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もしも加賀楓と横山玲奈がふたり旅をしたらありがちなこと

1名無し募集中。。。:2017/08/20(日) 09:39:14
動物は現れ、やがて絶滅する。
植物は絨毯のように地表を覆っては枯れ、また豊かに茂る。
生命は広がり、縮み、ときどき生き残りのサイクルから落っこちる。

だが地球は残っていた。
動植物がその上にあふれても、洪水や地震や疫病や地殻変動、大災害の犠牲になっても、惑星はまわり続ける。

ひどい雨だ。
加賀楓と横山玲奈は競技場にいた。
誰かが――さもなければ何かが――ウイニングランをしてから、ずいぶん長い時間が経っているのは明白だ。
生き延びることだけが優先されるこの時代に、たくさんの時間と努力を馬鹿げた競技に打ちこむ人間はいない。

この競技場を走ったのが意味もなくぐるぐる走る馬か、愚かな犬か、それとも車の体裁を整えたエンジンか、
そんなことは楓と玲奈にはどうでもよかった。
問題なのは、この場所が悪天候をしのぐ仮の宿になってくれることだ。

ふたりが見つけた屋根はとりたてて大きくはなかったが、まだちゃんと雨を防いでくれた。
建物が許すかぎり悪天候から離れて中に入ると玲奈は満足して周囲を見まわした。
「ひと晩キャンプするのにもってこいの場所みたいだよ」
ちらっと磁石を見てぱちんと蓋を閉めた。

楓は油断せず周囲を警戒していた。
仮の宿には好都合な建物だった。
ふたりが雨をしのいでいる場所の前方は広々としている。
何かが近づいてくれば、かなり遠くからでも分かる。

玲奈はジャンプスーツの前を開けて、内側に手を入れた。
おもむろに脇の下を掻きはじめた。「さっき蚊に刺されたみたい」
玲奈がスーツから手を出して指の臭いを嗅ぐと、楓は不快感をあらわにした。
「よしなさいよ。行儀が悪い」

ふんと鼻を鳴らして玲奈が言った。
「“料理”するから燃やせるものを探してよ」
楓は土砂降りの雨を示した。「どうせならステーキも注文したら?」
「観客席の下ならほとんど壊れてないみたいだもの。乾いてるところもあるはずだよ」玲奈が答えた。

楓が皮肉っぽく笑った。
顔面の左側にぎざぎざした傷痕があるため、剣呑で威圧的に見えはするものの楓は玲奈には優しい。
雨はやみはじめていた。楓は目を上げた。
夜空に星がきらめきはじめている。

2名無し募集中。。。:2017/08/20(日) 09:40:21
何年も前に使われなくなった競争路には、ほとんど何も残っていなかった。
“食べられる”ごみはとっくの昔に犬や猫、ハトやカラス、ネズミや虫たちがきれいにしてしまった。

楓はビールの缶を見つけた。中身は蒸発している。
この楕円形の施設が、かつては大勢の人間が野次を飛ばし、歓声を送る気楽な人々を収容していたとは。
楓は大きく息をついた。いまのここは自然が支配している。

玲奈の予想は正しかった。
壊れずに残っている張り出し屋根の下は乾いていた。
楓は手すりから杭まで木材でできている物を片っ端から引き剥がした。

焚き火用の木切れを抱えて戻ると、玲奈がてきぱきとフクロウを解体していた。
楓は間に合わせの“いろり”を作り、すぐに小さな火を起こした。
玲奈がふたつかみ分の肉を手渡す。

あまり食欲をそそらないかたまりをあぶりはじめる。
肉は火の上でジュウジュウと焼けた。

「マスタードは切れちゃったから、夕食は素材の味を楽しんで」
玲奈は口の端をわずかに持ち上げた。
「そりゃどうも」楓もにやっと笑った。

荒廃した文明の名残である建物の下で、赤橙色の炎がちらつく。
楓がもう1本薪を足すと炎が踊った。
火は人間の敵にもなるが友にもなる。
マシュマロとかソーセージなんかあれば最高なのに。
楓は棒を使って燃えさしをかき回した。

「かえでー、寝ていいよ。わたし見張りやるから」
楓はぴったりしたレザーの上着を剥がすように脱ぎ、肩に羽織った。
その両脇にはシグザウエルの自動拳銃が吊るしてある。

招かれるの待たずに玲奈の隣に移動した。
寄り添い、頭を胸にあずけると静かに笑った。
「おやすみ――」楓はあっという間に寝息をたてはじめた。

3名無し募集中。。。:2017/08/20(日) 09:41:25
夜明けの最初の光が見えてくる。
座ったまま眠っている楓が苦しそうに頭を振り、低いうめき声をもらした。

玲奈は楓の眠りを妨げないように気をつけながら、そっと楓を崩れかけた壁にもたれさせた。
そのまま楓を起こさず、薄暗がりを歩いていった。

1日のうちでいちばん好きなのが日の出だった。
太陽がまだ完全に地平線から昇る前の世界はいつも清々しい。
伸ばした手のすぐ先に、可能性が待っている、そんな気がした。

