[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
501-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
ガルパン みほルートGOODエンド
1
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/25(火) 21:51:24 ID:g.8oTIO2
「おかーさん!おとーさん!はやくはやくー!」
「慌てると危ないよー」
日曜日。
休日と澄み渡る晴天が重なった絶好の外出日和ということもあって、家族三人で訪れた遊園地はまだ早い時間にも関わらず大勢の人で賑わっていた。
そんな中、ひとり目当ての乗り物に向かって駆け出す娘に隣のみほが声をかける。といっても、普段からあの子は活発なタイプだ。みほも口で言うほど心配はしていない様子だ。むしろ元気にはしゃぐ姿を嬉しそうに見ている。
「……それにしても、私もあなたももあまり活発な方じゃないのに、いったい誰に似たんだろう?」
ふとそんなことを呟いた彼女に、小さい頃のみほにそっくりじゃないか、と答えた。
「小さい頃?……あぁ、確かに戦車道を本格的に始める前は結構やんちゃなタイプだったかも……あれ?でもそんな昔のこと、あなたに話したことあったっけ?」
納得したような表情を浮かべたかと思ったら、すぐに怪訝そうにこちらを見てきた彼女の視線を受け、思わずしまった、とつぶやいてしまう。
「誰かに聞いたの?お姉ちゃん?もしかしてこの間実家に帰ったとき?」
彼女には珍しいじとっ、という擬音がつきそうな視線と矢継早な質問に早々に白旗を上げ、その推理が正しいことを認める。本人がいると恥ずかしがって止めに入るだろうから、という理由で、まほさんがわざわざみほが席を外している時に教えてくれたのだ。
「自分の知らないところで話される方がもっと恥ずかしいよ」
ごもっとも。しかしせっかくの家族水入らずの外出だ。夫としてすっかりむくれてしまった妻をこのままにしておくわけにはいかないだろう。
「小さい頃のみほも、あの子に負けず劣らず可愛かったよ」
そう言いながら、軽く彼女の頭を撫でる。サラサラとして心地よいその髪の感触を味わいながら、我ながらキザすぎるな、と呆れる。知人がいたらとてもじゃないができなかっただろう。
もしもみほにまで同じ感想を抱かれていたら、と不安になり彼女の顔を覗き込むと、少し頬を赤らめながらも、クスクスと手で口元を隠しながら笑っている。
「もう、格好つけすぎだよ?今恥ずかしいでしょ」
ばっちりとこちらの予想が的中したらしい。自分の顔まで熱くなるのを感じるが、どうやらみほの機嫌が直ったらしいことに安堵する。
「ふたりともー!イチャイチャしてないではやくー!」
「い、イチャイチャなんてしてません!……さ、私たちも行こう?」
そういって差し出された彼女の手を握り、娘のもとへふたりで歩き出す。もうひとりのお姫様にまでへそを曲げられたらたまらない。
「今日は頑張ってね?あの子への家族サービスと、私へのお詫びのために♪」
……どうやらこちらの姫にもまだ奉仕が必要なようだ。世界で一番贅沢なため息をつきつつ、このあとのプランを脳内で練り始める。まったく、夫と父という役割は、幸せすぎて楽じゃない―――。
2
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/25(火) 21:53:43 ID:rxxQHVdU
バッドエンドは男がうすべに提督並の悲惨なことになってそう
3
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/25(火) 21:56:28 ID:4Ehf7AaU
いいゾ〜これ
4
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/25(火) 22:38:18 ID:ISDV.I/g
ああ^〜いいゾ��これ
エリみほグットエンドはどこ…?ここ…?
5
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/25(火) 22:41:15 ID:kBSTD7UU
スキBADすき
6
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/25(火) 22:48:21 ID:wjNM9nK.
エリカのスキBADみてみたいなぁ…
7
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/25(火) 22:52:40 ID:7FoyJGpA
>>1
なんか感動的
8
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 00:50:54 ID:FwICPjhk
【BADエンド】
「ごめんね、痛くない?」
そんな心配をするくらいなら早く自由にしてくれ、と言ってやりたかったが、カラカラに渇いた喉ではまともな言葉を発することもできなかった。
さっきまで意識を失っていたこと、そして今いるこの場所が窓ひとつない薄暗い部屋であることで、もはや時間の感覚は消え失せていた。まったくもって意味のわからない『友人だと思っていた人間による監禁』という状況に、怒りとも不安ともつかないーーーあるいはその両方ーーー感情が湧き上がるが、四肢を椅子に拘束された状態で座らされている今、自分にできることはなかった。
「学校、休ませちゃってごめんね?でも私もズル休みみたいなものだから、おあいこってことで」
照れたような、困ったような曖昧な笑みを浮かべる彼女ーーー西住みほは、普段と何も変わらないように見える。しかし、だからこそこの異常な事態とのミスマッチさが、その不気味さを倍増させる。
「そもそも悪いのは貴方ーーーじゃないね。浮気とはいえ、向こうが誘惑してきたせいだもん。全部あっちが悪いんだよ」
まるで自分に言い聞かせるような口調だったが、それ以上に内容への理解が追いつかなかった。現在、自分には交際している相手などいないはずだ。それが浮気?意味がわかるはずもない。
「貴方は優しいからーーー世界で一番優しいから。あの娘のことがかわいそうになっちゃったんだよね。うん、やっぱり貴方は悪くない。だからーーー」
こちらの困惑など気にもかけず言葉を発しながら、彼女は部屋の反対側へと歩いていく。照明の光が届かないところまで進むと、今度はゴロゴロという車輪の回る音とともに戻ってきた。台車のようなものを押しているようだがーーー。
「だから、『オシオキ』を受けるのは、この娘だけでいいよね」
そこにあったものに、いよいよ背筋が凍った。自分と同じように椅子に拘束されて、さらには目隠しと猿轡まで噛まされたのは、まぎれもなく自分が意識を失う直前まで会話をしていた少女だった。よく見れば体は小刻みに震えている。恐怖のあまり抵抗の意志を見せることすらできないのだろう。
ここにきて奇跡的に喉が機能を回復したようで、現状を問い質す言葉を吐き出すことができた。なぜ彼女と自分を監禁しているのか。ここどこなのか。浮気とはなんのことかーーー。しかし、みほは小首をかしげ、
「?だから、私と付き合ってる貴方が、この娘に誘惑されて私がいないところで仲良く話をしてた。これって浮気でしょう?」
と、まるで1+1の答えを聞かれたくらいに当然のことのように言った。だがこちらからすればそれはひとつとして意味がわからなければ納得もいくはずのないものだ。
まず、自分はみほと交際し覚えはない。好意はあったが、それは友人としての範囲だ。目の前の拘束された少女にしても、話していたのはただの世間話だ。こんな目に合ういわれなど当然ひとかけらもない。
「やだなあ、貴方が私をどう思ってるかなんて関係ないよ」
「私が貴方のことを好きなんだから、それはもう恋人だよ」
ーーー絶句した。同時に、もはや説得が不可能だということも理解してしまった。先の言葉を彼女はこれまで通り、当然のごとく言い放った。普段通りの澄んだ瞳と声、そして少し困ったような笑顔。つまり、彼女は最初から壊れていたのだ。あるいは、そもそも思考の構造が違う。同じ言語を使っていても意思の疎通ができない。彼女はーーー西住みほは、そういう存在なのだ。
「さて、と。それじゃいつまでも話してても仕方ないし、そろそろ『オシオキ』にしようか」
そう言うと、また彼女は部屋の暗がり方へ向かい、またも台車らしきものを押しながら戻ってきた。照明に照らされたそれ、否、それらはーーー。
「とりあえず、金槌とバール、それにノコギリ。これだけあればいいかな」
それらの器具、というよりは凶器と一緒に置いてあった熊のぬいぐるみーーーボコられクマのボコを持ち上げ、いまだ震え続けると見比べながらみほは言った。それが意味するところなんて、馬鹿でも解る。解ってしまう。
「ごめんね?なるべくこのボコみたいに、可愛くするから」
そう少女に言い放ち、みほは金槌を振り上げたーーー。
9
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 00:53:03 ID:/n27M/j.
