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決闘バトルロイヤル part4

1 ◆QUsdteUiKY:2024/07/30(火) 04:00:15 ID:G/9ouSvI0
※前スレ
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1655738773/

69物々交換録アルト ◆ytUSxp038U:2024/08/29(木) 00:33:53 ID:laN16Wac0
【H-6/一日目/早朝】

【飛電或人@仮面ライダーゼロワン】
[状態]:迷い(大)、ダメージ(小)
[装備]:ビルドドライバー+メタルタンクタンクフルボトル+ハザードトリガー@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品一式、アナザーゼロワンライドウォッチ@仮面ライダージオウ×ゼロワン、令和・ザ・ファーストジェネレーション、フルボトルバスター@仮面ライダービルド、クローズドラゴン@仮面ライダービルド
[思考・状況]
基本方針:とりあえず滅をはか…倒す…
1:滅の情報を得る為に…………
2:滅がここにいるなら必ず倒す…つもりだ。でももし他の参加者に倒されたら……?
3:垓さんか…まぁ頑張ってくれてるといいな
4:とりあえずあった人からは話を聞いていこうかな
5:万丈の仲間に会えたら礼と情報交換をしなくちゃな
6:エボルトに警戒
7:主催の人達は許さない、けど滅よりは優先度は…まだ低いな
8:他の人達を助けて、それで間に合わなくなるなら……
[備考]
※参戦時期は43話開始直後。

『NPC紹介』
【魔導雑貨商人@遊戯王OCG】
リバース・効果モンスター
星1/光属性/昆虫族/攻 200/守 700
(1):このカードがリバースした場合に発動する。
魔法・罠カードが出るまで自分のデッキの上からカードをめくり、その魔法・罠カードを手札に加える。
残りのめくったカードは全て墓地へ送る。

今ロワにおいては参加者と取引を行う、言わば生きた移動アイテム販売店。
以下、大まかな詳細。

・首輪か所持している支給品と引き換えに道具を提供。提供可能な道具の一覧は魔導雑貨商人が持つカタログに記載。
・参加者が渡した支給品は新しくカタログに加わり、別の参加者が手に入れる事も可。
・転送装置で主催本部から道具が送られてくる為、魔導雑貨商人を殺しても道具は手に入らない。
・他参加者の情報も交換可能。渡す道具や首輪の数によって情報の正確さは変わる。
・どのエリアに現れるかは完全にランダム。また今回登場した以外の個体が存在するかは後続の書き手に任せます。

70 ◆ytUSxp038U:2024/08/29(木) 00:34:19 ID:laN16Wac0
投下終了です

71 ◆ytUSxp038U:2024/09/03(火) 22:25:01 ID:0UQ8opj20
武藤遊戯、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、白鳥司、閃刀姫-ロゼ、涼邑零、香風智乃、衛宮士郎、犬吠埼風、ジャンヌ、ルナ、エボルトを予約し延長もしておきます

72 ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:10:19 ID:/fKPqQI.0
投下します

73Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:11:22 ID:/fKPqQI.0
空を見上げたらロケットが飛んでいた。
何を言ってるんだと思われるだろうが、イリヤからしてみれば言葉通りの光景が見えたのだから仕方ない。

ジャック達と別れ移動を開始、雪で彩られた道を進みどれくらい経った頃か。
どこからか唸るような音が聞こえ、不思議に思い頭上を見た。
視界へ飛び込んだのはロッケト…と正確に言って良いのかは分からない奇妙な物体。
いつだったか、ニュース映像で打ち上げがどうたらと流れた白い乗り物とは明らかに違う。
相当な速さで飛んで行き、確認出来たのは一瞬。
しかしあれだけの大きさが飛んでいれば、地上にいる参加者が気付かない筈も無く。
イリヤのみならず、同行者の遊戯と司も思わず呆気に取られていた。

「な、なに今の。ギルくんが乗ってるのにちょっと似てたような…?」
『それ帰っても本人には言わない方が良いですねー。見た目のトンチキ具合は今飛んでった方が上ですが』

マスターの少々ズレた発言に返しつつ、飛行物体の向かう方角を探知。
炎を吹かしてはいるが、あれの動力源は間違いなく魔力。
流石に英雄王の宝物庫から出した宝具と比べるのは酷であるも、速度の面だけで見れば優秀な移動手段だろう。
目立ち過ぎるというデメリットに目を瞑ればだが。

如何なる経緯でロケット(仮)が作られたかはさておき、重要なのは何故ロケット(仮)を使うに至ったか。
美的センスは置いておいて、会場をスピーディーに移動可能なら使わない手は無い。
が、今しがた言った通りあの飛行物体は相当目立つ。
目撃するのが友好的な参加者だけとは限らない、むしろゲームに乗った者からは格好の的となる。
もしロケット(仮)に乗っているのが司のような争いとは一切縁のない、「普通」の世界に生きる者だとしても。
悪目立ちする危険性に全く気付かないとは、幾ら何でも考え辛い。

74Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:12:03 ID:/fKPqQI.0
『んー、あれですかねぇ。目撃されちゃうのは承知の上で、一刻も早く移動しなきゃいけない必要に迫られたと』
「それって…誰かに襲われて急いで逃げてるってこと?」
『若しくは「来るなら来やがれ!俺は逃げも隠れもしねぇ!」とかいう、一人か二人はコンペ中に投げられる脳筋キャラムーブかもしれませんよ』
「まーたこのステッキは意味の分かんないことを…」

意味深なようでいて別にそんな事は無いルビーの言葉は、今に始まったものじゃないので軽く流す。
今考えるべきはロケット(仮)を追いかけるか否か。
余程自分の力に自信があり襲われるのはむしろ望む所という、後者の場合ならともかく。
前者であれば一刻を争う事態かもしれない。
襲われた際に傷を負い、重症のまま逃げ続けている可能性だって否定出来ない。

『まあ実は罠で、好奇心に駆られてロケットを追って来た人達を一網打尽、ってことも有り得なくはないですけど』
「でも…そうじゃなくて本当に怪我をしてる可能性もあるんだよね」

この場で立ち止まっていても、やれるのはあれかこれかと仮説を並べるだけ。
何かしらのアクションを起こさなければ、事態が好転する機会はやって来ない。
イリヤとしてはロケットを追いかけたい。

「俺はそれで構わない。今の俺達には檀黎斗を倒す為の仲間も情報も足りない、行ってみるだけの価値はあると思うぜ」
「…うん、私も追いかけたいかな。もしかすると、琴岡がいるかもしれないし」

公園での一件以来ギクシャクしたままだが、友達だと思ってるのは変わらない。
ウザいと言われて拒絶され、どんな顔で会えば良いのか分からなかったけど。
殺し合うとかいう悪趣味なもので、みかげが命を落とす方がずっと嫌だ。
もしロケットで逃げたのがみかげなら、会いに行かない理由は無い。

75Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:12:42 ID:/fKPqQI.0
(まあアレに琴岡が乗ってるってのは、別の意味でどんな顔すりゃ良いか分かんないけどさ…)

奇天烈な飛行物体に跨る親友を想像し、思わず引き攣り笑い。
シュールな絵面は頭から追い出して、ともかく三人共意見は一致。
ルビーのナビに従って移動開始。
何ともおかしな見た目のロケットだったな等の、軽い言葉を交わしつつ先へ進む。
海馬が操縦するブルーアイズのジェット機を知っているだけに、遊戯は二人に比べ平然と受け入れていたが。

雪道を踏みしめエリア間を跨ぎ、気が付けば地面の白さは消失。
イリヤにしてみればエインズワースの工房内以外では久方振りの、雪が見当たらない道。
元の世界ではない、血濡れた箱庭で懐かしさを感じ苦い思いが走る。
顰めた顔が後方の二人には見えてない事へ安堵し、ルビーもあえて指摘はせずに案内を続けてくれた。

道中ゲームに乗った参加者との戦闘は起きなかった代わりに、NPCが群れを成して襲って来た。
ここは自分がと引き受けようとしたイリヤを制し、遊戯がエアトスで迎撃。
治療促進を掛けているとはいえ、受けた傷は決して浅くない。
幸いエアトス一体でどうにかなり、足止めで時間のロスになったが負傷も無く切り抜け移動を再開。

一行が到着した場所に件のロケットは影も形も見えない。
代わりにあるのは周囲から明らかに浮いた建造物。
ドオオオンという擬音が今にも聞こえて来そうな佇まい。
大金を掛けつつも成金特有の下品さを感じさせない、そんな豪邸が目の前にあった。

「…っていうかここルヴィアさんの家だよね!?」
『いやールビーちゃんもビックリですよ。あの人が知ったら、金髪ドリルでギガブレイクするくらいに怒――いえ、あんまり気にしなさそうですね』

美遊が転入して来た初日に我が家の向かいに建てられ、代行者との戦闘で崩壊の憂き目に遭うもすぐに再建築。
平行世界に飛ばされてからは当たり前だがすっかり目にしていない屋敷。
ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの日本での仮住まい。
何がどうして、よりにもよって殺し合いの会場に存在するのか。
ロケットと言い予想外の光景に頭が混乱するも、状況は落ち着くまで待ってくれない。

76Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:13:22 ID:/fKPqQI.0
「騒がしいと思って来たけど、人ん家の前で五月蠅くしちゃ駄目だろ?」
「っ!?」

同行者達ではない、知らない声。
身構えるイリヤの横では司も顔を強張らせている。
声の主は目の前、正確に言うと少し見上げた先。
閉じた門の上にしゃがみ、軽薄な笑みでこちらを見下ろす男。
夜闇と同化しそうなコートを羽織った彼は、揶揄うような表情で一件無害そうにも見えないことはない。

(この人……)

だがイリヤとて、クラスカードの回収に始まり幾つもの死線を潜り抜けて来た少女。
今更上辺だけの情報に惑わされはしない。
男の目は全く笑っておらず、自分達の一挙一動を見極めている。
敵か否か、前者であれば攻撃に躊躇は抱かぬだろう刃の如き瞳だ。

「待ちな、俺達はここへ襲いに来た訳じゃない」

緊張感が漂う中で、真っ先に男との対話を試みたのは遊戯だ。
強敵達との、時には命をも賭けた決闘(デュエル)を経験して来たが故にこの程度では動じない。
ジャック達との遭遇時は向こうが遊星の仲間だったからスムーズに情報交換が行えたものの、毎回そうなるとは限らない。
警戒を抱かれるくらいは想定内。

「俺達はロケットを追ってここに来た。若しかしたらこっちの仲間が負傷してるかもしれないし、そうでなくてもお互い殺し合いに乗ってないなら協力できる筈だ」

伝えた内容に嘘偽りは含まれていない。
やましいものが何も無いのだから、余計な隠し立てはせず堂々と口にするまで。
次はそっちがどう出るかを視線に乗せるて尋ねる。

77Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:14:06 ID:/fKPqQI.0
「ふぅん?女の子侍らせてるから恰好付けたい、って感じでも無いか」

視線を逸らさない遊戯の姿と、背後の少女達を見比べ思案顔。
信用して良いかどうかを考える時間は長く無く、すぐに答えは出た。
門から飛び降り華麗に着地。
整った顔立ちと相俟って、靡くコートが随分と似合う男だった。

「恐がらせちゃってごめんね?外は寒いし、中で休みながら話そっか。イカした髪のアンタもそれで良い?」

ヘラリと表情を崩し微笑み掛ければ、重い空気は一瞬で霧散。
一触即発は無事に回避し、ホッと司は胸を撫で下ろす。
別に大人の男性が苦手という訳じゃないけど、ジャックや冥王と名乗るおじさんとはまた毛色の異なる相手。
自分の方にも顔を向けて来たので、とりあえず会釈しておく。
さっきまでは迂闊に近寄れない雰囲気だったのに、今やクラスの男子みたいに気安く接して来る。
掴み所のない人だと思った。

「魔導具…とはちょっと違うか?おっ、意外と柔らかくて伸びる」
『あ〜♡ソフトッタチがこそばゆい♡ごめんなさいサファイアちゃん、お姉ちゃんはは一足先に大人の階段を昇っちゃいました…♡』
「すみません、このステッキの言うことは真に受けなくて大丈夫ですので…」

緩いやり取りもそこそこに、男に案内され一行は屋敷の中へ。
敷かれた絨毯の色も細かい調度品も全て、イリヤの記憶にあるのと同じ。
歩く途中でルビーから「多分精巧に作ったレプリカでしょう」と言われ、余計に気味の悪さが増す。
メイド服姿の美遊を見れて、凛とルヴィアの小競り合いが繰り広げられた場は実際にはここじゃない。
だというのに、懐かしさを偽物の屋敷に一瞬感じた自分が嫌だった。

イリヤの内心がどうであれ、男は案内役を放り投げず部屋の前に到着。
ノックし声をかけると、扉一枚隔てた先から応答があった。
入室の許可を貰えたなら遠慮はいらない、中に入ると三人も後に続く。
家主であるエーデルフェルト家の令嬢の私室へ、無関係の者が土足で踏み入れるのは言語道断。
と言ってもレプリカの屋敷に、そういった常識を当て嵌める必要は皆無。
遠坂凛が見たら眉間に皺を寄せるだろう、大金を掛けたベッド。
その上で上体だけを起こした水色の髪の少女と、傍らに佇む軍服の少女。
どちらもイリヤ達には見覚えの無い顔だった。

「よっチノちゃん。もう起きて大丈夫なのか?」
「あっはい、ロゼさんが手当てしてくださったので。ご心配をおかけしました」
「そんなに畏まらなくても、もっと砕けた話し方でも俺は気にしないよ?ま、それはともかく後ろにいる連中なんだけど…」
「問題ない。零が案内したということは、危険は無いと判断。私から見ても、今の所敵意は無い」

軍服の少女は真顔で、水色の少女は少し驚き訪問者達を見つめる。
強く警戒をぶつけないのは今言った通り。
ここまで案内した男が判断を間違える人間ではないと、信頼しているからか。
先んじて屋敷を訪れた三人と、後から来た三人。
互いに初対面、捜索中の仲間や友はいない。
けれど命を弄ぶゲームを強く否定する志は同じ、武力を用いる必要はどこにも無かった。

78Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:14:38 ID:/fKPqQI.0



超人類、野比のび太との戦闘から撤退後。
ロケットを飛ばし十分な距離を取ったのを確認し、ロゼは急ぎ開けた場所へ着地。
緊急時の移動手段としてならまだしも、常時乗り続けるには大きさ故にリスクが高い。
稼働時間の10分まで数分の余裕こそあったが、目撃者を無駄に増やしては後々自分達の首を絞める。
二階建て住宅程のサイズがデイパックに収まり、そこからは徒歩で移動開始。
零が背負い、ロゼが襲撃に対応できるよう役割を分担。
幸いと言って良いのか、移動中に襲って来たのは数体のNPC。
一部のバグスター達のような自我を持たないモンスターに、空気を読むのを期待しても無駄だ。
手早く片付け、辿り着いたのが現在イリヤ達もいる屋敷。
傷薬やガーゼを見付け、ロゼが手当てをしてる間零は見張りを担当。
時間や状況に関係無く他の参加者も訪れるだろうし、傷の処置に服を脱がす場へ男が同席する訳にもいかない。

「で、お客さんが来ないか見張ってた所にイリヤちゃん達が来たってわけ」
「そうなのか…涼邑さん達も危ない奴に襲われたんだな…」

屋敷に来るまでの経緯を聞き終え、司は神妙な顔で頷く。
自分とイリヤもゲーム開始早々女騎士に襲われたが、そういった例は当然他にもある。
こちらはイリヤが必死に戦い、遊戯が助けに来てくれたおかげで命が繋がったまま。
聞いた話では零達が戦った相手も相当な強さで、チノの負傷もそいつが原因だと言う。

(琴岡のやつ、本当に大丈夫なのかよ……)

女騎士もチノ達を襲った丸眼鏡で筋肉質の男も、どこの漫画のキャラだと言いたくなるような滅茶苦茶な危険人物。
自分達の場合は戦い慣れている善人が一緒だから助かったけど、全ての参加者が運に恵まれるとは限らない。
みかげも自分と同じ、特別な力を持たないただの女子中学生だ。
もし一人でいる所を女騎士みたいな参加者に出くわせば、為す術無く殺されたって不思議はない。
チノ達もみかげには会ってないらしく、今どうなっているのか不明。
無事を祈るが最悪の可能性が頭をチラ付いてしまう。
せめて殺し合いに乗っていない、信頼できる者に保護してもらっていればと思い、

79Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:15:15 ID:/fKPqQI.0
(……本当に大丈夫だよな?)

もしや、保護してもらったは良いがその人と口論になったりとかはしてないだろうか。
参加者として招かれる少し前、公園でのみかげと撫子の喧嘩が思い出される。
まさかここでも参加者と衝突が起きてはいまいか。
みかげが危険人物に襲われるのとは別の問題も有り得ないとは言い切れず、頭が痛くなった。

弟の言葉で決心が付き、もう一度三人で過ごす為にみかげの家を訪ねた筈が殺し合い。
どうしてこうも余計なタイミングで、ふざけたゲームに巻き込むのか。
今更ながら非常に腹が立って来る。

女騎士と丸眼鏡の男は要注意人物として、6人と1本共通の認識を抱く。
続く会話の内容は友好的な参加者について。
まず主催者打倒を掲げる者全員に関係する、首輪の解除が可能な人物。

「確かアトラス様も言ってたけど、遊星さんって人なら外せるかもしれないんだよね」
「ああ。それに遊星はこんな馬鹿げたゲームに乗るような奴じゃない」

ジャックの仲間であり、パラドックスとの決闘では遊戯も共闘した青年。
凄腕の決闘者なだけでなく、メカニックとしての才能も超が付く程優秀。
Dホイールやデュエルディスクを自作する遊星にならば、首輪解除を任せられる。
人間性に関しても遊戯とジャックの両方から殺し合いに乗らないと断言出来る、正しき心の持ち主だ。

遊星とは別に各々探したい参加者の事を話す。
冴島鋼牙や海馬瀬人など、合流出来れば心強くとも本人達の能力を考えれば最優先で無くとも大丈夫だろう者達。
司やチノの友人達のように、元々一般人の為早めに見付けておきたい者達。
また信頼はしているが無茶をしないかという危惧もあり、出来れば合流を急ぎたいレイや城之内克也等々。

80Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:16:40 ID:/fKPqQI.0
仲間達の話題が出たタイミングで、名簿上での不可解な記載にも言及があった。
海馬とココア、彼らの名前が何故か二つ記載されている。
一人だけなら単なる印刷ミスと考えられなくも無いが、二人もあれば流石に不自然。
こちらの疑問は平行世界の存在を把握し、実際転移した経験を持つイリヤとルビーがいた為スムーズに解決された。
恐らく海馬とココアの両名は、別の世界からも参加している。
荒唐無稽な答えだが、それを言えば自分達が巻き込まれた殺し合いが既に何でもありのメチャクチャな場だ。
頭から煙を出しショートし掛けるも、そういうものだとチノも受け入れる。

「ココアさんが二人…ラビットハウスの中に台風が吹き荒れそうです……」
「チノはココアをどっちも独り占めしたいの?」
「えっ!?そ、そんなことありません。二人もいたら、私もリゼさんも今以上に振り回されてしまいますっ」

赤い顔で否定するチノを尻目に、イリヤは平行世界の人間について考え込む。
殺し合いに関わる人物で、彼女が知っている者は二人。
一人は人質として紹介された美遊・エーデルフェルト。
もう一人は参加者名簿に記載された青年。

「…ねえルビー。ずっと気になってたんだけど……」
『皆まで言わずとも、ルビーちゃんにはお見通しですよー。士郎さんのことですね?』

衛宮士郎、過去にイリヤの父が養子に迎えた義理の兄。
一つ屋根の下で暮らす彼もまた、殺し合いの会場に拉致されてしまった。
自身の生まれた世界でクラスカード回収を行っていた頃のイリヤなら、そう考えただろう。
しかし平行世界でエインズワースと戦い、『彼』の存在を知った今ならもう一つの可能性が思い浮かぶ。

『参加している士郎さんは美遊さんのお兄さんの方、その可能性は高いです。むしろ大々的に美遊さんの存在を公表した以上、あっちの世界の士郎さんの方が受ける衝撃は大きいでしょうね。
 檀黎斗もそれが分かっているからこそ、ああいった行動に出たのだと思いますよ』
「…っ」

自分の兄が危険な目に遭うのも最悪だが、もう一つの可能性も言うに及ばず。
平行世界の士郎が美遊を助ける為にどれ程傷付き、苦難の果てに絶望へ打ち勝ったか。
衛宮邸で過去に起きた聖杯戦争の話を聞き、込み上げるものの大きさに涙を流した瞬間は忘れない。
なのにどうだ、兄妹は再び引き裂かれた。
士郎がどんな思いで美遊を平行世界に飛ばし、牢獄で自分と初めて会い感涙したのか。
それらを檀黎斗は、ゲームを盛り上げるスパイスの一環程度にしか見ていない。
やるせなさと黎斗への激しい怒りが胸を焦がし、同時に士郎への不安も高まる。
美遊を助け出した時点で、既に彼の体はボロボロだった。
そんな状態で美遊を黎斗の元から助ける為に無茶な戦い方を繰り返し、その果てに待ち受けるのは死か、或いは無銘の英雄(エミヤ)の完全侵食。
どちらだろうと、到底納得のいく結末では無い。

81Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:17:35 ID:/fKPqQI.0
(…美遊さんと同じように確保し士郎さんも参加せた、本当にそれだけですか?イリヤさんや遊戯さんが参加している事からも、主催者が時間移動を把握してるのは確実。となると…殺し合いの点から見ても、士郎さんはイリヤさんと会うよりも前の……いえ、結論を出すにはまだ早い……)
「ルビー?どうしたの急に黙り込んで」
『あー、お気になさらず。どちらの世界の士郎さんがいるにせよ、早めに見付けるに越したことはないですねー。
 イリヤさんが絶賛片思い中で、【小学生の私だけど6歳年上のお兄ちゃんとガチ♡恋しちゃってます〜衛宮家緊急家族会議待ったなし〜】の士郎さんがいるって可能性もゼロではないですので』
「ちょ!?絶対後半の変なタイトルっぽい件いらなかったでしょ!?」
「イリヤさんは、『妹』としてお兄さんに恋をしてらっしゃるんですか?」
「チノさんも何でそこに食い付いちゃうの!?」
「誰を好きになったって悪いことじゃない。イリヤはもっと堂々として良い」
「ロゼさんも親指立てなくて良いからね!?」

マスターをおちょくるという、相棒ながら舐め腐った趣味はここでも健在。
サラッと兄への想いを曝露された挙句、何故かチノが瞳を輝かせロゼもサムズアップをしてきた。
シリアスが長続きせず頭を抱える傍らで、遊戯も自身の相棒と言葉を交わす。

(ねぇもう一人の僕。参加してる海馬くんの内片方が平行世界の海馬くんなら、城之内くん達もその可能性があるんじゃないかな?)
(海馬と違って名簿に載ってる名前は一つ。だが俺達と同じ世界の城之内くんや御伽とは限らない、そういうことか?相棒)
(うん、それにもしかしたら本田くんも……)

一番最初に集められた空間、磯野に食って掛かった直後に殺された親友の一人。
実は本田ももう一人の海馬と同じく、遊戯とは別の世界の人間なんじゃないか。
可能性が真実なら、あくまで平行世界の本田が死んだに過ぎず自分の世界の本田は生きている。

と、自分自身の考えに後悔と怒りが湧き上がった。
たとえ平行世界の本田だろうと、死んでいい筈が無い。
制止する自分を安心させようと微笑んだ彼は、紛れもない「武藤遊戯の大切な友の本田ヒロト」だ。
なのに自分は今、よりにもよって平行世界の本田なら自分の世界に影響無いなどと、彼の死を侮蔑するに等しい事を一瞬とはいえ考えてしまった。

