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マト ー)メ M・Mのようです
1
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:36:56 ID:a0hWVy360
僕が彼女に出逢ったのは、あの暑い夏が終わり、秋の足音が聞こえ始めた頃だった。
僕は今でも夏が過ぎ秋が訪れる度に彼女と出逢ってからのあの数週間の出来事を思い出す。
もう記憶は所々曖昧になってしまっていて、細部は日記という記録に頼るしかないのだけれど、それでも目を閉じれば彼女の笑顔は浮かんでくるのだ。
あの最後の時と同じように。
誰かに友人を紹介しようとする時、何から話し始めるのだろうか。
彼女について語ろうと思った際に僕は何から話せば良いだろうか。
自分との関係性?――彼女と僕は赤の他人だった。
その人の職業?――誤解を恐れずに言えば彼女は無職だった。
年齡や経歴?――それすら彼女にはなかった。
なら名前?――そんなものでさえ、僕と出逢った時の彼女にはなかったのだ。
あの日、僕が出逢った少女は掛け値なく何者でもない誰かだった。
誰でもない、彼女だった。
何の記録も残っていないとしても彼女は確かにそこにいた。
2
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:38:04 ID:a0hWVy360
今から僕が語るのは、そんな彼女の物語。
記録と記憶を巡る少女の物語だ。
その時、あの全ての過去を失くした少女に残っていたのは――未来が見える瞳だけだった。
マト ー)メ M・Mのようです
「第一話:Missing Memory」
.
3
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:39:07 ID:a0hWVy360
都会に空けられた緑の穴のような自然公園のベンチに腰掛けていた僕の隣に座ったのはショートカットの少女だった。
とりあえず辺りを見回してみる。
池を囲う柵と平行するように設置された椅子はほとんどが空いている。
平日のお昼過ぎということもあってか、使われているのは僕(と少女)の座るここと、カップルらしき男女が座る斜め前のベンチくらいだ。
今がお昼時ならまだ分かる。
お昼休みのサラリーマン達やちょっとしたハイキングにやって来た学生で賑わい、ベンチもほとんど埋まってしまう。
そういう状況ならば三人掛けくらいの椅子に一人で座っている人がいれば隣にお邪魔することもあるだろう。
だが、今はそうではない。
マト゚ー゚)メ
この僕の隣に座る少女が何故わざわざ僕の隣に腰掛けたのかがさっぱり分からない。
理由を訊いてみようか、いや何も言わずに立ち去った方が良いだろう。
何か高価な壺でも売られてしまってはたまったものではない。
数百万の程度の品を一つ二つ買ったところで困らないような金を今の僕は持っているが、だからと言ってなんだかよく分からないものを買うのは嫌だ。
金額云々以前に僕は無駄なものを所有することを好んでいない。
4
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:40:04 ID:a0hWVy360
そんなことを考えながら、それとなく高校生くらいの少女を伺った。
一言で言えば中々に整った容姿の少女だった。
何処の服屋でも売っているような流行りのブランドのパーカーにジーンズ。
癖のある赤みがかった茶髪を隠すようにニット帽を被っている。
こちらも昨日だったか一昨日だったかのテレビ番組でやっていた有名メーカーの製品だった。
もしかしてと思って目をやれば、スニーカーにはドイツに本拠地を置く多国籍企業のロゴが入っている。
なんと言うか、「デパートに入って店頭に並んでいた商品を順番に買っていった」ような、そんな自然過ぎて不自然な見てくれの少女だった。
どれも新品同然で、ニット帽に至っては外し忘れているのか小さな値札が付いている。
そのことを指摘しようか悩んでいる内に僕は彼女に話しかけられてしまった。
マト^ー^)メ「あの……突然申し訳ないんですけど、お金くれませんか?」
少女の口から発せられたのは驚くほどストレートな物乞い。
「恵んでください」という遠回しなものではなく、「お金をくれ」という直球なものは初めて聞いた。
思わず僕も訊き返してしまう。
( ^ω^)「どうして、僕に?」
5
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:41:10 ID:a0hWVy360
確かに僕は今諸事情で一億近い金を持っているので僕に対して物乞いをするのは正解だと言える。
だが僕はごく普通の格好をしており、とても金持ちには見えないはずだ。
小太りではあるが、飽食の現代で僕くらいの体型の奴なんて腐るほどにいるだろう。
だから「どうして僕にそんなことを言うのか」と訊いたのだが、どうやら彼女にはニュアンスが上手く伝わらなかったらしい。
彼女は平然と、
マト゚ー゚)メ「今、持ち合わせがないんです。だから少し、お金くれないかなーと」
そう答えたのだった。
( ^ω^)「お金、ないの?」
マト゚ー゚)メ「ありません。これで最後でした」
そう言って彼女は足元に置いていた飲み切ったジュースの缶を持ち上げてみせる。
多分、あの池の反対側に設置してある自販機で買ったものだろう。
しかし無一文の状態なんて、一体どういうことだ?
