大きさに声を上げたのはエリザだ。
さすがにここまでとは思っていなかったのだろう。一方で、炎を出している藤崎も辛そうだ。
「……コレ出すと……強制的に魔力が座れて炎の威力が上昇する……!だから、この一撃で決めさせてもらうよ……っ!」
藤崎は走り出して、空へと飛び上がる。
刀の炎を逆噴射させて、上空でエリザへと狙いを定める。
エリザも藤崎を視線で追う。
藤崎は炎を構えて、大きな声で言い放つ。
「煉獄ッ!!」
ドォン!!という轟音が辺りに響き、地面が僅かに揺れる。
エリザの立っていた場所は真っ赤な炎に包まれ、影すらも見えなくなっていた。
「……………」
威力に魁斗達は口を大きく開けて、硬直していた。
着地した、藤崎は僅かにふらつくが、笑みを見せる。
「イェーイ!!」
「……ねぇ、恋音ちゃん……。アレ、エリザ死んじゃったんじゃないの?」
ハクアの指摘で藤崎は『あ』と言葉を漏らす。
振り返ると、エリザのいた場所は火の海状態。
藤崎の表情がどんどんと引きつった状態になり、
ズン!!と藤崎の腹に光の球体がめり込む。
「……ッ!!」
藤崎は僅かに声を上げたが、そのまま後方へと勢いよく飛ばされる。
彼女を襲った光の球体の正体は、考えるまでもなく答えは出た。
「……つーかさぁ、他人に『勝手に終わらすな』とか叫んでおきながら……人のこと言えないじゃん」
火の海から右腕で槍を前に突き出したエリザが現れる。
彼女のダメージは案外軽いものだった。
足取りは軽く、顔も全然無事そうな涼しい表情だ。左腕だけが、かなりの火傷を負っているが。
恐らく『蓮華(れんげ)』で光の壁を作った際に利き腕とは逆の左腕と共に防いだため、ダメージが軽くすんだのだろう。
「続けようよ」
『天童』の異名を取る彼女は、咳き込んで、立ち上がろうとしている藤崎に冷たく言い放つ。
「左腕の代償は、高くつくよ」
彼女の目は、幼女とは思えない冷徹さを帯びていた。
133
:
ライナー
:2011/09/10(土) 00:26:39 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
コメントのお返しです^^ライナーです。
煉獄スゲェ……!!てか、それを耐えるエリザさんがスゲェ……!
次の展開が楽しみです。
僕としては、もう申し分のない出来だと思います。(まるでアドバイスしなきゃいけないような言い草)
僕も、読み応えのあるバトルを実現していきたいと思います^^
ではではwww
134
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/10(土) 00:48:53 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤崎は光の球体が当たった腹部を押さえながら、よろよろと立ち上がる。
だが、立ち上がった時には既にエリザは距離を詰めて立っていた。
藤崎がそれに気付く間もなく、藤崎の横っ腹にエリザの鋭い蹴りが繰り出される。
勿論、かわすことも何も出来なかった藤崎は、横へ転がる。それでも立ち上がろうとする彼女を見て、エリザは呆れたように溜息をつく。
「諦めなさいって。実際よくやったしさ……そこまでムキにならなくてもいいんじゃない?他に五人もいるんだし、アンタがやられても、気にしゃしないって」
それでも藤崎はエリザの言葉など聞き入れず、刀を強く握り締め、彼女に斬りかかる。
しかし、あっさりとエリザにかわされてしまい、通り過ぎざまに、腹に肘鉄を喰らう。
「……ッ」
「いい加減、楽になりなって」
さらにエリザは『蓮華(れんげ)』の柄で藤崎の顎に打撃を加える。砕けたりはしないだろうが、藤崎は僅かに浮いて、仰向けに地面に倒れる。
「アンタは私に勝てない!それが全てなの!」
魁斗は歯を食いしばって、拳を握り締めて前へ出る。
だが、桐生は勇み足の彼の肩を掴んで止める。
「……離せよ、桐生」
「離したら、助けに行くだろ」
「……ダメなのかよ」
「行っちゃいけない。君は藤崎さんに『休め』と言われたはずだ」
「……このまま藤崎がやられてもいいっていうのか……!仲間だろ!!」
そこへ魁斗の腕を掴んで、メルティとレナが魁斗を少し離れた所へと連れて行く。
「……何だよ」
「カイト様。気持ちは分かりますが、ここは桐生さんの言うとおりにしましょう」
「ッ!お前まで……」
「違うよ、カイト君」
メルティは魁斗を止める。
これ以上悪化させれば仲間割れにつながりかねない。
「……桐生君だって助けたいんだよ。でも、恋音ちゃんが行くって言ったから、それを信じてるから。きっと、誰よりも彼女を助けたいと思ってるはずだよ」
魁斗は改めて桐生を見る。
彼は表情には表してないものの拳を強く握り締め、僅かに血が垂れ落ちている。
そして再び藤崎とエリザへと視線を戻す。
藤崎はエリザに攻撃してはかわされて、カウンターを喰らって、倒れて、また攻撃して。それの繰り返しだ。
満身創痍の藤崎に対し、エリザはようやく僅かに息を切らしてきたところだ。その息切れも『疲れ』ではなく藤崎の粘りの『しつこさ』による息切れだ。
「鬱陶しいなぁ!もう終わりだって言ってるでしょ!」
エリザは槍をくるくると回して、
「眠れ!!」
思い切り、藤崎の頭へと槍の打撃を浴びせる。
藤崎は横向きに倒れて、荒々しい呼吸を繰り返す。
同じく息を切らしているエリザは、そんな藤崎を尻目に、
「アイドルちゃん戦闘不能。所詮、中途半端な力じゃ私は倒せないよ」
エリザは魁斗達の方へ向いて、戦闘態勢を整える。
中途半端。
不意にエリザから放たれた言葉に藤崎は懐かしさを覚える。
(……中途半端……か。……そうだ、昔の私だ……)
朦朧(もうろう)とする意識の中、藤崎は呆然とそう思う。
空を仰いだまま、動かない身体で、まだ僅かに頭は動いていた。
(……そうだ、この言葉……。この言葉があったから……今の、私があるんだ……)
そう、私が、まだアイドルになる前―――。
下積みとか、売れない時期じゃなく、ただの一般人だった…あの時。この言葉は大嫌いだけど、私を立ち直らせてくれた言葉だ。
藤崎恋音。小学三年生―――。
135
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/10(土) 00:51:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます^^
廃ビル一つ消し去る技なのでね…。でもちょっと強力すぎたかも…。
そのせいで、エリザが急に化け物みたいになったし…w
そちらもバトル展開は上手いと思いますよ!
こっちはぐだぐだ進行で長いですが、そちらはスピード感があっていいと思います。それぞれ自分の持ち味ですからね。
136
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/10(土) 08:37:04 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
今回の話は恋音が語り手となっております。
このやり方は初めてですが、下手だと感じたのなら、もうコメントとかどんどん書いてくださいね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私は、小学生の頃は普通の女子だった。
『普通』よりはちょっと暗い、教室の隅でいつも本を読んでいるような、どこにでもいる根暗な女の子。
そんな私でも好きな人が出来た。
三年生の頃、同じクラスになって席が隣同士になったことで、告白するチャンスがあった。
勿論告白してみた。でも、その子の返って来た言葉は、
『顔は可愛いのに、他はダメだよな。中途半端だし』
一瞬だった。
私は今までも、何か自分でも出来るようなことを探していた。楽器だったり、塾だったり、スポーツだったり。
でも、どれも長続きはしなかった。やっぱり私は中途半端なんだ。何でもすぐに諦める自分が、今となって嫌だと感じた。
そんな時、私の目があるチラシを捉える。
子役のオーディションのチラシ。
これならやれる、これなら私でも続けられるかも。そう感じて、私は両親と相談してオーディションを受けることにした。
顔は良いんだし、後は声と性格をどうにかするだけ。頑張ってハキハキ喋るようにして、性格も明るく振舞うようにした。
結果、受かることが出来た。
早速、ドラマの出演が決まった。ほんの数カットだけの出演だけど、楽器を弾いてるより、塾で勉強しているより、スポーツで汗を流すより、とても楽しかった。
中学生になって、私は他の女子に人気だったサッカー部のキャプテンに二度目の恋をした。
私は話せる機会を得て、彼に告白してみた。
その時は、私の名前も大分知られていたし、学校でもかなり声をかけられるような、自分で言うのが恥ずかしいくらい人気者だった。
でも、
『芸能人ってなー。何か、確かにいいけど、あくまで憧れで終わるんだよ。重いしさ』
またしても一瞬だった。
中途半端じゃなくっても、こうなるんだ。
それ以降、私は人と接するのが苦手になった。番組のスタッフの人達や出演者以外は関わりたくない、と避けてきた。
それが丁度、仕事が忙しくなって来た頃。
今は昔みたいに、恋をする暇なんてない。私があんなことで傷つくことは、多分もうない―――。
(……それでも、それでも諦められるか……!)
藤崎は刀を握る手に、立ち上がるために足に、力を込める。精一杯の力を。
動いただけで、骨が軽く折れてしまいそうなくらい、もしくはもう一本くらい折れてるかもしれない。そんな身体を無理矢理に動かす。
(……切原君は、こんなひねくれてる私を助けようとしてくれた……。……レナさんと沢木さんは私なんかのファンでいてくれた……。……ハクアさんとメルティちゃんは私に気さくに接してくれた……。……桐生君は私の修行に付き合ってくれた……)
藤崎は刀を杖代わりに地面に突き刺して、自分の身体を立たせる。
(……中途半端なんか言わせない……!私は……)
足に力を込めて、立ち上がった藤崎は叫ぶ。
「勝つんだ!!」
137
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/10(土) 21:37:54 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十四閃「女の意地」
エリザは倒れている藤崎を確認して、彼女に背を向ける。
「さーて、次は誰?もうこうなったら誰でもいーよ」
魁斗達は答えない。
それよりも、何故かエリザの後ろを見ているような視線だ。
エリザはハッとして振り返る。
彼女の予想通りに藤崎恋音が立ち上がっていた。
「……うそでしょ…」
荒々しい呼吸を繰り返す藤崎を見て、エリザは引きつった笑みを浮かべる。
叩きのめした、潰した。壊し尽くした。そう思っていた。だが、藤崎恋音という敵は今まさに自分の前に立っている。
「……桐生、君……」
藤崎は小さい声で名前を呼ぶ。
すると、自身の髪をポニーテールにしているリボンを解いて、桐生の前に歩いてくる。
「これ、持ってて……。大事な物だから……」
藤崎はリボンを桐生に預ける。
戦いで傷つくのが嫌だったのか、桐生はそう思って藤崎の言葉に頷く。
安心したように藤崎は振り返って、エリザの方を見る。
「……続き、やろっか」
藤崎は真っ直ぐに刀を構える。
しかし、それを見たエリザが感じたのは、恐怖でも焦りでもない。
ただの余裕だ。
「っふふ。あの状態から立ち上がった精神力は称賛に値するよ。けどね、何が出来るっていうのさ」
藤崎はボロボロで立っているのがやっとの状態だ。現に呼吸は荒いし、一瞬でも気を緩めれば膝から崩れ落ちそうなくらい足が小刻みに震えている。
一方のエリザは多少の火傷は負ってるものの、重傷なのは左腕だけだ。それも『まともに動かせない』ではなく『ある程度は動かせる』状態なのだ。
「あの技…『煉獄』だっけ?大した威力だけど、もう出せる体力無いだろうし、炎のメーターを溜めることも出来やしない」
エリザの言葉を藤崎は黙って聞いていた。
図星だと思ったのだろうか。
だが、エリザの言葉が終わった後に藤崎から出たのは、
「……バッカじゃないの」
という言葉と僅かな笑みだった。
藤崎は続ける。
「勝算はあるわよ。ったく、何のために刀を振り回していたと思ってるの?」
「ッ!!」
その言葉にエリザはぎょっとする。
一見無駄に見えた、煉獄を使った後のエリザと藤崎の攻防。あれは炎のメーターを溜めるための布石だった。
「もう九割くらい溜まってる。これで、決める!!」
「…………面白いじゃん」
エリザは笑みを浮かべて、
「だったらこっちも全力でいくよ!!」
「決まるわね」
ハクアの言葉に魁斗達は振り返る。
「次の一撃が、恐らく二人にとっても限界。最後に立ってるのはどっちか」
魁斗達にも緊張感が走る。
藤崎恋音とエリザ。
二人の戦いは今、決着を迎えようとしていた―――。
138
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/10(土) 23:02:44 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
エリザは藤崎恋音を見つめながら思っていた。
(……初めてだ……。自分とここまで互角に渡り合っている人は。……ホント、いくら称賛しても足りないくらいだよ)
でも、とエリザは心の言葉を一度区切る。
(勝つのは私!私には負けられない理由があるんだから!)
「……いくよ」
藤崎はそう呟いて、両手で刀を握り締める。
すると、急に刀の刀身を真っ赤な炎が包み、藤崎自身が炎に包まれているような錯覚を起こすぐらいの炎が燃え盛る。
その熱風は後ろにいた魁斗達にも襲い掛かっていた。
「熱ッ!?」
「……ここまで風がくるなんて…!」
「……それだけ本気ってことだね。もちろん、相手も加減はしないようだ」
藤崎の炎を見たエリザは笑みを浮かべる。
そして、槍に眩いほどの光を纏わせる。僅かに電撃が奔るような音が聞こえる。
エリザの剣(つるぎ)は光であらゆる物質を作ることが出来る。今のは巨大な光の塊といったところだろうか。
藤崎とエリザの両者はほぼ同時に前へと踏み出した。
二人は渾身の一撃を相手に向かって放つ。
「煉獄ッ!!」
「悪滅光(あくめっこう)!!」
二人の技がぶつかり合い、巻き上げられた土煙で視界が遮られる。
魁斗達は土煙に目を閉じ、目をゆっくりと開くと藤崎とエリザはすれ違った状態で止まっていた。
「………」
静寂が辺りを包む。
そして、ふらぁっと身体が横に揺らぎそのまま倒れる。最初に倒れたのは、
藤崎恋音だ。
「………ッ!」
魁斗達は思わず叫びそうになったが、それより先にエリザが言葉を発する。
「……まったく、最後まで立ってた方が勝ち、か……。そんなの、信じないぞ……」
エリザの槍にヒビが走り、そのまま砕ける。
エリザはダメージを負いながら続ける。
「剣(つるぎ)を壊すだけじゃなくて、私にもダメージを与えて……こんなの誰が見ても……勝敗は決まってるじゃん」
エリザは視線を藤崎へと移して、一言。
「アンタの勝ちだよ、藤崎恋音」
そして糸が切れたように倒れる。
魁斗達はハッとして倒れた二人に駆け寄る。
その光景を離れた所から望遠鏡で覗いている者がいる
魁斗達が歩いていた迷いの森からだ。
「ふむふむ。結局エリザは負けたか」
男は望遠鏡から眼を離し、
「さて、と。では当初の予定通りに事を進めるかな」
その男は、白い衣装に身を包んでいた。
彼の名前は―――。
139
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/11(日) 02:16:28 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「………………」
エリザはうっすらと目を開ける。
感覚からして、自分は寝かされているらしいことが分かり、目を開ければ空が広がっていることから仰向けということが分かった。
だが、ここがどこなのかは分からない。魁斗達もどこへ行ったのか分からない。
「目ぇ覚めたか」
不意に飛んできたのは男の声だ。
だが、それは自分がかけてもらえるはずのない人物の声だ。
エリザはそちらに視線を向ける。
彼女に話しかけたのは切原魁斗だ。
エリザは上体を起こして、自分の腕や足に巻かれている包帯を訝しげに見ている。
「……何で、治療したんですか」
「仕方ねーだろ。藤崎の奴が『エリザちゃんも!』って言うんだから」
すると、エリザ横に藤崎が寄る。
彼女はエリザの隣に座って、彼女を真っ直ぐに見つめ、告げる。
「負けた」
エリザはその言葉にきょとんとした。
「いやー、惜しいトコまではいったんだけどなー。あと一歩だった。やっぱ強いね!」
「……何で……。……私は、負けた……!私の剣(つるぎ)は折られたし、あのまま続いてたら……」
「あのまま続かなかったでしょ?今回は。だから、今回はエリザちゃんの勝ちだよ」
藤崎は柔らかな笑みを浮かべて言う。
しかも敵としての呼び方ではなく、友達という意味合いが強い感じで『エリザちゃん』と呼んでいた。
「……でも」
「でもじゃないよ。次はもっともっと強くなるから!そしたら、もっかい戦お!」
「…………嫌だよ」
藤崎の言葉にエリザは小さく呟く。
ちょっと残念そうな顔をする藤崎だったがエリザは、
「だって、毎回戦うたびにこんなにボロボロになるんじゃ、耐えらんないよ。修行程度ならいいよ」
「ありがとぉっ!!」
藤崎は思わずエリザに抱きつく。
ふわっ!?と甲高い声を上げるエリザだったが、心地よさに目を細める。
「ところでエリザ。藤崎が負けたって事は、俺らはこの先に通れないのか?」
「ううん、通れるよ」
魁斗の質問にエリザは短く返す。
「最初に言ったと思うけど、この門は私の魔力を通わせてるから耐久度が強いの。今なら普通に壊せるよ。番人の私も君らと戦う体力残ってないしね」
エリザは藤崎の服の裾をきゅっと握ったまま説明する。
つまり、番人であるエリザはもう戦えないため、魁斗達の通過を許可する。といったところか。
魁斗は剣(つるぎ)を発動して、石門の前に立つ。
「っしゃ、お前ら覚悟はいいか?」
全員が一斉に頷く。
「頑張ってね。私はもう抜けるつもりだし、いっそのこと潰しちゃえ!」
ああ、と魁斗は返事をする。
「行くぞ、こっからが本番だ!!」
魁斗が刀を振り、石門を破壊する。
魁斗達は作った穴から、敵のアジトへ向かって一直線に走り出す。
エリザはその背中をずっと眺めていた。
そして立ち上がり『迷いの森』の方へと足を進める。
140
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/11(日) 12:19:03 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十五閃「第八部隊」
エリザは思い足取りで、通称『迷いの森』を歩いていた。
強いといってもまだ十二歳の少女だ。体力には限界があるし、他の隊長と比べて消耗も早い。
エリザは息切れしながらも、森を歩いていく。
しかし、その足を唐突に止めて、近くにある木にもたれるように寄りかかる。
「……いつまでついてくんの?マルトース」
エリザが振り返りながら言う。
後ろの木の影から出てきたのは真っ白な衣装に身を包んだ、第五部隊隊長のマルトースだ。
彼はいつものように怪しげな笑みを浮かべながら、
「いつから気付いていた?」
「確信したのは目が覚めた時。戦ってる時も覗いてるの気付いてたし」
そうか、とマルトースは呟く。
「何しに来たの?門を通らせたことに対する処罰?でもアレは仕方ないよ。どーせ続けてもすぐに負けただろうし」
「いやぁ、私が来たのは君に罰を与えるためじゃあない」
じゃあ何?とエリザは問いかける。
マルトースは笑みを浮かべたままに、
「君に与えるのは……『死』だ」
瞬間、マルトースが突っ込みマントの中から刀や槍、いわゆる暗器が飛び出す。
何とか反応できたエリザは『神隠し(かみかくし)』を発動して、横へ傾ける。能力でマルトースの背後に回るが、背後に回ったエリザの後ろに、もう一人マルトースがいた。
「ッ!?」
後ろから暗器で突き刺され、うつ伏せに倒れる。
エリザが何とか視線を後方へ移すと、三人。マルトースがいた。
「一人で来ると思ってましたか。甘いですよ」
「貴女程の実力者相手に、一人でいくわけないでしょう」
エリザは仰向けになって、痛みに耐えながら何とか言葉を紡ぐ。
「な、何で……私を狙うの?」
「私は、貴女が邪魔だと思っていますから」
だったら良いじゃない、とエリザは睨みながらそう言う。
「私はもう『死を司る人形(デスパペット)』を抜ける。邪魔者はもういなくなるのよ」
「それじゃダメなんですよ」
エリザは眉をひそめる。
「貴女が死ななければ。これからの私の計画には貴女は完全に邪魔になる。だから、今から消さなければいけない」
「……計画……?」
マルトースは笑みに一層怪しさを秘めて、
「私は『死を司る人形(デスパペット)』などもうどうでもいい。私には、他に帰るべき場所がある」
「……何よ、そこ……」
「答える必要が、ありますかね?」
マルトースの刃がエリザを襲う。
エリザは動けずにただ、自分を襲う刃を待つしかなかった。
141
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/11(日) 13:39:48 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
エリザの小さい身体をマルトースの視界を覆う程の刃が襲う。
身体が動かせずに呆然とするエリザ。
しかし、彼女の身体は迫り来る刃に貫かれも、刺されも、斬られも、ましてや傷がつくことすらなかった。
何故なら、突如として空から降ってきた黒い影がマルトースに突き刺さり、彼を粉砕してしまったからだ。
「ッ!?」
エリザと残った二体のマルトースは一斉に辺りを見回すが、人影すらも見当たらない。辺りは森で木が影になって人影が隠れているかもしれない。激突した衝撃によって巻き上げられた土煙で、マルトースを粉砕したのは何か分からない。
次には呆然としている一体のマルトースに黄色い電撃が走り、機械であるマルトースを行動不能に陥らせた。
「……」
「何だ!?一体、誰なんだ!?」
ようやく土煙がはれ、一体目を粉砕した黒い影の正体が分かる。
突き刺さっていたのは巨大な刀だ。
その刀はエリザには見覚えがあった。
そして、一本の木から声が響く。
「ったく、簡単に俺達の目の前で負けてもらっちゃこまるんだよ。アンタには、常に最強であってほしいからなァ」
「そーそー。それこそが、私達のリーダーなんだからさ!」
木から響く声の正体は、その木から飛び降り、地面に降り立つ。
いたのは二人。
一人は茶髪で、前髪が右目を隠してしまうほど伸びており、左目はかなり鋭い青年。もう一人はピンク色の髪をポニーテールにている男と同じくらいの女性。
エリザはこの二人に見覚えがあった。見覚えがあったのはエリザではなくマルトースも同じだ。
エリザの窮地を救ったのは消息不明となっていた、ザンザとカテリーナだ。
「……ザンザ……?……カテリーナ……?」
エリザは呆然と呟く。
ザンザはエリザの前に突き刺さっている自身の刀を引き抜き、肩に担ぐ。
そして、エリザへと視線を落として、
「……まァ無事ってワケでもねェみてェだな」
「だって恋音ちゃんとの連戦でしょ?そりゃいくらエリザ様でも追い詰められるって。三対一なら尚更ね」
「何故だっ!?」
ザンザとカテリーナの出現にマルトースは顔を蒼くする。
「何故貴様等が生きている!?いや、今はそれはいいか。何故エリザを助ける?お前らはそいつによって殺されかけたというのに!!」
マルトースの怯えきった声に、ザンザは小さく笑う。
「だからどォした。俺らを殺そうとした奴を、何で助けちゃいけねェんだよ」
「……その女はもう『死を司る人形(デスパペット)』じゃないんだぞ。助けたとて、お前らには何のメリットもない!!」
「メリットなんざいらねェ」
ザンザはマルトースに即座に言葉を返す。
「『死を司る人形(デスパペット)』じゃない?助けてもメリットはねェ?だからどォしたってんだ」
ザンザは刀の切っ先をマルトースに向ける。
そして、真っ直ぐに睨みながら告げる。
「いいか、分からねェよォだから言ってやる。俺のリーダーはこの人だけだ。俺らは何があっても…エリザ様だけは裏切らねェ!!」
カテリーナはエリザに手を差し伸べて、
「立てますよね。貴女を超えるまで、負けないでくださいって言ったでしょ?だから、それをきっちり守ってください!」
「……うん」
エリザはカテリーナの手を取り立ち上がる。
ザンザは肩に刀を担いで、笑みを浮かべてエリザに問いかける。
「……隊長、命令は?」
エリザはキッとマルトースを睨みつけて、
「いくよ、野郎ども!マルトースを……ぶっ潰す!!」
エリザのではなく、第八部隊の反撃が開始した。
142
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/11(日) 20:35:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
完全にまずい状況に陥っていた。
マルトースは目の前の第八部隊の三人を見ている。
こんなはずではなかったはずなのに。
本来ならば、手負いのエリザを消してそれで一件落着としたかったのだが、ここでザンザとカテリーナの救援が入るとは思いもしなかった事態である。そもそもエリザが余力を振り絞って思いのほか奮闘した時のために、用意した二体のマルトースも二人によってあっけなく破壊されてしまっている。いくら隊長のマルトースでも実力は下の方。小隊隊長二人と手負いの『天童』相手に勝てる自信などあるわけがない。
エリザは痛むのか、右肩あたりを押さえながら、
「で、どうするの?立てたけど、あんまり派手に動けないよ?」
「心配すんな。俺達だってそんなに負担かけたりはしねェよ。助けるために来てんだからな」
足手まといはもう卒業、と言ってカテリーナは両腰に挿している刀を引き抜く。
よく見ると、一本ずつではなく、二本の刀の柄の先が鎖で繋がれている。しかも彼女の持ってる刀はそれぞれが元々一本だった『帯雷剣(たいらいけん)』と『魂狩り(たまがり)』である。
「……カテリーナ、それ…」
刀に気付いたエリザはカテリーナに問いかける。
カテリーナはニッと笑みを浮かべて、
「ああ、気付きました?そうです。刀匠の人に頼んで繋いでもらったんですよ。『魂狩り(たまがり)』で削った魔力を『帯雷剣(たいらいけん)』へ流す鎖です」
「言ったろ、足手まといにはならねェ」
ザンザは笑みを浮かべて、
「俺達が潜伏していた間、何もしなかったってわけじゃねェんだぜ?」
エリザは今この二人の存在をありがたく思う。
きっと一人ではどうにもならなかった。二人がいるからこそ、今の自分がいて、二人がいたからこそ、大事なものに気付けた気がする。
「さーてと、どうすっかな。合体技でもいっとくか」
「オーケー。もちろん、三人でだよね?」
当たり前だ、とザンザは適当に返す。
打ち合わせをしたわけでもなく、ザンザとエリザはお互いの刀の切っ先を合わせる。
『光薙(こうなぎ)』と『大宝の御剣(だいほうのみつるぎ)』。二つとも光の刃を出すことが出来る能力。
「「だぁっ!!」」
二人は声を合わせて、二本分の威力の光の刃を射出する。二本分の威力のせいか一本で出すときよりも威力が上がっているような気がする。
「それっ!」
皿にカテリーナが電撃を光の刃に纏わせて威力を強化させる。
「……何だと!?」
マルトースは暗器の一部であろう盾を出し、雷を纏った光の刃を受け止める。
だが、威力が数段に上がっているものを止められるはずもなく、盾はヒビで使い物にならなくなり、跡形もなく砕ける。
「第八部隊、合体技……『八光雷(はっこうらい)』」
眩い光と共にマルトースがいた所は爆発して、エリザ達に勝利を告げる。
ザンザはマルトースのいた場所へと歩み寄る。
「……ちっ」
低い舌打ちをして、エリザとカテリーナの方へと振り返る。
「やっぱ機械だ。あの野郎、とことん自分自身は戦わないってワケか」
「いつものことでしょ?今更機械でしたって言われても驚きもできないし」
カテリーナは呆れた調子で言う。
それから、ザンザはエリザの前で跪いて、
「今まで帰還できず、申し訳ありませんでした。事の失敗を思うと、どんな顔をして会えばいいのか分からず……」
ザンザを見てカテリーナも同じように跪く。
エリザは笑みを浮かべて、二人の頭をぽんぽんと撫でる。
「……いーよ、気にしてない。二人がいなくて寂しかったけど……私も悪いし。ごめんね」
ザンザとカテリーナは顔を上げるが、まだ申し訳なさそうな顔をしている。
呆れて息を吐き、エリザは言葉を続ける。
「ザンくん、リーちゃん。また私と一緒にいてくれる?」
懐かしい呼び名だった。
エリザにニックネームで呼ばれるのは、何年以来か。
ザンザとカテリーナは、懐かしさに表情を綻ばせ、
「「もちろんですよ」」
そう告げる。
「まずは、エリザ様の手当てから始めねェとな」
143
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/16(金) 19:35:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十六閃「遭遇」
「しっかし……」
ザンザは座り込みながら呟く。
カテリーナはエリザの手当てを行っていて、エリザの身体に包帯を巻いたり、ガーゼを当てたりしていた。
「見てんなら助けてくれても良かったんじゃねェの?クリスタさんよォ」
そう言うと、木の影からクリスタが姿を現す。
クリスタがいたことに気付かなかったエリザとカテリーナは僅かに驚いたような表情をした。
彼女は微かに笑みを浮かべ、
「お前達が来たから助けなかっただけだ。一種の信頼というやつだな」
「ハッ。俺らが殺られれば自分が助けた、てか。随分とセコイ真似すんじゃねェか」
どう思おうが構わない、とクリスタは返す。
アジトの方へと視線を向け、再びザンザ達に視線を戻したクリスタは、
「『死を司る人形(デスパペット)』はもう終わる。どうだ。私達で終わりを見届けに行かないか」
その言葉にザンザ達は眉をひそめる。
「いいのかよ。十人いる隊長の一人が終わるとか言って。俺らは抜けるつもりだから何言っても……」
そこでザンザの言葉が止まる。
彼は納得したように『ケッ』と言葉を漏らすと、
「そうか、お前もか」
クリスタも抜けるつもりだ。
隊長を殺そうとした奴と一緒にいるのは堪えられない。しかも、当のマルトース本人の姿がアジト内に見当たらないのだ。嫌な予感がして、外に出れば案の定マルトースはエリザを攻撃していた。エリザの魔力が弱まったのを感じてアジトを出たらしいが。
「どうする?」
「俺は嫌だぜ。女三人の中に男一人ってのも結構気まずいんだよなァ」
「それなら心配はいらないな」
クリスタが親指を自分の背後を差すと、第十部隊隊長の、関西弁で喋るゲインが姿を見せた。
「僕もおるから安心してや。ちゅーか、女の子だらけの方がえーやん!ハーレムやん!」
「お前と一緒にすんな」
エリザの手当ても終わり、クリスタ一向(実力で言えばエリザがリーダー)はアジトへ向けて、歩き始める。
「さあ、世話になった『死を司る人形(デスパペット)』の葬式だ」
一方、魁斗達はアジトの扉前の下っ端を片付けていた。
数はざっと百五十程度。だが、今の魁斗達には時間稼ぎにもならなかった。
「実力は大したことないのに、数だけは多かったわね」
「こーゆーのお約束って言うんだよね」
ハクアとメルティがそう言っている。
エリザ戦で結構消耗していた藤崎は息切れしている。桐生は、そんな彼女を気遣っていた。
「大丈夫かい、藤崎さん」
「あ、大丈夫……。なんともないよ」
笑みを浮かべるが、明らかに無理をしている。
だが、心配を掛けたくないのか、彼女は無理矢理強がって見せた。桐生もその気持ちをわかっているのか、それ以上の言葉はなかった。
「さーてと、いよいよ本番になりそうだぜ」
「ですね」
「気を引き締めないとね」
魁斗達に一気に緊張感が走る。
息を呑んで、魁斗は扉を開け放った。
144
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/16(金) 21:28:51 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
開け放った扉の先に広がるのは広間のような場所。
入ってきていきなり、と思っていた敵の姿は見当たらない。敵の代わりに、六つの入り口が横に並んでいた。
「……結構、肩すかしだな。各部屋に一人ずつ隊長がいて倒して進んでいくとばかり思ってたが……」
「そうでもないみたいね。ま、それならそれで私達は六人、向こうは九人でかなり不利になるけど」
魁斗とハクアがそう口にする。
六人、ということは絶賛重傷中の藤崎も数に入っているようだ。今の状況で彼女が戦えば即負けだろう。
そして、彼らは知る由もないが、第九部隊隊長のクリスタ、第十部隊隊長のゲインは『死を司る人形(デスパペット)』を抜けており、マルトースはアジト内にいないようなので、実際の人数は六人である。
「扉が六つ……」
「随分と用意周到だね。元から六つだったのか、それとも僕らの攻撃に合わせて六つにしたのか」
レナと桐生は冷静に分析している。
扉が六つということは、一人一人扉の中を通って、一人で戦っていかないといけない、ということになる。
魁斗達はそれぞれ、扉の前に立つ。
「……生きて帰ってこいよ」
「まだ死ぬわけにはいかないよ」
魁斗の言葉に桐生はそう返す。
「そーそー。サワちゃんが待ってるわけだしね!」
ハクアが笑顔でそう言う。
続けてレナが、
「そうですよ。だから、私達は何が何でも生きて帰らなければいけません」
「うあー、プレッシャーかかるなあ」
メルティは参ったように呟くが、顔は笑っている。
藤崎は深呼吸をして、
「よしっ!気合は入れ直した!」
その言葉に魁斗は笑みを零して、
「んじゃ、また会おうぜ」
「そうですね」
「だから死ぬ気はないって」
「永遠の別れみたいね」
「だからこそ、の約束でしょ?」
「アイドルなめんな!」
レナ、桐生、ハクア、メルティ、藤崎は魁斗の言葉にそれぞれ言葉を返して扉の中へと消えていった。
隊長達との決戦が始まる、合図だ。
145
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/17(土) 00:40:19 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
レナは廊下を駆けていた。
果てしなく思うほど長い廊下だ。いくら走っても終わりが見えないような長さ。
そんな廊下を走りながらレナは思っていた。
(……一体、どれだけ走ればいいんでしょうか……。これで体力を消耗させる、ということはなさそうですが……)
レナは走っている先に出口らしい、四角く区切られた光を見つける。
あそこが出口か、そう思ってレナは一気にスピードを上げ、その光へ飛び込む。が、
そこにいたのは、黒コートに黒いマフラーをした、目つきの悪い青年と肩くらいの黒髪に、モノクルをかけた執事風の青年の二人が立っていた。
入ってきたレナに黒コートの青年は怪訝な表情を向ける。
そして一言。
「あ?」
彼は手に持っている薙刀を肩に担ぐようにして、
「何だ、一人じゃねぇか。オイオイ、どうするよ」
一方、モノクルをかけた男は僅かな笑みを浮かべて、
「さあね。とりあえず、二人でやればいいんじゃない?」
第六部隊隊長ガルフ。第七部隊隊長ホーネスト。
レナはいきなり隊長二人にぶつかってしまった。
その頃、ハクアは……、
「もぉーッ!!何で追われてるわけぇー!?」
たくさんの敵に追われていた。
「むむ!」
メルティは二つに分かれている廊下を眉間にしわを寄せて凝視している。
どっちに行くか、相当悩んでいるようだ。
彼女が見つめているのは、右の廊下。こっちから魔力を感じるらしい。
(……でも、待てよ……?この魔力って……)
曖昧な確信を得て、メルティは右の廊下を突っ切っていく。
自分の答が、正しいかどうかを確かめるために。
「くっ……!」
レナは追い込まれていた。
この二人、正反対な性格に見えて、攻撃はかなり息が合っている。
まず、ガルフが牽制して、隙が出来たところにホーネストが打ち込んでくる。一人に気を配っていると、もう一方がおろそかになる。二人に気を配っていたら、手が回らない。これが彼らの戦略かもしれない。
「……ッ!」
二人同時に来たのを見て、レナは後ろへかわす。
すると、ガルフの薙刀とホーネストの双剣が交わる。
二人は見詰め合って数秒、いきなりただならぬ空気をかもし出した。
「……邪魔してんじゃねーよ、エセ執事」
「邪魔は君だろう。その武器、長くてうざったいんだけど」
二人の間で火花が散る。
この怒りの矛先が何処に向けられるか知っているからこそ、レナは慌てだす。
「大体、アイツをしとめるのも俺だけでいいんだよ。お前は邪魔だ、すっこんでろ」
「それは全てこっちの台詞だね。君こそ潔く引いたらどうだい?」
『何だとコラ』『やんのかコラ』とメンチの切り合いと罵声の応酬が続く。
そして、二人の視線はレナへと移る。
「要は、コイツをお前より先に叩ッ斬りゃいいんだなぁ?簡単じゃねぇか」
「そーだね。僕も、簡単なルールが見つかって大助かりさ」
二人の思考は『レナを倒す』ではなく『こいつにだけは負けたくない』に変換されてしまっている。
レナはたじろいで、
「…・・・いえ、あの…・・・」
二人が一斉に襲い掛かる。
「私は何一つ納得していませんがっ!?」
レナの声も、ヒートアップ中の二人には効果など発揮するはずもなかった。
146
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/17(土) 13:45:39 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十七閃「嵐の如く」
レナが二人の隊長相手に苦戦している頃、ハクアは大量の敵に追われていた。
図体の大きい男や、細身の男、見た目だけで違いが一目瞭然の奴もいるが、他はどれも似たり寄ったりで特徴がない。
(……何よ、こいつら。何で私を執拗に追いかけてくるわけ?……もしかして、人生最大のモテ期?でも……こんなトコで使いたくないなぁー……)
泣きそうになりながらハクアは敵から逃げている。
魔力が他の奴らより大きいのが五人程度。恐らく小隊隊長か副隊長が混じっているのだろう。
ハクアは後ろを向きながら走っていたが、唐突に前方から女の声が飛んでくる。
「オーッホッホッホ!!」
ハクアが前を見るとそこにいたのは豪奢な衣装を身に纏った(実年齢は三十代だろうが、若作りをしようと頑張りすぎているため老けて見える)女だ。
その女は手を口元に当てて、高笑いしながら、
「ここから先は、この第七部隊第五小隊隊長のカルメンが通さ……ッ!?」
カルメンと名乗った女の言葉は途中で途切れる。
何故なら、ハクアがカルメンの顔を踏み台にして、前へ突き進んだからだ。
カルメンはその場に仰向けに倒れる。後ろでは彼女の名を叫ぶ部下の声が聞こえるが、倒したかどうかの確認をするほどハクアは暇ではない。
「あー、もうっ!!早くどこか行ってよー!!」
荒々しく息を切らしながらも、レナは二人の隊長を眺めていた。
隊長一人なら上手く立ち回れるだろうが、二人となると今の実力では無理だ。体力はみるみる削られ、身体のあちこちに傷を負っている。
二対一では相手も退屈なのか、ガルフに至っては、興味なさ気に欠伸をしている。
それを見たホーネストは、
「やる気がないなら下がっててよ。後は僕が始末しておくからさ」
「あー?誰がお前に譲るか。お前に譲るくらいならミジンコに譲った方がマシだ、ボケ」
再び二人の間で火花が散る。
二人とも本気で自分を潰しにかかっているため、一切の容赦がない。
例えば、コンビネーションなどを使ってくれれば、かわすことも出来たり隙を突くことも出来るのだが、二人の攻撃は正反対で回避するのも至難の技だ。二人の仲が険悪なため、うっかり仲間を傷つけても構わない、という考えがある。
しかも、二人はまだ『どっちが先に倒すか』をまだ続けている。
「……あの、そんなに喧嘩ばかりなら……じゃんけんで決めてはいかがでしょう……?」
そう敵に提案するのも可笑しなことだと自分でも思う。
だが、意外と二人は『その手があった』的な顔で納得してくれた。
早速、ガルフとホーネストの二人はじゃんけんを開始するのだが……、
パー、グー、グー、チョキ、グー、パー、チョキ、チョキ……といつまでもあいこ続きで中々決まらない。二人のイライラもどんどん積み重なっていく。
(……今だ)
せこいと言われるかもしれないが、レナは今のうちにここから脱出しようと思う。ただの消耗戦では自分が不利だ。だが、
「「どこ行く気だコラァー!!」」
ガルフとホーネストの斬撃がレナの行く手を阻む。
「……まさか、俺達があいこをし続けると、予想して……?」
「中々の策士だね……。恐ろしいよ」
二人の見当違いもいいとこだが、二人の目は充分な殺気が宿っていた。
「……面倒くせぇ。とっとと殺るか」
「二度と、こんなセコイ真似を考えないようにね」
二人の本気は、レナの肌に痛いほど突き刺さる。
147
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/17(土) 16:37:56 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
廊下を走り続けていたハクアは、遂にその足を止めてしまう。いや、止めざるを得なかった。
彼女が辿りついた先は行き止まりだった。走っている途中で道が分かれている所はなかったはずなのに。
つまり、彼女が選んだ道は最初からゴールなど用意されていなかったのだ。
息を切らして、敵の方へ振り返るハクア。
「……あーあ。突入前日におみくじでも引くべきだったかしら」
ハクアと十数メートルくらいの間隔を空けている敵の大群は、じりじりと距離を詰めてくる。
ハクアは冷静に今の場所を分析する。
狭い場所。行き止まり。大量の敵。多対一。
この分析した四つの事柄があれば充分だった。
彼女がこの逆境を切り抜けるための、材料としては。
「おらぁ!」
レナの刀がガルフの薙刀を防ぐ。
その瞬間にぐん、とレナの身体が地面に吸い寄せられるように、背中から地面に倒れ込み、その衝撃でレナは苦しそうに息を吐き出す。
急いで身体を起こそうとするレナの顔の真横をガルフの薙刀の刃が突き刺さる。
「ッ!?」
レナは転がるように起き上がって、ガルフから距離を取るが、移動した先には既にホーネストがいた。
(……動きが読まれて……ッ!?)
レナの横腹にホーネストの鋭い蹴りが突き刺さる。
「ぅ……、ぐっ……!」
レナが僅かに呻き、地面に倒れこむ。
さらに、追い討ちをかけるようにレナの左腕の丁度間接がガルフに強く踏みつけられる。
「ぐああああああああっ!?」
理解不明な傷みにレナは断末魔にも似た叫びを上げる。
ホーネストはくくっ、と笑みを浮かべて、
「いやあ、美しい者は叫びも美しいね」
ガルフは億劫そうに息を吐いて、
「お前。この前『この女はソソられるものがないね』とか言ってやがったじゃねぇか」
「それは昔の意見だよ。今は彼女の髪と瞳の美しさに胸を打たれてるよ」
はぁ、とガルフは再び息を吐く。
「なあ……とっとと殺そうぜ」
「そうだね。どっちが殺す?」
ガルフは飽きたように背を向ける。
「弱った奴に興味ねーし。お前の好きにしろ」
そうかい、とホーネストは柄を繋げた双剣を器用に片手でくるくると回している。
「悪く思わないでね。これが僕達の仕事だからさ」
でも、と一度区切って、
「一瞬で終わらせてあげるよ。君の綺麗な……髪と瞳は残してあげるから」
ホーネストの刃がレナの腹を貫こうと振り下ろされた瞬間、
ピシッ、と壁に小さなヒビが入る。
それに気を取られたホーネストは、レナの腹に突き刺さる寸前で刃を止めた。
そして、そちらへ視線を向ける。
そのヒビはどんどん広がっていき、爆発のような轟音と共に壁が大きな風穴を開けて吹っ飛ぶ。
「なっ……!?」
穴から複数の人間が放り出される。
ホーネストはその人物に見覚えがあった。
そして、次に飛んできたのは、女の声。
「ごめんごめーん!私の仲間が優勢だったら許してねーっと!」
その声にレナは酷く聞き覚えがあった。
黒い髪と、薙刀を携えし、女性は、片手に敵の首根っこを掴んで、
「って、あれ。レナじゃん!」
「……助かりましたよ、ハクア」
148
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/17(土) 18:34:56 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
友人の姿を見つけたハクアからは笑みが零れていた。
だが、状況を見て、その笑みもすぐに消え去った。全身から激しい闘志が迸(ほとばし)っている。
ハクアは薙刀状の『帝(みかど)』を回しながら、
「……胸クソ悪いわね」
吐き捨てるように呟いた。
「鬱陶しい奴を一掃して。ようやく仲間を見つけたと思ったら殺される寸前で。しかも二対一で負けたっぽいし」
ハクアの言葉からいつものような元気とも、快活とも、お転婆とも取れない感情が混じっている。
ハクアは、キッとガルフとホーネストの二人を睨みつける。
それから、二人に問いかける。
「どっち?」
言葉の意味が分からない二人は首をかしげている。
ハクアはふぅ、と息を吐いて、
「友達を痛めつけられた怒りを全身に刻み込まれたいのは、どっちだって言ってんのよ」
口調は厳しいものでも、怒鳴っているものでもなかったが、ガルフとホーネストの背に寒気が走る。
フッとホーネストは笑みを浮かべて、
「それは、僕らがやられる前提の話ですね。だったら答えるまでもありません。何故なら、負けるのは貴方達の―――」
ホーネストの言葉は最後まで続かなかった。
彼の顔にハクアの薙刀の攻撃が叩き込まれたからだ。
ホーネストはノーバウンドで吹っ飛び、壁に身体を叩きつけられる。
「……が……ぁ!」
ホーネストの口から呻き声が漏れる。
ハクアはホーネストの方へと近づいて行く。
「立て」
彼女の口調は元の彼女のものとは全くの別のものになっていた。
「……僕の相手が貴女……ですか。いい具合に、分かれましたね……!」
彼が懐から何かのスイッチを取り出し、そのスイッチを押す。
すると、天井から巨大な壁が丁度部屋を分割するように落ちてくる。
壁によってレナはガルフと、ハクアはホーネストと戦うことになった。
レナは何とか立ち上がって、刀を構える。だが、左腕は使わない。
「……おいおい、本気か。お前、その状態で俺と戦うつもりなのかよ」
「無論です」
レナは深呼吸をして、ガルフを見据える。
「でないと、私は前には進めません!」
ガルフはニッと笑みを浮かべて、楽しい獲物を見つけたようにレナを見る。
「いい根性だ。見直したぜ」
「穴から飛んできた人達……僕の部下ですね。どうやって倒したんですか?」
ハクアはホーネストを睨んだまま、
「簡単よ。行き止まりに当たったからね。狭い通路を利用して、風を起こし、それを暴走させて複数の奴らを巻き込んだ。統率力のある奴がいなかったから、まさに烏合の衆って感じでラクだったけど……」
ハクアは薙刀を構えて、
「アンタはそうはいかなそうね」
ホーネストは笑みを浮かべる。
獣のような、引き裂かれた笑みを。
「お察しがいいようで。せめて、愉しんでくださいね」
149
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/17(土) 21:22:35 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十八閃「相性」
ガルフは立ち上がったレナを見つめていた。
どういう気持ちで見つめているのか、レナは分からない。だが、相手の表情からしたら、馬鹿にしているとは思えない。恐らく、対等に見てくれているのだろうか。
「……惜しいな。俺はアンタと戦うなら、万全な状態の時が良かったぜ」
対等に見ているから出る言葉か、もしくは万全な状態でも勝てる故の余裕か。
レナは軽く息を吐いて、
「同感ですね。ですが、私が消耗してるからといって、手加減はしないでくださいね」
安心しな、とガルフは言って、
「アンタの真っ直ぐな目を見てたら、そんなことすんのは失礼だろ!」
ダッ!!と二人は同時に駆け出し、二人の武器がぶつかり合う。
僅かに軋む音が鳴り、再びレナの身体が地面に吸い寄せられそうになる。
「ッ!?」
しかし、同じ手は通じないと言わんばかりに、レナは片方の足を後ろに下げて、自分自身も数歩後ろに下がり、地面に倒れるのを何とか堪えた。
まだ息を切らしているものの、集中力は切らさずに、刀を真っ直ぐに構えている。
「ほぉ……。さすがに二度もやられねぇか。聞いてた通り頭も相当キレるようだな」
「……その剣(つるぎ)、風を操る能力ですか……」
フッとガルフは笑みを浮かべて、
「惜しいな。目の付け所はいいんだが……『風』じゃねぇ。今操ったのは『気流』さ」
気流?とレナは眉をひそめる。
「『空気』って言った方が分かりやすいか?さっきのも今のも、空気を利用してお前を斜めに押したのさ。だからお前の身体は地面に吸い寄せられるように倒れこんだ。結構便利なんだぜ?空気を操れるってことはよ……」
ガルフが突っ込み、薙刀を振るう。
しかし、レナも反応できないわけがなく、軽々と攻撃を受け止める。
が、ふわっとレナの足が地面から数センチ浮かぶ。
「!?」
「こうやってアンタを打ち上げることも出来れば……」
ガルフは浮いたレナを上へと押し返し、レナを天井近くへと打ち上げる。
そして、足に思い切り力を込め、蹴るとレナのすぐ近くまで接近した。
「こうやって高いところまでジャンプできる」
ガルフはレナの腹目掛けて、薙刀の一撃を食らわす。
「げほっ!」
レナは腹を叩かれ、息を一気に吐き出す。そして、腹を叩かれた衝撃で、地面に叩きつけられた。
ガルフは軽々と着地し、レナを見ている。
「だから言ったろ。アンタとやる時は万全な状態がいいって。アンタが弱ってちゃ、こうも実力差がハッキリしちまうんだよ」
レナは必死に起き上がろうとしながら、ガルフを睨んでいる。
壁を隔てたもう片方では、ハクアとホーネストが戦っていた。
「はぁっ!」
ハクアが薙刀から竜巻を繰り出す。
しかし、ホーネストは一歩も動かず双剣を二つに分けて、スッと宙に弧を描くように空を裂く。
すると、その場に黒い渦が現れる。
「?」
その渦にハクアの放った竜巻は吸い込まれる。
「な……?」
「さあて、返してあげますよ」
ホーネストはさっきと逆の刀で、宙に弧を描くように空を裂く。
すると、さっきと同様に黒い渦が現れ、ハクアの竜巻が変換される。
「ぐっ!」
ハクアは何とかかわし、相手の剣(つるぎ)の能力を考える。
「……空間転移?しかも、さっきの竜巻、闇の属性が僅かに付加されてた……」
「空間転移とは違いますね。僕の剣(つるぎ)『姫妃(ひめきさき)』の能力は、そんなちゃっちい能力じゃありませんよ」
ホーネストは笑みを浮かべながらそう言う。
150
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/17(土) 22:53:07 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「では、説明いたしましょう。僕の剣(つるぎ)『姫妃(ひめきさき)』の能力を」
ホーネストは軽い調子でそう言う。
彼はネクタイを整えて、小さく咳払いをした後に話し出す。
「『姫妃(ひめきさき)』お能力はいたって簡単。ただ相手の攻撃を吸収して闇の属性を付加させて変換する。それだけです」
ハクアの予想は外れていたが、闇属性の付加は当たっていた。
能力を聞いたハクアは笑みを浮かべて、
「ハッ。変換、ね。可愛い名前の割には随分と小賢しいモンね」
「どう仰っても結構。そんな子どもの挑発に乗る程、僕は幼くありませんよ」
ハクアは低く舌打ちをする。
こっちの風での攻撃は、すべて吸収され、跳ね返されてしまう。かといって、『帝(みかど)』を振るうだけで勝てる相手とも限らない。
彼女は軽く息を整えて、ホーネストに突っ込む。
「ほう、そうきましたか」
ハクアの薙刀とホーネストの刀が激突する。
ただ攻撃したわけではない。ハクアにはちゃんとした考えがあった。放って吸収されるのなら、零距離で風を起こしたらどうなるのだろう。
ハクアの薙刀の刃に風が渦巻く。
「!」
「これなら、どうするの?」
ハクアは勝ちの確信を得たが、そうはいかなかった。
丁度、薙刀と刀の接している部分から黒い渦が生まれる。
「ッ!?」
ハクアは身を引こうと、後ろへ下がるが、風は既に放たれた後だった。
風は黒い渦に吸い込まれ、もう一方の刀によって生まれた黒い渦から闇属性が付加された竜巻が、ハクアへと襲いかかる。
彼女は身を引くために一歩下がった後で、身動きが取れない。
「ほら、そこ。当たりますよ」
竜巻はハクアを飲み込み、粉塵を巻き上げる。
粉塵がはれると、ハクアはうつ伏せに倒れていた。しかし剣(つるぎ)はしっかりと握ったままだ。
「ここまでくれば脆いですね。もう終わりですか?」
嘲るようなホーネストの言葉にハクアは顔を上げる。
鋭い眼光でホーネストを睨みながら。
「はあっ!!」
レナの刀が耳を突くような音を響かせて、ガルフの薙刀をぶつかり合う。
つばぜり合い状態になっているレナは、ガルフから見ても分かるくらい体力を消耗し、息を切らしていた。
「何度きても、同じだ」
ガルフはレナの刀を弾き、風をレナの腹に叩き込む。
「ぐぅ……?」
レナは膝を突いて、腹を押さえながら咳き込む。
ガルフはレナを見下ろして、
「アンタの剣(つるぎ)は見えない風には意味がない。俺と相性が悪すぎるんだよ」
だから諦めろ、とガルフは呟く。
しかし、レナは聞いてないかのように立ち上がり、ガルフを見つめる。
「……相性が悪い……。確かにその通りです。貴方の剣(つるぎ)と私の剣(つるぎ)は酷く相性が悪い……」
ですが、とレナは区切る。
「それが諦める理由に繋がりません」
「何?」
「相性が悪い。体力の違い。実力の違い。だから何だと言うんですか!相性が悪いなら、活路を見出せばいい!体力が少ないなら、上手く立ち回ればいい!実力が違うなら、補えばいい!」
レナは珍しく語調を強くしていた。
彼女は常に冷静で、声の大きさもいつも一定だったのだが、何故か今は強く怒鳴っていた。
「私は、カイト様を守るためなら強くなる!カイト様を守るためなら、何度でも立ち上がる!仲間を守るためなら、勝つまで決して負けはしない!!」
レナの身体から魔力が迸る。
ガルフはその圧に圧されそうになるが、ここで圧されていては勝てはしない。
強く、揺らぎのない瞳で、自分を見つめるレナとガルフは目を合わせる。
「……いいね。その根性」
今までの余裕はなく、もはや敬意に値する言葉だった。
「見せてあげますよ。相性も、体力も、実力も関係のない、勝利を!!」
151
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/18(日) 10:08:25 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
間違い発見しました。
>>150
の四行目
「『姫妃』お能力」となってますが、正しくは「『姫妃』の能力」です
すいません…
152
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/18(日) 10:28:14 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
二人は睨み合う。
ただ睨み合っているだけではない。相手の動きを考え、その上での打開策を練り、掴みかけの勝利を完全に手にするために考えている。
だが、今のレナにそんな余裕はなかった。
レナはガルフの元へと一気に突っ込む。
「ちっ!無策っぽいじゃねぇか!」
ガルフは薙刀で突きをかわすが、レナは横へシフトしてこれをかわす。
そして、刀のリーチ内まで踏み込むと、一気に刀を横へ払うように斬りかかる。
だが、反応できたガルフは半歩後ろへかわし、レナの攻撃を避けた。
「……満身創痍の割にゃ、随分といい動きするじゃねぇか」
「……いえ……結構、私自身も……限界に近いです」
相変わらず荒々しい呼吸を続けるレナに、ガルフは彼らと敵対した時から抱いていた疑問をぶつける。
「なあ、聞いた話じゃアンタはあの天子の養育係なんだろ?」
「……そうですが」
じゃあ聞かせてくれ、と一度区切って、
「あの天子は、アンタがちゃんと命を張るに値する男なのか?」
「……」
レナは驚いたような表情をする。
まるで、今まで言われたことのない言葉を急に言われたように。
「俺だったら、ただの天子になんか命を張れない。教えてくれ。お前が、天子のために命を張る理由」
レナは黙っている。
答えられないわけじゃない。考えたことがないわけじゃない。
ただ、嬉しかった。
今まで自分が相対してきた人間とは違う『命を張る理由などない』ではなく『命を張る理由』を訊かれたから。
「簡単ですよ」
レナはうっすらと笑みを浮かべ、答える。
「カイト様がそこにいるから」
「……」
ガルフはきょとんとして、相手の返答の意味を確かめる。
だが、レナは続ける。
「私はあの人の養育係になった時から決めていたんです。ずっと、この方を守ろうと。何があっても、命に代えてでも、守ると。カイト様が別の世界に送られた時は酷く泣き叫びましたよ」
だから、と区切って、
「私は、カイト様がそこにいるだけで、守る理由なんです。カイト様が戦われるなら、それが私の命を張る理由になるのです」
レナの返答にガルフは思わず吹き出していた。
友人との会話で、面白い話をしている時のように。
「……くくく…最高だよ、アンタ。いや、レナさんよ」
ガルフの表情からはレナに対する敵意は微塵もなかった。
むしろ、レナを対等と尊敬すべき相手としてみているようだ。
「さあ、そろそろ決着といくか。手加減する気ねぇから、覚悟しとけ」
「はい。ですが、その態度はいただけませんね」
二人は声を揃えて、
「勝つのは俺だ!!」
「勝つのは私です!!」
153
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/18(日) 11:30:10 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四十九閃「帝、完全解放」
レナは、ガルフとの距離を詰めるため、一気に突っ込む。
そして、それの迎撃のためガルフは再び空気の塊を飛ばそうと薙刀を前に突き出そうとする。
いくらレナが策を練っていようと、体力的に限界なのは間違いない。そもそも、最初にホーネストと一緒に彼女を攻撃していたので、ボロボロの相手に負けたら何かかっこ悪い気がしてならない。
勝つ理由は『対等と認めた女を超える』ではなく『自分の面子』の方が強かった。
ガルフは薙刀を勢いよく前に突き出す。すると、レナも同様に刀を前に突き出し、ガルフの刃の切っ先と、レナの刀の切っ先がぶつかり合う。
「ッ!?」
そのことの表情を変えたのはガルフだ。
こんなことして何になる。そう言おうとした瞬間に、レナが口を開く。
「確かに、私の剣(つるぎ)は吸収の際に、見えなければいけません。空気など見えませんからね」
ですが、とレナは一度区切って、
「攻撃の瞬間は必ず切っ先を通ります。ですから、切っ先同士を合わせると……どうなるかお分かりですよね」
「!!」
ガルフがぶつけようとした、空気の塊がレナの刀に吸収される。
「うおおおおっ!?」
ガルフは急いで薙刀を引っ込め、数歩後ろに下がる。
レナは相手の攻撃を吸収した刀を構えている。
(……嘘だろっ!?そんなの思い付きじゃねぇか!もし違ってたら……切っ先が合わなかったら、槍と刀のリーチなんか差がありすぎる!貫かれるの覚悟だってのか!!全力で……命をかけてるのか!?)
「さあ、終わらせましょう」
ガルフは焦りにも似た笑みを浮かべる。
だが、この程度で自分の勝利が消えるわけじゃない。
「やってみろよ。体力じゃまだまだこっちが有利だ!俺の攻撃をちょっと吸収したくらいで……!
「『神浄昇華(かみじょうしょうか)』増華(ぞうか)」
すると、カテリーナの時と同様にレナの刀から炎が噴き出す。
レナの剣(つるぎ)は相手の攻撃を吸収し、それを炎へと変えて解き放つ。
だが、この炎の量は吸収した量より明らかに大きすぎる。
「増華(ぞうか)は吸収した技を強制的に引き上げる技です。その分、使うとかなり疲れるんですが……引き上げられる量は、元のおおよそ五倍」
「ッ!!」
「確実に勝つための、切り札ですよ」
ガルフは歯を食いしばって、レナへと突っ込む。レナも呼応するように走り出す。
ガルフの薙刀には竜巻のように風が渦巻いている。レナの刀にも膨大な炎が纏っている。
思い切り薙刀を振るうガルフに対して、レナが行った攻撃は下から救い上げるように、ガルフの薙刀を遠くに弾き飛ばす攻撃だった。
「………ッ!」
ガルフは絶句する。
もはや敗北を確信し、語る言葉など無いと言外に宣言するように。
「……貴方と戦えたこと、感謝します」
(ハッ)
ガルフはレナの言葉に心で笑みを浮かべる。
(……感謝だぁ?そんなもんこっちがすべきだろうがよ。とても綺麗で美しい誇りを持った……アンタと戦えたことに、感謝するぜ)
ガルフは心で呟き、レナの斬撃を受ける。
そして、仰向けに倒れ自分の敗北を確信した。
「……強ぇ。とてもじゃねぇが、追いつけそうにねぇな……」
レナVS第六部隊隊長ガルフ。
勝者、レナ。
154
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/18(日) 11:34:48 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
またまた訂正です;
>>152
の七行目
「ガルフは薙刀で突きをかわすが」ではなく「ガルフは薙刀で突きを繰り出すが」です。
このままじゃレナもガルフも攻撃してないのにかわしてますね…
誤字が多く、申し訳ありませんorz
155
:
ライナー
:2011/09/18(日) 11:39:15 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
おお!!レナ勝ちましたね!めっちゃ感動です(笑)
次の戦闘も楽しみですね^^
実に読み応えのある戦闘模写でした。
自分ももう一作だけ増やしてみようかな〜?