(ごめん、もう一人の僕……僕最低だ……)
(相棒……)

悔やむ相棒に遊戯も言葉が見付からない。
殺し合いが始まって時間を置かずイリヤ達の危機に駆け付けたのもあってか、長々と悲しんでいる余裕は無かった。
しかし今、改めて本田の死が重く圧し掛かる。
意識が奥に引っ込んでいる相棒は当然、己にとっても本田は城之内や杏子と同じ親友の一人。
BIG5とのデュエルで体を奪われた時とは違う、本当の死を迎えた。
カードに幽閉された祖父の魂を救ったのと同じ展開にはならない、デュエルに勝っても本田の魂は返って来ない。
その事実が決闘王(デュエルキング)の心に影を落とす。

82Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:18:32 ID:/fKPqQI.0
とにかく互いの持つ情報は粗方話し終えた。
それぞれ水を取り出し喉を潤すなど、一息つくムードが漂う。

「あっ、ちょっと待って。遊戯と二人で話したいから、付き合って欲しい」
「俺か?別に構わないが…」
「んじゃ、俺も話が終わるまで見張りやっとくよ。チノちゃん達も、もう少しガールズトークを楽しんでて」
「そんなに長くはかからないと思うけど、遊戯の答え次第」

ロゼからの誘いに困惑を抱くも承諾、遊戯達と揃って零も部屋を後にする。
残ったのは三人の少女と愉快な魔術礼装。

「ガールズトークって場合でもない気がするんだけどなぁ…」
「いえ、きっと私達が煮詰め過ぎないように零さんなりの気遣いだと思います」

軽薄な態度や言動の裏では、常に自分とロゼを気に掛ける優しさがある。
出会ってからの零を間近で見ているだけに、チノが信頼を置くまで時間は掛からなかった。
ココアへの素直になれない気持ちに耳を傾け、支えてくれたロゼも同じだ。
殺し合いに巻き込まれたのに言うのは変かもしれないけど、自分は本当に運が良いのだと思う。
優しくて強い彼らと出会い、仲間として受け入れてもらった。
先の丸眼鏡の男の言葉に揺らいだ時も、支えてくれる二人の存在がどれ程心強かったか。
ロゼと零に感謝する反面、自分のようにならなかった少女の存在が棘となって突き刺さる。
たった一人で抗い、その果てに命を奪われた友の最期はきっと永遠に忘れられない。

「香風さん?顔色悪いけど大丈夫か?」
「す、すみません。ちょっと、マヤさんのことを考えて……」

チノの口から出た名前に、心配気な顔を作る。
放送で金髪の男に殺された少女が、チノの親友の一人なのは先程聞いた。
友達が巻き込まれているだけでなく、死ぬ瞬間を見世物のように扱われる。
それがチノの心にどれ程の傷を刻んだのか、想像も出来ない。
イリヤだってもし美遊が人質にされるのみならず、マヤのようになったら果たして正気を保っていられるのか。
ダリウスが世界を終わらせた時とは条件が違い過ぎる、クロだけでなく美遊も失い心はまだ奮い立たせられるか。

「チノさん……」
「大丈夫です、ロゼさんの胸でいっぱい泣きましたから。それに、私にはまだ守りたい人達がいます」

打ちのめされて塞ぎ込むのは簡単だけど、逃げる選択をチノは払い除ける。
ココア達を自分の剣で守る、ロゼとの誓いを嘘にするなどお断り。
自分が死ぬのは勿論嫌だけど、大切な人達が殺されるのはもっと嫌だから。

(凄いな、二人とも…)

親しい人が殺され、悪辣な者達に囚われても。
自棄を起こさず戦おうとする姿は、司にとって眩しいくらいだ。
最初はイリヤと同じ小学生かと勘違いしたくらいに小柄なチノだけど、心は自分よりもずっと大きく見える。
イリヤに守られ、無茶をさせてしまった自分がどうにも情けない。
無意識の内にため息が零れ――





『ッ!?イリヤさん!障壁を――』





視界を光が覆い尽くした。

83Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:19:11 ID:/fKPqQI.0



「ここならチノ達にも聞こえない。白状するなら今の内」

ルヴィアの私室を離れ、立ち止まり話を促すロゼに遊戯はまたもや困惑。
どうも杏子や舞、レベッカと言った自分の知る女性陣とは異なるタイプでやりにくい。
尤も、遊戯が困惑する理由は他にもあるのだが。

「ロゼちゃん、直球過ぎて伝わってないんじゃない?遊戯が何か言いた気にロゼちゃんのことチラ見してたのも、一緒に言わないと」
「そう、その通り。最初に私を見た時も驚いてたけど、どうして?」
「…気付かれてたのか」

悟られないように動揺は顔に出さなかったつもりだが、相手は歴戦の閃刀姫と魔戒騎士。
あっさり見抜かれており、つい感嘆の呟きが漏れる。
別に後ろめたい内容を隠していたのではない、ただ大っぴらに話すのも少々憚れる内容だった。
こうして相手の方から話せる場を提供されては、この期に及んでシラを切りはしない。

「なあロゼ、俺は屋敷に来る前にアンタやアンタの仲間のレイの事を知った」
「…どうして?さっきレイには会ってないって言ったのは嘘?」
「そうじゃない、理由に関してはこいつを見てくれ」

言って差し出されたのは参加者共通の支給品。
首を傾げタブレットの画面を見下ろし、驚愕で目を見開く。

「レイ……?」
「それにこっちは…ロゼちゃんだよな…?」

ディスプレイ上に映るカードらしき画像。
下部のテキストはともかく、イラストとカードの名称を知らない訳が無い。
閃刀姫、レイとロゼ。
まるで意味が分からないと言った二人へ、遊戯が一から説明を始める。

84Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:19:50 ID:/fKPqQI.0
今開いているのは放送後に追加された、デュエルモンスターズのルール。
ジャック達と別れた後、自身のデッキは手元に無いが念の為にと遊戯もアプリを起動。
ページを捲り、ふと目に付いたのは召喚方法のやり方とカードを使った例。
シンクロ召喚は遊星がやったのを実際に見たが、どうやら特殊召喚は他にもあるらしく更に読み込む。
エクシーズ、ペンデュラム、リンク。
聞いた事も見た事も無い単語やカードが次々現れるものだから、あの時はさしもの遊戯も目を白黒させた。

そうして見付けたのがリンク召喚の項にて記載された、閃刀デッキ。
黒い軍服に身を包み、得物を構えた少女こそ遊戯が屋敷で出会ったロゼである。

ロゼからしてみれば意味が分からない。
何故自分とレイ、いや閃刀姫という存在がカードゲームに登場してるのか。
まさか自分達の知らない所で、戦争への投入以外にこういった形で閃刀姫を利用していたとでも?
馬鹿なと、自分で自分の予想を否定する。
あの列強国が兵器としてでなく、娯楽に閃刀姫を使うなど有り得ない。

「多分だが、イリヤ達が言ってた平行世界ってことだと思うぜ」
「それは……つまり…?」

遊戯が何を言いたいのかも、混乱の抜け切らない頭ではすぐには察しが付けられず聞き返す。

一方遊戯はロゼの様子から、デュエルモンスターズの精霊ではないと分かった。
ダーツとのデュエルで力を貸した伝説の3体の竜と違い、ロゼはデュエルモンスターズに関して一切知らない。
あくまで遊戯の推察になるが、恐らくロゼやレイは元々デュエルモンスターズが存在しない世界の住人。
閃刀姫というのもカードのテーマではない、現実に造り出された存在なのだろう。



と言った説明を行う時間は唐突に失われた。



「「――ッ!!」」

動揺から一変、引き抜いた剣の如き瞳を揃って同じ方向へと向ける。
事情を事細かに伝える時間は無い、遊戯の反応も今や後回し。
姿は見えずとも存在は、身を引き裂かんと迫る殺意は確かに感じ取れた。
ありとあらゆる場所から死が襲う戦場を駆け抜けてきた、列強国の閃刀姫。
陰我を餌に根を伸ばす魔界の住人との死闘へ身を投じた、歴代最強の魔戒騎士の一人。

到着まで一刻の猶予も無い、死から逃れるべく動き出し、
閃光と衝撃が三人を襲った。

85Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:20:56 ID:/fKPqQI.0
◆◆◆


ロケットを追い掛けるか、発射地点へ向かうか。
暫し悩んだ末に風が選んだのは後者。
考え込む振りだけして実はこれといった理由も無しに適当に言った、ということではない。
自分達に限らずロケットの目撃者が口を揃えて言うだろうが、あのトンチキな飛行物体はかなり目立つ。
殺し合いで悪戯に注意を引くのが如何に危険か、理解してないとは考え辛い。
恐らくだが、目立つのを承知の上でロケットを使わねばならない事態に陥った。
となればロケットに乗っている者は、負傷している可能性が高い。
具体的にどれ程弱っているかは分からなくとも、万全でないなら自分達にとって好都合。
仕留めるには絶好のチャンス。
尤も断言出来る程の根拠も無く、勘頼りの部分があるのは否定できないが。

とはいえ士郎からは反対されずアッサリ承諾。
思い切りの良い人間は個人的に嫌いじゃ無いが、そんな即答で良いのか。
風の内心を知ってか知らずかロケットが飛んで行った方向へ進み出し、慌てて士郎の背を追い掛けた。

片や夢幻召喚を行った少女、片や未来の英霊に置換(侵食)される少年。
人の限界を優に超えた身体能力を持ち、当然移動速度も常人とは比べ物にならない。
飛行物体よりは流石に落ちるとしても、大きなトラブルにでも見舞われない限りは追い付けない訳ではなかった。

「っとに最悪…!ワラワラワラワラ湧いて虫かっての!」

残念ながら不運が降り掛かり、余計に時間を割かれる羽目になったのである。
ゲームにおける参加者以外の存在、主催者が会場に放ったNPCのモンスター。
数体程度ならともかく、10を超える数が一気に襲って来ては流石にのんびり構えてもいられない。
しかもOCGで言えばレベル5以上、攻守2500前後のモンスターも少なく無かった。
ホカクカードで戦力確保を行う不動遊星なら良い機会と思うだろうが、士郎達からすれば迷惑以外の何物でもなく。
結果、いらぬ労力を強いられ風の機嫌は急降下している。

86Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:24:24 ID:/fKPqQI.0
「ぶった斬った傍から違うのが出て来るし…もしかして、衛宮さんがアイツらの好きな匂いとか出してる?」
「どんな匂いだよ。単に参加者なら誰でも餌に見えてるんじゃないか?」
「あーやだやだ、あんな連中にモテても嬉しくないわよ」

げんなりする風には士郎も苦笑いを返す他ない。
気持ちは分からんでもない、襲ってきた中には昆虫系のモンスターもおり中々にグロテスクだった。
思い出したのか余計に嫌そうな顔になる風だが、全てが無意味な戦闘かと言えば違う。

「まあお互い、持ってる武器には慣れたしそこは無駄じゃなかったと思うぞ」
「そうだけどさぁ…ってか余裕で私の一撃受け止めてた衛宮さんが言っても、嫌味にしか聞こえないんだけど」

バイザー越しにジト目を向けられ、曖昧に笑い誤魔化す。
実際風としても、勇者システムとは異なる力の練習台としてならNPCは丁度良い相手だったと思う。
互いに打ち明けてはいないし話すつもりも無いが、本来の彼らの力はおいそれとは使えない事情がある。
投影魔術の使用回数を重ねる毎に、肉体が英霊に蝕まれる士郎。
絶大な力を齎す満開を経て、神へ身体機能を捧げねばならない風。
目的の為には絶大なリスクも飲み込む覚悟だが、代用の力で乗り切れるなら利用しない手は無かった。

幸い、支給された武器はどちらにとっても当たりの類に入る。
得意とする刀剣類、しかもディスクを使えば双剣を装備可能なシンケンマル。
投影せずとも十分な強度と切れ味の得物を使えるのは、士郎にとって有難かった。

サーヴァントカードは勇者と別物だが、アーサー王の力とやらは風としても申し分ない。
スマホが支給されずとも、これなら問題無く戦える。
何より、心情的にも妹の声を奪った忌まわしいシステムよりはずっとマシなのだから。

(どう考えても「剣道やってます!」ってだけの動きじゃないっぽいかなぁ。夏凛みたいに戦闘訓練してたとか?)
(セイバーの新しい使い手なら疑問は無いけど、剣を振るうのに迷いが一切無い。殺し合いの前から荒事を経験してる、か)

加えて馬鹿正直に伝えはしないが、互いの戦う様子もしっかり観察している。
協力はあくまで一時的、いずれは道を違えるのが確定な関係だ。
遠くない内に必ず来る決別に備えて、戦力を把握しておくのは当然である。

87Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:27:11 ID:/fKPqQI.0
時間は掛かったが白一色のエリアを抜け、住宅地へ足を踏み入れる。
ロケットの向かった方角は南、民家が立ち並ぶここに身を潜めたと考えるのが自然。
腰の刀を意識し進む士郎の隣で、風は支給品を使い注意深く家々を調べる。
一見何の変哲もない望遠鏡だが説明書によると、壁数枚隔てた先まで透視する機能があるのだという。
魔術礼装の一種かと思うも、そこは重要じゃないので深堀りしなかった。

「言っとくけど貸さないわよ。覗きにでも使われちゃ、私も女として黙ってられないから」
「犬吠埼の中で俺はどういう扱いなんだ…」

年上と言う事もあってか自分をさん付けで呼んではいても、随分砕けた態度で接して来る。
もういない後輩の少女とは違うタイプに、どうも反応に困った。

「…今衛宮さんが勝手に私を誰かと比べた気がする…」
「…いや誤解も良いところだろそれ」
「最初の沈黙がどうも怪し――見付けた」

軽口の応酬は終わり、共に同じ方向を睨み付ける。
周りに立つ家と比べて一際大きい屋敷だ。
士郎が住まう冬木には無い建造物を、望遠鏡で細かく調べる。

「3人…違う、6人いる。二ヶ所に別れてるみたい」
「どんな奴らかは見えるか?」

ダイヤルを調整し、屋敷内にいる人数・位置・容姿を確認。
名簿に勇者部の4人の名が無かったので当然、風の知る者は一人もいない。
士郎も同じく、『参加者』に知っている者は皆無。
だから屋敷内の参加者の外見を伝えられても、何らかの反応を見せる事は無かった。

向こうがこちらに気付いた様子はない、対して自分達は正確に位置を把握。
先手を打つには持って来いの状況を、利用しない馬鹿に非ず。
中には子供もいる、その事実に何も感じない冷徹な人間では無い。
だが今更躊躇を抱くような、中途半端な心構えでもないのだ。

88Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:28:21 ID:/fKPqQI.0
弓を投影し狙い撃つのが嘗ての聖杯戦争でのセオリーなれど、可能な限り魔術は温存しておきたい。
肉体の侵食はもとより、今後を考えれば風の前で手の内を明かし過ぎるのも避けたかった。
ここは支給品を有効に活用させてもらう。
シンケンマルのディスクを回し、異なる形状の武器へ変化。
刀身へ刻まれた「火」の一文字は、侍戦隊を率いる殿専用装備の証。
重厚な刃を以て外道衆を斬った剣の名は烈火大斬刀。
志葉家の当主が豪快に振るい、世界の破壊者と結んだ絆の証は悪を為す兄の手に渡った。
外見に違わず敵を一刀両断可能だが、もう一つの使い道もある。
刀身部分を倒し、大筒モードとも呼ばれる遠距離形態へ変化。
ディスク装填が済んだ大筒を風に渡し、最後の支給品を取り出す。

「銃…じゃなくて牛?」
「モウギュウバズーカって名前らしいぞ」
「見たまんま過ぎでしょ…」

風の呆れはさておき、立派な武器であるのには変わり無し。
烈火大斬刀同様、こちらも元はシンケンレッドこと志葉丈瑠が使う装備だ。
牛折神の特性を備えた大筒は、人の世を脅かすアヤカシを葬るのが本来の役目。
残念ながらシンケンジャーと同じ志の戦士の手には渡らなかったが。
威力を最大に高める為のディスクを装填し、照準を合わせる。
士郎も風も銃火器は使い慣れた武器とは言い難いが、標的の位置が分かっていれば然程問題にはならない。
反動の大きさも今の身体機能なら耐えられる。

「準備は良いか?」
「いつでも」

それぞれ狙いを付け、胸中で燻る罪悪感を噛み殺す。
合図は一瞬、引き返す道を自ら壊し底へ底へと突き進む。
千の屍以上を築き上げようとも助けたい者の為に、引き金を引く。
外道を地獄へ送り返す光輪が発射、轟音を立てて屋敷の二ヶ所が吹き飛んだ。

(死んだかな……)

煙を上げる屋敷を見て、生き残るのは難しいだろうと風は思う。
大筒モードの烈火大斬刀は本来、シンケンジャー全員のディスクを装填し放ってこそ最大級の火力を発揮する。
一枚だけでは威力も低下、現にシンケンレッドが筋殻アクマロに撃った時はあっさり防がれた。
だがそれは、外道衆の中でも上位の実力者であるアクマロだから出来た芸当。
壁越しの人間三人を跡形も無く消し飛ばす程度、ディスク一枚でも十分可能だ。

烈火大斬刀を士郎に投げ渡し、これで本当に人を殺し戻れなくなったのを噛み締める。

89Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:29:02 ID:/fKPqQI.0
「っ!まだ終わってない!」

と、感傷に浸るには気が早過ぎた。

協力者の怒声を最後まで聞かずに剣を翳し、間髪入れずに衝撃が刀身を襲う。
反応が間に合ったのは、バーテックス相手に切った張ったを繰り返した経験が活きた為か。
理由を詳しく探る等の無駄な思考は削ぎ落とし、バイザー越しに敵を睨む。
爆風の中を突っ切り、弾丸の如き勢いで斬り掛かった少女。
銀髪を靡かせた閃刀姫もまた、真紅の瞳で斬るべき相手を射抜く。
丸眼鏡の男と同じだ、会話の余地を許さずに攻撃を仕掛けたのなら容赦してやる理由も無い。

「こっちもか…!」
「訪問のチャイムにしては過激にも程があるでしょ、お宅ら」

爆風を飛び出し疾走した黒い影はロゼ一人じゃない。
脅威の急接近を視界のみならず肌で感じ取り、士郎も戦闘態勢へ移行。
赤き大剣を再び日本刀へ戻し、流れる動きで双剣に変化。
一撃の威力こそ強烈でも振るう速度はシンケンマルに劣る。
今から相手取る敵を前に、自ら速さを捨てるのは愚の骨頂。
交差させた刀が衝突するは、士郎同様に二振りの刃。
魔界の住人ホラーにとっての猛毒、魔戒剣を手に零が魔術使いと斬り結ぶ。

対アヤカシ用の大筒を撃ち込まれれば、只の人間に抗う術は無い。
なれど、此度の標的を容易く殺せると思ったら大間違いだ。
自らへ迫る殺意に何も出来ないようなら、とうの昔に戦場で力尽き、或いはホラーの餌となっただろう。
襲撃を察知し体は一切の無駄なく回避へ動き、大筒の直撃には至らなかった。

90Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:29:54 ID:/fKPqQI.0
彼らに助けられた決闘者も、五体満足で生き延びている。

「おっと…!一人だけ行かせたりはしないよ!」

サーヴァントカードの恩恵で感覚も常人の数十倍に引き上げられたのだろう。
煙に紛れて離れようとする鼠を一匹目敏く発見。
コソコソ隠れても無駄だ、聖剣で力任せにロゼを押し退ける。
紅葉みたいなぶっ飛んだ髪型の少年が、何かする前に斬り殺す。

「うえっ!?まだ仲間がいたの!?」

騎士王の聖剣を決闘者に届かせまいと、女剣士が妨害。
屋敷の中にはいなかった筈の人物へ驚くのも束の間、背後よりロゼが斬り掛かる。
女剣士との鍔迫り合いは中断し真横に回避。
空を切った剣を見送らずに二人、いや三人の標的をしかと隻眼に焼き付けた。

「大丈夫?遊戯」
「エアトスを召喚しておいたからな。だが助かったぜ」

襲撃こそロゼ達の手を借りたが、そこから状況に置いて行かれたつもりはない。
急ぎエアトスを戦場に出し、次に何が起きても対処可能な準備は出来た。
見た所敵は二人、ロゼと零に加勢といきたいが被害に遭ったのは自分達3人だけじゃあない。
砲撃はイリヤ達がいた部屋にも行われたようで、煙が上がるのが見える。
向こうはどうなった、何とか凌げたのか、或いは最悪の事態に陥ってるのでは?
仲間達への不安は加速し、すぐにでも駆け付けたいが敵は素通りさせてくれない。
敵の対処は自分達に任せて、遊戯はチノ達の元へ行くよう伝えようとするが、

「悪いけど、作戦会議を許してあげる程優しくないのよ!」
「む、空気の読めない奴」

ロゼとエアトスを襲い、隙あらば遊戯も狙う。
ここから離れるのを風が許可した覚えはない。
見れば零も士郎の相手で手が離せず、状況はこちらが悪い。
チノ達の無事を確かめたいというのに、叶わず強制的に足止めを食らう。
焦る内心を嘲るように、剣戟の音は激しさを増した。

91Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:30:20 ID:/fKPqQI.0
◆◆◆


「――――っ!?みんな大丈夫!?」

ルビーの言葉を最後まで聞くより先に転身し障壁を展開。
11歳ながら既に幾度となく、命懸けの戦いに身を投じた経験に救われた。
クラスカードの回収、8枚目のカードから現れた黄金の少年、エインズワースとの死闘。
気を張り続けねば命は無い、欠伸を漏らした瞬間に何が起きたかも理解せず死ぬ。
魔術の世界は子供相手だろうと優しくなくて、だからこそこの瞬間の糧となる。

魔術障壁と物理保護の重ね掛け、両方にリソースを割き砲撃の威力を削いだ。
だがモウギュウバズーカは上位の力を持つアヤカシですら一撃で葬る、スーパーシンケンレッドの武装。
まして最終奥義ディスクを装填し放ったのだ、勢いを簡単には殺せない。
障壁を張ったまま、イリヤの背後にいた二人を巻き込み窓ガラスを突き破って吹き飛ばされた。
屋敷から引き離された先で落下したのである。

「大丈夫です…!イリヤさんが守ってくれましたし、司さんも私が…」
「あ、ああ…!二人とも助かった!ってか何が起きて……」

イリヤに遅れる形ではあるが、チノも専用ソードを使い変身。
身体能力強化の恩恵を受け、地面に叩きつけられても生きていられる打たれ強さを得た。
危険なのは二人と違って普通の人間の肉体の司。
高所から落ちれば骨が折れるし、当たり所が悪ければ即死も有り得る。
咄嗟にチノが引き寄せ守ったお陰で、大事にはならずに済んだ。

92Judge End ─アドバンス・カーニバル─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:31:07 ID:/fKPqQI.0
互いの無事に安堵するも、気を抜ける段階ではない。
屋敷が何者かに襲われた以上、きっと遊戯達にも危険が迫っている。
彼らを信じていない訳ではないが、かといってこのまま任せっ切りは御免だ。
仲間達の元から遠ざけられたのは痛い、一刻も早く戻らなくては。

『――待ってください皆さん!こちらへ急接近する反応があります!』

逸る心に身を任せるのは不可能。
警戒を呼び掛けるルビーの言葉に間違いは無く、三人の前に新たな脅威が姿を見せた。

「へえ、私以外にも魔法を使える奴が参加してたんだ」

故意か偶然か。
仲間達との合流を妨害する、最悪のタイミングで現れる魔女。
栗色の髪を揺らし、幼い風貌には不釣り合いな異様なプレッシャー。
天より見下ろす瞳は赫に染まり、少女達を決して逃しはしない。

