したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |

『邪気眼少女』 *Another Story*

73心愛:2013/03/26(火) 10:30:54 HOST:proxy10043.docomo.ne.jp


『とある男共の華麗なる奮闘記』





「お母さん! だから何回言ったら分かるの!?」



朝。


姫宮家の玄関で、今日も慌ただしい足音と可愛らしい少じ……年の叫び声が響く。



「みんなが寝てる間に、僕の部屋を勝手にピンク一色にしないでってば! たった一晩で衝撃のビフォーアフター遂げちゃってるんだけどっ?」



「夕紀。人生、少しはびっくりすることがないとつまらないわよ?」



「そうだね、でも心臓が止まるレベルのびっくりは必要ないんじゃないかな!?」



母親相手に一生懸命にツッコむ様子は、いつもながらたいそう愛らしい。英語にするならベリーキュート。

そんな、我々が愛してやまない“姫”の家の前の塀に隠れ、俺―――《我らが天使にして希望の光・姫宮夕紀を草葉の陰から愛で、戦い、全力で守護する会》会長は数人の会員を従えて、早朝から張り込みをしていた。

ストーキングではない。姫の平穏な生活を守るために必要な、ただの張り込みである。



「そうそう、この前買ってきたんだけど、夕紀に渡したいものがあるの。ずっとアレで悩んでいるでしょう? 母さん、ちゃんと分かってるのよ?」



「今会話の流れ完全無視したよねとか現在進行形で僕の悩みの種を大量生産してる人に言われたくないんだけどとか、言っても無駄なんだろうね……。 うーん、なんだろ。ダンベルとかかな」



呆れながらも、真面目に答える姫。


なんでも彼は、男らしくなれるように、と牛乳を毎日飲んだり筋トレに勤しんでいるらしく。
その天然な空回りっぷりも素晴らしい……と、会員同士アイコンタクトを交わし、うんうんと頷き合う。



「ママー! 怖いお兄ちゃんたちがいっぱいいるよー?」


「バカっ、ミナ! 見ちゃだめ!」



……う、うん……ごめんよ、ミナちゃん。


意外に結構子供好きな会員同士、ガックリいかつい肩を落としつつも盗ちょ……ではなく聞き取りを続行。




「―――ほら見て、シリコン製胸パッドよ! これでお前の悩みも解決ね!」




「息子の悩み、いい加減で理解してよお母さん!」



「えーと、ここに説明書が……なになに? フルーツ型の形状で下着や水着にも綺麗にフィット。程良い弾力のシリコンは付け心地も優しく女性らしいバストラインを演出―――」



「女性らしさ求めてないから! 僕は男だから! やめてよなんかいたたまれない気持ちになってくる!」



「そんな、夕紀……母さんの愛情が受け取れないって言うの?」



「歪みまくった愛情が行き過ぎてただのイジメになってるからね!」



姫とパッドの組み合わせをリアルに想像してしまったらしく、ブパァッと鼻血を噴出してばったり倒れたバカ極まりない会員を介抱しつつ、俺たちは何食わぬ顔で―――全員、鼻にティッシュを詰め込む作業に移る。


……うむ。今日も空が青い。



「わっ、もうこんな時間になっちゃったじゃない! 部屋、元に戻しておいてよ!?」



「大丈夫! ばっちり、夕紀のあだ名にぴったりな……お姫様部屋にしておくわ!」



「うわぁぁぁぁ―――――ん!」



と、ジャージ姿も可愛い我らが天使が涙目で飛び出し、瞬く間に走り去った。

我々は慌てて彼の登校をサポートすべく追おうとし―――



「あら、いつもの」



『おはようございます!』



―――したところで光栄にも姫のお母上に声を掛けられたので、ピッチリ最敬礼を取る。

栗色のロングヘアに紅茶色の瞳が柔らかな印象を与える姫宮めぐみさん(41)はうっかり姉君と間違えそうになる程若々しく、かなりの美人。
……ちなみに情報を追加すれば、姫のお父上は地元で名高い医師である。



「ときに、めぐみさん。姫の性別は、もちろん分かっておられますよね……?」



で、彼女はまあ、姫がツッコミ役に回るくらいには、頭がゆるふわでいらっしゃる方なわけで。
俺は半ば本気で心配していたのだが、めぐみさんはほんわり微笑む。



「やぁね、当たり前じゃない。ちょっとした遊び心ってやつよ?」



『ですよねー』



なんだ。良かった良かった。



「うふふ。それにあの子も、なんだかんだで喜んでるみたいだし。私のイタズラ」



―――天然は遺伝するものなのだな、と我々は確信した。

74心愛:2013/03/26(火) 10:38:10 HOST:proxy10043.docomo.ne.jp
>>ピーチ

あおりちゃん天音ちゃん、柊一くんがいないときは特に注意だよ…!

で、ピーチさんや。本スレに移動しなくていいの?
ここあがコピって載せとこうか?



夕紀ファンクラブの活動、これから始まります!

75ピーチ:2013/03/26(火) 14:00:25 HOST:EM114-51-147-230.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

柊一はある意味最強だからねw

移動させようと思って途中まで書いててもなぜか用事入って消される……っ

……申し訳ありませんお願いしてもよろしいでしょうか

76心愛:2013/03/27(水) 12:51:16 HOST:proxy10015.docomo.ne.jp






「行ってらっしゃい。今日も夕紀をよろしくねー」



『確かに承りました!』



我々を“夕紀のお友達”だと盛大に勘違いしていらっしゃるめぐみさんに手を振られ、ビッシリ敬礼を返す。

……いや、もちろん聖騎士の活動内容について説明はしたけれど、「まあ、素敵ねー」と言われるばかりで微塵も分かってもらえなかったのだ。



《ピリリリリリリ》



「おっと」



と、そこで俺は、無機質なデフォルト設定の着信音を吐き出す携帯電話を取り出した。

姫の護衛に、携帯電話は必需品。

けれど学校内では持ち込みおよび使用は禁止なので、着信相手もこっそり物陰からかけてきているのだろう。

迷わず通話ボタンを押す。



『会長。こちら第三部隊所属、会員番号26であります』



「報告を」



『はっ。只今、姫の昇降口到着を確認致しました。さらに“姫の行動予定表No.82”によりますと、テニス部のミーティング及び朝練のため、このまま部室に向かうと思われます』



「うむ、ご苦労。我々が手間取っている間にすまなかったな」



『はっ。有難きお言葉』



めぐみさんと話している間に、ダッシュで学校に向かった姫は登校を済ませてしまったようだ。
念のため配置していた別部隊の順調な働きぶりに感謝しつつ、携帯電話を握り直してさらに問う。



「他に何か、この場で報告すべきことはあるか」



『はっ。さらに先回りして、姫がお通りになられる路上の障害物を悉く排除する目的でゴミを隊員総出で拾っていたところ、御近所のご老人酒田さん夫婦に感謝され、お褒めの言葉と飴玉、ゴミを入れる用途のビニール袋(大)を戴きました。無論、リサイクルのために分別も徹底しております』



「また『地域に貢献した模範生徒』として表彰される日も近いな」



うむ。素晴らしきかな、忠誠心。



『その通りであります。さらにさらに、同部隊の特攻班、別名自転車通学班が姫の後ろから尾行していたところ、偶然にも引ったくりに遭遇しましたので一部会員が追跡。鮮やかな手並みで奴をぶちのめし、拘束した後速やかに通報して連続犯逮捕に協力したとの情報も入っております』



「警察に感謝状を贈られるのはこれで何度目だろうな」



しかし、これらの所行はあくまで、姫の尾行の間に起こった“偶然”の産物。いわば、活動のおまけのようなものである。

我らの目的はそんなことなどではない。

そう。姫宮夕紀を見守り、闘い、そして一心に愛でることのみ!



「了解した。では―――本格的に任務を開始する。そちらの会員にもそう伝えてくれ」



『はっ』



俺が通話を終え、携帯電話の電源を切ろうとした―――ちょうどそのときだった。



「会長! テニス部の会員から、朝練の様子の写メが届きました!」



『なにっ?』



テニスコート……校内で堂々と携帯電話を使用し、あまつさえ撮影にまで至るとは、なんたること!


素晴らしいじゃないかっ!



「メーリングで! メーリングで回せ!」



「今送ります!」



全員携帯電話を取り出し、待機。

そして受信を知らせるマークが出た瞬間に決定ボタンを連打、カッと目を見開く!



学校指定の、少しだぶっとしたジャージ。
さらりと額に掛かる髪、ラケットを振りかぶる真剣な表情。



ああ、それはどう見ても―――



『(かわぇぇぇのう)』



路上にたむろすゴツい男たちが一斉に、ほんにゃりと相好を崩す。

髪が張り付くほっそりした首筋とか僅かに光る汗の粒とか上気した頬とか、もう本当にたまらないね!



こうして犯罪者すれすれな笑みを口元に刻む俺たちは、姫が何か荷物を落としていた場合速やかに届け出るべく地面に目を光らせながら、競歩並みの速度で学校へと向かったのだった。

77ピーチ:2013/03/28(木) 07:08:51 HOST:EM114-51-160-221.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

よろしくねーって説明を完全にスルーしてません!?

でも可愛いから許せるっていうのはやっぱ親子ゆえ?←

78心愛:2013/03/29(金) 09:21:43 HOST:proxy10050.docomo.ne.jp
>>ピーチ

夕紀母は夕紀より分かりやすい天然です←
ゆるふわ〜(・∀・)

外見は夕紀そっくり!

79ピーチ:2013/03/29(金) 21:04:07 HOST:EM114-51-148-105.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかの夕紀ちゃんよりも分かりやすい天然!?

…ねぇ、何かここにんゃんキャラって隠れ最強に誰かの母親多くない?(おい

男と女が似てるってのも何か面白いかも←

80心愛:2013/03/30(土) 15:04:38 HOST:proxyag074.docomo.ne.jp
>>ピーチ

確かにそうかもね!

アゼリアといいめぐみさんといい…方向は違えど息子を色々と凌駕してるよね…!

よく気づいたなピーチよ!


母親の外見生き写しの息子w

81ピーチ:2013/03/30(土) 20:55:59 HOST:EM114-51-184-84.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

だーよねー! 色んな意味で子供を凌駕する母親w

何か気付いたーw

だって見た目が…っ!←

82心愛:2013/03/31(日) 20:30:38 HOST:proxyag111.docomo.ne.jp






「……なんで、僕が着替えてるときは誰もいないんだろ」



我々が睨みを利かせて不届き者を締め出しているからです。


部活を終えた姫が使用中の男子更衣室前に仁王立ち。
筋骨隆々、いかにも屈強な容姿の会員がずらりと並べばそれだけで、子供も大号泣の威圧感を醸し出すのだ。


また同じく、体育の着替えやトイレのときなども、授業終了のチャイムと同時に集合して警備を行っている。



「不思議だなぁ……」



ササッ。ガラガラッ。



着替え終えた姫が出てくる前に、我々は素早く身を隠した。





゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚




「あ、あの……っ、姫宮さん!」



「はい?」



「何故かいつも変な奴らに邪魔されちゃうからこんなとこで言うけど……この際男でもいい! お願いします、俺と―――」



「おっと足が滑ったァ――――ッ」



「おっと手が滑ったァ――――ッ」



「ひぎゃああああ!? またお前らかぁぁあああ」


サッカー部が足払いを仕掛け、ラグビー部が華麗なタックルとパンチのコンボでぶっ飛ばす。
念のため、締め技専門の柔道部も待機済みだ。



「……あれ? 今、そこに誰かいませんでしたか?」



「気のせいでしょう。虫は一匹いましたが」



「そっか……僕の聞き間違いかな。ちょうちょだったら見たかったなぁ」



首を傾げる姫の愛らしさに、今にも昇天しそうに身悶える会員たち。


だが、これはまだ序の口。
我々の活動はこれからが本番だ。




゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚




「あ、あのっ! 自分一年なんすけど一目惚れし」



『トゥラッシャアアアアアアア!!』



「ぐぎゃあああ!!??」





゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚




「ぐふっ、可愛いねぇ。学ランなんか着てコスプレかい? 金は払うからおじさんが楽しいことを教えて」




『フォワァアア――――!!』



「うぼぁあああ!? な、なんなんだね君たちはぁああああ!!」





゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚・:*:・。☆゚・:*:・゚☆。・:*:・゚





「―――さて、今日も御苦労だった。……我々の目的は只一つ!」



『姫の笑顔の為にッ!』



「よろしい。以上、解散!」



合い言葉で結束を確認した後、解散を宣言する。
整列したメンバーたちは、その合図にすぐにばらばらに―――は、ならなかった。
一人の会員が代表するように、俺の前に進み出る。



「会長。これからの活動、如何されるおつもりですか。受験生ですし、私たち三年は引退を考えるべき……だと」



言いながらも、しょんぼりと肩を落とす会員。

姫と離れるのが、つらいのだ。
この上に高校も別になったら、もう姫のお姿を見ることさえも叶わなくなる。



「姫は……ほぼ間違いなく、南高を受験するでしょう」



姫は優秀な方。
ここ周辺の高校としては最難関である、彼の父親の出身校を狙うことは安易に想像がつく。


でも。
だから、なんだ。



「……お前らの想いは、その程度か?」



会員たちが、はっとしたような顔をする。



友情とも、恋とも違う。

尊敬。憧憬。
その言葉がおそらく、一番近い。

彼―――姫宮夕紀の、奇跡的なまでの純粋さと、内面の美しさに、我々は本気で惚れているのだ。


それを守るのは、我々の義務。

……いや。

何に代えても成し遂げたい、ただ一つの願いだ。




「そうだ、今の成績がなんだ!」



「やったるわ!」



「よし。残り半年強、姫への想いを全て勉強につぎ込め! 文字通り死ぬ気で励むぞっ、お前ら!」



『おう!』



また、高校で姫を迎え入れてやる!



「目指せっ、全員合格!」



『姫の笑顔の為に!』





*・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・*・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・*




―――後日談として。


とある県南の中学校が、例年の五倍近くの某高校合格者数を叩き出した。

地元テレビ局の取材に、一部の男子生徒は誇らしげに、こう語ったという。




「信念は、不可能を可能にする」

83心愛:2013/03/31(日) 20:33:53 HOST:proxyag111.docomo.ne.jp
>>ピーチ

シュオンもアゼリア似だしねw


さて、次からは美羽視点で入学式の話いくよ!

やりたいことが山ほどあって困るけどね←
本編と同時進行です(・∀・)

84ピーチ:2013/03/31(日) 21:01:32 HOST:EM114-51-186-14.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ちょっと待って会員さんたち何か怖いよ!?

と思ったら何気に優しい(?)

美羽ちゃん視点待ってますそしてコラボで使わせて頂きますー!←

85彗斗:2013/03/31(日) 23:20:25 HOST:opt-115-30-217-109.client.pikara.ne.jp
心愛さん>>

か…会員さん達、物凄くかっけぇ……!!(と同時に物凄く怖えぇ!!)

一言で表せば……正に執念の塊! いやぁ……青春って凄いですね☆(高一が何を言うかww)

実は……ソフィア様(現在進行中)、ミレーユちゃん(参戦内定)と来れば……。私がお願いしたい事は流れで……? 

考えている事は恐らく当たってると思います。出来ますか……ね?

86心愛:2013/04/01(月) 19:54:20 HOST:proxyag097.docomo.ne.jp
>>ピーチ

怖いけど優しいんだよw

美羽一人称は割とすらすら書けた!
慣れてきたからかな←
話のまとまりとしてはあと二つ、短くも美羽視点でお送りいたしますw



>>彗斗さん

怖いけどカッコイイ……(笑)
せっかくの青春にこんな暴走をさせてしまうとは執念恐るべしw
高校入学おめでとうございます! 今からかな?


え、えっと…………マジですか………?
彗斗さんなら楽々できるような気もしますけども! しますけども!


ミレーユたちと同じく、他のここあキャラと基本的に鉢合わせさせないようにしていただければ……ええ。喜んでお貸ししますとも!


ただその前に、中二病に男の娘(夕紀のことです)にイケメン女にドジっ娘といろんなヒロイン(?)が揃ってますし、まずは本編だけでもサラッと流し読みしてもらえたらいいなと思います!
長いけどソラの波紋よりは無駄話が多いぶん、読みやすいんじゃないかと←

87心愛:2013/04/01(月) 19:54:49 HOST:proxyag097.docomo.ne.jp


『ぼくの本音』





手のひらに汗が滲む。
特にすることもないのにケータイをいじるのは、ぼくが落ち着かない気分のときの癖だ。



危なげなく姉と同じ高校に合格し、迎えた入学式当日。


姉の執事に送ってもらってなんとか門はくぐったものの、緊張と吐き気に耐えきれずにすぐさま保健室に駆け込み、入学早々に入学式をすっぽかしてしまった。
保健医は優しい人で、深いことは何も聞かずに休ませてくれたけれど。



さっきから教室の隅で後ろから二番目の席という悪くはないポジションに堂々と座するぼくには、絡みつくような嫌悪、というわけではないが『…………な、なんで?』という遠慮がちな視線が恐る恐る向けられている。


それもこれも、今日のぼくの装いの所為だ。



ふんわり膨らんだ姫袖のブラウスに、アシメトリーなデザインが気に入っている漆黒のコルセットスカート。
薔薇のケミカルレースとグログランリボンのヘッドドレスは黒を映えさせる純白が基調になっている。


ぼくが愛してやまない闇の装束、早い話がゴシック・ロリータ。


さらには、今は見えないだろうが紅の(“赤”ではない、断じて)カラーコンタクトまで嵌めている。


……繰り返そう、此処は高校の、しかも入学式後の教室内だ。


浮いている自覚はある。
むしろ、これで浮いていないと思っていたらそいつはおそらく脳に疾患がある部類の人間だろう。


露骨な嘲笑ではないにせよ、ぼくの肌を撫でるのは隠しようもない、他者からの好奇心や訝しみの眼差しだ。
全てが今まで、ぼくの人生で何度も感じてきたもの。



ぼくは目立つのが好きなわけでは決してない。
むしろ逆だ。
けれど、変わり者の烙印を押され、自然と遠巻きにされることに、変な安心感や心地よさを覚えるのは事実。

さすがに中学では制服通学だったからこんな奇抜なファッションをすることはなかったけれど、それでもやはり、こんな話し方でつれない態度を取っていたぼくは、同級生たちにいつも冷たい目を向けられていた。


そこそこ好成績をキープしていたのと、後輩の間でも有名な誰かさんの名前のお陰で、大きなイジメにまでは発展しなかったが。



「……?」



と、ぼんやり回想していたところに突然メールが届いたのに気づき、慌てて開く。


やはり姉からだ。
流行だかなんだか分からないが、小文字絵文字顔文字が乱舞する読みにくい字列。
その中で、ぼくを気遣う旨の文句がずらずらと並んでいた。


二年生は授業日のはずなのに、何をやっているんだか。


内心苦笑しながら返信を打つ。


……でも、姉が心配するのも、頷ける。
この一年間、彼女には本当に、迷惑と心配ばかり掛けさせていたから。

あんなことがあったのに、彼女たちの優しさを良いことにして、また同じ過ちを繰り返そうとしているぼく。


全く、愚かしい。



担任が入って来て話を始めたのでケータイをしまい、頬杖をついて窓を眺める。


いかにも気怠げに見えるように取り繕いながら、すぐにでもこの空間から逃げ出したい衝動を懸命に堪えた。

88心愛:2013/04/01(月) 19:55:31 HOST:proxyag110.docomo.ne.jp





やがて、担任の指示で自己紹介が始まった。


正直に言って、関わる予定のない人間の個人情報には全く興味がない。


適当に聞き流すことしばらく、軽そうな印象の男子生徒が無難に話を終えて席に戻り、ぼくの左隣の男子生徒が立ち上がる。


隣の顔くらいは見ておいてもいいかと思い、彼が違う方を向いている間に一瞬だけ視線を走らせた。




「えーと、……初めまして、日永圭と言います。中学は―――」




ぎこちなくはにかみながら、たどたどしく言葉を選ぶ男子生徒。

これと言って特徴はないものの、なんとなく人の好さそうな顔立ちをした彼は、誰からも好感を持たれるタイプのように思えた。


何故か、ぼくはそっぽを向きながらもいつの間にか彼の声に耳を傾けていて。


彼は漫画やゲームが好きだそうだ。
リア充的外見のくせに、こちらの文化にも理解があるとは。

……さぞや、人気者になることだろうな。


隣に戻ってくる彼の気配を感じながらそんなことを思って―――



……解ってる。
こういう人は、ぼくには手が届かない存在だ。



顔も、雰囲気も全然違うのに。


『ある人』の影と重なって、必死に封じた記憶が甦って―――ひんやりと胸の奥が凍り、斬りつけられるような痛みを覚える。


今、この瞬間もクラスメイトたちに笑われ、後ろ指を指されている気がして、耳を塞ぎたくなる。みっともなく、震え出しそうになる。


怖い。


怖い……っ!



