したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

男「お願いだ、信じてくれ」白蓮「あらあら」

1ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2016/01/20(水) 05:32:56 ID:GS4PMXIs
このSSは東方の二次創作であり、

男「どこだよ、ここ」幽香「誰!?」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/14562/1388583677/

男「なんでだよ、これ」ぬえ「あう」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1400909334/l50

の続きとなっております。

そちらを先にご覧くださると幸いです。

また、オリジナル設定、オリジナルキャラ、東方キャラクターの死亡などが含まれますので苦手な方はご注意ください。

366以下、名無しが深夜にお送りします:2017/11/30(木) 21:41:06 ID:bfbrpKmM


367以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/01(金) 10:05:08 ID:NrGRhTiI
私怨

368以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/11(月) 02:22:21 ID:Ok03LmtU
支援

369ぬえ ◆HQmKQahCZs:2017/12/13(水) 00:47:06 ID:W53qE/hA
宣言したのに更新できなくて本当に申し訳ありません。

今日の夜には更新しますので、まだ見てくれている方はどうぞよろしくお願いします

370ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/13(水) 00:47:44 ID:W53qE/hA
トリップ間違えました

371以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/13(水) 17:22:16 ID:auK2FmnE
キタ――(゚∀゚)――!!

372以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/13(水) 21:05:58 ID:W53qE/hA
しばらくののち、先に口を開いたのは俺だった。

男「出ていく、つもりですか」

聞かないほうがいいかもしれない。それでも俺はそれを聞かずにはいられなかった。

さとり「………心を読みましたか? それとも顔にでてましたか? 鉄面皮と呼ばれてるはずなのですが」

茶化そうとする声。それが震えていた。今までのことでわかってはいたが、この人は明らかに弱い。

いや、弱いんじゃない。色々な事に心を痛めすぎているんだ。それはさとりという種族ゆえか、それともこの人だからか。

さとり「自分のことが知られているというのはここまでも心地悪いものですか。貴重な経験、ですね」

男「さとりさん」

さとり「わかってます。ここで私が逃げてはいけないということは」

男「いえ、違うんです。その逆で、さとりさんには」

この地底を出ていってもらいたいんです。

さとり「………正気?」

えぇ。さとりさんを残せばさとりさんが折れる。さとりさんを行かせれば残りの者が壊れる。

だから、さとりさんには二人を連れて行ってもらいたいんです。

火焔猫燐と霊烏路空の二人を。

373以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/13(水) 21:26:24 ID:W53qE/hA
神に届く力。少なくとも吸血鬼や鬼を消すに値する力。

神に背く力。人の尊厳を踏みにじり、命を嘲る力。

そんな能力を持つのに、言っては悪いがその精神は獣に近い。だからその力に制限をかける者が必要だ。

実際それがなかったために前の世界ではその能力は暴走していた。その結果があれだ。

さとり「もう一度聞くけど正気? そんな力を持つものを敵に回す。そう言っているのよ、貴方は」

それ以外の手段が見つかりません。

さとり「簡単よ。お燐とお空を封印すればいい。私が命じればいいだけだもの」

それが正しいのかもしれない。ただ………

さとり「ただ?」

これ以上悲しい戦いにしたくない。

さとり「貴方………本当に正気?」

あと一つ理由が

古明地ことりの制御。

374ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/13(水) 21:38:51 ID:W53qE/hA
この戦いの主犯の一人。

詳しくは分からないが重要なことを担っている気がする。

さとり「気がする、でしょう?」

さとり「姉さんはさとりの出来損ないよ。人の心が読めず、自分の思いを漏らすだけ」

さとり「脅威になるわけがないわ」

男「とりあえず、以上です。伝えたいことはそれだけで」

さとり「ありがとう。貴方の主張は私とこいしを地底に監禁。お燐とお空を封印する」

え?

さとり「確かにそれが正しいわ。私も地底の管理者ですもの。私のわがままでみんなを巻き込むわけにはいかないわ」

さとり「貴方の言う通りにする。でも最後にお願いがあるの。最後は皆で宴会を開きましょう」

さとり「最後にそれくらいのわがまま、いいでしょう?」

男「ちょっと、さとりさ―――」

さとりさんが背伸びをして俺の口を塞ぐ。その瞳は明るさを取り戻していた。

さとり「ありがとう。私のわがままを聞いてくれて」

そしてその夜。さとりさんたちはいなくなった。

375以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/13(水) 22:00:56 ID:HJ4kShFM
支援

376ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/13(水) 22:21:10 ID:W53qE/hA
俺を眠りから覚ましたのはどたばたと周りを駆け回る足音だった。

瞼を開けると揺らぐ灯篭と転がった酒瓶。

残った強いアルコールの香りが気付け代わりとなり、一気に眠気が飛ぶ。

男「いったいなにが―――」

ナズ「こんな時に何寝っ転がっているんだ!」

起き上がろうとした瞬間にナズーリンに小突かれる。とりあえず何かあったということは分かった。

男「どうした?」

ナズ「地底の結界が吹き飛んだんだ!」

男「は?」

文「というより、結界ごと縦穴を吹き飛ばした、というのが正しいですね。やられました」

文「酔っぱらわせて気が緩んでいる隙にお空さんの力で脱出。さとりさんとお燐さんとお空さんと少年さんがどこかへ行きました。おそらくはことりさんも」

そこまで聞いた感想はそうか、よかったな。と肯定的な反応だった。と同時に昨日のさとりさんの言葉の意味を知る。

当然だが、ひどいことになると知ってさとりさんを行かせる者はいやしない。そんなことを提案したら責められるのは俺だろう。

あまりにも理にかなってない行動だからな。さとりさんは俺の意を酌んだうえで俺に責任を負わせまいと。

これはやられたなぁ。

377ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/13(水) 22:39:35 ID:W53qE/hA
ナズ「なに笑ってるんだい」

ナズーリンがじとーっとした視線を俺に送る。慌てて表情を引き締めるとナズーリンは昨日のことをまだ根に持ってるらしく数度軽く俺を小突いた。

ナズ「確かに星蓮船は入りやすくなったけど」

文「いやいや、そんなこと言ってる場合じゃなくて、これからどうすればいいのかの話をしましょうよ! さとりさんってこの地底のトップなんですよ!?」

ナズ「じゃあトップをうちの聖にするってことでいいね」

文「んなむちゃくちゃな!?」

目の前で言い争いを始める二人を横目に慌ただしくなった地底の喧騒を聞く。

こんな状況だがなぜかどこか楽しそうに感じるのは地底の住民の気質か。

どうせこんな連中ならなるようになるだろう。聖さんか勇儀さんか。そこら辺を一応のトップにあげれば良い話だ。

酔いの席の狂乱のような雰囲気と共にからからと乾いた風が開けた障子を通して吹いてきた。

378ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/14(木) 00:00:14 ID:X9LAMwoY
勇儀「とりあえず、状況の整理でもしようかい」

