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('A`)百物語、のようです

1名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:13:40 ID:adaBwzoE0



最初に言い出したのは、誰だっただろうか?


――今となっては、もうはっきりと思い出せない。
でも、確かに誰かがそれを言い出して、俺たちはこうして集まっている。


.

83名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 23:19:03 ID:adaBwzoE0


――その途中で、キュートは誰かに名前を呼ばれたそうだ。
だれだろう? と思って、キュートは振り返って、


(; `ー´)「素直ーっ!」


そこにネーノがいることにとても驚いた。
教室で夏休みの話題に花を咲かせていたはずの彼が、そこにいる。
キュートの名前を呼んで、走り寄ってくる。


o川;゚ー゚)o「ね、ネー……根野くん!?」

(*`ー´)「よかったー、追いついたんじゃねーの」


彼はほっとしたように息をつくと、そのままキュートの隣に並んだ。
ネーノの顔には教室で見せるような、笑顔が浮かんでいる。


( `ー´)「素直にちょっと聞きたいことがあってさ」

o川 ゚−゚)o「……うん」


おまじないのことじゃないかと思い、キュートは体を固くする。
――しかし、ネーノが口にしたのは、まったく関係のない言葉だった。


.

84名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 23:20:53 ID:adaBwzoE0


( `ー´)「素直は創作公園の夏祭りって行く?」

o川;゚−゚)o「うん。いちおー」

(*`ー´)「じゃあさ、一緒にいかない?」


ネーノの言葉の意味を、キュートはしばし考える。
しかし、その言葉を理解した瞬間。キュートは真っ赤になった。
これは、いわゆるデートのお誘いではないか……そう、思ったわけだな。


o川////)o「……お祭りって、2人で?」

(; `―´)て「えっ?」

ネーノは驚いたような声を上げ、しばらくした後に顔を真っ赤にした。
怪我をしたままの両手を体の前で振り、ネーノは慌てて声を上げる。


(;//д/)「い、いや。みんなで!! みんなで、なんじゃねーの!!
       ついさっき、教室でそんな話題になって!!!」

o川;///)o「そ、そ、そうだよねぇー!
       えへへー、キ、キューちゃん、かっかんちがいしちゃったー」

(;//―/)「そ、そ、そうなんじゃねーの!!」


.

85名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 23:22:47 ID:adaBwzoE0

2人は互いに声を上げ、ぎくしゃくと笑いあった――そうだ。
しばらく、そうやって言い訳ともつかない不自然な会話を続けた後に、ネーノはノートの切れっ端と鉛筆を取り出した。


(; `ー´)「連絡するから、電話番号教えてほしいんじゃねーの」

o川;゚ワ゚)o「う、……うん。わかったー」

( `ー´)「じゃあ、これがオレん家の番号」


電話番号をお互いに交換し終える頃には、二人の間の空気はすっかり元通りになっていた。
キュートはそれに寂しさを覚えると同時に、少しだけほっとしたそうだ。
ネーノとちゃんと話すのは、彼が怪我をした日以来のことだった。


( *― )「……まぁ、2人で行くってのも、悪くはなかったんじゃねーの」

o川*゚ー゚)o「え?」


ネーノがふともらした言葉に、キュートは息を呑んだ。
それはなんだかドキドキするような言葉のような気がして、キュートは小さく聞き返した。
……しかし、彼女が声を上げたときにはもう、彼はいつもの明るい調子に戻っていた。


(*`ー´)「なんでもない。じゃ、そのうち電話するからー!!」


.

86名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 23:24:15 ID:adaBwzoE0

そう言ってネーノは、キュートに背を向ける。
突然の行動に驚くキュートに向けて、彼は軽く手を振ってみせると「学校」と小さく告げた。


( `ー´)「話し合いの途中で抜けてきちゃったから戻るんじゃねーの」

o川;゚ー゚)o「……わざわざ、来てくれたの?」

(*`ー´)「オレも素直と遊びに行きたし、気にしなくてもいいんじゃねーの!」


なんでもないことのように言ってのけて、ネーノは笑った。
学校の外まで追いかけて来て、わざわざ話しをしてくれる。
それが特別なことのような気がして、キュートの顔は熱くて息も詰まりそうになる。


( `ー´)「お祭り、一緒に行こうな」

o川////)o「……」


それでも、ネーノの最後の言葉にキュートは最高の笑顔でうなずいた。


o川*゚ワ゚)o「うん!」


ネーノが嬉しそうに笑うのを、キュートは見た。
キュートはそれが嬉しくて、ネーノの姿が見えなくなるまで手を振り続けた……。


.

87名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 23:26:23 ID:adaBwzoE0
今日の投下ここまで。明日の投下で完結の予定

88名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 23:38:39 ID:B19XsEB.0
この後に落ちると思うとガクブル....

乙でした

89名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:01:47 ID:fHkiEV2U0
                     _..-'"                                 /
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       イ  /゛./ `\            _,,,、          _..-'″                 /
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_,ィニ―'''''"  ./         ,ム -‐''"              _.. ‐'″   _,,,.... -ー'''"´        /
.ヽ      ,./     / ̄           __ =ニ-一¬''''''^゙ ̄゛                 /
  ヽ   /      {        ,_ir‐'''"´                         /
   ゙l, . /           ヽ      /゛  `''、_                      _.. -''"
____,ド           \    | ,.. ‐'″ .\                   _.. -'''"                   _
                 `'ー-'"゛      ヽ.          ._.. -''"                  _,, -''"゛
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                                 \,    .l  ,..-.ヽ       l      / \
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                                           `¨¨¨´



.

90名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:11:18 ID:fHkiEV2U0


夏休みは、順調に過ぎていった。


中学校では小学校のとき以上に、夏休みの宿題があった。
短い期間ではあるが、部活動のために学校にも出なければならない。
それに、伯母さん――キュートの母親は、夏期講習にキュートを行かせていた。


ヾ||‘‐‘*||レ


ε......o川*゚ー゚)o


o川*゚ワ゚)o ||‘ワ‘*||レ



もちろん勉強だけじゃなくて、遊びの予定もたくさんあった。
友人と出かけたり、プールへ行ったり、家族旅行に行ったりと、彼女の夏はそれなりに充実していた。



――だから、キュートの中学生活はじめての夏休みは、それなりに忙しかった。



.

91名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:13:03 ID:fHkiEV2U0

彼女は夏休みを、それなりに楽しく過ごしていた。

ただ一つ、気がかりがあるとしたらネーノのこと。
彼とは終業式の帰りに会ったっきりで、それからずっと姿を見かけていない。


o川*゚ー゚)o「ネーノくん……どうしてるかな」


毎日のように教室で見ていた彼の姿が見えないのは、とても寂しい。
キュートは何度かスーパーに出かけて見たけれども、ネーノに会うことは出来なかった。

……夏休み前に言った通り、祖父の家に出かけているのだろう。
キュートもそれは理解している。
しかし、それでもまだこっちにいるのではないかという思いが捨てきれなくて、ついスーパーへと足を向けてしまう。
その繰り返しだった。


o川*゚−゚)o「……元気かな」


腕の怪我はもう大丈夫だろうか?
あれからひどい怪我はしていないだろうか?


.

92名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:15:50 ID:fHkiEV2U0

……彼に会えない日々は、キュートの不安を募らせた。

電話番号は知っている。
でも、かける勇気なんてないし、かけたとしても何を話したらいいのかわからない。
だから結局、キュートは机の上を見上げて溜息を付くだけ。


(  ・ω・) ニャー

o川*゚ー゚)o「カラマロスー、今キューちゃん考えごとでいそがしいから後でー」


――その日もキュートは溜息をつくと、机の下をうろうろしていた猫を部屋から追い出した。
ひと仕事を終えたキュートが振り返ると、机の上に置いた人形が目に入った。

おまじないの人形。
キュートが、ネーノに似せて作ったそれ。
この人形のせいで、ネーノは腕を怪我した……様な気がする。


o川;゚ー゚)o「……」


――彼がまた、何か危ない目にあっていたとしたら?
忘れていた不安が、キュートの中に沸き起こった。
ネーノにはずっと会えていない。だから、もし彼がまた怪我をしていてもキュートにはわからない。


.

93名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:19:06 ID:fHkiEV2U0

……ネーノくんは、無事なのだろうか?

キュートは急に、いてもたってもいられなくなった。
部屋を飛び出すと、居間にある電話の受話器を取る。
どうしてもネーノの声を聞いて安心したくて、プッシュキーへと指を伸ばす。


o川;>ー<)o「……」


そして、キーを押そうとして、


川*` ゥ´)「――何、電話? どこ? あんまり長電話しちゃやーよ」

o川;゚ー゚)o ビクッ


――母親の声に、その動きを止めた。


.

94名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:22:28 ID:fHkiEV2U0

o川;゚ー゚)o「……その」

川*` ゥ´)「なになに? ひょっとして、男の子?
      男の子なのね! もー、キューもすっかりお年ごろになっちゃって」


ヒール伯母さん……キュートの母親は、キュートの様子を見るなり興味津々となった。
声をワントーン高くして、目をキラキラと輝かせて、キュートに詰め寄る。


o川;゚д゚)o「ちが」

川*` ゥ´)σ「もー、いっちょまえに照れちゃってぇ!」


ヒール伯母さんは、なんというかこういうノリの人だ。
気さくで良い人なのだけれれども、少しばかりデリカシーに欠けることがある。
そんな母親の前で、ネーノに電話をかける度胸はキュートにはなかった。
しかし、ここまできて電話をかけないのも不自然だ。彼女はそう考えて――、


o川;゚ー゚)o「……クーお姉ちゃん! どうしても相談したいことがあって!」

川*` ゥ´)「ああ、クーちゃん? だったら電話じゃなくて、家に来てもらいなさいよ。
      クーちゃんも夏休みなんでしょ? せっかくだし、ごちそうしちゃうわ」


クーお姉ちゃん――つまり私に、おまじないやネーノについて相談しようと思いついた。
「相談したいことがあるの」という言葉と夕飯のお誘いに、特に予定がなかった私は二つ返事で了解した。


.