ではではwww
156
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/18(日) 12:10:07 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
はい、やっぱ勝たせないとと思いましてw
この話書くまではガルフ普通だったのに、急に好きになりましたねw
多分もう出番はないと思いますけd((
おお、それは楽しみです!
157
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/18(日) 13:03:48 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
一方、ハクアとホーネストの戦いにも終止符が打たれようとしていた。
ハクアは『帝(みかど)』を杖代わりに地面につき、立ち上がる。そして、僅かに切れている息を整えて、ホーネストを睨みつける。
ホーネストは呆れたように、
「……残念ですよ。さっきから竜巻を放っては返され、放っては返されの応酬じゃないですか。勘弁してくださいよ」
ハクアの服はところどころ破れたり、くすんだり、汚れたりしている。彼女の身体も傷だらけだ。
それでも、ハクアの目は光を失ってはいなかった。
「……うっさい!部下を使って私を追ってた時も、レナと戦ってた時も、自分は楽するような戦いしてた奴に言われる筋合いないわよ!」
「…苦しいですね。それは一つの戦術というやつですよ。まあ僕とガルフのところにレナさんが一人で来たのは予想外でしたが」
ハクアは再びホーネストを睨みつける。
そして、再び竜巻を放つ。
「何度やっても無駄です」
ホーネストは全く同じ要領で竜巻を黒い渦で吸収し、別の渦で相手に闇属性を付加させて跳ね返す。
ハクアの足取りも遅くなり、かわしてはいるが、地面にぶつかった竜巻の爆風で地面を転がってしまう。
「ガッカリですよ。まさか、貴女がここまで無知だとは思いませんでした」
咳き込みながらハクアは立ち上がる。
荒々しい呼吸を繰り返しながら、ハクアはホーネストを睨んだままでいる。
「まだやるんですか?もう終わりでしょうに」
「うっさいって言ってるでしょ!」
ハクアは相手を怒鳴り、無理矢理黙らせる。
(くそっ……こりゃ本格的にヤバイ。レナはどうなったかな。元々やられそうだったから、長くは持たないはず……手っ取り早く済ますしかない)
そしてハクアは『帝(みかど)』を強く握り締める。
(……アレを、出すしかないわね)
ハクアはポケットを漁りだす。
ホーネストが何か新しい武器を出すのかと身構えているが、ハクアがポケットから出したのは髪を束ねるためのゴムだ。
彼女は『帝(みかど)』を地面に突き刺し、長く黒い後ろ髪を束ね始める。
「……一体、何をしているのですか?そんな悠長なことをする時間はないでしょう」
「そうよ。だからちょっと待っててくれる?」
ハクアは髪を束ねながら落ち着いた調子で答える。
髪を束ね終わると突き刺していた『帝(みかど)』を引き抜いて、構えなおす。
ホーネストの目には、見慣れないポニーテールのハクアが映っている。
「そんなことしても強くなるわけじゃないでしょう」
「そうね。私には、生憎と髪を束ねたら強くなるなんて特殊能力も無いし。ただ邪魔だったのよ」
ホーネストはハクアの言葉に眉をひそめる。
「今から私が出すのに、髪がなびきまくったら邪魔なのよ」
ハクアを中心として、周りの空気が渦を巻く。
「……?」
ホーネストは眉をひそめたまま、ハクアを見つめている。
すると、『帝(みかど)』は黄緑の淡い光を発する。
「いくわよ、相棒」
ハクアは『帝(みかど)』の柄に軽くキスをすると、
「『帝(みかど)』、完全解放!!」
ゴッ!!とハクアの言葉と共に強力な風が吹く。
158
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/18(日) 16:02:04 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ハクアを中心に風が渦を巻いている。
それのせいか、辺りが揺れている。それは、立っているレナやホーネストは勿論、倒れているガルフにも感じ取れるほどの大きな揺れだった。
ホーネストは、ハクアの迸る魔力にも溜息をついて、
「何をしても無駄ですよ。貴女の攻撃は全て防がれてしまうのです。いくら攻撃力を上げたって、所詮は無駄な足掻きですよ」
「どうかしらね」
ハクアの『帝(みかど)』の竜巻が纏う。
淡い黄緑の光を放ち、風を纏っている『帝(みかど)』を握り締め、ハクアはホーネストに突っ込む。
しかし、ホーネストも相手の攻撃を防いで黒い渦を出せば、それでいい。
『完全解放』と言っていたのを考えると、強力な攻撃であることは間違いない。吸収して、跳ね返せば一撃で倒すことも可能だ。
ハクアの薙刀とホーネストの刀がぶつかり合う。
(……やった!これで勝てる!)
ホーネストは自信に溢れ、黒い渦を出そうとしたが、
ボキン、と鈍い音が鳴る。
その音に気をとられ、僅かに注意が緩んだホーネストは押し返され、勢いよく壁にぶつかる。
「ぐあ……!」
ホーネストは呻き声を上げるが、さっきの音の正体は分からない。腕もそれほど痛くないので、骨が折れたことはないだろうと、立ち上がると、
刀が折れている。
さっきの鈍い音は刀が折れる音だったのだ。
「………」
ホーネストは絶句する。
ハクアは笑みを浮かべて、
「さあ、どうするの?『吸収して跳ね返す』。じゃあさ、吸収できなくなったら?アンタの剣8つるぎ)、見たところ殺傷能力は高そうに見えないし……チェックメイトね」
ハクアは『帝(みかど)』に大きな竜巻を生み出す。
ホーネストは『待ってくれ!』と叫ぶが、最早勝利を確信したハクアの耳には少しも届かない。
そして。生み出した竜巻をそのままホーネストにぶつける。
その衝撃で部屋を二つに分けてた壁が壊れ、レナとハクアは再び合流する。
「ハクア!無事だったので……」
レナの言葉が途中で切れる。
その理由はハクアが髪をくくっていたからだ。
レナは戦いでハクアが髪をくくる理由を知っている。
「ハクアッ!!まさか、完全解放使ったんですか!?あれは肉体への負担が大きいからダメだって言ったじゃないですか!!」
「えーい!うるさい、うるさい!勝ったんだからいーじゃない、もー!!」
ハクアは髪を束ねていたゴムを解き、再びポケットへとしまう。
それから、『帝(みかど)』を担ぐように持って、
「さーて、行くわよ!先へ!」
「ええ」
レナと共に先へ進む。
ハクアVSホーネスト。
勝者、ハクア。
「……さっきの揺れは……何だろ……」
ほとんど壁を手すり伝いにして歩いている藤崎はそう呟いた。
歩くのだけでもかなりきついのに揺れてしまっては余計にきつくなる。
仲間のことも心配だが、今一番心配されるのは自分だろう。
藤崎は気合を入れなおして、光がある奥の部屋へと入る。すると、
「ひゃっ!?」
入った気配に部屋にいる赤い髪の少女はビクッと肩を震わせた。
藤崎がきょとんとして彼女を見ていると、少女は涙目でこちらに振り返る。
その可愛らしい容姿に藤崎は、
「……な、何かラッキー……?」
しかし、藤崎は知らなかった。
彼女がフォレストの言っていた要注意人物、
『第四部隊隊長のルミーナ』であることを―――。
159
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/18(日) 19:48:50 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十閃「ルミーナ」
藤崎は明らかに怯えている赤髪の少女を見て、目を丸くしていた。
その理由はたった一つ。
『何故こんな可愛らしい子がこんなところにいるのか』という疑問が浮かび上がったからだ。
アジトに入ってすぐあった六つの扉の先には絶対に隊長がいると、もしくは隊長しかいないと思っていたが、彼女はどう見ても隊長には見えない。小隊隊長にも見えない。でもエリザが隊長をやっているのだから可笑しいことではないという考えも出来るが。
「……あの、」
「ひっ!」
藤崎が少し声をかけただけでこの有様だ。
語調が強いわけでも、睨みつけたわけでもなく、初対面の人と話すときのように、僅かに笑みを浮かべて声をかけただけだ。
やはり隊長じゃないのでは?藤崎は言葉を続ける。
「…貴女は、隊長?」
少女はコクリと小さく頷く。
藤崎は面食らったが、この子なら、何とか戦わずに先へ行けるかもしれない。その状況は今の藤崎にとってとてもありがたい展開だ。
「……私、出来れば貴女と戦いたくないの。だから…無理だと思うけど、ここ。通してくれないかな」
少女は一瞬の躊躇いもなくコクリと頷いた。
「わ、私も……出来るだけ戦いたくないです……!血とか、見たくないし……」
何でこんな平和主義な子が隊長なのか、本気で考えてしまうが今はそこは気にしない。
藤崎はホッと息を吐いて、
「だよね。まだ子供だし、そりゃ戦いたくないわよね」
はは、と苦笑いして部屋の出口へと向かおうとした、瞬間、
「―――子供?」
驚くほど冷たい声が藤崎の耳に届く。
藤崎が少女を見ると、少女は俯いていた。だが、彼女の身体にわずかに青いオーラが見える。
「……何?」
藤崎は思わず剣(つるぎ)を発動して、構える。
俯いたままの少女は、
「……誰が子供だよ。お前が子供だろうが」
今までの彼女のものとは違い、冷たく、刃物のように鋭い口調だった。
彼女が顔を上げると同時、赤い髪は青に変色し、下に垂れているアホ毛は上にピンと立った。目もまん丸とした柔らかい印象はなく、キリッとした鋭いものへと変わった。
「私はこれでも十八だ!お前よりも大人なんだよ、小娘がぁ!!」
少女は思い切り叫び、大剣の剣(つるぎ)を発動して襲い掛かる。
「くっ、やっぱ戦わないといけないの!?」
分かれ道を走っているメルティはビクッと肩を震わせて、立ち止まる。
「……この気配、只者じゃない。エリザより上……もしかしたらそれ以上かも!」
しかし、メルティは今はそっちに気を割いている暇はない。
メルティは奥を目指し、再び走り出す。
「ぐあっ!?」
藤崎は地面を転がり、壁にぶつかってようやく止まる。
何とか立ち上がろうとするが、エリザ戦のダメージもあって、身体が上手く動かない。
そんな藤崎へ担ぐように大剣を持っている少女は、
「あのさぁ、なめてる?そんな状態で、私に勝とうなんて馬鹿にしてるよね?」
藤崎は地面に伏しながら、彼女を睨む。
「……そんなわけ……ないでしょ……!貴女が、誰か知らないのに……!!」
ほぉ、と少女は眉をひそめる。
「いいわぁ……。だったら教えてアゲル」
少女は不気味に笑みを浮かべて、呟くようにそう言う。
彼女は真っ直ぐに藤崎を見下ろして、
「私はルミーナ。第四部隊隊長のルミーナよ!」
(ルミーナ!?)
その言葉に藤崎は絶句した。
フォレストの言葉を思い出したのだ。
『第四部隊の隊長が要注意ですよ。ま、どんな奴か知りませんが『四』って数字が酷く恐ろしいですね』
(……この子が……第四部隊隊長……!)
藤崎は顔を顰めて、歯を食いしばる。
160
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/19(月) 00:01:24 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
爆発音が部屋に何度も響く。
連続して響く爆発音と共に、女の昂ぶった怒鳴り声が一緒に聞こえてくる。
「オラオラァ!!背を向けながら腰振ってんじゃねぇよ!!手に持ってる刀(そいつ)は飾りかァ!?」
青い髪の第四部隊隊長ルミーナは大剣を振り回しながら、自分の目の前で逃げ回る藤崎にそう罵声を浴びせる。
藤崎はその罵声に言い返すことなく、相手の攻撃をかわし続ける。
この状態が長引けば藤崎は圧倒的に不利になるが、相手の小さい体格を利用すれば、相手を自分と同じくらい消耗させられるかもしれない。
そうなった時が勝負どころだ。
「ったく、面倒くさいなぁ。ちょこまかとネズミみたいに逃げやがって。私は猫じゃねーんだよ」
ルミーナは刀を肩に担ぐようにして、藤崎を睨んでいる。
首を鳴らして、息を吐き、
「つーか使わないんだったらしまいなさいよ、剣(つるぎ)。邪魔くさいでしょ?」
「いいや、捨てない」
藤崎の返答にルミーナは舌打ちをする。
ルミーナは刀の切っ先を藤崎に向け、
「ま、いいや。どーせ叩き潰すんだし。ついでに刀も鉄くずにしてやるよ」
ルミーナは地面を思いっきり蹴って、上へ跳び上がる。
刀には真っ赤な炎が燃え盛っている。
「まさか……あれを下に!?」
ニィ、とルミーナの口の端が不気味に歪む。
藤崎の予想は的中したのだ。
「『紅炎焼葬(こうえんしょうそう)』!!」
炎は三日月のような形の斬撃となって、藤崎へと放たれる。
しかし、藤崎は逃げもしなかった。
彼女は刀を前に突き出して、炎が迫るのを待つ。
「でも、炎だったら……私にとって相性がいいわ!!」
炎の斬撃が藤崎の刀の切っ先に触れると同時、炎は藤崎の刀に吸収される。
「おおおおおおおおっ!!」
藤崎は叫びながら、迫る炎の熱と圧に耐え、何とか全て吸収しきる。
「っしゃあ!どんなもんだ!」
しかし、上を見ても前を見てもルミーナの姿は見えない。
そして、後ろにある殺気の気配に気付く。
「ッ!?」
藤崎は急いで振り返り、ルミーナの斬撃を防ぐ。
しかし、傷を一つも負っていないルミーナに勝てるわけもなく、藤崎は吹っ飛ばされて壁に激突する。
藤崎は倒れ込みながら咳き込み、手足に力を込めて、再び立ち上がり、刀を構える。
ルミーナは軽く息を吐いて、
「無駄に粘るなぁ。そんなことしても無駄だってのに」
アジト内に一人の人影が現れる。
背は低く、首から下はマントに包まれ、衣服の様子は窺えない。
その人影は、ブーツでも履いているのか、歩くたびにこつこつ、と音が鳴る。
そして、しばらく六つの扉を見ていた人影は一つの扉の前で立ち止まる。
「……まったく、面倒なことになっちまってるみたいですね。薬があるからって、無理していいわけじゃないってのに」
その人影は愚痴を零すように呟くと、扉の中へと走っていく。
161
:
ライナー
:2011/09/19(月) 00:23:04 HOST:222-151-086-020.jp.fiberbit.net
コメントしに来ました、ライナーです^^
ルミーナさん怖ェェ!怒らしたら怖いんですね〜^^;(これってお嫁さん貰うときにも重要かも)
えー、気が早すぎる( )付けはいいとして、フォレストさんなんですか!?
もしフォレストさんだったなら言っておきたい、今度こそ、守るべきもん守ってk((殴
炎は熱いや……『紅炎焼葬』恐るべしですね(何が何だか)
今回はアドバイスもキチッとやります(眠いけど)
今まで感動に次ぐ感動していた戦闘模写についてです。
戦闘模写は、風景が伝わりやすく書いていて良いんですが、小説では無効化される場合があります。
小説ってものは本来アクションに向きません。ですので、頭脳戦を入れた戦い方が主流となります。(自分は入れているつもりなんですが、伝わっているでしょうか^^;)
もし、アクションだけを書き続けたらどうなるでしょう?
どう頑張っても、映画や迫力のあるアニメには物足りなさを感じさせてしまいますね。
ここで重要なのが、個性でもあります。
戦闘する登場人物の、欠点、長所を生かしながら書くと良いでしょう!
ではではwww
162
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/19(月) 01:04:57 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうです^^
はい。彼女に『子供』って言ったらもうスイッチ入ります。『ガキ』とかじゃ入らないけどw
さあ…フォレストかもしれないし、違うかもしれない((
まあ、大体喋り方で分かると思うんですけどね…
言われてみれば、自分はラノベくらいしか読まないんですけど、ほとんど日常を描いたストーリーが多いですね。
バトル物になれば、ぱっと思いつくのが二つしかないですし…
頭脳戦かぁ…魁斗には永遠に無理だろうがn((
毎回アドバイス、ありがとうございます^^
163
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/19(月) 01:38:22 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ルミーナは傷だらけの状態で刀を構えている藤崎を見て、呆れたように溜息をつく。
「立って何か意味あるの?」
ルミーナの言葉に藤崎を首をかしげる。
息を吐いて、藤崎にも伝わるように、言葉を選びながら、再び問う。
「だから、立ち上がって何かあるのかって訊いてるの。勝算があるわけでもなさそうだし、ましてや負ける覚悟をしてる様子でもない。一体、お前は立ち上がって何がしたいんだよ」
藤崎はそれでも首をかしげている。
あぁ!?と叫びそうになるルミーナだが、ここは怒りを堪える。
藤崎はんー、と考える仕草をして、
「負けてないから。負けてないし、立てるし。動けるうちは、私は何度だって立ち上がる」
ルミーナはうざったそうに頭をかく。
藤崎の言葉に嫌気が差したようだ。
彼女は『正義』だの『友情』だの、そういう言葉が嫌いだ。正義感がある、と言われてた人は自分を避けた。友達だと思っていた人は逃げていった。所詮形が無いもの。崩れ去っても拾い集める必要も無いし、いっそ壊してしまえば背負わずにいれる。ルミーナはいつの間にか人と深く関わらなくなっていた。
彼女に対して、藤崎の言葉は苛立ちを煽るものでしかなかった。
「あーあ、聞くんじゃなかった。耳障りだよ、その言葉」
「だったら耳塞げば?」
藤崎は先ほど吸収した炎をルミーナへ向かって放つ。
しかし、横に飛んで軽くかわされてしまい、ルミーナの刀に再び炎が纏う。
「何度きたって無駄よ!!」
「どーかな?」
ルミーナは口の端に怪しい笑みを浮かべる。
強がりだと藤崎は思う。
ルミーナは先ほどのことなど忘れてしまったように、炎の斬撃を飛ばす。
対して、藤崎はだっきと同じく刀の切っ先を前に突き出した。
刀の切っ先に炎が触れた瞬間、炎が藤崎の刀に吸収される。
はずだった。
しかし、切っ先に炎が触れると、藤崎の身体に電流が走ったような衝撃が走り、炎を吸収できず、そのまま炎の斬撃を喰らってしまう。
「ふ……アハハハハハハハハハ!!」
ルミーナは腹を抱えて、笑う。
藤崎は刀を杖代わりにして、何とか立っているが、自力ではもう立てないだろう。
「面白いわー。ホント、面白いぐらい引っかかってくれちゃってさー」
「……い、一体……何をしたの……?」
藤崎は徐々に言うことを聞かなくなってきている身体を無理に動かし、必死に言葉を発する。
ルミーナはふふ、と笑って。
「簡単よ。私の剣(つるぎ)の能力を考えればね」
藤崎は眉をひそめている。
ダメージで頭が上手く回転してないからかもしれない。
ルミーナは刀を上に掲げて、
「私の剣(つるぎ)『紅の紫電(くれないのしでん)』は炎を使う攻撃の際、自分の好きに電撃を纏わせることが出来る」
藤崎は言葉を失う。
最初の一撃は炎だけの攻撃。それで自分の剣(つるぎ)が炎を使うと安心させて、二撃目は本命の炎だけじゃない攻撃。
藤崎は、面白いぐらいにルミーナの策略に嵌っていた。
「終わりよ」
ルミーナは藤崎の前に立って、思い切り横腹に蹴りを入れる。
嫌な音が鳴り、藤崎は横の壁に叩きつけられて、倒れこむ。
藤崎は蹴られた横腹を苦しそうな表情で押さえている。
「んー、感触的には骨何本か逝った?まー、死ぬんだから何百本でも逝かせてあげる」
ルミーナは刀を上に振り上げる。
藤崎にはかわすほどの余力は残されていない。
「バイバイ」
ルミーナの冷徹な言葉の後に、非情の刃は振り下ろされる。が、
突如として飛んできた物に、ルミーナの刀は弾き飛ばされる。
「!?」
二人は一瞬何が起こったか理解できていなかった。
飛んできたものの明確な場所は分からないが、恐らくは入り口だ。案の定、そちらに人影が見える。
「無茶しすぎです。僕の薬は特効薬じゃないんですから」
「……誰だ、お前」
ルミーナの鋭い眼光が乱入してきた人影を睨みつける。
150センチ前後の身長に、小柄な体格、肩くらいの黒髪に、マントを羽織っている、特徴満載の乱れた敬語を使う彼女は―――。
「僕は『迷いの森』で薬草師やってます。フォレスト。でも、呼ぶ際は『フォーちゃん』って敵でも呼んでくれたら、感動しちまいますね」
164
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/19(月) 10:08:46 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十一閃「フォレスト参戦」
桐生は長い廊下を走り、ある扉の前で立ち止まっていた。
一見して何の変哲もないただの大きな扉だが、中心に氷の結晶が描かれている。
隊長の中に自分と同じく、氷の剣(つるぎ)を使う人がいたのか。そう考えながら桐生は扉を押す。
案外少しの力で開けることが出来、桐生は中にいる人影を見つめる。
手入れを怠っていないほど綺麗な白い髪を腰まで伸ばし、先をリボンでくくっている女性が桐生に背を向けるように立っていた。
「……君が、ここの番人でいいんだね。まずは名乗ってもらおうか。そっちはこっちの情報を知っているだろうから、僕は名乗らなくてもいいと思うけど」
「……ふぅん…」
白い髪の女性は微かに笑みを浮かべる。
桐生は眉をひそめて、剣(つるぎ)を発動する。
「言ってくれるじゃない。私としても、本当に君かどうか確認したいからさ」
女性はくるっと振り返る。透き通った青い目を持っているのは、第三部隊隊長のスノウだ。
「!!」
桐生は途端に目を大きく開いて、驚く。
刀を握る手が僅かに震えだした。
「……そんな、あ……貴女は……!」
スノウはフッと笑みを浮かべるだけだ。
フォレストは入り口から、藤崎を庇うように彼女の前に立つ。
ルミーナは二人から距離を取るため、数歩後ろへ下がる。
フォレストは懐から薬が入っている瓶を取り出し、後ろにいる藤崎へと投げる。
藤崎は右手は横腹を押さえているため、左腕でその瓶をキャッチする。
「……これは?」
瓶のラベルには英語で『peinkiller made in forest』と書かれてある。
最後の部分でフォレストが作ったことは分かったのだが、その前の英単語が常に英語は赤点ギリギリセーフの藤崎には読めない。桐生だったらいとも簡単に読んでしまうだろう。
「それは鎮痛剤です。さっきから押さえてる横腹にでも塗っちまってください。大体十五分で効き目が出ます」
何故この局面で鎮痛剤を渡したのか。
それは何となく想像が出来た。
フォレストも一人であの少女に勝てる自信はなかったのだ。
「ところで、あのとてつもなく怖い女の子は誰ですか。隊長みたいですけど」
「うん。第四部隊隊長ルミーナ」
「なるほど。第四部隊隊長ですか。……第四部隊?」
フォレストは思考にブレーキをかける。
そして、魁斗達に自分の言ったことを思い出す。
「はああん!?馬鹿かお前は!!第四部隊隊長は危険だって言ったでしょ!?何で戦ってるんですかぁ!?」
フォレストは藤崎の胸倉を掴んで前後に激しく揺さぶる。
藤崎は胸倉を掴んでいるフォレストの手に、タップサインを行うが、まったく話してくれない。
「あのさぁ、もう始めてもいいかな?」
ルミーナが痺れを切らしたように、苛立った声で訊ねる。
フォレストは藤崎の胸倉から手を離し、振り返る。
「何だ。待っててくれたんですね。配慮が足らず申し訳ありません」
「いやいや、別に背後から叩っ斬っても良かったんだけど、それじゃお前らだって納得しないだろ?」
「そんなことありませんよ。むしろ、不意打ちぐらい戦いでは常識でしょう?」
ルミーナとフォレストは睨み合いながら、僅かな笑みを浮かべている。
面白いから、嬉しいから。そういった無邪気で無垢なものではなく、相手と戦うことを心底『愉しそう』と思った、戦闘狂の笑みだ。
「貴女は早く鎮痛剤を塗って、出来る範囲で僕と一緒に戦ってください」
「十五分っかるんでしょ?フォレストさんはどうするの?」
僕のことは『フォーちゃん』でお願いします、と前置きして、
「僕は十五分彼女を引きつけます。安心してください」
フォレストはマントを脱ぎ捨てる。
マントの中の服装は白い簡素なTシャツに腰くらいの黒のジャケット、下はミニスカートで、黒のストッキングを履いており、ブーツを着用している。
フォレストは自身の剣(つるぎ)である、弓矢を構えて、
「十五分、貴女には指一本たりともアイツに触れさせはしませんから」
165
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/19(月) 12:52:27 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「さーてと、とっとと済ませちまいたいんで。早速大技いきますよ」
フォレストは手の平に光の玉を作り、矢を引くように玉を引っ張る。
すると、引っ張られた光の玉は矢のような形に変わり、徐々に大きくなっていく。その姿は鳥のようにも見えた。
ルミーナはその矢の形を見て、
「なるほど。己の魔力で矢を生み出すってわけか。どうでもいいけど、そんなんじゃ私は倒せない!」
「どうですかね」
弦がきりきり、と軋む音を上げる。
フォレストはルミーナに狙いを定め、巨大な鳥と化した矢(もう矢と呼べる形ではない)をルミーナに向けて放つ。
「『銀の朱雀(しろがねのすざく)』!!」
放たれた鳥の形をした矢は、白い光から徐々に赤い光を放ち、やがて真っ赤に染まった鳥の矢になる。
ふぅ、とルミーナは軽く息を吐き、
「銀色なのか朱色なのか……どっちだよ!」
ルミーナは高く跳んで、矢をかわす。
ルミーナは刀の切っ先をフォレストに向け、巨大な炎の塊を作り出す。
「『紅火砲球(こうかほうきゅう)』!!」
その玉をフォレストに向けて、放つ。
フォレストは思わず、弓矢を放てって、防ごうとするが矢を引いて打つだけの時間がなかった。
かわすタイミングさえも失い、動けないフォレストはやられる覚悟をしたが、
とっさに、前に藤崎恋音が現れる。
「ッ!?」
藤崎は刀の切っ先を炎の前に突き出して、相手の炎の玉を吸収する。
「な、何やってんですか!十五分待ってろって……」
「だって、かわせなかったでしょ?それに、初めから二人でやるつもりなんだから」
ルミーナは地面に着地して、刀を担ぐように持つ。
それから、鋭い眼差しで藤崎を睨みつける。
「へぇ、死にぞこないと薬草師のガキか。そんなんで、この第四部隊隊長を倒せると思ってんのか?」
藤崎は刀を、フォレストは弓をそれぞれ構える。
「―――勝てると思ってんのか、だって?」
「思ってますよ。じゃなきゃ、貴女の前に立ったりしません」
「仲良く二人であの世逝きを望んでるってわけか」
違う、と藤崎とフォレストは声を揃えて言う。
「……死にぞこないだからってなめるな!」
「薬草師のガキだからってなめないでください」
二人は大きく息を吸う。
それから、再び声を揃えて、
「「お前を死にぞこないのガキにしてやらぁ!!」」
166
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/19(月) 20:23:41 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「くく……今の自分達の状況を分かってないようだな。死にぞこないはお前らだろ」
「僕は違います」
ルミーナの言葉にフォレストは素早く返す。
藤崎はフォレストの背に合わせて、身を屈める。
「……で、どうする?」
「無理に身長を合わせようとしなくて結構です。かなり自分を責めちまうんで」
フォレストはじとっとした目で藤崎は見る。
ごめん、と藤崎は軽く謝り、フォレストの返答を待つ。
彼女はこちらを睨んでいるルミーナを見つめる。
「……そうですね。まず、こっちの攻撃はほとんど当たらないってのは事実です。ですから、逆に当たらないのを利用しましょう」
フォレストは藤崎に小さい声で作戦を伝える。
ルミーナは作戦会議をしている相手を見ている。
その気になればあの二人を今すぐ斬ることは出来るのだが、なんなら真っ向から相手の作戦を打ち破ってからその上で叩き伏せる。ルミーナは確実に勝ち、圧倒的な力でねじ伏せる。彼女の目には『勝ち』しか映っていなかった。
作戦を聞き終えた藤崎は、顔を青くして、
「で、出来るの?そんなことが」
「やるしかないでしょう。僕の小さい脳で考えられるのは今のトコそんだけです」
分かった、と藤崎は小さく頷いて、刀を構える。
「さあさあ、最後の作戦が始まりましたねぇ!とっととこいよ、さっさと終わらせてやる!」
「終わるのは……アンタだ!!」
藤崎はルミーナに突っ込む。
ルミーナは相手が何をしようとしてるかはすぐ分かった。
何故なら、相手の刀に炎が纏っている。恐らく、あれを至近距離でぶつける気だ。
「くらえ!」
「甘いんだよ!!」
ガン!!と炎を纏った藤崎の刀とルミーナの刀がぶつかり、技を相殺し合う。
ルミーナはすかさず、隙が出来た藤崎の腹の中心に蹴りを入れる。
藤崎の身体がくの字に曲がり、後方へと吹っ飛ばされる。
「こんなもんが作戦かァ!?こんなんで私を倒そうなんざ……」
そこでルミーナは気付く。
フォレストが弓よりも巨大な光の矢を放とうとしていることを。
「この女は囮か!?」
フォレストはニィ、と笑みを浮かべて、
「『金麗銀弓(きんれいぎんきゅう)』!!」
フォレストは巨大な矢を放つ。
ルミーナは刀に炎を纏わせ、これを迎撃しようとする。
「こんなんでも……私を倒すことは出来ないんだよ!!」
ルミーナは巨大な矢を刀で受け止める。
歯を食いしばり、圧で足が後ろに押されるがそんなものは気にしない。
「うおおおおおあああああああああ!!」
バァン!!とフォレストの矢が弾ける。ルミーナの刀も後方に弾き飛ばされる。
力を使い果たしたフォレストは、膝から地面に崩れ落ちるように倒れる。
ルミーナは笑みを浮かべて、
「だから、言っただろ!お前らじゃ私には勝てないって―――」
ルミーナの言葉が止まる。
彼女の懐にもぐりこんだ藤崎が刀の峰でルミーナの腹を狙っていたからだ。
「……ッ!?」
「言ったでしょ。終わるのは、貴女だって」
藤崎の刀がルミーナの腹を殴る。
彼女は後方へ飛ばされ、地面に背中をぶつける。
まだ立ち上がろうとしていたが、力が入らないのか、立ち上がれず、そのまま気を失う。
167
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/22(木) 21:28:46 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十二閃「信じられるために」
「や、やったぁー!!」
藤崎は大きく声を上げて、そのまま仰向けに倒れこむ。
倒れたまま、顔を動かしてうつ伏せに倒れて動かないフォレストの方を向く。
藤崎は彼女に向かって囁くように呟く。
「……やったよ、フォレストさん。貴女の分まで……」
「死んだみたいな言い方しないでください」
フォレストは藤崎に向けて顔を上げる。
そして同じように倒れている藤崎を見つめる。
「ま、よくやりました。二人ともボロボロで立てやしませんけどね」
フォレストは溜息混じりに呟く。
薬を出そうにも手が上手く動かない。
先ほどの攻撃で魔力をほとんど使い果たし、上手く身体が動かないのだ。
それに対しては藤崎も同様のようで、倒れてからほとんど動いていない。恐らく『倒れた』ではなく『倒れてしまった』なのかも知れない。
動けないお互いを見つめあいながら、二人は同時に息を吐く。
「……ちょっと寝ようかなぁ……」
藤崎がポツリと呟いた後に、音が鳴る。
立ち上がったような、地面を踏みしめる音だ。
フォレストではない。
彼女は相変わらず倒れたままだ。だが。横方向を向いて、驚いているようにも見える。
藤崎が何とか上体を起こして、その方向へと視線を這わせる。
そこには、
腹を押さえたまま、息を切らし、立っているルミーナがいた。
「……!!」
藤崎とフォレストが絶句する。
自分達は動けない。この状況で彼女に立たれては、打開策がないに等しい。
ルミーナの標的は、いつでも倒せる状態のフォレストではなく、自分の腹に一撃を加え、上体を起こしている藤崎だ。
ルミーナは弾き飛ばされていた自分の刀を掴み、ゆっくりと藤崎に歩み寄る。
藤崎は動こうとしない。いや、動けない。
「……甘いんだよ…。腹に峰打ち叩き込んだだけで……勝った気になってんじゃねぇよ!!」
ルミーナは藤崎の前につくと、刀を振り上げる。
「……うそ……」
藤崎の顔が引きつる。
フォレストは動こうとするが、身体が言うことを聞かない。
「……やめろ!やるなら、僕からにしろ!!」
フォレストにしては珍しく、敬語も混じっていなかった言葉だった。
ルミーナはフォレストに視線を向け、
「関係ない。お前はいつでも殺せる。だから、お前は後だ」
ぎりっとフォレストは歯を食いしばる。
自分はまた守れないのかと。自分の無力さを目の前で見せ付けられるのかと。
ルミーナはそんなフォレストの心情も知らずに、藤崎へと凶刃を振り下ろす。
168
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/23(金) 02:57:58 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
振り下ろされた刃は藤崎の身体を裂くことはなかった。
藤崎が何をしたわけでもない。ただ、かわすことを諦め、真っ直ぐとルミーナを見てるだけだ。濁りない清らかな瞳で。
ただそれだけなのに、ルミーナの手は止まった。彼女の握っている刃は、藤崎の目の前で止まっている。
眉間にしわを寄せ、ルミーナは藤崎を睨む。
藤崎はルミーナを見つめたまま、
「何でやらないの?」
「どういうことよ……!何で、すぐ側にある刀を握らない……ッ!」
「だって、握る必要がないから」
何?とルミーナの顔がより険しくなる。
藤崎は右手の側にある刀を握ろうともせず、ルミーナを見つめたまま言葉を続ける。
「だって、今の貴女。髪が赤色なんだもん」
今まで藤崎と戦っていたルミーナの髪は青になっていた。
藤崎が『子供』と言ってしまったため、ルミーナのスイッチが入り、酷く好戦的で残忍な。いわば『裏』のルミーナが出てきた。一方で赤い髪のルミーナは戦いには消極的で、むしろ戦わずにここを通そうとさえしていた。
つまり、髪が赤だということは彼女は『戦えない』というサインなのだ。
ルミーナじは、歯を食いしばって、
「それがどうしたんですか!戦ってくださいよ……!まだ、戦えるんでしょう?」
「うん。でも、今の貴女とは戦えない。貴女が、戦えないって知ってるから」
「甘ったるいんですよ!!そんなので、救えるものなんてないんです!私は……、勝たなきゃいけないんです……!勝たなきゃ、信じてもらえないから……!」
ルミーナは俯いて、泣きそうな声デで呟く。
フォレストは、身体を起こそうとしながら、
「……どーいうことですか…」
「……私は、小さい頃からこんなのでした……。昔から『子供』って言われると、青い私が出て、暴れ尽くす。隠すのも無理が出てきて、皆は逃げるし、友達も遠くに行っちゃって……。そんな私を、拾ってくれたんです。零部隊の隊長さんは……」
『零部隊隊長』。
メルティでさえも名前も性別も掴めない謎の人物。
ルミーナは続けて、
「……私は、勝たなきゃ信じてもらえないと思っています……。だって、勝っていった方が高い地位にいけるし、だから……私は、負けだけは嫌なんです!!勝たないと……誰も、私を信じてくれない……。みんな、はなれてっちゃう……」
ルミーナの目から涙が零れる。
藤崎は人差し指でルミーナの涙を拭い、彼女を優しく抱きしめる。
ルミーナは驚いたような表情をしたが、藤崎は気にしていない。
「……大丈夫だよ。私は信じるよ。わざと、刀を止めてくれたでしょ?あれは私が刀を取らなかったからじゃない。貴女の中の『戦いたくない』気持ちが止めてくれたの。勝たなくたっていいじゃん。私だって、一回。いや、三回、エリザちゃんに負けたよ」
ルミーナは『え?』と僅かに声を漏らす。
「石門の前でも負けた。でも、それでも。切原君達は、私の言葉を信じて最後まで手を出さずに、私に戦わせてくれた」
藤崎はルミーナに言い聞かせるように言う。
「本当の仲間は裏切ったりしないよ。負けただけで裏切るような奴は仲間じゃない。私なら、貴女を信じられる。ちょっとずつでいいから……私の事も信じてくれる?」
こくこく、とルミーナは何度も頷いて、藤崎に抱きついて泣く。
今まで溜めていたものを、全て吐き出すように。
「さーて、いこうか。フォレストさん」
少しずつ体力が回復してきた藤崎とフォレストは奥に進むことにした。
勇んで部屋から出ようとする藤崎の袖に何かが引っかかったように突っかえる。
振り返ると、僅かに頬を赤くしたルミーナが藤崎の袖を掴んでいた。
『信じてくれる?』の早すぎる有言実行だ。
「……どーしよ、フォレストさん」
小さい子の扱いには全然慣れていない藤崎は戸惑う。
フォレストは腕を組んで、
「連れて行けばいいじゃないですか。元は敵なんですし、敵方の事情も多かれ少なかれ知ってんでしょ」
こくり、とルミーナは頷く。
フォレストは納得したように息を吐いて、
「だったら、こっち側の情報、向こうの情報。両方あった方が色々便利だと思いますけどね」
藤崎はルミーナを見る。
ルミーナは藤崎の腕にしがみつくように引っ付いている。意地にでもついて行く気だ。
「随分懐かれてますね」
「むぅー……仕方ない。つれていくか!!」
藤崎恋音&フォレストVSルミーナ
両者、戦意喪失のため引き分け。
169
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/23(金) 14:58:16 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
桐生は信じられないものでも見るかのように、目の前にいるスノウを見ている。
彼は彼女に見覚えがある。
いや、正しくは、彼女は彼の師であり、恩人にも当たる人物だ。
桐生は、慎重に言葉を選んで、
「……何で、貴女がここに……?何で貴女が、『死を司る人形(デスパペット)』なんかにいるんですか!?」
スノウは溜息をついて、
「相変わらずね、仙一。状況が飲み込めない時に、そう声を荒げるところはさ」
スノウの口調は軽いものだった。
まるで『幽霊を見た』と言い張っている子供と接するかのような、そんな感じだった。
彼女は腰に挿している、鞘に納めた刀の柄を撫でる様に弄(もてあそ)びながら、
「何でって、聞かれてもね。理由なんかないに等しいんだけど……ここにいればいつか君に会えると思ったから。じゃあ、ダメかな?」
「ふざけないでください!!」
桐生はスノウの言葉に叫び返す。
「また会えると思った?だったら何であの時、僕らの前から姿を消したんですか?知ってるんですか?貴女がいなくなった後、どうなったか!」
桐生はいつものような冷静さを失っていた。
彼女と過去に何があったのか、それは分からない。
ただ二つだけ判明したことがある。
一つは、スノウという女性と桐生の間に何かがあり、桐生は彼女をよく思ってないこと。
二つ目は、メルティの言っていた『こっちの人間を気にかけている人物』がスノウで、『こっちの人間』が桐生だということだ。
「まーまー、まずは落ち着きなさいって。それがダメなんだってば」
スノウの言葉に桐生はすぐに斬りかかる。
桐生は顔を顰めて、スノウに斬りかかったが、スノウは鞘から刀を抜かず、そのまま桐生の攻撃を防いでいた。
「……まさか、私を倒す気?」
「だったら何だと言うんですか」
「言ってくれるわね」
スノウの蹴りが桐生の腹に突き刺さる。
僅かに呻きを上げて、桐生は後方に飛ばされるが、体勢を立て直して、地面に着地する。
蹴られた腹を押さえながら、桐生はスノウを睨みつける。
「アンタ達に戦い方を教えたのは誰よ?私でしょ?弟子が師匠を超えるなんて、ごくごく稀にしかないのよ」
今度はスノウが桐生に斬りかかる。
桐生は刀で防いで、やや押された状態の鍔迫り合い状態になる。
「……師匠というなら、何であの時貴女は来なかったんですか?あの時、貴女が着ていれば香憐(かれん)はあんな目に遭わなかったのに……!」
急にスノウの力が上がり、桐生が後ろの壁へと飛ばされ、叩きつけられる。
桐生の口から、一気に息がもれ、それと同時に、僅かに血を吐く。
「……なーんだ、妙に力が入ってると思ったら、仙一。アンタはまだ引きずってたの?忘れちゃいなよ。死んだ女のことなんか」
スノウの言葉に桐生は怒りをあらわにして、刀を地面に突き刺す。
「……誰のせいで……」
突き刺した刀の柄を思い切り強く握り、
「誰のせいで死んだと思ってるんだッ!!」
勢いよく地面から氷の牙が次々と生え、スノウの方へと近づいて行く。
スノウも同じように、地面へと刀を突き刺して、一言告げる。
「君のせいでしょ」
ドッ!!と迫る氷の牙をスノウはたった一つの巨大な氷の牙で迫る牙を粉砕する。
スノウは呆れたように息を吐いて、
「だから、言ってるでしょ?君は私には勝てない。四年前にも言ったようにね」
四年前―――。
桐生の側には、今の仲間とは違う一人の少女がいた。
彼の幼馴染である、同い年の、世話焼きで、おせっかいで、明るく元気な少女が。
名前は彩崎香憐(さいざき かれん)。
桐生仙一と彩崎香憐とスノウ。
三人の人物の関係は四年前から始まっていた―――。
桐生仙一が『今』の彼になる時に。
170
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/23(金) 16:29:08 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十三閃「変わった四年前」
「仙一!せーんーいーちー!」
学校から出て行く少年を一人の少女の声が止めようとする。
その少年は『今』と違って眼鏡はかけておらず、髪は肩くらいまで伸びていた。彼は肩に担ぐように鞄を持っている。目つきもかなり鋭い。
そんな彼を追う少女は焦げ茶色のツインテールに背が低めの少女だ。
彼らが出てきたのは中学校。まだ授業はやっているようだが。
「何の用だ」
少年の方は鋭い口調で彼女に問い質す。
少女の方はその口調にも怯えることなく、
「まだ授業中だよ?途中で帰っちゃ先生も心配するし」
「俺を心配する教師なんざ何処にいる。いいからお前は連いて来ずに、さっさと校舎に戻れ。何気に鞄持って一緒に帰ろうとするな」
『その時』の彼は一人称さえも違っていた。
それでも少女はめげない。
「ダメだよ。ここ数日まともに登校してないじゃん!」
「必要ないからな」
彼女の言葉を無視して、少年はすたすたと歩いていく。
ぶー、と相手にしてくれない少女は頬を膨らませて、
「バカ、アホ、スケベ!!」
「スケベではない」
少年は必要以上な言葉は返さずに家へと向かって歩いていく。
少女も駆け足で少年の後を追っていく。
そんな二人に不意に声がかかる。
「オォーイ…桐生クンよぉ。授業はどぉした?」
現れたのは少年の通う中学の三年生三人だ。
私服でいあるのを見ると、学校には来ていなかったようだが、彼らは少年を快く思っていない。学校では騒ぎを起こすと何かと面倒なので、昨日彼の帰宅中に襲ったのだが、あっさり返り討ちにあったのだ。そのため、顔には怪我の跡が残っていたりする。
当時の『彼』は腕っ節が強かった。
少年は息を吐いて、
「まったく懲りてないな。鼻の骨を折ったほうが身に染みるか?」
「やってみろや!」
真ん中の男が少年を殴りかかるが、少年はあっさりとかわし、彼の鼻っ柱に拳を叩き込む。
「ぐあああああっ!?」
男は鼻から血を流し、膝から崩れ落ちる。
少年は軽く息を吐いて、
「いいからとっとと帰れ。俺は忙しいんだ」
「くそ……!やれ!」
少年と一緒にいた少女の後ろから三人とは別の男が現れ、少女を人質に取る。
「なっ……お前ら!」
「へへっ!彼女を傷つけられたくないなら、俺らに殴られろ!」
少年に拳が襲い掛かる。
だが、少年はその拳を受けなかった。かわしもしなかった。
しかし、殴ろうとした男の顔に唐突に膝蹴りが飛んできたのだ。
膝蹴りをしたのは肩より少し長めの白い髪に、透き通った青い目をした少女。歳は十八前後程度だろう。
少年はきょとんとして、その少女は不良達に、
「一人を三人で囲んで、一人の女の子を人質に……。何て卑劣な手なのかしら!」
少年は隙を見て、少女を人質に取っていた男から、少女を救出する。といっても相手を殴っただけだが。
一方で乱入してきた白髪少女も三人の男を片付けたところだった。
「あの人、仙一の知り合い?」
「そんなわけないだろ。少なくとも、あんな白い髪をした人物を忘れることはないよ」
白髪少女は二人の方へと振り返って微笑みかける。
「大丈夫カナ?お二人さん!」
これが、当時荒れていた『桐生仙一』と。彼の幼馴染の少女『彩崎香憐』と。四年前の『スノウ』。三人の出会いだった。
171
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/23(金) 21:16:50 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「で、何でアンタはここにいるんだ?」
ここは桐生の家。
何故か知らぬ間に連いて来られて、勝手に家に上がって来ている白髪少女のスノウに桐生は眉をひそめる。
どさくさに紛れて、彩崎も上がって来ているが、そこはとりあえずスルーだ。
「いやー、助かったよ。ありがとね、上げてくれて」
「上げた覚えはない!」
桐生は机を軽く叩いて反論する。
彼はギロッとスノウを睨んで、
「アンタは何者だ。どっから来た。まず名を名乗れ」
桐生の連続する質問にスノウは僅かに慌てた素振りを見せる。
それから、息を吐いて、
「分かった。説明するから。ちょっと落ち着きなさい」
スノウは説明を始める。
天界のこと、自分の名前、そしてここに来たこと。
一連の説明を終え、桐生は、
「なるほど。つまり、アンタは天界という異世界からこの世界に来て、別に外国人というわけでもないから、こうも日本語が流暢。そして名前はスノウと」
うんうん、とスノウは満足げに頷く。
彼女自身も結構上手く説明できた、と自負しているのだ。
「うん。まあ、あれだ。とりあえず名前以外は理解できないから帰れ」
「ええっ!?」
桐生の言葉にスノウは驚きの声を上げる。
桐生は極めて落ち着いた様子で、
「馬鹿馬鹿しい。異世界だって?そんなものの存在を高校生で素直に信じる奴がいるわけ―――」
「天界ってどんなとこですか?」
彩崎がくいついた。
勿論必然的に、桐生の言葉は途中で切られてしまう。
彩崎の質問に嬉しそうに笑みを零すスノウは、悪意のある笑みを桐生に向け、
「……いるわけが、何?」
「そいつは別だ。そいつは高校生の皮を被った小学生だ」
桐生は、横に首を振って、
「大体、信じてほしいなら証拠を見せろ!お前が天界っていう世界の人間という証拠を!」
ふふ、とスノウは笑って承諾する。
彼女はポケットを漁りだし、中から指輪を取り出した。
桐生と彩崎を揃って首をかしげている。
「これはなんでしょーか?」
「指輪だろ。見れば分かる」
「見なくても分かるよ」
いやそれは無理だろ、と自信満々に言い放った彩崎に桐生は的確なツッコミを入れる。
対してスノウは、
「そう、指輪。でもね、天界ではこういう指輪は……こうなるの♪」
スノウが指で指輪を上に弾くと、鞘に納まった刀の形に変わる。
「ッ!?」
桐生と彩崎は目を見開いて驚く。
しかし、これだけで認めるほど桐生は簡単な男ではない。
「これでいいでしょ?」
桐生は、スノウを見つめて、
「まだだ。俺はまだ認めてない。次はその刀で天界の人間だという証明をしてみろ」
うーん、とスノウは考えるような仕草をして、
「ここって砂場とかある?」
「公園にある規模でいいなら」
じゃ案内して、というスノウの言葉に、桐生と彩崎は三人で外に出る。
172
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/24(土) 17:11:50 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
桐生達が出てきたのは家の近くにある公園だ。
公園に人はおらず、人通りも少なかった。まだ学校をやっている時間だからだろうか。
スノウは砂場に立って、
「ねぇ、ここ最近雨降った?」
「いや。今月一回も降ってないよ」
ならいいよ、とスノウは鞘に納めてある刀を抜く。
彼女は刀の峰で肩をとんとん、と叩きながら、
「言った通り、ここには雨が降ってない。つまり、この砂場は水気が全くない状態なの」
「だからどうした。まさか水を出すとかじゃないだろうな」
ふふん、とスノウは笑って、
「もっとすごいものよ」
スノウが刀を砂場へと突き刺す。
すると、砂の中から巨大な氷の柱が生えた。まさにタネも仕掛けも全くないマジックだ。
スノウは刀を鞘に納め、元の指輪に戻す。
「これで信じてもらえた?マジックや手品とかじゃ説明できないと思うけど?でさ、私がここに来た理由はこっちの世界の人にこの天界の武具、剣(つるぎ)を渡すためなの!」
桐生と彩崎は僅かに肩を揺らす。
先ほどの光景を見てこの剣(つるぎ)と呼ばれるものがどれほどの物かは分かった。だが、かといって欲しいとは思わない。車にまったく興味がないのに、昔に使われていた有名な車を見せられた時と同じだ。凄いとかカッコイイとか感想は出るが、興味がないのに欲しいと思うだろうか。
桐生はくるっと、家の方へ歩き出して、
「要らない。俺にはそんなもの、必要ない」
「あるのよ、必要」
「一体何を根拠に……」
唐突に桐生の背後に熊に似た黒色の化け物と呼ぶに相応しいものが現れる。
「……ッ!?」
桐生は突然のことに身動きが取れない。
かわすことも出来ず、熊に似た化け物の手が桐生に襲いかかる。
しかし、桐生の前にスノウが立ち、地面に刀を突き刺して、地面から氷の牙を生やす。その牙で熊に似た化け物を下から串刺しにした。
化け物は声を上げて、霧のように消えていった。
スノウは振り返って桐生を見る。
桐生は上手く言葉が出ない。あんなものが出てしまえば、それもそうだろう。彩崎も離れたところで震えている。
「……不覚にも君らは私と接触しちゃった。魔物は弱い奴から狙う習性がある。だから、剣(つるぎ)を持ちなさい」
スノウは桐生の前にネックレスを差し出す。
チラッと彩崎を見て、
「……彼女を、救いたいでしょ?だったら、強くなれ!少年」
桐生は目の前に差し出されたネックレスを見つめる。
桐生はスノウに会ってからのことを思い出していた。
あの時、この女が割って入ってこなかったら、上級生に絡まれていた自分と彩崎はどうなっていただろうか。さっきも、この女がいなかったら自分は死んでいたし、彩崎も逃げ切っているとは思えない。
桐生は、軽く息を吐いて、
「分かった。お前の口車に乗ってやろうじゃないか!ただし、俺はお前の弟子じゃにからな。勘違いするなよ」
「オッケー。天界を知っている人以外に見せちゃダメよ?」
桐生は奪い取るような形でスノウの手からネックレスを取る。
「子ども扱いするな。そんなこと、猿でも分かる」
スノウはその後、彩崎にもブレスレッドを渡す。
「ぐあ!」
桐生は吹っ飛ばされて、地面を転がる。
スノウはつまらなそうに肩に刀を担いで、
「馬鹿じゃないの?だから、勝てないって言ってるじゃない。何で分かんないかな?」
桐生は、刀を地面に突き刺して杖代わりに立ち上がる。
「知るか。そんなもの、僕には関係ない!僕は、貴女を倒す。ただ、それだけだ!!」
桐生はスノウに突っ込む。
スノウは重い息を吐いて、
「だから、無理なんだってば。君じゃあね」
173
:
ライナー
:2011/09/24(土) 18:41:00 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメントしに来ました、ライナーです^^
桐生君の過去……スノウとの過去とも通じていたんですね。
次の更新、心待ちにしております!!
174
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/24(土) 21:12:24 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十四閃「君のことをずっと」
桐生はスノウに斬りかかりながら、思い出していた。
前にもこんなことがあったと。
そう、四年前にも―――。
「うおおおおお!」
桐生はスノウに斬りかかる。
しかし、桐生が刀を振るうが、桐生の刀が斬り裂いたのはスノウの残影だ。
スノウは彼の後ろに回っていた。
(……何…?)
桐生の背中にスノウの蹴りが叩き込まれ、桐生はうつ伏せに地面に倒れてしまう。
桐生は荒々しく息を吐きながら、立ち上がろうとするが、今までの疲労もあってか上手く立ち上がれない。
「はいはい、終わり。ちょっと休みなさいって」
スノウの言葉に桐生は、急いで立ち上がって、刀を構えなおす。
その光景にスノウは呆れて重い息を吐いた。
「……まだ、いける!続けてくれ!」
「あのねぇ、根詰めればいいってもんじゃないんだし。それに香憐の修行もあるからさ」
桐生はスノウの言葉に言い返せなくなる。
スノウは納得したような桐生を見て、溜息をつく。
「ま、香憐の修行の後ならいいわよ」
「……じゃあ、それで」
スノウは『りょーかい』と返すと香憐の修行に移る。
「……はー、はー、はー、はー……」
桐生は修行場所である河川敷に仰向けに倒れ、荒い呼吸を繰り返していた。
彼の顔を香憐の無垢な顔が覗き込む。
「仙一、だいじょ−ぶ?」
「……大丈夫に見えるか?」
見えないから聞いたの、と香憐は返す。
桐生は少しずつ息を整えて、身体の状態を起こし、辺りを見渡す。
そして、スノウがいないことに気付いた。
「……アイツは?」
「帰ったよ。仙一の家に」
「どーでもいいが、何でアイツはごく当然のように俺の家に上がりこんでいるんだ」
桐生は頭を抱えだす。
彼女と会ってから、毎回家にあの女が知らぬ間に上がりこんでいる。
大抵は学校から帰るといるが、風呂に入っている間に上がっていたり、最短時間で侵入してきた時はトイレから出た時だ。それは流石に桐生も驚いた。
「ねぇ、今日私も家に行っていい?」
最近、というかスノウが来てから香憐もよく家に来るようになった。
前まで学校を途中で抜け出すと、一緒について来て、家の前までついてくることが大半だったが。
これもあの女のせいなのだろうか。桐生は不快に思っていたが、今ではこの生活が結構楽しいと思っている。
案の定、家に戻るとスノウがいた。
何してんだこの野郎、と言いたくなるがとりあえず心にその言葉はしまっておく。
桐生はいつものように晩飯を出前で済ませようとチラシを見ている。
ちなみに今見ているのは寿司のチラシで、横にいる香憐がキラキラした顔で覗き込んでいる。
食べ終わったら、桐生は急に眠けに苛まれ、寝てしまう。
意識はしてないが、そのまま横に倒れこんでしまったので、桐生の頭の下に香憐の膝がある。
「……うぅー…どうしましょう、スノウさん」
「別にいいじゃない。嫌じゃないんでしょ?」
スノウの言葉に香憐は僅かに頬を染めて、
「……嫌じゃないですけど……恥ずかしいです」
「ふふ。香憐は仙一が好きだもんね」
香憐の顔が一気に赤くなる。
香憐は手をぶんぶんと振って、
「ち、違います!!好きとかじゃなくてぇ、ただ、気になるだけなんです……」
それが好きだろ、とツッコミそうになるスノウだが、これ以上いじると本当に泣きそうなのでやめておいた。
自分も案外この二人が好きだな。そう思いつつスノウも眠ってしまう。
桐生は目が覚めた。
ふと自分の頭に敷いているのが、香憐の膝であることに気がつくと顔を赤くして飛び起きる。
そして、修行後と同じようにスノウがいないことに気付く。
まずは部屋を見回して、そして一室一室探していく。
トイレを開ける時だけは妙にドキドキした。入っていたら半殺し確定だったろう。
だが、何処にもいない。
「……何処に行ったんだ」
僅かな心配を寄せる桐生だが、今はどうでも良かった。
そもそも、彼女の強さを知っていれば心配など必要ないのだから。
学校開始まで一時間前。
とりあえず、彼は香憐を起こして学校へ行く仕度を整える。
175
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/24(土) 21:16:04 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントありがとうございます^^
ええ、そろそろ過去の話が終わると思います。
自分的にはラストの話を上手くかけるかどうかが課題になりますが…。
にしても主人公を出す場面が無い…orz
どうしようアイツ。何がしたいんだろうアイツ。
もう名前忘れられてるんじゃないだろうk((
176
:
地獄の女王様的な人
◆2aSSR13lE2
:2011/09/25(日) 10:31:36 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「……スノウさん、何処行っちゃったんだろ?」
学校からの帰り道、桐生と一緒に帰っていた香憐はポツリと呟いた。
今日は珍しく、桐生も学校を途中で帰らず、授業が終わるまでいたようだ。学校から出る生徒の中に二人は紛れている。
桐生は軽く息を吐いて、
「知らない。それの、俺達が心配することでもないだろ。アイツの強さを、俺達はよく知ってるはずだ」
「……そうだけど」
そうは言われても、何も言わずに出て行くなんて、やっぱり不安だ。
桐生は表情が曇っていく香憐を見て、更に溜息をついた。
すると、何かを思い出したように香憐が鞄を漁りだす。
何してるんだ、と桐生が訊く前に、香憐が口を開く。
「あのさ、今日は仙一にプレゼントがあるの!」
「俺の誕生日はまだだぞ?お前の方が近いじゃないか」
ううん。それとは別、と言って香憐は鞄から眼鏡を取り出す。
「これ、あげる!」
香憐は中から眼鏡を取り出して、桐生にスッと差し出す。
しかし、一方の桐生は全然嬉しくなさそうだ。
「俺は目、悪くないぞ」
「いいからいいから!絶対似合うからかけてみなって!」
香憐に無理矢理眼鏡をかけさせられる桐生。
度が入っていないレンズのいわゆる伊達眼鏡だった。そして、眼鏡をかけた桐生は、『今』の桐生に限りなく近づいていた。
「ほらー!似合う!」
「そんなの言われても嬉しくないな」
桐生は眼鏡を取って、相手に返そうと思ったが、それはそれで面倒なので鞄の中にしまっておく。
それでも香憐の、マシンガントークは終わらない。
「今日さ、一緒に修行しようよ!スノウさんもいないしさ!」
「断る。お前じゃ相手にならないからな」
えー、と不満の声を漏らす香憐。
そして、桐生の家の前に着き、香憐とはそこで別れることとなった。
桐生は自分の部屋に上がって、机に鞄と携帯電話を無造作に置く。
それから窓の外を眺めて、
(……まったく、何処に行ったんだ。あの女。俺らに知らせないで天界にでも帰ったか?)
それならそれで知らせてほしいと思う。
修行も中途半端だし、今はまだお世辞にも強いと言ってもらっていない。
寝るか、と思ってベッドに入ろうと思った桐生の携帯電話が急に着信音を鳴らす。
画面を開くと表示されていた名前は『彩崎香憐』とあった。
電話に出なかったら何度もかけてきそうだな、と思い、電話に出ると、
『……助けて!!』
その叫びだけが聞こえて電話が切れる。
壊れるような音がしたため、落として壊れてしまったのだろう。いや、壊されたのか。
一体、誰に。何故、戦っている。
桐生は首から提げ、ネックレスになっている剣(つるぎ)を確かめ、家を飛び出す。
(……無事でいてくれ、香憐…!)
