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( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

1 ◆x5CUS.ihMk:2016/07/09(土) 22:06:48 ID:Q7uZ6AsA0
 過去話を忘れた人のためにヒロインを中心に振り返るここまでのお話。


 一話:街の暴漢に襲われあわや貞操の危機。
 二話:大五郎の兵士に追い詰められピンチ。
 三話:大五郎に雇われるも早速サロン(田舎)へ飛ばされることが確定。
 四話:サロンへの移動。死にかける。
 五話:キメラ(蛇と狼)と戦う。死にかける。
 六話:キメラの毒牙(直喩)で死にかける。
 七話:ニョロを拾った直後目の前で職場が木端微塵。            ※1
 八話:夜道で襲われ失神。
 九話:拘束され軟禁。しかし颯爽と脱出(ブーンは死にかけ)
 十話:大活躍で勝利。(ブーンは死にかけ)
 十一話:久々の安寧。
 十二話:ロンリードッグ先生と学ぶ楽しい魔法学。
 十三話:キメラ(大犬と鯨)との戦闘にロケット首突っ込み。
 十四話:キメラ相手にマジギレ。
 十五話:決着。死にかける。
 十六話:ヨコホリに襲われる。あぶない。ィシと出会う。
 十七話:安寧の日々(ブーンはアンデッドに襲われる)
 十八話:禁恨党に拉致される。
 十九話:ニダー一派との戦闘。死にかける。息が臭くなる。
 二十話:スカートを履く!!! ヨコホリに弄ばれる。
 二十一話:ロミスと共に檻に閉じ込められる。ロミスを殴り続ける。
 二十二話:ィシたちの戦闘に合流。格上達に喧嘩を売る。
 二十三話:ドクオのショータイム開始のお知らせ。
 二十四話:ドクオのショータイム終了のお知らせ。
 二十五話:死にかける。死ぬ。                            ※2
 二十六話:死にかけたまま。
 二十七話:流石兄弟のターン。
 二十八話:「なー―――〜〜んてね☆」
 二十九話:復活しごはんをたべる。
 三十話:師匠襲来。死んだ(暫定)。


……※1 ここらへんからあらすじをまとめるのに飽きる。
……※2 もう完全に飽きてテラバトルをやり始める。

2名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:07:33 ID:Q7uZ6AsA0
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3名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:09:25 ID:Q7uZ6AsA0
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          (                   从,、人,、
             、       __ ソY(彡    ヾゝ
                      ´ 人,,,、 /|,,,,,,彳^ヾ彡 ミ
             ,     〃  / ̄\ゝ| ,ィ^ーへィ、,ゞ
                      / (∥) 〉 〉」/:::8゚:::⊿:::,ノ
               )   /      / / Yヾ'⌒ー‐イ
              ,イ  /ヘ、 //  l
              /    Υ/   ソ
            |:; ∧    /   /
               〈  丶_/   
               ヽ__イ))\  {
              \\ \_l\ ヘ
               `>\ \_l\ |  /^), ヘ                *  *  *
                      \ \_l\〈 :ノマ::::|
                      \ .へ__ハ...::::./
                      \/=i><         剣と魔法と大五郎のようです
                                            Third thread.


                                              *  *  *




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4名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:10:24 ID:Q7uZ6AsA0
 
|゚ノ ^∀^) 「――――と、いう訳で」

ξ゚⊿゚)ξ

|゚ノ ^∀^) 「ここで、わたしがあなたを鍛え直すことになりましたから」


 ツン=ディレートリは混乱していた。
 朝、目が覚めると何故かベッドの前に師匠のレモネード=ピルスナーがいる。
 おかしい。ツンは師匠の元を逃げ出してきたのだ。目の前にいるわけがない。

 仮に師匠が追ってきたとしても、厄災規模の方向音痴によって年単位の時間が必要になったはずだ。
 少なくともまだ数か月しか経っていない現在、ここにたどり着けるわけがない。

 それなのに、当たり前のように目の前に存在し、あまつさえツンを鍛え直すなどとのたまっている。
 こんなおかしなことがあっていいのだろうか。

 あ、そうか。
 これも夢だ。
 ィシの呪具の影響で様々な夢を見たし、その一環なのだろう。

 となればもう少し眠ろう。
 速く回復してブーンたちと修行をしなければならないのだ。

 でも、師匠の顔、夢でもちょっと懐かしいな、なんて思いながらツンは再び目を閉じた。
 久しく浮かべていなかった、穏やかな微笑みが自然と浮かぶ。


|゚ノ ^∀^) 「……“―――インパクト”」


 その数秒後。ツンは魔法でベッドごと吹き飛ばされた。
 「ですよね」って心の中で言った。ちょっと泣いた。

5名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:11:03 ID:ZS4O0Xtg0
待ってた

6名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:11:28 ID:Q7uZ6AsA0


|゚ノ ^∀^) 「――――というわけで」

ξ゚⊿゚)ξ 「すいません師匠。どういう訳なのかわかりません」

|゚ノ ^∀^) 「まあ、昨日あれほど話したというのに、もう忘れたのですか」

 ハインリッヒの家のリビング。
 ツンは改めて師匠と向かい合い座っている。
 隣には、ニコニコとご満悦そうなデレと、どこか状況に順応できていない様子のミンクス。
 家主であるハインリッヒは、キッチンで朝食の準備をしている。


ξ゚⊿゚)ξ 「話って……」


 ツンは顎に指を当て昨日のことを思い出そうとする。
 目が覚めて。ブーンたちに稽古をつけてもらうことになって。ブーンたちがオルトロス(笑)になって。
 ご飯を食べて。ドクオと魔法について話して。そして一旦眠ることにして。起きたらミンクスがいて。少し話して。

 そうしたら師匠たちが部屋に突っ込んできて……そこからがどうしても思い出せない。
 正直に言えば、記憶はあるような気がするのだが、引き出そうとすると体に謎の寒気が奔る。

