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昔桃子やベリの学園小説書いてた者だけど〜新狼

221:2015/07/24(金) 02:43:48
俺がそう聞くと、真野ちゃんは無言のまま、(何言ってるかわかんない!)と言いたげな顔で俺を見返してきた。
俺はとうとう、できれば言わないでおきたいと思っていたことまで、ぶちまけずにいられなくなってしまった。

「室田は確かに、写真部のほかに軽音も掛け持ちしてたけど…」
「写真部の部長が掛け持ちなんか許されるわけないでしょ!」
「でも、室田は俺たち2年生の中で一番真面目に写真打ち込んでいたぜ」
「えっ?…」

「じゃあ、聞くけどさ…、吉田とか峰脇とかの男子が、真剣に写真に打ち込んでると思うの? あいつら単に真野ちゃんのことエッチな目で見たいから写真部にいるだけだぜ」
「そんな…」
「それにさ、室田には掛け持ちダメとかいう一方で、部費獲得したいからって、優樹とか掛け持ちの幽霊部員を俺に勧誘させるって何なの?」
「それは…」

231:2015/07/24(金) 02:44:29
一度言い出すと、俺も止まらなくなってしまった。
「山木さんだって、写真はすごく上手かった」
「それはわかるわよ。だから私の言う通りちゃんとやっていれば、去年だって賞とれたのに…」
「いや、俺はそうは思いません。山木さんの去年の作品は、最初はすごく良かったのに、真野ちゃんが『作りこみ』とか言って、いじればいじるほど、最初の良さがどんどんスポイルされて…」
「何よ! 私のせいだって言いたいの!?」

俺はその問いには直接答えずに言った。
「去年、山木さんの最初の作品をヘタにいじらずに、そのまま出していれば、最優秀賞だってとれてたかもしれない、って俺は思ってますよ」

真野ちゃんは無言で俺を睨んだ。

241:2015/07/24(金) 02:45:40
しばらく無言の対峙が続いた。
と、突然、真野ちゃんが「ひーん」と声を上げて泣き出した。
「何よ、私のせいにばっかりして。○○クンひどい! 私はこんなに頑張ってるのに!」

(あーあ、泣いちゃったよ…)と俺は思った。やっぱりこの人に本当のことを指摘するのはキツすぎたのだ。
(同じわがままでも清水センセイの方がずっといいや)、と俺は思った。正直言って、真野ちゃんは俺には面倒くさすぎるのだ。

その時、「こらっ、何やってるの!」と、俺は後ろからいきなり教科書で頭を叩かれた。

251:2015/07/24(金) 02:46:45
「痛っ、何だよ!」
そういって振り向くと、俺の担任の嗣永センセイが、仁王立ちしていた。
「こらっ、○○クン、何真野ちゃん泣かしてるの!?」
その声に弾かれたように、真野ちゃんが「桃ちゃ〜ん」と泣き声を上げながら、嗣永センセイの方にすり寄っていった。

「○○クンが…、○○クンが私のこといじめるの…」
「ちょっ! いや、いじめるとかいじめないとかじゃなくて…」

嗣永センセイは、そういう俺たちを交互に見つめたあと、(わかった、わかった)と言う感じで俺に目配せしながら、
「○○クン! ダメよ! あなたいいから早くあっちにいきなさい!」と芝居がかった声で俺に言った。

(助かった!) これ幸いとばかりに、足早にその場を離れた俺の後ろから、
「わーかったって。わかったから落ち着きなよ真野ちゃん」という嗣永センセイの声が聞こえてきた。

261:2015/07/24(金) 02:48:16
嗣永センセイも清水センセイや真野ちゃんと同じく、去年うちの高校に着任したばかりの国語の教師だ。
クラスの男子たちの評価では、真野ちゃんの方が人気があったけど、俺はこの嗣永センセイの方に親しみを持っていた。

まあ、嗣永センセイはたまに変なブリッコを始める時があって、辟易させられるのだけど、基本的にはさばさばした人だし、世間知があるっていうのか、話が通じるところのある人なのだ。
それに、童貞の俺が自信を持っていうけど、嗣永センセイはああ見えてきっと、脱いだら凄い…、のに違いない。

<俺の妄想する・脱いだら凄い嗣永センセイイメージ画像>
http://i.imgur.com/AASC9pZ.jpg

(まあ、真野ちゃんのことは嗣永センセイが何とかうまく慰めてくれるだろう…)と俺は思った。

271:2015/07/24(金) 02:48:51
とはいえ…、それにしても…。
真野ちゃんにあんなことを言って泣かせてしまうなんて。
なんていうか、子供相手に本気で相撲を取ってしまった後のような、後味の悪さを俺は感じていた。

(次に会った時に、真野ちゃんに何て言えばいいのかな…)と俺は思った。

まあ、面倒だけど、真野ちゃんの言う通り、さっさと作品の一枚も提出してやりゃ、少しは真野ちゃんのイライラも収まるかもしれない。
俺はそう考えると、教室の廊下の自分のロッカーから、カメラを取り出した。

281:2015/07/24(金) 02:49:48
高校写真展の題材の王道といえば、何と言っても学園生活だ。

俺はカメラを持って放課後の学校の中を歩き始めた。
とはいえ、題材なんて、そんな簡単に見つかるくらいなら誰も苦労はしないのだ。

階段を降りて、ブラブラと廊下を端まで歩き、体育館に通じるドアを開けると、男子のバスケ部やバレー部が盛んに練習を繰り広げていた。
知った顔の部員に「ちょっと写真撮っていいかな」と声をかけてから、俺は練習の邪魔にならぬように、彼らの写真を撮り始めた。

スポーツ写真というのはなかなか難しいものだ。バスケのシュートのタイミングをつかんでシャッターを切るコツをつかむために、俺はフィルム1本を費やした。
最後にはうまく撮れるようにはなったものの、ただバスケの写真を上手く撮れたからって、それで何かを表現できるなんていうほど甘いものでもない。

俺は黙ってその場を離れると、今度は第二体育館に向かった。

291:2015/07/24(金) 02:50:28
第二体育館では、手前に女子のバレー部、奥では卓球部の男子たちが練習していた。さらにその奥のステージ上でも、何かのミーティングでもやっているのか、ジャージ姿の連中が集まっていた。

女子のバレー部には、さすがにカメラを向けにくかった。いや、別に一声かけて撮ってもいいのだが、なんとなく変態扱いされそうで気おくれしたのだ。

女子バレー部の横を足早にスルーして奥に進んで、卓球部の練習でも撮らせてもらおうかと思ったとき、ステージ上のジャージ姿の集まりの中に、見覚えのある女の子の顔を見つけた

(あっ、鞘師…)
すると、これがダンス部なのか…。

301:2015/07/24(金) 02:51:06
ステージ上には10人ほどの女の子の姿があった。鞘師のほかにも、3年の竹内さんや高木さんなど、知ってる顔が何人かいた。
しかし、ダンスを練習している様子は全くない。全員なんとなく暗い顔をして、ただ突っ立っているだけなのだ。

不審に思ってよくよく見ると、背が低くてすぐには気付かなかったけど、全員の中心には清水センセイがいた。
そして、清水センセイは何か長々と説教をしている様子なのだ。何を言ってるか俺のところまで内容は聞き取れないけど、ネチネチと怒ってる雰囲気だけは伝わってきた。

<ダンス部員にネチネチと説教をする清水センセイ・イメージ動画>
http://www.youtube.com/watch?v=ONTflT4Rqtk#t=18m22s

(清水センセイって、男子に接するときと女子に接するときとは、結構態度が違うんだな…)
俺は何となく背筋が寒くなってきた。

311:2015/07/24(金) 02:51:49
(佐紀ちゃん…、怖え…)
俺は思わず五クりと唾をのみこんだ。

この間、俺を盗撮魔扱いした時の佐紀ちゃ、いや清水センセイは、口調はキツかったけど、態度にはかわいらしいところもあったのだ。
でも、いま鞘師たちに説教してる清水センセイはその逆で、口調はすごく丁寧なのに、まるで氷のような冷たさだった。

(これは、関わり合いにならないうちに、さっさと帰ろう…)
そう思ってステージに背を向けたその時。
「あっ、○○クンじゃな〜い!? 約束通り、さっそく来てくれたのね? うれしい!」
清水センセイの弾んだ声が俺の背中に向かってきた。

321:2015/07/24(金) 02:53:09
「えっ…、違う…」
俺がそう反応するよりも素早い勢いで、清水センセイはステージから駆け下りてきて、ギュっと俺の腕をつかんだ。
「ダンスやる気になってくれたんだ!?」

俺に密着してきた清水センセイからは、この間のと同じ香水のいい香りに加え、今日の場合は、さっきまで踊っていたことが明らかな、汗でグッショリ濡れたTシャツから、濃厚なメスのフェロモンがプンプンと立ち上ってくるようだった。
といっても、童貞の俺にはホントのところ、何が濃厚なメスのフェロモンなのかは実はよく分からんのだが、たぶんこれのことなんだろう、と生まれて初めて確信した。

(いかん、頭がクラクラしてきた…)

清水センセイは、小さな体のどこにそんな力があるのか、俺の腕をグイグイと引っ張り、有無を言わせず俺をステージの上に引っ張り上げた。

331:2015/07/24(金) 02:54:27
壇上の女の子たちは、さっきまでの不機嫌さとは180度変わって、ニコニコ話しだした清水センセイの態度の変化に驚いているのか、それともこの急展開についてこれないのか、呆気にとられた表情で俺たちを見つめていた。
だけど清水センセイが「みんな注目〜! 今日からこの○○クンがダンス部に入りま〜す!」と一方的に宣言すると、一拍おいてから「えーっ!?」というどよめきが起きた。

