したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

【習作】1レスSS集積所【超短編】

1名無しさん:2015/11/21(土) 00:23:52 ID:gr26XeI60
「SS書けたけどツイノベには長いし、1000文字には満たない…」
「投稿所の新着に載せる/自分の作品ページに1作置くほどでもない…、でも日の目を当てたい!」
「初作で躓いて変なイメージついたり、叩かれたくない…」
「まずは匿名でいいから反応を見てみたい…」

 そんな初心者や超短編作家の皆様! この度、談話室に『1レスSS集積所』を作成しました!
 初心者作家の叩き台から、本館作家の息抜きネタSS、そしてその感想など、様々なレスを投じてください。
 魔物娘さんたちといちゃエロちゅっちゅしたりほのぼのするSSをお待ちしております。

 【このスレのルール】
・SSの内容に関するルールは本館と同じとします。
・作品とその感想は1レスでまとめてください。特にこのスレでの連載は禁止します。
・基本的にここで作品を投稿しても匿名になります。匿名ゆえのトラブルのリスクは投稿前によく考えてください。HN・トリ付けは自己責任で。
・ほんわかレス推奨です!


他にも色々なスレがあります。目的に適したスレをご利用ください。

※魔物娘図鑑と関係ない話題でもOKです。
雑談スレ12:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/11485/1446028423/

※新刊同人誌の話題は解禁されるまでネタバレスレでお願いします。
ネタバレスレ:ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/11485/1294842422

※エロ魔物娘図鑑やSSに関する考察・妄想・ネタ話などはこちらへ。
エロ魔物娘図鑑スレ10:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/11485/1441958563/

※魔物娘の生態や世界情勢など、図鑑世界にまつわる考察はこちらへ。
魔物娘図鑑世界考察スレ6:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/11485/1411941292/

※SS作者さん特有のピンポイント過ぎて微妙な質問・相談などはこちらへ。
SS書き手で雑談しましょ 8:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/11485/1445590184/

139名無しさん:2017/03/01(水) 22:22:00 ID:60u09RXM0
(ゲイザーちゃんだったのか、金物と一つ目でサイクロプスさんで想像してた)

140名無しさん:2017/03/01(水) 22:51:02 ID:bw5BHOqEO
>>139
間違いなく読み手のミスですね(汗)
色々申し訳な過ぎて今悶絶中です……。

141名無しさん:2017/03/02(木) 10:42:23 ID:3cLBpCTY0
「本当……ついてないな」

 病院のベッドの上、ボクは一人ため息をつく。
 まさか、学校からの帰り道、飛んできたボールが頭にぶつかって入院する事になるなんて。
 診断によると、命に別状こそないものの数日間の入院は免れないらしい。
 相手に悪気がなかっとはいえ、ため息の一つでもつきたくなる状況である。

「そうですね。それは、随分と不運だったと思います」
「はは、君に比べたら。全然だけどね」

 隣から聞こえた可愛らしい声に、苦笑で返す。
 声の主は、カーテンで隔てられた向こうにいる、病気の女の子だ。
 ボクはベッドから降りられないから面と向かってあったことはないけれど、毎日話しているうち

に随分と仲良くなれたと思う。

「学校って、どんな所でしょうか?」

 初めてそんなことを聞かれたときは、思わずきき返してしまうほど--彼女は何も知らなかった


 生まれたときからの病気(遺伝子の病気--という事くらいしか、無知なボクにはわからなかっ

たけれど)で、ずっと病室から出たことのない少女にとって、学校すらがファンタジーなのだろう


 だからだろうか。
 ボクは、彼女と一杯話をしたと思う。
 学校のこと、家族のこと、友達のこと。
 自分でもビックリするくらい、ネタが尽きることはなかった。
 普段過ごす『日常』というものが、どれほどに輝いていたか。ボクはそのときようやく知ること

ができたのだ。

「へえ、そろそろ体育祭があるんですか」
「うん、変わった時期だけど、学校の都合なんだって」

 一度はイヤミになるからやめたほうがいいかな、とも考えたけれど。
 彼女が何度も聞いてくるから、ボクは話すことをやめられなかった。
 いや、彼女と話すのが本当に楽しかったのだ。
 こんなに、話を聞いてくれた人が初めてだったから。

「明日、退院か」
「はい、随分と楽しくお話させていただきました」

 深夜のベッドの上、ボクは彼女に告げる。
 ボールが当たった程度の怪我、ということは退院が早いということでもある。
 初めのころは、早く退院したかったけれど、今ではとても、名残惜しい。

「あのさ、最後だから。頼みたいことがあるんだ」
「なん、でしょうか?」

 だから、最後にボクは、彼女に頼みたいことができた。

「君の顔を、見せて欲しい」
「それ、は」

 これまでお世話になった少女の顔を、覚えておきたかった。
 いつか、絶対にお見舞いにも行きたかったし、何より思い出になると、そう、思えたから。

「……ごめんなさい」

 けれど、彼女が頷くことはなかった。
 とてもすまなそうに。「貴方には見せられない」と初めて否定の言葉を語る彼女に。
 ボクは、何も言う事が出来なかったのだ。

 退院の日、ベッドから降りたボクは手続きをしていた。
 「相部屋に一人で入院」と書かれた書類だった。

 --その時、ボクは初めて。彼女の正体を察した。
 見せられないと言った理由も、学校を知らないと言った理由も、全て。
 それは、あまりにも非合理的で。
 あまりにも、説得力のある理由だった。

「また、会いに来るよ」

 だから、ボクは。
 ただ、この言葉を口にした。

「ありがとう」

 ちいさな、彼女の声が、後ろからきこえたような。
 そんな、気がした。

142名無しさん:2017/03/02(木) 14:13:37 ID:uSy5Gt1Q0
>>136に便乗してみた

エッチはしていないけど、ド変態キャンサーちゃん。


「はぁ……」

 先輩まだかなぁ…机の角でしちゃいそうだよ。
 ここは資料倉庫。時間は指定された放課後。
 キャンサーの私は密かに先輩と学校でエッチが日課になっている。

「ン……も、もう我慢出来ない」

 もうしたくてしたくてたまらない。
 スカートを落として制服を脱ぐとアソコは洪水みたいになっている。
 これなら先輩と即ハメでも全く問題ない。
 正面から立ったままでもいいし甲羅にのってもらってバックからでもいい。

「せんぱぁい……先輩」

 先輩からもらった写真を机にバラまいてアソコを角にこすりつける。
 下半身の蟹の部分から泡がいっぱい溢れてきた。
 あまり出すと先輩の制服溶かしちゃうから気をつけなくちゃ……ああもっとキツく押し付けたい、ハサミで机の脚を掴もう。
 
「先輩のシャツ、ズボンの臭い……すう……はぁぁぁ

 休み時間にもらった体操着の臭いを胸いっぱいに吸い込む。
一度に勢い余って服を溶かしてしまった時『服を溶かしたらお仕置きだよ』て言われたけれど
 お仕置きってどんなことされるのかなぁ?
 バイブ突っ込まれて放置とか、夜の公園に全裸でお散歩とか……想像しただけで脚が段々縮こまっちゃう。
 お仕置きの一つとして先輩の隣でスカートの下にバイブ入れたまま学校内を歩きたいなぁ……涼しい顔しながら歩く自信はある。
 私ってあまり表情変わらないし四六時中先輩とのセックスのことしか考えていないなんて誰も気づかないと思う。
 
「ああっイクッ!ンン!あッあッ……ふッ! ふッ!」

 ふぅ……角オナニーは小さい頃から癖になっているからすぐイっちゃうな。
 指とかペンとかでクリ弄るのが主流ろうけど進んでいる娘はローターとか持っているらしい。

「んふ……先輩大好き」

 写真を手に取り唇を押し当てる。先輩が溜まっていたら休み時間に隠れてフェラ、素股、パイズリで抜いてあげる。お尻の穴はまだ経験した事ないけど先輩が望めば使ってくれて構わない。
 先輩の赤ちゃんも赤ちゃん欲しいな……仕込むなら3年の三学期だな。
 倉庫の鍵が開いた。先輩だ。

「ごめんなさい。先輩待ちきれなくて机の角でしちゃいました」


おしまい


キャンサーちゃんて普通のパンツ履けないからノーパンか紐パン?

143名無しさん:2017/03/02(木) 14:39:19 ID:MQOQG3VsO
小説を書く理由が変わったのは、何時からだろうか。
アイデアが浮かんだ時に、受ける、受けないで考えるようになっていたのは何故だったのだろうか。
パソコンの前に座って、何時もの通りにキーボードを叩くと、乾いた音が暗い室内に響く。

受ける小説を書くのは簡単だ。

目を引くどぎつい設定。
耳慣れない言葉。
裏をかくだけの意外な展開。

単なる虚仮威しにぎないそれらを、短編で纏めるだけ。
長編するとボロが出るが、短編なら関係ない。
キャラクターを扱いきれず、立場が喋っていても。
長く続けば、くどくて呑み込めない下手を誤魔化した言葉でも。
明らかに矛盾だらけの展開でも、倒されるだけの絶対悪さえ用意すれば。王道に唾を吐けば。
問題はない。
全てが「人を選ぶオリジナリティに溢れた作品」という言葉で言い訳出来るのだから。
一定のファンさえいれば伸ばすのが簡単な作風である。

そんな文章を量産した。
沢山、沢山、沢山。書き続けた。
そのたびに評価が伸びた。増える閲覧数に笑みが零れる。

ネタがなければ、名作から無断でキャラクターを借りた。
別に作者の精神や背景なんて気にしなくて良い。下手をすれば読む必要すらない。
知識をひけらかして小説に箔をつける為なのだから。
時事ネタも有効活用だ。テレビに映った嫌いな奴を酷い目に遭わせれば拍手喝采が起きるから。
無言のまま、キーボードを叩く。数時間後、何時も通りの作品が目の前にあった。
何時も自分の作品を読む人間なら、喜んで読んでくれるだろう。

「ふう」

手元の冷めた紅茶を煽り、もう一つのファイルを立ち上げる。
中にあるのは、やはり小説の原稿だった。
キーボードを前にうめき声を一つ。
さっきまでの勢いはそこにはない。

「いつか、あなたの物語が出来たら読ませてほしいな」

それは、かつて小説の書き方を教えてくれた妖精の為の、作品だった。
彼女に読んで貰いたいから、沢山書いて、人気のある凄い作者になろうと思った。
けれど、筆は進まない。頑張って来たはずなのに、彼女に読ませられる文章から、遠くなっていく。
再び溜め息をついて、椅子の背もたれに体重を預ける。
まだ、一文字も小説は進んでいなかった。

「久しぶりだね」

不意に、声が聞こえた。
今、一番聞きたくない声。

「文章、巧くなったね」

パソコンを覗き込んだ妖精は笑った。

「大丈夫。ずっと待ってるから」

その言葉に何故か、涙が出た。

144名無しさん:2017/03/02(木) 20:22:30 ID:WXvigzu20
素晴らしい!感動した!
新しい着眼点だ!
誰も言えない批評をした!

ほらこれで満足かよ

145名無しさん:2017/03/02(木) 20:30:30 ID:MQOQG3VsO
>>144
自分に対する皮肉なんで……。

146名無しさん:2017/03/02(木) 20:38:45 ID:Juo70ZYU0
>>144
お前みたいな読者様がいるから全消し失踪するSS作者が出てくるんだよ

147名無しさん:2017/03/02(木) 20:43:48 ID:WXvigzu20
>>146
どう考えてもSS描いてる人間への嘲笑まみれの作品だろ
むしろこれ読んで筆折る奴すら出るレベル

148名無しさん:2017/03/02(木) 20:47:59 ID:NaT2/ryw0
ほんわかレス推奨なんやで、ここは
>>143さん見てて思うのは、>>11,12さんもそうなのかもしれないけんど
何でSS書いてるんだろって全てのSS書きが考えるんだろなっていうこと
己の中のリャナたんががんばれがんばれしてる人もいるだろうし、SS書いてるときがぼかあ一等幸せなんだって人もいる
書くことに悩んでる人がいたら『書いてもいいし、書かなくてもいい』って思うと楽になるかなって気がする

149名無しさん:2017/03/02(木) 20:51:28 ID:.PAsS2S.0
雰囲気変えにSS投下するよ!

 今日という今日こそ、僕は。
 この部屋を抜け出して、真人間の第一歩を踏み出すのだ。
 今まさに僕を抱き枕にして眠っている、この悪魔の腕から脱出するのだ。
 毎日セックス、セックス……セックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスセックスという生活から開放されるのだ。

 その固い決意を胸にして、僕は自分の身体に取り付く魔の腕を慎重に、慎重に取り外していく。
 カーテンからは眩い朝陽の光が見え、外からは小鳥のさえずりが聞こえてきている。

 待っててね、太陽さん、小鳥さん。もうすぐ僕もそっちに行くから。

 声には出せないので心の中で呼びかける。
 そっと、そ〜っと、悪魔が起きないように、起きないように。よっし、腕から抜け出ることに成功。
 次は、あまり物音を立てないように、抜き足、差し足、忍び足……細心の注意を払ってベッドから降り、部屋の扉に向かって行く。
 一昨日はここで悪魔が目を覚まし、無念にも捕まってしまった。昨日はドアノブを掴んだところでバレた。
 しかし今日は大丈夫だ。取っ手を手にしながら振り返ってみても、悪魔は規則正しい寝息を立てていて、全く起きる気配がない。

 この扉を抜ければ、爛れた生活とはほど遠い、新鮮な朝の空気が吸える……!

 逸る気持ちを抑えつつ、僕は最後の難関であるドアノブを捻った。
 やった、成功だ! 歓喜の笑みを浮かべて、僕は扉をくぐり抜け――

――あれ?

 扉の先では、悪魔がベッドで眠りこけていた。
 振り返る。悪魔がベッドで眠りこけている。
 前を向く。悪魔がベッドで眠りこけている。
 ドアの内側も外側も、まったく同じ光景。ど……どういうこと?

 すると、悪魔のすぅすぅという寝息が、クスクスという忍び笑いへと変わっていった。
 はっとして見れば、悪魔は既に眠りから覚めており、目が合った僕にウインクを投げてくる。

 や、やられた……! 僕は最初から彼女の手のひらの上で踊らされていたのか……!

「ダメよ、勝手に外に行こうなんて。ほら……“戻ってらっしゃい”」

 彼女からの命令の言葉。それは魔力による契約の呪文。
 恨めしいことに、脚は勝手にベッドの方へと歩み寄っていく。

「うふふ、つかまえたぁ……さぁ、また眠りましょう……?」

 今日も失敗した……観念して、再び抱き枕にされるべく彼女の腕の中へ戻りこむ。
 僕は柔らかく温かい体温を感じながら、明日はどうすれば脱出できるかな、と遠い目をして悩み始めるのだった。

150名無しさん:2017/03/02(木) 21:19:37 ID:Juo70ZYU0
>>147
嘲笑まみれだったらボロクソに貶してもいい、と思っているのか?
職歴も学歴も貧相なド底辺の考えてることはさっぱりわからん

151名無しさん:2017/03/02(木) 21:23:20 ID:.PAsS2S.0
喧嘩しないでくれよぉ
このスレが傷心の俺の唯一のオアシスなんだからぁ

>>143のSSは自戒とかそういう類のSSだって
自分は普通にそうやって読めて、良い作品だなって思えました。まる

152名無しさん:2017/03/02(木) 21:23:32 ID:MQOQG3VsO
>>147
本当に申し訳ありませんでした。
受けることばかり考え続けて虚無感にとらわれて、何も考えずにこれを書いてしまった事は弁明出来ない事だと思います。
受ける受けないで考えるのを止めようと思い至って、キーボードの前に座って、自分の為に物語を書こうとして、しばらく考え続けたのに何も浮かばずに自己嫌悪に陥って、ただ、今の自分が書き続けることで何を得られたのかも分からなくなって、そのままの自分を誰かに慰めて欲しくて。
それを、そのままぶつけてしまいました。
11の作者でもある、自分を嘲笑するための自己否定の固まりと、誰かにほめて欲しいという恐怖の塊です。

本当に重ね重ね申し訳ありませんでした。

153名無しさん:2017/03/02(木) 21:26:46 ID:.PAsS2S.0
>>152
気に病まずにまた作品投下してくださいね!

