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『邪気眼少女』 *Another Story*

153心愛:2013/08/13(火) 19:30:55 HOST:proxyag060.docomo.ne.jp






「……あーあ、もっと良さげな人いないかなぁ。家はウチを凌ぐくらい力あって、そのくせ単純で利用しやすそうなさ」



過ちに気づけ。

あたしが選ぶ未来の男に、執事が嫉妬する権利なんかないんだって。

痛みを隠して微笑む、いつもの昴に戻ってよ。



それでも直接的なことは言わないあたり、あたしも大概性格悪いな、解ってたけど。と苦笑する。


そこで―――あたしを驚かせたのは、予想外に鋭く響く叫びだった。




「……お嬢様!」




え、と良く回るはずの思考が完全に停止した。


転んでもいないのに、突如伸びてきた腕に強く引き寄せられる。
胸に額が当たり、昴に抱きしめられていると自慢の脳が理解するのに、数秒は要した。


昴が切羽詰まった声で懇願してくる。




「お願いです……! お嬢様の決意を改めてほしいとは言いません。ですがせめて、あなたを幸せにできる人を選んで下さい……!」




押さえつける手に力を込められ、息が詰まった。




「私は、あなたの優しさのせいで、あなたが不幸になるのだけは耐えられない……っ」




きゅう、と心臓が縮むような心地がした。


優しい、って、誰が。なに、言ってんの?
優しいのはどっちだって話だよ。

昴は、あたしなんかのことを好きになってしまったばかりに、狡賢いお嬢様に振り回される可哀想な被害者じゃない。
なのに潔く身を退いて、あたしの幸福を願うような、


そこまで考えて、無性に泣きたくなった。
全身を包み込む温かさを感じ、瞼の裏に熱いものが滲みそうになる。

こんな無様な姿じゃ、普通の女の子と変わらない。



昴はさらに続けようとする。




「なぜなら私は、誰よりもお嬢様のことを―――」




これ以上は、駄目だ。




「―――――っ!」




あたしは昴を、持てる力のすべてを出して思い切り突き飛ばした。

昴はよろけて反射的に体勢を立て直し、次いで、己のしでかしたことの重大さにやっと気づいたようで、はっと息を呑み青ざめる。



「も、申し訳……っ」



「昴」



大丈夫、演技は得意だ。

舞い散る吹雪のように冷たい声にも、震えひとつない。




「今回だけは見逃す。後はないよ」




あたしは凍れる刃のような侮蔑の視線で、立ち尽くす昴を突き刺した。




「執事如きが、あたしの事情に口出ししないで」




……これで、あたしのことなんて嫌いになってくれたらいい。
そうしたら楽になれるのに。



昴に背中を向けて髪を翻し、急かすように歩き出しながら、あたしは切に願った。


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