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ξ゚⊿゚)ξツンちゃん夜を往くようです

1名無しさん:2020/10/14(水) 17:28:46 ID:YvZFQxxU0

         タクシー
      (゚」゚)ノ
    ノ|ミ|
     」L
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
        _/ ̄ ̄\_
       └-○--○-┘=3

753名無しさん:2023/01/30(月) 05:02:41 ID:ACDHDjsM0


754 ◆gFPbblEHlQ:2023/01/30(月) 22:04:47 ID:.eE0h2Dw0

≪1≫


 ソ連シベリアを横断する世界最長の鉄道へ向けてラッパを吹く。
 戦争で死んだ父を弔うため、これから戦地へ向かう兵士のために。

 シーン少年はこの習慣を2年と続け、列車の汽笛を聞き逃すまいと常に耳をそばだてていた。
 いくつもの山を越え、山彦混じりに聞こえてくる「ぽぉーう」という音。
 少年はただそれだけを合図にし、来る日も来る日もラッパを持って町外れへと駆け出すのだった。

( ・-・ )(……聞こえた!)

 汽笛の音は、早朝の配達仕事の傍ら耳にすることが多かった。
 今朝も配達はあと1件というところで汽笛が聞こえ、シーンは尚更往路を急ぐこととなった。
 配達先は町の中央にある教会。2人の男が、シーンの到着を待ちかね表に出てきていた。

( ・-・ )「おはようございまーす! 配達です!」

( ^ν^)「やぁおはよう。列車には間に合うのかい?」

( ・-・ )「転ばなければ、何とか!」ゴソゴソ

 彼らのもとに滑り込むなり、シーンはショルダーバッグを開けて最後の配達物を彼らに手渡した。
 男たちはサインと引き換えにそれを受け取ると、白息を繰り返すシーンをすぐさま送り出した。

£°ゞ°)「そろそろ薬が切れる頃だろう。あとで来なさい」

( ・-・ )「分かりました! またあとで!」ダッ

 シーンは急いで走り出し、町を出て、タイガの山林を一目散に抜けていった。
 程なく峠に出たシーンは、息を整えるのも忘れて山下を一望した。

(;・-・ )(よし、間に合った……!)

 広大な雪景色を分かつ黒い線。列車の線路にくっと目を凝らす。
 雪の具合からして列車はまだ来ていない。シーンは安堵し、そこでようやく息を整えた。

 そして十秒と経たないうちに、彼はまた慌ただしくバッグを検めて自前のラッパを取り出した。
 分厚い手袋を外してラッパを構え、簡易的に音を取り、口周りの筋肉を入念にほぐして列車を待つ。

 ――やがて、シーンの耳朶が音を捉えた。

 規則正しい地響きが山間の向こうからかすかに聞こえてくる。
 音の輪郭は秒ごとに鮮明になり、確かなものとなっていく。
 列車が近い。シーンは確信をもってラッパを構え、最後に一度、息を吸った。

.

755名無しさん:2023/01/30(月) 22:06:30 ID:.eE0h2Dw0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



o川*゚ー゚)o(……楽器の音?)ピクッ

 そのとき、素直キュートは遙か遠方から聞こえた音をしかと受け取っていた。
 風切り音に負けて消えそうなラッパの音色と、地響きを伴う列車の走行音。
 キュートは音のする方角にピタリと当たりをつけ、おもむろに進路を変更した。

o川*゚ー゚)o「……ツンちゃん起きてー。魔力でなんか作ってほしいよー」

ξ ⊿ )ξ

 彼女は今、風雪荒ぶる山奥で遭難状態に陥っていた。
 紆余曲折は諸々省くが、彼女の背中には魔王城ツンの姿も見受けられる。
 ツンはすっかり青褪めた顔で微動だにせず、死体のようにキュートの背中にくっついていた。

 とかく絶望的な状況に響いた先程の音色はまさに福音で、人里が近いことの証明でもあった。
 キュートはツンを背負ったまま、音が聞こえた方向へと一歩ずつ前進していく。

o川*゚ー゚)o「マフラーでも何でもいいよー。我々ちょっと薄着過ぎるからさー」

 ちなみに現在の気温はバキバキのマイナス20度。
 彼女たちは前回同様に制服とジャージ姿のままなので、この状況では正味全裸と変わりなかった。

o川*´ー`)o「すこぶる寒いよー。これ普通なら死んでるからねー」


ξ ⊿ )ξ

o川*´ー`)o


o川*´ー`)o「ホカホカしりとりするよー。はいお湯」

o川*´ー`)o「ほらツンちゃん、ゆの付くホカホカアイテムを言ってほしいなー……」




.

