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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第五章

1 ◆POYO/UwNZg:2019/09/24(火) 22:17:16
――「ブレイブ&モンスターズ!」とは?


遡ること二年前、某大手ゲーム会社からリリースされたスマートフォン向けソーシャルゲーム。
リリース直後から国内外で絶大な支持を集め、その人気は社会現象にまで発展した。

ゲーム内容は、位置情報によって現れる様々なモンスターを捕まえ、育成し、広大な世界を冒険する本格RPGの体を成しながら、
対人戦の要素も取り入れており、その駆け引きの奥深さなどは、まるで戦略ゲームのようだとも言われている。
プレイヤーは「スペルカード」や「ユニットカード」から構成される、20枚のデッキを互いに用意。
それらを自在に駆使して、パートナーモンスターをサポートしながら、熱いアクティブタイムバトルを制するのだ!

世界中に存在する、数多のライバル達と出会い、闘い、進化する――
それこそが、ブレイブ&モンスターズ! 通称「ブレモン」なのである!!


そして、あの日――それは虚構(ゲーム)から、真実(リアル)へと姿を変えた。


========================

ジャンル:スマホゲーム×異世界ファンタジー
コンセプト:スマホゲームの世界に転移して大冒険!
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール:マナーを守った上で可
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし

========================

2 ◆POYO/UwNZg:2019/09/24(火) 22:17:49
【キャラクターテンプレ】

名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:
種族:
職業:
性格:
特技:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:


【パートナーモンスター】

ニックネーム:
モンスター名:
特技・能力:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:


【使用デッキ】

合計20枚のカードによって構成される。
「スペルカード」は、使用すると魔法効果を発動。
「ユニットカード」は、使用すると武器や障害物などのオブジェクトを召喚する。

カードは一度使用すると秘められた魔力を失い、再び使うためには丸一日の魔力充填期間を必要とする。
同名カードは、デッキに3枚まで入れることができる。

3崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/09/24(火) 22:18:54
『皆さま、大変お待たせ致しましタ。
 当魔法機関車は、間もなくアコライト外郭に到着致しまス。お手回りのお荷物など、お忘れにならないようお願い致しまス』

魔法機関車の客車の中で、車掌のボノがいつも通りに到着のアナウンスをする。
あまりに様々なことがありすぎた、キングヒルでの濃密な一日。
それから一夜が明けると、まだ早朝のうちから『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちは魔法機関車に乗り込み、王都を発った。
行先はアコライト外郭。現在、アルメリア王国とニヴルヘイムの戦いの最前線となっている場所だ。
ここで長い間兵の指揮を執り、たったひとりでニヴルヘイムの大軍と戦っている『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を援護する。
それが、今回バロールから言い渡されたミッションである。

《はいは〜い。うちやで〜。
 これからナビとしてみんなのバックアップをさせてもらうさかい、改めてよろしゅうなぁ。
 UI周りはおいおいアップデートしてくつもりやけど、最初のうちは慣らしちゅうことで不具合御免やね〜》

客車の壁面の一部がパッと切り替わり、窓くらいの大きさの画面にみのりのバストアップが大写しになる。
このアコライト外郭防衛クエストからは、みのりがキングヒルから『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の支援をするのだ。
なお、バロールは別の仕事があって同席できないという。早くもみのりに丸投げしている格好だ。
しかし、同じ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』であるみのりがナビゲートした方が心強いし、安心できるだろう。

《ほな、到着前にもういっぺん説明すんで〜。
 アコライト外郭は、現在アルフヘイムとニヴルヘイムの激突しとる最前線やね。
 みんなも知っての通り、ゲームだと『聖灰』のマルグリットはんと最初に出会うイベントで有名な場所や。
 ま……終盤でバロールはんと三魔将のひとり・幻魔将軍ガザーヴァが綺麗さっぱり消し去ってまうんやけどなぁ》

バロールがその場にいたら『ぐはぁ!?』と仰け反って苦しんだに違いない皮肉をさらりと交えながら、みのりが説明する。
アコライト外郭はキングヒル防衛の要。ここを突破されると、王都は丸裸になってしまう。まさに最重要防御拠点だ。
ゲームのストーリーモードでは、漆黒の鎧を纏い闇の天馬ダークユニサスに跨った幻魔将軍ガザーヴァがボスを務める。
ブレモンでも屈指のトリックスター、軽妙な喋りとボケ・セルフツッコミで敵も味方も煙に巻く幻魔将軍との決着の場でもある。

《もう連絡途絶えてえらい経つけど、最後に生存確認したときの外郭側の戦力は300、二ヴルヘイム側の兵力は目算で約6000。
 こっちの兵士は体力的に限界で、兵糧も尽き掛けてる。持ってあと一週間ってとこやって》

しかし、それももうだいぶ前の話だ。
キングヒルも今回以前に幾度か兵士や兵糧、物資の支援を行っているが、これ以上兵力を外郭に回すと王都の防備が手薄になる。
王都防衛の観点からこれ以上の支援はできず、今はただ手をこまねいているしかなかった。
今回やっと『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を派遣し戦力を補充することができるが、外郭が現状どうなっているかはわからない。
陥落していないことから全滅は免れているだろうが、危機的状況には変わりないだろう――というのが王都の見解だった。
ならば、一刻も早く参戦して援護しなければならない。

「アコライト外郭……か……」

客車の長椅子に腰掛けながら、なゆたは呟いた。
これからなゆたたちを待ち受ける戦いは、言うまでもなく過酷なものだろう。きっと、無傷ではいられない。
だが――そんな戦いへの不安と同じくらい、なゆたの心を占めるもの。
それは、アコライト城郭を守る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の存在だった。
キングヒルを守る堅固な外壁として建築された、長大な城塞――アコライト外郭。
難攻不落の要害ではあるが、城壁だけでは敵を食い止めることはできない。兵士はもとより、何より指揮官が有能でなくては。
自軍の20倍もの圧倒的戦力差。それを長い間埋めるとは、外郭にいる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は只者ではない。
その強力な『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と、早く会ってみたい――
そんな気持ちが、なゆたを逸らせる。

《バロールはんが城郭に救援の一報を入れといたさかい、魔法機関車は攻撃されんはずや。
 到着したら、まず『異邦の魔物使い(ブレイブ)』とコンタクトを取ってや〜?
 そうそう、みんなのスマホのインベントリに入れた支援物資は、到着したら兵士に分けたってえな〜。
 美味しい食べ物とぬくい毛布さえあれば、疲れもだいぶ回復するもんやからねぇ》
 