白蓮「そうですね」

空いた大穴から星蓮船を下ろし、一応のトップ代表二人が対談する。

その周りを囲むのは俺、星さん、ナズーリン、パルスィさん、射命丸さん、白衣の男。

白衣の男は初めてみたがどうやら人間らしい。なにやら尊大な口調をしていたが、世間でいうところの中二病みたいに見える。

が、ここは幻想郷。不思議も魔法もある世界だ。見えるだけでそうじゃないのだろう。

しかし人間なのに地底ではそこそこ有名人らしい。妖怪の中で過ごす人間とは少し親近感を覚える。

勇儀「そこの男は未来を知ってて、最悪を回避するために動いている。だね」

男「あぁ、そうだ」

勇儀「信じられない話だが信用はしてるさ。あのさとりが認めてたんだから」

まず大前提を受け入れてくれることは非常に助かる。

勇儀「それで、さとりはさとりたちの監禁と、お燐とお空の封印を受け入れたように見せて、逃亡」

勇儀「簡単にするとそれだけの話さ。だけどどうも腑に落ちないところがある。あのさとりがそんな行動にでたことさ。あいつにそこまでの勇気はない。それに無責任でもない。一応だけどこの地底の管理者たるあいつがここまで事を大きくして逃げた理由。知ってるんだろう? 男」

勇儀「私はさとりを信頼してる。話してくれるよな。男」

379ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/14(木) 00:08:52 ID:X9LAMwoY
即座に全部バレていた。

いやバレてはいない。たださとりさんを勇儀さんが信頼していたからこその問い詰めなだけ。

なのに呑まれる。追い詰められる。

初めは軽い口調で話していた勇儀さんの言葉がいきなりずどんと重くなる。表情も語り口もなにも変わっていない。

ただ、汗が吹き出し、口の中が渇くほどの殺気が俺を襲っただけ。

大丈夫だ。殺気には慣れている。そのはずなのに。

勇儀「どうした男。私は本当のことを聞きたいだけさ。さとりが勝手に行動したならそれでいいさ。知らないなら知らないっていいな」

勇儀「知らないのなら、だけどね」

質が違う。殺気の質が違う。

暗くもなく、淀んでいるわけでもない。背筋がぞくりともしない殺気だからなおのこと恐ろしい。

相手に殺意を抱かずにこうまで殺気を向けることができるのか?

あぁ、なるほど。やはりこれが鬼なのだと。

当たり前のように相手の上に立つ。

これが鬼なのか。

380ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/14(木) 00:18:03 ID:X9LAMwoY
白蓮「殺気を飛ばすのはやめていただけませんか? ここは話し合いの場ですよ?」

勇儀「いや、凄む気はなかったんだ。ただ純粋に疑問に思っただけさ」

パル「そうよ。勇儀が言うことは筋が通ってるわ。さとりらしくないってことは私たちは一番よくわかってること」

パル「どうせなにかやったんでしょ。あの二人だけの空間で。さとりを唆すような―――」

勇儀「パルスィ。決めつけは良くないね。だからそう、誤解がないように話してくれないかい? 信用する、からさ」

ナズ「ち、地底の連中は躾がなってないね。私にはどうも男を責めているように聞こえる。これじゃあ話す言葉もでないさ。真実はでてきやしない」

パルスィ「ちょっとそっちも躾がなってないんじゃない? たかだか鼠風情が偉そうにちゅーちゅーちゅーちゅー、耳障りでしかないわ」

ナズ「ふんっ、ここは議論の場で君みたいな―――」

白蓮「ナズーリン」

勇儀「パルスィ」

二人が同時に制す。臨界点を超えかけた緊張が再び張り詰める。

男「俺は、あ、あのとき、さとりさんに」

でなくなった唾液にカラカラに乾いた口で途切れ途切れで言葉を繋ぐ。

男「こいし、とさとりさんの、姉さんが死ぬ姿を」

男「見せたんだ」

381ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/14(木) 00:26:00 ID:X9LAMwoY
そう、俺の心を覗いたさとりさんは全てを知った。

絶叫したのはそのせい。

それは勇儀さんが知っている情報。

そしてこの先の情報は言うわけにはいかない。

誰よりも強いと思われていた彼女とそのやさしさを汚すわけにはいかないから。

男「追い込んだ、のかも、しれません」

男「そのあと、俺はさとりさんに、あの提案をしました」

勇儀「監禁と封印?」

男「………さとりさんたち、全員の封印です。なぜなら、敵の主犯に、彼女の姉がいるから、です」

文「傷ついたさとりさんに追い打ちをかけた、ってことですか」

男「はい」

全員が黙り込む。

382ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/14(木) 00:30:39 ID:X9LAMwoY
白蓮さんは静かに目を閉じて小さく何かを呟いた。

ナズーリンは呆れたような目で俺を見た。

パルスィは悪人を見る目で俺を見た。

勇儀さんは苦虫をかみつぶしたような顔をした。

射命丸さんは何度もため息をついた。

白衣の男は何か言いたそうにしていた。

俺はたった数秒でこの場での味方を失った。でもそうせざるを得ない。

筋の通った悪手を打たなければ納得しないはずだ。

そして俺の評判が下がれば、それだけこの話は通りやすくなる。

俺の言葉がさとりを追い詰めて、追い詰められたさとりは逃げた。それでいい。

それが俺ができる精一杯の優しさだった。

383ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/14(木) 00:48:25 ID:X9LAMwoY
やはり俺は何度も何度も最悪の手を打つ。

これは逃げられない因果かなにかか。

勇儀「話は分かった。お前が言うことは間違っちゃいないさ。褒められたことじゃないが、最善のみを尽くせとは私も言わない」

勇儀「だけど、それでも………」

ナズ「………話を進めようか。今はこれからの話、だろう?」

白蓮「地底と私たちの協力をどうするか。そしてどう協力するかを話しましょう」

勇儀「………あぁ」

それからの話に口を出すことはできなかった。

結局勇儀さんが地底を纏め、協力するか、どこまで協力するかをそのたびに話し合うことに決まった。

一番とは言えないが、悪くない結果だ。命蓮寺と地底は纏まった。

あと人間に対抗するために必要な勢力は紅魔館。

少なくとも紅魔館と地底が衝突する事態は避けられたがここから先の未来は分からない。

できるだけ迅速に動いたほうがいいだろう。

384ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/14(木) 00:59:22 ID:X9LAMwoY
話し合いが終わり一人になる。

孤独を感じる。ここに来てから一人きりになるのは久しぶりだ。

祭りのような地底の雰囲気が俺を避けているようだ。

自分で選んだ選択肢はいつもこうで。他のみんなほど強くない俺の心はまたも軋む。

覚悟が足りないのだろうか。

霊夢みたいに強くなれれば………。

星「男、さん」

男「あれ、どうしました。星さん」

いつの間にか後ろに立っていた星さんが俺の背中に手をあてる。

星「さっきのは、嘘ですね。不器用な」

男「はは、買い被りすぎですよ、ただ俺が焦りすぎただけで、本当、さとりさんを傷つけてしまって」

男「………なんでわかりました?」

星「倒れそうに見えましたから」

385ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2017/12/14(木) 01:05:11 ID:X9LAMwoY
星「男さんは、優しいです。だけれど、不器用で、弱い」