6
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:42:05 ID:a0hWVy360
と。
唐突に彼女は言った。
マト-ー-)メ「では、私……アタシ? いや、僕かな? うん、僕がこの缶を投げてあの自販機の隣のゴミ箱に入れることができたら、お金ください」
(;^ω^)「いや意味が分からない」
なんだそれは。
賭けのつもりなのだろうか。
たとえその缶が投げて入ったところで僕に対するリターンが少しもない。
それに、そもそも池を挟んだ向こう側、あの自販機までは十メートル以上離れている。
投げて届かせることはできるかもしれないが、ゴミ箱にピンポイントで入れるなどできるわけがない。
( ^ω^)「それに、ここから投げて入れるなんてできるわけないお」
マト゚ー゚)メ「できます。僕……うん、僕は断言できます。目に見えていますから」
僕、僕と何度か一人称を呟いて、彼女は頷いた。
7
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:43:05 ID:a0hWVy360
意味不明という言葉が人間の形を取ればこうなるのではないか。
そんな印象を抱かせる少女だ。
とても同じ場所に立って話しているとは思えない。
地に足が着いていない、言葉の端々から浮いた感じが伺える少女。
今も僕とか私とか、色んな一人称をぶつぶつと呟いている。
見ず知らずの相手に失礼だが言葉が不自由かそうでなければ頭が不自由かのどちらかにしか思えない。
マト-ー-)メ「僕……いややっぱり私? 私、私、私は……行きます」
そう言って。
彼女は飲み切ったジュースの缶を振り被り、思い切り投げた。
入るわけがない。
そう思いながらも視線は自然と缶を追ってしまう。
最後まで僕は見ていた。
その缶が吸い込まれるようにゴミ箱に入っていったその時まで。
(;^ω^)「………………は?」
マト゚ー゚)メ「ほら入った」
8
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:44:13 ID:a0hWVy360
ほら入った、ともう一度彼女は言う。
嬉しさを出すわけでもなく、出会った時と変わらぬ微笑みを崩さないまま。
マト゚ー゚)メ「では、お金を貰えますか?」
(;^ω^)「意味が分からん。そんなに言うなら、今の曲芸の代金として帰りの電車賃くらいは貸してやっても良いけどお……」
マト゚ー゚)メ「それじゃ全然足りないんです。暫く生活できるお金がないと」
( ^ω^)「お前は初対面の他人にいくらたかる気だ」
マト゚ー゚)メ「それに、私は家がありません」
は?
家がない?
(;^ω^)「家がないって……どういうこと?」
マト゚ー゚)メ「あるかもしれませんが、何処にあるのかも分かりませんし、帰り方も分かりません」
9
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:45:05 ID:a0hWVy360
何処にあるのか分からない。
だから帰り方も分からない。
そもそも家があるのかどうかすら分からない。
それはつまり、一般的な言葉で言えばこうなるのではないか。
マト゚ー゚)メ「どうしてでしょうね。私、どうしてか自分がなんでここにいるのか、それどころか自分の名前すら思い出せないんです」
記憶喪失――と。
出生以来の自分の記憶が思い出せない状態。
「全生活史健忘」と呼ばれる記憶障害だ。
言葉などの知識は覚えているが、自分に関しての記憶を忘れている為に自分が何処の誰なのかが分からなくなるという。
ただ健忘は自然に完治する障害なので、周囲に家族や友人がいれば特に大事に至ることはない。
病院に連れて行かれ、適切な診断と治療を受け、暫く安静にしていれば治ることがほとんどである。
万が一外出先のような自分を知っている人間が誰もいない場所で記憶喪失になったとしても免許証やパスポートから身元が割り出される。
通常ならばそうだ。
10
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:46:05 ID:a0hWVy360
だが今回の場合、彼女の口振りから察するに、彼女は自分の身元が分かるようなものを何一つ持っていない。
だからこそ自分の名前が分からず、何処に帰るべきなのかも分からない。
(;^ω^)「記憶喪失、なのかお?」
マト-ー-)メ「私はどうやらそうらしいです」
(;^ω^)「身元が分かるものは?」
マト゚ー゚)メ「持っていないです。気付いた時に持っていたのは高そうな細工の銀の指輪だけ。そしてそれはもうありません」
多分その指輪を質屋に放り込んで貰った金で服を買ったのだろう。
そして缶ジュースを買ったところで金がなくなり、僕に声を掛けてきた。
頭のおかしな奴だと思っていたが、そうではなかったらしい。
単に困っていただけだ。
( ^ω^)「……いや」
ちょっと待てよ。
11
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:47:04 ID:a0hWVy360
自分が記憶喪失になったとして。
無一文で身元が分かりそうなものを何も持っていないとして。
「他人に金をせびる」という選択をする前にすることがあるのではないか?
