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( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )

1名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 19:46:34 ID:tFLjG.4M0
ラノベ祭り参加作品

69名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:01:49 ID:J2WA92hQ0

('A`)「いや、一番最後も聞いてやれよ。何で知らないんだよ、お前」

(;´_ゝ`)て「いや、街全体が死ぬほど賑やかなのは知ってたよ。知ってたよ、一応。
       でもさー。何か母者がやたらと天気見ろ星見ろってうるさいから俺も忙しくて」


パンにかじりつきながら、兄者は答える。
まだ熱々のパンはもっちりとした小麦の味がして、ほんのりと甘い。
先程までかなり苛立った顔をしていた弟者も、「うまいな」と小さくつぶやいた後はおとなしく食事に精を出している。


( ^ω^)「天気?」

(*´_ゝ`)「聞いて驚け、俺の特技の一つだ!
      この兄者。星読みと、天気の予測については外したことないもんねー」

(´<_` )「というか、それしか働こうとしない件について。
      こっちは酔っぱらいだ、警護だ、タチの悪い商人だので引っ張り回されているというのに」

(;´_ゝ`)て


弟者は街の治安を担当する組織、自警団の一員としてあちらこちらに引っ張り出されている。
一方の兄者はといえば、母者が押し付けてくる天候やら、星の動きやら、風向きやらを見るだけという、気楽な生活である。


( ^ω^)「アニジャは働いてないのかお?」

.

70名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:02:57 ID:J2WA92hQ0

( ;´_ゝ`)「えっとぉー、今は大きな商隊が来ているからなー。年に数度のお祭り騒ぎってやつ?
      人もモノもいっぱい到着していて、母者や姉者の商売もウハウハってやつだ」


('A`)「それは、ついさっき弟者が(´<_` )「虫に呼ばれる名は無い」


(;'A`)「本当にお前、俺らに辛辣すぎない?!」

(´<_` )「……」


('A`) ムシ デスカ

( ^ω^)ノ ムシ ダケニ


人ごみをかき分けながら一同は進む。
途中で、妙な声が上がるのはブーンやドクオの姿を見たものだろう。
彼らのような生き物はめったにいない。そのため、見える人間にはとにかく目立つ。


(゚A゚* )「ニダやん、あそこ! ほら精霊がいはる!」

<ヽ`∀´>「?」

(゚A゚* )「わー、珍し。すごいわー」

.

71名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:03:58 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「ほら兄者。よそ見してないでさっさと進め。
      このままでは、ソーサク遺跡につく前に日が暮れてしまうぞ」

(;´_ゝ`)「ちょっとくらいは、いいじゃないか」


( ゚∋゚)「オマチ」


(*´_ゝ`)つ―{}@{}@{}- 「ほれ、香辛料たっぷりクックルの串焼き」


モグモグ(´<_` )「……これもうまいな」


(;^ω^)「ブーンも食べたいおー」

('A`)「いや、オレらは飯食えないし」


ブーンたち精霊に限らず、ほとんど同じ顔である双子の容姿は目立つ。
“流石”の街の実質的な元締めである母者の息子であることから、彼ら双子はある程度は顔も知られている。


< `∀´>「んー?」

<*`∀´>「のーちゃんお手柄ニダ! あそにいるアイツらすっげー金持ちニダ!」


そして何より、彼らの着ている服は一目見てわかるほどに高価である。
そんな二人連れが、精霊を連れて広場を歩いている。それで目立たないはずがなかった。

.

72名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:05:29 ID:J2WA92hQ0

<*ヽ`∀´>ホルホルホル

(゚A゚; )「に、ニダやんあかんよ!」

┌<ヽ`∀´>┘「こうなったら気炎万丈意気揚々、行くニダよ!」


そうであるから、彼ら双子や、妹者は、性質のよからぬ者に目をつけられることが多い。
大抵の者は母者や、彼ら兄妹の長姉である姉者の報復を恐れて近づかないが、そうでないものもたまにはいる。
そして、先程から声を上げているこの男もみるから性質のよくない男の一人であった。


(´<_` )「今、妙な声が聞こえなかったか、兄者?」


食べ終えた串焼きの串を捨てながら声を上げた弟者は、眉を寄せた。
いつもならば、すぐ返ってくるはずの返事がなかなか返ってこない。
ブーンたちとの会話にでも夢中になっているのだろうかと視線を辺りに向けるのだが、兄者の姿は見えない。


(´<_` )「……兄者?」

( ・∀・)「おー! 流石のところのお坊ちゃんじゃないか! 今日も、悪徳商人の取締りか?」


かわりに声をかけてきた男が一人。
黄色い毛並みに黒い瞳をした猫のようなこの男は、細工職人をしているモララーだ。
ちょうど店を出していたところらしく、彼の立つ屋台には彼が作ったと思われる装飾品が所狭しと並べられていた。

.

73名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:06:41 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「モララーか。兄者の姿を見かけなかったか?」

( ・∀・)「んー、気づかなかったけどそこらへんにいるんじゃないかい。砂漠じゃないんだから、すぐに合流できるさ。
      せっかくだし、僕んところで買っていくといいんだからな!」

(´<_` )「ふむ。装飾品か……」


モララーの声に、弟者は売り物を眺める。
金や銀で作られたきらびやかな首輪や腕輪。
シャラシャラと音がなるように作られた首飾り。目立つところに置かれた耳飾りには、大きなルビーが嵌めこまれている。

それらの飾りを見るうちに、彼の脳裏に妹との会話がよぎる。


      l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者ー。もうすぐ何があるか知ってる?」


      l从・∀・ノ!リ人「ヒントは明日なのじゃー」


弟者の膝の上に座り、なにやらご機嫌な様子だった妹者。
あのときの会話は兄者の登場によりうやむやになってしまったが、そういえば明日は……


( ;・∀・)「いつも堅物の坊ちゃんにしては、妙にノリがいいな。
      何? 意中の女の子でもできたか?」

(´<_` )「明日は、妹者の誕生日なんだ」


そう。妹者の誕生日である。
ここ最近は多忙だったこともあり、まだ誕生日の贈り物の用意ができていなかったことを弟者は思い出す。

.

74名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:10:05 ID:J2WA92hQ0

( ・∀・)「女の子って、妹か。
      いつまでも、妹にかまけてないで嫁さんの一人や二人や三人でも作ったらどうなんだ。
      その点、お前さんの兄貴は優秀だぞ〜。この前も、踊り子さんに声かけて見事に振られてたからな」

(´<_` )「人妻や婚礼の決まった令嬢に手を出した挙句、殺されかけたお前にだけは言われたくない。
      ……というか、そんなことをしていたのか兄者は」

( ・∀・)「女っていうのは、障害がある方が燃えていいんだよね。
      ちなみに、お前の兄貴。お前ん所の御用商人の子を、食事に誘って断られてたよ」


( ・∀・)「ははは」(´<_` )


ひと通り心あたたまるようで全く温まらない会話を交わした後で、モララーはうんと頷いた。
モララーは屋台に並べられた商品のうち比較的細工がおとなしめで、軽そうな商品を手に取り、眉をしかめる。


( -∀・)「んー。でも、妹かー。あの子はちびっちゃいからうちの売り物だとちょっとなぁ。
      どうせなら、もっとかわいらしいもんのほうがいいと思うからな」

(´<_` )「もっとかわいらしいものか?」


弟者はモララーの言葉に商品を見つめなおす。
確かに彼の言うとおり、妹者にはこういった派手なものよりも、かわいらしいもののほうがいいのかもしれない。
かわいらしいものといったら何だろう?
異国の鳥、猫。リボン。装飾の施された綺麗な布――そこまで考えて、弟者はふと思い出す。


       l从・∀・*ノ!リ人「お花が咲いてるのじゃー」



そうだ。花はどうだろうか。
これだけ店がやっているのだから、屋敷にはない異国の花も売られているに違いない。

.

75名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:12:58 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「帰りにでも、買うか」

(*・∀・)「で、妹はそれでいいとして。なんか買って行かないの?
       この腕輪なんて会心の出来で、坊ちゃんの姉上にも気に入ってもらえると」

(´<_`;)「確かに姉者なら……」

(*゚∀゚)「兄ちゃんジャマー!!!」


(´<_` )*゚∀゚) て ドンッ


モララーによる呼び込みに引きこまれていた弟者は、割り込んできた少年の姿に我に返った。
擦り切れた服を着た、裸足の少年。赤い毛並みの体からは、細長い猫のような尾が緊張したように上を向いている。
その少年の腕を――、弟者は渾身の力を込めて掴んだ。


(#゚∀゚)「いってー、なにやってんだよこのオッサン!」

(´<_` )「ついてきてもらおうか」


毛並みを逆立てて荒っぽい声を上げる少年に、弟者は腕を掴んだままで答える。
少年は腕をふり「離せ」と意思表示してきたが、弟者はそれを無視する。


(#゚∀゚)「はなせー、はなせよぉー!!!」

( ;・∀・)「おい、お坊ちゃん。急にどうした」


慌てて仲裁に入ろうとするモララーに、弟者は屋台の商品に顎を向け首を動かす。
その行動にモララーは、きょとんとした表情になる。

.

76名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:14:17 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「そこの首飾りの数を数えてみろ」


( ・∀・)て     Σ(;゚∀゚)⊂(´<_` )


弟者がそう口で指摘すると、モララーはようやくしまったという表情を見せる。
普段は職人をしているモララーは、商売だけで暮らしている者と比べるとどうにもこういう状況にはうとい。
首飾りの数をあわてて数えはじめ、その数が二つか三つほど足りなくなっていることに、モララーはようやく気づいた。


(; -∀-)「あー、助かったわ。
      休みみたいなのにわざわざ仕事をしてくださって、ありがたいばかりで」

(;゚∀゚)「うぅ」


ガジッ(#゚皿⊂(´<_` )


弟者の腕から離れようと、歯を剥きだして弟者に向かう少年。
弟者はそれを特にかまえることもなく避けると、少年の腕をひねりあっさりとその小柄な体を拘束する。


(*;∀;)「ううっ」

(´<_` )「こっちはこれが本業だからな。泣き落としなんてしようとするだけ無駄だ」


表情を歪め涙を流し出しはじめた少年の拘束されていない方の手を、弟者は強引に開かせる。
そこにはモララーが丹誠込めて作った首飾りが三つ。汗でベタベタになった状態で握られていた。

.

77名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:16:52 ID:J2WA92hQ0

(*;∀;)「おれはヤダって言ったのに、親方が……」

(#・∀・)「三つもガメておいて、よく言えるな」


少年は泣きながら何事か言っているが、弟者は拘束の手を緩めないまま周囲を見回す。
白や赤など色とりどりの衣装で歩いている人々の中から、黒色で全身を固めた男を見つけ、声をあげる。


(´<_` )「おい、そこの。……なんだ、モナーさんか」

( ´∀`)「はいはい、モナーさんですモナ」


黒い飾り布に、黒い装束。この街において全身を覆う黒の装束は、自警団の一員であることを表す。
弟者が呼び止めたこの男も自警団員であると同時に、弟者の仕事仲間であった。


( ´∀`)「今日は休みだって言うのに、どうしたモナ?」

(´<_` )「こそ泥の現行犯。後は頼んだ」

( ´∀`)ノ「あー、任せるモナ」


少年とモララーの相手をモナーに任せ、弟者はそのまま歩き出す。
モララーの「ありがとなー」の声に軽く手を上げて返すと、あたりを見回し兄者の姿を探す。


(#゚∀゚)「はーなーせー、クソたぬきー!」

( #´∀`)「ぶ ち こ ろ さ れ た い か、小 僧」


あの少年のようなこそ泥や、荒っぽい男たちが増えるのも、大商隊が訪れるこの時期ならではのことである。
少年の処遇については、モナーや他の団員たちかどうにかしてくれることだろう。
弟者は小さくため息をつくと、モララーに軽く手を振り別れを告げた。

7877訂正:2013/01/01(火) 17:17:45 ID:J2WA92hQ0
(*;∀;)「おれはヤダって言ったのに、親方が……」

(#・∀・)「三つもガメておいて、よく言えるな」


少年は泣きながら何事か言っているが、弟者は拘束の手を緩めないまま周囲を見回す。
白や赤など色とりどりの衣装で歩いている人々の中から、黒色で全身を固めた男を見つけ、声をあげる。


(´<_` )「おい、そこの。……なんだ、モナーさんか」

( ´∀`)「はいはい、モナーさんですモナ」


黒い飾り布に、黒い装束。この街において全身を覆う黒の装束は、自警団の一員であることを表す。
弟者が呼び止めたこの男も自警団員であると同時に、弟者の仕事仲間であった。


( ´∀`)「今日は休みだって言うのに、どうしたモナ?」

(´<_` )「こそ泥の現行犯。後は頼んだ」

( ´∀`)ノ「あー、任せるモナ」


少年とモララーの相手をモナーに任せ、弟者はそのまま歩き出す。
モララーの「ありがとなー」の声に軽く手を上げて返すと、あたりを見回し兄者の姿を探す。


(#゚∀゚)「はーなーせー、クソたぬきー!」

( #´∀`)「ぶ ち こ ろ さ れ た い か、小 僧」


あの少年のようなこそ泥や、荒っぽい男たちが増えるのも、大商隊が訪れるこの時期ならではのことである。
少年の処遇については、モナーや他の団員たちかどうにかしてくれることだろう。

79名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:18:45 ID:J2WA92hQ0





(´<_`; )「それにしても、兄者はどこだ」


装飾品、壺、水、野菜、家畜、煙草、香……立ち並ぶ屋台の中に兄者の姿は見えない。
弟者の脳裏に一瞬、このまま帰ってしまおうかという考えが浮かんだが、そういうわけにはいかない。
人ごみをすり抜け、兄者の声が――この際、ブーンやドクオでも構わない――聞こえないか、弟者は懸命に耳を澄ます。


(´・ω・`)「精霊様だ。うわー、ありがたいなぁ」
  _
( ゚∀゚)「精霊って、ホントかよ。なーなー、何処にいるんだよ!」

(´・ω・`)「ほらあそこ、白いのと紫の」
 _
(;゚∀゚)「えー、そんなのみえねーし」

                                      从'ー'从「なんでもー、精霊様がーいるんだってぇー」

                                      ('、`*川「ご利益、あるかもっ!」



そして、弟者の耳は――精霊について噂する声を捉えた。
慌てて声の主を確認すると、その視線をたどる。
精霊はあまり人前には姿を現さない。そんな精霊が二匹、しかも白いのと紫のといえば……

.