こーわーいー…
10
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 01:07:11 ID:Kogr7HWI
ハイライトさんが仕事してるヤンデレ!そういうのもあるのか
11
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 01:42:25 ID:FwICPjhk
終わり!閉廷!
西住殿の誕生日を祝おうと思ったのに当日何も思い浮かばなかったので今日思い付いたものを書いてみました
12
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 02:12:16 ID:P.hK/7iM
いいゾ〜これ
13
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 04:18:23 ID:bjUKS64s
てっきり主人公がエリカなんだと思って読んでいたのに違った、訴訟
14
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:04:46 ID:FwICPjhk
(百合は繊細で難しいので書け)ないです。
出来ても上のと似たような感じの武部殿verとかエリカverとかですね...
15
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:05:31 ID:rSfuzuIM
>>14
レズよりもノンケ展開で続編オナシャス!
16
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:06:08 ID:3SdZNwyY
>>14
他のキャラも見てみたいから気が向いたらオナシャス!
17
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:08:40 ID:FwICPjhk
しょうがねぇなぁ(悟空)
後で武部殿ルート頑張ってみます
18
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:08:57 ID:J0uKkXis
あくしろよ
19
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:14:03 ID:FwICPjhk
なるべく音を立てないよう、ゆっくりとドアを開ける。すでに腕時計の針は夜の10時を回っている。娘はもう夢の中だろう。
「おかえり〜」
玄関に入り鍵をかけたところで、リビングの方から押さえ気味の足音とともに声がかかる。一日のたのしみのひt
20
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:15:12 ID:FwICPjhk
あああああああもうやだああああああ
すいませんやっぱりPCから書き込み直します
21
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:30:23 ID:58n9vJW2
ヤンデレみぽりんを見ると、やっぱり(う)の可能性を秘めてるんだなって思います
22
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:33:16 ID:33cNcAZo
家に帰ったら背後から襲われたみたい
23
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 22:34:27 ID:RXvvN.UM
お前昨日ガルパン総合スレにチラチラ誤爆してただろ
24
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 23:02:58 ID:FwICPjhk
【沙織GOODエンド】
なるべく音を立てないよう、ゆっくりとドアを開ける。腕時計の針はすでに10時を回っている。娘はもう夢の中だろう。
「おかえり〜」
玄関に入り鍵をかけたところで、リビングの方から抑え気味の足音とともに声がかかる。一日の楽しみのひとつが、この瞬間だ。
「お疲れ様。先にお風呂にするでしょ?」
カバンと上着を受け取りつつ問いかけてくる彼女―――妻の沙織に肯定の意を返して、浴室に向かう。いつものように、すでにタオルと下着、寝巻きにしているスェットが用意されていた。
入浴を済ませ、少しだけ寝室の戸を開けて我が愛娘の寝顔を眺めてからリビングに向かうと、すっかり食事の支度が済んでいた。いつもながら見事な手際である。出会ってまだ間もない、友人関係だった頃にはじめて食事をごちそうになった時に言った、これならいい嫁さんになれる、という自分の言葉が間違っていなかったことを改めて感じた。―――そのときは顔を真っ赤にした彼女にポカポカ叩かれたのだが。
「もー、あいかわらずカラスの行水なんだから。あの子にいつもしっかり体洗って湯船にもゆっくりつかって温まりなさい、って言ってる私の立場がないじゃない」
そう言いつつもしっかり食事のできるタイミングを合わせてくれるあたり、頭が上がらない。
彼女はそのままテーブルの向かい側、グラスがひとつ置かれた席に腰掛けると、先ほど冷蔵庫から出したばかりの冷えたビール瓶の栓を開ける。すぐにこちらも自分の手元のグラスをそちらへと向け、注がれる黄金色の液体を受け止める。そしてそのまま瓶を受け取ると、沙織のグラスに同じくらいの量を注ぐ。ふたりそろってそこまで酒に強くないので、グラスの半分ほどでちょうどいいくらいだ。
「はい、じゃあ今日もお互いお疲れ様〜」
カチン、とグラスを合わせ、ビールを喉に流し込む。仕事の付き合いで飲むそれとは、何から何まで別物の幸福感に包まれる。
「あの子も頑張って起きてたんだけどねー。さすがに9時半ごろにはダウンしちゃったよ」
苦笑しながら沙織が言う。反抗期はまだ先のようで一安心だが、なかなか家族サービスができない現状ではそれが早まりかねない。
「そうだよー?構ってくれないと私もあの子も拗ねちゃうんだから」
冗談めかして彼女は言うが、父であり夫である自分にとってもはや生きる理由とも言うべき彼女たちから嫌われるのはまさに死活問題である。となればまずは―――。
「だからもっと家族サービスを―――っんむっ」
一瞬の隙を突き、その唇を奪う。ただ触れ合わせるだけのものだが、そこから伝わってくる熱は体と心を満たすには十分だった。
「っぷはっ。もー!急にするのやめてってば!びっくりするでしょー!」
顔を赤くしながらまったく迫力のない怒りを表す沙織。まあ実際は怒ってないことくらいは、夫である自分にはすぐにわかる。
「まったくもぅ……」
口の中でまだモゴモゴと文句を言う妻に、これでしばらくは拗ねられすにすむか、と聞くと、
「……効果は一日限定だから」
と、そっぽを向きながらの返答をいただいた。ならば明日もしっかり励まねば。
「あ、でもあのこの前ではやめてよね!この前だって―――」
そう言ってこれまでの家族サービス―――否、嫁サービスへの文句を並べ始めた。どうやら娘はそれらを目撃したことを近所の友達に話したようで、沙織はママ友の皆様から温かいからかいの言葉をいただいたらしい。思わず吹き出すと、
「もー!本当に恥ずかしかったんだからね!」
うっかりその可愛らしい怒りへの燃料投下になってしまったらしい。しょうがない、この目の前の手料理とグラスに残ったビールを飲み干すまでは聞き役に徹しよう。それまでにその矛を収めてくれることを願いつつ、妻からの愛に溢れた愚痴を賜るのだった―――。
25
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 23:11:23 ID:58n9vJW2
すばらしいGOODエンド
その分BADが怖いです…
26
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 23:17:01 ID:J0uKkXis
おおーええやん、気に入ったわ
27
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 00:53:47 ID:ayxgt20w
【沙織 BADエンド】
「―――え?」
テーブルの対面に座る恋人―――武部沙織は、今まさに置こうとした紅茶のカップを落とし、笑顔のまま硬直した。幸い低い位置からの落下だったので、カップは割れずにすんだものの、中に僅かに残った紅茶がテーブルクロスに染み込んでいき―――まるで血のように広がった。