「何?男子?男子が入るの!?」と、話が全然呑み込めてない様子で、両隣の女の子に聞いているのは3年の竹内さん。
すかさず高木さんが「イヤ〜だ〜!」と両手で頬っぺたを抑えながら大声で叫んだ。

女の子たちが本気でイヤと言ってるのか、それとも照れて言ってるのかはわからなかったけど、どっちにしても、イヤだというのはこっちのセリフだぜお猿さん、と俺は思った。
「ちょっと待って、俺は入りたいなんて一言も…」

狼狽しながら周囲を見回すと、一人だけ表情を全く変えずにまっすぐに俺を見てるやつがいた。鞘師だった。
俺は鞘師の目力に負けて、思わず視線をそらした。

341:2015/07/24(金) 02:55:36
慌てて鞘師から視線をそらした時、鞘師の斜め後ろにいる女の子の顔に突然気づいて、俺は酷く狼狽した。

宮本佳林。

(えっ、宮本…!? 宮本もダンス部にいたのかよ…)

俺と視線が合うと、宮本は怯えたように視線を逸らした。

(うわ…。完全に警戒されてるよ俺。まあ、去年あんなことあったしな…。もしかして俺、宮本を狙ってストーカーみたいにダンス部に来たと思われてるんじゃ…)

俺は慌てて清水センセイに向き直ると、焦りながら早口で言った。
「ムリムリムリムリ! 俺ダンス部なんかに入る気全然ないから!」

351:2015/07/24(金) 02:56:27
すると清水センセイは突然怖い顔をして、「何よ!意気地なし!」と、俺に怒鳴ってきた。

「はあ!?」 訳がわからずに聞き返す俺に、
「○○クン、男でしょ!? 男に二言はない、って言うでしょ」と、清水センセイは決めつけた。
「いやいやいやいや。一言も二言も、そもそもダンス部に入るなんて言ってないし俺! センセが勝手に決めつけてるだけじゃん!」

その時、高木さんが「先生、質問〜!」と手を挙げた。
俺を無視して清水センセイが「何?」と聞き返すと、高木さんは「その子、ひょっとしてダンスが超うまかったりするんですか?」と聞いた。

女の子たち全員の視線が俺に集まった。

「ううん、ただのド素人」と清水センセイが言うと、女の子たちの間に落胆のため息が広がった。

361:2015/07/24(金) 02:57:07
「静かにっ!」清水センセイが元の冷たい表情に戻って叫ぶと、瞬時に女の子たちは黙り込んだ。

清水センセイはゆっくりと女の子たちを見渡してから、突然鞘師を指さして「鞘師!」と叫んだ。

「は、はい」と応じる鞘師。
「鞘師は優勝したいの?」と、問いかける清水センセイに、「したいです…。すごく」と応じる鞘師。
妙な展開に、俺は思わず五クりと唾をのみこんだ。

「だったら、この○○クンを入れることね。それしかあんたたちが優勝する道はないわ。ハッキリ言って、今のままじゃ可能性はゼロ。この私が断言する!」
どんな根拠があるのか、俺にはさっぱりわからんけど、清水センセイが大見得を切った。

371:2015/07/24(金) 02:57:55
一拍置いてから、女の子たちの間にまたざわざわとした雰囲気が広がった。

俺はこの場にいるのが正直キツくなってきた。

「馬鹿馬鹿しい。何度も言うけど、俺はダンスなんかに興味ないし、キミらが優勝しようがしまいが、俺には何の関係もないことだからな。じゃあ、帰らせてもらうぜ」
そう言って壇上を降りかけた俺の前に、突然鞘師が立ちはだかった。

「えっ?」
「頼む…」
鞘師がいきなり俺の前に跪いた。

「○○クンのどこがすごいのか、私にはまったくわからない。でも私は清水先生を信じてる。清水先生が必要と言うのなら、きっと私たちにはキミが必要なんだと思う。私は優勝したい。お願い! 力を貸してほしい!」

381:2015/07/24(金) 02:58:47
女の子たちが静まり返った。きっと、鞘師のそんな行動にびっくりしたのだろう。でも、一番びっくりしたのは俺だ。

俺は正直返答に困っていた。でも俺は、こういう男気のあるやつには弱いのだ。まあ、「男」なんて言ったら鞘師に怒られるだろうけど。

思わず鞘師から視線を外すと、宮本と目が合った。俺は聞かずにはいられなかった。
「宮本は…、俺が入っても構わないのか?」

一瞬間を置いて、「私は別に…、構わないけど」と、宮本が困った顔をしながら言った。

「よし決まり! 入部決定!」と喜ぶ清水センセイの横で、鞘師が俺と宮本を不審そうに交互にみつめていた。

391:2015/07/24(金) 02:59:43
「じゃあさっそく踊ってみようか。みんなも練習再開!」

清水センセイの合図で、女の子たちが散開して練習を始めたけど…。
女の子たちは明らかに横目でチラチラと俺の様子を伺っていた。

(こいつ、実際はどの程度踊れるんだろう?)と、女の子たちの顔にはハッキリ書いてあった。そして、それは宮本の顔にも…。
俺と目が合うと、宮本はまた慌てるように視線を逸らせた。

その時、俺のそんな雑念を遮るように、清水センセイが「じゃあ、先生と同じように踊ってみてね」と微笑んだ。

清水センセイは「ワン、ツー、スリー、フォー…」とカウントをとりながら、最初のワンフレーズをゆっくりと踊ってみせた。
鞘師はセンセイの助手格なのか、他の女の子たちとは離れて、俺とセンセイの横に立っていた。

「じゃ、やってみて」
(こうかな…)
センセイに促されて俺が踊ってみたとき、女の子たちの間に、はっきりと落胆のため息が広がった。

401:2015/07/24(金) 03:00:11
「℃ヘタじゃん…」
高木さんのつぶやきが漏れた。

(だから最初からできないって言ってるだろ)と、思わず俺が言いそうになるより早く、
「そういうこと言うのやめて!」と、鞘師が高木さんに怒鳴りつけた。

(いや、お前…、高木さんの方が学年上だろ…)と呆気にとられる俺。
高木さんもポカンとした顔で、ただ鞘師を見返すだけだった。

「さ、続きやろう」
ニコリともせずに鞘師が俺に言った。

411:2015/07/24(金) 03:00:49
それから小一時間、俺は清水センセイの言う通りに踊り続けた。
てゆーか、ジャージにTシャツ姿の女の子たちと違って、学ランのままの俺は、汗びっしょりになってしまった。

「よし、今日はここまで!」と清水センセイが言ったとき、鞘師が俺に近づいてきて、生真面目な顔で聞いてきた。

「○○君、キミ、朝って早起きできる?」
「えっ?」
「ダンス部の練習は放課後だけなんだけど…、このままじゃ間に合わないから、これから毎日朝練してくれないかな。私が付き合って教えるから…」

(おいおい、鞘師とのプライベートレッスンかよ…)

421:2015/07/24(金) 03:01:44
「俺は…」
少し狼狽しながら答えようとしたその時、
「ああーん、私が教えようと思ってたのにい!」と清水センセイがシナをつくりながら言ってきた。

「えっ、そうなんですか、ごめんなさい。ごめんなさい。それじゃ私は…」と鞘師が慌てて早口で言おうとするのを、清水センセイが制して、
「うん。でもやっぱり鞘師が教えた方がいいかもね。よし。二人で毎朝ちゃんと練習してね!」と笑って言った。

俺と鞘師は思わず顔を見合わせた。
一瞬、鞘師が照れたように視線を逸らせた。
「それじゃ…、そういうことでいいかな…?」と鞘師。
「お、おう…」と俺。

「それじゃ明日、家庭科室にきてくれるかな?」
「家庭科室?」
「あそこ大きな鏡あるから… 少人数でダンスの練習するにはちょうどいいんだ…」
「そ、そっか…」

431:2015/07/24(金) 03:02:24
次の朝。
俺はいつもより二時間も早く目覚まし時計をセットしていた。
とはいえ、根っからの文化系の俺はそんな早い時間に起きたことなどない。

さっきから目覚ましのアラームが鳴り続けているのはわかっているのだが、どうにも体が動かない。

从*´∇`)<あー!、もう五月蝿い!

突然姉ちゃんが俺の部屋に入ってくると、俺の布団を強引に剥ぎ取った。

「ちょっ、千奈美姉ちゃん…、何するんだよ」と俺が抗議すると、

从*´∇`)<あんたこそ、こんな時間に目覚ましなんてかけて、何するつもりなのよ!?

と、姉ちゃんが叫んだ。

441:2015/07/24(金) 03:03:45
俺は眠い目をこすりながら、時計を手に取った。

「おっ、もうこんな時間か…」
(さすがに初日から遅刻したら、鞘師に嫌われるよな…)と俺は思った。

アラームを止めて、ベッドから這い出た俺を見て、

从*´∇`)<ホントに起きるんだ…

と千奈美姉ちゃんは珍しいものでも見るように言った。

「ん、ああ、まあ。それより、千奈美姉ちゃんはなんでこんな朝早く起きてるの?」
俺が聞くと、千奈美姉ちゃんはちょっと胸を張って、

从*´∇`)<ちいちゃんはアシカに餌をやりに行かなきゃならないから。毎日この時間に起きてるよ。

と笑った。

俺の姉ちゃんは、水族館でアシカのトレーナーをしているのだ。

451:2015/07/24(金) 03:04:45
眠い目をこすって顔を洗った後、台所に行くと、千奈美姉ちゃんがトーストを焼いてくれていた。
オヤジとオフクロはまだ寝ている時間だ。

「おっ、サンキュー」
テーブルについて、トーストを食いだすと、姉ちゃんが話しかけてきた。

从*´∇`)<ところでさ、茉麻はちゃんと真面目に働いてるの?

