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(゚、゚トソンムジナのようですミセ*゚ー゚)リ

1名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 00:45:12 ID:FUwnuIG.0

   ―― ― ―― ― ―――

 恐らく私は。狂ってしまったのだ。
 穴ぐらから飛び出て。
 あの夜に浴びた。青い青い月の光で。

 透き通るあの光はきっと。私の皮膚を。肉を。骨を透過して。
 私の正しい脳みそをあまりに穏やかに殺してしまったのだ

 だから私は。私では無い。
 私の肌と。体毛と。脂肪と。筋肉と。骨と。内臓を持った。
 同じ形をしただけの。

 私ではない。誰かだ。

 斜視のこの目に。乱視のこの目に。
 映るこの景色は。当然に狂っていて。
 焦点は左に3cmずれている。見上げた三日月は6重に見える。

 正すメガネは無いのだと。気づいたのは一昨日だったか。

 寄り添う肌の冷たさは。狂った脳を覚ますことをしてくれず。
 私の心臓の熱ばかりを奪って。私を殺してゆく。枯らせて行く。

 唇に優しさが欲しかったのはきっと。
 今宵の月も青かったからなのだ。

   ―― ― ―― ― ――

19名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 12:32:57 ID:e.8azJN20
これって連載なの?だったらめっちゃ期待してるわ。

20名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 14:06:54 ID:FUwnuIG.0
 

        Place: 草咲市 須赤二丁目 56-1付近  駅裏の小さな公園
    ○
        Cast: 流石兄者 素直クール 松前ショウジ 咲名プギャー 色眼鏡の女 帽子の女
     
   ──────────────────────────―――────────

21名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 14:09:20 ID:FUwnuIG.0

 死というものに実体が、人としての姿があるのならば、きっと冷たいほどに美しい女なのだろう。
 誰もが抗えず、恐れながらも、どこかで惹かれ、目が合っただけで息を止めてしまう。
 そうでなければ、人はもっと容易く生を永遠にする方法を見つけているはずだ。

「そろそろ観念したらどうだ」

「ま、待ってくれ、頼む。二度としねえから」

 男は叫ぶように、醜い命乞いして見せた。
 両手と額を地面にこすりつけ、必死に慈悲を待つ。
 残念ながら、その後頭部に浴びせられるのが聖なる鉛の銃弾であることを俺は知っている。

「つ、つーかよ、俺はあの女から血を買っただけだろ。殺したわけでも、無理やり奪ったわけでもねえ
 それが何で、あんたらに狙われなきゃならねえんだ。あの女だって、了承の上だ。公正な取引じゃねえか」

「流石君、なぜだと思う?私は上手く言葉に出来ないのだが」

 銃口と視線を男の頭から離さず、彼女は俺に話を振った。
 常に気を付けていなければ、いつ話しかけられたかのかわからない。
 最重要の事柄以外について話すとき、彼女の言葉は無為な雑音に似たやる気の無さを持っている。

「そうですね。金に困っている家出娘に財布をちらつかせてホテルに誘う中年の下種親父に近い嫌悪感を覚えたから、でしょうか」

「成程。概ね同意できる意見だ」

22名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 14:12:43 ID:FUwnuIG.0

 炸薬が爆ぜるにしては、いくらかくぐもった湿り気のある音。
 銃身が白い煙を吹き出したのに気付いたころには、男の肩から血が噴き出していた。
 男は傷を抑え、叫び声をあげる。
 せっかくのサプレッサーもこれでは意味がない。

「夫が借金を抱え頼る身内も無い主婦にはした金を渡し、血を啜る。
 さて、これは公平な取引だろうか。私には相手の足元を見て、不等価の交換を行う悪しき所業に思えるが」

 再び銃が跳ねる。
 男は先ほどとは逆の肩から血を吹き出した。
 手で傷を抑えることが出来なくなり、地面に体を転がす様は針でつつかれ身もだえする芋虫のようだ。
 クールはそれを無感情な目で見下ろしている。

 彼女の言葉を、勘違いしてはいけない。
 あれはただの音だ。
 大きく深い洞穴を風が流れる時に、呻きのような音が鳴るのと大差ない。
 感情は存在せず、脳のうわべで思いついた適当な文句を、薄い唇の隙間から吐き出しているだけだ。

 義憤も嫌悪も存在しない。
 適当な理由を垂れているだけ。
 人間であることを失った彼女が人間のふりをするために身に着けた特技でしかないのだ。
 この吸血鬼を嬲り殺し出来ることに興奮して、やや饒舌になっている節はあるが。

「素直さん。それくらいにしとかないと。生かしておいたのには理由があるんだから」

「おっとそうだった。おい」

 引金にかかった指が、素早く動く。
 放たれた銃弾は、仰向けに悶える男の太腿に穴を穿った。

23名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 14:15:12 ID:FUwnuIG.0

「お前、地雷女を知っているか」

 クールの質問は簡潔であった。
 YESかNOのどちらか一つを選べばよい。
 より詳しい話はそのあとからだ。

 しかし、男はのたうち回って聞く耳を持たない。
 だから、むやみに撃つなと言ったのだ。
 俺はこめかみを人差し指で二度掻いてから、足を後ろに振り上げた。

 人工皮の靴で、男の顔面を思いっきり蹴り抜く。
 頑丈なこいつらのことだ。これくらいでは死にはしない。
 ただ、鉛を仕込んだ爪先は、歯を折るくらいは容易く出来る。

「あ、あがっ」

「質問に答えろ。地雷女を知っているか」

「いいね、流石君。悪役ここにありといったところだ」

 男の口から歯が二つ零れた。
 人間のものと似て非なる、長く鋭い犬歯。
 折れた歯の痛みは、撃たれた傷よりも鮮烈だったのか、男が狼狽した目で俺を見上げる。

「地雷、女」

 初めて聞いた、と言わんばかりのトーン。
 どうやら、俺たちの望む答えは持ち合わせてい無いようだ。

24名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 14:17:55 ID:FUwnuIG.0

「この街にいる吸血鬼なら、知っていると思ったんだがな」

 やれやれ、とクールは男の頭部に二発、心臓に二発弾丸を撃ち込んだ。
 男は、何をされたか理解できなかったのか、突然消えた体の痛みに戸惑った表情のまま、絶命する。
 あっけない。俺は携帯端末を取り出し、担当者に簡潔なメールを送った。

「奴らの中では、それほど有名でもないのか」

「此奴がよそ者なんじゃないですか。この街の吸血鬼なら、個人で血の取引をするような杜撰なマネはしないと思います」

「ま、なんにせよ結局収穫はゼロというわけだ」

 たった今吸血鬼の屠殺に成功したことは収穫では無いらしい。
 道に転がる小石を蹴って避けた程度のことでしかないということだ。

「処理班は?」

「もう呼んでおきました。エミナさんですし、すぐに来るかと」

「流石、流石くんなだけはある」

 言葉は満足気。
 しかし表情とトーンは相変わらずの無感動。
 彼女の下について三か月。やっとこのちぐはぐな感覚になれた。

25名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 14:19:59 ID:FUwnuIG.0

 クールは背広の内側、脇に取り付けられたホルスターに銃を収めた。
 街中で銃を扱う機会の多い俺たちのために作られた、サプレッサーをつけたまま収納が可能な特注のもの。
 銃も本来よりも銃身を切り詰め、消音機を取り付ける前提の元で設計されている。

 吸血鬼を殺す武器と言えば、杭が印象的であると思う。
 現に俺たちも杭と呼ばれる剣を扱うことが多々ある。
 しかし、あくまで主力となる武器は銃だ。
 文明の利器。神が非力な人間に与えた、悪鬼から身を守るための漆黒の撃鉄。
 実際、杭持ちという組織の発足から最も吸血鬼を屠ったのは、杭では無く鉛の弾丸なのである。

「さて、手がかりがさっぱりなくなってしまった。新しく情報を持っていそうな吸血鬼でも探してみるか」

「崎山がやられた件は、吸血鬼の界隈にも広がっているはずです
 我々が動くことは向こうも想定して動いているでしょうし、まず捕まらないでしょうね。
 仮に捕まえられたとしても、吸血鬼のコミュニティから締め出されたコイツ程度の無能くらいかと」

「まったく、身内を殺されたというのに歯がゆい話だ」

 先ほど駅前のロータリーで受け取ったポケットティッシュでクールは靴に着いた血を拭った。
 人間の者よりも黒が濃く、彼らが異種であることが一目でわかる。
 臭いも、人間の物とは少々異なる。生臭さは弱く、代わりに鉄の臭いが強くなるのが特徴だ。

26名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 14:22:19 ID:FUwnuIG.0

「ったくよぉ、クーちゃん、街中で殺すなって言ってんだろ。車が寄せられねえじゃねえか」

「君たちがそんなことを我々に要求するから、『杭持ちは街中では殺しをしない』などという
 莫迦らしい噂が吸血鬼の間ではやるんだ。一発撃ち損じて見ろ。奴らは必ず市街地へ逃げる」

「だから、逃がす前に殺せってんだ。またこんなに無駄弾ぶち込みやがって」

 折りたたんだ担架を担いだその男は、クールの顔を見るなり眉間にしわを寄せてそういった。
 死体処理の専門班、咲名プギャー。
 男としてもかなりの大柄で、武器を持たせれば俺よりも吸血鬼殺しが似合いそうな見てくれをしている。

 咲名が現れたのはクールが吸血鬼に止めを刺してから5分ほど経ってからのこと。
 言葉の通り業務用の車両を傍まで乗り入れることが出来ず、用具を持って走ってやってきた。
 汗をかき僅かな息切れを見せながらの、手馴れた作業。
 死体を真っ先に専用の袋に入れ、担架で運び。
 地面に着いた血は土ごと削り取り除染。
 舗装された地面は専用の薬剤を使って洗浄し特殊なポリマーで吸着、箒で掃き集めて袋に詰める。
 いつ見ても感心する速さだ。凄惨な殺人現場だった公園は、すっかり元の長閑な空気を取り戻している。