80名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:19:44 ID:J2WA92hQ0

( <_ ;)「――見つけた!」


広場の中に立てられた、紫と黒を基調とした色の小さなテント。
その前に並べられた長机を眺める、見覚えのある薄水色の獣の耳。
その周りをブンブンと飛び回る白と紫の影も見えるが。弟者はそれについてはあえて無視をすることにした。


(*´_ゝ`)「おお、弟者じゃないか。もうラクダは手に入れたのか?」

(´<_` )「それよりも前に、兄者が行方不明になった件。
      ……ん? それは」


弟者は兄者が目にしている長机の上に目を移す。
赤や黒で模様が織り込まれた敷き布の上に並べられているそれは、黒く光沢を放つ石板たちだ。
その石板を見た瞬間。弟者の顔が、苦虫を一度に十匹ほど噛んだようなる。

机の上に並べられているのは――魔力と呪文を刻み込んだ魔力石板。
比較的新しいものであるようだが、模造品ではなくちゃんと魔力を吹きこまれた本物であるようだ。
それは、兄者が興味津々で眺めていることからもわかる。


ヾ(*^ω^)ノシ「オトジャー! オトジャだおー!」

(*´_ゝ`)「見てみろ、弟者! 魔法石板2枚組、ついさっき買ったんだがこれすごいぞ。
       旅に便利な魔法を刻んであるので、どんな状況でも安心です――だってさ!」

(´<_`#)「買 っ た の か 。いますぐ返品しようか、兄者。
      そもそも魔法石板の素材を取りに行くといったのは兄者だぞ。ここで石板を買ってどうする」

.

81名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:20:43 ID:J2WA92hQ0

(*^ω^)ノ「オトジャも一緒に見るおー」

(;´_ゝ`)「弟者は相変わらずそういうのが嫌いだなぁ。
      そもそも石板の材料と、魔法石板じゃ別物なんですー。ほらー、いいだろー、文明の利器ー。
      水袋を持ち歩かなくてもコップ一杯の水が出せるし、マッチ一本分の火力で火おこし楽々なのだが」

(;'A`)「コップ一杯にマッチ一本とか……、威力しょっぺぇ」


弟者の形相に冷や汗を書きながら、それでも理解を得ようとする兄者。
しかし、弟者の表情は相変わらずの不機嫌そのもので、兄者の言葉を聞く気配すら見えない。


( ´ω`)「また、オトジャに無視されたお」

('A`)ドンマイ


(´<_`#)「……兄者」

( ;´_ゝ`)「えーと、俺は旅をするには準備が必要であると思うんだけどなぁ……」


弟者は弱々しく声を上げる兄者を見ると、笑みを浮かべ言った。


(´<_` )「商品は返すから、金を返してもらえるか」


ジタ∩( ;_ゝ;)⊃バタ「やだやだ返品やだー」

.

82名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:21:34 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「返品が無理ならば、この石板を引き取ってくれ」


大袈裟に手足を振り抵抗の姿勢を見せる兄者に、弟者はさわやかな笑顔のままで追い打ちをかける。
そして、兄者の手から石板を奪い去ると、それをそのままテントの前に立つ店主へと突きつける。
弟の暴挙に、兄者は天を仰ぎ号泣を始めた。


( ;_ゝ;)「弟者の悪鬼――!!!」


アベシ(゚く_゚(#⊂(´<_`#)ウルサイ


(;'A`)「本日、三度目ー」

(;^ω^)「痛そうだお……」


容赦なく、自分よりも少し小さな兄の姿を殴る弟一人。
ドクオやブーンにとってこの光景はそろそろ見慣れはじめたものになってきていた。
ある意味では平和なこの光景を、――遮る声があった。


川 ゚ -゚)「こっちも商売なんだから、《そんなことされては困る》」

( <_ ∩)「――っ」


凛とした女の声――、その言葉が響くのとほぼ同時に弟者は自分の耳をふさいだ。
言葉の中に紛れ込んだ音の羅列に舌打ちしながら、弟者は声の主の姿を確認する。

.

83名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:23:01 ID:J2WA92hQ0

川 ゚ -゚)「ふむ。精霊を連れているだけあって、やはり鋭いな」


そう言ったのは、先程からずっと兄弟のやり取りを見せつけられていた店主だった。
テントの前に立った彼女は、濃紺色のヴェールを被り、顔の半ばを隠している。
薄布の向こうに隠された肌は透けるように白く、布の合間からかろうじて見える瞳は漆黒の空の色。

素顔を隠されていても、その美しさが容易に想像できる女だった。
しかし、彼女の美しさも今の弟者の目には映らない。


( ;´_ゝ`)「おい、弟者。大丈夫か?」

(´<_`∩)「……暗示とは御大層な」


先ほどの言葉に紛れていた音。それは魔法だった。
弟者は魔法を使う際に行使される力、魔力を――奇妙な音と、体を走る妙な感覚として感じとる。
そして、それが聞こえたということは、この女は魔法使いだということだ。


川 ゚ ー゚)「なに。挨拶のようなものだよ。そんなに大したものじゃなかったし、実害もないだろう?
     商売には熱心なほうではないが、こうやって邪魔ばかりされるのも面白くはないのでね」

( ^ω^)「確かにつまらないのはよくないお」

(;'A`)ノシ「おいブーン。今はちょっと黙っておけ」


彼女の首元や手首には、古い宝石の嵌めこまれた銀の装飾品。
注意してみればその飾り一つ一つにも魔力が込められているのがわかる。
そして、それをちらつかせながら、女は口元だけを微かにあげた。

弟者はそれを「これ以上こちらの機嫌を損ねるようならば、実力行使をいとわない」という意味だと判断する。

.

84名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:23:55 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「……」

川 ゚ -゚)「今度はだんまりか。まあ、いいだろう。
     先ほどから君たちが騒いでいる件だが、断らせてもらう。
     私はそこの彼と金銭でもって正式に契約を交わした。それについて、君にあれこれ言われる覚えはない」


弟者と店主との間で、空気が凍っていく。
一触即発の雰囲気は、本日二度目。あの時と同じように、弟者の顔から表情が失せていくのを兄者は見た。
ヴェールを被った女と身なりのいい男の険悪な空気に、通りを歩く通行人が一人、二人と足を止めていく。


( ;´_ゝ`)つ⊆#⊇「弟者弟者! ついさっき買ったなんか珍しい菓子だぞぉー!!」

(;'A`)「ちょ、いくらなんでもそれでどうにかするのは無理だろ!
    お前も羽むしられるぞ、羽! いや、羽はないか。何か羽的なものがむしられるぞ」


(´<_` )「……」


コレデモクラエー( ´_ゝ`)つ⊆#⊇(´<_`; )


そして、そんな険悪な空気の中に突撃する男が一人。
兄者は懐から取り出した菓子を弟者の口に突っ込むと、弟に向けて一喝した。


∩(#´_ゝ`)∩「お前ばっかり美人のおねーさんと話してずるいぞ!」

.

85名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:25:27 ID:0B4fuHtA0
こういう兄弟良いな

86名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:26:07 ID:J2WA92hQ0

(;'A`)て「ちょ、お前この状況を止めるんじゃないのかよ!」


あんまりといえばあんまりな一喝に、思わずツッコミを入れるドクオ。
一方、一喝を入れられた当人の弟者は、口に入れられた菓子を眺め、


⊆#⊇(´<_` )モグ


(;゚A゚)「って、弟者が食ったー! なんで?!」

( ´_ゝ`)b「弟者くんはあれでいて食べ物が大好きなのだよ」


(´<_`; )「……マズイんだが」

( ´_ゝ`)「いや、外国のって大体そんな感じの味じゃん。慣れだよ、慣れ」


とりあえず、おとなしく菓子を食べ始めた弟者にドクオと兄者はほっとする。
もうひとりの方はどうだろうと、兄者とドクオが店主の様子を見ると、


( ^ω^)「ブーンはドクオに言われた通り、ちゃんと黙っているお」

川 ゚ -゚)「別にしゃべってもいいんだぞ」

(*^ω^)「ほんと?」


川*゚ -゚) フフフ       (^ω^*)


こちらはこちらでなぜか落ち着いていた。

.

87名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:28:45 ID:J2WA92hQ0

川 ゚ -゚)「お前の相方は、しょっぱいなんて言っていたが、私の石板は本当はスゴイんだぞー。
     コップ一杯とか、マッチ一本とか言っていたが、あれは魔力を込めない場合だけだからな。
     それなりの術者が魔力を込めて使えば、本当にもうすごいんだからなー」

( ^ω^)「ほうほう。そうですかおー」

川;゚ -゚)「私はもう頑張って魔力を込めて作っているというのに、最近の客はみんなひどいんだ。
     自分に魔法の素養が無いのを棚に上げて、しょぼいだの高いだのと。
     もう人間というやつはどうしてああなんだ。そこの男なんて金はいらないから、石板を回収しろときた」

( ^ω^)「そうなんですかおー」


店主とブーンはいつの間にかいつの間にか意気投合していた。
というか、店主の愚痴を一方的にブーンが聞かされている。
突然ブーンのいる虚空に向けて話し始めた店主の姿に、足を止めていた通行人の大半がそそくさと逃げ出す。
ブーンの見えない人間にとって、店主の姿は完全に頭が大変なことになっている女。逃げるのも仕方がないことだろう。


(´<_` )「……だから問題なんだ」

(;´_ゝ`)「そんなに不味かった、あの菓子?」

モグモグ(´<_` )「いや、これはこれでアリのような気がしてきた」


('A`)「そんなにうまいもんかね、食べ物ってやつは」


弟者はおとなしく菓子を食べ続けている。
どうやら、弟者と魔法使いの店主が互いに争うという最悪の状況はなんとか回避されたようである。

.

88名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:30:23 ID:J2WA92hQ0

川 ゚ -゚)「まあ何が言いたいのかというと、お前も兄なら弟のワガママくらい聞いてやれということだ。
     お前はどうやら魔法が嫌いなようだが、それと弟は関係ないことだろう?」


散々ブーンに向けて愚痴をこぼした後に、店主は言った。
その様子は理知的で、先程まで愚痴をこぼしていたようにはとても見えない。


(´<_` )「残念ながら、弟は俺だ。
      さっきからワガママいっているのが俺の兄だ」

川 ゚ ー゚)「そうか。私には、お前のほうが年上に見えたんだがな」


間違いを指摘されながらも、あくまでも余裕なその声に、弟者は一瞬言葉を失う。
が、それに猛烈に反応した人物が一人いた。


\(#´_ゝ`)/「どうみても俺が兄だろうに。名前にもちゃんと“兄”って入ってるぞ。
         ちょっとばかり、弟者のほうが背が高いからって、高いからって!!!」

('A`)「敗北者乙」


ヾ(♯`_ゝ´)ノ ムキー


(♯`_ゝ´)「俺だってあと二年もたてば身長だって伸びるもん!」

(;'A`)「もんとか言うな、気持ち悪い」

┌(♯`_ゝ´)┘「気持ち悪いとはなんだー!!」


手をバタバタさせて、抗議の意志をしめす馬鹿が一人。
その様子はとてもじゃないが、弟者よりも年長者である様には見えなかった。

.

89名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:31:24 ID:J2WA92hQ0

('A`)「そもそも、どう考えてもお前より弟のほうがしっかりしているだろ」

( ´ω`)キレトトキハ オトジャノホウガ コワインデスケドネー


ドクオのさらなる追い打ちに、兄者はとうとう泣きはじめる。
その仕種はあまりにも大袈裟で、お世辞にも本気で泣いているとはとても思えないものだ。


( ;_ゝ;)「お前らは、俺の敵か? 敵なのか?」

( ^ω^)「でも、ブーンはそんなアニジャが好きですお」

( ´_ゝ`)「だが断るっ!」

(;^ω^)「ひどいおー!」


はしゃぐ兄者とブーンの二人。
そんな二人の姿を弟者がぼんやりと眺めていることに気づき、ドクオは声をかける。


(´<_` )「……」

('A`)「どした?」

(´<_` )「羽虫が人間に話しかけるな」

(;'A`)て「辛辣っ!」


川 ゚ -゚)「やれやれ。よくもまあ、飽きないものだな。
     いつまでもここで揉められては困るし、一つ提案がしたいのだが……」


一同の様子を呆れ半分で見守っていた店主は、手首にはめた腕輪に手をやるとそっと口を開いた――

.