ついに自分の番が回ってきても、ぼくは動くことができなかった。
自分がしていることに、これからしようとしていることに対するとてつもない不安に、押し潰されそうになる。


ざわめきが遠い。


……馬鹿か、ぼくは。
今更何を迷っている。


ぼくが弱い、ただのちっぽけな人間だなんてこと、とっくの昔から解っていたことじゃないか。



「ゆ、結野……さん? 体調が悪いのかな?」



ぐっと、人知れず唇を噛み締めた。



ぼくは。
何の為に此処にいる?
こんな格好をしている?


脳裏にとあるキャラクターの、銀髪を靡かせる凛々しい姿を思い描く。
肉親が殺されても美しい心と誇りを失わず、復讐の為に自ら血を浴びて戦う姫君。


ぼくの何億倍もの痛みを乗り越えて、凛然と顔を上げることができる。
そんな彼女のようになりたいと、そう思ったからじゃないのか。



隣の男子生徒が、困惑の視線を向けてくるのが分かる。



もう、此処まで来てしまったんだ。こんなところで中途半端にして逃げることこそ、一番卑怯で、恥ずかしいことではないのか。



……やってやる。
徹底的に、“理想の自分”を貫いてやる。



心が固まったのを感じ、覚悟を決める。



仕方ない、とでも言うように溜め息をつき、ゆっくりと席を立つ。


靴を鳴らして歩き、教壇へ。



新しいクラスメイトたちを、目を逸らさずに、まっすぐに見る。



恐れるものなど何もない。


少しでも自分を大きく見せるように胸を張り、挑発的な笑みを浮かべて。


ぼくは、ぼくが一番格好良いと思う台詞を吐いた。




「……初めまして、と言うべきかな。
ぼくのこの世界での名は結野美羽。またの名を、ミウ=黎(ローデシア)=リルフィーユ―――魔術組織《純血の薔薇(Crimson)》の一級魔女にして吸血姫(ヴァンパイア)、赤の十四番《黄昏(イヴ)》。
……下等な人間共と慣れ合うつもりは微塵もないが、まあ一応、宜しくとでも言っておこうか」

89ピーチ:2013/04/01(月) 21:10:04 HOST:EM114-51-206-242.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

怖いけど優しい子供好きw

美羽ちゃんちょー可愛いー!

結局美羽ちゃんって強いもんね!←

90心愛:2013/04/02(火) 12:32:54 HOST:proxy10049.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ヒナ視点では分からなかったけど、自信満々に見えた美羽も、最初はけっこう色々悩んでたんだよという過去話でしたw
心の強さでは、並大抵の人には負けないよ!



次からは一気に現在に飛びますw
前半は、あたふたする美羽を生暖かく見守ってやってくださいな。

91心愛:2013/04/02(火) 12:33:27 HOST:proxy10050.docomo.ne.jp


『月下、少女は願う』





ある日の夜。

ぼくは自室のベッドの上で、ノートパソコンの画面を凝視していた。



「…………」



【超↑よく当たる!? 恋愛占いっ☆】



ピンク色の文字で書かれた頭の悪そうなタイトルを、じっくりと時間をかけて読んで。



「……美空の奴、またぼくのパソコンを勝手に使ったな……?」



全く、ドジで不器用で極度の機械音痴なのにこんなものを使って。ぼくの留守中に壊れたらどうしてくれる。


一ノ瀬に美空の監視を強化するように言おうと心に決めながら。



【★異性との相性占い★】



「…………」



クリック。



「ふ、ふん……くだらない。実にくだらないな。こんな迷信めいた遊びに興じ、あまつさえその結果に頼るだなんて。低脳な人間共のおめでたい思考には全く恐れ入る」



心底呆れ返りながらもさらにクリック。



「……む、自分と相手の名前、それから……?」



キーを押して必要事項を入力してからケータイを手に取る。

ぼくは暇なので、とっても暇で暇で今にも死にそうなくらいなのであくまで仕方なく、自然な流れで眷属にメールを送ることにした。



『君の血液型と星座と生年月日を教えろ。3秒以内だ』



…………………ピピピピピッ!



37秒もかかった。遅い。



『はあ!? 急になに!? 何に使うんだよ怖いんだけど!』



『うるさい早くしろ』



『えええええ』



というやり取りの末に。



「まったく……。これだからヒナは」



まんまと目的の情報を手に入れたぼくは、ちょっとだけドキドキしながら『決定』ボタンをクリックする。


すぐに、パッと結果が表示された。



【とても良い相性です。
多少のいざこざがあっても簡単には断ち切れない良縁です。
きっかけがあれば最高のパートナーになれるはず】



「眷属なのだし……当然の結果だな。もうその“きっかけ”とやらを得るには遅いが、機械にしてはなかなか分かっているじゃないか」



嬉しさで独り言までもが弾む。
まだ文章は続いているので、徐々に下へと辿っていく、と。



【いずれは良い恋人として素敵な関係を築けるでしょう】



「こっ……!?」



カッと頬が燃え上がるように熱を持つ。



「ばっ……馬鹿か君は! ヒナはただの眷属だぞっ? そうやってすぐに恋愛事に結びつけるなんて、そんな低俗なっ」



憤慨してべしべしとシーツを叩く。


相手がもの言わぬ物体であるのをいいことに、一方的に怒鳴るぼくの姿は端から見たらかなり珍妙なものであっただろう。



【あなたの片思いの場合↓】



「だっ誰が誰に片思いだってっ!?」



【あなたは、彼につい憎まれ口をきいてしまうことはありませんか?】



「う」



見透かされているような心地に、口を噤む。

ヒナのことなんてまったく全然どうでもいいがっ、彼には確かに、好き放題きついことばかり言っている気がする。



【いくら相性が良くても、あなたの方から行動を起こさなくては何も始まりません】



「うう」



【具体的には】



「具体的には?」



【手紙などきちんとした感じは避けて、短いメールなどで冗談ぽく『好き!』と伝えてみましょう】



「す……っ」



ケータイについ目をやってしまった自分に気づき、ハッとして脚をじたばたする。



「でっできるわけがないだろう! ふざけるな! 第一ぼくはヒナとそういう関係になりたいわけではなく、」



【そうすれば、ケンカもするけど、誰もがうらやむ仲良しなカップルになれるでしょう!】



「人の話を聞けぇッ!」



ぜえぜえと呼吸する。
顔が熱い。



「……っああもう! まったく当てにならないな、この占いはっ!」



ぺちぺち頬を叩いてから、ぼくは最後の行に視線を移した。



【では、あなたは相手からどのように思われているでしょうか?】

92ピーチ:2013/04/02(火) 19:05:08 HOST:EM114-51-136-117.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

美羽ちゃーん! 相手機械だよー!?

……美羽ちゃん、美空先輩のことどんな風にとらえてるの…?

やっぱりヒナさんと美羽ちゃんのやり取りって読んでて和むー←

93心愛:2013/04/02(火) 20:42:45 HOST:proxy10025.docomo.ne.jp
>>ピーチ

「何でもできて頼りになるある意味憧れの姉(※ただし超絶ドジ)」みたいな?
カッコの中がとっても重要なのです←


確かにいいコンビかもねw

94心愛:2013/04/02(火) 20:44:56 HOST:proxy10022.docomo.ne.jp






【あの人は今、あなたのことを深く想っています。

でも、何かしらの理由があって、その気持ちを意図的に表に出さないようにしていることが暗示されています。

信じられないかもしれませんが、心の中ではあなたのことを―――】




指先が凍った。

思考が急速に冷めていく。



「……違う」




唇が、震える。



「馬鹿か……ぼくは」



甘い誘惑に乗せられ、一時でも翻弄されてしまったことが情けない。


……そんなわけがないんだ。


素直に信じて喜ぶには、その話はあまりにも虫が良すぎて。


ぱたんとノートパソコンを閉じる。

起き上がって腕を伸ばし、カーテンを開けた。


窓の外に、金色の月。




「……ヒナ」




儚い光を放つそれを見上げながら、ぼくは小さく笑う。




「ぼくは、弱いよ」




ヒナは今まで、同級生と上手く馴染めず、肩身の狭い思いをしてきたと言う。
けれど、そんな過去を完全に振り切って、今はたくさんの仲間に囲まれて笑ってる。
彼は元々、それだけの強さを持った人間だったんだ。




「過去に縛られているのは、ぼくの方だ」




忌まわしい記憶。


消し去りたいと思うのに、意識すればするほど鮮明になり、ぼくを苦しめていく。



ぼくが。



恋に臆病になった、理由。




「ぼくは……君を、信じても、いいのかな」




ヒナは、ぼくのことを笑わなかった。


それだけじゃない。


弱くて愚昧で、身勝手なぼくを受け入れて、眷属になるとまで言ってくれた。




『心配しなくても、俺は結野から離れたりしない。結野と一緒にいて迷惑だなんて絶対に思わない』




『俺は、約束は守る奴だよ』




仕方がないなぁとでも言いたげな顔で、文句を垂れることもあるけど、それでも最後にはぼくの我儘を聞いてくれる。



優しい、ヒナ。



ぼくは彼を―――“眷属”という名の枷で、縛りつけている。



「君の優しさを利用することを……許してくれ」



虚勢を張り、欺瞞で弱い心を覆い隠すことで、自分を護ってきた。


今までも、良心や同情心で仲良くしてくれようとするクラスメイトは、少しだけいた。

そのすべてを、ぼくは冷たくはねのけてきた。

到底こんな自分は理解されるわけがないし、何よりぼくと一緒にいれば、それだけで彼らに迷惑が掛かる。


そう、ずっと信じていたのに。


それなのに。



ヒナに手を引かれるようにして前への一歩を踏み出し、ぼくは今までとはまったく違う、新しい世界を知った。



楽しい。


そう思える自分がいる。


自分の好きなものを、ぼくのすべてをひっくるめて、笑顔で迎え入れてくれる、あたたかい場所。


愚かな夢に囚われたぼくの居場所を、君が作ってくれたんだ。



「信じ、たい」



信じたいよ、ヒナ。



君の言葉を、




自分の、想いを。




認めたい。



でも、認められない。




足を踏み外して壊してしまうより、ずっとずっと、今の変な、心地よい関係でありたい。



「……忘れよう」



窓枠をぎゅっと握った。



過ぎた幸せの先に待っているのは絶望だと、ぼくはすでに知っている。




もう少しだけ。



優しい君に甘えてもいい?





―――願わくは、今だけは。



君と同じ色の夢を、見られんことを。

95ピーチ:2013/04/02(火) 20:45:35 HOST:EM49-252-217-126.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

カッコの中がね! そうなのね!←

……ある意味とは?

いいコンビだよね! 美羽ちゃんとヒナさんw

96心愛:2013/04/03(水) 22:30:44 HOST:proxy10059.docomo.ne.jp
>>ピーチ

いくら文武両道で才色兼備な自慢の姉でも、三歩歩いてコケる姿を見れば尊敬の気持ちも萎えるよね……という意味でw


カップルの前にいいコンビが成立しておるw

97ピーチ:2013/04/03(水) 22:38:26 HOST:EM114-51-142-165.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

三歩歩いてコケる姿はさすがに……ねぇ?←

確かにいいコンビw

98心愛:2013/04/04(木) 21:08:59 HOST:proxyag102.docomo.ne.jp


『バレーボール』





たんっ、と華麗な跳躍。
床を蹴ると同時、ひとつの影が敵サイドに強烈なアタックを打ち込んだ。


きゃーっと黄色い歓声が弾ける。



『王子ーッ』



『柚木園くーん!』



すらりとした細身、キラキラ粒子を纏う黒髪。秀麗な美貌には無駄に清々しい笑顔。
水際立って麗しい美男ぶりを披露している、れっきとした女子生徒であるぼくのチームメイト―――柚木園苺花(ゆきぞの まいか)がにこやかに微笑んで周囲に手を振れば、キョアアアアア!! と最早怪鳥に近い叫びが体育館内に充満する。ちょっとしたアイドル状態だ。


ヒナたち男子は外の運動場に行っているので女子だけの、憂鬱な午後の体育の授業。
女子に甘いと評判の男性教師が傍観する中、とても生ぬるい試合が展開されていた。


一応対戦の形式を取っているものの勝負なんて真剣なものではなく、“彼女”の勇姿にきゃあきゃあ声を上げることが彼女らの活動みたいな感じになっている。


そんなわけで暇なぼくは後方で、ぼんやり“彼女”の活躍を眺めていた。


……うーん。
同じ色白でも全然違う。


もそもそとぼくの美意識に反するキッズサイズのジャージの袖を捲り、不健康極まりない蝋人形のように蒼白い自分の肌と、そのしなやかな肢体を見比べてため息をついてみたり。
……この暑い中で長袖なんておかしいのは分かっているけれど、人前に肌を晒すのにはまだ少し抵抗があるのだ。


ジャージにレースを縫い付けたら変だろうか。変だな―――などと、一人でくだらないことを黙考したりしていると。



「美羽ー」



「にゃっ」



急にボールが飛んできて、ぼくは反射的に飛び退いた。



「あ……危ないじゃないか! いきなり何をするっ!」



「うわなに今の可愛い!」



「こらみうみう、ドッジボールじゃないんだから! 王子もときめかないの!」



「サーブ、美羽っちの番だよー」



やっとのことで把握する。練習を兼ねて、サーブを打つ役を順番に回しているらしい。

だが、引き受けるという選択肢はない。

姉と違ってへっぽこのぼくからすれば、バレーなんて申し訳程度に隅っこに突っ立って、たまに外に出るボールを拾って無言で返すだけの競技なのだから。



「何故ぼくがっ」



「あ、そこじゃなくてもっと前からやった方がいいと思うよ? ほらこっち」



「? ここか?」



……あれ? と遅れて気がつくと、いつの間にか敵味方関係なく全員が、ぼくを見守りながらにこにこ微笑んでいた。


な、何故こんなことに。



「美羽、大丈夫? こう構えて」



「……む、」



アンダーハンド? だかなんだか知らないが、ぼくが困っているのを見て取りすぐ傍に寄ってきた“彼女”がそのやり方を丁寧に教えてくれる。


手に持った球体はずっしりと重い。

どうして普通の人間はこんなものをほいほい投げられるのだろう。理解に苦しむ。



「点数とか関係ないし、気楽にやって大丈夫だから」



「わ、分かったから撫でるなっ」



頭に乗った“彼女”の手を振り払う。
足を踏ん張り、ぐっと力を込める。
こうなったらヤケだ。



―――ぺすっ。



案の定、威力は限りなくゼロに近かった。

間抜けすぎる音を立ててやっとのことで宙に浮いたボールは、へにゃへにゃした軌跡を描き、ネットの上方に当たって敢えなく落下―――するかと思われたが、



「あ、あれ……?」



誰かの困惑したような声。
ぼくもぽかんとしてしまう。



……ギリギリ、本当にギリギリで、入っ……?



察知した一人が慌てて滑り込もうとするが、ボールはふよふよ飛びながらその腕を掠り。
最後にはぽてりと床に落ち、弱々しく跳ねた。


わっ、と、喝采が沸く。



「やるじゃん、美羽!」



ハイタッチを求めるように両手を差し出してくる“彼女”。
“彼女”にとっては高いどころか低い位置だけれど。



「……ん」



無視するのも戴けないので、一応、ぺち、と叩いておく。


素直に応じてしまったぶん、なんだか妙に気恥ずかしくて。
いつもの癖で、ふいと熱い顔を逸らした。



「……もうやらないからな」

99ピーチ:2013/04/04(木) 21:45:49 HOST:EM49-252-234-200.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

シェーラちゃんの声久々に聴いた気がする!←

美羽ちゃん可愛すぎるよー! 頼りない女の子って可憐だよねー!

あたしの女キャラも結構非力な方だと思うけど(おい

100心愛:2013/04/05(金) 16:05:34 HOST:proxyag118.docomo.ne.jp
>>ピーチ


可憐と非力を行き過ぎて一人じゃ生きていけなくなってるからね、美羽…。
誰かさんが大切に甘やかしすぎたせいだな、うん。
ヒナに養ってもらわないとね!



あと、試験前につき久しぶりに一週間くらいお休みさせて戴きたく存じますw


そしたら邪気眼少女の旅行と、ソラの波紋のラストバトル前に入りますかねー←
春休み中に結構進んでよかった!
美羽パートは終わったから、とりあえずしばらくこっちは更新ストップしますよろしくです!

