[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
501-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
これを魔女の九九というようです
1
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 09:59:57 ID:SOhsxYKs0
汝、会得せよ。
.
261
:
名も無きAAのようです
:2015/06/21(日) 17:57:56 ID:cH6EMdY60
乙乙!
毎話出てくる食べ物に胃袋刺激されまくりだ
最終話楽しみにしてます
262
:
名も無きAAのようです
:2015/06/21(日) 21:57:18 ID:juiasaS20
ディエスイレと彼岸花(或いはみとり曲)を扱うそのセンス、グッドだね
「幻影追想劇団」って名前もすごい好きだわ
話の着地点が見えないけどどうやって決着つけるか楽しみ
263
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:12:49 ID:Um.BtjGM0
すなわち九は一にして、十は無なり
.
264
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:13:26 ID:0rEC8Y0I0
ktkr
265
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:14:26 ID:Um.BtjGM0
ピッ……、ピッ……、ピッ……、ピッ……。
と、電子音が、聞こえる。
一定の、間隔だ。
早くもなく、遅くもなく、狂うこともない。
非常に落ち着く音。
心地よくて、眠ってしまいそうだ。
だけどどこか、懐かしい、この音は……。
「デミタス」
……?
「デミタス、デミタス」
名前だ。
僕の名前だ。
たくさんの人が、僕を呼んでいた。
「デミタス、起きて」
「いつまで寝ているんだ、デミタス」
「起きてくださいよ、デミタス先輩!」
「デミタス!」
「デミタスくん」
「はやく、おきて、デミタスさん」
はいはい、起きますよ、と僕は言おうとした。
(´・_ゝ・`)「…………ぅ、」
266
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:16:03 ID:J.4lYJko0
来た! 支援
267
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:29:51 ID:Um.BtjGM0
しかし掠れた呻き声が飛び出すだけで、一向に喋ることは出来なかった。
仕方がないので、重い瞼を開くことにした。
こちらもなかなかに難航した。
いくら開けようとしても細かく痙攣するだけで、なかなか動かなかったのだ。
それでも続けていると、ようやくそれは動いた。
目がしばしばと痛む。
泣きすぎたり、プールの中で目を開けてしまった時のような痛みだ。
自然と涙が溢れて、僕は目を瞬かせた。
|゚ノ ^∀^)「! あなた! デミタスが……!」
( ´ー`)「! デミタス!」
(´・_ゝ・`)「……かあさん、とうさん?」
驚いたような表情で覗き込む二人を見て、僕はようやく言葉を発した。
( ´ー`)「先生を呼んでくる!」
父は嬉しそうにそう言って、部屋から飛び出していった。
|゚ノ ^∀^)「ああ、神様……。息子を助けていただいて本当にありがとうございます……!」
ベッドに倒れ伏した母は、涙声でそう言った。
僕は状況が飲み込めず、あたりを見渡した。
緑色の人工呼吸器。
青色の患者衣。
一定の間隔で鳴り続ける心電図。
てんてんと雫を落とす点滴。
体のあちこちから伸びるコード。
人情味のない真っ白な部屋。
268
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:31:07 ID:Um.BtjGM0
(´・_ゝ・`)「……病院?」
思わず漏らした言葉に、母が顔を上げた。
|゚ノ ^∀^)「あなた、車に轢かれたのよ。それで一ヶ月もずっと意識がなくて……」
(´・_ゝ・`)「一ヶ月……」
ばたばたと廊下から騒がしい音が聞こえてきた。
( ´ー`)「先生、こっちです」
父親に連れて来られた小柄な医師が、僕の顔を覗き込む。
(-@∀@)「ご気分はどうですか?」
(´・_ゝ・`)「悪くはないです、ただ少しぼーっとしていて」
(-@∀@)「今までずっと眠られていましたからね」
(´・_ゝ・`)「……なにかを忘れている気がするんです」
(-@∀@)「……なにかですか」
(´・_ゝ・`)「ずっと夢を見ていた気がして」
と、口に出して気付く。
269
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:32:05 ID:Um.BtjGM0
僕は、とある少女といたはずだった。
非日常的で受け入れがたい出来事が次々に起きていた。
だけどそれは確かにあった出来事なのだと僕は確信していた。
病院にいるというこの状況こそが夢であるような気がしてならなかった。
|゚ノ ^∀^)「デミタスは、大丈夫なんでしょうか……」
(-@∀@)「少々混乱しているのかもしれませんね。昏睡されていても夢を見ることはありますから」
夢。
夢、だったんだろうか。
(,,゚Д゚)「!! せ、先輩!!!」
廊下からひょこっと顔をのぞかせた男が素っ頓狂な声をあげた。
(,,゚Д゚)「先輩! 意識が戻ったんすね!!」
(-@∀@)「君、病院のなかでは静かに」
(,,゚Д゚)「す、すいません……」
(´・_ゝ・`)「ギコくん……?」
(,,゚Д゚)「なんでちょっと疑問系なんすか」
(´・_ゝ・`)「いや……、ちょっと意外な気がして」
270
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:35:19 ID:Um.BtjGM0
|゚ノ ^∀^)「ギコさんは仕事の合間を縫ってよくお見舞いに来てくれたのよ」
(´・_ゝ・`)「……そうなのか?」
(,,゚Д゚)「そうっすよ。心配で仕方なかったんすよ……」
(´・_ゝ・`)「そうか……。それは、ありがとう」
照れくさくなり、僕は頰に手を当てたくなった。
が、繋がっている管やらコードやらが邪魔で実現しなかった。
まるで拘束具のようだ。
ぼんやりとそんなことを思った。
(,,゚Д゚)「いやぁーよかったっす。先輩がいなくてみんな寂しがってるんですよ、早く元気になってくださいよ」
(´・_ゝ・`)「ははは……」
思わず視線を下に逸らす。
僕は、そんなに皆から必要とされている人間だったのか。
……本当に、そうだったのだろうか?
僕は忘れている。
|゚ノ ^∀^)「デミタス?」
なにを忘れている?