95名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:25:31 ID:fHkiEV2U0

そして、電話を終え部屋に戻った彼女は、気づいた。
――部屋の扉が開いている。
確か部屋から出るときに閉めたはずなのにと、首をひねりながらキュートは部屋に入る。


o川*゚ー゚)o「……?」


しかし、そこには誰もいなかった。
正確にはいたのだけれども彼女の目には入らなかった。
彼女は首をひねりながら机をなんとなく眺め、そこにあるべきものがなくなっていることに息を呑んだ。


o川;゚ー゚)o「――っ!!」


――人形。
おまじないのための、人形。
確かに机の上におかれていたはずのそれが、なくなっている。
キュートの頭から血の気が引き、落ちているのではないかと机の下を覗きこんで。


.

96名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:27:11 ID:fHkiEV2U0

――


(  ・ω・)


床で動きまわる、白い猫の存在に気づいた。
カラマロス。私が大佐と呼ぶ、キュートの家の飼い猫。
彼が興奮した様子で、何かをひっかき咥え暴れまわっている。


o川;゚д゚)o「ああっ」


カラマロスはその爪で何かを熱心に攻撃をして、遊んでいた。
前足でひきよせたり、飛ばしたり、爪を出して引っ掻いてみたり。それはもう、やりたい放題だ。
そして、彼がやりたい放題している何かは――、




――キュートの作ったおまじないの人形だった。


.

97名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:29:12 ID:fHkiEV2U0


o川#゚ー゚)o「やめてぇっ!!」

(; ・ω・) !


その瞬間、キュートの頭は真っ白になった。
代わりに浮かんだのは、ネーノの腕に巻かれた白い包帯とギプス。


o川# д )o「だめぇぇぇっ!!」


キュートは手を伸ばし、叫んだ。
床に広がった雑誌に足を取られながらも、カラマロス――猫を捕まえようと走り寄る。
キュートは飼い猫の狼藉を慌てて止めようとしたのだが、カラマロスはその剣幕に驚いたのだろう。
白い毛を、倍以上にふくらませた。


(# ・ω・)


.

98名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:29:52 ID:fHkiEV2U0

キュートのすぐ脇を、カラマロスの白い体がすり抜けるようにして通り抜けた。
白い毛を逆立てながら、カラマロスはスピードを上げて走る。


その口は――しっかりとおまじないの人形を咥えている。


カラマロスは人形を咥えたまま、開いた扉をくぐり外へと飛び出した。


(# ・ω・)

o川; д )o「待って! 返してぇぇぇぇ!!!」


階段を凄まじい速度で駆け抜ける軽い音の後を、キュートは追いかける。
しかし、白い体はすばしっこくて手が届くどころか、逆に距離を広げられていく。
足元を踏み外しそうになる体を、腕で支えながらキュートはなんとか階段を降りきった。


川#` ゥ´)「キュー! 家の中を走らない!!
      これからクーちゃん来るっていうのに、何してんのアンタは」

o川; д )o「あとで!!」


.

99名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:31:43 ID:fHkiEV2U0

開いた窓の向こうへ、カラマロスは体を滑り込ませる。
それを追って、キュートも玄関へと向かう。
靴を履く時間も惜しくて、サンダルを足に突っかけると、そのまま彼女は走りだした。


o川; д )o「どこっ!? どこなのっ!!」


白い猫の姿は、どこにも見えない。
それでも、家の周りを何度もまわって、そしてようやく――キュートはカラマロスの姿をとまった車の下で見つけた。


o川;゚ O゚)o「お願い、返して!!」


車の下に潜り込んで隠れたカラマロスは、キュートの声に体をぴくりと動かした。


その口は人形を咥えたままだ。


カラマロスは緊張した様子で、キュートが車の下を覗き込むキュートを睨み返す。
しかし、彼は先程のように走り出しはしなかった。


.

100名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:34:11 ID:fHkiEV2U0


カラマロスはキュートの姿を瞬きもせずにじっと見据え続けている。
彼の姿は、一見するとすぐにでも捕まえられそうだ。
しかし、実際は誰かが一定距離内に近づいたら、すぐ逃げ出せるように緊張しながら姿勢を整えている。
……猫というのは、そういうものだ。


o川;゚ー゚)o「お願い、返してっ!!」


キュートは大きな声を上げて、車の下へと手を伸ばす。
しかし、彼女の手は愛猫に届くには短すぎた。
キュートが慌てて地面にしゃがみ込む頃にはもう、カラマロスの白い体は走り出していた。


o川;゚д゚)o「カラマロスー!!!」


.
.

101名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:36:28 ID:fHkiEV2U0

私が、彼女の家に到着したのはちょうどその頃だ。

私とキュートの家はそう遠くない。同じ武雲市内だから、自転車でも行き来できるし。車ならばもっと早い。
何も知らない私は、カラマロスとの追いかけっこに興じるキュートに向けて、気楽に話しかけた。


川 ゚ -゚)「キュート、遊びに来てやったぞ」

o川; − )o「――っ」


しかし、彼女は私の声に返事を返さなかった。
私に目をくれることもないまま、カラマロスが逃げた方にむけて走りだした。

  _,
川 ゚ -゚)「……どうしたんだ、あの子は?」


血相を変えて走る彼女の姿に、私は「ああ、暑いのにキュートもよくやるな」と脳天気なことを考えていたような気がする。
私は馬鹿だった。
もっと彼女の顔を真剣に見ていれば、ただ事ではないとすぐに気付けたはずだったのに。


川 ゚ -゚)「まあ、いいか」


――だけど、その時の私は何も考えなかった。
キュートの家にお邪魔して、涼しい部屋で伯母さんと話しながらキュートのことを待った。
……馬鹿だと言ってくれて構わない。私はキュートの助けにはなれなかったのだ。


.

102名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:38:05 ID:fHkiEV2U0

キュートは、飼い猫の姿を追って走った。

白い体はすぐに捕まえられそうなのに、どれだけ走っても追いつけない。
それに距離を詰めたと思っても、気づいた瞬間にはすぐに視界からいなくなっている。
白い猫の姿を何とか見つけ出し、そして、捕まえられることのできないまま逃げられるという、追いかけっこが続いていた。


(  ・ω・)


カラマロスは、人形を放そうとしない。
だから、キュートもあきらめることができない。


o川; д )o


その日は、35度を超える猛暑日。
空気はベタベタと重いのに、日差しは焼けるように強かった。
蝉の声は耳がおかしくなるくらいに煩くて、木の緑は目に痛いほどに輝いていた。


.

103名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:40:39 ID:fHkiEV2U0

水も帽子も持たないままキュートは走った。
暑い日差しの中を、彼女は人形を取り返そうと、一人走り続けていた。


o川; − )o「ネーノくん」


キュートが本当に、おまじないのことを信じていたのか、それともそうでないのか。
――私には、わからない。


o川 ;д )o「ネーノくんっ!!」


それどころか私は、その時の彼女が何を思い考えていたのかすら、知らない。
彼女は語ろうとしなかったし、彼女の異変に気づかなかった私に問いかける資格もない。


o川 ;д )o「――っぁぁぁぁぁ!!」


ただ、彼女は本当にネーノのことが好きで。
彼のことだけを思って走り続けたということだけは――わかっている。


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104名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:42:11 ID:fHkiEV2U0

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――私がキュートを見つけた時、彼女は川にいた。



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105名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:44:13 ID:fHkiEV2U0


キュートの家から何本か道路を渡った先。
その川の水の流れの中に、彼女は座り込んでいた。
帰りの遅いキュートを探し回っていた私は、ずぶ濡れのキュートを見て血の気が引いたよ。


o川 ;ー;)o「ぅ……ぁ……」

川;゚ -゚)「キュート、どうした!?」


キュートが追いかけていたはずの、カラマロスは土手で毛づくろいをしている。
だけど、彼女はもう猫には目を留めない。
彼女は呆然と川の流れていく先を見つめていた。

そして、私の姿に気づくなり声を上げて泣きだした。


o川 ;д;)o「キューちゃんが悪いの、キューちゃんがぁぁぁぁぁ!!!」


キュートの顔は涙で、くしゃくしゃだったよ。
おしゃれに気を使うような女の子が、涙も拭わず、鼻水まで出して泣くんだ。

――私は、その時になってようやく、取り返しの付かないことが起きたのだと悟った。


.

106名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:46:55 ID:fHkiEV2U0


o川 ;д;)o「行っちゃった……どうしよ……ネーノくん」

川; - )「キュート!」


私はキュートを抱きしめた。
……抱きしめることしか、できなかった。
川の中で座り込むキュートは全身が濡れていて、周りの暑さが嘘のように冷えきっていた。


川 ゚ -゚)「ほら、キュート。しっかりしろ。
     このままじゃ、風邪をひく。この時期に風邪をひくと辛いぞ」

o川 ;д;)o「……ぅ」

川 ゚ -゚)「いくらでも話を聞いてやるから。な?」


立ち上がろうとしないキュートの手を引いて、川から引き上げて。
二人で、手をつないだまま帰った。



――それでも、キュートは泣いたままだった。


.