756名無しさん:2023/01/30(月) 22:08:13 ID:.eE0h2Dw0


 ――2度の世界大戦を終えた冷戦下の1950年代。
 核兵器の実用性を目の当たりにした国々は幾多の代理戦争を横目に核開発を急いでいた。

 中でもソ連は捕虜、貧困層などの人々を数十万という単位で動員し、すごい速さで事を進めていた。
 当然その作業には放射線被曝の可能性が多分にあり、肺や目を冒される者も少なくなかったという。

 そして、身体を壊した彼らは便宜上のサナトリウムにまとめて隔離され、社会から抹消された。

 様々な事情を抱えた人間達が「生きるに値しない命」と一緒くたにされ、死を待つばかりの冬の町。
 住民達がостатокと呼ぶ町ぐるみのサナトリウムは、来る者を拒まず、去る者を許さなかった。

.

757名無しさん:2023/01/30(月) 22:09:02 ID:.eE0h2Dw0




          ┏──────

                ツンちゃん夜を往くようです

             #11 皆既の星と再誕のイデア その1

                             ──────┛



.

758名無しさん:2023/01/30(月) 22:11:30 ID:.eE0h2Dw0

≪2≫


 その日の朝もラッパの音が目覚ましになった。
 キュートは乱暴に毛布を払い除け、寒さと共に朝日を受け入れた。

o川*゚ー゚)o

o川*´ー`)o(さみ……)

 なお氷点下である。
 キュートは腕を抱えてベッドを降り、暖炉に向かうなり掠れた声で呟いた。

o川*゚ー゚)o「いやぁ、ラッパくんは今日も元気だねぇ」

ξ゚⊿゚)ξ

o川*゚ー゚)o「……ツンちゃ〜ん。他愛ない雑談ですよ〜。応えてね〜」

 ペチカと呼ばれるロシア式暖炉の前には綿の潰れたソファがひとつ。
 そこには金髪ツインドリルでお馴染みの、いわゆる魔王城ツンが腰掛けていた。
 ツンは振り返ってキュートを見ると、返事をする事もなく、種火の燻る暖炉にすっと視線を戻した。

o川*゚ー゚)o「はいおはよー。夜中なんかあった?」

ξ゚⊿゚)ξ「……別に。何も」

o川*゚ー゚)o「そう。じゃそっちは火の番と紅茶ね。私は配給取ってくるから」

ξ-⊿-)ξ「……ん」

 のそりと立って薪を用意し始めるツン。
 キュートはその様子をしばし眺めた後、これまたのそりと外出の準備に取り掛かった。

 ソ連軍払い下げの各種防寒服を全身に纏い、モコモコのマフラーや長靴で更に素肌を覆い隠す。
 ここは極寒シベリアの大地。とにかく全身モコモコにならないと命が危ないのである。

o川*゚ー゚)o「んじゃ行ってきま」

 ツンにあっさり声をかけ、モコモコキュートは二重の玄関扉を開けて外に出ていった。
 物資の配給は毎週1回。大した物は配られないが、この町の物価を思えば見逃す事はできなかった。

.

759名無しさん:2023/01/30(月) 22:15:30 ID:.eE0h2Dw0


  *  *  *


o川*゚ー゚)o(ということで町に繰り出したキュートさんですが)テクテク

o川*´ー`)o(ここに来てから早くも1ヶ月。住めば都を実感中でございましてね……)トコトコ

 自然なモノローグをもって室内から屋外へのシーンチェンジを果たした素直キュート。
 閑散とした町の雪景色を眺めつつ、彼女は町の教会へと歩を進めていた。
 物資の配給はその教会近くに設けられた簡易テントで行われている。
 目的地までは徒歩10分。キュートは自然なモノローグをもって現状を振り返った。

o川*゚ー゚)o(……西暦1955年、ソ連シベリアのどこかしら)テクテク

o川*゚ー゚)o(住民達がостатокと呼ぶこの町の事は、正直まだ分からない)テクテク

o川*゚ー゚)o(流石のキューちゃんもロシア語は知らんからな……)テクテク

 остатокという文字列を初めて見た時、キュートはそれを「オタク?」と読んだ。
 実際の発音はアスタータクとなるらしく、英訳辞書をひいてみると余り物といった意味があるらしかった。
 остатокに相当する単語はRemnantなど。町の呼び名としてはどこか自虐的だった。

 ――そして、この町の正体は『生きるに値しない命』の終着点だった。

 どこかで傷ついた者が人知れず流れ着き、よく分からない治療を受けながら死んでいく場所。
 大概の住民には寛解の兆しすらなく、誰かの治療が間に合ったという記録も一切ない。

 名目上は長期療養と終末期医療を主とした市町村規模のサナトリウム。
 だがその実態は自殺見殺しのオンパレードで、誰一人として助かる見込みはない。
 キュートとツンが居着いたこの場所は、確かに『余りものの町』との揶揄が似合う有様だったのだ。

.