101にゃにゃですが:2013/04/05(金) 16:52:31 HOST:zaq31fa522f.zaq.ne.jp

ゴチャゴチャぬかすな
やかましい

102にゃにゃですが:2013/04/05(金) 16:53:02 HOST:zaq31fa522f.zaq.ne.jp
>>1
お前のスレはいつもつまらん

103ピーチ:2013/04/05(金) 21:28:05 HOST:EM114-51-47-243.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

確かにどっか行き過ぎてはいる! でも可愛いから大丈夫さ!←

ヒナさんだと優しく厳しくやってくれそーだよねw

お休みですか! 試験頑張ってね!

104心愛:2013/05/26(日) 17:56:27 HOST:proxyag117.docomo.ne.jp
>>ピーチ

長い間放置ごめん!


これから苺花と昴の短い話のせるよーw
いつも以上に駄文注意!

どんなに残念でも、完結できないよりはいいさきっと!

105心愛:2013/05/26(日) 17:57:04 HOST:proxyag117.docomo.ne.jp


『温泉旅行 *苺花side*』




ちょっとの間でもとんでもなく可愛い女の子二人と一緒に生活できるなんて、と準備の段階からすっかり舞い上がっていた私だったけど。



「酷い目に遭った……」



不透明なお湯に浸かりながら、げっそりとやつれた顔で重い溜め息を吐き出す。

あれって上手くすればセクハラで訴えられるんじゃないかな。同性だけど。美人だから許すけど。別に美人じゃなくても女の子相手なら何でも許せるけど。


その犯人・美空先輩は涙目になってしまった美羽を追いかけて、ついさっき慌ただしく出て行ってしまった。
そういう意味では、美羽が今回の一番の被害者かもしれない。スレンダーなお子様体型も可愛いと思うけどなぁ。



「んー……」



誰もいないのをいいことに、思いっきり脚を伸ばした。


お風呂は結構好きだったりする。
我ながら似合わなくて笑えてくるな。


人知れず苦笑を零しながら、私は広い女湯に一人きりで、ありがたくゆっくりと疲れを癒やさせてもらうことにした。





☆゜:*:゜☆゜:*:゜☆゜:*:゜☆゜:*:゜☆゜:*:゜☆゜:*:゜☆





その30分後。



「夕紀ー?」



美空先輩が間違えてお酒を持ってきてしまうという思わぬトラブルに巻き込まれ、私はヒナと別れて夕紀の様子を見に男部屋にやってきていた。



「夕紀、大丈………………っえ?」



襖を閉めてから部屋全体を見渡そうとした途端、何者かによって腕を掴まれ、背中がその襖に押し付けられた。


うん?
ぱちぱちと瞬きをする。
えっと、何? 何が起こってるの?



「まいちゃん」



気がつけば、すぐ目の前に熱を持った紅茶色の瞳。
動けない私へと唇が近づいてきて、



「っきゃ――――!」



やっとのことで我に返った私は、手加減なしで夕紀を突き飛ばして距離を取る。



ななななななにこれ!



「……痛いよ、まいちゃん」



「ゆ、ゆ、夕紀? 急に何を―――ひあっ」



夕紀が再び近づいてきたかと思ったら、ひょい、と急に身体が浮いた。

膝裏に夕紀の手。
この体勢はまさかもしかして、もしかしなくても、



「………ええええええええ!?」



あああ有り得ない! いろいろ有り得ないから!

すっかり混乱して頭の中がぐるぐる回っている私を布団の上に下ろし、


―――くすっ。


自分より大きい女を軽々と持ち上げてみせた夕紀が、小悪魔めいた微笑を見せる。



「夕紀、」



「黙って」



夕紀の顔が、覆い被さっている所為で陰になっている。
私の唇に指を当てながら注がれる眼差しは、普段の彼からは想像もできないほど壮絶に色っぽい。



「続きはベッドの中で聞く」



ベッドじゃないし布団だし!


抵抗しようとしても、手首をしっかり押さえ込まれていて全然通用しない。
この細腕のどこにこんな力が!?

腕力にはそこそこ自信あったはずの私でも全く歯が立たな―――



「可愛い。苺花」



軽いキスが落ちてきて、思考が見事なまでに中断される。

い、今、なんて、



「……! ――――――!!?」



ようやく脳が理解して、顔に全身の熱が昇ると同時にトドメを刺されたように身体から力が抜ける。


おお落ち着けっ私の心臓! これはやばい、やばいって!


どれだけ飲んだのかは分からないけど、これは酔ってる。完全に酔ってる。

これ以上暴走する前になんとかしなくちゃ……!
でも、どうやって!?




「―――……柚木園ヘルプッ!!」




「……あ」



絶妙すぎるタイミングで、美羽を腰にくっつけたヒナがスパーンッと襖を開けた。


やっぱりと言うかなんと言うか、普通に誤解されたけど最終的にはなんとか分かってもらうことができ。



「それは大変だったな……。正直びびったよ」



「私も……。夕紀が酔うと怖いってことが良く分かった」



アルコールのせいで、いつもは控えめな男の部分がこれでもかと出てきてしまったのかもしれない。
名前呼ばれたときとか、本気で死ぬかと思ったし……。



「やっぱ未成年が飲んじゃいけないってのは道理なんだなー」



そんなヒナの台詞に、私は心の底から同意した。

106ピーチ:2013/05/28(火) 02:37:35 HOST:nptka202.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

苺花ちゃん災難だ……!

でもまぁとりあえずよかったと言うべき?←

107心愛:2013/05/30(木) 20:40:53 HOST:proxy10019.docomo.ne.jp
>>ピーチ

…お酒って、怖いね!((ごり押し


よし、本編はもう後日談にしちゃおうそうしよう。
ばんばん早送りするぞー!
次は昴サイドです(`・ω・´)

108心愛:2013/05/30(木) 20:41:14 HOST:proxy10020.docomo.ne.jp


『温泉旅行 *昴side*』





「……まさか、微量とはいえ未成年者に飲酒をさせてしまうなんて……。前代未聞最早伝説級のドジでいらっしゃるお嬢様が用意したものを安易に信用し、点検を怠った私のミスです……」



「昴って、あたしに対しては何気に失礼だよね」



私―――こと、結野家執事一ノ瀬昴(いちのせ すばる)は落ち込んでいた。


美空お嬢様が誤って美羽様たちに酒を飲ませてしまう、という事件が発覚したのがつい先刻のこと。

しかもお嬢様自身や美羽様だけでなく、こちらでお預かりしている姫宮様まで巻き込んでしまうとは。
こんな不祥事、旦那様に何と報告すればいいのか……。



「二人ともそこまで大したことなさそうだし、別に言わなくていいじゃん。もしバレても、お父さんにはあたしからもちゃんと言っとくしさ」



「……相変わらず、察しが良くていらっしゃいますね」



「今更何言ってんの」



まるで当然のことのように私一人に与えられた部屋でくつろいでいるお嬢様が、テーブルに頬をくっつけながらへらりと笑う。


言ってしまえばこうなったのも全部お嬢様の招いた結果なのだが、案の定そのような意識は薄いらしい。

分かっていたことだけれど、と内心でこっそりと嘆息し、この件については諦めて気分を切り替えることにする。
この程度で動揺していては、破天荒なお嬢様の執事は務まらない。



「お嬢様は、体調に別状はありませんか? 酔っては―――」



「んー。別に、ちょっと暑いような気がするくらい」



確かに頬に少しばかり赤みが差しているが、他の二人と比べれば明らかに意識がはっきりしている。
お嬢様がアルコールに強いのか、姫宮様と美羽様が弱すぎるのか。はたまたその両方か。



「あれ? って思いながらも結構飲んじゃったんだけどね。あたしってお酒にも強いみたい」



「……パーティーなどで勧められても、飲まないで下さいよ」



「安心しなって。昴が怒るもん、そういうときは上手くかわすよ」



危なっかしい特殊体質のお嬢様の場合、無理に勧められてというよりはこのように事故で、という方を警戒した方が良さそうだ。
これからはさらにお嬢様の行動に気をつけなくてはと、私は心中で決意を固める。



そして―――急に話題を変えたお嬢様の何でもないような一言に、一瞬自分の顔が強張ったのを感じた。




「やだな、こんなこともうしないってば。―――それでさ、例のリストできた?」




言いながら、こちらへ右手を伸ばしてくるお嬢様。
最初から否定の返事など期待していないのだろう。


精一杯平静を装いながら、鞄の中から慎重に保管していた資料の束を取り出して彼女に手渡す。



「こちらに」



それを受け取ると畳の上に寝転び、ぺらぺらと捲り始める。
しばらくして、桜色の唇が満足げに緩やかな弧を描いた。



「……ま、こんなもんだよね。分かりやすいじゃん、上出来上出来」



表の中ずらりと並んでいるのは、一人一人の姓名、肩書き、人間関係、“その他”の裏事情など、あらゆる情報網を駆使して作成した個人情報。


国内有数の巨大企業体、結野グループの未来を担う一人―――結野美空の、婚約者候補。



「ふーん……なんだ。この人、ソッチに手出してるんだ。残念、選択肢は多い方がいいのに」



小声で時折呟きながらも恐ろしい速度で視線を動かすお嬢様を、気づかれていないのを良いことに私は複雑な思いで見つめた。



お嬢様がこのような話題に乗り気で、信頼ができ、なおかつこちらの勢力に引き込むメリットがあるような大企業の御曹司の情報を集めようとしているのは―――それも全部、美羽様のためだ。

109心愛:2013/05/30(木) 20:42:13 HOST:proxy10025.docomo.ne.jp






あれはいつのことだったか。お嬢様だけでなく美羽様にもしかるべき相手と婚約してもらいたい、と話した御両親にお嬢様は猛反対し、最後には二人を説き伏せた。

それ以来、美羽様に家のことには縛られない普通の自由恋愛をしてもらいたいと考えているお嬢様は、美羽様の代わりをするかのように社交の場に積極的に赴き、立場に恥じぬような振る舞いをし、注目を集めている。

お嬢様の妹に対する溺愛ぶりと過保護ぶりは学校内だけではなく、このような範囲にまで及ぶ。
目的のためなら自己犠牲も厭わない。むしろそれを犠牲とも思わない。
ごく自然に、お嬢様は自分の身を盾にして美羽様を外の世界から守り続けるのだ。



「……ん、もういいや。これ、またしまっといて」



お嬢様が紙面から目を離し、それを無造作に放り投げ―――そうになったが私の無言の視線を察したらしく途中でやめ、テーブルの上を滑らせた。

書類に用がなくなったのはおそらく興味をなくしたからではなく、今の間に記された全ての情報を完璧に記憶してしまったから。


それきりお嬢様は黙り込み、ぼんやりと天井を眺め始める。


最初からこの資料を見るために訪れたのだろうから、そろそろ帰ると言い出すだろうと踏んでいたのだが、お嬢様の唇から零れたのは私の思いも寄らぬ台詞だった。




「……昴、ごめんね」




「お嬢様?」




やはり飲酒のことを気になさっているのですか、と軽口を叩こうとして、やめた。


人を寄せつける華やかさが消え、気品と知性とを感じさせる美術品のように整った冷たい横顔。
細い指がヘアゴムに触れ、黒絹の束の如き髪をするりとほどく。
少女と女性の間を揺れ動く、ほんのひとときだけしか見られない妖しい美しさを宿す彼女は夢幻的な輝きに満ちていて。



「でも、あたしはやめないよ」



私に話かけているというよりは、自分自身に言い聞かせるかのような。お嬢様の語り口には、そんな切実な響きがあった。
黒々とした睫がゆっくりと下ろされ、その奥の双眸を覆い隠す。



「自分が正しいと思ったことは、何があっても最後までやり抜く」



……どうしたのだろう。お嬢様らしくない。
他人に弱みを握られることを何よりも嫌っているお嬢様が、私の前で胸の内を吐露するなんて。


お嬢様が私に婚約話の相談を持ちかけるのは、彼女を一人の女性として想う、自らの執事に対する牽制。
そんなこと、私はとっくに分かっていて、お嬢様もそれを知っているのに。


怪訝に思う私の方を見ることなく、お嬢様は囁くように小さく弱々しい声で、こう言った。




「それが間違っていても―――昴と、自分の気持ちを踏みにじってでも」




―――“自分の”?



「お嬢、さ……?」



真意を問おうと口を開きかけ、私はその代わりに目を見張った。



……寝て、いる。


普段では有り得ないほど無防備な姿を晒し、静かに眠るお嬢様。


なるほど、この様子では饒舌になったのも酒のせいか。道理で違和感があったはずだ。



「また貴女は、強がりを仰るのですね」



アルコールにも強いみたい、と笑ってみせたあのときから、実は多少調子がおかしかったのかもしれない。



―――ひとつ、確かなことは。



「……本当に、美羽様とそっくりですよ」



お嬢様が美しいと言い、必死に守ろうとする美羽様の心と、お嬢様のそれは皮肉にも、とても良く似ていると私は思う。
ただひたすらに妹を大切に思う純粋な心が、どうして穢(きたな)いなどと言えようか。


綺麗で、優しくて、強いからこそ―――悲しい、心。



表面上は不器用なように見えるが酷く器用な面もあって、なのに結局、自分に関わる大事なところを勘違いしていて、不器用で。



「……つくづく、私も運がありませんね」



よりにもよってこんなに面倒な少女を好きになってしまうよう仕向けるとは、神も手酷いことをする。


穏やかな寝顔に苦笑を漏らし、私は彼女を運ぶために手を伸ばした。

110たっくん:2013/05/31(金) 14:15:42 HOST:zaq31fa4b55.zaq.ne.jp
       【豚ピーチおよびアホピーチについて】

ピーチさんの身体を縄で縛りつけてそのまま放置し
2、3日トイレへ行かせなかったらどうなると思いますか・・?
当然もらします。

もしピーチさんが『御手洗い』を依頼したら
パンツをずらして その場でさせましょう。

ぜったいにトイレへ行かせてはいけません。

111【下平】:2013/06/01(土) 21:11:30 HOST:ntfkok293007.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
【ピーチ姫を叩くなよ、モブキャラがよ。】

112ピーチ:2013/06/01(土) 22:21:32 HOST:em114-51-56-72.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

この前美空先輩の黒い部分見たばっかだからちょっと引いてたけどやっぱり優しいキャラだよね! 特に美羽ちゃんには!

ドジなのもたまにはいいよね!←

113心愛:2013/06/11(火) 18:32:50 HOST:proxyag058.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ここあの黒いとこある女の子は、悪ぶってみせる子が多いかなw
美空も美羽を神聖視してるけど、自分だって似てるとこあるんだよ気づいてないだけで、っていう←

昴が報われなさすぎるからどうにかしてやらんと終わるに終われない…!



次は意外な組み合わせの二人だよ!

114心愛:2013/06/11(火) 18:33:27 HOST:proxyag058.docomo.ne.jp


『甘い策略』





平均より少し低い身長、兄とお揃いのふわふわの猫っ毛。
どこにでもいそうなフツーの女子中学生―――“あたし”日永彩は見覚えのある、あんまりフツーじゃない後ろ姿を呼び止めるべく声を上げた。



「春山さん!」



あたしからしてみれば見上げるような長身の男性が、金髪を冷たい風にそよがせて振り向く。
数秒間無防備に目を開いて固まった後、満面の笑顔を弾けさせた。

『近寄りがたいちょいワル風イケメン』の雰囲気が崩れ、瞬時に『必要以上にノリの軽いお調子者の高校生』の顔に変わる。



「あれ、もしかしてヒナの妹ちゃん!?」



「はい! お久しぶりですー」



「ほんと久しぶり!」



たった一回会っただけ、しかもろくに顔も見ていなかった人間相手にこんなに嬉しそうにできるって一種の才能だよね。
まぁあたしはお兄ちゃんから聞き出してるから、彼の人物像はだいたい掴めちゃってたりするわけだけど。


春山さんはテンション高く続ける。



「やっぱかわいーねー。ヒナの妹ちゃんにはもったいねーわ」



「えー、そんなことないですよぅ」



その言葉に、嘘はない。
だって別に顔立ち自体は大したことないし、お兄ちゃんや彼が一緒にいる、美羽さんとか柚木園さんたちとなんて比べられもしない。
それをちゃんと自覚した上で実行してる人懐っこい話し方、笑い方なんかの賜物、ってとこかな。



春山さんはそれを分かっているのかそうでないのか、あたしの謙遜をさらりと流すと、にやっと笑って。



「どーよ、俺と付き合わない?」



「いいですよー」



「うわひっで、そんなに嫌がんなくてもいーじゃん! まぁばれたらヒナに殺されるしね、あーでもそれはそれで……………」



ぺらぺら喋っていた口が閉じ、楽しげな表情に『?』と一瞬だけ狼狽の色が混じる。

……予想通り。
内心にんまりしながら、小首を傾げて彼を見上げた。



「だって春山さんカッコイイし、優しいし。年上の彼氏って憧れてたんですよね」



こういうジョークは一蹴されるのが普通だから、本気に取られることに慣れていないらしい。
でもさすがというべきか、春山さんはすぐに笑みを作り、困惑から立ち直った。



「……あはは、うそうそ! 冗談だってー。妹ちゃんかわいーけど、俺のタイプとは全然違うからな」



「え、タイプってどんなですか?」



春山さんは待ってましたと言わんばかりにキリッと顎に指を当て、



「通った後には雑草すら生えない、一度喧嘩を始めると相手が許しを請うまで止まらない、生き血を啜る鬼のような、女―――かな」



「うん、確実に一生彼女さんできないでしょうね!」



あたしがツッコみ、春山さんが「だよねー!」とゲラゲラ笑い、微妙な空気が改善―――したところで、あたしは続けざまにさらなる爆弾を落とした。




「でも頭のいい人ってモテそうなのになぁ。お兄ちゃんも、春山はアホなふりして食えない奴―――って言ってたし」




言葉に詰まる相手の明らかな動揺を見て取り、にっこり微笑む。



「あ、冗談です」



お兄ちゃんがそんなこと言うわけないもん。

春山さんの少し茶色っぽい瞳が、こちらの目的を探る警戒のものになる。
外見に似合わない、そこだけ妙に理知的に澄んだ、切れ長の瞳。



「ね、春山さんって、大げさにやってるでしょう。色々なこと」



ここぞとばかりに、あたしは自分の想像を並べ立てる。



「Mなのは嘘じゃなくても、それをわざわざ周りにアピールする必要なんてないですよね」



春山慎太郎という男を、暴いていく。

……いやー、性格悪いな、あたし。
でもこんな格好のチャンスで確かめずにいられるほど、あたしも大人じゃないわけで。



「全力でウケを取る。バカみたいに騒ぐことで、キャラを立てる。……捨て身で道化を演じる人、彩、結構好きですよ?」

115たっくん:2013/06/12(水) 08:54:12 HOST:zaq31fa529e.zaq.ne.jp
【その日は朝からシコってた】

その日は朝からシコってた♪
アンパンにはアンが入ってる♪
マ●コには肉が詰まってる♪

だけどピーチのアソコにはお肉が入ってない〜♪

むちゅうに上から見降ろした〜なら〜
ピーチさんのチチちょびれ〜
ぷにょぷにょするなよ〜

乳首の上にアザがくる〜
ミンチ動体(どうたい)アソコだ足跡だいっ♪

その日は夜からシコってた♪
その日は夜からシコってた♪

あの世は地獄
ナスがピーチならキュウリはサカタさ〜ん♪

116たっくん:2013/06/12(水) 08:57:18 HOST:zaq31fa529e.zaq.ne.jp
【もしもピーチさんの祖母がお亡くなりになられたら】

