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('、`*川魔女の指先のようです
17
:
名無しさん
:2017/12/17(日) 07:52:41 ID:YAAXsb060
手練の技術者が一台一台全て手作業で整備、組み立てを行う事で有名な会社が手掛けた電動大型自動二輪車が残す低音のエンジン音は心地よく、潮騒と調和して不快なそれにならずにいた。
黄金の羽を持つ隼のように素早く、しかしカモシカの俊敏性と忍者の静音性を損なわないというコンセプトの元に開発されたそのバイクは、
太古に残された設計図を基に現在の技術者達が復元した物で、現存するのは僅かに三〇台だけだった。
トラスフレームを覆い隠すようにしてエンジン全体を包むカウルは深い輝きを秘めた蒼に塗装され、リアシートにはカーボンカラーのサイドパニアが二つと、リアパニアが一つ装備されている。
大口径左右二本出しのマフラーは後輪タイヤを挟む低い位置にあり、非常に安定感のある設計をしていた。
優秀なサスペンションや長距離走行に適した高めのハンドル位置、耐久性を重視した極太の後輪タイヤ、スポーツカー並の馬力と排気量を実現した水冷式のエンジン。
これら全ての装備は優雅な長旅を満喫出来るよう熟考して選び抜かれ、設計された物だ。
大型のバッテリータンクには地図や小物の入ったタンクバッグが取り付けられ、旅慣れた人間がバイクを運転しているのと同時に、
黒色の輝きを放つエンジンガードと蒼いカウルに傷一つないことから、慎重に運転をする人間であることも分かる。
夏の日差しは強く、熱されて鉄板のように熱くなったアスファルトの道路は地獄の釜底を思わせる。
しかしながら空気が乾燥しているため、バイクで疾走する人間はあまり暑さを感じることはない。
むしろ、風が運んでくる海上で冷やされた空気と日差しが程よい涼しさを生み出し、夏らしさを肌で堪能出来る環境を作り出している。
四方を海に囲まれたこのティンカーベルという街は大小数無数の島々で構成され、
最も大きなグルーバー島にある観光名所としても有名な鐘楼〝グレート・ベル(偉大なる鐘)〟が奏でる美しい音色から〝鐘の音街〟、と呼ばれていた。
その環境の穏やかさと豊かな自然が長距離ツーリングを目的とするバイク乗り達に絶大な人気を得ており、毎年夏のこの時期ともなればキャンプ道具一式を載せて走るバイクを多く見ることになる。
避暑地としても優秀だが、何よりもバイク乗り達を魅了しているのがティンカーベルにある三つの島の間を移動するのに船を使わなくていい点だった。
離島を訪れるにはフェリーを使うのが普通だが、ティンカーベルは長い一本の橋が海上を通って陸と繋がっているため、容易に訪れることが出来るのだ。
大陸からティンカーベルに通じる一本の橋は〝正義の都〟と呼ばれるジュスティアと繋がっており、それ以外の街からこの島に来るためにはフェリー以外の手段がない。
ジュスティアはいわばティンカーベルにとってのお隣さんなのである。
その女性は長い船旅を終えたばかりだったが、疲労の色はどこにもなかった。
緩やかに続く海沿いの山道には、崖の向こうから絶え間なく海風が吹いている。
潮の香りを含んだ風は夏の香りを伴い、穏やかな空気を作り上げていた。
吹き付ける向かい風は車体を駆け巡ってエンジンの熱を冷やし、大型のウィンドスクリーンによって乗り手の顔を優しく撫でる微風へと変化させられていた。
心地のいい振動とエンジン音の中、グレーのジェットヘルメットを被ったその人物は左手に広がる大海原に目を向け、その青さと煌く水面を堪能していた。
精巧なステンドグラスと純度の高い宝石の美しさを併せ持った風景は、人間の心を容易に揺さぶり、穏やかな気持ちにさせてくれる。
風に乗って潮の仄かな香りが鼻孔に届く。
車の往来は皆無と言っていい。
山登りを目的とする人間は街に近い登山口に集中するため、場違いな歩行者もいない。
極まれに競技用の自転車に乗った人間か、ツーリングを目的として軽快な走りをするバイクとすれ違う。
すれ違う際に左手で挨拶をすると、半数以上のバイク乗りがそれぞれのやり方で挨拶を返してくれた。
手を振る者、ピースサインをする者、拳を突き上げる者、猛者ともなると立ち上がって両手を高々と構える者までいた。
挨拶は一瞬の内に終わるが、その後味の良さは一日以上残る。
後続車すらも今はいないため、妙な威圧感を感じることもなく、自分のペースで走行出来るし気兼ねなく挨拶も出来る。
ソロツーリングには最適な状況だった。
('、`*川
バイクのハンドルを握るのは〝武人の都〟イルトリア出身のペニサス・ノースフェイスで、穏やかな物腰と美しい容姿から柔和な印象を与える女性だった。
鳶色の瞳と垂れた目尻と眉、長く伸ばした艶やかな黒髪は幻想的な中にも危険な香りを漂わせ、二〇歳にしてすでに多くの物事を悟ったような雰囲気を放つ。
色白の肌に刻まれた傷は彼女の歴史そのものだ。
拳の皮が固くなっているのも、体に刻まれた銃創の一つ一つにも歴史がある。
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