「茉麻…、ああ須藤さんか」

須藤さんと言うのは、千奈美姉ちゃんの高校時代の同級生だ。
専門学校を出た後、しばらく仕事もせずにプラプラしていたのだが、最近、うちの高校の事務室に臨時職員として勤めだしたのだ。

「俺らは事務室なんか行く用ないから分からんけど、そういや演劇部の指導してるとか聞いたな。顧問の先生、年寄りで名前だけだから、代わりに教えるって」

从*´∇`)<そういや茉麻、昔から「女優になりたい」とか言ってたもんなー

461:2015/07/24(金) 03:05:26
須藤さん…

何を隠そう、須藤さんは俺の初恋の人と言うのか、初めての夜のおかずというのか、まあ憧れの人だ。
須藤さんが高校生時代、姉ちゃんを訪ねてうちによく遊びにきたとき、セーラー服姿の須藤さんには本当に胸がドキドキしたものだ。

その後、須藤さんは何てゆーか、妙に迫力が増したりして、おかずにすることもなくなったのだが…

<俺がお世話になってたころの須藤さん・イメージ画像>
http://i.imgur.com/R7ZycRM.jpg

471:2015/07/24(金) 03:06:27
俺がそんな須藤さんの思い出に浸っていると、千奈美姉ちゃんは、窓のカーテンを開けて、

从*´∇`)<おー。雨が本降りになってきたなー

と言った。

「えっ、マジ? 雨なんてふってたのかよ」
俺は慌てた。

俺の家から高校までは、普段はチャリでぶっ飛ばせば10分ちょっとで着くのだが、雨の日は、電車で行こうとするとぐるっと遠回りになるので、30分以上かかるのだ。

「姉ちゃん、じゃ、俺行くわ」
と、俺は慌てて家を飛び出した。

481:2015/07/24(金) 03:07:21
家のすぐ目の前にある、市電の停留所から、俺は始発の電車に飛び乗った。
始発の電車なんかに乗るのは、高校に入ってから初めてのことだった。

さすがに始発だけあって、電車はまだすいていた。
席は空いていたけど、何となく俺は入口近くのつり革につかまって立っていた。

朝も早いというのに、車内には、後ろの方の席でギャーギャーと騒ぐ2人の女の子たちの声が響き渡っていた。
別に、話を聞くつもりはなかったけど、女の子たちの声があまりに大きかったので、会話の内容が俺の耳にも自然と入ってきた。

「でね、でね、自分のことを『まろ』。自分のことを『まろ』って…!」
「ギャハハハハハハ!」
「『何だそれ』、って」
「超受ける―!」

何を話してるのかはわからんけど、その子たちの声があまりにうるさかったので、俺は思わず彼女たちの方を見た。

(あっ、うちの学校の制服じゃん…)

491:2015/07/24(金) 03:08:07
俺がそう思ってると、その子のうちの一人が俺を見て言った。

「あっ! ○○クンじゃん。久しぶり―!」

(えっ… この子誰だろう?)

俺は一瞬考え込んだ。

すると、その子は「酷い―! めいの顔忘れちゃったのー?」と大きな声で言った。

「めい? お前田村かよ?」と俺が聞くと、「何よー! 忘れたふりなんかして―!」と、その子は頬っぺたを膨らませた。

501:2015/07/24(金) 03:10:01
田村芽実。
こいつは、小学校から高校まで俺と一緒の、いわば腐れ縁のような幼馴染なのだ。
でも、高校に入ってからはあまり接点がなく、特に2年生になってからは俺が3組、田村が8組で、教室の階が違うこともあり、顔を合わすことも全然なくなっていた。

それにしても…

田村と言えば、ツインテールにデコ出し、八重歯の目立つ、丸っきり子供のような子だったのに…
今俺の目の前にいる田村は、五月蝿さこそ変わってないものの、髪型が変わり、背も高くなって大人っぽくなっていたし、まるで別人のようだった。

<すっかり大人っぽくなっていた田村・イメージ画像>
http://i.imgur.com/M6ccMmC.jpg

511:2015/07/24(金) 03:11:24
不覚にも俺はしばし田村に見とれた。そのあと、
「めい…、お前綺麗になったな…」
と、思わず自然に言葉が口をついて出た。

「えっ…?」顔を赤らめる田村。

すると、田村の横にいた女の子が、すかさず『めい…、お前綺麗になったな…』と、俺の口真似をして。田村をからかった。

「ちょっと! いやーだー!いやーだー!」と田村が大声を出してその子を叩いた。

「えっと… この子は?」と俺が聞くと、田村は「あっ…、めいと同じクラスの勝田里奈ちゃん。通称りなぷー。こっちは私の中学の同級生の○○クン」と、俺たちを紹介した。

「あっ…、ども。」と、りなぷーははにかんだような顔で俺を見て言った。

521:2015/07/24(金) 03:13:01
「それにしても、お前らいつもこんな朝早い電車に乗ってんの?」と、俺が立ったまま2人を見下ろしながら聞くと、
「あ…、めいたちは演劇部の朝練あるから…。りなぶーも一緒なんだよ」と、田村はつり革の俺を見上げるように上目遣いで言った。

(こ…こいつの上目遣いもなかなか破壊力出てきたんだな…。あっ、そんなことより…!)

俺は気付いてしまった。この角度で見下ろすと、セーラー服の襟元からチラチラと田村の胸の中が覗けてしまうのだ。

ブラジャーなのか、それともこれがキャミソールっていうやつなのか、童貞の俺にはよくわからなかったけど、フリフリのついた白いものが見えて、俺はうろたえた。

(ガキだと思ってたのに…、大人っぽい下着つけてやがる…)

俺は思わず五クりと唾をのみこんだ。

531:2015/07/24(金) 03:13:40
俺がそんなことを考えてるとも知らずに田村は、
「それよりも、○○クンはなんでこんなに早いの?珍しい。確か写真部だっけ? 写真部に朝練なんてあるの?」
と、真面目くさった顔で聞いてきた。

「ん、ああ、まあな…」
ダンスのことを説明するのも恥ずかしい気がして、俺は適当な返事をした。

そんな話をしているうちに、学校前の電停に電車が着いた。

俺が先になって降りようとすると、後ろの方から、ひそひそ話のつもりなのか、りなぷーのでかい声が聞こえてきた。
「あの人…、めいめいの胸元、ずっとエッチな目で見てたよ」
「ちょっと! いやーだー!いやーだー!」

541:2015/07/24(金) 03:14:35
りなぶーに図星の指摘をされて…
たぶん、俺の顔は恥ずかしさで耳まで真っ赤に染まっていたのだと思う。
でも、今の俺としては、2人の会話が聞こえなかったようなふりをして、前に進むしかなかった。

俺は後ろを振り向かないようにして、校門を過ぎて、玄関に入って、靴を履きかえて、家庭科室のある実習教室棟の方に向かっていったけど…
田村たち2人も、俺の少し後ろからずっとついてきているような気配なのだ。

(あれっ…、演劇部の朝練って、視聴覚室だったよな…。おい、家庭科室の隣じゃねえか…)

俺がそう気づいたとき、
「あれっ…、写真部の暗室って、旧校舎棟だよね…」
「何でこっちに行くんだろうね…」

また、ひそひそ話をしてるつもりなのかもしれないけど、二人の会話がハッキリと俺の耳にまで聞こえていた

551:2015/07/24(金) 03:15:15
俺は焦った。

(いったん2人をやり過ごしてから、家庭科室に向かおうか…)とも一瞬考えた。

しかし、腕時計を見ると、鞘師との約束の時間まで、あとわずか2分足らずしか残っていなかった。

昨日の鞘師のくそまじめな表情を思い出すと、たとえどんな理由があるにせよ、1分たりとも遅刻はできないような気が俺はした。

(くそっ!)

俺は何も考えるのをやめて、家庭科室に向かって全速力でダッシュした。

561:2015/07/24(金) 03:15:47
ガラっ、と家庭科室のドアを開けると、鞘師は既にそこにいて、一人でダンスの練習を始めているようだった。

「ごめん!鞘師。遅くなった」と俺が言うと、鞘師は一瞬、壁の掛け時計を見つめてから、
「別に○○クンは遅れてないよ。時間通り。私が勝手に早く来ただけ」と、表情も変えずに言ってから、改めて気づいたように「お早う…」と、ちょっとはにかんで言った。

「お、お早う…」と俺もつられて言った。

571:2015/07/24(金) 03:16:28
俺は鞘師を待たせて、急いで隣の家庭科準備室に行くと、学生服を脱いで、Tシャツとジャージに履き替えた。

ふと見ると、そこに鞘師の物らしい紙袋が置いてあって、その中には、鞘師の物らしいセーラー服の上着とスカートが無造作に突っ込んであった。

(鞘師のセーラー服…。今なら誰も見ていない…)

俺は一瞬、そのセーラー服を引っ張り出して、思いっきり匂いを嗅いでみたい誘惑に駆られた。

581:2015/07/24(金) 03:17:10
俺は目をつぶって天を仰いだ

☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

素早く周囲を確認した後、紙袋の中から、セーラー服の上着を引っ張り出した俺。

(これが、さっきまで鞘師の素肌に直に触れていたのか…)

五クりと唾をのみこんでから、もう一度周囲を確かめると、俺は真っ白いセーラー服の中に恐る恐る顔を埋めた。

洗剤の匂いなのか、それとも柔軟剤の匂いなのか、甘いような香りに混じって、微かに漂ってくる酸っぱいような汗の匂い。
(これが青春の香りってやつか…)
まるで鞘師を征服したかのような昂揚感に包まれる俺。

数秒その匂いを堪能した後、俺はそのセーラー服をゆっくりと自分の股間に…

591:2015/07/24(金) 03:17:38
(今度は…、鞘師を汚してやる…)

そう思ったときに、突然、家庭科室に通じるドアが開く

「○○クン…、何やってるの!? あっ!それ私の制服!!」

☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

そこまで妄想した後、俺はわれに返った。

(こんな妄想、昨日の鞘師の男気みたいなものへの冒涜だよな…)