ババアが死んだ〜♪ババアが死んだ〜♪

いい死に顔だ〜♪いい死に顔だ〜♪

さよなら〜す〜るの〜は〜つ〜ら〜いい〜けど〜♪
寿命だよ〜♪仕方がない

ピーチが逝くまでごきげんよう♪

皆さん常識を身に付けましょう。
君達に教える事は山ほどあります。

117たっくん:2013/06/12(水) 09:00:19 HOST:zaq31fa529e.zaq.ne.jp
クソスレ連立しないようにしましょう。
心愛さん分かりましたか?
貴方に言ってるんですよ。

118ピーチ:2013/06/12(水) 14:51:53 HOST:em114-51-130-130.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

彩ちゃん何気に意地悪だ!←

確かにあの春山君はちょっと異常だよね、最近は見慣れたせいかそう思わなくなってきたけどw

……ほんとに兄妹? ってくらい似てない兄妹だと思うんですが。(こら

119心愛:2013/06/13(木) 17:07:31 HOST:proxy10003.docomo.ne.jp






「……うーん、と。ありがとう……かな?」



春山さんはかろうじて最後の台詞にだけ反応を示し、ぎこちない笑顔を作った。


それを観察しながら、聞こえないようにこっそり小さく呟く。



「……ここで動揺見せちゃうあたり、やっぱり美空さんとは違いますねー」



あたしの、もしかしたら未来のお姉さんになるかもしれない女性を思い出す。

あの人には一生敵う気がしない。


僅か一秒にも満たない間に完璧な笑顔を保ちながらあたしの真意を探り、しらを切るかどうかの判断を下した彼女。
頭のいい人、っていうのはきっとああいう人のことを言うんだろう。

最初から格上の相手だって分かってたけど、それでも精一杯強気を装って挑んだのは―――お兄ちゃんを利用しようという算段が、許せなかったから。
たとえそれが美羽さんのためで、いずれはお兄ちゃんにとってもいい話になるとしても。
それでも、お兄ちゃんを駒にするようなやり方に怒る存在がいるんだって、ほんのちょっとでいい、分かってほしかったから。



……話が逸れちゃったな。

あ。誤解を招かないように言っておくけど、あたしが春山さんにちょっかいをかけてるのは、お兄ちゃんに関わることに対して彼を牽制しようとしているわけではない。

強いて言えばただ単純に『気に入った』から、かな。

抜け目のなさを何気ない気遣いや、それを気取らせないようなキャラを作ることに費やす。
その惜しみない日々の努力に、あたしは心の底から敬服する。



「計算してしまうぶん、予測外の事態に弱いんですよね。だから自分から攻めて、自分好みの展開に持って行く」



「……」



「彩もそうなんです。へへ、なんか親近感感じちゃいますね」



あたしの場合、腐女子という強烈な個性をやりすぎなくらいにアピールすることで、本来の自分を上手くごまかしている。
周囲に翻弄されるよりは主導権を握って、さりげなく自分で場を動かす方がずっと楽だと思っている。

だから、同じような人種には特に敏感だ。



「春山さんは……打算、ってゆーよりは、周りが賑やかじゃないと落ち着かない、みたいなタイプですか?」



肯定とも否定とも取れない、曖昧な笑みを浮かべる春山さん。


……さて、ここからが大事だ。



「……で、彩が結局、一番言いたかったことはですね」



すうっとひとつ深呼吸。
顔を上げて真剣に春山さんを見つめ、こう告げた。




「お兄ちゃんのクラスを楽しくしてくれて、ありがとうございます―――ってことです」




春山さんが呆気に取られたように瞬く。
そして次の瞬間には、彼の表情が確かな理解と、納得の色を示した。


あたしの目的。

随分と回りくどいことをしちゃったけど、ここまで言わないと、本当の意味は伝わらない。



「春山さんが何を考えてやってるか分からないですけど。きっとそれですごく、お兄ちゃんのクラスのみなさんも救われてます」



遠慮のいらない、チャラくて明るいムードメーカー。
裏で舵取りをするリーダー格とも言えるその存在は、なくてはならないもののはず。



「あれでも、お兄ちゃんもちゃんと分かってると思いますよ。春山さんは、ほんとはすごく仲間思いな人だって」

120心愛:2013/06/13(木) 17:08:20 HOST:proxyag049.docomo.ne.jp





しばらくの無言の後。
春山さんは、ふー、と大きなため息をついた。



「……年上として一つアドバイス」



「? はい?」



あたしを見て、諦めたように苦笑する。



「好きとか、男相手にあんまり言わない方がいいぜ? 勘違いさせちゃうからね」



「……あは! やさしーですね!」



てっきり年上をからかうな、とか言うかと思ったのに。
なにそれ、あたしの心配してるだけじゃん。



「……でも、ほんとに好きな人のことなら、好きって言っても問題ないですよね?」



またもや困ったみたいに視線をさまよわせ始めた彼に、あたしはにっこり笑いながらぐっと親指を立てて。




「彩、春山さんのことほんとに大好きなんですから―――お兄ちゃんのお友達として!」




「そっちッ!?」



春山さんが絶叫。



「……え、彩ちゃんってばなに、小悪魔なの? 焦らしプレイ?」



「さー、どうでしょー」



へらりと笑ってみせ―――あたしは唐突に、彼の正面からぼふっと抱きついた。

その身体がピシリと面白いくらいに硬直する。



「春山さんにならこういうことしても嫌じゃないくらいには、好感度高いですよ?」



「……え、ちょ、」



女慣れしているように見えて、どうやら免疫ゼロらしい。
身長差のせいで表情は見えないけど、らしくもなく慌てているのがよく分かる。


その反応をじっくり堪能してから身体を離した。


顔を引き攣らせている春山さんに「それじゃ、彩はそろそろ失礼します!」と手を振る。

去り際に、



「ま、彩としては、春山さんにはお兄ちゃんとくっついてもらっても全然構わないんですけどね! フクザツな不良攻め×ヘタレ受け最高!」



「もう俺彩ちゃんが分からないっ!」



背中から聞こえる悲鳴じみた声に笑いながら、あたしは小走りでその場を立ち去った。


そのまま角を曲がり、彼から見えないのを確認してから立ち止まる。
はーっと息を吐き出し、ひとりごちた。



「……やっちゃった」



その場の雰囲気に任せて、もうひとつの目的というか、狙い……願望? まで達成してしまった。

さすがにあれは強引すぎたかな。
考えなしの冗談と受け取られただろうか、それとも。



「お兄ちゃんに知られたら、なんて言われるかなぁ」



爪先で地面を蹴り、子供っぽい制服のスカートを翻して。



―――あたしはちょっとだけ赤らんだ頬を、マフラーの下に隠した。

121心愛:2013/06/13(木) 17:11:00 HOST:proxyag050.docomo.ne.jp
>>ピーチ

相手の弱みを暴いてからじゃないと自分の弱みを見せないめんどくさい系女子・彩さんでした←


似てないからこそお兄ちゃん大好きになっちゃったかもねw

122ピーチ:2013/06/13(木) 19:21:58 HOST:em114-51-168-246.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

うっわ彩ちゃん小悪魔そのものだ!←

なんか「こちらの目的を探る警戒なものになる」から春山君がカッコよく見えるやっぱイケメンなんだね!(ぉい

なにそれ彩ちゃん春山君のこと好きなんじゃん! 春山君も彩ちゃんに見合う人になんないと!

123心愛:2013/06/13(木) 19:42:50 HOST:proxyag029.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ありがとう! 顔だけはいいから真面目にしてればちゃんとイケメンなんだね!←

いくら悪ぶってても何も考えてないバカっぽくても、根っこはみんな純粋で優しいんですw

彩は親近感とお兄ちゃんにとってのいいお友達! ってことから意識し始めた感じかも。
で、素を見てまた惚れ直しちゃった? みたいな?


いつも振り回す側の春山が、中学生の彩に振り回される未来しか見えないね! がんばれ春山!

ちなみに裏モードの強さは順に美空、彩、春山っていう(`・ω・´)

124ピーチ:2013/06/14(金) 03:31:39 HOST:em1-114-74-91.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

何か「え、ちょ」ってところ何かカッコ良かった!

いや他にもいっぱいあったけど慌てるところとかなんか可愛いっていうか!←

主導権握りたいもの同士だったらたぶん彩ちゃんが勝つよね(おい

やっぱ美空先輩最強だ色んな意味で!

………あれ、なんかあたし春山君の方が裏多そうだと思った、彩ちゃんより

125心愛:2013/06/16(日) 20:19:05 HOST:proxyag080.docomo.ne.jp
>>ピーチ

まさか春山を可愛いと言ってもらえる日が来ようとは!
これからも愛すべきドMをよろしくお願い致します(笑)


頭の回転自体は彩よりいいかもだけど、女特有のしたたかさで負けてるんだよ多分w

126ピーチ:2013/06/17(月) 02:20:54 HOST:em49-252-123-0.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

言葉から色々考えてるだけだけど可愛いのが浮かんでくる!←

愛すべき………だよねそうだよね最近は特に!

やっぱ女って強いよね色んな意味で(こら

127心愛:2013/07/29(月) 18:02:13 HOST:proxyag017.docomo.ne.jp
>>ピーチ


女は強いよね…! 色々ね…!



さて、これから美羽と愛川との間に起こったいざこざの内容をちょこっとだけ載せていきます←
本編をお読みになってからこちらに移っていただけますようお願い申し上げます(ふかぶか

分かりにくいのは無理してショートカットしてるからですごめんね!

128心愛:2013/07/29(月) 18:02:32 HOST:proxyag018.docomo.ne.jp


『臆病者の独白(モノローグ)』





たとえ入学したばかりの一年でも、校内で結野美空(ゆいの みく)の名を知らない者はいない。

容姿端麗才色兼備、プラスで強烈な個性を持つ彼女の妹となれば、良くも悪くも注目が集まる。


その、クラス内でも外でも噂の的、結野美羽(ゆいの みう)は率直に言って―――めちゃくちゃ可愛かった。
優等生らしくきちんと着こなした制服に、思わずため息が出そうになるくらいに美しく艶やかな黒髪、対照的に真っ白い肌。
童話の世界から脱け出してきた白雪姫のように、教師の目を盗んで着飾るどんな女子よりも、彼女は圧倒的に美しかった。

しかも、定期試験では先輩と違ってオール満点(ただし名前書き忘れや記入ミスは除く)不動の学年一位、なんて化け物じみた成績ではなかったけれど、必ず上位三位以内にはきっちり食い込んでいた。

優秀すぎる姉と比べれば少々見劣りはするが、決して周囲の期待と釣り合わないほどではない。


……だが、問題は中身の方だった。


近寄りがたくきつい不機嫌なオーラを発散させ、常に一人で黙々と読書か勉強。

しかも。



「ねえ、お姉さんといつも何してるの? よく話したりする?」



「君には関係のないことだろう。人間風情がぼくに関わるな」



物好きな女子に話しかけられるたびにこんな台詞を吐き、自分に寄ってくる者を拒絶した。

だから、「結野美羽はおかしい」と囁き出し、最初に反旗を翻したのは女子だった。



「あいつマジ暗くない?」



「つーか言ってること意味わかんないんだけど〜。頭イッちゃってるって絶対」




結野はどうやら、自分好みの世界観を作り、その登場人物になりきることに傾倒しているらしい。
いわゆる中二病ってやつだ。


その頑なな姿勢に陰から侮蔑や嫌悪、嘲笑を向けられることはあれど、好成績と先輩の名前のおかげか、大きなイジメにまでは発展することはなさそうだった。

自分より優れているものを貶すと、僻みや妬みだと思われるから。



―――今も、結野はもう片方の生徒が仕事を放棄したために、一人で懸命に日直の仕事をこなしていた。
黒板の上の方が消せないらしく、ぷるぷると目一杯のばされた腕が痙攣している。


……背が低い結野にはきついだろうな。


結野もそう思ったようで、一旦黒板を離れ自分の席に向かった。踏み台にする椅子を取ってくるのだろう。

でも、黒板上部の消し残しは全体的に長く、横に広がっている。椅子から下りたり上ったり移動したりしながらでは、かなり時間がかかりそうだ。


そこで俺は人目を気にしながらも、結野とちょうど逆に、黒板へと歩み寄った。

偶然通りがかったように、あくまで自然な動作で黒板消しを手に持ち横に滑らせ、素早く綺麗に白いチョークの跡を消去。その成果に満足し、そそくさと席に戻ろうとしたところで、



「?」



―――椅子を抱えた結野と鉢合わせした。


……しまった。


「何をしているんだこいつは」という感じで、きょとん、とした表情を向けてくる結野。


結野の座席は最前列に近かったことを、今更ながらに思い出す。



「……あ、今日の当番結野だったんだ。残ってたから気になって、勝手に上の方消しちゃったよ」



俺の口から飛び出したでまかせに、結野は瞳を丸くする。

何か言おうとして、諦めて、を数回繰り返し、



「……ふん」



ありがとう、が言えない自分が照れくさくなったらしく、耳を赤く染めるとぱっと教室を出て行ってしまった。

……きっと、根は凄く素直なんだろう。
ささやかな発見に思わず顔を綻ばせたところで、




「へー、愛川(あいかわ)優しいー。結野さんにまでそーゆーことするんだぁ」




鼻にかかったような、不満そうな声にどきりと心臓が跳ね、背筋が強張った。



「……なんだよ今更ー。俺が優しいのなんていつものことだろ?」



「あー、なるほど点数稼ぎか。女子なら誰でもいいっての?」



ぎゃははは、と男女入り混じった取り巻きたちが笑うのを聞きながら、俺―――愛川秋(あいかわ しゅう)は内心こっそり冷や汗を拭った。

129ピーチ:2013/07/29(月) 19:59:31 HOST:em114-51-149-36.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

この時は優しいみたいだね愛川くん!

……でもやっぱり本編での印象が…((おい

130心愛:2013/07/30(火) 17:00:02 HOST:proxyag011.docomo.ne.jp
>>ピーチ

愛川はちょっと不器用っていうかね?←

美羽を嫌ってる、っていうよりむしろ…(`・ω・´)

131心愛:2013/07/30(火) 17:00:30 HOST:proxyag012.docomo.ne.jp





今回の国語の授業は、先日行われたテストの返却と解説だった。

ぺらりと用紙を裏返して点数を確認。
要領だけは良いから、いつも通りまずまずの出来だ。



「愛川ー」



甘えたような声と共に、後ろからつんつん、と長い爪が背中をつつく。



「ちょっと! 聞いてんの!?」



「いっ?」



今度は肩の辺りをバシッと叩かれた。


不満げに唇を尖らせている、俺に対して少々ボディータッチが過多なこの女子は柳瀬(やなせ)。
本人は地毛だと言い張っている茶色っぽい髪に校則違反ギリギリのスカートの短さ、という結野とはほぼ対極に位置する存在で、華やかな容姿に加えて愛嬌があり、そこそこ男にモテる。


そんな彼女にはことあるごとにアタックされているけれど、正直に言ってあまり俺の好きなタイプではなかった。



「……何だよいきなり」



「見てここ。意味不明なんですけどー」



配布された、とある読解問題の模範解答を見せられる。

言われるままにじっくり読んで考えてみると、なんでこの問いからこんな答えが出てくんの? とだんだん不思議に思えてきた。
俺も、容赦なく減点を食らっている。

でも……確かに少し疑問を覚えるけど、それだけだ。



「ねーねー愛川ぁ、先生に訊いてみてよ」



「はあ? 何で俺が」



それにお前、二点三点アップしてもどうにかなるような点数じゃないだろ、それ。



「愛川なら先生にも気に入られてるし、いけるってー」



周囲から柳瀬への援護が飛ぶ。
何がだよ、と本気で毒づきたくなるもこらえ、「気になるなら自分で行けばー?」と冗談ぽく笑ってみせた。



「……? 愛川くん、どうかしましたか」



と、喋っているのに気づいたらしい先生から名指しを受ける俺。
……目立つ奴の宿命である。


柳瀬の含み笑いや他の冷やかしを聞きつつ、俺は仕方なく口を開いた。



「問の三番、採点厳しくないすか?」



「……そうですか?」



あ、駄目だこれ。
先生の口振りから察した俺が「やっぱ何でもないですー」と撤回しようとしたところで、誰かがスッと手を挙げた。



「結野さん?」



先生が信じられないものを見たかのような声を上げ、クラス中の驚きの視線が一斉に結野に突き刺さる。

結野は例のアレを除けば寡黙な優等生で、断じて進んで発言するような性格じゃないのに。



「ぼくも、その模範解答は相応しくないと思います」



結野は皆の態度にも物怖じせず、はっきりとした口調で自分の意見を述べた。



「その文脈では誤解が生じやすい。そもそも設問自体の意義も―――」



結野は辞書の定義、あと何故か入試問題の分析やら何やらを持ち出しての様々な論点から、結野は理路整然と―――少なくともそう聞こえる―――その問題を糾弾した。
すらすらと流れるように、直すべき点を挙げていく。

俺たち生徒は完全に置いてけぼりだった。
え、何言ってんのあれ。日本語とは思えないんだけど。


結野の主張が一通り終わった頃。



「……採点を考え直します。後ろから解答用紙を回収して下さい」



おお、とクラスがどよめいた。

偏屈そうな先生を見事論破してみせた張本人は涼しい顔で、既に教科書をぺらぺらと捲り始めている。


もしかして……俺を、庇ってくれたのか?


まさか―――と思いつつも、その整いすぎた横顔を盗み見ずにはいられなかった。





それから、俺は結野にさりげなく話しかけるようになった。

おはよ。またね。すれ違いざまに一日一回声をかけるかどうかの頻度。
それでも、初めは戸惑っていた結野がたどたどしく返事を返してくれたときにはらしくもなく浮かれて、他のことが何も手に着かなくなった。

自分のグループでの立ち位置があるから、面と向き合って会話を交わすことはできなかったけれど、俺は十分、この特別な日常に満足していた。


でも、二人だけの秘密にどきどきしながらも、純粋な嬉しさを感じていたのは最初だけで。



―――気づいてしまったときには、もう遅かった。

132ピーチ:2013/07/30(火) 20:32:36 HOST:em49-252-149-164.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

美羽ちゃんすげぇ天才! あたしクラスにそんな人居たら絶対話しかける!