「あなたは……」
「悪いけど自己紹介なんてしないから。あの男の時みたいに、余計なこと言われても腹立つし…」

ボソリと呟かれた苛立ちが、誰に向けてかをイリヤ達は知らない。
友好的なものが一つも含まれない視線を寄越す少女を知る者はこの場におらず。
数少ない情報から導き出されるのは一つ。

「私の為に、全員ここで死になさい」

戦いは決して避けられない。

93Judge End ─BLADE CHORD─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:32:23 ID:/fKPqQI.0



零と士郎、二人の得物は奇しくも双剣。
片や陰我を断ち切る刃。
片や外道を葬る刃。
人の世を乱す悪しき魔を祓う力は今宵、敵同士として相俟みえる。

片手持ちに変え斬り込む零には、余分な動作というものが一つも無い。
狙いは的確、防御は最小限、付け入る隙を決して見せない。
大袈裟な動きに出れば出る程、自ら死ぬ確率を引き上げるのに繋がる。
戦闘に伊達や酔狂を持ち込む性質に非ず、まして今は仲間の安否を一刻も早く確かめねばならない状況。
敵の早急な無力化が求められるのなら、応えない理由は無かった。

右の剣が防がれても左がある。
左の剣が弾かれたも右がある。
片方の剣のみの操作に意識を割き、もう片方はお粗末な剣筋しか描けない。
といった素人丸出しの拙さとは程遠い、巧みな剣術で追い詰める。

肩へ迫る切っ先を弾き、ほぼ同時に反対のシンケンマルを脚部の防御に回す。
腕を貫かれれば刀を落とし、脚を斬られれば機動力が低下。
戦闘を不利にする傷を優先して対処。
時折掠め付けられる赤い一本線など、僅かに思考を割く価値すら無い。
魔戒剣の猛攻を前に、士郎もまた常人ならざる速さで双剣を振るう。

腕の鍛冶職人が魂を籠めた刀だろうと、ソウルメタル製の剣と打ち合うのは悪手。
度重なるホラーや暗黒騎士との死闘を経て尚も、僅かな亀裂も生まれない強度だ。
却って自分の武器をお釈迦にするだけだが、シンケンマルには未だ破壊の予兆は見られない。
アヤカシの強固な皮膚を切り裂き、血も涙もない外道共が苦悶の声を出さざるを得ない刃。
かの御大将、血祭ドウコクとも剣戟を演じた名刀なれば渡り合うのも不可能ではない。

94Judge End ─BLADE CHORD─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:33:15 ID:/fKPqQI.0
斬り掛かり弾き、斬り掛かり防ぐ。
変わり映えのしない攻防を繰り返した所で、体力の無駄遣いである。
動きを変えに出たのは士郎、攻撃の対処を防ぐから受け流すに変更。
魔戒剣の刀身へ反発するのではなく、逆らわずにシンケンマルを添えあらぬ方へと誘導。
己の意思とは無関係に空振りを作らされた零へ、ようやく生まれた隙を見逃さない。
針の穴一つ分すらあるかも妖しい箇所を強引にこじ開ける。

「やるねぇ!」
「くっ…!」

自身が敵へ攻撃の機会を作ってしまったと、零本人が気付かぬ筈がない。
相手がソコを突くと分かったのなら、後はどれだけ速くその穴を塞げるか。
何の問題にもならない、この程度を余裕でやってのけれないようでは絶狼の称号は返上確定。
逆手持ちの剣を振り下ろし、切っ先がシンケンマルを真上から突く。
手首の震える感覚に耐え切らねば、武器を落とし兼ねなかった。

刀は握ったまま、腕を走る衝撃に一瞬の硬直。
自由に攻撃してくださいと言わんばかりの士郎へ、許可を得るまでも無く蹴りが飛ぶ。
腹部を叩き意識を遠ざける一撃が迫る中、後退では無く前進を選択。
姿勢をより低くし蹴りを回避、頭上で空気が裂かれた男が聞こえた。
切っ先が地面をなぞりながらの斬り上げに、魔戒剣を交差させ防御。
攻撃の構えを再び取らせはしない、士郎が攻めに移る。

シンケンマルを振るう腕が休むことは無く、剣と剣の語らいが終わる気配は一向に訪れない。
馬鹿正直に急所を狙うだけで勝てる相手でないとは、とっくに理解した。
剣の位置を細かにズラし、あえて自ら隙を晒し敵を誘い込む。
待っていても勝機は見えず、己の手で作り出さねば敗北へまっしぐらだ。

強い男だと素直に思う、剣の腕には畏敬の念を抱かざるを得ない。
聖杯戦争で打ち破って来た人形達とは、根本的な強さからして違う。
確固たる意志を宿し、今日に至るまでに培ってきた技。
本人の才能と重ねた修練が足を引っ張る事無く互いを高め、脅威となり士郎を襲う。
サーヴァントカードを使った戦いとの違いを噛み締める。

95Judge End ─BLADE CHORD─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:34:01 ID:/fKPqQI.0
「不意打ちかました卑怯な奴の割りには、良い腕してるな」
「…どうも、って言うべきか?アンタに言われても、嫌味にしか聞こえないぞ」
「褒めてるのは本心からだよ。ま、女の子の扱いは最悪だけど」

嘘偽りを混ぜたつもりはない。
零から見た士郎に、おおよそ剣の才能というものはまるで感じられなかった。
だが一つの道を究めた技は無くとも、戦い方が巧い。
自身の武器と肉体のみならず、時には零の攻撃すらも利用し勝利へ繋げんとする貪欲さ。
魔戒騎士とは異なる形の強さを否定はしない。
だからこそ残念に思う。

「俺らよりもずっと年下の女の子が大事な人を守りたいって頑張ってる時にさ、別の女の子唆して殺し合いに乗るなんざダサいと思わないのかよ?」

言葉では無く剣を交わし分かる事実もある。
赤銅色の少年には、他者を甚振り殺す下衆な性根は無い。
己に取って譲れないものの為に、愚直なまでに突き進む。
融通の利かなさとも取れる部分は友を思わせ、個人的には嫌いじゃない。
チノ達すらも容赦なく殺すという、誤った決意さえなければ。

「そうだな、ロクでもない奴ってのは自覚してる」

辛辣な言葉を反論せず肯定。
誰に一々指摘されるまでもなく、己の行いが悪に分類されるとは十分理解している。
もし何かが違えば、殺し合いを止める為に奔走した可能性とてあったのだろう。
所詮はIFの話に過ぎない、たらればを口にした所で何も変わらないし救えない。

こんな時に、いつだったかあの神父に言われた言葉が蘇る。
自分はもう選択を終えているのだ。
振り返って考え込む段階はとうに昔に過ぎ、進む以外の道を望まない。

「けど悪いな、こればっかりはどうしても譲れないんだ」

言い切った姿を見てしまえば、零でなくとも分かる。
言葉で止まる相手では無い、どうしても邪魔をしたくば力以外に方法は無いのだろう。
これ以上の会話は最早不要と、口の代わりに剣を振るい訴える。
なれば守りし者として応えるまで。
その間違った決意が他の者に牙を剥く前に、ここで折らせてもらう。

96Judge End ─BLADE CHORD─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:35:08 ID:/fKPqQI.0



豪快な一撃を真っ向から受け止める。
どちらの剣も破壊の予兆は一切無し、叩きつけ合った音が鼓膜を震わす。
耳鳴りを掻き消す威勢の良い声は、閃刀姫の背後から。
僕の名を呼び掛ける決闘王の名に従い、刃が夜明け前の戦場に煌めく。

閃刀姫との鍔迫り合いを続ければ、もう一本の剣を我が身に受ける他ない。
生憎とわざと傷を負って、苦痛に喜びを見出す性癖は持ち合わせてはいない。
篭手に覆われた両手が張り、閃刀姫を力任せに押し返した。
綿毛のように軽やかに宙へ浮く少女から、視線は間近に迫る別の脅威へ。
守護者(ガーディアン)の名を冠した女剣士が、主の危険を排除すべく剣を振り下ろす。
一撃で命を刈り取るつもりだろうがお断りだ、こちらも剣を駆使し対処。

「押し切れ!エアトス!」
「無駄な命令してんじゃないわよ!」

命令を拒否する素振りは見せず、言われた通り剣を押し込む。
が、行動に移ったからと言って思い通りの光景になるとは限らない。
得物に掛かる重さが多少は増したようだが、後退させるには力不足も良いところ。
たった数ミリ後退りもさせられない女剣士の儚い努力を、一刀の元に終わらせてやる。

長剣諸共叩っ斬ろうとし、させじともう一人が距離を詰めた。
血よりも濃い赤がバイザー奥の瞳を焼き、吸い込まれるように首へ一直線。
攻撃を諦め真横へ跳躍、喉を貫く筈だった切っ先から遠ざかる。

「じゃ、先にアンタを仕留めれば良いだけの話!」

着地と同時に地面を蹴り、一跳びで遊戯の元まで辿り着く。
片足にどれ程の力が籠められたのか、手入れの行き届いた庭は哀れ陥没。
草花の悲惨な末路には目もくれず、奇抜な髪を血と脳症で汚す剣を叩きつける。
女剣士は正規の参加者ではなく、この少年が操るNPCのようなもの。
命令を下す本人が死ねば手間が省けて一石二鳥だ。

97Judge End ─BLADE CHORD─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:36:16 ID:/fKPqQI.0
「そうさせない為に私がいるのを忘れた?」

自身の突きが皮一枚すら裂けなかった時点で、既に閃刀姫は次の動きへ切り替えた。
敵の機動力は目を見張るものがある、けれどこちらを侮ってもらっては困る。
伊達に列強国の戦力として前線に立ち続けた訳ではない。
今となっては自慢に思うどころか、愛しいもう一人の閃刀姫との旅を邪魔する祖国に忌々しさを向けているが。
それはともかく、突風に背を押されたと見紛うスピードを発揮。
黒騎士が齎す死を己が剣で払い除け、背後を見ぬまま「離れて」と一言。
言われた通りに動く気配を感じつつ、数度目となる黒騎士との剣戟へ持ち込んだ。

咆哮一閃の刃に獰猛な竜を幻視しつつ、心は掻き乱されずに防御。
痺れる両手と後退を余儀なくされる衝撃、やはり力は向こうが上か。
分かった上で受け止めたのだ、よろけたロゼを食い千切らんと刃が唸る。
予想通り、わざと体勢を崩したのをチャンスと睨んだらしい。
黒い刀身に愛剣を添え受け流せば、反対に向こうへ隙が生まれた。
横薙ぎに振るった剣を危うい体勢から防御、身体能力に物を言わせれば無茶も通るか。
そうする事も読んでいる、向こうが力を籠めるより早く跳躍。
頭上からの襲来すら防ぐも、鎧越しの腕を蹴り着地。
黒剣が仕留めに来るも一手遅い、真紅が駆け抜け枷を填められた首に牙を突き立てた。

「ああもう!しつこく首狙い過ぎじゃない!?」

首輪の下にも寒気が走り、危機感に急かされ剣を翳す。
鎧に覆われた肌は未だ無傷、白さを保ったまま。
文句を言われようと襲って来た輩と会話を交わす気は無い、返答は殺意を十全に乗せた剣だ。

(何だろう、この変な感じ……)

斬り合いを通じロゼが敵から感じたのは、何とも奇妙な力量。
強いか弱いかで言えば間違いなく前者。
純粋な身体能力は確実に自分やエアトスを超える。
打ち合いを続け先に腕が使い物にならなくなるのは自分の方。
鎧を着込んでいるにも関わらず、敏捷性も油断ならない。

しかし勝ち目の無い相手でもない。

確かに敵は強いが、不意を突かれる場面も少なくない。
こちらの攻撃は全て防がれたとはいえ、危う気な場面もチラホラ見られた。
優れた動体視力が余裕の対処を可能にしたと言えば聞こえはいいものの、どこかアンバランス。
何と言うか、戦い自体には慣れているが同じ剣士相手には不慣れな面が多々見られる。
ロゼから見た黒騎士はそういう印象だった。

98Judge End ─BLADE CHORD─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:37:01 ID:/fKPqQI.0
(やり辛いな…バーテックスの時とは全然違う……)

ロゼの考えは間違っていない。
風にとって戦いとは殺し合いが最初ではなく、元の世界の四国にいた頃から剣を振るって来た。
初の夢幻召喚で得物のサイズは違えど動きに支障は無く、NPCの群れも傷を負わずに蹴散らす程。
だが風がこれまで相手取ったのは人間以上のサイズを誇るバーテックス。
巨大な異形の相手は慣れているが、等身大の人間と戦うのは大赦襲撃を夏凛に止められた時くらいのもの。
士郎とも一撃を防がれたのみ、よって本格的な戦闘はロゼが初めてとなる。

忘れるなかれ、ロゼは外見こそ少女でも列強国の閃刀姫。
常に全方位を死に取り囲まれる戦場を、身一つで駆け生き延びて来た猛者。
今でこそ最愛のレイとも、出会えば殺し合う以外を許されなかった地獄に身を置き続けたのがロゼだ。
単純なパワーやタフネスだけ見れば、倒したNPCの中にロゼ以上のモンスターがいたかもしれない。
しかし培った戦闘技能と、戦場で極限まで磨かれた感覚はNPCと一線を画す強さの証。
バーテックスとの戦い以外はあくまで一般女子中学生の風では、埋められない差があった。

「だったら纏めて薙ぎ払ってやるわよ!」

尤も、その差を補うだけの力をサーヴァントカードは秘めている。
エインズワースの人形では無い、生きた人間が使えば脅威は当然増す。
横薙ぎに振り回すだけで空気は大きく震え、かまいたちとなって生身の肌を切り裂く。

「面倒な攻撃…!」
「防げエアトス!」

愛剣で弾こうにも腕へ負担を掛け過ぎれば、後々自分の首を絞めるだけだ。
ここは回避を選択、軍服の端を斬られ布が落ちる。
遊戯もまたエアトスに指示を出し防ぐ。

戦況は拮抗、襲撃者達は攻め切れず守護者達も一手足りない。
仲間の元へ駆け付ける為にも、これ以上時間を掛ける訳にもいかない。
流れを変えるべく、各々が次なる手札を切り――





「問おう。お前達は穢れた血の流れる日本人か?」





金色の悪夢が舞い降りた。

99Judge End ─BLADE CHORD─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:38:16 ID:/fKPqQI.0
◆◆◆


森の中に身を隠しながらの逃走もここまでだ。
大木の影に背を預け暫し様子を窺うも、人の気配はおろかNPCすらやって来ない。
黒い乱入者、日本人を庇う愚かな子供、キングを名乗る決闘者、忌まわしき存在を思い起こさせる異形。
先の戦闘で見た顔は待てども一向に現れず、どうやら追跡には出なかったと判断。
大方あの軍人をどうにか治療しようと模索中だろうが、無駄な努力と言わざるを得ない。

「無駄、か……」

敵対者達への呆れが自分自身へ返って来る。
忘れたくとも、忘却は許さぬと脳裏へ刻み付けられた先の光景。
外国人を勝手な思い込みで虐げた許し難き連中同様、殺戮の渦を引き起こす魔人。
野比のび太はよりにもよって神の武器にまで手を伸ばした。
あれは見せかけだけのハリボテではない、正真正銘神の手が加わった神器に間違いない。

何故、あのような愚物の手に神器が渡ったのか。
のび太が神器を手に入れたのは檀黎斗などという偽物ではない、本物の神のご意思なのか。
もしそうなら、神は自分を見限り日本人に味方するのか。

ホーリーフレイムを率いてやって来たことは全て、無駄だったと言うのだろうか。

思考がマズい方へ向かっていると自分でも分かり、一度大きく深呼吸。
今は頭を落ち着かせ、今後の動きを考える方にシフトせねば。
日本人、日本人に味方する異端者、何より神を騙る大罪人。
死を以て浄化せねばならない者を放置し、負のスパイラルに陥る訳にはいかない。
何よりこの地でも日本人に虐げられた同胞が、自分の助けを待っているかもしれないのだ。
同胞に救いの手を差し伸べずして、何がホーリーフレイムの総長か。

いっそ完全に心が折れてしまった方が楽ではある。
しかしあと一歩の所で再起不能を許さないのは、決して消えぬ迫害の記憶と憎悪。
加えて彼女は盲信者であれど、同胞を想う気持ちは本物だ。
本来辿る筈だった未来における狼牙軍団との敗北後、ホーリーフレイム最後の生き残りとなった側近のジョドー。
彼は忠誠を誓った聖女以外の下に着く気は無いと、自ら命を絶った。
他者には歪に見えようとも、幹部達との間には断ち切れない彼女達なりの絆が存在する。

だからこそ折れない、折れる末路を彼女は受け入れない。
動揺を鎮めなければと奪ったデイパックを開き、支給品の確認を始める。
元々自分に支給された道具も強力だが、使える物は一つでも多い方が困らない。
受け入れたくない現実から目を逸らすように手を伸ばし、

100Judge End ─BLADE CHORD─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:38:51 ID:/fKPqQI.0
「これ、は……」

神はまだ、彼女を見捨ててはいなかったらしい。

見た瞬間に確信を抱いた。
コレは神の手が加わっている、神の加護が授けられている。
同封された説明書に目を通す必要は無い。
そんな手間を掛けなくても、神の存在を確かに感じ取れるのだから。

「そうか…神よ、あなたのご意思を一瞬でも疑った私をお許しください…」

膝を付き、己が信ずる絶対神へ首を垂れる。
穢れた日本人の軍人の手を離れ、己が元へと渡った。
果たしてこれは偶然か?否、神のお導きに他ならない。
天からの恵みを受け取り試練を果たしてみよという、神託以外の何だと言うのか。

のび太が神器を持っていたのも、断じて自分の死を望んでいるのに非ず。
不当に奪われた神の所有物を振るう愚者を滅せよという、己への使命だったのだ。
なのに自分は愚かにも神に見捨てられただのと悲観し、ご加護と祝福へ疑念を抱く始末。
穴があったら入りたいどころじゃない、数分前の自分の首を撥ねてやりたい。

しかしまだ死ぬ訳にはいかない。
罰は全てが終わった後で幾らでも受けよう。
今はただ、神のご意思に従い己が使命を果たさねば。

神の恵みと信じて疑わない、白い外套を身に纏う。
するとどうした事か、翼を得たように体が宙へ浮いたではないか。
奇跡染みた現象も神のお力を以てすれば不思議は無く、有難き力と感謝し辺りを見回す。

そこで目にしたのは、市街地と思しき場所で起きた爆発。
周囲の民家の倍の大きさがある建造物だからだろう、ここからでも異変は捉えた。

闘争の気配が漂う場へ行かない選択肢は無い。
同胞には救いを、日本人と異端者には死を。

聖戦と信じてやまない大虐殺を繰り広げる聖女が、新たな火種となり混乱を加速させる。

101Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:40:35 ID:/fKPqQI.0



太陽の昇らぬ時間帯にて、その女は輝いていた。
聖女、或いは神の遣い、或いは物語の英雄。
銀の甲冑を身に纏い天より見下ろす、威風堂々たる姿。
気高き騎士としか思えぬ美しさが、外見だけのハリボテに過ぎないと遊戯は知っている。
いるかも分からない神を盲信し、憎悪に身を焦がす虐殺者。
ホーリーフレイム総長、ジャンヌの登場に場へ緊張が走る。

正体不明の女剣士は目を凝らせば首輪が装着されていない。
ジャックや遊馬が操るのと同じ、カードのモンスターの類だろう。

「そこな剣士を従える者。そいつが傍にいると言う事は、あの時浄化の邪魔をしたのはお前だな」
「どうかな。生憎俺が邪魔してやったのは浄化なんて聞こえの良いものじゃなく、殺しっていう卑劣な真似だぜ」
「フ…ならば貴様も粛清の対象と見なす。あの異端者達の姿は見えないが…まぁいい」

皮肉交じりの返答へ冷たく微笑み、他の者達へ今一度問う。
己の保護すべき同胞か、この手で滅ぼすべき邪悪か。
沈黙は許さぬと圧が籠められ、漂う空気の重苦しさが一段階上がる。

「そんな恐い顔しないで、一旦剣を下ろして落ち着かない?外国人を守りたいって気持ちは俺も応援したいしさ」

柔和な笑みと軽い言葉を用い、相手の警戒をどうにか解こうとする。
外見の特徴や言動から察するに、イリヤ達が言っていた女騎士で間違いなさそうだ。
零としてはどんな恨みがあろうと日本人虐殺は当然認められないが、ジャンヌが最初イリヤのことだけは保護しようとしたとは聞いている。
外国人限定との大前提付きとはいえ、守る為に剣を振るう姿勢は否定しない。
何より嘗て復讐に走った零だからこそ、無関係の人間を手に掛ける暴挙はジャンヌ自身の為にも見過ごせなかった。

「日本って国は知らないけど、あなたの言ってることは論外。殺し合いに乗ったのと同じにしか見えない」

バッサリと切り捨て辛辣に答えるのはロゼ。
復讐自体は間違ってると言わないし、ジャンヌの抱える憎悪を忘れろと言う気も無い。
自分は日本人のカテゴリから外れる為、向こうにとっては仲間に認定されるのだろう。
しかチノや零と言った仲間を殺害対象にする相手の庇護下に入るなど、許容できる筈が無い。
特定の個人ではなく人種全体を復讐相手と見るのは、幾ら何でも度が過ぎてる。

102Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:41:52 ID:/fKPqQI.0
態度に違いはあれど、両名共にこちらと相容れない存在と分かった。
残る二人の方をチラと見やる。

「…何だかややこしくなって来たけど、日本人を殺すっていうなら最初からこっちに聞く意味ないでしょ」
「そんな恰好してるからどこの国の人間か分かんなかったんじゃないか?」
「あーそういう…じゃあ誤魔化せば良かった?ってもう遅いか」

黒い鎧に身を包み、顔もバイザーで覆っていれば一目見ただけでは日本人かどうか判別が付かない。
協力者から指摘されるも既に遅い、ジャンヌの敵意が膨れ上がる。
尤もジャンヌは九十九遊馬や明石など、日本人的な名前と容姿だが日本人では無い参加者と既に会った。
なので誤魔化しようは幾らでもあったのだが、士郎も風もジャンヌについて何も知らない為仮定の話でしかない。

「つまり、貴様たち全員生かす理由の無い罪人という訳だな」

遊戯は最初から除外するとして、後の4人も殺すべき日本人と異端者。
またしても日本人の戯言に惑わされ堕落した同胞を見るのは、全く持って嘆かわしい。
魂を腐らせた者に与える救いは死以外にない。

「生かす理由が無いのは私達だって同じ!」

横から出て来ていきなり上から目線で言って来たと思えば、勝手に納得。
クールな自分に酔うのは結構だが、ノコノコ顔を出したからには無事で済むとは思わないで欲しい。
最終目的は別でも、相手の死を望んでるのは風も同じなのだから。

先手必勝で斬り掛かる風は無鉄砲に見えて、その実自分から意識が逸れた瞬間を見極め攻撃に移った。
自分達よりも前に交戦したらしい遊戯を先に殺すつもりのようで、実に好都合。
最も良いのは一撃で終わりだけど、対処されても今の自分ならば仕切り直せる。

103Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:42:29 ID:/fKPqQI.0
「愚かな…」

呟きは聞き取れず、ジャンヌの腕がブレたかと思えば胸部へ衝撃と痛みが襲い。
自信を木っ端微塵に打ち砕かれた。

「い――――!?」

斬り掛かった直後に吹き飛ばされ風の名を、最後まで言い切る余裕は無い。
士郎の眼前にジャンヌが現れた。
今の今まで宙に浮いていたのに、一体いつ降りて自分の元まで来たのか。
脳内を埋め尽くすクエスチョンマークを残らず捨て、思考を敵の殺害に切り替える。
でなければ言葉一つ、いや一文字口にする事も出来ずに即死だ。

目で追うだけでは無い、肌を撫でる感覚を頼りに双剣を操る。
聞き慣れた剣戟の音が絶え間なく聞こえ、鼓膜に響く痛みは無視。

(こいつの動き、は――っ!)

