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【お題で嫁を】お題で簡単にSSを作ってみようか【自慢するスレ】

266名前が無い程度の能力:2012/11/14(水) 06:06:01 ID:ZroGS9XAo
いいスレを見つけた。こういうお題があった方が、遊べて面白いぜ。
それでは思いつきで『香水』を。微グロ注意かも?


 ──良い香りだ。ツンときつく感じるが、ほのかな甘さも混じった香り。願わくば全身に浴びてみたい、と思いつつも、さすがにそれは異臭になるか、と思い直す。
 私は鼻歌を奏でながら、手のひらに液体を乗せた。両手を合わせて満遍なく広げる。クシュクシュと摺りあう音。広がる香りが鼻孔をくすぐる。
 香りを楽しみながら入れ物を見る。
 床に転がったそれは、閉じられていない口から液体を溢れさせていた。ついさっき、私が手を勢いよく振った時に倒したのである。
 もったいない。だが、大体いつもこんな感じ。
 少量で十分だとわかってはいるが、この匂いを嗅ぐとつい欲が出る。あと少しあと少し、を繰り返す。最終的には床に倒し、派手にこぼし、手や服はびしょ濡れ。抑えを知らない子供のようだ、と苦笑する。
 もう何度目になるのか、またそれを繰り返した数分前。では数分後はというと、頬を赤くしたメイドが、私に向かって笑顔を浮かべている未来が見える。
 ……ああ、足音が聞こえてきた。物音を聞きつけて、彼女がやってくる。
 私は両手を広げ、情け無い笑顔を浮かべて、彼女を出迎えよう。

「レミリアお嬢さま。私は、何度も申し上げたはずです」
 ほら案の定。
 十六夜咲夜は目端を吊り上げ、私に対して説教をする。床の掃除も服の洗濯も入れ物の始末も、咲夜がやっているのだ。甘んじて受け入れよう。
「お食事の時は、ご自分の許容量を超えないように、と」
 違うわ咲夜。これは食事じゃなくてお化粧よ。
 こう言えば、きっと咲夜は怒り狂う。だから言わないことにした。
「まあ……その、後始末はいつも通り、私にお任せを」
 咲夜の視線は、私の足元に向かう。私は牙を剥き出して笑い、右足を軽く振った。
 床に転がった入れ物の脇腹を蹴り上げ、私に相応しい香水をまき散らさせる。
 ツンと漂う鉄のような臭い。ほのかに混じったかぐわしき香り。うん、やっぱり良い香りだ。
 やはり私は、吸血鬼なのだ。両手を赤く染め、衣服を紅く染め、哀れで愚かな狩人を倒し、喉を潤す。この一連の行為がたまらなく好きなのだ。
 蹴り上げた際に飛び散った血は、床に落ちた。壁を染めた。咲夜の頬に当たった。白いエプロンを汚した。美しい銀の髪に触れた。
「香水を、あなたにおすそわけ」
 私の言葉を聞いた私の大好きなメイドは、私の大好きな香りをまとい、壮絶なまでに美しい笑顔を浮かべた。
 やらなきゃよかったし、言わなきゃよかった。あの時見えた未来は、確実にすぐそばまで迫っている。
 私に学習能力が無いのは、まあ、外見が幼いからということで、大目に見てほしい。
 だって、抑えを知らない子供って、時として可愛く見えるものでしょう?


ごめん。ホラー系統好きだからこうなった。
自分からのお題は、『カウントダウン』で。

267名前が無い程度の能力:2012/11/17(土) 18:56:04 ID:RtzoFuik0
>>264マジレスするとひじりんが封印される前の時代で蕎麦と言えばそば粥とか蕎麦がきで
現代の切り蕎麦は無かったかも
だから蕎麦でマミゾウさんと対立してるところまで読んでてっきり切り蕎麦を期待したマミゾウさんに
蕎麦がきでも出したのかと思ったw

2681/4:2012/11/19(月) 00:30:21 ID:KtuKTfFMO
>>263から『談話』

してやられた。
はたては今さら流れてきた汗を拭うと、大きく息を吐いた。
暑いわけではない。木枯らし舞う季節、いかに気候の安定した地底と言えどもこの地霊殿という建物の空気は当然それなりには冷えている。
よもやつい頭に浮かんだ「文には負けない」という思考を読まれ、付け込まれるとは予想していなかった。
以前文に見せられた写真――月のお姫様が繰り出したとかいう弾幕が、目の前で再現されたのだ。
撮影には成功したが、それでも全く勝った気がしない。
「……負けは負けですよ。さすがですね、降参です」
被写体の古明地さとりは事も無げに言ってのけると、ふわりとホールの床に降り立った。
「取材がご希望でしたね。さ、こちらへどうぞ」
抑揚に乏しい声。さとりは背を向けるとさっさと歩き出した。そのまま置いて行かれる気がして、はたても慌てて降りる。
だだっ広いエントランスホールに二人分の足音が響いては、遙か奥の暗がりに吸い込まれて消える。
例の間欠泉騒ぎで巫女や魔法使いが突入した際には、全速で飛行して最深部まで四、五分かかったという話だ。
規則正しく並んだ床面のステンドグラスが、灼熱地獄跡の光を受けて辺りをぼんやり照らしている。
気温の上昇を感じて、ああ床暖房なのね、夏はどうしてるのかしらなどと考えるはたてに、さとりは先を歩きながら声をかけた。
「この間いらした天狗さんは撮影だけ済ませたら早々にお帰りになりましたけど」
「文はそういう奴なんです。何でもてきとーで嫌になっちゃう」
また有ること無いことでっちあげて記事にするつもりなのだろう。いつものことだ。
「……あなた方は姉妹みたいにそっくりだったり、まるで正反対だったり、面白いのね」
振り返ったさとりが三つの瞳ではたてを見つめていた。