「次はもっと楽な所で殺せよ」

「ああ、君たちの部署まで連れて行ってから弾をぶち込むようにしよう」

 悪態に皮肉を返され、ケッと唾を吐き捨て咲名は去って行った。
 巨体がずんずんと地面を歩くその姿は、洋画でみた巨大ロボットが闊歩するシーンに似ている。

27名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 14:25:33 ID:FUwnuIG.0

「さて署に戻りますか?」

「あそこは居心地が悪い。今日は涼しいし、しばらく街を捜索してみよう」

「捜索、ですか」

 それは散策、ではないのか。

「見給え流石くん。ロータリー向かいのクレープ屋がカップルで100円引きだそうだ」

 クールが見せたのはポケットティッシュの袋に織り込まれた小さな広告。
 手作り感のあるそれには、確かに「木曜日はカップルDay(ハート)」と書かれていた。
 既にある一定水準の幸福を得ているアベックにさらに幸福を与えようとは。
 たかが菓子の露店風情が中々業深い。

「行くんですか」

「もちろん。私は甘いものには目も耳も口も無いからね」

「口は残しておきましょう。食えなくなる」

「君はもう少し減らず口を控えたまえ」

28名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 14:28:22 ID:FUwnuIG.0

 俺を置いて、クールは歩き出す。
 機械のように冷徹かと思えば、突然少女じみたことを口走る。
 ただ、いつ何時聞こうとも、録音した機械音声が再生されるような無機質さであることには変わりない。

「素直さんが行っても、100円引きはされませんが」

「君は、分かった上でそういう嫌味を言うのが悪い癖だな」

「いや、だって」

 クールの言外に込められた意図は、確かに読んでいる。
 俺に恋人のふりをしろというのだ。
 別段抵抗はない。ズルではあると思うが、顔をしかめて注意することでもないだろう。

 ただ、恐らくクールは気づいていない。
 誰もが思いつく程度のズルなど、すでに前提にして条件を付けていることに。

「正規の値段で買う気にはならないが、100円引きとなれば別だな」

 これから会議に向かうのかというほど機微とした足取り。
 低いが堅い踵がタイル張りの地面を叩き、堅い音を立てる。
 几帳面に一定のリズム。録音すればメトロノーム代わりにもつかえそうだ。

29名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 14:29:45 ID:FUwnuIG.0

「素直さん」

「なんだね」

「見てください。このチラシの隅」

 クレープ屋の前には、それなりの待ち人が並んでいた。
 そもそも人気なのだろう。時刻が夕方であることもあり、学生らしき姿が多く見られる。
 列の最後に着いてひと息をついてから、俺はティッシュのチラシをクールに差し出した。
 疑問の表情であったクールも意味に気づいたのか、表情がなおさら硬くなる。

「ふむ。随分な難題だ」

「だから言ったんです」

「提案がある」

「聞きましょう」

「普段からそういう嗜みをしているということにして、私が思いっきり君を殴る。
 そして君は恍惚の笑みで店員を見る。よだれを垂らすなどすればさらに真実味が増すね。どうだ、完璧だろう」

「いやです」

「いけずめ」

30名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 14:32:03 ID:FUwnuIG.0

「そもそも、意地が悪い。気づいているのなら、早めに言い出すべきだ」

「どんどん先に行ったのは素直さんじゃないですか」

 俺たちの後ろには、既に別のアベックが並んでいた。
 ここで列を離れるのは、少々みっともない。
 100円引きを不当に獲得しようとし、その条件を知ってすごすご帰る。
 犯罪ではないが、人に後ろ指をさされても文句は言えないだろう。

「割引してもらえない100円分は君が出したまえ」

「いやです」

「死ね」

 一度クレープを食べると決めたからか。
 それとも並んだ列から離れがたくなってしまったか。
 クールはぶつくさと文句を垂れながらも、財布を取りだした。
 黒皮の、ブランド物。
 こんなものを使っていながら割引狙いというのも少々情けない。

 正直愉快だった。
 この女に隙があるとすれば、こういうところだけだ。
 感情を表さなくとも、悔しい文句を吐いているだけで十分面白い。
 財布から取りだした千円札。列はまだ前に三組残っている。
 気が早い。どれだけ楽しみにしていたというのだ。

31名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 14:33:53 ID:FUwnuIG.0

「私たちレズカップルなんで100円引きお願いしまーす」

「ちょっと、恥ずかしいからそういう適当を大声で言わないでください」

 正当な金額を支払う覚悟を決めたクールと、内心笑いの止まらない俺の耳に、そんな声が聞こえてきた。
 注文にこぎつけた、二つ前の組み。
 大学生ほどの女が二人。店員は意外にもそれほど困った顔はしていない。

 なるほど。100円をケチろうとする浅はかな思考回路は、何もクールばかりでは無い。
 店員もそういった手合いになれているのだろう。
 そしておそらく、そういった単純な客に条件を突きつけ困らせることに、楽しみを見出してすらいる。

「へー、条件とかあったんだ」

「だから言ったんですよ」

「別にいいじゃん」

 賑やかな二人組についつい目を惹かれて、ぼんやりと眺めていると。
 快活な、サングラスの女がもう一人の帽子の女の首に手を回した。
 「あ」と声を漏らしたのは、俺と、前後の客の数人か。
 タイミングは見事に一緒だったと思う。

32名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 14:38:21 ID:FUwnuIG.0

 大声が影響して衆目が集まる中、サングラスの女がもう一人に顔をよせ、やや強引に唇を重ねる。
 「レズカップル」という発言を詭弁だと捉えていた店員は(俺もだが)いかにも驚愕した表情で硬直していた。
 サングラスの女が横目でそれを確認したのが見えた。
 面白がるように唇と下でもう片方の唇をこじ開け、舌を這いずりこませる。
 抵抗を見せた帽子の女だが、動揺が大きいのか動くことが出来ず手がおろおろしている。不憫だ。

 周囲も、どよめいている。
 並んでいる間に見ていたが、実際のアベックも精々唇で小突き合う程度の口づけばかりだった。
 衆目の前で舌を絡めるというのは、交際事実の有無以前の問題だろう。

「はい。これでおっけーだよね」

「バカですか、あなたは。100円以上の損失ですよ、こんなの」

 ともあれ、彼女らは店の出した「店員の目の前でキスをする」という条件をクリアしたわけだ。
 クレープと引き換えに確りと100円引きされた代金を支払い、二人組は、特に帽子の方は逃げるように去って行った。
 唐突なことで、カメラで写真を撮る者こそいなかったが、恐らくどこかしらに書き込みはされるだろう。
 現に、まるでスクープを掴んだ週刊誌の記者かと思うほどの必死さで携帯電話を操作している者が見られた。
 下世話さで言えば、記者なんぞよりもさらに下等な趣味かもしれない。

 俺が素性知らぬ帽子の彼女に同情していると、クールがするりと列を抜けた。
 目が、仕事中のものに戻っている。

「どうしたんです、素直さん」

「君はバカか、さっきの色眼鏡の女。あれは地雷女だ」

「えっ」

33名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 14:39:38 ID:FUwnuIG.0

 終り。


 長文が読めない人用三行

 キッスの
 価値は
 100円です

34名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 14:46:41 ID:1c/ps3k.0
自分キマシ展開期待していいっすか?

35名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:09:18 ID:FUwnuIG.0

        Place: 草咲市 南梨町 字 節穴前 15-9 メゾンフシアナ 205号室
    ○
        Cast:都村トソン 都村ミセリ
     
   ──────────────────────────────────

36名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:13:25 ID:FUwnuIG.0

 チチチと、蛍光灯が鳴いた。
 人工的な光が部屋を照らし、生活感の薄い様子が露わになる。

ミセ*´д`)リ 「最悪ーッ!普通あそこで「杭持ち」に遭遇するかよー」

(゚、゚トソン 「ミセリが騒いで注目集めるからじゃないですか。隠遁生活している自覚あるんですか?」

ミセ*゚ー゚)リ 「まーいいじゃん、何とかやり過ごせたし」

(゚、゚トソン 「お蔭で何もできずに夜ですけど」

 私は持っていた荷物を置いて、カーテンを閉める。
 八畳一間の、二人暮らしには少々狭い部屋。
 私が転がり込んだ時には

 ミセ*゚ー゚)リ 『いいじゃん、三畳一間なんかよりはるかにマシだよ』

 そう言って、ミセリは受け入れた。
 現に生活はそれほど不便は無い。
 何より五月蠅い両親がいないのだから、私にとっては快適ともいえる。

(゚、゚トソン 「さて、さっさとご飯にしましょうか」

ミセ*゚ー゚)リ 「はいよー」

 私がキッチンへ移るとミセリは照明を消してベッドに倒れ込んだ。
 疲れたのだろう。一昨日のように手傷を負うことこそなかったが、中々厄介な二人だった。

37名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:15:23 ID:FUwnuIG.0

 鶏むね肉をパックから出し、水で軽く表面を洗う。
 皿に乗せ、ラップをかけ電子レンジへ。
 適度な時間を設定し、温めを開始する

 次に丸ごと買ってきた大根の葉を落とす。
 さらに半分よりも短く切り分け、皮を剥く。

 ミセリは、吸血鬼だ。
 話によれば吸血鬼の中ではそれなりの地位にあるらしい。
 実際に、彼女を血眼で追い回す杭持ちを見ればそれが嘘でないことはわかる。

 皮を剥いた大根を、繊維に添って縦に薄くスライスする。

 彼女は他の吸血鬼と同じく人の血肉を喰らう。
 だから、杭持ちや世間は吸血鬼は人間の敵だと考える。
 それは妥当であり、現実だ。
 実際に吸血鬼による殺人は一向に減らず、中には組織化して効率的に人を襲う者達もいるらしい。

 スライスした大根を、千切りにしてゆく。

 だけれど、ミセリは違う。少なくとも私の前では。
 私は彼女に血を、あるいはその他の体液を提供している。
 無理やりに吸われたことも、体に負荷がかかるほど大量に飲まれたことも無い。
 私の知らないところで、浮気男のようにこっそりと他人の血を吸っていない限りは、比較的善良な吸血鬼なのだ。