90名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:32:43 ID:J2WA92hQ0

――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――


(*´_ゝ`)ノ[]「ふふーん。やったぞ、やった。
         やっぱ、魔法石板はいいよな。文明の利器って本当に素晴らしい〜」


店主とのやり取りの末、魔法石版二枚組は、無事兄者の手に渡ることになった。
兄者は大喜びで石板を抱えて跳びまわるが、その喜びはそう長くは続かなかった。


[]⊂(´<_` )「ほい、没収」

( ;゚_ゝ゚)て「弟者さん、それはあんまりじゃありませんかー!!
       どうか、ご慈悲をー。このお兄ちゃんにご慈悲をぉぉ!!!」

[]⊂(´<_` )「慈悲なら既に十分すぎるほど与えている件について」


('A`)「もうあきらめろよ」

( ^ω^)「ですおねー」


兄者が手にしていた石板はあっさりと弟者の手に渡り、彼が肩から下げていた鞄の中に放り込まれる。
いたるところに装飾の施された豪奢な鞄は、それなりの大きさのある石板二枚でもしっかりと収納する。
そして、鞄は弟者が手にしたまま。兄者に渡される気配は微塵もない。


(;´_ゝ`)「ぐぬぬぬ。まさか強制的に没収してくるとは……」

.

91名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:34:26 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「はしゃぐのはいいが、そろそろ到着するぞ」


人ごみをかき分けて、広場を進んだ一番奥。
街を取り囲む城壁に一番近い場所にある建物へ視線を向けて、弟者は言った。
日干し煉瓦を石灰で固めたこの地方特有の建物。そこは、兄者も見覚えがある場所だった。


(*´_ゝ`)「おお、ツン者とデレ者の店ではないか!」

(´<_` )「そう。兄者が食事に誘って見事に断られた、な」

(;´_ゝ`)て「え? 何で知ってるの?!」


その建物は“流石”の街で最も信用のある、ツン=デレ商会のものだ。
ツン=デレ商会は流石邸の御用商人をつとめており、現在の店主である姉妹は兄弟にとって古くからの知り合いであった。
春から店主が代替わりしその規模は縮小したものの、流石の街では知らないものはない店である。


ξ゚⊿゚)ξ「――あら、どうしたの?」


弟者が入り口をくぐると声をかけてきたのは、姉妹の姉であるツンであった。
透けるような白い肌に、絹のような金糸の髪。
西の生まれの者の特徴を持ったこの娘は、兄弟の姿を見ると営業用の笑みを消し、打ち解けた様子で話しかけてきた。

姉妹の中でもツンは先代である父に連れられて幼い頃から流石邸に出入りしていたため、双子たちとは特に親しい。
そのため彼女が兄弟に対し、敬語やかしこまった態度をとることは稀だ。

.

92名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:36:48 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「ラクダを二頭、それから水を丸一日分用立ててくれないか」

ξ-⊿-)ξ「アンタの家なら、わざわざ金なんて出さなくてもいくらでもあるでしょうか」

(´<_` )「家にあるのは母者のものだからな。兄者の道楽で引っ張り出すわけにはいかんさ」


弟者とツンは手慣れた調子で、交渉を進めていく。
そうなると自然と兄者やブーンたち一同は、次第にすることがなくなってくる。
はじめは床に敷いていある絨毯や、壁に飾ってある張り紙を見ていたが、やがてはそれにも飽きた様だった。


('A`)「お前ん家、金持ちなのか?」

(;´_ゝ`)「それは否定できんが。ぶっちゃけ自由に大金を使えるのは、母者と姉者だけな件について」

( ^ω^)「そういえばハハジャってアニジャのカーチャンかお?」

( ´_ゝ`)「おお、そうだ。母者は強くて怖くておっかないんだ。
      ちなみに、姉者っていうのは俺たちの姉ちゃん。あと、うちには父者っていうトーチャンが……」

('A`)「妹ちゃんの名前は妹者だったよな。安直というかなんというか……」

ヽ(#´_ゝ`)ノ「妹者っていったら最高に可愛い名前だろうが!」


とうとう雑談を始めだした兄者に対して、ツンはぎょっとした表情になる。
精霊を見ることの出来ない彼女は交渉を中断し、やや怯えたような目で弟者の姿を見上げる。


ξ;゚⊿゚)ξ「……兄者は、何と話してるの?」


(´<_` )「いつもの病気だ。気にするな」

ξ゚⊿゚)ξ「なるほど。いつもの、アレね」


(;´_ゝ`)「ちょ、勝手に人を病人扱いするなし!」

.

93名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:38:02 ID:J2WA92hQ0

弟者とツンはそれから少し会話をした後、無事に交渉を成立させた。
ツンは手元の帳面に書き込みをしながら、兄者たち一同に向けて裏口を指さす。


ξ゚⊿゚)ξ「アンタたちがラクダを選んでる間、こっちは荷物の方の準備をしておくわ」


(*´_ゝ`)ノ「頼むぞ、ツン者」

⊂二( ^ω^)二⊃「ブーンも行くおー」

('A`)「そっちは何があるんだ」


そうツンが言うやいなや、兄者と他二匹の姿はもう裏口に向け走り出している。
一人置いていかれた形になった弟者は、ツンに向けて「すまないな」と、小さく苦笑を浮かべる。


ξ゚⊿゚)ξ「あっちにはデレがいるから、兄者があんまり好き放題するようなら頼むわね」


好き勝手に動きまわる兄者をどうにかしようとするためには、下手に止めるよりも弟者に任せたほうがいい。
長年の付き合いからツンがそう判断して告げると、弟者は慣れきった様子で片手を振って答えた。
が、手振りで答えを返す時の弟者は大抵「めんどくさい」と思っている――と、いうことがわかるため、ツンの表情は渋くなっていく。


ξ#゚⊿゚)ξ「く れ ぐ れ も 頼 む わ ね」

(´<_` )「そう怒るな。……そういえば、ツン。兄者に夕飯を誘われたというのはお前か?」

ξ# ⊿ )ξ「デレよ。だから、好き放題するようならってわざわざアンタに頼んでるのよ。
       それに兄者も兄者よ。まったく、こんなうら若い乙女を無視するなんて、ひどいと思わない?
       その場に私がいたら、きっちり姉妹二人分の夕飯代を払わせてやったのに」

(´<_`;)「……それはすまんかった」

.

94名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:39:55 ID:J2WA92hQ0

怒り心頭のツンをなだめつつ、弟者は裏口の木戸を開けた。
ツン=デレ商会の裏手は、ラクダやヤギなどの家畜を一時的につないだり、資材の置く場所として使われている。
木々がいたるところに植えられ、家畜の鳴き声くらいしか聞こえないそこは、広場と建物一つ分しか離れていないとは思えない。


(´<_` )「さてと」


弟者は、周囲を見回す。
広場とは違いそれほど広くもなく、警備のために数人がうろついているくらいで人も多くない。
そんな環境なので、兄者の姿はすぐに見つかる。


( ´_ゝ`)「よし、君に決めた!」

ζ(゚ー゚*ζ「この子はスカルチノフっていうんですよ。
       頭はちょっとよくないけど、とってもいい子なんですよぉー」

( ^ω^)「オトジャのはどうするんだお?」

('A`)「そこのぶっさいくで貧弱そうなやつにしようぜ」

( ^ω^)「ドクオにそっく('A`)「やっぱなしで」


ラクダがたちが並ぶ金網で作られた柵。その向こうにいるのは見慣れた、兄者と精霊に二匹の姿。
そして、その隣にいるのは先程まで話していたツンとよく似た、金糸の髪をした可愛らしい娘。
ツンとは違い柔らかな表情を浮かべたこの娘は、ツンの妹であるデレだった。

彼女は薄茶色の体毛を持つラクダの体を臆することもなく撫でながら、兄者と話している。
撫でられている方の獣はといえば、起きているのか寝ているのかさっぱりわからない顔つきで独特の声をあげた。

.

95名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:41:58 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「兄者」

( ´_ゝ`)「おお、弟者! 弟者はこいつなー」


弟者が声をかけると、兄者は10頭ばかりいるラクダの中から一頭を指さした。
デレが撫でているラクダよりも少しだけ小さい、やはり起きているのか寝ているのかさっぱりわからない顔つきのラクダである。


ζ(゚ー゚*ζ「この子はバルケンちゃんです。
       気性はちょっと荒いけど、とっても賢いんですよー」

(´<_`;)「というか、コイツで本当に大丈夫なのか?」


ラクダはもともと気性の荒い動物だから、おとなしいにこしたことはない。
だが、しかしいくらおとなしいといっても、この半分寝ているようなラクダに乗れるのかと問われれば不安になるのが人情だろう。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんが選んだラクダですから、大丈夫です!」

( ^ω^)「おねーちゃんって誰だお?」

('A`)「んー、受付にいた性格がキツそうな姉ちゃんじゃね?」


ζ(゚、゚;ζ「ん? 今、お姉ちゃんの悪口が聞こえませんでしたか?」

.

96名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:44:05 ID:J2WA92hQ0

(*´_ゝ`)「ふっふっふっ、デレ者。それはイタズラな精霊さんの仕業さ☆」

ζ(゚、゚ ζ「気色悪いです、兄者さん」


真実を口にしたにもかかわらず、デレに真顔で「気色悪いです」と言い切られてしまった兄者の顔に、涙が浮かぶ。
その光景を見て、弟者は「兄者がデレに好き放題するのでは?」と心配していたツンをはじめて気の毒に思った。
姉の心、妹は知らず。姉が心配をしなくとも、妹は兄者を泣かせる程度にはしたたかである。


( ;_ゝ;)「ひどいやい、ひどいやい……」

(ヽ´ω`)「……気色悪い」

('A`)「俺らの存在は、兄者ごと完全に否定されたな」


たった一言で見事に落ち込む兄者他二匹の姿を見て、弟者も流石に気の毒となった。
話を変えようかと辺りを見回し、弟者はラクダについて話をすることにした。


(´<_` )「時に、デレ。
      この半分寝かかってるようなのではなくて、もう少ししっかりとしたやつはいないのか」

ζ(^ー^*ζ「いますけど。そういう子はかなりお高いですよー。
        兄者さんから聞きましたけど、ちょっとお出かけするだけなんですよねー。
        でも、どうせなら西のお貴族様が乗るような子に手を出してみますか? 商会としては大歓迎ですよー」

(´<_` )「……さて、兄者。ラクダは決まったからそろそろ出発しようか」


妹とはしたたかである。
弟者は家で待っている愛らしい妹が、このように成長を遂げないことを祈るのみであった。

.

97名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:45:36 ID:J2WA92hQ0

(*´_ゝ`)「よーし、いい子いい子ー」

(;'A`)て「噛んだ! この動物、絶対オレを食おうとしてる!」

( ^ω^)「ドクオは食べもんじゃないおー。
      食べ物っていうのはきっと、もっとおいしいものなんだお」


ラクダを決めたことをデレに告げると、それからほどなくしてツンが荷車を引いて店から現れた。
荷車にはラクダにつけるための鞍や手綱、それから先ほど弟者が注文していた水袋などが乗せられている。


ξ゚⊿゚)ξ「デレ? 兄者に何にもされてない? 大丈夫だった?」

ζ(゚ー゚;ζ「もー、兄者さんは変な人だけど別になんにもないよー」


( ;_ゝ;)「……デレ者」

('A`)「元気だせよ」

( ^ω^)「おっおっ、アニジャはさっきから泣いたり笑ったり楽しそうだお」


デレの何気ない一言に兄者がまた涙を滲ませる。
しかし、二度目となると話を変えるのも少々面倒であるので、弟者はツンとの会話を進めることにした。

.

98名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:47:13 ID:J2WA92hQ0

(´<_` )「ツンは随分とデレに甘いんだな」

ξ;゚⊿゚)ξて「……アンタがそれをいや、なんでもない。
        えっと、そうね。出発はいつ? すぐに出るなら今から鞍をつけちゃうけど」

(*´_ゝ`)ノ「今すぐで頼むぞ、ツン者!」

(´<_` )「……と、いうことらしい」


言いながら弟者は、ツンの手に慣れた手つきで金貨を2枚落とす。
ツンはその金貨の質をざっと確かめると、何事か考える仕種をした。


ξ-⊿゚)ξ「んー。この額なら食料もつけておくわ。多めにね。
      行き先は何処? 裏の方にある出入り口も使っていいわよ」

(´<_` )「それは助かる。ソーサク遺跡まで行くつもりでな」

ξ゚⊿゚)ξ「あら、珍しいわね」


そう言いながらも、ツンはラクダを座らせると、デレとともに手早く鞍をつけ、鞭と荷物の用意をしていく。
この春、父の跡を継いだ娘たちは、そつなく仕事をこなしていく。
そして、それからさほどたたないうちに、ラクダには鞍と水。それに食料品がつまれていた。


ξ゚⊿゚)ξ「はい、できたわよ」

(´<_` )「すまない」

ξ-⊿゚)ξ「こっちも商売なんだから、気にしないで」

.

99名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:48:42 ID:J2WA92hQ0

(;´_ゝ`)「うおっ、早くないかツン者?」

ξ-⊿-)ξ「このくらい当然でしょ」


肩でもこったのか、腰に手をやり首を左右に伸ばしながらツンは言う。
女らしさの欠片もない行動だけれども、彼女は流石家の娘や息子の前では常にこうであった。


ζ(゚ー゚*ζ「ふふ。兄者さんや弟者さんの前だから、お姉ちゃんも見栄はっちゃってるんですよー」

ξ#゚⊿゚)ξ「デレぇー!!」

ζ(゚、゚*ζ「それじゃあ、兄者さんと弟者さんを送ってきますねー」


デレは姉をからかいながら、ラクダの手綱を取ると兄者と弟者にそれぞれ手渡す。
弟者が手綱を引くとつながれたラクダは、面倒そうな表情で首を動かした。
とりあえず、いきなり暴れることは無さそうだと判断すると、弟者はラクダの首を指でかいてやる。


ζ(^ー^*ζ「じゃあ、ついてきてくださいねー」

ξ゚⊿゚)ξ「気をつけて行ってくるのよー」


(*´_ゝ`)「おお、じゃあ行ってくるぞ!」

(´<_` )「世話になった」


( ^ω^)ノシ  ('A`)ノ

.

