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('、`*川魔女の指先のようです
1
:
名無しさん
:2017/12/15(金) 21:32:14 ID:oTITfu5c0
はじまるよー
2
:
名無しさん
:2017/12/15(金) 21:32:48 ID:oTITfu5c0
序章 【魔法】
3
:
名無しさん
:2017/12/15(金) 21:34:48 ID:oTITfu5c0
(,,´Д`)
ギコ・コメットは眉間に刻まれた深い皺が特徴的な老紳士で、毎朝五時に起きて地元の公園に杖を突いて散歩に出かけ、一時間ほどベンチで陽に当たるのが日課だった。
彼がオータムフィールドに越してきたのは三〇年ほど昔になるが、
まるで生まれた時からこの田舎町に住んでいるかのように近所の住民と付き合い、町の行事にも積極的に手を貸すなど近所では評判の人物だった。
険しげな表情とは裏腹に非常に穏やかな性格をしており、公園で子供達と遊ぶ姿もよく見かけられていた。
夏になると洒落た帽子を被って散歩に出かけ、冬になると厚手のコートを着て散歩に出かけた。
(,,´Д`)「やぁ、ドーラさん。 おはようございます」
J( 'ー`)し「あらあら、ギコさん、おはようございます。
今日もお散歩ですか? 元気ですねえ」
散歩のたび近所に住むドーラ・カー・チャンに決まりきった言葉で決まりきった挨拶をする。
これもまた、彼の日課だった。
(,,´Д`)「ははっ、こういう日はコーヒーが美味いのでね。
それでは」
肌寒い季節の散歩には熱いコーヒーの入った魔法瓶を欠かすことはなく、散歩の終わりに彼は白い息を吐きながらベンチに腰を下ろし、濛々と湯気の立ち上るコーヒーを美味しそうに飲むのであった。
冬の匂いが強くなり始めた十一月のその日、ギコの姿はいつもと同じようにして公園にあった。
ポットから立ち上るコーヒーの香りと湯気で顔を洗い清め、その熱い液体を啜って満足げに息を吐いた。
薄らと明るくなってきた灰色の空に昇っていく白い息を見送り、夜明けまでもう間もなくであることを悟る。
4
:
名無しさん
:2017/12/15(金) 21:35:55 ID:oTITfu5c0
(,,´Д`)「あぁ、良い香りだ」
この瞬間が、この上なく幸せな瞬間だ。
一日の始まりは夜明けであり、一日の始まりは自らが生きていることをこの上なく確かに自覚させてくれる。
冷たい風に目を細め、ギコはコートの襟を立てた。
風にあおられた木々がざわめく音は潮騒に似ており、彼の生まれ故郷であるジュスティアの海辺を連想させた。
コーヒーを一口飲み、魔法瓶を傍らに置く。
(,,´Д`)「ふぅ…… 美味い……」
朝日に照らされた美しい水面、ウミネコの鳴き声、遠くに見える漁船、鼻孔に残る潮の香。
全てが懐かしい故郷。
サーフィンに命を懸け、バイクでアウトバーンを爆走し、
毎日のように友人達と酒を飲んで夜遅くまで楽しんだ若かりし日々に思いを馳せる。
狩猟用のライフルを担いで山に入り、鹿狩りをしたあの日。
クラブで一夜限りの関係を持った名も知らぬ若い娘。
輝いていた青春時代は、潮騒と共にあった。
潮の香こそないが、幻の潮騒は彼の耳に残されたまま。
静かに目を閉じ、思う。
思い出すのは故郷の香りではなく、一〇代の頃に戦場で散った仲間の事だ。
上陸艇に乗り込み、波に揺られた悪天候の初日。
船内に入り込む冷たい海水と船酔いのために嘔吐した仲間の吐しゃ物の酸っぱい臭いは、今でも鮮明に思い出すことが出来る。
最悪の船内だった。
5
:
名無しさん
:2017/12/15(金) 21:37:30 ID:oTITfu5c0
そして鋼鉄の船体が速度を落とし、いざ上陸となった時の緊張感。
心臓が張り裂けそうになり、鼓動で体が揺れた。
固い椅子に腰をおろしていながらも、少しも休んでいる気にならなかった。
隊長の号令で腰を持ち上げると、全員がそう訓練されていないにもかかわらず腰を屈めていた。
雷の音に似た砲声と銃声が、彼らの体に原初的な防衛反応を強いたのだ。
上官の罵る声に気圧され、船から飛び出す兵士達。
海岸の向かい側に聳え立つ崖に設置された機銃が火を噴くたびに悲鳴が上がり、自分達は敵の側面から接近しているのではなく正面から突撃する形になっているのだと、その時初めて知った。
後は皆、同じ気持ちと同じ思考によって体が動いていた。
安全な場所を目指して走る、ただそれだけだ。
目の前にいた友人が電動鋸で切り裂かれた様に、体の一部を失って浜に倒れる。
その体を踏み越え、塹壕を目指してただ走る。
迫撃砲が砂浜に直撃し、砂と死体と臓物を上空に舞い上げる。
曳光弾の軌跡が流れ星のように味方に降り注ぐ。
必死の思いで辿り着いた塹壕には勇猛果敢な兵士は一人もおらず、皆同じように体を丸め、銃弾と砲弾から身を守ろうとしていた。
一緒に上陸したはずの上官は手首だけとなり、その後に作戦指揮を担当するはずだった人間は海に沈んでいた。
戦場は混沌を極め、上陸してから敵軍を叩くという作戦は最初から破たんし、どれだけ味方兵士を助けられるかという戦争が始まった。
瞼を上げると、そこには死体も敵もいない。
長閑な景色が広がり、戦争は遠い過去だという事を思い出させてくれる。
もう、戦争は終わった。
これ以上友人を鉛弾で失うこともなく、自分に鉛弾が飛んでくることもない。
平和の尊さが身に沁みてよく分かる。
安全の中に感じる平穏こそが平和なのだと、八六歳になった今ようやく悟ることが出来た。
生きているだけで幸せなのだ。
立派な家も豪華な車も美しい妻がいなくても、幸せを感じ取ることは出来る。
6
:
名無しさん
:2017/12/15(金) 21:38:17 ID:oTITfu5c0
(,,´Д`)「……いい日だ」
今、この瞬間こそが人生で最も幸せだと断言出来る。
地平線の彼方から昇る太陽が燃えるような眩い輝きを放ち、黄金の夜明けに目を細める。
そして突如として視界が暗転し、音も痛みも後悔も疑問もなく、ギコの人生は幸せの絶頂で終わりを告げた。
(,, Д )
.
7
:
名無しさん
:2017/12/15(金) 21:39:25 ID:oTITfu5c0
______________________∧,、___
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V`´ ̄ ̄
.
8
:
名無しさん
:2017/12/15(金) 21:42:56 ID:oTITfu5c0
ランニングをしていた夫婦が事切れた彼を発見したのは、死亡から三時間が経ってからの事だった。
警察の捜査で分かったのは一発の銃弾が彼の心臓を破裂させたという事と、使用された銃がドラグノフ狙撃銃(SVD)という事、そして少なくとも一キロ以上先から撃たれたという曖昧な情報だけ。
手がかりとなるはずの線条痕は犯人特定の決定的な材料とならず、犯人が相当腕の立つ狙撃手である事は間違いなかった。
ドラグノフの有効射程距離は約八〇〇メートルと中距離であり、尚且つ精度を考えると今回のような長距離の精密狙撃には不向きだ。
また、被害者の周囲には木々が密集しており、被害者の姿を視認することは勿論、銃弾を当てる事など不可能の領域だ。
それでも急所を一撃で撃ち抜くという事は、その銃が狙撃精度を高める改造が施されていて、世界一の狙撃手も裸足で逃げだすような腕を持ち合わせた人間が犯人というのは、疑う余地もない。
警察内で最も腕の立つ狙撃手はこの狙撃について短く『魔法のような技術を持った人間の犯行』とコメントを残した。
何より捜査を難航させたのが、ギコという人物が誰からも恨まれるような人間ではなく、諜報員だった経験もない、善良な一般市民という点だった。
怨恨や陰謀で殺されたのでなければ、殺害された動機が分からないままになる。
面白半分で事件が起こったとは考えにくく、彼は紛れもなく標的として選ばれ、殺された。
犯人の目星をつけるには被害者が持つ繋がりだが、彼の知人や周囲には狙撃に長けた人間はいなかった。
つまるところ、外部から雇われた何者かによって殺されたのだとしか断定はできなかった。
しかし、興味深い証言があった。
彼を昔から知る知人、友人、上官達は口を揃えて彼に勝る狙撃手などいないと証言したのだ。
ギコの正体は元軍人で優れた狙撃手として軍務に従事し、多くの功績と勲章を得た英雄だったのである。
9
:
名無しさん
:2017/12/15(金) 21:45:55 ID:oTITfu5c0
だがそれだけだった。
仮に戦争に参加した際に恨みを買ったとしても、誰が該当者なのか調べるのは不可能なのだ。
当事者の全員が殺人に加担してしまう戦場では、自分が何の気なしに撃った一発の銃弾が何を引き起こすのか、誰にも分らない。
海に投げ入れた石が魚に当たったのか気にする人間がいないように、本人ですら分からないのだ。
結局この事件の真相が明かされることはなく、遂には迷宮入りすることになる。
事件が起こったその日、一人の老女がオータムフィールドから姿を消したことを知る者は、誰もいなかった。
序章 了
10
:
名無しさん
:2017/12/15(金) 21:46:24 ID:oTITfu5c0
続きは明日
VIPで
11
:
名無しさん
:2017/12/16(土) 02:07:17 ID:wkwgiSR.0
面白そう期待
12
:
名無しさん
:2017/12/16(土) 15:52:44 ID:2kOtA.Q.O
アモーレの外伝か。期待
13
:
名無しさん
:2017/12/16(土) 19:05:57 ID:PIyqX5p20
序章から投下します
よろしければ是非
('、`*川魔女の指先のようです
http://hebi.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1513418714/
14
:
名無しさん
:2017/12/16(土) 22:17:33 ID:a.IVvQ0s0
絶倫
15
:
名無しさん
:2017/12/16(土) 23:09:56 ID:PIyqX5p20
明日は第二章をVIPに投下します
それまでにこちらに第一章を投下しておきますので、是非VIPにお越しください
16
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 07:50:10 ID:YAAXsb060
______________________∧,、___
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V`´ ̄ ̄
第一章 【小さな謎、小さな旅】
______________________∧,、___
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V`´ ̄ ̄
――気の遠くなるほど昔、世界の歴史を変える大きな戦争があった。
第三次世界大戦と呼ばれるその世界大戦は地上の生物を滅ぼし、都市を消し飛ばし、生命の在り方を長年に渡って変えることになった。
戦争が破滅に向かって激化する過程で多くの兵器、多くの武器が生まれた。
平和を求める人間達が作り出した強すぎるその力はやがて国だけでなく、世界そのものを滅ぼすことになったのは、何とも皮肉な話だ。
だが発明とはそういう物であり、人間の望みとは大半が己の願いとは別の方向に進むものだ。
やがて文明と呼べる物の名残が全て朽ち果て、人の生活の跡地は汚染された危険地帯と化し、人の手が介入しない空白の時代が生まれた。