760名無しさん:2023/01/30(月) 22:23:37 ID:.eE0h2Dw0


o川*゚ー゚)o(――ま、そんなんだから私達みたいな余所者でも潜り込めたんだけどね)

o川*゚ー゚)o(この時代の日本は敗戦したての負け犬国家。
       傷病者の町なら大して悪目立ちもしないし、そこは好都合かな)

o川*゚ー゚)o(あと健康体だと仕事も多くて稼ぎやすい。看病、穴掘り、荷運びなどなど。
       若さと健康とコミュ力で大体なんとかなる場所でよかったー)

 かくしてキューちゃんは配給場所である簡易テントに到着。
 ずらりと伸びた行列を端から端まで見渡して、配給の最後尾にそそくさと並ぶ。
 前には30人ほど並んでいたが配給はスムーズで、順番はすぐに来た。

o川*´ー`)o(……で、配給はいつものラインナップと)

 今回の配給はクズ野菜のピロシキとキャベツスープ、その他食料品の詰め合わせ。
 詰め合わせの内容はジャガイモ、黒パン、燻製肉、色んな塩漬け、ラベルの無い缶詰という感じ。
 1週間分の食料としては心許ない量だが、この冷戦下、傷病者相手の配給としては超豪華と言えた。

ヽ|・∀・|ノ「――よし次! 身分証を出して前へ!」

 そして配給係はロシア人かつロシア語話者で、しかもようかんマンだった。

ヽ|・∀・|ノ「はやく身分証を出すんだ! 急げ!」

o川*゚ー゚)o「はは、何言ってんだコイツ」

 キュートにロシア語の覚えは無い。
 身振りがあるので指示は分かるが、ようかんマンの言葉は彼女には一切伝わっていなかった。
 とりあえずまぁ雰囲気に、彼女は身分証となる一時滞在許可書を2人分、差し出して見せた。

.

761名無しさん:2023/01/30(月) 22:27:34 ID:.eE0h2Dw0


ヽ|・∀・|ノ「ふむふむ、あんたの名前は……ニャーオ=キュート?
       随分ブッ飛んだ名前だな。偽名か?」

o川*゚ー゚)o「にゃーん!」

ヽ|・∀・|ノ「そのようだな……」

 そのようだった。

ヽ|・∀・|ノ「いや余計な質問だった。この町はそんな奴ばかりだ、気にしないでくれ」

ヽ|・∀・|ノ「もう一人の『ツーン・チャーン』にもよろしくな。
       宣教師様のありがたい話は向こうでやってるぞ。聞いていくといい、案外面白いぞ」

o川*゚ー゚)o「ははは意味わかんね。まぁすぐ帰りますけど……」テクテクトコトコ

 キュートは諸々の食料が入った麻袋を小脇に抱えて直帰した。
 2人分の配給で両手が塞がっているし、宣教師にはまったく興味が無かったのである。





( ^ν^)「――……」

 かたや広場に立ってありがたい話をしていた宣教師は素直キュートの背中をしっかり捉えていた。
 こんなクソ寒いとこでザビエルめいた格好をしてありがたい話をする男。
 彼は『余り物のニュッサ』と称される篤志家で、彼もまた、この町に似合う訳アリの一人だった。

( ・-・ )「牧師様?」

( ^ν^)「……失礼。転びそうになっている人が居まして、気を取られました」

 ニュッサは「話を続けましょう」と言って咳払いをし、ありがてぇ話を再開した。

.

762名無しさん:2023/01/30(月) 22:29:33 ID:.eE0h2Dw0


  *  *  *


 キュートたちは町外れのレンガ小屋を住まいとしていた。
 立地からして町への移動はやや面倒だったが、正体を隠して暮らす分には悪くない物件だった。
 ここに感染病末期患者が隔離され、ドカドカ死んでいっている曰くに目を瞑ればの話ではあるが。

o川*゚ー゚)o「開けて〜」ドガッドガッ

 そんなあったかホームに帰ってきたキューちゃんは玄関をガンガン蹴って帰宅をアピールした。
 行儀は悪いが両手がキャベツスープで塞がっているため自力では開けられないのだ。仕方がない。
 ツンちゃんは10分くらいで反応してくれた。スープは若干凍った。

ξ゚⊿゚)ξ「寝てた」

o川*゚ー゚)o「スヤスヤしやがってよー」

 とはいえツンちゃんも朝の支度は済ませていたようで、暖炉などのアレはいい感じに温まっていた。
 テーブルに置かれたケトルも湯気を上らせホカホカでワロタの趣がある。諸般いい感じだった。

o川*゚ー゚)o「ピロシキとキャベツスープ貰ってきたけど」

ξ゚⊿゚)ξ「いらない」

o川*゚ー゚)o「だよね。じゃ私が2人分食べるってことで」

 キュートは荷物をツンに預け、2人分のスープを鍋にまとめ、ピロシキと一緒に暖炉の窯に入れた。
 この小屋に電気ガス水道は無い。食べ物を温め直すのにもじっくりと時間が必要だった。
 キュートは防寒具を脱いで椅子に掛けた。ツンが紅茶の用意を始める。これが2人の日常だった。

.