( ´ー`)「デミタス」
271
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:36:04 ID:Um.BtjGM0
僕は、僕は……。
(-@∀@)「盛岡さん」
(´・_ゝ・`)「僕は……!」
(,,゚Д゚)「先輩?」
ギコの言葉で僕は確信した。
(´・_ゝ・`)「違う、君はギコくんじゃない」
(,,゚Д゚)「……なーに言ってんすか、先輩!」
( ´ー`)「失礼なこと言うんじゃないよ、デミタス」
(-@∀@)「まあまあ皆さん、落ち着いてください。きっと彼は疲れて……」
(´・_ゝ・`)「君が入社した時、僕は部長に昇進したばかりだった」
病室に沈黙が訪れる。
父も母も医者もギコも皆僕を見つめた。
無機質な、黒い穴のような瞳で。
(´・_ゝ・`)「ギコくんは最初から、僕を先輩とは呼ばなかった」
それきり、誰一人として動くことはなかった。
僕は人工呼吸器を外した。
その次に点滴の針を取ると、もぞりと肉が動いてその穴がふさがった。
272
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:37:20 ID:Um.BtjGM0
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。
コードを体から毟っても、心電図は狂ったように一定のリズムを奏でた。
何もかもが嘘で出来ていた。
そのまま騙されていた方が幸せだったのかもしれない。
だけどあまりにも都合が良すぎるし、何よりあの子を探さなくてはいけなかった。
いつの間にか手の中に収まっていたマッチ箱を握りしめ、僕は病室を飛び出した。
一歩、また一歩と進むうちに殺伐とした白が色褪せていった。
患者衣はいつの間にか返り血のついたシャツへ変わっていた。
それでいい。
(´・_ゝ・`)「僕は特別なんかじゃない」
万人から好かれるような大した人間じゃない。
そんなものは望んでいない。
僕は、僕が愛するものに愛されていればそれで満足なのだ。
(´・_ゝ・`)「!」
足ががくりと抜ける。
ゆっくりと左足を伸ばす。
形はないが、階段があるらしい。
僕は少しずつその階段を下りていった。
どこへ行き着くのだろう。
全く想像ができない。
上るのであれば処刑台や屋上といったイメージが出てくるのだが。
下りるというのは、よくわからない。
ただとにかく僕は進むこととあの子の事だけを考える事にした。
名前が思い出せない、魔女の事を。
273
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:38:14 ID:Um.BtjGM0
無限回廊ならぬ無限階段の終わりはなかなか見えない。
息が切れる。
座り込みそうになったが流石にそれはやめた。
少しだけだ、少しだけ休もう。
膝に手をあてて息を整える。
あとどれ程歩けばあの子に会えるのだろう。
会えばあの子の名前を思い出せるのだろうか。
そもそもあの子は僕のことを覚えているのだろうか。
僕のように、忘れてしまっているとしたら。
「デミタス」
声が、後ろから聞こえる。
振り向くと一段上に両親とギコが立っていた。
( ´ー`)「どこに行こうとしているんだい」
(´・_ゝ・`)「会わなきゃいけない人がいるんです」
(,,゚Д゚)「会ってどうするんすか?」
(´・_ゝ・`)「会ってあの子の夢を叶えるんだ」
|゚ノ ^∀^)「その子なら大丈夫、デミタスがほっといても夢を叶えるわよ」
(´・_ゝ・`)「叶うところを見届けなきゃ意味がないんだ!」
叫んだその瞬間、一陣の風が吹いた。
思わず体勢が崩れる。
その拍子に、手からマッチ箱が落ちた。
274
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:39:24 ID:Um.BtjGM0
(´・_ゝ・`)「あっ……!」
小さな箱はこてんと弾み、階段の横へ落ちていった。
みるみるうちにそれは下へと消えていく。
僕はそのあとを追って階段から飛び降りた。
「デミタス!!」
遥か遠くから、悲鳴が聞こえた。
後先考えずにこんな事をしたが、死にはしないだろう。
こんなにも死にたくないと願っているのだから。
(´・_ゝ・`)「くっ……!」
手を伸ばす。
マッチ箱の端に指先が届く。
ほんの少し中の箱がずれ、中身がこぼれた。
その中に入っていたのは、黄鉄鉱の細石であった。
立方体、八面体、十二面体。
大小様々な形のそれが互いにぶつかり合い、火花を散らした。
瞬間、世界が焼け焦げた。
ぢりぢりと空間が焼けていく。
焼け跡の向こうには暗闇が広がっていた。
例えるなら、あれだ。
きれいな包装紙を破いても、まだ中身に到達しなかった時の暗黒だ。
炎は勢いを増していく。
落下している僕よりも早く空間を焼き進める彼らは、ある一点でその動きを止めた。
ちらちらと揺らめく輪の中を通って、僕は地面へ着地した。
275
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:40:46 ID:Um.BtjGM0
そこは、公園だった。
上を見上げれば、あの炎の輪はいつのまにか橙色の光を放つ太陽となっていた。
あの光がなかったらここは真っ暗闇だったのかもしれない。
箱を拾い、僕は百合が咲き誇る遊歩道を走った。
甘い匂いが僕を開けた場所へと導いてくれた。
そこには陶器で出来た噴水がぽつりと存在していた。
かなりの年代物だ。
かつて白かったであろうそれは黒い黴や気色悪い垢に侵されている。
それでも噴水は役目を果たしていた。
(´・_ゝ・`)「!」
揺れる水面に、あの子がいた。
ショボンとデレもいる。
あの子は二人に責め立てられているようだった。
どんな会話をしているのだろう。
その内容は分からないが、あの二人の事だ。
あまりよくない言葉を吹きかけているのだろう。
それでも彼女は、強い意志の宿った瞳で二人を見返していた。
(´・_ゝ・`)「あぁ、」
脳がくすぐったい。
口がもどかしい。
喉奥で単語が暴れていた。
覚えているのに、覚えていない。
今すぐあの子のそばに行きたいのに!
(´・_ゝ・`)「名前を……」
276
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:44:03 ID:Um.BtjGM0
脳裏に、一枚のポスターがちらつく。
サバトに行く道すがら、あるいはショボンに見せられたものだ。
制服を着て、幼い笑みを浮かべるあの子の姿。
(´・_ゝ・`)「君は、」
噴き上げる水がことさら強くなる。
水面が掻き乱され、ペニサスの姿が失せかける。
君の、名前は。
––––伊藤ペニサスさんを探しています!!
.
277
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:45:59 ID:Um.BtjGM0
(´・_ゝ・`)「ペニサス!」
その瞬間、噴水の水は凍ってしまった。
いや、凍ったのではない。
鏡に変化したのだ。
噴水の皹が鏡にも伝染していく。
細かく黒い線が張り巡らされ、やがて鏡はバラバラと割れた。
同時に僕のいた公園の空も音を立てて割れ出した。
(´・_ゝ・`)「ペニサス」
思い出したその名前を、僕はもう一度唱えた。
もう忘れることのないように、見失うことのないように。
そして。
(´・ω・`)「……君のしつこさには舌を巻くね」
全てが崩れ去った時、僕は広間に立っていた。
('、`*川「デミタス!」
ペニサスは檻の中に囚われていた。
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
デレはショボンと共に高台にある席から僕たちを見下ろしていた。
ぐるりと広間を囲う席には灰色の人影たちが押し寄せている。
ヒソヒソと聞こえる声の内容は分からないが、不愉快な内容に違いなかった。
どうやらここは法廷らしいと僕は感じ取った。
278
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:47:04 ID:Um.BtjGM0
しかしここには弁護人も検事もいない。
あるのは責める人と責められる人、そして侮辱する人だけだ。
(´・_ゝ・`)「なんの話をしていたのですか」
ペニサスが閉じ込められている檻に近付いた。
ショボンは静かにそれを見送る。
感情の読み取れない瞳が、僕を貫く。
ζ(゚ー゚*ζ「ペニサスちゃんの今後についての話し合いよ」
(´・_ゝ・`)「話し合いだって?」
(´・ω・`)「そう、どういう選択をとればペニサスにとって一番幸せになれるのかを教えていたんだよ」
(´・_ゝ・`)「そんなもの、ペニサスの勝手じゃないか。他人が決める事でもない」
(´・ω・`)「ペニサスは庇護されるべき存在だよ。僕がいなければ生きていけない、定期的に支えてあげなくちゃ」
(´・_ゝ・`)「別にあなたがいなくたって彼女は生きていけますよ」
(´・ω・`)「無理だね、彼女は弱いんだから」
('、`*川「……わたし、弱くなんかないわ」
ようやく口を開いたペニサスに、二人の目は見開かれた。
外野の声は一層大きくなり、僕は怒鳴った。
(´・_ゝ・`)「うるさい! 君らには関係ないだろう!!!」
しかしざわめきが止むことはなかった。
279
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:54:12 ID:Um.BtjGM0
(´・ω・`)「……ペニサス、君の夢は僕のようになることなんだろう?」
('、`*川「前まではそうでした。でも」
ペニサスは言い淀む。
うまく言葉に出来ないのだろう。