7名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:12:46 ID:Q7uZ6AsA0
 
ζ(゚ー゚*ζ 「ししょーはおねえちゃんに戻ってきなさいって言ったけど、おねえちゃんは絶対ヤダって言って」

ξ゚⊿゚)ξ 「うん」

ζ(゚ー゚*ζ 「そのままおねえちゃんはししょーのおしおき魔法に耐え兼ねて失神したの!」

ξ゚⊿゚)ξ 「なるほど」


 師匠が追ってきた理由まではわかる。
 愚かな復讐で「せっかくの弟子を損ないたくない」とか、「まだ半人前のまま外には出せない」とかだ。
 一緒に暮らしていたころ、仇を探しに出たいと訴える度にそんな返事をされ続けてきた。
 だから、今回も、ツンを連れ戻すために来たと、そう思っていたのに。

 師匠の顔を見る。
 どうやらツンの思考を読んだらしく、師匠はため息を吐いた。


|゚ノ ^∀^) 「貴方が気絶した後、みなさんからこれまでの経緯は伺いました」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

|゚ノ ^∀^) 「ご両親の仇が判明したことも含めて」

8名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:13:28 ID:Q7uZ6AsA0
 
|゚ノ ^∀^) 「予想はしていましたが、相当に無茶をしてきたようですね」

ξ゚⊿゚)ξ 「……まあ」

|゚ノ ^∀^) 「道中知り合った方々にも、迷惑をおかけした」

ξ゚⊿゚)ξ 「うん」


 ミンクスが何かを反論しようとしたが、ツンとレモナ、両者の視線を受けて口を紡いだ。
 ツンが他者に助けられただけではないことを言ってくれようとしたのだろう。
 しかし、師匠が言っているのはまた別の話なのだ。


|゚ノ ^∀^) 「一人前になったところで、成せることはほんの少し。半人前ならなおさら、ろくなことは成せません」

ξ゚⊿゚)ξ 「……」

|゚ノ ^∀^) 「貴女も痛感したはずです。己の無力さを」

ξ゚⊿゚)ξ 「……でも、師匠のとこで修行してたら、間に合わないことだってあった」

|゚ノ ^∀^) 「間に合って何かできましたか」

ξ゚⊿゚)ξ 「……」

|゚ノ ^∀^) 「貴女には両親から授かった才があります。大概のことは、その場の勢いや勘で何とか出来てしまうでしょう」


 「ですが」と続ける。


|゚ノ ^∀^) 「それではダメなこと程、貴女にとっては大事なことだったはずです」

9名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:15:16 ID:Q7uZ6AsA0
 
 VIPで初めてドクオに出会った時。
 暴漢に襲われていたワタナベを助けようとして、結果的に自分の身も危険に曝した。
 ドクオが現れなければ、あのままどうなっていたか分からない。

 サロンにて蛇のキメラと戦った時。
 囮役を買って出て追い込まれ、タカラに庇われた。
 ドクオの魔法でキメラは倒せたが、代わりに毒を受けたタカラは、あわや死ぬという状態にまで陥った。

 サスガ兄弟の襲撃を受けた時。
 成す術も無く囚われ人質となり、ブーンを誘き出す出す餌にされた。
 自ら加勢し撃退は出来たが、あと少し遅ければ、兄弟があと少し卑劣な手段を用いていたら、ブーンはどうなっていた。

 湖にて海獣のキメラと戦った時。
 もしタカラがあのまま大怪我をしていて、ニョロが魔法の能力に目覚めていなかったら。
 結果としてキメラを倒したのはツンだったが、その前に確実に死んでいた。

 そして、ヨコホリ=エレキブラン。
 あの男に煮え湯を飲まされたのは一度や二度では無い。
 襲撃され、目の前で人が死んだ。支店を吹き飛ばされ、ジョーンズを死なせるところだった。
 荒野で一騎打ちとなり、手玉に取られた。ィシたちに助けられなければ危険だった。
 無念を晴らしてやれぬまま、ィシを殺された。
 
 綱渡りのような危機的状況を幾つも回避し、ツンは生きている。
 ただ、それはツンの実力以上に、幸運と周囲の助力に恵まれていたからに他ならない。
 これではダメなのだ。

 両親に庇われ、逃がされ、ただただ生き延びたあの時と、何も変わらない。

10名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:16:09 ID:Q7uZ6AsA0
 
|゚ノ ^∀^) 「……逸るあなたの心を理解できないわけでは無いのです」


 レモネードの目がツンの体を見た。

 入院着から覗く体のいたる所に真新しい傷跡が出来ている。
 どれがいつのものかツンもよく覚えていない。それほど沢山ある。
 少なくとも師の元にいる時には無かったものばかりだ。


|゚ノ ^∀^) 「ただ、今無理に戦ったとして、貴女が心身に傷を負うだけ」

ξ゚⊿゚)ξ 「……でも」

|゚ノ ^∀^) 「ええ。あなたは止めるとは言わないでしょう。仇が分かってしまったのならなおさら」


 「もう死んでいてくれれば、どれほどよかったか」と続け、ため息を吐いた。
 その寂れた表情に、純粋に申し訳なく思う。


|゚ノ ‐  ‐) 「どうせ連れ戻しても、すぐに脱走するでしょうし。ならばせめて死なずに済むようここで鍛え直そうと、そう言う話になったのです」

ξ゚⊿゚)ξ 「師匠……」

|゚ノ ^∀^) 「良いのです……貴女は私の大切な弟子なのですからね……」

ξ゚⊿゚)ξ 「………………死ぬ寸前まで追い詰めて諦めさせようとか思ってますよね」

|゚ノ ^∀^) 「気付いても口に出さないのが大人の対応ですよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「子供なんで」

