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剣―TURUGI―

13竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/05/15(日) 15:58:35 HOST:p3141-ipbfp404osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗とレナが学校から帰り、家へ入ると不思議そうな顔をせずに一人の女性がやってきた。
肩より少し短めの黒髪の女の人だ。名前は切原魅貴(きりはら みき)。ここでは魁斗の母親代わりである。
高校生の母親としては見た目はかなり若かった。
「あら。カイちゃん、レナちゃんお帰りなさい」
魅貴はニッコリと笑って二人を出迎える。レナは行儀よく礼をした後、魁斗に続くように家の中へと入る。
魁斗はそのまま自分の部屋のある二階に上がって行ったが、レナはついていこうとはしなかった。魅貴に話があるからだ。
「ごめんなさいね。出来ればカイちゃんを交えて話したかったんだけど・・・」
「い、いえ。カイトさ・・・いや、切原君はもう知ってるので・・・」
何を話すか大体想像がついているのか、魅貴は椅子に座って、両頬に手を添え、レナを見つめる。
「カイちゃんについて何か話してくれるんでしょう?話して」
魅貴の優しい言葉に、レナは頷いた。
レナは全て話した。魁斗がこの世界の人間ではないこと。天界の王の子で、その身体にある「シャイン」というもののせいで命を狙われていること。自分が魁斗の養育係であること。
それら全てを話しても魅貴の表情は一つも崩れず、静かに聞いていた。
「・・・つまり、カイちゃんは王族で身体にある『サンシャイン』っていう太陽を悪いお人形さん達に狙われてるってことね」
「は、はあ。多少の間違いはありますが・・・噛み砕いて説明するとそういうことです」
魅貴の耳が悪いのか、それとも話が難しかったのか、魅貴なりの解釈は酷いものだった。
「そう。奇想天外ね。でも、今更驚きはしないわ」
魅貴の言葉にレナは俯きかけていた顔を上げる。
「カイちゃんを拾ったのはかなり空が淀んでてね。まだ高校一年生の私がカイちゃんを拾った瞬間、空がぱぁっと晴れたのよ」
それは魁斗の身体にある「シャイン」のせいなのか、それともただの天候なのか。理由は不明だが確かにそれは奇想天外だ。
「レナちゃんはカイちゃんの養育係・・・出来れば今までの呼び方で呼んであげて。そして、出来ればお姉さんのように接してあげて。あの子、結構子どもだから」
「・・・お母様・・・」
レナはそんな接し方を思いつきもしていなかった。自分は魁斗の養育係で、でも、確かに近しい接し方を魁斗は望んでいるのかもしれない。そう思うと、心の底から嬉しさが湧き出てきた。
「・・・ありがとうございます・・・お母様・・・」
夜8:30。
家の中には二人の声だけが響いていた。
「いーやーだ!何でこの歳で一緒に風呂に入らなきゃいけねぇんだよ!」
「背中をお流しします!っていうかやらせてください!」
どうやら魁斗と一緒に風呂に入るとレナが言い張っていた。出来れば、魁斗としては一緒に入りたくない。風呂は彼にとって一日の中で心休まる一時なのだから。
「しつこいな・・・母さんも何か言ってくれよ!」
テレビを見ながらお茶を飲んでいる母親に助けを求めると、帰って来た言葉が、
「入りなさい」
一言だった。
「か、勘弁してくれぇ〜〜!」
今日も夜は更けていくのだった。

14竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/05/15(日) 21:15:18 HOST:p3141-ipbfp404osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第三閃「敵、襲来」
土曜の朝。魁斗は窓から差す日差しで目が覚める。だが、何か妙だ。右腕に何か違和感がある。重いというか何かが纏わりついている感じだ。布団はちゃんとかかっていて、右腕だけに乗っかっているわけではない。魁斗が眠い頭を起こし、右腕にある何かを見る。そこにあったのは、
右腕にしがみついて、幸せそうな顔をしているレナだった。
「・・・お前は・・・一体何してんだよッ!!」
右腕を振り回してレナを振り落とす。
休日の朝だというのに、魁斗にとっては最悪の目覚めとなった。
「すいませんでした。寝ぼけていて・・・」
レナは申し訳なさそうに。魁斗に頭を下げたままだった。今は家に魁斗とレナ以外はいない。母親の魅貴は仕事に出かけているのだ。
「もういいって。つーか『死を司る人形(デスパペット)』の連中も来やしねぇな。何してんだ」
魁斗は溜息混じりにそう言って窓越しに外を見る。
平和だった。空は青くて、雲がういていて、小鳥が飛んでいる。こんな時にあいつらが来たらそれこそこの状態が壊れてしまう。それだけは避けたいが、自分がその事件の中心にいるのだ。何故か申し訳ない気持ちに駆られる。
「・・・・・・外出るか。今日は休みだし」
「私もついていきます」
魁斗が椅子から立ち上がりながらそう言うと、レナも椅子から立ち上がって笑顔で言う。
魁斗は僅かに考えるような仕草をしてから、レナの方を向き、
「どうせだからお前に街を紹介してやるよ。あいつらとの戦いが激化してからじゃ遅いし、すぐに行けるように街の中を把握しといた方がいいだろ?」
レナはきょとんとした顔で固まっていた。
驚いただけではない。魁斗が自分のためにそう言ってくれたのが嬉しくてたまらなかったのだ。レナは嬉しさを思い切り顔に浮かべながら元気よく頷いた。
二人は街に出た。魁斗は普通の格好で、レナは白が基調のワンピースを着ていた。道行く人々がレナを見ては足を止めて数秒見つめている。レナと一緒にいる自分はどう思われているんだろう、と魁斗は思ってしまう。一緒にいて薄れてきてるが、レナは普通に可愛い女の子なのだ。
「あ、見てくださいカイト様!あそこに大道芸をしているお方が!」
「様付けやめろ!」
レナの言葉で街の人達は勢いよくこちらを向く。少し怖くなった。自分がどう思われているのか更に気になってきた。
「・・・平和ですね」
クスッと笑うレナは小さな声でそう呟いた。その声は魁斗の耳にも届き、魁斗はレナの方へと視線を移す。
「人が皆笑顔で、こうやって何事もなく暮らしている。平和って何だろうって思うことがありますけど・・・こういう何も無い日常のことを言うのですね」
レナは空を仰いだ。
空は晴れ。雲は気ままに浮き、小鳥たちがパタパタと羽を羽ばたかせている。確かに、見ていれば心温まる光景だ。
「詩人みてーだな」
魁斗はレナの言葉に笑みを零す。だが、彼も同じことを思っているのだ。だからこそ否定などしない。
「よし、もうちょい街回るか」
「はい」
そう言って二人は再び歩き出す。高くから見下ろす、二つの視線に気付かずに。

15竜野翔太 ◆fInei8XaSs:2011/05/20(金) 14:50:55 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
帰り道で、レナはかなり嬉しそうな表情でスキップをしながら歩いていた。魁斗は数歩後ろからレナの背中を見ていた。魁斗は何がそんなに嬉しかったんだろう?と心の中で首を傾げている真っ最中だ。
「楽しかったですね、カイト様」
レナは笑顔で振り返り、魁斗にそう訊ねる。
魁斗は小さな溜息を漏らし、頭をかきながら答える。
「そうか?大したモン見てねーぞ?」
「いえいえ。私にとってはカイト様といれた時間が楽しかったですから」
レナはそう言うと再びスキップで帰り道を歩いていく。
そこで魁斗はふと疑問に思った。レナの言葉からすると、自分とレナが離れてかなりの月日が経っているように聞き取れる。自分には天界での生活の記憶はないため、物心つく前からこっちの世界に来たんだろうが、レナはそれを覚えているのだろうか。まず、彼女が何歳かも知らない。多分、同い年ではないと思う。
「カイト様!!」
そこへレナの叫び声が飛んでくる。魁斗には何のことか分からなかったが、次の瞬間、叫びの正体が現れた。
ゴォン!!という轟音と共に、魁斗のすぐ横に巨大な剣が突き刺さる。しかも、その剣にはどこか見覚えがあった。
「・・・な・・・何だ・・・。こんなモンが降ってくるなんて、何つー奇天烈な・・・」
「・・・・・・いえ」
魁斗の言葉にレナは小さくそう呟いた。
「降ってきたのではありません。意図的に・・・ここへ落としたのです」
「意図的にって・・・一体誰がこんなモノを・・・」
魁斗はすっかり忘れていた。この巨大な剣の持ち主。自分を殺すため、レナを追い詰めた男のこと。その男を倒せたことも。
「オイオイ、まさかもう忘れちゃいましたってこたァねェだろ?」
不意に飛んできた言葉に魁斗はハッとする。聞き覚えのある声だ。巨大な剣も見覚えがある。名前は知らないが、確かにこの男を覚えている。
魁斗は声のする方向へと振り返る。
そこにいたのは、茶髪で右目が前髪で隠れた目つきの鋭い男と、淡い桃色の髪をポニーテールにした彼と同い年くらいの女だ。二人とも、後ろの裾が五センチほど裂けた黒のコートを着ている。
「・・・お前らは・・・!」
魁斗は顔を顰める。男は怪しく口元を歪めた。
「思い出したかよ?天子」
「ああ・・・名前は知らないけどな」
「そォか。俺はまだ名乗ってなかったんだっけな」
まァいいや、と彼は魁斗の横に突き刺さっている剣を引き抜き、肩で担ぐ。片手で持っているあたり、彼の腕力は高いのだろうか?と魁斗は思う。
「心配すんなよ。すぐに片ァつけてやっから」
男の顔がさらに怪しさを増し、歪む。

16竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/05/20(金) 18:51:13 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「・・・・・・そのコート・・・」
レナは二人の着ている同じコートに注意がいく。見つめる、というより睨みつける、という表現が正しい目つきで。
「・・・黒の背の裾が避けているデザイン・・・小隊隊長でしたか・・・」
レナは顔を顰める。男はニヤリと口を怪しく歪める。ポニーテールの女の方はずっと緩やかな笑みを浮かべている。
「その通りだ。お前らのことはこの前の戦いで分析済みだ。つまりマグレはもうねェ」
男は巨大な剣の切っ先を魁斗へと向ける。
魁斗は数センチに迫った刀の切っ先に息を呑む。そんな魁斗の肩を掴み、レナは自分の方へと魁斗を引き寄せる。
そのちょっとした行動が魁斗の緊張をほぐした。ビビっている暇なんかない。怖じ気づいている暇なんかいない。戦うと、一緒に強くなると決めたのだから。
「マグレなんざ必要ねぇ」
魁斗は強い意志の籠った目で男を睨みつける。
「今度こそ、キッチリとした形で勝ってやるさ」
その言葉に男は苛立ちを覚えない。怒りさえもこみ上げない。腹立たしさも、憎しみも、負の感情が何一つ現れない。出る感情は一つ。
歓喜だ。
それを表すかのように男は今までに無い以上の最高の笑みを見せた。最高の怪しさと最凶の不気味さを漂わせて。
「・・・・・・面白ェ・・・。だったら、証明してみせろってんだ!!」
男はあまりの嬉しさに最高の叫びを上げていた。
「・・・言われなくても」
「そのつもりです」
魁斗とレナはそれぞれ「剣(つるぎ)」を解放する。魁斗のは以前レナが使っていた双剣。鍔が楕円形になっていて、その両先端から五センチほどの紐が出ており、その先に黄色の小さな鈴のような装飾がある。レナのは鍔がひし形になっていて、柄の先端から鎖が三センチ程度伸びている。
一方、相手は男の方は既に「剣(つるぎ)」を出していたので、女が解放する。刀身が黒く、峰から出ている突起が切っ先と同じ方向に伸びている。
「さァて、ここらで俺らの自己紹介。お前らは言わなくていいぜ」
男は両手で剣を持ち、戦う態勢を整えてから言う。
「第八部隊第一小隊隊長ザンザだ!!よろしくな、クソガキどもォ!!」
「第八部隊第二小隊隊長カテリーナ。仲良くしてくれないと殺しちゃうぞ♪」
二人の自己紹介には悪意と殺意が混じっている。
「来ますよ、カイト様」
「ああ、分かってるさ」
二人は剣を構え、二人の攻撃に備えた。

17竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/05/21(土) 14:36:18 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第四閃「VSザンザ&カテリーナ」
最初に踏み込んだのはザンザだ。
ダン!!と地面を蹴り、魁斗達の所へと突っ切っていく。だが、彼の狙いは魁斗ではなく、レナだった。
ガァン!!と刀と刀がぶつかり合う音が響く。
(・・・・・・ぐ・・・。重い・・・!)
ザンザの攻撃を受け止めているレナが顔を顰める。相手の重い攻撃力に押し返されて、バランスを崩し、よろめいてしまう。
「まずはお前からだ。養育係さんよ」
ザンザの不適な笑みがレナを睨みつける。
「じゃ、君の相手は私ね」
レナとザンザの戦いに視線が移っていた魁斗にカテリーナはそう声をかける。
カテリーナは数メートル離れたところで、黒い刀身の切っ先を魁斗に向けている。
「・・・君のそれって『祓魔の爪牙(ふつまのそうが)』?」
魁斗の双剣を見つめていたカテリーナの表情が変わる。
ナンタラのナントカと言われても魁斗にはさっぱりだった。聞き覚えの全くない言葉なので天界のことなのか、と魁斗が首を傾げていると、
「それよ、それ。君の持ってるそれ!」
カテリーナは相手の心中を察したのか、魁斗の持っている刀を指差す。
「・・・これか?」
「そう。まさか名前知らない、なんてことは・・・さっきの様子じゃありそうね」
カテリーナは溜息混じりにそう呟く。
「いい?『剣(つるぎ)』にはそれぞれ名前があるのよ。種類や能力も様々でね。能力無い『剣(つるぎ)』なんてものはレベルが低すぎて、うちの部隊の超下っ端しか使わないわよ」
「剣(つるぎ)」にはそれぞれ名前がある。
ザンザの「大宝の御剣(だいほうのみつるぎ)」や魁斗の「祓魔の爪牙(ふつまのそうが)」のように、人と同じように一個一個名前がある。能力がない、ただの刀は「釘打ち(くぎうち)」という名前があるが。
その中でも能力が高く、貴重な物が存在するのだ。
「君の持ってるソレはかなりレアよ。一体何処で拾ったのよ」
魁斗はこの刀を手にした経緯を思い出す。
確か、最初はレナが持っていた。ザンザと対峙した時、弾き飛ばされた。その後自分で拾ってそのままレナから貰った。つまり。
「レナから貰った」
「・・・レナってのはあそこの女の子ね」
そう言いながらカテリーナが視線を移したのはザンザと戦っている銀髪の少女だ。
「ねぇ、その『剣(つるぎ)』・・・私にくれない?」
「はぁ!?」
いきなりの要求に魁斗は面食らう。人の持ってるものをこうも堂々と「くれない」と言う人は初めてだ。
「勿論、無条件じゃないわ」
カテリーナは刀の柄を手の中でくるくると回しながら、
「私が君に勝ったらそれをいただく。ザンザがあの子に勝ったらあの子のもね。それでいいでしょ?」
魁斗は深呼吸して、真っ直ぐカテリーナを見つめる。
それから刀を構えて、
「ああ、いいぜ。要は勝てばいいんだろ」
「・・・決定ね♪」
カテリーナが不適な笑みを見せる。

18竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/05/21(土) 17:44:14 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「・・・まあ勝てばいいってのは否定しないけどさぁ・・・」
カテリーナは自身の持っている黒い刀身で峰から出ている突起が切っ先と同じ方向の伸びている刀を空へと向ける。
すると、空は澄み切った青で、雲は数える程度しかないのに、空から雷が落ち、カテリーナの刀へと帯電する。
「・・・それは、『帯雷剣(たいらいけん)』!」
「あら、さすが養育係さん。ご存知?」
カテリーナは不敵な笑みを口の端に浮かべ視線をレナへと向ける。
「この『剣(つるぎ)』も結構レアなのよ。峰から伸びる突起が避雷針の役目を果たし、耐電性の強い刀身に帯電させる・・・。たとえ、空が晴天であろうが、ね」
カテリーナは空を指差して言う。
彼女の趣味は剣集めだ。彼女の所属する第八部隊の隊員の三分の二は彼女の集めた「剣(つるぎ)」を所持している。ザンザのもそして、第八部隊の隊長のも例外ではないのだ。
彼女が魁斗の「剣(つるぎ)」に執着する理由はそこにあるのだ。
「さぁて、と・・・」
彼女がニヤリと笑みを浮かべ、刀を振るう。彼女の刀から電撃が魁斗の横を通り抜ける。地面には綺麗に亀裂が走っていた。ただ、切っただけでなく、焼き切ったのだと魁斗にはすぐ分かった。
「次は君の番よ」
「ぐっ・・・・・・」
魁斗は身構える。ここにきて、小隊隊長の恐ろしさが分かったような気がする。
「・・・あっちは時間の問題だな。んじゃ、こっちもとっとと決めちまうか」
ザンザが見つめる先に居るのは銀髪の少女。
前に倒したはずだが、素人の横槍でトドメはさせなかった。彼が警戒してるのは彼女の実力でも素人の横槍でもない。前回とは違う彼女の刀だ。
(・・・かなりシンプルだな。あんなモン初めて見たぞ。カテリーナがなんの反応も示さなかったってこたァ・・・そんな珍しいモンでもねェのか)
ザンザはそう適当に予測する。
カテリーナが珍しい「剣(つるぎ)」を見て平静でいれるわけはないと知っているからだ。
(・・・珍しくねェなら壊していっか・・・)
ザンザはそう考えて、飛んでくる球をバットで打つような格好で刀を構える。
「気ィつけろよ。『大宝の御剣(だいほうのみつるぎ)』はこういう使い方もあんだよ!」
刀に光が纏う。ザンザが刀を振るうと同時、纏っていた光が斬撃と化し、レナに向かい一直線に飛んでいく。スピードはそれほどでもない。故にレナはかわせた。
だが、威力は桁違いだった。
レナがいたところが大きくえぐれる。アスファルトの地面が豆腐のように思えた。
しかし、レナは驚きはしたが、焦りは全くない。
「どォだ?次はお前がこれで消し飛ばされる・・・」
「なるほど」
レナは嫌味のようにザンザの言葉を遮る。
レナは小さく刀を揺らしながら笑みを浮かべる。
「この程度ですか。なら、容易いものです」
「あァ!?」
ザンザの顔が不愉快という三文字に染まる。
レナはそんな相手の表情を全く気にも留めず、
「もう一度撃ってみてください」
ただ告げる。
「先ほどの攻撃を。言葉の意味を・・・理解させて差し上げます」
自分の自信とともに。

19竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/05/22(日) 11:12:30 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第五閃「神浄昇華」
「・・・デケェ口・・・叩いてんじゃねェぞ、小娘がァ!!」
ザンザは叫ぶ。
怒りに満ちた声とともに、先ほど放った光の斬撃をレナに向けて放つ。しかし、さっきのものとは違い、スピードが速かった。それに咄嗟に気付いたレナは上へ跳んでかわす。
「どォした!尻尾巻いて逃げやがって!さっきの言葉はハッタリかよ!?」
宙を舞うレナにザンザはそう叫ぶ。
レナはトッと地面に着地すると、
「スピードを・・・上げましたね。ですが、かわせないものではない。今のが最速ですか?」
ギリッと、ザンザは奥歯を噛み締める。
あるのは苛立ちと不快感と怒りの三つ。ザンザは一層強く刀を握り締める。
それからレナを睨みつけて、
「調子に乗ってんじゃねェぞ!!」
先ほどとは明らかに大きい光の斬撃が相手の大剣に纏う。
威力も恐らく最初の比ではなく、スピードも最速の攻撃だろう。
レナの表情は涼しいまま、相手の攻撃の瞬間を見つめていた。
「これで・・・消し飛びやがれ!!」
ザンザは光の斬撃を放つ。
巨大な光の刃がレナを襲う。レナは全く動かない。光の刃がレナの身体を、
貫かなかった。
レナは刀の切っ先を前に突き出し、光の刃と激突する。しかし、レナの刀は折れることは無い。刀を持っている右腕を左腕で押さえる。すると、ギュアッ!!と不自然な音が響き、光の刃がレナの刀の切っ先から吸収される。
「なッ・・・・・・!?」
ザンザは唖然とする。目の前の現象にまったくついていけていなかった。
レナは刀の切っ先を前に突き出したまま言う。
「私の『剣(つるぎ)』の名は『神浄昇華(かみじょうしょうか)』。簡単に言うと相手の攻撃を吸収する技ですが・・・貴方が刀の打撃だけに頼る戦いをしなくて良かったです。刀による直接攻撃は吸収できませんから」
クソが、とザンザは呟いて、怒りの感情をより一層濃くしていく。
だったら、話は簡単だ。刀での直接攻撃を行えばいいだけのことなのだから。
「光の刃が通じなくとも、こっちは上手くいけば刀へし折れるだろォ!?死ね、小娘がァ!!」
ザンザが右から左へ刀を横薙ぎに払うが、レナは上半身をかがめて回避する。それから刀を逆手に持ち直し、ザンザの顔を見上げる。
レナの刀に真っ赤な炎が纏う。
「申し訳ありませんが・・・・・・カイト様をお守りするため、私は死にたくても死ねないのですよ」
ザン!!とレナがザンザを切り裂く。ザンザはそのまま仰向けに地面に倒れる。
「ですが、死にたい、なんて・・・思うわけがありませんけど」
刀を右手の中指にはめている指輪に変え、レナはそう告げる。

20竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/05/22(日) 14:02:00 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第六閃「祓魔の爪牙」
カテリーナはザンザの方へと視線を転じる。
呼吸が僅かに止まる。言葉が出ない。彼女にとって、ザンザが負けることは信じられないようだ。それも、前回のように天子という特別な存在の者にではなく、ごく普通の天界の住人に負けたということが信じられなかった。
「・・・・・・ザンザ・・・」
カテリーナの声は消えてしまいそうなほどに小さかった。
あと少し喋れば泣き出してしまいそうな声。その声と言葉を聞いて、魁斗は少し戦うのを躊躇う。自分の戦っている相手は仲間の敗北に悲しみの感情を出せるほど人間味溢れた相手だからだ。
カテリーナはぎゅっと刀を握り締め、魁斗を睨みつける。
「・・・ザンザの仇とりたいから、さっさと済ますわよ。天子」
最早言葉に感情が込められていなかった。
他の無用な雑念を捨て、彼女の心は虚無しか映っていなかったのだ。それでも、倒れた仲間のために勝つという決意は感じ取れた。
「とっとと焼けて、灰になれ!」
カテリーナは刀から電撃を飛ばす。
魁斗は避けない。その電撃を二つの刀をクロスさせ防ぐ。
「ぐ・・・」
しかし、とても防ぎきるのは難しい。
電撃の攻撃力に圧され、踏ん張っている足が後ろへと徐々に徐々に下がっていく。歯を食いしばっても、力を込めるのはこれが限界だ。だが、魁斗はこんなとこで負けるわけにはいかない。
「・・・お前に負けてちゃ・・・こっから先、誰にも勝てねぇんだよッ!!」
バァン!!と魁斗が刀を思い切り振るう。刀は眩いほどの光を帯び、電撃をかき消す。魁斗はそのまま相手の懐へと突っ込んでいく。
カテリーナはすぐに迎撃に移る。刀を横へ薙ぐが魁斗の刀の一振りによって、カテリーナの刀の刀身が折れる。
「・・・・・・・・・ッ!!」
カテリーナの動作と思考が一気に停止する。彼女の心と脳に咄嗟に浮かんだ言葉が「敗北」の二文字だった。
「・・・・・・悪いな」
魁斗がポツリと呟き、刀の峰をカテリーナの腹へと叩き込む。素人の一撃だが、峰の攻撃はモロに入り、カテリーナはそのまま倒れる。
沈黙が数秒続いた後、魁斗はレナへと視線を移す。
「・・・・・・やったな」
「・・・ですね」
二人の表情から笑みが零れる。そこへ、ふと男の声が飛んでくる。
「・・・・・・クソガキどもォ!!」
声を発したのはザンザだ。ザンザは刀を地面に突き刺し、荒い息切れを起こしながらも立っている。
「・・・テメェらにこんなこと頼むのは癪だが・・・頼みがある・・・!」
二人は黙り込む。
この男からの頼みなど想像できないからだ。
「・・・俺はいい・・・。せめて、カテリーナだけでも見逃してやってくれ・・・!」
二人は面食らう。この男からそんな頼みを受けるなどと想像すら出来なかった。ザンザは顔を顰めたまま、
「・・・そいつは俺について来て入っただけだ・・・そいつはこの世界とはなんの関係もねェ・・・!俺のことは命でも『剣(つるぎ)』でも奪えばいい・・・!でも、そいつだけは・・・」
「何言ってんだよ」
魁斗はザンザの言葉を遮る。ザンザはやっぱりダメか、といった顔で俯き、
「んなもんお前ら二人とも見逃すに決まってんだろ。俺らは命も武器もいらねーし」
ザンザは目を見開く。甘い。甘すぎる。こんな奴が足元をすくわれるんだ。だが、彼の目は信じれる。ザンザは眼を閉じ、振り絞るような声で、
「・・・すまねェ・・・」
ただ、そう告げる。
その様子を一人の人物が見つめる。
黒い髪をなびかせた一人の人物が。

21竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/05/27(金) 21:12:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第七閃「ハクア参戦」
「祓魔の爪牙(ふつまのそうが)の能力?」
魁斗とレナは学校からの帰宅中、魁斗の所持する「剣(つるぎ)」について話していた。そんな中、この前の戦いで能力に気付いたらしく、レナがそんな議題を持ち出したのだ。
「はい。私の推測に過ぎませんが、恐らく纏わせた光や炎の能力を最大限に引き出す、かと・・・」
つまり、魁斗は二度の戦いで刀身に光を纏わせている。その光の能力が最大限に引き出され、常に高威力の状態で刀を振るえるということだ。しかし、そんなことを言われても魁斗にはどうしようもない。何故なら、自分の意志で光を出せたことがないからだ。
「最大限といっても、今のカイト様の魔力量の最大限です。カイト様の魔力量は決して高くはないので、魔力を増やせば、きっともっと大きな力が出せますよ」
「魔力?」
魁斗は疑問の声を漏らした。
レナが言うには、魔力というものは「剣(つるぎ)」を出すために不可欠なもので、それを使い光や炎を刀身に纏わせているのだという。今まで戦いと無縁だった魁斗には魔力がほとんどない。戦えば魔力量は増えるらしいから、今でもかなり大きな光を出せてるのに、さらに上げてどうするんだ、と魁斗は思う。
今まで自力で出せなかったのは魔力が少なかったからか、と魁斗は心で納得する。無意識に光を出せてたのは自分が天子と関係しているからかな、と推測した。
「どちらにせよ、強くなるためには戦わねばなりません。前も申しましたが、一緒に強くなりましょう」
ニコッと微笑みながらレナは魁斗に言う。
魁斗は当然のように笑みを浮かべながら、
「当然だ。その代わり、お前も力を貸してくれよ?」
「勿論です」
レナは当然のように返す。
「おっやー?なーんか見知った顔だと思ったら・・・アンタか」
ハァー、と溜息混じりにふと女性の声が聞こえてきた。
二人の前にいたのは太股よりも長めの黒髪をなびかせた女子だ。服装は白のTシャツに黒のジャケット、そして灰色のスカート。可愛いより、美人といわれる女子だ。年齢はレナと同じくらいに見える。知り合い、は魁斗ではなくレナだろう。魁斗にこんな美人の知り合いはいない。
レナはしばらくきょとんとした顔でその女子を見ていた。
「・・・なぁーにキョトンとしてんのよ。折角お友達が来てあげたってのに〜」
再び溜息をついて前髪をくしゃくしゃと掻く。心底呆れたような反応だった。
「・・・・・・ハクア・・・・・ですよね?」
「・・・意外に誰がいるのよ。アンタの友達で」
レナは相手が誰か分かるとぱぁっと笑みを浮かべて、彼女に駆け寄る。数年ぶりに再開したような反応だった。
あまりのくいつきに、とうの本人のハクアも少々動揺している。
「・・・レナ、その人・・・知り合いか?」
レナはくるっと振り向き、ハクアの隣に立つ。
「はい、紹介しますね。彼女はハクア。私の天界での大親友です」
ハクアは長い黒髪を手でなびかせ、
「よろしく」
と一言告げた。

22竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/05/28(土) 10:21:57 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「・・・と・・・友達・・・?」
魁斗はきょとんとした顔でレナに問いかける。レナは笑みを浮かべたまま首を縦に振る。ハクアはレナと対照的で、髪の色がレナは白だが、ハクアは黒で。冷静なレナと対照的にハクアは快活な気がする。喋り方でそういうのは大体分かった。
「君ね?レナが言ってた天子は」
ハクアは魁斗に近づいて行く。顎に手を添え数秒見つめ、
「ふーん・・・変わった点は見られないわね。ホントに天子?」
首を傾げハクアは問いかける。そんなこと聞かれても自分には天界での記憶がないため、答えられない。
「まあ君の中に何か感じるから・・・信じるわ。よろしくね」
結論を出したようで、腕を組み、ハクアはそう言う。
「あの・・・ハクア、さん?」
初対面にいきなり呼び捨てはやめといた方がいいと思うので(レナ除く)、とりあえず魁斗はさん付けでハクアを呼ぶが、
「さん付けじゃなくていいわよ」
ハクアは気にした様子もなくそう答える。
「どーせレナにもタメなんでしょ?」
魁斗はへ?という反応を返す。
「ちょ、ちょっと。二人は同い年だよな?一体何歳なんだよ、前から気になってたけど・・・」
その言葉にハクアはレナへ視線を向け、年齢くらい教えてあげなさいよ、だって言うタイミングがなく、という会話を始める。
やがて、ハクアは溜息をつき、額に手を当てる。
「・・・今年で20よ。君より三つ上」
魁斗はぽかーんという効果音がつきそうな表情で固まる。年上だと思っていたがそこまでか。というか、
「何でレナは学校に来てんだよ!無理だろ、年齢的に!」
「し、仕方ないじゃないですか!カイト様をお守りするために、ついて来てるんです!べ、別に私は学校に行きたかったわけじゃないですよ?が、学食のメニュー全制覇とか考えてないですよ?」
そんなことを言いながらレナは妙にソワソワしていた。嘘をつくのが下手だな、と魁斗とハクアは思った。
レナは話題を変えるべくハクアの方を向き、
「ところで、ハクア。一体何をしに?」
「何よその訊き方。傷つくぞ?アンタらもうドンパチやってるみたいじゃない」
そう言えばここ数日で二回も戦っている。いずれも勝利を収めているので問題は無いが、このまま数で押されれば確実にやられる。
ハクアはニッと笑みを浮かべ、
「協力しにきたわよ。感謝なさい!」
魁斗とレナにとって、心強い援軍だった。

23竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/05/28(土) 20:37:15 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
「・・・、きょ、協力してくれるのですか?」
ハクアの言葉を確認しようとレナは相手に訊き返す。
ハクアは少々難しい表情を浮かべ、前髪をくしゃくしゃと掻き、溜息をつく。
「そんなつまんない確認取るんじゃないわよ。友達が困ってる、それで理由にはなるでしょうが」
ビシッとレナを指差してハクアはそう宣言した。レナは嬉しさに表情が綻ぶ。もっとも、彼女の助けが嬉しかった、ではなく友達と一緒ということが嬉しかったのかもしれない。
「とゆーワケでよろしくねー、天子君」
ハクアは魁斗の方へ視線を転じ、そう言う。
魁斗は鼻で溜息をつき、ハクアに握手を求めるように手をスッと差し出す。
「天子でも『シャイン』のガキでもない。俺は切原魁斗だ」
「それは失礼」
クスッと笑みを浮かべハクアは魁斗の手を握る。
「さて、と・・・まずはアンタ達の状況を教えてくれる?どんだけ倒したの?」
ハクアの質問に魁斗は少し考え込む。敵の名前ははっきり覚えているのだが名前で言っては相手には伝わらないかも知れない。それも強さも分かりにくい。この場合は肩書きを言っておくべきだが。
「・・・・・・うーん、何て言ってたっけな、アイツら」
肩書きを覚えていなかったのだ。ナントカ部隊ナントカ隊ナントカとか言っていたが、はっきりとは覚えていない。
あれこれ頭を悩ます魁斗を見兼ねたのか、レナは口を開く。
「第八部隊第一小隊隊長のザンザと同部隊第二小隊隊長のカテリーナです」
レナはすらすらと出てきた。魁斗はそれだ、という様子で手をポンと叩く。
「なるほど、小隊隊長は倒せたのね。でも、それじゃ足りないわ。部隊隊長なんて化け物揃いだもの」
魁斗とレナは息を呑む。いよいよ、緊張感が湧いてきた。
そこでハクアはレナへと視線を転じ、
「アンタは一番分かってるはずよ。長年、カイト君を想ってきているのだから」
「・・・・・・ええ」
そこで、魁斗は口を開く。
「な、なあ。俺には天界での記憶が無いんだけど・・・俺って一体何歳からここに?」
レナは少し言い淀み、躊躇った状態で口を開き、言葉を紡ぎだす。
「・・・そ、それは・・・・・・」
その時、バッと、三人の周りを黒い影が囲む。一つではない十数もの黒い人影が現れた。
魁斗達を囲んだのは黒の装束に身を包み、顔もほとんどが黒の装束で見えていない状態の男達だった。
「・・・こ、こいつらまさか・・・!」
「死を司る人形(デスパペット)」。
すぐに結論に至った。魁斗の中の「シャイン」を狙う敵だ。ハクアは不適な笑みを浮かべ周りを見る。
彼女の口から放たれた言葉は、
「お出ましってワケね」
妙に。
彼女の言葉から歓喜が浮き出ていた。

24竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/05/29(日) 11:11:08 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第八閃「帝」
自分達を囲んでいる黒ずくめの男達をハクアは目だけを動かして見ていた。数はざっと十五人程度。これなら、と思いフッと笑みを零す。
「アンタ達は手出さなくていいわ。この数なら、私の方が上手く立ちまわれる」
なっ、と魁斗は僅かに声を漏らす。
数は十以上もいるのに、流石に一人では無理だ。ハクアの実力はよく分からないからこそ、安心はできない。
「ちょ、ちょっと待てよ!数は十以上いるんだぞ?ここは俺ら三人で・・・」
その言葉は肩に置かれた手によって遮られる。
手を置いたのはレナだった。レナは邪魔してはいけない、という目で魁斗を見ている。
「・・・大丈夫ですよ、カイト様。ハクアがああ言う時は、必ず勝つ自信がある時です」
「そ、それでも・・・」
「実際。私はハクアがああ言った時に、負けてる姿を見たことがありません」
「・・・・・・」
レナの言葉に魁斗は黙り込み、俯いてしまう。
「納得してくれた感じ?」
「・・・信じていいんだな?」
「勿論さ!」
魁斗は俯いていた顔を上げ、ハクアへと視線を向ける。
「じゃあ、頼んだ」
「オッケー!」
そう言った瞬間、ハクアの左耳につけているピアスが光る。デザインは三つの短いチェーンから逆三角形のようなものが一つずつついている。そのピアスが光り、彼女の手に普通の刀が現れる。
「・・・、あれがハクアさんの『剣(つるぎ)』?」
「ええ、そうです」
魁斗が確認を取ったのは、とても特別な能力を持っている物に見えなかったからだ。自分やレナのもザンザやカテリーナに比べると特別な形状はしていない。だが、見たときに特別な能力がある雰囲気はかもし出していた。だが、ハクアのは違う。能力が宿っている気がしないのだ。
「・・・・・・」
横からの斬撃をハクアは刀で防ぎ、相手を押し返す。立て続けに繰り出される攻撃に防ぎ、かわし、をハクアは繰り返す。ハクアの口から僅かな息切れが起こる。
「お、おい!やっぱ助けた方が・・・」
「いえ、必要ありません。ハクアが最も得意とするのは多対一。ここからですよ、彼女の本気は」
言い終わると同時、ハクアの口が怪しく笑みを生み出す。ハクアは刀の刀身を人差し指と中指でゆっくりとなぞる。
「・・・・・・いくわよ」
ハクアが刀をくるくると回しだす。回して回して。刀の切っ先が空を切り、切っ先になぞられた場所に光の縁が描かれる。
「・・・・・・我が元に光よ集え。刀に纏い、姿を見せよ!!」
ハクアが何かを唱えると同時、光の縁が刀身に宿り、ハクアが光りに包まれる。
光がはれれると、ハクアの手には普通の刀ではなく別の刀が握られていた。薙刀のような形の武器だ。
「・・・これが私の『剣(つるぎ)』・・・名を『帝(みかど)』」
ハクアは薙刀の武器、「帝(みかど)」を構える。

25竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/05/29(日) 21:27:12 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ハクアは自分の薙刀の「剣(つるぎ)」をくるくると回す。回すたびにヒュンヒュンと風を裂く音が僅かに響く。
「どうなってんだ?いきなり薙刀に・・・」
「ハクアの『帝(みかど)』は真の力を解放することによって刀の状態から薙刀へと変化するんです。『剣(つるぎ)』を解放したハクアは強いですよ」
ハクアは両手で薙刀を持ち、周りの相手を見回す。やはり相手も迂闊に攻撃はしてこない。
ふぅ、と軽く溜息をついて、
「メンドーね。さっさと来なさいよ。十人もいて、一人の女に手を出せないってワケじゃあないわよね?」
ハクアの安い挑発に乗るように一人の男が背後から攻撃を仕掛ける。ハクアは後ろを振り返らず、薙刀を振るい相手の腹へと攻撃を叩き込む。その攻撃で動揺が広まり、一人の刀を上へと弾き飛ばし、その男の顎へ蹴りを食らわす。そこで更に敵の陣形が乱れ、明らかにイレギュラーな事態で慌てている三人を回し蹴りで撃退する。
「す・・・すげぇ。ハクアさんメチャクチャ強ぇ!」
魁斗は僅かに光らせた目でそう言う。
レナはこんな状況見慣れているのか興奮も慌てもしない。ただ、ハクアの戦う姿を見ながら、
「私でもあんな戦い方できませんよ。あんな縦横無尽に敵をなぎ倒す戦いをするのは私が知るうちではたった二人ですから・・・」
「・・・二人?」
レナの言葉に魁斗は首を傾げる。しかしそんな疑問はすぐにかき消される。
「だぁー、多すぎ!一気にカタァ・・・つけるわよ!!」
ハクアが薙刀をぐるぐると回す。すると、薙刀の刃から竜巻が巻き起こる。薙刀を振るい、竜巻を操作し、敵を吹き飛ばしていく。敵以外を巻き込んでいないところを見れば、それなりの手加減はしているのだろうか。敵を吹き飛ばした後、服の埃をぽんぽんと軽くはたき、魁斗達の方向へ向く。
「ま、こんなとこかしらね♪」
表情には全く疲労の色が見られない。あれでも準備運動程度だったとすると、
(・・・強い・・・。この人と一緒なら、隊長ってのも倒せるんじゃ・・・!)
魁斗はハクアの強さにそう確信を抱いていた。隊長は魁斗の想像よりも凶悪なものであるとも知らずに。

天界。
巨大な城の部屋の一部。かなり広いところに三人の人影が見える。一人は椅子に座っており、もう二人はその人物の前で跪いている。
「よーっく平然と帰って来れたもんだよ。お子様二人に負けてさぁ」
「・・・も、申し訳ありません・・・エリザ様・・・」
謝ったのは薄い桃色の髪をポニーテールにしているカテリーナという女だ。隣にいるのは茶髪で、前髪で右目を隠している男、ザンザだ。
「まー、いいや。君らにチャンスをあげよう。今度こそ確実に殺しなよ。負けて帰る場所はない!」
椅子に座っている人物が立ち上がる。背丈からしてかなり小柄だ。その人物は、二人の前で腰を下ろして、
「第八部隊の逆さ十字の紋章の意味は?」
「・・・・・・神に抗い、墓場に十字を突き立てる・・・」
「それに恥じないように・・・精々頑張りなさい」
その人物は少女だった。金髪の髪をツインテールのように分けていて、顔だけは純粋な少女だった。彼女の名は。
第八部隊隊長、エリザ。

26竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/06/05(日) 14:18:36 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第九閃「強襲」
平日の朝は一気にやる気を落とさせる。
そう思いながら魁斗はベッドからのそのそと起き上がり、朝食を食べ、制服に着替え、ブレスレットになっている「剣(つるぎ)」を手首につけ、学生鞄に授業に必要な物を詰め、学校へと出かけるのであった。
空は雲ひとつ無い晴天といえる状態で、魁斗にとっては萎えさせるほど晴れ渡っていた。
そんなすがすがしい朝の光景に水を差すように、
「・・・あー・・・だりー・・・」
魁斗はそう言葉を発した。
隣で歩いていたレナが崩れ落ちそうになるのを魁斗は視界の端っこで捉える。見ればレナの顔は突然のやる気の無い言葉に苦笑いさえ浮かべていた。
「や、やめましょうよカイト様・・・。折角一日の始まりなのですから。朝から気を落としていては身体がもちませんよ?」
レナはフォローをつもりでそう言うが魁斗は猫背になってしまっていて明らかに元気を出そうとしていない。そんな魁斗を眺めながら僅かに頭を悩めてしまうレナだったが、とりあえず時間が経てば元気になるだろうと思い、そのまま彼と一緒に学校へ向かうことにした。
一時間目、二時間目を何とか乗り切った魁斗は朝に比べ僅かに元気が出ていた。それでも猫背でうんうん唸っている。
「カイト君、次の理科は移動ですよ。急ぎましょう」
教科書とノートと筆箱を抱えた沢木がぐったりしている魁斗にそう促す。魁斗はゆっくりと椅子から立ち上がり、理科の授業の用意をして、沢木とレナとともに理科の実験室へと歩いていく。
そこへ、携帯電話の着信音が鳴る。
魁斗の携帯だった。
普通は昼休み意外電源を切っているのだが、今回はそれをしなかったために音が鳴ってしまったのだ。魁斗は携帯を開くと「ハクア」と表示されている。この前連絡先を好感していたのだ。
魁斗は元気のなさを悟られないように元気を装い、
「もしもし?」
と電話に出る。
『もしもし、あ、カイト君?ねえ¥ぇ、気付いている?』
ハクアの言葉は魁斗に理解できなかった。
いきなりの質問に眉をひそめる魁斗は沢木に気付かれないようにレナを呼び、二人で電話の内容を耳に入れている。
「悪い、ハクアさん。気付くって一体何にだよ」
『えぇ?こんだけ異変が起こってるってのに・・・ッ!ああもうっ!じゃあ手短に説明するわ!』
電話の向こうからなにやら立て込んでいるような感じが受け取れた。何かしながら電話をしているのだろうか、と魁斗は思い、ハクアの言葉に耳を傾ける。
『今この街に大量の魔物が現れてるのよ。原因は一つ、「死を司る人形(デスパペット)」なんだけど・・・・・・その中の誰がこんなことをしてるかわからなくて・・・』
そんな中、魁斗とレナは二人の人物を思い浮かべる。
これが魁斗の「シャイン」を狙っているのなら。個人的に自分達を狙っているなら。想像するのはものすごく簡単なことだった。
「・・・ザンザとカテリーナか・・・!」
魁斗はポツリとそう呟く。
『はァ!?それって・・・ッ、第八部隊の第一第二小隊の隊長の?だったら・・・君らを狙うのに正当な理由はあるわね!』
ハクアは電話するのも辛そうな声だった。
その状態でハクアはさらに言葉を続ける。
『とりあえず、街にいる魔物を駆除は私に任せなさい!君はレナと一緒にザンザとカテリーナを倒して。二人は今学校へ向かってるはず。頼んだわよ!』
一方的に指令されて電話を切られた。
だが、彼女の言うことに反対はしない。ここは学校だ。先生やクラスメートや何も知らない生徒達を守れるのは自分達しかいない。魁斗は携帯をしまうと、心配そうな顔でこちらを眺めている沢木を見つめ、
「悪い、サワ!先生には早退って伝えてくれ!」
それだけ言って魁斗はレナと一緒に飛び出していく。
「あ・・・カイト君!神宮さん!」
沢木の制止も虚しく、二人は足を止めようとはしなかった。
沢木は薄々感づいていた。
神宮玲那という転入生が来てから切原魁斗が変わり始めていること。二人は共有している秘密があること。そしてそれを自分に隠していること。蚊帳の外みたいな状態になっているのが沢木の心に隙間を生む。
沢木は僅かに思い悩み、それから意を決し、気付かれないように二人の後を追いかける。

27竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/06/05(日) 19:32:17 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗とレナは授業へ向かう途中に持っていた筆記用具などを教室に置いている鞄の中へ仕舞い、外へと飛び出した。昼前の空には少し雲が出てきており、朝の眩しい日差しもやや弱くなり、心地よいくらいだった。
校舎から出て、少し走ったところで、魁斗は足を止める。
「・・・?どうしたのですか、カイト様?」
魁斗が止まるとは思わず、レナは僅かに魁斗を追い抜かしたところで足を止め振り返る。
「ザンザとカテリーナがこっちに向かってるんだろ?でもどっから来るんだ?正門から来るって決まったわけじゃねぇだろ」
そこでレナははっとしたように思い悩む。
顎に手を添え、レナは考え出す。
「なら、少々時間をください。私が彼らの進行方向を特定します」
そう言うとレナは「剣(つるぎ)」を発動して地面に突き刺し、目を閉じる。
レナの身体が青白い光りに包まれる。
「・・・・・・」
魁斗は何が起こっているのか分からず、レナを見たまま固まってしまう。
「・・・・・・彼らは正門へ向けて歩いています。つまり、このまま真っ直ぐ進めば彼らとぶつかります」
レナは「剣(つるぎ)」を指輪の形状へと戻し、目を開いてそう言う。
「・・・今のは・・・?」
「相手の魔力の探知です。魔力が強ければ強いほど探知出来やすくなるんです。もっともかなりの実力者であれば、作業をしながらでも出来るんですけどね」
レナは皮肉気に乾いた笑みを浮かべると、こっちです、と言って魁斗を先導し走る。
魁斗はレナと肩を並べ、走りながら、
「その探知って俺にも出来るのか?」
「出来ると思います。が、簡単には不可能でしょう。恐らくハクアが敵の強襲に気付いたのも探知をしていたからかもしれません」
走る二人の前に二つの影が立ちふさがる。
二人の前に現れた影は巨大な剣を持った男とポニーテールの女のシルエットを映し出している。
「・・・・・・よォ。また会ったな。『シャイン』のガキ」
男は悪意に満ちた笑みを見せる。
ザンザだ。
巨大な剣を持ち、ブオンと刃の先を地面に向けザンザは魁斗を睨みつける。
「・・・お前が会いに来たんだろうが・・・!」
魁斗もブレスレットから双剣を発動させる。
「悪いけど、今回は殺意むき出しでいくからね。手加減はしないし出来ない。覚悟はいい?」
そう訊ねたのはポニーテールの女、カテリーナだ。
彼女が持っているのは刀身が鎌のようになっている刀だ。
レナも再び「剣(つるぎ)」を出し、戦いに備える。
「今回ばかりは負けられねぇ。負けたら俺らに生きる道はねぇ!今回は是が非でも勝たせてもらうぜ!」
「上等だ。だったら腕尽くで勝ちにきやがれ!」
魁斗は刀を構え、ザンザと戦いを始める。

28竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/06/10(金) 23:18:30 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第十閃「リベンジ」
沢木叶絵は魁斗とレナの後を追って走っていた。
しってはいけないことだと分かっている。魁斗とレナの関係をどうしても知りたい沢木は二人に気付かれないように距離を取って追いかけていた。相手が気付かないのも、誰かを探している様子だったからかもしれない。
魁斗とレナが止まったので、近くにあった曲がり角を盾に覗き込むように沢木は魁斗達を見ていた。
そこには彼女の知る由も無い世界が広がっていた。
(・・・何で・・・。何でカイト君と神宮さん・・・・・・刀なんて持ってるの・・・?相手の二人も持ってる・・・!)
沢木は怯えながら二人の様子を見ていた。
(ですぱぺっとって・・・?一体、カイト君は何者なの・・・?)
そんな沢木のことにも気付かずに魁斗はただただザンザとカテリーナの方向を見据える。
「・・・腕尽くで、ねェ。言う相手間違ってんぞ、ガキが」
ザンザは苛立った表情で魁斗を睨みつける。
そのまま背中に携えた刀の柄へと手を伸ばし、
「即刻退場だ。テメェはスグにぶっ殺してやるよ」
ザンザが刀を引き抜き魁斗へと斬りかかる。
その光景をレナは視界の端っこで捉えつつ、目の前に悠々と立っているカテリーナを見つめている。
カテリーナもカテリーナで伸びをしたり、空に浮かんでいる雲を眺めたりと、かなり余裕のある行動が目立つ。
持っていた刀は腰に巻きつけているベルトに挟んでいる。いつまで経っても抜く気配は無い。
肩の力を抜き、今まで力んでいた自分が馬鹿らしくなったのか溜息をついたレナは、
「あのぅ・・・戦う気がないなら帰ってもらえますか?戦わないならこっちとしても好都合ですし・・・」
そう言うとあら、という表情でカテリーナがレナへと視線を向ける。
「いたの?ゴッメーン!魔力量が低すぎて気付かなかったわ〜」
顔の前で両手を合わし挑発のように謝るが、レナは大して気にもかけていない。自分が弱いことは分かっているつもりだからだ。
「要は戦えばいーのね、ならたっぷりと相手してあげる。骨の髄まで満足するように・・・さ♪」
そう言うとベルトに挟んでいた刀をスッと抜き、前に突き出す形で構える。
「・・・この「剣(つるぎ)」。名前と能力ご存知?」
鎌のように刀身が曲がっている刀。他に特に変わったところは見当たらない。
レナは「剣(つるぎ)」の知識はそんなに高くなく、見たことも無い形状の刀に首を傾げつつ、
「・・・いえ、知りません」
「ふふ、だよね。これは私も知らなかったのよ。じゃあ教えてあげるね!」
カテリーナが強く地面を蹴り、レナへと突き進む。速さにレナの反応が遅れ、彼女の肩が浅く斬りつけられる。こんなものはかすり傷だと言わんばかりにすぐさまカテリーナへと方向を変える。
「・・・・・・感じた?」
カテリーナは不適な笑みとともに怪しげな瞳でレナを見る。
何を、と言う前にレナの身体に異変が起きる。
ぐらっと。一瞬視界が揺らぐ。気がつけば倒れないために足で踏みとどまっていた。
(・・・・・・今のは・・・?)
「ふふ、これからたっぷりと味合わせてあげるわよ。焦らない焦らない♪」
カテリーナの瞳はうろたえるレナをきっちりと捉えていた。

29竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/06/11(土) 15:44:57 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗ザンザの攻撃をかいくぐりながらレナとカテリーナの方へと視線を向ける。
「余所見するたァ余裕じゃねェか!」
しかしその時間は三秒もなく、ザンザの巨大な刀が振り下ろされれば、魁斗は回避に移り、ザンザの攻撃をかわす。
さっきからそれの繰り返しだった。
「オイオイ。テメェやる気あんのか?遊びじゃねェんだぞ」
ザンザは刀を肩に担ぎ、魁斗を睨みつける。
相手の動きに目立った変化は無い。だったらさっきの勝ちへの執念はなんだったのだ。
「・・・お前、始まる前に言ってたよな。『今回は是が非でも勝つ』って。前のお前はそんなんじゃなかったハズだ。一体何があった?」
心配されているのかただ単に気になるだけか、質問の意図が読めないザンザは口を開こうとしない。
魁斗が相手の返答を諦めかけた時、
「・・・次、負けたら俺とカテリーナは殺される」
その一言に魁斗とレナの動きが止まる。カテリーナは表情を変えず、レナを見つめている。
「うちの隊長がそう言ってんだ。大体二回も失敗して生きてこれたのが奇跡だっての。だから今回ばかりは遊んでいられねェ。何が何でも・・・ブッ倒す!!」
ザンザが魁斗に突っ込み、刀を右から左へ横に薙ぐ。
魁斗は刀を相手の攻撃に合わせ、防ごうと構える。
ガキィ!!と刀身と刀身がぶつかり合う音が響き、ぐんと魁斗の身体がザンザとの力比べに圧し負け横へと飛ばされる。
「カイト様!」
レナはカテリーナから目を離し、思わず叫んでしまう。
それをカテリーナは見逃さなかった。カテリーナは下から上へ刀を振り上げる。レナは下から迫る刀を防ごうと下へ刀を構えるが、カテリーナが上へ振り上げると同時、レナの刀が下からの攻撃により、上へと弾き飛ばされてしまう。
(・・・な・・・)
更にカテリーナはレナの左肩、右脇腹へと傷を重ねていく。
レナの身体が再び大きく揺れ、片膝をついた状態で激しく息を切らす。
「そろそろ気付いた?この「剣(つるぎ)」の能力」
「・・・・・・体力を・・・消していく・・・?」
切れ切れの言葉にカテリーナは嬉しそうに首を振る。カテリーナは人差し指を立て、
「ノンノン!でもおっしい!体力を『消す』じゃなく『削る』なのよ。斬りつける傷の大きさに比例して削られる体力も変わる。更に少なからず魔力も削るからね。今の貴女には勝ち目ないよ」
カテリーナは落ちていたレナの刀を拾い上げ、レナの元へと投げる。レナの目に自分の刀が映る。
「もうテメェらに勝機は万に一つもねェ。何度もラッキーが続くと思うなよ。今の俺たちは強い!」
「・・・・・・ざっけたこと・・・言ってんじゃねぇ・・・!」
飛ばされ、土煙が視界を阻んでいる隅っこで魁斗の声が聞こえる。
「負けたら死ぬ?だから勝つ?それのお陰で今の自分達は強い?馬鹿かお前らは。そんなもんただ怯えてるだけじゃねーか!死に焦って、怯えて、それで虚勢張って、そんな奴等が強さ語ってんじゃねぇ!!」
魁斗は煙を払うように刀を振り、足に力を込めて立ち上がる。
「本当に強い奴は・・・怯えなんか抱かない。本当に強い奴は勝つ理由に『勝たないと死ぬから』なんて言わない!」
魁斗は知っている。
自分を助けてくれた銀髪の少女が一度も助けを乞わなかったことを。自分が殺される状況で、守るべき相手を逃がしてくれたことを。
魁斗はそれが本当の強さだと思っている。
「・・・・・・カイト様。彼らに教えてあげましょう」
レナは刀を手に取り、立ち上がる。
魁斗は言葉も無く頷く。
「見とけよ・・・ザンザ」
「覚悟してくださいカテリーナさん」
二人は刀を構え、二人に告げる。
「「本当の強さってのを今から見せてやる」」
二人の瞳には自信しか映っていなかった。

30竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/06/14(火) 14:06:38 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第十一閃「本当の強さ」
「・・・本当の・・・」
「強さだァ・・・?」
ザンザとカテリーナは魁斗とレナの言葉に眉をひそめ、訝しげな表情を浮かべる。
「ああ。恐怖なんかじゃ手に入れられない・・・それが強さってモンだ」
「へェ・・・。面白ェ。そこまで言うんだ。勝てるんだろうなァ、クソガキ」
魁斗はザンザの言葉に怯えも臆することもなく、真っ直ぐに相手を見つめて、
「勝つに決まってんだろ」
「やってみやがれ!」
ザンザは巨大な刀を振るう形で、魁斗へと突っ込んでいく。
一方、レナは肩で大きく呼吸をしながら、目の前にいるカテリーナを見つめている。
カテリーナはレナの様子を見て、心の底から呆れたような溜息をつく。
「あのさぁ・・・さっきの台詞聞いてこっちもこっちで期待してたのが馬鹿らしくなるじゃない。息ゼーゼー言ってるし、傷だらけだし。そんなんで見せてくれるの?ホントーの強さってのを」
カテリーナは期待などしていない。
言葉を聞いたときは流石に期待していたが、疲弊しきっている相手に興味など少したりとも沸かない。向こうの方も時間の問題ね、と適当にザンザと魁斗の方へと視線を向けた。
そこへ、カテリーナの耳に言葉が飛んできた。
「・・・貴女の『剣(つるぎ)』・・・『魂狩り(たまがり)』ですね」
カテリーナは声の下方向へと視線を転じる。
そこには疲弊しきったレナ。多少の知識はあつようね、と口の端で笑みを浮かべる。
「そーよ。能力で分かったのかしら。私の刀は相手の体力と魔力を削っていく・・・。貴女の『神浄昇華(かみじょうしょうか)』と似てるわね」
その言葉にレナは眉をピクッと動かし、
「いえ、似てませんよ。私と・・・貴女の『剣(つるぎ)』は・・・」
饒舌になっていたカテリーナの口が閉じる。
「・・・・・・どういうこと?」
「・・・言いましたよね。貴女の刀は相手の体力と魔力を『削る』と。では・・・私の刀の能力を覚えていますか?」
元々「剣(つるぎ)」マニアのカテリーナにとっては答える必要もないことだった。能力は、彼女が言っていたのだから。
「・・・打撃以外の攻撃を吸収するんでしょ?つまり、ザンザの光の斬撃とか、私の雷とか。どこが似てないっていうのよ」
レナは相手からは表情が窺えない程度に俯いている。
「貴女のは『削る』。私のは『吸収』・・・。まだ言葉が必要ですか?」
「・・・だから何言っ・・・」
そこでカテリーナはふと気付く。
自分の刀はあくまで「削る」であって、その体力は消えていく。だが、相手の「吸収」は・・・。
「気付いたようですね。さて、ここで問題です。この前の戦いで私が吸収したザンザさんの光の斬撃は・・・一体何処にあるでしょう?」
レナは切っ先をカテリーナに向ける。
レナの刀は相手の攻撃を吸収し、吸収したものを返還する能力だ。つまり、吸収した分が大きければ大きいほど、威力も上がる。
「・・・アンタ、まさか前の戦いから一度も・・・?」
「ええ。『剣(つるぎ)』は解放していません」
カテリーナが敗北を感じ取り、レナが攻撃へと移る。
「・・・『神浄昇華(かみじょうしょうか)』・・・開華(かいか)」
そう言うとレナの刀に巨大な炎が纏う。刀身の部分など微塵も見せずに、真っ赤で熱い炎に包まれている。
「くそ・・・・・・。う、うああああああああ!!」
カテリーナの思考が爆発し、無闇に刀を振るうことしか出来なくなる。
自分へと攻撃を向けるカテリーナにレナは涼しい顔で、
「・・・・・・守るべきものを守るために使う。それが本当の強さですよ」
ザン!!とレナは上から下へ刀を振り下ろし、カテリーナを斬り伏せる。

31竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/06/17(金) 19:01:58 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
レナのカテリーナへの勝利に魁斗は僅かに笑みを零してしまう。
ザンザはそれに気付いているが、あえて触れずに視線を逸らし、魁斗へと巨大な刀を振り下ろす。
「・・・・・・ッ!」
ガァン!!と刀がぶつかり合う。ザンザの巨大な刀を魁斗は二つの刀をクロスさせて、防ぐ。上から徐々に力が強くなっていく攻撃に魁斗は歯を食いしばり、耐える。
「・・・いいか、ザンザ。強さってのは・・・何もしなくても手に入るモンでも、恐怖なんかで手に入るモンでもねぇよ」
魁斗は刀を防ぐ両腕に思い切り力を込めて、少しずつ押し返していく。
それに負けじと、ザンザも力を加えていく。
「・・・ガキが・・・!俺に説教してんじゃねェよ!!」
「だったら誰がお前の間違いを正すってんだ!!」
ギァン!!と魁斗の刀がザンザの巨大な刀を後方へと弾き返す。弾かれたザンザの刀がガラン、と重く鈍い音を立てて、地面に転がる。魁斗はすぐに攻撃へと移る。魁斗の両方の刀に眩い光が纏う。
ザンザは丸腰だ。逃げれる余裕もない。逃げる、という思考自体もない。
ハッキリとしていたのは、自分は負けるということだけだった。
ザン!!と魁斗の刀が十字を描き、ザンザの身体へと傷を刻みつける。
ザンザは眉間にシワを寄せ、最後まで魁斗を睨み、仰向けに倒れる。口の端から血を垂らし、意識はまだある。空を見上げながら、色々と思うことがあったのだろうか、黙っている。
(守りてェ物・・・・・・チッ。今更何を期待してんだか・・・)
「・・・本当の強さってのは守りたいモンが出来た時に手に入れられるモンだ。今の俺みたいにな」
魁斗は自分の隣にいるレナの肩へ、ポンと手を置く。
レナは浅く首を縦に振り、頷く。
「・・・お前にもあるんじゃねぇの?守りたいモンが・・・すぐ近くによ」
ザンザは視線を這わせる。
視線の先に止まったのは、自分と同じく倒れている桃色の髪をポニーテールにした女だ。
「・・・・・・・・・チッ」
ザンザは心底忌々しそうに舌打ちをして、目を閉じる。
「・・・分かってんだよ・・・。いちいちうざってェんだ・・・・・・ガキが・・・」
ザンザはそれだけ呟くと、何も言わなかった。
ザンザは、「敗北」を認めた。

32竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/06/17(金) 22:35:32 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第十二閃「貫く光刃」
沢木は魁斗とレナ、そして謎の集団の戦いの一部始終を自分の瞳に焼き付けていた。今出て行くべきではない。出て行ったとして何ができるかも分からない。とりあえず、一段落するまで、戻るのも止めようと思っていた。
「・・・アレ、もう終わっちゃったの?」
魁斗とレナの元に薙刀に腰を下ろし、風の逆噴射で空飛ぶ箒のように乗りこなしながらハクアが一足遅れてやってくる。
ハクアは地面へ着地すると、状況を見て理解したのか、ガクッと肩を落とす。
「くぅ〜・・・やっぱあの時終わりにしてこっち来ればよかった・・・。魔物の数多すぎんのよ・・・」
ハクアはかなり落ち込んでいて、そんな彼女を魁斗とレナが必死に慰めようとしている。
すると、ザンザがむくっと起き上がって、カテリーナの方へと近づいて行く。
「・・・・・・・・・」
カテリーナは薄っすらと目を開けてザンザを見る。
彼女は顔をほころばせて、
「・・・・・・どーする・・・?戻ったら、エリザさまに・・・・・・」
構うモンか、とザンザは呟いて、カテリーナをおぶる。
そして、魁斗に告げるように、言葉を紡いでいく。
「まさか二度もテメェに助けられるなんざなァ。不覚だ。もう二度と会うことはねーかもな」
ザンザは相手からは表情が窺えない角度で言う。
「だが、借りはいつか返す。そん時は感謝しやがれ」
「・・・ああ」
ザンザは一泊呼吸を置いて、
「・・・・・・まあ、一つ礼を言っといてやる。お前のお陰で大切な物に気付けた、感謝するぜ」
「・・・これから貴方達はどうするつもりですか・・・?」
レナはザンザへと問いかける。
「・・・とりあえずは脱退だ。戻ったら死ぬし、借りは返せなくなる。次会う時・・・・・・びっくりするほど強くなってるから」
その言葉に魁斗はニッと笑みを見せて、
「ああ。また戦おうぜ」
と告げる。
その言葉にザンザははフッと笑みを浮かべて、
「・・・・・・二度とやるか、ボケ」
と呟き歩き出す。
しかし、その足が二歩目を踏み出すことはなかった。

ズン!!とザンザとカテリーナを光の刃が貫いたからだ。

ドサッとそのままうつぶせにザンザとカテリーナは倒れる。
「ザンザ!」
「来るんじゃねェ・・・!」
駆け寄りそうになっていた魁斗を牽制し、自分とカテリーナを貫いている刃を見る。見覚えがあった。
そもそも、自分の上司の攻撃など忘れられるはずがなかった。
「・・・ぐ・・・お、エリザァァァァァァァァァァァァァ!!」
ザンザは思い切り叫ぶ。
そこへ、状況を見計らったような声が飛んでくる。
「ダメだよねぇ〜。そ〜んなんで見逃してもらってちゃ・・・殺す約束適応されねーじゃん」
電柱の上にふわっと降り立ったのは、第八部隊隊長と呼ばれる小さな女の子、エリザだった。

33竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/06/18(土) 02:47:14 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
目の前の光景に魁斗とレナとハクアと沢木の四人は言葉を失う。
さっき戦っていた二人が光の刃に貫かれていて、それをやったのが二人の上司で、第八部隊の隊長で。確かザンザは「負けたら俺達は殺される」と言っていた。それが魁斗達の目の前で行われてしまった。
この光景に不似合いな軽い調子の少女の声が飛んでくる。
「まったく、何やらせてもダメね。一人でも潰せっての」
少女は吐き捨てるように呟く。
彼女はエリザ。第八部隊の隊長で、ザンザとカテリーナの二人の上司に当たる。どうやら部下がしくじったことによって、役立たずと判断し、攻撃したらしいのだが、
「・・・・に、・・・ってんだよ・・・!」
魁斗の怒りのメーターは既に最大値を振り切り、更に上昇し続けていた。
それを気にも留めないようにエリザは耳をすませるように耳の裏に手を回して、
「なんてー?全然聞こえないよー?」
「・・・何やってんだよ、って言ってんだよ、クソガキ!!」
魁斗は吠えた。
獰猛に歯を食いしばり、平気な顔で部下を殺そうとしている相手に。真っ直ぐに睨みつけてエリザに吠えた。
だが、対してエリザは表情の一つも、眉一つすら動かさず涼しい顔を続けている。
「・・・ふふ、クソガキ・・・ねぇ。まあ間違ってないか。にしてもそーんな怖い顔しちゃって、戦う気?いいけど間違いなく死ぬよ」
エリザの言葉には何の重みも感情もなかった。故に背筋をゾッとさせるような恐怖が潜んでいた。子どもゆえの発想で何をしでかすか分からないし、命の重みも対してわかって無いかもしれない。
「でもいーねー、戦うって!君らが傷を負ってない状態なら勝負になるかもしれないけど・・・今は、ねぇ?」
エリザが挑発するように言葉を発すると、魁斗は有無を言わさず斬りかかろうとするが、

「殺すぞ、『シャイン』」

エリザの言葉に魁斗は止まる。無理矢理足を杭で打ちつけられたように動けなくなった。
「とりあえず今日は帰るわ。そこのゴミは、処分おねがーい」
エリザはひらりと手を振って、その場から去っていく。その場に残ったのは妙な恐怖と、言い表せないどんよりとした空気だった。

翌日の朝。
魁斗はやはり不機嫌な顔だった。レナは魁斗と肩を並べているが、どちらも離しかけようとはしない。
魁斗は溜息をついて、
「・・・ザンザとカテリーナは?」
「・・・今朝、ハクアから連絡がありまして・・・命に別状はないのですが・・・」
その先は言わなかった。
魁斗も理解したのだ。二人は危ない状態であるのだ。ハクアはザンザとカテリーナを連れて、一時的に天界へと戻っているようだ。
「・・・・・・」
二人が生む会話の無い空間を切り開いた言葉は、
「・・・カイト君・・・」
沢木叶絵の声だった。
いつものような元気な声ではなく、思いつめたような。聞きたくも無いことを聞くような声だ。
「・・・・・・聞きたいことがあるの・・・。神宮さんにも」
レナも沢木の方を向いて、沢木の言葉を耳に入れる。
「・・・カイト君と神宮さんは・・・・・・一体何者なの?・・・二人が隠してることを、教えてください」

34竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/06/18(土) 13:26:18 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第十三閃「真実」
「・・・カイト君と神宮さんが・・・私に話していないことを・・・話してください・・・」
沢木は揺らぎ無い真っ直ぐな瞳を魁斗とレナに向ける。
魁斗とレナは二人で顔を見合わせて、戸惑う。いつ知ったのか。あるいは、自分達が知らないうちにそう思わせるような行動を取ってしまっていたのか。恐らくはその両方か。
魁斗はあれこれ思案したが、一度思考を断ち切って、沢木に問いかける。
「・・・・・・いつ分かった?」
「昨日です・・・。昨日、二人が妙な人達と戦っているのを見て・・・。私はとてもあそこには入り込めないけど・・・自分だけ蚊帳の外っていうのは嫌なんです」
魁斗と沢木は中学からの友人で、最初の席替えではいつも隣になるほどの奇縁で結ばれている。魁斗としてもそんな数少ない仲の良い女子に隠し事をして気分がいいわけではない。今まで言わなかったのは、自分が「普通じゃない」と言って、彼女が遠ざかってしまうかもしれないと思ってしまったからだ。
だが、
「・・・・・・じゃあ、話すよ。俺が何者なのか・・・俺がレナと会ってから起こったこと全てを」
たとえ、彼女が離れてしまうとしても、話さなければ関係がより悪化してしまうと思い、魁斗は決断した。
レナが天界という世界の人間であること。自分が天界の王の子であること。足が速いのは自分が「天子」という存在だからだということ。自分の身体に「シャイン」という正体不明の物質が宿っていること。昨日の奴等は「シャイン」を狙っている自分達にとって敵だということ。全てを魁斗は話した。
一通り話した後、沢木は一呼吸置いて、
「・・・そうですか。驚きました・・・。カイト君が、話さなかった理由も・・・なんとなくですけど、分かります」
沢木は魁斗に笑顔を向けて、
「話してくれればそれでいいんです。カイト君が一体どんな人であろうとも・・・私は、カイト君から離れたりしませんよ」
沢木は魁斗の手を握って、優しく語り掛ける。魁斗は思わず泣きそうになってしまったが、そこはぐっと堪え、
「・・・ありがとう、サワ」
ただ、そう告げた。
「今度から隠し事はナシですよ。二人が困った時にはいつでも力になりますから。ほら、早く学校に行きましょう!」
沢木は駆け足で学校へと駆けて行く。
そんな光景をずっと眺めていた魁斗の背中からレナは声をかける。
「・・・心配は・・・いりませんよ。最初に言ったはずです。カイト様がどうなってしまっても、カイト様の友人は、決して離れることはない、と」
「・・・・・・ああ。そうだな」
魁斗とレナも沢木に続くように学校へと駆けて行く。

35竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/06/18(土) 17:27:26 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
沢木に全てを話し、学校の授業を受ける魁斗とレナ。
魁斗だけかもしれないが、今日の授業は異様に頭に入るし、清々しい気分で受けることが出来た。
沢木に自分のことを話して、それでも彼女が自分と今の関係を保ってくれていることに安心したからかもしれない。
(やっぱ、こういう時に友達って大切だよな・・・。改めて、サワの大切さが分かったよ)
魁斗がふと沢木に視線を移すと、それに気付いた沢木が魁斗に向かって微笑んでくれた。それだけで充分心の支えになっていた。
昼休みになり、魁斗とレナと沢木はいつも通り三人で昼食をとることにした。
魁斗が鞄の中から弁当とお茶を取り出そうとするが、
「・・・あ、ヤベ。飲み物持ってくるの忘れた・・・」
「私のを飲んでも構いませんよ?」
レナは魁斗の言葉にそう言うが、丁度財布もあるし、魁斗は学校の中にある自販機で飲み物を買うことにした。
自販機は食堂の前にある。食堂は一階に下りてすぐのところにあるので、三階に教室がある魁斗としては一階まで降りるのは面倒だが、仕方ない、と思い一階まで降りる。
自販機の前に立ち、小銭を入れようとした瞬間、後ろから声をかけられる。
「・・・こんな近くに『天子』がいたとはね」
その声に魁斗は後ろを振り返る。
後ろにいたのは淡い水色の髪に、眼鏡をかけ前髪で右目はかくれている少年だ。同じ制服を着ているためここの学校の生徒だろうが、学年は分からない。
「・・・誰だ、お前」
直感で怪しいと感じた魁斗は男を睨みつけて答える。
男は対して動じもせず、
「そんな怖い顔しないでくれよ。敵意は向けていないさ。一つだけ、忠告をしにきただけだ」
「・・・忠告?」
その響きにはなにやら嫌な感じがする。魁斗は警戒を僅かに解き、相手の言葉に耳を傾ける。
男は階段を上りながら、
「奴等は本気だ。近いうちに、エリザが直接しかけてくるかもね」
「ッ!!」
相手の口から出てきたのは知っている人物だった。普通の人間では知る由も無い女の名前だ。
「ちょっと待て!お前・・・・・・!」
慌てて階段の上へと顔を向けるが、相手は何処にもいなかった。
(・・・一体・・・何者だったんだ、アイツ)

学校から帰る途中、魁斗とレナと沢木の三人は、ある話題で盛り上がっていた。
「いや、数学の斉藤は絶対ヅラだって!」
「ええ、今日ズレてましたもんね」
「あ、アレはちょっと前から薄れてきてるだけですよ!」
どうやら数学教師のヅラ疑惑のプチ会議中らしい。何故かフォローしてるはずの沢木もかなり失礼なことを言っている。
そこへ、
「い〜ね〜。お友達と仲良く下校中?」
聞き覚えのある少女の声が飛んでくる。電柱の上に腰を置いている少女がいた。
「・・・・・・エリザ・・・!」
電柱に座っている少女に魁斗は敵意をむき出す。沢木は魁斗の後ろに隠れて僅かに震えている。ザンザとカテリーナを殺そうとしたことは沢木にとってかなりの恐怖を与えたようだ。
「知らない顔もいるけどまあいいや。今日は戦いに来たんじゃないのさ」
電柱から魁斗達の前へエリザは降り立つ。
顔には無邪気な笑みが浮かんでいた。
「・・・今日私が来たのは、楽しいことをするためさ」
「楽しいことだと・・・?」
「うむ」
楽しいことって何だよ、という魁斗の質問は途中で途切れられる。
何故なら後ろから巨大なカまで、魁斗達三人の頭を横薙ぎにされたからだ。
ドサッと魁斗達は倒れるが、頭に傷は一つも無い。
「にひひ。よい夢を。起きた時・・・・・・君らはある物をなくしてるから、さ」
それだけ言ってエリザは姿を消す。
目を覚ました魁斗達は、何か大切なことを忘れていた。

36竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/06/19(日) 21:39:22 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第十四閃「謎の男」
「ふんふんふふーん、っと」
一人の少女が髪をくくりながら陽気に鼻歌を歌っている。茶髪の髪を黄色いリボンで止め、少女は何度も身だしなみを確かめる。
「よし、オッケー!」
その少女は納得すると、鞄を持ち、学校へと出かける。彼女の家はごくごく普通の二階建ての一軒家だが、稲の前には大きな車が止まっていた。
「今日は久々の学校。う〜、楽しみ!」
その少女は期待に胸を膨らませ、車の中へと入っていく。

「ふ、ふふ・・・」
レナは朝の学校への通学途中、不気味な笑みを浮かべている。
それを横目で見ていた魁斗は、
「朝から怖いぞ。一体どうしたんだ、お前」
「あ、ああ。申し訳ありません。これですよ」
するとレナは自分が見てニヤけちたチラシを魁斗へと見せる
チラシには「RE-ON NEWシングル発売決定!!」とドドンと書かれていた。
「RE-ON」というのは今大人気活躍中のアイドルであり、レナがこっちへきてからずっと応援し続けている少女のことだ。確かサワもファンだったな、と魁斗は思う。
しかし、魁斗は話題を逸らし、別の話を持ってくる。
「なあ・・・何か、変な感じがするんだ。昨日エリザに会って、気がついたら俺たちは倒れてて、そして、何か重大なことを忘れてる気が・・・」
「ええ。私もです。むしろ、『忘れている』よりは『記憶にロックが掛かっている』ような・・・」
レナの言うことは最もだった。
魁斗もそんな感じがしていた。一体何を忘れているのか、それすらも思い出せない。しかし忘れたり、思い出せないということはそんな大切なことではなかったかもしれない。魁斗とレナはそのまま自分達の教室へと入っていく。
「おっはようございますっ!」
いつも元気だが、今日は人一倍元気な声を出し、教室に入った二人に沢木は挨拶をしてくれた。
「お、おお・・・おはよう」
「おはようございます」
二人は沢木の勢いに圧され、挨拶をする。沢木の元気ぶりはレナをも軽く引かせていた。
「どうした、サワ。随分元気だな」
「はい!何か私、重要なことを忘れている気がするのですが・・・」
やっぱりな、と魁斗とレナは思う。
あの時、あの場にいた三人に何か起こったのだ。
だが、今の沢木はそれさえも払拭させるような元気さで、
「実は・・・RE-ONちゃんが・・・」
「ああ、NEWシングル発売決定、だろ?さっきレナがチラシで・・・」
「学校に登校してくるんですよ!」
え、と魁斗とレナは目を丸くし、魁斗はハッとする。
「そうだぁ!RE-ONってうちの高校の生徒じゃねぇかぁ!」
レナはそれを聞くと目を輝かせる。
妙に校門前に生徒が集まりすぎていると思った。教室の中もほとんどの生徒がいない。教室に残っているのはアイドルに興味が無い奴だけだ。
「早速、迎えに行きましょうよー!」
「お、おお!」
沢木に先導されるままに、魁斗とレナは教室を飛び出した。

37竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/06/24(金) 21:58:59 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
魁斗達は廊下を走って校門へ向かう途中、一人の生徒とすれ違う。
以前、魁斗が廊下で少し話した、眼鏡の少年だ。
「ちょっと待ってくれるかな」
その言葉に魁斗は立ち止まる。
沢木やレナが振り返らないところを見ると、今の声が聞こえたのは、魁斗のみらしい。
魁斗は振り返って、自分を呼び止めた人物を見る。
「・・・外が騒がしいと思ったら、アイドルの登校か。曲はいいと思うけど、そこまでファンじゃないな」
魁斗は相手の顔を見て、顔を顰める。
「何の用だよ。用があるならとっとと言いやがれ、眼鏡叩き割るぞコノヤロー」
魁斗は顔に青筋を浮かせながらそう言う。
相手のことは好きじゃないらしい。それでも相手はまったく臆することもなく、言葉を続ける。
「色々忘れてるみたいだけど・・・・・・僕のことは覚えてるらしいな」
「・・・・・・ッ!何でそれを・・・」
相手は魁斗の額に手を当てる。
その手を振り払おうとする魁斗を相手は止めて、
「よせ。今から君が忘れているものを思い出させてあげるよ。暇があれば、沢木叶絵と神宮レナとともに来ればいい」
そう言って、相手が目を閉じる。
瞬間、魁斗の頭に様々な光景が頭に入り込む。
学校を抜け出し、ザンザとカテリーナと戦ったこと。何とか二人に勝ったこと、エリザが現れ、二人を殺そうとしたこと。
全てを思い出した。
「・・・・・・今のって」
「君らが忘れていた『重要なこと』さ。エリザを覚えていたのは・・・君が記憶を失う前に名前を言っていたからだろうね。じゃあ、早目に校門に行きなよ」
相手はくるっと踵を返し、自分の教室に向かおうとするが、
「待て」
と魁斗が相手を止める。
相手が振り返ると、魁斗は警戒を解き、ただ一つだけ問いかける。
「・・・お前は、誰なんだ。一体、何者なんだよ・・・」
「・・・・・・僕かい?」
相手は眼鏡を人差し指でくいっと上げて、魁斗を見て答える。
「僕は桐生仙一(きりゅう せんいち)。君と同じ・・・・・・『剣(つるぎ)』の所有者さ」
そう言う桐生の首には、黒い水晶のあるネックレスが提げられていた。

38竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/06/25(土) 00:24:24 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
桐生の『剣(つるぎ)所有者』という言葉に魁斗はしばらく言葉が出なかった。
そんな魁斗を眺め桐生はフッと笑みを浮かべると、
「だから、暇があれば来ればいい。さっきもそう言ったハズだ。じゃあね。早くしないと、RE-ON!が来るかも知れないよ」
そう言って、桐生は自分の教室へと戻っていく。
魁斗もレナと沢木を先に行かせたままだと思い、急いで校門前へと走っていく。
校門前へ出ると、レナと沢木の二人はすぐに見つかった。厳密に言えば、レナのような白銀の髪を持つ生徒なんて一人しかいない。ならば、その傍らにいる銀髪より背の低い子が、自動的に沢木となってしまう。
「あ、カイト様。今まで何処行ってたんですか」
「まだ来てないからよかったですけど・・・・・・」
二人は僅かにむっとしたような表情で魁斗に言うが、魁斗は頭をかいて、
「あー、ワリーワリー。ちょっとトイレに・・・・・・。そうだ、後で話があるんだけど・・・いいか?」
「・・・別にいいですけど・・・」
二人が声を合わせてそう言うと、校門の前の方でわっと歓声が上がる。
魁斗達もそちらへ視線を向けると、黒いリムジンから、自分達の見慣れた顔が降りてくる。
茶色い髪にポニーテールにした、可愛い顔立ちのアイドル。芸能活動しているRE-ON!の姿ではなく、一学生としての藤崎恋音(ふじさき れおん)の姿がそこにあった。
彼女はリムジンから降りて、歓声の大きさに圧倒されている。
そして、車内にいるマネージャーらしき人物にマイクを貰うと、
『おっはよーちゃぁーんっ!!』
と元気よく声を出す。
歓声を出していたファン(レナと沢木含む)も声を揃え、『おっはよーちゃぁーんっ!!』と繰り返す。
『さぁーって!みなみな様のテンションも高いっつーことで、ここで一曲いっちゃおーか!』
藤崎は車の中にあるラジカセを取り出し、新曲のBGMを流す。
『曲はこの歌!来週発売の新曲「ハッピー・リズム・タイム」!!』
彼女が歌いだしたところで騒ぎを駆けつけた教師が、
「オイ、何をやっている!早く教室に戻れ!近所に迷惑だろう!!」
と校舎から出てきた。
「あ、ヤバ。じ、じゃあ続きは昼休みに体育館でやるんで、よっろしくぅー!」
「体育館でもやらせん!」
藤崎や教師を含め、生徒達は全て校舎へと戻っていく。
ゆっくり歩きながら魁斗達も戻っていくのだが、そこでレナが口を開く。
「で、話とは何なのですか?」
「ああ・・・」
レナの言葉に魁斗は口を開く。
「・・・・・・俺達の、『忘れている重要なこと』についてだ」
その言葉にレナと沢木は黙り、魁斗の話をただただ聞いていた。

39竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/06/26(日) 14:15:30 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第十五閃「藤崎恋音」

放課後。教室から出ようと思った桐生は扉の前で立ち止まってしまう。
何故なら、目の前には大して交流のない切原魁斗と神宮玲那と沢木叶絵。切原魁斗とは話したことはあるが、他の二人とはなかった。
桐生は溜息をもらして、眼鏡を上げて、魁斗に訊ねる。
「……、何の用かな」
「暇があれば来いって言うから来たんだよ」
何で放課後なんだ、と桐生は眉を下げる。
魁斗は照れくさそうに頭をかき、
「いやぁ、休み時間は宿題移すのに大変でさ。昼休みは体育館ライブ見るためにレナとサワが体育館に行っちまうし、三人で揃うっていうのは放課後しかねーんだよ」
結局ライブは先生に止められてなくなったけどな、と魁斗は補足する。
確かに『暇があれば』と言ったが、まさか放課後になるとは桐生自身も思っていなかった。
彼はこれだけのやりとりで顔に疲れを見せている。
さが、それとこれとはまた別だ、と気を取り直し、魁斗に訊ねる。
「……二人には話したのかい?」
魁斗は桐生の質問に、コクリと頷き、
「『死を司る人形(デスパペット)』について…いや、お前が知ってることを話してほしい」
知ってることね、と桐生は眼鏡を上げて呟く。
桐生は何を言うか僅かに考え込んだ後、口を開く。
「確かじゃないが…君達の記憶を消した理由なら想像はついている」
魁斗達は桐生の言葉に表情を変えて、桐生の言葉を待つ。
桐生は鞄を近くにあった机に置いて、腕を組み、続ける。
「彼女達……つまり、エリザが消した記憶は『ザンザとカテリーナ』についてだ。もし、エリザが仲間に『ザンザとカテリーナは自分が粛清した』ではなく、『天子とその養育係との戦いの末瀕死の重傷を負った』と伝えてしまえば、どうなるか分かるかい?」
そこで桐生は一度言葉を区切る。
レナは顎に手を当て、それから結論をはじき出す。
「……『死を司る人形(デスパペット)』をたきつけられる。……、まさか、それで彼らを本気にさせるために?」
その通りだ、と桐生は眼鏡を上げて答える。
「さすがに一部隊の小隊隊長が二人もやられれば彼らも本気になる。エリザは自分の部下二人を犠牲にしてまで、君を狙う魂胆だ」
桐生は魁斗を見て、そう告げる。
桐生は更に続けて、
「まあ、『やったのは自分達じゃない』と言ったところで、彼らは聞く耳を持たない。なら何故記憶を奪ったのか。簡単だよ」
桐生は一度区切って、
「記憶を失った君達に『君達が半殺しにした』と言えば……君らがどうなるかは容易に予想できる。動揺させ、判断力を鈍らせ、君らを殺す。そのために、記憶を失ってたほうが奴らにとっても好都合ってワケだ」
確かな情報じゃない、と言ってた割りには随分と信憑性の話だ。
言われて見れば、『自分達が半殺しにした』と言われれば、困惑して、簡単に殺されてしまうだろう。
それを見越して記憶を消したのか、と魁斗は歯軋りをする。
桐生はそんな魁斗を見て、溜息をつく。
「……落ち着けよ、切原君。僕が何のために君らの記憶を戻したと思ってる?」
魁斗は思わず桐生を見る。
桐生は眼鏡を上げ、
「君らに協力するためだ。これからは僕も一緒に戦うよ」
「……桐生…」
「実際ヒヤヒヤしてたよ。いつ殺されても可笑しくない状況だったからね。それから……」
「あー、いたいたー!!」
桐生の言葉は突然の大声にかき消された。
遠くの方からやって来たのは、見覚えのありすぎる人物だった。
茶髪のポニーテールの美少女。
今日の学校の注目的となった人物。アイドルRE-ON!こと藤崎恋音。
「な、……」
「RE-ON!ちゃん!?」
魁斗達はそれぞれ驚きの声を漏らす。
さらにやって来ただけでも驚くことなのに、更に藤崎は驚きの言葉を口にする。
「ねぇ、みんな。一緒に帰ろ!」

40竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/06/30(木) 16:25:42 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

藤崎恋音はニッコリとした笑みを浮かべながら、魁斗達を見つめていた。
面食らう魁斗。こんなに目の前に藤崎がいることに驚愕を隠せないレナと沢木。そして、藤崎を見つめている桐生。
そんな四人に、藤崎は笑顔を浮かべたまま、
「どーしたの?早くしないと日が暮れちゃうよ!」
魁斗達に帰ろうと誘う藤崎。
レナと沢木は言うまでも無く、藤崎について行く感じになり、魁斗は溜息をつきながらも、藤崎の言うとおりにしようと歩き出す。
そこへ、
「待ってくれないかな、藤崎恋音さん」
桐生が眼鏡をくいっと指で上げながら告げる。
その言葉で藤崎は足を止め、桐生の方へと視線を向けている。
「面倒だから無駄な前置きは省くよ」
更に桐生は続けて、
「その鞄に何を隠している?」
その言葉に魁斗達は藤崎の鞄に注目する。
見た目では何も変なところはない。教科書や筆箱が詰まっているせいで、僅かに膨らんでいる程度だが、
「その中から、何か感じる。疑われたくないなら、その鞄の中を……」
「………鋭いねぇ。桐生君」
桐生の言葉が言い終わるより早く、藤崎がニッと笑みを浮かべ、鞄を開け、手を突っ込み、がさごそと何かを探している。
探していたものを掴んだのか、藤崎が僅かに笑みを浮かべた後、手を抜く。
「ご察しの通りだよ!」
藤崎の手に握られていたのはブレスレット。それも日本ではどこの店を探しても決して見つけられそうにないデザイン。外国の物でもなさそうで、桐生が感づいた。
それで、そのブレスレットが何なのか、判断するには充分だった。
「……桐生君のご想像通り。私は藤崎恋音。そして、鞄の中に入っていたのは『剣(つるぎ)』だよ」
その言葉に魁斗達は絶句する。
魁斗がうまく動かせない口で言葉を紡ごうとしたとき、
「きーりはーらくーん!!」
と外から元気な女の子の声が聞こえてきた。
しかもそれは、幼女と言うにはあまりにも不気味で、無垢というにはあまりにも殺意がこもりすぎていた声だった。
魁斗が窓から外を見ると、そこには見慣れた少女、エリザが立っていた。
「……アイツは」
「来たね」
フッと笑みを浮かべ、藤崎は窓から飛び降り、エリザの目の前に立つ。
魁斗達は驚きで言葉を出すことが出来なかった。
藤崎は笑みを浮かべたまま、ブレスレットを巨大な剣に変え、切っ先をエリザへと向ける。
「私が相手よ。すぐ潰してあげる」
「分かってないなぁ。天界とこっちじゃ、それは傲慢っていうんだよ?」
藤崎の言葉に対して同時ずにエリザはそう告げる。

41竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/02(土) 00:55:18 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第十六閃「助けて」

「オイ、藤崎!?」
ようやく言葉を出し、魁斗はそう叫んでいた。
当の藤崎は切っ先をエリザに向けたまま、上からこちらを見ている魁斗達へと視線を向けて、
「助けなんかいらない。こいつは私だけで倒す。手出したら…君らも倒すから」
藤崎の声には一切の容赦がなかった。
ここで魁斗が割り込もうがレナが割り込もうが桐生が割り込もうが、彼女は迷いなく斬るだろう。
それも、エリザじゃなく、割り込んできた相手を優先して。
エリザはその様子を見ながら嬉しそうに笑う。
「いやぁ〜、いいの?どーせ負けるんだから、『負けたら後お願い』ぐらいは言っといたら?」
エリザの言葉に藤崎は、はぁ?と眉を潜める。
「なーに自信過剰になってんだか。恥ずかし。アンタにそこまでの力があるとでも言いたいわけ?」
ノンノン、とエリザは人差し指を小さく振って、
「『言いたい』じゃなくそう『言ってる』んだよ、バーカ」
ドォン!!という轟音とともに、エリザがいたところへと、藤崎が思い切り刀を振り下ろす。
しかし、エリザはいつの間にか、藤崎の背後へと移動しており、彼女が振り返るより早く、エリザは彼女の背中へと蹴りを繰り出す。
藤崎の身体は前方へと飛んでいき、地面を転がる。
「藤崎ッ!!」
魁斗は叫ぶが、レナと沢木は声を出せずにいた。
藤崎はふらつく足を必死に動かして、立ち上がる。
その様子を見て、エリザは満足そうに、
「おいおいおーい。もう終わり?たったの蹴り一発で?勘弁してよ。私まだ『剣’つるぎ)』出してないんだってば」
落胆の色を強く出すエリザの言葉に藤崎は刀の柄を強く握り締め、再びエリザへと斬りかかる。
「でも、ま。突っ込んだからって斬れるわけじゃないんだけどね」
不気味な声のトーンでエリザがそう発すると、彼女の懐から伸びた鎖が藤崎に巻きついている。
何とか逃れようともがく藤崎だが、もがけばもがくほど藤崎の身体に食い込んでいき、徐々に痛みを感じさせる。
「鎖鎌型『剣(つるぎ)』鎖砲牙(くさりほうが)。ホントは先端についている刃を高速で射出するんだけども……、使い方次第だね」
エリザはを引っ張って、藤崎の身体を校舎の壁へと叩きつける。
藤崎の声にならない叫びが魁斗達にも伝わってくるようだった。
その様子に桐生は歯噛みする。
「……さすが、と言うべきかな。弱冠10歳にして隊長の座に君臨した天才児……。二年経った今でも変わらずか。恐ろしいよ、『天童エリザ』。あの子を今の僕らが一人で相手したって勝てないよ」
エリザは二ィ、と笑みを浮かべている。
レナは藤崎に助太刀しようと階段を降りようとするが、彼女の腕を魁斗が掴む。
「……カイト様…?」
「ダメだ、行くな」
レナは魁斗の言葉が信じられなかった。
今まで、困っている人は助けていた。自分の時だって、逃げずに立ち向かってくれた。なのに、何で藤崎だけは助けないのだろうと、レナは硬直してしまう。
「……まだだ。アイツが望まない限り…俺らは助けちゃいけねぇんだよ……」

42竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/08(金) 14:51:06 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「な、何故ですっ!?」
レナの抗議の声が誰もいない廊下に響き渡る。
誰が見ても下でエリザと戦っている藤崎は危ない状況だ。まして、天界の人間ではなく、こっちの世界の住人なのだから、それは言うまでもない。
そんな誰でも分かる状況でレナは助けに向かおうとするのだが、魁斗がそれを止める。
「今はまだダメなんだ。今はまだ……」
まだ?とレナが眉をひそめる。
それを見て、桐生が眼鏡を上げて、
「今の藤崎さんを助けるというのは僕も反対だな。今の彼女は僕らを信用していない。ここで助けに入ったら相手が誰であろうと僕らを優先的に攻撃するだろうよ。彼女はプライドが高い。恐らく『私だけで倒す』と言った手前『助けて』なんて言えないんだろうね」
それでも、とレナは思う。
彼女が思っていなくても自分達が助けたいと思えば助ければいいと彼女は思う。
しかし、自分の立場から考えたらどうだろうか。
自分は助けを求めたいない状況で。誰が見ても劣勢の戦況で。それで助けが来てしまったら。
何故来たか、と疑問を抱いてしまう。それでたとえ勝ったとしても嬉しくないと思うだろう。
レナは黙り込んでしまい、エリザと戦っている藤崎を見る。
「僕としては何であそこまで意固地になって助けを求めないのか疑問だけど」
桐生は呆れたように言う。
背中に蹴りを入れられ、身体を校舎の固い壁に叩きつけられ、立っているのがやっとの状態に見える藤崎。
それでも彼女は助けを求めない。『助けて』どころか、たの字も言おうとしない。
見かねたレナは身を乗り出す勢いで窓を覗き込み、
「言って下さい!『助けて』って!何も恥ずかしいことじゃないんです!」
しかし、レナの叫びは藤崎の心にまでは届かない。
「まあ……確かに恥ずかしいことじゃないかもね」
でもね、と藤崎は言葉を区切って、
「助けは求めないよ」
藤崎がエリザに向けて突っ込もうと地面を蹴った瞬間に、藤崎の腹にずぶり、と嫌な感触が伝わる。

それは藤崎の腹にエリザの『鎖砲牙(くさりほうが)』の刃が突き刺さった音だった。

その光景に魁斗とレナと桐生は顔を青くして、沢木は手で目を覆っていた。
「言ってなかった?『鎖鎌型』だって。そろそろ、終わりかな?」
ニッと笑みを浮かべ、エリザは藤崎の腹に刺さった刃を、鎖を引っ張って引き抜く。
「……あぐ………」
藤崎は痛みに僅かに声を漏らす。
魁斗は藤崎を見て、
「情けねーな。デカイ口叩いといて結局はこの程度かよ。ガッカリだぜ」
藤崎はその言葉に凍りつく。
そして自分を恨む。無力な自分を。非力な自分を。助けを求めない自分を。
「これでぇ……おしまいっ!!」
エリザは刃を藤崎へ向けて射出する。
藤崎の口が僅かに動く。
「……なによ、君こそ、そんなデカイこと言っておいて……こいつに勝てるの……?」
藤崎の目から涙が一滴零れ落ちる。
「……こいつに勝てるなら……」
藤崎は振り絞った声で、
「『助けて』よ!!」
次の瞬間、ガァン!!とエリザの刃が大きく弾かれる。
まーったく、悪役に回らないと言えねーのか。だが、よく言えたな藤崎」
魁斗は藤崎の前に立ち、彼女を襲う刃を彼の刀で弾いた。

43竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/09(土) 10:29:30 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第十七閃「押し寄る敵」

 魁斗は刀を固く構え、エリザを睨みつける。
 睨まれているエリザは弾かれた刃を鎖を引っ張り自分の手元に引き寄せる。そのエリザの表情は余裕で僅かな笑みさえも浮かべている。
「……切原君……」
 朦朧としていた藤崎は前にふらっと倒れる。その彼女を桐生が優しく抱きとめる。
「少し考えてくれないかな、切原君。僕らはあの階からここに飛び降りることなんて出来ないんだからさ」
 桐生は眼鏡を上げながらそう言う。
 彼の視線の先にあるのは、先ほどまで魁斗達がいた四階だ。気付くと、桐生の後にレナと沢木も降りてきている。
 魁斗は天子としての資質か、高い脚力を利用して、あそこから飛び降りたんだろう。さすがに魁斗の脚力の高さを活かしても、四階から階段を使ってここまで来る頃には藤崎はやられていた。だからこそ、飛び降りたのだ。
「ふぅーん、忘れてたよ。そーいや。切原君は天子でぇ、脚力が高いって事を。誤算だったかなー」
 エリザの言葉からも表情からも余裕は消えない。
 数の上では負傷している藤崎を除いても三対一。いくら隊長とはいえ、この数を相手にするのはさすがにキツイだろう。
「どうする?さすがに、この状態で勝てるとは言わないよな?」
 魁斗はそう訊ねるが、エリザが『勝てる』と言わないとは限らないので力は抜かない。
 それに反し、エリザははぁー、と溜息をつき、
「うん、帰るよ。ぶっちゃけ、今日は君らのお仲間の顔を見に来たようなもんだしね」
 何?と魁斗は眉をひそめる。
「最初に会ったときは切原君とレナちゃんとハクアちゃん。二回目は沢木さんのオマケ。そして今回。これで君らの戦力は大体分かった」
 だから帰るよ、と言ってエリザはくるっと向きを変える。
 しかしエリザはすぐには立ち去らずに、目だけを魁斗達に向けて、
「次会うときは、覚悟しといた方がいいかもよ」
 そう言って彼女は去っていく。
 つまりは、次に会ったら彼女と戦うことになるのだ。藤崎一人をここまで圧倒的な力でねじ伏せたエリザを。
 
 エリザが天界の『死を司る人形(デスパペット)』の基地へ戻ると、一人の女が彼女を待っていたかのよう二入り口に背中を預け、腕を組んだ状態で立っていた。
 黒髪のポニーテールに右目に眼帯をしている女だ。年齢は十八歳程度に見える。
「ありゃ、珍しいね、クリスタがお迎えだなんて」
「別に。お前を迎えに来たわけじゃないな。ただ、感想を聞きたくてな」
 敵の?とエリザは確認を取ると、クリスタと呼ばれた女はコクリと頷く。
 エリザは鼻で息を吐くと、
「別にどうってことはないよ。……ただの青臭いガキだったよってだけさ」

44竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/15(金) 20:05:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「で、どうですか?藤崎さん。怪我の具合は」
 現在は昼休み。
 エリザと藤崎の戦いが終わってから一日経過して、昼休みに魁斗、レナ、沢木、桐生、藤崎、ハクアの六人は学校の屋上で集まっていた。もっともハクアに関して言えば、重要な話があるのです的なレナのメールで急いで天界から飛んできたらしいが。
 レナの質問に藤崎はんーっと伸びをしてから、
「うん、全然平気!天界の薬ってよく効くのねー!」
 藤崎は昨日、エリザが退散した後にレナから天界の塗り薬を貰っていた。
 チョー効く(レナ曰く)らしいが、藤崎の様子を見る限り、効き目はバッチリ現れているようだ。
「さてと、ここで今後についてだが、これでエリザが攻めてくることは間違いない。小隊隊長や、副隊長クラスが来ても可笑しくないしね」
 桐生は眼鏡を上げてそう言う。
 確かに、今回エリザが自分達全員の顔把握のためとはいえ、エリザクラスがどんどんやってくることを想定しておいても無駄にはならない。備えあれば憂いなしだな、と魁斗は思う。
「だから、僕達は今以上に強くならないといけない。向こうは隊長だけで十人いるんだから」
 そんな中、ハクアは一人会話に交われず俯いている沢木を見る。
 魁斗達の事情を知ってはいるのだが、自分は戦うための力が、刀がない。そのため、会話の内容がどれほど深刻で危ない状況でも、自分にはどうする事も出来なかった。
 そこへ、
「なーに暗い顔してんのよ」
 ハクアは優しく語り掛ける。
 沢木としては初めて話す相手だ、ハクアからすれば、そんなのはお構いなしだ。
「いや……その……カイト君達が、大変だっていうのは、分かります……。でも、私はどうすることも出来なくて…」
 沢木は魁斗達には聞こえないようにハクアだけに告げるように言う。
 その言葉を聞いたハクアは、
「そーんなの、気にすることないよ!」
 軽い言葉で沢木の肩に手を置く。
 ハクアはそのまま続けて、
「一番大事なのは『力があること』じゃないよ。『力になりたいか』なんだから。サワちゃんがカイト君達の力になりたいなら、そう思うだけで、カイト君達の背中を押すことが、支えることが出来る。自分に自信を持って!挫けちゃダメだよ」
 沢木は今までの自分の考えを思い返す。
 自分は魁斗達の力になりたいと思っていた。それでも力が無いから諦めていた。それでいいと、仕方ないと思っていた。
 でも、非力な自分でも出来ることはある。彼らの背中を支えることは自分にも出来る。
 ハクアは懐から、ネックレスのような物を取り出す。
「これ、君にあげる。これは天界の神具で『神王の聖域(しんおうのせいいき)』。使用者の心の強さに同調して、強力な結界を張れる。君にピッタリな道具だよ」
 ハクアは包み込むように沢木の手に神具を握らせる。
 すると、桐生が急に立ち上がる。
「どした、桐生」
「……君は、もう少し敵の気配を察知する術を身につけることだね」
 魁斗の言葉に桐生が答えた瞬間、周りが大量の魔物に囲まれている。
 その量に魁斗達は言葉を失いかける。
 桐生は眼鏡を上げて、
「来たね。昨日の今日で来るとは思わなかったよ」
 と僅かに困ったような表情を浮かべた。

45竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/16(土) 23:56:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第十八閃「蛇尾のザーディア」

 桐生は『剣(つるぎ)』を発動する。
 日本刀のような形状で、鞘からゆっくりと剣を引き抜きながら桐生は言う。
「さて、みんな。ノルマはクリアしてね」
 剣を構えていた魁斗は桐生の方へ勢いよく振り返って、
「あぁっ!?一人何体倒せばいいんだよ!?」
「適当に……目に付いたのから倒せばいいのです」
 戸惑う魁斗にレナはそう言って、魁斗の近くに寄りそう。
 藤崎も剣を構えて、病み上がりの身体にゃもってこいでしょ、と呟いている。
 ハクアも最初から薙刀状の『帝(みかど)』を構え、
「サワちゃんは私の後ろに!」
 ハクアは自分が沢木の盾に鳴るように前に立つ。
 ほぼ、それと同時に大量の魔物達が魁斗達に襲い掛かる。
 ハクアは軽く『帝(みかど)』をくるくると回し、やってきた魔物達を一薙ぎで倒すが、ハクアが体勢を立て直すより早く、次の魔物達が襲ってきた。体勢を立て直せないハクアは動きが硬直してしまい、どうする事も出来ない。
 ハクアは固く目を閉じるが、

 ガッ!!という鈍い音の後に、ハクアの身体に怪我はなかった。

 ハクアは目をそーっと開いて、状況を確認すると、自分の周りに透明なドーム状のバリアが張ってあった。
 その小隊は沢木に預けた『神王の聖域(しんおうのせいいき)』によるものだ。
 沢木はそのネックレスを前にかざしながら、
「大丈夫ですか?」
 と僅かに笑みを零しながら訊ねる。
 ハクアもフッと笑みを浮かべて、当然のように答える。
「ええ、大丈夫よ!」

46竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/17(日) 11:23:41 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 魁斗達は周りの魔物達を次々と倒していく。
 桐生は少々動きが鈍っている藤崎をサポートしながら、沢木は大振りで隙が出来るハクアを『神王の聖域(しんおうのせいいき)』で守りながら、魁斗はレナと背中を預けながら、それぞれがチームワークを駆使していた。
 ハクアの後ろから状況を見ている沢木は、
「……数、あまり減りませんね」
 その言葉にハクアは僅かに呼吸を整えて、『帝(みかど)』を手で回しながら答える。
「だよね。私達、結構倒してると思うんだけどな」
 上空の魔物を倒して、空から着地した、魁斗は辺りを見回して、
「この群れの中に親玉がいるんじゃねーの?軍とかでも、リーダーがいなくなればどっか行くだろうし」
 皆はその言葉に頷くが、それでもこの数は異常だ。
 ハクアは『帝(みかど)』くるくると回しながら、いいことでも思いついたように子どものような幼い笑みを浮かべる。
「みんなー、ちょっと伏せてー」
 その言葉に疑問を抱く間も、言われたとおり伏せる間もなく、あたりに風が渦巻き、あたりの魔物を一掃していく。その風圧に魁斗達は飛ばされそうにになるが本能で『危ない』と判断し、地面へ伏せる。
 風が止み、ハクアはふぅと息を吐く。
 もう大丈夫だよー、とハクアが声をかけるより先に、
「アホかぁー!!伏せろと言ってから行動に移すまでが早いんだよッ!!見ろ!皆もれなく地面に伏せて固まってんだろうが!!」
 魁斗がハクアにそう叫ぶ。
 ハクアは相手のエキサイトぶりに驚きの表情をあらわにする。
「でも、いいじゃないか。これで全部倒せたんだし」
 桐生は地面から立ち上がると、眼鏡を上げながらそう言う。
 よく冷静でいられるな、と魁斗が言う前に地面になにやら触手のような物が六本刺さる。
 攻撃のためには自分達より的を外しすぎている。これが意味するのは『まだ終わってない』ということだ。
 魁斗達は触手の伸びる先を見る。
 そこにはトンボのような巨大な魔物に乗っている、12、3歳くらいの少年だった。
 服は中国の武道家が着るようなカンフー衣装で、袖は大きく開いている。だが、服のサイズが合ってないのか、少年の手は袖から出ず、代わりに触手が伸びている。
「……お前は」
「答えるひつよー(必要)ないでしょ?」
 少年は魁斗の言葉に即答する。
 少年は歳相応の笑みを浮かべ、
「ボクが誰か、何しにきたのか、全て知ってるはずだ」
 触手が地面から離れ、彼の袖の裾の辺りでうねうねと気持ち悪く蠢(うごめ)いている。
「ボクは『死を司る人形(デスパペット)』第六部隊第五しょーたいたいちょー(小隊隊長)ザーディア。組織内でのボクのあだ名はこの触手から付けられた…『蛇尾のザーディア』」

47竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/17(日) 19:38:27 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第十九閃「六本の刃」

 ザーディアは触手をうねうね蠢かせながら、魁斗達を見つめる。
 しかし、男には全く興味が無いというように、女子ばかりを見ている。
 ザーディアは極度の女好きで幼い容姿を利用し、『死を司る人形(デスパペット)』内の女性に抱きついて回っているのだ。もっとも第八部隊のカテリーナもその被害者の一人である。
「ふむふむ。なーかなかかわいー人がいるね。銀髪の人と、黒髪のおねーさんと、その後ろにいる茶髪の子。いーなー!天子クンと眼鏡クン!ハーレムじゃん!」
 ザーディアは疎ましそうに魁斗と桐生を見る。
 しかし、相手の言葉に疑問を持った者が一人いた。
 藤崎恋音だ。
 さっき言われた人の中で自分だけ名前が挙がっていない。自分を持ち上げるわけではないが一応アイドルだし、そこsこの人気があるらしいし、何故挙げられなかった?
「ちょっと待ちなさいよ、このガキ!何でさっき私の事を言わなかったわけ!?」
 んー?とザーディアは藤崎へと視線を向ける。
 ザーディアが見つめて数秒、突然鼻血を出しだす。
「ッ!?」
 その様子にその場に居た全員が大きく肩を揺らして、驚きをあらわにする。
 ザーディアは鼻を押さえて、
「ぐ……人間のクセに、なんつー顔面してやがる……ッ!ボクを出血させるとはぁ……!!」
 魁斗達は相手の様子を見て、ああコイツバカだな、と直感する。
 ザーディアは一気に目の色を変えて、臨戦体勢に移る。
 ザーディアの袖から伸びてるのは左右三本ずつの触手。それがうねうねと蠢き、気持ち悪さをかもし出している。
「いいねいいね!けっこーこーふん(結構興奮)してきたぜぇー!!」
 その触手一本一本が魁斗達それぞれへと襲い掛かる。
 魁斗、レナ、ハクア、桐生の四人は問題なくその触手を斬り、何とか切り抜けるが、藤崎だけは違った。
 藤崎は襲ってきた触手を切り落とすが、藤崎だけに二本迫っており、もう一本に足をつかまれ、持ち上げられたのだ。
「きゃああああーっ!?」
 藤崎が甲高い悲鳴を上げて、逆さ吊りにされる。藤崎は顔を赤くしてスカートを押さえる。
「藤崎!!」
「今見ないでぇー!!」
 藤崎がバタバタと暴れるせいでスカートの中が見えそうになってしまう。
 魁斗はそれで目を逸らし、
「凄いでしょ?ボクの触手型剣『蛇尾(じゃび)』。六本の刃で敵を貫く。一番凄いのは斬られても……スグにさいせー(再生)するのさ」
 斬られた五本の触手が切られた場所から新たな触手を生やす。
「いいから下ろしてよー!」
 藤崎は未だに逃れられず、バタバタと暴れていた。

48竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/18(月) 10:40:44 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ザーディアの触手は全部で六本。
 うち一本は藤崎を捕らえるために使っているので、実質的な数は五本になっている。しかし、藤崎が囚われたため、魁斗達は戦えるのは四人。つまり、最初から人数が本数に負けている時点で魁斗達は劣勢にあるのだ。
「んじゃー、二回戦いってみよーか!」
 ザーディアの剣(つるぎ)、『蛇尾(じゃび)』がうねうねと蠢きだす。
 その不気味な動きを見て、桐生が、
「来るぞ」
 そう言った瞬間、五本の触手が一気に魁斗達へと襲い掛かる。
 魁斗、レナ、桐生にはそれぞれ一本だけしか来ない。つまり、標的にされたのは後ろの沢木を守りながら戦っているハクアだ。
「ハクア!」
 ハクアは最初の触手を切り、二本目に備えたが、二本目は足元ではなく、正面からハクアの横っ腹を目掛けて飛んできた。
 咄嗟の攻撃に反応し切れなかったハクアの横っ腹に触手の横薙ぎの攻撃が鈍い音を立てて、入り込む。
「……ッ!?」
 ハクアの顔が苦痛に歪み、横へと二、三メートル吹っ飛び、何とか起き上がろうとする。
 ザーディアのその光景に笑みを浮かべ、
「いやぁ、たのしーたのしー。でも、そんなモタクサしてていいの?」
 ザーディアの触手が藤崎の足から離れ、彼女の身体に巻きつく。
 魁斗達に嫌な予感が走る。
「さっさとしないと彼女、死ぬぜ」
 ギリギリ、と藤崎の身体に巻きついていた触手が力強く、藤崎の身体を締め付ける。
「ぐ………ぅ、」
 藤崎の顔が締め付けつられ、苦痛に歪む。
「……ッの野郎!!」
 魁斗達は藤崎を助けようと動き出すが、五本の触手がそれを阻む。やはり四対一では分が悪すぎる。早くしないと藤崎を助け出すことが出来ない。
 魁斗がそう思っていると、

 急にザン!!という何かを斬る音が鳴り、触手が袖のあたりから切り落とされ藤崎が解放される。
「え!?」
 藤崎も何が起こったか分からず、そのまま地面に落ちていく。その落ちてくる藤崎を桐生はお姫様抱っこで抱きとめる。
 ザーディアは桐生へと視線を向ける。
「……まさか、お前か?」
「以外に誰がいると言うんだい?」
 桐生は眼鏡を上げ、相手を睨みつける。
 藤崎を地面に座らせ、腰に挿している、鞘から抜いていない刀の柄に手を当てる。
「子どもだから、と甘く見ていたよ。流石にもう我慢できない」
 桐生は、ザーディアを強く睨み付け、宣言する。
「僕は容赦しないよ。特に、友達を傷つけるような、君みたいな奴にはね」

49竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/18(月) 20:11:57 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第二十閃「絶対零度」

「……きりゅう…くん…?」
 藤崎は自分が桐生に助けられたのが信じられないかのように未だきょとんとしている。
 桐生はそれを気にも留めず、柄に手を当てたままザーディアを睨みつけている。
「切原君」
 桐生に名前を呼ばれた魁斗ははいっ!と一瞬で背筋を伸ばす。
 その光景に桐生は困ったような顔をしたが、大して気に留めることなく、
「藤崎さんをそっちへ運んでくれないか。彼の攻撃が僕に集中するだろうから、危ないだろ」
 魁斗はそう言われると、動き出そうとするが、
「させると思う?」
 ザーディアが一本の触手を伸ばし、魁斗へと触手が襲い掛かる。
 しかし、桐生が地面に刀を突き刺すと、下から氷柱が生え、触手を下から貫き、動きを止める。
 ザーディアは歯を食いしばり、桐生を睨みつける。
「諦めなよ。君はもう、誰も傷つけることは出来ない」
「言うじゃねーか」
 ザーディアは切られた触手と貫かれた触手とを再生させて、一斉に桐生を襲わせる。
 その隙を見て、魁斗は藤崎を連れ、桐生とザーディアの戦場から離れさせる。
 桐生は襲い掛かる触手を次々と切っていくが、相手も相手で切られた触手の再生速度が速くなっている。
(……これは……ッ!)
「はっは、気付いた?ボクの『蛇尾(じゃび)』はボクの魔力によってさいせー(再生)するんだ。つまり、ボクが本気になれば、お前ごときスグに潰せるんだよ!!」
 ドドッ!!と二本の触手が桐生にダメージを与え、桐生が地面を転がる。
 魁斗達は思わず駆け寄ろうとしてしまうが、桐生が手の平を広げ、魁斗達へと向ける。
 桐生は言葉を発さず、目だけで魁斗達に伝えた。来るな、と。
「………随分と殊勝だね」
 桐生は刀を杖代わりにして地面に突き刺し、体重を乗せて、身体を起こす。
「はぁ?」
 桐生は地面から刀を抜き、峰を指でなぞる。
「見せてあげるよ。僕の剣(つるぎ)……『絶対零度(ぜったいれいど)』の能力を」

50竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/22(金) 20:51:07 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……へぇ、じゃー見せてみろよ。お前の『剣(つるぎ)』ののーりょく(能力)を!」
 まるで子どものハッタリに付き合う大人のような視点でザーディアはトンボ型の魔物に乗ったまま、桐生に言う。
 彼は永久的に再生し続ける自身の『剣(つるぎ)』、『蛇尾(じゃび)』が敗れるなど天地がひっくり返っても無いことだと思っていた。流石に部隊長や副隊長と戦えば負けてしまうだろうとは思っている。だが、目の前の相手が勝てるとはザーディアにはとても思えなかった。
 ザーディアの言葉を聞いた桐生は、
「落ち着きなよ。焦らなくたって……すぐに見せるさ」
 刀を真正面に構えなおし、何かするのかとザーディアが目を見張っていると、

 スゥ、と桐生は自分の刀をゆっくりと鞘へと納め始めた。

「ッ!?」
 その光景に誰もが目を丸くした。
 だが、最初に声を発したのは敵のザーディアではなく、魁斗だった。
「馬鹿か、お前は!カッコイイ事言っといて何終わろうとしてんだよ!」
「終わろうと?滅相もない」
 桐生は眼鏡をクイッと人差し指で上げて、
「始まるのさ。今からね」
 黙れクソ眼鏡、とキメ顔で言った桐生に魁斗は思わず怒鳴ってしまった。
 桐生は呆れたように鼻で息を吐く。
「ふざけるのもいい加減にしろよ」
 そんな桐生の耳に、ザーディアの苛立った声が飛んでくる。
 苛立っているのは声だけでなく、顔までもが不愉快の色に染まっていた。
「何が始まる、だ?刀をしまおうとしやがって!ボクとはもう、戦う価値もないってことかよッ!!」
 ザーディアは怒りに任せ、『蛇尾(じゃび)』の触手の六本全てを桐生へ向けて放つ。
 桐生は刀をゆっくりとゆっくりと。鞘へと納めながら言う。
「君を苛立たせる気も、切原君達を怒らせる気も無かったんだけど……本当に今から始めるのさ」
 桐生が刀を鞘に完全に納める。
 すると、ザーディアの触手の内側から氷の巨大な塊が触手を突き破って飛び出てくる。
 しかも一つではなく、触手の内側から数個もほぼ同サイズの氷の塊が突き破って出てくる。
「『氷華演舞(ひょうかえんぶ)』。切った箇所に氷のつぶてを埋めて、刀をしまうと同時につぶてを巨大化させる技だ。その『剣(つるぎ)』は恐らく、鍔から触手が出てるんだろう。つまり、鍔を壊してしまえばなんの問題もない。今ので鍔は壊れたはずだ。さあ、負けを認めるんだな」
 氷の塊はザーディアの袖の内側からも飛び出ている。恐らく桐生の言ったとおり、鍔も壊されているんだろう。
 ザーディアは懐からナイフを取り出し、トンボ型の魔物から飛び降りて桐生に斬りかかる。
「お前ごとき、ナイフ一本あれば充分なんだよ!!」
「……これは忠告だけど、僕一人に的を絞らない方がいい」
 ザーディアにその言葉は届いていない。
 彼は桐生の言葉を気にも留めず、斬りかかろうとした時、
 ゴッ!!とザーディアの背中に重たい衝撃が走る。
「………が、ァ……!?」
 何が起こったか分からないまま、ザーディアは地面に倒れる。
「さっきまで捕らわれてたお姫様が……」
 桐生はくるっと背を向けて、告げる。
「怒り心頭のようだからね」
 ザーディアの背中に肘鉄を決めた怒り心頭のお姫様、藤崎恋音がキメ顔で立っていた。
「やったじゃねぇかクソ眼鏡ェ!!」
「その呼び方は改めてほしいかな」
 勝利に湧き上がる魁斗達。
 そこへ、光の中に一点の闇が入り込むように、甘ったれた仔猫のような女の子の声が入り込んでくる。
「いやぁ〜、ホント一時はどーなるかと思ったよ」
 その言葉に聞き覚えがあるのか、魁斗達の表情から『歓喜』が消える。
 魁斗達はゆっくりと、そちらへと顔を向ける。
「ザーディア程度に負けてるようじゃ、私には永久に届かないからね〜」
 とっ、と屋上に降り立ったのは、魁斗達の最大の敵、エリザだった。

51竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/23(土) 09:10:56 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第二十一閃「凶敵、エリザ」

 トッと優しく着地したエリザは足元にいるザーディアに目も向けずに、無邪気な笑みを浮かべながら魁斗達を見つめている。
 刀も構えず、殺気も放たず。今の彼女姿を見れば、ただの可愛らしい少女に見えただろうが、彼女の正体を知っている魁斗達六人は身体が無意識に警戒してしまっている。
 エリザはその様子にはぁ、と息を吐いて、
「そんな強張んなくてもだいじょーぶ!今はほら、まだ戦う気はないからさ」
 エリザがバッと腕を広げてそう言う。
 エリザの言葉にハクアは眉をひそめ、
「……まだ?」
「そー、まだ戦う気はない」
 今度は『まだ』の部分だけをエリザは強調する。
 エリザは人差し指を立てて、くるくると回し、小さな円を何度も描きながら、ゆったりとした口調で続ける。
「いやぁー、私が見たのはここに転がってるガキと戦い始めたトコだけどぉ……ヒヤヒヤしたよ!だってアイドルちゃん捕らわれるんだもん!」
 エリザの笑顔で放たれた言葉に藤崎の表情はむっとし、少々怒っているようだ。
 でも、とエリザは一度区切って、
「流石は桐生仙一君だね。アイドルちゃん救出だけじゃなく、ザーディアを簡単に倒しちゃうなんてさ!」
「………見てた君が言うほど、簡単でもなかったけどね」
 桐生は眼鏡をクイッと上げ、エリザとは目も合わせずにそう言う。
 エリザはニコッと笑ったまま、
「でも、小隊隊長にここまで苦戦されちゃあね、流石に私には勝てないよ」
「ハッ。結構自信満々だな。そこまで勝てるって自信があるんだから、今日は戦いに来たのか?」
 魁斗は刀を構えてエリザに訊ねる。
 襟差は当然のように、首を縦に振る。
「だから言ったしょ?まだ戦う気はないって。それにしても滑稽だったよ」
 魁斗達は眉をひそめる。
 エリザはケラケラと笑いながら、
「私の『第六部隊長が天子達を殺して来い』って言ってたよ、なんて嘘ついたらこのガキ、飛んで行ったんだもん!」
 エリザは腹を抱えて大笑いする。
 ザーディアは目を大きく見開く。
 確かに『攻めろ』と言われたときはエリザにだった。自分の所属とは違う部隊だが、隊長だから信用できると思っていた。つまり、
 
 最初から負けることも想定されて自分はこの女の策略に嵌ったってことだ。

「……ぇ、ざ……エリザああああああああああッ!!」
 ザーディアは動かない身体を歯を食いしばって無理に動かし、落ちていたナイフを拾い、自分のすぐ近くにいるエリザの首元目掛け、ナイフを持った手を真っ直ぐに伸ばす。

52竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/23(土) 22:57:46 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 無防備なエリザの首筋へ向けて、ザーディアの握り締めたナイフが襲い掛かる。
 完全に魁斗達に視線がいっているエリザは気付いていない。一方で、魁斗達は気付いている。声を出そうとももう遅いだろう。
 だが、魁斗が叫ぼうとした瞬間、

 ガゴン!!という鈍い音と共にザーディアの顔面が地面へとめり込んだ。

 その場にいる魁斗達含め、何が起こったか分からなかったが、答えはすぐに出た。
 エリザの手に、エリザの身長より頭一個分小さい刃の幅が広い刀が握られており、その刀の峰で、ザーディアの後頭部を下へと叩きつけたのだ。エリザがザーディアの方を見もせずに。
「まったく……アンタ上司にどういう教育受けてんの?ガルフってそんな奴じゃないと思ってたのに」
 エリザが口にした『ガルフ』というのはザーディアの上司だろうか。ザーディアは睨みつけるような形相でエリザを食いかかるように見る。
 しかし、そんな程度ではエリザは怯まない。
「ダーメダメ。そんなんじゃ。仮にも年下だけど上司に刃向けた罪……キッチリ払えよ」
 エリザが冷たい声でそう言い放った瞬間、再び刀の峰でザーディアを遠くの方へと叩き飛ばす。
 手をかざして『おー、飛んだー』と飛んでいく相手を見ながらそう言っていると、急に刀での攻撃が飛んでくる。
 エリザは持ってた刀でそれを防ぐが、防いだ刀は二本。しかし斬りかかったのは一人。攻撃してきたのが誰かはすぐに分かった。
「今日は随分と元気じゃん。天子君」
「………ッ!!」
 魁斗は攻撃を押し返され、体勢を整えながら、相手と距離を取る。
 エリザは楽しそうな表情で、
「今日は五人かぁ……。いいね、一気にきなよ」
 ああ?と魁斗は思いっきり相手を睨みながら訪ね返す。
「この前の戦いで分かったでしょ?一人じゃ遊びにしかなんないってこと」
 その言葉に藤崎はむっとする。
 手も足も出なかったのは事実だし、言い返せる言葉も見当たらない。
「言ったよね、今度会うときは殺すって。だから殺(あそ)んであげるよ。殺(あそ)んで、壊(あそ)んで、殺(あそ)び尽くしてあげるからさ」
 エリザの顔が不敵に歪む。
 どこまでも健気で、無垢で、純粋な殺意の笑み。
 だが、そんなことで怖じては魁斗達は一生彼女には勝てない。
「いってやるよッ!!跡で吠え面かいてもしらねーからな!!」
 魁斗の言葉にエリザは怪しく微笑んだ。

53竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/24(日) 21:57:25 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第二十二閃「神隠し」

 魁斗は刀を構えながら、ハクアの後ろにいる沢木へと視線を向ける。
 見るからに、沢木は怯えている。
 無理もない。竜崎はそう思う。
 目の前で、一人の人間が地面にめり込むところを見て、目の前で人一人が遠くへ吹っ飛ばされるのを見て、しかもその張本人が自分よりも小さい年下の少女で。
 いくら見た目が可愛い子でも、そんなことをこなしてしまったら、震えるのが当然だ。
「……サワ、お前は隠れてろ。アイツは、本気で危ねぇから」
 え、と沢木は僅かに声を漏らす。
 踏みとどまろうとしても無駄だ。目の前の惨劇であの女の子がどれだけの危険人物かは素人の沢木でも分かってしまう。
 だから、自分は力になれない。
 自分の無力さを悔やみ、恨み、責め、そして歯を食いしばって、
「…………うん」
 と小さく頷いき、屋上の扉を開け、その扉から覗き込めるような隙間を作って、戦いを眺めることにした。
 魁斗はそれに気付いていない。
 教室に戻った、と考えていた。
 真っ直ぐにエリザを見つめ、
「さあ、始めようぜエリザ」
 にっしっし、と幼い笑みを浮かべて、エリザは刀身が細い刀を手に持つ。
 左手に細い刀。右手に幅の広い刀。
 まさに、重装備といった感じだ。
「行くぜ」
 ダッ!!と魁斗が突っ込む。
 魁斗は二つの刀を振りかぶり、エリザへと思い切り斬りかかる。
 対して、エリザはかわす様子も無く、左手に持っている細い刀を横へと傾けただけだ。魁斗の刀に光が纏えば、こんな細い刀などいとも簡単にへし折ってしまうだろう。
「君って直情型だよね」
 魁斗がエリザへ向けて横に刀を薙ぐ。
 だが、その刀がエリザを切り裂くことは無く、魁斗が斬ったのはエリザの残像だった。魁斗が斬ったエリザの残像はゆらゆらと揺れて、跡形も無く消える。
 
 本体は、魁斗の真後ろで、右に持った幅の広い刀を振りかぶっていた。

「真っ直ぐに突っ込んで罠に嵌るからエリザちゃんだぁいすき!!」
 ザン!!とエリザの刀が魁斗の背中を斬りつける。
 魁斗は僅かに声を漏らし、力なく地面へと倒れる。
 その光景に沢木は口に手を当てて、目に涙を溜める。
 レナは目を大きく見開き、
「カイト様あああああああああっ!!」
 涙を流しエリザへと思い切り、斬りかかる。
「待って、レナ!!」
 ハクアの制止の声が響くが、レナの耳には主を傷つけられた、という憎しみで届いていない。 
 だが、エリザはまたもや細い刀を横へ傾け、レナの背後に移動し、幅の広い刀を構える。
「あら、こんなとこにもお馬鹿さんだわ」
 ドッ!!とレナの背中から刃を貫く。
 ずっとエリザが刀を引き抜き、幅の広い刀を肩に担ぎ、ハクア達の方向を見る。
「ねーねー、五人で来ないと意味ないジャーン。この殺(あそ)びの趣旨分かってるぅ?」
 唇を尖らせて、文句を言うエリザをハクア達は相手にしない。
「……」
「私の今持ってる『剣(つるぎ)』は四つ。今のトコ発動してるのは二つ。さァて、残りのお客様はいくつ見れるでしょうかァ!?」
 エリザは楽しそうに笑いながら盛大に笑う。
 彼女の『殺人宴会(パーティー)』はまだまだ始まったばかりなのだ。

54竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/29(金) 14:10:13 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ハクア、桐生、藤崎の三人はエリザから距離を置き、各々武器を構えている。
 一方のエリザは余裕の表情で細い刀をぶんぶんと振っている。
 ハクアはエリザの細い方の刀を凝視して、何か結論を出したかのように、桐生と藤崎に小さい声で話しかける。
「桐生君、藤崎さん。あの細い方の刀、名前と能力を思い出した。今から彼女のトリックを解くから、隙が出来次第アイツを攻撃して」
 それだけ言って、ハクアは桐生と藤崎が頷くより早く、疾風の如く薙刀の風を逆噴射してジェット機のようにエリザへと突っ込む。
 エリザはハクアの行動が無謀だとでも言うように嘲りながら、
「まーたまた馬鹿なお・きゃ・く・さ・ん。そんなんじゃ、アンタも転がってる天子と養育係の二の舞なのよ」
 エリザは左手に持っている細い刀を横へ再び傾ける。
 だが、それに気付いたハクアが薙刀を上から下へと救い上げるように薙ぎ。完全に横に傾けられる前にエリザの持っていた刀がカァン!!と高い音を鳴らして、空へと打ち上げられる。
 エリザはその光景に目を大きく見開き、まるで予想以外の事態に慌てふためくように右手に持っていた幅の広い刀を地面に落とす。
「あなたのその刀は『神隠し(かみかくし)』。横に傾けることによって自分を相手の背後に移動させる能力。だったら話は簡単」
 ハクアはエリザを真っ直ぐに見つめて、
「横に傾ける前に弾き飛ばせばいい。今残っている三人でそれが出来るのは多分私だけだったから、うまくいってよかったわ」
 ハクアが薙刀を上へ向けた状態から、そのまま振り下ろそうとして、

「ざーんねんすぎるよ?そんな致命傷があるってのに、弾かれたと時を想定してないわけないでしょうが」
 ニヤリ、とエリザが不気味な笑みを浮かべる。

 エリザの懐から、鎖が伸び、ハクアの身体に絡みつく。
「あれって……」
 その鎖の正体に藤崎は痛い思い出がある。
 そう。以前エリザが藤崎と交戦した時に用いた鎖鎌型剣(つるぎ)の『鎖砲牙(うさりほうが)』。
 本来は先端の刃を高速で射出するのだが、エリザが使えば相手の拘束するための道具にもなる。
「………ぐぅ……!!」
 ハクアは鎖の拘束から逃れようともがくが、もがけばもがくほどに鎖はハクアの身体に食い込んでいく。
 そして、ハクアによって打ち上げられた『神隠し(かみかくし)』がくるくると宙を舞い、ぶすっと。ハクアの左肩に突き刺さる。
「………ッ!?」
 ハクアが激痛で叫ぶより早く、エリザが鎖をハクアから解き、落としてしまった幅の広い刀を拾い上げ、ハクアの身体を斬りつける。
 ハクアはそのまま膝から崩れ落ちて、うつぶせに地面に倒れこむ。
 魁斗、レナ、ハクアを倒したエリザは不気味に舌なめずりをして、残った桐生と藤崎を睨みつけ、

 一瞬で二人の目の前へと現れる。

 桐生と藤崎が構えるより早く、エリザの攻撃が二人を斬り裂き、地面へと倒れこませる。
「あちゃー、本気出しちまったぜい。こりゃ、ほんの少しも楽しめ――――――」
 エリザの言葉は途中で途切れる。
 何故なら、背中を斬りつけられた切原魁斗が立ち上がり、エリザへと突っ込んでいたからだ。
 エリザは諦めが悪いなぁ、と呟き刀を構えるが、引こうとしていた右手がぐっと、何かに掴まれて動かない。
 振り返れば、桐生仙一が刃を手で掴み、地面に突き刺して、地面から生やした氷柱で、エリザの腕を凍らしていたからだ。
(……こいつら……満身創痍で……っ!?)
「うおおおおおおあああああああ!!」
 魁斗の方向により迫る刃が、ついにエリザを捕らえた。

55竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/30(土) 00:59:02 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第二十三閃「決着と決意」

(……やるじゃない……ッ!最高だよ、君達…!!)
 切原魁斗の迫り来る刃を前にエリザは口の端を歪めて、心の中でそう呟く。
 ハクアの肩に突き刺さった刀を引き抜かなかったのは残っている桐生仙一と藤崎恋音との戦いを楽しむための一つのハンデ。
 『鎖砲牙(くさりほうが)』を懐に戻さず、さっき立ってた場所に置いてきたのも、飛び道具を封じ、戦いを楽しむための二つ目のハンデ。
 今の状況を見れば、誰もが切原魁斗の勝利を確信しただろう。
 唯一刀を持っているエリザの右手は桐生仙一によって凍らされて動かせない。切原魁斗のように双剣を使っているわけでもない。
 もう切原魁斗の勝利は決まったようなものだった。ただ、

 エリザの発動した『剣(つるぎ)』の数をちゃんと数えた者以外は。

 エリザはニッと笑みを浮かべ、そのまま魁斗を見つめる。
「おっしいー!あと一歩。がんばりましょー」
 エリザは懐へ自由の効く左腕を忍ばせる。
 次の瞬間、エリザの黒コートを突き破って、槍が姿を見せる。
 勢いのついた自分の身体を止めることが出来ず、ずん、と切原の腹に槍の刃が突き刺さる。
 魁斗は自分の腹に何が刺さったのかもロクに確認できずに、仰向けに倒れる。
 くそ、と桐生は悔しさの言葉を呟いて、そのまま気を失ってしまう。
 全員戦闘不能。
 桐生が気絶したことによって自由になった右腕。エリザは右手が持っている刀の峰で肩をトントンと叩きながら、
「ふにゃあ、最後はちょっとヒヤッとしたなー。ま、あくまでヒヤッとしただけ、だけどね」
 彼女が最後に発動した『剣(つるぎ)』、槍型の『蓮華(れんげ)』。
 本当は槍としてだけでなく、三節に折って刃のついた三節棍として扱うことも出来るのだが。
 エリザはハクアの元へと駆け寄り、相手のことなどお構いなしで肩に突き刺さった刀を引き抜き、その近くに転がっていた『鎖砲牙(くさりほうが)』も懐にしまいなおす。そして、彼女の足は切原魁斗へと向けられる。
 エリザは彼の側で幅の広い刀を上へと振り上げる。
「ふふ。さて、そもそも君を殺して『シャイン』を奪うってのが我らの目的だったのだ!つーワケで君から殺すけど、恨まないでね?」
「待ってくださいっ!!」
 振り下ろそうとした刀が、咄嗟に飛んできた少女の声によって止められる。
 エリザが声の下方向を見ると、顔を真っ青にした沢木が息を切らしていた。
 走ったわけでも、急いでどこかへ行ったわけでもない。
 彼女の息が切れているのは、ただ大切な友達が傷つけられているからだ。目の前の惨状に目も当てられないほどに心が痛んだからだ。
「何さ」
 エリザがそう問いかけると、沢木は走り出して魁斗を庇うように腕を広げてエリザの前に立ちふさがる。
「………殺さないで……!この人は……私の、大切な人なの……!私が何でもするから、皆には手を出さないでくださいっ!!」
 無論、悪者であるエリザにこの言葉は響かない。
 『友情っていいねー』って感想が浮かぶだけだ。
 しかし、今のエリザは違い、彼女の頭に更なる『殺人宴会(パーティー)』の内容が思い浮かんだ。
 彼女はそのシナリオに心底満足しつつ、
「何でも……?じゃあ……」
 沢木の言葉にエリザは容赦なく、『何でも』の内容を述べる。
 説明は短い時間だった。言い終わると、沢木は僅かに躊躇うも後ろの魁斗へと視線を落とし、
「………分かりました…。でも、最後に一つだけ……お願いがあります……」
 頷き、エリザの要求を承諾した沢木はエリザを真っ直ぐに見詰めて、懇願するような瞳で『最後のお願い』の内容を説明する。

56竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/30(土) 10:58:30 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「………ん………」
 切原魁斗は目を覚ます。
 自分が目を開くと移ったのはどこかの室内らしき天井。自分の記憶にあるのは最後、エリザに突っ込み、状況が飲み込めないまま倒れたところまでだ。気がつけば身体のあちこちが痛む。
 魁斗は上半身を起こして辺りを見回す。
 エリザと戦ったのは学校の屋上。ここは教室でもないし、自分の家の部屋でもない。
 内装でかなりキレイ好きな奴が住んでいそうだが、今ここにいるのは自分だけなのだろうか。レナ達は大丈夫なんだろうか。あれこれ考えていると、不意に部屋のドアが開く。
「あ、おはようカイト君」
 入ってきたのはハクアだった。
 やはり戦った後なのかハクアも包帯を巻いているし、痛むところを手で押さえている。
「……ハクアさん…?ここって一体……」
「僕の家だ」
 魁斗の質問に答えるかのように部屋に足を踏み入れたのは桐生だった。
 眼鏡を上げて、答える桐生は続けて、
「下に来るんだ。話すことがある」
 ?と首をかしげる魁斗だったが、とりあえず下へ降りることにした。

 下は広いリビングで、桐生って意外と金持ちなのか、と魁斗は思ってしまう。
 下には案の定レナと藤崎がソファに腰掛けていた。
 レナは魁斗の姿を見ると、
「カイト様!……いつつ…」
 急に大声を出して、魁斗が無事なことに安堵するが、傷が痛んだらしく、腹を抱える。
 自分、レナ、ハクア、桐生、藤崎。魁斗は一人いないことにすぐに気付いた。
 戦っておらず、唯一無事でエリザが手を挙げなさそうな一般人。
 沢木叶絵だ。
「………なあ、サワは…」
「今から、それを話すところです。カイト様が目を覚まされるまで、私達はここで待機していたのですが、現場にあった手紙を…先に読ませてもらいました」
 手紙?と魁斗が聞き返すと、手紙を見せ、説明していたレナはコクリと頷く。
 レナはその折ってあった手紙を広げ、そこに書いてあることを読む。
「『カイト君、レナさん、ハクアさん、桐生君、恋音ちゃん。皆、無事だと嬉しいです。私はカイト君達を殺されるのが嫌で、エリザさんの前に立ち塞がりました。エリザさんは私が拉致されることと交換条件にカイト君達を殺さないし、これ以上カイト君達を危機に晒さないと約束してくれました。だから、カイト君達はこれからいつも通り生活してください。今までありがとうございました。そして、さようなら』」
 その手紙の内容に魁斗は勿論、一度聞いたはずのハクア達も歯を食いしばり、手から血が出そうなほど拳を強く握っていた。
「あと、カイト様に他に伝えることがあるそうで、この手紙の内側に入ってた紙に書いてあるそうです。私達は目を通してませんので」
 魁斗はレナの差し出した小さな紙を手に取る。
 それに目を通す。それを読んだ上で、歯を食いしばり、震え、血が出そうなほど拳を握り締め、
「……………くそ……」
 ポツリ、と呟く。
 膝から崩れ落ち、床をドン!!と拳で殴りつけ、叫ぶ。
「くっそおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

57竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/30(土) 12:58:41 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第二十四話「怒りの一撃」

 この日、珍しく魁斗は母親に『行ってくる』と言わずに家を出た。
 先日、沢木叶絵がエリザに攫われたショックにより魁斗はまともに誰とも話してはいない。守らなければいけない人に守られた。
 魁斗はギリッと歯噛みし、
「……くそ…」
 と小さく呟く。
 レナも急いで魁斗を追おうとしたところで、
「……ねぇ、レナちゃん」
 魁斗の母、魅貴に呼び止められる。
 レナは足を止めて、玄関でドアを開けたまま、レナを呼び止めた魅貴へと近づく。
「……カイちゃんどうかしたの?何か、昨日帰ってから元気ないけど……」
 レナはそこで少し言い淀む。
 レナは魅貴に魁斗の正体やらを明かしているため、魁斗やレナが戦っていることは知っているが、レナとしても魅貴に心配はかけたくない。だからこそ、レナは笑みを浮かべて、こう言う。
「えっと、昨日の数学で分からないところがあったんですよ。それが分からずじまいでイライラしているだけです。では行ってきますね、お母様」
 ペコッと頭を下げてレナは駆け足で魁斗を追いかける。
 しかし、レナは魁斗の横に並んで歩かず、彼から数メートル離れたところから彼の後をついていっている。
 やはり、昨日の事はそれほどショックだったのか、離れていても魁斗に話がけづらいのは分かる。レナも魁斗のこんな様子を見るのは初めてだった。どう対処していいか分からずおろおろしていると、
「やーっぱりこういうことになるのね」
 不意に上から声がかかった。
 レナのよく知る人物の声だ。
 薙刀に腰をかけ、空中遊泳しているレナの大親友のハクアだ。
 ハクアは地面に華麗に着地すると、数メートル先の魁斗へと視線を向け、軽く溜息をつく。
「まああれは話がけづらいわね。分かるわよ。やっぱり、サワちゃんは遠ざけるべきだったんじゃないのかな……」
 ハクアは自分が沢木にある一つの道具を渡したことを思い出す。
 半端な力を与えてしまったために、沢木はもう後に引き返すことは出来なくなっていた。一緒に戦えるから。そういう判断が沢木にあったんだろう、だから沢木は自らエリザに拉致されたんだ、とハクアは自責の念に駆られる。
 すると、バサバサ!!と不自然に羽ばたく音が空から聞こえてくる。
 空には複数の黒い影。全員が黒い衣装に身を包み、口元を黒い布で隠している忍者のような風貌の男達だ。
 ハクアは彼らに見覚えがあった。
 こっちに来て、魁斗とレナに会った後に襲ってきた奴らと似ている。いや、そっくりだった。
 戦闘にいるのは髪をオールバックにした目が細く鋭い細身の男だ。衣装は後ろにいる下っ端とおぼしき男達と一緒だったが、彼の手には鎖が握られていた。
「………あいつらって………!」
「『死を司る人形(デスパペット)』……!?」
 だったらおかしい。
 沢木の置手紙にはこう書いてあった。
『エリザさんは自分が拉致されることと交換条件にカイト君達を殺さないし、これ以上カイト君達を危機に晒さないことを約束してくれました』と。
 つまりは『これ以上魁斗達を狙って『死を司る人形(デスパペット)』は攻撃してこないということだったんじゃないのか。
 彼らが『死を司る人形(デスパペット)』だったなら、答えは一つ。
 
 エリザは約束を守らずに、何事もないかのように魁斗達を狙い、沢木が攫わられた意味がなかった。ということだ

58竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/30(土) 21:42:42 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……うっそでしょ?」
 空に舞う『死を司る人形(デスパペット)』の男達を前にハクアはそう呟く。
 自らを犠牲にした沢木のエリザへの願いはあっさりと破棄された。
 そうでなければ、彼らが魁斗達の狙うはずもないのだから。
 空に舞う男達の先頭の男は細く、鋭い目で、たった一人の男を見つめる。
 レナやハクアと数メートル離れ、一人で歩いている切原魁斗だ。
 男はニヤリ、と笑いカウボーイのように手にある鎖を回しながら、魁斗へと特攻を仕掛ける。
「ヒャッハァ!!天子ィ!この第四部隊第二小隊隊長のスバンナ様が、直々に殺しにきてやったぜぇ!!」
 男が魁斗へと鎖で攻撃しかける。
「カイト様!!」
 数メートル離れているレナとハクアでは追いつかない。
 二人の頭には鎖を首に巻かれ、絞め殺される魁斗を想像したが、魁斗とスバンナの戦いは誰もが思いもしない結果を迎えた。

 ガゴン!!鈍い音とともにスバンナの顔面が地面にめり込んだ。

 スバンナも理解が出来なかったのだろう。スバンナを叩き伏せたと思われる場所には魁斗の学生鞄がある。つまり、魁斗は学生鞄一つで小隊隊長を一人叩き伏せてしまったのだ。
 空にいたスバンナの部下は顔色を悪くして、一斉にスバンナへと駆け寄る。
 そんな彼らを横切り様にハクアはこう告げる。
「やめといた方がいいよ。今のカイト君は私でも、レナでも止めれない。無闇に喧嘩を売ったら、寿命を縮めるから」
 先へ行ってしまった魁斗を追ったレナに追いつくため、ハクアは駆け足で、魁斗の通った道を進んでいく。

 魁斗は河川敷に座り込んでいた。
 心の中で渦巻くのは大切な人を守れなかった自分への怒りだ。
 今学校に行ってもいつものように元気に挨拶してくれる沢木はいない。そうなれば、自分が学校へ行く意味も見つけられなかった。
「……あの時、俺がエリザを倒してれば…いや、そうでなくとも深手を負わせてたなら……サワを、守れたのかなぁ……」
 俺はどうすればいいんだよ、と魁斗は俯きながら呟く。

「だったら強くなればいーんだよ」

 不意に少女の声がすさんだ魁斗の耳に響く。
 顔を上げると、目の前にいるのはしゃがみこんだ十歳前後の女の子。肩くらいの白に近い銀髪を持ち、耳には金色の丸いピアスがついている。右手には柄の長いハルバードに似た武器を持っている。
 一目で分かる。
 彼女は天界の人間だ。それも武器を持っているとなれば、
「大丈夫。私は君の敵じゃない。敵だったらすぐに攻撃してる」
 警戒するより早く、少女がそう言い放つ。
「私は君を助けに来た。で、合ってるのかな…?」
 首をかしげ、自問自答する少女に魁斗は、短くこう訪ねる。
「…お前は、一体誰なんだ……?」
 うん、と少女は立ち上がって、んーっと伸びをしてから、左手を腰に当て、名乗り始める。
「私はメルトイーア。長いからメルティでいいよ。天界では、私はこう呼ばれてる」
 メルティと名乗る少女は一拍置いて、告げる。
「幻の情報屋メルティってねっ!」

59竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/31(日) 10:58:30 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第二十五閃「新たな仲間」

 現在、魁斗とレナは学校にいる。
 二人は学校へ向かい、二時間目から授業に参加することとなった。そして今は昼休み。いつもの学園組四人とハクアはまたも屋上へと集まっていた。しかし、ここに一人だけ、魁斗以外知っている者はいない一人の少女が何の違和感もなく魁斗達に混ざっていた。
 桐生はその少女を見て、目を点にした後、
「……で、それは誰かな?レナさんの妹?」
「いいえ、違います」
 何となく妹がいそうな気がしていたが、彼女はレナとの血縁関係は無いらしい。
 それどころか、魁斗も説明しようとしない。
 銀髪の少女は魁斗の膝の上に乗っかって、笑みを浮かべながら、
「ささ、自己紹介!まずは君らから」
 ビシィ!!と急に指を差されへ!?と間の抜けた声を藤崎は思わず漏らしてしまう。
 何で私からなの、と不満を漏らし、桐生へと視線を向ける。恐らくこの視線は『お前が訊ねたんだからお前から言えよ』の視線だろう。
 桐生は、溜息をついて、眼鏡を上げながら、
「…桐生仙一だよ。君は、天界の人間でいいんだね?」
「うん、ドンピシャー」
 少女はニッコリしたまま答える。
 すると、少女は次に藤崎、ハクア、レナへと視線を向け、その視線が嫌だったレナ達も名前を名乗っていく。
 全員の名前を聞くと、少女は魁斗に身を預けながら、
「私は情報屋のメルトイーア。長いから簡単にメルティって呼んでねー」
「め、メルティ!?」
 少女の名前にレナとハクアは思わず立ち上がってしまう。
 そんな二人に魁斗達、天界の人間じゃない三人はビクッと肩を大きく揺らす。
「……どーかしたの?」
 そんな二人を藤崎は戸惑ったように見つめる。
 レナはすいません、と言って座りなおすと、
「『幻の情報屋メルティ』。噂によれば、どんな情報でもすぐに提供し、提供できない情報はないと言われています。しかし、彼女を見つけることは困難で、姿を見た者はほんの一握り…」
 うんうん、とメルティは満足そうに頷いている。
 もっとも姿を見た事が無い、というのは彼女が姿と年齢を自在に変えることが出来るかららしいのだが。
 膝に乗っかられて身動きが取れない魁斗は、
「…で?お前は俺らを助けに来たって言ったよな?それってどういうことだ?」
 ふふ、とメルティは笑って魁斗の膝上から降りる。
「どーせほしいと思ってさ」
 何を、と魁斗が聞き返すと、メルティは口の端に笑みを浮かべながら答える。
「沢木叶絵のことだよ」
 メルティは腕を組み、そう答える。

60竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/31(日) 13:01:05 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
 今回からちょっと変えますね。
 前は一話あたり二レス程度でしたが。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 
 
 沢木叶絵は天界にある、『死を司る人形(デスパペット)』のアジトの暗い牢屋に閉じ込められていた。
 服装は連れ去られた時とは違い、漆黒のドレスだ。ドレスと言っても上品なイメージはあるものの装飾はまったくなく、スカートの裾にレースがついているだけだ。沢木は牢屋の壁に四角く区切られた窓を見ている。光が差し込んでいる辺り、時間帯は向こうの世界と同じのようだ。しかも拘束具が何一つ付けられていない。
 沢木が窓を見ていると、後ろから足音が聞こえ、振り返ってみる。
「やあ、元気かな」
 そこに立っていたのは白のシルクハットに白のスーツ。さらにはその上から纏っているマントも白といった沢木とは正反対に白一色の男だった。顎には僅かにひげが伸びている。
 男はニヤリと笑って沢木を見つめている。
「………貴方は?」
 沢木は壁にべったりと背中を当てて、怯えたような調子で訊ねる。
「私はマルトース。第五部隊隊長さ。つまりはエリザと同じくらい強いってこと」
 隊長、と沢木はポツリと呟く。
 隊長といっても強弱がある。上位にいるのは第一、二、三、四、八の隊長らしく、彼の言う五は中の下といったくらいらしいのだ。
 マルトースと名乗る男は帽子を上から押さえつけるように手を置いて、
「しかし、君も酔狂なことをするもんだ。仲間達を助けるために自分が犠牲になるなんて。正気の沙汰じゃあない」
「いいんです」
 マルトースの言葉に沢木は即応する。
 沢木の眼に揺らぎはなく、二度と迷うことは無いような強い瞳だった。
「決めたんです。私が皆を守るって。今まで皆必死に戦ってきたんですから。私だけ、蚊帳の外はもう嫌なんです」
 ふぅん、とマルトースは笑みを浮かべながら適当に返事をする。
 しかし、エリザに負けていてはその上の強い隊長達には太刀打ちできない。しかも隊長や副隊長や小隊隊長を含めば、欠員を除いても六十六人もいる。魁斗達はたった五人しかいない。もっともメルティが加わって六人になったのを二人は知る由も無いが。
「希望は持たないことだ。だが、諦めることもするな」
 マルトースは牢屋の入り口へと向かい歩き始める。
 そして、出て行こうとしたところで沢木には聞こえないような声のトーンでニヤリと笑いながら、

「いつか君自身が希望を殺してしまうんだから」

 それだけ呟いて、マルトースは牢屋から出て行く。

61竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/31(日) 14:20:00 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「お前……サワのこと、何か知ってるのか?」
 メルティの言葉に魁斗は思わずメルティの肩を強く掴んでしまう。
 予想以上の食いつきに僅かに面食らうメルティだが、相手の質問にコクリと頷く。
「ま、まあ答えられない情報はないし…。とりあえず落ち着いて」
 魁斗は自分がメルティの肩を掴んでいることに気付くと、ハッとしたように手を離す。
 コホン、と咳払いをしてメルティは説明を始める。
「彼女は今、『死を司る人形(デスパペット)』の牢屋にいるの。まだ何もされてはいないから安心して」
 良かった、と魁斗は息を吐く。
 皆も安心したようにホッとするがハクアは、
「まだ、ってことは何かされるかもしれないってことよね」
 ハクアの言葉にうん、とメルティは頷く。
「あくまでも人質だからね。それとエリザが沢木叶絵と交わした『君らを襲わない』ってのはなかったことにされた。沢木叶絵はそれを知らない」
 その言葉に全員の目つきが変わる。
 メルティは続けて、
「それに、あいつらは沢木叶絵を使って何をしでかすか分かったもんじゃない。気をつけたほうがいい。エリザが出てきた以上、これから小隊隊長だけでなく、副隊長も隊長も来るだろうからね」
 その言葉に魁斗達は黙り込む。
 ザンザやカテリーナにも何とか勝てたレベルだし、エリザに至っては手も足も出なかった。
 ここからは一戦ごとが死ぬ気で行かねばいけない。ずっと極限状態で戦わなければいけないのだ。
「…………メルティ。こんなこと言うの、偉そうだと思うけどさ……」
 魁斗はメルティを真っ直ぐに見つめて、
「力を貸してくれ。俺達と…一緒に戦ってくれないか?」
「カイト様……」
 メルティは真っ直ぐに見つめてくる魁斗から目を離さなかった。
 二人は数秒見つめあった後、メルティがニッと笑う。
「何言ってんの。最初に言ったでしょ?『君を助けに来た』って。君が願いさえしてくれればいつでも戦う準備は出来てたよ」
 それに、とメルティは付け足して、
「私、君が好きだしっ!!」
 バッ!!とメルティは魁斗に抱きつき、心底幸せそうな笑みを浮かべている。
 なっ!?と魁斗は顔を赤くする。
 抱きつこうとしたメルティを離そうと、レナは必死になり、それを見ているハクア、桐生、藤崎は溜息をついている。
 
 六人の沢木叶絵を助けるための戦いが始まった―――。

62竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/31(日) 20:05:54 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第二十六閃「修行開始」

 土曜日の朝。魁斗達五人はメルティから河川敷へと呼び出されていた。河川敷へ着くと、メルティは赤のジャージ姿にキャップを被り、腕を組んで立っていた。朝練前の監督か、と魁斗は心の中でツッコむ。
 メルティは魁斗達五人がいるのを確認してから、
「えーと、全員いる?点呼取るよー」
「オイオイ、さっき見てなかったか?つーか五人で点呼はいらねーだろ」
「切原魁斗君」
「聞けよっ!!」
 自分の話を華麗にスルーしていくメルティに魁斗はイライラしていた。まあまあ、とレナは魁斗をなだめ、メルティの説明が始まる。
 メルティは組んでいた腕を解き、腰に手を当て、
「さて、今から君らには修行をしてもらいます。彼女を助けるためには強くなんないといけないからね」
 確かにメルティの言うとおりだ。
 小隊隊長には勝てても、大本命の隊長に勝てなければ意味がない。最低でもエリザを一人で倒せるほどにならないとこの先の隊長には勝てないだろう。魁斗達の目標はエリザだ。まずは彼女の強さを超えることから始まる。
 メルティはポケットから割られた割り箸を六本用意して、その割り箸の先を手の平で包み、すっと前に差し出す。
「まずはタイマンでガチ勝負。今からくじを引いて先の色が同じ人と組んで戦ってもらいます!」
 そこで魁斗は首をかしげ、周りを見回す。
 自分、レナ、ハクア、桐生、藤崎。修行するのは五人だ。つまり、二人一組では一人余ってしまう。
「おいおい、それは無理だろ。俺達五人だぜ? どうしても一人余っちまう……」
 魁斗が完璧に言いきる前にメルティが人差し指でメルティ自身をちょいちょいと指差している。
 ちゃっかり入ってんのかよ、と魁斗は表情を引きつらせる。
 魁斗達は一人ずつくじを引いていき、先の色を確かめる。
 組み合わせはこうだ。
 赤色を引いたのは、魁斗と藤崎。青色を引いたのは桐生とハクア。黄色はレナとメルティ。この組み合わせで戦うことになった。
 魁斗は軽く刀を振って、
「まっさか藤崎と戦うことになるとはなぁ。エリザ戦で助けるの遅かったの根に持ってたりする?」
 ふふ、と藤崎は可愛らしく笑って、
「当然だよー?女の子をあんなに甚振らせて何が楽しかったのやらー」
 何気に作り出された笑顔が怖い。
 やっぱりな、と魁斗が苦笑いを浮かべる。
 メルティがうーん、と伸びをして、腕を上から下へ振り下ろしながら告げる。
「んじゃ、開始っ!!」

63竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/05(金) 13:16:24 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
 書き忘れてましたが、付け足しというか、補足というか。
 >>2>>10までが序章、>>11〜61までが第一章です。
 >>62から第二章と思って読んでくださったら嬉しいです。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 天界にある『死を司る人形(デスパペット)』の牢に一人の人影が入ってきた。
 牢にいる沢木は自分の牢の前で止まる人物の顔を見上げるように眺める。
 そこに立っていたのは、十八歳程度の容姿に、黒髪のポニーテールで右目に眼帯をしたクリスタという女性だ。エリザと対等に話していた辺り、彼女も隊長なのだろう。
 沢木が口を開き質問をするより早くクリスタは、
「お前が、向こうの世界の人間だな。見るからに薄幸な顔だ。殺す気すら薄れてくるとは……何か特殊な力でも持ってるのか」
 ククッと心情が読めないほど僅かに口を歪ませるクリスタ。
 沢木には彼女が何を考えているのかも、自分に何をする気かも分からない。それ程、クリスタの表情には何も表れていなかった。
「…そういえば名を名乗っていなかったな。私は第九部隊隊長のクリスタだ」
 その言葉を聞いて、沢木は呟くように、
「……ここには隊長さんがいっぱい来るんですね…」
 クリスタはピクッと反応して、
「ほぅ。ここは副隊長以上の階級と決められている看守しか入れないからな。最近来たのは誰だ?」
 沢木はクリスタの質問に『真っ白な人』と答えた。
 クリスタは首を捻って、誰かを考える。『白い人』はマルトースのことなのだが、沢木はロクに名前も覚えていなかった。
 思い当たったように、クリスタは口を開く。
「マルトースか。アイツは変人だから気を付けろよ。しかし、お前の友達とやらも諦めが悪いなぁ」
 不意に呟かれた言葉に沢木は思わず『え?』と言葉を漏らしてしまう。
 独り言、というよりはわざと聞こえるようにクリスタは呟いた。
「ああ、聞こえたか。いや、お前が攫われたから助ける、とか息巻いて修行に励んでいる。元々、エリザもお前との約束を守る気はないぞ。お前がこっちにきた翌日、既に第四部隊の小隊隊長が奇襲したからな」
 沢木はその言葉に顔色を変えて、
「ちょっと待ってください!!それって…それってどういうことですかっ!?何で…」
「分からないのか」
 牢にしがみついて抗議する沢木に、クリスタは冷徹に言葉を浴びせる。
「お前らの友達がこっちに玉砕覚悟で来るなら私達としても潰しやすい。お前は奴らをおびき出すための餌、というだけだ」
 クリスタは牢から出ようと踵を返し、かつこつと靴を鳴らしながら歩く。
「じゃあな。お前もそろそろ覚悟しとけよ」
 クリスタはそれだけ呟くと牢から出て行く。
 沢木は目に涙を溜めながら思う。自分は何のためにここに来たのか。誰を守るためにここへ来たのか。結果、誰を守れたのか。

64竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/05(金) 18:06:48 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 河川敷には刀と刀がぶつかり合う音が響いていた。
 魁斗対藤崎、桐生対ハクア、レナ対メルティ。戦っているはずなのだが、彼らには共通して『本当に戦っているのか』と問いかけたくなるような場面がある。
 六人全員が何故か楽しそうな顔をしているのだ。
 これは単に戦いが好きだからという戦闘狂みたいな理由ではなく、戦闘狂のような狂った笑みではない。仲間と一緒に自分を高め合うことが楽しいのだ。
「やるじゃねぇか、藤崎」
「相手がエリザだったから弱く見られてただけよ!」
 魁斗と藤崎は楽しそうにそう話す。
 それを眺めながら、桐生は軽く息を吐き、眼鏡を上げながら、
「楽しそうにしちゃってまー、一応修行なんだけどね」
「桐生君も余所見しちゃってまー、一応修行だよ?」
 自分の言葉を使ってハクアに返された桐生は苦い表情を浮かべる。
 そうだね、と桐生は返して、刀を構え直す。
「ううーん、やるねぇ。結構強いじゃん」
「侮られては困ります。それに、まだ本気じゃありません」
「だろうね」
 しかし、何故かレナとメルティからはただならぬ威圧感を感じる。
 高めあうのが楽しいとかではなく、普通に戦うのを楽しんでいるようにすら思えるような笑みだ。
 レナとメルティの武器が交わることはなかった。何故なら、

 ズドォン!!と巨大な地響きと共に大男が河川敷へと降り立ったからだ。

 魁斗達は一斉にそちらへと視線を移す。
 立っていたのは二メートルを越す巨体に柔道着のような服を着た男だ。身体は太っている、というよりはガタイが良い、と言った方が当てはまるような筋肉を持っている。
「……ふむ。六人か。情報より一人多いようだが……構わん。何人であろうと潰すまでだ」
 魁斗達を眺めても大男は余裕の表情だった。
 魁斗達は男を見て、すぐに感じたことがある。ザンザやカテリーナ、ザーディア達小隊隊長達(スバンナはすぐに倒したから覚えていない)より上でエリザより下の圧力、つまり彼は、
「ブッソーだね。まずは名前でも名乗ったらどうかしらん」
 メルティは場に似合わぬ可愛らしい笑みを浮かべて男に告げる。
 男はコクリと小さく頷き、腕を組んで、答える。
「拙者の名はアギト。肩書きも含めて答えるならば……」
 男は息を吸い、呟くように告げる。
「第二部隊副隊長」
 そう。
 彼は今まで魁斗達が相手をして、勝利を収めた小隊隊長ではなく、その一つ上の副隊長なのだ。
 彼の肩書きを聞いて、メルティは楽しそうに笑みを浮かべ、てってこてってこと男の前に立つ。
「おい、メルティ!?危ねぇって!」
「馬鹿言わなーいで」
 魁斗の制止も全く聞かず、メルティは手をぶんぶんと振る。
「君らを戦わせる方がよっぽど危ないよ。コイツは、私が片付けちゃる」
 はぁ!?と抗議の声を漏らした、魁斗だが、メルティは最早聞いていない。
「……失礼ながら、お手前は」
 男の口調は丁寧そのものだった。
 礼儀いいじゃん、と呟き、メルティは腰に手を当て、ジャージを脱ぎ捨てる。
 ジャージの下は、白いシャツに、丈が短い黒コート、そして、短パンにガーターベルトつきのニーハイソックスにブーツといった、彼女の基本スタイルだ。
「メルトイーア。幻の情報屋だいっ!!」

65竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/05(金) 21:36:10 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第二十七閃「メルティVSアギト」

 メルティは武器も用意せず、両手を腰に当て、何か不気味に『ふふふ』と笑いながらアギトを見つめている。
 それを不審に思い、眉をひそめているアギトは、
「…どうした。早くそなたも『剣(つるぎ)』を出さぬか。か弱き無抵抗な女児を殴るなど、拙者には出来ぬのでな」
 その言葉を聞いた、傍観者と化している魁斗は、
「はぁー、いい奴だなー。用意するのを待ってくれるのかよ」
 その横で桐生が眼鏡を上げ、
「何を言っているんだ。相手にはそれほど余裕があるってことだ。少なくとも、僕は彼の言葉には余裕が感じ取れるけどね」
 桐生の言うとおりでもある。
 敵に合わせる、ということは敵を下に見ているか同等に見ているか。つまり、アギトの言葉に含まれている意味は『余裕』。彼は同じ条件で戦っても勝つ自身があるようだ。
「へ、中々見上げた戦士だね。でも、あなたもまだ出してないでしょ?」
 メルティの言葉にアギトは僅かに反応を示し、笑みを浮かべる。
「いかにも。我が『剣(つるぎ)』は……」
 アギトがそう言った瞬間、彼の帯に強引に付けられたバックルが光となり、彼の両腕の手の甲へと纏わりつく。
 光は姿を変え、トゲがついた鉄鋼へと化す。
「ふぅん!!」
 アギトはその鉄鋼で地面を殴りつける。
 殴った後は地面が大きくえぐれ、爆弾でも落とされたような後だ。
 魁斗達はそれを見て、顔色を一気に変える。
「……ちょ、あんなの喰らったら……」
「その通り。彼女の華奢な身体など肉片となりて弾け飛ぶ」
 ハクアの言葉にアギトは顔色をちっとも変えずに言う。
 それに危機を感じる魁斗達だが、戦うメルティ本人は危機など微塵も感じずに、
「面白そうじゃん」
 ニッと笑みを浮かべて見せた。
 理解できないとでも言いたそうな魁斗達を無視し、メルティは右手を広げる。
「競ってみよっか。あなたの拳と、私の斧。どっちが強いかを」
 メルティの右手に握られたのは柄の長いハルバードに似た武器、彼女の『剣(つるぎ)』だ。
 メルティは首をごきごきと鳴らして、真正面を見据える。
「っしゃあ!いつでもかかってこんかいっ!!」
 楽しそうな笑みを浮かべ、人差し指でくいくいと挑発するような素振りすらも見せた。
 そう。メルティも相手に対して『余裕』を感じているのだ。

66竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/05(金) 22:53:57 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 メルティは斧を構えたままアギトを見据え、アギトは拳を強く握り締め構えたままメルティを見つめる。
 二人の視線は火花を散らすほど静かで、見ているほうが緊張するほどの圧力を発していた。
 そんな二人を見て魁斗は、
「…何で二人とも動かないんだ?」
「いえ」
 魁斗の言葉にレナは否定の声を漏らした。
 魁斗がレナの方へと視線を向けると、レナは緊迫したような口調で、
「『動かない』ではなく『動けない』のです。双方とも相手の出方を窺っている…。もう二人の頭の中では、既に戦いが始まっているのですよ」
 そして、ようやくメルティとアギトがほぼ同時に口を開き、

「「いや攻撃しろよ」」

 その発せられた言葉に、妙な緊張感を感じていた魁斗達はがくっとこけそうになってしまう。
 二人は『動かない』でも『動けない』でもなく、ただ相手に先手を譲ってあげようと思っていただけだったようだ。
「ふん。ここはそなたに先手を譲ろう。レディーファースト、というやつだ」
 優しいね、とメルティは笑みを浮かべる。
 先手を譲ったアギトも、笑みを浮かべたメルティもただの『余裕』しかなかった。
 だが固まっていてはいつまで経っても戦いが始まらない。メルティはダッと地面を蹴って、一気に空高く飛び上がり、ハルバードに似た斧を振り下ろす。
 アギトは後ろへ半歩かわし、その攻撃を避ける。
 次にアギトが着地のために隙が出来たメルティを倒すべく、拳を構える。
 案の定、着地しようと空から落ちくるメルティには隙が出来ていた。
「先手は、譲ったぞ」
 ガゴン!!という巨大な轟音と共に、メルティの身体へと強烈な拳が叩き込まれ、爆煙に包まれた塊が一気に川へと突っ込んでいく。
 ドパァン!!と水面にぶつかる音と、強烈な水しぶきが飛び、水面にぶくぶくと息をしているように泡がぷくぷくと浮かぶ。
「メルティ!!」
 魁斗は思わず叫んでいた。
 一瞬にして、一人の少女の命が失われたことに魁斗達は絶句する。
 アギトは拳を前に突き出したまま、
「これが拙者の剣(つるぎ)『鉄壊(てっかい)』の威力なり。手応えはあった。あの少女はたった今死んだ」
「そ、そんなはずは…!!」
 魁斗はすぐさま否定しようとしたが出来なかった。
 アギトの一撃の轟音が全てを物語っていた。
 くそ、と歯噛みする魁斗の耳に突然聞き慣れない女性の声が飛んでくる。

「その一撃、拳に雷を纏わせて殴ってるね。じゃなきゃ、そんなに地面はえぐれないよ」

 ザパァ!!と川から誰かが出てくる。
 メルティ以外いないはずだが、川から出てきたのは、魁斗も、レナやハクアも桐生と藤崎も勿論しらない人物だ。
 魁斗達と同年代程度のその少女は、白よりの銀髪をポニーテールにし、右手には、メルティが持っていたハルバードに似た斧を持っている。
「戦いはこれからこれから。言ったでしょ?アンタを倒すのは、この私だってね!」

67竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/06(土) 13:00:22 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 突然として現れた白よりの銀髪美女に魁斗達は言葉を失っていた。
 あの川にさっき落ちていったのはメルティのはずだ。他に誰かがいるような気配もなかった。しかもこの美女はメルティの持つハルバードに似た斧を持ち、服装も寸分の狂いもなく同じだ。
 銀髪美女はくあぁ、と欠伸をして、
「ひっさびさだなー、この姿。鈍ってなきゃいいけどさ」
 銀髪美女はそう言った後に魁斗と目が合う。
 魁斗はすかさず自分だけでなく、皆が思っていることを訊ねる。
「お、お前は誰なんだ…?」
 途端に銀髪美女の目が潤み、泣きそうな顔になる。
 それに目を大きく見開き驚く魁斗だが、銀髪美女が弾丸の如く魁斗へと抱きついてくる。
 その腹の衝撃に魁斗は『ごほっ』と僅かに声が漏れる。
 銀髪美女は目に涙を溜めて、泣きそうになりながら叫ぶ。
「酷いよ!何で忘れちゃうの!さっきまで一緒にいたじゃん!!」
 腹の辺りに伝わってくる妙に柔らかい感触に魁斗は顔を真っ赤にする。
 銀髪美女が抱きついている光景にレナは口を大きく開けて固まっている。
 しかし、魁斗にはこんな光景が前にもあったような気がする。
 そもそも魁斗に何の躊躇いもなく抱きついてくる少女はたった一人しかいない。
「……お前、まさかメルティか?」
 そう問われた少女はぱぁっと笑顔になって幸せそうに魁斗に身体をくっつける。
「なっ……、その子が、あのメルティさんだって言うのか?」
 桐生は信じられないというような目で銀髪美女を眺める。
 銀髪美女改めメルティはコートの裾で隠れた自分の右腕の手首についているブレスレットを見せる。
「神具(しんぐ)『時の皇帝(タイムエンペラー)』。これがあれば思い通りの年齢に戻ったり進んだり出来る。ちなみに今は十六歳でこれが本来の私の年齢。今は最高で二十五歳かな」
 メルティが『幻』と呼ばれる所以はここにある。
 彼女は年齢を変え、見た目を変えることで実体を中々つかませない。それどころか。本来の年齢さえも不明だというほどだ。
 しかも、彼女の使う『剣(つるぎ)』はそんな彼女ととても相性が良い。
「さーってと、いきますか」
 メルティは屈伸を二、三回してブーツのつま先をトントンとして、戦う準備を整える。
「こっからが、メルティちゃんの本気だよ!」

68竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/06(土) 17:41:28 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第二十八閃「メルティの実力」

 メルティは首をこきこきと鳴らして、真っ直ぐにアギトを見つめる。
「さーって」
 メルティが足に力を込めるとハルバードに似た斧の刃に雷が纏う。
 ダン!!とメルティが思い切り地面を蹴って高く飛び上がる。
「ハッ!またさっきと同じ手か!よほど川に落ちたいらしいな!」
 メルティは武器を振り上げて、アギトを見下ろす。
 しっかりと狙いを定め、一層強く電撃が纏う。
「なめんなよ」
 そして思い切り振り下ろす。
 しかし、狙いを定めた意味もなく、振り下ろした武器はアギトにかわされ武器はそのまま地面へと当たる。だが、
「ぬぅ…」
 地面に当たると同時に吹き荒れる砂埃でアギトの視界が奪われる。
(……どういうことだ・・・?さっきとは威力が……!)
 そして、砂埃をかいくぐり目の前に現れたメルティの蹴りがアギトの腹に直撃し、二メートルの巨体が地面を転がる。
 砂埃が晴れ、魁斗達にも状況が分かるようになった。
 メルティはぱんぱんと身体に付着したであろう、埃を払いながら、
「私の剣(つるぎ)『無骨神斧(ぶこつじんふ)』は使用者の精神と共に威力が大きくなる。つまり、私が自信に満ち溢れれば溢れるほど、そして、勝てるという自身が強ければ強いほど、この『剣(つるぎ)』は私に力を貸してくれる」
 メルティは自身の年齢を操る神具(しんぐ)で精神と自信を補っている。
 彼女の『剣(つるぎ)』は精神の強さ、つまり『自信』がキーとなってくる。メルティは自分が絶対に勝てると思う状態に設定することで絶対的な勝ちを呼び起こすことが可能なのだ。
 しかも彼女の『剣(つるぎ)』にはもう一つ能力がある。
「んじゃ、そろそろ決めちまうぜ!」
 メルティが勢いよくアギトの懐に飛び込むが、リーチの長いメルティの武器よりリーチの短いアギトの拳の方が有利だ。
「焦ったな!まだまだ青いわ!」
 アギトの拳がメルティの身体を捉える。
 やられた、と魁斗達が思った瞬間、

 メルティの武器が通常の斧のサイズのように縮んでいる。

 アギトは目を大きく見開き、拳の勢いを殺し回避へと思考を変える。それが敗因だった。アギトは急いで攻撃へ移るがもう遅かった。
 メルティの覚悟を決めた一撃。アギトの惑い判断を誤った攻撃。優劣は圧倒的だ。
「私の勝ちだね」
 ニッとメルティは笑みを浮かべる。

 ガゴン!!とメルティの斧での一撃がアギトの腹へと叩き込まれる。

69ライナー:2011/08/09(火) 13:56:09 HOST:as01-ppp4.osaka.sannet.ne.jp
お久しぶりです^^
最近は竜野さんのような凄過ぎる書き手が増えてきて、少々焦り気味です^^;
これ以外の小説も読んでいるのですが、竜野さん3つ掛け持ちしてるのにペース早いですね!(一体どこから湧き上がってくるんだ、そのアイディアは・・・うらやまし過ぎる^^;)
今度、良ければ僕の小説も覗いてアドバイス頂けるとありがたいです^^
ではでは、失礼しましたwww

70竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/11(木) 11:36:23 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

いやいや、僕はまだまだ未熟ですよ
結構ストーリー考えてから描いてるので、結構更新は早かったり遅かったりです
はい、是非読ませていただきますね^^
感想ありがとうございます!

71竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/11(木) 14:43:38 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ズゥン…!と鈍い音と共にアギトの大きな身体が仰向けになって倒れる。
 腹部にはメルティによって付けられた傷が赤黒くなって痛々しく晒されている。アギトの指はピクリとも動かないが辛うじて呼吸はしているあたり死んではいないようだ。
 メルティ魁斗達の方へ振り返って、ブイサインを前に突き出すと元気よく、
「イッエーイ!勝ってやったぜー!」
 年相応の可愛らしい笑みを浮かべ喜びをあらわにしていた。
 メルティは駆け足で魁斗の元へと近づいていき、彼の腹にタックルのような攻撃(メルティ自身は抱きついている)を繰り出す。
 魁斗がそのまま地面に倒れこむと丁度馬乗りのようになったメルティが魁斗の顔を見下ろして褒めてオーラを放っている。
 そのオーラに気付いた魁斗は僅かに表情を引きつらせる。
「……よく、やったな…すごいすごい……」
 メルティは褒められると明るい笑みを浮かべて魁斗に抱きつく。
 しかし、抱きつかれている魁斗の顔は赤いどころか青ざめている。
 何故ならメルティの力が強すぎるせいか魁斗の身体からみしみし、と嫌な音が漏れている。
 桐生はそれに気付いているのか溜息をついて、
「それより、あのアギトって男を倒した際武器が縮んでましたが、あれは剣(つるぎ)の能力なんですか?」
 およ?とメルティが桐生の言葉に反応すると魁斗が万力拷問から解き放たれ、そのまま力なく倒れる。
 レナは魁斗様ー!と叫んで彼を抱きかかえ、がくんがくんと強く揺さぶっている。
「うん。私の剣(つるぎ)って伸縮自在なんだー!デフォじゃあの長さにしてるけど…ほら、何か武器が斧って……ダサくない?」
 メルティは共感しがたい説明を行うと続いてハクアが、
「つーか、何で幼女の格好してるわけ?実年齢が今の姿なんでしょ?」
 メルティはんー、と考える仕草をしてから、
「強いて言えば買い物の時便利なの。おつかいと思ってくれてサービスとかしてくれたりするからさ!」
 何か深い理由があったのかな、などと思っていた一同はある意味期待を裏切り、ある意味予想通りだった言葉に肩を落とす。
 レナは空気を払拭しようと魂が抜けたように動かない魁斗の頭を撫でながら、
「とりあえず、副隊長は一人倒せましたし、幸先いいですよ!このままいきましょう!」
「そうね。ずっとメルティさんに頼るってのも出来ないしさ」
「よし、頑張ろう!!」
 レナの言葉でハクアと藤崎はより一層やる気を出す。
 桐生も納得したようにレナ達の輪の中に加わる。
 しかしメルティは決して気を緩めてはいなかった。
(……楽観しすぎてる…。今回の相手も副隊長の中では恐らく下の方…。小隊隊長を『なんとか』で倒せるようなレベルじゃあ副隊長になんて敵いっこない。……君達はまだ、奴らの強さを理解してないよ…)
 そんな彼らを電柱から見下ろす一つの影があった。
 真っ白な衣装に身を包んだ、マルトースという第五部隊の隊長だ。
 彼はあやしげな笑みを浮かべ彼らを見ている。
「……やはり、アギト程度では話にならないか。だったらこっちも使うべきかねぇ……あの『五本槍』を」
 マルトースは小さく呟いて、その場から姿を消す。

72竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/11(木) 20:25:07 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「ただいまぁー」
 突然の『死を司る人形(デスパペット)』の襲撃により、メルティの気が萎えたらしく修行はアギトを撃退した後終わったのだが、魁斗はレナと残って二人で修行をしていた。
 そのため今は空も若干夕暮れ時になっていて『そろそろ帰らないとお母様もご心配なさるでしょう』とレナが言ったため魁斗はレナと共に帰って来た。
「あら、カイちゃん」
 魅貴は椅子に座ってテレビを見ていたが、魁斗の言葉に気付き立ち上がる。
 そのまま二階へと行こうとする魁斗を魅貴は引き止めようと、
「カイちゃん」
 そう声をかけた。
 呼ばれた魁斗は振り返って魅貴の方へと顔を向ける。
「…どーした?」
 魅貴は魁斗のきょとんとした顔を眺めて言葉を失っていた。
 この前までとてつもない喪失感を連想されるような絶望的な顔ではなく、いつもの息子の顔に魅貴は驚いたような顔をしていた。
 魅貴は心の中で安堵の息を漏らすと笑みを浮かべて、
「…お帰りなさいカイちゃん」
 魁斗は僅かに動揺したように二度目のただいま、を告げる。
 続いて中に入ってきたレナに魅貴は問いかける。
「レナちゃん。カイちゃん、変わったわね。何かあったのかしら」
 レナは魅貴に笑みを浮かべて、コクリと頷く。
「ええ、さっき丁度無理難題が解けたようですよ」

 天界にある『死を司る人形(デスパペット)』のアジト。
 ある一室で十人の人影が集まっていた。
 長いテーブルを十一個の椅子で囲み、たった一つテーブルの端に位置する椅子だけを空けてテーブルを左右五個ずつに配置されている椅子に十人の人影は座っていた。
 そこには不服そうな顔で頬杖をついているエリザや腕と足を組み、落ち着いた雰囲気を漂わせるクリスタ、そしてニヤニヤと笑みを浮かべている全身白のマルトースなどが座っていた。
 その三人と他の七人には一つの共通点があった。それは―――、
「今から、幹部集会を開始します」
 一人の男がそう告げた。
 そう、今ここにいる十人は全員が『死を司る人形(デスパペット)』の幹部。
 魁斗達が最小限倒さなければならない十人だ。

73竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/11(木) 21:43:50 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第二十九閃「幹部集会」

 幹部達の席はテーブルの端に位置する席から見て右側が奇数部隊の隊長、左側が偶数部隊の隊長が座っている。
 右側の一番前に座っている、オールバックで前髪がちょこんと飛び出し、右目に縦に走る傷がある三十代くらいの男はタバコを吸いながら空席の席を見つめている。
「やれやれ…零部隊隊長さんは相変わらずの欠席かぁ?サボリ癖がついてるなぁ」
「あの…すいません」
 タバコを吸っている男の向かいに座っている銀髪の髪を後ろで金色の糸で束ねている二十代前半の男は顔の前で手を組み、笑みを浮かべながら向かいの男に注意するように告げる。
「タバコは遠慮してもらえませんか?健康に関わるので」
 男の口調は苛立たせる類の敬語ではなく、丁寧なものだった。
 故に注意されている男も気を悪くせず、灰皿を取って、タバコの先を灰皿にぐりぐりと押し付け火を消す。
「あー、そーだな。お子ちゃまもいることだしなぁ」
 男はチラッとエリザに視線を向ける。
 エリザはその視線に僅かに眉間にシワを寄せる。
「…なぁーんで私を見たんですか?そーゆーのマジで腹立つんですけど。ガキならほらそこに、いるじゃないですか。ねぇ?第四部隊隊長さん?」
 二部隊隊長の男とは対照的にエリザの敬語には悪意が含まれていた。
 名を呼ばれた四部隊隊長は肩をビクッと震わせて、ふるふると震えている。肩までの赤髪にアホ毛が真下に垂れ下がっている十歳前後に見える少女はおどおどした表情で、
「え、えと……わ、私は……」
「ごめんなさぁーい。貴女、見た目だけが子どもでしたねぇ。すいませんねー」
 エリザは悪びれる様子も無く手を頭の後ろに回し、悪意に満ちた笑みで四部隊の隊長は横目で睨みつける。
 それを見てクリスタは重い溜息をつく。
「弱い者イジメが好きなんだな、エリザ。全く趣味が悪いことこの上ない」
 あ?とエリザはクリスタを睨みつける。
「ごっめーん。よく聞こえなかったからさァ、もう一回言ってくれないかな?今何つった格下」
 エリザの見下すような瞳にクリスタはまったく動じずに口を開く。
「聞こえなかったのか?趣味だけじゃなく耳も悪いようだな。一度聞こえの悪いお前の耳を血が出るまでほじってやろうか」
「敬語使えよ。数字の上じゃアンタより私が上なんだ。チョーシ乗るなよ」
「調子に乗っているのはお前だと思うがな。十歳で隊長?通り名は天童?それがどうした。天狗になるのもいい加減にしろ。現実を知らん小娘が」
 二人の言い争いは場の空気を悪くさせていた。
 一、二、三の隊長はまたか、と言った表情で額に手を当て、事の発端となってしまった四部隊の隊長はあわあわしている。五、六、七、十部隊の隊長はくすくすと笑っている。
「あーあー、格下さんも必死だねぇ。あーそっか。私の前任が貴女のオニイサマだったっけ?でもさぁ、私が悪いんじゃなくてよっわーいオニイサマが悪いんでしょ?」

 瞬間、ガァン!!と金属と金属がぶつかり合う音が響き、エリザの幅の広い刀とクリスタの二本の刀が交差していた。

 その場にいた隊長達は一瞬で凍りつく。
「……私への侮辱は構わん。だが、兄上を侮辱するな!!」
 クリスタは怒りに満ちた表情でエリザを睨む。
 対してエリザは笑みを浮かべたままに告げる。
「知るかよ。そーいうのマジでキモイぜ、このブラコンが」

74竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/12(金) 00:19:39 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「あーあ、また始まったか」
 溜息混じりにそう呟いたのは黒コートに黒いマフラーをした青年だ。髪は黒く目は鋭くて、目つきが悪い印象がある。彼は第六部隊隊長の席に座っている。
「いやいや、そっちはまだマシや思うで?」
 そう言ったのは彼の隣の隣、つまり第十部隊の隊長だ。
 淡く長い金髪に赤いバンダナを巻いた青年で、関西弁で喋るのが特徴的だ。彼は済ました顔をしているが汗が尋常じゃほどに噴き出している。
「毎回コレが起こるたびに上から顔の真横に足が振り下ろされるんや…怖ーて怖ーてしゃーない…」
 彼の顔の真横にはエリザが机に乗せた片足がある。
 勢いよく踏みつけられたため、彼自身も相当ビックリしたのだろう。感覚で言えば寝てるときにエアガンの空砲を耳元で放たれるイメージだろうか。
 一方でエリザとクリスタは睨み合い、どちらも刀を引こうとはしない。
 それどころか、エリザの表情からは余裕が、クリスタの表情からは怒りが出ているため恐らく力でねじ伏せないとどちらも引かないだろう。
 二人が刀を引き戻し、再び切りかかろうとした瞬間、

 二人の動きが何かに引き止められて止まる。

「ッ!?」
 二人は自分の刀を握った手を見る。
 クリスタの刀は二本とも地面から出た氷によって凍らされ、エリザの刀には何かが巻きついている。
 二人は視線を横へ向け、止めた相手が誰か確認する。
 見ると第三部隊隊長は本のページをめくりながら地面に刀を突き刺して氷を出し、第二部隊隊長が関節剣を伸ばして、エリザの刀の動きを止めていた。
「そこまでですよ、二人とも」
「少しは自制心を持ちなさい。馬鹿コンビ」
 第二、第三部隊隊長の言葉でエリザとクリスタは席へと座る。
 ようやく落ち着いたところで第二部隊隊長が、
「それでは被害報告です。第二部隊では副隊長が一名、第四、第六部隊では小隊隊長が一名、第八部隊では小隊隊長が二名やられたと聞いていますが、変更は?」
「……うちの小隊隊長の話ですが」
 エリザがかったるそうに頬杖をつきながら手を挙げる。
「先日脱退届けが出てましたー」
 その言葉に全隊長の視線がエリザへと向けられる。
 なるほど、と第二部隊隊長は告げて、
「じゃあ、何か対策がある方」
 はい、と今度はマルトースが挙手した。
「我が部隊の『五本槍』をそろそろ使うべきではないかと」
「おいおい」
 その言葉に声を出したのは第六部隊隊長だ。
「お前、そいつらはまだ調整中だってこの前言ってたろ」
「ご安心を。まだ対策はあります。異世界の人間のシンクロ計画も実行中ですし」
 バン!!と勢いよく机を叩いてエリザが立ち上がって、マルトースを睨む。
「はぁ!?聞いてないわよ!そんなの」
「おや、副隊長殿にお伝え願ったのですが、届いていませんか?いいでしょう?餌として使うには、流石に難しい点がございますし」
 エリザはギリッと歯を食いしばって、部屋を出て行ってしまった。
 一人欠けてしまったので幹部集会はお開きとなる。
 ちなみに、この幹部集会がちゃんとした形で終わることは無い。

75竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/12(金) 10:45:13 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 第二部隊隊長であるキルティーアは廊下を歩いていた。
 足を前へ進めるたびに後ろで束ねてある銀色の髪が上下に小さく揺れる。
「お疲れ様、キルティーアさん」
 彼が廊下で壁にもたれている綺麗なまるで手入れを怠っていない白い髪を腰の辺りまで伸ばし、先をリボンでくくっている透き通ったような青い目をしている第三部隊隊長のスノウとすれ違い、そう声をかけられる。
 キルティーアはすぐに笑みを浮かべて、スノウの方へ顔を向ける。
「さっきは助かったわ。私一人じゃあの馬鹿二人を止められなかったもの」
 スノウは溜息混じりにそう言う。
 キルティーアは笑みを全く崩すことなく、
「そうは思えませんでしたよ。貴女なら一人で二人を止められるように思えましたが?」
 言うわね、とスノウはくっすと笑って呟く。
 確かに彼女は地面に刀を突き刺し、氷でクリスタの刀を凍らせて動きを止めた。その動作でさえも本を読みながらで、かなりの余裕が見えた。
「エリザは私じゃ止められないのよ。あの時貴方が加勢してくれなければクリスタは殺されてたかもね」
 キルティーアがエリザを止めなければ凍らされて身動きが取れないクリスタは確実にエリザに殺されていた。
 いや、エリザなら寸前で刀を止めることも出来るだろうし、スノウが割って入ることも可能だったはずだ。
 スノウは集会の内容を思い出したように、
「そう言えば、部下がやられたってのに随分涼しい顔だったじゃない。やっぱり、自分の部下より向こうの世界に行った実の妹が心配なのかしら」
 いえ、とキルティーアは軽く否定する。
「心配は心配ですが、あの子なら大丈夫だと思います。そんない弱い子じゃありませんし、貴女も向こうにいる知り合いが心配なのでは?」
 言ってくれるじゃない、とスノウは呟きキルティーアと数秒睨み合うような緊迫感が走る。
 キルティーアは溜息をついて、
「やめましょう。無闇に戦うものではありませんし。僕は自分の剣(つるぎ)の手入れでもしておきますか」
「そうね。私も部下達を集めて一緒にダウトゲームでもやっておくわ」
 二人はそれぞれ別の方向に向けて足を踏み出すと同時に、口を開く。
「私が貴方の妹を殺しても」
「僕が貴女の知り合いを殺しても」
 二人は打ち合せでもしていたように呼吸をピッタリと合わせ、

「「お互い恨みっこナシって事で」」

 二人はそれぞれ、自分の部屋へと戻っていく。

 エリザは第五部隊の研究施設へと息を切らしてやって来た。今まさに、彼女の目の前で予想もしていない事態が進行していた。
「これは、エリザ様……」
「何で私に許可をとらないの!!」
 エリザに気付いた研究員がエリザに声をかけると同時、そう叫ばれ僅かに凄まれる。
 エリザはガラス越しに研究が行われている部屋を顔を顰め、睨みつける。
(……こんなの……ッ!人を人とも思ってないようなことを、するわけじゃなかったのに…ッ!!)
 その光景は沢木に色々なコードに貼り付けられ、彼女自体は息を切らして、涙を流しながら呆然と立ち尽くしている姿だった。

76竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/12(金) 17:16:57 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第三十閃「五本槍襲来」

 学校の昼休み。
 魁斗達はいつも通りに屋上に来て昼食を摂っているのだが、魁斗だけは昼食を摂らずレナの膝の上でぐっすり眠ってしまっている。
 その様子に藤崎はきょとんとした表情で、
「ねぇ、切原君どうして寝てるの?もしかして年上に膝枕してもらうのが好きとか?」
 そうじゃないだろ、と桐生は溜息混じりに呟く。
 レナは魁斗の頭を軽く撫でて、
「ずっと遅くまで修行していましたから。きっと疲れが溜まっているのですよ。メルティさんに負けてられないとたきつけられたのでしょう」
 魁斗はメルティが副隊長を簡単に倒したのを見て強くなる意欲が増したらしい。
 そのため毎日、レナとの修行に励み一人でもイメージトレーニングを欠かさずに行っている。
 遅くまで修行に付き合っているレナが全く疲れを見せず魁斗の頭を撫でている光景は桐生達にとって新鮮だ。
 にしても、魁斗は疲れが見えているのにレナに疲れが見えないのはどうしてだろうか。
「あーーーッ!!」
 すると急に耳を突くように甲高い叫びが聞こえる。
 声の方向に顔を向けるとフェンスの上にメルティが立っていた。バランス感覚いいなー、と桐生が思っているとメルティはずかずかとレナの方へと歩いていく。
「ちょっと!カイト君に膝枕なんて、なに羨ましいことしてるの!?それは私の役目でしょーがー!!」
 はい?と目を点にするレナ。
 何を訳の分からないことでムキになっているんだろう、とレナが眉をひそめていると魁斗の目がピクっと動く。
「…とりあえず、静かにしてください。カイト様が起きてしまわれます」
「ちょっと!華麗にスルーしないで!」
 突っ掛かるメルティとは対照的にレナは大人の対応を繰り返す。
 この光景を見て、何だこの状況、と桐生と藤崎は思わず固まってしまう。
 そこへハクアが屋上に降り立ち、
「……ねぇ、アレは何?」
 目の前で繰り広げられている養育係と情報屋の修羅場を目の前にして桐生と藤崎に問いかける。
 桐生と藤崎は顔を見合わせて、
「さあ」
 と短く返答した。
 ぎゃあぎゃあと騒ぐレナとメルティの声で目が覚めたのか、魁斗がゆっくりと目を開く。
 しかし、開かれた目に寝起きのような空気は感じられず、ただ閉じただけの目を開けたようにも思えた。
 魁斗はむくりと起き上がると、遠くの方を見据える。
「あ、カイト君起きた!!」
「すいません、起こしてしまいましたか?」
 いや、とはしゃぐメルティを魁斗は適当に流してずっと遠くを見据えている。
 全員が首をかしげていると魁斗は立ち上がって剣(つるぎ)を解放する。
「来たぞ。魔力は…五つだ」

77竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/12(金) 21:58:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「………」
 無言で学校へと向かう五つの人影。どれも同じ形で同じ表情で同じ髪色だが、髪の跳ねている部分がそれぞれ違う五つの人影の内、一つの人影が呟いた。
「……勘付かれたようです。一般的に考えて気付いたのは天子かと」
 声は女性のものだ。
 しかし、その声は人が発するような肉声ではなく機械を通したような独特な声だった。アンドロイドが発するような声を聞いた髪の右側が跳ねている人影は、
「…結論的に他の奴らは気付いていないのですか」
「一般的にそれはないです。天子が仲間に伝えた可能性があるので、一般的に彼らは臨戦態勢に入ってると思われます」
 右側が跳ねている人影と左側が跳ねている人影がそのようなやり取りを繰り返す。
 一番先頭を切っている頭頂部からぴょこんと可愛らしくアホ毛が立っている人影は涼しい表情のままに、
「全体的に慢心するべからず。こちらも武器を構え戦闘準備を整えるべきです」
 五つの人影の右手にそれぞれ槍が握られる。
 五つの槍は柄の色がそれぞれ異なっている。赤、青、黄、紫、黒の五色。柄以外は違いは分からない。柄の色で属性が違ってくるのだろうか。
「参りましょう。全てはマルトース様の命のため。全体的に『五本槍』は天子とその仲間を排除します」

「……五つ?」
 魁斗の言葉に藤崎は首をかしげる。
「五人、ここに来ているってことかい?」
 ああ、と桐生の言葉に魁斗は小さく頷く。
「魔力の大きさからして小隊隊長、かな。ノルマは一人だ」
 魁斗達はそれぞれ剣(つるぎ)を解放するが、たった一人だけ剣(つるぎ)を解放しない者がいた。
 メルティだ。
「ちょっと、メルティさん。何で戦おうとしないんですか」
 ハクアの言葉にメルティはニヤリと笑って、
「だってぇー、六対五なんて相手が可愛そう過ぎるよ。それに、小隊隊長ごとき君ら一人で何とかしないと、エリザを倒すなんて永遠に不可能だよ。数に頼るのはやめときなって」
 むむ、とハクアは説き伏せられた。
 確かに、エリザより下のランクの小隊隊長を一人で倒せないのでは話にならない。
 相性もあるだろうが、メルティは副隊長を一人で倒している。それでも隊長を倒せると言えるかは分からない。
 だが、今が修行の成果を見せるときだ。
「全体的に」
 不意に上空から声が掛かる。
 機械を通したような女性の声が。
「見つけました」
 上空に見える五つの人影。
 彼女達は魁斗達を見下ろし、魁斗達は彼女達を下から見据えている。

78竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/13(土) 17:26:23 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「な、何だこいつら…?全員同じ?」
 五つの人影を見つめる魁斗はそんな事を呟いた。
 だが五人をそれぞれじっくり見ているハクアが、
「ううん。ちょっと違う。髪の跳ねてるところがそれぞれ別だ」
 頭頂部、右側、左側、後ろ、つむじと五人の髪の跳ねている場所は別々だ。
「まさか……」
 髪の跳ねているところ以外全て同じの彼女達を見て、魁斗は驚いたような表情になる。
 それから放った言葉は、
「………五つ子…か?」
「いや、違うから」
 魁斗の超真面目な的外れな言葉に桐生はビシッとツッコむ。
 右側が跳ねている女性は着ている黒コートをはためかせて一歩前に出る。
 彼女達は足の裏のブースターによる空気の逆噴射で宙に浮いているのだ。
「結論的に私達が来たからには貴方達はここで終わりです。第五部隊最終兵器にして最大の兵器。それが我ら『五本槍』なのです」
 五本槍ねぇ、と魁斗は薄く笑って刀を構える。
 まっすぐに彼女達を見つめて、
「何本槍だろうと構わねぇ。要は、今回はお前らが相手なんだな?」
 次に後ろ髪が跳ねている女性が、
「結果的にその通りです。ですが、戦わずとも勝敗は我らの勝ちなので頑張る必要は結果的にないのです」
 はあ?と魁斗の顔が引きつる。
 つむじの髪が跳ねた女性が人差し指を立てて口を開く。
「決定的に貴方達が私達に勝つ方法は一つ。それは中枢の撃破。それは決して大きくはない。が、目視できるような大きさ。それを撃破しないことには腕をもごうが首を刎ねようが私達は稼動し続ける」
 他の女性達とは違って彼女は敬語を使わないようだ。
 つまり、彼女達の身体の中にある心臓の役割を果たす中枢を破壊せねば、彼女達を倒したことにならない。
 しかも中枢の場所はそれぞれ別のところにある。例えば一体が右腕にあるというならば、他の四対は右腕以外の場所にあるということだ。
 彼女達は槍の切っ先を魁斗達に一斉に向ける。
「全体的に自己紹介から始めましょう。第五部隊第一小隊隊長アリス01号です。全体的に宜しくお願いします」
「同じく第五部隊第二小隊隊長アリス02号です。一般的にお願いします」
「そして第五部隊第三小隊隊長のアリス03号です。結論的にお手柔らかに」
「第五部隊第四小隊隊長アリス04号。決定的にぶち殺しカクテーなので大人しくしてやがれ」
「最後に第五部隊第五小隊隊長アリス05号です。結果的に勝敗は決まっているので、貴方達は名乗らなくても結構です」
 上等だ、魁斗が吐き捨てるように呟くと、
「行くぜ皆。五本槍、潰すぞ」

79竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/14(日) 14:11:09 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 メルティはフェンスの上に乗りながら魁斗達のアリスとの戦いを眺めていた。
 戦いを見守る彼女の目はいつものように無垢で純粋なものではなく、魁斗達の実力をしっかりと見定めるような不気味な瞳だ。
(……小隊隊長が一気に五人…。この数はちょいと計算外だなぁ。マルトースもこいつらを動かすのはもうちょっと先だと思ってたけど……。ま、君らの実力を拝見させてもらいますか)
 ふふ、とメルティは不適な笑みを浮かべる。

 頭の頭頂部の髪が跳ねているアリス01号が赤い槍を構え魁斗に突撃をしかける。
「くっ!」
 魁斗は勢いよく刀を振るうが、アリス01号は魁斗の目の前で急にUターンして、攻撃をかわす。
「避けるなよっ!」
「ヤです。全体的に考えて機体が傷つくのは嫌ですし」
 魁斗が相手の屁理屈に腹を立ててると急に魁斗の背中に何か、というより誰かがぶつかってきた。
 予想にもしていなかった衝撃に魁斗がうつぶ伏せに倒れ、ぶつかってきた相手は魁斗の上に乗っかっている。
「……いって…誰だ!?」
「あ、ゴッメーン。切原君」
 ぶつかってきたのは藤崎恋音だ。
 彼女は申し訳なさそうに両手を顔の前で合わせて、苦笑いを浮かべている。
 彼女が相手をしているのはつむじの髪が跳ねた、黄色の槍を持ち、敬語を使わないアリス04号だ。
「弱い。そんな簡単に飛ばされると攻撃に困る。大人しくしてやがれクソヤローコノヤロードブスヤロー」
 んだとコラァ!!と藤崎が相手の悪口にすぐさま反応する。
 アリス01号は04号の隣に立ち、二体は槍の先を合わせて魁斗と藤崎の方へと向ける。
「ッ!?」
「奇跡的合体技、炎と雷の奇跡的秘技(ほのおとかみなりのミラクルイリュージョン)!!」
 合わせた槍の先から炎と雷の合わさった攻撃が二人の方へと放たれる。
 魁斗と藤崎は刀を構えてそれを防ぐが、威力が想像以上に強く、二人は後ろへと飛ばされてしまう。
「全体的にカッコよく決まりました」
「決定的大ダメージです」
 魁斗と藤崎は刀を杖代わりに地面に突き刺し、息を切らしながら立ち上がる。
 青い槍を持ったアリス02号と戦う桐生も、紫の槍を持ったアリス03号と戦うレナも、黒い槍を持ったアリス05号と戦うハクアもそれぞれがアリスに苦戦を強いられていた。
 アリス01号はこちらを睨みつけている魁斗と藤崎を見下ろしながら告げる。
「……全体的に最初に言ったはずです。私達が第五部隊最終にして最大の兵器『五本槍』だと」

80ライナー:2011/08/17(水) 10:57:28 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
コメントしに来たライナーです^^
何か最近は人の作品を読む方が好きになってきました^^;
さて、感想の方ですが、やっぱバトル模写上手いですね!感心するばかりです。
アドバイスに関してですが、人間ドラマが弱いかと・・・・
個性的な登場人物有れど、敵が来て戦って倒す、このパターンが続きメリハリが少ないと見られます。
戦闘のある生活でもその中には当然平穏な日々があるわけで、もう少し心情模写(つまり心の葛藤)を書くと良いでしょう!(僕の小説の場合は戦闘が日常ですが^^;)
僕の場合はまあ、何かしら平穏な日々を作るか、戦闘までのパターンをひねることです。
これを使いたい場合は、登場人物の誰かに特別な事情を持たせ戦闘に発展させたり・・・・やり方は色々です。
凄くくどい言い方に成ってしまいましたが、参考に成ればと・・・・
あ、ちなみに僕の好きなキャラクターは魁斗君です!(主人公って選ぶ人あんまりいませんが^^;)
敵の方はザンザが好きでした〜。今はアギト派です(チョイスが意味不で済みません^^;)

81竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/18(木) 12:01:43 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

バトル模写は自分としては上手く出来てるか心配だったんですけど…そう言ってもらえれば嬉しいです。
ですよね…心情とか書くの苦手なんですよ…これからは出来るだけ改善していきたいです!
多分この戦い終われば日常が若干戻ると思います。
戦闘が日常というのも一つの手かもしれませんね。でもこっちは戦闘が日常になりにくいなぁ〜…
はい、参考にさせてもらいます^^

魁斗が好きですか?
何か魁斗は一番動かしにくいキャラですが…気に入ってもらえて嬉しいです^^
ザンザは僕の中でも結構お気に入りです。アギト…ですか??
多分出番はないと思いますが……出せそうならちょっと出してみますね!

82竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/18(木) 13:07:32 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第三十一閃「VS最大の兵器」

 天界に存在する『死を司る人形(デスパペット)』のアジト。
 その灯りが仄かに点った薄暗く照らされているその廊下に際立つ白い影とほとんど廊下の暗さと同化してしまっている、黒い影。
 歩いているのは全身白の衣装に身を包んだ、なんとも奇怪な格好をしている第五部隊隊長のマルトースだ。傍らにいる黒一色の人物は薄い茶色の髪で顔は仮面をつけていて性別が窺えないが、体型から見るとどうも少女らしい。
「……五本槍は…上手くいっているかな。彼女達なら心配はないと思うが……今まで奇跡のようにピンチをかいくぐった彼らだ。多分今回も……」
 マルトースは隣にいる少女へと視線を移す。
 きちんと自分の横を歩いているのだが、彼女は一言も発さない。それどころか呼吸の声すらも聞き取れない。
 そんな彼女に気味の悪さを感じるが、マルトースは構わず歩き続ける。
「そんな暗い顔しない。これから楽しい催しが見れるさ。きっと、気分も晴れるだろうよ」
 彼女は頷きも返事もせず、ただただマルトースの隣を歩いていた。

 フェンスの上で戦闘を眺めているメルティは飽きてきたのか、魁斗達の戦いではなく空を眺めていた。しかし、時折魁斗達の方へと視線を移しては、進展していないと空へと視線を戻す。
(進歩ないなぁ……『死を司る人形(デスパペット)』を倒せるのは彼らだけと思ってたけど……見込み違いかにゃあ?まー、まだ始まったばかり…これからだといいんだけど……)
「決定的に外野を決め込んでんじゃねーよ」
 メルティの背後に粗雑な言葉が目立つアリス04号が槍を構え立っていた。
 彼女の相手をしていた藤崎(と魁斗)はアリス01号と交戦中…だが、交戦しているのは魁斗だけで、藤崎は先ほど吹っ飛ばされて今立ち上がろうとしてるところだ。
 メルティは彼女の方に視線を向けず、
「何してんの?君の相手は恋音ちゃんでしょ?」
「決定的にアイツじゃ話にならない。お前はどうだ。強そうな雰囲気を発しているが…相手をしろ」
 アリス04号の言葉にメルティは短く返す。
「ヤだよ。だって汗かくし」
「いいから……」
 アリス04号は槍に雷を纏わせ、
「相手をしろ!!」
 メルティに勢いよく振り下ろす。
 メルティはうるさいなぁ、と呟いて、アリス04号を睨みつけ、
「邪魔なんだよ」
 と一言発する。
 それだけだ。それだけのはずなのにアリス04号は恐怖を覚える。機械なのに。心もがないのに。彼女は怖いと思ってしまった。
「私は特別なの。私とどーしても戦いたかったら、彼らを片付けちゃいな。君らに出来るかどーかわかんないけど」
 上等、と返しアリス04号は藤崎へと攻撃を仕掛ける。
「けっこーけっこー」
 メルティは視線を這わせ、どこもかしこも苦戦している戦場を眺める。
 それから溜息をついて、がっかりしたような調子で呟く。
「しっかりしてよ、もー。君らはこんなに弱いのかい?そんなんじゃ、沢木さん救出どころか『死を司る人形(デスパペット)』を倒すことも夢物語で終わっちゃうぜ?」

83竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/18(木) 14:48:14 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「くそっ!」
 桐生は両手で刀を力強く握り締めながら、上空にいる青い柄の槍を握ったアリス02号との戦いに苦戦していた。
 桐生は肩で息をして、疲労状態にあるというのはアリス02号にも分かった。
 だが、相手が疲れきっているからという理由でアリス02号は攻撃をやめない。
 アリス02号は槍の先を桐生に向ける。
「…またかっ!」
「どーん」
 アリスの平淡な言葉と共に槍の先から大量の水が噴き出す。
 桐生は刀の切っ先で水を受け止め、凍らそうとするが水の勢いが凍らす速度をはるかに上回っている。最初の方だけ凍らされた水はその氷を砕き、桐生を襲う。
 桐生は全身が濡れながらも、足に力を込めて立ち上がる。
「一般的に貴方の氷が私の水を凍らすことはありません。それくらい理解できているはず、頭が良さそうなのは眼鏡かけてる見た目だけですか」
 桐生の剣(つるぎ)は氷を生み出すが、こと凍結においてはそれほど得意じゃない。
 バケツに溜まった水を凍らすなら容易いが、波のように勢いと量のある水を凍らすとなれば、話と勝手は大きく違ってくる。
 桐生は、眼鏡を左の人差し指と中指で上げて、
「………一つ、忠告だ。眼鏡をかけてたら頭良いとは限らないんだよ。それはただの偏見さ。アリス02号さん」
「……一般的に知っています」
 レナは上空に立つ、アリス03号に攻撃を加えられずにいた。
 いや、攻撃を加えるよりも近づけなかった。何故なら、
「くっ……!」
 アリス03号が槍から放つ紫の球体が闇の属性を持ったものではなく、毒だったからだ。毒だと気付いたのは初撃でかわしたときに地面が溶けたのを目撃したからだ。
 迂闊に近づけば、毒の餌食なるし、このままの状態を保っていても体力が限界を迎えてしまう。
 レナは息を整えて打開策を考える。
「たぁっ!」
 ハクアはアリス05号と交戦中だ。
 自身の剣(つるぎ)から竜巻を生み、アリス05号に向けて放つが、アリス05号が生み出す黒い物質に呑まれては跳ね返される。
 このままでは埒が明かない。
(……うーん、思ったよりも厄介だね。アレは恐らく『黒堂(こくどう)』。黒い物質はこちらの攻撃を飲み込み黒い電撃を纏わせて攻撃を跳ね返してくる…。他のアリス達もこいつのと同じ兄弟剣(つるぎ)と呼ばれる奴か…)
 ハクアは魁斗達の戦況を見て口の中でそう呟く。
 助けなんか求めようと思っていないが、これは相性が悪すぎる。もとよりハクアは一対一のタイマンより多対一の乱戦の方が好みだ。
 その方が自分としても戦いやすく、多対一においては今まで負けたことがないからだ。
「結果的に余所見は感心しませんね」
 ハクアの思考に水を差すようにアリス05号は口を挟む。
「……だろーね。しかし中枢をやらないと倒せないってのはこっちに分がなさすぎっしょ」
「だから結果的に言っているでしょう。私達は最終にして最大の兵器だ、と」
 でもセコすぎ、とハクアは首を鳴らして、深呼吸をする。
 アリス05号はその光景をただ静かに眺めているだけだ。
 ハクアは、息を吸うと全員に聞こえるように、
「腑抜けてられないよ。こいつら倒さないと、私ら先に進めないよ」
 ハクアの言葉に魁斗達ははっとしたように我に返る。
 今まで相手の馬鹿にした態度に苛立っていた魁斗と藤崎も押されていた桐生も、あれこれ打開策を練っていたレナも冷静さを取り戻す。
(にゃるほど。あの子がカイト君達を束ねるお姉さん的な存在か)
 メルティはニッと笑う。
(どうやら過小評価してたのは私だけだったみたいだね。彼らの心は誰よりも遥かに強い)
 全員がアリス達を一斉に睨みつける。
「そろそろ終わらせるか。なあ、藤崎」
「ま、そーなるね」

84竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/18(木) 18:48:55 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 藤崎は魁斗の肩に自分の肩を合わせて、小声で魁斗に話しかける。
「…ねぇ、切原君。相手チェンジしてもらえるかな?」
「……なんで?」
 藤崎の言葉に魁斗は眉をひそめる。
 対して、自身に満ちた瞳で藤崎は、魁斗が相手をしていたアリス01号を見る。
「アイツの属性は炎。だったら……私の方が相性は良い」
「いけるんだな?」
 魁斗の最終確認に藤崎はもちろん、と返す。
 藤崎は、アリスの前に立つ。前と言っても、相手は浮いているため相手が降りてきた場合の前だが。
 自分の相手をしようと前に出てきた藤崎にアリス01号は僅かに不機嫌な表情を見せる。
「…これは、全体的に貴女が相手。という考えでよろしいのですね?」
「ええ、そうよ」
 アリス01号は息を吐いて、槍の先に炎の玉を生み出す。
「私も、なめられたものですね!!」
 アリス01号は火の玉を藤崎へと放つ。
 しかし、藤崎はその場から一歩も動かずにただ刀の先を火の玉に向けただけだった。
 刀の先と火の玉がぶつかり合った瞬間、火の玉は液体のように玉の形から崩れ、藤崎の刀に吸い込まれていった。
「ッ!?」
「……ふふっ。私の剣(つるぎ)『桜紅蓮(さくらぐれん)』は使えば使うほど剣(つるぎ)本体の炎のメーターが溜まっていく。それと同時に炎も吸収する。あっきの合体技を吸収しなかったのは炎だけじゃなく雷も混ざってたから。こーなれば私の勝ちみたいなモンよ!」
 その危なさに気付いたアリス04号は急いで相手を代えようと、
「危険!アリス01号、すぐに代わって……」
 アリス04号の言葉は最後まで続かなかった。
 何故なら自分の脚力を最大限に活かし、空高く跳び上がった魁斗がアリス04号を思い切り地面へと叩きつけたからだ。
 魁斗は上手く着地して、地面に叩きつけたアリス04号を睨みつける。
「お前の相手は俺だろ?アリス02号」
「……決定的にアリス04号だ……!!」
 アリス04号は魁斗に怒りの表情をあらわにする。
「今更んな顔したって、怖くもなんともねーぜ」
 魁斗は右の刀を肩に担ぐようにして、左の刀の先でアリス04号を差しながら告げる。
「こっから俺達のターンだ。覚悟しやがれ『五本槍』!!」
 魁斗は自信満々に確定した勝利と共に告げる。

85竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/18(木) 19:51:36 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第三十二閃「反撃と決着」

 桐生は刀を地面に突き刺して、膝をついて、荒々しい呼吸を繰り返していた。
 その光景を不適な笑みを浮かべたアリス02号は、余裕とともに桐生の前方十メートルくらい離れたところに降り立つ。
 桐生は忌々しそうにアリス02号を睨むが、彼女の表情に恐怖や焦りは微塵も感じられない。
「一般的に今更そんな顔しても怖くないです。一般的にこれはどう見ても貴方の負けです」
 桐生は歯を食いしばって、吐き出すように言葉を発する。
「……僕は……諦めない…!」
 アリス02号はその言葉に溜息をつく。
 そして興味をなくした子どものように無表情で槍を構え、水で相手を吹き飛ばす用意をしようと槍を動かそうとするが、腕が何かに掴まれて動かない。
 アリス02号は槍を掴んでいる右腕を見る。
 彼女の右腕は肩まで完全に凍っていた。これでは腕の関節を曲げて槍を構えることも出来ない。そもそも氷が地面から出ているため。定位置から腕を動かすことが出来ない。
「…だから言ったろ?諦めないって。ちなみに、さっきの戦いでここ一面に薄い氷を張らせてもらったよ。気付かなかったみたいだね」
 桐生は涼しい顔で立ち上がる。
「……まさか今のは…」
「そ、僕の演技。中々騙せたと思うけど?」
 桐生はイタズラに成功した子どものような笑みをアリス02号に向ける。
 ハクアの激によりレナの目にも闘志が宿っていた。
 アリス03号は紫色の玉、毒玉をレナに向かって放つ。
 レナは藤崎と同じように刀の切っ先を前に構え、ギュゴォ!!とアリス03号の攻撃を吸収する。
「……なるほど。これは貴女の魔力が通った攻撃なのですね。なら、私の『神浄昇華(かみじょうしょうか)』も使えるということですか」
「……ッ」
 アリス03号は絶句する。
「では、シメといきましょうか」
 ハクアもアリス05号への反撃を開始する。
 ハクアは同じようにアリス05号に竜巻を繰り出す。
 アリス05号はつまらないような表情で黒い物質を生み出し、竜巻を吸収し瞬時に相手に跳ね返す。土煙で相手の姿が見えないが直撃はした、と殊勝の笑みを浮かべると、
「随分と余裕ね。あと、私を舐めない方が身のためよ」
 後ろからハクアの声がした。
 彼女は薙刀状の自身の剣(つるぎ)に乗り、それで飛び、アリス05号の背後へと回ったのだ。相手が前に出現させた黒い物質で前方が見えていないのを利用して。

「………!!」

 全員の反撃準備が完了し、アリス全五機はこの瞬間に敗北を確信する。
 が、
「ですが、全体的に貴方達は中枢を破壊しなければ意味が無い…!それがわかって…」
「馬鹿じゃねぇのか」
 魁斗はアリス01号の言葉に短く返す。
「この攻防で俺達が中枢の場所を見つけてないとでも思ったか」
 ガギィン!!と魁斗達は五体のアリスの中枢部分が眠っている箇所を破壊する。
 右腕、左腕、右足、左足、腹部。
 中枢を破壊されたアリス達は力なく地面へと落下していった。

86竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/18(木) 21:09:25 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「か……ッ!?」
 中枢を破壊され、ほとんどの機能を失ったアリス達は地面に倒れたまま、口だけを動かす。
「…い、一般的、に……」
「……中枢を……破壊され、た…だと……?」
 アリス達は動かない身体のまま、必死に言葉を紡ぐ。
 魁斗はそのアリス達を見て、機械よりも人という感じしかしなかった。
 そう思うと、何故かやるせない気分になって、どうも勝った気がしない。
「………」
 アリス01号は首の裏にあるスイッチを押す。
 起爆スイッチか、と魁斗達が身構えるが、
「ご安心を……。全体的に言う、強制的にアジトへ帰還させるための、ワープ装置……ですから…」
 アリス達は05号から順に天界にある『死を司る人形(デスパペット)』のアジトへと帰還していき、その場から姿を消す。
 最後に残ったアリス01号は、
「……私達をよくぞ倒した、と……大口を叩く権利も全体的にないんどえしょう……。今回は、潔く負けを認めます……」
 アリスは転送際にこの言葉を残して消えていった。
「………本当の地獄はここからですから………」
 アリスが消えていった後に魁斗は重苦しい息を吐く。
 レナ達も本当の地獄を隊長との戦いと思い、どうも落ち着けなかった。
 その空気をかき消すかのように横合いから高い声が飛んでくる。
「やあやあ!よくぞ勝ってくれたね!お姉さん嬉しいよ!」
 ゴン!!と完全に他人事のメルティの頭に魁斗の天子拳骨が落とされる。
 メルティは頬を膨らませて、頭を押さえながら魁斗を見つめる。
「痛ぁー。何すんのさー」
「何すんのさじゃねぇよ!完全に外野決め込みやがって、この薄情者!!」
 メルティはふふ、と口の端に笑みを含む。
「いやん、六対一をして相手をボコる方が薄情だと思いますけどん?」
 喋り方に対応させたのかメルティは身をくねくねさせて、お色気全開の仕草を放つが、現在十歳前後の格好の彼女からは色気など発せられるはずも無い。
 魁斗は溜息をついて、一時の勝利を満喫することにした。
 一方、学校の屋上よりも高いビルの屋上で二人の人影が見える。
 巨大な刀を背負った男の影と、ポニーテールの女の影。彼らは魁斗達の戦いが終わると、男の方が背を向けて、女に行くぞ、とこの場から去ることを促す。
「あれ、もう行っちゃうの?カイト君達に会わずに?」
「俺らの目標は『天子を倒すこと』だったよな」
 そうだけど?と女の方は首をかしげる。
「気ィ引き締めろ。こりゃあ簡単にいかねェぞ」
「りょーかい」
 男と女の影はその場から去っていく。
 かつて自分達と敵対した相手の強さを認めて。

「ほぉら、面白いものが見れたろう?」
 マルトースと彼の隣にいる黒の衣装に身を包んだ仮面で顔を隠した少女も戦闘が終わるなり会話を始める。
「…黒髪の双剣使い、アレが君の抹殺対象だ。名前は切原魁斗」
 少女は仮面の下に窺うことが出来ない表情を浮かべ、標的の名前を呟く。
「焦るんじゃないぞ。私が命令を下す。それまで動くなよ」
 マルトースはマントを翻し、魁斗達からは背を向けるような体勢になり、
「帰るぞ、プルート」
 隣の少女に促す。
 はい、と少女は頷き不気味な笑みを零しながら天界のアジトへと帰っていった。

87竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/19(金) 00:46:00 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第三十三閃「一時の日常」

 桐生は学校では目立たない存在だ。
 授業で当てられれば普通に答えることが出来るし、体育の授業も中の中でそんなに成績自体は悪くない。
 一部の女子から『眼鏡男子』やら『草食系男子』と言われ中々に好感が持たれ、眼鏡男子好きの女子の一部は彼に恋愛感情を抱いている者もいるらしい。
 桐生は自分の机で、本を読んでいると、
「ねぇ、桐生君」
 クラスの女子が話しかけていた。
 普段は大して話さないのにどうしたんだろう、と桐生が眉をひそめているとその女子は、
「屋上で藤崎さんが待ってるよって」
 頼まれたのか、と思って桐生は溜息をつく。
 用があるなら自分から来れば良いのに、と愚痴を心の中で大量に零している桐生だが、屋上に着くと、待っていた藤崎を見て溜息をつく。
「ちょっと、いきなり溜息って失礼じゃない。久々の学校で勘が鈍ってたりする?」
「そんなわけないだろ」
 桐生は眼鏡を上げて短く返答する。
 用件は?と桐生が疲れたような表情で聞くと、藤崎は小さく頷いて桐生の目の前にやってくる。
 彼女の手にはピンク色の携帯電話が握られていた。
「あ、あのさ……連絡先、交換してくれる?」
「はい?」
 藤崎の頬はほんのりと赤かった。
 何故か目線も外されているように思える。
 しばらくの沈黙が続き、藤崎はハッとして、今度は頬だけじゃなく顔全体と耳も真っ赤にして、
「か、かかか勘違いし、しないでよねっ!!こ、これは…そうよ!いざという時のれ、連絡のためなんだからっ!桐生君の連絡先だけで知らないし、聞いとこーと思っただけなんだからねっ!!」
 はいはい、と桐生はポケットから黒色の携帯電話を取り出して、藤崎と連絡先を交換する。
 自分の携帯電話にアイドルの連絡先があるのは、なんとも不思議な気分になってしまう桐生だったが、そこはあまり気にしないことにした。
「僕から連絡することは少ないと思うから、何かあったら連絡してよ。出来る限り協力するからさ」
「うん、ありがとね」
 藤崎はテレビでは見ないような笑みを桐生に向ける。

「ただいま」
 魁斗は帰宅してくる。
 家ではリビングの椅子に腰をかけて、テレビを眺めている魅貴がいた。
「カイちゃん、お帰りなさい。あら、レナちゃんは?」
 魅貴はいつも魁斗と帰ってくるレナの姿が無いことに気付くとそう問いかける。
 魁斗はあー、と小さく前置きしてから、
「用事があるからって。そんなに遅くならないそーだぜ」
 魁斗はそう告げて、部屋へ挙がろうとしたところで、
「あ、カイちゃん。さっきカイちゃんのお友達が来たから、部屋に上げといたわよ」
 魅貴の言葉を聞き、魁斗は友達って誰だろう?と首をかしげる。
 どうせハクアさんだろ、と適当に予想して、ドアノブに手をかけ、ドアを開ける。そこにいた友達とは、

 上のシャツを脱いでいる途中の下着姿の十六歳メルティがきょとんとした顔でこちら側を見ている。

「ッ!!!???」
 魁斗は勢いよくドアを閉めて、荒々しく呼吸する。
 しかし、見られたにしては意外と怒っていないメルティはドアを開けて、
「何してるの、早く入って」
「まずは服着ろッ!!」

88竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/19(金) 09:28:52 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 魁斗はメルティと座った状態で向き合っていた。
 と言っても、メルティは十歳状態で魁斗の制服のシャツを着ているだけだった(貸したわけではない)。もちろん下着なども着ていないわけではないのだが。
 魁斗は目の前の幼女メルティを見て、溜息をつく。
「せめてちゃんと服を着てくれねーかな?目のやり場に困るし…」
「えー、着てるじゃん」
 今の状態がメルティの言う『着てる』ならば通常の服装はどれほどの重装備状態なのだろうか。ちょっと怖くなってくる。
 多分彼女は寝るときも年中下着姿で寝てるような感じがする。
 魁斗は相手のことは深くツッコまないことを決めて、
「とりあえず、何でお前はここにいるんだ?用件があるんじゃねーの?」
「うん。『死を司る人形(デスパペット)』の近況についてね。だから、皆に召集かけといたよ」

 ハクアは公園のベンチに一人で腰をかけながら、缶ジュースを飲んでいた。
 今の彼女は親友のレナの到着を待っている。
 相手でも分かりやすそうな場所を選んだ結果公園にしたが、どうも人の視線が気になる。彼女が可笑しいわけではなく、ハクアは自分が全員ではないが一部の人間の目を釘付けにするくらいのルックスであることは気付いていない。相手がこちらを見てることに気付けば、笑みを浮かべて手を振る。それがハクアという女性だ。
「もう少し分かりやすい場所にいてくれませんか」
 横合いから声が飛んでくる。その声の持ち主はハクアのよく知る人物で、ここで待ち合わせをしていた白銀の挑発をなびかせるレナだ。
 ハクアは缶のジュースを一気に飲み干して、
「細かいこと言いなさんな。実はアンタを呼び出したってのも、ちゃんと理由があるんだから」
 むすっと頬を膨らませているレナをなだめるようにハクアはポケットから携帯電話を取り出す。
 それから携帯電話を開き、何かを探している。
 これこれ、とハクアは携帯電話の画面に表示させたものをレナに見せる。
 画面に表示されたものは『学校が終わったらカイト君家で作戦かいぎー☆てなワケでみんな集まってちょ♪』とのことだった。
 ちなみに、メルティは魁斗にも魁斗の母親の魅貴にも無許可である。
「……」
 レナはこれを見せられてもまだハクアが自分を呼び出した理由が分からない。
「…どした?」
「…結局、私が呼び出された理由は…?」
 あー、とハクアは間延びした返事をして、
「家の場所!わかんないから連れて行って!」
 こういう人がいるから、作戦会議は皆が分かる場所にしてほしい、とレナは思った。

89竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/19(金) 20:27:50 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 全員が集まるのに小一時間程度かかった。
 それというのも、桐生と藤崎は家に帰ってくつろいでいる時に召集がかかったからだ。
 召集をかけたメルティは連絡先を知っているハクアにだけ連絡して、後は野放しにしていたらしい。集合が遅いために若干メルティが不機嫌になっているが、それは完全に自分自身の落ち度だと思う。
 メルティは一応機嫌を直したようにいつも通りの表情に戻る。だが、服装は下着の上に魁斗の制服のシャツを着た状態だ。
「今回はちょこっと向こうの情報を教えようと思ってね。相変わらず第一部隊の隊長さんは何考えてるか分からないらしいけど、第二、三部隊の隊長さんはこっちの世界にいる知り合いを気にしてるみたーい」
 メルティは持ってきていた鞄からバナナを取り出してもぐもぐと食べながら話している。
 とても緊張感がなさそうな光景だが、彼女としては何一つふざけたことはしてないと思っているのだろう。
「第二部隊の方は妹で、第三部隊の方はただの知り合いなんだけど、天界からこっちに来るひとなんていっぱいだし、誰か特定できないの」
 メルティは食べ終わったバナナの皮を『これどこに捨てるの?』と魁斗に訊ね、『持って帰れ』とすぐに返答された。
 ぶすっとメルティは一気に不機嫌そうになるが、すぐに説明に戻す。
「第四、六、七、十部隊も目立った動きはなし。五部隊隊長のマルトースは何か企んでるみたいだけどー」
 残っているのはエリザが隊長をしている第八部隊と、第九部隊。
 メルティは魁斗達が気にしているエリザの部隊の情報をあえて最後に回したのだろうか。
 彼女はニッと笑みを浮かべて、
「第八部隊のエリザと第九部隊のクリスタは不仲なんだとさ」
 不仲!?と魁斗達は一斉に聞き返す。
 メルティはコクリと頷くが、レナはなにやら悩んでいる。
「同じ組織で、隊長同士で……力の優劣はあれど、不仲になるのですか?」
 事情があるのさ。並々ならぬね、とメルティは気軽に返す。
 ここまで話されたら事情が気になる。それを分かっているのだろうか、メルティは誰に言われることもなく説明を始める。
「元第八部隊の隊長はクリスタの兄でね。それを隊長昇格試験の時にエリザが彼を殺しちゃったらしく…それ以来二人の溝はますます深くなってるんだよ」
 ぞっとする話だが『死を司る人形(デスパペット)』ではそれが常識なんだろうか。
 魁斗達は黙ってしまい、話が進まなくなってしまった。

 天界にある『死を司る人形(デスパペット)』の廊下をブーツの底を鳴らしながら歩いている人物がいる。
 十八歳程度の右目に眼帯をしている、ポニーテールの美少女、クリスタだ。
 彼女は何かを思いつめたような表情をしているが、相談しない。そもそも相談できる人がいない。
 そんなことを思いつつ、クリスタはピタリと足を止める。
 その後すぐに後方から声をかけられる。
「何かお悩みかい?クリスタ嬢?」
 肩くらいの黒髪でモノクルをかけた執事服に似た衣装の知的さを感じさせる男が壁にもたれていた。
 クリスタは彼に視線を向けて、
「何の用だ」
 男はフッと笑みを浮かべてこう告げる。
「なぁに、ちょっとしたお話さ」

90竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/20(土) 13:32:39 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第三十四閃「死を司る人形(デスパペット)」

 クリスタに声をかけた青年は幹部集会の際に、クリスタの左横に座っていた。つまり、彼は第七部隊の隊長である。
 眉をひそめ、僅かに警戒した状態でクリスタは相手に問いかける。
「集会では何も話さないと思っていたが……私に何か用か?」
 男は笑みを浮かべて、
「今日も君とエリザさん。もめたね。そんなに彼女が気に食わないかい」
 クリスタは目つきを鋭くして、不機嫌そうに相手を睨む。
 男はきょとんとして、クリスタを見ている。
「お前は身内の仇ともめずにいられるのか?少なくとも私には出来なかっただけだ。理解してくれたかな」
 男はククッと笑う。
 相変わらず気味の悪い奴だ、とクリスタは思う。
 クリスタは相手のことが好きではない。エリザに比べればマシだが、何を考えているか分からない分、相手のほうが気味が悪く思える。だから彼女としてもあまり近寄ろうとしないのだが。
「話はそれだけか」
 いやもう一つ、と男は続ける。
「マルトースさんがお呼びです。何でも特別な話があるとか」
 クリスタにはエリザや彼と同じくもう一人嫌いな隊長がいた。
 二人以上に何を考えているか分からない、マルトースだ。
 なるべく関わらないようにしていたというのに、何故呼び出されたのかクリスタには分からなかった。
「……何故奴が私を呼び出すのだ。特に特別な接点もないと思うがな」
「さあ。僕に聞かれても分かりませんよ」
 クリスタはとっとと済ませるか、と思い踵を返し、相手の側から立ち去る。
 すると、相手は懐から短刀を取り出し、後ろからクリスタに襲い掛かる。
 
 しかし、クリスタは刀を逆手に持ち、後ろの相手に突き刺していた。

「か………ッ!?」
 クリスタは刀を抜き、相手を後ろに蹴り飛ばす。
「マルトースが呼んでいる……。襲ってきたのは、奴の差し金か、それともお前の意志か?カルラ」
 男が変装を解くように服を脱ぎ捨てると、そこには巫女装束に酷似した女性がいた。
 桃色の髪は三つ編みにして束ね、袖で上品そうに口元を隠している。
 刀を差したはずの腹部からは、血が一滴も出てなければ痛そうな表情もしていない。
「……あら、随分とお怖いことですね。でも、私の事は『カルラたん』と呼んでくださいと言っているはずですが?」

91竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/20(土) 16:23:38 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 クリスタとカルラは睨み合っている。
 『死を司る人形(デスパペット)』のアジト内は広く、同じ部隊の者とはたびたび会うが、別部隊の者にはほとんど会わない。だが、クリスタとカルラの両者には『初対面』さが感じられないほど慣れた様子でいる。
 カルラは目を睨むように細め、
「カルラたんのこと、覚えて下さってたんですね。光栄ですわ」
「元は第九部隊だったからな。私としては部下を五部隊に送るのは気が引けたのだがな」
 ふふっとカルラは笑みを浮かべている。
 今は世間話はどうでもいい。
 クリスタにとって今するべき話は『何故襲ってきたか』だ。第七部隊の隊長になっていたのも気になる。
「カルラ。お前が私を襲う理由は何だ?マルトースの命ならば、お前を特に咎めたりはしないが、違うと言うなら容赦はしない」
 カルラは口元を隠し、何を企んでいるか分からない目でクリスタを見つめる。
 まるで、小動物を小さい囲いの中に入れて出られないのを楽しそうに眺めているような目だ。
「私のことは『カルラたん』と呼んでくださいな。カルラたんは隊長から貴女を襲うように命令は受けてません」
 クリスタはそれだけ聞くと、両腰に挿してある右の刀の柄を逆手持ちになるように右手で掴み、引き抜こうとする。
 ですが、とカルラは一度区切り、
「『貴女を襲え』とは言われたないだけで『貴女を始末できるようなら始末しろ』とは言われました」
 クリスタは刀を引き抜く手を止める。
 クリスタが言ったのは『襲えとマルトースから命令があったら』である。『始末できるようなら始末しろ』も単に襲えと言っているようなのだが、襲えと言われた時より強制されていない。
 彼女は隊長の命令に部下が従った、であれば隊長を咎めるだけ。最終的に自分の意志で決めたなら、本人に罰を与える。
 カルラは嘲るような目で見つめたまま、
「でもいいんですかね?天子達は成長なんてレベルじゃない早さで強くなってます。ここで、副隊長を一人失えば…結構痛手だと思いません?」
 クリスタの手が再び止まる。
 組織内に嫌いな人間がいれど、彼女はむしろ好きな方だ。
 部下だったころはよく可愛がってやったし、向こうもこちらに懐いてくれていた。結局、クリスタは刀を抜かずに、
「今回は見逃してやる。……今回だけだ」
 クリスタは早足で、マルトースのいる部屋へと歩く。
 カルラはつまらないように溜息をついて、
「……相変わらずつまらない人。でも、だからカルラたん的にはいじり甲斐があるんだけどね」
 クリスタはマルトースの部屋の前で立ち止まり、不愉快な表情のまま扉を開ける。

92竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/20(土) 23:49:50 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 クリスタはドアを開けようとしたところで躊躇った。
 マルトースはカルラに『出来るようなら自分を始末するように』と命令していた。ここに呼び出したのも何かの罠だと考えてしまう。
 しかし、罠なら逃げればいいという思考に至る。自慢じゃないが、自分は戦いやそういう危機的状況でも冷静な判断を下せる自信があるからだ。
 彼女は軽く深呼吸をしてドアを開ける。
 しかし、そこには何もなくただの正方形に区切られた広い部屋だ。
 灰色の壁に床に天井。何の変哲も無いただの広い部屋だ。
「……マルトース。何処にいる。隠れても無駄だと思うがな」
 バン!!と背後のドアが閉まる。
 クリスタがドアを開けようとするが、開かない。刀で傷つけてみるも傷一つつかず、壊れる様子も無い。
 彼女の脳から先ほどまでの余裕が消えた。
 肩で呼吸する彼女の耳に、アナウンスの声が届く。
『どうもー。いやぁ、まんまと引っかかってくれましたねぇ。私はその部屋を監視カメラで観覧中です。何をしに呼び出したかって?簡単です』
 クリスタを囲むように六体のマルトースが現れる。
 しかし、彼は自分の分身を何体も作っていて、ここにいる六体のマルトースも全て機械だ。
 クリスタは隊長の中では真ん中くらいの強さだが、機会とはいえ、六体は流石にキツイ。
 彼女は両腰から逆手持ちで刀を二本構える。
『無駄ですよ。貴女が勝てる相手ではありません。機械といえど、私の実力の六割程度は引き継いでますし』
「関係ないな」
 クリスタは無理矢理に笑みを浮かべ、一斉に襲い掛かるマルトースを迎え撃つ。
 たとえ、負けが決まっていようとも彼女は決して逃げなかった。
 何故なら、

 ガゴォン!!とドアではなく、壁が破壊され、大きな穴が空いたからだ。
 
 クリスタの動きもマルトースの動きも止まる。
「…あのさぁ…私が殺る前にそんな奴に殺られないでよ、クリスタちゃん」
 穴から声が聞こえる。
 隊長であれば誰もが知っている少女の声。隊長内で五位には入る実力者で、クリスタが一番嫌いな彼女が、クリスタを助けに来た。
 第八部隊の席に座っていた彼女は、ツインテールのように分けた金髪をなびかせてやって来た。
「ところで、これって参加料はいくら?子ども料金だから無料かな?」

93ライナー:2011/08/21(日) 00:24:32 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
 ども〜。ライナーです^^
 素晴らしい文章力が目に染みます。戦闘模写以外にも相当力を入れていますね^^
 さて、今回のアドバイスですが(お前褒めに来てないだろ)主人公達と、敵方の動きを同時に見られるので面白い展開……っとそうは中々行かないもので^^;
 今回の問題は視点移動ですね。まず、敵方を話しに入れるときは必ず短くしなければなりません。
 様々なアニメや漫画を見ていてどうですか?一度も主人公が出てこない話があるでしょうか?(キャラクター短編などは除く)
 小説を含め物語というのはある人物を中心として書いています。ですから敵方の様子を書くのは長い等間隔でなるべく短めにしなければならないということです。
 もう一つの問題は擬音です。自分も物語を読みながらすぐには気づけませんでしたが、繰り返し読むと微妙に変わってきます。

 例えば、 その時、奴の空からの攻撃が俺の体を貫いた。
      ズドォォォォォォン!!