「ごっ、ごめん。も、もう一回言って?私、なんか今、えっと」
そのことに気付いているのかいないのか、硬直の解けた彼女は今度は震えるような声で何度も突っかえながら、必死に言葉を紡いだ。ああ、予想はしていたが、またあの言葉を彼女にぶつけなくてはならないのか―――。
「別れてくれ、沙織」
はっきりと、今度は聞き返されぬように告げる。沙織の顔からは今度こそ表情が消え失せ、心臓が止まった言われれば信じられるほどにどんどん血の気を失っていった。
「―――なんで!?ねぇなんで!?」
一転して大声を上げながらテーブルを乗り越え、こちらの両肩を掴み、激しく揺すってくる。やはり場所を彼女の自宅にしたのは正解だった。カフェなどの人前でこんなにも取り乱されたら、一歩間違えば警察を呼ばれかねない。
「私の何がいけないの!?ねぇ!!教えてよ!!言ってくれたら全部直すから!!髪型だって、服だって!全部あなたの好みに合わせたよ!?もしも他の男の子―――ううん、他の人と話すなって言うなら、もうあなた以外とは話さない!!戦車道だって―――」
―――それだ。彼女にこんなにも残酷な仕打ちをするに至った理由は。
「……え?」
沙織との交際について改めて考えれば、そのはじまりはこちらの一目惚れにも近いものだった。誰に対しても明るく、優しく、面倒見のいい彼女。その容姿を含め、すべてが魅力的だった。なんとか少しずつ距離を縮めていき、友人たちの手助けもあって無事恋人となった。それからしばらくは間違いなく夢のような日々だった。
そこに不安を覚えたのは、交際を始めて2ヶ月ほど経った頃だろうか。ふたりでテレビを観ていたとき、ふとそこに映ったショートヘアのアイドルに、この娘可愛いな、と呟いた。本当に何気ない言葉だったはずだが、翌日沙織のふわふわとしたロングヘアーは、首元のあたりでバッサリと切られていた。驚いてどうしたのかと聞けば、
『だって、ショートの方が好みなんでしょ?』
きょとんとした表情でさも当然のように答える彼女に、何か背筋に走るものを感じた。
その後も、眼鏡が似合うといえば、それ以来眼鏡を外した姿を見なくなった。制服姿が可愛いと褒めれば、休日だろうと関係なく制服を着てくるようになった。その他の例も挙げればキリがない。そんな彼女の姿に、恐怖にも近い感情を抱くのに大した時間は必要なかった。
彼女は、自分が言った言葉をすべて実践する。なんの躊躇いもなく、それが当然の義務のように。ならば、最後に残る武部沙織は、本当に自分が惚れた武部沙織なのか―――と。
もしも、友人たちとの関係をすべて絶ってほしい、と言ったら?もし、戦車道を辞めてくれ、と言ったら?それ以外にも、彼女を構成する要素を変えて欲しいと言ったら―――。
図らずとも、この不安の一端は先ほど証明されてしまった。彼女は、迷わず捨てる、変える。どれほどそれまで大切にしていたものであろうと。
「っ、それの何が悪いの!?好きな人のために全部を捧げるなんて当たり前でしょ!?」
その気持ちは嬉しい。これは確かだ。だがそれ以上に、そんな彼女の愛情を受け止め続ける自信がなかった。自分の言葉でひとりの人間を変えていってしまうことが怖かった。人よりなにか突出したものがあるわけでもない凡人の自分には、彼女と一緒にいることがどんどん苦痛になっていったのだ。
「……なにそれ。意味わかんない。全然わかんない」
顔を伏せ、つぶやくように沙織は言った。その通りだ。すべては自分の弱さと身勝手から出た結論だ。この場で何十発殴られようと、共通の友人たちから軽蔑され、絶縁されても文句など言えるはずもない。すべてを受け入れる義務が自分にはあるのだ。
28
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 00:54:09 ID:ayxgt20w
「……ッ!!」
いきなり動き出した彼女は、先ほどケーキを切り分ける際に使い、置いたままになった包丁を掴んだ。
背筋が凍った。その刃が自分の額か、あるいは心臓めがけて突き出されるのを恐れ、思わず後ろの壁に背中が付くまで後ずさってしまった。
しかし沙織は、こちらの予想とは大きく違った行動に出た。
「……」
テーブルを乗り越え、こちらの目の前まで歩みを進めると、そのまま腰を下ろし、こちらに目線を合わせてくる。その手には依然として凶器が握られたままだ。
「わかった。うん、わかったよ」
沙織はそう言いながらにっこりと―――まさに花が咲いたような、という例えがふさわしい満面の笑みを浮かべた。
「つまり、今の私じゃ何をしたってあなたに愛してもらえないんだよね?」
そして、その刃が握られた右手をゆっくりと上げ、
「だったら、いらない。あなたに愛してもらえない私なんて―――いらないよ」
包丁の先端を自身の喉元へと向けた―――。
29
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 01:01:09 ID:ayxgt20w
沙織ルート工事完了です…(満身創痍)
なんか相手がクズになってしまったけどそういうのが似合う武部殿が悪い(暴論)
胸糞な話で申し訳ナイス!
他のルートはぶっちゃけネタ切れなんで思いついたらまた書こうと思います
30
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 01:03:34 ID:dNgRc5rA
悲しいなぁ
31
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 06:17:47 ID:dufE0ZFs
しなないで
32
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 06:19:36 ID:SLV8svRI
確かに似合う
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/20196/1464536785/-100
33
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 23:12:38 ID:ayxgt20w
【麻子ルート GOODエンド】
「……おはよう」
寝室から出てキッチンへ向かいそこにあった人影に声をかけると、ただでさえ普段からハスキー気味な声をさらに二音階ほど低くしたような、ともすればうめき声のようなあいさつが返ってきた。こちらを振り返った妻―――麻子は、街の不良のごときすさまじい目つきの悪さだった。見ようによってはB級ホラーのゾンビのようなそれは、彼女をよく知らない人間が見ればまず間違いなくギョッとするだろう。しかし、家族である自分からすればそれは朝のいつも通りの光景であり、むしろ安心感すら覚えるほどだ。
「おはよー」
「ああ、おはよう。ふたりとも、もう少しでできるから座って待っててくれ」
ほどなくして起きてきた娘も自分と同じくその姿に驚きもせず、さっさとテーブルの自分の定位置につく。あいかわらずの目つきの悪さで電子レンジとトースターを威嚇するかのような視線を送る妻を見守りつつ、我が子に習い椅子に腰を下ろす。
麻子が朝に弱いということは交際が始まる前からいやというほど味わっている。当然、結婚して同棲することになった際も朝の家事は自分がやる、と言ったのだが、彼女は頑として譲らずに現在に至る。
『仮にも専業主婦が家事をやらないのはおかしいだろう』
というのが彼女の言い分だった。妙なところで義理堅い麻子らしい。最初のうちはその睡魔との激闘ぶりに見ていてハラハラしたものだが、慣れとは恐ろしいもので、彼女のそんな姿をある種楽しみにさえしている現在がある。
「さあ、できたぞ」
どうやら多少は眠気も晴れてきたようで、先程までは麻子の体感でおそらく3トンはあったであろう瞼が今では幾分か上に持ち上がっている。それでも午後以降の彼女に比べれば3分の1程度の速度でしか動けていないのは仕方ないだろう。せっせと運んでくる皿には、人数分のトーストとベーコンにスクランブルエッグ、それにサラダが盛り付けられていた。大半は昨日の夜に用意していたものだ。さすがに早朝の彼女に包丁を持たせるだけの勇気は自分にはない。ちなみに手伝わないのは亭主関白を気取っているからではもちろんなく、麻子がすべて自分でやると言って聞かなかったからだ。このあたりも彼女にとって譲れないラインらしい。
「「「いただきます」」」
三人で声と手をあわせる。なるべく我が家では家族揃っての食事をするよう心がけているが、これは麻子の希望も大きい。人一倍家族というものに思い入れのある彼女らしい方針である。
「今日は遅くなるのか?」