時は流れ、新たに誕生した人類は新たな文明を手にした。
それは国がなくなり、代わりに数多の街が存在する文明だった。
人類の滅亡から悠久とも言える長い時間が流れ、新人類は二〇世紀半ばまでの文明を回復することに成功した。
長い時間は地球と月の距離を縮め、夜空は世界大戦以前の黒ずんだものから様変わりし、銀河と星々が作り出す見事な輝きで満たされ、さながら宝石箱の様だった。
絢爛豪華な文明を象徴した建物は軒並み風化し、崩れ落ち、そして土へと還ったその上に新たな建物が聳え立っている。
人類発展の一役を担っていた娯楽は収縮し、テレビは金持ちだけの娯楽へと移り、価格の暴落を続けていた携帯電話は豪邸を買えるほどの高級品と化した。
一般人に残された娯楽は音楽、そして少々値の張るラジオから流れる陽気な番組ぐらいだった。
デジタル製品も一部が復活をしているが、未だに民間人の手の届く値段ではない。
いつの時代、どの文明も大きく発展したと言われる時期には必ず大きな発明が伴う。
例えば、石器に代表される道具の発明や、火の発見とその活用が動物と人間を隔て、核兵器の登場によって貧困国でも大国に侵略をされずに済むようになった。
やがて道具とエネルギーという二つの発明が共に歩調を合わせ、人はより大きな力を手に入れていく事になった。
蒸気機関や電気は新たな移動手段や効率の良いエネルギーの生産を可能にし、安価で大量生産された質の良い武器や道具は戦争や生活そのものを塗り替えた。
それは、今も昔も変わっていない。
道具が進化する過程で、腕力を必要としていた弓矢は銃爪を引く力だけを要求する銃になり、従順な友であった犬は無機質な道具であるロボットへと変化した。
だが、人間が取り扱う乗り物の進化に於いて、特異な性質を持つ物があった。
それは、バイクである。
古より人の移動手段として共に在った馬の形が色濃く残され、その取扱い方なども馬にかなり近い。
時代が変わっても双方を乗りこなす者を騎手(ライダー)と呼び、バイクを鉄馬と呼ぶ名残があるのはこのためである。
鋼鉄の心臓が放つ心地よい振動が腰の下から伝わり、乗り手がそれを感じ取ることでバイクの状態を把握する。
鉄と歯車で作られた心臓は言葉ではなく音で己の状態と要求を伝え、最適なギアを要求する。
太古より人間と共に暮らしてきた馬は今ではほとんどが鉄製の機械に置き換わっているが、
それでも人間は長距離ないし短距離を駆け抜けるこの乗り物に、本来あるはずのない命の存在を少なからず感じ取っていた。
四本あった脚は二本のタイヤになり、鬣は消え失せ、空気力学の結晶とも言える鎧を纏い、餌や水の代わりに求めるのは燃料として使う少量の水と電気。
乗り手の世話に応じてその状態を生物のように変化させ、風を切り裂く爽快感を己の主に与えもするし、地獄に叩き落としもする。
人間が生み出した機械の中でも、これほどまでに心があると信じられている物はそうないだろう。
バイクは今も昔も、旅人の想いを乗せてその鋼鉄の心臓を震わせ、より遠くに、より速く駆けていく。
八月五日。
豊かな自然に囲まれた島に、バイクを自分の愛馬のように扱う人間が上陸した。
17
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 07:52:41 ID:YAAXsb060
手練の技術者が一台一台全て手作業で整備、組み立てを行う事で有名な会社が手掛けた電動大型自動二輪車が残す低音のエンジン音は心地よく、潮騒と調和して不快なそれにならずにいた。
黄金の羽を持つ隼のように素早く、しかしカモシカの俊敏性と忍者の静音性を損なわないというコンセプトの元に開発されたそのバイクは、
太古に残された設計図を基に現在の技術者達が復元した物で、現存するのは僅かに三〇台だけだった。
トラスフレームを覆い隠すようにしてエンジン全体を包むカウルは深い輝きを秘めた蒼に塗装され、リアシートにはカーボンカラーのサイドパニアが二つと、リアパニアが一つ装備されている。
大口径左右二本出しのマフラーは後輪タイヤを挟む低い位置にあり、非常に安定感のある設計をしていた。
優秀なサスペンションや長距離走行に適した高めのハンドル位置、耐久性を重視した極太の後輪タイヤ、スポーツカー並の馬力と排気量を実現した水冷式のエンジン。
これら全ての装備は優雅な長旅を満喫出来るよう熟考して選び抜かれ、設計された物だ。
大型のバッテリータンクには地図や小物の入ったタンクバッグが取り付けられ、旅慣れた人間がバイクを運転しているのと同時に、
黒色の輝きを放つエンジンガードと蒼いカウルに傷一つないことから、慎重に運転をする人間であることも分かる。
夏の日差しは強く、熱されて鉄板のように熱くなったアスファルトの道路は地獄の釜底を思わせる。
しかしながら空気が乾燥しているため、バイクで疾走する人間はあまり暑さを感じることはない。
むしろ、風が運んでくる海上で冷やされた空気と日差しが程よい涼しさを生み出し、夏らしさを肌で堪能出来る環境を作り出している。
四方を海に囲まれたこのティンカーベルという街は大小数無数の島々で構成され、
最も大きなグルーバー島にある観光名所としても有名な鐘楼〝グレート・ベル(偉大なる鐘)〟が奏でる美しい音色から〝鐘の音街〟、と呼ばれていた。
その環境の穏やかさと豊かな自然が長距離ツーリングを目的とするバイク乗り達に絶大な人気を得ており、毎年夏のこの時期ともなればキャンプ道具一式を載せて走るバイクを多く見ることになる。
避暑地としても優秀だが、何よりもバイク乗り達を魅了しているのがティンカーベルにある三つの島の間を移動するのに船を使わなくていい点だった。
離島を訪れるにはフェリーを使うのが普通だが、ティンカーベルは長い一本の橋が海上を通って陸と繋がっているため、容易に訪れることが出来るのだ。
大陸からティンカーベルに通じる一本の橋は〝正義の都〟と呼ばれるジュスティアと繋がっており、それ以外の街からこの島に来るためにはフェリー以外の手段がない。
ジュスティアはいわばティンカーベルにとってのお隣さんなのである。
その女性は長い船旅を終えたばかりだったが、疲労の色はどこにもなかった。
緩やかに続く海沿いの山道には、崖の向こうから絶え間なく海風が吹いている。
潮の香りを含んだ風は夏の香りを伴い、穏やかな空気を作り上げていた。
吹き付ける向かい風は車体を駆け巡ってエンジンの熱を冷やし、大型のウィンドスクリーンによって乗り手の顔を優しく撫でる微風へと変化させられていた。
心地のいい振動とエンジン音の中、グレーのジェットヘルメットを被ったその人物は左手に広がる大海原に目を向け、その青さと煌く水面を堪能していた。
精巧なステンドグラスと純度の高い宝石の美しさを併せ持った風景は、人間の心を容易に揺さぶり、穏やかな気持ちにさせてくれる。
風に乗って潮の仄かな香りが鼻孔に届く。
車の往来は皆無と言っていい。
山登りを目的とする人間は街に近い登山口に集中するため、場違いな歩行者もいない。
極まれに競技用の自転車に乗った人間か、ツーリングを目的として軽快な走りをするバイクとすれ違う。
すれ違う際に左手で挨拶をすると、半数以上のバイク乗りがそれぞれのやり方で挨拶を返してくれた。
手を振る者、ピースサインをする者、拳を突き上げる者、猛者ともなると立ち上がって両手を高々と構える者までいた。
挨拶は一瞬の内に終わるが、その後味の良さは一日以上残る。
後続車すらも今はいないため、妙な威圧感を感じることもなく、自分のペースで走行出来るし気兼ねなく挨拶も出来る。
ソロツーリングには最適な状況だった。
('、`*川
バイクのハンドルを握るのは〝武人の都〟イルトリア出身のペニサス・ノースフェイスで、穏やかな物腰と美しい容姿から柔和な印象を与える女性だった。
鳶色の瞳と垂れた目尻と眉、長く伸ばした艶やかな黒髪は幻想的な中にも危険な香りを漂わせ、二〇歳にしてすでに多くの物事を悟ったような雰囲気を放つ。
色白の肌に刻まれた傷は彼女の歴史そのものだ。
拳の皮が固くなっているのも、体に刻まれた銃創の一つ一つにも歴史がある。
18
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 07:55:28 ID:YAAXsb060
彼女の出身地であるイルトリアはヨルロッパ地方の西に位置し、比類のない軍事力を有する街として世界に知られている。
住民の銃保有率は八割――小学生以上のほぼ全員が持っている計算――を超え、何より軍への就職率は世界一である事から武人の都の名で呼ばれ、恐れられている。
彼女もまた軍人の一人として海兵隊に所属しており、今日は久しぶりの休暇を使って遠く離れたこの避暑地を訪れていたのであった。
穏やかな昼下がりの空気は、山頂に近づくにつれて冷えたものになり、肌寒さすら覚える。
ペニーの駆るバイクは滑らかにカーブを曲がり、山の奥へと進んでいた。
カモメが風に乗って並走し、やがて別れを惜しむ様子も見せずに旋回してどこかへと去る。
それを見送ると、水平線の先に浮かぶ小さな雲の群れに心が動いた。
人間とは不思議な生き物で、あり得ないと分かっていながらも多くの可能性を一瞬で連想し、それに胸を痛める事がある。
例えば、空の青に溶けて消えそうな雲の向こうの世界を勝手に創り上げ、雲の流れ行く先、雲の下の世界、そして雲がこれから作り上げる形を想像するのだ。
雲の輪郭が鮮明であればあるだけ、その思いは強くなってしまう。
雲の中に街があるのではないだろうか。
雲の下には見たことのない美しい世界があるのではないだろうか。
雲が成長し、巨大な積乱雲となって更に心躍らせてくれるのではないだろうかなど、実にささやかな想像が働く。
それはまるで意味のない行為だ。
何の生産性もなく、これといった理由もなく起こる不思議な現象だ。
しかし、その想いは空を飛ぶ発明を生み出し、空を越えた宇宙へと到達する発明まで作り出してしまった。
今ではその両方の発明が失われているが、文献に残された人類の空への執着心は称賛に値する。
空を見上げて心和ませ、そこに思いを馳せる不完全な生物であるが故に、
群青色からスカイブルーへと至る空の見事なグラデーションを見せつけられてしまえば、訓練された軍人といえども心を動かさざるを得ないのだ。
並木道に差し掛かり、ペニーの視線は正面に戻った。
木々が作り出した自然のトンネルには、木漏れ日が降り注いで緑に輝く天井を生み出している。
山肌から湧水が漏れ出ているそばを通り過ぎると、ひやりとした空気に思わず頬が緩む。
緩やかに続く勾配を上り、徐々に影が濃くなっていく。
ギアを一つ落とし、より傾斜の大きな坂道に備える。
連続した急なカーブをバイクと共に体を傾けながら丁寧に曲がり抜け、景色を楽しみながら山道を駆ける。
視線は常に自分の進行方向の先に向けられ、両脚はタンクをしっかりと挟みつつも、状況に応じて片側から押すようにして、車体を傾けた。
カーブに気を取られて速度が落ちないよう、エンジンの回転音を基に速度の維持を行う。
ほどなくして山頂に設けられた休憩施設〝ロード・ステーション(道の駅)〟が見えてきたため、立ち寄ることにした。
運転の間の小休憩、もしくはこの施設で腹ごなしをする目的で大勢の人間で賑わいを見せるロード・ステーションの駐輪場は非常に広く、優に一〇〇台近くのバイクが駐車出来る敷地があった。
ペニーはバイクを出しやすい端の方に駐車し、ヘルメットを抱えてフードコートに足を向けた。
