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男「お願いだ、信じてくれ」白蓮「あらあら」

293以下、名無しが深夜にお送りします:2017/05/30(火) 19:39:09 ID:5Kc/IUx6
やっぱ面白いなあ

294ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/06/02(金) 14:46:42 ID:qGWYXiCc
星「いやはや」

部屋に入ると星さんの声がした。しかし声はしても姿は見えない。

その代わりにあるのが子供と妖精でつくられた団子。何かに子供達が群がっていた。

多分、おそらく、いや確実にあの子供達の中にいるのは星さんだろう。子供達の声の合間を縫って困った声が聞こえてくる。

男「おい、あれなんだ?」

犬耳娘「ひゃい!?」

子供達の中に混ざらず一人で人形遊びしていた犬耳娘に事情を聞く。

話によると星さんが用意したおもちゃに子供達が群がっているらしい。

男「犬耳娘はいいのか?」

犬耳娘「わ、わたしはこれがあるから」

そういって汚れた、いや年季の入った人形の頭を撫でる。ここまでボロボロなのに大切にしているということはなんらかの事情があるのだろう。

男「可愛い人形だな。さて、星さん助けてくるかな」

犬耳娘「が、頑張って」

応援してくれる犬耳娘に力こぶをつくって笑って見せるがさてあれだけの子供と妖精をどうすればいいのかは分からない。

295ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/06/02(金) 14:56:17 ID:qGWYXiCc
男「大丈夫ですか星さん」

星「その声は男さんですか。いや子供達も暇でしょうと思っておもちゃを持ち込んだのが運の尽きでしたね。子供達の数に対して用意したおもちゃの数が足りなかったのです。結果おもちゃを出せといわれこうなってます」

なんてたちの悪い。子供達の喧騒を聞いてみると確かにおもちゃという単語が拾える。

ねこにマタタビ。子供におもちゃ。効果は抜群だけど抜群すぎる。デパートなんかでおもちゃが欲しくて暴れまわる子供もいるぐらいだからなぁ。

男「ほーら、星さんが困ってるだろう」

チルノ「うわっ。何をするんだー!」

手を突っ込んで適当に引っこ抜くと子供というには大きな体。チルノだった。

男「なんでお前まで混ざってるんだよ」

チルノ「あたいだっておもちゃが欲しい」

なぜか誇らしげにそう言うチルノにでこピンを一発かます。

チルノ「ふぎゃっ。生意気だぞ人間!」

間髪いれずにもう一発。

男「星さんにいくら言ってもおもちゃは出てこないだろ。ほらお前ら解散解散」

手当たりしだいにでこピンをかますと子供達はわらわらと散っていく。ようやく見えた星さんの姿は髪も服も乱れ、神様たる威厳はどこにもなかった。

星「助かりました。ありがとうございます」

296ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/06/02(金) 15:15:21 ID:qGWYXiCc
チルノ「うー。あたいだっておもちゃが欲しかった」

大妖精「チルノちゃん。しかたないよ。向こうで私と遊ぼう?」

星「………施せば施されなかった人が不平等になる。私もまだまだですね」

男「でもその親切に喜ぶ人がいることは確かですよ。皆そろって平等の不幸よりは誰かを幸せに出来たほうがいいんじゃないですかね」

俺自身いろいろな人に助けてもらったんだ。その親切が無かったほうがいいだなんて思えない。確かに不平等と思う人がいるかもしれないが確かに俺は救われている。

なんてエゴイズムあふれた考えになるのだろうか。神も仏も信じてこなかった俺にその答えは見つかりそうにない。

星「おもちゃはもう無いですし、今私が持っているものといえば」

星さんが腕を小刻みに振るうと、そのたび何かが袖口から転がり落ちてきた。その小さく輝くものは―――

星「宝石ぐらいですね」

チルノ「うおーっ、すげーっ。大ちゃんこれすっごいピカピカしてるぞ!!」

―――ルビーにサファイアその他もろもろ。透き通ったあれは水晶かダイアか。

どちらにせよ普段お目にかかることがないものたちでチルノの声に引かれて子供達がなんだなんだと集まってくる。

星「………あれ?」

不思議そうに首をかしげる星さん。まるで宝石がただの石であるかのようだ。いや、実際石ころで価値を決めたのは人間ではあるのだが。

その通りで子供達は転がる宝石を拾って遊び始める。転がしたり眺めたりぶつけたり。

297ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/06/02(金) 15:24:19 ID:qGWYXiCc
男「子供達は光るものが好きですからね」

俺だって好きだ。主に価値が。

星「子供達が喜ぶのなら良い事だったのでしょう」

子供にとっては遊べるもの全てがおもちゃでなんて平和な世界なのだろう。

男「えぇ。そうですね」

何を施せばいいかなんてこっちが考えてるほど向こうは期待していない。いやそもそも基準が違うものに何を送ればいいかだなんて悩むほうが無意味でいざやってみれば成功することも多くある。なんて人生を分かったような考えを浮かべ一人笑う。

その価値基準の間を埋めていければ世界は平和にはなるのだろうけどそれは到底無理なことで世界はいろいろな視点に溢れているから楽しくて面白くて悲しくて非情。

幻想郷はそんな全てを受け入れるから残酷で―――

ずきり

頭が痛むと同時に幻聴。

かちりかちりと時計が進むような音。



足音

風の音

霊夢の声

298ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/06/02(金) 15:35:20 ID:qGWYXiCc
―ねぇ、本当なの?

――えぇ、本当よ。昨日からずっと―――

――――う、嘘だっ―――ちゃんの嘘つきっ――

――――――行ってあげなさいよ

―――あ―――待ちなさいよっ―――ねぇっ―――

――おーい――たんだ?今――が走って―――けど。

―知らな――ん――ばか――

―――それより―――もいいか?―――

――あげて――喜ぶから―――

――――でも本当に―――――信じられない

―――だって――が言ってたもの――当よ

―――あいつ――つきだし、信じられ――――たくねぇな

――まぁね―――探し―――お願――見て――

母さんを―――――

299ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/06/02(金) 15:47:02 ID:qGWYXiCc
星「男さん?」

星さんがいる。

畳の部屋に子供達と星さんがいる。

男「あ――はい」

星「大丈夫ですか。いきなり動かなくなってましたけど」

男「大丈夫です」

とはいうものの頭の整理が追いついていない。

俺はさっきまで木々の木漏れ日の下で霊夢を見てた。

霊夢と………………

痛い痛い痛い痛い。思い出そうとすると頭が痛い。

良く出来た白昼夢に脳が蝕まれているようで、脳の奥底で誰かがのこぎりを振り回しているかのような強烈な痛み。

痛みに思わず眼球が明後日の方向へ向き呼吸が止まる。

大妖精「ひぃっ」

考えるのをやめ、ようやく痛みが引く。

なんだったのかは分からないがどうやら触れないほうがいいらしい。

300ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/06/02(金) 15:55:03 ID:qGWYXiCc
星「本当に大丈夫ですか? 大丈夫そうには見えないのですが」

男「人間は……空を飛べませんからそのせいです………気圧が」

変に返した言い訳に星さんは良くわからないまま頷く。

何度か深呼吸をし無理やり体を落ち着ける。もう痛みは嘘のように消えていた。

ナズ「もうすぐ着くから中にいるやつは皆何かに掴まりなよー」

外からナズーリンの注意が聞こえる。その声が聞こえた子供達から近くにいる大人に駆け寄り抱きついてきた。つまり俺と星さんに。

男「あぶっ」

星「はぁ…」

流石妖怪の子。抱きついてくる力は半端じゃなくいろんな骨が軋みをあげる。頭痛に比べればだいぶマシだけどそれでも

痛い痛い痛い痛い痛い痛い

301以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/02(金) 20:08:09 ID:7djFoOf2
物語が進んでいてうれしい