177
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/25(日) 10:32:24 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
すいません、別の掲示板の名前使っちゃいました。
>>176
は僕です…。
178
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/25(日) 13:27:06 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
スノウと修行する河川敷で、香憐は膝をついていた。
彼女の前に立っているのは、金色の髪に僅かに銀色が混じった、無理矢理金色に染めたような髪を腰の辺りまで伸ばし、黒いコートを身に纏っている男が立っていた。
香憐は戦ってすぐに気付いた。
こいつは魔物ではない、と。
生身の人間と戦うのは今までスノウとだけだった。それも、彼女は手加減しているし、本気で戦ってたら手も足も出ずに修行は終わってしまう。
つまり、魔物ではない彼と戦うのは香憐にとって状況が悪い。
「……ふん。所詮はガキか。命令どおり、消させてもらう。アイツの命令というのが、気に食わんがな」
男は持っている刀身が真っ黒の刀を上に振り上げる。
このまま振り下ろして、香憐を斬るつもりだ。
だが、咆哮と共に、何者かが男に斬りかかる。
男はその攻撃を刀で防ぐ。
「……何だ、貴様は」
「仙一!!」
男の横から飛んできた桐生は、相手に攻撃を押し返され、距離を取るような形で相手から離れる。
それから、香憐に視線を移して、
「大丈夫か!?」
「……うん。あの人、魔物じゃないよ……」
「分かってる。くそ、こんな時にスノウがいれば……」
そこで桐生は思う。
他人に頼りきっているのではダメだ。自分が何とかしなければいけない。と。
そもそも、自分が剣(つるぎ)を手にしたのは何のためか。それを思い返す。
今が『大事な人』を護る時だ。
桐生が刀を構えると男は、
「女を救うために力の差を省みずに攻撃するとはな。見上げた勇敢さだ。だが、」
男は桐生に突っ込む。
「勇敢と無謀は違う」
ギィィィン!!と攻撃を受けた桐生の刀を伝って、桐生の腕にも痺れが伝わる。
その痺れに桐生は顔を顰めて、
(……なっ、重すぎだろ……!!)
桐生は二歩、三歩後ろに下がるが、更に男の攻撃が桐生を襲う。
続く衝撃に、桐生の手から刀が弾き飛ばされ、桐生は地面に尻餅をつき、男は桐生の目の前で刀を止める。
(………ッ)
桐生は息を呑む。
男はニヤリと笑って、
「先ほどの女と違ってまあまあ楽しめたよ。アイツの命令だ。お前とあの女にはここで消えてもらう」
(……アイツ?)
桐生は眉をひそめる。
そして、一番想像してはいけないことを想像してしまった。
突然消えたスノウ。それを見計らったように現れた男。男の言う『アイツ』。まさか、
「死ね」
男が桐生を突き刺そうと刀を前へと突き出す。そこへ、
香憐が割って入り、彼女の左胸に刀が突き刺さる。
「「……ッ!」」
桐生と男は目を大きく見開いて驚く。
香憐は貫かれながらも、突き刺さっている刀を両手で掴み、相手を動かさないようにする。
「なっ……」
「……せん、いち……。は、やく……。……私ごと、こいつを刺して……!」
桐生はその言葉に耳を疑う。
あの香憐がこんなことを言うと思わなかった。だからこそ桐生は、
「馬鹿か!そんなこと、出来るわけがないだろ!そんなことしたら、お前が……!!」
「………いいの…」
香憐は無理矢理に笑みを作って、桐生に言う。
背を向けたまま、彼に言う。
「……こいつに殺されるより……仙一に、殺された方が……まだ、マシだよ……早く…私の。意識がある内に……」
桐生は固く目を閉じて、刀を素早く前へと突き出す。
香憐の右胸を貫いて、その先にある男の左胸を突き刺した。
「ぐ……!?」
男は左胸を押さえて、後ろへ下がる。
それと同時に香憐に突き刺さっていた、刀も抜かれる。
男は憎しみに満ちた顔で桐生と香憐を睨みつける。
「……桐生仙一……!……彩崎香憐……!いつか、絶対に殺してやるからな……!」
男はそう言い残して、消えていった。
桐生は倒れている香憐を抱きかかえて、
「……香憐、何でこんな無茶を……」
「………はは。だよね……私、無茶したよね……」
香憐の声は今までずっといた中で聞いていたどの声よりも力が無かった。
香憐は血塗れの手を、桐生の頬に当てる。
「ずっと……ずっと言いたかった……。好きだよって……仙一が、大好きだよって……」
桐生の頬に当てていた香憐の手が徐々に下がっていく。
「……こんなことなら、早く言えばよかった……。ずっとずっと……言いたかったのに…」
香憐は無理矢理に笑みを浮かべて、
「……君のことがずっと……好きでしたって…」
香憐の手が落ちる。
それと同時に、香憐の口から呼吸が途絶え、目が堅く閉じられる。
「……香憐…香憐ーーー!!」
桐生の叫びが河川敷に響く。
香憐の目は、二度と開かれることはなかった―――。
179
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/25(日) 14:42:03 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
このレスのみ、桐生のナレーションで進みます。
ちょっと短いですが、話の一部なので、飛ばさないでくださいね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
香憐が死んでから、僕は何のために戦ってきていたのか考えた。
始めは、香憐を護りたかった。
いつも迷惑をかけてしまい、いつも心配させて、そしていつも側にいてくれた。
そんな彼女を、僕は護りたかった。
だが、結果は。現実はなんて惨(むご)いものだろう。
何のために強くなろうと頑張った。何のために力を手にしようと踏ん張った。なんのために刀を握り締め歯を食いしばった。
強さも、力も。そして、大切な人さえも失った。
僕に残っているのは何だ。何もありはしない。何かあってはいけない。
だったら、これから作っていけばいい。
最後に彼女に会いに行った。何とか『優しさ』と呼べるもの。それを育めばいい。
彼女からもらったプレゼントは常に身に付けておこう。
そして。僕は『今』の桐生仙一になったのだ。
大切な人が持っていた、たった一つの。そして、僕のもう一つの武器をもって―――。
今、ここに立っている。
かつて、僕に戦いを教えてくれた、彼女を。スノウを倒すために―――
180
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/25(日) 16:06:02 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十五閃「氷装・氷姫」
スノウは桐生の攻撃を刀で防ぐ。
しかし、押されている桐生の力は次第に弱まり、最初は両手で刀を握って止めていたスノウも今は片腕だけで止めている。
スノウは桐生の攻撃を押し返し、相手を壁まで吹っ飛ばす。
彼女は溜息をついて、
「どんだけやられれば気が済むのよ。いい加減諦めなさい」
桐生は刀を杖代わりに立ち上がる。
だが、たったそれだけの動作でも十秒以上かかってしまった。
「諦めるわけにはいかない。僕は、皆のためにもここで勝たなくちゃね」
「随分簡単に言ってくれるわね。でもね、言うのだけは簡単なのよ。貴方に、それを実現できる力は無い!」
スノウはたくさんの氷のつぶてを生み出し、それを桐生に向かって放つ。
足が上手く動かず、桐生はかわせずに、氷のつぶてを喰らってしまう。
しかし、それでも桐生は立ち上がる。足に精一杯の力を込めて。
その光景に、スノウは息を吐いて、
「やめなさいって。どうせ貴方は私には―――」
スノウに桐生の刀が襲い掛かる。
だが、スノウは軽くかわし、彼の腹へと膝蹴りを叩き込む。
前かがみになる桐生の腹に、更に蹴りを入れる。
桐生の身体はその蹴りの衝撃で、後ろへと飛び、地面を転がる。
「どうせ私には勝てないんだから。貴方はそこで寝ておきなさい。貴方の仲間に危害を加えるつもりなんてないし」
桐生は歯を食いしばって、必死に言葉を紡ぐ。
「……諦めないって言ったでしょう?僕は、たとえ勝率がどれだけ下がっても、砂粒程度の希望があるなら、僕は諦めない!貴女に勝つ秘策なら僕もちゃんと用意している!」
「言ってくれるじゃない」
スノウが刀の峰を指でなぞり、刀の切っ先でその指を止める。
彼女は真っ直ぐに桐生を見つめて、
「だったら私も手は抜かない。全力で、貴方を倒してあげる」
スノウの身体に冷気が纏う。
その冷気は氷へと姿を変えて、スノウの身体に纏う。
腕に脚に胴体に。氷へと姿を変えた冷気はまるで鎧のようにスノウの身体を包んでいく。
最後には、氷の冠がスノウの頭の上に乗る。
「……」
その光景に桐生は絶句していた。
そこにいたのは『氷の姫』と呼ぶに相応しいスノウの姿があった。
「私の剣(つるぎ)、『氷雨万華(ひさめばんか)』最終奥義。『氷装・氷姫(ひょうそう・ひひめ)』。触れたもの、斬ったものを全て凍てつかせる絶対零度の鎧。貴方の剣(つるぎ)よりも強力よ」
「……最終奥義、ですか。さすがに手加減なしですね」
桐生の顔には笑みさえ浮かんでいた。
その笑みは、絶体絶命の状況であるにもかかわらず、一つの勝機を導き出した者が出す笑みだ。
「……僕は貴方に勝つために今の自分を捨てます」
桐生は眼鏡を外して、横合いへ投げ、髪をくしゃくしゃとかく。
そしてポケットへと手を入れ、自分の剣(つるぎ)をネックレスに戻す。
「言ってくれるじゃない。でも、勝ち目がどこにあるって言うのよ!」
「ありますよ」
桐生はポケットからブレスレットを取り出す。
スノウには見覚えがあった。
彼が取り出したブレスレットは自分が彩崎香憐に渡したものだ。確か、属性は炎。
「……力を借りるぞ、香憐」
桐生はその剣(つるぎ)を発動し、スノウを見つめる。
「アンタを倒すために、『俺』は昔に戻る!!」
181
:
ライナー
:2011/09/25(日) 17:47:49 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼いたします、ライナーです^^
桐生の心意気に涙が止まらないんですがー!!
今世紀最大の感動だと思います(;△;)
勝ってくれ桐生!!これからは桐生押しに転向!
コメント失礼しましたwww
182
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/25(日) 20:18:52 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントどうもです^^
いや、桐生ならこんな感じかな、と思ったんで。
こんなもので涙していただけるなんて、嬉しいです!
今世紀最大ってw
そんな大層なもんじゃないですよ。今世紀最低だと思います…
ところで、話は変わりますが明日は桐生君のお誕生日です。
明日の前に、今日でスノウ戦は終わらせたいと思います。
183
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/25(日) 20:42:53 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
スノウは少々焦っていた。
このまま桐生が自分の与えた『絶対零度(ぜったいれいど)』を使っていれば勝負は完全に自分の勝利で決まっていた。
だが、香憐の使っていた剣(つるぎ)を使われたのなら、話は別になってくる。
彼が今使っている剣(つるぎ)の属性は炎。スノウじゃ何があっても勝てない。氷と炎の勝敗など、小学生でも分かる。だが、
「ふ、ふふ」
スノウの口から笑みが零れる。
桐生はスノウのその行動に眉をひそめる。
「遂にそんな荒業に出たのね、仙一。でも言っておくわ。貴方は一回その剣(つるぎ)で失敗している。炎の剣(つるぎ)はアンタと相性が悪いのよ」
桐生はその言葉に言い返さない。
さらにスノウは続けて、
「それに、相性が悪いのを使うと暴発の恐れがある。今のアンタに、暴発した時に耐えれる体力なんて残って無いはずよ!」
「その通りだ」
桐生はスノウの言葉に即答する。
いつもの桐生仙一とは違う、『昔』の桐生仙一だ。
「だから、これは切り札だ。どうしても自分で勝てないと判断した時に、最後に使おうと思っていた最終兵器」
桐生は刀の切っ先をスノウに向ける。
「暴発するなら好都合だ。氷の鎧を纏ったアンタが、どうなるか楽しみだ」
「ッ!まさか……」
桐生が自分と相性の悪い剣(つるぎ)を使う目的は一つ。
暴発だ。
自分も巻き込まれるが、相手も巻き添えを食らう。それで倒せれば運が良い。
勝てなくてもいい。彼が望んでいるのは、スノウを倒すことだけだ。
「……言ってくれるじゃない」
スノウの笑みに焦りが混じる。
スノウは刀を構えなおして、
「だったら、暴発させるがいいわ!アンタの最期も、私が見届けてあげる!」
「……残念だが」
桐生が脚に力を込める。
「お前は俺の最期を見届けることは出来ない。何故なら、お前も俺と一緒に散るんだ」
桐生が地面を思い切り蹴り、スノウに突っ込む。
スノウは刀を握る手に力を込めて、
「隊長三強の……『氷帝(ひょうてい)』スノウをなめるなぁ!!」
二人の刀がぶつかる。
通常なら、スノウの『氷姫(ひひめ)』時に刀がぶつかり合えば、相手の刀も凍らせることが出来る。
だが、今の桐生の刀を凍らすことが出来ない。
(……香憐の使っていた『炎霊架(えんれいか)』は灼熱の刀。刀身自体が熱を帯びる。だったら凍らせられない。しかも、この状態で長時間戦うのは正直キツイ……)
絶対零度の鎧といっても、自分の身体に氷を纏わせているのだ。
服の上からでも充分に体力は削られる。
そのため、刀を何度も振るうだけで、体力は削られる。どうせ、体力がなくなるなら、技を連発して、戦えばいい。
「氷刃(ひょうじん)……『三日月』!!」
桐生に向かって、三日月形の氷の刃が飛んでいく。
だが、彼はかわそうとせず、タイミングを見て、刀を振るう。
すると、三日月の氷の刃は解けて、地面に力なく水となって落ちる。
桐生の刀には炎が纏っていた。灼熱で刀身が赤くなり、その赤い刀身に更に紅い炎が纏っている。
「……これは、本格的にマズイかも。だったら」
スノウが刀の切っ先を上に向ける。
すると、水色の光が切っ先を中心として、どんどん大きくなっていく。
「『氷装・氷姫(ひょうそう・ひひめ)』の時に発動できる正真正銘の大技で片付けてやる」
水色の光は形を変えていく。
牙、目、尾。その形を変えた姿は、氷の竜だった。
「姫を守護せし、氷の竜。貴方はこの子に食われるのよ」
「食えるモンなら食ってみろ」
桐生は刀を構えて、氷の竜を睨みつける。
「火傷してもいいならな」
「『氷姫の凶竜(ひひめのきょうりゅう)』!!奴を食え!!」
スノウの命令と共に、氷の竜は口を開けて、桐生に襲い掛かる。
桐生は、炎を纏った刀で、竜の迎撃体勢に移る。
184
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/25(日) 21:16:27 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
桐生に氷の竜が食らいつく。
耳を打つ轟音と共に、冷気が撒き散らされ、辺りが見えなくなる。
勝敗はスノウにも、そして、この場にいたとしても誰にも分からない。
「うおっ!?」
氷の竜が地面にぶつかった震動はアジト全体に広がっていた。
そして、アジト内の廊下を走っていた魁斗も揺れに転びそうになってしまう。
「何だぁ…今の揺れ。まさか、誰か負けたりしてねぇよな?」
魁斗は仲間を信じて、さらに走り出す。
その先にいる隊長と戦うために。
「……はぁ、はぁ……さすがよ、仙一」
スノウの眼前に広がるのは勝利を確信してもいい光景。
「こんなに追い込まれたのは……いつ以来かしらね」
桐生のいたところは、巨大な氷が張り付いていた。
外からじゃ、中の様子は窺えない。
スノウは肩で息をして、深い溜息をつく。
「そして初めてよ。君みたいな男も」
巨大な氷がぴし、と音を立てて、ヒビを走らせ始める。
そのヒビは広がり、ガラスが割れるような音が鳴り、巨大な氷は砕け散る。
その中から、桐生が飛び出したのが分かる。
彼は炎を纏った刀を振りかぶって、スノウに向かって攻撃を放とうとしている。
「……お前は言ったな。『弟子が師匠を超えることはない』と。じゃあ…」
桐生は一度言葉を区切って、
「弟子じゃない俺がアンタに勝ったらどうなるんだ」
スノウはフッと笑みを浮かべて、
「『少年が氷帝(ひょうてい)を超えた』かしらね」
桐生が刀を振るう。
スノウの氷の鎧ごと、スノウを斬りつける。
もちろん、氷の鎧は砕け、斬られたスノウもそのまま地面にうつ伏せに倒れる。
桐生は剣(つるぎ)をブレスレットに戻して、ポケットにしまう。
「……有言実行ね……。憎らしいほど強くなっちゃって……」
スノウは仰向けになるように、転がる。
彼女の呼吸は荒い。だが、氷の鎧を纏っている時より辛そうではない。
桐生は、眼鏡を拾い、再びかける。
「貴女のお陰ですよ。僕に力を与えてくれたのには感謝していますから」
ぷっとスノウは笑って、
「……師匠じゃないって言ったくせに」
「ええ。師匠ではありません。貴女は僕からしたら、いいお姉さんですよ」
スノウから幸せそうな笑みが零れる。
言ってくれるじゃない、とスノウは呟く。
「……信じてくれないかもしれないけど、言っておくわ。四年前、香憐を殺したのは―――」
「知ってますよ」
え?とスノウは桐生を見る。
桐生はスノウの方へと振り返って、
「貴女の差し金じゃないことくらい。あの時は色々あって、貴女だと決め付けていました。貴女を倒す直前までは」
桐生は、スノウの横でしゃがんで、
「貴女の気持ちが刀を通じて伝わってきました。勘違いかもしれないけど、貴女じゃないってのはハッキリと分かりました」
スノウはくすっと笑って、桐生の頭を撫でる。
そのことに顔を赤くする桐生だが、
「……そうよ。犯人は他にいる。私はそいつを探すためにここにいたのよ。情報の少しでも掴めると思ってたけど、無理だった見たい」
「その仕事は僕が引き継ぎます」
桐生は立ち上がって、出口の方へと視線を向ける。
「香憐の仇討ち、とは言いません。ただ、貴女の手伝いをさせてください。今なら、僕も貴女の力になれますしね」
桐生は出口へ向かって走り出す。
その背中を見つめて、スノウは誰もいなくなった部屋で呟く。
「……バーカ」
スノウは僅かに頬を赤くして、
「カッコイイこと言ってくれるじゃない。……私は、教え子の好きな人は取らないんだから」
桐生仙一VSスノウ。
勝者、桐生仙一。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
やっとスノウ戦終わったぁ。
この話だけ今までの隊長戦より力を入れた気がする。
何にしても、ここで主人公お久しぶりの登場w
185
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/30(金) 18:35:15 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十六閃「懐かしき人」
メルティは巨大な扉の前で立ち止まり、その扉を見上げるように眺めている。
扉の中心にはこの先の隊長が誰なのか、すぐに分かるように大きく『二』と書かれている。
「……この先にいるのは、第二部隊の隊長か。ってことは私の相手は第二部隊の隊長…」
メルティはそう呟くように言ってから、扉を押すように小さな手を添える。
しかし、
(……でも、何でかな。気のせいだったらいいんだけど……この先の魔力。何となく、懐かしい気がする。どこか……優しくて。会ったことあるような……)
メルティはそれでも首をブンブンと振って、思考を一切遮断する。
そして気合を入れ直し、扉を押し、開ける。
その先にいたのは、銀髪の髪を後ろで束ねている優しげな笑みを浮かべている二十代の男だ。
その人物を前に、メルティは凍りつく。
睨み付けられたわけでも。気圧されたわけでも。ましてや相手に動きを止める能力があるわけでもない。
ただ、止まった。
いや、止まってしまった。
だって、目の前にいる人物は…、
「……やはり、僕のところにはお前が来ましたか。メルティ」
男の口調には『初めてらしさ』がなかった。
初対面に『お前』というのは、この男の優しげな表情からは想像できない。
次に、メルティが発した言葉は、
「……やっぱり。イマイチ確信なかったのよ……。貴方だったんだ……。キルア兄ちゃん!」
メルティは睨みつけるように、第二部隊隊長のキルティーアを睨みつける。
メルトイーアとキルティーア。
どこか似た感じのある二人の名前。
キルティーアは軽く息を吐いて、
「…会っていきなり睨みですか。そういうところは変わってませんね」
「うっさい!」
キルティーアの言葉にメルティは噛みつくように叫ぶ。
兄妹のようだが、メルティは相手のことを兄のように思ってないようにみえる。
「……兄に向かって、結構厳しいですね」
「うるさいうるさい!アンタのことを兄だなんて思ってない!何で何も言わずに私の前からいなくなったの!?」
「やることがあったんですよ」
「やることって何!?こんなところで、カイト君の命を狙うこと!?」
メルティは泣きそうになりながら、キルティーアに問いかける。
キルティーアは答えない。
メルティは、ぎゅっとハルバードに似た自身の武器を握り締め、突っ込む。
「答えろ!じゃないと、私がアンタを……!」
急に、メルティの頭上から、無数の刃が雨のように降り注ぎ、メルティの小さな体に傷をつけていく。
メルティはそのままうつ伏せに倒れてしまう。
キルティーアは呆れたように息を吐き、
「……甘いんですよ。お前じゃ、僕を倒すには足りませんよ」
186
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/09/30(金) 22:00:02 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
廊下を歩きながら、ハクアは転びそうになりそうなところを、レナに支えてもらっている。
レナは彼女に肩を貸すように歩いている。
レナは、足元がフラフラなハクアを見て、
「…大丈夫ですか?やっぱり、ちょっと休んだ方が……」
「大丈夫よ。私らが一番最後だったら何か嫌じゃん。それに、私は自分よりメルティさんが心配だなぁー」
え?とレナはハクアの言葉を聞き返す。
しかし、レナとしては、ハクアとは違う意見を持っていた。
「心配ならむしろ、藤崎さんでしょう?だって、先にエリザさんと一戦交えて、それからまた戦うとなると…」
「それはそれで心配いらないわ」
ハクアは溜息でもつきそうな言い方で、
「自分が疲れきっているってことは、それだけ自分も追い込まれて、短気決戦を望むでしょ?だったら、むしろ楽観せずに戦えるのよ。負けちゃえば、それで終わりだけど」
じゃあ何故、と聞こうとしたレナだが、ハクアが続けて放った言葉の方が早かった。
「メルティさんの場合、戦いを楽観してるかもしれない。彼女は実年齢より、子供っぽさがある。それが仇になるかもってことよ。それに、もしそうなら更にまずいわ」
ハクアは一拍置いて、答える。
「彼女の剣(つるぎ)。持ち主の精神と同調する……もし焦りすぎたり、舐めてかかったりすると、痛い目みるのは間違いなく、彼女なのよ」
メルティは地面にうつ伏せで倒れている。
彼女の身体にはあちこちに切り傷が走っている。それもハサミなどでつけられたような浅いものではなく、ナイフで切りつけたような鋭利なもので切り裂かれたような傷だ。
血塗れで地面に伏している自分の妹を眺めながら、キルティーアは、
「……まったく、何も考えずに突っ込みすぎですよ。だから、お前は甘いんです」
降り注いだ刃がキルティーアの持っている刃の無い刀の刀身を形成するように戻っていく。刀身が形成された刀の形は、さながら関節剣のようなものになっていた。
キルティーアはメルティの指が僅かに動くことに気付く。
「……全っ然効いてないよ……!私を倒したいなら……せめて戦車でも持ってきなよ……!」
そう言って、手に力を込め、メルティは立ち上がろうとする。
だが、
ぐきり、と嫌な音が鳴り、メルティの左の手の甲がキルティーアの足に踏みつけられている。
「…………ッ!?」
メルティの口から、叫びともとれない声が漏れる。
キルティーアはさらに痛みを増すように、足をぐりぐりと動かす。
動かすたびに、メルティの顔が苦痛に歪む。
「無理なんですよ。お前が僕に勝つこと自体が。そう思おうとすることさえ、愚かな行為です」
メルティは強く歯を食いしばる。
聞こえたわけではないが、ぎりっという音が聞こえてきそうなほどの勢いだ。
メルティは踏みつけられている手に力を入れ、足を払いのけようとする。
「……無理?勝てない?ねぇ、聞いてもないこと…勝手に答えないでよ……!」
徐々に力は増し、キルティーアの足が手によって上がっていく。
「私は、貴方には負けない……!だって、大好きな人が…頑張っているんだから!!」
メルティはキルティーアの足を払いのけ『時の皇帝(タイムエンペラー)』による時間操作を行う。
彼女がなったのは十六歳の自分だ。アギトを倒した時の年齢と同じである。
その姿を見たキルティーアは大して驚きもせず、
「無駄ですよ。そんなことしてもお前は僕には勝てない」
「だから勝手に……」
メルティは自身の剣(つるぎ)に雷を纏い、高く飛び上がる。
バチバチ、と電撃が走る音が鳴り、その雷の塊は徐々に大きくなっていく。
「私の限界を決めるなぁ!!」
メルティはそのまま、雷の塊をキルティーアにぶつける。
かわそうとする素振りも見せなかったキルティーアの元に、雷の塊はぶつかる。
膨大な土煙が舞い上がり、メルティは倒れそうになりながらも地面に着地する。
そして、土煙の方向に目を向けてすぐ、
「なるほど、いい攻撃です」
キルティーアの声が響く。
すると、土煙の中に黒い影が浮かぶ。
キルティーアは関節剣を繭のように伸ばして、自分の身体を全方位で護っていた。
キルティーアは刀を伸ばしてメルティの左腕に絡み付ける。
「ッ!?」
メルティにはこの状態が何を意味するか分かった。
どう考えても、嫌な想像しか出来なかった。
キルティーアは関節剣を締め付け、メルティの左腕に絡まった刀を、メルティの腕に食い込ませる。
「ぐああああああああああああああッ!?」
メルティの口から甲高い叫びが放たれる。
ぎりぎり、とメルティの腕が複数の刃で成される刀身が食い込む。
「……」
キルティーアはその光景に、あえて何も言わなかった。
187
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/01(土) 22:24:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「ぐぅ……!」
メルティは、強引に自分のハルバード状の斧で、関節剣を断ち切り、腕を自由にする。
それから、自分の腕に絡まったままの関節剣の一部を外していく。
彼女の左腕は血で、赤く染まっていた。ズキズキと、傷が痛む。
「……ほぉ、まさかそうするとは思いませんでした」
メルティは、左腕の痛みに顔を歪めながらも、キルティーアを睨みつける。
相変わらずゆったりとした笑みを浮かべている彼を見て、
「……はっ。この程度で勝った気にならないでよ……。言ったでしょ?私を倒したいなら、戦車でも持ってきなさいって……。まあ、それでもその持ってきた戦車を壊すのがメルティちゃんクオリティなんだけど……」
キルティーアは軽く息を吐いて、
「まったく、昔からお前はそうですね。僕には出来ないことを軽々とやってのけ、僕には言えないことをお前はどうってことないように言い放つ」
「……それがどうしたの?」
いえ、とキルティーアは小さく言葉を漏らす。
キルティーアは、メルティを見つめて、
「こう言いましたよね。『ここに来た理由は何。やりたことは何』と」
メルティは小さく頷く。
キルティーアは目を閉じて、
「じゃあこうしましょう。僕にダメージを与えるたびに一つずつ答えていく。それでどうですか?貴女が僕を傷つける度に、貴女は一つずつ知っていく」
「……いいね、分かりやすくて。小難しいのは大嫌いだしさ。燃えてきた」
メルティは高く跳び、その時には既に斧に雷が纏っていた。
「『電千鳥(でんちどり)』!!」
メルティが弧を描くように斧を振るうと、小さな鳥の形をした電撃がキルティーアに襲い掛かる。
彼は、それを華麗にかわしていく。
だが、かわした先の上からメルティが急降下してきた。
「こっちは行き止まりだよ」
「そうですか、残念です」
キルティーアはにっこりと笑って、
「上からの侵入は禁止ですよ」
キルティーアの頭上に関節剣から離された刃が、華を形作って浮いている。
メルティの、目が大きく見開かれる。
空中ではかわすことはできない。
「『刃華昇天(じんかしょうてん)』」
キルティーアがそう言うと、メルティに向かって、刃の華が、形を失って、一つ一つの小さな刃となって襲い掛かる。
メルティは無数の刃に切りつけられ、血を流しながら、力なく地面に倒れる。
「用心をしてください。これだからお前は僕に……」
しかし、メルティが倒れた場所にあったのは、彼女の上着だけだ。
「……?」
キルティーアが首をかしげていると、メルティが後ろから、斧で彼の背中を突き飛ばし、遠くの壁に吹っ飛ばす。
メルティは、ニッと笑みを浮かべて、
「用心もしないし、策も練らない!そんなの、私じゃないからさぁ!!」
メルティは笑みを浮かべながら、起き上がるキルティーアはを見つめる。
188
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/02(日) 12:54:41 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十七閃「銀色の悪魔」
キルティーアは大して痛がっている様子も無く、立ち上がる。
立ち上がりながら、自分を鋭い目で睨んでくる妹のメルティと目が合う。
「……約束だよ。私の知りたいことを答えて」
「そうですね」
キルティーアは鼻で軽く息を吐いて、
「何が知りたいですか?」
「お兄ちゃんが『死を司る人形(デスパペット)』にいる理由」
やっぱりね、とキルティーアは目を閉じる。
メルティはキルティーアが話し出すのを待っている。
彼は口を開いて、
「お前を探すためですよ」
「嘘!!」
キルティーアの言葉にメルティはすぐに叫び返した。
キルティーアは叫んだメルティに驚いていると、メルティは続けて叫ぶ。
「お兄ちゃんが出てったのは十年前!私を探すためなら、別に出て行く必要なかったじゃない!」
「嘘ではありませんよ。これは本当です」
ぎりっと、メルティは歯を食いしばって、
「嘘だ!私は信じない!探すためなら、何で出て行ったの?したいことって何!?」
泣きそうになりながら叫ぶメルティにキルティーアは、
「今ので一つ目は終了。もう一つ聞きたいなら、僕を攻撃しなさい」
メルティは、キルティーアが言い終わると同時に走り出す。
斧には既に雷が纏っており、技を出す準備も出来ていた。
だが、
「無駄ですよ」
キルティーアが関節剣を伸ばして、メルティの太股に突き刺す。
「ッ!?」
がくん、と体勢を崩して肩膝をついてしまうメルティ。
キルティーアは素早く、太股に突き刺した関節剣を戻して、メルティの首に緩く締め付ける。
勝敗は決した。
今の状況で、メルティが勝つなどと言える人物はいないだろう。
キルティーアは勝利を確信し、いつでもメルティを殺せるし、勝てる今の状況で口を開く。
「終わりですよ。所詮、お前は僕には勝てない」
メルティの口から言葉は出ない。
出すことが出来ない。
「大好きな人が頑張っている。そう言いましたよね。それは、あの天子ですか。言っておきます」
キルティーアは言葉を区切って、
「今のお前じゃ彼の足元にも及ばない。僕らは一番弱いのは藤崎恋音だと思っていましたが、違うようですね。一番弱いのはお前ですよ」
キルティーアが首に巻かれている関節剣で締め付けようと、関節剣を引こうとする。
メルティはどうする事も出来ない。
この状況を打破することも。覆すことも。首の高速から逃げ出すことも。出来そうに無い。
だから、思考が停止する。
(……ヤダよ……まだ、死にたくない……。まだ、みんなと……)
メルティの『生きたい』という本能が無意識に作動し、
不意に、『時の皇帝(タイムエンペラー)』を強制的に解放させる―――。
189
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/02(日) 19:29:47 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
メルティは気がつけば真っ白な光に包まれていた。
そこは、何処を見回してもただただ眩いほどの光が目に映るだけだった。自分の手にはいつもと同じようにハルバード状の剣(つるぎ)がある。が、目の前にいたキルティーアはいなかった。
(……どこだろ……ここ……)
寝ぼけたように頭が回らないメルティ。
すると、一気に目を覚まされるように、自分の右手で握っている剣(つるぎ)が何者かに奪われる。
「ッ!!」
いきなりのことで反応が出来ず、するりと自分の手から剣(つるぎ)が奪われ、メルティの横から奪ったと思われる銀髪の人影が前へと駆けて行く。
「……な、誰!?返してよ!!」
光の先へと消えていく人物は、視線を後ろへ向ける。
逆光で顔は分からず、性別も判断できなかったが、女性のようなシルエットだと思った。
謎の人物はメルティに視線を向けたまま、告げる。
「やっぱお前じゃダメだ」
その人物は続けて、
「私がやる。お前はそこで指くわえて見てな」
ガッ!!と首に緩く巻きついている関節剣をメルティの腕が掴む。
「……?」
キルティーアが不審そうに眉をひそめていると、
「……まったく、下手糞なんだよお前。殺す気でいかねーと、こっちが死んじまうだろうが」
「……誰ですか、貴女は?」
いつもと違う妹の口調に、キルティーアは僅かに焦りを見せながら問いかける。
銀髪の女は『ああん?』と不機嫌な声を漏らして、顔を上げる。
「テメェの妹だよ」
顔を上げた瞬間、銀髪の女は鋭い拳をキルティーアの腹部に叩き込む。
くの字に曲がり、下を向いてしまったキルティーアの顔面に次は膝蹴りが突き刺さり、更に、キルティーアは後ろの壁へと蹴り飛ばされる。
その蹴りの威力で、関節剣が強引に引きちぎられ、首の拘束が無くなった銀髪の女は、
「あーあ、苦しかったぁ。頚動脈(けいどうみゃく)イッてたらどーすんだっつの」
腰までの先に軽くウェーブが掛かった白よりの銀髪に、鋭い眼光。更に耳には大き目の金色のイヤリングがつけてあった。
キルティーアは、口の血を左の手の甲で拭い、睨みつけながら告げる。
「……もう一度訊きます。お前は誰だ」
「だーから言ってんじゃねーかよ」
女はニィ、と怪しげな笑みを浮かべて答える。
「メルトイーアだよ。二十八歳のなぁ」
190
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/02(日) 20:43:51 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
目の前に現れた銀髪の女の口にした名に、キルティーアは何も言えなかった。
ただ単に信じたくなかっただけかもしれない。
こんな凶暴な女が、将来の自分の妹だと。
「ハッァーイ、オニイチャン?あ、違うよなぁ。今私は二十八歳でぇ、確かオニイチャンは二十六か。じゃあ私が年上じゃん!」
メルティは一人でぶつぶつと呟き、笑みを浮かべたり、首を傾げたりとハタから見れば、かなりシュールな光景だ。
キルティーアは、刀を構えて、
「貴女はメルティ、で合ってるんですよね?」
そう問いかけた。
メルティは鋭い眼光をキルティーアに向け、
「だったら何だよ。文句あるぅ?」
「……なら」
キルティーアの刀から離された刃の一つ一つが、メルティを囲うように、浮いている。その刃のどれもがメルティに向いていた。
それでもまったく表情を変えずに、状況に首を傾げているメルティにキルティーアは、
「戦いの続きをしましょうよ。まだ、勝負はついてませんよ」
「いーや、ついてるよ」
メルティは前髪をかきあげ、
「お前が勝てるワケねーじゃん」
瞬間、囲っていた刃が一斉にメルティに襲い掛かった。
刃がメルティの身体を見せないほど突き刺さり、キルティーアはフッと勝利の笑みを浮かべたが、
物が壊れるような、耳を突く音とともに、メルティが剣(つるぎ)を振るい、刃を弾き、無傷で立っていた。
「……」
キルティーアの口から言葉が失われる。
「オイオイ、こんなモンで終わらせようとすんじゃねーよ」
「くっ……」
キルティーアは続けて、刃で巨大な鳥を作り出す。
それを見たメルティは、ニッと楽しそうな笑みを浮かべる。
「『刃鳥朱雀(じんちょうすざく)』」
刃の鳥は凄まじい勢いで、ジェット機のようにメルティへと襲い掛かる。
だが、メルティは両手でハルバード状の剣(つるぎ)を握り締め、
「おらぁ!!」
思い切り振るう。
またもや、物が壊れるような音とともに、刃の鳥が無残に砕け散っていった。
キルティーアは目を大きく見開き、驚いている。
(……雷を纏ってなら、まだ分かる……!だが、そのままで、だと……?)
キルティーアの技を打ち破ったメルティの剣(つるぎ)には雷は纏っていない。
つまり、これが二十八歳のメルティとキルティーアの実力の差。
「……あのさぁ、意外とつまんないから。とっとと終わらせる形でオーケー?」
気だるそうに問いかけるメルティに。キルティーアは思わず構える。
だが、メルティはそんなこと全く気にもかけず、
「構えるんじゃダメだよ。逃げろよ」
メルティは高く跳び、ハルバード状の斧に、雷を纏わせる。
恐らく『電千鳥(でんちどり)』だろうが、今纏っている雷は先程の比ではなかった。
「『雷鳥降地(らいちょうこうち)』」
雷は巨大な鳥となり、メルティが剣(つるぎ)を横へ薙ぐと、その鳥はキルティーアに向けて、襲い掛かる。
鳥が地面に激突した音とともに、アジト全体が大きく揺れ、メルティとキルティーアの戦いは決した。
191
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/07(金) 18:48:50 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十八閃「最強の隊長」
メルティとキルティーアが戦っていた場所は土煙で何も見えなくなっていた。
はれていくと同時に、一つの影が佇んでいる。
二十八歳のメルティだ。
彼女はただ一つの方向を見ている。そこにあるのは、仰向けに倒れているキルティーアだ。
メルティはニヤリ、と怪しげな笑みを浮かべ、
「……まだ生きてるのかよ。つーか、さっさと死んでくんないかなぁ?こっちだって暇じゃねーってのに」
メルティは頭をかきながらキルティーアに近づいて行く。
キルティーアは荒々しい呼吸をしながら、なんとか目線をメルティへと向けた。
「……すいませんね……。僕は、結構しぶといんで……」
「そーだな」
メルティはハルバード状の剣(つるぎを上へと振り上げた。
冷たい眼でキルティーアを見下ろしながら、
「んじゃ、とっとと殺しちゃうけどいーかな?遺言とかあれば聞くけど?」
キルティーアは、口の端から血を流しながら、笑みを作る。
そして、一言。
「ありません」
「あっそ」
メルティの剣(つるぎ)が振り下ろされる。
その時、
ふらっと、メルティの身体が後ろに揺れる。
彼女の手から剣(つるぎ)が離され、二十八歳から十六歳のメルティへと姿を変えた。
「……!?」
キルティーアはその様子に驚きながらも、何とか身体を起こして、倒れる彼女の身体を抱きとめようとするが、身体が動かない。
だが、彼が身体を動かすこともなくなることを、キルティーアは知る。
何故なら、入り口から矢のような速さで飛び込んできた切原魁斗が彼女の身体を抱きとめたからだ。
「……っ、セーフ……」
魁斗は僅かに冷や汗をかきながら、ホッと息を吐く。
「すげー土煙が奥から出てくるから何かと思えば……メルティだったのか。コイツ傷だらけだけど大丈夫か?」
ふと、魁斗はキルティーアに視線を移す。
相手もボロボロで、倒れているところを見ると、メルティが勝った事を何となく理解した。
魁斗は壁にもたれさせるように、気を失ったメルティを座らせる。
「……アンタ、何かメルティと似てるよな。もしかして兄貴か?」
「ええ、ご名答」
キルティーアは上体を起こして、そう答える。
『妹を気にかける隊長がいる』とメルティから聞いていた魁斗は、こいつがそうか、と納得する。
「貴方が、切原魁斗さん……ですよね」
「ああ。そうだけど?」
キルティーアは、目を閉じて、
「……後で、メルティに伝えておいてください」
?と首を捻る魁斗にキルティーアが続ける。
「僕が。『死を司る人形(デスパペット)』にいた理由を」
192
:
ライナー
:2011/10/07(金) 23:01:17 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
ども、ライナーです^^
ついに魁斗君出ましたね、にしてもメルティが……^^;
未来って何があるか分からないもんですね。
続きを楽しみにしております!
ではではwww
193
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/08(土) 00:07:14 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます^^
はい、やっと主人公出てきました!
といっても、桐生とスノウの戦いで一瞬出ましたけど…中々出す機会がなくて…
ですよねぇ。
あんなお子様なメルティがああなるとは……十二年後に何があったのやら((
はい、ありがとうございます!
お互い頑張りましょうね!
194
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/08(土) 00:32:04 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「メルティの奴は……お前がここにいる理由を知りたがってたのか?」
ええ、とキルティーアは浅く頷いて、
「戦闘中に何度もしつこく言及されました。その度、うやむやにして答えるのは控えましたが……彼女の『時の皇帝(タイムエンペラー)』のせいでこの有様ですよ」
はは、とキルティーアは軽く笑い飛ばす。
魁斗はキルティーアを見つめて、
「じゃあ話してくれ。俺も、メルティが知りたがってるなら教えてやりたいし」
「ええ。十年前……十歳差の僕ら兄妹は、貧しいながらも、普通に過ごしていました。母はメルティを産んで三日後に、父はその三年後に他界しました。僕は、メルティを守って生きてきたんです」
ですが、とキルティーアは一度区切る。
彼の目線は、気を失ったまま座らされているメルティのブレスレット―――、つまりは『時の皇帝(タイムエンペラー)』へと移った。
「彼女が手にしている『時の皇帝(タイムエンペラー)』は相当希少でしてね。家に何度も奪おうとする奴らが来たんですよ。僕は彼女を守るために、家を出て、『時の皇帝(タイムエンペラー)』を狙う盗賊や集団を片っ端から潰していきました」
一つ、は駄目だ。
一つ潰したところで、噂の伝染の拡大は期待できない。これ以上狙う奴らが現れないようにするためには、一つでも多く潰して『「時の皇帝(タイムエンペラー)」を狙うとロクなことがない』と思わせる必要があったのだ。
魁斗はキルティーアの言葉を聞いて、
「それが、ここに入った理由か?」
「いえ、まだ続きがあります」
キルティーアは続ける。
「僕が家を出たのが十年前。その二年後、家に戻ると、彼女の姿はありませんでした。僕は大きな組織に入り、少しでも彼女の居場所を突き止めようと尽力したのですが……」
「突き止めたのは六年後。そんで、敵として。ってワケか」
はい、とキルティーアは頷く。
「何で自分から話さないんだよ。アイツだって、お前から聞きたいに決まってるだろ」
「僕にはその資格がありません。守ろうとした人を放って、傷つけて、寂しい思いをさせて。そんな僕に兄として語る筋合いはありませんよ」
魁斗は深い溜息をつく。
溜息をついてから、キルティーアに向かって、ただ一言告げた。
「馬鹿野郎が!」
その言葉と共に、キルティーアの頭に重い衝撃とやけにコミカルな音が響く。
突然のことで意味が分からず頭を押さえ、キルティーアは魁斗を見る。
「んなことでウジウジ悩んでんじゃねぇよ!自分から語る資格がないだぁ?真実を言うのに、何で資格が必要なんだよ!」
魁斗は怪我人であるキルティーアを気にもせずに、彼の胸元を掴み、引き寄せる。
キルティーアは驚いたような表情で硬直してしまっている。
「……アイツを守りたいって思ったんだろ。傷つけたって分かってるんだろ。寂しい思いをさせたって気付いてんだろ。だったら、それを謝るために自分で語るべきだろ!人任せにしてんじゃねぇよ!そんなことぐらい自分で話しやがれ!!」
大きな部屋に魁斗の声が反響する。
やがて、キルティーアの胸倉を掴む手を離し、出口の方へと歩を進める。
そんな魁斗を引き止めるようにキルティーアは口を開く。
「なるほど、メルティが興味を持つのも頷ける。切原さん。ここから先、いるのは最強の隊長と謳われる第一部隊の隊長です」
「……ソイツを倒せば、丸く収まるのか」
「恐らくは」
ニッと魁斗は笑みを浮かべて、
「じゃあ行ってくるぜ!傷が痛くてしょうがない時は、メルティの持ってるフォレスト作の薬を使うと良い!」
魁斗は自慢の脚力で、最強の隊長がいる部屋へと走っていく。
彼の背中を見えなくなるまで追っていたキルティーアは、メルティに視線を移す。
「……良い人ですね。メルティが、恋愛感情を寄せるのも分かる気がします―――」
キルティーアは立ち上がり、魁斗とは別の、つまりは入り口へと歩いていく。
195
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/08(土) 09:43:26 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗は長い廊下を走り、ついに廊下の出口で、最強の隊長とやらが待っているらしい部屋の扉が見えてくる。丁寧なことに既に開いていた。
魁斗は突っ込むようにその扉をくぐり、目の前に立つ男を見つめる。
いるのは、オールバックで前髪が少しだけ出ている右目に縦に走る傷がある三十代の男だ。その男は口にタバコをくわえていた。体型はかなりがっしりしていて、キルティーアとはまた全然別の印象を与える男だ。
自分を見つめる魁斗に、男は面白そうに笑みを浮かべて、
「よォ、待ってたぜ。もー、来ないのかもと思ったが、待ちくたびれてよかったってワケだ」
魁斗は僅かに笑みを見せて、答える。
「よく言うじゃねぇか。ここに来るって分かってたからずっといたんじゃねぇの?」
「ハハハッ。案外そうかもなァ。きりばらかいと!」
「きりはらだッ!!苗字で間違えられるの初めてだぞ!?」
魁斗は思わず叫んでしまう。
とは言っても、名前で間違えられたことはあまりない。少し言い淀むこともあるが、大体は呼んでくれる。
男はタバコの煙をふかしながら、
「あれ?そーだっけ?勘弁なぁ。名前覚えるの苦手なんだよ、俺」
「そういうレベルか!?まあいい……」
魁斗は溜息をついて、剣(つるぎ9を構える。
「さあ、始めようぜ。まず名前を名乗ってもらおうか!」
「おう、いいぜ。ようやくやる気になってくれたか!」
男も大剣状の剣(つるぎ)を発動する。
刀身は真っ赤で、見ただけで炎属性の剣(つるぎ)だと分かってしまう。
「第一部隊隊長のディルティールだ!仲良くしようぜ、小僧!!」
「切原魁斗だ。二度と間違えんじゃねぇぞ、オッサン!」
二人はほぼ同時に突っ込む。
光を纏った天子の刀と、炎を纏った最強の隊長の刀が激しくぶつかり合った―――。
「!」
レナは何かに気付いたように顔を上げ、辺りを見回す。
その様子に肩を僅かに震わせ、ハクアは驚く。
「……どーしたのよ、急に。ビックリするわね」
「いえ……カイト様が…」
レナから『カイト様』という言葉が出る時は、心配してる時だ。
むしろ、敵の本拠であるにも関わらず、自分の主を心配しない従者はいないだろう。もっとも魁斗とレナの関係は主従などという堅苦しいものではないが。
ハクアは、レナの肩に手を当てて、
「大丈夫よ。メルティさんや、怪我を負っている恋音ちゃんほど、心配はしなくてもいいわよ」
「わっ、私は別に心配など……!」
思わず叫びそうになるレナの頭にハクアは手を置いて、
「はいはい。そーね。少しでもカイト君のことを思うなら、先へ進むわよ」
「……ハクアは、心配じゃないんですか…?」
その言葉にハクアは、レナの方を振り返って、
「心配じゃないわよ。だって、カイト君だもん」
そう言うと、ハクアは再び歩き出す。その後をレナも追う。
196
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/08(土) 17:11:51 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五十九閃「天子VS最強」
魁斗とディルティールは何度も刀をぶつかり合わせていた。
力比べのつもりなのか、二人ともまだまだ本気ではないのが分かる。ディルティールの表情には僅かな笑みすらあった。
熾烈、とは言い切れない斬撃の応酬の中、魁斗はあることを感じていた。
(……可笑しい。コイツの斬撃にムラがある)
常に炎を纏っているものの、常に同じ威力の衝撃が腕に伝わってこない。
同じ、ではなくても戦っている時は大体同じ力で攻撃してくるはずだ。気を抜けない相手だと分かっているなら尚更。
現に、ザンザの時も、カテリーナの時も、レナとの修行の時も、どの斬撃もほぼ同じ力だった。
魁斗は距離を取るように、数歩後ろへ下がって、二本の刀を構える。
「……力の微調整なんかすんじゃねーよ!余裕のつもりか」
問われたディルティールはきょとんとして、
「ん、微調整?ハハハッ。冗談よしてくれ!俺はそんな細かい事したことねーよ!つーか、微調整ってどういう意味?」
大人として『微調整』の意味が分からないのはどうかと思う。
が、今はそれどころではない。
しかし、言葉の意味すら分からないし、細かい事はしたことない。相手の表情を見る限り、嘘ではないだろう。
だったら、
「……だったら、お前の斬撃のムラは何だ?強めだったり、弱めだったり、俺と同じくらいだったり」
「あー、気付いたのか、それ。中々やるじゃねーの」
は?と目を丸くする魁斗。
ディルティールはタバコの煙を吐いて、
「俺の剣(つるぎ)の能力なんだよ。俺の剣(つるぎ)『一騎当千(いっきとうせん)』は刀の炎の力が毎度毎度変わっていくんだよ。一人分の力から千人分まで。だからムラがあったっつーワケ」
つまり、相手の力は常にマックスは出せないということだ。
毎度毎度変わる。それは常にマックスの魁斗にとって、好都合だ。
「じゃあ、お前の力は最高でも千人分しかいかねーってことだな?だったら、こっちにも勝機が……」
「オイオイ、あんま勘違いすんじゃねーぞ」
魁斗の言葉が途中で遮られる。
ディルティールは、鋭い眼光で魁斗を睨みつけ、
「俺のバカみてーな魔力分を上乗せしたときを…考えとけってーの」
ディルティールの刀に、今までの比じゃない程の炎が纏う。
赤く燃え、紅く辺りを照らしている、その神々しい炎を、ディルティールは一気にぶつける。
「ほらよ、五百九十二人分だ」
耳を突く轟音と共に、魁斗の元へ巨大な炎の塊が飛ばされる。
彼の脚力を活かしても、この炎の塊は避けられなかった。
いや、あまりの圧に圧倒され、動くことが出来ずにいたのだ。
「ぷはぁ」
ディルティールの間の抜けた声が部屋に響く。
どれほどの魔力を使ったのか分からないが、彼の顔色に疲れた様子は無い。
彼の視線は黒い煙が上がる、魁斗のいた場所だ。
「いやぁー、派手にやりすぎたな。さっきからアジトが何回も揺れてっけど……こりゃここもヤベーかもな」
ディルティールはまるで誰かに話しかけているように話す。
「なあ、切原魁斗」
黒い煙の中に、二本の刀が纏う光で攻撃を緩和し、何とか立っている切原魁斗が見える。
魁斗は息を切らしながら、彼を睨みつける。
「……俺に振るんじゃねーよ」
197
:
ライナー
:2011/10/08(土) 17:22:43 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
キルティーア……何だか大変な人生歩んでますね。
自分も兄妹柄、兄なのですがここまで妹思いにはなったことがないです^^;
ディルティール面白いですね、能天気な性格結構好きかも^^
これからどんな技を見せてくれるか楽しみです!
ではではwww
198
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/08(土) 17:45:22 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます^^
はい、キルティーアは妹を殺そうとするけれど、実は妹思いなお兄ちゃんなんです。多分彼はシスコンでs((
そうなんですか?まあ、ここまで妹思いになるのは難しいですよ…w
オジサンは能天気というか、ただのお馬鹿さんです((
最強というからには、とてつもないことをさせてみようと思います^^
199
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/09(日) 00:11:38 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「さーてと、次はどんだけの量が出てくれるかなぁー?」
ディルティールはいかにも楽しそうな口調で、刀の切っ先を上に向けてくるくると回している。
先程の攻撃で、既にかなりのダメージを受けている魁斗だったが、それを気にしている暇は無い。
魁斗は刀を構えて、相手の出方を窺う。
「……いくぜ。二百七人分だ」
ディルティールが炎の塊を放つ。
しかし、大きさ的にもかわせない大きさではないし、速度も自分の脚力なら充分にかわせる。だが、
途中で、大きな炎の塊が、複数の火の玉に割れ、一斉に魁斗に襲い掛かる。
「何だとぉ!?」
不意を疲れた攻撃に魁斗は慌てて、動き回り、何とか全てをかわす。
「あー、逃げんなよ。当たらねぇじゃねーか」
「アホか!逃げるっつの!」
相手が敵だということを忘れてしまいそうなくらい、仲間にツッコむ時と同じトーンで相手にツッコむ。
しかし、かわせたとしても不利なのには変わりが無い。
魁斗は先程の攻撃でダメージを負っているが、かなりの魔力を消費したと思われるディルティールは息一つ乱していない。むしろ、楽しそうな笑みさえ浮かべている。
(……、相手はまだ俺を下って見てる。つーことは、手加減してるってことだ……一か八かやってみっか)
魁斗は脚に力を込めて、思い切り踏み込む。
自慢の脚力を活かして、一気にディルティールとの距離を詰め、刀を強く握り締める。
ディルティールは笑みを崩さずにkろえを迎え撃とうとする。
「ははっ。やってやろうじゃねぇのぉ!」
ディルティールが刀を横薙ぎに振るい、魁斗を斬りつけようとしたが
魁斗がニッと笑みを浮かべる。
魁斗はハードルを飛び越えるような軽やかさで、ディルティールの頭上を飛び越え、彼の背後に回りこむ。
「んなぁ!?」
その思いもしない行動にディルティールは驚きの表情を隠せない。
そして、魁斗は刀での攻撃ではなく、足を振りかぶった。
「サッカーとか苦手だけどな、ボール回されたらかなりのスピードで蹴れるんだぜ?」
魁斗の高い脚力ならではの蹴りがディルティールの背中に炸裂し、彼はそのまま吹っ飛び、壁に激突する。
ふぅ、と軽く息を吐いて、魁斗は刀を構えなおす。
「来いよ、これで倒せたなんて思っちゃいねぇさ」
ディルティールは『いてて』と背中の辺りを軽く摩りながら、立ち上がる。
それから、刀を構えて、ニヤリと笑みを浮かべる。
「はは……まあな。んじゃ、そろそろ本気、出すとすっかぁ!!」
一気にディルティールの雰囲気が変わる。
魔力が一気に放出されたのだ。
獲物が来ていない時に、まどろむ獅子から、獲物を見つけた時の相手を追い掛け回す獅子へと変貌していった。
彼の刀には魁斗が受けた時とほぼ同等の炎が纏っている。
「そーだよなぁ。これで終わったらつまんねぇもんな。さっさと始めようぜ。第二ラウンドだ」
「……何だよ、オイ。随分と面白いことになってきたじゃねーか……」
魁斗の表情には笑みが浮かんでいたが、このめちゃくちゃな状況に対して、笑うしかない時の苦笑だった。
「ッ!?」
ルミーナは肩をビクッとさせて、辺りを凄い勢いで見回す。
ルミーナと手を繋いでいた(強制的に相手が握ってきた)藤崎も必然的に動きが止まり、ルミーナを見る。
「……どうしたの?」
二人が足を止めたことにより、一緒にいたフォレストも足を止め、振り返る。
「どうしたんですか。まさか、ここに来てビビッてるなんてことは……」
フォレストはルミーナを見て、気付く。
彼女の身体が小刻みに震えていることに。
「……さん、が……」
震えている声でルミーナは言葉を紡ぐ。
「……ディルティールさんが、本気を出した……いくら天子さんでも……」
ルミーナは震える声でただ、
「………………勝てないよ……」
一言、告げた。
200
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/09(日) 10:33:53 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「―――何だ、この魔力は……?」
桐生はアジト全体に迸るとてつもない魔力に気付き、足を止める。
彼の顔には僅かな冷や汗さえも浮かんでいた。
「……何というか、説明のしようがないな……。危険で、猛々しくて……目に映るもの全てを焼き払うような魔力……!」
桐生は指で眼鏡を軽く上げる。
「誰だ、こんな奴と戦ってるのは―――?いや、一人しかいないか」
桐生は再び走り出す。
考えるのが面倒になった。仲間の勝ちを諦めた。だから走ったのではない。
考えついて、仲間の勝ちを信じたからこそ、彼を信じて走ったのだ。
そう、切原魁斗の勝利を信じて。
魁斗はディルティールの刀に纏う真っ赤に燃え上がる炎を見て、息を呑んでいた。
魁斗が今持っているレナから貰った剣(つるぎ)『祓魔の爪牙(ふつまのそうが)』は魔力によって纏わせた炎や、光の能力を自身の魔力の最大限分を常に纏わせる能力だ。しかし、逆に言えば、最大限分を常に出しているから、これ以上のパワーアップは望めない、ということだ。
「……スゲーな……やっぱ、最強って言われるだけあるじゃねーか……」
魁斗は無理な笑みを浮かべて、そう言う。
彼自身も、今の状態で勝てるとは思っていない。でも、勝たなければいけないのだ。
魁斗は脚に思い切り力を込めて、相手に突っ込む。
刀を振りかぶる、ディルティールの前で横薙ぎに払おうとした瞬間、ディルティールの横薙ぎの攻撃が魁斗の刀を二本とも弾き飛ばした。
「……な……」
ディルティールはニィ、と笑みを浮かべて、
「お前じゃ、まだまだ俺には早かったかな?」
ディルティールの蹴りが魁斗の腹に入り、魁斗の身体がくの字に曲がる。そこへ、畳み掛けるように、魁斗の顔にディルティールの膝蹴りが叩き込まれ、魁斗の身体は宙を舞う。
それから力なく、地面に仰向けに倒れてしまう。
僅かに呻きと呼吸が聞こえるが、立てる状態じゃない。
ディルティールは、タバコの煙を吐き出しながら、
「……ここまでだ。これが俺とテメェの差だ」
ディルティールガ踵を返し、歩き出そうとした瞬間、
「……、待てよッ!!」
魁斗の叫び声がディルティールの耳を突く。
彼が勢いよく振り返ると、魁斗は荒々しく息を吐きながら立っていた。
しかも、ただ立っているだけじゃない。
魁斗の身体を柔らかく包むように、淡く白い光が魁斗の身体を包んでいる。
(……何だ、あの光は……?)
ディルティールは見たことのない現象に眉をひそめる。
(……まさか、アイツが天子だってことも関係してんのか……?)
魁斗は遠くに弾かれ、転がっている自分の剣(つるぎ)を拾い、刀を構える。
それと同時に、魁斗を包んでいた光は消えてしまう。
魁斗は刀にありったけの光を纏わせ、
「―――さあ、続けようぜディルティール。そろそろ、決着つけようじゃねぇか!!」
「……ははっ。面白ぇ!最高に面白ぇぞ切原魁斗!!」
二人の戦いは、決着を迎えようとしていた―――。
201
:
ライナー
:2011/10/09(日) 15:01:41 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
一日おきコメントになってしまい済みません^^;
では、200レス到達おめでとうございます!
もうそろそろなんですかね、最終回。
そんな感じがします(違ったら済みません)
お馬鹿さんと天子君の決着がどうなるか楽しみです!
ではではwww
202
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/09(日) 15:10:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます^^
ありがとうございます!
自分でもよくこんなに続いたなー、とか思いますw
……いや、まだ最終回ではありません!
確かにこの第三章の最終回は近いですけど……
はい、もう決着がつきます!
お楽しみにしていてください!