トーストを齧りながら麻子が聞いてきた。どこか不安そうなその表情に、間髪入れずに早く帰る、と答えた。毎朝同じやりとりをしているが、この顔に勝てた試しがない。
「……そうか」
幾分か柔らかくなった彼女の顔を見て、先ほどの宣言を絶対に守ることを内心誓う。これも毎朝のことだ。
「わたしもがっこうおわったらすぐにかえるね!」
最近になって一人称が自分の名前から「わたし」に変わったばかりの娘も力強く宣言する。こういうところは父親である自分に似たらしい、と思わず苦笑する。
「わかった」
言葉こそそっけないものだが、ますます頬を緩めた麻子は、満足げに残りの朝食を早々に平らげた。
それに続いて自分と娘も食事を終えると、それぞれ出勤と登校前の支度に入る。
スーツに着替えている最中に、娘の支度の手伝いを終えた麻子がやってきた。
「だいぶくたびれてきたな。そろそろ新しいスーツを買ってもいいんじゃないか」
ジャケットをこちらに手渡しながら麻子が言う。しかしそれは少々受け入れ難い提案だ。なぜならこのスーツは、現在の職場への就職が決まった際にほかならぬ麻子がプレゼントしてくれたものだからだ。高級ブランドのものではないが、自分にとっては代え難い価値のある一着なのだ。
「……なにも捨てろとは言っていないだろう。他にも何着か持っていた方が便利だって話だ」
わずかに頬を染めつつ彼女は言った。それはわかっているのだが、やはりこのスーツを着ないとどうにもスイッチが入らないようになってしまっている自分が居るのだからいかんともしがたい。
「やれやれ。それならしばらくお前へのプレゼント類は全部スーツだな」
表情を苦笑に変えた麻子の言葉にそれはいい考えだ、と返した。彼女からの贈り物は自分にとって例外なくラッキーアイテムだ。勝負服が増えるのは悪いことではあるまい。
「皮肉で言ったんだ、馬鹿」
呆れたようにしながらも笑顔のままの彼女にこちらも笑顔で答えつつ、その首元に光る結婚前に贈ったネックレスを、いまだに常に身につけているあたりお互い様だ、と思うのだった。
「
34
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 23:13:17 ID:ayxgt20w
【麻子ルート GOODエンド】
「……おはよう」
寝室から出てキッチンへ向かいそこにあった人影に声をかけると、ただでさえ普段からハスキー気味な声をさらに二音階ほど低くしたような、ともすればうめき声のようなあいさつが返ってきた。こちらを振り返った妻―――麻子は、街の不良のごときすさまじい目つきの悪さだった。見ようによってはB級ホラーのゾンビのようなそれは、彼女をよく知らない人間が見ればまず間違いなくギョッとするだろう。しかし、家族である自分からすればそれは朝のいつも通りの光景であり、むしろ安心感すら覚えるほどだ。
「おはよー」
「ああ、おはよう。ふたりとも、もう少しでできるから座って待っててくれ」
ほどなくして起きてきた娘も自分と同じくその姿に驚きもせず、さっさとテーブルの自分の定位置につく。あいかわらずの目つきの悪さで電子レンジとトースターを威嚇するかのような視線を送る妻を見守りつつ、我が子に習い椅子に腰を下ろす。
麻子が朝に弱いということは交際が始まる前からいやというほど味わっている。当然、結婚して同棲することになった際も朝の家事は自分がやる、と言ったのだが、彼女は頑として譲らずに現在に至る。
『仮にも専業主婦が家事をやらないのはおかしいだろう』
というのが彼女の言い分だった。妙なところで義理堅い麻子らしい。最初のうちはその睡魔との激闘ぶりに見ていてハラハラしたものだが、慣れとは恐ろしいもので、彼女のそんな姿をある種楽しみにさえしている現在がある。
「さあ、できたぞ」
どうやら多少は眠気も晴れてきたようで、先程までは麻子の体感でおそらく3トンはあったであろう瞼が今では幾分か上に持ち上がっている。それでも午後以降の彼女に比べれば3分の1程度の速度でしか動けていないのは仕方ないだろう。せっせと運んでくる皿には、人数分のトーストとベーコンにスクランブルエッグ、それにサラダが盛り付けられていた。大半は昨日の夜に用意していたものだ。さすがに早朝の彼女に包丁を持たせるだけの勇気は自分にはない。ちなみに手伝わないのは亭主関白を気取っているからではもちろんなく、麻子がすべて自分でやると言って聞かなかったからだ。このあたりも彼女にとって譲れないラインらしい。
「「「いただきます」」」
三人で声と手をあわせる。なるべく我が家では家族揃っての食事をするよう心がけているが、これは麻子の希望も大きい。人一倍家族というものに思い入れのある彼女らしい方針である。
「今日は遅くなるのか?」
トーストを齧りながら麻子が聞いてきた。どこか不安そうなその表情に、間髪入れずに早く帰る、と答えた。毎朝同じやりとりをしているが、この顔に勝てた試しがない。
「……そうか」
幾分か柔らかくなった彼女の顔を見て、先ほどの宣言を絶対に守ることを内心誓う。これも毎朝のことだ。
「わたしもがっこうおわったらすぐにかえるね!」
最近になって一人称が自分の名前から「わたし」に変わったばかりの娘も力強く宣言する。こういうところは父親である自分に似たらしい、と思わず苦笑する。
「わかった」
言葉こそそっけないものだが、ますます頬を緩めた麻子は、満足げに残りの朝食を早々に平らげた。
それに続いて自分と娘も食事を終えると、それぞれ出勤と登校前の支度に入る。
スーツに着替えている最中に、娘の支度の手伝いを終えた麻子がやってきた。
「だいぶくたびれてきたな。そろそろ新しいスーツを買ってもいいんじゃないか」
ジャケットをこちらに手渡しながら麻子が言う。しかしそれは少々受け入れ難い提案だ。なぜならこのスーツは、現在の職場への就職が決まった際にほかならぬ麻子がプレゼントしてくれたものだからだ。高級ブランドのものではないが、自分にとっては代え難い価値のある一着なのだ。
「……なにも捨てろとは言っていないだろう。他にも何着か持っていた方が便利だって話だ」
わずかに頬を染めつつ彼女は言った。それはわかっているのだが、やはりこのスーツを着ないとどうにもスイッチが入らないようになってしまっている自分が居るのだからいかんともしがたい。
「やれやれ。それならしばらくお前へのプレゼント類は全部スーツだな」
表情を苦笑に変えた麻子の言葉にそれはいい考えだ、と返した。彼女からの贈り物は自分にとって例外なくラッキーアイテムだ。勝負服が増えるのは悪いことではあるまい。
「皮肉で言ったんだ、馬鹿」
呆れたようにしながらも笑顔のままの彼女にこちらも笑顔で答えつつ、その首元に光る結婚前に贈ったネックレスを、いまだに常に身につけているあたりお互い様だ、と思うのだった。
「
35
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 23:14:32 ID:ayxgt20w
「ふたりとも、忘れ物はないな?」
そうこうしているうちに家を出なければいけな時刻となってしまった。玄関で娘と一緒に靴を履いているところに麻子から声がかかる。それに揃って大丈夫、と答えるのも毎朝のお約束だ。
「事故には気を付けるんだぞ。なにかあったらすぐに連絡しろ」
―――気付いたのは一緒に暮らしはじめ、こうして朝の見送りをしてもらうようになってひと月ほど経った頃だった。どうして朝に弱い彼女がこうまでその生来の体質に抗い、早起きをして家事をするのか。もちろん、先の通りに専業主婦としての意地や義理もあるのだろう。だが、一番の理由は麻子の過去にある。幼少期に両親を事故で失ったこと。その日偶然にも母親と喧嘩をしてしまったこと。それらは彼女の心にいまだに―――そしてこれからも消えることのないであろう傷を残した。ゆえに、毎朝彼女は奮闘するのだ。二度と同じ後悔をしないように。
「よし。じゃあ―――いってらっしゃい」
その言葉に、我が子と揃ってしっかりと返事をする。
「「いってきます!」」
麻子の両親は帰ってこない。それは当然だ。だが、現在の彼女にとって、自分と娘がもっとも大切な存在であるという確信がある。ならば、これもやはり当然、彼女の想いと願いに答える義務があるだろう。
ドアを出て、こちらの姿が見えなくなるまで見守ってくれている妻を見て、今日も無事に一日を過ごし、彼女のもとに少しでも早く帰るという決意を新たにして職場(せんじょう)へと歩みを進めた。
36
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 23:18:31 ID:vndkm5MU
やっぱり麻子のGOODエンドを…最高やな!