星「だから私が支えるって、約束したではありませんか。辛い時は肩を貸しますから、一緒に行こうって」

男「………星、さん」

星「はい、なんでしょうか」

男「さとりさんを守りたくて………でも守られて」

男「だから、またさとりさんを守って………」

男「それで理解されなくていいって、思っても。やっぱり駄目で」

男「かっこいいヒーローにはなれなくて、かっこ悪いことしかできなくて」

男「悲しくて」

星「大丈夫です。私がいますよ。知ってますから。貴方がどれだけ優しいか」

星「かっこいいですよ。頑張るあなたはとっても」

386以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/15(金) 01:28:56 ID:pYb/AzV2
星ちゃんヒロイン感

387以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/15(金) 03:14:52 ID:G5paRWxU
星ちゃんは困ったことがある時に助けてくれる優しい先輩的なポジション

388以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/15(金) 23:16:45 ID:.ik6inE2
星ちゃんルートあるなこれは

389以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/18(月) 04:54:04 ID:ZtAuWJ7U
あの頃のぬえがいないなら俺は星ちゃんを選ぶ的なね

390以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/18(月) 05:09:12 ID:LZPP3JaY
ぬえはもう戻らないと思うと悲しい
四季映姫も一瞬正ヒロイン感出てたのに

391以下、名無しが深夜にお送りします:2017/12/27(水) 20:26:21 ID:Ygc6yicc
支援

392以下、名無しが深夜にお送りします:2018/01/06(土) 01:12:26 ID:JEb3O3oc
どう見ても正ヒロインな星ちゃん

393以下、名無しが深夜にお送りします:2018/01/19(金) 23:22:26 ID:qoJh6Y/A
支援

394以下、名無しが深夜にお送りします:2018/01/29(月) 21:39:18 ID:0dAWIB2I
支援

395ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/02/02(金) 11:41:50 ID:XMktsSQo
共感し、自分の事を理解してくれる人がいれば絶望の中でも人は歩いていける。

前の世界では映姫さん。この世界では星さん。

ならこの二人が倒れた時、俺はどうすればいいのだろうか。

悲しみを背負って歩いていく?

男「そこまで俺は強くないよな」

星「どうしました?」

男「いえ、ただの独り言です」

これからどうしようか。感情的な行動で信頼を失った俺にできることは

なんてことを考えていると、おもむろに扉が開いた。

入ってきたのは話し合いの時にいた白衣の人間だった。

俺に怒っているのだろうかと思ったがその瞳は意外にも冷静な光を帯びていた。

白衣男「邪魔をしたか?」

男「いや、そんなことないですが。どうしました?」

白衣男「畏まらなくていい。見たところ同じくらいの歳だろう? ちょっと顔を貸してくれ」

男「? あぁ、わかった」

396ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/02/02(金) 11:50:01 ID:XMktsSQo
白衣の男に連れられた場所は小さな居酒屋だった。客が入ってないところを見るに人払いをしているのだろうか。

いや、流石にこの状況で昼間から飲んだくれる奴がいないだけだと信じたいが。

男「ここは?」

白衣男「俺の家だ。適当なところに座ってくれ」

言われた通りにカウンターに座る。壁にならぶ酒瓶を眺めていると目の前に透明な液体の入ったコップが置かれた。

男「昼間からお酒はちょっと」

白衣男「酒じゃない。ただの水だ」

違ったのか。地底といえば水の代わりに酒がでるものと思っていたが。口をつけると確かに水だった。

無味のはずの水に生臭い味を感じる。どうやら口の中を傷つけていたらしい。

白衣男「単刀直入に聞くんだが」

男「なんだ?」

白衣男「さっきの話は嘘偽りだろう?」

男「んげっふっ」

いきなりの確信に焦った俺はむせてしまい机の上に飲んでいた水を吐き出した。

その行動が回答になっていたらしく白衣男は何度か大きく頷いた。

397ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/02/02(金) 12:03:53 ID:XMktsSQo
男「なんでわかった?」

もはや取り繕う必要はなかった。あの場で誰もが信じ込んだのになぜ、この男だけが見抜いたのだろうか。

白衣男「人間のことを一番わかるのは人間だ。いくら似通っていても種族の差はある」

白衣男「弱いやつのたわごとは理屈に勝り信憑性を帯びる。違うか?」

その通りだ。強者は弱者の事を知らず、誰しも情けなさを嫌う。だからこその弱者という隠れ蓑。それを容易く見抜いたのは同じ人間だった。あの時何か言おうとしていたのはその疑惑があったからだったようだ。

白衣男「さすがの俺もなぜ嘘をついたかの理由まではわからんが、それが嘘であると知った以上聞かせてくれるよな」

あの数瞬の出来事は俺にとってもさとりさんにとっても語るには能わず。

その秘密に意味はない。少なくとも重要な秘密ではない。ただの責任の奪い合い。そこに結論を変えるような力はない。

男「………」

だから口を噤むしかなかった。言葉を出さなければ受け取られることはない。

沈黙から意味をくみ取ることは流石にできないはずだ。そうして空想は俺の都合のいい方向に転がればいい。

白衣男「俺はさとりの恋人である、小さな少年に武器を渡した。戦う力をやってしまった。自衛じゃない。さとりに、強者についていくためのささいな力だ」

白衣男「だからあいつがさとりについて行ったのは俺の責任だ。だがな、あいつは子供だが自分でしっかり考えて行動をしている。おそらく俺よりも自問自答して答えを出してきたやつだ」

白衣男「そんなあいつが、さとりが傷ついて逃げ出すのを止めないはずがない。あいつは流されずにさとりを止めるはずだ。傷を負ったさとりを癒すはずなんだ。だから俺は納得がいかない」

白衣男「さとりは自分の確固たる意志で出て行った。違うか? 少なくともお前のせいじゃない、そこまで古明地さとりは愚かじゃない」

398以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/02(金) 21:15:48 ID:9HmUsoxY
キタ――(゚∀゚)――!!

