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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

1 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/02(土) 12:22:52
ずっと前にマーサー王や仮面ライダーイクタを書いてた者です。
マーサー王物語の数年後の世界が書きたくなったのでスレを立てました。

2007年ごろに書いた前作もリンク先に掲載しますが、
前作を知らなくても問題ないように書くつもりです。

SSログ置き場
http://jp.bloguru.com/masaoikuta/238553/top

618 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/22(木) 08:22:45
「オダか……!!」

サユは何もないところから攻撃されたのではない。
非常に見え難くなっていたオダに、開始時刻きっかりに斬られたのである。
ではこんな開けた場所のどこにオダは隠れていたというのか?
その答えに、サユは辿り着いていた。

「太陽の光に隠れてたってこと?その剣を使って。」
「ご名答です。」

右ももを抑えながら苦痛の顔をするサユにオダは追撃を仕掛けなかった。
攻めと退きのタイミングを見極めることで、確実に王を仕留めるつもりなのだろう。
このようなヒットアンドアウェイを可能にするのがオダのブロードソード「レフ」だ。

「その鏡のような剣で光を屈折させることで、外から見え難くさせてる……ってところかしら。」

この訓練場の天井は、クマイチャンの必殺技によって大きな穴が開けられている。
つまり、オダの好む太陽光が直に注がれているのだ。
しかもあらゆる瓦礫が滅茶苦茶に散らばっていることから、
通常の人間では把握できないレベルで乱反射している。
これら全ての光を把握し、しかも自在に操ることのできる者は
光の当たり方を極めたプロであるオダ以外には数名しか存在しないだろう。

「オダ、あなたは正統派と聞いていたんだけど?」

溢れる血を無理矢理に抑え込んだ結果、手が真っ赤に染まったサユは
なんとかペースを掴もうとしてオダに質問する。
だが覚悟を決めてきたオダはその程度では流されなかった。

「黙っていてすいませんでした。 だって私は天気組団の……」

天気組団は全員が一つずつの天気に対応した戦い方を得意としている。
雨の剣士ハルナンは敵の肉を削ぐことで血の雨を降らせる。
雪の剣士アユミンは地面を慣らして敵を滑りやすくする。
曇の剣士マーチャンは火煙を起こして一酸化炭素中毒を狙う。
雷の剣士ハルは雷速の如き猛攻を得意とし、感情という名の電気信号も操る。
そしてオダは……

「晴の剣士、ですから。」

そう言うとオダはまた光の中にすうっと消えていった。
また見え難い位置からサユを攻撃するつもりなのだろう。
このような戦い方をするオダに対して、ハルはつい声を荒げてしまう。

「オダちゃんズルいぞ!光に隠れるのはともかく、不意打ちで王に切り掛かるなんて……」

確かにハルの言う通り、オダの初撃は卑怯ととられても仕方のないものだった。
決闘前から姿を見せずにいきなり喰らわす攻撃は、口が裂けても正々堂々とは言えない。
ところが、普段はオダに対してキツく当たるアユミン・トルベント・トランワライは
今回の戦法に理解を示していた。

「やめなよハル。」
「アユミン!お前は何も思わないのかよ!」
「オダは自分が卑怯だってことを全部理解している。そういうヤツだよ。
 凄いのは恥だと理解した上で実行しちゃうところなんだ。
 私は負けたくない一心でエリポンさんとサヤシさんから逃げたことがあるけど
 あれはとても恥ずかしかった……本当に辛かった。」
「アユミン……」
「なのにオダはすました顔をしながらあんな事を平気でしてる。本当にムカつくヤツだよ……」

アユミンの言葉に、隣で座っていたマーチャンも続けていく。

「オダベチカは卑怯じゃないよ。」
((オダベチカってなんだ……?))
「だってミチョシゲさんすっごく強いもん。だからオダベチカが何をやっても卑怯じゃないよ。」

619名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 08:32:50
ここにきてオダベチカw
もしかしてハルナンはオダの「晴れ」の能力も計算して訓練場を選んだんじゃないかと疑いたくなるなw
本当は観客席から目くらましとかの援護させる予定だったとか…

620名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 09:18:37
朝から更新キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
続きwktk

621 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/22(木) 19:45:18
オダが光に隠れたということは、またすぐにでも仕掛けてくるはず。
ところが狙われる側のサユはその場から動かなかった。
何か策でもあるのかと一同は思ったが、苦悶の表情がそれを物語ってはいない。
サユ王は動けないんだ、と皆が理解した。

「嘘じゃろ?……たった一撃もらっただけなのに……」

サユがこれまでに受けたのは右ももに受けた初撃のみ。
だというのに彼女はそこから動けなくなるほどに苦しんでいる。
いくらブランクが有るとは言っても、完全な棒立ちになるのはあまりに酷い。
仕掛け人のオダもコトがうまく運び過ぎているので少し不審に思ったが、
サユ王が歯を強く食いしばりながら耐えているのを見て、好機は本物であることを悟りだす。

(よく分からないけどこれは二度とないチャンス。
 ここで攻めきれなければ絶対に後悔する!)

オダは急ぎながらも、且つ物音を立てぬようゆっくりとサユに接近していく。
光の強く当たる部分を縫うように突き進み、
少し手を伸ばせば敵を切れるところにまで到達した。

(勝てる!私は王に勝てるんだ!)

オダは、自分が帝国一の剣士になったのかもしれないと思った。
まさに有頂天だった。
凶刃が目の前にまで突き出されるまでは。

「キャッ!?」

たった一瞬。まばたき一つくらいの隙を突いて
サユのレイピアはオダの眼球を貫こうと飛び出していた。
見えているわけのない相手からの攻撃に反応できるはずもなく
オダはその場に突っ立ったまま、回避行動をとれなかった。
しかし何か様子がおかしい。
あんなに勢いよく放たれた刃が、オダの目に当たる直前で停止していたのである。
脅しにしては鋭すぎた斬撃に、オダは何が何なのか分からなくなってしまう。
そして、その斬撃を放ったはずのサユを見て、オダは更に混乱していく。

「あなたは大人しくしてなさいよ……」
「!?」

混乱の原因は、右手のレイピアではない方の剣。
つまりは左手に握られたマンゴーシュの行き先にあった。

「え?そんな、サユ王……いったい何をしてるんですか」
「大人しくしてなさいって言ってるでしょ!!」
「ヒィッ!」

なんとサユは、左手のマンゴーシュで自身の右腕を刺していたのだ。
これでオダの目を貫く寸前で刃が止まった理由は分かった。
自身を痛めつけることでオダへの攻撃を強制的に止めたというワケである。
だが、こんな異常行動をとる理由まではまったくもって分からない。
オダだけでなく、他の帝国剣士らもパニックに陥ってしまう。

「なんだなんだ、サユは帝国剣士たちに秘密を打ち明けていないのか。」

辺りをキョロキョロ見回しながら呟いたのはマイミだった。
マイミに並んで、マーサー王とマノエリナも冷静な顔をしている。

「そりゃそうだとゆいたい。
 身体の中に化け物を飼っていることを知られたくない気持ちは、痛いほどよく分かる。」

622名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 21:01:16
王になったらアレを使わずに戦う方法を身につけてるかと思ったが…そうもいかないか

623名無し募集中。。。:2015/10/22(木) 21:18:34
サユは愚直で不器用で変態だからなぁ〜

624 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/23(金) 08:41:32
サユの秘密。
それは多重人格者であることだった。
彼女の器の中には「マリコ」という人格が同居していて、
数年前からはそのマリコとも対話できるようになっていたのだ。
しかしこのマリコ、非常に幼稚な性格をしており
気に入らないものを捻り潰すまで暴れることも珍しくはない。
美しく戦うことを信条とするサユとはまったくの大違い。
共通点といえば自分を好きなことだけ。
そのためサユはマリコを外に出さぬよう常に尽力していたのだ。
今もこうしてサユとマリコとで自問自答をしている。

(マリコ!大人しくしなさいってば!)
『やなの!やなの!あいつ生意気だから〆てやるの!』
(あなたが出たら本当に殺しちゃうでしょ……)
『それの何がダメなの?あいつはマリコの脚を斬ったの。万死なの。』
(帝国剣士は私の可愛い後輩たちなのよ。それを傷つけるなら例え自分でも許さない!)
『うるさいの。さっさと肉体よこせなの。』
(そっちがその気ならこっちにだって手が有るわ。)
『なんなの?』
(あなたがオダの命を奪ったら、私は自害する。)
『え?……』
(マリコ、あなたの活動時間はそう長くはないはずよ。
 肉体が私に返ってきたらすぐに心臓に刃を入れてやるわ。)
『なんでなの!?そんなことしたらマリコもサユも消えちゃうの!
 頭がおかしくなっちゃったの!?』
(嫌なら大人しく眠ってなさい。少なくともあの子たちの決闘が終わるまではね。)
『むぅ……最近表に出てないから暴れ足りないの。』
(それなら安心して。きっと大暴れできる日は近いはずよ。)
『そうなの?』
(もうすぐで帝王のお仕事はおしまい。そしたらエリチンやレイニャ達と毎日遊びましょう。
 だからちょっとの間だけ我慢して。)

ふぅ、と息を吐いてサユは腕に刺さったマンゴーシュを抜いていった。
かなりの損傷だというのに、今の彼女はもう苦悶していない。
とても晴れやかな表情をしている。

「失礼。それじゃ続きを始めましょう。」

凶悪な感じがすべて抜け切ったはずのサユだったが
オダはそんな彼女を見て、さっき以上に恐怖を感じてしまう。
そしてそれはオダだけではなく、他の帝国剣士たちも同様だった。

「サユ王の身体から……光が出てる……」

625名無し募集中。。。:2015/10/23(金) 09:24:09
マリコと対話出来るようになったって…かなり凄い事だと思う
サユ王は光のオーラなのかな?

626名無し募集中。。。:2015/10/23(金) 19:49:39
更新頻度が高いから続き読むのが益々楽しみ

627 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/23(金) 21:25:49
サユから発せられる光は、後光と言ったレベルを遥かに凌駕していた。
明らかにサユの身体そのものが発光しているのだ。
人体がこうもまばゆく輝くことなんて本来ありえないため、
それがサユの放つプレッシャーが具現化したものだということは、すぐに分かった。

「凄いっちゃん……食卓の騎士に全然負けとらん……」

普段サユは、力の半分をマリコを抑え込むために費やしている。
つまり、マリコを説得して引っ込めた時だけは全力を発揮できるようになるのだ。
その時やっと、王は歴戦の戦士として相応しいオーラを纏っていく。

「オダ、どうせなら万全な私と戦いたかったでしょ?」
「……!」

より強い者を倒したいという思いは確かにオダも持っていたが
ここまでクッキリと視認できる形で威圧されたら敵わない。
しかもサユが見せるビジョンはよりにもよって「光」。
太陽光と複雑に入り混ざって、どれが本物の光なのか分かりにくくなっていた。

(でも!私には分かる!)