2692/4:2012/11/19(月) 00:33:21 ID:KtuKTfFMO
通されたのはこじんまりした応接室だった。
多めのランプと暖炉の光で、ホールとはうって変わって明るい。
はたてが所在なく重厚な雰囲気の調度品を眺めていると、お茶の用意をしたさとりが戻ってきた。
使用人の類は置いていないらしい。さとりは洋菓子が盛られた皿を並べ、二人分のカップにコーヒーを注いだ。
「どうぞ。さて、」
はたての向かいの席に着くと、さとりは薄く笑ってカップを手に取る。それと同時に膝元に赤黒い毛並みの猫が飛び乗ってきた。
さとりと一緒に入室したであろうその猫は、膝の上で盛大に伸びをすると、くるりと身を丸めた。
「もう、この子ったら。危ないでしょう?……あら、お燐とも遊んでくださっていたのね」
確かにはたては以前このお燐と呼ばれた猫を取材していた。危険な猫だ。
だがそれ以上に自分の思考が間断なく読み取られているらしいという現状にはたては慄然とした。
「……そんなに警戒なさらないで。普段はほんの表層しか読めないんですけど。さっきの弾幕遊びで仕掛けた暗示がまだ効いてるようね」
「いつの間に……」
それらしい素振りがないか、注意はしていた。
「最初から」
お燐の背を撫でながらさとりはにっこり笑った。
「興味や関心が少し表に出やすくなっているだけですよ。取材なさるんですから、むしろ好都合ですわ」
ここではたては腹を括った。開き直ったと言ってもいい。
「それじゃあ聞き取りを開始しますけど」
「ええ、あなたの質問に私が答える、そういう形式でいきしょ」

2703/4:2012/11/19(月) 00:38:21 ID:KtuKTfFMO
#はたての取材ノート(はたてにしか読めない速記文字が並んでいる。極最近まで出番の無かったものだ)
―今般話題の間欠泉センターについて、ご存知のことがあればお聞かせください。
「間欠泉センター、ね。あの施設にそんな呼称を与えるなんて、山の神様はおふざけがお好きなのね」
―やはりあれの建造には旧都も絡んでいる?
「そりゃあねぇ。底面は灼熱地獄跡にまで到達する大深度建造物です。私達に話を通さずにやられたら困っちゃいますから」
―どういった経緯で?
「基本構造は先に山の神様、洩矢様でしたっけ? が作ったらしいのです。事後承諾ですね」
―あー、うん。やりそうなこと…
「それで、地上の河童の皆さんがぞろぞろ入り込んで作業始めたあたりで、これは一度しっかり折衝しておかないと、と」
―どのような取り決めがなされたのでしょう。
「設計は地上の皆さんにお任せしますから、建造と保守管理は土蜘蛛衆で行いたいと私が直接八坂様にお話しました」
―うわぁ強気。
「こちらとしても勇儀さん…鬼の差配で進めてることにしないと御山の過剰な干渉だって意見、収まらないんですよ」
―地底で勝手は騒動の火種になると。守矢神社はあくまで御山の技術革新だ、と喧伝していますが。
「先進の技術がかなり投入されていることは確かです。結局融合炉は河童の皆さんの手を借りないと運用できないのが現状ですし」
―底部に設置されているという機械ですね。詳しくお願いします。(ビンゴ! の文字が乱雑に二重線で消されている)
「……慌てなくても結構ですよ……ああ、お空にもお会いになっているのね……それで察しがついたと」
―いや、まあ…ははは。間欠泉のためとすると大仰過ぎる力だなぁって。
「お考えの通り、熱水を吹き上げるのは二次的な機能にすぎません。あれの実態は核融合による実験炉です」
―本当の目的は何なのでしょう。
「八坂様曰く新たな生活基盤エネルギーの創出、そのための実験だそうです。……かなり情報が絞られているようですね」
―河童に直接取材してものらりくらり…箝口令でも出てるようで。
「それがあの方達のやり方みたいです。この件に関しては運用が軌道に乗ったら大々的に発表するのでしょう。守矢主導のエネルギー革命って」

2714/4:2012/11/19(月) 00:44:55 ID:KtuKTfFMO
―地上の人妖の生活に大きな変化をもたらすような計画が密かに進行しているわけですね。
「地上の? 私達地底の者にとっても、ですよ。ですからあのまま座視はできなかった」
―実用化に際しては恩恵に与ると?
「それはもう当然に。立地や建造以前に、炉心そのものが古明地家の物ですから」
―核融合の力は守矢二柱の物だと伝え聞いていますが。
「いいえ。お空はうちの地獄鴉、古明地家の人工太陽ですわ。断じて守矢の実験炉ではありません」

