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( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )

717名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:46:39 ID:ttGVJWA.0


魔法は使えない。少なくとも、弟者の前でだけは使いたくない。


(;´_ゝ`)「……どうする?」


弟者が魔法を受け入れられなくなった原因は自分だ。
10年前のあの日、とっさに放った《止まれ》という魔法が、今も弟者を縛っている。
魔法がなければ、俺に魔法を使わせなければ……弟者は今もそう思っているはずだ


( ´_ゝ`)「……」


今でもあの時の決断は、後悔していない。
しかし、今は違う。今はまだ取るべき選択の余地がある。
だから、俺はあいつが平気になるまでは、あの時のような魔法は使えない。
それがあいつの兄貴としての精一杯の矜持だ。

だから――、


.

718名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:48:07 ID:ttGVJWA.0

兄者の視界に、それが映る。
火と水の石板。そして、その横。鞄に収められていた、黒いつややかな傷一つない石板。
まだ何の魔法も込められていない、まっさらな板。

媒介や魔道具を使っているから大丈夫だというのは、詭弁だ。
言葉を使って発する魔法と、本質的に何ら変わりがないのはわかっている。
それでもこれが、今考えうる限りで最良の選択肢だ。


(;´_ゝ`)「……ええい、面倒なことはあとで考える」


振るえる指を動かして、石板に手を伸ばす。
思うように動かない腕と、体に走る痛みに舌打ちをしながらも、どうにか石板を引き寄せる。
兄者は口元から流れる血を指で拭う。


(; _ゝ )「――間に合えっ!」


そして、その指を漆黒の石の表面に乗せた。
そこには、辿られるべき文字の刻は刻まれていない。
代わりに指を濡らす血が、赤の線を残した。

自分の内側にある、魔力をあつめる。
井戸から水を汲み上げるイメージ。
汲み上げた魔力を全身へと巡らせ、組み上げていく。


.

719名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:50:42 ID:ttGVJWA.0


(; ´_ゝ`)「――上手くいってくれよ」


ありったけの魔力を込めて魔法を刻む。
要になる文字はわかる。――体をめぐる魔力が、感覚が告げている。
組み上げた魔力を纏めあげる。そして、火と水の石板にあった魔法を増幅させるための文句と共に、血で刻みこむ。

一度もてば十分なほど雑に作られた、石板。
それに向けて兄者は全身の魔力を流し込み、血で描き上げた文字をなぞりあげていく。
黒い石板に浮かぶ、血で書かれた文様の一つ一つが兄者の魔力を受け白に、青に輝く。


(♯゚_ゝ゚)「いけぇぇぇぇっっ!!!」


刻み込まれた魔法は、《凍結》。
そして、それは瞬時に発動した。

――熱せられた巨人の体に染み込んだ水が、周囲に漂う白い蒸気の霧が、石板に呼応するように一斉に凍り出す。
岩で作られた装甲の、至るところから氷柱が突き出していく。


/◎ ) `-i=,/、 )


装甲が大きな音を上げ、ひび割れていく。
今や巨人の頭部の装甲は、薄くひび割れ無事なところは何処にもない。
しかし、決定的なダメージには一歩及ばない。


.

720名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:52:24 ID:ttGVJWA.0

――攻撃しなければいけないのは、装甲ではなく、その向こうにある核。
そのためにはまず、邪魔な装甲を完全に崩さなければならない。

魔力をかき集め、練り上げる。
体の中を駆け巡り勢いをました魔力は、熱くて内側から体が焼かれるようだ。
それでも、まだアイツを倒すには足りない。
あのゴーレムを打ち砕くには、もっと魔力が必要だ。

――昔から、普通、人が見えなかったり使えなかったりするものの扱いだけは得意だった。
だから、今回もきっとどうにかなる。どうにかならなくても、してみせる。


(♯゚_ゝ゚)「――まだだっ!!」

(;'A`) !


そして、兄者は手を伸ばす。
伸ばすのは肉体そのものではなくて、イメージの手。魔力を操るその感覚の手を周囲に巡らせる。

兄者の回りを取り囲む影の結界。
それを支える魔力に手を伸ばす、結界を支える術をバラバラにして、魔力を飲み込む。
結界は霧散し、兄者の頭上には一気に青空が開ける。


(;゚A゚)「結界が……。まさか、兄者のやつ」


.

721名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:54:34 ID:ttGVJWA.0


(♯゚_ゝ゚)「まだ、足りないっっ!!!」


ドクオの戸惑いには気づかずに、兄者は声を張り上げる。

はっきりと見えるようになった視界。
宙に逃れた弟者と、ブーン。草陰の中でドクオが、信じられないものを見る表情を浮かべている。
……あいつらを守らなければならない。
そのためには魔力を。もっと集めなければ――。

兄者は大気に目を凝らし、その中にある魔力を感じ取る。
土の中にも、風の中にも、草にも魔力はある。
それをできうる限り引っ張って集め、取り込む。


(♯゚_ゝ゚)「――っ、く」


――全身が、炉になったようだ。
魔力を取り込み、回し、増幅させ、形を整える。
それだけの機関、それだけの機能。
そうして練り上げたありったけの魔力を、片っ端から石板に叩きこんでいく。


(♯ ゚_ゝ゚)「――っぁぁぁああああああ!!!」


兄者は吼える。ありったけの声と魔力をあげて吠え続ける。
そして、その声に応じるように、表中はより鋭く、大きく、力を増していく。


.

722名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:56:25 ID:ttGVJWA.0


/◎ ) `-i=,/、 ) gi



ピシリと音がする。
急激にその大きさを増していく氷の柱、広がる亀裂。

   

    ピシ

そして、


                             ピシ


           それがついに、




                           ゴーレムの体を、頭を貫いた。


.

723名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:58:13 ID:ttGVJWA.0

しかし、装甲はまだ崩れない。
兄者の息はつまり、目が霞むが、それでも兄者は魔力を操るのを止めない。

まだ、足りない――。
だから、


(♯゚_ゝ゚)「弟者ぁっ、全部借りていく!!!」

(´<_` )「いくらでも持っていけ!!!」


弟者の体から、ありったけの魔力をもっていく。
息を吸うよりも自然に、腕を伸ばすよりもはるかに簡単に、魔力は兄者の体へと流れる。
その魔力の感覚は、どこからかき集めた魔力よりも馴染む。

あたりまえだ。
これは、弟者の魔力であると同時に自分の魔力だ。

――できそこないの、一人。
不吉な存在、本来ならば殺されなければならなかった命。
不安定でいびつな命と引き換えに得た力が、まっすぐとゴーレムを貫き壊していく。



そして、


                    ありったけの魔力をこめた氷の柱が


.

724名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:00:29 ID:yZraviHw0

                                                / / \
                                   `              `< ̄`フ
               <j                                   ` ‐´


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      く、  /
        \/ ,.、                                      ,.r 、        
           `´                                ///| 
    トj                                        | [,-┘
    ´                                           ̄       

.         __,.、                                              ,∠、 ,
       /{  ,> , 7、                                          ,.イ´_,.-〉´
        ヽにノ '´ [,-1                          /|ヽ     ,. '´ /‐'´ ,/
          ノ / / ,ト、                         '-―'´    /  r'    |
         く∠-┘ '‐ '                                 , /  /`丶、  !
          __                                     /_, ‐'´    _,.>!
      l´\/                                     / ̄|    _,.-'´
        ̄                                       /   !   /



岩の巨人の装甲を粉々に打ち砕いた――。


.

725名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:02:28 ID:yZraviHw0


そして、崩れ落ちた装甲のその向こう。
――埋め込まれていた、核がついに姿を現す。

古びた粘土板。
いつのものかすらわからない、その板には――今では失われた言葉が刻まれている。


(;^ω^)「あそこだけなんか違うお!」

(#'A`)「それが、奴の本体だ!」


粘土板に刻まれたその言葉。
それこそが、巨人を動かす魔法そのものであった。

古の伝承曰く、ゴーレム。
はるかに魔法が発達した時代に作られた。石板を触媒とした魔法の祖にして頂点。
疲れることを知らず、痛みを知らず、命令のままに従う、岩の巨人を作り出す秘術。
創りだされた巨人に命はなく、核に記された文字がある限り――無限に再生する。


(#'A`)「あの核をぶち壊せ! そうでないと、いくらでも再生するぞ」

(;´_ゝ`)「……なん、とぉ」


先ほどの攻撃で全ての力を使い果たしたのか、兄者は力なくへたり込む。
その視線こそ装甲による守りを失ったゴーレムへと向けているが、兄者の口からはそれ以上の言葉は出てこなかった。


.

726名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:04:23 ID:yZraviHw0


兄者は、動けない。
弟者にはもう、攻撃の手段がない。


/◎ ) 、/、; )

(#^ω^)≪切り裂くお!!!≫


その硬直した状況を、ブーンの魔法が打ち砕いた。
魔力を帯びた鋭い風の刃が、粘土板を襲う。


(;^ω^)「なんで?!」


――が、その風は粘土板に直撃する前に霧散した。
まるで粘土板自体が、魔法の力を拒否したかのようだった。


(´<_` ;)「魔法が、きかないのか?!」

(;´_ゝ`)「……なん……だと」


兄者と、弟者が言葉を失う。
最後の最後まで追い詰めたと思った。――しかし、それもここまでというのか?
誰もが言葉を失いかけた、その時。


.

727名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:06:13 ID:yZraviHw0


(;'A`)「……」


ドクオはふと、手元に目を落とす。
……そこにあるのは、弟者に渡そうとしてそのままになっていた刃。
輝くそれは、最後に残った武器だ。


('A`)「――弟者っ、受け取れ!!」


そして、ドクオは声を上げる。
必死の力で刃を持ち上げると、弟者に向けて掲げてみせた。
兄者以上に非力なドクオが必死に持ち上げたそれは、――へし折れた青龍刀の切っ先。
弟者は宙から降りると、その刃をひったくるようにして奪い取った。


(´<_` )「恩に着る」

(*'A`)「お、おう!」


ドクオの返事を聞くよりも先に、弟者の体が弾丸のような速度で動きはじめる。


.

728名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:08:36 ID:yZraviHw0


(#´_ゝ`)「弟者っ、やれっ!!!」

(´<_` )「把握した」


兄者の声が響く。


    オレ
――兄者がやれといったのだから、それは弟者にとって絶対だ。


二人分の力を込めた渾身の速度。
巨人の顔から落ちた瓦礫の山を駆け上がりながら、ゴーレムの核を目指す。


(´<_`#)「今度こそ終わりだ!!!」


.

729名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:10:09 ID:yZraviHw0

崩壊した体を抱えたゴーレムが、最後の抵抗といわんばかりに蒸気を噴き上げた。
周囲をすっぽりと覆う、熱く白い霧。
体の守りの大半を失いながら、それでも岩の巨人は腕を伸ばす。


             ( <  ::)


そして、ゴーレムの腕は人影を見つける。
振るわれる腕は、その人影をはっきりと捉えなぎ払う。
ゴーレムは歓喜の音を上げ、


(#゚A゚)「オレの影をなめるなぁぁぁぁ!!!」


はじけ飛んだのは、ドクオの創りだした影だった。

ゴーレムの創りだした白い蒸気の幕に、黒い影がいくつも動く。
蠢く影の群れ。
その影の間を縫って、走り出たのは。


(´<_`#)「砕けろぉおおおお!!!!」



――弟者。


.

730名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:12:33 ID:yZraviHw0


折れた刃ごと、弟者の手が粘土板へ振るわれる。
しかし、握りのない刃では上手く力を込めることが出来ない。
弟者の手から血が流れ、粘土板を濡らしていく。


(´<_`#)「――くっ」


渾身の力を込めた一撃は、粘土板に浅い傷を作る。
しかし、そこまで。
粘土板は未だ健在で、砕かれるまでには至らない。


(;'A`)「くっ、あと少しなのにっ!」

(#゚ω゚)「まだだお!!!」


立ちあがった、ブーンの体から魔力が湧き起こる。
風がうなり、小石が舞い上がり、草が倒れ、千切れ飛んでいく。
その光景の中で、ブーンはとうとうそれを見つけた。

逆転のための最後の一手。
残された希望。


(#゚ω゚)「オトジャっ、手を伸ばすお!!!」


.

731名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:14:45 ID:yZraviHw0


(´<_` )つ


弟者は返事の代わりに、腕を伸ばす。


(#゚ω゚)≪飛ぶお!!!≫


ブーンの魔法が起こした強い風が、それを舞い上げる。
舞い上げられたそれが向かったのは弟者が伸ばした腕のその先。


(´<_` )つ==|ニニニ二フ


弟者の手がそれを掴む。
目で確認するまでもなく、握り慣れた感触がそれが何かを伝えてくる。
愛用の刀、シャムシール。

銀の軌跡が翻り、その手は一直線にひらめく。


.

732名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:18:10 ID:yZraviHw0




(´<_`#)「――トドメだぁぁぁぁぁっ!!!」



“獅子の尾”の名を持つ刀は、軽やかに翻り――主の命を完遂した。




.

733名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:19:09 ID:yZraviHw0




そのはち。  できそこないの一人


   おしまい



.

734名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:21:26 ID:PA7Y3QRs0
乙!すげーボリュームだった

735名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:21:37 ID:nESRoQx20
おつうううううううう

736名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:23:43 ID:yZraviHw0
オマケ10レス行きます

737名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:24:44 ID:yZraviHw0


 彡⌒ミ
.( ´_ゝ`)「姉者。父さんこれから母者さんと交代してくるけど、ひどいことはしないでね」

∬#´_ゝ`)「……はぁっ?」


 彡⌒ミ て
.(;´_ゝ`) そ ビクッ


 彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)「えっと、えーっとー、オワタやブームくんたちは大切だけど。
      儂はみんなのことも好きだから、疑うとか犯人探しとか怖いことは……」


∬#´_ゝ`)「父者は、私や母者に任せておけばいいの!!拒否権などない!!」


 彡⌒ミ
.(;´_ゝ`).。oO(なんか、母者さんと話してるみたいだなぁ)


∬´_ゝ`)「わかったら、とっとと行く! 交代が遅れると母者、怒るわよ」

 彡⌒ミ
.( ´_ゝ`) ハーイ


.

738名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:25:40 ID:yZraviHw0




グッ∬´_ゝ`)q「よしっ、父者は行ったと……」




.

739名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:26:23 ID:yZraviHw0



               ,--,   __〃 ̄⊃
              / /   (,,  /
             (,〜〜〜〜〜/
         彡三 ミ 〉  ノ   /
        (´く_`*)´     /
       /.|^,ミ彡,^|ヽ、三三´
 (^o^) / i |、  y ,| i \ー´   (|^o^|)
 ヽ|〃 (__.i_|`''―‐'''|_i__)      ヽ|〃

         \(^o^)/
          ヽ|〃
               愛する花に囲まれる 父者=流石氏




おまけ劇場   l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです


.

740名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:27:14 ID:yZraviHw0


∬´_ゝ`)「妹者ちゃぁん」

l从・∀・;ノ!リ人.。oO(あの声は怒ってる声なのじゃ)


l从・−・;ノ!リ人「な、な、な、なんなのじゃー?」


∬´_ゝ`)「父者の花が踏み荒らされてるんだけど、何か知らないかしら?」


l从・∀・;ノ!リ人「はへ?」


l从・∀・ノ!リ人「お花? えっと、どのお花なのじゃ?」

∬´_ゝ`)「中庭」


Σ l从・д・ノ!リ人 ビクッ


.

741名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:27:56 ID:yZraviHw0


∬´_ゝ`)「中庭の花」


l从・д・;ノ!リ人


∬´_ゝ`)「知ってるわよね?」


::l从・Δ・;ノ!リ人:: アワワワ



ガシッ∬´_ゝ`)つl从・Д・;ノ!リ人 て


.

742名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:29:00 ID:yZraviHw0

∬´_ゝ`)「あんた。中庭の花、踏んだでしょ」

l从・∀・;ノ!リ人「……あ、うぅ、えーと」


∬^_ゝ^)「そうやって挙動不審になったりするのが何よりの証拠よ、妹者ちゃん」


l从・〜・ノ!リ人「……きょ、ど?」


                     . . .
∬*´_ゝ`)「正直に話して謝れば、父者は怒らないわよ。
      ほーら、素直になりなさいなー」


l从・Δ・;ノ!リ人「い、い、妹者はやってないのじゃ!」


.

743名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:29:42 ID:yZraviHw0


::::∬*::::_ゝ::)::::「じゃあ、中庭の花はどうしてぐちゃぐちゃなのかしら?
         お姉ちゃんに教えてほしいわぁ〜」

l从・д・;ノ!リ人「それは! ……それは……」

∬´_ゝ`)「それは?」


l从・∀・;ノ!リ人「……」


l从- 、-;ノ!リ人「……言えないのじゃ」



∬#´_ゝ`)つl从・−・;ノ!リ人 ビクッ


∬#´_ゝ`)「妹者ちゃんは、お姉ちゃんが身内に対しては気が短いのはしってるわよね。
      お姉ちゃんこのままだと怒っちゃうわよ。いいのね?」


l从・−・;ノ!リ人「……」


.

744名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:30:38 ID:yZraviHw0


l从- -;ノ!リ人「……」



l从-∀-ノ!リ人.。oO(妹者は、やくそくしたのじゃ)



l从・д・ノ!リ人「妹者は、言わないのじゃ」


∬#-_ゝ-)「……そう」



スッ∬#-_ゝ-)  l从・−・;ノ!リ人 …



∬´_ゝ`)「私からはもう何も言わないわ。
      でも、母者には報告することになるけど、それでいいわね」


.

745名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:31:28 ID:yZraviHw0


ll从・∀・;ノ!リ人「……ははじゃ」


ズシン


∬´_ゝ`)「そ。母者は家長なんだから、何かあったら報告するのが当然の義務でしょ」


ドシン


ll从・∀・;ノ!リ人「……ううっ」

∬´_ゝ`)「今なら、お姉ちゃんが聞いてあげなくもないわよ」


ガッ


ll从・Д・;ノ!リ人「だめなのじゃ!!!」


.

746名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:32:15 ID:yZraviHw0





∬´_ゝ`)「話をすればほら、母者のお帰りだわ」





::l从・д・illノ!リ人:: ガタガタ



つぎのはなしに   つづく

747名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:33:04 ID:PA7Y3QRs0
妹者かわいい

748名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:39:29 ID:rQ.Jnv2.0
ラスボス終わったと思ったらまたラスボスとな


749名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:41:15 ID:mwwkQGYAO
超乙。


ここ来てから気に入った作品が逃亡ばっかで、ずっと待ってた現行にリアルタイム遭遇するの今回が初めてで、20時からずっとアホみたいにリロードしてた。

待ってた現行をリアルタイムで読めるってこんな嬉しいんだな。
作品の結末を知る事ができるのってこんなわくわくすんだな。

書いてくれてありがとう。
投下してくれてありがとう。

書きながら「俺キメェwww」と思ってるけどどうしても謝意を伝えたい。
完結も後日談もものすごく楽しみにしてる。

750名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:42:13 ID:yZraviHw0
以上で投下終了です
最終話になる「そのきゅう。」は明日の夜、後日談は月曜日の夜に投下できたらと思います

751名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:45:16 ID:yZraviHw0
長時間の投下にもかかわらず乙や感想くれて、本当にありがとう
長かったこの話もなんとか終われそうだ

752名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:52:28 ID:rFEOdAMo0
乙乙!

明日の夜も楽しみに待機してるわ

753名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:54:38 ID:wPZQZ7uw0
乙乙!
続きが読めてよかった、面白かった!
次も楽しみにしてる

754名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 01:11:34 ID:PA7Y3QRs0
いよいよ最終話か、寂しいぜ
でも楽しみにしてるからな!!!

755名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 02:25:11 ID:DJ1Z7hbk0
おつ!超ボリュームおつ!
熱い戦いだった!最終回も楽しみにしてるよ

756名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 12:17:56 ID:VPyeQ90g0
おつ!

757名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:01:42 ID:yZraviHw0


/◎ ) 、/、; )  gu gi gi



一刀のもとに切り伏せられ、粘土板が崩れ落ちた。
ゴーレムを動かしていた、失われた文字が薄れ消えていく。
核の崩壊。その瞬間、ゴーレムを構成していた魔法は完全に消滅した。


(´<_` )つ==|ニニニ二フ

(;^ω^)


ごとりと音がして、ゴーレムの腕が落ちた。
無限軌道が潰れ、岩の重みに耐え切れず体が大きく倒れ込む。



( ´_ゝ`)

(゚A゚)


倒れてきた岩の衝撃に、地面が大きく揺れる。
ゴーレムはもはや、単なる巨大な岩の塊と化していた。


.

758名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:04:29 ID:yZraviHw0



_.◎ ) 、/、; :::



岩の巨人は動かない。
崩れ落ちた体を再生しようとする気配もなかった。


(*´_ゝ`)「おお」

ヽ('∀`)ノ「やった、やったぞ兄者!」


ゴーレムを構成していた岩たちが、砕けはじめる。
音もなく崩壊は続き、最後には大量の砂と岩の欠片が残るだけとなる。


(*^ω^)「すっごいお、オトジャ!」

(´<_` )「……やった、のか?」


もはやそこにゴーレムの原型はない。
――そして、石の巨人は死に至り。その動きを永遠に止めた。


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759名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:05:29 ID:yZraviHw0





( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )





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760名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:06:21 ID:yZraviHw0





そのきゅう。 ――そして、旅の終わり




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761名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:08:05 ID:yZraviHw0

ゴーレムが完全に動かなくなったのを見届けると兄者はその場に完全に倒れ込んだ。
もう自分の体を支えることも出来ないらしく、倒れこんだ姿のまま兄者は動かない。
ただ、その口だけを動かして、兄者は大きく息をついた。


(; _ゝ )「流石にこれは――」

( <_ ;)「――疲れたな」


弟者もそう返事を返すと、兄者の傍らに座り込む。そして、そのままその場に転がった。
さっきまで剥き身の刃を握っていたせいか、弟者の手からはまだ血が流れ続けている。
ともに満身創痍な状況。兄弟そろって、命があるのが不思議なくらいだった。


(; ^ω^)「大丈夫かお!」


そんな兄弟たちの傍らに、ブーンは飛び寄る。
ドクオはその場に浮いたままだったが、ブーンが動くのを見て慌てて飛びはじめた。
兄者も弟者も倒れこんだまま、ぴくりとも動こうとはしない。


(; _ゝ )「おい、弟者。いい加減に体力とか力とかその他もろもろを返せ。
      もう口と指くらいしか動かんのだが……」

( <_ ;)「兄者が持っていったままの、疲労痛み傷その他もろもろを返せば考えてやろう」


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762名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:10:25 ID:yZraviHw0


(;´_ゝ`)「ハハハー、何のことかなー」

(´<_`#)「ハハハー、もちろん兄者のことだ」


動こうとはせず、口だけを使って兄弟の応酬は続く。
視線だけを動かして睨み合うが、互いに限界なのか殴りあうような気配はない。
弟者は拗ねたように顔を尖らせ、兄者といえばそっと弟から視線をそらした。


(´<_`#)「いいから、早く返せ」

(;´_ゝ`)「ちょっ、やめ、おねがいやめ!」


視線を逸らした兄者の胸ぐらを、弟者が掴む。
力を使い果たしたように横になっていた弟者が、動くとは思っていなかったのだろう。
突然の弟者の動きに、兄者の顔が驚いたかのように歪む。
兄者は弟の腕になんとか抵抗しようと大声を上げ、その瞬間顔面を真っ青にした。


(; ゚_ゝ゚)「っう――!!」

(´<_`#)「さっさと返せと言っているだろう。この阿呆!」

(iii ´_ゝ`)「えー、大丈夫だってぇ。全然、大したこと無いし……」


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763名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:12:17 ID:yZraviHw0


(´<_`#)「何度同じことを言わせる気だ、この馬鹿」

(#´_ゝ`)「いいや、決めましたー。ダメーですぅー」


兄者はそう言い切ると、弟者から全力で目をそらす。
弟者はそんな兄の姿を睨みつけるが、殴りかかるわけにもいかなかったのか手を放す。


(;´_ゝ`)「っう……」

( ;ω;)「あばばばば、やめるお。やめるおー」

(;'A`)「お前ら兄弟は、どうしてこう仲が悪いんだ……」


ドクオの声が聞こえたのか、弟者から開放された兄者の口元がわずかに歪む。
しかし、何も告げる気はないのだろう。兄者の口からは言葉は出てこなかった。


( ;ω;)「アニジャー、だいじょうぶかお? こういうときは、だいじょうぶでいいんだおね?」

( ´_ゝ`)「ふむ。この場合は、大丈夫であってるな」

( ;ω;)「ほんとかお? アニジャはだいじょうぶかお? だいじょうぶ?」


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764名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:15:11 ID:yZraviHw0