僕は訊ねた。
( ^ω^)「……よし、分かったお」
マト゚ー゚)メ「お金をくれる気になりましたか? なら、そろそろ移動しましょう」
( ^ω^)「いや、金はあげない。だけど警察署まで連れて行ってやるお」
記憶喪失になって、無一文で、身元が分かりそうなものが何もない場合。
まず行なうべきなのは警察に保護を求めることだ。
見知らぬ他人に金銭を要求する前にそういうことをすべきだ。
だが、彼女は首を振った。
マト゚ー゚)メ「警察へは行きたくないです」
( ^ω^)「行きたくない?」
12
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:48:04 ID:a0hWVy360
マト゚ー゚)メ「悪い方向に向かうことが目に見えています」
(;^ω^)「目に見えてるって……。犯罪者か何かなのかお?」
マト゚ー゚)メ「記憶がないので断言できませんが、追われている身であるということは分かります」
相変わらずのふわふわとした物言い。
煙か何かのように掴み所がなく、支離滅裂で滅茶苦茶だ。
やはり「頭がおかしい」までとは言わないが今までの会話から見ても普通ではない。
(;^ω^)「ちょっと待てお。『記憶がないから犯罪者かどうかは分からない』でも『追われている身であることは分かる』って矛盾してないかお?」
マト゚ー゚)メ「していますか?」
( ^ω^)「どう考えてもしてる。なんで過去のことが分からないのに追われてるなんて分かるんだお」
マト゚ー゚)メ「ああ、その説明をしてなかったですか。目に見えているからです」
(;^ω^)「いやだから……」
マト゚ー゚)メ「そろそろ時間切れです。ここから移動しましょう」
13
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:49:06 ID:a0hWVy360
そう言って彼女は僕の手を取り走り出す。
事態が全く飲み込めないまま僕も引き摺られるように走る。
公園から遠ざかっていく。
ふと後ろを見ると、僕達がいた池のほとりに入れ違いのようにやってきた警察官達がベンチのカップルに声を掛けるところだった。
緑の中から出て、変わる寸前の横断歩道を渡り、どんどんと街の中心部へと走って行く。
まるで人の多い場所に行くことで誰かに見つからないようにしているかのように。
「――そう言えば変な語尾のお兄さん」
「――はぁ、はぁ……なんだお?」
「――お兄さんはどうしてお金持ちに?」
「――はぁ? はぁ、はぁ……。ち、父親が……死んで……その遺産!」
「――そうですか」
息も絶え絶えな僕と対照的に彼女は余裕綽々といった感じ。
滅茶苦茶に走り続た末、街の中心部の巨大なデパートの中に入りやっと彼女は走る速度を緩め、歩き始めた。
そこでやっと、汗だくの僕の手を放した。
14
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:50:05 ID:a0hWVy360
その時点で僕が彼女に付いて行く理由はなくなったわけだが、乗りかかった船というか、「じゃサヨナラ」と立ち去るには気になることが多過ぎた。
どうして僕が金持ちだと分かったのか、彼女は誰に追われているのか……。
エレベーターに乗り込むと彼女は最上階のボタンを押す。
確か、このデパートの最上階は駐車場しかなかったはずなのだが何を考えているのだろう。
続いて乗り込んだ僕は景色を楽しむ彼女に問い掛けた。
(;^ω^)「……はぁ、ふぅ。幾つか、訊きたいことがあるお」
マト゚ー゚)メ「なんですか。大抵のことは答えられないと目に見えていますけど」
( ^ω^)「まず、なんで僕に声を掛けたんだお? どうして僕が金持ちだと分かった?」
マト-ー-)メ「目に見えてたからです」
(;^ω^)「ならなんで自分が追われてると?」
マト゚ー゚)メ「それも、同じです」
要領を得ない説明だった。
何が「目に見えている」のかさっぱり分からない。
15
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:51:04 ID:a0hWVy360
チーンという音と共にエレベーターが止まる。
扉が開く。
屋上の駐車場へと足を踏み出しながら彼女は言った。
マト゚ー゚)メ「今から少し、驚くようなことがあるかもしれませんが、驚かないでください」
(;^ω^)「は?」