763名無しさん:2023/01/30(月) 22:34:30 ID:.eE0h2Dw0


ξ゚⊿゚)ξ「紅茶、もうすぐ無くなるから」

o川*゚ー゚)o「んー」

 差し出されたティーカップに目を落としつつ、キュートはぼんやりと声を返した。

 この町に来てから早くも1ヶ月。
 キュートも今更焦りはしないが、そろそろ本来の目的に向けて動く必要があった。
 今度の仕事は最初から長期戦が想定されている。猶予はおよそ、半年であった。

o川*゚ー゚)o(……ここでの1ヶ月間、魔王城ツンは一切の飲み食いをしていない。
       少なくとも私の前では何も食べてないし、配給にだって少しも手を付けてない)

o川*゚ー゚)o(トイレに行ってる様子すら無いし、魔物の体には『代謝』の機能が無いのかも)

 ひとまずキュートは最初の1ヶ月を魔王城ツンの観察にあてていた。
 そも彼女の目的は魔王城ツンの動向に大きく左右されるため、素行調査の重要性は特に高いのだ。
 それに関連して、ツンちゃん観察日記は30日を過ぎてなお連載が続けられていた。

o川*゚ー゚)o(私の仕事は主に集金。ツンちゃんを連れて帰るか、金目の物を持って帰るかだけど……)

o川*゚ー゚)o

o川*´ー`)o(マジでだるいなぁ。貧乏くじにも程があるでしょ……)

 キュートは紅茶を口元に運びながら、件の貧乏くじに関する顛末を回想した。


.

764名無しさん:2023/01/30(月) 22:35:18 ID:.eE0h2Dw0


〜回想シーン〜


( <●><●>)「という経緯がありまして」

( <●><●>)「お嬢様を1955年のシベリアに送っておきました」

ミセ*゚ー゚)リ「は?」

( <●><●>)「ご本人たっての希望ですので悪しからず」

ミセ*゚ー゚)リ

( <●><●>)



川д川「……この子、立ったまま気絶してるわよ」

( <●><●>)「助かります」

 ツンをシベリア送りに処した後、ワカッテマスは素直四天王の一人を連れてリビングに戻っていた。
 そして諸々の話がどう決着したかを説明し、結果ミセリが気絶した的な流れである。

.

765名無しさん:2023/01/30(月) 22:36:52 ID:.eE0h2Dw0


('A`)「はえーシベリアかぁ。あいつも大変だなぁ」

( ^ω^) ・ ・ ・

('A`)「さむそう」

 ちなみにドクオとブーンも居た。

( ^ω^)

Σ(; ^ω^)「いやドクオの反応おかしくないかお!? これ絶対に緊急事態だお!?」

('A`)「いやー要するにプチ家出だろ? そんな珍しくねえよ」

(; ^ω^)「でも過去に送るのってタイムパラドックスで色々ヤバくないのかお?
       こういう展開、世界線とか分岐が云々で複雑になりがちだお……」

( <●><●>)「そういうのが発生しないタイプです」

( ^ω^)「じゃあいいか……」

 懸念は解決したようだった。

('A`)「そんじゃ俺には用無いですよね。帰っていいすか」

( <●><●>)「構いません。自由に過ごして下さい」

('A`)「了解。そんじゃ失礼します」

(; ^ω^)「ええー!! 今こそ情熱的にツンを追いかけるべきだお!?」

('A`)「俺らはそういう感じじゃねえんだよ。お前も一回頭冷やしとけ」

(; ´ω`)「僕らの出番が終わっちまうおーー!!」

 ドクオ&ブーン帰宅。出番は終わりだった。

.

766名無しさん:2023/01/30(月) 22:38:44 ID:.eE0h2Dw0


川д川「……で、私にはまだ用があるんでしょう?」


 2人が去るのを見届けた後、腕組みをした貞子がロマネスクの横顔を覗き込んだ。
 それと同時に彼女の前髪が片側に垂れ下がる。
 普段は見えない彼女の素顔と、朧げな瞳が露わになった。

( <●><●>)「貴方には毛利まゆの件を任せます」

( <●><●>)「方法は問いません。対象とお嬢様のあらゆる接触を妨害して下さい」

川д川「……それは、お嬢様がこの時代に戻ってくる前提で言ってるわよね」

( <●><●>)「……失言でした」

 ワカッテマスは無表情のまま少しだけ顔を伏せた。
 貞子はその素振りを冗談として受け取り、ささやかに笑って背筋を正した。

川д川「魔眼で未来を見た上で、今の仕事がどうしても必要なんでしょう?」

川д川「いいわ。その汚れ役は私が引き受けましょう」

.