∩ζ(゚∀゚*ζ 「はいはい!デレは気付いたけど言いませんでした!おとな!」

11名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:17:35 ID:Q7uZ6AsA0
 
从 ゚∀从 「仲睦まじいお話の最中で申し訳ないんだが、飯出来たぞ」


 ハインリッヒの持つ白い皿からは仄かに湯気が立っていた。
 いつも通りいい匂いがする。香りから察するに卵のようだが、少し濃厚に感じた。


|゚ノ ^∀^) 「泊めていただいた上にお食事までごちそうになって、なんとお礼を申し上げればよいやら……」

从 ゚∀从 「気にしなさんな。食料だけはアホ程貰うんでな」

ξ゚⊿゚)ξ 「……あれ?」


 食事を始めるという段階になって、ツンは物足りなさに気付いた。
 いつもならば犬の如く涎を垂らして食事を待っているはずのブーンが見当たらない。
 まだ起きてきていないのかと思ったら、彼の分はそもそも用意されていなかった。


ξ゚⊿゚)ξ 「リッヒ、ブーンたちは?」

从 ゚∀从 「ああ、言ってなかったけか。明け方に出かけたよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「どこに?」

从 ゚∀从 「魔女の住処だとよ」


 名を聞いて、つい手を止める。
 ブーンとドクオの半端な分離があって翌日の急な話だ。
 停止したツンを見て、ハインリッヒは頭を掻いた。

12名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:18:45 ID:Q7uZ6AsA0
 
从 ゚∀从 「昨日、お師匠さんたちが突っ込んできた時に、もう一人いたのを覚えてるか?」

ξ゚⊿゚)ξ 「あー―……」


 相変わらず記憶を引き出すのを体が拒絶しているが、それは覚えている。

 あっさり済ませたためよく覚えていないが、なんだか樽臭い名前の男がいた。
 そうだ。あれが師匠たちをツンの元に連れてきた諸悪の根源である。
 一発くらい蹴り飛ばしておかなければならない。


从 ゚∀从 「ブーン達とつながりのあった情報屋の使いらしくてな。アイツが魔女の居場所の情報を持ってきた」

ξ゚⊿゚)ξ 「それで」

从 ゚∀从 「おう。いくらか話しこんでから、夜明けと同時に」

ξ゚⊿゚)ξ 「……大丈夫かしら」

从 ゚∀从 「とりあえず魔女がどうなったかだけ調べてくるって話だ。万が一魔女と遭遇しても、無茶はしねえだろ」

13名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:18:58 ID:Lmr9fP4.0
えっ?まじで!?

14名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:19:34 ID:Q7uZ6AsA0
 
|゚ノ ^∀^) 「そう言えばあなた、あの方々とはどういった知り合いなの?」

ξ゚⊿゚)ξ 「どういったって」

|゚ノ ^∀^) 「魔女に呪いを受けたとは聞いていますが」

ξ゚⊿゚)ξ 「そこらへんはあんまり詳しく聞いてない。あんな魔法かけられた経緯くらい」

|゚ノ ^∀^) 「そんな得体の知れない人たちを、稽古を申し込むほど信頼しているのですか?」

ξ;゚⊿゚)ξ 「ぐう」

|゚ノ ^∀^) 「出会った経緯は何かしらあるのでしょう」

ξ;゚⊿゚)ξ 「VIPでたまたま知り合って、それからなし崩しに一緒に戦ってきた感じ……」

|゚ノ ^∀^) 「どうやったら赤の他人と何度もなし崩しに戦う羽目になるんです」

ξ;゚⊿゚)ξ 「え〜と」


 そう言われればそうだ。
 通常の生活を送っていれば、出会って間もない他人と一緒にキメラやらなんやらと戦いまくったりしないはずである。
 なんでだろう。不思議だな。


ζ(゚ー゚*ζ 「だっておねえちゃんだもんね!」

|゚ノ ^∀^) 「まあ確かに」


 その納得のされ方は不満である。

15名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:20:32 ID:Q7uZ6AsA0
 
|゚ノ ^∀^) 「……しかし、貴女が見込むだけの腕はあるのですね」

ξ゚⊿゚)ξ 「うん。少なくとも、どっちもそこらにいるレベルじゃない」

|゚ノ ^∀^) 「…………そう」

ξ゚⊿゚)ξ 「?」


 ツンは師匠の顔を窺った。
 ブーンたちの話題になってから、どうも表情が違う気がする。
 一応、ツンの連れであるし、魔女だのなんだのと物騒なワードも出ているので気にするのは当然だとは思うが。


ξ゚⊿゚)ξ 「もしかして、師匠アイツらと知り合い?」

|゚ノ ^∀^) 「……いいえ。ホライゾンさんについては、風の噂を聞いたことはありますが、どちらも初対面です」

ξ゚⊿゚)ξ 「まあ、悪い奴らじゃないですよ。変だけど」

|゚ノ ^∀^) 「そうね。それは少し話しただけでも感じたわ」


 知らぬ間に増えたツンの知り合いだから気にしているのだろうか。
 さらに言えば、ある意味弟子を横取りされかけたようなものだし。
 師匠自身がそれ以上続ける気が無いのを察して、ツンもそれで話を切り上げた。