俺はもう数秒、未練がましく紙袋の中のセーラー服を見つめた後、準備室を後にした。

601:2015/07/24(金) 03:18:29
家庭科室に戻ると、鞘師が例によってニコリともせずに、「じゃ、始めよっか」と言ってきた。
「お、おう…」と応じる俺。

「じゃあ、昨日の続きからね…。ワン、ツー、スリー、フォー…」とカウントをとって踊り始める鞘師。
慌てて俺もそれに続いた。昨日清水センセイに習ったところまでは、一応俺なりに家で復習してきたので、忘れずに体が動いた。

それを見た鞘師が、「あっ、ちゃんと家で練習してきてくれたんだ…」と言うと、初めて少し笑顔を見せた。

「ま、まあな。けど、こんなちょっと見ただけで分かるもんなのか?」と俺が聞くと、
「分かりますとも」と、ちょっとドヤ顔になって鞘師が言った。

611:2015/07/24(金) 03:18:58
「じゃあ、その続き教えるね。ワン、ツー、スリー、フォー…」
「スマン、もっとゆっくり…」
「あっ、ゴメン。ワン…、ツー…、スリー…、フォー…」
「こ、こうか…?」
「ちょっと違う。こう」
「こうか?」
「よく見て。左手がこう」
「こうか?」

「うーん…」
鞘師はちょっと考え込んだ後、もう我慢できんという感じで、俺の背後に回ってくると、後ろから俺の両手首をがっちりつかんできた。
「えっ…」と思わず狼狽する俺。
「左手はこういう感じなの。そしてその時の右手がこう…」
鞘師は、まるで操り人形でも動かすかのように、まさに文字通り俺の体を手取り足取りして、教えだした。

621:2015/07/24(金) 03:19:25
「えーっとね… 次はちょっとお尻を引っ込めて」
「お、おう…。こうか?」

鞘師はちょっと考えてから、「ごめん…、ちょっと触るよ…」と言って、ちっちゃな手で俺の尻を押してきた。
「腰の角度はこんな感じなの。この角度を覚えてもらえるかな…」

俺の背後にほとんど密着するような体勢で鞘師が言うもんだから、鞘師の吐息がいちいち俺の耳にかかってきた。
くすぐったくて体を動かしたいのだが、真剣に教えてくれている鞘師を怒らせそうで、それもできん。

俺は耐えた。でも、くすぐったいのは我慢できても、愚息がムクムクと膨らんでくるのまでは到底制御不可能だった。

631:2015/07/24(金) 03:20:05
ほとんどフル勃起に近い感じで息子がギンギンになってきた。ジャージのズボンだから、正面から見れば鞘師にだってハッキリと分かってしまうだろうと思った。
幸い鞘師は今は後ろにいる。とはいえ、鞘師が真剣に教えようとすればするほど、俺への密着度が増してきた。

「次はこう…」と鞘師が動いたとき、俺の背中に二つのツンとした柔らかいものが一瞬触れた。

(やばい、これは本当にやばい…)

童貞の俺にとっては、鞘師のレッスンは拷問にも等しいものだった。

641:2015/07/24(金) 03:20:39
「じゃあちょっと、通してやってみようか」と言うと、鞘師が俺の背後を離れて正面に回ってこようとした。

(アッー、いかん!)
俺は思わずしゃがみこんだ。

「えっ、どうしたの?」と驚く鞘師。

(落ち着け!落ち着け、俺!)と息子をなだめる俺。

「どうしたの? どこか痛めた? 足でも攣った?」と不安そうな顔をしながら、俺の足に触れようとする鞘師。

(ちょっと待て! 触れられたりしたら、また息子が!)

俺は無言で手を挙げて鞘師を制すると、数回深呼吸をした。

651:2015/07/24(金) 03:21:18
「○○クン、ねえ○○クン、本当に大丈夫なの…?」
ちょっと鞘師がオロオロとしだした時、ようやく俺の一物が少し収まりをみせてきた。
俺はちょっと前かがみになりながら、恐る恐る立ち上がった。

「ねえ、もしどこか痛いなら、本当に…」
心配する鞘師を制して、俺は作り笑いを浮かべながら言った。
「いや、久しぶりに早起きしたからちょっと立ちくらみしただけ。もうオーケー。ホントにオーケー」

661:2015/07/24(金) 03:21:38
「本当なの? 無理してない?」
まだ心配そうに聞いてくる鞘師を抑えて俺は言った。「もう大丈夫。よし踊るぞ」

「そう…? じゃ、行くよ。 ワン、ツー、スリー、フォー…」

鞘師の手拍子に合わせて俺は踊りだした。
まあ、上手く踊れたかどうかはわからんけど、鞘師に教わった通りに踊ったつもりだった。

671:2015/07/24(金) 03:22:18
一通り踊り終えて、俺は鞘師に聞いた。
「どうだった?」

「うん…。ちゃんとできてるよ」
「ホントか!?」

鞘師にそう言われて、俺は正直ちょっぴり嬉しかったのだが…、
その時、俺は家庭科室の開いたままになっていた後ろのドアから、何人かの女の子がこちらを覗いているのに気付いて慌てた。

演劇部の練習が終わったのか、田村とりなぷー、それにやはり演劇部で俺と同じクラスの鈴木香音の三人が、驚いたような顔で俺と鞘師を見ていた。

「ちょっ…! ダンスなんか踊ってる!」と田村
「しかも超ヘタ…。ばくわら…」とりなぷー
鈴木は困ったような顔で俺を見ていた。

68名無し募集中。。。:2015/07/24(金) 04:04:24
もしかして理科室で桃子が先生に犯されるの書いてた人かな?
続き楽しみにしてます

691:2015/07/24(金) 12:47:04
>>68
違いますけど読んでくださってありがとうございます

701:2015/07/25(土) 04:45:50
「うっ…」
りなぷーの一言に、正直言って俺は何気に傷ついたのだが、その時、鞘師がつかつかとりなぷーの前に歩み出ると、
「あのさー…、練習の邪魔しないでくれるかな?」と腕組みをしながら、りなぷーを睨みつけて啖呵を切った。

りなぷーはたじろいだ様子で、「うわ…、怖わ…。行こう、めいめい、香音ちゃん」と二人を引っ張るようにして去って行った。

しばしの沈黙の後、「ふー…」とため息をつく鞘師。

俺は聞かずにはいられなかった。
「あのさ、俺がいうべきことじゃないかも知れんけど、鞘師、お前いつもそんな風にツンツンしてて疲れないの? 昨日も高木さんにきつく当たってただろ」

俺がそう聞くと、鞘師は動揺したように、
「えっ! 私そんなにきつかったかな? そんなにツンツンしてた?」と聞き返してから、「でもでもでも…」となぜか顔を赤らめた。

711:2015/07/25(土) 04:46:27
「でも?」
「私、『キミを守る』って決めたんだ」
「俺を…? 守る…?」

今まで、女の子を守りたい、と思ったことはあっても、女の子に守られるなんて、考えたこともなかった俺は動揺した。
「俺を守るって、どゆこと…?」

「○○クンは、本当はダンスなんて興味なくてやりたくなかったのに、私のわがままで、無理やりダンス部に入ってもらったわけじゃん…」
「…」
「だから、○○クンがダンスをやっている間は、絶対にダンスが原因でイヤな思いだけはさせたくない、それだけはどんなことをしても…。だから、私が守る、って決めたの」
「鞘師…」

ちょっと赤らんだ顔でまっすぐに俺を見ている鞘師が、なんだか神々しいもののように、俺には思えてきた。

<その時、俺の脳内に思わず流れてきた曲>
https://www.youtube.com/watch?v=an3dpZeDIBI

721:2015/07/25(土) 04:48:01
そんな鞘師の告白、いや別に告白ではないんだろうけど、その言葉を聞いたとき、俺の胸にグッと湧き上がってきたこの気持ちを、どう表現すれば適当なのか、俺には正直わからない。

「驚き」か、「戸惑い」か…。いや、どんな言葉を使ってもうまく言えない気がするのだが、敢えて言えば「歓喜」というのが、俺の気持ちに近かったのかもしれない。

思わず沈黙のまま、鞘師を見つめてしまう俺。鞘師も沈黙のまま、俺の言葉を待ってる。
いや、このまま黙っていると、ヘタすると涙が出そうな気がして、俺は慌てて早口でしゃべりだした。

「ハハハ。鞘師がそんなこと気にする必要はないぜ。第一、俺を無理やりダンス部に入れたのは鞘師じゃなくて清水センセイだしな」
(何言ってんだ、もっと他に言うべきことあるだろが、俺)と自分の心に喝を入れる俺。
「でもでもでも…」と何か言いたそうな鞘師。

「それにな…俺、確かに仕方なく始めたダンスだけど、やってみたら楽しいところもあるかなーって…。今日『お前と』練習できて、そう思い始めてる」
もちろん、『お前と』に力を込めたつもりの俺だった。

鞘師は数秒、俺の顔を見つめた後、
「ダンスを好きになる人が増えてくれるのは、『誰であれ』嬉しい」と、笑った。

731:2015/07/25(土) 04:49:29
鞘師が意図して「誰であれ」と言ったのか、それとも俺が童貞特有のナイーブさから、鞘師の言葉尻に引っ掛かっただけなのか…
俺はたった今までの高揚感が急速にしぼんでいくのを感じていた。

鞘師はそんな俺の心の動きには全く気付いてない様子で、
「あっ、もうこんな時間。そろそろ練習おしまいにしよう。○○クン、先に着替えてきていいよ」と笑った。

「いや…、俺は写真部の暗室行って着替えるから、鞘師いいぞ」と俺が答えると、鞘師は「じゃあ、また放課後頑張ろうね」と言って、準備室に消えた。

741:2015/07/25(土) 04:50:21
写真部の暗室に入ると、俺はのろのろとTシャツとジャージを脱いだ。
パンツ一丁になると、思わずため息が出た。

『キミを守る』と、思いつめた表情で俺に告げる鞘師が脳裏に浮かぶと、またあの時の歓喜が押し寄せた。
でも『誰であれ』という言葉を思い出すと、心がキリキリと切なくなった。

(オレ、鞘師に恋をしはじめているのか?)