ショボンは、その言葉が放たれる瞬間を恐れているようだった。
ζ(゚ー゚*ζ「ペニサスちゃん、思い出すのは怖かったでしょう」
唐突にデレが声をかける。
穏やかな、しかし後ろ手に刃物を持っているような油断のならない声。
('、`*川「怖かったしすごく苦痛でしたよ」
ζ(゚ー゚*ζ「だったら、」
('、`*川「でもそこから逃げても、わたしが殺された事実はなくならないし」
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
('、`*川「いつかは嫌でも向き合わなきゃいけなかったんだと思います」
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
('、`*川「それが、わたしの望みでもありました」
(´・ω・`)「……ペニサス」
('、`*川「師匠、わたしはたしかに師匠のことが好きでした。尊敬していました、慕っていました」
280
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:55:16 ID:Um.BtjGM0
青白い唇を噛み締めながらショボンはペニサスを見つめた。
浅く息をしながらペニサスは言葉を紡ぐ。
('、`*川「だけど、気付いたんです。わたしは師匠のような人になりたかったんじゃないって」
(´・ω・`)「ペニサス」
('、`*川「わたしは、あなたと対等に話がしたかったんです」
ζ(゚ー゚*ζ「何言ってるの、ペニサスちゃん」
苛立ちと甘く爛れた優しさが混ざり合ったような語気で、デレは畳み掛ける。
ζ(゚ー゚*ζ「いつだってショボンはあなたのことを、大事にしてくれていたじゃない。彼はあなたの幸せを誰よりも考えているし願っているのよ? そんなこともわからないなんてあなたおかしいわ」
('、`*川「本当にそうなんでしょうか」
ショボンと視線を合わせ、ペニサスは問う。
('、`*川「わたしの幸せを願っているわりには、師匠とあなたはその邪魔をするばかりな気がして」
ζ(゚ー゚*ζ「そんなわけないでしょう」
('、`*川「だってわたしのしたいことを何一つとして叶えてくれなかったじゃないですか、生き返りたいという願い以外は」
ζ(゚ー゚*ζ「ペニサスちゃん」
('、`*川「記憶を保持することも魔女になるという夢も、全部取り上げようとしたのは師匠たちのほうですよ」
ζ(゚ー゚*ζ「黙りなさい」
281
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 12:59:07 ID:Um.BtjGM0
('、`*川「っ……」
(´・_ゝ・`)「理屈じゃなく威圧をぶつけてくるとは、随分痛いところを突かれたようですね」
ζ(゚ー゚*ζ「外野は黙ってなさい」
(´・_ゝ・`)「僕は当事者ですよ。それよか外野っていうのはああいう灰色の陰惨な連中を指すんじゃないんですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「お前は……っ!」
(´・ω・`)「やめなさい、デレ」
ショボンに諌められ、デレは不服そうに口を閉じた。
(´・ω・`)「……ペニサス、君は僕が間違ったことをしたと思っているのかい?」
('、`*川「……それは、」
(´・ω・`)「僕の選択は、間違っていたのかな?」
ずるい男だ。
論点をすり替えられるとペニサスはすぐそちらの話題に流される。
今まで話した事が全部無駄になる事を、こいつは知り尽くしているのだ。
('、`*川「間違って、なかったんだと思います」
まずいと思った。
満足そうに笑うショボンの顔が疎ましくて仕方がなかった。
('、`*川「わたしは、師匠の選択を否定する事はできません」
282
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:00:17 ID:Um.BtjGM0
(´・ω・`)「だったら、」
('、`*川「でも、どうしてこんな事をとか、なんでこんな目にとか色々今でも思います」
(´・ω・`)「ペニサス、」
('、`*川「だけどそれがなかったら今のわたしがなかったというのも事実なんです。何もかも忘れて、魔女を目指していなかったら、わたしはデミタスに出会えなかった」
(´・ω・`)「…………」
('、`*川「彼に会わなかったらわたしはずっと記憶を取り戻さなかったかもしれないし、師匠を盲目的に慕ったままだったかもしれない」
(´・_ゝ・`)「ペニサス……」
('、`*川「わたしは、わたしのために、全てを受け入れます。その道を作ったのは、師匠やデレさん、デミタスのお陰なんです。だから、わたしは師匠の選択を否定しません」
しぃん、と広間に静寂が訪れた。
灰色の人影たちは掻き消えてしまった。
それどころか広間の陰影や境界があやふやに滲んできた。
檻が激しく軋み、急激に錆びた。
高さが崩壊していく。
世界には緩やかに皹が入り、そして。
(´ ω `)「……僕は、」
('、`*川「師匠?」
(´・ω・`)「僕は、そんな風に君を救いたかったわけじゃない!!!」
283
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:01:04 ID:Um.BtjGM0
慟哭にも似たその叫びは、エゴ以外の何物でもなかった。
与えられた玩具が気に入らなくて壁に投げつけている三歳児となんら変わりのない、幼稚な発言。
デレの瞳は黒に近い青色に染まっていた。
驚いたからだろうか、それとも幻滅したからなのか。
僕には分からなかったが、彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。
(´・ω・`)「あ…………」
ショボンは、軽く笑みを浮かべた。
(´・ω・`)「ごめんよ、ペニサス。急に怒鳴ったりして」
/ ゚、。 /『すまない、大きな声なんか出して……』
あの台詞が脳裏によぎる。
その後に続いた言葉は……。
(´・ω・`)「……違う」
('、`*川「……師匠?」
ペニサスが歩み寄る。
ショボンはよろめきながら、退歩する。
(´・ω・`)「ちがう、僕がしたかったのは人助けだ」
ζ(゚ー゚;*ζ「そうよ、あなたは世界中の不幸を摘み取ろうとしているのよ」
がくがくと震えるその体を、デレが支える。
ショボンは縋るようにデレを見つめた。
284
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:02:53 ID:Um.BtjGM0
(´・ω・`)「それもちがう」
ζ(゚ー゚;*ζ「え……」
(´・ω・`)「僕は、僕は何をしようとしていたんだ……?」
(´・_ゝ・`)「!」
なにかがやってくる。
人も魔女も太刀打ちの出来ない、巨大な理の一部を持ったなにかだ。
その予感を肌で感じ、僕はペニサスの手を取った。
('、`*川「師匠!」
ペニサスは叫ぶ。
('、`*川「師匠は、自分の居場所が欲しかったんでしょう!?」
(´ ω `)「…………」
ショボンは、答えない。
('、`*川「師匠! 認めて! 認めないと透明な澱が……!」
(´ ω `)「認める……」
ショボンの左手が、上がりかけた。
ζ(゚ー゚;*ζ「ああだめ、ショボン。早くペニサスちゃんの言う事を聞いて……!」
ざわざわと、ぞわぞわと確実に透明な澱は近付いてきていた。
時間がない。
285
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:03:54 ID:Um.BtjGM0
(´・_ゝ・`)「僕もあなたと同じだった! 僕も特別な存在になりたくて、なろうとして、なれなかった! だけど、それでもあなたは一人じゃない!」
('、`*川「そうよ、師匠! わたしもデレさんもいるわ! 師匠は一人じゃない、だから認めて!!」
ζ(゚ー゚;*ζ「ショボン……!!」
(´・ω・`)「……ペニサス、デレ、デミタス」
ショボンは、伸ばしかけていた手を下ろした。
(´・ω・`)「無理だよ、変われない」
目を細め、
(´・_ゝ・`)「……!」
(´・ω・`)「救済は、強者の特権なんだ、」
口角を攣り上げて、
('、`*川「師匠……?」
(´・ω・`)「強い人が弱い人に手を差し伸べるから、それが成り立つんだよ」
それが笑顔だとわかるまで、時間がかかった。
ζ(゚ー゚;*ζ「だめ、ショボン……!」
(´・ω・`)「僕は、どうしても強くありたいんだ」
286
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:06:28 ID:Um.BtjGM0
(´・_ゝ・`)「ショボン……っ!」
それは、急にやってきた。
('、`*川「師匠っ!」
猛烈な風が吹いている。
ショボンの表情は伺えない。
('、`*川「師匠! だめ!」
(´ ω `)「 」
('、`;*川「消えちゃだめ!!!!」
知覚できないそれは瞬きをするよりも早く、ショボンを呑み込んだ。
ζ(゚ー゚*ζ「…………………………………………ぁ?」
支えを失い倒れ伏せたデレは小さく声を上げた。
('、`*川「……師匠」
(´・_ゝ・`)「…………」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、ぁ……。あぁ……!!」
小さな豆電球が灯る物置部屋に、悲鳴じみた嗚咽が響き渡った。
287
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:12:13 ID:Um.BtjGM0
透明な澱が過ぎ去ってから一ヶ月。
梅雨に入り、青い空を見る機会が随分減った。
それを考慮してもこの家に流れる空気はあまりにも沈みきっていた。