疲弊しきった心と身体を癒すのは、温かな食べ物と清潔な寝具。これにつきる。
それは、自衛隊活動の一環として地球で被災地へ救援に行ったこともあるジョンが誰よりもよく分かっているだろう。

《無事『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と面通しできたら、うちに連絡してなぁ。
 みんなのスマホにうちとの連絡手段は入っとるやろ? こっちはいつでも回線を開いて待ってるさかい、よろしゅうに〜。
 ほなら……みんな、あんじょうおきばりやす〜》
 
にこやかに笑うと、みのりは一旦通信を切った。
みのりの言ったとおり、パーティー全員のスマホにはみのりと連絡を取り合うアプリが入っている。
これで、いつでもキングヒルとは通信ができる状態だ。

「よし……! みんな、いくよ!」

前方に、長々とその身を横たえる城塞が見えてくる。その巨大な壁一枚の向こう側は、血で血を洗う激戦地だ。
椅子から立ち上がると、なゆたは右拳を握りしめて仲間たちをぐるりと見回した。

「必ずこの戦いに勝ち残るんだ! レッツ・ブレーイブッ!!」

大きく右腕を天に突き出し、気合を入れる。
やがて魔法機関車が外郭の脇に停車すると、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちはアコライト外郭の内部へと乗り込んだ。

4崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/09/24(火) 22:19:16
古今東西、籠城戦というものは酸鼻を極めたものになりがちである。
孤立無援で増援も物資の供給も断たれ、それでも持ち場を死守して戦わなければならない。
食糧は枯渇し、雑草をむしって食べる者、軍馬を殺して食べる者もいる。――いや、それならばまだマシな方だ。
中には進退窮まり、死んだ仲間の亡骸を貪ったり土を食べる者まで出始める。
激戦で埋葬する手が足りず、戦死者の亡骸がその場に放置されるということも珍しくない。
そんなとき、何が起こるかと言えば――死体の腐敗による疫病の発生だ。
不潔な環境は爆発的に伝播してゆき、生きている者たちは敵の他に死んだ仲間にも苦しめられる羽目になる。
日々精神的に追い詰められ、極限状態で死に瀕してゆくことを自覚することの恐怖もまた、筆舌に尽くしがたい。
中には、恐怖のあまり精神に異常をきたす者もいるくらいだ。
まさにこの世の地獄。そして、そんな籠城戦の最後はたいてい餓死か、敵も道連れの玉砕と決まっている。
アコライト外郭からの定期連絡はすでに途絶えて久しく、誰も内部の様子を知る者はない。
だが、その状況が決して楽観視できないものということだけは、容易に想像がつく。
歴史が示す通り、きっとこの城郭の中も埋葬されない屍があちこちに横たわり、汚泥の散らばる惨憺たる有様なのだろう――

と、思ったが。

「……はれ?」

仲間たちと一緒にアコライト外郭内に入ったなゆたは、思わず目を丸くした。
そう。
てっきり、城郭の中は酷い有様になっていると思っていた。亡骸のひとつやふたつ、いや十や二十はあると覚悟していた。
城郭に入ったらすぐさまインベントリの限界まで持ってきた物資を放出し、ひとりでも多くの人を救わなければ……と。
そう思っていたのだが。

「なんか、キレイ……」

なゆたは小さく呟いた。
片付いている。
むろん、戦場である。相応に破壊の跡や補修の形跡はあるものの、予想よりも遥かに状態がいい。
まるで、地球の有名な戦跡のような。観光地のような片付きっぷりである。
いや。このアコライト城郭の異様さは、そんなところにあるのではない。

『デコられている』。

無骨な城壁のあちこちに、大小さまざまな羊皮紙に描かれた似顔絵がずらりと貼られている。
一瞬、賞金首を捜索するための人相書きかと思ったが、違う。
ポップな書体で『MAHORO YUMEMI Absolutely Live in ACOLITE!!』と書いてある、その羊皮紙は――

「……ポスターだ」

そう。
これは賞金首の人相書きなどではない、紛れもないイベント告知のポスター。
そして、そのポスターにでかでかと描かれた、『キラッ☆彡』とばかりに茶目っ気たっぷりにポーズを決める人物は――。

「おぉ〜っ! お待ちしておりました!」

呆気に取られてポスターを見ていると、不意に背後で声がした。
振り返ってみると、ひとりの男が立っている。
見知らぬ顔だ。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』パーティーでない。とすればこのアコライト外郭の兵士なのだろう。
……たぶん。

「え……えーと……」

男のいでたちを見て、なゆたは口元を引き攣らせた。
簡素な兜とチェインメイルを着込んでいる辺り、兵士であろうとは思う……が、それ以外の付属品が常軌を逸している。
額には『マホロ命』と書かれたハチマキを巻き、リングアーマーの上に蛍光ピンクの法被を羽織っている。
手に持っているのは剣や盾ではなく、ただの棒である。――いや、ただの……ではない。光っている。
そう。

どこからどう見ても、男はオタクだった。

5崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/09/24(火) 22:19:43
「いやいや! いやいやいや! 貴公らが王都からの増援でござるかァ〜! お待ち申し上げておりましたぞォ〜デュフフフ!」

男は満面の笑みを湛え、やけに馴れ馴れしく『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に近付いてきた。

「よォ〜こそ! よォ〜こそ! アコライト外郭へ!
 いや、貴公らは実に! 実に運がいい! 今、ちょうど午後のライヴの真っ最中でござる!
 ささ、こちらへ! 貴公らも我らの女神! いやさ戦乙女のライヴあーんど生配信を観て、萌え萌えキュンキュンするでござる!
 デュフッ! デュフフフフ……!」

「え、えっ? ちょっ、ライヴって……!
 あたしたちは戦いに来たのであって、そんなのを観に来たわけじゃ……!
 ここの責任者の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はどこですかーっ!?」
 
「デュフッ! 戦い? そんなのあとあと! まずはライヴに参加しなくてどうするんでござるか!
 皆の者! お客人を会場まで運んで差し上げるでござる!」

「「「「「「「「御意!!!!」」」」」」」

どこから湧いて出たのか、いつのまにか何人もの兵士たちに囲まれている。
その兵士たちも最初の兵士同様ハチマキを巻き、法被を着込んでいる。城郭防衛隊の制服かとも思ったが、明らかに違う。
法被の背中には『MAHORO LOVE』と大書されている。意味が分からない。
なゆた、明神、エンバース、カザハ、ジョンの5人は瞬く間に城郭の内部へと運ばれていった。