あなたがいなくなったら俺もリャナンシーちゃんと一緒にスレから出て行っちゃうよ……

154名無しさん:2017/03/02(木) 21:39:59 ID:MQOQG3VsO
>>153
今回の件については私の考えなしな行為で貴方にもリャナンシーちゃんにも気を病ませてしまい、本当にごめんなさい。
一つ凄く場違いな事を申しますと、こうして私なんぞの事を思っていただけたというだけで、とても嬉しかったです。

また誰かが許して下さるなら、また、此処で作品を書かせて戴けると嬉しいです。

本日は大変申し訳ありませんでした。

155名無しさん:2017/03/02(木) 21:47:08 ID:WXvigzu20
>>150
今度は人格攻撃かよ
偉大なる自治厨様のお考えは愚かな俺には分かりかねるな

>>152
こっちこそすまんな、煽りレス認定するには過程すっ飛ばしすぎだわ俺
面白いのが俺もまるで同じ悩み持ってたところで、いわゆる流行りネタ書いた直後だったからてっきり

156名無しさん:2017/03/02(木) 22:01:05 ID:9Zd8DvCQ0
とりあえずおまいら怖すぎだろ……
俺みたいな童貞チキンは上のやり取りだけで小便3回チビるし、チビルママンに5回は癒してもらわないとガラケーの震え止まらん

157名無しさん:2017/03/02(木) 22:05:01 ID:0v7yDtoA0
他者への攻撃を許せなくて攻撃的になってしまう、なんという皮肉

158名無しさん:2017/03/02(木) 22:17:56 ID:Juo70ZYU0
>>155
書き手のくせに文章に込められた自戒や投稿者自身に対する皮肉の意図すら読み解けないばかりか、平然と考えも無しに貶すとか恥ずかしくないのか。
今日日、ツイッターのチャットBOTですらお前より人間味の感じられる返答ができるぞ。少しは「人格と知性」を身に着ける努力をすべきだ。

BOTにも劣る相手への返答をするのも疲れたのでこれ以上のレスはしない。負け犬の遠吠え扱いしたければ気が済むまでやればいい。それで君は満足だろうから。

159名無しさん:2017/03/02(木) 22:21:48 ID:MQOQG3VsO
>>156
発端となるようなものを書いてしまったこと、深くお詫びをさせてください。
申し訳ありませんでした。


ところで、デビルママの作品を非常に書きたくなってしまったのですが、いつかこちらで投稿させていただいても構わないでしょうか?
不躾ながら、彼女の可愛さに癒やされたくなってしまったので……。

160名無しさん:2017/03/02(木) 22:26:53 ID:Vu0Pafbw0
まぁ確かにこれ以上は不毛なだけだな
俺が早計すぎた、以上!

>>156
そんなおっかなびっくりしないでくれ
俺があまりにも沸点低すぎただけだしね

161名無しさん:2017/03/02(木) 22:28:14 ID:VFullb.20
「他者への無根拠な罵倒や攻撃はいけない」←せやな

「だからそれっぽいの見つけたらボコボコに叩いて攻撃し罵倒する」←うーん

162名無しさん:2017/03/02(木) 22:29:52 ID:Vu0Pafbw0
うわすまん安価ミスってるわ、>>159向けな

163名無しさん:2017/03/02(木) 22:39:12 ID:9Zd8DvCQ0
え!? いやこんな小便臭い童貞の戯れ言にまで謝らんでいいのよ? ただでさえビビりなんだからそんなにご丁寧に気を遣われると、恐縮するし。

デビルママンは……、上の方も言っているけど、書いてもいいし書かなくてもいいんじゃないかしら。私はただの一読者に過ぎないし、許可を出す権利なんてないし……
とりあえず>>159さんはまず幸せになるといいと思う。残念ながら貴方からはあまり幸せのにおいがしない。幸せになると、もっと幸せになる魔物娘さんや夫がが書けると思うよ。

164名無しさん:2017/03/02(木) 23:00:40 ID:uSy5Gt1Q0
>>142だけど、解決したようなのでリャナンシーたんに
変態キャンサーの批評してほしいです。

165名無しさん:2017/03/02(木) 23:38:45 ID:.PAsS2S.0
>>164
SS作家跋扈するこの地獄変……リャナンシーちゃんはここにいる!
はい、それじゃ早速評価開始ねー。

まず全体の流れだけど、変態キャンサーちゃんを書く、って主眼は良く書けてます!
ここに問題は全く無し、私からも言うこと無しです。
となると、後は内容をどれくらい膨らませるかってことになるわよね。
この場合だったら一人えっちしてる描写をもっと濃厚にするのが無難かしらね。
例文は……わ、私よりもっと上手なリャナンシーちゃんが出てくるだろうから、そっちにお任せ!
ごめんなさい! 私も相棒も、鼻の穴やらアレやら膨らませちゃって、評価どころじゃなくなっちゃいますので!

気を取り直して、文章作法等々の方いっちゃうわね!
概ねは問題ないけど、ところどころ行頭の空白が空けられてなかったり、三点リーダーの偶数使用ができてなかったり……。
それから“!”の後に空白入れてなかったり、ミスが残っちゃってるから注意ね。
あと読点が少ないのがどうしても気になっちゃうわね。

 お仕置きの一つとして先輩の隣でスカートの下にバイブ入れたまま学校内を歩きたいなぁ……涼しい顔しながら歩く自信はある。
 私ってあまり表情変わらないし四六時中先輩とのセックスのことしか考えていないなんて誰も気づかないと思う。

この文なんか、一息で読むのが辛いでしょ?
そういう文章は読んでる側もちょっと辛くなっちゃうから、必ず読点を入れて区切りを入れましょう!
もしくは、あんまり長い文章は言い回しをちょっと書き直しちゃうのも有効よ! 試しに書き変えて、文を分けてみるわね!

 お仕置きだったら……スカートの下にバイブ入れて、先輩と学校内を歩きたいなぁ。
 涼しい顔しながら歩く自信ある。私ってあまり表情変わらないし。
 四六時中先輩とのセックスのことしか考えていないなんて、誰も気づかないと思う。

ほら、これだけでも大分すっきり! 一文が長いことは文章のリズムを崩すことにも繋がるから注意しましょう!

さっくり気味だけどこんなところかしら。参考にしてもらえれば嬉しいな。
あと相棒が紐パン派だって親指立ててたわ。どこが傷心中なのかしらね、まったく。
それじゃあ、また次回作に期待します! 楽しみにしてるわね!

そうそう、他の皆さんも、リャナンシーちゃんこのスレの投稿作は全部読むことにしてるから!
感想だけでも欲しい人って人でも、お気軽に呼んでください! 遅れても必ずリアクションします!

以上、リャナンシーちゃんからでした!

166名無しさん:2017/03/02(木) 23:40:18 ID:MQOQG3VsO
布団の中に潜り込んでいる時、僕はいつも、色々な事を考える。
昔から、何かを考えないと、眠れない性分だった。考えないように集中すると、かえって寝られなかったから。

「……」

まぶたを閉じたお陰で出来る暗闇の中、僕は毎晩色々な事を考える。

明日の仕事。
今日の飲み会。
明日の買い出し。

普段は取り留めのない、何時もの用事がほとんどだ。

……でも、今日はたまにくる、怖い想像をしてしまう日だった。
昼間に、野良猫の死骸を見てしまったからかも知れない。
まぶたの裏の暗闇で、想像してしまったからかも知れない。
そう、今日の僕が想像したのは、「死」についてだった。

自分が死んだら、意識はどうなるのだろうか。悲しんでくれる人は、居るのだろうか。その人達が死んでしまったら、僕という存在の証明は、誰がするのだろうか。
永遠に答えなど出ない負のスパイラル。
ぞくり、とした寒気を感じた僕は思わず布団の中で丸くなっていく。

「怖いの?」
「……え?」

不意に声がかけられたのは、そんな時だった。
薄く目を開けると、可愛らしい少女が僕の瞳を覗き込んでいた。
彼女の人としては有り得ない蒼い肌と蝙蝠の翼が、夜の闇にきらめく。まるで、悪魔のような姿だ。
「怖いよね」
「うん」

けれど、怖いとは考えられなかった。
彼女が醸し出す柔らかい雰囲気、そして肌に触れた暖かい体温が心を溶かしてくれたからだ。

「私はね、恐がりな人を助けるために、ここに居るの」
「……え?」
「だから大丈夫。私があなたの魂を、支えてあげるから」

少女は困惑する僕の頭を持ち上げると、膝の上に乗せた。いわゆる膝枕の姿勢。
軽く頭を撫でられると、彼女の甘い香りがした。

「さあ、安心して眠って良いよ。眠るまで、ずっと歌を歌ってあげるから」

不意に、視界が暗闇に包まれる。
それはまぶたではなく、彼女の柔らかい手のひらが目を塞いだからだった。
安心できる、甘い暗闇。
耳に聞こえるのは、少女の優しい子守唄。
忘れかけていた、母のぬくもり。
しばしのまどろみの後、僕は深い眠りに堕ちていった。


「おはよう」
「ふふ、おはよっ」
次の朝、目覚めた僕の隣には、未だに彼女の姿があった。
夢か確かめるように頬を引っ張ると、たしかな痛みを感じた。

「恐がりのあなたの魂が欲しくなっちゃったから、これからも、よろしくね」

そう笑う悪魔の少女に、僕の魂は既に奪われていた。

167名無しさん:2017/03/03(金) 08:33:12 ID:UGSxM8U.O
>>142
拝読させていただきました……その……あんまり上手く批評などは出来ないリャナンシー、ですが。少しだけ……書かせていただきますね。


キャンサーさんのえっちな短編、御馳走様でした。
彼女が無表情のまま頬を朱く染め、自慰と妄想に浸る様が、彼女の視点できっちりと描かれていたと思います……。
時制、文体に関しては少しだけ気になった箇所はありますが(ほとんどが現在形によるアクション……だと、勝手に考えています)、彼女の一人称小説による語り、という形式の都合上、勢いのあるこの書き方が最適解と感じました……。

もし、我が儘をいうのであれば、もう少し妄想の内容を具体的に書くと実用性(下世話な話で申し訳ありません……)があったかもしれません。バイブの妄想をするときは、彼の指ではないもので達せられる瞬間。その屈辱と快楽、そして露見してしまった時の短い問答。無表情ながらも汗が滲み、紅く火照る肌。羞恥と快楽で漏れ出す吐息、そして止まない淫靡で密やかな水音。そうした、音や触感を具体的に書いていく事が私好み……でしょうか。
妄想の暴走が起こってしまうのは、私達魔物娘にとっての日常でもありますのでキャラクターの描写に対する説得力も上がる、かもしれません……。

学園でのえっちなシーンというのは「普段過ごしている日常に対する背徳」と「羞恥心」が描けるとても素敵なテーマだと思います。普段と変わらない背景、昼間の間、談笑をした学友たちの机でえっちをする。外から聞こえるのは元気な運動部の声。
背景が想像しやすい分、シーンに集中して描写が出来、具体的に音や空気を伝えることが出来ます。そして露見による破滅と日常の崩壊を感じるスリル。
もし、気が向いたら、また同じ題材で書いてみると、面白いかもしれません……。

良い、短編のエロスをありがとうございました。
気が向いたら、また次回作を楽しみにお待ちしています……。


夫にキャンサーさんの下着について聞いたところ、横の部分がひもになっている布型で、結び目を解くとしゅるりという衣擦れの音と共に地面に落ちるのが好みだそうです……。
色は白だと、染みが見やすいから淫靡だとか……。

168名無しさん:2017/03/03(金) 10:31:35 ID:e42.gFE60
このスレって頼めばリャナンシーちゃん達が批評してくれるけどもしや他の魔物娘達もいたりする?
アリスちゃんに頼めば俺のことお兄ちゃんとか呼んでくれつつ感想書いてくれたりする?
PC越しとはいえ夢にまで見たアリスちゃんとの交流が可能になったりする?

169名無しさん:2017/03/03(金) 13:23:00 ID:oTfSTOGM0
「むふふ・・・またvoteが伸びておるのじゃ!」

「毎度嬉しそうなのは良いのですが、もうちょっと票数から離れてみてはいかがです?
 受けるパターンが分かったからって同じようなのばっかり書いたら飽きられますよ」

「そういうのは飽きられた時に考えるのじゃ」

「なんと場当たり的な・・・」

「一定のお客様のニーズに沿った投稿 と言ってほしいのじゃ」

「物は言い様ですね」

「または、人を選ぶオリジナリティに溢れた作品?」

「覚えた言葉をすぐ使いたがる・・・」

「選ばれるには理由があります、なのじゃよ」

「綾鷹、じゃなく鼻高になってやがりますね」

「ブハハハ!!なんと言われようがvoteに綺麗も汚いもないわ!
 まさしくそれは儂への称賛なのじゃ!ウヒヒヒヒ」

「なんて汚い笑顔・・・多少の慎みや謙遜はもちましょう?」

「なんの!謙遜してはせっかく読んで票や感想をくれた者に申し訳が立たんわ!
 どんなパロディだろうと邪道だろうと票を貰ったからには正義!数字は正直なのじゃ!!」

「このvoteジャンキーが・・・」

「書き始めた当初の自分なんてたまに思い出して憧憬に浸るくらいでいいのじゃ!
 今の自分とそれまでの歩みこそが自分自身なのじゃ!」

「そんなこと言って・・・
 心の中のリャナンシーちゃんに顔向けできますか!?」

「リャナンシーに書いてるんじゃねえ!
 読んでもらえる人のために書いてるんじゃ!!」

「完全に闇堕ちしてる!」

「あ、もちろん健康クロスさんと魔物娘図鑑のためにも書いているのじゃ、ぬへへ・・・」

「唐突で露骨な媚び売り、まあ恥も何もないのはいつもの事ですね」

「今回はオチもないのじゃ」

「それも、いつもの事ですね」

170名無しさん:2017/03/03(金) 17:45:54 ID:VzUoMypk0
>.168 感想だけならシャオメイこと火鼠のボクにもできる……と思う

171名無しさん:2017/03/03(金) 19:53:05 ID:UGSxM8U.O
えろ習作です。
何時も物凄く苦手なので……。

「それじゃ、しましょうか」

しゅるり、先輩の学生服が立てる、小さな衣擦れが常夜灯に照らされた寝室に響く。
肌の暖かさをほのかに帯びたリボンがベッドの上に落ちると、思わず僕はごくりと唾を飲み込んでいた。