仕方のない事だ、と僕はため息まじりに納得しようとした。
それでも胸に滞る靄をなくす事は出来なかった。
ペニサスは書庫に籠るようになった。
毎日遅くまで魔法について勉強をし、一人で考え込む事が多くなった。
僕は彼女の散らかした本を整理したり、下手ながらも料理に精を出したりしていた。
今はやっと半熟の目玉焼きが作れるようになった。
毎日失敗作を食べさせられてうんざりするペニサスを見ることはないだろう。
目玉焼きに関しては、だが。
デレはあれ以降憔悴しきってしまい、部屋から出てこなくなった。
食事を運んでも全く手をつけないこともある。
が、時折すすり泣く声が聞こえるので生きてはいるのだろう。
部屋に立ち入ることができないので、なんとも言えないのだが。
ドクオはその世話に勤しんだ。
彼は僕たちに何も事情を聞いてこなかった。
興味がないのかもしれないし、そもそもそういう思考がないのかもしれない。
分からないが、とにかく彼はごくごく普通に僕たちに接した。
288
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:13:31 ID:Um.BtjGM0
('A`)「どゥすルノ」
ある日、ドクオはそう問うた。
('、`*川「どうって?」
ペニサスは戸惑いながら読んでいた本をテーブルに置いた。
('A`)「コのあトノこと」
つまり僕たちがこの家に留まるのかどうかを聞いているのだろう。
ペニサスが僕を見る。
その瞳には躊躇いが見えた。
(´・_ゝ・`)「君のすきなようにしなよ」
コーヒーを啜りながら僕は返す。
マシュマロ抜きのただのコーヒーだ。
やはり苦い方が好みである。
('、`*川「……旅に出ようと思ってるの」
('A`)「どコヘ?」
('、`*川「どこかは決まってないけど、師匠を助けられる方法を探そうって」
(´・_ゝ・`)「助けられるのかい?」
('、`*川「もしかしたら、だけど」
289
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:14:41 ID:Um.BtjGM0
あまり自信がない口調で彼女はこう言った。
('、`*川「今までわたしって記憶がなかったでしょう」
(´・_ゝ・`)「そうだね」
('、`*川「それってつまり人間としての自分をかなり失っていた状態で、魔女としての力がすごく不安定だったの」
認識しなければ、いないも一緒。
それは自分の記憶にも適応されるのだろう。
('、`*川「だけど記憶を取り戻したことでその境界線がはっきりしたことでわたしは本来の力を手に入れることができた」
ペニサスがコーヒーに手を伸ばす。
口に含むと、彼女の眉間に皺が寄った。
そういえば僕が淹れたから、彼女の分も砂糖が入っていないんだった。
しかしペニサスはもう一口飲み進めた。
('、`*川「……師匠が消える前に、わたしは無意識に祈っていたの」
('、`;*川『消えちゃだめ!!!!』
透明な澱に抗うように叫ぶその声が、脳裏によぎる。
ああ、もしかして。
('、`*川「わたしが祈りをそのまま口に出したことで、師匠は呪いにかかってしまったんだと思う」
(´・_ゝ・`)「だから透明な死を迎えたのに僕たちの記憶に残っているのか」
僕の質問に彼女は頷いた。
290
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:15:24 ID:Um.BtjGM0
('、`*川「師匠との日々をなかったことにすればこの呪いは解けるんだろうけど、したくないの」
わたしは諦めない。
いつぞやかの決意が、新しい意味を含んだ。
きっとそれは、彼女を至上の死へ導くだろう。
ふとそんなことを思っていた。
('、`*川「デミタス、一緒に来てくれる?」
(´・_ゝ・`)「聞くまでもないよね、それ」
妙に格好つけた言い方になり、少し恥ずかしくなった。
素直に行くって言った方がまだマシだったのかもしれない。
けれどペニサスは気付かずに、一瞬微笑んだ。
その表情はすぐに曇ってしまったが。
('、`*川「……ただ、デレさんのことが心配なんだよね」
(´・_ゝ・`)「ああ……」
('A`)「だいじょぅぶ」
軽やかにそう返したドクオは、こう続けた。
('A`)「ぉれ、が、ずっとソバにイル」
291
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:17:02 ID:Um.BtjGM0
朝から降っていた雨はいつのまにか止んでいた。
幸先は良さそうだ。
なんとなくそう思いながら僕は折り畳み傘を鞄にしまった。
湿気を含んだ空気の中、僕たちは歩く。
その弾みで、足元の雑草が抱き抱えていた雫が解放されていった。
(´・_ゝ・`)「旅に出るとは言ったけどさ、まずどこに行くんだい」
門扉を開けながら問いかける。
('、`*川「とりあえずサバトで会った魔女に弟子入りしようかなぁって……」
(´・_ゝ・`)「で、君はその魔女の居場所を知ってるわけ?」
階段を降りる。
('、`*川「もらったマッチ箱に住所らしきものが書いてあったの」
路上には大きな水溜りが出来ていた。
旅に出て早々服を汚したくないので僕は思い切って飛び越えた。
振り返るとペニサスは、家に視線を送っていた。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん?」
('、`*川「……ううん、またそのうち帰ってこれるかなって」
(´・_ゝ・`)「帰れるさ、帰りたいと思えばいつだって」
('、`*川「……そっか」
292
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:20:25 ID:Um.BtjGM0
ふわりと彼女も空を飛ぶ。
金色と銀色の靴がきらりと光る。
その動作がとても美しく、僕は見惚れていた。
('、`*川「行きましょ」
(´・_ゝ・`)「ああ、うん。ところで場所わかってるの?」
ペニサスはぴたりと動きを止め、僕を見た。
('、`*川「……西比利亜市ってこっちよね?」
(´・_ゝ・`)「そっちじゃないよ。というか僕が住所見た方が早いんじゃないかな」
差し出した手にマッチ箱が乗せられる。
やたら重みがある箱を開けてみる。
(´・_ゝ・`)「!」
('、`*川「どうしたの?」
何も言わず、僕はペニサスにその中身を見せた。
('、`*川「あれ、こんなの入ってなかったのに」
つまみ上げられたそれは、氷砂糖であった。
白い塊はそのままペニサスの口の中へと消えていった。
からころと音が鳴り、僕もそれに倣うことにした。
氷砂糖なんて、子供の時に食べたきりじゃなかろうか。
293
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:21:40 ID:Um.BtjGM0
(´・_ゝ・`)「んー……西比利亜市、都所、か」
頭の中に地図を描きながら、僕は歩き始めた。
その後ろを、ペニサスがついてくる。
('、`*川「どれくらいかかりそう?」
(´・_ゝ・`)「半日くらいかな」
('、`*川「遠いのね」
(´・_ゝ・`)「少しだけね」
そんな他愛のない会話をしながら、僕は考える。
いつかは、彼女が僕を導くようになるだろう。
彼女が僕の先を歩くのだろう。
それを寂しく思うけれども、透き通った真っ直ぐな甘味が僕の背中を後押しする。
ペニサスが自分の夢を叶えられますように、それをずっと見守っていられますように、と。
ささやかな祈りが、口の中で溶けていった。
294
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:23:34 ID:Um.BtjGM0
すなわち九は一にして、十は無なり 了
.
295
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:25:15 ID:Um.BtjGM0
登場人物紹介
(´・_ゝ・`) 盛岡デミタス
('、`*川 伊藤ペニサス
ζ(゚ー゚*ζ デレ
('A`) ドクオ
(´・ω・`) ショボン
|゚ノ ^∀^)/( ´ー`)/(-@∀@) ショボンの生み出した幻影たち
从 ゚∀从 躑躅の魔女
(*゚∀゚)/(-_-)/ξ゚⊿゚)ξ/lw´‐ _‐ノv 躑躅の魔女の財産たち
(//‰ ゚)/〈::゚-゚〉 石の魔女
/ ゚、。 //ミセ*゚ー゚)リ 石の魔女の財産たち
(,,゚Д゚) ギコ
氷砂糖
なんの変哲もないショ糖の塊だが幸せの結晶である
296
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:27:05 ID:Um.BtjGM0
汝、会得せよ
一を十と成せ
二を去るにまかせよ
三をただちに作れ、しからば汝は富まん
四を捨てよ
五と六より、七と八を生め
かく魔女は説く、かくて成さん
すなわち九は一にして、十は無なり
これを魔女の九九という
297
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:28:11 ID:Um.BtjGM0
………………
………………
……………………
…………………………………………
…………
………………………………
……………………………………
…………………………………………
…………………………
298
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:29:13 ID:Um.BtjGM0
……………………………………
………………………………
…………………………
……………………
………………
…………
……
.