剣と剣をぶつけ合っているのは間違いないのに、敵の得物の刀身が全く見えない。
現れた時持っていたのは見間違えようも無い、聖杯戦争で対峙した究極の聖剣。
怨霊染みた執念の、エインズワース先代当主が使ったサーヴァントカードと同じ。

(違う…こいつの持ってる剣は【本物】だ…!)

カードにより再現されたのではない。
この強さ、この輝き、心を揺さぶる感動と戦慄。
よもやサーヴァントカードではなく、宝具をそのまま参加者に支給したと言うのか。
どうかしていると主催者に呆れを抱くも即座に捻じ伏せ、眼前の敵以外の雑念を排除。

刀身が見えないのはザッカリー・エインズワースの時と同じ、ではない。
単純に剣を振るうスピードが速過ぎて、目でハッキリと捉えらないのだ。
空気の振動で刃の位置を読み取り、一撃も喰らわないように防ぐ。
喉の奥まで渇く緊張感に身を苛まれながら、決して集中力を切らさない。

104Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:43:15 ID:/fKPqQI.0
「がっ!?」

僅かに右足が後退し、構えがブレる。
悪寒が背を駆ける、この程度の隙と呼べるか怪しい瞬間さえ致命的。
双剣を交差し防御の構えを取ったのと、鉄塊を叩きつけられたような衝撃が来たのはほぼ同時。
暴風を宿す化け物染みた腕力で、尋常ならざる速さを乗せて聖剣を振るえば。
男一人を紙吹雪よりも軽く飛ばすのは容易い。

直撃しなかっただけマシなのか。
これでもまだ壊れずに、身を守ってくれたシンケンマルに感謝すべきか。
どっちを考えるべきか士郎には分からない。
背中から屋敷に叩きつけられ、目から火花が散る感覚を味合わされる。

自分達と渡り合った二人組が、呆気なく返り討ちに遭った。
驚愕の光景に何を思う暇も無く、聖剣が猛威を振るう。
来る、そう構えた時にはもう手遅れだ。

「エア――っ!?」

守護者(ガーディアン)に指示を出すのをむざむざ待つ必要は無い。
凌牙やジャックの時と同じだ、モンスターを無視し当人を直に叩いた方が手っ取り早い。
デュエルで追い詰められた時とは別種の危機感が遊戯を襲う。
相棒の声が聞こえるも、大丈夫の一言すら返せない。

「させ――」
「――るかってのぉっ!!」

ジャンヌがどれだけ遊戯の死を望もうと、彼の仲間は断固として否を唱える。
軍服をはためかせロゼが割って入った。
真紅の剣が聖剣を阻み、別方向からは目を焼き潰す銀の輝きが疾走。
駆け出しながら頭上に円を描き、白銀の鎧を纏った零である。

105Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:43:51 ID:/fKPqQI.0
悠長に突っ立って鎧召喚をやっていれば、その間に仲間が命を落とす。
慌ただしい工程を挟んで、銀牙騎士絶狼が降臨。
聖剣の輝きにも引けを取らぬ、人類の希望の光にジャンヌも目を細める。

「その輝き……穢れた血の分際で烏滸がましいな」

魔戒騎士の存在には何か感じるものがあったのか、しかし頭を振って否定。
どれだけ眩くとも纏う本人が穢れていては、錆び付くだけの鉄屑に過ぎない。

ジャンヌの目的は対話に非ず殲滅。
言葉を引っ込め聖剣が浄化を全うすべく駆け、対峙する剣士達も己が得物で以て応える。
真正面の二方向より三つの刃が、背後からは守護者の剣がぞれぞれ迫る。
こちらは聖剣一本。
問題無い、数を増やせば勝てるという思い違いを正してやる。

「散れ!邪悪どもよ!」

剣を横薙ぎに振るう、たったそれだけで三人が吹き飛ばされる。
エアトスから離れた位置の遊戯にまで影響は及び、ワイヤーを引っ掻けたように後方へと吸い込まれた。
巻き起こった暴風に紙風船のように飛ばされる中、耐え凌いだのは零。
絶狼の鎧は見せかけのハリボテではないのだ。
叩きつける風へ真っ向から挑み、リーチと威力を増した双剣を振るう。
重厚な鎧を纏っているとは思えない速さだ、敵の剣を叩き落とすのは難しくない。

聖剣に触れる直前で狙いが外れた。
違う、ジャンヌの姿が消え零の背に痛みが襲う。
誰がやったと考える必要は無い、振り返り様に剣を振るうも遅い。
敵は再び零の死角へ回り込み攻撃、今度は防御が間に合ったが仕掛ける前に気配は別の方へ移った。
反撃される前に移動を繰り返し、致命傷は無くとも鎧越しから体力を削り取る。

(幾ら何でも速過ぎるだろ…!?)

回避どころか反応一つもままならない、悪夢のようなスピード。
鎧を纏っていなければとっくに急所を斬られ殺されている。
これ程の強敵を相手にイリヤは一人で耐え凌いだのか。

106Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:44:35 ID:/fKPqQI.0
ジャンヌの速さの秘密は尾形から奪った支給品にあった。
神の恵みと感謝し身に着けたソレの名は、白鳥礼装(スヴァンフヴィート)。
大神オーディンが戦乙女、ワルキューレに達に与えた白鳥の衣。
纏った者は飛行能力を有し、機動力の大幅な強化を可能とする。
更にジャンヌはこれまでの戦闘同様、主霊石の力を引き出し自身の強化に充てていた。
平時でさえ各地の勢力の中でも抜きんでた力を持ち、此度は主霊石と神の加護が施された衣も加わる。
爆発的な加速は他者の追随を許さずに蹂躙を可能とした。

「この、程度で…!」

吹き飛んだ先で木に叩き付けられそうになったが、蹴り付け強引に立て直し完了。
片足の鈍い痛みを黙殺しロゼが接近、零が攻撃を受けた一瞬を狙う。
切っ先はジャンヌの腹部に吸い込まれていき、甲冑を貫き赤く染める筈。
だが予想と違い現実にはジャンヌに傷一つ付いていない。
剣は腹部に当たったが、突き刺さるには至らず弾かれたのだ。

これもまた白鳥礼装の効果。
オーディンの加護は飛行能力のみならず、物理・魔術両面への耐性を使用者に授ける。
数多の敵を葬った刀剣型デバイスも、戦乙女の防御を打ち破る力は無い。

「嘆かわしいな、日本人に惑わされていなければお前にも神のご加護があったかもしれぬと言うのに」
「そんな胡散臭いものこっちからお断り。私は私が信じたいものを信じる」
「神を愚弄するか。それ程までの堕落、最早語る言葉も見付からん」

冷徹な表情は変わらないが殺意が一層膨れ上がり、攻撃されずとも肌に痛みを感じる。
これは確実にマズい、少なくとも同じ場所に突っ立って剣を受け止めるだとかは論外。
跳び退く為に片足へ力を籠めた直後、暴風が自我を宿し急接近。
咄嗟に剣を防御に回せたお陰で、聖剣の狙いを幾分逸らすのに成功。
なれど完璧に防ぐには速さが余りにも足りない。

「っ゛!」

左肩が熱い、熱した鉄を押し当てられてるようだ。
軍服の下の柔肌を裂き、刃が血管を引き千切る。
痛みに慣れているとはいっても、何も感じない程痛覚か鈍いのでは無く。
噛み殺して剣の間合いから離れるが、敵が追い付くのに1秒も掛からなかった。

107Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:45:23 ID:/fKPqQI.0
「俺とのデートをすっぽかされるのは、流石に傷付くぜ…!」

背後より斬り掛かるのは正々堂々と言い難く、なれど仲間の命が懸かった状況でスポーツマンシップを持ち出す馬鹿になったつもりはない。
銀の双剣を染める赤は流れず、虚しく風を切り裂くに終わるもロゼへの攻撃は中断。
代わりに狙いは再び零へ移り、四方八方からの猛攻を感覚頼りに防ぐ。
目で捉えるのが難しかろうと対応する手はあり、絶狼の鎧の防御力は簡単に突破不可能。

(そろそろ時間が…!)

が、魔戒騎士の鎧は永続的な絶対防御を許す物に非ず。
99.9秒、定められた時間を過ぎれば待ち受けるのは理性無き獣の末路。
心滅獣身、黄金騎士牙狼でさえ逃れること叶わず堕ちた瞬間を忘れてはいない。
焦りが募る零の危機に、打倒主催者を誓い合った閃刀姫が動かぬのは有り得なかった。

「零…!」

服の袖を破り肩に強く巻き付け、応急の止血は済んだ。
本格的な処置など生き延びれば後で幾らでも出来る。
踊るように割って入り、聖剣の猛攻を自らの刃で阻止。
一撃が重く傷に響くも泣き言は言ってられない。

「ロゼちゃんサンキュ…!」

仲間が命懸けで生み出してくれたチャンスをふいにはしない。
下がり鎧を解除、生身に戻り再び双剣を掲げる。
ジャンヌ相手は鎧の再召喚が必須、ロゼが限界を迎える前に急いで纏わねば。

「無意味だ、何をしようとな」

しかしジャンヌは余計な抵抗を一つとして認めない。
望むのは日本人と異端者の浄化、いらぬ手間を掛けさせることが既に神への冒涜に他ならない。
これまでの戦闘を通じ主霊石の力の引き出し方は理解出来た。
より強大な力を操り穢れた血を消し去るのも、自分ならば不可能でないと教えてやろう。

108Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:46:28 ID:/fKPqQI.0
主霊石の輝きが増し、ロゼと零の足元が光り出す。
緑の美しさに心奪われる二人ではない、むしろ嫌な予感しかしない。
予想的中とでも言わんばかりに光の柱が降り注いだ。

「く、ううううう…!!」

地面が焼かれた時にはもう回避に動いた後。
殺せなくともジャンヌの内面は波一つ立たず、冷静に敵を見据える。
今の自分でも手を焼く鎧の召喚は妨害し、割って入る娘もすぐには動けない。
となれば、次の展開は馬鹿でも予想が付く。

「がっ……」

剣を翳す反応を見せたのは流石の魔戒騎士だろうが、そこが限界だ。
聖剣は零の肉体を容赦なく斬り、真っ赤な花を咲かせる。
黒いコートは濡れて色の濃さを増し、剥き出しの手や顔も赤く彩られた。
ゴフリと吐き出した塊がまた、緑の地面を赤色に汚す。

「ふむ、即死は避けたか」

致命傷を与えた手応えはあったが、一撃で命を刈り取るには至らなかったらしい。
あの僅か過ぎる猶予の間に辛うじて命を繋ぐとは、相当な腕前。
だができたのはそこが限界、地に伏せた零は最早死を待つだけの身。
手を下すまでも無いが念には念を入れるべきか。

「っ!?零…!!」

ああしかし、それにはまず異端者を片付けねばなるまい。
悲鳴交じりに仲間を名を呼ぶ少女を、ジャンヌが見る目はどこまでも冷たかった。

109Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:47:15 ID:/fKPqQI.0
「無駄だ。お前もそこの日本人も、すぐに浄化され同じ場所へ導かれる」
「五月蠅いっ…!」

額に汗を滲ませながらも鉄面皮だったが、今や血相を変え剣を叩きつけている。
怒りと焦りを宿し振るわれた剣はジャンヌを斬れない、仲間の下へ行く道を作れない。
激情を乗せれば勢いは苛烈さを増すだろうが精細さには欠ける。
心を乱した拙い剣で倒せるほど、ジャンヌは甘く無かった。

横薙ぎの刃をするりと躱し背後を取る。
見えない位置から迫る死が多少は頭を冷やしたのか、両断される前に回避。
逃れた先で地面に横たわる零が視界に映り、ロゼの冷静な部分が告げる。
淡々と、機械染みた声色で、あれはもう無理だと。

(そんなの……!)

否定したいけれど、幾つもの死を間近で見て来たロゼには分かってしまう。
列強国の兵士として戦場に駆り出されていた頃なら、簡単に割り切れたかもしれない。
でも今は動揺が抑えられない、仲間の死を受け入れたくない。
レイに助け出され、普通の女の子らしい生活を二人で送った影響か。
列強国にいた時程感情を押し殺せないでいた。

「虫の息の日本人共々、終わらせてやろう」

レイの内心に最初から興味は無い。
あと一歩の所で死を遠ざけるのなら、逃げ場など無いと思い知らせてやる。

主霊石が力を解き放つ。
光の柱の比では無い、見る者全員に戦慄を抱かせる輝きだ。
暴風を起こす、機動力を高める、それも使い方としては間違っていない。
だが主霊石の真価には程遠い、領将達がその程度の力しか持たない凡夫なら。
彼らは最初から時代の王候補には選ばれなかった。

「我が怒りは神の怒りと知れ。貴様らの穢れし血、一滴も残さず消し飛ばしてくれる」

空が叫ぶ。
ジャンヌの言葉通り、神々が地上の蟻へ憤怒を抱き神罰を下す。
主霊石が風を操り力を束ね、悪しき魂を飲み込む竜巻を引き起こした。
一つだけでも脅威となるソレが、よりにもよって四つ。
悪夢と、他の言葉が見付からない光景が広がる。

「……っ!」

自我など持たない筈の竜巻がどうしてか、とぐろを巻いた大蛇に見えた。
聖女を気取った虐殺者に従い、自分達を喰い殺す化け物に。

「ふざけないで…!」

これで終わりなのか。
仲間が倒れるのを見ることしか出来ず、暴虐を振り撒く女に一矢報いることも出来ず、最愛の彼女とはこんな形で別れる。
納得なんて出来ない、死んでなどやらない。
心はどれだけ否定しても、現実は自分達へ死を突き付けて来る。
あの女の信じる神なんぞに命を捧げる、こんなものがエンディングか。

110Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:47:59 ID:/fKPqQI.0
「私はまだ――!」

「諦めたくないよな…俺もだ……!」

少女の切な願いを引き継ぎ、魔戒騎士が咆える。
ロゼが目を見開き、立ち上がる大きな背中を見た。
ジャンヌが目を細め、不愉快極まりない死に損ないを睨んだ。

「女の子だけ残して勝手にダウンなんざ、カッコ悪いにも程があるでしょうよ…!」

夥しい血で汚れた黒衣は、白銀の鎧に隠された。
助からない?もうすぐ死ぬ?
言われなくとも分かっている、その上でだから何だと言ってのける。
終わりじゃない、剣を握れる内は終わりだなんて他の誰がほざこうと認めてやるものか。

「しぶとさは一級品か。だが、一体何ができる?」

満身創痍で戦う意思を見せ、それが何だと言うのか。
零の姿も言動も、全てがジャンヌの心には響かず見下す。
自分に届かせられなかった剣が、半分以上死へ浸かった肉体で今度こそ届くとでも思ってるのなら。
正常な思考もままならない、死を受け入れられず現実逃避に走った愚物以外の何だと言う。

「決まってんだろ…おっかないお嬢ちゃんに、ちょっぴりキツいお仕置きをするんだよ…!」

なれど、零は不敵に笑う。
気が触れたのでも無ければ、断じて自棄を起こしてもいない。
今こそ見せてやろう、余裕を崩してやろう、度肝を抜いてやろう。

銀牙騎士絶狼の最後の舞台を派手に飾ってやろう!

111Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:48:42 ID:/fKPqQI.0
「え……?」

その音を最初に聞いたのは騎士の仲間の少女。
竜巻に庭が破壊され屋敷も蹂躙される最中だというのに、ハッキリと音を拾った。
大地を駆け、嵐に襲われようとも決して止まらない。
音は徐々に大きくなり、正体不明のナニカがとうとう姿を現す。

極限まで研ぎ澄ませた刃の如き煌めきをソレは放つ。
立ち塞がる邪悪を貫き、我が道を突き進む為の角を揺らし、己が友を見下ろす。
白銀に身を包んだ騎士の声に応え、共に立ち向かう希望。

名を魔導馬・銀牙。
試練を突破した魔戒騎士だけが召喚を許される魔戒獣である。

「来てくれてありがとよ…最後まで付き合ってもらうぜ…!」

喉奥からせり上がる血を飲み込み言う零に、銀牙はけたたましい声で応と返す。
友の終焉が近いとはもう分かっている。
しかし悲しみは必要無い、友が自分の力を必要としてるなら。
彼が命を燃やし尽くすその時まで、自分はただ走るだけだ。

騎士を背に魔導馬が駆ける。
竜巻が齎す破壊の騒音を掻き消すように、蹄の音が戦場中に響き渡った。
ジャンヌの瞳は依然変わらず冷徹、宙へと舞い穢れた愚者達を見下ろす。
来れるものなら来ればいい、その前に蹂躙され塵と化すのは目に見えている。
四つの竜巻が破壊の痕を刻みながら零を飲み込む。
聖女には指一本触れさせぬと引き裂く様は、ジャンヌに従うホーリーフレイムの騎士達のよう。

112Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:49:25 ID:/fKPqQI.0
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」
「なっ!?」

故にこそ、鉄壁の防御にして無敵の矛が破られた光景は。
闘争が始まってから初の驚愕を、ジャンヌであっても抱かざるを得ない。

魔導馬が蹄音を鳴らせば鳴らす程、魔戒騎士は通常時を上回る力を発揮する。
柄同士を繋げた二双の刃は巨大化し、零や銀牙の体躯すらも超えた巨人の武器と化す。
身の丈の数倍を誇る剣を豪快に振り回し、主霊石で生み出された竜巻を霧散。
標的への道を阻む邪魔な風は残り一つ。

「舐めるな…!!」

小癪な日本人への怒りすらも燃料に迎え撃つ。
竜巻を破った程度が何だ、主霊石を掲げ星霊力を流し込む。
神の怒りを嘲笑い、あまつさえ未だ歯向かう身の程知らずに思い知らせてやる。
竜巻が更に巨大化し、魔戒剣が突き進む。
光を放つのは同じでも、輝きに籠められた想いは正反対。
コンディションの差が影響し、優勢を保つ聖女に届かず無念の死を遂げてもおかしくはない。

「魔法カード、結束 UNITYを発動!」

バッドエンドを覆す仲間がいなければ、そうなっただろう。

吹き飛ばされ壁に叩きつけられた衝撃で、頭部から血を流すも知ったことではない。
仲間が戦っているなら、寝ている場合なものか。
自分のデッキはおろか、エアトスの力を活かせるラフェールのデッキすら持っていなくても。
遊戯は最後まで抗う道を選ぶ。

自分フィールドのモンスターの守備力強化のカードを発動。
殺し合いでは参加者にも効果が及ぶ点を利用し、零の防御力をアップ。
胸中で礼を伝え一歩、また一歩と前に進む。
どこまでも小賢しい真似をされジャンヌの顔が歪んだ。

113Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:51:09 ID:/fKPqQI.0
ならば、最大威力の技を使い葬るまでのこと。
宝具の所有者である英霊本人以外に真名解放は不可能だが、主催者の調整によりその問題はクリア。
莫大な消耗と引き換えにこの場の全員を一掃する輝きを放とうとし、

「…っ」

竜巻の制御で、左手に主霊石を持ったままなのに気付く。
宝具使用の為には両手で剣を振るわねば危険。
片手で放つには威力の高さ故、自分自身にも甚大な被害が返って来る。
主霊石を落とすか、だがそれでは聖剣を放つより先に銀狼が自分を切り裂く。

一瞬の躊躇が、勝負の分かれ目となった。

「なにっ…!?」

罪人達の悪足掻きはまだ続く。
左手が揺さぶられ、主霊石が地面へと落ちる。
目だけを動かし原因を探ればすぐに分かった。
シンケンブルーの専用武器の、青い弓を構えた赤銅色の少年だ。

「犬吠埼!」
「分かってる!取っておくつもりだったのに!」

少年に急かされ、ヤケクソ気味にカードを発動。
対象に選ばれたのは零、竜巻を斬る力が一段と増した。
守備力分を攻撃力に加算する効果は、遊戯のカードの後なのもあってか最適の支援となる。

ジャンヌから見れば等しく浄化の対象、だが零にとっては相容れぬ敵の二人。
目指す場所は違えど、士郎と風も今はジャンヌの排除を優先すべきと判断を下し援護を決行。

114Judge End ─救世主-SAVIOR-─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:51:51 ID:/fKPqQI.0
「零…!」

最後の一手を掛ける閃刀姫が、大剣の柄を掴み前進。
彼一人だけに押し付けたくはない、抗うのならば自分も共に行く。
余力全てを注ぎ、立ちはだかる聖女を打ち砕かんと突き進む。

本来ならば修練を積んだ魔戒騎士以外には持つ事も出来ない魔戒剣。
それをロゼが掴み、零に力を添えられたのは何故か。
主催者による調整、魔戒騎士にも劣らぬ精神力がソウルメタルをある程度扱えるようになったから。
理由は複数考えられるが今は重要ではない。

「行こう!一緒に…!」
「ああ…!アンタの陰我、ここで断ち切ってやるよ…!!」

隣で戦う仲間がいてくれる、自分に手を貸してくれる皆がいる。
その事実が零を突き動かし、守りし者としての使命を燃え上がらせる。

「馬鹿な…!?」

魔導馬が友の為に授けた力を乗せ、この瞬間オーディンの加護を凌駕。
魔力が掻き消される、暴風が打ち破れる。
信じられぬと目を逸らそうとも無駄、白銀の狼が憎悪で曇らせた眼を焼き突進。
聖剣の迎撃すら許されず、ついに魔を断つ刃が聖女を切り裂いた。

「があっ…!!!」

内側より火柱が上がったように熱い。
激痛は容赦なくジャンヌの意識を奪いに来て、視界が急激に薄れ出す。
散々異端者を火炙りにして来た自分が、それに劣らぬ熱で苦痛に悶え死ぬのか。
全く笑えない、冗談にもならない最期を誰が受け入れるものか。

「死なん…!死なんぞ…!私の終わりはここではない…!」

こんな場所で倒れるのが神の望みな筈ないだろう。
穢れを撒き散らす日本人の浄化を投げ出すなど許されない。
志を共にし、自分の帰還を待つ同胞達の為にもまだ死ねない。
己が意思一つで死へ引き摺り込む痛みを捻じ伏せ、剣を叩き付け牽制。
出血に苛まれながらも主霊石を拾い上げ、自身を覆い隠すように竜巻が発生。
全員が咄嗟に身を守るべく構え、しかし自分達には危害が無いと気付く。

暴風はそよ風に、そよ風も消え無風に。
風が止んだ時、既にそこには聖女の姿は影も形も見当たらなかった。

115Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:53:37 ID:/fKPqQI.0



名前は名乗らない、目的も口にしない。
放つ気配は敵意に満ち、向ける瞳は黒に染まり切り。
こうも分かり易くされてはイリヤとて理解せざるを得ない。
言葉でどうこうできる段階にはいない、戦って切り抜ける以外にどうしようもないと。

片手に魔力を収束し敵へ発射。
単純極まりない攻撃と侮るなかれ。
呼吸を行い、指先を動かし、一歩歩く。
健常な人間ならば苦も無く行える日常の動作と同じ感覚で、ルナは魔法を行使するのだ。
だらんと下げた片手を一体いつ跳ね上げたのか、優れた動体視力の持ち主であろうと視認不可能な速さ。
魔力に頭部を食い千切られる呆気ない末路を、魔法少女も力づくで跳ね除ける。
進んで戦いたがる性質ではなく、誰彼構わず喧嘩を売るなど以ての外。
しかし避けられぬ戦いを前に尻込みする一般人の感性とは、とうの昔に別れを告げている。

「砲射(フォイア)!」

魔力弾には魔力弾だ。
ステッキを振るいルナの攻撃へぶつけ相殺。
互いに傷を与えられぬまま塵と化し、宙へ溶けて消えた塊には目もくれない。
視線を固定するべき対象を間違えず、第二撃はイリヤが先に動く。