「興奮するには、少し早いですよ」

小さな声で揶揄する彼女の涼しくなった首もとから滑らかな鎖骨がちらりと覗く。
ワイシャツの隙間からちらりと見える、きめ細かな褐色の肌は淡い光を浴びて、触ればきっともちもちとした柔らかさが感じられそうだった。
「まだ、駄目ですからね」

人を支配する魔物、ダークエルフである先輩は、視線に一つウィンクを返すと、屈んで靴下を外す。
右側、左側。足先に吸い付くような純白のソックスの下には、黒く繊細な足の指。美しく整った足の爪がきらりと光る。一日中つけていた為か、ほんのりと甘い汗の香りが鼻腔についた。
彼女がブレザーをベッドの上に置く頃にはその香りは益々強くなった。

「上からが良いですか?それとも……下から?」

下から、と欲望にまみれた声を出す前に彼女はスカートのベルトとホックを外す。
ストンと本当に呆気なくスカートは落ちた。
そこに有るのは、彼女を守る最後の布。
何時もの先輩からは考えられない程慎ましい、白い下着だった。むっちりとした褐色の太ももの間を飾る純白は汗の為か、微かな湿り気を帯びていた。
ぷち、ぷち、ぷち。
そちらに目が離せないままの僕の前で、ワイシャツのボタンが一つ、一つ外される。
肌が露出するたびに褐色の肌が興奮で灯っていく。
先輩の甘い汗の香りが一層強く、部屋にこもる。

「ふふ、あと少しですよ」

もどかしいほどゆっくりと、先輩は白いレースのブラに手をかける。
金具が外される、小さい筈の音が、やけに大きく、耳朶を叩く。
彼女の肌が絹に触れた音と共に、胸がさらされる。
ハリのある、それで居てどこまでも柔らかく沈んでいきそうな女の肉の上、つん、と二つの可愛らしい乳首が立っていた。
羞恥の為か、彼女の荒い息遣いと共に、更に紅く染まる褐色の肌。

「最後の一枚は……あなたが脱がせてくれないかしら」

くい、と手で招く彼女に言われるがままに、フラフラと近づいていく。
自分でも分かるくらい大きくなった心臓の音。
緊張した手で滑らかな太ももに触れると、しっとりと、指が沈みこむ。

「いっぱい、しようね」

彼女が笑う顔が見えた。

172名無しさん:2017/03/04(土) 11:52:51 ID:SkXXF3co0
>>171
とてもお上手だと思いますよ?

えっちぃ描写の練習には、お気に入りの作品をコピペしてきて
そこから台詞を全部抜いてみるのがおすすめです
どういう流れでコトが進んでいるのかとかすごく参考になります
逆に台詞だけにしてみても、これはこれで台詞で興奮させる文章の参考になります

問題はやってると悶々としてきて作業に手が着かなくなることですが

173名無しさん:2017/03/04(土) 13:25:51 ID:Jis7x.pQO
>>172
アドバイス、ありがとうございます。
上手い人の文章を頑張って参考にしつつ、書いていきます。それどころじゃなくなりそうな場合もありそうですが(汗)
……自分の文章で実用出来た試しがないので幾ら書いても自信が持てないのです。
書く前の妄想の形なら抜けるのに……!

174名無しさん:2017/03/04(土) 18:00:33 ID:Jis7x.pQO
私には、大好きなお兄ちゃんが居る。
教団の騎士であるにも関わらず、アリスという魔物である私を、何も言わずに育ててくれた、優しいお兄ちゃんが。

「お帰りなさい、お兄ちゃん!」
「ただいま。元気にしてたか?」
「うん。今日もね、シスターのみんなのお手伝いしたの!」
「そうか。迷惑はかけなかったか?」
「もっちろん!」
「いい子だ」

仕事から帰って来たお兄ちゃんを笑顔でお出迎えする。
いつものお手伝いの事を言うと、褒めて貰えた。最初の頃はシスターさん達がみんな怖い目で見てきたけれど。一緒に過ごすうちに、優しくしてくれるようになった。

「ふみゅう……」

くしゃり。ごつごつとした分厚い手に髪を撫でられる感触が気持ちいい。
とても幸せな気分になれる。

「今日はハンバーグにするからな」
「わぁいハンバーグ!」
「今日は、特別な日だし。いい子にしてたご褒美だ」
「特別な日?」
「ああ。お前を拾って五年目だからな」「もう、そんなに経ってたんだ……」

一通り、なでなでを堪能した後、大好物のハンバーグを作るお兄ちゃんの隣でスープの仕上げをする。
少しだけ味見をしたら、なかなかの自信作だ。シスターさん曰く料理は愛情。つまり私のお兄ちゃんへの愛の賜物である。

「お兄ちゃん、出来たよ!」
「こっちも、丁度いい頃だ」

二人分の料理の前でいただきますの一礼。
誕生日に買って貰った小さなマグカップには、私の名前が刻まれていた。

「なあ」
「なあに、お兄ちゃん」
「……いや、何でもない」

ハンバーグを食べながら難しい顔をするお兄ちゃんに首を傾げる。
楽しい日の筈なのに、苦しんで居るみたいな。
きっと何でもなくない事なのだろう。

「お兄ちゃん。話してよ。凄く辛そうな顔、してるから」
「すまない」
「謝らなくていいよ。話して」
「……今度、戦争になるんだ。魔界と、この国が」
「……」
「数ヶ月前から、決まってたんだ。言い出せなくて、すまなかった」
「大丈夫。お前は絶対に返してやるから」

真剣な顔のお兄ちゃんの言葉。
嘘じゃないって分かるから悲しくなった。心遣いが、嬉しかった。

「やだ」

だから。私は悪い子になる事にした。
戦争なんか、絶対にさせない。
お兄ちゃんと離れ離れなんかにならない。

「お兄ちゃん……私、もうオトナなんだよ?」

漏れる吐息は魅了の魔力。
スカートをたくしあげて誘いをかける。
お兄ちゃん、大好きだよ。

175名無しさん:2017/03/04(土) 18:23:57 ID:HAgIJjlg0
>>174

「お兄ちゃん……」

 呟くように俺を呼んだ唇が、ゆっくりと俺の唇に重ねられる。

 アリスが俺にキスをした。
 それ自体は別に、珍しいことでも何でもなかった。
 いってらっしゃいのキス。おかえりのキス。それから、おやすみのキス。
 小さな女の子らしい無邪気さで、アリスは何度だって俺とキスをしてきたのだから。
 けれど今のキスは、今までのキスとは全く違った。
 今のは『妹』としてのキスじゃない。『家族』としての、親愛の情を表すものじゃない。
 自分が『女』であることを示すキス。俺という『男』に対して、『異性』としての愛情を表すためのキス。
 その意味が、確かに含まれていた。

「お兄ちゃん……」

 厚い雲で隠されていた月明かりが、窓からゆっくりと差し込んで、アリスのシルエットを照らし出す。
 馬乗りの体勢になったアリスの息は荒く、その小さな胸は忙しなく上下している。
 俺を見下ろす碧眼は興奮に潤んでいた。しっとりと濡れた金髪を頬に張り付かせていることも相まって、幼い少女とは到底思えない妖艶さを醸し出す。
 アリスは、欲情していた。

 アリス。
 俺のアリス。
 愛しいアリス。
 俺の大切なアリス。
 アリス。俺の宝物。俺の人生。俺の全て。

「お兄ちゃん……アリスね、お兄ちゃんがほしいの……」

 そのアリスが。俺の全てが、俺のことを求めている。
 だったら俺の方も。
 俺の全てを、求めても良いんじゃないか。

 俺は両手を伸ばし、華奢なアリスの身体を引き寄せる。

 相手はまだ少女だとか、年が離れすぎてるだとか、そもそも家族だとか、そんな考えは全部吹き飛んでいた。
 全てが、欲しかった。

176名無しさん:2017/03/05(日) 10:45:55 ID:9XsCPzkIO
「催眠をかけて欲しいだって?」

学校の昼休み、突然やってきた後輩の言葉に、私は素っ頓狂な声を上げた。
昼食にかじっていた特売のパンの袋が私の声でビリビリと震える。

「は、はい。どうしても好きな人に告白したいんですけれど、勇気がもてなくって……」
「勇気、ねえ」
「玉砕しても良いから、告白する勇気が欲しくて」
「成る程、ね。だから私の催眠、って訳か」
「は、はい。先輩の--ゲイザーの催眠の力を、貸して欲しいんです……」

最後の方は、消え入りそうな声だった。
見れば、後輩は小動物のようにぷるぷると震えていた。
きっと、私と同じ位の臆病者なのだろう。
話すだけでも、凄く勇気を振り絞ったに違いない。

「良いぜ」

だから、私は応えてあげる事にした。
本当は、好きな人とラブラブになるための力だし、まだ恋人の居ない私にとっては嫉妬案件だけど。
彼の勇気に、こんな一つ目の魔物に話しかけてくれた勇気に応えてあげないとダメな気がした。
ポン、と安心させるように頭を叩いて笑いかける。
ホントはウィンクしたかったけど、物理的に出来ないから妥協だ。

「いつ、かけたら良いかい?」
「い、今でお願いします」
「ん、分かった」

学生服の下から出した触手を使って、彼の顔をこちらに向ける。
唐突だし、怖がられちゃうけれど、こうやった方が心のスキがつきやすく、催眠がかけやすいのだ。
林檎みたいに真っ赤な表情の後輩の瞳を覗き込む。

「今から、君は素直になれる--好きな人に好きって言える」

素直に頷く彼に、催眠を染み込ませていく。
乾いた砂に水が染み込むみたいに彼は簡単に催眠に落ちていった。
催眠は、信じて貰う力。私の力はいやがる人にかけられる位に強力だけど、信じてくれればもっと簡単にかけられる。
だから、こんな風に、信じてくれる人が恋人の魔物は幸せだろうなって。そんな考えが浮かんで消えた。

「さ。終わったよ。好きな人に告白してきな」
「……」

数分後、催眠を終えた後輩の肩を叩く。
頑張ってかけたから。すぐに好きな人の所に走って行く。

「先輩」

その筈なのに。
彼はここに立っていた。

もしかして、失敗?

焦る私の肩を、彼が掴む。
思いっきり見つめられて、顔が真っ赤になる。

「先輩!ずっと前から好きでした!大好きでした!」
「!?」

それが、きっかけ。
私の大好きな夫との付き合いはじめだった。

177名無しさん:2017/03/05(日) 11:19:42 ID:DIYPniH60
>>176
三行でオチまで理解できてニヤニヤしてしまった
これはゲイザーちゃんカワイイ良作ですわ

178名無しさん:2017/03/05(日) 11:53:57 ID:9XsCPzkIO
「はい、コーヒー。糖分マシマシ」
「ありがとうございます」

深夜の研究室。
院生の先輩であり、不死の賢者であるリッチである彼女が渡してくれたマグカップを受け取る。
暖かい湯気と、濃いコーヒーの香り。一口啜ると、豆の苦味とたっぷりの砂糖の甘さに眠い身体に喝が入った。

「徹夜、何日目?」
「多分、三日目位ですね……来週学会ですし」
「頑張るね」
「はは、『相対性魔術式』の理論を打ち立てた憧れの先輩の役にたてるんですから。必死ですよ」

伸びをすると、背骨のパキパキという音。
気づかないうちに随分長いこと座っていたみたいだ。
その様子に、彼女はほんの少しだけ、顔をしかめていた。

「嬉しいけど、無理しないでね。あなたは魔物でもインキュバスでもない、ただの人間なんだから」
「分かってますよ」
先輩の言葉を背に、パソコンに向かう。後少しで完成へのラストスパート。
けど、何故かキーボードに手がつかない。視界がぼやける。
さっき、コーヒーを飲んだ筈なのに。
いや、まさかあのコーヒーに何か……!?

「先輩、まさ…か……」

それが、最後の思考になって。僕はとさりと机の上に突っ伏してしまった。

「おやすみ、ちゃんと寝ないと駄目だよ?」

寝息を立てる僕を、先輩はひょいと持ち上げて、優しくソファに横たわらせる。
無表情のまま舌を出す彼女の白衣(下は裸)のポケットに入っているのは即効性の睡眠薬のビン。
魔界の薬だから物凄く甘いけど砂糖と偽る事で誤魔化したのだ。

「無茶、しちゃって」
「……ぐぅ」
「心配かけさせた、慰謝料が欲しくなるな」

二人きりの研究室でそう、ポツリと呟く先輩。

「勝手に、取り立てさせて貰うぞ」

彼女の柔らかい唇が僕の頬に落とされたことを、眠ったままの僕は、知る由もないのだった。

179名無しさん:2017/03/05(日) 12:03:40 ID:9XsCPzkIO
>>177
凄く大好きなゲイザーの書き手さんの新作が来ていたため(そして抜いた)、カワイイゲイザーちゃんを書きたくなってしまった結果です。
ゲイザーちゃんカワイイよゲイザーちゃん。

お読み頂いたこと、また御感想ありがとうございました。

180名無しさん:2017/03/05(日) 16:11:19 ID:9XsCPzkIO
「これは、一体……?」

あるうららかな春の日、教団の魔物研究者である私は恐らく魔物絡みであろう不思議な品を前に、頭を抱えていた。
それは艶やかな紺色の、何とも表現しようのない質感の布だった。
その柔らかさは絹のようでいて、撫でるとさらりと指に吸い付くような奇妙な心地よさが感じられる。
あまりに未知の存在であるこれが一体何なのか、私は全く見当がつかないでいた。

「こういう時は、手に入れた時を思い出せ」

一つ深呼吸して、先輩の教えを思い出す。そうだ、状況を思い出せば糸口になるはずだ。
私は、深く思考の中に潜り込んで、記憶を探り出す。

この布を手に入れたのは、今日の朝。魔物が出るという沼で調査(朝食探しを兼ねた釣り)をしていた時だった。
何か、急に大きな物がかかったと思った矢先、不意に軽くなった釣り針にこの布が引っかかっていたのだ。

「かかったのは間違いなく魔物……あんなに重いヒットだったのだ。魚ではないだろう」

そして魔物はこれを残して逃げたのだ。
私の推測を補足するように、布には釣り針の跡が残っていた。

「と、するとこれは着ていた物。か?」

独り言と共に布を広げると、果たして頭と手足が出るような穴が開いていた。
間違いなく、着るものだと確信出来そうだ。

「試して、みるか」
用途が分かったのであれば検証するのが研究者。
着方は若干分かり難かったが布の伸縮は素晴らしく、なんとか着込む事が出来た。
……全く関係は無いが私は四十六歳独身童貞男性である。

「こ、これは」

それは、中々に表現し難い着心地であった。
全身に吸い付く未知の布が体にフィットし、体のラインを浮かびあがらせる。
それは恐らく、水の抵抗を無くす為の工夫だと思われた。
しかし、このサラサラとした質感の締め付けは何とも言えないもどかしい快楽を生み出しても来る。
特に股間部の布には余裕がなく、未使用な愚息のシルエットが浮かび、絶え間ない快楽を送り込んで来ていた。

「これは、危険だ」

そう判断した私は服を脱ごうとし--
不意に、ある魔物と目があった事に気付いた。
四肢にヒレのついた彼女は、例の服を着ており私の推測が間違って居なかった事を教えてくれていた。

「へんたい」
「ど、どこが変態だ。お前だって着ているだろうに」
「」

顔を真っ赤にした魔物はなんとも言えない目で此方を見ていた。
文化の違いなのだろうか?
魔物の研究は中々に難しい。

181名無しさん:2017/03/05(日) 16:52:59 ID:5VxiWrec0
某コピペ改変


・興味本位で異世界のゲートを開いたヴァンパイアのお姫さま(いまは温厚な過激派貴族の家系)
・ゲートに巻き込まれ漂着したダンピールのハンターさん(ゲート経由先で旦那getした元凄腕)

そしてふたりは仲良し。

ヴ/姐さんみたいな人ばっかやったら、私たち戦争せんで済んだんやろな
ダ/難しいですね。でも、今のような泥沼はありませんでしたです
ヴ/せやなー
ダ/向こうに帰ったらもうお会いできないかも知れません、残念です
ヴ/くやしぃなぁ、せやけど、これが堕落神様の定めたもうた運命なんかなぁ
ダ/ここは日本ですから、仲良くしても誰も怒りません
ヴ/せやねー。貴族社会に帰りとぉないわぁ、このまま日本にずっとおれたらええねんけどなー

ちゅっ。ちゅー。

そして、ふたりは仲良く 私 の 血 液 をすする。

ヴ/だんなさまぁ〜、すまんけどニンニクちょいと足してんかー
ダ/魔界直輸入タケリタケひとつ、バリ固で

・・・おまいら。家に帰れなくなっても知らんぞ?