299
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:30:40 ID:Um.BtjGM0
「見つけた!」
.
300
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:31:48 ID:Um.BtjGM0
これを魔女の九九というようです 了
.
301
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:32:28 ID:Um.BtjGM0
参考にした作品
ファウスト
幾原作品
参考にした楽曲
輪舞-revolution
TERRITORY
葉は華を惟ひ、華は葉を惟ふ
愛妻家の朝食
時が暴走する
消化したお題
不思議な飴
オーバードーズ
ギリギリ
猫
銀と金
教会
ポワレ
肥料
ハッピーバースデー
畑違い
リラックマ
雲
糞
蜘蛛
未消化のお題
ハッピーバースデー
ポワレ
本編はここで終わりですが補完的なお話があと一つだけあります
もう少しだけお付き合いお願いいたします
質問がありましたらお答えします
302
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 13:52:19 ID:0rEC8Y0I0
なんとも不思議な作品だった
お疲れ様でした
303
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 14:06:08 ID:2xs6OFmc0
おつ面白かった
304
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 14:20:09 ID:0TEy97Js0
盛大な乙を!!素晴らしい作品だった!!
305
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 14:20:34 ID:mvhIudbg0
不思議な気分だ
おつ
306
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 14:27:23 ID:wmzgNwq20
おつ
面白かった
しかもお題消化とは…素晴らしいのう
307
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 16:12:49 ID:J.4lYJko0
乙乙!! お題あったのか
とても面白かった。補完も楽しみ
308
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 22:50:15 ID:T3Mz440.0
おつ!
すげえおもしろかった!
ショボンってデミタスと似てたんだね。
ショボンは力があったからエゴな人助けができたけど、デミタスはない分身近なものにしか手を伸ばさなかったんだろうなー
補完も楽しみにしてる
309
:
名も無きAAのようです
:2015/06/27(土) 23:35:14 ID:tYq1/n2E0
「見つけた!」の真意がわからん……
それとも補完で明確になるのか
310
:
名も無きAAのようです
:2015/06/28(日) 00:11:58 ID:07sRsRZA0
ショボンの事だろ
311
:
名も無きAAのようです
:2015/06/28(日) 00:13:35 ID:SYRS99i20
>>309
しょぼんを見つけたのかそれとも方法を見つけたのか
312
:
名も無きAAのようです
:2015/06/28(日) 02:02:07 ID:2lvHYm/I0
乙。面白かった
ただ、読んでて
>>276
の八行目(空白抜きで六行目)でペニサスの名前が出てきちゃってるのに違和感がちょっとあったなぁ
ここデミタスの一人称で、この直後に思い出すまでペニサスの名前忘れてた状態だし
なんか盛り上がる部分で肩透かしを食らわされた感があったかな
そこまてまの盛り上げ方がよかった分、個人的にはそれが目についた感じ
なんか重箱のスミをつつくような不粋な感想すまぬ
313
:
名も無きAAのようです
:2015/06/28(日) 04:10:33 ID:BdrafelI0
それは俺も感じたわ
名前は出さないほうがな
314
:
名も無きAAのようです
:2015/06/28(日) 05:19:24 ID:uu7pNauw0
>>312
>>313
うわ本当ですね
これはうっかりやってしまったなー悔しい
以下に一応差し替え置いときますもう遅いけど
315
:
>>276訂正版
:2015/06/28(日) 05:21:39 ID:uu7pNauw0
脳裏に、一枚のポスターがちらつく。
サバトに行く道すがら、あるいはショボンに見せられたものだ。
制服を着て、幼い笑みを浮かべるあの子の姿。
(´・_ゝ・`)「君は、」
噴き上げる水がことさら強くなる。
水面が掻き乱され、その姿が失せかける。
君の、名前は。
––––伊藤ペニサスさんを探しています!!
.
316
:
名も無きAAのようです
:2015/06/28(日) 08:00:33 ID:07sRsRZA0
やっと思い出せた名前がペニスって悲しくなるな
317
:
名も無きAAのようです
:2015/06/28(日) 23:24:12 ID:Z8MAIW.Y0
乙乙
お題消化てこんな作品を書けるのか…
318
:
名も無きAAのようです
:2015/06/29(月) 03:23:52 ID:X6iyzmo60
乙乙!
この作品の雰囲気本当すき。
出会えてよかった。
補完の話しも楽しみにしてます。
319
:
名も無きAAのようです
:2015/06/30(火) 12:06:39 ID:qAKy9/Zc0
乙!めちゃくちゃ面白かった!
不思議な雰囲気が何かよかったよ
輪舞好きなんだけど、確かにこの話に合う気がする
補完的な話も楽しみだ
質問なんだけど、ペニサスが言ってた友達って誰?
あとデレの過去とかペニサスを嫌ってた理由とか、出来れば知りたいな
320
:
名も無きAAのようです
:2015/06/30(火) 12:18:14 ID:P80HFWfA0
そりゃあおめぇ、チューリップの娘は王子様に『ここにいるだけでいい』とまで言われた彼岸花を嫌うだろうよ。
321
:
名も無きAAのようです
:2015/06/30(火) 14:51:14 ID:qAKy9/Zc0
>>320
なるほど確かに!ありがとう
322
:
名も無きAAのようです
:2015/09/19(土) 08:13:34 ID:BBw54KTM0
面白かった。乙
323
:
名も無きAAのようです
:2015/12/09(水) 23:22:13 ID:liUN2d9g0
たった今読み終わりました。
ハラハラドキドキして、どんな風に進んでいくのか分からないストーリー展開が最高でした。
ラストは質のいい演劇の締めを見ているようで気持ち良かった!
作者さんありがとう!この作品を読めて良かったです!
324
:
名も無きAAのようです
:2016/01/06(水) 14:49:41 ID:7ochckmE0
待ってるよー
325
:
名も無きAAのようです
:2016/02/17(水) 21:01:23 ID:KBVdQSbM0
たった今ブンツン堂で読み終えてきた
雰囲気もよかったし、最初から最後まですっげー面白かった!
いい物語をありがとう、続き待ってます!