399以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/03(土) 14:54:42 ID:xgb58qfc


400以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/04(日) 15:30:19 ID:ZK3f6knI
乙です

401ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/02/25(日) 17:59:29 ID:rVGswkgE
言葉は返せなかった。口を噤んだわけじゃない。

白衣男「沈黙は肯定と受け取るがいいな?」

肯定。頷く。

白衣男「ならやはり疑問なんだが自分が不利になると分かっていただろうになぜ嘘をついたんだ?」

言葉を返さない。今となっては無意味かもしれないが、譲るわけにもいかない。

白衣男「察するにどうせ逃がそうとしたんだろう? さとりの未来とさとり本人の人となりを知ってしまったから」

白衣男「お前の人となりを理解すれば簡単な話だ。優しすぎると言われたことはないか?」

男「ずいぶんと、人を見てるんです、ね」

白衣男「俺は人間だからな。目で見て考え結論を出すことに関しちゃ一級品だ。まぁ、さとりを逃がした云々はどうでもいいんだ。俺もそれについて責めるつもりもなければチクるつもりは毛頭ない」

白衣男「ただその嘘の方向性を知りたかった。お前が敵なのか味方なのか」

男「お眼鏡にはかなったかね。一応これでも正義の味方を目指してるんだ」

白衣男「あぁ、信じることにするよ。それに未来が見えるってのも気になるしな」

男「見えるわけじゃない、一度経験しただけだ」

そう、一度経験しただけ。だからこそこれからの行動は薄氷を踏むようなものだ。

だからこそ最悪は避けなければいけないってのに

402ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/02/25(日) 18:04:51 ID:rVGswkgE
男「でもいいのか。俺は嘘つきかもしれないぞ?」

白衣男「もしそうなら吐かせる手段はいくらでもある。機械や薬や催眠術。だがする気はない。なぜだかわかるか?」

男「体に悪いから、とかか?」

白衣男「それじゃあ信頼できないからさ。俺はお前を信頼したかったんだ。もしかすると希望となりうるかもしれないお前を」

なぜだ。なぜこの男はこうも俺をまっすぐ見る。なぜ真正面から見る。

なんで幻想郷にはまっすぐな奴が多いんだ。映姫さんに白蓮さん、そして星さん。

まるで俺が馬鹿みたいじゃないか。いや、そうではあるんだけど。

自分の小ささに落ち込んでしまうじゃないか。

403ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/02/25(日) 18:13:43 ID:rVGswkgE
男「俺を信頼して意味はあるのか? なぜこうも部外者に肩入れするんだ」

精一杯強がってみせる。ここで開き直れるほど人間できてない。

ただここまで言い負かされるのが悔しかっただけだ。

白衣男「復讐だよ」

そう短くつぶやいて白衣男は水を一気に飲み干した。

そこからは白衣男の言葉しかなかった。白衣男の今までの事。

自分の兄を妖怪に殺されたこと。人間から逃げ妖怪のもとへ身を寄せたこと、そして地底に来た経緯まで。

一つも包み隠さずに語ってくれた。打てる相槌はない。

白衣男「ということだ。これで全部だが質問はあるか?」

男「ない。できるわけがない」

白衣男「そうか。それで俺はお前のお眼鏡にかなったかな?」

拒否をする権利は俺にはない、と思う。

だから頷く。一人でも味方が欲しいのは確かだ。

俺が頷くと白衣男は満足そうに白衣を翻して高笑いをした。

白衣男「安心しろ。この俺は頭脳明晰万知万能であるぞ!」

404ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/02/25(日) 18:20:16 ID:rVGswkgE
白衣男「ではこの私の仲間を紹介しよう!」

男「仲間?」

白衣男「こいつらだ!」

そういって白衣男が天井から伸びている紐を引っ張った。

直後歯車が動く音がしてぱかっと天井の一部が開いた。

「ひゅいっ!?」

「………」

「ウケるwwwww」

落ちてくる青と赤と黒。青はそのまま尻もちをついて落ち、赤はふわりと着地をし、

「ひぎぃっ!」

黒は青の上に着地をした。

男「これが、仲間?」

白衣男「もう一人いるが今は出かけてるな」

405ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/02/25(日) 18:24:09 ID:rVGswkgE
聞くと青はかっぱの河城にとり、赤はその姉のみとり、黒………色の甲冑のようなものを纏っているのが幼馴染らしい。

何者だろうか。

にとり「ひどいじゃないか! というかいつこんなギミック作ったのさぁ!」

白衣男「作ったのお前だろうが」

にとり「え? そ、そうだっけ?」

白衣男「ロマンとか言いながら作ってた」

にとり「うぅ、覚えてないよ」

みとり「………」

にとりと白衣男の問答の間にみとりがじぃっと俺を見てくる。

男「あの、な、なにか?」

みとり「…誰」

白衣男「おぉっと! お前の紹介を忘れてたな。こいつは男。どうやら未来を知っているらしい」

にとり「未来を」

みとり「知ってる?」

装甲娘「うけるwwwww」

406ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/02/25(日) 18:39:21 ID:rVGswkgE
男「あー、未来を知ってるというと少し語弊があるな。未来から戻ってきただけだ」

装甲娘「同じじゃねぇの?wwwwww」

装甲の奥からケラケラと笑い声がする。なんだか無性に癇に障る声だ。

男「行動でいくらでも未来は変わる。もともとの世界では地底に俺はいなかったんだ」

もっと言うならお前らは皆死んでるんだが。

白衣男「だがアドバンテージは確かにある。だからこそ我が軍勢に取り込んだのだ!」

にとり「まぁ、私は異論はないけどね。男が誘ったんだから信頼はできるんだろうしね」

みとり「………うん」

装甲娘「私的にはおっけーwwwww」

信頼されているみたいだな。誰も異論を唱えない。俺じゃなくて白衣男を信じているから。

白衣男「あとはもう一人なんだが」

文「ただいま戻りまし………た」

白衣男の言葉と同時に開く玄関。そうして現れたのは射命丸 文だった。

なぜか家の中にいる俺を二度見し、その後全員の顔を見回した。そして目をこすって一度外へ出た。

どうやら射命丸は理解できなかったみたいだな。

407ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/02/25(日) 20:28:48 ID:rVGswkgE
文「なぜあなたがいるのですか」

再度家に入ってきた射命丸は不服そうな顔で俺を睨みつけていた。実際不服なのだろうが俺のせいじゃない。

そもそも白衣男が射命丸と知り合いだなんて知らなかったんだが。

しかし射命丸から見た俺はどうやら白衣男を誑かしたように見えるらしい。

白衣男「俺が招いたんだ」

文「なんでこいつ………この人を? 貴方もあの場にいたでしょう」

白衣男「あぁ、あの場での発言は嘘だ」

男「嘘だ」

ある程度の事情を話すと射命丸は面白いように顔色と表情を変えた。

そして最終的にはがっくりとうなだれ長い溜息をついた。

男「あの場の嘘については他言無用で頼む」

文「さすがに言いふらすほど野暮じゃないですよ。それに言いふらしたとしても詳しい理由が分からないのですからジャーナリスト失格です」

文「私は勘違いで記事は作りますが嘘で記事は作らないのですよ」

それは読者にとってさほど変わりはないのではないだろうか。と思ったがもちろん口には出さない。

408ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/02/25(日) 20:55:21 ID:rVGswkgE
文「それで、未来を知る貴方は次に何をしようというのですか。白衣男さん達を巻き込んで」