ユ/ここが家やからな(笑
イ/家ですから(笑

それが免罪符か!

182ヴァンさん推し:2017/03/05(日) 23:15:36 ID:pHpuNuys0
元ネタのコピペが切ないな……
実は仲良しで、本来宿敵な二人が嫁っていいなあ
雑兵さんの堕落シリーズとか
関西弁ヴァンパイアさん&真面目ダンピールさんかわいい

>>123みたく、手籠め予告もらうのも……いい
親魔物領のヴァンパイアさんって、拐う=夫にするって浸透してたら、おいそれと拐えなくて大変そう
そんなヴァンパイアさんお嬢かわいい

>>176のゲイザーちゃん、傍目的には好かれてるの筒抜けなのに、自分がモテるわけないみたいな、純真初心なところが……いい
ゲイザーちゃんにぶかわいい

>>180の研究員さんも……真面目にやってるからこそのこの結果であって、何かもう応援したくなるかわいさがある。
研究員さんも変態かわいい

つ゛ま゛り゛せ゛ん゛ふ゛か゛わ゛い゛い゛

183名無しさん:2017/03/05(日) 23:59:17 ID:aUa9tDxk0
私は医者だ。
注射器もメスも使えないけど、医者だ。
薬は胃薬くらいしか扱っていないけど、やっぱり医者だ。
まぁ、今は中学校の保険医をしてるけど。
私は医者なんだ。

専門は精神科医のゲイザー。
暗示で自分の知らない心の悩みも吐き出したり、他にも色々とある。
だから相談に乗ったり悩みを解決してたら、いつの間にか医師免許が手元にあった。
友人のツテでこうして保険医をやっているのは、まぁ暇つぶしだ。


「先生、いますか?」
「入りなよ」
男子の声が聞こえたので返事をすると、ガラガラと引き戸を開けて室内に入ってきた。
「相談内容は?」
「後輩のリザードマンの子に何度も決闘を申し込まれて、参っているんです」
何だそりゃ。
ずいぶんと熱烈なアタックかけられているじゃないか。
けれど男子学生の顔色は暗い。
こりゃ全くわかってないな。
「勘弁してくれって言ってもずっとこうで。もうどうしたらいいのやら」
「決闘の内容は?」
「剣道ですよ」
「それなら、違う事で勝負するって言えばいいさ。あんたの得意なのは?」
「将棋です」
「じゃ、そいつで勝負してやりゃいい。納得いかないなら、お互い納得いくまでいろんなことで勝負するといいさ」
男子学生は半信半疑ながらも、礼を言って出ていった。


こんな風に学生の悩みを聞くだけの保険医。
大抵は暗示を使うまでもない、小さな悩みだ。
私じゃなくてもいいんじゃね?と思うが、これも暇つぶしだ。
「先生!」
いきなり引き戸を開けて入ってきた男子学生。
こいつはいつも、変な悩み事を持ってきては相談してくる、変なやつだ。
最初に出会って以来ずっと、毎日通って来ている。
暇人め。
「好きな人に告白したんですけど、まったくわかってくれないんです! どうしたらいいんでしょう!」
「プレゼントは?」
「しました!」
「ラブレターは?」
「送りました!」
「愛の言葉は囁いたのか?」
「毎日叫んでます! 大好きです!」
「それで気づかないなんて、相当鈍感だな。お前も苦労するなぁ」
「……はい。苦労、してます」
「相談ぐらいなら乗るから、座れ。茶を淹れる」

今日も通って来た恋愛未成就の男子学生に紅茶を淹れる。
この暇人、とっとと恋人のところに通えばいいものを。
初日に言った、「とにかく毎日会って話をすることから始めろ」のアドバイス、ちゃんとやってるのかねぇ。
この暇人をどうしたらいいのやら。
今日は私の悩みをこいつにでも聞いてもらおうか。

私は湯気の立つカップ2つを手にして、男子学生の前に座ったのだった。

184名無しさん:2017/03/06(月) 13:20:39 ID:aRC3NqYA0
>>183
火鼠シャオメイの感想だー!
ラストのオチで思わず笑ってしまったよ。他人の事はよくわかるのに
自分のことになるとからきしなキャラの典型だね。
ドクター(保険医だけど)な客観的にみている口調もよかった。
このまま行けば保健室に鍵かけてベッドでエロエロしちゃう展開だな、うん。
また面白いお話を待ってるから頑張って。以上、火鼠の感想でした。

185名無しさん:2017/03/06(月) 19:42:21 ID:QwS4pZMo0
ゲイザーちゃんカワイイし、火鼠ちゃんも感想に出て来てくれてほっこり
そして自分はお蔵入りになったネタを発掘したので投下

186名無しさん:2017/03/06(月) 19:44:14 ID:QwS4pZMo0
よめあつめ攻略FAQ

Q. どんなゲームなの?
A. ゴハンとグッズを用意しておき、自分の家にやって来る魔物娘たちをお嫁さんにする。
  基本的にそんなゲームです。好きな魔物娘とキャッキャウフフ、しっぽりお楽しみください。

Q. 何をすれば良いの?
A. 特に目的意識がなければ、まずはチュートリアルで貰ったお星さまを使ってゴハンやグッズを買いましょう。
  それをお家に置いておけば自然と魔物娘たちが集まってきます。
  後は彼女達と仲良くなってお嫁さんになってもらいましょう。

Q. お嫁さんって一人だけ?
A. お嫁さんになってくれる魔物娘にもよりますが、普通に進めても5〜6人ぐらいまでならハーレムを作れます。
 ただし『○○さんと△△ちゃんと××ちゃんでハーレムを作りたい!』といったように思い通りのハーレムを作ろうと思った場合は難易度が劇的に上昇します。

Q. ゴハンとかグッズって何を用意すれば良い?
A. 基本的に自由ですが、無料の“ミルク”をゴハンにすると効果が高いのでお勧めです。
  お嫁さんになってほしい魔物娘が決まっている場合は、その娘たちが喜ぶゴハンやグッズを用意するようにしましょう。

Q. どうしてデフォルト設定のゴハンが“ミルク”なの?
A. 自家発電でこさえられるからです。

Q. ……それってつまり、精s――
A. 言ってはいけません。効果が高すぎてお相手を選びにくいのがタマにキズですね。

Q. お星さまはどうやって貯めるの?
A. お友達が毎日くれるので、それを貯めましょう。
  ときどき彼は大きなお星さまもくれます。素敵なお友達ですね。

Q. え、このお友達って男なの? 女の子じゃなくて?
A. 女の子に見えますが男の子です。カワイイけど男の子です。

Q. 何をしたら魔物娘はお嫁さんになってくれるの?
A. まだお嫁さんが一人もいない場合、ほとんどの魔物娘は最初にやって来た時に高確率でお嫁さんになってくれます。
  二人目からは何度もお家に来てもらう必要があり、人数が増えるごとに回数は増えていきます。

Q. 魔物娘からの求婚って断れないの?
A. 断れません。断ろうと思うのが間違いです。
  素直に彼女達との素晴らしい新婚生活を楽しみましょう。
  また、魔物娘によっては貴方をお持ち帰りし、強制的にお引っ越しすることになります。

Q. お目当ての魔物娘と結婚したかったらどうするの?
A. 上記のように、必ず彼女達が喜ぶゴハンとグッズを用意しましょう。
  場所によって会える魔物娘も変わるため、相手によっては引っ越しをすることも必須です。
  ここまで準備したら後は運です。運命の赤い糸が愛しい彼女と繋がっていることを期待しましょう。
  種族によっては特定の条件をクリアしないとお嫁さんにできない魔物娘たちもいます。

Q. アリスちゃんに会いたいんだけど、どうしたら来てくれる?
A. ゴハンには“ケーキ”を、グッズは“お人形”を用意しましょう。
  不思議の国に引っ越しをすると、街よりも若干会いやすいようです。

Q. アリスちゃんに用意した人形が勝手に動いてるんだけど。
A. お人形に混じっているリビングドールちゃんを買えることがあります。
  一緒にお嫁さんになってもらいましょう。

Q. 白蛇さんが他の魔物娘をみんな追い払っちゃうんだけど……
A. 白蛇さんは嫉妬深いので仕方ないですね。可愛いヤキモチだと思いましょう。

Q. あの……白蛇さん、友達まで追い払っちゃったんだけど……
A. 白蛇さんは勘が鋭いので彼も追い払ってしまいます。

Q. お星さま貰えなくなっちゃった……
A. お星さまが無くても生活はできます。
  白蛇さんさえいれば何もいらないはずです。そう思いましょう。

187名無しさん:2017/03/06(月) 22:06:05 ID:DPTmLPkEO
「山の天気は変わりやすいとはいえ……うう、ついてないな」

暗い山小屋の中、勇者は小さく溜め息をついた。
ボロい窓から周囲を見ればあたり一面の銀世界。
獣道を踏み越え、切り立った崖を攻略。街の人々の為の薬草こそ手に入れた彼だが、流石に雪の山道を歩く勇気は無い。

「っ寒いな」

一つ呟いて、マントを被る。
暖炉のための薪が無いため、動かない事が唯一の対策だ。炎の魔法など使ったら体力を消耗してしまう。
吐く息は、室内にもかかわらず白く染まっていた。

「うう、ついてないわね」

そんな時、勇者の耳に聞こえたのは、女性の声だった。
首だけを動かすと、際どい服を着た女がガタガタと震えていた。
頭の上の角とお尻の尻尾、背中の翼が彼女が魔物である事を伝えている。
強大な魔物、サキュバスであった。

「あの子の為に薬草はゲット出来たけど、雪なんて。あ、暖炉」
「薪は無いぞ」
「あら。勇者さんが居たの」

勇者はマントにくるまったまま相槌を返す。
魔物は討伐の対象だが、大切なのは薬草を持ち帰る事。
ここで体力を使って共倒れなどは、避けなければならない。
それを察したサキュバスは、何も言わずに勇者の近くに座った。

「寒いわね」
「そんな格好で山を登るからだ」
「これはサキュバスの正装でして」
「正装ってなあ……おい、何近寄って来てるんだ」
「だって寒いし」

じりじりと距離を詰めるサキュバスから若干の距離をとる勇者。

「ここは、二人で暖かくなるのが一番よ」
「具体的には?」
「セ○クス。二秒で暖まるわ」
「それ、搾られて終わりじゃないか」
「その時は貴方がインキュバスになれば解決ね」
「なんじゃそら」

一定の距離で睨みあう二人。
因みにサキュバスは二人で生き残るのに本気で言ったのだが相手は教団の勇者。伝わるべくもない悲しいすれ違いである。

「……くしゅん」

そんな拮抗を破ったのは可愛らしいくしゃみだった。
サキュバスが漏らしたそれに、勇者は溜め息を一つ。

「セッ○スはしないが、マント位貸してやろうか?」
「え?」

困って居る人を放って置けないのが勇者である。
震える彼女に近寄って、マントをかける。

「終わったら返してくれよ」
「やだ」

そんな彼の精一杯の優しさに。

「二人でくるまれば完璧でしょ」

彼女は笑って答えたのだった。

188名無しさん:2017/03/06(月) 22:15:29 ID:GQ3QjuiY0
みんな優しい話だなぁ……
やっぱり勇者は困ってる人を放っておけない系が一番図鑑世界にしっくりくる気がする

189名無しさん:2017/03/07(火) 13:47:40 ID:aem2TyV2O
「ねえ、私、この街は初めてなの。案内して下さるかしら」

鍛錬を終えたばかりの教団の勇者である俺に、そんな声がかけられたのはある昼下がりの事だった。
顔を上げると、この世のものとも思われない美しい銀髪と紅い瞳を持つ女性が不安そうに、こちらの方を見つめていた。
高貴な雰囲気といい、きっと貴族のお嬢様なのだろう。

「あんまり、女の人が好きそうな場所とか、分からないんだが」
「いえ、貴方が良いんです。普段見ない場所を、人を知りたいのです」

貴族の道楽だろうと、やんわりと断ろうとしたが、どうやら本気で見て回りたいようで。
真っ直ぐにこちらを見つめる視線に俺は頷くしかなかった。

「じゃ。まずは服屋から行きますか」
「服屋ですか?」
「あんたのその髪とドレス、目立つからな。まずは帽子位被ってからだ」
「ええ」

それからしばらくの間、俺と女は色んな場所を歩いた。
服屋の次は、教団の史跡を辿り、屋台を巡り、ゴンドラに乗った。途中、「お、堅物のお前に恋人か?」と言ってきた同僚には「社会見学だ」と軽くブローを入れた。
屋台で食べたケバブは独りで食べるより旨かった。

「ここは?」
「俺のお気に入りの場所だ。ほら、街が一望出来るだろ?」

そして、夕暮れに染まる頃、俺達は街外れの丘の上に居た。
目の前に広がるのは、人の営み。灯りの一つ一つの下に誰かが生きている。

「綺麗……」
「ああ。勇者になってからはここを良く思い出してるんだ。俺が、護りたいってな」
「ふふ、素敵ね」

街を眺める彼女の姿は美しくて、俺は小さく溜め息をつく。
きっと彼女の正体は……。

「姫様ー!」
「こんな反魔国で何をなさってるんですか!」
「あ、貴女達!?」

そんな思考を補足するように現れたのは、二人組の女性。
角と、尻尾。人ならざる耳が魔物であることを雄弁に伝えていた。

「すまないが、人違いだ。コイツは俺の知り合いでね」
「……え」

こちらを見て呆けて居る彼女にウィンクをして、そのままお姫様抱っこをする。

「あ、その、私は」
「今日は案内を頼まれたからな」
「「待てー!」」

二人が追いかけて来る声を聞きながら、丘を駆け下る。
今日位は、逃げきれる筈だ。

きっと、彼女と俺は違う形で再会する。
「はじめまして」

そんな言葉を告げるだろう。
そして、剣を交えるかもしれない。

けれど、俺は。
今日の事を忘れない。

190名無しさん:2017/03/07(火) 14:03:26 ID:aem2TyV2O
>>186
友達を追い払う辺りで笑ってしまいました(笑)
流石白蛇さん鋭い……