 切りおえた大根を水にさらす。
 次に、水菜を水洗いし、大根と同じ長さに切り分ける。

38名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:17:52 ID:FUwnuIG.0

ミセ*゚ー゚)リ 「トソン、考え事しながら包丁使ってたら、指がとれちまうよ」

(゚、゚トソン 「大丈夫です。ちゃんとやってますから」

ミセ*゚ー゚)リ 「嫌だかんね、私。トソンの血は好きだけど、流石に指食う趣味は無いわ」

(゚、゚トソン 「はいはい。で、どうしたんです?」

 ふらりと、ミセリが私の背後にすり寄ってきていた。
 気にせず、あえて気にせず、私は夕飯の準備を続ける。

 切った水菜を、大根と一緒のボウルにいれ、水にさらす。
 丁度ここで電子レンジが音を鳴らす。
 鶏肉に火が通ったらしい。

ミセ*゚ー゚)リ 「なぁ〜〜トソ〜ンちゃ〜ん」

(゚、゚トソン 「ダメですよ」

ミセ*゚ー゚)リ 「そんなこと言わないでさぁ」

 ミセリが私の腰に腕を回し、背後から絡みついてくる。
 わざと邪険に払いのけて電子レンジの中の鶏肉を取りだす。
 ラップを開くと湯気が立ち上り、肉の香りが穴をくすぐった。

 皮を引き剥がし、真ん中の一番厚みのあるところに竹串を刺す。
 穴から溢れてきたのは、透明な肉汁。
 どうやら火の通りに問題は無いようだ。

39名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:18:58 ID:FUwnuIG.0

ミセ*゚ー゚)リ 「だってさぁ〜〜すっげえいい匂いすんじゃ〜ん」

(゚、゚トソン 「つまみ食いはダメです」

ミセ*゚ー゚)リ 「硬いこと言うなよ〜〜」

 裂き身にしたいので、鶏肉は一旦放置。
 アパートの狭いキッチンではどこに置いても邪魔になるので、部屋のテーブルに置き、虫よけのネットを被せる。

 行って来てをする私の後ろを、ミセリはだらだらとついてきた。
 餌をねだって足に絡みつく猫のようだ。
 
ミセ*゚Д゚)リ 「トーソーンーお腹空いてしぬぅーー」

(゚、゚トソン 「30分くらい死んで大人しくしててください」

ミセ*゚Д゚)リ 「ぐわああああ」

 演技臭い動きでミセリが床に倒れた。
 ちらりちらりと目線がこちらを向いているが、無視。
 小鍋に薄く水を張り、火にかける。

 お湯が沸くまでの内に、小ぶりの茶碗に乾燥ワカメを一つまみ。
 適量の水を注いでこれも放置。

 次に冷蔵庫から玉ねぎを取りだす。
 昨日使った残りだ。皮を剥き、半分にしたものをラップに包んでおいた。
 これを薄くスライスしてゆく。小さな玉ねぎだ。残り全部使っても問題ないだろう。

40名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:20:01 ID:FUwnuIG.0

(゚、゚トソン 「ミセリ、邪魔です。寝るなら部屋に行ってください」

ミセ*゚Д゚)リ 「はいはーい!抗議抗議ィー!!ノリ悪い上に邪険にし過ぎだと思いまーす!!」

(゚、゚トソン 「邪魔です」

ミセ*゚ ,゚)リ 「トソンよぉ〜初めの頃の戸惑いと初々しさをよぉ〜忘れないでよ〜」

(゚、゚トソン 「邪魔です」

ミセ*゚ -゚)リ

(゚、゚トソン 「さて、と……」

ミセ*゚ ,゚)リ 「まあでもクレープ屋でちゅーした時の反応は中々可愛かったけどな」

(゚、゚トソン

ミセ*゚ー゚)リ  ニヤッ

  (゚、゚トソン
∠二=と l   スッ

(゚、゚トソン 「まずは心臓でしたっけ。殺す手順って」

ミセ;*゚ー゚)リ 「オッケートソン。話し合いの精神って大事だと思わない?」

41名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:23:21 ID:FUwnuIG.0

 吸血鬼と言っても死の概念は存在し、致死域でない負傷でも痛みを感じるのだそうだ。
 心臓であったり、頭を損傷すれば生きてはいられない。
 今でこそ冗談交じりではあるが、包丁は人間と同じく、吸血鬼にとっても十分に凶器足りえる存在らしい。

ミセ*゚ー゚)リ 「でもさ〜よかったじゃん、100円引き」

 私の邪魔にならないよう、部屋の傍まで退いたミセリ。
 腕を組み、壁に体を預ける。
 小柄で、見てくれだけは10代の彼女でも、その立ち姿は年を重ねた気配を醸していた。

(゚、゚トソン 「割に合いません。あの場に知り合いがいないことを切に願います」

ミセ*゚ー゚)リ 「気にしすぎだっつーに」

 ボウルの野菜を笊で引き揚げ、上下に揺すって水を切る。
 これだけでは不十分なので、ボウルに重ねて、しばし水が落ちるのを待つ。

 鍋の縁から湯気がぽふぽふと吹き出し始めた。
 出汁の粉末をスプーンで掬い入れ、まな板放置していた玉ねぎも投入する。
 あとは、弱火にして火が通るのを待てばいい。

 まな板を軽く洗って、先に切り落としておいた大根の葉を軽く水で洗う。
 雑に水を切って、これまた雑に切り分ける。

(゚、゚トソン 「ミセリ、そっちの鶏肉持ってきてください」

ミセ*゚ー゚)リ 「あいよー」

42名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:25:27 ID:FUwnuIG.0

(゚、゚トソン 「冷めてますよね」

ミセ*゚ー゚)リ 「いや、結構熱いけど」

(゚、゚トソン 「じゃあ冷ましてください。ついでに裂き身にしてください」

ミセ*゚ー゚)リ 「トソンさ〜私の体なんだと思ってんのよ」

(゚、゚トソン 「特段思うところはないですが、まあ便利だなと」

ミセ*゚ー゚)リ 「まじさ〜一家に一台吸血鬼じゃないんだからさ〜」

 文句を言いつつ、ミセリは手を洗って鶏肉を手に取った。
 湯気は収まっているが、まだ熱が残っているのは見た目にも何となくわかる。
 それが急速に冷やされていく。
 冷凍庫のような、ゆったりとしたものでは無い。液体窒素に浸すような急速さだ。

(゚、゚トソン 「凍らせないでくださいね」

ミセ*゚ー゚)リ 「わかってるって」

(゚、゚トソン 「この前」

ミセ*゚ー゚)リ 「あーはいはい、申し訳ござんした」

43名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:29:21 ID:FUwnuIG.0

 身の方をミセリに任せ、剥しておいた皮を細く刻む。
 切り分けを終え、鍋とは別のコンロにフライパンをかける。
 少量のサラダ油を熱し、そこに細切りの鳥皮、黒胡椒を入れ、中火で炒める。

 鳥の皮に焼き目がつく間での時間に、鍋の火を止め、味噌を溶き入れた。
 玉ねぎがちょうどいい按配だ。香りも中々よい。

 いい具合に鳥の脂が出たフライパンで大根の葉を炒める。
 水が油に弾かれ跳ねた。バチバチという音が、五月蠅いながらもどこか心地よい。

(゚、゚;トソン 「いぎひぃ?!」

 真剣に炒め物に向き合う首筋に、おぞましい感触が這いずった。
 何をされたのかはすぐに理解したが、あまりに唐突だったので少なからず驚く。

ミセ*゚ー゚)リ 「終わったよー」

(゚、゚トソン 「……一々人の首を舐めないでください」

ミセ*゚ー゚)リ 「だってめっちゃいい匂いすんだもん」

(゚、゚トソン 「……火や刃物を扱ってるときは変なことしないでください」

ミセ*゚ー゚)リ 「もし怪我しても直してやるって」

(゚、゚トソン 「そういう問題じゃありません」

44名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:30:57 ID:FUwnuIG.0

 なんだかんだありつつ、無事に夕飯ができあがった。
 さして豪華でもない、いつも通りの食卓だ。
 私も、クレープを食べたものの、そのあとに走り回ったのでお腹は空いている。

 タイマーでセットしていたご飯も丁度良く炊き上がり、いそいそと箸を取った。

(゚、゚トソン 「いただきます」

ミセ*゚ー゚)リ 「召し上がれ」

(゚、゚トソン   もぐもぐ

ミセ*゚ー゚)リ 「おいしいの?」

(゚、゚トソン 「食べてみます?」

ミセ*゚ー゚)リ 「バーカ、食べ物粗末に出来ねえよ」

(゚、゚トソン 「確かに」

45名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:32:42 ID:FUwnuIG.0

ミセ*゚ー゚)リ 「それ何?」

+(゚、゚トソン 「鳥皮と大根の葉の炒め物です。余分な物同士で作られたとても経済的なメインディッシュです」

ミセ*゚ー゚)リ 「そっち」

+(゚、゚トソン 「大根と水菜の鶏サラダ。梅ドレッシングでさっぱりさをアピール」

ミセ*゚ー゚)リ 「それ」

+(゚、゚トソン 「玉ねぎとワカメの味噌汁。玉ねぎの甘みと辛み、程よい触感がナイス」

ミセ*゚ー゚)リ 「これは」

+(゚、゚トソン 「工場生産のカッパ漬けです。箸休めにも、これだけでご飯のおともにもと、万能です」

ミセ*゚ー゚)リ 「食べ終わるのまだ?」

(゚、゚トソン 「あと30分くらいです」

ミセ*゚ ,゚)リ 「マジで飢え死ぬんだけど」

(゚、゚トソン 「我慢してください」

ミセ*゚ ,゚)リ 「……」

46名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:36:46 ID:FUwnuIG.0

(゚、゚;トソン 「……ちょっと、何してるんですか」

ミセ*゚ー゚)リ 「いやもう、我慢限界だし」

(゚、゚;トソン 「ちょ、私まだご飯」

ミセ*`Д´)リ 「うっせー!さっきからいい匂いぷんぷんさせやがって!誘ってんのか!」

(゚、゚;トソン 「それはそっちが勝手に……」

 抱き着く、というには強引。
 座って食事する私を後ろに引き倒し、腕で押さえつける。
 元からひ弱な私な上に、人よりも力の強い吸血鬼のミセリ。

 抵抗も虚しく、私はミセリの懐に抱きしめられた。
 とりあえず、手に持っていたご飯茶腕をテーブルに残すことには成功する。

ミセ*゚ ,゚)リ 「いただきます」

(゚、゚;トソン 「ちょっみゅぎっ!」

 首筋に、ミセリの舌が這う。
 ほんのりと冷たい唾液の感触に、背筋に痺れが走った。

47名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:39:57 ID:FUwnuIG.0

 唾液を塗り付けられたそこ。
 ミセリの鋭い犬歯が、優しく突き刺さる。
 ハーモニカを吹くように、少しスライドし傷口を広げた。

( 、 トソン 「ッ」

 痛いのは、最初だけだ。
 唾液が皮膚に沁み込むと、次第に感覚がぼやけて、何も感じなくなる。
 少しすれば傷口から血が流れ出る熱い感触だけが、ぼんやりと意識の中で脈を打つ。