兄者の口元の歪みが消え、変わりに笑みが浮かぶ。


(*´_ゝ`)「なんて言ったって俺は流石だからな。
       この程度ならば、全然平気だし。ものすごーく、元気な件」

( <_  )「……」


('A`;)::「――っ」


かわりに弟者の顔から表情らしいものが根こそぎ消えたのを、ドクオだけが見た。


(´<_` )「兄者、聞かせてくれ。
      俺に痛みを返さないのは、本当に大丈夫だからか?」

(;´_ゝ`)「う、え?」


風向きが変わったことを悟ったのだろう、兄者の表情に困惑が浮かぶ。
弟者の声は静かで、感情らしい感情が見えない。
……これはマズい傾向だ、という思いが、兄者の脳裏に小さく広がる。


(;´_ゝ`)「えっと、ちょっとくらいは痛い件?」


( ;゚_ゝ゚)と( <_  )


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765名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:16:13 ID:yZraviHw0


とりあえずそう告げてみた兄者に向けて、弟者の腕が伸びる。
弟者は兄者の服の胸元を掴み、力任せにぐいと持ち上げた。


(iii ゚_ゝ゚)「――っ」


兄者の顔が一気に白くなり、呻き声とも呼吸とも付かない声が喉から漏れる。


(iii _ゝ )「ぐっ……っカ……ハッ」

と(´<_`#)「これでも大丈夫だというのか!?
       本当はとっくに限界なんじゃないのか!?」


兄者の喉からは言葉にならない息が漏れるだけだ。
やめろと言いたいのか、何度か同じ形に口が動くが、それすらも声にならなかった。


(;゚A゚)「おい、兄者のやつ。やばいぞ!」

(#^ω^)「やめるお!!」

と(゚<_゚ ♯)「ろくに動けないんだろう? 話すことだって、つらいはずだ。
       なのに、なんで兄者はそうやってヘラヘラと笑っていられるんだ!!!」


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766名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:18:31 ID:yZraviHw0


ドクオとブーンが弟者の肩をひっぱり、彼を止めようとする。
しかし、一度激高した弟者は止まらない。


(iii _ゝ`)「……っぃ」

と(<_゚ #)「俺がいつもどんな思いでいたか、兄者はわかってるのか!!!」


(#^ω^)≪放すお!≫


なおも兄者を締め上げようとする弟者の動きを、魔力の流れが断ち切る。
ブーンの使った暗示の力により、弟者の手の力が緩み兄者から離れる。


(*'A`)」「よしっ、ブーンよくやった!」

(;^ω^)「オトジャだめだお! そういうのぜんぜん楽しくないお!」

( <_ #)「なんで……」


弟者の目が、魔法を放ったブーンを捉える。
その口が歪みブーンに向けて怒りの声を上げようとし――、響いた声がそれを止めた。


(iii _ゝ )「……わか……って……た」


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767名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:20:48 ID:yZraviHw0


途切れ途切れに響いたその声の主は、兄者だった。

弟者の動きが止まる。
一方の兄者は浅い呼吸を何度か繰り返し、ようやく深く息をついた。


(iii ´_ゝ`)「……ほんと……容赦ないの……な」

(;'A`)「おい、兄者。本当に大丈夫か?」

(iii ´_ゝ`)「あー、骨が何本かいってるかな? 命には別状はないと思われ」


そのまま動かずに呼吸を繰り返すと、兄者の顔色はようやく落ち着いた。
「痛かったー」と呟く表情は、もういつもの兄者のものだ。
本気なのか、それとも表情を取り繕っているだけなのか。人間の感情に疎いドクオには理解できない。


(;^ω^)「……オトジャ」

( <_  )「……」


弟者の顔からは、怒りの色は引いていた。
代わりに浮かぶのは、途方に暮れ呆然とした表情だった。


(´<_` )「……わかっていたとは、どういうことだ?」


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768名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:22:30 ID:yZraviHw0


辺りに沈黙が落ちる。
弟者の視線は今や、ブーンではなく兄者に向けられていた。


( ´_ゝ`)「……」

('A`)「おい、答えてやれよ兄者」

(;^ω^)「……」


ドクオが促すように、兄者の肩を叩く。
ブーンは黙りこくって、兄者の姿を見守っている。
沈黙は長いようにも短いようにも思えた。そして、兄者は黙り込んだ末に、ようやく口を開いた。


(;´_ゝ`)「……やっぱ、話さなきゃダメだよな」


こういうのは柄じゃないんだよな、と頬をかきながら兄者は言う。
「むむー」とか「ふむー」とか意味のない言葉を呟いた後で、兄者はようやく語り始めた。


(;´_ゝ`)「あー、お前が10年前の件で後悔してるのは知ってた。
      魔法や神秘のたぐいに俺を近づけないようにしてたのもな。まあ、やたらと暴力的ではあったけど」


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769名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:24:19 ID:yZraviHw0


(゚<_゚ ; )「気づいていたのか……」


弟者の瞳が、驚愕に見開かれた。
その声はかすかに震え、信じられないと呟いている。
そんな弟の態度に、失礼だなと言うように兄者は口元を歪ませた。


( ´_ゝ`)「だって、昔そう言ってたし。あれだけ露骨だと、流石の俺でも気づくわ。
      というか、弟者は俺が気づいているって知らなかったことに驚きな件。
      ブーンやドクオとかに対する態度とか、本当にもうひどかったし」

(;^ω^)て「そ、そうだったのかお!! オトジャはブーンがキライだったのかお?!」

('A`)「……ブーン。お前ってやつは、本当にいいやつだな」


心の底から驚いたような声を上げるブーンの姿に、ドクオはしみじみと言った。
ドクオとて弟者の行動原理を理解していたわけではない。しかし、嫌われているということくらいはわかっていた。
しかし、あれだけ無視され続けていたのに、嫌われていると思わなかったとは……。ブーンの脳天気さが、ドクオは少しだけ羨ましくなる。


(´<_` ;)「なら、どうして」

(;´_ゝ`)「いやぁー。俺もなぁー。
      弟者が頑張ってるなら、その通りにしてもいいかな〜って思ったこともあったさ」


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770名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:26:22 ID:yZraviHw0


( -_ゝ-)「でも」


ドクオの戸惑いなど気づかないように、兄弟の会話は続く。
兄者は瞳を閉じて沈黙した後、意を決したように言葉を告げる。


( ´_ゝ`)「世界はさ、俺らがまだ知らないものや、面白いもので満ちてるんだ。
      それを見ないふりをするだなんて、俺にはできない。ブーンじゃないが、そういうのは楽しくない」


そうやって、告げられた言葉はなんとも脳天気なものだった。
深い考えがあるだけではないその言葉に、ドクオは思わず声を上げようとする。
しかし、その言葉が向けられているのはドクオではなくて弟者だ。ドクオは出かかった声を、なんとか抑えた。


(*´_ゝ`)「お前が嫌いな、魔法や神秘のたぐいだってさ。悪いことだらけじゃないよ」

(´<_`#)「だが!」


弟者の声が怒りの色を帯びる。
しかし、弟のその様子に兄者は気分を害した様でもなく平然としていた。


( ´_ゝ`)「ブーンは悪いやつだったか?
      今日起こった出来事は、本当に散々なことばかりだったのか?」


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771名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:28:19 ID:yZraviHw0


( <_  ;)「――っ!」


そして告げられた問いかけに、弟者はとうとう言葉を失った。
何度か口を開いて反論しようとした末に、弟者はブーンの顔を見た。


(;^ω^)「……あうあう」

(´<_`; )「……」


弟者の口からは言葉が出ない。
かわりにその眉がひそめられて、表情の薄い顔に困った様な色が浮かぶ。
兄者はそんな弟の表情を見て取ると、それ以上はたたみかけようとはせずに話題を変えた。


(*´_ゝ`)「それにだなー。お前が心配するからちゃんと、魔法は使わなかったんだぞー。
       石板だけ……魔道具だけでなんとかしちゃったお兄ちゃんマジ偉い、マジ立派!」

(*^ω^)キャーカッコイイー  シンデー('A`*)


(*´_ゝ`)「ほら、石板魔法ってもさー、魔力なしで誰でも使える便利アイテムだからさー。
       技術の進歩って偉大だよねー。こんなに使えるんだって、わかったろ? だから今後も使用の許可をオネシャス」


ドゲシッ(#´_>`)つ)#)゚_ゝ゚)アイヤー


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772名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:31:58 ID:yZraviHw0


(´<_`#)「こ の 大 嘘 つ き が !」


怒りが限界を超えたのだろう、弟者は兄の顔を殴りつけると、とうとう大声を上げた。
さっきまで「とっくに限界なのだろう」と問いかけていたのと同じ人間とは思えない殴りっぷりに、ドクオは言葉を失った。


(#);_ゝ;)「ひどいっ、弟者たんのおにちくっ! 悪魔の所業っ!」

(´<_`#)「マッチ程度の火しか出せないシロモノで、あんな大火力出しておいて何言ってやがる!
      さんざん魔力を使い倒しておいて、何が便利アイテムだ! それに最後の攻撃、お前その場で魔法石板作っただろ!
      ”使う”と”作る”じゃ大違いだ、この阿呆!」

(;´_ゝ`))「ヤ、ヤダナーソンナコトシテナイデスヨー。
       そ、それに仮についさっきというか今作ってたとしても、石板使ったことにはかわりないじゃないですかー」


(;'A`)「……お前ら、なんだかんだ言って本当は元気だろ」


殴られたと文句を言う兄に、怒り顔で詰め寄る弟。
その姿は兄者が動かないことさえ除けば、朝から見慣れた二人の姿そのものだ。


⊂(´<_`#)「俺に気を使ったつもりだろうが……全然気遣いになってないぞ。
        わざわざ面倒くさい真似しやがって、このアホ兄貴! 馬鹿たれ!」


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773名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:34:30 ID:yZraviHw0


( ´_ゝ`)「……だって、かっこつけたかったんだもん」


弟者に言われるがままになっていた兄者が、ぼそりと声を上げる。
その声は小さかったが、弟者はしっかりと聞いていた。


(´<_`#)「は?」

(#´_ゝ`)「俺だってお兄ちゃんだから、弟に対してかっこつけたくなるんですぅぅ!!!」


弟に聞きつけられて開き直ったのか、兄者は大きな声を上げる。
しかし、そう言い切ったことで満足したのか、兄者は怒りの表情を引っ込める。


( ´_ゝ`)「俺は、お前や妹者の兄貴だからな。こういう時くらいは、かっこつけさせてくれ」


そして、あげられた言葉は、先ほど上げた声とは対照的に落ち着いていた。
その真剣ともいえる言葉に、弟者の表情が固まる。
弟者の顔から興奮した様子が掻き消え、浮かんでいた表情が消える。


( <_  )「……」


一瞬、和らいだ空気が再び凍っていく。
兄者がしまったと思う頃には、もう遅かった――。


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774名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:36:52 ID:yZraviHw0


(;^ω^)「お? どうしたんだお?」


弟者の表情の変化に、ブーンが声を上げた。
しかし、ブーンの声に言葉を返すものは誰もいない。


(´<_` )「……兄者は俺だ」


長い長い沈黙の末、弟者は口にする。
絞り出したようなその声は、とても小さかった。


(´<_` )「俺の考えることが兄者の考えることで、兄者の考えることが俺の考えることだろう?」


泣くのを我慢する、子供のような声だった。
それでも、弟者の顔には何の表情も浮かんではいかなった。


(´<_` )「だから、兄貴なんて言うのは止めろ……」


泣くわけでも、すがるでもないその姿に、兄者は黙り込んだ。


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775名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:39:18 ID:yZraviHw0


( -_ゝ-)「……」


再び沈黙が流れた。
兄者は長い長い時間をかけて、弟者へ向ける言葉を探しているようだった。
沈黙は重く、どう反応していいのかわからないらしいブーンが辺りを飛び回りはじめる。


( ´_ゝ`)「弟者。お前も本当はわかっているんだろう?
      こうしてつながってしまってはいるけど、俺とお前は別の存在だって」


そして、沈黙の末。
兄者はようやく答えを口にした。


(´<_` )「……兄者が何を言いたいのかわからない。俺は兄者で、兄者は俺だ」


('A`)「……」


それが、兄者と弟者の間にある決定的な考えの違いなのだろうと、ドクオは悟る。
遺跡の中でドクオが兄者に問いかけた、仲が悪いだろうという問いの答えはきっとこれなのだろう。
双子だから、魂を共有しているからこそ発生する、決定的な価値観の相違。
「仲が悪いわけじゃないんだ」という兄者の言葉の意味が、ドクオにはようやく理解できた気がした。


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776名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:40:33 ID:yZraviHw0


(;´_ゝ`)「あー、違うって言っても通じないんだろうなぁ、お前さんには。
      お前の言いたいこともわかるが、それは違うんだ。間違ってる」


兄者の言葉は、途切れ途切れではっきりとしなかった。
しかし、そこには紛れも無く真剣な響きがあった。


( ´_ゝ`)「俺とおまえは確かにつながっている。それは変えようのない事実だ。
      だけど、さ。一度別れてしまったものは、もう取り戻すことなんて出来ないんだよ」


兄者の言葉に、弟者の眉がぴくりと動く。
弟者は顔をしかめ不愉快だという表情を隠しもしなかったが、兄の言葉をじっと聞いていた。


( ´_ゝ`)つ「お前の毛並みは若草の色だろう? 俺は、空の色だ。染めたってもう元には戻らない。
        お前の背は俺よりずっと高いよな。誰も、俺がお前の兄貴だなんて思わない」


( ´_ゝ`)「お前は星が読めるか? 風は、空は読めるか? 無理だよな。
      俺だってお前から力をぶんどったとしても弟者みたいに動けないし、料理だって作れない」


「ほら、違うだろう?」と兄者は言う。
そして、彼は真剣な表情のままさらに続きを口にする。


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777名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:43:40 ID:yZraviHw0

       オレ   オレ
( ´_ゝ`)「兄者は弟者じゃない。
      だって、そうじゃないと俺らが別の人間として生まれた意味がないだろう?」


――それは、弟者にとって致命的な一言だった。
兄者がそれに気づいているかどうかは、わからない。
しかし、その言葉は兄者がこれまでの思いを何とか言葉にしているようにも見えた。


(´<_` )「……俺は!」

             オレ  オレ
( ´_ゝ`)「それにさ、兄者は弟者であるよりも、お前や妹者の兄貴でいたい」


弟者の言葉を遮るようにして、兄者が最後の言葉を口にする。
言い切ると同時に、兄者の顔にようやく笑みが浮かんだ。


(´<_` )「……」

( ´_ゝ`)σ「まあ、お兄ちゃんとしては、弟者はちょっとばかし俺に甘えすぎではないのかと思うのだが。
        俺にばっかりべったりしてないで、少しはお兄ちゃん離れしなさいってことだ」


そして、出た言葉はかなりふざけた口調だった。
これまでの真剣な様子を恥ずかしいとでも思ったのか、兄者の口調にはさっきまでの真面目さは欠片もない。


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778名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:45:07 ID:yZraviHw0


( <_  ;)「そんな子供みたいなことはしていない」

( ´_ゝ`)「ええ? そうかぁ?」

(´<_`#)「だが、しかしっ!」


弟者の言葉は激しかった。
しかし、怒りの表情を浮かべながらも、弟者の口からそれ以上の言葉が出てこない。
ドクオは兄弟の姿をまじまじと眺め。そして、弟者に向けて助け舟をだすように、口を開いていた。


(;'A`)「……話し中のとこすまないが、兄者の話に説得力が皆無なんだが」


自分でも、どうしてそのようなことを言い出したのかドクオ自身もわからない。
ただ、一度話しだすとそれから先は意識しないでも、言葉はあふれだす。


(;´_ゝ`)て「なんと!」


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779名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:48:11 ID:yZraviHw0


('A`)「あっさりと盗賊の人質になった姿をオレは忘れない」

(;´_ゝ`)「ぐ、ぐぬ?!」

('A`)「砂クジラにふらふら近づこうとした姿をオレは忘れない」

(;´_ゝ`)て「はひぃ?!」


ドクオの言葉に、兄者の言葉の調子が面白いほど変わる。
先程までの真剣な色は薄れ、ろくに意味を成さない声が兄者の口からあがる。
それに調子を良くして、ドクオは思うがままに語り始めた。


('A`)「弟者の思惑に気づいてたのに、そのまま放置。
   思うところがあってもなかなか言えないで、その挙句に兄弟仲悪化!」

::::( ∩_ゝ∩)::「ごめんなさい、俺が悪かったです」


途中から兄者が涙目になるが、ドクオは止まらなかった。
影の精霊の性質なのだろう。ドクオは意識しないまま、兄者が言われたら嫌であろう言葉を投げつけていた。


('A`)σ「ぶっちゃけ、学習能力ないだろお前……」

(;^ω^)て「もうやめてあげてー!!!」


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780名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:49:05 ID:yZraviHw0


('A`)⊂(´<_`#) ガシッ


そして、その瞬間。横から伸びてきた腕に、ドクオの体は掴まれた。
ぎりぎりと力を込めて、ドクオの細い体が握りつけられる。
ドクオを潰さんばかりに力を込めるその手は、弟者のものだ。弟者は、怒りの色を隠さないまま叫ぶ。


(´<_`#)「俺に何を言う、このクソ精霊!!」

(;´_ゝ`)「だから、俺はお前じゃなくて兄者でぇぇぇ!!!」

(´<_`#)「どっちも同じだろ、クソ兄者! どうせ半分は俺だ」

::(;゚A゚)::「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


(;^ω^)「あばばばば」


ピントのズレた弟者の言葉に、兄者の悲鳴にも似た声が重なる。
しかし、弟者は兄の声に、罵声にも似た言葉を投げ返した。
ただ一人、その場の会話の流れに置いて行かれたブーンは、どうすることも出来ずに言葉にもならない声を上げる。


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781名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:51:36 ID:yZraviHw0


(;´_ゝ`)「だぁーかぁーらぁー!! もう大人なんだからやめなさいって!
      お前がお兄ちゃんのことを俺というたびに、家庭内の空気がどんどんと悪く」

(´<_`*)「……誰も居ないところならいいのか、俺?」


兄者の言葉に、ずっと機嫌が悪そうにしていた弟者の表情が輝く。
その表情を見て、兄者はとうとう頭をガクリと落とした。
体の具合が良ければ頭を抱えたり、両手を振り上げていたであろう勢いで兄者は大きく嘆く。


(#´_ゝ`)「そういう問題じゃない! 嬉しそうにするのもやめ!
       自分と他人はしっかりと区別しなさいというお話だ!」
 _,
(´<_` )「む? よくわからんぞ、兄者。だって兄者は俺なんだろ?」

(;´_ゝ`)「ああ、もう! これだから嫌だったんだ俺は!
      こんなもん子供のうちに、自然とわかる問題だぞ」


(;^ω^).。oO(なんだかわかんないけど、たいへんだおー)


兄弟の話の流れに置いて行かれた、ブーンは首をかしげながら思う。
そして、精霊のもう一人。弟者の手に握られているドクオは、ふと思った。


('A`).。oO(あ、これオレ助かったんじゃね?)


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782名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:53:23 ID:yZraviHw0


(´<_` )「?」

(  _ゝ )「もうやだ、お兄ちゃんやめたい。
        なんで、本気でわからないとかそんな顔してるの?」

(´<_` )「……つまり、俺の方が兄をやればいいのか?
      まあたしかに、肉体的には俺のほうが2年ほど年上になるが……」

(#´_ゝ`)「ダメー、お兄ちゃんの座はゆずりません!!」

(´<_` )「……? 違うのか?」


双子は互いにしかわからない話をずっと続けている。
ドクオは兄弟の言葉を、なんとなく聞きながら。彼ら兄弟がもめている根本的な原因に気づいた。
なるほどそういうことか、とドクオは弟者に握りつけられているのをすっかり忘れて、呟いた。


('A`)「つまりは、弟者が兄離れできない心配性だったのが全ての原因だと」


('A`)⊂(´<_`#)ギリギリギリ


その言葉と、弟者の腕に力がこもるのはほぼ同時だった。
弟者は兄者との言い争いに必死だったのを忘れて、腕に力を入れドクオの体を締め付けていく。
その力は、細いドクオの体を引きちぎろうとするほど強力だ。


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783名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:55:37 ID:yZraviHw0


(;゚ω゚)て

(;´_ゝ`)「ちょ、弟者弟者! 顔が真顔! やめて!」


弟者の行動に、ブーンの表情が凍る。
突如黙り込んだ弟を不思議に思った兄者も、顔を上げて真っ青になった。


(;゚A゚)「イダイイダイ!! 羽もげちゃうぅぅ!!!」

(´<_` )「オレとしては死んでくれても問題はないのだが」


( ;ω;)「おーん! やめるおー!!!」


ドクオを握る弟者の手にさらに力がこもる。
締め付けられる力は一向に緩む気配はなく、やがてドクオの意識が遠のいていく。


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784名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:57:26 ID:yZraviHw0


(#´_ゝ`)「やめろ!!」


兄者の声が聞えると、ドクオは思った。
――そう思うと同時に、弟者の手の力が急に弱くなる。


(*'A`)「勝つる!」


しめたと思いながら、ドクオは弟者の手の間から脱出すると、あわてて距離をとった。


(;'A`)「ふぅ。たすかったぁぁぁ……」

(´<_`#)「このっ!」


弟者が、逃げたドクオを再びつかもうと腕を伸ばす。
それを押さえ込んだのはブーンと、動けなくなっていたはずの兄者だった。


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785名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:00:04 ID:yZraviHw0


(#´_ゝ`)つ「いい加減にしろ。これ以上やるなら、日干しにするぞ!」


兄者の一喝が、弟に向けて飛ぶ。
さっきまでちっとも動けなかったのが嘘のように、兄者の体はがっちりと弟を押さえ込んでいる。


(゚<_゚ ii)「――ぐっ」


一方、押さえつけられた弟者の顔は真っ青だ。
その唐突な弟者の変化に、ドクオは兄者が弟者の力を奪ったのかとようやく気づく。いや、痛みを戻したのかもしれない。
そうか、兄者にも出来たのかとドクオは弟者の姿を眺めながら思った。


(∩#´_ゝ`)∩「弟者っ、返事っ!」

(´<_` ii)「とてつもなく痛いのだが……」

( ´_ゝ`)「安心しろ、俺はもっと痛いから」


顔を青くした弟者は、先ほどまでとは一転してかすれた声で言う。
そんな弟に視線を向けながら、兄者はきっぱりと言い切った。


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786名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:02:42 ID:yZraviHw0


(´<_` ii)「なんだと……よくもそれで、大丈夫だと言ったな」

(;^ω^)「いたいのはよくないお……」

(;´_ゝ`)「あー、正直すまんかった」


兄弟とブーンの会話に、ドクオは今度こそ本当に助かったらしいと悟る。
しかし、このままでいれば、また下手なことを呟いて弟者に握りつぶされかねない。
ドクオはなんとか弟の前から脱出できないかと、辺りを見回し――気づく。


('∀`)「結界が解けてるじゃねーか!!!」


ゴーレムの出現以後、部屋にかかっていた結界が消えている。
どういうわけで、結界が消えたのかはドクオにはわからない。
しかし、脱出を阻んでいた障害が消えたことに、ドクオは心の底から喜んだ。


(;´_ゝ`)「なんと!!」

(; ゚ω゚)「え? え? どうしたんだお?!」


('A`)>「というわけで、オレは助けを求めに行ってくるから!」


.

787名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:04:16 ID:yZraviHw0


兄者やブーンの驚きの声に言葉を返さないまま、ドクオの姿が掻き消えた。
どうやら影に潜り込んだらしい。と、兄者は少し遅れて理解する。


(;^ω^)「おーん、ドクオまつおー!!」


ブーンも少し遅れて理解したのか、ドクオの消えた先――、影へと飛び込もうとする。
が、ブーンの体は音を立てて、固い地面へと激突した。
ブーンは起き上がると、ドクオが潜り込んだ草むらの影ヘ向けて腕を伸ばす。


( ´ω`)ノ「入れないお……」


影を叩いてみるが、地面の硬い感触が返ってくるだけで何も反応がない。
ブーンは肩を落とすと、兄者や弟者の元へと舞い戻る。


(;´_ゝ`)σ「逃げたわけじゃないよな……さっき思いっきり、弟者に握りつぶされてたし」

(-<_- ii)「知らん。俺は兄者のいうことはもう聞かん」

(;´_ゝ`)「……弟者のやつまた、スネてるし」


ブーンが舞い戻った先では、双子の兄弟はまた言い争いをはじめた。
しかし、その空気は先程までと比べると幾分か柔らかい。


.