オダはブロードソードをぎゅっと握り直し、改めてサユに斬りかかった。
そして長年の経験を元にサユの光と太陽光を区別し、
本物の光だけをブロードソード「レフ」で反射させた。
とは言っても此の期に及んで光の下に隠れようとは思っていない。
狙いは「モーニングラボ」でマーチャンを撃破した時にやってみせた「回避不可能の一撃」だ。
あの時は真っ暗な室内で、炎の灯りをマーチャンの目に反射させることで目を潰したが
今回は本当の太陽光をサユの目に送り込もうとしているのだ。
いくらサユが光を纏う戦士だとしても、日光を目で受けて平気でいられる訳がない。
眩しさで苦しむうちに攻撃を仕掛ければ、サユは回避できずに斬られるはずだ。

(王が格上なのは認めるけど、この勝負だけは私が勝つ!)

この状況でも冷静さを保っていられたオダは、見事にサユの方へと光を飛ばすことが出来た。
残りは目の潰れたサユをゆっくり斬るだけで終わりのはずだった。
しかし、全力を取り戻したサユにはそれすらも通用しなかった。
右手のレイピアをピッと上げて、オダの放った光をどこかにはね返しててしまう。

「えっ!?」

あっさりと容易く対処したサユをみて、オダは信じられないといった顔をする。
サユのとった行動が超のつくほどの高等技術であることを彼女は知っていたのだ。
留まる光を反射するならともかく、飛んできた光を返したのだからその腕前は人間離れしている。

「残念だけど、鏡と光の扱いに関しては年期が違うのよね。」

ショックで一瞬止まったオダに対して反撃するため、サユは一歩踏み込んだ。
そして鏡のように綺麗なレイピアをオダの左ももに突き刺し、こう言ってのける。

「これが私の必殺技。 ヘビーロード"派生・レイ(一筋)"。」

628 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/23(金) 21:26:39
最近の更新頻度をどこまで保てるかは分かりませんが……w
とにかく、やれるだけはやってみます。

629名無し募集中。。。:2015/10/23(金) 21:40:28
戦闘シーンは更新頻度高い方が熱が冷めにくくてありがたいです
でも無理はなさらずにご自身の更新ペースで

630名無し募集中。。。:2015/10/24(土) 00:37:17
早くも更新が!テンポよく読めてありがたいわー

『ヘビーロード"派生・レイ』って名前格好いいなと思ったら『道重一筋』かwこのパターンだと派生いくつもありそう(誕生日の数だけ?)ww

631 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/24(土) 11:47:25
レイピアは一筋の光のように鋭く、オダの脚の中へと侵入していった。
ところが剣の切っ先は長く刺さることはなく、
すぐにサユの側へと引き戻されてしまう。
つまりは細い針がたった一瞬突き刺さっただけのこと。
健康診断で注射を受けるのと同程度の痛みしかない必殺技に、オダはまたも困惑する。

(これが必殺技って……サユ王、いったい何を考えてるの?)

訓練場を一撃で壊滅状態にしたクマイチャンの必殺に比べると、サユのヘビーロード"派生・レイ(一筋)"はあまりにも弱すぎる。
だがオダはもうサユの実力が劣ってるなどとは思わなかった。
必ず何かある。そう信じて一旦退くことに決めたのだ。
元気をとり戻したとはいえ、サユの脚からはまだ血が流れ続けている。
あの状態で瓦礫の山を移動するのは困難であるはずなので、
逃げ回りながら戦う作戦へのシフトを考えていた。
しかし、サユの必殺技はそれをさせなかった。

「えっ!?脚が重い……」

少し段の高いところに上がろうとしたオダだったが
急に脚が重くなったために中断せざるを得なくなってしまった。
原因は疑うまでもない。さっき喰らったサユの必殺技に決まっている。
そう思ってサユの側を振り向こうとした時には、既にふくらはぎを3回刺されていた。

「!?」
「重いでしょ?もっと重くしてあげる。
 ヘビーロード"派生・アフターオール(結局)"。」

このまま喰らい続けるのはまずいと考えたオダは必死で逃走しようとする。
すると意外にも彼女の脚は高くまで上がることが出来ていた。
これならばサユと距離を取ることも出来るかもと思ったが、
3、4歩ほど歩いたところで転倒してしまう。
結局、脚の重さには勝てなかったのだ。

「!?……なんで、なんで動けない……」
「オダ、あなたのことだからきっと毎日のように瓦礫の上を走る訓練をしてたんでしょ。」
「なんでそれを……!」
「疲れてるのよ、その脚。 針の感触から全部わかる。
 そんな脚ならね、ちょっといじめてやるだけで十分潰せるの。」
「!!」

サユの細いレイピアには二つの役割がある。
一つは相手の脚の状態を把握するための触診としての役割。
そしてもう一つは筋細胞を潰すための攻撃手段としての役割だ。
すぐに相手を殺せるような即効性は持ち合わせてはいないが
じわじわと相手をなぶるような、えげつない戦法を得意としている。

632名無し募集中。。。:2015/10/24(土) 22:36:08
圧倒的だな

633 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/25(日) 13:50:06
「脚がダメなら!」

オダは転倒したままの姿勢で、その辺に散らばる木片を拾い上げた。
サユに一度も針を入れられていない上半身の力で投げれば通用すると考えたのだ。
だがオダは剣士としての技能こそ優れているものの、パワーそのものは帝国剣士の中でも中位程度。
半端な力で投げつけた破片はサユのマンゴーシュによって簡単に弾かれてしまう。

「私はその気になれば銃弾も防げるのよ?もっと考えて戦いなさい。」
「くっ……」

うまく機能しない脚部を無理やり動かそうとするオダだったが、
それよりも速くサユは接近し、右脚と左脚のそれぞれにレイピアを数回突き刺していく。
赤い斑点が高速でポツポツと発生していく様はとても痛々しい。

「あっ……!!」
「今のはヘビロード"派生・スティール(今尚)"と"派生・トゥーレイト(今更)"。
 何かしようと考えて動き出そうとしたんだろうけど、ごめんね、きっと無駄になるよ。
 足取りの重さは今尚続いているし、今更すべてが手遅れ。」

オダの脚は生まれたての小鹿のようにプルプル小刻みに震えている。
こんな状態では例え立ち上がれたとしても、もう歩きまわることは出来ないだろう。
唯一の勝機と言えばサユが近くにいる今のうちに斬撃を当てることくらいだったが
それを見越していた王はすでにオダから距離をとっていた。
すました顔ですたすた歩くサユ王を見て、マノエリナは小さな声で呟いた。

「本当にペテンですよね、あの人。 派生がどうのこうの言ってるけど全部同じじゃないですか。
 マイミさんの動体視力で見ても違いなんか無いでしょう?」
「そうだなマノちゃん。全部脚を斬るだけの同じ技だ。」
「わざわざ名前を変えることで相手を惑わせる……っていう効果は認められますけどね。
 特にオダ・プロジドリのような頭で考えるタイプには必要以上に効いちゃうのかも……
 あ、じゃあマイミさんには通用しないのかな。」
「あははは、私の脚は鋼鉄製だからな。確かに通用しないだろう。」
「や、そういう意味じゃなくてですね。」

634名無し募集中。。。:2015/10/25(日) 15:11:23
バカダナーw

635名無し募集中。。。:2015/10/25(日) 15:50:12
マノちゃん酷いよ…w

636名無し募集中。。。:2015/10/25(日) 17:54:00
うむ、さすがマイミだw

637 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/26(月) 12:50:44
サユとの差を見せつけられたオダの心は完全に折れかけていた。
いま思えばサユに宣戦布告した時のことがとても恥ずかしくなってくる。
可能であればこのまま消滅してしまいたいくらいだ。
ハルのような性格をしていれば黒歴史に気づかず平気な顔を出来るのかもしれないが、
それなりに周りの空気の読めるオダはそうもいかなかったのだ。
そうなった時のオダは大抵、開き直っている。
「自分は空気の読めない子ですよ〜」と言った態度を示すことで、羞恥心を軽減させてきたのである。
今回もサユ王に勝てなかったのは悔しいが、
「いやぁ、やっぱりまだまだでした。」とでも言えばなんとかプライドを傷つけずに場を収められるかもしれない。
だが、今のオダにはそう振舞うことは許されていなかった。

(先輩方の前座なのよね、これ。)

エキシビジョンが始まれば、お次は次期帝王を決める決闘が始まる。
絶対に勝利を手にするために努力してきた先輩たちを前にして、
「勝てそうもないので降参します。」なんてどの口が言えるだろうか。
最後の最後まで死闘をつくさねば、次へとバトンを渡すことなど出来やしない。

「サユ王、お気をつけて。」
「ん?」
「私の気持ち、まだ切れてませんから。」

オダはマーチャンとの戦いを思い出していた。
苦しい状況下で歯を喰いしばらねばならないのはあの時と一緒だ。
常に斬新な攻撃法を編み出さねばならないのもあの時と一緒だ。
そう、シチュエーションは大して変わらないのである。
あの時自分はどうやって勝ったのか、オダはそれを思い出しながら最後の一撃をぶちまける。

638名無し募集中。。。:2015/10/26(月) 13:27:51
オダが覚悟を決めた最後の攻撃はどうなるんだろ?まだ使われてない・・・とかがくるんだろうか?w

639名無し募集中。。。:2015/10/26(月) 18:30:31
ハルナンが帝王になる世界があってもええねんで
http://livedoor.sp.blogimg.jp/halopos/imgs/8/8/88ee6a19.jpg

640 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/27(火) 09:09:11
オダがマーチャンに勝つ時の決め手になったのは、
棍棒のように重く巨大な両手剣を投げつけた行為だった。
それが今回も有効だと考えたオダは、自身のブロードソードを這ったままブン投げる。
確かに瓦礫を放るよりは効き目が有りそうではあるが、
それがサユに通用するかどうかは疑問だ。
ハルとアユミンもつい言葉に出してしまう。

「ヤキが回ったか!?……あんなの簡単に弾かれるだろ……」
「しかもこれで自分の武器を失い形になる。オダは終わりだよ。マーチャンもそう思うでしょ?」
「うん、ミチョシゲさんには通用しない。」
「だよね。」
「でも……アイツには効く。」

この時サユは、オダの期待ハズレな行動に少しガッカリしていた。
最後まで諦めなかったのは評価できるが、いかんせん行動が幼稚すぎる。
さっき「銃弾も防げる」と言ったばかりだというのに、その銃弾よりもずっと遅い攻撃じゃ意味がないのだ。
もうこれ以上の成果は見込めないと思ったサユは、飛ぶ剣をさっさと撃ち落として、決着をつけようとする。

(あれ?……この軌道は。)