 吸血鬼が血を啜るというと、歯を剥いて人の肉に噛みつく画を想像されるかもしれないが、ミセリは少々違う。
 傷を作ると赤ん坊が母親の乳房を一所懸命に吸うように、唇で優しく血を吸い出す。
 唾液で痛覚と意識がぼやけはじめると、倒錯もあって、懸命に血を吸い出すその姿が愛おしく思えるほど。
 
(゚、゚トソン 「……もう。今日は簡単にお昼を済ませたから、薄いですよ」

 ミセリは答えない。
 どんな表情をしているか見ることはできないが、きっといつもの通り目を細めて幸せそうな顔をしているのだろう。
 肩ごしに手を回し、頭を撫でる。
 あまり長くないミセリの髪は猫のように柔らかで、ますます赤ん坊のようだ。

(゚、゚トソン 「……ちょっと、ミセリ」

 私を羽交い絞めにしていた腕が、するりとほどけた。
 体を這うように指が移動し、私の胸元で止まる。
 嫌な予感がする。たぶん当たる。

48名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:41:35 ID:FUwnuIG.0

 優しく、ゆっくりと、手の平が私の胸を撫で始めた。
 逆の手は背中。下着のホックをぷちりと外す。

( 、 トソン 「っう」

 傷口に、痺れを感じる。
 次第に体の力が抜けて、のぼせたように頭がぼうっとし始めた。
 唾液を注射された、と気付いた時にはもう遅い。

ミセ*゚ー゚)リ 「へへへ……焦らされ過ぎてノってきちゃった」

(゚、゚トソン 「お腹が膨らんだらエッチって、猫かウサギですか」

ミセ*゚ー゚)リ 「勝手にするからマグロでいーぜ」

(゚、゚トソン 「マグロも何も、力入んないし」

 体を支えられながら床に倒される。
 覆いかぶさるミセリの目は、逆光の影の中で青く輝いていた。
 唇の間で舌が横に滑る。
 服の中に滑り込んでくる手はやっぱり冷たい。

49名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:44:35 ID:FUwnuIG.0

ミセ*゚ー゚)リ 「トソン、やっぱりかわいいな。食い散らかしたい」

(゚、゚トソン 「うれしくない」

ミセ*゚ー゚)リ 「この身体がいつか男を受け入れて、熟れて腐り始めるのかと思うとたまんねーな」

(゚、゚トソン 「あなたが居るうちは恋人なんかできませんよ」

ミセ*゚ー゚)リ 「まるで私がいなきゃ恋人作れるみたいな言い方だな」

(゚、゚トソン 「人並みには」

ミセ*゚ー゚)リ 「よく言うよコミュ障の癖に。…………ま」

 手際良く服を剥がれ、上半身をさらされる。
 恥じらいが無いわけでは無い。
 恥じらったところでミセリを喜ばせるだけなので、表には出さない。

ミセ*゚ー゚)リ 「この身体に寄ってくるゴキブリは山ほどいそうだけどな」

(゚、゚トソン 「……」

ミセ*゚ー゚)リ 「安売りすんなよー。それなりの男に売らねえと、もったいないぜ」

(゚、゚トソン 「…………買い叩いてつまみ食いしているあなたが言いますか」

50名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:46:40 ID:FUwnuIG.0

(゚、゚トソン 「せめてベッドに行きたいんですが」

ミセ*゚ー゚)リ 「たまには、こういう行儀悪いのも燃えね?」

(゚、゚トソン 「背中痛いんですけど」

ミセ*゚ー゚)リ 「却下」

 着ていたシャツを脱ぐミセリ。
 下着を嫌う彼女の体は、それだけで露わになった。
 白い肌。青い不健康さでは無く陶磁器のような、無機質でなめらかな、「白」。

 綺麗だ。
 細く、しなやかで、張りがあって、それなのに弛んでいる。
 世には吸血鬼に憧れ自ら身を落とす人もいると聞くが、理解できなくはない。

ミセ*゚ー゚)リ 「電気消す?」

(゚、゚トソン 「……はい」

 白い身体に薄く伸びる筋肉の陰。
 伸びた手が紐を引き、照明が素直に輝くのをやめる。

      「……へへ」

     「…………まったく」

51名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 20:48:30 ID:FUwnuIG.0

 終り。



 三行。

 なんか
 たべたり
 たべられたり

52名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 22:18:20 ID:FUwnuIG.0


        Place: 草咲市 空木町安芸 字 小間下103 城宮大学内 静かな講堂の隅
    ○
        Cast: 都村トソン 伊藤ペニサス
     
   ─────────────────────────────────────

53名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 22:20:41 ID:FUwnuIG.0

φ('、`*川   カリカリ...

φ(‐、‐トソン   カリカリ...

φ('、`*川   カリカリ...

φ(‐、‐トソン   カリカリ...

φ('、`*川   カリカ...

 ('、`*川   ガササ......トントン......
p|  |||q゙ 

φ(゚、‐トソン   チラッ

ε= ('、`*川 「ふぅ」

φ(゚、゚トソン 「終りですか?」

('、`*川 「一応ね。見直ししないと」

φ(゚、゚トソン 「参りました。まだ八割も行ってません」

('、`*川 「ゆっくりやりなって。急ぎでもないし」

φ(゚、゚トソン 「はい」

φ(‐、‐トソン   カリカリカリ...

54名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 22:21:27 ID:QQQiBS0c0
とってもいいと思います、はい

55名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 22:21:41 ID:FUwnuIG.0

φ(‐、‐トソン   カリカリカリ...

('、`*川 「…………」

φ(‐、‐トソン   カリカリカリ...

('、`*川 「ちょっくら飲み物買ってくる」

φ(‐、‐トソン 「はい」   カリカリ......

('、`*川 「なんか要る?会館のカフェだけど」

φ(゚、‐トソン   ピタッ

('、`*川 「おごりでは無い」

φ(゚、‐トソン

('、`*川

φ(゚、‐トソン 「カフェモカをお願いします」

('、`*川 「サイズ」

φ(゚、‐トソン 「おごりならLで」

('、`*川 「わかった、Sね」

56名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 22:22:54 ID:FUwnuIG.0

('、`*川 ,,,   テクテク......

('、`*川   ピタッ

*〜 (‐。‐トソン 「ふぁ……」

(‐、q゙トソン   クシクシ

φ(-、‐トソン カリカリカリ...

ε=('、`*川

  ―――― ―‐ − ‐

φ(‐、‐トソン   カリカリカリ...

凵⊂('、`*川 「はい、カフェモカ」  コトッ

φ(‐、‐トソン 「ありがとうございます」

φ(゚、‐トソン

φ(゚、゚トソン 「これMじゃないですか?」

('、`*川 「Sサイズ分は払ってよ」

(゚、゚トソン 「太っ腹なのかケチなのかわかりませんね」

('、`*川 「うっせーよ」

57名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 22:23:54 ID:FUwnuIG.0

('、`*川 「ってーかさ」

φ(‐、‐トソン 「はい?」

('、`*川 「……バイトとか始めた?」

φ(゚、‐トソン

φ(゚、゚トソン 「いいえ」

('、`*川 「そ」

φ(゚、゚トソン 「なんでです?」

('、`*川 「最近、妙にお疲れっつーか。隈あるし、顔色よくないし」

(゚、゚トソン

(P、qトソン   モニモニ

(゚、゚トソン 「そんなに濃いですか」

('、`*川 「まあ、普段よりは目立つよ。あんた化粧しないし」

(゚、゚トソン 「……特に何かあるわけでは。ちょっと、遅くまで読書を」

('、`*川 「……そ」

58名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 22:25:54 ID:FUwnuIG.0

φ(‐、‐トソン   カリカリ...

 ('、`*川
o「]qヾ    タンッ...スッ...
  
φ(‐、‐トソン   カリカリ...

φ(‐、‐トソン   カリッ...カリカリ...

ε=('、`*川

('、`*川 「ちょっと、一服してくる」

φ(゚、‐トソン 「……あれ、さっき吸って来なかったんですか?」

('、`*川 「忘れてたの。しばらくここにいるっしょ?」

φ(゚、‐トソン 「はい」

('、`*川 「荷物よろしく。すぐ戻るから」

φ(゚、‐トソン 「はい」

('、`*川

φ(‐、‐トソン   カリカリカリ...