788名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:07:03 ID:yZraviHw0


(-<_- ii)「拗ねてない」

(;´_ゝ`)>「ちぇー、スネてると思うんだけどなぁ」


兄者は大きく溜息をつくと、ブーンに向けて苦笑いをしてみせる。
兄者はさてどうしようと辺りを見回し、草むらへと視線を向ける。


( ´_ゝ`)「弟者の尊い犠牲のお陰で動けるようになったし。今のうちに……」

( ^ω^)「アニジャ、どうしたんだお?」

( ´_ゝ`)「ちょっと忘れ物をだな」


兄者はブーンの言葉に応えると、壁へと向かって足を向ける。
顔を時折、引きつらせるのはまだ胸や体が痛むからなのだろう。
弟者が不機嫌そうに眉をひそめたが、兄を力づくで止めようとまではしなかった。


(*´_ゝ`)「よしっ――」


兄者は草をかき分けて進むと辺りを見回し、そしてその場に屈みこんだ。
何かを拾い上げているようだが、それが何かまでは弟者の場所からは見えない。
それは何だと弟者が問いかけるよりも早く、兄者は拾い上げたそれを懐へと仕舞いこんでいた。


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789名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:08:39 ID:yZraviHw0

 _,
(´<_` )「……」

( ^ω^)「うーん、何だおねー?」

(´<_` )「さてな」


( ゚ω゚) !


弟者の短い素っ気ない返事に、ブーンの瞳が大きく見開かれる。
なにかおかしな事でも言っただろうかと弟者は内心で首を傾け、ブーンに向けて短く問いかける。


(´<_` )「……どうした?」

(*^ω^)「オトジャがお話してくれたお! うれしいお!!」


話すだけならもっと前から話しているだろうと弟者は言いかけて、その言葉を飲み込む。
弟者がブーンにしっかりと話しだしたのは、ゴーレムが出現した時からだ。
ブーンからしてみれば、非常事態に対応するための一時的な手段と思っても不思議ではないだろう。


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790名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:10:16 ID:yZraviHw0

喜ぶのはそれでか。
弟者は、ブーンの考えを推測すると小さく笑みを浮かべる。


(´<_` )「そんなことが嬉しいとは、ブーンは変なやつだな」

(#^ω^)「そんなことじゃないお! ブーンにとってはすっごく大事なんだお!」


ブーンの様子が真剣なものだから、弟者はつい笑ってしまう。
そして、笑ってから弟者は、あれだけ毛嫌いをしていた精霊相手に笑える自分に驚いた。

  _,
( ^ω^)「むぅぅ、なんでオトジャは笑うんだお?」

(´<_` )「さてな」

(;^ω^)「オトジャがいじわるするおー」


不思議と嫌悪感は湧き上がってこなかった。
むしろ、こうなってしまえばもっと前から話せばよかったとすら思えるから不思議だ。


(´<_`*)「はいはい」


ブーンの言葉に弟者は笑って、空を見上げた。
脇腹をはじめとした体の至る部分が痛みを訴えてくるが、そう嫌な気持ちではなかった。


.

791名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:13:16 ID:yZraviHw0





ドクオが帰ってくる気配はなかった。
逃げてしまったのか、それとも本人の申告の通り助けを呼びに行ったのか。
確かめることが出来ない弟者にはわからない。


(´<_`; ).。oO(流石にいつまでもこのままというわけには、いかないな)


しかし、外に出る気力や体力は、尽き果ててしまっている。
痛みを訴える脇腹や、疲労にあえぐ全身が、もう寝てしまえと強烈に誘いかけてくる。
それでも、どうにかして外に出なければならない。


(´<_` )「兄者、いつまでそうしている。
      動けるならばそろそろ助けを――」


意を決して声を上げた、その瞬間。
弟者の目の前に、薄水色の毛並みの手がつきつけられる。
驚いて視線をあげると、そこには辺りを歩いて満足したらしい兄者の姿があった。


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792名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:14:59 ID:yZraviHw0


( ´_ゝ`)「ほい、忘れ物。これを忘れるなんてとんでもない」

(´<_`;)「あ……ああ」


兄者の手から差し出されたものを弟者は受け取る。
一体なんだろうと手を開いてみれば、そこにあるのは金貨や銀貨だった。
――そういえば、ゴーレムに向けて投げつけていたのだった。
弟者はそう思い、礼を言おうとして――扉の外が、急に騒がしくなっていることに気づいた。


(   )「…い!……、  !      …か!?」

(   )「  える?      、…    !」


ドンドンと何かを叩きつける音、それから扉越しではっきりしないが呼びかける声も聞こえる。


(´<_` )「兄者、何か聞こえ……」


弟者がそう声を上げた瞬間、足元が揺らぐ。
一体、何事だと弟者はシャムシールの柄に手を掛ける。
敵か? だとしたら戦わなければならない――。


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793名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:16:16 ID:yZraviHw0


しかし、弟者の警戒は杞憂で終わった。
弟者の足元を一瞬だけ揺るがして登場したのは、ドクオだった。


(;'A`)「おい! 人を呼んできたぞ!」


おそらくは、影から出たのであろう。
ドクオは自らの言葉通り、ちゃんと仕事を果たしたらしい。
逃げたのではなかったのか、と弟者は反射的に言いかけて、精霊ではあるとはいえ流石に失礼かと思い直す。


(*´_ゝ`)「おお、本当に助けを呼んできたのか! てっきり逃げたのかと!」

<(;'A`)>「もう、それは忘れてくれ!」


一方の兄者は、ドクオに驚いたような表情を浮かべると、すぐにそう言い放った。
どうやら兄者は思慮という言葉をどこかに置き去りにしてきてしまったらしい。


( ^ω^)「ドクオ、呼んできたって誰をだお?」

(;'A`)「そうだ! そうだよ、聞いてくれよ!」


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794名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:18:14 ID:yZraviHw0


ドクオは兄者の言葉に頭を抱えてのたうちまわった末、扉を指さした。


(;'A`)ノ「ちゃんと連れてきたぞ、麗しのしぃさんを!」

(,,#゚Д゚)「ゴルァーーっ!!!」


ドクオの声と、男の野太い声が聞こえるのはほぼ同時だった。
全身の毛を逆立てたギコが、扉をこじ開けその中へと入ってくる。


(,,#゚Д゚)「坊主ども、いるか!?」

( ;_ゝ;)「しぃ者、随分とゴツくなって!」

(;^ω^) !?


兄者たちのいる最奥の壁際と、入り口の扉は遠い。
だから、あまりにもひどいその言葉はギコには届かなかった。


(,,*゚Д゚)「よかった! そこにいやがったか!」

(;゚ー゚)「みんな、大丈夫?!」


.

795名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:20:13 ID:yZraviHw0


ギコの後に続くようにして、しぃの姿が現れる。
黒のドレスと赤の飾り紐が風に揺れ、しぃの桃色の毛並みが鮮やかに見えた。
広間の一番奥に兄者や弟者がいることに気づくと、しぃはドレスが汚れるのにも構わず駆け出した。


(;゚ー゚)「血まみれじゃない!? 大丈夫なの兄者くん」


しぃは長い距離を駆け抜け兄弟のすぐ傍らにたどりつくと、顔を青くした。
手当も何もしていない兄者の頭は、流れだした血で赤く染まっている。


( ´_ゝ`)「あー、これは俺じゃなくて弟者が」

(#゚ー゚)「兄者くんは、黙ってて!」

(;´_ゝ`)て「なんと理不尽な!?」


そう叫んだ瞬間に、口の中が切れたのか、兄者の口元から血が溢れ出る。
兄者はあわてて血を拭うが、その行動は遅かった。
しぃは真っ青な顔で兄者の怪我を見、弟者の様子を尋ねた。


(;゚−゚)「弟者くんは、大丈夫なの?」

(´<_`; )「俺は、兄者に比べればマ」

(#゚ー゚)「やっぱり、血が出てる。それに、全身ボロボロじゃない」


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796名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:22:56 ID:yZraviHw0


(,;゚Д゚)「おい、本当に何かあったのか?」


最奥の間は、ギコが知るものとは異なっていた。
何か大きなものに滅茶苦茶にされた地面と、踏み荒らされた草。
部屋の奥には何処から出現したのかわからない、大きな岩の塊――ゴーレムの成れの果てがゴロゴロとしている。
祭壇の周りは割れたり倒れたりした壺や燭台が散乱している。

そして何より目を引いたのは、部屋の最も奥に位置する壁が焼け焦げたかのように黒く汚れていることだ。


( ´ω`)「すっごいいろいろあったんだお……たいへんなんだお……」

(,,;゚Д゚)「二人はボロボロだし、一体どうしたんだ」


武器を構え周囲を警戒し、何もないことを確認したところでギコはそう口にした。
しかし、ギコの疑問に答えるものはいない。
正確にはブーンが答えているのだが、ブーンの言葉では説明にはなっていないし、精霊を見ることの出来ないギコにはわからない。


(,,;゚Д゚)「おい、兄者」

(;゚ー゚)「ギコくん。今はそれより応急処置を」

(,,;-Д-)「……だな」


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797名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:24:21 ID:yZraviHw0

ギコは背負っていた荷物から、何やら袋を取り出すとしぃに手渡した。
そこには包帯や塗り薬らしきものが入れられている。


(;゚ー゚)「怪我の具合はどうなの?」

(;´_ゝ`)「そう言われると、説明のしづらい……」

(*'A`)ノ「しぃさん、お手伝いしますぅ!」


しぃは袋の中から布を水筒と取り出すと、兄者の被り布を外し傷の観察をはじめる。
兄者はそれに、居心地悪そうに視線を外すと、言葉を濁す。
ドクオはといえばしぃと一緒にいるのが嬉しいのか、ニヤニヤと笑顔を浮かべしぃの周りをひたすら飛び回っている。


(*'∀`)「しぃさん! しぃさん!」

(;´_ゝ`)「お前はちょっと黙ったほうがいいと思う件」

(;゚ー゚)「ほら、兄者くん。おしゃべりしてないで、ちゃんと怪我を見せて」

(#'A`)「ずるいぞ! オレだってしぃさんに優しく手当てされたい!」


しぃは兄者の怪我の具合を見ると、困ったように息をついた。


(;゚ぺ)「どうしよう、仙丹で足りるかしら。あまり具合がひどいようなら、もっと他のお薬を……」


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798名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:27:16 ID:yZraviHw0


(,,゚Д゚)「弟者は手を出せ。薬の前に怪我の方をどうにかする」

と(´<_` )「把握した」

( ^ω^)「いたいのいたいのとんでいけーだお!」


一方、弟者にはギコが慣れた手つきで治療の準備を始める。
弟者の手を眺め「無茶しやがって」と口にすると、鞄の中から布を引っ張り出した。


(´<_` )「それは何だ?」


( ^ω^)「オマジナイってやつらしいおー」

(,,;゚Д゚)「え? 止血用の普通の布だが……」


弟者の問いかけに、ブーンとギコが同時に言葉を返す。
両者の答えに弟者は「ふむ」と呟くだけだ。
弟者の様子にギコは「そんなに変なものに見えるか?」大きく首をかしげると、弟者の腕を縛り上げ止血をしていく。


(´<_`;)「また、あの胡散臭い薬を飲まされるのか……」


弟者はギコにされるがままになりながら、小さく呟いた。


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799名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:28:58 ID:yZraviHw0




治療にはそれほどの時間はかからなかった。
弟者は「あんな胡散臭い薬は嫌だ」と抵抗していたが、それも虚しく終わった。
しぃの笑顔と、ブーンの「おクスリのまなきゃダメだおー」という言葉が効いたらしいが真相は定かではない。


ヾ(*´_ゝ`)ノ「見ろ、ブーン!! 俺、復活! 俺、ふっかーつ!!」

( ;ω;)「よかったおー」


兄者も弟者も受けたダメージが大きすぎたためか、仙丹を使っても完全回復というわけには行かなかった。
とはいえ、一時は完全に動けなくなっていた兄者にとってはそれでも嬉しいのだろう。大はしゃぎだった。


(;゚ー゚)「もう、あくまで応急処置なんだから無茶しないで」

(´<_`;)「……応急処置ってことは、まだあるのか?」

(,,;-Д-)「しぃは胡散臭い薬を集めるのが好きだからな。覚悟しとけ」


(*'A`)「しぃさん……なんて素敵な趣味なんだ」


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800名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:30:36 ID:yZraviHw0


( ´_ゝ`)b「まぁ、何事も経験だ。諦めろ」


眉をひそめて嫌そうな表情を浮かべた弟に向けて、兄者は言い放つ。
弟者はその言葉に言葉を返そうとして、ギコが何かを言おうとしていることに気づいた。
弟者が顔を向けると、ギコはそれを会話終了の合図と見たのか、大きく口を開いた。


(,,゚Д゚)「――で、何があったんだ?」

(*゚−゚)「……」


猫の耳をピン立てて告げたギコの言葉に、兄者の顔がひきつり固まる。
兄者は助けを求めるように視線を右へ左へと泳がせたが、誰からも助けを出そうとはしない。
兄者は「ぐぬ」と奇声を発すると、答えを考えこむように黙った後ゆっくりと声を上げた。


(;´_ゝ`)「……いや、ちょっと大冒険みたいな?」

(´<_` )「ゴーレムが出た」


(,, Д )    ゚ ゚


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801名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:32:47 ID:yZraviHw0


おそらくは話が穏便に済むようにと考えられた言葉は、弟者によって即座に打ち砕かれた。
その言葉に、ギコは絶句し、目玉が飛び出さんばかりに目を見開いた。
青い毛並みに覆われた顔が青ざめ、尻尾が一気に逆立つ。


(,,ii゚Д゚)「な、ななななな」

(;゚ 。゚)「そ、それってどういうこと?」


ゴーレムという言葉は、ギコにもしぃにも覚えがあった。
その昔に、猛威を振るったという人工の怪物。その名は老人の口や、お伽話によって聞かされている。
さらに言えば、しぃはソーサク遺跡の調査の責任者を務める学者だ。
ゴーレムが出現した時の恐ろしさは、彼女が誰よりもよくわかっていた。

 _,
(´<_`#)「どういうことだもない。ここは安全なんじゃなかったのか?」

(,,ii゚Д゚)「何十回も調査してるんだぞ、何でよりにもよってそんなことに」

( - -)「ギコくん。もういいわ、これはこちらの落ち度よ。
     本当にごめんなさい」


動揺を隠しきれないギコとは対照的に、しぃは冷静さを取り戻していた。
責任者らしくピンと背筋を伸ばして、彼女は謝罪の礼をとる。そこには先ほどまでの動揺は微塵も見られない。
代わりに、緊張をたたえたような硬い表情だけがそこにあった。


.

802名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:34:33 ID:yZraviHw0


(;´_ゝ`)「ギコ者やしぃ者が悪いわけじゃないんだから、時に落ち着け弟者!
      しぃ者もそこまで深刻にならなくとも、俺らは平気だし。大事には……」

(*゚−゚)「ダメよ。責任はちゃんと取らなきゃいけないわ。
    申し訳ないのだけれど、ここを出たらもっと詳しく話を聞かせて貰える?」

(;´_ゝ`)「……ぐ、ぬぅ」


しぃの言葉は正論だ。
それがわかってしまうから、兄者もそれ以上庇い立てするような言葉が出せない。


(,,;-Д-)「……」

(´<_`;)「……」

( ^ω^)「……お?」


しぃの言葉を否定するものは誰もいなかった。
弟者はしぃの言葉に毒気を抜かれたように黙り込み、ギコは悔しそうな表情を浮かべ小さく舌打ちをする。
ただ一人、状況をあまり理解できていないらしいブーンだけが、首を横にかしげて飛んでいた。


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803名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:36:09 ID:yZraviHw0


( ゚−゚)「じゃあ、話は後ですることにして、とりあえずは外に出ましょう?
     ここじゃあ、何かあっても対処できないわ」

(*'A`)「素晴らしいです、しぃさん!」

(*゚ー゚)「ギコくんも、ね?」

(,,-Д-)「……わかったよ」


誰からの答えがないのを、肯定の合図ととったのかしぃが話をまとめる。
彼女はなだめるようにギコの肩を叩くと、兄者と弟者を扉へ向かうように促す。


( ´_ゝ`)「うーむ。名残惜しいような気がするが、この場所とはお別れか」

(´<_`;)「名残惜しいなどとよく言えたものだな。俺はこんなところはもう御免だ」

( ´ω`)「もう出れないかと思ったお…」


そんな会話を繰り広げながら、兄弟は立ち上がる。
治療の甲斐もあって、二人の足取りは軽い。遺跡から出るのには何の支障も無いだろう。
先ほどまで大怪我をしていたとは思えない彼らの気楽な様子に、ギコは大きく溜息を付いた。


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804名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:38:08 ID:yZraviHw0


(,,;゚Д゚)「まったく、お前ら二人は。
     どうしてそう毎度、毎度、厄介事に巻き込まれるんだ?」


それは、ギコにとっては心の底から出た言葉だった。
信じられないという気持ちと、おそらく自分ならば耐えられないだろうという感服の気持ちを込めてギコは告げる。


(´<_`#)「そんなの俺が知りたいくらいだ」

(,,-Д-)「ほんとに、毎回命があるのが不思議なくらいだぞ」

(*´_ゝ`)「うむ。退屈な日常にはこれくらいのスパイスがないとな」

(´<_`#)「兄者はっ――、」


ギコと兄者の言葉に声を荒げながら、弟者の思考は一瞬止まった。

兄者は余裕な様子で、笑顔を浮かべている。
あれほどひどい目にあったのに、笑っていられる兄者が不思議で……。
自分はこんなにも苛ついているのというのに、どうして兄者はそうなんだと声を上げようとして、弟者はふと気づく。


(´<_` )「……」


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805名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:40:20 ID:yZraviHw0





――俺と、兄者が違うというのはこういうことか。





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806名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:42:16 ID:yZraviHw0


考えてみれば当たり前なことだったが、それは弟者にとってはじめての感覚だった。
こんな簡単なことに、なぜこれまで気づかなかったのだろう。
そう不思議に思いかけたところで、弟者は先ほどの兄者の発言に聞き逃せない部分があったことにようやく気づく。


( ´_ゝ`)「ん? どうかしたか?」

(´<_`#)「こんなことがそう毎度毎度あってたまるか。
       お前はアホか! 馬鹿か! 死ぬのか!」

('A`)「同じようなこと兄の方も言ってなかったか?」

( ^ω^)「んー、おそろいなのかお?」

(´<_`#)「こんなのと一緒にされてたまるか!!!」


気づけば、兄者はにやにやと笑顔を浮かべている。
何が面白いのかわからないが、兄者は笑いながら口を開いた。


( ´_ゝ`)「でも、ま。大丈夫だろうさ。
      俺だけなら死ぬかもしれんが、俺にはよくできた弟がいるしな」

(´<_` )「……なんというか。兄者はたまに本気ですごいな」


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807名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:44:23 ID:yZraviHw0


「俺」ではなくて、弟扱いされたのは癪だった。
けれども、いつもの笑顔でそう言い切れる兄者は、実はすごいやつなのではないか。
――気づけば弟者は、そう自然に思っていた。


\(*´_ゝ`)/「そうかそうか〜。お兄ちゃんは本当にすごいか〜
          かっこよくてイッケメーン!で、道行くおにゃのこたちも惚れちゃう感じか」

(´<_` )「ああ、自分一人で必死だったのがアホらしくなった。
      でも、イッケメーン!じゃないし、道行くおにゃのこたちは惚れないから安心しろ」

\( ;_ゝ;)/「ひどい」


「俺」というくくりを外して、兄者を別の人間としてみる。
兄者の言うことは今はまだ正直よくわからないが、少しずつ気づいて、慣れていけばいい。
いくらでも時間はあるのだから――。

弟者ははじめて、自分とは違う存在である兄へと向けて、言った。


(´<_`*)「流石だよ、兄者は」


弟者は笑顔を浮かべている。
それは人ではないブーンやドクオのような精霊ではなかなかできない、少年のような笑みだった。


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808名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:46:38 ID:yZraviHw0


(,,゚Д゚)「おい、いつまで話してるんだ? さっさと行くぞ!」

(*゚−゚)「もしかして、まだ具合が悪い?」


ギコとしぃが、呼ぶ声が聞こえる。
いつの間にやらギコは、しぃとともに扉の間近へと進んでいた。


(*'∀`)「しぃさん待ってくださーい!!」

(;^ω^)「おいてかないで、だおー」


二人の呼びかけに、ドクオとブーンが飛んで行く。
そして、残された兄弟も笑い合うと、扉へと向けて走りだした。


ヾ(*´_ゝ`)ノシ「今行くぞー」

(´<_` )「急ぐのはいいが、転ぶなよ」


走りながらも、弟者は最後に一度だけ振り向いた。
崩れ落ちた巨大な岩の欠片、焼け焦げた壁、荒らされた祭壇と地面。
――戦闘の傷をいたるところに残しながらも、遺跡はひっそりと、静かに眠っている。

弟者は小さく頷くと、今度こそ振り返らずに走り始めた。


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809名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:48:18 ID:yZraviHw0

――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――


そこからは驚くほど何事も起こらなかった。
ゴーレムとの死闘が嘘だったように、遺跡はただ静かに横たわっていた。
荒れた庭を抜け、浮き彫りの施された廊下を通り、そして黒い鉄の扉を開く。

行きにはとても長いように感じられた道のりは、あっけないほど短かった。


(#*゚;;-゚)「……!」


そして、調査隊本部では、でぃが待ち構えていた。
一人で留守番をしていたらしい彼女は、半分泣きそうになりながらも一同を出迎えた。


(*´_ゝ`)ノシ !

(#;゚;;-゚)「……」


黒い大きな天幕で治療の続きを受け、休息をとる。
それから、しぃによる長い長い質問が終わった頃には、かなりの時間がたっていた。


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810名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:50:23 ID:yZraviHw0


(;´_ゝ`)「時に弟者よ、日の高さがえらいことになっているのだが……」

(´<_`;)「なんと」


天幕の下から空を見上げた兄者の声は曇っていた。
弟者はその声に慌てて空を見上げて、日がかなり傾いていることに気づいた。
ソーサク遺跡に到着した時には太陽はまだ真上に近い所にいたはずだから、あれからかなりの時間が過ぎたことになる。
柔らかくなっている日差しが、夕暮れはもう近いことを告げている。


(*゚ー゚)「あら……もう、こんな時間?」

(#゚;;-゚)「……みんなが……帰ってくるね」

(,,゚Д゚)「寝床なら用意できるから泊まっていけ」


しぃとでぃの姉妹と、ギコが宿泊を薦めてくる。
しかし、兄者と弟者はその言葉に首を縦には振らなかった。


(; ´_ゝ`)「いや時に待てギコ者よ。俺らは今日中に帰らなければマズイのだ」

(´<_` )「そうだな。今からでも帰らないと差し障りがある」


.

811名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:52:59 ID:yZraviHw0


空に落ちかかる太陽を見上げて、弟者は眉根をよせる。
予定よりも遥かに時間がたってしまっている。このままだと、日暮れまでに流石の街にたどり着くことは出来ないだろう。
となると……、


(´<_` )「夜行で強行軍か。どれだけかかることやら……」

( ;゚_ゝ゚)「夜行だと……。そんなことしたら、お兄ちゃん死んじゃう!
     もうちょっと早く帰れないの!? 明日は、妹者たんと遊ばなきゃいけないんだぞ!」

(´<_` ;)「そんなこと言ったって、荒巻や中嶋の足ではどうやったって時間がかかるぞ。
      それにこのまま帰らないと、兄者が一番まずい件」


兄者と弟者のやりとりに、ブーンは首を傾げた。
街に帰らなければならないのはわかったけれども、それはどうして美味しくないことになるのか。


( ^ω^)「んー、何でだお?」

(´<_` )「何でって、……そりゃあ、兄者は母者お抱えの星読み師だからな。
      大商隊の逗留の間は治安が不安定になるから、兄者が抜けるのはマズイ」


(*゚ー゚)゛


(i;゚ー゚).。oO(あの、弟者くんが精霊とお話してる……)


.

812名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:54:28 ID:yZraviHw0


(;'A`)「お前、実はすごかったのか?」

(*´_ゝ`)b「流石だろ、俺」

(´<_` )「タダ飯食らいなんだから、せめてそのくらいは働け」


(;´_ゝ`)て


しぃの内心の動揺に気づかないまま、兄弟たちの話は進む。
精霊などを嫌い、完全に目の敵にしていた弟者の豹変。
しぃの内心の動揺は相当なものだったが、彼女の心情に共感してくれるはずのギコやでぃは残念ながら精霊が見えない。
「どうしたの?」としぃは問いかけようとして、その言葉をそっと胸に押さえ込んだ。
せっかくの弟者の変化だ。このまま見守ってあげたいと思うのは、年長者としても、弟者の姉の友人としても間違っていはいない気がした。


(,,;゚Д゚)「おい、お前らまさか本気で帰るつもりじゃねぇだろうな」

(´<_` )「帰るつもりですが、何か」

(,,#゚Д゚)「駄目だ駄目だ。旅慣れてないお前らお坊ちゃんじゃ無理だ。
     特に、兄者。あれだけの大怪我だ。いくら回復したといったって、限界があるわボケ」

(;゚ー゚)「うーん。星読みは水鏡で伝えるというのじゃ、ダメなのかしら?」

(;´_ゝ`)「だがしかしだな……」


.

813名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:56:26 ID:yZraviHw0


( ´_ゝ`) !