107名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:48:40 ID:fHkiEV2U0


その日の夜、キュートは全て私に話してくれたよ。
そして私はやっと、何が起こっていたのかを知った。


おまじないのこと、スーパーでのこと、ネーノと一緒にいた女の子のこと。
……それから、ネーノ少年の怪我のこと。
彼の怪我は、自分のおまじないのせいではないか。


それら一つ一つをキュートは、泣きながらも語ってくれた。
彼女の顔色は青くて、それでも瞳だけはギラギラと輝いていて、妙な凄みがあったことを覚えている。

それだけ彼女は思いつめていたのだろうな。
ようやく相談できる相手ができて、それで一気に感情が吹き出したようだった。

キュートは、途切れること無く語り続けたかと思えば、唐突に泣いたり、喚いたりを繰り返した。



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108名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:50:48 ID:fHkiEV2U0

彼女は、人形の行方も話してくれた。


o川 ゚−゚)o「カラマロスはね、橋のところまで逃げたの。
       それでね橋の横にあるパイプみたいなところをカラマロスは走ってね、そこで落としちゃったの」


カラマロスの咥えた人形は川へと落ちた。

それを見たキュートは、慌てて川岸へと降りたそうだ。
落ちた人形は初めは川岸の草に引っかかていたが、キュートが川岸に着いた頃にはもう見えなくなっていた。
それでも、どこかにあるはずと、キュートは川の中を探しまわり。


o川 − )o「……」


――彼女が再び見つけた頃にはもう、人形は早い流れに乗っていた。
キュートは追いかけたが、もう手遅れで……人形は、とうとう彼女の手の届かないところまで行ってしまった。


o川 ;−;)o「ネーノくんに、何かあったらどうしよう」

川 ゚ -゚)「大丈夫だ。大丈夫だから、な」


そう言って泣く彼女の体を、私は抱きしめるしか出来なかった。
彼女は私の体に体を預けて、ずっと泣いていた――。



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109名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:53:04 ID:fHkiEV2U0

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そこまで話し終えると、クーは沈黙した。
しばらく待ってみたが、クーはなかなか続きを話そうとする気配がない。


('A`)「それで?」


とうとう俺はクーのいる暗がりに向けて話し始めた。
ほの暗い闇の中、クーの着ているブラウスだけが白く浮かび上がっている。
クーは俺の言葉に、かすかに身動きしたようだった。
微かに吐息を漏らした後に、再び話し始めた。


川 ゚ -゚)「――おまじないの人形が見つかることはなかった」

(    )「残念だおー」


それはそうだろうなと、俺は頷く。
しかし、俺が気になるのは人形の行方じゃなくて、話の続きだ。


.

110名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:55:40 ID:fHkiEV2U0


('A`)「……続きは? あるんだろう?」


俺の問いかけに、クーは再び沈黙した。
迷っているかのように黙りこみ、しばらくたってからようやく彼女は口を開いた。


川 ゚ -゚)「……何もなかったよ、その日は。
     私は伯母さんに頼まれて、キュートの家に泊まったのだが、何もなかった」


――その日、は。
という言葉に、背筋がぞわりとした。


本当に何もなかったのならば、あえて「その日は」なんて言わない。
何かが、あったのだ。
キュートという女の子が恐れていたことが、おそらく現実に起こったのだろう。


……はっきり言おう。
俺は話を促したことを、後悔しだしていた。

.

111名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:57:19 ID:fHkiEV2U0


('A`)「なあ、クー」


聞きたくない。
これから先、クーが話すことはきっと悪いことだ。
それは、きっとついこの前まで小学生だった女の子が目の当たりにするには、辛い話に違いない。


川 - )「本当に、何もなかったんだ。
     キュートは涙をこらえてネーノ少年の家にも電話をかけたが、彼は元気だということだった」


俺の呼びかけを、否定するかのようにクーは話し続ける。
誰も、相槌を打ったり、話しかけようとはしない。

部屋の空気が、息苦しくて。
額から、ぬるりと汗が伝うのを俺は感じていた。


川 - )「異変が起こったのは、……二日後の、夜」



そして、クーは再び話しはじめた。



.

112名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 22:59:51 ID:fHkiEV2U0

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--------------






o川 ;д;)o「ネーノくんが、ネーノくんが死んじゃったの」






――家へと戻った私のもとに、その電話がかかってきた。



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113名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:01:17 ID:fHkiEV2U0

根野ネーノが死んだ。
その言葉を私は信じることが出来なかった。


          ( `ー´)「お祭り、一緒に行こうな」


だって、そうだろう。
ネーノ少年が死ぬ理由が、見当たらない。
彼には腕の怪我以外には持病も、自ら死を選ぶ動機もないはずだ。
何より彼は、祭りにいくことを楽しみにしていた。
そんな彼が、死ぬなんてことがあるだろうか?


川; - )「……なんで、」

o川 ;д;)o「    」

川 ゚ -゚)「え?」


そして、私はなぜ彼が死んだのかを知った。



.

114名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:03:10 ID:fHkiEV2U0




交通事故。





彼は滞在していた祖父母の家の近くで、車にはねられたのだ。






――そして、それっきり帰らなかった。

.

115名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:05:13 ID:fHkiEV2U0

彼の葬儀は、それからすぐに行われることになった。
私は仕事で身動きできないキュートの両親の代わりに、彼女を連れて彼の通夜に行ったよ。

会場にはキュートと同じ制服を着た少年や少女がたくさんいた。
彼らの顔は泣き顔だったり、怒り顔だったり、呆然とした顔だったりと様々だった。


 (#;;; ― )(#´_ゝ`)



            ヽiリ,,゚−゚ノi ( ; v ;)


――そんな彼らの姿を見て、私はようやく、「ああ、彼は死んだのか」と、理解した。



||‘‐‘;||レ「キュート!」

o川*゚−゚)o「カウガール……ちゃん……」



.

116名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:07:57 ID:fHkiEV2U0

キュートの友人の少女と別れると、私はキュートを連れて記帳を済ませる。
そして、そのままと会場へと入った。

白い祭壇と、黒い服を来た人々の群れが私とキュートを出迎えた。

席につき、ふと親族の集まる席を見た私は、そこに子供の姿をみつけた。
少年が1人と、少女が2人。

――そして、気づいた。
2人の少女は、揃いの星の形の髪飾りをつけている。
キュートよりも少し小さな彼女たちは、一人が活発そうな少女で、もう一人はおとなしそうな少女だ。


( ・−・ )「……」


黒い服を着たおとなしそうな少女の顔には、感情らしい感情が浮かんでいない。
それで、わかってしまった。
キュートが一度見かけた。ネーノと一緒に歩いていた少女。

――それは、きっと彼女だ。


.

117名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:09:13 ID:fHkiEV2U0

彼女は白い花で飾られた祭壇を、じっと無言で見つめていた。


川 ゚ -゚)「……」


私は少女の視線につられるようにして、祭壇をまじまじと眺め――そして、ふと気づいた。
祭壇の中央に添えられた黒い額縁。そこには、少年の写真が飾られている。


川  - ).。oO(ああ、彼が……)


私が、ネーノの顔を見たのは、それが最初で最後だった。
遺影として飾られた少年の顔はまだあどけなくて、キュートの言う様にかっこいいというより、かわいいという言葉のほうが似合う気がした。
目を細めて、口元を上にあげた表情は、――とてもいいことがあったんだって、伝わるような笑顔でな。
あんなふうに笑えるのならば、彼はさぞかし人気があったんだろうなぁと思わされた。
それくらい、彼の笑顔は印象的だった。


川  - ).。oO(だけど、彼はもう……)


祭壇の前に安置された棺。
そこにあの少年がいるのだとは、とてもじゃないが思えなかった。


.

118名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:11:20 ID:fHkiEV2U0


――まるで、質の悪い冗談だ。


川  - ).。oO(なんで……)


交通事故なんて――、そう思った、その時。
私の耳はかすかに震える小さな声を捉えた。


( ・−・。)「……ネーノ、お兄ちゃん」


それは、親族席のあの少女から聞こえた。
おそらくは無意識のうちに出たその言葉は、周囲のざわめきに埋もれて他の誰にも届かなかった。


――だけど、私はそれで大体の事情を察してしまった。


親族席にいる少年と少女たちは、ネーノの弟や妹――「チビたち」だ。
そして、あの少女は彼の妹だ。
証拠なんて上等なものはない。
しかし、それが間違ってはいないだろうという確信に似た気持ちはあった。


.

119名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:13:16 ID:fHkiEV2U0


根野ネーノ。
――彼が年齢に似合わず、女の子に優しかったのは、彼に妹――女の兄弟がいたからだ。

妹や弟の面倒を見る、優しいお兄ちゃん。
それが、ネーノ少年の素顔だったのだろう。


   (*`ー´)「素直はさ、なんか妹みたいな感じがするから、嫌われてたらどうしようって思った」


いつか彼がキュートに言った言葉。
それは彼に妹がいるから出た言葉なのだろう。
彼には、物言わずに自分をじっと見上げてくるキュートの姿が自分の妹と重なって見えたのだろう。
それが、妹のような少女に向けた単なる優しさだったのか。それとも、そうではなかったのか、もう二度とわかならない。


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120名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:15:37 ID:fHkiEV2U0


o川 ゚−゚)o「クー、お姉ちゃん?」

川 ゚ -゚)「いや、何でもない」


あの少女が妹かもしれないとは、言えなかったよ。

だって、そうだろう?
全てはもう終わってしまった、後なんだ。
それをいまさら告げて、どうなる。


川  - )「……」


――だって、彼はもういない。


ネーノと少女が一緒にいた時に話しかけておけば。
もしくは、おまじないに頼らないで、さっさと告白していれば。なんて、


     (*`ー´)"   o川*^ー^)o


そんな夢想に、もう意味は無いのだから――。


.