203
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/09(日) 15:31:52 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十閃「炎を打ち砕く光」
「うおおおおっ!!」
魁斗は刀を光を纏わせて、咆哮を上げながらディルティールに突っ込む。
ディルティールも刀の切っ先を上に向け、くるくると回している。
そんな彼は僅かに笑みを浮かべていた。
「はははっ!いいね!そうだよ、お前みたいな強い奴はそうでなくちゃなぁ!!こんなところで終わっちゃあ、つまんねぇよなぁ!!」
刀を回すのを止め、自身の魔力で大きさを変えた炎の塊を魁斗に向かって放つ。
だが、魁斗は高く跳んで、この炎の塊をかわす。
そしてそのまま、刀を振りかぶって急降下してくる。ディルティールも、ただ待っているだけじゃない。
魁斗は光を纏った刀を、ディルティールは炎を纏った刀を、ぶつけ合う。
今度力負けして刀が弾かれたのはディルティールの刀だ。
魁斗はディルティールから距離を取るように離れると、
「……拾っていーぜ。公平な条件で倒さねぇと、意味ねぇからな」
「……こいつ……」
魁斗の口からそんな言葉が出たのは、余裕があるからではない。
ただ、相手を認め、自分より強いと分かっていても、本気でぶつかり合って、倒したいと思ったからだ。刀がない相手を倒すなんていう卑怯な手は使いたくない、と思っていたのだ。
ディルティールは刀を拾い、肩に担ぐように持つ。
「……よォ、天子。そろそろ限界なんじゃねぇの?隠そうとしても、肩で息してんのバレバレだぜ?」
「……隠そうとしてねぇよ……」
魁斗の体力は限界に近かった。
ディルティールは魁斗より魔力を使っているだろうが、魁斗との魔力の量が違う。ディルティールはほんの僅かに息を切らしているだけだ。
それに、魁斗はディルティールより、明らかにダメージを負っている。
恐らく、持久戦にもつれ込んでしまっては、魁斗の勝利はゼロに近い。
ディルティールは、タバコを吐き、靴底で灰の部分を消すと、
「んじゃ、俺も最後の一撃だ。次の一発、それに全力を込めるぜ」
ディルティールの刀に巨大な炎が纏う。
恐らく炎の量は千人分で、自身の魔力も付加させてるから、倍以上の威力を誇るだろう。
相手の本気を見た魁斗も自身の刀に光を纏わせる。
「俺だって、負けるわけにはいかねぇんだよ!!」
刀に纏う光が大きくなり、魁斗の身体が光に包まれたように眩しく輝く。ディルティールも、炎の量が大きくて、彼自身が炎になっているように見える。
「いくぜ」
二人は同時に突っ込み、刀を振りかぶる。
そして、光の刀と炎の刀がぶつかり、アジト全体が大きく揺れる。
204
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/09(日) 16:33:51 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
二人の刀はぶつかり合い、衝撃でアジトが揺れ、爆風が起こり、地面に細かいものや、大きいヒビを走らせていった。
魁斗とディルティールの咆哮が重なり、鍔迫り合いの状態が解かれる。
負けたのは魁斗だ。
魁斗の刀が弾き飛ばされ、回転しながら宙を舞う。
ここでようやく、勝利を確信したディルティールが笑みを浮かべる。
しかし、
「……まだだぜ」
ディルティールが魁斗の言葉で視線を落とした時だった。
魁斗の左手にはまだ刀が握られている。
ディルティールが自分の弾き飛ばした刀へと目を向けると、宙を舞っている刀は、一本だけだ。
ディルティールが攻撃態勢に移ろうとしたが、もう遅かった。
魁斗は両手で刀の柄を握り、ディルティールの刀へと思い切りぶつける。当然、ディルティールの手から刀は抜けて、魁斗の刀と同じように宙を舞う。
「……言っただろ」
魁斗が左から、右手へと刀を持つ手を変えて、振り上げる。
「負けるわけにはいかねぇって」
魁斗が刀を振り下ろし、ディルティールの身体を斬りつける。
斬りつけられたディルティールは、倒れそうになる身体に踏ん張りを利かせ、倒れずに、何とか立った状態で耐える。
「なっ……」
「……はは……。まだ、続けようぜ……!」
魁斗はディルティールのしぶとさに圧倒されていたが、宙を舞う相手の刀を見て、
「いや、どうやら決着はつくみたいだぜ」
魁斗の視線をディルティールも追う。
自分の刀か、と思いディルティールは眺めている。その刀はやがて、地面に刺さる。刺さると同時に刀の刀身が砕けてしまう。
「ッ!」
魁斗はフッと笑みを浮かべて、刀を肩に担ぐようにして持つ。
「な?言っただろ?」
ディルティールもしばらくきょとん、としていたがやがて口に笑みが戻る。
笑みが戻り、
「っははははははははははーっ!!」
大声でいきなり笑い出した。
今度はそのディルティールに魁斗がきょとんとする。
「確かに、お前さんの言うとおりだ!こりゃ、俺の負けだな!」
ディルティールは、その場に座り込み、
「行けよ。仲間が待ってるかもしれねぇぜ?さっきから負けてるのは、うちの連中だけみたいだからな」
魁斗は弾き飛ばされた自分の刀を拾い、剣(つるぎ)をブレスレット状に戻す。
それから、出口へと歩いて行きながら、
「ここにいるのって、悪い奴だけじゃねーんだな。エリザだって、キルティーアさんだってそうだった。アンタだってそうなんだろ?」
魁斗は笑みを浮かべながら、ディルティールに問いかける。
ディルティールはタバコに火をつけて、
「……自分で『俺は良い奴』って言う奴いねーだろ。俺は、ただ強い奴と戦えりゃ満足だからな」
魁斗フッと笑って部屋を出る。
切原魁斗VSディルティール。
勝者、切原魁斗。
205
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/09(日) 21:25:45 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ディルティールは、自分以外誰もいなくなった部屋でタバコを吸いながら、自分だけの時間をくつろいでいた。
それから入り口の方に視線をやると、何かに勘付いたように声を出す。
「……で、アンタはいつまでそこにいる気だよ、お譲ちゃん」
その言葉に、入り口から『ふえ?』という甲高い声が聞こえる。
入り口から顔をひょこっと顔を覗かせたのは、何故か少々困った顔をしている十六歳のメルティだ。
先程の『時の皇帝(タイムエンペラー)』の強制解放で、通常行く事ができない二十八歳に行った為、今は上手く制御出来ず元の年齢でいるのだ。
メルティは中へ入ると、ディルティールに近づいて行く。ディルティールは、メルティが近づくと、配慮か、タバコの煙を消す。
「何で天子の前に姿を現さなかったんだよ。恥ずかしいのか?」
「その前にどっか行っちゃったんだもん!アジトの揺れで目が覚めたら、お兄ちゃんもいないし!」
ディルティールは楽しそうに笑っている。
それに不機嫌になったのか、メルティは頬を膨らませ『ぶー』と唸っている。
「しっかし、あのガキ強いな。お前らの中で間違いなく最強だ。だって俺に勝ったし」
「……それって、自分が最強って認めてるってこと?」
まーな、とディルティールはあっさり肯定する。
メルティは呆れたように息を吐く。
「ねえ、ここの零部隊の隊長。私の情報網でも尻尾すら掴めてないんだけど……何か知らない?」
「知らねーよ」
メルティの質問にディルティールは即答した。
適当にも、面倒そうにも取れるような調子で。
「俺だって奴のことはほとんど知らねぇ。どんな容姿してんのか、年齢も、性別も、声も、剣(つるぎ)も。奴に関することは何も知らねぇ。マルトースなら何か知ってるかもな」
「マルトースって……第五部隊の隊長?」
「さすが情報屋。よーく知ってるじゃねぇか。俺は零部隊の隊長より、マルトースの方が気になるぜ」
ディルティールは参っている声で呟く。
メルティは、懐からフォレストに貰った薬の瓶を出して、相手の側に置いていく。
首を傾げているディルティールに、メルティは出口へ向かいながら告げる。
「使って良いよ。今の私には必要ないだろうから」
「何だよ、こりゃ」
「傷薬。すぐに効くワケじゃないけど、無いよりはマシでしょ?」
ありがとよ、とディルティールは短く礼を言う。
薬の代わりとでも言うように、ディルティールは口を開く。
「……次の敵は零部隊の馬鹿になるかもな。どんな奴か知らねぇが、気を付けろよ」
メルティはコクリと頷いて、部屋を出て行く。
ディルティールは新しいタバコに火をつけて吸い始める。
「さーて、俺はこっからどうすっかなー」
その言葉は、これから先の希望を楽しむようにも聞こえた。
206
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/10(月) 12:48:34 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十一閃「仮面」
レナとハクアは長い長い廊下を走っていた。最初の方は歩いていたが、だんだん傷も楽になってきたのか、走っても平気なぐらい回復したが、戦うにはまだ不十分である。
二人は巨大な扉の前で立ち止まる。
その扉は何の装飾もなく、ただただ大きいだけの扉だ。
レナはその扉を見つめて、思わずといった調子で呟く。
「……何だか、普通ですね。装飾がついていないというのも、可笑しいですし……」
「ま、気にしてもしょーがないでしょ」
ハクアは風を纏った薙刀を振りかぶっている。
レナに嫌な予感が走り、止めようとするが今から言っても遅かった。
「だぁっ!!」
ハクアは薙刀を扉にぶつけ、扉を強引に開く(というか壊す)。
扉の下半分は壊れ、人一人が余裕で通れる位の大きさの穴が出来た。
レナとハクアの二人が通る前に、残った扉の上半分が落ちて、下に瓦礫のように無造作に転がった。
ハクアは何でもないかのように扉をくぐっていき、レナは少々遠慮気味に通っていった。
部屋の中には大きさや、高さや、形が様々なブロックが置いてある。ただ、人より小さい物はなく、どれも正方形や長方形の形で、三角形などはない。色も真っ黒だ。
薄暗い部屋にそのブロックだらけが見える部屋で、
「不気味ですね。このブロックが何を意味するか分かりませんが……」
「中からエイリアンみたいなのが出てきたら面白いわよね」
どこが、とレナは思わず叫んでしまう。
だが、ハクアの『出てくる』は案外外れではなかった。
「何や、まだ二人かいな」
レナとハクアの耳に関西弁の女性の声が響き、薄暗い闇の中から細い刀身が伸び、レナへと襲い掛かる。
何とか反応できたレナはそれをかわし、刀を構えて叫ぶ。
「誰です!?」
ハクアも薙刀を構えなおし、辺りを見回す。
「おー、怖い怖い。女の子は、そんな怖い顔してたらアカンよ?」
薄暗い部屋に明かりがつき、攻撃してきた人物の姿が明らかになる。
その人物は縦の長方形のブロックの上に乗っており、長い紫の後ろ髪を全て前に垂らしている狐の仮面を被った女性だ。顔は分からず、年齢まではっきり分からない。
何の装飾も無いドレスのような衣服に、身を包んだその女は、依然睨みつけているレナに向かって、
「まーまー、落ち着き。ちゃーんと話すで」
恐らく仮面の中では笑っているようなトーンで告げる。
「皆揃ったらな」
207
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/10(月) 17:37:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
レナは白いドレスの狐の仮面を被った女性と睨み合っている。
女性の表情は窺えないが、恐らく笑みを浮かべているだろう。怪しく不気味な、どう思っているか分からないような笑みを。
「皆が揃ってから、正体を明かす……ですか。それは結構ですが、私達は二人います。怪我を負っていようと、簡単に負けることはありませんよ」
「どうやろなー。案外君ら楽にやられてくれそうやし、むしろ手抜いても勝てるんちゃう?」
「見くびられたものですね!」
レナは狐の仮面の女性へと突っ込む。
女性は刀を伸ばしたまま、動き回るレナを斬りつけようと刀を振るうが、上手く相手に当たらない。さすがに、手元と遥か下の刀身では動きが伝わるのに時差がある。腕を振るうタイミングが良かったとしても、刀身が動く頃にはタイミングがずれてしまう。
レナは思い切り跳んで、空中で女性とほぼ同位置にたどり着く。
思い切り刀を振りかぶって、横薙ぎに刀を振ろうとした瞬間、
横から、巨大な金棒を振りかぶった猫のような仮面を被った、黄緑色ツインテールの小柄な人物が襲い掛かる。
「ッ!?」
レナが何とか反応し、金棒の攻撃を刀で受け止めるが、あっさりと力負けし再び下の方へ飛ばされ、背中をブロックにぶつける。
レナの口から僅かに呻き声が聞こえるが、相手はいちいち気にしない。
さらに金棒の追撃がレナを襲う。今度は立ち上がって、相手の攻撃をかわす。
「二人、いたのですか!?」
「相手の余裕の理由はこれね。まったく、面倒ね!」
狐の仮面の女は仮面越しでも分かるような、笑みをこぼして、
「そーやでー?ちなみに、二人だけとちゃう。ほれ、止まっとると、また来るで?」
相手と距離を取り、完全に気を緩めていたレナの背後から、トンファーを振りかぶった、くすんだ金髪の狼の様な仮面を被った人物が襲い掛かる。
「レナ!!」
ハクアが叫ぶが、レナの防御もハクアの援護も間に合わない。
相手のトンファーがレナの頭を捉え、思い切りトンファーを振るうが、黒い影がレナを連れ去り、相手の攻撃は空を裂く。
「?」
レナを攫った黒い影はブロックの上に乗り、レナを叩きつけるようにブッ録の上へと落とす。
レナは自分を助けた人物に信じられないような目を向ける。
「……ざ、ザンザさん!?」
名前を呼ばれたザンザは低く舌打ちして、不機嫌そうな表情を浮かべている。
更に部屋には、カテリーナ、エリザ、クリスタ、ゲインの四人が入り、数の優劣はあっという間に覆された。
優劣がひっくり返りるが、関西弁の狐女はおsれでも他の二人に指示を飛ばす。
「数なんてどーでもええよ。まずは手負いの奴等から片付けるのが定石っちゅう―――」
女の言葉は途中で切られる。
何故なら下半身と刀が急に氷付けにされたからだ。
女は勢いよく入り口に視線を向ける。そこには、刀を突き刺し、眼鏡をかけた人物が立っていた。
「君の刀は封じたよ。数の優劣が何だって?」
そう、桐生仙一が。
レナとハクアは仲間の登場に笑みを浮かべる。
そして、動きを封じられた女の代わりに動こうとした、ツインテールの少女と金髪の女の首元に、それぞれ刀が突きつけられる。
藤崎恋音とルミーナだ。
魁斗達と元『死を司る人形(デスパペット)』のメンバーで、謎の仮面集団の動きを封じる。
そして、そこへ最後の人物が入ってくる。
「な、何か仲間の数増えてねーか?」
入ってきたのは、魁斗とメルティだ。
仮面集団を倒す間もなく、全員が揃った。
208
:
ライナー
:2011/10/10(月) 18:05:58 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
何だか凄い展開ですね、何だ謎の仮面集団!!
とりあえず、みんな頑張れ!そしてザンザが特に頑張れ!
でも、女性キャラではレナさんが大好きd((殴
ハクアさんも大好k((殴
メルティだってd((殴
一推しはレナさんです!
ではではwww
209
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/10(月) 19:11:30 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます^^
>>207
は結構ゴチャゴチャした感があったのですが…しかも今読み返せばフォレストの名前を書き忘れてた…orz
多分、今後元『死を司る人形(デスパペット)』で活躍するのはカテリーナだと思いまs((
でもなるべくザンザも活躍させます。ザンザとカテリーナは二人で一人なので!
何か女性キャラが多くなってしまって…僕はハクア推しでs((
自分が作ったキャラなので、大抵皆好きですがw
キャラを好いてくださって嬉しいです!
210
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/10(月) 19:46:29 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「ん?」
部屋に遅れてメルティと一緒に入ってきた魁斗は、目を丸くして辺りを見回す。
レナ達とは別に、違う意味で『見慣れた』相手が何人かいる。
そう、かつて敵としてぶつかった、三人が。
「って、何でザンザとカテリーナがいるの?エリザまで……しかも見たこと無い眼帯と小さい子までいるし!」
魁斗のよく分からない言葉に反応したのはクリスタだ。
「貴様は空気を読め!!何なんだ、貴様は!?緊張感を台無しにするな!!」
何だと!?と魁斗とクリスタが睨み合いを展開する。
この二人はちょっとのことですぐカッとなるため、ある意味似てるのかもしれない。
「ちょっと、話が進まないんで喧嘩なら後に回しちまってくださいよ」
二人に鋭いツッコミを入れて、とりあえず二人を黙らせたフォレストは三人の仮面集団を見る。
この場にいる誰もが、硬直して、動こうとしない。
そこへ、
「アメージングです!!まさかまさか、『死を司る人形(デスパペット)』の隊長と小隊隊長が裏切るとは!!」
テンションの高い声とともに、一人の男がブロックの上へと降り立つ。
真っ白い衣装に身を包み、マントをはためかせたマルトースだ。
「……、お前は」
魁斗とレナには見覚えがあった。
沢木を乗っ取ったプルートを撃退した後、現れたからだ。さすがに敵といえど、真っ白い衣装の人間をそう忘れることは無いだろう。
「おや、覚えててくれたようですね。天子さん。まあ、養育係さんも片隅に置いてくださってるようですが」
「ケッ。結局、今回のは全部お前の手の平の上ってか?」
ザンザは皮肉るような笑みを浮かべてそう訊ねる。
対して、ふふんと鼻で笑って、マルトースはシルクハットのつばに軽く手を添え、答える。
「そうではありません。するつもりがなかったのが、貴方達が上手く手の平の上に来てくれたのです」
その答えにザンザは軽く舌打ちをする。
表情には表さないが、エリザとカテリーナも心の中では舌打ちをしているだろう。
「そのとーり!全ては、貴方達のお陰なのよ!」
更に、別のブロックの上に一人の人物が降り立つ。
巫女服を着た、マルトースの部下であるカルラだ。
彼女を知らない者は、この中には誰一人としていない。彼女を見て、フォレストが思わず叫ぶ。
「お前は、ストリップ巫女!」
「誰がよ!!つーかアンタがストリップにしたんでしょ?私の事は『カルラたん』と呼びなさい!!」
こほん、とカルラは咳払いをして、話を進める。
「さて、それでは私達が今どのような立場にあるのか、説明してあげる。私達は『死を司る人形(デスパペット)』の上の組織に今は属しているの」
「上だと?」
クリスタの復唱にカルラは頷く。
エリザ達もそんな組織の存在は聞かされていない。
笑みを浮かべながら、マルトースは続ける。
「皆さんご存知ないでしょう?私達が属するのは、『六道輪廻(ろくどうりんね)』。そう!貴方達が誰も知らない、第零部隊の隊長がリーダーを務める、最強の集団なのです!!」
魁斗達は絶句する。
言葉が何も出ない。その組織が今まで戦ってきた『死を司る人形(デスパペット)』よりも強大な気がしたからだ。
対して、ザンザだけは冷静だった。
「……よく分かんねェけどよ、要はお前らを潰せばいいんだろ?」
「そうではありません」
ザンザの言葉にマルトースは否定する。
今まで黙ってた黄緑色の髪をツインテールにした少女が、元気よく手を挙げて、
「はいはい!今日は宣戦布告っていう難しい言葉をしにきただけなのだ!だってだって!今君達と戦っても勝ちは見えているのだからなのだ!」
「ま、そーゆーこっちゃ。今日は堪忍な」
狐の仮面の女はそう言って、下半身を凍らせていた氷を強引に砕き、他のブロックにいた全員がマルトースの元へと集まる。
マルトースは全員集まると、より一層笑みを深くして、
「それではまたの機会に会いましょう」
指を鳴らすと、マルトース達が姿を消す。
新たな敵『六道輪廻(ろくどうりんね)』。
まだ見ぬ強大な存在に魁斗達は今後の対策を考えるまでも無く、立ち尽くしていた。
「―――『六道輪廻(ろくどうりんね)』」
魁斗は、新たな敵勢力の名を小さく呟いた。
211
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/19(水) 16:53:22 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十二閃「一時の終結」
『死を司る人形(デスパペット)』との戦いが終わり、『六道輪廻(ろくどうりんね)』という勢力の判明してから、魁斗達はフォレストの小屋で二日間傷を癒していた。
しかし、魁斗達だけならまだしも、そこにザンザやカテリーナ達、『死を司る人形(デスパペット)』脱退組も一緒のため、小屋の中はかなりすし詰め状態だ。
「……つーかよ」
狭い小屋で、人数が多くさらに狭く感じられる小屋で魁斗がポツリと呟いた。
その言葉はたった一人の人物へ向けられる悪態の切り出しの言葉だ。
「何っでお前までいるのかなー?お前らが来たせいでさらにここが狭いんだよ!」
「うっせ、知るか!狭さに不満があんならお前が出てきゃいいだろうが、天子クン?」
悪態の言葉が向けられたのはザンザだ。
当初は敵として対立していたが、今は単に仲が悪い対立となっている。何故だか、この二人には共通する何かが感じられる。
「まーまー、カイト様。落ち着いてください」
「ザンザもホラ!喧嘩しない!」
そんな子どもみたいな二人を親のようになだめるのが、レナとカテリーナだ。
二人はいがみ合う似ている二人を止めながら目を合わせると、呆れたような溜息を同時についた。
「……お前、よくあんなメンバーの中で埋もれずにいられるな」
椅子に座って魁斗達の方を見ていた桐生にクリスタが話しかける。
桐生は僅かに息を吐いて、
「話すのも見るのも初めてだね。クリスタさん、だっけ?僕が『埋もれてない』じゃなくて、皆が僕に合わせてくれてるんじゃないかな?貴女も、一緒にいるメンバーは中々濃いと思うけど?」
クリスタは桐生の問いに少しの間も開けずに答えた。
「そうでもないな。私が何のために眼帯をつけていると思っている。これがあればキャラが立つだろう」
傷があるとか、そういう理由だと思っていた桐生は呆れたように苦笑する。
仲が良いように見える桐生とクリスタを不機嫌そうに眺める藤崎に、横に座っていたルミーナが口を開いた。
「なーんか、恋音ちゃん機嫌悪いね。もしかして、あの眼鏡の男の人のこと……」
途端に顔を赤くする藤崎。
バッと一気にルミーナの方を向き、口を塞ごうとしたが、ルミーナの後ろからハクアが口を塞ぐ。ルミーナは突然のことに『んん!?』と目を大きく開けて驚いていた。
「……セーフ。これでいい、恋音ちゃん?」
「ふぅ……ありがと、ハクアさん」
藤崎は溜息をつく。
藤崎の桐生に対する感情を僅かに悟っているハクアが安堵の溜息をつくと、横からゲインが、
「やっぱ綺麗やわ。なーなー、ハクアちゃん。良かったら僕と連絡先でも……」
ハクアがゲインの言葉を遮るように、彼の顔面を薙刀の柄で思い切り殴る。
ゲインがその場でうずくまって悶える光景を見て、目が合ったメルティとエリザは笑みを零す。
魁斗とザンザは未だに睨み合って言い合いをしており、レナとハクアはその二人を止め、桐生とクリスタは談笑をして、藤崎とルミーナは恋愛話で盛り上がり、ハクアはゲインを踏みつけている。
そんな平和な光景を横目に捉えながら、フォレストは薬の瓶の整理をしている。
整理をしながら、彼女は心の中で呟いた。
(……まったく、今まで対立してたことも忘れちまってますね。平和ボケしなけりゃいーですが……ま、たまにはこーゆーのも悪くないって思っちまうのは、まだ僕が戦いに慣れてないせいですかね……)
フォレストは僅かに笑みを零しながらそう思っていた。
そして翌日、魁斗達は天界から帰ることも。フォレストだけでなく、全員が何となく勘付いていた。
212
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/22(土) 00:38:24 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗達は、フォレストの小屋から出て、メルティに向こうの世界へと繋ぐ扉を出してもらい、扉の前に立っていた。
帰るのは天界に来たメルティ以外の五人。
扉を出すために出てきたメルティだけでなく、他のザンザ達、元『師を司る人形(デスパペット)』のメンバーもきていた。
ザンザは言いにくそうに、溜息をついてから唇を動かした。
「オイ、天子。今回はお前らと共闘するかもしんねェが、忘れんな」
ザンザは右の拳をスッと、前に差し出して、
「お前と俺は敵同士。これは変わっちゃいねェ。全て終わったら、俺はお前を潰すぞ」
「ハッ。『終わったら』なんて言わず、いつでも来いよ」
余裕のつもりか、それもと修行相手になってもらうつもりか、または何も考えていないだけか。魁斗はそう答えた。
それから、挨拶をするように魁斗はごく自然な動きで、ザンザの拳と自分の拳を突き合わせた。
その様子を横目で捉えていたカテリーナは、レナに向かって呟くように言う。
「……実際、私の目標もレナさんなんだよねー」
言葉に気付いてレナがカテリーナの方を向く。
カテリーナは笑みを浮かべて、レナの手を握ると、言葉を続ける。
「私もザンザと同じで、レナさんのこと、ライバルだと思ってる!だから、私が勝つまで負けないで!」
レナは『ライバル』と言ってもらえたのが嬉しかったのか、表情を綻ばせ数秒固まると、はっきりとした笑みを見せて、コクリと頷いた。
「カテリーナさんも。負けないでください!」
桐生は小屋の中と同じように、クリスタと話していた。
何故か気が合い、会話が弾んで仲が良くなったらしいのだが、どうもこのツーショットは有り得ないと思う。
「次は貴女達の力も必要になりそうだ。手を貸してくれますよね、クリスタさん」
「ああ、断る理由もないな」
二人は力強く握手を交わす。
二人には、それ以上の物は何も必要ない。言外にそう語っていた。
「じゃあね、ルミーナちゃん!何かあったら私達を頼ってね!すぐ助けにいくから!」
「……はい、じゃあ、また……」
小さく手を降るルミーナに、藤崎は微笑み返す。
ルミーナも小さく表情を綻ばせる。
一方で、ハクアはいつまでも付きまとうゲインに嫌気が差していた。
むしろ、嫌気が差さない人物を見て見たい気もするが。
「あー、もう鬱陶しい!何回断れば気が済むのよ!」
「だってぇー!連絡先だけやん!それぐらい教えてーなー!」
このままじゃいつまで経っても、帰れない。
ハクアは溜息をついて、譲歩したように、
「分かった。次の戦いで成果を挙げたら教えてあげる」
ホンマ!?とゲインの目が眩く光る。
やっと解放されたハクアは脱力している。
「……」
魁斗は思い残すことの無いような表情で、最後に告げた。
「じゃあな、天界!!そして、皆も!世話になったぜ!!」
魁斗の言葉を合図として、扉をくぐっていく。
それは、戻るための一歩であり、未来へための一歩であり、戦いから解放される一歩でもある。
それと同時に。この一歩は彼らを新しい戦いへと誘(いざな)う―――。
そんな、激動の一歩。変動の一歩。死闘の一歩。
これは、束の間の平和。束の間の休息。
そして背後から、忍び寄るは
『次ノ戦イヘト誘ウ、妖シク蠢ク死色ノ影也』
213
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/22(土) 12:41:50 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗達が住んでいる、天界で言うところの『人間界』。
時刻は午後五時過ぎ。丁度学校も終わり、街には学生や晩ご飯の買い物に出かけた人の姿なども見える。
住宅街の中にひっそりとある、幼児達が遊ぶような公園の上空から声が降りてくる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」
落ちてきたのは、魁斗だ。彼はうつ伏せに倒れ、起き上がろうとする前に、桐生、ハクア、レナ、藤崎の順でどんどんと魁斗の上に人が積み重なっていく。
一番上で、特に何の重さもない藤崎は(まだ乗ったままだからレナの背中に)座って、辺りをキョロキョロと見回している。
それから、公園の景色を思い出したように、
「あ、そーだ!ここ私達が天界に行くときに扉くぐった公園だ!」
ぽん、と手を叩いて言う藤崎だったが、乗られている方からすれば、早く退いてほしいわけで。一番下の魁斗が何を思っているかは誰でも想像できるだろう。
「……藤崎さん……。と、とりあえず……まず降りて……」
桐生が振り絞るような声で告げる。
それから、藤崎は自分の下に皆がいたことに気付かないような顔を向けて、僅かに顔を蒼くすると、短い悲鳴を上げて、急いで人の山の頂上から降りた。
やっと人のリアルな重みから解き放たれた魁斗は深い溜息をついて、藤崎と同じように辺りを見回す。
「……確かに、俺らが行くときに使った公園だな」
「ですね。誰もいなくてよかったです……。もしいたら……」
空から降ってきて、後に出来上がった人間山を見られたら、恥ずかしくて外を歩けない。
それに、魁斗と桐生はそれほどでもないが、レナとハクアは見た目的にかなり特徴があるし、藤崎はテレビに出てるアイドルだ。アイドルが人間山の一角を担っていると知れたら、流石に大変なことになる。
ハクアは公園にある時計を見て、
「ねぇ、この時間って学校終わってるよね」
午後五時過ぎ。
確かに、六時間目までの学校なら終わっているだろう。部活動などならば、まだ続けているかもしれないが、大抵は恐らく帰っている。
「終わってるんだったらさ、行こうよ。あの場所」
魁斗達は分からぬまま、ハクアの先導について行く。
街に建っている、一つの家。
一般的な二階建ての家で、住むのには充分すぎるほどの大きさが見た目だけでもありそうだが、とても大家族が住んでそうには見えない。そもそも、中から声が全く聞こえないのが、原因の一つでもあるだろうが。
その家の二階には一人の少女が机で宿題のようなものをやっている。
淡い茶髪に、首からネックレスのような物をぶら下げている、一人の少女。
沢木叶絵。
彼女の家は現在両親とも何処かに行っていて、彼女が家に帰ってもいつもと言っていいほど一人だ。親は滅多に帰らず、帰ったと思えば、気付いたらまたいなくなっている。それの繰り返しだ。
「……ふぅ」
沢木は僅かに息を吐いて、ペンを動かす手を止めて、思い切り伸びをする。
それから、天井を見上げたまま、考え事をしてみる。
(カイト君……みんな。大丈夫でしょうか……?私が行っても何も出来ないことは分かってる……でも)
彼女の頭と心は色々は感情が渦巻いていた。
だが、一際大きいのは、ただただ単純な『不安』だ。
天界に行ったみんなのことを考えると、泣きそうになってしまう。そんなしんみりモードの沢木の耳に、
ピンポーン!というインターホンが聞こえる。
沢木は思わず椅子から落っこちてしまい、尻餅をついた。
沢木は起き上がって、階段を降り、玄関の前に立って、扉を開ける。
そこにいたのは、
「ほーら、やっぱいた。ね、来てよかったでしょ?」
自慢げな表情のハクアに、そんな彼女に呆れ顔の魁斗達の姿があった。
沢木は息が止まるかと思った。
「……あ……あ……」
上手く言葉が出ない。
一気に『不安』やその他の感情が消し飛び、彼女の頭と心にある感情が、皆がいるという『喜び』に変わった。
「サワ。んな顔すんじゃねーよ、今にも泣きそうじゃねーか」
魁斗は頭をぐしぐし、とかいて、全員と目を合わせると、みんなの代表のように、一言告げる。
「ただいま」
沢木は目から溢れる涙を拭って、泣きそうになる自分を必死に抑えながら、魁斗達に向かって、微笑みかける。
彼女が告げる言葉も、ただ一言だった。
「おかえりなさい」
To be next stage...
214
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/22(土) 13:32:08 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
<小休止>
とうとう、長かった『死を司る人形(デスパペット)』との戦いも終わりを迎えることが出来ました!
レナと出会うところから初めて、色んな戦いを乗り越えて、魁斗達も心身ともに成長したと思います。
さあ、次の敵は『六道輪廻(ろくどうりんね)』になるわけですが、まだです!
まだ本格的に『六道輪廻編』が開始するわけじゃないんです!
実は、次から始まるのは、『十二星徒(じゅうにせいと)編』なんです。
『十二星徒』……。初めて出てくるキーワードでありますが、こいつらの正体は本編で!
それでは、ここで新たに始まる『十二星徒編』の予告であります!
平和が戻った魁斗達。
だが、次の敵『六道輪廻』がいつ動き出すか分からない。
そんな折、魁斗達の学校に二人の転校生!?
しかも、片方は見たことのある人物で、もう一人は魁斗にメロメロ!?
―――そして、天界である噂が。
謎の組織『十二星徒』。
十二星徒編、始。
215
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/22(土) 17:28:59 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十三閃「転校生フィーバー」
「おはよう、切原君」
『死を司る人形(デスパペット)』との戦いから一週間が過ぎようとしていた。
学校への道を欠伸をしながら、鞄を肩に担ぐ形で歩いている魁斗に桐生は後ろから声をかけた。
天界から帰って来た魁斗達を待っていたのは、二日間の無断欠席という事で、生徒会長の久瀬詩織(くぜ しおり)からの説教だった。その説教を受けたのは魁斗、レナ、桐生の三人で藤崎は仕事でその日は学校を休んでいた。まあ、翌日に説教を喰らったのだが。
桐生は魁斗の左右を見て、
「今日はレナさんか沢木さんは一緒じゃないのかい?」
『今日は』ということは、いつも一緒にいるイメージでも定着しているのだろうか。
レナは間違っていないのだが、沢木は学校で一緒にいるというだけである。
魁斗は眠たそうにしながら、
「……サワは俺より先に学校についてる。今日はちょっと寝坊したから、レナも先に行ったよ」
「そろそろ、生活リズムを戻さないといけないんじゃないのかい」
うるせー、と魁斗は悪態をつく。
そもそも、戦いから一週間も経っていれば普通に生活リズムは整えられる。
今日の寝坊の理由は、ただ単に昨夜遅くまでレナに勝つまでオセロをやっていただけである。結果的に0勝49敗となってしまった。
魁斗と桐生は、学校の玄関に来て、靴箱のロッカーを開ける。
すると、桐生の手が止まる。
魁斗がロッカーの中を覗き込むと、二枚の封をしてある手紙が置かれてあった。
「それって、ラブレターじゃねーの?」
「……帰ってきてから妙に増えてね。しかも、学年もばらばらだ」
桐生は溜息をついて、手紙を鞄の中へとしまう。
とりあえず二人はそこで別れて、昼休みに屋上で集合ということになった。
そこへ、ふっと深緑の髪をポニーテールにした女子と魁斗がすれ違い、その彼女が何かを落としたのを視界の端に捉えたので、魁斗がその女子を呼び止める。
「あの、すいません。ハンカチ、落としましたよ」
魁斗が廊下に落ちたハンカチを拾い、すれ違った女子に声をかける。
その女子は足を止めて、魁斗の方へ歩み寄ると、笑みを浮かべて答える。
「あら、どうもありがとうございました。母から貰ったものなので、とても大切にしているんですの」
お嬢様口調で返され、僅かに面食らう魁斗だったが、魁斗は彼女に見覚えがあった。
確か、二年B組の風藤五月(かざふじ さつき)。
美化委員長を務めている、風藤グループの社長令嬢であるお嬢様だ。
ほんのりと漂う香水の香りに圧倒されつつも、魁斗はハンカチを風藤へと渡す。
風藤はお辞儀をし、顔を上げると、
「また会えるといいですわね。親切な後輩さん」
優しく、温かい笑みを向け、去っていった。
今まで、レナやハクアやメルティといった変な女が周りを囲っていたため、典型的なお嬢様に心が惹かれそうになる魁斗であった。
「転校生フィーバーだな」
魁斗はレナと沢木と話しながら、窓の景色に目をやりながら呟く。
レナと沢木は目を丸くして、硬直してしまった。
それから勇気を振り絞るかのように、沢木が口を開く。
「あの、どういう意味ですか?」
「だって、つい最近レナも来たし。今回桐生のクラスとうちのクラスに一人ずつ来るんだろ?フィーバーじゃん、祭りじゃん」
魁斗の微妙なテンションに顔を引きつらせるレナと沢木。
レナは引きつった笑みを浮かべながら、
「ま、まあいいじゃないですか…。このクラスに来る人とも仲良く出来たらいいですね」
レナがそう言うと、先生が入ってくる。朝のHRの合図だ。
生徒が全員席へ着き、静かになると先生が口を開ける。
「えー、皆の耳にも届いてると思うが、今日は転校生が来ている。とても元気な子だ」
すると、教室の扉が開き、転校生が入ってくる。
桃色の髪に小柄な体型で、頭頂部からは先が渦を巻いているアホ毛が立っている。その姿がとても可愛らしい少女だ。
その子は黒板に自分の名前を大きく書き始めた。
「……えーっとぉ、早乙女瑠璃(さおとめ るり)っす!!超乙女チック少女、瑠璃たん見参!仲良くしてちょ!」
出だしからいきなり皆に引かれている。
この瞬間、レナは魁斗に言った言葉を撤回したくなり、魁斗と沢木は関わりたくないと心の底から思ってしまった。
216
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/22(土) 22:10:16 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
授業中。
一限目は現代文だ。本読み以外で当てられることはないので、授業自体は静かで、あまり勉強できない魁斗もホッと安心していた。
転校生の早乙女瑠璃は魁斗の隣の席で一生懸命に版書をしている途中だ。
すると、手の甲に消しゴムが当たり、消しゴムが下に落ちてしまう。
それに気付いた魁斗は消しゴムを拾い、早乙女の方を向く。
「お前のか?」
というか明らかに消しゴムを落としてしまった、的な顔をしているので、訊くまでもなかったが。
魁斗は相手が差し出した手の平に消しゴムを置くと、
「気を付けろよ」
それだけ言って、再び版書に移る。
だが、早乙女の頬は僅かに赤くなっていて、ずっと魁斗を見つめている。
彼女の心の中で、恋に落ちる音がした。
今日の彼女の星座、おとめ座は。恋愛運が一位だった。
一限目が終わり、思い切り伸びをする魁斗。
休み時間になると、自然に魁斗の周りにレナと沢木が集まる。席も近いので、集まるより振り返るの方が正しいかもしれない。
と、休み時間の休息を遮るかのように教室の扉の方から、聞きなれた声が魁斗達三人に届く。
「切原君、沢木さん、神宮さんはいるかい!?」
神宮さん、はレナのこっちの世界での苗字だ。
扉の方から、誰かがずかずかとこちらへ寄ってくる。
声の持ち主は、桐生だ。
彼は教室の距離が遠いわけでもないのに、息を切らしていた。
「……来てくれ」
桐生は魁斗達に息を切らしながら告げる。
「とんでもない人が来たぞ」
魁斗達は桐生のクラスに足を運び、例の転校生を見に来た。
数秒、転校生の正体を知った魁斗達が硬直してしまった。
何だか、すごく見覚えがある人物だった。
淡いピンク色の髪をポニーテールにしている、茶髪の目つき悪い男といつも一緒に居るようなイメージが定着してしまった、
カテリーナだ。
「何でお前がここにいるんだよッ!?」
魁斗は思わず叫ぶ。
教室中の注目を集めているが、今はそんなこと気にならなかった。今は何故カテリーナがいるかの方が気になったからだ。
カテリーナは頭をかきながら、苦笑する。
「いやぁー、実はこっちにも色々事情があるのよ。とりあえず、話が長くなるから昼休みにさせてもらうけどさ」
何だか煮え切らない魁斗だったが、説明するならいいか、と歯がゆい気持ちで昼休みを待つことにした。
街中を、一人の少女が歩いていた。
少女なのだが、何故か学ランを羽織り、制服は男物の制服を着用している。
くすんだ金髪のその少女は照りつける太陽を睨むような眼光で、空を仰ぐ。
「……っくしょー」
それから悪態をつくような口調で、ポツリと呟く。
「……まだあっちぃ。学ラン羽織るんじゃなかったぜ」
217
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/23(日) 11:20:34 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
授業中、藤崎恋音はいたって普通の生徒だ。
学校に居る時だけは、アイドルという自身の職業も忘れ、周りの人と同じように授業に取り組み、友達と話したり、普通に食堂に行ったりもする。時折、授業中に目が合った時、微笑みかけるというサービス精神も忘れていない。
最近の学校は楽しい、と思えるようになった彼女は、前までアイドルという肩書きだけで寄って来た友達と言えるかどうか分からない人じゃなく、ちゃんとした友達もクラス内にいる。
藤崎が教室内の時計を見て、ポツリと思う。
(……あと十分、か)
ポケットに入っている携帯が授業中に何度かバイブで震えていたため、恐らくマネージャーからの仕事の連絡だろう。後で確認しなければ、などと思っているところに、急に教室の扉が開く。
入ってきたのは、くすんだ金髪に学ランを肩に羽織っている男子の制服を着た女子だ。目つきはかなり悪く、真正面で向き合っていると睨まれている感覚に陥りそうになる。
藤崎はその少女を見つめながら、
(……なーんか、どっかで見たことあるよーな。気のせいかな……?)
そう思いながら、隣の席の女子に小さい声で問いかける。
「……ねぇ、あの娘って誰?」
「ああ、恋音ちゃんは知らないか。國崎梨王(くにさき りおう)さん。恋音ちゃんが来たときに限って休んでた……って言っても通常でも結構休んでるけど」
ふーん、と藤崎は相槌を打つ。
それから、自分の席へ向かう國崎と目が合う。
皆にするのと同じように微笑みかけるが、國崎は鼻で息を吐き、完全に無視した。他の人なら同じように笑みを浮かべていたのに、見た目が不良なのでそういうのは通じないのか、と藤崎は思う。
授業が終わり、休み時間中に藤崎はずかずかと勇み足で國崎の席へと近づいていった。
周りの生徒が驚きの声と止めるような声が聞こえるが、藤崎の耳には届かない。
國崎の席に寄って、國崎が藤崎に視線を向けると、藤崎を唇を動かす。
「國崎さん、でいいよね?私、藤崎恋音っていうんだけど―――」
「だから何だよ」
言葉が終わる前に遮られた。
名乗ったところで別にどうということは無いが、名乗った後に手を差し出して、よろしくの握手でもしようとしてたのだが、真正面から計画が崩された。
それでも、藤崎はめげない。
「えーっとね、その、仲良くしよう!みたいな感じで声かけたんだけど……」
「知るか。俺に関わってんじゃねーよ。ほら、周りも若干引いてるぜ?」
國崎は藤崎に周りを見回してそう告げる。
そんなこと藤崎はとっくに気付いている。だが、何故だか分からないが、藤崎は國崎と友達になりたいと思った。
だからこそ、諦めずに声をかける。
「ねえ、下の名前……梨王ちゃんって呼んで良い?私の事も恋音ちゃんって呼んでいいからさ!」
國崎は重い溜息をついて、席を立つ。
怒ったんじゃ?と思い、クラスの皆が警戒するが、國崎は特に何もしようとせず教室の扉へと向かう。どうやらトイレのようだ。
去り際に、國崎は藤崎に告げる。
「どーぞご勝手に。お前を呼ぶことなんかねーと思うけどな」
藤崎は教室から去っていく國崎の背中を目で追いかけていた。
そんな中で密かに呟く。
「……絶対諦めない!」
その呟きを耳に入れてしまった一部の生徒はほんの一瞬、こんな思考が頭をよぎった。
『藤崎さんって、同性愛者なのかな?』と。
218
:
ライナー
:2011/10/23(日) 14:04:30 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
新しい場面は入りましたね!
転校生か……この言葉で思い出すのが、学校とかに「転校生」か来るらしいと言う噂を聞いて、女子だと分かると何故か男子生徒が校内をウロチョロして後でガッカリする場面ですね(この前見た自分状況)^^;
しかも、凄い苗字ですね。自分もこんなカックイイ苗字が良かっt((殴
ではではwww
219
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/23(日) 14:10:03 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
はい、新章突入ですね。
この話で新キャラが三人、そして名前だけ出たのが一人ですね。
で、カテリーナを転校生とした理由は、さすがにザンザとエリザはないだろうな、と思いましたw
クリスタもそんなキャラじゃないだろうし…。
カックイイですか?名前は結構気を遣ってるので、褒めてもらえて嬉しいです^^
220
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/23(日) 15:07:14 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十四閃「十二星徒」
昼休み。カテリーナは屋上のフェンスから手をかざして、街中の風景を眺めていた。
おー、と感嘆の声を僅かに上げて、表情をほころばせている。
「いいなー、いいなー。カイト君達っていっつもこんな景色見ながらご飯食べてるんだー」
「カテリーナさん」
風景を楽しんでいるカテリーナの背後から、突如やや不機嫌そうな声が飛んでくる。
振り返ると、そこに立っているのは飲み物とパン数個を持った桐生だ。
「おー、さんきゅー!」
カテリーナは桐生の手から飲み物とパンを二つほど受け取ると、嬉しそうな笑みを浮かべて、座り込んでパンの袋を開ける。
桐生もカテリーナと同じように座り込んで、
「……まったく、初めてだよ。転校生に購買に行かされたのは」
「じゃんけんで負けた方が買いに行くって納得したじゃん」
カテリーナは頬を膨らませているだろうか、パンをくわえているため、あまり分からない。
そこへ、更に魁斗とレナと沢木が屋上にやって来た。
「お、お前らもういたのかよ」
「僕はさっき来たばっかだけどね」
沢木はちょこんと座ると、辺りを見回して小さく呟く。
「あれ、恋音ちゃんは?」
そういえば、という顔で全員がはっとする。
学校には来ているようだが、今日はまだ姿を見ていない。出来れば、カテリーナの話があるので、全員で聞いておきたいところだが。
「……藤崎さんには、後で僕が伝えておくよ。カテリーナさん、話してくれるかい?」
「……うん」
カテリーナは口に含んでいるパンを、飲み物で一気に飲み干すと、ふぅ、と息を吐く。
それから、魁斗達の方を向いて、告げる。
「忘れた」
この後、カテリーナは魁斗にポニーテールを引っ張られ、桐生に頬をつねられるという悲劇が起こってしまった。
一方で、藤崎は國崎の前の机の椅子を借りて、彼女と向かい合うような状態でサンドイッチを頬張っている。
向かい合っている國崎は怪訝な表情で飲み物を飲みながら、藤崎に問いかける。
「オイ、お前いつまでそうしてる気だ」
「どーゆー意味?」
首をかしげて問いかける藤崎に、國崎は苛立った感じで答える。
「だから、特に話すこともねぇのに、いつまで俺と向き合ってメシ食ってんだって訊いてんだよ」
國崎の口調はかなり苛立っていた。
その様子に教室にいる生徒はかなりビクビクしている。
しかし、藤崎は全然怯える様子も見せず、
「だって、誰かと一緒に食べた方が美味しいでしょ?一人で食べるよりさ」
ふふー、と笑みを浮かべる藤崎。
それでも國崎の苛立ちは収まらない。この程度で収まるわけがない。
「何で俺に付きまとう?」
再び首をかしげる藤崎。
「二時間目と三時間目の終わりの休み時間。それに今の昼休み。俺の返事が生返事でも、お前は常に楽しそうに声をかけやがる。理解に苦しむんだが」
「……友達になりたいの、梨王ちゃんと」
國崎の表情が揺らぐ。
まるで信じられないものを聞いたかのように、懐かしい人の声を聴いたように、真意を突かれる言葉を言われた時のように。
「何でかよく分かんないけど……直感で思ったの。気が合うって思ったかもしれないし、優しそうって思ったかもしれないし、私に無いものを持ってそうって思ったかもしれないし」
國崎はずっと藤崎の言葉を聞いている。
「友達になろうって思うことに理由なんていらないよ。声をかけたら仲が良くなってることもあるじゃん?」
藤崎はニッコリと笑いながら、國崎に言う。
國崎はそんな言葉を聞いて、溜息をつく。呆れたような溜息じゃなく、やれやれといったような、そういう優しい溜息だ。
「……アホらしい。アイドルって皆そんななのか」
「ううん、多分私限定だよ」
「ぷっ。何だそりゃ」
國崎は思わず笑ってしまう。
今の彼女達を見て、友達じゃないと思うものは恐らく一人もいない。
藤崎と國崎の間に、僅かな友情が芽生えた。
221
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/23(日) 17:44:30 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
(……友達になりたいの)
(友達になろうって思うことに理由なんていらないよ)
五時間目の授業中、國崎の頭の中に、藤崎の優しく暖かい言葉が何度も何度も再生される。
國崎の席は窓側の一番後ろで、彼女は頬杖をつきながら、窓から見える外の景色をボーっと眺めていた。特に何も思うことはない。授業はつまらないし、ノートを写すのも面倒だし。ただただ上の空なだけだ。
(……友達、か)
國崎は心の中で呟くように、言葉を続ける。
(……いいモンだな。そういうのも)
表情には表さないが、國崎は笑みを浮かべそうになっていた。
そこへ、窓の外に意識が集中している國崎に、現在授業を行っている数学の教師が國崎を指名する。
「おい、國崎。結構余裕だな。次の問題、ちょっと難しいが―――」
「3だろ?」
相手の言葉を遮るように國崎は問題の答えを即答した。
あらかじめ問題を解いていたわけでも、答えをしっていたわけでもない。
ただ彼女は、一瞬問題を見てそれからすぐに答えを導き出しただけのことだ。
こんな性格だから色々勘違いされているが、彼女は実は勉強が出来る子なのだ。
「すっごーい!!」
チャイムが五時間目終了の合図を告げる。
それと同時に大声を出して國崎に近づいてきたのは、言うまでも無く藤崎だ。
先ほどの数学での即答でビックリしたのか、藤崎は目を光らせて彼女を見つめている。
「すごいね!梨王ちゃん、勉強できるんだ!私理数系だけは駄目なんだよねー」
はは、と苦笑してみせる藤崎。
國崎はそんな藤崎に応じるかのように僅かに笑みを浮かべて、
「まあ理数系だけが出来るわけじゃねぇ。この前英語の小テストあったろ?アレ、俺満点だったし」
「すごいすごい!!ホントに頭良いんだ!!」
藤崎はあまりの感動で我を忘れ、國崎の肩を掴んでがくがくと前後に揺さぶる。
國崎は激しい揺れに襲われ、藤崎に止めるように促すが彼女は全く気付いていない。
「……だぁー」
脱力した声とともに、魁斗は机に突っ伏す。
傍らでレナと沢木が苦笑しているが、魁斗は対して気にしていないようだ。
「……結局カテリーナが内容を忘れたせいで放課後ザンザに連絡するまで先延ばしかー。ああ、歯がゆいー!!」
魁斗は妙にむしゃくしゃしている。
この調子だと、五時間目の授業は対して頭に入らなかったことだろう。
「まあ、気長に待ちましょうよ。あと、一時間ですし……」
沢木は魁斗を慰めている。
「……ですが、気になりますね。今何が起こってるのか。もしかしたら『六道輪廻(ろくどうりんね)』が動き出したかもしれませんし……」
「ああ、有り得るな」
魁斗達は心の準備をして、放課後を待つことにした。
桐生は教室で隣に座っているカテリーナに問いかける。
「本当は忘れてなんかないくせに」
含み笑いをして、楽しそうに誤魔化すカテリーナ。
「だって、どーせ話すならさ、恋音ちゃんもハクアさんも居た方がいいでしょ?」
「それだったら、後で連絡するって言ったじゃないか」
それじゃ駄目なの、とカテリーナは断じる。
指先でペンを弄びながら、言葉を続ける。
「ちょこーっとややこしいからね。私が口頭で全部説明した方がいいのよ」
222
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/28(金) 23:55:00 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
学校が終わってから、魁斗達は別クラスの藤崎、桐生、カテリーナと合流する。魁斗とレナと沢木は同じクラスなので合流などは必要なかったが、何故か走り回った後のように三人の表情は疲れ切っている。
その三人に、桐生達は首を傾げるが、とりあえず駅へと向かう。
駅で何かするわけでも無いが、一応カテリーナがここでザンザに電話をするために立ち寄ったらしい。実際は、本当に伝えるべき内容を忘れていた。色々伝えなければいけない、ということは辛うじて覚えていたらしいが。
『アホかァ!!』
電話越しにザンザの怒鳴り声がカテリーナの耳を突き刺す。
カテリーナの前に立っている魁斗達も少々耳を傷めたため、耳元で聞いていたカテリーナの鼓膜は大丈夫だろうか、と本気で心配になってくる。
カテリーナは慌てた様子で電話の応対をしている。その大変さは、彼女の連続でしているお辞儀で何となく分かる。
終わったのか、彼女は携帯電話を仕舞って軽く息を吐いた。
「で、今天界で起こってる事はね、ある組織が動き出した。その名は『十二星徒(じゅうにせいと)』。十二星座って知ってるよね?その星座一つ一つを司る者達のことよ」
カテリーナの声色が突然変わる。
学校で聞いた、飄々とした天真爛漫な声ではなく、戦いに長年身を投じているような、貫禄のある戦士の様な声だ。
カテリーナは続けて、
「詳細は不明なんだけどね、天界では何度か騒がれているのよ。出てきては消えるイタチごっこで、目立った被害がないんだけど……レナさんなら知ってるでしょ?」
カテリーナの問いにレナはコクリと頷く。
「私も何度か耳にしたことはあります。何がしたい集団なのか分からない、とか」
「そう。今回も……って言いたいトコだけど、エリザ様の考えが、カイト君にあるんじゃないかって思ってるのよ」
全員の視線が魁斗に集中する。
そう、かつてはカテリーナやザンザも彼の命ではなく、彼の中にある『シャイン』という未だ謎が多く残されている物質を狙っていたからだ。元敵であるエリザらしい着目であるとも言える。
桐生は、眼鏡を上げると、
「でも、敵も生半可な奴じゃないはずだ。天界での僕らの戦いは知っているだろうし、それこそ今まで小規模な被害を起こさなかった半端な連中ばかりじゃないだろうね」
藤崎も軽く頷く。
沢木は胸の辺りで右手で左手を包み込むように握り締める。
「……このこと、ハクアさんに言わなくていいんですか……?」
「実はね、ここで召集してないって言ったらあとでエリザ様が話してくれるって」
そのことに一応安心する沢木。彼女もハクアの強さは知っている。彼女がいれば、心強い事は間違いない。
すると、状況を見計らったように、一人の人物が現れる。
「お?カイト君じゃまいかー!!」
途中で国名を挟まれたが、魁斗とレナと沢木にはこの声はとても聞き覚えがあった。
今の状態なら誰か即答できる自信がある。
桃色の髪に小柄な体型、頭頂部に先が渦を巻いたアホ毛が立っている、超乙女チック少女の瑠璃たんが見参してしまった。
今の会話を聞かれていないだろうか、と思う魁斗達だがその悩みは一気に解消する。
「もー、いつの間にか校舎からいなくなるしぃー!帰ってたんだ!皆カイト君のお友達ー?」
瑠璃はレナと沢木以外に視線を向ける。
あの会話を気にする様子は無いため、恐らく聞かれていない。
にしても、最初魁斗達が疲れていたのは、追跡する彼女を撒く為に体力を使い果たしたからだった。三人が逃げるために、三人が力を合わせて、結局全員が疲れてしまった。
「あ、恋音ちゃんだー!私ファンでね、CDも持ってるんだー!サインとかしてもらっていいかなー?」
藤崎も少々驚きながらも、サインをする。
ここでも芸能人である事は忘れていないようだ。
桐生は話がコロコロと変わっていく彼女を見て、息を吐く。
「……誰だい、彼女は?酷く絡みにくい娘なんだけど……」
「うちのクラスに来た転校生だよ」
魁斗が疲れきった声で返す。
聞いたら殴られそうだが、何だか彼女は魁斗にご執心のようだ。
「……で、彼女は何で切原君に興味を持ってるワケ?」
「あ、やっぱり聞きます?」
レナの声も疲れきっていた。
魁斗は早乙女に抱きつかれて、完全にホールドされ、今にもお持ち帰りされそうな雰囲気だが、そこは無視してレナは説明をする。
発端は、現代文の授業の時だった―――。
223
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/29(土) 12:48:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
一時間目の現代文の授業中、魁斗は隣の席に座った超乙女チック転校生早乙女の消しゴムを拾ってから、隣の席から熱い視線を送られていた。
それが気になって気になって仕方が無いのだが、早乙女の方を振り返ると、彼女は凄い勢いで顔を逸らす。その光景からして『こっち見んなよ』などと言える程魁斗は勇気がない。
結局一時間目は隣からの視線を気にしながらも、何とか乗り越えた。
一時間目終了後にレナと沢木が魁斗の机に集まるより早く、早乙女が口を開いた。
「……あ、あの!」
その声に魁斗は振り返る。
レナと沢木も着いた直後に早乙女の方へと視線がいっている。
早乙女は顔を赤くして、少々俯きながら、唇を動かす。
「……さ、さっきはありがとうございました……。
ああ、と何とも曖昧かつ適当な返事を返す。
レナと沢木から『さっきって?』と聞かれれば、消しゴムを拾ったことと説明をする。
「……よ、良かったらお名前を……」
「切原魁斗」
何となく相手の言うことが分かったのか、魁斗は途中で遮って悪いと思いながら自分の名前を告げる。
次に、早乙女は携帯電話を取り出して、
「連絡先を、交換していただけますか!?」
やたらと押してくる相手に少々戸惑いながらも魁斗は携帯電話をポケットから取り出す。
それから連絡先を交換し、早乙女は魁斗の手を握って、
「か、カイト君ですね!えと、あの……」
何だか上手く言葉が紡ぎ出せない(ように見える)相手に魁斗は苦笑して、
「……そんなかしこまらなくても……気軽にいこうぜ、早乙女」
その言葉に余計に顔を赤くして早乙女は魁斗に顔を近づける。
「ありがとう!カイト君!」
「それから、一時間目が終わるたび、話をかけられています。席が隣だというにも関わらず、メールがほとんど毎回来てますし」
それを聞いた桐生はどう反応していいか分からなかった。
同情すべきか、労るべきか、励ますべきか、慰めるべきか、応援すべきか。彼は指で眼鏡を上げ、
「まあ……いいんじゃないかな、そういう娘も。少々異常だけど……」
「少々か!?席が隣なのにメールが来るのは充分可笑しいだろが!!」
魁斗は抱きついている早乙女の顔を押しながら、桐生に叫ぶ。
早乙女は顔を押されながらも、あることに気がつく。
「そーだ!私そろそろ帰らなきゃ!丁度駅がそこだし、じゃあまたね!」
結局彼女が去った後は騒がしさが残った。
腕時計を確認した藤崎も『あっ』と声を上げて、
「私も!今日雑誌の取材があるんだった!じゃあ、来れたらまた明日ね!」
藤崎も軽く手を振って、駅の中へと走っていった。
残った魁斗達は息を吐いて、
「じゃあ俺達も帰るか。つーか、カテリーナは泊まるアテとかあんの?」
すると、カテリーナはきょとんとした顔で魁斗を見つめる。
というか、突然予定を変更されたような目だ。
「……何だよ」
「いや、カイト君。泊めてくれるんじゃないの?」
「いつ俺が泊めると言いました!?」
カテリーナは魁斗が泊めてくれる前提で来ていたため、泊まる場所などない。魁斗の家もレナがいる時点で既に結構いっぱいいっぱいだ。
桐生に助けを求めたが、彼も『女性と一緒に住むのは抵抗がある』と断る。
ぎゃあぎゃあと言い合う魁斗達に沢木は、小さく手を挙げて、声を上げる。
「……あ、あの。カテリーナさん。私の家でよければ……」
沢木の僅かな勇気で場は収束した。
というか、ザンザやエリザも『カイト君なら泊めてくれるっしょ』などと思っていたのだろうか。
建物の屋上で、一人の人物が携帯電話を耳に当て、話している。
長い黒髪に、右耳にピアスをしているスタイルのいい女性だ。
彼女は、天界の住人でレナと親友のハクア。カテリーナの言ってた通り、エリザはハクアに連絡していたようだ。
「……なるほどね。つまり私達は『六道輪廻(ろくどうりんね)』より先に『十二星徒(じゅうにせいと)』をどーにかしないといけないワケか……分かったわ。また、何かあったら連絡ちょうだい」
ハクアはポケットに携帯電話をしまい、ピアス状の剣(つるぎ)を発動し、薙刀の剣(つるぎ)の上に椅子に腰をかけるような体勢で乗る。
それから空に飛び立って、
「……カイト君達にはカテリーナさんがついてるっぽいし、まあ安心か。にしても、彼といるとホント退屈しないのねー」
224
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/29(土) 19:15:21 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十五閃「沢木叶絵とカテリーナ」
「おおー!」
沢木の家に入ったカテリーナは思わず感嘆の声を上げる。
二階建ての大きめな家。だが、いるのは沢木一人で父親と母親はいない。親は帰ったと思えばまた何処かに行ってしまう、その繰り返しだ。そのため、沢木は親とまともに会話をしたことがない。
カテリーナは沢木に出されたスリッパを履いて、部屋の中へと入る。
「へー、いい家ね。ここに住んでるの?」
「はい。私の部屋以外は空いてるので、好きに使ってくれていいですよ」
その声にカテリーナは止まる。
先ほど説明があったが、カテリーナは彼女の親が家に帰っていないことを知らない。
そのことを沢木から知らされたカテリーナは、目に涙を浮かべて、沢木を抱きしめ始める。
「ッ!!!???」
いきなりのことで、上手く頭が働かない沢木。
それもそのはず。話し終わったら聞いていた相手が涙を堪え、急に自分を抱きしめ始めたのだから。
「あ、あの!?カテリーナ……さん?一体……」
「辛いでしょ?今まで寂しかったでしょ?よし、今は存分に泣きなさい!私がこの胸で受け止めてあげる!!」
「え、えーと……」
これは説明しても無駄だな。そう判断し、沢木はカテリーナのホールドが終わるまで目を閉じていた。
不思議なもので、嫌な気分は全くせず心が温まり、安らぐ。自分に姉がいて、今一緒に住んでいたらこんな感じだろうか、と沢木は考える。
沢木の悲しさと寂しさ(カテリーナの勘違いだが)を汲み取ったカテリーナは沢木の部屋で過ごすこととなった。
が、事件は夜に起きた。
「ちょ、カテリーナさ……大丈夫ですよ……私が床で……」
「いいのいいの!沢木さんはベッドで!しかも、沢木さんが『一緒に入りましょう』なんて言うから……めっちゃ狭いし」
現在、沢木の部屋にある一人用のベッドで沢木とカテリーナは寝ていた。
と言っても、一人用を無理矢理に二人で使っているため、ベッドの中は結構窮屈だ。それを見越してどちらかが床で寝るか揉めていたのだが、どっちも譲らず結局二人で入ることとなった。
カテリーナとしては、泊めてもらっているし、お風呂も先に入らせてもらったし、晩ご飯の片付けもしてもらったし、居候らしいことを何一つ出来ていないので、むしろ床で寝かせてほしいのだが。
ここは一応、カテリーナが沢木を壁側に寝かせ、自分が落ちやすいベッドの際で寝ることにした。
翌朝、カテリーナが落ちていた事は言うまでも無い。
天界。
通称『迷いの森』にある薬剤師の小屋で、三人の人影が見当たる。
一人は肩くらいまでの黒髪に、ショートパンツとニーソを履いている見た目の歳相応の格好をしている、小屋の家主であるフォレスト。
二人の内一人は、右目に眼帯をし、黒い髪をポニーテールに纏めている十八歳前後の女、クリスタ。もう一人は茶髪に長い前髪で右目が隠れている青年のザンザだ。
二人は、フォレストから瓶をいくつか受け取ると、小屋を出る。
「……案外すんなりと協力してくれたな。まあ、こっちとしてはそれで大助かりだが」
「まあな。相手の強さが分かんねェし、向こうも天子と知り合いなら狙われない可能性もゼロじゃねェ」
身の危険は感じてるってことだ、とザンザが付け足す。
クリスタが鼻で息を鳴らし、腕を組む。
「どう思う?カテリーナはちゃんとやっていると思うか?」
クリスタの質問にザンザは不機嫌な表情になる。
カテリーナが嫌いなワケではないが、彼の不機嫌さは調子を狂わされたようなニュアンスの不機嫌だ。
「知るかよ。ま、俺がやるよりは上手くやってんだろ。俺だったらすぐに天子と衝突するだろうしなァ。アイツは意外とホイホイ懐きやがるから、心配はいらねェよ」
言い終わると、クリスタの表情に悪戯っ子のような笑みが宿る。
「そうかそうか。お前がエリザに天界との中継役でお前を選んだ時に拒んだのは、天子と衝突するからか」
真意を疲れたザンザはクリスタを睨む。
が、クリスタは笑みを浮かべたまま、ニヤニヤしている。
「う、うるせェ!理由はどうだっていいだろが!とっととエリザ様んとこ戻るぞ!」
ザンザはずかずかと進んでいく。
足取りが何故か早く感じ取られ、クリスタは親のような目線でザンザを見て溜息をついている。
「……意外と可愛いとこあるじゃないか」
クリスタは小さく呟いてザンザを追う。
「ちなみに、お前逆方向だぞ」
「あッ!?真顔でついて来ずに言えよ!!」
225
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/30(日) 11:32:49 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
あるアパートの一室。
その部屋にいる人物は日が暮れ始めるまで電気は点けない、という節約を心がけた信念を持っており、今は電気が点いていない。そのため、テレビの光が妙に明るく感じられるくらいだ。
アパートの住人はテレビを食い入るように見ている。
今はニュース番組の占いのコーナー。住人が、毎日欠かさずチェックしているコーナーだ。
『今日の一位はおとめ座のあなた!今日は気になる異性と急接近できるかも!ラッキーアイテムは新品のアクセサリーです!』
「にょ!」
住人は自分の星座が壱位だったことに反応し、ラッキーアイテムを探し出す。
偶然、新しいアクセサリーがあったりするのだ。
「……むむー、これは自分の初デートでつけるつもりだったんだけど……。でも、チャンスを逃すワケにはいかない!」
住人はピアスを取り出して耳につける。
それから朝ごはんを食べ、歯を磨き、顔を洗い、制服を着て、念入りに鑑で自分をチェックしている。
ピンク色の髪に、ちょこんと立ったアホ毛が気になるが、チャームポイントとしてそのままにしている。
「うしっ!今日も私は乙女チック全開だぜー!」
乙女チック全開の少女は、今日も勇んで学校へと向かう。
カテリーナがベッドから落ちた日、つまりこっちの世界に来た翌日の昼休み。カテリーナ達は魁斗達を集めて校舎裏で話していた。
昨日の話で何となく分かっていたが、今日は休み時間中ずっと追い回されていたらしく、魁斗はレナに肩を貸してもらう形でぐったりしている。
その様子に全員は最初引いていたが、カテリーナが咳払いをすると、話しに集中する姿勢に変わる。
「……さっき電話があったんだけど、いきなり進展があったわ」
「……『十二星徒(じゅうにせいと)』か……」
魁斗は消えてしまいそうな声で問う。
一応返事をしておいたカテリーナだが、『カイト君はちょっと黙ってて』と冷たいながらも相手を気遣う。
「進展って……天界でエリザちゃん達が戦ったってこと?」
藤崎の言葉にカテリーナは言葉を詰まらせる。
「へ、えーと……そういう進展じゃなくって。見分け方……かなぁ?」
見分け方?と沢木は首を傾げる。
いまいちよく分かっていないメンバーに説明するように、カテリーナは続ける。
「うん。ルミーナさんと一緒に行動してるゲインさんが手に入れたらしくてね、『十二星徒(じゅうにせいと)』は性別関係なく自身の司る星座のマークをかたどったアクセサリーをつけてるらしいの」
「そんなこと言ったって、見た目じゃ分からないよ。十二星座全てのマークを覚えてるわけじゃないし……」
「それもそうなんだけど……」
説明したカテリーナが申し訳なさそうになる。
「それも十二人いるし……見つけ出すのに困難なのは変わりないよ」
「ですが、一人見つけて倒せば相手も攻撃してくる可能性が高まります。何にしても一人見つけ出せば後は楽になる可能性もありますよ」
藤崎の言葉にレナはそう返す。
真剣な作戦会議の場に、招かれざる客が乱入する。
「あー!カイト君みーっけ!」
「ッ!?」
肩を貸してもらっていたぐったり魁斗が肩を大きく震わせ、顔色が悪くなる。
ものすごい勢いでこっちへ走ってくる乙女チック少女早乙女。
魁斗は肩を貸してもらう体勢をやめて、すぐさま走り出す。
「レナ、五時間目まで戻ってくる自信ねぇから……早退したことにしといてくれ!!」
魁斗が自慢の脚力で逃走を開始する。
それに負けじと、残ったレナ達を横切って早乙女は走り去っていく。
そこで、沢木は早乙女の耳に何か光る物を垣間見た。
「……!」
沢木は早乙女が見えなくなるまで、背中を目で追っていた。
「はー、カイト君も大変ね」
「昨日の話聞いてたら、何となく分かってはいたけどね」
カテリーナは溜息をついて同情し、藤崎は苦笑いを浮かべて労る。
「……沢木さん?」
すると桐生が沢木の微妙な変化に勘付いたのか、声をかける。
沢木は、震える唇を動かす。
「……あった」
沢木の小さな声に全員が反応を示す。
何があったのか、聞く前に沢木が答えを言う。
「……、早乙女さんの耳に、おとめ座のマークのピアスがあったんです!!」
226
:
そら
◆yC4b452a8U
:2011/10/30(日) 11:40:16 HOST:p180.net112139158.tokai.or.jp
初めまして、こんにちは。
文章力が凄いですノ読みやすいし、面白いですノ
これからも頑張ってくださいノ応援してます。
227
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/30(日) 11:51:02 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
そらさん>
コメントありがとうございます!