ファーストフードから地元の名産品まで幅広く取り扱うフードコートには、たっぷりと香辛料を使った東洋の食事も並んでいた。
車やバイクで訪れる観光客の多い地域では、利用客の数と頻度を考えて休憩施設に力を入れることが多い。
飲食店は勿論の事、シャワー室や仮眠室が施設の一つとして設計されている事まである。
ペニーは喫茶店に立ち寄って具が沢山詰まったサンドイッチを注文することにした。
('、`*川「これをお願いします」
( '-')「かしこまりました」
間もなく、ペニーの注文した品がトレイに載せて渡された。
('、`*川「どうも」
19
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 07:58:14 ID:YAAXsb060
席に移動してトレーを置き、紙袋からサンドイッチを出して早速かぶりつく。
一本のバゲットに挟まったレタスとピクルス、そしてみじん切りにされた玉ねぎが心地のいい歯ごたえを演出し、
トマトとハムは独特の甘みを生み出し、チーズがそれらを束ねる風味を提供した一品は実に食べ応えがある。
マヨネーズの酸味も然ることながら、シーザードレッシングが全体の味を調えている。
実に単純な味付けだが、これがいいのだ。
野菜はティンカーベルで作られた野菜だが、他は全て輸入された安物だ。
だが、素材の良し悪しが料理の味を左右するのはよほどの時でなければあり得ない。
風に疲れ、広い世界を知りたいと願う人間には食材よりも味が何よりも優先して評価される。
食べ応え、味、値段の全てが平均以上の物だった。
ペニーにとって食事は食べ過ぎるという事はない。
食べられる時に食べ、緊急事態に備えるのだ。
ましてやそれが、味について一切の言及を許されない携行軍用食でないのならばなおさらだ。
一般的な女性――モデルのような細身の体形に憧れる女性――が食べる量よりも多いが、ペニーは他人の視線を気にすることなく食事に集中し、完食するに至った。
もっとも、彼女からしたらこの程度の量はなんてことないのだが。
時間を惜しむことなく食事を済ませてから、食後のコーヒーを静かに飲んで休憩することにした。
バイクの旅にはいくつかの楽しみがある。
美しい風景や立ち寄った土地での出会い、郷土料理や未知との遭遇などあるが、食後に味わう非日常感は特に格別だ。
特に、日常的に喧騒の中で生きている人間ほど、その感動は増す。
軍人であるペニーが平和そのものの空気を味わえるツーリングを楽しんでいるのも、こうして非日常を味わうことによって日々のストレスを軽減させる目的がある。
冷房の効いた喫茶店内には一目で同じグループのバイク乗りだと分かる男達がたむろしており、全員が膝に赤色のバンダナを巻いていた。
彼らは食事を終え、次の目的地の話に花を咲かせている。
他にも、狩猟に来ているのかサングラスをかけた厳めしい男がライフルケースを傍らに置き、どこかに視線を向けている。
客の中でも異質な存在感を放っていたのは、フードの付いたローブかマントを羽織る美しい女性だった。
ζ(゚ー゚*ζ
('、`*川
宝石のような碧眼と瑞々しささえ感じられるウェーブのかかった上品な黄金色の髪は、まるで絵画や芸術品を思わせた。
不思議な印象を与える女性はペニーの視線に気づいたのか、軽く微笑みかけた。
ペニーも微笑み、会釈をした。
ティンカーベルには大きく分けて三つの島がある。
西に位置するバンブー島、東に位置するオバドラ島、そして二つの島の中心にある、ここ、グルーバー島である。
バンブー島はウィスキーの蒸留所がいくつもあり、昔から上質なシングルモルト・ウィスキーを生産することで知られている。
その秘訣は大量の泥炭と天然水にある。
泥炭はウィスキー作りに於いて欠かせない存在であり、独特の風味を作り出す要だ。
また、その泥炭を通じて地下に沁み込んだ天然水は必然的に泥炭の香りを内包しており、他に類を見ない最高の相性として世界に知られている。
オバドラ島は自然豊かな島であり、建物もその景観を壊さないよう配置されている。
どの島も橋を使って行き来をすることが可能なため、バイクでも難なく島を探索、堪能することが可能だ。
大きなマグカップに注がれたコーヒーを飲み終えたペニーは、新たな静寂と風を求め、店を後にした。
再び強い日差しに照らされたペニーはヘルメットを被り、バイクに跨る。
キーを差し込んでエンジンをかけた、その時である。
20
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:00:07 ID:YAAXsb060
( ・∀・)「ねぇ、ちょっと待ってよ」
馴れ馴れしい声だった。
獲物を前にした動物の吐息のように、詐欺師が使う甘言に似た響きがある。
( ・∀・)「俺達と一緒にツーリングしない?」
視線だけを男の声の方向に向ける。
先ほど喫茶店にいたバイクグループの一人だ。
いや、彼の周囲にすでに数人が集まり、値踏みするようにしてこちらを見ている。
これは別に特別な光景ではない。
バイク乗りの多くは男性で、女性の比率は非常に低い。
故に、バイク乗りの中には女性を見つけたら声をかけるのが礼儀だと思っている輩がいる。
それに喜ぶ人間も中にはいるが、ペニーは逆だ。
('、`*川「遠慮しておきます」
( ・∀・)「まぁそう言わずにさ。 どこに行くの?俺達は――」
('、`*川「言い方を変えますね。 興味ないんです、貴方達に」
こういった状況の場合、相手にしないのが得策だ。
下手に相手にするような素振りを見せればつけあがり、やがて面倒な事態に発展する。
バイクに乗り、早々にこの場を去るのが賢い選択だった。
(;・∀・)「待ってくれよ」
語気の変化は、彼らが純粋にツーリングを楽しむ輩ではないことの証だった。
ペニーは頭痛を覚えずにはいられなかった。
ツーリングには二種類ある。
ソロツーリングとマスツーリングだ。
単独か、それとも多人数か。
些細なことにも思えるが、その実、心理学的に考えればそうではない。
一人の行動と複数で行う行動では心理的な余裕、すなわち大胆さが圧倒的に違うのだ。
旅の恥など一時の恥と開き直った輩の行動は時に大胆不敵を通り越し、無礼の領域にまで踏み込んでしまうことがある。
( ・∀・)「折角の〝一期一会(フォレストガンプ)〟なんだ、お互いにバイク乗りだから分かるだろ?」
('、`*川「それはそうですが、興味がないと言いましたよね?」
別に、ペニーはマスツーリングが嫌いなわけではない。
単独でも複数でも、それぞれの楽しみがある。
しかし、相手に下心があるのが明白な場合はツーリングの目的が変わるため、断ることにしている。
無論、話しかけてくる全てのライダーが下心を持った人間なわけではないが、ペニーはこれまでの経験から人の本質を見抜くことにかけては自信があった。
21
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:02:35 ID:YAAXsb060
臆病者、勇敢な者、姦計を企てる者、利害によって動く者など、戦場では人間の本質に触れることが非常に多かったため、
どれだけ豪胆を称する者でもひとたび鉛弾がヘルメットを掠めれば、たちどころに臆病な本性が露わになる瞬間を嫌と言うほど見てきた。
特に恐れを知らない新兵は必死に感情を隠し、戦場で一気にその感情を爆発させ、早死にした。
その姿を幾度も目撃し、幾度も彼らを宥めてきた経験があるからこそ、ペニーはこれを特技として身につけることが出来たのである。
今こうして話しかけている男は自分を大きく見せることで、異性に対してアピールする類の人間なのはまず間違いない。
戦場で勇者を気取る人間に多い人種である。
('、`*川「だから悪いですけど、遠慮しておきます」
これ以上の会話を望まないという意向を声に込めつつ、ペニーは半月刀のように細めた目で男を見た。
人が人を見るという行為には、いくつもの意味がある。
しかし、今回ペニーが男を見た意味は、彼に対しての警告と不快感の表れであった。
一瞥された男は鳶色の瞳の奥に殺意の色を見つけ、本能的に後退した。
彼の中に動物的な本能が残っていた事に、ペニーは安心した。
力づくで押し退けずに済んだ。
('、`*川「失礼するわ」
ペニーは臆した男達の間を悠々とすり抜け、ツーリングを再開することにした。
男達の姿が小さくなり、バックミラーの点となっても誰も彼女の後を追ってくる者はいなかった。
山頂から少し島の北側に下ると、そこにはキャンプサイトがある。
ハイキング客もツーリング客も幅広く利用出来る場所だが、特別な施設があるわけではなく、炊事場とトイレぐらいがあるだけだ。
逆にその不便さが客には好評だった。
折角文明から離れるためにキャンプをするのに、文明が生んだ便利な施設に囲まれていては元も子もない。
よく言えば自然のまま、悪く言えば貧相なキャンプサイトに到着したペニーは、さっそくテントを張ることにした。
利用客は彼女を含めてせいぜい一〇人程度しかいなかった。
夕方になれば更に人が増えるだろう。
人が増えてからでは設営は面倒になるので、まずは芝生の上に停めたバイクからパニアを分離させ、そこから二人用の小さなドームテントを取り出した。
軽量のフレームと防水布のテントは非常に小さいものの、一人で使う分には不自由しない。
テントの中で立ち上がることがなければ何も問題はないのだ。
続いてクッションの役割も果たす銀色のマットを床に敷き、薄手のシュラフをその上に放る。
マットがなければ朝露でシュラフが濡れ、乾燥させる時に時間がかかってしまう。
調理器具など他のキャンプ用具一式をテント内に残し、ペニーは再びバイクに跨った。
キャンプサイトでの窃盗被害にあうのは車が主であり、テント内に侵入しての犯行はまず起こりえない。
民家と異なり、テントには誰がいつ戻って来るのか、誰の目があるのか全く分からないのだ。
それに、盗まれたところでペニーはあまり困らないように訓練を受けているため、全く気にすることもない。
一泊分の食料を買い求めるため、バイクは来た道を戻って街へと向かう。
ツーリングに於いて過積載は禁物だ。
バイクが持つ機動性を損なうだけでなく、食糧そのものの鮮度に重大な被害をもたらす可能性がある。
一方で、ペニーは買い物が好きだった。
新たな食品、異なる価格、圧倒的な費用対効果をじかに味わい、その中からその日の献立を組み立てるのは料理をする者の特権であり、醍醐味でもある。
22
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:03:32 ID:YAAXsb060
街に戻ったペニーは大型スーパーの駐車場にバイクを停め、店内を見て周り始めた。
まずは品揃えだ。
入ってすぐに広がる野菜の鮮度と値段を見て、手のかからない献立を脳内で決める。
ツーリング用の調理器具は全て小さく、軽い。
最も簡単なのは野菜炒めと白米の献立だ。
もやしとキャベツは基本だが、場合によっては季節の野菜を入れるのが彼女のこだわりである。
この時期ならば茄子やニガウリを混ぜても美味い。
何かめぼしいものはないか店内を見て周り、最終的にはパックに詰まった野菜炒めセットを一袋、
今朝収穫したばかりという茄子を一本、ブロックベーコンと調味料一式、そしてコンビーフの缶詰とビール一缶、カップ酒をかごに入れて会計を済ませた。
折角野外で食事をするなら、酒があった方がいい。
店を出ると、陽が傾き始めていた。
キャンプ場に戻る頃にはいい時間帯になっているだろう。
再び山道を登ってキャンプ場へと戻ると、ちらほらと人が増え始めていた。