ここでサユは初めて気づいた。
剣はただ闇雲に投げられたのではなく、サユの顔に向けられていたことを。
確かに人間は顔面への攻撃を恐れるし、場合によってはパニックを起こす場合も考えられる。
オダはそれを狙ったのかもしれない、とサユは考えた。
もっとも、冷静なサユにはそんな攻撃は通用しない。
自分の顔面に迫る攻撃だろうと、顔色ひとつ変えず跳ね除ける自信がある。
だが、サユではない存在はそうもいかないようだった。

「やなのっ!!!」

サユ王は耳をつんざくような大声をあげながら、レイピアを飛んできたブロードソードに叩きつけた。
いや、これはサユではない。マリコだ。
他の何よりも大切な自分の顔が傷つくのを恐れて、前面に出てきてしまったのである。
そんな状態で出てきた訳なのだから、当然マリコは怒っている。

「お前……絶対に許さないの!!」

マリコは一心不乱にオダの元へと向かい、倒れ込んでいるオダに右手の剣を振り下ろした。
その憎しみと殺意がたっぷりと籠められた剣で斬られたら今度こそオダの命は失われてしまうだろう。
だからこそ、サユは必死で抵抗する。
暴走するマリコの刃を止めようと、左手の剣を右手の甲にぶっ刺したのだ。
もちろん激痛。だがこのまま後輩を失うよりはずっとマシ。
サユ王は苦しみの中でそう思っていた。

「いやぁ、やっぱりまだまだでした。」
「……?」

自分の命が危険に晒されていたのを知ってか知らずか、
ほとんど寝たままの姿勢でオダがそんなことを言うのだから、サユは不思議に思う。
しかもその言葉は、オダが自信のプライドを守るために用意された「開き直り用」の言葉だ。
もっとも、今回に限っては開き直りとしては使われていない。

「私の実力じゃサユ王には絶対に勝てないと思いました。
 ですので、王を傷つけるために王を利用させてもらいましたけど、いかがでした?
 よく分からないけど、王の中にはもう一人の王がいるんですよね?」

敗北確定の状況にもかかわらずニヤニヤと笑うオダを見て、サユはゾッとした。
そして、同時に嬉しくもあった。
最後まで戦い抜くだけではなく、ちゃんと敵を倒すために頭をフル回転……即ちブレインストーミングしたのが嬉しかったのだ。

「立派ねオダ。だから私も敬意を持って応えるわ。
 最強の技と最後の技、両方同時に味あわせてあげる。」

641名無し募集中。。。:2015/10/27(火) 11:38:14
もう見抜いたかオダ!さすがだな


サユ「『マリコは抑える』『部下も守る』
『両方』やらなくっちゃあならないってのが『帝王』のつらいところなの」

642 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/28(水) 18:28:16
もう少しで決着ではありますが、
次の更新は明日になりそうです、、、

>>641
サユラティですかw

643 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/29(木) 12:59:21
サユは秒間に十数回もの速さでオダの両脚を滅多刺しにした。
ここまで来るともう痛みや重さを感じるレベルを超越しており、
まるで脚そのものが無くなってしまったと錯覚するくらいに力が入らなくなる。
擬似的な下半身消失の影響はギリギリのところで起き上がらせていた上半身にも及び、
全身が床に吸い寄せられたかのようにうつ伏せてしまう。
即ちオダは地に依存せざるを得ない身体になったのだ。
これまで何回か抵抗してきたが、今度こそ本当に限界。

「ヘビーロード"派生・ディペンデンス(依存)"。
 そしてヘビーロード"派生・リミット(限界)"。
 これを受けて立ち上がった人間は1人も存在しないわ。
 よく頑張ってくれたけれど、これで決着ね。」

サユは喋る気力すら失ったオダを、そっと抱きかかえた。
このままお姫様抱っこの形で立ち会いの席に連れて行こうとしているのだ。
こうなると、オダの脚から吹き出る血液がサユ王の身体にベッタリと貼り付いてしまうので
フクやハルナン達が代わりにオダを運ぼうと慌てて立ち上がった。
ところが、サユ王はそれを良しとはしなかったようだ。

「何してるの?オダは私が運ぶのよ。あなた達は次の準備をしていなさい。」
「で、でも王にそんなことをさせる訳には……」
「フクちゃん!」
「う、うす!」

急に怒鳴られたので、フクは今までしたことの無いような返事をしてしまった。
それだけサユの怒号の迫力が凄まじかったのだ。

「オダは次の決闘を汚さないために最後まで諦めずに考え抜いたのよ。
 なのにここであなた達に負担がかかったら全て台無しになるじゃない!
 オダは私が運んで、私が応急処置をするの!ちゃんとメモっとけよハルナン!」
「はい!」

メモなんて持ち合わせていないのにハルナンはハイと言ってしまった。
そう言わざるを得なかった。

「分かったら宜しい。すぐに次期帝王を決めるチーム戦の準備を始めなさい。」

644名無し募集中。。。:2015/10/29(木) 18:35:17
シャバダバドゥを織り込んできたかw

645名無し募集中。。。:2015/10/29(木) 22:44:06
サヤシが・・・涙
まだ1部も完結してないのに…
現実の出来事を作品に反映させる事の多いマーサー王の場合マロ以上に修正が大変そう

646名無し募集中。。。:2015/10/29(木) 22:51:28
帝国に激震走る

647名無し募集中。。。:2015/10/30(金) 00:35:10
今回のは急過ぎだろう

648 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/30(金) 07:37:33
今回の件には驚きました。
サヤシは二部の内容に大きく関わってくるので
うたちゃんのように出番自体が無くなることはありませんが、
何かしら影響される可能性はあるかもしれませんね。

649名無し募集中。。。:2015/10/30(金) 08:47:33
卒業しても出したら良いじゃないかと思うんだが

650 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/30(金) 12:32:48
その時に私がどう書きたいかによりますね、、、

サヤシの必殺技は絶対に出したいと考えているのでそこまでは書きますが
その後どうなるかは、アイデア次第だと思ってます。

651 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/30(金) 12:56:49
サユがオダの脚に包帯を巻いている一方で、
Q期と天気組らは模擬刀の準備を行っていた。
1ヶ月前は真剣で斬り合った彼女達ではあるが
平和な時代であるために、どちらかと言えば訓練用のこの剣の方がよく手に馴染んでいる。
切れぬ剣ではあるが、力を示して相手を制圧するにはこれで事足りる。
特に、Q期の側にはそれをするのに十分すぎる程の技能が備わっていた。

「結局私たちの中で必殺技を習得できたのはフクちゃんとサヤシの2人だけだったね。
 でも、フクちゃんの技が決まれば戦況は大きく変わると信じてるよ。」
「うん。頑張る。 サヤシの技も使えたら良かったんだけど……」
「ウチの必殺技は真剣用じゃけぇ、今日は使えん。」
「なんでそんな技をイメージしたと?模擬刀を使うって決まっとったやん。」
「それは分かっちゃる、じゃけど、いくら頭を使っても居合術しか思いつかなくて……」
「ま、必殺技を覚えられなかったエリが言えることじゃないっちゃけどね。
 使えんなら使えんなりに工夫して戦おう。
 カノンちゃんも言うとったけどフクの技次第で勝ち目は大きく変わりよる。
 いかに必殺技を繰り出すチャンスを作りあげるか……それを意識して動くしかない。」

サヤシもカノンもエリポンの言葉に強く頷いた。
彼女らがフクの必殺技に対して絶対の信頼を寄せていることがよく分かる。
そして、それは天気組らも同じ。

「ハル、身体はもう大丈夫?」
「バッチリだよハルナン。もうアヤチョにやられた傷は痛くない。」
「文字通り死ぬ気で覚えた必殺技だもんね。」
「ああ、ここで決めなきゃ男が廃るってもんだ。」
「ドゥーは女の子だよ。」
「マーチャンちょっと黙ってよう。」

652名無し募集中。。。:2015/10/30(金) 13:49:23
>>650
どんな結末になっても受け入れる覚悟は出来てますw

サヤシの必殺技は「真剣用」って事は御披露目はまだ先か…

653 ◆V9ncA8v9YI:2015/10/31(土) 12:54:01
これから始まる戦いの配置につくために
Q期団は訓練場の西側へ、そして天気組団は東側へと移動した。
緊張感の漂っている彼女らの表情を見るに、開戦がすぐそこまで迫っていることがよく分かる。
立ち合い人という重要な立場であるはずのマーサー王も相当興奮しているようだった。

「なぁ二人とも、彼女らはまずどう動くと思う?」

王の問いかけに先に答えたのはマノエリナだ。
自分がQ期団あるいは天気組団の一員になったと想像し、最善策を予測する。

「リーダーを守るための陣形を組むでしょうね。
 "次期帝王候補"であるそれぞれの団長が今回の鍵となることは間違いありません。
 守り切れなかった時の士気の低下は想像に難くないでしょうから、両団必死に守りぬくはずです。」
「なるほどマノエリナはそう思うか、ではマイミは?」
「Q期団は確かにそうでしょう。」
「ん?……では天気組団はどうすると?」
「それと全く逆のことをすると思いますよ。ハルナンはそういう奴です。」

マーサー王らがそうこう言っているうちに、帝国剣士らは動き出した。
そしてその初動はマイミが予言した通りになっている。

「へぇ……天気組団ってなかなか元気者なんですね。」

リーダーを守るべきというセオリーに反して、天気組団はハルナン自ら前に走りだしていた。
団員のアユミン・トルベント・トランワライとハル・チェ・ドゥーも同じくハルナンに続いていっている。
ガレキの上をそこそこのスピードで移動しているのは、そういう特訓をしたということで納得できるが、
戦闘に特化したタイプではないハルナンが真っ先に前に出たことにQ期団の面々は驚愕していた。

「なに?……何か策があるっていうの?……」

Q期らは基本通りに防御をガチガチに固めていた。
防御の要であるカノンがフクの前に立ちはだかり、その横からエリポンとサヤシが叩くという陣を組んでいる。
そう簡単には崩されないと自負してはいるが、敵の考えが分からないため多少の不安は拭えない。

「一番分からんのはマーチャンやけん。なんでマーチャンだけ動かんと?……」

勢いよく飛び出したハルナン、アユミン、ハルに対して、マーチャン・エコーチームは初期配置に留まっていた。
つまらなさそうな顔をしながら、Q期たちをただただじっと見つめている。

654 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/02(月) 03:14:08
とは言え、遠くにいるマーチャンを気にしている場合ではない。
今しがた迫ってきているハルナン、アユミン、ハルに早急に対応することの方がよっぽど大事。
脚の故障が治りきっていないフクはダッシュやバックステップで敵から逃げることが出来ないので、
エリポン、サヤシ、カノンの3人がリーダーを守るための盾となる必要がある。
そして、その中でも特に防御の要と言えるのがカノン・トイ・レマーネだ。