37
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 23:52:32 ID:03hIsPBg
乙ゥ〜! 麻子いいゾーこれ
BADエンドやだ怖い…(ふとまら君)
38
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/27(木) 23:53:52 ID:dufE0ZFs
やりますねぇ!
39
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 00:01:42 ID:2Orb81bY
いいゾ〜これ
40
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 00:48:38 ID:ucU4a1SU
麻子BADはすげえ怖そう
41
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 01:00:10 ID:G/4hQAcY
【麻子ルート BADエンド】
―――話し声が聞こえる。
「でも麻子さん、本当に大丈夫?」
「ああ、ありがとう西住さん。でも本当に大丈夫だ」
「ホントひどいよね!急にいなくなるなんて!麻子はもちろんだけど私たちだって友達として仲良くしてたのに!」
「落ち着いてください沙織さん。あの人のことですから、私たちに何も言わなかったのにもきっとなにか理由があったんですよ」
「そうですよ武部殿!おそらくはご家庭の事情とか、そういった止むにやまれぬ事情があったのかと」
「……私も秋山さんと同じ意見だ。自分ではどうにもできない事態だったんだと思う。それを責めるつもりはない」
「麻子……。こうなったらさ、早く新しい彼氏見つけようよ!そうすれば―――「沙織」」
「気持ちはありがたいが、私はあいつ以外を好きになることはない。どんなことがあっても」
「―――ッ。ご、ごめん……」
―――そんなやり取りの後、少ししたら彼女たちは帰っていったようだ。遠ざかっていく足音と声に追いすがりたい、という気持ちを必死で押さえつける。隙を突く、なんて芸当が不可能であることはこの状況に陥ってからすぐに思い知らされたからだ。
「すまない。待たせたな」
謝るくらいだったら、さっさと解放してくれ。そんな言葉をなんとか飲み込みつつ、唯一の出入り口から入ってくる小柄な少女を見据える。彼女―――麻子の手には、コンビニの袋が握られていた。おそらく中身は弁当とペットボトルの水、それにお菓子類だろう。
「なかなかみんな帰らなくてな。よほどお前と私が心配らしい」
そう言いながら彼女は部屋の中心に置かれたちゃぶ台に袋の中身を並べていく。こちらの予想通りのラインナップだ。
「ほら、食べさせてやるからこっちに来い」
素直にその言葉に従い、体を動かす。自分で食える、と言ったところで受け入れられないことはとっくに証明されている。
「美味いだろう?お前の好物の焼肉弁当だからな」
満足そうに微笑む彼女の笑顔を見ても、以前のように心が安らぐことはない。むしろその裏側に潜む狂気を感じるばかりだ。
「お前はずっとここにいればいいんだ。私がお前をこの世のすべてから守る」
42
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 01:00:28 ID:G/4hQAcY
―――すべてのきっかけとなったのは、一週間ほど前の事故だ。信号無視の車にはねられる姿を麻子に見られたことからはじまった。
事故自体は大したものではない。相手は軽自動車だったし、比較的細い道だったこともあってスピードもそれほど出ていなかった。こちらの怪我は捻挫と打撲くらいで済んだのがその証拠だ。保険などのことは親に任せてしまったし、一日だけの検査入院が終わればまた恋人である麻子、それに他の友人たちと過ごす日常に戻れる―――はずだった。
退院の日、学校をわざわざ休んで迎えに来た麻子に、彼女の家に寄るよう言われた。恋人からの誘いを断る理由はなく、言われるがままにすでに何度も訪れた彼女の家に入り、出されたお茶を飲み―――気づけばこの状況だった。
ここまでの経緯からして、ここはまず間違いなく麻子の家の中のどこかではあるはずだ。一軒家であるこの家屋の中に、こちらが知らない部屋があり、そこに閉じ込められている……と考えるのが妥当だろう。決して大きい家ではないが、その構造すべてを把握していたわけではない。
『お前は今日からここで暮らすんだ。一生、私といっしょに』
目覚めた直後にそう告げた麻子の顔に、冗談や嘘の類はひとかけらも感じられなかった。こちらの意思の介在を許さない、一方的な宣言。当然納得などいかずに最初は説得を試み、それが無理だとわかれば力尽くで脱出しようとした。同年代の少女に比べても小柄な彼女に腕力で負ける道理はない。しかし、その手段も麻子の小さな手に握られたひとつの携帯電話によって潰されることとなった。
「よく撮れてるだろう?」
そこに映し出されたのは、紛れもなく自分と彼女―――それも、行為の真っ最中の動画だった。
『押入れの中に仕掛けておいた。せかくだから記念に、程度に思っていたが、まかさこんな風に役立つとは』
あっさりと言い放つ麻子。しかし間違いなく、それはこちらの抵抗をすべて封じるには十分すぎるほどのジョーカーだった。
『これが”うっかり”流出でもしたら大変だな。顔もしっかり映ってるからすぐに特定されるだろう。そうなればふたりとも破滅、だな?』
彼女は人質を取った。他ならぬ冷泉麻子を。こちらが絶対的に犠牲にすることができない存在を―――。
『わかったか?わかったな?お前はなにも心配しなくていい。お前が私を見捨てなければすべてうまくいく』
―――そして現在。あれから三日経った。麻子は先ほどのように時折現れる訪問者の対応と買い物、そしてどこかへの連絡以外はずっとこの部屋にいる。どのみち、あの動画の存在を知ってしまった以上、こちらはどうすることもできない。たとえあの携帯を壊してもおそらくデータはとっくにコピー済みだろうからだ。
考えてみれば、この異常な状態が維持できているのはおかしい。いくら彼女が天才的な頭脳を持つとは言え、人ひとりを世間から隠して監禁するなど、単独でできるものだろうか。もしかしたら協力者がいるのかもしれない。麻子の周囲には財力や社会的影響力を持つ家柄の人間が何人かいることを考慮に入れればありえない話ではない。
「さあ、これで最後だ」
気づけば、すでに弁当をあと一口というところまで食べきっていた。考え事をしていたとはいえ、もはや彼女に食事を食べさせてもらうことを自然に受け入れてしまっていた。いや、食事だけでなく―――。
「さて、食事も終わったことだし、食後の運動といくぞ」
そう言いながら麻子はその衣服を脱ぎ始める。それを止めない。
「さあ、お前も」
そう言いながら麻子はこちらの衣服を脱がせ始める。それを止められない。
「ふふ……」
微笑みながら抱きついてくる彼女のぬくもりを感じながら、すでに自分も彼女と同じくらいに堕ちていることを自覚する。ああ、でも、もうどうでもいい。麻子さえいるならもう、それで―――。
43
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 01:02:34 ID:4L4PV3T6
麻子(う)かな?
44
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 01:02:35 ID:G/4hQAcY
BADエンドのネタが尽きてきたんだよなぁボキャ貧のせいでよぉ
もう途中から自分がなに書いてるのかわかんなくなったゾ…(池沼)
45
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 01:03:41 ID:KEFJ1NUk
えへへ、みんなハッピー
46
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 01:07:11 ID:G/4hQAcY
れまこ好きな方はセンセンシャル!