ε=('、`*川

59名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 22:26:50 ID:FUwnuIG.0

 終り。


 三行

 これ
 くらい
 よもう

60名も無きAAのようです:2014/02/16(日) 22:36:18 ID:6/ev4sxQ0
ペース速いな乙

61名も無きAAのようです:2014/02/17(月) 10:34:41 ID:ep4LCeuI0
素晴らしい
素晴らしい

62名も無きAAのようです:2014/02/17(月) 15:17:53 ID:074qjfpU0
非常にいいと思うおつ
トソンかわいいななんか

63名も無きAAのようです:2014/02/17(月) 21:18:44 ID:4CydhiJQ0
これくらいよもう吹いた

64名も無きAAのようです:2014/02/18(火) 18:56:41 ID:C1xcQuVEO
地の文がすごく好み
おつおつ

65名も無きAAのようです:2014/02/19(水) 03:53:49 ID:rEwhmWBg0
ふぅ…

66名も無きAAのようです:2014/02/22(土) 15:37:03 ID:.ziEzgF20
ミセ*゚ー゚)リ(゚、 ゚トソン
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1497.jpg
( ´_ゝ`)川 ゚ -゚)
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1498.jpg

文章の雰囲気と話の進め方とキャラの喋り方が最高に好き

67名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 12:50:23 ID:9kpWy5VI0

        Place: 草咲市 須赤一丁目 33-31付近  飲食街の外れ
    ○
        Cast: 志納ドクオ 賤之女デレ 大天福ショボン 天主堂モララー
     
   ──────────────────────────―――────────

68名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 12:53:58 ID:9kpWy5VI0

(´†ω゚`) 「大ッ天ッ福(だいってんっぷく)ハピ☆ネス大先生のォ!!吸血鬼狩りタァイム!!」

('A`) 「……」

( ・∀・)っy=━ 「先生、声が大きいです」

 細く薄暗い路地に杭持ちの大声が響き渡る。
 ロングコートを着込み人目を避けるような姿とは逆に、その男の態度は大仰で、横柄で、目障りだった。

 「杭」と呼ばれる武器を持ち、袋小路の出入り口に立ちふさがる。
 強い。意味の分からない顔面でありながら、杭持ちの中でも上位の実力者だ。

( ・∀・)っy=━ 「志納(しのう)ドクオだな。神の御名のもとにさばきを」

 もう一人の青年は、大天福に反し物腰は静か。
 両手で構えた銃の用心金にはおなじみの十字架が光っていた。
 彼もまた、強い。大天福の弟子ではあるらしいが、能力は十分に一人前だろう。

('A`) 「……お前らに、聞きたいことがある」

( ・∀・)っy=━ 「なんだ?」

(´†ω゚`) 「命乞いなら冥土でやれィ!!」
  _,
( ・∀・) 「先生黙って」

(´†ω・`) 「ハイ」

69名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 12:55:02 ID:9kpWy5VI0

('A`) 「地雷女と呼ばれている吸血鬼を知っているか?」

( ・∀・)っy=━ 「……それが?」

('A`) 「居場所を知っているなら教えろ。あの女は俺が殺す」

 青年は黙った。
 話すかどうか思案しているというよりも、こちらの真意を探っているといったところか。
 銃口は一切ぶれない。紛らわしい行動を取ればすぐさま銃弾が放たれるだろう。

( ・∀・)っy=━ 「俺たちは、地雷女の居場所は知らない。こちらが教えてほしいくらいだ」

('A`) 「……チィッ、杭持ちの無能さは相変わらずだな」

( ・∀・)っy=━ 「そして仮に知っていたとしてもお前はここで死ぬ」

('A`) 「そして話の通じなさもまた猿並か」

 くぐもった銃声が響く。
 放たれた弾丸はドクオの耳元を掠め、壁にめり込んだ。

 続けて銃身が跳ねる。
 射線を見切る余裕があった。
 躱せるところをあえて腕で受ける。

 瞬きの間に生み出された銃創から、鮮血とは言い難い黒い液体が噴き出す。
 重畳だ。上手く静脈を破壊してくれた。
 流れ出る血を拝む形で両手に付ける。

70名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 12:56:35 ID:9kpWy5VI0

(´†ω゚`) 「モララー、わざと傷を作ったぞ!血刑に気をつけろ!!」

( ・∀・)っy=━ 「言わなくたってわかるって……」

 車一台ほどの幅の路地。左の壁いっぱいに弧を描いて大天福が迫る。
 その間も青年、モララーは銃撃を止めない。
 わざと射線を右に寄せ、大天福の方へ誘導している。

 なるほど。師弟だけあって息はあっている。

(´†ω゚`) 「大天福スラァッッシュ!!」

 大天福の、杭による斬撃。
 ドクオはこれに血まみれの手を差し出した。

 路地に反響する金属音。
 大天福の杭はドクオの手の平に受け止められている。

 ドクオは刃を握りしめ、大天福は無理やりに押し込もうと力を込めた。
 モララーは銃撃を一旦中止。弾倉を交換する。
 組み合ってしまったため大天福が邪魔で銃が使えないのだ。

( ・∀・)っy=━ 「……血の硬化程度はできるようだが、やはり雑魚か?」

 ドクオは、大天福にやや押されていた。
 吸血鬼になれば女子供でも大の男に押し勝つ力を得る。
 杭持ちとして鍛え抜かれた大天福が相手とはいえ、単純な力比べで吸血鬼が負けるなど珍しい。

71名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 13:00:09 ID:9kpWy5VI0

(´†ω゚`) 「大天福キィィッック!!」

 杭をあっさりと離し、大天福はドクオの腹に足の裏を突き出した。
 唐突な転換にドクオの反応は間に合わない。
 吹き飛び背後の壁に叩き付けられ、口から唾液が漏れる。

(´†ω・`) 「モララー」

( ・∀・)っy=━ 「はい」

(´†ω・`) 「雑魚と侮るな。こいつ何かあるぞ」

( ・∀・)っy=━ 「先生が言うなら、そうなんでしょう」

 地面にずるりと落ちながら、ドクオは舌を打つ。
 モララーの方はもう少しで油断を誘い出せたはずだが、この男中々侮れない。

('A`) 「……地雷のことを知らねえお前らに、用はねえんだが」

(´†ω・`) 「この大天福、屠ると決めた吸血鬼をみすみす逃がすなど出来る男ではない」

 大天福は、着ていたコートを脱いだ。
 下は白のワイシャツと、ガンベルトらしき黒い帯。
 ただし、銃のホルスターの姿は無く、代わりに肩口から杭の柄らしきものが覗いている。

('A`) 「……外人の観光客が喜びそうだな」

72名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 13:02:03 ID:9kpWy5VI0

 背中に手を回し、大天福が取りだしたのは通常よりも長い杭。
 鞘に収まるその姿は拵えの無い刀のようだ。
 杭を抜き、鞘を捨てる大天福。
 趣は杭に同じであっても、武器としての立ち位置はやはり日本刀に近いものだろう。

(´†ω゚`) 「モララー。援護は任せたぞ」

( ・∀・)っy=━ 「……必要かなぁ」

 受けに回っては不味い。
 ドクオは尻餅の状態から、上半身の勢いで大天福に飛び掛かる。

(´†ω゚`) 「大天福抜き胴スラァッシュ!!」

 獣の如く食い掛かったドクオの脇を、大天福は歩むように通り過ぎる。
 手に持った杭が滑らかに、音も無く、ドクオの腹を滑った。

 鋭い痛み。
 零れた血を硬化させて鎧替わりにしていたが、それでも斬り裂かれた。
 血が少なかったのもあるが、大天福の技の切れが上回ったのだ。

( ・∀・)っy=━ 「浅いか」

 よろめくドクオに、モララーの銃撃。
 咄嗟に頭と胸を庇ったが、彼の狙いは初めから膝だった。
 鉛に撃ちぬかれ、崩れ倒れる。

 体の下にじわりじわりと血溜りができてゆく。

73名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 13:03:12 ID:9kpWy5VI0

(´†ω゚`) 「大天福フライングフィニッシュスピネイドォ!!」

 宙に飛び上がる大天福。
 杭を逆手に振り上げ、着地と同時に心臓を貫くつもりだ。
 ドクオは渾身の力で横に転がり逃げる。
 血が少ないためこれだけで頭が朦朧とした。

( ・∀・)っy=━ 「先生、血に触れては!」

(´†ω゚`) 「噴!」

 血だまりに着地した大天福は言われるまでも無かったとばかりにすぐさま飛びのく。
 靴を蹴る様に脱ぎ捨て、靴下で地面に立つ。
 判断が早い。伊達に吸血鬼殺しを生業にしていないわけだ。

( ・∀・)っy=━ 「先生、危険なので近づかないでください」

 言葉尻に被さる銃声。
 狙いはドクオの頭だ。
 座り込んだ状態で、何とか手で受ける。
 衝撃に揺らぎただの一発で地面に倒れた。

( ・∀・)っy=━ 「先生の勘違いか?」

 倒れたドクオの頭へ、ゆっくりと狙いをつける。
 仮に血の能力、『血刑』を使われても距離があるから大丈夫、ということか。

74名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 13:05:25 ID:9kpWy5VI0

('A`) 「……やっぱ、おまえら、ダメだァ」

( ・∀・)っy=━ 「?」

 狙いを定め、引金を引く寸前、モララーは異変に気付いた。
 照準に目を当てているほんの数秒に、何かが変わっている。
 大きな変化だ。だが、具体的に何か把握出来ない。

( ・∀・)っy=━ 「……!血が、無い!」

('A`) 「おせえって」

 ドクオがふらふらと立つ。
 身に着けているカーキのパーカーにも、青いジーンズにも。
 塗りたくった手にも、溜まりになっていた地面にも。

 何処にも、ドクオの血が見当たらない。

( ;・∀・)っy=━ 「何をしたところで!」

 モララーが銃を撃つ。
 くぐもった銃声の連続。最後にはスライドが開きっぱなしになる控え目な金属音が重なる。
 そこまで撃ってなお、ドクオには一発も当たっていない。

( ;・∀・)っy=━ 「なに、が」

75名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 13:07:39 ID:9kpWy5VI0

(´†ω・`) 「モララー下がれ!コイツの血刑は毒だ!」

( ;・∀・) 「……ッそうか!」

 モララーが袖で口元を抑え、大きく飛びのく。
 着地と同時によろめいて尻を着いた。
 実感が伴わないまま平衡感覚を失っているのだ。
 狙撃が悉く外れたのもその影響である。