今朝は田村のことをかわいいと思って、胸の中の下着が見えたと喜んでいた俺であった。
俺は自分の軽薄さに嫌気がさしてきた。

(それに田村といえば、見られたんだよな…。鞘師とダンスの練習してたとこ。それにりなぷーや、何と言ってもあのズッキにも…)

751:2015/07/25(土) 04:51:07
そんなことをボーっと考えていたとき、突然、ノックもなしに暗室のドアが開いた。

佐藤優樹。

優樹はパンツ一丁の俺に気付くと「キャーッ!」と大声を上げた。
俺は慌てた。

「こらっ、優樹! 暗室に入る時には必ずノックしろってあれほど…」
「キャーッ!キャーッ!」
「待てっ、今ズボン履くから…」
「キャーッ!キャーッ!キャーッ!」
「いいから、ちょっと静かに…」
「キーッ!キーッ!キーッ!キーッ!」

キーキー叫んで、両手で目を覆ったふりをしながら、指の間からしっかり俺のパンツを観察している優樹だった。

761:2015/07/25(土) 04:51:57
「あー、もう、うるさい…」
俺は思わずため息をついた。

佐藤優樹は、俺の1年後輩の新入生だ。
うちの近所のお寺の子供で、我が家も代々、優樹のところの檀家だったから、ガキの頃から知っているのだ。
まあ、ハッキリ言ってしまうと、俺はこいつが大の苦手なのだが、優樹のお母さんに「うちの子、こんなだから、よろしく頼みます」と、
小2の時に何度も頭を下げて頼まれて以来、何となく断りきれずに今日まで面倒を見てるのだ。

ただのアフォなのか、それとも一種の天才なのか、俺には正直わからない。
ただ、うちの千奈美姉ちゃんに言わせると、

从*´∇`)<ああ、まーちゃんはただのアフォ

と言うことだった。

771:2015/07/25(土) 04:52:43
そもそも、優樹は入学するとすぐに合唱部に入ったから、もともと写真部員でもなんでもなかったのだ。
ただ、「辞書忘れたから貸して」だの、「習字の筆忘れたから貸して」だの、いちいち俺のところにくるので、
そのたびに、用具置き場にしていた暗室に連れてくるうち、ちょくちょくここに遊びにくるようになったのだ。

それを見た写真部顧問の真野ちゃんが、予算を獲得するために「幽霊部員でも掛け持ちでもいいから、あの子も入部させて部員を増やせ」と俺に命令して、
俺は心ならずも優樹を写真部に勧誘したというわけだ。

781:2015/07/25(土) 04:53:33
俺がズボンを履くと、優樹の絶叫もようやくに収まった。

「ところで、お前、こんな朝っぱらから、こんなとこに何しにきたの?」と俺が聞くと、
優樹は、「まーちゃん、今合唱部の練習が終わったから、これから教室に行くの」と言って、
暗室の奥の棚をごそごそと探ると、ごっそりと教科書の束を取り出した。

「ひょっとして、お前…、教科書全部ここに置いてるの?」と俺が呆れて聞くと、
「だってまーちゃん、家に持って帰ると重いし…」と、優樹は屈託のない表情で答えてきた。

はあ…。
(全く、何だって真野ちゃんはこんなやつを入れさせたんだ…)と俺は思った。

791:2015/07/25(土) 04:54:10
真野ちゃん…。
(そういえば俺、昨日真野ちゃんを泣かしたんだっけな…)

思い出すと急激に心が重くなってきた。

しかも、俺はその後、真野ちゃんをなだめようと写真を撮りに出かけた先で、電撃的にダンス部に入部してしまったのだ。

『写真部の部長が掛け持ちなんてとんでもない』と言い張って、結局、室田を退部にまで追い込んだ真野ちゃん。
(俺がダンス部に入ったと知ったら、発狂するんじゃないか…)と俺は思った。

とにかく、みんなで早く、作品を数多く出すことだ。それしかない。

「おい、優樹…」
俺は、教科書を抱えて暗室を出ようとしていた優樹を呼び止めた。

801:2015/07/25(土) 04:54:46
「なあに、兄ちゃん?」と俺を見上げる優樹。

「おい、その『兄ちゃん』ってのはやめろよ」
「だって、兄ちゃんじゃん」と笑う優樹。

俺はため息をついてから言った
「…あのな、優樹、お前も高文連の大会に出す写真撮ってこいよ」
「えっ…、だって、まーちゃん写真とか撮らないから」

「いや、『撮らない』じゃないだろ。撮ってこいって言ってんの」
「だって、まーちゃんカメラとか持ってないし」

811:2015/07/25(土) 04:55:16
「わかったわかった。別にカメラじゃなくて、優樹もスマホ持ってるだろ?」
「持ってる」
「スマホのカメラでいいから写真撮ってこい」
「何の写真を?」
「別に何でもいいけど…」
「何でもいいとか言われても、まーちゃん困る」

まあ、そりゃそうだろうな、と俺は思った。これは優樹に分があった。

821:2015/07/25(土) 04:56:20
「そうだな…、優樹は合唱部だよな?」
「そだよ」
「合唱部のな、友達とか先輩とかが練習してるところとか、遊んでるところとか、何でもいいから撮ってこい」
「そんなのでいいの?」

そんなので言い筈はない。が、今は真野ちゃんの手前、作品の数合わせも大事なのだ。

「うん。それでいいから、撮ってこい」
俺がそういうと、優樹は「分かった!」と元気よく言って、駆けだした。

831:2015/07/26(日) 15:45:11
優樹の背中を見送っていると、授業開始3分前の予鈴が鳴った。
(いかん、俺も教室に戻らないと…)

旧校舎の一番端にある暗室から、長い廊下を全力疾走して、階段を駆け上がっている最中に本鈴が鳴った。
ようやく2年3組の前までたどり着き、恐る恐るドアを開けると、幸い先生はまだ来ていないようだった。

自分の席に着くと、隣の席の女の子が、いつもと同じ素振りで「おはよう」と言ってきた。
その女の子こそが、鈴木香音。俺がさっきこいつを見て動揺したのも、つまりまあ、こういう訳だ。

(こいつ、いつもと同じ風を装いながら、これから根掘り葉掘り聞いてくるに違いない…)

841:2015/07/26(日) 15:46:02
その時、教室のドアが開いて、嗣永センセイが入ってきた。そうか、1時間目は現国だったのか。慌てて俺は鞄から教科書を取り出した。

「ハイ。今日はこの間の続きから。また俳句の授業ですよー。教科書開いてねー」と、ぶりっ子口調の嗣永センセイ。

「誰に教科書読んでもらおっかなー…、じゃあ小田ちゃん」
「ハイ…、えーっと、『春風や 闘志抱きて 丘に立つ』」
「よくできましたー。これは高浜虚子の句ですねー…」

その時、隣のズッキが、前を見たまま、小声で話しかけてきた。
「ねえ、ダンス部に入ったの?」

やっぱり来たか、と俺は思った。
でも、無視する訳にもいかないのだ。
なぜなら、俺はズッキには頭が上がらない理由があるのだ。

851:2015/07/26(日) 15:47:15
少々、話は長くなるのだが…
俺が初めて鈴木香音なるものの存在を知ったのは、今から2年前の中学3年の夏だった。

俺のいた中学の陸上競技大会は、毎年、隣の中学と合同でやるのだが、その時に初めて見て、その美少女ぶりに衝撃を受けたのが、今俺の横にいるコイツ、鈴木香音だ。

<俺が中学の陸上競技大会で初めて見た、隣の中学の超絶美少女・鈴木香音のイメージ画像>
http://i.imgur.com/ePLiDNH.jpg

まあ、要するに、中学時代の俺が須藤さんの次にお世話になったのが、中学の時のコイツなのだ。

もっと言えば、俺がこの高校に来たのも、コイツがここに進学すると聞いたからなのだ。
俺は本当は、千奈美姉ちゃんや須藤さんと同じ、もっと偏差値の低い高校に行くつもりでいたのだ。
でも、中学からの同級生の嶺脇〜こいつは物知りなことから「社長」というあだ名で呼ばれているオタクなのだが〜が、ズッキがこの高校を受けると聞きこんできたので、
俺も一念発起して勉強して、この高校に進学したのだ。

でも、話は逸れるが、そんな進学校に、竹内さんや優樹が、どんな卑怯な手を使って合格したのかは、まったくの謎だ。

861:2015/07/26(日) 15:47:57
高校に入学して最初の日、クラス割りを見たら、「鈴木香音」という名前が同じクラスにあったので、俺は興奮した。
しかし、教室に行ってあの美少女を探したのだが、それはどこにもいなかった。
嗣永センセイに「鈴木香音」と呼ばれて、「ハイ」と返事をしたのは、こんなやつだった。

<こんなやつ・イメージ画像>
http://i.imgur.com/olsiY6V.jpg

871:2015/07/26(日) 15:49:01
まあ、その時の俺は驚愕したのだが…、別にズッキ自体をイヤになったわけでもなんでもなく、
話をしてみると、これがまた実にさばさばとしたいいヤツで、俺たちはすぐに仲良くなれたのだった。

その後、俺はやはり同じクラスにいた宮本佳林のことを好きになって、宿泊研修の2日目に告白して玉砕するのだが、
そのことを知っているのは、俺と宮本の他には、この鈴木香音ただ一人なのだ。