「何か仕掛けてくるよ、でもやることは変わらないからね。」
「「うん!」」

カノンが何か呟くだけでエリポンとサヤシの顔つきが変わったことにハルナンは気づいていた。
体格に恵まれているだけでなく考え方まで慎重なカノンが指示を出すのであれば、Q期の守りは鉄壁なのだろう。
となれば考えなしにぶつかるだけでは突破出来ないに違いない。

(だったら、予測できないくらいトリッキーな技を決めてあげる。)

アユミンより少し先を走っていたハルナンとハルは、もう少しで敵の元へと到着するといったところで足を止める。
そして互いに向き合って、相手の両方の肩に手を置いたのだった。
これはまさにヤグラ。超のつくほど簡易的ではあるが、長身の2人からなるだけあってなかなかの高度が保たれている。
そして、走る勢いそのままにヤグラを駆け上がっていくのはアユミンだ。
最高点に達すると同時に、互いの肩に伸びた二人の腕を蹴り上げることによってアユミンは飛翔する。

「私は黄金の鷲になる!」

アユミンの故郷で盛んな「チア」と呼ばれる舞踏をイメージして編み出されたこの連携技は
ただ大きくジャンプして相手を驚かせるだけでは決してなかった。
空中には移動を妨げるガレキなど存在しないために、走るよりも速く前進することが出来るのだ。
そして鳥のように飛ぶアユミンの高さは、壁となっていたカノンらの身長を遥かに超えていた。
そこから導き出される天気組団の狙いは、ズバリ敵将への直接攻撃。
邪魔な壁をすべて乗り越えて、フクを叩こうとしているのである。
だが、帝国剣士一の慎重派とも言えるカノンがこの程度の奇策についていけないはずがなかった。

「エリちゃん、分かってるよね?」
「もちろん!あっちがイーグルならこっちはアルバトロスやけんね!」
(ホークスじゃないんけぇ……)

655名無し募集中。。。:2015/11/02(月) 08:11:19
走るより速い空中移動!

656 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/03(火) 12:55:09
次更新は夜になります。
というのも、こぶしとチャオベッラの公開収録に来てまして、、、

657名無し募集中。。。:2015/11/03(火) 14:55:48
楽しんで来て下さい夜の更新楽しみにしています

658名無し募集中。。。:2015/11/03(火) 21:03:40
おー作者さん、僕も行きましたよー
はまちゃん大佐可愛かった

お話楽しみにしてます

659名無し募集中。。。:2015/11/03(火) 23:02:12
アルバトロス=アホウドリってかっこつかない
さすがエリポンw

660 ◆JVrUn/uxnk:2015/11/03(火) 23:08:23
イーグルって聞いたからスコア的にアルバトロスなんだろなww

661 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/03(火) 23:29:56
エリポンはその場で垂直に飛び上がった。
ただの一跳びでアユミンのヤグラ込みの高度にまで到達し、模擬刀を思いっきり叩きつける。

「近道はさせんよ!」
「ぎゃあ!」

下方向への力を加えられたアユミンはいとも簡単に床へと落とされてしまう。
自軍の将に危害を与えんとする敵は決して容赦しないというエリポンの覚悟がうかがえる。
今回このようにして飛翔と攻撃と同時に行ったのは、バレーボールをモチーフにしたエリポンの魔法によるもの。
彼女の強靭な脚力と背筋力が助走なしのジャンピングスマッシュを可能にしたのだ。
これには大物であるサユ王やマーサー王ですら舌を巻く。

「あら、エリポンったらあんなことも出来たのね。」
「あの跳躍力ならば我らがクマイチャンにもダメージを与えられるだろうか?……いや、まだ全然低いか。」

派手な特攻に対する派手な迎撃。否が応にも注目は空中での攻防に集まっていた。
傑物揃いの立ち合い人たちだってその範疇からは外れていない。
人間の目はどうしても目立ったイベントに行きがちなのだ。
それを理解しているハルナンは、今回のヤグラ特攻を二段構えの策としていた。

(ハル!鍵は貴方なのよ!)

誰もが空中での出来事に視線を移している隙に、ハル・チェ・ドゥーはエリポンの跳ぶ下をくぐっていた。
実はアユミンは完全なるオトリ。打ち上げロケットのように見せかけて、切り離し燃料タンク程度の役割しか担っていない。
真の特攻は目立たぬ場所を走り抜けるハルによるものだったのだ。

(エリポンさん側の守りはガラ空きだぜ!そこからフクさんを直接叩いてやる!!
 もう非力な剣士なんて言わせない……ハルには必殺技があるんだ!!)

従来のハルならば、例えフクと対峙したとしても決定打を与えることは出来なかっただろう。
フクとアヤチョの戦いに乱入した際に、簡単にあしらわれてしまったことからもそれが分かる。
だが今のハルには、そのアヤチョから伝授した必殺技が備わっていた。
一度殺して死ななければ二度殺す。
死にもの狂いの特訓で習得した技が決まれば相手がフク・アパトゥーマだろうと撃破可能だ。

「近道はさせんってエリポンが言うとるじゃろが」
「!?」

跳ぶエリポンの側を通ればそこにはフクしかいないはずだった。
ところが、ハルの目の前にはサヤシ・カレサスが立ちはだかっている。
空中戦でアユミンと叩き落したエリポンと同じように、
地上ではハルをぶちのめそうと待ち構えていたのだ。

「なんでだ……なんでハルの動きに気づけたんだ……」
「カノンちゃんの防衛策が優れてるからに決まっちょる。ハルナンの奇策よりもな!」

662 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/03(火) 23:35:51
だいぶ遅くなりました。
明日からはなんとか一日二回更新のペースに戻したいですね。

しかし、このスレに今日の公開収録に行った方がいるとは……w
席が最前近いということもあって、内容は大満足でした。
ドスコイ!ケンキョにダイタンが見れなかったのは残念ですが、
念には念とラーメンを大迫力で見れたのは嬉しかったですね。
早くこぶしファクトリーのメンバーを作中に出したいです。

ただ、トーク・パフォーマンス共にチャオベッラの方が圧巻でした。
特に他ヲタまで全員巻き込んで盛り上げてしまうロビンは凄いですね。
今回参戦できて、本当によかったです。

663名無し募集中。。。:2015/11/04(水) 00:47:47
楽しまれたようで良かったですね
CBCはメディア露出ほとんどない状態からライブだけでのし上がってきた歴戦のライブ番長ですからw

更新は無理せずマイペースでどうぞ

664名無し募集中。。。:2015/11/04(水) 08:34:12
頑張れハル!
昨日は最前右端にいましたよー
はまちゃんはまちゃん
早く見たい

665 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/04(水) 12:57:49
少し離れたところからハル達を見ていたハルナンは、自身がフクにずっと見られていたことに気づきだす。
要するに、フクとサヤシは一度も空を見ることなくハルナンとハルの方に目をやり続けていたのだ。
エリポンがミスをすれば自身に危害が及ぶというのに、どれほど厚く信頼してたというのだろうか。

(そうか、カノンさんの防衛策はつまり・・・)

ハルのゲリラ特攻が簡単にサヤシに見抜かれた理由について、ハルナンはなんとなくだが分かり始めていた。
Q期のメンバーの一人一人が、ターゲットとして定められた相手を監視することによって
例え奇怪な行動を取られたとしても即時対応できるように構えていたのである。
視線の方向から察するに、フクはハルナン、エリポンはアユミン、サヤシはハルをマークしているように見える。
これらは全て一ヶ月前の選挙戦にてマッチアップした組み合わせの通りだ。
極限状態に取りうる行動を身をもって体験したからこそ、監視も上手くいくだろうと考えての割振りなのだろう。
そして、これらの策を考えたカノン本人だって監視役の一角を担っている。

(うぅ……カノンさん、しっかりとマーチャンを見てるじゃない……)

カノンは全体に目をやりつつも、初期配置から一歩も動いていないマーチャンにも気を配っていた。
何を考えているのかまったく分からない相手なだけに、一瞬たりとも警戒を外すことは出来ないと考えているのだ。
これはとてもやりにくい。
改めてカノンを筆頭としたQ期の鉄壁ぶりを痛感したハルナンは、既に特攻したアユミンとハルに指示を出す。

「二人とも退いて!」

地に落ちて肘を痛めたアユミンも、サヤシを前にビビっていたハルも
撤退命令を聞くや否やすぐさまその場から離れていった。
陣形を守ることを重視するため深追いをしないQ期から逃れるのは意外にも簡単であり、
すぐに安全圏へと退避することが出来た。
だが、ここからいったいどう攻めれば良いのだろうか。

「ハルナン気づいてるんでしょ?私たちの壁を突破することなんて出来ないって。」
「はい、カノンさん。近道を通るのは難しそうです。」
「ん……正攻法なら崩せるとでも?」
「そうですね!ガチンコでいってみましょうか!」

666 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/04(水) 23:31:54
ハルナン、アユミン、ハルといった戦力でQ期に対してガチンコ勝負だなんてにわかには信じられなかった。
元々の地力が違うというのもあるが、
そもそも彼女らは今の状況下で己の真価を発揮することが出来ないのだ。
雨の剣士ハルナンは肉をえぐる剣で血の雨を降らせて、意気消沈させる戦いを得意とするが
今の模擬刀ではえぐるどころか刺さりもしない。
雪の剣士アユミンは地面を均して氷面のように滑りやすくすることが出来るが、
瓦礫の山を真っ平らにすることなんて出来やしない。
雷の剣士ハルは一般兵らを従えて自在に操るカリスマ性を備えるが、
Q期団vs天気組団という条件ではそれは役立たない。
ついでに言えばマーチャンだって燃える木刀から発せられる煙によって相手を苦しめるが、
手に持つのは鉄製の模擬刀なので、火をつけることも出来ない。
つまり、特殊戦法頼りな天気組にとってガチンコ勝負は不利も不利なのである。
何故このようなルールをハルナンが推し進めたのか、フク達には分からないが
とにかく相手が白兵戦を望むのであれば好都合だ。

「フクちゃん、マークを変えよう。私はハルナンの相手をする。」
「うん、じゃあマーチャンを見ておくね。」
「エリポンとサヤシはさっき言った通り!相手がどう出ようが、やる事は変わらないよ!」

エリポン、サヤシ、カノンの3人でがフクを必死に守ろうとすることは想像に難くない。
となればわざわざその姿勢を崩す必要もないとハルナンは考える。
真の目的には、なんら影響しないのだから。

「アユミン、ハル、ここは全力でいきましょう。
 すべては最終的な勝利のために。」

667名無し募集中。。。:2015/11/04(水) 23:42:57
Q期の実力か天気の奇策か勝負の行方が分からなくなってきたな

668 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/05(木) 13:00:20
敵将を討てばかなり有利になるこの状況において、
ハルナン自らガチンコ勝負に来てくれたのはQ期にとって大きなチャンスだった。
出来ればフクも含めた四人がかりで仕留めてしまいたいところだが
アユミンとハルは片手間で相手出来るほど弱くない。
それに、何をするか読めないハルナンの凶刃がフクに当たるのは何があっても避けたいため
ここはカノン一人で応対することにした。
とは言ってもカノン・トイ・レマーネは果実の国のトモとカリンの二人を終盤まで圧倒した実力者だ。
戦闘特化型ではないハルナンには簡単に負けないと自負している。

「来なよハルナン。私が立ってる限りはフクちゃんに触れさせないよ。」
「はい、では胸を借りるつもりで……えい!」

そう言うとハルナンはカノンの顔面目掛けて模擬刀を突き出した。
顔への攻撃がとても有効なのはサユとオダが戦ったときのことを思い返してみても明らかだ。
カノンはサユほど自身の顔に執着しているわけではないが
それでも人体急所が集中している部位であるために、避けるにこしたことはない。

(なにそれ?狙いが見え見えだよ!)