「……ここは……」

到着したのは、城塞の中庭に続く扉の前だった。このアコライト外郭の中でも、もっとも堅固な場所である。
扉の中から、歌声が聞こえてくる。
それは、どこかで聴いたことのある歌声だった。

「ささ、存分にお楽しみくだされー! 我らの戦乙女、マホロたんのアブソリュートリィ☆ライヴを!」

兵士が観音開きの大きな扉を開く。
その途端、なゆたたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の視界に飛び込んできたのは――
中庭に設けられたステージの上で、煌めくライトに照らされながら歌うひとりの少女の姿だった。

「み――――ん――――な――――! 盛り上がってるっ! かぁ―――――――――いっ!!!」

眩しいほどの光の海。耳をつんざくような、アップテンポのメロディ。
地震かと思うほどに地面が激しく揺れているのは、ステージに集まったファンたちの鳴らす足踏みのせいだ。
中庭を埋め尽くす聴衆の前で、なゆたと同じくらいの年齢と思しき少女が踊り歌っている。
ほとんど足元まである長い金色の髪をツインテールに纏め、ヘッドセットと戦乙女の鎧一式を装備した、凛とした姿。
垂れ目がちな碧眼とキラキラした笑顔は、まさしく掛け値なしの美少女と言っていい。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――――――――!!!」

「マ! ホ! ロ! マ! ホ! ロ! マ! ホ! ロ! マ! ホ! ロぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい!」

「マホた――――――ん!!! 結婚してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

ファンたちが怒涛のような歓声をあげる。中にはキレッキレのオタ芸を披露している者までいる。
そう――これは、間違いなくライヴだった。そして――
なゆたは、ステージに立つ少女のことを知っていた。

「……ユメミ……マホロ……」

呆然とした様子で呟く。


ユメミマホロ。


ブレモン配信の第一人者と言われ、地球では圧倒的人気を博しているVtuberであった。

6崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/09/24(火) 22:19:57
動画視聴者に『ブレイブ&モンスターズ!』の配信者で一番有名なのは誰か? という質問をした場合――
10人中10人がユメミマホロと答えるだろう。
ユメミマホロはブレモンのモンスター『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』をアバターとするVtuberである。
ブレモンの膨大なデータを独自に研究し、日々新しいコンボや戦術を提案してはそれを配信している。
外見が可愛いのは当然だが、その喋りも楽しい上に分かりやすく、決してマニアックな技術の披露だけに留まらない。
ブレモンのみならずアニメ、時事ネタ、レゲーから最新ハードの話題まで広範な知識を有し、その視聴者数は他の追随を許さない。
もちろん、ただ喋るだけではない。デュエルにおいても相当の強豪である。
ユメミマホロのアバター『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』は高レアでステータスも高い。
光属性のデッキはアンデッド、魔族、吸血鬼等にめっぽう強く、イベントでも引っ張りだこだ。
最近は声の良さを買われ、バーチャルライヴまで開催するほどの売れっ子ぶりである。
なゆたとはまったく別のアプローチでの、ブレモン界隈の寵児と言えよう。
そのバーチャルアイドル・ユメミマホロが、この場にいる。

「まさか……ユメミマホロがアコライト外郭を守る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だっていうの……?」

地球にいたときは、なゆたもユメミマホロの配信をよく視聴していた。
きっと明神も、エンバースもよく知っているだろう。
番組の中でぽよぽよ☆カーニバルコンボを取り上げられたこともある。『スゴいけど強いづらい』と評価はいまいちだったが。
しかし、アコライト外郭の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がユメミマホロだというのなら納得である。
彼女ほどの腕があれば、生半な相手に押し負けることはないだろう。

「じゃあ、次の曲! いっくよ―――――――――――――っ!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」

ステージは大盛り上がりだ。ここだけ見ていると、地球にいた頃のユメミマホロのライヴ配信と何も変わらない。
プログラムは流れるように次の曲へと移行した。地球で聴いたことのある、彼女の代表曲とも言うべき歌だった。

「……なんか……全然予想と違うね……」

傍らにいる明神に、ぎこちなく笑いながら言う。
てっきり、外郭の中は死と腐敗と絶望の渦巻く極限の世界だと思っていたのだが。
実際に見る外郭は死や絶望とはまったく無縁だった。どころか、漲るパワーに満ち溢れている。
それはきっと、ユメミマホロのお陰なのだろう。
Vtuberのトップアイドルとしてのカリスマが圧倒的不利にある兵士たちを結束させ、ひとつに纏めているのだ。
……纏めすぎてちょっと目も当てられないことになっているが、それはとりあえず不問としておく。

《はぇ〜、ほんなことになっとったんやねぇ。わからんもんやわぁ〜。
 ま、とにかく城塞の中の人たちの士気がまだまだ高いんなら安心やねぇ。
 うちは配信とか観たことあらへんから、そのマホロちゃんはよう知らへんのやけど……。
 詳しく事情を聞いて、敵さんを撃退する方法を考えなあかんねぇ》

「はい。……とりあえず、ライヴが終わってから彼女にコンタクトを取ろうと思います。
 彼女ひとりなら、食い止めるのが精一杯でも……『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がこれだけいれば、きっと勝てるはず!」

《ほうやねぇ。まずまず、最悪の状況は回避できたことやし。
 次は敵さんの指揮官とか、軍の編成とか。なゆちゃん、その辺詳しく訊いといてぇな?
 情報が多ければ多いほど、うちもこっちで対策立てやすくなるしなぁ》

「了解です!」

スマホでみのりと交信してから、またステージの方を見遣る。
結局、なゆたたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はその後40分、たっぷりユメミマホロのライヴを観た。

7崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/09/24(火) 22:20:12
「はいどうもぉ〜! というわけで、ユメミマホロなんですけれども。
 今日はな、なんと! この生配信に特別ゲストが来てくださってまぁ〜す! ご紹介しましょう!
 地球からいらした『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の皆さんで〜す! はい拍手拍手〜!」