この時間だけは常につきまとう死を忘れられる。
荒廃した土地を眺めながらも、だんだん慣れてきた。
生き延びるためにしなければならないことに慣れる。

そうする必要があるからだ。他の選択肢はない。
玲奈の大切な“ひととき”はいつも玲奈が願うほど長くは続いてくれなかった。

反射光が見えた。
玲奈自身がスナイパーなので、遠くの高みでスコープがぎらりと光るのを目にしたとき、
恐ろしいことが起ころうとしているのを察知した。

シューターのスコープが顔の表情を判別できるほど強力である場合に備えて、気楽な雰囲気を絶やさないようにした。
建物の中に駆け戻りたい気持ちを抑えこみながら、さりげなく歩き終えた。
馬鹿げているという思いがあったが、この時代は誰もが誰かの照準線に入っている。
玲奈は両肩に手をかけて、わが身を抱きしめた。

楓は目覚めていた。
携行食でのんびりと朝飯の支度をしている。
駆け寄ってくる玲奈を見て、しかめ面になった。
「どうしたの?何かあった?」

楓は急いで周囲を見まわした。玲奈もそれに倣う。
だが、いくら周りを見ても何もない。
一瞬後、玲奈の恐怖の源が空から降ってきた。

4名無し募集中。。。:2017/08/20(日) 11:48:54
男がふたり、陰から飛び出してきて同時に発砲した。
楓と玲奈は間一髪で横手へ飛んで、浴びせられた銃撃をよけた。
薄暗がりの中に見える男たちの目は、無感動で、爬虫類を思わせた。

玲奈は腿のホルスターから拳銃を抜き出し、迫ってくる男を狙って撃つ。
1発が男の腹部を引き裂いて、ひざまずかせた。
「ちくしょう!撃たれた!」男が苦悶にうめいた。

両脇のホルスターのストラップを解いた楓は小走りに駆け出す。
仲間が危機に瀕していることにあわてふためいているもうひとりの男にやすやすと近づいた。
銃弾が男の両目の間に命中して、後頭部を吹っ飛ばした。

玲奈に撃たれた男は、痛みのあまり動くこともできなかった。
血が奔流のように噴き出している。
ひどく黒っぽい血であることが薄明かりでも見てとれた。

玲奈は銃口を向けながら冷たく告げた。
「肝臓だね。10分くらいで死ぬ」
男を仰向けに転がして、持っていた拳銃を拾い上げた。

「仲間は?他に何人いるの?」玲奈が訊いた。
こんな小娘に撃ち倒されたことが信じられないというように男は嫌悪の目で玲奈を見上げた。
そして答えぬままに脱糞しながら絶命した。

外へ足を向けた楓は湾曲した鉄塔へ近づいた。
半分壊れたその塔の交差支柱の角度を選びながらテナガザルのように登りはじめる。
周辺を偵察した楓はするすると地面に戻ると玲奈を眺めた。

すべての要素を考え合わせれば、そうひどい銃撃戦ではなかったような気もした。
武器と食糧が調達できたし、この場所を離れるという物理的指示に役立つ物が手に入った。

男たちが使っていたバイクだ。
カワサキの中国製コピー商品でサスペンションはスケートボード用のポンコツだが、エンジンにはちゃんと馬力があった。

荷物をまとめた楓と玲奈はバイクにまたがった。
楓がエンジンを噴かすと、後部座席の玲奈は楓の腰にしがみついた。
「つかまってなさいよ」
錆びついたバイクが後輪を左右に振り動かして砂利を跳ね散らす。

風をまともに顔に食らいながら、楓と玲奈はガタガタと揺れるバイクで走りはじめた。

5名無し募集中。。。:2017/08/20(日) 13:18:22
古い道路には、バイクのエンジン音の他には何の音もしなかった。
爆撃を受けて崩れた建物と、錆びついた車の残骸の上に伸びる並木。
道路脇にまっすぐ並んで伸びる幹のシルエットが空にくっきり浮かんでいる。

楓はいったんスピードをゆるめてから、後ろの玲奈をびびらせて起こすためだけに急にスピードを上げた。
「ななな!!」玲奈の悲鳴はぶるぶると振動した。

ガソリンスタンドが視界に入ってきた。
あれが蜃気楼だとしたら、ずいぶん頑丈な蜃気楼だ。
かなりの荒廃ぶりはまるで竜巻にやられたようだった。

速度を落としてガソリンスタンドへと入る道に近づきながら、楓は玲奈を振り向いた。
「誰もいないみたいだけど、どう思う?」

目を細めて建物を見ていた玲奈が言った。
「うん。誰もいないみたい。あそこに残っている物を回収するぐらいの“時間の余裕”はあるよ」

狭苦しい壁のくぼみには尿と腐ったレモンのような臭いが漂っている。
オレンジよりも小さいネズミが暗がりをちょろちょろと横切った。

楓は馴染みのある感覚――暴力が目前に迫っているぞくぞくする感覚――にうなじを刺激された。
自分はこれを楽しみ過ぎているのだろうかと考えた。
世界にいきなり平和が出現したらどうすればいいのか、楓にはまったく分からない。
どのみち、そんなことは起こりそうにもないのだが。

予想は裏切られた。ひとりの男が拳銃を手にして立っていた。
額には玉の汗が浮かんでいる。「動くな。武器を捨てて出ていけ」
反射的に楓も玲奈も拳銃を抜いて構えた。

「あんたが捨てなさい。2対1。勝ち目はない」楓が落ち着いた声で告げた。
その年配の男は、銃口を向けながら拳銃を握り直した。
掌の汗をジーンズで拭う。やがて諦めたように拳銃を手放した。