地上に戻る頃には陽は沈み、彼方の山の端を赤く染めるのみとなっていた。
風は冷たい。天蓋の上層に広がる雲が千切れながら走っていく。明日は一雨くるかもしれない。
はたては中空に静止すると、髪を靡くに任せながら今回の取材を反芻していた。
お世辞にも上手くいったとは言えない。聞き出すというよりは、一方的に押し付けられたようなものだ。
それでも、無駄であったとは思わなかった。
あの談話が事実であれ虚構であれ、相手は何故あのような話をしたのかを慎重に見極める必要がある。
大天狗に報告するか、独自に記事にするか、傍観に徹するか…どれを期待され、私はどうするのだろう。
「中立公平清く正しい射命丸、か」
はたては文のモットーを思い出して苦笑した。なるほど、だからこそ事実としての写真とどうでもいい憶測のみで紙面を構成するのだろう。
それと共に地霊殿のホールでさとりに言われたことも脳裏に浮かんでくる。
(――姉妹みたいにそっくりだったり、まるで正反対だったり――)
何故、文の後追いになるのを承知でこの取材行を始めたのか。
思考を打ち切ると、はたては妖怪の山へ向けての飛行を再開した。
もう夜回り組の目敏い白狼天狗に見つかっているだろう。いちいち詮索されるのも面倒だ。はたては速度を上げた。


長々すまぬ。お題追加『硬貨』

272名前が無い程度の能力:2012/11/24(土) 06:32:36 ID:iR2xfLME0
>>268-271 great!

『暖の取り方』

その日、森近霖之助はすこぶる不機嫌だった。霜月も半ばの、凩吹き荒れる肌寒い曇天の昼下がりである。
普段からあまり愛想の宜しくない容貌をさらに顰め、憮然とした表情で頬杖を突いている。
「……なぁ香霖、いつまでそうやって拗ねてるんだよ」
そう話し掛けたのは、彼の顔馴染みの魔法使い・霧雨魔理沙である。
彼女は霖之助とは反対に愉快そうな笑みを浮かべ、声色にも喜悦の調子が混じっていた。
「うるさい、誰のせいでこうなったんだと思っているんだ……」
霖之助はずり落ちそうな眼鏡を煩わしく掛け直しながら、厭味ったらしく魔理沙を睨んだ。
「香霖だって何の疑いもなく食べたじゃないか」
彼の視線を意に介さず、魔理沙はビシッと人差し指を名の通り正面の人物に突き立てた。
一旦は反論しようと口を開きかけたが、その口からは深い溜め息が洩れただけで霖之助は口を噤んで目線を逸らした。
「はぁ……まったく、ちゃんと元に戻れるんだろうな」
霖之助は再び溜め息をつきつつ、自身の手をじっと見つめた。青年の手にしてはあまりに小さい、幼児のような手を。
比喩ではなく、将に霖之助は今現在『幼児』になっていた。年齢にして5〜6歳と言ったところか。
原因は勿論、目の前にニヤニヤと不敵な笑みを浮かべている金髪の少女にある。
彼女が持参した毒キノコを、昨晩不覚にも警戒せずに食べてしまったからだ。その結果が肉体の『幼児化』だった。
「ふふっ、にしても子供になった香霖はなかなか可愛いじゃないか。私を『お姉ちゃん』と呼んでも良いんだぜ?」
「お寒い冗談は止してくれ……」
「いやぁ、でも流石『年の数茸』だぜ。噂通り、キノコのサイズ通りの年齢になった……ハックション!」
自身の収穫したキノコの成果を満足げに語っていた魔理沙の言葉は、少女らしからぬ豪快なくしゃみによって中断された。
「うぅ〜、そういえば今日はやけに冷えるな……」
「あぁ、ストーブを点けていないからね」
そう言って霖之助は壁際に鎮座する古めかしいダルマストーブを一瞥した。それを聞いて魔理沙が不満な声をあげる。
「えぇ〜、なんだよ早くつけてくれよ。寒くて仕方ないぜ」
店内の温度計は10℃を示している。霖之助も出来れば火を熾したい所だったが、魔理沙の言う通りに動くのは癪だった。
「いやだね。こんな身体じゃあ、動き回るのも億劫だよ」
霖之助はブカブカになった自分の衣服を手繰り寄せて身を固めた。何重にも衣類を巻いて、民芸品の人形のようだ。
「むぅ、なんだよケチ」
魔理沙はストーブの点け方を知らない。しばらく腕を組んで考えていたが、ふと何か思いついたのかドタドタと土間に上がり込んだ。
怪訝な表情で霖之助は彼女を見送る。すると、魔理沙は春秋用の薄手の毛布を一枚抱えて戻って来た。
「なんだ魔理沙、押入れから引っ張り出してきたのかい。それだと防寒には心細いと思うが……」
「へへっ、だからこうするのさ」
霖之助の指摘に対して、魔理沙は毛布を羽織るとそのまま霖之助を抱きかかえて近くの椅子に腰を下ろした。
いくら身体が幼い子供になったとは言え、魔理沙に軽々と抱きかかえられてしまった事に霖之助は眼を丸くしている。
「おぉ、あったかいぜ。やっぱ子供って体温高めだからな、人間カイロの出来上がりだ」
茫然としている霖之助を魔理沙はしっかりと両腕で抱き締める。今の霖之助では少女の抱擁すら容易に振り解けないだろう。
ぴったりと密着しているせいで、霖之助の身体へ魔理沙の柔肌の感触、少し膨らみ始めた胸の柔らかさが伝わっていく。
少女特有の甘い香りが毛布の中に籠る熱で温められ、沸き立つように霖之助の鼻腔をくすぐった。
ずっと年下である少女の膝の上に乗せられ抱き締められている気恥ずかしさで霖之助は押し黙った。顔は心なしか赤らんでいる。
だが、同時に彼は懐かしさと安らぎも感じていた。それは、母の御胸に抱かれた記憶が遙か遠い昔となった彼の感傷だ。
「………まぁ、こんな日もあって良いのかもしれないな」
少女の温もりに包まれながら、霖之助は不機嫌だった表情を少し和らげて静かに眼を閉じた。
「んっ、香霖寝るのか? じゃあ、私も……おやすみ」
そう言って魔理沙もまた眼を閉じ、自分に身を委ねる霖之助の身体を優しく抱きとめた。
冬が始まる。厳しい寒さを乗り切るには、文明の利器よりも人肌の温もりの方がいいのかもしれない。【FIN】