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

「マホたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」 

「神増援キタ――――――――――――――――!!!」

ライヴ終了後、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちは放送スタジオと書かれた部屋でユメミマホロと接触した。
ユメミマホロは快く応じてくれたが、やっぱり根っからのVtuberである。ライヴは終わっても生配信は続いているらしい。
どこに対して配信しているのかは不明だが。いや、そもそも本当に配信しているのかも不明だが。
兵士たちがガラス越しにサイリウムを振って熱い声援を送る中、なゆたが口元を引き攣らせる。

「ささ、皆さん自己紹介をお願いします!」

「え……ええと、わたしはモンデンキントって言います……。
 アコライト外郭が孤立無援で絶体絶命って聞いて、その援軍に……」

「うは! モンデンキントさん! 初めまして〜! ひょっとして、モンデンキントさんってあの『月子先生』です?
 スライムマスターの!」

「……あ、はい……その、一応……」

「お噂はかねがね! みんな―――――――――!! あのモンデンキントさんが増援に来てくれたよ――――――――!!
 っていうか月子先生、JKだったんですかぁ! これは意外! あたしてっきりもっとお年を召していらっしゃるかと!
 ヒュー! これはあたしとデュオっちゃうしかない的な!? 新ユニット誕生みたいな! 盛り上がってきた―――――!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「マホたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

「はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい!」

「よく見たら、あのテレビでおなじみイケメン自衛官! ジョンさんまでいらっしゃるじゃないですかやった―――――!!
 イケメンマッチョとかぶっちゃけどストライクです! あとでサインくださいキャ―――――☆彡
 あとはキャワイイシルヴェストルちゃんと、フロム臭半端ない狩人さんと、あと……なろう系主人公っぽいお兄さんでーす!」

テンションが異常に高い。なゆたは眩暈を覚えた。

「おっと、ついつい久しぶりのゲストってことでテンションが……いけないいけない、フフ……。
 それはともかく、援護に来てくれたのは心強いですね! ありがとうございます! これで勝つる!」

ぐっ! と拳を握り込むユメミマホロである。

「えと……。ユメミマホロさんは――」

「マホたんでいいですよ〜! あたしと月子先生の仲じゃないですかぁ!」
 
気安い。なゆたは絶句した。

「えぇ〜……。マ、マホたんは、今までどうやってニヴルヘイムの大軍に抵抗してたんですか?
 わたしたち、アコライト外郭は明日をも知れない状態って聞いてきたんですけど、全然違うし……。
 籠城って言うと普通は食べ物だって満足に食べられないだろうし、医療器具も……」

「え。別に?」

「え」

あっけらかんと返され、なゆたは間の抜けた声を出してしまった。

「食糧については心配なかったですよ〜?
 敵がね〜。ワニとかトカゲとか、そういう爬虫類系なんですよね〜。それ捕って食べてましたし。
 え〜と、『ムシャクシャしたんでバジリスクをムシャムシャしてみた』とか。
 『ヒュドラで燻製肉作ってみた』とか。いくつか配信もしましたよ。
 あんまり登録者数稼げませんでしたけどね〜。
 他にも『暇だからサバイバル生活してみた』とか『孤立無援だから籠城してみた』とか。ネタには事欠かなかったですね!」

「逞しすぎる……」

色々予想外すぎる事態に、なゆたはただ唖然とするしかなかった。

8崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/09/24(火) 22:20:24
「まっ! とにかく、ようこそいらっしゃいました! 歓迎しますよ〜。
 今日は大した襲撃もないと思いますし、何もないところですけどゆっくりしてって下さい。
 明日から劣勢を挽回する作戦を考えていきましょう!」

「はい! よろしくお願いします、マホたん!
 あ、ところで――」

ひとつ、気になっていたことを口にする。

「マホたんのマスター。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はどこにいるんですか? 中の人っていうか――」

今なゆたたちの目の前で会話しているのは、モンスター『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』だ。
ブレモンは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』とパートナーモンスターで一組である。
であれば、当然ユメミマホロの近くにはマスターである『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がいるはずである。
だが、少なくとも周囲にそれらしき姿は見えない。
なゆたがきょろきょろと周囲を見回すと同時、マホロが凄い勢いで詰め寄ってくる。
美少女ヴァーチャルアイドルはなゆたの胸倉を一瞬掴むと、

「……中の人などいない」

と、やたらドスの利いた声でぼそ、と呟いた。

「あっ、ハイ……」

触れてはいけないところに触れてしまったらしい。なゆたはドン引きした。
筋金入りのVtuberだけに、中の人の存在に言及するのはタブーということなのだろう。
甚だやりづらいが、それでも『異邦の魔物使い(ブレイブ)』とモンスターの連携は取れているようだし、戦うのに問題はない。
それなら黙っておこう……となゆたは心の中で誓った。
パッと手を離すと、マホロは元の朗らかな表情に戻った。くるりと踵を返し、部屋から出ていこうとする。

「宿泊する部屋の用意ができるまで、城塞の中を案内しますよ。
 と言っても、みんなはもうゲームで間取りについては把握してるかもだけど……。
 何か質問があれば、遠慮なく訊いちゃってください。知ってる情報は全部教えます、ホウレンソウは大事!
 ……あたしもみんなにアコライトで戦うにあたっての『ルール』を説明しておかなくちゃだし」

「ルール?」

「うん。……といっても、難しいことは全然ないですけどね〜。
 ただし、それを守れないと死にます。間違いなく死ぬ。だから、みんなも気を付けて!」

突然物騒な話になった。
どうやら、ユメミマホロを指揮官とする城郭防衛隊はそのルールを厳守してきたために、今まで生き残ってきたということらしい。

「じゃ、城壁の上にあがりましょうか。そこからだと全体が見やすいし……敵の姿も見えるから」

マホロが背中越しに右手の親指で城壁を指す。
側防塔内部にある螺旋階段をのぼり、20メートルほど上の城壁上部の歩廊に行くと、アコライト外郭の内外がよく見渡せた。
背後に目をやると、うっすらと王都キングヒルの白亜の尖塔が見える。
そして、前方には――
城壁前に蝟集する、無数のバジリスクやヒュドラ、コカトリス、巨大なワニやトカゲなどの爬虫類型魔物たちの姿があった。
その数はほとんど地平線を埋め尽くしている。ざっと見ただけでも6000などという当初の情報を遥かに凌駕していた。
このモンスターがすべて、二ヴルヘイムの尖兵――。
絶望的というしかない彼我の兵力差に、なゆたはぞっとした。
だが、マホロは眼下に群がる魔物たちを見慣れているのか、顔色ひとつ変えない。