巨大なドームテントの設営に四苦八苦する若者達もいれば、竹を使って立ち竈を作るボーイスカウトの集団もいた。
この賑わいもまた、野営場の楽しみでもある。
テント内に投げ入れておいた調理器具一式を取り出し、手際よく準備を整える。
コンロが一つ、正方形のコッヘルが二つと切れ味のいいナイフ、そして万能ナイフがあるだけだが、これで十分なのだ。
ビニール製の給水タンクと野菜を手に、炊事場に水汲みと野菜を洗いに行く。
ここの水はそのまま飲むことが出来るほど綺麗だが、希に腹を下す場合がある。
こればかりは運による要素が強く、飲料水として使うためには一度煮沸消毒してからの方が望ましい。
すでにそこで野外調理を始めていた一行に軽く挨拶をして、水をタンクに汲む。
そして、野菜の表面を軽く洗ってテントに戻ろうと踵を返す。
⌒*リ´・-・リ「それ、便利そうですねー」
タンクに興味を持ったのか、先ほど挨拶を交わした団体にいた女性がペニーに声をかけてきた。
化粧が少し落ちていることから昼間からここにいたという事、その化粧の下に見えた肌の年齢はまだ若いことから、おそらくはペニーと同年代であると想像が出来た。
敬語は不要だろうが、初対面の人間に対して礼節を欠かすような人間にはなれなかった。
('、`*川「えぇ、持ち運びに便利なんです。
とても小さくて軽いけど、穴が開くのが難点ですね」
⌒*リ´・-・リ「穴、ですか?」
('、`*川「木の枝や尖った石、火の粉でも空いちゃうんですよ」
名も知らぬ者同士、こういった交流は開けた場所だからこそ起こる事態だ。
これが都会のただなかであれば会話は生まれなかっただろう。
('、`*川「ご友人とキャンプに来たんですか?」
今度はペニーが質問をする。
⌒*リ´・-・リ「えぇ、そうなの。
家族で来たんだけど、上手に火が起こせなくって」
23
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:07:38 ID:YAAXsb060
そう言って女性は視線を炊事場の屋根の下にあるコンクリート製の竈の方に向ける。
男達が必死に火を起こそうと躍起になり、息を吹きかけたり団扇で扇いだりしているが、竈から立ち上るのは白煙だけだ。
どうやら生木を入れてしまっているようだ。
('、`*川「乾いた木じゃないと火は起きませんよ」
⌒*リ´・-・リ「……やっぱりそうよねぇ」
呆れた様な口調の声に、ペニーは薄く笑った。
('、`*川「でも、ああやっている内に乾きますけど、どれだけのマッチが犠牲になるか分かりませんね」
こうして話をしている間にもマッチが消費されていく。
手を貸した方がいいだろうか。
いや、女に手を出されると男は機嫌を損ねるものだ。
機嫌を損ねた男は性質が悪い。
それこそ、生木から立ち上る白煙と同じように不貞腐れた言葉を口から吐き出すのである。
('、`*川「何かあれば私はそこにいますから。
乾いた薪と入れ替えて新聞紙を使うのが手っ取り早いですよ」
⌒*リ´・-・リ「すみません、きっと頼ることになると思います……」
テントに戻り、陽が落ちる前に道具を準備する。
まずは明かりだ。
これがないと夜は非常に不便になる。
山奥には街灯はなく、星と月明りだけが唯一の光源となる。
その中で探し物や細かい作業をするのは面倒である。
無論、不可能ではない。
夜間訓練によって一分もあれば目は暗闇に慣れ、ステッチワークも出来るぐらいだ。
しかし面倒な物は面倒なのだ。
何より、ランタンの明かりは人の心を和ませる。
ランタンに限らず、火を使った明かりは総じてそうだ。
ランタンに火を灯すと、そこに小さな夕日が生まれた。
折り畳み式の椅子を広げ、まずは腰を落ち着ける。
ガスボンベを使用する小型コンロをセットし、その上に正方形のコッヘルを乗せて着火する。
フルタングのナイフを鞘から抜いて、野菜とブロックベーコンを刻んでいく。
極力無駄に切らないのがポイントだ。
不要な部分は全て土に還すことが出来る。
手際よく刻んだ野菜を炒め、塩コショウを使って最小限にして最低限の味付けを済ませる。
野菜炒めの味の要は塩コショウの分量と野菜の質だ。
必要分の野菜と量が入った野菜炒めパックはあくまでも添え物であり、主要な食材は歯応えを残した茄子である。
香ばしく食欲をそそる香りがすぐに立ち上る。
買った缶ビールを開け、静かに晩酌を始めた。
24
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:12:03 ID:YAAXsb060
出来上がったばかりの野菜炒めの中でも存在感を放つ肉厚の茄子を噛みしめると、甘い汁が溢れ出す。
ベーコンから抜け出した塩分がもやしとキャベツに染みつき、ニガウリの仄かな苦みがまた一層酒を進ませる。
ビールの苦みが野菜炒めの単調な味と相まって豊かな味へと変貌する。
軍務に就いている時には酒はご法度であるため、これは実に一か月ぶりの酒という事になる。
久々に飲む酒の美味さと言ったら、どんな高級料理もかすむほどの魔力がある。
染み渡るアルコール。
胃を刺激する炭酸。
吐き出さずにはいられない満悦の溜息。
夕日が森の向こうに沈む様子を眺めながら、晩酌を楽しむ。
黄昏時の空に浮かぶ巨大な月は妙に白く見えた。
冷たい夜風が雲を運び、ほどなく夜が訪れた。
ランタンの明かりが頼もしく感じられる間に、すでにペニーは次の料理に取り掛かっていた。
と言っても、コンビーフを焼くだけなので料理とは言い難い。
片面を焼いたらひっくり返し、そこにマヨネーズをかけて食べ、片面が焼けたら再び逆さにするだけだ。
しかしこれが実に美味いもので、酒にぴったりなのだ。
単純な味だけに酒の味と喧嘩をすることもなく、油を含んでいるから悪酔いを避けられる。
何の気なしに炊事場の方に目をやると、炎の明かりが揺らめくのが見えた。
どうやら火を起こすことが出来たようだ。
満月を眺めながら酒を飲み、筋肉が緊張から解き放たれていく感覚に身を任せる。
草を踏み倒す音が近付いてきたため、視線をそちらに向ける。
⌒*リ´・-・リ「あのー、もしよろしければ一緒にお食事でもいかがですか?」
先ほど炊事場で話をした女性だ。
('、`*川「料理は上手に出来ましたか?」
⌒*リ´・-・リ「えぇ、あの人達が見ていない隙に入れ替えたらあっという間に火が点いたの。
そのお礼をしたくって」
('、`*川「それはよかった。
手土産が何もないのだけれど、ご一緒させていただいてもいいかしら?」
女性は笑顔で頷く。
⌒*リ´・-・リ「私、リリー。
お名前を訊いてもいい?」
('、`*川「ペニーでいいです。
よろしくお願いしますね、リリー」
コンロの火を消してから、ペニーは立ち上がった。
楽しげな笑い声と肉の焼ける香ばしい香りのする炊事場では、割と大きな規模の食事会が行われていた。
リリー一行だけでなく、どうやら炊事場を利用していた他のキャンパーが参加しているようだ。
('、`*川「あら、すごい混み具合ですね」
25
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:14:10 ID:YAAXsb060
⌒*リ´・-・リ「……ごめんなさいね、夫達が他の方を誘ったみたい」
('、`*川「気にしませんよ。
大勢で食事をするのは楽しいことですから」
にぎやかな宴は歓迎だ。
しかしよく見ると、大人達に交じってバーベキューを楽しんでいるのは一〇代半ばのあどけない顔つきの少年少女達だ。
高校生ぐらいの体つきをしているが、少なくとも地元の高校生ではないだろう。
となると、隣のジュスティアから林間学校の一環として来た学生だろう。
人数も一〇人ほどと少なく、部活動の集まりと考えられる。
近くにいた指導者と思わしき男性に声をかける。
('、`*川「こんばんは。
高校生さんですか?」
( ´∀`)「どうも。
えぇ、夏期講習がてらキャンプに来ましたモナ」
余計な情報を漏らさないのは彼が教師である証だ。
生徒に関係する情報は徹底的に秘匿し、例え親しくなった人間であれ生徒の事を他人に漏らしはしない。
例えば学校名。
例えば宿泊場所。
この教師は規律を守る人間だ。
だが規則に忠実であっても優秀な人間である証ではない。
この指導者がどのような意図で生徒をこの場に参加させたのか、それが気になるところである。
('、`*川「短い間ですけど、よろしくお願いしますね」
( ´∀`)「こちらこそ、ご迷惑にならなければいいのですがモナ」
そう言いつつ、男性の視線は生徒の一挙手一投足を観察している。
となると、子供達は最高学年ではない。
注意と観察が必要な一学年だ。
一応、ペニーも注意をしておくことにした。
それからすぐに、ささやかな宴が始まった。
次々と肉と野菜が網の上で焼かれていく。
大人達は酒を飲み、自分達の昔話や武勇伝を語り、束の間の非日常を楽しんでいる。
一方、子供達は肉を食べつつ、残された今日と明日の時間について話に花を咲かせていた。
それらを一歩引いた場所から眺めるのは、同じ考えを持つペニーと引率の教師だけだ。
空気を壊さず、しかし空気の流れを読める立ち回り。
すぐに同業者の空気を嗅ぎつけたのか、教師が先に動いた。
( ´∀`)「失礼ですが、貴女も教員なのですかモナ?」
('、`*川「似ているけど少し違います。
でも、一応指導者ですよ」
26
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:16:43 ID:YAAXsb060
( ´∀`)「随分とお若いようですが、お仕事は一体何を?」
('、`*川「軍人です」
軍人という言葉を聞いた途端、男性の目に驚きの色が浮かんだ。
女の軍人はそれこそ女性のバイク乗り以上に珍しい存在だ。
過酷な環境、圧倒的な男性優位の中で待ち受ける差別を考えれば、軍人になる女性は稀有どころか異様と捉えられる。
だがその実、それらは男女間に生じる些細な問題に過ぎない。
体力と筋力が生み出す力の差については最早議論の余地もないが、それだけなのだ。
実際問題、男性よりも女性の方が精神力と集中力、そして何より忍耐強さを身につけやすい。
訓練を無事に終わらせることの出来た女性兵士は、戦場に於いて冷酷とも言える判断を下せる存在にも、慈母のような指揮官にもなる。
男女の違いは表面上の力か、それとも内面的な力かの差でしかないのだ。
特に、ペニーには特筆して優れた才能があったため、若くして一等軍曹の階級にある。
( ´∀`)「それは、また……」
詳しく聞きたいこともあるが、あえてそれに触れない方がいいだろうという常識と好奇心がせめぎ合ったような声をしている。
いい機会だ。
少しばかり、その偏見を取り払っておこう。
('、`*川「先生、女性が兵士をしているなんて意外に思いました?」
( ´∀`)「……すみません、正直意外ですモナ」
('、`*川「まぁ、それが普通の反応ですよ。
でも、血に対する耐性とかを考えると女性の方が向いている職業でもあるんですよ」
( ´∀`)「私は……どちらかと言えば戦争には賛成しかねるので、特に女性が戦場になんて……」
('、`*川「私も戦争は好きじゃありません。
むしろ、戦争が好きな軍人の方が稀です」
( ´∀`)「それは勿論、全員が全員そうだとは思いませんモナ、それでも……」
争いは避けるべきであるという考えは、ペニーも同感である。
それで救える命があるのならば、そうするべきだ。
しかし争いと言う手段を用いなければ解決出来ない事も世の中にはある。