「散弾(ショット)!」

先と違い数十の弾を一振りでばら撒く。
一発一発の威力は劣る分、数に物を言わせた攻撃にルナは動じない。
片手に魔力を集め薙ぎ払うように振るえば、イリヤと同じ数だけ発射。
違うのは一発に籠められた密度は、ルナの方が上。
敵の散弾を食い破って尚勢いは衰えず、イリヤへと殺到。

116Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:54:15 ID:/fKPqQI.0
回避か防御、選択は二つに一つ。
選ぶのに時間を掛ければ掛ける程、不利になるのは自分の方だ。
故に即決、回避を選択。
弾の数は多いが避けられない訳では無く、防御にリソースを割くよりは魔力の節約にも繋がる。
地を這うように姿勢を低くし疾走、背後で吹き飛ぶ地面は無視。
脳内で組み立てた次の動きを実行するのに、雑念を取り入れる余裕は無い。

「速射(シュート)!」

足は止めず、自動小銃のように魔力弾を連射。
威力は散弾同様低いが、続けて放てる長所を持つ。
元は美遊が得意とする攻撃方法も、実戦を積んだ今ならイリヤにも再現可能だった。

「私相手に魔法の撃ち合いをしようってわけ?笑えるわね」

的にされたルナが浮かべる表情は焦りでは無く笑い。
魔力の操作に多少は慣れているようだが、自分から見ればお遊戯も同然。
人差し指を向け、息をするように容易く力を集める。
そっちが連射で来るなら自分も同じ土俵に乗ってやろう。
但し何もかもが同じだとは思わないことだ。
機関砲を思わせる轟音を立てて撃てば、たちまちイリヤの弾幕は掻き消される。
威力は当然、発射速度もイリヤの倍だ。

「斬撃(シュナイデン)!」

ならば放つは威力と速度の両方に優れ、尚且つ範囲も兼ね備えた攻撃。
魔力を刃状に変え弾幕を切り裂く。
弾を消し去っただけでは終わらせない、ルナを直接叩くべく飛来。
だが甘い、脅威どころか足止めにすらならない。
斬撃を避ける素振りは見せず、真正面から突っ込む。
目の前を綿埃が飛んでいるのと何ら変わらない、手刀で切り裂き呆気なく消滅。
次の魔法を撃たせるのを誰が待ってやるものか。
数十歩分の距離を5秒と掛らずに詰め、拳を叩き込む。
可愛らしい顔を元の容姿が判別不可能に変える、魔女の鉄拳の到達まで残り僅か。

117Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:54:47 ID:/fKPqQI.0
「ルビー!」
『物理保護全開!』

ステッキを両手持ちに変え防御態勢を取る。
衝撃が襲い来るも痛みは最小限に抑え、歯を食い縛って耐えた。
とはいえルナの拳は超人類とも渡り合うだけの威力を秘めた、少女のものとは思えない凶器。
バゼットを思い起こさせる鉄拳に、剥き出しの背中を冷汗が伝う。
殴り飛ばされ距離こそ離れたが、ルナの移動速度なら追い付くのは簡単。
自身の体を弾丸に変え、イリヤ目掛けて再度拳を放つ。

「せやあああああっ!」

白い少女への魔手を阻むは水色の風。
視界の端に映り込んだ煌めきは、自身を刈り取る死神の鎌か。
或いは少女の決意の証、守護者の剣か。

この場で戦える者はイリヤ一人だけではない。
多少遅れる形となったが、チノも専用ソード片手に参戦。
纏う衣装は彼女の魅力を引き立てる可愛さだけが全てでは無い。
人を超えた者達とも戦える力を授けてくれる。

気合を乗せ振り下ろした剣を鼻で笑い、数歩身を引き躱す。
速さはそこそこだが動きは素人、恐れる理由が何処にある。
とはいえ自ら戦場にしゃしゃり出たのなら、手心を加える必要も無いだろう。

「精々必死こいて防いでみなさい!」

両手を魔力で覆いコーティング。
肩に突き出された剣を素手で弾き、反対に殴り掛かる。
急ぎ得物を引き戻して防御、刀身が震え手が痺れる感覚に顔を歪ませながらも頭を働かせる。
丸眼鏡の男と戦った時を思い出せ。
ロゼと零は、自分よりもずっと戦い慣れている二人はどう動いていた。

118Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:55:21 ID:/fKPqQI.0
(お二人ならこういう時…!)

警戒するのは片手のみに非ず。
打撃を与える四肢の全てが敵にとっての武器、こちらを殺せる威力を秘めている。
防いだばかりの右拳一つに意識を割くな、残る三つにも注意を払え。
強く言い聞かせ瞬きなど忘れたように目を剥き、次の攻撃に備える。

(来た…!右足…!)

膝を持ち上げ靴底が顔面へと接近。
顔を叩き潰されるのは御免だ、上半身を捻って躱す。
少し大袈裟に動き過ぎたとの反省をする間も無く、左拳が腹部を叩く。
防御は間に合った、拳は刀身を振るわせるに終わりチノは無傷。
前回の戦闘で一発もらった時の二の舞にはさせない。
三度目はまたも右の拳、剣で防ぐが最初の時よりも重く両腕が痛む。
小柄な体が宙に浮き、踏ん張れずに後方へと吹き飛ぶ。

「収束放射(フォイア)!」

覚束ない足取りで着地したチノを追い掛けようとし、別方向からの砲撃を察知。
仲間が稼いだ時間を活用し魔力を充填、より強力な一撃に繋げたイリヤだ。
少女一人を飲み込む光を冷静に見据えて、つまらなそうに片手を翳す。
隙を見つけて行うのが『この程度』の威力とは、何という貧弱さか。

「邪魔よ!」

魔力を集めた片手で薙ぎ払い、ついでに斬撃に変えて飛ばす。
回避が僅かに遅れ白い肩が赤く染まった。
問題無しだ、この程度なら戦闘に支障はでない。

119Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:55:54 ID:/fKPqQI.0
『イリヤさん、ここはクラスカードを…!』
「うん!」

撃ち合いでは向こうが圧倒的に上。
魔力の操作面はルナに分があり、このまま砲撃を続けたとて無駄に消耗するだけ。
キャスターのクラスカードならともかく、素のイリヤでは勝ち目は薄い。
故に別の手を使って打開に出る。

「夢幻召喚(インストール)!」

ルビー以外に支給された使い慣れた力。
セイバーのクラスカードを使用。
民の理想を一身に背負い戦った王の力を宿し、聖剣片手に斬り込む。
駆けるスピードを引き上げ、今度はイリヤが攻める番だ。

「ちょっとはマシになったみたいだけど、甘いのよ!」

多少力を増して、だからどうしたという話だ。
魔力を拳に上乗せ、我が身を裂き兼ねない憎悪を宿す。
刃と拳、ぶつかり合い負けるのは常識で考えれば後者。
しかし元々の驚異的な身体能力に加え、膨大な魔力を味方に付ければ話は別。
二つの得物は弾かれ合い、間髪入れずに揃って腕を振るう。
素手を刃に叩きつけているとは思えない金属音が鳴り響く。

「やああああああっ!!」

気合を叫び、剣を振るう動きを引き上げる。
カレイドライナーでは不得意な白兵戦を補う、アーサー王の力が殴打の嵐と渡り合う。
時折至近距離で魔力を暴発させるも、対魔力スキルが機能し耐える。
正規の英霊召喚されたセイバーに比べれば劣るとはいえ、イリヤには有難い力だ。

120Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:57:02 ID:/fKPqQI.0
だが倒せない、刃は一つ残らず防がれ決定打を与えられない。
デュエルモンスターズの上級モンスターを下し、超人類とも互角の戦闘に持ち込める。
おたすけを信条とする青年相手には動揺を引き摺り出されたが、当然あれが実力の全てな訳が無い。
オーバーロードや鬼の始祖など、各エリアで猛威を振るう怪物達にも引けを取らぬ魔女。
それがルナなのだから。

「っ、ああああっ!」

打ち漏らした拳が腹部を抉り、痛みと同時に吐き気が込み上げるも耐える。
一瞬でも無防備を晒せばたちまち袋叩きは確実。
鈍痛を誤魔化すように声を張り上げ攻め立てるが、ルナ相手には数歩届かない。
剣の腹を裏拳が弾き、がら空きの部分へ手刀を捻じ込む。

「私もまだ戦えますよ…!」

割って入った剣が腕を叩けば、両断はされなくても狙いは逸れる。
鬱陶し気に睨み蹴りを放つもイリヤが防御し、もう一人が斬り掛かった。
全く目障りだ、両腕を振り回し纏めて吹き飛ばす。

「チノさん!」
「大丈夫です…!私にもお手伝いさせてください!」

構え直す少女達へ、ルナもまた拳へ更に魔力を掻き集める。
何人来ようと結果は同じ、憎悪を以て人間どもは殺してやろう。

「イリヤ…!香風さん…!」

三人の少女の激突を離れた位置から司は見ていた。
いや、見ているしかできないと言った方が正しい。
イリヤやルナのように魔力を操れるでもなく、チノのような別世界の専用武器も持っていない。
運動神経が良いだけの、只の女子中学生では介入不可能
誰に言われずとも、司自身が理解している。

121Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:57:34 ID:/fKPqQI.0
「クソッ…!」

分かっている、自分があの場にしゃしゃり出ても足手纏いになるだけだ。
むしろ自分が余計な真似をしたせいで、イリヤ達が追い詰められるかもしれない。
頭では分かっているけど、見ているだけで何も出来ないのが恨めしい。
いきなり現れこっちの話を聞こうともせず、襲い掛かったあの少女に怒りを覚える。

弱いから、役に立たないから何もするな。
他の誰でも無い、司自身の声が正論を嘯き鎖となって絡み付く。
正しいか間違っているかで言えば間違いなく前者。

「だからって…納得できるかよ…!」

必死に戦っているのを、傷付いているのを、指を咥えて眺めるだけ。
何もしないで、取り返しの付かない事態になるまでオロオロ戸惑う。
そんな自分が堪らなく嫌だ、受け入れたくなんかない。

あの時だってそうだ。
みかげと撫子が言い争うのを自分は強く止められず、その内撫子が叩かれて。
どうにか窘めようとしたが手遅れで、三人組はバラバラになってしまった。

見ているだけで何も出来ないのはもうウンザリだ。
縛り付ける正論という名の鎖を振り払うように一歩前に踏み出し、

122Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:58:06 ID:/fKPqQI.0
司は、一つの資格を得た。

「トンボ……?」

どこからか現れたのか、目の前を飛び回る一匹の昆虫。
青い腹部と尾を持ち、カメラのレンズに似た両目。
但し自然界に生息するのとは違う、機械のボディを持つトンボ。
それが鳴き声らしき音を発し羽を震わせる。

「もしかして……」

はっと気付きデイパックを漁る。
説明書によれば自分でも戦えるらしいけど、それには資格がいるとのこと。
一体全体どんな条件を満たせば良いのか分からなかったが、今がそうだとしたら。
イリヤ達を助けられる一抹の可能性に賭けて、目当ての物を取り出した。

「これで良いんだよな…?頼む、私に力を貸して欲しいんだ!」

資格者となった少女の頼みを断る理由は無い。
自由を愛する元の持ち主のように、正論による雁字搦めの束縛を抜け出したからか。
或いは花に譬える程の女性好きの資格者に義理を果たそうと、司への協力を決めたのか。
真意を確かめる術は無く、確かなのは司が『ドレイクゼクター』に選ばれた一点。

123Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:58:46 ID:/fKPqQI.0
『HENSHIN』

トンボが木に止まるように、差し出されたグリップへ装着。
尾の部分をロックし安定、グリップを起点に変身システムが起動。
淡いスカイブルーの装甲はZECT製の戦士の例に漏れず、超金属ヒヒイロカネ。
トンボモチーフのマスクを被り、高濃度酸素を行き渡らせるチューブが各部に行き渡る。

仮面ライダードレイク・マスクドフォーム。
マスクドライダーシステムの3号にして、遠距離戦と水中戦を得意とする姿。

「うわ…うわぁ〜…マジかぁ……」

放送で銀色の武者になった人や、喧しいベルトを付けていた自称神。
彼らのような「変身」を自分がしたと弟が知ったら、どんな顔をされるのだろうか。
そういえば変身と口にしていなかったが、そこは今重要じゃない。

「うっし、やるぞ…!」

遊びでも無ければ喧嘩でも無い。
命の懸かった本物の戦いに身を投じるべく、あえて声にして気合を入れ直す。
銃身がトンボという奇妙な形だが立派な武器だ、ルナの腕へ向けて引き金を引く。

「っ、また邪魔が…!」

二対一にも関わらず剣を捌き、カウンターで拳を叩き込み優勢を保つ。
そのまま殴り殺そうとするも光を弾に邪魔をされ、仕方なく攻撃を中断。
魔力を帯びた腕は矛にも盾にもなる、光弾を的確に叩き落とす。

124Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 21:59:56 ID:/fKPqQI.0
当然ながら司に銃を撃った経験はゼロ、しかしドレイクの機能が補う。
照準を安定させ、使用者の挙動に最適な弾速や反動を実現。
シューティングゲームでハイスコアを叩き出す撫子のような余裕はないけど、初めてにしては上手く狙えてる気がする。
引き金に何度も力を籠め、イリヤ達へ攻撃させないよう連射し続ける。

「司さんも変身が出来たんですか!?」
「わ、私も初めて見たけど、それより今は…!」

援護に出てくれた司に内心感謝を告げ、少女達が再び剣を振るう。
横目で睨み舌打ちを一つ零し、片手で双剣に対処。
もう片方はドレイクの援護射撃を防御し、これで一撃も自らへ当てさせない。
手甲のように練り上げ纏わせた魔力ならば、素手でも武器持ちの相手が可能な防御力を発揮可能だ。

だが片腕ずつでは先程よりも手数で劣り、攻撃よりも防御へ意識を割きがちになる。
腹部を狙った刃を弾き、肩に迫るもう一本は身を捩り躱す。
その間ドレイクの銃撃も一向に止む気配は無く、腕のみならず脚を狙って次々光弾が殺到。
機動力を奪う気か命を奪いたくないからか、どっちにしても非常に目障り。

片腕だけで足りないなら足を使うまでだ。
右脚にも魔力を流し込んで強化、光弾を蹴り掃う。
とはいえ両手と片足をほぼ同時に動かし続けるのは、ルナと言えども流石に少々キツい。
この状態でも軸となる左足へ攻撃が来るのだから、鬱陶しいことこの上ない。
であれば律儀に格闘戦を継続してやらず、纏めて引き離すまで。

『強いのが来ます!』

急激な魔力の収束を感知しマスターに警戒を促せば、イリヤも即座に回避へ移行。
対魔力スキルを持つ自分だけならまだしも、もう一人はそうもいかない。
短い断りと共にチノの腕を引いて跳び退き、直後ルナの全身から放たれる魔力の爆発。
初戦の相手にもやったセルフバーストを使い、至近距離から吹き飛ばす目論見は外れたが構わない。

距離が開けたのなら、埒が明かない殴り合いに興じる必要は無くなった。
まずはチマチマ豆鉄砲を撃つ人間からだ。
左手を翳し機関銃もかくやの勢いで魔力弾を発射、見た目通りの鈍重な鎧では回避もままならないだろう。

125Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:00:38 ID:/fKPqQI.0
「何ですって?」

予想に反して司は新たな手に出ていた。
ドレイクグリップ後部のスロットを引き、各部の装甲が着脱準備に入る。
事前に読んでいた説明書の内容をちゃんと覚えているのは、司自身にも驚きだ。
これも特撮好きだった名残だろうか。

「これ言わなきゃ駄目なのか…?キャストオフ…!」

『CAST OFF』

『CHANGE DRAGONFLY』

青い電気が駆け巡り、浮かび上がった装甲が弾け飛ぶ。
ヒヒイロカネ製のアーマーは敵への攻撃に変わり、ルナ目掛け飛来。
数十発の魔力弾を受けて尚も止まらない鉄の塊へ跳んで避け、その間にも司の方は第二の変身を終えた。
トンボをモチーフにしながらもマスクドフォームとは異なる仮面。
羽状の胸部装甲が特徴的なライダーフォームだ。

「さっきより動きやすい…ってか今の危ないだろ!?あんな脱げ方するなんて書いて無かったぞ!?」

耐久性とパワーこそ低下するが、代わりに瞬発力に長ける形態。
加えてボディースーツにニューロン細胞が組み込まれており、装甲を纏うマスクドフォームよりも自分の体のように動かせるのが特徴である。

ライダーフォームのドレイクが銃を向け、イリヤとチノが構え直す。
三対一の不利な状況にもルナが慌てふためく様子は無い。
現れた時と同じ憎悪を宿し睨み付ける魔女へ、司から率直な疑問が飛ぶ。

「…何で私達を襲うんだよ。アンタと会ったのは今が初めてだろ。なのに何で、そんな風に怒った目で見て来るんだ?」

自分とイリヤは勿論、チノだってこのような少女に会った覚えはない。
なのに相手の雰囲気からは明確な怒りを感じ、不可解でならなかった。
恨みを買う真似をしたつもりはない。
つい失言や態度で相手を怒らせてしまった経験は司にだってあるけど、幾ら何でも初対面の少女にまで憎まれる謂れは無い筈。
それに理由を知らないまま暴力に晒されるなんて、どうしても納得がいかなかった。

126Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:01:13 ID:/fKPqQI.0
「会ったかどうかなんて関係ないわ。人間は全員同罪よ」

吐き捨てた返答は、司のみならず全員に取って頷けないもの。
さっき会ったばかり、しかし人間だから殺す。
特定の個人では無く人間という種全体への憎悪を言い放つ。
ルナの抱える事情が如何に根深いか、これだけで察しが付く。

「何だよそれ…そんなの滅茶苦茶過ぎるだろ!」

だからと言って、はいそうですか殺されてあげますとはならない。
自分達が何かした訳でなく、ただ人間だからという理由で恨み殺す。
そんなの、最初に襲って来た女騎士と同じ自分勝手なだけじゃあないか。
ルナの過去が自分の思う以上に壮絶で、絶対に許せない程の憎しみを燃やしたとしても。
無関係の人達まで巻き込むなんて、司には認められない。

「アンタの痛みは否定しないよ。でも、それを他人にまで押し付けるな!自分が痛かったから関係無い人達まで痛くしようとすんなよ!」
「うるさい!」

お前は間違っているとキッパリ言われ、思わず言葉が口を突いて出る。
自分だって好きでこんな境遇になったんじゃない。
殺すのが、暴れるのが好きだから殺し合いに乗ったのでは断じて違う。

「全部…全部アンタ達人間のせいでしょ…!アンタ達が私をこうした癖に!私だって、本当はコローソと……」

争いたくなんてなかった。
恐いことや辛いことなんて一つも知らず、無邪気に草原を駆けた頃のように。
ずっと只の子供のままでいたかったのを壊したのは、村を焼いた人間共ではないか。
でなければ自分が復讐に走ることは無かった、コローソだって敵に回ったりは…。

127Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:02:08 ID:/fKPqQI.0
「どいつもこいつも…本当に気に入らないわね…!」

自分の心を揺さぶった男のように、何故誰も彼もコローソと同じ言葉をぶつけるのか。
憎い、許せない、気に入らない、揃いも揃って心を踏み荒らす卑しいクズども。
そんなに死にたいか、殺されて二度と口を聞けなくして欲しいか。
いいだろう、いいだろう、いいだろう!

「全員死ねば、もう何も言えなくなるわよね…!!」

地獄がお望みならば見せてやる。
神を騙る外道から寄越されたのは腹立たしいが、この際知ったことか。
右手に握るソレは更なる力を自分に齎す物。

「黒い、板…?」
『っ!!いけません!アレを使わせてはマズいことが起きちゃいます!』

ソレの秘める力の大きさへ唯一気付けたルビーが叫ぶも、時既に遅し。
言葉の通り、黒い板と表現できるソレをルナは自身の胸に押し当てる。
すると板は胸に突き刺さった、否、肉体に吸収されたではないか。
目を見開くイリヤ達の前で、魔女は歓喜に身を震わせた。

「ふふ…ふふふふふふはははははははは!!感じる…感じるわ…人間を一人残らず滅ぼす為の力を…!!!」

外見上の変化は見られないが、ルナの言葉が妄言の類でないとはイリヤ達にも分かる。
心臓を鷲掴みにされているに等しい恐怖、呼吸一つで喉が異様に乾くプレッシャー。
ルビーの言う通りだ、マズいことが起きてしまった。

128Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:03:00 ID:/fKPqQI.0
開戦の合図は言葉では無く拳に乗せる。
イリヤの目の前で魔女が嗤っていた、足を動かす瞬間を見ていない。
なのにどうしてと答えを導き出す前に、何を置いてもやらねばならいのは攻撃への対処。
跳ね上げた両腕があらぬ方へとズレる、剣を弾かれた、そして敵の拳を弾いた証拠。

「どこ見てるの?」
「っ!?」

目と鼻の先にあった笑い顔が消え、聞こえた声は頭上から。
顔をそちらに向ける手間すら惜しく、感じる気配を頼りに剣を突き刺す。
貫いた手応えは無くとも、先程同様拳とぶつかる感触はあり。
上を取られたなら引き摺り落とすまで、跳躍し斬り掛かる。

だが遅い、剣の間合いをルナはとうに脱していた。
飛行魔法で距離を取り、魔力を掻き集めた球体を複数生成。
パチンと指を鳴らし、光線が一斉に放たれる。
地を這う蟲を根こそぎ焼き払う熱線へ、三人の少女もその場に棒立ちではいられない。
強化済みの身体能力を駆使し、上空からの脅威から逃げ出した。

「きゃああああああ!」
「ぐぁぁ…!」

直撃こそ避けても、籠められた魔力の密度は薄くない。
余波だけでチノはおろか、ドレイクに変身中の司すら地面から引き離す。
風に弄ばれる木の葉のように遥か彼方へ吹き飛ぶ仲間へ、駆け付ける事すらイリヤには許されない。

「っ!?」

瞬く間に距離を詰めるや否や、視界全てを埋め尽くす拳。
気が付けば目の前にいたのと違い動きは見えたが、速さはこれまで以上に上がっている。
移動のみならず攻撃も当たり前のように速度強化され、数十本の腕が襲って来たかの異様な光景。
地面をしっかりと踏みしめ負けじと剣を振り回す。
クラスカードの中でも最も安定した能力を誇るセイバーだからこそ、対処が可能となった。

129Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:03:33 ID:/fKPqQI.0
「遅い遅い遅い!遅過ぎんのよ!」
「くっ…まだ…まだ…!!」

決死の抵抗を鼻で笑い、ルナがギアを一段階上げる。
勢いを増す殴打の嵐にイリヤもまた歯を食いしばり弾き返す。
脅威となるのは速さだけではない、威力も上がり一撃が非常に重い。
痺れが両腕を襲い、剣を握る感覚が徐々に鈍くなり始めた。

「がふっ!?」

一撃が腹部へ入り、内臓をプレス機に掛けられたと錯覚。
立て直せ、呻いてる場合じゃ無いと言い聞かせるも手遅れ。
たかが一撃されど一撃。
複数個所へほぼ同時に鉄拳が叩き込まれ、小さな騎士は為す術なく吹き飛ぶ。
地面か壁に激突を待たず魔女は追撃に出る。

殴り飛ばされた先でイリヤを待っていたのは民家の壁ではなく、構えを取ったルナだ。
いつそこへ移動したのかを教えてやらない、くれてやるのは憎悪を籠めた暴力のみ。
雪のように輝く銀髪を靡かせた頭部へ狙いを定める。
騎士に似た姿になり随分打たれ強くなったが、そこを潰されて尚も無事でいられるか見物である。
純白は赤に汚れ、後に残るのは見るに堪えない人間の死体一つ。