16名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:22:14 ID:Q7uZ6AsA0
 
|゚ノ ^∀^) 「さて、じゃあ行きますか」


 食事を終えると、レモナが立ち上がる。
 デレも「はーい」と返事をして椅子を降りた。


ξ;゚⊿゚)ξ 「え、どこに行くんです?」

|゚ノ ^∀^) 「実は、サロンには少し所縁がありましてね。せっかくですから少し街を見て回ろうかと」

ξ;゚⊿゚)ξ 「大丈夫なの、二人で」

|゚ノ ^∀^) 「道案内はミンクスさんにお願いしましたわ。帰りは、転移魔法用のマーキングをしておきましたから」

ξ;゚⊿゚)ξ 「ミンクス、本当にいいの?」

ミ´・w・ン 「うん。支店に行かなきゃだし、ついでだよ」

ξ;゚⊿゚)ξ 「師匠の方向音痴酷いのよ」

ミ´・w・ン 「一本道みたいなものだぜ?」

ξ;゚⊿゚)ξ 「そうだけど……深淵の秘境に迷い込んで邪神の類に襲われたくなかったら、気を強く持ってね。」

ミ´・w・ン 「待って。僕の知ってる方向音痴と違う」

17名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:23:28 ID:Q7uZ6AsA0
 
|゚ノ ^∀^) 「大袈裟ねえ。ミンクスさんをそんなに脅してどうするんです」

ξ゚⊿゚)ξ 「大袈裟じゃないから脅してるんです」

ミ´・w・ン 「改めて聞くけど、そんなに、そんなになの?」

ξ゚⊿゚)ξ 「近所に山菜取りに行って、隣国の古代遺跡発見してきたことがある」

|゚ノ ^∀^) 「あの時は封印されていた鬼神が復活して大変でしたねえ」

ζ(゚ー゚*ζ 「東海の果てで沈没船と一緒に引き上げられたこともありますよね!」

|゚ノ ^∀^) 「そうそう、群生していたクラーケンの駆除に手間取って危うく酸欠になるところでした」

ミ´・w・ン 「」

|゚ノ ^∀^) 「でも最後には何とかなりますし平気ですわ」

ζ(゚ー゚*ζ 「慣れてみると迷子も楽しいですよ!」

ξ゚⊿゚)ξ 「わかったわねミンクス。これが今からあんたが連れて歩く二柱の悪魔よ」

ミ´・w・ン 「君のタフさってちゃんと由来があるんだね……」

18名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:24:50 ID:Q7uZ6AsA0

ζ(゚∀゚*ζノシ「行ってきまーす」

|゚ノ ^∀^) 「明日からみっちり稽古をつけますから、今日はちゃんと休むのですよ」

ξ;゚⊿゚)ξ 「明日までにはちゃんと帰って来てくださいね」

|゚ノ ^∀^) 「心配性ねえ」

ミ´・w・ン 「じゃあ、いきましょう。僕が縄を引くので、お師匠さんは僕の足元だけを見てついてきてください」

ξ゚⊿゚)ξ 「絶対にあんたが先頭を歩くのよ」

ミ´・w・ン 「大丈夫、必ず生きて帰る」


 食事を終えた、レモネード、デレ、ミンクスの三人はハインリッヒの家を出て行った。
 ちゃんと引率できる方法をミンクスに伝授したので大丈夫だろうが、それでも安心はし切れない。
 同じ方法を用いた際に、師匠が無意識にツンを引きずってしまい全く別の土地に行きついたことがあったのだ。

 とはいえ普通に支師匠を歩かせるよりははるかにマシだ。
 あとはなんだかんだと死線をくぐってきたミンクスの運に期待するしかない。


ξ゚⊿゚)ξ (……ここで運を使い果たさなければいいけど)

19名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:25:57 ID:Q7uZ6AsA0

从 ゚∀从 「さてと、診療室に行くぞ」

ξ゚⊿゚)ξ 「うん」


 食事の片づけを手伝ってから、ハインリッヒと共に診療室へと入る。
 ツンの体の状態はほぼほぼ回復しており、大袈裟な魔法の処置は必要ない。
 ここで仕上げの軽い治療魔法を受ければ、今日はある程度自由にしておいていい、というのがハインリッヒの指示だった。


ξ゚⊿゚)ξ 「どうにも鈍っちゃうから、動いていいってだけで気が晴れるわ」

从 ゚∀从 「とは言っても、激しいトレーニングとかはするなよ」

ξ^⊿^)ξ

从 ゚∀从 「返事」

ξ゚⊿゚)ξ 「は〜〜〜い……」


 手早く魔法の処置を終え、やや急ぎ足で出てゆくハインリッヒ。
 ここ最近の彼はツン達の治療や生活の世話など、かつての二倍にもなる仕事に追われていた。
 目の下の隈も酷いし、よく飲んでいる魔力を回復する薬の量も増えた。

 医者の不養生と言うかなんというか。
 ツンが休まなければならないというのなら、彼だって同じくそうすべきだと思うのだが。

20名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:26:39 ID:Q7uZ6AsA0
 
ξ゚⊿゚)ξ 「さて、と」


 さて、これからどうするべきか。
 できればハインリッヒの言いつけに従いたい。
 しかし元来じっとしていられないのがツンの性分。
 大人しくはするとして、家事なりなんなりしておかないと頭からキノコが生えそうだ。


ξ゚⊿゚)ξ 「……ニョロ、はタカラのところか」


 いつもの肌触りが無い首元に触れた。
 今のツンでは相手するのが難しいからとタカラに世話を頼んだのだが、こうなってくると少し寂しい。

 一先ず、とりあえずやりたいことも思いつかなかったので武装の手入れをすることにした。
 ツンが勝手に特訓してから挑むと決めただけで、あの男は今日にでも襲撃してくるかもしれないのだ。 
 その時になって準備が整っていませんでした、では話にならない。

 ナイフを手に取る。
 購入してからさほど時期が過ぎたわけでもないのに刃こぼれが多い。
 流石に少し研いでおかなければならないだろう。

 正直研ぎは苦手なので、ブーンかミンクスにやってもらおうと思う。
 折角の良品を下手な研ぎで鈍にはしたくない。
 砥石は包丁用のものが調理場にあったはずだ。その時に成ったら拝借しよう。

21名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:27:33 ID:Q7uZ6AsA0
 
 ブーツに仕込んだ星のタリズマンを取り出す。
 星のタリズマンは容量に応じて魔法を保存しておける魔道具であるが、時間の経過と共に魔力を消耗してしまう。
 微々たるものであるが、ある程度の時間が経った場合魔力を補てんしておかなければならない。