そうなった際の最大の問題は、争いになった際に命の数と質を天秤に乗せて、的確な決断が下せるかどうかである。
例えば子供一人の命と老人一〇人の命であれば、迷わず前者を救わなければならない。
老人一〇人分の未来よりも、子供の方が意味のある未来になる可能性があるからだ。
そしてその天秤が下す決断は人によって異なるからこそ、争いは回避するに越したことはない。
軍人が殺し合いをするのは結局のところ、彼らの上にいる人間がそう決断したからであり、現場で銃を持つ人間が決定することではない。
場合によっては、軍人は独自の裁量で人を殺さなければならない時もある。
仲間が傷つけられたり、争いとは関係のない人間が傷つけられそうな場合には、自己判断で銃爪を引くしかない。
正直、よほどの理由がない限りやるべき仕事ではない。
逆に言えば、理由があれば職業軍人として働くことは意味のあることなのだ。
27
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:18:19 ID:YAAXsb060
争いを好むと好まざるとも、教育者である人間には知っておいてもらいたい事がある。
('、`*川「だから、生徒さんが軍人になりたいと言った時は、その覚悟を必ず確認してくださいね」
ペニーに言えるのはこれだけだ。
そして、彼と話す言葉はこれ以上持ち合わせがない。
後は彼がペニーの言葉をどう解釈し、生徒達に伝えるかだ。
それは彼も分かってくれると信じ、ペニーは何も言い残すことなくバーベキューの輪に足を運んだ。
紙の取り皿とフォークを手に取り、鉄網の上で音を立てて焼かれる肉と野菜をトングで皿に盛った。
肉は脂肪が少なくほぼ赤身の食べ応えのあるもので、かなりよく火が通っている。
これでいい。
野外調理では火の通り具合、そして自生の植物に注意をしなければならない。
肉は言わずもがなだが、植物の中には毒を持っている種類があり、素人目では判別が非常に難しい。
香草として使用した葉が毒草だったために死亡したという実例は、毎年多くはないが確実にある。
だが山菜は栽培された野菜とは全く異なった味を持つため、危険を冒してでも食べたい気持ちも分からなくはない。
山の訓練で一通りの山菜についての知識を身につけるために実食を幾度となく重ねてきたとはいえ、その独特の味に飽きを感じることはまだない。
特に、春先の山菜は絶品ぞろいだ。
天ぷらにして塩で味わえば、若い命を感じる仄かな苦みの虜になる。
だが、それと今目の前にあるバーベキューを比べるのは無粋である。
育てられた野菜にはその良さがある。
料理に舌鼓を打ち、酒を飲んで気分をほぐす。
明日はまた、別の島に向けてツーリングをする予定だ。
ツーリングは見かけよりも遥かに体力を使うため、休める時に休んだ方がいい。
特に下半身と腰にかかる負担は距離が長引くほどに大きくなり、無理は禁物だ。
食後は近くにある天然の混浴温泉に足を運んで、全身の疲れを落とそうと決めた。
宴も終わりに近づくにつれて、人々は自ずと火を囲むようにしてそれぞれの話に花を咲かせ始めた。
火のもたらす効果か、それとも大自然の中にいる解放感からか、それともその両方なのかは分からないが、親しい友人にさえしたことの無い相談をする者もいた。
会話の内容は聞き取れるが、聞き耳を立てるのは趣味ではないし、それこそマナー違反という物だ。
ペニーは静かに酒を飲み、火が絶えないよう太めの薪をくべた。
火の粉がぱっと舞い、空に向かって昇っていく。
それは気が付けば消え、夜空の星と同化する。
気が付けば満天の星空が頭上に広がり、月が白く輝いていた。
明日は晴れるだろう。
高校生と教師は一言礼を言ってから自分達のキャンプサイトに戻っていく。
残されたのはペニーと、彼女を誘ったグループ、そして炊事場にいた数人のキャンパーだけだ。
ふと、昼にフードコートで笑みを交わした女性もいることに気付いた。
向こうもこちらに気付いたらしく、魅力的な笑みを浮かべて反応した。
ζ(^ー^*ζ
28
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:19:38 ID:YAAXsb060
酒がまわってきているのか、皆適当な椅子に腰かけ、リラックスした様子で炎を眺めている。
火を囲みながら沈黙し、魅入られるようにゆらゆらと揺れる炎を見つめる姿は、多言よりも無言の方が尊い空間であると感じ取っている証だった。
どれくらい無言の時間が過ぎた頃だったかは定かではないが、沈黙を破ったのは一人の青年だった。
歳は一〇代後半だろうか、落ち着きなく両手を握りながら、意を決したように口を開く。
('A`)「……俺、劇団員やってるんすよ」
周囲が無言で続きを促す。
それから青年は、少しずつ自分のことについて話し始めた。
('A`)「だけどどうしても芽が出なくて……監督には怒られっぱなしで、でもどうしたらいいのかも分からなくて……」
('、`*川「貴方はどうなりたいんですか?」
ペニーは十分な間を置いてから、そう質問した。
まずは彼が何を求めているのか、その答えを知らなければ相談には乗ってやれない。
('A`)「何でもいいんす。
舞台に立って、お客さんを喜ばせたいだけなんっす」
実に立派な言葉だ。
( ´W`)「いいじゃないか、そのまま君の演技を続けるといい」
( ´ー`)「そうだよ、君にしか出来ない演技があるんだ、今のまま頑張ればいいよ」
他の人間は、彼に対して励ましの言葉をかける。
しかし、ペニーはそれが逆効果な上に彼のためにならないことを知っている。
本当に頑張っている人間は悩みを口にしない。
彼がそれを口にするのは、別の視点からのアドバイスを求めているからだ。
傷物を扱うようでは、彼が勇気を出して言葉を口にした行為そのものを無意味にしてしまう。
慰めなど必要ない。
正面からその言葉を受け止め、正面から返すのが一番だ。
('、`*川「……目標が曖昧だから駄目なんじゃないですか?」
空気が凍り付くのが分かった。
薪が爆ぜる音だけが、静かに続く。
見ず知らずの人の相談に対して返す答えとしてはかなりギリギリだが、今のままでは彼は一生悩み続けて芽吹くことのない芽に水をやり続けてしまう。
('A`)「どういう……意味っすか?」
('、`*川「そのままの意味です。
役者としてお客さんを喜ばせるのは当然として、貴方は他の役者とどういった違いがあるんですか?」
('A`)「そりゃあ、誰よりも台本を読み込むし、勉強だってして――」
やはり、この青年は自分なりに努力をしているが形にならないことで悩み、その努力の方向性に疑問を持っている。
ならば、ここは話を途中で区切るという荒業に出るべきだ。
29
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:21:28 ID:YAAXsb060
('、`*川「――それも、役者として当然の事でしょう。
なら、その先を行かないと他の役者には勝てませんよ」
('A`)「その先?」
('、`*川「台本を理解して、勉強して、実践したらいい役者なんですか?世の中で評価されている役者っていうのは、その先にいるからこそ評価されているんですよ」
くべられていた薪が崩れ、一際大きな火の粉が舞う。
(#'A`)「その先って……何なんすか?監督も同じこと言ってましたけど、それが分からないんすよ!」
ようやく本音が出てきた。
彼が知りたいのは答えだ。
だが、答えは他人から聞くものではない。
だからペニーに出来るのは彼が答えに辿り着けるよう、アドバイスをしてやることだけだ。
('、`*川「それに気づけたら、貴方も立派な役者になっているはずですよ」
その言葉から先、青年がペニーに返答することはなかったが、彼の目は何かと葛藤するように炎に向けられたまま揺らがなかった。
答えは、彼自身が出すだろう。
そっと立ち上がり、ペニーはテントに戻ることにした。
金髪の女性は、気が付けば姿を消していた。
______________________∧,、___
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V`´ ̄ ̄
トラギコ・カスケードレンジにとって、これは一世一代の大イベントになるはずだった。
有志だけが参加するサマーキャンプにクラスメイトのミセリ・グリーンウッドが参加するとあっては、彼女に惹かれている男として参加しない手はない。
興味のない勉強やレクリエーションが主な活動内容のサマーキャンプに参加したのは、彼女との距離を縮め、あわよくば恋人にならんとするためだった。
とはいえ、レクリエーションは全てが充実した物で、未知の体験ばかりが彼を待っていた。
正直、当初の目的を忘れるぐらいに楽しみ、そしてミセリの魅力を再発見することが出来た。
森の持つ意味、木々の役割、そして川と動物の絶妙な連携を説明する担任のモナー・ポールの話力は流石だった。
どれ一つとして欠かしてはならないのだと強く意識させられるのと同時に、それを行動に移させる力があった。
テントを設営する時もモナーは口出しをあまりせず、手出しは絶対にしなかった。
(*゚ー゚)「せんせー、手伝ってくださいよー」
女子生徒が甘えた声で助力を求めても、モナーは軽く笑って返すだけだった。
( ´∀`)「俺が手伝ったら意味ないだろモナ」
幸いにしてトラギコとミセリは同じテントを設営することになり、何度か話す機会があったが発展はなかった。
トラギコは普段自分が発揮している会話力が異性に対して無力なことを知り、絶望していた。
どれだけ気になる異性がいても、その想いを伝えられなければ意味がないのだ。
そんな彼を運命の女神が見捨てなかったのだと悟ったのは、夕食後のレクリエーションの時間でパートナーを決めるためのくじ引きをした時の事だった。
彼が引いた紙に書かれた数字は紛れもなくミセリのそれと合致しており、彼に一世一代のチャンスが与えられた瞬間だった。
30
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:23:17 ID:YAAXsb060
指示された通り長袖長ズボン、そして登山靴をはいて集合場所でミセリの傍にさりげなく立った。
ズボンはとっておきのダメージ・ジーンズを選んだ。
見る人が見ればそれが一〇〇ドルはする高級な品だと気付いてくれることだろう。
靴については父親から借りた物でそのブランド力は分からないが、靴底に黄色いゴムで刻印がされた物で、安物でない事だけは分かった。
蝋燭を手に肝試しが始まると、彼の意識は如何にみじめな姿を見せないかに注がれた。
ミセリはトラギコの腕にしがみつき、か細い声で尋ねる。
ミセ*゚ー゚)リ「結構暗くて怖いね……」
(=゚д゚)「大丈夫だって、俺がいるラギ」
崖側を自分が歩き、さり気のない気遣いをすることで己の精神的な余裕をアピールする。
理想的な展開だ。
何かが起こってもトラギコの優位性は揺るがず、吊り橋効果で彼女の気持ちを引き寄せることが出来る。
腕に当たる温もりが彼の優越感を更に確かなものにさせる。
ミセ;゚-゚)リ「ねぇ、何か音が聞こえない?」
(=゚д゚)「音?」
ミセ;゚-゚)リ「跫音みたいな、なんか、そんな音」
(=゚д゚)「俺達のか、それとも前の奴らのだろ」
大方先頭のペアが遅れているのだろう。
少し歩くペースを落とさなければこちらのムードだけでなく相手のムードも破壊することになり、誰も幸せにはならない。
何としても距離を稼がなければならないが、後続のペアにも気を遣わなければならない。