191名無しさん:2017/03/07(火) 15:06:14 ID:uK1BkpjA0
このスレはほんわかレス推奨ですので、ちょっとダークな感じの話を投稿するのは避けた方が望ましいでしょうか?
規約に触れるような殺伐とした話ではないですが、ほんわかではないので……

192名無しさん:2017/03/07(火) 16:02:01 ID:aem2TyV2O
>>191
作品次第、という曖昧な回答しか出来ず申し訳ありません……。

個人的にはダークな話、特に短編で書くのは難しいイメージがあります。
図鑑世界はややライトファンタジー(異論がある方は一杯いらっしゃると思いますが……魔物娘さん達の優しさや魔界銀など人を傷つけない工夫が随所にされたこの世界を私は暖かいと感じました)に近いので、そこから乖離したダークな作品となると、理由付け……即ち、読者さんを置いてきぼりにしない、共感できて納得できる設定が話を円滑に進めるのに必要となります(重ね重ねあくまでも個人的感想です)。

しかし、これだけの設定を用意して話を書くのは大変です。
設定に寄りすぎれば長い説明だけの文章になり、設定が不足すれば、読者さんが置いてきぼりになるためです。
このジレンマがダークな話を書く上で常につきまといます。短編ともなれば短い間で伝えるので更に大変です(私みたいな木っ端作者にはほぼ不可能と諦めてます)。

しかし、私はこれらのジレンマを踏み越えた、面白い話を読んでみたいです。
心に染みる。図鑑世界らしい。面白い、ダークな話を。

貴方の投稿。楽しみにお待ちしております。

193名無しさん:2017/03/07(火) 17:29:55 ID:uK1BkpjA0
 窓から差し込む陽光に私は目を覚ました。窓には燦々と輝く太陽が描かれ、傍らには愛娘が眠っている。私は娘の額に口付けを一つ落とし、優しく揺り起こした。
 娘は煌めく硝子玉の様な瞳に涙を湛えながら、大きな欠伸と共に伸びをし、可愛らしい球体関節の指でその涙を拭った。
 
「おはよう、父様。今日も良い朝ね」
「そうだね。さぁ、母さんが美味しい朝御飯を作って待っているよ」
 
 私は娘の手を取ると寝室のドアノブを握った。部屋の四隅へ亀裂が入り、パタパタと小気味の良い音を立てて壁が倒れる。そして、再び起き上がったのはダイニングの風景が描かれている壁。部屋の中央にはダイニングテーブルとチェアが三脚。
 
「二人ともおはよう。さぁ、冷める前に頂きましょ」

 私と娘がチェアに腰掛けると料理を持った妻が現れた。朝食はトースト、ハムエッグ、サラダ、スープ。
 
「母様の料理は何時も美味しいわ」
「そりゃそうさ。なんたって母さんは私が惚れた女性だからね」
「もう、朝から止めて」
 
 私達は朝食を食べる振りをしながら団欒を楽しんだ。何時もと変わらない穏やかで楽しい朝。
 たとえ、私と妻と娘以外の全ての物が紛い物だとしても、妻と娘への愛は真実で、この壁に囲まれた世界は幸せに満ちている。
 
 幸せ家族のドールハウス
 魔界金貨10枚から応相談


短編の新作が書けず、連載も止まっている状況のため、自分の中のイメージを昇華すべく投稿させていただきました。
感想、批評等ございましたら、気兼ねなくお願いします。

194名無しさん:2017/03/07(火) 19:38:01 ID:fPXePstk0
>>193
うにゃぁ、確かにちょっとダークやわ……
自分はこういうのすごく好みだけど、何とも言えない気分になる
しっかり短編にも落とし込めそうな良いアイディアの作品だと思いました

しかし>>105>>106>>193と、リビドーちゃんは小品でも題材として人気やね

195名無しさん:2017/03/07(火) 20:12:44 ID:aem2TyV2O
>>193
リビングドールさんのダークで「幸せ」な話……ご馳走様でした。
あまり批評などは得意ではないリャナンシーですが、少しだけ、書かせていただきますね……。

今回の話のポイント(だと私が勝手に感じました……)は主人公と妻、娘による「幸せな日常」と「ドールハウス」という非日常の落差です……。
人によっては「不幸」だと感じる狂気の中の「幸せ」が短編の中で上手く描かれていたと思います……(上から目線のような書き方ですみません……)。そして、最後に出された具体的な数字がダークさと「作り物」らしさを強調してくれています……。

私が批評出来る所は、「主人公への感情移入」でしょうか……。
何故、この生活を選んだのか。どうやってドールハウスについて知ったのか……。
彼の心が病み、この「幸せ」を受け入れるようになる過程を描く(ほのめかしでも構いません……)事で読者さんの「共感」を得て、より深く、物語に没入してもらい、ダークな世界観を味わっていただけるのではないかと感じました……(生意気な事を言ってしまってすみません)。
稚拙な例ではありますが……「以前の不幸せな日々の夢を思い出し」たり、「ドールハウスを買った時の心理」を描くなど、でしょうか……。
勿論、短編の字数という都合があるため、難しいとは思いますが……。


表現力。描写力。文章の出来については私が申し上げられる事はなにもない位優れた物を、様々な作品を書いてきた経験を感じました……。
これからも。良い作品を沢山生み出して下さいませ……。

以上、拙い文で申し訳ありませんでした……。

196名無しさん:2017/03/07(火) 21:05:27 ID:ATht3vJk0
>>194
感想、ありがとうございます。
リビングドールは、ドールであるために各々の理想を落とし込み易いのかもしれませんね。

>>195
丁寧な批評、ありがとうございます。
主人公がそこに到るまでの過程を書いて共感を得てもらうというのは、以前書いた話でも頂いたアドバイスでしたが、すっかり失念していました。
次作には活かしたいと思います。

197名無しさん:2017/03/07(火) 21:31:25 ID:fPXePstk0
>>196
違ったらごめんなさいだけど、もしや>>80>>81の人?

198名無しさん:2017/03/07(火) 21:35:50 ID:ATht3vJk0
>>197
いえ、>>80,81は違う方ですね。

やはり、内容が内容なだけに……。

199名無しさん:2017/03/07(火) 22:04:51 ID:fPXePstk0
>>198
ほあっ、失礼いたしました

200名無しさん:2017/03/08(水) 11:52:46 ID:axKOdU2Q0
ダーク風味のテスト。
---------------------

吸血鬼。
それは夜の闇に潜み、人の生血を啜る魔物。
人を食料として認識し、人に近しい姿を持ち、決定的に異なる捕食者。
私は亡霊やゾンビに代表される闇にうごめく死者たちを恐れていた。
あの生気を求めて伸ばされた手に捕まれば、どうなってしまうのだろうか、と。

吸血鬼はその点、わかりやすかった。
捕まれば最後魂まで食いつくされてしまい、吸血鬼に堕ちる。
その後は自分が忌み嫌い恐れていた、人を食うという行動を嬉々として行うようになる。
人を食い、闇へと誘う彷徨える死者となるのだ。
吸血鬼の話を理解した後、心の底に真冬の解けない氷が敷き詰められたような恐怖を抱いた。

だが、こうも思った。
恐らく、恐らくだが。
なってしまえば、人としての人生など過去のものとして忘れ、笑いながら人を食うのだろうと。


「レイチェル」
「久しいな、マイルズ」
私は久方ぶりに故郷の村に帰ってきた。
幼い頃から共に夢を語り、遊んだ幼馴染は笑って私を迎えた。
開拓村特有の子供の少なさから、私たちはいつも二人で遊んでいた。

狩人として村に残っていた彼は生活が安定しているのだろう。
調度品は街では見かけない質素な木製品ばかりだが、よく使いこまれているのが見てわかる。
同じく木製の壁にかかっている大きなクマの毛皮は彼の勲章かもしれない。
カップや皿なども含めて自作しているのだろうか。
手に持つ酒の入ったカップは、どこか歪んでいる。
私の疑問に気づいた彼は笑って、まだ練習中だと教えてくれた。

女性の気配はない。
男所帯らしい、実に遊びの無い室内だ。
嫁さんはまだなのかと尋ねてみたが、やはり縁がないらしい。
少年時代そのままの快活な笑顔は、私の子供時代の記憶を掘り起こす。
あの頃は楽しかったな。
意図せず口から洩れた言葉に、彼は同意した。


泊まる宿も無く。
彼は毛布に包まり床の上、私は彼が使っていたベッドの上で身を横たえていた。
家主に申し訳無いと告げても、女性を床で寝かせるわけにはいかないと彼も譲らなかった。
酒気が誘う眠気もあり、私が折れてベッドを借りることにした。
寝返りを打ち、床で寝る彼を見る。
野生の獣を狩る生業をしているとは思えないほど、無防備な姿。
狼が彼の首筋を舐めても気づかないのではないだろうか。
呆れてベッドから下りると彼に近づき。

その首筋を舐めた。

まだ早い。
もう少しだけ、この甘くささやかな人の名残を味わうとしよう。
私は彼の皮一枚向こうに息づく生命の流れを確かめた後、ベッドに戻る。

子供時代のように。
彼との戯れを胸に抱きながら。
共に遊ぼうと彼を誘うように手を伸ばすその日を夢見て。

201名無しさん:2017/03/08(水) 12:24:11 ID:xjwqhIMcO
私は壊れた機械です。
致命的なバグが、動力源や思考中枢を苛んで居るのです。
そして、それを報告出来ないほど、私という存在は狂って居るのです。

「そうさなあ。あたしの見立てだと、このあたりが良いと思うんだけど」
「成る程、ね。やっぱり女の子の意見は参考になるな」
「まあ、なにあげても喜ぶと思うよ?あんたが選んだってのが大事なんだから」

御主人様の後ろに立つ私の聴覚センサーが、会話を捉えます。
御主人様と話しているのは、彼の古い友人であるグレムリン様でした。私の発掘と調整をしてくれた、素敵な女性です。
御主人様と、仲が良さそうで、お似合いで……。

「……!」

不意に熱くなった動力炉に私は小さく顔をしかめました。
私の頭脳回路は一体何をどうしたのか、二人を話させたくない。などというコマンドを上梓して来ています。
私の目的は、御主人様を助ける事。
もし二人が好きあって居るならば、恋の成就を応援すべき立場です。
しかし私の身体は、まったく動いてくれません。
冷まそうとした動力炉は余計に熱を生み出してしまっていました。

私は、一体どうしてしまったのか。
答えは、未だに見つからないのでした。

202名無しさん:2017/03/08(水) 12:36:01 ID:rLx9kCQU0
新人リャナンシーです。上手く批評できるかどうかわかりませんが、がんばります。

優しい狂気がじわっと侵食してくるのが、とても良かったです。
こういう作品も時々は読みたいなと思っている人もいるんじゃないかな? 私もその一人です。
空気作りがとても上手くて、何か言うのをためらうレベルです。
なので、私の担当作家ならこうしているかな? というところを書いてみますね。参考になるといいな。

漢字にメリハリをつける。
地の文から主人公は知識レベルの高そうな壮年男性と思います。でも、愛娘はやや幼い雰囲気があるので、「よい朝」や「いつもおいしいわ」など漢字を開いてキャラクターを出すとよいと思います。

壁を倒さないような場面変換にする。
最後に「壁に囲まれた」という表現が生きるように、壁は不変のものにするとよいと思いました。
『嵌め殺しの扉を開けると、テーブルに三脚の椅子が並んだダイニングが目の前に広がっていた。そして、反対側の扉の前には、私と娘の後姿があった。』という感じとか。

妻を描写する。
妻の描写がないので、妻までまがい物に感じてしまいます。これがわざと読者に違和感をおぼえさせるものならいいのですが。でも、その場合なら、まがい物をまがい物じゃ無いと思い込む主人公の理由が少しあるといいと思います。

主人公が現状にいる理由を匂わせる。
明示するよりも、読者にそれを想像させるヒントをちりばめていくことで、曖昧な怖さが出て、雰囲気がよりよくなると思います。

こんなところかな?
でも、本当に好みの問題とかになるレベルだから、他の人ならどうするかって程度で読み流してくれるといいな。

203名無しさん:2017/03/08(水) 13:24:12 ID:UCVJoUNA0
>>202
丁寧な批評、ありがとうございます。
自分でも思う所が幾つかある批評ですので、参考にさせていただきます。

204名無しさん:2017/03/08(水) 20:54:34 ID:xjwqhIMcO
「雨、か」
「雨は嫌いか?」
「余り、好きではないかな」

しとしとと、雨が降り注ぐ外を見ながら、僕はアヌビスである彼女の言葉に苦笑で返した。
昔から、雨の日は余り好きではなかった。靴の中が濡れたり、電車が止まったり。予定が狂ってしまうから。
現に、彼女が一所懸命に立てたデートの予定は、完全に破綻してしまっていた。

「君は、好きなのかい?」
「私は……そうだな。嫌いとは言えないな」
「予定が狂うかも知れないのに?」
「そうだ。確かにこうして雨宿りのための足止めを喰らって悲しんでははいるが……それでもこいつは、嫌いになれないのだよ」

静かに語る彼女の目は、遠くを見るように細められていた。
その瞳には、きっと彼女の過去が映って居るのだろう。

「お前に出会う前、私が過ごしていた砂漠は、雨が降らない地だったからな。普通の耕せば緑映える砂漠とは違う、本当の乾いた地。ファラオ様の加護無くして生きること能わず、規律無くして、死を免れ得ない大地。--故に」

ふ、と彼女は口角を吊り上げて見せた。
その笑顔に、思わずドキリとしてしまうほど、柔らかな笑みだった。

「こうして、誰かと雨を見るのが、夢だったのだ。天の気まぐれによる、絶対に予定する事の出来ない、夢だ。予定が崩れるのは確かに残念だが、次善の策もある。このあたりは地下通路も多い。先ずは--」

そんな、大きくて小さな夢を語る彼女が可愛く感じて。
僕はほんの少しだけ、意地悪をしてみたいと、思ってしまった。

「傘もありますし、外に出てみませんか?」
「お、おい、聞いていたのか!?」
「ええ。でもこうして雨が降って居るなら--見るだけなんて、勿体ないですよ」
「しかし……お前は雨は嫌いではないのか?」
「ええ、あんまり好きではありません……けれど」

傘を開くと、青い花が頭上に咲いてくれる。
きっと足元は濡れてしまうし、予定だって守れない。
僕は、きっと雨を好かないままだろう。

でも。

「君と二人で歩くなら。少しは好きになれると思いますから」
「……そうか」

少し遅れて開かれた彼女の紅い傘が、僕の傘と軽くキスをする。
パシャパシャと水溜まりを踏みながら、二人で予定を破っていく。

「明日は、晴れますかね」
「晴れてくれないと、予定が狂うな……だが」

何気なく言った一言に彼女は笑って。

「こうして、また二人で歩いてみたいものだな」

小さな夢を、口にした。

205名無しさん:2017/03/08(水) 21:14:56 ID:xjwqhIMcO
ぐうう、最近は図々しくも「……」を削る習作をここで書かせていただいていますが、今度は「、」の使いどころで混乱してきました。
一つ上の作品では特に混乱が強くなってしまい「ここで読点を使ってのばしたら悪文だし、どうすれば」と終始悩んでしまいました。
リャナンシーちゃん、出来れば上手な読点、句点の使い方を教えてください……。

206名無しさん:2017/03/08(水) 23:18:03 ID:c0xWLDZg0
>>205
SS作家跋扈するこの地獄変……リャナンシーちゃんはここにいる!
はい、頼まれましたー! 作家の誰もが悩む句点と読点の置き場!
リャナンシーちゃんも相棒と勉強中の題目だけど、できる範囲で力を貸すわよ!
なので今回、参考には本多勝一先生の名著『日本語の作文技術』を引用させていただきます! あらかじめ最初に断っておくわね!