肉体の打たれ強さだけではなく、そもそも攻撃を貰わないための回避法を常に考えているカノンは
少し膝を曲げて体勢を低くするだけで、顔への刃を空振らせることに成功した。
カリンの飛ばした血液のような液体ならともかく、
はっきりと形の見える固体としての攻撃ならまず避けられるのである。
これには相対したいるハルナンも思わず感心する。

「流石の回避ですね、カノンさん。」
「こんな時まで太鼓持ち!?油断はしないからね!」

カノンは体勢を元に戻すのと同時に、強く握った拳をハルナンの鳩尾にぶつけていった。
重量級のパンチはハルナンの細身にはとても効いたらしく
たった一撃で吐き気を起こさせてしまう。

「くぁっ……」
「これくらい避けられないようじゃ話にならないよ?……王になりたいんでしょ?」
「……なりますよ、だから今は耐えるんです。」
「なに?どういうこと?」

669名無し募集中。。。:2015/11/05(木) 15:15:05
wkwk

670名無し募集中。。。:2015/11/05(木) 22:42:30
カントリー新メンバー…うたちゃん・まろ・サヤシとことごとく作者さんの構想を崩す展開w
モモコの気苦労も増えそうww

671 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/06(金) 09:01:36
カノンがハルナンに善戦している一方で、サヤシはやや苦戦していた。
ハルによる斬撃の乱れ打ちに対して、防戦一方になっていたのだ。
本来ならば剣の達人であるサヤシがハルに押されるなんて有ってはならない話だが、
当のサヤシは今回のルールを聞いた時からこうなることを予測していた。

(くっ……ウチの良さを完全に殺されちょる。)

武器は模擬刀。
この一点が最も大きく響くのは真剣による剣術を得意とするサヤシであり、
逆に大して影響を受けないのは普段から「切れない剣」である竹刀を愛用するハルだった。
真剣勝負の実戦では二人の差は途方も無いほどに広がるが、
訓練用の模擬刀ルールであれば、拮抗とまでは行かなくてもハルはそこそこ食らいつけるのだ。
そう言えば、とサヤシは思い出した。
ハルは研修生の中でも優れた逸材として鳴り物入りで帝国剣士に加入してきたのだが
いざ実戦に投入してみると呆気なくやられて泣いて帰ってきたことがあった。
その時は「何故こんな弱い奴が帝国剣士に?」とも思ったが、
つまりは模擬刀によるレッスン主体の研修生の中では天下無双だったという訳だ。
ならば今こうしてサヤシに匹敵した剣技を見せているのも納得できる。
そして、今回ハルが強い理由はそれだけではなかった。

「死線……どれだけくぐってきた?」

ハルによる乱打を剣で受け止めながら、サヤシは呟いた。
基本的には緊張したり、ビビったりしているハルの方から
時たま並々ならぬ殺気が発せられることに気づいたのだ。

「死線?それならめっちゃくぐってきましたよ。この一ヶ月で50回はくだらないんじゃないんですか!」

ハルは止められた剣を引き、そこから更に鋭い一閃を飛ばしていく。
ただの速攻ではなく、殺意まで込められた一撃は並の剣士では防ぎきれないことだろう。
だがサヤシだって一ヶ月前の選挙戦で死を目の前にしたことがある。
ハルの死線がどういったものかは知らないが、覚悟はサヤシも負けていない。

「ウチはサヤシ・カレサス。帝国最速の剣士……これくらい簡単に防げるんじゃ。」

苦戦しているとは書いたが、
サヤシはこれまで全ての攻撃を刀身で受け切っている。
フクを守るために、完全な防御体勢にシフトしているのだ。
今回もこうして刀をしっかりと止めていた。

(問題ない。殺気こそ有っても捌けないほどじゃない。
 じゃけど、何かがおかしく感じられよる……)

これだけ焦らせば、精神が不安定気味なハルはじきに崩れると思っていたが
その顔はいつの彼女と比べてずっとクールだった。
まるで今の状況を想定していたように見える。

「これも防がれるか……やっぱサヤシさん凄いな。」

672 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/06(金) 09:05:19
カントリーガールズに梁川奈々美と船木結
いやぁ驚きました。 ハロプロの情勢は目まぐるしく変わりますね。

ただ、今回の加入は話には影響ないと思います。
研修生のことは診断テストに毎年行くくらいにはチェックしてきているのでw

673 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/07(土) 08:36:16
カノンとサヤシの感じる違和感を、エリポンも同様に感じていた。
天気組の中では比較的正統派なアユミンの攻撃をいなすために
数多のスポーツから使えそうな技術……もとい魔法を使おうとしたのだが、
足場の悪さゆえに上手く動けないことも多々あった。
その時のエリポンは当然隙だらけなので、アユミンとしても攻めの好機なはずなのだが、
敵はあえて攻めの手を緩め、エリポンが体勢を整える時間を与えたのだ。
はじめはエリポンを舐めきっているのかもと思ったが、
それ以外の剣のキレや立ち回りは全力に見えるため、本気であることは間違いないらしい。

(なんなん?……気味が悪い)

ギリギリのところで生かされているような感覚。
それは決して心地の良いものではなかった。
アユミンが何を考えているのかは分からないが、
エリポンはフクを守るために全力で己の身体能力と魔法を活かす以外に道はない。
なのでチャンスさえあればすかさず胸、腹、肩へと模擬刀をぶつけていく。

(此の期に及んでその表情……ほんっとイラつく。
 ひょっとしてイラつかせるのが狙い?)

クリーンヒットを貰ったとしても、アユミンは冷静さを欠かなかった。
普段はオーバーリアクションなアユミンだからこそ
絶対何か策を隠していることが逆にバレバレになっている。
肝心な策の内容までは分からないが。

674 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/08(日) 07:37:02
護られながら一歩退いたところで全体を見ているフクも、この異常さに気づいていた。
形勢自体はQ期側の優勢。
天気組への攻撃はいくらかヒットしているし、
このままガチンコ勝負を続けても負ける見込みは殆どない。
そしてそれには天気組も気づいているはず。
なのに彼女らは依然として通用しない攻撃を続けているし、
仮に効いたとしても攻め切らずにいた。
全くもってその意図が掴めない。

(なんだと言うの?まるで決闘を無理矢理にでも長引かせたいように見える。
 あるいは、Q期の実力を測っている?……あ!)

後者の考えが浮かんだ時、フクはあることに気づいた。
Q期がどのような攻撃をするのか、どのような防御をするのか
それをこの場でしっかりと確認することによって
圧倒的優位に運ぶことの出来る手段が天気組には存在することを思い出したのだ。
フクは慌ててQ期達に退くように命ずる。

「みんな!ちょっと待……」
「あーもうダメだ!キツい!退却するよ!!」

フクが言い終わるより早く、ハルの方から対戦相手であるサヤシのもとを離れていった。
体中にできた青アザを見るに、サヤシから手痛い攻撃を何回か喰らったことが想像できる。
そして戦線離脱したのはハルだけでなく、
ハルナンとアユミンも一瞬アイコンタクトを交わしては、自陣へと逃げていく。
急な変わり身にエリポン、サヤシ、カノンの3人は不思議に思ったが
フクだけは青ざめた顔をしていた。

「どうしよう……遅すぎたんだ……」

フクの落胆の理由、そして天気組の撤退の真相はすぐに分かる。
ハルナン達は自らの誇りや負傷と引き換えに、あるものを完成させたのだ。
言うならばそれは、この状況下を完全に支配するバトルマシーン。

「マーチャン!出番よ!」
「はぁ、マーチャン疲れちゃったよ……でももう全部覚えた。」

675名無し募集中。。。:2015/11/08(日) 13:41:44
チート来たかw

676 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/09(月) 12:58:24
マーチャン・エコーチーム。
天気組の曇の剣士であり、技術開発部の最高責任者としての肩書きも持つ。
だが、彼女の真の恐ろしさは火煙を扱う戦法でも、次々と最新武器を作り出す技能でもなかった。

「超学習能力……それがあの子を帝国剣士にした決め手なの。」

サユ王がマーサー王らに説明した通り、マーチャンは異常なまでの学習能力を備えている。
一度食らった技であれば完全に覚えて対処法まで編み出してしまうため、
マーチャンを倒すには毎回違った攻撃手段を用いなくてはならない。
そして、そんなマーチャンが決闘の前半は戦いを見ることだけに徹していたのだ。
自分が直接受けるのと比べるとさすがに学習の精度は落ちるが、
それでも十分なほどにエリポン、サヤシ、カノンの動きを頭に入れている。
ガレキの上というマーチャンも経験の無い情報をインプット出来たという成果と比べれば、
それまでの過程で負ったハルナン、アユミン、ハルの怪我なんて安いものだ。

「マーチャン!飛べ!」

そう言うとハルはハルナンと向かい合って、肩を掴んでいった。
アユミンを鷲のように飛ばした時みたいに、ヤグラを作ったのだ。
その動きも学習していたマーチャンは、アユミンと遜色ないスピードで駆け上がっていく。

「あれを止めるのはエリしかおらん!」

本来アユミンのマークに付いているはずのエリポンが、
フクの前に立ちはだかって、天高くへと飛び上がった。
ヤグラによる高さからの攻撃に対処できるのは自身のジャンプ力しか無いとの判断だ。
フクに危害が有ってはまずいと思って慌ててジャンプした。
ところが、マーチャンの様子がおかしい。
なんとヤグラに上がるだけ上がって、そこに留まっていたのだ。
これにはエリポンも驚かされる。