前の人間が遅れればそれだけ他の人間に迷惑をかけることになる負の連鎖を避けるためには、気付いた人間が行動を起こす他ない。
トラギコは彼女の言葉に耳を傾けるため、意図的に立ち止まった。
そうすれば彼女も自然に立ち止まるからだ。
ミセ;゚-゚)リ「ううん、違う。
葉っぱを踏んでる音っていうか……」
(=゚д゚)「俺には何も聞こえないラギ……」
嘘ではない。
実際、トラギコの耳に届くのは木々が風に揺れ、葉が触れ合って奏でる潮騒のような音だけだ。
しいて言うのならば鳥の声、虫の声ぐらいだろう。
(=゚д゚)「でも、ミセリが言うんなら本当ラギか……」
彼女は耳がいい。
それこそ、クラスの隅で彼女の名前を囁いても耳に届くほどだ。
ミセリは吹奏楽部でも稀有な絶対音感と他を圧倒する耳の良さがある。
それが認められ、早くも次期部長の座が決まっているほどだ。
ミセ;゚д゚)リ「やだ……走ってくる!」
31
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:24:06 ID:YAAXsb060
(;=゚д゚)「ちょ、えっ」
そして、気が付いた時にはもう遅かった。
虚を突かれたトラギコは体重をかけてきたミセリを支えきれず、二人は揃って崖から落ちていた。
咄嗟の事に体は反応し切れず、とにかく正しい姿勢を取り戻そうともがくばかりで四肢を無駄にばたつかせるだけだった。
何度も転がり、そして固い岩肌に足をぶつけ、木に肩を叩き付け、立ち上がったかと思えば落ち葉に足を取られて背中から転倒し、また転がり落ちた。
ようやく止まった時には、痛みよりも動揺で体が動かせなかった。
体の傷はどの程度なのか。
命はあるのか。
そしてミセリは無事なのか。
様々な考えが同時に去来し、体の動かし方が分からない程だった。
鈍痛に耐えながら立ち上がると、すぐに左足首に激痛が走った。
如何に足首を保護する形の登山靴でも捻挫は免れられなかった。
逆を言えば、捻挫程度で済んだとも捉えられる。
(;=゚д゚)「ミセリ!どこラギ!」
ミセ;゚-゚)リ「こ、ここ」
彼よりもずっと上にある木の根元にうずくまるミセリを見つけ、すぐに駆け寄ろうと試みるが、足首の痛みがそれを阻む。
足を引きずりながら坂を上り、彼女の元へと辿り着いた。
ミセ;゚д゚)リ「ごめんなさい……私のせいで!」
今にも泣きだしそうなミセリの肩に手を置き、それを止めさせる。
(;=゚д゚)「誰のせいでもないラギ、それよりも」
滑落してしまったことが最大の問題だ。
来た道は勿論、他の道すら知らない。
キャンプ場に到着するまで、ただの一度も舗装路以外は使っていないのだ。
帰り道など知らない。
つまるところ、遭難をしたのである。
(;=゚д゚)「どうするラギ……」
ミセ;゚-゚)リ「ね、ねぇ。
このまま山を下りれば街に降りられるんじゃない?」
それもそうだ。
山を下りた先にあるのは街だ。
それは覚えている。
なら、一直線に下ればいい。
(=゚д゚)「そうしよ……っ?!」
32
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:25:27 ID:YAAXsb060
下り道が足に負担をかけることは、所属しているサッカー部の練習で身に沁みついている。
上り坂と比較して速度の速い下り坂は普段使わない筋肉を総動員する分、後日の疲労感に大きな影響を及ぼす。
特に足首への負担は桁違いで、今しがたトラギコの左足に走った激痛はナイフを間接に差し込まれたような痛みだった。
ミセ;゚-゚)リ「だ、大丈夫?」
(=゚д゚)「ちょっと捻っただけだから、大丈夫ラギ。
部活で慣れてるし、なんてことないラギ」
部活で慣れているからこそ分かる。
捻挫はちょっとやそっとでは治らない。
少なくとも即日、数分で完治するような物ではない。
捻り方一つで一週間以上痛みが続く場合さえもあるのだ。
(=゚д゚)「ちょっと待って、杖になりそうな枝を」
正直、松葉杖となりそうなものがなければ歩けなさそうだ。
普段の捻挫とは次元が違う。
これほどの痛みは初めてだった。
どうにか手ごろな木の枝を見つけ、それを杖代わりに下山を始めた。
ミセリがさりげなく体を支えてくれるおかげで、どうにか下りきれそうだ。
落ち葉に足を取られないように体重を移動させ、杖を使って歩を進める。
それは自分でも信じられない程の牛歩で、激痛と引き換えに踏み出した一歩は、一歩というよりも半歩ほどの距離しか稼げていない。
加えて数十分おきに休憩をはさみ、どうにか進めている。
浮かんだ汗が夜風によって冷やされ、足首以外から熱を奪う。
ミセ;゚-゚)リ「ねぇ、本当に大丈夫?」
(=゚д゚)「大丈夫ラギ」
仮に歩けなくなったとしても、トラギコは同じ言葉をつぶやき続けるだろう。
ミセ;゚-゚)リ「水の音が聞こえる……たぶん川よ」
(;=゚д゚)「そしたら、そこで少し休もうラギ。
川を辿れば絶対に海に着くはずラギ」
______________________∧,、___
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V`´ ̄ ̄
虫の声が森には真の静寂などないことを証明するように鳴り響き、その声は夜空へと昇っていく。
月明りに照らされた森と草の放つ雰囲気は不気味だがどこか優しげな印象があり、嫌いにはなれない景色の一つだった。
草を踏み鳴らす跫音さえも、この場では尊く感じる。
自らのテントに戻ったペニーは、ただならぬ予感に振り返った。
跫音はそれよりも僅かに遅れてペニーの耳に届き、懐中電灯を片手に息を切らせて走る男の姿が見えたのはそれよりもしばらく後の事だった。
現れたのは先ほど炊事場で出会った高校教師の男性で、ペニーの姿を見咎めても走るのを止めず、結局ペニーの前で膝に手をついて一分ほどかけて息を整え、用件を口にした。
33
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:27:38 ID:YAAXsb060
(;´∀`)「軍人の方と聞いて……お願いが……ありますモナ……っ」
息も絶え絶えに、教師は続ける。
(;´∀`)「手を、貸してはっ……いただけませんかモナ?」
('、`*川「迷子ですか?」
教師が慌てる時というのは限られる。
それは、生徒の生死に関わる問題が起きた時だ。
この状況下で軍人を頼るという事は、怪我ではなく、もっと別の事だ。
怪我ならば病院に電話なり通報なりすればいいが、そうではなく軍人にしか出来ない事が必要な状況となると、森の中で人が消えた可能性が最も濃厚である。
用件を聞く前に答えを口にしたペニーを見て、教師は少し驚いた風な顔を見せたが、すぐに元の焦った表情に戻って頷いた。
(;´∀`)「その……通りですモナ」
('、`*川「状況を詳しく教えて下さい」
それから聞いたのは、レクリエーション中に起きた事件だった。
食後の運動がてら催された肝試しは二人一組でチームを作り、使用するのは蝋燭が一本と軍手が二組というごくありふれた物。
登山道をひたすら登り、ゴール地点にある紙を回収して別の登山道から戻るという、非常に簡単な物のはずだった。
事件が起きたのは七組中四組目のチームだった。
七組目がゴールしてもまだ到着せず、全員でルートをくまなく探したが、一向に見当たらない。
代わりに見つかったのは、林道に落ちている蝋燭だった。
林道は非常に狭く、人が二人並んでいては余裕があまり感じられない程だという。
そして、蝋燭の落ちていた傍の草が折れていたのを見て、事態の深刻さに気付いたという次第だった。
('、`*川「落ちたと考えるのが自然ですね」
端的にかつ的確な言葉でペニーは彼女の推測を伝えた。
('、`*川「消防に連絡は?」
(;´∀`)「そ、それが……街工場の消火活動で忙しくて、落ちたかもしれない、では出動できないと……」
ティンカーベルの消防署は小さく、広域で活動出来るようにはなっていない。
この島ではそもそも火災や問題を起こすのは他所から来た人間であり、元から島に住んでいる人間はトラブルとはほぼ無縁だ。
島ならではの生活様式として、外部の人間には手厚くするか冷たくするかの二極化する。
命に係わる問題が同時に起きた場合、残念だが優先されるのは身内の方だ。
たとえその消火活動が小規模な物だとしても、島民が最優先なのだ。
('、`*川「分かりました。 案内してください」
必要な装備を大量のモール(装備の増設・変更が容易に出来る規格の一つ)が付いた軍用バックパックに詰め、キャンプサイトから移動する。
時間を節約するため駆け足で移動し、その途中に生徒の状況を聞き出した。
必要なのは性別、性格、そして服装と装備だ。
34
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:29:21 ID:YAAXsb060
教師からの情報では滑落した可能性があるのは男女一組で、男子生徒の性格は若干自意識過剰な部分があるが、不慣れな状況には臆してしまう性格をしており、女子生徒は内気でリーダーとは無縁の大人しい性格である事が分かった。
共通した服装は薄手の長袖のシャツとジーンズ、靴はトレッキングシューズ、もしくはスニーカー。
明かりになるような物は持っておらず、装備として加算出来るのは軍手だけだった。
しかし、服装が肌の露出が少ないことは不幸中の幸いだった。
毒虫にやられることも木の枝や草で擦過傷を負わずに済むだけでなく、体温の低下を防ぐことが出来る。
明日の朝まで時間がかかったとしても死んでいる確率は下がる。
問題は二人が落ちた場所から動いていないか、ということだ。
彼らに遭難時の知識があればいいが、恐らくはないというのが教師の見解だった。
つまり、足跡や移動した痕跡を追跡し、追いつかねばならない。
昼間ではなく夜間の追跡任務は非常に難しいが、仕方がない。
二人はほどなく島の北側にある現場となった林道に到着し、ペニーは踏み折られた草を見つけた。
小型のライトでその近くを照らし、草の茎に水気が残っていることからまだ真新しいものだと判別する。
次に、その下にライトの光を向ける。
崖のような急勾配を持つ林となっており、水分の含まれた地面の一部が削れていた。
木々の間隔はかなり開いていて、足元は落ち葉で滑ることから、道具なしに這い上がるのは難しい地形をしている。
('、`*川「生徒さん達を不安がらせないよう、そちらの対応をお願いします」
(;´∀`)「すみません、無理なお願いを……」
('、`*川「いいんです、子供達のためですから。
生徒を見つけ次第笛で合図をします」
木々に手を伸ばしてバランスを保ちつつ、滑り落ちないように勾配を下った。
背の高い木々は枝葉を伸ばし、屋根のように空の光を遮断している。
月明り、星明りは気休めにもならず、星を見て位置を確認することもままならないだろう。
下りきると、そこには落ち葉と泥が塊となった物があり、誰かが滑り落ちたことを物語る跡が残されていた。
その痕跡を頼りに、足跡を探す。
泥の上にある足跡を探すのは簡単だ。
だが、ライトで照らして浮かび上がる地面には湿った落ち葉が積み重なっており、足跡を見つけるのは難しかった。
そこで、人が歩いた後に残される痕跡を探ることにした。
視線を低いところに固定して落ち葉の変化を見ると、二人が歩いた痕跡はすぐに見つけられた。
最悪なことに、二人は下山を試みているようで、どちらかは杖代わりに木の枝を使っていた。
山で遭難した際、人は山から一刻も早く抜け出そうと下山してしまう事が多いが、それは誤りだ。