302以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/02(金) 21:43:53 ID:bo6Htd/U
和みますねぇ

303以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/02(金) 22:39:24 ID:ATy9nIn2
http://bit.ly/2q4mPE6

304以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/03(土) 04:07:12 ID:E3EqsPWo
見てる俺らだけは気楽なもんだが、やられてる方はたまったもんじゃなかろう

305以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/03(土) 08:10:56 ID:.6WKjLyY
乙です

306以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/13(火) 03:49:06 ID:3FMcsNBA
支援

307以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/15(木) 13:40:01 ID:Bne.dibQ
これ終わる頃には何歳になってるんだろうなあ

308以下、名無しが深夜にお送りします:2017/06/26(月) 20:17:49 ID:cUdtmeRA
シエン オブ オモロー

309ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/02(日) 00:05:39 ID:Z62lBcOQ
痛みをなんとか我慢していると軽い浮遊感。不快なほどではないが違和感を覚える。

違和感と耳鳴りからどうやら船の高度が下がっているということがわかった。道中問題が起きなかったことは幸いで、もし大規模な戦闘でも起きていれば子供たちが巻き込まれることは必至だっただろう。

水蜜「あれぇっ?」

村紗の戸惑う声が遠くから聞こえた。それに続いて一輪の驚愕。聖の困った声が微かに聞こえる。

男「なにか、あったんですかね」

星「見てきましょう。男さんは危ないですからここで子供達を見ていてください」

男「いえ、もし危ない状況なら星さんがいてくれないと子供達が守れません。俺が行ってきます」

星さんが何かを言おうとしていたが、その前に立ち上がり部屋から出ることにしよう。

チルノ「うわーっ」

大妖精「ひゃあっ」

犬耳娘「いたいっ」

振り落とされた子供達の事は気にしない。

310以下、名無しが深夜にお送りします:2017/07/02(日) 00:19:59 ID:3N1C3.Ag
大ちゃんかわいい(*´ω`*)

311ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/02(日) 00:22:32 ID:Z62lBcOQ
外にでると高度が下がったせいか風が弱まっていた。この風なら簡単とまではいかないが問題なく移動はできるだろう。

声の聞こえた方向。船の船首側へと向かうと村紗さんを筆頭に作業をしているメンバーが勢ぞろいしていた。

そのいずれの顔も明るくはなく、どうやら困った事態が起きたらしい。

男「どうしたんですか?」

村紗「やられたよ」

そういって村紗が深いため息をついた。それに合わせたかの様に、一輪が強く足を踏み鳴らした。

男「やられたって何が?」

一輪が怒るような何かが起きたのは確からしいが。しかし一体なにが?

村紗「今ここは誰がいる?」

そういわれたので数えてみる。目の前にいる村紗。その斜め後ろにいる一輪。船首に立っている白蓮さん。座り込んでいるナズーリン。

男「ぬえと響子と射命丸さんがいない」

村紗「ぬえは私も知らないけどそれはどうでもいい。響子は保母妖怪さんを見てるよ」

ということは。

男「射命丸さんは、どこへ?」

村紗「……………逃げたよ。案内する気なんてなかったのさ」

312ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/02(日) 00:32:51 ID:Z62lBcOQ
男「逃げたって。約束が違うじゃないか」

ナズ「考えてみれば当たり前のことだったんだ。向こうには鬼がいる、土蜘蛛がいる、さとりがいる。私達よりずっとずっと強い妖怪がいるんだ。今さらご主人を巻き込んだところで得なんてなかったのさ。つまり初めから契約なんて守る気はなかった」

白蓮「困ったわねぇ」

一輪「姐さん困ったじゃすみませんよこの状況!? ねぇ、あんたがここに行けって言ったんでしょ!? どうすりゃいいのよこれ!」

一輪が近寄ってきて、俺の胸倉を掴む。それを止めようとしたのは白蓮さんだけで、他の皆は俺を責めるような目で見ていた。

男「受け入れてくれるように頼んできます」

それしかない。帰る場所はもうないし、このまま飛び続けるわけにもいかない。

責任をとらなきゃいけないのは一輪の言うとおり俺で、だから今から俺はあの結界を越えて説得しにいかなければいけない。

………?

一輪「説得するって言ったってどうするのよ。あそこから誰かが出てくるのを待つ? 出てくるわけないじゃない」

男「あの結界通り抜けられるんだよ、外から中だったら」

………?

一輪「………なんであんたがそんなこと知ってるのよ。未来を知ってるから?」

男「えっと、なんだったかな。たしか………紫に聞いた?」

たしか紫に地獄の結界の話を聞いたような。もしくは映姫さん?

313ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/02(日) 00:46:49 ID:Z62lBcOQ
まぁ、誰が言ったかはどうでもいい。通り抜けられることが本当ならば。

男「じゃあ行ってきます、ってどうやって下りればいいんだ」

船はまだ浮いている。目がくらむほどではないが飛び降りたら相当運が良くない限りは死んでしまうような高さ。岩肌が景色ではなく凶器に思える。

ナズ「………私が連れて行くよ」

一輪「行くなら姐さんよ」

ナズ「言っちゃ悪いが聖は腹芸が苦手だ。この場に私以上に腹芸が得意なのはいるかい?」

そういって見回すナズーリンに三人は否定を返さない。一輪と村紗は顔を逸らし、白蓮さんは困った顔をして微笑んだ。

マミ「儂とかどうじゃね?」

唯一言葉を返したのは紫煙を燻らせながら愉快そうにどこからともなく現れたマミゾウだった。

314ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/02(日) 00:58:17 ID:Z62lBcOQ
一輪「マミゾウ? 見なかったけどどこにいたのよ」

マミ「皆を見守っておったぞい。こっそりとな」

一輪「手伝って発想はどこに?」

マミ「ほっほっほ。老骨を頼るでないわ」

ナズ「手伝うって何を考えているんだい?」

マミ「親切心をそう疑われては敵わんのう。それでこの場に儂以上に腹芸が得意な奴はいるかね?」

からかうように明らかにナズーリンに向けられた言葉にナズーリンは言い返しはしなかったものの口角をぴくぴくと震わせた。

ナズ「だ、だけど私もついていくよ。私は聖たちほど甘くはないからね。それに監視は立場上慣れてるから私も最適なのさ」

マミ「それではこの三人で行く。良いかね、聖や」

白蓮「え、はい。そうね。頼みましたよ男さん。ナズーリン。マミゾウ」

男「任せてください」

マミ「飯の種ぐらいの働きは期待してもいいぞい?」

ナズ「やれやれ、いつも貧乏くじさ。まぁ、慣れてるけどね」

315以下、名無しが深夜にお送りします:2017/07/02(日) 01:33:01 ID:3N1C3.Ag
マミゾウさんヤッター

316以下、名無しが深夜にお送りします:2017/07/07(金) 16:53:29 ID:aaV6oKfc
シエーン

317ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/10(月) 15:10:56 ID:IXjfrWdw
マミゾウに抱きかかえられて地面へと降りる。どこからか視線を感じたがどうせのら妖怪だろう。襲い掛かってこないのならば問題はない。