273名前が無い程度の能力:2013/01/01(火) 17:21:08 ID:F/F5j4Hc0
>>202より、コイン+さとり+賭け+白蓮+眼鏡+しみじみ+お茶+シリアス。
一年越しだとかその間にお題が既に消化されているだとか一部お題を曲解しているとか、
いろいろ問題はありますが、一つよしなに。

「alternative」

 池にいつかの巫女の姿は無かった。その代わり、真白い蓮の花が咲いていた。
 僕は池のほとりに座って、金貨をポケットから取り出した。それを、宙めがけて思い切り親指ではじき上げた。
(表が出たら実行する、裏が出たらやめておく)
 そう自分に言い聞かせつつ、もう何回同じことを繰り返しただろう。表が出てはやり直し、裏が出てはやり直し。
(まったく、これじゃあコイン占いの意味が全然無いじゃないか)
 心中自分に文句を言って、地面に落ちたコインを確かめもせずポケットに戻した。
 僕達八人がこの楽園に迷い込んでから、もう二年が経とうとしている。
 楽園は僕達に、立派なお屋敷と肥えた畑、そして衣食の蓄えを与えてくれた。ご丁寧に、庭の井戸はたっぷりと清水を湛えていて、辺りの森は山の幸の宝庫だった。これで何不自由ない暮らしを送れる。そう言って皆喜んでいた。
「こうして三度のご飯にありつけて、おいしい紅茶までいただける。それが一番幸せなことだよ」
 口を開けばシニカルなジョークばかりのあいつが、真面目な顔をしてそう言った。
「ああ、もう危ない真似なんかしなくていいんだ。なんてありがたいんだろう」
 理屈屋のあいつが、眼鏡をずらして涙をぬぐいながら、しみじみそう言った。
 確かにあいつらの言う通り。これからは活計[たつき]に事欠くことはない。今までのような無茶をする必要もない。それはきっと、素晴らしいこと、感謝すべきことなんだ。でも、僕はそんな気持ちになれない。何かが足りない、満たされない。
(何が足りないんだろう、一体何が……?)
 考えながら、蓮の花を見遣る。清らかな純白の花。清浄という徳目が花となって咲いたような、穢れ無い美しさだ。
(確かに美しいよ。でも、あの巫女程じゃない)
 僕が魅せられたのは、そう、あの巫女の舞。まるで二色の蝶のように、白い袖で空を裂き、真紅の裳裾を鮮やかにひるがえして舞う、紅白の巫女だ。
(どうしてなんだろう。あの巫女にあって、この蓮に無いものって……?)
 目の前に咲く蓮と引き比べようと、巫女の舞姿を追憶した。脳裡に結んだ幻像を凝視する。白い蓮、紅白の巫女、真紅の裳裾、その鮮やかな赤い色。遠ざかってしまったその色が、妙に懐かしい。
(……ああ、そうか)
 天啓のようにひらめいた。
 赤の色。刺激的で、焼けつくように甘美で、享楽と罪業にまみれた色。
 それは、二年前までの僕らそのものじゃないか。僕は、そんなかつての暮らしが恋しかったんだ。
 安逸に浸る仲間達にとけこめず、けれど自分が何を求めているかも分からなかった。分からないから、現状を壊せないまま、徒に逡巡ばかりを繰り返していた。だが、もう迷いはない。
 これは賭け。しかもすこぶる分の悪い賭けだ。なにしろ、自ら仲間と楽園――約束された安楽とを捨て去るのだ。でも悪くない。そんな鮮烈な刺激を求めて、僕は生きているのだから。
 もう一度金貨を思い切りほうり上げた。表が出たら実行、裏が出ても実行。落ちたコインをやはり確かめずにポケットに戻すと、僕は立ち上がって歩きだした。

274名前が無い程度の能力:2013/01/01(火) 17:30:08 ID:F/F5j4Hc0
連投失礼。>>202より和歌+ネタ。
不比等は俺のy(ry……嘘です。本当はもう少し輝夜を前面に出そうとして失敗しました。

「pleasure」

「私と恋をしませんか?」
「およそ自分が袖にした男に対して言う科白ではありませんね。今度は一体何を企んでいるのです?」
 招かれざる客が浮かべる天女の如き微笑みを、私は能う限りの渋面で出迎えた。突如私の私室に現れたのは、姿形だけ見れば完全無欠なる麗しの姫君。かつての私の求婚相手だ。ちなみに、彼女を邸に招じ入れた覚えなど、私には一切無い。まったく、我が家の警衛共は何をしているのか。
「ご挨拶ね。最近、歌に凝っているの。だから、その題材作りのためにね」
「歌、ねえ……」
 聞く限りでは人畜無害なことを考えているようである。だが、この姫はかつて人間の成長が云々というよく分からない理屈で国家規模の事件を引き起こしかけている。油断はならない。
「ほら、私が『野守は見ずや……』とやったら貴方が『妹が憎くあらば……』っていう風にね」
「あれは空想によって作ったものなのだから、何も実際に恋をせずともよいでしょうに」
「気分の問題よ、気分の」
 話に怪しい点は無い。歌詠みに入れ込んでいるだけなら大した害もあるまい。少々傍迷惑ではあるが。
「どうやら、本当にただ趣味として歌の題材探しをしているだけのようですね。天下国家に仇なさんという訳ではなくて」
「どうやって歌で国家転覆を謀るのよ。あ、歌の才でもって帝をたぶらかして宮中を牛耳る、とか?」
「それは良いことを聞きました。早速我が娘にも歌の素養を身に付けさせましょう」
 それでは今から、とばかり立ち上がり、姫を無視して部屋を出た。彼女が何か物騒なことを目論んでいるのでなければ、私がこれ以上彼女にかかずりあう理由は無い。
「つまらない。いいわ、朴念仁を何とか振り向かせようとする片思いの女の子の歌でも詠んでいるから」
 はいはい目的達成慶賀の至りと気の無い返事を振り向きもせず返して、さっさとその場を後にした。