半端かつ安易なエロ要素はよくないってはっきりわかんだね
とりあえずここまできたらあんこうはコンプしたいけどな〜俺もな〜
47
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 01:10:35 ID:KEFJ1NUk
大洗コンプして欲しいけどなー俺もなー
48
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 01:34:34 ID:rtBvgg1I
「おーい!彼氏さんこっちこっち!」
「沙織、大声を出すな」
信号の向こうには友達の沙織さんと麻子がいた
沙織さんに事前に聞いていた。麻子は甘いものに目がないってな
これは普段のそっけないけど俺を大好きでいてくれている麻子へのとびきりのサプライズだ。きっと喜んでくれる
さて、信号も青になったから早速麻子たちのいる方に行かなきゃ
キキーッ! ドンッ! グシャッ!
あれ
体が動かない
人が集まってきた
なんで泣いてるんだ麻子
沙織さんが倒れた
辺りが騒然としている
そんな顔しないでくれよ俺の彼女だろ?
ほら、お前の大好きなけー…………
そうして俺の目の前が真っ暗になった
みたいなオチかと思ったゾれまこBAD
49
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 01:39:56 ID:LZ9PoFY2
>>48
DB「やべぇよやべぇよ…」
TDN「おい、逃げるぞ…」
50
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 01:54:05 ID:2Orb81bY
れまこいいゾ〜これ
51
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 02:06:22 ID:xvFfsp/k
>>48
犯人の方がひどいバッドエンドを迎えそう
52
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/28(金) 02:25:39 ID:XuyRMOcc
>>48
これかと
53
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/29(土) 01:12:04 ID:q7Vj.Cqo
【華ルート GOODエンド】
「―――」
部屋の中には張り詰めた、しかしそれでいて不快ではない空気に満ちていた。目の前では自分が世界でもっとも愛するふたりの女性が、その間に置かれた花器に生けられた花を見つめている。いや、正確にはそのうちのひとりである我が愛娘が生けたその花を、妻である華が見定めている、というのが正しい。娘のほうは緊張した面持ちで、母の次の言葉を待っている。
「―――はい。では、今日はここまでにしておきましょうか」
しかし、華が告げた言葉はその作品自体の評価ではなく、今日の稽古の終了の宣言であった。
「……はい。ほんじつもありがとうございました」
「はい、こちらこそありがとうございました。それじゃあ、お洋服に着替えましょうか」
「……はい」
一気に表情の暗くなった娘とは逆に、華はその凛とした表情を崩し柔らかな笑顔になると、娘の手をとり彼女の部屋へと歩いていった。
部屋に残された生け花を見てみる。まだ小学校に上がって間もない年齢だと考えれば、それは十分すぎるものだったが、ほぼ毎日この稽古を見ている自分には、そこにあるほんのわずかなバランスの崩れを感じ取ることができた。なるほど、これが先ほどの評価の原因らしい。
54
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/29(土) 01:12:25 ID:q7Vj.Cqo
「お気づきになりましたか」
と、後ろから声がかかった。振り返ると華がひとりで戻ってきていた。
「あの子は部屋でそのまま休んでいますよ。本当ならいつもどおりお片づけまでやれせないといけないのですけど……今日は特別に」
そう言いながら彼女はテキパキと稽古の片付けを進める。こと花道の稽古に関しては厳しい彼女らしからぬ行動だ。裏を返せば、今の娘はそれだけ平時と異なる状態だということになる。
「心の乱れは花道において隠せるものではありませんから。あの子くらい幼ければなおさら」
すっかり片付けを終えた華は、そのまま流れるような動きでふたり分のお茶を淹れると、それを運びながらこちらの横に座って話を続ける。緑茶の香りと、様々な花の香りが混ざりあった華の香りが漂った。
「どうやらあの子、学校で好きな相手ができたみたいなんです」
思わずお茶を吹き出しそうになるのをなんとかこらえるが、動揺はとても収まらない。まだあんなに小さい娘に好きな相手?いつもおとうさんだいすき、と言ってくれるあの子に?いやまさかそんな―――。
「もう、あなたがそんなに心を乱してどうするんですか」
クスリと微笑みながら、彼女が背中を優しくさすってくれたおかげでだいぶ平静を取り戻せた。
「もちろん子供の言うことですから、恋人とかそんな話とは程遠いものですよ。だからそんなに心配することはありません」
華は自身の湯呑のお茶で喉を潤しながらなんでもないことのように言う。確かに考えてみればその通りだ。まだラブとライクの区別がつくような年齢ではない。
「とりあえずあの子には、しっかりと考えなさい、それまで稽古は禁止します、と伝えておきました。今のままでは良い花を生けることなんて出来ませんから」
こういう時、彼女は柔軟だ。ただ厳しく稽古をつけるだけではない。それは、伝統を軽んじることなく、それでいてその伝統にとらわれないとい気質からきているのだろう。かつて戦車道の中で自身の花道に対するひとつの答えを見つけ、新たな境地に至ったというのと同じように。
「ふふ、大げさですよ。でも、そうですね。確かに私はそういう部分があるのかもしれません」
そういうと、彼女はこちらの手を取りながらその身を寄せ、体重を預けてきた。心地よいぬくもりと香りを感じる。
「もし、ただただ伝統を、五十鈴流を守ることしか考えていなかったら、あなたと結ばれることはなかったでしょうから」
痛いところを突いてくる。確かにおよそ花道に関して門外漢であり、家柄もごくごく一般的な自分が、歴史ある花道の名家である五十鈴流の後継者と婚姻にまで至るなんてことは、普通ならありえないことだ。このあたりは、婿入りの際にも揉めに揉めたところだ。その時も、そして現在も華の助けがなかったらとっくに追い出されているだろう。
「私はただ、あなたのことを経歴だけで判断しようとする人たちに教えて差し上げているだけですよ。私の愛する人が、いかに素晴らしい人か、どれだけ五十鈴流の一員になるのにふさわしいか」
どこか誇らしげでさえあるその言葉に顔が熱くなるのを感じた。時折、我が妻はこんな風にかなり直球な愛情表現をしてくるのだからとても敵わない。
「……さて、と。そろそろあの子の様子を少し見てきますね」
そう言いながら美しい所作で立ち上がる華。そこに自分のような動揺は全くと言っていいほどになかった。
「今のうちからしっかりと考えさせないと。将来世界で二番目に素敵なひとを見つけられなくなってはかわいそうですから」
二番目?と思わず聞くと、先ほど以上に自信満々な―――世間一般でいうドヤ顔にも近い表情で堂々と宣言した。
「だって、世界で一番素敵な人は、私の―――私だけの旦那様ですから」
55
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/29(土) 01:17:59 ID:8JDt6BLo
やっぱり華道の家元を継ぐんですねぇ〜
56
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/29(土) 01:20:35 ID:q7Vj.Cqo
とりあえずなんとかひねり出した華さんGOODエンドだけ置いておきます
チクショウ花道のことがさっぱりわからねェ
明日書ければ華さんBADと秋山殿を
麻子BADは悩んだんですが、ヤンデレの魅力でもある「傍から見たらささいなことで愛情が暴走する」って面を押し出したくてああなりました
でも
>>48
みたいなかんじでもよかったかもしれない(優柔不断)
57
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/29(土) 07:07:25 ID:BrAQXU3I
お〜ええやん
58