旧地獄に続くらしい縦穴は思ったよりは小さくそして深かった。覗いてみると遠く先の方に光が見える。あの光はいったいなんなのだろうか。

穴には飛べないものでも下れるように螺旋階段状に階段が作られていた。だが粗末な作りで事故防止用の柵なんてものはない。落ちたら死は免れないだろう。

ナズ「で、君の話だとこの結界は外から中なら通れるんだろう?」

マミ「珍しい結界よのう。結界とは外と中を分けるものなのに片方からは分けられてはおらぬ。このようなあやふやな結界がなぜこうも強固に存在してるか検討がつかぬよ」

男「何を言ってるかは分からないが、っと」

淡く金色に輝く結界へと足を沈める。結界は踏み入れた足を拒むことなくするすると通した。

男「引っこ抜けないな。やっぱり」

足を引き抜こうとするも上への動きは認められないようでもう後戻りはできないらしい。

両足を沈み込ませ、ゆっくりと階段を進み、結界が腰、胸、頭まで飲み込む。

肉体的には何も無かったが、精神的には何か嫌なものを感じた。

そうしてようやく全身を沈め、人心地ついたとき

男「っ!」

暗闇に揺らぐ緑色の瞳に気づいた。

318ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/10(月) 15:18:11 ID:IXjfrWdw
男「………さとり、じゃないな。ことりでもない」

だが目の前にいる少女。結界の金色にかすかに照らされた少女は二人の面影を持っていた。

こいし「だれ?」

ゆらゆらと不可解な歩き方で近寄ってくる少女。その表情にはさとりのような達観もことりのような狂気もなかった。

言えば―――なにもなかった。

男「さ、さとりに会いに来た」

こいし「そうなんだぁ」

少女は俺の胸元まで顔を寄せ、そして俺の顔を見上げた。息が首筋にかかるほどの距離で、俺はうつろな緑色の瞳におぼれそうになった。

こいし「ついて、きて?」

そういって少女は俺の手を掴み。

こいし「えいっ」

深い穴へと引き摺り下ろした。

319ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/10(月) 15:25:04 ID:IXjfrWdw
浮遊感、浮遊感、浮遊感。

さっきまでとは違う、ただの自由落下で、体を支配する浮遊感。

物は下へ落ちるという自然法則によって俺の体は加速していく。

こいし「あっはっはっは」

少女は俺の手を掴んだほうとは逆の手で被った帽子を飛ばないように押さえ無邪気で甲高い笑い声を上げていた。

こいし「しゃーぼんだーまーとーんだー。屋根、屋根ってどこだー。地底の空は皆やねー」

光が近づく。太陽の光とは違う青白い光。

男「う、あ」

見えた。その光に照らされた地面。

男「あぁあ」

岩肌、柔らかくないから

男「あぁああああぁああっ!!」

死ぬから、柔らかくないから、硬い、死ぬから死ぬ

感情を伝えるニューロンは情報過多でショート。地面が近づくにつれ恐怖が全てを追い出していく。

妖怪との戦いでもなんでもない、こんなところで俺は―――

320ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/10(月) 15:29:45 ID:IXjfrWdw
こいし「はい、どーん!」

その擬音とは裏腹に聞こえる音は静かなもので。

男「あれ、俺、生きてる」

生きてる。呼吸もしてるし、心臓も動いている。

だけど俺の体はまだ地面に落ちておらず

文「せ、せ、せ」

文「大セーフっ!!」

その言葉で急激に変わった視界と現実をやっと認識することができた。

321ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/10(月) 15:35:40 ID:IXjfrWdw
男「あ、れ? 射命丸さん」

文「なにやってるんですかあなたは!?」

こいし「ジャンプ!」

文「なんで、いきなり落ちてきて。結界があるからって飛び降りたんですか!?」

男「いや、あの子に引きづられて」

指を指した先にいる少女はにこにことこっちを見ている。行動は殺意しかなかったが表情はそんなこと微塵も感じさせない。

文「あの子って………んん!? こいしさん!?」

こいし「やっほぅ!」

文「なんでこいしさんが、というかなんで、いやなぜ!?」

なぜか混乱している射命丸さんとにこにこの少女。

収拾なんてつくわけがない。

俺は射命丸さんが落ち着くまで黙って抱きとめられていた。

322ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/10(月) 15:40:34 ID:IXjfrWdw
文「ふぅ。ところでなぜ貴方がここに」

男「理由は分かるでしょうに」

文「………私は謝りませんからね」

そういってふいと横を向いた射命丸さん

こいし「目と目を合わせてー」

の顔をむりやり少女が曲げた。

さっきから行動がよく分からないな。なにが目的なんだろう。

文「やめふぇくだふぁい」

文「とにかく入ってきてしまったものはしかたありませんが、こちらの命令に従って」

マミ「ゴミ漁りがずいぶんとまぁ、偉そうにしてるじゃあないかね」

文「うひゃあ!?」

またどこからともなく現れたマミゾウが射命丸さんの頭をキセルで数度軽く叩く。それに続いてナズーリン階段を駆け下りてきて

ナズ「おろかものめっ!」

そう叫びながら俺たち二人の頭にとび蹴りをかました。

323ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/10(月) 15:59:13 ID:IXjfrWdw
ナズ「なにがしたいんだい君は!」

文「な、なんで私まで」

ナズ「裏切り者には良い罰さっ」

激昂するナズーリンはその体躯ながらも迫力がある。俺たち二人は思わず正座をし、それからしばらくの間ナズーリンの説教を聞くこととなった。

ナズ「分かったかい?」

男「はい、すいません」

文「もうしません」

射命丸さんはともかく俺に関しては一切非は無いと思うのだがそれを証明する少女はいつのまにか消え、無実を証明することはできなかった。

結局俺の不注意で穴から落ちたということになり、ナズーリンからは愚か者という大変不名誉なあだ名された。

反論に意味はないと判断して耐え忍んではみたが、30分を越えたあたりからナズーリンは本来の目的を見失っているのではないかと思い、こんなことより先を急ごうと提案してはみるものの「こんなこと」といった表現が気に障ったらしくさらに激昂したナズーリンの説教は伸びた。

そうしてやっと終わったころには二人ともうなだれてトボトボと徒歩で地底を進むほどに疲れていた。

マミ「ナズーリンはおぬしのことを心配しておるのよ。くくく、愛情表現と思っておけ」

ナズ「そこ! 変なこと言うんじゃないよ!!」

マミ「おう、怖い怖い」

324ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/20(木) 10:06:36 ID:YX8O3/46
文「よく躊躇なく結界に入ってきましたね。普通しませんよそんな行動」

普通はしないだろう。普通じゃないからやったんだ。

射命丸さんは俺の言い分を信用してないためか、いまだに横目でじろじろと見てくる。

まぁ、当り前だよな。素直に受け入れてくれた聖さんたちが特別なだけだ。本当、頭が上がらないな。

男「それにしても、不思議な場所ですね、ここ」

地底は文字通り地の底だった。上も下も、一面岩肌に覆われていて寒々しい。しかしなぜか明るい。

岩肌に生えた光るコケのせいだろう。不規則に灯された青白い炎のせいだろう。

なぜか空に輝く光のせいだろう。

男「なんなんだろうな。この場所」

325ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/20(木) 10:20:30 ID:YX8O3/46
10分ほど歩いただろうか。あたりを照らす輝きが一層強さを増した。

