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『邪気眼少女』 *Another Story*

169心愛:2013/08/19(月) 19:56:52 HOST:proxyag046.docomo.ne.jp






「―――お嬢様ッ!」




……嘘。



「昴……」



あたしはらしくもなく呆けてしまう。


だって、あまりにも早い。
予想を大幅に超えている。



でも、と口元に笑みが浮かんだ。



―――さすがは、あたしの執事だ。



はあ、はあと荒い呼吸。
全力疾走して来たのだろう、とめどなく滴る汗が燕尾服を濡らしている。

淡いブルーの瞳が、あたしと、覆い被さるような体勢のまま動きを止めた西條を映すなり激しい怒りに燃え上がった。




「……っの、野郎……!」




「昴!」



今にも感情に任せて西條に掴みかかりそうな昴に、あたしは鋭い声で怒鳴った。




「あたしは大丈夫だから、それ! 胸ポケットのレコーダー!」




西條がぎょっとした顔をする。

いくら怒りに我を忘れていても、従順な執事はすぐに命令通りの行動を示した。
西條を押さえつけ、すぐに指定通りのものを奪い取る。
小型録音機だ。

混乱に乗じて持ち逃げされたらたまらないからね、気をつけてチェックしておいて良かった。


がっくりとうなだれる西條に戦意がないのを確認すると、昴は次に、あたしの方に近づいてくる。
そして微妙に視線を逸らしながら、数個だけ外されたボタンを留めた。



「……いや、先にこっちをなんとかしてよ」



縛られた腕を揺らしてアピールすれば、難なくするりと拘束を解かれる。

録音機を受け取り、あたしはそれを自由になった片手で弄びながら立ち上がった。



さてさて、どう考えてもこっちが有利になった今、ここは一気に決めちゃいますかね。



「西條様。状況はお分かりですね?」



西條の名前を挙げ、あたしが置かれている状況を丁寧に説明して、それを西條が肯定したやり取りが録られているこのレコーダーは、こちらの手に渡った瞬間からあたしの武器となる。



「このことを広めたくなければ、お互いに、この件はなかったことにするのが賢明かと」



西條は黙り込んでいる。


それなら、とあたしは部屋の隅まで歩き、自分のバッグを手に取った。

その中から小さな紙の束を掴み、床に叩きつける。

散乱した写真を見て、西條がサッと青ざめた。


それぞれに相手の違う若い女性とホテルに入る場面や、とある企業との密談現場など、表沙汰にしたら明らかにまずいことになるシーンばかりが、西條の顔つきでばっちり写っている。




「今後妙な動きが見られるのであれば、こちらも併せて遠慮なく公表させて戴きますので、そのつもりで」




もはや顔面蒼白の西條に向けてあたしは優雅に微笑み、とどめの一言を言い放つ。




「―――私の執事の狼藉、大変申し訳ありませんでした。……ドアの修理代は、いつでも請求して下さいね?」


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