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【習作】1レスSS集積所【超短編】

106名無しさん:2017/02/22(水) 19:03:48 ID:6mF0tb/k0
「ただいま」

 家に帰るのが、少しだけ憂鬱だった。
 一人暮らしをするようになってから、「おかえりなさい」と言ってくれる人がいなかったからだ。
 暖房の効いていない、暗い部屋。
 だれも答えない「ただいま」という言葉とともに荷物を置いて、インスタントの夕飯で軽く済ませたらシャワーを浴びて寝る。
 僕にとっての家はそれだけの場所だった。

「お帰りなさい。今日もお疲れ様ですの」

 だけど、今は違う。
 耳に響く甘く、涼やかな声に、思わず笑みがこぼれる。
 暖房の利いた暖かい部屋の台所で、エプロンをつけた小さな少女が僕にむけて微笑んでくれるからだ。
 リビングドールである彼女にとって、台所の流し台は結構な高さのはずなのだけれど、巧みに踏み台をつかって調理する彼女は、そんなハンデなど感じさせない堂々とした姿だった。

「今日は、貴方の大好きなカレーライスですの。勿論甘口ですのよ」
「うん、いい匂いだ……」
 
 促されるままに手洗いうがいをして、食卓に座る。
 手作りのカレーライスの香りが、疲れた体に染みていくのが良く分かった。
 口に含むと、ごろごろとした人参やじゃが芋、食べ応えのある鶏肉。そしてぴりりと辛くて、それでいて彼女のように優しいルゥが舌をとろかしていく。
 「箸安めですの」と添えられたサラダはドレッシングが手作りで、酸味が新鮮な気分にさせてくれる。
 どこまでも僕好みの、思わず夢中になる味だった。
 
「……ごちそうさま」
「おそまつさま、ですの」

 一息で食べ終えた僕に、彼女は再び笑いかけてくれた。
 細く緩められた瞳は、僕のことを何でも知っているみたいで、なんだか恥ずかしくて……すごく、心地よかった。

「いつも、ありがとう」
「ふふ、どういたしましてですの」

 心の底からの感謝を告げると、頭を撫でられた。
 密着した彼女の甘い香りが、肺に満ちていく。

「でも、「ありがとう」などと軽々しく言わないで下さいまし……これからも、ずっと一緒ですのよ」
「うん……でも」

 ありがとう。
 そう、言いたかった。

 こんなにも、帰りが楽しくなったのだから。


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