「く…ああああっ!」

しかし、イリヤとて敗北と死の危機を幾度も乗り越えて来た少女。
強者を前に身を竦ませ、終わりを待つだけの段階はとっくに乗り越えた。
筋肉の激痛を意思一つで黙らせ、拳目掛け聖剣を叩きつける。
無茶な体勢もあってか力は向こうが上、これでいい。
直撃を防ぎ尚且つ反動を利用して、反対方向に着地。
立ち上がろうとするもダメージの大きさで膝を付き、荒い呼吸を繰り返す。

130Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:04:18 ID:/fKPqQI.0
「まだ…終わってない…!」

なれど倒れはしない、選ぶのは諦めに非ず戦闘続行。
剣を杖代わりにして支え、己の足で草花の抉れた地面を踏みしめる。
腕は動く、足も動く、体のどこも失われていない。

「まだ…あの女の子を……救えてない……!」

何よりも、負けられない理由が一つ増えたから。

イリヤはルナの過去に何があったかを知らない。
何が好きで何が嫌いで、どんな風に生きて来たかも知らない。
そもそも名前すら聞いていない。
分からないこと尽くしで、それでも知る事が出来た。

司へ言い返した時の彼女に怒りを見た。
自分がこうなったのはお前達が悪いと、責めているようだった。
何もかも全部お前達のせいだと、憎んでいるようだった。

でもそれだけじゃない。
どうしてこんな風になってしまったんだろうというやるせなさ。
好きで手を汚しているんじゃないのにという悔しさ。
コローソという名前を出した時の、愛憎入り交じった一言で言い表せない顔。

131Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:05:27 ID:/fKPqQI.0
どんな理由があれ、殺し合いに乗った選択は許されない。
だけど、他者を傷付ける当人ですら心の奥底で藻掻き苦しんでいるのならば。

イリヤを戦いへと駆り立てるのに十分な理由となる。
何度罵倒され、否定されようと曲げられない我儘(ねがい)を貫く。

あの時と同じだ。
記憶を代償に戦い続け、想いすらも雷に変えた『彼女』。
痛かろうが関係無い、苦しかろうが構ってられるか。
大切な全てを取り零してしまう前に、この手を届かせる。

『退くな』『止まるな』『突き進め』

その言葉が、決意をより強靭なものへと変え――





――『ったく、筋金入りにも程があんだろ。ここまでいくと逆に感心するわ、ムカつくけど』

――『でもまぁ…あたしに勝った癖に、どっかのクソチビに負けそうになってるのが一番ムカつくんだよ』





声が聞こえた。
親友を攫って、記憶喪失の変わった人を痛め付けて、圧倒的な強さに一度は敗けて。
恋心を喪って、もう一度同じ人を好きになった『彼女』の声。

それが果たして幻聴だったのか、そうでないのかイリヤには分からない。
ゲームマスターにより設定されたシステムが、イリヤの場合はこういった形で反映されただけの話かもしれない。

『イリヤさんこれは……』
「うん……」

けど今は、小難しい理屈など必要ない。
戦う為の力がここにある。

「夢幻召喚――」

自分を支えてくれるモノが、手の中にあるのなら。

「バーサーカー!!」

何度だって立ち上がってみせる。

132Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:06:08 ID:/fKPqQI.0



光が晴れた時、そこに騎士王の姿は無かった。
甲冑を脱ぎ大胆に素肌を晒した上半身には、毛皮の衣を新たに纏う。
輝く聖剣を今の彼女は必要としない。
代わりの得物は既に持っている、或いは宿ったと言うべきか。
手甲と帯で覆い隠した右腕は肥大化し、小柄な体躯とは酷くアンバランス。
だが不思議とそこに気味の悪さは無い、これが正しき姿と思わせるナニカがある。
女児の胴より太い五指が掴むは、人の身では振るうことの叶わない鉄塊。
無骨ながらも神聖さを兼ね備えた大槌を手に、神話の再現は成った。

クラスカード・バーサーカー、真名【マグニ】。
北欧神話の雷神トールの息子にして、怪力無双の半神半巨人。
エインズワース陣営の人形、ベアトリス・フラワーチャイルドが使用し幾度となく追い詰められた神域の力。
異なる世界線のイリヤと絆を結んだ狂戦士ではない、正史においては使わなかったカードだ。

「あれ?もしかして…」
『そのまさかみたいです。トールの神核が破壊されていません。まぁだからルビーちゃんもこれ使うのに同意した訳ですが』

嘗ての戦いでバゼットのフラガラックが撃ち抜いた神核。
それがどういう訳か元に戻っている。
まるで最初から、破壊されたという事実など無かったかのように。
そもそもこのカード自体、支給品でもないのに突然現れたりと不可解なのだが。

色々と説明の付かない点が見受けられるものの、イリヤには好都合。
少なくともこの状態なら自我を保って戦える。
同じ狂戦士のカードでも、ギリシャの大英雄とは幾分勝手が違う。
正真正銘、マグニを使う初の実戦だ。

133Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:06:48 ID:/fKPqQI.0
「……そう、まだ足掻くのね」

イリヤの変化を目の当たりにしながらも、ルナは動じない。
先程以上に力を増したと理解して尚焦りを顔に出さず、代わりに憤怒で染まる。
救う、救うと言ったのか。
村を焼き家族を奪った連中の同族が、自分を復讐鬼に変えた元凶である人間が。
一体どの口で救うとほざいた。

「誰が誰を救うですって?眠たいこと…言ってんじゃないわよ!!」

怒りを燃料に変え魔法を発動。
両手に収束させた光球から熱線を放ち、二度とふざけた口を聞けないよう消し炭にしてやる。

「本気だよ…本気であなたを、救いたいって思ってる!」

対するイリヤは避けない、正面突破あるのみ。
バーサーカーのカードは絶大な力の代償として、使用者の理性を徐々に奪う。
加えてヘラクレスと違い、これにはアンジェリカが施してくれた強制排出のコードも無い。
故に狙うは早期決着、チマチマ回避に動いてはいられない。

巨大化した右腕は見掛け倒しに非ず。
人知を超え神域に君臨する腕を振るい、真っ向から熱線を薙ぎ払う。
被害は帯に多少の焦げ目を付けるに留まり、腕自体には火傷一つ見当たらない。
熱を霧散させた勢いを殺さずに叩きつける。
空気の震えのみで地面が捲れ上がる威力だ。

間近に迫る神腕へルナもまた己の腕をぶつけ相殺。
コレを相手に生半可な強化は無意味と察し、魔力を何重にも練り上げた拳だ。
支給品を使い地力を引き上げた影響もあってか、イリヤ相手に一歩も引かない。
拮抗が続けば続く程、互いの踏み込む力が増していき地面が絶叫を上げる。

134Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:07:29 ID:/fKPqQI.0
「ぜ…りゃああああああああああっ!!!」

腹の底から怒号を上げイリヤが一歩前に進む。
押し負けたルナが吹き飛び、次の行動に出る前に大槌を投擲。
大型トラックすらもスクラップへ変える鉄塊の直撃は御免だ。
黒い板を取り込んでから使えるようになり、既に二回ほど見せた転移を使用。
扱うには少々コツがいる為連続ではまだ使えないが、大槌の範囲内からイリヤの背後へと瞬時に跳ぶ。
がら空きの背中へ拳を突き出し、寸前でイリヤもまた跳躍。

「ぐぎっ!?」

更には避けた筈の大槌がブーメランのように戻って来た為、盛大に殴り飛ばされる羽目になる。
咄嗟の防御は間に合ったが、それでも強烈な痛みが襲う。
地面へ叩きつけられる前に拳を振り下ろし、強引に着地。
顔を上げる前から急接近する気配を察知、魔力を両腕だけでなく両脚にも付与。

顔面スレスレで神腕を躱し懐へと潜り込む。
強化中の蹴りがイリヤの腹部に捻じ込まれ、嘔吐感がせり上がるも知ったことかと無視。
退いてはやらない、逃げ回る暇などない。
こうも近付いて来たなら好都合、至近距離のルナの額へ自分の頭部を叩きつける。
頭突きという原始的な戦法によろけ、視界が数秒不安定と化す。
隙を逃す手は無い、大砲を思わせる勢いの拳がルナを殴り付けた。
両腕を交差し防御したにも関わらず、骨の髄まで痺れが駆け巡る。

「やああああああああああああああああっ!!!」
「舐めるなあああああああああああああっ!!!」

魔力を操作し両腕の強化を数段階引き上げる。
神腕の二撃目へ左拳をぶつけて弾き、顔面狙いで右拳のストレートが炸裂。
頭を下げ回避、目の前の敵からは僅かたりとも視線を逸らさない。
アッパーカットをルナが避けるも、余波で皮膚が切り裂かれた。
首と顎を伝う赤い線に構わず、イリヤを殴り殺すことのみに集中。

135Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:08:31 ID:/fKPqQI.0
地面が右脚で抉られ、草花や土が舞いイリヤの視界を覆い隠す。
長続きはしないが一瞬でも隙は作れた、唸る左脚が脇腹を叩く。
軋みを立て痛みを訴えられるが捨て置き、足首を掴んで引き寄せる。
神腕が振り下ろされるがルナもタダではやられず、イリヤへと拳を突き上げた。

「…っ!!ま…だ…まだ…!!」
「こい、つ…!」

悲鳴すらも噛み砕き、両足を一歩も後ろには下がらせない。
大槌を引き寄せ豪快に振り回されては、ルナも堪ったものじゃあない。
痛む体に鞭を打って地面を転がり、範囲内から脱した所で立ち上がる。
尤も、相手が逃がしてくれる筈が無く瞬く間に距離を詰められた。
大槌と四肢で殴り合う最中も、余りのしつこさに苛立ちが募る。
何度殴っても倒れない、怯まない、正気を疑うタフさだ。

殴打の嵐を掻い潜り、時には痛みが襲っても止まらない。
マグニは時間経過だけでなく、もう一つの条件を満たしても狂化が加速する。
戦闘中に9歩の後退、トールの死の再現により一段と正気を失う。

『退くな』『止まるな』『突き進め』。
ベアトリスと同じく、イリヤにもトールの神核が放つ言葉が聞こえた。
上等だ。救うべき相手が目の前にいる、守るべき仲間が後ろにいる。
退く理由も止まる理由もない、突き進む以外に何をしろと言うのだ。

「いい加減……しつこいのよアンタは!!!」

イリヤとは反対に大きく後退させられたルナの苛立ちが頂点に達する。
何度殴っても止まらないなら、一撃で髪の毛一本残さず消し飛ばせば良い。
頭上へ両手を掲げ、魔力を最大限に掻き集める。
光などまるで見えない、暗黒に染まった太陽の如き塊が徐々に形成。

対するイリヤも大槌を掲げ、雷雲を発生。
雷を落とすもルナ目掛けてではない、自分が持つ得物を帯電させる為だ。
空の見えるフィールドのみで使用可能な招雷スキルである。
破壊力は倍となったが、ルナの最大魔法を破れるかはまだ怪しい。
対抗手段が無い訳では無い、しかし

『宝具を使えば代償を払うことになります。ですがそれは……』
「っ……」

大槌…ミョルニルを宝具として振るえばどうなるかを、イリヤも知っている。
真名解放の度に使用者の記憶を消費するのだ。
誰に関する記憶を失うのかは分からない。
家族か、学友か、仲間達か、もういない姉か、神に囚われた親友か。
一つとして忘れたくない大事な記憶が抜け落ち、頭の中が虫食いになる。
一瞬の躊躇、だが自分がやらねばと唇を噛み締め、

136Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:09:11 ID:/fKPqQI.0
「イリヤ……!」

その選択を止める仲間の声が届いた。

「これ…!もしかしたら力になるかもしんない…!」

司が投げ渡したのは金色に輝く石。
ルナの魔法で遠くまで吹き飛ばされるもドレイクに変身中なのもあってか、どうにか無事。
痛む体を引き摺り戻る最中、デイパック内から異変を感じ開けてみると支給品の一つが光光を放ち熱を帯びていたのだ。

同エリア内にて風の力を引き出した聖女が原因だとは知らず、石はイリヤへと託された。

「!!司さんありがとう…!」

受け取ったイリヤも石が何なのか詳細は知らない。
けれど分かる、夢幻召喚を行った今なら頭では無く心で理解できる。
この石と『父の神器』があれば、絶対に負けはしないと。

「天光満つる処に我は在り」

暗黒の太陽はより巨大となり、逆らう愚物達を見下ろす。
死以外に何も与えない。

「黄泉の門開く処に汝在り」

怯え、届く筈の無い命乞いに出るか。
自らに訪れる終焉から目を逸らし、夢現の世界に迷い込んだと逃避に走るか。
人間達に出来ることなんて、それしかない。

137Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:09:56 ID:/fKPqQI.0
「出でよ神の雷――」

なのにどうして

「インディグネイション!!!」

彼女は諦めないのか。

太陽が全てを飲み込まんとし、闇を切り裂く雷が咆える。
光の主霊石(マスターコア)により引き起こされる星霊術すらも、ミョルニルへ落とし帯電の工程を挟んで放つ。
宝具の真名解放時にも劣らない絶大な威力、だがルナの魔法もまた生半可な力では無い。
願いと憎悪、抱く信念は異なれど折れぬ強さは両者共通。

『RIDER SHOOTING』

「いっけえぇぇぇっ!」

であるのなら、勝敗を分けるのはイリヤにあってルナには無いもの。
即ち、共に戦う仲間の存在。

ドレイクゼクターの羽を畳みエネルギーを銃口に収束。
成体ワームを仕留める威力の光弾も、今のルナを倒すには至らない。
それでも、ほんの少しでも気を逸らしイリヤの力になれるなら構わない。

ルナの妨害に出たのは司のみならず、水色の剣士もだ。
遠く吹き飛ばされ戻って来るのが遅れたが、チノだって戦いを放り出す気は無い。
とっておきの技を使い氷の剣山を生成、超人類を一度は怯ませた力が此度も仲間の為に使われた。

「ありがとう二人とも…!」

仲間の支援はイリヤの心を熱くさせ、黒い太陽を押し返す。
光が暗黒を消し、徐々にルナの視界も輝きに染まる。
人間にとっては希望溢れる光景も、ルナから見れば受け入れ難い悪夢に他ならない。

138Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:10:32 ID:/fKPqQI.0
負けるのか、憎悪を燃やした自分の力は届かなかったのか。
悪い魔女は正義の魔法使いと仲間達に倒され、ハッピーエンドを迎える。
如何にも人間達が好みそうな結末が、復讐の果てだというのか。

「ふ……ざけるなぁああああああああああああああああああああっ!!!」

村を焼かれた絶望は、正義の踏み台にあるんじゃない。
家族を奪われた怒りは、陳腐な脚本を彩る為の悲劇なんかじゃあない。

全てを奪われたあの日と同じ、或いはそれ以上の憎悪が宿る。
殺す、こいつらは殺す、人間どもは一人残らず殺す。
優勝の為の礎だけではない、憎悪を以て殺してやる。
己が身さえも滅ぼし兼ねない炎を心に灯し、ふと浮かんだのは一人の男。
コローソではない、殺し合いの地で唯一共感を抱いた復讐鬼。

そして、ルナもまた限界を超えた。
心意システムは微笑む相手を選ばない。
条件さえ満たせば善悪関係なしに、一つ上の段階へと押し上げ不可能を可能にする。

「波ぁああああああああああああ!!」

急上昇した魔力、若しくは異なる力が雷と激突。
勝敗が傾きかけた筈が再び拮抗を見せた後、少女達は二つの力に覆い隠された。

139Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:11:06 ID:/fKPqQI.0



何が起きたのかを即座に理解するのに視界は朧気で、頭もちゃんと働かない。
瞼をこじ開けるのはこんなにも難しかっただろうか。
平日に早起きするよりも重たい、なんて呑気なことを少し思いつつイリヤは目を開けた。

「……っ。わた、し……」
『動かないで下さいイリヤさん!全速力で治療を行ってますので!』
「ルビー……?」

普段のおちゃらけた口調ではない、焦燥感の宿る声はフヨフヨ浮かぶ相棒から。
億劫ながら顔を動かすと、そこかしこに焼ける痛みが走った。
短く悲鳴を出しつつ見れたのは、転身が解除された自分の体。
セイバーとバーサーカーのクラスカードは強力な分、魔力の燃費もすこぶる悪い。
二枚連続で使えばこうなって当然だ。

諫めてくれたルビーには申し訳ないが、戦いの結果を知らなくては。
顔を真横に向けると、ほんの数センチ先に黒い板が落ちている。
確かあの子が体に突き刺した正体不明の道具。
これが外に出ているということは、彼女の体内から排出されたと見て良いのだろうか。
肝心の本人は、そして仲間達はどうなったのだろう。
喉を震わせるだけでも痛むが少しずつマシになり、ルビーへ直接聞こうとし、

140Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:11:51 ID:/fKPqQI.0
「まさか、コローソ以外でここまで私を追い詰める奴がいるなんてね」

自身の敗北を伝える声が聞こえた。

引き千切られるような激痛が駆け巡る体を無理やり動かし、彼女を見る。
体中に傷を付け、元からあった火傷の範囲をさらに広げ。
栗色の髪を揺らす魔女が、勝ち誇ったように立っていた。

顔も髪の色もついさっきまでと同じ、だが変化は確実に見て取れる。
少女らしい華奢な体付きから一変、四肢と胴体を覆う分厚い筋肉。
ボディービルダー程では無いが、齢とは不釣り合いの屈強さ。
何よりも全身から放たれる金色のオーラこそ、別次元の存在になった証。
殺し合いの参加者の中で唯一、敵意や苛立ち以外の感情を向けた者。
自分と同じく友に裏切られた復讐鬼、野比のび太を思わせる姿だった。

土壇場で心意システムの恩恵を受け、爆発的に能力を上昇。
直撃を受ける筈だった雷を押し返すも、敵の攻撃も容易く破れる代物ではなく。
結果相討ちの形でダメージを受け、衝撃で黒い板も排出されたが無問題。
まだ戦える自分と違い、相手は地に伏せ悪足掻きすらも不可能なのだから。

右手に魔力を集中、これまで何度も行った強化。
今回は刃状に形成し貫通力を上昇。
散々梃子摺らされたが結局は自分の勝ち、この様でよくも救うなどと抜かせたものだ。
薄い胸を貫き、二度と声を発せられない肉人形に変えてやる。

「まだ…私は……!」
『イリヤさんには指一本触れさせませんよ!このゴリマッチョガール!』

何を言おうともう遅い。
一人と一本、纏めて壊してあの世で負け惜しみでも言ってれば良い。

「さよなら、少しは歯応えのあった人間」

今更何の躊躇も抱かずに突き刺す。





『CLOCK OVER』





そして、一つの命が散った。

141Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:12:42 ID:/fKPqQI.0
○○○


全部をハッキリ覚えてるわけじゃない。
イリヤに光る石を渡して、そしたら魔法とか全然分かんない私にも分かるくらい凄いことになって。
でも他にも何かやれることがあるんじゃないかって思って、銃を撃った。
ちゃんと思い出せるのはそこまで、後はもうあやふやだ。

イリヤと相手の女の子が光ったと思ったら、気が付くと私はまた倒れてた。
吹き飛ばされた時も、いつ叩きつけられたのかもよく分かってない。
ただこの仮面ライダーとかなんとかいうのになってなかったら、2〜3回はとっくに死んでたろ。
そう思いフラフラになって立ったら、イリヤが殺されそうになってるのが見えた。

そっからは無我夢中だ。
説明書に載ってた小難しい説明はピンと来ないけど、早く動けるらしい力を使って猛ダッシュ。
サッカーの試合やってても、こんだけ速く走れたこと無かったぞ。

イリヤのとこへ辿り着いた丁度そのタイミングで元に戻って、私は咄嗟に前に出たんだ。
痛い、っていうか熱い。
訳分かんねー内にぶっ倒れて、目だけ動かしてすぐに見なきゃ良かったって後悔する羽目になった。
お腹からいっぱい、出ちゃ駄目なモンが出ちゃってる。
ああこれ駄目なやつだとか、ヒーローのスーツもあんまり当てにならないなとか、
そういうのも思ったけど、でもイリヤは助かったんだっなて分かったら安心した。

142Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:13:37 ID:/fKPqQI.0
だけどさ、すぐに良くねえだろって思い直した。
イリヤが泣いてる、グズグズの声で私の名前を呼んでる。
私が勝手に飛び出して、助かろうとしないせいでイリヤを悲しませてる、傷付けてる。
そんなの全然良くないだろ、自分だけ達成感得た気になってイリヤを泣かせてたら良い訳ないんだよ。

それに、ああそうだ、そうだよな。
琴岡の奴にちゃんと謝れてないし、アイツと鷲尾を仲直りさせてない。
どんな事情があったにしても、お前の言葉で傷付いた人はいるんだぞって教えられてない。

昴だって私が死んだら泣くかな、まぁ泣くよな。
あいつが背中を押してくれたから、琴岡に会いに行けたんだ。
ちゃんと仲直りさせて、それでもう一回「お前のお陰だよ」ってお礼を言いたい。
じゃあ余計に、死んでなんかいられないじゃん。

なのに、体は全然動いてくれない。
小さい体でずっと頑張ってくれた女の子を、傷付けたくない。
私のせいで三人組が、ずっと離れ離れなんて嫌だ。
鷲尾の…一番好きになった人の顔を二度と見れないのも辛いのに。

あーくそ、こんな時に鷲尾のこと考えるから、泣きたくなってきたじゃねえかよ

くそっ…頼むよ…動いてくれよ…

なあ…頼むからさ……

143Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:14:12 ID:/fKPqQI.0



「司さん…!何で…何で……!」

どれだけ揺さぶっても、光を失った瞳は二度と何も映さない。
血を垂らした口から言葉は紡がれない。
大事な友だちも参加してると言ったのに、二度と会えなくなってしまった。

マスクドフォームですら防げるか怪しいルナの刃を、耐久性の劣るライダーフォームで受けたのだ。
ヒヒイロカネ製の装甲も、決して万能ではない

「余計な…まあいいか。殺す順番が入れ替わっただけだし」

自分を苛立たせた一人ではあったが、殺してしまえば感慨が起きる筈も無い。
縋り付いて涙を流すイリヤを今度こそ仕留めるまで。

そのつもりだったが、邪魔する者はまだいるらしい。

「と、止まってください!」

怯えを隠せない声を出し、イリヤを背に庇う水色の剣士。
チノが武器を構え、行かせまいと立ち塞がった。
グロテスクな司の姿に恐怖を感じ、自分がもっと早く駆け付けられればと後悔する。
一緒にいた時間は短いけど、殺し合いを良しとしない仲間だった。
マヤの死を見ているしか出来なかった自分と違い、大事な友達に再会できる筈だったのに。
その機会は彼女の命と共に失われた。

144Judge End ─Just the Beginning─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:14:43 ID:/fKPqQI.0
「イリヤさんは逃げてください…!ここは、私が何とかしますから…」
「ビビってるのが丸分かりね。全然カッコ付かないわ」
「うるさいですね…!何と言われようと、イリヤさんには手出しさせません…!」

本当は恐い、魔女の言う通り恐くて仕方ない。
自分よりもずっと強いイリヤでも勝てない相手に、ロゼや零の助けも借りられず立ち向かう。
ココア達に会えず死ぬかもしれないと思うと、逃げ出したくなる。
でも、イリヤには自分や司と同じ苦しみを味合わせたくない。
親友と二度と会えなくなるという、心を打ち砕かれる痛みを知っているから。
だからチノは恐怖を必死に押し殺してでも、立ち向かう道を選んだ。