一面に見えるのは白塗りの壁に朱色の柱。教科書で見たような優美で雅な建物でできた町が広がっていた。

そのどれもが多少の差はあれ、傷ついているが、岩肌で囲まれた空間よりはよっぽどマシだ。

岩肌と町の境目には大きな朱色の橋があり、その下には暗闇が流れている。底にあるのは水か地か。石ころでも投げ入れてみればわかるだろう。

「………誰、それ」

橋を渡ろうとしたときだった。橋の中腹で欄干に両腕を乗せ黄昏ていた少女がちらりとこちらを一瞥して声を投げかけてきた。

少女の髪は金色で目は深い緑色。それだけでも目立つ風貌だが顔の横にある耳は人間のものと違い尖っていた。

文「これはこれは水橋さん。奇遇ですねぇ」

パル「奇遇もなにも私は橋姫よ? ここにいて当然じゃない。それで、ネズミにタヌキはまだいいわ。誰よそれ」

パル「人間に見えるんだけど?」

そう水橋と呼ばれた少女が首を大きく傾けた瞬間だった。垂れた金色の髪から除く緑色の瞳が大きく揺らいだ。

ゾクリと背筋を震わすのは今まで何度も体験した殺気。今思えば人それぞれで持つ殺気の種類が違う。

彼女が持つ殺気は心を掴まれ地の底へ引っ張られるようなとても不気味で恐ろしいもの。

素直に殺されるんだと思わせた萃香のものとは対照的で、先の見えないおどろおどろしいものだった。

326以下、名無しが深夜にお送りします:2017/07/20(木) 23:05:06 ID:d7sU2Dtw
支援

327以下、名無しが深夜にお送りします:2017/07/21(金) 18:55:43 ID:WAgTHoPI
紫煙

328ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/22(土) 13:22:58 ID:a1AQiFo.
文「あやや、落ち着いてください。これにはわけがありまして」

パル「この危ない時に外から人間を連れてくるわけって何よ。食料?」

射命丸さんの弁解甲斐なくいつのまにか指の間に挟んだ五寸釘を携え水橋がさらに歩みを進める。

彼我の距離はざっと5メートルほどまで迫っている。ゆらゆらと揺らぐ緑色の瞳の奥まで覗けるほどの距離。

ナズ「話を聞かないなんて。これだから嫌われものなのさ」

パル「ドブネズミとタヌキの害獣共が良く言うわね。煮ても焼いても臭くて食えたもんじゃないくせに」

ナズーリンの悪態に言葉を返す。ナズーリンは少し顔をしかめたがそれ以上悪態をつくことはなかった。

マミ「ぽんぽこタヌキは商売繁盛の人気者じゃて。まぁ、それはよい。大事なのは我らが何かではなくて、我らが何をするかじゃろう?」

パル「舌を斬って四肢を落とせば関係はないわ。貴方たちが善であれ悪であれ私たちは変化を望んでないわ」

話は通じない。百篇言葉を繰り返したところでおそらく止まらない。排除するという意思に対して話し合いを求む努力は不毛なようだ。

更に距離は詰められ2メートルほど。踏み込み腕を振るえば簡単に届く距離。距離は敵意の高さと反比例している。つまりこの距離は一触即発というわけで俺たちの間に緊張が走る。

男「分かった。手錠でも縄でもなんでも」

パル「斬りおとす方が早いわ」

最後の交渉は決裂。釘が地底の光を受け、鈍色に輝く。雰囲気は濁りあたりの臭いが変わる。戦いの雰囲気に周囲は呑まれ―――

「止まりな、パルスィ」

329ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/22(土) 13:35:18 ID:a1AQiFo.
この場を制したのは俺たちでも水橋でもない猛る風と共に現れた第三者だった。

そいつに遅れ一層強い風が俺たちの体を押す。転ばないように踏ん張っていると俺の右手を引いてそいつが支えてくれた。

見ると長い金色の髪。それよりも目立つのは体格と額から生えた朱色の角。顔だちと過剰な胸のふくらみがなければ俺は男と思っていただろう。

身長はおそらく2メートル近く、肩幅も俺より太い。大きさは原初からある強さをはかる基本的な物差しだ。そんな彼女からなぜか俺は体格がまったく違う萃香を感じ取っていた。

パル「なんで止めるのよ、勇儀」

勇儀「ありゃあ誰が見たって止める。血みどろ沙汰は勘弁さ。酒が不味くなる」

今なお距離を詰めようとする水橋の頭を大きな手で押さえ制する。水橋は数度頭を動かそうとしたが諦めて釘を橋の下へと放り投げた。

パル「鬼のくせに」

男「あんた鬼なのか?」

とっさに反応してしまい、口走る。突然の言葉に勇儀が目を丸くしていた。

勇儀「あぁ、鬼だけどそれがどうかしたか?」

男「いや、萃香の」

と言った瞬間に気づく。

俺と萃香の関係性について説明ができないと。言い換えようにも萃香の名前を取り繕うことはできない。

勇儀は更に目を丸くして、そのあとにかっと大きく笑った。

330ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/22(土) 13:39:19 ID:a1AQiFo.
勇儀「なんだい、萃香の知り合いかい!」

そういってぽんと頭を叩く。

しかし動作とは裏腹にその衝撃は重く軽く前のめりになってしまった。

マミ「で、通してくれるのかね?」

勇儀「拒む理由はないねぇ。それじゃあまず出会いの一献」

マミ「酒を拒む理由があるから勘弁願いたい」

勇儀「そりゃあ残念」

ナズ「なんだかよくわからないけど丸く収まったのかな」

文「みたいですねぇ」

331ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/22(土) 14:26:42 ID:a1AQiFo.
恨めしそうな目で水橋に見送られ、勇儀さんに連れられ街道を進む。

地底では人間の姿は珍しいらしく、周りの妖怪からはじろじろと見られていた。目立つ理由はそれだけではないだろうが。

文「どうもありがとうございます勇儀さん」

勇儀「パルスィは融通が利かないからねぇ。門番としては正しいのかもしれないけど窮屈で退屈だろう?」

まぁ、嫌いじゃあないけどねと勇儀さんが付け加える。

俺はどうも好きになれないタイプだったが、その懐の広さは鬼特有のものか。

勇儀「しかし地底に用事があるならそこの射命丸にでも言伝を頼めばよかっただろう?」

ナズ「その予定だったのさ。だけど直前でこれが私達を謀って逃げてね。いやぁ、困った困った」

ナズーリンが悪戯染みた口調でそう言ったとたん、勇儀さんの足が止まり

勇儀「あん?」

呼吸が止まるほどの殺気が辺りに噴き出した。

文「あややややや、こ、これはですね」

勇儀「嘘をつくやつ、約束を破る奴は、私は嫌いだね。それがただの他人ならまだよし、まさかぁ私が目をかけてやったお前がそれをするとはなぁ」

文「り、りだっ―――」

眼にもとまらぬ速さで逃げようとした射命丸の足首を勇儀が眼がくらむほどの速さで捕まえる。

332ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/22(土) 14:32:03 ID:a1AQiFo.
勇儀「仁義は通しな。先にさとりのところへ行って話をつけてくるんだ。いいね?」