「“強盗”じゃないの。ガソリンがあればもらいたい。食糧と交換でいいわ」玲奈が言った。
年配の男は目を丸くした。
「…分別を働かせる若者を見るのは久しぶりのことだ」

6名無し募集中。。。:2017/08/20(日) 20:31:10
年配の男はバイクを満タンにしてくれただけでなく、楓と玲奈にリンゴをくれた。
この時代、リンゴを食べられることは滅多にない。
食糧や衣服、医療品やその他の必需品はどうにかこうにか供給されている。
だが、新鮮な果物のような贅沢品はまったく流通しない。

そのリンゴは近くの果樹園で収穫されたと男は説明した。
半分野生に戻り、大きくなり過ぎてはいるが、そこの果樹はまだ季節が来ると果実をもたらしてくれるという。
少数の市民がそれを注意深く収穫するのだ。

リンゴを味わいながら楓は男に礼を言った。
玲奈は実をきれいにかじり終えて、芯をしゃぶっている。
楓はまた一口リンゴをかじり、残りを玲奈に渡してやった。

楓は頭に浮かぶままを口にした。
「どうしてこんな親切を?」楓は男の薄くなった頭髪と白くなった髭を見ながら尋ねた。

「人生はな、そのときそのときを生きるんだ。そして次々に選択する。それが人間ってもんだ」
男の答えは楓を戸惑わせた。
信頼と親切、ごく当たり前の人間性かもしれないが、楓の記憶からは長らく消えてしまっていた。

男は自分の上唇を持ち上げ、出血している歯茎を楓と玲奈に見せた。
「癌に冒されている…。もう長くは生きられん。放射能の影響だろうな」
男は乾いた苦い声で笑った。

「あんたらはあの野蛮人どもとは違うな?もちろんどこの誰で、ここで何をしてるのか、どうやってまだ走れるバイクを調達したのか分からんが」
男はふたりを見て、うなずき、ぱちんと指を鳴らした。

「どうしてこの店がまだ建ってると思う?」男が荒らされた店の中を示した。
楓と玲奈は顔を見合わせてから首を振った。
「おとなしくしてるからだ。できるだけ目立たないよう静かにしてる」男が静かに答えた。

「必要な物があれば持っていけ」男が励ますように笑った。
「どこへ行くのか知らんが長旅なんだろう?」

楓も玲奈も驚いた。この絶望的な世界でも親切な人はいる。
この人なら地獄で炎にあぶられていても、温かくて気持ちがいいと笑うのではないか。

楓と玲奈はふたたびポンコツバイクにまたがって走りはじめた。
トランスミッションが炎を噴き上げそうな不快な音を発している。
ふたりはガタガタと揺れながら宵闇が迫りはじめた夕暮れの空を見上げた。

7名無し募集中。。。:2017/08/21(月) 21:44:35
隻眼の女がリンゴをかじっている。
高い位置でポニーテールにまとめられた長い髪が小さく風に揺れていた。

すらりと背が高く、余分な肉のない風貌は飢えかけたジャッカルを思わせた。
牧野真莉愛は考え深い顔でリンゴの芯を見つめた。
放棄されたガソリンスタンドは蒸し暑さのせいか汚物が溢れた便所のように臭い。

そんな好ましくない場所でリンゴを食べられるとは。
片手の小皿程度の小食で1日をしのぐ日々を過ごす身としては久しぶりの贅沢だ。

おこぼれを欲しがっているのかカラスが飛んできた。
癪に障る騒々しい鳴き声で騒ぎ、糞を落としてきた。

真莉愛が芯を放り投げると、それをくわえて飛び去った。
見える方の目でカラスを追い、太陽を見上げた。
網膜が日射しに焼かれる感覚が生じる。
真莉愛は額に片手をかざしてカラスを撃ち落とした。

荒れ果てたガソリンスタンドに背を向けて、真莉愛は道路の土とたわむれる。
バイクのタイヤ痕からいくつかのことが推測できた。
バイクにふたりの人間が乗っていたことは間違いない。
そして後部座席の人間が運転者にしっかりとしがみついていたことだろう。
なぜなら相当な速度でミサイルさながらに飛び出しているからだ。

日光浴をするようにガソリンスタンドの正面に椅子を置いて座っている年配の男が真莉愛を見ていた。
あんぐり口を開け、自分が聞いている言葉を信じまいとしている顔だ。

年配の男の禿げた額にひとつ、弾丸の射入口ができていた。
壁に大脳皮質を飛び散らせ、癌ではなく鉛玉によってあの世へ送られた男がだらりと椅子から崩れ落ちた。

真莉愛はもうもうと砂塵を舞い上げて走るバイクを頭に思い浮かべた。
それほど遠くにいるとは思えない。
ジープのギアをバックに入れ、駐車場の坂道を離れる。
ギアをドライブに入れた真莉愛はアクセルペダルを踏みながらつぶやいた。
「必ず見つけるよ…かえでぃー」

8名無し募集中。。。:2017/08/21(月) 22:24:37
まーちゃんとまりあの小説の人かな?