眉根を寄せて真剣に思い悩んでいた兄者の脳裏に、雷光のようなひらめきがよぎる。
兄者はその考えを手繰り寄せ、少しの間考え込む。
そして、思いついた考えが実現可能だと確信すると、兄者は笑顔を浮かべた。


(*´_ゝ`)「要するにだ、夜になるまでに帰れればいいのだろう?
      流石だよな、俺。完璧じゃないか!」

(´<_` )「……兄者。それができるのならば、そもそも俺らはここまで思い悩んでいないのだが」

(,,-Д-)「弟者に賛成だ。ここからだと、どれだけ急いでも途中で日が暮れるぞ。危険だ」


弟者やギコの反対にあっても、兄者の表情は崩れない。
むしろ聞いてくれといわんばかりに弟者とギコの顔を交互に眺め、笑顔を浮かべる。


( ^ω^)「飛べばひとっ飛びだと思うんだけど、ちがうのかお?」

('A`)「ブーン。それは、お前しかできない」

(;^ω^)「そ、そうなのかお?」

('A`)「弟者が言ってただろう。人は、飛べないってな」


.

814名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:59:25 ID:yZraviHw0


(*´_ゝ`)「ふっふっふー」


兄者は笑顔を浮かべ、弟者やギコの反応を待ち続ける。
しかし、兄者のその期待はすぐに打ち砕かれた。


(*゚ー゚)「とりあえず水鏡で連絡してみたらどうかしら?」

( <_  )「水鏡……」

(*゚ー゚)「あくまでも一つの手段だけどね。無理にとは言わないわ。
    使いたいということなら、弟者くんたちのかわりに私かギコくんが連絡を取るから安心して」

(,,゚Д゚)「まあ、お前らはここで休んでいればいいってことだ」

( <_  )「……」


誰も聞いていない。
それどころか、弟者は鏡という単語に意識を奪われ沈黙すらしている。
表情すら浮かべない完全なる真顔。弟者のことは心配ではあるが、今はそれよりも……


ヾ(;´_ゝ`)ノシ「俺って無視されてないか? なんで、なんで?」


( ;_ゝ;)ブワッ       (^ω^;) ('A`)


.

815名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:00:30 ID:yZraviHw0


( ;_ゝ;)ヾ(^ω^ )ヨシヨシダオー   ('A`;)


('A`;).。oO(兄者のヤツ、やっぱアホなんじゃないか?)


兄者はひとしきり大袈裟に泣いてみたが、ブーン以外誰にも相手をしてもらえない。
それを悟った兄者はブーンの頭を撫でると、そばにいた弟者のマントを引っ張り声を上げた。


( ´_ゝ`)「だーかーらー、そんな顔しなくても帰れるんだって! ちゃんと、夜までに!」

(´<_` ;)「え? あ……よかった、な?」


(#`_ゝ´)「ちゃんと聞けって! 弟者が協力さえしてくれればどうにかなる!」

 _,
(´<_` )「……」


弟者は眉をひそめると、兄者の姿を見た。どうやら兄者がまたろくでもないことを考えている、と思ったようだ。
一方の兄者は大きく頷くと、弟者の顔をまっすぐに見据える。
兄者の表情はいつのまにか真剣で、自信のなさそうな様子は微塵も見られなかった。


.

816名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:02:41 ID:yZraviHw0


( ´_ゝ`)「弟者、何があっても協力してくれるな」

(´<_` )「……」


弟者はその問いに返事をしなかった。
先程までのふざけた態度とはまったく違う真剣な様子に、弟者の視線が小さく泳ぐ。


( ´_ゝ`)「……」


弟者は何も答えない。
兄者もまた、真剣な顔を崩さないまま、弟者の返事を待つ。


(;'A`)「一体、兄者のヤロウは何する気なんだ?」

( ^ω^)「ブーンにはわかんねーですお」


そして、長い沈黙の末、弟者は大きくため息をついた。


(´<_` )「兄者のことだから根負けして、冗談の一つでも言い出すのかと思ったのだがな」

( ´_ゝ`)b「お兄ちゃんだってやる時はやるのだ――とでも、言っておこう」


.

817名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:05:19 ID:yZraviHw0


兄者と弟者のやりとりに気づいた、ギコとしぃが顔を上げる。
しかし、2人の会話だけでは兄者が何を狙っているのかはわからない。
ギコとしぃは顔を見合わせると、ちいさく首をひねった。


(-<_− )「把握した。不安なことこの上ないが、ここは俺が折れよう」

(*´_ゝ`)「つまり、何が起きても文句はないと」

(´<_` )「……文句は言う。が。協力するといった以上はつきあおう」


弟者の言葉に兄者は、眉を寄せる。
しかし、ここが妥協点だと思ったのか、「ふむ」と頷く。


(*´_ゝ`)「よし、約束したからな。
      絶対、ぜぇーーったい協力しろよな!」

(,,゚Д゚)「おいおい、危ないことはすんじゃねーぞ」

(;゚ー゚)「……」

ヾ(*´_ゝ`)ノ「ギコ者も、しぃ者大丈夫だって! このお兄ちゃんを信頼しなさいって!」


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818名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:06:04 ID:VPyeQ90g0
あのシーンくるか

819名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:08:12 ID:yZraviHw0


兄者は天幕の中から出ると、空を見上げた。
そして、大きく息を吸うと口元に指を当てる。


兄者が息をはくと同時に、空に鋭い音が響く。


指笛だ。
その音は、砂煙にけぶる空へと溶けて消える。
ただ、それだけ。しばらくしてみてもそれっきり何も起こらない……ように見えた。


(*゚ー゚)「……?」

(,,;゚Д゚)「何も起きねえじゃねぇか」


ギコが青い尾をくねらせて、溜息をつく。
しかし、そうではないことをギコとしぃ以外の全員が知っていた。


⊂二(*^ω^)二⊃「きたお!」

('A`)>「こんな場所まで、よくもまあ」


それは、まるで朝の繰り返しだった。
ブーンとドクオの精霊二人が、空を見上げて呟く。


.

820名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:10:26 ID:yZraviHw0


砂で霞みながらも、それでも青い空に黒い影が浮かんでいた。
影はみるみるうちに大きさを増し、驚くほどの速さで近づいてくる。

それは、大振りな牛や馬ほどの大きさだった。
がっちりとしたその体は鱗に覆われ、背には薄い飛膜を持った巨大な翼が生えていた。
夕暮れの空のような、薄桃色の光がきらめく。


:::(,,;゚Д゚):::「ななな、な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!!」

(*゚ワ゚)+「竜よ。飛竜だわ!! すごい、こんなに近くに!」

(#;゚;;-゚)「……っ!」


黄金の色を湛える瞳が揺れる。
その巨体には不釣り合いな、愛らしい顔つき。
夕暮れ色に輝くその体は、竜そのもの。生ける伝説とも讃えられる、空の王者がそこにいた。


(*´_ゝ`)ノシ「ピンクたーん!! こっち、こっちだ!!!」

(´<_`; )「……まさか」


兄者の顔が輝き、弟者の顔が引きつる。
対照的な表情を浮かべる兄弟に向けて、ピンクたんと可愛らしい呼び名で話しかけられた竜は唸るように声を上げる。
そして、翼を大きく羽ばたかせると、薄桃色の竜は兄者の正面へと着地した。


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821名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:12:59 ID:yZraviHw0


(Σ Οw)


ずどんという音と共に、大地が揺れる。
しぃは大きく瞳を輝かせ、ギコは大きく口をあけて、でぃは無言で息を呑み、竜の姿を見つめている。


ヾ(*^ω^)ノシ「ピンクたんだおー」

(*´_ゝ`)ノシ「よしよーし、よくぞ来てくれたなピンクたん!」


兄者の声に、竜は子猫のように頭を兄者の体へとこすりつけた。
喉の奥でぐるぐると鳴る声は甘えた生き物そのもので、空の王者らしき威厳はない。


(*゚ー゚)+「ねえ、兄者くん。この子どうやって懐かせたの?
      噛まれたり、暴れたりしない? やっぱり賢い? 何を食べるの? 生態は?」

(,,;゚Д゚)「しぃ、落ち着け! そんなホイホイと、近づくんじゃねぇ!」

(*^ー^)「あら、学問の探究って大事なことよ」

(∩;゚Д゚)∩「しぃ! 落ち着け、危ない! これだから学者ってヤツは…」


(#;゚;;-゚) ビクビク


.

822名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:14:15 ID:yZraviHw0


好奇心収まらぬしぃをギコがなだめ、立ち直ったしぃがでぃを落ち着かせる。
興奮の時間は過ぎ、辺りにはようやく落ち着きが訪れた。


( ´_ゝ`)「荒巻たちラクダがダメなら、竜のピンクたんにお願いすればいい」

(´<_`; )「まさか、ここでこいつを持ってくるとは……」

(*´_ゝ`)「どーだ、びっくりした?」


夏の出歩くことすらままならない季節も過ぎ去り、それでも暑さを失わない秋。
日は傾き、夕暮れの気配が漂い始めたその時刻。
兄者はよっと声を掛けると、竜の背に軽々とまたがった。


( ´_ゝ`)「まあ、いろいろあったが……」


砂漠の真っ只中。
オアシスの麓にひろがる故郷から離れたソーサク遺跡。旅の終着の地。
災難も終わったし、ここから先は帰るだけ。


(*´_ゝ`)つ 「さあ、行こう」


そして、兄者は双子の片割れに向かって、手を差し伸べた――。


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823名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:16:58 ID:yZraviHw0


差し出されたその腕は、まるで朝の繰り返しだった。


(-<_- )


弟者は兄の背を眩しそうに見やって、その瞳を閉じる。
ためらいはほんの少し、もう言われるまでもなく返事は決まっていた。


(´<_` )「流石だよな、兄者は」

( ´_ゝ`)b「知らなかったのか? 俺は、流石なのだ」

(´<_` )「悔しいが、約束してしまったからな。こうなったら付き合ってやるさ」


ふてぶてしいまでの片割れの言葉に、弟者は笑みを浮かべる。
口元を上げるだけの小さな笑顔。でもそれは、弟者の本心からの表情だった。

弟者の足が、地を蹴る。



⊂(´<_` )



――差し出されたその腕を、弟者はとった。


.

824名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:19:02 ID:yZraviHw0


(*´_ゝ`)ノシ「じゃあなー、しぃ者もギコ者もでぃ者も元気でー!!」

( ^ω^)「アラマキとナカジマをおねがいだおー!」


(´<_` )「ラクダを頼むな」

(#*゚;;-゚)「……わかってる。……二人とも、元気で」


(,,゚Д゚)「達者でな―。こっちの調査が終わったら顔を出すから、その時は歓迎しろよ!」


(*゚ー゚)「みんな気をつけてね。危ないことだけはしちゃダメよ……」

<(*'A`)>「わかりました! わかりましたよ、しぃさん!!」


(;゚ー゚).。oO(どうしてあんなに嬉しそうなんだろう。あの子)


二頭のラクダをでぃたちに譲り、別れの言葉を交わす。
ラクダは砂漠の民たちにとっては財産に等しい。
だから、荒巻と中嶋は大切に扱ってもらえるだろう。


( ´_ゝ`)「よーし、懐かしき我が家へ出発だ!!」


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825名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:21:41 ID:yZraviHw0


(´<_`;)「た、頼むな。ピンク……たん」

(Σ*Οw)


弟者が恐る恐る声を上げると、竜は喉を鳴らして返事をした。
案外いいやつなのかもしれない……と、弟者は一瞬思いかけてすぐに気を引き締める。
何しろ竜に乗って飛ぶのなんて初めてだ。これから何が起こるのか、わからない。


(´<_`;)「おい、兄者。気をつけろ」

(*´_ゝ`)「大丈夫だって! ピンクたん、飛べ!!」


(\(Σ*Οw)
 ^^

夕焼け色の竜の翼が広げられ、二度三度と上下に動かされる。
羽の動きは力強さを増していき、やがては完全な羽ばたきとなった。


(゚<_゚ ; )「時に待てぇ!!! 心の準備が」


弟者の叫びも虚しく、竜の足が地を離れる。
竜の翼は大きな風を起こし、その体躯を空へと浮かび上がらせる。


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826名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:23:50 ID:yZraviHw0


(;゚A゚)「ちょ、オレを置いていくなぁぁぁ!!!」


兄弟をその背に乗せて、竜の背は高く高く舞い上がっていく。
地面は遠のき、飛び降りたら命がないような高度まで舞い上がる。


(*^ω^)ノシ「ブーンもいっしょにいくおー!!」

(\(Σ*Οw)
 ^^

そして、竜の体は街へと向けて飛び立つ。
風は兄者の頭の飾り布や、弟者のマントを飛ばさんとばかりに吹き荒れる。


(゚<_゚ ; )「と、と、と、飛んでる!!!」

(*´_ゝ`)「あったりまえだろ、ピンクたんは飛んでいるのだ!!」


兄者は竜の首にしがみついて笑い、弟者は表情を凍りつかせる。
ドクオはなんとか竜にしがみつき、ブーンは風を捉え気持よさそうに飛ぶ。


ttp://buntsundo.web.fc2.com/ranobe_2012/illust/11.jpg


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827名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:25:56 ID:yZraviHw0


( ^ω^)「お? 雨のにおいがするお」

(´<_`;)「なん、だと……」


空を覆う雲は、暗く厚い。
確かに兄者も雨が降ると言っていたが、まさかそれが今とは……。
こいつは雨でも大丈夫なのだろうか?――と、弟者は竜の顔をそっと伺う。


(Σ;Οw)


弟者の視線を受けてか。それとも、本能的に天候の変化を感じたのか。
竜は小さく唸ると、背の翼を大きく羽ばたかせる。
いつの間にか、肌を撫でる風は、空気がじとりと水気を含んでいる。


(*'A`)「影が出てきた。これはオレにも勝機が」

( ´_ゝ`)「――きた!」


雲から滴り落ちた雨粒が、兄者や弟者の体へと落ちる。
しかし、その毛並みを湿らせる程度でそう勢いは強くない。
雨粒は細かく、視界を白にゆっくりと染めていく霧のような雨だった。


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828名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:28:33 ID:yZraviHw0


弟者は何気なく視線を地面に向け、そして息を呑んだ。
その動きにつられたのかドクオも地上を――、一面に広がる砂の丘を眺め声を上げた。


(;'A`)「へっ?」


見下ろした地面は、雨に濡れていなかった。

降りしきる雨は、大地に届かずに消える。
熱を吸った大気があまりにも暑すぎて、雨は降るそばから乾き地面には届かない。


(´<_` )「……」


飛ぶことの出来ない弟者にとって、それははじめて見る光景だった。
伸ばした片手ははっきりと雨に濡れている。それなのに、砂丘はこの雨など知らないように横たわっている。
その不思議な光景を、弟者はただ見つめていた。


( ^ω^)「アニジャの天気よほーがあたったお! すごいお!」

d(*´_ゝ`)「晴天。砂嵐なし。風、気温ともに良好。夕暮れに雨が降るけど、霧雨。地面には届かず。
       バッチリだろ! なんと言ったって、外したことはないからな!」


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829名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:30:17 ID:yZraviHw0


やがて、しとしとと竜や兄者たちの体を濡らしていた雨も止む。
雲の間からは強い日差しが再び現れ、砂丘を明るく染める。
そして、弟者は見た。


(´<_` )「……っ!!」


空に、虹がかかっている。


赤や青に色づく光が、光の橋を地上へと向けて投げかけている
こんなものめったに見れないとか、すごいとか言いたいことはいくらでもあるはずなのに言葉にならない。
兄者は気づいていない。きっと、ブーンやドクオもだ。
早く伝えなければと思いながらも、弟者は虹から目を離すことが出来ない。


(´<_` )「……」


美しかった。

空の上を飛んでいるという怖さも、もしこの竜が暴れたらという不安も頭のなかから消え去っていた。
弟者の体から緊張が解け、体の震えも止まる。


.

830名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:32:27 ID:yZraviHw0


(;´_ゝ`)「おい、弟者大変だ! 見ろって!! にじ、虹だって!!!
      あっ、消え――」


兄者が虹の存在に気づいた時には、その形は空に溶けて消えようとしていた。
それでも、なんとか弟にその存在を知らせようと手を伸ばして、虹を指し示す。


(;゚A゚)ノ「もう限界! 兄者、影かせ影っ!」

( ;`、ゝ´)「今は影より見るものがだなぁ!!」


しかし、それを邪魔するように、竜をしがみつくのも限界になったドクオが兄者に飛びかかる。
兄者はドクオを振り払いながらも、皆の視線を虹へと向けようとするが、その時にはもう遅かった。
虹は半ば以上薄れ、はっきりとした形を失っている。


( ;_ゝ;)「そ、そんな……」

(; A ) ツカレター

( ^ω^)「……オトジャ? オトジャはにじ見れたかお?」


落胆する兄者から目を話し、ブーンは弟者へ問いかける。
その質問に、弟者は大きく頷く。
瞬く間に薄れ、もう消え失せて見えない虹の残像を弟者はひたすら追い続けていた。


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831名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:34:56 ID:yZraviHw0




嘘のように、空の旅は快適だった。


(´<_` )「……」


一度、風にのってしまえば大きく揺れることもなかったし、風に吹き飛ばされるようなこともなかった。
落ちればひとたまりもないだろうが、広くしっかりした背は安定感があり、よほど馬鹿なことをしない限りは落ちる心配もなさそうだ。


⊂二( ^ω^)⊃「おっおー、楽しいお」


気づけば、弟者の体から余計な緊張は解けていた。

そもそも、冷静になって考えてみたら、ここにはブーンがいるのだ。
風を操ることが出来るブーンの力があれば、万が一落ちたとしても命の心配はない。


(´<_` )「……そうか」


……そんな風に考えられるほどに、いつの間にかブーンを信用している自分に、弟者は小さく苦笑いをする。
精霊なんて見るのも嫌だった自分は、一体何処へ行ってしまったというのか。


怖がりすぎてるだけという言葉が、ふいに脳裏に浮かんだ。

それはいつか、でぃが言っていた言葉だった。今日の事なのに随分前の出来事に感じる。
怖がりすぎているだけ……か。と弟者は息をつく。
何事も踏み込んでみたら、意外と大したことではないのかもしれない。


.

832名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:36:40 ID:yZraviHw0


遺跡を見て回り、ゴーレムと戦い、竜に乗る。
今日はなんという一日なのだろう。朝、目覚めたときは、こんな未来が待っているなんて思ってもいなかった。


(´<_` )「とんでもない一日だったな」


視線を下向けると、どこまでも広がる砂地が見える。
これなら予想よりも早く帰れそうだと考えながら、弟者はふと思い出した。

――そうだ。今日が終わる前、帰る途中に寄ろうと思った場所があったのではなかったのか?


(´<_` )「……そうだった。途中で下ろしてもらいたい所があるのだが」


弟者は前に座る兄に向けて、声を上げる。
兄者は弟の言葉にビクリと体を大きく震わせると、声だけで返事を返した。


(;´_ゝ`)「ま、まさか気持ち悪くなったのか?! それとも大自然が呼んでる的な」

(´<_` )「違う」


( ^ω^)ダイシゼン?

('A`)ベンジョ ダ ベンジョ

( ^ω^)ニンゲンッポイオー


(´<_` )「違うといっているだろうが……」


.

833名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:39:20 ID:yZraviHw0


兄者や精霊たちの掛け合いに、弟者が気を悪くした様子はなかった。
竜の上で動くのを嫌がったのか、それとも単に精霊たちに慣れたのかはわからない。
弟者は視線を地上に投げかけたまま、淡々と声を上げる。


(<_`  )「花が見たいんだ」

( ^ω^)「花だったら、オトジャの家にあるんじゃないかお?」

(´<_` )「そうじゃなくて、明日は妹者の……」


後ろから聞こえた弟者の声に、兄者は肩を震わせ始める。
気分が悪いのは兄者ではないかと、弟者が声を上げようとする。
が、兄者の震えはそのまま笑い声へと変化する。


(*´_ゝ`)「ふっふっふー」

(;'A`)「兄者、気持ち悪っ!」

( ;´_ゝ`)「流石に失礼だぞ、ドクオ者よ!」


兄者はドクオに言葉を返しながらも、懐を探る。
そして、そこから何かを取り出すと、それを弟者に向けて差し出した。


.

834名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:41:16 ID:yZraviHw0


(; ゚_ゝ゚)つ「うわぁぁぁっと」

(#゚ω゚)「あぶないお!」


その拍子に、兄者の体がぐらりと揺れる。
空の上にいるということをすっかり忘れたのだろう、兄者の体は大きく傾き、そのまま倒れ込みそうになり、

――その体を弟者の手がぐいと掴んだ。
弟者は慌てることなく、服の背を掴むと兄者の体をピンクたんの背へと引っ張り上げる。


(´<_`#)「兄者は学習というものをしないのか!」

(;´_ゝ`)「正直すまんかった。――って、今はそうじゃなくて!」


兄者は手にしたものを弟者に向けて差し出す。
弟者は目の前に差し出されたそれに、怒鳴るのを忘れて息をのむ。


.

835名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:43:05 ID:yZraviHw0


兄者の手にしたそれは、花に見えた。
六枚の花弁を持つ、決して派手ではないけれども可憐な形をした花。
しかし、それはただの花とは違っていた。


(´<_` )「……これ、は?」


兄者の手にしたその花は、淡く色づきながらも透き通っていた。
まるで繊細なガラス細工だ。
触れた感触はガラスのように硬質でありながら、淡く透き通るその色は水のように移り変わっていた。


( ´_ゝ`)「なんでも、西方に咲く花らしい。
      こっちでも育てることは出来るらしいのだが、暑すぎてどうしても花が咲かないらしい」

(´<_` )「そんなものが、どうして……」

( ´_ゝ`)「ソーサク遺跡の最後の広間。あそこ、涼しかっただろ」


弟者はその言葉に、兄者が今日一日の間何を企んでいたのかようやく察した。
ソーサク遺跡の奥にこの花が咲くことを、兄者はギコから聞いていたのだろう。
そして、兄者はギコの言葉から思いついたに違いない。


( ´_ゝ`)b「ソーサク遺跡のあの場所はどういうわけか、西方に近い環境らしいんだ。
       だからなのか、あの部屋ではこの花がよく咲くらしいのだよ!」


.

836名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:46:00 ID:yZraviHw0


明日は、妹者の誕生日だ。

大商隊を迎える準備のために、ひたすら空や星を読んで働かされていた兄者は、妹者への贈り物を用意できていなかったに違いない。
残り短い準備期間の中で、兄者は妹者へ何を贈ろうと考えただろうか。


l从・∀・ノ!リ人


まだ十にも満たない妹者に贈るのに、装飾品はまだ早すぎる。
自然と妹者に贈るものといえば、少女の好むかわいらしいものになる。
異国の鳥、猫。リボン。装飾の施された綺麗な布――候補になりそうなものはいくつかあるが、兄者はきっとこう思ったのだろう。



               そうだ。花はどうだろうか。



(-<_-  ).。oO(俺だけあって、考えることは同じなのだな)


ソーサク遺跡には、珍しい花がある。
父者の育てる中庭では見ることのできない、きれいな花だ。
これを贈り物にしよう。妹者はきれいなものが好きだから、きっと喜ぶ――そう、思ったのだろう。


.

837名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:48:04 ID:yZraviHw0


                (*´_ゝ`)「旅に出るぞ!」



今日一日の兄者の唐突な言葉と行動の意味が、今ならわかる。
兄者は妹者の誕生日に間に合わせるために、今日中にソーサク遺跡に行って帰ってくる必要があったのだ。


                 (´<_`#)「兄者は、もう少し根性をみせようか」

                 (;´_ゝ`)σ「根性を見せろって言われてもな……お前さんが加減さえしてくれれば、俺ももうちょっと」

                 (´<_` )「ふむ。そういえばそうだったな」


日頃から弟者に力や体力を回している兄者一人では、この遺跡まで来ることが出来ない。
体力の問題もあるし、万が一のことを考えれば護衛だって必要になる。
それで兄者は、休みで家にいて、なおかつ護衛も出来て、自分と同じく妹者への贈り物を用意できていないであろう弟に目をつけた。


                 ( ´_ゝ`)「弟者ぁあ、いるかぁぁぁぁあ!!!」



つまりはじめから、弟者は妹者への贈り物を手に入れるための相方として選ばれていたということだ。


.

838名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:50:16 ID:yZraviHw0


               (´<_` )「ふむ、なるほど。それで、その遺跡には何をしに?」

               (;´_ゝ`)「――えっ?」

               (´<_`;)「――えっ?」


               l从・∀・;ノ!リ人「――えっ?」


目的を問われた兄者がすぐに答えられなかったのも当然のこと。
あの時、兄者のすぐそばには妹者がいた。
大方兄者は、本人を目の前にして、これから誕生日の贈り物を取りに行くのだと言うのをためらったのだろう。

魔法石板用の石板を取りに行くというのは口からの出任せだ。
妹者がいなくなってからも、石板と言い続けたのはきっと引込みがつかなくなったからなのだろう。
だから、石板を拾ったから帰ると主張する弟者に対してボロを出した。


               η(#´_ゝ`)η「大体、目的のブツはこれじゃな」


兄者の目的は、はじめからこの花だった。
だから、石板を拾ったあの段階では帰るわけには行かなかったのだ。

そして、兄者は花を探して最奥の間に辿り着き、ゴーレムに襲われ部屋に閉じ込められるはめになった。
それでも兄者は戦いの後のごたごたの間に、探していたのだろう。


.