文「は、はいぃっ。今すぐ行かせてもらいますっ!」

勇儀「よし、なら行って―――こいっ!!」

射命丸さんが逃げようとした方向とは逆方向に勇儀さんが射命丸さんの体を放り投げる。錐もみ回転したのちに蛇行しながら射命丸さんは飛んで行った。

勇儀「これでよし、と」

ナズ「ふぅ。少しは気が晴れた」

男「大丈夫なのかあれ」

ナズ「腐っても射命丸 文だよ。問題ないさ」

そういって笑うナズーリンに対し、やはり性格に難ありと首を縦に振った。

マミ「それでは、さとりのところへ向かうとしようか」

333ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/07/22(土) 14:50:29 ID:a1AQiFo.
勇儀に連れられ更に進んでいく。街の風景はどんどん変わっていき、辺りは白壁から木造の建物が目立つ、あまり人間の村と変わらない風景になっていた。

勇儀「不思議かい? 妖怪のための場所がこんなに人間くさいだなんて」

男「えぇ、まぁ」

妖怪が人間より遅れた生活をしているとは思わない。だがしかしそれでもここはあまりにも人間染みていた。

勇儀「前までは人妖まみえる場所だったのさ。古明地当主さとりの手によって温泉が出来てから」

勇儀「そのころは平和で愉快だったさ。騒がしいのが好きな私達にとっちゃあいい場所だった」

こんなことになるまではねと付け加える勇儀さんの表情は物悲しげだったがすぐに表情を改めた。

マミ「おう、見えてきたぞ男よ。あれが地底が誇る温泉宿じゃ」

マミゾウが指差した先に見えたのは予想よりも立派で大きな宿だった。

マミ「さて話をつけにいこうかね」

話をつけに行こう。

かつて命を奪った負い目はあるが、今度は彼女を、皆を生かすために。

334以下、名無しが深夜にお送りします:2017/07/24(月) 10:32:02 ID:AzVP0jCs
支援ぬ

335以下、名無しが深夜にお送りします:2017/07/26(水) 01:52:58 ID:19.D4ZFw
始園

336以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/06(日) 00:33:35 ID:DvokWNrs
支援

337以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/15(火) 20:54:51 ID:mFE7nkno
紫焔

338以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/20(日) 21:06:52 ID:asIs4i2g
支援

339以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/21(月) 18:32:37 ID:u0dlETkE
安価スレだった頃から数えてもだいぶ経ったな…最初のスレからしたら尚更…早いもんだ

340以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/27(日) 23:29:50 ID:QqDRCM4s
時が経つのが早いなと思った(小並感)

341以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/30(水) 00:15:39 ID:phkufThI
支援

342以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/31(木) 00:43:50 ID:IEnbyyYs
支援

343以下、名無しが深夜にお送りします:2017/09/06(水) 05:49:03 ID:/PSy6drE
支援

344ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/09/07(木) 22:54:46 ID:m.FE6kXk
こんな時でなければ感嘆の声をあげていそうな立派な玄関に入るとそこは閑散とし、人気を感じさせなかった。

辛うじて灯りは積もっているがそれでも薄ぼんやりとで、足元が十分に見えないほどには暗い。

不気味というよりはどこかもの悲しさを覚える空間だ。客足が途絶えてかなり経つのだろう。床には薄く埃が積もっている。

本当にここに? と疑問を投げかけてしまいそうになるほどには日々を過ごすに不適当な場所。

しかし勇儀さんと射命丸さんは先に進んでおり続かないわけにはいかない。埃まみれになるのが嫌そうな顔をしていたナズーリンの手を引いて進む。

靴を脱いで上がったため、足の裏はすぐにザラザラと不快な感触を覚える。前を行く二人を見れば靴を履いていたため脱がなくてもよかったのかもしれない。

屋敷の廊下は人気を失い活発さを失った見た目とは裏腹にかなりしっかりとしている。妖怪のために頑丈にしているのだろうと関係ないことを思った。

しかし見れば見るほどにここがどれほど力を入れて作られているのかが分かる。本当にこんな時でなければよかった。

どうやら見た目にふさわしく広いようで、何度も廊下を曲がりながら奥へ進んで行く。途中見えた厨房も立派なもので、煮炊きしかできない寺とは大違いだ。

掃除をすれば活動拠点としてこれ以上ないものになるだろう。そのためには話を通すことが重要だ。

何を語ろう。何を話そう。いや、相手は心を読むのだから関係はない。

嘘を付けない。誤魔化せない。

口先だけで今までを乗り切ってきた俺にとって相性の悪い相手。

一番心配なのは前の世界を知られることだ。

きっと、さとりにとって心地よいものではないはずだから。

345ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/09/07(木) 23:12:39 ID:m.FE6kXk
対策なんて当然取れないまま、ようやく目的の部屋についた。

そこは襖ばかりの旅館の中で唯一の木製の扉だった。文が控えめに扉を叩くと、中からか細く誰かと尋ねる声が返ってきた。

文「あやや。貴方なら訊ねなくてもわかるでしょう?」

そう苦笑しながら文が扉を開ける。中の空気は暖かく、そして濃く甘い伽羅のような香りがした。

勇儀「それじゃあ私はここいらで失礼するよ」

さとり「…あら、勇儀も来てたのね。つれないじゃない。私から逃げるなんて」

勇儀「この話し合いに私は必要ないだろう? あるのはこいつらだけさ」

むんずと勇儀さんが胸元を掴み部屋の中へ押し入れる。手をほどくのを忘れていたナズーリンもつられて部屋の中へ入り、絡まった二人は床に尻もちをついて倒れた。

さとり「そう、あなたが………」

部屋の中では赤い重厚そうな椅子に座っているさとりがいた。

紫の髪の色は変わりないが、前見た時と違って痛んでおり、気怠そうな瞳の下には濃く大きいくまができていた。調子がよさそうには思えない。

さとりはちらりと俺を見た後、左手に持った煙管を大きく吸い、ゆっくりゆっくり、細く煙を吐きながら最後にため息と一緒に吐き出した。

甘くそしてほろ苦い香りが強くなる。どうやらこの香りはその煙管のものらしい。狭い部屋ではない。この部屋に充満するほどとはどれほど吸っているのだろうか。

346ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/09/07(木) 23:32:14 ID:m.FE6kXk
さとり「心配してくれてありがとう。でも妖怪だもの。この程度じゃ死なないわ」

もう一度深くさとりが煙管を大きく吸い込む。

濁った瞳は俺を捉えているのかどうかが分からない。見ている気もするし、ここではないどこかを見ている気がする。

瞳自体は別物だが、どこかさきほどの少女と同じ印象を抱かせる。

文「また寝てないんですか? 妖怪は丈夫と言いましても精神はそうではないのですよ?」

さとり「寝れないわ。寝れないのよ。大丈夫、まだ健康よ。なにも問題はない」

その言葉は射命丸さんに返したものなのだろうか。俺には自分自身に言い聞かせてるように思える。

文「それでは少年さんも心配するでしょう。睡眠不足でそんなもの吸ってちゃ倒れてしまいますよ」

さとり「大丈夫。私がこんななのはここだけ。あの子は知らないわ。それよりもお話に来たんでしょう?」

さとりが座ってる対面の椅子を顎で示される。椅子は一人用で三人では到底座れそうにない。誰を座らせようかと考えたがどうやら指名されているのは俺だけらしい。

さとりの三つの瞳にじっとりと見られながら席に着く。

ナズ「いや、待っておくれよ。そいつはただの人間さ。話なら私やマミゾウが」

さとり「あなたはお客様じゃないの。私のお客様はあなただけよ。男」

さとり「話はあまり得意じゃないの。口下手でね。だから見せてくれるかしら。貴方の心」

訊ねてはいるが有無を言わせぬじっとりとした陰鬱な迫力があった。俺は断ることもできずに少し頷き、さとりは少し大きく目を開け俺を見つめた。

347ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/09/07(木) 23:35:18 ID:m.FE6kXk
直後、さとりの手から煙管が落ちる。