くっころくっころ

9名無し募集中。。。:2017/08/23(水) 07:50:11
また楽しみが増えた

10名無し募集中。。。:2017/08/23(水) 13:37:09
更新お待ちしています

11名無し募集中。。。:2017/08/27(日) 13:36:36
ふたりを乗せたバイクは山の斜面を登る急勾配のつづら折りを突き進んでいた。
鬱蒼とした松林を見ながら尾根に沿ってひた走る。

平原が見えてきた。昇りはじめた曙光に目を奪われる。
赤く、やがてオレンジ色に照らされ、茶系の色調の目録のように染め分けられていく。
荘厳な風景に楓はバイクを停めて、玲奈を振り返った。

「きれいだね」「うん」
玲奈は疲れた顔で、髪は乱れていたが背中に感じるその身体は柔らかく温かかった。
楓はまたアクセルグリップをまわしてもっと先を目指す。

やがて路傍の林が藪に変わり、次いで草地に変わって湖のほとりに出た。
あまり湖らしい湖ではない。
大きな楕円形の水溜まりがもっと大きな平原の真ん中にどんと置かれたような感じだ。

それでもやはり湖ではある。
身体も服も臭いはじめている。ふたりは洗濯と水浴びのために湖畔から汀にバイクを走らせた。

ふたりとも素っ裸になるのは危険なので先に玲奈が服を脱ぎ捨てた。
じゃばじゃばと水を浴びる玲奈を見ながら、楓は服を洗ってやった。

服を干した楓が顔を上げて、玲奈の視線に気づく。
「かえでーも脱いでよ。一緒に水遊びしようよ、ね?」
「危ないから」楓が言う。
「誰もいないし、来ないよ。ほらあ」
「危ないから」楓が繰り返す。

「じゃあ、ご自由に」玲奈がけらけらと笑いながら楓を引っ張って水に引き入れた。
「わあ」服を着たまま水に転げた楓は浮かんでこない。

「…かえでー?…」
近寄った玲奈が楓に足をすくわれて尻餅をついた。
「…やったなあ!」「そっちこそ!」
手と足を使って、ばしゃばしゃと飛沫を相手に浴びせる。
楓は服を脱ぎながら、湖面に小さな白波を立て、玲奈を抱き寄せた。

ふたりの顔は、唇が触れ合いそうなほど近づく。
玲奈は楓の手を取って胸の膨らみにあてがった。
楓が上体を屈めてそっと唇を重ねると、玲奈は楓の背中を、尻を、脚を撫でさすった。

12名無し募集中。。。:2017/08/27(日) 14:01:33
くっころくっころ

13名無し募集中。。。:2017/08/27(日) 15:26:22
眠気を誘う夏の空には綿のような雲が浮かんでいる。
洗濯した服が乾くのを待ちながら、楓はバイクのエンジンのボルトを点検した。

ふと視線を上げると、バックミラーに映った自分の顔にある傷痕が目に入った。
顔の左頬にある突っ張って半透明になった皮膚。

逃亡者になったときに負った不快な爪痕だ。
傷は――玲奈には正直に打ち明けていないが――まだ痛み、楓を絶えず責めた。
大勢が死んだのに、おまえだけは生き残った、と。

数時間の睡眠をむさぼっていた玲奈がもぞもぞと現に戻った。
そよ風が松葉を揺らしている。
玲奈は楓に歩み寄った。

「これからどこに行くの?」
本気で訊きたいわけではなく、ただの好奇心で玲奈は訊いた。
本気でなくて幸い。
楓は「さあ」と答える。

楓にもあてはないのだ。ただバイクを走らせること以外、何も心づもりはない。
口には出さなかったが、玲奈と一緒にいることを楽しんでいるだけだ。

眠りから覚めたばかりの玲奈は機嫌が悪い。
見たくもない映像がまぶたに焼きついている。
それは楓にも理解できる。この世界で生きている人間はみんな、似たような映像がまぶたにたくさん焼きついているからだ。

ふたりで湖のほとりを散策した。
窪地に立つ古い農家が見つかった。壊れ果てた鶏舎らしき小屋の跡もある。
「食糧はまだあるから、しばらくここにいようか」
楓が提案する。妥当な策だろう。玲奈は承諾してうなずいた。

何日か過ぎたある晩、楓と玲奈は小屋の中に横たわって、コオロギの鳴き声と、お互いの息づかいに耳を澄ましていた。
細長い銀色の月が出ている。

ふたりの生活は心地よい日課の枠に収まってきた。
自分たちがどれほど疲れ、すり減っていたか、まったく自覚がなかったが、
気の向くままに食べ、眠り、散歩する暮らしは楽しかった。

遠くに野犬の群れが長短さまざまに咆哮していた。
同時に何かが咳きこむようなエンジン音が近づいてくる。
まっすぐ坂道を下ってくるジープに、楓も玲奈も気がつかなかった。

14名無し募集中。。。:2017/08/27(日) 16:03:04
ラブシーンは長めで頼む

15名無し募集中。。。:2017/08/27(日) 16:57:09
ブラシーン?