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/29(土) 11:34:00 ID:hicbVBoU
いいゾ〜これ(≧∇≦)b
59
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/29(土) 23:19:07 ID:q7Vj.Cqo
【華ルート BADエンド】
「ダメです」
―――やっぱりか、と、想定通りの反応に嘆息する。最初は大学に入ってすぐのことだ。サークルの新人歓迎会に試しに行ってみようかな、と何気なく口にしたとき、彼女―――華は、いつもの柔らかい表情を一瞬で消しさると、能面のごとき無表情でキッパリと
『ダメです。許しません』
と、告げた。常に物腰柔らかな彼女らしからぬ反応に戸惑っているとこちらをよそに、華は言葉を続ける。
『お酒、タバコ、それに―――他の女の匂い。そんなものであなたの体を穢すような行為は絶対に許しません』
確かに自分の通う大学は共学なので、サークル内には女性もいるだろうし、喫煙者もいておかしくはない。酒はいわずもがなだ。嗅覚が人より優れている彼女がそういったものに敏感なのはわからなくはないが、ここまでの反応をするとは思わなかった。
ちなみに、華やその友人たちと自分は別の大学―――女子大に通っている。本格的な戦車道の授業を行っている大学がそこしかなかったからだ。華は相当に悩んでいたが、自分としても彼女が仲間たちと戦車道にいかに真剣に打ち込んでいるかを知っていたので、こちらを気にせずそちらに行くよう薦めた。幸い大学同士の距離はさほど離れていなかったので、会う分には特に苦労はかった。しかし考えてみれば、彼女からすれば恋人が異性と触れ合う機会があることを快く思わないのは当然のことなのかもしれない。そう考え、この時は華の言葉に従ったのだが……。
『同窓会?ダメです』
『ゼミの飲み会?ダメです』
『私がいないところで、私の知らない匂いを付けることは許しません』
それ以降もこの調子だった。実質的に自分のプライベートはほぼすべて彼女と一緒にいることとなった。華以外の異性とはせいぜい共通の友人である西住みほや武部沙織らくらいとしか関われない状態となった。そしてそのうち、大学にいる間も、付き合いの悪い自分の周りからはどんどん人がいなくなっていった。
だが、今回ばかりは彼女の言葉をあっさりと受け入れる訳にはいかない。なぜなら、自分が行こうとしているのは中学時代からの親友の結婚式だからだ。これまでの飲み会とは重要さが違うのだ。
「そのご友人は、私より―――恋人より大切なものなのですか
相変わらずの無表情で華が言う。どちらが、という話ではない。そもそもこれまでがおかしかったのだ。いくらなんでも束縛が過ぎる。いい加減にしてほしい。
反論は思わず現在に至るまでの不満が口をついて出てしまう。
「……。わかりました」
しかし彼女からは予想外の反応が返ってきた。
「その式に行っても構いません。それ以外の交流についてももう禁止するのはやめましょう」
なんだ、言えばわかってくれるのか。そんな風に安堵したが、その言葉にはさらに続きがあった。
「ただし、今度の日曜日に私の実家に一緒にいらしてください。それだけが条件です」
果たしてそれはどういう意味か。しかし、下手な事を言ってまた許可を取り消されてはたまらないので、そのまま彼女の提案を受け入れた。
60
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/29(土) 23:22:34 ID:8JDt6BLo
>華以外の異性とはせいぜい共通の友人である西住みほや武部沙織らくらいとしか関われない状態となった。
十分じゃないですか
61
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/29(土) 23:33:17 ID:BrAQXU3I
嗅いでバレるのはキツいっすね...
62
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/30(日) 00:09:51 ID:fBawBZKY
続きあくしろよ
63
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/30(日) 00:16:50 ID:XMKoee0Q
ゆっくりでいいのて続き楽しみにしてるゾ
64
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/30(日) 00:47:52 ID:OsjqZxVQ
そしてほどなくして華の指定した日がやってきた。ふたりで彼女の実家である五十鈴家の本家邸宅を訪れると、母である百合さんと、奉公人の新三郎さんが迎えてくれた。
「華さん、お帰りなさい。それにあなたも、お久しぶりね。遠いところをご苦労様」
そう言いながら百合さんは笑顔で歓迎してくれる。この家を訪れるのは交際を始めた直後にあいさつに来て以来だった。
「さあ、早く奥にお入りなさい。新三郎、ふたりの荷物を」
「はい、お任せください」
百合さんの言葉にすばやく動く新三郎さん。自分より年上の彼に荷物を運んでもらうのには多少抵抗があったが、ここで断るのもかえって悪いだろうと恐縮しつつバッグを手渡した。
その時、一瞬目がった彼の視線に、何かを訴えかけるようなものを感じたが―――。
「ほら、早く行きましょう」
華からかかった声にそれは遮られた。何事もなかったように新三郎さんがふたり分の荷物を運んでいくのに慌ててついていった。
「ごめんなさいね。今夜はどうしても外せない用事があるの。あなたたちは気にせずくつろいでいってね」
夜になり、料亭のような豪勢な料理を振舞われたあとに、百合さんが言ったその用事はここから少し離れたところに行かなければならないらしく、新三郎さんもそれに同行するそうだ。……正直に言えば、何かと住む世界の違いを娘以上に感じさせるその立ち居振る舞いには常に緊張させられるので、若干の安心を感じてしまった。
「では、私は外出の支度をします。華さん、少し手伝ってくれるかしら。新三郎は車の用意を」
「はい、お母様」
「はい、奥様」
そんなやりとりの後、百合さんは華を伴い自室へと向かい、新三郎さんは玄関へと歩いて行った。なんだがひとりで何もしないのが申し訳ないような気がして、だからといって女性の支度を手伝うわけにはいかず、自然と新三郎さんのあとに付いていくことになった。
彼のあとを追い屋敷の外に出ると、すでにある程度用意してあったのか、車―――正確には人力車―――が玄関のすぐ横に置かれ、その隣で新三郎さんが待機していた。
「あぁ、もしかしてお手伝いに?申し訳ありません、お客人に気を遣わせてしまって」
そういって深々と頭を下げる彼に慌てて勝手についてきただけですから、と答える。むしろ悪いのは客の身でありながら動き回った自分だ。
「……ひとつ、お伝えしたいことが」
不意に表情を険しいものに変えた新三郎さんが、こちらをまっすぐ見ながら言った。まるでなにか葛藤に葛藤を重ねたかのような顔と声だった。
「―――どうか、心を強く持ってください。あなたには選べるはずの未来がある。だから」
「新三郎」
まだ言葉を続けようとしていた新三郎さんだったが、いつのまにか玄関までやってきていた百合さん―――後ろには華の姿もある―――の声がそれを遮った。
「何を話しているのかしら?」
咎めるような視線を彼に向けながら問いかける百合さんに、新三郎さんは表情を普段通りのものに戻すと、
「……いえ、ちょっとした世間話です。奥様が気にされるようなものではありません」
「そう。ならいいわ」
その答えに納得したのか、視線の鋭さを消して微笑んだ百合さんは、そのまま人力車の座席へと優雅な所作で腰掛けた。新三郎さんもすぐに全部の取手をもち、出発の準備が万端に整った。
「では。―――華さん、しっかりとね」
「はい、お任せ下さいお母様」
百合さんがこちらに軽く挨拶をしたあと、華に言葉をかけた。それを合図としたのか、直後に人力車は夜道へと走り去っていった。
「さて、中に戻りましょうか。お風呂の準備も出来ていますよ」
華に促され、屋敷の中に入る。頭の中では、新三郎さんの言葉がぐるぐると回っていた。
華道の名門だからなのか、屋敷の中は何かの花の香りが常に漂っており、それは風呂場でも同じだった。ある種のアロマテラピーを受けているかのような気分で入浴を終えると、すでに先ほど頭を支配していた不安のようなものはすっかり取り払われていた。
「今日はこちらでお休みになってください」