ジュッ

毛足の長い絨毯が焦げ、煙管の火が消える。

瞳は大きく開かれ上下左右にせわしなく揺れ、青白かった顔はさらに血の気を失っていく。

だらりと下がった腕はわなわなと振るえ、震えた歯が触れ合ってかちかちと音を立てる。

明らかに正常ではない反応に射命丸さんが心配そうに近寄った瞬間。

絶叫が辺りの空間を裂いた。

348ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/09/07(木) 23:46:07 ID:m.FE6kXk
想定できていたため、とっさに耳を抑えることに成功する。

しかし手で覆っても頭の中に響くその叫び声をもろに受けた射命丸さんはのけぞり、ナズーリンは白目を向いて気絶した。

咳だけでなく血をも噴き出しそうなほどの激しい声。それを止めたのは帰ろうとしていた勇儀さんだった

勇儀「おい!? どうしたさとり!? 大丈夫かさとり!? おいっ、おいっ!?」

その巨躯でさとりさんを抱きしめ背中を撫でながら呼びかける。叫び声は勇儀さんの体である程度阻まれ不快なくらいには低減したが続いてあふれ出した涙と嗚咽と鼻水が勇儀さんを汚していく。

想定はしていたが、心が揺れないわけじゃない。

かつて敵であった少女が苦しむ姿を見て何も感じないわけじゃない。

あぁ、やはりこうなってしまったかと頭を悩ませる前にすべきことが何かあるはずだと立ち上がろうとした時、射命丸さんに腕を捻られ床へ叩きつけられた。

文「やっぱりあなたは」

マミ「待ったっ!」

間にマミゾウさんが入ってくれ、どうやら怪我を負うことは避けられたらしい。しかし射命丸さんの視線は鋭く、勇儀さんもさとりさんを宥めながら怒りを含んだ視線をこちらへ向けてきた。

マミ「これには事情があるんじゃ。さとりが落ち着くまで待ってくれんか」

勇儀「こいつがここまでなるんだ。ろくな理由じゃないね」

にべもなく打ち切られる会話。一触即発のその状況でマミゾウさんは座り込んで、顎を大きく上に向けた。

マミ「納得いかなかったら儂の首をくれてやる。この男も、そこのネズミも好きにせい」

349ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/09/07(木) 23:57:54 ID:m.FE6kXk
三人の命。どれほどの重さなのか計る定規はないが、勇儀さんと射命丸さんを抑える重石ぐらいにはなったらしい。

眉をひそめながらも二人が渋々うなずく。再びさとりの嗚咽だけが響く。

解決するための言葉を発することすら許されない状況。

首筋によく切れる刃を向けられているような寒々しさに耐えながら、時間が解決してくれるのを待つ。

長い呼吸を何度したことだろう。どくどくと激しく打つ痛いほどの鼓動を奥歯を食いしばりながら耐えているとさとりの嗚咽が徐々に小さくなる。

その声が完全に消えたときさとりは勇儀の胸元から抜け、火の消えた煙管を咥えた。

さとり「すいません。取り乱しました」

勇儀「大丈夫かい? さとり」

さとり「大丈夫です。心配をおかけしました。………申し訳ありませんが席を外してくれませんか皆さん。男と二人きりで話したいのです」

勇儀「あんなことがあってこいつと二人きりにはできないね」

さとり「良いんです。大丈夫ですから」

頑として譲らないさとりに勇儀は渋々と折れ、射命丸を連れて廊下へ出ていった。勇儀さんのことだ。廊下で聞き耳を立てるなんてこともないだろう。

マミ「何かあったら呼ぶといい。すぐに駆け付けるからの」

マミゾウさんも席を外す。ずりずりと気絶したナズーリンも引きずられて外へ連れて出された。

350ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/09/08(金) 00:13:37 ID:ZLreOKHA
完全に二人だけの空間。

なんだか俺から話を始める気には慣れず、じっとさとりの言葉を待った。

しかし第一声を待つ間、さとりは煙管の中から灰と燃えカスを取り出し、薄い布で雁首を拭き始めた。

煙管を分解し、一通りの掃除が終わると再び組み立て、さとりはじっと何も入ってない雁首の中を見つめた。

さとり「………………本当?」

やっと出た言葉はたったこれだけ。しかしこれだけで良かった。

長々と尋ねられるより、怨嗟の言葉を吐かれるより、俺のことを信じればいいのかを尋ねるその一言だけが良かった。

本当だと言ってしまえば信用と同時に彼女を傷つける事になる。だが彼女を庇っているわけにはいかない。狂人の妄想であれば彼女は救われる。しかし救われなかった人たちを見捨てるわけにはいかなかった。

男「あぁ」

さとり「そう」

短い言葉のやり取りだけですべてを把握したさとりは、近くにあった小さな箱から葉っぱを取り出し丸め、雁首に乗せ火をつけた。

さとりがそれを吸い終わるまで俺たちは無言で、さとりはもう一度だけ涙を流し、俺は見るわけにはいかず瞼を閉じた。

351以下、名無しが深夜にお送りします:2017/09/08(金) 00:26:20 ID:AqwxcVSI
とんでもねぇ待ってたんだ

352以下、名無しが深夜にお送りします:2017/09/08(金) 00:27:42 ID:AqwxcVSI
そりゃあさとりんも発狂するよなぁ

353以下、名無しが深夜にお送りします:2017/09/09(土) 00:53:47 ID:x3UivLnU
これは物語が進んだ感あるな

354以下、名無しが深夜にお送りします:2017/09/14(木) 17:28:27 ID:o0sn9s6M
ナズが気絶するほどの大声で発狂するとは・・・そりゃそうか・・・

355以下、名無しが深夜にお送りします:2017/09/19(火) 21:16:45 ID:s2zJQtwk
支援

356以下、名無しが深夜にお送りします:2017/09/19(火) 22:08:16 ID:P1Z/WB3k
ずっとシングルでいいやと諦めてたワイ、ついにリア充になる。
たった2日分の飯代弱で人生が変わった。
ttp://urx2.nu/D8Ur

357以下、名無しが深夜にお送りします:2017/10/07(土) 00:23:42 ID:wy0G02fo
支援

358以下、名無しが深夜にお送りします:2017/10/09(月) 20:54:56 ID:AZE9AlJA


359以下、名無しが深夜にお送りします:2017/10/27(金) 00:34:18 ID:63tpyHQM
支援

360以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/02(木) 23:14:49 ID:CLRgTOk6
支援

361以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/07(火) 03:54:15 ID:JGLmyg32
支援

362以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/21(火) 01:44:19 ID:kvNRNlpc
まだ待ってます

363以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/21(火) 02:07:58 ID:WXfNt01o
支援

364以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/23(木) 05:44:36 ID:gwtNksxw


365以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/25(土) 16:36:10 ID:2FNKP4tI


366以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/30(木) 21:41:06 ID:bfbrpKmM


367以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/01(金) 10:05:08 ID:NrGRhTiI
私怨

368以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/11(月) 02:22:21 ID:Ok03LmtU
支援

369ぬえ ◆HQmKQahCZs:2017/12/13(水) 00:47:06 ID:W53qE/hA
宣言したのに更新できなくて本当に申し訳ありません。

今日の夜には更新しますので、まだ見てくれている方はどうぞよろしくお願いします

370ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/13(水) 00:47:44 ID:W53qE/hA
トリップ間違えました

371以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/13(水) 17:22:16 ID:auK2FmnE
キタ――(゚∀゚)――!!