 大天福もモララー同様、むしろより近くにいたせいで毒のダメージを受けていた。
 内股で前かがみで小型犬の如くプルプル震えている。
 杭を杖代わりにして倒れることは耐えているが、今にも崩れ落ちそうだ。

('A`) 「チッ……二人いっぺんに殺すのは無理か……」

 塞がらないドクオの腹の傷からは滾々と血が湧き出ているが、一滴も地面には落ちない。
 腰元まで垂れたところで蒸発し、黒い霧となって立ち上る。
 すぐに拡散し目に見えなくはなるが、空気中を移動し、確実に杭持ち達の体を蝕んでいた。

(´†ω゚`) 「……しかしこの大天福、ただではやられん!!」

 目を真っ赤に充血させた大天福。
 唇を噛む痛みで意識の明晰を僅かに取戻し、立ち上がる。
 その手に光る、鈍色の杭。

 ドクオは出血多量で動けず、今攻撃を受ければ身を守る術は無い。

76名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 13:09:14 ID:9kpWy5VI0

(´†ω゚`),´∴ 「行くぞ!大ッ天ッ福オリジナルアルティメットンァァァアア!」 

( ;・∀・) 「先生ェ!!だから技名はシンプルが良いってあれほど!!!」

 杭を振り上げ叫ぶ途中で大天福は血反吐をまき散らして卒倒した。
 零れる血は口の端で泡になっている。
 放っておけば十数分で死ぬだろう。

( ;・∀・) 「く、こんな間抜けな負け方……!」

 モララーが震える手で上着の内側に手を滑り込ませる。
 取りだしたのは、簡易の注射器。
 フィルムケースのような円柱状で、体に押し付けると針が出て薬剤を注射できる。

 内容は、抗吸血鬼化薬。
 吸血鬼化を抑制するのが目的のものだ。
 解毒効果は無いが、この毒は吸血鬼の血が由来なのである程度は期待できる。
 いくらか効果があったことを自覚し、モララーは大天福に駆け寄った。

 素早く指で肋骨の隙間を突き、完全に意識を奪う。
 これで今以上に毒を吸入することは無い。

( ;・∀・) 「志納ドクオ、次は必ず殺す」

 モララーは手早く大天福を担ぎ、走り出した。
 崩れ落ちる勢いを利用するかのように、路地を出てゆく。
 あとはまあ、救急車でも呼べば、あの毒ならば五分五分で生き延びるだろう。

77名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 13:10:47 ID:9kpWy5VI0

 たっぷりと溜めて、舌を打つ。
 あのままモララーがドクオを殺しに来ていれば、もっと強力な毒で殺すことが出来た。
 吸血鬼殺しより仲間の救出を優先したのが、少々意外でもある。

('A`) 「……クソ、便利さなんてかけらもねえじゃねえか、この血刑」

 血を変異させ操る吸血鬼の態、血刑。
 特性故に血を流さねば使えず、血は流し過ぎれば仮死状態に陥ってしまう。
 上手く使おうにも、最近血刑を使えるようになったドクオは毒を作り出すのに多くの時間を要する。
 もっとさっさと強力な毒を生み出せていれば、組み合った時点で大天福は殺せていた。

('A`) 「……帰らねえと、血が、足りねえ……」

 よろよろと立ち上がり、すぐに崩れ落ちる。
 血刑に血を使いすぎた。
 応援を呼ばれてる可能性がある。早く逃げなければならないというのに。

('A`) 「……クソ、せっかく、バカどもを、追っ払ったのに」

 傷は全て塞がった。
 しかし体の中を巡る血が足りない。
 苦々しい顔をしながら、ドクオは薄汚い壁に体重を預ける。

78名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 13:12:30 ID:9kpWy5VI0


ζ(゚ー゚*ζ 〜 ♪

ζ(゚ー゚*ζ´ 「あら?」

 目を閉じ、朦朧としていたドクオの耳には、その音は聞こえていなかった。
 その少女は仮死に陥りかけているドクオへ歩み寄る。

79名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 13:13:31 ID:9kpWy5VI0

ζ(゚ー゚*ζ 「ねえ、おじ様?お兄さん?」

('A`) 「……あ?」

ζ(゚、 ゚*ζ 「可哀想。お腹が空いているのね」

('A`) 「なんだ、てめえ」

 ドクオの朦朧とした視界にも、少女が映り込んだ。
 栗色の髪に、ゴシックなデザインの人形のようなドレス。
 整った顔に浮かぶ笑顔は、どこか作り物を思わせた。

ζ(゚ー゚*ζ 「ちょっと待ってね」

('A`) 「おい、何をする気だ」

 胸元に付けられた、鮮やかな青い石のブローチ。
 少女の小さな手が楕円形のそれを捻ると、カチリと音がして台座の金細工が開き、石が外れた。
 摘まみあげられたその宝石の裏には、爪の先ほどの小さな刃物が仕込まれている。

('A`) 「おい」

ζ(^ー^*ζ 「今私の血をあげるね」

80名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 13:15:19 ID:9kpWy5VI0

 少女は首元のボタンを外し、服を大きくはだけさせた。
 露わになった鎖骨のやや下。
 健康的な色の肌に石を強く押し付ける。

 ドクオが驚く暇もない。
 石は鎖骨をなぞる様に滑り、過ぎ去ったそこには血を膨らませる赤い傷口が生み出された。

ζ(゚ー゚*ζ 「さ、どうぞ、おじ様」

(;'A`) 「……」

 抱擁を求めるように、手を広げ誘う少女。

 ドクオは動かない。
 滴る少女の血は赤く、自然に喉が、腹がなる。
 だが、突き上げる衝動をドクオは必死に抑えた。

ζ(゚、゚*ζ 「どうしたのおじ様?早く吸わないと、血がもったいないわ」

(;'A`) 「……俺は、人の、血は、吸わねえ」

ζ(^ー^*ζ 「でもおじさまは吸血鬼でしょう?吸血鬼は人の血を吸うのが普通でしょう?」

(;'A`) 「……」

 この娘は、何者だ。

81名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 13:17:33 ID:9kpWy5VI0

 なぜ吸血鬼と知って平然と近づいてくる。
 なぜ自分の血を飲ませようとする。

 ドクオの背を、寒気が痺れさせる。
 命を奪いに来たあのふざけた二人の杭持ちよりも、この少女にこそ恐怖を覚えた。

ζ(゚、 ゚*ζ 「もう、仕方ないわね」

 少女は滴る血を指で掬い取る。
 指にねっとりと絡んだそれを、小鳥に餌付けする優しさでドクオに差し出した。

(;'A`) 「……ッ」

 顔をそむける。
 甘い匂い。生臭い誘惑。
 一口でも触れたら、欲求に負ける。

 必死に拒むドクオの頭を、少女は血を掬ったのとは逆の手でそっと抑えた。
 少々さびしそうな、困った笑顔でドクオの唇へ血を運ぶ。

ζ(゚、 ゚*ζ「ごめんなさい。おじ様のお口には合わないかもしれないけれど、このままではおじ様死んでしまうもの」

(; A )

82名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 13:20:34 ID:9kpWy5VI0

 違う、口に合わないなんてことが無い。
 今まで嗅いだどんな香りよりも素晴らしく、唾液が溢れる。
 心のすべてを奪われそうになる。

 だからダメだ。やめてくれ。
 この血を舐めたら、人間に戻れなくなる。

ζ(゚ー゚*ζ 「さ、観念なさって」

( A ) 「グッ」

 薄く空いた唇に滑り込む人差し指。
 噛みしめ、閉じた歯を一つ一つなぞる様に血を塗り付けていく。
 歯の隙間を抜けて、口の中に広がる少女の血の味。
 やっぱりだ。匂いで全部わかってたんだ。

 甘い。
 ほら、甘い。

 美味い。
 旨い。

 感動が、電流になって、背骨の髄まで溶かし解してゆくようだ。

83名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 13:21:23 ID:9kpWy5VI0

( ゚A゚) 「ッ゙!」

 ドクオは、鎖の千切れた猛獣の如く、少女の傷にしゃぶりついた。
 あまりに突然で少々驚いた少女は、すぐに穏やかな笑顔に戻る。

 胸元に頭を押し付け、無心に血を啜る彼を優しく抱きしめた。
 小さな手で髪を撫でるその姿は、まるで母親のようですらある。

ζ(゚ー゚*ζ 「よほどお腹が減っていたのね。どうぞ、好きなだけ飲んで」

 傷口に舌を差し込み、広げる。
 あふれ出た血を、吸い込み飲む。
 死にかけていた体がみるみる生き返ってゆくのがわかった。

ζ(゚ー゚*ζ 「あら、もう大丈夫?」

 いくらか欲求が満たされたところで、ドクオは少女を解放した。
 まだ飲める。もっと飲みたいと体が軋む。
 だが、これ以上は少女を殺しかねない。

 ドクオを見返す少女は相変わらず笑顔であったが、いくらか血色が悪くなっていた。

84名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 13:26:25 ID:9kpWy5VI0

(;'A`) 「すまない、俺は……」

ζ(゚、 ゚*ζ 「おじさま、口の周りが汚いわ。ちょっと待ってね」

 少女はドクオの顔を白いハンカチで拭う。
 唾液と血を拭き取り、満足げに笑った。
 食欲を誘う人間の臭いが、彼女が妖艶な女であるような倒錯を起こさせる。

 少女はハンカチを丁寧に畳んでしまい、地面にちょこんと座り込んだ。
 路地は汚い。
 綺麗な服が埃に汚れるが本人は全く気にしていないようだった。

ζ(゚ー゚*ζ 「ねえ、おじ様。私、お願いがあるの」

(;'A`) 「……?なんだ」

ζ(゚ー゚*ζ 「おじ様、私を飼ってくださらない?」

(;'A`) 「……は?」

ζ(゚ー゚*ζ 「私を、娘として、飼ってくださいな」

 ドクオは、少女が何を言っているのか理解できない。
 戸惑いの視線の先、微笑む彼女の美しさは、やはり作り物の様であった。

85名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 13:27:42 ID:9kpWy5VI0
 終り。


 三行

 大天福
 大先生
 大失敗


>>66
 ( ゚д゚ )
 ( ゚д゚)
 ( ゚д゚ )       とても素晴らしく思います。喜びに満ちた投下です。

86名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 17:33:39 ID:9uUDVpmw0
おつ!

