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クリフトとアリーナへの想いは Vol.1

432名無しさん:2017/03/10(金) 21:53:34 ID:2hcQzTmo
初めて書いたかも

「8代目のおばあさまが異国から嫁いだ時に伝わったんだっけ?」
少しずつ食べて残り固くなりはじめたモチをつつきながらアリーナがつぶやく。
「11代目ですぞ、姫様。まったく嘆かわしいですじゃ。
明日からまたサントハイム史の復習ですな。」
炭に熱が通ったのを確かめ網の上にモチを並べるブライ。
言うんじゃなかったとスネて甘い匂いを発する小豆の煮込みをつまみ食いするアリーナ。
「日にちがたっても食べられるお菓子はありがたくうれしいものですね。
砂糖や蜂蜜がもう少し安ければもっと気軽に食べられるのですが」
微笑みながら大豆の粉に砂糖を加えるクリフト。
「来年のおモチは旅空ではなく暖かい城内でいただきたいものですな」
ブライがお茶のポットにお湯を注ぐ。
「そうね!来年はお城のみんなで美味しいおモチをいただきたいわ!
あ、でも、あの服は着たくないなぁーズルズル長いしかさ張って動きにくいし」
アリーナのコロコロよく変わる表情に目を細めてしまうのを自覚しながらクリフトは思い出す。
上等の絹を惜しげもなく使い何枚も重なった裾の長いキモノを着たアリーナ姫は不服そうな顔さえ愛らしく美しかった。
旅が終わればこのようにお近くで姫様を見ることは出来なくなるのかなと
出てしまいそうになるため息を押し殺して小豆の煮込みを取り分ける。
「たまには姫様らしい格好をして陛下を安心させるのも姫様のつとめじゃろうて。
普段から普通の姫様らしくしておればつとめではないであろうがの。
では、アリーナ様、誕生日おめでとうございます。」
「ささやかながら姫様のお好きなおモチのお菓子を用意させていただきました。
誕生日おめでとうございます。アリーナ様。」

433名無しさん:2017/03/13(月) 23:48:39 ID:V5cpMYxo
>>432
なんと初ですか乙です!
初めてとは思えない安定感がありますね
芯があるからブレがなく、安心して見ていられる作風かも

ひな祭りやお正月かと思ったら誕生日とは…最後に意表を突かれました
予想を外しながらきれいにまとめる演出、上手いですね!

434名無しさん:2017/03/18(土) 11:13:21 ID:PG04b7g2
誕生日にそういうので祝う風習があり、それが後に転じてひな祭りになるとな?
伏線だけ張って想像に任せるとは、なんとも乙な着想ではありませんか!
地方によってはお汁粉もひな祭りのアイテムなのでしょう。めでたさが倍増です。

435名無しさん:2017/03/20(月) 01:58:04 ID:bZ8wFlVw
誕生日もひな祭りも喜ばしいですが、何より新しい書き手の誕生を祝いたいです。
書き手さん乙です。

436名無しさん:2017/03/25(土) 11:06:34 ID:t9ZDdWaE
最先端で出会えるクリアリにやっと追いついたと思いましたら、
現在書き手さん待ちなのでしょうか?
せっかくなので、クリアリ小ネタ投下で2スレ失礼させていただきます。




「ねえ、クリフトは将来なにになりたい?」

 あどけない顔をした、いずれこの国の女王となる姫様は無邪気に問いかけてきた。

 現在神学の勉強中であることは重々ご理解されているはずなのだが、
 と、聖書の言葉を詠むのを止め、ふうと息を吐いた。
「姫様、今私が詠んでいる箇所に不明な点でも?」
「かみさまの言葉はね、今はどうでもいいの」
 よくありませんよ、と続く言葉を飲み込んで、ぎゅっとなる眉間に指を寄せた。
「わたしね、大きくなったら、つよい人になりたいの」
「……姫様は、今でも十分お強いと思いますよ?」
 何せ、この幼い姫様は、この国一番の兵士長を軽々と投げ飛ばすのだ。御歳七歳になられたばかりの少女が、だ。
 いくら手加減してもらっているからといって、鎧を付けた大の大人に対して出来る芸当ではもはやない。
 その上でもっと強くなりたいとは、はたしてこの姫君はどうすれば満足するというものか。
「わたしなんて、まだまだよ。
 だって世界は、こぉーんなにひろいんでしょう?
 わたしよりつよい人なんて、それこそいっぱいるわ」
「それは、そうでしょうけれど」
「だからわたしね、いつか旅をしようとおもうの」
「それは……」
 無理に決まっている。仮にも一国の姫が、武者修行の旅などと、許されるはずがない。
 そうは思っても、期待を胸に夢に夢見ている姿を、突き放すような無粋な物言いは出来ず、出来るといいですね、と呟くだけで精一杯だった。

437名無しさん:2017/03/25(土) 11:10:40 ID:t9ZDdWaE
「でね?」
「はい」
「その旅にはね、クリフトが必要なの」
「はい……はい?」
「だから、クリフトが将来なにになりたいかきいておかないと、
 いざ旅にでるとき、こまるでしょ?」
「困る、ええ、困りますね……? ええ、今もちょっと困ってます」
「でしょう? クリフトが、もしがかさんになりたかったら、えのぐの用意とか、
 コックさんだったら、いっぱいのしょくざい? ひつようになるかしら?」
「少なくとも、画家やコックには今のところなる予定はございません」
 むしろそういう役職には、すでに見習いとして入っていなければ、今の歳では遅すぎる。
「それに、私は今司祭様のもとで手習いをしております。いずれは神学校へ赴き、神の道へとむかうつもりです」
 姫様は大きな瞳をくりくりと輝かせて、それから、首が取れそうなほど大きくうなづいた。
「じゃあ、クリフトはサントハイムの司祭さまになるのね?!」
「なれたらとは思っております。けれどその道は大変厳しいものですから、私ごときに…」
「じゃあ問題ないわね! クリフトは司祭さまになる、それで、私の旅にも一緒にいくのよ!」

 うんうんと素晴らしいことだと言わんばかりの姫様に、
 司祭になるのにはそれこそ何十年もかかり修行が必要なのだが、果たしてそれまで待ってくれるのだろうかという一抹の不安が過る。
 しかし、それこそとっても嬉しそうな笑顔を前では、すべてがうまくいくような気がしてならなかった。





 結局そのあとは次の予定があるとブライ様がやってくるまで、将来旅に出たときの話ばかりで授業にはならず、
 あとでその件についてはブライ様直々に怒られるのだろうなと思っていた、そのとき。
 ブライ様に手を引かれた姫様が、あ、と思い出したように振り向いた。

「わたし、かみさまの言葉より、クリフトの言葉のほうが好きよ」



 あとに残されたのは、赤面している少年が一人。

 (終)

438名無しさん:2017/03/25(土) 11:15:26 ID:t9ZDdWaE
すみません、最初のレスであげてしまいました。
次回以降は気を付けます。
一応子供自体のクリアリということで、書かせて頂きました。

いろいろと至らない部分はあると思いますが、
他の書き手さんを楽しみにしておりますので、
またよろしくお願いします。

439名無しさん:2017/03/26(日) 01:07:27 ID:TDMofoII
僭越ながら乙を申し述べさせていただきます。
心の中にすっと入ってくる心地良さがありますね。幼少時のエピソードが現在に違和感なくつながっているからでしょうか。
彼らのイメージを大切にしながら丁寧に描いている、そんな感じがします。

ageてもsageても、この掲示板ではノーガードの2chとは違ってほぼ悪影響はないようです。
だから>>1のテンプレからsage推奨が省かれたんじゃないかなと…。

絶賛書き手待ちです。
書き手さんが離れてから立った避難所ですから、書き手さんが多くないのですよ。
ただ最近になって書き手さんが増えてきました。流れは悪くないです。
私も、他の作品が増えてきたら触発されてまた書き手側に行きたくなるかも知れません。

440名無しさん:2017/03/30(木) 14:21:22 ID:R3BCZMtA
sageなくても構わないのですね、教えてくださりありがとうございます。
また拙い小ネタですが暖かい感想もありがとうございます。
とてもうれしいです。

スレが賑わうように書き手さんが戻ってくることを期待します。
貴方様のクリアリ、楽しみにしておりますね。

報告だけでは寂しいので、小ネタ投下します。
導かれし者たち+クリアリのネタで、6レスほど失礼します。

441名無しさん:2017/03/30(木) 14:25:19 ID:R3BCZMtA
 地図にものらない、山と森に囲まれた静かな農村。
 本日の導かれしものたちの宿となったその村は、どことなく楽し気な雰囲気が漂っていた。

「オホホ祭りぃ?」
「なんだその三角メガネつけたおばさん達ばっかいそうな祭り名は?」 
 踊り子とポーカーに興じていた勇者は、
 また変な話題を仕入れてきたなと内心毒気つきながら、配られたカードに目を落とした。
 宿泊の手配をしてきたやり手の商人が、いやそれがですね、とふくよかなお腹を揺らす。
「宿の亭主の話ですが、
 なんでも顔を合わせた人同士でお互いに褒め合うお祭りなんだそうですよ。
 この祭りの期間中は、旅人でも誰でもってんですから、ねえ?
 先ほどいきなり、抱きつきたいような素敵なお腹ですな、なんて言われてしまってびっくりしましたよ」
 いやはやとっさに私には妻と子がおりますと言ってしまいましたがね、
 と商人が笑うので、つい誘われるままにその抱きつきたくなる素敵なお腹に目が行ってしまう。
「世界には珍妙な祭りがありますな」
「ええ、まったく。でも、意外にこれは面白いですよ。
 褒めたほうは気持ちいいですし、
 言われた方は照れ臭くて笑ってしまいますがね、まあ褒められれば誰でも嬉しいもんです。
 このお祭り、商売にもいいんじゃないかなあ、道具屋さんで奥さん美人ですね、なんて言われたら余分に買いたくなってしまいませんかね?」
「なるほど、トルネコ殿は商人の鏡ですな。
 しかし拙者は武人ゆえ、人を喜ばせる褒め言葉はなかなか……うーむ」
「おや、ライアンさん。今の商人の鏡という言葉は、私にとってかなりの褒め言葉ですよ。
 何気ない言葉にこそ、その人の本音が出ると言いますからね。
 ライアンさんのような気骨ある御方に、そんな言葉を貰えるなんて商人冥利に尽きるってもんです」

442名無しさん:2017/03/30(木) 14:29:22 ID:R3BCZMtA
「しっかし、褒め合う祭りが、なんでオホホ祭りなのかしらね?」
 まるで扇を開くかのようにカードを開く踊り子の手付きは、見惚れるほど美しい。
 が、対面する勇者にとって、そんなことよりも手の内のカードのほうが大事だった。
「あれじゃね……なんか……あれ」
「あれってなによ。トルネコとーさんみたいな駄洒落のセンスで決めたっていいたいの?
 私、スリーペア。あんたのは?」 
「はい、俺の勝ちー。今夜の呑みはマーニャの奢り決定ー」
「はぁ!? なによ、なにこれロイヤルストレートフラッシュって! 
 おかしいでしょ、あんたインチキしたんじゃないでしょうね!」
「マーニャと違って誰が……ああ、
 美人なお姉さんは負けたときも綺麗なんだなー俺びっくりだなー」
「おっほほほ!? 何急に、変なこと言い出すの、この子は!」

「あ、それじゃね? 祭りの命名の由来」

「……やっぱりトルネコとーさんの駄洒落並みだわ」

443名無しさん:2017/03/30(木) 14:34:10 ID:R3BCZMtA
「ねえクリフト、オホホ祭りだって」
「はい、そのようですね」
「褒めるんだって、顔を合わせた人のこと」
「姫様はいつも大変麗しゅうございますね」
「私、そういうのより、普通にかわいいねって言われた方が嬉しいと思うわ」
「姫様いつも大変可愛らしいですね……でしょうか」
「もう一声」
「姫様は可愛いです?」
「おしい! 私、もっと、クリフトの言葉で言ってもらいたいな」
「……姫様の大陽のような微笑みは、いつも私の心を温めてくださいます。
 とても、助けられて……その、おりますよ」
「あ、クリフト照れてる」
「……照れておりますので、あまりこちらを見ないでください」
「ねえ知ってた? 私、クリフトが照れるのね、好きなの」
「はい?」
「クリフトは照れると顔を隠して俯くでしょう? でもね、そうしてくれた方が――」

「私とクリフトの距離はいつもよりずっと近くなるのよ?」

444名無しさん:2017/03/30(木) 14:38:14 ID:R3BCZMtA

「ちょっとちょっとー、あそこの馬鹿ップルに、
 好きなところを言い合う祭りじゃないって誰か指摘しなくていいわけー?」
「マーニャが言えばいいじゃん。俺、絶対やだ」
「私だって馬に蹴られる趣味はなぁーいの。
 こんな時こそお爺ちゃんでしょ? どこ行ったのブライは」
「ミネアと一緒にパトリシアを預けてもらってたはずだから、そろそろ来るんじゃね?」
 作り上げたロイヤルストレートフラッシュを片手に仰ぎながら、
 勇者はのっそりと玄関の方に顔を向ける。
 視界の端に映り込むやっかいな主従から意識をそむけるためでは、けしてない。
 すると、ちょうどカランコロンと玄関が開く音がして、
 占い師と老魔導士が入ってくるところだった。

「ああーんブライ、杖を持つ姿が誰より似合うナイスミドルー!
 緑の布地が最高にキュートー、渋さがひかっ……渋さにしびれる―!」
「……」
 さっそく踊り子がオホホ祭りに乗っかり、この場の救世主へと歩み寄る。
 けれど老魔導士は憮然とした面持ちで無言を貫くので、
 すぐさま踊り子は妹へと助け舟を求めた。
「ああーんミネア、私の命より大切な妹!
 すべすべの肌! 憂いを帯びた瞳も美人ねー! きゃーかわいい!」
「姉さん、ちょっと」
「え、なあに?」

445名無しさん:2017/03/30(木) 14:42:23 ID:R3BCZMtA
「その祭りのことはさっき人に聞いて知っているの」
「あれ、ほんと? やだー、それならこの祭りはお互いのことを褒め合うのよ?
 わかる? ほーめーあーう、よ?
 一方通行じゃダメなんだから……って、なに、何かあったの?」
「ちょっと、ブライ様がね」
「お爺ちゃんが?」
「いい? 絶対に笑わないでよ? 
 ……さっき馬小屋から出たとき、ブライ様と小さい女の子とぶつかったのよ。
 まあ別にその子が転んで怪我をしたとかじゃないだけど、
 それで……顔を合わせたわけじゃない?」
「女の子はここの村の子よね? じゃあお爺ちゃんのこと褒めてくれたんでしょ? 
 いい話じゃない。それがなんであれ?」
「それがねえ……」

『おじいちゃん、お日さまがいつも昇っているすてきな頭してるね!』

「……って」
 女の子にとっては十分褒めたつもりなのだろう。
 しかしそんな祭りがあるとは露知らない旅人が、
 どうしてすぐさま女の子を褒め返すことが出来ようか。
 常日頃頭上には大変気を使っているデリケートな部分であるだけに、
 固まってしまった老魔導士を誰が責められよう。
 けれど、一向に相手からお褒めの言葉を貰えない女の子が、
 泣き始めてしまってはもはや誰にもどうしようもない。
 心優しい村人が、そっと二人に祭りの説明をしてくれたおかげでなんとかその場はやり過ごせたが、
 時すでに遅し。

446名無しさん:2017/03/30(木) 14:47:13 ID:R3BCZMtA

「―ーぶはっ! ひゃーっはっはっは! 何その子サイコー!」
「笑わないでって言ったでしょ、姉さん!」
「み、ミネア殿、先ほどの話はやめてくだされと言ったではないか!」
「ああもう、ばれたじゃない! 姉さんの馬鹿!」
「なんで私ばっか責めるのよー、こいつだって肩震わせて大爆笑してるじゃないの!」
「わら、わらってないって! むっ、むせてるだけだって!」
「ふ、ふん! 若造が、年寄りを馬鹿にすると痛い目見ますからなっ
 わしは失礼させていただきますぞ!」
「あ、待って待ってブライ! 今日、飲みマーニャの奢りだからさー!
 夜は好きなだけ呑んでくれよ、な?」
「ちょ、この馬鹿! 全員に奢ってたら破産しちゃうじゃないのよー!」

「あ、ブライ、おかえりー。
 ねえ知ってる? この村ね、今オホホ祭りってお祭りやってるのよ」
「お互いを褒め合うお祭りだそうです」
「素敵な祭りなのよ、ね、クリフト?」
「ええ、ですからブライ様も是非……」

「あ――! そこのお馬鹿主従! 火に! 油注がないでー!!!」

 その日の夜、さぞや飲めや食えやしたかというと、
 ちょこんと座っていた酒場のマスターの娘と目が合った魔導士は、
 あーおひさまのおじいちゃんだーという嬉しそうな声に、
 ひたすら気まずそうに麦酒を飲む他なかったという。


【終】

447名無しさん:2017/03/30(木) 14:52:15 ID:R3BCZMtA
クリフトは照れたら顔を隠すよね
でもそれってアリーナからするといつもより顔の位置近くなるよね
身長差ネタとしてそれは絶対見逃せないよね! という妄想から書き始めたら
なぜかオールキャストになってしまいました。なんででしょう、すみません。

旅の合間の、騒々しい仲間たちにいながら
突如二人だけの空気感を醸し出すクリアリが好きです。
でも周りに突っ込まれると
付き合ってません、そういうんじゃないんですとか言い訳する感じがもっと好きです。
今回そこまで行けなかったので、次回そのあたり書きたいと思います。

あとはひたすら他の書き手さんのクリアリを楽しみにしながら
小ネタをしたためてお待ちしております。

それでは長々と失礼いたしました。

448名無しさん:2017/03/31(金) 03:11:11 ID:dRgL84hw
時間の都合で読んでませんが、ひとまず先に乙
時間ができたらゆっくり読ませていただきます!

449名無しさん:2017/04/01(土) 00:24:25 ID:fN4F4NPM
乙です
どうクリアリが進展するのかと思いきや、まさかのブライ主役で突っ切る展開
これは意表を突かれましたね
いや、そうと見せかけて「その頃ふたりは…」とクリアリに続くのでしょうか

変化球でじらすのもテクニックのうちなのでしょう
タイミングを外した球を見せてからの直球は、ただの直球よりも強いです
次はどんな球が来るのでしょうか、続きが気になってきます

450名無しさん:2017/04/06(木) 05:02:01 ID:T0RtLh0Q
新年度は旅立ちの時期です
皆さんも新しい門出があったり新人を迎えたりしたのでは
そういった心境をベースにしてクリアリを作っても良さそうですね
作品として成立しなければネタだけ出すのも

451名無しさん:2017/04/06(木) 17:24:06 ID:HmvkOdSI
>>448,>>449
乙ありがとうございます!
甘いクリアリを書いているとつい変化球でギャグに逃げたくなる癖が…。
直球を投げられるよう、精進いたします。

>>450
新人のクリアリですか…。なんて素敵な響き。

アリーナが新入社員として入った会社に、幼馴染だったが引っ越しで疎遠になってしまったクリフトが先輩として働いていて…!?
泣き虫でひ弱だったはずなのに、今ではびしばし仕事が出来る上にカッコいいと評判のクリフト。
昔と今の差に、アリーナはなんだか面白くないような気持ちを抱いていた。
おまけに、何故かクリフトはアリーナを避けている。
仕事上の話はまだいい。けれどそれ以外の話をしようとすると露骨に目も合わせない。
歓迎会の集まりで二人きりになれたアリーナは、
せっかく再会出来たのに、どういうことなのかとクリフトに詰め寄ると、

「あまりにお美しくなられていて、直視など出来ませんでした」



なーんて言われるクリアリどこかに落ちてませんか?
その後お約束通り隣同士の部屋だったオチが付いているとなお良しです。

452名無しさん:2017/04/07(金) 00:57:01 ID:8w0rDDSc
ど真ん中のストライクだけが正解ってわけでもないのですよね。

過去スレでは暴投レベルのボール球を投げ続けた書き手も支持されてました。
クリアリとしては成立していたので当然と言えば当然ですけど。

> なーんて言われるクリアリどこかに落ちてませんか?
他のサイトのことを話すのは辞退させてください。
この場所の禁止事項に抵触しそうな気がしますので。すみません。

ここだと過去スレも含め、そういう作品はほぼ扱われてきませんでした。
ドラクエの世界から離れたオリジナル色の強い作品は書かれにくいです。
2chだったので叩かれやすい作品の投下は回避の方向だったのでしょう。

453名無しさん:2017/04/16(日) 02:36:20 ID:AHO2aIXE
学園モノなど別世界にした作品については、まれに話題に出ることはあっても見かけなかったような
そういうのは個人の独自の世界になって好みが分かれるんで、個人のサイトでやるのが無難なのかな
少なくとも2chでは荒れる原因になりかねないからと避けられてきたのかなと
かと言って他のサイトを紹介するのはご法度なんで、各自で別の場所を探す方向で・・・

454従者:2017/04/18(火) 09:28:33 ID:C32JUIWc
お久しぶりです従者です。
書き手さんが増えてとても嬉しいです!流れを切って恐縮なのですが

>>421
自分は食べないのにアリーナのため事前に飴を準備しているクリフトを想像したら和みました。
言葉の選び方からとても書き慣れた方とお見受けします。素敵な新年をありがとうございました。GJ!

>>432
愁いを抱えながらもひたすら尽くすクリフトをよそにただただ元気いっぱいのアリーナ……
もどかしいですがそれがまたいいんですよね。初投下に乙そしてGJです!

>>436-437
まっすぐなアリーナに翻弄されるクリフト……否、アリーナの何気ない一言がクリフトの琴線に触れる瞬間。
あとでブライに怒られたとしてもきっと素敵な一日だったのではないでしょうか。GJ!

>>447
同意共感する部分ばかりです。
クリアリが核心に迫りそうになるとなぜか回避の方向に進んでしまうのもあるあるですねw
ブライが帰ってくるまでクリフトはずっと照れたままだったのでしょうか…!
周りに突っ込まれて言い訳する感じな次回作や小ネタ、楽しみにしています。GJ!


私も小ネタ2レス、6章一部2レスを置いていきます。
6章一部はまた前置き状態なのですがその後のためにちょと外せなかったもので、何とぞ何とぞ。
遅ればせながら今年もよろしくお願いいたします。

455従者の心主知らず 1/2:2017/04/18(火) 09:32:18 ID:C32JUIWc
「魔法ってずるいわ!いっつもいっしゅんでパッてなっちゃうんだもの!」
「姫さま…」
「ずるい!私も使えるようになりたい!」
「……」
「ねえクリフトー、魔法ってどうすれば使えるようになるの?」
「姫さま、魔法を使えるようになりたいのですか?」
「うん!敵をパッてやっつけたいの!」

「ではまず魔法の原理から学びますぞ。
ひと口に魔法といっても無から有を生み出しているわけではないのですじゃ。
もともとある物質を状態変化させることで「ぐー……」
「……」

「姫さま、魔法の初歩は火です。物質の運動速度を上げることで熱を発生させるのですじゃ。
そうですな、まずはご自分の体温を上げてみなされ」
「体温?そんなの動けばすぐ上がるわ」
「まてまて、動かずして上げてみなされ。精神力を使うのです」
「むー。むーー…!!」
「……姫さま、全身にチカラを入れただけでは体温は上がりませんぞ。
こう精神を集中させるのです。………」
「むー!!」

「魔法とは状態変化によって得たエネルギーを一点に集中させることで生み出しているのですじゃ。
私の手の平に光が集まっているのが見えますかな?」
「うん、見える。すごーい」
「姫さまもまねしてみてくだされ。まずはご自分の内にためたエネルギーを手の平に集中させるのです」
「むむむ、むーー…!!」
「……姫さま、ですから全身にチカラを入れただけでは……」
「むー!!」

456従者の心主知らず 2/2:2017/04/18(火) 09:36:16 ID:C32JUIWc
「魔法ってむずかしい!わかんない!」
「姫さま…」
「ずるい!ずるい!」
「……」
「ねえクリフトー、魔法って私には使えないのかな…」
「姫さま……」
「ん……」

「魔法など使わずとも、姫はもうじゅうぶん……」
「え?」
「魔法では手に入れられない多くの知恵やチカラ、技を、姫さまはすでに持っていらっしゃいます」
「……」
「ですから姫さまは今のままも、その……」
「……」
「その、いいと、思います…」
「…………」

「なにいってるのよ!ほんとによくわかんないわ!」
「いえ、あの…っ」
「〜…!」
「〜…っ」
「……まあでも、今のままでもいいのなら、まあ……」
「……」
「まあいいことにするわ」
「姫さま…」
「私もっともっと強くなるわ!うんとカラダを鍛えるわ!魔法になんか負けないんだからね!」
「はい、姫さま」

「なんじゃ、魔法の勉強はもう終わりか」

457従者の心主知らず 世界樹の花 1/2:2017/04/18(火) 09:40:42 ID:C32JUIWc
「これが世界樹の花……」

私たちは長い長い冒険の末、世界樹の花を手に入れた。
たとえどんな生命でもこの花のチカラでよみがえらせることができるんですって。

――人間でも動物でもエルフでも――

今みんなで誰のために花のチカラを使えばいいのか考えてるところ。
誰のために……
ミネアは世界樹の花がわたしのチカラを世界のためにお使いなさいと言ってたって教えてくれた。
世界のために……
ブライは世界樹の花の奇跡がエルフにも使えると聞いて納得してたみたい。
エルフ……

ロザリー…?

そっか!これでロザリーをよみがえらせることできるのかな。
だからじいは納得してた…?

ロザリー……。

私はみんなを見た。みんな難しい顔してなにか考えてるみたい。
みんな……。

――本来は神の奇跡もいかなる者にも与えられねばと私は思います――

ふとクリフトがつぶやいた言葉を思い出した。

――そう、この世界樹がすべての者をいやすように――

世界樹の花を見ながらつぶやいてた、あのときクリフトはすっごく真剣な顔してたの。
クリフトらしいなって思ったと同時になんだか嬉しい言葉だなって思った。だから今も耳に残ってる。
いかなる者にも……あ。

458従者の心主知らず 世界樹の花 2/2:2017/04/18(火) 09:44:33 ID:C32JUIWc
「ねえ」

私は思わずみんなに声をかけた。

「ねえ、これって、ひとりしかよみがえらせることできないのかな」

みんなが驚いた顔して私を見た。私はかまわず言葉を続ける。

「そりゃあ世界樹の花にしては小さかったけど、でもキレイだし、花びらいっぱいついてるし」
「姫さま…?」
「ひとりだけじゃなくて、今必要としてる人たちみんなに使うことできないのかな」
「…………」

誰もなんにも言わない。みんな黙って私を見てる。まだびっくりしてるみたい。
あ。私はふと思い立った。

「ねえあそこ!世界樹に花のこと詳しいエルフがいたわよね?あ。ニワトリの洞くつにもいたわ!
私ちょっと聞いてくる!」
「姫さま!私もご一緒いたします!」

クリフトがすかさず私のあとをついてくる。あきれるくらいいつものクリフト。ふふ。

「じゃあ一緒に行こう!」
「ひ、姫さまっ」

私はクリフトの手をぎゅってつないでめいっぱい走り出した。

「みんな、ちょっとだけ待ってて!」
「お、おい!」
「姫さま!」

ソロやブライの声。でも私は聞こえないふりをした。すぐ戻ってくるからね、ソロ、じい、みんな!

459従者:2017/04/18(火) 09:48:19 ID:C32JUIWc
すみませんもう1レス。
ヒーローズやいただきストリートのように別世界に紛れ込むという設定が公式となっている今でしたら
新人モノや学園モノもこじつけ次第でなんとかなりそうな気もしてきますがいかがでしょうか。

「クリフト!今日から私シスター体験するの!よろしくね!」
「……!」

「まず必要なのは傾聴……相手の言葉にじっくり耳を傾けることです。
悩みや想いは自分としっかり向き合うことで浮かび上がってきますのでそのための環境づくりをするのが役目「ぐー……」
「……」

「ちょっとクリフト、クリフトばっかり動いてて私がなにすればいいのかわかんないじゃない」
「姫さま出番です。こちらにいらしてください」
「えっ」

「クリフトっていっつもこんな難しくて忙しいことしてるの?」
「……まあ……」
「人に合わせてばっかりで疲れない?」
「……いえ……」
「なんかそっけないわね」
「」

「クリフト!今日は私もここで寝るのよ!今日から私シスターなんだからね!」
「えっ」

とか。

「学校ってなんだかほのぼのしてていいわね。私もみんなと一緒だったら勉強できたかもしれないのに」
「……ああ……姫さまはずっとおひとりでしたからね」
「ねえクリフト!みんなしばらくイムルにいるのよね!私子どもたちと一緒に学生してみたいわ!」
「えっ」
「ちょっと先生にお願いしてみる!もしいいっていってもらえたらクリフトもちょっとだけ学生しましょ?ねっねっ」
「あの…」

とか。
完全に別世界にした作品とは流れが違うのですが例えばこんな新人風学園風クリアリどうでしょう??

460名無しさん:2017/04/23(日) 07:13:57 ID:ra5v9s/E
このたった一言に思いを込めて
「乙」

押忍っぽい…

461名無しさん:2017/04/23(日) 15:40:58 ID:jQsuhiLg
公式がどうこう以前に2chから完全に独立した場所になりましたからね
多くの作風が許容される素地はあるのではと思います

ただ読者がモヤモヤしすぎる作風になってくると要注意な気はします
設定や性格が原作から離れ過ぎたり厨二病全開になるとか
クリアリを差し置いてオリキャラが主役みたいな作風になるとか
特定のキャラを嫌う気持ちが作品に出てしまうとか

ある程度の書き込み数を見込めるなら「厨二病妄想スレ」のように
独立した専用スレを立てたら書き手も読み手も幸せになれるかも?
定期的に書きこむ人が1人もいなければ無駄でしかありませんが

462従者:2017/04/30(日) 18:07:32 ID:A3mA/VdQ
乙ありがとうございます。

>>461
う、すべて私に当てはまっている気がして耳が痛いです;
ピサロナイトや神父たちはオリキャラではないですが似た作風にはなっていますしね;
前置きの長すぎるクリアリ……すでにモヤモヤされている方がいましたら
スルーしてくださっているからこうして投下させてもらえている現状と存じます。

前置きが本編かと疑うくらい長く趣向が合わなくなってきたと感じたため2chを離れ
もう戻れるとは思わなかった者です。こうして再投下させてもらえるだけで感謝。

463名無しさん:2017/04/30(日) 20:11:22 ID:81RsKZsE
>>462
当時のことは知らないですけど、恐らく2chを離れたのは正解でしょう。
会話の特徴が同人サイト的すぎて、サバサバしたやりとりを好む2chでは悪い意味で目立ちそう…。
鼻につくと思った人が叩いてきて場が荒れ気味になるかも知れません。
もちろん、場の空気に合わせてサバサバと書いていたのでしたら問題はないと思います。

作風としては、少なくともこの場所であれば特に問題ないと個人的には思います。
一時的にクリアリ以外にスポットライトを当てていても、クリアリに戻る気配はありましたので。

464従者:2017/05/02(火) 09:16:38 ID:H2xJnYGs
>>463
ああ、前も言われましたね同人サイト。2chでも丁寧すぎて叩かれないかと心配してくれた方がいました。
ただ私がいたその当時はとても穏やかでノリもよくて居心地いいスレだったのですよ。
書き手が少なかったのもありましょうか、書き手がいないうちは大目に見てもらえるのかもしれません。

作風問題ありませんか!そういっていただけると救われます。それだけが気がかりで……
一応クリアリにつながる場面だけを抜き出しているつもりです。そこに目に向けていただき心より感謝です。
さっそく6章の続きができました6投下分失礼します。

465愛とは 1/6:2017/05/02(火) 09:20:38 ID:H2xJnYGs
「……愛ですよ、愛。愛っていいなあ……」
「え?」

「ねえクリフト、それってどういう意味?」
「え?」

今までずっと黙っていたクリフトがやっと口にした独り言……私は思わず聞いてしまった。


世界樹の花のチカラでロザリーがよみがえった。
ロザリーは私たちに何度もお礼をいったあとピサロの所へ連れてってほしいってお願いしてきたの。
もしピサロを止められなかったら私たちの手で亡き者にしてほしいって。
ピサロの野望を止めなければ世界が滅んでしまうからって……。
どのみちピサロとは戦わなければいけないと思ってた。だから今、改めて向かうことになった。

ピサロの所に行くと決まってから急ごうと言ったきり誰もなんにも言わなかった。ロザリーも黙ってる。
私もなんにも言葉が見つからなかった。クリフトもさっきまでずっと黙ってたの。

ロザリーは生き返った。でも、ソロやマーニャ、ミネアは……

――ロザリーを、よみがえらせる…?――

――俺さ、村のみんなが生き返るかもって思ったとき、少しでもざまあみろって思ったんだ――
――俺、極悪人になっちまったのかなあ…っ――

――父さんが帰ってくるなんて考えもしなかった。夢を見させてくれただけでじゅーぶんよ――
――ありがとう、アリーナさん――

――ねえ、クリフトはどう思うの?――
――私は……――

――世界樹の花のチカラを世界のために使うとは…?――

何も言葉が見つからない。

ホイミンは生きてたの。ライアンにホイミンの言葉を伝えたときすっごくびっくりして捜そうとして。
旅の途中で生き返らせられないくらい傷ついたからだで死なせてしまったのだって教えてくれたの。
けどホイミンは生きてた。人間の姿になって。だからホイミンのお墓には行ってない。

466愛とは 2/6:2017/05/02(火) 09:26:56 ID:H2xJnYGs
みんながずっと黙ってたから私はなんだかたまらなく寂しくなってて、
ふとクリフトがつぶやいた独り言を聞き逃したくなかったの。愛って聞こえた。

「愛ってどういうこと?」
「それは…」

クリフトは口ごもって視線をあちこちさせる。周りを気にしてるのかな。
けど私はクリフトが何か言ってくれるまでじっと待った。

「ここではちょっと……また落ち着いたときでよろしいでしょうか」
「……うん……」

少ししてこっちを見たクリフトはすっごく真剣な顔してて、私は返事しかできなかった。
でもよくある「なんでもありません」とも言わなかった。言わないでくれた。ちゃんと教えてくれるんだ……。
はやく落ち着いたときにならないかな。


ルーラであちこち飛び回ってきたから戦いの準備を整えたあと小休止をとることになった。
私はさっそくクリフトに聞く。
クリフトも気にしてくれてたみたいで散歩といって馬車から少し離れたところで教えてくれた。

「この奇跡は、たくさんの方の愛が織り重なって生まれたものだと感じたのです」
「愛が織り重なって…?」
「はい」

クリフトは遠くのほうを見ながら言葉を続けた。

「ソロさんの村の人たちも、マーニャさんやミネアさんのお父上も、よみがえらせることができなかった……」
「…………」
「そんなつらい中で、敵であるデスピサロの大切な人を……ロザリーさんをよみがえらせようとしてくれた」
「……」
「よみがえった」
「…………」

ソロ……マーニャ、ミネア……
マーニャとミネアは大丈夫っていってすっきりした笑顔を見せてくれた。けどソロは……
ソロはきっとまだ……

467愛とは 3/6:2017/05/02(火) 09:31:38 ID:H2xJnYGs
「そしてロザリーさんも……本当は、すぐそこにいるアドンさんやスライムと話したかったでしょうに、
世界のため、大切な人であるピサロさんを亡き者にしてでも止めようとしてくれています……」
「…………」

ロザリー……
ピサロの話をしてたときふと塔のほうを見た、けどすぐ視線を戻してお急ぎください、お願いしますっていったの。
あれはやっぱりアドンやスライムのこと気にしてたんだ。クリフトもそう感じたのね。

「何より、姫さまが……」
「え?私?」
「はい」

クリフトが私をまっすぐ見た。私は思わず下を見る。

「アドンさんもピサロさんも、戦って、倒して、平和を取り戻す方法もあったと思います。
そんな中、戦わなくていい方法を姫さまが懸命に探そうとしてくださったから、そのように縁が巡り……」
「……」

――皆さんの愛が織り重なって、この奇跡は生まれたのだと思います――

「きっと皆さん、思うことはたくさんあると思います。
ですが、自分以外の誰かを大切にできるというこの行為は、まぎれもなく愛だと私は思います」
「…………」

自分以外の誰かを大切にできる……

「自分は幸せになれないのに…?」
「…………」

思わず顔を上げて聞いちゃった。少し驚いた顔するクリフト。
けどすごく優しい顔して言葉を返した。とても静かな声で。

――自分が幸せかどうかと、人を大切に思う気持ちは、本来関係はないのだと思います――

「ですから、私はまだ……」
「わかんない」
「姫さま…」
「やだよ…」
「……」
「ソロもマーニャもミネアも、あんなに喜んでたのに、嬉しそうだったのに…っ」

468愛とは 4/6:2017/05/02(火) 09:36:08 ID:H2xJnYGs
――よかったね、ソロ…――
――これで村の人たちを生き返らせられるんじゃないかな?――
――よかったね、マーニャ、ミネア――
――これでお父さまを生き返らせられるんじゃないかな?――
――村のみんなを…シンシアを…?――
――父さんを…?――

――何で…?――

――みんな生き返ったらよかったのに…っ!――

「やだよ…」
「姫さま…」
「みんなで幸せになりたいよ…っ」
「…………」

自分がはんぶん泣きそうになってるのがわかって思わず下を向いちゃった。
クリフト、きっと言葉に困ってる。こんな話がしたいんじゃなかったのにな……。

「……それこそ、愛ですね」
「え?」
「ああ、姫さま…」

――私は、そんなあなたこそ……――

クリフトの声がとてもか細くて、震えてる気がして、思わず顔を上げちゃった。
クリフト、目がうるんでる…?
私はもうはんぶんどころか涙があふれちゃってたけどクリフトもはんぶん泣きそうになってるの…?

