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『邪気眼少女』 *Another Story*

148心愛:2013/08/12(月) 21:02:16 HOST:proxyag109.docomo.ne.jp





しかし、彼には申し訳ない話だけれど、一般人である圭様の存在は、家柄を重んじる結野家にとって大きなマイナス要素となる。

美羽様が圭様と結ばれると仮定すれば、お二人への風当たりも当然厳しいものになることは否めない。



「………」



いつの間にかお嬢様が話題をすり替えたらしく、息子の自慢話で盛り上がり始めた一同を視界に入れながら、私は酷く憂鬱な気分になった。




―――『美羽ちゃんがこんな汚い世界に関わらずに本当に好きな人と結ばれるためには、あたしが美羽ちゃんの分まで、ちょっとやそっとのことじゃ揺らがないくらい、絶対的な権力を持てばいいんだよ。
そうしたら、お父さんもお偉い方も、文句は言えないでしょう?』




美羽様が持ち込んだ“良くない話”をないことにするくらい、自分が誰からも祝福されるような、華々しい結婚をすればいい。
お嬢様にとって、結婚は利用するものだ。
身につけた手腕と伴侶の家名を以て圧倒的な地位に君臨していれば、どんな層から美羽様のことを反対されても力ずくで丸め込むことができる。

たとえこれから先、好きな人ができたとしても、お嬢様はその想いを自ら断ち切り、美羽様の為に平気な顔で恋心を犠牲にするだろう。


お嬢様はそういう方だ。
まだ多感な高校生の身にもかかわらず重い責任を進んで背負う覚悟を決め、涼やかな微笑みを振りまいている。


お嬢様にとって美羽様は安らぎの象徴で、圧力に押し潰されず自分を保ち、努力を続ける理由でもある。
しかし、この世界で唯一、何よりもお嬢様を追い詰める存在でもあるのだ。



私の胸の奥に秘めた、この想いが報われることはない。
だから、私はお嬢様との未来は望まない。望めるはずもない。


ただ、せめて―――



そこで、カツン、と磨き抜かれた大理石が鳴る音が聴覚を刺激し、しばし物思いに沈んでいた私は我に返った。




「やあ、美空さん。お久しぶりですね」




一目で上等だと分かるスーツを纏う紳士が微笑み、お嬢様に話しかけた。

お嬢様を取り囲んでいた方たちが遠慮がちに、僅かながら身を退く。
お嬢様の今までの話し相手と比べて格段に若い彼は、日本屈指の大財閥の当主を父親に持つ、



「西條様。本当にお久しぶりです」



「ええ。美空さんはお会いするたびに美しくなっていらっしゃる気がしますよ」



「西條様は相変わらずですね」



お嬢様が口元を隠して笑う。

西條様はそれから、自分が新しいホテルのオープンに携わっていることなどをお嬢様に話した。



「わぁ、素敵ですね。また伺うのが楽しみです」



「それなのですが」



西條様はお嬢様に、そのホテル内に出店するスイーツの店の試食会に来てほしいと熱心に誘いをかける。
若い女性の意見を聞きたいのだそうだ。

他の存在を無視し、いささか強引にお嬢様一人に話しかける西條様を邪険にできない周りの方々は一様に、どこか気に入らない表情をしている。
彼がお嬢様を特別な意味で、お気に召しているのは誰の目にも明らかで。


私は深いことは考えず、衝動的に歩き出した。



「……ご歓談のところ申し訳ございません、お嬢様。そろそろ」



「もう時間? ……すみません、そのお話はまたいつか」



相手の機嫌を損ねないよう細心の注意を払って、お嬢様は終始にこやかな笑顔を保っていた。


それを見て、自分の中に黒い感情が湧き上がるのを感じる。


……面白く、ない。


不愉快さを顔に出すことなく一礼し、私はお嬢様を連れて外へと向かった。



「どしたの昴、予定よりちょっとだけど早……うわっ」



言いながら危うく転びかけ、すぐさまサッと差し出した片腕でお嬢様の身体を抱き留める。
……私といるときには緊張が解ける、というのは喜ばしいことなのだけれど。



「ごめんごめん。……あ、もしかして心配しちゃった?」



お嬢様がくるりと回って私の顔を見上げ、小さく吹き出す。



「大丈夫だって、アレは信用してないから。この前の資料見たでしょ? いくら何でもあんなのと結婚する気はないよ」



つまらない嫉妬だと察した上での茶化すような言葉に、私の苛つきはますます募っていった。


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