「なっ!……」
「うふふふっ!引っかかってる。」

最高点に達したエリポンが今から落下せんとするタイミングで、マーチャンはようやく飛翔する。
誰もいない空を、水鳥みたいに飛び立っていく。

677名無し募集中。。。:2015/11/09(月) 18:04:55
水鳥 みたいにね そう 飛び立とう♪

マーチャンの『超学習能力』があったか!マーチャンを倒すには一撃必殺技が必要なのか…

678 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/10(火) 13:00:28
マーチャンがシュパッと着地したところのすぐ先には、フク・アパトゥーマが立っていた。
これまで天気組団が苦労しても突破出来なかった壁を簡単に飛び越えてしまったのだ。
これでマーチャンの剣先はフクの喉元に届くようになった。
もちろんフク自身も強いためそう簡単にはやられないだろうが、
マーチャンだってその他大勢として数えて良いような戦士では決してなかった。

「フク濡らさん、ごめんね。」

謝罪をしているとは思えぬ程の笑顔でマーチャンは模擬刀を振るう。
一見してただの剣のように見えるその振りには、マーチャンがこれまで積んできたノウハウが詰まっている。
ガレキの上の戦いではどこを狙えば避けにくいのかというデータを収集し、分析した上での攻撃なのだ。
それを意識的ではなく無自覚にやってしまうのがマーチャンの恐ろしいところなのである。
だがその恐ろしさについては敵であるQ期もよく理解していた。

「危ない!」

マーチャンの刃を、フクの陰にいたサヤシが受け止める。
ハルのマークについていたはずのサヤシだったが、
エリポンがミスをするといち早く気づき、勝手にマークの対象を変更したのである。
せっかく作ってくれたカノンの策を無視する行為ではあるが、おかげでフクを守ることが出来た。

「サヤシすん!……うふふふっ、来てくれたんだ。」

マーチャンは一ヶ月前から対決を望んでいたサヤシが来てくれたことに喜んでいた。
そして、目の前の敵を越えるために力強く剣を押し出していく。
だがサヤシだって負けるためにここに来たわけではない。
ちゃんとマーチャン対策を理解した上でフクを守りに来たのだ。

「マーチャン、遊ぶのはまた今度じゃ。」
「えっ?」

サヤシは足元のガレキを蹴り上げ、鍔迫り合いをしている自分とマーちゃんへの顔へと飛ばしていく。
小さな破片が互いの目元へと容赦なく突っ込んでいくため、マーチャンは目を閉じざるを得なかった。

「げぇ!なんだこれ!」
「いくら学習能力が凄くても見えなきゃ覚えられんじゃろ……いくぞ!」

目にゴミが入って苦しむマーチャンに対し、サヤシはいつものように平気に振舞っていた。
しじみのように小さな彼女の目にはゴミなど入る余地がなかったのだ。
剣を一旦自分の側へと引いては、マーチャンへの斬撃を繰り出していく。

679 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/10(火) 13:07:59
マーチャンの攻略法がバレかけている……w

680名無し募集中。。。:2015/11/10(火) 17:08:42
破片より小さいしじみ目w

681 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/11(水) 12:56:41
サヤシが剣を振る直前、マーチャンは一歩だけ後退した。
目をやられたのも関係なく一定の距離をサヤシからとっていく。
この距離はサヤシの剣の射程とピッタリ一致。まるで機具を用いて測ったかのような正確さだ。
ゆえに、斬撃は当たるべき対象には届かず空を切る。

「……!!」

サヤシの攻撃を完全に避けたこともそうだが、
それを眼を使わずやってのけたことに立会い人マイミは驚いた。

「学習能力とか言うからアイリのような眼を持つと思ったが……驚いたな。
 あれは眼とか関係ない、生まれ持った才能なのか。」

アーリー・ザマシランの「相手の動きを見切る眼」のようなものを備えているのではなく、
マーチャンは全身の感覚をフル稼働させて新たなことを学習している。
ゆえに目が見えない状況下でも変わらず対応することが出来るのだ。

「サヤシすんひどいなー、やっと見えるようになったよ。」
「くっ!……じゃったら!」

目を封じても超学習能力は機能するということは分かったが、
そもそも目を潰されてパフォーマンスの落ちない人間なんてのは存在しない。
なのでサヤシはまたも地面を蹴って、マーチャンの目に破片を飛ばそうとした。
それが悪手であることも忘れるくらい、必死に。

「サヤシ駄目!憶えられてる!」

フクの声が聞こえるころには、マーチャンはサヤシの側へと踏み込んでいた。
そして極限まで接近しては、蹴りの軸足となる左足をギュウッと踏んづける。
マーチャンは決して重いほうではないが、全体重を一本の足にかけられて痛くない訳がない。

「あぁっ!」

激痛でサヤシが天を仰いでいる隙に、マーチャンはサヤシの腹に模擬刀をぶつけていく。
以前、ハルの武器は竹刀であるために模擬刀に持ち替えても弱体化しないという話をしたが、
このマーチャンだって、普段は木刀を愛用していた。
切れぬ剣という意味ではまったく同じだ。
普段と変わらぬ剣威でぶちまけられる斬撃は、並の精神力では耐えられないものだった。

682名無し募集中。。。:2015/11/11(水) 18:30:24
がんばれまーちゃん
ハルナンに王の座を!
アンジュ王国に新人が!

683名無し募集中。。。:2015/11/11(水) 19:27:42
番長(初期・二期)→舎弟(三期)だから四期は何だろう?パシり?w

684 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/12(木) 08:38:09
久々に一般からの加入でしたね。
キャラを掴むまではなかなか時間がかかりそう……
舎弟になるのか、それとも別の呼び方になるのかは全くの未定ですw

685 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/12(木) 12:58:53
「これくらい……まだまだじゃ。」

並の精神力では耐えられぬ一撃ではあったが、
フクを守るという命題を抱えたサヤシの強さは並ではなかった。
腹への激痛を押し殺しながらマーチャンを睨みつける。
それを見てマーチャンは一瞬ビックリした顔をするが
すぐに笑顔を取り戻し、サヤシへの第二撃を放たんとする。
ところが、アユミンの声によってそれは制されることになる。

「サヤシさんに構うな!フクさんのところに行って!」

アユミンはハルナンと共にエリポンを地に押さえつけながら、指示を出した。
いくら耐えられたとは言え、サヤシへの攻撃は確かに効いている。
実際、膝がプルプルと震えているのがその証拠だ。
ならばそれを無視して敵の総大将を叩くのが良いと考えたのだ。
マーチャンはサヤシを倒せないことがちょっぴり残念ではあったが、
怒った時のアユミンは怖いことをよく知っているため渋々従う。

「しょーがないな。じゃあフク濡らさん倒すね!」

進行方向を変えたマーチャンを見て、カノンは焦りを加速させる。
サヤシとエリポンが動けぬ今、フクを守るべきは自分しか居ないのだが、
ここでどう動くべきか判断に迷ってしまったのだ。
一つはマーチャンと戦う案。もう一つはエリポンを助けにいく案。
前者をとればフクを直接守ることが出来るが、マーチャンを長く足止めすることは難しいだろう。
なんせ敵はサヤシをも圧倒した存在だ。一騎打ちで勝てる見込みは限りなく薄い。
後者の案ならエリポンと協力してマーチャンに対抗できる。
しかしその間はフクを放っておく形になるし、ハルナンとアユミンだって無視できない。
どちらも案も一長一短。よりリスクの少ない方を選択するのに時間をかけてしまった。
そしてその隙がカノンにとって命取り。
すぐ背後まで迫っていた雷への対応が遅れてしまう。

「カノンさん、ハルのこと忘れてない?」
「!!!」
「もう遅いよ!喰らえ!」

686名無し募集中。。。:2015/11/12(木) 14:50:46
天気組の策略にwktk

687 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/13(金) 13:00:32
ハル・チェ・ドゥーは数週間前からアンジュ王国に渡り、
アヤチョ王直々の特訓を受けていた。
その特訓方法は一言で言えば「殺し合い」。
アヤチョが本気の殺意を込めて斬りかかってくるので、ハルも殺す気で対抗するというものだった。
とは言っても相手はアンジュの頂点に立つアヤチョだ。まともにやって勝てるわけがない。
ゆえに特訓時にはタケやカナナンら四番長が常に待機しており、
アヤチョ王がやりすぎないよう、いざという時には静止する役割を任されていた。
ハルとアヤチョの実力差は思っていた通りに大きく開いており、
Q期との決着を一週間後に控えた日も番長らは大忙しだった。
ここではその時のことを回想する。

「ドゥー。トドメだよ。」
「「「わー!待って待って!!」」

一撃目がいきなりトドメだというのもしょっちゅうなので、
番長らは慌ててアヤチョ王の身体にしがみつく。
少しでも止めるのが遅ければ今ごろアヤチョの七支刀はハルの腹を突き破っていたことだろう。
青ざめた顔でペタンと座り込むハルを見るに、余程の殺気を当てられたのだろうことが理解できる。

「こ、こわすぎる……」

涙目になっているハルをだらしないとは誰も思わなかった。
何故なら自分が同じ境遇だったとして、気丈に振る舞える自信が無いからだ。
雷神の構えをとったアヤチョはそれほど恐ろしいのである。

「ドゥー……もう時間がないよ。何か掴めた?」
「一つ、分かったことがあります。」
「え、なになに!?」
「殺意のある攻撃って、普通の攻撃よりずっと威圧感があるんですね。
 身体がビリビリ痺れて全然動けなくなります……
 ハルもそんな攻撃が出来たら必殺技に近づけるのかな……」

ハルの考えを聞いたアヤチョはニコッと微笑むと、七支刀を地に落とした。
そして両手を開き、無防備な態勢をとる。

「ねぇドゥー!竹刀でアヤを叩いて!絶対避けないから。」
「ええ!?」
「もちろん殺す気でだよ。分かってるよね?」

冷たく言い放つアヤチョに、ハルはゾクっとした。
もはやここで日和る訳にはいかない。殺意を放つのは今なのだ。
ハルナンを王にするために……いや、自身が剣士として強くなるために、
殺す気の一撃を打ち込まなくてはならない。

「はぁっ!!」

アヤチョの胸に、ピシャン!と言った竹刀による炸裂音がぶつけられた。
とても聴き心地の良い音であり、クリーンヒットしたことが誰にも分かる。
ところが、アヤチョの顔からは苦しさの一つも感じ取れなかった。

「どうしよう……全然痛くない。」
「えぇー!?本気で打ちましたよ!」
「うん、気合とフォームは良かったよ。でもね、そのね。」
「ハルが非力だからっすか……」
「うーん……なんか、ごめんね。」
「いえ、ハルが未熟なんです……」

結局その日は必殺技は完成しなかった。
いくら殺意が十分でも破壊力が無ければ必殺技とは呼べないのである。
そして現在、ハルはカノンの背中にピシャリと良い一撃を打ち込むことが出来たが、
アヤチョとの特訓と同じように仕留めるまではいかなかった。

(痛っ……ハルったらこんな強い攻撃を出来るようになってたんだ。
 でも、この私にはそんなの通用しないよ。
 誰よりも厚いこの身体。たかが模擬刀が通るほどヤワじゃないからね!)