767名無しさん:2023/01/30(月) 22:40:38 ID:.eE0h2Dw0


( <●><●>)「必要であれば探知結界の範囲を狭めてもらっても構いません。
        ハインリッヒを捕らえた今、魔王軍の手勢は余り気味ですから」

川д川「それは余計な気遣いよ。ただ勝つだけなら私と貴方で十分なんだし」

 片手でひらりと空を煽ると、貞子は一息のうちに空間転移の魔術を詠唱して姿を消した。
 ワカッテマスは続けて振り返り、部屋の隅に待たせていた少女を見て言った。

( <●><●>)「お待たせしました」

( <●><●>)「こちらの話に入りましょう。済み次第、貴方を過去に飛ばします」




o川*゚-゚)o「……今からでも代役立ててほしいんだけど」

 ――素直四天王が一人、素直キュート。
 彼女は不服と倦怠を全面に押し出した様子でワカッテマスに細目を向け、小さく息を吐いた。

o川*゚ー゚)o「て言ってもムダなんでしょ? 分かる分かる、早くおはなしをどうぞ」

 キュートは態度を一変させながら前に出て、大仰な動きで手近なソファに腰を下ろした。
 それと同時に『とすん』と可愛げのある擬音。これで乱暴に座ったつもりなのだからかわいい。

o川;*´ー`)o「あ〜あ私もシベリア送りかぁ。ほんとに嫌なんだけどなぁ〜……」

( <●><●>)「選出についてはご自分の仲間を恨んで下さい。
        私もまさかジャンケンで事を済ませるとは思わなかったので」

o川;*´ー`)o「うう〜」ジタバタ

 未練がましく消え入りそうな声。両手を頭に添えて振り、左右の二つ結びを翻すキュート。
 彼女は素直四天王の中でもっとも若い15歳の少女である。シベリアなんかにゃ当然行きたくない。
 高い適応能力を求められる此度の一件。任務遂行の観点からも彼女が適任であるかは若干怪しい。

 そういう感じの色々もあって、ワカッテマスの胸中には少なからず不安が渦巻いていた。

( <●><●>)(――そう、不安がある)

( <●><●>)(私の魔眼では、過去に繋がる出来事を見ることはできないから)

( <●><●>)(素直キュートを過去に送ったとして、そこで何が起こるかまでは知る術が無い……)

.

768名無しさん:2023/01/30(月) 22:45:27 ID:.eE0h2Dw0


 ワカッテマスの魔眼は万能ではない。
 未来視という破格の能力は備えていても、その実性能には大きなブレがある。

 当人以外には知る由もない魔眼のブレ。極めて不安定な挙動の数々。
 その最たる項目が『過去視』であった。彼の魔眼は、決して『過去』を見てはならないのだ。


( <●><●>)(――私の未来視は、私が認知している『過去』に大きく依存する)

( <●><●>)(結論それは、『過去の情報』を増やすほどに私の未来視は精度を落とすということ)

( <●><●>)(未来視を成立させる計算式は極めて複雑で、私自身でも理解しきれてはいない。
        その計算式の中でも、何より厄介な存在こそが『過去』という変数)

( <●><●>)(ここの値を弄るだけで未来視に関する方程式は根底から覆る。
        この能力を安定させるには、私は『過去』を死角にしなければならない……)


 という事で、ワカッテマスは過去の出来事を魔眼で把握する事だけは極力避けているのだった。
 という事で、過去のシベリアで何が起ころうとワカッテマスには何も分からないのだった。

o川*´ー`)o

 なので、なるべく信頼できる人物を過去に送りたいのだが、ここに居るのは素直キュート。
 彼女の選出は未来視によって事前に把握していたが、以後の顛末はなんも分からん状態にある。

 それでも素直キュートは魔王城ツンを連れて現代に戻ってくる。それに関して彼に不安は無い。
 ワカッテマスが不安を抱くのは、彼女たちの帰還後に起こる 『次の展開』 であった。

 未来の分岐が組み合わさって、『魔眼のワカッテマスが死亡する未来』が発生する転換点。
 『過去で何かが起こる』、『その何かは自身の死を招く』、『死の未来はおよそ不可避である』。

 以前ワカッテマスがミセリ達に語った未来視の終わり。
 その結末が確実な未来として分岐に加わってしまうイベントこそが、今回のくだり。

 そこで『じゃあこのイベント自体を発生させなければいいのでは?』と思うのは当然の疑問。
 なのにどうしてこんな愚かしいマネをするのかというと、彼はただ、『これ以外』を選べなかったのだ。

.

769名無しさん:2023/01/30(月) 22:47:47 ID:.eE0h2Dw0


( <●><●>)「――前提を整理します」

 ワカッテマスは淀みなく言い切って素直キュートの対面に座った。

( <●><●>)「お嬢様は『誰にも迷惑をかけない場所』をご希望されました。
        そこで私はお嬢様を過去へと送り、『誰にも迷惑をかけようがない状況』をご用意しました」