「大丈夫ですよー。数だけは多いけど、空を飛んだり壁をよじ登ってこられるようなモンスターはいないし。
 空も飛べないからね。『今のところは』無害。もちろん真正面から戦うとなったら結構強いし、あたしでも結構てこずるけど。
 こっちから手を出しさえしなければ、ね」

「そうなんですか……。それにしても、これだけの数のモンスターを操るなんて……。
 敵の指揮官はどんな相手なんですか? やっぱり、ニヴルヘイムの三魔将の誰かだったり……?」

「んー。そういうんじゃないかなー。知ってる人は知ってると思うけど」

「知ってる人は知ってる……?」

「煌 帝龍(ファン デイロン)って知ってる?」

「!!」

煌 帝龍。

その名を聞いて、なゆたは思わず身体をこわばらせた。

9崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/09/24(火) 22:20:43
ブレイブ&モンスターズ! は、年に一度大規模な世界大会を開催する。
基本的にトーナメント形式で、まずそれぞれの国ごとにプレ大会が開催され、各国の優勝者が本大会へと進む。
煌帝龍はその世界大会の中国代表である。つまり、中国で最強のブレモンプレイヤーということだ。
しかし、この人物についてはそのデュエルの腕よりも黒い噂の方が知られている。

「まぁ、知ってるかー。でーすーよーねー。
 実はあたし、こっちに来る以前に一度トークイベントで会ってるんだけど……まさか異世界で敵同士になるなんてね」

なゆたの反応に、マホロが右手をひらひら振って笑う。
煌は中国の巨大コングロマリット、帝龍有限公司の若きCEOとして君臨している。
中国において帝龍の展開するIT産業、ならびにエネルギー事業の規模は他に比肩しうる者がない。まさに一強多弱だ。
そして、煌帝龍はそんな自社の潤沢にも程がある財力を遺憾なくブレモンに費やしているというのだ。
そのやり口は強引そのもの。欲しいものを手に入れるためなら手段を選ばない。
眉唾ものの噂では、中国黒社会で暗然たる影響力を持っている犯罪組織『龍頭(ドラゴンヘッド)』とも繋がりがあるという。
いうなれば、企業レベルの金銭感覚でブレモンに傾倒している人物――ということになる。

「そんなのが、ニヴルヘイムの召喚した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』……!」

なゆたたちアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と敵対する、ニヴルヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
それが、このアコライト城郭防衛戦の敵将。
自分たちが戦い、打倒しなければならない相手――。
なゆたたちはかつて、リバティウムにおいて世界大会優勝者ミハエル・シュヴァルツァーを撃退している。
世界大会で煌はミハエルに敗退しているが、だからといって煌がミハエルより劣る相手だということにはならない。
ブレモンは戦略、戦術の素養の他、知識や分析能力、勝負度胸など、あらゆる要素が複雑に勝敗に絡んでくる。
そして、それぞれのプレイヤーには得意とする戦い方があり、それは決して楽観視していいものではない。
状況によっては、ミハエルよりも煌の方が相手にしづらい――という可能性さえある。
いずれにしても気を引き締めていかなければならないということだ。

「みんな知ってることだけど、ソシャゲはお金がそのまま力になる……。そういう点では、帝龍の資金力は無尽蔵。
 この大地を埋め尽くすような数のモンスターも、買いあさったクリスタルにものを言わせてると思う。
 純粋なマネーパワーでは、あたしたちに勝ち目はまったくないかな」

は、とマホロは溜息をつき、肩を竦めた。
といって勝機のない籠城戦に絶望しているような素振りはない。どころか、ライヴで兵士たちを鼓舞していたくらいだ。
まだまだやる気、意気軒高という様子である。
これほどの圧倒的戦力差を見せられて、なぜいまだにマホロが意気阻喪していないのか、それが不思議である。

「……それじゃあ――」

「あたしはね。キミたちを待ってたんだよ」

「……わたしたちを?」

「そう。あたしひとりじゃどうにもならなかった。城壁防衛隊のみんなが絶望しないようにライヴをして、鼓舞して――
 現状維持をすることしかできなかった。
 でも、今はもう違う。キミたちが来てくれた……新しい『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が。
 それなら勝てる。絶対に勝てる! さあ――ここから、みんなで絶対的不利の盤面をひっくり返そう!」
 
ネットの海でブレモン配信の第一人者と呼ばれたヴァーチャル・アイドルが、そう言ってにっこりと笑う。
正真、マホロは今までずっと待っていたのだろう。この劣勢を覆せる仲間の到来を。
たったひとりで巨大な城塞のすべてに目を配り、人員を配置し、襲撃に備え。
兵士たちの負傷を癒し、歌と踊りで恐怖心や不安感を取り除き、こんな状況なんて何でもないと励まし続けた。
いつ来るともしれない仲間たちをあてもなく待ち続ける、自らの心細さや苦悩など、おくびにも出さずに――。
そして、そんなマホロの努力は実を結んだ。

なゆたたちの訪れを信じ続けたマホロの想いを無碍にはできない。
たとえ相手がどんな大軍であろうと、潤沢な資金にものを言わせてスペルカードやレアモンスターを用意したとしても。
必ず、勝たなければならない。

「ええ! 絶対勝ちましょ、みんなで!」

なゆたはマホロと固い握手を交わした。
かくして、アコライト外郭の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』・ユメミマホロと共に、防衛戦は幕を開けたのである。


【アコライト外郭のVtuber、ユメミマホロと合流。
 ニヴルヘイム軍の首魁が中国代表・煌帝龍と判明。パートナーモンスターやデッキについては不明。
 アコライト外郭防衛戦開始。】

10カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/09/27(金) 23:41:24
早朝に魔法機関車に乗り込み、アコライト外郭に向かった私達。
カザハははじめて電車が開通した時の明治時代の人よろしく「魔法機関車パネェ!」と騒いでいた。

>『皆さま、大変お待たせ致しましタ。
 当魔法機関車は、間もなくアコライト外郭に到着致しまス。お手回りのお荷物など、お忘れにならないようお願い致しまス』

「もう着くの? 魔法機関車はっや!」

>《ほな、到着前にもういっぺん説明すんで〜。
 アコライト外郭は、現在アルフヘイムとニヴルヘイムの激突しとる最前線やね。
 みんなも知っての通り、ゲームだと『聖灰』のマルグリットはんと最初に出会うイベントで有名な場所や。
 ま……終盤でバロールはんと三魔将のひとり・幻魔将軍ガザーヴァが綺麗さっぱり消し去ってまうんやけどなぁ》