326
:
名も無きAAのようです
:2016/04/05(火) 00:01:30 ID:CJK58DcY0
教育的指導
327
:
名も無きAAのようです
:2016/04/07(木) 13:32:30 ID:0NHWARFs0
http://ow.ly/3zsUCx
328
:
名も無きAAのようです
:2016/05/04(水) 13:31:33 ID:ZhNHmJtI0
面白かったなぁ
なになにやつだも面白かったししゅごいよ
329
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:16:22 ID:Fqa66Dmo0
さざめく波の音が耳をつく。
その騒々しさに心を奪われ、はたと辺りを見渡した。
薄暗がり、グリルから漂う肉の焼ける音、それを邪魔しない程度に匂うカサブランカ。
手元にはワイングラス、行儀のいいウェイターが、うす桃色のワインを注ぎ入れた。
その下にはシルクで出来たクロス、艶やかな布の上にはボーンチャイナが一皿。
バターで風味付けされた鯛が、そっくり返っている。
食べてとねだっているのか、逃げようとして跳ねたところなのか。
オブジェのように固まったそれを、蝋燭の淡い光が暴く。
「食べないのかい?」
テーブルの向こうから、声が聞こえた。
視線を向けると、
(´・ω・`)「食べないと、ポアレが冷めてしまうよ」
彼は、鯛の身にナイフを当てた。
逆立った鱗が、刃にしがみつく。
330
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:17:04 ID:Fqa66Dmo0
(´・ω・`)「どうしたんだい、デレ」
魚は嫌いだったか、と問う彼に、首を横に振る。
ζ( ー *ζ「なんでもないの」
そう、なんでもないの。
今日は四月一日。
わたしの誕生日。
忙しいなか、彼はわたしのために来てくれたのだ。
わたしが会いたいと手紙を出したから、彼は食事に誘ってくれたのだ。
震える手でカトラリーを持つ。
そっとフォークを身に突き立てて、ナイフで切り取り、口へと運ぶ。
仄かな塩気、胡椒の辛さ、バターの風味。
添えられたトマトのソースが、ほどよい酸味と甘さを含んでいてよく合っていた。
ζ(゚ー゚*ζ「おいしいわ」
(´・ω・`)「それはよかった」
窓へと視線を向け、彼は微笑んだ。
(´・ω・`)「いい景色だろう」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ」
延々と続く砂浜、青い海。
その果てはまっすぐ、まっすぐ突き抜けるように。
空と海の境が混ざるようにして、続いている。
331
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:18:02 ID:Fqa66Dmo0
(´・ω・`)「僕も夜景が好きでね」
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
ロゼのワインを、口に含む。
酔いが足りないようだった。
頭の片隅で、ざざん、ざざんと波が押し寄せる。
ζ(゚ー゚*ζ「あなたの好きなものをわたしも見せてもらえるなんて」
幸せだ。
砂浜と海は欠落してゆく。
人工的な突起が次々とそれを八つ裂きにしていくからだ。
ちっか、ちっかと赤い明滅。
ヘリコプターや飛行機に高度を知らせる明かりだ。
南国を思わせる海は、あっという間に摩天楼の下へ埋もれていった。
(´・ω・`)「ここでどれほどの人が不幸で苦しんでいるのだろうね」
色もなく、彼は呟いた。
わたしは、何も答えずにもう一度ワインを飲んだ。
その頃には、すっかりとあの潮騒は遠ざかっていた。
頭の中に押し寄せた海が、干からびてしまったかのように。
332
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:18:50 ID:Fqa66Dmo0
愛の炎よ、澄み渡る方へ向かえよかし
.
333
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:19:34 ID:Fqa66Dmo0
わたしと彼の出会いを遡るには些か時間が掛かった。
まず、わたしはカンザスの田舎に住んでいた。
ママと二人で。
パパはいない。
いないことに疑問は持っていなかった。
ママはわたしのことをめいっぱいに愛していると伝えてきた。
一人でわたしを産んで、一人でわたしのために部屋を改装し、一人でわたしを育てるために、休みなく働きに出ていた。
ママが働きに出ると、わたしは本当に家の中で一人きりであった。
そういう時はどうするのかというと、ひたすらに窓の外を眺めていた。
ママが家から出ると、その背はラベンダーをかき分けて消えていく。
家の周りに生えているラベンダーは、元から生えていたらしい。
森のように鬱蒼と生い茂るそれで、時々ママはリネン水を作ってくれた。
足が痛くて眠れない時なんかは、枕とシーツにたっぷりつけてくれるとよく眠れたものだった。
見送ってしばらくは、そのラベンダーを観察した。
風にそよぐと、紫の花々はわたしに手を振った。
それだけで、あの芳香が鼻に蘇るのだ。
334
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:20:18 ID:Fqa66Dmo0
ラベンダーの花に見飽きてくると、今度は空を眺めた。
天気が良すぎる日はつまらなかった。
空に浮かぶ雲の形で、わたしは遊ぶことが多かった。
ζ(゚、 ゚*ζ(あれは馬)
その背に跨って、わたしはラベンダーの森を駆け抜ける。
ζ(゚、 ゚*ζ(あれはドーナツ)
ママはよくドーナツを作ってくれた。
今日のお昼も、きっとドーナツが置いてあるだろう。
ζ(゚、 ゚*ζ(あれはヒトデ)
本でしか読んだことがないけど、海の生き物だ。
あんまり動かなくて、何を食べているのかもわからない。
ただお星様の形をした生き物だというから、素敵なものに違いなかった。
ζ(゚、 ゚*ζ(海に行きたいな)
海は広い。
お風呂よりもたくさん水があって、冷たくて、魚やヒトデが住んでいる。
夏になると人がたくさん来て、泳ぐのだという。
裸で泳ぐのはダメで、水着というかわいい服を着るのだとか。
ζ(゚、 ゚*ζ(そんなにいいところじゃないって聞いたけど)
335
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:21:01 ID:Fqa66Dmo0
トイレよりも狭い部屋で、服を脱いで、水着を着て。
人混みに紛れて、ようやく海にたどり着いても、やっぱり人がいて。
大して遊べないうちに時間ばかりが過ぎていき、また狭い部屋で着替えて、疲れて家に帰る。
しかも、海の水はしょっぱくて、塩が肌にかぶれるのだという。
海にもシャワーが付けてあるけど、たくさん人が待っているから待つだけでもうんざりする。
おまけに水はちょっぴりしか出てこない。
それだったら浴びても浴びなくてもおんなじなのだと、ママは海の良くないところをたくさん説明してくれた。
(*゚ー゚)「それにね、ろくでもない連中がいるのよ」
それっきり、ママは機嫌悪そうにたばこを吸うから、わたしは海の話をあんまりしなかった。
ζ(゚、 ゚*ζ(それでも海に行ってみたい)
人があんまりいない時期ってないのかな。
夏になったら人が来るっていうんだから、春とか秋とかはそういうのはいいんじゃないかな。
冬はすっごく冷たいだろうから、わたしも行きたくない。
冬のお風呂はなかなかお湯が出なくって、あんまり好きじゃないからだ。
ζ(゚、 ゚*ζ(いつかママが連れてってくれますように)
336
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:21:44 ID:Fqa66Dmo0
空を見るのにも飽きてしまったら、今度は壁の絵を眺めてみる。
ママは、わたしが女の子だと知って喜んだそうだ。
男の子じゃなくって、絶対ぜったいぜーったい女の子がいいと思っていたそうだ。
どうして?と聞いたことがある。
(*゚ー゚)「だってママが赤ちゃんだった時の服が着れるのよ?」
そう言ってママは、ママとわたしが赤ちゃんだった時の服を見せてくれた。
小さくて、綿製のフリルがたくさんついたかわいいベビードレスだった。
首元にはピンクのリボンがついて、うさぎの刺繍だってしてあった。
(*゚ー゚)「ママとおんなじ服が着れてうれしいでしょ?」
ママは嬉しそうに言うから、わたしも嬉しくて頷いた。
じゃあもしわたしが男の子だったらどうしたのだろう。
そう聞いたら、ママはにこっと笑って、
(*゚ー゚)「よく切れる包丁があるから大丈夫」
と言った。
ママはその手間が省けてよかった、と言った。
337
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:22:40 ID:fUPr0iSM0
支援
338
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:23:15 ID:Fqa66Dmo0