もう大分進んじゃってますが……。
褒めてくださって嬉しいです!たまにごちゃって読みにくくなることもあると思いますが……。
はい、これからも頑張らせていただきます^^
228
:
ライナー
:2011/10/30(日) 16:42:18 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
いきなし『十二星徒(じゅうにせいと)』一人目見つかっちゃいましたね。
後が楽d((殴
展開の切り替えもだいぶ上手くなってきたと思います。
しかし、展開の遣り取りがあまり意味のあるものだと思えないので、主人公視点以外のギャグの使用は控えた方が良いですね。
ではではwww
229
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/30(日) 16:57:44 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
こめんとありがとうございます^^
『十二星座〜』とかカテリーナが言ってたので、『十二星徒(じゅうにせいと)』はなるべく星座の名前を入れようと思います。
その典型的なのが、超乙女チックな女の子ですが((
さて、超乙女チックと戦うのは魁斗なのか!それとも別の誰かか!
ああ、確かに。
ザンザはちょいと出したかっただけですね。
意味が無いと言えば、確かに無い……。気をつけます。
230
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/30(日) 21:26:56 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「うおおおおおおおっ!?」
学校を飛び出した魁斗は、叫び声を上げながら街中を全力で駆け抜けていた。
彼は天子と呼ばれる存在で、脚力が極端に高く、それは走力においても例外ではない。
彼が叫び声を上げたのは、全力で走っていたからではない。
後ろから走ってくる超乙女チック少女の早乙女瑠璃が彼の脚力を前に、ほぼ同じ距離を保ちながら走っていたからだ。
「待ってよカイト君!なーんも照れることなんてないよー!」
何か勘違いしている台詞を吐きながら、早乙女は魁斗を追っている。
何故か目が酷くギラギラしていて、女の子がこんなにも怖いと思ったのは初めてだった。
(バケモンかアイツ!?俺、全速力ですよ?俺、天子ですよ?それでも振り切れないって……どんだけだよ!?)
彼女が魁斗を必死に追跡しているのは、彼のことを本気で好きだからだ。
実は彼女自身はそれほど走りに自信があるわけではないのだが。
(くそ!何なんだよ、この状況!)
女の子に好かれる事は嬉しいが、ここまで執拗になるととても複雑な気持ちだ。
「早乙女さんのピアスが、おとめ座のマーク!?」
一方、レナ達は沢木の言葉に反応していた。
沢木は、おとめ座のマークだけは覚えていたらしく、彼女の耳にそのマークのピアスがあったのを偶然見つけてしまったのだ。
カテリーナの話が本当ならば、早乙女がおとめ座を司る『十二星徒(じゅうにせいと)』とほぼ断定できる。
「まずいな。今の切原君が早乙女さんと戦えるとは思えない」
「エリザさんみたいに、最初から明確な敵意を持っていない人をいきなり攻撃しろと言われても、カイト様は恐らく戦えません」
桐生とレナは冷静に魁斗の人柄を見て、そう判断する。
早乙女の恋心に気付かずとも、自分に好意を持って接してくれていることには気付くだろう。魁斗がそれに気付いていれば、魁斗が早乙女を斬る確率は、極めて低い。
「だったら早く追わないと!」
「そうね。手遅れになる前に、追わないと……」
藤崎の言葉にカテリーナが賛同し、全員が動き出そうとしたところで、
「貴方達。いつまでこんな所にいるの」
不意に声をかけられる。
声のした方向に振り返ると、一人の女生徒が立っていた。
腰くらいの長い黒髪に、両サイドの髪の先をリボンでくくり前に垂らしている。目はきりっとしていて、スタイルも良い方に入るであろうその少女は、左腕に『生徒会会長』と書かれた腕章がある。
久瀬詩織。
魁斗達が天界から戻った際に、無断で学校を休んだことを厳しく叱った、二年でありながら、生徒会長を務める少女だ。
「もうすぐ五時間目が始まるわよ。こんなトコにいて、遅刻しないわけ?早く戻りなさい」
「でも……」
「でも何よ?」
レナが何か言おうとしたところで久瀬が問い詰める。
レナは口をつぐみ、何もいえなくなるのを見れば、久瀬は溜息をつく。
沢木は空を見上げて、何かを垣間見る。
「わ、分かりました!今すぐ戻りますよ!」
そう言って、レナ達を無理矢理引き連れて去っていく。
「ちょ、沢木さん!?カイト様は……」
「大丈夫です」
レナの言葉に沢木は短くそう返答した。
「大丈夫なんです。ここには今、もう一人心強い仲間がいますから」
「あり?」
早乙女はある河川敷で足を止めた。
その河川敷は、魁斗達が沢木を救出するためにメルティという情報屋とともに修行をした河川敷だ。最初の副隊長と遭遇した場所でもある。
早乙女は魁斗の姿を見失ったと言わんばかりに辺りをキョロキョロと見回している。
「もー、照れ屋さんなんだからぁー!逃げなくてもいーのに。にしても見失っちゃった。何処に行ったの―――」
唐突に空から竜巻が襲い掛かる。
寸前で気付いた早乙女は、後方に跳んで竜巻をかわす。
上を向いて、目つきを僅かに鋭くした早乙女は問いかける。
「誰!?」
しかし、答えの声は上からではなく前方から聞こえてきた。
「外したか……。ま、そうでなくちゃ面白くないもんね」
土煙で見えない前方に映る影は、槍のような薙刀のような武器をくるくると回している。シルエットと声からして女性だろう。
「さーて、アンタが最初の『十二星徒(じゅうにせいと)』ね?カイト君を狙うなんて随分と考えたモンだけど……残念でした」
人影が槍のような薙刀のような武器を振るい、土煙をはらす。
人影の容姿は黒い長髪に、スタイルのいい体型。手には緑の柄の薙刀が握られている。
沢木が空を見上げた時に見つけたのは、薙刀にまたがって空を飛んでいるハクアだったのだ。
「……アンタ、誰?」
「それはこっちの台詞よ。ま、答えなくていいわ」
ハクアは悠然と笑って、
「アンタは私に倒される。名前は名乗る必要がない」
231
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/04(金) 18:45:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十六閃「ハクアVS早乙女瑠璃」
魁斗は街中を走っていた。
いつしか、早乙女との距離を振り返って確かめず走っていたせいか、隣町にまで突入していた。
魁斗は天子の脚力を最小限に抑えながら、
(……まさか、隣町にまで来ちまうとは……ずっと真っ直ぐ走ったし、そんな複雑な走り方はしてないから大丈夫だろうケド……)
魁斗は内心『ちゃんと帰れるかな』と不安になっていた。
そこへ、急に遠くの方から強い魔力の放出を感じ取る。
魁斗はあちこち見回すが、距離が遠すぎて、いまいち何処か分からない。
しかし、その魔力を魁斗は覚えていた。
「……、ハクアさんか」
それに、魁斗には感じ取った魔力の側にいる人物の僅かに漂っている魔力にも、覚えがあった。
「……嘘だろ……。これって……」
「ッ!?」
別の教室で、レナ、沢木、藤崎、桐生、カテリーナの五人はハクアの魔力を、魁斗と同様に感じ取っていた。
戦うことが出来ない沢木はには『何かぞっとした』程度だったが、それがハクアのものだと何となく気付いたらしい。
(……沢木さんが大丈夫って言った理由はハクアさんか……)
教室で隠れるように笑みを零すカテリーナを見て、僅かに溜息を吐く桐生。
彼も彼で、色々と考えていたのだ。
(……まさか、最初の『十二星徒(じゅうにせいと)』が早乙女さんだとは……ま、ちょっと知り合った僕らが戦うより、全く面識が無いハクアさんが戦う方がいいだろうけど……)
そこに、マナーモードにしていた桐生にメールを知らせるバイブが鳴る。
先生に見つからないように確認すると、メールを送ったのは魁斗だ。
内容は『道が分からなくなった!帰り迎えに来てくれ!』というSOSメールだ。
(……ッ!何故……、何故僕なんだ……ッ!?)
こめかみに青筋を立てる桐生だったが、常識を考えて授業中に叫んだりはしなかった。
ハクアと早乙女が河川敷で向かい合っている。
突如現れたハクアに、早乙女は睨み付けるような目つきで見ている。
一方のハクアは、大して表情も変えず笑みを浮かべたままだった。
「……貴女が、『十二星徒(じゅうにせいと)』?最初にカイト君を狙うなんて……でも、狙うなら単体でいる私を狙った方が良かったかも―――」
「貴女はどういう関係?」
早乙女の不可解な言葉にハクアは眉をひそめる。
それから、早乙女はもう一度確認するかのように、
「貴女は誰!カイト君の何!どういう関係!?」
そこまで聞いてハクアは、何となく全てを理解したようだった。
(……なるほど、彼女はカイト君にご執心なワケね。カイト君を狙ったのも、彼がリーダー的存在だからじゃなく好意を寄せてるから、か……。なら、)
ハクアの笑みが悪戯っ子のような可愛らしさと怪しさを含む。
きらーん、という効果音が似合いそうな目つきで、彼女は唇を動かす。
「……貴女、カイト君が好きなんだー。でも、カイト君は貴女に興味ないわよ?」
「なぬ!?」
だって、とハクアは続けて、
「(レナが)カイト君と同棲してるし」
がーん、と早乙女の表情が絶望に染まる。
彼女の作戦は『目一杯絶望させて戦意を削いでやる!』という若干誠意に欠ける戦い方だ。
「さらに、(レナが)キスもしたし……」
早乙女は気絶しそうになる。
ハクアのずるい所は、自分じゃなくレナを使うことだ。その方が、効果的ではあるだろうが。
「ぬぬぬぬ……!破廉恥な……!」
「ふふふ、どう?嫉妬した?」
「殺すっっ!!」
純情なハートが燃え盛った早乙女とハクアのマジバトルが幕を開けた―――。
232
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/04(金) 23:42:19 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
刀を構え、斬りかかる早乙女を薙刀をくるくると回しながら待ち構えるハクア。
早乙女の手に握られている刀が、彼女の『剣(つるぎ)』だろうか。にしても可笑しなデザインだった。
柄はピンク色で、鍔は丸型で、肝心の刀身はままごとで使うような、何も斬れないちゃちな作りだ。
このまま、本気で薙刀を振るえば壊れてしまいそうだが、それを武器のように使っている時点で、何だか壊すのに若干の躊躇いが見えるハクア。
彼女は、とりあえず薙刀の先を下に向け、風の逆噴射を利用し、空高く飛び上がる。
「ぬっ!?」
上空に首を向ける早乙女。
ハクアは素早く、薙刀を縦から横に向け、魔女が箒で飛ぶ時のようにまたがった。
早乙女は、上空のハクアに叫ぶ。
「にー!空に逃げるだなんて、卑怯だぞ、この泥棒猫ー!」
「カイト君はアンタの彼氏でもないだろーが!!」
実際彼女が言ったことを何一つ行っていないハクアだが『泥棒猫』は流石に嫌らしい。
彼女の柄にも合わず、叫んでしまう。
にしても、何だか一般人に見えて仕方が無い早乙女を攻撃するのはハクアも抵抗がある。
ハクアは軽めに、風の玉を投げつけて攻撃しようとする。
「ッ!?」
「一応、仕置き程度よ」
風の玉を投げ、見事早乙女に直撃する。
音と巻き上がった煙がそうでもない事から、威力もさほど高くは無いが非戦闘員的な少女を気絶させるにはこれの方がいいだろう、と考え、彼女のいた場所から距離を取って着地する。
もくもくと上がる煙を、ハクアは見つめる。
(……やりすぎー、かな?いや、でもあんな風の玉、きっとレナならしゅばっ!!とかわすだろうし、エリザさんならばぁん!!と打ち消すだろうし。そもそも、こっちの常識を向こうの人間に押し付けるのが間違いか。死んではないと思うけど……やべぇ、不安になってきた。……煙の中から人影が全然見当たらないんですけど……)
意外と小心者のハクアだったが、不安は一気に払拭された。
煙の中から、凄まじい速度で、細く、長い切っ先が襲い掛かり、ハクアの腹部に突き刺さったからだ。
「……ッ!?」
ハクアは腹部に走る痛みを堪え、苦痛に顔を歪めながらも切っ先を引き抜く。
そして、凶刃が飛び出した煙の方へと視線を向ける。
「んもー、何ですか今の攻撃は。余裕のつもり?それって、単なる驕(おご)りですよね」
煙の中から、通常の長さの細い刀を持った早乙女が、無傷で立っていた。
(……無傷……!?馬鹿な……!)
ハクアは更に、顔を歪めた。
「きょーれつな一撃が出ると思ったから……用心して無責任?あ、違う。損か!」
早乙女は言葉を思い出し、手をポンと叩く。
ハクアは血が出る腹部を押さえながら、
「……複数の……『剣(つるぎ)』を、使うの……?」
搾り出すような声で、早乙女に尋ねる。
一方で、決定的な一撃を与え、上機嫌になっている早乙女は、その言葉をしっかりと耳に捉え、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ふっふっふっー。違うのですよ、これ見てわっかるっかなー!?」
早乙女の持っていた刀が光を放ち、姿を変えていく。
光の中で、刀のシルエットはどんどん丸みを帯び、遂には球形になって、発光が収まる。
早乙女の手にあったのは、手の平サイズの水色の水晶玉だ。
ハクアは、それを見て唇を動かす。
「……変形型『剣(つるぎ)』……『武具変晶(ぶぐへんしょう)』……。カテリーナさんが見たら、飛びつきそうな逸品ね……!」
233
:
ライナー
:2011/11/05(土) 11:34:09 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
早乙女さんすごいっすね!
にしてもハクアさんが戦うことになるとは、一体どうなるやら……
次も楽しみにしております!
ではではwww
234
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/05(土) 12:06:11 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます^^
はい、魁斗はまず戦えなさそうだし、早乙女のペースに乗せられそうだから『あ、コイツ使えねーな』みたいな感じで斬り捨てでs((
他の奴らは学校ですしw
いけるのはハクアくらいでしたw
多分、今のところ作中で一番強いのがハクアだろうから、きっと勝ちますよw
次も頑張りますね!
235
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/05(土) 14:39:07 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ハクアは腹部から伝わる痛みに顔を顰めながら、早乙女の出方を窺っていた。
早乙女の使用する水晶型の剣(つるぎ)『武具変晶(ぶぐへんしょう)』は自分の想像した通りの武器に水晶が形を変えるという、つまり型がない武器なのだ。自分の位置に合わせて最も戦いやすい武器で相手に挑むことが出来る。想像次第では『絶対に折れない剣』や『絶対にかわす事が出来ない弾を撃つ銃』や『絶対に何でも切断する斧』など何でもありだ。
だが、早乙女はそんなものを想像しない。
彼女が使うのは『乙女チックな武器』である。彼女の武器は自身が読んだ漫画のキャラが使用していた物や、乙女らしい武器がモチーフとなっている。最初の刀が玩具のように見えたのはそのせいだ。
だったら攻撃を防ぐ時は、乙女に傷が似合わないとかいう理由で『絶対に何でも防ぐ盾』を想像しただろう。現在、彼女が無傷なのも、恐らくそんな盾を想像したからだろう。
(……参ったね)
ハクアは腹部の痛みに耐えながら、状況を分析する。
腹部の傷が冷静さと体力と神経を少しずつ削っていく。
(……思い通りに変形する『剣(つるぎ)』……こんなレアなモンをこんな奴に持たせるなんて……でも、恐らく戦いは素人。刀の構え方もマトモに出来てなかったし……こいつの想像力に任せてるってワケか)
普通にやり合えば、ハクアは何て無い涼しい顔で一気に決着を着けることだろう。
だが、彼女の無双の想像力の前にはハクアは成す術は無い。
もしも『絶対に身体を護る鎧』などを想像されたらただの消耗戦になり、体力が尽きたところを畳み掛けられるに決まっている。
だからこそ、体力の消耗を抑えるためにも下手に動けないのだが、ただ立ってるだけでも、腹の傷の痛みで体力は削られている。
ハクアは吹くの袖を切って、強引に不出来な状態で腹の傷の止血に使うために腹に巻きつける。
「ふふん。そんなことしても私には勝てないよ、泥棒猫さん!」
「だから、違うっての」
ハクアは慎重に息を整えながら、対抗策を考える。
一気に強力な技で決める、もあるが『絶対に防ぐ盾』で防がれる。下手すれば、ずっと盾で篭城戦を続けられるかもしれないのだ。
だったら、
(……だったら……そうか、その手があるわね)
ハクアがニヤリ、と笑みを浮かべる。
怪しく、諦めてない笑みを。
「だったら、これしかないわね。来なさいよ、もの泥棒猫を倒してみたいでしょ?」
「……倒してみたい、じゃなく!倒すの!」
早乙女は再び刀をなってない構えで、持ちハクアに突っ込む。
早乙女が薙刀のリーチ内に入ると、ハクアは、迷わず薙刀を振るう。それを、ぎりぎりで後方へかわす早乙女。
「ふふっ!だったら、盾を出してずっと待ってりゃ―――」
「させると思う?」
続けて、ハクアが薙刀を振るう。
しかも、一度ではない。連続で振るい、相手に休む暇を与えないような、連撃を繰り出していた。
いつしか、かわすことに精一杯になっていた早乙女は刀から次の形へと変えることが出来ない。
ハクアが思いついた作戦は、『相手を想像させる余裕をなくすくらいに攻める』だ。
戦いが素人の早乙女にとって、攻め続けられるのはかわすことで精一杯になり、他の事に頭が回らなくなる。
「はんっ!戦う相手が悪かったわね!レナとかカイト君とか、真面目な奴があいてならこんな荒々しい答えは出さなかっただろうけど……悪いね、私は」
カァン、と乾いた音を立てて、ハクアが早乙女の持っていた刀を弾き飛ばす。
「しまった……!」
「私は、カイト君達の中で一番……不真面目な女なの!」
ズドン!!と早乙女の腹にハクアが薙刀の柄の先で突きを繰り出す。
早乙女が口から息を漏らして横向けに倒れる。
「あ、こいつらの目的訊くの忘れちゃった……まあいいか。後でで」
ハクアは早乙女を肩に担ぐと、早乙女のポケットから何かが地面に落ちる。
ハクアがそれを拾い、落ちた物をよく見る。
「……これは?」
早乙女のポケットから落ちたのは、ネックレスのような物で、円盤の部分におとめ座のマークが刻まれている物だった。
236
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/05(土) 21:45:36 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ハクアと早乙女の激闘の翌日、学校が終わった後にハクアに呼び出された魁斗達は目の前の光景に絶句していた。
何故なら、そこにあるのは、椅子に座らされて腕を後ろに回し拘束され、口にはガムテープを貼られて喋ることが出来ない、いつでも尋問の準備オッケーですよと言わんばかりの早乙女瑠璃がいたからだ。
今から何が行われるかというと、早乙女を倒した後に彼女のポケットから落ちたおとめ座のマークが刻まれたネックレスについての詰問だ。
この場にカテリーナはいない。彼女は用事があるらしく、早々にどこかへ去ってしまった。
「……ハクアさん、これ……」
若干引き気味にハクアに訊ねようとする魁斗。
ハクアは、魁斗が何を言いたいのか分かったようにコクリと頷くと、
「戦利品」
一言で言い切った。
人を物として扱っているような言い方だが、恐らく彼女の冗談だろう。そうでなくてもそうであってほしい。
「瑠璃ちゃぁん?君のポケットから出てきたんだけど……このネックレスは何?」
早乙女はずっと黙っている。
というかガムテープで話せないのだ。彼女はずっと『んー!んー!』と何やら唸っている。
話せない理由に気付いたハクアがガムテープを剥がすと、
「誰が教えるか!この泥棒猫!」
「……ほほぅ」
ハクアは目を細め、早乙女の脇に手を伸ばす。
それから、指を器用に動かし、ハクアによるくすぐり地獄が始まった。
「ひぁっ……ひゃああああああ!?や、やめてよぉー!」
ハクアは悪魔のような笑みを浮かべて、止める様子が無い。
「やめてほしいなら話しなさい!」
「にゅー……だ、誰が話すかぁー!」
ハクアは脇から手をどけて、早乙女の靴を脱がす。
脇の次は足の裏をくすぐり始めた。
「きゃあああああああっ!?ぎ、ぎぶぎぶ!ぎぶですぅー!話す、話すってばぁ!あっ……らめぇー!」
ハクアのくすぐり地獄から開放された早乙女は息を整えている。
呼吸が落ち着き始めると、ネックレスについて話し出す。
「……私達『十二星徒(じゅうにせいと)』のメンバーは全員、これと同じようにそれぞれの司る星座のマークが刻まれたネックレスを持っているんです。それを『守護の証』って言います」
「―――『守護の証』?」
早乙女の言葉に魁斗達が眉をひそめる。
十二星座というものは、黄道が通る十三の星座のうち『へびつかい座』を除く十二の星座のことである。
「私も、組織の事はよく分からなくて……リーダーの顔も名前も性別すらも知らないんです」
そこで勘付いた魁斗は、もしやと思って訊ねる。
「……じゃあお前、目的も知らないんじゃ……」
コクリと早乙女は頷く。
目的も何も知らない少女が戦うために使われ、負けても仲間は知らん振り。魁斗達は言葉を失ってしまった。
「……ふざけやがって」
魁斗は思わず呟いていた。
拳を強く握り締め、歯を食いしばり、見れば誰もが怒っていると分かるくたい顔を顰めていた。
魁斗は早乙女の頭に手を置いて、
「お前を許したわけじゃねぇけど、利用されてたってことは分かった。後は任せろ」
早乙女は涙を溜めた目で魁斗を見つめる。
魁斗は早乙女を目を合わすと、フッと笑みを浮かべて、
「『十二星徒(じゅうにせいと)』は俺らが潰す!お前は安心してろ。もう変な事すんじゃねーぞ!」
早乙女は、そこで耐えられなくなったのか、思い切り涙腺が緩み、涙を流す。
「……カイト君……!」
とりあえず魁斗達はそこで別れ、カテリーナには後で桐生が連絡を入れることで話がついた。
カテリーナはビルの屋上で、携帯電話を耳に当てていた。
コール音の後に電話に出たような音が鳴ると、
「うぃーっす!ザンザ、元気ー?」
『……相変わらず無駄に元気だな。その様子だと、上手くやってるみてェじゃねェか』
電話の相手はザンザだ。
彼には状況報告をしようと電話をしていたのだ。
『んで、そっちはどォだ』
「あー、ハクアさんが一人倒したよ。おとめ座の『十二星徒(じゅうにせいと)』を」
その言葉を聞いたザンザは、ほぉ、と感心の言葉を上げて、
『まァアイツなら心配はいらねェし、そっちにいる中で一番強いからな』
「私じゃなくて?」
当たり前だろ、とカテリーナがツッコまれる。
僅かな沈黙の後に、ザンザが話を切り出す。
『リーちゃん、この電話が終わった後に、天子に連絡出来るか?』
「……出来るけど?」
カテリーナはきょとんとした様子で答える。
ザンザは答えを聞いて言葉を続ける。
『だったら伝えてくれ。俺の名前は面倒だから出すなよ』
うん、とカテリーナが頷く。
意識してか、無意識か、ザンザは僅かに早口で伝えた。
『天子を天界に連れて、フォレストの小屋へ行け』
237
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/06(日) 13:21:45 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十七閃「教会に潜む十二星徒」
魁斗は不機嫌な表情で、公園にいた。
目の前にいるのはカテリーナだ。夜に電話があり『明日天界に行くぜー』とだけ伝えられ、強引に連れてこられたのだ。
この調子で学校は大丈夫だろうか、魁斗はかなり不安になっていた。
また久瀬会長に怒られそうだ、と心の中で怯えていると、カテリーナが天界へと繋ぐ扉を開く準備が終わっていた。
カテリーナは、小さく息を吐いて、
「さー、準備できたよ!行こうぜ天界!」
「ちょい待て」
勇み足のカテリーナを魁斗が呼び止める。
「何で俺が天界に行かなきゃいけねぇんだ?」
カテリーナは魁斗の質問に当然というような調子で答える。
「決まってんじゃん。だって皆学校だし」
「俺だって学校だっつの!!」
カテリーナの言葉に魁斗は思わず叫んでしまう。
そもそも、こっちの世界で学校などを気にせず使える人はハクアだけなのだが、勝手に人を変えるとザンザが怒りそうなので、魁斗を連れて行くことにした。魁斗からすればいい迷惑だ。
「ザンザの頼みってのもあるし、フォレストさんのご指名でもあるの。文句はフォレストさんに言って」
魁斗は息を吐く。
とりあえず、魁斗はカテリーナの出した天界への扉をくぐって、天界へと向かう。
着いた場所は、前回来た時と同じような一面に緑の景色が広がる森だ。ここは確か『迷いの森』と呼ばれていた気がする。
「さー、行くよ。と言ってもはぐれちゃいけないから、手を繋ごう!」
カテリーナが魁斗の手を握り、先導するように歩いていく。
それに連れて、魁斗の足も動くが、握られている手の方に意識が集中してしまう。
そんなこんなで魁斗の目に見覚えのある小屋が映る。
フォレストが住んでいる小屋だ。前回来た時にはなかった看板には『forest house』と書かれている。
カテリーナが扉に手を当て、元気良く扉を開け放つ。
「やっほーい!やあやあ、元気かね!?」
目の前の光景に魁斗とカテリーナが硬直する。
何故なら、着替え中で、下着もパンツだけしか履いていないフォレストが後ろ向きで、顔だけをこちらに向けている状態で立っていたからだ。
「な……っ!?」
魁斗はその光景に顔を赤くするが、顔を逸らすという信号が遅れない。
カテリーナも同じように顔を赤くして、顔を逸らしていない魁斗の腹に蹴りを食らわす。
「カイト君、何ジッと見てるのよ!?」
「ぐほっ!」
魁斗は腹を押さえてその場に崩れ落ちる。
一方、ほぼ裸状態を見られたにも関わらず、顔を赤くしていないし、全くと言っていい動揺していないフォレストは、
「そんなに怒らなくても。僕は全然怒ってないんで、むしろ見せてあげてもいいくらいです」
カテリーナはそんな事を言うフォレストを必死に説得して、急いで服を着せる。
フォレストが着替え終わった頃には、魁斗も腹の痛みがマシになってきたのか、顔を上げている。
カテリーナが出て行くと、小屋に魁斗とフォレストだけが取り残される。
いつまでも立たせるわけにはいかないので、フォレストは、
「どうぞ、座ってください。立ち話も嫌でしょう?」
「あ、ああ……」
裸を見られたことについて怒ってないようでよかった、と胸を撫で下ろしフォレストと向き合う形で魁斗は椅子に座らせてもらう。
238
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/06(日) 17:01:27 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗が座るなり、フォレストは飲み物を出す準備をしている。僅かに漂う香りからコーヒーだろう。
魁斗は頬杖をつきながら、フォレストに問いかける。
「なあ、何でお前は俺を指名したんだ?」
魁斗の質問にフォレストは魁斗の方をチラッと見る。
飲み物が出来たのか、二人用のコップを持って、席へ戻ってくる。
「別に。ただ、いても気まずくないからです。貴方とはちょこっと話をしたことありますし、そういう点で、僕は貴方のこと信頼してるんです」
どうぞ、と言ってフォレストはコップを魁斗の前に置く。
やはり、コーヒーだった。
「砂糖はいりますか?」
「え、いや。このままでいいよ」
魁斗はそう言うと、一口コーヒーを口に含む。
フォレストは角砂糖の入った器から、角砂糖を八個程度、コップの中にどばどばと入れていく。
苦いのが嫌なら飲まなきゃいいのに、と思った魁斗だが、言ったら睨まれそうなので、心の中に留めておく。
「で、俺を呼んだのは?」
「一緒に戦ってもらうためです」
フォレストはコーヒーを飲みながら答える。
うぇ、とまだ苦かったらしく僅かな声を漏らす。フォレストは更にコップに角砂糖を二個投入した。
「一緒にったって……今も戦ってるんじゃ?」
「だから、間接的にでなく、直接的にです」
魁斗の言葉を否定するようにフォレストはそう言い放つ。
「……それって、タッグを組むってことか?」
「分かりやすく言えばそうですね。エリザさん達に頼んだところ、彼女達は彼女達で忙しいみたいなんで」
ふーん、と魁斗は返事を返す。
カテリーナも人間界に来てはいるものの、戦う事はしようとしていないし、天界と人間界の情報を繋ぐ中継役のような役割を担っているだけのように思える。
フォレストは丁度いい甘さになったのか満足げに頷いて、
「ま、元『死を司る人形(デスパペット)』組は情報収集。僕ら無所属組は戦い専門、みてぇな感じですかね」
確かに、情報の収集は向こうの方が向いているかもしれない。
だが、彼ら以上に向いている人物が一人、天界にはいる。
そう、幻の情報屋であるメルティが。
今は関係のないことだが、今彼女は何をしているのだろう。
「で、俺と一緒に戦うにあたって、『十二星徒(じゅうにせいと)』が何処にいるか、とか目星はついてるのか?」
「勿論です」
フォレストはコクリと頷く。
「この森の付近にある、山。そこにいます」
「山!?」
魁斗はフォレストの言葉を聞いて、思わず叫ぶ。
フォレストはコップの中のコーヒーを飲み干して、
「はい。そうですが。山と言っても頂上にある教会にいるらしいですよ。山のてっぺんなんで、教会自体はほとんど使われてねぇみたいですけど」
フォレストは足をぱたぱたと動かしながら言った。その行動がとても可愛らしいものに見える。
「……教会に関係ある十二星座ってあんの?」
「さあ?僕はその辺り詳しくないんで良く分かんないんですけど……行ってみれば分かりますよ」
フォレストは立ち上がって、出かける準備をする。
『死を司る人形(デスパペット)』との戦いの際はスカートだったのだが、今は短パンである。今から戦いに行くため、わざわざ戦いやすい衣装を選んだのだろうか。
小さな袋の中に、傷薬を詰め込み、肩に担ぐようにして背負う。
「さあ、早いトコ行って、とっとと片付けちまいましょうよ」
「ああ、そうだな」
魁斗もフォレストの言葉に頷き、彼女と一緒に小屋を出る。
魁斗は再びはぐれないように、兄妹のような感じでフォレストと手を繋いで森を歩く。
239
:
ライナー
:2011/11/06(日) 17:13:38 HOST:222-151-086-024.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
何かが動き出しそうな予感ですね……フムフム
ふぉ、フォレストさん。鍵くらい掛けておこうよ……
にしても魁斗君がぞんざいな扱いをされて、ただいま同情真っ最中です(笑)
久々にアドバイスをします。
今回は2つありますが、1つは文章についてです。
全体的に分かりやすい文章に構成しており、僕はこの作品見ながら焦っているんですが、注意点が1つ^^;
分かりにくい文章って奴です。
そいつらは、いつ何時でも文章の中に潜んでおり、推敲という罠をくぐり抜けてくる……と言うことなんですが(笑)
例えば、本作のこの文章。
何故なら、そこにあるのは、椅子に座らされて腕を後ろに回し拘束され、口にはガムテープを貼られて喋ることが出来ない、いつでも尋問の準備オッケーですよと言わんばかりの早乙女瑠璃がいたからだ。
この文章は言ってみれば、区切りを付けながら一息で読めと言っている文書です。
何故かというと、「。」が少ないんですね。
これが少ないと読者が文章の中で何度も読み返しながら混乱してしまいます。僕の知っている中では、ある作品がこのようなことをすると今までのファンまで消えると言うとんでもない代物だったりします^^;
例を挙げた文章を手直しすると、こうなります。
何故なら、そこにあるのは、椅子に座らされて腕を後ろに回し拘束され、口にはガムテープを貼られて喋ることが出来ない早乙女瑠璃。
見るからに、いつでも尋問の準備オッケーですよと言わんばかりの姿であった。
2文に分けるならこんな感じですね。
ですので「。」の使い方を心がけると良いでしょう。だいぶ見やすくなってくるので^^
次は、ストーリーですね。
日常模写がまた消えているような気がします。そのため、バトルシーンになっても同じような読み応えで新鮮さに欠けますね。
思い切って、日常だけのギャグ(読み切り形式的な)ものを作ってみると良いですよ。
それと、バトルシーンその物にも迫力が欠けます。これは今僕も苦戦中なのですが、ピンチの作り方ですね。
ピンチを作るときに効果的なのは、自分の持っている能力を無効化されるなどの時です……とりあえずこれも例を挙げましょう。
主人公が炎の能力を持っていたとしましょう。
その炎は勿論のこと水に弱く、そんな技を使う強敵が出てきました。
戦うことになった主人公は、そんな敵の水をどうにかしなければありません。
それを主人公が努力し、何とかするというのですが、あまり参考になりませんでしたね^^;
用は、自分の攻撃パターンが全て効かなくなった時どうするかです。
竜野さんのピンチの作り方だと、あまり深みが無くまた同じピンチが繰り返されてる場面があるような気がします。
ではでは、長くなりましたがwww
240
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/06(日) 17:47:23 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます。
魁斗の二度目のラッキースケベです。
未だにレナや沢木とのラッキースケベがないのにね((
最近は何か可愛そうな役回りばっかですねw
その文章ですね。
自分もこれ読みにくいかな、と思ってましたが、たまに本文が長すぎてエラーになってしまうんですよ……。
だから纏めた方が短縮できると思ったのですが……以後気をつけますね。
あー……日常模写については返す言葉がございません。
そうですよね。カテリーナがせっかく出て来たんだから、それを使わねば……。
あ、例えば桐生の相手が炎を使うとかですよね。
……今のところ予定無いな((
出来るだけ増やしてみよう。
ありがとうございます。
久しぶりにためになるアドバイスありがたくいただきますね^^
241
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/06(日) 21:47:42 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗とフォレストは手を繋いで、森の中を歩いていた。
今日で女子と手を繋ぐのが二回目になった魁斗は、今まで女子とそういうイベントがなかったからか、結構心臓がバクバクと動いている。
フォレストは顔を赤くしている魁斗を横目で捉えて、
「心臓の音、聞こえてます」
「ええっ!?」
かなり恥ずかしい事に気が付かれたからか、魁斗は顔をより赤く染めて叫ぶ。
しかし、フォレストは口元に手を当てて『冗談ですよ』と言う。
魁斗がオーバーに驚いてしまったために、かなりドキドキしていることがバレてしまった。
そして、会話が途切れてしまった。
魁斗とフォレストが話したと言っても、カルラの襲撃があったため、そんなに長話をしたわけではない。自分の無力さが原因で夢が潰(つい)えた、みたいなことを言っていたような気もするが、今する話ではない。
そこで魁斗はふと思ったことを口にする。
「……なあ、フォレスト」
「僕のことは『フォーちゃん』と呼んで下さい。で、何ですか?」
フォレストは目線だけを魁斗に向ける。
「お前って何歳?」
意外な質問だったのか、常に無表情のイメージがあるフォレストの眉が僅かに動いた。
フォレストは目線を前に向け直し、答える。
「……十五です」
「十五なの!?てっきりもうちょい下かと思ってた……」
十五歳といえば魁斗より二つした。言われてみればそんな気もするが、聞いてみれば以外だと思う。
そんなこんなで何とか山に辿り着き、ここからは登山が始まる。
森を抜けたため、手を繋ぐのを止めた二人だが、魁斗の手にはフォレストの小さい手の温もりが残っていた。
山をちょっと登り、フォレストが僅かに息を乱し始める。
「キツイなら背負おうか?女子には厳しいだろうし」
「……お願い出来ますか」
『必要ありません』と言われると思っていたため、意外な返事が帰って来た魁斗はきょとんとする。
素直なフォレストを背負い、魁斗は歩き始める。
身長が低いせいか、彼女自身も結構軽かった。それで、内心安心している。
「……密かに『コイツ重たかったらどうしよう』とか思ってました?」
「い、いや!そんなことないって!」
フォレストの言葉を慌てて否定する。
若干ジト目のフォレストがやけに怖い。
ならいいです、と言ってフォレストは抱きつくように腕を魁斗の首の辺りに回す。
密着した成果、魁斗の背中に柔らかくて小さい物の感触がかなり伝わる。
(……こ、この感触はまさか……!?」
魁斗は顔を真っ赤にする。
「……変な想像とかしてませんよね」
フォレストの言葉にドキッとする魁斗。
例えば、とフォレストが言って、
「『胸が背中に当たってる』……とか―――」
「してない!してない!」
魁斗は首を横にぶんぶんと振って否定する。
一方のフォレストは全く信じてないが、これ以上攻めると可愛そうなので止めておいた。
何て話をしていると、教会へと辿り着いた。
魁斗はそこでフォレストを下ろして、二人は教会へと入る。
中はテレビなどでよく見る、並べられた椅子など無く、奥にある窓から光が差し込んでいた。教会内の電気が点いていないため、光が眩しく感じられる。
そして、その窓の前に立ち、光を背中に受けて立っている人物が一人いる。
身長は高めだが、何となく女性らしいラインが際立っている。スタイルも良く見えるし、綺麗な金髪が腰の辺りまで伸びている。顔は仮面をしていて良く分からないが、耳にうお座のマークを模したピアスをしている。
「……あれって何の星座のマークだ?」
「多分うお座です」
星座の知識に疎い魁斗はフォレストに問いかけ、答えを聞いて『教会と関係ないのか』と思う。
目の前の人物はフッと聞こえるように笑って、
「お気楽な奴らだな。戦っても愉しそうだ」
魁斗はその言葉を聞いて、二本の刀を構える。
(……アレ?)
しかし、フォレストは別のことに気を取られていた。
(……この声、聞いたことある……?初めて聞いた声じゃない……)
242
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/11(金) 19:44:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「ねーねー、桐生クン」
学校で、一時間目が終わった後の休み時間。桐生の隣の席に座っていたカテリーナが桐生に話しかける。
二人は席が隣なのも関わらず、カテリーナが問題を解けなかった時だけ会話する程度で、クラス内での二人の関係はあまり良いとは言えない。
妙に甘ったるい声を掛けられた桐生は、溜息をついてカテリーナへと視線を向ける。
「カイト君とフォレストさん。上手くやってると思う?」
「どうだろうね」
桐生は指で眼鏡の位置を調節しながら言った。
机の中から次の授業の教科書を取り出しながら言葉を続ける。
「そもそも、何でフォレストさんは切原君を呼んだんだ?こっちの世界に学校が無いって思ってるわけじゃないだろ」
カテリーナはうーん、と唸って、
「まー、ザン君……じゃねぇや。ザンザが言うにはー」
「呼びやすい方でいいよ。誰か分かるし」
僅かに躊躇いが見えたカテリーナに、桐生はそう告げる。
カテリーナは苦笑いを浮かべて、再び話しを続ける。
「ザンザが言うには『切原魁斗は学校っつく面倒なモンがあるから、選ぶ時は考慮しろ』って言ったらしいけど、フォレストさんは『天子でお願いします。一番話しやすいんで』って言ってカイト君をご指名したんだって。ま、そうじゃなけりゃハクアさんしかいないから、選ばせる意味なくなっちゃうしねー」
ザンザとフォレストの言葉だけ何故か若干真似をした節がある。
ともあれ、共闘するとなれば一番接しやすい相手が良いのは誰でも分かる。
桐生も全然話した事がない相手とより、まだ面識がある相手との方がまだまだやれそうな気がする。
「フォレストさんってカイト君のこと好きなのかなー?」
「そんな理由で選んだ訳じゃあるまいし」
「でもでも、カイト君って結構好かれてるよねー。彼に女難の相が見えるよ」
カテリーナは何故か目を細めて同情の眼差しをしている。
だが、視線を向けられている桐生からすれば複雑な心境だ。
「レナさんってさ、カイト君のこと好きだと思う?」
「どうだろうね。尊敬以上の感情を持ってそうだけど……今日はまた随分と突っ込んでくるね」
ふふ、とカテリーナは笑って、
「だってさー、カイト君が他の女の子と一緒にいるんだよ?養育係さん的には!一日中負のオーラ発生中じゃない?」
そんな馬鹿な、と桐生は鼻で笑う。
だが、案外カテリーナの推理は合っていてレナは机に顔を突っ伏せていた。
一方、天界にある山の頂上の教会内で魁斗とフォレストは仮面をした『十二星徒(じゅうにせいと)』と対峙していた。
魁斗は二本の刀を構えながら、相手に問いかける。
「仮面、取った方がいいぜ」
「フッ。それは対等に戦うためか?」
「それもある」
魁斗は一度言葉を区切って、
「アンタの強さはイマイチ分からねぇけど、二人を相手にするんだぜ?仮面つけたままじゃ視野も狭まるし」
魁斗の言葉に不満の声を漏らす。
だが、それは仮面の女ではなくフォレストだった。
「女性を寄ってたかって二人でやるつもりですか。そんなイジメに僕は参加しませんよ」
おい、と魁斗はフォレストにツッコミを入れる。
「お前はどっちの味方だよ!?」
「今は彼女です」
フォレストはいたって真顔だ。
この表情が彼女の真剣さを引き出していた。
魁斗はほぼヤケクソ気味に息を吐いた。
「わーったよ、俺一人でやるよ!でも、とりあえず仮面は取れ!何かやりづらい!」
「フッ。しゃーねーな」
女は仮面に手を掛ける。
仮面を取る手を止めて、女は二人に話しかける。
「だが良かったよ。少年が相手で。そっちの女の子じゃ……私を倒す事は不可能だからな」
女が仮面を取り、放り投げる。
顔立ちはかなり綺麗で、金色の目が彼女の美しさを際立たせている。仮面をしているのが勿体ないくらいだ。
そう思っていた魁斗だが、彼女の顔を見た瞬間に、フォレストの表情が驚愕に染まる。
「……?どした、フォレスト?」
「……ぅあ……、う、嘘だ……」
フォレストの言葉は震えている。
魁斗が彼女を呼んだ時の定番『フォーちゃんと呼んで下さい』のやり取りが出来ないくらい、彼女は驚いていた。
「……あ、貴女は……」
金髪の女は、フッと笑って、
「久しぶりだな、フォーちゃん」
ただただ、混乱する魁斗をよそにフォレストにそう告げた。
243
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/13(日) 02:52:44 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十八閃「揺れる心」
目の前に素顔を見せた、うお座の『十二星徒(じゅうにせいと)』を見てフォレストは目を大きく見開いたまま固まっていた。
信じられないものを見るかのような、そんな目で相手を見つめている。
魁斗は明らかに様子が可笑しいフォレストの肩に手を置いて、問い質す。
「おい、フォレスト。どうしたんだよ」
「……」
だが、フォレストは答えなかった。
ただずっと嗚咽のように声を漏らしているだけだ。
肩に手を置いて、初めて分かったことは彼女が小刻みに震えていることだ。
彼女の表情も驚愕という他ないが、目には涙を溜めている。『恐怖』ではなく『喜び』の涙だ。
「……おい」
「……知ってましたよね」
魁斗が再び声をかけた瞬間に、フォレストが口を開く。
首を傾げている魁斗に、徐々に落ち着いてきたフォレストが説明する。
「……僕の夢です……。僕を拾ってくれた恩人と一緒に、薬草師をするのが夢だって……」
確かそんな話をしたような気がする。
『死を司る人形(デスパペット)』を倒すために天界に乗り込み、早々にストリップ巫女(カルラ)の襲撃を受け、助けてもらったお礼を言おうとした時に話してくれた。
でも、その恩人は今……。
「……言いにくいけど……お前自分で……」
「はい。僕の無力のせいで……でも、信じれますか?」
フォレストの目から大粒の涙が零れ、頬を伝う。
涙を拭うことも忘れ、フォレストは言葉を続ける。
「……大好きだったクーラさんが……目の前にいるんですよ……?」
瞬間。目の前に槍を振るおうと構えているクーラが立ちはだかる。
「ッ!?」
いきなりのことで、きょとんとしたまま動く事が出来ないフォレスト。
何とか反応できた魁斗がタックル気味にフォレストを突き飛ばして、クーラの槍の一撃を刀で受け止める。
ぎりぎり、と金属と金属が擦れ合い、鍔迫り合いの状態になっている。
「……!」
フォレストの頭が理解まで追いついていない。
何故こんなことをしているのか。話が全然理解出来ないまま物語の最終回を見たような感覚だ。
「……何で……」
「何で、だって?」
魁斗に押し返され、後方に跳んだクーラは距離を取って、槍を肩に担ぐ。
「敵だろ、今は。私は『十二星徒(じゅうにせいと)』のうお座。双魚宮を護りし者」
槍の先を魁斗に向けて、クーラは続ける。
「お前らを討つ、女の名だ」
魁斗は自身の脚力を利用し、相手が反応できない程速く、懐に潜り込む。
それに気付いたクーラは素直に賞賛の言葉を述べる。
「へぇ、速いな。で、潜り込んでどうする?」
「言うかよ。アンタがフォレストの恩人だってことは分かった。だから、傷つけずに倒すからせめて抵抗は―――」
「無理だよ」
刀の峰を相手の腹に叩き込むつもりで動かしていた魁斗の手が止まる。
そこへ、フォレストの叫びが響く。
「待ってください!その人はクーラさんなんです!攻撃しないでください!!」
魁斗の戦意が、フォレストのか細い声で一気に失われた。
完全に止まった魁斗の腹にクーラの槍の柄の先端が食い込み、後方に飛ばされ、壁に激突する。
「……ぐぅ……」
魁斗は僅かに呻き、身体を起こす。
「そーそー、そーだよな。お前は私を攻撃できないし、攻撃を受けさせようとしない」
クーラは怪しく笑みを浮かべ、告げる。
「私はフォーちゃんの恩人だから、アイツは私を護ろうとするんだよ」
244
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/13(日) 14:32:20 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
少女はずっと一人だった。
物心ついた時から周りに『ヒト』の姿は無く、見えるのは葉っぱの緑色と樹木の茶色のみ。植物以外のイキモノは大抵寄ってくる事はなかった。
晴れの日も雨の日も雪の日も曇りの日も。少女はずっと一人で森の中にいた。
『ヒト』を見る事は無く、身体は徐々に衰弱していき、しまいには倒れこんで起き上がることさえ辛くなった。
そんなある日のことだった。
イキモノとは違う足音を聞いた。
それが『ヒト』の足音だと、気付くまでどれほどの時間を有するのだろう。少女は『ヒト』の足音を初めて聞いた。
「……おい、大丈夫か!?」
近づいてくる足音は少女を拾い上げた。
それから何の迷いも無く、少女を抱えて自分の小屋へと向けて走り出したのだ。
「……っ」
少女は目を覚ます。
記憶にあるのは金髪の人物が自分を抱えて走ったところまで。
映る光景は木材の天井。
身体を起こそうとしても、腕に力が入らず、上手く起こす事が出来ない。
少女は転がるように身を捻って、自分が寝かされていたベッドから落ちる。
それから四つん這いになって自分がいた部屋の扉を開ける。
目の前にいたのは、金髪の女性。
扉を開けようとしていたためか、勝手に開いた扉にきょとんとしているようだった。
「……目覚ましたか。フッ、良かった。いきなり意識失うから死んだのかと思ってたぜ」
女性は少女を抱きかかえて、椅子に座らせる。
椅子の前にはテーブルが置かれており、テーブルの上にはパンがあった。
しかし、少女にはそれが何だか分からない。
「食えよ。腹減ってるだろ」
「……これは食物なのか……」
女性はフッと笑って頷く。
少女の痩せ方が尋常無いため、食器を使わない物を選んだのだ。少女は恐る恐る手を伸ばし、一つ手にとって口に含む。
「美味いか」
少女はコクリと頷いて、もぐもぐと頬張っていく。
食べれば食べるほど我慢していたお腹が音を鳴らす。
その音を初めて聞いたのか、少女は肩をビクッと震わせて辺りをきょろきょろ見回している。
その光景に女性はただ笑みを浮かべていた。
「……何で、助けたんですか……」
「オイオイ、飯平らげた後にする質問じゃねーだろ」
女性は呆れ気味に、少女にそう言う。
「……私なんて拾っても……何の得にもならないし……。……一体何が目的で……」
「じゃあお前は助けて欲しくなかったのか」
少女は目を大きく見開く。
ハッとして、女性の顔を見た。
「私はお前を助けたいから助けたし、お前の声が聞こえた気がした。目的も目論みも企ても何もねぇ。見返りも必要としてねぇ。ただ、助けたいから助けた」
少女は申し訳なさそうに俯く。
そんな少女の頭を女性は軽く撫でて、告げる。
「……一緒に暮らそうぜ。私なら、お前を護ってやれる。それに、よく見たら結構可愛いしな」
女性は笑みを浮かべて少女に言った。
女性・クーラと少女・フォレストはこの時出遭った―――。
245
:
ライナー
:2011/11/13(日) 15:00:32 HOST:222-151-086-022.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
何だか、いろんな人の過去が出てきて面白いですね。
今回はフォレストさんですか、楽しみにさせて貰いましょう。
今回も少しアドバイスを。
えーと、キャラについて何ですが、デスパペの奴らが仲間になったところなのですが、またもやメインキャラが増えてきていますね。
これだと以前言ったローテーションを駆使しても、ある程度のキャラクターが空気キャラになりかねません。
この場合どうしたらよいか、残念ですがキャラを自然に消していくしかないんですね^^;
小説では、過去のキャラクターが消えていくのは自然なことなんです。
消えていかないとしても、それは少数精鋭のキャラクターを率いた小説です。
次の敵を倒し、仲間を増やすのは良いです。確かに展開としては面白いです。しかし、それの犠牲となって今までのキャラが消えることも覚えておいて下さい。
なので、幾つかは消えることを覚悟して書いた方が良いと思います(誠に残念ですが)
もう1つ言うと、サブキャラにも限界があるので気を付けて下さい。
ではではwww
246
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/13(日) 16:35:40 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます。
フォレストの過去については詳しくやる、と宣言していたので、今回書かせてもらいました。
なるべく空気にならないように他のキャラを満遍なく出しているのですが、どうも藤崎だけ話に織り込むことができないんですよ……。あのアイドルもどk((
デスパペのメンバーも五人の隊長が出てこなかったり、小隊隊長にいたっては二人意外でなかったり、キャラを消すのは頑張ってるんですけど……。まだ、し切れてないって感じですかね。
消そうとするキャラほど愛着が出てきてしまうことがあって中々消す事g((
はい、参考にさせてもらいます。
毎回アドバイスありがとうございます。
247
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/19(土) 19:23:07 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「オラオラァ!!」
クーラの大声とともに、彼女の手に握られている槍が力強く振り回される。
その槍の攻撃を、魁斗は自慢の足とレナと出会ってから嫌という程鍛えられた瞬発力でかわし続ける。
しかし、余裕という程の軽々しさはなく、むしろ紙一重というギリギリのところでかわし続けていた。
槍を振ってはかわされ、振ってはかわされ。そのつまらない応酬にクーラが痺れを切らしたように舌打ちを打つ。
「オイオイ、いつまでお前は逃げるつもりなんだよ。逃げてばっかじゃ勝ちは掴めやしねぇぞ」
(……んなもん分かってるっつーの……)
魁斗は心の中でクーラに悪態をつく。
攻撃しようと思えばいつでも出来る。だが、それは一人の時だけだ。
今は一人ではなく、後ろにフォレストがいる。
『攻撃しないでください!!』というフォレストのか細い声が妙に頭にこびりついている。
クーラは自分が攻撃できないと知りながら、わざと隙を作り、魁斗に攻撃の隙を与えている。
出来もしない、攻撃の隙を。
「……アンタは、本当にフォレストの師匠なのかよ……!?」
魁斗はふとそんな言葉を投げかけていた。
クーラはきょとんとした表情で固まっている。
だが、やがて笑みを浮かべ、言葉を返す。
「決まってんだろ。フォーちゃんと遭った時も覚えてるし、自分が死んだことだって理解出来てるさ」
「……アンタは、何でこんなことやってるんだ……。『十二星徒(じゅうにせいと)』ってのは、弟子を敵に回さなきゃいけなくなるほど、圧倒的な存在なのかよ」
「いいや、それは違うな」
フッと笑みを浮かべて、クーラはそう返す。
彼女は続けてこう言った。
「私は自ら望んで入ったんだ。勿論、フォーちゃんがそっち側だなんて知らなかったし、遭う事もないだろうと思ってたぜ?」
クーラの表情に嘘は感じれなかった。
魁斗はチラッと後ろのフォレストを見る。
彼女は今だ心配そうな表情で、握りこぶしを胸の中心に当てている。
目は切なく、幼馴染の男子二人が自分を取り合って殴り合っているのを見ているようだった。
そんな表情をしている女の子に戦わせるわけにはいかない。
魁斗は心の中でそう誓い、出来もしない攻撃の構えを取る。
「……フォレスト、心配すんな。俺の事はいいから、自分の事だけ考えてろ」
フォレストは魁斗の言葉に涙が出そうになる。
自分の弱さで、彼が傷ついている。自責の念に駆られている。
「……クーラさん。何で私は薬を作るのに携わせてくれないんですか」
フォレストはむすっとした表情で、クーラに訊ねる。
現在の二人は、晩ご飯を食べている途中で、スープをすくい、口に運ぶ手を止め、クーラは呆れた息を吐く。
「だから、何度も言ってるだろ。まだ無理だって。ちょっとの分量の間違いがとんでもない劇薬を作っちまうことだってあるんだから。それに、私の事は『クーちゃん』って呼べって言ってるだろ」
クーラはスープをすすって、ホッと一息をつく。
「フォレストはまだ小さいだろ。薬が目に入って失明でもしたら大変だしな」
その言葉にフォレストはとんでもなく、頬を膨らます。
「私は子どもじゃないです!大人な五歳なんです!」
「充分子どもだ」
白熱するフォレストの熱を、クーラが一言で冷ます。
フォレストは落ち着いて、口を尖らせた状態で俯くと、
「……自分の名前で呼ぶのは嫌いだから『フォーちゃん』って呼んでくださいって言ってるじゃないですか」
「嫌だ。私はお前の名前好きだし、それにそう呼んでもらいたいならお前も私を『クーちゃん』と―――」
「嫌です。名前好きなんで」
鸚鵡(おうむ)返しをされた。
これ程切ない気持ちになるのか、初めて鸚鵡返しを受けたクーラは冷たい風が通り抜けたような感じがした。
「……名前が嫌いなら、好きなように呼ばせればいい。お前に言わなきゃ良かったな」
クーラは失策を悔いて、息を吐く。
してやったと言わんばかりにフォレストは笑みを浮かべている。
実に楽しそうな笑みを。
248
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/20(日) 20:41:34 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六十九閃「ボクノキヲク」
ごく平和な日常。
クーラは一人では決して味わう事の出来ないこの幸せに、目を細めていた。
嬉しそうにスープを飲み干そうと器を傾けているフォレストにクーラは質問をする。
「なあ、フォレスト」
フォレストは丁度スープを飲み干し、満足げに息を吐く。
それから、クーラの方を向いて、話を聞く体勢を作った。
「……もし、の話だ。もし私が、お前の前から消えたらどうする?」
フォレストはその言葉にきょとんとして、表情を固まらせてしまう。
訂正するかのように、クーラは『いや』と付け足して、
「死ぬとかじゃないんだ。ここへ出ることになったりしたらってこと。そん時お前は―――」
「考えませんよ」
クーラの言葉を遮るように、フォレストはそう告げる。
フォレストは言葉を続けて、
「クーラさんは最強の人です。絶対死なないし、負けないし。それに、たとえ何処へ行こうとも私はずっとついて行きます!」
『ついて行く』。
クーラはその言葉に胸を打たれる。
その様子に気付かないフォレストは、無邪気に自分の意見を並べる。
「私はクーラさんの弟子です!何処へでも行きます。だから、『僕』も!絶対につれてってください!!」
にこっと微笑んでフォレストはそう告げる。
フッとクーラは笑みを零す。
嬉しかったのか。ただ笑えたのか。泣きそうになって誤魔化すために笑ったのか。それは覚えてない。
クーラはフォレストの頭に手を乗せて、耳元で囁くような言葉で告げる。
「―――ありがとう」
その時は、そんな都合の良い言葉を並べれた。
あの時までは、クーラが最強だと思っていた。
絶対に負けるはずが無いと信じていた。
何処までもついて行くと決めていた。
だが、現実は無残にも彼女の目の前で幻想を打ち砕いた。
最強だと思っていた人は血塗れで、負けないと思っていた人は床に伏し、何処までもついて行くと言ったのについて行けないところに行ってしまった。
フォレストは師を抱きかかえる。
彼女の最期の言葉を、フォレストは一言一句逃さず聞いていた。
その言葉を今、思い出す。
目の前には大好きな師と、彼女にいいようにやられている仲間の少年。
彼女がとるべき行動は一つ。
自分の手でクーラを討つ。それだけだった。
「……はぁ……はぁ……」
魁斗は荒々しく息を吐きながら、それでも握っている刀だけは手放さない。
その様子を息を吐いて、呆れ気味にクーラは見つめている。
「いい加減諦めろ。お前じゃ俺には勝てないってことだ」
「……うるせぇよ……!お前は俺が倒す!何も心配すんなって、フォレストに言ったからな……!」
「だったら」
クーラが突っ込み、槍を振りかぶる。
かわそうとする魁斗だが、足が上手く動かず、かわすのに完全に遅れた。
「ここで死ね」
そこへ、矢を構えたフォレストが二人の間に割って入る。
「「ッ!?」」
二人は大き目を見開いて、驚く。
僅かにクーラの攻撃の手が躊躇う。
「……フォーちゃん……そこをどいて……!」
しかし、フォレストは師の言葉を聞かない。
目の前のよりも、胸に有る師の方を信じた。
「『私は、お前に何も出来なかった。それは不甲斐ないと思っている。だが、私のお陰でお前が前を歩めるなら、私はそれでいいと思うことが出来る。お前は最期まで私を『クーちゃん』と呼ばなかったな。だから、私もお前を『フォーちゃん』と呼ばない』」
フォレストは大好きな師を思い出し、涙を流す。
涙を溜めた、覚悟の瞳でクーラを見つめ、攻撃を放つ。
「……クーラさん、は……何があっても、僕を『フォーちゃん』と呼ばない!!僕の名前を、大好きだと言ってくれたから!!」
少女の鋭い、覚悟と想いが籠った矢が、偽物の師を貫く。
249
:
ライナー
:2011/11/20(日) 22:32:35 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
フォレストさん、本当は、本当は……フォーちゃんじゃなくても良いと思っているんじゃないですか?(オイッ)
いや、にしても何でなんだクーラさん。
クーラって聞くとドラゴンボールのフリーザの兄貴を思い出しまs((殴
これから2人の間に何があるか楽しみです!