839名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:52:44 ID:yZraviHw0


――そして、旅の終わり。
兄者は無事にこの珍しい花を手にしている。
要するに、今日一日の出来事は全て兄者の計画通りだったというわけだ。


(´<_`;)「……よくもまあ、ここまで俺を騙してくれたものだな」

(;^ω^)「だました? アニジャだましてたのかお?!」


やっと呟いた弟者の言葉に、兄者はにんまりと笑う。
顔を見なくても弟者にはその声の調子でわかる。今の兄者は絶対に調子にのっている。


(*´_ゝ`)「ふっふっふー。
       ギコ者やしぃ者からこの花のことは聞いていてな。これが今日、遺跡へ行った真の目的だったのさ」

(´<_`; )「――今日、最大にやられた気分だ」


弟者は息をつく。
兄者のことだから何も考えていないと思っていたのに、実際のところは大違いだった。
それにまんまと乗せられていたのだから、弟者としてはもう苦笑いをするしか無い。


(*>_ゝ<)「ほめてもいいのだよ、弟者くん」

(´<_` )「あー、はいはい。流石流石」


.

840名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:54:43 ID:yZraviHw0


(*^ω^)「あー、みんな見るお!」

('A`)「えー」


そんな兄弟たちの会話を遮るように、ブーンは手を翼のように広げながら声をあげる。
その声にドクオが面倒そうに声を上げ、溜息をついていた弟者も顔を上げる。


(;´_ゝ`)「ねぇ、ちょっと俺への褒め方ゾンザイじゃない?」

(´<_` )「お前のような嘘吐き、知るか」


兄者の言葉に返事をしながら、弟者はブーンが言った先を眺める。
弟者は下を見下ろし。そして、息を呑んだ。


(´<_` )「――あ、」


砂の丘のまっただ中に見えるのは、湖の姿がくっきりと見える。
慣れ親しんだ、“流石”の街。
それを取り囲むように、どこまでも続いていく砂の丘が見える。黄金の大地は、風が作り出す模様に彩られていた。
日は大きく傾き、砂の地平に落ちかかる太陽は火のように赤い。


.

841名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:57:52 ID:yZraviHw0


('A`)「もうこんなとこまで来てたのか」

(*^ω^)「あとちょっとで、街だおねー」


世界が少しずつ、赤へと染まり、闇へと沈んでいく。
それは、決して恐ろしいものではなかった。


(*´_ゝ`)>「おお!!」


自分が生まれる前から、魔王の時代から、それよりもずっと前の時代から。
ずっと続いてきた一日の終り。夜へと続く、夕暮れのほんの一瞬。
落ちゆく空の色は、竜の鱗のきらめきと同じ色をしている。
それを見ながら、弟者は思う。


(´<_` )「……こういうのも、悪くないな」


空は橙に、赤に、紫に、青にかわり、やがて漆黒の夜が訪れようとしている。
星がその数を増し、柔らかい月の光が太陽に変わり空を明るく照らしはじめる。

そこにはもう、昼の名残はどこにもない。


.

842名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:59:48 ID:yZraviHw0


(;´_ゝ`)「うう、さぶぃー。
      こりゃあ、早く帰らんと凍死しちまうわ」

(*^ω^)「お? これくらいで寒いんですかお?」

( ´_ゝ`)b「俺は人間の中でもそうとう貧弱な部類に入るぞ!」


太陽が落ちるのと同時に訪れる風の冷たさに、前に座る兄者の体が大きく震えた。
灼熱で満たされる昼が嘘のように、この地の夜は寒い。

そうか。今日も、もう終わるのか。

弟者は不思議と名残惜しい気持ちになり、ふと口を開く。
どうせ今日はとんでもない一日なのだ。
もうーつや二つくらい、普段ならば絶対にあり得ないことが増えたって、別に悪くはないだろう。


(´<_` )「……ドクオ」


そして、弟者はドクオに話しかけた。
今日一日を共に過ごしながらも、決して話そうとはしなかった相手。
それどころか、死んでいなくなればいいとさえ思っていた、憎い敵のような存在。

そのドクオに向けて、弟者は言葉を発した。


.

843名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:01:23 ID:yZraviHw0


(;'A`)「ん?」


ドクオは小さく声を上げた後に、その声の主が弟者であることにその表情を固くした。
兄者の姿を見て、それから辺りを見回す。が、声の主は弟者という事実に変わりはない。


( ;A;)「ごごごごごめんなさい」

(´<_` )「いや、今はまだ怒ってはいない」

(#'A`)ノ「まだって、やっぱ怒るんじゃねーかよこのおにちく!!」


ドクオの反応に、弟者はふむと息をつく。
実際に声をかけて話してみれば、ドクオとの会話もまた、それほど不快ではなかった。
ドクオの方も、弟者によって散々な目に合わされているというのに、その言葉はこれまでとそう変わりはない。
良くも悪くも、精霊という生き物は単純なのかもしれない。
――と、弟者は考えて、これも今日までは決して考えようとはしなかったことだな。と、小さく苦笑する。


(´<_` )「いろいろと悪かった」

(;゚A゚)「は? お前、ついに頭おかしくなったんじゃねーか?」


弟者が苦笑いを浮かべたまま、今日一日のあまりにも遅い謝罪をすると、ドクオは途端に妙な顔になった。
その顔があまりにも変なので、弟者はつい笑ってしまう。
――何が精霊は楽しいぐらいしか感情が残っていない、だ。人間と変わりはしないじゃないか。


.

844名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:03:10 ID:yZraviHw0


なんだか、何もかもが愉快でおかしかった。
今日一日は本当に散々だったが、最後にこんなにおかしいことが待っているとは思わなかった。


(´<_` )「そうかもな。長年の苦労がたった一日でダメになって、ヤケを起こしてるんだ」

(;´_ゝ`)「え? なんで、俺の頭を叩くの?
      てか、なんでお前は爆笑してるの? そもそも、何で急にそんなに素直になっちゃってるのさ?!」


これまでの十年間が間違っていたとは思わない。
兄者は危なっかしいし、危険だという自覚もないまま、これからも妙な出来事に突進するだろう。
だから、これからも自分は兄者を止めたり、諌めたりしなければならないだろう。


(-<_- *)「さてな」


――けれども、それも必死になって抱え込む必要は無いかもしれない。
馬鹿でヘラヘラとしているけれども、俺の半分はそれなりにすごいやつだった。
だから、一人で背負い込まなくても、きっと二人ならなんとかなる。

それに自分が気付けていなかっただけで、助けてくれる奇特なやつもちゃんといる。
かつてのツンや、先生のように。
そして、今日のブーンや、ドクオのように。


――だから、俺はきっとこれからも大丈夫だ。
ちゃんと、弟者として。普通の一人のように、やっていくことが出来る。


.

845名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:05:55 ID:yZraviHw0


(;´_ゝ`)「ちょ、おま。このお兄ちゃんに嘘つくって言うのか?
      考えてることがだだ漏れの、あの弟者くんは一体何処へっ!?」

(;'A`)「あれでだだ漏れだというのか、お前は!!!」

(´<_` )「人をなんだと思っているのだ、失礼な」

( ^ω^)「……」


(*^ω^)「ブーンもまざりたいおー!!」


弟者の口元が、自然とゆるむ。
たまには、こんなのも悪くはない。と、弟者は思う。



(\(Σ*Οw)
 ^^



竜の背から見る世界は、なんだかとっても広く見えた。
それこそ、



.

846名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:06:41 ID:yZraviHw0






――彼が、ずっと嫌っていた、魔法のように。





.

847名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:07:22 ID:yZraviHw0




( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )



   おわり



.

848名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:18:35 ID:mwwkQGYAO
面白かったー!乙!!

伏線回収も心境変化もすごく綺麗にまとまってて、読んでて爽快だった!

風景や天候と心理の合わせ方がすごく上手い。情景がすんなり目に浮かんだ。

完結ありがとう、後日談も楽しみにしてる!おまけも!

849名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:22:16 ID:PA7Y3QRs0
ついに終わってしまったー・゚・(つД`)・゚・
楽しかった!面白かった!

850名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:32:27 ID:yZraviHw0
休憩おわり。オマケ投下します

851名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:33:06 ID:kbZ3Xh2M0
おわ、来てたか!
なんか勝手に明日夜=日曜夜と思ってて不意打ち食らった
これから読んでくる!!

852名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:33:23 ID:yZraviHw0


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「今、帰ったよ」



::l从・д・illノ!リ人:: ガタガタガタ


∬´_ゝ`)「おかえり、母者。時に母者に報告したいことがあるんだけど……」

 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「ただいま。妹者、挨拶は?」


::l从・∀・illノ!リ人::「おおおおかえりなのじゃ!」


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「ただいま、妹者。
       で、姉者。報告したいって言うのは何だい?」


.

853名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:34:47 ID:yZraviHw0

        .@@@
        @ _、_@
       /(#  ノ`)\ 
     _/__〃` ^ 〈_ \
   γ´⌒  |i、___/|ヽ⌒ヽ
  /    ィ ┘ `i´   L )  `ヽ,
  /〜〜〜ノ~~~~~~~~~~人〜〜〜
  !  ,,,ノ |\.=┬─┬=く ^ >  )
 (   <_ .|    |   |  | /  /
  ヽ_  \   |   |  | 〃 /
    ヽ、__」  .|   |  〈__ソ、
      〈J .〉、|   |   |ヽ-´
     /""   |   |   .|
     /     |   |  ヽ
    /      |   |    ヽ
   /       |   |    ヽ
   <_,、_,、_,、_,、_,.|   |,、_,、_,、_,>
     y `レl |   |  リ
     /   ノ |__|  |
     l  /     l;;  |
     〉___〈      〉_|
    /ヽ__ノ|    (_ヽー\
   (_^__ノ      `ヽ__>



おまけ劇場   l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです


.

854名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:36:58 ID:yZraviHw0

      て
 @@@ そ
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「一体、どういう事なんだい!!!」


::l从 д illノ!リ人:: アワワワ

∬´_ゝ`)「どういう事なんだいも何も、話した通りよ。
      他ならない父者本人がそう言ったんだし、私だって確認してる。母者も見てきたら?」

 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「あの中庭をダーリンがどれだけ大事にしてたか」

∬ ゚_ゝ゚)゛「……ブッ」

 @@@
@ _、_@ 
 (   ノ`) 「どうしたんだい、姉者。風邪ならさっさと治しな」


∬;´_ゝ`)「いえ、何でもありません……」


.

855名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:38:15 ID:yZraviHw0

 @@@
@ _、_@ 
 (  ノ`) 「まぁ、いい。それで続きだけど」


∬´_ゝ`).。oO(今、ダーリンって呼んだ。ダーリンって……)


 @@@
@ _、_@ 
 (  ノ`) 「原因は何かわかっているのかい?」

∬´_ゝ`)「それがさっぱり、父者は侵入者を疑っていたけどその線は無いわね」


 @@@
@ _、_@ 
 (; ノ`) 「ダーリンかわいそうに……」

プルプル::.∬; _ゝ )::.。oO(だから、ダーリンって……)


l从・∀・;ノ!リ人 アワワ


.

856名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:40:17 ID:yZraviHw0


∬;´_ゝ`)q コホン


∬´_ゝ`)「――で、最後に中庭に入ったのは、妹者というわけなの。
      中庭の立ち入りの件についてはさっき話した通りだから、怒らないであげて」

 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「花を踏んだのは妹者かい?」

l从・∀・;ノ!リ人「ちがうのじゃ! ちゃんと気をつけてお水くんだのじゃ!」

∬#´_ゝ`)「妹者、嘘は」

 @@@
@ _、_@ 
 (   ノ`) 「姉者は黙ってな」


∬;´_ゝ`)「……、はい」


.

857名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:41:45 ID:yZraviHw0


 @@@
@ _、_@ 
 (   ノ`) 「妹者。花を踏んだのがアンタじゃないってことは、他に犯人なり原因なりがあるはずだ。
       アンタは何か心当たりがあるかい? 気づいたことは?」

l从・−・;ノ!リ人「……」


 @@@
@ _、_@ 
 (   ノ`) 「妹者、返事は」


Σl从・ 0・;ノ!リ人 ビクッ


:: @@@ :::::
:::@#_、_@ ::::
::: (  ノ`) 「妹者?」

l从・−・;ノ!リ人「……」



.

858名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:42:32 ID:yZraviHw0


l从・〜・;ノ!リ人「それは……、のじゃ」


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「返事は大きな声で」

l从>д<;ノ!リ人「……し、し、知らないっ、の じゃっ!」

 @@@
@ _、_@ 
 (   ノ`) 「知らない? 本当に?」


l从・∀・;ノ!リ人「ほ、ほんとなのじゃ!! 妹者はなんにも知らない、のじゃ!」


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「今の言葉は、本当だね」

l从・−・iiiノ!リ人.。oO(ほんとじゃないのじゃ)


.

859名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:43:27 ID:yZraviHw0


l从・д・iiiノ!リ人.。oO(ウソっこはいけないのじゃ。母者はウソは怒るのじゃ)

 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「妹者、ちゃんと返事をしな。
      妹者が返事をしないのなら、こちらも妹者が犯人と思うよ」

l从・−・iiiノ!リ人「……」


l从- -;ノ!リ人「……ぃ」


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`)m グッ


l从・д・iiiノ!リ人「言わないのじゃっ!! ゲンコツしてもムダなのじゃ!!」


.

860名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:44:20 ID:yZraviHw0

 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`)m 「分かった。そう言うならゲンコツだね」


l从;д;ノ!リ人 グスッ


l从>д<;ノ!リ人「いもじゃは、お花さんをふんだのはダレかなんて、
          ぜったいのぜったいに、しらないのじゃ!!」


l从;∀;ノ!リ人「いもじゃはっ、やくそくしたからっ!
         ぜったい、ぜったいに言わないのじゃ!!!」


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`)m 「……妹者っ!!!」


l从;∀∩ノ!リ人 グシッ


l从・−∩ノ!リ人「いもじゃは、ぼーりょくには、くっしないのじゃ!」


.

861名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:45:23 ID:yZraviHw0


∬;´_ゝ`)「……約束したって、それほとんど話したも同然じゃない」


l从・дqノ!リ人「……?」


∬´_ゝ`)「約束って自分で言ってる。
      ……妹者のことだから、そんなことだろうとは思ってたけど」


l从・д・;ノ!リ人「なななんで約束したって知ってるのじゃ!?」


∬;´_ゝ`)「何でって、ねぇ……」


 @@@
@  、_@ 
 (   ノ ) 「……」

∬´_ゝ`)「母者?」


.

862名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:47:01 ID:yZraviHw0


::l从・−・;ノ!リ人:: ビクッ


 @@@
@ _、_@ 
 (   ノ`) 「妹者、嘘っていうのは必ずしも悪いとは限らない。
      生きているならどうしたって、嘘が必要になることだってある」

l从・∀・;ノ!リ人「……?」

 @@@
@ _、_@ 
 (   ノ`) 「だけど嘘っていうのはね、使うのがとても難しいもんだ」


l从・〜・;ノ!リ人「……よく、わかんないのじゃ」

 @@@
@ _、_@ 
 (   ノ`) 「今はそれでいいんだよ。アンタはまだ小さいからね。
       でも、母さんはいつも言ってるはずだよ。嘘の重みがわかる大人になるまでは、絶対に嘘をつくなって」

l从・д・;ノ!リ人「う、うん」



.

863名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:47:58 ID:yZraviHw0


 @@@
@ _、_@ 
 (   ノ`) 「妹者、アンタは嘘をついたね。
       約束したってことは、妹者はちゃんと知っているんだろ?」


l从・−・;ノ!リ人「……」


l从-д-;ノ!リ人「ごめんなさいなのじゃ」


 @@@
@ _、_@ 
 (   ノ`) 「妹者は嘘をついた。
       アタシは妹者を叱らなければいけない。わかるね?」


(( l从・−・ノ!リ人 コクン


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「じゃあ、これがおしおきだ」


.

864名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:49:58 ID:yZraviHw0


 @@@
@#_、_@ ペチン
 (  ノ`)σl从>д<;ノ!リ人 イタッ

ヒリヒリ
  l从;∀;ノ!リ人「いたいのじゃー」


∬´_ゝ`)「このくらいで済んでよかったじゃない。
      母者のことだから、鉄拳の1つや2つくらい来るかと」

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「姉者、アンタも一言多い!」


 @@@
@#_、_@ ペチン
 (  ノ`)σ(´く_`;∬


( く_ ;∬「――痛っ」


.

865名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:51:00 ID:yZraviHw0


 @@@
@ _、_@ 
 (   ノ`) 「まぁ、こうして妹者を叱ったわけだけど」

∬;´_ゝ`).。oO(私は完全にとばっちりだったわ)


 @@@
@ _、_@ 
 (   ノ`) 「アタシがあれだけ怒ったのに、妹者は約束の内容を話さなかった。
       何事にも信頼は大切だ。ちゃんと約束を守ったのは、褒めてやろう」


l从・∀・;ノ!リ人


 @@@
@ _、_@ 
 (* ノ`) 「よくやったよ、妹者。流石はアタシの娘!」

∬´_ゝ`)「確かに、あの状態の母者に立ち向かったのはすごい度胸よね」ワタシハムリ


l从・∀・*ノ!リ人 !


l从>∀<*ノ!リ人「ほめられたのじゃ!母者、だいすきなのじゃー!!」


.

866名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:51:42 ID:yZraviHw0


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「ただし、今度からは、していい約束なのかどうか、はじめにちゃんと考えるんだよ。
       悪い約束は、はじめっからしない事。いいね」

(( l从・∀・*ノ!リ人「わかったのじゃ!!」


∬´_ゝ`)「よかったわね、妹者」


 @@@
@# 、_@ 
 (  ノ ) 「……だけど、元凶には拳でちゃんとお話しないとねぇ」



l从・∀・*ノ!リ人「え?」


.

867名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:52:41 ID:yZraviHw0


「ついたぞぉぉぉ!!!」

                     ヤッタオー

「なんとか、帰れたな」

                      オレモカエル…



l从・∀・*ノ!リ人"「あ、兄者たちの声なのじゃ!!」


∬´_ゝ`)「さて、噂をすれば、お帰り見たいね」


 @@@
@ _、_@ 
 (  ノ`) 「そうだねぇ、二人にはちょっと話を聞かなきゃいけないね」

∬´_ゝ`)「遺跡とか、精霊がどうとか……すごく聞きたいことが、いっぱいあるのよね」



.

868名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:53:43 ID:yZraviHw0


 @@@
@ _、_@ 
 (; ノ`) 「そりゃどういうことだい?」


 カクカク @@@
      @ _、_@
∬ノ´_ゝ`)(  ノ`)  シカジカ


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「…事情は、よーくわかった。
       あの馬鹿息子共は……!!!」


.

869名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:54:31 ID:yZraviHw0


l从・∀・;ノ!リ人「母者? 姉者もどうしたのじゃ?」

∬*´_ゝ`)「妹者ちゃんは、お部屋でちょっと遊んでようね。
      お姉ちゃん、ちょっと兄者達にお話があるから」


l从・∀・;ノ!リ人「え? え?」


 @@@
@# 、_@ 
 (  ノ ) ゴゴゴ


l从・∀・;ノ!リ人「な、な、なんかこわいのじゃぁ!!!」


∬*´_ゝ`)「ほら、部屋行くわよー」


∬*´_ゝ`)つl从・∀・;ノ!リ人 三 ズルズル



.

870名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:55:47 ID:yZraviHw0


タダイマーカエッタゾー イモジャターン!


               アニジャ エラソウダゾ



エッ ハハジャ


                    ナニヲ



       モンドウムヨウ アンタタチー




.

871名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:56:37 ID:yZraviHw0




                    ギャー




.

872名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:58:23 ID:yZraviHw0


l从・∀・ノ!リ人「兄者たちどうしたのじゃー?」


(ノ<_`  )「別に」

(♯ノ_ゝ`)「ちょっとラスボス戦をな」


l从・∀・*ノ!リ人 ?



今日も、流石邸は平和です






でざーと×しすたー            おしまい

.

873名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:59:21 ID:VPyeQ90g0
おつかれっした!

874名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 23:59:52 ID:yZraviHw0
本日の投下ここまで
後日談は、9日(月)に投下の予定

875名も無きAAのようです:2013/12/08(日) 00:01:02 ID:zeDgnt.AO
乙!
面白かった!!

876名も無きAAのようです:2013/12/08(日) 00:18:48 ID:raGJlf9k0
乙!月曜も楽しみだ

877名も無きAAのようです:2013/12/08(日) 09:11:53 ID:c1Wy3Osc0
乙乙!
ブーンがかわいかったな

878名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 01:21:24 ID:bgEwTgMU0
作者も4人も長旅乙!
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1421.jpg
後は後日談で終わりか…読みたいけど寂しいな

879名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 12:41:45 ID:nnePnEts0
>>878
ありがとうございます!!!
弟者の表情がすごくよくて、うれしい。書いててよかった

880名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:03:33 ID:nnePnEts0


兄者と弟者の旅は終わった。
――かといえば、そうではなかった。

大市へと赴き、砂漠を進み、盗賊と戦う。
100年に一度とも言われる神秘と出会ったかと思えば、遺跡を探索し、命をとしてゴーレムと戦いを繰り広げる。
そして、竜の背に乗り、屋敷へと帰りつく。

思えば長い一日だが、話はそれで終わらなかった。
家へと帰った彼らを待ち構えていたのは、母者と姉者による説教という名の暴力と、大商隊出立の知らせだった。

彼ら兄弟は“流石”の街の住民だ。
街を束ねる母者の息子としての、義務もある。
だから、街にとって大きな出来事があれば、どれだけ疲れていても動かなければならない。

大商隊は年に三度、東方から西方、西方から東方へと大陸を横断する。
商人や護衛の数はかなり多く。それに加えて、大量の荷物と荷馬車。それに、ラクダや、安全を求めて多くの旅人が同行する。
膨れ上がったその規模は、下手な集落よりずっと大きい。
そんな彼らの出立となれば、街中総出の大騒ぎとなる。

流石の兄弟が一日のうちに体験した出来事は、本人たちにとっては人生観を変えるほどの大事件だった。
しかし、母者をはじめとする街の人々にとってもそうだったかと問われれば、否である。
結局、彼ら兄弟は休む暇もないまま、仕事へと駆り出された。


.

881名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:04:56 ID:nnePnEts0




そして、慌ただしい夜は明ける。



――これはいわゆる、後日談。
砂漠へと向けて大商隊は旅立ち、そして、穏やかで何でもない一日が始まる。




.

882名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:05:48 ID:nnePnEts0





( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )





.

883名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:06:28 ID:nnePnEts0





おしまいのあと。 いわゆる、後日談




.

884名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:07:39 ID:nnePnEts0

市場のすぐ横にある大きな建物は、自警団の本部だ。

今そこには、黒い揃いの服を着た者達が勢ぞろいしていた。
晴れやかな顔をした者、床に倒れこみ惰眠をむさぼる者、疲れきった顔をした者などがあふれ、部屋は一種の混沌と化していた。
至るところから喜びの声や、雄叫びと、いびきの混じった音が響き渡る。


从*゚∀从「いやほぉぉ、飲むぜぇぇぇぇ!!!」

( ^Д^)「まだまだあるけど、とりあえずはこれで一段落ぅぅぅ!!!」


        イェーイ!