 補填の方法は簡単。魔法を込めた本人が身に着けておけばタリズマンが勝手に魔力を吸収してくれる。
 故に普段から身に着けておけば問題ないのだが、治療中はそうもいかなかった。
 確認すると、込めた魔法自体が失われるほどの消耗は無いので、入院着の懐に入れておくだけで十分だろう。

 次にブーツやその他の装備のほつれを点検していく。
 ブーツはそもそもの出来が良かったのか、目だった損傷はない。
 強いて言えば止め紐が部分的に摩耗しているので、交換しておいた方が良いか。

 慣れた作業のため、点検自体はすぐに済んだ。
 補修したいものもあるがハインリッヒに道具を借りなければならないので後回し。

 ひと段落ついたということで、大きく背伸びをする。
 ベッドの上に胡坐をかいて行っていたので少し背中が凝った。
 組んだ手を頭上に伸ばしたまま体を回す。ぽきぽきと背中が音を立てた。


ξ゚⊿゚)ξ (……やっぱちょっと、重いって言うか、鈍いって言うか)


 やっぱり体は動かしておきたい。
 でもハインリッヒの言いつけを積極的に破るのは躊躇われる。

22名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:28:18 ID:Q7uZ6AsA0
 
 どうしたものかと悩んでいると、ふと天井が軋みを立てた。
 反射的に見上げるが、特に何があるということも無い。
 二階には今誰もいないはずだし、天井裏に鼠でもいたのだろうか。

 しかし、ツンの意識は、それよりも天井の隅へ向いていた。


ξ゚⊿゚)ξ (結構、汚いな)


 壁と天板の際に所々蜘蛛の巣があり、埃がこびりついている。
 病室というのもあって、ハインリッヒはまめに清掃をしていたのだが、最近は手が回っていないようだ。
 けが人はアホ程出るし、居候は増えるしで、本当に不憫である。


ξ゚⊿゚)ξ (……よし)


 ツンはベッドの上に広がっていた自身のにもつを雑にまとめ、パンツとシャツを身に着ける。
 タリズマンを仕込みなおしたブーツに足を通し、ナイフを腰のベルトに差す。
 今は単純に邪魔なのでやめておくが、これでジャケットを着れば大よそ普段通りの装備だ。


ξ゚⊿゚)ξ (掃除をしよう)


 師匠の元にいる時はそれ自体が鍛錬になるという理屈で毎日のようにやらされた。
 正直方便に過ぎないとは思うが、久々に体を使う準備運動としては丁度いいだろう。
 家が綺麗になるのだから多少動き過ぎたところでハインリッヒも許してくれるはずだ。

23名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:29:00 ID:Q7uZ6AsA0
 
 部屋を出て物置から道具を取り出す。
 頭と顔に布を巻き、ハインリッヒの予備のエプロンを借りて、はたきを構える。


ξ゚[ ]゚)ξ 「ふっふっふっ……掃除はまず上から順に、ってね」


 別に綺麗好きというわけではなくとも、いざやり始めると妙に熱中してしまうのが掃除である。
 ツンは手始めに窓を開け、リビングから天井付近の蜘蛛の巣はらいを始めた。
 
 器用に天井の隅をつつき、蜘蛛の巣や張り付いた埃を払っていく。
 必要以上に舞い上げぬよう丁寧に。
 こうして順に高いところから順にやって行けば埃をより多く取り除ける。

 リビングが一通り終われば別の部屋へ。
 他が終わるころには埃も落ち着いて、拭って取りやすくなる。
 てきぱきと各部屋のはたきを終わらせて病室へ向かう。

 勝手に触らない方が良さそうな物の多い診療室を除けば、ここが最後だ。
 とはいえ、ベッドに埃を被せるわけにはいかないので、今日のところは蜘蛛の巣を拭うだけだ。

24名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:30:09 ID:Q7uZ6AsA0
 
ξ゚[ ]゚)ξ 「あれ、思ったほど無いな……ン?」


 埃が散らないよう慎重に蜘蛛の巣を取っていると、天井に真新しい傷をいくつか見つけた。
 引っ掻いたような、何か堅い鋭利がものが食い込んだ跡だ。

 昨日壁が粉砕された時に付いたものだろうか。
 あの時の損傷はいつの間にか修復して元通りになっている。
 まず間違いなくレモネードが魔法を用いて直したのだろう。
 
 となると、食い込んでいた何かを引っこ抜いた後、修復するのを忘れていたのか。
 強者であることは間違いないが、抜けも多い人である。
 「師匠らしいと言えばらしいか」と独り言ちて、ツンは部屋を出た。


ξ゚[ ]゚)ξ (……)


 リビングに戻ると、テーブルに掛けてあった埃よけの布がずれて落ちそうになっている。
 ちゃんとかけておいたのだが、何かの拍子に障ってしまったのだろう。
 ツンは布をしっかりかけなおし、箒を手に取った。

25名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:31:06 ID:Q7uZ6AsA0

ξ゚[ ]゚)ξ (思ってたほど埃落ち着いてないな)


 目を凝らすと、陽光の中にちらちらと埃の粒が見える。
 窓を開けて換気しているため自然に出て行ってくれるのを期待したがそうはいかなかったらしい。
 今日は風もほとんどないし仕方あるまい。最終的に魔法で吹き飛ばしたってよいのだ。

 部屋の隅から床を掃いてゆく。
 面倒なので玄関から直接外に出してしまおうと扉を開けた。


ξ゚[ ]゚)ξ (あれ、リッヒ鍵閉めていかなかったんだ)


 ハインリッヒは一人暮らし時代の癖で、誰かが家に残っていても鍵をかけて出て行く。
 今日も鍵を差すような音が聞こえたのだが、ちゃんとかけ損ねたのだろうか。
 急いでいたようだし、そう言うこともあるか。

 深く気にせずに床の埃を掃く。
 とはいえ、普段からハインリッヒがやっているので目立ったゴミは無いのだが。

 一通りリビングを掃き終り、次の部屋へ行こうとドアに手をかける。
 そこで、ツンは動きを止めた。


ξ゚[ ]゚)ξ (なんか……変)

26名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:32:17 ID:Q7uZ6AsA0

 なんだか先ほどから違和感を覚えて仕方がない。
 病み上がりに解決しない様々な問題を抱えているせいで神経質になっているのだろうか。

 一番ひっかかるのは扉の鍵だ。
 良く思い出せば、閂がかかる音も聞こえていた気がする。
 あれは気のせいだったのか。普段の習慣なので当然そうと思い込んでいただけなのか?