 警衛の頭の者を一通り叱って自室に戻ろうとしたところで、娘に呼び止められた。
「お父様、わたくし、歌を詠みましたのよ。聞いて下さいまし」
 巷で流行ってでもいるのか、今日はよくよく歌に付き合わされる日である。しかし、さっきの話ではないが、やがて成長の暁には宮中に上がる可能性もある娘が、歌の一つも碌に詠めないようでは話にならない。
「うむ。しっかり修練しなさい。お前は――」
「それで、今宵は月がとてもきれいでしたから、それを初めに詠み込んで、それから……」
 私が話しきらないうちに、娘は勢い込んで自作の歌の説明を始めた。得意気な顔をして、目を輝かせて喋っている。
 娘は、楽しんでいるのだ。
 ――お前はいずれ、帝の妃になるのだから。
 そんな父の思惑などお構いなしに、歌を詠むことそれ自体に、胸を弾ませているのだ。
 少し、娘をうらやましく思った。それから、今頃片思いの歌とやらを詠んでいるであろう、あの姫のことも。
「前栽の秋草が大層おもしろう咲いていましたので、それをですね……」
 娘の講釈はまだ終わらない。
 久しぶりに、私も一首詠んでみようか。題材は――そう、かつて喧嘩別れした女性が今更恋しくてならない、情けない男の心持ちでも。

275名前が無い程度の能力:2013/01/04(金) 07:50:06 ID:0/8oYg3A0
>>273-274 寂寞とした雰囲気が素晴らしい

お題まとめ
無礼講・中二病・米粉・朝露・硬貨
遅咲きの花・聖夜・穴・石油 ・カウントダウン

276名前が無い程度の能力:2013/01/20(日) 03:46:31 ID:0gyoUVHA0
お久しぶりに場所をお借りします。
リハビリな上、旧作であり、少々自己設定込ですがご了承頂ければ。

お題:硬貨



「銭をばらまくなんて、随分と豪勢なのね」
 振り返ると、金髪の少女が木にもたれ掛かっていた。
「なんだい、死神エリーが、死神に何か用でも? 」
「元死神、が正しいわ。もう、だいぶ前にやめちゃったからね」
「そりゃ羨ましいね。あたいもさっさと辞めたいね」
「やめてどうするのよ」
「毎日寝て過ごすさ」
 にやり、と笑いかけると、エリーは真面目そうなため息をひとつついた。

「しかし、足元にあるものをお構いなしに投げるあんたに、投げるものについてとやかく言われたくはないもんだな」
「いちいち用意しなくてもいいし、回収しなくてもいいから便利じゃない」
「でも今じゃ、タイル貼りなんだろう? タイル飛ばしたら、後の修理は大変じゃないのかい」
「うっ」
 ちょっと視線を背けるエリー。そんなんだから、霊夢に負けるんだよ、と言いたくなるが、抑えておく。
「で、でも、あなただって、それは変わらないんじゃないの? 第一、渡し死神にとっては、銭なんてなにより大切じゃない。拾い集めるの、面倒じゃないの?」
「あー、それはな。そのままだから、大変じゃないんだ」
「ええっ!」
 エリーは、ずい、と顔を寄せてくる。
「あなたまさか、銭ばらまいて、それそのまんまなの?!」
「あ、ああ」
 その気迫に思わず気圧された。
「あなた、馬鹿じゃないのホント。閻魔に知られたらタダじゃすまないわよ」
「ああ、そりゃもう遅い」
 すでにバレているんだな、これが。そして、たっぷり説教だって食らったさ。
「ああ」
 エリーは、右手で目を押さえてふらついた。死神が目眩とは、本当に体が鈍っているらしい。こんど、風見幽香に通報しといてやろうか。
「ホント、規格外ねあなた」
「だから、あんたに言われたかないよ。フランス生まれの「元」死神さんよ」
 そう、彼女はすべてが規格外だ。フランスからふらふらやってきた討伐専門の死神で、しかも今は死神を辞め、風見幽香の夢幻館で、門番としてのんきに暮らしている。そんな死神が、規格通りだとでもいうのか。
「そりゃ、そうだけど」
 言うと、エリーは少し言葉に困ったようだった。
(続く)