( <●><●>)「ですが、貴方がた素直四天王は『その上で迷惑を被っている』と異議を申し立てられた」

o川*´ー`)o「だからその迷惑をこっちの都合で解決しに行く。……って、まぁ要するに屁理屈だよね」

 キュートはワカッテマスの語りを一言で片付け、呆れたように片手を振って見せた。

( <●><●>)「はい」

 そんな彼女に嘯くこともないワカッテマス。
 そのあっけらかんとした素振りに好感を抱いたキュートは、もう一歩踏み込んだ事情を彼に尋ねた。

o川*゚ー゚)o「ツンちゃんを魔界に送らなかったのは、あなた個人に別の目的があるからよね?」

( <●><●>)「私は常に個人的な目的の為に動いています」

o川*゚ー゚)o「……ふーん。そんな見た目で腹黒なんだね」

 彼の答えにキュートは親近感を覚えた。
 ほんのりと笑みを浮かべ、顎を上げて彼の魔眼を見つめる。

o川*゚ー゚)o「で、その目的っていうのは何なのかな」

o川*゚ー゚)o「すごい魔眼を持ってるのに、それでも小芝居が必要な目的って相当じゃない?」

( <●><●>)

o川*゚ー゚)o

( <一><一>)「話を続けます」

 無言で応えたワカッテマスに、キュートはこれ以上の意地悪をしなかった。

.

770名無しさん:2023/01/30(月) 22:50:13 ID:.eE0h2Dw0


( <●><●>)「素直キュート、貴方にはこれから過去へ向かってもらいます」

o川*゚ー゚)o「はいはいエンドゲームでレイシフトで電王な感じでしょ知ってる」

( <●><●>)「過去の世界で貴方が何をしようとも、私は一切関知しません。
        ただし、お嬢様への接触と、ご意思の再確認だけは義務とさせて頂きます」

o川*゚ー゚)o「はいはいツンちゃんに会って連れ帰ればいいんでしょ分かる分かる」

( <●><●>)「そうですね、お嬢様が 『帰りたい』 と仰っしゃればそのようにして下さい。
        ですが、ご帰還を望まれない場合は放置してもらって構いません」

o川*゚ー゚)o「いや〜普通に帰りたがると思うけどね。ツンちゃん意思弱いし」

( <●><●>)

( <●><●>)「素晴らしい理解度です。正直私もそう思います」

o川*゚ー゚)o「本気で不安がってるの、そこで気絶してるお姉さんくらいでしょ」



【そこで気絶してるミセリお姉さん】

  ↓

ミセ* ー )リ



( <●><●>)「そうですね」

o川*゚ー゚)o「あっはっは。なんだこの茶番」




( <●><●>)(……故に、恐るべき事態なのだ)

 キュートの軽口を真に受けたワカッテマスは目を細めて口を噤んだ。
 己を死に至らせる要因がこのような茶番から生まれること自体ありえない異常事態。
 不安にかまけて軽率な言動を取る彼ではないが、憂慮の念はやはり拭いきれていなかった。

.

771名無しさん:2023/01/30(月) 22:53:04 ID:.eE0h2Dw0


( <●><●>)「それと最後に、過去と未来の関係性について」

( <●><●>)「先ほど内藤ホライゾンからも指摘があったタイムパラドクスの件です。
        過去の行動が現在にどのような影響をもたらすか、ですが」

( <●><●>)「基本的には何の影響もありません。未来は我々の知る形――今現在に収束します」

o川*゚ー゚)o「じゃあ例外的には? あるんでしょ、未来に影響を与える方法」

( <●><●>)「……そのような禁則事項を人間に教えると思いますか」

o川*´ー`)o「けちー」

( <●><●>)「こちらからの話は以上です。なにかご質問は」

o川*゚ー゚)o

o川*゚ー゚)o「まぁ、特にないかな。聞いても答えないだろうし」

 ワカッテマスの最終確認に逡巡を要さず答えるキュート。
 最初こそ機嫌を損ねていた彼女だったが、今の彼女にそのような素振りは見受けられなかった。

o川*゚ー゚)o「細かいことはサプライズとして取っておくから」

o川*゚ー゚)o「いいよ、もうやっちゃって」

( <●><●>)「……失礼ながら、私は貴方の内心を見透かしています。
        今の話の中で、貴方が何をもって溜飲を下げたのかも理解しています」

o川*゚ー゚)o「いやー、それでも敢えて言語化しようとする辺り努力家だよね」

( <●><●>)

o川*゚ー゚)o「魔眼があれば相互理解なんか完全放棄していいのにさ」

o川*^ー^)o「――うん、健気な歩み寄りだと思うよ」

 年端もいかぬ少女から、理外人外の個へと放たれた傲語。
 ワカッテマスはここでも無表情を貫いていたが、その実、彼女の皮肉はかなりボディに効いていた。


〜回想おわり〜

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772名無しさん:2023/01/30(月) 22:55:39 ID:.eE0h2Dw0






o川*゚ー゚)o(……で、皮肉を言った次の瞬間には過去に飛ばされてましたと)

o川*´ー`)o(いやぁ、まさか問答無用かつマジで手ぶらでシベリア送りとはね……)

 殊勝な回想シーンを終えた頃、キュートの朝食は綺麗さっぱり平らげられていた。
 朝のルーティーンはこれにて終了。あとは仕事を探しに行き、それをこなせば1日が終了となる。