688 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/14(土) 14:48:23
カノンの背中に向けたハルの一撃は、紛れもなく十分な殺意の込められたものだった。
しかし、いかんせん威力が足りなさすぎる。
やはりハルの細腕ではカノンという壁をぶち破ることは出来なかったのだ。
一ヶ月とは、技を一つ覚えるには十分な期間だったかもしれないが、
そもそもの身体能力を強化するにはあまりに短すぎていた。
よって、ハルは一振りで必ず殺すような一撃必殺は習得できなかったのである。
このままではカノンはすぐに体勢を整えて、反撃してくることだろう。
ただでさえサヤシとのガチンコで消耗しているというのに、
そこにカノンのヘビーな攻撃を受けてしまったらひとたまりもない。
それを知っていたハルは、だからこそ体勢を整える暇を与えなかった。
敵がそうするよりも速く、カノンの後頭部に激痛を与える。

「!?」

ハルがやったのは、ただ背中と後頭部を連続で叩いただけのことだった。
普通の二連撃と異なるのは、一撃と一撃の間隔を限りなく小さくしたという点。
最初の一撃をもらった時点でカノンは無意識のうちに、背中を守ることに全神経を集中させていたのだが、
そのすぐ直後に後頭部への一撃を喰らったために
覚悟も身構えも何も出来ず、攻撃の100%すべてをダメージとして受け止めてしまったのである。
しかもカノンは一ヶ月前の戦いでカリンに後頭部を強くやられている。
その古傷が完全には治りかけていなかったというのも効いていた。
いくら頑強な肉体を持つカノンであろうと、
人類皆等しく肉のつきにくい箇所に対するダイレクトアタックまでは防げなかったらしく、
合計たった二撃で意識を飛ばし倒れ込んでしまう。
そう、ハルの必殺技は一撃必殺ではなく二撃必殺だったのだ。

「勝った……ハルの必殺技が効いたんだ……」

この必殺技はアヤチョが教えたものではあるが、アヤチョ本人は使いこなすことが出来ていなかった。
この技を完成させる鍵は連切りの早さにあったというのがその理由だ。
アヤチョも超スピードを誇る超人ではあり、その突っ走りは誰も付いていけないほどに速いが、
基本的には一途であるために二箇所同時に攻めるということが困難だ。
それに対して、ハルは異常までに手が速かった。
複数同時に攻めることにおいては右に出るものはいない。
一撃で殺せないようならもう一度、もう一度、何回でも連続で切ってみせる。
だからこそハルはアヤチョも使えぬ必殺技「再殺歌劇」を体現することが出来たのである。

689名無し募集中。。。:2015/11/14(土) 14:50:57
二重の極みw

690名無し募集中。。。:2015/11/14(土) 16:31:22
再殺…相変わらず名前付けるの上手いなw

691名無し募集中。。。:2015/11/15(日) 01:54:56
拾ってきた…もしオダがサユ王に勝っていたらこんな未来になっていたのかw

http://pbs.twimg.com/media/CTxLBSdUcAAIaOv.png

692名無し募集中。。。:2015/11/15(日) 09:27:37
有りやなw

693 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/16(月) 12:33:55
二重の極みに似てはいますが、異なる箇所を攻撃する点で違った技ということにしてください><

>>691
このイラストはいったい……
それにしてもかなりの風格ですねw

694 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/16(月) 12:56:52
守りの要であるカノン・トイ・レマーネが倒れたことは、Q期たちに大きな衝撃を与えた。
これからはカノンの指示なしにハルナンら天気組の策に対抗せねばならない。
それに、単純に頭数が減ったことで人数的に不利になったという問題もある。

「ハル!マーチャン!ここが攻め時だよ!」

アユミンは押さえつけていたエリポンをハルナンに任せて、フクの方へと歩みだした。
名を呼ばれたハルとマーチャンだってターゲット目掛けてすぐさま前進していく。
現在の彼女らにはマークは付いていない。言わばフリーの状態なのだ。
誰にも邪魔されることなくフクへと接近する。

「フク!」「フクちゃん!」

エリポンとサヤシは悲痛な声しか上げることが出来なかった。
エリポンはハルナンに羽交い締めにされているし、サヤシは早く歩けるほど回復しきっていない。
ゆえにフクを守りにいくことが出来ないのである。
それならそれでフクに逃げろとでも言えば良い気もするが、2人はそうしなかった。
アユミンはその点から察し、ある事実に気づいていく。

「ははっ、フクさんひょっとして歩けないんじゃないですか?」

Q期一同はギクリとした。
誰よりも強いはずのフクを過剰に守っていた理由がまさにそれだったのだ。
日常生活において歩く分には問題ないが、
真剣勝負の場で、しかも足場の悪い状況下で満足に動けるまでには至ってないのである。
天気組はフク・ダッシュやフク・バックステップが出来ない程度の怪我だと思っていたが、
これは思わぬ好都合だ。

「よし!フクさんにも再殺歌劇を決めてやるぜ!」
「ドゥーずるい!マーチャンがトドメさすんだからね!」
「ちょっと喧嘩しないでよ!ここは3人同時に行こう!」

695名無し募集中。。。:2015/11/16(月) 13:00:08
>>693
元ネタはこれネズミの国に行った時の写真らしい
http://stat.ameba.jp/user_images/20151004/20/morningmusume-10ki/da/8f/j/o0480064113444293221.jpg

反乱が失敗し地下に送られる写真w
http://i7.wimg.jp/coordinate/3yj9v8/20151004094139229/20151004094139229_1000.jpg

696名無し募集中。。。:2015/11/16(月) 20:47:11
ところでイクタ外伝の人はどうしちゃったのかな

697 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/17(火) 12:33:34
>>695
その件に関わってたんですね!
てっきり舞台かSSに関連しているかとw

>>696
長らく更新がないようですね( ; ; )
復活を期待しています。

698 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/17(火) 12:57:37
天気組の3人に同時に襲われるという危機的状況にもかかわらず、
Q期のリーダー、フクは意外にも冷静な顔をしていた。
まるでこの事態を予め想定していたかのような落ち着きっぷりだ。

「さっきのハル凄かったなぁ……私にもあんな殺気、出せるかな?」

独り言を呟き終えるのと同じタイミングで、マーチャンがフクの正面にやってきた。
もともと近い位置に来ていたために、3人の中で一番に到着したのである。
もちろんマーチャンは他の2人を待つ気などさらさら無く、早速攻撃を開始する。

「フク濡らさん!アユミンやドゥーが来る前に倒すからね!」

今日のマーチャンはまだフクの動きを見てはいなかったが、
日々の訓練から得た記憶を頼りに、避けにくい攻撃を何発も繰り出すことが出来ていた。
フクも模擬刀で必至に防御するが、その防御さえもあらたにマーチャンに覚えられてしまう。
次々とUpdatedされるマーチャンの剣技を捌ききれず、身体のあちこちに剣をぶつけられていく。
このままマーチャンと対峙し続けるのは分が悪い。
ならばとっておきをここで使ってしまおうとも思ったが、そうもいかなかった。

(まだダメ……今だったら一人しか殺せない。)

"必殺技を使うには殺人者であれ。"
フクは甘々な自分を戒めるために、そう強く思っていた。
だが自身を殺人者にするのはまだ早すぎる。
今のままでは、"Killer 1 "だ。
たった一人に対する殺人者では状況を変えることなどできやしない。
フクが目指すべきは、複数に対する殺人者なのである。

699名無し募集中。。。:2015/11/17(火) 20:17:35
なかなか物騒な考えだなwフクの必殺技がどんななのか楽しみだww

700 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/18(水) 12:59:17
動けぬフクとマーチャンがやり合っているところにアユミンも合流する。
本当は3人揃ってから仕掛けたいと考えていたアユミンだったが、
既にマーチャンが交戦を開始しているため、もはやハルの到着を待ってられなくなっていた。
アユミンはフクから見て右方向から攻め込み、模擬刀で切りかかってくる。

「あ、アユミンきちゃった……」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!ほらマーチャンいくよ!」

アユミンの手数は(ハルほどではないが)多かった。
一撃一撃の威力は微弱ではあるものの、こうも乱打されるとフクは受けるだけで精一杯になってくる。
そんな状況でマーチャンの攻撃まで防ぐことは難しい。
ゆえにフクはアユミンが来る前よりずっと多くの攻撃を身体で受けてしまう。

「フクちゃん!今助けに……」

少しは動けるようになったサヤシが、アユミンとマーチャンに袋叩きにされているフクを守るため前進を開始した。
ダッシュもバックステップも使えないフクにすぐさま助太刀しなくては、全てが終わってしまうと考えたのだ。
ところが、フクはそんなサヤシの助けを必要としていなかった。
無理して攻撃を受け続けながらも、カッと目を見開きサヤシを制止する。
それに対してサヤシは少し驚いたが、すぐに意図を理解して動きを止めた。

(フクちゃん……アレを使うんじゃな。)

フクの狙いは自身の編み出した必殺技を繰り出すことだった。
だが今はまだ時期が早すぎる。
マーチャン一人の時の"Killer 1"よりはアユミンも加わった今の"Killer 2"の方が効果的かもしれないが、
それでもまだなのだ。
すぐにやってくる彼女までも巻き込んでこそ、フクは殺人者としての真価を発揮することが出来る。

「お待たせアユミン!マーチャン!」

時は来た、とフクは感じた。
残りの一人であるハル・チェ・ドゥーがフクから見て左側から攻撃を仕掛けようとしている。
おそらくはさっきカノンを仕留めた必殺技である「再殺歌劇」を見せてくることだろう。
だが今来たばかりなので準備は整っていないはずだ。
それに対して、フクはしっかりと準備が出来ている。
この決闘が始まるずっとずっと前から、この瞬間をイメージしてきたのだ。

(モモコ様、私、必ず殺せる殺人者になります。)

ハルもやってきたので相手は計3名になった。
ではフクの必殺技は3人殺せる、言わば"Killer 3"を実現する技だったのか?
いや違う。
フクは相手が多ければ多いほど良いと思って技に命名している。
一人や二人や三人ではなく、N人。つまりは複数名を同時に殺す技という意味を込めて、
"Killer N"、と名付けていた。

701 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/18(水) 13:00:25
技名からか確かに物騒な考えになっちゃいましたね。
まぁ、それだけ本気だったということでお願いしますw

702名無し募集中。。。:2015/11/18(水) 14:14:52
それかw

703名無し募集中。。。:2015/11/18(水) 17:42:00
"Killer N"・・・やばいひさしぶりに元ネタが分からんwちょっと悔しい

704名無し募集中。。。:2015/11/18(水) 17:46:22
ブログでよく見るキラーン☆じゃないのか

705名無し募集中。。。:2015/11/18(水) 19:12:34
なるほど!
スッキリしたありがとうw

706名無し募集中。。。:2015/11/19(木) 02:27:47
ネーミングうまいなあ

707 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/20(金) 14:17:00
はい、確かに元ネタはキラーン☆です。
多少苦しかったかもしれませんがw

708 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/22(日) 13:15:09
諸事情により今日も続きを書けません><
今夜遅くか、明日の昼ごろに更新予定です。

709名無し募集中。。。:2015/11/22(日) 22:05:40
まさかこぶし富山行ったとか言わないよね?
僕昼行って楽しかった
早く大佐をこのスレで見たい

710 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/23(月) 02:43:58
こぶしイベは行ってませんでしたね。完全に私用でした。
でも来週はアンジュルム武道館に行きますよ!卒業見てきます^^

711 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/23(月) 04:50:53
フクは左手に握った模擬刀を、今まさに必殺技を放たんとするハルの脇腹にぶつけていく。
攻撃のみに集中しているハルに強打を当てるのはあまりにも簡単で、
線の細い彼女のアバラはただそれだけでバキバキに折れてしまうだろう。

「……ッ!!!!!」

普段ハルはアバラが二、三本折れてもヘッチャラみたいなことをよく口にするが
実際にそれを受けたら息も出来ぬほどに苦しいことが再確認できたに違いない。
これでハルは数分程度の戦線離脱は余儀なくされ、しばらくの無力化が約束された訳なのだが
フクはその程度でよしとはしなかった。

("甘さ"を捨てるのよフク・アパトゥーマ!殺す気で振り抜くの!)