277名前が無い程度の能力:2013/01/20(日) 03:47:09 ID:0gyoUVHA0
(承前)
「どうだい、あんたも、戻ってくるつもりはないのかい? こっちに」
「ないわね」
 即答である。当然だろう。
「なぜだい? 戻ってくれば、あんたはエースになれる。あの比那名居だって、壊滅させられるだろうさ」
「それを、あなたが言うのね」
 エリーの目線は、普段の温和な彼女とは思えないほどに、厳しい色を帯びていた。まさに、死神。
「そうやって、私は何人もの天人を、仙人を、地獄へと蹴り落としてきたわ。文字通り、命を懸けてね。逆に殺されかけたことだって、一度や二度じゃなかった」
 天界に行ったまま、帰ってこない死神というのも、決して少なくはない。死神不足が慢性化しているのも、そういうことなのだろう。
「逆に小町に聞くけれど、そうした果てに、私達はなにを得られるの? 死神である私達は、どうやって救われるの?」
「さて、あたいに聞かれてもねぇ」
 それは、閻魔に聞いとくれ、といったところ。あたいは、首を振る。
「そもそも、曲りなりにも"神"であるあたい達に、何か変化が起こるとは思えないんだな、これが」
「つまり、永遠に殺し続けると?」
「それは違う。閻魔に言わせれば"救い続ける"だ。天人や仙人の魂を、な」
「殆ど変わらないわ」
 そりゃそうなんだが、是非曲直庁では"そういうことになっている"。
「私はね、幽香さまの所で初めて平穏を得られたの。"戦うの久しぶり"なんて思わず叫んだ時には、自分でも驚いたわ。この私が、それほど戦闘してなかったなんて、死神やってた頃からしたら、ありえなかったもの」
「そりゃそうだな」
「私は、そういう場を与えてくれた幽香さまに感謝しているし、そういう場所から出ていくつもりは、さらさら無いわ」
 決意が、その言葉には重く染み込んでいた。
「まして、あいつらは、幽香さまに"長く生き過ぎた"なんてふざけたことを言ったのよ」
 それは、私も知っている。別に映姫さまが、悪意を以て述べてはいないことも、知っている。閻魔というのは、私情とは関係なく、正しいことを言う。あたいらとは、根本から違うものなのだ。
「そんなところに、戻りはしないわ」
「そうかい」
 あたいは、ほっとした。
「ま、あたいも本当にあんたに戻って来い、とは言わないよ」
 あたいだって、うんざりしているのだ。死神というやつに。
「そうでもなきゃ、わざわざ銭なんて投げないさ」
 そう、銭を投げるのは、ささやかなる抵抗、ちょっとした憂さ晴らし。
 別に、映姫さまに恨みがあるわけじゃない。映姫さまには良くしてもらっているし、なんだかんだと目を掛けてもらっていることはあたいだってわかっている。でも、それを知っていてもなお、閻魔や是非曲直庁に対しては、やはりいろいろ考えざるをえないのだ。
「え?」
 だから、閻魔の連中や、是非曲直庁への、ちょっとした意趣返し。連中が何よりも価値を置き、かつ集めるもの。それが、この硬貨だ。そういう、最も大切なものを投げてやる。豪勢に散りばめて、そのまま打ち捨ててやるのだ。渡し死神のあたいには、それくらいしかできない。
 だから、あたいはいつまでも銭を使ってやる。


 困惑して立ち尽くすエリーを他所に、私はしばらく昼寝をすることにした。



  了

278名前が無い程度の能力:2013/02/05(火) 17:48:06 ID:Lbz/oE5o0
お題:けねもこ ※しかし、妹紅は受け。其処は何が合っても譲れない。
お願いします。

279名前が無い程度の能力:2013/02/06(水) 00:56:26 ID:GF7igMvE0
>>275
>>273-274の者だけど、遅ればせながら、感想ありがとう
そしてまとめ乙です

280名前が無い程度の能力:2013/04/29(月) 14:06:27 ID:KMlUlD2k0
保守

2811/2:2013/06/23(日) 23:31:50 ID:VcR/E8FY0
お題【穴】【けねもこ】

「……ぅ、…こう、妹紅!」
「!? わぁ、なんだよ慧音」
藤原妹紅は耳元に響いた大声に慌てて振り返った。
振り返った先には上白沢慧音が不機嫌そうに腕を組んで妹紅を見詰めている。
「なんだよじゃない。人が何度も呼んでるのに無視するなんて……」
「えっ……? そ、そうか悪い。聞こえなかったよ……」
慧音の窘めるような口調に、妹紅は頭を掻きながら詫びた。
だが慧音は尚も不満そうな表情を浮かべ、ぐいっと顔を妹紅の耳元まで近づけた。
「な、なんだよ慧音……」
「妹紅、お前は普段から髪で耳を隠しているが、耳掃除はちゃんとしているのか?」
千年以上生きる蓬莱人の妹紅にすら慧音は寺子屋の生徒を叱る時と同じ態度で接する。
それは不老不死という業を背負った妹紅にとって距離の近しい、それでいて心地良い間合いだった。
「えっと……私は耳をいじるのはあまり得意でなくて……」
「むぅ、それはいかん。きちんと耳掃除をしておかないと音が聞こえなくなるぞ」
歯切れの悪い妹紅の釈明に慧音はそう断言すると、半ば強引に腕を引っ張り妹紅を畳に横たわらせた。
こうなれば妹紅は到底敵わない。妹紅は慧音の膝に頭を乗せ、されるがままになっている。
「んぁ……慧音、くすぐったい」
耳を隠している髪を掻き上げられただけで妹紅はくすぐったそうに身を捩った。
「少し我慢しろ……うわっ、なんだこれは!? 垢で耳の穴が塞がりかけているぞ!」