(*゚ー゚)「生まれてきてくれてありがとう、女の子でありがとう。デレ、大好きよ、愛してるわ」
ちゅ、ちゅ、とキスの雨が降って来る。
ママのキスは、長い。
一度始まるとなかなか逃げられない。
ずーっと一日中、仕事しないでキスできると言っていた。
ママがわたしを一人にしないでくれるなら、こんなに嬉しいことはないと思った。
一人にしておくのは、ママも負い目があるようだった。
ピンクに塗られた部屋の壁にはユニコーンや虹や人魚の絵が描いてあった。
(*゚ー゚)「これはデレだけが読めるフェアリーテイル」
小人に、お姫様に、鹿や熊。
薔薇に、五弁のライラック。
バスケットにはリンゴとブドウ、オレンジ。
そんな絵が、寝室にも、トイレにも、キッチンにも、リビングにもあった。
足を引きずりながら、わたしは部屋を移動する。
ζ(゚、 ゚*ζ(今日は、小人と熊がピクニックに行く話)
昨日はお姫様と人魚の冒険譚。
一昨日はライラックのおまじないとユニコーンの恋。
組み合わせは無限大で、飽きればいくらでもママが壁に描いてくれた。
一日のほとんどが、この絵で遊ぶことに費やされていた。
そのうちお腹が減って、用意されたご飯を食べて、また絵を眺めたり、眠ったり。
ママが帰ってくるまで、ずっとそうしていた。
339
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:24:09 ID:Fqa66Dmo0
夕暮れもとっくに過ぎて、星が天高く輝く頃。
ママは疲れた顔をして帰ってくる。
怖い夢を見て泣きそうになったような顔をして、ママはわたしにキスをしてくる。
ぎゅぅっと強く、苦しくなるほど抱きついてくるから、わたしはママの気がすむまで頭を撫でてあげた。
怖い夢を見たときにママがそうしてくれるからだ。
そうすると少しは気が休まって、ママのことを好きになれるのだ。
ママも、怖い目にあって頭を撫でられたら、わたしのことを好きになってくれるに違いなかった。
(* ー )「デレ、足を出して」
不意にママがそう言う時がある。
わたしは大人しく、ママに向かって足を差し出した。
ママはたばことマッチ取り出した。
しゅ、しゅ、とマッチを擦る音。
とく、とく、と心臓の跳ねる音。
ママはわたしを愛してくれている。
ママはわたしが好きだった。
ママはわたしの支えであり、わたしはママの支えであった。
わたしはママの子供だけど、ママは時々わたしの子供になった。
子供だからほんとはたばこを吸ってはいけないんだけど、でも体は大人だから吸ってもよかった。
340
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:25:11 ID:Fqa66Dmo0
マッチに火がついた。
すぅ、と息を吸うとたばこに火がついた。
マッチが、わたしの足をジュッと焼く。
やけどのうえに作るやけどはとても痛い。
治りきらないうちに、また皮膚がぐちゃぐちゃになるからだ。
夏になると膿が出ることもあったし、そうなると体に毒が回って熱を出すこともあった。
それでもそう言う時はママがつきっきりで看病してくれるから、嬉しかった。
ママはわたしを愛してくれていた。
ふすふすとたばこの煙が顔にあたる。
けむくて、わたしはむせた。
ママは無表情で、たばこに取り憑かれていた。
そのうち吸い終わると、またわたしの足にたばこをこすりつけた。
そんなことを、今日は五回繰り返した。
吸い終わると、ママはとても優しくなる。
冷たい水で灰を洗い流し、軟膏を塗ってくれた。
包帯も巻いてくれて、ぎゅっと抱きしめてくれた。
そうして寝付くまでわたしのそばにいてくれた。
毎日毎日飽きもせず、わたしはママの灰皿で居続けた。
341
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:26:18 ID:Fqa66Dmo0
ある日、ママはいつものように仕事に出た。
ちょっと違ったのは、ママがたばこを忘れていったことだった。
ママはわたしの次にたばこが好きだった。
たばこがなくてママは困るだろうと思った。
わたしは、初めて外に出た。
ママの忘れ物を届けに、裸足で外を出た。
ちょうどその前の日は雨で、地面はぬかるんで居た。
ちょうどその前の日のママは、たばこをよく吸っていた。
包帯にじくじくと泥が染みて、わたしは立っていられないくらい足が痛くなった。
ゆっくり、ゆっくりと歩いているうちにわたしは転んだ。
転んだことのないわたしは、水たまりに倒れ伏した。
服も顔もどろどろで、そのまま這いずってママの後を追った。
たばこの箱だけは濡れないように、気をつけて。
そうしてどれほどの時間が経ったのか。
ぬかるんだ道はいつのまにか舗装された道路になり、わたしはなんとか歩けるようになった。
といってもひどい格好であった。
ママお手製のワンピースは、すっかり泥にまみれていたからだ。
それでもわたしは歩いた。
道行く人が奇異の目で見つめても、こそこそと噂してようと、わたしには関係なかった。
わたしには、ママしかいなかった。
342
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:27:33 ID:Fqa66Dmo0
ママがどんな仕事をしているのかはあまり知らなかった。
でもバスに乗るということだけは知っていた。
ママは、たしかにバス停にいた。
新しく買ったばかりのたばこを開けて、ぷかぷかとふかしていた。
ζ(゚、 ゚*ζ(……なんだ、買えばいいんだ、)
そうだ、たばこなんてお店にたくさん売っているのだ。
わたしが届けなくたって、ママはいくらでもたばこを買えるのだ。
こんな格好でわざわざ届けた方が、ママだって恥ずかしいかもしれない。
だってわたしはこんなにも笑われている。
視線だって浴びている。
わたしが今近付いたらママは笑い者になるだけだ。
ζ( 、 *ζ(でも、ほめてほしかった)
343
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:28:17 ID:Fqa66Dmo0
誰か、誰か。
わたしのことを笑わないでください。
わたしは、大好きなママに褒めて欲しかっただけなのです。
わたしのために働いてくれるママのために、役立ちたかっただけなのです。
日に晒されて、惨めな泥が、服から剥がれ落ちました。
そうしているうちに、ママはバスに乗り込んで、仕事に行きました。
わたしは、また足を引きずって、元来た道を戻りました。
こんなに恥ずかしくて嫌な思いをしたのは初めてでした。
そのうちなんだか悲しくなって、わたしは大声をあげて泣きました。
誰も聞いちゃいないと思っていたのです。
ラベンダーがそよそよと、風に揺れる音しか耳に入らなかったのですから。
344
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:29:21 ID:Fqa66Dmo0
でも。
「どうしたんだい、お嬢さん」
ママよりも柔らかく、優しい声が、聞こえたのです。
その人はすらりと背が高い人でした。
その人は優しい灰色の目をしていました。
その人はママが好きそうなフリルのついた服を着ていました。
その人は昔、絵本で読んだ王子様のような人でした。
その人は、
(´・ω・`)「よかったら話を聞かせてくれませんか?」
とても優しい、魔女でした。
345
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:30:07 ID:Fqa66Dmo0
わたしは、その人の服を汚すことも厭わずに泣きつきました。
その人もまた、怒ることなくわたしを抱きしめてくれました。
大好きなママのためにママの役に立てなくて笑い者になった悔しさと、ママが愛してくれたという証のせいでこんなにも汚れてしまった怒りと、それに対する裏切りを、全て全てぶちまけました。
それはまるで呪詛のように、己の身の内に響き渡り、ママを嫌いになりそうなわたしをまたさらに憎悪させました。
(´・ω・`)「よし、よし、お嬢さん。まずはお茶でも飲みませんか?」
そう言って、その人はラベンダーを踏みつけました。
346
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:31:28 ID:Fqa66Dmo0
するとそこら一帯は、たちまち灰色の影に飲み込まれて。
わたしの服を汚した泥は、ぐつぐつと煮え渡り、チョコレート色のテーブルを作り上げました。
風に揺れていたラベンダーは、水けを失って互いに縫い合いました。
そうしてたちまち、暗紫色のテーブルクロスが出来上がったのです。
道端の石ころは、かたかたと揺れてぽこりと膨れ上がりました。
ポットやカップの形をしたそれは、こつんとテーブルを叩くと……。
ζ(゚ー゚*ζ「わあ……」
ほかほかのレモンティーがたっぷり入っていました。
(´・ω・`)「おっと忘れてた、椅子を作らないとね」
魔女の一声で、灰色の影はすぐさま椅子を形づくりました。
材料は、わたしと魔女の影でした。
細い鉄線を編み込んだような椅子は、とっても座り心地がよくて、すぐに気に入りました。