自分が中二病だから問題なしw((おい

愛川くーん遅かったってどういう意味ですかねー?←

133心愛:2013/07/31(水) 16:32:26 HOST:proxyag073.docomo.ne.jp






結野が落とした消しゴムを拾って渡そうとしたら、慌てて手を引っ込めた。


時折視線が合っただけで、かあ、とあからさまに頬を赤らめるようになった。



―――結野が俺に対して、そういう意味の想いを抱き始めたのは、可哀想なくらいに明白だった。



やめろよ。そんな目で俺を見るな。
俺は全然、眩しいものなんかじゃないんだ。



そう思うたびに、苦しい葛藤が俺を苛んだ。


それだけじゃない。
孤独と虚構に包まれた彼女の愛らしさに、純粋さに、いつの間にか強く惹かれている自分を自覚して、俺は酷く動揺した。
ただの興味本位から始まった行動の結果は、いつしか俺を縛る枷となっていて。


クラスで一番の人気者が一番の嫌われ者を好きになるなんて、あってはならない。


結野を受け入れることよりも世間体が大事で、なのに結野との奇妙な関係を断てない、情けない自分に俺は苛ついていた。



そんな日々の中で―――淡く色づいた己の感情の意味に結野自身が気がつく前に、鋭く感づいた女子がいた。


柳瀬だ。


俺のことを常に気にしている彼女は特に、俺に対する好意に敏感だった。





「―――結野さんさあ」




ある日の午後。
柳瀬は絶妙のタイミングとボリュームで声を発すると、クラス中の注目を集めた。




「愛川のこと見すぎじゃない? ちらちら思わせぶりにさあ……。やめてほしいんだけど」




愕然として、俺は動くことができなかった。

俺のことを見るとか何とかは、十中八九こじつけだ。

女の嫉妬。

邪魔な虫を払う為の、大胆すぎる手段。
結野が俺と交流を持つのを、柳瀬が愉快に感じていないのは知っていた。

でもまさか、弱者をいたぶる悪者に思われるリスクを負ってまで、結野を潰しに来るとは思わなかったのだ。




「お情けで優しくしてもらってるからって調子乗んないでくれる?」




呆然と目を見開いたまま固まる結野。
ねえ、と柳瀬は言い、残酷にも一杯一杯の彼女に追い討ちをかけた。




「好きなの? 愛川のこと」




いつもの偉そうな台詞や、堂々とした立ち居振る舞いは跡形もなく。
結野はあまりの事態に混乱し、硬直し、刺々しい視線に、あるいは好奇の視線に晒されて弱々しく震えていた。


……立場も何もかも捨てて、自分の望む通りに結野を庇うこともできた。


でも。


臆病で卑怯で愚かな俺は、失うことを恐れた。
世間体。今まで苦労して築き上げてきた周りとの信頼関係。


結野のように忌み嫌われることに耐え、それでも信念を貫くことができるほど、俺は強い人間ではなかった。



おそらく、柳瀬の計算通り。
俺の天秤はたやすく、自分の思いと真逆の方に傾いてしまった。



俺の口から、するりと言葉が零れ出る。

134心愛:2013/07/31(水) 16:33:12 HOST:proxyag092.docomo.ne.jp







「へぇ。結野って、俺のこと好きなんだ」




びくりと華奢な肩が跳ねた。
場が怖いくらいに静まる。


中途半端な優しさに騙されてしまった哀れな少女を、完璧にお膳立てされた舞台で、俺は意地の悪い笑みを浮かべて攻撃した。




「……っていうか、さ。自分が浮いてる自覚、ある?」




……違う。こんなことが言いたいんじゃない。




「ぼく、は」




「ほら、そういうの。中二にもなって、おかしいと思わない? 恥ずかしくないの?」




違う、




「そんな人に好かれても、こっちは迷惑なんだよね」




違う、違う!



小さな希望と信頼を裏切られた絶望に落とされた結野に、思ったこともないようなことを我が身可愛さに並べ立てる自分を、思い切り殴り飛ばしてやりたい衝動に駆られた。


結野にこんな『ビョーキ』がなかったらよかったのに、と思ったことは何度もあった。
そうしたら周りのことも気にせず、結野と向き合えたのに、と。


でも、こんな、結野自身やその人格を否定するようなことは―――!




「結野がソレをやめない限り、俺には受け入れられないかな。ごめんね」




にっこり笑顔で、冷たく言い放つ。


また、リーダー格の俺が真正面から非難したことで、クラス全体も俺の味方についた。
見せ物のように扱われ、「カワイソー」と笑いの混じった囁きが交わされるのを聞かされて、結野は歯を食いしばり、顔を上げた。



「……っ、誰が、」



憎しみの籠もった眼差しできつく睨みつけられる。




「誰が、君のことなど……っ。いつもわざとらしくへらへら笑って、気持ち悪い」




一瞬思考が停止し、それからすぐ頭が熱くなった。
場の雰囲気を作り、必死に周りの顔色を窺って生きている俺の核心を射抜く、痛烈な反撃。


結野はそれだけ吐き捨てると泣き出しそうに顔を歪め、鞄を引っ掴んで外に飛び出した。


それで抑えきれなくなったように、教室中がげらげらと笑い出す。



「なにあれー」



満足そうに俺にすり寄ってくる柳瀬から距離を取ることも忘れて。



「ホントなんなわけ、あいつ…………愛川?」



自分の軽率で、自分勝手な判断でとんでもない過ちを犯してしまった後悔に、俺は早くも押し潰されそうになっていた。



ああ、―――しまった。



こんな俺に想いを寄せてくれた結野を、最悪の形で裏切ってしまった。

傷つけてしまった。



徐々に込み上げる震えを押し殺し、俺はいつもの、人当たりのいい笑みを浮かべる。



「別に。何でもないよ」




「なに、言い過ぎたとか思ってんの?」



「いや。あれくらい言わないと分かってくれないだろうしね。良い機会だったよ」



そう言うと柳瀬は嬉しそうに笑い、髪を一筋、くるりと指に巻きつける。



「でしょ? いい加減目障りだったんだよねー」



「ああいうのが一人いると、クラスの調和も乱れるしね」



「あはは、愛川がマジメっぽいんだけど! うける〜」



「俺はマジメだろー?」



まだ笑うことができる自分に吐き気を堪えながら、それでも、俺は笑い続けた。



―――こうして俺は自分の大切なものと引き換えに、結野美羽という少女を、永遠に失うことになった。

135心愛:2013/07/31(水) 16:38:45 HOST:proxyag092.docomo.ne.jp
>>ピーチ

美羽のクラスにピーチみたいな子がいたら、こんなことにはならなかったのかもね(´・ω・`)


後味悪いけどこれで愛川の独白は終了!
本編に戻って、傷心の美羽さんをヒナにどうにかしてもらわねば!

愛川はちょっと不器用なだけなんだよ…!
本心と違うこと言っちゃうんだよ…!

136ピーチ:2013/08/01(木) 04:03:24 HOST:em114-51-21-156.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

あたしだったら愛川くんみたいな人は容赦なくぶん殴るね! 美羽ちゃんの代わりにと言って!

まず世間体とかないし! 仮にあっても気にする必要ないし!

やっぱり一番強いのは美羽ちゃんだよね………っ!

137心愛:2013/08/01(木) 12:42:26 HOST:zaq31fa484c.zaq.ne.jp
ところでピーチさんゲームしませんか。
ギャンブルです。

当スレッドは博打専門です。
と言っても、一般的な賭け事とは違います

皆さん動物園は御存じですよね〜。
もしピーチさんが肉食動物(主に虎など)と一夜を共にしたらどうなるか・・
という実験を行いたいんです。
もしピーチさんをオリの中に入れたらどうなるでしょう・・?

ピーチさんは食われるか、それとも食われずに済むか・・?
二つに一つです。

今回はそれを賭けのテーマにしようと思います

『食われるに決まってるだろう』とおっしゃる方もおられると思いますが、
必ずしもそうなるとは限りません。確かに野生ならそれも考えられます。
しかし動物園の動物は野生ではありません。

ちゃんと、しつけ、教育をされてる動物なので
善、悪の区別はちゃんとついてると思います。

難しいところです。

私は、食われないほうに200円 賭けます。
皆さんは『食われない』ほうに賭けて下さい。

もしピーチさんが肉食動物に食べられるような事があったら
私も潔く負けを認め、200円を投げだします。

ただし、食べられずに済んだら
貴方達から200円を頂戴致しますのでご了承下さい。

138心愛:2013/08/01(木) 12:43:15 HOST:zaq31fa484c.zaq.ne.jp
ところでピーチさんゲームしませんか。
ギャンブルです。

当スレッドは博打専門です。
と言っても、一般的な賭け事とは違います

皆さん動物園は御存じですよね〜。
もしピーチさんが肉食動物(主に虎など)と一夜を共にしたらどうなるか・・
という実験を行いたいんです。
もしピーチさんをオリの中に入れたらどうなるでしょう・・?

ピーチさんは食われるか、それとも食われずに済むか・・?
二つに一つです。

今回はそれを賭けのテーマにしようと思います

『食われるに決まってるだろう』とおっしゃる方もおられると思いますが、
必ずしもそうなるとは限りません。確かに野生ならそれも考えられます。
しかし動物園の動物は野生ではありません。

ちゃんと、しつけ、教育をされてる動物なので
善、悪の区別はちゃんとついてると思います。

難しいところです。

私は、食われないほうに200円 賭けます。
皆さんは『食われない』ほうに賭けて下さい。

もしピーチさんが肉食動物に食べられるような事があったら
私も潔く負けを認め、200円を投げだします。

ただし、食べられずに済んだら
貴方達から200円を頂戴致しますのでご了承下さい。

ピーチさんのアソコのお肉を御堪能下さいませ

139心愛:2013/08/01(木) 18:30:55 HOST:proxyag036.docomo.ne.jp
>>ピーチ


ピーチは本当に優しいね…!
うん、そこまで美羽に肩入れしてくれてるってことで嬉しいやらなにやら←


でもここあ的には、異端者が弾かれるのは当然で、ある意味愛川はそれに従っただけ…って感じかな。
いじめられてる子と仲良くしたらいじめられるってよくあるし、周りを敵に回すより楽な方に流れるのが人間ってことでちょっと親近感あるくらい。
とにかくヒナたちが寛容すぎなんだよね。

言い方もうちょいなんとかなっただろお前! ってとこはあれど、愛川は異常で酷い奴ってよりは、世間体気にしたり思ったことと逆のこと言っちゃったり、割と普通の感覚持った思春期男子で、ヒナと対照的な「美羽が好きな男の子」として描いたつもりです。わざと悪役っぽくしちゃったけどさ!

とりあえず「こいつ外道だ! 根っから腐ってやがる!」から「このバカ! なんでそうなるんだよふざけんな!」ってくらいになってくれたら…嬉しいな…!

140ピーチ:2013/08/01(木) 20:49:27 HOST:em114-51-47-231.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

優しくないよ変わり者なだけだよ!←

美羽ちゃん可愛いから当たり前なのだ!

いや愛川くんの印象も変わったけどやっぱ最初のが強烈過ぎて……((

141心愛:2013/08/09(金) 21:25:19 HOST:proxyag004.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ありがとう!
愛川の印象が変わっててくれたら嬉しいなヽ(≧▽≦)/



それでは美空&昴編、始動!
これでも一応巻いてるんで不自然なとこあったらなんとなく流してくださいw

142心愛:2013/08/09(金) 21:26:09 HOST:proxyag004.docomo.ne.jp


『誰よりも遠い場所で』






私こと一ノ瀬昴、18歳の春。


年老いた母と二人暮らしで経済的余裕のなかった私は大学進学を諦め、高校卒業と同時に知人のツテを頼り、結果運良く好条件の職に就くことができた。


財閥と呼んでも支障がない、知る人ぞ知る大企業―――結野グループの、ひとつの屋敷の住み込み執事。

こんな何の知識もない素人を雇ってもらえたのは幸運と言うほかない。


決して生まれが良いわけでも、それらしい気品が身についていたわけでもないが、普段から丁寧な言葉遣いをするよう仕込まれていたのが役に立った。


旦那様は軌道に乗り始めた事業に忙しく、元執事は多くが秘書として駆り出されている現状だという。
だから家のことを任せる、と言われ、そのつもりで勤務初日に臨んだ私を出迎えたのは、旦那様直々の思いも寄らぬ頼みだった。



『新しい執事が来るの? だったら、あたしの専属執事にして』



近隣の小学校に通う五年生の長女が、つい昨日そう言ってきたのだという。
他ならぬ可愛い愛娘のお願いとあらば、当然叶えてやりたいのが親心。
急な話だが、娘には確かに危なっかしいところがあって世話役がほしいから是非とも、と頼み込まれ、新入りの使用人如きが異を唱えることもできるはずもなく、二つ返事で了承した。


かくして私が担当することになった少女は国内有数の巨大企業体、その先代の総帥を祖父に持つ正真正銘のお嬢様。
相当甘やかされ、我が儘になっているはずだと思うと気が滅入る。


子供は嫌いではないが扱いが苦手なので、学校に行っている間は本来の仕事ができるというのが唯一の救いだった。



お嬢様はと尋ねると、今日は家で友達と遊んでいるはずだとのことだった。

悠々と聳え立つ豪邸、さらに広大な敷地内を探し回るのはなかなかに骨が折れる。


半分諦めながらも長すぎる廊下をただ歩くことしばらく、子供特有の高い声が聞こえてきた。



『どんだけキャラ作りたいんだよ』



『わざとらしすぎー』



『なんで男子気づかないんだろ』



『バカみたいだよねぇ。でも、あれでちょっとは懲りるんじゃないー?』



笑い混じりの不穏な台詞に眉を潜めかけるも、私は早足で彼女らに近づき、にこりと笑顔を作った。



『申し訳ございません。偶然話し声が聞こえましたので』



おそらく小学校高学年、お嬢様と同年代と思われる少女たちは一様に、突然現れた乱入者に驚き、凍りついている。



『お嬢様……結野美空様がどこにいらっしゃるかご存知ですか』



彼女らは顔を見合わせ、恐る恐るといった風体で、外、とだけ答えた。

丁重に礼を言い、私はすぐに踵を返す。
玄関ホールを飛び出して欧風の石畳を駆け抜け、




『―――お嬢様!』




その少女は、予想していたよりもすぐに見つかった。


良く手入れが行き届いた庭園の、小さな溜め池。
ずぶ濡れのまま畔の石に腰掛け、少女はひとり、ぼんやりと空を見上げていた。


春だといっても、まだ水は冷たい。



『お嬢様……っ』



知的に透き通った瞳が、静かにこちらを向いた。

新雪よりなお白い肌は青ざめ、元は鮮やかだったろう唇の色も失せて、水分を含んだ髪が艶めかしく頬に張りついている。

幼いながらも確かな品格と聡明さを感じさせる美貌に見惚れること一瞬、私は我に返って彼女にハンカチを差し出した。


ありがとう、と当然のように受け取るお嬢様の様子は大人びていて、年齢に見合わない程にしっかりと落ち着いている。



おそらく……先ほどの彼女たちに、この池へ突き落とされたにも、かかわらず。



『お怪我は……!』



『大したことないよ。よく、自分でも落ちるし』



ハンカチで顔を拭いながら、水に浸していた脚を見せてくる。
微かな擦り傷らしきものがあるが、逆に言えばそれだけだった。


自分でも、と口にしたということは、私がお嬢様の身に起こった事情、つまり明確な加害者がいることをある程度知っていると察しての言葉。


……賢い、と私は舌を巻いた。

143心愛:2013/08/10(土) 15:20:27 HOST:proxy10008.docomo.ne.jp





『その、ご友人は』



『ちゃんと謝ってくれたよ。ごめんね、って。……笑いながら、だけど』



ぼそりと付け足して、俯く。
いつまでたってもそのまま顔を上げず動こうとしないので、どうしたものかとおろおろしていると。




『……くやし、い』




絞り出したように震える声。
その拍子に一粒の雫が、膝の上に転がり落ちた。



『あたしが調子に乗ってるからだって。……ユイちゃんが好きなカズキくんも、ハルカちゃんと仲いいリョウくんも、あたしがたぶらかして、とったからだって。……ほとんど話したこともないのに』



ぐい、と乱暴に眦を擦る。
手についた水滴を悔しげに見て、



『あたしがドジなのは、男の子の気を引こうとしてるからなんだって』



これだけでは良く分からないが、恵まれたお嬢様への妬み、恨みから彼女たちはこんなことをしたのだということなら分かる。
そのような感情を持つことは自然で仕方ないことだけれど、このような行動を起こされてはさすがに黙っているわけにはいかないだろう。



『……旦那様に、報告なさった方が』



『そんなことしたら、あの子たち全員転校だよ』



恐ろしいことをきっぱり断言し、お嬢様は『それにね』と続ける。



『あたしはこんなことで、親の力を使って、卑怯な真似はしたくない。自分で何とかしたいの』



一度決めたら梃子でも動かない、強い意志を秘めた口調。



『だから……あたしは、もっといっぱい、頑張る。このままじゃ、守れないから』



お嬢様はそう言うと、私の手も借りることなくスッと立ち上がった。



『ねえ。あなた、あたしの執事でしょう?』



『そうですが、』



『だって、見ない顔だもの。あたしが知らないんだから、今日来たばっかりだってこと』



どうして分かったのかと私が訊く前に先回りし、億劫そうに答える。
それだけではなく―――ただの使用人にすぎない人間の顔を、全員記憶しているということか。



『名前は?』



『……これは失礼致しました。一ノ瀬昴と申します、以後お見知り置きを』



『じゃあ、昴』



堂々とした立ち姿で、お嬢様は気丈な笑みを浮かべる。



『あたしに勉強を教えて。体育の練習も付き合ってよ。あいつらを正々堂々、見返してやれるように』



目の前に立ちはだかる障害に果敢にも立ち向かおうとするお嬢様に感銘を受け、私は心から協力して差し上げたいと思った。



『私などでよろしければ、いくらでもお手伝い致します。……まずはお部屋に戻って、温かいシャワーを浴びましょう』



それが、私がお嬢様の涙を見た最初で最後の機会だったように思う。
お嬢様はとても頑なで、我慢強い方だから。



そうしてその日から、私はお嬢様のお世話をしながら学習面のサポートについたのだが―――早い話、お嬢様には私の助けなどほとんど要りはしなかった。


教えたことを次々に理解し、瞬く間にそれを応用してしまう。

妹の美羽様も優秀な方だったが、彼女が秀才なら、お嬢様はまさに天才と呼ぶべき器だった。

さらに生まれ持った才能を磨く努力を日々欠かさず。
テストはいつも満点、短距離走をさせればクラスの新記録を塗り替えてしまい、公の場ではいつだって誰よりも目立つようになった。