2822/2:2013/06/23(日) 23:33:00 ID:VcR/E8FY0
灯りを手元に寄せて妹紅の耳の穴を見た慧音はあまりの惨状に思わず叫んだ。
妹紅も慧音の言葉に目を丸くした。まさか自分の耳がそこまで非道い状況だとは思っていなかった。
と同時に、妹紅はいくら信頼する慧音の手とは言え他人に耳をいじられるのが少し怖くなった。
「け、慧音! やっぱり今回は勘弁して……」
「いや駄目だ。これは大仕事だな……いくぞ妹紅!」
臆病風に吹かれた妹紅の言葉など耳を貸さず、慧音はもう母性全開で耳掃除に熱中していた。
毛玉が付いた竹製の耳掻き棒を慧音は慎重に妹紅の耳の穴に挿入していく。
「ひゃぁあ!? みみぃ……はいってるぅ……」
Jの字になった棒の先端が耳の壁に触れただけで妹紅の背筋にぞくぞくと電流が走る。
「んあぁ……あぁん……はぁぁん……」
手で口元を押さえ、妹紅は身体を小刻みに震わせながら必死に快楽に耐えていた。
棒の先端が穴の奥に潜む耳垢を掻き出す。何度が先端で突っつき、慧音はなんとか耳垢を引き剥がした。
その掻き出す時の圧力と、コリコリと穴の中で響く音が妹紅の快楽を余計に昂らせる。
もう妹紅は瞳は熱っぽく潤み、銀色の長髪は乱れて汗ばんだ額に張り付いている。
ゼリーのように湿った唇は半開きで、悩ましげな嬌声が甘い吐息と共に漏れていた。
そんな快楽攻めに身悶える事約5分。粗方の耳垢をちり紙に掻き集めた慧音が満足げに頷いた。
「よし、これで綺麗になったぞ」
「はぁはぁ……やっと終わったの……?」
慧音の膝枕に横たわったまま、もうノックアウト寸前の妹紅は弱々しく慧音に尋ねた。
「いや、このぽわぽわで細かい耳垢を取り除けば片耳は終わりだ」
「えっ……いや、ぽわぽわはいやぁ〜!!」
棒の反対側についている綿の毛玉で優しく耳の穴や耳たぶを愛撫され、妹紅の身体がビクビクと跳ねた。
その後、妙に肌のつやつやした満足げな慧音のおかげで妹紅の耳の聞こえは良くなったそうだ。【終わり】

283名前が無い程度の能力:2013/08/11(日) 14:28:04 ID:o81nE0Vs0
>>275 遅咲きの花

彼女の身体で一番好きな部位を挙げるとするならば、私は迷わず彼女の手を選ぶ。
雪のように色白な手。しなやかな指はとても器用に動いて、得物のナイフを演武のように扱っていた。
そして、銀色のナイフよりも目を惹く薄紅色の爪。私が彼女に「しっかり磨きなさい」と躾けた身だしなみの一つだ。
彼女はその言い付けを遵守し、いつもヤスリで丁寧に磨いていたのを私は知っている。
だから、こうして横たわっている彼女の生気を失いつつある手を握っていると、その儚さに胸が痛んだ。
オパールのように輝いていた薄紅色の爪も今は乳白色に濁り、指先は逆剥けと罅割れてが生じていた。
「咲夜……」
私は聞こえるかどうか分からない幽かな声で咲夜に呼びかけた。重たげに瞼を開いた咲夜の群青色の瞳に、光は宿っていない。
ある日、突然病に倒れた咲夜。決して逃げる事の出来ない「死」の影が、彼女の運命を蝕んでいた。
いつも冷たい咲夜の手が、今はさらに氷のように冷たい。
『手の冷たい人間は、心が温かいのですわ』
昔、咲夜が云っていた言葉が思い出される。咲夜の嘘つき。貴女は冷たい。私を置いてあの世へ逝こうとしている。
どうしようもない宿命に私は思わず強く咲夜の手を握った。痛かったのか、咲夜が辛そうに顔を顰めた。
「あっ、ごめん……」
慌てて離れようとする私の手を、咲夜が縋り付くように握り返した。その握力の弱々しさに、私はハッと咲夜の顔を見つめた。
「いいのです、お嬢様……痛いと言うのは、まだ生きている証ですから………」
そう云って微笑む咲夜の額には玉のような脂汗が滲んでいる。呼吸も苦しげで、もう彼女が長くは持たないと私は悟った。
痛みがあるからこそ、苦しみがあるからこそ、生きていると実感できる。負の感情への不感症は、死んでいると同義だ。
ならば、私は……

284名前が無い程度の能力:2013/08/11(日) 14:28:41 ID:o81nE0Vs0
「咲夜、私の手に爪を立てて。私が咲夜と一緒に生きているって証を見せて……」
一瞬咲夜は困ったような哀しい表情を浮かべたが、すぐに私の要求に応えた。
小刻みに震える手。崩れてしまいそうなほど弱い握力で、それでも綺麗に磨かれていた爪が私の皮膚の表面を切り裂いた。
紅い血が一筋、私の手の甲を伝ってシーツに滴り落ちる。それは雪原に咲く薔薇のように鮮やかだった。
『私は一生死ぬ人間ですよ。大丈夫、生きている間は一緒にいますから』
かつて不老不死の人間と対峙した時、不老不死になってみないかと言った私に咲夜が答えた言葉が頭の中に響き渡る。
あの時、私の言葉は冗談半分だった。まだ咲夜の背後に「死」の影なんて視えていなかったから。
だけど私は不思議と後悔していない。今、こうして咲夜と痛みと苦しみと生きている実感を共有できた瞬間が嬉しかった。
花は咲いた瞬間、後は萎れて枯れて散る運命だ。そうだ、私たちの主従関係はこれまで青い蕾だった。
それが咲夜の死に際に高らかに咲き誇った。今この瞬間、私たちは確かに絶対的な絆で結ばれていた。
「愛しています、レミリアお嬢様……」
それが咲夜の遺した最後の言葉だった。嗚呼、遅咲きにもほどがある。私は力を失った咲夜の手をそっと自分の頬へ触れさせた。
冷たい手の平。私のために紅茶を淹れ、ナイフの弾幕を扱い、優しく頭を撫でてくれた手。私が愛した咲夜の手。
「バイバイ、咲夜」
穏やかな表情で永久の眠りに就いた瀟洒な従者へ、私が手向けた餞別の言葉は簡素だった。
バイバイ、咲夜。今やっと花開いた貴女との絆、貴方と過ごしてきた掛け替えのない時間は、このレミリア・スカーレットが死ぬまで咲き誇り続けるでしょう。【END】