100名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:49:33 ID:J2WA92hQ0

ラクダにつけられた手綱を引き、一同はデレの後に続く。
柵から出てさらに先に進むと、街を取り囲む城壁へと突き当たる。
そのまま、デレの誘導にしたがって少し歩くと、やがて城壁に備え付けられた木製の扉が見え始めた。


从 ゚∀从「おー、弟者。兄貴なんて引き連れてどうした?
      今日は、ガキ捕まえたって話だし、休みにしてはやけに働くじゃないか。」

(;^Д^)「は、は、ハインさん。弟者さんたちの周りに何か変、変なのがー!!」

从#゚∀从「あ゙あ゙? 何もいないじゃねーか。
      いい加減にしろよ、このへなちょこ野郎が」


( ´ω`)「変なの……」            ('A`)イイカゲン ナレロ


扉といっても、馬車一頭ならばかろうじて通れるという大きさはある。
そして、それを守るようにうろついているのは、そろいの黒衣を纏った自警団たちだ。
弟者は仕事仲間たちの姿に、適当に手をふって返す。


( ´_ゝ`)「弟者、ここは?」

(´<_` )「関係者用出入り口ってやつだ。こいつらは、今日の警備担当」


从 ゚∀从∩「どうもー、ハインちゃんでーす」

( ^Д^)「お、お疲れ様です!」

.

101名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:52:26 ID:J2WA92hQ0

ζ(゚、゚*ζ「ツン=デレ商会ですけど、通らせてもらいますねー」


从 ゚∀从「おう、了解。おい、開けてやれ」

(*^Д^)「――はいっ」


ギギと、軋む音とともにいかにも重そうな造りの扉が開く。
その向こうに見えるのは、まばらに生えた木々と、荒野。そして、砂漠の姿だ。


( *´_ゝ`)「おお、あれだ!」


兄者が、街の西をまっすぐ指さす。
砂の世界のまっただ中。そこには、陽炎に揺れる白い石造りの建物が立っている。
ソーサク遺跡。この街ができるよりはるか昔、魔王時代と呼ばれた時代から立っているとされる建物だ。


( ^ω^)「おー、あれがソーサクかお?」

('A`)「そういやー、知ってるな。行ったことはないが……」

.

102名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:54:00 ID:J2WA92hQ0

( ´_ゝ`)ノ「こうして見ると、案外近いではないか。
       荒巻たちもいるし、これは案外早く着くのではないか?」

(´<_` )「見た目通りならばな」


この距離ならば、一刻ほど進めば到着するだろうか。
間に一度か二度ほど休憩をはさめば、体力のない兄者でも大丈夫だろう。
――と、弟者は今後の予定を脳裏で組み立て始めたところで、ふと疑問に思った。


(´<_`;)「というか、荒巻とは誰だ」

(*´_ゝ`)「俺のラクダちゃん。ちなみに、弟者のは中嶋な」

ζ(゚、゚*ζ「もー、スカルチノフちゃんと、バルケンちゃんだって言ったじゃないですか!」

(;´_ゝ`)「……はて。そうだったか?」

ζ(゚、゚#ζ「言いましたよー」


まあ、そのへんはどうでもいいだろうと兄者たちの会話を聞き流し、弟者は視線を再び城壁の外へと向ける。
見渡す限りの砂の海。
正確には、砂の海と言っても砂だけで構成されているというわけではない。
草さえも生えない乾いた土が続いている場所も、岩や石がゴロゴロと転がっているところもある。

.

103名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:54:48 ID:J2WA92hQ0


(;´_ゝ`)「弟者っ、ブーンっ、ドクオっ!
      これ以上、デレ者に怒られる前にさっさと行くぞ!!」

ζ(゚、゚#ζ「ちょっとぉー、誰が怒ったって言うんですかぁー」


⊂二( ^ω^)二⊃「じゃあ、僕らもいくおー!」

(;'A`)「ちょっ、オレを置いていくなー」


从 ゚∀从「おーおー、楽しそうじゃねーか」

(;^Д^)「何か、あの変なのついていってるみたいなんですが……」


迂回するルートなんて上等なものはないから、進む道はひたすら真っ直ぐ。
兄者曰く中嶋というらしいそのラクダに乗って、町の外に一歩踏み出す。
木々や草が生える恵みの大地を抜けて、乾いた砂の大地へ。


(´<_` )「さて、行くか」


.

104名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:55:40 ID:J2WA92hQ0



――こうして彼らは、ようやく第一歩を踏み出した。



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105名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:56:47 ID:J2WA92hQ0




そのに。  旅には準備が必要である


   おしまい



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106名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 17:58:15 ID:J2WA92hQ0
投下ここまで
何事もなければ一月後くらいに第三話を投下したいと思います

支援ありがとうございました

107名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 18:04:16 ID:0B4fuHtA0
乙乙!!
どのキャラも良い味だしてんな
ちらほらと見える複線っぽいのが気になる!

次の投下も楽しみに待ってるからなー!!

108名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 21:38:25 ID:POSoQEOs0
乙!
弟者がほんと二人に辛辣だな
続き待ってるぞ

109名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 08:14:40 ID:sOccfdwc0
おつ
期待してる

110名も無きAAのようです:2013/01/31(木) 12:56:07 ID:x1TebV5gO
そろそろかな〜
期待支援

111名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 07:47:32 ID:Y.eikCXgO
携帯から失礼します
諸事情により、投下は14日の以降になりそうです

112名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:06:20 ID:UWFaEmzk0

"流石"の街の西に広がる砂漠の一角。
石や岩があちらこちらに転がり、乾いた大地はひび割れ、今にも砂丘の一角となろうとしているその場所。

そこに大岩に身を隠すようにして立つ男が一人いた。
つり目でエラの張った顔立ち、猫のような立ち姿。
濃い緑の体に纏うのは、ここよりはるか東の地特有の装束だ。


<ヽ`∀´>「見たぞ見たニダ。あれは絶対、金持ちニダ」


男は眩しさにくらむ目を瞬かせながら、市場で見た光景を思い返す。
――二人連れの男。
一目見ただけでも高価だとわかる、豪奢な刺繍がされた服。キラキラと光を放つ装身具。
そして極めつけは、あの豪快な買い物ぶり。
買っているものが食べ物ばかりなのは気になったが、あれはどう見たって金持ちだ。
まあ、買い物をしている方の服は多少地味だったが、きっといい布地を使っているに違いない。


<ヽ`∀´>「これは用意周到にも先回りしておいて、大正解だったニダ」


腰に下げた武器に手をやりながら、男はついさきほどまでいた街と、西に見える遺跡を交互に見る。
あの金持ちそうな男は「ソーサク遺跡につく前に日が暮れてしまうぞ」と言っていた。
だとしたら、街から西の遺跡へと向かうこの場所で待ち構えていれば、必ず出会えるはず。
まさしく完璧な計算であると、男は一人頷く。


<*`∀´>「ウェー、ハッハッハ!!!!」



――そして、見るからに怪しそうな男は高笑いをした。


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113名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:07:02 ID:UWFaEmzk0





( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )





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114名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:07:44 ID:UWFaEmzk0





そのさん。  弟者は砂塵を駆ける




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115名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:08:39 ID:UWFaEmzk0


――その昔、世界は魔王に支配されていたという。


人が生まれ、育ち、死ぬ。それよりもはるかに長い間、魔王による治世は続いた。
人間でたとえるならば十数代、精霊でたとえるならば生まれ一人前に育つまでの年月。
それだけ続いた魔王の統治はある日、唐突に崩れ去る。

勇者の出現。
彼の勇者が何者だったのかは、今となってはわからない。
人間だったのか、精霊だったのか、幻獣だったのか、魔族だったのか。
男か女かもわからないその何者かが、仲間とともに魔王を討ち取ったのが今から数十年前。

そして、魔王を倒した勇者は何処かに消え、世界には平和が戻った。
めでたしめでたし……といいたいところだが、現実は少し違っていた。

魔王によって長らく続いた支配は、世界から流通というものをことごとく奪い去っていた。
勇者の出現を恐れた魔王は人から船を、馬車を、そして、空を飛ぶための発明を次々と滅ぼした。
かつて一つの国によって統治されていたという世界は、魔王により小さな町や都市ごとに分断された。

そして、魔王の死後、人々はようやく流通の自由というものを取り戻した。
そこから先は、流通経路を手に入れたものがのし上がる、大交易時代の始まりだ。


兄者と弟者の暮らす、"流石"の街もそうして作られた街の一つ。
彼ら双子の母、母者=流石は砂漠を通り東と西をつなぐ経路の一つと、流通の要となる街をつくったことでのし上がった。


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116名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:10:39 ID:UWFaEmzk0

ひび割れ、水気のほとんどない大地を双子は進む。
視界に映るものはことごとくが土色の世界。そこでは、たまにお目にかかる植物でさえも茶色に煤けている。
ここはまだかろうじて土も植物もあるが、もう少し先へと進めば、そこに広がるのは本格的な砂丘だ。


(´<_`;)「暑いな」


振り返れば、先程までいた懐かしの街と、池の姿。
こうして一歩踏み出して見れば、砂と岩石しか見えない荒地に立つ“流石”の街は、奇跡のような場所だ。


( ´_ゝ`)「ちぇー、ラクダよりもドラゴンがよかったー。
      俺のピンクたん……」

(´<_` )「まだ言っていたのか」


のそりのそりと歩くラクダに揺られながら、兄者は一人つぶやく。
街を出た直後は若干危なげな手つきであったが、今ではすっかり乗りこなしている。
たまにラクダの首筋に手をやり、「荒巻がんばれよー」などと声をかけて機嫌をとっている。


( ^ω^)「アニジャはずっとそうだおー」

(´<_` )「……」

.

117名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:12:07 ID:UWFaEmzk0

( ´ω`)「……オトジャー、そろそろブーンともお話してほしいおー」

(´<_` )「……」


風に乗りながら飛び回るブーンの言葉を聞き流しながら、弟者はマントのフードを深く被り直す。
太陽が支配する乾ききったこの大地では、脱ぐよりもゆったりとした衣装を纏ったほうがかえって涼しい。
弟者はフードの下にできた影に人心地つきながら、精霊というものはこの暑さの中でどうして平気なのだろうかと考える。


('A`)「ムダムダ。そこの冷血人間に話しかけるだけ、無駄なこった」

(;^ω^)「えー、でもオトジャだってアニジャと同じなんだから、今は無理でもトモダチになれるはずだおー」

('A`)ノ「はぁ? 兄者とあの弟者のどこが同じだって?
     あいつ、ものすげぇ冷血非道極悪暴力鬼畜弟だぜ」


Σ('A`;)⊂(´<_` )ガシッ


∩(´<_` )ポイッ               l l l
                        ('A×)アベシ



(;´_ゝ`)「ドクオーー!!!!」(^ω^;)

.

118名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:14:08 ID:UWFaEmzk0

(´<_`; )「やはり暑いな……」

(;´_ゝ`)「いや、それよりも他に言うことがあるよな! な!」


ラクダの頭上に着地したドクオを問答無用で投げ飛ばし、弟者はため息を付いた。
市場で時間をとったために、日はかなり高く昇ってしまっている。
このままでは一日で一番暑い時間を砂漠で過ごすことになりそうだと、弟者は半ば憂鬱な気持ちになる。


( ^ω^)「大丈夫かお?」

('A`)「オレ飛ぶの苦手なんだから、ラクダの頭に座ったって別にいいじゃねぇかよ」

(;´_ゝ`)「ほれ、ドクオこっちに来い。荒巻ちゃんの頭なら空いているぞ」

(;'A`)「でもオレがそっちに座ったら、ブーンが」

( ^ω^)「おっおー、ブーンは飛ぶから平気だお!」


弟者が憂鬱になる一方で、同行者たちはのん気なものだった。
先ほど投げ飛ばされたドクオは、ブーンに手を引っ張られてへろへろと飛んでいる。
たしかに本人の申告の通り、ドクオは飛ぶのが得意そうではない。あちこちを楽しそうに飛び回るブーンとは対照的である。


(*^ω^)「ブーンは風に縁があるから、もともと"飛ん"だり"飛ば"したりすることは得意なんだお」

(*´_ゝ`)「へー、じゃあドクオは?」

('A`)「……」

( ´_ゝ`)「ドクオ?」

.

119名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:16:29 ID:UWFaEmzk0

(゚A゚)「どうせ俺の領分は影ですよ!
   夜とか闇とかみたいにかっこよくないし。そもそも影って、影って!」


(*´_ゝ`)「おお、影とは涼しくなっていいではないか!」

(*'A`)「え? え? なにそれ」

( ^ω^)「ドクオはとっても後ろ向きだからほめられ慣れてないんだおー」


あいも変わらず賑やかな兄者と、精霊二匹。
その光景に兄者だけではなく、自分も馴染みつつあることが、弟者は気に食わない。


(´<_` )「まったく、兄者は」

( ´_ゝ`)「どうした?」

(´<_` )「別に」


ブーンやドクオと話している時の、兄者はたいそう楽しそうである。
別に、ブーンたちに限った話ではない。
物心ついた頃から兄者は、こういった普通の人間には見えない生き物や化物と呼ばれるたぐいの存在が好きだった。

――たとえば、ちょうど目の前を飛ぶ透き通った魚。
これなどいかにも兄者が好きそうではないかと、弟者は思い……


Σ(´<_`;)「――って、何ぃ!!!」

.