アユミンとマーチャンによる攻撃を右腕ですべて受け止め、
さらに下半身にグッと力を入れてその場から仰け反らぬよう踏ん張った。
すべてはハルに当てた模擬刀を全力で最後まで振り切るため。
受け止めた右腕が壊れようとも、動かぬ脚が更に悪化しようとも構わない。
これから勝ち取る成果を考えればその程度の代償は払って当然なのだから。

「マーチャン!避け……」

位置関係からして、アユミンにはフクの狙いが見えていた。
だがここで気づいたとしてももう何もかもが遅い。
フクがハルに当てた斬撃を振り切ることにより、ハルの身体そのものが吹き飛ばれていく。
その先にいるのはフクの正面にいたマーチャンだ。
至近距離から相方の身体が飛んできた経験なんて、マーチャンはこれまでにしたことがない。
未経験には滅法弱いマーチャンは無抵抗でハルにぶつかってしまう。

「ぐぇっ!」

いくらハルが軽いとは言っても人と人が衝突して無事で済むはずがない。
しかも頭と頭もぶつかったので軽度の脳震盪まで引き起こしている。
これではマーチャンもすぐには起き上がることが出来なくなるだろう。
ここまで来ればもう十分かと思いきや、フクの振り切りは留まらなかった。
そう、アユミンを巻き込むまでこの技は止まらないのである。

「や、やめて」

アユミンの嘆願も虚しく、フクの左腕はハルとマーチャンごと模擬刀を押し込んだ。
先ほどハルがマーチャンに衝突した時のように、今度はマーチャンの身体を最右端にいるアユミンにぶつけたのだ。
人間二人分の重量が飛んできたのだからその衝撃の凄まじさは想像に難くない。
アユミンの体重でそれらを耐えきれる訳もなく、ガレキの床へと転げ落ちてしまった。
つまりアユミンは硬い地面に叩きつけられた上に二人にのしかかられ、
マーチャンはクッション性皆無の2人に挟み潰され、
ハルは最後までフクの強打を受け続けたことになる。
まさにどれもが致命傷。3人の誰もがその場にうずくまってしまう。
模擬刀ルールでなければ全員死んでもおかしくない程のダメージであったに違いない。
これこそがフクの必殺技「Killer N」の力なのだ。
見事な成果を見せたフクに対して、サヤシは歓喜の声をあげる。

「フクちゃん凄い!!3人も倒すなんて!!」

歩くことも困難なフクがピンチを大きなチャンスへと変えたのはとても素晴らしい。
立ち合い人だってこの光景に舌を巻いているのだから大したものだ。
ところが、当のフクはどこか浮かない顔をしていた。

「だめ……倒しきれなかった。」
「?」

フクは己の必殺技の弱点をよく知っていたのだ。
この技の仕組みならば2人は確実に倒すことが出来るのだろうが、1人の安否だけは不確定だ。
そしてその憂いが現実のものとなってしまった。

「ケホ、ケホ……ひどいことするなぁ……でももう覚えたよ。」

712名無し募集中。。。:2015/11/23(月) 08:15:06
うわぁ…マーチャン討ち漏らしたのか…

713名無し募集中。。。:2015/11/23(月) 11:13:05
クッション性皆無w

714名無し募集中。。。:2015/11/23(月) 12:48:40
クッション性大事

715 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/24(火) 02:12:19
フクの必殺技「Killer N」を受けても立ち上がれたのはマーチャン・エコーチームだった。
未経験の攻撃を回避する術を持たぬ彼女は当然のように直撃を喰らった訳ではあるが
斬撃を身体で受けたハルや、地に叩きつけられたアユミンと比べるとまだ軽症で済んでいたのである。
頭はクラクラするし、体中の骨がひどく痛むけれども、なんとか立つことは出来ていた。
このように押せば簡単に倒れてしまいそうな相手を前にして、フクは恐怖する。

(まずい……とっておきを覚えられちゃった)

マーチャンの異常なまでの超学習能力。それをフクは恐れていた。
一度体験した技であれば次からは完全に対応してしまうマーチャンには、もう「Killer N」は通用しないだろう。
ならばそれ以外の技を繰り出そうにも、今のフクの身体は必殺技の代償でひどく痛んでいる。
攻撃を受け続けて骨折した右腕はもう上がらないし、もともと完治していなかった脚も動きそうにない。
この状況でどうやってマーチャンを止めろと言うのか。
おそらくはいくらあがいてもフクには倒すことなど出来ないのかもしれない。
味方の力を一切借りない、という条件付きではあるが。

「喰らえっ!」

フクを窮地から救うために、サヤシ・カレサスがマーチャンの後頭部めがけて模擬刀を振り上げた。
近いところに位置していたのでいち早く援護することが出来たのだ。
フラフラなマーチャンに対する不意打ちは傍からは卑怯に見えるかもしれないが、サヤシは恥じてはいなかった。
"本当に誰かを守りたけりゃ他人の目なんて気になんない"ってやつだ。
この一撃でフクを守ることが出来るのであれば何がどうなってもいいと考えていたのである。
しかしこの攻撃は、マーチャンを倒すにはあまりにも単調すぎていた。

「当たらないよっ!」

マーチャンはしゃがみこむことで体勢を低くし、コサックダンスでもするかのようにサヤシの右足を蹴っ飛ばした。
これまでの実践や訓練の経験から、急所攻撃への対処法は特にしっかりと学習してきていたのだ。
ゆえに頭がちゃんと回っていない時であろうと行動に移すことが出来る。
攻撃のほとんどが急所に対する一撃狙いなサヤシにとって、マーチャンという相手は分が悪すぎるのである。

(くっ、どうしたらええんじゃ……)

それでもサヤシは歯を食いしばって立ち向かおうとした。
攻撃が通用するまでストイックに攻撃し続けようという思いなのだ。
ところが、そんなサヤシの気が急に変わり始める。
そこまで無理する必要は無いと、考えを改めていく。
その理由は、マーチャンのすぐ背後まで迫っていた頼れる存在にあった。

「スマーーーッシュ!!」
「!?」

マーチャンの後頭部を強く叩いたその人物は、さっきまでハルナンに押さえつけられていたエリポンだ。
突然の不意打ちをもらったマーチャンは、鼻血を吹き出しながらひどく困惑する。
急所攻撃には完全に対応する自分の身体が、エリポンの攻撃には反応しないのである。

「え!?え!?なんでエリポンさん!?ハルナンはどうしたの!?」

基本的にニヤニヤと笑いながら戦っているマーチャンが、今は普段見ないほどに狼狽している。
というのも、マーチャンは日ごろからエリポンを怖いと思っていたのだ。
フクの攻撃も、サヤシの攻撃も、カノンも攻撃も、同期やオダの攻撃だってすべて学習できるのに
目の前に現れたエリポンの攻撃だけは何故か覚えることが出来ない。
言わばマーチャン・エコーチーム唯一の天敵なのである。

「マーチャン!これ以上好きにはさせんよ!」
「うわ〜〜〜エリポンさんホント嫌だ……」

716 ◆V9ncA8v9YI:2015/11/25(水) 12:59:54
「マーチャンはエリポンの行動だけは覚えることは出来ない」と書いたが
実際はちゃんと学習可能であるし、一度見た技であれば問題なく対応することが出来る。
ヤグラから水鳥のように飛んだ時にエリポンの跳躍を軽々とかわしたことからもそれが分かるだろう。
それでは何故マーチャンはエリポンの攻撃を回避できなかったのか。
その理由は、エリポンの使う魔法の多彩さにあった。

「ほら!まだ終わらんけんね!」

エリポンはマーチャンの頭を鷲掴みにしては、グルリと腕を一回転させてぶん投げる。
これはソフトボールのウインドミルと言われる投球法に近い動きだ。
ソフトボールと言うスポーツ一つとっても、複数のピッチング法が存在する。
そしてこの球技には投げるだけではなく、効果的に打ったり走ったりする手段も確立されている。
一つのスポーツでそれだけの動作があるのだから、
あらゆる競技を極めたエリポンは何千何万種類もの技を扱えることになるのだろう。
相手が普通の戦士であれば、いくら多数の技を持とうとも、似た動きを一まとめにして対策されてしまうのかもしれないが、
マーチャンには少しでも動作の違った技はまったく異なる動きに見えてしまっていた。
ゆえにエリポンの攻撃は毎回毎回が未経験。
これこそがマーチャンがエリポンを天敵だとみなす理由だったのである。

「ハルナンどこ!はやくエリポンさんを止めてよぉ!」

頭の中でグワングワンと鳴り響く音に悩まされながら、マーチャンはハルナンの名を呼びあげる。
アユミンとハルが倒れた今、ハルナンしか頼る人物はいないと考えているのだ。
しかしそのハルナンから返事は返ってこない。
マーチャンには見えていないかもしれないが、ハルナンはすぐ側に倒れていたのだ。
全身にひどい打撲を負いながら、血だらけで。

「あの負傷は……ひょっとしてエリポンが!?」

気づかぬうちに敵将が倒れていたので、サヤシは両手を挙げて歓喜した。
思えばエリポンはあのアーリーでさえも力負するほどの戦士だ。
貧弱なハルナンに抑えられるわけがなかったのである。

「勝ちじゃ!マーチャンさえ倒せばウチらの勝利じゃ!!」

717名無し募集中。。。:2015/11/25(水) 18:22:29
血まみれのハルナン…嫌な予感しかしないなw


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