87名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 19:34:19 ID:IS1PCLhk0
ミセリとトソンといいドクオとデレといい吸血鬼と人間の関係性が好みすぎる
大好きだ

88名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 20:10:50 ID:52HoOqTsO

登場人物が魅力的で引き込まれるわ

89名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 21:43:16 ID:JobO5qas0

ショボンのキャラ好きだ

90名も無きAAのようです:2014/02/23(日) 21:51:55 ID:mbTjdYho0

ζ(゚ー゚*ζと(´†ω・`)のキャラ素晴らしく良い

91名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 00:23:42 ID:qK3C3XvUO
ω・)久々おもしろい作品キター

92名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 00:43:28 ID:C2iai.a60
>>91
よお久しぶりだな
元気にしてたか?

93名も無きAAのようです:2014/02/24(月) 17:33:28 ID:7a3LisK20
期待

94名も無きAAのようです:2014/02/27(木) 22:09:37 ID:Lf/as6qA0
wktk

95名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:05:30 ID:jHk0pOPc0


        Place: 草咲市 時糸町 字 輪区68-5 寂れた卸売団地の一角
    ○
        Cast: 流石兄者 素直クール 庄梅ハンジョイ 棺桶死オサム
     
   ──────────────────────────―――────────

96名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:06:53 ID:jHk0pOPc0
 
「流石くん、意地悪をせずそろそろ暗視スコープまたはそれに類する秘密道具を出したまえ」

「残念ながら俺の腹にポケットは付いていませんね」

「まったく流石でないな流石くん」

 広大な倉庫だった。
 かつては物流の要として利用されていたのだろうが、
 今となっては照明一つ無いゴーストハウスと化している。
 目を凝らしても、隣にいるクールの顔すらはっきりと見えない。
 あまりに暗い。頼みの月明かりも今は雲の向こうだ。

 吸血鬼は、この闇の中で俺たちの首を狙っている。

 右に物音。
 クールが動いた気配と同時に、くぐもった銃声が鳴る。
 薬莢が落ちる音。それに紛れて足音らしきものが正面へ移動する。

 再びの銃声。連続しているが、適当に乱射するような間では無い。
 一度一度、引金を引く毎に狙いを定め直している。
 暗中で音を頼りに銃を撃つにしては落ち着き過ぎだ。

「君も撃ちたまえ」

「無理です」

97名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:09:36 ID:jHk0pOPc0

 俺はクールのように音だけで相手の位置を特定などできない。
 もし狭い路地でなどであればある程度推測はできるが、残念なことにここは廃市場の倉庫跡。
 広く障害物も少なく、だが周囲を囲む壁と天井が反響を生むせいで音が明確さを欠く。
 この状況で適当に引き金を引いたところで、当たるわけがないのだ。
 試しに一発撃ってみたが、まったく落ち着かない。

 クールが弾倉に残った最後の弾を放った。
 何かが壊れる音が響く。今は使われていないとはいえ過失物損だ。
 書かねばならない書類が一つ増えた。頭が痛い。

「ああ、くそ。弾が切れた。流石くん君の弾を寄越したまえ」

 珍しく苛立った声色でクールが叫ぶ。
 いかにも怒っているという気配で空の弾倉を地面に投げつけた。
 らしくない。だからこそその意図を読む。

 俺たちは常に予備の弾倉を持ち歩いている。
 クールなぞは自分の乱射癖を自覚しているため、通常の二倍も申請しているほどだ。
 確かに襲撃を受けてからかなりの弾を無駄にしているが、弾切れはまだ遠いはず。
 ならば彼女の狙いは。

「ダメですよ素直さん。俺の弾はここに来る前の戦闘で全部使ってしまいました」

 出来る限り焦りと狼狽をにじませて、返す。
 わざとらしい大きさにならないようクールよりも控え目にはなったが、十分聞こえただろう。
 少々説明的過ぎたのは反省だ。

98名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:12:01 ID:jHk0pOPc0

「流石、流石くんだ」

 小声の呟き。
 これは恐らく向こうには聞こえない。

「そもそも君が匿名のリークを疑いもせず信用するからこんなことになるんだ」

 スライドの開いた銃を握ったまま、クールは俺の胸倉を掴んだ。
 演技はまだまだだ。本来の無感情で平坦な声の名残が強い。

「罠なのはわかり切っていたのに」

 叫びながらクールは俺の胸のベルトから予備弾倉を引き抜き、銃に差し込む。

「とりあえず会ってみよう言ったのはあなたじゃないか」

 女に噛みつかれ困り果てる男。それが今の俺だ。
 宥め、腕を引き離そうとするふりをしながら、素直の銃に手を触れる。

「なんだ、私のせいだというのか」

 俺を揺さぶるクール。
 銃に触れた俺の手がスライドを引き、弾が薬室に装填された。
 
 聞こえる足音。
 忍ばせてはいるが、速い。
 駆け寄ってきている。

 当然だろう。向こうにとっての好機に他ならないのだから。
 だが、少々焦り過ぎだ。

99名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:13:54 ID:jHk0pOPc0

「流石くんは」

 怒りが最高潮に達したと言ったところか。
 掴んでいた襟を離し、俺を突き飛ばすクール。

 足音は俺を逸れた。
 向こうの狙いはクール。
 動転している愚かな女。

 無論、愚かなのは。

「本当に流石だ」

 こんな大根の演技に騙される莫迦な吸血鬼。

 見えないが見える。
 クールの薄い唇は今、笑みを湛え。
 死神の持つ鎌のように、弧を描いている。

100名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:14:29 ID:lsoQf6VM0
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101名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:15:07 ID:jHk0pOPc0

 銃声。
 その瞬間に雲が抜け、天井付近の窓から月明かりが降りそそいだ。
 なるほど、これに気づいたから焦って接近してきたのか、とぼんやり思う。
 俺はもう銃を撃つ気が無い。
 今から撃っても、それこそ無駄玉なのだから。

「ぐぶっ」

 足音の主、吸血鬼の男は胸から血を吹き出した。
 飛び掛かろうとしていたところに、音でその位置を特定したクールに鉛玉を撃ちこまれたのだ。
 距離と反響のある中ですら把握できていた彼女だ。
 接近してくる、近距離の相手に撃つなど容易いことだろう。
 俺は真似しろと言われてもできないので、男がクールを狙ってくれて助かった。

 男が勢いのまま前へ倒れ込んだ。
 クールは冷静にその脇をすり抜け、銃口をその背中へ向ける。

 一発目は心臓に当たったようだが、これだけでは不十分。
 心臓を破壊しても、精々出血多量に因る仮死状態に陥るだけ。
 殺すには心臓を破壊され血の流れが滞った頭部の破壊が必要だ。

102名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:17:44 ID:jHk0pOPc0

「良いことを教えてやろう」

 銃声。
 這いずって逃げようとした膝の関節を撃ち抜く。
 潰れた悲鳴が上がる。
 血刑を使う余裕は無い様だ。
 そもそも使えないという可能性もあるが、今となっては関係ない。

「私と流石くんはもみ合って喧嘩するほど仲が良くない」

 銃声に合わせて血飛沫が二つ上がる。
 腰骨を砕いた。これで歩くことはおろか振り向くことすらできないだろう。
 まだ、殺さない。此奴には聞きたいことがある。

「さて。お遊びに付き合った分、きっちり話をしてもらおうか」

「痛え、痛えよお」

「流石君どうする。話にならんぞ」

「素直さんは撃ち過ぎなんです」

 俺は腰の後ろに差した杭を抜く。
 これを吸血鬼殺しに使うことはほとんどないが、便利ではある。
 拷問というのは、使われる道具が原始的であるほど、口が回りやすくなるものだ。

103名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:21:05 ID:jHk0pOPc0

「そろそろ黙れ」

 先端を、背中に押し当てる。
 心臓の裏。骨を抜けて一突きに出来る場所だ。

「痛がるふりをして心臓を再生する時間を稼ごうとしても無駄だ。
 それ以上続ければ、杭で完全に心臓を破壊する」

 腰はともかく、心臓の傷は粗方回復が済んでいるはずだ。
 なかなか悪知恵が働くようではあるが、残念ながら誤魔化されるほど愚かで居てはやれない。

「地雷女はどこにいる」

 男は呻きこそあげなくなったが、代りに黙り込んでしまった。
 望まぬ兆候だ。此奴は頑なに秘密を守ろうとしているのではない。
 本当は自分が何も知らないことを悟られたくないがために黙っている。
 愚かだ。全く持って反吐が出る。
 仕方ないので、肉の中に杭の先を潜り込ませた。

「言え。地雷女の居場所を知っていると話しを持ちかけてきたのは貴様だ」

「あ、う」

 潜り込んだ先端を、90度捩じる。
 血が細く吹き出す。
 吸血鬼はまた悲鳴をあげた。

104名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:26:28 ID:jHk0pOPc0

「ゆ、許してくれ。本当は」

「碌なことを知らないんだろう」

 クールがため息を吐く。
 銃を持ってはいるが撃つ気は無い様子。
 気だるさの見える顔と立ち姿で、吸血鬼に目を向けている。

「俺たちが本当にお前の罠にかかったと思ったのか。その幸せな脳みそを少し分けてくれ」

 刃で肉をくり抜くように、杭を回転させる。
 鳴き声混じりの呻き。半不死とはいえ、この傷は痛かろう。

「地雷女を餌に釣りを仕掛けたということは、貴様らの中でも我々が地雷を狙っていることが伝わっているということだ。
 ならば、何かあるだろう。貴様らだからこそ耳にする情報が。
 お前のような、名を上げたいがために力量差も測れぬまま勝負を挑む莫迦であっても、噂くらいは聞くはずだ」