ずいぶんと刺々しい言葉だ。巻き込まれたのは俺の方だというのに。

男「紅魔館に行く」

白衣男「紅魔館か。それはなぜだ?」

男「もうすぐレミリアは紅魔館を捨て人間の基地を襲撃する」

男「それを止める」

文「なぜです。人間を襲うのならばなにも問題はないでしょう」

問題はないように思えるだろう。俺たちの目的も人間の打倒なのだから。

しかし今じゃない。まだ紅魔館を巻き込めてない今、紅魔館を孤立させるわけにはいかない。

白衣男「紅魔館に協力を仰ぐことは問題ないとは思うが、あのお子様君主が首を縦に振るかどうか」

男「やってみなきゃわかんないだろう」

にとり「それで、紅魔館はいつ人間の基地を襲うのさ」

それは確か………

男「今日の昼だ」

409ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/02/25(日) 20:58:21 ID:rVGswkgE
みとり「もう…昼」

にとり「うん、昼になるね」

男「………だなぁ」

白衣男「なぁ、文」

文「なんですか、男さん」

白衣男「連れてってやれ」

文「ですよねぇっ! やっぱり私ですか!!」

射命丸が机をばんと叩く。両手で髪を掻き毟ったかと思うとずんずんと俺に向かって近づいてきた。

文「行きますよ」

そして俺の後ろに回り背伸びをしながら羽交い絞めにした。

男「あぁ、なるほ―――」

それを言い終わる前に俺の意識は途切れた。

410以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/27(火) 19:36:10 ID:d5aEZMZo
2週目は上手くやってくれてますね...

411以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/27(火) 20:39:11 ID:6wg6nfMg
四季映姫に触れてくれたのは読者の気持ちを汲んでくれたのだろうか
白衣男の幼馴染とかマジで忘れてた……もう何年前だろう
期待してます!

412以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/27(火) 23:45:57 ID:LJyb7vwM


413ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/01(木) 10:45:31 ID:1hiktW4U
目が覚めたとき、地上ははるか下にあった。気圧や空気の濃度の影響によって頭がふらつく。

男「どれくらい寝てた?」

文「ほんの二三分ですよ。人間にしてはずいぶんと回復が早かったですね」

気絶をすることは慣れている。なんてどうも自慢できないことだ。

文「レミリアさん率いる一団は捕捉しました。見つからないように高高度を超速で飛んでますけどあと数分で急降下します」

男「つまり?」

文「苦しいですよ」

こころなしか文が速度を上げ更に高度も上げた気がする。

冬の風が身を裂くように冷たい。まさかとは思うが嫌がらせではなかろうか。

文「では、行きますよ」

数分後、文が合図をし宙を蹴る。それと同時に頭の中を素手でかき混ぜられるかのようなめまいと不快感。

なんとか耐えて見せようと思ったのだが容易く俺の意識は暗闇へと落ちた。

414ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/01(木) 11:29:01 ID:1hiktW4U
次に目を覚ました時には冷たい地面に横たわっていた。

はっきりとしない頭のためか周りの音がひどく遠くに聞こえる。

その音は言い争っているような………いや、一方的に捲し立てているだけ………?

だめだ、はっきりしない。とりあえず無理をしてでも起き上がらなければ。

立ち上がろうとし、一度ふらついて顔面から地面へと崩れ落ちる。思ったよりもふらつきが酷い。しかしそれを理由に寝ているわけにもいかない。

男「うぇ……おぇっ」

「大丈夫ですか?」

男「え? ぁあ。なんとか」

話しかけてきた誰かの手を借りてなんとか立ち上がる。あたりを見回すと妖怪に囲まれていた。

「それで、あなたは一体?」

手を貸してくれた人を見る。赤い髪にチャイナドレスのような服装。

たしか紅美鈴さんだったろうか。

少し困ったような顔で俺を見ている。

415ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/01(木) 11:37:55 ID:1hiktW4U
男「説明したいからレミリア、さんに会わせてくれないか? それと一緒に射命丸が来たはずなんだけど」

美鈴「射命丸さんなら向こうに」

紅さんが指を指した先にいたのはロープでぐるぐる巻きにされ猿轡をかまされた射命丸だった。

よく射命丸を捕まえられたなと感心していると首筋にひやりとした冷たさと針でつつくような痛さを感じた。

「こいつらのために足を止めることは無意味よ。縛って転がせばいいわ」

美鈴「まぁまぁ咲夜さん、落ち着いてください。話を聞いてあげたって」

咲夜「こいつらが来たせいで今お嬢様と娘様が喧嘩なさってるの。処する理由はあっても許し計らう理由はないわ」

首筋にあてられた何かが更に押し込まれる。すでに痛みは針ほどでなく明確に苦痛になっていた。

男「レミリアさんに会わせてくれ。そのためにここまで来たんだ」

咲夜「お嬢様は忙しいの。それに文屋の仲間ほど信用できないものはないわ」

態度は変わらず言い争っても時間の無駄のように思える。言い争う前に転がされそうだが。

男「レミリアさんに会わせてくれ。レミリアさんは運命が見えるかもしれないが俺には未来が見える」

結局素直に事情を話すしかなく、未来の事についてある程度の情報を話す。

おそらく癪に触れることになるだろうと思ったが咲夜が何かを言おうとする前に小走りで駆け付けたメイド服を着た妖精が咲夜に耳打ちをした。

咲夜「………会われるそうよ。不愉快だけど案内はしてあげる。せいぜい貴方に奪われた時間分の価値はみせることね」

416ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/01(木) 14:06:54 ID:1hiktW4U
周りには多数の妖怪と妖精。逃げようにも逃げれそうにない。

もちろん逃げるつもりはないが、いざというときは覚悟したほうがいいのかもしれない。

男「結構いるんだな。紅魔館はそれほど大きくないと思っていたが」

咲夜「………」

答えてはくれないみたいだ。当り前だが警戒されているし、どこか嫌われているように思える。

案内されること数分。長身の男がさす巨大な日傘の下でレミリア・スカーレットは苛立たしそうな顔でこちらを睨みつけていた。

レミリア「あんたが謎の侵入者ね。うちの娘が止めなきゃ今頃あんたは妖怪の餌よ。感謝することだな」

レミリアがくいと顎で指す先にはレミリアの娘(正しくは“この”レミリアの娘ではないが)ウィルヘルミナ・スカーレットがいた。

彼女に視線を移すとスカートの端をつまんで恭しく一礼をした。

レミリア「ナイトウォーカーがわざわざ憎たらしい太陽の下を無理して進んでいるんだ。この苛立たしさを解消してくれるんだろうな? それができなきゃ道化らしく命乞いでもしてもらうわよ」

男「まさかウィルがかばってくれるとはな」

レミリア「なぜ我が娘の名前を知っているのかしら。それも愛称まで」

レミリア「あんたたち関係あるの?」

ウィル「私はないぞお母様」

男「俺はある」

417ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/01(木) 14:11:47 ID:1hiktW4U
レミリア「知り合いじゃないのになんで庇ったのよ」