マト ー)メ「まあお兄さんが驚くことも私は目に見えているのですが―――」
瞬間だった。
空から、刀が降ってきた。
「ひゃひゃひゃひゃひゃ――ひゃっ!!」
16
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:52:05 ID:a0hWVy360
いや違う。
降ってきたのは白いセーターの女だった。
そして彼女は、その少女が振り下ろした日本刀を白刃取りの要領で受け止めていた。
いや、それも違った。
セーターの女は刀を振り下ろしたのではなかった。
彼女は自分の腕を振り下ろしただけ――肘の辺りから真剣に変化した右腕を。
(* ∀)「ひゃ――あひゃひゃひゃ!!」
マト^ー^)メ「こんにちは」
(#*゚∀゚)「ひゃひゃひゃ――お久しぶり、ってなぁぁ!!!」
女は続けて左手を槍状に変え、敵を貫こうとする。
だがそれを読んでいたかのように少女は軽く躱してみせた。
(#*゚∀゚)「ひゃ――ひゃひゃっ!」
マト゚ー゚)メ「あなたは、私を知っていますか?」
17
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:53:07 ID:a0hWVy360
(#*゚∀゚)「なんだぁ、アタシのこと忘れちったの? 悲しいねぇ……っ!」
女が右腕を振るう。
当たらない。
左腕を突き出す。
当たらない。
まるで最初から決まっているかのように、攻撃は当たらない。
苛立ちを募らせる女に対し、少女は屋上の端に追い詰められながらもあくまでマイペースに微笑んだまま。
淡々と言葉を告げる。
マト^ー^)メ「ああ、あなたは私のことを知らないんですね。本当に知っていたのなら、こんな風に戦いを挑むはずがない」
(#* ∀)「ひゃ――あぁぁぁああ!!」
身を翻して腕を鉤爪に変えた女の攻撃を避ける。
少女が躱すほどにの鉄柵がバラバラに切り裂かれていく。
そうして攻防の合間で柵の残骸を二つ拾い上げると、一つを真上に空高く放り投げ、もう一つを女に向けて投げ付けた。
だがその程度のことでは女は止まらない。
18
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:54:07 ID:a0hWVy360
マト ー)メ「そう、」
佇む少女に向かって両腕を巨大な鎌に変えた女が突っ込んでいく。
とても人間とは思えない速度の突進にも、彼女はふわふわと浮世離れした態度を崩さないままだった。
マト ー)メ「あなたでは私には勝てないし、あなたが私にとって価値のないことは、目に見えている―――」
そして、次の瞬間だった。
今にも少女を八つ裂きにせんとしていた女の身体を棒状のものが真上から貫いた。
それは先ほど放り投げられた柵の残骸。
女は膝を折り、傷口と口から鮮血を溢れ出し、崩れ落ちた。
それで終わりだった。
(;^ω^)「は……あ……」
マト^ー^)メ「ほら驚いた。言った通りです」
19
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:55:06 ID:a0hWVy360
茫然とする僕にそう言って彼女は微笑みかける。
そうして思い出したかのように続けた。
マト゚ー゚)メ「そう言えば一つ、言い忘れていたことがありました。私、限定的ですが、未来が見えるんです」
(;^ω^)「未来が……見える?」
マト゚ー゚)メ「そうです。おかしなことに過去のことが全く思い出せない私は、誰も分からないはずの未来だけは『目に見えている』」
そして彼女は言った。
マト^ー^)メ「変な語尾のお兄さん。もし良ければ、私の【記憶(じぶん)】探しに協力してくれませんか? まずは、私にご飯を奢るところから」
後から考えれば、最初から彼女には分かっていたのだろう。
僕を見つけて声を掛けたその時から、僕が断りはしないということを見抜いていた。
彼女には文字通り『目に見えていた』のだ。
その妖しく光る紫色の左目に。
20
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:56:04 ID:a0hWVy360
人間にとって、『記憶』とは何なのだろうか。
僕達はそれがあることで自分の存在を確認することができる。
だとしたら『記憶』とは『自分』の同義語なのかもしれない。
ならば『過去』はなんだ?
『未来』はどんな意味を持つ?