なぜなら…、
これは言うのも恥ずかしいのだが、宿泊研修の直後の2学期終了の打ち上げで、
高校生のくせに安酒に悪酔いした俺は、ズッキに介抱されながら、宮本とのことを打ち明けて、ズッキの膝の上で泣いていたからだった。

それがまあ…、俺がコイツに頭の上がらない理由だった。

881:2015/07/26(日) 15:50:00
「ダンス部に入ったの? いきなり何で?」
ズッキの問いに、俺は返事に躊躇した。

「入ったっていうか、入らされたっていうか…、正直俺もよくわからんのだが…」

その時、嗣永センセイが「ちょっと、そこの2人、うるさい!」と俺とズッキを指さした。
黙り込む俺とズッキ。

「えー、この高浜虚子っていう人は、お孫さんも俳句の先生やってるんだけど、俳句で世襲なんてインチキだよねー」
嗣永センセイは滑らかな口調で授業を続けている。

「あのさー、もしかして…」とズッキがまた話しかけてきた。
「ん?」と俺。
「まだ佳林ちゃんに未練がある…、なんてことないよね?」
「そ、そ、そんなことねーよ!」

思わず俺が大声を上げたとき、
「だからうるせーってんだろ! ○○と鈴木、廊下に立ってろ!」と嗣永センセイが怒鳴った。

891:2015/07/26(日) 15:51:15
2人で廊下に立たされて、顔を見つめあうと、
「もう…! ○○クンの声が大きすぎるからじゃん!」とズッキが怒った。
「お前が話しかけるからだろ!」と反論する俺。

「まあ、いいけどさ…。で、実際のところどうなの? やっぱり佳林ちゃん目当てでダンスなんか始めたの?」
「いや…」
「だったら私、キミのこと軽蔑するかもなー…」
割と真顔で言うズッキに、(何でコイツにそんなこと、言われなきゃならんのだ…)と俺は思った。

「あのな…」俺は、数日前に清水センセイに盗撮魔と間違えられた話から、今日までのいきさつを、懇切丁寧にズッキに説明した。
「えー!何それー!?」と驚くズッキ。

「だからまあ、仕方なくやってんのよ」と俺が言うと、
「そうなんだー。佳林ちゃん狙いじゃなくて安心したよー」とズッキは笑ってから、「でも、それはそうと、さっきの○○クンと里穂ちゃんも、なかなかいい雰囲気だったなー」と言って、
反応を伺うように俺の目を覗き込んできた。

901:2015/07/26(日) 15:52:51
「えっ…?」と一瞬顔が赤らむのを感じる俺。
「うん。恋人同士…、って感じに見えないこともなかったな」とズッキ。
「おいおい(笑)…」
「まあでも、いつまでも佳林ちゃんに未練残すよりは、里穂ちゃんとの方を私は応援するかなー」

「おい、そんなんじゃねえよ…。それよりお前、そんなに言うほど鞘師のこと知ってんの?」
「うん。中学一緒だったし。てゆーか、里穂ちゃんは2年の時に広島から転校してきたんだけど。あっ、私も1年の時に名古屋から転校してきたんだけどね…」
「そなの?」
「まあ、里穂ちゃんみたいに肩肘張った子には、キミみたいにちょっとボーっとしたヤツの方が合ってるんじゃないかな」
「俺を馬鹿にしてんの?(笑)」

911:2015/07/26(日) 15:53:31
(そうか、鞘師とコイツは同じ中学だったのか…)と思うと、つい、言わなくていいことまでが口をついて出た。

「それにしちゃ、中学の陸上の時、鞘師になんか全然気づかなかったな…。お前のことはすぐに気づいたんだけど」
「えっ、どういうこと?」
「あっ、いや…」
「ねえ、どういうこと? どういうこと?」

一瞬(しまった)と思ったけど、すぐに、(まあ、昔の話だし、別にいいか)と思い直して、俺は話すことにした。

「中学の時のお前って、美少女だったじゃん」
「てへ(笑)」
「だから、うちの中学じゃ、すごく話題になってたの」
「マジ?」
顔をくしゃっとして、満面の笑みを浮かべるズッキ。

921:2015/07/26(日) 15:53:57
「うん。だから、お前がこの高校に来るって噂が流れたんで、無理してこの高校受けた男子多かったんだ」
「ホント?ホント? たとえば誰?」
「うちの部の嶺脇とか…、まあぶっちゃけ俺もそうだったんだけど」
「えーっ!?」
「だって、お前ホントに美少女だったしな」
「ちょっと! 『だった』じゃなくて、今も美少女!」

「いや、お前な…」と言いながらズッキを見返したとき、(あれっ?)と俺は思った。

「お前、ひょっとして…、痩せた?」
「分かる?」と、話に食いつくズッキ。
「あー、いや…、今初めて気づいたんだけど。うん…、確かに前より痩せてきてるよな…」

俺がまじまじと眺め回すと、
「フハハハハハハハ」とズッキが高笑いした。

931:2015/07/27(月) 02:07:20
本スレでも指摘されてるけど

もちろん「里保」が正解

痛恨の極み

941:2015/08/03(月) 18:31:51
「お前、ダイエットとかしてたの?」と俺が聞くと、
「まあね。夏休み明けを目標に、今が『猛烈頑張る期』って感じ」と、ドヤ顔のズッキ。

俺はもう一度、まじまじとコイツを見た。
正直言って、高校入学以来、俺はコイツをいい友達とは思っても、女として意識したことが一度もなかったのだが…、
よくよく見ると、顔の輪郭とかも前より確かに細くなっていて、美少女の頃の面影が本当に戻ってきているかのようだった。

それに…
頭から足元へ見回していくと、どうしても目を止めざるを得ない、ズッキの爆乳…。

「お前…、もし、このまま痩せたら凄いことになるな…」
「えっ?」

ズッキは、何のことかわからない、という感じで俺を見上げていたけれど、俺がズッキの胸を凝視していることに気付いて
「いやあっ!」と大声を上げて、両手で胸を覆った。

「ちょっと!どこ見てんのよ!やらしい!変態!」
そう言うと、ズッキは俺の背中をバシバシと叩いてきた。

「痛え!」

951:2015/08/03(月) 18:32:36
怒ったふりをしながらも、ズッキはどこまでも上機嫌だった。

「そっかー… 私はそんなに人気あったのかー。うふふふー」
「いや、中学のときの話な…」
「○○クンも、私目当てにこの高校に来たとは知らなかったなあ…。まあ、私がもっと痩せた後、泣いて頼んだら、付き合ってあげるかもよ」
「お前なあ…」

その時、終業のベルが鳴って、嗣永センセイが教室から出てきた。

「あんたたちねえ…、廊下でも何かずっとぺしゃくしゃ喋ってたでしょ! 立たされた意味分かってんの!?」と、嗣永センセイはご立腹だった。
「すみません」と俺は謝ったけど、何を思ってるのか、ズッキはその間もずっとニコニコとしていた。

ズッキの笑顔に、嗣永センセイも怒る気力を削がれた様子で、「どしたズッキ? なんかいいことでもあったか?」と聞くと、
ズッキは「えへへへへへ」と、ひときわ飛び切りの笑顔を作った。

「あー、もういいや。わかったわかった」と、嗣永センセイは呆れたように言って少し歩き出した後、
「あっ、○○クン、昼休みに、ご飯食べた後でいいから、ちょっと職員室にきてくれるかな」と、俺を振り向いて言った。

961:2015/08/03(月) 18:33:32
(何だろう…?)と俺が思ってると、
「2時間目は選択科目の地歴だよね。私は日本史だけど○○クンは世界史でしょ? 早く隣のクラス行った方がいいんじゃない?」と、ズッキが俺の袖を引っ張りながら言った。

選択科目は隣の4組と合同授業なのだ。日本史を選択している生徒は3組、世界史を選択している生徒は4組の教室で、2クラス一緒に授業を受けている。

俺は教室に戻ると、教科書を抱えて、隣の4組に移動した。

世界史の先生は… 真野ちゃんだ。

971:2015/08/03(月) 18:34:19
(はあ…)
俺は昨日、真野ちゃんを泣かしたことを思い出して、思わずため息をついた。

(あの後、どうなったんだろう真野ちゃん…。俺はこの後、どんな顔して真野ちゃんを見ればいいのかな…)

そんなことを考えると、またため息が出た。

すると、「どうしたの、そんなため息ばかりついて?」と、隣の席の女の子が話しかけてきた。

4組の植村あかり。

世界史の授業の時は、席割が決まっていて、いつも隣の席になるのだが、実は今まで一度も話をしたことはなかったのだ。
それが、突然話しかけられて、俺は驚いた。

<4組の植村あかり・イメージ画像>
http://i.imgur.com/pLZz29S.jpg
セーラー服の種類が鞘師もめいめいもうえむーもまちまちだけど、脳内補完で頼む!