65
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/30(日) 00:47:55 ID:OsjqZxVQ
そしてほどなくして華の指定した日がやってきた。ふたりで彼女の実家である五十鈴家の本家邸宅を訪れると、母である百合さんと、奉公人の新三郎さんが迎えてくれた。
「華さん、お帰りなさい。それにあなたも、お久しぶりね。遠いところをご苦労様」
そう言いながら百合さんは笑顔で歓迎してくれる。この家を訪れるのは交際を始めた直後にあいさつに来て以来だった。
「さあ、早く奥にお入りなさい。新三郎、ふたりの荷物を」
「はい、お任せください」
百合さんの言葉にすばやく動く新三郎さん。自分より年上の彼に荷物を運んでもらうのには多少抵抗があったが、ここで断るのもかえって悪いだろうと恐縮しつつバッグを手渡した。
その時、一瞬目がった彼の視線に、何かを訴えかけるようなものを感じたが―――。
「ほら、早く行きましょう」
華からかかった声にそれは遮られた。何事もなかったように新三郎さんがふたり分の荷物を運んでいくのに慌ててついていった。
「ごめんなさいね。今夜はどうしても外せない用事があるの。あなたたちは気にせずくつろいでいってね」
夜になり、料亭のような豪勢な料理を振舞われたあとに、百合さんが言ったその用事はここから少し離れたところに行かなければならないらしく、新三郎さんもそれに同行するそうだ。……正直に言えば、何かと住む世界の違いを娘以上に感じさせるその立ち居振る舞いには常に緊張させられるので、若干の安心を感じてしまった。
「では、私は外出の支度をします。華さん、少し手伝ってくれるかしら。新三郎は車の用意を」
「はい、お母様」
「はい、奥様」
そんなやりとりの後、百合さんは華を伴い自室へと向かい、新三郎さんは玄関へと歩いて行った。なんだがひとりで何もしないのが申し訳ないような気がして、だからといって女性の支度を手伝うわけにはいかず、自然と新三郎さんのあとに付いていくことになった。
彼のあとを追い屋敷の外に出ると、すでにある程度用意してあったのか、車―――正確には人力車―――が玄関のすぐ横に置かれ、その隣で新三郎さんが待機していた。
「あぁ、もしかしてお手伝いに?申し訳ありません、お客人に気を遣わせてしまって」
そういって深々と頭を下げる彼に慌てて勝手についてきただけですから、と答える。むしろ悪いのは客の身でありながら動き回った自分だ。
「……ひとつ、お伝えしたいことが」
不意に表情を険しいものに変えた新三郎さんが、こちらをまっすぐ見ながら言った。まるでなにか葛藤に葛藤を重ねたかのような顔と声だった。
「―――どうか、心を強く持ってください。あなたには選べるはずの未来がある。だから」
「新三郎」
まだ言葉を続けようとしていた新三郎さんだったが、いつのまにか玄関までやってきていた百合さん―――後ろには華の姿もある―――の声がそれを遮った。
「何を話しているのかしら?」
咎めるような視線を彼に向けながら問いかける百合さんに、新三郎さんは表情を普段通りのものに戻すと、
「……いえ、ちょっとした世間話です。奥様が気にされるようなものではありません」
「そう。ならいいわ」
その答えに納得したのか、視線の鋭さを消して微笑んだ百合さんは、そのまま人力車の座席へと優雅な所作で腰掛けた。新三郎さんもすぐに全部の取手をもち、出発の準備が万端に整った。
「では。―――華さん、しっかりとね」
「はい、お任せ下さいお母様」
百合さんがこちらに軽く挨拶をしたあと、華に言葉をかけた。それを合図としたのか、直後に人力車は夜道へと走り去っていった。
「さて、中に戻りましょうか。お風呂の準備も出来ていますよ」
華に促され、屋敷の中に入る。頭の中では、新三郎さんの言葉がぐるぐると回っていた。
華道の名門だからなのか、屋敷の中は何かの花の香りが常に漂っており、それは風呂場でも同じだった。ある種のアロマテラピーを受けているかのような気分で入浴を終えると、すでに先ほど頭を支配していた不安のようなものはすっかり取り払われていた。
「今日はこちらでお休みになってください」
66
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/30(日) 00:48:24 ID:OsjqZxVQ
風呂から出ると、華が寝室へと案内してくれた。来客用の部屋らしきそこにはすでに布団が一組敷いてあった。食事の豪華さといい風呂といい、まるで旅館かのようないたれりつくせりっぷりだ。……正直布団が一人分だけなのには安堵と落胆を感じたのは内緒だ。華と交際して数年になるが、いまだに清い関係を保っている身なのだから仕方ない―――はずだ。
華は案内を終えると「少し用があるので」と言ってどこかへ行ってしまった。その言い回しから考えるにまたこの部屋に戻ってくるつもりのようだが、逆に言えばそれまでは寝るわけにもいかない。手持ち無沙汰になり、とりあえず携帯電話を手に取ると、
「……圏外?」
おかしい。屋敷に入る前にはアンテナはすべて立っていたはずだ。珍しく実家の母から来ていたメールに返信をしたからよく覚えている。いくら屋内だからといって完全な木造建築であろうこの建物が電波を完全に遮断するとは考えにくい。とりあえず確認を―――あれ、どうすればいいんだったか―――。
「どうかされましたか」
かけられた声の方向に振り向くと、寝巻きなのか白い薄手の着物を身にまとった華の姿があった。背後からは月の光が強く差し込んでおり、その下の彼女の肢体のシルエットをくっきりと映し出していた。美しい。純粋にそう感じた。
「こんな無粋なもの、今夜は必要ありませんよ」
足音も立てずにこちらに近づくと、彼女は自然な動作で携帯を取り上げ、遠くへ放り投げた。しかし、その突然の行為や携帯の無事に意識は向かなかった。鼻腔をくすぐるのは入浴の、いや屋敷にやってきた直後から感じていた何かの花の香り。これは一体何の花なのあろうか。頭が回らない。一体今自分はなにをやって―――。
「いいんですよ、何も考えなくて」
こちらの両頬に優しく手を添えて、その美しい顔を近づけながら、華が言う。香りがより強くなるのを感じた。
「あなたはただ、私のことだけを考えて、私に身を委ねているだけでいいんです。そうすれば―――」
視界に映るのはもはや、今まで見たことのない妖艶な笑みを浮かべる華だけだった。
「私たちは素晴らしい夫婦になれますよ。お母様とお父様のように」
「はぁ!?来られないってどういうことだよ!?お前ついこの前絶対に行くって言って」
ああ、うるさい。まだ何かを言いたいようだったが、耐えかねて早々に電話を切ってやった。行くわけがないだろう、結婚式なんて。なぜなら―――。
「あら、断ってしまうんですね。あんなに行きたがっていたのに」
美しい微笑みを浮かべながら声をかけてくる恋人にこちらも笑顔で返す。
「まあ、私はその方が嬉しいのでいいんですが。……さ、今日はどこでデートをしましょうか」
―――なぜなら、自分には華がいるからだ。華だけがいればいいからだ―――。
67
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/30(日) 00:51:29 ID:OsjqZxVQ
ひいいいいいまた二重投稿しちまったあああああ
遅くなってすみません。華さんBADはこれで終わりです。
今日秋山殿エンドを書くといったな、あれは嘘だ。
……いやマジですみません。明日はちゃんと書くので許してください!エリカあたりがなんでもしますから!
68
:
転生MUGEN者ロア
:2016/10/30(日) 01:02:44 ID:???
エリカが責任とってgoodとbadやるってマジ?
69
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/30(日) 01:06:46 ID:nhQq.W0k
ある意味goodエンドかもしれない
70
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/30(日) 04:07:03 ID:K0j59ru.
いいゾ〜これ(≧∇≦)b
71
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/30(日) 07:22:12 ID:ZmD8VBMk
これが五十鈴流……
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板