  ヾ从*゚∀从人(^Д^*)ノシ



大商隊を送り出した自警団員たちは、ひたすら浮かれ、舞い上がっていた。
お互いに肩を抱き、飛び回り、まだ昼前だというのに、机にはなみなみと注がれた酒や、沸かしたての茶がいたるところに並べられた。
普段は書類やら武器やらが並べられたその部屋は、今は飯屋や宿屋のような体をなしている。


(;´∀`)「おーい、まだ仕事は終わってないモナよー」


大商隊到来時における、治安の維持は彼ら自警団員にとって最大の仕事だ。
それに加えて、大商隊の到着時や、出立時の手伝い。役場や商人組合の手助けなど、普段はない仕事が押し寄せる。
彼ら自警団員は数日用意された休み以外は、ほとんど寝る間もなくこき使われていた。


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885名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:09:20 ID:nnePnEts0


(;´∀`)「あー、こりゃあ誰も聞いてないモナ」

爪'ー`)「ここんとこ、ろくに休む暇もなかったからな」


休みの団員まで駆りだされた夜通しの作業がようやく終わりを迎えた頃には、倒れこむ団員と叫びだす団員で阿鼻叫喚の地獄と化していた。
まだ辛うじてやる気のある団員が、本部へ団員をなんとか押しこみ、そして今の惨状がここにある。


(;Д; )「長かった。忙しすぎて死ぬかと思った」

从 ;∀从「荷運びにも、盗っ人や酔っぱらいにも、人とか物の整理や、母者様にも姉者様にも、天候にも負けなかったもんな。
      城門警備とか、ほんと一瞬の幻だったし。役場の連中とはケンカだし、酔っぱらいが盗賊化するし。
      がんばったよ、今期も本当にがんばったよ!!」

(;Д; )「ハインさん。オレ、一生ハインさんについていきます!!」

从*;∀从「よせやい、照れるじゃねぇかよ」


先輩も後輩も、老いも若きも、男も数は少ないが女も、果ては普段は仲が悪いもの同志までもが、楽しそうにはしゃぎ合っていた。
寝ているものは不幸にも踏まれ、何処から持ってきたのか次々と料理が運び込まれる。
誰もかもがこんな状態なものだから、何か騒ぎが起こったらどうするつもりかというモナーの心配は誰にも届かなかった。


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886名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:11:10 ID:nnePnEts0


( ; ゚¥゚)「あー、これは完全に、大仕事をやり終えておかしくなってますね。
       どうせ見るなら、麗しい女性同士の戯れの方がよかったものです」

爪;'ー`)「お前さんも、そうとう趣味が悪いねぇ」


(-、-*川.。oO


乱痴気騒ぎに参加しない面々も、昨夜から続く夜通しの作業で力が尽き気味だ。
そんな彼らを誘惑するように、食べ物の匂いが辺りに漂う。


从*-∀从「弟者の野郎には逃げられたが、こっちはこっちで楽しくやろうぜ!」

(-Д- )「弟者さん、ひと仕事終えたら今日は用事があるからですもんねぇ。冷たいですよ」

从*゚∀从ノ「まあいい、今日は飲むぜぇェェェ!!!」


(*^Д^)9m「いよっ、ハインさぁぁぁん!!!」


はしゃぐ団員の姿を眺めながら、モナーが一つ大きな息をついた。
やれやれと言わんばかりの表情は、それでも不快そうではなかった。


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887名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:13:22 ID:nnePnEts0


爪'ー`)「さてと、私も羽目を外してみようかね。
     モナーの旦那。旦那も、たまには飲んでみるかい?」

( ´∀`)「モナは酒はやらないから……」

(  ゚¥゚)「ああ、モナー氏は信仰の徒ですものね」


同僚の声にモナーは不敵な笑みを返すと、何やら大きなものの入った袋をひっぱりだす。
一体何かと年かさの男が見守れば、そこから出てきたのは水煙草のための器具だった。


爪*'ー`)「やるじゃないか、旦那も」

( ´∀`)「やっぱり、モナにはこれモナ」

爪'ー`)「ご相伴させてもらってもいいかな?」

(*´∀`)「いいモナよ。フォックスの旦那もイケる口モナ?」


(  ゚¥゚)「さてと、私は向こうでつまみ食いでもしてきましょうかね」


年長の男たちは顔を見合わせると、いそいそと準備にとりかかる。
そこに浮かぶ表情は完全に少年のそれだ。


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888名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:15:17 ID:nnePnEts0


( ´∀`)y‐~~ フゥ

爪'ー`)y‐「やはり、この瞬間こそが至高だな」

(*´∀`)y‐「モナモナ」


火を灯し、水で冷ました煙を吸う。
満足そうな顔で紫煙をくゆらせる二人の男のそばに、派手な足音を立てて人が押し寄せた。
何人かの顔が赤いのは、既に酒が回っているからだろう。


从*゚∀从「うぉ、いいな! ちぃとばかし、よこせよ!」

(*´∀`)「だめモナ。ハインは向こうで酒でも飲んでるモナ」

从*゚3从「ちぇー、しゃーねーな。
      オラッ、起きろやペニサス!!!」

(-、q;川「なぁにぃー、少しくらい寝させてよ。
      昨日は渡ちゃんと遊んでて、ぜんぜん寝てないのよー」


ヤーメーテー('、`;川⊂从*゚∀从 ヨッシャイクゾー


宴は続く。
――時は昼前。太陽は高く、酒宴はまだまだ始まったばかりだ。


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889名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:18:05 ID:nnePnEts0

広場からは少し離れた、職人街。
建物が密集したその一角に、ある工房があった。
細工物を扱うその小さな工房は、独立したばかりの若き職人モララーのものだった。

その工房に、少年の大きな声が響いた。


(#゚∀゚)「いいかげんにしろよ、このバカ! アホ! マヌケ!」

( ・∀・)「あーあー、聞こえないんだからなー。
      それ終わったら、井戸に水汲み行って来いよ!」


声を上げる少年の手には、拭き掃除に使ったらしいボロ布が一枚。
小さな工房の中は片付けられ、彼の間近にある机の上は綺麗に磨き上げられていた。
それは、少年が昨日から今日にかけて行った仕事の成果だった。


(#゚∀゚)「なんでお前のためなんかに働かなきゃなんないんだよ!」

  ∧_∧  ゴツン
 ( ・∀・)o彡゜  て
     (;>∀<)> そ アデッ


( -∀・)「なんでって、僕の丹精込めた大切な商品を盗んだからに決まってるだろ。
      あれを一つ作るまでに、僕が何日かけたのか知ってるのかい?」


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890名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:20:18 ID:nnePnEts0


(;>д<)「だからって、コキ使いすぎだろ!」

(σ・∀・)「そんなに不満なら、今から懲罰に切り替えてもらう?
       きっとムチ打ちか、死なない程度の日干しで済むと思うからな」

('(ii゚∀゚∩て「水くみだいすき!! ろーどーほーしサイコー!!!」


少年は壺を手に取ると、一目散へと出口に向けて走りだす。
この街にほとんど馴染みのない少年には、井戸の場所はわからない。
しかし、少年にとってはモララーの手から逃れることが最優先だった。


(*-∀-).。oO(くそう。水くみ行くふりして、逃げてやる。ばーか、ばーか!!)

( ・∀・)「坊主、それが終わったら。
      ちょっと道具をさわってみるか?」


内心で考えを巡らせる少年に向けて投げかけられたのは、彼にとって予想もしなかった言葉だった。
水汲みにかこつけて逃げようとしていた少年の足が、ふと止まる。
その顔には信じられないという驚きの色が浮かんでいた。


(;゚∀゚)「え゛?」


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891名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:22:27 ID:nnePnEts0


( ・∀・)「どうせ、商隊にくっついて来た宿なしだろう?
      その商隊も行っちゃって住むところもない、と」

(#゚∀゚)「な、それはお前が!」

( -∀・)σ「捕まったお前が悪い。盗っ人なんて、殺されたって文句は言えないんだからな。
       そもそも、この母者様のお膝元で盗みなんてしようとする方が馬鹿なんだよ」


モララーの言葉に、少年は悔しそうに顔を朱に染める。
そんな少年とは対照的に、モララーの表情は落ち着いていた。


( ・∀・)「まあ、細工でも何でもいいけど技さえ身につけりゃあ、少なくとも食うには困らないよ。
      こそ泥なんかよりも、そっちの方がよっぽど飯の種になるんだからな」


真っ黒い瞳で少年を見つめながら、モララーは淡々と話す。
モララーの常に笑顔を浮かべた口元は、その心情を容易に他人に読み取らせない。
それは人の女に手を出すのが好きという彼の悪癖によるものだったが、それを知らない少年にとっては恐怖そのものだった。


(;゚∀゚)「そ、そんなこと言ったってだまされねーぞ!」

( -∀・)「泥棒は嫌いだけど、この僕の細工に目をつけたのだけは褒めてやる。
      なんて言ったって僕の細工は、一流品だからな!」


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892名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:25:33 ID:nnePnEts0


(#゚∀゚)「な、なんだよ変なやつ!」


少年は必死に反抗するが、それは怯えた犬が吠えているのとそう変わらなかった。
それでも少年はなんとかモララーよりも優位に立とうと必死で声を上げ、続くモララーの言葉に息を呑んだ。


( ・∀・)「この僕が何を言いたいかというと。
      ……働きによっては弟子にしてやってもいいってこと」

(;゚∀゚)「え?」

( ・∀・)「まぁ、どうするかは坊主の自由。
      いっとくけど、僕は男には厳しいから、覚悟するといいからな!」

( ゚∀゚)「……」


モララーの真意は、少年にはわからなかった。
しかし、それは少年にとっては何年かぶりに人から向けられた、正真正銘の好意だった。
甘い言葉は、大抵ろくでもない結果にしかならない。そもそも、モララーは何を考えているのかわからない男だ。

それでも、彼の言葉は少年にとって純粋に嬉しかった。


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893名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:27:12 ID:nnePnEts0


(*゚∀゚)


少年の顔が赤く染まり、その顔に笑顔が浮かぶ。
どこか刺のあった顔つきは緩み、年相応の子供らしい顔つきとなる。
騙されるならそれでもいいやという思いで、少年は声を上げた。


(*゚∀゚)「師匠」

( ・∀・)「え?」



シショー ナニスレバイイー


                    チョ、オマエキガハヤインダカラナ


オマエジャナクテ、ツーダゾ!


                    ハイハイ



――それはまさしく、一人の職人の誕生の瞬間だった。


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894名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:29:10 ID:nnePnEts0

広場の一番奥にあるツン=デレ商会では、金の髪の娘が所在無さげにうろついていた。
彼女は同じ場所で行ったり来たりを繰り返し、苛立ったように両手をばたばたと動かした。


ξ#゚⊿゚)ξ「あー、もう気になる!!!」

ζ(゚ー゚;ζ「もー、お姉ちゃん少しは落ち着いてよ〜」


そう声を上げたのは、彼女と面差しがよく似た娘だ。
彼女――デレは、先程から所在無さ気にしている娘――ツンの妹である。


ξ#゚⊿゚)ξ「何であの二人は、連絡の一つも寄越さないのよ!」

ζ(゚、゚;ζ「荒れるなぁ、もぅ……」


ツンは昨夜からずっとこんな調子だった。
一応、仕事には出ているものの、ずっと上の空。
昨日、兄者と弟者を街から送り出した時はよかったのだが、それからいくらたっても帰宅の報がないと知ったとたん、ツンの様子はおかしくなってしまった。
兄弟とはそれほど縁のないデレからすれば、姉がどうしてこれだけ取り乱すのかわからない。


ξ;゚⊿゚)ξ「兄者も弟者も、大丈夫だったのかしら。
       ……ねぇ、デレ。食料は足りたかしら? 水はちゃんと多めにしたわよね!!」

ζ(´、`;ζ「落ち着こうよぉ、お姉ちゃんー」


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895名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:31:31 ID:nnePnEts0


ツンはひとしきり声をあげると、眉根を寄せ不安そうな表情になった。
いつもは毅然とした声は震え、今にも泣き出さんばかりだ。
そんな態度も、やっぱり姉らしくなくて。デレはこっそりと息をつく。


ζ(゚、゚;ζ.。oO(お姉ちゃん、私がいない時もこんな感じなのかな。
          ……遅くなる時は、気をつけよう)

ξ;゚⊿゚)ξ「本当に大丈夫かしら……」


そんな妹の内心には気づかずに、ツンは所在なさげに声を上げ続けている。
お客に対してはいつも愛想よく、しっかりしている姉だけに、その姿はデレにとってなかなか新鮮だ。


ξ;゚ぺ)ξ「……あいつら昔からよく厄介事に巻き込まれてたし。まさか」

ξ;゚⊿゚)ξ「何か事故とか、バケモノとか出てたらたらどうしよう。怪我とかしてないわよね?
       薬……薬を入れておけばよかった」


ξ; ⊿ )ξ オロオロ


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896名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:33:18 ID:nnePnEts0


ツンは再び、その場をうろうろと歩き始める。
歩きながらも時折あげる「どうしよう」という声は、普段の彼女とは打って変わって弱気だ。


ζ(゚ー゚;ζ「お姉ちゃんって、意外と心配性だよねー。
       大丈夫だって。兄者さんはアレだったけど、弟者さんしっかりしてたし」

ξ#゚⊿゚)ξ「あの二人だから、心配なの!!
       兄者は気を抜くと変なものを追いかけてどこか行っちゃうし、弟者は昔っからすぐ泣くし」

ζ(゚、゚;ζ「……お姉ちゃんの考え過ぎじゃない?
       兄者さんならともかく、弟者さんが泣くなんて、ありえないよー。冷静でかっこいいもん。
       それに二人とも一応、大人の男の人だよね?」

ξ-⊿-)ξ「……」


デレのとりなしに、ツンは足を止めた。
見れば、顔に浮かんだ焦りの表情はいつの間にか消えている。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃん、少しは落ち着いた?」


ツンはデレの言葉にしばらく黙り込んだ後に、ようやく口を開いた。
しかし、ツンの眉はひそめられ、顔にはいぶかしむような表情が浮かんでいる。


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897名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:35:23 ID:nnePnEts0

  _,
ξ;゚⊿゚)ξ「……デレ、まさかあの二人に惚れた?」

Σζ(゚、゚;ζ「お、お、お、お姉ちゃんしっかり!!!」


ξ;-⊿-)ξ「まさか、デレが。私のかわいいデレが、あんなのに惚れるなんて。
        でも、姉としては祝福しないわけには……。いやいやここは、止めるべきか」


ζ(゚、゚;ζ「お姉ちゃんがぜんぜん冷静じゃないってことはわかった。
       しっかりしてよ、お姉ちゃんー」

ξ;゚⊿゚)ξ「も、ものすごく冷静だし!」

ζ(-、-;ζ「えぇー」


ツンは冷静どころか、まともに頭が回っていない。こんな様子ではとてもじゃないが、仕事なんて任せられない。
デレは至極冷静に姉の今の状態を悟った。
もうこうなったら姉の心配事を解決しないことには、今後の仕事すべてに支障が出る。
そう理解したデレは、何とかして姉を普段の状態に戻せないかと計算を始めた。


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898名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:37:06 ID:nnePnEts0


ζ(゚、゚*ζ「……そんなに気になるなら、行ってみたら?」


――そして、計算の末に出されたのは、こんな言葉だった。


ξ;゚⊿゚)ξ「で、できるわけないじゃない。仕事中なのよ」

ζ(^ー^*ζ「ところがー、ここに流石邸へのお仕事があるんですー!
       流石邸の妹者お嬢様に、特別製のお菓子を手配!です」

ξ゚⊿゚)ξ「……あ」


デレの言葉に、ツンは不意をつかれたように声を上げた。
彼女の表情に驚きの色が浮かぶ。しかし、それはすぐに喜びの表情へと変わる。
それを好機とみたデレは、ツンの背中を押すように言葉を続ける。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんも、妹者お嬢様に何か用意してたよねー。
       それに、妹者お嬢様なら、兄者さんや弟者さんについてきっと知ってるんじゃないかなー?」

ξ*゚⊿゚)ξ「そっか、そうよね!!」


そう言うが早いが、ツンは棚から伝票を取り出すと凄まじい速さでめくりはじめる。
そして、お目当ての項目をみつけると、店の奥へと向かって駆け込んでいく。
出かけるための準備をしているのだろう。デレはそんなツンに向けて、イタズラっぽい笑顔を浮かべた。


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899名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:39:46 ID:nnePnEts0


ζ(゚ー゚*ζ「そうだ、お姉ちゃん!
       行くなら兄者さんに、今度一緒にお食事でもって伝えておいて」

ξ;゚⊿゚)ξて「まさか、デレ。本当に、バカ兄者に惚れ」

ζ(^ー^*ζ「ちがうってー、私と兄者さんと、弟者さんと。それからお姉ちゃんで行くの。
        うちのお姉ちゃんにこんなに心配かけたんだもの、兄者さんにはこれくらい奢ってもらわないと」

ξ゚⊿゚)ξ「……」


ツンはデレの言葉に、考えこむように足を止めた。
デレの位置からはツンの表情は見えない。
だけど、ツンが笑顔を浮かべたということが、デレにはなんとなくわかった。


ξ*゚⊿゚)ξ「そうね」


ツンの頬が、赤く色づく。
この砂漠には珍しい白い肌と相まって、彼女は何よりも魅力的だった。


ζ(゚、゚*ζ.。oO(お姉ちゃんって、けっこう面倒な性格だよね。やれやれ)


ツン=デレ商会から荷台を抱えたツンが外へと飛び出していったのは、それからほんの少ししてからだった。


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900名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:41:47 ID:nnePnEts0

  _
( ゚∀゚)「よう、ツンちゃん。今日はこれから遊びに行くの?」

ξ゚⊿゚)ξ「仕事よ、仕事!」


知り合いへの挨拶もそこそこに、彼女は歩き始める。
ツンの歩みは、はじめはゆっくりと。しかし、その足は徐々に早まり、とうとう走り始める。


( `ハ´)「おじょーちゃん、ウチの香辛料買うよろし!」

( ゚∋゚)「ヤキトリ クエ」

J(*'ー`)し「カーチャン特製、手作りパンもあるからねー」

从;'ー'从「ふぇぇー」


朝最後の稼ぎどきとばかりに盛り上がる露天の数々を抜け。
職人街の脇を駆け抜け、湖のすぐそばを通り過ぎるが、彼女の足はその速さを緩めない。


ξ*゚⊿゚)ξ「今度あったら、とっちめてやるんだから」


――目指すは流石邸。
腐れ縁の兄弟と、その妹の元へと彼女は急ぐ。


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901名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:43:37 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――


“流石”の街から少し離れた、小さな町。
湖はない代わりに、大きな井戸がいくつかあるその町で一人の男が声を上げた。


<#ヽ`∀´>「アイゴー!!
       何でウリがかくも艱難辛苦をぉぉ――!!!」


そこは、東方の料理を出す食堂だった。
男とその連れの少女は、路銀を稼ぐべく昨夜からここでお世話になっていた。
叫び声を上げる男――ニダーの手には、湯気を立てる竹製の蒸籠が握られている。


(゚A゚# )「ニダやんうっさい!!」

ΣΓ<`Д´*;>Γ 「アイヤー!!」


少女の頭につけられた、真新しい花の飾りがきらりと輝く。
よく似合っている、とニダーが思ったその瞬間。少女の体から、ニダーめがけて蹴りが放たれていた。
宙を浮いた彼女の体は、見事にニダーの尻に強烈な一撃を加える。


ttp://buntsundo.web.fc2.com/ranobe_2012/illust/30.png


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902名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:45:33 ID:nnePnEts0


(゚A゚* )「そないしゃべらはったら、お客さんたちに迷惑やろ!」

<`Д´*;>「のののののーちゃん!!」

(゚A゚# )「ウチらはろくな荷物もお金もないんよ。ここクビになったら、どないしはる気?
     大事なお金で、こないな花飾りなんて買うなんて、ニダやんはほんまにアホやなぁ」


昨日、襲いかかったはずの弟者に返り討ちにあった彼らは、この小さな町にたどり着いた。
大きな井戸のあるその町は小さかったが、それでもしっかりと施設がそろっている。
そこでニダーが真っ先にしたのは、髪飾りをのーへと買い与えることだった。
弟者によって壊されたのーの髪飾り。それによく似た花の飾りをニダーは選んだ。


<;ヽ`∀´>「アホってウリをそんな、無為無能、無芸無能の無知蒙昧みたいに」

(゚A゚* )「そんなむつかしいこと言わはっても、ウチはごまかされんよ」


それは、のーを守り切れなかったことに対する、彼なりの謝罪の気持ちだった。
のーも、それに気づいていたのかもしれない。
ニダーの無計画さを叱りながらも、贈り物の髪飾りを大切そうに身につけ続けている。


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903名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:47:54 ID:nnePnEts0


(゚A゚# )「はよ、お客さんにこれ運ぶ!」

<ヽ`∀´>「ううっ……なんでウリがこんな薪水之労を……」

(゚A゚* )「ニダやんがアコギなことばっかしとるからや。
     これにこりたら、まっとうな仕事をせんとあかんよ」


東方の民は同胞には、寛容だ。
しかし、いつまでろくに働こうとしない者をいつまでも養ってくれるほどは甘くない。
ここから先の生活は、自分たちの力で成り立たせなければならないのだ。


(゚A゚* )「……あれが外れたら、まだいいお金になったんやけど」

<ヽ`∀´>「のーちゃん……」

( A  )「堪忍な、ニダやん」


少女の裾の下では、水晶がはめ込まれた腕輪が輝いている。
魔力を封じるこの銀の腕輪は、彼らが何を試しても外れなかった。
これがあるかぎり、のーは普通の少女と変わらない。魔法の使えない彼女は、単に口が達者なだけの足手まといだ。


<ヽ`―´>「……」

( A  )「ウチがいなければ、ニダやんはもっと楽に」


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904名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:50:07 ID:nnePnEts0


<ヽ`∀´>「……ウリを見くびるのはのーちゃんでも、許さんニダ。
      ウリは才気煥発、全知全能の天才ニダ! ウリ一人でものーちゃんくらい、養えるニダ!!」

( A゚*)「……」


ニダーの手が、のーの頭に置かれる。
そのままぐりぐりと撫で回すと、あちちと声を上げながら蒸籠を抱え直す。


<ヽ`∀´>「ウリはウリのしたいことしかしないニダ!
      のーちゃんがなんと言ったって、絶対についてきてもらうニダ!!」

(゚A゚* )「ニダやん……」

<*ヽ`∀´>∩「まず手始めに、伝説の料理人としてのし上がるニダ!
        そうと決まったら、誠心誠意働くニダ!!」


のーが笑顔を浮かべるのを、ニダーは満足そうな顔で見た。


( ;曲;)「いい話じゃねぇか」

(;TДT)「……饅頭冷めてる」


小さな町の昼下がり。
元盗賊の男と、魔法使いだった少女の話は、まだまだ続きそうだ。


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905名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:52:12 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――


ソーサク遺跡の最奥部。
草がなびく草原に、幾人もの人影が集まっていた。
人影の中にはギコの他に、しぃやでぃの姉妹の姿もある。


(*゚ー゚)「ギコくん、こっちをお願い」

(,,゚Д゚)「わかった。ちょっと待ってろ!」


ギコは掛け声を上げると、岩を持ち上げる。
その岩の固まりは、ゴーレムの欠片だ。
見た目はただの岩と変わりないが、それが動き出したらどうなるかは考えるまでもなく明らかだ。


<_フ;゚ー゚)フ「重い」

(;=゚ω゚)ノ「しっかりだよぅ!」

('(;゚∀゚∩「……つかれたよ! たよ!」


ギコと同時に岩を持ち上げた男たちが、呻き声をあげる。
それを見て、しぃは少しだけ苦笑いを浮かべた。


(#゚;;-゚)「これが……動いた……の?」

(*゚−゚)「ええ、そうみたい」


.

906名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:54:53 ID:nnePnEts0


彼らは今、ソーサク遺跡にそびえ立つ神殿の再調査に来ていた。

ソーサク遺跡の中でも神殿と呼ばれる第一史跡は、真っ先に調査対象となった遺跡だ。
この最奥の間にもこれまで何度も調査の手が入り、大体調査し尽くしたと思われていた。
しかし、その考えは、昨日の兄者と弟者の一件で大きく崩れた。


(# ;;- )「……こんな、……こわいこと、……あったなんて」

(;=゚ω゚)ノ「で、でぃさんのせいじゃないよぅ」

('(;゚∀゚∩「でぃちゃん、元気だすよ! だすよ!」


そして、本日改めて調査した最奥の間は、かなり荒れ果てていた。
部屋の中にはゴーレムの欠片が散乱し、土や草は踏み荒らされ、血が染み込んでいる。
焼け焦げた最奥の壁、祭壇の周辺は割れた壺や燭台が散乱し、床に描かれた図式が刃物でめちゃめちゃにされている。

……神殿に据えられた鏡も壊されていたが、こちらについては弟者がやったと事前に聞いていたため、ギコもしぃも特に口にはしなかった。


<_フ;゚Д゚)フ「巻き込まれたの、母者様の息子だろ?
          すげぇ。母者様だけじゃなくて、息子も腕が立つんだな」

(# ;;- )「……」



.

907名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:56:47 ID:nnePnEts0


<_プー゚)フ「大丈夫だって、でぃちゃん。
        笑いながら帰ってったんだろう? しかも、竜に乗ってとか。大した野郎どもだぜ」

(# ;;- )「……でも、……私、……弟者さんにここは怖くない……って。
     それに、……ギコさん連れて行ったの……私っ」


沈み込んだでぃをなぐさめるように、調査隊の仲間たちが声を上げる。
だけど、でぃの言葉は弱々しく今にも泣き出さんばかりだ。


(,,゚Д゚)「元気を出せよ、でぃ。あんなことが起こるなんてだれも予想できん。
     大体悪いのはお前じゃなくて、どっちかって言うとあのクソ女の方で」

(*^ー^)「ギコくん?」

(,,;゚Д゚)「だってそうだろ? あの女のワガママさえなきゃ、俺だっていっしょに遺跡へ……」


(=゚ω゚)ノ「ギコはこーんな岩のかたまりと戦えるのかよぅ」

(,,; Д )「ぐ」


ギコはごにょごにょと言葉を返そうとしたが、思わぬ所から飛んできた声に声を失う。
悔しそうな表情を浮かべ、言葉を投げかけてきた相手――ぃょぅを睨むが、笑い声で返されてしまった。


.