山から抜け出せたとしても森が待ち受けていることがほとんどで、何より無傷で山から抜け出すのが如何に困難なことなのか、
軍人や登山経験が豊富な人間ならまだしも、学生ではあまりにも知識と体力が不足しすぎている。
恐ろしいのは体力の低下に気付かない事と、僅かな傷から入った雑菌や毒を持った虫や動植物によって命を落とすことだ。
また、夜行性の肉食動物もこの山には住み着いており、最悪の場合は食い殺される可能性さえあった。
それを教師に伝えなかったのは、彼がパニックに陥って他の生徒にいらぬ恐怖心を与えないためだった。
彼も分かっているとは思うが、万一生徒が察した場合が厄介だ。
子供は大きな問題が起きた時、何か行動を起こしたがる。
35
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:30:34 ID:YAAXsb060
何かをしていないと不安だからだ。
その気持ちは分かるが、それが余計な問題の銃爪になりかねない。
ここは大人しく待ってもらう他ない。
更に山を下る途中、狼の遠吠えが聞こえた。
反響して正確な位置は分からないが、おそらくは麓の方からしたのだろう。
群れを成す肉食動物に追われると厄介だ。
子供が二人いたところで、武器――子供の腕力では木の枝は武器とは呼べない――も知識もなしに切り抜けることは絶対に出来ない。
急いで見つけ出さなければ、彼らが朝を迎えることはないかもしれない。
ライトの光を消し、ペニーは己の目を闇に適応させた。
例え月明りが満足に届かないとしても、彼女の目には森に潜む動植物の影がよく見えている。
苔の生えた岩。
積み重なり、絨毯のような柔らかさと養分を蓄えた落ち葉。
背の低い茂み、夜行性の動物がうごめく姿までよく見えた。
('、`*川「さて、と」
まずペニーがしたのは一定のリズムで笛を吹く事だった。
光を見つけ出すことが難しい中、頼りになるのは音だ。
反響するのを承知で笛を鳴らすのは、二人が救援の存在に気づきやすくするためだ。
続いてライトをモールに上向きにはさみ、明かりがペニーの視界に入らないよう、だが周囲に見えるようにした。
これで音と光が連動して認識される。
背中から夜空に向けて光の柱が立つ。
これで、遠くからでも彼女の位置が分かるはずだった。
一〇分刻みに笛を吹き、彼らの反応を待ちつつ捜索を続行する。
三〇分ほど経過した頃、大小さまざまな石の転がる河川に足跡が続き、そこで足跡が途絶えたために正確な追跡は不可能となった。
心理的には川を下ったのかもしれないと思い、今度は五分間隔で笛を吹きながら歩き始める。
ようやく森から抜けたペニーを待っていてくれたのは、開けた空から降り注ぐ月と星の明かりだった。
輪郭が鮮明に浮かび上がる様は圧巻だ。
このまま川沿いで座り込んでくれていれば手間が省けると思った時、岩陰で動く影を見つけた。
それは人影に相違なかった。
(;=゚д゚)「た、助かったラギ……」
おずおずと出てきたのは、バーベキューの会場で見た男子生徒だった。
少し伸ばした茶髪とブラウンの瞳、そして運動をしていることが分かる肉付き。
快活そうな外見から判断するとサッカー部だろうか。
これからの事を考えると、運動が出来るのならば助かる。
幸いにこの少年は登山靴を穿いていた。
安全が確認されると、女子生徒がその隣から顔をだし、仔犬のように駆け寄ってきた。
それを受け止め、外傷の有無を確認する。
ミセ;゚-゚)リ「あ、ありがとうございます」
36
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:36:04 ID:YAAXsb060
男子生徒の傍にいたのはやはりバーベキューの場で見た女子生徒だった。
セミロングの黒髪と優しげな目、年の割には濃い化粧はまだそれに不慣れなことを示すのと同時に、彼女が外交的で周囲よりも少し背伸びをしたがる歳頃であることを示している。
ペニーは彼女の足元を飾るのがグリップ力の少ないスニーカーなのを見て、内心で眉を顰めた。
スニーカーの靴底は平らであり、山道を歩くのには不向きだからだ。
一先ず二人の上半身には転がり落ちた際に出来た打撲や泥が伺えるが、特に目立った外傷もなさそうだった。
だが、男子生徒が不自然なまでに動かないことに違和感を覚え、一つの仮説がペニーの頭に浮かんだ。
('、`*川「君、怪我したの?」
(;=゚д゚)「実は、左足を捻ってしまって」
この歳の少年ならば多少の我慢が出来れば黙っているのだろうが、それも出来ないぐらいの痛みらしい。
触れてみると熱は発していないため、折れている可能性は低そうだ。
('、`*川「なのにここまで歩いたの?」
(;=゚д゚)「森の中より安全だと思って……」
杖を使っていたのは間違いなくこの少年で、更に女子生徒が手を貸してここまで歩いたのだろう。
この後の計画では山頂を目指して登山し、キャンプ場に向けて下山する予定に変更はないが、少年の脚にあまり無理はさせられない。
背負うしかなかった。
('、`*川「いい判断よ。
下ったところで悪いけど、もう一度山を登りましょう」
ミセ;゚д゚)リ「なんで?! せっかく降りて来たのに!」
半ば叫ぶようにヒステリックな声で反応したのは女子生徒の方だった。
よほど怖かったのだろう。
精神的な面で追い詰められれば、誰だって冷静な判断は下せない。
女子生徒の肩に手を置き、宥めるようにしてゆっくりと事情を説明する。
('、`*川「山頂には道があるのよ。
その道を辿れば、確実に人のいる場所に到着出来るでしょう?」
ペニー単体であればそうせずとも人里に着くことは可能だったが、この二人がいる限り、危険な道を使う事は出来ない。
それに、自分達の迂闊さが招いた事態を容易に終わらせては、何の経験にもならない。
多少は痛い目を見てもらう事こそが教育につながり、ひいては二人の経験となるのだ。
人生で遭難する経験は貴重だ。
人間の本質と自分の力を知るいい機会であり、それが二人の人間性を豊かにするのであればこれ以上ない契機だ。
もちろん、山頂に到達する前に山道に合流できれば御の字だ。
('、`*川「歩けるかしら?」
念のため、そう声をかけつつ少年に手を差し伸べると、少年は僅かに眉を顰めてその手を断った。
(;=゚д゚)「何とか……歩けそうですラギ」
37
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:39:22 ID:YAAXsb060
自分でそう言うのであれば途中までは歩いてもらいたいが、どれだけ進んだところで最終的には担ぐことになる。
加えて怪我が悪化する恐れもあるため、本人が何と言おうと担いだ方がいい。
分かっていたことだが、一度ぐらいは少年が男である以上、その意地を張る機会を与えたというわけだ。
('、`*川「駄目ね、そんな調子じゃ山を登れないわよ」
(;=゚д゚)「大丈夫ラギ、俺こう見えても丈夫で――」
そう言いかけた少年の心理的な隙を狙って、無造作に足払いを放つ。
当然だがバランスを保てない少年は倒れ込むが、ペニーは彼の体が地面に落ちる前に抱きかかえ、肩の上に担いだ。
軍隊で負傷者を運ぶ際にとるこの形は、体の中でも比較的筋力のある部分を使って担ぎ上げるため、疲労感が少なく済むという大きな利点がある。
圧倒的な力の差を見せつけられて察したのか、少年は抵抗することもなく、黙ってペニーに体を預けた。
('、`*川「それでいいわ。
さ、行くわよ」
予め決めておいた通り、生徒発見を伝える笛を吹く。
これでキャンプ場にいる教師にこちらの状況が伝わる。
ライトを消し、目を暗闇に慣れさせる。
ここから先は広い範囲を見なければならず、ライトを使って光に慣れすぎると思わぬ見落としがある。
細かな部分はペニーが先導すれば問題はない。
もう間もなく真夜中になる。
虫達さえも音を潜め、静寂と静謐な空気が支配する時間。
沈黙の夜に試されるのは己の心に潜む弱さ、そして、陰に隠れ潜む獣達の剣呑な息吹。
臆すればあらゆる影が襲い掛かり、窮すればその足から力が失われる。
真に暗き時間とはよく言ったものだ。
深夜の行進に恐怖はつきものだが、その代わりに自分自身と向き合う貴重な時間にもなる。
('、`*川「私が歩いた後をそのまま付いてきて。
何かあったら声を出して教えてね」
ミセ;゚-゚)リ「わ……分かりました」
再度森の中に足を踏み入れ、ペニーは素人にも歩きやすく、光の多く差し込む道を選んで登山を開始した。
枝葉を踏み折る音はやがて積み重なった落ち葉を踏みしめる湿った音に変わり、空気は夏とは思えない程冷え込み始める。
月光が降り注ぐ森の中、息をのむような幻想的な淡い光の柱の中、三人は静かに森を進んだ。
長い沈黙の後、最初に口を開いたのは少女だった。
ミセ;゚-゚)リ「あの、私ミセリって言います。
さっきはお礼も言わないで……その……すみませんでした」
('、`*川「気にしなくていいわよ。
私はペニーでいいわ」
話をしていなければ間が持たないのだろう。
夜の森が持つ本質を知っていれば、これほど穏やかで厳かな時間はないのだと尊ぶものだが、残念なことにその領域にこの幼い二人は足を踏み入れてもいない。
沈黙は何よりも貴い肩の上の少年も流れを察し、この会話に入ってきた。
38
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:41:22 ID:YAAXsb060
(;=゚д゚)「俺はトラギコです。
すみません、背負っていただいて……」
('、`*川「よろしく、トラギコ、ミセリ。
高校生だって聞いたけど、学年は?」
ミセ;゚-゚)リ「二年です。
ところでどうして、ペニーさんが私達を助けに来てくれたんですか?」
('、`*川「あなた達の先生から頼まれたの」
夜のしじまに浮かんだミセリの質問に、そう手短に答える。
話すのは大いに構わないが、出来れば体力面でペニーに劣るトラギコとミセリの二人が話していた方が登山の効率が上がるため、ペニー自身の事を話すよりも二人に話をさせたかった。
('、`*川「ジュスティアの高校生がどうしてここに?キャンプをするなら別の島も選択肢にあったでしょうに」
ミセ;゚-゚)リ「どうして私達がジュスティアの高校生だって分かったんですか?」
('、`*川「喋り方と雰囲気よ。
二人とも真面目そうな生徒だもの」
ティンカーベルの西に位置するジュスティアは世界で最も治安維持に力を入れ、内紛や紛争に介入することで世界の秩序を保とうとする大きな都市である。
高層ビルや優れた交通機関が充実する中、街が最も力を入れているのが教育だ。
幼少期からの人格形成に関係する各種教科の充実は勿論のこと、独自の道徳観を養うためのカリキュラムは世界でも比肩するものはない程の種類を擁している。
そうして養われた豊かな人間性が自ずと一つの方向――絶対正義――に向くことから、ジュスティアは〝正義の都〟と呼ばれている。
ペニーの出身地であるイルトリアとは犬猿の仲で、昔からよく対立することがあったが、今は表立った争いは起きていない。
今は、まだ。
('、`*川「それにしても災難だったわね、肝試し中に落ちちゃうなんて」
ミセ;゚-゚)リ「私が音に驚いて……それで、一緒に落ちちゃって……」
('、`*川「音?」
ミセ;゚-゚)リ「跫音っていうか、何かが歩いてくるような音がしたんです。
トラギコは聞いてないって言うんですけど、私確かに聞いたんです」
となると、獣の跫音だろうか。
相手が熊や狼だったら逆に転落しなければ大事になっていただろう。