ウィル「そんな運命を感じたから」

レミリア「私の運命にこいつなんていなかったわ」

と言ってレミリアは眉をひそめた。左右に首を振りながら唸っている。何か考え込んでいるように見えるが。

レミリア「私の運命にこいつなんていなかったのよ。何やったのウィル」

ウィル「私は何もしてない。神に誓ってもいいぞ」

レミリア「神に誓える子に育てた覚えはないわよ。じゃああんた何者なのよ」

何者かと聞かれれば答えには詰まる。

種族で言えば人間。立場で言えば寺の保護下。地底と寺に協力を仰ぎこの異変を解決しようとしているもの。

もっと言えば俺は………………

男「正義の味方だ」

418以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/04(日) 12:34:20 ID:8K31NVQU
支援

419以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/09(金) 00:24:14 ID:a4FJnYmg
乙です

420ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/10(土) 08:27:51 ID:gbUCXliQ
そうなりたかった。

霊夢の背中を追って、俺は正義の味方になりたかったんだ。

普通に考えれば道化た答えに対しレミリアはその小さな左手を顎に当て考え込んだ。

ウィル「絶対に会ったことない。絶対に知らない。だけど私はお前と会ったことがあるか? なんで私はお前を知ってるんだ?」

続いてウィルも頭をかしげる。ウィルヘルミナに関してはおそらくだがうっすらと前の世界と繋がっているのかもしれない。

もともとこの世界の住民じゃない故に、世界が巻き戻ったとしても完全にその影響を受けているわけではないのだろう。

そういえば彼女はどうしているのだろうか。

レミリア・フランドール・ウィルヘルミナに続く第四の吸血鬼。

吸血鬼でありながらレミリアに隷属するメイド服の名も無き彼女は。

レミリア「何見回してるのよ。逃がすつもりはないし、逃げ場もないわよ」

男「望んで飛び込んだんだ。逃げる気はないよ。ただ予想より妖怪の数が多いなって思ってさ」

レミリア「ふんっ。この私のカリスマにかかれば周囲の困っている妖怪を携えることなど納豆をかき混ぜることよりたやすいわ」

よくわからない例えをしながらレミリアが不敵に笑う。見た目は少女を越え幼女のように見えるがそれでも実力者であり強者なのだ。

まったく、見た目だけでは何も判断できない世界だな。ここは。

421ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/10(土) 08:39:11 ID:gbUCXliQ
レミリア「正直なところ仲間になれと言われたところで納得できるだけの材料がない」

レミリア「私は主だから、当り前かもしれないけど付き従ってくれる者達がいるのよ。つまりそいつらの命も私が担ってるってわけ」

レミリア「つまり私の価値はその分だけ重くなるってこと。わかるわよね?」

分かる。上に立つものとして当然の考えだ。上に立つものは立場は上であれど、付き従う皆を背負わなければならない立場。

だが説得をあきらめるわけには―――

レミリア「ま、いいわよ。仲間にはならないけど協力はしてあげる。案内なさいな」

男「!?」

今までの問答をあっさり覆される。いきなりの手のひら返しに隣にいたウィルも大きく目を見開いていた。

レミリア「くすくす。とてもびっくりしたって顔してるわね。その顔が見たかったのよ。あんたなんか偉そうでムカつくし」

レミリアが子猫のようにケラケラと笑う。目を細めにんまりと笑うレミリアの考えが読めなかった。

レミリア「さっきのは理論の話よ。だけど直感はまた別の話。直感はあんたと一緒にいった方が面白いってにやにやと笑ってる。あんたに一つ教えといてあげるわ」

レミリエがぴんと人差し指を立て、唇にあてる。

レミリア「付き従うすべてのものを背負うってことはそいつらを私の一存で我が侭に扱えるってことよ?」

そういって再びレミリアはケラケラと笑い始めた。

422ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/10(土) 08:45:32 ID:gbUCXliQ
男「ちょ、ちょっと待て、まだ論議にすら入ってないぞ。全てをすっ飛ばして」

レミリア「あら、仲間に引き入れたいんじゃなかったの?」

男「そうだが、そんなことはまだ言ってないじゃないか」

そう、まだレミリアに対して論議すらしていない。

レミリアの一方的な捲し立てを聞いてるだけで

ただそれが俺の考えを読むかの如く当てているだけで

レミリア「あんた顔にでやすいのよ。仮面でもかぶったらどう?」

ウィル「私仮面もってるぞ」

仮面をかぶったとして、そんな人間が信用されるわけない。いやそういう話じゃなくてだ。

男「直感なんかで、それだけで決めていいのか!?」

レミリア「文句がある奴はぶっとばすわ。物を知らないあんたのもう一つこのレミリア先生が教えてあげるわ」

レミリア「理論なんかすっ飛ばして直感だけで正解を探し当てる能力をね」

レミリア「カリスマっていうのよ」

423ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/10(土) 08:52:53 ID:gbUCXliQ
レミリア「咲夜!!」

レミリアが両手を数度打ち鳴らす。すると一度目の拍子で咲夜がレミリアの横に現れた。

いつ消えたのかも気付かなかったがいつ現れたのかも気付かない。

咲夜「お呼びでしょうかお嬢様」

レミリア「全軍撤退〜 目標はどこいきゃいいんだっけ?」

男「え、あ。地底だ」

レミリア「ってことらしいわよ」

咲夜「!?」

能面を被ったかのように無表情だった咲夜の顔が珍しく驚愕に歪む。

なぜそうなったかをレミリアに問うがレミリアの追い払うような手付きで返され咲夜は言葉を失っていた。

結局首を縦に振る事しかできなかった咲夜は去り際に俺を刺すような視線で睨んできたが悪いのは俺じゃない。

ウィル「地底初めて。温泉いこ。お母様」

レミリア「いいわね〜。流水はクソ喰らえだけど、温泉は別よね」

姦しく楽しそうにはしゃぐ二人を見て何か勘違いをしているのではないかと不安になったが、不思議と信頼感もあった。

聖さんや映姫さんとはまた別のベクトルで頼りになりそうだ。

424ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/10(土) 10:08:29 ID:gbUCXliQ
レミリアのようにコロコロ変わる進路だったが、結局は無事に事もなく進路を地底へと変えることができた。

ただ進行している妖怪の軍団に手を出せる勢力はいなかったらしく道中事もなく進むことができた。

文「あやや。よくわかりませんがうまくいった、ということでいいんでしょうか」

男「まだうまくいってないよ」

文「と、いうと」

問題はこの後だ。

俺の独断で連れてきたレミリアたちの軍勢。それを受け売れることは容易ではないはず。

男「聖さんはともかく勇儀さんが納得しますかね」

文「なるほど、そういうことですか。まぁ納得はしないでしょうね、こういうのもなんですが地底は結局引きこもりのあつまりですからね」

勇儀さんたちには言わないでくださいよと射命丸が付け加える。言おうとは思わないがあの勇儀の陰口を言うあたり案外不真面目なのだろうか。

425ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/03/10(土) 10:12:03 ID:gbUCXliQ
男「きっとレミリアならなんとかしてくれるでしょうよ」