まず句点の打ち方だけど、これは当然ながら一つの文をまとめる時に使用されます。
難しく考えずに普通の感覚で打てば良いのだけど……困るのは読点なのよね、結局。
となると、やはり読点の打ち方をルール化する必要がありそうよね?。
そこで登場する原則が二つあります! これが本田先生による、読点ルールの大原則だぁ!

原則一・長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界にテンを打つ。(重文の境界も同じ原則による)
原則二・原則的語順が逆の場合にテンを打つ。

……はい、当然ながら何のこっちゃって感じよね。私も上手く言えないけど、解説してみまーす。
例文として>>204から文章を拝借します。以下の一文は、わざとテンを抜いてみた文章にしてみたわ。

しとしとと雨が降り注ぐ外を見ながら僕はアヌビスである彼女の言葉に苦笑で返した。

この文章は述部である『返した』って言葉を修飾……つまり、『返した』を説明している語や句があるわけよね。
そのパーツに番号を振ってみましょう。すると

①しとしとと雨が降り注ぐ外を見ながら
②僕は
③アヌビスである彼女の言葉に
④苦笑で

この4つのパーツが出てきました。この中で一番長いパーツは? そう、①になるわよね?
それから③も長め……というわけで、原則一が適用できちゃうわけね。
この文は僕はを①の前にも置ける重文構成だから、①の境にテンを打ちましょう。今度はこんな文になります。

しとしとと雨が降り注ぐ外を見ながら、僕はアヌビスである彼女の言葉に苦笑で返した。

はい、もうこれで十分スッキリ! でもちょっと後半長いかなと思ったなら、今度は第二原則を適用させてみましょうか。
このルールの『原則的語順』ってのは、上の例文みたいにパーツ分けをした時に『長いパーツから順番に並べたものが論理的には分かりやすい』というルールなの。
①は前にテンを置くのが決まったので、それを除いてパーツを順に並べると

アヌビスである彼女の言葉に苦笑で僕は返した。

こうなりました。でも元の文章ではパーツ②『僕は』を前に置いてるわよね?
さぁ、それじゃあ第二原則に従ってパーツ②にテンを置いて、また文を整理しましょう! じゃん!

しとしとと雨が降り注ぐ外を見ながら、僕は、アヌビスである彼女の言葉に苦笑で返した。

はい、『論理的には』理解しやすい文章ができました!
……違和感あるわよね? テンが近いわよね? 私も書いててカッコ悪い文章になっちゃったなぁって思ったもの。
じゃあどうしましょうかって話なんだけど、語順をいじっちゃえば良いのよ。
④『苦笑で』は『返した』の直前に置きたいから、④の前に②の『僕は』を置いて、そのまた前に③を……あ、ここ長いからテン入れちゃえ。
またこうやって整理してみると、

しとしとと雨が降り注ぐ外を見ながら、アヌビスである彼女の言葉に、僕は苦笑で返した。

これでどうかしら? 意味は通じるし、同じテンが二つでもバランスはさっきのより余程よくなったわね。
あとは好み! もっと自分でいじってみるも良し、最初のテン一つの文章にしちゃうも良し!

どうにも私と相棒も試行錯誤の最中だけど、大事なのは『無駄なテンを置きすぎたら文章はカッコ悪い』ってことらしいのよ。
今回だったら三点リーダーを減らすためにテンを多用してるわよね?
結果的にはテンがくどくなっちゃってるってのを、自分でもなんとなく感じてるんじゃないかしら。
そういうときには文をパーツに分解! ここのテンは必要ないなと思うところを片っ端から削ってみて、文を整理していく!
そんでもって、どうしても文のリズムや感情を置きたいところにテンや三点リーダーを置く!
そうすれば見直してもっと読みやすい文章が完成するんじゃないかしら?

メッチャクチャに長くて偉そうな講釈になっちゃったけど、ごめんなさい! 今回はこんなところで!
自分で書いてても意味分かんない説明だから、質問あれば答えます!
あと、添削……なんてのはおこがましいけれど、ちょっと私でも>>204の文章全体をいじって、ここに投稿させてもらっても良いかな?
こういうのは正解もないけど、せっかくだし他のお仲間と意見交換をしてみたいなー、なんて思ってるのよ。
もしOKなら、一緒に分かりやすい文章を書けるようにがんばりましょうね!

以上! リャナンシーちゃんからでした!

207名無しさん:2017/03/08(水) 23:51:42 ID:xjwqhIMcO
>>206
リャナンシーちゃん、ありがとうございます!
成る程。一旦文の読点を抜いてレイアウトを考える手がありましたね……。
私はいつもここをフィーリングでやっており、今作のような説明が多目の文章で詰まって居たため、非常に分かりやすい説明でありがたかったです。
綺麗で、伝わりやすい文章。これからも頑張って行きたいです!

そして添削版、凄く見たいです……。
とても手間がかかる事なので、無理強いは絶対に出来ませんが、もしよろしければ、お願い致します。

本当に、ありがとうございました。

208名無しさん:2017/03/09(木) 00:24:47 ID:lP1Vx0Ok0
>>207
ベッドで眠っちゃったリャナンシーちゃんから最後に補足の伝言を頼まれたので、僭越ながら自分が。

例文にあげさせていただいた『しとしと、と』の部分は、テンを消すと読み辛くなってしまうから、という意図があったのでしょうけれど、
これが気になる場合は『シトシトと』のようにカナを使って見た目に判断をしやすくする(分かち書き)のも有効だそうです。
もしひらがなでの『しとしと』という表記と感触を使いたかった場合でしたら、そのまま『しとしとと』というのもアリだとか。
辞書の例文もひらがなで『しとしとと』と書いてありましたし、文字から受けてほしい感触……書き手の都合を優先するのもたまには良いのでは、と。
それで、その辺りは他のテンとかの兼ね合いも兼ねて、トータルで読者の読みやすさとメリハリを付けていきましょう、とのことでした。

また、投稿した作品の私的校正について快諾していただきました、どうもありがとうございます。
リャナンシーちゃん喜んでましたので、明日にでもご返信できればと思います。

209名無しさん:2017/03/09(木) 01:23:16 ID:LfX0.fgw0
あ、その添削会、自分も他の人の文章と自分の文章を照らし合わせてみたいので投稿させてもらってもよろしいでしょうか?

210名無しさん:2017/03/09(木) 01:49:38 ID:lP1Vx0Ok0
>>207
ごめんなさい、>>208ですが全く意味不明な補足をしておりました……
『しとしとと』って元から表現されてますものね。いったい自分達は何を読んでたんでしょうか……
リャナンシーちゃんと二人でボケてたようです。>>208のレスは無視していただけると助かります
大変申し訳ございませんでした………あぁ、恥ずかしいよぉ

211205:2017/03/09(木) 09:17:22 ID:7xPBtKFM0
>>209
是非お願いします。
大変だとは思うので、出来ればで大丈夫ですが……。
句読点は本当に難しいです(遠い目)

>>210
いえいえ、貴重なアドバイスありがとうございます。
「しとしと」や「さんさん」などの表現はどうしてもひらがなにしたくなってしまうので中々難しいですよね。
図鑑世界らしさを出すなら柔らかいひらがなを使いたくなるので、こちらもいつも悩みの種だったりします。
もっと上手く書けるようになりたいですね……!

212名無しさん:2017/03/09(木) 12:02:20 ID:1GcchSx60
新人リャナンシーです。
作家最大の迷いどころと言っても過言じゃない読点問題に果敢に挑みます。討ち死にしたら、骨は拾ってね。

読点は、ルールが有るような無いようなところが厄介よね。作家のセンスを問われるわよね。
でも、憶えておいて。難しく考えちゃダメ。
難しく考えれば考えるほど、こういうものは無間地獄に陥るの。どうせ堕ちるなら、魔物と恋に落ちて。以上、リャナンシーからのお願いでした。

っと、まだ具体案がなかったわ。参考に私の担当作家の方法を紹介するね。

読む。

――シンプルね。でも、効果的よ。
読点を打つタイミングは「息継ぎしたい」と思ったところね。これは読むとすぐにわかるわ。あとはひらがなが連続していたりとか、読みにくくて「文を分けたい」と思ったところね。

しとしとと雨が降り注ぐ外を見ながら、僕はアヌビスである彼女の言葉に苦笑で返した。
昔から雨の日は、あまり好きではなかった。

「余り」の漢字をひらいたのは、読点を打つなら、ひらいた方が「好き」という字を目立たせることができるからです。

どうしてもしっくりこない時は、文章自体を見直すのもいいわ。順番を変えたり、句点を打って文を分けたり、描写を足したり、減らしたり。

こんな感じね。参考になったかしら?

あと、担当作家も添削会に参加したいって言ってるから、いいかしら?

213名無しさん:2017/03/09(木) 12:44:12 ID:p.GM5ecw0
問題無いかと思います。

もしよろしければ、私も参加させていただけないでしょうか?

214名無しさん:2017/03/09(木) 13:16:07 ID:gYiNaz5oO
>>212
とても具体的なアドバイス、ありがとうございました。
私も普段「読み」ながら書いては居たのですが、三点リーダーが作る「間」の威力に大分甘えていたため、今回強く混乱してしまったと感じております。

添削はとても有り難いです。
時間を割いていただけるのであれば、是非お願い致します。


>>213
はい、時間に余裕がございましたら、是非ともお願いしたいです。
宜しくお願いします。

215209:2017/03/09(木) 13:46:10 ID:LfX0.fgw0
>>211 お言葉にに甘えて

「雨……か」
「雨は嫌いか?」
「あまり好きではないかな」

雨がしとしと降りそそぐ外を見ながら、僕はアヌビスである彼女の言葉に苦笑で返した。
昔から雨の日はあまり好きではなかった。靴の中が濡れたり、電車が止まって予定が狂ってしまったりと、いい思い出がないのだ。
今もそう。彼女が一所懸命立てたデートの予定は完全に破綻してしまった。

「君は、好きなのかい?」

僕の問いかけに、彼女はしばし、ここではないどこか遠くを見るように目を細めた。

「そうだな。嫌いとは言えないな」
「予定が狂うかもしれないのに?」
「そうだ。たしかに、こうして雨宿りのための足止めを喰らって悲しんではいるが、それでも私はこいつを嫌いになれないのだよ」

静かに語るその声には懐古の情が滲んでいる。
細められた瞳には、きっと彼女の過去が映っているのだろう。

「お前に出会う前、私が過ごしていた砂漠は雨が降らない地だったからな。普通に耕せば緑映える砂漠とは違う、本当の乾いた地。ファラオ様の加護無くして生きること能わず、規律無くして死を免れ得ない大地。――故に」

彼女の口が笑みの曲線を描く。
思わずドキリとしてしまうほど、柔らかな笑みだった。

「こうして、誰かと見るのが夢だったのだ。天の気まぐれによる、絶対に予定する事の出来ない雨を。
 予定が崩れるのは確かに残念だが、次善の策もある。このあたりは地下通路も多い。先ずは――」

そんな、大きくて小さな夢を語る彼女を可愛らしく感じて。
僕はほんの少しだけ、意地悪をしてみたいと思ってしまった。

「傘もありますし、外に出てみませんか?」
「お、おい、聞いていたのか!?」
「ええ。でもこうして雨が降っているんです。見るだけだなんてもったいないですよ」
「しかし……お前は雨は嫌いではないのか?」
「たしかにあんまり好きではありません――けれど」

傘を開くと、青い花が頭上に咲いてくれる。
雨の中に踏み出すと、花が自然の音色を奏でた。

きっと足元は濡れてしまうし、予定だって守れない。
僕は、きっと雨を好かないままだろう。

でも。

「君と二人で歩くなら。少しは好きになれると思いますから」

振り返って彼女に手を伸ばす。

「……そうか」

少し遅れて開かれた彼女の傘が紅い花を咲かせ、僕の傘と軽くキスをした。
二輪の花を並べてパシャパシャと水溜まりを踏みながら、二人で予定を破っていく。

「明日は晴れますかね」

僕の何気ない一言に彼女は真剣に答える。

「晴れてくれないと予定が狂うな……だが」

もう一輪、花が咲いて。

「こうしてまた、二人で歩いてみたいものだな」

小さな夢を、口にした。

216名無しさん:2017/03/09(木) 13:50:43 ID:LfX0.fgw0
こんなアヌビスさんと公園の小屋から雨が降ってるのを延々と並んで眺めていたい……
砂漠に花というか、砂漠の花を射止めた僕さんマジ羨ましいっす

そんな花の下りを強調した終わり方でございました。
他、ちょこまかと変えてはいますが文意はあまり変わらないかと。
句読点は読んでみて違和感なければOKという雑な感じなのでリャナンシーちゃんの言ってたことをちょっと意識してみようかな……
三点リーダーについては描写を挟むことで間を取るという方法で乱用を回避できるかもです

あとですね、漢字はいくつか開いたほうが文章全体が読みやすくなりますので↓こちらあたりを参考にしてみたらよいかもです
ttps://matome.naver.jp/odai/2143348419251504001
敢えて固いイメージを持たせておきたいアヌビスさんの台詞を漢字多めで書くとかは演出的にありだと思います。

その他詳しいことはリャナンシーちゃんたちの意見を参考にしてください

217210:2017/03/09(木) 14:00:56 ID:lP1Vx0Ok0
>>211
お待たせいたしました。以下のような意図で多少の文改変を行っております。
個人的に原文が好みの文体と内容であったため、それをあまり崩さないようにしたつもりではあります。

①「余り」「居る」「先ず」といった漢字をひらがなに。
②『僕』の口調にですます調が混在していたので、地の文に合わせて普通の口調に統一。
③長い台詞の分割。及びそれに並行して地の文の追加。
④ハイライトである『夢』の印象を強くするために、彼女に対する僕のモノローグを追加。台詞も夢を語る部分で分割と抽出。
⑤『夢』の対比表現として『意地悪』を等価に置く表現の使用。
⑥読点を多少減らし、三点リーダー等の使用回数で文全体でのバランスを調整。特に――を引きの強い箇所に使用する形に。
⑦その他細かな表現を自分の感覚で調整・変更。

それでは次のレスに投下をいたします。

218210:2017/03/09(木) 14:02:47 ID:lP1Vx0Ok0
>>211

「雨、か」
「雨は嫌いか?」
「あまり、好きではないかな」

しとしとと雨が降り注ぐ外を見ながら、アヌビスである彼女の言葉に、僕は苦笑で返した。

昔から雨の日はあまり好きではなかった。
靴の中が濡れたり、電車が止まったり。そうやって予定が狂ってしまうから。
現に、彼女が一所懸命に立てたデートの予定は、完全に破綻してしまっている。