続きをお待ちしております!
ではではwww
250
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/21(月) 00:33:56 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます。
いや、フォーちゃんと呼んでほしいんです。
自分の名前は嫌いだけど、クーラが好きだと言ってくれたから……みたいな感じですね。
え、そうなんですか?
ドラゴンボールはあんまり見て無いから知らなかったです。にしてもフリーザの兄か……((
はい、続きも気合入れて書きますね!
251
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/25(金) 19:51:27 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
矢で貫かれ、後ろへと倒れるクーラの身体。
彼女の表情は自分がやられた、というよりフォレストが自分を攻撃した、ということに驚いているような顔だ。
「……ちく、しょう……!」
その言葉とともに、クーラの目が閉じられる。
すると、彼女の身体からするり、と小魚のような物が飛び出す。
『ちくしょぉー!!』
その魚はそのまま上へ上へ上って行く。
空中を泳ぐ魚。人間界では決して見れない光景だ。さすがは天界、といったところか。
「アレは何だ?」
「……天界に生息する人語を話す魚です。人に憑く事があるんだとか。名前は『ハート』。恐らく、アイツが身体に憑いてクーラさんを操っていた……」
「そうか」
魁斗はそれだけ聞くと、頷く。
それから、上へ逃げて行く『ハート』を睨みつけて、
「後は任せろ」
「……え、任せろって……」
フォレストが疑問を投げかける前に、魁斗は行動に移る。
魁斗が取った行動は、脚に思い切り力を込め、『ハート』に向かって跳んだ。
天子の驚異的な脚力を使った跳躍力は、やはりすぐに『ハート』に追いついた。
『魚(ぎょ)エェ!?』
「よぉ」
魁斗は不適な笑みを浮かべて、刀を振りかぶっている。
「さーて、どうなるかは、大体予想ついてるよなァ?」
『待て!待ってくれ……!』
「断る」
魁斗が巨大な光を纏った刀を振るう。
勿論、『ハート』は跡形も無く消滅する。
魁斗は着地すると、仰向けに倒れていたクーラを抱きかかえているフォレストに視線を向ける。
「……」
クーラはゆっくりと目を開けて、目の前に映る泣き出しそうなフォレストの顔を見つめ、フッと笑みを零す。
「……なんつー顔してんだよ……その顔、二度も向けるんじゃねぇ……」
クーラの声はドアを開けた時の音よりも小さく、ふとしたことで消えてしまいそうだった。
その声をフォレストは聞き逃さない。
「……いいじゃないですか、泣いたって……女の子ですよ……?」
クーラは『そうだな』と呟く。
それから彼女の視線は、魁斗へと向けられる。
「……良かったよ、フォレストにも君みたいな友達がいて……師匠としては、一安心だな……」
「友達っつーか、戦友?……それでも友達か」
フッとクーラは笑みを浮かべる。
「……私の首に、うお座の守護の証がある……それを取っていけ。どーせ、私にはもういらないしな……」
フォレストは言われたとおりに、クーラの首に掛けられていた『守護の証』を取る。
「……少年、フォレストの事、頼んだぜ……」
「……言われなくても。仲間だからな」
魁斗はフォレストの頭に手を乗せる。
「頼まれた!」
クーラは満足そうな笑みを浮かべ、視線を再びフォレストに向ける。
フォレストは俯きながら、涙を拭って、ちょっとしたことでまた泣きそうな顔を上げる。
「……もう泣きませんっ!」
「……次泣いたら、デコピンな……」
クーラはいつもやるようなやり取りをした後、スッと目を閉じ、呼吸するたび浮き沈みする腹の動きも止まる。
彼女の閉じた目は二度と開かれる事はなかった。
クーラはフォレストの膝の上で、静かに眠る。
252
:
ライナー
:2011/11/26(土) 15:52:06 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
ま、まさかの魚が取り憑いていただって!
にしても、魚本体が弱くて良かったですw
って……クーラさん……な、何でなんだー!!(泣)
これからは、フォーちゃんとと呼ばせて頂きます。フォーちゃんガンバw
続きを楽しみにしております、ではではwww
253
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/26(土) 17:05:56 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
はい、よくありますよね。
本体は弱いっていう展開。しかもクーラさんの剣(つるぎ)の名前出そうと思ってたのに出してないし((
おお、それはフォレストも喜ぶと思いますよ。
出来れば、クーラもクーちゃんと呼んでやってくださi((
はい、頑張りますw
254
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/03(土) 00:47:03 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「……え、僕が持ってていいんですか?うお座の守護の証」
フォレストは目の前の魁斗を見上げそう言う。
クーラ戦の翌日、早々に『用事が済んだら戻ってね』という連絡をカテリーナからもらい、うお座の守護の証も手に入れたことだし、人間界に帰ることになる。
今はうお座の守護の証を、フォレストが持つか、魁斗が持つかの相談だ。
「僕が持ってても、向こうに行くわけじゃあるまいし。貴方が持ってた方がいいんじゃ?」
「いや、お前が持っててやれよ」
うお座の『十二星徒(じゅうにせいと)』はクーラだった。
魁斗は、クーラも自分よりフォレストが持っている方が喜ぶ。とそんな気がしたのだ。
散々渋っていたが、フォレストはうお座の守護の証をきゅっと握って、胸に寄せる。
「……分かりました。じゃあこれは僕が……」
フォレストは少し俯いて、そう言う。
それから、別れの言葉を魁斗に掛ける。
「今回はわざわざすみませんでした。向こうから赴いてくれて、ロクなことも出来ず……。本当に、貴方には迷惑ばっか掛けてますね」
「んな事ねーって。ストリップ巫女の時はこっちも迷惑掛けたし……お互い様だ」
魁斗の言う『ストリップ巫女』とは元『死を司る人形(デスパペット)』のカルラだ。
実際に彼女が脱いで、そのあだ名がついたわけではないが、フォレストと戦い、彼女が結果的に素っ裸にされたため、そのあだ名が定着した。
「……そうですか……そう言ってくれると嬉しいです」
フォレストは魁斗を見上げて、笑みを零す。
そして、一歩前へ踏み出し、魁斗の胸へ両手を当てる。それから、背が低い彼女は背伸びをして、目を閉じ、唇を魁斗の頬へと付ける。
「ッ!!!???」
魁斗は突然の事に顔を真っ赤にする。
耳まで真っ赤にした彼は、思い切り動揺して、口を離したフォレストを前に何も言えない。
一方で、頬を微かに赤く染めるフォレストは、少し照れた様子で、
「……僕も一応女の子なので……あんま優しくすると、こうなりますよ……?」
魁斗は何も言えない。
それを汲み取ったのか、そんな魁斗をよそにフォレストは人間界への扉を開く。
「お世話になりました。これからも、どうぞ宜しくです」
「……あ、ああ……」
魁斗の顔はまだ赤い。
魁斗はいそいそと扉をくぐり、、扉の先に姿を消した。
扉が閉じ、巨大な扉は姿を消す。
フォレストはふぅ、と息を吐いて、
「……出てきてくださいよ。わざと、一人になったんですし」
フォレストの言葉を受け、スッと森の茂みから一人の人影が姿を現す。
目元以外を露出させておらず、身体全体を漆黒の衣装に包んだ、いかにも怪しい雰囲気の男だ。
そんな相手の様子を確認し、フォレストは腕を組む。
「で、何の用ですか?うお座の守護の証ですか?それとも……」
「貴様の命だ」
瞬間、男の二本の刀がフォレストの首に左右から襲い掛かった。
255
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/12/15(木) 16:02:09 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
ここでは初めてのコメントですねノ
というか、コメントが遅れてしまい申し訳ないです;
とても楽しく読ませていただきました!
戦闘描写も相変わらず上手くて、とにかく尊敬です←
キャラはみんな素敵なのですが、特に桐生くんとフォーちゃんがお気に入りです^^
『死を司る人形(デスパペット)編』を読んでいた時は「桐生くんはカッコよすぎる!!」だったのですが、今では「フォーちゃんかわいいよフォーちゃん」も追加されましt((蹴
さて、フォーちゃんに敵が来たわけですが、圧勝するフォーちゃんも見たいけど、ピンチから逆転するフォーちゃんも見たいという、ちょっと欲張りな事を考えていたり((
このままではフォーちゃんの事で埋め尽くされてしまいそうd((
それはさて置き、続き楽しみにしています! これからも頑張ってください^^ノ
256
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/16(金) 18:25:45 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
月峰 夜凪さん>
コメントありがとうございます^^
楽しく読んでいただけるなんて、とても嬉しいです。
戦闘描写にはそれなりに力を入れているので、評価してくださってありがとうございます!
わーお、まさかの桐生とフォーちゃん推しですか!
こう考えると主人公が割と不人気気味でs((
桐生とスノウの戦いに力入れ過ぎたなー、とか思っているのですが、今ではそれもいい方向に転がっているようで((
フォーちゃんは僕もお気に入りなので、出てくる時は愛を込めて書いております^^
敵来ましたねー。
だいぶ他人事のような調子で言ってますが……。まあ、ここからはあんまフォーちゃん活躍しなi((
その代わりに同じロリ要員のメルティが出るかな((
はい、頑張らせていただきます。
これからもお互い頑張りましょー^^
257
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/17(土) 09:46:23 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十閃「襲い来る雷撃」
魁斗が天界から帰ってくる日。
桐生は学校へ向かう朝から機嫌が悪かった。
理由は一つだけだ。
朝携帯電話を開くと、メールが届いていた。カテリーナからのものだが、彼女がこっちの世界に来てからは、珍しくもない。
彼が機嫌を悪くしたのは、彼女のメールの内容だ。
『今日私ズル休みしたいから。適当な理由つけて休みだって事伝えといて!なーに、桐生君頭良いから朝飯前でしょ』
一瞬、桐生は『本気で殴ってやろうか、こいつ』と思った程だ。
そんなこんなで、今は機嫌がひどく悪い。
今ならすぐに中学生の喧嘩っ早い桐生仙一に戻れる気がする。
そう思っていた彼に、二人の少女がぶつかりそうになる。
「おっと!」
「うわっ!」
その少女は桐生の胸くらいの身長だ。二人の身長はほぼ変わらない。
容姿は、肩くらいのショートカットの少女と、長さは肩くらいなのだが、左側の髪を一まとめにくくっている少女。二人の顔つきはよく似ていて、双子というやつだろう、と桐生は考える。
自分の不注意もあったせいで、桐生は相手の少女に声をかける。
「ごめん。考え事をしてて……。怪我はないかい?」
「あ、はい!ぜんぜん大丈夫ですよ!」
「こちらこそ、しっかり前を見てなくて。申し訳ありませんでした」
二人の少女はぺこっと頭を下げる。
彼女達も通学中なのか、セーラー服を着ていた。しかも、老人達が見たらあまり快く思わないであろう何かをかたどったおそろいのピアスを、二人の少女はつけていた。
桐生がその形に見覚えがあったが、
「では、私達はこれで!」
ショートカットの方の子が、そう告げて去っていく。
桐生も大して考えないように、振り返らずに、足を学校へと運ぶ。
すると、後ろから恐ろしいほど、無垢で。純粋で。無邪気な殺気が襲い掛かる。
桐生は剣(つるぎ)を出すことも忘れ、振り返る。
襲い掛かったのはさっきの左側の髪をまとめていた、さっきの少女だ。
そこで、桐生は思い出す。
彼女達のつけていたピアスが、『ふたご座』のマークをかたどったものだと。
「あっれー?」
藤崎は携帯電話に耳を当てて、疑問の声を浮かべる。
彼女が電話をしていたのは桐生だ。
普通ならすぐ出てくれるはずだが、最近会ってないし、という可愛らしい理由で、事務所に向かう車内で電話をかけていた。
だが、受話器から聞こえてくる音はコール音ばかり。
藤崎も諦めて、携帯電話を閉じ、ポケットにしまう。
むっすー、と明らかに機嫌を悪くする藤崎の顔を、運転手の二十代の青年は見逃さなかった。
「……不機嫌だね、恋音ちゃん。彼氏にでもフラれた?」
瞬間、藤崎は『ぶっ!?』と噴出してごほごほ、とむせる。
「ち、ちち違いますっ!桐生君と私はそういう関係じゃなくて、ただの友達です!恋愛ネタでからかうのやめてくださいよ!」
「ハハハ。これは失敬」
藤崎は運転手と友達のような感覚で話す。
運転手の斉藤春一(さいとう はるいち)は藤崎が芸能界デビューしてきた時から、ずっと彼女を支えてきた、藤崎にとって良いお兄さんのような人だ。
「……で、その桐生君。だっけ?恋音ちゃんは、彼のこと、結構信頼してるんだ」
「え、あ……はい。いつもなら、すぐ電話に出てくれるんですけど……」
斉藤の目が僅かに細くなる。
それから、彼は口を切った。
「……まさか、女が出来たとか―――」
「だからそういうネタでからかうのはやめてくださいっ!!」
車内に藤崎の叫びが反響する。
258
:
ライナー
:2011/12/17(土) 10:19:15 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
おお、いよいよ双子座登場ですか。双子座だけあってホントに双子が担当している!
ってか、桐生どうなる!? 相手は2人いますが、是非、勝って欲しいものです。
双子の剣の能力も気になりますね……
続きも楽しみにしております。ではではwww
259
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/17(土) 10:25:56 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
ふたご座は『十二星徒編』思いついた時から「よし、双子にしよう!」と決めてました。
あと、桐生と戦わせるというのもw
桐生君は強いので、多分大丈夫です。状況しだいで、魁斗より強いはず((
双子の剣(つるぎ)の能力は……明かせるかなぁ?
そこはちょっと考えてますね^^;
しかも恋音が桐生にデレ始めてる件w
斉藤さんもきっと大変です……。
260
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/17(土) 22:36:59 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ふたご座のマークをかたどったピアスをつけている中学生、双葉結花(ふたば ゆいか)と妹の双葉解花(ふたば ほどか)は街中を手を繋いで歩いていた。
二人ともセーラーの制服を着込んだままなので、昼過ぎの街中で彼女達はかなり目立っている。
街の人の視線をいちいち気にする解花に、結花は面倒そうな口調で告げる。
「……解花。いちいち気にしないの。死ぬほど面倒だから」
「だって、結花姉。ちらちら見てくるんだもん。私は結花姉を他の奴に見られたくないの!」
その言葉を聞いた結花は、無表情な表情を一つも変えずに、解花を頭を撫でてやる。
撫でられた解花は『うにゃー』と幸せそうな声を出して、結花の腕にしがみ付くようにくっつく。
「ねーねー、桐生だっけ?あいつ、死んだと思う?」
「……どうだろうね」
二人の会話は、先ほど仕留めた相手の話へと変わっていく。
「死ぬほど痛めつけて、死ぬほどボコって、河川敷の鉄橋の下に置いてきたから。動くのはしばらく無理だろうね」
その言葉を聞いた解花はにっこりと笑みを浮かべる。
嬉しそうなのは表情だけではない。声までも嬉しいのが伝わり、彼女は楽しそうに話し出す。
「だねー。これで私達もリーダーに褒められるねー」
「……まあ私達、リーダーが誰だか死ぬほど知らないけど」
藤崎は自分が出る歌番組の楽屋で、リラックスしていた。
彼女は収録前に必ずすることがある。
一つは、楽屋でリラックスすること。二つは、友達の写真を見ることだ。
何でも、自分の自己暗示かもしれないが、友達の顔を見れば安心するらしい。
藤崎は携帯電話のフォルダに入っている、魁斗達の写真を見る。
すると、急に着信が入る。
「ッ!!!???」
大きく肩をビクッと動かして、椅子から転びそうになる。
表示された名前は『桐生仙一』。
藤崎は慌てて、電話に出る。
「ひゃ、ひゃい!?ふ、藤崎ですですけども!?」
かなりおかしな日本語になってしまった。
いきなり電話がかかってきたことに驚いて、かなりテンパっているらしい。
電話の向こうの声は、そんな様子に気づかないのか、こう返してきた。
『……ああ、元気そうで良かった……。そっちは、何とも……ないようだね』
藤崎は電話越しの声に違和感を感じる。
どこか力を振り絞るように聞こえる。
「……桐生君?大丈夫?」
『……僕は何ともないよ……。少し、食らったけど……向こうの詰めが甘くて助かった……』
藤崎は不安な表情を隠せずにいる。
『……携帯を見てみたら、着信が入ってたから……。手遅れじゃないなら、用件を聞くけど……』
「えぇっ!?あ、いや……。今日仕事でさ、最近会えてないから……ちょっとでも話してリラックスしたくて……」
受話器から桐生のフッという笑いが聞こえる。
『そうか……。ならいいけど……かえって不安を煽るような結果になってごめんね……』
「ううん、いいの。……本当に大丈夫?」
大丈夫だよ、と桐生は返す。
それから立ち上がるような力んだ声が聞こえた。
『……仕事、頑張ってね……。応援してるよ』
「うん。わざわざありがとう。じゃね」
藤崎は安心したような調子で電話を切る。
その様子を見た、斉藤は悪戯のように呟く。
「彼氏、ですか?」
「だ、だから違いますって!!」
藤崎は慌てて否定する。
だが、他の人が見れば今の会話の内容は、カップルみたいだった。
桐生は、河川敷の鉄橋の下で、刀を杖代わりに地面に突き刺し、身体を支えていた。
僅かに息を乱しているが、今の彼にゆっくり休む暇などない。
彼は指で眼鏡を上げて、軽く深呼吸をする。
「……さて、年下の女の子へ。お仕置きしにいくか」
桐生はよろよろとしながら、中々おぼつかない足で歩き出す。
「女の子を苛める損な役回りは、僕の仕事だ」
261
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/18(日) 17:40:35 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
日も落ちてきた夕方、双葉結花と解花の二人は河川敷を歩いていた。
この河川敷の鉄橋の下に、二人は桐生仙一を置いてきたのだ。
今彼はどうしているのか、そう考えて生きていたなら殺すし、死んでいたらそのまま放って置く。どちらにしても、彼の運命は決まっていた。
二人は死んでいるだろう、と意見を一致させ、鉄橋の下へと足を運ぶ。
だが、そこには人一人どころか、何も無かった。
血痕も、誰かがいたであろう痕跡も、何一つ残っていない。
「……?」
「あれ!?ここにいた、桐生仙一は?何で?何で何も無いの!?」
「落ち着いて、解花」
慌てる解花に、結花は優しく語り掛ける。
自分たちが置いた場所に間違いないはずだ。
反対側かもしれないが、反対側にも赤いもの、つまり血痕は見えないし、桐生仙一らしき人影も見当たらない。
すると、結花の携帯電話がポケットの中で振動する。
誰かからのメールを受信したようだ。
結花は冷静に携帯電話を開いて、メールの内容を確認する。
メールの送り主は『K.S』と表記されていた。
『十二星徒(じゅうにせいと)』のリーダーだ。
結花は届いたメールの文面を口にする。
「……『貴女達に伝え忘れた桐生仙一の情報について。彼は元『死を司る人形(デスパペット)』の隊長である、スノウに修行をつけてもらっていた。当時の彼は、今と比べ物にならないくらい、鋭く尖っていて、強く輝いていて、引き際も往生際も諦めも人相も、全て超がつくほど悪い人物だった』……?」
「待ってたよ」
メールを読み終わると、言葉とともに、結花と解花の二人は背筋に何か寒いものを感じる。
氷じゃない。水でもない。殺気に似た、身の毛もよだつような、気配だ。
「「……ッ!?」」
二人は急いで振り返る。
彼女たちより十メートル程離れたところに、一人の人影が立っていた。
水色の髪に、細めの身体つきの、眼鏡が似合いそうな少年。
そう、桐生仙一だ。
彼は顔に、手当てしたような形跡があるが、目は鋭くしっかりと二人を捉えていた。
「……!」
結花と解花の二人は言葉を失う。
だが、相手は手負いだ。
二人で一斉にかかれば、楽に倒せるはず。
結花は指輪になっている剣(つるぎ)を発動させる。
双剣の片方を、解花に渡す。
二人の剣(つるぎ)『双雷閃(そうらいせん)』は、攻防一体の刀だ。
現在、結花が持っている方が『攻』の刀、解花の方が『防』の刀だ。
二人は絶妙なコンビネーションで、桐生を追い詰め倒した、というわけだ。
二人は刀を構え、左右逆に走り出し、桐生を挟撃する。
『防』の刀でも、攻撃は出来るのだ。
「お前はもっかい、結花姉と私にやられちゃえ!」
「……復活とか、死ぬほどウザイし」
二人の攻撃を待ち構え、桐生は刀を地面に突き刺す。
たったそれだけだ。
だが、結花と解花の二人の動きを縫い止めるように、肌を傷つけないように服だけを貫くように、氷の氷柱が地面から生える。
桐生は、身動きが取れない二人に、告げる。
「……同じ相手だと思うな。今の桐生仙一は、君らの知ってる桐生仙一じゃない」
262
:
ライナー
:2011/12/18(日) 17:55:21 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
ついに桐生君のバトルスタートだ!
桐生ファンとして、無傷を望m((殴
攻と防に分かれているとは、というかそれ以前に2対1なんてひきょーだぞ! 双子め!(実は自分は双子座)
いや、桐生君なら強いから2人なんて余裕だ! と思います。
ではではwww 続きを楽しみしております。
263
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/18(日) 19:55:55 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
桐生は上から落ちてくる何か光る物を手でキャッチする。
落ちてきたものは二つ。
どちらも歪な形の物がくっついたネックレスだ。桐生はその二つのマークをくっつけてみる。
ふたご座のマークだ。
桐生は下から氷柱を出した際に、二人のネックレスを上に弾いていた。『守護の証』が手に入れば、桐生としても双子に用はない。
「……じゃあな。時間が経てば、氷も消えるさ」
「……待て……ッ!!」
歯噛みしているような振り絞る声。
後ろで、黄色い光が瞬く。
桐生が振り返ると、双葉結花の方が、電撃を放ち氷を砕いて、動けない状態から脱出した。
だが、氷を砕くために電撃を流したのと、氷柱で衣服を貫かれたのとあって、彼女の服はあちこちが破けていた。横腹や太もも、左肩。見られて困るようなところは大丈夫なようだ。
結花はかなり鋭い目つきで、ギロっと桐生を睨みつける。
「……まだやる気か」
「……諦めるか。私はお前を、死ぬほど叩き潰したいんだ……!そして、死ぬほど後悔させてやるッ!」
桐生は小さく息を吐き、断言した。
「お前には無理だ。今ので分かったろう?お前と俺とじゃ差が開きすぎている」
桐生の言葉に、すぐさま結花は言葉を返した。
「そ、そんな事あるもんか!私達は、お前に一回勝った!お前に死ぬほど電撃を浴びせた!だから、もう一回勝つ事だって死ぬほど楽な―――」
「ああ、不意打ちだったらな」
桐生の言葉に、勇んでいた結花の言葉は詰まる。
解花は姉に加勢すべく、氷から開放されようともがいている。
「……、じゃあ、じゃあせめて、『守護の証』を返し、解花を開放しろ」
「……じゃあ誓え。二度と俺達の仲間を攻撃するな」
桐生の言葉に、結花は小さく頷いた。
それを見て、桐生は解花を囲っていた氷柱を砕き、持っていた『守護の証』を空高く上へと投げる。
「……ッ!」
結花と解花の視線は上へと集中される。
二つを合わせた『守護の証』は空中を舞いながらも、形を保ったままだ。
上へと意識が集中する二人に衝撃が走る。
目に見えない、心に走ったものではなく、彼女達の身体に走った。
下から出てきた氷の棒に、二人は強く顎を突かれる。
「……ッ!?」
二人は強い衝撃に、そのまま後ろへと倒れこむ。
落ちてくる『守護の証』の首を通す部分に、桐生は刀身を通す。
「……お、お前……!」
結花が振り絞るような声で、倒れながら桐生を見る。
桐生は刀身に通した『守護の証』をポケットにしまい、
「……言ったはずだ。『今の桐生仙一は、君らの知っている桐生仙一じゃない』ってな」
つまり、と桐生は一度言葉を区切って、告げた。
「卑怯な手も使うさ」
桐生はその場を去っていく。
騙された結花は歯を食いしばり、強く地面を叩く。
涙さえも、悔しみの言葉も、何も出なかった。
「お疲れ様」
桐生仙一に一人の女性が話しをかける。
桐生がそちらへ振り返ると、ハクアが立っていた。
どうやら戦いを全て見ていたらしく、戦っているのが桐生だから手を出さないでいたらしい。
「……見ていたんですか。加勢してくれても良かったのに」
そこでハクアは見た。
桐生仙一が、いつもの彼に戻るのを。
「やっぱアレは演技だったので。わざと悪役ぶっちゃって、下手っぴよ?」
「……勘弁してくださいよ。僕にはアレが限界なんですから」
ふふ、とハクアは笑みを浮かべる。
「……手当て、ありがとうございました。では」
桐生はひらっと手を振って、帰っていく。
ハクアはその桐生の後姿を見ながら、ポツリと呟いた。
「……なーんか、もうちょっとカイト君みたく表情を表に出していいと思うんだけどなぁ」
一方、天界でも一つの戦いが終わりを迎えようとしていた。
突如現れた双剣を使う男と、フォレストとの戦いだ。
だが、結果は同じとは限らない。
「……はあ……はあ……」
二人の人影がある。
一人は怪我を負い、肩膝をつき、息を乱している、少女。
もう一人は、それをつまらなそうに見下ろしている、男性だ。
そう、天界の方では天子側ではなく、『十二星徒(じゅうにせいと)』側が勝利しようとしていた。
「……案外つまらんな。貴様」
男の言葉に、フォレストは悔しそうな表情で、相手を睨む。
264
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/18(日) 19:59:50 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます!
桐生君は女の子と戦うのが苦手な人です。
スノウの時はそれを感じれなかったけど、スノウさんは別です。あの人は普通じゃないからです。
それがふたご座なんです。
あの子達はどっちかが欠けたらどうにもなんない、面倒な奴らです。しかも両方シスコンです((
意外と桐生君は余裕ありますからね。
ハクアさんや、エリザに次いで、余裕ありますよ(多分)。
265
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/22(木) 21:58:00 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十一閃「孤立無援」
自分を見下ろす、二本の刀を持つ男を、膝をつき、傷を負っているフォレストは見上げるような形で、相手を睨む。
現在、フォレストの武器である『銀嶺光矢(ぎんれいこうや)』は手元にない。
彼女の武器である弓は、後方に転がされてるも同然と言った様な形で、置かれている。
正確に言えば『置かれている』ではなく、『弾き飛ばされた』が正しい。
相手の猛攻を耐えるために、弓で相手の攻撃を防いでいたフォレストだが、やはり十五歳の少女の腕力が耐えられるものではなkったらしく、簡単に弾き飛ばされてしまった。
つまり、手元に武器がないと言う事は今のフォレストに戦う術がない、ということだ。
「……」
フォレストは、相手に気づかれるか気づかないかくらいの微妙な動きで、後方へと振り返る。
移るのは弾き飛ばされた自分の頼もしい武器。
勿論、念じても拝み倒しても武器は、自分が取りに行かない限り、自分の元に戻らないだろう。
彼女は懐に手を突っ込み、ごそごそと何かを取り出そうとしている。
それを、男は心底つまらなそうな表情で見下ろしている。
「……何をしている、貴様。まさか、ここまできてまだ無駄な足掻きを行おうとしているのか」
フッと、フォレストは不適な笑みを見せた。
余裕とも取れるほどの、不適な笑みを。
「無駄かどうかは、見てから決めてくださいよ」
フォレストは手を引き抜く。彼女の小さな手には、黄色い玉が掴まれていた。
フォレストは、その玉についてあるピンを口で引き抜くと、地面に落とすように、パッと手を離す。
「……ッ!?まさか、手榴……!」
男の言葉はそこで止まった。
玉が落ちると、起きたのは爆発。ではなく、眩いほどの光だった。
フォレストが使用したのは、閃光弾だ。
こんなこともあろうかと。
ザンザとクリスタが訪れた際に、武器を数個受け取っていたのだ。
フォレストは弾が光ると同時に、後ろへ駆け出し自身を弓を掴み取る。
掴み取った瞬間だった。
気を緩めていた彼女の首の左右に、後ろから鋭い刀の刃が向けられる。
「……、後ろを向いて、どうする気だ、貴様。作戦は良かったが、詰めが甘いな」
フォレストの動きが、弓を掴んだままで止まる。
振り返って、自身の魔力で矢を生み出し、矢を引いて放つより先に、相手の刀が自分の首を切り落とす方が早いのは明確だ。
だからこそ、下手に動けないのだ。
「……」
フォレストは相手に気づかれないように、歯を食いしばった。
男は当然それに気づいていない。
「……終わりだ、貴様」
男が左右の歯をフォレストの首に食い込ませようとした瞬間だった。
ドッと、強烈な音とともに、男の横っ腹に光の球体がぶつかり、男の身体が横向きにくの字に折れ曲がる。
「……何……?」
男は状況が理解出来ないままに、横へ飛ばされ、木にぶつかり、そのまま木をへし折ってしまった。
状況が分からないフォレストが目を点にして、吹っ飛んだ相手を見つめていると、後方から声が飛んでくる。
「まったく、その子は死なせたくないのよ。何故かって?薬の補給路が断たれるじゃない」
後方からの声は、幼い声だった。
フォレストよりも幼く、それでいてどこか甘ったるい。だが逆に、その声を聞いたら、自然にも悪寒が走るような、寒気も感じさせる。
だが、フォレストは寒気を感じることはない。
何故なら、この声の持ち主を知っているからだ。信頼できる相手と分かっているからだ。仲間だと説明しなくてもいいからだ。
フォレストは、相手の名前を口にしながら、振り返る。
「……エリザさん……!」
後方にいたのは、金髪の髪をツインテールのように分けている幼女と、見た目十八歳程度の、黒髪をポニーテールにした、右目に眼帯を当てている女の二人だ。
「んにゃー、大正解。クリスタもいるけどねー」
「助けに来た、と。ベタに言った方がいいかな」
266
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/23(金) 13:31:30 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
現在、森の中で一人の人物を左右から挟むように、二人の人物が立っている。
一人はアフロヘアーで、サングラスをした男。もう一人は強面のガタイがいい大男だ。
アフロヘアーの方の男はナイフを、ガタイがいい男は矛のような武器を構えている。
彼らの間にいるのは、一人の少女。
銀髪の髪を持ち、ハルバード型の武器を担ぐように持った、見た目十六歳程度の少女だ。
少女は今の状況を把握し小さく息を吐く。
数で押せば勝てると思ったのか。負けるはずがないのに。
銀髪の少女、メルトイーアは溜息をつきながらそう思っていた。
「ヘイ!どーしたんだヨ!溜息ついちゃって。ミー達に勝てないと思ったからかい?」
「……モォ」
アフロヘアーの男が陽気に話すのとは対照的に、大男は小さく唸っただけだった。
メルティは二人を交互に三度見てから、
「いや、別に。たださ、アンタ達って何者なのって思っただけよ」
アフロヘアーの男のサングラスが、キランと光ったように見えた。
待ってましたよ、その質問!と言いたげな感じで、男は答える。
「ミー達はユー達の新たな敵!『十二星徒(じゅうにせいと)』だぜ!」
「……ぶぅ」
またまた大男は小さく唸る。
アフロヘアーの男の回答に、メルティは『へー』と小さく返す。
「……その十人生徒が何の用?ってか学級閉鎖じゃん」
「ノーノー!十人生徒はノット!まァ、俺らが何者か名乗ったところで理解はしなくてもいいケドな!」
メルティは面倒そうに息を吐いて、頭をかいている。
二人の男が武器を再度構え直し、ナイフの切っ先と矛の切っ先をメルティに向ける。
メルティの身体から、余裕が消え真剣さがみなぎる。
「……ユーはここで殺られんだぜ」
「……俺、我慢できない……!……早く、殺したい……!」
大男が始めて長い言葉を話した。
普通の人からすれば、長くない言葉だが、さっきから短い唸りを繰り返してきたところしか見ていないメルティには、長い言葉に感じられた。
メルティは自身が持っているハルバード型の斧を、担ぐのをやめ、両手で持つ。
「やっと休めると思ったのに。ホーント、私ってば情報屋だから人気だわ」
メルティの斧に、雷が纏う。
バチバチ、と電撃が走る音が連続して、メルティと男二人の耳に届く。
「さってと、せめてウォーミングアップ程度は手伝ってよね!」
エリザは槍状の武器『蓮華(れんげ)』を手で回しながらフォレストの横まで歩み寄る。一緒にいたクリスタも同じようにエリザについてくる。まるで付き人みたいだ、とフォレストは思った。
「……大丈夫?フォーちゃん。ところでさ、アイツ何?」
エリザは不機嫌そうな顔で、立ち上がる男を睨みつける。
男は何事もなかったかのように立ち上がり、二本の刀を構える。
効いてないのかよ、と僅かに悪態をつきながらも、エリザは闘志を見せる。
「……クリスタ。フォーちゃんを治療してあげてね」
「……構わないが、お前がアイツと戦うのか」
エリザはこくりと頷く。
「ここで一番強いのって私でしょ。少しでも勝率が高い私が行った方がいいてのは、アンタも分かるでしょ?」
「……そうだな。任せた」
クリスタは目を閉じ、フォレストをお姫様抱っこで抱えると、木にもたれさせ、配慮のためか、戦いを見れるような体勢にした。
十五メートル程の間を空けて、二本刀の男はエリザを睨みつける。
「ハロー。さっきの効いた?」
「……少し」
男は刀を構え、そう答える。
エリザはやれやれ、と言った調子で額に手を当てる。
それから『蓮華(れんげ)』の切っ先を相手に向け、光の球体を作り出す。
「もっと痛い目見てもらうか。オニーサン♪」
ニィ、と無邪気で無垢で純粋な笑みを浮かべた。
267
:
ライナー
:2011/12/23(金) 17:36:26 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
何やらバトルがてんこ盛りですね!
個人的にはアフロヘアーの人物がメチャクチャ気になります(笑)
喋り方も個性的で、敵のオシメンはこの人で決まりですな (−v−)〜♪
アドバイスの方も少し……
バトル展開が広がってきて面白いのですが、登場人物が出過ぎているというのが少し残念です。
登場人物が出過ぎると、読者の理解が間に合わず、この人誰? と言うことになってしまいます。
例えば、複数のものを数えるとき、1つずつ出てくればそれをゆっくりと数えれば良いですが、一気に出てしまっては数えづらくなりますよね? これと同じ理由です。
それと、視点移動についてですが、正直多すぎると思います。
視点移動が多いせいで、さらに文章の理解が難しくなっています。
ちなみに、竜野さんが使っている手法の視点移動は、ほぼ、漫画がでしか使われない手法ですので、あまりに多い視点移動は止めましょう。
視点移動をする分には、その展開のバトルが終わってからなど、分かりやすい区切りを付けてあげましょう。
最後は、その視点移動の根本的なところです。
この小説の主人公は魁斗だと思いますが、出番が少なすぎます。
小説は主人公を視点に描くものであって漫画とは違います。漫画なら絵でどう登場人物が出ているか分かりますが、小説は文章で伝えるのはプロでも困難です。
今の状況だと、その主人公が、ただ話の流れを掴むもので、仲間がアクションを起こす。こんな役割配分に見えてしまいます。
あくまで主人公視点なので、主人公に見える範囲の状況をなるべく描きましょう。
主人公以外の視点を描くときは、その主人公の行動に直接関係している人物を単体で書く場合なので、そこらをもう少し注意して書く必要があると思います。
全く少しでないアドバイスでしたが、少しでも分かって頂けたらと思います^^;
ではではwww
268
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/23(金) 17:47:36 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤崎恋音は日が暮れ始めた頃、仕事も終わり帰りの電車に乗っていた。
電車の窓から外を見れば、家の電気や外套の薄明るい光、落ちていく夕日のオレンジ色が街を照らしている。
綺麗だな、と藤崎が率直な意見を心の中で浮かべていた。
彼女は仕事へ行くときは車だが、帰りは電車で帰っている。
何でも斉藤春一は、藤崎を車で仕事場へ連れて行き、仕事が終わるまで待ってくれてはいるのだが、そのまま自分の家へ帰ってしまうのだ。
仕事場まで連れて行ってくれるだけで嬉しいのだから、帰りはなるべく電車を利用することにしている。
すると、藤崎の鞄の中で鈍い音が聞こえる。
藤崎が鞄を開けて、中を漁ると携帯電話の振動音だった。
(……何だろ?)
藤崎は携帯電話を開けて、着信かメールの受信かを確認する。
メールの受信だった。しかも相手は桐生仙一。
「ッ!!」
藤崎は僅かに肩を震わせて、急いでメールの内容を確認する。
『今日は色々と心配かけてゴメン。そっちは何ともないようで本当に良かったよ。じゃあ、会えたら明日学校でね』
何とも素っ気無い、桐生らしい文面だが藤崎にとってはそれだけで幸せだった。
しかし、彼女はハッとして首を横に振る。
(だー、違う違う!桐生君はただの友達であって、そういうんじゃないんだから!何過剰に意識してんのよ私ーっ!!)
すると、電車が藤崎の降りる駅に停車する。
藤崎が鞄を持って、電車から降りる。
階段を下り、ポケットから定期を取り出して、改札に定期を通す。彼女から駅から出ると、藤崎は目を疑う。
夕暮れの駅だというのに、人が一人も見当たらない。
それどころか、雨が土砂降りと言ってもいいほど降っているのだ。
藤崎の記憶にある今日の天気は午後の降水確率は0パーセント。しかも、電車の中で見た景色では、雨は降っていなかった。
(……どういうこと?もしかして、『剣(つるぎ)』の能力?)
切原魁斗達と知り合って以来、彼女は『死を司る人形(デスパペット)』という組織と死闘を繰り広げた。更に現在でも『十二星徒(じゅうにせいと)』という組織と戦っている。
急に雨が降っているし、地面には少し水が溜まっていた。
こんな奇天烈な出来事、『剣(つるぎ)』の能力以外では考えられない。
だが、天候までも操れる強力な『剣(つるぎ)』があるのか。藤崎が考えていると、何処からか音が聞こえる。
水が溜まった地面を歩く音。それとともに何かを引きずるような音だ。
藤崎が音の方向に振り返ると、一人の人物がこっちに歩み寄ってきている。
背は藤崎よりも低く、中性的な顔つきの少年だ。彼が引きずっているのはサソリのハサミを巨大化したようなもので、右手に纏わり付いている。
藤崎の直感が告げている。
いや、切原魁斗の仲間なら、誰でも彼のことをこう思ったはずだ。
(……『十二星徒(じゅうにせいと)』だ……!)
少年は藤崎から二十メートル程離れたところで足を止め、藤崎を見つめる。
「初めまして、藤崎恋音さん。いやー、写真や雑誌で見るより全然可愛いなぁ。ハッキリ言ってタイプですよ」
「……だから?」
藤崎は素っ気無い返事を返す。
相手が敵だと分かっているからだ。現に今の彼女の手には刀が握られている。
少年は笑みを浮かべて言葉を続ける。
「僕は『十二星徒(じゅうにせいと)』メンバーのさそり座を担当してます、名前はそのまんま。サソリです」
「だから何って言ってるのよ!アンタが敵なら、私はただ、倒すだけよ!」
藤崎が突っ込む。
彼女はまだゲージが溜まっていないため、自身の魔力で炎を作り出す。炎を纏った刀で、サソリへと思い切り振り下ろす。
が、
彼女の刀はサソリの巨大な右腕によって止められていた。
しかもそれだけじゃない。
彼女の刀に纏った筈の炎が跡形もなく消えている。
「ッ!?」
「あらあら、大変ですね」
サソリは不適な笑みを見せ、こう告げる。
「こんな雨が降って湿気が溜まってる場所じゃあ、炎なんて扱えませんねー」
269
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/23(金) 18:01:07 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
はい。
『死を司る人形(デスパペット)』編でもやったような、敵が来てそれを倒す、みたいな展開ですが……。
ちなみに、アフロさんはおひつじ座。大男はおうし座です。
大男は気付いてもらえるように、開口一番『……モォ』と言わせています。
気付いたでしょうか?
現在、藤崎さんがヤバメです。メルティとエリザのロリ二人は心配ないです((
あー、だからなるべく、『十二星徒(じゅうにせいと)』編に入ってから、今まで出てきたキャラが出るたびに、容姿を説明させているのですが……。
それだけじゃちょっと足りないですかね?
これ言っちゃいけないと思うんですけど、正直全員分の戦い書くのつらi((
だから次に視点が戻った時に、決着つきましたよ、的な感じにしようと思ったのです。
でも、多すぎるというのが問題なんですよね。
少なくするように心がけなくては。
はい、仰るとおり魁斗君です((
>>268
を書いてる時に名前を出して気付きました。
『あ、最近コイツ見ねぇな』って((
彼は桐生戦、エリザ戦、メルティ戦、藤崎戦が終わってから出そうという予定なのですが、さすがに出番がないですね……。
この四人でここまで時間がかかるとは……。まあ四つもあるし((
一方でハクアは出てきたけど、高校生組が出ない((
レナとかサワは何してるんだろう。藤崎さんのお友達、國崎さんも出番が……。
いえいえ、むしろダメな点を多く指摘してくださった方がこちらとしても助かります。
意外とダメなところは自分では気付かないので……。
ありがとうございました^^
270
:
ライナー
:2011/12/23(金) 19:11:11 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
とりあえず、疑問を解決するべくコメント返しておきます。
容姿ですか、むしろ容姿は無いか少なめで良いと思います。
小説には、読者に想像させるという裏の顔を持ち合わせ、僕のようなこの小説にはまっている読者はほぼ想像しちゃってます^^;
ですので、そこら辺は作者の自由と言うことになるので、大丈夫です。
大切なのは存在感です。
コイツはこういう名前で、こういう性格で、こういう能力(武器)を持っている。といった情報を分かりやすくすると良いでしょう。
やはり全員分は辛いでしょうね^^;
人数が多いので、以前も言いましたが何人か自然にカットすることをお薦めします。
それと、この話ではコイツとコイツのサブキャラを出そう、などあらかじめ出すキャラクターと出さないキャラクターを決めると良いでしょう。
例に挙げると、ブリーチなどが良い例です。
あまり詳しくは知らないのですが、死神の時と通常の人間の時で世界が違うためキャラの変更をしやすいです。
竜野さんもせっかくそう言った世界観があるので、天界と人間界の2つでステージを分けるとより一層分かりやすくなりますよ。
いえいえ、自分なんかのアドバイスで喜んでいただけるとは恐縮です。
それとお詫びが……
擬音に関してですが、「!」は1つなら使用が可能らしいです。本当に申し訳ありません。
さらに、繰り返し言葉以外の擬音の使い方として、一番メジャーで無難なのが、溜めてドンです。
―――(擬音)
てなかんじです。
例を挙げると……
俺は銃を持ち上げ、ゆっくりとターゲットに向かって引き金を引いた。
―――カチッ
撃鉄の乾いた音が、額に冷や汗を浮かべさせる。
このように、引き金を引いたなら銃声がする、と言う常識が擬音によって何でカチッ? と、疑問を持たせることで、興味を持たせ、より読みやすくなるのですね。
ご参考までに^^
ではではwww
271
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/23(金) 20:04:10 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
あ、そうなんですか。
久々に出てくるキャラなどはちょこっと説明を入れた方がいいと思っていたり……。
魁斗を含むメインキャラ(レナ、ハクア、桐生、藤崎、沢木)は結構出るので、説明は不必要と自己解釈してますが、メルティとかフォーちゃんとかエリザとか(ry
説明を入れた方が、いいかなと思ってました。
むしろ、名前、性格、能力などを入れた方がいいのですね^^
僕の場合、結構行き当たりばったりな感じがします((
本来ならば、エリザとか出す予定なかったけど……、今出とるし。
藤崎さんは最初からさそり座と戦わせる予定でした。
さそり座はもっと、アイドルオタクっぽい奴にしようと思ってました((
ブリーチは僕も知ってますし、大好きな作品です。
言われてみれば、ソウル・ソサエティと人間界でのキャラの使い分けは上手いと思います。
そうなんですか。
擬音もそういう使い方があるとは……。
これから参考にさせていただきます^^
272
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/24(土) 12:52:46 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
森の中を二人の人物が並んで歩いている。
元『死を司る人形(デスパペット)』の部隊長を務めていた、ルミーナとゲインの二人だ。
特に接点もなく、あまり会話もしたことがない異色の組み合わせである。
二人はエリザからの頼み(命令)で、ある人物の捜索を頼まれていた。
それが『幻の情報屋』と謳われている、メルティを見つけるためだ。
現在の『死を司る人形(デスパペット)』残党組のエリザ達は、主にザンザが方々を駆け回って情報を仕入れている。彼によると、この森でメルティらしき人物を見かけた、という情報が最も有力らしい。
何にしても、どんな情報でも提供できるメルティがいてくれれば、情報面でも心強い。
しかし、森の中を彷徨い小一時間。一向に見当たる気配はないし、人影すらも見つけれない。
「はー、ホンマにこんなトコにおるんかいな。メルティちゃん」
「……さあ。……でも、ザンザ君が頑張って教えてくれたんだし……」
諦めかけていたゲインの言葉に、ルミーナが返事をする。
ぶっちゃけると、ルミーナも少々諦めかけている。
だが、仲間の努力を無にしないために、諦めていない素振りを見せているのだ。
ゲインは溜息をついて、ルミーナにある提案をする。
「……もう帰らへん?」
「だ、だめです!それは絶対にだめ!もうちょっとだけ探しましょうよ!!」
ルミーナは必死に反抗して、もうちょっとだけ探すことを提案する。
女性に弱いゲイン(今はハクアにベタ惚れだが、可愛い子には頭が上がらない)は、ルミーナの提案にしぶしぶ乗ることにした。
すると。後方の方から、草を掻き分ける音が聞こえる。
現在森の中はかなり静かなので、その微かな音さえも鮮明に耳に届いた。
二人は振り返って、いつでも戦えるように『剣(つるぎ)』を発動する。
だが、出てきた人物は意外な人物だった。
銀髪の髪に、ハルバード型の武器を持った少女。
そう、メルティだった。
「……おや?奇遇だね、お二人さん。デート中だった?」
彼女は後ろの襟を掴んで、アフロヘアーと大男の『十二星徒(じゅうにせいと)』を引きずって登場した。
「ほらぁ!」
一方、人間界では藤崎恋音とサソリが戦いを繰り広げていた。
駅の近くだというのに、人が一人もいない。そのためか、サソリも容赦なく攻撃しているように見える。
彼はハサミ型の大きな右腕を振り回して、水の刃を放つ。
藤崎が身体を逸らしてかわすと、水の刃は電柱に当たり、電柱が綺麗に切断された。
(……電柱が……っ!)
藤崎は綺麗に切断された電柱を見て、背筋に寒気を感じる。
あんなもの食らえば、藤崎の華奢な身体も綺麗に真っ二つだ。
「……くっ!」
藤崎は距離を取って、刀を前方に構える。
サソリはそれを笑みを浮かべながら見つめている。
「いやぁー、雨に濡れて制服が透けてるね。良い感じに色っぽいよー」
「やかましい!戦いに集中しなさいよ!」
藤崎は相手の言葉に顔を赤くして、手で胸の辺りを覆う。
(……こんな状態じゃ炎を生み出せない。さっきから何度も試してるけど、ちょっとの火も灯せなかった。しかも、水場で動きにくいし……)
今の戦場は藤崎にとって、状況の悪い戦場だ。
水場で雨が降り、湿気が充満してるため、炎を使った攻撃が全く出来ない状況だ。
炎を使うことが出来なければ、藤崎の『剣(つるぎ)』もただの刀になってしまう。
(……、室内に移動した方がいいかな)
藤崎は戦えそうな場所へ移動するために走り出す。
「鬼ごっこ?いーよ、僕鬼ごっこ大好きだしさ」
サソリも藤崎を追うために、走り出す。
藤崎は走りながら、ポケットの中から携帯電話を取り出そうとする。
「……とりあえず、アイツと私じゃ相性が悪すぎる……!誰かに助けを求めて……」
そこで、藤崎の足が止まる。
ふとした疑問が彼女の心に浮かんだからだ。
『切原君達と会ってから、自分は一人で勝った事がないんじゃないか?』
ザーディアの時だって、桐生に助けてもらって勝ったし、エリザ戦では負けた。ルミーナの時だって、フォレストの助けがなければ殺されていたかもしれない。
「……だめだ。誰かに頼るようじゃ……私はまだ、だめだ……!」
藤崎が俯いて、歯を食いしばる。
その時、後ろからサソリの巨大な右腕が襲い掛かってきた。
273
:
ライナー
:2011/12/25(日) 15:44:44 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
サソリの水の威力が恐ろしいほど凄いことになっていますね^^;
電柱が切れるとは……クワバラクワバラ……
にしても変態ですな、サソリさん。負けたら藤崎さんが襲わr((殴
さてさて、どうなる事やら。これからも楽しみにしております!
ではではwww
274
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/25(日) 20:36:31 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
サソリのハサミから出る水は『ウォーターカッター』というものと酷似しています。
でも連発は出来ないので(( せめて三秒程度間を空けないと無理です。
サソリ君は変態ではなく、ただエロいだk((
はい、期待に沿うよう頑張ります^^
275
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/29(木) 19:31:00 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十二閃「RE-ON!'s Victory!」
サソリの背後からの奇襲を何とかかわし、その後の猛攻も全てかわし切った藤崎は右肩を押さえながら息を切らし、雨が降りしきる駅の付近を走っていた。
今は何とかサソリの追撃を振り払い、身を隠そうとしているところだ。
右肩は追撃を振り払う際に、僅かに水の刃に切りつけられた。傷は浅いし、何とも無い。
(……どうする?)
ビルにもたれかかって、藤崎は考える。
どうすれば相手に攻撃を与えられるか。
隙ならば今までも何度かあった。それだけ相手が自分に手加減をしている、という表れだ。だが、その隙を有効に活用できない。
攻撃しようとすれば、リーチと幅が大きい右腕に防がれてしまい、今度はこっちに隙が出来る。相手もその隙を見逃さず、すぐに反撃へと転じてくる。
まず相手の巨大な右腕と大きいだけの刀じゃ、リーチどころか威力も違ってくる。
藤崎は、ほとんどの面でサソリに負けている。
藤崎はポケットに手を当て、中に入っている携帯電話の感触を確かめる。
桐生仙一、レナ、ハクア。今の藤崎には頼れる強い仲間が存在する。
だが、藤崎は決めていた。
(―――、ダメだ!)
藤崎は刀の柄を握る手に、力を改めて強く込める。
(―――、私の力で勝つんだ!!)
藤崎がそう誓い、再びサソリのところへ行こうとした瞬間、
―――シュカン、と。
綺麗な切断音が藤崎のすぐ近くで聞こえた。
見れば藤崎が今までもたれていたビルの壁が綺麗に真っ二つに裂かれている。
「……ッ!」
この状況で、今の状況で犯人は一人しかいない。
藤崎が前方を見据えると、睨みつけるようにこちらを見ているサソリがいた。
「……いい加減さぁ……鬼ごっこも終わりにしようよ。大丈夫。君は殺さないよ。でも、その代わりに君が僕の物になってくれればいいからさ」
サソリが水が溜まってきた地面を歩く。
(……勝つんだ)
一歩一歩ゆくりと、藤崎に歩み寄るサソリ。
(……勝つんだ!)
彼の右腕のハサミが、口のように、大きく開閉する。
藤崎は脚に力を込めて、思い切り地面を蹴る。
(絶対に勝つんだ!!)