120名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:18:12 ID:UWFaEmzk0

空飛ぶ透き通った魚。
そんな話は聞いたことがないし、目にしたこともない。
しかし、弟者の目の前を、身をくねらせて泳ぐのは、確かに魚だった。


(*´_ゝ`)б「弟者、見ろ! 何か変なものが!」

(´<_`#)「そんなものなどいない! 魚は飛ばない! 透明じゃない!」

(;´_ゝ`)「えー、やっぱ見えてるじゃないか」


('A`)「あれはお前さんのお仲間か?」

(;^ω^)「んー、多分そうだおー。風の領域のお仲間だと思うお」


兄者は目を輝かせて、なんとか魚を捕まえようと手を伸ばす。
弟者は手にした鞭でそれを妨害しながら、元凶らしい生物の姿を睨みつける。


(´<_`#)

(;'A`)「おい、めっちゃ弟に睨まれてんぞ。ブーン」

( ^ω^)ノシ「わーい、オトジャがこっち見たお!」


(;'A`))「おいやめろ。むしられるか投げられるぞ!」

.

121名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:20:09 ID:UWFaEmzk0


(*´_ゝ`)「いやぁ、砂漠なんてめったに出ないが、出かけるというのは楽しいものだな」

(´<_` )「俺は最悪な気分だ」


ラクダは空飛ぶ魚など見えないように、進んでいく。
そもそも見えていないのか。それとも、見えていたとしてもどうでもいいのか。
兄者は何度も振り返っては、魚の姿を名残惜しそうに眺めている。


( ;´_ゝ`)∩「俺の鈴木ダイオードちゃんが……」

(´<_`#)「名前をつけるな。それといくら振り返っても無駄だぞ」

( ^ω^)「鈴木? ダイオード?」

(;'A`)「……ひどすぎんだろ、名前」


ヾ(#´_ゝ`)ノシ「拾ってもいいじゃん、弟者のケチー。
          あと、ドクオ! 俺の考えたかっこいい名前がひどいとはこれいかに」

('A`)「え? かっこいいの、あれ?」


兄者が普通ではない生き物や化物が好きなためか。
それとも、兄者が普通ではない生き物や化物に好かれるのか。
兄者とともに行動すると、普通ではめったに見かけることの出来ない生き物に遭遇することが多い。

それが、無害なものであるのならばいいが。
――そうでないことも多いのが、現実である。

.

122名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:22:13 ID:UWFaEmzk0

(´<_` )「……ケチで結構」

( ´_ゝ`)「んー、どうした弟者?」


弟者はラクダを走らせる。
先ほどの魚から離れようとするかのように、ラクダに鞭を入れ速度を上げていく。
それを見た兄者が、慌てて弟者を追いかけはじめ、ブーンがそれに続く。
一方、兄者のラクダの上に座っていたドクオは残念なことに地に落ちかけて、あわててはい上がっていた。


(;´_ゝ`)「ちょ、早い、早いって!」

(´<_` )「……」

( ´_ゝ`)「おい、急にすねるなってー」

(´<_` )「すねてない」

(;´_ゝ`)「すねてるじゃないか!」


兄者の大声での問いかけに、弟者は言葉少なにしか応じない。
ただでさえ豊かではない表情を、さらに無表情にして弟者はラクダを走らせる。
余裕がなくなれば無くなるほど弟者が無表情になることを、兄者は長年の経験から知っていた。
そうであるため、兄者はラクダの速度をさらに上げ、なんとか弟者に追いつこうとする。


(;'A`)「おち、おちる……」

⊂二(^ω^;)二⊃「ドクオー!!!」


――そんな兄弟たちに振り回されるはめになった精霊二匹は、とても大変だった。
体の小さいこの二人にとって、ラクダの速さと振動はかなりの脅威である。

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123名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:24:05 ID:UWFaEmzk0

――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――



<*`∀´>「ウェー、ハッハッハ!!!!」


ほぼ同じ時刻、異国の服をまとった男は本日、数度目の高笑いを上げていた。


<ヽ`∀´>「古今東西に伝わるウリの名声を聞くがいい!」


と、男は威勢よく言うが、それに言葉を返す相方の姿はない。
ひび割れた大地に響くのは男一人の声と、ごうごうとなる風の音だけ。
感心してくれる者も、何をバカなことをと言ってくるような相手もいない。

ついでに言えば、待ち構えている獲物が来る気配も一切ない。


<ヽ`∀´>「……まだ、来ないニカ?」


目を焼く日差しの下、男の甲高い声だけがぽつりと響いた。

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124名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:26:27 ID:UWFaEmzk0

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―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――


(;´_ゝ`)「弟者、休憩! きゅうけい!」


ラクダによる不毛な追いかけっこがしばらく続いた後、兄者はとうとう降参の声を上げた。

まるきりの素人というわけではないが、兄者は普段ラクダに乗ることはほとんどない。
そんな彼にとって、ラクダをなだめすかしつつ操る事自体が骨である。
首を揺らし、体をおもいっきり上下に動かして走り続けるラクダに乗り続けるのにも限界だった。


(; _ゝ )「ほんと、疲れたもうだめ」

(;'A`)「俺も無理ー。ラクダってなんでこんなに凶暴なん?」


⊂二( ^ω^)二⊃「ドクオはよくがんばったお」


兄者は自分の体の状態を、改めて確認する。
ずっと同じ姿勢でいた時や、久しぶりに運動をした後のように、体がやたらと固くなっている。
ちょっと動かそうとすると鈍く痛むし、ずっとラクダに乗っていた腰や尻など最悪の一言に尽きる。

.

125名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:28:48 ID:UWFaEmzk0

(;´_ゝ`)「弟者、(なんだかわからんが)俺が悪かった(ような気がする)から休憩しよう。
      そう休憩とは素晴らしいものだ。お前も、ちょっと休めばきっと気分もよくなるぞ」


言いたいことはいろいろあるが、それを何とか抑えこんで兄者は弟者に訴えかける。
声を張り上げた際に、どうも口に砂が思いっきり入ったようで、その言葉が終わった後も兄者は口をもごもごと動かしている。


(;'A`)「もう無理。地面、地面が恋しい。
    それが無理ならもう影に引っ込んでやるぅぅううう」

⊂二( ^ω^)二⊃「おー、どこの影に行くんだお?」

('A`)「この際、影ならラクダでも、そこのちゃらんぽらんな兄貴のやつでもなんでもいい」

ヽ(#´_ゝ`)ノ「お前にやる影なんかねーから!」


口々に疲れを訴えかける一同。
ブーンだけ余裕そうだが、他の二名についてはやかましいことこの上ない。
……それが軽口なのは、弟者もわかっている。
それでも、弟者は苛立ちのあまり叫びたくなる気持ちを何とか抑えこむ。

 _,
(´<_` )「……」

.

126名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:31:13 ID:UWFaEmzk0

ヽ(; ゚_ゝ゚)ノ「やば、落ちる」

⊂二(;^ω^)二⊃「アニジャしっかりするお!!!!」

(;'A`)「ラクダ―、もう俺には君だけしかいないー」


弟者から見た一同は、口やかましくあきらかに元気そうである。
実際のところは、不用意に両手を放した兄者がラクダから落ちそうになっているが、それ以外は概ね平和であった。
弟者は日の高さと、ソーサク遺跡の位置を見やり、しばらく考え込んだ後、小さくため息をつく。


(´<_` )「……少しだけだ」

(*´_ゝ`)「え、本当?! やったー、弟者たん大好きぃ!!」


弟者の出した声は小さかったはずなのに、兄者は即座に反応した。
よほど休憩がしたかったらしく、弟者の声の続きを待つこともなくラクダに足を止めさせる。
ラクダが不機嫌そうにうなり声を上げるが、兄者はもうそんなことはお構いなしである。


(*´_ゝ`)「流石は弟者だ、話がわかる!」

(*'A`)「休憩だと!」

⊂二(*^ω^)二⊃「やったお!」


(´<_` )「そんなに元気があるなら行くぞ」

(; ゚_ゝ゚)「それはらめぇぇ!!!」


あまりにも兄者が浮かれているので、つい投げかけた弟者の言葉は、悲鳴で返された。

.

127名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:32:59 ID:UWFaEmzk0

(;´_ゝ`)「ふぃー。
      もう体中がバキバキだ。尻とかすげぇいてぇ」


ラクダをその場に座らせて、兄者は固い地面に降り立つ。
久しぶりの地面の感覚に、兄者は危なっかしく体を右や左に揺らす。
しかし、それもすぐに落ち着いたのか、すぐに体を伸ばしたり、腕を回し始めた。


('A`)「今にも落ちそうだったオレと違って、お前は座ってただけだろ」

(;´_ゝ`)「めちゃめちゃ揺れるから! それに座るのにも体力を使う件について」


街を出てから、どれほどの時間がたっているのだろうか。
途中からラクダの速度を上げたから、もうかなり進んでいるに違いない――と、兄者は視線を上げる。
が、自分の予想よりもはるかに進んでいなことに気づき。すぐに考えるのをやめた。
こういうことの采配は自分よりも、弟者のほうが得意である。それに弟者本人もそういった役割を好んでいるのを、兄者は知っていた。


(´<_` )「日頃から鍛えないからだ」

(#´_ゝ`)「そもそも急に中嶋を走らせた弟者が悪いんじゃないか!
       叫んだから、口の中とか砂でじゃりじゃりだし」


少し遅れてラクダから降り立った弟に向けて、兄者は文句を言う。
といっても、兄者はそれほど本気では怒ってはいないようで、その表情はそれほど険しくなかった。

..

128名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:34:27 ID:UWFaEmzk0

(´<_` )「……水、多めに使ってもいいぞ」

(*´_ゝ`))「水浴びは?」


案の定、兄者はそれほど怒ってはなかったようで、弟者の言葉にすぐ表情を変えた。
先程までとは一転して瞳を輝かせる兄者に、弟者は「ふむ」と考えこむ素振りをみせる。


(´<_` )「その前に、今後の天候」

( ´_ゝ`)ゝ「晴天。砂嵐なし。風、気温ともに良好。夕暮れに雨が降るけど、霧雨。地面には届かずだ」

(;^ω^)「おおお」

('A`)「なんだ、ありゃ」


(*´_ゝ`)b「特技です」


弟者の問いかけに、兄者は言い淀む様子もなく答える。
兄者の星読みと天候の予測は、女傑と呼ばれ恐れ敬われている母者でさえも信頼するシロモノだ。
弟者もこの二つについては、兄の能力を全面的に信用している。

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129名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:36:15 ID:UWFaEmzk0

(´<_` )「じゃあ、許可。ただし、一回だけ」


残りの行程を、弟者は脳内で組み立てていく。

ソーサク遺跡の見え方と、街の遠ざかり具合。それから、まだ砂丘地帯へは足を踏み入れていないこと。
そこから、現在いる地点をざっと把握する。――結果、進み具合はかなり上等。
当初の予定よりも距離は稼げているし、かなり多めに水も積んできている。
ソーサク遺跡では水を補給できるから、無駄遣いする余裕は十分あるだろう。


(´<_` )「この後は、すぐ砂丘地帯に突入する。
      もう一度休憩する予定だが、兄者はどうする?」

\(*´_ゝ`)/「もちろん今浴びる――!!!」


兄者は我先にとラクダにくくりつけた荷物へと走りだしていく。
その様子に、ラクダ――兄者命名・荒巻――が、迷惑そうに口をもぐもぐと動かした。


(´<_` )「清々しいまでに本能に忠実だよな、兄者」

( ^ω^)「こういう時に、流石だよなって言うのかお?」

('A`)「いや、言わないだろ」

( ´_ゝ`)b「いや、ここは『流石だよな、兄者』だ」


('A`)「言うんだ……」

.

130名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:38:32 ID:UWFaEmzk0

(*´_ゝ`)ノシ「おっとじゃー! いっくぞー!!」


よいしょっと、掛け声をかけると兄者は水袋を傾ける。
普段からあまり体を動かさない兄者にはやはり重いのか、その体がフラフラと左右に揺れている。


(´<_` ;)「大丈夫か、兄者?」

(;´_ゝ`)「ぐ、だいじょーぶ、だいじょーぶ!」

( ^ω^)「ブーンもお手伝いするお!」


ブーンの力をちょっとだけ借りて水袋を抱え直すと、座り込んだ弟者の頭に向けて兄者は水をかけはじめる。

服は脱がずにその上から水をかけるだけという豪快極まりない水浴びだが、彼らにとってそれは一番の楽しみであった。
なにしろこの日差しに暑さ、どれだけ濡らしても水なんてものはすぐ乾く。
それならかえって服を着たままの浴びた方が、この地では涼しくなるのであった。


(*´_ゝ`)「水だばぁー!!!」

(*^ω^)「だばぁー」


(-<_- ;)「ちょっと黙ろうか、兄者」

('∀`)「だばぁー」


('∀`(⊂(-<_-#)ガッ

.

131名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:41:20 ID:UWFaEmzk0

('A`(#)「ちょっとしたお茶目心が……。
     なんであの弟はこっちを無視するくせに、殴るかなぁ。しかも物理攻撃で」

(;^ω^)アウアウ


水は弟者のマントに染み込み、その下の服を濡らし、肌まで伝わっていく。
適度に水がかかったのを確認すると、兄者は弟の頭をぺちぺちと叩き「ほい、終了」と告げる。
妙なところに水が入り込んだのか、弟者はしばらく薄緑の耳を軽く動かしてから、その細い目を開いた。


(´<_` )「……生きかえるな」

(*´_ゝ`)「母者にバレたら怒られるだけじゃすまないけどな」

(´<_` ;)「確実に殺されるな」


そのまま水袋の口を閉じようとして、兄者はふとその動きを止める。
兄者の表情がイタズラを思いついた子供のように一瞬止まり。その後すぐに、はじけるような笑顔を浮かべる。


(*´_ゝ`)ノ「ブーンもドクオもやるか?」

⊂二(*^ω^)二⊃「おおお、やるお! やるお!」


('A`(#)「え、何? 何を?」

.