981:2015/08/08(土) 00:43:54
「えっ、あっ…」
植村に話しかけられて、俺は正直ドキドキした。

俺が去年、宮本佳林に告白して玉砕した前の晩の、宿泊研修の男部屋での人気投票の話は、前にもしたと思うけど、
その時も、1位の宮本と僅差で競っていたのが、この植村あかりだったのだ。

俺自身も…、まあ、その時は宮本の方がかわいいと思っていたけど、純粋な美人度で言えば、正直言って、この植村あかりの方が上じゃないかとも思っていたのだ。
とはいえ、1年生の時はクラスも離れていたし、接点もなくて話したことがなかったから、あまり植村に興味はなかったのだが…。

その美女が、今俺に話しかけてきている。

991:2015/08/08(土) 00:44:30
何と答えようかと一瞬考えたとき、ガラッと教室のドアが開いた。

つかつかと入ってきたのは、嗣永センセイだった。

「えっ…、嗣永センセイ、教室間違えてるんじゃ…」と植村がつぶやいたとき、嗣永センセイは黒板いっぱいに、でかい文字で「自習」と書いた。

「おーっ!」と沸き上がる生徒たち。

「先生質問です! 真野先生はどうしたんですか?」と小田が聞くと、嗣永センセイは
「うん。体調悪くてね、急に休んだの。みんな静かに自習してよ」と言って、教室を出て行った。

1001:2015/08/08(土) 00:45:09
「真野ちゃん、生理かな…」
「きっと重いんだよ」
南波とか嶺脇とかの馬鹿な童貞たちが、訳知り顔にひそひそ話をしているのが漏れ聞こえてきて、植村は顔をしかめた。

俺はと言うと、ただ心が重かった。
(真野ちゃん休みって、ひょっとしてこれも俺のせいなのか…? 面倒くさすぎるぜ、真野ちゃん…)
そう思うと、また自然とため息が出た。

「またため息ついた! いったい何なの?」
ちょっと怒ったように植村が聞いてきた。

「あ、ゴメン」と、俺はちょっと慌てて答えてから、
「真野ちゃんが休んだの、俺のせいかもしれないと思ってさ…」と言うと、
「えっ、何それ?何それ?」と、植村はちょっと興味津々って感じで聞いてきた。

1011:2015/08/08(土) 00:45:43
「いや、真野ちゃんは写真部の顧問でさ…、んで俺は写真部の部長、ってことにさせられてるんだ…」
「うん…」
「それで、部の運営っていうか、写真展への方針をめぐって、昨日、真野ちゃんと口論しちゃってさ…、それでかなりキツいこと言っちゃったんだよね…」

俺がそういうと、植村はいきなり「わかる!それ!」と大声を出した。「顧問とのやり取りって、苦労するよねー」と、
植村はまるで仲間でもみつけたように、急にフレンドリーに話し出してきた。

1021:2015/08/08(土) 00:46:24
「えっ、植村さんも、そういうのあんの?」
「うん。私は合唱部なんだけどさ…。ホラ、ずっと顧問だった寺田センセイがあんなことになって…」
「あー。大丈夫なのかな、寺田センセイ…」
うちの合唱部を何度も全国大会に導いていた寺田センセイは、去年いきなり喉の調子を悪くして、入院してしまったのだ。

「うん、手術は成功したんだけど、もう少し休養が必要みたいで…」
「そっか…」
音楽の授業で、平気でロックのレコードをかけたりするファンキーな寺田センセイは、俺も大好きだったのだ。早く復帰してほしい、と思ってる。

「それで、代わりにきた先生がさ…」と言うと、植村はため息をついた。
「あー、聞いた。なんか、音楽大学出た凄い先生って言ったな。名前何て言ったっけ?」
「菅井先生って言うんだけど…」

1031:2015/08/08(土) 00:47:16
菅井先生の噂は、俺も聞いたことがあった。
まあ、ハッキリ言って、よい噂ではない。

「なんか、セクハラするって聞いたけど…」と俺が言うと、
植村は「セクハラ? それは無い。まあ確かに体触ってきたりするけど、明らかに指導のためだし。それに、菅井ちゃん、ハードゲイだから女に興味ないし」と、一笑に付した。

「マジかよ? ガチホモってことか?」
「うん。たぶん…」
「それはそれでスゲーな…」
「菅井ちゃんはどちらかっていうと、パワハラとかモラハラって言うのかな…」と、植村は表情を曇らせた。

「パワハラ?」
「うん…。大声で怒鳴りつけたりするんだよね…。まあ、菅井ちゃんの指導通りに練習してこない子も悪いんだけど…」

1041:2015/08/08(土) 00:48:03
植村が菅井先生を擁護すればするほど、俺は正直、嫉妬した。
まあ、ホモに嫉妬しても仕方ないことくらい、分かっているのだが。

「でさ、それで、菅井ちゃんが怒鳴ったりするから、1年生が脅えてごっそり辞めちゃったんだよね」
「マジか…」
「でも、まあ、1年生ならまだ分かるよ。だけど、2年の、それも中心メンバーだった佳林まで辞めるって何なの?!」
「えっ、佳林って…、宮本のことか?」
「うん。確かに菅井ちゃんは厳しいけど、菅井ちゃんの言うとおりにやれば絶対実力はアップする…、って、そんなことが分からない佳林じゃないはずないのに…」

確かに、言われてみれば宮本はもともと1年の時からずっと合唱部にいたのだ。
だからこそ、ダンス部で宮本を見て、俺は驚いたのだ、と思い出した。

1051:2015/08/08(土) 00:48:38
「私、佳林のこと、見損なった…」と、植村は吐き捨てるように言った。

俺は返事に窮した。

俺が黙っていると、植村は「そうだ! 佳林って言えば、○○クン、佳林のいるダンス部に入ったんだって? それも、佳林目当てで入ったって聞いたけど…?」と、冷たい視線で聞いてきた。

「えっ!?何だよそれ!?」

俺は狼狽した。
俺がダンス部に入って、まだ昨日の今日なのだ。
それに、俺が去年宮本に告って玉砕したことは、俺と宮本とズッキしか知らない、はずなのだ…。

「…誰に、そんなこと聞いたの?」
俺が聞き返すと、
「ああ、ダンス部の3年生に高木さんっているでしょ? 私、仲いいんだ」と、植村は屈託のない表情で答えた。

「昨日ダンス部に入る時、何かキミが佳林にわざわざアヤつけてたって、紗友希ちゃんが言ってた」

1061:2015/08/08(土) 00:49:24
「アヤつけてた」とか…。
こりゃまたベタな…。
昭和のヤクザじゃないんだから、(いい加減にしてよ高木さん…)、と俺は思ったけど…。

確かに昨日、清水センセイに入部を強制され、鞘師にも頼まれた時、俺は宮本に「俺が入ってもいいのか?」なんて、みんなの前でわざわざ聞いていたのだった。

俺としては、宮本に対して最低限の仁義を通したつもりだったけど…、
確かに、他の女の子から見れば、俺が宮本の気を引こうとしていたとしか見えていなかったのかな、と俺は気が付いた。

(それにしても、そんなことをペラペラと…、あのお猿さん、お喋りがすぎるぜ)と俺は思った。

いや、でも、植村までが既にこんな話を知っているのだから、ダンス部の女の子たちは、みんな気が付いているはずだ。
当然、いろいろと尾鰭のついた噂だってしているだろう。
女の子ってのは、本当におしゃべりなものだ。

俺が去年宮本に告って玉砕したことまでバレているのかどうかはともかくとしても…。

どちらにしても、俺は今日の放課後、あの女の子たちに、どんな顔をして会えばいいのだろうか。
特に宮本と鞘師には…。

1071:2015/08/08(土) 00:49:46
俺がそんなことを考えてると、

「返事もできないってことは、やっぱり佳林狙いで図星なんだ?」と、植村が意地悪そうに聞いてきた。
「えっ…、違う…」 俺はうろたえながら答えた。

「そりゃ、昔は宮本のこと好きだったけど、今は…、別に俺、そんなつもりでダンス部に入った訳じゃない…」
慌ててつい、言わなくていいことまで答えてしまう俺であった。

「ほら、やっぱり好きなんじゃん」と、馬鹿にしたような目で俺を見る植村。

1081:2015/08/08(土) 00:50:09
「いや、その…」としどろもどろになる俺に、
「どうして男の子って、佳林みたいな子に、コロッと騙されちゃうのかな…」と、植村はちょっと馬鹿にしたような顔をして言った。
「えっ…?」
「だってさ、高校に入ってから今までに、10人以上の男の子が佳林に告白したって言うじゃん。佳林は全部断ったらしいけど」
「そなの…?」

ええ、俺もその10人のうちの1人です、とはさすがに言えなかった俺だった。

「植村さんは、宮本のこと嫌いなの?」
「えっ? 別にそんなことないけど。まあ、合唱部辞めたのは腹立ってるけどさ…」
「…でもさ、植村さんだってモテるだろ? 告白してくる男子だっていっぱいいるんじゃないのか?」
「は?何言ってんの? 私そんなこと言われたこと、一度もないもん!」

1091:2015/08/08(土) 00:50:31
「だけどさ、前に男子で人気投票したら、植村さんは学年でも…、かなり上位に入ってたんだぜ」
宮本の次の2位、とか、危うく言いそうになって、慌ててこらえた俺だった。

「は? そんなの聞いたことないもん。○○クン、私のことからかってるの? 馬鹿にしてるんなら怒るから!」
顔を真っ赤にして、植村が言った。

「いや、からかってない。植村さん本当に美人じゃん。俺もマジそう思ってる」
と言ってから、(いかん、これじゃまるで告白してるみたいだろ)と思った俺は慌てて、
「いや、別に変な意味じゃなくて。その…、みんな言ってることだし…」と、また俺はしどろもどろになってしまった。

「でも、私、全然男の子にモテないもん…」
と拗ねたように言う植村が可愛かった。

1101:2015/08/08(土) 00:50:53
いや、それはたぶん、植村さんに隙が無さ過ぎるっていうのか…」
「隙がない?」
「ホラ、そんな風に…、なんか怖いじゃん」
「怖い?私が…?」

植村はマジマジと俺の顔を見た後、
「私、そんな風に男子に思われてたのか…。 ちょっとショックだな…」とつぶやいた。

俺はなんとなくいたたまれなくなって、なんとかしてこの美少女を慰めたくなった。
「いや、でも、怖そうなところもいいっていうのか…、男にはほら、そういうやつも多いし…」
ちょっと、これは無理なフォローか…、と俺は思ったけど、植村はクスリと笑って、
「まあ、そんなに無理に持ち上げてもらわなくてもいいけど。でも…、ありがと」と、小さな声で言った。