幻魔将軍ガザーヴァは三魔将の一人だけあって攻略本でもそれなりの幅をとって解説されている。
漆黒の鎧を纏い闇の天魔を駆るという厨二病患者が大喜びしそうなビジュアルだ。
が、何故かページの隅に迷言集というコーナーが設けられており、
”我こそは魔王直属イワシ将のひとり……って弱そうだな!?”
“貴様らはこいつを日焼けしたユニサスだと思っているだろうが実は違う”
といった感じの台詞が並んでいる。

「この人絶対黙っといた方が格好いいタイプだ……!」

《間違いない……!》

今のところこのパーティーにデフォで飛行できるモンスターは私しかいない。
ゲームのストーリーモードではここのボスとして出て来るらしく、もし出てこられたら否応なく迎撃の要となってしまいそうだ。
とはいえ、この旅はすでにゲームとは全く違う展開に進んでいる。おそらくここで出て来る可能性は低いだろう。

>「よし……! みんな、いくよ!」
>「必ずこの戦いに勝ち残るんだ! レッツ・ブレーイブッ!!」

「レッツ・ブレーイブッ!! ほらほら、明神さんもエンバースさんもやる!」

リーダー自ら考案したキャッチコピーと共に右腕を天に突き出す。
魔法機関車を降り、なゆたちゃん達に続いて歩き出そうとしたカザハがふと足を止める。

《どうしたんですか?》

「この場所、知ってる……」

《”以前”来たことがあるのかもしれませんね……》

昨晩の明神さんの「お前さ、ホントはいくつなの」という質問に対し、
カザハは本当のところは分からないけど地球での享年は自分は明神さんより少し年上で私は彼と大体同じぐらいと答えていた。
“少し年上”も”大体同じ”も結構幅がある表現だがまあ嘘ではない。しかしそれは飽くまでも地球での享年の話だ。
バロールさんは転生というより混線と言っていたし、本当は地球での享年なんて意味が無いのかもしれない。
カザハは暫し心ここにあらずといった様子で外郭を眺めていたが、すぐに我に返って駆け足で皆に追いついた。
ついにアコライト外郭に突入する。一歩踏み込めば屍累々の戦場が広がっている……と思いきや。

11カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/09/27(金) 23:42:03
>「……はれ?」
>「なんか、キレイ……」

「綺麗ってかこのポスター、アイドルみたいな人がキラッとしてるよ!?」

>「おぉ〜っ! お待ちしておりました!」

地獄絵図を覚悟して突入したところ予想外の光景で逆に戸惑っている一行を、
変わった装飾品を装備した兵士らしき者が出迎えた。

>「いやいや! いやいやいや! 貴公らが王都からの増援でござるかァ〜! お待ち申し上げておりましたぞォ〜デュフフフ!」
>「よォ〜こそ! よォ〜こそ! アコライト外郭へ!
 いや、貴公らは実に! 実に運がいい! 今、ちょうど午後のライヴの真っ最中でござる!
 ささ、こちらへ! 貴公らも我らの女神! いやさ戦乙女のライヴあーんど生配信を観て、萌え萌えキュンキュンするでござる!
 デュフッ! デュフフフフ……!」

「この世界にもオタクっているんだ……!」

>「え、えっ? ちょっ、ライヴって……!
 あたしたちは戦いに来たのであって、そんなのを観に来たわけじゃ……!
 ここの責任者の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はどこですかーっ!?」 
>「デュフッ! 戦い? そんなのあとあと! まずはライヴに参加しなくてどうするんでござるか!
 皆の者! お客人を会場まで運んで差し上げるでござる!」
>「「「「「「「「御意!!!!」」」」」」」

いつの間にか現れた大勢の兵士もといオタクに取り囲まれ、よく分からない間にライブ会場に運ばれた。
チーム陽キャのなゆたちゃんですら若干ついていきかねているこの状況、エンバースさんなどはHPをガリガリ削られてないか心配である。
一方のカザハはというと――すっかりオタク達に混ざって盛り上がっていた。
どうせライブを見る以外の選択肢がないのなら盛り上がってしまえということだろう。

「マホロちゃんかわい―――い!!」

これは別に異世界転生デビューしていなくても地球にいた時からそうである。
同類(オタク)に囲まれた時だけ陽キャと化す――オタクあるある性質のうちの一つだ。

>「……なんか……全然予想と違うね……」
>《はぇ〜、ほんなことになっとったんやねぇ。わからんもんやわぁ〜。
 ま、とにかく城塞の中の人たちの士気がまだまだ高いんなら安心やねぇ。
 うちは配信とか観たことあらへんから、そのマホロちゃんはよう知らへんのやけど……。
 詳しく事情を聞いて、敵さんを撃退する方法を考えなあかんねぇ》
>「はい。……とりあえず、ライヴが終わってから彼女にコンタクトを取ろうと思います。
 彼女ひとりなら、食い止めるのが精一杯でも……『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がこれだけいれば、きっと勝てるはず!」
>《ほうやねぇ。まずまず、最悪の状況は回避できたことやし。
 次は敵さんの指揮官とか、軍の編成とか。なゆちゃん、その辺詳しく訊いといてぇな?
 情報が多ければ多いほど、うちもこっちで対策立てやすくなるしなぁ》
>「了解です!」

その後40分白熱のライブは続いた――
決して遊んでいるわけではなく、兵士達の士気を高揚させるためにやっているのだろう。
もしかしたら単に気分が盛り上がるというだけではなく、歌を媒介としたスキル的な何かなのかもしれない。
ライヴが終わったかと思うと、放送スタジオと書かれた部屋に招かれた。

12カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/09/27(金) 23:42:51
>「はいどうもぉ〜! というわけで、ユメミマホロなんですけれども。
 今日はな、なんと! この生配信に特別ゲストが来てくださってまぁ〜す! ご紹介しましょう!
 地球からいらした『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の皆さんで〜す! はい拍手拍手〜!」
>「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
>「マホたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」 
>「神増援キタ――――――――――――――――!!!」

「配信されちゃってる!? 生配信に出ちゃってる!?」

>「ささ、皆さん自己紹介をお願いします!」
>「え……ええと、わたしはモンデンキントって言います……。
 アコライト外郭が孤立無援で絶体絶命って聞いて、その援軍に……」

月子先生をも圧倒するユメミマホロ、強い……!