「君は好きなのかい?」
「私は……そうだな。嫌いとは言えないな」
「予定が狂うかも知れないのに?」
「そうだ。確かにこうして、雨宿りのための足止めを喰らってはいるが……それでもこいつは、嫌いになれないのだよ」

静かに語る彼女の目は、遠くを見るように細められていた。
その瞳にはきっと、彼女の過去が映っているのだろう。

「雨が降らない地だったからな。お前に出会う前、私が過ごしていた砂漠は」

僕の知らない世界のことを、彼女は淡々と述べていく。

「普通の耕せば緑映える砂漠とは違う、本当の乾いた地。ファラオ様の加護無くして生きること能わず、その規律無くして死を免れ得ない大地。故に――」

ふ、と彼女は口角を吊り上げて見せた。
思わずドキリとしてしまうほど、柔らかな笑みだった。

「こうして誰かと雨を見るのが――夢、だったのだ。天の気まぐれによる、絶対に予定する事の出来ない……夢、だ」

夢、と繰り返し口にして、彼女は微笑む。
誰かと雨を見ること。
彼女にとっては途方も無く、僕にとってはありふれているだろうこと。
そんな、大きくて小さな夢を語る彼女が可愛く感じられて。

「予定が崩れるのは確かに残念だが、次善の策もある。このあたりは地下通路も多い。まずは――」

僕は小さな意地悪をしてみたいと、そう思ってしまった。

「――傘もあるし、外に出てみない?」

僕にとって、大きくて小さな意地悪を。

「お、おい、聞いていたのか!?」
「うん。でもこうして雨が降っているなら、見るだけなんて勿体ないよ」
「しかし……お前は雨は嫌いではないのか?」
「あんまり好きではない……けど」

傘を開くと、青い花が頭上に咲いてくれる。
きっと足元は濡れてしまうし、予定だって守れない。
僕は、きっと雨を好かないままだろう。

でも。

「君と二人で歩くなら、少しは好きになれると思うから」
「……そうか」

少し遅れて開かれた彼女の紅い傘が、僕の傘と軽くキスをする。
パシャパシャと水溜まりを踏みながら、二人で予定を破っていく。

「明日は、晴れるかな」
「晴れてくれないと、予定が狂うな。だが――」

何気なく呟いた一言に、彼女は笑って。

「――こうして、また二人で歩いてみたいものだな」

小さな夢を、口にした。

219名無しさん:2017/03/09(木) 14:18:06 ID:lP1Vx0Ok0
さて、リャナンシーちゃんも満足したみたいなので普通にレスを

>>216さんの例を見ただけでも「あぁ、あそこはもこうしておけば良かったのか」とか
色々と思うところが湧いて出て来るから凄いなぁ
花の下りを強調、っていうのは自分の発想にはないものでした
ていうかリャナンシーちゃんの言ってたこと、自分も全然守れてないんだよね……要反省

220212:2017/03/09(木) 14:57:40 ID:1GcchSx60
「雨……か」

 しとしとと糸を引くような雨が降っている。

「雨は嫌いか?」

 それを不機嫌な思いで眺めていた僕に、アヌビスである彼女が問いかけてきた。

「あまり好きではない、かな?」

 疑問形で返したが、昔から雨の日は、あまり好きではなかった。
 傘を差しても靴やズボンの裾が濡れる。豪雨とかだと電車が止まったりもする。とにかく、いつもは何でもないことでも雨のせいで予定通りにいかなくなる。
 今もこうして、彼女が一所懸命に考えたデートプランが、この雨のせいで崩れていっている。それを思うと、ますます雨が嫌いになる。

「君は好きなのかい? 雨」
「私は、……そうだな。嫌いではないな」

 彼女の目が雨のむこうに向けられた。

「予定が狂うかも知れないのに?」

 彼女が、今日のことを誰よりも楽しみにしていたのを知っている。僕は、嬉しそうに行く場所のことを調べていたのも知っている。計画をして、予定通りことを進めることに喜びを感じるのも知っている。

「確かに、こうして雨宿りして、先に進めないのは残念ではある」
 彼女は僕の方を少し見て、肩をすくめて苦笑を軽く浮かべた。
「だが、それでも雨を嫌いになれないのだよ」

 もう一度、彼女は雨の向こう側を見た。
 遠い目だ。きっと、彼女は雨の向こうにある、僕の知らない景色を見つめているのだろう。

「お前に出会う前、私がいた砂漠は、雨が降らない地だった。砂漠の中でも特に過酷な、一片の慈悲もないところだった。ファラオ様の加護がなければ死を免れない。規律なくしては生を紡ぐことも難しい。故に――」

 ふと彼女は、僕の方に向き直り、やわらかく口の端を引き上げ、目じりを下げた。
 その笑顔に思わずドキリとしてしまう。初めて見る慈愛に満ちた笑みだった。

「こうして、誰かと雨を見るのが夢だったのだ。雨は希少で、天の気まぐれだ。予定する事はできないからな。それを共に見たかったのだ」

 彼女は嬉しそうだった。そんな、大きくて小さな夢を語る彼女が楽しそうで、僕は自分の小ささを恥じた。

「とはいえ、予定が崩れるのは気に食わない。こんなこともあろうと、次善の策も用意してある。このあたりは地下通路も多いのだ。先ずは――」

 いつもの生真面目な顔つきに戻って、地図を広げようとする彼女の手を取った。彼女は驚いた表情で僕を見つめた。

 僕は、彼女に夢につきあってみたいと思った。

「傘もあるし、外を歩いてみませんか?」

 手にしている青い傘を軽く掲げた。

「お、おい。私の話を聞いていたか? 地下通路があるのだぞ」

 彼女は予想外の僕の提案におろおろしていた。

「こうして、君の夢が降っているなら」
 彼女の手を引いて、僕だけ雨宿りしている庇の下から外に出た。雨粒が僕の身体に当たってはじけた。
「見ているだけなんて、もったいないですよ」

 僕は彼女に微笑みかけた。

「おい。濡れてしまうぞ。お前は雨は嫌いなのだろ」

 あわてて、彼女が僕を庇の下へと引き戻した。

 きっと靴は濡れるし、予定は狂うだろう。彼女の言う通り、地下道を行った方がよいだろう。
 それに雨は好きになれない。多分、これからも。
 でも――

「うん。あんまり好きではないよ。だけど――」
 僕は青い花を僕たちの頭上に咲かせた。
「君と二人で歩くなら、少しは好きになれる気がする」

「……そうか」

 彼女は少しばかりぽかんとした表情をしていたが、ふっと笑った。そして、赤い傘を開いて、僕の傘に軽くキスをした。

「相合傘でもよかったのに」
「傘を持っているのにか? そんなバカップルみたいなことできるか」

 僕の言葉で、彼女の顔に傘の赤さが映りこんでいた。そんな彼女が可愛くて僕から笑みが漏れる。

 パシャパシャと水溜まりを踏みながら、せっかく立てた計画を二人ででたらめに崩していった。

 周りは雨を避けるように足早に行きかう人たちの中、僕たちはのんびりと先に進んだ。

 予定通りでも、思い通りでもないけど、僕は楽しかった。
 雨の日が楽しいと思ったのは多分、生まれて初めてだろう。そして、晴れた日は今日より楽しいか気になった。

「明日は晴れますかね?」

 僕は空を見上げて、落ちてくる雨粒を見つめた。

「晴れてくれないと予定が狂う」

 彼女は真面目な顔で言ってから、顔をほころばせた。

「だが、こうして、また二人で雨の中を歩いてくれるなら、それも悪くない……今度は一つの傘で」

 はにかみながら、小さな夢を口にした。

 僕はその彼女の夢に付き合おうと思った。多分、これからも。

221212:2017/03/09(木) 15:34:11 ID:1GcchSx60
せっかくなんで結構、思い切って変えてみました。
考えたのは、原作の雰囲気を崩さないようにしつつ、空気感をさらに出すようにすること。
元々がいい雰囲気なので、そこをさらに上乗せというのは、我ながらチャレンジしすぎと思うけど。
読者がすっと情景が浮かんで雰囲気に浸れるように、邪魔しない文章を目指しました。読んでいることを忘れるような文章を目指しているので、その練習をさせていただきました。

>>209さん、>>210さんのを読んで、「しまったぁ」ともっとそうすればと反省する点がしきり。でも、本当に人によってポイントが変わると面白いです。
自分も何か書いて、添削希望をしたくなりました。

222213:2017/03/09(木) 18:43:31 ID:p.GM5ecw0
>>220
糸を引くという熟語には、『物がまっすぐ空中を動いていく』という意味があるため適した用法だと考えられます。ですが、その他にも『裏で指図して人を操る』『ねばついて糸を張ったような状態になる』といった意味もあります。
私個人の印象ですが、糸を引くという熟語は後の二つのものが強いです。
そのため、雨の細さだけを表現するのであれば

糸のような雨がしとしとと〜

のほうが、スッと内容が入り易い気がします。
参考程度にどうぞ。

223205:2017/03/09(木) 19:39:02 ID:gYiNaz5oO
皆様、本当にありがとうございます……。
書いた本人が「読点をはじめ、どこかまずいところが有るのはわかるけれど、どうすれば良いのか分からない」という重体だったため、今回の皆様による申し出はとてもありがたかったです。重ね重ね感謝を申し上げます。

>>215
花をポイントにした綺麗な修正だと感じました。
最後に彼女自身を「花」と表現するアイデア、そして微笑みの表現の優しさと柔らかさ。
追加された音の表現により五感に訴える割合が増え、情景の豊さがより強く伝わって来ます(私の描写が足りなかった、ともいいます)。
拙作をほめていただいたことを含め、本当にありがとうございました。


>>218
私の文をなぞりつつ、見事なグレードアップをしてくださって、すごいなあ、と思わず溜め息をついてしまいました。
表現したかった世界観を見事に昇華していただいた事からも、書き手としての腕が感じられます。
ひらがなにして柔らかさを出したこと、「夢」という言葉の強調(三点リーダーが本当に効果的な使われ方をしていたと思います)。
そして、長台詞を切って一拍入れたこと。
全てが効果的でした。
特に台詞の切り方は、書いている本人が長いと悩んでいたため、勉強させていただきました。
リャナンシーちゃんのアドバイスもありがたく。今回は感謝しきりです。


>>220
とても上手で大胆な修正、ありがとうございました。
主人公の心理描写の追加による「キャラクターへの共感」の強化。
そしてアヌビスちゃんの予定を破られたときの可愛らしさ。
総じて二人のキャラクターが見事に立っていたと思います。
表現においても、現在形の多用による臨場感、同じ語尾--「知っている」の三連続使用による絆と主人公のキャラクター性の強調。
それらの要素が上手く混じり合ったとても見事な修正だったと思いました。


皆様の貴重な御時間をいただき。本当にありがとうございました。
また、頑張って書いていきたいと思います。

以上、長くなってすみませんでした……。

224名無しさん:2017/03/09(木) 19:45:15 ID:4SLzWCTY0
まっすぐ細い雨が下りてくる、というのなら。
「糸を垂らしたような雨」とか「細い糸のような雨」とかあるかもしれない。
音を描写しているなら音に注目して、「しとしとと、囁くような音を鳴らして雨が降っている」と言うのも、あるかもしれない。

表現方法が上手い下手はさておいて(。。

225213:2017/03/09(木) 20:09:28 ID:yUs734rY0
やっぱり、こういった綺麗な話は引き込まれますね。
読み返してしまいます。

226213:2017/03/09(木) 20:55:03 ID:yUs734rY0
批評も感想もパッとせずに図々しいかもしれませんが、話を一つ投稿してもよろしいでしょうか?

227名無しさん:2017/03/09(木) 20:57:40 ID:lP1Vx0Ok0
>>223
こちらこそ、素敵なお話をいただいただけでなくて
厚かましい申し出を快諾していただきまして、本当にありがとうございました
雨とアヌビスという組み合わせの時点で「やられた」という感があって……その発想力が羨ましいですw
おかげさまで、リャナンシーちゃんと一緒に楽しい時間を過ごせました

>>226
どうぞどうぞ。ここは1レスSS集積所なので、そちらが本分のはずですし
むしろ結構前から「スレチなこと始めちゃった自分とリャナンシーちゃんをお許しくだせぇ」って思ってます

228名無しさん:2017/03/09(木) 21:02:10 ID:gYiNaz5oO
>>226
はい。
むしろお願いします。

自分が原因で大分スレの流れから離れてしまいましたし(汗)

229213:2017/03/09(木) 21:28:35 ID:yUs734rY0
では、投稿させていただきます。


 波一つ無い凪の海へ漕ぎ出した僕を迎えたのは、一人のネレイスだった。彼女は、何時かいなくなってしまった僕の想い人に似ていて、自然と舟を漕ぐ手は止まってしまう。
 ネレイスは固まったままの僕へ手を伸ばし、彼女そっくりの微笑みを浮かべた。僕はその手を取ると、夜の海へと身を投げた。海中は不思議な力に溢れ、僕とネレイスは、その力の静かなうねりに身を任せた。

「ずっと、貴方とこうしたかった」

 ゆらゆらと海の中をたゆたい、僕と頬をくっつけ合いながらネレイスが囁いた。水面のさざめきは既に遠く、僕とネレイスは真っ逆さまに海の深みへ沈んで行く。

「独りぼっちにしてごめんね」

 僅かに強まった抱擁に僕は口付けで答えると、ネレイスの髪に顔を埋めた。ネレイスの髪はちょっと癖っ毛で、甘やかな匂いがした。それが、目の前にいる魔物が君である事を教えてくれている。
 君との再開が言葉にならないまま口を衝いて出そうになると、君はそっと人差し指を僕の唇に置いた。そして、その人差し指はゆっくりと僕らの足元へ向けられる。

「綺麗……」

 燐光を放つ雪が、僕らと共に海底へと降り積もる。僕と君はその淡い輝きに見とれながら、更なる深みへと沈み行く。
 僕らの行き着く先は分からない。もしかすると、永遠の今を漂い続けるのかもしれない。そう思い始めた頃、海底に淡く輝く大地が現れた。
 雪の花を咲かせる海百合の草原。そのまん中へ僕らは降り立った。そして、どちらからともなく固く抱き合う。
 
「……ただいま」

 万感の想いが込めらた君の一言に答えようと、僕は頭を振り絞った。だけど、湧き出てくるのは君への尽きることのない想いばかりで、結局、言葉にはならなかった。

「ふふふ。ただいまって言われたら、なんて返すか決まってるじゃない」

 おかしそうに笑う君を見ながら、僕は伝えるべき言葉を決めた。そして、君に負けないくらいの想いを込めて言うんだ。

「おかえり」


昨日の批評にありました、主人公が現在に到るまでの過程を臭わす程度に書くことと、甘酸っぱさ( ? )に重きを置いてみました。
感想、批評等ございましたら、気兼ねなくお願いします。

230名無しさん:2017/03/10(金) 00:11:23 ID:cczr.cOg0
>>229
海に沈む二人の描写がイイね
水中で抱き合うってのは魅力的な題材だよね

231209:2017/03/10(金) 00:37:28 ID:SQpsvegk0
皆さんの添削拝見いたしました。
標本のつもりで放り投げた自分の添削にもお言葉をいただき感謝です。