「…………」
「……」

クリフトはなんにもいわない。私も言葉が浮かばなくてただただクリフトを見てた。
そしたらクリフトが私に手を伸ばしてきたの。でもそのまま。宙ぶらりんの手。

「…………」
「…………」
「ひ、姫さまっ」
「え。だってなんとなく」

クリフトの宙ぶらりんの手が気になって思わずぎゅってつかんじゃった。びっくりするクリフト。

469愛とは 5/6:2017/05/02(火) 09:41:07 ID:H2xJnYGs
「クリフト、手ちょっと冷たいわ」

私は両手でクリフトの手をぎゅってした。私の手はわりといつでもあったかいのよね。

「っ…」

クリフトが少し手を引いて私に寄った。でもやっぱりそのまま。宙ぶらりんな体勢。
私の肩の上に顔があるから今どんな顔してるのかわからない。
なんだろう。たまにあるのよね。いきなりぎゅってしてきたり寄ってきたりするクリフト。
なんでだろう。

「……申し訳、ありません」
「え?あ、待って。離れなくていいから」
「ひ、姫さまっ」
「謝らなくていいから」

クリフトがまた離れようとしたからなんとなく私からぎゅってしちゃった。腰に手を回してみる。

「なんかいっつも謝って離れようとするけど気にしなくていいんだからね」
「いえ、あの…」

クリフトが遠くのほうをしきりに見る。あ、馬車のほう?私も思わず手を離す。ふたりでパッ。
馬車のほうを改めて見る。マーニャとミネアが向こう向いてなんか話してるみたい。えーと。

「それにしても世界樹の花ってすごいわね!」

私はなんとなく話題を変えてみた。なんだろう。よくわかんない。

「けど、これで次に花が咲くのは千年後か……。気が遠くなりそうだわ」

なんとなく思ったまんま口にしてみたらクリフトもそうですねって笑ってくれた。なんだろう。わかんない。


小休止を終えてみんな集まった。さっきまでのピリピリした空気がちょっとだけ和んだ気がする。

「早まってデスピサロを倒しに行かずよかったのかもしれませんな」
「え?」
「このライアン、これから何が起こるか久々に楽しみですぞ」

470愛とは 6/6:2017/05/02(火) 09:46:32 ID:H2xJnYGs
ライアンは私に目配せしてソロの肩をぽんと叩いた。なんだよって顔するソロ。
ライアン……今回のことずっと反対だったのかなって思ってたのに、そんなこと言ってくれるんだ。

「まったく、運命とはまことにおもしろいものですな。
こうして人とエルフが手を取りひとつの場所を目指す……。フムフム」

ブライも言葉を続ける。
ライアンもじいも、今回のこと前向きに考えてくれてるんだ……
なんだか一気にやる気が出てきた。

「デスピサロのもとへ……。気を引きしめて行かなくちゃ」

ミネアが手をぎゅってする。
そっか、ピサロとはやっぱり戦いになるかもしれないんだから、気を引きしめて……
そうよね。
今まで何度も見てきたピサロの夢にはロザリーはいなかった。けど今はロザリーがいる。
だからきっと、戦いになったとしてもあの夢のとおりにはならない、そんな気がする。
私はロザリーを見た。
ロザリー……思いつめたような覚悟を決めたような、かたい顔してる。
私は思わずソロも見た。
ソロは一呼吸ついてみんなを見渡す。私とも目が合った。

「よし、行こう」

ソロの声。すっごくはっきりした声。マーニャやミネアみたいにソロも少しだけすっきりした顔してるように見えた。

471名無しさん:2017/05/05(金) 02:47:56 ID:wn8nzTSY
乙です
早まって無理に距離を縮めようとせず、ストーリーの中で少しずつ積み重ねるのが好印象です
私が書いたらクリアリのためにストーリーがかき乱されて収集がつかなくなるかも

472従者:2017/05/08(月) 08:51:10 ID:Ll6Ce2ng
乙ありがとうございます。
クリアリのためのストーリーが描ける方をずっとずっと羨んでいますが
ストーリー中に点在するクリアリを拾っていくといったこの作風も
受け入れていただけるスレで本当に感謝です。

今さらですが前回の補足を。短編集「知られざる伝説」にて
ホイミンはライアンと旅を続ける中で敵のメラミを受け焼けただれた姿で死んでしまい
ライアンに埋葬されています。その後魂はマスタードラゴンと思われる老人に会い
良心を試されはねのけた結果詩人の体に入ることで詩人としてよみがえることになります。
という設定を入れています。いつかライアンと再会してほしいと願いつつ。

クリアリ以外の要素も色濃くなってきてしまい恐縮ですが6章続きを参ります。

473従者の心主知らず 奇跡 1/5:2017/05/08(月) 08:57:50 ID:Ll6Ce2ng
「…ロ…ザ……。……ロ…ロザリー……」

――ルビーの涙がデスピサロの進化の秘法を打ち消していく!――

さっきまで巨大な怪物の姿をしていたピサロがゆっくり魔族の姿に戻っていった。
まるであのときの夢のよう……けど夢とはちがう、これは現実。

「…………!」
「ピサロさま!!」

ロザリーがピサロに駆け寄る。手の届くそばまで寄ってピサロを見つめた。
ピサロも最初うつろな目をしてたけどロザリーに気づいたのかゆっくり視線を落とした。
たぶんロザリーを見てる。見ようとしてる。

「やはり愛です!愛のちからはなににも勝るのです!」

ふいに聞こえたクリフトの声。

「なんかクリフト、やけにうれしそうね」
「これが喜ばずにいられますか!」

クリフトは本当にうれしそうだった。独り言はまだ続いてる。

「信じていれば……愛をつらぬけば……私だっていつかきっと……」

――……を幸せに……!――

クリフトは両手をぎゅってしてる。最後なんていったのかわからなかった。
愛……でも、そっか。夢では怪物の姿のデスピサロと戦わなければならなかった。
たぶん、殺さなければならなかった……。
けどそうはなっていないのだから、これはきっとうれしいことなんだ。そういうことなんだ。
まだ実感がわかない。なんだか頭がはたらかない。
いつもみたいにそれどういうことってクリフトに聞く元気が今はなかった。

「ルビーの涙に進化の秘法を打ち消すちからがあったなんて……。
こんなこときっとお父さんも知らなかったに違いないわ」

ふとミネアがつぶやいたのも聞こえた。奇跡が起こったのはルビーの涙のちから?

「ロザリー……。ロザリーなのか?」
「はい…!」
「…………。ならば、ここは死の国なのか……?」

474従者の心主知らず 奇跡 2/5:2017/05/08(月) 09:02:21 ID:Ll6Ce2ng
ピサロはさっきよりはしっかりした顔であたりをゆっくり見渡してる。

「いえ。ソロさんたちが世界樹の花でわたしに再び生命を与えてくださったのです」

ピサロはおどろいてロザリーを見た。

「そして信じがたいのですが……わたしをさらったのは魔族にあやつられた人々かと……」

ロザリーは小さくつけ加える。

「世界樹の花……魔族にあやつられた……?」
「はい……」

ピサロはしばらくなにか考えてたみたいだけどゆっくり私たちを……ソロを見た。
ソロもピサロを見てる。しばらくの間ふたりはじっと見つめ合ってた。

「……人間たちよ。
おもしろくはないがお前たちに礼を言わねばならんようだな。
お前たちはロザリーとこのわたしの命の恩人だ。素直に感謝しよう」

ピサロはロザリーをそっとどかして私たちに頭を下げた。

「人間こそ真の敵と思っていた……長年…………だが…………わたしは……」

ピサロは独り言のようにつぶやいた。言葉が途切れ途切れでうまく聞き取れない。
なんていってるんだろう。やっぱり頭がはたらかない。

「ピサロさま!デスピサロさまっ!!」

どこか遠くで声がした。

「アンドレアル」

空から大きな竜が舞い降りてきた。あれ?あの竜、どこかで見たことあるような……?

「生きていたか」

あ、結界を守っていた竜だわ!起きちゃったのね。

「……ロザリー、さま?」
「?……どこかで、お会いしたことがありましたでしょうか……」
「……これは……」

475従者の心主知らず 奇跡 3/5:2017/05/08(月) 09:06:38 ID:Ll6Ce2ng
竜はピサロを見る。

「見てのとおり、ロザリーはよみがえった。そこにいる人間たちの手によってな……」
「!……」

竜はおどろいて私たちを見た。

「アンドレアル、この者たちには手を出すな。地上への進撃も一時中断する。
他の者たちへ通達せよ。また追って指示を出す。それまでここで待機せよとな」
「…………」

「ピサロさまは、どちらへ……」
「…………」

「逆賊が出た」
「!……」
「いったん身辺整理をする」
「…………」

「…………はっ」

竜は翼をとじて低姿勢をとった。戦いに、ならない?戦闘態勢をといたってこと…?
竜は低姿勢のままじっとしてる。
戦わなくて、いいんだ。前みたいに殺し合わなくていいんだ…!
よかった……。
私は思わず竜に声をかけてしまった。

「あなた、アンドレアルってお名前なのね」

竜はびっくりしてこっちを見る。でもそのままの姿勢でいてくれた。

「ごめんなさい、あとの4にんは助けられなかったの。どこかに消えてしまったままで……」
「…………」

「いや、あれは幻術……」
「え?」
「まて、それ以前になぜ助けようなどと……」
「…………」

「わかんない」
「……」
「わかんないけど、どうしてもあなたたちに死んでほしくなかったの」
「…………」

476従者の心主知らず 奇跡 4/5:2017/05/08(月) 09:11:05 ID:Ll6Ce2ng
ふとクリフトが前に進み出てアンドレアルの真下まで寄っていった。

「まだ体調が万全ではないはずです。治療をします」
「…………」

「い、いらぬいらぬ!これ以上人間のなさけは受けぬっ!」
「アンドレアル!」

私もアンドレアルのそばに駆け寄る。

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!ひどいケガなんだからちゃんと手当てを受けなさい!!」
「っ……」
「すぐ済ませますから」
「…………」

クリフトも小さくつけ加える。
アンドレアルはずっと私たちをにらんでたけど結局低姿勢のまま、手当てを受けてくれた。

「気丈な娘だ…」
「当然です。私の姫さまですから」

え?

「クリフト、今なんて言ったの?」
「い、いえ、この方も姫さまのお心遣いに感謝しているとのことです」
「…………」

え、そうなの?
なんかクリフトがしゃべってたような気がしたんだけど……。

「……わたしは感謝しているなどとはひとことも言っておらんぞ……」
「黙ってください」
「…………」

「あの娘に頭が上がらんのか」
「黙れ」
「…………」

「かっかっかっ…」
「おとなしくしないと一度殺してみますよ」

ふたりは小声でぼそぼそおしゃべりしてる。なんか、なんか楽しそうじゃない。

477従者の心主知らず 奇跡 5/5:2017/05/08(月) 09:15:10 ID:Ll6Ce2ng
ソロとピサロが少しお話ししたみたい。新しい敵を目指して出発するって。
しばらくピサロも同行するんだって……。
ソロ、どんな気持ちでピサロと話したんだろう……。ソロもピサロもなんだか重苦しい顔してる。
なにかいわなくちゃ、しなくちゃって思うのに、なんにも浮かんでこないの。なんで……。
とりあえずここを出ることになった。

「アンドレアルは、ここに残るの?」
「?」
「こんな暗いとこにひとりで待ってるなんて、寂しくない…?」
「〜……っ」

「神官!はやくこの娘を連れていけっ!!」
「なによー」
「調子が狂う…っ」

「アリーナさん……」

ロザリーが寄ってきた。悲しそうな泣きそうな顔してる。

「アドンは……無事ですか?スラちゃんは……」

あ……。

「スライムは無事。でも、アドンは……」

私が戻ってくるまで待っててって言っても、キラーピアスをあずけても、アドンはうなずかなかった……。

「アドンはわかんない……」
「……そうですか……」

ロザリー……。
ロザリーは少しだけ笑った。

「ごめんなさい、いいんです。ありがとうございました」
「ロザリー……」
「先ほどピサロさまとご一緒するって言ったばかりなんです。
それなのにアドンにも会いたいなんて、わがままですものね……」
「ううん!そんなことないよ!」

私は思わず声を上げちゃった。ロザリーだってずっとがまんしてきたんだもの。
私もクリフトも知ってるもの。

「私、ソロに聞いてみる。ロザリーはピサロに言ってみて!」

478従者:2017/05/11(木) 21:07:28 ID:7O11Q12w
従者です。連続書きこみで恐縮なのですが投下できるときにさせてください。
PS版のセリフをなぞったSSアリーナ視点、ロザリーヒル編「代わり」18シーク分いきます。
ピサロナイト「アドン」存命ルートでの6章続きとなります。(理由詳細は>>153にあります)
ところどころ伏線はまぎれていますがクリアリパートと呼べるのは13/18以降です。
ではどうぞ。

479従者の心主知らず 代わり 1/18:2017/05/11(木) 21:11:31 ID:7O11Q12w
アドンは前とおなじ場所に座ってた。肩にスライムも乗っかってる。今までとなんにも変わらない光景。
アドン……いた……いてくれた……!

「なぜ……」

アドンは驚いてロザリーを見た。私たちには目もくれずずっとロザリーを見てる。

「なぜ……どうして……ここに……」
「ソロさんたちが私を再びこの世に呼び戻してくださったのです」

ロザリーがそっとアドンに近よる。

「ご心配をおかけしましたね。ただいま戻りました。来るのが遅くなってごめんなさい……」
「…………」
「もう大丈夫ですよ、アドン……」

ロザリーはアドンをぎゅってした。すっごく優しくぎゅってした。

「……っ…っ」

アドンの目から涙がこぼれる。

「っ…ああああ…っうああぁぁあああ…っっ」

よかったね、アドン……。
でもアドンはロザリーをぎゅってしない。宙ぶらりんの手。自分の手だけぎゅってしたあとそっと床に下ろす。
アドン…?

「ぷるぷるぷるっ!!ピサロさま!もうどこにも行かないでよぉ!
ロザリーちゃんと一緒にここで平和に暮らそうよぉ!」
「…………」

スライムがピサロのまわりをぴょんぴょんはねながらお願いしてる。

「ピサロさん、複雑そうな顔してますね」

クリフトが私にそっと耳打ちする。けど私はあんまりピサロを見る気にならなくてずっとアドンを見てた。
アドンはもういちど手を上げてロザリーをそっと離す。

480従者の心主知らず 代わり 2/18:2017/05/11(木) 21:15:43 ID:7O11Q12w
優しい笑顔をしてた。アドンのあんな笑顔、初めて見た……。
でも、どうしてあんな、胸がしめつけられるような、ほんとはなにかを伝えたいみたいな、もどかしい笑顔……。
アドン…?
アドンはロザリーをどかして立ち上がった。ゆっくり私たちのほうを向く。さっきと違ってもう普通の顔してた。
姿勢を正して、胸に手を置いて、アドンは私たちに深々と頭を下げた。少しして顔を上げたアドンは私を見る。

「アドン…?」

アドンは私の前まで来て手をとった。少しだけ冷たくて、大きな手。長い指。
なんどか見て知ってるはずなのになぜかドキッとしちゃった。
その手にもうひとつの手を重ねる。私の手になにかが当たった。あ、キラーピアス。
アドン……ずっと持っててくれたんだ……。
あのときうなずかなかったけど、やっぱり私を待っててくれたのね。
アドンが私の肩に顔を寄せた。きゃっ!そのままの体勢でいる。なんか、宙ぶらりんな……なんかクリフトみたい。
なにかをささやかれるのかと思ったけどなんにも言わなかった。なんだったんだろう。
アドンはピサロの前までゆっくり進み出て片ひざをついた。

「ピサロ様……此度の失態、誠に申し訳ございませんでした……。
どうか、処罰を」

え…?
アドンはそれだけ言うと目を閉じてうつむいた。ピサロはだまってアドンを見下ろしてる。

「待って、処罰って」
「アドン…?ピサロさま…!」
「…………」

なんで……どうして……。私は身構えた。
もしピサロがアドンに何かするようなら思いっきりキックしてやる……。

「………………」

ピサロはずっと黙ったままだった。
けっこう長い時間待ったと思う。やっとピサロが口を開いた。

「お前には再びロザリーの護衛を頼むことになるだろう。そのときまで腕を磨け」
「……」
「それが処罰だ」
「!……」
「……だが、今は体をいとえ。勇気と無謀を履き違えんことだ」

481従者の心主知らず 代わり 3/18:2017/05/11(木) 21:19:36 ID:7O11Q12w
アドンは顔を上げた。ピサロはずっとアドンを見てる。
ふたりはしばらく見つめ合ってたけど、アドンが再び目を閉じて頭を下げた。

「はっ…ピサロ様…!」

よかった……。

アドンとの再会も無事できてお話も終わって、いったん街に戻ろうかってなった。
そしたらピサロがアドンともう少し話があるから先に出ていてくれって。
すぐすませるからって。
話ってなんだろう。ちょっと気になったけど私もクリフトといっしょに外に向かった。

「ロザリー、お前も席を外していてくれるか。すぐすませる。遠くには行かんようにな」
「……はい、ピサロさま」
「スライム、ロザリーのそばにいてやれ」
「ぷるぷる!はい、ピサロさま」

あ、ちょっと待って。どうしよう、この静寂の玉、アドンに返そうかな。うん、そうしよう。
で、言ってやるの。命を大事にしなさいって。
誰かのために死ぬんじゃなくて、いつでもどこでもその人といっしょに生きのこる方法を考えなさいって。
よし、そうしよう。私はくるっと向きを変えた。

「姫さま?」
「クリフトも先に行ってて。すぐ追いかけるから」
「姫さま……」

私は仕切りをそっと開けてもういちどお部屋に入った。でも少し進んで足が止まっちゃった。
なんかもうお話が始まっちゃってるみたい。どうしよう、お話を割っちゃっていいものかな。

「アドン…」
「はっ…」
「ロザリーだったのだな」
「は…?」
「お前がかつて、バトランド地方の西で人間から救ったエルフというのは」
「っ……それは……」

――その悲しみに満ちた眼が今もまぶたに焼きついていると話していたエルフは……――

「ロザリーだったのだな……」
「…………」

え、なにこの重苦しい空気。ほんとにどうしよう。

482従者の心主知らず 代わり 4/18:2017/05/11(木) 21:24:04 ID:7O11Q12w
「……申し訳、ございません…っ」
「アドン」
「は…っ」
「もうピサロナイトの名はやめ、アドンとしてロザリーを守れ。もとより、初めからそうだったはずだ」
「ピサロ様…」
「守れる者が守ればよい。彼女を幸せにしてやれる男がとなりに立てばいいのだ。その相手は、わたしでなくて構わない。
……いや、わたしでないほうがいいのかもしれん……」
「ピサロ様、なにを……そんな……」
「お前に護衛を任せてからロザリーが次第に明るくなったのだ。口数が増えてな……。お前のおかげだと確信している。
だが、名を明かさず顔も見せないと聞いて以来ずっと気にはなっていた。
お前にロザリーを紹介した時点で気づけなかったこと、こうしてゆっくり話す時間が取れなかったこと、申し訳なく思う……」
「ピサロ様……何をおっしゃるのです……!」
「……」
「このような、私ごときに……」
「改めて頼みたい。今度はわたしの代わりではなく、ともにあの娘を想うひとりの男として、守ってやってほしいのだ。
このミナレットでの護衛、今後も引き受けてくれるか?」
「………………」
「…………」
「………………」

アドンがロザリーの護衛をしてたのって、ピサロが頼んだからだったのね。

「……お引き受けいたしましょう。今度こそ、臣下としてではなく、友として、ひとりの男として……」
「……感謝する」
「…………」
「……ともに、守ろうぞ。アドン……」
「………………」

「………………はっ!」

私はふたりの会話がよくわからなかった。
そもそも幸せって、誰かにしてもらうものじゃなくて自分で手に入れるものなんじゃないかしら。
それよりもピサロがこっちに来たときに見つかっちゃうとまずいわ。いったん外に出ないと。隠れたほうがいいかしら。
ガタッ。
あ。こういうときに限っていすにぶつかっちゃうのはお約束……ふたりはそろってこっちを見た。
私、隠れ場所を探すあまりふたりの見えそうなとこにも来ちゃってたみたい。

「えっと…」

ふたりともびっくりしてる。

「ごめん。話を聞くつもりはなかったんだけど……聞いてもよくわからなかったけど……」

483従者の心主知らず 代わり 5/18:2017/05/11(木) 21:27:53 ID:7O11Q12w
ふたりとも顔に手を当てた。なんで?

「「出ていけっ!!」」
「なによー」

でもひとつだけわかったことがあるの。
男の人って、女の人を守りたがるのね。ピサロもアドンもロザリーを守りたいんだわ。
私を守りたがってるクリフトといっしょ。
これって、クリフトだからじゃなくて、男の人だから、だったんだわ。男の人の法則なのね。
あれ、でも私は男じゃないけどクリフトやみんなを守りたいわ。これは私の法則ね。

「大丈夫!安心して!私もロザリーを守るからね!」

私はにっこり笑ってみせた。

「それと思ったんだけど、幸せって、誰かにもらうものじゃなくて自分で手に入れるものなんじゃないかな?
だって、どんなに幸せを用意したってその人が幸せだって思わなくっちゃほんとの幸せにはなれないじゃない」
「…………」
「私はそう思うけどな」
「…………」
「………………」

「はっ…はは…」

え、なに?アドンが笑ってる。

「アドン」

ピサロが静かにアドンを呼んだ。

「申し訳ありません。ですが、あまりにアリーナらしくて……」
「…………」

「ふん…」

ピサロは鼻を鳴らした。

「幸せは、自分の心が決める……か?」

ピサロは私をにらみつけた。

「そう言えるのは、幸せとはなにかを知っているからだろう?」

484従者の心主知らず 代わり 6/18:2017/05/11(木) 21:31:41 ID:7O11Q12w
え?

「……」
「…………」
「…………」

ピサロは視線を切った。

「その程度の見識しか持ち合わせておらんから人間は愚かなのだ」
「なによ、どういうことよ」
「アドン」
「はっ」
「話は以上だ。ロザリーはしばしの間わたしが直接見る。今は、養生せよ……」
「……はっ」

それだけ言うとピサロは扉のほうに歩いてく。

「ちょっと、待ちなさいよっ!」

ピサロは返事もしないでそのままお部屋から出ていった。

「なんなのよ!!いーだっ!!」

いやなやつ!

「……アリーナ」
「……なによ」
「ピサロ様は、決してお前の意見を否定したわけではないからな」
「…………」

「アドンはピサロの言ったことわかるの?」
「…………」

アドンは何かを言いかけたけどやめた。何度も何度も何かを言いかけようとするけど黙る。
そしたらそのうち少しだけ上を向いた。

「知りたかったのならなぜ追わなかった。俺に用事か?」
「むーっ」

なんだかはぐらかされた気分。もういいわ。あとでピサロに思いっきり聞いてやるんだから。

485従者の心主知らず 代わり 7/18:2017/05/11(木) 21:35:16 ID:7O11Q12w
「これ、返す」
「?」

私はアドンの胸に静寂の玉を押しつけた。

「これは……」
「またロザリーの護衛をするんだから、必要になるでしょ?だから返すの」
「…………」

「いや、これはお前にやったものだ。返してもらう理由はない」
「え、いいの?」
「役には立たなかったか?」
「ううん、なんどか使ったわ。私も魔法使いになった気分だった」
「ならいいだろう。持っていけ」

アドンは静寂の玉をゆっくり押しもどして窓辺のほうへ歩いてった。

「そっか……よかった……」
「?」

私もアドンを追ってとなりに並ぶ。

「私ね、アドンがこれをくれたのは、自分がもう死ぬつもりだったからなのかなって、ちょっと不安に思ってたの」
「……」
「そうじゃなかったのよね」
「…………」

「……なぜ、不安に思うのだ……」
「え?」
「俺がどんなつもりでそれを渡そうが、お前には関係ないだろう」
「関係なくないよ!」

私は思いっきり否定しちゃった。

「だって、だって、もしあなたがもう死ぬつもりだからあげるって言ってたら、私はぜったいに受けとらなかった」
「……なぜ……」
「なぜって…」
「俺が死のうが生きようが、それこそお前には関係のないことだろう?」
「アドン……」
「違うか?」
「…………」

486従者の心主知らず 代わり 8/18:2017/05/11(木) 21:39:04 ID:7O11Q12w
アドン……。どうしてそんなこと……。

――やっぱり死ぬつもりだったの…?――

「アドン、おかしいよ……こんな会話おかしいよ……」
「…………」
「もっと自分を大事にしてよ。
誰かのために死ぬんじゃなくて、いつでもどこでもその人といっしょに生きのこる方法を考えてよ」
「……なぜ……」
「なぜって、当たり前でしょう…?」
「…………」

「……よけいな世話だな……」
「っ……」
「俺は護衛役なのだ。俺に課せられた使命はあの方をお守りすることであって、俺が生き残ることではない。
俺がどうなろうがあの方が無事でさえいてくれればいいのだ。後のことは引き継いだ者がやるだけのこと」

――ピサロナイトは私以外にも大勢いる――

「……ちがうよ。それはちがうよ……」
「何が違うというのか。使命とは命をかけるものだ。使命を果たせぬ者に生きる資格はない。
それだけの話だろう」
「……」

そこまで言ってアドンはうつむいた。

「……そうだ、俺に生きる資格はない……。
敵でない者に斬りかかり、真の敵からは守れなかった役立たずなど、本当はもう……」

――生きていてはいけなかった……――

「ちがうよ!」
「何が違う。俺はピサロ様に二度も三度も恥をかかせたのだっ」
「ちがうよ!ちがうよ…!そんなこと言わないでよ…っ」
「…………」
「使命も大事だけど、命だって大事だよ…っ!」
「………………」

487従者の心主知らず 代わり 9/18:2017/05/11(木) 21:42:47 ID:7O11Q12w
初めてアドンと会ったとき、アドンはどんなに傷ついてもいっしょうけんめいロザリーを守ろうとした。
いやだって叫んで必死にロザリーをぎゅってした。
あの姿を見たとき、敵なのになぜか死なないでほしいと思った。
ロザリーがさらわれたときも、ひどいケガしてたのに助けに行こうとして……
ソロが止めてくれて、死ぬことは守ることじゃないって、生きて、一緒にって言ってくれたとき、私の気持ちもはっきりしたの。
生きてほしい。これからも生きていてほしい。ずっといっしょに生きていきたい。心の底からそう思ったの。
その気持ちは今も変わってない。

「もっと自分を大事にしてよ…っ」
「………………」

ロザリーが死んでもういちど戦ったとき、私が戦いたくなくてアドンをぎゅってしたとき、アドンは私を斬らなかった。
本当は私たちを殺す気はなかったんだってわかった。
それは、私たちの命を大事にしてくれたからでしょう…?命の大切さを、尊さを、ほんとうは知ってるからでしょう…?

――いっしょに生きたい…!――

「……お前たちには本当に感謝している。してもしきれぬほどに……。
だが、俺がお前たちに返せるものなど何もない。頭を下げることしかできない。俺とお前たちとでは住む世界が違うのだ。
せめて俺にできることは、今度こそお前たちの手をわずらわせることなくロザリー様をお守りすること……」

――お守りして果てること……――

「……こうして話している時間すらもったいない。俺などに……」
「……」
「仲間が待っているぞ。早く行け」
「やだっ」
「……」
「仲間は今は関係ないのっ!私はアドンとお話がしたいのっ」
「…………」

あきらめない。アドンが自分から生きようって、生きたいって、そう思ってくれるまで、私はぜったいにあきらめない…!
アドンがとまどったのがわかった。私、いつの間にか泣いてたみたい……。涙がこぼれてきたのがわかった。

「なぜ……そこまで……」
「……」
「俺と話すことに、何の価値がある……」
「…………」

――使命を果たせぬ私など、死んだところで誰も見向きはしないのに……――

ぜったいにあきらめないっ。

488従者の心主知らず 代わり 10/18:2017/05/11(木) 21:49:02 ID:7O11Q12w
「ソロだってあなたのこと心配してるよ。ロザリーだって。みんなあなたのこと心配してるんだよ…?」
「………………」
「アドン…?」
「…………っ」

アドンが歯ぎしりした。すぐに向こうを向いたけど、イライラしてる…?

「ロザリー様は……あの方はただ話し相手を欲しがられただけだ。あの方の目にはピサロ様しか映っていない。
だがピサロ様もお忙しい方だ。なかなか会うことが叶わず、寂しい思いをされていたからな」
「……」
「だが、俺がピサロ様の代わりなどできるはずがないのだ。
せいぜい俺にできたことは、次にピサロ様が訪れるまでの、間に合わせ…」

アドン…声がふるえてる…?

「だから、あの方をお守りし、寂しさをいく分でもまぎらわしてさしあげられる者であれば、その相手は別に、俺でなくとも……
俺の代わりなどいくらでもいる。俺ひとりが死んだところで誰も困りはしない。すぐに忘れる。しょせん俺はその程度の存在なのだ。
だから、お前ももう、俺のことは…」
「バカ!!」
「!……」
「ロザリーのことなんにも知らないで…!
ロザリーがどれだけあなたのこと大事にしてるか、どれだけ心配してるか、なんにも知らないからそんなこと言えるのよ!」
「……」
「ずっとあなたの名前を知りたがってたのに。ずっと素顔が見たいって言ってたのに!
あなたがケガしたときずっとそばにいたのにっ!」
「っ……」
「言葉や言い方はきつくて冷たいけど、出したお茶はいりませんって言いながらも飲んでくれるし、会いに行けば必ずそこにいてくれるし、
お部屋に招けばすこしだけだけど入ってくれるし、お話だってしてくれるし、顔はだめでも手はこてを外して見せてくれるしっ」
「…………」
「ずっと鳴き声がして不思議がってたら申し訳ございませんって、あれはアイスコンドルという翼竜ですって、
今夜は満月だから気がはやっているのですって、すごーくていねいに教えてくれたんだって」
「…………」
「思いきってご飯作ってったら困りますって言いながらも全部食べてくれたって、寂しくて眠れない夜はそばにいて手を握ってくれてたって、
任務外ですって言いながらも朝までずっとそこにいてくれたんだって、ほんとはすごーく優しくていい人だって、ロザリー何回も言ってたのよ?
ずっと仲良くなりたかったって。ずっと謝りたかったって。拒否して傷つけてしまったこと、心から謝りたいんだって。
初めて感情を見せてくれたのに、名前を呼んでくれてたのに、あのときは自分のことしか考えてなかったって。今度こそちゃんと謝るんだって。
仲直りしてまたお部屋に来てもらうんだって!」

――アドン……本当に、ごめんなさい……――
――無事戻ってきたら、こうしてまたお部屋に来ていただけますか?――

やだ、また泣きそう。

489従者の心主知らず 代わり 11/18:2017/05/11(木) 21:54:05 ID:7O11Q12w
「ロザリーね、あなたの素顔を見れてソロに名前も教えてもらって、ほんとうに嬉しそうな顔してたのよ…?
ここに来る前から私を守ってくれてた人だって、森まで送ってもらったんだって、
そのあともしばらく森の中を見回ってくれてたんだって、あなたのことすごーく嬉しそうに話すの。
もしまた見かけたらすぐ教えてくださいって鳥さんたちにお願いしてたんだけど、それ以来会えなかったって。
もう会えないと思ってたって……。
だからまた会えて嬉しいって。ずっと会いたかったって。ずっとお礼がしたかったって」

――こんな素敵な方に守っていただけるなんて、私はなんて幸せ者なのでしょう――

「今日ここに来たのだって、ロザリーがアドンに会いたいって言ったからなのに……それなのに……っ」

やだもう、また目に涙があふれてきた。

「なんでそんなことが言えるのよ…!自分じゃなくてもいいなんて言わないでよ…っ!」
「…………」
「あなたのこと、こんなに大事に思ってるのに…っ」
「………………」

気がついたらアドンも泣いてた。目から涙があふれてる。つつっと頬を伝ってなんども落ちてた。
その涙を指ですくっておどろいたように見つめる。とまどったように視線をさまよわせる。
まるで、どうして自分が泣いてるのかわからないみたいに。なんでこんなことを言われてるのかわからないみたいに。

「アドン…?」
「…………」
「アドン…」

子どもみたいにぽろぽろ涙を流してる。いつもはそれでも強そうにしてるのに。

「え、だって……知らないわけじゃないよね……?命はみんなおんなじでひとりひとりが大事な存在なんだって。
役目のかわりはできても、人のかわりができる人なんていないんだって、それまで知らないわけじゃないよね…?」
「…………」
「そうよ、さっきあなただって、ピサロの代わりはできないって言ってたのに、どうしてあなたの代わりをできる人はいると思うの…?」
「…………」
「あなただって、あなたのことだって、ピサロとおんなじくらい大事な存在なのよ?それは、わかるわよね…?」
「…………」
「…………」
「………………」

アドンは手で顔を隠した。なんにも答えない。唇はふるえてて……。

490従者の心主知らず 代わり 12/18:2017/05/11(木) 21:57:33 ID:7O11Q12w
「アドン…」
「…………」

なんにも答えない……。
涙はぽろぽろこぼれてる。手で顔を隠してても涙までは隠せない……。

「ねえアドン……あなた今まで、大事にしてもらったこと、ないの…?」
「…………」

アドンは答えない。ただ立ちつくしてる……。

「あなたのことだって大事なんだからね」
「………………」
「私、あなたのことも守るからね」
「……………………」

アドンは手で顔を隠したまま。少しだけ息が乱れたのがわかった。

「なぜ…っ」
「……」
「なぜお前が、そんなこと……」
「…………」
「なぜ……」

消え入りそうな声。なぜって、こっちが聞きたいくらい。
どうしてそんなに大事にしてもらえなかったんだろう。どうして大事にされてるんだって、教えてもらえなかったんだろう。
これじゃあまりにアドンがかわいそう。

「……寂しい思いをしてたのは、あなたのほうだったのね……」
「…………」
「大丈夫だよ。ロザリーはあなたのことも、おんなじくらい大事に思ってるよ」
「………………」
「大丈夫だよ…。大丈夫だからね」

アドンは手で顔を隠したまま、無言で小さくうなずいた。
肩もふるえてる。子どもみたいなアドン。なんだかクリフトと重なる。やっぱり重なる。
初めて会ったときからずっと気になってたのは、どこかクリフトと似てたからなのかも……。
どうすれば泣きやんでくれるかな。笑顔になってくれるかな……。
そうだ!私はいいこと考えた。

491従者の心主知らず 代わり 13/18:2017/05/11(木) 22:01:05 ID:7O11Q12w
「ねえアドン、ケガがちゃんと治ったらさ、勝負しましょうよ!」
「……」
「今度は殺しあいじゃなくて、腕をきそって闘うの。剣とこぶし、どっちが強いか勝負しましょ?
ねえ、いいでしょ?ねっねっ」
「…………」

アドンはしばらく手で顔を隠してたけど、ふっと笑ったような気がした。

「ああ…」
「アドン…?」
「ずっと、悪い夢を見ていた……」
「……」
「最初はただの夢だと思っていたし、その結末でも構わないと思っていた……」
「……」
「いつしか、その夢はこれから起こる現実であり、俺が招いた結末なのだと思うようになった……」
「うん…」
「だから、同じ現実を迎えるのなら、直接俺が手を下して……」

――悔いのないように……――

「…………」
「だが…」
「…………」
「実際は、違ったのだな……」
「…………」
「…………」
「…………」
「……これが……」

――これが、私の運命か……――

アドン…?
アドンは手を離してこっちを見た。顔はもう泣いてなかった。

「そうだな。俺もお前と闘ってみたい」
「ほんとに?」
「ああ。コンドルを一撃で倒したその実力を見せてもらおう」
「やったやった!」

アドンが笑った。前みたいに少しだけじゃなくて、ほんとに笑ってくれたの。
これがアドンのほんとの笑顔…?

492従者の心主知らず 代わり 14/18:2017/05/11(木) 22:04:33 ID:7O11Q12w
「約束よ!」
「約束だ」

アドンが笑ってる。笑ってるよ。よかった…。
よかった……。

「じゃあじゃあ、とりあえず今は休んでて!」
「?待て、お前…っ」
「よいしょっと」
「ちょ、おまっ…力っ強っ…」

私はアドンを抱き上げてベッドに寝かせた。
あわてて起きようとするアドンを押さえておふとんをととのえる。

「だ、だからなぜここに寝かすんだっ!俺の部屋は下!一階下なんだっ!!」
「いいじゃない。今までだってここで寝てたんだし」
「いいわけないだろう!…お、お前にはわからんかもしれんがな、よっ夜っ夜が困るんだっ!」
「なんで夜が困るのよ」
「聞くなっ」
「むー。じゃあ下に行く?」
「……………………」

アドンはしばらく難しい顔して黙ってたけどかけたおふとんをたぐり寄せて口もとを隠した。

「やっぱりここでいい…」
「いいんじゃない」
「〜……」

今度は目まで隠しちゃった。ヘンなの。でも少ししたら目だけ出した。

「クリフトといったか。お前の男」
「男じゃないって。私の家来なのっ。今は大切な仲間なのっ」

なんでか一気に否定しちゃった。
そうよ。そもそもアドンがヘンなこと言うから私がヘンになったんだからっ。

「ああ、そういうことか」
「どういうことよ!」

アドンは笑って私を見た。なによなによー。

493従者の心主知らず 代わり 15/18:2017/05/11(木) 22:08:04 ID:7O11Q12w
「幸せな男だな」
「なにそれ」
「少し不憫な気がしないでもないがな」
「どういうこと?」
「お前こそ早めに気づいてやれ」
「なにをっ」

アドンがくすくす笑ってる。何に気づけばいいのかぜんぜん教えてくれないし。
本人に聞いてみろですって。
っもう!クリフトがぜんぜん教えてくれないから他の人たちに教えてもらいたいのにっ!

「アリーナ」
「なによっ」
「ありがとうな」
「なにがっ……え……?」
「借りは返す」
「…………うん…………」

「やだっやっぱりいらないっ」
「?」
「借りは返さなくていいから、そのぶんロザリーと幸せになるのっ」
「……」
「ロザリーといっしょに、ずっとずっと元気に楽しくめいっぱい生きるの!」
「……」
「約束して!」
「…………」

「それはさすがに無理だ。ロザリー様にはピサロ様がいる」
「どうしてそこでピサロが出てくるのよ!ロザリーとあなたの問題なんだから、ピサロは関係ないじゃないっ」

アドンがものすごくびっくりした顔でこっちを見るの。な、なによー。

「……じゃあじゃあ、ピサロとさんにんで幸せになるのっ」
「………………」

アドンがまたおかしそうに笑った。めちゃくちゃだなって言いながら。
それからありがとうって。なんかもういちどありがとうって言われた。なんで二回言うのよ。
アドンが笑ってる。ほんとうに笑ってるよ。素敵な笑顔。もう大丈夫だよね。

――もう死のうとなんかしないよね――

494従者の心主知らず 代わり 16/18:2017/05/11(木) 22:11:47 ID:7O11Q12w
「姫さま」
「あ、クリフト」

外に出たらクリフトがいた。ずっと私を待っててくれたみたい。
思わずごめんって言おうと思ったらクリフトが深々と頭を下げたの。

「お見事でございました」

え。

「聞いてたの…?」
「申し訳ありません。ピサロさんが部屋から出てきたもので話がすんだものと思い……」
「…………」

「どこまで聞いてたの…?」
「途中で席を外しましたからすべては聞いていません」
「そう…」
「…………」

「姫さま……」
「ん?」
「私は、幸せ者です……」
「え?」

もしかして、最後まで聞いてた…?
クリフトは向こうを向きながら歩いてるから顔がしっかり見えないの。
今どんな顔をしてるの?

「姫さまと私の問題だから、他の障害も……」
「え?」

クリフトが小声でぼそぼそ言うからうまく聞き取れない。

「今なんていったの?」
「いえ、アドンさんにとってあの言葉は、他のどんな言葉よりも救われる一言だったのではないかと」
「え?どの言葉?」
「姫さま」

クリフトが笑ってこっちを見た。
その笑顔がなんだかとてもやさしくて、まぶしくて、私は思わず目をそらしちゃった。
うー、なんだかくやしい……。
あ、そうだ。そうよそうよ。今なら頭がはたらくわ。よし、まずはこっちから。

495従者の心主知らず 代わり 17/18:2017/05/11(木) 22:15:14 ID:7O11Q12w
「ねえクリフトー」
「はい、姫さま」
「ピサロがロザリーのちからで魔族に姿に戻ったとき、クリフトすごーく喜んでたわよね」
「……ああ、そうでしたね」
「あのときもなんて言ってたのか聞き取れなかったの。今ならわかるから教えてちょうだい」
「…………」

――信じていれば……愛をつらぬけば……私だっていつかきっと……――
――……を幸せに……!――

「……ええと……なんて言ってたんでしたっけ」
「えー?」

クリフトが苦笑いする。

「覚えてないの?」
「ええと、そうですね……。
愛のちからはすばらしい、なににも勝ると言っていたのは覚えています。そのあたりですか?」
「えー、私がクリフトに聞いてるのに」

クリフトは口に手を当てながら苦笑いしてる。申し訳ありませんって言いながら。っもう。
でも、そっか。クリフトでも忘れることあるのね。私なんかしょっちゅう忘れるけど。

「じゃあ思いだしたらちゃんと教えてちょうだいね」
「はい、姫さま」

あ、そうだ。クリフトの何に気づけばいいのかも教えてもらわなくっちゃ。
本人に聞いてみろっていったって……私はクリフトをじっと見る。

「?」

うーん、どうやって聞けばはぐらかさずに教えてもらえるのかしら。
今いちばんの難題だわ。

「姫さま」
「んー?」

クリフトはまた笑って私を見る。そして私もまた目をそらす。
っもう、なんで目をそらしちゃうのよ。クリフトの笑顔はずるいわ!ほんとうにくやしい……。
そしたらクリフトがふっと笑ったような気がした。

496従者の心主知らず 代わり 18/18:2017/05/11(木) 22:18:43 ID:7O11Q12w
――どこまでもお供いたします――

姿勢を正して、胸に手を置いて、クリフトはもういちど私に深々と頭を下げたの。
えっと……えっと……。
聞こうと思ってたことがみんなどこかにいっちゃって、私はただただクリフトを見てた。


「ピサロとロザリーは塔のほうで過ごすんだって」
「自宅ですものね」
「一緒に寝るんだろうなー」
「……まあそうでしょうね」
「あーあーいいわねえ恋人同士って。あたしもどっかにいい男転がってないかなー」
「姉さん……」
「なによ」

ふーん、そうなんだ。
ああ、そういえばロザリーのベッドにアドン寝かせてきちゃったんだっけ。ああ……
まあいっか。さんにんで寝ればいいのよ。私がクリフトと神父さまとさんにんで寝たみたいに。
そう、クリフト……
お供いたしますって改めて言われた。初めてじゃないはずなのにまた頭がぼーっとしてるの。
さいきんクリフトの笑顔に負けて目をそらすこと多くなってる気がする。
なんだろうな……なんでだろうな……
くやしいな……。
だから今日はこのままロザリーヒルに泊まることになってちょっとほっとしてる。
ピサロのとこに行ってからはたらかなくなっちゃったこの頭をなんとか元通りにしなくっちゃ。
ちらっとクリフトのほうを見てみる。クリフトはいすにもたれて本を読んでた。

「ねえクリフトー」
「はい、姫さま」

あ、いつものクリフトだ。うん、よし、大丈夫。

「ピサロとロザリーはロザリーのベッドで寝るのよね」
「まあ、そうでしょうね」
「あのね、あそこにアドン寝かせてきちゃったの」
「え……あ……」
「大丈夫よね。さんにんでいっしょに寝ればいいわよね」
「あのお三方が一緒に…?」
「明日さ、行きたいとこがあるんだ。ちょっと寄り道になっちまうけどいいかな」

突然ひびいたソロの声。ソロが少しだけ怖い顔してるように見えた。
ソロ…?