 だが仕事にしても暇潰しの意味合いが強く、今のキュートはツンを連れ帰ることを急いではいなかった。
 その理由も簡単で、回想シーンにもあった当初の予想が、すっかり外れてしまったからだった。


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o川*゚ー゚)o「いや〜普通に帰りたがると思うけどね。ツンちゃん意思弱いし」

( <●><●>)「素晴らしい理解度です。正直私もそう思います」

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o川*゚ー゚)o(……普通に帰りたがるって、思ってたんだけどなあ)

 結論から言って、魔王城ツンは現代に戻ることを拒否していた。
 キュートの方も直截的に聞いた訳ではなかったが、当人にその意気が無いのは明白だったのだ。
 ちなみにそこらへんの話は次回以降で回想シーンを挟む予定だった。

 なので一旦本題は忘れ、まずはツンちゃんとの心の距離を縮めることを念頭に置く。
 そうした結果がツンちゃんとの共同生活であり、今現在の穏やかな日々なのであった。

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773名無しさん:2023/01/30(月) 22:58:40 ID:.eE0h2Dw0


o川*゚ー゚)o(でもまぁ私もずっと付き合うつもりは無いし)

o川*゚ー゚)o(この時代で金目のもん集めて、さっさと帰んないとな)

o川*゚ー゚)o(ということで――)

 大前提として、素直四天王が欲しているのは大金だけである。
 今は金儲けと保身のために魔王城ツンが便利というだけで、彼女自身にはそれほど興味は無い。
 金の卵を産むガチョウ。それに釣り合うものさえあれば、この一件はあっさりと終わるのだ。

                  アンティーク
o川;*゚ー゚)o(――まず狙うのは骨董品! 将来的に希少価値が高くなるもの!
        マニア受けしそうなものを安値でゲットして、未来で転売すりゃ大儲けよ……!)


 よって動き出したのが上記の転売計画、もとい善後策。
 過去で仕入れた物品を未来で売り捌くという切実な金策活動であった。

 ――ツンちゃんの経過を観察しつつ、金品を集めてリスクヘッジに奔走する。
 そうして金策が済めばツンを無理に連れ帰る必要も無くなるため、誰にとっても悪い話ではない。
 どこかピクミン的なこの算段は、彼女たちも無難な落とし所として合意を済ませてあった。

o川*´ー`)o「……ま、なにはともあれ今日も仕事なんだけどね」ヨッコラセ

 思案をやめて席を立ち、キュートはのびのびと背を伸ばした。
 外出の準備をして、また改めてツンに声をかける。

o川*゚ー゚)o「そんじゃ私は仕事探しに行くからさ、ツンちゃんの方も色々よろしくね」

ξ゚⊿゚)ξ「うん」

o川*゚ー゚)o「私は仕事と物品集めを担当して、ツンちゃんは家事と品定めを担当する」

o川*^ー^)o「……これからも上手に付き合っていこうね。
        わたし今、そんなに悪い気はしてないから」

 キュートは暗黒微笑でそう言って家を後にした。
 ツンも一息ついてから、自分の仕事に取り掛かった。

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774名無しさん:2023/01/30(月) 23:07:29 ID:.eE0h2Dw0


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ξ゚⊿゚)ξ

 ――家の中を掃除して、整理して、はたと小さな置き時計を見る。
 時刻はそれでも昼さえ越えておらず、ツンがやるべき仕事はあとひとつしか残っていなかった。

 ツンは暖かなリビングから書斎兼物置きとなっている別室へと場所を移した。
 薄暗い部屋だった。窓はあったが陽射しは皆無で、しっとりした寒さが肌を舐めるようだった。

 中に入り、扉を閉めると部屋の暗がりがさらに色濃くなった。
 ツンは目を慣らしてから中を進み、背の低い本棚から数冊を抜き取ってそのタイトルを検めた。
 英語、フランス語、ロシア語、中国語のそれらには、およそ日記を意味する題が載せられている。

ξ゚⊿゚)ξ(……これはまだ、読んでないわね)

 ツンは諸々の日記を持って窓際の机に向かった。
 朽ちかけている椅子にゆっくりと腰掛け、他人の日記を静かにめくり始める。

 このレンガ小屋は終末期を迎えた患者の隔離場所である。
 そんな場所に置かれた日記など、ぶっちゃけ縁起のいいものではない。

 しかし、彼女はそういったものを好んで読み進めていた。
 ここに来てからずっとそうして、人間の最期の感情を咀嚼し続けていたのだ。
 そこに『人間の死』への共感など無く、彼女はただ、好物としてそれを摂取していた。

ξ゚⊿゚)ξ「――……」

 興味深い、面白いものとして。
 即ち、人間という生物への知的好奇心を満たす為に。
 掃除の時に古いジャンプとか読んじゃうノリで。

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775名無しさん:2023/01/30(月) 23:08:35 ID:.eE0h2Dw0