121名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:17:13 ID:fHkiEV2U0



そして、通夜が始まり、私は異変に気づいた。





――何かがおかしい。





そう疑問に思った理由は、すぐにわかった。


.

122名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:20:02 ID:fHkiEV2U0


私はそれほど経験がないのだが、通夜では普通、顔を見てやってくださいと言って故人の顔を見せるだろう。
でも、それがないんだ。

遺体の安置された棺は確かにある。
しかし、その棺の扉はしっかりと打ち付けられて、開かないようにされていた。
まるで、そこに遺体なんてないような扱い。
彼はまだ死んでいないのではないかという錯覚を起こさせてしまいそうな式だった。



でも、違った。



私はこれまで彼の死を、ごく普通の交通事故だと思っていた。
しかし、それは大きな間違いだった。


彼の遺体はそこに確かにあったのだ。
ただそれは、……人に見せられる状態ではなかった。

.

123名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:22:48 ID:fHkiEV2U0


(同し同 )「一体、どうなってるのかね? 故人の顔を見せてくれって言っても、全然見せてくれん。
      マサシさん。あんたは何も知らんのかね」

(;・`ー・´)「それは……」


手洗いに行こうとたまたま席を外した私は、口さがない親族の話を聞いてしまった。
酔っていたらしい彼らの話によると、……ネーノの死体はそれはもうひどい状態だったらしい。


(;・`Д・´)「あれはひどかった。母親なんかは倒れちまったよ、かわいそうに」


彼をはねた運転手はな。
通報や救急車を呼ぶこともせずに、逃げてしまったらしい。
それだけではない。運転手はネーノの体をよりにもよって道路からは見えない、斜面の下に突き落した。
……そして、そのまま逃げた。

ネーノの帰りが遅いことを心配した祖父が、近所の男たちと彼の姿を探し始めた頃にはもうとっくに手遅れになっていた。


(同し同;)「……ああ、夏だし腐」

(;-`Д・´)q「それだけじゃなくて……」


川 ゚ -゚)「……」


.

124名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:24:55 ID:fHkiEV2U0


(;-`Д-´)q「誰にも言うんじゃないぞ……」

(同し同;)「誰にもってそりゃあ、大袈裟な」

(#・`―・´)「大ゲサなくらいでいいんだよ」


親戚らしい中年の男は辺りを見回し、声をひそめた。
しかし、元の声が大きいせいで、多少声を押さえた程度では何も変わらなった。


( ・`Д・´)「ネーノはな……」


男の話す声は少し離れた場所にいた私の元まで届き――、そして、私はネーノ少年に何が起こったかを知った。


( -`Д-´)「    」


誰にも見つかること無く数日間その場に放置された、彼の遺体はな、
野犬によって食い荒らされていて、原型をとどめていなかった。
噛まれ、食いちぎられ、爪によってひきさかれて――ひどい状態だったそうだよ。

持っていかれてしまったのか、見つからないパーツもあるのだと、親族の男は語った。



そう。それはまるで、――



.

125名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:27:30 ID:fHkiEV2U0




猫の爪に、牙に







                   引き裂かれ





食い破られた





                               ――おまじないの、人形のように。



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126名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:29:22 ID:fHkiEV2U0



   o
    ゝ;:ヽ-‐―r;;,               。
,,_____冫;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:\      ,,,,,,,, o  /
"`ヽ;:;:;;;:::;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:从    (;:;:;:;:ヾ-r
   〈;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:) 0  ソ;:;:;:;:;:;:;:}
  ,,__);:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:ノ     ゞイ"ヾ,:;:,ソ
  (;:;:ノr-´^~;;r-ー⌒`    ,.、
  "  ,,,,      _;:;:⌒ゝソ;:/
    (;:;:丿    (;:;:;:;:;:;:;:;:;:)
            ヾ;;;;;;;;;;;;/; \
            ´  /;:ノ 。  。
                ()



.

127名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:31:23 ID:fHkiEV2U0

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----------------------------
----------------------
--------------



川  - )「……私の話はここまでだ」


そして、クーは静かに話を締めくくった。
誰も、何も語らなかった。
その場に残るのは闇と、水の中にいるような息苦しさだけだ。


(    )「……」

ξ ⊿ )ξ「……っ」


あまりにも思い雰囲気に、俺は作り話なんだろうという言葉を慌てて飲み込んだ。
クーの言葉は真剣で、怖いくらいだった。
とてもじゃないが作り話をしているようには見えない。

だから、嘘だろうと問いかけるかわりに、俺は違うことを聞くことにした。


.

128名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:33:08 ID:fHkiEV2U0


('A`)「クーは本当のところは、おまじないのせいだと思っているのか?」


それは、俺がクーの話の中で一番気になっていたことだった。
もし、おまじないのせいでないのだとしたら、ネーノという中学生に起こった事態は、単なる事故だ。
しかし、キュートという女の子が試したおまじないのせいだとしたら、それはまるで……


川  - )「……私には、わからない。
     だけど、おまじないなんて関係なかったと、思いたい」


話をする間、ずっと理知的だったクーの声がはじめて震える。
思うことは素直に口に出せても、冷静な態度を常に保っている、クー。
彼女の声がはじめて、大きな感情の色をあらわにする。


.

129名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:35:41 ID:fHkiEV2U0


川# - )「……だって、そうじゃないか。
      私がそうだと言ってやらなければ、キュートは!」


それは、怒りだった。
冷静で理知的な彼女らしくない。
理解の及ばない出来事に対する、怒りの感情。

彼女は吼えるように声を上げ、


――そこから先の言葉を、口にしなかった。


川# - )「……」


でも、何が言いたかったのかは、この場にいる全員に伝わったと思う。
そうでなきゃ、嘘だ。


だって、いくらクーでも言えるはずがないだろう。


.

130名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:37:49 ID:fHkiEV2U0


中学生。

同級生に恋をした、それだけの女の子。




        o川*- -)o「根野 ネーノくんと、両思いになれますように」




彼女の好意が、小さなおまじないが、何の悪意もないままに、彼女の一番大好きな人を、






――呪い殺した、なんて。


.

131名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:39:31 ID:fHkiEV2U0


暗い部屋には沈黙が横たわっている。
今度こそ誰もが、口を開こうとはしなかった。


川  - )「……話し終えたら、蝋燭を消すんだったな」


それを遮ったのは、クー自身の声だった。
クーは先程までの怒りが嘘の様に静かな声で言った。
そこにはもう、激しい感情の名残は見えない。


(;'A`)「あ、ああ」

( ゚д゚ )「蝋燭は、二つ向こうの和室にある。
     ふすまは開いているから、明るい方に進んでくれ」

川  - )「わかった」


ミルナの声が途切れると同時に、人が立ち上がる気配がした。
クーの着ている白いブラウスが動くのがぼんやりと見える。
足元を確かめるように、クーはゆっくりと部屋の外へとむけて進んでいく。


川 ゚ -゚)「――また、な」


――そして彼女は、開け放たれた襖の向こうへと消えた。


.

132名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:42:06 ID:fHkiEV2U0


(    )「……まるで、呪いだね。丑の刻の藁人形みたいだ」

(    )「おまじないが、呪いにか……」


クーが去って気が緩んだのか、暗闇の中で誰かがそう言った。
それは俺が思っていても、口にしなかった言葉だった。



( ゚д゚ )「……おまじないを漢字で書くとどうなるか、知ってるか?」



そして、その声に触発されたのかミルナがポツリと声を上げた。
これまでの話とはまったく関係ない言葉に、周囲がざわめき声があがる。


ξ ⊿ )ξ「……おまじないに漢字なんてあるの?」

(    )「ひらがなじゃないのかお?」

(    )「うーん。漢字かぁ、僕にはわからないな。正解は?」


その言葉に、ミルナは目を閉じた。
それから、空中に字を書く素振りをしながら、答えを口にした。


.

133名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:44:32 ID:fHkiEV2U0







( -д- )「――御呪い、だ」






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134名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:46:25 ID:fHkiEV2U0


( ゚д゚ )「おまじないと呪いは、本質的には同じ行為なんだ」


ミルナは淡々と話し続ける。
その顔に浮かぶのは、いつものミルナと同じ感情の読み取れない表情だ。


( ゚д゚ )「誰かを手に入れたいという願いは、裏を返せば相手を自分の思う通りに相手を支配したいということだ。
     そこに、対象となる相手の意志など関係ない。いや、むしろ邪魔なだけだ」

ξ ⊿ )ξ「いくらなんでも言い過ぎよ」

( ゚д゚ )「でも、そうだろう。
     おまじないとは、例え相手に好きな人がいようとお構いなしに、自分へ気持ちを向けさせるためのものなのだろう?」

ξ# ⊿ )ξ「でも、それは――」


興奮したような激しいツンの声が、止まる。
考えをまとめているのか、それともクーに声が声が伝わるのを恐れたのか、彼女はしばらく唸り声を上げて、

――結局、その言葉を口に押し込んだ。


ξ   )ξ 「……」


.