      その時、奴の空からの攻撃が俺の体を貫いた。
      それは天そのものが崩れ落ちてきたかと思うような、轟音を響かせた。

 さて、これでお分かりになったでしょうか?前の例文は擬音を使い安っぽく聞こえ、後の例文の方が繊細に音を表現し雰囲気が伝わってきますよね?ですので、擬音はNGです。
 またもや諄さに次ぐ諄さでアドバイスしましたが、どうぞお気を悪くせずにm(_ _)m

94竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/21(日) 02:24:04 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
以前のアドバイスを踏まえ、ちょこっと日常を入れてみました^^
いやぁ、主人公達より敵方の方を書くのが面白いとかどういうことだろうか

アドバイスの方ですが、ジャンプで連載している某漫画の17巻は主人公が回想シーンしか出なかった巻がありましたよ。
しかも回想シーンは一度なので、中盤あたり一回しか出てませんでしたし。

そうですね。
僕の場合どうしても擬音が多く入ってしまうんです…。
僕の言葉の引き出しが小さいため、そういった説明が上手く出来なくて…以後参考にさせていただきますね^^

95竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/21(日) 02:49:26 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第三十五閃「嫌悪する二人」

 突如として乱入してきたエリザに監視カメラで見ていたマルトースは、目を大きく見開いて驚いていた。
 彼がクリスタを狙ったのは、エリザを陥れるため。
 集会で行われたエリザとクリスタの喧騒。それを見ていた隊長達はクリスタの遺体を発見すればすぐにエリザを問い詰めるだろう。
 沢木叶絵の実験を知り、以後研究所の襲撃などで、邪魔をされ、実験が中々進まずにいたのだ。だからこその、エリザを葬るためにここまでしたというのに。
 エリザは部屋の中に足を踏み入れて、クリスタの隣へと歩く。
「………エリザ…」
 エリザは足を止め、クリスタに背中を預けるように彼女と背中を合わせる。
 驚きで言葉が出ないクリスタにエリザはニッと笑って問いかける。
「クーリスータちゃん!君は何体倒せる?二体?それとも一体かナ?」
 エリザの挑発するような言動に、クリスタはこめかみに青筋を立てる。
 後ろでぷくく、と笑っているエリザの声が聞こえ、落ち着くために、深呼吸をする。
 そして、真っ直ぐに前を見据え、
「一体でも多く倒して借りを作ろうと思うな。私がお前を嫌っているのは知っているだろう」
「知ってるよ〜。ってか助けた時点で既に借りなんだけど?」
 ふん、とクリスタは息を吐いて、
「半分ずつだ」
「オッケー」
 二人は前へと突き進み、目の前のマルトースを相手にしていく。
 監視カメラで眺めていたマルトースはその光景を見て、歯噛みする。
 クリスタを助けるために、エリザが割って入るなんてとんだ誤算だ。誰も来ないと思っていた。来たところでキルティーアかスノウだと思っていた。それでも来ないという確信があった。そもそも壁を頑丈に作り容易く壊せないほど強固にしたのに、壁を突き破ってなど、常軌を逸している。
「……作戦、失敗ですわね。どーします、隊長」
 彼の後ろにはカルラが立っていた。
 マルトースはゆっくりと椅子から立ち上がり、別の部屋へと向かう。
「クリスタではなく、エリザを潰そうか。だが、実行はまた今度。そろそろプルートの出撃、と伝えておいてくれ」
「……やはり、使うのですね。プルートを」
 ああ、とマルトースは頷き、
「天子と他の奴らを駆逐する。それにアイツも切原魁斗に興味を持っているようだ」
 ふーん、とカルラは相槌を打つ。

 四角く区切られた窓を眺める一つの人影。
 薄暗い廊下に佇む黒い衣装の少女は、仮面をつけず、窓の景色を眺めていた。暗い空に浮かぶ、綺麗な月を。
 場所の暗さで分かりにくいが、彼女は怪しげな笑みを浮かべている。
 彼女は薄暗い廊下でただ一人、誰に向けるわけでもなく呟く。
「……………切原、魁斗……………」

96ライナー:2011/08/21(日) 10:49:43 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
 どもー。ライナーです^^
 ≫94ですが、あくまで主人公の回想シーンなので主人公と実際関わりがあります。だからこれは主人公に沿った物語だと言えますね。回想シーンであって敵方の様子を長々と模写するのとは訳が違います。
 さらにドギツイことを言うと、漫画家の先生と自分の小説を同列に考えては行けません^^;
 漫画家の先生は(どなたか知りませんが)その道のプロです。それに中盤あたり1回と言いましたよね?一回ならまだしも、主人公達の日常や勝利後に何度も出ているように見られます。
 基本的に僕達アマチュアは視点移動に高等な技術を持っている者が少なく、相当上手い視点移動を描かないとどの人間を書いているのか読者が混乱する恐れがありますので、やり過ぎは注意が必要なのです。
 最初に漫画家の先生を例に出して話しましたが、本当はこれが一番重要です。
 漫画やアニメと違い小説は『文字だけで楽しむもの』だから比べてはいけません。比べるなら小説を話題に出しましょう。
 それから日常描写も拝見いたしました。これには文句なしです^^いろんなジャンルが吹き込まれそうで面白そうですね!
 さて、嫌々ながらも最後のタブーをお教えします。
 これは本来、動かし方で何とかなる物なので今まで普通に見守っていたのですが^^;
 そのタブーとは、登場人物を多くしすぎないことです!
 今のところ主人公側には……7人ですか?これでは多すぎますね^^;登場人物が多いと1人1人を深く掘り下げることが出来ず、薄っぺらい個性しか出ません。
 僕が今見てて思うのは、ハクア、藤崎のお嬢さんですね。本来個性のある人物なのでしょうが、沢山の人物を登場させるあまり、俗に言う「空気キャラ」と化しています。
 長編の小説を作るルールでは最高8人なのです。敵方と合わせるとかなりの数になり、読者が話しを飲み込みづらくなってしまいますね。
 問題の改善方法ですが、それはメンバーチェンジです。
 主に考えるのは、メインキャラ(主人公側)、サブキャラ(味方)、この3つです。
 メインキャラが多い場合は次は誰と誰を出すかなど何人かサブキャラに回し、ローテーションをさせると良いですよ。
 サブキャラと言っても、味方なのは間違いないので出番の多さが変わるだけと考えて良いでしょう。
 またもや長ったらしいアドバイスになりましたが、見る気があるときに見たほうがいいでしょう^^; m(_ _)mとりあえず済みませんでした。

 こんな書いたので誤字脱字もあり得ます。充分注意して御覧になって下さい(下に書いても意味無いだろ)

97ライナー:2011/08/21(日) 10:54:31 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
96≫の19行目早速間違えました^^;
3つ→2つ です。

98竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/21(日) 12:03:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
アドバイスで初めて気付きましたが、確かに勝利後に何回も敵を出してるような…
これからは少なめにしないと…。
この指摘がなければ気付きませんでした、ありがとうございます!

日常描写は良かったですか?
あんまり自信がなかったので、不安だったのですが、安心です。

ハクアと恋音ですか…。確かになんか他の奴と比べて動かしづらいんですよね…。
ローテーションですか、なるほど。思いつきませんでした。

いえいえ、早速見させていただき、参考になることばかりでした。
いつも、ありがとうございます!

99ライナー:2011/08/21(日) 13:00:56 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
98≫ いえいえ、いっつもキツイ言い方になってしまいこちらも直そうと努力しているのですが、穏やかに対応して頂いて有り難う御座います!

   日常描写、大丈夫ですよ!自信持ってください!小説なんて自信が無ければ出来ませんしね^^
   サブオプで恋愛、ギャグなど盛り込んでみるといいかもです。

   これからも応援しますので、頑張ってください!
   ではではwww

100竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/21(日) 13:04:00 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 六体のマルトースを倒し、部屋のドアが開かれる。
 マルトースを倒せば、部屋から出られるようだ。もっともエリザが壁を突き破って侵入、などということをしたから出られないわけでもないのだが。
 エリザとクリスタは部屋から出る。
 んー、と気持ち良さそうに伸びをしたエリザは、
「さってと、帰ろーっと」
「待て」
 クリスタに背を向けて、去っていこうとしたエリザはクリスタに呼び止められた。
 敵意などを全く向けずに、エリザはクリスタの方へと視線を向ける。
「……こ、今回は助かった。一応礼は言っておこう……」
 エリザはニッと笑みを浮かべて、
「らしくないな〜。『助けてもらったなんて思ってないんだからねっ!』とかって嫌味の一つでも言う方がらしいよ」
 クリスタは両腰の刀を再度引き抜き、エリザへと切りかかる。
 しかし、予想していたのかエリザも幅の広い刀でその攻撃を防いでいる。
「お前は私がツンデレだと思っているのか?馬鹿か、馬鹿なんだなお前は」
「違うよー。ちょこっと可愛くなってみろってことさ」
 ふん、と息を吐き、クリスタは刀を腰の鞘に戻す。
 二人は背を向けあい、何も言うことはなかった。
 空気に耐え切れなかったのか、クリスタは背を向けたまま歩き出す。
 わざと、相手に聞こえるように、
「中々やるものだな。『天童』…確かにその通りだ」
 エリザはクリスタの方を振り返るが、クリスタは振り返らなかった。
 彼女は去っていくクリスタの背中を数秒眺め、彼女と逆方向に歩いていく。
「見直したってのは、私もかな」

 午後八時丁度の時間。
 桐生仙一は暗い夜道を歩いていた。向かう先はメルティとの修行中に副隊長のアギトが襲来してきた河川敷だ。
 彼は修行をしに来たわけではない。だが、一応『剣(つるぎ)』は首から提げている。
 彼は河川敷にいる一人の人影を見つけ、声をかける。
「まさか、君から電話なんてね。ちょっとビックリしたよ。藤崎さん」
 河川敷にいたのは藤崎恋音。
 『いた』ではなく『待っていた』の方がニュアンスは正しいだろう。桐生は藤崎から電話を受けてやってきたのだ。彼女は桐生が来るのを一人で待っていたのだ。
 藤崎はいつもとは違い、髪をポニーテールに結わず、普通に下ろしており、夜風が彼女の髪をなびかせている。
「で、用って何かな?大体想像はつくけど」
「うん、切原君はレナさんと修行だろうし、私は一緒にする人いないからさ…だから桐生君がよければ一緒にどうかなーって…思ったんだけど……」
 桐生は軽く息を吐く。
 頼むことは彼女にとってはとても勇気が必要だったのか、顔を僅かに赤らめて下を向いている。
 そんな藤崎を見て、桐生は溜息をつく。
「いいよ。僕もいつも一人でやってたし、誰かと一緒の方がいいだろうしね」
 俯いていた藤崎が顔を上げて、ぱぁっと明るい表情を作る。
 藤崎は明るい表情に笑みを浮かべて、
「ありがとう!!」
 と桐生の手をガシッと掴み、二人は修行を開始する。

101竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/21(日) 15:59:07 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 結局、桐生と藤崎は早めに帰ってくれたが、九時くらいまでメルティとハクアは居座っていた。メルティの話が脱線しすぎて、魁斗の部屋にある漫画を読んでいたら急に漫画の話になったかと思ったら、いきなりトランプで遊ぶことになったりと、メルティだけはかなりはしゃいでいた。
 魁斗が部屋から降りて、リビングの椅子に座ると、
「あら」
 という魅貴の声が聞こえてくる。
 魁斗はその声に気付き、どうしたのか聞いてみると、どうやらペットボトルのお茶が空になってしまったらしい。メルティ達が来たときにはジュースを出していたから気付かなかったみたいだ。
「じゃあ俺、買って来るわ」
 魁斗は椅子から立ち上がりながらそう言う。
 魅貴は『ありがと。じゃあお願いね』と言ってお金を渡し、魁斗が出ようとすると、
「あ、待って」
 と魁斗を魅貴は呼び止める。
 魁斗は足を滑らせ転倒しそうになったが、そこは何とか踏みとどまる。
「何だよ」
「カイちゃんは誰にするの」
 は?と魁斗は目を丸くする。買って来るお茶の話にしては『誰にするの』は可笑しい気がする。
 首をかしげ、まったく理解できてない魁斗に魅貴は分かるように、
「だから、レナちゃん、ハクアちゃん、恋音ちゃん、メルティちゃん。誰狙いなのって」
「何言ってんだよ!!」
 どうやら家にやってきた女の子たちの話らしい。ちなみにアイドルが家にやって来て魅貴は『同じ学校だから』という理由で大して驚きはしていなかった。
 魁斗は『皆友達』と言って親を振り切り、お茶を買いに外へと出る。
 外は暗く、街灯が照らしているところだけが眩しく思える程だった。
 すると、魁斗の歩いている前の街灯で人影が見える。
 黒い衣装に仮面をつけた、茶色い髪の少女だ。
(……なんだ、アイツ…)
 魁斗がそう思った瞬間、仮面の少女は魁斗の目の前に立ち、魁斗の顔目掛けて下から上へと刀を突き刺そうと向けてくる。
 魁斗は反応して、身を後ろに逸らし、相手から距離を取る。
(何だ…全く見えなかった……!)
 少女は再び襲い掛かる。
 魁斗も剣(つるぎ)を解放して、応戦する。彼女も魁斗と同じ双剣を使っていた。
 金属と金属がけたたましく音を発する。両者の剣技は互角だった。
「くっそ……!顔を見せやがれ!」
 魁斗が相手の仮面を刀の峰で仮面を弾く。

 魁斗は相手の顔を見ると言葉が出なくなってしまった。

「……な、何でお前が……!?」
 仮面が無くなった相手の顔は、魁斗がよく知る人物だった。

102竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/21(日) 19:49:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第三十六閃「プルート」

 レナは暗い夜道を走っていた。
 風呂から上がって、魁斗がいないことに気付いたレナは魅貴から『カイちゃんならお使いに行ってくれたわよ』と聞いて、彼を追いかけている最中だ。
「まったく、酷いですよカイト様は。お使いなら私もお供するのに……」
 コンビニに買いに行ったのだろうと考えて、近くのコンビニへの道を走っている。
 すると、案の定魁斗の後姿を見かけ、声をかけようとしたが、声が出せなかった。
 後姿でも分かるくらい異常な状態だ。
 両手に刀を握り、目の前を見たまま動こうとしない。
「か、カイト……様…?」
 レナが後ろから魁斗に声をかける。
 魁斗はレナがいることに気付かずに、声を発する。
「……何で…何でお前が、こんなことしてるんだよ……?」
 レナは魁斗の横に立って彼の顔を見る。
 驚いたようにも見えるが、何かに怯えているようにも見える。
 その元凶は目の前にあるのだろう、レナは魁斗の視線の先を見る。
 そこにいたのは、

 黒いドレスの衣装に身を包み、振袖のようになっている両の袖から刀を出している沢木叶絵だった。

「……さ、沢木……さん…?」
 しかし、魁斗達の知る沢木叶絵ではない。
 目が冷たく、表情の起伏がほとんどなく、口元に怪しげな笑みを浮かべている。沢木叶絵にそっくりだが、見た目が全然違っていた。
 沢木叶絵ははぁ、と息を吐く。
「だーから仮面被ったのに……なーんで取っちゃうかな」
 喋り方も違っていた。
 いつもなら敬語のはずだ。なのに今の沢木叶絵は元の彼女の喋り方の片鱗もなかった。
「あれ、いつの間にか養育係さんもいるじゃん。二対一はあんま得意じゃないよ?」
 魁斗はその言葉で初めてレナが横にいることに気付いた。
「……カイト様…これは、一体どういうことですか…?」
「…俺だって知らねぇよ…!いきなりコイツと戦うことになって、それで仮面を弾いたら……どういうことだよ…ッ!」
 ふふっと沢木叶絵は不気味な笑みを浮かべる。
「さーね。元の記憶なんか知るかっての。私は気付いたら『死を司る人形(デスパペット)』のアジトにいて、マルトースの前で人形ぶってただけなんだから」
 マルトースが実験を成功させてもすぐに沢木叶絵を出さなかったのは、彼女の精神に異常があったからだ。
 知識は赤ん坊同然。そんな奴を戦わせるわけにはいかない。しかし、殺すことに関しては何の躊躇もない。まずは敵味方を区別するところから始めたらしいのだが。
「しっかしアイツも馬鹿だよね。私が演技してるってのに気付かないんだもん。馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。いやー、でもいいよ、外の空気!ずっと中にいたしさぁ…」
「……一つ、聞いていいか?」
 沢木叶絵は魁斗の言葉で彼へと視線を向ける。
「……お前は、沢木叶絵なのか……?」
 彼女は僅かに黙り込み、軽く息を吐く。
 それから告げる。
「身体は沢木叶絵。でも、中身はプルート。今は沢木叶絵の身体を借りて、この世界にいるの。さあ、説明は終わり」
 プルートは刀を魁斗へと向けて、
「少しは楽しませてよ。ずっと退屈だったんだからさぁ。ね、天子君♪」

103竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/26(金) 16:29:42 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ニヤリ、と一瞬不気味な笑みを浮かべたプルートは矢のように魁斗の目の前まで突っ込み、勢いよく右の刀を横へ薙ぐ。
 ガァン!!と耳が痛くなるような轟音が響くが、魁斗は何とか刀で防ぐことが出来た。魁斗はぶつかり合った音だけでも刀が折れそうな不安に駆られた。
 魁斗歯を食いしばって後ろへ二歩ほど下がり、目の前のプルートを睨みつける。
「……」
 睨んでいるだけで特に何をするわけでもない魁斗に、プルートはむっとした表情で、
「なーによ、何もしないの?どんなことをしてくれるか楽しみにしてたのにぃー」
 魁斗はプルートの攻撃を防いだ右腕へと視線を落とす。
 じんじん、と痛むのが分かる。それだけじゃない。僅かに、小刻みに、震えているのもよく見ていれば分かる。
 プルートは笑みを浮かべて、
「ありゃ、ちょっと手加減したほうが良かった?でも、今ので大体八割くらいだよ?全力になったらどうなるのさ」
 くくく、と屈託のない笑みをプルートは浮かべる。
 それから、着ている服を見せびらかすようにくるくると回る。その行動は親に買ってもらった好みの服を着て楽しんでいる子どものようにも見える。
「さーさー、斬ってみなよ。ノーガードで構えててあげるからさ」
 プルートは何を考えているか分からない表情で、抱きついてくるのを待ち受けるように腕を広げる。
 魁斗はその挑発に乗り、天子の脚力を活かし、一気にプルートとの距離を縮め、刀を振りかぶる。
 その時、プルートの唇が怪しく動く。
「でもね、私の言葉聞いてた?中身はプルートだけどさぁ……」
 ピクッと魁斗の腕が反応し、斬りかかる腕が減速する。
「身体は沢木叶絵なんだよ?斬ったら傷つくのは……分かるよね」
 ドッとプルートが魁斗の腹に蹴りを入れる。
 一気に息を漏らし、苦しそうな表情でよろよろと後ろへとさがり、膝をついて咳き込む。
 その光景を見て、レナが割り込もうとするが魁斗が止める。
 魁斗は足に力を込めて立ち上がる。
「……レナ、手は出すな。これは俺の戦いだ……」
「ですが……」
「いいから!!」
 レナは魁斗の怒ったような言葉に肩をビクッと震わせて口を閉ざしてしまう。
「カワイソー。君を思って言ってくれてるのにさ。嫌われてもしらないよ?」
 魁斗は真っ直ぐにプルートを見る。
 『睨む』ではなく『見る』。
「……かかって来いよ、サワ。お前の全力をぶつけて来い」
 呼ばれた名前にプルートは激昂する。
 何故か、その名前は酷く気持ちが悪い気がした。
「その名で……私を呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 プルートの全身にどす黒い、見ただけで分かるような闇のオーラが纏わりつく。

104竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/26(金) 19:38:07 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 魁斗はプルートに聞こえないようにレナに話をかける。
「…レナ、プルートのあの剣(つるぎ)、どういう能力か分かるか?」
 不意の質問にえ、と間の抜けた声を出してしまうレナだったが、すぐに頭を回転させて、顎に手を添え答える。
「えっと……双剣、おそらく『降魔の竜尾(ふるまのりゅうび)』です。使用者の身体と融合し慣れてくればその身に魔を宿す…という能力です。私も実物はしりませんが…」
 レナがそこまで言ったところで魁斗はプルートを見る。
 どす黒いオーラが纏わりついているだけで、何か変わったところはない。もしかして、心に魔が宿ってしまっているのか、と考えたが、
 瞬間、プルートの背中から漆黒の翼が生える。
 天使のような潔白さあるものではなく、鳥類のような高く飛ぶためのものでもない、正真正銘の本などで見る悪魔の翼。
「レナ……あれって」
「はい、もう始まっています。早く剣(つるぎ)から解放しないと、沢木さんが……ッ!」
 レナの言葉を遮るようにプルートは咆哮する。
「切原魁斗ォォォ!!」
 翼が生えるまでとは比べ物にならない素早さで魁斗の懐へと突っ込む。
 プルートが刀を振るい、魁斗はかわすが右頬がかるく切れる。
 攻撃をかわされたプルートは低く舌打ちし、彼女の怒りに呼応するように翼がバサバサと羽ばたく。
(……プルートから剣(つるぎ)を解放、か……要するに引っぺがせばいいんだな?でも、どうやって……?)
 プルートは空高く飛び上がり、翼を利用し魁斗へ向かって急降下する。
「休んでる暇はない!!」
 魁斗は転がるように前へかわし、背後のプルートを見る。
 プルートの立っている場所は大きくくぼみ、彼女の右足が、悪魔のように変化していた。
 そろそろヤバイか、と魁斗は呟き、肩で息をする。
 自分にあるのは常人離れした脚力と身に宿る『シャイン』という謎の物。
 カテリーナのように剣(つるぎ)に詳しいわけでも、レナのように天界に詳しいわけでもない。だが、

 彼女だけは、沢木叶絵だけはなんとしてでも救い出したい。

「……一か八か…」
 魁斗はぎゅっと刀を握り締め、構える。
 プルートを待ち受けるように。
「やってみるしか、ねぇ!!」

105ライナー:2011/08/26(金) 23:33:44 HOST:222-151-086-018.jp.fiberbit.net
 100レス到達お祝いいたします^^
 100の前に結構自分の書込みが多かったので、間を開けさせていただきました。
 いろんな武器が目白押しですね!でもやっぱ僕が一番好きなのはザンザさんの大宝の御剣ですかね〜。(心の底からザンザさん押し)
 沢木さんどうなっちゃうんですかね……乗り移るプルートが憎いです(笑)
 にしてもやはり思うのが、戦闘模写が上手いですね……自分の場合いつも短くなってしまうので……
 長くなりましたが、お互い頑張りましょう!
 ※過去と未来という(僕の友人が書いている)小説が僕は好きなのですが、こちらも戦闘模写、情景模写ともに面白いので、是非見てみて下さい!!

106竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/27(土) 01:33:03 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメントありがとうございます!
100レス到達しても相変わらずスローテンポですが…。
武器の名前まで覚えていただけてるとは…嬉しい限りです!
まあそれは、後のお楽しみってことで^^
ありがとうございます!
特に僕は戦闘に力を入れているので、評価してくださって嬉しいです!
はい、これからも頑張りましょうね!

はい、それでは今度覗かせてもらいますね^^

107竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/27(土) 01:57:09 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第三十七閃「心の声」

 プルートが叫ぶように声を上げ、魁斗に斬りかかる。
 魁斗はプルートの攻撃を刀で受け止めるが、最初に受けたときと比べて重さが増している。翼、足とどんどん本物の悪魔へとプルートは変化していく。だが、身体はプルートではなく、沢木叶絵のものだ。早くしなければ本当に手遅れになる。
 また一度、魁斗とプルートの刀が交わる。
 すると、魁斗の耳に、
(……!)
 声が聞こえた。
 聞き取れないような微かで消えてしまいそうな声だったが、どこか聞き覚えのある声だった。
 重さを徐々に増していくプルートの攻撃を魁斗は防ぐ。
 そしてまた、今度は鮮明に魁斗の耳に言葉が届く。
(……どうして…っ!)
 微かで消えてしまいそうな小さな声は、紛れもなく沢木叶絵のものだった。
 だが今の沢木、プルートがそんな言葉を発するとは思えない。狂気に満ちた声でなく、何の変哲もない沢木の声だったのだから。
 魁斗とプルートの刀がぶつかり合うたび、魁斗の耳に言葉が届く。
(……どうして…っ!何で私だけ戦わせてくれないんですか…?何で私だけ蚊帳の外なんですか…?私だって、みんなの力になれるのに……!守ることぐらい出来るのにっ!!)
 沢木の言葉を聞いた魁斗は僅かに笑みを浮かべ、ポツリと呟く。
「そっか…簡単なことだったんだな…。そういうことかよ」
 魁斗はレナへと視線を向け、再び質問を投げかける。
「レナ。『降魔の竜尾(ふるまのりゅうび)』の魔の侵食はどうしたら進む?」
「えぇ!?進む、ですか?」
 レナは僅かに裏返った声で驚きをあらわにする。
 今の状況なら、少しでも遅らせる方が良いに決まってるのに、レナは言い淀みながらも魁斗の質問に答える。
「ええと…負の感情とかだと、私は思います…。カテリーナさんではないので、合ってるかどうかは……」
「分かった。だったらオッケーだ!」
 状況が飲み込めないレナは首を傾げたままだ。
 相変わらずどす黒いオーラを身体に纏い、狂気に満ちた目をしているプルートは魁斗へと視線を向けている。
「どうした。戦う素振りを見せて防戦一方じゃん。そんなんで私に勝てると思ってんのかッ!!」
 プルートはどす黒いオーラを全身から刀に纏わせ、渾身の一撃を繰り出そうとしている。
 一方の魁斗は刀に光すら纏わせていない。
「…カイト様、一体何を…?」
 プルートは足に力を込めて、思いっきり蹴り魁斗の懐へと突っ込んでいく。
「刀ごと…お前も壊れろ!!」
「……悪いな、俺はまだ負けられない」
 魁斗は構えていた刀を横合いへ投げ捨て、プルートへと突っ込んでいく。
 レナとプルートが目を疑った。
「いけません!!カイト様!!」
 レナの叫びが夜の街に響く。
 だが、魁斗の意志は変わらない。
「馬鹿が!!ここで無様に散れぇ!!」
 プルートの刀は魁斗でもレナでもない何者かによって止められる。
 身体を押さえつけているものではなく、身体の内側から押さえつけられるような感覚だ。
 こんなことが出来るのは一人しかいない。
 切原魁斗とプルート。
 二人がぶつかり合い、勝敗は決した。

108名無しさん:2011/08/27(土) 03:12:23 HOST:i58-95-70-237.s10.a033.ap.plala.or.jp
暇な奴きなよ☆

↑暇な人どうぞ♪

109竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/27(土) 09:11:38 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 刀を投げ捨てた魁斗はプルートへと突っ込んでいく。
 それこそ何も武器となるものは何もない、丸腰状態で。唯一の武器といえば常人離れした脚力を利用しての蹴りだろうが、プルートにはかわされるだろう。
 だが、魁斗が取った行動は攻撃ではなかった。
「……くそ、動け!何故だ…っ!何故邪魔をする!?弱い存在が、いきがるなぁ!!」
 プルートは動きが止まった自分自身の右腕に向かってそう叫ぶ。
 その顔は激しい憎悪にまみれ、沢木叶絵の面影などなかった。
 相手の動きが止まったのを見て、魁斗は沢木叶絵をプルートから解放するための行動に出る。
「……く、くるなッ…!」
 プルートは眉間にしわをよせ、僅かに怯えたような表情で魁斗に訴えるが、彼の耳には届かない。
 魁斗は両の腕を思い切り伸ばして、

 優しく、プルートを抱きしめる。

「……なッ…」
 その行動に驚いたのは当のプルートだけでなくレナもだった。
 敵のプルートにましてや、殺気を孕んでいる相手を抱きしめるなど、何を考えているか分からない。
 魁斗はプルートに優しい声で囁く。
「……もういいんだよ、サワ…」
「うぐ、その名で呼ぶなと……!」
 プルートは脱出しようともがくが、抵抗する力が出てこない。
 それどころか全身に力が入らない。内の人格がそうしているのか、あるいは天子としての力か。強く抱きしめていられればそれなりの力を感じるが、魁斗はあまり力を加えているようには思えない。
「……もういいんだよ…。お前は戦わなくてもいい。守らなくてもいい。ただ、お前は側にいてくれるだけでいいんだ」
 プルートの瞳が大きく揺らぐ。
 ずるずる、と下に向けられた両の刀の切っ先が地面へと近づいていく。
「誰もお前を蚊帳の外にするつもりなんてねぇよ。ただ、お前を守りたかったから、お前を遠ざけることしか出来なかった。それについては謝るよ。でも、俺らが思ってたよりお前は強い心を持ってたんだな。意志も、決意も…俺なんかよりは強いよ」
 プルートの身体が小刻みに震える。
「武器なんかなくたっていい。力なんかなくたっていい。お前はただ、俺達の横で笑ってくれればいいんだ。それだけでいい…それだけでお前は俺達と一緒に戦ってるんだよ!何故か、お前が笑えば、皆が笑うから!!」
「……………っ!いと……くん……。……カイ、ト……君…」
 バシュゥ!!という何かが抜ける音と共に沢木から黒いオーラが消え去り、翼も、足も、悪魔に変化していった部分は元に戻り、普通の黒のドレスに戻っていた。そして、『降魔の竜尾(ふるまのりゅうび)』は彼女の手から後ろへ飛んでいき、地面に突き刺さる。
 狂気に満ちた目からいつもの優しい沢木叶絵の瞳に戻る。
「………ありがとう……」 
 それだけ言うと、沢木はフッと目を閉じる。気持ち良さそうに寝息を立てているあたり、寝ているようだ。
 
 沢木叶絵はプルートという悪魔から解き放たれた。

110竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/27(土) 22:25:53 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 魁斗は眠ってしまった沢木を抱え、後ろを振り返る。
 振り返るとレナが心配そうな顔で見つめていることに気付く。
「カイト様…ご無事ですか?」
「ああ、なんとかな」
 駆け寄ってきたレナの質問に魁斗は答える。
 眠っている沢木を見てレナはホッと溜息をつき、魁斗へと視線を戻す。
「カイト様、何故さっきあんな危ない行動に?」
 魁斗は僅かに黙り、それから口を開く。
「……刀が交わるたび、サワの心の言葉が聞こえたんだ。こいつの負の感情は『蚊帳の外にされていること』だ。ちゃんと説明すれば分かってくれると思ったけど…上手くいってよかった」
 それだけで?とレナは聞き返す。
 魁斗は当たり前のようにいや、と言って、
「お前言ってたろ。『降魔の竜尾(ふるまのりゅうび)』の侵食が進む方法は強い負の感情だって。それでピンときたんだよ」
「あれはカイト様が訊ねたからです…」
 褒められて嬉しいのか顔を僅かに赤くして、レナは俯いてしまう。
 魁斗は首をかしげながらも、
「とりあえず、とっとと離れようぜ。増援が来たら元も子も…」

「もう来てますよ」
 
 不意に背後から飛んできた声に魁斗は勢いよく振り返る。
 すると『降魔の竜尾(ふるまのりゅうび)』が突き刺さっている側に白一色の衣装のマルトースが立っていた。魁斗やレナは初対面なので、顔を強張らせる。
「警戒は解いてください。私は剣(つるぎ)の回収に来ただけです。やるというならやってもいいですけど…天子君の体調が優れないようで」
 レナは魁斗を見る。
 プルートと互角に戦っていたのだから、具合が悪いというわけでもなさそうだ。外見では見えないのだろうか。
「腕。プルートの攻撃をまともに刀で受けたんだ。無事なワケがない」
 よく見ると魁斗の腕が僅かに震えている。
 沢木を抱えるだけでも無理をしているのかもしれない。魁斗が早く帰ろうとしたのは敵が来ることを恐れたのと、腕が原因かもしれない。
 刀を放ったのは必要ないと同時に今の状態じゃ使えないという判断があったのだろう。
「とりあえず、私はやるつもりはありません。それでは帰らせていただきますね」
 マルトースは刀を引き抜き、マントをはためかせて魁斗達に背を向ける。
「待て」
 帰ろうとするマルトースを魁斗は止める。
 マルトースは振り返り、魁斗は口を開く。
「お前、隊長だよな。他の奴らにも言っとけ」
 魁斗は軽く息を吸って、
「首洗って待っとけ、ってな」
 マルトースは笑みを浮かべる。
 引き裂かれたような、不気味な笑みを。
「かしこまりました」
 マルトースはその場から消える。
 
 とりあえず、沢木の救出も出来たし一件落着となった。

111竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/28(日) 12:35:57 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 沢木はうっすらと目を開ける。
 彼女の目に映るのはどこかの部屋の天井。彼女の記憶は『死を司る人形(デスパペット)』の牢屋からマルトースによって出され、実験室のような広い部屋につれてこられたところまでだ。苦しいこともあったし、辛いことも僅かながら残っている。そして、今の彼女の頭の新しい記憶は切原魁斗が助けてくれたことだ。
 だとすると、今自分がいるのは彼の部屋。そして彼のベッドに寝かされているようだ。
 沢木が上半身を起こして、辺りを見回していると部屋の扉の向こうから声が聞こえてくる。
 久しぶりに聞いた、聞き覚えのある声が。
「沢木さんを助けれたって本当なの?嘘だったら許さないよ」
「嘘じゃねーって。まだ寝てるかもしれないけど…」
「切原君、藤崎さん。静かにした方がいいよ。夜なんだし、沢木さんが寝てるかもしれないんだったら起こしちゃうだろ」
 そう言い終わると、扉が開けられる。
 入ってきたのは魁斗とレナはもちろんのこと、帰っていたハクアと桐生と藤崎もいた。
 魁斗から連絡があって、急いで駆けつけたらしいが、メルティはおやすみタイムに入っていたらしい。
「ん、起きてたか」
 魁斗達は沢木の方へと寄る。
 皆安心したような顔で彼女を見つめている。魁斗だけは腕に包帯を巻き、頬に絆創膏を貼っているが。
「……皆…」
「一応は切原君から全部聞いたよ」
「ごめんね。沢木さんさんってつい守ってあげたくなっちゃったのよ」
 桐生は眼鏡を上げながら、藤崎は頬を照れくさそうにかきながらそう言う。
 沢木は俯いて、僅かに震えだす。
「……謝るのは、私の方です……。皆がどうしてるかは、向こうで聞きました…。私のせいで、私がでしゃばったせいで……皆を守るどころか、さらに傷つけちゃって……っ!」
 沢木の震えは徐々に大きくなっている。
 俯き、表情は分からないが涙を流している。それが分かるほど身体も声も震えていた。
「何でお前が謝るんだよ」
 魁斗の言葉に沢木は涙を浮かべた顔を上げて、魁斗の方へと視線を向ける。
「お前は誤る必要なんてねーぜ?お前は俺達を守ろうとしてくれたんだ。だからお前は泣くな、笑ってろ」
 魁斗は沢木の頭に手を置く。
「言ったろ。お前は、ただ側で笑ってくれって。それだけでいいんだ」
 沢木は涙を流して魁斗に抱きつく。
 そして、声を上げて泣く。今まで我慢してた分を一気に吐き出すように。
「ありがとう、ございます………!ありがとうございます、カイト君…!レナさん…!ハクアさん…!桐生君…!恋音ちゃん…!」
 沢木は魁斗に抱きついたまま、泣きながら笑みを浮かべる。
「……私、皆が大好きです……っ!」

112saorin:2011/08/28(日) 17:17:34 HOST:d219.Osa8N1FM1.vectant.ne.jp
世の中には簡単で儲かる仕事があるもんだ(;・ω・)。 ttp://tinyurl.k2i.me/eQAZ


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