「あっそ。じゃあアンタから死んでよ」

美しき友情と嘲る気にもならず魔女が手を伸ばす。
剣士の勇気も、やめてと叫ぶ魔法少女の声も。
等しく塵と化す憎悪が溢れ――










『お〜っと、はしゃぐのはその辺にしてもらわないとなァ?』










最後の役者の到着を以て、物語は佳境を迎える。

145Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:16:23 ID:/fKPqQI.0



全ては偶然が重なった結果だ。
操り人形達を引き連れた皇帝と別れてすぐ、NPCのモンスターに遭遇。
ワンパターンな展開に呆れつつ手早く片付けようとし、ふと使い道が浮かんだ。
ネビュラガスを噴射しほんの数秒でスマッシュへと変化。
元が翼を持つモンスターだった為か、飛行能力を有するフライングスマッシュになった。
200cmを超える巨体なら背に一人を乗せて運ぶくらいは訳無い。
徒歩で引き返すよりもずっといい、体力と時間の節約にもなる。
念の為ブラッドスタークに変身してから、スマッシュの背に足を乗せ浮上。

地上を見下ろす位置で、優れた視覚センサーを持っていたが故だろう。
オーエド町とは反対のエリアで一瞬、何かの光と黒い点らしきものが見えたのは。

ここからでも確認出来る程の、激しい戦闘が行われている。
察するのに時間は掛からなかった。
気にならない訳ではないが一応警戒しておく程度。
今は共闘関係を結んだヒーローの下へ戻る方を優先すべき。

『…………マジかよ』

自分の知る力の存在を感じなければ、きっとそうしていた。

146Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:16:59 ID:/fKPqQI.0
間違えはしない。
アレは嘗て自分が取り込んだ、地球で手に入れた兵器のエネルギー。
記憶にあるのよりも弱くなっているが。
というよりも、まさかアレすらゲームのアイテム扱いで支給されている方が驚きだ。
複製品とはいえエボルドライバーも存在しており、他にも新世界から持ち出されているのか。

アレの存在を知った以上、戦闘地点への関心は多少気になるどころではない。
現在位置とは距離が開いており、フライングスマッシュを全速力で飛ばしてもまず間に合わない。
しかし移動距離を大幅に縮められる方法ならば、自分は既に持っていた。
トランスチームガンは変身・攻撃・スマッシュの生成以外にも、煙幕を張りワープする機能が搭載済み。
嘗ては自身もこの機能を使って逃げ仰せ、時にはネビュラスチームガンの同機能で逃走を許した事もある。
今回は逃げる為ではない、こちらから出向く為に使う。

引き金に指を掛け、ふとオーエド町で待たせている者達の顔が浮かぶ。
真っ直ぐ帰ると言っておきながら、とんだ寄り道だ。
口約束に過ぎないとはいえ、重症の少女へ回復の道具を届けるのも遅れてしまう。

『ま、戦兎なら俺に期待しないでモニカのお嬢ちゃんの手当てくらいしてるだろ』

天秤は即座に己を優先する方に傾き、移動先は決定。
ついでにやちよとの合流場所への大遅刻も、ほぼ確定されたようなもの。
関わった者達を振り回してると自覚しつつ、悪びれずに煙幕を噴射。
1エリア分の距離を短縮し、後は目的地までフライングスマッシュを全速力で飛ばした。

147Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:17:42 ID:/fKPqQI.0
『もうすぐ夜明けだってのにどんちゃん騒ぎしてるのが見えてな、顔を出してみりゃ不良娘達が元気に殺し合ってると来た。パパとママが知ったら泣いちまうぜ?おい』

そして今、魔女が憎悪を撒き散らす舞台に乱入を果たす。

「…なんなのアンタ」

いきなり現れた装甲服の怪人に訝し気な目を向けるのは、ルナだけではない。
イリヤとチノもまた、予想だにしない乱入者へ困惑を隠せなかった。

チノを殺す正にその瞬間、聞き覚えの無い声と気配に咄嗟に腕を引っ込め後退。
睨み付けると見た事の無い血濡れの怪人物が、イリヤの傍らに立っているではないか。
もしやイリヤ達の仲間かと疑うも、相手の様子から違うと判断。
乱入者に向ける表情は頼もしい友への信頼に非ず、正体不明の存在への警戒。
敵対し合う両者にとってのイレギュラーとなる。

『そうおっかない顔するなって。“女の子同士の時間は男性厳禁です”ってやつか?そいつは悪かったよ。詫びとしてコーヒーでもご馳走したいところだが、そいつはまた次の機会にな』
「あの、そういう話じゃないと思うんですけど…」

状況が見えていないのか場違いな発言に、思わずチノが口を挟む。
顔は見えないが長身と渋みのある声から大人の男性らしい。
自分達に危害を加える様子は現状見られない。
だが正義感の強い参加者が助けに来たかと言うと、どうも違う気がする。
何と言えば良いのか、言動は気さくなのに友好的な感情を読み取れない。

「一応味方なのかな、ルビー…ルビー?」
『…イリヤさんご注意を。こちらの真っ赤な不審者、人の反応を一切感じません』
「っ!」

心なしか声の硬い相棒に息を呑む。
思わず身を強張らせるイリヤを見下ろす怪人から、薄く笑う気配があった。
ご名答とでも言っているつもりか、遅れて気付いた事への呆れか。

148Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:18:58 ID:/fKPqQI.0
『ネタバラシありがとよ、と言いたい所だが警戒心剥き出しってのは頂けねぇな。こんなイカした声の悪者がいる訳ねぇだろ?』
『生憎、イケおじボイスのロクでもない殿方には心当たりがごまんとあるんですよねー』

『心外だねぇ』と肩を揺らし手を伸ばす。
イリヤにではなく、傍らに落ちたルナの体内から出た物体に。
拾い上げた黒い板は、怪人の記憶の中の物とほぼ同じ。

『…流石にいきなり全部は揃ってないか。ゲームマスター殿も気を利かせて欲しいもんだ』

ゲームを仕組んだ神へ愚痴りつつ、板の表面部分に欠片(ピース)を填め込む。
自身を血濡れの怪人へ変えたボトルは瞬く間に変化。
紫のクリアパーツから一転、黒に変色し大蛇の装飾は金に輝く。
顔色を変える少女達を尻目に悠々と歩き、チノの隣へ並ぶ。
目的が読めず言葉に詰まる剣士には視線を寄越さず、エメラルドグリーンのバイザー越しに魔女を見据える。

『お前さんと、あっちで寝てるイリヤだったか?コイツを取り返してくれてありがとよ。パクられたままだと俺も堪ったもんじゃないんでね』

ナイフのような爪の伸びた手で、水色の頭部を軽く撫でられた。
予想外の行動にビクリと体が跳ね上がる。
いきなり触られたけではない。
赤い怪人から信頼出来るものを何も感じないのに、どうしてだろうか。
力加減に覚えがあるのは。
タカヒロが…父が幼い頃の自分にやってくれた時を一瞬重ねてしまったのは。

『だから礼として、だ』

チノの様子に気付いているのかいないのか。
仮に気付いたとしても、彼にとっては特別意味のあった行動じゃない。
ただ何となくそうしただけ、10年間も父親の真似事を続けたから撫でる力加減も染み付いた。
意味も何も無い、既に頭の中からは些事以下として消失。
むしろ今は、久しぶりの力を使う方へ意識を向けるのが自然だ。
黒い板を胸部装甲に押し当てると、ルナの時同様の現象が起きる。
まるでコブラの意匠が丸飲みにしたかのように、板は体内へと侵入。

149Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:19:29 ID:/fKPqQI.0
『遊び相手を代わってやるよ』

そして、怪物が目を覚ます。
瞳を焼き潰し兼ねない赤い光が放たれる。
装甲よりも尚濃い、鮮血色が少女達を包み込む。
短い悲鳴を上げ手で顔を庇い、何秒経った頃か。

「――っ!!」
「ひっ…!」

困惑と警戒を吹き飛ばし、戦慄で塗り潰す存在がいた。
奇怪な突起物を生やした毒々しい赤。
蛇を思わせる三角形の頭部と、複数の光を放つ眼。
存在するだけで怖気を隠せないプレッシャー。

「ふん、やっぱり魔物だったのね」
『人間的には地球外生命体って言った方が正しいがなァ』

唯一ルナは怯えも動揺も無く、代わりに警戒度を引き上げる。
纏う気配で人じゃないのは察していたが、軽く蹴散らせる類ではないらしい。
冥王とか何とか呼ばれてた魔物と違う種族なのか。
少し気になったがすぐにどうでもいいと思い直す。
こいつの内心はともかく、イリヤ達の味方になるのなら自分の敵だ。

「いいわ、どの道優勝するには全員殺さなきゃいけないんだもの。人間じゃないからって、見逃してなんかあげないから!」
『威勢が良くて何よりだよ。今のコイツがどの程度使い物になるか、練習台がすぐに壊れちゃ話にならないだろ?』
「見下してんじゃないわよ!!」

魔女が咆え、星狩りが嗤う。
ルナが殺すか、エボルトが喰らうか。

今宵最後の闘争。
怪物同士の正義無きステージが幕を開ける。

150Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:20:03 ID:/fKPqQI.0



対話はお互い求めていない。
理由は異なるが相手に望むのは両者共通。
自分の為に死ね、妥協は一切宿らない剥き出しの殺意を叩きつける。
先に動いたのはどちらか、蹴り付けた大地が砂の城のように消し飛ぶ。
開いた距離など問題にもならない、真正面を見つめ拳を突き出す。

殴る、敵も殴る、もう一度殴る、敵もまた殴る。
左右の拳を交互に操れば、相手も同じく打撃で応戦。
肉が弾け骨が粉と化す一撃を、互いに己の体へは掠めさせもしない。
拳同士を叩きつけ合い、到底生身の体の衝突とは思えない音が響く。

一発に秘められた威力が如何程かを詳細に説明する必要は無い。
10秒経つか経たないかの間に、放った数は100を超えた。
飾り気のない両者の拳がぶつかり空気が震えれば、周囲の民家は壁を削り取られる。
たった一発でさえそれ程の威力が連続して放たれるのなら、最早殴り合いとは言えない。
同じタイミングで蹴りを繰り出し、片足同士が拮抗。
どちらからともなく後退した後、腰を捻り一際強烈な一撃を放った。
靴底と拳が激突、揃って吹き飛び敵からあっという間に離れて行く。
民家数軒の壁をぶち破り、衝撃が強過ぎたのか幾つかは完全に倒壊。

『ランドセルでも背負ってそうなガキにしちゃ、大したもんだねぇ』

邪魔な瓦礫の山を片手で退かし、エボルトが民家だったものを背に悠々と生還。
軽口への返答は死に至らしめる攻撃で、だ。
魔力の放出により瓦礫を吹き飛ばすや否や、ロケットを思わせる勢いで突撃。
胴体をぶち抜き血と臓物の雨を降らせるだろう脅威に、しかし焦りは見せずくつくつと笑う。
両手を広げ、愛しい恋人を抱擁するかのポーズ。
とことん舐めた態度を取る相手への苛立ちも燃料に変え、真紅の肉体を噛み千切らんとする。

151Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:20:40 ID:/fKPqQI.0
が、真下からの攻撃を察知し急遽防御へ変更。
顔面をミンチに変える蹴り上げを、両腕の交差により防ぐ。
爪先がルナに当たり遥か上空へ飛ばされた。

わざわざ頭上に移動させてくれたのは好都合。
以前までは飛行に箒を必要としたが、最早身一つで可能となった。
五指に魔力を集中し、銃口のように地上へと照準をセット。
轟音を鳴らし魔力弾を発射、一発二発では済まず機関銃の掃射に等しい。

『殴り合いはもう飽きたのか?なら、こっちも付き合ってやるぜっと!』

――RIFLE MODE――

殺意の籠った豪雨を見上げ、エボルトの右腕が跳ね上がる。
仮面ライダーエボルへの変身時と同様、ブラッドスタークの装備は変わらず使用可能。
拳銃と短剣を手早く組み立て、長銃に変形完了。
軽快な音を立ててトランスチームライフルが火を吹く。

吐き出すのは三点バーストの高熱硬化弾ではない、エボルト自身の力を付与したエネルギー弾だ。
威力も連射速度もブラッドスタークの時を遥かに超える。
精密射撃を捨てた弾幕を張り、魔力弾を片っ端から撃ち落とす。
時折撃ち漏らした光弾が襲い来るも、軽く腕を振るうだけで霧散した。

「人間の玩具如きで、いつまでも防げるとは思わないことね…!」

銃という人間の醜悪さを象徴するような武器。
殺し合いの前に戦車部隊を焼き払った時のように、見ているだけでドス黒いものが心にへばり付く。
そんな物で自分の魔法を延々と耐え凌げるものか。
掃射を中止し両手を掲げ、魔力で巨大な球体を生成。
計5つの球体が威圧するかのように震え、憎たらしい蟲を焼き払うべく熱線を発射。

152Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:21:17 ID:/fKPqQI.0
『器用なもんだ。努力を重ねて身に着けたかと思うと、感動で涙が出そうだよ』

見て分かるが威力も範囲も魔力弾を遥かに超える。
となればこっちも銃を振り回すだけでは足りない。
ルナのように魔法は使えないが、対処可能な力なら持っている。

両腕に纏わり付く真紅のオーラは、ブラッド族のエネルギー。
石動の体に憑依していた頃から、度々戦兎や万丈達を苦しめて来た。
怪人態で、尚且つ強化を済ませた今ならより高威力で放てる。
掌からエネルギー波を放射し熱線を飲み込む。

球体諸共熱線を打ち消し、三つ目を片付けた所でこちらの勢いが低下。
技が強力なのはエボルトだけではない、ルナの魔法とてブラッド族のエネルギーにいつまでもデカい顔をさせない。
四つ目が消えると同時に鮮血色の力も消滅、しかしルナには後一つ残っている。
無難に躱して対処しようと動き掛け、ふと射線上のちっぽけな気配に気付く。

『だったらこいつの出番だ、キリキリ働いてくれよ?』

黄金の刀身へ、返って来ないと分かり切った軽口を叩く。
機械仕掛けの大剣、パーフェクトゼクターにエネルギーを纏わせる。
平時でさえ上級ワームにも効果的なダメージを与える武器が、強度と切れ味を数段階強化されたのだ。
一振りで薙ぎ払い、今度こそ熱線全てを打ち消した。

続けて撃たせはしない、跳躍し一気にルナの下へ到達。
心臓を狙い突き出された切っ先を避け、エボルトの頭部へ脚を振るう。
少女の細い足と侮れば、たちまち頭蓋を砕かれ代償を支払う羽目になる。
剣を持つのとは反対の腕で防御、押し返し斬り掛かった。

153Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:21:54 ID:/fKPqQI.0
『よりにもよって俺が人助けの真似事に出るなんざ、レベルの低い冗談にしか思えないよなァ!そういうのは戦兎の役目だってのによ!』
「知らないわよアンタの事情なんて!」
『おいおいお喋りは嫌いか!?そんな態度じゃ、片思い中のガキに愛想尽かされても知らねぇぞ!』
「一々…うるさいつってんでしょうが!」

5本目の熱線を避けてはイリヤとチノに命中する。
子供が死のうと怒りも悲しみも全くないが、現在交戦中の魔女と渡り合っただろう連中だ。
利用価値があるかもしれないのに、ここで死なすのは惜しい。
善意が無くとも助けたのは事実、それだけでルナにとっての殺す理由が一つ増えた。

大剣を振るう速度は達人の域を優に超え、赤と金色の輪郭が霞んでは金属音が木霊する。
全身各部へ一斉に刀身が突き立てられるかの猛攻を、ルナは四肢を駆使し応戦。
拳が剣の腹を叩く、爪先が切っ先を押し返す、斬撃と打撃が暴風となり互いを襲う。
一撃だけだろうと油断ならない威力を、あえて受けてやる理由を持ち合わせてはいない。
左拳を防ぐのではなく、刀身をなぞらせ受け流す。
よろけた瞬間を狙うも敵の復帰も尋常ならざる速さ、得物を用いた応酬が再開。

「な、何々ですかあの人達……」

魔女と怪物が殺意を振り撒く遥か後方で、チノは顔を青褪めさせる。
人じゃない者同士、それも善意が入り込む余地のない殺し合い。
仲間達と共に強敵と戦ったのとはまるで違う、狂気と悪意を煮詰めた地獄のような光景。
これは本当に現実なのかと疑い掛けるも、自分の手を優しく握る感触にハッと正気を取り戻す。

「イリヤさん…ご、ごめんなさい…!私がしっかりしなきゃいけないのに…」
「ううん、チノさんが謝ることなんてないよ。今も私を守ってくれてるんだから」

恐怖しつつも剣は落とさず、イリヤを背に庇い退こうとしない。
聞けば元々は争いと無縁なのに、必死に守ろうとしてくれるのだ。
感謝と、負担を強いてしまっている現状を申し訳なく思う。

154Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:22:37 ID:/fKPqQI.0
「ルビー、あとどれくらい掛かりそう…?」
『急ピッチで治療してますが何分普段よりも効きが悪いんですよねー…あのドヤ顔しまくりの神!いらんことしやがりましたね!』

治癒に専念しているにも関わらず回復がやけに遅い。
十中八九檀黎斗が細工を施したせいだろう。
本人的にはゲームバランスの調整だとか言うつもりかもしれないが、ルビーの言う通り余計な真似をされた。
少しずつ癒えている感覚はあっても、戦線復帰にはまだ時間が必要。

イリヤの焦燥を余所に怪物達の死闘は加速。
パーフェクトゼクターが蹴り上げられ、右腕がエボルト本人の意思と関係無く跳ね上がった。
がら空きの胴体が完成したなら、何をするかは決まったも同然。
手刀に魔力を纏い、ブレード状に変え突き出す。

ヒヒイロカネ製のアーマーすら貫いた刃だ、ブラッド族の強固な皮膚だろうと危険。
とは言ったものの、エボルトの余裕は崩れ去らず即座に対処へ移行。
右腕を振り下ろすのは間に合わない、しかし剣を蹴られた時点で左手は新たな武器を装備済み。
体内から飛び出た黒い容器が、トランスチームライフルに自動で装填。
仮面ライダーエボルが赤いオーラで物体を操るのと同じ要領だ。

――CD!STEAM SHOT!CD!――

銃口が光輪状のエネルギー弾は吐き、手刀と激突。
弾け空気中に溶けだすも終わりでは無い、耳元で鑢を削るような音が発生。
鼓膜が猛烈に痛む攻撃は今までと違うもの。
堪らず顔を顰めたルナを蹴り飛ばし、距離を開ける。
防御し無傷なルナが仕掛けるのを待たずに容器を体内へ投げ入れ、入れ替わりに新しく装填。

155Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:23:29 ID:/fKPqQI.0
――HAMMER!STEAM SHOT!HAMMER!――

――COBRA!STEAM SHOT!COBRA!――

回転しながら迫るハンマーを殴って掻き消すが、爆発により再度後退。
間髪入れずに大蛇が大口を開けて襲来。
牙を突き立て喰らい殺す気だろうがそうはいくか、魔力弾をありったけ撃って蹴散らす。
煌びやかな魔力とエネルギーの残骸が散らばる中を突っ切り、エボルトが急接近。
望む所とルナも拳を叩き込み、しかし僅かに速いのは敵の方。
頬に走る衝撃と遅れてやって来る痛みに、殴り飛ばされながらも怒りが更に上昇。

強さは互いに引けを取らないが、コンディションの差が現れ出す。
予選中に起きたのび太との激突に始まり、先のジャック達との戦闘での消耗もルナは完全に癒えていない。
対してエボルトは早朝の時間帯までは精々がNPCとの小競り合い、紺色の剣士とも戦い終えたばかりだが体力的にはルナより余裕がある。
このまま長引かせれば不利はより明確となるのが確実。
一人は殺し新たな力も手に入れた、合理的に考えるなら撤退も視野に入れるべき。

「ちまちま撃ち合うのは終わりよ!これで本当に殺してやる!」

だがルナを突き動かす憎悪が、冷静な判断を奪い去り勝負へと駆り立てる。
心意システムのトリガーとなった感情、それが逆に足を引っ張るとは皮肉だろう。
超人類と化した途端に、傲慢さと残虐性が剥き出しになったのび太をどこか思わせるとはこの場の誰も知らず。
決着を付ける為の技を解放する。

腰を落とし、両手首を合わせた独自の構え。
本来ルナが使う魔法の中に、このいったポーズが必要な攻撃は無い。
殺し合いに拉致され、最初に出会った復讐鬼が使ったのと同じ。
親友を裏切り超人類計画に利用した、22世紀のロボットへの憎しみが与えた力だ。

156Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:24:13 ID:/fKPqQI.0
『もうちょい遊んでやっても良いが、こっちも予定が立て込んでるからなァ。そろそろお開きといくか!』

『DRAKE POWER』

どこまで本気か分からない言葉を並べ立て、エボルトも迎え撃つ態勢に入った。
パーフェクトゼクターに搭載された4つのスイッチ、内の青を押す。
ゼクターの強制召喚機能が作動し、メタリックボディのトンボが刀身に装着。
資格者を失おうと関係無い、少なくとも現状ドレイクゼクターは逆らう事すら不可能。

『虫一匹の力じゃ物足りないだろ?特別サービスだ、遠慮なく受け取れ!』

黄金の刀身とドレイクゼクターにタキオン粒子が流し込まれる。
本来、ハイパーフォームのカブトならばこの状態で攻撃するのだろうが此度の所持者はエボルト。
取り込んだ黒い板により出力の上がったエネルギーを纏わせる。
タキオン粒子とブラッド族の力が混ざり合い、毒々しい色のエネルギー刃が完成。

「かめはめ波!!!」

『HYPER AX』

これまでに放ったどの魔法をも凌駕するエネルギーの放射は、魔女の内面を映したかのどす黒さ。
星狩りが振り下ろす刃もまた、破壊を目的とする禍々しさだ。
刃を粉砕し熱の中に閉じ込めるか、熱線を突き付け憎悪諸共魔女を叩き割るか。
結末はどちらか一方のみ、望む展開を勝ち取るのは自分だとルナが確信を抱く。

157Judge End ─見えない明日は来なくていい─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:24:58 ID:/fKPqQI.0
「消え……失せろォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

自分の復讐が、こんなところで終わって良い筈が無い。
自分の憎悪が、こんな連中に負けるなど許されない。
奪われた絶望、裏切られた苦痛、その両方を知り尽くした自分の、あの男の力が。

「勝てないなんてこと…ある訳ないのよ!!!」

怒りは力に、感情の高まりは勝利へ届く道を造る。
刃を押し返す、胸を焦がすこの憎しみを斬れる剣など存在しない。
刃に亀裂が走る、復讐の道を阻む壁など壊せない筈がない。
刃が砕け散った、私の前から永遠に消え失せろ。

「これで…私の……!!」





『ああ、俺の勝ちだな』





喉元にナイフを添えられた気分だった。
口の中に銃を突っ込まれたのに似た不快感があった。
死が、こんなにも近くに感じてしまう。

聞こえた声は真後ろから。
どうしてこんなに早くと考え、答えはすぐに判明。
ああそうだ、黒い板には転移能力もあるんじゃないか。
なんでそんな大事な事すら、気付けないんだ。

自分を幾ら罵っても手遅れ。
黒い板による転移は敵の方が使い慣れてると、知る機会も訪れない。
振り向くのも、守るのも、避けるのも、撃ち落とすのも。

何もかも、全てが遅過ぎた。



『HYPER SHOOTING』

――CASTLE!STEAM SHOT!CASTLE!――



「――――――――――!!!!!!!!!!!」



熱を帯びた二つの銃口が、終焉を告げる
敗北を認められない、現実を受け入れたくない魔女の叫びをも喰い散らし、決着は付いた。

158Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:26:39 ID:/fKPqQI.0



「ふぅ……」

エーデルフェルトの屋敷から遠く離れた施設内にて。
ベッドに腰掛け、ジャンヌは息を整えていた。

支給品に救われたと言うべきだろう。
主霊石で竜巻を起こし敵対者達の足を止め、白鳥礼装の飛行能力を使い離脱。
見付けた施設に侵入し、尾形から奪ったもう一つの道具を使って傷を治療。
完治まではいかず重症なのに変わりは無いが、少なくとも死は免れたので良しとする。