135名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:48:32 ID:fHkiEV2U0


誰も話さなくなった部屋に沈黙が落ちる。
俺も、周りのやつらと同じように黙りこみ――、

ふと、


          「ネーノくんのそういうとこ、……好きだなぁ」

          「……す、素直って、たまにすごいこと言うんじゃねーの。びっくりしたー」

          「えー、何? キューちゃん変なこと言った?!」


女の子と、男の声が聞いた様な気がした。
楽しそうな、声。

不思議と、いちゃつくやつは滅べという気持ちにはなれなかった。
……むしろ、このまま続けばいいと思ってしまった。


         「オレも、素直のそういうところは好きだよ」

         「ふぅぇ? わっ?」

         「へへへ。お返しじゃねーの」



女の子と、男の声は続く。
――俺はなんだか二度と取り返せないものを見たような気がして、ただ無性に悲しかった。


.

136名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:50:12 ID:fHkiEV2U0



部屋の空気が一瞬大きく揺らぎ、闇がまた一つ濃くなる。
クーが蝋燭を一つ消したのだろう。

……気づけば、あの声は声はもう聞こえなくなっていた。




(    )「さて、続きをはじめようか」




百物語の蝋燭は、まだ残っている。
全ての蝋燭が消えた時、どんな闇が待つのか。



俺は、まだ知らない――。


.

137名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:51:40 ID:fHkiEV2U0




              ('A`)百物語、のようです


                御呪いの話  了


                     (
                      )
                     i  フッ
                     |_|


.

138名も無きAAのようです:2013/08/18(日) 23:54:40 ID:x0Qwof120


凄まじいな…

139名も無きAAのようです:2013/08/19(月) 00:00:26 ID:5JdCnUi60
やりきれない
おつ

140名も無きAAのようです:2013/08/19(月) 00:02:07 ID:klX6calo0


141名も無きAAのようです:2013/08/19(月) 09:26:17 ID:QtCWhfSgO
なにを悔やめばいいやら…
乙でした

142名も無きAAのようです:2013/08/22(木) 14:19:04 ID:qJ2BVD1.0
途中までニヤニヤして読んでたのに・・・。


143名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:15:22 ID:p/orKOsg0
今年も百物語の季節がやってきた
というわけで、投下します

144名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:21:04 ID:p/orKOsg0


――百物語は続いている。


ミルナの爺様の家を借りて、軽い気持ちではじめた百物語。
部屋は暗く、二間先に用意した蝋燭の光もほとんど届かない。
時計もろくに見えない闇の中では、どのくらいの時間がたっているのかもわからなかった。


(    )「……次は僕の番かな」


暗闇の中で声が上がった。
言葉を切り出すタイミングをうかがっていたかのような声。
少しだけ高い声は、語尾が消えかかっている。

この声は、ショボン……だろうか?



.

145名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:22:17 ID:p/orKOsg0

( ゚д゚ )「頼む」


誰が。いや、そもそも何人いるかさえもわからない部屋の中。
見えるものといったら、すぐそばにいるミルナの姿くらい。
俺には、同じ部屋にいるはずの声の持ち主すらわからない。


(    )「そうだね……」

('A`)「どうした? 話が思いつかないのか?」

(    )「そうじゃなくて……
      これって体験談でもいいのかな?」


ショボンはためらうように沈黙した後、やっとそう口にした。
体験談。ショボンは幽霊か何かを見たことがあるとでもいうのだろうか?
本当に? 偶然そう見えただけじゃないのか?


(    )「んー、何でもよかったんじゃないかお?」

川   )「私の話もほぼ体験談だったしな。問題ない」

ξ   )ξ「クーのは体験談とは少し違うような……。
       でも、ショボンの体験談にはちょっと興味あるわ」

(    )「いいから、さっさと話してほしいんだからな」


.

146名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:23:05 ID:p/orKOsg0


考えこんでいる俺を無視して、話は進んでいく。
あの一番はしゃいでいる声は……ツンだろうな、やっぱり。
そして、誰かが声を上げた声で、部屋は静かになる。


(´ ω `)「じゃあ、あの話にしようかな……」


そして、ショボンは語りだす。


(´・ω・`)「これは去年の話なんだけど……」



部屋に横たわる闇の中で、ショボンの顔がふと見えたような気がした。


.

147名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:24:44 ID:p/orKOsg0




              ('A`)百物語、のようです


                   廃村ツアー


                      .,、
                     (i,)
                      |_|



.

148名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:25:54 ID:p/orKOsg0

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----------------------
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僕ってさ、実はサークルをいくつか掛け持ちをしてるんだ。

いろんなサークルに興味があるっていうと嘘になるかな、実際のところは名前を貸してるだけだし。
そう。人数あわせってやつ。学校公認の部活もあるけど、同好会がほとんどかな。

でさ、その中の一つに元写真部ってのがあるんだ。
何が元かって?
そうだね、元はちゃんと活動していたんだけど、真面目な部員が卒業して、今はちゃんと活動してないって言えばわかるかな。
え、それで何をしてるかって?

……部長に振り回される会かな?



ああ、部長のこと?
きっちゃん先輩――、狐娘って言うんだけど知ってる?
狐娘。……狐娘 木津子先輩。
学部でも変人ってことで有名らしいんだけど……。
あ、これ本人が自分から言ってることだから、悪口ってわけじゃないよ。


.

149名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:27:29 ID:p/orKOsg0

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(;´ ω `)「……ごめん。僕が先輩を変人って言ったこと、やっぱ誰にも言わないで」


話し始めてすぐに、ショボンは言葉を切った。
時計がないからはっきりしないが、下手したら1分もたっていないだろう。
その先輩がどれだけ怖いのかは知らないが、いくらなんでも情けなさすぎじゃないか。


(;'A`)「訂正するぐらいなら、最初から言わなきゃいいだろ」

川  - )「そういじめてやるな、ドクオ。
     ショボンの中ではおそらく複雑な葛藤があったのだろう」

(;´ ω `)「……ごめん、みんな本当に忘れて。
      考えなしだった僕が悪いから、この話はもう忘れよう? ね?」


思わず出た不満は、おそらくクーの声によってなだめられた。
俺としてはいじめたつもりなどなかったのだが、どうやらショボンの地雷だかトラウマだかを踏んでしまっていたらしい。
とりあえず「すまん」と謝ると、ショボンに続きを話すように頼むことにした。


.

150名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:30:05 ID:p/orKOsg0


('A`)「それより続きを」

(;´ ω `)「あ、ああ。そうだね」


ξ   )ξ「きつねむすめ……きつ……あ!」


――のだが、ショボンの声は途中から言葉にならなくなった。
ショボンの声を遮るように。突然、女――ツンが声を上げたからだ。
ツンは長いこと唸っていたが、何か思いついたのかぽんと手を叩いた。


( ゚д゚ )「知っているのか?」

ξ   )ξ「もしかして社会学部の人?
      前にキレイな先輩が、学校にテント張ってるのを見たことあるわ」

.

151名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:32:25 ID:p/orKOsg0


ツンは一人納得しているが、俺は話についていけない。
どうやら他の奴らも同じらしい。
しばらくツンの何だか分からない説明を聞いていたが、とうとうブーンらしき声が助けに入った。


(    )「テントって学祭か何かの準備かお?
      ツンもよくそれで、ショボンの先輩ってわかったおね」

ξ;   )ξ「そうじゃなくて、キャンプしてたの、キャンプ! しかも学校で!
       なんだろうって思ってずっと見てたんだけど、駆けつけてきた警備員に連れてかれちゃったの!!」


が、……意味がわからない。

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152名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:34:15 ID:p/orKOsg0

ツンの言いたいこと自体はかろうじて分かったが、今度はその先輩らしき人が何を考えているのかわからない。
なんだ、その奇行。確かにそれが本当なら相当な変人だろうが、本当にそんなやついるのか?
そう思って他の奴らの様子を伺ってみたが、どいつもこいつも何も言わない。
……まさか、本当なのか?


(´ ω `)「…それ、間違いなく先輩だと思う。
      前に、キャンプしてたら学生課に怒られたって言ってたから……」

(;'A`)「……」

ξ;   )ξ「あ、本当にそうなんだ」

(;'A`)「とんでもねーヤツだな、その部長ってのは」


そう言葉を返すと、ショボンがいた辺りから大きなため息が聞こえた。
どうやらその先輩とやらは想像以上に、困った人物らしい。


(´ ω `)「きっちゃん先輩はさ、そういう人なんだ」


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153名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:37:52 ID:p/orKOsg0


(´ ω `)「そんなきっちゃん先輩が部長になったらどうなるか……想像つくでしょ」


想像はつくが、深くは考えたくない。
少なくとも、まともに写真をとってないことだけは確かだろう。
全然知らない部ではあるが、空中分解してないことを祈るだけだ。


(;´ ω `)「も、もちろんちゃんと写真を撮ろうとして入部した人もいるんだよ。
      でも、残った部員は不真面目なやつがかなり多くて……」

('A`)「それで、部長に振り回される会か」

(´ ω `)「……うん」

(    )「おーん。なんかすごそうだお」


暗闇の向こうで、力ない笑い声が上がる。
ショボンの声か、それとも話を聞いている誰かのものなのか。闇の中では、はっきりとしなかった。


(´ ω `)「それでね……」


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154名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:40:33 ID:p/orKOsg0
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部活だけど、活動自体は楽しかったよ。