 とはいえ、死にかけの人間が書く文章など大した量や内容にはならないものだ。
 文字が歪んでいて読解自体が難しかったり、最初の数ページ以降は全て白紙という本もかなり多い。
 当たり外れの区別はないが、読み応えという点でツンの欲求を満たすものはかなり少なかった。

ξ゚⊿゚)ξ

ξ-⊿-)ξ「……ふぅ」

 ツンは手にした日記たちを10分もしないうちに読破してしまった。そしてもう二度と読まない。
 あとの時間はキュートに任されている品定めに使い、書斎の整理を同時に進めていく。

 以上が魔王城ツンの基本的な生活習慣。
 彼女はこれを半月以上繰り返し、これ以外の事を何もしていなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「……ざ、りとるぷりんす」

ξ゚⊿゚)ξ(これ初版っぽいし、多分売れるやつよね)

ξ゚⊿゚)ξ(こっちのは虫の本かしら……ファーブル?)

ξ゚⊿゚)ξ(とりあえず読みましょう)

 〜3時間後〜

ξ゚⊿゚)ξ(読み終わったのだわ)

ξ゚⊿゚)ξ(……品定めも少しやったし、次は部屋の整理をしましょうか)チラッ

 ツンは立ち上がって書斎を一望し、さてどこに手を付けてみようかと少し考えた。

 背の低い本棚。背の高い本棚。床に積まれた本の山。
 埃を被った医療器具。衣類や毛布の塊。壊れた家具や家電の類。
 それらに加え、キュートが持ち帰ってきた金目のものがとにかくいっぱい。

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ「書斎なんだし、やっぱり本よね」

 ややあってから、ツンの関心は背の高い本棚に向けられた。
 それは整理を口実にした宝探し。彼女の目当ては、その本棚に収められた未読の日記たちであった。
 足の踏み場を作りつつ、ツンは背高の本棚に近づいてラインナップを確認した。

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776名無しさん:2023/01/30(月) 23:14:28 ID:.eE0h2Dw0


ξ゚⊿゚)ξ(どれどれ……)

 こちらの本棚には専門的な知識を要する分厚い本ばかりが並んでいた。
 医学、地学、神学――中でも気象学に関する本が多いのは先人の趣味だろう。

 それらはまた今度読むとして、ツンは最初に無題の革装を手に取った。
 背に記載が無いので恐らくは日記であろうが、革装の日記ともなると好奇心も一入だった。
 しかもデカくて分厚いのである。ツンちゃん的にも期待を寄せる大物であった。

ξ゚⊿゚)ξ(……おお、最後まで文字たっぷりだ)ペラッ

 期待しつつ小口をぱらぱらと流してみると、手書きの文字が最後のページまでしっかり綴られていた。

ξ゚⊿゚)ξ(あと日本語だし。読み慣れてるから助かるわね)

 ツンは一旦本を閉じ、気を取り直して最初のページに戻り、またじっくりと読み始めた。

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777名無しさん:2023/01/30(月) 23:16:53 ID:.eE0h2Dw0



ξ゚⊿゚)ξ(……言葉を知らぬ頃。初めて『それ』を見た瞬間、私は神の存在を必要とした)

ξ゚⊿゚)ξ(曰く、言葉は神であったという。即ち、私はそのとき言葉を欲したのである)

 ポエムから始まる日記は流石に初めてだった。
 書斎にあるという事はこれを書いたのも死の間際の筈だが、随分余裕があるなと彼女は思った。


ξ゚⊿゚)ξ(世界を巡り、言葉を覚え、……程なく私は、『それ』を言い表す為の言葉を知った)

ξ゚⊿゚)ξ(その言葉とは星であった。私が最初に見たものは、星と呼ばれるものであった)


ξ゚⊿゚)ξ(言葉を知らぬ頃、私は夜空の星を見て、それを美しいと感じていた)

ξ゚⊿゚)ξ(しかしそのとき、私の中には美しいという感情の他に、もうひとつ別の思いがあった)



ξ゚⊿゚)ξ(……欲しい。私は、星を欲していたのである)


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778名無しさん:2023/01/30(月) 23:18:05 ID:.eE0h2Dw0



ξ゚⊿゚)ξ「……星が、欲しい?」

ξ゚⊿゚)ξ


ξ;゚⊿゚)ξ(えっ、ここで親父ギャグ――!?)


 突然のユーモアに思わずツッコミを入れてしまうツンちゃんであった。


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779名無しさん:2023/01/30(月) 23:19:45 ID:.eE0h2Dw0



◆ 素直キュートの日記 Day30 ◆


 相変わらず何も起こらない 魔物の生態は少し分かってきた 
 ツンちゃんは食事もウンチもしない 魔物には代謝機能がそもそも無さそう
 魔物のエネルギー源は魔力だけ? やっぱり生物として根本的に違う

 ツンちゃんが意外とバイリンガルで助かる 金目の物を集めやすい
 墓掘りの仕事 飽きた


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