497従者:2017/05/11(木) 22:22:23 ID:7O11Q12w
短編集「知られざる伝説」ではアドンはピサロを「陛下」「殿下」と呼んでいますが
本編ではすべての配下たちが共通で「ピサロさま」と呼んでいるので彼も一部そちらに合わせています。
また本編ではピサロナイトは1体しかいませんがヒーローズなど他作品では複数存在していますので
解釈はそちらに合わせました。
またピサロナイトの部屋は本編ではわかりませんが塔の構造的に2階が空いているのかなと思ったもので
2階に隠し部屋的なものがあるとしました。
基本的にはPS版の世界観を優先していますがところどころアレンジまみれですどうかご容赦を……。

ありがとうございました。

498従者:2017/05/12(金) 17:32:16 ID:5EK.IaJU
まさかの三連続書きこみ本当に失礼します;
この投下でまたしばらくは文章化段階に入りお休み(時々小ネタ)しますので何とぞ……。

前回「代わり」の続き(翌朝)でロザリーヒル編最後「天然同盟」14レス分いきます。
ソロの行きたいところに寄り道する前段階で全体そこはかとなくクリアリ要素が入ってきます。
また13/14で性描写を匂わす表現あり、もし問題ありましたらお知らせください。
ではよろしくお願いします。

499従者の心主知らず 天然同盟 1/14:2017/05/12(金) 17:35:54 ID:5EK.IaJU
「ロザリーおはよー!」
「まあ、アリーナさんおはようございます!」
「……ピサロもおはよ……」
「…………」

「ピサロあっち行って!」
「いきなりなんだ」
「ロザリーと話があるの!だからあっち行って!」
「話…?」
「まあ、何のお話でしょう?」
「ふん…」

「手短にすませろ」

ピサロはすたすたとあっちに行った。よし!

「ねえロザリー、昨日はピサロとアドンとさんにんで寝たの?」
「え?あ……どうしてご存知なのですか……?」
「ふふ、そうだと思ったんだ。実はね、昨日ロザリーのベッドにアドン寝かせたの私なの」
「まあ、そうだったのですね」
「仲直りできたのよね?」

ロザリーは心から嬉しそうな笑顔で大きくうなずいた。

「またお部屋に来てくれるって、今度はかぶとを外してお茶を飲んだりお話ししたりしてくれるって約束してくれたんです。
アリーナさん、本当にありがとうございます!」
「ふふ、よかった」

ロザリーの顔がすこしだけくもった。

「……彼、私が拒否したあの日から、ずっと悪い夢にうなされていたみたいなんです。
私が改めて謝ったら泣いてしまって……私が見えていますかって、私の声が聞こえますかって、そんなこと聞くんです。
私、本当に彼を傷つけてしまったのですね……」
「ん…」
「でも、彼が起きるまえからさんにんで寝るかってピサロさまが言ってくださっていたので、一緒に寝ましょうって言うことができて……」
「……」
「本当に、よかった…」
「……うん」
「アリーナさん、アリーナさんが昨日アドンに口添えしてくださったそうじゃありませんか。本当に、本当にありがとうございますっ」
「えー私は何にもしてないわよ」

500従者の心主知らず 天然同盟 2/14:2017/05/12(金) 17:40:05 ID:5EK.IaJU
ロザリーほんとに嬉しそう。よかった。昨日アドンとお話ししてほんとうによかった……。

「ねえねえロザリー、昨日はロザリーがまんなかで寝たのよね?」
「え?あ……はい……」
「ふふ。まんなかってすごーく安心するわよね」
「……ええ、とっても安心しました。あの、でも……アリーナさんもさんにんでお休みになったことがあるのですか?」
「うん。クリフトと神父さまとさんにんで寝たことあるの」
「まあ、そうなのですね」

「ねえ、アドンのことぎゅってした?」
「え?ぎゅ?」
「うん。アドンのこと、ぎゅって抱きしめた?」
「あ……はい、実は……」
「そうなんだ!じゃあじゃあ、かたまらなかった?」
「あ……かたまりましたっ」
「やっぱり」
「もう、まだよろいを着てるのかと思うくらいカチカチにかたまって、ベッドから落ちてしまったんです」
「えーそんなにあわててたの?」
「はい…」

うーん、クリフトがベッドから落ちたことはなかったなー。

「すぐ謝ったのですけど、でも、いやではないみたいなんです…」
「うんうん」
「ピサロさまも口添えしてくださったのでまたベッドに戻ってもらったのですが、それでもまだかたまっていて……」

でもやっぱりクリフトと似てるなー。

「顔真っ赤だった?」
「んー、明かりを落としていたのでそこまではわからないのですが……あ、でも熱っぽかったかしら……。
今朝は頬をすこし赤らめていました。ベッドの中でお話ししていたときとか朝ごはんを一緒に食べていたときとか」
「うんうん」
「それなら明かりを落としたときだってきっと……んー……」

ロザリーは首をかしげながら話す。

「でも、とにかくあわてていました。私、あんなに取り乱したアドンを見たのは初めてなんです。
普段は無口で暗くて冷たくて、怖いくらいなんですから」

うん、やっぱり似てる。そっくり。

501従者の心主知らず 天然同盟 3/14:2017/05/12(金) 17:44:07 ID:5EK.IaJU
「あの、でも、どうしてそんなにアドンのこと、お詳しいのですか?」
「んーとね、実はね、クリフトと似てるとこあるなーって思って」
「クリフトさんですか?」
「うん。クリフトもね、ぎゅってするとカチカチにかたまっちゃうの。
ベッドから落ちたことはなかったけど、たぶんクリフトの場合、動けなくなるまでかたまっちゃうからなのかも。
普段はお説教とかお仕事の話とか難しいことばっか言ってるのに」
「……でも、クリフトさんはとても温和な方ではありませんか」
「私に限っては、うるさかったり厳しかったりするのっ」
「……そうなのですか。意外です……。……でも、そう考えると確かに似ていますね」
「でしょー?」

「あの……でしたら、脱力しませんでした?」
「脱力?」
「ええ、なんというか、最初はとても抵抗していたんですけど、途中から力が抜けたように言いなりになってしまうというか……」
「あるあるっ」
「ありますかっ?」
「うん。いっしょに寝るっていうとすっごくさわぐのに、いざいっしょに寝るとなると笑っちゃうくらい静かになるの」
「ああ、やっぱりあるのですね」
「あるよー」
「かと思えば、いきなり強く抱きしめてきたり、子どもみたいに甘えてきたり……しますか?」
「するよ!強引にぎゅってしてきたり、子どもみたいにずっとくっついてたりするー」
「ああ、やっぱりそうなのですね」
「そうだよ!」
「あの、あの、でしたらっ」
「うんっ」

ロザリーは両手で口もとを隠してもじもじしながら小声でつぶやいた。

「「やっ」とか「だめっ」とか「お願いですっ」とか、お…「お許しください」とか「おかしくなります」とかっ……言いました…?」
「…………」

私は今までのクリフトを振りかえる。ものすごく振りかえる。

「言ったっ!!」
「言うんですねっ!アドンだけじゃないんですねっ!!」
「うんっ!私もクリフトだけじゃないんだって安心しちゃったっ!!」

私たちはいったん深呼吸して落ちつく。

「ベッドに入るとあんなに性格の変わってしまう男の人もいるんですね」
「ほんとだよー。普段は大人ぶって難しいことばっか言ってるのに」
「言い方もきつくて冷たいのに」

502従者の心主知らず 天然同盟 4/14:2017/05/12(金) 17:47:55 ID:5EK.IaJU
私たちは顔を見合わせてふふって笑った。

「でも、私……嬉しかったんです」
「ん?」
「アドンにもう一度抱きしめてもらえたこと……。初めて抱きしめてもらったときに拒否してしまったから……。
あなたたちと初めて出会ったときにも抱きしめてくれたけど、あれはたぶん私を守ろうとしてしてくれたことだから……」
「……」
「昨日彼と再会したときに抱きしめてもらえなかったのが本当に寂しくて……
もう一度、彼に、彼のほうから、強く抱きしめてもらえたらなんて、そんなことをずっと思っていたんです」
「…………」

いちどだけ、アドンを拒否して傷つけてしまったことがあるって聞いたのはロザリーと初めて会ったとき。
ベッドのとなりに座らせてもらって、ロザリーのひざまくらで気持ちよさそうに寝てるアドンにいたずらしたときだった。
あのときは、どうして拒否しちゃったのかまでは聞かなかったの。なんだかつらそうで、聞けなかったから……
でも……

「……そっか……。拒否しちゃったのって、ぎゅってされたときだったのね……。私、今聞いちゃってよかったのかな……」
「……ええ、いいんです……。私もそこまでは話していませんでしたね。
あのときは……ただただピサロさまを引き止めたくて、ピサロさまが見えなくなるまで私を押さえているアドンが本当にいやで。
でも、今までは私が泣きやむまで押さえていて部屋にお戻りくださいって言うだけだったのに、あのときはなぜか……
私の名を呼んで、いきなり抱きしめて……私、思わず悲鳴を上げて振りはらってしまって、怖くてお部屋に逃げてしまったんです…」
「ん…」
「……でも、後になって気づいたんです。アドンが震える声で「申し訳ございません」って言ってくれてたこと……」
「……」
「泣いてた……。アドンもあのとき、泣いていたんです。私、気づかなかった……。きっと、今までも泣いてくれてた……。
思い出そうとすればするほど鮮明になっていくんです。私を押さえたあとの彼の声はいつも震えてた……。
私の知らないところで、ずっと泣いてくれてた……。今まで、どれだけ私の知らないところで泣いてくれていたのか、私……」
「……」
「あれ以来お部屋に来てくださらなくなって、手も見せてくださらなくなって……
でも、お茶は飲んでくれるしお話も普通にしてくれたから、
少しずつお詫びの気持ちを重ねていけばいつかまた元に戻れるなんて、単純に考えていて……
あんなに彼を傷つけて追い詰めてしまっていたなんて、私……」

――もう二度とあなたに触れません!触れませんから、どうか、どうかおそばにいさせてください…っ――

「……顔が見えなかったんだから気づかなくても仕方ないと思うわ。ロザリーはなんにも悪くないわよ」
「……」

――私はもう拒否しません。しませんから、どうか触れてください。抱きしめてください――
――本当にごめんなさい、アドン…っ――

「…………」

503従者の心主知らず 天然同盟 5/14:2017/05/12(金) 17:51:47 ID:5EK.IaJU
ロザリーはすこしだけ寂しそうに笑ってありがとうございますって言った。

「彼の心の傷……これで本当に癒すことができたのかしら……」
「きっとできたわよ。私と話してたときもすっごく素敵な笑顔をしてたし、あなたと話してたときだって笑ってたでしょう?」
「……ええ……」

ロザリーは遠い目をして笑ったの。

「アリーナさんもありますか?」
「え?なにが?」
「クリフトさんに抱きしめてほしいって思うこと」
「えっ?」

抱きしめてほしいって思うことー?そんないきなり言われたって。うーん。

「えーっと、私がぎゅってしたいって思うことはたまーにあるけど……ぎゅってされたいって思ったことは……ない、かなー……」
「そうなのですか?」
「うーん……ある、かなー……」
「?」

なんだか口調がカチカチになっちゃってる。なんで?

「あ。でも、ぎゅってされてすっごく安心したことはあるわ。男の人って、肩が広いじゃない。
なんだか全身包まれてる気がするのよね」
「ああ、それはありますよね」
「ねっ」

あ。ちょっと会話が途切れた。よかったー。

「私、どうしてアドンに抱きしめてほしいと思ったのかしら……。
ピサロさまに抱きしめてもらうと、ドキドキして頭が真っ白になって力が抜けて、何にもできなくなってしまうんです。
でも、アドンは……昨日、こちらに向いてほしくて最初に彼を後ろから抱きしめたのは私のほう……。
抱きしめてもらったときもドキドキしたのに、なぜか彼にもっと触れたくなって、肌を寄せて、手を伸ばして……」

ロザリーが両手で口もとを隠した。顔が赤くなってる。

「この違いは何なのかしら。昨日はどうしてあんなにアドンのこと……。
私、どうかしてしまったのかしら……」

今度は顔まで隠しちゃった。ロザリーってほんとに女の人って感じだなー。
なんだかかわいい。

504従者の心主知らず 天然同盟 6/14:2017/05/12(金) 17:55:17 ID:5EK.IaJU
「ドキドキしたのはいっしょなのね」
「……ええ……」

ロザリーは目だけ出して私のほうを見た。

「アリーナさんはどうでしたか?」
「え?」
「クリフトさんに抱きしめられたとき」
「えっ?」

またこっちに来ちゃった!

「えーっと、どうって……」
「どんな感じでした?」

わー!私はいっしょうけんめい頭の中を整理する。えーと。えーと……。

「……私も、クリフトにぎゅってされて名前呼ばれたとき、体がゾクゾクってなって、力が抜けちゃって、なんにもできなかった。
あのときはじいがお部屋に飛びこんできたからそれで終わったけど、でも、もしあのままだったら、私ヘンになってたかも……」
「変に……ですか?」
「うーーー……よくわかんないっ」

自分がなにいってるかもよくわかんない。もう頭の中がぐちゃぐちゃだわ。

「……ドキドキしましたか?」

…………。

「……うん……。すっごくドキドキしてた……」
「……私の、ピサロさまのときと同じような感じなのかしら……」
「あっでもね、あわてるクリフトをぎゅってしたいときもあるの。神父さまをぎゅってしたいときもあるの。
ロザリーは、アドンのときにそうだったのよね。
きっと、ピサロのときだってぎゅってしたいときもあるし、アドンのときだってなんにもできなくなっちゃうときだってあるんじゃないかな。
ロザリーがどうかしてるとかそんなんじゃなくて、そういうものなんだと思うわ。きっとこれ、女の人の法則なのよっ」

ロザリーはきょとんとした目で私を見た。すこしだけ目線を下げる。

「そういうものなのでしょうか……。私がおかしいのではなくて、そういうものなのでしょうか……」
「そうしとこうよ。だって、自分がおかしいなんて考えたくないじゃない。私だって、自分がおかしいなんて思わないもんっ」
「…………そうですね」
「そうよ!」

私たちは顔を見合わせてもういちどふふって笑った。

505従者の心主知らず 天然同盟 7/14:2017/05/12(金) 17:59:03 ID:5EK.IaJU
「なになに、なーにおもしろそうなこと話してるのー?」
「あ、マーニャ、ミネアも」
「……もう、姉さんったら。お話し中ごめんなさいね」
「いいよー。いっしょにお話ししよっ」

「へえー、ベッドに入ると性格が変わる男ねえー」
「ピサロさんがとなりで寝ているまえでロザリーさんと寝るなんて、抱きしめるなんて……」
「ね?おもしろいでしょ?」
「アドンさん不潔です」
「で、どうしてそんなに性格が変わっちゃうか、答えは出てるのかしら?」
「ええと、それは……」
「男の人だからよねっ!」

私は元気よく返事した。

「だってクリフトが言ってたんだもの。目の前に無防備な女の人が寝てると抱きしめたくなっちゃうんだって」
「…………」

しーん。ん?何か間違ったかな。

「あのクリフトさんが、アリーナさんにそんな話をされるなんて……」
「うん」
「クリフトさん不潔です」
「あんたねー、じゃもしあたしがクリフトなりアドンなりと一緒に寝たら、同じことすると思ってんの?」
「え?ちがうの?」
「ロザリー、あんたもそう思うの?」
「えっと……」

私とロザリーはいっしょになって首をかしげる。

「実に大変すばらしい。ねえミネア、どう思う?」
「私に振らないでよ」
「「?」」

「じゃ質問を変えるわ。まずはロザリーから」
「あ、はいっ」
「あなたの恋人はピサロよね。じゃアドンはどういう立ち位置なのかしら?ピサロとアドンとどっちのほうが好きなの?」
「姉さんっ」
「こ、恋人だなんてそんな……。ええと……でも、そ、そうですよね、私……でも、ピサロさまもアドンもとても大切な人で……
あの…………その…………どうしましょう、お答えできません……」
「どっちも好きじゃダメなの?」

506従者の心主知らず 天然同盟 8/14:2017/05/12(金) 18:02:41 ID:5EK.IaJU
なんとなく思ったまんま口にしてみたらマーニャがこっちに向いた。

「あんただって、例えばクリフトとアドンどっちが好きって言われたらどっちかになるでしょ?」
「姉さん…っ」
「うーん、私アドンのことも守るって約束したし、昨日お話ししてすっごく好きになったし、かわいいって思うとこもあるし、うーん……
どっちも好き!」
「…………」
「…………」
「でも、ピサロはちょっと……わかんないけど……でもロザリーだって、好きな人ならどっちかになんて選べないわよね?」
「……はい……」
「…………」
「…………」

「天然同盟のできあがりね。ピサロとクリフトをちょっと哀れに思うわ」
「姉さん、その台詞はアドンさんに失礼よ。それに、だからこそ惹かれるというのもあるんじゃないかしら。無垢で一途でまっすぐで。
……どうしてそんなに純真になれるのかしら……」
「こんだけ男はべらしといて無自覚なんて、妬けるわよまったく。あーもう、あたしがアドンをおいしくいただいちゃおうかしら。
普段は冷徹イケメン、ベッドの中ではヘタレM、喘ぎ方も好みだわ。クリフトのさわやかイケメンとは違った魅力ね。いじめてみたいわ」
「……姉さんと一部同意見だなんて、ちょっと鬱だわ……」
「なにそれどういうこと?」
「お薬を届けたとき私も一度アドンさんとごあいさつしましたけど、姉さんになびくタイプじゃないと思います」
「あんたねー、そこをどうなびかせるか考えるのが楽しいんでしょ?」

マーニャとミネアが私のわからないこと話してる……。

「ねえマーニャ……」
「んーなあに?」
「私、クリフトもアドンも好き。マーニャもミネアもロザリーも、今いっしょに旅してるみんなが好きなの。それって、ダメなのかな…?
だれかひとりに決めないと、いけないのかな…?」
「……アリーナさん……」
「……あーもうあたしの負け!ごめんごめん!」
「え?」
「いいのよ。みんなが好きって、すごくいいことだと思うわ。あたしだってみんなが好きよ。アリーナのことも、ロザリーのことも、大好きよ!」
「……ん……ありがとう……」
「……ありがとうございます……」
「でもね、今あたしが話してたのは、そういう好きとは別の「好き」って感情があるって話だったのよ」
「別の好き?」
「そ。他の誰よりもこの人だけって思うくらいの「好き」って感情が世の中にはあるの。そういう人はいる?って話だったのよ」

他の誰よりもこの人だけ……?

507従者の心主知らず 天然同盟 9/14:2017/05/12(金) 18:06:37 ID:5EK.IaJU
「そうなんだ。ごめんなさい、私、的外れな返事をしてたのね」
「んーいいのよ。楽しいおしゃべりの時間なんだから、気にしない気にしない」
「ん…」

別の好き……。

「ねえ、それってどんな感情なの?どうすればわかるの?」
「んーこればっかりはねえ、教えてもらってわかるもんでもないのよ。自分で感じてみるしかないわねー」
「……そっか」

別の好き……どうすれば感じられるのかな……。クリフトならわかるのかな……。

「天然同盟、確定ね」
「姉さん、ぜんぜんこりてないのね……」
「あの……アリーナさんとクリフトさんは、恋人同士なのですよね?」
「へ?」

いきなりロザリーに言われて私はすっとんきょうな声をあげちゃった。

「ちがうちがう!クリフトとは幼なじみで、家来で、今は大切な仲間なのっ」
「そうなのですか?でも、クリフトさんのこと、とてもお詳しいですよね」
「ええとそれは、幼なじみだからっ」
「そう、なのですか」
「そう!」

あーびっくりした。

「あの……恋人同士でなければ男の人といっしょに寝てはいけないとか、そういう決まり、あるのでしょうか…?」
「んー、ないんじゃないかなあ。私、お城の神父さまやサランの神父さまともいっしょに寝たことあるけどなんにも言ってなかったし」
「……そうですか……?よかった……」

「ね?天然まっしぐら」
「…………」
「それにしてもアリーナ、けっこういろんな男と寝てるのね。神父って、ちょっとすごくない?」
「その神父さんたちが不潔なだけです」
「あんたねー、不潔不潔って、あんただって恋のひとつもすれば不潔なこといっぱいしたくなるのよ?」
「なりませんよっ」
「どうだかねー」

508従者の心主知らず 天然同盟 10/14:2017/05/12(金) 18:10:08 ID:5EK.IaJU
「アドンがとても不思議がってましたよ。どうしてあんなに世話を焼いてくれたのかって」
「んーとね、初めて会ったときからクリフトと似てるとこあるなーって思って、気になっちゃったのよね」
「クリフトさん?……どうしてクリフトさんと似ていると気になるのですか?」
「え?」

あれ、なんでだろう……。

「……それですと、クリフトさんご自身のことは、一番気になるってことですか?」
「えーと、クリフトは、えーと……」

あれ、なんだろう。なんだか今、頭がまっしろになっちゃってる。

「ふふーん。天然同士の会話ってけっこうおもしろいわね。的を射てることすら無自覚なわけだし」
「おもしろがってる場合じゃ……まあ否定はしませんけど」

「えーと、えーと……」
「…………」

あ。やっと思いついた!

「ちがうの。クリフトに似てたのもあったんだけど、なんていうか、守ってあげなくちゃって思ったの。
ちょっと弱そうに見えたのね。
クリフトもよわっちいから守ってあげなくちゃって思ってて、きっとそれが重なったんだと思うわ。
だから気になったのっ」

ロザリーはきょとんとした顔でこっちを見てたけどふふって笑った。

「アリーナさんって、かわいらしいですね」
「え?なにが?」
「だって、クリフトさんの話になるといつもあわてているんですもの」
「えーそうだっけ?」

「アリーナさんは、クリフトさんと約束ごとをされることはあるのですか?」
「やくそくごと?」

「私、いつだったか、アドンにこう言われたことがあるんです。
たとえ廊下で何があっても部屋から出てこないでくださいって、ずっと隠れていてくださいって。
すぐ終わりますからって……。
ピサロさまにも隠れているようずっと言われていて……。
でも私、アドンがあなたたちと戦っていたとき、言いつけを守らないでお部屋から出てしまった……」
「……」

509従者の心主知らず 天然同盟 11/14:2017/05/12(金) 18:14:05 ID:5EK.IaJU
あのときの……。

「でも後悔はしていないんです。
もしあのとき出ていかなかったら、もしかしたら、アドンはあのまま……
あなたたちにも大きな傷を負わせてしまったかもしれないから」
「ん……」
「アドンにもピサロさまにもそのことだけはまだ言えていなくて……
言いつけを破ってしまったことは謝らないといけない、そう思ってはいるんですけど……」
「……」

「私も言いつけをやぶってお部屋にいなかったことあるよ」
「アリーナさんも…?」
「……私も姉さんの言いつけ守らなかったことありますし」
「まあ、ミネアさんも」
「いつのこと言ってんだか見当つかないわ」
「……私そんなに守ってなかったかしら」
「ま、そういうあたしなんてどんだけみんなの言いつけ守ってないんだかわからないけどねっ」
「まあ、マーニャさんもなのですか」
「自慢することじゃないでしょうに……」

みんなそうなのね。
私もクリフトが木から落ちて起きなかったときやお城の神父さまにお別れですって言われたときのことを思い出して言った。

「でも私も後悔してないわ。
もしあのときずっとお部屋にいたらクリフトは起きなかったかもしれないし
神父さまともお別れしなくちゃいけなかったかもしれないから。
神父さまが言ってたの。
自分であえてそうしようと思ってしたことはそんなに謝らなくていいって。
それよりもしてもらったことのお礼を言ったほうがずっといいって。
あのとき言いつけをやぶってもアドンはあなたのこと責めてなかったと思うの。
ピサロも責めてるの見たことないわ。
だからそのお礼を言ったらいいんじゃないかな。そのほうがロザリーも言いやすいと思うんだけど。
少なくとも私は言いやすかったわよ?」
「…………」

「はい、アリーナさんっ」

ロザリーがとっても嬉しそうに笑ったの。出かけるまえにもういちどアドンとお話ししてみますって。
お礼を言ってみますって。
なんだか私も嬉しくなっていっしょに笑った。マーニャとミネアも笑ってくれたの。みんなで笑顔になった。
きっとアドンももっと笑顔になってくれるはずだわ。

510従者の心主知らず 天然同盟 12/14:2017/05/12(金) 18:17:37 ID:5EK.IaJU
おまけ 従者同盟

ガシャァァンッ!!

「わああっ」
「クリフト…」
「え?あ、アドンさんでしたか。おはようございます。体の調子はいかがですか?」
「問題ない」
「そうですか。何よりです」
「クリフト…」
「……あのー、アドンさん、もう少し穏やかな登場はできなかったのでしょうか。
今、塔から飛び降りましたよね?あの窓、三階だったと記憶しているのですが……」
「問題ない」
「そ、そうですか」
「クリフト…」
「あー、えーと……何でしょうか…?」
「お前……アリーナとよく床を共にするそうだな」
「え?と…と?」
「……よく共寝をすると……」
「とっ…いきなり何を言い出すんですか!」
「アリーナから聞いた」
「ひめさまがっ!?」
「一つ、助力を賜りたい」
「ちょ、ちょっと待ってください!いったい何の助力ですっ?」
「アリーナは、その……積極的なのか?」
「はいっ??」
「お前に……抱きついたり、触れたり、するのか?」
「っ…っ???」
「教えてくれ…」
「……ア、アドンさん、ちょっと待ってください。いったん落ち着きましょう。ふぅ……。
話の流れがまったく見えてきません。つまり、最終的に何を知りたいのでしょうか……」
「…………」

「俺は……お、女と寝たのははじめてだからわからんのだっ女の心理というものはっ」
「なっ……わ、私だって女性の心理なんてわかりませんよっ」
「…………」

「お前も男ならさっさとアリーナに想いを告げろ!」
「人の事情も知らないでいい加減なこと言わないでください!あなたこそどうなんですっ!」
「それがわからんから聞いたんだろうが!ロザリー様はピサロ様の想い人なのだっ!」
「…………」

511従者の心主知らず 天然同盟 13/14:2017/05/12(金) 18:21:05 ID:5EK.IaJU
「女の、からだは……なぜあんなに、やわらかいのだ……」
「……それに、あたたかいですし、いい匂いもしますしね……」
「理性を保てというほうが無理だ」
「同感です」
「……いつもお前が先導しているのか?」
「?せん…?今何と言いましたか?」
「あー……エスコート?」
「……ああ……」

「……そうしたいのですが、気がつくと主導権は姫さまに握られています。
そもそも誘うのが姫さまですし」
「……そうか……。俺と同じだな……」
「…………」

「昨夜は最後までしたのですか?」
「っ…するわけないだろうっ!まだピサロ様にも許していなかったそうなのだ。それを、まさか、俺が……」
「……それはつまり、あなたの入る余地もあるということではありませんか」
「…………」

「お前はどうなのだ。アリーナとはどこまでいっているのだ」
「何もありませんよ。あったとしても、病の看病で薬を口移ししていただいたくらいです」
「……ふん、腰抜けが」
「人のこと言える立場ですか!あの方はサントハイムのお世継ぎなのです!
私は一従者にすぎないのです」
「…………」

「魔族は、血筋は優先せんぞ」
「…………」
「強い者、才ある者が上に立つのだ。いかに優れた者とて、その子孫も同じとは限らんからな。
王家だろうが平民だろうが次代を担う者の立ち位置は同じ。そうしてピサロ様は上に立たれたのだ」
「…………」
「それで成り立っている社会もある。覚えておけ」
「…………ありがとうございます」
「…………」

「これでもう発つのだろう?」
「ええ」
「お前とはまだ決着をつけていないからな、それまでは死ぬなよ」
「……姫さまを賭けてですか?」
「…………」

512従者の心主知らず 天然同盟 14/14:2017/05/12(金) 18:24:36 ID:5EK.IaJU
「違う、男の意地を賭けてだ。俺の心は常にロザリー様のものだ」
「…………」
「……まあ確かに、少しだけ揺らいだのは、事実だがな……」
「…………」

――お前の目がなければあのまま触れていた――

「アリーナあの女は無防備すぎるのだ!どこの馬の骨ともわからん男に平然と抱きつく!涙も流す!
だから」
「…………」
「お前がそばにいて、しっかり守ってやれ」
「…………はい」

「あ、クリフトー」
「アドン、そこにいたのですね」
「ウワサをすればなんとやらね」
「なんというタイミングなのかしら」
「え?」
「あ…」
「クリフトー、アドンとなに話してたのー?」
「アドン、私も少しお話ししたいことがあるのですが…」
「ほらほらナイトさん方、お姫さま方がお呼びよ」
「姉さん……」
「っ……」
「っ……」

「アドンさん、あなたはこういうとき、すぐ平常心に戻れる方ですか」
「……この上ない試練だな……。お前はどうだ」
「……この上ない試練ですね……」
「クリフトー?」
「アドン…?」
「もしもーし」
「姉さん…っ」
「…………」
「…………」

「「今行きます!」」
「おーふたりそろっていい返事」

513従者:2017/05/12(金) 18:28:09 ID:5EK.IaJU
核心をつかれてあわてたり頭が真っ白になったりするアリーナ
核心をつかれて取り乱したりしんみりしたりするクリフト
が思いつきやっと描けました…!
長きにわたりましたがピサロナイトでクリアリ(第一弾)、いかがでしたでしょうか。
サイドでピサロザ、ナイロザも進行していますがクリアリに必要な部分しか描いていないので飛んだり抜けたりしています。
流れだけはわかるようにしたつもりですが不足ありましたらどうかお知らせください。

短編集「知られざる伝説」ではロザリーはピサロを恋人と明言していますが
ヒーローズではピサロはロザリーを知り合いと濁して?いる点、
動植物や平和を愛するというエルフの性質から
互いに惹かれつつもまだ完全に恋仲には進展していない関係(ロザリーが無自覚)としてみました。
またアドンのベッドでのやりとりは完全オリジナルです。
もしイメージと違う方いましたらこの従者シリーズでだけはそんな感じでご容赦ください;

あと数投下で6章が一段落しますのでまた2章に戻ります。
サランの神父でクリアリにてアリーナがちょっとヘンになる回投下予定です気長にお待ちいただけたら嬉しいです。

長々と本当にありがとうございました。

514名無しさん:2017/05/13(土) 01:18:59 ID:JUgNQmls
乙です。
ここでアンドレアル登場ですか。
本体同然の幻影をいくらでも作れるなら各所にあっという間に伝達できるのでしょう。
飛べますし。

アドンに会いたいとロザリーからピサロに言わせるなんて、普通に考えたら地雷すぎます。
そういうところに気を回せないところにもアリーナのまっすぐな個性が見えます。

>>464
「心配してくれた」というより「スレの平穏のため空気に合わせてね」だったのかも…。
私も含め、願いをストレートに書かず丁重にオブラートに包む人は多いです。

まあこの場所は2chと違って平和です。存分にお書きください。
投稿できるときに投稿していただかないと、完結まであと何年もかかる予感が…。

515名無しさん:2017/05/14(日) 03:23:07 ID:smQogS42
区切りをつけるとはまことに乙!
果てしない長丁場でも区切りがあれば読了感を味わえるというものじゃ
その気配りには感服せざるを得ますまい

今までになく好みの分かれる作風になったのも個性というもの
色々な派生を見て新たな発見を楽しめるのも二次創作の醍醐味じゃ

投稿できるのなら惜しみなく投稿してくださればよろしかろうて
多く投下されるということは楽しみが増えることを意味するのですから

516従者:2017/05/16(火) 16:29:12 ID:Z9tHm25k
乙ありがとうございます。

>>514
はい、ここでアンドレアル登場です。その節は盛り上げていただきとても楽しかったです。
人外でいながらピサロのロザリーへの想いを理解できる彼(彼女?)ならば
クリフトのアリーナへの想いも即座に察すれる恋の上級者なのかなと考えてみました。

>アドンに会いたいとロザリーからピサロに言わせるなんて、普通に考えたら地雷すぎます。
確かにw
ソロの了承を得たあと戻ったらロザリーがまだもじもじしていたから後押ししつつ
結局二人で(というかほとんどアリーナが)ピサロに言いに行ったという光景が浮かびました。
あのセリフのあとのことは何も考えていなかったんですありがとうございます。

>「心配してくれた」というより「スレの平穏のため空気に合わせてね」だったのかも…。
でしょうね。
私も冗長でしたと伝えなるべく自重を心がけましたがたぶん今とさほど変わっていません;
ただ、当時はどちらかというとクリアリ作品そのものに目を向ける傾向があったようで、
対話スタイルに関してはその一言をいただいただけでその後叩かれたことはありませんでした。
見逃してくださった当時の皆さまにも感謝です。

>>515
ピサロナイトでクリアリ、初投下が約1年前……
読む人も大変ですよね。長々とお付き合いいただき本当にありがとうございます!
励みになります。

517従者:2017/05/16(火) 16:32:41 ID:Z9tHm25k
突然ですが私のイメージするクリアリは
アリーナの幸せを願いつつもその相手が自分だったらとも思うがゆえ嫉妬に思い悩むクリフト
クリフトが他者と息ぴったりだったり楽しげに話していたりするとなぜかもやもやするアリーナ

ピサロナイトでクリアリでいえば
アリーナはアドンに特別な感情を抱いているわけではない(言うなれば捨てられた子犬に向ける同情と似たようなもの)、
アドンもまた怪しい言動はあったが気持ちははっきりロザリーに向いていることを確認、安堵を覚えるクリフトとか

皆さんのクリアリ像はいかがでしょうか。
似たように捉えている方がいましたら嬉しく思います。

518名無しさん:2017/05/23(火) 03:54:25 ID:OK78NeRw
あの世界って、基本的には単一の宗教なんでしょうかね?
宗派すらある感じがしないんですけどね…
宗派の狭間で悩むクリフトとか悪くない気がしています

519名無しさん:2017/05/23(火) 10:50:07 ID:4LiGJ2lY
クリフトの台詞を見る限りではマスタードラゴンを信仰する一神教に見えますね。
サランやミントスでは信仰と恋愛との間で葛藤している台詞が聞けますが
レイクナバではすでに結婚している聖職者と一般人を見て神は祝福するという台詞が聞けます。
コナンベリーでも寄り添う二人を見て咎めるどころか拍車をかける台詞でした。
クリフトの中では神に仕える者でも恋愛していいのではという思いがあり
国や街によって恋愛を禁止している宗派?を見て悩むという感じはありましょうか。

520名無しさん:2017/05/29(月) 03:05:00 ID:uBeATIMs
はっきりとした宗派が出てこないんですよね。
無駄な設定を公開しちゃうとプレイヤーの気が散るからでしょう。

しかし信仰の対象であるマスタードラゴンに会っちゃうと、信仰が変質するような。
既存の宗教は竜の神様を想像によって偶像化しているはずですから。
本物を見たら「本物は違うよ」と思うのは当たり前です。
そこから宗教界で孤立するクリフトという図式もあり得るでしょう。

521名無しさん:2017/06/03(土) 19:34:06 ID:OPoRXKyY
宗教界で孤立するクリフトを見てアリーナが味方したり励ましたりするクリアリとか。

522名無しさん:2017/06/07(水) 23:51:48 ID:QizZ1VKQ
宗教に興味のないアリーナですが、だからこそ宗教界の常識に縛られないわけで、
宗教界で苦しむクリフトを支えやすいのかも知れませんね

523従者【5章:鬱注意】:2017/06/22(木) 13:34:12 ID:Z5vqYFE.
クリフトがマスタードラゴンに対して反応している台詞は見ないんですよね。
神も絶対の者ではないということを知って思い悩むクリフトを支えるアリーナというのもあるでしょうか。

PS版のセリフをなぞったSSアリーナ視点、山奥の村編「勇者」24レス分いきます。
6章続きのソロの行きたいところに行くまえにこちらを投下しておきたいと思い割り込み失礼します。
(このまえにも投下しておきたい分があるのですがそれは2章に戻ってからで;)
時期は5章、アリーナたちがソロたちと合流して間もないころのある夜、クリアリパートは10/24以降です。
今回全体にわたり鬱展開、ソロとの抱擁シーンもあるのですがどうしても外せず、何とぞ。
投下を二つに分けようか迷ったのですが切る場所もよくわからなくなったので一気に行きます。
ではどうぞ。

524従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 1/24:2017/06/22(木) 13:38:05 ID:Z5vqYFE.
ソロは時々いなくなる。そのことに気づいたのはまだ出会ってからほんの数日。

クリフトはもう助からないかもしれない、そんな私たちを助けてくれたのがソロたちだった。
ソロもデスピサロをさがしているとわかってそれなら一緒にって旅することにしたの。
けどある夜、ソロとお話がしたくてお部屋をノックしてもソロは出なくて。
扉の鍵は開いていてソロはいなかった。
それから何度かソロのお部屋をたずねてみたんだけどいないほうが多いことに気づいて……
思いきって聞いてみたらちょっと散歩してただけだって言われたの。
でも朝早く行ってもいないときがあって……。

ソロはどこに行っているの?ちゃんと戻ってきているの?