とにかくきっちゃん先輩が、活動的でね。みんなで集まってはいろんなことをしてた。
夜の学校を探検したり、インチキ降霊術をしてみたり、お化けの被り物でよそのサークルの部室に突撃してみたりね。
古いビデオを引っ張り出してきて、昔の心霊番組や映画を見るなんてしょっちゅうだった。
学校のそばにある廃墟に潜り込んだ時は、ものすごく盛り上がったよ。

……なんていうか、ほぼオカルト研究会だよね。
今年、新入生が何人か入ったんだけど、みんなびっくりしてた。
逃げた新入生がいなかったのが、一種の奇跡だったね。


……話がそれてるね、ゴメン。
僕はもともと上の先輩たちが引退した後、人数合わせのために引っ張り込まれたんだ。
そういった経緯で入った部だけど、それでもきっちゃん先輩たちとバカをやるのは楽しかった。

だからなのか、思い返せば参加率はけっこうよかったような気がする。
結局の所、掛け持ちしている部の中でも元写真部にはかなり思い入れがあったんだね。

写真部とは名ばかりの変な部だったけど、僕以外の部員もみんな楽しくやっていたみたいだった。
まあ、中には先輩狙いのやつも何人かいたみたいだけど、モメることも特になかったよ。

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155名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:42:12 ID:p/orKOsg0

それで、僕がこれからする話なんだけど。
全てのはじまりは、きっちゃん先輩の思いつきだったらしい。
試験もレポートも大体終わり、いざ夏休みというその日、先輩は突然言い出したそうだ。


イ从゚ ー゚ノi、「夏なんだから、合宿しよ!」

(-@∀@)「え?」


残念ながら僕はその場にいなかったんだけど、それはもう大騒ぎだったらしい。


<_プー゚)フ「いいじゃん! いつやるんだ?」

イ从゚Д゚ノi、「今」


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156名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:44:28 ID:p/orKOsg0


从´ヮ`;从ト「わわ。え? えっ?」

(;@∀@)「よ、世の中にはいろいろと段取りというものがあってですな。
      というか、いくらなんでも無理でござる!!! ご慈悲を!
      そもそも、きっちゃん氏はどこへ行くつもりでありますか?」

イ从゚ ー゚ノi、「そんなの今から決めるに決まってるじゃん」

(;@∀@)「きっちゃん氏ぃ。ご乱心にも程があるであります。
      ちょっと、引きずらないで! きっちゃん、きっちゃん氏ぃぃぃ!!!」

从´ヮ`;从ト「きっちゃぁーん」


きっちゃん先輩が思いつきで行動するのはいつものことだ。だけど、いくらなんでも急すぎる。
そう思ったみんなは必死で先輩を説得した。
部員総出で「後日にやろう」と訴えた結果、その日は何とか事なきを得た……らしい。

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157名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:46:36 ID:p/orKOsg0
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――そして、それから数日後。



イ从゚ ー゚ノi、「ついにきたわ! エクスト、車っ!」

<_プー゚)フ「まかせろっ! 見ろよー、このピカピカな新車を!」


僕は学校に呼び出されていた。
ご丁寧にも、軍手や懐中電灯といった持ち物の指定付き。
一体、何をするつもりなんだろうと思った僕を出迎えたのは、元写真部のメンバーだった。


(*@∀@)「おお、ショボン氏。来ていただけましたか。
      拙者、感謝感激雨あられでござる!!!」


きっちゃん先輩こと狐娘木津子と、同じ学部のエクスト・プラスマン。
……そして、学部は違うけど学年は同じ、朝日アサピーがそこには来ていた。


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158名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:48:25 ID:p/orKOsg0


(*@∀@)「今日の計画でありますが……」


――計画を担当した朝日によると、僕たちは日帰りで設楽場温泉に出かけることになっているらしかった。

合宿をするにはどうしても準備に時間がかかる。
でもそれじゃあ、待ちきれなくなった先輩が何を言い出すかわかったものじゃない。
大変なことになる前に、とりあえず遠出だけでもして、先輩の機嫌を取ろうということらしかった。


        (iii@∀@)】「ショボン氏っ! どうしても来てほしいであります!
              拙者1人で、きっちゃん氏とエクスト氏の相手は無理でござる! 無理でござるよぉぉ!!」


……それで僕が呼び出されたわけだった。
連絡をくれた朝日の必死な姿を思い出す。
集まったのが4人だけなのが残念だったけど、あの急な呼び出しでよく4人も集めたものだと僕は感心したよ。


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159名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:50:14 ID:p/orKOsg0

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僕たちの行き先は設楽場温泉ということだったけど、その目的は温泉じゃなかった。
……軍手や懐中電灯が持ち物にある時点で、なんとなく普通ではない気がしていたけどね。


イ从*゚ ー゚ノi、「オカ研と言ったら、やっぱオカルトっぽい所よ!」

(-@∀@)「いやいや、きっちゃん氏。写真部でござるよ」

<_プー゚)フ「オカルトって言ったら、心霊スポットか?
        やべー、呪いのトンネルとか通るのか? なぁ、なぁ?!」

(-@∀@)「……写真部」


普通の場所は嫌だという先輩と、朝日の間でいろいろとあったらしい。
僕は詳しく知らないけど、その結果、廃墟を探すということで話がまとまったらしい。

廃鉱山とか廃工場は、下調べに時間がかかる。
だけど、きっちゃん先輩が待ってくれるとは思えない。
朝日は手軽に行けそうな、ホテルやドライブインの廃墟を探してみることにしたそうだ。

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160名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:52:23 ID:p/orKOsg0

廃墟の中でも、廃ホテルっていうのは定番だ。
ものの本によると廃墟っていうのは基本的には人のいたところにしかないらしい。
じゃあ、その廃ホテルがどこにあるかっていうと、それは主に町か観光地となる。
だけど、大きい街や人気がある土地だと、潰れたホテルはすぐに更地か、新しい建物になってしまう。

となると、目指すは寂れかけた観光地ってわけになるわけさ。


イ从*゚ ー゚ノi、「やっぱこれぞ青春って感じよね。廃墟っ、廃墟っ!」

(-@∀@)「きっちゃん氏、過度な期待は禁物ですぞ。
      拙者、全力を尽くす次第ではありますが、上手くいくとは限らないのが世の中でござる」

<_プー゚)フ「っていうか、温泉行こうぜ、おんせんー」

(´・ω・`)「……なんていうか、みんな元気だよね。朝から」


――それで、思いついたのが隣の県の設楽場温泉ってわけ。

温泉街ならきっと、寂れて廃墟になったホテルの一軒や二軒あるだろう。
それに、あのあたりは山だからね、道中にもめぼしいものがあるかもしれない。
もし何も見つからなかったとしても、最低でも温泉があるからね。
風呂にでも入っておけば、きっちゃん先輩やエクストをごまかせるだろうとなったわけさ。


イ从*゚ ー゚ノi、「お風呂セットも準備ばっちし!」

<_プ∀゚)フ「待ってろよ、温泉まんじゅう!!」

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161名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:53:22 ID:p/orKOsg0


……ドクオ?

さっきからどうしたのさ。そんなにブツブツ呟いて……
え、温泉?
ああ、日帰り温泉くらいあるだろうって話。


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162名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:55:20 ID:p/orKOsg0

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(    )「そういえば、設楽場温泉には、混浴で有名な旅館があるおね」


誰が言ったかわからんが、あまりにも素敵でミラクルな言葉が聞こえたような気がする。
こんよく? 混浴だとっ。


(#゚A゚)「なぁんだと!! けしからんっ、けしからんっ!!!」

(;´ ω `)「ど、どうしたの急に」


気づけば俺は、ショボンの声をさえぎって叫んでいた。


(#゚A゚)「年上のお姉さんと旅行で温泉とか羨ましすぎだろ!!」


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163名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:57:38 ID:p/orKOsg0

百物語とか正直どうでもいい。今は、こいつをとっちめ――


(;-д- )「……祖父たちに聞こえるから、声を抑えてくれないか」

川  - )「ミルナもこう言っている。
     羨ましいのはよくわかったから、続きを聞くことにしよう」


――ようとした動きは、闇の向こうから聞こえてきた声に止められた。
蝋燭の明かりの中で、めったに表情を変えないミルナが困ったように眉を寄せるのが見えた。
もう一つ聞こえてきたのは、クーの声だろうか。


(;'A`)「あ、ああ。スマン」


……人の家でとんでもない失態を晒してしまった。
そう思うと、恥ずかしくて、今すぐにでもこの場から頭を抱えて逃げ出したくなる。
無意味に、ペットボトルからジュースを飲んでみたが気まずさは消えない。


(;´・ω・`)「……えっと、じゃあ続きを話すね」


そんな俺を気使うように、ショボンは恐る恐る続きを話し始めた――。

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164名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:00:00 ID:p/orKOsg0

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設楽場温泉についたのは、ちょうど昼くらいだった。
それで、軽く回ってみたんだけど、残念ながらそれっぽい廃墟は見当たらなかった。
設楽場温泉自体は確かにさびれているにはいたんだけど、それでも夏休みだからか観光客も多かった。


(-@∀@)「ちょっとメジャーすぎましたかねぇ」

<_プ∀゚)フ「うぉぉぉ、温泉卵食いてぇぇぇ!!!」

(´・ω・`)「あるの? 温泉卵」


それでもひと通り散策してみようってことになって、僕たちは温泉街を巡った。
大通りからはなるべく外れて、それらしき廃墟がないか見て回る。

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165名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:02:17 ID:p/orKOsg0