132名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:43:31 ID:UWFaEmzk0

(*´_ゝ`)「よーし、どっせぇぇい!」


兄者の掛け声とともに、ブーンとドクオたちに向かって水がかけられる。
といっても、体の小さい二人に水袋から直接水をかけるというのは流石に贅沢。
そういうわけなので、兄者は荷袋の中に入っていたポットを使いブーン達に水をかけていた。


(*゚ω゚)「おお!」

(*'A`)「これは……」

(*'∀`)b「最高だな」


(*´_ゝ`)「どっくんキメェ!!!」(^ω^*)

(´<_` )「……」


――兄者のそんな行動を、精霊二匹に辛辣なはずの弟者は止めなかった。

かわりに無言で様子をうかがっていた弟者の表情が、ほんの少しだけ楽しそうに緩む。
が、次の瞬間には自分でも表情の変化に気づいたのか、慌てて首を振ると、顔をしかめた。


(´<_` )「……いくらなんでも兄者に影響されすぎだ」


……そんな弟者の様子に、兄者やブーンやドクオは気づかなかった。

.

133名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:45:42 ID:UWFaEmzk0

(*´_ゝ`)ノシ「おーい弟者! 次、俺な!」

(´<_` )「把握した」

( ^ω^)「ブーンは手伝わなくても、大丈夫かお?」


気がすんだのだろう。兄者は手にしたポットを片付けて、弟者に向かって手をふった。
弟者はその声に答えると、未だに体から水を滴らせた状態のままで水袋を抱える。
その動きは先ほどの兄者とは違い、少しもふらつくことがない。

  _,
( ^ω^)「むー、オトジャは力持ちだお」

(´<_` )「おい馬鹿、さっさと屈め」


そう言いながら、弟者は水袋の口を緩めるとその体に向けて、水をふりかける。
袋から飛び出した水が、乾いた大地に落ち。土の匂いが辺りに漂う。


(;´_ゝ-)「ちょ、弟者早いって。ってわー、いきなり掛けんなって!!」

(´<_`*)「油断した兄者が悪い」


(;'A`)「うわー、弟者キメェ」


チャッ(#´_>`)つ==|ニニニ二フ('A`;)

.

134名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:48:11 ID:UWFaEmzk0


珍しいことにはしゃいだ声を上げた弟者に対し、ドクオは頭に浮かんだ言葉をそのまま告げた。告げてしまった。
悲しいことにドクオは精霊。人間の微妙な感情の動きなんてものはさっぱりわからない。
――そして、案の定こうなった。


(#´_>`)つ==|ニニニ二フ('A`;)


('A`;)「ええと、」


うっかり口から出た言葉とほぼ同時につきつけられたのは、一振りの刀。
片手に水袋を抱えたかなり不安定な体勢だというのに、弟者は目にも止まらぬ速さで動いた。
獅子の尾とも呼ばれる、優美な曲線を描く刀。シャムシールとも呼ばれるそれは今、ドクオの眼前できらめいている。


('∀`;)「お、俺が悪かったので、刀はしまって下さい」

(#´_>`)「今日という今日こそは息の根を止めてやる」


弟者の声に、ドクオは息を呑む。いや、呑んだような気がした。
今のドクオには、つきつけられた刀の刀身に刻み込まれた花や蔦の文様の美しさは何の救いにもならない。
むしろこれほどまでにこった細工がされているというのに、殺傷能力を秘めているという事実のほうが重要であった。


(;^ω^)「あばばばばば」

(#´_ゝ`)ノ「弟者ぁー、水止まってるぞー!! ――って、」

.

135名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:52:44 ID:UWFaEmzk0

顔にかかった水をぬぐっていた、兄者の言葉が止まる。
兄者の視線はまず弟者の顔を見て、次にドクオの姿を見て、それから弟者の手にした曲刀へと移った。
考えることしばし、兄者の表情はすぐに真っ青になった。


(; ゚_ゝ゚)て「刀やばい。ダメ絶対ぃぃ!!!」

( ´_>`)「止めるな、兄者」


すがる兄と、すげなく断る弟。
そして、紫の体を青に染めるという器用なまねをしてのける精霊が一匹。


(;^ω^)「おー、どうしてこうなったおー」

('A`;)「……死ぬ。これは死ぬ。
    ここ50年間は死ぬなんて一度も感じなかったのに、今日だけで二回とか……」


おろおろとして飛び回るブーンの内心には、もうどういう意味を持つのかわからない感情が動き回っている。
それはドクオとて同じようで、「死ぬ」と口では言いながらもその様子はどこか楽しそうである。


( ´_>`)「大丈夫だ、すぐ終わる」

(; ゚_ゝ゚)「らめぇぇぇぇぇ!!!!」


荒野の中に、兄者の悲痛な叫びだけが響いた――。

.

136名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:54:26 ID:UWFaEmzk0

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――――――――――――――
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<;ヽ`∀´>「まだ、こないニダ」


岩の影から顔を出し、男はため息をついた。
何やら「らめぇぇぇ」という叫び声が聞こえた気がするのだが、それらしき人影の姿はなかなか見えない。
気のせいだったのかと悟ると、男は今にも泣きたい気分になった。


<;ヽ`Д´>「いくらウリのことが怖いからって、いくらなんでも遅いニダ」


待ち構える獲物の姿は、未だに見えない。
視界に入るのは、岩と大岩と、何だかわからない骨やらだけ。
高笑いをしようにも、笑えば笑うほど口の中はからからに乾き、喉には砂が張り付いて不快感ばかりが増えていく。


<;ヽ Д >「……あぢぃー。ヤツらはまだニダ?」


ぽたりぽたりとかいた汗は、地面へと落ちることなくすぐに消える。
目を焼く日差しに顔を拭いながら、男は震える手で携行していた水を一口飲む。
ここが彼の故郷ならば水だってもっと豊かだった。飲む水に困ることがあっても、これほどの暑さに身を焼くことはなかった。
それが、どうしてこんなことに――と、男は考える。


<;ヽ Д >「このウリがこんな目にあわされるとは……
      なんて無礼千万なやつニダ! ウリ以上の悪党ニダ!」


そして、男はこうなった元凶が待ち構えている獲物であることに気づく。
彼は怒りに体を震わせながら、幾度目になるかわからない声を上げた。


<#ヽ`∀´>「あいつらは何をしてるニダ!!!」

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137名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 20:56:07 ID:UWFaEmzk0

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一方、すったもんだの騒ぎの末に水浴びを浴びた“あいつら”は、枯れ草と木の枝を前にして苦心していた。
弟者が手にした火打石を打ち付け、兄者と精霊二匹がそれを覗いているのだが、先ほどから一向に火がつく気配がない。


(´<_` )「荷物の中に茶道具一式を見つけたまではよかったのだがな」

('A`)「それがごらんのありさ(*^ω^)「オトジャオトジャ、茶ってなんだお? オイシイのかお?」


(´<_` )「……」


ドクオに向けて拳を構えかけた弟者の行動は、ブーンの無邪気な問いによって阻止された。
弟者は何事か答えようと口を開きかけるが、何も言わないまますぐに口を閉ざす。
その代わりに火打石を見つめると、彼はため息を付いた。


(´<_` )「ツンは随分と気を使ってくれたようだが、これでは……」

( ´_ゝ`)「ふっふっふっー、火がなかなかつかないんだろ?
       このお兄ちゃんには、全てがお見通しだぞ!」

(´<_` )「うるさい」


お見通しもなにも一目瞭然の光景なのだが、兄者は嬉々とした表情でその場をくるくると回る。
ひとしきり回り終えた後で、弟者の傍らに置かれた鞄を兄者は「びしっ」といいながら指さした。

.

138名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:00:56 ID:UWFaEmzk0


(*´_ゝ`)b「ここは、マッチ一本分の火力の出番」


どうやら兄者は、街で購入した魔法石板を使えと言いたいらしい。
購入した石板のうち一つの効果は、確かにマッチ一本分の威力の火を出すものであった。


('A`)「なぜ回ったし」

ビシッ\( ´_ゝ`)>「なんかカッコイイような気がして」

\( ^ω^)>「たしかに、かっこいいおね」


(´<_`#)「……」


ブーンと楽しそうにはしゃいでいた兄者は、弟の表情が怒りの色を浮かべているのを見て、動きを止める。
相も変わらずの魔法嫌いと思いつつ、兄者は話題をそらすために辺りを見回す。


( ´_ゝ`)ハッ


兄者の目が、かすかに動いた小さな生き物の姿を捉える。
兄者は腕を伸ばしその生き物を思いっきり掴むと、弟者にその生き物の姿を見せつけた。

.

139名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:03:09 ID:UWFaEmzk0

(*´_ゝ`)「弟者、弟者ぁー! 見ろ、火トカゲだ!
       こいつさえいれば、火起こしもとっても楽に!」


兄者の手にしたそれは、トカゲによく似た生き物だった。
一見、赤い鱗を持つトカゲなのだが、その体はオレンジ色に揺れる炎のようなモヤを纏っている。
兄者の手にしたその生き物はうぞうぞとうごめくと、弟者に向けて口を開く。


(*´_ゝ`),(・)(・),∠ ノ)ノ,(ノi


てらてらと光る赤い舌が大気にさらされ、そこから赤と橙に輝く炎がごおっと上がる。
弟者はその炎を見つめ、火トカゲに手を伸ばすと――


(´<_`#)ノイ ポイッ


(*^ω^)o彡゜「投げたぁぁぁぁ!!!!」(゚A゚;)

( ;゚_ゝ゚)「俺のシャーミンちゃんがぁぁぁ!!!」


投げ捨てられた火トカゲの姿を見つめ、兄者は悲痛な声をあげた。
一方、投げ捨てられた火トカゲの方は何事もなかったかのように着地すると、近くの岩陰へと逃げこんでいく。


(´<_`#)「変なものを拾うな 名前をつけるな トカゲは火なんて吐かない」


(;´_ゝ`)「ああ、シャーミン松中ぁー」

('A`)「お前、本当に名前のセンスどうかしてるわ。
   俺なら“輝ける炎の申し子”とかつけるのに」

(;´_ゝ`)て「ドクオもひどっ!!」

.

140名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:05:18 ID:UWFaEmzk0

( ;´_ゝ`)「……やはり、ここは弟者の好きにするべきかと」

(;^ω^)「ですおね」

('A`)「だな」


その後もひとしきり大騒ぎをした末に、一同が出した結論はこれだった。
そもそも火を起こそうとしているのは弟者なのだから邪魔をしてはならないという理論である。


(´<_` )「……まいったな」

(;´_ゝ`)「大丈夫か?」


しかし、火打石を使う作業を再開したのはいいがやはり火はつかない。
弟者はこれ以上ないというほど渋い顔をして、嫌がっているのが明らかにわかる表情で鞄の中のものを取り出した。


(*´_ゝ`)ノ「はいはーい。俺がやる俺がやりたいー!!」

(´<_` )「却下」

(; ´_ゝ`)「弟者のケチー」


弟者は、鞄の中に入っていた石板を取り出す。
二枚の石板は見た目はほぼ同じだが、刻み込まれている文様だけが違う。
その文様に、弟者はじっと目を凝らす。

.

141名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:08:09 ID:UWFaEmzk0

黒の盤面。そこに刻まれた文様は、普通ならば読むことが出来ない。
――しかし、精霊を見ることのできる弟者の眼ならば、刻まれた魔力をある程度なら“見る”ことができる。


一方は、炎の術式。もう一方は、水の術式。


弟者は魔法使いではないため、術式の詳細までは読み取れない。
それでも、これが相当な魔力によって組み上げられた複雑な術式であるということはわかる。
紛れもなく本物。しかも、一級品。
――大商隊の到来でいくら賑やかだからとはいえ、たかだか砂漠の街で気軽に売られていいようなものではない。

兄者が惹かれるのも、当然の出来。
やはり、取引など応じず突き返しておくべきだったと、弟者は思う。


           川 ゚ -゚)「こっちも商売なんだから、《そんなことされては困る》」


この石板に比べれば、彼女が路上で仕掛けてきた暗示などは完全に子供のお遊びだ。
一体何者だったかはわからないが、出来れば二度と会いたくない相手である。


(-<_- )「……」


弟者は、黒の盤面に刻まれた文様をなぞっていく。
術式自体は既に吹きこまれているので、余計なことをする必要はない。
石板魔法に必要なのは、刻み込まれた魔法を起動するための最期のキーを指でなぞること。

魔力を吹き込む必要はない。
そんなことが必要なのは、大魔法を行使しようとする魔法使いくらいだ。

.

142名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:10:07 ID:UWFaEmzk0

( ´_ゝ`)「ちぇー、火をつけたかったなー」

( ^ω^)「また、次があるお」


右から左。
刻み込まれた凹凸を確かめるように。弟者は、静かに指を動かす。
指がたどる軌跡は淡い光を放ち……


(*^ω^)「おお」


……目の間の枯れ草が燃え上がったのは、最後の一角をたどり終えたのと同時だった。
誰一人として指を触れていないというのに、草はその身を捩り枯れ枝へ熱と炎を伝える。
魔法が発動したのは一目瞭然だった。


('A`)「便利なもんだ」

( ´_ゝ`)「だろー?」

.

143名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:12:16 ID:UWFaEmzk0


指先ひとつで叶う、お手軽な魔法の行使。
普通ではありえない奇跡の大盤振る舞い。

その威力や能力の違いはあれど、魔法石板は今や大概の商店や家庭で使われている。
西には魔法石板がないと生活が成り立たないという国すらあるらしい。



(´<_` )「どこが……」



奇跡、魔法、神秘、幻想。
そんな類が身近に触れられるところに、それこそ生活の一部として使われている。



(-<_- )「……」


――その事実に弟者は、いつも吐き気を覚える。

.