16名無し募集中。。。:2017/08/27(日) 17:27:55
真莉愛はタオルで両手を拭い、汚い布に真っ赤な筋を残した。
男がうつ伏せに倒れて目を見開いている。
真莉愛にいきなりナイフで切りつけられた瞬間に浮かべていた表情のままだ。

ぱっくり開いた傷から流れ出た血が黒く溜まっている。
生気を失った目には脂ぎった蝿が寄ってきて、卵を産みつける場所を取り合っていた。

男たちは3人組だった。密売を生業にしている図に乗った若者たちだ。
そうした組織の底辺に属する人間の多くが陥る過ちだった。
親玉が尊敬を得ていることを理由に、手下である自分たちも尊敬されて当然と思い違いをしている。

真莉愛はその密売組織の名を耳にしたこともなかった。
だが、若者たちはそれさえ口にすれば相手を震え上がらせることができると確信しているようだった。

おとなしくしろと、真莉愛に向かって若者たちがその名をわめいたとき、
真莉愛はただ笑ってリーダーらしき男の喉を切り裂いた。
あとのふたりは1秒もかからず撃ち殺された。

ナイフの刃が鈍っている。安物はたやすく研げ、たやすく鈍った。
ジープの助手席に座りこんだ真莉愛は平らな砂岩でナイフを研ぎ直した。

地面から揺らめく熱気が血の臭気を運んでくる。
ナイフで指先を切ってしまい、血がにじんだ。
真莉愛はダッシュボードを開けてごそごそと引っかきまわした。

少し探すと絆創膏が見つかった。
白い毛に黒い鼻のご機嫌な笑みを浮かべた犬のマンガが描かれている。
このキャラクターの名前は何だったっけ?
真莉愛は子ども用の絆創膏を丁寧に指先に貼った。

真莉愛は転がっている死体を一顧だにせず、役に立ちそうな荷物をぞんざいにジープの後ろに放り投げた。
真莉愛は深く息を吸い、考えをまとめようとした。

追跡を開始してから、ろくすっぽ寝ていない。
ぐっすり眠るのは死んでからでもできちゃいまりあ。
真莉愛は自分を励ましながらジープに乗りこんだ。「どこなの…かえでぃー」

17名無し募集中。。。:2017/09/02(土) 23:17:25
更新を超待ってる

18名無し募集中。。。:2017/09/03(日) 00:45:24
くっころくっころ

19名無し募集中。。。:2017/09/06(水) 07:25:48
続きが気になるところ
引き込まれる文章がすごいね
更新待ってるよ

20名無し募集中。。。:2017/09/13(水) 14:17:58
おお!こんな素敵なスレがあったなんて!もしかしてサバゲースレの続きなのかな?

加賀楓「サバゲーがしたい」
http://matsuri.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1495541504/

続きが気になる!

21名無し募集中。。。:2017/09/14(木) 13:55:52
覚えていてくれる人がいたなんてうれしいです
そうですサバゲースレのものをちょっと練り直したSSです

22名無し募集中。。。:2017/09/14(木) 14:50:03
おお!やはり…凄く良いところでスレ落ちたから続きが気になってたんだよねぇまた読むこと出来て嬉しいです

それにしても…初めれいなに対して冷めた態度だったかえでぃーがどういった経緯でこんなデレデレになったのか?w

23名無し募集中。。。:2017/09/14(木) 23:35:00
更新お待ちしています

24名無し募集中。。。:2017/09/17(日) 15:29:16
周囲が暗くなってきたころ、楓は小屋の裏の戸口に立って尾根を見上げた。
西から嵐が近づいていて、楓は遠くで鳴り響く雷鳴が気がかりになってきた。

玲奈が裏手から出てきて、楓の傍らに立った。
「強い風が吹きそう」玲奈は言った。
ふたりが話をしている間に、風が吹きはじめ雨の気配が強まってきた。

やがて夜になり、楓と玲奈は小屋の中に入って雨に濡れることなく快適に過ごしていた。
どちらも毛布に身体を包んで横になっている。
闇の中に横たわって耳を澄ましていると、雷鳴と小屋を揺さぶる風の音が聞こえた。
ときおり稲妻が光ったが、危険なほど近いようには思えなかった。

楓は玲奈の温かなうなじに向かって低くささやく。
玲奈は自分の身体が楓の両腕に包まれ、強く引き寄せられるのを感じた。

楓が玲奈の乳首を優しく撫ではじめると、玲奈はそこが固くなり心地よさのうねりが湧き起こるのを感じた。
首筋から下りてきた楓の口が乳房を舐める。
玲奈は楓の口の中で自分の身体の芯が柔らかく開花していくのが分かった。

楓が手を伸ばし下着の布地越しに触れる。
まさぐり、指をこじ入れ、花芯に触れると玲奈の口からあえぎと小さな叫びが洩れた。

ぬかるみに指を埋めながら、楓は口をもっと下へと滑らせる。
傷を癒やすかのように優しく花弁を舐めて蜜を吸う。

玲奈の背中が弓なりに反って、楓の片手を強く握った。
撫でられた蕾が膨らんで固くなるのを感じる。
そのまま快感の頂上へと運ばれて、玲奈は熱い湿りに陶然と浸った。

玲奈の鼻の下に玉の汗が浮かび、楓はそれを舌ですくう。
玲奈の律動が伝わってきた。

楓は上になったまま、玲奈の瞳を見下ろした。
そんな楓を玲奈はじっと眺める。
身体を起こして楓の口を吸った瞬間、冷たい声が小屋の中の空気を切り裂いた。

「そこまでにしなさい。その口を吸っていいのはまりあだけなんだから」
稲妻がひらめき、ずぶ濡れになった人影が一瞬の光の中に浮かび上がる。
真莉愛は顔に垂れかかってきた濡れ髪をかき上げた。