ξ゚⊿゚)ξ (……)


 箒を持ったまま、小走りで病室へ向かう。
 部屋に入り天井の傷を改めて見た。


ξ゚⊿゚)ξ (……やっぱり、やっぱり変だわ)


 さっきはレモネード乱入の際に瓦礫や釘が刺さったのだと思っていた。
 しかし、それにしては様子が変だ。


ξ゚⊿゚)ξ 「傷の角度が……バラバラだわ」

27名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:33:09 ID:Q7uZ6AsA0

 そうなのだ。
 壁が破砕された際に飛んだものが刺さったにしては、角度がおかしい箇所が複数ある。
 天井に刺さるほどの勢いで飛んだものが、真逆の入射角になるというのは想像しやすくない

 しかも、この傷よく見ると、


ξ゚⊿゚)ξ (……複数の傷が一個のまとまりとして、グループになってる?)


 よく見てみると五つの傷ごと、ばらつきの有る放射状に並んでいる。
 それぞれ範囲には差があるが、一つ一つ確認してみると、やはり五つの傷で一つのまとまりになっているように見えた。


ξ゚⊿゚)ξ (この傷のつきかた……なんか……)


 特に深くついた傷を睨み、頭を働かせる。
 もとより賢くはないが、勘は鋭いツンの脳みそである。
 最近まで眠りまくっていたせいで若干働きが悪いが、何か気が付けそうだった。


ξ゚⊿゚)ξ 「これ……」

28名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:33:51 ID:Q7uZ6AsA0
. 

 






                           「そォ、俺のつめあとだヨ」







 
.

29名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:34:32 ID:Q7uZ6AsA0

 その瞬間、ツンは恐らく何も考えていなかった。

 左足を前に一歩。
 これを予備動作とし、自身の背後にひじ打ちを放つ。

 踏み込みは浅いが、体重は乗った。
 さらに肘の先には大量の魔力を込めている。
 物理的な威力は軽くとも、当たれば腰砕けにする程度の効果はある。

 そう、当たれば。


ξ;゚⊿゚)ξ 「――ッ!」


 ツン渾身のひじ打ちは空を切る。
 同時に向けていた視線も、“それ”の姿を捉えることはできていない。

 反射的に出た舌打ち。
 僅かに感じた気配を追って首を回そうとした瞬間、ツンの視界は急転する。

 体の上下を反転し足が浮き上がった。
 一瞬のことだ。足払いをされたように倒れそうになる。
 しかし、咄嗟に顔を庇った手が地面に届くことは無い。

30名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:34:41 ID:J9EK5.8Y0
支援

31名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:35:26 ID:Q7uZ6AsA0

 足を掴まれ、持ちあげられている。
 ツンがそれを理解した瞬間、足首を絞めつける力が一層強まった。

 なすすべもない。
 逆さづりにされていたツンの体は横へ。
 円の軌道を描き、一旦天井近くまで振り上げられ、


ξ; ⊿ )ξ 「ッァ!」


 ベッドの上にたたきつけられた。
 柔らかな布団もこの衝撃は受け止めきれない。
 木の骨組が砕ける音が、ツンの意識と共に天井まで突き抜ける。


    「グッグッグッ……」


 朦朧とする視界に、黒い影が多い被さる。
 手だ、手で頭を鷲掴みにされている。
 体が動かせない。腕もだ。

 胸の上に何かが乗って、さらには二の腕も抑えられている。
 衝撃で揺れ痺れる脳でも辛うじて、馬乗りになられているのだと理解できた。

32名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:36:47 ID:Q7uZ6AsA0

     「久しいなァ、ディレートリィィィ……」


 顔が見えずとも、声を聞いただけで、それが何者が分かるだけで、頭に血が上ってゆく。
 血管が膨れ、破裂しそうだ。
 歯を食いしばる。首の力で押し返そうとするが、更なる力で封じ込まれた。


     「グッグッ、もう少し大人しくしねえと」


 指がずれ、視界が開ける。
 そこに見えたのは、


(//‰ ゚) 「俺も加減できなくなるぜェ?」


 ヨコホリ・エレキブランの笑み。
 鉄に覆われた無表情の半面に対し、人の側は歯茎まで剥き出しにして笑っていた。


ξ# ⊿゚)ξ 「てッめェぇ……!」

(//‰ ゚) 「オオこええ、小娘の凄み方じゃねェぞ」


 「もうちょっとしおらしけりゃ、嬲りがいもあるンだがなァ」という呟きは、多分に笑みを含んでいた。
 ツンの脳内を、血と、怒りと、殺意が満たしていく。

33名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:38:04 ID:Q7uZ6AsA0

(//‰ ゚) 「マア落ち着け。今日は話をしに来たンだよ。平和的に、ナ」


 獣のようにもがき暴れるツンを、ヨコホリは器用に乗りこなした。
 無理に抑えず、上手く力を逃し、決して上を譲らない。
 体格も、腕力も、技術も劣るツンではこの状態を看破することは不可能だった。