――ちゃんと寝ているの…?――

「ソロ?」

寝る準備もととのってお手洗いもすませてお部屋に戻ろうとしたらソロが階段を下りていくのが見えた。

「どこ行くの?こんな遅くに」
「あー、ちょっと散歩」
「え…」

また散歩?また……。

「ねえ。私もいっしょに行っていい?」
「…………」

「悪いけどひとりで散歩したいんだ。大丈夫。少ししたら戻るから」

ソロは向こうを向いたまま答える。私のほうはちらっとしか見てくれない。
なんだか落ち着かない様子、まるで早くひとりにさせてくれって言ってるみたい。
ソロ……。

「そっか。気をつけてね」
「ああ」
「…………」

ソロ……。
ソロはこっちを見ないまま外に出ていってしまった。

「…………」

ソロ……。

525従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 2/24:2017/06/22(木) 13:42:17 ID:Z5vqYFE.
「………………」

………………よし!
私は思いきってソロのあとを追うことにした。ソロのことが心配だから……。
私もそのまま外に出る。
外はわりとひんやりした。でも上着を取りに戻ってる時間はないわ。ソロを見失っちゃう。
ソロがまっすぐ門を出ていくのが見えた。急ごう。
パトリシア、寝てる。私は馬車のみんなに気づかれないよう姿勢を低くして進んだ。

「姫さま」

ふと声がして振り返るとクリフトがいた。

「クリフト…」
「…………」

クリフト、すっごくかたい顔してる……。

「後をつけるのはどうかと思いますが……」

…………。

「でも……」

ソロのことが心配……。

「…………」
「…………」

私はなんにも言えなかった。クリフトもなにも言わなかった。
そしたらクリフトがゆっくり上を向いたの。

「どうしても行くとおっしゃるのでしたら……」
「……」

クリフトは視線を戻して私をまっすぐ見た。

「どうか私もお供に」
「え…?」
「早く追わないと見失ってしまいます。さあ、急ぎましょう」

クリフトは自分の首にかけていたスヌードを外してこちらをって私の首にかけてくれた。
さっきまでひんやりしていたからだが一気にあったかくなった気がした。

526従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 3/24:2017/06/22(木) 13:46:40 ID:Z5vqYFE.
「……ありがとう……」
「……いえ」

クリフトは下を向いて返事する。そのまま向こうを向いた。

「参りましょう」
「……うん!」

私はクリフトといっしょにソロのあとを追うことにした。

馬車がないせいか静かに歩いているせいか、私たちは魔物に会うことなく追いかけられた。
ソロはどんどん丘をのぼってく。
西の国に行くまえに一度ブランカ王に現状報告したいって言ったのはソロ。
私もブランカの王さまとお話ししたことある、とってもおやさしくておおらかでステキな王さま。
少しだけお父さまを思い出させる王さま……。
ソロが会いに行きたいっていうのがなんとなくわかって私も行こうってみんなに声をかけたの。
あのときはなんとも思わなかったけど、ソロには他にも用事があったのかな。
丘の上に森が広がってきた。ソロは迷うことなく入ってく。私たちも急いで追う。
森がひらけた先にぽつんと家があった。ソロはまっすぐ向かってく。あれは、ソロの家…?

「今夜はあそこで休むのでしょうか」

クリフトも気になったみたい、木のかげから少し身を乗り出してのぞいてた。

「あ、出てきたわ」

ソロは家を出てそのまままっすぐ山をのぼっていった。
足どりはゆっくりだけどいっしゅんも迷いがない。よく知ってる場所なんだ。
私たちも気づかれない距離を保ちながらあとを追った。

どれくらい山をのぼったんだろう、また森に入ってだいぶ進むとまた少し視界がひらけてきた。
道なのかよくわからないせまい谷間を抜けさらに進んだ先でソロは立ち止まる。そのまま動かない。
ここがソロの目的地…?
ソロのあとをついていかなかったらきっとたどり着けなかった。すっごく歩いた気がするもの。
私はまわりを見わたす。なんにもない。向こうに何か立ってる、あれは……木……え?壁?え…?

「ソロ…」
「!!」

ソロが驚いてこっちを見た。
私、壁に見えるものが気になってずいぶん前に進んじゃってたみたい。

「ごめん…」

527従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 4/24:2017/06/22(木) 13:50:10 ID:Z5vqYFE.
ソロの眉にしわが寄る。信じられないって顔……。

「アリーナ…」
「ごめん…っ」

ソロはゆっくり上を向いて大きくため息をついた。そのまま向こうを向く。
きっと迷惑って思ってる……。大迷惑って……
でも……

「ソロ、ここって……」
「…………」

「俺の……」
「…………」
「故郷…」

ソロは小さな声でつぶやくように言った。

――俺の故郷…――

「ソロさん…」

クリフトも私のすぐ後ろまで来ていて消え入りそうな声でしゃべった。

「なんと、言っていいか……」
「……」
「私は、魔物に襲われたという村を見るのは初めてなんです。
こんな……」
「…………」
「ソロさん…っ」
「…………」

だんだん目が慣れてきてあたりがはっきりしてきた。
なんにもない……。
なんにも……
壁のように見えたのはやっぱり壁だった。建物のあと……ボロボロの建物のあと……。
毒々しい色の沼も見えた……至るところにできてる……イヤなにおい……。
月の光に照らされぶくぶくと泡立ってるところも見えた。ここがソロの故郷だなんて……。
人がいなくなっただけのお城とはちがう……

――魔物に、デスピサロに、滅ぼされた村……――

528従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 5/24:2017/06/22(木) 13:54:14 ID:Z5vqYFE.
「…………」
「……」
「………………」

ここにたくさんの人たちが眠っているのね……。
ここに……。
そしてその人たちの魂はみんな遠いお空で、あの世で、私たちを見てる。見守ってる……。

――お母さまのように……――

「ソロ……」
「…………」

ソロはずっと向こうを向いてる。肩を落として下を向いて……。
少しだけ見えた横顔はとても寂しそうだった……。

「ねえソロ……」
「……」
「ソロがそんな顔して落ち込んでたら、死んだ村のみんなもあの世で悲しむんじゃないのかな」
「…………」

私は思ったことをそっとソロに伝えた。

「みんな、ソロにそんな顔してほしくて死んだんじゃないんじゃないのかな……」
「…………」
「姫さま…」
「だからさ……元気だそうよ……。ねっ!」
「…………」

「お前に何がわかるんだよ」
「……」
「いいこと言ったような気になってんじゃねえよ」
「っ……」

ソロの言葉が冷たく突きささる。

「ごめん…」
「………………」

「お前はいいよな」

ソロは向こうを向いたまま話す。声が少し裏返って……

529従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 6/24:2017/06/22(木) 13:58:02 ID:Z5vqYFE.
「お前んとこはまだ生きてるかもしれないんだろ?死んだって決まったわけじゃねえんだろ?」

――まだ希望があるんだろ?――

「けど、俺は……」
「…………」
「お前に俺の気持ちなんかわかりっこしねえよ!!」
「ソロさん……」

…………。

「なによ……」
「……」
「わたしだって……っ」

ソロがゆっくりこっちを向いた。私はまっすぐソロを見る。

「生きてるって信じてる。ずっと信じてるわ。
けど、信じてれば必ず生きてるって保証はないの。もしかしたら生きてないかもしれない」
「姫さま……」

声が震える…。

「わかんない……わかんないのよ!!
きっと生きてるって思えば思うほどそうじゃなかったときのことも考えちゃって不安になる…っ
頭がおかしくなりそうなの!!」
「…………」
「死んでてもいいから早く姿を見せてほしいって、なんでもいいからはやく終わってほしいってっ、
そんなとんでもないことだって考えたことあるのよっ!!」
「姫さま…っ」
「…………」

胸が苦しい。息がうまくできない。涙で前もよく見えない……。

「あなたがどれだけつらいかは私にはわからないわ。
けどあなただって、あたしがどれだけつらいかなんてわかんないわよっ!!!」
「…………」

苦しい。くるしい……。
私はいっしょうけんめいソロを見た。ソロは……おどろいたような、泣きたいような……
ソロもくるしそうな顔してた。眉にしわが寄って……
ソロ……。
ごめん、ちがう、こんなことが言いたいんじゃない。ケンカしたくて追いかけてきたわけじゃないの。

530従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 7/24:2017/06/22(木) 14:02:15 ID:Z5vqYFE.
一緒に旅する仲間ができて本当に嬉しかった。
ソロに夜はちゃんと寝てほしくて、思ったこととかつらいこととかは話してほしくて……
言葉がうまく出てこない。

「どっちのほうがつらいかなんて、そんなので勝ったってぜんぜんうれしくないじゃない…っ」
「…………」
「つらいことだけに目を向けるの、やめようよ……」
「…………」

ソロはずっと泣きそうな顔してる。開いてた口をきゅって閉じて……。
ちがう、言いたいのはこれじゃない。
仲良くなりたいの。一緒に楽しく笑っていきたいの。
クリフトを助けてくれた、デスピサロに少しでも近づかせてくれた、ほんとうにうれしかったの。
だから……
言いたいことのはんぶんも言えてる気がしない。

「いっしょにいこうよ……」

私はソロに手を伸ばした。
いいことなんにも言えてる気がしない。ソロを傷つけただけかもしれない。
けどこれが今の私のせいいっぱい……。

「いこうよ……」
「…………」
「いっしょに。おねがい……」
「………………」

ソロが私に向かってきた。思いつめたような顔……ぶたれる!私はぎゅっと目を閉じた。
そしたら少しして何かが全身にぶつかってきて……
気づいたら私はソロに抱きしめられてた。すぐ後ろにクリフトがいることもわかった。

「ソロ…?」
「ごめん…」

ソロは私を抱きしめたままつぶやくように言った。

「お前はシンシアじゃないのにな……」

シンシア…?

「まって」

ソロが私から離れようとしたから思わず声をかける。

531従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 8/24:2017/06/22(木) 14:06:08 ID:Z5vqYFE.
「離れなくていいよ…」

離れてすぐ向こうを向くソロ……私はソロを後ろからぎゅってした。

「っ……」
「ソロ、だいじょうぶだから」
「……」
「姫さま…」
「だいじょうぶだから…」
「…………」

ソロはその場に座りこんでしまった。
肩が震えてる……。
いつもキリッとしててみんなを引っぱってってくれるソロ……
でも今はなんだかとても小さく見えた。

「…………」
「……」

ソロ……。

「……ったんだ……」

少ししてソロが独り言みたいにつぶやいた。
聞き取れないくらい小さな声で。

「ソロ…?」
「俺が弱かったんだ……」
「……」
「動けなかった」
「……」
「外ではみんなが戦ってたのに……」

――シンシアだって……――

「それなのに、俺……」
「……」
「俺、みんなが殺されて静かになるまで、一歩も動けなかったんだ…っ」
「ソロ…」
「俺がただ、弱かったんだ……」
「ソロ…っ」
「う……っ」
「…………」
「……っ……」

532従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 9/24:2017/06/22(木) 14:09:56 ID:Z5vqYFE.
「勇者ってなんだよ」
「……」
「なんなんだよ…」
「ソロ…」
「ふざけんじゃねえよ……」
「……」
「いきなり……なんにも……っ」
「…………」

――今まで黙っていたがわしたち夫婦はお前の本当の親ではなかったのだ――
――魔物どものねらいはお前の命!魔物どもはお前がめざわりなのだ――
――今は逃げて……そして強くなるのだ、ソロ!わかったなっ!――
――大丈夫。あなたを殺させはしないわ――
――さようなら、ソロ……――
――デスピサロさま!勇者ソロをしとめました!――
――も、もしやあなたは勇者さま!――
――勇者さま、私たちを導いてください――
――ソロさまが世界を救ってくれる勇者さまだったとは!――

――勇者さま――

「ふざけんなよお…っ!!」
「ん……」

――みんなが俺のことを勇者だ希望だって期待してくれてた――
――俺はいつかこの村の先頭に立ってみんなを守ってく人間になるんだって思ってた――
――ずっとそう思ってた。そのためにがんばってたんだ――
――今だって、デスピサロを倒して、村に帰って、カタキは討ったよって報告して…――
――世界を救うとか地獄の帝王を倒すとか、本当はそんなこと……――

「…………」
「…………」

ソロ、震えてる……。
私はずっとソロをぎゅってしてた。ずっとソロの肩に顔を寄せてた。

――どうか震えが止まりますように――

「…………」
「…………」
「今日は俺、戻らないから」

533従者の心主知らず 勇者【鬱注意】 10/24:2017/06/22(木) 14:14:11 ID:Z5vqYFE.
少しして落ち着いたのかな、ソロは立ち上がって私のほうを向いた。

「この下に木こりの家があるんだ。今日はそこで泊まるから」
「……」

さっきの家……。

「朝にはちゃんと戻ってるから」

ソロは私をまっすぐ見ながら言葉を続ける。

「大丈夫だから……」
「……うん……」

ソロはそれ以上なにも言わなかった。私も返事をしたきりなにも言えなかった。
さんにんでだまって山を下りる。さっきの家のところまで戻ってそこでソロとお別れした。
ソロは今度はちゃんとこっちを向いてくれた。気をつけろよってお見送りしてくれた。

「姫さま」

ブランカまで帰る途中クリフトが後ろから呼ぶ。

「姫さま…」

けど私はクリフトのほうを向けなかった。
たぶん涙で顔がめちゃくちゃだと思うから……。

「だいじょうぶ」

元気よくこたえたつもりなのに声が震えちゃった。もうめちゃくちゃでもいいわ。
私はクリフトのほうを向いた。いっしょうけんめい笑ってみせる。

「姫さま……」
「だいじょうぶだから」
「っ……」
「…………」

どうして……。
どうしてクリフトが泣くの……?
どうして……
クリフトは声を殺して泣いたの。手をぎゅってして……大粒の涙を流して……
クリフト……。

534従者:2017/06/22(木) 14:18:03 ID:Z5vqYFE.
すみません、今回鬱に加えて暴力、流血描写も少しだけ入っていました。
ご覧の際にはお気をつけください。注意書きが遅くなりすみませんでした。

535従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 11/24:2017/06/22(木) 14:22:28 ID:Z5vqYFE.
考えたくなかった。
お父さまが、お城のみんなが、死んで見つかったときのことなんて。
一生かけても見つからなかったときのことなんて……。
けど、時がたっていけばいくほどどうしても考えてしまうの。
もしかしたらお父さまも、大臣も、神父さまも、侍女も、料理のおばさんも、兵士たちも、みんな……
いやだ!考えたくない!!

「クリフトー……」
「はい、姫さま」
「いっしょに寝て……」
「………………」

「はい、姫さま」

クリフトは少し間を置いたけど私を見て返事してくれた。

ブランカに着いてすぐ宿屋へ。
顔を洗ったり手足をふいたりする元気はもうなくて、私はまっすぐお部屋に向かった。
クリフトも静かについてくる。
そのままクリフトをお部屋に招いた。クリフトは胸に手を置いて頭を下げたあとお部屋に入ってくれた。
わたし今、どれだけめちゃくちゃな顔してるんだろう。
気になったけど手と顔を軽くふいただけで終わりにしちゃった。
クリフトがいるからかな、なんか安心してるみたい。

「……」
「…………」

あ、クリフトがかけてくれたスヌード外さなくちゃ。

「これ、ありがとう」

スヌードをクリフトに返そうと思ったけどこれから寝るんだからクリフトも脱ぐだけよね。
私はスヌードを棚の上に置いた。パジャマのしわをととのえてクリフトに声をかける。

「クリフトも脱いで」
「…………」

クリフトは立ったまま動かない。

「クリフト?」
「……姫さま……」
「ん?」

536従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 12/24:2017/06/22(木) 14:26:49 ID:Z5vqYFE.
クリフトは口もとをきゅっと結んだ。私を見たり下を見たりしてる。
なんだろう、私はクリフトの服を脱がそうとベルトに手をかけた。

「…………」

――いけませんわ。私は神に仕える身――

クリフトが手で私を止めた。一度部屋に戻って身を清めてまいりますって。
すぐ戻りますって。
クリフトは静かに、けど急ぎ足でお部屋を出ていった。お部屋がいっしゅんしんとなる。
私もなんとなくくみ置きのお水で顔を洗ってからだをふいてみた。パジャマの埃もしっかり払う。
そしたらお部屋をノックする音がして帽子と肩のベルトだけ外したクリフトが戻ってきた。
手に持ってた帽子とベルトをゆっくり棚に置く。槍もすぐそばに立てかけて。
さっきと変わらずかたい顔してるクリフト。
私は脱がないのって聞いてまたベルトに手をかけてみたらクリフトもまた手で私を止めた。
自分で外しますっていってゆっくり服を脱ぎ始める。なんだろう。なんかヘンなの。
私も侍女に服を脱がせてもらったり着せてもらったりしたけど手で止めたことなんかなかったわ。

「…………」
「……」

そういえばクリフトといっしょに寝るの久しぶりなんだ。
クリフトが倒れたときもいっしょに寝てぎゅってしたかったんだけど私は寝相が悪いから
寝てる間に蹴ったり殴ったりしたらクリフトが死んじゃうと思って我慢してたの。
今クリフトは普通に動いてる。しゃべってる。寝たきりじゃない、熱もない、本当にもう大丈夫なんだ。
やっといっしょに寝られるのね。

「…………」
「……」

上着を脱いで白い服だけになったクリフトがゆっくりこっちを向く。
なんだか思いつめたような顔……なんだろう。さっきからなんなんだろう。

「クリフト…?」
「……姫さま……」
「ん…?」

クリフトがまた胸に手を置いた。

「私が今ここにいるのは、従者として、もしくは幼なじみとして、姫さまのお望みを叶えるためでございます。
決して、決して他意はございません」
「…………」

537従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 13/24:2017/06/22(木) 14:31:04 ID:Z5vqYFE.
クリフトは静かにしゃべった。まるで独り言みたいに。
タイってなんだろう。クリフトは何が言いたいんだろう。なんだかよくわからない。

「クリフトー」
「……はい、姫さま」
「難しいことよくわかんない」
「あ…はい…」
「クリフト、こっちに来て」
「…………」
「はやく寝よ…?」
「………………」

「はい、姫さま」

やっとクリフトがこっちに来てくれた。

ふたりでベッドに座っていっしょにお祈りする。お祈りは私たちの日課。
クリフトがちょっと離れて座るもんだから私から寄ってってくっついたままお祈りした。
姫さまは奥へっていわれて先におふとんに入る。クリフトはあっちに行っちゃった。
え、どこ行っちゃうの?燭台の前で何かしてる。あ、明かりを消すのか。
少ししてお部屋が一気にまっくらになった。
だんだん目が慣れてきてクリフトがゆっくりこっちに近づいてくるのがわかった。
私はおふとんを開けてクリフトを招く。

「はい」
「…………」

クリフトは失礼しますといっておふとんに入ってきた。ひじをついて足を伸ばす。
クリフト、おっきいな。男の人は背が高いし肩幅も広いからおっきく見える。
そういえばソロもおっきかった。ソロも男の人だものね。なんだかやっぱりくやしいな。
あ、クリフトまくら持ってこなかったんだ。あ、そっか。
クリフトがついたひじを少し伸ばしたから私はまくらを外して頭を上げた。

「…………」
「……」
「……?」
「あれ?うでまくら?」
「え?」

クリフトがまたひじを曲げちゃったから私は宙ぶらりんの頭のまま聞いた。

「あ、しないの?」
「え、あ……ど、どうぞっ」

538従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 14/24:2017/06/22(木) 14:35:45 ID:Z5vqYFE.
クリフトが慌ててうでを差し出す。
そのしぐさがなんだかこっけいで私は思わず吹きだしちゃった。
さっきまでの重苦しいクリフトがいっしゅんでどこかにいっちゃったんだもん。
やっぱりいつものクリフトだわ。

「はい」
「は……」

外したまくらをクリフトに渡して私は差し出されたうでまくらに頭を乗っけた。
うん、やっぱり思ったより寝心地悪くないわ。
クリフトもしばらく頭を上げてたけどやっとまくらにぽふって置いた。

「……」
「…………」

クリフト、またちょっと離れようとしてる……?なんだかなあ。
いっしょに寝るのイヤじゃないっていってたしクリフトからお願いしたこともあったくらいなのに。
いつも何を遠慮してるんだろう。私は思いきってぎゅってした。

「っ…姫さま……」
「こうすると安心するから」
「………………」

そしたらクリフトも空いてる手で私をぎゅって返してくれた。
なんだか全身包まれた気分。今夜はぐっすり眠れそう。

「…………」
「……」
「姫……さま……」
「んー」
「…………」
「クリフトあったかーい」
「え……」

私はもっとクリフトをぎゅってした。クリフトがちょっとびくってなる。強くしめすぎちゃったかな。
少しだけゆるめてみる。

「…………」
「……」
「…………っ」

そしたらクリフトももっとぎゅってしてきた。
ちょっと強引なカンジ……さっきのお返しかしら。

539従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 15/24:2017/06/22(木) 14:40:20 ID:Z5vqYFE.
「…………」
「…………」

そういえばソロにもぎゅってされたんだ。ソロもちょっと強引で……なんで今思い出すんだろう。
てっきりぶたれると思ってた。ソロはあのとき何を思ってたんだろう。
なんていってたっけ……お前は……そう、シンシア、お前はシンシアじゃないのにっていってた。
シンシア……

「姫さま……」
「んー」
「…………」

「姫さまは、ソロさんのことを……」
「え?」
「………………」

クリフトはその先をなかなか言わない。
もしかして私が今ソロのこと考えてたの、わかったのかな。口に出してたのかな。
私はクリフトを見た。
クリフトも私を見てたけど目が合ったしゅんかんそらしたのがわかった。

「いえ、その……」
「?」

「ソロ、だいじょうぶかな……」
「…………」

「わざわざあの家に出向いてまで泊まろうとするのですから安心できる場所なのだと思います」

きっと大丈夫ですよ、クリフトは静かにそう答えた。

「そっか。そうよね」
「………………」

クリフトの胸もとに顔をうずめる。

「っ…」

クリフトほんとにあったかい。いいにおいがする。いつものクリフトのにおい。
なんでだろう、ほんとにすっごく安心する。私はそのまま目を閉じた。

「…………」
「…………」

540従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 16/24:2017/06/22(木) 14:45:13 ID:Z5vqYFE.
私はソロのために何ができるかな。どうしたら笑ってくれるかな。
これからのことを考える。いっしょうけんめい考える。
そうすると私も元気でいられるの。
時々今までのことを思い出しちゃって落ち込むときもあるけどそんなときはクリフトが……
そう、クリフトがこうしてそばにいてくれるからなんとかやってこれたの。
クリフトのおかげ……
私、もうひとりじゃなんにもできなくなっちゃったのかな。そういうことなのかな。
くやしいな……。

「……姫さま……」
「んー……」

クリフトもひとりじゃなんにもできなくなっちゃうことあるのかな。
誰かがそばにいないとダメになっちゃうことあるのかな。
神さまとかそういう目に見えない人じゃなくて……
もしかして、私がいないとダメになっちゃうときなんてあるかな。あるのかな。
あの怖い夢じゃなくて……

「…………」
「…………」

ちょっとくらいそうであってほしいな。
私ばっかりクリフトがいなくなったらどうしようって慌てて泣き叫んでじいになだめられて、バカみたいだもの。
ちょっとくらい……

「……姫さま…?」
「…………」

あれ?今クリフトなにかいった?

「んー……」
「…………」

あれ?なにもいってないわよね?あれ…?

「…………」
「…………」

なんだか眠くなってきちゃった。ソロの村までけっこう歩いたから疲れたのかも。
もう目が開けられない。ねむい。

「…………」
「………………」

541従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 17/24:2017/06/22(木) 14:49:20 ID:Z5vqYFE.
ねむい……。

「……姫さま……」
「………………」

ねむ……。

「………………」
「…………」

…………。

「………………」
「………………」
「…………姫さま…………」

――ただあなたの望むままに――

クリフトにもういちど抱きしめられた気がした。


「ちょっとあんたたち、何やってんのよ!!」

マーニャの声が聞こえた気がしてはっとした。私、寝ちゃってた…!
クリフトは?クリフトがいない…!?
昨日ブランカに帰ってからクリフトをお部屋に招いていっしょに寝て……
クリフトが私をぎゅってしてくれたからすっごく安心できてそのまま寝ちゃったの。
クリフトは!?さっきのマーニャの声……
私は着替えもしないでお部屋を飛び出した。急いで階段をかけ下りる。

まだ時間が早いみたい、外には誰もいなかった。
クリフトとソロが門から少し出たところで向かい合ってるのが見えた。

「どうしたの!?」
「アリーナ」

マーニャが困った顔して私を見る。

「あのバカふたり、なんとかしてよ。あたしまだ寝てたいのに」

私は改めてふたりを見た。
ソロ……すっごく怖い顔してる……。
クリフト……まって、口から血がにじんてる!?
クリフト…!!

542従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 18/24:2017/06/22(木) 14:54:06 ID:Z5vqYFE.
「お前はいいよな」
「……」
「大事な大事なご主人さまがそばにいてさ」
「ソロさん…」

え…?

「回復しろよ」
「……」
「お前の得意技なんだろ?」
「…………」

「回復は、しません」
「……」
「魔法でかんたんに治せるような傷など大したことはないんです」
「…………」

――あなたは、魔法では治せない傷を……――

「負って……」
「…………」

「ムカつくんだよ…」
「……」
「そうやって……」

――誰もがみんな知っていた、一番大事なことを俺に教えてくれなかった――
――教えてくれたときにはもういなかった――
――俺の何をわかってくれてたんだよ。何を守ってくれてたんだよ…っ――

「そうやってわかったような振りされんのが一番ムカつくんだよ!!」

ソロがまたクリフトを殴った。クリフトが地面に叩きつけられる。

「ソロ!!」

止めなきゃ……早く止めなくちゃ……!!

「…………」

どうして……
どうして止めに入れないの……?
足がうまく動かない……。
クリフトは口をぬぐいながら起き上がった。

543従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 19/24:2017/06/22(木) 14:57:39 ID:Z5vqYFE.
「確かに私では、ソロさんの本当のお気持ちを察することはできません……」
「……」
「癒して、さしあげることも……」
「…………」

クリフト……。

「ですが……たとえ大切な人を失ったからといって……」
「…………」
「だからといって、誰かを傷つけていい理由にはならないんですっ!!!」

クリフトが大声で叫んだ。ソロがいっしゅんびくっとする。
私もなにかがビリッと走った。

――死ね――

「そんなことをしても、後悔しか残らないんです…っ!!」

――すべて死んでしまえ――

「残らなかったんです…っ!!」
「…………」

――まだいたのか――
――死をもって償え――

「ですから…っ!」
「……」
「ですから……っっ」
「…………」

クリフト……。
後悔しか残らなかった…?
クリフトも大切な人を失ったの…?いつのことを言っているの…?

――だれのことを、言っているの…?――

「どうか…」
「……」
「どうかあなたまで、闇にとらわれないでください…っ」
「…………」
「どうか……」
「…………」
「どうか……っっ」

544従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 20/24:2017/06/22(木) 15:02:04 ID:Z5vqYFE.
クリフトが泣いてる。すっごく泣いてるの……。
クリフト……。

「……どうかっ……っ」
「…………」
「……っ……」
「………………」

――つらいのはあなただけじゃない――

「…………っ」

――よいか、ソロ。強く正しく生きるのだぞ――
――たとえなにが起こってもな……――

「う……っ……」

ソロの顔がくずれてく。くるしそうな顔……。

――結局悪いのは、弱くてデスピサロたちに立ち向かえなかった……――
――デスピサロがねらってたのは俺だったのに…!――
――かくれろ、逃げろって言葉にかまけてほんの一歩も動かなかった……――
――結局悪いのは……――

――俺――

「ああああぁぁぁあああ……っ!」
「ソロさん…っ」
「うあああぁぁああああああ……!!」

クリフトがそっと手を伸ばす。そのままソロをやさしく包みこんだ。
ソロはクリフトの肩に顔をうずめた。ずっと声をあげて泣いてる……。
泣いてる……。
どれだけの間そうしてたんだろう、ふたりはずっと涙を流してた。

「…………」
「…………」
「もう、アリーナは泣かさねえ」
「…………」
「泣かさねえから」
「…………はい」

545従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 21/24:2017/06/22(木) 15:06:31 ID:Z5vqYFE.
ふたりが小声で何か話してる。なんていってるんだろう、聞こえなかった。
お話が終わったみたいでふたりともこっちを向いた。
すかさずマーニャがケンカは終わった?はい仲直りね、バカ同士、とふたりの肩をぽんぽん叩く。
クリフトはすみませんって謝ってたけどソロはへの字口をしてた。
マーニャ、すごいな。私、なんていえばいいかぜんぜんわからなかった。
ソロがクリフトにベホイミする。クリフトが慌ててお礼を言った。
そしたらソロはちょっとびっくりして。ふっと笑っていらねえよって。そういうのいらねえからって返した。
ソロが少しだけすっきりした顔してるように見えた。
クリフトのおかげ……?
ソロは、自分が勇者だってことに納得してないんだ。なるべくしてなったわけじゃないんだ。
いつもキリッとしてるのは、勇者だからじゃなくて、みんなに勇者だって期待されてるから……
ほんとうは無理してる……?ずっと、もやもやしてるのね……。
なんにも解決してない、なにかできたわけじゃない、けど少しだけソロのことわかった気がした。

ソロがお部屋に戻りにいったから私も着替えてくるっていって急いでお部屋に戻った。
ソロの後ろ姿を見てなにか声をかけたかったけどなんにも浮かばなかった。
私はやっぱりソロのつらさをわかることできないのかな……。
着替えて顔を洗ってお祈りしてまたお部屋を飛び出す。
クリフトはまだ下かなと思って階段を下りてったらクリフトとマーニャが玄関口でお別れしてるのが見えた。

「クリフト?」
「姫さま」

クリフトが慌てたようにこっちを向く。マーニャはもう馬車に戻っちゃったみたい。

「マーニャと何か話してたの?」
「…………」

なんだかクリフトがすごく落ち込んでるように見える……。

「クリフト…?」
「…………」
「どうかしたの…?」
「………………」

クリフトはぼんやり遠くを眺めたあとゆっくり下を向いた。
クリフト……私はクリフトが何か言ってくれるまでじっと待った。

「自分の為すことすべてが正しいとは思いませんが……」
「……」
「人の心とは、難しいものですね……」
「…………ん……」

546従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 22/24:2017/06/22(木) 15:10:40 ID:Z5vqYFE.
…………。

「クリフトー……」
「……はい、姫さま」
「さっきソロとケンカしてたとき、後悔しか残らなかったって言ってたわよね」
「…………」

私はあえて話題をそらしてみた。
マーニャと何の話をしてたのか気になるけど、なんだか聞くのはいけない気がして……
そらしちゃった。

「ああ、言ってましたっけ……」

クリフトは静かに返す。

「それ、いつの話…?クリフトの大切な人って……」
「…………」

「それは……」
「…………」

「クリフトの、お母さま…?」
「………………」

――いやだあっ!!いやだああああっ!!!――
――姫さまああああっっ!!!!――

「………………」
「…………」
「……なんと、申し上げればよいか……」

クリフトは下を見たまま答えない。
こっちのほうが聞いちゃいけない質問だったのかな……。

「いつか……いつかお話しいたします」
「…………」
「ですから今はまだ……どうか、秘密にさせていただけませんか…?」
「えー……」

秘密……。

「私の、知ってる人…?」
「…………」

547従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 23/24:2017/06/22(木) 15:14:28 ID:Z5vqYFE.
「はい、とてもよく……」
「…………」

「女の人…?」
「…………」

私はなぜか話を終わらせたくなくて、立て続けに聞いてしまった。
クリフトは黙ってる。すぐ答えない。何か考えごとしてるみたい。

「はい」

少ししてクリフトは静かに答えた。

「そう…」
「はい…」
「…………」

「いつかは教えてもらえるのね?」
「……はい」
「マーニャとなに話してたのかも教えてもらえる?」

すかさず聞くとクリフトは顔を上げて私を見た。
私も目をそらさずクリフトを見る。

「……はい」
「…………」

「わかったわ」
「……ありがとうございます」

クリフトは私に頭を下げた。胸に手を置いてまっすぐ……。
お話はそれで終わった。

私の知ってる女の人……やっぱりクリフトのお母さま?それとも……?
だれなんだろう。なんでこんなに気になるんだろう。
いつかは教えてもらえる……それはいつなんだろうな。
これから向かうのは西の国。キングなんとかっていってた。初めての場所だわ。
ライアンて人がソロをさがしているんですって。
ライアン……クリフトに言われて思い出した、エンドールの旅の扉で会った人。
あのときなぜか気になった人……また会えるんだわ。
昨日の今朝ですっきりしないけど気持ちを切り替えなくっちゃ。
ソロだってもやもやしたままがんばってる。よし、私もがんばろう!

548従者の心主知らず 勇者【鬱・暴力・流血注意】 24/24:2017/06/22(木) 15:18:21 ID:Z5vqYFE.
荷物をまとめて出かけるしたくもととのって、私たちは馬車の前に集まった。
ソロはいつもと変わらないキリッとした顔でトルネコと地図を見てる。
西の国に行くための経路を調べてるみたい。
クリフトもいつもと変わらず私の後ろに控えてた。
じいもマーニャもミネアも変わらない。昨日のことを知ってるのは私とクリフトだけなんだ。

「ヒヒン」

パトリシアが小さく鳴いたと思ったら私を見てた。なんだろう。なんていったのかな。
あ、もしかして私が昨日ソロのあと追いかけたの知ってた…?
パトリシアはそれ以上なにもいわないでまっすぐ向いちゃった。もうこっちを見てくれない。
うーん、わかんないや。
経路が決まったみたい。ここから船で大陸沿いに進みながら西の国を目指すって。
自分たちの船で旅をするなんて初めてだわ。なんだかわくわくする。
今度こそマストのてっぺんまで登るわ!前に船に乗ったときはできなかったから。
よし、目指すは西の国!

549名無しさん:2017/06/24(土) 01:35:11 ID:3t91cNaA
乙とか色々書いて投稿のボタンを押したらブラウザが落ちました。
心が折れましたが、この一言だけは書き残しておきます。

「乙です」

550名無しさん:2017/06/25(日) 15:13:18 ID:eDoZi91s
乙です。

ああいう境遇の人たちの心を私が描くと、リアルな闇を描かざるを得なくなって泥沼化します。
ミネアのようなカウンセラーがいれば解決は不可能じゃないんですが、終盤まで尾を引くこと請け合い。

一話完結で行けるのはすごいと思います。
そんなに簡単に分かり合えるわけがないだろと思っちゃいましたが、拳で語り合う男の友情ってのは存在し、
むき出しの殴り合いから心が通い合うことは割とあることだったりします。
女性的な感性に男性的感性を若干取り入れた作風なんでしょうね。

551名無しさん:2017/06/29(木) 23:32:07 ID:t5QoWJ6M
ここでも乙という言葉を贈らせていただこうかの

遠慮は要りませぬゆえどんどん投下なさればよろしいのじゃ
完結した後には心行くまで推敲した版を時系列で再投下もよろしかろう
いつになるかは知りませぬが完結を楽しみにせざるを得ますまい

552従者:2017/07/06(木) 15:05:56 ID:YWldpXWg
乙ありがとうございます。続きをすぐ投下できそうになく、今回レスだけで失礼します。
いろいろミスが……>>538の2行目、笑うときのふくは「吹く」ではなく「噴く」でしたね。
また、よく考えたら町に入るときは4人でも宿代は全員分払っている件。
あれです、パトリシア及び馬車の見守り番を夜も交代でやってるとかそんな感じで補完いただけたらと;
最後に、今回の殴り合いでソロとクリフトが分かり合えたわけではないのです。
ただ、こうした生き死にの世界で信念を持って生きている人というのは少なからず自分に恥じない生き方をしている人ではないかと。
次回の6章続きで多少は補完できるかもしれません。
>>550さんのリアルな闇も拝見したいです。そこで描かれるクリアリはどんな作風でしょうか。

553名無しさん:2017/07/11(火) 04:31:56 ID:FbyO/sGY
暑くなってきました。
皆様、熱中症にご注意ください。

クリフトもアリーナも、砂漠とかで熱中症になりかけたりしたのかも。
ブライ様は帽子を着用なさった方がよろしいかと。

554名無しさん:2017/07/12(水) 01:25:32 ID:wVnoHSRQ
仏教のお坊さんは夏でも厚着ですが、クリフトの法衣には夏服があるのかな・・・

555名無しさん:2017/07/12(水) 23:17:46 ID:tLt84B02
カトリック教会では季節や祝日によって服の色を変えるのだとか。
シスターは夏服と冬服で色が同じでも微妙に違うとか。
半袖の神父とか見たことないからもし夏服があっても生地が薄いだけなのかな。
アリーナのほうが夏は薄着になりそうだね。すでに腕まくり?してるし。

556名無しさん:2017/07/16(日) 05:00:09 ID:46Nlm8ao
熱中症対策に水分補給、これ大切!
砂漠越えに馬車が必要って何のこっちゃって思ってましたが、馬車に水を積むってことなんですかね?
半日もあれば徒歩で通過できる程度の砂漠だった気がするので、馬車なしで行ける気もするんですが…

557名無しさん:2017/07/29(土) 01:35:35 ID:vPUzXPqg
本格的に暑くなってきましたね。
皆様、食中毒にはお気を付けください。
昼に作った料理が夕方まで無事とか思わない方が良いですよ。

ドラクエ4の世界だと食べ物が腐る気はしないですね。
お弁当が永遠に腐らないんですから。
ネネさんの製造技術が優れすぎているのかも知れませんが。

558名無しさん:2017/07/29(土) 13:53:40 ID:IftSqn9I
トルネコのダンジョンでは
腐ったパンを拾って食べたら毒にあたることがあったような

559名無しさん:2017/07/29(土) 19:00:12 ID:sAkmBXTk
ややこしくなるので、そっちのダンジョンの世界には触れるのを避けましたが…。

トルネコのパンって、高温多湿+時間経過で腐るものでしたっけ?
普通のパンが腐ることはあっても、何かイベントがあって初めて腐るものだったような。
我々の考える腐敗とは別の概念な気がしますけど、どうなのでしょうね。
トルネコが腐ったパンを食べても、腹を下すかと言えばそうでもないですし。

そもそも具のないシンプルなパンが腐敗するのは難しい気も…。
カビは生えますが、よほど水分が多くないと腐敗しづらい気がします。
あの世界の腐敗って何なのでしょうね。

560名無しさん:2017/07/31(月) 00:09:37 ID:VtEboBNo
不思議なダンジョンは物理法則が違う別世界と考えた方が良いかと・・・

561名無しさん:2017/07/31(月) 06:14:22 ID:RSvK.Nw.
アリーナの手料理vs腐ったパン

562名無しさん:2017/07/31(月) 23:24:38 ID:Ep87dGgw
クッキーを作ったら黒焦げ
ケーキを作ったらめちゃくちゃ
アリーナのお茶を飲んだら昇天
失神するほど地獄の味
キアリー必須
パデキア味

アリーナの料理は色々な描かれ方をしてきました

逆に、美味しく料理するアリーナという切り口でSSがあってもいいですね
一般市民に紛れて暮らすとか、料理上達の経緯とか

563名無しさん:2017/08/18(金) 03:36:32 ID:/T/w.Bfw
関東地方では雨天続きで夏なのだか梅雨なのだか分からない今年。
家具の後ろにも風を通さないと壁一面にカビとかあり得ますのでご注意を。

ドラクエ4の世界では、雨の日は傘を使うのでしょうか。
勇者御一行様も戦闘時以外では傘を使うのでしょうか。
傘があれば相合傘もあり得ますね。
クリアリと傘…今まで見たことのない組み合わせですが案外悪くないのかも。

564名無しさん:2017/08/26(土) 14:19:56 ID:P1RPb4t6
「あー雨降ってるー。さっきまで晴れてたのに」
「姫さま、こちらをお使いください」
「え、なんで傘持ってるの?」
「先ほど鳥が低く飛んでいたもので雨になるかと思い用意を……」
「えー?なんで鳥が低く飛ぶと雨になるの?」
「雨の前は湿度が上がるので空を飛ぶ羽虫の羽根が重くなり低く飛ぶようで……」
「うん、わかったわ。行きましょう」(バサッ)
「」
「あれ、クリフトの傘はないの?」
「いえ、私はこれで充分です。両手を空けていたいもので」
「この傘けっこう大きいわ。一緒に入りましょ?」
「えっそれはその…」
「入るの!」
「は、はい。では私が傘を持ちます」
「両手を空けたいんじゃないの?」
「……持ちます!」
「ちょっとクリフト、肩が濡れてるじゃない。もっと傘をそっちにやりなさいよ」
「いえ、それでは姫さまが…」
「っもう、じゃあもっとつっくけばいいんだわ」
「あの、姫さま…!」
「こうすれば私もクリフトも濡れないわ」
「……!」
「まだ回ってないお店がたくさんあるのよね。早く回りましょう」
「……!!」
「ねえクリフト、あのお店とってもおいしい匂いがするわ。行ってみない?」
「はい!姫さま!(ああ、願わくはこの時間が少しでも長く続きますように…)」

565名無しさん:2017/08/27(日) 18:20:13 ID:nGZnieU6
「ブライ導師様、そのような話を聞いてはおりません」
「聞いておったら王宮にお主は奉職せんかっただろう」
 クリフトはブライの前に狼狽した顔で立っていた。
「無論です。まだ私は若輩者ですから修業したいのです。まだ聖地巡礼もしてませんし、まだまだやり残した事あるんです。だから勘弁して下さい」
「儂としても姫様にさっさと婿を迎えてもらって、楽隠居と行きたいものでな」
「そんな身勝手な。しかし固辞致します。それに私より相応しいお方がおられます」
 ブライの涼しげな顔に対して、クリフトは至極真面目な顔で言葉を返した。
「もう話になりません。転属届け出を出させて頂き、今回の異動は無効にして抱く所存です」
「それは困る。せっかくお父様にお願いしたのに。クリフトが届けを出す前に既成事実作っちゃいましょう」
「姫様!! 」

周囲が押せ押せで引っ付けようとするクリアリネタを気まぐれのように投稿して、はぐれメタルのように逃走

566名無しさん:2017/08/31(木) 21:31:23 ID:nw4BaoGo
ただでさえゆったりなスレなのにはぐれメタルで逃げられては追いかける隙もなし
本当は嬉しいけど一生懸命立場を貫こうとしている照れ隠しなクリフトなのか
信仰にしか関心がなく姫はあくまで姫であると割り切ってもいるストイックなクリフトなのか
アリーナのほうがもっと近づきたいと思うようなストイックリフトもいいね!