イ从*゚ ー゚ノi、「ふふーん。地酒ゼリーだってー!」

(;@∀@)「きっちゃん氏ぃぃぃ。
      それ食べたら運転できないではござらぬかぁぁぁ!!!」

イ从*>〜<ノi、「おいしぃぃ!!!」

<_プД゚)フ「きっちゃん部長ずりぃ、オレもオレも!」


途中で店をひやかしながら歩きまわったけど、なかなかいい建物は見つからなかった。
いい感じにボロい建物はいくつかあったんだけど、まだ現役だったり、人通りがそこそこあって入るのは無理そうだった。


(-@∀@)「不覚っ。場所の選択を完全に見誤ったでござる」

(´・ω・`)「まぁ、こればっかりは詳しく調べてみないとね」


もっとマイナーでブームも過ぎ去った観光地を探すんだった。
朝日が後悔していたけど、時すでに遅しさ。
正直、僕も廃墟が探索できると期待していたから、残念といえば残念だったかな。


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166名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:04:16 ID:p/orKOsg0

イ从#゚ ー゚ノi、「ねー、どうしてさっきのとこ入らなかったの?」

(-@∀@)「無理でござる。向かいのおみやげ屋さんがスナイパーの目で見張っていたでござる。
      見つかったら、間違いなく公権力によるタイーホフラグ」

イ从#゚ 3゚ノi、「やだやだー」

<_プー゚)フ「なーなー、酒屋行ってもいいだろ? 地酒飲みたい地酒ー!!!」


辛抱できなくなった先輩と、あっちこっちにフラフラするエクストを丸め込みながら、僕らは進んだ。
とはいえ、このまま町を歩くのも不毛だから、方針を変えることにした。
それで僕らは当初の目的を果たすため、車で町外れを目指すことになった。
温泉街の中心部から離れれば、人目がなくて条件のいい廃墟が見つかるかもしれないからね。


イ从゚ワ゚ノi、「あっちの山のほう、なんか見えない?」

<_プー゚)フ「えー、ドレドレ? ドレよ」

(-@∀@)「……建物で、ござろうか?」


みんな行ったことあるかもしれないけど、設楽場温泉って山の中にあるんだよね。
だから、車でちょこっといくだけですぐに山だ。
人気のない山の中にきっちゃん先輩は、建物らしき影を見つけた。

……コンクリートの建物だろうか。
山の中に団地や会社があるとは思えないから、おそらくはホテルか、工場の一部。
温泉地からは結構遠い場所にあるから、ひょっとしたらひょっとするかもしれない。

目的のものも見つからず、迷走していた僕らは迷うこと無く山への道に入った。

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167名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:06:58 ID:p/orKOsg0

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山道も最初のうちは順調だった。
だけど、どんどん道が細くなっていく。
コンクリートの建物の方にハンドルを切ったせいか、途中でカーナビに道が表示されなくなってしまった。
今思えば、ここで引き返せばよかったけどね。
それでも、もったいないからと道を無理に走ったのが悪かったらしい。


(;@∀@)「む。う、ハンドルが」

(;´・ω・`)「大丈夫、朝日?」


……気づけばUターンもできない細い一本道を、僕らは走っていた。


(ii@∀@)「きっちゃん氏。この道はもう無理でござる!!」

<_;フ−)フ


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168名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:08:57 ID:p/orKOsg0

イ从゚ ー゚ノi、「しかたないわねー。引き返すことを許可する!」

(;´・ω・`)「引き返すのはいいけど、これUターンできるの?」

イ从*゚ ー゚ノi、「じゃあ、バックで引き返したら?」

(;´・ω・`)「そんなことしたら谷底に向かって真っ逆さまだよ」


このままじゃ立ち往生するぞと思っても、道が狭すぎて引き返すこともできない。
道はどんどん悪くなり、そうこうしているうちに舗装がなくなり、砂利道に入った。
これはヤバイと思ったけど、どうしようもない。最終的に車は、草だか道なんだかよくわからないところを走るハメになっていた。


<_;フ−)フ「むり」


あまりの道の酷さに、エクストが途中でゲロゲロと吐き出した。
それにつられて、僕も朝日がもらいゲロしそうになってさ大変だったよ。


<_;フー)フ「死ぬ」

(;@∀@)「エクスト氏ぃぃぃぃ」

(;´・ω・`)「袋っ! 吐くなら袋っ!! 先輩っ、そっちの窓開けて!!」

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169名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:10:23 ID:p/orKOsg0


え? 先輩?


イ从゚ぺノi、「どれだけ軟弱なのよ、もー」


先輩は平然としてたよ。
なんかもう、「ちょっと男子〜、クサイからやめてよね〜」とかそんな感じだった。
……僕は乗り物には強い方だと思ってたけから、あの先輩を見た時は軽くショックだったよ。

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170名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:12:49 ID:p/orKOsg0

……それから、どのくらい車を走らせたかな。
エクストのヤツが半泣きから本気で泣き出したところで、きっちゃん先輩が窓へとピタリと張り付いた。


イ从゚ ー゚ノi、「あ」


先輩は食い入るように、外を見つめている。
一体どうしたんだろうと思った所で、先輩は「家だ」と叫んだ。


(´・ω・`)「……今、何て」

イ从*゚ワ゚ノi、「家だぁぁぁっっ!!」


目に痛いほどの緑の中、木とは違う色が見えた。
なんだろうと目を凝らしてみて、僕もようやく気づいた。

家がある。
それも、一軒だけじゃない。
立ち並ぶ木のカーテンの向こうに、家が立ち並んでいるのが見えた。

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171名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:13:50 ID:p/orKOsg0

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(´・ω・`)「――そう、」





(´・ω・`)「僕らは、村を見つけたんだ」


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172名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:15:58 ID:p/orKOsg0
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ひどい山道を通って、たどり着いたのは村だった。
村とは言ったけど、実際はそれほど大したものじゃない。小さな集落と言った方がいいかもしれないシロモノだった。
それでも、僕らはなんとか人のいそうな場所に着いたんだ。


(´・ω・`)「建物だ」

(*@∀@)「本当でござるか? これは僥倖!!」


見える家の数はそう多くない。
それでも休憩ができるかもしれないと、車を走らせる。すると、道端に花が供えられたお地蔵さんが見えた。
どうやら道はそこで終わりみたいで、そこから先は急に道幅が狭くなり、車じゃ入れない細さになっていた。


(´・ω・`)「行き止まり……みたいだね」

<_フ;ー;)フ「外にだして……死ぬ……」

イ从゚Д゚ノi、「もー、気合が足りないからよー」


僕は窓から周りを見回した。
路肩を使えばなんとか車の切り返しもできそうだ。

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173名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:18:36 ID:p/orKOsg0

一時はどうなることかと思ったが、最悪でもこれで引き返すことができる。
山道から解放され、僕はようやくほっとした気持ちになっていた。


(-@∀@)「うーむ、ここはどこでござろう。
      ナビは完全に死んでるし、地図はどうであります?」

(´・ω・`)「うーん、さっぱりだね。
      それらしき道がそもそも見当たらないし」

イ从゚ぺノi、「そんなの人に聞けばいいじゃん」


そう言って、まずきっちゃん先輩が外に飛び出した。
それから、エクストが体をフラフラさせながら車から出た。


<_フ;ー;)フ「外だァァァァァ!!」


朝日と相談した結果、僕たちは休憩がてら、人を捕まえて道を聞くことになった。
朝日はしばらく渋っていたけど、最後には納得してくれたよ。
ここがどの辺りかもわからないし、あのひどい道をもう一度通るのはできれば避けたかったからね。
道に迷った辺りから廃墟探索は完全に諦めていたから、その時の僕らは設楽場温泉に帰るつもりだった。

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174名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:20:37 ID:p/orKOsg0


(´・ω・`)「帰り道が見つけるといいんだけど」

(-@∀@)「まあ、こればっかりは運を天に任せるしか無いでありますな」


で、先に行った先輩たちを追って歩き出したわけだけど。
その村には、本当に人がいなかった。

田舎に行ったことがある人ならわかるだろうけどさ、昼間って意外と人がいないもんだよね。
大体は、昼食後の昼寝とか、仕事とか、畑や山を見に行ってるとかなんだろうけど。
だけど、それを差し引いても、あまりにも人がいないんだ。
そもそも人の気配がしないんだと、僕はしばらく歩いてから気づいた。


(´・ω・`)「誰もいない」


――どうしてだろうと、思った時にふとその理由がわかった。

どこの家も、窓が開いてないんだよね。
設楽場温泉のある山はとても涼しい。だけど、どこの家の窓も開いてないなんて流石に不自然だ。
それから妙に草が多いのも気になった。不自然にぽかりと開いた土地には、茂った雑草が藪と化している。


(´・ω・`)「……庭にしては不自然なような気が」

(-@∀@)「畑か田んぼでしょうな。手入れをしなくなって相当たってる感が」

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175名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:23:23 ID:p/orKOsg0

ひょっとしたら、ここには誰も人がいないんじゃないかという不安は最初からあった。
僕らの入ってきたあの道じゃ、いくら車でもあまり通る気になれない。
それにこの荒れよう。人が住んでるなら、もう少し手入れをするもんじゃないだろうか。


<_フ;∀;)フ「空気ウマイ! すずしい! ガタガタクネクネしない!!」


先を行くエクストが、草をかきわけて建物へと近づいていたのに気づく。
……だけど、途中でエクストは首をひねりながら別の家へ向かって走りだした。
どうしてだろう?と、エクストが最初に向かった家を眺めてみれば、玄関や勝手口らしき場所に雑草が生い茂っている。
そして、玄関の戸は、はめ込まれたガラスが割れていた。