藤崎は刀を振りかぶって、サソリに突っ込む。
一方、天界ではエリザと二刀流の男が激突していた。
男の表情は伺えないが、エリザは楽しんでいるように口元に笑みを浮かべていた。
「……ここで悠長に戦ってていいのか、貴様」
「……?」
男の不意の言葉に、エリザが眉をひそめる。
お互いが十分に距離を取り、睨みあっている。
「……ここで戦っている間にも、人間界での仲間の危機は迫っている。今は藤崎恋音が標的だ」
「……恋音ちゃんが?」
エリザが反応する。
彼女にとって藤崎恋音の存在は、自分が初めて対等と認めたライバルだ。自分以外に、藤崎恋音がやられてほしくない。
エリザの頭にそんな思考がよぎる。
だが、
「んー、恋音ちゃんなら心配ないかな。だって強いし」
エリザは相手が拍子抜けするほどの軽い言葉を返した。
勿論、エリザとしても何の考えもなしに言ったわけではない。
「……正気か、貴様。桐生仙一は傷を負い、レナとハクアは藤崎恋音が戦っていることに気付いていない。切原魁斗も帰ってきても気付かんだろう」
「……だーかーら。大丈夫なんだって。確かに、今挙げた四人は助けに行けない。私とクリスタとフォーちゃんだって無理だし、ルミーナとゲインとメルティじゃ今から行っても間に合わないでしょ」
なら、と一度言葉を区切って、
「私は何で余裕を見せてると思う?まだいるでしょ?アンタが忘れるほどの、影がうっすーい可哀想な子達が、ね!」
人間界で、藤崎とサソリの戦いに近づいてくる影が二つあった。
一人は身の丈ほどの大きな刀を背に背負い、もう一人はポニーテールの髪型だ。
大きな刀を背負った方。恐らく男だ。
彼は、面倒そうに呟いた。
「―――、行くぜ。くっだらねェ戦いを幕引きにすんぞ」
276
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/30(金) 11:15:00 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤崎とサソリが戦っているのを、遠くのビルの屋上から双眼鏡で眺める一人の人物がいる。
髪は短めの白髪で、ハットを被り、スーツを着ている、見た目三十代後半の男だ。
普通に見れば一般的な男性だが、彼が両手を置き、杖のようにしている一本の刀が『一般的』を潰していた。
彼も『十二星徒(じゅうにせいと)』の一人。やぎ座の八木という男だ。
そして不自然な点がもう一つあった。
藤崎とサソリが戦っているところは雨が降りしきっている。だが、八木のいるところは雨どころか、雨粒の一つも落ちてこない。実に綺麗な夕焼けが見えるだけだ。
「……どうやら、惑っているようですな」
八木は戦況を見ながら、一人で呟いた。
「私の剣(つるぎ)は、空間を作り出す。貴女にとって、とても不利な空間を作らせていただきましたよ、藤崎さん」
八木が言うに、今の藤崎とサソリがいるところは、八木の剣(つるぎ)が作り出したこの世に存在しない空間らしい。
それもそうだ。
何処の世界に夕方の駅前だというのに、人が一人もいないなんていう駅があるか。
雨が降り、水が地面に溜まり、湿気が多く火が灯せない無人の駅前。そういう空間を八木は作り出したのだ。
「……これで、天子側の一人は脱落ですね。まったくサソリも、私の力を使わないで勝ってほしいものですが……」
「いいんじゃねェの?仲良さそうで」
ふと、八木の後ろから声がかけられる。
そこにいたのは巨大な刀を背に担いだ男、ザンザだ。
彼の鋭い目つきが、八木を睨んでいるからか、より鋭く感じられる。
「……馬鹿なッ!貴方は今天界にいるはず……!」
「その天界にいる上司から、命令くらったのよ」
八木の隣にカテリーナが降り立つ。
そう。エリザが人間界の助っ人として送り込んだのは、ザンザとカテリーナだ。
ザンザは背中の刀をゆっくりと引き抜きながら、笑みを浮かべている。
「……さァ、覚悟はできるよなァ……?」
「……!」
ザンザがそのまま刀を八木に向かって振り下ろす。
剣(つるぎ)を持っている以外は、普通の男である八木は、咄嗟にかわすことも出来ず、刀が迫るのを待つしかなかった。
「うわあああああああああああっ!?」
しかし、響いたのは切り裂く音ではなく、鈍い打撃音だった。
ザンザの巨大な刀を利用した広い幅で、八木の頭を叩きつけたのだ。
八木はそのままぐしゃ、と崩れ落ち、ぴくぴくと僅かに痙攣していた。
ザンザは八木の首からネックレスを奪い取る。
「これがやぎ座の『守護の証』か」
一方、藤崎とサソリの戦況にも変化が起きていた。
雨が止み、地面に溜まっていた水が一瞬にして消えたのだ。
「「ッ!?」」
そこで、事実を知るサソリだけが辺りを見回し、慌てだす。
(……八木!?あのオッサン、やられやがったッ!?」
「……ふぅん」
サソリはハッとして振り返る。
そこには満面の笑みの藤崎がいた。
ここでお馬鹿なアイドル藤崎恋音は、何か勘違いをした。
今までのは全て幻覚だ、という平和な勘違いだ。
振ってた雨は幻覚で。水が溜まっていた地面も幻覚で。相手が出していた水の刃も幻覚で。濡れている服は、まあどうでもいいや。そんな平和な勘違いをして、藤崎は一気に距離を詰める。
サソリが右腕を突き出し、水の刃を出そうとしたが、
「遅いよッ!!」
藤崎が下から上に弾き上げるように、強く右腕を弾いた。
上に腕を上げられ無防備になるサソリの顔に藤崎の刀の峰が直撃する。
そのまま仰向けに倒れるサソリを見て、藤崎は力強く叫んだ。
「RE-ON!'s Victory!」
277
:
ライナー
:2011/12/30(金) 15:59:56 HOST:as02-ppp22.osaka.sannet.ne.jp
コメント失礼します、ライナーです^^
藤崎嬢勝ちましたね!
最後の言葉は名言ですなこりゃw
にしても、八木さん何か一瞬でしたが、出番これで終わり!? 何となく八木さん支持しますw
さて、今度はエリザさんの番でしょうか?
続きが楽しみです。頑張って下さい!
ではではwww
278
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/03(火) 21:55:24 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
藤崎嬢の勝利は結局、誰かの力を借りてまs((
いつかは一人で勝てるように頑張らせますw
ちなみに、本編の中でもちょろっと出ましたが、藤崎の英語の成績は赤点ギリギリセーフなので、あんま良くないです。この子は漢字しか出来ません((
……八木さんは一瞬ですね。後はカテリーナに懐漁られるくらいしか出番が((
次はエリザが決着&出来れば忘れ去られた主人公も帰還させます。
はい、頑張らせていただきます^^
279
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/03(火) 22:23:37 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ザンザは携帯電話を耳に押し当てていた。
耳元ではコール音が鳴り響き、しばらくして相手の声が返ってきた。
『もしもし?』
幼い少女の声だ。
ザンザは予想通りの相手が出たことに一応安心する。
彼女は自分の上司であるエリザだろう。
「報告だ。吉報だらけだぜ?まず一つ。藤崎恋音が勝った。さそり座の『守護の証』も同時に手に入れてる。それと、もう一つ」
ザンザはチラッと視線を横に向けて、告げた。
「やぎ座も撃退した。コイツは一瞬で済んだぜ」
『そーか。じゃあ私もお報せー』
甘ったるい少女の声の後に、お報せは返ってくる。
『こっちも一人片付けたよ。多分かに座。後ね、ルミーナとゲインの報告も。メルティがおひつじ座とおうし座片付けたって!』
ザンザは受話器の向こうでは余裕の勝利を収めたエリザの前で、かに座の『十二星徒(じゅうにせいと)』がコテンパンにされて倒れているだろう、と想像する。
エリザの報告と、自分達の成果、そして魁斗達の情報を全て整理して、
「つー事は、残るは……」
『うん。てんびん座、しし座、みずがめ座、いて座の四つだね』
フッとザンザは受話器の向こうでは分からないような笑みを零す。
「いよいよ大詰めだなァ。そろそろ決着も近いぜ」
『そーだね。ラストスパートがんばろー!』
自分の上司の激励の言葉を聞いて、ザンザは電話を切る。
携帯電話を折りたたみ、ポケットにしまってから視線を倒れている八木の方へと向ける。八木の方へ向けると、自然にカテリーナも視界に入ってきた。
何故なら、倒れてるオッサン(八木)の懐を、少女(カテリーナ)が漁っているからだ。
今にもこの場から走り去りたい気分に駆られたザンザは引いたような口調で、カテリーナに訊ねる。
「オイ、カテリーナ。お前何でオッサンの服の中漁ってんだよ」
「んー?珍しいモンがあるかなー、って」
ザンザは溜息をつく。
これは彼女とずっと仕事をしているから知っていることだが、彼女は倒した相手の懐を老若男女構わず漁りだす。答えは簡単だ。
珍しい剣(つるぎ)を持っているかもしれないから。
彼女は剣(つるぎ)マニアで、元『死を司る人形(デスパペット)』のメンバーも、彼女から武器を貰った者は多い。エリザ、ルミーナもカテリーナから剣(つるぎ)を貰っている。
彼女が探しているのは武器に留まらず、ハクアが沢木に渡した『神王の聖域(しんおうのせいいき)』やメルティの『時の皇帝(タイムエンペラー)』などの神具(しんぐ)も探している。
「お、これは珍しー!」
カテリーナが珍しく可愛らしい声を出す。
彼女が見つけたものはブレスレット状の物で、それを見つけたカテリーナの瞳はキラキラと輝いていた。
「何だよ、それ」
「知らないの?付けてると一時的に魔力を底上げする神具で……」
「分かった。とっとと帰るぞ」
ザンザはぷい、と身体を背けて歩き出す。
置いていかれたカテリーナは叫びながら、ザンザの背中を追いかける。
「ちょ、待ってよ!置いていかないでザンくんー!」
天界では、包帯を傷のあった部分に巻いているフォレストが棚の中の薬を整理していた。
棚の中には瓶などが所狭しと敷き詰められ、これの何処をそう整理するのだろう、と思ってしまう程である。さすがに高いところは脚立を上って整理するらしい。
その状況を見たクリスタは、思わず溜息をついてしまう。
「……仕事熱心だな。だが、今お前は怪我人だぞ?そんなに無茶をしなくても……」
「これが、僕の仕事ですから」
クリスタの言葉を遮るようにフォレストが言った。
その言葉には強さと、決して揺らがない意志が篭っており、クリスタもさすがに言い返すことが出来なかった。
すると、整理しているフォレストの手がぴたり、と止まる。
「……、どうした?」
クリスタが訊ねる。
フォレストが顎に手を添え、唸るように声を出してから首を傾げる。
「……瓶が、一つ減ってます。誰かが盗んで行きやがったみてぇです」
「……盗難、か?良くある事か?」
フォレストは再び考え出して、答えを導き出した。
「いいえ、今はあんまり。クーラさんの時はよくあったみたいですけど」
その言葉からは、若干皮肉が感じ取られた。
280
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/06(金) 17:40:24 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
人間界の上空から。
絶叫が聞こえる。その叫びはどんどん大きくなっていっているように聞こえるが、それは語弊だ。正しくは、叫びが近くなってきている。
今、上空から落ちてきているのは一人の少年。
切原魁斗だ。
彼がこのまま下に落ちれば鉄骨だらけの工事現場に落ちてしまう。もしそんな所に落ちれば、落ちた衝撃で鉄骨やらが降って生き埋めになるかもしれないし、そもそも鉄骨に当たって無事で済むだろうか。少なくとも、骨は数本折るはずだ。
そんなことを考えながら、魁斗が落ちるスピードは増していった。
「……ちょ、ちょ、ちょ……ちょっと待てぇぇーーー!!さすがにあそこに落ちるのはヤバイって!つーか、公園から天界に行ったのに何で帰る時はこんなわけ分かんねぇ場所なんだよ!?」
魁斗の身体があと数十メートルで、家のように組み立てられた鉄骨に当たりそうな時、
ふわっ、と身体が風のようなものに救い上げられるのを感じた。
魁斗がそれに気付いた時には、襟を掴まれ、空中でぶら下がっている状態だった。
「何とかセーフね。怪我はない?」
魁斗が声に振り返ると、襟を掴んで助けてくれたのはハクアだった。
ハクアはそのまま魁斗を持ち上げ、自分が乗っている薙刀上の剣(つるぎ)の上に座らせる。
「ハクアさん?」
「そーよ?私以外に剣(つるぎ)をこんな画期的な使い方する奴が何処にいるのよ」
画期的な、は乗り物として使っている事だろうか。
ただ移動が面倒なだけじゃないか、とツッコミそうになったが、魁斗はそこをぐっと堪えた。
「ところで、向こうで『十二星徒(じゅうにせいと)』倒せたの?」
「……ああ、随分と戦いにくい相手だったけど。何とか」
ハクアは、よろしい、と言ってから、手を差し出す。
まるで、おつかいから帰ってきた子供に、おつりを渡せ、と言っている様に。
だが、魁斗は首を傾げている。何を渡せばいいのか分かっていないようだ。
ハクアは溜息をついて、
「『守護の証』よ!『十二星徒(じゅうにせいと)』って言ったら、それしかないでしょ!?」
「……あー」
勿論、魁斗も『守護の証』を忘れたわけではなかった。
ただ、今手元に無いから首を傾げたのだ。手元にあったら即座に渡しているだろう。回収元がハクアなのは、不明だが。
どうしたの?と問いかけるハクアに、魁斗は答えにくそうに答える。
「……フォレストに……預けました……」
「……は?」
時が、止まった。
すると、ハクアは魁斗の胸倉を掴んで叫ぶ。
「君は何をしてるのかしら!?何で持って帰ってこないのよ!馬鹿なの?君は馬鹿なの!?」
「ちょ、苦し……つか、操作……!」
ハクアが薙刀の操作をせずに、魁斗を問い質したため、統率がなくなった薙刀は落下寸前だった。
ハクアもそれにはさすがに驚いて、急いで操作に戻る。
「……色々あったんですよ……」
咳き込みながら魁斗が答える。
若干むくれているハクアは不機嫌そうにしながらも、納得してくれた。
「そーだ。さっきカテリーナさんから連絡あってね。メルティさんがおうし座とおひつじ座、エリザさんがかに座、恋音ちゃんがさそり座、カテリーナさんろザンザ君がやぎ座を倒したから、残る『十二星徒(じゅうにせいと)』は四人だって」
ハクアの報告に魁斗は反応する。
自分の知識を総動員して、残りの星座を割り出す。
「ってことは、残ってるのは、てんびん座、しし座、みずがめ座、いて座の四つか」
「そーゆー事」
そこで、魁斗はさっきのメンバーを思い返して、ハッとする。
「……あのさ、もしかして『十二星徒(じゅうにせいと)』倒してないのって、俺だけ?」
ハクアは、んー?と間延びした声を出して、
「あー、そんな事になるわねー。桐生君だってふたご座倒したし。あ、でも君以外に一人いるわよ?」
魁斗が誰?と聞き返す。
ハクアは、何で気付かないんだろう、という風な口調で告げた。
「レナよ」
「……あ……ああ……」
納得したような、残念なような、判断が難しい返事を魁斗は返す。
「レナとサワちゃんに帰ったって事伝えなさいよ?あの二人、学校にいる間ずっと憔悴気味だったからさ」
そこまで元気なくなるか?俺って二人にとってどんな存在?と大きな好意を寄せられているにも関わらず、純情で鈍感な魁斗には、いまいち理解が出来ていなかった。
281
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/01/06(金) 21:11:54 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
コメント失礼しますノ
八木さん……!あなたの事は一生忘れないz((物っ凄くどうでも良いことですが、月峰は山羊座だったりしまs←
それにしても、前々から思っていたのですが、ザンザさんとカテリーナちゃんのやり取りが好きですw そもそもこの二人が好きでs((
さて、十二星徒を倒していないのは魁斗くんとレナさん……つまり、主人公と準主人公ということは、これから活躍&強敵フラグという事でしょうか……!?
そして、最終的に魁斗くんはレナさんとサワちゃんどっちを取るのでしょう。恋愛面でも楽しみです!
続き楽しみにしてます^^
282
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/06(金) 21:23:58 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
月峰 夜凪さん>
コメントありがとうございます^^
やぎ座なんですか?だったら、もう少し八木さんの出番多くても良かったかな……でもあれ以上出番増やせそうにないz((
僕もあの二人は結構気に入ってるんですよ。今では普通に名前で呼び合ってますが、『ザン君』『リーちゃん』と呼び合ってた時期もありましt((
そこら辺の話しも出来たらしますかね^^;
魁斗君は主人公なんで、ちゃんと見せ場作りますよー!いやー、腕が鳴ります((
レナさんは……最近ボケキャラへと劣化してしまいました……。クールキャラで通すつもりだったのに……
ラストまでは結構考えてるんですけど、その三角関係はいまいちまとまりません((
でも、眼鏡とアイドルはくっ付かせます!絶対に!
はい、頑張らせていただきます^^
283
:
ライナー
:2012/01/07(土) 23:11:00 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
コメント失礼します。
さーて、あと四つどうなりますかね。
と言うか、天界からの帰還、ご苦労様ッス魁斗さん^^;
自分は天界には行く気がしません、帰りが怖いかr((殴
行きはよいよい帰りは怖いってこの事ですね(笑)
やっと主人公動きますか、見せ場というか、小説の主人公が基本視点なので、見せ場はもっと充分に作った方が良いと思いますよ……(人のこと言えないんですが^^;)
にしても、レナさんクールキャラだとは初耳です!
結構ドジっ娘キャラだと思ってました(汗)
ギャグも程良く入っていて面白かったです。
続き楽しみにしております^^
ではではwww
284
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/07(土) 23:17:55 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます^^
天界から帰ってくる場合は必ず落下しますw
一回目もああやって人間ピラミッドできましたしねw
今回、人間界にハクアがいなかったらどうなっていたことか((
そうですよね……^^;
こっから魁斗君バンバン活躍するはず、です((
意外とクールなんですよ。
二話目からボケてますが、初めは茶目っ気のあるクールにしようと思ったのですが、中々上手くいきませんね((
今ではボケ&ドジっ娘+天然ですね。わあ、萌え要素がたくさんd((
はい、続きも頑張らせていただきます^^
285
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/08(日) 01:26:36 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十三閃「帰還と訪問」
魁斗は家の扉を開ける。
ハクアによると『レナとサワちゃんが憔悴してた』らしいので、帰ったらとりあえず励ましてやらないと。そう考えながら、ドアを開ける。
すると、何かが飛んできた。
物ではなく、人だ。
「カイト様ー!!」
長い銀髪の髪をなびかせ、抱きつくような態勢で憔悴してたはずのレナが飛んできた。
これなら心配ない、と魁斗が心の中で頷き、ひらりと華麗にかわす。
抱きつく相手がいなくなったレナの身体は空中でブレーキが効かず、そのまま顔から床に倒れた。
魁斗がそのままレナをスルーして部屋へ戻ろうとすると、レナが鼻を押さえながら涙声で引き止める。
「ちょ……カイト様……?冷たくありません?私の事はスルーですか?」
「……今はお前の抱擁を優しく迎えられるほどの体力は残ってねー」
レナは鼻を押さえているせいか、鼻声のような声で話す。
「……向こうで戦われたのですね……。大分苦戦されたのですか?」
いや、と魁斗は言葉を否定する。
それから遠い目でずっと昔の思い出を思い出すように、語りだす。
「強いて言うなら、カテリーナにどつかれたな。フォレストにはおちょくられるし……」
はは、という自嘲もすごく悲しいものに思えた。
思えば天界に行ってから良いことが起きてないような気がする。これも強いて言うなら、フォレストからキスしてもらったくらいだろうか。
こんなことを言えばレナの反応が大変になりそうだし、自分から言うほどの勇気もない。
魁斗はこの事だけを胸にしまい、部屋へと戻っていった。
部屋へ戻ると、とりあえず沢木に電話をしてみる。元気付けてあげないと、と思い電話をかけると、
『ふぁ、ふぁい!?こ、こちら沢木ですけど……』
「あー、サワ?大丈夫か?すんごい甲高い声が聞こえたけど……」
『だ、大丈夫、大丈夫です!それより、カイト君も大丈夫?』
ああ、と魁斗は頷く。
声を聞く限り、相手も思ったより元気でよかった、と魁斗は思う。
『……あの、明日学校来てくれる……?』
「ああ、行くよ。心配すんな」
『分かった……じゃあまた明日』
沢木はそう言って電話を切る。
明日、もう一度『十二星徒(じゅうにせいと)』の残りメンバーを整理しなければならない。
それぞれ、思うことは別々だ。
天界の方でも、今頃エリザが作戦会議をしていることだろう。
(―――あと、四人)
魁斗は気持ちを新たにして、残りの『十二星徒(じゅうにせいと)』と戦う決意を固めた。
「どーなってるの?」
電気が全く点いていない、暗い部屋の中で、椅子に腰をかけ、机に脚を乗せている少女がそう呟く。
その少女は腕を組んでおり、左腕には何かがくっついている。
「残り四人って……藤崎恋音も倒せなかったってことよね?まったく、あの娘が一番弱いのよ?一番弱い奴倒せないでどうするのよ」
部屋にはその少女以外に、三人いた。シルエットからして二人は男、もう一人は女だ。
その少女の苛立ちは納まらない。
恐らくは、この少女が『十二星徒(じゅうにせいと)』のリーダーだ。
少女は溜息をつき、部屋にいる女へと視線を移す。
「……アンタ、いけるわね?切原魁斗を叩きなさい」
女はフッと笑みを浮かべ、少女に言葉を返した。
「了解っさー」
286
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/14(土) 19:40:35 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「それじゃあ、ちゃんとノートを写して、明日返してくださいね」
魁斗が帰還してきた翌日の学校からの下校中、魁斗と一緒に校舎から出てきた沢木は人差し指をぴんと立ててそう言う。
魁斗が休んでいる間(一日程度だが)の、授業のノートを魁斗に渡し、家で写してくるように説明しているところだ。
ちなみに、普段魁斗達が下校する際はレナや、稀に桐生と藤崎も一緒なのだが、レナは図書室に用があって『先に帰っててください』と言われ、桐生は藤崎に呼び出しをくらったらしく、今は魁斗と沢木の二人だけだ。
今日写しても良かったのだが、運が悪いことに今日の時間割は、昨日とは全く違う時間割なので、時間割どおり忠実に教科書を入れている魁斗は他の用意を持ってきていないのだ。
「しかし、悪いなサワ。お前だって勉強しなきゃいけねーのに」
「いいんですよ。私に出来ることは任せてください」
沢木は魁斗に笑顔を向けながら、そう言う。
そんな事を話しながら校門へと向かっている魁斗と沢木の目に怪しい人物が目に入る。
校門のところで、長身の男性が立っている。
遠目なので見た目の年齢は分からないが、ハットにスーツを着た、長身の男だということは分かる。
しかし、その男の怪しいところは見た目ではない。
何やら校門の前できょろきょろとしている。
完全に不審者だろう、と思った魁斗は同じく相手を見て表情を引きつらせている沢木に耳打ちする。
「(いいか。門をくぐる時、絶対にアイツを見るなよ。きっとややこしい事になる)」
「(は……はい)」
二人は真っ直ぐに前を見て、相手を視界に入れようとせず、門をくぐろうとする。そのため何処か不自然な感じになっている二人だが、当の二人は気付くはずも無い。
校門を出ようとしたところで、
「……ちょっといいかな」
「は、はいっ!?」
結構特徴のある独特な声で、長身の男に声をかけられ、沢木が甲高い声を上げた。
そんな沢木に魁斗は再び耳打ちをする。
「(アホかー!何で返事するんだよ!)」
「(す、すいません……。つい……)」
返事してしまったなら仕方ないので、魁斗と沢木は長身の男に目をやる。
「……何でしょうか?」
「君達はここの学校の生徒だよね。悪いが、職員室まで案内してくれるかな」
挙動が不審だった割には、意外と普通なお願いだった。
魁斗と沢木は顔を見合わせて頷き、それくらいなら、と先導して長身の男を案内する。
「娘さんが……ですか?」
校舎に向かう途中に、どういう理由で来たのかを、魁斗と沢木は長身の男に聞いていた。
なんでも、自分の娘がこっちの学校に転入するので、そのための手続きのためらしい。
「うん。上手く馴染めるか心配だが……君達の学年は?」
「二年です」
そう答えると、長身の男は嬉しそうな表情を浮かべた。
「実は私の娘も二年でね。もし同じクラスに転入することになったらよろしく頼むよ。葛城千(かつらぎ せん)という名前なんだ」
初対面の割には、かなり気さくな人で話しやすかった。
「ちなみに、貴方の名前は?」
「私かい?私は葛城獅郎(かつらぎ しろう)というんだ、いやあ、よろしくね」
魁斗の質問に、長身の男・葛城は答えてくれた。
二人は職員室の前まで案内し、そこで葛城と別れることとなった。
「いやあ、ありがとうね。助かったよ。最後に、君達の名前を聞いても良いかな?」
二人は僅かに戸惑った後に、名乗るだけならいいか、と思い、自分の名前を口にする。
「切原魁斗です」
「沢木叶絵です」
葛城は二人の苗字を復唱し、暗記する。
「切原君に沢木さんだね。分かった。娘に君達と仲良くするように言っておくよ」
葛城は職員室のドアをノックし、部屋の中へと入っていく。
それと時を同じくして、階段から降りてきたレナが未だ校舎内にいる、魁斗と沢木を見つけて、名前を呼びながら手を振っていた。
287
:
ライナー
:2012/01/15(日) 14:29:06 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
おおっ!? 新キャラ登場でしょうか、どんな人だか楽しみです^^
それと、『十二星徒』の動きも気になりますね。さてはて、これからどうなる事やr((
続きも楽しみにしております、ではではwww
288
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/15(日) 21:08:17 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます^^
ただの娘思いのお父さんです。
これからも登場しますので、活躍にご期待ください!
『十二星徒』の方はもう終盤に向かってます。
次の戦いは、魁斗とてんびん座の戦いになりそうですw
289
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/28(土) 13:56:28 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
午後五時過ぎ。
街の雑貨屋に制服を着た男女二人がなにやら話し合っている。
その二人は桐生仙一と藤崎恋音。
行き交う人々は、藤崎恋音が男子高校生と一緒にいる、ということで足を止め、数秒見てから再び歩き始める。
どうやら、桐生のルックスに自分が勝てない、と分かってしまったようだ。
忘れられがちだが、眼鏡イケメンの桐生仙一は、意外とモテるのである。
桐生と藤崎が、雑貨店で選んでいるのはカチューシャだ。
「ねーねー、桐生君。どっちがいいと思う?黄色か白か」
一方で、特に雑貨店で欲しいものはない桐生は、店内をきょろきょろと見渡して、藤崎の方に視線を向けると、
「白」
と短く答える。だが、
「えー、私的には黄色がいいんだけど……あ!こっちの赤いのもラメ入ってて可愛いかも!」
女との買い物には慣れている。
大体、自分の意見は相手に否定されることも分かっていた。
だが、分かっていたが予想通りになると、急に苛立ちがこみ上げてくる。
「久々の休みだって言うから……そもそも何で僕を誘ったんだい?女子と一緒の方が楽しいだろう?」
桐生は、やや不満げな声で藤崎に言う。
藤崎はカチューシャを選ぶのに必死であるが、一応質問は聞いていたらしく、返答する。
「だって、沢木さんとレナさんは切原君と一緒にいたいだろうし……。学校に女友達いないもん」
「同じクラスの……えっと、國崎さんだっけ?彼女は?」
あー、と藤崎は小さく間延びした声を漏らす。
「何か、最近来なくなったの。先生が言うには風邪とかの連絡は受けてないみたいだけど……」
友達のことだから気になるのか、藤崎は困ったような表情で俯く。
桐生は元気が無くなった藤崎の頭を、軽く撫でる。
「気にすることはないよ。何か用事があって、忙しくて連絡が出来ないだけじゃないかな。きっとまた学校に来てくれるよ」
「……でも」
藤崎の元気は戻らない。
桐生は軽く息を吐いて、
「お腹減ってない?今日は機嫌がいいから、奢るけど?」
「ホントに!?」
急に藤崎の元気が戻った。
表情を引きつらせて、桐生は苦笑いを浮かべる。
「……分かりやすいな、君は……」
二人は雑貨店を出て、何処で食事をするかの店選びを始めた。
すると、二人と一人の巫女装束を着た女子がすれ違う。と、
「ッ!?」
桐生の背筋に寒気が走った。
明らかに敵だという反応。桐生の直感がそう告げていた。
(……今のは、まさか!)
桐生の予感が、自然と身体を振り返らせていた。
だが、人ごみのせいかそれらしい女性の姿は見えない。
目立つ巫女装束の姿を着た女性を、見つけることが出来ない。
桐生は、眉間にしわを寄せて、顔をしかめている。
(―――『十二星徒(じゅうにせいと)』か―――?)
見間違いでなければ。
彼女の首に、てんびん座のネックレスがあったような気がした。
290
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/28(土) 21:14:12 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
途中の道で沢木と別れ、魁斗とレナは二人で家へと向かっていた。
特に何も話すこともなく、二人はただ黙って歩いている。
その状況に耐えられなかったのか、レナは口を開く。
「あの……カイト様」
レナの呼び掛けに魁斗は顔をレナに向ける。
呼んだからといって、特に何も話すことがないのだが、沈黙よりはマシだろうと思ったのだ。
レナは自然に口から出た言葉を、思わず言ってしまう。
「……何だか、少し会わなかっただけなのに……久しぶりに会ったような気がします」
「……は?」
レナはハッとして、急に頬を赤く染める。
恥ずかしいのか、魁斗から顔を背け頬に手を当てている。
何かいつもと違う、と思い、魁斗は溜息をつく。
「大丈夫か、お前。俺が帰ってきてから可笑しくね?」
「お、可笑しくなんかありませんよぉ!?私はいたって普通です!!」
と言っているが、顔は背けたままだ。
すると、レナの鞄からメールを受信した時の着信音が鳴り響く。曲は藤崎の曲だった。
レナは鞄から携帯電話を取り出して、メールの内容を確認する。
「……ハクアから呼び出しメールです。しかも私だけ」
「内容は?」
「『買い物したいんだけど人手がほしー。だから来てちょ☆手伝ってくれたら何か奢ってあげるから!』だそうです」
ほう、と魁斗は小さく返す。
顔を見せていないが、魁斗はレナがどういう表情をしているか大体予想がついた。
多分『奢る』という言葉に釣られ、ニヤけていると思う。
「……行っていいぞ。一人で帰れるし」
「そ、それは出来ません!もしお一人の時に襲撃されたら……!」
レナはそこで勢いよく振り返ってしまう。
まあ、必然的に顔も見えてしまうわけで。やはりレナの表情はニヤけていた。
自分の下心が丸出しの表情にがっくりするレナの肩に、魁斗はぽんと手を置く。
「行ってこい。大丈夫。人間なんてそういうもんだ」
レナは『はい』と元気が無い声を出し、うわーん!!と声を上げながら走り去っていった。
例のアイドルも、眼鏡少年の『奢る』という言葉に釣られているのだから、決して悪いことではない。
一人になった魁斗の耳に、女性の言葉が響く。
「やーっと一人になってくれたさねー!」
魁斗は勢いよく振り返る。
声は上からだ。電柱の上に立っていた人影が、そこから飛び降りて、華麗に地面に着地する。はずが、
「ひゅべっ!?」
足を滑らせ、甲高い声を上げて地面に倒れこんでしまう。
「……あのー……」
こんな登場をする人は初めてだ。
魁斗もそれなりに低姿勢で相手に声を掛ける。
「……あいたたたー……。やっぱ高すぎたねー。塀からにすべきだったかなー。いや、でもそれじゃ迫力にかけちゃうし」
「……」
降りて来た人影は、身体を起こして座り込みながら一人で反省会をしている。
にしても、奇抜な格好だ。巫女装束に薄紫の髪を、後ろで三つ編みに結っている。見た目は二十代の女性だ。
その女性は魁斗の視線に気付き、きょとんとした表情を向ける。
それからハッとして、すぐに立ち上がる。
「いっけね。忘れるとこだった。私は『十二星徒(じゅうにせいと)』のてんびん座。天草秤(あまくさ はかり)さ」
「……こりゃまた、面倒な奴が来たな……」
思えば、自分は変な『十二星徒(じゅうにせいと)』にばっか絡まれているような気がする、と魁斗は感じていた。
291
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/02/17(金) 22:07:21 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十四閃「天子VS天秤」
天草秤、と名乗った巫女服の女は、魁斗の事をじーっと見つめている。
一度目が合ったと思えば、自分の違うところに目を移したり、自分の事を凝視しているのは分かるのだが、あまり気味のいいものではない。
天草は顎に手を添えて、一人で勝手にうんうんと頷いている。
「……Bだね。付き合うのに丁度いいルックスだよ、君は」
「……はい?」
天草のいきなりの言葉に目を点にする魁斗。
自分を凝視したのは、ルックスの判断のためだけか?と僅かにがっかりする。相手の戦い方のための準備だと思っていた自分が馬鹿みたいだ。
「友達ならさ、どのランクでもいいんだけど、やっぱ恋人となるとAかBが丁度いいよね!Sランクってさ、ちょっと重くない?テレビで活躍してるイケメン俳優とか、アイドル歌手とかさー。世間から嫉妬の視線を永久的に向けられるんだよ?耐えられないよねー」
「知るかッ!!」
天草のマシンガントークに痺れを切らした魁斗が、思わずそう怒鳴る。
怒鳴られた天草は、ありゃりゃと声を漏らし、眉を下げた。
「……お前は『十二星徒(じゅうにせいと)』なんだろ?だったら、俺を狙いに来たんじゃねーか?」
「君はどうよ?」
「あ?」
やはり会話が噛み合ってない。
狙われたことに対して『どうよ?』と聞かれてるのかもしれないが、天草の口から出たのは予想外すぎる言葉だった。
「君は女の子と付き合うなら、SからFのどのルックスの女の子がいい?」
「だから知るかって!お前は戦いに来たのか、雑談に来たのか、どっちだ!」
忘れてた、と天草が言うと、彼女は十字の形をした槍を構える。
だが、槍の先はそれほど鋭さを感じさせるものではなく、先が少しだけ丸みを帯びている。
魁斗は相手の槍を見て、十分に警戒をする。
「……それが、お前の剣(つるぎ)か」
「そう。私の名前は天草秤。『十二星徒(じゅうにせいと)』の―――」
「てんびん座だろ?ちなみに名前もさっき名乗ってたぞ」
当然のように語る魁斗に、天草はぎょっとする。
「何で君が私の司る星座を知ってるのー?しかも名前も知ってたって……何者!?」
魁斗は思った。
―――ああ、コイツ。今までの敵で一番面倒くさいな、と。
魁斗は溜息をついて、双剣である二本の刀を構えた。
「……とりあえず、始めようぜ。天草秤」
「ひゅー。いきなりフルネームを覚えてくれるかー。名前で呼んでくれても良かったのにー」
生憎だな、と魁斗は呟きながら地面を思い切り蹴る。
たったそれだけで、十数メートルあった魁斗と天草の距離が一気に縮まる。
(わお、さすがに速いね)
天子の脚力の高さに、僅かに驚く天草。
話には聞いていたが、ここまでとは予想外だったらしい。
魁斗の横薙ぎに振るわれた刀を、天草は十字型の槍で防ぐが、強力な光を纏っている魁斗の力に負け、天草は横方向に飛ばされてしまう。
だが、天草はすぐに体勢を立て直し、電柱を蹴って、思い切り空に跳び上がった。
「なぁっ!?」
魁斗の視線も、自然と空中に舞い上がった天草へと向けられる。
彼女は宙で身体を舞わせながら、上空から槍先を地上の魁斗に向けた。
「ッ!?」
その状態で、天草は歌うように、短い言葉を紡いだ。
「獄中火葬(ごくちゅうかそう)―――『炎天(えんてん)』」
言葉と同時に、天草の槍先から巨大な柱のように、炎が噴出した。
292
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/02/19(日) 11:46:42 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「獄中火葬(ごくちゅうかそう)―――『炎天(えんてん)』」
天草の掛け声とともに、十字槍の先から巨大な炎の柱が噴き出す。
どんどん迫ってくる炎の柱を、魁斗は刀に光を纏わせ、受け止める。
「ぐ……っ!」
魁斗が歯を食いしばり、両方の刀を使い始める。
そして、纏わせた光をいっそう大きくして、刀を横に薙ぐような形で振るう。
すると、炎の柱は打ち消される。
だが、魁斗が上空に目をやると、さっきまでいたはずの天草の姿が見えない。
魁斗が相手の姿を追おうと、視線を這わせると、不意に後ろから声が飛んでくる。
先程と同じような詠唱を始めとした、先程と同じような技名が。
「天地鳴動(てんちめいどう)―――『雷天(らいてん)』」
魁斗が後ろを振り返ると同時に、頬のすぐ横を、黄色い電撃が一直線に走る。
動きを止める魁斗に、天草は槍を構えながら突っ込む。
「ッ!」
天草の突進に何とか魁斗は反応し、相手の攻撃を刀で受け止める。が、そこで魁斗は相手の意図に気が付く。今まで離れて攻撃していた相手が、急に接近戦に持っていった事に、早めに気付くべきだった。
―――槍の先が、こちらへと向けられたまま鍔迫り合いになっている。
ニィ、と怪しげな笑みを浮かべ、天草はゆっくりと口を開いた。
「裂空激昂(れっくうげっこう)―――『風天(ふうてん)』」
その攻撃は、魁斗の予想通りのものだった。
槍の先から竜巻が起こり、魁斗はそのまま後方へと吹き飛ばされる。飛ばされながら何とか体勢を立て直そうと思う魁斗だが、天草は畳み掛けるように、再び上空へと飛び、槍の先を自分に向けている。
(しまった……!これじゃかわせない!)
「獄中火葬―――『炎天』」
再び炎の柱が魁斗に向かって放たれる。
魁斗は抵抗できぬまま、相手の炎の柱を正面から受け、土煙が舞い起こる。
天草は着地して、その土煙の方へ視線を投げる。
「……君、ルックスはBなのに戦いはDだね。そんなんじゃ、私は倒せないっさよー」
楽しそうな笑みを浮かべる天草。
魁斗は刀を杖代わりに地面に突き刺し、口の端から垂れる血を手の甲で拭いながら立ち上がる。
「……うるせぇよ……!」
魁斗は、久しぶりの実践で感覚を取り戻したのか、口の端に笑みを浮かべる。
293
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/02/19(日) 13:56:28 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
立ち上がった魁斗に、天草は楽しそうな笑みを見せる。
魁斗も立ち上がってすぐは攻撃しようとしない。相手の剣(つるぎ)の能力を探ろうとしているのだ。
相手に正面きって訊ねて、相手が答えてくれるかも分からない。いや、自分の手の内を晒すような真似は、相手だってしないだろう。
「いやー、聞いてた通り結構粘るよねー。私の剣(つるぎ)、『七乱十字(しちらんじゅうじ)』の能力を分かったとしても、君に勝ち目はないってのよ?」
魁斗だって、相手の剣(つるぎ)の能力が全く分かっていないわけではない。
天草が技を出す前の掛け声に合わせて、それに対応した属性の技が出るということは何となくだが分かっていた。
今のところ分かっているのは三つ。『七乱十字(しちらんじゅうじ)』というからには、あと四つあるのだろうか。
「悪いことは言わないよ。諦めなさいって。たとえ私達を倒して『十二星徒(じゅうにせいと)』の真相に辿り着いたとして、君達に何が出来るのさ。希望を潰すようで悪いけど、君の中の誰もリーダーには勝てない。絶対にね」
天草は絶対の自信を持って告げた。
そこまで自分のリーダーを信じているのか。魁斗としても、天草はかなりの実力者だと分かる。そんな彼女に『強い』と言わしめるほどのリーダーが強いのは分かる。
だが、今まで仲間が何人もやられているのに、一向に動こうとしないリーダーを、魁斗ならば信用はしない。
「私にここまで追い詰められている時点で、君のリーダーへの勝機は限りなく薄いよ。諦めなさいって。時には大人の言う事を聞くのも肝心さ」
「……やってみなけりゃ、分かんねぇだろ……!」
魁斗の言葉に天草の表情が変わる。
今まで笑みを浮かべていた彼女の表情が、きょとんとした顔になった。
「……確かにお前は強いよ。そんなお前を下に置いてるリーダーはもっと強いってのは分かる。だけどな、俺達は勝たなきゃいけないんじゃねぇ……、勝つんだよ。お前にも、そのリーダーにも、『六道輪廻(ろくどうりんね)』にも、全部にな!!」
天草の表情に笑みが戻る。
だが、先程までの『楽しい』笑みではなく、『愉しい』笑みだ。
「いいねぇ、そういう気迫!危うく惚れちゃうとこだよ!」
天草は十字槍の先を地面に突き刺し、再び詠唱から始まる技名を口にした。
「氷牢閉鎖(ひょうろうへいさ)―――『氷天(ひょうてん)』」
掛け声とともに、魁斗を氷の檻が囲う。
魁斗は刀を、檻に向けて思い切り力を込めて、横に薙ぐ。氷の檻は音を立てて砕けていく。
天草は地面に槍を突き刺したまま、ニッと笑みを浮かべた。
「残念だったねぇ。『氷天(ひょうてん)』は、砕かれて次の技が出せるようになるんだよ。氷牢決壊(ひょうろうけっかい)―――『水天(すいてん)』」
言葉とともに氷が一点に集中し、水の塊と化す。
その水の塊は、魁斗の腹に吸い込まれるように、突っ込んでいく。
「ぐふっ……!」
魁斗は腹の痛みに耐えながら、体勢を崩さぬように持ちこたえる。
だが、一瞬の隙も与えようとしない天草は、再び魁斗へと突っ込んでいく。
天草が突き出すように、槍を前に出すと魁斗は顔を逸らして攻撃をかわしただけだった。
「同じ手にかかるかよっ!」
魁斗は刀の峰を天草の腹に叩き込み、相手を後方へと飛ばす。
天草は後方に飛ばされながらも、槍先を魁斗に向ける。
「……天地鳴動(てんちめいどう)―――『雷天(らいてん)』」
「待ってたぜ、その技」
魁斗は刀を構え迫り来る電撃を、片手の刀で弾いた。
「この技は威力は弱いが、早い。だからこそ俺は、アンタを飛ばしてその技を出させたんだ。威力が弱けりゃ飛ばされる方向と逆に出しても、反動で遠くに飛ばされないだろうからな」
そして、魁斗は反撃に移る。
天子の高い脚力を利用して、思い切り地面を蹴り、一気に天草へと突っ込む。
(―――速いッ!)
「戦いはDだって?上等だ」
魁斗は巨大な光を刀に纏わせ、相手の十字槍を狙う。
巨大な光を纏った刀を十字槍に叩きつけ、相手の剣(つるぎ)を破壊する。これで天草はもう戦えない。
(……しまった……!)
「俺のDは、ど根性のDだ!」
294
:
館脇 燎
◆SgMmRiSMrY
:2012/02/19(日) 15:06:35 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼いたします。 筆者が竜野様だったので拝見させて頂きました!
竜野様は更新率が多くて、アイディアの豊富さに憧れます。キャラクターも様々な人物が居て、とても面白いです!
僕が一番好きなキャラクターは桐生です。氷系は結構好きなので。
次の更新も楽しみにしております。
295
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/02/19(日) 15:39:15 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
館脇燎さん>
コメントありがとうございます。
もうすぐ300レスだというのに、相変わらずスローテンポなこの作品を読んでくださり、とても嬉しいです^^
ぶっちゃけて言うと、作品を更新する際は、大体三〜四割は思いつきで放り込んでます。そのため、最初から思っていたものとだいぶ違うものになってたりしますw
キャラの個性は一度指摘があったので、出来るだけ目立たせるようにしていますw 一番個性が弱いのは魁斗だと思ったr((
僕も桐生は結構お気に入りキャラですw 彼と恋音を絡ませている時が、一番楽しかったりしますw
氷系つながりでは、まだスノウしか出てませんね……。これから氷系は出てくるのか((
はい、続きも頑張らせていただきます!
296
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/02/19(日) 20:23:19 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
武器が壊されてしまった天草は、そのまま地面に尻餅をつくような体勢で、倒れてしまう。
戦う術がなくなってしまい、天草は剣(つるぎ)を破壊した魁斗を見る。
「……甘いさね……」
魁斗は天草の言葉に、反応する。
天草は尻をついたまま、起き上がろうともせずに、言葉を紡いでゆく。
「……私を直接狙わず武器だけを狙って……情け?それとも、敵でも女だからって優しさを見せたつもり?言っとくけどね、そんな中途半端な情けは必要ない!女を攻撃する勇気がないのなら、初めから戦うな!」
「……別に、情けをかけたわけでも、優しさを見せたつもりでもねーよ」
魁斗は静かにこう切り出した。
魁斗は自分の持っていた二本の刀をブレスレットに戻し、尻餅をついたままの天草に手を差し出す。
「ただ、何となく嫌だったんだ。アンタを傷つけるのは。本当の悪人って感じがしなかったから」
何?と天草は眉間にしわを寄せる。
魁斗自身も、今の自分が何を言っているのか、理解しながら喋っているわけではないだろう。
「俺だって、根っからの善人ってわけじゃない。一目見ただけで、その人が本当に良い人だってのも分かるわけじゃない。でも、戦ってる内に何となく分かるさ」
「知った風な口を……!私はアンタを殺すつもりで攻撃した!本気の本気で―――」
「それは嘘だ」
魁斗が相手の言葉を遮るように言った。
何かを言おうとしていた天草も、途中で言葉が詰まる。魁斗の言葉に圧されたのか、魁斗の言葉には言い聞かせるようなニュアンスが含まれていた。
魁斗は、言葉を続ける。
「俺を殺すチャンスならいくらでもあったはずだ。最初の『炎天(えんてん)』の後、俺の背後に回って『雷天(らいてん)』を出したよな。わざわざ威力の低い技を出さなくても良かっただろ。しかも、あの時俺は振り返るのに精一杯でかわすことが出来なかった。つまり、アンタは俺を狙って『雷天(らいてん)』を当てることも出来たし、違う技で攻撃も出来たはずだ」
確かに、魁斗の言う通りかもしれない。
背後から、全くかわすことが間に合わない相手になら、大技を出すだろう。少なくとも、あそこで『炎天(えんてん)』を出していれば、決定的なダメージは与えれた。
『水天(すいてん)』の後に、接近戦に持ち込まずに、『風天(ふうてん)』か『炎天(えんてん)』かで、遠距離で攻撃することも出来たはずだ。
天草がそれを実行しなかった理由は一つだ。
「―――アンタが善人だから、そうしたんだろ」
天草は顔を逸らして、噛み砕くように呟く。
「……そんな事ない……私は、私は……」
天草は悔しさを隠しきれていない。
そんなところを見せるのも、彼女が全くの悪人ではなく、人を殺すことに躊躇いを持っているからだ。
「剣(つるぎ)なら、俺の知り合いに剣(つるぎ)マニアがいるんだ。そいつなら、治せる人を知っているかもしれない。お前の剣(つるぎ)だって、また使えるかもしれないぜ」
魁斗は、差し伸べた手を一度も引っ込めずに、未だ伸ばしたままだ。
その差し伸べた手は、天草に『立て』と言っているのと同時に、『仲間にならないか』と言っているようにも見えた。
「……天草。お前さえよければ一緒に戦ってくれ。お前がいれば心強いし、『十二星徒(じゅうにせいと)』の情報だって、入手できる」
「……、私は……」
天草の右手が、ピクッと動く。
天草はゆっくりと差し伸べられた手に、自分の右手を伸ばしていく。
「……いいの……?私なんかを、仲間に入れても……?」
「ああ」
天草の疑問に、魁斗は即答した。
「説明なら俺がするし、皆だって納得してくれるさ。俺に任せとけ」
「……ありがとう」
天草は僅かに頬を染めて、自分の伸ばした右手を、魁斗の差し伸べた手に重ねる。
魁斗は尻餅をついたままの天草を引き上げて、立ち上がらせる。
「大丈夫か?」
「ふ、ふん!心配されるまでもないっさね!私はそんなにダメージは受けてないし、君の方が大丈夫か心配っさ!」
天草は腕を組みながら、そう言った。
魁斗はその様子に、僅かに笑みをこぼす。
「そういや、今レナはハクアさんと一緒なんだよな……。まずは二人に連絡して、天草の事を説明するか」
魁斗は携帯電話を開いて、レナとハクア(電話をかけたのはレナの携帯電話)に連絡する。
その時、天草秤は上空からの冷たい視線に悪寒を感じる。
だが、その事は、魁斗に言えず、大きな恐怖を感じながら、彼女は口を塞いでいた。
297
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/03/02(金) 21:31:13 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十五閃「本当の仲間」
天草秤の一件以降、レナのご機嫌はナナメ状態だった。
元『十二星徒(じゅうにせいと)』であるとはいえ、今では武器もないし、反抗の意志もない。更に少ないとはいえ敵方の情報を得られるのは彼女だけではなく皆にとっても利点である。それはいいのだ。
だが、彼女が問題視しているのはそんな利点だらけのところでもなく、天草が仲間になった事でもない。
現在、学校の昼休み。
この時間魁斗達は、屋上に集まって昼食を摂るのがお決まりになっていたため、ハクアも屋上に来ている。
そして何故か、変装など全くせず、巫女装束のまま来た天草秤が、思いっきり魁斗に抱きついている事だった。
レナの心境は今こうだ。
(……この野郎……!!)
普段表情には出さないレナにとって、悟られる事は少ないが、長年の付き合いであるハクアにはお見通しのようだ。
いや、親友でなくとも、自分の主が最近知り合った女に抱きつかれているのだ。平静でいられるわけがない。元敵であるなら余計にだ。
「……しかしまあ、切原君。君は良く好かれるよね、変人系の敵に」
桐生が紙カップの飲み物を飲みながら言う。
それを聞いた天草は、桐生に詰め寄り、ほとんどヤクザみたいな言い方で桐生に言葉を投げかける。
「ああん?誰が変人っさね。私の何処を見て変人だと決め付けとるさ?」
巫女装束に特徴的な口調。
何処と言われても答えに困るほどだ。まず、どこからツッコんでいいか分からない。
ずっと黙っていたら天草に勝ち誇った顔をされた。面倒が減って助かったが、あれはあれで表情に異様に腹が立つ。。
大人な桐生は、特にそこを気に留めずにいられるあたりがすごい。
「ところでさ、天草さん。聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
ハクアが小さく手を挙げてそう言う。
「『十二星徒(じゅうにせいと)』のリーダーってどんなのなの?」
それは魁斗達が今一番欲しい情報だ。
その質問に、天草は僅かに黙り込む。
「……私でも分かる事は限られるっさ。ただ、女の人で、年は高校生ぐらい。こんだけしか分からんっさね」
どれも新しい情報だ。
一番最初に捕えた早乙女からは性別すらも聞く事は出来なかったのだから。
ただ、高校生ぐらいというのは少し驚いた。
「高校生かぁ……一気に近くなったね」
藤崎が溜息混じりに呟く。
「そうですね。もしかしたらこの学校に潜んでるかも知れませんし……」
「どの道、注意しても悪い事はないね」
沢木に続き、桐生がそう言う。
なんにしても、年齢と性別が分かったところで、相手を判断する事は不可能だ。
「それと、リーダーさんが言ってた事があるっさ」
全員が眉をひそめる。
天草は、人差し指を立てて説明しだす。
「名前は覚えてないけど……しし座の『十二星徒(じゅうにせいと)』が結構強敵らしいっさ」
「……しし座……か」
まだ戦ってない相手だ、と魁斗は思う。
最後の方に厄介な奴が残ってしまったな、と魁斗は溜息をついた。
「とりあえず、一人で行動すんのは危ないかもね。桐生君と藤崎さん、私とサワちゃん、カイト君とレナと天草さんのチームで行動しない?」
ハクアの提案に、レナは少し大きめな声で意見を述べる。
「私もハクアと沢木さんチームでいいです」
その言葉に、妙にピリピリしてると思った魁斗は、
「……どうしたんだよ、レナ。何か怒ってんのか?」
「私は怒ってなんかいません」
ぷい、とレナは魁斗から顔を逸らしてしまった。
天草の行動に乙女の怒りはマックスなのである。そんな女心に気付かない魁斗であった。
「レナがいいならいっか。じゃあ桐生君と藤崎さん、私とレナとサワちゃん、カイト君と天草さんチームで行動しましょ」
だが、彼らは後に知る。
このチーム編成が、悲劇を生む事になると―――。
298
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/03/03(土) 10:04:19 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
学校が終わった後に、魁斗達はハクアの言ったチームで家へと帰宅していった。
男子と二人きりの状態である藤崎は僅かに頬を赤くして、魁斗と一緒の天草はご機嫌である。だが沢木とハクアの二人と一緒のレナは、相変わらず不機嫌なようだ。
三人で歩いているにも関わらず、ハクアとも沢木とも話そうとしない。
それを見かねたハクアが口を開く。
「……アンタまだ怒ってんの?折角カイト君と一緒にしてあげたじゃない」
「そんな事じゃありません」
レナは少々苛立ったような口調でそう返す。
ハクアはもしかして、と思いレナに質問をしてみる。
「天草さんと一緒が嫌だったの?」
レナは僅かに黙り込み、俯いてしまう。
ありゃ、案外図星?とハクアが思っていると、レナは小さく口を開く。
「……分かっているんです。私は別に、天草さんが仲間になったことを批判しているわけではないのです。……自分に手を差し伸べてくれたカイト様に好意を寄せるのも分かります」
ただ、とレナは一度言葉を区切る。
「……ただ、分かっているのは彼女が良い人だという事……そんな彼女に嫌悪感を抱く自分が、分からないのです……」
恐らく、レナは天草を好きになれていないというより、信用できていないといったところだろう。
初めて会った人間に好意を抱くのは難しい。実のところ、桐生も藤崎もハクアも沢木も、天草を好きになれていないだろうし、心のどこかで信用できていないかもしれない。ただ、魁斗が信用しているから。彼らもつられて信用してしまっているだけかもしれないのだ。
ハクアは溜息をついて、
「馬鹿ね。そんな事、アンタの大親友である私が気付かないとでも思ってたワケ?」
ハクアはレナを言い聞かせるように口を開いた。
「だからわざわざアンタと天草さんを一緒にしたんでしょうが。二人じゃ気まずいだろうから、二人の事を本当に信用しているカイト君も一緒にね」
そういう事を初めから考えて。
だからこそ、ハクアは天草とレナを一緒にしたのだ。彼女はあくまでもレナの事を考えて、チームを編成していた。
「ま、初めて会った人と仲良く出来るなんて相当の猛者よ。普通の人じゃまず無理だわ。カイト君は単に好かれやすいだけなのよ。敵からも味方からも。良い意味でも悪い意味でも、彼は好かれるのよ」
レナは未だに俯いている。
ハクアはそのレナを見て、頭を軽くグーで殴る。
殴られたレナは頭を押さえて、思わず怒鳴ってしまった。
「な、何をするんですか!?デリカシーゼロですか!?今やっと『私は良い友達を持った』と改めて思っているところだったのに!!」
「いーつまでも辛気臭い顔してんじゃないわよ!こっちまで薄幸になったらどうするの!?」
その言葉を引き金として、二人はぎゃあぎゃあと言い合いを始めてしまった。
しかし、どんどんと話の軸がズレて、違う事で文句を言い合っている。
「そんなんだからアンタはたまにカイト君に引かれた目で見られるのよ!」
「な、人の事言えないでしょう!?ハクアだってカイト様に『うわー、何だこの人』みたいな目で見られてますよ!」
「はぁ?この完璧お姉様のハクアちゃんがそんな目で見られるわけないでしょ?」
「言いますけど、貴女は結構抜けてるところが多いですよ!?」
その言い合いを見ていた沢木が口を開く。
いつものように、笑みを浮かべて。
「……何だか、二人って姉妹みたいですね」
その言葉にレナとハクアが言い合いを途端に止める。
「ハクアさんがお姉さんで……レナさんが妹で」
沢木のその言葉に、ハクアがぷっと笑う。
「そう?そんな事初めて言われたわ」
「そうですね。髪の色も、顔も。全然違いますからね」
えへへー、と沢木は笑みを浮かべたままだ。
ハクアは腕を組んで、レナに言う。
「とりあえず『十二星徒(じゅうにせいと)』との戦いが終わったら、天草さんと仲良くさせるプログラムを考えなきゃ」
「大丈夫ですよ。自分で何とかしますから」
三人は、沢木の家へと向かって歩いていく。
299
:
館脇 燎
◆SgMmRiSMrY
:2012/03/03(土) 16:41:21 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
コメント失礼致します。
天草さんが仲間に加わって、一層賑やかになってきましたね。
妬いているレナがちょっと可愛いです^^
獅子座の方も気になります。獅子座の方がリーダーなのでしょうか?
続きも楽しみにしております。
300
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/03/03(土) 23:37:33 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
館脇 燎さん>
天草さんね、結構喋らせて楽しいんだけど台詞がそれほど多くないっていうこのトラップw
初めてと言っていいほど、レナが不機嫌になってますw可愛いと言って貰えると、嬉しいです^^
しし座の『十二星徒(じゅうにせいと)』さんはそろそろ出てきます。
やはり戦うのは……我らが主人公といったところでしょうかね。
はい、頑張らせていただきますね^^ノ
301
:
ライナー
:2012/03/06(火) 19:40:58 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
久々にコメント失礼しますね、ライナーです^^
このところ勉強が忙しく、友人にパソコン貸し出し放置状態になっておりまして……(−−;)
天草さんが仲間に加わって、一波乱ありそうですね。
レナの嫉妬を書くことで、新キャラのイメージが強まっていて良いと思います。
ですが、前回も言ったとおり、人数を意図的に減らしていかないと読者にキャラクターのイメージが追い付いてきません。
第七十五閃「本当の仲間」では少し主要キャラが出ていますが、他に出ていないキャラが空気キャラになってしまっています。
キャラを意図的にカットするには、幾つかの方法があります。まあ、これは誰でも思いつく範囲内ですが……
・学校側のキャラクターを転校させる。
・天界側に何か理由付けして、主人公と一時別れる。
・戦闘時に死亡(これは話が重くなるので、使いすぎに注意)。
・天草さんを『十二星徒(じゅうにせいと)』編だけのサブキャラクターにする。(後も敵が仲間になる場合はこの方法を使用する)
それと、これ以上仲間を増やす場合があるなら、現状で二人以上のカットは必要です。キャラクターが深く掘り下げられていないですので。天草さんが口調でしか差別化できなくなっています。
最後に言っておくと、バトルシーンがあるのは良いのですが、ほぼ何の努力も無しに魁斗達が勝利してしまっています。
ですので、修行シーンを増やすとより心の葛藤なども書きやすく、主人公達の苦労が伝わりやすくなります。
302
:
彗斗
:2012/03/06(火) 22:42:33 HOST:opt-183-176-177-115.client.pikara.ne.jp
コメント失礼します
質問なのですが前作品を見ないと話は分かりませんか?
303
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/03/09(金) 21:39:21 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメントありがとうございます。
本当にお久しぶりですね^^
既にレナの頭の中は天草への嫉妬で波乱状態だと思いますw
彼女の心は意外と嫉妬しやすく、ヤキモチも妬きやすいのでw そういうところでしか彼女の可愛さが見出せなi((
天草さんは『十二星徒(じゅうにせいと)』編が終わったら多分出てきません。
っていうか出せなくなるような……。最低でも二人ですか。
天草……と誰がカットできるだろうか??そこは熟考しておきますね。
それに主要キャラ(魁斗、レナ、ハクア、桐生、藤崎、沢木)の出番も増やさねば……。
ああ、問題が山積みd((
毎回貴重なアドバイスありがとうございます。
これからも頑張らせていただきますね^^
彗斗さん>
コメントどうもです。
いえいえ、大丈夫ですよ。
前作品や、他の作品とはまったく関係のないものなので。
304
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/03/09(金) 21:57:58 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
藤崎恋音の心臓は張り裂けそうだった。
何故かといえば、若干気になっている男子の桐生仙一と一つ屋根の下、しかも桐生の家で当分暮らす事になったからだ。
相手が相手だからこうも緊張しているのか。修行の時などはそんなに気にならないはずなのにどうして?とそもそもシチュエーションが違うから、という事に気付かない少々おバカな藤崎だ。
隣同士で座っているにも関わらず、どちらも話そうとはしない。
今の二人は、まるで初めて付き合ったカップルのようだ。
そんな二人の腰掛けているソファの後ろから、妙に聞き覚えのある声が飛んでくる。
「あららー。二人ともどしたの?何緊張してるの?」
声の持ち主は、ピンク色の髪をポニーテールにした、二人にとってなじみがある人物だ。
桐生はこめかみに青筋を立てて、彼女の胸倉を掴む。
女子といえど、そこら辺は容赦が無い。
「何でいるんだ?ここ僕の家だよな?何でだ?何でお前が僕の家の合鍵を持っている?渡した覚えはないが?」
「……ま、まーまー……落ち着きなさいって……!」
少し首が絞まっているのか、ピンク髪のポニーテール女ことカテリーナはしんどそうな声で言った。
藤崎の制止があって、桐生が彼女の胸倉から手を離す。カテリーナは床に四つんばいになって、首を押さえながら涙目で咳き込んでいる。
カテリーナは正座をして、桐生と向かい合うように座った。
「えー、何故私がここにいるか、という事でございますが、ハクアさんからこのようなメールが届きまして」
カテリーナは携帯電話を開いて、メールの内容を見せる。
それを覗き込んだ桐生と藤崎が、声に出してメールを読んでみる。
「『元敵の天草さんが仲間になりましたぜよー。彼女から手に入れた情報が超ビッグ!なんとしし座の奴が激強だって!だから固まって行動しちゃってよ!』か……大体の理由は分かった。だが」
桐生は眼鏡を指先で上げて、再びカテリーナの胸倉を掴む。
「何で僕の家なんだ?天界に帰ればいいだろ。向こうにはエリザさんやザンザさんや、クリスタさんもいるはずだ」
「ちょ、ちょちょ、タンマタンマ!何で今日の桐生君はこんなにもコワイの!?」
いつも通りじゃない桐生の様子に、カテリーナは激しく動揺する。
藤崎は再び桐生を止めて、話しを本筋に戻す。
「とりあえず、君は僕達と一緒に行動したい、と。だったら不法侵入しなくても直接言ってくれればいいのに」
「だぁってぇ。年上なのに年下の子に『家に泊めて』ってお願いするの恥ずかしいもん」
年上?と桐生と藤崎は首を傾げる。
カテリーナは状況が飲み込めてない二人にきょとんとした表情を見せる。
「……ああ、多分十八歳ってことよね。びっくりしたぁー」
「だよね。冷静に考えればいいんだ」
藤崎と桐生が納得しかけたところで、カテリーナが首を横に振った。
二人は再び頭に疑問符を浮かべる。
「んにゃー、違うよ?私は二十一です」
「何で貴様が学校に来てんだよ?あぁ?」
桐生仙一が、昔の桐生仙一に戻ってしまった。ご丁寧に眼鏡も外している。
彼は再びカテリーナの胸倉を掴んでいる。だが、今回は掴むだけじゃなく、掴んだ上に持ち上げている。
「んにゃー!恋音ちゃーん、助けてー!」
「わー!桐生君落ち着いてー!」
とても騒がしい夕暮れだった。
こんなどうでもいいような、騒がしいやり取りだが、一人だけホッとした人物がいた。
言うまでも無く、以上にどきどきして心臓が張り裂けそうになっていた藤崎だ。
(……良かった……)
彼女は誰にも気づかれずに、心の中でそっと呟いた。
(……桐生君と二人きりなんて……意識しすぎて無理だったもん……!)