567名無しさん:2017/08/31(木) 23:51:49 ID:odCRlWiU
乙です!

傘は何気に恋愛アイテムですがドラクエでは見かけないような
ゲーム内では描かれなくても馬車には積んでるのかも
無尽蔵に荷物を収納できる袋があれば傘くらい持ってますよね

本人よりも周囲が積極的という珍しいパターンも面白いものです
ブライさんが後押ししてくれたら心強いです
色々なクリアリが楽しめるのはいいですね!

568名無しさん:2017/09/21(木) 21:55:15 ID:Wlpex1ic
アリーナのほうがクリフトのこと気になってて幼いころみたいに仲良くやりたいと思ってるんだけど
クリフトのほうはクソ真面目でしれっとしてて仕事一本で全然取り合わない。
けどたまに社交辞令なのか本気なのかよくわからない優しさを見せるものだからアリーナは嬉しくなって
もっと近づこうとしたらまたしれっと返される。いつになったらクリフトと仲良くできるんだろう。

てな感じのクリ←アリ誰か描いてくれませんか。

569名無しさん:2017/09/21(木) 23:55:55 ID:JPLUWk/U
あらすじが書かれれば肉付けくらいはできるかも。
全然違う話の流れに改変するかも知れませんが。
得手不得手があるのでお応えできるとは限りませんけどね。

570名無しさん:2017/09/26(火) 09:32:56 ID:JuKD3592
あらすじを書くのが難しいんですって。例えば

自分の誕生日は国を挙げて祝ってもらってたけどクリフトの誕生日を祝った記憶がない。
何とかどうにか誕生日を聞きだしてこっそりプレゼントを渡すも下々の者と関わっては父上に叱られます、お気持ちだけと返される。
どうしても受け取ってほしくてやいのやいのやってるうちにプレゼントが壊れたりブライが飛んできたり。
アリーナはプレゼントを床に叩きつけて部屋に駆けこんで泣きじゃくる。
次の自分の誕生日、あれからクリフトとなんにも進展ないし憂鬱になってたらクリフトから思わぬプレゼントのお返しが…?
とか

おてんばなアリーナはよくケガをする。すり傷切り傷は毎度のことでたまに打ち身や捻挫をすることも。
その度にクリフトが飛んできてお説教しながら手当てする。
お説教がなければいいのにと思いながらはいはいと答えて手当てを受けるアリーナ、本当はクリフトは自分のやること中断して
こっちに飛んできてるんだから迷惑してるんだろうな、だからお説教するんだろうなと思っていた。
あるとき自分で手当てするからいい、いつも時間つぶされて迷惑でしょとクリフトに言ったらまったくですと返しながらも思わぬ返事が…?
とか。

けどそんな思わぬことが度々起こっても次の日になるとまたしれっと真面目でお説教なクリフトに戻ってるからがっかりな感じな。
あらすじ書くので力尽きました。。。

571名無しさん:2017/09/26(火) 23:19:21 ID:QHdwcI0M
思いの外素敵なあらすじが出てきて驚愕です
そこまで作れるのでしたら書けるに違いないと思ってしまいます
ちょっと台詞を足す程度でもSSとして成立しますからね…

572名無しさん:2017/09/28(木) 02:12:10 ID:CiDN5.oU
あらすじだけでも心を動かれずにはいられないクオリティ
これを乙と言わずして何を乙と言いましょうか
新たな職人が活躍する予感!

573名無しさん:2017/09/30(土) 23:08:25 ID:.R5DGmgo
>>570
1個目で書こうと思ったけれど、ちょっと手が止まるところが…。

プレゼントは何を渡しましょうか?
お城にあるものですか?
何か手作りしましょうか?
お花とかの採集物にしましょうか?
慣れないお外でモンスターを倒して何か買いましょうか?

姫様というお金を持たない身分の人なので、贈り物の入手方法が違ってきます。
税金を元に家来に買わせて…というのは避けたいですよね。
そうすると心を込めた何かを贈るわけで、そこに物語性が発生せざるを得ません。
贈るものが何かは重要な気がします。

色々なパターンを書くのも良いですけど、贈って終わりじゃないので大変です。
1つのパターンが決まっていれば物語を進めやすいです。

あと、何歳くらいのときを想定したあらすじでしょうか?

574名無しさん:2017/10/01(日) 00:29:58 ID:ruOvejKo
夜が更けて薄暗い馬車の中でマーニャとミネアと一緒にお菓子を囲むアリーナ。
「まさか野宿で誕生日を迎えるとは、ある意味忘れられない誕生日になるわね。
早く平和を取り戻して、次の誕生日は普通に過ごせたらいいわね。」
「早く落ち着いた生活に戻らなきゃね。」
そんなミネアやマーニャを、祝われるアリーナは不思議そうに見ていた。
「そう?私はこの旅の生活を結構気に入ってるし、この誕生日は今までで一番楽しいわよ。」
妙に嬉しそうなアリーナを見て、ミネアとマーニャは顔を見合わせた。

「アリーナの今までの誕生日って、やっぱり国を挙げて盛大に祝ってもらってたの?」
ランタンの揺れる光が曇るアリーナの表情をゆらゆらと照らした。
「うん…そうだけど、祝ってもらってるっていうよりは儀式だから、いつも以上に窮屈なのよ。
人間じゃなくて儀式をこなすお人形さんでいなきゃいけないから、1日中何も楽しいことがないの。
だから、こうやって間近で心から祝ってもらう誕生日ってすごく新鮮で、すごく嬉しいわ。」
揺れる炎に合わせて揺れる影がアリーナの抱える切なさのようで、ミネアは胸に傷みを感じた。

「でもさ、女だけで祝うってのもアレよね。本当はクリフトに祝ってもらってもいいんじゃない?
テントで寝てると思うけど、あとで起こして2人きりで祝ってもらったら?」
無遠慮に色恋方面に話を持っていこうとするマーニャに、ミネアはため息をついた。
「もう…そういう話ばっかり。クリフトさんなら、どうせもうアリーナさんを祝ってるでしょ?」
「うん…プレゼント、もらっちゃった。」
炎の色に紛れて分からないたが、アリーナの頬が心なしか赤くなったように見えた。
「こんなの初めてなの…いつもは言葉だけのお祝いだし…
私がプレゼントを渡そうとしても、下々の者と関わっては父上に叱られますとか、お気持ちだけとか…
だけど今は…今までのように距離を置かなくなって…すごく身近に感じられるの。
私、この旅がずっと続けばいいのにって思う…。」

「へぇ…」
思わぬ収穫とばかりにニヤけるマーニャ。
「あ、もちろん早く平和にしたいし、早くお城のみんなに戻ってきて欲しいのよ。
ただ、この旅が終わるとしたら…寂しいなって…」

「クリフトさんにも立場がありますからね。この旅が終わったらまた距離を置こうとするでしょうね。
それでも、この旅で築いてきた絆が消えることはないし、元通りの関係に戻ることはないわ。
そこから先、どう外堀を埋めていくかが大切ね。」
「え、外堀?」
ミネアの分かりづらい言い回しにキョトンとするアリーナに、マーニャが優しく語り掛けた。
「お城でもクリフトと距離を縮めたいなら、2人にそれなりの努力が要るってことよ。
周りは身分不相応とか言って引き離そうとしてくるだろうし、クリフトだって気を遣うに決まってる。
だから、周りの人を納得させるように頭を使わなきゃってことよ。」
「えー、何をすればいいか全然分からないわ。」
「1人で考えちゃダメよ。そういう悩み事こそクリフトの得意技でしょ。
今のうちにクリフトと戦略を練っておけばいいのよ。
ずっと近くにいたいから方法を一緒に考えようって。」
「それ、いいわね!」
アリーナの表情が一気に華やいだ。
「こうしちゃいられないわ!クリフトのところへ行ってくる!」
思い立ったらまっすぐなアリーナは、勢いよく馬車を飛び出した。

馬車に残った2人の横顔をランタンの炎がゆらゆらと照らした。
「姉さん…尊敬するわ。」
「うふふっ」


更け行く夜、叩き起こされたクリフトとアリーナが何を話したのかは分からない。
ただ、2人の距離が縮まったのは確かなようだ。

575名無しさん:2017/10/01(日) 00:35:30 ID:ruOvejKo
決まってない部分を避けて書いてみましたよ。
職人じゃない人が結末とか考えずに行き当たりばったりで書いてます。
誤字もありますねぇ…すみません。

他の方の書く作品も見たいです。職人さんじゃない方も是非。
無理やりでも書き始めなきゃ何を始まらないんですよ。

576名無しさん:2017/10/01(日) 04:42:19 ID:0ZdFmGTU
「姫様、またお怪我ですか」
「こんなの怪我のうちに入らないわ!」
「治療します。お見せください。」

暖かな光で傷口が癒される。
「一国の姫様なのですから、もっとご自覚をお持ちください。」
「もうっ、今日もお説教なのね!」
「それだけのことをなさっているのですよ。」
「はーい」
暖かな光、暖かな声。
クリフトに治療してもらうのは暖かくて好きなんだけどな。
お説教がなければいいのにな。

「いつもクリフトが来てくれるわよね。
今度から自分で手当てした方がいいよね。
いつもお仕事を中断して駆け付けて、迷惑でしょ?」
「まったくです。
治療しようとしても姫様が嫌がるとかでいつも私が呼ばれて。
姫様を治療するのは好きですが、姫様がお怪我ばかりではこのクリフト…」
「え?」
「あ、いや、王様がいつもお嘆きです。
将来の国を背負うお立場ですから、相応しい振る舞いをなさいませんと。」
「うん…」

何だろう、今、すごくドキッとした…
クリフトって時々何を考えてるか分からない。
闇のようなものに吸い込まれそうな気がして、でもとても暖かくて。

「ねえクリフト」
「何でしょうか?」
「やっぱりまた治療に来てくれる?」
「またお怪我をなさるおつもりですか?」
「もしもの話よ、もし怪我をしたら!」
「…もちろんです。」

あ、クリフト、笑ってくれた。
いつも難しい顔をしてるけど、時々笑顔を見せてくれる。
「ありがとう、クリフト。」
「何ですか、急に。」
クリフトの照れたような笑いに、アリーナもつられる。

なんだかクリフトには不思議な力があって。
お説教ばっかりでも一緒にいたいって、もっと笑顔を見たいって思っちゃう。
不思議だな…

577名無しさん:2017/10/01(日) 05:24:04 ID:0ZdFmGTU
なんかIDが変わりましたが、また行き当たりばったりで書きましたよ。
話の締め方が思いつかないまま惰性で書きましたよ。

こういう書き方の良し悪しはともかく、こだわり始めるといつまで経っても書きづらいわけで。
いくら悩んでも無投下なら成果ゼロ。ゼロは嬉しくないですね。

同じあらすじから別の作品が生まれたらきっと楽しいですね。
他の方はどう肉付けして書くのでしょうか。
職人の方はもちろんですが、そうでない方の作品も見たいですね。

578名無しさん:2017/10/01(日) 16:11:13 ID:ys5YElfY
誕生日は国を挙げて祝ってもらってたけどクリフトの誕生日を祝った記憶がない。
何とかどうにか誕生日を聞きだしてこっそりプレゼントを渡そうとしても、下々の者と関わっては父上に叱られますとかお気持ちだけとかで返されて。
どうしても受け取ってほしくて押し問答してたらプレゼントが壊れたりブライが飛んできたりしたっけ。
プレゼントを床に叩きつけて部屋に駆けこんで泣きじゃくったっけ。悲しかったんだもん。

今日は私の誕生日。今年も1日中解放してもらえないんだろうな。
あれからクリフトとなんにも進展ないし、今日は会えないんだろうし。憂鬱だな。

「姫様。」
床に就くアリーナに、侍女が小声で囁いた。
「何?」
訝しげに問いかけるアリーナに、侍女は小さな包みを差し出した。
「クリフト様からです。」

(皆様の脳内で)続く。

579名無しさん:2017/10/01(日) 16:22:08 ID:ys5YElfY
省力化パターンでも書いてみましたよ。
ほとんどあらすじの流用で成立しちゃうのは、あらすじが上手いってことです。
あらすじがほぼSSなのですよ。
完成目前で力尽きるなんてもったいないです。

580名無しさん:2017/10/01(日) 21:35:52 ID:bCQ9nqXY
ちょ、あの、なんというか、

GJGJGJ!!

まさか本当に描いてくれる方が現れるとは…!しかもなんという微笑ましい…!!
テンション上がりまくって感想が追いつきません。本当にGJです!!

>>573
いや、改変してもらえると思ったもんでまったくもって適当でございました。
>>565さんのクリフトがめちゃめちゃカッコよくて何かそんな感じのクリアリが見たかったんです。
なにぶん自分自身がストイックリフト描くの苦手なもので……
けど>>573さんのおかげでとてつもなくテンション上がったら何かこんな風に仕上がりました。
あらすじがただ細かくなっただけみたいなのですがどうぞ。本当に感謝です!!

5811/3:2017/10/01(日) 21:40:16 ID:bCQ9nqXY
今日はアリーナ姫の生誕日。国を挙げての祝賀行事はアリーナにとって退屈でしかなかった。
好物のおいしいものがたくさん食べられる代わりに行事が終わるまで拘束される、自由に動き回れない。
社交辞令を適当に済ませながら早く終わらないかなとアリーナはぼんやりしていた。
ふと遠くにクリフトが見えた。
ごあいさつするときは国民全員が集まるからだわ、アリーナは思いながらクリフトをぼんやり見た。
そういえばクリフトの誕生日いつだっけ、ふと思う。
誕生日なんてなくなればいいのにと思っていたアリーナは他の人たちの誕生日を気にしたことがなかった。
一通りの儀式を済ませたあとアリーナはブライや大臣、神父にそれとなく誕生日を聞いて回り
クリフトの誕生日を聞きだすことに成功した。
よし、お父さまとお母さまだけじゃなくクリフトにもお誕生日プレゼントを渡してみよう、心に決める。
でも何を渡せばいいんだろう、アリーナは身の周りをきょろきょろしてみた。そこで目に留まったもの。
「じい、私フルーツバスケットを作ってみたいの!」
最近アリーナ姫がもの作りにはまっているという噂がまことしやかに囁かれるようになる。

試行錯誤して完成させたいびつなフルーツバスケットを大事そうに抱えアリーナは城内を歩き回る。
出会う兵士や国民に完成したのと笑顔で見せながらそれとなく教会へ向かった。
神父にあいさつを済ませいざクリフトのもとへ。
笑顔いっぱいで完成したのと見せるとクリフトも笑顔でおめでとうございます、素敵ですねと返してくれた。
「あのね、これほんとうはクリフトへのプレゼントなの」
「は…?」
「クリフト、今日誕生日でしょ?こないだ神父さまから聞いたの」
「…………」
「だから、お誕生日おめでとう!これ、私からのプレゼント。はい!」
両手をいっぱいに伸ばしてフルーツバスケットを差し出すアリーナ。
だがクリフトは微動だにしない。
「なんと……もったいない……」
「え?」
思わず顔を上げるとクリフトは眉にしわを寄せ表情を曇らせていた。

「アリーナ姫、そのお気持ち、ご祝辞、このクリフトしかとお受け取りいたしました。
ですからそのプレゼントは、そのまま、お持ち帰りください…」
「え…」
「下々の者と関わったとあればお父上に叱られます。
まして私は男、あらぬ噂を立てられたとあればアリーナ姫の御身が……」
「いや!」
アリーナは大声でクリフトの言葉をさえぎった。
「クリフトに渡したくていっしょうけんめい作ったの!受け取って!おねがい!」
「姫さま…」
なんとか受け取ってもらおうとクリフトの胸にプレゼントを押しつける。だがクリフトは丁重に戻そうとする。
何度か押し問答を繰り返しているうちにバキッと鈍い音が響いた。
「あ!!」

5822/3:2017/10/01(日) 21:46:30 ID:bCQ9nqXY
弦がいくつか折れてしまいいびつなフルーツバスケットはますますいびつな形に変わってしまった。
壊れたプレゼントをぼんやりと見つめるアリーナ、クリフトはみるみるうちに顔が青ざめ唇を震わせた。
「姫、さま……申し…訳……」
「姫さま、ここにいらしたのですか!」
戻りの遅い姫君を心配したのかじいやのブライが部屋に飛びこんできた。
止まった時間が一気に動き出す。
「うわあああん!!」
アリーナは大声で泣きわめき壊れたプレゼントを床に叩きつけた。
止めようとするブライを押しのけ教会を飛び出し周囲の目も気にせず泣き散らしながら自室に駆けこんだ。
じいに見つかっちゃった、プレゼントが壊れちゃった、クリフトに渡せなかった……、
いろいろな悔しさやるせなさがアリーナを襲う、その日はベッドにくるまり朝まで声を上げて泣き明かした。

クリフトの誕生日とアリーナの誕生日は近かった。
ぼんやりしているうちにまたアリーナの生誕日、あの退屈な祝賀行事の日がやってきた。
あれからクリフトとはほとんどしゃべっていない。
もとより気軽に話せる関係でもなかったがあの日からますます縁遠くなっていた。
誕生日がますます嫌になっていたアリーナは憂鬱な気分を隠せずにいた。
無理やり作った笑顔でなんとか一通りの儀式をこなしやっと退屈な時間から解放されたアリーナ、
玉座でぼんやりしていると面会の申し出があった。
「だれ?」
「神官のクリフト様です」
「え!?」
思わず大きな声を上げてしまった。
やだな……そう思いつつ少し迷ったが、結局通すことにした。

緊張しているのか待っている間ずっと背筋が伸びているのがわかった。なんだかドキドキする。
少しして大事そうに荷物を抱えたクリフトが王座の間に現れた。
「あ…」
その手にしていたのは紛れもない、あの日壊れてしまったクリフトへのプレゼント、フルーツバスケットだった。
折れた部分はすっかり元に戻りいびつな形すらなくなっているように見えた。
「アリーナ姫」
クリフトは恭しくアリーナの前でひざまづく。アリーナはクリフトから目が離せなくなっていた。
「こちらにございますのは以前姫さまが私にお見せくださったフルーツバスケットにございます。
あの日私は取り返しのつかぬ粗相を犯し、姫さまの大事な手作り作品を壊してしまいました」
クリフトは切なげな面持ちで静かに話す。
「元通りとはいきませんでしたが、私なりにせいいっぱい修繕を試みました。
こちらがその成果でございます、どうか、お受け取りいただけますでしょうか」
あの日の粗相をお許しいただけますでしょうか、クリフトは両手であの日のプレゼントを差し出した。

5833/3:2017/10/01(日) 21:50:32 ID:bCQ9nqXY
「…………」
アリーナは答えられなかった。それはクリフトに渡したくて作ったプレゼント。だから……
答えられるはずもなかった。
その空気を察したのか、クリフトはアリーナにしか聞こえないような小さな声でまた話し始めた。
「私のような立場の者では、姫さまのプレゼントを堂々とお受け取りすることができません。
堂々と差し上げることもできません……。ですからこれは、私なりの、精一杯の……」
クリフトはそこで言葉を止めた。
その先を続けることがはばかられると言わんばかりに唇を噛んでいる。
「…………」
だが少ししてことさらに小さな声で言葉を続けた。
「精一杯の、あの日いただいたプレゼントのお返しなのです…」
「…………」
言い終えるとクリフトは苦し気な表情で目を閉じ、頭を下げ、床を見つめた。

まるで泣いているように見えた。
アリーナはこんなに重苦しく、切なげで、真剣な顔のクリフトを見たことがなかった。
「…………」
気がついたら自分の目に涙があふれていることに気づいた。
なぜだろう、からだが熱い……。
「姫、さま…!」
戸惑うクリフトをよそに席を立ち差し出されたプレゼント、フルーツバスケットを手にする。
これはクリフトからのプレゼント、あの日私が渡したプレゼントを受けてのクリフトからのお返し……。
そう思ったら嬉しさがこみあげてくるのがわかった。
「うん……うん……ありがとう」
きっとみんなはそんなこと知らない。
私の手作り作品をクリフトが壊したから直して返しに来た、きっと周りにはそうとしか映らないんだろう。
だからこれは私とクリフトしか知らないプレゼントのやりとりなんだ。
そう思ったら今まで憂鬱だった気持ちが一気に晴れていくのがわかった。思わず笑顔がこみあげる。
「ありがとう!」

アリーナの自室のテーブルにはフルーツバスケットが置いてある。思い出の一つだ。
あの日からアリーナはまた城内をうろうろし教会にも足を運ぶことが増えた。
「クリフト、またプレゼント渡すからね!」
あるとき笑顔で話すアリーナをよそにクリフトはあんぐりと口を開けたままかたまっていた。
「何をおっしゃるのです!もうおやめください。そのようなもったいないこと……!」
眉にしわを寄せ険しい面持ちでアリーナに向く。
「そのお気持ちだけでじゅうぶんです。姫さまはもう少しご自分の立場をご理解ください」
「えー」
あの日の切なげなクリフトはどこへやら、まるで何事もなかったかのようにお説教されてしまった。
「ぜったい渡すもん!」
「姫さま…!」
次のクリフトの誕生日、アリーナがまたこっそりプレゼントを渡したかどうかはまた別のお話。

584名無しさん:2017/10/01(日) 22:11:57 ID:0/skaGTA
乙です!
本格派の書き手さんでビックリ。
このスレにはとんでもない人材が潜んでおられたようです。

思い悩みがちなクリフトらしい人柄がにじみ出ますね。
堂々とやりとりできない間柄ゆえの精一杯のやり方。
そういうのを描くのもクリアリの大きな要素であり魅力だと思うのです。
大きな壁があるから物語が深まり、より大きな幸せを感じられます。
盛大な拍手をお送りいたします。

585名無しさん:2017/10/04(水) 05:04:37 ID:PraHDcKM
同じあらすじから別のものが生まれる不思議!
本格派もあれば軽いのもアリで乙な競演!
さらに続けばさらに乙!

5861/2:2017/10/07(土) 23:49:49 ID:4xKmoTEA
「クリフトもブライも、私にとってすごく大切な存在になったわ。
もちろん2人とも大切だったけど、今はすごく身近で、2人といるだけで心強いの。」
「もったいないお言葉でございます。」
頭を下げるクリフトに対してアリーナは苦笑い。
「本当はそういう距離を取りすぎた言葉遣いがなくなると嬉しいんだけどね。」
「それはいけませんぞ。だいたい姫様は…」
いつものようにお小言を始めるブライを横目に見ながら、アリーナは話を続けた。

「クリフトはともかく、ブライはもういい年でしょ。隠居してのんびり暮らす頃よね。
それなのにこんな楽じゃない旅について来てくれて。
感謝してるし、すごく申し訳ないって思ってるわ。」
「フン。まだまだ年寄り扱いされるには早いですわい。」
憎まれ口を叩きながらもブライはどこか嬉しそうだった。

「この3人で旅してるのは何かの縁だと思うの。
平和を取り戻してお城に戻っても、この縁は大切にしていきたいと思ってる。
クリフトもブライも、私の特別な存在だからね。」
「私はともかく、ブライ様と距離を縮めることは喜ばしいことです。」
「もうっ、クリフトも一緒よ!
私たちは家族みたいなものなの。ブライがおじいちゃんで、私たちは孫なの。
ブライのお葬式も私たちで挙げるのよ!」
ブライの眉がピクッと上がった。
「葬式…?」
「家族なんだから当然よ。ブライは私たちで看取って、お葬式も私たちが挙げるの。」
「いえ、私は教会の者としてブライ様をお送りする側ですので…」
「クリフト、お主まで…」
「いや、姫様、縁起でもない話をするものではございません。
ブライ様がお倒れになってからで良いではありませんか。」
「むぅ…」

「しかし、ブライ様はともかく、私は姫様のお側に仕える者ではございません。
お気持ちはありがたいのですが、やはり近しい存在にはなりづらいかと。」
「うーん。それよね。何か私の近くにいられる役職はないのかしら。
近衛兵も距離を置くから、侍女くらいかしら?」
「男は無理ですな。男をむやみに近づけると問題になりますゆえ。」
「ブライは近くに仕えてるじゃない。」
「ワシは問題にならん年齢ですからな。」

「うーん。いっそクリフトと結婚すればいいのかなぁ?」
驚きのあまりクリフトはせき込んだ。
「ひ、姫様は、ご自分より強い男とでなければいけないのでは、ないのですか…?」
「私より強い男を探そうと思っても、ソロとかライアンくらいしかいないだろうし。
人間以外から探すのもさすがに無理だと思うの。
そう考えていくと、クリフトは案外悪くないのよね。
腕力はないけど一緒に闘う相棒としてならじゅうぶん強いわ。
性格も悪くないし権力欲や金銭欲もないんだから、悪くないって思わない?」
問われたブライは顔をしかめる。
「…身分の差というものがありましてな。」
「その身分の差って何?どんな害があるの?」
「…王家の格が下がるのですが、何より諸侯の支持を得られないのです。
そうすると姫様の代になったときに足を引っ張られ、政治が難しくなります。」
「それを防ぐために今から何ができないの?
お父様はまだ若いんだから対策をする時間はあると思うの。
ねえ、クリフトはどう思う?」
「そ、そのような話は、いけません。…畏れ多いお話です。」
「また距離を置こうとするのね。私じゃ不満なの?
もっとおとなしい女の人の方が良いんだろうけど…。」
「そんなことは…姫様くらいお元気な方が…良いかと…」
頬を赤らめるクリフトを見ながらも、鈍感なアリーナはクリフトの気持ちに気づかない。
「うーん、クリフトって立場でものを話すから本音が分からないのよね。
ねえブライ、クリフトは私と結婚したら幸せになれるかしら?」
「…ワシに聞かんでくだされ。」

深呼吸して、クリフトは自分の気持ちを落ち着けた。
「…夫婦になるからには、恋愛感情を抱ける相手でなければなりません。
その、私で良いのなら、それも否定しきれるものではありませんが…」
横からのブライの視線がクリフトに突き刺さる。
「そ、そういう意味で好きになれる相手なのか、よくお考えになった方が良いかと…。」
「クリフト…違うのよ。私は普通に過ごしてたら政略結婚させられるの。
最初から恋愛結婚なんてないんだから、お互いに恋愛感情がなくても問題ないの。」
「いや、しかし…」
なぜかアリーナから結婚を迫られる流れになる反面、恋愛感情はないと宣告されている。
喜びとショックが混ざり合って、クリフトは言葉が出せなかった。
「そんなに恋愛感情が大切なの?
なら私を好きになる努力をしてくれないかしら?
私もマーニャに方法を聞いて努力してみるから。」

クリフトは目を閉じ、また深呼吸をした。
ブライからの無言の圧力を感じながら、クリフトは告げた。
「                 」

5872/2:2017/10/07(土) 23:58:40 ID:4xKmoTEA
平和が戻ってから暫く後、ブライは病の床についていた。

「ブライ、あの時の約束通り、お葬式は私たちが挙げるからね。」
「ただの風邪ですゆえ、縁起でもないことを言わんでくだされ…」
「そうですよ、姫様。」
「もうっ、いつまで姫様って呼ぶつもりなの?」
「そう言われましても、習い性でして…」
「そろそろ普通に呼んでくれてもいい頃よね?」
「そう…ですが…」
頬を赤らめるクリフト。笑顔のアリーナの頬もほのかに赤かった。
「いったい何をしにきたのですかな?
風邪が感染りますぞ。早く出て行ってくだされ!」


2人が出て行った後、ブライはあの時のことを思い出していた。
何気ないはずの会話から運命の歯車が回り始めた瞬間。
若い2人の未来のために力を尽くそうと思った瞬間。

「まだ心残りだらけで、死ねもせんわい…」
目を閉じながら、ブライは幸せそうな微笑みを浮かべた。

588名無しさん:2017/10/08(日) 00:20:46 ID:9pQHSkqg
誕生日のあらすじに沿って書くはずが、何の関係もない話になってしまいました。
それでもあらすじが起点になったのは事実です。>>570さんの功績は大きいです。

ストーリーに余白を大きく残しました。結末すら想像任せです。
「想像に任せすぎ!」と思う方は、ぜひ具体化した版をお書きになってください。泣いて喜びます。
皆さんがどう補完するのか興味をそそられます。

589名無しさん:2017/10/14(土) 17:42:39 ID:SkOjuWFo
「姫様、最近表情が優れないご様子ですが、何かお悩み事でもお持ちなのですか?」
クリフトは心配そうにアリーナの顔を覗き込んだ。
「子供の頃…ケガの手当てをするとき、そういう風に心配してくれたよね。
あの頃は良かったな…」
「姫様?」

「あのね、私、もっとクリフトと仲良くしたいって思うの。
昔はもっと仲が良かったのに距離が開いちゃって。一緒に旅してる今でも距離が開いたままで。
いつになったらクリフトと仲良くできるんだろうって、ずっと考えてるのよ。」
「それが…姫様のお悩みなのですか?」
「そうよ。」
まっすぐなアリーナの視線に吸い込まれそうで、クリフトは目をそらした。
「それは…やはり難しいです。
姫様にも私にも、それぞれの立場というものがございます。」
「お城にいたときにはそうでも、今は違うわよね。
咎める人がいたとしたらブライくらいでしょ。」
「そう…だとしても…」

煮え切らないクリフトに、アリーナは新しい言葉を続けた。
「クリフトって私のこと、好きなの?」
「え…それは、どういう…」
「マーニャは恋だって言ってた。そういう意味で私のことが好きなの?」
「わ、私は買い出しに行かないと…」
その場を離れようとするクリフトの手をアリーナが掴む。
「買い出しにはブライたちが行ったわ。」
「お、お離しください!」
「嫌よ。」

手を振りほどこうとするが、クリフトの力で振りほどけるものではない。
「ひ…姫様は…それを聞いてどうなさるおつもりなのですか…
どのような答えをお求めなのですか…」
「私は…恋愛感情が分からない。
私のことが好きなら恋愛感情を教えてよ。
そうしたらずっと私たち、ずっと一緒にいられるかも知れない。」
「…姫様が望まれているのは子供の頃の関係ですよね。
私たちはお互いに子供ではありません。子供の頃の純粋な関係には戻れません。」
「クリフトは…どうしたいのよ…」
アリーナの瞳から涙が溢れ出した。
「私たち、求めてるものがそんなに違うのかな…」

クリフトはどうすれば良いか分からなかった。
アリーナが自分に向けている好意には恋愛感情がない。
アリーナのために、国のために、自分はどうするのが一番なのだろうか。

「クリフト…苦しいのよ…」
アリーナはクリフトの胸に顔をうずめて泣き始めた。
「私も…苦しいのです…」
肩を抱くこともできず身を震わせるクリフトの頬を涙が伝った。


「どーにかしてやれねーの?」
物陰に潜んでいたソロは隣のブライにささやいた。
「若者の未来のために一肌脱ぐのも年長者の務め…ってな。」
「うむむ…」

590名無しさん:2017/10/14(土) 18:10:30 ID:SkOjuWFo
書いてるうちに悲恋になって切なくなってきたので、唐突にソロとブライが登場。
悲恋も好きですけど、そういうのを描く心境ではありませんでしたので。
ほんのり暖かな恋愛模様を描くつもりで悲恋ラストって、さすがに私の心が追いつきません。
ケガのあらすじに沿って書くはずが、あらすじどこ行った状態ですね。

591名無しさん:2017/10/14(土) 22:42:40 ID:SkOjuWFo
「恋愛感情ってどういう感情なのかな?」
「恋愛感情…ですか?」
「そうよ。私、恋愛感情を知らないまま一生を終えるのかしら?」
「それは…きっと…素敵な王子様が現れるのでは…」
アリーナはムッとして言い返した。
「いないわよ。この旅で色々な国の王族に会ってきたけど、どの王子もひ弱だったわ。
そんな貧弱な王子に一生かけて守りますとか言われても悪い冗談にしか思えないわ。」
「…そうでしょうね。」
姫様は腕っぷしの強いお方でないといけないのでしたね…

「クリフトがどこかの王子だったら良かったんだけどな。
そうしたら、子供の頃に婚約してて、今頃は結婚してたりするんだろうね。」
「いや、私は姫様好みの腕っぷしの強い男ではありませんので…」
「クリフトは強いわ。どこの王子と手合わせしても勝てるだけの剣の腕前は持ってる。
腕力は弱いけど、私と2人なら最強のパートナーになれる。」

「世界を救ったらクリフトも救世主だから、どこかの国に養子に行って王子になれないかしら?
そうしたら私はクリフトを結婚相手に選ぶわ。」
「その…恋愛感情的なものは…よろしいのですか?」
「きっと訓練すれば何とかなるわ。
クリフトは強いし一緒にいて悪い気はしないから好きになれるはずよ。
だからクリフトも私のことを好きになって。」
「私は…大丈夫です。」
「大丈夫って何?」
「あの…もうお慕い申し上げて…」
真っ赤なクリフトに対し、アリーナはあっけらかんとしていた。
「なら都合が良いわ。結婚できるように全力を尽くすわよ。
結婚できたら恋愛を教えてね。」

かくしてアリーナとクリフトは結婚の約束を交わした。
約束を果たすためには、まずブライの理解と協力を得なければいけない。
さて、どうなるだろうか。

続く(…かもしれない)

592名無しさん:2017/10/14(土) 22:50:26 ID:SkOjuWFo
さっきのを書くとき、第1稿の後半部分をボツにしたので整えて別の作品に仕立てました。
今のスレには1つでも多くの作品があった方が良いかなと。

続きを書くにしても、ブライの協力をいかに得るかだけでしょうね。
そこから先があまり思い浮かばないので書かないかも。
皆さんの想像の中で話が進めば良いのかも知れません。

593名無しさん:2017/10/16(月) 04:06:29 ID:F8joZzhM
この流れには乙という言葉を禁じえません
同じはずのあらすじから色々な作品が生まれることになろうとは
しかもあらすじを書いたご本人はまだ2つ中1つしかSSにしていないご様子なので、期待が膨らみます!

594名無しさん:2017/10/19(木) 12:24:43 ID:3oNLMqyQ
570です。たった2つのあらすじからたくさんのお話本当にすごいです。ありがとうございます。
導かれし者たちが二人の恋路を陰ながら応援する話は本当に心温まりますね。
ケガのほうのあらすじは576さんがイメージ以上の話を描いてくださり私からは出そうにないですよ。
やはり「このクリフト……」って言葉はグッときますね。
589さんのお話も悲恋気味で切ないですが一番ストイックリフトを表しているのかなと感じます。
立場を弁えての言葉なのか恋心を寄せているがための言葉なのか気になるところです。
ソロとブライが出てきてくれたことにより一層続きが見たくなりました。
586さんの余白、591さんの「もうお慕い申し上げて…」あたりが個人的にも浮かびましたがいかがな
クリフトにとっては一世一代の告白の場、その緊張感が伝わってきていいですね!

確かに今のスレには1つでも多くの作品があったほうがという点にはまったくの同意です。
長くても短くても思いついたものを誰でも気軽にぽんぽん載せられるようなスレにしたいものです。
先陣を切ってくださる592さんに本当に感謝、お話を描いてくださった皆さまに心からGJです!
最後に>>581-583の続きができたので載せます。やはりストイックリフトを描くのは難しいです。

5951/3:2017/10/19(木) 12:30:11 ID:3oNLMqyQ
最近アリーナ姫がお菓子作りにはまっているという噂がまことしやかに囁かれるようになった。
その噂を耳にしたクリフトは一瞬手が止まる。まさか……
クリフトの誕生日はもうすぐだ。まさか本当にプレゼントを?今度は手作りお菓子で!?いやいやまさか……
クリフトは動揺を隠せずにいた。
アリーナ姫がクリフトにまたプレゼントを渡すと言ったものの今日まで何事もなく日々が過ぎていた。
たまたま時期が重なっただけだ、クリフトはそう結論づけ再び書物に手を伸ばした。

アリーナは焦っていた。目の前の真っ黒なケーキがかすむ。目がうるんでいるのがわかった。
どうして!?どうしておばさまと一緒に作るときはうまくいくのに私一人だけで作ると失敗するの!?
アリーナは手を強く握る。うるんだ目をぎゅっと閉じて涙をこらえた。
プレゼントの中身や渡し方、言い方は万全、後はちゃんと仕上げられる腕だけだった。
だって、だってこれでクリフトが私のことどう思ってるかわかるかもしれないから……。
アリーナはふうっと息を吐いた。もう一度一人だけで作ってみよう、そう思い再び分量を量り始めた。

日課を終えクリフトは部屋に戻ると軽く息をついた。
何事も起こらなかった……。
僧服を脱ぎ普段着に着替えようとした最中、ドアをノックする音が聞こえた。
神父に案内され入ってきたのはアリーナ、その手には小さな箱を持っている。
クリフトは固唾を飲んだ。
「クリフト」
「はい、姫さま…」
緊張するクリフトをよそにアリーナは満面の笑みを浮かべ小さな箱を差し出した。
「お誕生日おめでとう!はい、プレゼント!」

予期していたことが起こってしまった、クリフトは小さく息をついた。
「姫さま…」
「ん?」
クリフトは恭しく一礼する。
「ありがとうございます。このような身にもったいないお言葉です」
頭を上げ少し切なげな表情で言葉を続ける。
「ただ、去年同様プレゼントをお受け取りすることはできません。
その、立場が、ございますので……」

来た!アリーナはお見通しと言わんばかりに言葉を返した。
「去年はなんだかんだいって受け取ってくれたじゃない」
「…………」
「大丈夫よ、今回は形に残らないものにしたの。ケーキよ、食べちゃえばわからないわ」
「ケーキ…!い、いえ、そういう問題ではないのです」
「じゃあどういう問題なのよ」
「お受け取りするという行為自体が立場を超えているのです」
クリフトは一歩も引き下がらない。
「もう、クリフトってほんとに堅苦しいのね」
「なんとでもおっしゃってください」
「じゃあこれならどうかしら」
「?」
アリーナは自信満々に言葉を続けた。
「今回のプレゼントはお父さまの許可を得ているの。だから立場とか考えなくていいのよ?」

5962/3:2017/10/19(木) 12:34:56 ID:3oNLMqyQ
一瞬何を言われたのかわからなかった。
おてんばで破天荒なアリーナはいつも人と違うことを言ったりやったりしてしまう。
王の許可を得ている……クリフトはその言葉の意味を理解するのに時間を要した。
アリーナはそのあいだ緊張した面持ちでクリフトを見守る。
立場を考えなくていい、プレゼントは形にも残らない、だからこれでわかるはず。
クリフトがプレゼントを心から喜んでくれるかどうかが…!
クリフトは何を考えているのか真剣な表情でずっと足もとを見ていた。
アリーナはその様子をじっと見守る。
「…………」
「…………」
考えがまとまったのか、クリフトはふと顔を上げアリーナを見た。

アリーナは見た。クリフトの頬がほのかに赤らむのを。
クリフトはアリーナのずっと先を見ているかのような遠い視線で棒立ちになっていた。
「クリフト?」
クリフトはとっさに横を向く。口もとに手をやり少しだけ眉を寄せた。
「王は、王はなんとおっしゃったのですか?」
「お父さま?喜んでもらえるといいなって言ってたわ」
手で隠しても隠し切れない、クリフトは頬を赤らめたまま目を強く閉じた。
「プレゼント、受け取ってもらえる?」
アリーナは間髪入れずプレゼントを差し出す。クリフトは目線だけプレゼントに向けた。
「…………」

答えない。クリフトは目線を戻し眉を寄せたまま黙っていた。
「クリフト?」
「最近お菓子作りをしていらしたのは、このためですか?」
「そうよ」
「王の許可を得てまで?」
「そう」
「…………」
クリフトは再び目を閉じた。

どうしてもすんなりと受け取ってはもらえない。
やっぱり私のことキライなのかな、アリーナは少しずつ気分が落ちていくのを感じた。
「そこまでしていただいて、私はどうお返しすれば……」
「あ、お返しなんていいのよ。その代わり」
「?」
アリーナはかねてから考えておいた言葉を口にした。
「今度の私の誕生会にクリフトも出てほしいの」
「は…」
「ううん、誕生会だけじゃない、これからも呼んだときは来てほしいの。
都合が合えばだけど」

5973/3:2017/10/19(木) 12:40:25 ID:3oNLMqyQ
クリフトは信じられない事態が起こったと言わんばかりに目を見開きアリーナを見た。
いつの間にか手は解いている。その変わりようにアリーナも少なからず戸惑った。
「そ……」
クリフトは言葉が続かない。
「それでお返しはじゅうぶんだから。ねえクリフトお願い、受け取ってよ」
再びプレゼントを差し出す。クリフトはゆっくりとプレゼントに目を落とした。
「…………」
「クリフト」
「もう……」
「え?」
クリフトは声の調子を下げ、呟くように小さな声をもらした。
「もう、これ以上……」
「…………」
「これ以上、私を……」
「…………」
私は惑わせないでください……。

クリフトが何を言おうとしたのかアリーナにはわからなかった。
アリーナはただ時間をかけて計画したこのプレゼント作戦を成功させたかった。
もう自分のことを嫌いでもいいからとにかく受け取ってほしかったのだ。
まるで懇願するかのごとくか細い声でねだる。少し目がうるんでいるのも気にせずに。
「ねえクリフト、おねがい。受け取って…?」
「…………」

「はい…」
小さな声が、喜びとも悲しみともつかない静かな声が、しかし確かに聞こえた。

「王よ、よかったのですかな」
「何がかね」
玉座の間で王とじいやのブライが二人にしかわからないほど小声で話している。
「クリフトは一僧兵に過ぎませぬ。いくら姫さまの望みとはいえ下々の者と関わるのは……」
「クリフトの母には世話になった。彼女が乳母を務めてくれなければ今のアリーナはなかったのだからな」
「しかし……」
「何か問題があるかね」
「は…」
今ごろ二人は共にケーキをつまんでいるころだろう、王は表情を緩め言葉を続けた。
「アリーナはただ幼なじみの友人に誕生日プレゼントを渡し自分の誕生日パーティーに招待しただけじゃよ」

後に訪れたアリーナの生誕祝賀行事にはクリフトの姿があった。
誕生日なんてなくなればいいとすら思っていたアリーナが初めて心から笑顔を見せた日でもあった。
その後も時折アリーナの呼び出しによってクリフトは玉座の間に姿を見せることになる。
ある者はその待遇を羨みまたある者は嫉妬や厳しい目を向けた。
それでも今日まで何事もなく日々が過ぎているのは一重にクリフトが立場や礼節を弁えているからだろう。
そのことを知らない、深く考えないアリーナはこの先もその奔放さでクリフトを惑わせていくことになる。

598名無しさん:2017/10/20(金) 01:06:27 ID:RtESMUAc
乙です!
ストイックなクリフトから離れてあらすじからも離れて咲き乱れるフリーダム!
そうなるとご本人の作品がますます気になりますし、さらに他の方の作品も見たくなってきます!
同じあらすじからというのも作風の違いが際立って面白いですね!