25名無し募集中。。。:2017/09/17(日) 17:02:58
楓は置いてある拳銃に手を伸ばそうかと考えて、利き手の指を曲げた。
だが稲光で真莉愛のホルスターのフラップが外されているのが目に入る。
仕方ない。相手の出方を見るしかない。

「かえでぃーもよこやんも…動かないでね」
「…動けないよ」玲奈は答えた。
そんなことをするものか。真莉愛がいるだけで怖いのだ。
拳銃を見る必要などさらさらない。

「でもさ、いつまでくっついてるつもり?」真莉愛は理屈とは矛盾する文句を言った。
楓は思いきって拳銃に手を伸ばした。
だが、その手が届きもしないうちに真莉愛は蜘蛛のように素早く移動し、楓の頭に拳銃を押し当てた。

玲奈が悲鳴を上げる。
「バカな真似はしないでね」と真莉愛。引き金が引かれた。
ふたたび、玲奈が泣き叫んだ。乾いた金属音。

「…悪ふざけはよして…」楓の両膝から力が抜けて水のようになった。
心臓は早鐘を打ち、身体が熱い。息をするのも苦しくなる。

「次の薬室は空じゃないからね、かえでぃー」
一瞬の沈黙があり、楓がサンドペーパーのようにざらついた声で答えた。「…分かった」

脱けるときは死ぬとき、という古い掟はただの脅し文句だ。
脱けようと思えば脱けられる。ただし、それなりに面倒な手続きが要る。
背を向けてすたすた歩き去るわけにはいかない。
周到に準備を整えないと、危険な疑惑を招くことになる。

「まあまあ、ふたりとも落ち着いて」真莉愛が調子を変えて明るく告げた。
落ち着けるはずもないが、楓も玲奈も反論できない。
「まりあは味方だよ」
「そうかな…」とても信じられない気分だった。
真莉愛は拳銃をホルスターに戻し、その銃床に手の付け根をかけた。

「でもね、かえでぃー。あなた“指定居留地”を勝手に離れたんだよ。
まずはまりあに断りを入れてほしかったなあ」
「そうすれば離れるのを許可したの?」
「しかるべき心構えが必要でしょ、誰だって」真莉愛はにやっと笑って、しゃんと背筋を伸ばした。

数秒後、真莉愛は力任せに楓を抱き締める。
「ごめんちゃいまりあ、よこやん、ちょっと退いてくれる?」
濡れた服を脱ぎ、首を振って髪を整えると靴を蹴って脱いだ。
毛布の下にもぐりこんで言う。
「足が冷たいの。かえでぃー、温めて?」

26名無し募集中。。。:2017/09/17(日) 18:00:46
くっ…くっころくっころ!!!

27名無し募集中。。。:2017/09/17(日) 18:23:09
更新キタ━━━(゚∀゚)━━━ !!

28名無し募集中。。。:2017/09/17(日) 19:44:08
見ていられなかった。
玲奈は戸を蹴破ろうかとも思ったが、自制して壁にこぶしを打ちつけて外に出る。

楓は真莉愛から身体を離そうとするが、絡めた両脚に力をこめて真莉愛が引き留める。
言うべき言葉が見つからない。
玲奈は戸をばたんと閉めた。

玲奈は怒っていた。楓が逆戻りしてしまうことに憤りと恐れを感じている。
過去に巣食う悪鬼の群れをねじ伏せて、少しずつそこから遠ざかってきたのに。

どいつもこいつも好きにしろ、というのが目下の玲奈の気分だった。
それに、こぶしが痛い。
雷鳴がとどろく。冷たい雨が顔を打つのを感じながら玲奈は泣いた。

そのとき、楓が小屋から飛び出してきた。
玲奈を見つけて抱き締める。玲奈も強くしがみついた。
その抱擁が解けたとき、玲奈は訊いた。「牧野さんは?どうしたの?」

真莉愛は毛布を鼻先まで引っ張り上げてすやすやと眠りに落ちている。
玲奈がほのかな敵意を示したことで、楓は気まずさを覚えた。
玲奈は楓に目を向け、眉を上げて深く息をつく。

楓ははっとする。玲奈が拳銃を握る手に力を入れていた。
楓が首を振って玲奈の手首をつかんで言う。
「それは必要ない。そうでしょ?」

玲奈は虚を突かれたらしく、しばらくしてから厭わしげな表情を浮かべた。
「殺すつもりなんかないよ」
そしてひどく真剣な面持ちでぽつりと言った。
「信じるしかないか…」

楓は玲奈の顎を支えて自分に向け、そっと唇を重ねた。
厄介なことになった。選り好みできる立場にはない。
こちらの側につくか、敵に回るか。
敵に回るとなると真莉愛は危険すぎる。

水を裂く鮫のように無慈悲な女の寝姿を眺めながら、楓の口から出たのは陳腐で間の抜けた台詞だった。
「心配ないよ」

29名無し募集中。。。:2017/09/17(日) 21:52:14
真莉愛は夢を見ていた。
子どものころ、耳に馴染んだ声。幼い真莉愛が見上げると父親と母親が微笑んでいる。
そこへ巨大な禿鷹が舞い降りてくる。やがて悲鳴が、そして銃声が聞こえてきた。

夢の中の真莉愛は深く身をこごめ、手で耳をふさいで、おぞましい音を遮断する。
父親と母親の血が優しい雨のように手の甲に横面に背中に降り注いだ。

血を吸った土にひざまずく真莉愛を何本もの銃剣が取り囲む。
真莉愛は口を開け、叫び声を上げようとするが髪をつかまれ腹這いにさせられた。
息ができない。やがて、股の間に何かが荒々しく突っこまれる。
気の狂いそうな痛みが走った…。