(//‰ ゚) 「……クールじゃねえなァ、そンなにあのババアを殺されたのが気に喰わねえのか?」

ξ# ⊿゚)ξ 「……ッ殺す!」

(//‰ ゚) 「いいじゃねえかあンなババア。魔女の呪具なンぞに頼った時点でいずれ死ンださ」

ξ# ⊿゚)ξ 「殺す!」

(//‰ ゚) 「ヤレヤレ、今からそンなンじゃ、頭の血管切れちまうぜ?」

ξ# ⊿゚)ξ 「殺す!」

(//‰ ゚) 「なンてったって、――――テメエの親を殺した仇も、俺なんだからヨォ!」

ξ# ⊿゚)ξ 「―――殺す!」


 ツンはブーツの魔法を発動。
 ヨコホリではなく、既に半壊したベッドに踵を叩き付ける。
 衝撃と共にベッドはさらに大破。

 木端と端切れが散る。
 この一瞬の隙にツンはヨコホリの拘束から逃れた。

34名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:38:56 ID:Q7uZ6AsA0

 瞬時に飛び退き距離を取る。
 勢い余って転がり壁に背中を打った。
 ブーツの魔法の制御すらもが上手くいっていない。

 せき込みを噛み殺し、ヨコホリを睨む。
 ベッドに叩きつけられたダメージも抜けないまま頭を締め付けられたせいで、足腰に上手く力が篭らない。
 抜け出したものの、反撃の手が何一つ浮かばない。

 今飛び掛かってもまたあしらわれておしまいだ。
 だのに頭ばかりが逸る。
 怒りと、憎しみと、殺意に食い荒らされた理性が、辛うじてツンを抑えている。


(//‰ ゚) 「……なァーんか、期待してた反応とちげェなァ。もしかしてもう知ってやがったか?」

ξ# ⊿゚)ξ 「殺す!」

(//‰ ゚) 「あのババァの仲間が教えやがったか? マアいいや」

ξ# ⊿゚)ξ 「殺す!」

(//‰ ゚) 「てめえの両親が、どンな風に、どンだけ無様に死ンだかまでは、聞いてねえだロ?」


 残っていた一片の理性が音を立てて切れた。

 動かなかったはずの足が床を蹴る。
 抑え込まれ痺れていた手がナイフを握る。

 ブーツに込めていた魔法の残り全てを解放。
 余波のみで家屋が軋みベッドが浮き上がる。
 音に並んだツンの体は、全ての魔力をナイフに集中した。

35名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:39:57 ID:Q7uZ6AsA0



(//‰ ゚) 「……言っただろディレートリ。俺は話をしに来たンだぜ」


 なにが、何があったのか。
 ツンの持つナイフは、間違いなくヨコホリに突き立てられたはずだ。
 鋼鉄の腕に防がれることはあっても、回避できる速さでは無かったはずだ。


(//‰ ゚) 「俺が侵入してることに気が付かンでのほほンとお掃除してた今のテメエとじゃれ合うつもりはねェよ」


 気が付いた時、ツンは再びヨコホリの下にいた。
 両手を、突き出したナイフごと踏みつけられ、床に這いつくばっている。
 潰された。懐に踏み込んだところで、上から圧倒的な力で床に抑え込まれたのだ。


(//‰ ゚) 「治ってやがるのはビビったが、あれだけの怪我だ。まだまだ本調子じゃあねえンだろ?」


 「大人しく聞きな」と言いながら、ヨコホリの左手から数本の鉄線が伸びる。
 抵抗を嘲笑うように手足に巻き付き、ツンは簡単に拘束されてしまった。


(//‰ ゚) 「さあて、じゃあ何から話すか。つってもつい最近まで忘れてたからよ、ディテールは粗いンだが」

ξ ⊿ )ξ 「黙れ!」

(//‰ ゚) 「そうだなァ、お前のパパの頭を飛ばしたあたりからなら、結構覚えてるぜ?」

ξ# ⊿ )ξ 「―――黙れ!!」

36名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:40:53 ID:Q7uZ6AsA0

 ツンが吠える。
 ヨコホリは声を上げず静かに、しかし大きく口を開けて嗤った。


 が、その貌がふっと真剣なものに戻る。
 何かを探すように、視線を右往左往させ始めた。


(//‰ ゚) 「……なんだ?」


 喚くツンの頭を踏みつけて黙らせ、ヨコホリは再び室内を見渡す。
 部屋には異常を匂わせるような変化はない。
 
 
(//‰ ゚) 「ほかにゃ誰もいなかった……じゃあ、なンだ、この魔力は」


 ヨコホリが呟いた瞬間に、部屋中の壁が痛烈に発光を始めた。
 壁のみでは無い。床も天井も、白く眩しい光を放っている。
 床に顔をつけたツンには、僅かな振動音も聞こえた。

 だから分かった。
 一番この姿を見られたくない人が、すぐにでも現れてしまうことが。

37名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:41:54 ID:Q7uZ6AsA0

(//‰ ゚) 「……オイオイ、こンなレベルの魔法を隠してたってのか?」


 発光は規則性を持ちはじめ、部屋の六方を用いて魔法陣と化す。
 部屋の中央で集約された白い光は、球の形を取り、そこにもまた、幾何の紋様が浮かび上がる。

 魔法と呼ばれる超常の術の中でも、さらにごく一部の人間のみが扱える秘術。
 知る者たちは皆、この魔法を『空間転移』と呼んでいる。


(//‰ ゚) 「―――ッ!」


 紋様の球が大きく膨らみ、爆発ににた激しさで閃光を放った。
 ツンも、ヨコホリも咄嗟に顔をそむける。
 部屋の中が光に満たされるその中に、今までには無かった人影が浮かび上がった。


|゚ノ:::::::::::) 「……嫌な反応があったと思って飛んで来てみれば」

(//‰ ゚) 「……随分と、笑えねえのが来ちまったな」

|゚ノ ^∀^) 「私の弟子になにか御用でしょうか? そこな鉄屑の人」


 光の中から現れたレモネードは、全てを察した顔でヨコホリを見据える。
 相変わらずの柔和な微笑みではあったが、その目に宿っていたのは、大よそ人間が灯しうる光では無い。