599名無しさん:2017/10/23(月) 08:05:12 ID:Lky01EVw
最近wiki管理者さん見ないけど元気かな

600名無しさん:2017/10/24(火) 22:39:28 ID:hdNTc/6A
長いことwikiに動きがないんですよね
作品のない過疎スレを見張り続けるのはしんどかったのかも

避難所内に作品まとめ専用スレを設けるのもアリですが、
歴代の作品と一緒にwikiに載ったほうが便利ですよね

601名無しさん:2017/10/29(日) 02:05:20 ID:hU4gk2.g
>>586-587って本当に大きな余白を残したストーリーで、2人の関係とかブライの心残りとか色々と謎のまま
ブライの心を動かすほどの会話があったはずだけど内容は読者の想像に任せるというのもね
脳内補完せざるを得ないので読者は意図せず創作者になります
読み手が書き手になるきっかけになるのかも?

>>595-597のような続き物って意外と多くないので貴重です
次に続きそうな終わり方が想像を掻き立てますし続編への期待が膨らみます
ご本人が書いただけあって、あらすじから忠実に発展していったストーリーに安心感を覚えます
こういう方向性を持ったあらすじだったのかと知る楽しみがあります
そしてご本人が書く治療+ストイックものがどうなるのか気にならざるを得ません

過去スレにないほど活発なコラボ企画が発生中と言えるかも
GJです!

602名無しさん:2017/10/31(火) 14:01:54 ID:mOUg/6C2
570です。乙ありがとうございます!GJ嬉しいです!
それにしてもまさかのひどいミスをしました。
>>597の1段落目最後
私は惑わせないでください……。
じゃなくて
私を惑わせないでください……。
ですよ一番大事なとこ間違えましたよすみませんです……。
自分が描くとどうしてもクリフトが照れたり慌てたりしてしまうので
治療+ストイックはいよいよ描けませんて。
誕生日の話からの治療+その後のクリアリなら描けるかな。
としてもすぐには浮かばないので小ネタを置いて逃走

603名無しさん:2017/10/31(火) 14:05:31 ID:mOUg/6C2
「クリフト、今日はかぼちゃの日なのね」
「かぼちゃの日?ああ、ハロウィンのことですか」
「かぼちゃをくり抜いて飾ったりかぼちゃをかぶったりかぼちゃ料理を食べたりかぼちゃで戦ったりするんでしょ?」
「行事の一部分しか引用していない上に最後がおかしなことになっていますが」
「ねえクリフト、かぼちゃでどうやって戦うの?」
「そんなことを私に聞かれましても……」
「あ、そのまえにかぼちゃがなくなっちゃったら大変だわ!戦う分だけとっておかないと」
「姫さま、本当にかぼちゃで戦うおつもりなのですか」
「こうしちゃいられないわ!私とクリフトの分だけでもとっておきましょ!」
「わ、私と姫さまが戦うのですか!」
「ちょっとクリフト、急いで!早く食堂に行きましょ!」
「ひ、姫さま、手をつなぐのはおやめください!」

「えー!かぼちゃで戦うんじゃないのー!?」
「そもそもハロウィンとは秋の収穫を祝い悪霊などを追い払う行事で……」
「悪霊?悪霊とかぼちゃで戦うの?」
「姫さま、まずは戦うことから離れてください。これは行事なのです」
「むー」
「有害な精霊や魔女から身を守るために仮面をかぶり魔よけのたき火を焚いていたことから……」
「クリフトのバカー!わからずやー!」
「ぐはっ!ひ、姫さまのかぼちゃ攻撃、き……効きました……」(バタッ)


ただのギャグになってしまった。

604名無しさん:2017/10/31(火) 22:48:52 ID:cPGFJ/nM
>>602
乙です。そんなところに誤記があったとは気づきませんでした。
人間の脳はそれらしく読みかえてしまうものですから。

今のところストイックで書いた作品はあまり出てないように見受けられます。
ならそのストイックはどういう感じだったのかなと気になるわけです。
いよいよハロウィンでストイックな治療ものが書かれるのでは期待が膨らみます。

605名無しさん:2017/11/02(木) 00:23:37 ID:M84U7sSo
乙です!
ハロウィンでクリアリは意外と見かけたことがないです
ヨーロッパ的な世界観とハロウィンは相性良し!

仮装一色になる城下町に行きたいアリーナとか
お城でのイマイチなハロウィンを華々しくしようと画策するアリーナとか
アリーナのためにハロウィンで精一杯スベってしまう王様とか
旅先のハロウィンに心躍るアリーナとか
ハロウィンでアリーナに楽しんでもらえないか悩むクリフトとか
ブライの頭をハロウィンらしく華やかに飾ろうと考えるアリーナとか
マーニャたちに連れられてハロウィンを満喫したアリーナとか
ハロウィンでストイックな治療ものとか

ハロウィンにはクリアリのネタが豊富にありそうです!
時期遅れの投下にも期待します!

606従者:2017/11/07(火) 16:37:39 ID:o46AGxQI
お久しぶりです従者です。まったりしたクリアリコラボ本当にGJです!書き手さんもっと増えるといいですね!
流れを切って恐縮なのですがこちらももう少しで6章が終わりまったりできそうなので何とぞ……
PS版のセリフをなぞったSSアリーナ視点、山奥の村編最後「やりたいこと」26レス分一気にいきます。
6章(>>496>>499-512)の続きでソロの行きたいところに行った先でのこと、クリアリパートは9/26〜21/26くらいです。
こちらも少しですが暴力、流血、(回想にて)残酷描写、オリジナル展開もありますご覧に際にはお気をつけください。
ではどうぞ。

607従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 1/26:2017/11/07(火) 16:41:15 ID:o46AGxQI
――ピサロさまがソロさんの村を…?――

私たちは今ソロの村に来てる。魔物に、デスピサロに滅ぼされたもうなにもないこの村に……。
今は夕暮れ。遅くなっちゃった。
ロザリーヒルで私たちがお話ししてたときにソロはピサロと山奥の村に行く話をしてたみたいで。
私たちのお話が終わるまで待ってたら子どもや動物たちが集まってきたんですって。
ピサロと話したいこといっぱいあったみたい。
そしたらソロはゆっくりでいいぜって、存分に話せよって、みんなが話し終わるまで待ってくれたの。
ロザリーを生き返らせたことで私たちも受け入れてもらえて、みんなでゆっくりしてたら今になった。
ソロは何を思ってたんだろう。ほんとうは早く行きたかったんじゃないのかな……。
ソロはほんとうにすごいなって思った。

ソロは村にピサロだけを連れていくつもりだったみたい。
けどロザリーがどうしてもついていきたいって言い出して、思わず私もってお願いしちゃったの。
そしたらマーニャにこういうときは空気読むもんでしょって言われちゃって……
そういうものなのかな……。
けどソロは少ししていいぜって、あんな村でよけりゃついてこいよって言ってくれたの。
すかさずクリフトのほうを向いてお前も来るんだろって、クリフトもついてくることを許してくれて……
クリフトは恐れ入りますって静かに頭を下げてた。

村に入る直前で私はソロに呼び止められた。
ソロは私に小さく耳打ちしたの。

「もし俺がバカなことしそうになったら止めてくれな」
「え?」

――アドンのときみたいに……――

ソロ…?
ソロはそれ以上何も言わないでピサロにこっちだって招いてた。
バカなこと……ソロは何をするつもりなの……?
ソロ……?

「姫さま…」

私の足が止まっちゃったからね、クリフトが寄ってきた。

「ソロさんと、何か話したのですか…?」
「ん……」
「…………」

ソロ……。

608従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 2/26:2017/11/07(火) 16:45:04 ID:o46AGxQI
「大丈夫」
「…………」
「ソロならきっと大丈夫」
「……そうですか」
「うん」

なんとなくじゃなくてほんとうにそう思ったから私はしっかり答えた。クリフトもうなずいてくれた。
私たちもすぐにソロのあとを追った。


村とはとても呼べないありさまにロザリーはすっごく驚いたみたい。
ずっとあたりをきょろきょろしてた。

――ピサロさまがソロさんの村を……――

「……では、ソロさんがピサロさまのおっしゃっていた勇者…?」

ロザリーはソロを見つめた。驚いたままの顔……ロザリーは知らなかったのね。
ソロはずっとピサロを見てる。でもピサロはソロを見なかった。

「ソロさんが……」

――聞いてくれロザリー。ついに勇者を見つけたのだ。ブランカの北、山奥の小さな村に匿われていた――
――…………――
――始末してきた。庇おうとする人間もろともな――
――そんな……殺したのですか……?――
――……ああ――
――どうして……どうして……っ――
――ロザリー……。もう時間がないのだ。人間は変わらなかった――
――いいえピサロさま、そんなことはありません。人は変われます。どうかもう罪を重ねるのはおやめください…っ――
――……お前の自由だけは必ず保障する――
――いやです!自由などいりません!どうかもう一度あのころのピサロさまに戻ってください…っ――
――ロザリー……。過ぎてしまえば思い出になる。それまでは……――
――ピサロさま!お待ちくださいピサロさまっ!――
――……――
――あっ…放して……お願い放してっ……っ放しなさいナイトっ!!!――
――…………――
――っ…ピサロさま!!まだ間に合います!!きっと間に合いますから!!!どうか……ピサロさまっ!!!――
――…………――
――……ああぁぁああああっ……!!!!――
――………………ロザリー様……――

609従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 3/26:2017/11/07(火) 16:51:17 ID:o46AGxQI
「…………」

ロザリーの顔がみるみる青ざめてく。悲痛な顔……
ロザリー……。

「わたしは信念にもとづきこの村を滅ぼしたまでだ。何かを得るためには何かを失う、それは当然のこと……
少しもまちがった事をしたとは思っていない」

突然響いたピサロの声。
は…?なに言ってるのこいつ…!?

「……だが、大切なものを失う悲しみはわかる。一度はロザリーを失った今ならな……」

そこまで言うとピサロは目線を下げた。ソロは……震えてた。
震えてた…っ。
ふとにぶい音がしたと思ったらピサロが宙に舞ってた。派手な音を立てて地面に転がる。
ソロが殴ったんだ。起き上がって口をぬぐうピサロをまた殴る。
ロザリーの悲鳴が上がった。けど私はただ見てることしかできなかった。クリフトも動かない……。
再び起き上がろうとするピサロの前にソロが立った。

「立てよ」
「…………」
「あいつらの痛みはこんなもんじゃなかった」
「ソロさん!!」

ロザリーが駆け寄ってピサロの前に出る。

「どけ」
「いやです!」

ピサロがロザリーを無理やり引き戻そうとするけどロザリーは払いのけた。

「ソロさん!どうか殴るのでしたら私を殴ってください!斬っても構いません!!」
「ロザリー!」
「本当に、本当にごめんなさい…っ!!」
「ロザリーどけ!!」
「いや…っいやです。離れるのはもういやです…っ!!」

ピサロはロザリーを引き戻すけどロザリーは必死にピサロにしがみつく。なんどもなんども……。
結局ピサロがロザリーをかばうような体勢でソロを見上げることになる。
ロザリーは泣きながらピサロの背中にしがみついてた。涙がいく筋もルビーとなってこぼれ落ちる。

「本当に、本当に、ごめんなさいっ……ごめんなさい……っっああぁぁぁあああああ…っ!!」

610従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 4/26:2017/11/07(火) 16:54:49 ID:o46AGxQI
ロザリーはソロに謝る。なんどもなんども……。
泣き叫ぶ声があたりに響いた。その声を聞いて私も目が熱くなった。
ロザリー……。
私はソロを見た。ソロは……顔を伏せてた。
ソロ……。
どれだけの間そうしてたんだろう。けっこう長い時間たったと思う。
ソロが少しだけ上を向いた。

「よけいな寄り道しちまったな。みんな、悪かった。帰ろう」
「ソロ……」

ソロはピサロとロザリーに背中を向けた。

「なぜだ……。意味がわからん」

ピサロが後ろから声をかけた。

「わたしをここに連れてきたのは、ここでわたしと戦うためではなかったのか?
なぜ来ない!お前はいったい何がしたいのだ!」
「うるせえよ…」
「それほどまでにこのわたしが憎いのなら、それほどまでにこの村の人間どもが大事だったのなら!
なぜ世界樹の花をそいつらに使わなかったのだ!!」
「…………」
「意味がわからない……」

こいつ…っ!!
ソロ……
ソロが震えてる……。
ソロ…っ

「使わなかったんじゃない……」
「……」

ソロが勢いよく振り返る。

「使えなかったんだよ!!」
「…………」

ソロ…っっ

「だとしても、なぜ、ロザリーを……」
「…………」

「そんなこと……」

611従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 5/26:2017/11/07(火) 16:58:54 ID:o46AGxQI
――俺が聞きたいくらいだ!!――

「大切にしてやれよ」
「…………」
「いつでもそばにいて、守ってやれよ。俺も、できる限りエルフ狩りがこの世からいなくなるよう呼びかける。
だから、これ以上大切な人を泣かせるような真似すんな」
「………………」

――俺は決してお前と同じにはならない――

「ソロ…っ」
「ソロさん…っ」

ソロはそう言うと再びピサロに背中を向けた。こっちに歩いてくる。
ソロ……。

「わたしは……」

ピサロはずっとソロを見てた。

「わたしはまちがっていたのか…っ!?」

「ソロ……」
「この下に木こりの家があるんだ。ちょっとじいちゃんとこ寄ってっていいかな…?」
「うん、いいよ。ソロの行きたいとこに行こう」

ソロがちょっと泣きそうな顔で、けど明るい声で言うものだから私はすぐうなずいちゃった。
ずっと黙ってたクリフトもうなずいてくれる。
馬車のみんなにも行くよって声をかけたらみんなも何も言わずにうなずいてくれた。
ソロのあとについて木こりの家へ向かう。
ピサロとロザリーはずっと私たちを見てた。もう来ないのかなって思ったけど少しして後からついてきた。
こんなことがあってなんでまだついてくるんだろう……でもソロはなんにもいわなかった。

「わんわんわん!」
「なんだ、またおめえか。生きてたのか」
「じいちゃん……」

家には犬とおじいさんがいた。
木こりの家っていうんだから木こりのおじいさんなのね。
あのとき、まだソロと出会って間もなかったとき、ソロはここで泊ったんだ。
ここがソロの安心できる場所……?

「じいちゃん…っ」

612従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 6/26:2017/11/07(火) 17:03:22 ID:o46AGxQI
ソロはおじいさんをもういちど呼ぶと崩れるように寄りかかった。
おじいさんがびっくりする。

「なんだてめえは、ガキみたいに甘えるんじゃねえ!」
「殺さなかった」
「……」
「俺、殺さなかったよ……」
「……そうか……」

ソロ……。

「おう、あんたら連れのもんか。悪いがこいつは今使いものにならねえ」

木こりのおじいさんがソロの頭をグーでこつこつやりながら話す。
ソロはおじいさんにずっとひっついてた。

「そこの戸だなに茶がある。そこらにあるもん適当に食っていいからゆっくりしていきな」

おじいさんはそう言うとソロを奥に招いた。
ソロは肩を落としてうつむいたまま中に入っていった。
私たちのほうは見なかった。

「お言葉に甘えてお茶をいただきましょうか」

クリフトがすかさず声をかける。

「うん、そうね」

なんとなく場を取りつくろおうとしてくれてる気がして私もすぐ返事した。
振り返るとさっきの声とはうらはらになんかかたまってるクリフト……

「ちょっとクリフト、どうしたの?」
「え?」
「なんか、かたまってない?」
「そ、そんなことはありませんよ」

やっぱりかたまったままお茶をいれようとするクリフト。
なんかちらちら犬のほうを見てるような……なんだろう、犬が気になるのかな。
お茶を飲みながら家の中を見て回る。
お茶、ちょっと苦い……おじいさんは苦いお茶が好きなのかな。
犬は私たちが来たときわんわんて吠えてたけど家に入ってからは静かに座ってた。

「俺、裏切り者なのかな……」
「裏切り者ってなんだよ」

613従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 7/26:2017/11/07(火) 17:07:05 ID:o46AGxQI
家の中を回ってたらソロの声が聞こえちゃった。
近づきすぎちゃったんだわ。これじゃ盗み聞きになっちゃう。早く離れないと……。
でも……
でも…………
私は結局離れることができなかった。

「あいつは、あいつはみんなを殺したんだ。親も、先生も、シンシアも、みんな……」
「……」
「でも俺、あいつを殺さなかった。けど俺……」
「……」
「わかんねえんだ。
みんなのこと考えれば考えるほど憎いのに、あいつらのこと考えるとなんかどっかで許さなくちゃって思ってる。
それが許せねえ。なんかもう、わかんねえんだよ」
「…………」
「あいつは、俺があいつを憎むずっとずっと前から人間を憎んでたんだ」

――ニンゲン……――
――ニンゲン…ッ!!――

「夢を見たとき、その憎しみを肌で感じたんだよ。鳥肌が立った。半端なかった。俺、あいつと一緒に泣いちまったんだ。
けど、俺だって……俺だってぇ……っっ」

――ソロや。わたしのことはいいからすぐにお逃げ!――
――よいか、ソロ。強く正しく生きるのだぞ――
――たとえなにが起こってもな……――
――今は逃げて……そして強くなるのだ、ソロ!わかったなっ!――
――大丈夫。あなたを殺させはしないわ――
――さようなら、ソロ……――

――大好き!――

「もう、わかんねえ……。もう、やだ……」
「…………」
「じいちゃんおれもうわかんねえよぉ……っ」
「…………」
「うっ……ぐすっ……」
「…………」

ソロ……。

「で、わかんねえなりきにとりあえずてめえの出した結論は、殺さなかったってことか?」
「…………うん…………」

…………。

614従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 8/26:2017/11/07(火) 17:11:01 ID:o46AGxQI
「いいか、ソロ。よく聞け」
「……」
「この世に絶対的に正しい答えなんてものはねえんだよ。
てめえがてめえの頭で考えて、どうすりゃいいか必死に悩んで、でもっててめえの意志でそうした。
てめえでてめえのことができるようになったんだ、親とすりゃこれほど嬉しいもんはねえっての」
「……そうなのかな」
「てめえも親になりゃわかる」
「じいちゃんはわかるのか?」
「…………」

「……できのわりい息子だったさ、てめえみたいにしけた面してやがってな」
「……」
「だが芯は強かった。このオレに反抗しやがったんだからな。
反抗して、結局オレの言うこときかねえで死んじまったけど、それでも最期まで幸せそうな面してやがった」

――罪を犯しても生き続けるのだから、いつ死んでも悔いのない生き方をする――
――彼はよくそう言ってましたよ――
――とても幸せそうでした。今も、いい顔してますよね。まるで眠っているようです――

――きっと、幸せだった……――

「胸クソわりいけどな、親ってえのは、子どもが自分の意志でその道選ぶってんなら、最後はそれを応援するもんよ」
「…………」
「てめえがわかんねえながらも必死に考えてそうしたってんなら、てめえの親も応援してくれるさ」
「……そっか……。よかったのかな、俺……」
「悩むくれえならその場になってから答えを出しゃいいんだよ。最初からひとつにしぼる必要なんかねえさ。
途中で答えが変わったっていいさ。答えをすぐに出せなきゃ出せるまで立ち止まったって後戻りしたっていいんだ。
大切なのは、そんときどんだけ真剣に考えたかだ」
「…………」

少しだけ間が空いた。
思わずのぞいたらおじいさんがソロの頭をなでてるのが見えた。

「てめえはよくやった」
「…………うん…………」
「それでもまだふっ切れてねえんだろ」
「…………うん…………」
「あせる必要はねえさ。答えはその男が出させてくれる。そいつと一緒にいられる時間を好都合だと思いな。
てめえはもう、殺そうと思えばいつでも殺せるくらい強くなってんだからよ」
「……殺しても、いいのかな……」
「んなこたてめえで考えやがれ。てめえの人生なんだ、てめえでじっくり考えな。誰もせかしゃしねえからよ」
「…………うん…………」

615従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 9/26:2017/11/07(火) 17:14:38 ID:o46AGxQI
ソロ……。
ふと振り返るとクリフトがいた。すっごくかたい顔してる。
わたし……!
けどクリフトは私を見ると小さく笑って首を横に振った。少しソロのほうを見たあと手で戻りましょうの合図をする。
クリフト、私が盗み聞きしたの、許してくれるの…?

しばらくしてソロとおじいさんがこっちに戻ってきた。クリフトがお茶のお礼を言う。おじいさんはなんか適当に返してた。
ソロはさっきとは打って変わって明るい顔してた。

「じいちゃん、俺もお茶飲みてえ!」
「勝手に飲みやがれ!」
「おう!」

お茶を飲みながらソロは私たちに茶目っ気たっぷりの笑顔を見せる。

「へへ。じいちゃんをじいちゃんって呼んでいいのは俺だけだからなっ」
「てめえ!久しぶりに来たんならマキのひとつも割りやがれ!!」
「わかったよじいちゃん!」
「おう、それが終わったら裏の倉庫からいちばんダルふたつ持ってきとけ」
「え?」

「いちばん風呂やるのか!?」
「こんだけの人数だ、やるに決まってんだろ」
「馬車にあと5人いるんだけど呼んでもいいか!?」
「あったりめえだ、どんどん呼びやがれ!」
「やったあ!」
「?」

おじいさんは台所からとっても大きなナベをいくつか重ね持って外に出ていった。
ソロは嬉しそうな顔して私を見る。

「いちばんぶろってなに?」

ソロがにやっとした。
え、なに?え…?

「タルのお風呂に入るの!?外で!?おもしろそう!!」
「ひ、姫さま…!」

外に大きなタルを用意して沸かしたお湯をたっぷり入れてそのままタルの中にどぼーん!!
ふたつ用意するのは、男風呂と女風呂と分けられるようにするからだって。

616従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 10/26:2017/11/07(火) 17:18:19 ID:o46AGxQI
「そのタルどこにあるの!?私もひとつ持つわ!」
「まずはまきを割ってからだよ」
「じゃあ私もいっしょに割る!」
「お前にできるかな。オノとか切り株とかちがうもん割りそうだぜ」
「失礼ね!できるわよ!」
「オノは重たいんだぜー?」
「むー」
「お」

ソロがちらっと私の後ろを見た。

「ともかくさ、すぐすましてくるからお前はクリフトと馬車のやつら呼んどいてくれよ」
「えー」

そういうとソロも大きなオノを手にして外に出ていった。
家の中がいっしゅんしんとなる。

「っもう」

振り返るとなんか複雑そうな顔して扉のほうを見てるクリフト……

「ちょっとクリフト、どうしたの?」
「え?」
「なんか、複雑そうな顔してない?」
「そ、そんなことはありませんよ」

クリフトは苦笑いして目線を下げた。そのままぼんやり遠くを見る。
笑ってるようでぜんぜん笑ってない、何か考えてる。
私はクリフトの考えがまとまるまで待った。こういうときのクリフトって言葉を考えてることが多いから。
みんなを呼びに行くのなんてそんなに時間かからないし。

「最近、いろいろなことがありすぎまして……」

言葉がまとまったのかな、少ししてクリフトが話し始めた。
やけに静かな声。

「うん……」
「情けないです……」
「そう?」
「はい……」
「そうかなー」
「…………はい…………」

――ソロさんには敵わない――

617従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 11/26:2017/11/07(火) 17:21:48 ID:o46AGxQI
クリフトが苦笑いしてる……ぜんぜん笑ってないのに笑ってるの、なんでだろう。
前もこんなことあったかな、なんだかクリフトに隠しごとされてる気がする、なんでだろう。
私はぜんぜん笑う気になれない。時々クリフトのことがわからなくなる。

「あの、姫さま……」
「ん、なに?」
「いちばん風呂、というもの、その……」
「ん?」
「入られるのですか?」
「もちろん!おもしろそうだし!」
「…………」

クリフトが何かを言いたいけど言えないみたいなもどかしい顔してる。
むー。

「なに?」
「その……」
「んー?」
「あまり、肌をさらすのは……」

ああ、それか。確か前もあったわね、こんなこと。
あ、もしかしてそのことを気にしてたのかな。んー?

「じゃあクリフトもいっしょに入ればいいのよ!」
「そっ…」
「今度こそいっしょに入るの!いいわね?」
「っ……」

クリフトは口をあんぐり開けたまま私を見てた。何かを言いたいけど言えない顔。
心なしか赤くなってきたような……いつもの得意技が出たわね。
もう夜だから日焼けする心配はないしみんなもいるから敵の心配もないし、何がそんなに心配なんだろう。
ほんとクリフトって無駄に過保護で心配性だわ。


パチパチとたき火の音が聞こえる。
お湯は次から次へと沸かしてるしお水もたっぷりあるからどんどん使っていいって。
すぐ近くにきれいな川があってそこからくんできてるみたい。
タルはとっても大きくてなんにんか一気に入っても大丈夫みたい。すごいなー。
男湯のほうは年長者からなんていってブライやトルネコ、ライアンが入ってる。
みんな嬉しそう。やっぱりお湯のほうがさっぱりするし湯船につかったほうがあったまるわよね。
私たちはさんにんそろって外とうや布を羽織った。クリフトに言われたからじゃないけど首までしっかり隠してみる。
みんなが私たちに注目した。クリフトも見てる。
私たちは目で合図、みんなが注目する中そろって羽織りをほどくしぐさをする。肩をちらっ

618従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 12/26:2017/11/07(火) 17:25:44 ID:o46AGxQI
「「「「「え!?」」」」」

びっくりするみんな。私たちはそろって顔を見合わせた。

「「「せーの!」」」

バッ!!

「「「じゃーん!!」」」

ハダカかと思いきやさんにんピンクのレオタードー!
女性だけの国ガーデンブルグに行ったときにいいわねってさんにんおそろいで買ったの。
さすがに男の人たちの前で濡れた布を巻いただけじゃ恥ずかしいから。

「私としたことが、年がいもなく……お恥ずかしい」
「姫さま!しもじもにまぎれてなんちゅうはしたないマネをしておるんじゃ!!」
「脱ぐときは少し恥じらいつつゆっくり脱いでもらうほうが……私ってヘンですかね」
「…………」
「…………ぶはあっ!!」
「ちょっとクリフト、どうしたのよ!!」
「あー、ソロとクリフトにはちょっと刺激が強かったかしら」
「クリフトさんは姉さんじゃなくてアリーナさんに反応されたのだと思います」

クリフトがまた鼻血を出しちゃったの。ソロも心ここにあらずみたいな顔してるし。
っもう、せっかくの楽しいお風呂が台なしだわ。
とりあえずクリフトは丸太に座って安静にしてもらった。ハンカチで鼻を押さえてもらう。
私もレオタード姿のままはなんだからまた自分の外とうを羽織った。

「……大丈夫?」
「……申し訳ありません……」
「そうじゃなくて、大丈夫?」
「……はい……」

血は止まったみたい。よかったー。
なんか前にもこんなことなかったかしら。

「ねえクリフトー」
「……はい、姫さま」
「これ、ピンクのレオタード。ちゃんとした装備なの」

私は外とうの前を少しほどいてレオタードの生地を見せた。
クリフトは目だけこっちに向けたけどすぐ戻した。

619従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 13/26:2017/11/07(火) 17:29:40 ID:o46AGxQI
「……まあ腕とか足とか出てるけど、でも肌をさらしてるわけじゃないからね」
「…………」

胸もはんぶん出てるし説得力ないかな。でもほんとうに肌をさらすつもりはないの。
私はクリフトの目を見て言った。

「だいじょうぶだからね」
「………………」

「……はい」

クリフトがふっと笑った気がした。

――ありがとうございます――

クリフトはハンカチをほどいて私に頭を下げたの。やっぱり笑ってた。
よかった。もう大丈夫そうね、クリフト。

「姫さま」
「ん?」
「私はもうだいじょうぶですから、どうぞ湯浴みをなさってください」

クリフトはそう言うとお風呂のほうを見た。

「えー、まだいいわ」

私もマーニャとミネアがお風呂に入ってるのを眺めながら返した。

「ソロさんとゆっくりされてはいかがですか?」

え?

「なんで?」
「…………」

突然ソロの名前を出されて思わず聞いちゃった。
クリフトも聞き返されたのが意外だったのかな、驚いたような顔で私を見る。

「いえ、先ほどもソロさんと楽しげに話をされていましたし……」

…………。

「別にソロと話すのが楽しかったわけじゃないわ、いちばん風呂が楽しそうだったの」
「そう、なのですか」
「そう。今は別にソロと話す用事はないし」

620従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 14/26:2017/11/07(火) 17:34:08 ID:o46AGxQI
あれ、今なんの話をしてるの?

「特別話したいわけでもないし……」
「…………」
「だからもう少しここにいるの!」

あれ、なんだろう、なんで私ムキになってるんだろう。

「そうですか」
「そう!」
「わかりました。ではもう少し、ここにいてください」

え?

「…………」
「…………」

今なんて言ったの?
クリフトはお風呂のほうを見てる。さっき笑ったときみたいに穏やかな顔で。
えっと……今、クリフト、ここにいてって……言ったのよね。私に……
え…?

「あ、あのね!」
「?」
「私ちょっとお話ししたい人がいるの。ソロじゃなくてっ」

あれ、なんで私話をそらしちゃってるんだろう。

「ほら、あそこ、おじいさん!」

私はたき火の近くでまきを足しているおじいさんを見た。クリフトも目で追う。

「ひとりだとちょっと話しにくいの。いっしょに来てくれる?」

クリフトはまた驚いたような顔して私を見たけどすぐにさっきの穏やかな顔に戻った。

「はい、姫さま」


「お、大丈夫か?」

おじいさんのところに行こうとお風呂の近くを通ったらソロが声をかけてきた。

「はい、ご心配をおかけしました」

621従者:2017/11/07(火) 17:37:35 ID:o46AGxQI
すみませんちょっといったん席を外します。
また再開します。

622従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 15/26:2017/11/07(火) 18:14:16 ID:o46AGxQI
クリフトは苦笑いしながら頭を下げる。ソロもつられて苦笑い。ん?なんで苦笑い?
ふとソロがクリフトのずっと向こうを見た。苦笑いはなくなってた。

「ピサロ」
「え?」

ソロの視線の先には木かげに腰を下ろしてるピサロとロザリーがいた。

「あいつも呼んでくる」
「え…?」

ソロはおけにお湯をくんでピサロのほうに歩いてった。
ソロ……。

「おいピサロ!」

バシャッ!
ソロがピサロに勢いよくお湯をかける。服や髪がびしょびしょになるピサロ。
驚いてソロとピサロを交互に見るロザリー。

「…………」
「ソロさん……」
「服洗たくするからよ、ぜんぶ脱げよ。血もついてるからな」
「…………」

ピサロは無言でソロを見上げる。濡れた顔を手でぬぐうこともしないで。
ピサロって、敵の攻撃はひょいひょいかわすくせにソロが殴ったときや今はよけないのね。
なんでだろう、なんだかよくわからない。
ソロとピサロがこっちに歩いてきた。ロザリーも後から静かについてくる。
歩きながらピサロはそばに置いてあったおけを手にした。すかさずお湯をくむ。
バシャッ!!

「わっ!」

ピサロがすごい勢いでソロにお湯をかけたの。

「やったな…!」
「……」

ソロとピサロのお湯かけ合戦が始まった。

「ねえ、なにあれ……」
「さあ、なんでしょう……」

623従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 16/26:2017/11/07(火) 18:18:04 ID:o46AGxQI
なんでふたりとも必死なの。

「おいてめえら、遊んでねえでさっさと入りやがれ!」
「わ、わかったよじいちゃん」
「てめえもだ!そっちは女風呂だ、そこの耳のなげえじょうちゃんのためにとっときやがれ」
「む……そうか……」
「え…?わ、私も入っていいのですか?」
「あったりめえだ、みんなで入るように作ったんだからよ」
「まあ……ありがとうございます!」

「入ろうぜ」
「…………」

「ピサロさま……」
「………………」

ソロとピサロが向かい合わせでお風呂に入ってる。なんか、なんかヘンな感じ。
ピサロは髪が乱れないように上で束ねてるからますますヘンなカンジ。

「…………」
「…………」

「……なんだ」
「…………」

「なんでもねえよ」
「…………」


「おじいさんは、ソロの、本当のおじいさんなんですよね……」
「…………」

ソロとピサロのお湯かけ合戦も落ちついてお風呂へのお湯足しも終わってまき足しに戻ったおじいさん、
私は思いきって聞いてみた。

――むかしむかし、北の山奥に天女が舞いおりたそうです――
――そして木こりの若者と恋に落ちふたりの間にはそれはそれはかわいい赤ちゃんがうまれたとか――

――その昔、北の森の中に木こりの親子が住んでおった――
――木こりの息子は森の中で美しい娘と出会って結婚までしたのじゃが……――
――ある日雷にうたれて死んでしまったのじゃ――
――息子は死んでしもうたが親父のほうは今でもひとりで木こりをしておるそうじゃ……――

624従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 17/26:2017/11/07(火) 18:22:05 ID:o46AGxQI
――その昔、地上に落ちて木こりの若者と恋をした娘がおりました――
――しかし天空人と人間は夫婦になれぬのがさだめ――
――木こりの若者は雷にうたれ娘は悲しみにうちひしがれたままこの城に連れ戻されたのでした――
――しかし娘はどんなときでも地上に残してきた子どものことを忘れたことはありません――
――もし今のソロを見ればきっと涙にくれるでしょう――

――ひとつはっきりしたことは、ソロさんのお父上は死んでこの世にはいない、ということですね――

ブランカの言い伝え、天空城での言葉、クリフトの言葉……いろんなことを照らし合わせると見えてくる真実。
このおじいさんは、ひとりで木こりをしているお父さんのほう、つまり、ソロのおじいさま…!