今から僕が語るのは、全ての過去を失くした少女が未来が見える瞳と共に現在を駆け抜けた物語―――。
マト ー)メ M・Mのようです
「第一話:自分を失った少女」
.
21
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:57:05 ID:a0hWVy360
【現時点で判明している“少女”のデータ】
マト゚ー゚)メ
・名前:不明
・性別:女?
・年齡:不明(外見年齡は15〜17程度)
・誕生日:不明
・出身地:不明
・職業:不明
・経歴:不明
・特記:『未来予測』の能力を持ち、限定的ながら未来が見える。
・外見的特徴:身長160代前半。赤みがかった茶髪。整った容姿。値札の付いたままのニット帽。量販店で変えるような服装。
・備考:
気が付いた時には記憶(自分に関する記憶)を全て失っていた。
その当時の所有物は細工の入った銀の指輪のみ。
現在は無一文。
一人称は恐らく「私」。
22
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 06:58:05 ID:a0hWVy360
この作品は序章祭で投下した同名作品を修正したものです。
あの当時は安価も絡めようと思っていましたが、少し難しそうなのでどうしようかな、と思っています。
安価をやるとすればここじゃない方が良いし、ここでやるとすればレス数の多さで判断かなー。
サクッと読める作品を目指して、不定期で連載していきたいと考えています。
よろしくお願いします。
23
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 09:59:24 ID:.1gHZPbY0
おつ
序章祭りにいたやつじゃないかー見てたぜ
応援してる
24
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 12:42:51 ID:JzJbkVi6O
どことなくニーイチ臭がする
25
:
名も無きAAのようです
:2013/09/28(土) 14:16:37 ID:ctrlZfnw0
乙
彼女の素性、お金持ちの少年、これからどう話が進んでいくのか気になる。
26
:
名も無きAAのようです
:2013/10/02(水) 21:43:32 ID:aRUCU4DE0
おつ
すごい気になる面白い。期待してる
27
:
名も無きAAのようです
:2013/10/06(日) 20:55:56 ID:RNoRVsBM0
なんとも続きが楽しみな
28
:
名も無きAAのようです
:2013/10/12(土) 03:13:21 ID:hnK84G7E0
『過去』が分からないとはどういう気分なのだろう。
『記憶』を失くすとどんな気持ちになるのだろうか。
僕には、分からない。
けれど想像する限りでは、それは想像もできないほどに恐ろしく不安なことだ。
自分以外の世界の知識はあるのに自分だけが何者なのか分からないという感覚は想像を絶する孤独だろう。
自分だけが違う。
自分だけが独り。
自分だけを知らない世界。
自分も知らない自分。
思えば最初に感じた違和感はそれだったのかもしれない。
彼女は記憶を失くしているというのに困惑することも不安がることもなかった。
まるで当然のように微笑んでいた。
そのことが不自然で疑問で、僕は現実離れしたふわふわした印象を彼女に抱いていたのだろう。
僕は彼女を見てなんとなく思っていた。
きっと彼女は記憶を失う前から世界でひとりぼっちだったのだろう、と。
それが真実かどうかは、この時はまだ分からなかったが。
29
:
名も無きAAのようです
:2013/10/12(土) 03:14:04 ID:hnK84G7E0
では、彼女の物語を再開しよう。
僕と出逢ってからの話を始めよう。
ファミレスでご飯を食べて、ボーリング場でスコアを競った、けれどデートとしては最悪だったあの月曜日の話を。
マト ー)メ M・Mのようです
「第二話:Madding Monday」
.