文「あや? 会ったばかりにしてはずいぶんとあの小娘を信用してるのですね」

男「一番やりやすい相手ではありますよ。カリスマって呼ばれるだけはあって」

文「あの求心力と人心掌握術は見習いたいものです。人妖混合の紅魔館を纏めるだけありますね」

男「たしかに」

各勢力はそれなりの理由があって集まっているものの、紅魔館だけはそうじゃない。

レミリアを楔として繋ぎとめられた一団。レミリアに惹かれたものだけが集まる集団。

寺よりは緩く、地底よりは強固なつながり。そこは不思議と心地が良い。

男「もしもの時は勇儀さん説得してくれないか?」

文「嫌です。自分でしてくださいよ」

だろうな。正直なところあの殺気をまた浴びるのは勘弁したいところだが。

426以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/13(火) 20:56:05 ID:ZRbPQkXI
ちょっとずつ纏まっていってますね。更新乙です

427以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/17(土) 23:25:24 ID:pk8YPUfc
支援

428以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/02(月) 12:52:08 ID:wROZjE9w
支援

429以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/24(火) 16:02:02 ID:CZBxVtF6
いい感じに頑張ってるな
支援

430以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/06(水) 20:29:29 ID:x3dbdAIA
まだまだ待ち申す

431以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/15(日) 02:37:23 ID:K5HsYRfI
支援

432ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/26(木) 15:41:09 ID:ArKksw8Y
レミリア「まったく東方の鬼は頭が固いわね。もしかして筋肉で脳みそができているのかしら? もっと私みたいに柔軟性を持つべきじゃなくて? 身内だけで固まるのを良しとするからこんな陰気でかび臭いところで満足するのよ。私をみてごらんなさい、あの憎々しい太陽の下すら闊歩できるナイトウォーカーよ? まさしく私が新時代的」

勇儀「あぁ、そうかい。うちらはあんたみたいなへにょへにょの芯は持ってなくてね。日傘をさして歩くだなんて軟弱な解決策を選ぶ奴はいねぇのよ」

水と油の二人を合わせると火に油を注いだように燃え上がる。そしてその業火に焼かれるのはこの状況を招いた俺で(射命丸はとっくに逃亡した)

近くにいたから連れてきたにとりもすでに泡をはいて気絶しており、役には立ちそうにない。

人を小ばかにした笑みを浮かべぺらぺらと勇儀を嘲笑するレミリアと、こめかみに血管を浮かべそれに返す勇儀。いっそのこと殴り合いでもしてくれたほうが吹っ切れるかもしれない。

ドンッ!!

男「ひぃ!」

腹に響く重音が響く。いまだぺらぺらとまくし立てるレミリアに対し、勇儀が机を叩いた音だった。叩かれた重厚な木製のテーブルは砕けこそしなかったがひびが蜘蛛の巣状に広がっている。

勇儀「地底の連中は逃げねぇ、裏切らねぇ、媚びねぇ。そんな奴らだ。お前らはそれを守れるのか? おい」

レミリア「ふんっ」

シュガッ!!

男「ひぁっ!」

レミリアがその小さなかかとを机に勢いよく落とす。ひびが入っていた机は耐え切れずに細かな破片となり砕け散った。

レミリア「私たちは多種多様。勘違いしないで頂戴。あんたたちが私たちを受け入れるんじゃないの」

レミリア「私たちがあんたたちを受け入れるのよ」

433ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/26(木) 15:41:44 ID:ArKksw8Y
話は平行線。だけど交わっているようにも見える。

交わらないのはどちらがどちらの上に立つかでもめているからだ。

それは集団の長として立つものの当然の考え。

すべての責任を自分が負うためにする長の当然の行動。

結論は変わらないのに過程が違うだけで話がまとまらない。

喧々諤々終わらない会話に時間が食われていく。折れない二人によって。

この事態を招いた俺がどうにかすべきなのかもしれないが打つ手はない。

結局ただの傍観者になるのみ。

男「………はぁ」

勇儀「なにため息なんかついてるんだ、男。お前がこいつらを連れてきたんだよな」

レミリア「言ってあげなさい男。どちらが相応しいのか。もちろんカリスマに溢れる?」

男「え?」

434ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/26(木) 15:42:26 ID:ArKksw8Y
ため息に業火が引火した。火が一瞬で俺を取り囲む。

どちらが相応しいのか。

心情的にはレミリアのほうが相応しいと思う。

だけど地底の奴らを正しくまとめ切れるかというと不安もあり

つまり簡単に答えは出せない。

それが俺の意見だけどそんな回答をすればおそらく二人の拳が飛んでくるだろう。

苦笑いと冷や汗だけが流れる。俺はただの人間だぞ。未来を少し知ってるだけの。

強くなろうとしてるただの―――

文「あやや! 大変ですよ!!」

男(………ほっ)

この空気をぶち壊したのは珍しく額に汗をかいて飛び込んできた射命丸だった。

突然の乱入に当然のことながら矛先は一瞬で射命丸に向く。そんな二人からの威圧を受け、射命丸は上ずった声を上げたが、ひと呼吸を置いて勇儀の手を取った。

文「見つけたんです! 来たんです!!」

勇儀「なにがだい」

文「はたてとっ 椛がっ!!」

435ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/26(木) 16:21:42 ID:ArKksw8Y
会談は中断。はたてが誰かは知らないが、椛がだれかは知っている。

千里眼を駆使した、天才軍師………確かそう呼ばれていたはずだ。

ちらりと見かけたときは鋭く厳しそうな顔つきをしていたが、今は年ごろの少女のように安らかな寝顔を浮かべている。

肌には軽いすり傷が見えるがひどいケガには見えない。

ひどいケガは

はたて「あっはっは。もうだめかと思ったわよ」

右羽が折れているこの少女だ。声をだして笑ってはいるがその笑顔はどこか空虚に感じる。おそらく痛みを我慢しているのだろう。

いくら丈夫な妖怪といえど、この傷が平気だとは思えない。

文「こんな無茶して、死んだらどうするつもりですか!!