「どうだかな」
「…………」

「北の森の中に木こりの親子が住んでたって。
息子さんは雷にうたれて死んでしまったけど、お父さんのほうは今もひとりで木こりをしてるって。
それ、おじいさん、あなたのことなんですよね…?」
「…………」

「さあな」
「…………」

だめだ、取り合ってもらえない。こっちを見てもくれない。このままじゃはぐらかされちゃう。
でも、でも、きっと合ってるはず。このおじいさんがソロの本当のおじいさまのはずなの。

「ソロには名乗ったのですか?教えてあげたのですか…?」
「………………」

「あいつが今求めてるのは身内でもねえしなあ」
「そんなのわからないじゃないっ」

おじいさんはちょっとびっくりして私を見た。私もまっすぐおじいさんを見た。

「ああ……」

おじいさんはずっと私を見てる。私も目をそらさないでずっとおじいさんを見てた。

「お前か……」
「え?」

おじいさんは手を止めた。私からいったん目をそらして遠くを見る。

「あいつも、お前みたいにまっすぐしゃべるやつだったな」
「え…?」

625従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 18/26:2017/11/07(火) 18:25:39 ID:o46AGxQI
おじいさんは改めて私をゆっくり見た。さっきとちがうとっても優しい目をしてた。
丸太を無造作に置いて私たちに座るよう勧めてくれる。私たちが座ったあとおじいさんも向かいに座った。
何かを言いかけようとしてやめて、また言おうとするけどやめて。
まるで口にするのが惜しいと言わんばかりにためらいながら、けどゆっくり話し始めたの。

――手放したくなくなっちまうからよ――

…………。

「ソロを……あいつを初めて見たとき、いっしゅん息子が帰ってきたのかと思った。
本当にそっくりだったんだ……。
しけた面も、ちょっときついこと言うと大声で泣きだすしぐさも、すぐ逃げだそうとするくせも……
なにもかも……。
ああ、こいつはオレの孫で、村でなんかあったなって、すぐわかった。
煙が上がってたようだったからな、空も紅かったし、まあそういうことだったんだろう」
「…………」
「なんで助けに行かなかったんだって、思うか?」
「ん……」
「…………」

「オレはオレでまあいろいろあったんだ。もうあの村には戻らないつもりでここに家を建てた」

まさか、村がなくなるとは思わなかったがな……おじいさんは小さくつぶやいた。

「もしソロに名乗っちまったら、お前はたったひとりの身内なんだって伝えちまったら……」

おじいさんはそこで一息つく。また惜しそうに遠くを見ながら、けど言葉を続けた。

――また手放したくなくなると思う……――

…………。

「手放したくなくて、意地でも手もとに置こうとして、反抗させて、村に逃げられることになって……」

――そうして息子は失った――

「…………」
「オレなりにちったあ反省して息子と嫁と孫を受け入れる準備はしてたんだ。あの風呂もそのひとつでな」

言いながらおじいさんはお風呂のほうを見た。
お風呂の中で結局取っ組み合いになってるソロとピサロに苦笑いする。

「だから……」
「………………」

626従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 19/26:2017/11/07(火) 18:29:22 ID:o46AGxQI
「ごめんなさい…っ」
「…………」

わたし……いつの間にか目に涙がたまってた。息が詰まる。胸が苦しい……。
クリフトはなんにもしゃべらない。おじいさんもしばらく黙ってた。

「嫁も、お前みたいな気の強い女だった」
「…………」
「オレをまっすぐ見やがって、嫁と認めてもらおうと必死だったな」
「…………」
「息子を生き返らせてもらおうと必死だったって、後から聞いた……」
「…………」

――天女っつったって、オレたちとなんら変わらない……――

人間だったんだ、おじいさんは聞こえないくらい小さな声でつぶやいた。

「あんただろ?やたらソロに話しかけてくれてたのは」
「え?」

――じいちゃん、こないだ仲間になった女の子がやけに俺に話しかけてくるんだ――
――ほとんどがどうでもいい話だけど――
――へえ――
――さっきもどこ行くのって聞かれた。別にどこだっていいだろうのに、なんなんだろうな――
――そりゃてめえ、てめえのこと心配してるからじゃねえか?――
――心配?――
――おう――
――…………。……俺のこと心配するやつなんかいねえよ――

――俺は、地獄の帝王を倒して世界を平和にする勇者さまだから……――

――そいつがそうだったらどうすんだよ――
――どうって……――
――興味がなきゃ話しかけねえさ。少なくともそいつがてめえのこと気にしてんのは確かだ――
――…………――

――……じいちゃん……――
――あ?――
――俺……――
――…………――
――…………――
――……まあ茶でも飲むか――
――………――

627従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 20/26:2017/11/07(火) 18:34:05 ID:o46AGxQI
――泣かせちまった……――
――…………――
――アリーナ泣かせちまった……――
――……ああ、おまえによく話しかけてた女か――
――……うん……――

――シンシアを泣かせてからもう二度と女は泣かせないって決めてたのに……――

――……で、そいつはなんて言ってた?――
――…………。……一緒に行こうって……――
――へ、やっぱりてめえのこと気にしてるんじゃねえか――
――…………――

「…………」

おじいさんは私をのぞき込むように見る。うーん、なんだろう。

「ソロを見てると息子を思い出して、あんたを見てると嫁を思い出す」
「…………」
「あんたに先約がいなけりゃソロの嫁に欲しかったな」
「え!?」

そういうとおじいさんはクリフトを見るの。びっくりするクリフト。

「いえ、あの、私は、その……」
「?なんだちがうのか?」
「っ……」
「じゃあ、ソロにもチャンスがあるってことか?」
「いや、あの…っ」
「え?なんの話?」

クリフトがすっごくヘンな顔してるの。眉にしわが寄って……
こまる?くやしい?もどかしい?うーん、なんだろう、ほんとにヘンなカオ。

「はっはっはっ」
「〜…っ」
「?」
「それに、あいつももう気づいてるかもしれねえ」

――じいちゃんをじいちゃんって呼んでいいのは俺だけだからなっ――

「少なくとも、あいつにとってオレは特別な存在みたいだ」

それだけでじゅうぶんだよ、おじいさんはソロを見ながら言葉を切った。

628従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 21/26:2017/11/07(火) 18:37:47 ID:o46AGxQI
「それにしても……」

おじいさんはまた私とクリフトを交互に見る。うーん、なんだろう。

「てめえらはまったく……」
「…………」
「???」
「いつどこで誰がどうなるかわからねえ時代だ。
今日笑顔で別れたやつと明日も笑顔で会えるとは限らねえ。だから」
「…………」
「…………」
「思ったことはそんときちゃんと伝えな。後悔しねえうちにな」
「…………」
「…………」

思ったことはそのときに……

「はい」
「…………はい…………」

私に遅れてクリフトが返事した。あんまり元気のない声。
クリフト…?

「じいちゃん」

ソロが頭をふきながらこっちに歩いてきた。

「俺たぶん、あいつを殺したいんじゃないんだと思う」
「あ?」

ソロはいっしゅん私たちのほうを見たけど気にしない様子で言葉を続けた。

「俺さ、あいつを殺したいんじゃなくて、あいつに頭を下げさせたいんだと思う。
罪を認めて、償って、二度と同じこと繰り返さない生き方をさせたいんだと思う」
「…………」

――あいつのこれまでの人生を俺の手でひっくり返してやりたいんだ――

「あいつを殺しちまったらそれまでだ。きっと本当の意味であいつに復讐を果たせない。だから」

――バルザックはもういない。でもお父さんも帰ってこないのね。……当たり前か――
――バル……お父さん……――

629従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 22/26:2017/11/07(火) 18:41:26 ID:o46AGxQI
「あいつはまだ殺さない」
「……そうか」

「やりてえことが見つかったじゃねえか」
「……うん」

ソロ……。


「みんな、寄り道させて悪かったな」

お風呂も終わってご飯もすませて、一息ついたところでソロが声をかけた。

「いーえ、さっぱりしたしー」
「楽しかったわ、ソロさん」

マーニャとミネアもすっきりした顔してる。私もいい気分転換になったわ。
いちばん風呂、とっても広々してて手足いっぱいに伸ばしてもゆったり入れたの。
空を見ながら入るお風呂なんて最高!
あったかくてお湯もたっぷりで、ずっと入ってたいくらいだったわ。

「なんだ、もう行くのか?」

荷物をまとめようとするソロにおじいさんが声をかけた。

「ん、うん」
「…………」

「ふん!てめえらみたいなガキどもはこのままひと晩泊まっていきやがれ!」
「え?」

「こんな人数だけど泊ってっていいのか!?」
「毛皮ぶとんでよけりゃあな!」
「やったあ!」
「?」

「毛皮ぶとんってどんなの?」

ソロがまたにやっとするの。

「羽根ぶとんとはまた違うぜ?寝てみるか?」
「うん!」
「ひ、姫さま…!」

630従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 23/26:2017/11/07(火) 18:47:13 ID:o46AGxQI
「えー?なにこれ、みんな毛皮ぶとんなのー?高級じゃーん!」
「先ほどの大きなタルといいおじいさんて手先が器用なのですね」

ベッドがひとつにあったかそうな毛皮ぶとんがみっつ。けっこう広めだからひとつにふたりで寝られそう。
おじいさんは自分が食べる分しか動物を狩らないから毛皮ぶとんはとっても時間をかけて作ったんですって。
場所によって毛並みが違うからなんまいもぬい合わせて……
これはきっと、おじいさんの息子さんとお嫁さんとソロの分だったんだ……そう思ったらまた目が熱くなった。

「あまり大人数で押しかけてもなんです、私は馬車で休むとしましょう」
「あ、私もそうします。どうぞ皆さんごゆっくり」
「ふむ……。あまりクリフトのアホーめに姫さまを任せたくはないが、この人数ならまあよいでしょう」

ライアンとトルネコ、ブライはおじいさんにごあいさつして馬車へ戻ってった。
気を利かせてくれたのね。じいはクリフトにも何か小声で話してた。ふたりともまじめな顔。なんだろう。
半端に残ってる毛皮があったみたいでおじいさんが防寒に使いやがれってみんなに渡してた。すごいなあ。
私は毛皮ぶとんで寝てみたいから泊めてもらうようお願いした。
ピサロとロザリーはまたどこかに行っちゃったからあとはソロとクリフトとマーニャとミネアのよにん、
みんなでかたまって寝ればいいわよね。
おじいさんはベッドにお願いしてソロとクリフトで毛皮ぶとんひとつ、私たちさんにんで毛皮ぶとんをふたつ使わせてもらった。
さんにんで並んで寝るなんてそんなにないから嬉しい。
私たちはおやすみのあいさつをしても明かりを消しても小声でずーっとおしゃべりしてた。
羽織りをいっせいに放り投げたときの話がいちばん盛り上がった。
最初はあんまり乗り気じゃなかったミネアがけっこうノリノリで飛ばしてたのよね!
そしたらおじいさんにさっさと寝ろって怒られちゃった。あ、日課の腕立てふせが……うーん、ムリか。

「おやすみ、マーニャ、ミネア」
「おやすみー」
「おやすみなさい」


「てめえら、いつまで寝てんだ!」

朝、おじいさんにたたき起こされる。
私よっぽど疲れてたのかしら、毛皮ぶとんが気持ちよかったのかな、起きたときには日が高くのぼってた。

「あーよく寝た!」

おじいさんの家で朝ごはんをとらせてもらう。ちょうど動物を狩ってきたってお肉料理を用意してくれた。
馬車のやつらにも持ってけって持たせてくれる。
おじいさんて……マーニャが正に私が思ったこと、おじいさんてけっこうやさしい人じゃないのって代わりに言ってくれた。
クチは悪いけどって茶化しながら。おじいさんはいっしゅん手が止まる。

「やめてくんな!けつがかゆくならあ!」
「えー?」

631従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 24/26:2017/11/07(火) 18:50:53 ID:o46AGxQI
「おしりがかゆくなるなんて変なおじいさん」
「照れているのですよ」
「え?そうなの?」

なんで照れるとおしりがかゆくなるんだろう。よくわからない。

「私が照れるとおしりではなく頭のほうがかゆくなってきますけどね」

クリフトもよくわからない。
クリフト、昨日は元気なさそうに見えたけど、だいじょうぶだったのかな。
今はなんともないみたい。相変わらずすぐそこに座ってる犬を気にしてる。
うん、だいじょうぶかな、クリフト。

「あーあ、赤くなっちゃって。おじいさんて照れ屋さんなのね」
「うるせえ!」
「ちょっと姉さん……。
でも、照れるとおしりがかゆくなるなんて、ずいぶんと変わった体質の持ち主ですね」
「てめえもだまってやがれ!」

赤くなったおじいさんにマーニャがにやにやしてる、ほんとに照れてるのね。
どうしてみんなわかったんだろう。私さっぱりわからなかったわ。

私たちはおじいさんになんどもお礼を言った。
おじいさんはまた照れたのかな、さっさと出てゆきやがれってまた怒られちゃった。
ソロがおうって元気よく返事する。これがふたりのあいさつなのね。
また来たいな。ソロのおじいさま、いちばん風呂にやわらかな毛皮ぶとん!
修行のために山にこもってこんな小屋で過ごすってのも悪くないわ。
あ、修行といえば……

馬車に戻って出かけるしたくを整えたあと私は腕立てふせを始めた。
きのうはすぐに寝かしつけられたから日課の腕立てふせができなかったんだわ!
日課をこなしながらソロに声をかける。

「ねえソロ!」
「あ?」
「ソロはおじいさんのことが好きなのね!」
「…………」

「……まあ、俺の親代わりみたいな人だからな」
「そうなのね」

私は腕立てふせを急いですませてソロのそばに寄った。

632従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 25/26:2017/11/07(火) 18:54:42 ID:o46AGxQI
「村をなくして独りになって、最初に着いたのがこの家、最初はじいちゃんに追い出されたんだ」
「え…?」
「けど俺が、まあ、出ていこうとしたら引き止めてくれてさ、昨日みたいにひと晩泊まってけって、結局何日も泊らせてくれたんだ。
こづかいもくれたし防具もくれた。飯も食わせてくれた。だから俺も木こりの手伝いした。どんだけここにいたんかなあ」

そう言うとソロは少しだけ笑った。きっとそのときのことを思い出してるのね。
懐かしそうな顔してる。

――おい、あんまりひっつくなよ――
――…………――
――まったくてめえは……――
――…………――
――おい、寒いのか?震えてんじゃねえか――
――…………――
――だいじょうぶか?――
――……うん……――
――もっとしっかりくるまりやがれ。風邪ひいたらつれえぞ?ふとんいちまい足しとくか――
――…………――

――なんか……父さんみたいだ……――
――てめえみたいなしけたやろうを息子に持った覚えはねえわ――
――へへ、父さんみたいだ……――
――…………――
――父さん…っ――
――だいいち歳が離れすぎてるだろう。オレのことはせめてじいさん……じいちゃんって呼べ――
――じいちゃん……うん、じいちゃん……っ――
――…………――

――じいちゃん……いてえ……いてえよお……――
――てめえ!なにやってんだ!――
――いてええ…!――
――キリキリバッタか、また派手に喰われやがって…!さっさと横になりやがれ!――
――うん…っ――

――いてえ……いてえよ……じいちゃああん……――
――あせるんじゃねえ、だいじょうぶだ。ゆっくりちゃんと息しやがれ――
――うん……はあ……ふう……――
――目は開けたままにすんな。よけい疲れるぞ。ちゃんとまばたきしやがれ――
――うん……――
――ちょっとくれえ閉じたって死にゃあしねえからな――
――うん…っ――

633従者の心主知らず やりたいこと【暴力・流血・残酷注意】 26/26:2017/11/07(火) 18:58:19 ID:o46AGxQI
――いてえ……――
――だいじょうぶだ、だいぶ血は止まったからな――
――俺、死ぬのかな……――
――バカやろう、ちょっとはらわた喰われたくれえで死ぬわけねえだろう――
――そっか……よかった……――
――まったく……――
――じゃあ、なんでこんなにいてえのかな……――
――そりゃてめえ、生きてるからに決まってんだろ。いてえっていってるうちはだいじょうぶだ――
――……どうしよう、そんなこといったらあんまりいたくなくなってきた……――
――バカやろう、いてえことにしとけ――
――うん……いてえよお――

――おう、あんまり無理すんな――
――腹の傷は治るのに時間がかかるし後にも響くから厄介なんだ。ここでちゃんと治していけ――
――……うん……――

――いいか、ソロ――
――どうしても相手を殺さなきゃならねえときは首か腹を狙え。そこが急所だ――
――腕や足を斬りおとしたところで相手は死にゃあしねえ、長く苦しませるだけだからな……――
――逆に相手もそこを狙ってくる。どこ失ったって急所だけはぜったいにとられるんじゃねえぞ――
――うん――

「実戦はぜんぜん違った。俺が村で習ってたことは本当に基礎で、じいちゃんに教わったことも多かった。
じいちゃんには敵わねえよ」

ソロが笑いながら話してる。なんだかすっきりした顔。ふっ切れたのかな。
きっと迷いが晴れたのね。やりたいこと、本当に見つかったんだ。見つけられたんだ。
それはきっとおじいさんのおかげ……
私もお城のみんながいなくなったときクリフトがそばにいてくれた。クリフトがぎゅってしてくれた。
だから今まで元気にやってこれた。
ソロにとってはここの木こりのおじいさんがそうだったのね。私はふとクリフトを見る。

「……?姫さま?」
「ううん、なんでもない。見てただけ」
「そ、そうですか」

クリフトがいてくれてほんとうによかったって思う。なんだかくやしいな。ひとりでなんでもできるはずだったのに。
でも、私も……
私のやりたいこと。

――思ったことはそんときちゃんと伝えな。後悔しねえうちにな――

ソロはピサロとの戦いに一区切りをつけた。だから次は、私の番。
あまりにいろんなことが起こりすぎて頭の中がぐちゃぐちゃだったけど、私もやっと決意が固まった。

634従者:2017/11/07(火) 19:02:40 ID:o46AGxQI
何かと謎の多い山奥の村ときこりの家ですが、山奥の村では宿屋の主人が「昔の習慣」と言いつつ部屋の掃除をしていたことから
かつてあの村は宿屋が稼働できるくらいには人の行き来があり木こりの親子も最初はそこで暮らしていたとしました。
それがソロが地獄の帝王を倒して世界を平和にする勇者と予言されてからは理解者のみを残して人を寄せつけなくなり
ソロが物心つくころには村の存在自体語られなくなったとしました。
(宿屋の主人は理解して村に残ったので別に宿屋が稼働しなくても生きていけるのですが何かと昔の習慣が忘れられなかったということで)
ブランカでは木こりの親子の存在は知られているも天女の存在はおとぎ話にされていたことから
村の存在を語られなくするために木こりのおじいさん(というかおじいさん世代の人たち)も一役買っていたのではと考え至りました。
また6章後にでもクリアリに絡めてこのあたりを書けたらと思います。ソロでクリアリ第二弾、どうぞ気長に待っていてください。

ありがとうございました。

635名無しさん:2017/11/11(土) 00:38:52 ID:c2bhkkMI
あら、これはこれは乙です。
長らくお見かけしませんでしたがお変わりなさそうで何よりです。
お越しになる頻度は人それぞれ。ご無理は禁物。
便りがないのは無事の知らせと前向きにとらえております。
wikiの管理人さんもきっとご無事なのでしょう。

作品を書く方も乙。他人投下のきっかけを作る方も乙。
今日の読み手も明日の書き手候補。
皆さん乙です。

636従者:2017/11/15(水) 17:27:10 ID:2e7LBrXc
乙ありがとうございます。お心遣い痛み入ります……。
以下の投下で6章は最後のエビルプリースト戦を残すのみですのでこれでやっと2章に戻ります。

PS版のセリフをなぞったSSアリーナ視点、6章「失踪の行方」25レス分一気にいきます。
ほぼオリジナル展開ですご覧の際にはお気をつけください。クリアリパートは1/25〜14/25くらいです。
前回も今回もクリアリ以外の部分がとてもデリケートな問題で恐縮です。
2chではまず投下できなかった範囲と存じます。このスレの寛大さに心より感謝いたします……

637従者の心主知らず 失踪の行方 1/25:2017/11/15(水) 17:30:54 ID:2e7LBrXc
――お父さまたちを返してもらう――

「ピサロ」
「…………」
「話があるの」

食堂で夕食をすませたあと私はまだいすにかけていたピサロの前に立った。
ロザリーが驚いて私と後ろのクリフト、ブライを見る。ピサロは目だけこっちに向けた。

「私はアリーナ、サントハイム王の娘よ」
「……」

「そのようだな。エンドールの武術大会で知った」
「そう……」

「なら話は早いわ」

私はピサロをにらむ。

「お父さまたちをどこにさらったの」
「……」
「返して」
「…………」
「アリーナさん……」

ピサロは目線を戻して小さく息をついた。

「わたしではない」

…………。

「報を受けサントハイムに向かったときにはすでに廃墟になっていたのだ」
「なんじゃと…?」

なに言ってんのこいつ……。

「うそおっしゃい!」
「うそをついて何の得があるのか」
「だって、あんたがいなくたったとたんに魔物たちもいなくなったって聞いたわ。
あんたが魔物たちを連れてお父さまたちをさらったんでしょう!?」
「逆だ。魔物たちが身を潜めたから大会を放棄して現場に向かったのだ」

…………。

638従者の心主知らず 失踪の行方 2/25:2017/11/15(水) 17:34:31 ID:2e7LBrXc
「だって、だってお城を乗っ取ったじゃない!」
「ああ……。空き巣だったからな」
「そんな言い方…!」
「姫さま……」
「ピサロさま……」
「あんたじゃないっていうなら誰だっていうのよ。誰がみんなをさらったっていうの!?」
「教えてやる義理もない。どのみち、今となってはもうどうでもいいことだ」
「なんですって…!!」
「ピサロさま…!」
「返してよ…!!お城のみんなを返してよっっ!!」
「…………」

ピサロが笑った。笑ったの。こいつ…っ!!

「そうだ、そうでなくてはな……。
己がため、己が身内のためには手段を選ばない。やはり人間とはそういう生き物なのだ。
安心したぞ……」
「ピサロさま…っ」

寒くないのに寒気がした。鳥肌が立つ。息がつまって……背筋がぞくっとした。
なにこれ……。
気づいたらクリフトとブライが私の前にいて構えてた。とっさに私も身構える。

「何やってんだよ」
「ソロ……」
「ソロさん」
「…………」

「別段何もしておらん。もう寝ようと思っていたところだ」

寒気がいっしゅんで消えた気がした。ぞくぞくも消えてる。
いつもの食堂に戻ってた。
もしかして、さっきのはピサロのちから…?そしてこれは、ソロのちから……?
ピサロはソロが苦手なんだってことがなんとなくわかった。

「待ちなさいよ、まだ話は終わってないわ」
「お前に話すことはもう何もない」
「待ちなさいよ!!」

ピサロは返事もしないで食堂から出ていった。

「ピサロさま、お待ちくださいピサロさま!」

ロザリーが後を追って出ていく。振り向きざまに泣きそうな顔で私に頭を下げながら。

639従者の心主知らず 失踪の行方 3/25:2017/11/15(水) 17:38:07 ID:2e7LBrXc
「アリーナ、大丈夫か?」
「うああぁぁぁああああ…っ!!」
「アリーナ!?」
「姫さま…!」
「姫さま…っ」
「なんで、なんでえ…っ!?ピサロじゃないのお…っっ!?」


「姫さま……」
「…………」

私たちは部屋に戻った。私がお願いしてクリフトといっしょの部屋にしてもらったの。
ソロは何か言いたそうだったけど黙って見送ってくれた。じいも何も言わずにふたりにさせてくれた。

ここはサランの宿屋。私もピサロと決着をつけたい、ソロにそうお願いしたらわかってくれて。
故郷でつけるかって聞いてくれたんだけど、私は今のあのお城にはあんまり行きたくなくて……
でも勇気をわけてほしかったからとなりのサランに連れてってもらったの。
お前も来いよってソロが言ってくれて、ピサロとロザリーは何も言わずについてきた。
お昼をすませて教会に行って、神父さまにごあいさつしてお祈りしてご加護をもらって……

――これで決着がつくはずだったの…!――

部屋に戻ってからクリフトがなんどか声をかけてくれてたけど今は返事をする元気がなかった。
クリフトが私のこと見てるのわかったけど私は見なかった。
見られなかった。頭の中がぐちゃぐちゃでもやもや、なんだかぼんやりしてしまってるの。

「姫さま」
「…………」

クリフトはずっと私を見てる。

「あの口ぶりですと、ピサロさんは確実に何かを知っています。もう一度、話してみる価値はあると思います」

クリフトが話し始めた。やけにゆっくりで静かな声。

「それに……お詫びをしなければならないことがありますし」

え…?

「あんなやつに何を詫びるっていうの?」

私は思わず顔を上げてしまった。クリフトを見る。

「…………」

640従者の心主知らず 失踪の行方 4/25:2017/11/15(水) 17:41:44 ID:2e7LBrXc
クリフトも私がいきなり返事したからびっくりしたのかな、しばらく私を見てたけどまたゆっくり話し始めた。

「私たちは、デスピサロという名前だけを頼りに、漠然としたまま旅を続けてきました。
それがいつしか、サントハイムの皆さんをさらったのはデスピサロなのだと思い込むようになっていたのです」

――そうしなければ旅を続けられなかったから……――

「ですが、今日ピサロさんの話を聞いて、私がただそう思っていたかっただけなのだとわかりました」
「…………」
「サントハイムの皆さんをさらったのはピサロさんではなかったのです。その事実は、受け入れなければなりません。
今まで疑ってしまっていたことを……詫びたいのです」

…………。

「あいつは私たちにさんざんひどいことをしてきたのよ!?」
「姫さま……それとこれとは、話が別なのです。少し、難しい話なのかもしれません。
ですが、どうか、聞いてください……」
「…………」

「サントハイムを占拠したこと、ソロさんの村を滅ぼしたこと、人間を滅ぼそうとしたこと、これまで奪ってきた多くの命、
それらすべては決して許されることではありませんし、私も片ときとて忘れたことはありません」
「…………」
「ですが、だからといって、してもいないことをしたと疑っていい道理はないのです」
「きっとうそついてるのよ!」
「ええ、もしかしたらうそかもしれません。ですが、それを決められるのは私たちではありません。
彼がうそではないと言っている以上、私たちがそれを疑っていい理由はないのです。
誰がサントハイムの皆さんをさらったのか、それを教えていただくためには、まずピサロさんだと疑ってしまっていたことを詫びる、
それは人として、当然の礼儀ではありませんか…?」

……………………。

「わかんない…っわかんないよっ!私はクリフトみたく大人になんかなれないもんっ!」
「姫さま……」

クリフトは忘れてしまったんだ、今までのこと……
ロザリーを生き返らせてあいつに会いに行ったとき、あいつは私たちにお礼を言った。私たちと戦うことをやめた。
アンドレアルが飛んできたときも戦わないよう指示してくれた。あのとき、すこしでもいいやつなのかと思った。
これでよかったのかしらって、ほんとうにそう思った。
けど、ソロに向けたひどい言葉。
ロザリーはあんなに謝ってくれてたのに、あんなに泣いてくれてたのに、あいつはなんにもしなかった。
さっきだって、空き巣とかどうでもいいとか、ぜんぜん悪いことしたと思ってない。私たちの気持ちなんかなにひとつ考えてくれてない!
あんなやつに謝ることなんかひとつもない!!あんなやつ……!!

「姫さま……」

641従者の心主知らず 失踪の行方 5/25:2017/11/15(水) 17:45:29 ID:2e7LBrXc
クリフトは寂しそうな顔してた。

「……必ず、情報を得てまいります……」
「…………」
「必ず、取り戻しますから……」

――サントハイムの平和は、姫さまの笑顔は、このクリフトが必ず取り戻してみせますから……――

クリフト……?
クリフトはとても真剣な顔してた。

「ですから、少しだけこちらで待っていてください」
「…………」

クリフトはそういって上着を羽織った。出かけるしたくをする。
クリフト……

「…………」

クリフトはなんでピサロに謝るの?謝りたいの?あんなやつ……
先に謝るべきなのはあいつのほうなのに、なんで……

「…………」
「…………」

お父さまたちのためなの……?私のために、ピサロに謝ってくるの……?
そうなの?クリフト……

「…………」

いつもの優しいクリフトなの……?いつものお説教クリフトなの……?

――忘れてしまったわけじゃないの……?――

「姫さま、ではすぐ戻ってまいります」

クリフトは一礼してお部屋から出ていった。何の迷いも戸惑いもなくさっそうと出ていった。
お部屋がいっしゅんしんとなる。

「…………」

クリフト……

「……………………」

642従者の心主知らず 失踪の行方 6/25:2017/11/15(水) 17:49:05 ID:2e7LBrXc
クリフトぉ…………

「やだ、まって……クリフトまってよっ」

私は勢いよく扉を開けて廊下へ出た。
私の声が聞こえたのかな、すぐ向こうでクリフトが振り返ってるのが見えた。

「姫さま…?」

私はクリフトのもとまで駆けていく。急いでそでをぎゅってつかんだ。

「姫さま?」
「私が行く」

え…?

「私が謝る……」
「姫さま……」

わたし、なに言ってるんだろう。

「私が謝って、私が聞いてくる……」
「…………」
「ちゃんと、自分のちからで聞いてくる……」
「………………」

「ご一緒いたします」
「…………ん…………」

思わず口をついて出てしまった言葉。自分でもびっくりした。
でも、だいじょうぶ。クリフトが行くのなら、私が行く。私はひとりでだってなんでもできるはずなの。だから、
たった今そう決めた。


「ソロ…ッ!!」

ピサロとロザリーのお部屋の前に行ったらピサロの声が聞こえた。
なんだかイライラしてるみたい。

「なぜだ!なぜだ…っ!!」
「ピサロさま…っ」
「人間とは欲深い生きものだ。愚かな種族のはずなのだっ!」
「ピサロさま、そんなことはありません」
「なぜお前はいつも……お前はこれまでどれだけの人間に狙われ続けてきたと思っているのだっ!!」

643従者の心主知らず 失踪の行方 7/25:2017/11/15(水) 17:53:02 ID:2e7LBrXc
っ…。
胸がずきってした。
そう、ピサロはロザリーを人間の手から守ってきてくれてたんだ……。
それはきっと、ほんとうのこと……。

「お前の必死の呼びかけに応じ、いく度も人間を見逃しては改心を試みさせた。
だが、結果人間たちのとった策は何だった?」
「…………」

……聞きたくない。そんな話聞きたくない。

「お前はどんな人間たちにも寛大だったが、人間たちはたった一人のお前に寛大だったか?
われわれ魔族に、寛大だったか…?」
「…………」

ロザリー……。

「でも……でも……それでもわたしは、誰かを憎んで生きていきたくはないのです……」

――みんなが笑って過ごせる日が、いつか必ず来ると信じてる――

ロザリー…っ

「それに、すべての命は尊ばれるべきだと、わたしに教えてくださったのはピサロさまではありませんかっ」

え?

「………………」

ガタッ。

「…っ」

え。

「んっ…」
「っ…」
「あぅっ…」

え?え…?何してるの?何かにぶつかった音……声を出したいけど出せないみたいな声……
背筋がぞわってした。もしかして、もしかして首とか絞めてるんじゃ…?
思わずクリフトのほうを見る。クリフトも少し焦ったような顔してこっちを見る。どうしよう…!

「ロザリー!!」

644従者の心主知らず 失踪の行方 8/25:2017/11/15(水) 17:56:36 ID:2e7LBrXc
私はいても立ってもいられなくなって扉を勢いよく開けた。

「あ…」
「アリーナさん…っ」

ピサロはロザリーを抱きしめてた。ロザリーを見てたけど、にらみつけるような目でこっちを見た。
ロザリーは顔を真っ赤にして目をそらした。

「何の用だ……」

ピサロはロザリーを離した。
ロザリーは顔を真っ赤にしたまま両手で口もとを隠して後ずさりした。

えっと……今……いっしゅんしか見えなかったけど……えっと……キス、してたのよね……。

「えっと……謝ろうと思って……」
「謝る?」
「疑ったから」
「…………」
「お城のみんなをさらったのはあなたじゃないって言ってたのに、疑ったから……」
「…………意味がわからん」

ピサロがこっちに歩いてきた。私を見下ろしことさらににらみつける。

「オレがきさまらに何をした?
確かにかの人間どもを転移させたのはオレではない。だがあの城を占拠させたのはオレだ。
きさまら愚かな人間どもを滅ぼそうとしているのもオレだ。きさまらにとって敵であることに変わりはない。
何を詫びることがある?頭がいかれたのか!?」
「っ…!!」

ピサロがイライラしてるのが伝わってきた。口調も荒い。
いっしょうけんめい我慢しないと私も頭が沸とうしそう。

「それとこれとは、話が別だから…っ」

わたしはいっしょうけんめい言葉で返した。

「お城を乗っ取ったのは許さない。ソロの村のみんなを殺したのだって、人間を滅ぼそうとしたのだって許さない!
ぜったい許さないっ!!
でも………っ…でも……だからって、みんなをさらってないって言ってるのにさらったって疑うのは悪いことだから…っ」

わたしはクリフトに言われたそのまんまの言葉をならべた。
自分でもなにを言ってるのかわからない。とにかくクリフトに言われたまんましゃべった。

645従者の心主知らず 失踪の行方 9/25:2017/11/15(水) 18:00:11 ID:2e7LBrXc
「アリーナさん……」
「だから…っ」
「………………」
「ごめんなさい…っっ」

ふるえる手をぎゅってして、わたしはいっしょうけんめい頭を下げた。

ガタッ!
いすが揺れた。ピサロがぶつかったみたい。でも私は顔を上げられなかった。
くるしい。もういやだ。いちびょうもここにいたくない…!

「じゃあ、おやすみ……」
「まて……まて……」

パタン……。


「姫さま……。よくがんばりましたね……」
「ん……」

けっきょく聞けなかった。だれがお城のみんなをさらったのか、聞けなかった……。
でも……

「もうあんなやつと話したくない……」
「……はい」

「姫さまは一番言いにくいことを誰よりも先に言ってくださいました。誰よりもがんばってくださいました。
後のことは、どうかこのクリフトにお任せください」

クリフトがそっと私の髪をなでてくれた。心地いい……。
なんだろう、いつもはこんなことしないのに。
私はクリフトを見た。クリフトも私を見てた。とっても優しい顔。優しい目。笑ってる……
クリフト……

――やっぱりいつものクリフトだ――

「ねえクリフト、いっしょに寝よ…?」
「えっ?……いえ、その、それは……」
「お願い、いっしょに寝て……」
「姫さま……」
「おねかい……」
「…………」
「おねがい、そばにいて…………」
「………………」

646従者の心主知らず 失踪の行方 10/25:2017/11/15(水) 18:04:04 ID:2e7LBrXc
「…………はい…………」


「姫さま…っ」
「……」
「あ、あの…っっ」

お風呂をすませ、着替えてお祈りしてベッドに入った私たち、私はクリフトの上に乗りかかった。
なんだか寒いの。からだがふるえてて眠れないの。ひっついてるとあったかいから……

「クリフトあったかい……」
「姫さま……」
「おねがい、このままでいて……」
「……は、はい……」
「…………」
「…………」
「…………」
「………………」

クリフトがわたしの腰にそっと手を回してくれた。
最初はさわったりはなしたりまるでおそるおそるさわるみたいな感じだったけど、だんだんしっかりふれてくれる。
あったかい……。

「…………」

どれくらい時間がたったのかな、ふとクリフトが手をほどいて動いたのがわかった。

「え?クリフトどうしたの?どこかに行くの?」
「…………」
「お手洗い?」
「いえ、ちょっと外に……。大丈夫です姫さま、すぐ戻りますから」
「やだクリフトどこにも行かないで。クリフトが外に行くならわたしも行く」
「姫さま……」
「わたしをひとりにしないで……」
「……………………」

「はい、姫さま」

クリフトはまたからだを戻して私の腰に手を戻した。どこにも行かないみたい。
ちょっと気を抜くと私より早く起きたりどこかに行ったりしてしまうクリフト、私は思いっきりぎゅってした。

「姫さま……」
「…………」
「………………」

647従者の心主知らず 失踪の行方 11/25:2017/11/15(水) 18:08:03 ID:2e7LBrXc
クリフトも私を優しくぎゅって返してくれた。
もう片ほうの手も伸ばして私の背中に回してくれる、私はほとんどクリフトの上に乗っかる感じになった。
私、重たくないかな、だいじょうぶかな……。

「…………」
「…………」

だいじょうぶかな……クリフト、もうどこにも行かないかな……。
だいじょうぶかな……。

「…………」
「…………」

だいじょうぶ、かな……。
わたし、またちょっと気が抜けたみたい。でもクリフトはずっと私をぎゅってしてくれた。
クリフトほんとにあったかい……。

「…………」
「…………」

――…っ――

…………。

――んっ…――
――っ…――
――あぅっ…――

「…………」
「…………」

あのとき……

「…………」
「…………」

キス、してた……。
なんで今になってあの光景だけ思い出すんだろう。ピサロはロザリーを見つめてた。
ロザリーは顔が真っ赤だった。

「ねえクリフトー……」
「……はい、姫さま」
「キスって、そんなに気持ちいいのかな……」
「っ…姫さま…!?」

648従者の心主知らず 失踪の行方 12/25:2017/11/15(水) 18:11:35 ID:2e7LBrXc
「ロザリーはね、アドンともキスしたことあるんだって」
「…………」
「アドンがずっと泣いてて震えててつらそうで、ぎゅってしてもぜんぜんおさまらなくて……
気づいたら自分からしてたんだって。
アドンね、キスしたらすっごく気持ちよさそうにしてたんだって。緊張がとけて、泣いてたのも震えてたのもおさまったんだって。
スライムがキスすると健康にもいいんだよって言ってたんだって」
「姫さま……」
「クリフトにお薬飲ませたときはよくわかんなかった」
「………………」

「ねえクリフト……」
「…………」
「キスしよ…?」
「姫さま……」

「魔族やエルフの文化は私にはわかりません。
ですが、神に仕える者にとって口づけとは誓いを示すものです。将来を誓い合う者たちだけの神聖な儀式……」
「クリフトー……」
「……はい」
「難しいことよくわかんない」
「姫さ…んぅっ」

私はクリフトにキスした。クリフトが逃げないよう首に腕を回して。

「ん…」
「っ…っ」

クリフトのくちびる、やわらかい。あったかい。クリフトの匂いがする。今クリフトとすっごく近いんだ。
あ、ちょっと待って。やだもう、よだれたれちゃう。恥ずかしいなあ。
私は自分のよだれといっしょにクリフトのだえきも吸った。なんかヘンな味。
クリフトは最初されるがままになってたけど私といっしょでよだれがたれそうになったのね、私のだえきを吸ってきた。
私のなんておいしくないのに。キスってやっぱり抵抗あるなあ。
最初は気づかなかったけどちゅ、とかちゅぱ、とかヘンな音が聞こえてきたから私はなんとなく口を離した。

「ん……やっぱりよくわかんない……」
「ひめ…さま…」

クリフトは私を横によけてそのまま私の肩に顔をうずめた。

「クリフト?」
「どうか、このままで…っ」
「ん……」

649従者の心主知らず 失踪の行方 13/25:2017/11/15(水) 18:15:05 ID:2e7LBrXc
なんだろう、クリフトは顔をうずめたままだまっちゃった。
少しだけ息が乱れてるみたい、なんでだろう。
さっきのキス、息が苦しくなるほど長くはなかったと思うけど。

「…………」
「………………」

――思ったことはそんときちゃんと伝えな。後悔しねえうちにな――

またひとつ、思い出した。
あのとき、クリフトは元気ないように見えた。
次の日にはいつもの調子に戻ってたからあんまり気にしなかったけど、あのときクリフトは何を思ってたのかな。

「ねえクリフトー」
「…………」

クリフトは顔をうずめたまま返事しない。ずっとだまったまんま。うーん、ほんとになんだろう。
私は構わずあのときのことを聞いてみた。クリフトもきっと思うこといっぱいあると思うの。

「あのときクリフトは、何を思ってたの…?」
「…………」
「私には、言えないこと…?」
「………………」
「…………」
「……………………」

やっぱりクリフトは答えない。顔をうずめたまま。やっぱり言えないことなのかな……。
少ししてクリフトはゆっくり顔を上げた。今度は私を倒して上に乗っかるような体勢になる。さっきとはんたい。
クリフトが私を見てるのがわかった。でも暗くてどんな顔してるのかはわからない。

「姫さま……」
「ん…?」
「……………………」
「?クリフト?」

クリフトがゆっくり私に顔を近づけてきた。え?
え、もしかして……え、もういちど?え?え?えええ??