372以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/13(水) 21:05:58 ID:W53qE/hA
しばらくののち、先に口を開いたのは俺だった。

男「出ていく、つもりですか」

聞かないほうがいいかもしれない。それでも俺はそれを聞かずにはいられなかった。

さとり「………心を読みましたか? それとも顔にでてましたか? 鉄面皮と呼ばれてるはずなのですが」

茶化そうとする声。それが震えていた。今までのことでわかってはいたが、この人は明らかに弱い。

いや、弱いんじゃない。色々な事に心を痛めすぎているんだ。それはさとりという種族ゆえか、それともこの人だからか。

さとり「自分のことが知られているというのはここまでも心地悪いものですか。貴重な経験、ですね」

男「さとりさん」

さとり「わかってます。ここで私が逃げてはいけないということは」

男「いえ、違うんです。その逆で、さとりさんには」

この地底を出ていってもらいたいんです。

さとり「………正気?」

えぇ。さとりさんを残せばさとりさんが折れる。さとりさんを行かせれば残りの者が壊れる。

だから、さとりさんには二人を連れて行ってもらいたいんです。

火焔猫燐と霊烏路空の二人を。

373以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/13(水) 21:26:24 ID:W53qE/hA
神に届く力。少なくとも吸血鬼や鬼を消すに値する力。

神に背く力。人の尊厳を踏みにじり、命を嘲る力。

そんな能力を持つのに、言っては悪いがその精神は獣に近い。だからその力に制限をかける者が必要だ。

実際それがなかったために前の世界ではその能力は暴走していた。その結果があれだ。

さとり「もう一度聞くけど正気? そんな力を持つものを敵に回す。そう言っているのよ、貴方は」

それ以外の手段が見つかりません。

さとり「簡単よ。お燐とお空を封印すればいい。私が命じればいいだけだもの」

それが正しいのかもしれない。ただ………

さとり「ただ?」

これ以上悲しい戦いにしたくない。

さとり「貴方………本当に正気?」

あと一つ理由が

古明地ことりの制御。

374ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/13(水) 21:38:51 ID:W53qE/hA
この戦いの主犯の一人。

詳しくは分からないが重要なことを担っている気がする。

さとり「気がする、でしょう?」

さとり「姉さんはさとりの出来損ないよ。人の心が読めず、自分の思いを漏らすだけ」

さとり「脅威になるわけがないわ」

男「とりあえず、以上です。伝えたいことはそれだけで」

さとり「ありがとう。貴方の主張は私とこいしを地底に監禁。お燐とお空を封印する」

え?

さとり「確かにそれが正しいわ。私も地底の管理者ですもの。私のわがままでみんなを巻き込むわけにはいかないわ」

さとり「貴方の言う通りにする。でも最後にお願いがあるの。最後は皆で宴会を開きましょう」

さとり「最後にそれくらいのわがまま、いいでしょう?」

男「ちょっと、さとりさ―――」

さとりさんが背伸びをして俺の口を塞ぐ。その瞳は明るさを取り戻していた。

さとり「ありがとう。私のわがままを聞いてくれて」

そしてその夜。さとりさんたちはいなくなった。

375以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/13(水) 22:00:56 ID:HJ4kShFM
支援

376ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/13(水) 22:21:10 ID:W53qE/hA
俺を眠りから覚ましたのはどたばたと周りを駆け回る足音だった。

瞼を開けると揺らぐ灯篭と転がった酒瓶。

残った強いアルコールの香りが気付け代わりとなり、一気に眠気が飛ぶ。

男「いったいなにが―――」

ナズ「こんな時に何寝っ転がっているんだ!」

起き上がろうとした瞬間にナズーリンに小突かれる。とりあえず何かあったということは分かった。

男「どうした?」

ナズ「地底の結界が吹き飛んだんだ!」

男「は?」

文「というより、結界ごと縦穴を吹き飛ばした、というのが正しいですね。やられました」

文「酔っぱらわせて気が緩んでいる隙にお空さんの力で脱出。さとりさんとお燐さんとお空さんと少年さんがどこかへ行きました。おそらくはことりさんも」

そこまで聞いた感想はそうか、よかったな。と肯定的な反応だった。と同時に昨日のさとりさんの言葉の意味を知る。

当然だが、ひどいことになると知ってさとりさんを行かせる者はいやしない。そんなことを提案したら責められるのは俺だろう。

あまりにも理にかなってない行動だからな。さとりさんは俺の意を酌んだうえで俺に責任を負わせまいと。

これはやられたなぁ。

377ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/13(水) 22:39:35 ID:W53qE/hA
ナズ「なに笑ってるんだい」

ナズーリンがじとーっとした視線を俺に送る。慌てて表情を引き締めるとナズーリンは昨日のことをまだ根に持ってるらしく数度軽く俺を小突いた。

ナズ「確かに星蓮船は入りやすくなったけど」

文「いやいや、そんなこと言ってる場合じゃなくて、これからどうすればいいのかの話をしましょうよ! さとりさんってこの地底のトップなんですよ!?」

ナズ「じゃあトップをうちの聖にするってことでいいね」

文「んなむちゃくちゃな!?」

目の前で言い争いを始める二人を横目に慌ただしくなった地底の喧騒を聞く。

こんな状況だがなぜかどこか楽しそうに感じるのは地底の住民の気質か。

どうせこんな連中ならなるようになるだろう。聖さんか勇儀さんか。そこら辺を一応のトップにあげれば良い話だ。

酔いの席の狂乱のような雰囲気と共にからからと乾いた風が開けた障子を通して吹いてきた。

378ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/14(木) 00:00:14 ID:X9LAMwoY
勇儀「とりあえず、状況の整理でもしようかい」

白蓮「そうですね」

空いた大穴から星蓮船を下ろし、一応のトップ代表二人が対談する。

その周りを囲むのは俺、星さん、ナズーリン、パルスィさん、射命丸さん、白衣の男。

白衣の男は初めてみたがどうやら人間らしい。なにやら尊大な口調をしていたが、世間でいうところの中二病みたいに見える。

が、ここは幻想郷。不思議も魔法もある世界だ。見えるだけでそうじゃないのだろう。

しかし人間なのに地底ではそこそこ有名人らしい。妖怪の中で過ごす人間とは少し親近感を覚える。

勇儀「そこの男は未来を知ってて、最悪を回避するために動いている。だね」

男「あぁ、そうだ」

勇儀「信じられない話だが信用はしてるさ。あのさとりが認めてたんだから」

まず大前提を受け入れてくれることは非常に助かる。

勇儀「それで、さとりはさとりたちの監禁と、お燐とお空の封印を受け入れたように見せて、逃亡」

勇儀「簡単にするとそれだけの話さ。だけどどうも腑に落ちないところがある。あのさとりがそんな行動にでたことさ。あいつにそこまでの勇気はない。それに無責任でもない。一応だけどこの地底の管理者たるあいつがここまで事を大きくして逃げた理由。知ってるんだろう? 男」

勇儀「私はさとりを信頼してる。話してくれるよな。男」

379ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/14(木) 00:08:52 ID:X9LAMwoY
即座に全部バレていた。

いやバレてはいない。たださとりさんを勇儀さんが信頼していたからこその問い詰めなだけ。

なのに呑まれる。追い詰められる。

初めは軽い口調で話していた勇儀さんの言葉がいきなりずどんと重くなる。表情も語り口もなにも変わっていない。

ただ、汗が吹き出し、口の中が渇くほどの殺気が俺を襲っただけ。

大丈夫だ。殺気には慣れている。そのはずなのに。

勇儀「どうした男。私は本当のことを聞きたいだけさ。さとりが勝手に行動したならそれでいいさ。知らないなら知らないっていいな」

勇儀「知らないのなら、だけどね」

質が違う。殺気の質が違う。

暗くもなく、淀んでいるわけでもない。背筋がぞくりともしない殺気だからなおのこと恐ろしい。

相手に殺意を抱かずにこうまで殺気を向けることができるのか?