908名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 20:59:04 ID:nnePnEts0


(,,;゚Д゚)「でもだな、オレがいるといないじゃ」

(*゚ー゚)「――ところで、ギコくん。
     でぃから聞いたんだけど、姉者に言われた『例のこと』って何かしら?」

(,,;゚Д゚)「え、あ?」


なおも何かを言おうとしたギコの言葉は、しぃの声によって遮られた。
しぃは普段と同じ穏やかな表情で話しかけている。口調だって普段と変わらない。
しかし、その声だけは刺々しかった。


(*^ー^)「ギコくん。何か隠していることがあるなら、私に教えてほしいなぁ。
     それとも、私たちには言えないことなのかしら?」


しぃは笑顔を浮かべた。
元から柔らかい印象のある彼女だが、笑みを浮かべると表情が幼くなり、柔らかい印象がさらに強くなる。
が、彼女がたった今浮かべている表情は、なぜかその柔らかさが見えない。
一体何故だろうと考え……、


(*^ワ^)「ねぇ、ギコくん」


ギコは悟る。……これは、怒っているときの顔だ。
しぃは確実に怒っている。そして、怒りだした女は大抵、手に負えない。


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909名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:01:13 ID:nnePnEts0


(#;゚;;-゚)「……お姉……ちゃん……?」


姉の異変に気づいたのか、でぃは恐る恐る声を上げる。
しかし、しぃは妹に対して何の答えを返さなかった。
しぃの足元で、じゃりりと地面が音を立てる。



(,,;゚Д゚)「……」

(*^ワ^)「……」


('(゚∀゚∩「どうしたのかな? かな?」

<_フ;゚ー゚)フ「ちょ、なおるよは黙ってろって」


しぃとギコは無言で黙りこむ。
なぜだか知らないがしぃは怒っている。しかし、だからといって自分の秘密を暴露するほどギコは思い切りが良いわけではない。
そもそも話すにしても、これだけ人がいるとなると話せるものも話せない。

どうする、どうする俺!!――ギコはそう悩んだ末、


(,,;゚Д゚)「そ、そ、そういえばラクダの具合はどうだったかなー」


戦略的撤退を選択した。


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910名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:03:13 ID:nnePnEts0

(#;゚;;-゚)「あ、……アラマキさんと、ナカジマさんなら……」


突然、ラクダと言い出したギコに、でぃは小さく声を上げる。
家畜の世話はみなで交代をしてやっているが、その中でも一番頻度が高いのが動物好きのでぃだった。
特に荒巻と、中嶋の二匹は昨日でぃが預かったばかりだ。彼らの様子ならば、でぃが一番詳しかった。


(,,;^Д^)「いやー、ちょっと様子でもみてこようかなぁ。
      あのがめついクソ女のことだから、ウチのラクダ返せって言いかねんからゴルァなー」

('(゚∀゚∩「わざとらしいよ! らしいよ!」

<_フ;゚ー゚)フ「あんにゃろ、逃げる気だぞ!」

(;=゚ω゚)ノ「つかまえるんだょう!」


ギコは言うが早いが、岩を放り投げ走りだした。
しぃや、仲間の男たちがギコを止めようと声を上げるが、ギコはそれを振り切り扉へ向かって駆け出す。
彼の足元で草が揺れ、涼しい風がギコの青い毛並みを揺らしていく。


(*゚ 、゚)「もう。逃げても、また後で顔を合わせるのに……。
     良くも悪くも正直なのよね、ギコくんって」


ギコの姿はもう扉の向こうへと消えていた。
ギコを追いかけて何人かが仕事を放り投げて出て行ったが、きっとギコには追いつけないだろう。


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911名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:05:29 ID:nnePnEts0


(#;゚;;-゚)「……あのね、……お姉ちゃん」

(*゚ー゚)「ん? どうしたの、でぃ?」


扉に向けて軽く溜息をつくしぃに、でぃは恐る恐る声を上げた。
でぃにとって姉は、誰よりも綺麗で優しくて、そして引け目を感じる存在だ。
だから、でぃはしぃに話しかけようとすると、なかなか上手く声が出せない。
しぃだけではない。でぃはいつだって、人とうまく話すことが出来ないのだ。


(#゚;;-゚)「……ギコさん……ゆるしてあげて……」

(*゚ー゚)「どうして?」

(# ;;- )「……ギコさんは、……私を、……かばって……くれただけ……」

(*゚ー゚)「……そう?」

(#; ;;- )「そう。……それに、……お姉ちゃんも」


しぃはでぃの途切れ途切れの言葉を、聞いていた。
相槌をはさみながら、それでも急かすこと無く、彼女はただ妹の言葉が続くのを待った。
何度も言葉をつまらせながら、でぃは懸命にしぃへと訴えかける。


(#; ;;- )「……私が元気ないから……話、変えてくれた……ん、だよね…」


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912名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:07:04 ID:nnePnEts0


でぃの言葉に、しぃは笑顔を浮かべる。
その表情はギコに向けていた時よりもずっと柔らかく、優しい瞳をしていた。


(*^ー^)「さあ、どうかしら?」

(#゚;;-゚)「……ありがとう、お姉ちゃん」

     
(*^ー^)ノ( ー;; #)


しぃは返事をする代わりに、妹の頭を撫でた。
でぃの口元がかすかに緩み、ぎこちない笑みを浮かべる。それを見て、しぃはさらに微笑んだ。


(#゚;;-゚)「あのね……私も、……アラマキさんのとこ、……行っていい?」

(;゚ー゚)「うーん。ギコくんも、エクストくんたちも行っちゃったから、しばらくは休憩のつもりだけど。
    ……でも、急にどうしたの?」

(#*゚;;-゚)「……みんなにね……庇われるだけじゃなくて……自分もがんばりたい、の。
     それに……兄者さんと弟者さんに、……アラマキさんたち頼まれたの……私、だから」


たどたどしいけれど、真剣にでぃは告げる。
緊張と興奮で顔を赤らめた彼女は、姉によく似ていた。


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913名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:09:16 ID:nnePnEts0




神殿と呼ばれる建物から外に出た先。
調査隊が本部として利用する天幕から少し歩いた場所で、ラクダやロバは飼育されていた。
しぃの追求や、追いかけてきたエクストから見事に逃げ切ったギコは、一息つくとターバンを整えた。


( "ゞ)「よう、ギコ。どうした?」

(,,;゚Д゚)「どうしたもこうしたもあるか。いろいろ言われるから逃げてきた。交代だ交代!」
  _,
( "ゞ)「サボりの片棒は勘弁なんだが」


調査隊の一員でもある男はギコに悪態を付きながらも、大して不機嫌そうな様子ではなかった。
それどころか上機嫌な様子で、「後は任せた」と声を上げると、ギコが来た神殿の方に歩き始めた。


(,,゚Д゚)「俺はどっからやればいい?」

( "ゞ)「餌やっといて」

(,,;-Д-)「わかった。お前があっさり、交代するはずだ」


ソーサク遺跡には家畜の数が多い。
調査隊の面々の移動手段や運搬役として連れてきたものもいるが、大半は遺跡を調査するための条件として飼育しているものだ。
本部のそばに植えている植物同様、環境調査の一環らしいが、その数は増えに増え世話も大変になってきている。


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914名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:11:40 ID:nnePnEts0


( "ゞ)「あとは任せた」

(,,-Д-)「へいへーい」


男――デルタを送り出すと、ギコは並ぶラクダやロバの群れを眺めた。
威嚇しあったり、座り込んで眠っていたり、繋がれた紐から逃れようと動きまわったりと、家畜たちは思い思いの行動をとっている。
こいつら全部に餌をやるのかと、ギコは内心うんざりする。が、交代するといった以上は、サボるわけにも行かない。


(,,゚Д゚)「えっと、あらまきと、なかじま?……だったか?」


ここにいる家畜には識別表が付いている。
しかし、兄弟から預かった二頭のラクダにはそれが無いはずだ。
ギコはラクダたちに視線を走らせ、そして見つける。

荒巻と、中嶋。

二頭のラクダは、ラクダの中でも一際温厚そうな顔つきして、地べたに座り込んでいた。
そして、何をしているのかといえば、のんびりと眠りこけている。


(,,゚Д゚)「おーい、お前ら元気かー? 死んでないかー?」

/ ,' 3


ギコの声に、荒巻のほうが軽く目を開ける。
彼もしくは彼女は、しばらくギコの姿を眺めていたが、すぐに興味をなくしたかのように再び瞳を閉じる。



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915名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:13:36 ID:nnePnEts0


(,,゚Д゚)「ま、死んではないみたいだな」


荒巻と中嶋は死んでないどころか、大いに暇を楽しんでいるようだ。
ざっと見た限りでは、おとなしい気性のようだし、他のラクダたちとも上手くやっていけるだろう。


(,,゚Д゚)「まぁ、気楽にやれや」


ギコはそう呟くと、空を見上げる。
最奥の間の柔らかい日差しと違って、外の日差しは暴力的なまで強い。
そんな日差しに焼かれながら、ギコはどうやってしぃをごまかそうと考え始める。


(,,;-Д-)「しぃのヤツ何が、『何か隠していることがあるなら、教えてほしいなぁ』だよ。
      言えるわけねぇだろうが、……」


(,,* Д)「しぃが好きだなんて……」


ボソリと呟いた、ギコの顔は赤い。
他人から見れば大したことのないことだが、ギコにとっては一世一代の問題だった。
できればしぃと所帯を持ちたいギコにとって、彼女への愛の告白はその後の人生を左右するものだ。


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916名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:15:32 ID:nnePnEts0

なのに、だ。

姉者はよりにもよって、ギコの一生の問題を、からかいのネタとして事あるごとに持ち出すのだ。
むしろ、この話をチラつかせれば、ギコが何でもいうことを聞くと思っているフシすらある。
それはギコにとって、どうしても我慢ならない事だった。


(,,;Д;)「畜生、俺のこの思いを散々弄びやがって」


姉者=流石。
あの女は悪魔だと、ギコは思う。
どれだけ乳がでかかろうが、腰は細いのに肉付きのいい尻と、むっちりとした太ももをしていようが、そんなのギコには関係ない。

そりゃあ、あの女の本性を知らないガキだった頃は、たしかに騙されかけたこともある。
しかし、そんなことは知ったことか。


( ,'3 )


荒巻が、そして中嶋が迷惑そうに鳴き声を上げたが、ギコの言葉は止まらない。


(,,#゚Д゚)「あのクソ女ぁぁぁぁぁっ!!!!!」


ソーサク遺跡の只中、砂埃によってくすみながらも、なお青い空にギコの声が響いた。


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917名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:18:16 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――


∬´_ゝ`)「――何か今、妙な声が聞こえたような気がする」


“流石”の街で一際目を引く建物、流石邸の一角で女は呟いた。
波打つ豊かな髪に豊満な体つきをした彼女は、街を切り開いた女傑・母者=流石の最初の子供である。
名は、姉者=流石。兄者と弟者。そして、妹者の姉である彼女は、兄弟によく似た面差しの顔を少しだけ曇らせた。


|゚ノ ^∀^)「どうかしましたか〜、姉者様?」

∬´_ゝ`)「なんでもない。どうせ大したことじゃないわ」


彼女に声をかけたのは、金の髪に赤い髪留めをした女性だった。
レモナという彼女は、兄弟の妹である妹者の家庭教師を勤めている。
明るい顔をした彼女の頭の上で、白い猫の耳がピクリと揺れる。そんな彼女に向けて、姉者は声を上げた。


∬´_ゝ`)「そうだ。今日の午後からの、家庭教師はお休みね」

|゚ノ ^∀^)「あら、そうですか。いかがいたしました?」

∬´_ゝ`)「ああ、別に何か起こったわけでも、貴女の仕事ぶりに不満があるわけではないの」



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918名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:21:46 ID:nnePnEts0


姉者の刺のある口ぶりに、レモナの表情が心なしかこわばる。
ともすると鋭い言葉を放つのは、姉者の悪い癖だった。
その傾向は、彼女と親しくなればなるほど強くなっていっている気がする。


|゚ノ;^∀^)「……そうでしたら、よいのですが」

∬´_ゝ`)「あら、ごめんね。本当に他意はないの」


姉者の真意を読み取ろうと、レモナは表情を引き締める。
しかし、彼女の顔は平然とした表情のままで、何の感情も読み取れない。


|゚ノ;^へ^)「ほんとですか?」

∬´_ゝ`)「ええ、本当よ」


レモナが恐る恐る口にした言葉は、姉者にある変化をもたらした。
姉者の口元が緩み、その顔に柔らかな笑顔が浮かんだのだ。
その笑顔に、レモナは今度こそ本当に息を呑んだ。

……姉者は普段、母者の後継者としての勤めからなのか、あまり感情を表情に出そうとはしない。
しかし、その時の彼女は本当に嬉しそうに、無邪気な子供のように笑って告げた。


∬*´_ゝ`)「だって今日は、妹者の――」


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919名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:23:22 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――


“流石”の街を取り仕切る役場は、火でも出たかのような大騒ぎだった。
大商隊こそ出立したものの盗賊への警戒や、天候悪化の場合の対処は絶やせない。
商隊が持ち込んだ物資の流通や、周辺の町への分配、通常業務への切り替えと、考えなければならないことも多い。

仕事はいくらでもあった。
しかし、それ以上に忙しさに拍車をかけているのは、ひとえに母者側の事情によるものだった。


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「今日は誰がなんと言おうとも、さっさと帰るよ!」


母者はこともあろうに、この状況の中で帰ると言い放ったのだ。
普段ならば、この役場には流石夫妻か姉者のうち誰かが滞在するようになっている。
しかし、今日に限っては流石家の者は誰も役場には残さないと言い放ったのだ。


(;´・ω・`)「これを夜までに片付けろなんて無理ですよぉぉ!!!」


母者の言葉が嘘ではないと示すように、共に朝まで働いていた姉者はすでに流石邸へと戻ってしまっている。
その中でもなんとか役場は動いていたが、とうとう忙しさに精根尽き果てたように、青年が嘆きの声を上げた。
困ったように下がった眉をしたこの青年は、若くして母者の仕事を支える補佐官の一人である。


.

920名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:26:13 ID:nnePnEts0


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「いいから手を動かしな!! 何のために、昨日休みをくれてやったんだい!!」

(;´・ω・`)「わかってますけど、無理なものは無理です!!」

(`-ω-´)「諦めろショボン。そんなことで、母者様が止まるはずがないだろう。
       儂らはおとなしく、街のために働くのみだ」

(;´-ω-`)「……父上」


なおも無理だと言い募る青年の肩を、よく似た面差しの年かさの男が叩く。
青年の父親でもある彼は、街の成立当初から母者を支える重鎮だった。
父親に諭されて、青年は半ば泣きながら仕事へと舞い戻っていく。


(;´-ω-`)「昨日はせっかく精霊様を見たっていうのに、ついてない」

(`・ω・´)「ショボン、次はこっちの書類だ!」

(´;ω;`)「はーい」


泣きながらも書類仕事をこなす青年や、他の役人たちの姿を見て、母者は大きく溜息をついた。
ここで働く者達は仕事ぶりは悪くはないのだが、根性のない者が多い。
これが文官のさがというものだろうかと考えてみるが、母者にはいまいち理解の及ばない領分だった。


.

921名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:28:45 ID:nnePnEts0

 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「まったく。あたしらがいないと仕事の一つや二つ片付けられないっていうのかい」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「母者さん、落ち着いて。
      みんな疲れちゃってるだけなんだよ」


そう漏らした母者をなだめたのは、彼女の夫である父者だった。
母者はその声に、じっと父者を睨みつけはじめた。
母者はこの街を作り上げた立役者であり、並みの兵士じゃ太刀打ちできないほどの腕の持ち主だ。
父者もそれは身にしみている。だから、彼女に睨みつけられるとわけもなく緊張するのが、彼の長年の習性だった。


 @@@
@ _、_@ 
 (   ノ`) 「……」

.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ど、どうしたのかな。母者さん……」


夫を睨みつけたまま何も言おうとしない母者に向けて、父者は恐る恐る声を上げた。
父者の顔色は悪く、その声はみっともないまでに震えていたが、それを笑うような輩はこの場にはいなかった。
彼らにとっても母者は頼りになる主であると同時に、恐ろしい存在なのであった。


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922名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:30:28 ID:nnePnEts0


 @@@
@ _、_@ 
 (* ノ`) 「ダーリン。あんたって人は、本当にやさしいね」


そして、母者は沈黙の末にそう言った。
彼女の声は甘く、瞳も熱く潤んでいる。どうやら彼女は夫を睨みつけていたのではなくて、単に見惚れていたようだ。
母者のその言葉に、懸命に仕事をこなしていた何人かが、ぎょっとしたように目をむいた。


.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「母者さん。ダーリンっていうのは、せめて二人っきりの時くらいに…… ヒトガミテルシ」


(´゚ω゚`).。oO(ダーリン!? ダーリンって)

(;`-ω-´)「息子よ。何が言いたいかはわかるが、決して口にはするな」

ハハ;ロ -ロ)ハ「……父者様スゴイ方、思マス」


彼らの驚きは、母者の「ダーリン」という言葉を父者自身が否定しなかったことによって、頂点に達した。
もはや仕事の手はとうの昔に止まっている。
黙り込んだ一同の心に浮かぶのはみな同じような言葉だったが、幸いな事に母者は気づかなかった。


.

923名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:32:05 ID:nnePnEts0


 @@@
@ _、_@ 
 (* ノ`) 「やだよぅ、恥ずかしいじゃないかい!」

.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「は、はは……」


父者は妻の言葉に乾いた笑いを上げるが、助け舟を出すものは誰もいない。
誰もが流石の街を支配する女傑の、意外な姿に言葉を失っている。


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「にしても、いつになったら一段落つくのかねぇ。
       あたしゃさっさと帰りたいよ」


母者はひとしきり父者の背をバシバシと叩くと、ため息をついた。
もうそこには、少女のように顔を赤らめていた先ほどまでの面影はない。
母者は戦場に立つ武人のように毅然とした面持ちで、そこに立っている。


 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「大丈夫。みんなで力を合わせれば絶対にできるよ、母者さん」

 @@@
@ _、_@ 
 (   ノ`) 「そうだといいんだがね」


.

924名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:34:10 ID:nnePnEts0
※44


母者は腕を組んで唸り声をあげる。
言葉だけ聞くと諦めているようにも見えるが、彼女の立ち姿は誰よりも自信に満ちていて、諦めなど微塵も感じられなかった。


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「まあ、無理だと言われたって帰るんだがな」

.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「それはもうちょっと頑張ってからにしよう、母者さん」


父者が恐る恐る上げた声に、母者が「がはは」と笑い声をあげた。
ひとしきり笑うと、母者は「わかってるよ」と声を上げ、書類に印章を押した。


 @@@
@#_、_@ 
 (  ノ`) 「アタシが仕事放り投げたとあっちゃ、大騒ぎだからね。
       こうなったら意地でも終わらせて、晩までには帰るよ」

 彡⌒ミ
(*´_ゝ`)「そうだね、母者さん。だって、今日は――」


父者の嬉しそうな声が、部屋に響く。
その言葉は慌ただしい役場の中に一時の癒やしをもたらしたそうだが、真偽は明らかではない。



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925名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:37:25 ID:nnePnEts0
――――――――――――――――


“流石”の街でも、盗賊だった男と魔法使いだった少女がいる町でもない、どこか。
そこに、女が一人立っていた。


川 ゚ -゚)「ふむ」


肌を覆い隠すゆったりとした濃紺色の服に、そろいのヴェール。
流れる黒髪は絹のように艷やかで、瞳は夜空を切り取ったような漆黒。
顔の半ばを隠しながらも、それは美しい女だった。


川 ゚ -゚)「大団円というやつだな。いささかつまらん結末だ」


“流石”の街よりも遥かに大きくて華やかな町並み。
人であふれる市の雑踏の中に立ちながらも、彼女の周りはひどく静かだった。
これだけ美しい女ならいくらでも人目をひきそうなのに、誰ひとりとして彼女に目を留めるものはいない。


川 - -)「せっかく魔力封じをくれてやったのに、あんなつまらん使い方をするとはな。
      まったく、期待はずれもいいところだ」


女は全てを見ていたかの様に語る。否、彼女には全てが見えていた。
彼女の首元や手元を彩る銀の装飾品が揺れる。
その中の一つ。静かに光を放つのは、彼女が弟者に手渡し、盗賊の少女に嵌められた腕輪と瓜二つだ。

魔神の持ち物とも呼ばれる腕輪。
それが、彼女の腕の中でひっそりと輝いている。


.

926名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:39:16 ID:nnePnEts0


川 ゚ -゚)「魔力で動くゴーレムは、魔力封じを使えば瓦解する。
     使いようによっては、魔力を食う砂クジラにも対抗できただろうに、あいつらは」

川  - )「まぁ。一番面白い使い道は……」


腕輪を撫でていた女の口元が釣り上がる。
くつくつと声を上げて笑うが、誰一人として彼女に目を留めるものはいなかった。


川 ー )「あの半分が片割れに使っていたら、だな。
     アレの存在は不安定だ。外部から強い干渉を加えれば、どう崩壊したか」


女は笑いながら、露天に飾られた鏡へ触れる。
客が商品に触れたというのに、店主は素知らぬ顔であらぬ方向を見ている。
まるで、女の存在そのものが見えていないようだった。


川 ゚ -゚)「まあ、いいさ。退屈しのぎにはなった」


気づけば、女の姿は消えていた。
単に人混みに紛れたのか、それともどこかへ去っていったのか。
あとに残るのは市の賑やかな雑踏と、露天に飾られた鏡だけ。


飾られた鏡。
――その鏡面がちゃぽんと揺れたことに、気づいた者はいない。


.

927名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:41:18 ID:nnePnEts0


――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――





そして、流石邸の一角。
中庭を望む露台の上に、彼ら兄弟はいた。




.

928名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:43:58 ID:nnePnEts0

体の色と背格好以外は、全て一緒の双子の兄弟。
魂を共有する、できそこないの一人。


( ´_ゝ`)


片や、肉体的には二歳年下となる兄、兄者=流石。
寝間着同然の格好をした彼は、薄水色の毛並みを風になびかせながら長椅子に横になっていた。


(´<_` )


もう一人は、片割れを自分と解する弟、弟者=流石。
兄とは対照的に、豪奢な服をきっちりと着た彼は、背を伸ばして椅子に座っていた。


l从・∀・ノ!リ人


そして、そんな彼ら二人のそばを動きまわる青い髪の少女は、妹者=流石。
まだ十にも満たない彼女は、彼ら双子の最愛の妹であった。


.

929名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:45:34 ID:nnePnEts0


秋になったとはいえ、まだ鋭い日差しは、じりじりと体を焦がしていく。
それでも風の通る日陰にいれば、熱も少しずつ引いていく。


( -_ゝ-).。oO


昨夜から今朝にかけて、“流石”の街に住む男たちは総出で夜通し働いていた。
それは、兄者も弟者も例外ではない。
だから、横になっていた兄者の瞳が徐々に落ちはじめたのは、仕方の無いことだった。


l从・∀・#ノ!リ人「おきるのじゃー!!!」


といっても、この小さな妹にそれは通じなかった。
昨日、弟者と遊びそこねた妹者は、今日一日、大好きな兄たちと遊べるはずだった。
しかし、急遽決まった大商隊の出立という一大行事によって邪魔されてしまった。
結局、妹者が兄たちとちゃんと顔を合わせることが出来たのはようやく昼に差し掛かるというこの時間で、彼女はひどくご立腹だった。


l从・д・#ノ!リ人「おーきーるーのじゃー」


(く_゚(⊂(<_`#) ドゲシ


.

930名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:47:57 ID:nnePnEts0


弟者の拳が、もう半ば夢の国へと入りかけていた兄者を殴りつける。
その衝撃で、兄者は慌てて跳ね起きた。


(;´_ゝ`)>「え、え、何で殴られてるの俺?!」


ヾ(#`_ゝ´)ノ「もうちょっと寝かせてくれたっていいじゃないか、弟者のケチ!」

(´<_`#)「妹者の前でよく寝れたものだな」


l从・∀・#ノ!リ人「妹者はぷんぷんなのじゃー!!」


( ´_ゝ`)て


不満の声をあげようとしていた兄者の表情が、妹者の声に凍りつく。
兄者の耳はしょんぼりと下がり、顔の前に掲げた両手はぶるぶると震える。
その末に、なんとか妹に向けた声は情けないほどに震えていた。


(ノ;´_ゝ`)ノ「と、時にもちつけ妹者。話し合えば分かり合える」

(´<_` )「落ち着いてないのは、兄者の件について」


.