144名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:14:09 ID:UWFaEmzk0

広がる炎は、ポットの水を温めていく。
弟者はその中に茶葉と砂糖を投入し、しばらくしてから茶道具の中にあった香草を揉んで放り込んだ。


( ´_ゝ`)「ほれ、やっぱり便利だろ。文明の利器」

(´<_` )「知るか」

(;´_ゝ`)「ちぇー」


周囲には香草の強い香りと、それに紛れるように茶葉の匂いが漂いはじめる。
しかし、弟者の表情は先程からずっと動かない。
ああこれは完全に機嫌を損ねているなぁと兄者は思うが、あえて口にはしなかった。


( ^ω^)「なにしてるんだお?」

('A`)「また、食い物じゃないか?」

(*^ω^)「やっぱり、食べ物って楽しいもんなんだおね」


弟者の魔法嫌いは、筋金入りである。
それなのに、魔法石板を使うなんてこの弟は……などと兄者は思考する。
俺に任せばいいのにという言葉を、兄者はなんとか口に飲み込んだ。


( ´_ゝ`)「んー、まあ、楽しいっていえば楽しいんじゃないか?」

(*^ω^)「おー、ブーンも飲みたいお!」

(;'A`)「いや、お前は飲めないだろ」

.

145名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:16:08 ID:UWFaEmzk0

旦⊂(´<_` )「……できたぞ」

∩(*´_ゝ`)∩「流石だよな、弟者」


弟者が渡してきたカップを受け取り、兄者は口をつける。
まだ熱いその飲み物を口の中で転がすと、砂糖の甘さが口中に広がった。
それから少し遅れて、喉と鼻に抜ける香草独特の刺激。
ああ、これでこそ茶だよなぁと兄者はうんうんと頷く。


( ^ω^)「ブーンも飲みたいお……」

( ´_ゝ`)「じゃあ、飲むか?」

⊂二(*^ω^)二⊃「飲むおー!!!」


(*´_ゝ`)⊃旦「ほれ」

(;^ω^)「……ぉ」


( ´ω`)フルフル


(´<_` )「おい、やめろ」


兄者が差し出したカップに、ブーンは戸惑ったような表情を浮かべた後、首を横に振った。
どうやら香草の臭いが鼻をついたようで、ブーンはしょんぼりとした表情を浮かべる。
そんなブーンの様子に、お茶を沸かした当人は気分を悪くしたようだった。

.

146名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:18:10 ID:UWFaEmzk0

(;'A`)「だから、飲めないと言っただろ」

( ´ω`)「うー、でもー」


カラカラに乾いた喉にお茶が落ちると、喉に張り付いていた砂の感触が少しはましになる。
「ああ美味いなぁ」と兄者がつぶやくと、弟者の表情が少し和らぐ。
流石だな、弟者。我が弟ながら単純だ。――と、兄者は心のなかでつぶやく


(´<_` )「おかわりは?」

( ´_ゝ`)「おお。頼む」


カップを弟者に差し出すと、すぐに中身が注がれて返される。
二杯目の味は。刺激も甘みも少し抑え目だ。
再び注がれた茶に兄者は満足したように頷くと、腰に下げた袋から小さな包みを取り出す。


(*´_ゝ`)ノ「ふむ、弟者よ大儀である。
        褒美にこの菓子をやろう、西の国産の小麦の焼き菓子だ」

(´<_` )「なんと。兄者もたまにはよいことをするな」


(*´_ゝ`)b「流石だろ?」

(´<_` )「いや、別に」

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147名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:20:22 ID:UWFaEmzk0


ヽ(#´_ゝ`)ノバカー         ヤメテ!(^ω^;)


(´<_` )モグ モグ


('A`)「なんて言うか、本当にお前らは楽しそうだな……」


ドクオは兄者の足元の影に腰を下ろすと、ふぅと息をはいて空を見上げる。
青い空に輝く太陽は、一面の砂の大地を照らしている。
光がなければ生まれることが出来ない影。その精霊であるドクオにとって、太陽はまさに恵みの存在である。


('A`)「あー、今日も天気がいいなぁ」

( ´_ゝ`)「ん、どうしたドクオ? 空に何」


か……という言葉は兄者の口からは出て来なかった。
――兄者は空へと視線を向けたきり、そのまま微動だにしようとしない。


(´<_` )「どうした、兄者?」

( ´_ゝ`)「……いや、……月がだな……」

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148名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:22:16 ID:UWFaEmzk0

青空には太陽と、ドクオは見逃していたが白くぼんやりと輝く月の姿がある。
夜に見ることのできる月と違って、今にも消えてしまいそうな弱々しい月。
兄者は白い月の姿をじっと見つめ、それから何かを見つめるように視線を走らせていく。
北。南。それから、西と、東。


( ´_ゝ`)「……」


兄者は何も話さない。
天をぼんやりとながめたまま、動きもしない。

――星を見ているのだ。


と、弟者はしばし考えた末に理解した。
真昼の月と、この時刻ではほとんど見えない星をつなげて兄者は何かを読み取っているのだろう。


( ´_ゝ`)「あー、今日はダメだわこりゃ。
      星の動き最悪。今日は波乱の一日になるってさ」

(´<_` ;)「……出かける前に聞きたかったぞ、兄者」

(;´_ゝ`)「やー、昨日の段階ではいろいろあるけど、まあ良い一日でしょうって感じだったんだ。
     でも、途中でなんか変なの引っ掛けたらしくてな。星の巡りが変わったっぽい」


兄者が首を傾けながら空の一角を指さす。
それから、その指をすっと西へと動かす。

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149名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:24:09 ID:UWFaEmzk0

( ´_ゝ`)「龍刻星がこっちだろ、それから狐狼星がこっちに動いて……
      でもって、月がここだからこれから動きを考えると」

(;^ω^)「ぶ、ブーンにはアニジャが何を言っているのかわからないお」

('A`)「安心しろ。オレもだ」

(´<_` )「要点は?」


弟者の言葉に兄者は腕を組んで、「うーん」と唸る。
それから何やら星らしきものの名前を呟いた後、残りのお茶をごくりと飲んだ。


(;´_ゝ`)「まぁ、……どうにかなるん……じゃないかなぁ……」

(´<_` )「それは兄者の感想だ。要点を頼むと言ったはずだが」

(; ゚_ゝ゚)「は、え?」


兄者は視線を左右に辿らせながら、ポットからお茶を注ぐと口を湿らせる。
それから、「どうしよっかなぁ」とモゴモゴと口を動かす。
これは明らかに何かを隠そうとしている。そう悟った弟者は、兄者を睨みつける。


(;´_ゝ`)「……えーと、とりあえず。今から、すこーしばかり危険かな☆彡」

(´<_` )「荷物をまとめろ。すぐ砂丘に出るぞ」


弟者の決断は素早かった。

.

150名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:28:11 ID:UWFaEmzk0

――――――――――――――――
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<;ヽ Д >「あ゛ち゛ぃ゛」


暑さにあえぐ男の鼻が、ふいに妙な臭いを捉えた。
鼻を突く刺激的な臭い――薬によく似たその香りを男は知っていた。
そう。これはこの地方でよく飲まれるお茶に入れる香草の臭いのはずだ。


<;ヽ ∀ >「……?」


それはいい。それはいいのだが、砂丘を目の前にしてのんびりと茶を飲む馬鹿なんているのだろうか。
男は強い視界に目を細め、今にも倒れそうなほどの暑さに顔をしかめながら、岩陰から飛び出す。
ただよう臭いの元を求めて嗅覚をとぎ澄まし――周囲に目を凝らす。


が、見つからない。
しかし、臭いがするのだ。そう遠くないところに原因があるはずだ。


<ヽ`―´>「……」

.

151名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:30:19 ID:UWFaEmzk0

鼻を利かせながら、体勢を低くし周囲を見回す。
足音を殺しながら、所々にある大岩を超え進み――

やがて、待ち構えた獲物の姿を、見つけた。


まだ若い男の二人連れ。
片や20代になるかならないかくらいの、背の高い男。
もう片方は、それよりも年下――おそらくは弟であろう、顔のよく似た男。
間違いなく市場で見つけた、二人連れだった。


<*`∀´>「ここであったが百年目。一網打尽にしてやるニダ……」


二人連れの姿を、男は観察する。
乗り物はラクダ。その背には水であろうか、荷が括りつけられている。
兄らしき人物の腰には刀と鞄。弟らしき人物に武装は無し。
そして、二人の手には――カップが1つずつ。

やはりというか、なんというか。あの臭いの主はこの二人連れだったらしい。


<ヽ;゚Д゚>「アイゴー!!! 何、ニダ!
      何であのチョパーリたちは茶なんて飲んでるニダァァァ!!!」


獲物たちはすでに火の始末を終え、荷物を片付け始めている。
兄が指示を出し、弟がそれに従う。どうやら、ここから離れようとしているらしい。


<#ヽ゚∀゚>「許さん! この屈辱、決して許さんニダァァァ!」


許せないと男は思う。
男が暑さにあえいでいたというのに、あの獲物たちは呑気に茶を飲んでいた。それが許せない。
――二人連れを獲物と呼び、勝手に待ち伏せしていたのは男なのだが、それに彼は気づかなかった。

152名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:33:07 ID:UWFaEmzk0

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(´<_` )「急げ、兄者」

(;´_ゝ`)「……急げって。ちょ、」

(;'A`)て「オレを置いていくんじゃねーぞ」


弟者に急かされて、兄者はラクダ――荒巻にまたがる。
突然のことに状況が理解できない兄者と違い、弟者は警戒するように視線を走らせている。


(´<_` )「ここは視界が悪い。その状況で狙われたらこちらが不利だ」

(;´_ゝ`)「だからって言っても、そんなに急がなくとも」

( ^ω^)「……そうだお。急にどうしちゃったんだお、オトジャ」


慌てて兄者のもとに飛んできたブーンが、首をかしげながら質問する。
が、弟者はそれに視線を向けただけ。かわりに厳しい表情のままラクダに乗り込むと、言った。


(´<_` )「兄者の星読みは、外れたことがない。
      ……間違いなく、狙われる。それも今すぐに、だ」

.

153名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:34:29 ID:UWFaEmzk0


(;゚A゚)「なんだと……」

(;´_ゝ`)「だから、言うのは嫌だったんだ」


(´<_`#)「そういう場合はすぐ言えと、日頃から言っているだろう。手遅れになるぞ!」


そう言って、弟者がラクダ――中嶋を走らせようとした時。
すぐ近くの岩陰から、その男は飛び出して来た。


<ヽ`∀´>「ここで会ったが百年目ニダ!!」


濃い緑の体をした、目のつり上がった男だった。
白と黒。そして、ところどころ赤を配した、東方独特のはっきりとした色使いの長衣。
長衣の下には黒の下袴を履き、素足の上に先の尖った靴を履いている。

――そして、その手には銀の光を放つ無骨な刀。


('A`)「何かスゴイのがいるんだが……」

(´<_` )「……噂をすれば、もうお出ましか」


兄者と弟者の前に現れた男は、耳障りな甲高い声で高らかに笑い始めた。

.

154名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:36:22 ID:UWFaEmzk0

<*`∀´>「ウェーハッハッハ!
      この極悪非道なニダー様から逃れたければ、有り金と水と、その乗り物をおいていくニダ!」

(*´_ゝ`)σ「弟者見ろ。盗賊だぞ盗賊!」

( ^ω^)「おー! すっごい服だお」

(´<_` )「……指をさすんじゃない。見なかったふりをしろ」


刀を突きつけながらそう宣言した男に対する、兄者とブーンの反応は実にのんきなものであった。
星読みで、何かが起こるということは既にわかっていたためもあってか、驚く様子も怯える様子も見せない。
そんな一同の様子に、馬鹿にされたと感じたのか、男の顔が一気に赤く染まる。


<#`∀´>「ウリはお前らが来るのを一日千秋の思いで待っていたというのに、その反応は何ニダ!」

(;´_ゝ`)「いや、そう言われてもな。
      正直、お前さんが待ってたのなんて知らんかったし」

(;'A`)「……っていうか、誰だよこいつ」


男の怒りはどんどん激しくなっていく。
それとともに、手にした刀はぶるぶると震え、声もさらに甲高く耳障りなものへと変わった。

.

155名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:39:01 ID:UWFaEmzk0

∩<#`Д´>∩「ウリは暑くて死にかけてるって言うのに、何でお前らは優雅にお茶とか飲んじゃうニダ!
         それにこっちのお茶臭くてクソマズイニダ! 変な草をお茶に入れるなんて言語道断ニダ!」


(#´_ゝ`)ノ「弟者のお茶は母者が入れる劇物と違って、めっちゃ美味いんだぞ!
        まあ、ダントツで美味いのは父者がいれたやつだがな」

(´<_` )「香草とかいれまくるから、こっちの茶は東方の茶とは味が全然違う件。
      あの香草は喉に張り付いた砂をとり清涼感をもたらし、また体を冷やす効果のあるもの。
      それを知らず、また慣れようともせずにクソマズイと言うのは不快極まりない。
      こっちから言わせてもらえば、お前らの方の茶こそ甘さが足りない。大体、茶というものはだな」

(;'A`)「……あの弟者が、語っているだと」

(*^ω^)「やっぱり、食べ物ってすごいんだお」


男が怒りの末に言い放った言葉はどこかズレていた。
そして、それに対する兄者たち一同の返事もやはりズレたものだった。


<#`Д´>「言ったニダね!!! そもそもウリの祖国では」


男は祖国で飲んだ最高のお茶の話をしようとして、言葉を止めた。
そもそも何故、自分はお茶の話をしているのだろうか。
そうなった原因を思い返し、そしてようやく男は自分が目的を見失っていることに気づいた。

.