何をやっても輝かしい成果を挙げるお嬢様はいつしか、彼女の目論見通り、つまらない僻みさえ超越する存在となった。
面倒な事態を避けるために家のことは隠し、にこやかに愛想を振りまき、誰からでも愛されるようなキャラクターを作り上げた。


容姿だけでなく、人当たりの良さ、頭の回転の速さ、感情の豊かさ。誉めるべき点を数えていけば枚挙に暇がない。

完璧すぎる、近いように見えて酷く遠い存在。
誰の手も届かないようなところを、一人きりで走る。

私たちが夜空の星を手に入れようなどとしないように、遠すぎるものは、皆諦めるから。


そのような、遥かな高みに到達してもまだ妥協を許さず、己を磨き続けるお嬢様は―――つまるところ、究極の負けず嫌いであった。

144心愛:2013/08/11(日) 21:16:16 HOST:proxyag022.docomo.ne.jp





何においても完璧なお嬢様であったが―――残念ながら、欠点も存在した。



『……本当に、お嬢様のドジは神業的ですね』



『昴、丁寧に言っても意味ないからね。それ』



シェリーピンクのソファに腰掛け、私の淹れたロイヤルブレンドティーに口をつけながら、お嬢様が不機嫌そうに私を睨む。



『ですが、お嬢様が陶器のカップを犠牲になさるのはこれで三十八回目ですよ?』



『そのうち一回は落としたのに割れなかったじゃない! 奇跡的に!』



声高に主張するお嬢様。


何もないところで転ぶのは当たり前、溝があったら落ちずにはいられない。
塩と砂糖を間違えるなんて序の口、野菜を切っていただけなのにまな板が血の海になっているのを発見したときには本気で失神するかと思った。
物を持たせれば必ず落とし、外を歩かせれば必ず道に迷う。


何か悪いものが憑いているのではないかと疑ったこともあるのだが、本人曰わく、“冷静なとき”は大丈夫なのだという。
つまり、頭をフル回転させて気を張りつめていれば全くそんなことはないのに、他愛のないことを喋ったりリラックスしたりと気持ちが緩んでいるとドジ属性が発揮されるとか。


そんな、とんでもない幸運と不運を兼ね備えたお嬢様のお世話は、スケジュールの管理、紅茶と菓子の用意、お召し物の調達、荷物運び、庭の手入れ、本の整理、掃除洗濯―――などといった合間に忙しいながらもこなしている。
お嬢様はとても危なっかしく、少しでも目を離したら何かやらかしそうで心配なのだ。



『それより、美羽ちゃんの様子はどう? ちゃんと食べてる?』



『はい。私がシェフに代わって朝食をお持ちしましたら、少しですが召し上がって下さるようになりました』



『ふーん。美羽ちゃんがいくら可愛いからって、手を出したら消し炭にするからね? 昴』



『出しませんよ』



にっこぉと眩しい笑顔を向けてくるお嬢様に私は苦笑を返すと、ふと疑問を覚えてテーブルを拭く手を止めた。



『……お嬢様は、どうしてそこまで美羽様のことを思っていらっしゃるのですか?』



お嬢様がこうやって美羽様を猫可愛がりするのは、ただ単に妹だからという理由だけではないような気がして。


訊けば、お嬢様は嬉しそうに頬を緩めた。



『んー、なんて言うんだろ。美羽ちゃんは特別なんだよね』



慎重にカップを置き、



『ちょっと前までは、よく二人で色んなゲームみたいなことしてて。でね、あるとき急に、美羽ちゃんが怒り出して、“変な気を遣って手加減するな”って言ったんだよ。“手を抜かれて勝っても嬉しくない”って』



美羽様の独特な話し方を真似て、お嬢様は懐かしげに瞳を細めた。




『まさか気づかれてるなんて思いもしなかったから、ぽかーんとしちゃったあたしに、こう言ったの。
“やるなら全力を出せ。それが、美空がこれから打ち負かす者への礼儀だろう”』




ああ、美羽様なら言いそうだな、と感じる。
お嬢様に似てプライドが高く、けれどお嬢様とは全く違った、強固な自分自身の価値観を持つ彼女なら。



『それで初めて、あたしは自分が間違ってたって知った。あたしは無意識に、美羽ちゃんを下に見てたんだよ。……最低だよね』



呟き、お嬢様はまた微笑む。



『それからあたしは、美羽ちゃんにも学校の成績を隠さなくなったし、何事にも全力をぶつけることにした』



ごちそうさま、とカップを寄越し、大きく伸びをするお嬢様。
そしてその表情を和らげ、



『綺麗で、まっすぐなままの美羽ちゃんと一緒にいると救われるし、愛しいって、大切にしたいって思う』



今この場所にはいない妹に向けられた笑顔は曇りなく、すっきりと晴れやかで。



『難しいことや危ないことは、きっとこれからたくさんある。でも、美羽ちゃんがいるから、あたしはまだまだ頑張れるんだ』

145ピーチ:2013/08/12(月) 00:08:18 HOST:em49-252-7-184.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

なんか久しぶりー!

残念なんですよねやっぱり!

……しょうがないとか、可愛いから何とかなるさとかのレベルじゃないよね美空先輩←

146心愛:2013/08/12(月) 21:00:33 HOST:proxyag084.docomo.ne.jp
>>ピーチ

美空は…ドジさえなければ、シリアス属性のキャラなのにね…(´・ω・`)


どうあがいてもドジなのよね…←

147心愛:2013/08/12(月) 21:01:24 HOST:proxyag084.docomo.ne.jp





そして時は流れ、お嬢様が17歳―――私がお仕えし始めたときの年齢とほとんど変わらなくなった年の、冬。


私はお嬢様と共に、お嬢様の親戚が主催する小規模のパーティーに出席していた。


とは言っても、私はしがない使用人の身。邪魔にならないようお嬢様の様子を壁際で見守っているだけなのだが。


話の輪の中心で、ごく淡いピンクベージュのリップで輝く桜桃の唇に薄い笑みを浮かべるお嬢様。

背中に流した黒く艶やかな髪、胸元に控えめに輝くネックレス。
パーティードレスに身を包む彼女は華やかすぎにならないよう考え尽くしたメイクも相俟って、気品の漂う知的な美人といった印象を受ける。


お嬢様は、手に入れた権力を行使するのに躊躇がない。
利益とリスクとを計算して、自分と美羽様にとってプラスに働くと判断するならばすぐさま行動に移す。
その一環として、招待を受けては積極的にこのような場を訪れ、情報を集めつつ賢さを感じさせる物言いと可憐な装いで、この段階から顔を売っている。
権力者と関わり名を広めておくことは、後に好ましい影響を及ぼすからだ。


他人の心の機微に敏感で、立ち回り方が上手いお嬢様には遠い親戚や知人の男性客を楽しませることもお手のもの。
頭上で飛び交うビジネスの専門用語にも完全な理解を示して会話に混ざり、その上でちょっとした茶目っ気を披露したりなどして着実に好感度を上げていく。

お陰でお嬢様を囲む老紳士たちからは品の良い笑い声が絶えず、会場全体の注目を集めていた。



「そういえば、美空ちゃん。この前言ったお見合いの話だが、ちょっと会ってみるくらいならいいんじゃないか?」



「いや、それを言うなら私の妻の甥っ子もなかなか好青年で」



「並みの男では、頭のいい美空ちゃんには合わないだろう。私の部下にも、美空ちゃんにぴったりの有望株が」



身内ならではの遠慮のなさで矢継ぎ早に言ってくる彼らに、お嬢様は嫌な顔ひとつせず柔らかに微笑む。



「ありがとうございます。ですが、やはり私などにはまだ早い話ですから」



一人称の発音まで自然と変えながら、鮮やかにかわす。
お断りする際のその言い方やタイミング、表情や首の傾け具合。すべてが絶妙で洗練されており、彼らに不快感を与えないよう配慮しているのが私には見て取れた。


お嬢様は、お見合い相手と婚約まで話が進むことはまだ望んでいない。


もちろん単純な好意からの言葉をかける方もいるが、自分の息の掛かった男を送り込んで結野家の代表格となりうるお嬢様と関係を持たせ、その権威の全てを掌握したいと考える輩は数知れない。
お嬢様にはそれだけの利用価値がある。そして、お嬢様はそれをとっくの昔から承知している。


目の前に婚約、結婚という餌をちらつかせていれば、それを狙う人たちとより親密で良好な関係を築くことができる。

だから、まだ了承の言葉は決して言わず。
焦らして焦らして、最後に一番有益と自身が見込んだ男を見つけて初めて、お嬢様はこの手の話を受けようと目論んでいるのだ。



「それは残念だな。では、美羽ちゃんは? 美空ちゃんが駄目なら美羽ちゃんにだけでも紹介しておきたいのだが、今日も来ていないのかい?」



「はい。申し訳ありません、妹は身体が弱いもので」



お嬢様の語調が少し強くなった。
絶対にこれ以上話を進ませてなるものか、と鉄壁の笑顔に磨きがかかる。


もちろん、お嬢様だけでなく美羽様にも、見合いを求める声は寄せられている。
しかしほぼ全くこのような表の場に顔を見せない美羽様はもともと知名度も低く、時折こうして持ち上がる話もお嬢様が徹底的に潰しているので、本人の耳に入るまで大きく発展することはまずないだろう。


……それより、と私は悩ましい思いでお嬢様を見つめた。


“変わり者”の美羽様の全てを知りながらも本気で彼女を恋い慕う……それこそ“変わり者”の、お嬢様の高校の後輩―――日永圭、様。


私個人としては心根の優しい少年、という印象で、せっかく結ばれたのだからこれからの恋路を応援したいところなのだが。

148心愛:2013/08/12(月) 21:02:16 HOST:proxyag109.docomo.ne.jp





しかし、彼には申し訳ない話だけれど、一般人である圭様の存在は、家柄を重んじる結野家にとって大きなマイナス要素となる。

美羽様が圭様と結ばれると仮定すれば、お二人への風当たりも当然厳しいものになることは否めない。



「………」



いつの間にかお嬢様が話題をすり替えたらしく、息子の自慢話で盛り上がり始めた一同を視界に入れながら、私は酷く憂鬱な気分になった。




―――『美羽ちゃんがこんな汚い世界に関わらずに本当に好きな人と結ばれるためには、あたしが美羽ちゃんの分まで、ちょっとやそっとのことじゃ揺らがないくらい、絶対的な権力を持てばいいんだよ。
そうしたら、お父さんもお偉い方も、文句は言えないでしょう?』




美羽様が持ち込んだ“良くない話”をないことにするくらい、自分が誰からも祝福されるような、華々しい結婚をすればいい。
お嬢様にとって、結婚は利用するものだ。
身につけた手腕と伴侶の家名を以て圧倒的な地位に君臨していれば、どんな層から美羽様のことを反対されても力ずくで丸め込むことができる。

たとえこれから先、好きな人ができたとしても、お嬢様はその想いを自ら断ち切り、美羽様の為に平気な顔で恋心を犠牲にするだろう。


お嬢様はそういう方だ。
まだ多感な高校生の身にもかかわらず重い責任を進んで背負う覚悟を決め、涼やかな微笑みを振りまいている。


お嬢様にとって美羽様は安らぎの象徴で、圧力に押し潰されず自分を保ち、努力を続ける理由でもある。
しかし、この世界で唯一、何よりもお嬢様を追い詰める存在でもあるのだ。



私の胸の奥に秘めた、この想いが報われることはない。
だから、私はお嬢様との未来は望まない。望めるはずもない。


ただ、せめて―――



そこで、カツン、と磨き抜かれた大理石が鳴る音が聴覚を刺激し、しばし物思いに沈んでいた私は我に返った。




「やあ、美空さん。お久しぶりですね」




一目で上等だと分かるスーツを纏う紳士が微笑み、お嬢様に話しかけた。

お嬢様を取り囲んでいた方たちが遠慮がちに、僅かながら身を退く。
お嬢様の今までの話し相手と比べて格段に若い彼は、日本屈指の大財閥の当主を父親に持つ、



「西條様。本当にお久しぶりです」



「ええ。美空さんはお会いするたびに美しくなっていらっしゃる気がしますよ」



「西條様は相変わらずですね」



お嬢様が口元を隠して笑う。

西條様はそれから、自分が新しいホテルのオープンに携わっていることなどをお嬢様に話した。



「わぁ、素敵ですね。また伺うのが楽しみです」



「それなのですが」



西條様はお嬢様に、そのホテル内に出店するスイーツの店の試食会に来てほしいと熱心に誘いをかける。
若い女性の意見を聞きたいのだそうだ。

他の存在を無視し、いささか強引にお嬢様一人に話しかける西條様を邪険にできない周りの方々は一様に、どこか気に入らない表情をしている。
彼がお嬢様を特別な意味で、お気に召しているのは誰の目にも明らかで。


私は深いことは考えず、衝動的に歩き出した。



「……ご歓談のところ申し訳ございません、お嬢様。そろそろ」



「もう時間? ……すみません、そのお話はまたいつか」



相手の機嫌を損ねないよう細心の注意を払って、お嬢様は終始にこやかな笑顔を保っていた。


それを見て、自分の中に黒い感情が湧き上がるのを感じる。


……面白く、ない。


不愉快さを顔に出すことなく一礼し、私はお嬢様を連れて外へと向かった。



「どしたの昴、予定よりちょっとだけど早……うわっ」



言いながら危うく転びかけ、すぐさまサッと差し出した片腕でお嬢様の身体を抱き留める。
……私といるときには緊張が解ける、というのは喜ばしいことなのだけれど。



「ごめんごめん。……あ、もしかして心配しちゃった?」



お嬢様がくるりと回って私の顔を見上げ、小さく吹き出す。



「大丈夫だって、アレは信用してないから。この前の資料見たでしょ? いくら何でもあんなのと結婚する気はないよ」



つまらない嫉妬だと察した上での茶化すような言葉に、私の苛つきはますます募っていった。

149ピーチ:2013/08/12(月) 21:57:09 HOST:em114-51-39-50.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

美空先輩自分犠牲にしちゃダメですよ!?

……あんなのって、あんなのって?←

150たっくん:2013/08/13(火) 10:52:43 HOST:zaq31fa533d.zaq.ne.jp
>>149
ピーチさん貴方の曲を歌います。
        

     【ピーチと、さよならするのはツライけど】

ピーチが死んだ〜♪ピーチが死んだ〜♪
いい気味だ〜♪いい気味だ〜♪
さよならす〜るの〜は〜ツラ〜いい〜けど〜♪
寿命だよ♪仕方がない♪

ここは天国♪さんずの川♪

151心愛:2013/08/13(火) 19:29:29 HOST:proxyag011.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ごめん、分かりにくかったかな!


あんなのイコール、美空に下心ありの西條。
昴は嫌な顔せずに話につきあう美空に、ちょっとイラッとしてるのです。

美空がホテルに顔利くのはこういう人たちと仲いいから(・∀・)

152心愛:2013/08/13(火) 19:29:57 HOST:proxyag012.docomo.ne.jp





―――幼い頃から、汚い大人に囲まれて育った。


権謀術数が渦巻く環境で幼年期を過ごしてきたあたしには、相手が信頼できる者かどうか瞬時に見極める直感が備わっていた。

その点、昴はパーフェクトと言ってもいい。
真面目で口が堅く、ある程度融通も利く。

清涼感のある面差し、穏やかな声。女性的な優美さのあるシルエット。
優しく誠実そうな瞳。

自分は庶民の出だし学がない、と謙遜するけど、どんなところを連れて歩いても決して恥ずかしくない容姿。


駐車場所に向かって隣を歩く、いつになく険しい表情をした昴を、ちらりと横目で見上げる。


社交辞令だらけのパーティー。
穢れた世界で共にすべてを見てきながら、それでも優しさを、人間らしい愛情を忘れない昴が羨ましい。


あたしは狡猾な人間だ。
表面上は社交的に振る舞っていても、いつだって冷徹に損得を計算し、巧く本性を隠している。

今まで結野は華々しい業績の裏でいくつものライバル他社を潰し、成り上がってきた。
あたしにも、優雅に微笑みながら同じことをやる日が必ずくるのだから。


見せかけだけで打算的なあたしと違って、まっすぐで純粋で、触れたら壊れてしまいそうに繊細な美羽ちゃん。
誰より愛しい存在を巻き込まないために、あたしは今日も嘘をつき、自分を偽りの笑みで飾りつける。


昴が、こんな一癖も二癖もあるあたしを何故か恋い慕っていることも、身分違いの恋に葛藤し、必死に隠そうとしていることも、観察力に長けたあたしには手に取るように解る。
……たまに、可哀想になるくらい。



「ね、昴」



あたしは可愛らしく作った声をかけ、こちらを見た昴に無邪気な笑顔を向けた。



「あたしが結婚したらさ、昴はどうする? あたしとしては、ずっと付いてきてほしいなぁ」



昴を傷つけ、それによって彼を立ち直らせる目的で、あたしは残酷な言葉をつらつらと吐く。



「あたしのドジも上手く助けてくれるし、あたしの愚痴聞かせられるの昴くらいだし」



静謐さを感じさせる淡いブルーの双眸が、闇の中淋しげに輝く。
あー……これは、ちょっと本気で堪(こた)えてる、かな。


あたしは『真面目な昴はまだ、裏がありそうな西條のことを気にしているんだ、と解釈した』風を表面上だけ装いつつ、周りを意識して声のボリュームを落とした。



「あはは。だから、西條は有り得ないってば。条件としては文句なしに合格だけどね」



わざとらしい笑い声を上げ、昴をさらに、じわじわと追い込んでいく。
いつもと違って美羽ちゃんみたいに下ろした髪が、夜風を孕んでふわりと広がった。

153心愛:2013/08/13(火) 19:30:55 HOST:proxyag060.docomo.ne.jp






「……あーあ、もっと良さげな人いないかなぁ。家はウチを凌ぐくらい力あって、そのくせ単純で利用しやすそうなさ」



過ちに気づけ。

あたしが選ぶ未来の男に、執事が嫉妬する権利なんかないんだって。

痛みを隠して微笑む、いつもの昴に戻ってよ。



それでも直接的なことは言わないあたり、あたしも大概性格悪いな、解ってたけど。と苦笑する。


そこで―――あたしを驚かせたのは、予想外に鋭く響く叫びだった。




「……お嬢様!」




え、と良く回るはずの思考が完全に停止した。


転んでもいないのに、突如伸びてきた腕に強く引き寄せられる。
胸に額が当たり、昴に抱きしめられていると自慢の脳が理解するのに、数秒は要した。


昴が切羽詰まった声で懇願してくる。




「お願いです……! お嬢様の決意を改めてほしいとは言いません。ですがせめて、あなたを幸せにできる人を選んで下さい……!」




押さえつける手に力を込められ、息が詰まった。




「私は、あなたの優しさのせいで、あなたが不幸になるのだけは耐えられない……っ」




きゅう、と心臓が縮むような心地がした。


優しい、って、誰が。なに、言ってんの?
優しいのはどっちだって話だよ。

昴は、あたしなんかのことを好きになってしまったばかりに、狡賢いお嬢様に振り回される可哀想な被害者じゃない。
なのに潔く身を退いて、あたしの幸福を願うような、


そこまで考えて、無性に泣きたくなった。
全身を包み込む温かさを感じ、瞼の裏に熱いものが滲みそうになる。

こんな無様な姿じゃ、普通の女の子と変わらない。



昴はさらに続けようとする。




「なぜなら私は、誰よりもお嬢様のことを―――」




これ以上は、駄目だ。




「―――――っ!」




あたしは昴を、持てる力のすべてを出して思い切り突き飛ばした。

昴はよろけて反射的に体勢を立て直し、次いで、己のしでかしたことの重大さにやっと気づいたようで、はっと息を呑み青ざめる。



「も、申し訳……っ」



「昴」



大丈夫、演技は得意だ。

舞い散る吹雪のように冷たい声にも、震えひとつない。




「今回だけは見逃す。後はないよ」




あたしは凍れる刃のような侮蔑の視線で、立ち尽くす昴を突き刺した。




「執事如きが、あたしの事情に口出ししないで」




……これで、あたしのことなんて嫌いになってくれたらいい。
そうしたら楽になれるのに。



昴に背中を向けて髪を翻し、急かすように歩き出しながら、あたしは切に願った。

154ピーチ:2013/08/14(水) 00:52:52 HOST:em1-114-0-148.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

美空先輩優しすぎるよ!