きっと咲夜さんの手はお嬢様の涙で濡れていたと思う。

お題:お茶(種類を問わず)、剃刀、夏の終わり、ブランコ

285名前が無い程度の能力:2013/08/23(金) 22:38:19 ID:IO5HaAKk0
>>275 石油

開け放った窓から風が吹き込み、手元の灯りが明滅した。見上げると、ランプの炎が静かに揺らいでいる。
私は薬のデータを書き留めていた手を休め、愛用の万年筆を机の上へ置いた。時刻はもう午前二時を回っている。
この薬品臭い診療室が私の仕事場であり、個室でもある。窓の外は淡い月明かりに照らされて青竹が神経質に震えていた。
凝り固まった腰をほぐすように私は立ち上がり、窓辺まで歩いて行った。風は涼やかで、秋の気配がすぐ近くまで感じる。
この夏は熱中症の患者が多かった。幻想郷は42℃という最高気温を記録し、人間はもとより妖怪や妖精までへばっていた。
屋敷に住む妖怪兎たちも過半数がダウンし、弟子の鈴仙まで目を回した。あの子もまだまだ修行が足りないようだ。
ふと強い風が舞い込み、部屋の中で渦巻いた。バインダーに固定された書類がバサバサと音を立てている。
「んっ……ぅん」
紙の擦れる音が耳障りだったのか、机の真向かいにあるベッドの上で眠っていた人影が寝返りを打った。
揺らぐランプの炎で艶やかな黒髪が照らされる。真っ白なシーツに散るその黒髪は水墨画のように幽玄だった。
この永遠亭の姫君・蓬莱山輝夜が私の寝台を占領するのは、決まって藤原妹紅と一戦を交えて帰ってきた日の事だ。
服装は血と泥で塗れ、ほとんど炭化している。私は輝夜がベッドに辿り着いた直後に衣服を脱がして床の隅に置いておいた。
蓬莱の薬で瑕疵ひとつない、玉のような色白の肌だ。長い睫毛の刷いた瞼、薄紅色の唇。その寝顔は見蕩れるくらい可憐だ。
「……すぅすぅ」
私は肌蹴る輝夜の裸体にそっとタオルケットを掛け直した。華奢な四肢がランプに照らされ、小さな寝息が聞こえてくる。
ランプは石油を燃料にしているから炎は安定している。何億年前の生物の死骸で生成された『燃える水』。
私はふと、その石油の原料となった生物たちを偲ぶ気持ちになった。彼らが生まれるのを私は月から見届けているのだから。
輪廻から外れた不老不死の業を背負う者。石油どころか腐葉土にすら成れない逸脱者。それが私たち蓬莱人だ。
生きている者が死んでいく儚さを美しいと思うのは、不老不死の驕慢だろうか。私はそう思い少し苦笑する。
この診療室で、どれだけ多くの生命の終わりを見送ってきただろう。死の影を見つめる為に私は医者の真似事を始めたのだ。
死の影を哲学的に思う時、石油ランプのオレンジ色の灯火を通じて太古の生物たちすら愛おしく感じられる。
平和とは現状維持と同義だ。しかし、私たちの平和は光陰矢の如く過ぎ去り、容赦なく変質させるだろう。
終わりのない私たちを置き去りにして、見知った者たちの人生が終わっていく。それは妖怪でも同じ宿命だ。
私は最近、不老不死が自分だけだったらと仮定した世界を考えてしまう。輝夜が傍にいない世界を想像してしまう。
「輝夜……」
おもむろに私は眠っている輝夜の頭をそっと撫でた。絹糸のような髪の肌触りが、36.5℃の温もりが、確かに掌へ伝わる。
石油が切れかけているのが、ランプの炎は徐々に燻り始めた。そのまま炎が自然に消えるのに任せて今日はもう眠ろう。
私は大して広くないベッドに横たわり、そっと輝夜を抱きしめた。不変と言う浅はかな願いを込めて、私は目を閉じた。【了】

お題:かがり火 逃げ水 宿り木

286名前が無い程度の能力:2013/10/15(火) 15:09:15 ID:P0rOaYUQ0
ageついでにお題投下
「台風」「不作」「おみくじ」「ベッド」「買い物」「衣替え」「勝負」「風物詩」「流行り」「天気予報」
「来年やってみたいこと」「少女の嗜み」「好み」「劇場」「下剋上」「片付け」

とりあえず話題だけ投げておきます

287名前が無い程度の能力:2013/10/15(火) 16:34:28 ID:uZjHBbjM0
>>278ですが、>>281-282さん
ありがとうございます!!
情景描写が詳しくて素晴らしかったです。感想が遅れてすみませんでした。

288<激写されました>:<激写されました>
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289<激写されました>:<激写されました>
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290<激写されました>:<激写されました>
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291<激写されました>:<激写されました>
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292名前が無い程度の能力:2014/04/13(日) 00:20:15 ID:1xY9johI0
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