30
:
名も無きAAのようです
:2013/10/12(土) 03:15:09 ID:hnK84G7E0
世の婦女子諸氏はどうやら知らないようだがよく食べる女性を好む男子は多い。
特に美味しそうに食べるというのが重要だ。
交際や結婚をすると必然的に食事を共にする機会が多くなる。
言うまでもないが、過度に少食であったりするよりも美味しそうに食べ物を口に運ぶ相手の方が見ていて楽しいし健康的にも思える。
健啖家の女性は素敵だが、しかし時と場合にもよる。
例えば誰かの悲報を耳にした直後にもいつも通り食事を続けるのは如何なものかと感じる。
深刻な状況で能天気に飲食を行なうのはどうかと思うし、況してやその深刻な状況の当事者が自分であった場合は尚更だ。
( ^ω^)「……おい」
机を挟んで向かい側でサイコロステーキを口に運んでいる少女に僕は声を掛ける。
しかし僕の言葉など届かないらしく彼女が手を止めることはない。
( ^ω^)「おいコラ」
マト>ー<)メ「いたっ」
腹が立ったのでメニューで頭を叩いた。
31
:
名も無きAAのようです
:2013/10/12(土) 03:16:03 ID:hnK84G7E0
彼女はやっとナイフとフォークを置いた。
文句を口にしたりしないところを見るに彼女も彼女でそろそろ本題に入ろうと思っていたのだろう。
僕がこういう行動に出ることなんて予測できていただろうに抵抗一つしなかったのが証左だ。
この少女がその気になれば僕が攻撃に出る前に反撃することができるのだから。
マト゚ー゚)メ「料理が冷めてしまいます」
( ^ω^)「なら食べながらで良いから説明してくれお。何が、どういうことなのか」
僕の目の前に座る癖のある赤みがかった茶髪の少女。
自分の名前すら覚えていない記憶喪失の彼女に僕が出逢ったのは先ほどのことだ。
そしてそこからの展開は劇的だった。
喜劇的と表現しても良いくらいに現実離れした展開に僕はただ翻弄されるばかりだった。
今も事態を飲み込めていない。
どうしてこの少女と一緒にファミレスで夕食に摂ることになったのだか。
( ^ω^)「一つずつ……整理していこうか」
マト゚ー゚)メ「はい」
32
:
名も無きAAのようです
:2013/10/12(土) 03:17:03 ID:hnK84G7E0
だから僕は訊く。
彼女のことを知る為に。
これからのことを考える為に。
( ^ω^)「まず、お前は本当に記憶喪失なのかお?」
マト-ー-)メ「そうですね……。こうして変な語尾のお兄さんと話せているのでエピソード記憶を忘れちゃったんでしょう。自分のことが分からない」
( ^ω^)「まあそれはいいお。っていうかその『変な語尾のお兄さん』って呼び方やめろ」
さっき僕の名前は教えただろうと僕が言うと彼女は黙ってステーキの最後の一切れを口へと運んだ。
まさか現在進行形で記憶喪失が進行中なのだろうか?
一定期間で記憶を失っているとするならば単なる全生活史健忘よりも遥かに厄介だ。
だがそれは杞憂だったようで、
マト゚ー゚)メ「じゃあ、『ブーンさん』と呼びます」
サイコロステーキを飲み込むと彼女はそう言った。
咀嚼しながら僕をどう呼ぶか考えていたらしい。
33
:
名も無きAAのようです
:2013/10/12(土) 03:18:04 ID:hnK84G7E0
それは僕の昔の渾名だった。
と言っても僕が彼女の過去と関係あるということではなく単に本名からの連想だろう。
訂正を求めようかと思ったが、面倒なのでやめておく。
この少女はかなり横暴なところがある。
一応は丁寧語で話しているが割と無茶苦茶な子だ、流せるところは適当に流しておく方が良い。
それに『変な語尾のお兄さん』という呼び方よりはマシであることは確かだ。
マト゚ー゚)メ「じゃあ私の呼び名を決めてください」
彼女は言った。
( ^ω^)「なんでそうなる」
マト^ー^)メ「だって私を呼ぶ時に困るじゃないですか」
言われてみれば確かに困る。
少し考えてみる。
この記憶喪失の少女の暫定的な呼び名について。
34
:
名も無きAAのようです
:2013/10/12(土) 03:19:03 ID:hnK84G7E0
たっぷりと十五秒ほど考えて、僕は呟く。
( ^ω^)「……なら僕はとりあえず君のことを『ミィ』と呼ぼう」
『記憶(Memory)』という単語の頭の二文字。
そして、君が失くした『自分(Me)』という意味を込めて。
少女は笑った。
マト^ー^)メ「猫みたいです」
( ^ω^)「あんまり真面目に考えなかったからね」
マト-ー-)メ「でも気に入りました。今から私は『ミィ』です」
( ^ω^)「本当にそんな呼び名で良いのかお?」
マト゚ー゚)メ「はい。どうせ今の時点では本当の名前なんて分かりませんし、名前があるということが大事なんです」
( ^ω^)「そういうもんかお」
35
:
名も無きAAのようです
:2013/10/12(土) 03:20:03 ID:hnK84G7E0
名前があるということ。
僕に限らずほとんどの人間とっては当たり前過ぎて分からないが記憶のない人間にとってはそれは大切なことなのだろう。
他人に名前を呼ばれるということは「自分が誰かに認識されている」ということを意味するのだから。
マト゚ー゚)メ「名前をありがとうございます、ブーンさん。では次は私から質問です」
彼女は。
いや、ミィは野菜スティックを手元に引き寄せながら訊ねる。
今僕達の座っているテーブル席には多くの皿が並んでいる。
そのどれもが空で、そのほぼ全ては彼女が食べたもので、そして漏れなく全部僕の奢りだった。
ミィは無一文なので仕方がない。
今の僕は一億近くの資金を持つ身なので別に困るということはないが、どうせ礼を述べるならファミレスの代金について感謝して欲しかった。
マト゚ー゚)メ「どうして私に付いてきてくれたんですか?」
( ^ω^)「え?」
食べ盛りの男子高校生が食べるような量の夕食を胃袋に収めた彼女は一体何才なのだろう?