「言ったら、助けてくれるのか」

「有益な情報であれば考慮はされる」

 吸血鬼は少々悩んだのち、首だけでクールを睨みつけた。
 滑稽だ。余りに情けないので、ついつい脳天に銃弾を数発撃ちこむところだった。
 対するクールは一切揺らぎの無い顔で吸血鬼を見つめ返す。
 目では無い。穴だ。あの奥にあるのは視神経脳でなく、光の届かないしじまの闇だ。

105名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:28:57 ID:jHk0pOPc0

「地雷女は、この街に現れてから、吸血鬼を探していたんだ。たしか、『乙鳥ロミス』とかいう」

 クールの視線。
 俺は杭を左手に持ち替え右手で捜査用の携帯端末を取りだす。
 専用のページを立ち上げ、検索フォームに聞いた名前を入力する。
 結果はすぐに出た。
 該当者は一人。聞いた通りのまま『乙鳥ロミス』。

「ロミスは、俺らにも得体の知れねえ気味の悪い奴だったんだが、地雷女はあいつを殺したがっていた」

 ロミスの情報にアクセス。
 身体的な特徴等、いくつかの情報があるが、あまりに少ない。
 脅威度は最低レベルだ。
 データ上はよく名前が記録されていたものだと驚くほどの小者である。
 
「ロミスという吸血鬼は、実在したみたいですね」

「した、というと」

「二か月ほど前に、死体が上がっています。状況を鑑みるに、同族殺しですね」

 惨殺、というにふさわしい状況だ。
 文面から想像するだけで人間が殺したものでないと分かる。
 一部の杭持ちを除いて、銃や兵器を使わずに吸血鬼を殺せる人間など存在しない。

106名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:31:49 ID:jHk0pOPc0

「となると、地雷女は目的を既に果たしたと」

「此奴の言葉を信じるなら、そうなります」

「しかし、まだ奴はこの街にいる。他にも目的があるということか」

 地雷女は拠点を作らぬ根なし草。
 今まで居ついた街も、俺たちに存在を知られるとすぐに姿を消していた。
 それが、この草咲の街にはかれこれ三か月ほど滞在している。
 『乙鳥ロミス』という吸血鬼を殺すことが目的だったのならば、既に出て行っていてもおかしくはない。
 俺たちに存在を察知され、居所を探られながらも離れられない理由があるということか。
 
「そもそも、本当なのだろうな。その話は」

「本当だ。この状況で身内でもねえあのビッチを庇う理由がねえ」

「流石くん。どう思う」

「嘘では無いかと思いますが。参考程度に信じるならば問題はないでしょう」

 男の言葉に偽りの気配は無い。恐らくは真実なのだろう。
 問題は此奴にとっての真実が、事実と異なっている可能性があるということだが、大きな問題でも無い。
 少し調べれば裏は取れるだろう。

「他に地雷女に関わる情報はあるか」

「俺は、知らねえ。ロミスのことだけだ」

107名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:35:26 ID:jHk0pOPc0

「調べてみる必要はありそうですね。まだ目的があるなら、そこをついて漁夫の利を狙える」

「やれやれ、この間の帽子の女もそうだし、調べることばかりが増えていくな」

 わざとらしいため息。
 相変わらず感情は見て取れない。
 そもそも俺に全て押し付けるつもりなので、むしろ無感情なのが自然ともいえる。

「流石くんは、流石だからな。調べ物は君を頼りにしているよ」

 表情を読まれたのか、クールが口の端を上げた。
 この女に任せていると、言葉を聞き出す前にj情報源の相手を永眠させかねないのは事実だが、やはり腑に落ちない。
 俺もどちらかと言えば前に立つ側の人間である。
 捜査仕事も苦手では無いが、何も考えずに銃を握っている方が楽だ。
 クールと組んでからは、引金を引くよりも書類に印鑑を押すことの方が増えた。
 しかも、問題の事後処理の類がほとんどだ。
 今までこの女とコンビを組んだ杭持ちが軒並み薄毛に悩まされているのは、恐らく偶然では無い。

「他に地雷女について知っていることは本当に無いのか」

「それだけだ。あとは、あんたらの仲間があの女に殺されたせいで、警戒が厳しくなったとか、そんな」

「予想以上に実りが無かったな」

「だから言ったでしょう。どうせ役には立ちませんって」

 この男からの嘘の情報提供があった際、俺は確かに反対した。
 罠であることは明白で、態々掛かってやるほどの利益も見込めない。
 しかし、それを押し切りクールはここに来た。
 僅かな可能性にかけたなどというものでは無い。
 ただ単に、挑んできた吸血鬼を返り討ちにせずにいられなかっただけだ。

108名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:41:22 ID:jHk0pOPc0

「さて帰ろう流石くん。残業代は二時間分しか出ないからな」

「わかりました。エミナさんには俺から連絡しておきます」

「流石だな、流石くん」

 杭を引き抜き、立ち上がる。
 同時にクールが引金を引いた。
 銃声は四つ。吹き出した血しぶきも同様。
 傷みから解放されると安心を見せた吸血鬼の顔が、絶望に歪んだ。
 極僅かな時間ではあったが理解したのだろう。
 自分は殺された、と。

「帰りは俺が運転しますよ」

「そうか、悪いね」

 処理班の咲名プギャーが大きな体と、念仏のような愚痴を引っ提げて現れたのは約10分後。
 適当に彼を言い負かし、死体を回収するのを見送って、俺たちは車に乗り込んだ。
 車自体はクールの私物だ。
 しかし、俺は誓ったのだ。ここに来るとき、帰りは俺が運転すると。
 自分の命は自分で守らねばならないと。

 車が走り出す。スムーズな走りだ。シートも深く乗り心地がいい。
 なぜ、この車があれ程に恐怖を生み出せるのか、俺には理解できない。

109名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:43:16 ID:jHk0pOPc0

「なんだ、随分と大人しく走るが、故障が治ったのか」

「ええ、一番致命的な故障が今は助手席に移りましたからね」

「それはどういう意味かな」

「そのままです」

 やや不満げな顔を見せたクールを無視し、車を走らせる。
 やるべき仕事は多い。
 地雷女と共にいた、帽子の女の調査。乙鳥ロミス死亡に関しての裏取り。
 そのほか、地雷女が狙っている吸血鬼の有無などなど。
 もちろん地雷女にだけ構っていられる身分でもないため、他にも加算される。
 家に帰ってゆっくり寝る、というのはしばらく先になるだろう。

「流石くん、帰ったら訓練場に付き合いたまえ。思いのほか張り合いが無かったからいまいち撃ち足りん」

「素直さん、戻り次第調べ物をすると、言っておきましたよね」

「そうだった。なら私一人で行ってくるか」

 ワザと路面の荒れたところにタイヤを落とす。
 車体が跳ねクールが窓に頭をぶつけた。
 痛がっている。愉快だ。

「もっと気を付けて運転したまえ」

 生返事を返し、アクセルを踏み込む。
 俺の目は少し先の、捲れたアスファルトを見ている。

110名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 00:45:11 ID:jHk0pOPc0

 終り。


 三行

 なんか
 ロミス
 しんでた

111名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 01:11:07 ID:WG4Nep1k0


112名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 01:52:45 ID:QX.pJ6.g0


113名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 06:58:56 ID:J9YZ3A56O

このコンビ好きだなー

114名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 06:59:59 ID:J9YZ3A56O

このコンビ好きだなー

115名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 07:52:32 ID:is1D/whk0
名無しの吸血鬼マジカワイソス(´・ω・)

116名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 23:47:14 ID:jHk0pOPc0

        Place: 草咲市 南梨町 字 節穴前 15-9 メゾンフシアナ 205号室
    ○
        Cast:都村トソン 都村ミセリ
     
   ──────────────────────────────────

117名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 23:51:07 ID:jHk0pOPc0

 (‐、‐トソン 「……」
l⌒l⌒l

ミセ*゚ ,゚)リ 「……

 (‐、‐トソン 「……」
l⌒l⌒l

ミセ*゚ ,゚)リ 「……トソンチャーン。トソンチャーン」

(゚、‐トソン 「……なんですか」

ミセ*゚ ,゚)リ 「ミセリさんとってもお暇なお姉さん」

(゚、゚トソン 「散歩でも行って来たらどうです」

ミセ*゚Д゚)リ 「もぉー。杭持ちに見つかるから出るなって言ったのトソンじゃん!」

(゚、゚トソン 「無精しないでちゃんと変装すればいいんです」

ミセ*゚ ,゚)リ 「サングラスじゃだめ?」

(゚、゚トソン 「この前それでばれたでしょう」

ミセ*゚ ,゚)リ 「むー」

118名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 23:53:17 ID:jHk0pOPc0

(゚、゚トソン 「ってゆうか、吸血鬼らしく昼間は棺桶にでも入って眠っていてくださいよ」

ミセ*゚ ,゚)リ 「トソンに合わせて夜寝てるから眠くないんだよ〜」

(゚、゚トソン 「……そもそも日光の下に出て大丈夫なんですか。今日日差し強いですよ」

ミセ*゚ ,゚)リ 「日焼け止め塗って厚着して帽子かぶってサングラスすれば大丈夫」

(゚、゚トソン 「100%目立つからやめてください」

ミセ*´Д`)リ 「ひぃーまぁー!遊んでよー!」

 ミセリに抱き着かれ、ため息を一つ。
 私は読んでいた文庫をテーブルに置いて、彼女の頭を撫でた。
 犬か猫の感覚に近い。しかもちょっと馬鹿な類の。

(゚、゚トソン 「遊ぶって、何するんです」

ミセ*゚ー゚)リ 「せっかくトソン早く帰ってきたんだからさ、どっか行こうよ」

(゚、゚トソン 「一分前の話を忘れたんですか」

ミセ*゚ ,゚)リ 「杭持ちに見つかったってちゃんと処分すれば大丈夫だって」

(゚、゚トソン 「それがいけないといってるんです」


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