「ん…っ」
「っ…」

私たちはもういちどキスした。クリフトから来るとは思わなかったわ。
神に仕える身とか言ってたくせに。私にはよくわからないけどやっぱりキスって気持ちいいのかな。
クリフト、今、気持ちいいのかな。だからもういちどキスしてきたのかな。

650従者の心主知らず 失踪の行方 14/25:2017/11/15(水) 18:18:35 ID:2e7LBrXc
「……」
「……」

うーん、やっぱりキスってよくわかんないや。

クリフトはキスが終わったあとまた私の肩に顔をうずめた。
途中から私をぎゅってしてきて。私もぎゅって返したらちょっとびくってしたけどまたぎゅって返してきて。
ちょっとからだが震えてたからおふとんをかけ直してもっとぎゅってしたら少し落ち着いたみたいで。
そのまま寝ちゃったの。
うーん、なんだったんだろう。変なクリフトだったわ。
私はそっとクリフトの頭をなでた。動かない、よく眠ってるみたい。
きっと朝になればまたいつものクリフトに戻ってるわ。優しくてまじめで堅苦しいお説教クリフトに。
私はもういちどクリフトの頭を優しくなでた。私もゆったり目を閉じる。

「おやすみ、クリフト」


「娘」

食堂で朝ごはんを食べてたらピサロが寄ってきた。娘って私のことかしら。

「おはようございます、ピサロさん」
「……おはよ……」

私はちらっとピサロを見てすぐ視線を戻した。できるならもう話したくないから。

「…………」

ピサロはしばらく無言で突っ立ってたけどそのままあっちに行っちゃった。

「なんなのあいつ」
「…………」

「ピサロさん、夕べはあまり寝ていないかもしれませんね」
「え?」
「目が少しくすんでいましたから」
「…………」

そんなの知らない。

「娘」

朝ごはんを食べ終わったころあいつがまた来た。ほんとになんなの。

651従者の心主知らず 失踪の行方 15/25:2017/11/15(水) 18:22:06 ID:2e7LBrXc
「昨日の話だが」
「…………」
「サントハイムの人間どもを転移させたのは帝王エスタークだ」
「え…?」
「伝えたからな」
「え、待って。エスタークって、あいつでしょ?あの、地獄……そう、アッテムトの洞くつの奥にいた……」
「……そうだが」
「だって、倒したのに……。やっつけたのにどうしてみんなは戻ってこないの?」
「…………」

「術師を屠れば過去に施した転移魔術が反転するなどどんな理屈だ……」
「だって……だって……」
「姫さま……」

「なぜ、エスタークだとわかったのです?」
「……サントハイム城を占拠した目的の一つは時空転移魔術の軌跡を辿るためだった。
ただでさえ高位複合魔術だ、エスタークである可能性は高かった。魔素も強かったからな」
「あのまがまがしい気配ですね……」

「あの気配……。そうか……私としたことが……」

クリフトが手で顔を隠した。

「だが、そのエスターク帝王は予言のとおり討ち滅ぼされた……」
「…………」
「だから言っただろう。今となってはどうでもいいことだとな」
「そんな……」

確かに伝えたからな、ピサロはそう言って食堂から出ていった。

「もういちど、エスタークのとこに行ってみる……。もしかしたら何か手がかりになるものがあるかもしれないし」
「姫さま……」

「ご一緒いたします」


「え?」
「どうしても行きたいところがあって……」
「どこだよ」
「……すぐすむから。後ですぐ追いかけるから」
「…………」

「答えになってねえよ。俺たち今までずっと一緒だったろ?今度だって一緒だろ?」
「……でも、もしかしたら無駄足になるかもしれないし、みんなにも迷惑……」
「あのな、アリーナ」

652従者の心主知らず 失踪の行方 16/25:2017/11/15(水) 18:25:40 ID:2e7LBrXc
ソロは私をまっすぐ見てしゃべった。

「行きたいところに無駄なところなんて一つもねえよ。言えよ。どこでも連れてってやるから」
「…………」

私は口ごもった。なんていえばいいの?なんていえば、ソロを傷つけずに伝えることができるの?
ピサロと決着をつけたいって頼んだときはソロとおんなじ気持ちでいたから堂々と頼めたの。
でも、今回は……まだ希望があることに対しては……なんていえば……

「エスタークだったんです」
「クリフト……」
「サントハイムの人々をさらったのはエスタークだったことがわかったんです。
ですから、もう一度あの場所に行って何か連れ戻すための手がかりがないかを探したいのです」
「…………」

「それを早く言えよ。みんな、聞いたな?」
「聞いてなーい」
「聞いとけよっ」

「なんですって!?」
「行きましょう、アリーナさん!」
「善は急げですぞ、すぐ出かける準備をしましょう」
「皆さん、馬車の準備はもういいですよー」

「な?」

みんな…っ

「どうして……どうしてそんなに優しくなれるの……?」

――ソロの村のみんなは、マーニャとミネアのお父さまは、もうどんなにがんばっても戻ってこないのに…!――

「お前さ、世界樹の花手に入れたとき、真っ先に俺の村のみんなやマーニャとミネアの父ちゃんのこと口にしてくれたろ?
自分とこのやつらが助かる保証なんかどこにもなかったのに」
「…………」
「あれさ……すっげー嬉しかったんだ」
「…………」
「仲間の家族は俺の家族だ。少なくとも俺はそう思ってる。早く行こうぜ」
「………………」

「うん……うん……っ」

「ピサロ、お前は別についてこなくたっていいぜ」
「…………」

653従者の心主知らず 失踪の行方 17/25:2017/11/15(水) 18:29:13 ID:2e7LBrXc
「エスターク帝王のもとへ行くのなら同行させてもらう」

私たちはもういちどアッテムトへ向かった。


「俺も行くよ」
「ううん、お願い。私たちで行かせて」

アッテムトに着いて出かけるしたくもととのって、ソロが同行を申し出てくれたけど私は断った。
これ以上みんなに迷惑かけられない。ただでさえいっしょに来てくれたのに。
これは私たちサントハイムの問題、だから行くのは私とクリフトとブライのさんにんって決めたの。
そう、私たちの問題なのにみんながいっしょに来てくれた……急いですませてこよう。

「わたしは同行させてもらうぞ」

ピサロが口をはさんできた。

「なんで来るのよ……」
「勘違いするな。わたしはわたしで目的があるだけだ。別に並んで歩く必要もない」
「…………」
「ピサロさま、あなたが行かれるのでしたらどうかわたしも……」
「…………」

「お前は、ソロのそばにいたほうが安全だと思うがな……」
「ピサロさま……いえ、わたしは…っ」
「………………」

え、なにこの微妙な空気。

「………………別についてきても構わんが、もうそんな非力な腕でナイフなど振るなよ」


「そういえば、この場所ではお前たちに煮え湯を飲まされたのだったな」

歩きながらピサロがつぶやいた。にえゆ…?

「……まあいい。それはすでに過去のことだ」

いいのなら口にしなくちゃいいのに、私たちがエスタークを倒したこと根に持ってるのかしら。
私たちはそれぞれのペースで洞くつに入ったんだけど敵と戦ってるあいだに結局いっしょになって。
ロザリーもいるからみんなで守るためにもいっしょのほうがいいかもってクリフトに耳打ちされて。
確かにそう思ったからなんだかんだいってやっぱりいっしょに行動することにしたの。
ピサロがすきなく強いのがなんだか腹立つ。この戦いが終わったらぜったい決着つけてやるんだから。
洞くつの奥へ、私たちはエスタークのいる玉座の間まで無事たどり着いた。

654従者の心主知らず 失踪の行方 18/25:2017/11/15(水) 18:32:39 ID:2e7LBrXc
「エスターク!私はサントハイム王の娘アリーナよ!」

私は玉座でぐったりと傾きかけているエスタークに大きな声で呼びかけた。

「エスターク!」

ちからいっぱい大きな声で呼ぶ。

「エスターク、返事して!」

「エスターク!!」

でもエスタークは動かない。

「お願いみんなを返して…っ!!」
「やはり、動かぬ……か」
「姫さま……」
「ふむ……」
「おねがい返事してっ!!」

エスタークはもう動かない。

「おねがいエスターク…っ!!」
「姫さま…っ」

もうにどと動かない。

「エスタークっ!!」
「アリーナさん……」
「おねがいっっ!!」

殺した。

「おねがい返事して…っっ!!」

――私たちが殺した――

「ごめんなさい…っ!」

――時間は戻らない。死んだ者はよみがえらない……――
――ごめんなさいぃ…っ!!――

どうすれば……わたしどうすれば……。

655従者の心主知らず 失踪の行方 19/25:2017/11/15(水) 18:36:05 ID:2e7LBrXc
「姫さま」
「クリフトぉ…っ」
「以前、さえずりの蜜を手に入れたあと、もしエルフたちが戻ってこなかったらとうなだれていた私に、
姫さまはおっしゃったではありませんか。それならそれで、また別の方法を探すまでだと」
「っ……」
「大丈夫です、きっと何か別の方法があるはずです。探しましょう」
「クリフト……」
「大丈夫です。さあ姫さま、戻りましょう」
「…………」
「確かに、この場所にはもう用はありませんな。ささ、姫さま、参りましょうぞ」
「………………」

クリフトとじいの声がとっても優しく聞こえた気がした。

「クリフトどうしたの?」
「…………」
「クリフト…?」
「む、何かあったか、クリフト?」
「いえ、今一瞬、エスタークが動いたような気がしたのですが……」
「え…?」

私は思わずエスタークを見る。

「…………」

動いてるかはわからない。

「……………………」

申し訳ありません、気のせいだったようです、そう言ってクリフトはこっちに向き直った。


「なぜ、詫びたのだ……」
「え?」

帰りみち、ずっとだまってたピサロが話しかけてきた。

「お前たちにとって、かつて地上に闇を落とした地獄の帝王エスタークこそ敵でしかないはずだ。なぜ……」

…………。

「敵だからって、何でもやっつければいいわけじゃないから」
「…………」

656従者の心主知らず 失踪の行方 20/25:2017/11/15(水) 18:39:33 ID:2e7LBrXc
アドンもそう。アンドレアルもそう。
もし最初からお話ができていたら、戦わなくていい敵だった。
きっと、殺し合いの戦いじゃなくて、競い合いの闘いができる相手だった。
もしお話ができていたら……

「何にもお話ししなかった。
お父さまの夢の話とか、歴史の話とか、周りの話しか聞いてなくて、いちばんかんじんな本人とは何にもお話ししなかった。
自分の目で、肌で、ほんとうに悪いやつだったのか、どうしてお父さまたちをさらったのかも、何ひとつ確かめないで攻撃した」

――なに…やつだ……。わが眠り…さまたげる者は……――

「それは、今思えば悪いことだったから」
「姫さま……」
「………………」

アドンやスライムは私たちに謝ってくれたから……。

「……それは、わたしが勇者を……」
「え?」

ピサロが歯ぎしりしたような気がした。すぐ向こうを向いたけど、イライラしてる…?

「かつて、エスターク帝王率いる魔族軍とマスタードラゴン率いる天空軍は大規模な戦争を起こした」

いきなりなに言い出したのこいつ。

「地上は戦火に巻き込まれたが、マスタードラゴンが一つの提案をし、エスタークが承諾し、戦場を時空間に移したそうだ。
天空ではどのように記されているか知らんが魔界の歴史書にはそう記されている。夢世界という単語も出ているが詳しくはわからん。
だが、もしその記述が事実であるなら、時空転移魔術はマスタードラゴンも使える」

え…?

「わたしは偽善者の代表になど会う気はさらさらないが、一度会ったことがあるのなら文字通り神頼みでもしてみたらどうだ?」
「ピサロさん……」

「王は夢でエスタークの存在を知りました。そしてこの場所も……。
エスタークもまた眠っていた……眠りながら転移させた……。
そして歴史書にある夢世界……それと何か関係があるのかもしれません。一度話を聞いてみる価値はあると思います」
「ふむ……夢世界か……」

マスタードラゴン……竜の神さま……

「姫さま、行ってみましょう。天空城へ」

657従者の心主知らず 失踪の行方 21/25:2017/11/15(水) 18:43:11 ID:2e7LBrXc
どうして……
私はピサロを見た。

「どうしてそんなことを教えてくれるの…?」
「…………」

「そんなこと……」

――わたしが聞きたいくらいだ――

エスタークは本当は死んでなかった。クリフトが感じた違和感は気のせいではなかった。
エスタークは生きていて、私たちの声も、私の必死の呼びかけも、みんな聞いていた。動かないのではなく動けなかっただけ。
いつかエスタークは再び目覚めることになる。でもそれは、私たちの知らないずっとずっと遠いお話。


「お前たちがなぜここに来たのかはわかっている。サントハイムの民たちは未だ捜索中だ」

天空城に着いて急いで玉座の間へ、竜の神さまは私たちが名前を呼んだだけでそう答えた。

「捜索中…?お父さまたちは、無事なの…?」
「かの者たちは生きている」
「ほんとに…?」
「転移された直後に察知した気配がそのまま残っている。わずかではあるが死者が出ていないことはわかる」
「ほんとに……っ」

どうしよう、もう前が見えなくなってる……。

「どうして……どうしてもっと早く教えてくれなかったの…っ??」
「それは……」

竜の神さまはその先をすぐ言わない。少し間が空いた。

「必ず見つけ出せるという保証がなかったからだ」
「…………」
「確証のないことで無駄に期待だけを持たせたくはなかった。また期待されても困るからだ。
今こうしてお前たちに話したのも、お前たちが自力でここまで情報を得てきたからこそできたこと」
「…………」

言ってることはなんだか難しくてよくわからなかったけど、私はお話が終わるまで待った。
ずっと竜の神さまを見てた。

「私からお前たちに報告するときは、かの者たちが無事見つかったときだ」

竜の神さまも私を見てくれた。目が合う。竜の神さまは私の目を見たままはっきり言った。

658従者の心主知らず 失踪の行方 22/25:2017/11/15(水) 18:46:42 ID:2e7LBrXc
――全力を尽くして捜索しよう――


「よかった……」
「姫さま」

お父さまたちは生きてる。神さまが言うんだもん、きっと生きてるんだわ。
生きてるならまた会える。きっとまたもとのお城に戻れる。
今は竜の神さまが捜してくれてるけどもしこの戦いが終わっても見つからなかったら私が捜してもいいんだし。
竜の神さまといっしょに捜せばきっとすぐ見つかるわ。

――お父さまたちにまた会える…!――

「よかったぁ……」
「はい、姫さま」
「よかったあああ……っっ」

からだのちからが一気に抜けた。私はふらついて地面に座りこんでしまった。

「姫さま!?」
「だいじょうぶ、ちょっと疲れただけ」
「姫さま……」
「姫さま、ようがんばったのう」
「…………うん…………」

「ソロ……ありがとう」
「俺は何もしてねえよ。お前ががんばったからだろ」
「ピサロ……ありがとう」
「愚かな人間がこれ以上増えるかと思うと虫唾が走るっ」
「なんですって!」

「まあまあアリーナさん、ピサロさんはあれです、照れ隠しなんですよ。
ソロさんやアリーナさんの真剣な思いに胸打たれたんですよね、ピサロさん?」
「うるさい黙れっ」
「「へ?」」

トルネコに言われて私とソロはそろって声をあげちゃった。ふたり同時にピサロを見る。
ピサロもこっちを見たけど口がへの字でヘンな顔してた。

「だから人間は愚かなのだ!もう寝る!!」

ピサロはすごい勢いで馬車に戻っていった。寝るって、まだ寝る時間じゃないけど。
夕食だってすませてないのに、変なピサロ。

659従者の心主知らず 失踪の行方 23/25:2017/11/15(水) 18:50:09 ID:2e7LBrXc
「ごめんなさい、皆さん……。ピサロさまは決して悪気があってああ言ったわけではないんです。
本当にごめんなさい……。私も失礼します」

何度も何度も頭を下げロザリーも戻っていった。

「皆さんが天空城に行かれている間にピサロさんとロザリーさんと少しお話ししたんですよ。
いやはや、なかなか深いことを考えてらっしゃる方々で興味深かったです。
信じられない話ですが、ピサロさんのおかげで私たちはずいぶん平和な生活をさせてもらっていたみたいなんですよ」
「なにそれ……」
「私たちは、世界征服を企み、人間を滅ぼそうとしたデスピサロさんしか知りませんが、そうなるまえのピサロさんの話です。
世界中を駆けずり回って罪人たちを取り締まってくれてたみたいなんですよ。
彼の中ではロザリーさんを狙うエルフ狩りへと転じないためだったのでしょうが、結果的に犯罪者が減っていたのは確かです」
「そんなのうそよ!」

私は思わず大声をあげてしまった。

「ええ、私も最初は信じられなかったのですが、話を聞けば聞くほど細かくご説明をされるものでね。
特にレイクナバやボンモール、エンドールでの話題を出されたときはもううそだと思うほうが無理だと思いました。
あまりに合点がいってしまったんです」
「だって、だって誰もピサロのことを知らないじゃない!」
「何度か各国に罪人を縛り上げて突き出したことがあったそうなんですが、当時の人々は魔族と知るやいなや
罪人を取り締まる味方ではなく国民を傷つける敵と勘違いして追ってしまったそうなんです。それ以来彼は表に出ていません。
ピサロさんも性格が荒いですし、どちらが悪いとは私は言えなかったのですが……」
「…………」

「マーニャさんとミネアさんでしたらこの事件はご存知じゃありませんか?
3年前モンバーバラで人気だった曲芸の一座が一夜にして壊滅、被害者たちは魔物に襲われたと証言するもどこにも証拠はなく、
被害者の素性を調べるうちに当時カジノを荒らしていた犯罪者集団と判明、誰のおかげともわからぬうちに取り締まれた事件」
「あ……」
「うそ……あれ……ピサロなの……?」

ピサロのことがますますわからなくなった。


――自分のことしか考えない魔族と他人のことしか考えないエルフとの出会いは世界を大きく変えた――

「彼は、今こうして人類を敵に回すまえからすでに、たった一人で人類と戦っていたのですよ……。
そして、私たち人類が変わらない限り、気づかない限り、これからもずっと戦い続けるのでしょう」

――終わりのない戦いを――

「もう、ピサロさん自身がそれに耐えられなかったのだと思います」

――希望のない明日に……変わることのない未来に……――

660従者の心主知らず 失踪の行方 24/25:2017/11/15(水) 18:54:06 ID:2e7LBrXc
「…………」

変わることのない未来……。

――たとえお前たちのような良識ある人間がいたとして、罪びともまた生み出される社会がある限り――
――人間はこれからも変わらないのだろう――

――我々魔族では人間を変えられない。変えられなかった……――
――いや、本当はもう、変えようとする前からわかっていたのだ……――

――人間は変わろうとしない。なぜなら変わる必要がないから――

ふと思い出されたのはアドンの言葉。
あのときは何の話をしてるのかわからなかった。けど……

――他種族同士が歩み寄ることは未来永劫あり得ない――

あれは、このことを言っていたの……?

「エンドールの武術大会に参加したとき誰もピサロという名に、その姿に、反応する者がいなかった。
それは彼にとって……」

――失望と落胆……――

「いえ、確か城内で……」

クリフトがすかさず口をはさむ。

「城内で、何名かピサロさんの名前に覚えのある方がいました」

――デスピサロ……。どこかで聞いたような名前じゃが思い出せんわい……――
――デスピサロに気をつけるんだ!――

「誰だって罪を犯したくて犯してる人なんていないわ」

私も思わず口をはさんだ。

「それなのに、罪を犯したからって人類すべてを滅ぼそうとするのはおかしいわ」
「……ピサロさんが言ってたんですよ」

――人間の中に善人と悪人がいるのではなく、人間ひとりひとりの内に善と悪が混在している――
――それまで善人として生きてきた人間とて何らかのきっかけで悪人に転じる可能性は0ではない――

「…………。だからって……そんな可能性……」

661従者の心主知らず 失踪の行方 25/25:2017/11/15(水) 18:57:43 ID:2e7LBrXc
そこから先が続かない。言葉を返せない。どうすればいいんだろう。どう返せば……
そんなときふと浮かんでしまったのは。
お父さまのお声が出なくなったとき焦ってエルフさんたちのさえずりの蜜を盗んでしまいそうになったこと……
事情があったところで罪は罪……エルフさんたちは人間をすっごく憎んでた……。

――確かに人間は、時に過ちを……その、犯します。ですが、それを悔い改めよき道へと進むことができるのもまた人間です――
――……でも、過ちは犯すのね。最初から犯さないっていう選択肢はないのね――

「……………………」

どうすればいいの……?

「いえいえ皆さん、そんな神妙にならずに……」

トルネコは穏やかに笑った。

「だからピサロさんにとってソロさんやアリーナさんのような方はほんとうに理解しがたいみたいです。
やられたらやり返すのが人間の本性と思っているようですね。
それをことごとく覆されたので腑に落ちない、意味がわからないと何度も言ってましたよ。
今まで本当に出会えていなかっただけなのかって。他にもいるのかって」
「…………」
「アドンさんが私たちに太鼓判を押してくださっていたそうで、ますますピサロさんを悩ませているのだとか」
「アドンが…?」

トルネコは笑ってうなずいた。

――ピサロ様、人間をみな滅ぼす計画、今しばらく吟味する必要があるかと……――
――滅ぼすに値しない人間を発見しました。ロザリー様もその者たちにはお心を許しているようです――
――他にも同種の人間がいるのか否か、またその境界がどこにあるのかが未知数――
――少なくとも今現在発見したかの者たちを消すことはロザリー様にとっても得策ではありません――
――恐れながらその者たちとは、奇しくも我々にとって敵でしかないと思っていた……――

「…………」

――勇者ソロとその一行でございます――

アドン……。
ピサロにそんな話をしてくれてたんだ。なんかちょっと言い方が気になるけど。
でも、私たちを信じてくれたのね。

「他種族の、それも魔族の方に評価をいただけるなど、なんとも誇らしいことです」

トルネコは嬉しそうに言葉を続ける。

――ソロさんやアリーナさんのような方がいる限りピサロさんが人間を滅ぼすことはないでしょう――

どれだけ確信を持っているのか、トルネコはそう断言した。

662従者:2017/11/15(水) 19:01:17 ID:2e7LBrXc
短編集「知られざる伝説」及びゲームブックではサントハイム民をさらったのはデスピサロとなっていましたが、
いずれもさらった目的や方法、その後の処置などが不明瞭な点(じゃあ王の失声症は誰のしわざ?とか)、
本編でのミニデーモンの台詞「闇のちからで消された」という言葉と照らし合わせるとどうにも補正しきれない点から
この従者シリーズでは小説版の「光の国」を参考に「夢世界」なる世界をさまよっていたとし
サントハイム王失声、サントハイム民失踪、お告げ所シスター消失はいずれもエスタークのしわざとしました。
また6章後にエスタークでクリアリを構想してはいるので書ける日来ましたら詳細をご覧いただけたらと思います。

それにしても、やっとクリアリのキスシーン書けました!ここまで長かった…!!やっぱこっぱずかしいですね
本当にありがとうございました。

663名無しさん:2017/11/18(土) 00:12:08 ID:gXm.bSbg
ある寒い日で小ネタを思いついたので置いときますね。

「うう、今日は寒い日だわ。クリフトー」
「はい、姫さま」
「手袋を脱いでちょうだい。私も脱ぐから」
「は…?手袋が何かありましたか?」
「いいから早く脱いでちょうだい」
「あ、はい」
「脱いだわね。よっ」
「ひ、姫さ…!!」
「冷たっクリフト手冷たいわよ。手袋つけてるのになんで?私より冷たいじゃない」
「ひめさmはなsてくだs」
「せっかくあっためてもらおうと思ったのに。しょうがないから私があっためたげるわ」
「……っ!!」
「クリフトどうしたの?なんか赤くなってない?」
「いえ、これは、その…っ」
「手をあっためてるのに顔があったまるってどういうことかしら。ヘンなの」
「……いえ、姫さまのおかげで全身があたたまりました」
「なにいってるの、私にそんなちからないわよ。クリフトったら大げさなんだから」

664名無しさん:2017/11/18(土) 00:52:13 ID:D/1bjsTo
乙です!

>>662
途中が空いたままで終盤を迎えたような、そうでもないような
ストーリーの流れ以前に、なんとも不思議な展開ですね
未完成のパズルに順不同でピースをはめていくのでしょう
早く完成図を見たいですがご無理のないように

>>663
発想が上手いですね
ふとしたきっかけで何かを思いついたときにクリアリに結び付けようってのがいいですね
クリアリのことが意識にあるからクリアリに結び付くんですから
クリアリへの愛がありますね

665名無しさん:2017/11/24(金) 19:40:44 ID:dwS9Vqh.
このスレ今どれくらいの人がいるのかな
ROMも入れればけっこういるのかな

666名無しさん:2017/11/28(火) 01:09:42 ID:Y8yjKdTs
偶然流れ着くのも難しい辺境の地、書き手がいることが奇跡といえば奇跡です
前スレが過疎ってから立った避難所ですし

667名無しさん:2017/11/30(木) 05:00:10 ID:YfEEFTtM
ハロウィンネタで書こうと思ったけど、ハロウィンよく分からないから無理でした
子供さんはともかく、子供さん以外がやることって仮装以外に思いつかないんですよ

668名無しさん:2017/12/04(月) 12:02:54 ID:Xx7hXIYQ
「お城の生活ってやっぱり退屈だわ。もうここには私の相手ができる人はいないし」
「……」
「でも、また旅に出たら……もう私のいないあいだにみんなに何かあるのはイヤなのよね……」
「姫さま……」
「そうだクリフト、私と勝負しましょうよ!」
「えっ?」
「この旅でクリフトも強くなったでしょ?私たちがどれだけ強くなったか確かめてみたいわ!」
「そ、そんな姫さま…!」
「さあクリフト、どこからでもかかってらっしゃい!」
「姫さま……恐れながら姫さま、私は今回の旅で昇天呪文ザキを使いこなせるようになりました」
「それがなによ」
「それはつまり、私と勝負するということは、最悪いのちを落とす危険性があるということです」
「だからなによ、クリフトがザキするまえにやっつければいいんでしょ?」
「そ……」
「そうでなくてもザキなんてよけてみせるわ。さあクリフト、かかってらっしゃい!」
「……………………」
「どうしたのよ!」
「姫さま……ひめさまとたたかうなんてわたしにはムリです。もうおゆるしください……」
「なによー、さっきザキするっていってたじゃない」
「おぬしら、玉座のまえで何をやっておるんじゃ。もうすぐ王が戻られるぞ」


クリフトがアリーナをうち負かすのにいっそザキでも使えればとかブツブツ言ってたのは
ザキが使えればそれを理由に打ち負かせられる(勝負も避けられる)と思ってたからかな。

669名無しさん:2017/12/09(土) 13:46:31 ID:S9BQIYO.
なるほどそういう解釈もあり得ますね
ザキ習得の動機について新解釈が出てくるとは意表を突かれました
そういう方向から掘り下げてSSを作っていくのも面白そうです
乙です

670名無しさん:2017/12/12(火) 22:53:06 ID:QNbFksbI
思えば570さんのストイックな治療ものがまだ投下されてないんですね
翌日になったら元に戻るクリフトなんて、あらすじだけでも心をつかんできます

671名無しさん:2017/12/16(土) 14:10:57 ID:P8GpQ726
木こりさんとソロさんの関係性は想像に任されている面が大きいんですけど、
ソロさんの置かれた状況とか考えると、一時的にせよ唯一の拠り所になった方ですから、
やっぱりソロさんとしては木こりさんに親近感を持つのが自然でしょうね
ソロが前を向いて次の一歩を踏み出せたのは木こりさんの力もあるでしょう

672名無しさん:2018/01/04(木) 11:44:21 ID:bIb948tE
あけおめ
クリアリ

673名無しさん:2018/01/04(木) 22:42:01 ID:K6yt.qhs
今年も良い年になりますように

678名無しさん:2018/01/22(月) 03:11:24 ID:JlTUMDlw
日本のバレンタインデーはチョコイベントになっちゃってますけど、
外国流のバレンタインデーでクリアリも捨てがたい気がします。

679名無しさん:2018/01/26(金) 02:18:57 ID:HoYuY.BE
男性から女性にチョコを贈るってのも最近では多いらしいです。
アリーナの手作りを手伝っていたらクリフトの手作りな状態になって、
なし崩し的にアリーナに贈ったみたいになるのも良い気が。

あの世界ではチョコじゃなくて別の物を贈る習慣というのも面白そう。
メッセージカードとか。

680名無しさん:2018/01/29(月) 03:23:16 ID:9jGa0BNQ
バレンタインデーは何か贈り物を贈りあうのが普通なんでしょうね
想い人と一緒にお菓子を食べる日とか設定を付けても面白そう

辺鄙な村のひな祭り→呪いの人形→ミステリーホラー
そんな雰囲気のクリアリ、どなたか書いてくれたら嬉しいです
無茶振りかも知れませんけど

681名無しさん:2018/02/03(土) 15:38:18 ID:ht.BFLxM
祝・クリアリつぶやきスレ新設!

共感を得られにくい特殊ネタなど、こっちに書きづらい話も書けそうです
会話を前提とせずに垂れ流せるつぶやきスレですから

682名無しさん:2018/02/12(月) 01:17:47 ID:xY0M1/zQ
バレンタインデーは想い人と一緒にお菓子を食べると幸せになれる日?

「大切に思ってるから」と、クリフトとブライと一緒に食べようとするアリーナ
「いや、そういう意味の日ではなく…」と顔をしかめるブライ
「こういう日なのです」と律儀に説明するクリフト
「いっそクリフトと結ばれた方がいいのかなぁ」とつぶやくアリーナ

そこから恋愛が始まっても良いかも知れません。

683名無しさん:2018/02/18(日) 02:26:10 ID:c90F54tg
クリフトが桜を好きだったが、色が地味なのでアリーナには魅力が分からず。
年齢を重ねてやっと魅力が分かったが、そのときにはクリフトはいない。
という切ない流れもいかがでしょうか?

684名無しさん:2018/02/18(日) 03:04:28 ID:c90F54tg
ほぼ同じネタが2年前に出ていたようです。
記憶の片隅に残ってたみたいです。

685名無しさん:2018/02/25(日) 21:19:50 ID:4Z42g8Ls
あの世界でひな祭りネタをやろうとすると辺鄙な村の風習が自然ではありますが
呪いの人形はともかくミステリーホラーは書きづらいかもですね…

686名無しさん:2018/03/17(土) 22:04:23 ID:mxeaBXWU
サントハイムに季節はあるんでしょうか。
暑くなったり寒くなったりするなら、そこからストーリーが生まれるかもしれませんね。

687名無しさん:2018/04/15(日) 01:00:39 ID:jJOj4xM.
サラン武器防具連盟による標語
「ちょっとまて! そんな そうびじゃ あぶないぞ!」

準備抜きで先へ行こうとするアリーナと、準備を重視するクリフト&ブライのやりとりを予感させます
そういったやりとりを通じてバラバラだった御一行にチームワークが生まれたりしてね

688名無しさん:2018/05/06(日) 23:29:42 ID:f/0yqmc.
クリフトの帽子って高さがありすぎるので、激しく動くと脱げると思います
戦闘前に兜を装備しているんでしょうか

わざわざ武器防具連盟の立札を設けておく親切さは絶妙です
ドラクエ4はうまく作ってありますね

689名無しさん:2018/06/18(月) 02:51:32 ID:QnWCykkU
2章の冒頭の敵の強さは絶妙で、武器防具を揃えていない場合には全滅しない程度に苦戦します

そこにサラン武器防具連盟による立て札の標語です
立て札の情報を無視した人に立て札の重要性を実感させる仕組みだったのかもしれません
アリーナたちは立て札を見て何を思ったのでしょうね

690名無しさん:2018/08/05(日) 15:53:36 ID:AoGy8YXo
皆様、熱中症にご注意を!

クリアリ×熱中症
あると思います。
アリーナが軽い熱中症になってクリフトが介抱するのが王道でしょうか。

691名無しさん:2018/09/13(木) 12:37:04 ID:fGT.JG2U
「あつい!あつーい!」
「姫さま、大丈夫ですか?」
「っもう、なんでこんなに暑いの!?今までこんな日なかったのにっ。あつーい!!」
「……姫さま、暑いといえば涼しくなるわけでもないでしょうに」
「クリフトちょっと手かして!」
「?…っ!ひ、ひめさま!?」
「あ、やっぱり。クリフトの手冷たい。ひんやり〜♪」
「〜〜△◎×っ!!」
「あれ、ちょっとクリフト、手だんだん熱くなってる。これじゃおでこ冷やせないじゃない」
「そ、そんな……熱いところに触れればそりゃ熱くなりますよっ」
「なーんだ、そっか。はい、手袋」
「あ…」
「じゃあクリフト、氷ぶくろを持ってきてちょうだい。それなら長く冷やせるわ」
「……はい、姫さま…」
「?クリフトなんかヘン。どうしたの?」
「い、いえなんでもっ!氷を取ってまいりますっ!!」
「??」


なんかちがう小ネタになった。

692名無しさん:2018/09/15(土) 04:27:17 ID:9XB1BWcU
乙です。
サントハイムが暑いとなると、テンペあたりが避暑地になりそうですね。
避暑地でも何かストーリーが生まれるのかも。。

残暑がもう1回くらい来そうなので、皆様お身体にはお気をつけて。

693名無しさん:2018/09/17(月) 13:41:36 ID:u0ec1omA
クリアリ成分が足りない!!
堅苦しい理屈とかうんちくとかなしにしてさ、もっとこう、

クリフト「姫さま好きじゃーー!!」
アリーナ「ちょちょっとクリフトどうしたの!?」
周り「ニヤニヤ」
アリーナ「ご、ごめんなさいこの人ちょっと酔ってるんです!お部屋に連れていくわ!」
〜翌日〜
クリフト「姫さま、昨夜は大変失礼いたしました…」
アリーナ「ほんとよもうっ」
クリフト「周りの方々の視線が気になるのですが、私は昨日何をしたのでしょうか。記憶がどうも…」
周り「ニヤニヤ」
アリーナ「え、クリフト覚えてないの!?」
クリフト「え、そんなに何かひどいことをしたのでしょうか!?」
アリーナ「(なんだ、クリフト覚えてないんだ…)」
クリフト「(わ、わたしはいったいなにをしてしまったのだ…!?)」
周り「ニヤニヤ」
ブライ「まあ、あのアホたれのおかげで結果的に姫さまの飲酒は免れたからよしとするかの」

とかさ、最後のブライなんて別になくてもいいからさ、もっとこう、
クリアリきゃーみたいなはっちゃけたノリもほしいよ!!
この板なんか冷静な雰囲気強くて自分だけはっちゃけるの寂しいYO!!

694名無しさん:2018/09/17(月) 13:50:21 ID:u0ec1omA
ちょっと下ネタ注意

「やだやだ今日のお洗濯は自分でやる!」
「何をおっしゃるのです姫さま、いつも私がしているではありませんか」
「今日だけはダメっ!」
「ふむ、よくわかりませんがもうまとめて浸けてありますので」
「きゃああっ」
「……どうしたのです姫さま?今日はいつもとずいぶん様子が……」
「……だって今日……」
「?」
「……今日、月に一度のあれになっちゃったのっ!」
「……」
「だからあんまり見てほしくなくって……」
「……」

ぶはあっ!!

「きゃああっクリフトどうしたの!?」

旅に出てからの洗濯事情よくわからんけどノリで書いた

695名無しさん:2018/10/08(月) 03:29:25 ID:HBrvXdUY
乙です

ほぼ入口のない孤島ですから過疎になるのは致し方なし
まったり運用と前向きにとらえるべきでしょう

696名無しさん:2018/10/08(月) 04:04:29 ID:HBrvXdUY
個人的には色々な作風があれば良いんじゃないかなと

このスレ、2chから派生しているからなのか派生元スレの過去の経緯からなのか、
空気を読めという空気というか空気を乱すなという空気は強めな印象なんですけど、
作品に対しては性描写を含むなどのNG事項に触れない限り許容範囲が広いですね
ウザがられそうな妄想でさえも、つぶやきスレで垂れ流すなら問題なさそうです

697名無しさん:2018/12/10(月) 04:42:50 ID:CutsTV2E
お城のクリスマスも旅路のクリスマスも。
クリフトとアリーナはどんなクリスマスを迎えるんでしょうね。

698名無しさん:2019/02/09(土) 00:32:39 ID:LrEIIavo
570さんの思い描くストイックなクリフトって、どういうストーリーだったんでしょうね
ご本人の投下がないまま話題が終わってしまった感

699名無しさん:2019/07/14(日) 11:43:29 ID:sgbN6/Ys
サントハイムに梅雨があったとしたら、それはそれでドラマを生みそうな予感が。
アリーナは晴天でも外に出してもらいにくいのでしょうけど、それでも気分は変わりますよね。
灰色の雲、終わらない雨。
同じ雨を別の場所で見ながら、クリフトとアリーナが物思いにふけるとか。
幼少の頃に聞いたおとぎ話を思い出すこともあるでしょう。

降り続く雨って、それだけで物語を生みそうな雰囲気をまとっています。
クリフトとアリーナにどんな物語が生まれるのか考えてみるのも楽しそうですね。

700名無しさん:2019/08/23(金) 12:09:45 ID:PS7ebXzw
2ch(5ch?)のクリアリスレがなくなって寂しい思いをしていたら
こんなところにこんな素敵な場所があったのですね…!
ごあいさつ代わりに小ネタを1つ。

701名無しさん:2019/08/23(金) 12:17:06 ID:PS7ebXzw
「アリーナ、お前は一生結婚しないつもりなのか?」

持ち込む見合い話を片端から蹴られ続けている大臣に泣きつかれ、
サントハイム王は、ある日、娘とのお茶の時間を利用して尋ねてみた。

「そんなことはないわ。良い人がいれば結婚したってかまわないのよ。」
にっこり笑う娘にサントハイム王は溜息をついた。
「そもそもお前の言う『良い人』の条件はなんなのだ。」
「そうねえ、当然、私よりも強くなくっちゃ!」
「…この地上でそんな生物は、ピサロか勇者殿くらいですじゃ。」
傍らに控えていた宮廷魔術師が、小さな声で突っ込んだ。
「あら、その2人にだっていつか勝って見せるわよ!…でも、そうね。ピサロは問題外だし
ソロも伴侶って感じはしないわね。だいたいソロにはシンシアさんがいるし。」
「それでは結局、結婚する気はないというのと同じではないか?」
眉根を寄せた父親に、アリーナは肩をすくめた。
「まあ、私より強くなくても、少なくとも組手の相手くらいはしてくれないとね。」
「…その条件でも、当てはまるのはごく少数ですじゃ…。」
「ふむ。それ以外にはないのか?お前と同じくらい強ければ良いと?」
「うーん、あとは、お互いに助け合っていける人かな。夫婦なんだし。」
「お前の傍にあって、お前を常に支えてくれる存在、か。」
「それは立場上、私の方が支えられることは多くなっちゃうかもしれないけど…
でも私だって相手をサポートしたいわ。お互い様だもの。」
「例えば、無理してぶっ倒れた相手のためにパデキアを探したり…とかですかのう。」
「ん?何か言った、ブライ?」
「いえ、何でもありませぬ。」
うそぶく宮廷魔術師を王は軽くにらむと、娘に向き直った。

702名無しさん:2019/08/23(金) 12:22:16 ID:PS7ebXzw
「強くてお互いに支え合って…か。見た目の話がないが、そこはどうだ?」
アリーナは考えるように頬に指をあてた。
「うーん、そうねえ…別に見た目は特に…あ、でも、だらしなくぶよぶよに
太ってるとかは嫌だわ。でもそれは見た目というより鍛錬の問題よね。」
「細身で締まっている体つきがよいということですかな。」
「うん?まあ、そんな感じかなあ。」
「顔は?不細工でも構わないと?」
「ええ、それは構わないわ。でも、笑顔が似合う人だとうれしいかな。」
「いつも姫様に会うたびに満面の笑みを浮かべ…」
王は咳払いしてブライの言葉をさえぎった。
「性格はどうだ?やはり男らしいタイプがいいか?」
「うーん…なよなよじゃ困るけど、ことさらに男らしくなくてもいいわ。」
「ということは、優しい方が良いということですかな。」
「お前をこれ以上甘やかすような男じゃ困るぞ。」
「『これ以上』って何よ、お父様ったら。でもそんなの私だっていやだわ。
言うべきことはちゃんと言ってくれないと。」
「姫様のご身分にかかわらず、くどくど叱ってくれる人、と。」
「…ブライ。」
「いやいや、王よ、老人の独り言ですじゃ、お気になさらず。」

お茶会も終わり、アリーナが出て行ったあと王は宮廷魔術師をじろりと見た。
「…何も言わんでよい。お前の言いたいことは分かっておるわ。」
宮廷魔術師は澄ました顔で答えた。
「あの条件にあてはまる人間は、世界広しといえどもあやつしかいないでしょうな。」

王は大きく溜息をつくと
「まあ、こうなることは初めから分かってはいたが…。」
苦笑いしながら、城に住む神官を呼び寄せるため、卓上の鈴を取り上げた。

703名無しさん:2019/08/23(金) 12:28:26 ID:PS7ebXzw
以上です。
まあこんな安直には行かないとは思いますが…というよりむしろ結婚に至るまでに
いろいろと障害があった方が個人的には萌えるのですが…小ネタということでご容赦を!

704名無しさん:2019/08/26(月) 16:25:49 ID:cgJ4Iq2k
まだまだ暑い中、乙です。
ブライさんが核になると安心感がありますね。
真夏のかき氷のように、ほっと一息。

紆余曲折があってもなくても、それぞれの魅力があり。
どちらも良いですね。

2chのあの場所は惜しかったですね。
文句ばかりの人や空気読まない人のせいで…。
最初から避難所があれば良かったのか…。

705名無しさん:2019/09/01(日) 20:11:47 ID:tp8m7jC2
初めてたどり着いた ここは楽園か

706名無しさん:2020/10/12(月) 01:50:32 ID:OHanocs.
コロナのような疫病にパデキアが効かなかったら、
サントハイムも苦労するのでしょうし、
アリーナやクリフトも苦労するのでしょう


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