そんなことを考えていて反応が遅れた。
36
:
名も無きAAのようです
:2013/10/12(土) 03:21:03 ID:hnK84G7E0
記憶喪失の少女は訊く。
マト゚ー゚)メ「私について来る理由なんてあなたにはないはずでしょう。なのに、どうしてまだ私と一緒にいるんですか?」
公園で出逢った当初ならまだしも。
あのデパートに入った段階で、あるいは屋上での戦闘が終わった段階で、僕は彼女に背を向けても良かった。
「良かった」どころかそれが当然の判断だと言える。
あんなものを見せられて一緒にご飯を食べようなど我ながら正気の沙汰ではない。
眼前のこの赤茶色の髪の少女は人智を超えた能力を備え、更に人を躊躇いもなく一突きにしたというのに。
( ^ω^)「それは……」
マト^ー^)メ「単なる親切な人と見せ掛けて実は敵の刺客で終盤に裏切られるなんてことは困るので、理由だけは聞いておきたいです」
言い淀む僕にそう言ってミィはふわふわと微笑む。
( ^ω^)「……いや。そんなアニメかマンガのような理由じゃないお」
37
:
名も無きAAのようです
:2013/10/12(土) 03:22:03 ID:hnK84G7E0
マト^ー^)メ「じゃあ、どんな理由なんですか?」
( ^ω^)「……本当に未来が見えていると言うのなら、僕が何を言うかは分かってるんじゃないかお?」
僕は自分の答えを口にする前にそう問い掛けた。
彼女が本当に未来が見えているのだとすれば、僕がどう答えるかなど無意味だ。
だがミィは笑ったままで言う。
マト-ー-)メ「そうでもありません。私の予測には色々と制約がありますし……それに、人間の感情は一番予測しにくいものですから」
( ^ω^)「そんなものかお」
ひょっとしたらこの食事量は能力の代償なのかもしれないと思った。
思っただけでわざわざ訊ねはしなかったが。
マト゚ー゚)メ「では改めて、どうして私に付いてきてくれたのかを教えてください」
( ^ω^)「…………そうだな」
38
:
名も無きAAのようです
:2013/10/12(土) 03:23:03 ID:hnK84G7E0
僕は少し思案し、そして言う。
僕の背景について語り出す。
( ^ω^)「僕は先日、父親を亡くしたんだお。父は海外の企業……つまりこの国の会社に雇われてたらしい」
どんな仕事かはよく知らないが海外を飛び回っていたらしく、たまに帰ってくると様々な国の名産品をお土産にくれたものだった。
寂しくないわけではなかったが父の高給のお陰で僕が裕福に暮らせていたのも事実で感謝もしていた。
それはそれで納得していた。
だが。
( ^ω^)「ある日唐突に『父が亡くなった』という手紙が届いて、遺品が送られてきたんだお」
あなたの父君は職務中の不幸な出来事によりお亡くなりになりました。
端的に纏めるとそんな内容の手紙だった。
送られてきた高そうな箱には本社に置いていたらしい日用品が収められていた。
予備のスーツや歯ブラシといった諸々のものだ。
中には父の遺書も入っていた。
39
:
名も無きAAのようです
:2013/10/12(土) 03:24:05 ID:hnK84G7E0
父の遺書は「この手紙をお前が読んでいるということは私はもうこの世にはいないのだろう」という風に始まるもの。
まるでドラマに出てきそうなテンプレートな書き出しから、予め用意されていたものであることが窺い知れた。
今まで父親らしいことをしてやれなくて悪かった、詫びにもならないが会社から手当が出るはずなのでこれからはそれで幸せに暮らして欲しい。
そんなことが書かれていた。
この時点で不自然な点が二つある。
まず一つ目にその海外の企業からの連絡でも父の遺書でも職務について全く触れられていなかったこと。
二つ目に遺品として送られてきた物の中に電子端末からメモ帳に至るまで「記録を残せる物」が一つもなかったことだ。
( ^ω^)「遺体どころか死因さえも分からない……。常識的に考えておかしいだろ」
証拠隠滅。
そんな言葉が脳裏を過った。
マト-ー-)メ「その人はPMC(民間軍事派遣会社)に勤務していたのかもしれません。だとしたら機密に関わるということで詳しく連絡されないことはありえます」