この森に住む獣は大型のものが多く、駆除に出かけたハンターが返り討ちにあったり逃げ出すこともしばしばあるぐらいだ。
人を全く恐れない獣は厄介だ。
('、`*川「姿は見えなかったの?」
ミセ;゚-゚)リ「音に驚いてそれどころじゃなくて……」
('、`*川「でも、トラギコに聞こえていなかったっていうのは気になるわね」
39
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:43:46 ID:YAAXsb060
(=゚д゚)「ミセリは合唱部なんです。
だから音には人一倍敏感で、授業中もしょっちゅううるさいって怒鳴ってるんですよ」
合点がいった。
優れた聴力を持つミセリは木々のざわめきに紛れた獣の跫音を聞きわけ、本能的に動いたのだ。
('、`*川「音に敏感って言うのは大変だけど、とても重宝する力よ。
二人は部活が違うの?」
(=゚д゚)「はい。
俺はサッカー部で、今日はモナー先生が企画してくれたサマーキャンプに参加した有志なんですラギ」
ここにきてようやくあの教師の名前、そして彼らがここにいる理由が分かった。
これで少しは話が続けられそうだ。
今ペニー達が登っている山は標高約一八〇〇メートルと非常に高く、山頂までにどこかの道に辿り着ければいいが、そうでなければ非常に長い道のりとなる。
また、この地点が山のどの方角に位置するかによってその登山の難易度が変化するため、油断は全くできない。
ペニーの問題ではなく、この生徒二人の精神力の問題だ。
途中で精神が折れたらそこで立ち止まらなければならず、最悪の場合は二人担いでの登攀が待っている。
気になるのはミセリが聞いた跫音の正体だ。
群れを成す獣や執念深い獣が相手の場合、ミセリ達の動向を今も遠くから見ているかもしれない。
('、`*川「いい先生でしょ、モナー先生は」
獣の可能性を二人から忘れさせるため、ペニーは話題を少しずつ広げ始めた。
ミセ*゚ー゚)リ「時々融通が利かないんですけどね」
(=゚д゚)「でも、俺達の事を考えてくれてるんだってのは分かるラギ」
('、`*川「ふふっ。
戻ったらちゃんと謝るのよ」
倒木を避け、木の根を階段の代わりにして少し急な坂を越える。
木々の間隔が広い道を選んで通り、出来る限り視界の確保に努める。
ミセ*゚ー゚)リ「それは勿論です。
あの、ペニーさん。
私、質問してもいいですか?」
('、`*川「えぇ、どうぞ」
ミセ*゚ー゚)リ「ペニーさんはお仕事は何をされているんですか?力も強いし、サバイバルの知識もすごそうだし……」
('、`*川「軍人よ。 イルトリアのね」
予期していた反応は二種類。
嫌悪感を取り繕った対応か、露骨なまでの嫌悪を表にするか。
イルトリアとジュスティアとの確執は時折教育現場にも反映され、多くのジュスティア人がイルトリア人を毛嫌いしている。
だが、二人は予想したどちらとも異なった反応を見せた。
40
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:47:09 ID:YAAXsb060
ミセ*゚ー゚)リ「どうして軍人になったんですか?」
(=゚д゚)「陸軍(アーミー)ですか? それとも海軍(ネイビー)?」
興味から来る質問というのは予想外だったため、若干の戸惑いを覚えながらも両方の質問に対して適切な言葉を選び、丁寧に対応する。
('、`*川「まず、私は海兵隊(マリーン)よ。
ジュスティアと同じで、海兵隊として独立しているから海軍でも陸軍でもないわ。
そして最初の質問にはちょっと答えられないわね」
世界は広いが、どの街も所有しているのは海軍と陸軍の二種類で海兵隊は特性の似通っている海軍に所属している。
もっと言えば、海に隣接している街でなければ海軍は所有しておらず、海兵隊を持つ意味もない。
仮に海が近くにあっても、上陸艇を別管理するという手間を考えて海軍の中に海兵隊を持っておいた方が、効率の面で見ると理に適っているのだ。
しかし、あえて独立させることで作戦を展開しやすくするなど、いくつか利点もある。
(=゚д゚)「あ、すみませんラギ……」
('、`*川「気にしなくていいわよ。
ただ、説明するのはちょっと複雑だから」
軍人以外の道がなかったわけではない。
無論、人殺しが好きなわけでもない。
命のやり取りが好きなわけでもない。
ただ、知りたかったのだ。
生まれた意味、争いの中にある人の本質、即ち命の灯が見せる輝き。
ありとあらゆる事象を知り、体験し、そして我が物としたいと願い、軍人の道を選んだのである。
医者の道もあっただろうが、それでは命の本質は見えてこない。
物心ついた時から命について徹底的に学ばされるイルトリアの習慣が、今のペニーを作り上げた。
それはジュスティアと同じく、街としての取り組みの一つの成果だった。
この選択が正解だったのか、今も分からない。
命の本質に興味を持ったのは、八歳の時だ。
祖母が老衰で逝去し、祖父が初めて涙を見せた葬儀の場で幼いながらに考えた物だ。
今までただの一度も泣いたことのない祖父が涙を流し、祖母の遺体に口付けをして送り出した時、一体祖父は何を考えていたのだろうか。
祖母は死ぬ間際に何を見て、何を思ったのか。
命とは何なのか。
尊ばれ、惜しまれる命の正体とは何なのか。
動物と人間の命の差異は何かと考え、そして今日に至る。
いまだに答えにつながるような物は見ていないが、最初からそう容易に出るものだとは思っていない。
もう一つ、ペニーに軍人になることを決定づけさせた出来事があるが、それはあまり気持ちのいい話ではなかった。
逆に、その出来事がなければ他の仕事に就いていただろう。
断言出来ることは一つ。
命には限りがあるという事だ。
その限りある命をどう使うのか、それこそが命に意味を与えるのだという事。
戦場で命を散らした仲間達がそれをペニーの心に深く刻み、そして確信させた。
41
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:49:36 ID:YAAXsb060
('、`*川「珍しいわね、軍人を毛嫌いしないなんて」
ミセ*゚ー゚)リ「私達の親も軍人ですから、どういう仕事でどういう人達がいるのかは聞いていますから」
なるほど。
担任の影響ではないことは分かっていたが、親族に軍人がいればこの耐性にも説明がつく。
ジュスティア軍とイルトリア軍は互いの政治家以上に仲が悪く、そして互いを高く評価しあっている奇妙な関係がある。
ジュスティア軍はイルトリア軍を〝世界で最もよく訓練された獣の軍隊〟と比喩し、
イルトリア軍はジュスティア軍を〝世界で最も機械に近い軍隊〟と称していることから、ある種の信頼関係にあると言ってもいいだろう。
(=゚д゚)「イルトリアについて訊きたいことがあるんですけど、いいですラギ?」
('、`*川「答えられる範囲でならね」
それからいくつかの質問に答える中、ペニーは森の中から奇妙な視線を感じ取っていた。
背筋を刃で撫でるような嫌な、それでいて遠目にこちらの動きを見られている気持ちの悪い感覚だ。
獣とは少し違う。
その性質故に闇に完全に溶け込むことのない、訓練された人間の視線だ。
この視線を送る人種を限るとしたら、それは軍人と言わざるを得ない。
だが軍人がこの森にいる意味が分からない。
気のせいであればいいが、万が一の事態があれば応戦するが、人数と武装の種類によっては太刀打ちできかねる。
視線を感じてから二時間近く歩き続け、途中に休憩を挟んだがその視線の主が姿を現すことはなかった。
一定の距離を保ち、監視しているのは疑いようのないことだが、彼女達の動向を探る理由が気になる。
('、`*川「……あら」
ミセ*゚ー゚)リ「どうしたんですか?」
('、`*川「よかった、山道よ」
それはかなりの幸運に恵まれた証拠だった。
明らかに人の足によって踏み慣らされ、人の手によって切り開かれた道が斜面に沿って出現したのだ。
道が見つかれば、山頂まで登る時間と労力が省ける。
('、`*川「これで簡単に帰れるわ。
さ、行きましょう」
整った林道は下り坂になっており、先ほどよりもずっと速いペースで進むことが出来た。
明らかにミセリから苛立ちや焦りの感情が消え、もう少しでこの状況が終わることに安堵し、安心しきった様子が伝わってくる。
担がれたトラギコも、夜の時間が終わりに近づいたことに対して喜びを隠せないでいた。
しかしペニーだけは安堵という感情から最も離れた場所にいた。
この自然の中で、夜の森という環境の中で訓練された人間の視線を感じた。
こちらに接触するわけでもないのに、観察をされたその意図。
何か、見られたくない事がこの森で起こっている可能性がある。
軍事的な何か。
42
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 08:51:58 ID:YAAXsb060
否が応でも興味をそそられる。
この二人を無事に送り届けたら装備を整え、視線を感じた地点に戻ろうと彼女は密かに決意した。
('、`*川「今度は私から二人に訊いてもいいかしら?」
油断は新たな問題を生じさせる最適な要因だ。
安心した瞬間に絶命する兵士を幾人も見てきたからこそ、それは自信を持って言える。
最後まで油断する気持ちを押さえさせるため、ペニーは二人に質問をすることにした。
('、`*川「学校は楽しい?」
(=゚д゚)「えっと……どうでしょうかね……俺、その辺りがいまいち分からなくて。
何をしたら楽しいのか、何をしなかったら楽しくないのか、その基準が分からないんですラギ」
('、`*川「物事はね、誰かが決めたから楽しい、じゃないのよ。
貴方が楽しいと思えば楽しいのよ」
それは幸せの定義と非常に似た疑問の一つだ。
あらゆるものを手に入れた大富豪が満たされないように、一獲千金を夢見る金鉱労働者のように。
('、`*川「ミセリはどう?」
ミセ*゚-゚)リ「楽しいです。
ただ、勉強がなぁ……」
少し気恥かしそうに答えるミセリ。
年相応の反応だった。
('、`*川「覚えておいても損はないわよ。
何に役立つかなんて、その時にならないと分からないものだからね」
途中、分かれ道が複数あったが記憶した方角に向かって足を進め、遂には舗装路に辿り着いた。
その舗装路はペニーがバイクで通った道であり、それを辿ればキャンプ場に確実に到着出来る。
木々の作り出したトンネルには月光が差し込み、まるで木漏れ日のように地面に光を落としていた。
('、`*川「いい夜ね」
夜空に散らばった幾千万の星々は宝石箱のように輝き、その眩さは今にも空から落ちてきそうなほど近くに感じる。
銀色とも黄金色とも思える月はその表面に笑窪のようなクレーターを見せながらも、その神聖さを損なうことなく、かと言って自己主張をするわけでもなく静かに世界を照らしていた。
静かな夜だった。
鳥の歌、虫の声、木々のざわめき、風のささやき、潮騒の轟き、自然が生み出す全ての音が混然一体となった静寂。
空に漂う一片の雲の輪郭が白く照らされ、孤独な旅人を彷彿とさせる光景は、深夜にこそ映える物だ。
日付はとうに代わり、月の傾き具合から早朝の三時ぐらいだろうと推測した。
想像以上に早く二人を発見してここまで連れてくることが出来たのは幸運以外の何物でもない。
獣に襲われて死んでいても不思議ではない状況の中、負った怪我は軽い擦過傷と捻挫。
サマーキャンプは引き続き参加可能だろう。
この経験も時が経てばいい思い出になるだろう。
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