>「おっと、ついつい久しぶりのゲストってことでテンションが……いけないいけない、フフ……。
 それはともかく、援護に来てくれたのは心強いですね! ありがとうございます! これで勝つる!」

暫しユメミマホロとモンデンキントの対談のようになった。

>「まっ! とにかく、ようこそいらっしゃいました! 歓迎しますよ〜。
>「はい! よろしくお願いします、マホたん!
 あ、ところで――」
>「マホたんのマスター。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はどこにいるんですか? 中の人っていうか――」

人型の上にあまりにも自然に喋っているので忘れそうになるが、今目の前でユメミマホロとして喋っている人物は、『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』というモンスターらしい。
となれば、どこからか彼女を操る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が指示を出しているのだろう。

>「……中の人などいない」
>「あっ、ハイ……」

どうやらなゆたちゃんの質問は地雷だったようだ。
確かに兵士の士気の低下が要塞陥落に直結しかねないこの状況、中の人がおっさんだったりしたら目も当てられない。
カザハは私だけに聞こえるように「木を隠すなら森の中……」と呟いたのであった。
言われてみれば周囲にそれらしき人物が見当たらないとなれば、オタク軍団の中に紛れている可能性はあるかもしれない。
何はともあれ、中の人については深入りしない方がよさそうだ。

>「宿泊する部屋の用意ができるまで、城塞の中を案内しますよ。
 と言っても、みんなはもうゲームで間取りについては把握してるかもだけど……。
 何か質問があれば、遠慮なく訊いちゃってください。知ってる情報は全部教えます、ホウレンソウは大事!
 ……あたしもみんなにアコライトで戦うにあたっての『ルール』を説明しておかなくちゃだし」
>「ルール?」
>「うん。……といっても、難しいことは全然ないですけどね〜。
 ただし、それを守れないと死にます。間違いなく死ぬ。だから、みんなも気を付けて!」
>「じゃ、城壁の上にあがりましょうか。そこからだと全体が見やすいし……敵の姿も見えるから」

城壁の上に上がってみると、外郭前方は、地平線の果てまで爬虫類魔物で埋め尽くされていた。

13カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/09/27(金) 23:43:35
「おおう……」

>「大丈夫ですよー。数だけは多いけど、空を飛んだり壁をよじ登ってこられるようなモンスターはいないし。
 空も飛べないからね。『今のところは』無害。もちろん真正面から戦うとなったら結構強いし、あたしでも結構てこずるけど。
 こっちから手を出しさえしなければ、ね」

>「そうなんですか……。それにしても、これだけの数のモンスターを操るなんて……。
 敵の指揮官はどんな相手なんですか? やっぱり、ニヴルヘイムの三魔将の誰かだったり……?」
>「んー。そういうんじゃないかなー。知ってる人は知ってると思うけど」
>「知ってる人は知ってる……?」
>「煌 帝龍(ファン デイロン)って知ってる?」

カザハはすぐに攻略本の該当ページを探し当てた。

「中国代表の社長!? この世界は自動翻訳機能が付いてるみたいだけど語尾がアルになってたらどうしよう……!」

《どうもしませんよ!?》

>「みんな知ってることだけど、ソシャゲはお金がそのまま力になる……。そういう点では、帝龍の資金力は無尽蔵。
 この大地を埋め尽くすような数のモンスターも、買いあさったクリスタルにものを言わせてると思う。
 純粋なマネーパワーでは、あたしたちに勝ち目はまったくないかな」

「そんな……」

>「あたしはね。キミたちを待ってたんだよ」
>「……わたしたちを?」
>「そう。あたしひとりじゃどうにもならなかった。城壁防衛隊のみんなが絶望しないようにライヴをして、鼓舞して――
 現状維持をすることしかできなかった。
 でも、今はもう違う。キミたちが来てくれた……新しい『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が。
 それなら勝てる。絶対に勝てる! さあ――ここから、みんなで絶対的不利の盤面をひっくり返そう!」

>「ええ! 絶対勝ちましょ、みんなで!」

「マホたん……! 今まで一人でよく頑張った! スライムマスター月子先生が来たからにはもう大丈夫!」

なゆたちゃんとマホたんさんは固い握手をかわし、カザハはどさくさに紛れてマホたんさんに感極まって抱き付く。
セクハラ勃発だが、よく考えると両方ともモンスターだしまあいいか。

こうして作戦会議が始まった。
相手の狙いは、モブ魔物の大群で消耗させて戦わずにして勝つといったところだろう。
いくらマホたんさんの加護があるといっても、このままではいつか力尽きる時がくる。
そうなる前にこちらから打って出なければならない。

14カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/09/27(金) 23:44:10
「爬虫類魔物を地道に倒してもラチがあきそうにないし指揮官を倒すしかないよね。
カケルに2人ぐらい乗ってもらってあとは何人か乗れそうな物にフライトをかければ
後方に控えているだろう指揮官のところに行けることは行けると思うけど……」

指揮官のところまで行って倒そうという単純明快な発想だが、この作戦にはいくつか問題点がある。
まず敵陣のド真ん中に突入するのは危険すぎる。
次に、敵の指揮官と戦うならマホたんさんの支援を受けたいところだが、
彼女がここを留守にするとその間に城壁防衛隊が陥落してしまう危険性がある。
何より、マホたんさんがここから移動するとなると”中の人問題”が発生してしまう。
カザハも同じような事を思ったようだ。

「駄目だ、色んな意味で危険過ぎる……! そうだ! 逆に敵をこっちに誘き寄せて迎え撃つっていうのは?」

そこでカザハは一枚のカードを取り出した。みのりさんから借り受けた幻影《イリュージョン》。
ありとあらゆる幻影を作り出せるスペルカード。
もともとはエンバースさん入城禁止展開に備えて借り受けたものだ。

「指揮官が自分が直接出向くしかないと思う程のモンスターを召喚したように見せかけたらどうだろう。
遠くからでも見えるのが第一条件だからミドガルズオルム級の超でかくて超強いやつ!」