>>229
言葉を振り絞ろうとして最終的に簡潔だけど重い一言になる流れ、好物でございます
ネレイスさんの行動に想い人を重ねて身体的なふれあいで彼女だと確信するのも想い人への気持ちなどを感じさせてよかったです

232212:2017/03/10(金) 08:40:10 ID:Ydjg4uh.0
>>220
アドバイスありがとうございます。言葉の印象は、すごく参考になります。
確かに、その二つの意味も認知度高いですね。
片方の「ねばついて〜」には、「しつこく降る雨」という意味もかけてはいたんですが、そのフォローをする描写を書いていなかったのに今頃気づきました。
担当リャナンシーちゃんに「めっ」される……
他の意味のことも気を付けるように頑張ります。

>>223
大胆ととっていただき、ありがとうございます。よく考えれば、失礼と言われても仕方ないぐらい変えてましたから。
素敵な二人の話だったので、ほっこりとしつつも嫉妬してます。こういう話を書きたいものです。

>>224
糸雨という言葉があるので、「糸を垂らした」という方が情緒があっていいかもしれませんね。
今回は二人だけの世界を強調したかったので、音の描写はできるだけ避けていたのですが、他の五感を描写するのはアリですね。

233名無しさん:2017/03/10(金) 15:57:44 ID:d./xUJhsO
「あ、今日はキャベツ安いな……」

全国チェーンのスーパーマーケット、「たぬきマート」の一角、僕は小さく呟きながら、特売のキャベツ(買う予定はなかった)を買い物籠に放り込んだ。
こういう所で買い物をするときは、なんとなく心が踊る。
冬は暖房、夏はクーラーが効いていて過ごしやすいし、何より品物が目に鮮やかだ。
夕飯のメニューを考えながら食品売り場を巡れば、ついつい買いすぎてしまう程度に、浮かれてしまう。

それに、もう一つ。
「後は、タイムセールのとり胸を買って……」
「ご主人、たまごが安いですよ!」

隣で屈託の無い笑みを浮かべながらしっぽを振る同居人(同居魔物?)の存在も、楽しさを増してくれるのだ。
異世界からやってきた魔物--コボルドである彼女に出会ってから早数年。
もはや居ないときを思い出すことが出来ない彼女も、スーパーマーケットでの買い物が好きなのだ。

「卵かあ、丁度良いし今夜は親子丼にしようか」
「オムライスも出来ますよ!」
「キャベツの卵とじも体に良さそうだし……」
「オムライスも良いですね!」
「かきたまにして和風にしてみようかな」
「オムライスはどうですか!」
「……オムライス、食べたい?」
「いえ、ご主人の料理ならみんな大好きです!」

今日のメニュー案を口に出しながら、二人で歩く。
買い物籠には買い足したケチャップと玉ねぎ、ついでにミックスベジタブルが入っていた。

「よし、今日は僕も食べたいし、オムライスだ」
「やったぁ!ご主人の分のケチャップはわたしがかけてあげますね!」
「よし、任せたよ」

今日のメニューは、彼女の大好きな、オムライス。
僕にはふわとろ、と洒落たものは作れないから、木の葉型の昔懐かしい形のものだ。
黄色の薄焼き卵に、真っ赤なケチャップで文字を書くのが、彼女は大好きなのだ。

「さあて、そろそろ帰ってご飯を作らないと」
「はい!荷物は半分持ってあげますね!」

レジを通過して、二人で袋に商品を詰める。
印刷された「たぬきマート」のイメージキャラクターである「まめたぬき」が、中身の重さに、ほんの少し伸びてしまう位の量。
一人じゃきっと、食べきれずに腐らしてしまうかもしれないけれど、彼女と二人なら、きっと食べきれる。

僕は夕焼けに染まる街を歩きながら、この日常を、噛みしめていた。

234名無しさん:2017/03/10(金) 16:38:29 ID:ua6UGR8k0
お蔵入りしていたワーキャット編を発見したので日の目を浴びせたい
初期の頃はこんな漢字で書いていたのかと感慨深い。




ぴぴぴぴっ、ぴぴぴぴっ、ぴぴぴぴっ

カーテンの隙間から陽の光が薄暗い部屋を照らす時刻。
室内に響くデジタル音に少女の眉が歪む。

「う……う〜ん、何よ……朝からうるせぇ……まだ眠い」

のろのろと伸びた手が目覚まし時計をタオルケットの中に引きずり込む。
数秒後タオルケットが宙を舞い、跳ね起きた少女が絶叫した。

「ち、ち、ち、遅刻だあああああ!」

****

ボクは『はぁ…』とため息をついた。
これが何回目のため息だろうか。
朝から寝癖でひっちゃかめっちゃかぁな髪を気合いでセットして、焦げかけたフレンチパックを牛乳と共に胃袋に押し込んでダッシュ。
ワーキャットの脚力を生かしてギリギリセーフで補習教室に駆け込んだ。
CMのお姉ちゃん共が『ああ、遅刻だぁ♪』と言いながらフレンチパック片手に出社とか絶対無理、あのCMはウソだな。

「ああ……ひもじい」

十七歳のお腹は昼を回った辺りから引きリなしに悲鳴をあげている。
補習は本日をもって終了、何とかクリアできたと思う。
夏休みに入る前に先生から『葵ちゃん、赤点だから補習よろしくね』って言われた。くっそ、あの三十路ババァ……数学の補習とかマジ面倒くさい。
ボクは文系なのにニ年までは週三で数学がある。
『消滅しろよ!』と叫びたくなるくらい数学が嫌いだ。
人生にはたし・ひき・かけ・わり算だけでいいんだよ!
これからの人生の中で数式なんて使う用途があるか?
『気分を落ち着かせたいので連立方程式を解きます』とかいう奴がいたら頭がおかしいとしか思えない。

「おー葵、今帰りか?」

後ろから声がした。自転車のベルの音と共になじみの顔が見えた。

「あータクヤか……そうだよ、今帰りだよ」
「休みだってのに制服でご苦労様だな」

こいつはタクヤ、中学の時からの馴染みだ。
今時の学生だが重度のアニメオタクである。

「寄るな、キモオタ……妊娠させるのはゴミ箱だけにしろ」

最近は格闘と美少女を組み合わせたアニメにハマッているらしい。

「はいはい、どーせキモオタですよ……じゃあな……昼飯どこで食うかな」

なんですと?昼メシ―――ボクは間髪おかずに言った。

「すごいよね! アニメって夢があるし、可愛いよね! ボクも大好きなんだ」
「……で、そのキモオタに昼メシをねだっているわけね」
「あのーその……都合してくれませんか? お酌してあげるにゃん」

****

「いただきまーす」

ボクは熱々のハンバーガーにポテト、フライドチキンを胃袋におさめていく。
店内にはひんやりした冷房と夏を思わせる歌なんかが流れている。

「…………」

シェイクを啜りながら対面に座るタクヤがジト眼で見てくる。

「ぷは……お腹いっぱい、幸せ〜ありがとうタクヤ」

ボクは冷たいジュースを飲みながら言った。

「いや……いいけど。貸し1つな」
「むぅ……わかった」
「にしてもお前、朝からフレンチパック以外何も食ってねぇの?」
「しょうがないだろ……補習のせいで家族旅行出遅れだし……」
「マジで!? あっはっはっは、ダセぇの」
「あーもう! むかつくわー! 海行きたくなってきた!」
「はぁ? まだ海開きやってねぇだろ?」
「お忘れかな? タクヤ君? あるだろ、ボクらだけのビーチが

235名無しさん:2017/03/10(金) 16:50:15 ID:ua6UGR8k0
連投すみません。もう一つはかなり作風が違うので注意。
お蔵入り第二弾。

「……有能な将校さんはこんないい部屋で寝泊まりできるのね」

朝の日差しが差しこむ部屋で若い女性がくるまったシーツから顔を出した。

「ははは、何度修理しても雨漏りする兵舎が懐かしいよ」
「贔屓だわ。とっても贔屓。同じ王に仕える身なのに」
「ルナは近衛騎兵団でも副長だからね、俺とは勲章の数が違うのさ」

既にベッドから出て、制服を身につけた青年将校が水差しと2つのグラスを持って来た。

「……気兼ねなくシャワーが浴びられる貴方が羨ましいわ」

ルナと呼ばれた女性が半身を起こしてグラスを受け取る。
群青色の髪に赤い瞳が印象的な女性だ。何気なしに水を飲んでいるだけなのに不思議と見とれてしまう。

「私なんて身体を拭くのがやっとなのに……やだ」

青年の視線に気付いたルナはシーツから覗いている乳を隠し、顔を赤らめた。

「あ、ごめん……そんなつもりじゃなかったんだけど」
「もう……」

近頃は帝国内外で兵士の行き来が激しい。
その理由は帝国に反旗を翻す部族や小国によって帝国領内の街道が寸断され、物品の流通に支障が出ているからだ。
特に貴重な真水や塩などの供給がここ数日、滞っている。先に大規模な暴動が街道で起こったためだ。
さらに国境外の強制開拓団、少数民族及び、森林地帯のエルフ、地下探鉱のドワーフ達が同盟を組み、着々と軍備を進めているという。
また帝国内でも一部の者達がその同盟組織と内通しているという噂がある。果ては王の暗殺まで画策しているとか、ないとか…

「なら前線の部隊に転属するかい?ルーナンティ=エレオノーレ君。
我が第1歩兵連隊は君を歓迎するよ。毎日、乾燥豆のスープに塩漬け肉と水割り酒のフルコースで」

水を飲み干した女性は軽く笑って

「遠慮しておくわ。キース……もう行くの?」
「ああ、新兵の訓練の時間だからね。シャワーは自由に使うといい。じゃ、また後で」
「ありがとう、いってらっしゃい」

****

「失礼致します。お呼びでしょうか」
「……入れ」

城内に設けられている塔の中で、最も高い塔の一室
城下が一望できる部屋の主にルーナンティは低い声で入室を告げた。

「ルーナンティ=エレオノーレ近衛騎兵副団長であります」
「……近くに寄れ」

暗い室内で椅子に座す男の声にルーナンティはゆっくりと歩み寄った。

「ここ最近、お前に命じた任務の報告書に同じ文字が記されている」
「い、いえ……そのような事は――――あっ」

男はいきなりルーナンティの尻に指を食い込ませた。

「事細かに記されているが……要は『成果なし』と言うことだ。これが何を意味するか、わかるか?」
「事実を述べているだけです…わ、私は―――んっ……く」

男の指がさらに下部に伸び、ぐっと上へ突き上げた。

「フィリップマンとか言ったか……あの男は有能すぎるのだ。
それに人徳もあるとあれば計画とやらに携わっているかもしれん。
風の噂では私を暗殺する計画というではないか。お前をあの男へ近づけたのは、暗殺計画に関わっているであろう者共を調べ上げるためだ。
それを命じて4ヶ月も経つ……それほど時間がかかっておるのには、他にワケがあるのではないか?」
「も、申し訳ございません。計画に携わっている様子は未だ、何も……」
「男と女……床を共にする中では寝物語に何を囁いているかわからんからな?」

236名無しさん:2017/03/10(金) 16:52:01 ID:ua6UGR8k0
男がルーナンティの眼を射抜くように睨んだ。

「特にお前は」
「わ、私は……あの者にそのような感情は……んっ……は」

男の手がさらにルーナンティを弄る。

「我が血を分けた娘で無ければその首をとうに刎ねているところだ。あの男の下で股を開くだけがお前の任務か?」
「……断じて……そんな……心構えでは…」
「お前の身体には母親と同じように淫らな血が流れているのだ。
男を狂わせるセイレーンの血がな。その能力(チカラ)を使ってもこの程度とは……」

男はルーナンティを突き飛ばすと報告書の束を投げつけた。
宙を舞う紙の中でルーナンティは静かに言った。

「……母は貴女を愛していたと……ち、父上」

ルーナンティは目を閉じ、震える声で答えた。

「何だ、それは?」

しかし、男は殺気を帯びた声で答えた。

「――――し、失礼しました。陛下」
「お前の存在は、私しか知らん。この世で私の血を正統に受け継いでいるのは第一皇女のみ」
「……はい」
「あと一週間の猶予を与えてやろう……その汚れた雌犬の身体をもって、忠誠を示せ。
もし計画にたずさわっていたとしてもあの男だけは生かしてやる」

その言葉にルーナンティは顔を上げた。

「舌を抜いて生かせておけば裏切りの憎悪の矛先は全てあの男に。お前もその方が楽しめるだろう?」
「……し、承知致しました。計画の首謀者、必ずや……」
「その言葉、努々、忘れるな……」

237名無しさん:2017/03/10(金) 17:35:34 ID:d./xUJhsO
「はぁ……」

私は刺繍が半分くらい入ったハンカチを前に、深く溜め息をついて、再び針を入れ始める。
それは炊事洗濯その他、家庭的な事に縁のない私にとって、初めての作業だった。

「本当に、上手く行くのかな」

頭に浮かぶのは、幼なじみのアイツと、このハンカチを手に入れた時の思い出--私が刺繍をはじめた理由だった。

ある日、部活の帰り道に雨が降って。
たまたま傘を持っていなくて。
近くに、知らない店が開いていて。
雨宿りの為に駆け込んだその店で、一番安いハンカチを買った。
その時に、言われたのだ。
このハンカチがある妖精の曰く付きの品である事。

「この小さな布を刺繍で埋めた時、家庭的な女の子になれる」

そして、おまじないがある事を。
本当は刺繍なんて出来ると思ってなかったし、話半分のつもりだったけれど。
その日から何故か、私は刺繍をはじめて居た。

「よし、今日はこんなもんかな」

毎日、毎日、少しずつ亀のようなペースで布を埋めていく。
家庭的になった実感なんて無い。
代わりにアイツの事ばかり、頭に浮かんでくる。
幼なじみで「女らしくない」ってからかってくる男。
布を弄っている間、何でもない相手の筈なのに、頭から離れなくなってしまう。

「ロクな補給してないだろうし、蜂蜜レモンでも作ってやるか」

ハンカチを机に置いて、台所に向かう。
その足取りは何時もより軽やかだった。


「前より、ペースがいいかな」

一週間後、四分の三が埋まったハンカチを刺繍しながら、小さく呟く。
蜂蜜レモンを渡されたアイツの表情が、頭に浮かぶ。
「ありがと」という言葉が、こんなに嬉しいなんて、知らなかった。
お陰で毎日作っては持って行くようになってしまっている。
「よし、今日の分はお終い」

明日は、アイツの試合の日だ。
弁当でも作るとしよう。
アイツの好物位なら、作れるようになったのだから。


「ふふ、勝てて良かった」

椅子に座って、刺繍をする。
後もう少しで完成だ。
試合はアイツの勝ちだった。
「弁当、ありがとな」と、試合の後に言われたのが、嬉しかった。
刺繍を縫いながら、何度もアイツの姿を思い浮かべる。
明日も、弁当を作っていこう。
栄養なら計算出来るから。


今日、刺繍が完成した。
犬の尻尾と耳が生えて。手首には羽毛が付いていた。
私は、家庭的な女の子に、なれたのかな。

アイツに、ご主人様に聞いてみよう。

238名無しさん:2017/03/10(金) 18:46:03 ID:ua6UGR8k0
>>234>>235を投稿したものですがリャナンシーちゃん、火鼠さん例の如く
感想をお願いします。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板