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『邪気眼少女』 *Another Story*
157
:
心愛
:2013/08/15(木) 18:28:34 HOST:proxyag092.docomo.ne.jp
ふっと途絶えていた意識が浮上して、あたしは瞼を開けた。
立派な建物に着いたところで車から降りて、少し歩いたらすぐに背後から押さえつけられ、薬品を嗅がされて―――そこからの記憶が綺麗に抜け落ちている。
鈍った頭を叩き起こし、あたしは試しに後ろ手に縛られた手首を動かしてみた。
つるりとした太い紐。
その気になれば抜け出せるような緩い拘束に、完全に舐められてるなと少しありがたく思う。
どうやら相手は逃げられることより、暴れて傷でもつけられることの方を恐れているようだった。
背中や太股の下には柔らかな素材、上等なソファの感触。ここまでくると丁重すぎて笑えてくる。
普通こういうのって無造作に床に転がしたり、椅子に縛り付けたりするものじゃない?
まあ確かに、乱暴なことをして結野家の令嬢に万一のことがあったら、笑い事じゃ済まないからね。
次に首の位置を変えないまま慎重に辺りをぐるりと見回し、広い部屋に誰もいないことを確認する。
チャンスだ。
逃げる、ではなく、考え、状況を整理するための。
今逃げたって、せっかく大人しく誘拐されてあげた意味がないから。
壁や床は一目で高級と分かる代物だけど、家具の類がほとんど見当たらない。
何もなかった部屋に、あたしを座らせるためだけにソファを運び込んだような殺風景さだった。
人の気配が少ないから、普段は使っていない別荘か何かってとこかな。
視界の隅に、自分のバッグを見つける。
もしかしたらケータイは取り上げられているかもしれない。他のものを弄られてないといいんだけど。
それから、脱出経路。
最悪の場合は、何もかも諦めて自力でその局面を切り抜けなければならない。
あたしは窓の方を見やった。
カーテンがきっちりと閉められていて、ここが何階なのかも分からない。
かといって、配置されているだろう見張りを振り切って扉から逃走するのは、いくらあたしの足でも無理がある。
脱出は、ほぼ不可能。
……こんなとき、変に賢しいくせにか弱い女の肉体を持つ自分が嫌になるけど。
使える武器は全部使って、
―――やるしか、ない。
そのとき、ギィィ……と音を立てて、扉が開いた。
タイムアップか、とあたしは瞬時に思考を切り替える。
部屋の内側から鍵をかけ、こちらに歩み寄ってくる人物。
車に乗り込んだときから、本当はある程度予想はついていた。
でも、あたしは目を見開き、衝撃を受けたように取り乱す素振りを見せる。
「そんなっ、西條様……! どうして!」
相手は大の男だ。もしもあたしの言葉に激昂し、感情的になられたらあたしに為す術はない。
ここは様子を見るためにも、大人しく可憐で、あまりの恐怖に力なく震える哀れなお嬢様を演じきるべきだ。
「手荒な真似をして本当に申し訳ありません。傷はつきませんでしたか」
信じられない、という表情で絶句し、あたしはふらふらと立ち上がった。
「西條様が、こんな……。放して下さい! 家に知られたら、いくら西條様でもただで済むわけが……っ」
「分かっていらっしゃるでしょう? あなたのお家にに知られることはありませんよ」
もちろん、解ってる。
落ち着けるように「お掛け下さい」と言われ、あたしは弱々しく西條を睨みながらそれに従った。
「あなたの執事は、なかなかに情熱的な男のようですね」
スッと差し出されたのは、先ほど見せられたのと同じ、一枚の写真。
暗闇の中、燕尾服の男とドレスの娘が抱き合っている。
黒に塗り潰された画面の中でも、昴の特徴はしっかりと押さえられるようになっていた。
たとえ野外とはいえ、パーティー会場という目立つ場所で主人にこんなことをするなんて。
あたし個人を脅すチャンスを虎視眈々と狙っていた輩からしてみれば、格好の餌だ。
あの馬鹿執事、とあたしは胸中で彼を思い切り罵る。
……いや、あいつの所為だけではないか。
あたしがもっと早く動揺から立ち直って、あいつの暴走を止められていればこんな面倒なことにはならなかったのに。
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