305
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/03/23(金) 22:03:04 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
天草と一緒に帰っている魁斗は、どこか落ち着かないような表情をしていた。
それもそのはず、天草とはついこの間知り合ったばかりだし、自分に好意を持ってくれているのは分かっているが、何か異様にベタベタしすぎている気がする。
魁斗は溜息をついて、現在も自分の腕に纏わり付いている天草に声を掛ける。
「……あのさぁ、天草……。もうちょっとだけ離れてくんない?歩き辛くて……」
その言葉を聞くなり、天草は頬を膨らませて魁斗を見つめる。
まるで、遊んでくれなかった親にせがむような、子供の目つきに近い。
「いーじゃーん、別にー。私だって若い男の子に甘えたいモンさー。それが女って奴っさねー」
「それは人によると思うけどな。まあ、一応肯定しておこうか?」
まるで会話の内容も親子のようだった。
だが、年齢は逆転していて、天草が我侭な子供、魁斗がそれを疲れきっているのか華麗に流す親のように見えた。
しかし、天草の仕草は若い男の子に甘える、というより兄か弟にくっ付いているようにも見える。
そう感じたのか、魁斗は天草に問いかける。
「……お前って、兄とか弟とかいたのか?」
「……、うん……。まあ……ね」
今まで快活な喋り口調だった天草にしては珍しく、何処か不鮮明な言葉が混じった。
濁すようなごまかすような。そんな言葉を聞いて、魁斗はドキッとするが、天草は続けて口を開いた。
「……弟がね……いたん、だけども……。あの子、高校卒業したら何処かに出て行っちゃって、それ以来音信不通……。生きてるかどうかも分かんないし……」
珍しく、天草が顔に悲哀の表情を浮かべる。
魁斗は生まれてからずっと一人っ子で育ったため、兄弟や姉妹がいる感覚は正直分かりかねるとこだが、レナを自分の姉と見立てて考えてみた。
今の生活で、レナがいきなりいなくなったらどれだけ不安か。どれだけ寂しいか。音信不通の状態で、どれだけ心配か。
(……まあ、そりゃ……いても立ってもいらんねーよな。もしかして、こいつが『十二星徒(じゅうにせいと)』なったのも……?)
魁斗は考え始める。
もし、彼女が弟を探す、という理由で『十二星徒(じゅうにせいと)』に入っていたとしたら……。
―――彼女は、本当に悪いだけの奴なのか。
天草はハッとして、ごまかすように慌てた口調で話し始める。
「あ、ごご、ごめんさね!?ち、ちっとばかし暗い話にしちゃったね!あ、そーだ。喉渇いてない?私がコンビニで買ってきてあげるさよ」
そう言う天草に、魁斗は厚意に甘える事にし、天草に頼む。
天草は嬉しそうな表情を浮かべ、コンビニへと走っていった。とりあえず、彼女が戻るまでここにいることにした魁斗だが、天草の言っていた『兄弟がいなくなったら』の話を少しだけ思い出してみる。
そして、自分に置き換えて、考えてみる。
(……兄弟か……。レナが急にいなくなる事はないと思うけど……でも、)
―――でも、いつかは―――。
分かっている。そんな事は分かっている。言われなくても分かっている。
いつかはレナも、自分の前からいなくなってしまう事は。
彼女がここに来た理由は、自分の中にある『シャイン』を狙う敵の集団から、自分を守ること。脅威が去ったら、レナも天界に帰ってしまうだろう。
「……なぁーんか……今まで気付かなかっただけに不思議だよなぁ……」
魁斗は、誰にというわkでもなくただ呟いた。
「俺にとってレナって、こんなにも大切な存在だったんだ」
「おや、君は」
魁斗の後ろから聞き覚えのある特徴的な声が飛んでくる。
魁斗が後ろを振り返ると、そこにいたのは以前学校に来ていた、転入する予定の生徒の親である、葛城獅郎だ。
警戒しながら振り返った魁斗としては、ホッとした気分になる。
「久しぶりだね。誰か待ってるのかい?」
「ええ、ちょっと知り合いを」
魁斗は葛城の言葉に答える。
ならちょっといいかな?と葛城は魁斗に訊ねる。
「ちょっとした世間話さ。場所も変えずに、ここで話そうよ」
葛城は、にっこりと笑みを浮かべてそう言った。
306
:
Mako♪
:2012/04/29(日) 00:17:26 HOST:hprm-57422.enjoy.ne.jp
コレ、ちょー面白いです!!
あ、申し遅れましたが、私はMako♪、まこです。
続きを楽しみにしています!!
では。
307
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/04/29(日) 00:23:59 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
Makoさん>
コメントありがとうございます。
かなり下がってgdgdになってましたが、コメントをいただけるのはありがたいです。
続きは出来ているのですが、文章にするのに少し手間取ってまして……。
もう少しで更新できると思いますので、それまでお待ちください^^
308
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/05/05(土) 19:12:14 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗は困っていた。
それもそのはず、娘の転校手続きのため、学校の職員室まで案内した際にちょっとだけ話した人とする世間話など、話題がほとんどないに決まっている。
しかもその上、年齢も確実に二十以上は違うだろうし、そもそも相手がどの手の話題を知っているかさえ、魁斗には考えられなかった。
(どーしよー!どーすんだ、俺ー!?ここは相手が話しかけてくるまで待つか?そして分かる話なら乗って、分からないなら適当に合わせてやる!)
魁斗は頭の中でそんな事を考えていた。
しかし、一方で葛城の方もニコニコと笑みを浮かべたままで、何も話してきそうにない。
この空気、耐えられんぜ、と魁斗が諦めかけた時に、
「君、アイドルとかって興味あるかい?」
ふと、葛城からそんな質問がかけられた。
質問の内容が意外だったのか、魁斗はしばらくきょとんとしてから、『普通です』と答えた。
「そうか。君くらいの年なら、興味があっても不思議じゃないのに。中でも、RE-ON!ちゃんだっけ?彼女は君と同じ学校の生徒だそうじゃないか」
つか、連絡先とか知ってるんですけど、と魁斗は心の中で思いながら、乾いた笑いを返す。
葛城は楽しそうな口調で、更に話を進めていく。勿論、彼に悪気などはまったくない。
「いやぁ、娘がね。彼女の大ファンで、『RE-ON!ちゃんと同じ学校に行ける!サインとかもらいたなー』と楽しそうに話しているんだよ。私も娘の影響で、彼女のファンになりつつあるんでね」
「……そ、そうですか……・そういや、サワもファンだったなー……」
サワというのは、この前一緒にいた茶髪の子かい?と訊ねてきた葛城に、魁斗は頷く。そういやサワとは面識があったんだっけ、と魁斗は改めて思い出す。
アイドルの話ももう特に話すことは無いのか、すぐ終わってしまった。
すると、葛城は次の話題として、魁斗のブレスレットに視線を落としながら会話を始めた。
「ところで、一つ聞きたいんだが、君のそのブレスレット。中々見ないデザインだが、どこで買ったものだい?」
その質問に魁斗はドキッとする。
別に触れられてほしくなかったわけじゃない。ただ、これを付けてるのが今となっては普通すぎて、今更これを指摘されるとは思わなかったからだ。
本当の事を話しても、理解出来ないだろうし、魁斗は半分真実、半分虚構の説明をする。
「えっとですね、これは親戚のお姉さんからもらったんです。なんでも、手作りだそうで……」
今の説明で真実なのは『もらった』というところだけである。
レナは親戚のお姉さんじゃないし、手作りなわけがないし。とりあえずは、これで誤魔化せればいいだろう、と思い魁斗は引きつった笑みを浮かべた。
それを真に受けた葛城は、『へぇ』と短く感嘆の声を上げた。
「手先が器用なんだねぇ。これほど精巧に作れるとは。君の親戚のお姉さんは素晴らしいよ」
だったら、と葛城が小さい声で呟くように独り言を言う。
とても、聞き逃す事が出来ないような言葉を。
「―――思ったより早く殺れそうだ」
え?と魁斗が聞く暇もなかった。
気が付けば魁斗の目の前に刀の切っ先が迫っている。
かわすことも『剣(つるぎ)』を発動するのも間に合わない魁斗は、そのまま状況が理解できず立ち尽くすしかなかったが、
「カイト君!」
天草の叫びと共に、天草が魁斗に飛びつき、そのまま横方向へと魁斗の身体が移動した。
勿論、魁斗の顔を捉えていた葛城の刃は、虚空を一閃し、葛城が僅かに驚いた表情をしている。
「あ、天草……!」
「大丈夫っさね?すまんっさ。こいつが近づいている事に、もう少し早く気付くべきだったさ」
知ってんのか?と魁斗は天草に問いかける。
今の状況で、何故葛城が自分を狙ってきたのかが分かっていない魁斗は、未だに葛城を『娘思いの少し変な父親』としか認識できていない。
天草は、魁斗の質問に軽く頷き、
「奴はとてつもなくヤバイっさよ。今名前を思い出したさね!しし座の『十二星徒(じゅうにせいと)』、葛城獅郎!!」
天草の言葉に、葛城は歪んだ笑みを浮かべた。
「……面白い。本当にそっち側についたのかい、天草秤!」
魁斗には信じられなかった。
こんなにも人当たりの良い人物が、自分達の敵である『十二星徒(じゅうにせいと)』のメンバーだという事を。
309
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/05/26(土) 22:33:24 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
二人は睨み合っていた。
今の天草秤の目には、大好きな魁斗の存在など映ってはおらず、同じく葛城獅郎の目にも、話し相手になってくれていた魁斗など映ってはいない。
今の両者の視線の先にあるのは、お互いだけだ。
「……まさか、とは思っていたが……君が私達を裏切るとはね。どういうつもりだい? 天草秤」
「どういう事もないっさね。私はただ、アンタらと一緒にいるより、カイト君達と一緒にいる方が何億倍も楽しいっさよ!」
天草の反論に、葛城は肩をすくめた。
まるで、『UFOを見た!』の一点張りで、無理矢理に納得するように子供に言われている親のように。
彼は腕を組んで、天草を説き伏せるように言葉を紡ぎだした。
「理解できないな。君だって本当は分かっているだろう? 確かに、私達と一緒よりそっちの方が楽しいだろう。だがね、そっちにいても何も得る物なんてないんだよ」
「なくて結構っさ! それに、今から戻ったとしても、リーダーが私にどういう決断下すかはアンタにも分からん事さよね? どうなるか分からん処置を待つより、こっちで楽しく過ごしながら、アンタらに反抗の牙を向けてる方がまだ将来はあるっさ!」
天草の反論に、葛城は更に困ったように溜息をついた。
面倒くさいなぁ、と呟いても可笑しくない葛城の表情が、一瞬にして冷たいものに変わった。魁斗の知ってる『娘思いの父親』の姿は微塵も残されていなかった。
「まあ、君の言い分も分からない事はない。戻って殺されたりなんて嫌だろうし」
だがね、と葛城は言葉を区切った。
天草がこういう反論をした時に、言い返す台詞を用意していたかのように、彼の口からすぐに言葉が出てきた。
「まさか、僕が粛清されるかもしれない状況の君を、何の交渉材料も無しに連れ戻しに来た、とでも思っていたのかい?」
『十二星徒(じゅうにせいと)』のリーダーは、天草が今更戻っても何もしない。少なくとも、殺されはしないだろう。
つまり、彼は戻ってきても天草は殺される事はない、という条件を交渉材料に持ってきていたのだ。
さらに、畳み掛けるように葛城の言葉が、天草の耳に突き刺さる。
「それに、私達なら君の弟だって探し出せるさ。なぁに、難しい事じゃない。弟の捜索をしてもらいたかったら、そこにいる男を殺せ」
天草の決意が揺らぎ始める。
天草は心のどこかで、弟の事をまだ気にかけていた。それもそうだ。弟の事が心配にならない姉なんていないだろう。
彼女の心が、葛城にわしづかみにされたように、大きくぐらぐらと揺さぶられている。
「……わ、私は……!」
「さあ、結論を出したまえ。そこの少年を殺すか、我らに牙を剥くか」
錯乱する天草の肩に、魁斗の手が置かれる。
彼は、錯乱し震えている天草を気遣うように、優しく声をかけた。
「あんな奴の言葉に、耳なんか貸すんじゃねぇよ」
「切原魁斗くん。君は何故そうやって私の邪魔をする? 君にとっても、彼女は邪魔なんじゃないのかい?」
んなワケねーだろ、と魁斗は葛城に言葉を返す。
彼は天草の頭に軽く手を置き、二刀の剣(つるぎ)を片手に持ちながら発動する。
「今まで散々仲間がやられたっていうのに、天草がやられた時だけ連れ戻すなんて随分と優しいじゃねぇか。他の奴には声すらかけなかったんだろ?」
魁斗は知っている。
敵に破れ、仲間から救援が来なかった『十二星徒(じゅうにせいと)』を。早乙女瑠璃という少女を。双葉結花・解花という双子を桐生から聞いた。サソリという少年を藤崎から聞いた。八木という男性を、ザンザとカテリーナから聞いた。他にも、やられた『十二星徒(じゅうにせいと』はまだいるはずだ。
なのに、天草だけ連れ戻そうとするのは可笑しいじゃないか。
「お前らは、本当に他の奴らを仲間だと思ってんのか? 何でそいつら見捨てて、天草だけを連れ戻そうとしてんだよ!」
「……無駄に熱いね。そういうの、私は苦手なんだ」
「はぐらかしてんじゃねぇよ! 何で他の奴らに、救いの手を差し伸べなかったのかって聞いてんだ!」
「助けるわけないだろう。ただの捨て駒を、君はいちいち拾っていくのかい?」
その言葉に、魁斗の憤りは限界地を越えた。
メーターを振り切り、魔力を開放して刀に巨大な光が纏い始める。
「……ほぉ」
「カイト君?」
「……許さねぇ……!」
魁斗は噛み付くように呟く。
キッと力強く葛城を睨みつけて、魁斗は力強く宣言する。
「仲間を捨て駒なんて言う奴に俺は負けねぇ! 葛城獅郎、お前は俺がぶっ飛ばす! 本当の仲間がどういうもんか、テメェに教え込んでやるぜ!!」
310
:
Mako♪
:2012/05/26(土) 23:37:51 HOST:hprm-57422.enjoy.ne.jp
待ってました!
キャー!仲間思いの魁斗君対、葛城獅郎!勝ってくれ、魁斗君!!!!
竜野さん、頑張ってくださいね!
311
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/05/27(日) 10:24:45 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
Mako♪さん>
コメントありがとうございます。
魁斗が出会った敵の中で、一番仲間を道具としか思ってない奴ですね、葛城さんは。
仲間を大事、というか一緒に戦うべき友達、と思っている魁斗からしてみれば、葛城さんは外道の極みです。
だからあんな怒るのも納得できて……あれ? エリザとか一回ザンザとカテリーナ殺しかけてたような……((
魁斗はなんだかんだで、一人で戦う時は勝っちゃう奴です。
だから、今回もきっと大丈夫! なはず((
はい、続きも頑張らせていただきます^^
312
:
森間 登助
◆t5lrTPDT2E
:2012/05/27(日) 12:20:30 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
またも久々なコメント、元ライナーの森間です。
ついに獅子座の方が出ましたか。しかも意外な登場 Σ(°0°) 読者に不意を突かせると言う点ではずば抜けて凄いですね……感心いたします^^
にしても魁斗が熱いですね! お前こそ本当の男だよとか言いたくなるレベルの((
バトル展開が楽しみですが、正直魁斗のモノホンの剣がそろそろ見たいですねー、読者としてはw いつ頃出るんでしょうか……
簡単にアドバイスをしますと、、「〜『UFOを見た!』の一点張り〜……」の部分ですが、シリアスな雰囲気を壊してしまうので、注意が必要ですね。場の雰囲気に合わせた比喩表現を心がけてみては如何でしょう?
では、続きを待っておりますw
313
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/05/27(日) 21:15:21 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
森間登助さん>
コメントありがとうございます。
そして、お久しぶりです。
気付ける人は気付いたと思いますよw 下の名前に『獅』って入ってますしねw
まあこの方は初めて出そうという時から、しし座の『十二星徒』に決定していました。
魁斗VS葛城、のカードはもうちょい後かと((
いやぁ、このままじゃ魁斗がボロ負けしそうな感じがします。ので、ちょっと準備期間ですね。
魁斗の剣は『祓魔の爪牙』で決定です。
レナからもらったものなので、彼はこれを一生使い続けるかと((
思いついた表現がそれだったので……比喩表現については僕もまだまだ修行が足りんなぁ、と思わされるところがありますw
以後、気をつけますね。
はい、続きも頑張らせていただきます^^
314
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/06/01(金) 22:47:10 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十六閃「七日の余暇」
魁斗は鋭い眼光で、敵と化した葛城を睨みつける。
天草は自分のために立ち上がってくれた魁斗を見つめており、一方で葛城は構えもせず刀を下に向けたまま余裕を見せている。
魁斗が今まさに足を踏み出そうとした瞬間、葛城は刀を指輪に戻して、くるっと背中を向けた。
その行動に、魁斗は勿論納得できない。
「……何のマネだよ」
「何って、撤退だよ。今日は君と戦うつもりはない。結果は見えてるからね」
その言葉に魁斗が反応する。
確かに、相手が強いのは言わなくても分かる。現に、先程も不意を突かれたとはいえ、かわせなかった。かわすことが出来なかった。かわすという思考すら出せなかった。
不意を突かれなければかわせた、とも断言できない。
「……結果は見えてるって……やってみなきゃ分からねぇだろ!」
「分かるよ。君と私では実力に差が開きすぎている。それはもはや君の得意な根性論じゃどうにもならないんだよ」
葛城は優しい口調で語った。
だが、いくら言葉を重ねられたところで魁斗の意志は揺るがない。
「だから、やってみなきゃ……!」
「……勝てないっさよ」
食い下がる魁斗を止めたのは、意外にも天草の言葉だった。
「勝てないっさ。私でも、葛城には勝ててないっさ。私相手に苦戦してるカイト君は、奴には天地がひっくり返っても勝てないっさ。……今の状況じゃ」
分かったろう、と葛城は息を吐く。
葛城は振り返らずに、背中だけで語る。
「天草の制止もあるんだ。とりあえず、私は君と戦わない」
魁斗は、葛城と天草の言葉に刀を下ろす。
しかし、葛城の言葉は終わらなかった。それは、魁斗が勝てないと示すような言葉ではなく、ただの宣戦布告だ。
「七日間、君に時間を与えよう。ま、せいぜいすぐにやられないように腕を磨きたまえ」
そう言って、葛城は姿を消した。
現場に残ったのは魁斗と天草の二人のみ。妙な静寂が二人を包む。
魁斗は思い出したように、携帯電話を開いて電話をかける。かけた相手は人間界の人物ではなく、天界の人物だ。
電話が繋がり、この静寂をぶち壊すようなド派手で可愛らしい声が飛んできた。
『ハッアーイ! いっつもニコニコ貴方のために働く女です! 可愛い可愛い貴方だけのメルティちゃんですよ!』
とんでもない挨拶だ。
だが、今はそれを気にしている暇ではない。魁斗はいつもならツッコむ相手の言葉を無視して、一方的に用件を伝える。
「ああ、メルティ。忙しいってのは分かってるんだけど、一つ頼まれてくれないか?」
メルティはしばらく黙って、言葉を紡いだ。
『……えーっと、意外だねぇ。カイト君が私に頼みだなんて……まあいいでしょう。調べも一通り済んで、丁度することがないしね。カイト君の頼みは断る理由がないよ』
魁斗はホッとしたような表情を浮かべると、用件を話し出す。
「そうか、話が早いよ。じゃあ、突然で悪いんだが……一週間、俺の師匠になってくれ」
『…………………………………………はい?』
メルティの驚愕の言葉は、魁斗の受話器に空しく響く。
更に、メルティは言葉を重ねた。
『はい?』
先程と何も変わらない、彼女にしては珍しい間の抜けた声を。
315
:
森間 登助
◆t5lrTPDT2E
:2012/06/03(日) 08:33:57 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、森間です。
久々のメルティ登場ですね、最近は簡単な描写でしか見なかったので完全に忘れていました((
ちょっと気付いたんですが、『十二星徒』の目的が主人公のシャインを狙うためという事になっていますが、わざわざ強くなるまで待つのでしょうか? それにシャインの目的もまだ主人公達の予想段階でしかないような気がしますし。
何故強くなるまで待つのか明確な理由が欲しいところですね。確かに少年漫画によくある手法だったりしますが、安易に使い過ぎかと思います……
それと魁斗の剣は『祓魔の爪牙』で決定とありますが、魁斗に天界の過去があるなら専用の剣があっても良いような…… 少し残念です。
さらに進行具合から言わせていただきますと、悪の組織を倒すと言う単純な作りになっているため、読んでいる内に物足りなさが少々。魁斗の過去が不明になっているならば、それを物語の中に入れても良いような気がします。ですので、もっとバトル以外のストーリー要素を入れられるようになると良いかな〜なんて((
全体的に纏めて言わせていただきますと、全体的なストーリーの流れをキャラクターが動かせていないと思います。
この小説はライトノベル寄りだと思いますので、キャラクターが大切だと思うのです。ですので、なるべくキャラクターの性格を軸にストーリーを書いてみては?
長くなり、またうざったい内容を書いているなと思われたでしょうが、参考にしていただけたら有り難いです。
ではではwww
316
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/06/03(日) 10:58:42 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
森間登助さん>
コメントありがとうございます。
自分としてもメルティは確かに久々ですね。
魁斗が一番修行のしやすい相手を選んだ、といった感じですね。レナやハクアの人間界メンバーは現在複数で行動しているため、魁斗も修行を頼み辛かったんでしょうね。
『十二星徒』の明確な目的は後から判明します。
実際葛城は『十二星徒』のリーダーからちゃんとした目的を聞かされていません。だから葛城の魁斗への敵意も『少し興味があるので、成長した彼と戦ってみたい』という感覚ですね。
ぶっちゃけると、『十二星徒』のリーダーと面識があるのは、メンバー内でほとんどいません。
魁斗の天界でのことは、十二星徒編が終わった後にちょこっとだけ話させていただきます。
といっても、真相までは明らかにならないんですが。
魁斗専用の剣は、コメントを頂いてから出そうと考えています。が、かなり後になる恐れが……。
こっから魁斗の修行に入るので、ちょこっとバトル以外のストーリーが入れられると思います。
自分も、バトル描写よりも日常描写の方が結構好きだったりしますので……あ、また魁斗が空気になる予感しかしなi((
ああ、それは自分でも反省すべき点が……。
実際この作品のキャラって動かし辛い奴ばっk(( 戯言は置いといて、キャラを上手く動かせていないということは、自分でもまだキャラの性格をはっきりと認識できていないのか? と思っていたり。
キャラクターの性格を軸に……ですか。難しいですが、やってみます。
いえいえ。いつも参考になるようなアドバイスばかりでありがたいです。
小説をただ読んで、『良い』や『悪い』を表現するだけでは、こちらとしてもどう改善した良いのか、どこの雰囲気を持っていったらいいのか分かりませんし。
続きも頑張らせていただきます^^
317
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/06/08(金) 21:15:56 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗の修行の相手として呼び出されたメルティは、かつてアギトと戦った河川敷で、魁斗と数メートル離れて向かい合っていた。
正直、魁斗の修行相手になるのをメルティ本人は潔しとしない。
理由は二つあるが、その内の一つは明らかに私情である『魁斗が好きだから戦いたくない』である。誰でも好きな人と争ったりするのは嫌だろう。メルティの心中にもあることで、異常な程までに魁斗に恋心を寄せているメルティとしては『力になりたいが、自分は戦いたくない』といったところだろうか。
そして理由のもう一つは、自分の本気が出せない事である。これは相手が好きだから、という理由ではなくキルティーアとの戦闘で『時の皇帝(タイムエンペラー)』が暴走したのが大きな理由である。
メルティはキルティーアとの戦いで暴走してから、『時の皇帝(タイムエンペラー)』の使用を控えていた。その証拠に、現在は十六歳の姿で、以前『十二星徒(じゅうにせいと)』に襲われた時だって、十六歳の姿で挑んでいる。
以上の点を踏まえ、メルティは溜息をついて魁斗に言う。
「……あのさぁ、カイト君。これは忠告になっちゃうんだけど……私手加減できないよ?」
「それでいい。いや、むしろそっちの方がいい。お前が本気にならないと、意味がないんでな」
それでもメルティは乗り切らない。
乗り切らない、というより彼とは本気で戦えない。そう思ってるからこそ、相手が『本気でいい』と言っているのに、戦えない証拠だ。
「俺は、葛城から皆を守れるくらい強くなりたいんだ。だから、一番強いお前で来い」
「……はぁ。どうなっても知らないからね」
そこで、メルティは『時の皇帝(タイムエンペラー)』を解放する。
綺麗で長い銀髪を後ろで束ねた、ハルバートを手にした女性。二十五歳のメルティだ。
「……お前、十年近くでかなり変わるんだな」
「まーね。いつまで経っても子供じゃいられないでしょ? さってと、じゃあ始めるけど……いい?」
「ああ、すぐにでも―――」
言おうとした瞬間、魁斗視界からメルティが消える。
魁斗がその光景に驚いている間に、姿を消したメルティは魁斗の背後に移動していた。
(―――速ッ?)
ドッ!! と魁斗の横っ腹に鈍い衝撃が走る。
魁斗はそのまま数メートル飛ばされ、最終的に地面に身体を滑らせるような感じで止まる。
「……そりゃ、いつまでも子供じゃいられないよ。カイト君にだけは無垢で可愛い私をみせていたかったけど、仕方ないな」
魁斗h半分睨みつける様な視線で、メルティを見つめている。
ハルバートを肩に担ぐように持ったメルティは、そんな魁斗を冷たい瞳で見つめながら言葉を放つ。
「カイト君の次の相手はカツラギシローだっけ? 『十二星徒(じゅうにせいと)』の中でもかなり強いんでしょ? 相手が私でよかったね。さっきの一撃がカツラギシローだったら、お前死んでるよ」
メルティが、今まさに教官とかした瞬間を魁斗は見た。
318
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/06/10(日) 11:26:12 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗とメルティが修行開始とほぼ同時刻、天草は沢木の家の前で、沢木と話していた。
魁斗は葛城獅郎が与えた七日という猶予をフルで修行に費やすそうで、ハクアが提案したチーム編成が出来なくなったのだ。そのため、魁斗から『サワなら泊めてくれると思う』と言われ、彼女のところに頼みに来ていた。
「全然大丈夫です。むしろ、私も人が増えた方が楽しいですし」
答えは案の定オーケーだった。
ほっと安堵の息を吐いて、天草は家の中に上がる。
家のリビングには、ハクアとレナが座っていた。レナは、天草へ一度視線を向けると、僅かに不機嫌になってから目線を逸らした。
「まー、カイト君ならこーなるんじゃないかと思ってたけど、まさか予想通りになるとはね」
「……それより、葛城獅郎……という名のしし座の『十二星徒(じゅうにせいと)』と遭遇したというのは、本当のようですね」
レナの問いに天草は頷いた。
魁斗と天草が葛城と出会ってから、魁斗はレナと桐生、更に天界にいる何人かにも情報を伝達していた。しし座の『十二星徒(じゅうにせいと)』の正体を。
それを聞いた時、沢木は驚いたようだったが、彼女も何故わざわざ自分達に接触してきたのか、何となく分かってきたようだ。
「……カイト君は今メルティって人と修行してるさ。……大丈夫だと思う?」
天草は心配そうな表情でレナ達に問いかけた。
そして、ハクアと沢木が間髪いれずに答えを出した。
「んまあ、大丈夫でしょ。メルティさんなら」
「はい。心配はいりませんよ」
二人の早すぎる解答に天草は目を丸くした。
二人はメルティが魁斗にそれなりの好意を抱いている事に感づいている。だが、それを差し置いてもメルティなら大丈夫だと断言した。
何故なら、
「メルティさんなら、カイト君の事をよーく見てるから。限界になったら休憩挟むだろうし、心配要らないよ」
「でも―――」
「大丈夫だと言っているでしょう」
天草の言葉をレナが遮った。
天草はレナに視線を向けると、レナは息を吐いて、
「ちゃんと、カイト様だけではなく、私達も信頼してください。『秤さん』」
信頼の証、となるようなものをレナは口にした。
普通なら、信頼できないような相手にを下の名前で呼ぶことはないだろう。だが、レナは不器用なりに『天草を信用している』という証明のため、彼女の名前を呼んだ。
苗字ではなく、下の名前で。
レナの言葉に天草は表情を綻ばせて、力強く頷いた。
「……うん!」
その光景を見ていたハクアが、レナの耳元で囁くように話しかける。
「(……うふふ、レナってもしかしてツンデレ?)」
「(……なっ、貴女が『仲良くしなさい』とか言うからでしょう!?)」
「(……あららー、人のせいにしちゃって。でも、よくやったんじゃない?)」
「(……褒めるなら、もうちょっと分かりやすくお願いします)」
319
:
森間 登助
◆t5lrTPDT2E
:2012/06/10(日) 14:37:26 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、森間です^^
ついに修行編、楽しみにしております。
それと、沢木宅のガールズトークがなんか和みますね。
>>316
で引っ掛かったところがあったので、少し意見させて貰いますね。
葛城の『少し興味があるので、成長した彼と戦ってみたい』という動機ですが、少々不純かなと思いました。動機というのは本来読者に共感を訴えるものですから、それだけでは読者が納得してくれません。もっと一般人が納得できるような理由を混ぜるといいと思います。
また、リーダーが仲間内でも不明なのはちょっと…… と思ってしまいました。まず、姿の知れない強大な力を持った何者かなんて着いていきたいと思うのでしょうか?
まだ脅しを掛けられているから脱退できない、とかなら分かりますが、裏付けさえもされていないので不安定かなと。
主人公の出番が無いのはズバリ言っちゃいますと、その主人公が動かしにくい性格に設定してしまっているということです。
厳しいことを言っちゃいますと、動かしにくいキャラは主人公向きではありません。こういう場合は、もっと単純なキャラ(極端に熱血、クールなど)にした方が動かしやすいですよ^^
ではでは、ご参考までにw
320
:
名無しさん
:2012/06/10(日) 17:06:12 HOST:ntfkok244208.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
>>1
中二臭いよ中坊www
321
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/06/23(土) 00:36:51 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
森間 登助さん>
コメントありがとうございます。
修行編……ぶっちゃけ魁斗が本気のメルティ相手に死なないか不安でいっぱいです((
レナとハクアの会話は書いてても、何だか和みます。さてさて、天草がどう入っていくか……。
ガールズトークの輪に入れない、恋音とカテリーナ(( 桐生がハーレムじゃねぇk((
次に書こうと思っていたところをご指摘いただきました。
いや、葛城さんの戦いたい理由の方じゃなく、『十二星徒(じゅうにせいと)』のリーダーの話ですね。
ぶっちゃけ、葛城さんはリーダーさんに弱みを握られています。
ただ、素顔を知らないだけで、面識自体はあるので(
>>285
参照 この場にいるのは、リーダーとその側近と葛城、天草です)。
単純なキャラ……結構熱血だと思うんですけどね……。
アイツ、いまいち熱くなりきれてないのか。松岡○造の力が必要d((
貴重なアドバイスありがとうございました。
322
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/06/23(土) 00:58:57 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
電気が全くついていない暗い部屋の中で、一人の少女が顔を机に突っ伏して、睡眠を取っていた。
そんな彼女の首元に、スッとナイフの刃が寄せられる。
ナイフを握る人物が、彼女の首を掻こうとした瞬間、後ろから唐突に声を掛けられる。
「……何をしている?」
後ろから掛けられた声は割りと若く、大体高校生くらいの少年の声だろう。
仮面をつけているため、顔までは確認できないが、黒髪の痩身であることは見た目で分かる。
ナイフを握っていた男も、仮面をつけており、表情は確認できない。
だが、
「参ったね。まさか、君がいるとは予想外だったよ」
特徴的な声のせいで、仮面の効果が全くない。
ナイフを持っていたのは葛城獅郎だ。
葛城はナイフを床に放り捨て、少年から距離を取る。
「……貴様、まさか殺そうとしたのか?」
「まさか。彼女がその程度で殺せるわけないだろう。さっきので私が殺せたら、既に『十二星徒(じゅうにせいと)』の誰かが殺してるさ」
「そーゆーこと」
いつの間にか、葛城が殺そうとしていた少女が彼の背後に立っている。
音も無く、誰にも気付かれず、本当に『いつの間にか』だ。
葛城は仮面を外し、少女へと視線を向ける。
少女は、仮面をつけたまま、腕を組み愉しそうな口調で告げた。
「さっきのアンタの話だと、私って相当嫌われてるみたいね。まったく、どいつもこいつも……私の何が気に食わないんだか」
少女は伸びをしながらそう言った。
隙だらけだ。無防備で、無邪気で、無垢で。今なら殺せそうな気がしないでもない。
だが、葛城にはどうしても彼女を殺せない理由があった。
「そーいえば、そろそろなんじゃない? アンタの娘が転校するのって」
「ああ、そうだね。私は娘の保身のために君らに協力しているんだ。娘が危険な目に遭ったら……その時は分かってるね?」
「あーはいはい。分かってるってば」
少女は面倒くさそうに答える。
それからしばらく考えて、彼女は少年の方に質問をした。
「ねぇ、向こうで残ってる奴らって誰がいたっけ?」
向こう、というのは恐らく魁斗達の戦力の事だろう。
少年は僅かに逡巡し、答えを導き出す。
「天界でなら、エリザ、ザンザ、クリスタ、ルミーナ、ゲイン、フォレストの六人。どれも厄介な奴らです。人間界では、切原魁斗、レナ、ハクア、桐生仙一、藤崎恋音、カテリーナ、メルティ、そして天草秤です」
「……そ♪」
少年の言葉に、少女は面白そうに返事をした。
彼が天草の名前を出したのは、恐らくもう彼女の事をどうとも思っていない理由だろう。仲間でなければ、ただの抹殺対象。そうう認識しか、彼らには出来ないのだ。
少女は、出口へ向かって歩き出し、室内にいる二人に告げるように言う。
独り言のような一言を。
「……葛城が与えた猶予って、確か七日よね。七日後、葛城。アンタは真っ先に天草を狙いなさい」
指名された葛城は、ニッと笑みを浮かべて、最終確認のように問いかけた。
「裏切り者は即刻排除、ですか?」
少女は間髪いれずに答えた。
「当たり前じゃない」
驚くほど、感情の篭っていない無表情で無感情な声で。
323
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/07/08(日) 14:28:12 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
現在、桐生の家にはその家の住人である桐生仙一とハクアの組み分けにより、彼と行動を共にする事になった、藤崎恋音の二人だけである。
本当はカテリーナなども居候していたのだが、今はいない。いつもなら学校から帰ってきたら、おもむろに部屋の中を(何か食べながら)物色しているのだが。
今日は家に帰ると、彼女の代わりにテーブルの上に彼女の残したであろう置手紙が置かれてあった。
『エリザ様から召集かかっちまったぜ! てなわけでバイビー』と書かれてあった。
文面だけでもイラッときたが、とりあえずいなくなってくれてよかった。
桐生はそう思っていたが、一人だけこの二人きりの状況を良く思っていない人物がいた。
言うまでもなく、藤崎恋音だ。
実を言うと、彼女は桐生とペアになった時点でどきどきしており、カテリーナがいてくれた事により、その心臓の鼓動を抑えていたのだが。
(もー、カテリーナさんの馬鹿ー! これじゃ結局同じじゃん! 二人になると余計に意識しちゃうんだってば!)
彼女の頭の選択肢には『意識しない』という解答はないようだ。
藤崎は顔を赤くしながら、桐生との距離を空けながらソファにちょこん、という効果音が似合いそうな様子で座っている。
彼女の顔が赤いことに気付いた桐生は、心配そうな表情をして、
「大丈夫かい、藤崎さん? 顔が赤いけど……熱でもあるの?」
「へ!? べ、別に……私は全然大丈夫だけど……」
「そうか。……何かあったら言ってよ。遠慮とかしないでいいから」
桐生のその言葉に藤崎はこくりと頷く。
部屋に再び沈黙が訪れる。
そんな中、桐生はいろんな事を頭の中で考えていた。
(……しし座の『十二星徒(じゅうにせいと)』との戦いに備え、切原くんはメルティさんと修行してるって聞いた……。ということは、彼は自分の力の足りなさを感じているということか。……また、置いていかれてしまうかもな)
桐生は魁斗より戦っている期間は長い。
しかし、最近ではその魁斗よりも自分の方が弱いと感じてしまう。
『死を司る人形(デスパペット)』との決戦では、自分はスノウと戦ったが、彼はそのスノウより強いディルティールと戦い勝利を収めている。
やはり、置いていかれている。
「……僕は一体、切原くんに何が出来るんだろう……?」
言葉が、口から出ていた。
その言葉を聞いた藤崎が、口を開く。
「そんな、気負う事ないよ」
いつの間にか、彼女は自分のすぐ隣にまで来ていた。
藤崎は桐生をじっと見つめたまま、彼の左手にそっと自分の右手を重ねる。
「何でもできる。力になることも、隣で一緒に戦うことも、傍で支えてがえることも。桐生くんなら何でも出来るよ」
「……藤崎さん……」
「自分に自信を持って! その方が、桐生くんらしいって、私は思うよ!」
にっこりと笑いながら、彼女は伝えてくれた。
桐生はフッと笑みをこぼしながら、藤崎を見つめて一言だけ告げた。
「ありがとう。何だか、自分への自信と、元気をもらったよ」
「いやいや、力になれてこっちも良かったよ!」
一方、天界でも動きがある。
敵の、ではなくエリザ達の動きだ。
現在この場には、エリザ、ザンザ、カテリーナ、クリスタとフォレストが集まっていた。
代表のエリザが口を開く。
「しし座の『十二星徒(じゅうにせいと)』の撃退は、とりあえずカイト君達、人間界の人達に回そう。私達は、彼らがしし座を倒した後、すぐに残りの奴らを倒せるようにアジトを探す」
「まあ、その方がいいだろうな。その方が私達も人間界と天界とを右往左往せずに済むだろうしな」
エリザの言葉に、腕を組んだまま聞いていたクリスタが同意した。
次に、カテリーナに抱きかかえられ、不機嫌な顔をしているフォレストが口を開く。
「ですが、実際どうすんですか。情報収集に特化しているメルティさんは、現在天子の修行に大忙し。僕らだけで特定できるような場所に陣を構えているとも考えられませんが」
「うん。だから最初にこの事を伝えておいたルミーナとゲインには先に捜索に当たってもらってるんだけど……中々連絡が来ないのよね」
「そう簡単に見つかっちまっても面白くねェしなァ」
エリザはしばらく考えて、結論を出す。
「だから私達も手分けして情報を集めるわよ。私とザンザ。カテリーナとクリスタとフォレストちゃんで、分かれるわよ」
その提案に異を唱えるものはいない。
五人は二組に分かれて、捜索を開始する。
エリザとザンザの二人に、黒い影が迫っている事は誰も知らない。
324
:
計ちゃん
:2012/07/11(水) 18:02:25 HOST:ntfkok253193.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
アナタ、シコシコ文章、いつもご苦労様ですね。
あなたのシコりには、感動させられました。
325
:
計ちゃん
:2012/07/11(水) 18:03:57 HOST:ntfkok253193.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
もちろん、良い意味でのことですよ。
悪い意味で言うような、浅はかな女等どもとは違いますから。
326
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/09/08(土) 21:05:40 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ハクア「ひっさびさのハクアお姉さん登場ー!!
いやぁー、このレス随分ご無沙汰ですなぁ。駄目な作者がずっと放置しててごめんねー。
つーわけで、今日からちょこっとやる気出すらしいわ。実のところ『こっからどうすっかなー』って考えてたらしいから。
しかしこっから始めても、もっかい読み直すのツライじゃん?
ってなわけで、簡単なあらすじを紹介するわ。
紹介っていっても、私がやるわけじゃないのよ? 『説明なら私にお任せ! 動く広辞苑』ことレナちゃんに頼むわ!」
レナ「どんだけ適当なやり方ですか! もう、いいです。やる気がないようですし。
この物語は、私とカイト様が出会うところから始まります。
脚力が高いことだけが自慢のごく平凡なイケメン高校生カイト様は―――」
魁斗「オイコラ。誰がイケメン高校生だ。変な属性追加すんじゃねーよ」
レナ「あら、違いました?」
恋音「つーかこれじゃ一向に進まないわよ? 本当に大丈夫?」
仙一「大丈夫じゃないだろうね。君ら知ってる? これって文字制限あるんだよ」
魁斗「それを早く言えよ! あー、まともにあらすじ紹介してねぇじゃねぇか!!」
レナ「ですから、最初から私がやった方が―――」
ハクア「いやー、今のは無いと思うわー」
レナ「責任を丸投げした貴女に言われたくありません!!」
メルティ「ねーねー、再開だって言うから来たのにさ、いつになったら私の出番?」
フォレスト「ずっと準備してんですけど。もう僕ら待ちくたびれてますよ」
エリザ「私らも来たんだよー? ね、ザンザ。カテリーナ」
カテリーナ「そうだよー。私らの出番くれくれー!」
ザンザ「つーかこれさ、番外編みてーに全員集合してるけどいいのか? いい加減本編始めようぜ」
沢木「では、あらすじは私が!
脚力が高い少年、切原魁斗は天界からやって来た女性・レナと出会い、自分が天界の王の子、天子であることと、自分の身体の中に『シャイン』があると知らされる。
彼はレナやハクア、その他大勢の仲間達と死闘を繰り広げ、『死を司る人形(デスパペット)』をついに倒したのだ!
しかし、次に現れたのは『六道輪廻』! さらには『十二星徒(じゅうにせいと)』とも戦うことに!
カイト君は最強の『十二星徒』葛城獅郎と戦うために、修行を開始したのですっ!!」
全員「あらすじ言われたぁぁぁっ!!」
すいません、おふざけで書きました。
次レスから再開いたしますm(_ _)m
327
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/09/08(土) 21:28:26 HOST:180.5.55.152
第七十七閃「約束は破るために」
「……」
ザンザはエリザと歩きながら、どこからどう見ても、十人中十人が分かるくらい不機嫌な顔をしていた。
彼の視線の先には傍らにいるちっこい上司に向けられたものではなく、横や後ろの方へと巡らされている。
彼の視線に気付いた上司であるエリザは、ごく軽い調子で彼に訊ねた。
「どうしたの、ザンザ。随分と不機嫌かつ警戒してるわね」
まさかコイツ気付いてないのか、みたいな視線をしたザンザはエリザの方を見ずに、前を見ながら歩いている。
彼の不機嫌さは一向に晴れない。むしろ足を前に進ませれば進ませるほどに彼の不機嫌は募っているようにも見える。だが、上司のエリザを話す時だけは、僅かに苛立ちを緩和させて、落ち着いた口調で話す。
「……いや、なんつーか……」
その様子にエリザは子供らしくくすくすと可愛らしく笑う。
自分の前に萎縮する部下を見て可愛らしいと思っているのだろう。彼女はおそらくドが付くSだ。
「……随分楽しそうに笑ってんなァ。まさかエリザ様、気付いてねェわけじゃねェだろ?」
ぴくっと、エリザの肩が動く。
ザンザの言葉に彼女は楽しそうに口の端を歪めながら、辺りをきょろきょろと見回している。
恐らくは敵の位置を見つけようとしているのか、彼女はちょっとだけふざけて手をかざしながら『どこかなー?』などと言っている。この程度の挑発では敵も乗ってこないだろう。
「オイ、そんなんじゃダメダメだってのッ!!」
ザンザは背負っている巨大な刀を振り回す。
ザン!! と鈍い音を立てて、木が三本切り倒される。大きな音を立てながら巨大な木が地面へと落ちる。
「とっとと出て来ねェと、ここの木全部切り落とすぞ!!」
「やめなよザンザ―――」
彼が再び刀を振り回した瞬間、
ガァン!! という金属と金属の鈍い音が辺りに響き、彼の斬撃がエリザの槍によって阻まれる。
「―――あァ?」
「え?」
止めているエリザ自身も驚いていた。
二人は状況を把握するため、数秒固まっていたがザンザが落ち着いた口調で問う。
「―――どういう事っすか、エリザ様」
彼の目は怒ってはいなかった。
むしろ『止めるなら口で言ってください』と言っているような。
しかしエリザは弁解する。自分の意志でやったんじゃない、と。
「い、いや違う! 今のは私がやろうとしたんじゃなくて、何がなんだか分からないけど身体が勝手に―――!」
ズン!! と何かを貫く気味の悪い音。
ザンザの腹部から血が流れ、彼の腹部にはエリザの槍が深々と突き刺さっていた。刺したのは言うまでも無い、エリザ本人だ。
彼女の幼女らしい小さな手が、しっかりと槍の柄を握っている。
328
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/09/09(日) 21:28:21 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「「……え……?」」
エリザとザンザは同じ声を同時に漏らした。寸分の狂いも無く、小さい頃から一緒にいる親友のように、以心伝心してるとでも思わせるような、ズレが全く無い、本当に声が揃っていた。
ザンザの腹部にはエリザの槍が、刃の根元まで突き刺さっている。その腹部からは赤い鮮血がぽたぽたと森の地面に生えた草を赤く染めていく。
刺されている側のザンザも、槍の柄を握ったままのエリザも状況が把握出来ていないような表情のまま固まっている。
『何故自分は今刺されている?』というのがザンザの心情で、『何で自分は部下を刺している?』というのがエリザの心情であった。
ザンザは口の端から、一筋の血を流しながら、
「……オイ、どォいうことだよ……ッ!」
「わ、分からないよ……! 私だって、いつの間にか貴方を刺してて―――」
「んな冗談が、通じると思ってんのかよ……ッ!」
ザンザがエリザを睨みつける。
部下から信用されなくなったとほぼ同じ感覚に陥ったエリザは何も言うことが出来なかった。
そんな中、がさっと草を踏みしめる音が二人の耳に届くと同時、若い男の声が届く。
「彼女は嘘をついてなどいない。主を信ずることこそが―――臣の務めではないか?」
現れたのは、高校生ぐらいの少年だ。黒髪の痩身で、一見すると優男という印象を与える少年だ。彼は『十二星徒(じゅうにせいと)』のリーダーの側にいる少年だ。
そのことを知らない二人は、キッとその少年を睨みつける。
少年は余裕さえを感じさせる笑みを浮かべながら、自分の首からぶら提げているネックレスへと視線を落とした。
「しかし、あの方から頂いたこの神具(しんぐ)の効果は本物だ。『使用者の姿が対象者に見えていなければ、対象者の動作を自在に行える。しかし、自害のみ不可能』。それがこの『動作の決定権(コントロール)』という神具だ」
エリザは眉間にしわを寄せ、少年を睨みつける。
十歳前後の少女とは思えないほど、鋭く怖ささえも感じさせる眼光で。
「……つまり、これはアンタがやったってこと? ザンザの攻撃を防がせたのも、今彼を刺しているのも!」
「今更気付いたか、低脳な小娘め。実力は本物でも知能までは浅ましいただの餓鬼と同じようだな」
少年は僅かに笑みを浮かべながらそう言った。
辛辣な言葉に、エリザは表情を変えることは無い。ただ、彼女は槍の柄から手を離し、手に幅の広い刀を握る。
「……アンタが姿を見せたってことは、もう神具の能力は使えないってことよね。判断を見誤ったわね。貴方は、今姿を晒すべきじゃなかった!」
「……ならばどうする。まさか貴様のそのオンボロ刀で私を倒せるとでも?」
「倒す、じゃないわよ。殺す!!」
エリザが言った瞬間だった。
ドッ!! と彼女の背中から腹へと刀が貫いた。
エリザは背後に立つ犯人の顔を確認する前に、地面に倒れこみ意識を失う。
「うおおおおおおおおあああああああああッ!!」
自身の上司を倒されたザンザは、巨大な刀を背後の襲撃者に向かって振り回す。前に、
背後からの襲撃者が一瞬でザンザの目の前に現れ、彼の身体を切り裂いた。
地面に横たわる二つの身体を見ながら、少年は呆れたように呟く。
「……動くな、と言ったはずですが? 運動不足を理由にしないでくださいよ?」
「えー、言い訳封じられた……。まあ、理由をつけるとしたらそうねー……『約束は破るためのものだから』かな?」
背後からの襲撃者は女子だった。
『十二星徒』のリーダーの声だ。彼女は気持ちよさそうに伸びをしながら、そう答えた。
「でもこれって、切原魁斗を焦らせることも出来るんじゃない?」
少女は二人の血を使い、紙切れにメッセージを残しその場を去っていった。
329
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/09/14(金) 19:19:11 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
河川敷で金属と金属がぶつかり合うような、ずっと聞いていたら耳が痛くなるような音が響いている。
いるのは二人。
一人はメルトイーア、通称メルティ。彼女は十六歳の姿で、身長よりも長いハルバートを両手で軽々と振り回している。
もう一人は切原魁斗。彼は二本の刀『祓魔の爪牙(ふつまのそうが)』で、メルティに必死に対抗している。
すると魁斗が押し負け、後方へと飛ばされてしまう。地面を数回バウンドし彼は呻きのような声を漏らした。普通なら相手を休ませるためにここで止めてもいいのだが、メルティはそんな甘い考えをしてなどいなかった。
「ほら、立て! カイトくん『十二星徒(じゅうにせいと)』を倒すんでしょ!? 奴らならここで止まらない、さらに追い討ちをかけてくる! 死ぬ気でいかなきゃ本当に死ぬよ!?」
魁斗は今自分の守りたいものを思い浮かべる。
たくさん出てくるが、まず出てきたのは仲間だ。
レナ、ハクア、桐生、藤崎、メルティ、フォレスト、沢木、そしてエリザやザンザ、カテリーナ達元『死を司る人形(デスパペット)』のメンバー。魁斗は彼らを思い浮かべ、ポツリと、
「……負けらんねぇよな……」
彼は呟く。
きつい言葉を浴びせるメルティも、相手を思っているからこそ口から出る言葉だった。
魁斗は一本の刀を杖のようにして身体を支えながら立ち上がる。彼女の言葉が励みになったのか、彼の瞳に再び闘志が宿る。
その表情に満足したのか、メルティは再びゆったりとした動きでハルバートを構える。
しかしそこへ、
「あ、見つけました! 天子さん、メルティさん!」
僅かに聞き覚えのある控えめそうな少女の声が聞こえてきた。
魁斗を『天子』と呼ぶのは天界の人間。天界出身で控えめそうな顔馴染みの人物。一人しかいないのだが、魁斗には名前が思い出せなかった。
振り返ると、そこにいたのは肩までの赤髪にアホ毛が真下に垂れ下がっている、十歳前後に見える少女。
魁斗が名前を思い出そうとしていると、名前を覚えていたメルティが彼女の名前を呼んだ。
「ありゃ、ルミーナちゃんじゃん。人間界に来るなんて、一体どしたの?」
ああ、そんな名前だった、と魁斗が納得し、ルミーナの言葉に耳を傾ける。
彼女は息を切らしており、急いでこっちに来たことは一目瞭然だ。一体どうしたんだろう、と魁斗とメルティが思っているとルミーナの口からとんでもないことを告げられた。
「い、今すぐ天界に来てくれませんか? ザンザさんとエリザさんが敵に襲われて重傷なんですっ!!」
「な……っ!?」
その言葉に魁斗とメルティは目を大きく見開き驚愕した。とりあえず、彼女の言うとおり二人は一度天界へと向かうことにした。
ルミーナの先導に従い、二人は目的地へと走っていく。
魁斗とメルティは走りながらルミーナの言葉を聞いていた。
「……実は、天子さんが葛城獅郎と戦うまでの七日間を無駄にしないために、私達は私達で敵のアジトを掴もうと手分けして探そうとしたんです。それで、二人の帰りが遅かったから探しに行くと、ゲインさんが傷だらけの二人を見つけて……」
なるほど、とメルティが納得したように言う。
魁斗は走りながら、ルミーナに質問した。
「二人が襲われたのって、二人でいたからって理由なのか?」
「……真偽は定かではありませんが、直結はしてると思います。あと、エリザさんが仮にも私達の司令塔だから、とも考えられます」
理由を聞いたメルティは、
「理由としてはそっちが大きそうね。このことを他の人間界の人達には?」
「伝えに行ってもらってます。桐生さんと藤崎さんのところへはカテリーナさん、沢木さん達のところへはゲインさんとクリスタさんが。必ず戻ってきたら皆を連れて、フォレストさんの家に集まってと言ってありますから、大丈夫です」
そう言っている間に、見覚えのある家が見えてきた。
目的地である、フォレストの家だ。
330
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/10/12(金) 22:57:41 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「ザンザ!!」
魁斗はフォレストの家の扉を勢いよく開けた。
そこには身体に包帯を巻いて、無理矢理に身体を動かそうとしているのを止めているフォレストがいた。
魁斗の到着に気付いたフォレストはほっとしたような、安心した表情を浮かべ、それに反してザンザは小さく舌打ちをした。
全快ではないだろうが、とりあえず無事でよかった。魁斗は心から安心すると、
「おはようの挨拶は、必要か?」
「見りゃ分かんだろォが、馬鹿」
とりあえず、いつものザンザでよかった。
とりあえずザンザを上の階でエリザと一緒に寝かせ、魁斗とメルティはフォレストの話を聞くことにした。
しかし、彼女自身も他人から話を聞いたので、詳しくは分かっていないらしい。こういう時に第一発見者であるゲインがいればいいのだが、彼は現在人間界のメンバーを呼んできているところだ。まだ帰ってはこないだろう。時間を無駄にしないために、とフォレストが説明役をしてくれた。
彼女は二人の前にお茶を出し、向かいに座ると話を始めた。
「まず犯人の方ですが、当然というか……まだ情報は掴めていません。ザンザさんとエリザさんの傷口を調べたんですけど……」
フォレストが言いにくそうに言葉を切る。
その様子にメルティは眉をひそめて、
「……けど、何よ」
「はい。二人の傷口は全くの別のもの。つまり、二人は違う人間にやられたということです」
「ッ!?」
魁斗とメルティが言葉を失った。
フォレストは続ける。
「ザンザさんからはエリザさんと同じ傷口が見られましたが、彼は他にも違う傷口がありまして。それはおかしなことに、エリザさんの『剣(つるぎ)』と一致していたんです」
「……どういうことだよ?」
「こういうことよ」
よく理解できていない魁斗に、メルティが説明する。
「エリザとザンザを倒したのは、恐らく同一人物。あの二人を一人で相手取るのは相当難しいだろうけど、同じ傷口があるってことはそう考えるのが妥当。そしてあの二人がやられるってことは、仲間割れでもした……とか?」
ザンザにはエリザの『剣(つるぎ)』で傷つけられたと思われる傷がある。しかし、フォレストは捜索に向かう前は仲が悪いようには見えなかったと語っている。真相は謎のままだ。
すると、フォレストが思い出したように手紙を差し出す。
その紙に書かれていたのは英文だ。英語が全く出来ない魁斗には読めず、メルティも首を傾げていた。フォレストも読めなかったようだ。
すると、後ろから声がかかる。
「『約束は破るためにある』って書かれてるんだよ、それ」
後ろから言ったのは桐生仙一だ。
やはり、彼にかかれば英文の解読など楽勝だったのか。
「これは挑戦状だよね?」
桐生の後ろにいた藤崎がそう言う。
彼は小さく頷くと、
「切原くん。もう時間はない。彼らは、七日も待ってくれないかもしれない」
331
:
一護/泪/恭弥/当麻/高塚凛/亜梨子/安心院紅羽/疾風やみゆ
◆u7pJ1aUXto
:2012/11/09(金) 21:45:18 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七十八閃「鬼再び」
魁斗とメルティはゲインとクリスタが呼びに行ったレナ達が来るより早く、人間界へと戻り修行を再開していた。
敵がエリザとザンザに重傷を負わせ、挑発的なメッセージを残した。これ以上誰にも傷ついて欲しくない魁斗は一刻も早く強くなる必要があった。しかし、強さとはそう簡単に手に入るものではない。彼が今まで戦ってきたザンザやエリザ、ディルティールだって血の滲むような努力をしてきたに違いない。
こういう時に思い知らされる。
自分は本当にまぐれのみで勝ってきたのだと。
今魁斗の目の前にいるのは修行の相手であるメルトイーア。彼女は伸びをしながら軽く体操のような動きもしている。
彼女はハルバートを軽く片手で振りながら、
「カイトくん、再開するけど準備はおっけー? ダメでもやるけど」
魁斗は二本の刀を真っ直ぐに構えて、
「ああ、来い!」
瞬間、メルティの姿が視界から消える。
自分の目を疑った刹那、メルティが背後に忽然と現れ、鋭い膝蹴りを魁斗のこめかみにヒットさせる。
魁斗の身体は横向きのまま三メートル程飛ばされ、彼のこめかみから頬にかけて一筋の血が伝っている。
彼は苦しい表情をしたまま刀を杖代わりに立ち上がる。
再び視界に移したメルティは腰まで銀髪を伸ばした、まだ見たことの無い年齢のメルティだった。
「二五歳。今私がなれる年齢の上限だよ。気ィ抜くと『アイツ』がまた出てくるから、本当は使いたくなかったんだけどな。カイトくんに『アイツ』の私見られるの嫌だし」
アイツ? と魁斗は首を傾げる。
彼が知らないのも無理はない。彼女の言う『アイツ』とはキルティーアとの戦いで『時の皇帝(タイムエンペラー)』の暴走により出現した、なれる年齢の上限を超えた二八歳のメルティのことだ。
彼女はあの時の、二八歳の自分の出現に恐れ、年齢を上げるのにかなり抵抗していた。だが、
(今までに無い以上に向上心を見せてる。だったら私も協力しなくちゃね! 私が気を抜かなければいいだけだもん! きっと、カイトくんなら大丈夫!)
魁斗とメルティの修行が再開した。
一方で、ゲイン達が連れてきたレナ達もエリザとザンザの容態を見るなり、ホッと一安心して帰ってしまった。
ザンザは面倒くさそうに溜息をつきながら、
「チッ。何で怪我人なのにアイツらは容赦っつーモンがねェんだ!! これじゃ回復しようにも出来ねェぞ!!」
「まーまー、大勢でお見舞いに来てくれたんだし。私はよくなる気がしてきたよ」
ザンザはもう一度舌打ちをした。
エリザは子供を見てるような親のように笑って見せた。
その様子を見ていたフォレストは壁に背を預けながら、
「とか悪態ついて、実は超嬉しかったりするんでしょ? あー、もういいです。その面倒くせぇツンデレは」
「ざっけんなッ! 何で俺がアイツらが来た程度で喜ばなきゃ―――ッ!」
叫んだザンザは傷口が開いたのか、腹を押さえながらベッドの上で悶える。
「怪我人は大人しくしててください。ちっとはエリザさんを見習えです」
エリザはきちんと布団をかぶって寝ている。怪我人というよりは病人に見えてきた。
ザンザはもう一度舌打ちをした。
「……逆に安心は出来たがな。アイツらの顔見てよ」
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板