931名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:49:34 ID:nnePnEts0


(;´_ゝ`)「昨日はあれから母者と姉者相手にラスボス戦をやって、それから徹夜で星読みで寝てないんだぞ。
      っていうか、アレだけ必死だったゴーレムちゃんの後に、まだラスボスがいるなんてこの世は地獄か」


兄者はまるで言い訳のように昨夜の出来事を話す。
竜――ピンクたんに乗って街まで帰って来れたのまではよかったが、そこから先が大変だった。
庭への立ち入りと、花を踏みつぶした件と、妹者への口止め。それから、無断で遠くまで外出したこと。
それに加えて、ギコやしぃに迷惑をかけ、遺跡をめちゃめちゃにしたことまでもがバレてしまい、兄弟は母と姉から折檻を受ける羽目になった。

兄者にとっては、夜通しの仕事よりも母者や姉者と対峙することの方が辛かったのだが、それを言い出すと家にいる姉者に聞きつけられかねない。
なので、兄者はぐっと堪えることにした。


l从・〜・ノ!リ人「妹者も母者たちに怒られたからいっしょなのじゃー」

(;´_ゝ`)「怒ら……そうか」


昨夜の地獄と姉者に思いを馳せていた兄者は、妹者の声にはっとする。
そうだ。この妹は、自分が軽い気持ちでした口止めを律儀に守って、母者に叱られたのだった。


( ´_ゝ`)「ごめんな、妹者。俺が余計なこと頼んだばっかりに、」



ヨシヨシ( ´_ゝ`)ノl从>〜<*ノ!リ人 キャーナノジャー



.

932名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:52:12 ID:nnePnEts0


l从・∀・*ノ!リ人「なでなでされたし、あやまってくれたから、ゆるすのじゃー
         でも、次はないからカクゴするのじゃよ!」

(*´_ゝ`)「流石だよな、妹者。妹者たんマジかわいい」

(´<_` )「兄者は、本当に妹者に大甘だよな」


( ´_ゝ`)>「褒めても、何も出ないからな」


兄と妹の様子を黙って眺めていた、弟者がぽつりと言う。
妹者に甘いのは弟者自身も同じなのだが、幸か不幸かそのときの彼は気づかなかった。
一方の兄者は弟の言葉を深く追求せず、いつもと同じ表情で「えっへん」とわざわざ口に出して返事をした。
それに、弟者は「褒めてない」と言葉を返すと、大きく溜息をつく。


(´<_` )「そういえば、兄者よ。兄者は先程、寝てないと言ったな」

( ´_ゝ`)「そう。だから、お兄ちゃんは眠いというわけだ」

(´<_` )「俺は兄者が明け方、しっかり寝ていたと聞いているのだが」


<(;´_ゝ`)>「……な、なぜそれを」


兄者の言葉は、弟者の言葉を認めたも同然だった。
顔からは冷や汗が流れ、動揺しているのはどう見ても明らかだった。


.

933名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:54:25 ID:nnePnEts0


l从・∀・ノ!リ人「妹者なのじゃ。
         妹者はちゃんと朝お勉強したのに、おっきい兄者はひどいのじゃよー」

(-<_- )「こっちは夜通し荷物運んで、酔っぱらいをぶん殴って、人を誘導して、労働に勤しんだというのに。
      飲み会だのなんなので騒ぐ奴らを押しのけて帰るのが、どれだけ大変だったか」


(;´_ゝ`)「……」


妹と弟の言葉に、兄者はぐっと息を呑んだ。
二人の言葉はどこからどう見ても正論。兄者には返す言葉もない。


(´<_` )「時に兄者、言いたいことは?」


問い詰める側である弟者は、その表情を消した。
しかし、その顔は追い詰められた時の無表情とは違い、瞳がいたずらっぽく輝いている。
それを瞬時に見て取って、兄者はやれやれと笑った。


( ´_ゝ`)「弟者さんは、ずいぶんと楽しそうで」

(´<_` )「何のことだか」


.

934名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:56:21 ID:nnePnEts0



ol从・〜・ノ!リ人o「おっきい兄者に、ちっちゃい兄者ー、そろそろ妹者はあそびたいのじゃー」


妹の声に兄二人は会話を止め、全く同時に「ふむ」と頷いた。
兄者は妹者に笑顔を浮かべ、弟者の口元が少しだけ緩む。


( ´_ゝ`)「妹者よ、何をして遊びたいのだ?
      今日はこのお兄ちゃんと、弟者ができる限り相手をしてやろう」

l从>∀<*ノ!リ人「砂山つぶしっこするのじゃー」

(´<_`; )「……砂山だと」


「砂山潰し」とは、砂漠もしくは砂地でやる遊びだ。
やるためには、妹者を流石邸から連れ出す必要がある。姉者や母者がそれを許すとは思えない。
そして、兄者も弟者も昨日、無断で街の外に遠征したことで散々怒られた身。昨日の今日で遠くに出る許可はおりないだろう。

(; ´_ゝ`)「そういうのは、母者か姉者のお許しのある時にしてくれ。オレ カ ゙コロサレル
      おうちか、近場でできるものにしなさい。メッ!!」

l从・д・`ノ!リ人「えー、つまんないのじゃー」

(´<_` )「それならば、質問あてっこはどうだ? よく市場の子供がやっているぞ」


兄者を助けるように、弟者が言う。
「質問あてっこ」は、いくつか質問をして、相手の考えていることを当てる遊びだ。
この遊びならば今すぐできるし、面倒な許可も体力も必要ない。と、弟者は考えていた。


.

935名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 21:58:46 ID:nnePnEts0

l从・д・´ノ!リ人「おっきー兄者は妹者の知らないことばっか言ってイジワルするから、やんないのじゃー」

(´<_` )「……」


弟者が無言で、兄へと視線を向ける。
弟者は何も言わなかったが、兄者はその視線を受けて「ぐぬ」と奇声を発した。


( ´_ゝ`)「……時に弟者よ。視線がとても冷たい気がするのだが」

(´<_` )「気のせいだ、兄者。俺は大人げないなど思ってはいない」

(; ´_ゝ`)「思ってるんだな」


兄者の問いかけに、弟者は言葉を返さなかった。
かわりに妹者へと視線を向けると、兄者に対するのとは打って変わって優しい口調で言う。


(´<_` )「人形遊びはどうだ?」

l从・〜・ノ!リ人「人形あそびさんは一人でもできるのじゃー。
         妹者は兄者たちといっしょじゃないと、できないことがいいのじゃー」

(´<_` )「そうか。ならば、点数をつけるような遊びにするか」


(;´_ゝ`)「……あれ、俺は無視?」


.

936名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:00:16 ID:nnePnEts0


l从・∀・*ノ!リ人「点数……だったら、ビーズとばしっこがいいのじゃー!」

(´<_` )「ビーズが必要になるが、妹者は持ってるか?」

ol从>∀<ノ!リ人o「妹者、いっぱいもってるのじゃー!!
          持ってくるから、まっててなのじゃー!!!」


元気よく返事をすると、妹者は立ち上がる。
そのまま兄者や弟者が止めるまもなく、屋内へと走り寄っていく。


( ´_ゝ`)「流石だよな、弟者。今日の予定があっさり決まったぞ」

(´<_` )「流石に今日一日ビーズ遊びは御免こうむりたいが、とりあえずはだな」

( ´_ゝ`)b「……ところで、弟者。そろそろだと思うのだが」


妹者を見送っていた兄者が、ふいに声をひそめた。
その顔に浮かぶのは真面目な表情。それを見た弟者は、兄者が何を言いたいのか瞬時に悟る。


(´<_` )"


弟者が小さく頷くと、隣の部屋に用意していた大きな籠を露台の隅へと運ぶ。
「準備万端だな」と、それを見た兄者は呟いた。


.

937名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:02:33 ID:nnePnEts0




l从>∀<ノ!リ人「ビーズさんみっけたのじゃー!」


それから、しばらくして足音を立てながら妹者が現れた。
その手に抱えられた大きな袋には、ビーズが沢山入っているのだろう。
妹者は走りながらも何度も、袋を抱え直している。


(´<_` ;)「転ぶなよ、妹者」

l从・∀・ノ!リ人「だいじょーぶ、だいじょーぶなのじゃ!」


妹者は危なげなく、露台に出ると椅子に袋を置いた。
どさりという重い音がして、椅子が揺れる。
どうやら、妹者は相当張り切っているらしい。走ってあがった息を落ち着け、妹者はじっと二人の兄の顔を見た。


l从・∀・*ノ!リ人「あっそぶのじゃ、おっきい兄者にちっちゃい兄者!」

(*´_ゝ`)「おお、ご苦労だったな、妹者たん!
       ところで、遊ぶ前に一つ俺と弟者から話があるのだが」

l从・∀・;ノ!リ人「……」


話があるという言葉に、妹者の笑顔が固まる。
妹者は兄者が話しの続きをするよりも前に、妹者は両手を耳にやって首を横にふった。
そのまま、絶対聞かないぞとばかりに両目を閉じる。


.

938名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:04:44 ID:nnePnEts0


ol从>へ<;ノ!リ人o「あそばないって話しなら聞かないのじゃ! 妹者はぜったい、あそぶのじゃ!」

(; ´_ゝ`)「いや、そうではないのだが」

l从・へ<;ノ!リ人「……だったら、聞くのじゃ」


片目だけをそろりと開け、妹者はそう口にする。
その言葉に、兄者は弟者はおかしくてたまらないと言った調子で、同時に顔を崩す。
そして、二人は言った――


( ´_ゝ`)「お誕生日おめでとう、妹者」(´<_` )


意識するまでもなく、その声はピッタリと重なっていた。
弟者が隅に置いた籠から、箱を取り出す。
そして、それをそっと妹者に手渡した。


l从・∀・ノ!リ人「これ……」


妹者はきょとんとした顔で箱を見ていたが、小さな手を動かしてそれを開く。
木で作られた小箱、その中には透き通る一輪の花が飾られていた。
ガラス細工のような花は、見つめていると色が少しずつ変わっていく。



.

939名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:06:13 ID:nnePnEts0


それは昨日、二人がソーサク遺跡で手に入れた花だった。
ゴーレムや、弟者たちが暴れても散らなかったその花は、今は妹者の手の中で可憐に咲き誇っている。
派手さはない、可愛らしい花。
その花はどんな金細工や宝石よりも、妹者に似合っていた。


l从・∀・*ノ!リ人


妹者の頬が赤く染まる。
じっと花を眺めて、空に透かして見せて、興奮したようになんども「おぉ」と声を上げる。
キラキラと輝く瞳が、彼女が何よりもこの贈り物を気に入ったことを示していた。


l从・∀・*ノ!リ人「ありがとうなのじゃ。すっごく、すっごく」


じっと花を見つめていた瞳が兄者を、そして弟者の姿を見た。
何度も「すっごくすっごくを」を繰り返して、妹者は二人の兄にむけて言葉を紡ぐ。


l从^∀^*ノ!リ人「うれしいのじゃ!!!!」


――そして浮かんだ笑顔は、兄者と弟者の疲れと苦労を吹き飛ばすような威力だった。


.

940名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:08:24 ID:nnePnEts0


(*´_ゝ`)「時に弟者、我らが妹がものすごく可愛いのだが」

(´<_` )「何を言う、兄者」


(´<_`*)「言われなくても、そんなことは知っている」


兄者と弟者は顔を見合わせ、はしゃぎ合う。
その喜びようは、自分たちのほうが贈り物を受け取ったかのようだった。
そして、彼らは同時に声を上げ、お互いをたたえ合った。


( ´_ゝ`)「流石だよな、弟者」

(´<_` )「流石だよな、兄者」


( ´_ゝ`)b グッ d(´<_` )


l从・∀・;ノ!リ人「あー、妹者もやるー!! まぜるのじゃー!!!」


.

941名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:10:21 ID:nnePnEts0

      グッ          グッ
( ´_ゝ`)b dl从・∀・*ノ!リ人b d(´<_` )


三人で格好を付けると同時に、妹者が笑い声を上げる。
その笑い声に答えるように兄者も笑い、少し遅れて弟者も口元に笑みを浮かべる。
兄者は笑ったまま、「そうだ」と声を上げると、籠の方へと妹者を誘った。


( ´_ゝ`)「ちなみに、こっちが妹者が昨日見たがってた、魔法石板な」

l从・∀・*ノ!リ人「おおー、なのじゃ」


籠の中には二枚の魔法石板が入っていた。
兄者はそれを指さしながら、「これは水の魔法が刻まれててなぁ」などと妹者に説明する。
妹者は腕を伸ばして石板に触れようとするが、その手は兄者の手によって遮られた。


l从・∀・#ノ!リ人「なんでさわったらだめなのじゃー! つまんないのじゃ!」

(<_゚  )「……」

(;´_ゝ`)「……弟者が怒るから、見るだけなー。
      ついでに、弟者さんがすっごぉぉぉく怖い目で見てるので、俺も触ることが出来ません」

(-<_- )) コクリ


.

942名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:12:40 ID:nnePnEts0


l从-へ-ノ!リ人「ちっちゃい兄者のけちー」

(´<_` )「ダメなものはダメだ」


妹者の声にも、弟者は折れようとはしない。
それでも、魔法に関するものをすぐに壊そうとしていた昨日に比べると、大きな進歩だ。


(;´_ゝ`)「……弟者よー。もうそろそろ、魔法嫌いを克服するいい機会なのでは?
      魔法も、精霊も、不思議なものも怖くないぞ。うん」

(´<_`#)「兄者は、もう少し危機管理というものを覚えろ」

( ´_ゝ`)「へいへーい、わかってますよ」


ビクッ(;´_ゝ`)て と(´<_`#)


l从・∀・#ノ!リ人「おっきい兄者も、ちっちゃい兄者も、めーっなのじゃー!!!」


兄者と弟者。それから、妹者の話し声は尽きること無い。
籠をしまい、袋の中からビーズを選ぶ、それだけのことでも次々と言葉を交わしはしゃぎ合う。


.

943名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:15:00 ID:nnePnEts0

( ´_ゝ`)「じゃあ、遊びますか!」

l从・∀・*ノ!リ人「妹者が勝つまでやるのじゃー!!!」

∩(; ´_ゝ`)∩「なんと!」


太陽はまだ高く、寝るまで時間はたっぷりある。
父者と母者が帰宅すれば、そこからはじまるのは家族勢ぞろいでのお祝いだ。


(´<_` )「あきらめろ、兄者。今日は妹者が主役だ」

l从>∀<ノ!リ人「なのじゃー!」

(#´_ゝ`)つ「漢、兄者! ゲームといえど、手は抜かんからな!」


だけど、今は兄妹三人だけの時間。
ゲームをして、笑い合って、それからご飯とおやつを食べよう。
それからブーンや、ついでにドクオにも今日のことを話してやろう。

――これからのことを考える弟者の口元に浮かぶのは、柔らかな笑みだ。
今日も忙しい、一日になりそうだ。


(´<_` )「――ああ、平和だな」


空は高く、柔らかくふく風が、弟者の薄緑の毛並みを揺らしていく。
彼らの楽しそうな笑い声は、いつまでもいつまでも響いていた。


.

944名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:17:04 ID:nnePnEts0

――――――――――――――――


流石邸の屋根の上。
そこに兄妹たちの姿を見守る、二つの姿があった。
人よりも遥かに小さな体。背には透き通る羽。


( ^ω^)「おー、楽しそうだおー」

('A`)「だな」


それは、ブーンとドクオ。二人の精霊の姿だった。


( ´ω`)「ブーンもいっしょにあそびたいお……」

('A`)「弟者のヤロウは兄妹水入らずなんだから、ぜってー来るなとぬかしやがったが。
   ……それじゃあつまんねぇよな」

(;^ω^)「お?」

('A`)ノ「オレたちも、妹ちゃんを祝ってやろうぜ」


露台を見下ろしながら、ドクオはニヤリと笑う。
細い手を伸ばして、指さしたのは今まさに兄妹たちのいる場所。


(*'A`)「見てな」


.

945名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:19:06 ID:nnePnEts0


ドクオは伸ばした指を上下へ、それから左右へと動かす。
指の動きに従うように、露台に落ちていた影が淡く薄くなっていく。


(*^ω^)「おお!!」

(*'∀`)「ドクオ様の本気を見やがれってんだ!」


ドクオが再び指を動かすと、椅子の影だけが伸び色を濃くした。
薄い影の中に落ちる、濃い影。
それはドクオの指の動きにしたがって、山の形へと変わった。


(*'∀`)ノ「どうだ」

(*^ω^)「すっごい、すっごいお!」


それは、ドクオの意志によって自在に動く影絵だった。
影の中に作られた空に、雲が流れる。
蝶が飛び、影の草むらに花が咲き乱れていく。

――それに、最初に気づいたのは妹者だった。


l从・∀・ノ!リ人「……お花なのじゃ!」


.

946名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:21:05 ID:nnePnEts0


(´<_` )「花?」

(*´_ゝ`)「……ああ、これはドクオか」


次に兄者が気付き、それに遅れて弟者もようやく何が起きているのかが悟った様だった。
影が動き様々な景色を作り出す。
その姿に兄者は笑い、妹者は目を奪われ、見とれている。
神秘の類が嫌いな弟者もこの時ばかりは、何も口を出さなかった。

――そんな兄妹たちの姿を遠くから眺めて、ドクオは心底満足そうな笑みを浮かべた。


(*^ω^)「やったおドクオ! 楽しいみたいだお!」

(*'A`)b「物より思い出。最高な贈り物だろ!」


ドクオの言葉に嬉しそうにしていた、ブーンの表情が曇る。
ブーン自身は気づいていないようだったが、隣ではしゃいでいたドクオはブーンが何を考えているのかすぐに理解した。


(;^ω^)「むむむ、だお……」

(;'A`)「おいおい、無理はしなくてもいいんだぜ」


おそらくブーンは、自分も妹者に何かをしようと思っているのだろう。
しかし、相手は精霊を見ることも出来なければ、声を聞いたり、気配を感じることさえ出来ない。
どう考えても無茶だ。ドクオはそう思い、ブーンをどうやって慰めるべきか考え始める。


.

947名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:23:18 ID:nnePnEts0


( ^ω^) !


しかし、ブーンの顔はすぐに明るくなった。
何かを考えついたのか、ブーンの顔に赤みがさす。


(*^ω^)「じゃあ、ブーンもいくお!!」

('A`)「……行くって、どういうことだ?」


ブーンは息を吸うと、魔力を巡らせはじめる。
その目は兄者たちのいる露台ではなくて、中庭を見下ろしている。
精霊であるブーンの様子に呼応してか、風がざわざわと騒ぎ出すのにドクオは気づいた。


(;'A`)「おい、ブーン」

(*^ω^) 《吹き上がるお!》


ブーンが魔法を使うと同時に、一際大きな風が吹いた。
風は中庭の植物たちを揺らし、土を舞い上げ、中庭にある小さな泉まで到達した。
魔力を纏った風が、泉の水を吹き上げていく。

舞い上がった水は太陽の光を浴び、飛沫を散らしながら落ちてくる。
それはまるで、雨のようだった。


.

948名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:25:26 ID:nnePnEts0


l从・∀・*ノ!リ人「わぁぁぁぁ」


そして、その雨がやんだ後、空に浮かんだのは――虹だった。


l从・∀・*ノ!リ人「すっごいのじゃ、あれは何なのじゃ!!」

( ´_ゝ`)>「虹か!? 妹者、さっきの影といい、すっごいものをもらったな」

(´<_` )「あれはブーンか」


太陽の光を受けて、吹き上がった水の飛沫が七色に輝く虹を浮かびあがらせていた。
露台から見える範囲に掛けられた小さな虹。
それは、まぎれもなくブーンから妹者へと向けられた贈り物だった。


l从・∀・*ノ!リ人「にじ。あれが、にじ」


兄者は空を見上げる。
弟者もまた虹をじっと見上げる。その口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。


l从・∀・*ノ!リ人「はじめて、みたのじゃ」


妹者は贈り物を、見上げる。
妹者の頬は真っ赤に染まり、その目は食い入るように虹を追う。

砂漠にかかる虹。

彼女は初めて見る不思議な光景を、じっと見つめ続けた。


.

949名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:27:39 ID:nnePnEts0


(*'A`)b「やるじゃねーか。虹なんてよく思いついたな」

(*^ω^)「アニジャとオトジャは昨日、虹にすっごくよろこんでたお
       だから、きっとよろこぶって思ったんだお!」


興奮したような妹者の声に、ドクオとブーンは満足そうに顔を見合わせた。
女の子が一人、喜んでいる。それだけなのに、ブーンの心は暖かくて、とてもうきうきした。


(*^ω^)「世界って、とっても楽しかったんだお」

('A`)「おいおい、いくらなんでも大袈裟じゃねぇか?」


今日は、昨日と違って冒険をしたわけでもない。
それでも、昨日と同じくらいにブーンの気持ちは晴れやかで、楽しかった。


l从>∀<*ノ!リ人「精霊さーんありがとうなのじゃぁぁぁー!!!!」


(*'∀`)(^ω^*)


露台から、まだ小さな女の子のお礼の声が響く。
自分たちの贈り物を受け取った女の子の顔は、嬉しそうな笑顔だ。
それだけで、ブーンは居ても立ってもいられなくなった。


.

950名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:30:36 ID:nnePnEts0


(*^ω^)「ブーンもいっしょにあそぶおー!」

('A`)「おい待て、オレもまぜろ!!」


とうとう我慢しきれなくなったブーンが、屋根から飛び降りた。
それを見ていたドクオも、不格好ながらも羽を動かし追いかけはじめる。

光をまき散らしながら、精霊たちは飛ぶ。
目指すは双子の兄弟と、その小さな妹の所。


(*´_ゝ`)l从・∀・*ノ!リ人(´<_` )


露台に三人と二人の精霊の声が響く。
彼らの盛り上がりは、ブーンたちが混ざっても変わらない。
兄者やブーンが話し、精霊たちの声を弟者が伝える。妹者はそれに、「おお」と息を呑む。
彼らはいつまでも、楽しそうに話し続けた。


⊂二(*^ω^)二⊃(´<_` )


(*´_ゝ`)σ(;'A`)ノ  l从・∀・*ノ!リ人


彼らの日々はこれから先もずっと続いていく。
たとえ今日という日が終わっても。日は昇り、何かが起こり、そして日常は続いていく。


.

951名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:32:04 ID:nnePnEts0





季節は、秋。
まもなく砂漠にも、短い冬がやって来る――。




.

952名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:33:05 ID:nnePnEts0




おしまい



.

953名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 22:35:44 ID:nnePnEts0
これで完結となります
お付き合いくださいました方々本当に、ありがとうございました!


      ,___
       /∧_∧、      ∧_∧
     ノ( ´_ゝ`)>      (´<_`  )
    <γ@^ソ^@      >^>⇔<^_<
     ( <====,|ゝ    ~|_i 〕\〔ヽ_ヽ
     と/_∧_|_)      と/i____|=(_ノ=|ニニニ二フ
    < /=/ |=| ゝ     /= /ヽ=ヽ┐
     ヽ_)(_つ     と__ノ  `ー.J



オマケ:予告スレに放り込んだけど使いドコロがいまいちなかったAA

954名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 23:14:04 ID:w8JirO2U0
うおお乙ー!
月並みなことしか言えんが、すごく面白かった!
妹者と精霊たちがかわいい…

955名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 23:24:08 ID:wfZ2VIa.0

とても楽しかった
ニダーとのーでイラストもう一枚使われてたのはにやっとしたよ

956名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 23:25:44 ID:kAu8Wro.0
乙!盛大に乙!
凄く面白かった!
妹者は可愛いなぁ

957名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 23:29:19 ID:54BottrUO
乙!!!
毎回投下が楽しみだった!
面白かったよー!!

958名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 23:41:43 ID:x8VtzC960
乙乙!
次回作とかは予定あるの?

959名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 23:48:38 ID:nnePnEts0
乙ありがとう

>>958
間に合ったら、祝福祭あたりにいるかもしれないです

960名も無きAAのようです:2013/12/10(火) 00:23:53 ID:KDtdyQRU0
おつ
面白かったー!

961名も無きAAのようです:2013/12/10(火) 00:47:48 ID:SONkfYfM0
楽しかったよー!

962名も無きAAのようです:2013/12/10(火) 02:12:47 ID:TLMRVcn20
色々、思うことはあるんだけど
うまく言えないので



963名も無きAAのようです:2013/12/10(火) 16:30:01 ID:cx7rfOSQC
350レス一気に読んだ、今さらだけどこれラノベのやつだったのね 
これが完結したのでラノベの未完は残り2作品となった

964名も無きAAのようです:2013/12/10(火) 21:53:24 ID:q9Nlb7eM0
感動的乙!
ほのぼのありガチバトルありで楽しすぎたよ!

965名も無きAAのようです:2013/12/18(水) 22:45:18 ID:K.LAUj7Y0
久々に見つけたら完結してただと……!
双子の話とかいろいろ伏線あって最終回まで楽しかった
精霊二匹とかでぃとか妹者とか可愛かった
最後のクーのところはゾクッとした

今まで乙!!

966名も無きAAのようです:2014/08/10(日) 00:53:30 ID:044qn3VI0
久々に来たら完結してた。乙

王道の冒険物で気持ちのいい終わり方だった


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