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【習作】1レスSS集積所【超短編】

123名無しさん:2017/02/28(火) 00:19:48 ID:9ucT79/.0
 常日頃、友人達から『お前は鈍い』と言われる。
 自分では全くそんなつもりはなく、むしろ空気も読める男だと自負しているのだが……まあ、それはこの際置いておこう。
 本題。そんな鈍いと言われる俺でも分かる。

「今日からお前は私の召使になることが決まった。ありがたく思え」

 ……俺、プロポーズされてる。

「……も、もう一度言ってくんない?」
「なんだ、いつもの難聴か? この難聴鈍感唐変木男が」

 常日頃、友人たちからお前は『お前は難聴か』と言われる。
 自分では全くそんなつもりはなく、むしろ人一倍耳聡い方だと自負しているのだが……違う、そんなこと考えてる場合じゃねえ。
 本題。呆れたように半眼で俺を見つめる、幼馴染みのヴァンパイア(絶賛片思い中の相手である)。

「今日からお前は私の召使だ。嫌だとは言わせんぞ」

 ……こいつ、俺にプロポーズしてる。

「……あの、それはいったいどういうおつもりで……?」
「言葉通りの意味だ。おっと、少し言葉が足りなかったな……今日からお前は私の召使兼食料だ」
「……それは本当の本気でいらっしゃいますか……?」
「私はお前みたいに頭も口も軽くない」

 衝撃で思わず口調が敬語になってるが、それも仕方なくね?
 いや……俺、知ってるんだけど。
 ヴァンパイアが男を召使にするって、それはつまり『私の恋人になってね、あ・な・た(はぁと)』って意味だって。
 この事実を知ってるのも、ヴァンパイアの旦那さんが例外なくその執事である理由を友人に聞いたところ、『お前は本当に鈍い奴だなぁ』とため息混じりに教えてもらったからなのだが。
 いやいや、この真実に疑問を持っただけ俺は鋭い部類に入ると思うぞ……って、ああもう脱線は良いっつーの。

 どうしよう。俺、こんな時にどんな顔をしたら良いか分からないの。
 笑う場面ではないと思うの。でも顔を真っ赤にしてニヤニヤしちゃいそうなの。
 こいつが俺のことそんな風に見てくれてるなんて、思ってなかったから。

 やべぇ……今までこいつと一緒にいて、こんなに心臓バクバクするの初めてかも。

「かっ、勘違いするなよ! 別にお前とは主人と召使の関係なだけで、それ以上でもそれ以下でもないんだからなっ!」
「ぶっ……!」

 しかもこいつ、俺がプロポーズに気付いてるってことに気付いてねぇ!
 言葉通りに俺が召使兼食料になることに驚いてるって思い込んでやがる!
 やめてください、頬を赤らめてその墓穴な台詞は反則ですから! 俺が悶えて死んでしまいますから!

「おい、なぜ顔を隠してプルプル震えているんだ」
「いや……今までお前と一緒にいて、こんなにお前が可愛いって思ったの初めてだったから……」
「なっ……ま、またそんな軽口を叩いて! お前という奴は!」

 まったく……いったいどっちが鈍いんだか。
 恥ずかしいやら、嬉しいやら、おかしいやら。
 色んな感情がごちゃ混ぜになって笑えてきちまう。

「もう良い! さっさと私について来い! ボヤボヤしていると馬車を呼んで蹴り入れるぞ!」
「あ、待ってくれよ、おい!」

 ボヤボヤしてたら置いてくぞ、じゃないんだな。

 俺はまた妙なニヤニヤを漏らしてしまいながら、いちいち可愛い発言を繰り返す幼馴染みの背を追いかける。

 俺がインキュバスになって、胸を張ってこいつの恋人になれる日が来たとき。
 その時は必ず言ってやろう。
 実はとっくにお前の気持ちに気付いてたって。
 そのずっと前から、俺はお前のことが好きだったんだって。

 そう決心しながら、俺は足早に歩く幼馴染みに追いついて。
 それからゆっくりと、その隣を歩き始めた。


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