あぁ、なるほど。やはりこれが鬼なのだと。

当たり前のように相手の上に立つ。

これが鬼なのか。

380ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/14(木) 00:18:03 ID:X9LAMwoY
白蓮「殺気を飛ばすのはやめていただけませんか? ここは話し合いの場ですよ?」

勇儀「いや、凄む気はなかったんだ。ただ純粋に疑問に思っただけさ」

パル「そうよ。勇儀が言うことは筋が通ってるわ。さとりらしくないってことは私たちは一番よくわかってること」

パル「どうせなにかやったんでしょ。あの二人だけの空間で。さとりを唆すような―――」

勇儀「パルスィ。決めつけは良くないね。だからそう、誤解がないように話してくれないかい? 信用する、からさ」

ナズ「ち、地底の連中は躾がなってないね。私にはどうも男を責めているように聞こえる。これじゃあ話す言葉もでないさ。真実はでてきやしない」

パルスィ「ちょっとそっちも躾がなってないんじゃない? たかだか鼠風情が偉そうにちゅーちゅーちゅーちゅー、耳障りでしかないわ」

ナズ「ふんっ、ここは議論の場で君みたいな―――」

白蓮「ナズーリン」

勇儀「パルスィ」

二人が同時に制す。臨界点を超えかけた緊張が再び張り詰める。

男「俺は、あ、あのとき、さとりさんに」

でなくなった唾液にカラカラに乾いた口で途切れ途切れで言葉を繋ぐ。

男「こいし、とさとりさんの、姉さんが死ぬ姿を」

男「見せたんだ」

381ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/14(木) 00:26:00 ID:X9LAMwoY
そう、俺の心を覗いたさとりさんは全てを知った。

絶叫したのはそのせい。

それは勇儀さんが知っている情報。

そしてこの先の情報は言うわけにはいかない。

誰よりも強いと思われていた彼女とそのやさしさを汚すわけにはいかないから。

男「追い込んだ、のかも、しれません」

男「そのあと、俺はさとりさんに、あの提案をしました」

勇儀「監禁と封印?」

男「………さとりさんたち、全員の封印です。なぜなら、敵の主犯に、彼女の姉がいるから、です」

文「傷ついたさとりさんに追い打ちをかけた、ってことですか」

男「はい」

全員が黙り込む。

382ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/14(木) 00:30:39 ID:X9LAMwoY
白蓮さんは静かに目を閉じて小さく何かを呟いた。

ナズーリンは呆れたような目で俺を見た。

パルスィは悪人を見る目で俺を見た。

勇儀さんは苦虫をかみつぶしたような顔をした。

射命丸さんは何度もため息をついた。

白衣の男は何か言いたそうにしていた。

俺はたった数秒でこの場での味方を失った。でもそうせざるを得ない。

筋の通った悪手を打たなければ納得しないはずだ。

そして俺の評判が下がれば、それだけこの話は通りやすくなる。

俺の言葉がさとりを追い詰めて、追い詰められたさとりは逃げた。それでいい。

それが俺ができる精一杯の優しさだった。

383ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/14(木) 00:48:25 ID:X9LAMwoY
やはり俺は何度も何度も最悪の手を打つ。

これは逃げられない因果かなにかか。

勇儀「話は分かった。お前が言うことは間違っちゃいないさ。褒められたことじゃないが、最善のみを尽くせとは私も言わない」

勇儀「だけど、それでも………」

ナズ「………話を進めようか。今はこれからの話、だろう?」

白蓮「地底と私たちの協力をどうするか。そしてどう協力するかを話しましょう」

勇儀「………あぁ」

それからの話に口を出すことはできなかった。

結局勇儀さんが地底を纏め、協力するか、どこまで協力するかをそのたびに話し合うことに決まった。

一番とは言えないが、悪くない結果だ。命蓮寺と地底は纏まった。

あと人間に対抗するために必要な勢力は紅魔館。

少なくとも紅魔館と地底が衝突する事態は避けられたがここから先の未来は分からない。

できるだけ迅速に動いたほうがいいだろう。

384ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/14(木) 00:59:22 ID:X9LAMwoY
話し合いが終わり一人になる。

孤独を感じる。ここに来てから一人きりになるのは久しぶりだ。

祭りのような地底の雰囲気が俺を避けているようだ。

自分で選んだ選択肢はいつもこうで。他のみんなほど強くない俺の心はまたも軋む。

覚悟が足りないのだろうか。

霊夢みたいに強くなれれば………。

星「男、さん」

男「あれ、どうしました。星さん」

いつの間にか後ろに立っていた星さんが俺の背中に手をあてる。

星「さっきのは、嘘ですね。不器用な」

男「はは、買い被りすぎですよ、ただ俺が焦りすぎただけで、本当、さとりさんを傷つけてしまって」

男「………なんでわかりました?」

星「倒れそうに見えましたから」

385ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/14(木) 01:05:11 ID:X9LAMwoY
星「男さんは、優しいです。だけれど、不器用で、弱い」

星「だから私が支えるって、約束したではありませんか。辛い時は肩を貸しますから、一緒に行こうって」

男「………星、さん」

星「はい、なんでしょうか」

男「さとりさんを守りたくて………でも守られて」

男「だから、またさとりさんを守って………」

男「それで理解されなくていいって、思っても。やっぱり駄目で」

男「かっこいいヒーローにはなれなくて、かっこ悪いことしかできなくて」

男「悲しくて」

星「大丈夫です。私がいますよ。知ってますから。貴方がどれだけ優しいか」

星「かっこいいですよ。頑張るあなたはとっても」

386以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/15(金) 01:28:56 ID:pYb/AzV2
星ちゃんヒロイン感

387以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/15(金) 03:14:52 ID:G5paRWxU
星ちゃんは困ったことがある時に助けてくれる優しい先輩的なポジション

388以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/15(金) 23:16:45 ID:.ik6inE2
星ちゃんルートあるなこれは

389以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/18(月) 04:54:04 ID:ZtAuWJ7U
あの頃のぬえがいないなら俺は星ちゃんを選ぶ的なね

390以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/18(月) 05:09:12 ID:LZPP3JaY
ぬえはもう戻らないと思うと悲しい
四季映姫も一瞬正ヒロイン感出てたのに

391以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/27(水) 20:26:21 ID:Ygc6yicc
支援

392以下、名無しが深夜にお送りします:2018/01/06(土) 01:12:26 ID:JEb3O3oc
どう見ても正ヒロインな星ちゃん


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