植村が笑ったのを見て、俺が少しホッとしていると、
「それはともかく、部活の顧問の…、菅井ちゃんの話はこれからも相談していいかな?」と植村が聞いてきた。

「もちろん」と、俺が答えるのと、終業のチャイムが鳴るのが同時だった。

1111:2015/08/08(土) 00:51:20
その後、3時間目と4時間目が過ぎて…
学食でメシを食っていたときに、「そういえば俺、昼休みに職員室にこいって、嗣永センセイに言われてたっけ」と思い出した。

慌ててメシを平らげて職員室に行くと、嗣永センセイは自分の席にお弁当を広げて食っていた。
嗣永センセイの弁当は、女の子らしいかわいいお弁当なのかな?、と勝手に想像して覗き込んだら、これが予想に反して、
から揚げだけのおかずが眩しすぎる、男らしい弁当でびっくりした。

「おっ、来たか。ちょっとこれ食べるまで待っててくれる?」と嗣永センセイは言うと、丸椅子を出して、俺に座るよう勧めてきた。

俺はそこに座って、しばらくの間、嗣永センセイのなかなか男らしい食べっぷりをゆっくりと観察させてもらった。

1121:2015/08/08(土) 00:51:43
「さて、ここに何で呼ばれたかは分かっているよねー?」と、メシを食いおわった嗣永センセイは聞いてきた。

「あのー…、やっぱり真野ちゃ…、いや真野先生のことでしょうか?」と俺が聞くと、嗣永センセイは、
「正解ー!」と子供っぽい声でいいながら、俺を小指で指さした。

「真野先生が今日休んだのも、俺のせい…、なんですか?」
「ん…? いや、それは違う」
「じゃあ、なんで…?」

嗣永センセイは一瞬、あたりを見回してから、声を落として言った。
「いやー、昨日慰めるつもりで酒飲ませたらさ…、あいつ調子乗ってガンガン飲んで。ただの二日酔い」

1131:2015/08/08(土) 00:52:06
「えっ?二日酔い?」
俺が驚いて聞き返すと、嗣永センセイは「しっ!声が大きい!」と俺を制して、慌てて周囲を見回した。

「内緒だからね。ほかの生徒には絶対言っちゃダメだよ」
「は、はい…」
「○○クンが変に責任感じるといけないから、一応キミだけにはホントのこと言っておこうと思って、呼んだだけ」

真野ちゃんが休んだのは俺のせいではなくて、大五郎のせいだった、というのが分かって、俺はとりあえずホッとしたけど…、
それにしても、そんなに酒を飲まなきゃいけないほど、俺のせいで真野ちゃんが落ち込んだとでもいうのだろうか…。

1141:2015/08/08(土) 00:52:25
「嗣永センセイ、俺はそんなに真野先生を傷つけたんでしょうか?」
俺が真顔で聞くと、嗣永センセイは、「ん? ああ、それも違う」と、あっさり否定した。

「えっ?」
「落ち込んだきっかけは、確かに○○クンとの口論だったけど、昨日も後半は、男に捨てられた愚痴ばっかり話してたから…」
「そ、それは…」
「あっ、いけない! こんなこと生徒にしていい話じゃなかった。今の話は本当に、絶対内緒だからね。分かってんでしょうね!」

嗣永センセイは俺の学生服の袖をぐいっと引っ張ると、ちょっと凄むような顔をして念を押してきた。

1151:2015/08/08(土) 00:52:57
(世の中には、真野ちゃんの、あのエロコアラのようなピチピチした肢体を弄ぶだけ弄んで、飽きたらポイと捨てるオッサンがいるのか…)
また童貞特有の極端な妄想を始めて、下半身が熱くなってくる俺だった。

そんな俺の妄想をかき消すように、嗣永センセイは、
「まあ、でも…、そんな訳だからさ。○○クンもいろいろあるとは思うけど、ちょっと真野ちゃんにやさしくしてやってくれるかな?」と、
お姉さんのように優しい口調で囁いた。

「は、はい。それはまあ…」
「分かってくれた?」
「ええ。でも…」
「でも?」
「真野先生って… なかなか面倒くさい人ですね」
「それが分かってるからこそ、私が今わざわざこうやって、キミに頭下げて頼んでるんじゃん」

<一応、ひとしきり弄ばれた後のエロコアラ的イメージ画像>
http://i.imgur.com/u4G8Ht3.jpg

1161:2015/08/17(月) 11:43:21
そう言うと、嗣永センセイはため息をついた。
俺も、これからの真野センセイとの付き合い方を考えると、やっぱりため息が出た。

俺たちは思わず、顔を見合わせた。
「お互い、大変ですね」
「全くだ…」

そんな話をしていたとき、ガラッと職員室のドアが開いて、大柄なお姉さんが書類の束を抱えて入ってきた。
そのお姉さんが教頭先生の机に書類の束を置いて、帰ろうとして俺たちの前を通りかかった時に、嗣永センセイが声をかけた。

「よう、茉麻」
「おっ、桃じゃん。元気?」

そう言った後に、須藤さんは俺に気付いて、びっくりしたように話しかけてきた。
「あれっ? キミ、千奈美の弟の○○クンじゃないの? この高校にいたの?」

「あっ、須藤さん…。どうも御無沙汰してます」
俺が畏まったように挨拶をすると、嗣永センセイは俺たち二人を交互に見て、
「ちょっと何? あんたたち知り合いなの?」と驚いたように言った。

「知り合いも何も、ちいの弟じゃん。この子」
「えっ? 『ちい』って、あの千奈美のこと!?」

1171:2015/08/17(月) 11:44:04
俺は話が全くのみこめなかったのだが、嗣永センセイはまじまじと俺の顔を見つめてから言った。
「あー。言われてみりゃ確かに千奈美に似てるわ。いやー、自分が担任のクラスに、千奈美の弟がいるなんて気付かなかったなー」

「ちょっとさ桃…、アンタ担任なら、家庭調査書とか持ってんでしょ? 千奈美の名前書いてあっても気付かなかったの?」
そう須藤さんが突っ込むと、嗣永センセイは、書類をごそごそと探しながら、
「いやー、確かにそんな名前は見た記憶あるのよね。でも、あの千奈美だよ? その弟がうちみたいな進学校に来るわけないじゃん。だから別人だと思ってた」と、
悪びれる様子もなしに言った。

「ちょっと待ってくださいよ! それって俺を馬鹿にしてるんですか? それとも姉ちゃんを馬鹿にしてるんですか?」
思わず俺は大声を上げた。

あんな姉ちゃんでも、俺にとっては大事な姉ちゃんなのだ。

1181:2015/08/17(月) 11:44:41
「悪い悪い。全然馬鹿にするとかじゃなくて、うちらの間じゃそういうキャラなのよ、君の姉ちゃんは」と、嗣永センセイは笑いながら言った。

何か騙されているような気もするが…。まあ、それはいい。
「それより、お二人とうちの姉ちゃんはどんな関係なんですか? いや、須藤さんは同級生だったの知ってますけど、嗣永センセイは違う高校じゃ…?」

「ああ、ウチらバイト先が一緒だったの。駅前のフルーツケーキ屋さん」と須藤さんが言った。

そういえば、千奈美姉ちゃんは高校時代ずっと、そのフルーツケーキ屋でバイトをしていたのだった。

「えーっと、確か、何とか工房って言ったっけ…」
俺がそう言いかけると、「ベリーズ工房!」と嗣永センセイが怒ったように言った。

1191:2015/08/17(月) 11:45:10
しかし、姉ちゃんと嗣永センセイが友達だったとは、全然知らなかった。
そういえば、俺も姉ちゃんに、わざわざ担任の名前など伝えたことはなかったのだ。

そんなことを考えていると、
「あっ、そういえば確か、その頃の写真持ってたな…」と嗣永センセイが、スマホを取り出して探し始めた。

「あったあった。これ」
そう言うと、嗣永センセイは俺と須藤さんにスマホの画面を見せた。

<フルーツケーキ屋のバイト時代の嗣永センセイと須藤さん、千奈美姉ちゃんたちイメージ画像>
http://i.imgur.com/bFiFQXS.jpg

1201:2015/08/17(月) 11:45:40
「どれどれ…」と画面を覗き込んだ須藤さんは、「おー、この制服。懐かしい!」と声を上げた。

俺も写真を見た。千奈美姉ちゃんに嗣永センセイ、それに…、俺が毎晩お世話になってた頃の須藤さん…。
(みんな若いな)と思ったとき、俺はあることに気が付いた。

「あの…、嗣永センセイ」
「何?」
「もう一人、見たことのあるような人が写ってるんですけど」
「誰?」
「えーと、嗣永センセイの隣のこの人…」
「あー。佐紀ちゃんじゃん」
「佐紀ちゃんって…、清水センセイですか!?」
「そだよ」
「えーっ!?」

1211:2015/08/17(月) 11:46:14
(世の中と言うのは、こんなに狭いものなのか…)
俺が呆れていると、嗣永センセイが「いやー、でもこの7人は本当に仲良かったよねー」と須藤さんに言った。
須藤さんも「本当だよねー。でも、みんな若いなー」と弾んだ声で答えた。

すると、嗣永センセイは突然俺を見て、「ねえ、○○クンだったら、もし付き合うとしたらどの子を選ぶ?」と、半分からかうように聞いてきた。

「ええっと…」俺は7人の写真を見回した。
まあ、こんな質問に、まともに答える必要もないのだが…。思わず真剣に選んでしまう俺だった。

「そうですね… やっぱり嗣永センセイ…」
「えっ!?えっ!? やっぱりもぉなの? ダメよ○○クン、私は教師であなたは生徒よ!」
「…の隣の、赤いエプロンのこの人ですかね…」

「ブハハハハハハ」と須藤さんが豪快に笑った。「桃、やっぱり、りーちゃんだってさ」
「もう! どうして男の子って、ちゃんみたいな子に、コロッと騙されちゃうのかな…」

(あれ、今日、どこかで聞いたようなセリフだな)と俺は思った。


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