だって結局昴さんのために言ってるんでしょ!? 優しすぎるよ美空先輩!

でも自己犠牲は読者としても辛いです←

155心愛:2013/08/14(水) 19:19:04 HOST:proxyag003.docomo.ne.jp
>>ピーチ

それを分かってくれると嬉しいよ!


このままじゃ昴がつらいだけだから、どうせ報われないなら嫌いになっちゃえ、って考えてるんだよね美空。

悪ぶってるけど結局…? って感じです。



大丈夫! ここあにバッドエンドは書けないから!
これからちょっと犯罪的な事件に巻き込まれますがね!

156心愛:2013/08/14(水) 19:19:53 HOST:proxyag004.docomo.ne.jp





「それで、そのとき美空がさー」



「ちょっと、やめてよ小百合(さゆり)ー!」



一日の授業が終わって、放課後。
同好会の活動は休みのため、あたしは荷物をまとめると、友達二人と昇降口を出た。
学校前にまで来られて目立つのが嫌という理由で、昴には歩いて十分ほどの距離にある駅に、迎えの車を停めてもらっている。


あんなことがあっても、あたしたちの関係は変わらない。
あたしの失敗を昴がフォローして、あたしの策略に昴が困った顔をしながら協力して、そんな、いつも通りの日常。
……歪んでいると思う。
それでもあたしたちはお互いに、こうして誤魔化しあうしかできないんだ。



「ほんっとに、美空のドジは―――おうわっ」



突然視界に見慣れないものが現れ、陽気に喋っていた友達が唖然として立ち止まる。

校門を出てすぐのところに、大型の高級車が停まっていた。
ドアが開き、きっちりとスーツで固めた男が出てくる。



「えっ、なにあれ」



車にも彼にも見覚えはないけど、あたし絡みと見て間違いない。
……面倒なことになりそうだ。

美羽ちゃんはまだ学校にいたはず、とこんなときにも先に妹の安全確認をする自分に呆れながら、あたしは大人しく彼が近づいてくるのを待った。



「お引き留めして申し訳ございません。結野美空様、ですね?」



「そうですが」



腰の低さからどこかの使用人だろうと推測する。
あたしの学校を調べてわざわざ待ち伏せしていたのだとすれば、何か目的があるはずだ。



「お手数ですが、こちらをご覧戴けますか」



真意を探ろうと黙考していると、無地の封筒を手渡された。


怪訝に思いながらも開封し、中身を取り出して確認した途端、サッと全身の血の気が引く。


あたしは意識してやや大げさに驚きを露わにし、小刻みに震える手で元の状態に戻して突き返した。



「これからお時間、よろしいですか?」



「わ……分かり、ました」



こんなものを見せられて断れるわけがない。
脅迫に屈したあたしは“怯え”に顔を青ざめさせながら、こくりと頷く。


……さて、どうしようかな。



「ちょっと美空! 大丈夫なの!?」



「何今の、写真? 変なことに巻き込まれてないよね!?」



……巻き込まれてる、どころか。


あたしは深刻な表情を崩してへらりと呑気そうに笑うと、詰め寄る二人の肩を叩いた。



「大丈夫大丈夫ー。知り合いだから」



「そ……そう、なの?」



「そうそう」



そう言って笑ってから、あたしは今まで頭の中で考えていた台詞を早口でまくし立てた。



「あ! ほんとごめん、美羽ちゃん……えっと、これから来ると思うんだけど。ゴスロリ着た子に、先に帰っててって伝えてくれる? ちょっと寄り道したいから、って」



できるだけ美羽ちゃんにこういう事態を悟られるのは避けたかったけど、これはさすがに仕方ないかな。
美羽ちゃんだって馬鹿じゃない。メールでも電話でもなく友達に伝言を頼んだことに、不信感を抱くはずだ。
訳あってケータイを使えないのだと解釈して、あいつに言ってくれれば、それでいい。
後はあたしと、あいつの仕事だ。



向こうの目的はあたし一人、美羽ちゃんが危害を加えられることは考えにくい。

危険な目に遭うのはあたしだけで十分だ。


……友達からは運がないって思われるけど、あたしはやっぱり、最高に運がいい。

あたしが長女に生まれてきて、本当に良かった。

美羽ちゃんがこんなつまらないことなんて関係なく生きて、安全なところにいることができて、本当に良かった。

心からそう思う。



―――……さて、駆け引きといきますか。



あたしは現状を打破すべく頭を巡らせながら、男性に恭しい動作で導かれ、車に乗り込んだ。

157心愛:2013/08/15(木) 18:28:34 HOST:proxyag092.docomo.ne.jp





ふっと途絶えていた意識が浮上して、あたしは瞼を開けた。
立派な建物に着いたところで車から降りて、少し歩いたらすぐに背後から押さえつけられ、薬品を嗅がされて―――そこからの記憶が綺麗に抜け落ちている。


鈍った頭を叩き起こし、あたしは試しに後ろ手に縛られた手首を動かしてみた。
つるりとした太い紐。
その気になれば抜け出せるような緩い拘束に、完全に舐められてるなと少しありがたく思う。
どうやら相手は逃げられることより、暴れて傷でもつけられることの方を恐れているようだった。

背中や太股の下には柔らかな素材、上等なソファの感触。ここまでくると丁重すぎて笑えてくる。
普通こういうのって無造作に床に転がしたり、椅子に縛り付けたりするものじゃない?

まあ確かに、乱暴なことをして結野家の令嬢に万一のことがあったら、笑い事じゃ済まないからね。


次に首の位置を変えないまま慎重に辺りをぐるりと見回し、広い部屋に誰もいないことを確認する。

チャンスだ。

逃げる、ではなく、考え、状況を整理するための。

今逃げたって、せっかく大人しく誘拐されてあげた意味がないから。


壁や床は一目で高級と分かる代物だけど、家具の類がほとんど見当たらない。
何もなかった部屋に、あたしを座らせるためだけにソファを運び込んだような殺風景さだった。
人の気配が少ないから、普段は使っていない別荘か何かってとこかな。

視界の隅に、自分のバッグを見つける。
もしかしたらケータイは取り上げられているかもしれない。他のものを弄られてないといいんだけど。

それから、脱出経路。
最悪の場合は、何もかも諦めて自力でその局面を切り抜けなければならない。
あたしは窓の方を見やった。
カーテンがきっちりと閉められていて、ここが何階なのかも分からない。
かといって、配置されているだろう見張りを振り切って扉から逃走するのは、いくらあたしの足でも無理がある。
脱出は、ほぼ不可能。


……こんなとき、変に賢しいくせにか弱い女の肉体を持つ自分が嫌になるけど。
使える武器は全部使って、


―――やるしか、ない。




そのとき、ギィィ……と音を立てて、扉が開いた。

タイムアップか、とあたしは瞬時に思考を切り替える。


部屋の内側から鍵をかけ、こちらに歩み寄ってくる人物。
車に乗り込んだときから、本当はある程度予想はついていた。
でも、あたしは目を見開き、衝撃を受けたように取り乱す素振りを見せる。




「そんなっ、西條様……! どうして!」




相手は大の男だ。もしもあたしの言葉に激昂し、感情的になられたらあたしに為す術はない。
ここは様子を見るためにも、大人しく可憐で、あまりの恐怖に力なく震える哀れなお嬢様を演じきるべきだ。



「手荒な真似をして本当に申し訳ありません。傷はつきませんでしたか」



信じられない、という表情で絶句し、あたしはふらふらと立ち上がった。



「西條様が、こんな……。放して下さい! 家に知られたら、いくら西條様でもただで済むわけが……っ」



「分かっていらっしゃるでしょう? あなたのお家にに知られることはありませんよ」



もちろん、解ってる。


落ち着けるように「お掛け下さい」と言われ、あたしは弱々しく西條を睨みながらそれに従った。



「あなたの執事は、なかなかに情熱的な男のようですね」



スッと差し出されたのは、先ほど見せられたのと同じ、一枚の写真。

暗闇の中、燕尾服の男とドレスの娘が抱き合っている。
黒に塗り潰された画面の中でも、昴の特徴はしっかりと押さえられるようになっていた。


たとえ野外とはいえ、パーティー会場という目立つ場所で主人にこんなことをするなんて。
あたし個人を脅すチャンスを虎視眈々と狙っていた輩からしてみれば、格好の餌だ。


あの馬鹿執事、とあたしは胸中で彼を思い切り罵る。

……いや、あいつの所為だけではないか。
あたしがもっと早く動揺から立ち直って、あいつの暴走を止められていればこんな面倒なことにはならなかったのに。

158たっくん:2013/08/16(金) 13:26:00 HOST:zaq31fa533d.zaq.ne.jp
       【新幹線の頭文字は何故、新なのか?】

当スレは新幹線について語るスレです。
古くても新しくても結構。年代は問いません。

御盆休み新幹線旅行された方いらっしゃいますか・・?

ところでピーチさんに質問が御座います。
新幹線というのは何故、新幹線なのでしょうか・・?
昔から疑問を抱いていました。
何十年も経過してるのに今だに新幹線の頭文字は『新しい』なんですよ〜
これはどういう事でしょうか・・?凄く不思議です。

新幹線、開通から何年経過してるか御存じですか・・?かなり古いんですよ。
古くても新幹線なんですよ
私だったら古幹線(こかんせん)とか旧幹線(きゅうかんせん)と言いますがね。

ピーチさん
御存じでしたら教えて下さい。

159たっくん:2013/08/16(金) 15:24:21 HOST:zaq31fa533d.zaq.ne.jp
【ダイアナ・ストーリー】

ピーチの肛門はダイアナ

ウンコ→大→ウンコをする穴→大の穴→だいあな→ダイアナ
と、このようになっております。
今回は大まかな内容となっておりますが、
次回、細かい部分を解説していきますので宜しく。

やはりチームワークは大切だと思います。

160たっくん:2013/08/16(金) 15:34:01 HOST:zaq31fa533d.zaq.ne.jp
    【ピーチの肛門はダイアナ 】

ダイアナというのは言わずと知れた白人女性です。

しかしこの場合いのダイアナは通常ダイアナとは異なります。
今回はピーチの肛門を意味します。
どういう意味か・・?簡単にご説明致しましょう。

皆様これ何と読みますか?→『大穴』
おおあな・・ではありませんよ。

ウンコは大ですよね?大をする穴は肛門
大の穴・・略して、だいあな

ウンコ→大→ウンコをする穴→大の穴→だいのあな→だいあな(省略形)→ダイアナ(片仮名)
と、このようになっております。分かって頂けましたか?
今回は大まかな内容となっておりますが、
次回、細かい部分を解説していきますので宜しく。

やはりチームワークは大切だと思います。

161たっくん:2013/08/16(金) 15:38:04 HOST:zaq31fa533d.zaq.ne.jp
ちなみにピーチさんの場合いは
肛門、アソコ、共にダイアナ(大穴)です。

先ほど、お尻は大便をする穴だから大穴と申しましたが
これはあくまでも男性の場合いです。

これはあくまでも私の推測に過ぎませんが、
おそらく私の勘が正しければピーチさんのアソコの穴は
直径約10cmメートルほどだと思いますので
こちらも大穴です。

別の意味でね。というわけで、

162心愛:2013/08/16(金) 22:17:33 HOST:proxy10012.docomo.ne.jp






「何でも彼は、美空さんの結婚に反対するようなことを叫んでいたとか」



これはどこからどう見ても、お嬢様と使用人の危険な関係の証拠写真だ。
昴の想いに気づいてからずっとあたしが危ぶんでいたことが、今現実となってしまったことになる。




「これは立派なスキャンダルです。流出しては、困りますよね?」




社長令嬢が執事と恋仲にある、などとでっち上げた情報と共にこの写真をばらまかれたら、あたしと昴個人どころか、結野家だって一巻の終わりだ。

だから、写真のデータを西條が握っている限り、あたしは下手に動けない。
そもそもこれを校門前で見せられたのも、付いて来なければこの画像を良いようにする、と暗にあたしを脅すためだ。



「……一ノ瀬が私にそういった感情を抱いていたのは事実ですが、私もこの後厳しく叱りました。私に、彼との交際関係は一切ありません!」



「たとえそうだとしても、黙って提供する分には変わりませんよ。向こうで勝手に、センセーショナルな記事に仕立て上げてくれるでしょう」



「、……っ」



絶望に打ちひしがれるあたしを見て、西條がつらそうに顔を曇らせる。



「そんなお顔をなさらないで下さい、美空さん。あなたが苦しむ様を見ると、心が痛みます」



嘘つけ、と詰りたいところだが―――案外、そうでもないかもしれない。

自分の容姿が抜群という自覚はあるし、誰からも好かれる淑女に見えるように努力してきた。
西條が作り物の“結野美空”に対してそれなりに愛着を持っていることは、普段からの態度、そしてこんな思い切った手段に打って出たことからも分かる。



「こちらの要求はひとつ。簡単なことです」



西條の顔が近づいた。




「私との婚約を約束して下されば、データはこの場で破棄、今日のことは口外しないとお誓い戴いた上で帰りの車を用意します」




……そうくると思った。


こいつが欲しているのは、あたしの心じゃなくて会社の跡継ぎとしてのあたしだ。
容姿、身分、全てに秀でた才女は西條の御曹司の相手として申し分ない。
他の誰かに取られる前に無理にでも約束させ、家系に結野の血筋を取り入れる。
あたしを都合良く利用してこちらの経営に色々口出しし、最終的には結野の権力の一端も掌握する。
それが、こいつの目的。



「一言、一言だけ、そう口に出して証明して下されば良いのです」



さあ、と促され、あたしは不安げに瞳を揺らす。



落ち着け。
落ち着いて、頭を冷やせ。
もっと冷淡に、冷徹に、冷酷に、状況を分析して最善の方法を弾き出せ。


まず、婚約すると言うだけでいい、なんて嘘。
その場の口約束で終わらせるわけがない。
録音されていると考えるのが妥当―――とすれば、この部屋のどこかに仕込んでいるはずだ。

本当に素直に消すとは到底思えないけど、仮に写真のデータがなくなったとして、あたしが西條を裏切るようなことがあれば録った音源を持ち出されるだろう。
不本意だったのだと訴えようとしても、不都合な箇所は捏造し放題。証拠があると丸め込まれてしまう。



「そんな……こと……」



動揺に躊躇うふりをしながら、あたしは不自由な手をこっそりと動かしてみる。力を入れれば引きちぎれそうだけど、まだそのときじゃない。
あたしの狙いは写真のデータを破棄させ、上手く煙に巻いてここから脱出すること。
でも西條に迫られているこの状況で、そんなことができるはずもなく。



「どうしても嫌だと仰るのなら……そうですね。あの執事を愛人として迎え入れても構いませんよ」



「……ですから、一ノ瀬は―――」



せめてあそこのバッグまで辿り着ければ、それでなくとも何か理由をつけて持ってこさせるとか……いや、それだけではまだ条件として弱い。

だとしたら、今は第三者が介入してくるまでの時間稼ぎを兼ねて―――先手を打っておくか。
ほんの僅かでも、その可能性に賭けるほかない。

逆境を覆して優位に立つには、何においても運と度胸は必要不可欠だ。



「―――西條様、」



ひとまずの方針を決めたあたしは、企みを悟られないよう細心の注意を払いながら、その作戦を開始した。

163たっくん:2013/08/18(日) 00:51:57 HOST:zaq31fa5813.zaq.ne.jp
前回ピーチの肛門はダイアナ(大穴)という御話をしましたが、
今回はまた別の御話です。

ピーチさんに質問が御座います。下記の文を読んでお答え下さい。


たっくん
『タイに行って来たんだよ』

ピーチ
『タイか〜いいね〜。』

たっくん
『タイは蒸し暑かったな〜。タイ人なんて真っ黒に日焼けしてましたよ
それを見て確信しましたね。あ〜これがホントのタイ焼きなんだな〜と・・。』

ピーチ
『・・・・・・・。』

たっくん
『何ですか今の間は・・?』

ピーチ
『いや・・何でそこで、たい焼きが出てくるのかな〜って・・。』

たっくん
『だってタイ人が日焼けしてたんだからタイ焼きでしょう?』

ピーチ
『あっそ。』



タイヤキの本当の意味は
タイ人が焼けた状態なのではないでしょうか・・?

164たっくん:2013/08/18(日) 00:52:07 HOST:zaq31fa5813.zaq.ne.jp
前回ピーチの肛門はダイアナ(大穴)という御話をしましたが、
今回はまた別の御話です。

ピーチさんに質問が御座います。下記の文を読んでお答え下さい。


たっくん
『タイに行って来たんだよ』

ピーチ
『タイか〜いいね〜。』

たっくん
『タイは蒸し暑かったな〜。タイ人なんて真っ黒に日焼けしてましたよ
それを見て確信しましたね。あ〜これがホントのタイ焼きなんだな〜と・・。』

ピーチ
『・・・・・・・。』

たっくん
『何ですか今の間は・・?』

ピーチ
『いや・・何でそこで、たい焼きが出てくるのかな〜って・・。』

たっくん
『だってタイ人が日焼けしてたんだからタイ焼きでしょう?』

ピーチ
『あっそ。』



タイヤキの本当の意味は
タイ人が焼けた状態なのではないでしょうか・・?