《歴戦の中国代表がそんなに簡単に騙されてくれますかね……》

「エンバースさん、うまく敵をおびき寄せるにはどんなのを出せばいいと思う?」

ライブや生配信に付いていけずにすでにHP0になっているかもしれないエンバースさんに話を振ってみるカザハであった。
生存確認(焼死体だけど)も兼ねているのだろう。

15embers ◆5WH73DXszU:2019/10/03(木) 06:22:57
【メモリータクシス(Ⅰ)】

アコライト外郭へ走る列車の中、焼死体は腕組みをして、座席に腰掛けていた。
石油王によるブリーフィングにも反応を示さず――ただ、俯いている。
薄暗い藍色の眼光の奥には、冷徹な思考回路が巡っていた。

二十倍の兵力差/半ば機能不全した兵站/音信不通の指揮官。
希望的観測は出来ない――城塞が既に陥落している可能性は、十分ある。
その場合、バロールによる援軍の報せは裏目となる――敵は迎撃の準備をする事が出来る。

「……到着後、すぐにでも加勢が必要になる可能性がある。戦闘準備をしておくべきだ」

進言しつつ、焼死体は立ち上がると列車の乗降口へと歩み寄る。
焼死体の判断――最初に下車するのは、刺突/飛矢に対して耐性を持つ己が適任。
革帯で左腕に留めた盾の具合を確認/右手は愛剣を収めるコートの内側へ――戦闘準備は万端。

窓の外の城郭が段々と近づいてくる/焼死体はそれを、食い入るように見上げ続ける。
城塞が既に陥落している場合、敵が取り得る迎撃手段は大別して二つあった。
援軍を懐まで呼び込んで圧殺するか、移動中の列車ごと狙撃するか。

しかし焼死体の危惧は、結果として全て杞憂に終わった。
高火力スペルによる狙撃はなかった/列車を降りた瞬間、奇襲される事も。
焼死体は城郭の中へと進む/怖気とは無縁の不死者の足音――それが不意に、鳴り止んだ。

『……はれ?』

後方から、なゆたの間の抜けた声が聞こえた。

『なんか、キレイ……』

「何かがおかしい。一度、列車まで戻るべきだ。俺が偵察を――」

『おぉ〜っ! お待ちしておりました!』

視界外からの声――焼死体が瞬時に愛剣を抜き/振り向きざまに取る平正眼の構え。
蒼炎の眼光が声の主を捉え――そこで焼死体は止まった/より正確には凍り付いた。
蛍光ピンクの法被/ライトブルーのサイリウムに彩られた兵士が、一行を見ていた。

『え……えーと……』

「……モンデンキント。なんだ、あの格好は。俺が知らない間に実装されたネタ装備か?」

『いやいや! いやいやいや! 貴公らが王都からの増援でござるかァ〜! お待ち申し上げておりましたぞォ〜デュフフフ!』

「……誰か、日本の現地時間を確認出来る者は?俺達はエイプリルフールイベントに巻き込まれた可能性がある」

『よォ〜こそ! よォ〜こそ! アコライト外郭へ!
 いや、貴公らは実に! 実に運がいい! 今、ちょうど午後のライヴの真っ最中でござる!
 ささ、こちらへ! 貴公らも我らの女神! いやさ戦乙女のライヴあーんど生配信を観て、萌え萌えキュンキュンするでござる!』

『え、えっ? ちょっ、ライヴって……!
 あたしたちは戦いに来たのであって、そんなのを観に来たわけじゃ……!
 ここの責任者の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はどこですかーっ!?』
 
『デュフッ! 戦い? そんなのあとあと! まずはライヴに参加しなくてどうするんでござるか!
 皆の者! お客人を会場まで運んで差し上げるでござる!』

「……ひとまず、俺達の歓迎会が出来るくらいの余裕はあるのか――いい事だ」

眼前の不可解に対する理解の諦めを――焼死体はそう、表現した。

16embers ◆5WH73DXszU:2019/10/03(木) 06:24:20
【メモリータクシス(Ⅱ)】

『ささ、存分にお楽しみくだされー! 我らの戦乙女、マホロたんのアブソリュートリィ☆ライヴを!』

大扉を抜けると、そこはライブ会場だった。

『み――――ん――――な――――! 盛り上がってるっ! かぁ―――――――――いっ!!!』

「……グッドスマイル・ヴァルキュリアか。汎用性の高い、いいモンスターだ。
 戦闘の規模が大きいほど、バッファーとしての能力も活きる。
 バロールの采配にしては――悪くないな」

焼死体の反応――至って平常運転/現実逃避。

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――――――――!!!』
『マ! ホ! ロ! マ! ホ! ロ! マ! ホ! ロ! マ! ホ! ロぉぉぉぉぉぉぉ!!』

「この乱痴気騒ぎも――こちらの士気を敵に示すには、悪くない手だ」

『はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい!』
『マホた――――――ん!!! 結婚してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』

『……ユメミ……マホロ……』

「なんだって?何も聞こえないぞ……」

背を曲げ、少女の口元に耳を寄せる。

『まさか……ユメミマホロがアコライト外郭を守る『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だっていうの……?』

「ユメミマホロ?……記憶にない名前だな。だが、名が知れているのはいい事だ」

ゲームプレイヤーの名が知れ渡る理由は、大別すると三つだ。
ずば抜けて実力が高いか/恐ろしく実力が低いか――人格に難があるか、だ。
高く保たれた士気/パートナーチョイスから、ユメミ某は恐らくは一番目だと焼死体は推察した。

『じゃあ、次の曲! いっくよ―――――――――――――っ!!!』
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!』

助走をつけて、空へと飛び立つようなイントロは、焼死体にも聞き覚えがあった。
ブレモンをテーマにしたVtuber/検証動画/歌ってみた――断片的な記憶は、ある。
だが一体どうしてか――ユメミマホロという人物に関しては、何も思い出せない。

『……なんか……全然予想と違うね……』

「いい事だ。負け戦の陣営なんて、見ずに済むならそれが一番いい」

焼死体はライブに見入る一行を離れて中庭を出た。
防壁へと向かう/見上げる/切石に指をかけ/体を持ち上げる。
壁上に立つ見張りがいる事は、気付いていた――それでも、防壁を昇る。

何もしていない時間が、不安だった/常に何かに備えていなくては、不安だった。
地平を果てまで埋め尽くす魔物の群れを見て――焼死体は、安堵していた。
敵の攻略法/殺傷方法に思いを馳せると――心が、落ち着いた。


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