156名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:41:01 ID:UWFaEmzk0


<;ヽ`∀´>「……」


――そうだ、自分はこの獲物たちから大金をせしめるためにここに来たのだ。
それだというのにこの獲物たちは怯えるどころか、自分を小馬鹿にしているではないか。


<#ヽ`∀´>「ファビョーン!!!
       この屈辱、この恨み。未来永劫、子々孫々に渡ってゆるさんニダ!」


それに気づいた瞬間、男は先程よりも更に激しく怒り狂った。
興奮に赤く染まった顔で、男は手にした刀を握り直す。
細長い刃先の歪曲した鉄の刀。
青龍刀とも呼ばれるそれは、長年彼が愛用してきた最も信用する武器だ。


<#`∀´>「ウリを侮辱した罪、命で賠償シル!」


男は青竜刀を武装していない方の獲物――兄者へと向ける。
体を低くし足を引くと、兄者に向かって一気に駆け出した。

.

157名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:42:19 ID:UWFaEmzk0


('A`)「おい。こっちに向かってきてるぞ……」

( ^ω^)+「どうやらブーンたちは、奴を怒らせてしまったようだお」


ドクオやブーンの声を聞くまでもなく、弟者はラクダに鞭を入れ走りだしていた。
そのまま兄者の乗っているラクダの尻を打つと、語気するどく言い放った。


(´<_` )「一気に駆けるぞ!」

(;´_ゝ`)「――お、おう」


<#`∀´>「逃がさんニダ!!!!」


黄色に光る砂の丘陵に向かって駆け出す二頭のラクダ。
男はそれを見ると即座に、近くに転がっていた大岩を抱える。
そして、それをそのまま弟者たちに向かって――何と、投げつけた。


(;'A`)て「どんだけ、馬鹿力なんだよ!」


本来ならば男一人でようやく抱えられるそれは、勢いよく飛んでいく。
飛来する岩。それは、ぐんぐんと距離を伸ばすとラクダのすぐ脇をすり抜けて落下した。

.

158名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:44:27 ID:UWFaEmzk0

(;´_ゝ`)「うぇー、正気かよ」

<*ヽ`∀´>「ホルホルホル ウリに逆らった罰ニダ!」


乾いた大地から砂地に入っても、ラクダの速度は一向に落ちない。
そんなラクダたちに向けて飛来する、岩。


(;^ω^)「なんかめっちゃ飛んでくるお」

(´<_` )「……化物め」


飛来する岩は、一つでは止まらない。
駆けぬけるラクダを潰さんとする勢いで、岩や石が次々と飛来する。
幸いなことに岩が当たることはなかったが、ラクダたちの様子が次第に落ち着かなくなり始める。
手綱を外さんばかりに首を上下に動かし唸り声を上げ、激しく跳ねまわる。


(;'A`)「おいおい。ヤバイんじゃね、これ」


(´<_` )「兄者。ラクダ頼んだ」

(;´_ゝ`)「――はぇ?」


もう一匹のラクダが接近し、弟者がその上から手綱を差し出す。
兄者が差し出された手綱をなんとか掴んだ時には、弟者の姿は消えていた。

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159名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:46:32 ID:UWFaEmzk0

( ;゚_ゝ゚)「ちょ、弟者!!!」


暴れまわるラクダの背になんとかしがみつきながら、兄者は弟者の姿を探す。
隣のラクダの背にはいない。だとしたら……
振り落とされないように必死でしがみつきながら、兄者は後ろに視線を向ける。


(´<_` )「……」


いた。
弟者はすでに曲刀を抜き放ちながら盗賊に向けて走り出している。
風と弟者自身が作り出す動きによって、薄紫のマントが鮮やかに翻る。


(;^ω^)「オトジャが行っちゃったお」

(;´_ゝ`)「わかってる。あいつ戦うつもりだ」


黄色い砂の大地を、疾駆する弟者の姿――それを、完全に見送ることができずに兄者は顔を伏せる。
ラクダは完全に暴走し始めている。このままでは、振り落とされるのは時間の問題だ。


( ;゚_ゝ゚)「ひぃぃぃぃぃいいいいいい!!!!!」


そんな状態なのに、弟者のラクダの紐を持たされるなんて正直洒落にもならない。
手綱を手にした腕が、千切れそうなほどに痛む。
兄者の腕では落ち着きを失ったラクダ二頭を同時に操ることなど出来はしない。
自分の乗っているラクダと、暴走するもう一頭のラクダに引っ張られて兄者の手は今にも引っこ抜けそうである。

.

160名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:48:38 ID:UWFaEmzk0

そんな状況だというのに、変わらず岩は迫り来る。
もう距離はだいぶ離れているというのに、その飛行速度は落ちない。


( ;゚_ゝ゚)「もう無理、ぜったいに死ぬぅぅ!!!
      死ななくても落ちるか、腕がちぎれるぅぅぅ!!!!」


荒巻は走るばかりで、完全に止まる気配がない。
岩は今にも当たりそうな軌道をとっているというのに、荒巻は速度を上げるだけで避けるそぶりをみせない。
――岩の迫る音に兄者はぎゅっと目をつぶる。


ああ、
今度の今度は間違いなく死んだな


(#^ω^)   《飛べお!》


――という兄者の心配は、杞憂に終わった。

近くを飛んでいたブーンが、片手を岩へとつきだしその“力”を行使したためだ。
ぞわりと肌が粟立つ感覚とブーンの放つ奇妙な音が、兄者に魔力の行使を告げる。


(#^ω^)「アニジャ危ないお!!!」

(;´_ゝ`)「スマン!」

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161名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:54:27 ID:UWFaEmzk0

“飛ん”だり“飛ば”したりすることは得意――ブーンがそう言っていたことを、兄者は思い出す。
ということは、先ほどの岩もブーンが飛ばしたのだろうと、兄者はかろうじて理解する。


(; _ゝ )「ブーン。その力はどれくらい使える?」

( ^ω^)「まだまだいけるけど、ブーンじゃアニジャ一人を飛ばせるくらいが限界だお。
      あまりおっきい岩とか、ラクダとかはムリだお」

(;´_ゝ`)「把握した」


岩の飛来は止まらず、兄者の腕は相変わらず千切れそうなほどに傷んでいる。
今はラクダ――荒巻も中嶋も同じ方向に進んでいるから良いが、これが別の方向へと走り出したらもうどうしようもない。


(#^ω^)「く、《飛べお》! こっちくるんじゃないお!」

(;´_ゝ`)「ドクオ、そっちのラクダは任せ……」


弟者が合流するまで、中嶋を逃がすわけにはいかない。
兄者はもう一人の精霊に手助けを頼もうと声を上げて……ドクオの姿が先程からまったく見えないことに気づく。


( ;゚_ゝ゚)「って、どこ行ったぁぁぁぁ!!!!」

(;^ω^)「あいつ逃げたお!
      ドクオは逃げるのと隠れるのだけはすっごい得意なんだお!」

(♯゚_ゝ゚)「あんの、裏切りモノ!」


荒巻と中嶋が起こした砂煙の中で、兄者は怨嗟の声をあげた。

.

162名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:56:14 ID:UWFaEmzk0

――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――


弟者は砂塵を駆ける。
彼が地を踏むたびに、足元の砂がさらりと流れる。


< `∀´>「ウリナラに逆らおうとは笑止千万。
      そんなことしようものならば、ウリのオモニやアボジや一族全員がこの砂という砂を埋め尽くし、
      オマケにウリと起源を同じくする東の民たちが十万千万と駆けつけ、さらには属国である諸州の……」


一見穏やかそうな砂たちは、慣れぬ者であれば容赦なく足を引きずり込む。
人の足を阻むその流れの上を、弟者は半ば強引に駆け、あるいは飛び越えながら――腕を振るう。
ギン――という甲高い音。どうやら、初撃は受け止められたらしい。
体に走る衝撃を、弟者は体を回転させることで受け流す。


<;ヽ゚∀゚>「う――ひぃぃぃ」

(´<_` )「……」


そして、さらに一撃。
半ば不意打ちに放った攻撃は、男が手にした岩で受け止められていた。

.

163名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 21:58:16 ID:UWFaEmzk0


男が弟者の接近に気づいた様子はなかった。

それでも視界に弟者の姿が入ると同時に、その攻撃を受け止めた。それが二度。
普通に考えればそれなりの技量の持ち主。
それにしては、様子が妙だ――と、弟者は分析する。


<;ヽ`∀´>「う、ウリはまだ話の途中ニダ!」

(´<_` ).。oO(試してみるか)


ペラペラとよく喋る顔面へ向けて、弟者は曲刀をなぐ。
それを目の前の男はぎょっと目をむいたあと「わわわ」と岩を落としながらも、その場から下がることで慌てて回避する。
――その動きで、これはおかしいと弟者は確信する。


<*`∀´>「ホルホルホル! このニダー様の油断をつこうなどその所業はまさに悪鬼魍魎の……」

(´<_` ).。oO(あれだけ反応が遅れたのに、回避した)

<;ヽ`∀´>「――って、聞くニダ! この偉大なる大国の王族……も認めたような気がするウリの」


半回転。
そこから再度、逆に回りながら腕を振るう。
しかし、その攻撃も男の手にした刀――青龍刀によって阻まれる。
手にかかる衝撃に、弟者は眉を小さくひそめる。


(´<_` ).。oO(これも止めるか)

.

164名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:00:13 ID:UWFaEmzk0


<;ヽ゚∀゚>「あ、アイヤー!!! じゃなかった、アイゴー!!」

(´<_` ;).。oO(……厄介だな)

<;ヽ`Д´>「あばばばば」


何やら奇っ怪な叫びをあげる男を前に、どうすれば――と、弟者は逡巡する。
その時間はほんの数秒。しかし、そのほんの僅かな隙を突いて飛来するものがあった。
男の振るう、青龍刀。その切り裂くことに特化した刃が弟者に迫り来る。


(´<_` ;)「……くっ」


油断をしていた。
弟者はそう理解するよりも早く、青龍刀の軌道に曲刀を割りこませる。

そして、一際高い音とともに火花がはじけ飛ぶ。


( <_  ;)「……」

<*ヽ`∀´>「お?」


弟者の手には叩きつけられたかのような痛みと、肩にまで及ぶしびれ。
取り落としそうになる曲刀を握りしめながら、弟者は思考する。

.

165名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:02:09 ID:UWFaEmzk0


この男の攻撃は重い。
岩を軽々と投げつけるほどの腕力。それを使った力任せの攻撃。
こんなものをまともにくらえば、ひとたまりもない。


<*ヽ`∀´>「……ひょっとしてこれは、千載一遇の機会?」


弟者は、足を引き、後退しながら曲刀の角度をずらす。
刀身をぶつけあっていた刀が少しずつすべりその位置を変え、やがて男と弟者の距離は離れる。


<*ヽ゚∀゚>「勝利は今来たれりぃぃぃ!!!」


男の動きは妙だ。それはもうわかっている。
今重要なのは、男が攻撃に気づくのが遅れても、その攻撃を受け止められるほど素早いということ。


<*ヽ゚∀゚>「食らうニダ!!」

(´<_` )「ならば」


ならば、――それよりも早く、動いてしまえばいい。


.

166名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:04:33 ID:UWFaEmzk0


<;`∀´>「なにぃ?!」


上段から振りかぶられた青竜刀を、弟者は左に動くことで回避する。
男の攻撃は威力があるが、動作は大振り。これならば避けられないことはない。
しかし、当たれば大きな被害は避けられない以上、それよりももっと有効な手段がある。


早いならば、それよりも早く。
重いならば、それよりも重く。
足りないのならば、より多くの手数で。
――攻撃を受けられないのであれば、攻撃をさせなければいい。


(´<_` )「……」


未だしびれをうったえる右腕で曲刀を強く握ると、弟者は回転しながら刀を振るう。

弟者の振るう刀にとりわけ高度な技術はない。
あるのはがむしゃらな、あてるためだけの愚直な攻撃だけ。

――ただ、その一撃一撃が先ほどよりもずっと早くて、重い。


<;ヽ`∀´>「ア、アイゴー!」


正面で受け止められた刀を強引にひくと、その場で逆に回りながらもう一撃。
止められた曲刀を右上にひきあげ、勢いを殺さないままななめに切り下ろす。
それも無理ならば、曲刀を水平にし、左腹を薙ぐように斬りつける。

.

167名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:06:48 ID:UWFaEmzk0

息もつかさぬ弟者の攻撃に、男の表情にあせりの色が浮かぶ。
――弟者の動きはまるで、剣の舞だ。
くるりと回り、刀を振るい、それでもその動きは一向に鈍る気配はない。
右腕に、首へ、頭へ、心臓へと休むこと無く攻撃は繰り出される。


(´<_` )「……」

<;ヽ`Д´>「……く」


砂漠の民と、東方の男。
ともに向け合うは、形は違えど刃の反り返った曲刀。
繰り出される弟者の攻撃の苛烈さ。翻る銀の軌跡と、橙の火花。
風の音だけが響く無音の世界に、剣戟の音が高らかになる。

その光景はまるで芝居の一場面のように鮮やかだった。



(´<_` )つ==|ニニニ二フ



弟者の動きを受け、軽やかに翻る紫のマント。
――そして、彼の繰り出した愛刀は、人のなしうる速さの限界を超えて、男の腕に叩きこまれた。

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168名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 22:08:18 ID:UWFaEmzk0





が、





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