なるほど、空き家だったのか。僕はそう思ったよ。


イ从#゚ ー゚ノi、「エクストー、先に行かないでよ!」

<_プー゚)フ「へへーん。最初はハズレだったが、一番乗りはオレサマだっ!」


エクストの後を、きっちゃん先輩が走りながら追いかけていく。
僕と朝日はため息を付きながら、二人の後をついて行った。


(-@∀@)「……これはひょっとしたらひょっとするかもですな」

(´・ω・`)「だね」


ひょっとしたら、僕たちは大変なものを発見してしまったのかもしれない。
これまで見かけた家。――いや、それだけじゃない。
この辺りにある家は全て空き家なのかもしれないという可能性が、頭をよぎる。
そうであるならば、僕たちがいるこの場所は……。

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176名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:24:15 ID:p/orKOsg0

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僕たちはざっとその村を一周りした。

落ちている木の枝を踏み越え、雑草をかき分け、なんとか進めるところを進む。
荒れていたのは、最初に見かけた家や畑だけじゃなかった。
改めて見て回ると家は何軒もあるのに、その周りの道や畑は何年もの間放置されていたとしか思えないほど荒れていた。

その頃には僕は。いや、僕たちはここが廃村だと確信していた。


<_フ; ー )フ「疲れた、もうムリ」

イ从;-Д-ノi、「誰もいないー。つまんないー」


どこにも人の姿はなかった。
人の姿どころか手入れをされている気配すらない。
ここまで来ると、なんで建物があるのかさえ謎だ。


(-@∀@)「これはすごいですな」


朝日がカメラのシャッターを切りながらゆっくりと進む。
一枚、二枚……それだけじゃ物足りないのか、デジカメを取り出して撮影を始める。
僕は遅れがちな朝日に付き添いながら、辺りを見回して息をついた。

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177名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:26:21 ID:p/orKOsg0

360度どこを見てもあるのは木の緑と、幹の茶色。
山をうめつくすように茂る緑は、目に痛いくらいに鮮やかだ。
緑の隙間を通るようにして見える家や、小屋らしき建物は沈黙し続けている。

人の声も、鳥の声さえもしなかった。
聞こえるのは、どこか遠くから聞こえてくるカナカナという蝉の声だけ。


(-@∀@)「ショボン氏。あちらをみてください」

(´・ω・`)「え?」


不意に声をかけられて、僕は現実へと引き戻された。
朝日がカメラを掲げながら、ある一点を指さしている。


(-@∀@)「あそこの。木の合間……あっちに、他とはすこし違う色が見えるでしょう。
      崩れてかけて危なっかしいこと限りないが、ありゃぁ、きっと石段か何かでござろう」

(´・ω・`)「石段? 何で?」

(-@∀@)「立地的に……寺か、神社か。
      きっちゃん氏に声をかけてみましょう。きっと面白いものが見えるでござるよ、旦那」


止める暇もなかった。
甲高い笑い声を上げながら、朝日は階段へと足を向ける。
旧式のカメラと、最新式のデジカメ。一人だけ大量の荷物を持ちながらも、朝日の足は軽やかだ。


(-@∀@)「この村が本当に生きているのか、それとも死んでいるのか。
      きっと、ここを登ればわかるはずでござる」

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178名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:28:22 ID:p/orKOsg0
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イ从*゚ ー゚ノi、「なっ、にっ、がっ、あーるーかーなーっ」

(´・ω・`)「朝日の話だと、寺か神社って話だけど」


僕は先輩たちに慌てて声かけると、朝日の後を追いかけはじめた。
朝日は一足先に階段を登り始めていたから、それを追いかけるのは大変だった。
きっちゃん先輩はまだ乗り気だったけど、エクストは階段を見た途端に嫌そうな顔をした。
嫌がるエクストの背を僕ときっちゃん先輩が無理やり押し、僕らは石段を登った。


<_;フー )フ「……っ」


石段は思ったよりも長くって、段差がキツかった。
それでも普通に階段があるところはまだよかったけど、崩れている場所はもう大変だった。
むき出しの地面をよじ登り、何かの拍子に階段が崩れないか心配しながら僕らは進んだ。


(*@∀@)「みんなも来てくれたでありますか」

(;´・ω・`)「行かなきゃよかったって、後悔しているところだよ……エクストが」

<_;フー )フ「……ムリぃ」


朝日と合流し、石段を登る。
「もうカンベンしてくれ」と泣きつくエクストを引きずって、僕らは頂上へとたどり着いた。

.

179名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:31:20 ID:p/orKOsg0

イ从* >∀<ノi、「とーちゃぁぁぁぁく!!!」


――その先に広がっていたのは、完全に潰れた建物だった。
屋根は落ち、柱や壁に至っては原形すらとどめていない。

そこにあったのは、どうやら神社だったらしい。
階段を登ってすぐのところにある、倒れた鳥居がかろうじてその名残を残していた。


(-@∀@)「まあ、こうなりますか」

イ从;゚ ー゚ノi、「うわー、なにこれ腐ってるぅぅ」

(*@∀@)「いやいや、きっちゃん氏。これは上等な方でござるよ」


カメラを取り出して撮影しながら、朝日は笑った。
社殿だったと思われる建物は、どこも無事なところがない。
賽銭箱に入っていたものらしい、錆びた小銭がいくつか、地面に転がっているのが見えた。


<_;フー )フ「なんも、ねーのかよ」

イ从゚ぺノi、「もー、なさけないなぁ。運動しなさいよね、運動」


ゼイゼイと息をあげたエクストは、その場にぺたりと座り込んで動かなくなった。
とりあえず、エクストはきっちゃん先輩に任せて、僕は朝日を引き連れて辺りを見物することにした。

.

180名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:32:19 ID:p/orKOsg0


(´・ω・`)「見事にボロボロだね。誰もいないのかな」

(-@∀@)「その可能性が高いでござるな。
      ……しかれども、まったく手入れがされていないわけではなさそうですぞ」


朝日に言われてみると、確かに神社のあたりはそれほど荒れてはいなかった。
原形を留めてない本殿のひどさに気を取られていたけど、よくみればゴミを集めたり、木の手入れをした跡がある。
それでも落ちた枝葉が散らばっているが、他に比べるとまだ少しは整えられていた。


(-@∀@)「あちら側になにかありそうですな。
      他に比べて、足元も整備されているみたいでござる」

(´・ω・`)「あっち?」


朝日の言う方角には、社殿の脇を抜けて更に奥に続く道があった。
木々の間を抜ける道は、人が何度も通ったのか足元がしっかりと固められていた。


(-@∀@)「きっちゃん先輩ではないが、ワクワクするでござるな」

(;´・ω・`)「え、二人で行くの?」

(*@∀@)「エクスト氏が動けない今、拙者たちが動かなくてどうするでござる。
      きっちゃん氏が帰るぞと言い出さないうちに、行くであります!」

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181名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:35:53 ID:p/orKOsg0

途中でなくなるのではと恐れたが、道はちゃんと奥の小さな広場まで続いていた。
思いの外整えられたそこにあったのは、小さな祠だった。

社殿とは違って、祠は意外なほどしっかりしていた。
屋根もちゃんと付いているし、古びて入るけれどもどこも壊れていない。
そして、その前にはいつのものかわからない酒瓶と、造花らしい花が飾られていた。


(´・ω・`)「ほこら、かな。花……か。いつ供えたんだろう」

(-@∀@)「生花ならともかく造花じゃ、わからんでござるな
      それほど汚れてないから古くはないと思うのでありますが……」


パシャリと、朝日がカメラのシャッターを切る。
朝日が黙りこんでしまえばもう、辺りは蝉の声とカメラの立てる音しかしない。


(-@∀@)「でもまあ、ここには今でもちゃんと人の手が入っているようですな。
       他の建物と違って寺社仏閣と墓場は、人がいなくなっても手入れすることが多い所でござるから」


朝日の言葉を聞きながら、僕は少し驚いた。
この誰にもいないような村でも、神社の手入れをするような人がいる。
……その人は、何を思って誰もいない寂しい村でゴミを拾い、花を供えたのだろう。


(´・ω・`)「わからない、か」


カナカナとセミは鳴く。
僕は祈るわけでなく――ただ、ぼんやりとそこに立っていた。

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182名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 21:36:41 ID:p/orKOsg0

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イ从゚ ー゚ノi、「よしっ、どこかの家に入ろう」


戻ってきた僕らを迎えたのは、きっちゃん先輩のそんな一言だった。
朝日と行った祠の話はしたのだけれども、どうやらきっちゃん先輩のお気に召さなかったらしい。


(;´・ω・`)「はい?」

イ从゚ ー゚ノi、「みんな、ここがどこだと思う? 廃墟よ、廃墟っ!!
       廃墟ときたら探索でしょーが。これオカルト研究会の鉄則!」

(;@∀@)「オカルト研究会じゃなくて、写真部ですぞ……」


きっちゃん先輩は腕を振るうと、探索するべきだと熱弁をふるい出した。朝日や僕の声はもちろん無視している。
いろいろ言っていたけど、そのほとんどが散歩と山登りは飽きたという内容だった。
しばらくその場で、ごちゃごちゃ話していたけど、先輩の暴走は止まらない。


ミoイ从*>ー<ノi、o彡「せっかくそれっぽい建物いっぱいあるんだから入りたいー」

(;´・ω・`)「……先輩、かわいこぶってもダメです」

イ从゚ 3゚ノi、「ケチー」

<_プ3゚)フ「ズルイぞー、しょぼくれー」

.


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