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【習作】1レスSS集積所【超短編】

176名無しさん:2017/03/05(日) 10:45:55 ID:9XsCPzkIO
「催眠をかけて欲しいだって?」

学校の昼休み、突然やってきた後輩の言葉に、私は素っ頓狂な声を上げた。
昼食にかじっていた特売のパンの袋が私の声でビリビリと震える。

「は、はい。どうしても好きな人に告白したいんですけれど、勇気がもてなくって……」
「勇気、ねえ」
「玉砕しても良いから、告白する勇気が欲しくて」
「成る程、ね。だから私の催眠、って訳か」
「は、はい。先輩の--ゲイザーの催眠の力を、貸して欲しいんです……」

最後の方は、消え入りそうな声だった。
見れば、後輩は小動物のようにぷるぷると震えていた。
きっと、私と同じ位の臆病者なのだろう。
話すだけでも、凄く勇気を振り絞ったに違いない。

「良いぜ」

だから、私は応えてあげる事にした。
本当は、好きな人とラブラブになるための力だし、まだ恋人の居ない私にとっては嫉妬案件だけど。
彼の勇気に、こんな一つ目の魔物に話しかけてくれた勇気に応えてあげないとダメな気がした。
ポン、と安心させるように頭を叩いて笑いかける。
ホントはウィンクしたかったけど、物理的に出来ないから妥協だ。

「いつ、かけたら良いかい?」
「い、今でお願いします」
「ん、分かった」

学生服の下から出した触手を使って、彼の顔をこちらに向ける。
唐突だし、怖がられちゃうけれど、こうやった方が心のスキがつきやすく、催眠がかけやすいのだ。
林檎みたいに真っ赤な表情の後輩の瞳を覗き込む。

「今から、君は素直になれる--好きな人に好きって言える」

素直に頷く彼に、催眠を染み込ませていく。
乾いた砂に水が染み込むみたいに彼は簡単に催眠に落ちていった。
催眠は、信じて貰う力。私の力はいやがる人にかけられる位に強力だけど、信じてくれればもっと簡単にかけられる。
だから、こんな風に、信じてくれる人が恋人の魔物は幸せだろうなって。そんな考えが浮かんで消えた。

「さ。終わったよ。好きな人に告白してきな」
「……」

数分後、催眠を終えた後輩の肩を叩く。
頑張ってかけたから。すぐに好きな人の所に走って行く。

「先輩」

その筈なのに。
彼はここに立っていた。

もしかして、失敗?

焦る私の肩を、彼が掴む。
思いっきり見つめられて、顔が真っ赤になる。

「先輩!ずっと前から好きでした!大好きでした!」
「!?」

それが、きっかけ。
私の大好きな夫との付き合いはじめだった。


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