「まさか私がこれに頼るとはな…」

傷を癒したのはデュエルモンスターズのカードだ。
これまで度々手を焼かされた力に助けられるのは、複雑な心境と言う他ない。
しかもカード名に「神」が入っており、偶然にしては出来過ぎな気がしないでもなかった。
あくまで適当な名前を当て嵌めただけだろうが。

先程の戦闘で殺せたのは、恐らく銀狼の鎧を纏った一人だけ。
神のご加護を得ておきながらこの体たらく、我ながら不甲斐ない。
すぐにでも行動再開といきたいが、蓄積された疲労もいい加減無視できなくなって来ている。
傷は治せても消耗は減らないらしい。

もどかしいが今は身を潜め、体力の回復に専念すべきだろう。
それに殺し合いが始まりもうじき6時間が経つ。
ルールにあった定時放送も近いなら、どの道ここで待つのが最善だ。

幸いと言って良いのか、今いるのは病院。
やけに古臭い時代遅れの内装だが、置かれた医療物資は真新しい物ばかり。
傷の処置に必要な道具は揃っていた。

逸る心を落ち着かせ、ゆっくりと息を吐く。
ここにはいない偽の神を睨み付ける瞳には、最早迷いなどどこにもなかった。


【C-3 明治時代の病院/一日目/早朝】

【ジャンヌ@大番長 -Big Bang Age-】
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(極大)、魔力消費(大)(魔力回復中)、
[装備]:約束された勝利の剣@Fate/Grand Order、白鳥礼装@Fate/Grand Order、賢者の石@仮面ライダーウィザード、風の主霊石@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式×2、治療の神ディアン・ケト@遊戯王OCG(6時間使用不可)
[思考・状況]基本方針:檀黎斗と言う日本人を浄化しハ・デスを名乗る悪魔を打ち取る。
1:穢れた日本人は浄化する。主催も当然だ。最早迷いなどあるものか。
2:同胞(自分たちと同じ外国人)は率先して保護の方針。
3:先の金髪の女(エアトス)もデュエルモンスターズとやらで呼び出されたらしいな
4:あの男(蛇王院)、何故生きていたのか。もう一度殺すだけだが。
5:デュエルか。使うのはともかく理解しておく必要はあるやもしれぬ。
6:今は傷の処置を行い体力の回復に努める。
7:次から次へと、何故穢れた者を守りたがる。
[備考]
※参戦時期は久那妓ルート、スカルサーペント壊滅後。
※風の主霊石で風属性の力を獲得しています。
 風の攻撃は消耗も賢者の石で賄ってるので見た目よりは消耗しません。
 またこの攻撃はデュエルモンスターズを相手するのであれば、
 魔法・罠を破壊することができるようになってます。

159Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:27:46 ID:/fKPqQI.0
◆◆◆


「それで…どうするんだお二人さん……?」

ジャンヌという一番の脅威が去り、これで一安心とはいかない。
なし崩し的に共闘したが、元々士郎達は敵。
彼らの襲撃こそが一連の騒動の発端であり、水に流すつもりは無い。
問い掛ける零の隣ではロゼが、いつでも斬り掛かれるよう構える。
遊戯もまたエアトスを再召喚し、戦える準備は完了済みだ。

「まだこっちを殺そうって気なら、俺も加減なんかしてられねぇな…」
「今にも死にそうな癖に強がったって、こけおどしにもならないんだけど」
「なら…試してみるかい……?」

白銀の狼がニヒルに笑い、風との間で緊張が高まる。
鎧で隠した所で満身創痍なのは丸分かりだ、強がりと捉えられても当然。
しかし相手はジャンヌに一太刀浴びせた強者。
殺すのは難しくない筈が、嫌な予感のする相手でもあった。
手負いの獣は恐ろしい、そんな言葉を脳裏に浮かべつつ風もどう動くか悩み、

「いや、俺達もこの辺で退かせてもらう」

協力者が先に答えを決めた。

「ちょ、衛宮さん…!」
「ここで無理してまで殺して、それで終わりじゃない。むしろまだ始まったばっかりなんだ。なら意地を張る必要も無いだろ?」

冷静に言われて押し黙る。
風の目的が優勝し願いを叶える事なら、ゴールはまだずっと先。
殺し合いはまだ序盤、仮に零達を死闘の末に倒しても残りは後何人いるのやら。

「それに気付いた筈だ。向こうの方で派手にやってる奴らが、こっちに来るかもしれない」

屋敷からでも見えた赤や黒のエネルギーの衝突。
離れているだろう位置にも関わらず視認出来るとは、相応の力を持つ参加者が戦闘を行っているのだろう。
零程では無いが自分達も消耗しており、仮に正体不明の何者かが屋敷へ来た場合確実に勝てる保障は無い。

160Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:29:02 ID:/fKPqQI.0
「…分かった」

全部納得してはいないが、頷ける部分も少なくない。
取り敢えず一人はほぼ確実に死ぬ。
望んだ最高の結果とは言い難いが、欲張って全部おじゃんになるよりはマシだ。

風の返答を聞き士郎も即行動に移る。
既にシンケンマルを新たな武器、ヘブンファンに変え撤退の準備は終えていた。
振り抜けば暴風が発生。
ジャンヌがやったのと同じ方法で足止めし、その隙に姿を晦ませる。

「…悪かった。勝手にこっちで全部決めて」
「…いや、もう良いって。正直ちょっと助かったとこもあるし」

風自身の選択だったがカードの効果で零は強化を施された。
おまけにあのカードにはもう一つ、強化された対象以外の味方側の者は攻撃が不可能というデメリットも存在する。
自分達と零は元々敵同士だが、ジャンヌ相手には一応共闘した為味方扱いされていると考えても不思議は無く。
長続きするものではないとはいえ、効果が切れるまで自分達が圧倒的に不利なのは避けられない。
それらを考えれば撤退は責められたものでもないし、律儀に謝られては逆に反応に困る。

ともかく考えるべきは終わった戦いより、これからの動きだろう。
願いを叶えるたった一度のチャンスを失う訳にはいかない。
自分が巻き込んでしまった友奈と東郷、そして樹。
声を失った妹に、根拠も無く必ず治るなどと言った苦々しい後悔は忘れていない。

願いを叶えるモノの正体を知るか否かの違いはあれど、最愛の家族を救う意思を同じくし二人は駆ける。

自分達が襲った者の中に、妹の親友がいたとは終ぞ士郎が気付く事無く。
無理も無いだろう。
士郎からすればイリヤは顔も名前も知らない、声を聞いただけの少女なのだから。


【D-3とC-2の境界/一日目/早朝】

【衛宮士郎@Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ3rei!!】
[状態]:疲労(中)、背中にダメージ(中)、英霊エミヤが侵食
[装備]:シンケンマル+双ディスク+共通ディスク@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:基本支給品、モウギュウバズーカ+最終奥義ディスク@侍戦隊シンケンジャー
[思考・状況]基本方針:妹を救う。その為に優勝を狙う奴は皆殺しにする。
1:一旦退き、それからどう動くかを考える
2:強そうな参加者をある程度排除するまで、しばらくは二人で一緒に行動する。
3:もし可能なら、風の妹も救いたかった。
[備考]
※参戦時期はイリヤたちがエインズワースの工房に潜入した後です。

【犬吠埼風@結城友奈は勇者である】
[状態]:疲労(中)、胸部にダメージ(中)、左眼の視力が散華、夢幻召喚による変身中
[装備]:サーヴァントカード セイバー@Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ3rei!!
[道具]:基本支給品、コンセントレイト@遊戯王OCG(3時間使用不可)、スケスケ望遠鏡@ドラえもん
[思考・状況]基本方針:妹や仲間の未来を取り戻す為に優勝する。
1:今は退く。
2:強そうな参加者をある程度倒すまで、しばらくは二人で一緒に行動する。
3:私は絶対に……
[備考]
※参戦時期は諸々の真相を知って自棄になっていた時期です。
※英霊召喚やカードそのものの制限に関しては、後の書き手様にお任せします。

161Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:29:58 ID:/fKPqQI.0
◆◆◆


襲撃者たちが全員去り、零にもとうとう限界が訪れた。
白銀の鎧は消え失せ、魔導馬も帰って行く。
最後まで付き合ってくれた彼らに内心で感謝を伝える。
ホラーとの戦いは勿論、悪趣味なゲームでも力を貸してくれたのだから。

「さっきはカッコ付けたこと言ったけど……正直ヘトヘトだったんだよな……」
「零……」

終わりを自覚し、かといって湿っぽく振舞うのは自分らしくない。
いつもと変わらぬ軽口の零を、仲間達は顔を歪めて見つめる。
例え共に過ごした時間が短くても、ロゼにとって零は打倒主催者を誓い合った信頼出来る騎士。
最愛の閃刀姫との生活で人間らしさを得たからだろう、喪失に胸が酷く痛む。

遊戯もまた悔し気に俯き、己の無力さを恨む。
本田が目の前で殺され、今度は零の命も尽きようとしている。
もっと自分に出来る事があったんじゃないのか、そうすれば零は死なずに済んだのでは。
デッキを持たなければ決闘王の称号も無意味、仲間一人助けられないじゃないか。

「そんな顔するなって…ロゼちゃんは笑ってた方が可愛いし…きっと、チノちゃんもそういうロゼちゃんのが好きだろうからさ……」
「……うん」
「遊戯も…男がんな辛気臭い顔してたら…皆不安になっちまうだろ…?」
「ああ……」

言葉を紡ぐ度に、視界はどんどん狭くなる。
言いたい事は山ほどあるけど、肝心の時間は残り僅か。
だから最後に伝える、彼らの力になってくれる男についてを。
衝突の果てに友(ザルバ)となった、黄金騎士へ後を託す為に。

「鋼牙ならきっと、ロゼちゃんやチノちゃん達の力になる…あいつ、いっつも顰めっ面で全然愛想ないけど…悪い奴じゃないから……」
「…分かった。その人と一緒に絶対殺し合いを止めて、チノ達と生きて帰る」

温度を急速に失う手へ重ねられた少女の温かさ。
安心して後を任せられる者達に微笑み、ゆっくりと瞼が閉じられる。

道寺、静香。
喪ってしまった彼らと同じ場所へ、自分も行けるのだろうか。

鋼牙、カオル、ゴンザ、翼、邪美、烈花、レオ。
戦いの中で出会ったかけがえのない友。

幾つもの顔が浮かび上がり、最後に思ったのは



(シルヴァ……ごめんな……)



家族同然の相棒に、別れを告げられないことだった。

162Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:30:50 ID:/fKPqQI.0



動かなくなった仲間…友を前に唇を強く噛む。
肩の傷以上に胸が痛い。
大事なモノを抜き取られてしまったように空洞が生まれ、ジクジクと血が溢れ出す。
戦場にいた頃から、死を身近に感じていた。
自軍の兵士が命を落とすのを何度も見た時には、こんな風に感じなかった筈。

(きっとこれも……)

レイと同じ時間を共有した影響。
閃刀姫ではない、人間らしく悲しむ。
涙は流れずとも痛みは本物だ、それが少しだけ良かったと思える。
友の死に心を揺さぶられない自分にならずに済んだのだから。

「…行こう。チノ達を探さないと」

殺し合いはまだ何も終わっていない。
仲間の安否はいまだ不明、急ぎ探しに行かねば。
本当だったら零を野晒しにしたくないけど、今は生きている仲間を優先するべき。
内心で謝りつつ彼の荷物を回収し、合流へと急ぐ。
チノに零の死を伝えねばならないのは、気が重かった。

(さっきの女…アイツは確かに……)

ロゼの隣では遊戯も考える。
自分達を襲った二人組の内、女の方が去り際に男の名前を呼んでいた。
「衛宮さん」、その名に聞き覚えがある。
イリヤが言っていた衛宮士郎、それがあの男なのか。
だとしたらイリヤの探している相手は、殺し合いに乗っている。
動機は何なのか、イリヤの参加を知って尚も優勝を目指してるのか。
分かる事はほとんどない。

163Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:31:23 ID:/fKPqQI.0
(イリヤは……)

衛宮士郎が殺し合いに乗っていると伝えた時、彼女が何を思うのか。
親友が人質にされ、元々の仲間はゲームを肯定。
幼い少女の精神に更なる負担が圧し掛かるのは避けられず、決闘者は顔を曇らせるしか無かった。


【D-3 エーデルフェルト邸/一日目/早朝】

【武藤遊戯@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)、額から出血、無力感
[装備]:千年パズル@遊戯王デュエルモンスターズ、ガーディアン・エアトス@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品一式、結束 UNITY@遊戯王OCG(3時間使用不可)
[思考]
基本:ハ・デスを倒し、殺し合いを止める
1:イリヤ達と合流に急ぐ。
2:仲間達との合流と、デッキも取り戻したい。
3:衛宮士郎は殺し合いに乗っているのか…?
4:ロゼはデュエルモンスターズが存在しない平行世界の人間なのかもしれない。
5:相棒の言うように、神(ゲームマスター)も完璧じゃない。そこに攻略法があるかもしれないぜ。
6:このカード…何で相棒や城之内くん達が描かれてるんだ?
[備考]
※参戦時期は最低でもドーマ編終了後。

【閃刀姫-ロゼ@遊戯王OCG】
[状態]:疲労(大)、左肩に斬傷(応急処置済み)、悲しみ
[装備]:閃刀姫-ロゼの剣@遊戯王OCG、
[道具]:基本支給品×2、涼邑零の魔戒剣@牙狼-GARO-、チームみかづき荘のロケット@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)ランダム支給品×0〜3(零の分含む)
[思考・状況]
基本方針:檀黎斗やハ・デスを斬り、大切な人(レイ)の待つ平和な日常に帰る
1:零……。
2:チノ達との合流に急ぐ。
3:レイを見つけて守る。
4:私やレイがカードに?どういうこと?
[備考]
※遊戯王カードについての知識はありません。

164Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:32:35 ID:/fKPqQI.0
◆◆◆


気が付いた時、ルナは体の感覚が極端に薄いと分かった。
痛みと熱さが同時に襲い掛かり、どう表現すべきか分からないモノが全身を駆け巡ったのは数十秒前。
今ではほとんど何も感じず、これは本当に自分の体なのか疑問に思う程。
辛うじて動く両目で状態を確認し、見なきゃ良かったと後悔を抱く。

(よく生きてるわね、私)

全身の半分以上が消し飛んでいる。
着ていた服も筋骨隆々の肉体も見る影が無い。
人間ならば即死は免れない、強靭な魔物とて耐えられるか非常に怪しい。
こんな有様でまだ息があるのがルナ自身にも不思議でならなかった。

(まぁ…だから何が出来るって訳でもないけど)

生きてはいる、即死だけは回避した。
そこが限界だ。
指一本動かせないどころか、動かす指が存在しない。
立って逃げれもしないし、魔法を放つ手は消し炭となって風がどこかへ運んだ後。
やれる事と言えば知りたくなかった自身の惨状を確かめ、命が尽きる瞬間を味わう。
それ以外に何もやれはしない。

(……ああ、まだあったわ)

訂正、もう一つだけ残っている。
傍らに屈む白い少女を瞳が映す。
吹けば一瞬で消えそうな火しかないのに、視界だけはいやにハッキリだ。
自分を見下ろす少女の、悔し気な顔もちゃんと見える。

「良かったじゃない…あの人間を殺した私は…もう助からない……気分が良いでしょ……」

皮肉を籠めて言ったら、更に表情を歪めた。
怒りか、それとも少女自身の手で殺せなかった悔しさか。
どちらにせよ自分は彼女の仲間を奪い、彼女は仲間の仇も取れない。
勝ち逃げに近い形で死ぬ自分へ、恨み節の一つや二つはぶつけるのだろうと笑い、

165Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:33:09 ID:/fKPqQI.0
「あなたのことは…怒ってるよ…司さんを殺したあなたには、すごく怒ってる……だけど…!あなたを救いたいって気持ちは、今だって変わらない…!」
「――――」

目尻に涙を浮かべた少女は、自分から目を逸らさずに言ってのけた。
こんなにも近くで顔を覗かれれば、強がりの類で無いと嫌でも分かる。
本心からの言葉だと分かってしまったから、ルナも呆気に取られるしかなかった。

「そう……」

苛立ちは不思議と湧かず、呆れと他によく分からない感情がチラホラ。
もうすぐ死ぬから、今更怒る気になれないのかもしれないし、違うのかもしれない。
どこか冷静に考えている自分が可笑しくて、薄っすらと笑みを作る。
こんな風に笑うのなんて、久し振りな気がした。

「あなた……名前は……?」
「イリヤ…だよ……」

人間への憎しみは消えていない。
村を焼き家族を奪った連中を、今でも殺したいと思ってる。
全てを水に流すなんて真っ平御免だ。
今すぐにでも復活可能なら、きっと復讐の為に優勝を目指す。

だけど、もしもっと早く。
この度が過ぎるお人好しで、馬鹿みたいな少女と会えていれば。

「良い名前ね…イリヤ……」

ほんの少しでも、何かが変わったのだろうかと。
そんなつまらないことを、考えてしまった。

復讐は果たせない。
人間共は残したまま、ここで自分は死ぬ。
何もやり遂げられない最期に、僅かな慰めがあるとすれば。

(コローソ、あなたを――)

殺さずに済み良かったと、本心からそう思えた。

166Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:33:48 ID:/fKPqQI.0



魔女の命は尽きた。
仲間を守れず、救ってみせるという言葉を実現出来ず。
取り零してばかりの自分が恨めしくて、魔法少女は頬を濡らす。
水色の剣士も愉快型魔術礼装も、今だけは何も言えない。
乾いた二つの死が沈黙を広げ、

『よっと』

振り下ろされた黄金の刃が、完璧にぶち壊した。

ほとんど炭と化しているルナの首を斬り落とす。
少女を解体し弄ぶのはエボルトの嗜好とはかけ離れており、残虐趣味に走ったのではない。
目的はゲームのプレイヤー達を縛る枷。
解析用のサンプルとなるだろう首輪入手の為だ。

(やっとこさ一個手に入ったな)

マサツグ様の首輪は、カイザーインサイトの方で使い道があるらしいので見送って。
戦兎やマコトと呼ばれた青年を言い包め、ニノンの首を手に入れるのが当初の考えだった。
が、今ここで都合良く死体が出来上がったとなれば確保しない選択は無し。
キノコカン以外にもう一つ、戦兎への手土産ができた。
後はさっさと戻れば良いだけだが、少々後ろ髪を引かれる状況である。

167Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:34:29 ID:/fKPqQI.0
「あなたは……!」
『行動理由は理解出来ますが、流石に空気読めてなさ過ぎじゃないですかね…』
『おいおい、そりゃ酷ぇ言い草だな。話が終わるまで待ってやったんだぜ?それに、そっちのお嬢ちゃんの首輪には手を付けないでいるんだ。優しさに溢れてると思わねぇか?』

ぬけぬけと言うエボルトへ、イリヤは勿論チノも怯えと非難の混じった目で睨む。
猛威を振るった怪人態から再びブラッドスタークに戻り、仮面越しにヘラヘラと笑う。

旧世界で戦兎達を翻弄し続けた態度の裏で考えるのは、今しがた首を斬った魔女についてではない。
ルナに支給されたであろう黒い板、まさか本当にコレがあるとは思わなかった。
何せ新世界では形を変えて、戦兎達の所に保管されている筈。

黒い板の正体をエボルトは知っている、何せコレはエボルトが生み出したのだから。
破滅を巻き起こす箱と、滅亡の引き金となる装置。
星狩りの兵器二つを掛け合わせた板、ラストパンドラパネルブラック。
嘗てブラックホールフォームのエボルを強化し、惑星間のワープ能力を与えたのが何を隠そうルナの支給品の一つ。
戦兎がジーニアスボトルとの組み合わせで創った白いパンドラパネルと融合し、新世界創造のトリガーになったのはエボルトも知っている。
殺し合いでは再び二枚に分裂し、内の片方は巡り巡ってエボルトの手に戻って来た。

とはいえ、何もかもが旧世界の時と同じではない。
パネルを完成させるのに必要なフルボトルは計10本。
なのに予め装填されているのは5本のみ、先程填め込んだコブラロストボトルを入れても残り4本が足りない。
能力の強化や狭い範囲での転移はこの状態でも可能だが、本領発揮には程遠い。
苦労してボトルの生成と回収を行ったのに、また集め直さねばならないとは。
尤もパネルを完成させたところで、エボルドライバーとエボルトリガーが手元に無ければ旧世界と同じ力は発揮不可能。
そもそもパワーバランスが崩壊し兼ねない姿を、ゲームマスターが許可するとは思えなかった。
弱体化の細工が施されていると考える方が自然。

168Judge End ─すべての罪が眩しく消えた─ ◆ytUSxp038U:2024/09/12(木) 22:36:15 ID:/fKPqQI.0
(或いは、必要なもんが全部揃っても大した問題にはならない連中がいるのか?)

複製品や未完成であっても、星狩りの兵器を支給品に選んだ。
エボルトの手に渡る可能性を考えて尚そうしたのは、そうなっても殺し合いは成り立つが故か。
力を取り戻したエボルトであっても苦戦は免れない存在が、今もこの地で猛威を振るっているのか。
自らを神と称し君臨するあの男の力は、星狩りだろうと手の届かない領域にあるとでも言うのか。

(…ま、思った以上に骨のある連中が参加してるのは間違いなさそうだがな)

バイザー越しのレンズに真紅の瞳を射抜かれ、イリヤが身を強張らせる。
自分が来るまでにルナを相手取り、パネルを引き剥がすまでに至った少女。
大したものだと皮肉や煽り抜きに思う。
直接戦ったから分かるがルナの力も相当であり、少なくともブラッドスタークではまず勝てる相手では無かった。
そんな相手に持ち堪え、あまつさえ軽くない傷を与えるとは末恐ろしい。
二度の敗北で人間の強さを認めたつもりだったが、まだまだ認識が甘いらしい。
つくづくこちらの予想を超える連中だと、仮面の下で呆れ笑いを作る。

いい加減戦兎達の所へ戻るべきか、だがその前にイリヤ達から情報を引き出したくもある。
或いはオーエド町かやちよとの合流場所だけ教えて、詳しい話は後程とするか。
どうしたものやらと考える間にも、刻一刻と放送の時間は迫っていた。


【D-3/一日目/早朝】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大・治療促進により回復中)、悲しみと悔しさ
[装備]:マジカルルビー@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード『セイバー』@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ(2時間使用不可)、クラスカード『バーサーカー(マグニ)』@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ(2時間使用不可)、光の主霊石@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。元の世界に帰ってやることがある
1:司さんもあの子(ルナ)も、私は……。
2:美遊を必ず助けに行く。
3:この赤い男の人(エボルト)を警戒。何がしたいの…?
4:お兄ちゃんかシロウさん、一体どっちが参加してるんだろう…?
5:襲ってきた女の人(ジャンヌ)を警戒。
[備考]
※参戦時期はドライ!!66話、6千年前に向かった直後
※心意システムによりバーサーカー(マグニ)のクラスカードを創造しました。

【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、悲しみと決意
[装備]: チノ(せんし)の剣@きららファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本方針:ハ・デスや檀黎斗達を倒して平和な日常に――ココアさんのいる場所に帰りたいです
1:司さん……
2:ロゼさんや零さんに協力します。
3:ココアさんやみんなを探したいです
4:ティッピーはここにはいないんでしょうか……?
5:マヤさん……
6:平行世界のココアさん…私の知ってるココアさんとは違うんですか?
7:赤い不審者(エボルト)を警戒。何なんですかこの人……。
[備考]


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