「いやあああっっ!!!!」
飛び起きた真莉愛は涙を流していた。
眼帯をしていない目があからさまな憎悪に燃えたぎっている。

当惑した視線が自分に向けられているのが分かった。玲奈だった。
「だ…大丈夫…ですか?」
真莉愛の口元に歪んだ微笑みが浮かんだのを見て、玲奈は不安に襲われた。

すぐに真莉愛は愛想のいい慇懃な笑顔になる。
「まりあ、寝ちゃったんだ…。ねえ、かえでぃーは?どこ?」真莉愛は手間を省いていきなり尋ねた。

「ここにいるよ」楓は微塵も敵愾心を示さず小屋の中に入ってきた。
縁の欠けたマグカップを真莉愛の横に置く。
何度も使われたティーバッグが浸されていた。

カップを持ち上げて、一口飲む。熱くて美味しい。
そんな真莉愛を、楓も玲奈も張りつめた目で見ていた。
たったひとつの重要な質問を投げかけるために。「わたしたちを殺す気はないのよね?」

「まあ、とりあえずは」真莉愛が朗報を告げる。
カップの湯気が揺れた。「まりあに撃たせないでよ、かえでぃー」
そんなことになったら悲しすぎる。

ようやく東の空に曙光が射してきた。
真莉愛は乱れていた脳の配線が修復されるのを感じ取った。
脳裏にうっすらと残る悪夢を振り払うように歯を噛み締めた。

30名無し募集中。。。:2017/09/18(月) 01:47:00
更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!!
すっごいおもしろい

31名無し募集中。。。:2017/09/18(月) 11:42:37
楓と玲奈の暮らしに真莉愛が闖入してきた翌日、玲奈は朝日を顔に浴びて目を覚ました。
頭がずっしりと重いが、一瞬のうちに深い眠りから覚醒へ移行し、横になったまま顔の向きを変えた。

真莉愛がうつ伏せに寝ている。やはり夢などではなかったのだ。
小さな木造家屋は、しばらく逗留する客を泊める“ゲストハウス”になったらしい。
もちろん自分たちも勝手に寝泊まりしているだけなのだが。

真莉愛は軽薄に見えるが、実際はとても頭脳明晰だ。
そして…極めて腕のいい殺し屋でもある。
楓とは古い仲間らしい。自分が楓と知り合う以前からの。
奇妙な話だが、真莉愛がつき合う相手に忍耐力の大切さを教えてくれる存在であることは間違いない。

玲奈は足音を忍ばせて、真莉愛を起こさないよう外へ出る。
洗面器に水を注いで顔を洗い、タオルで拭いていると真後ろに真莉愛が立っていた。
思わず玲奈は表情をこわばらせて身構えた。

真莉愛は玲奈に近づき、その目をじっと見つめた。
「よこやん、真莉愛は敵じゃないよ」
真莉愛は玲奈の反応を読み取るように、さらに顔を近づけた。

玲奈は次の言葉を待った。
楓は道の東側へ見張りに出かけている。玲奈は目の前に獰猛な野獣がいるかのように落ち着かなかった。

そんな玲奈の様子がおかしかったのか、真莉愛は不意に自分自身を遠くから眺めているような愉快な気分になった。
少し考えてから言葉を継いだ。「そんなにおびえないで」

屈みこみ、玲奈の口にキスをする。
探るようなまなざしでじっと玲奈を見据えた。
玲奈の肩に手を置く。玲奈が抗わないのを確認すると覆い被さるように、またキスをした。

玲奈は完全に面食らっていた。
数秒後、やっと真莉愛の肩をつかみ、顔が見える位置まで押し戻した。
動揺を隠しきれない表情をしている。

真莉愛は小屋を示すように顎をしゃくった。
「ずっと前から、よこやんはどんな味だろうって思ってたんだ」
愛嬌のある明るい微笑がその顔に浮かぶ。

玲奈は返す言葉が見つからず、ただうなずいた。
頬を優しく撫でる真莉愛の指をそっと口に含む。
心臓が破れそうなほど激しく打った。

32名無し募集中。。。:2017/09/18(月) 12:08:36
くっころくっころ

33名無し募集中。。。:2017/09/18(月) 12:44:37
またきたああああ
おもしれええええ

34名無し募集中。。。:2017/09/18(月) 16:47:32
楓は首を伸ばして周囲を見ていた。
短い山道を歩きながら、身に迫る危険がないか警戒を怠らない。

長い戦争に侵されて荒廃したこの国は、そうなる前は先進国だったらしい。
スイッチを入れるだけで明るくなり、熱い湯が出るシャワーがあり、
旅をする1週間分の食料より量があるくらいたっぷり出される食事。
もちろん楓が生まれる以前の話で、昔話としてしか知らない。

戦争を生き延びた人々はそれなりに勤勉に働いたが、これまでのところあまり報われていない。
楓は田園地帯だったところを見下ろす。
こうして見ると実に平和で、のどかな風景だ。
しかし、そこが殺戮の野でもあることを楓は知っている。