38名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:43:02 ID:Q7uZ6AsA0

(//‰ ゚) 「チィッ」


 レモネードを目の前にしたヨコホリの判断は、酷く正確であった。
 飛びのきながら距離を取り、同時に鉄線を手繰り寄せツンを人質にしようとしたのだ。
 しかし、その判断の速さも、レモネードには通用しない。

 レモネードが手を振るうと同時、指先に集約した魔力が刃となり、ヨコホリから伸びる鉄線を切断した。
 引き寄せられかけていたツンは床に転がり顔を強かに打つ。


(//‰ ゚) 「シィッ!」

|゚ノ ^∀^) 「“―――プロテクションズ”」


 ヨコホリが放つ、空気の榴弾。
 乱射し連射し、その数は無数と化したが、レモネードが多重に張った障壁魔法が防ぎきる。
 この一瞬の間にレモナはツンの首根っこを掴み、部屋の隅にあったベッドに投げ捨てた。

 遠距離攻撃が通用しないと判断したヨコホリは、ツンを投げ若干体勢を崩したレモネードに走り寄る。
 先の魔法同士の衝突で生まれた蒸気がその体に白くたなびいた。

39名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:44:19 ID:Q7uZ6AsA0


(//‰ ゚) 「“―――四風絶界”」

|゚ノ ^∀^) 「“―――フルインパクト”」


 互いに詠唱無しの高速発動。
 ヨコホリはかつて半不死魔物と化したィシ=ロックスを瀕死に追い込んだ風の超上級魔法。
 対するレモネードは、比較的簡単な衝撃魔法に魔力を無理やりつぎ込んで増強し応じる。

 威力はほぼ同等。
 相殺によって生まれた衝撃波が部屋を粉砕。
 白い蒸気と共に木端や布切れが舞い吹き飛ぶ。

 折角再建された壁もほぼ爆散し、残った柱は歪み大きな罅が入っている。
 最早建物としての機能は失われている。家屋は軋み、倒壊の予兆を告げる。

 そんな中をヨコホリは肉薄。
 初めから魔法が通用すると思っていなかった動きである。
 右手を小さく振りかぶり、手刀をレモネードの首へ突き出した。

 レモネードは仰け反り後転して回避。
 腕の力で大きく跳ね距離を稼ぐと、鉄線によるヨコホリの追撃を、手で払った。
 魔力を纏った掌は鉄線を弾くが、先ほどのように切断は出来ず、続けて振るわれる攻撃にレモナは防戦を強いられる。

40名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:45:11 ID:Q7uZ6AsA0

(//‰ ゚) 「ラァ!」


 ヨコホリが鉄線を叩き付けるように振るった一撃を見切り、レモナは攻勢に出る。
 回避と同時に横に流れ、すぐさま前へ。
 鉄線の追撃は許さない絶妙なタイミングである。


|゚ノ ^∀^) 「“―――天叢雲”」

(//‰ ゚) 「!」


 レモナの体から灰色の魔力が生み出され、掌に集約。
 手刀を延長する形で刃と化す。
 走り寄った勢いを乗せ、レモナはこの手刀をヨコホリへ突き出した。

 ヨコホリはこれを右手で受ける。
 痛烈な金属音。魔力と鉄片が火花となって弾ける。
 続けて逆の手で放たれたレモナの追撃も、ヨコホリは鉄線を纏わせた左手で受けた。

 そのまま両者、近々の間合いで手刀を打ちつけ合う。
 瞬時に互いの攻撃を見切り、受け、反撃を出し、受けられれば即座に引き、また反撃を見切って受ける。
 多重にまき散らされる音と衝撃。金属の粉が舞い、魔力の火花が爆ぜ、血飛沫が床を濡らす。

 破壊力では“天叢雲”を纏うレモネードが優勢。
 しかし、単純な格闘の膂力、技術ではヨコホリが僅かに勝り、さらに彼には鉄線を纏う防御策もある。

 徐々に押され始めたレモナ。
 しかしその瞬間、ついに柱がへし折れ、天井が二人の頭上に落下する。


|゚ノ ^∀^) 「“インパクト=プロテクション”」

(//‰ ゚) 「シィィッ!」


 敵対乍ら同時の呼吸。
 互いに自身の頭上へ魔法を発動し、迫る家屋を悉く破壊。
 貫く形で屋根の上へと逃れる。

41名も無きAAのようです:2016/07/09(土) 22:46:00 ID:Q7uZ6AsA0

(//‰ ゚) (……俺の、この腕に傷をつけやがった。左手は……ひでえなこりゃ)


 倒壊の衝撃で揺れる足場。すぐに体勢を立て直しながら、ヨコホリは自身の状態を確認する。
 金属の装甲で出来た右腕ですら打ち合いで傷だらけ。
 鉄線を纏わせただけの左手については、指が辛うじてつながっている状態だ。

 斧を叩きつけられても傷つかないのが自慢であったにも関わらず、やすやすと切り裂いてきた。
 地面に落ちた鉄線の切れ端をみて、ヨコホリはつい舌打ちを漏らす。


|゚ノ ^∀^) (速く、強い。体技だけならあちらに軍配。それに、簡易発動とはいえ天叢雲が防がれるとは)


 レモネードも魔法を一旦解き、手を払う。
 白い肌には無数の傷。ヨコホリとのやり取りで出来たものだ。
 天叢雲の脅威性を理解した彼は、途中から天叢雲の内側にある手を狙って攻撃を仕掛けてきていた。

 破壊力では無類を誇る天叢雲も、防御の面では脆さがある。
 それをこの短時間で見抜いた。
 レモネードの背を走り胸に満ちるのは、実に久しい畏怖の念である。


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