( ^ω^)「僕も最初にそれを思った」
父が傭兵だったとしたら、辻褄は合わなくもない。
40
:
名も無きAAのようです
:2013/10/12(土) 03:25:03 ID:hnK84G7E0
海外を飛び回っていたのは方々の戦地に派遣されていたから。
高給取りだったのは命懸けの仕事をしていたから。
遺書があんな言い回しだったのは万が一のことを考え用意していたから。
具体的な死の状況が分からなかったり電子端末等がなかったりしたのは企業機密や国際問題に関わることで公表するわけにはいかないから。
戦場でなら、遺体が見つからないということは充分に考えられることだろう。
もしそうだったとすれば、関わっていた紛争が終わるなどして一段落すれば「公開しても問題ない」ということで死因が知らされることもあるはずだ。
新たに遺品が見つかれば送られてくることだってありえる。
ただ。
( ^ω^)「そうやって解釈していっても二つおかしな点がある」
マト゚ー゚)メ「なんですか?」
( ^ω^)「僕の父は典型的な理系人間というか、身体が強くない方なんだお。とても職業軍人として働けるとは思えない」
マト^ー^)メ「現場に出ない専門職だったのかもしれません。兵器製造をしていたとも考えられます」
( ^ω^)「……だとしても、もう一つの点がおかし過ぎる」
父が勤めていた会社は『ミスティルテイン』という社名だったのだが、そんな名前の企業はこの国に存在しないのだ。
41
:
名も無きAAのようです
:2013/10/12(土) 03:26:04 ID:hnK84G7E0
マト゚ー゚)メ「北欧の伝承に出てくる武器と同じ名前ですね。軍事派遣会社や兵器製造企業っぽい企業名です」
( ^ω^)「でもそんな名前の会社は存在しない。ネットで調べても、この国の政府に問い合わせてみても、ないんだ」
一応はと遺品の差出人住所(つまり『ミスティルテイン』の本社所在地)にまで行ってみたのだが……。
地図やグーグルマップで確認していた通りにそこにあったのは先端科学研究施設第二特殊科学研究所というこの国の学術機関だった。
正門にいた衛兵にも訊ねてみたが当然そんな企業ではないと答えられた。
となると、とミィは言う。
マト゚ー゚)メ「『ミスティルテイン』という名前の非合法な組織か名前自体がデタラメで、住所も適当に書いただけかもしれません」
( ^ω^)「……息子としてはあまり考えたくない可能性だお」
実の父親が非合法な集団に所属していたということはあまり思いたくない。
だが確かに犯罪組織ならば不自然な状況にも説明がつく。
( ^ω^)「でもそれだと今度は給与はともかく口座に振り込まれた膨大な見舞金がおかしい」
マト゚ー゚)メ「いくらですか?」
42
:
名も無きAAのようです
:2013/10/12(土) 03:27:04 ID:hnK84G7E0
僕は声のボリュームを落として言った。
( ^ω^)「元々口座にあった分と足して……大体米ドルで一億だお」
予めあった部分、つまり父が貯蓄していた金額も相当だったが、それにしても桁がおかしい。
どのくらいおかしいかと言えばあまりにもおかし過ぎて銀行で警察沙汰になったくらいだ。
今も捜査はしてくれているらしいが海外から複数の名義で振り込まれたものらしく事情も掴めず未だ進展はあまりない。
法律上は贈与に当たるらしく、つまり僕個人が「貰ったお金」なので問題がないと言えばないが、金額が金額だ。
マト゚ー゚)メ「凄い金額ですね」
( ^ω^)「全くだお。これからは保険金も出るのに」
父が日本人なので一億ドルを日本円で考えてみる。
円換算すると大体百億円くらいだ。
世界的な画家の絵の一、二枚が百億くらいだったか……。
そう考えると少ないなと友人に言うと「お前は金銭感覚が既に麻痺しているんだよ」と返された。
確かに日本人の生涯収入が三億に届かないことを踏まえると個人で所有する桁の金額ではないことは言い切れる。
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