戦後に組織された民兵隊が激しい殺し合いを開始した。
農民が、労働者が、学生が、聖職者が次々と姿を消し、しばらくすると道端に死体で投げ捨てられた。

対抗するゲリラも天使のように戦ったわけではない。
悪逆非道ぶりはどちらも同じだ。
国土は大きな共同墓地に変わってしまった。

というようなわけで、楓は秘密警察に勤めることになる。
秘密警察。なんとまあ笑える形容矛盾だろうか。
この国の秘密警察が抱えているのは、どうしたらこんなに目立つのかという秘密だけだ。

こういう社会での秘密警察の役割は、紛れこむことではなく目立つことだった。
この時代は頻繁に人が姿を消す。ぷっつりと行方を絶つ。
そのことを質問すると、その人間も姿を消すことになる。

その無数の暴力沙汰が嫌になって飛び出してきた。
辞表を出してさよなら、という稼業ではない。
死ぬまで追われるだろう。現実に真莉愛に見つかった。

そうだ、真莉愛だ。
何が目的なのか、ちゃんと向き合う必要がある。
楓は両脇の拳銃を降り動かしながら、敏速かつしなやかな足取りで小屋へと走っていった。

35名無し募集中。。。:2017/09/19(火) 00:40:27
おつおつ
すっごい楽しみだぜ

36名無し募集中。。。:2017/09/19(火) 11:01:11
「びっくりさせた?」真莉愛は脱ぎ散らかした服を身につけながら玲奈に訊いた。
玲奈は肩をすくめた。非常識なことをしてしまったという気持ちはあったが急に興奮が高まったのは事実だった。
真莉愛にキスをされた瞬間、後頭部の毛が逆立つような感覚があった。

「…ごめんちゃいまりあ」真莉愛は視線を落とした。
「さっきのことは忘れてね」よく考えないで衝動に身を任せたことをお互いに理解している。
真莉愛と玲奈は顔を見合わせた。楓が気にするとも思えないが、秘密にしておこう。
滑稽な状況に狼狽えながら玲奈は急いで服を着た。

真莉愛が戸を開けて外へ出ていき、玲奈はぽつんと取り残された。
真莉愛にとってはただの気晴らしだろう。
そう考えると不思議と胸がちくりと痛んだが、実は真莉愛に噛まれた乳首が痛いだけだった。

楓の優しい愛撫とはまるで違った。
真莉愛の股間に顔を押しつけていた間も、真莉愛が玲奈の首の後ろをしっかり押さえていた。
真莉愛が腰を浮かせて動いている最中などはほとんど息ができないくらいだった。

乱暴ではあったが快感はあった。
玲奈自身も経験がないほど我を忘れる瞬間もあった。

真莉愛が冷酷な殺し屋だということはよく分かっている。
目を背けたくなるほど残酷なことを眉ひとつ動かさず実行する場面を何度も見た。

そんな恐ろしい存在だったはずだが、なぜか惹かれている。
悪魔に魅せられているようなものかもしれない。
口に残る真莉愛の肌の感触に玲奈は身震いした。

戸を開けて楓が入ってきた。「まりあは?」
気詰まりな空気にならないよう、玲奈は大きな声で言った。
「知らない。起きてからふらふら出ていったよ」

37名無し募集中。。。:2017/09/19(火) 12:24:32
もっとやれ

38名無し募集中。。。:2017/09/19(火) 13:09:11
くっころ!くっころ!!!

39名無し募集中。。。:2017/09/19(火) 22:21:45
真莉愛はすぐに見つかった。
ジープのボンネットをテーブル代わりにしてお茶を飲んでいる。
何か考えこんでいる様子で下唇を噛んでいた。

不用意に近づくと蜂の巣にされてもおかしくない。
大声で呼びかけてから、楓は両手を上げた。
“攻撃するつもりはありません”。世界中で通じるジェスチャーだ。

真莉愛は晴れやかとすら言えそうな視線を楓に向けた。
「まだ信じてないのね。殺さないって言ったでしょ」
真莉愛は笑った。楓は面白がっていなかった。

真莉愛が親指を立てて指さす。
楓たちのバイクを怪訝そうに眺め、そのおもちゃみたいなバイクで旅をするのは考えものだとつけ加えた。

楓は注意深く見守りながらも、少し気持ちが和らいだ。
「これからどうするの?」と楓は尋ねた。
優秀な“ハンター”が振り返って楓を見た。

事態の深刻さを分からせようと、真莉愛は楓をまっすぐ見据える。
「連れ戻す」真莉愛の声は冷たかった。

「拒んだら?」楓も身を硬くして怒った表情で訊いた。
「嫌なら膝を撃ち抜いて置き去りにするだけよ」
穏やかな、親しみすら帯びた声で真莉愛が答える。

真莉愛は突然、軽い咳のような短い笑い声を洩らした。
「かえでぃーはそんな脅しで思いとどまる人じゃないよね」

真莉愛はため息をつき、話を続けた。
「“大臣”の娘を誘拐するなんて狂ったことをやってのけたんだから」
楓は平静を装って答えた。「誘拐だなんて失礼な」

「手助けを頼めるほど心を許していた相手はかえでぃーだけだった…」真莉愛は言葉を切った。
「命がけよね、本気の恋は」

40名無し募集中。。。:2017/09/20(水) 07:45:44
まさかのトライアングルラブアフェアーなのかしら…

41名無し募集中。。。:2017/09/21(木) 18:08:55
映画化希望


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