(´・ω・`)「さあ、まずはお茶を飲んで。砂糖が欲しかったらいくらでもあげるよ。おなかが空いていたらお菓子もたくさんあげる」
347
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:32:42 ID:Fqa66Dmo0
テーブルをコツコツと叩けば、見たことのないお菓子が飛び出しました。
カゴに入ったクッキーにビスコッティ、チョコレート漬けのさくらんぼ。
ババロア、メレンゲのケーキ、いちごのたっぷり挟まったサンドイッチ。
気付けばわたしの顔も服も綺麗さっぱり、泥が消えていました。
わたしは遠慮なく、この見たことのないお菓子に手をつけました。
ζ(゚ー゚*ζ「おいしい!」
ふかふかのクッションのようなお菓子は、ギモーヴというものでした。
甘くって舌がとろけそうになるほどおいしくて、わたしは夢中になって食べました。
(´・ω・`)「君はお母さんと二人暮らしだったのかな?」
ζ(゚ー゚*ζ「そうよ! ママとずーっと二人きり」
喉に張り付いた甘味を、レモンティーで押し流します。
口の中はさっぱり爽やか、ほろ酸っぱい香りが鼻に抜けていきました。
348
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:33:27 ID:Fqa66Dmo0
(´・ω・`)「パパはどこに行ったのかな?」
ζ(゚ー゚*ζ「ママは一人でわたしを産んだって言ってた」
(´・ω・`)「でも必ずパパになる人がいるはずだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「んー……。よくわかんない」
(´・ω・`)「まあそれで君が幸せならいいけども」
ζ(゚ー゚*ζ「幸せだよ、ママは毎日わたしのこと好きって言ってくれるもの」
(´・ω・`)「その足の火傷はどうしたのかな?」
ζ(゚ー゚*ζ「ママがわたしのことを好きな証だって」
(´・ω・`)「ふうん。君は痛くないのかな?」
ζ(゚、 ゚*ζ「……痛いけど」
(´・ω・`)「けど?」
ζ(゚ー゚*ζ「ママはわたしのこと好きだからそうするの」
(´・ω・`)「本当に君のことが好きなのかな」
どこからともなく取り出した角砂糖を、魔女はティーカップに入れました。
一粒、二粒、からころと。
銀のスプーンが持ち上がって、一人でにかき混ぜています。
349
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:34:07 ID:Fqa66Dmo0
ζ(゚ー゚*ζ「好きだもん」
それを眺めながら、マフィンに手を伸ばしました。
かぼちゃの甘さとチーズのしょっぱさが引き立ちあって、あっというまにお腹の中に消えました。
(´・ω・`)「君が男の子でも?」
ζ(゚ー゚*ζ「……きっと好きだもん」
歯切れ悪く、幼いわたしは紅茶を飲みます。
ぴとりと鼻にレモンのスライスがくっついて、バツの悪い気分になりました。
(´・ω・`)「僕の両親は、性別なんか関係なく子供が生まれたら愛しいと言っていたよ」
ζ(゚、 ゚*ζ「だから?」
(´・ω・`)「君は男の子に生まれていたらお母さんに好かれていたのかなあと、僕は気になっているんだよ」
ζ(゚、 ゚*ζ「……好きだもん」
絶対に、と心の中で言い返します。
だけど何故でしょう、今までのような自信はありませんでした。
350
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:35:12 ID:fUPr0iSM0
しえしえ
351
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:35:28 ID:Fqa66Dmo0
(´・ω・`)「君はお母さんと出かけたことはあるのかな?」
ζ(゚、 ゚*ζ「ママはお仕事で忙しいもん」
(´・ω・`)「じゃあ君が風邪を引いてもほったらかしにして仕事に行くんだね」
ζ(゚、 ゚*ζ「そんなことないもん!」
(´・ω・`)「じゃあどうしてお母さんは君とお出かけしてくれないのかな」
ζ(゚、 ゚*ζ「……だって、海は人がたくさんいて、大変だし」
(´・ω・`)「海以外にも出かける場所はたくさんあるよ」
ζ(゚、 ゚*ζ「仕事、いそがしい、し…………」
(´・ω・`)「……ねえ、お嬢さん」
魔女は、とても悲しそうにわたしを見つめます。
(´・ω・`)「君は虐待されているんだよ」
ζ(゚、 ゚*ζ「ぎゃくたい……?」
(´・ω・`)「お母さんは君に遠くへ行って欲しくないんだよ、君が物事を知ることを恐れているんだ」
ζ(゚、 ゚*ζ「どうして?」
(´・ω・`)「色んなことを知ってしまえば君のお母さんがおかしいことがわかってしまうからさ。おかしいことをしてまで、お母さんは君をそばにおきたかったんだ」
ζ(゚、 ゚*ζ「……そばにおいとくことはすきってことじゃないの? あいしてるってことじゃないの?」
わたしは混乱していました。
魔女は、黙って首を横に振りました。
352
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:36:29 ID:Fqa66Dmo0
(´・ω・`)「本当に愛していたら君を痛い目には合わせない」
ζ( 、 *ζ「…………」
(´・ω・`)「本当に愛していたら、君を海に、いや、どこにだって連れて行くよ」
ζ( 、 *ζ「…………」
(´・ω・`)「君は本当の愛を知らないんだ」
可哀想だね、と魔女は言いました。
(´・ω・`)「僕がどうしてここに来たかわかる?」
ζ( 、 *ζ「……わかんない」
わたしは、俯いて涙をこらえるのに必死でした。
ママはわたしを愛していなかった、わたしはママを愛していたのに。
わたしは、ママを愛していたのに。
(´・ω・`)「君の声が聞こえたんだ。海に行きたいって」
だから連れて行こうと思ったんだけど、と魔女は区切りました。
ζ(゚、 ゚*ζ「……だから?」
(´・ω・`)「……君とお母さんを一緒にさせておいたら、いつか殺されちゃいそうでもっと可哀想だ」
だから、と魔女は手を差し伸べました。
(´・ω・`)「僕と一緒に旅をしよう。どこか、君が住みたいと思う場所があればそこにずっといたっていいから」
ζ(゚、 ゚*ζ「……ママに怒られちゃうよ」
(´・ω・`)「その時は僕が怒るよ。お嬢さんをあんな家に閉じ込めておくなんてあんたは酷い人だって」
ζ(゚、 ゚*ζ「……どこにでも連れてってくれる?」
心の奥底で、重く蓋をしていた欲望があふれ出そうとしていました。
353
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:37:27 ID:Fqa66Dmo0
(´・ω・`)「ああ」
どこにでも連れてってあげるよ。
(´・ω・`)「君のことを助けたいんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「……デレ」
(´・ω・`)「僕は、 」
温かな手を取り、彼は言いました。
(´・ω・`)「この世から不幸を取り除くことが望みの、灰色の魔女さ」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、人を幸せにするのがあなたの使命?」
(´・ω・`)「そういうこと」
ζ(゚ー゚*ζ「……すてきね」
悲しいことも辛いこともない世の中なんて、素敵に違いありませんでした。
ζ(゚ー゚*ζ「わたしにもできることがあったらいいな」
(´・ω・`)「きっと君がやりたいことはすぐ見つかるよ」
ζ(゚ー゚*ζ「もう見つけたわ」
もっと彼のことを知りたい。
あの素敵な魔法の仕組みを知りたい。
わたしの心は、すぐ満たされていきました。
354
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:38:22 ID:Fqa66Dmo0
愛の炎よ、澄み渡る方へ向かえよかし 了
.
355
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 15:42:11 ID:fUPr0iSM0
乙でしたー
久々の投下嬉しい!
356
:
名も無きAAのようです
:2017/05/21(日) 21:32:36 ID:mDQVV/QQ0
乙!
デレのお母さん怖いわ…
357
:
<^ω^;削除>
:<^ω^;削除>
<^ω^;削除>
358
:
<^ω^;削除>
:<^ω^;削除>
<^ω^;削除>
359
:
名も無きAAのようです
:2017/05/23(火) 18:15:22 ID:NXwRScpA0
乙乙
母親怖いけど救われる話でよかった
360
:
名も無きAAのようです
:2017/05/24(水) 14:06:44 ID:w6M4Mt6o0
乙です!
デレがどんな家庭環境で育ったのかちょっと気になってた
これはデレがショボンに依存するのも分かるな
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板