165たっくん:2013/08/18(日) 01:00:00 HOST:zaq31fa5813.zaq.ne.jp
さよならするのはツライですが、
ピーチさんのような無能はいずれ逝きます。
それでは一曲      

【アホのピーチ&心愛、とさよならするのはツライけど】



アホのピーチに捧げる一曲です。
アホはあの世へ逝くというのが今回のテーマです。
当サイトの利用者(皆様)も例外ではありません。

作詞・たくや

       【1番 ピーチさんの祖母編】

ババアが死んだ〜♪ババアが死んだ〜♪
いい気味だ〜♪いい気味だ〜♪
さよならす〜るの〜は〜ツラ〜いい〜けど〜♪
寿命だよ♪仕方がない♪
ピーチが逝くまでごきげんよう♪

        【2番】

ハハ〜(母)〜が死んだ〜♪ハハ〜(母)が死んだ〜♪
いい死に顔だ〜♪いい死に顔だ〜♪
ピーチの〜な〜みだ〜が〜ポタリと背中に〜♪
つめてぇな〜♪つめてぇな〜♪
ピーチが逝くまでごきげんよう♪

        【3番】
ピーチが死んだ〜♪ピーチが死んだ〜♪
ここは何処〜?ここは何処〜?
突如ばあさんがピーチの背中に〜♪
ひさしぶり〜♪ひさしぶり〜♪
ここは天国〜♪さんずの川♪

あの世へ逝った〜♪ピーチが逝った〜♪
いいとこだ〜♪いいとこだ〜♪
現世にいた頃にゃ気がつかなかった〜♪
持病だよ♪仕方がない♪
ここは上州〜♪さんずの湯♪

娘が死んだ〜♪娘が死んだ〜♪
ピーチさんの〜♪ピーチさんの〜♪
ついに娘までポックリ倒れた〜♪
持病だよ♪仕方がない♪
次に時代までごきげんよう♪

ババンババンバンバン♪ババンババンバンバン♪
いい湯だな〜♪いい湯だな〜♪
さよなら〜す〜るのは〜ツラ〜いい〜けど〜
時間だよ♪仕方がない♪
ここは〜みず〜うみ〜♪さんずの川♪

ピーチさんまた会う日までごきげんよう♪

166たっくん:2013/08/18(日) 01:00:22 HOST:zaq31fa5813.zaq.ne.jp
さよならするのはツライですが、
ピーチさんのような無能はいずれ逝きます。
それでは一曲      

【アホのピーチ&心愛、とさよならするのはツライけど】



アホのピーチに捧げる一曲です。
アホはあの世へ逝くというのが今回のテーマです。
当サイトの利用者(皆様)も例外ではありません。

作詞・たくや

       【1番 ピーチさんの祖母編】

ババアが死んだ〜♪ババアが死んだ〜♪
いい気味だ〜♪いい気味だ〜♪
さよならす〜るの〜は〜ツラ〜いい〜けど〜♪
寿命だよ♪仕方がない♪
ピーチが逝くまでごきげんよう♪

        【2番】

ハハ〜(母)〜が死んだ〜♪ハハ〜(母)が死んだ〜♪
いい死に顔だ〜♪いい死に顔だ〜♪
ピーチの〜な〜みだ〜が〜ポタリと背中に〜♪
つめてぇな〜♪つめてぇな〜♪
ピーチが逝くまでごきげんよう♪

        【3番】
ピーチが死んだ〜♪ピーチが死んだ〜♪
ここは何処〜?ここは何処〜?
突如ばあさんがピーチの背中に〜♪
ひさしぶり〜♪ひさしぶり〜♪
ここは天国〜♪さんずの川♪

あの世へ逝った〜♪ピーチが逝った〜♪
いいとこだ〜♪いいとこだ〜♪
現世にいた頃にゃ気がつかなかった〜♪
持病だよ♪仕方がない♪
ここは上州〜♪さんずの湯♪

娘が死んだ〜♪娘が死んだ〜♪
ピーチさんの〜♪ピーチさんの〜♪
ついに娘までポックリ倒れた〜♪
持病だよ♪仕方がない♪
次に時代までごきげんよう♪

ババンババンバンバン♪ババンババンバンバン♪
いい湯だな〜♪いい湯だな〜♪
さよなら〜す〜るのは〜ツラ〜いい〜けど〜
時間だよ♪仕方がない♪
ここは〜みず〜うみ〜♪さんずの川♪

ピーチさんまた会う日までごきげんよう♪
さようなら〜

167たっくん:2013/08/19(月) 12:38:03 HOST:zaq31fa5184.zaq.ne.jp
当スレッドは博打専門です。
と言っても、一般的な賭け事とは違います

皆さん動物園は御存じですよね〜。
もしピーチさんが肉食動物(主に虎など)と一夜を共にしたらどうなるか・・
という実験を行いたいんです。
もしピーチさんをオリの中に入れたらどうなるでしょう・・?

ピーチさんは食われるか、それとも食われずに済むか・・?
二つに一つです。

今回はそれを賭けのテーマにしようと思います

『食われるに決まってるだろう』とおっしゃる方もおられると思いますが、
必ずしもそうなるとは限りません。確かに野生ならそれも考えられます。
しかし動物園の動物は野生ではありません。

ちゃんと、しつけ、教育をされてる動物なので
善、悪の区別はちゃんとついてると思います。

難しいところです。

私は、食われないほうに200円 賭けます。
皆さんは『食われる』ほうに賭けて下さい。

もしピーチさんが肉食動物に食べられましたら
潔く負けを認め、200円を投げだします。

ただし、食べられずに済んだら
貴方達から200円を頂戴致しますのでご了承下さい。


突然ですが歌を一曲、御披露致します。

         【血しぶき飛び散る森の中】

ある日〜♪森の中〜♪♪クマさんに〜♪食われた〜♪
血が飛ぶ森の道〜♪ピーチが〜食われた〜♪

168心愛:2013/08/19(月) 19:55:34 HOST:proxyag095.docomo.ne.jp





「私の自由を奪って、脅迫して無理矢理婚約を取り付けようとするなんて……そんなこと間違っています。お願いですから、考え直して下さい」



「お許し下さい、美空さん。あなたを手に入れるには、こうするしかなかったのです」



……かかった。

あたしはとりあえず、その成果に満足する。
後はひたすら時間を稼ぐのみ、だ。



「美空さんはただ、受け入れてくれるだけでいいのですよ。そうしたらすぐに楽になります」



「……ですから、……私は……」



たっぷりと間を含んで俯くあたし。
こっちからべらべらと喋ったら怪しまれる。



「私のどこが不満ですか? 西條の地位は結野にも劣りませんし、金もあります。これからは、美空さんに不自由な思いはさせません」



「……確かに、西條様は素晴らしい方です。ですが、それとこれとは話が別です」



なかなか強情に渋るあたしに、西條は痺れを切らしたようだった。



「仕方がないですね」



腕を伸ばし、あたしの胸元に手を掛ける。
まずい、と本能が警鐘を鳴らした。



「言うことを聞いて下さらないと、私も酷いことをしてしまうかもしれません」



「やっ……、やめて下さい!」



ボタンがひとつ、ゆっくりと時間をかけて外される。
本気だ、と相手の目を見て思わずぞっとした。

でも、耐えるしかない。
気を失ってから目が覚めるまで、それから西條と話していた時間を考えると、助けを期待するにはまだ無理がある。


女とはいえ、あたしは将来家を継ぐ身だ。これくらい我慢できなくてどうする。
何に代えても与えられた立場を守りきる。それがあたしの役目でしょう!?
演技のためだけではなく勝手に震え出す身体を叱咤し、絶対に屈してやるかと決意を固める。

何か、何かこいつの注意を逸らせることは―――!


と、目まぐるしく回転する頭の片隅で違和感をとらえ、あたしはハッとして目を見開いた。

こちらへと、徐々に物音が近づいてくる。


バタバタと忙しない足音と怒号に、西條が手を離して怪訝な顔を上げた。


―――まさか、



その正体に思い当たった次の瞬間、ドアを勢い良く蹴破り、黒い影が飛び込んでくる。

169心愛:2013/08/19(月) 19:56:52 HOST:proxyag046.docomo.ne.jp






「―――お嬢様ッ!」




……嘘。



「昴……」



あたしはらしくもなく呆けてしまう。


だって、あまりにも早い。
予想を大幅に超えている。



でも、と口元に笑みが浮かんだ。



―――さすがは、あたしの執事だ。



はあ、はあと荒い呼吸。
全力疾走して来たのだろう、とめどなく滴る汗が燕尾服を濡らしている。

淡いブルーの瞳が、あたしと、覆い被さるような体勢のまま動きを止めた西條を映すなり激しい怒りに燃え上がった。




「……っの、野郎……!」




「昴!」



今にも感情に任せて西條に掴みかかりそうな昴に、あたしは鋭い声で怒鳴った。




「あたしは大丈夫だから、それ! 胸ポケットのレコーダー!」




西條がぎょっとした顔をする。

いくら怒りに我を忘れていても、従順な執事はすぐに命令通りの行動を示した。
西條を押さえつけ、すぐに指定通りのものを奪い取る。
小型録音機だ。

混乱に乗じて持ち逃げされたらたまらないからね、気をつけてチェックしておいて良かった。


がっくりとうなだれる西條に戦意がないのを確認すると、昴は次に、あたしの方に近づいてくる。
そして微妙に視線を逸らしながら、数個だけ外されたボタンを留めた。



「……いや、先にこっちをなんとかしてよ」



縛られた腕を揺らしてアピールすれば、難なくするりと拘束を解かれる。

録音機を受け取り、あたしはそれを自由になった片手で弄びながら立ち上がった。



さてさて、どう考えてもこっちが有利になった今、ここは一気に決めちゃいますかね。



「西條様。状況はお分かりですね?」



西條の名前を挙げ、あたしが置かれている状況を丁寧に説明して、それを西條が肯定したやり取りが録られているこのレコーダーは、こちらの手に渡った瞬間からあたしの武器となる。



「このことを広めたくなければ、お互いに、この件はなかったことにするのが賢明かと」



西條は黙り込んでいる。


それなら、とあたしは部屋の隅まで歩き、自分のバッグを手に取った。

その中から小さな紙の束を掴み、床に叩きつける。

散乱した写真を見て、西條がサッと青ざめた。


それぞれに相手の違う若い女性とホテルに入る場面や、とある企業との密談現場など、表沙汰にしたら明らかにまずいことになるシーンばかりが、西條の顔つきでばっちり写っている。




「今後妙な動きが見られるのであれば、こちらも併せて遠慮なく公表させて戴きますので、そのつもりで」




もはや顔面蒼白の西條に向けてあたしは優雅に微笑み、とどめの一言を言い放つ。




「―――私の執事の狼藉、大変申し訳ありませんでした。……ドアの修理代は、いつでも請求して下さいね?」

170心愛:2013/08/19(月) 20:00:15 HOST:proxy10003.docomo.ne.jp





「いやー、まさか昴があんな声出す日が来るとはね。なんだっけ、『この野郎』?」



「……情けないところをお見せしました」



あのときの鬼気迫る形相とは似ても似つかない、文字通り情けない顔をする昴。



「つい、頭に血が昇りまして……。ですが、お嬢様がご無事で、本当に良かった」



「……ふーん」



眉を下げて微笑む顔を何故か直視できなくて、ついと視線を逸らした。
あたしは曖昧な返事をすると、どうしてこんなに早くここに辿り着けたのか尋ねる。



「ご学友の方にお話を伺ってすぐ、車の目撃情報を辿って飛ばして来ましたので。見張りもかなり少なくて助かりました」



さらりと言うが、異常事態だと察知し、迷わず動ける決断力と実行力はかなりのものだ。それを実際にやってのけるのだから凄い。



「ですが……少し、意外でした」



「うん?」



「お嬢様のことですから、許す代わりに結野家が有利になるような条件を提示なさるのかと」



そんなことか、とあたしは苦笑する。



「十分すぎるくらい有利になったじゃない。とんでもなく大きな“借り”を作ったんだよ? あの西條を傘下に入れるとか、身体張った甲斐があったよね」



「……あなたという方は……」



でも、あたしの陰謀だって、昴がいなければ全部成り立たなかった。
いくら危険な賭けでも、昴なら絶対来てくれるって、あたしは信じてたから。
……言ってはやらないけど。



「で、西條のことは誰にも知られてない?」



「はい。旦那様には連絡しておりませんし、ご友人たちにもとっさに誤魔化しておきました」



それなら美羽ちゃんにも上手く言っておいてくれたのか、とほっとする。
こんな目に遭ったなんてこと、できるだけ誰にも内緒にしておきたかったから。


昴は穏やかに笑み、足を止めて車のドアに手をかける。




「―――ただ、ご友人とお話ししている間にお会いした美羽様と圭様には事情を説明した上、そのまま同行して戴いておりますが」




「は」



暗いから遠くからではよく分からなかったけど、後部座席にふたつの影。



「美空!」



「美空先輩っ」



あたしはぐるりと首を捻ると、昴に噛みついた。



「騙したね!?」



「何のことか分かりかねます」



いつになく反抗的な態度で、そっぽを向く昴。

……お、怒ってる。
あたしが一人で敵地に乗り込んだこと、絶対怒ってる。

って、あたしが脅迫されたのはそもそもあんたのせいなんですけど!



「良かった……。通報しようか本気で迷いましたよ。昴さんは着いてすぐ出て行っちゃうし」



後輩の圭くんが胸を撫で下ろす横で、美羽ちゃんがわなわなと身体を震わせている。

待って、まだ心の準備できてない。



「あ、あのね、これは」



「このバカ!」



悲しいかな、あたしはこの妹にだけは弱いのだ。
涙目で怒鳴りつけられれば、黙って口を噤むしかない。



「いつもそうだ! 美空は勝手に、ぼくの知らないところで無茶をするっ」



「み、美羽……ちゃん?」



すん、と洟をすすり、おろおろするあたしを睨む。



「……昔から、美空の背中が目標なんだ。届くことは決してないと分かっていても、ずっと、ひたすらに努力してぼくを守る背中に憧れを抱いていた」



でも、と美羽ちゃんが声を張り上げる。



「美空が家やぼくを守るために危険を冒すなんて、ぼくはちっとも望んでない!」



「……美羽、ちゃ……」



「心配をかけさせるな、何もかも一人で抱え込んで強がるんじゃない! こんなときくらい、家族を頼れ、バカ……っ」



ぼろぼろと涙を落とす美羽ちゃんを見て、目頭が熱くなる。



「ごめん……」



無理をして押し込めていた、恐怖や不安、一気に色んなものが遅れて押し寄せてくる。



「ごめんね、美羽ちゃん……!」



美羽ちゃんをぎゅうぎゅうと抱きしめながら泣き崩れるあたしの耳に、こんな声が遠く聞こえていた。



「それにしても……美空先輩って、結構普通の女の子だったんですね」



「そうですよ。人より少しだけ、強情で見栄っ張りで―――とても、優しい方です」

171ピーチ:2013/08/19(月) 21:39:08 HOST:em1-114-111-160.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

久しぶりー! 神文を一気読みできて幸せの絶頂に居るピーチです←

と思ったらまさかの美空先輩拉致されてるし!? ちょっと待ってよそれって犯罪だよ通報できるよ!?

美羽ちゃんはやっぱ強い! あの美空先輩を黙らせるくらいだから!((

172心愛:2013/08/20(火) 14:44:42 HOST:proxyag096.docomo.ne.jp






「―――あたし、昴のこと好きかも」




「唐突ですね」



きょとんとして、昴が言った。



「……驚かないんだ?」



「ええ。正直に言いますと、前から期待はありました」



「あそう」



何でもないような言い方にしようと決めたのはあたしだけど、こう簡単に受け入れられると逆にイラッとくるね。
もうちょっと、こう、リアクションとかないわけ?


しかめっ面のあたしに、昴が優しい声で尋ねてくる。



「急に、どうしたのです?」



「……別に、大したことじゃないけど」



……なんてね。
解ってるよ、あたしに合わせようとしてくれてるんでしょう?
心の中はどうだか知らないけど、変に驚いたりして、平然としたふりをしてるあたしが居たたまれなくならないように、同じように反応してる。


まったく、これだから昴は。



あたしは苦笑を漏らしたくなるも耐えて、今日の天気を話すときくらい自然な話し方に見えるよう、ひっそり努力を続ける。



「最近、気づいたんだよね。こんなのあたしらしくないって」



らしくない、とは。
昴のまっすぐな眼差しがなんだか妙にくすぐったい。



「それにそれは、美羽ちゃんの将来を社会的に守りたいっていうのと同じ方法で解決できる。だから決めたんだ」



つまり。




「使用人と好きあってても、恋人同士になっても、誰にも文句言えないくらいに、のし上がってみせる―――ってこと」




嘘をつくのは得意だけど、、いつまでも逃げてこそこそするような真似は好きじゃない。
利用できるものはすべて利用し、欲しいものは力ずくで手に入れ、大切にしたいものは全力で守る。


頂点に君臨していれば、それだけ圧力を強くなるだろうけど、うるさいお偉い方を丸め込むことだってきっとできるはずだ。
……ううん、やってみせる。
たとえ何年かかっても、あたしは決して諦めない。


それまで、昴とのことは公にはできない。
だから、あたしたちの距離はこのまま。
こっそりと秘めていた気持ちをきちんと伝えあった、まだ、それだけ。


お見合いの話は、周りに気づかれない程度に少しずつ減らしていこうと思うけど。



「ま、何年かかるか分かんないけどね」



「いくらでも待ちます」



即答する昴に、あたしは意地悪く笑って言う。



「もし、あたしが凄く頑張って、それでも許してもらえなかったら?」



「土下座でも何でも致しましょう。それでも無理なら……どうしましょうか」



これまたあっさりと答える昴。
あたしはちょっと拍子抜けする。



「本気なの?」



「はい。お嬢様と添い遂げるための苦労なら、喜んで」



「……そんな情けない真似しないでよ。あたしが恥かくから」



それを聞いて、昴は柔らかに微笑を零した。



「駆け落ちというのもなかなか魅力的ですが」



「バカじゃないの? 美羽ちゃんを置いていけるわけないでしょ? 今までの努力が全部水の泡じゃない」



「そうですね。冗談です」



昴はにこにこと楽しそうだ。
最愛のお嬢様と心が通じ合っていることが分かったのだから浮かれるのも当然か、と半ば上から目線にその訳を捉えていると、その昴の方から話題を転換した。



「ところで、お嬢様」



「ん?」



「私が、お嬢様も私と同じ気持ちなのではと淡く期待を抱いていた理由ですが」



「それ言っちゃうんだ……」



できれば聞きたくない。
でも、昴があたしのポーカーフェイスを見破ったとなれば興味があるのも事実だ。


あたしが本気で止めないのを確認してから、昴は再び口を開く。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板