はたて「そんなに怒らなくっても。生きてるんだからいいじゃない。それに死んでもあそこから逃げたかったのよ」

はたて「わかるでしょ、天狗連中がどんな奴らかって。あいつらは椛を道具としか見てない。椛の命令には従ってるけど心の中では椛を見下してる。自分より惨めな白狼天狗だから。女だから。そんな理由でね」

はたて「いくつもの戦場を休みなくつれまわせ、そのたび体も心もすり減っていく椛を………私はもう見てられなかったのよ」

はたての明るい笑みが崩れ、憂いを帯びた笑みへと変わる。おそらくこっちが本当の表情で

その嘲笑はどこか自分自身に向けられているように見えた。

436ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/26(木) 16:42:04 ID:ArKksw8Y
勇儀「また大所帯になっちまったね」

レミリア「で、これをどうするの? 仲間を裏切って逃げたこの二人を。私なら受け入れるわ」

勇儀「………はっ。こいつらは元から私たちの仲間だ。帰ってきただけなのに受け入れない理由がないだろう」

レミリア「詭弁」

勇儀「なんとでもいいな。それにはたては自分の命を懸けてまで友を守ったんだ」

勇儀「その強さと心意気に惚れなきゃ鬼じゃないね」

レミリア「お涙頂戴に弱いのね。鬼の目にも涙ってやつかしら」

勇儀「減らない口だね」

レミリア「あら、言葉は無限だと思ってたけれど。もしかしてあなたはしゃべりすぎると死ぬ妖怪?」

レミリア「まぁ、そんなことより。あなたは一つ勘違いをしているわ」

レミリア「この子たちは強くない。弱いわよ」

勇儀「………弱くないさ」

レミリア「弱いわ。私が撫でれば死ぬくらいにね。だから守るのよ」

レミリア「私は過保護でね、一度好きになった相手を守ってあげるの。弱者の叫びを強者の雄たけびと聞き間違えるあなたと違ってね。現実での強弱を見抜きなさい。幻想を見続けると現実が犠牲になるわ。あなたはどうなの? この子たち弱者を守れる覚悟はあるの? 強者として」

勇儀「………」

437ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/26(木) 16:54:55 ID:ArKksw8Y
はたての言葉と表情に射命丸は言葉を返せなかった。

なぜかは俺にはわからない。はたてが射命丸を非難しているわけでもないのに下を向いて唇をかんでいる。

男「えっとさ、ここで話すよりも先に治療したほうがいいんじゃないのか? 痛いだろ、それ」

はたて「見た目よりは痛くはないわよ」

男「痛いんだな?」

はたて「………………すっごく」

はたてが頷く。当たり前だ。この言葉を素直に受け入れるバカはいない。

きっとこのはたては手足が折れても同じことをいうだろう。心配をかけさせないために。

だけどそれは無意味なことなのに。余計人の心をかき乱すだけなのに。

438ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/26(木) 16:59:42 ID:ArKksw8Y
男「射命丸、病院……かなんかに連れて行ってやってくれ」

文「あなたに言われなくてもわかってますよ。はたて」

射命丸が差し伸べた手をはたてが掴もうとして一瞬躊躇していた。すぐに笑顔を作って、射命丸の手をしっかりと握る。

はたて「ありがとう。文」

文「どういたしまして………はたて」

439ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/26(木) 17:00:23 ID:ArKksw8Y
文「………あなたは椛をどこかへ寝かせてあげてください」

はたて「変なことしちゃだめよ?」

男「しないって」

はたてはからかうようにくすくすと笑った。

射命丸の肩を借りてゆっくりと射命丸に連れられて行く。引きずっているところを見るとどうやら左足も怪我しているみたいだ。

男「さて、と」

椛に目を向ける。

はたてが命を懸けてまもった相手。

おそらく美しい白髪をしているのだと思うが、今は泥や汚れにまみれ黒く染まっている。

男「……誰かに綺麗にしてもらったほうがいいな」

傷口に雑菌が入ると大変だ。妖怪でもそうなのかは知らないけどきれいにしておくに越したことはない。

自分でやる?

やるわけないだろ。はたてに命を懸けて殺されるわ。

いや、たぶんはたてどころじゃないわ。

440ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/27(金) 10:57:12 ID:sET4db6.
誰の元に連れて行けばいいのか。確か河童のにとりが妖怪の山にいたはずだ。射命丸とも知り合いなのだからきっとこの子とも知り合いだろう。

ひかがみと脇の下に手を通し抱き上げる。

抱き上げた体は不思議なほど軽い。意識がないとは思えないほど軽かった。

まるでなにか大切なものが抜けているかのように。

汚れた体は薄暗い地底の闇に溶けていきそうで、俺は少し怖くなって腕に力を込めた。

彼女から小さく吐息が漏れる。

急いで安全なところへ連れていこう。

なにかに奪われる前に。

441ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/27(金) 11:07:09 ID:sET4db6.
男「はぁ、はぁ、はぁ」

いつの間にか走っていた。息を切らせて飛び込んできた俺を見て白衣男が目を丸くしていた。

白衣男「! そいつは椛か!?」

男「知り合いか?」

白衣男「あぁ、知りあいだ。しかしなぜここに? 妖怪の山にいたはずだろう」

白衣男に事情を話すと、唸るような声で小さく呻いた。

白衣男「よかった、がまずい」

男「何がまずいんだ?」

白衣男「天狗はご存知の通りプライドが高く性格が悪い! もちろん例外もあるがたいていはそんな奴らの集まりだ。報復がないとはいいきれん」

男「でも、もうこっちは妖怪の山に宣戦布告しているようなもんだしな」

妖怪の山の子供たちはこっちが預かっている。すでに恨みを買っているのだから今更ではないかと思う。

白衣男「子供は子供だ。楯にして交渉を迫らなければそう事にもしないだろう。重要なのは子供たちが連れ去られたことより、その事実が知れ渡ることが問題ということだ。椛の場合消えた事実を隠しておくことはできない。椛が雑兵なら問題はないのだが、一応指揮官という立場にあるものが消えてしまっているからな」

白衣男「まぁ、それは後で考えよう。今は椛の手当てをしなければな。にとり! おーいにとりー? ………みとりー!!」

あ、にとりは気絶したままだった。

442ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/27(金) 11:13:50 ID:sET4db6.
みとり「………手当は………終わったわ」

椛をみとりに預けると、その雰囲気に似合わず(と言ってしまっては失礼かもしれないが)テキパキと椛の汚れを落とし、傷の手当をしていった。

みとり「………服は」

白衣男「あぁ、服なら見た感じにとりの服が」

みとり「………見るの禁止」

ズビッ

白衣男「んぎゃーっ!!」

みとりがその細い指を容赦なく白衣男の眼球に差し込んだ。

男「お、おい。大丈夫か白衣おと―――」

みとり「………禁止」

ズビッ

男「言葉で十分ではーっ!?」

どの生物でも鍛えることができない場所を攻撃するのはやめてほしい。

人間、妖怪に限らず共通言語でしゃべっているのなら意思疎通はできるはずなのだから。

443ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/27(金) 11:40:05 ID:sET4db6.
白衣男から渡された酒を一口煽る。

酸味を感じる香りで、味は癖のない辛口。飲みやすくはあるがそれ以上に

男「………うっ」

アルコールが強烈だった。

白衣男「鬼が飲む酒を薄めたやつだからな」

白衣男が笑う。

頭がぐわんと揺れ、体中の血管が広がっていくかのような感覚を覚える。

薄めたとしてもかなりの強烈さ。

味は日本酒に近いのに、度数はおそらく焼酎を凌ぐ。

なんてものを飲ませてくれるんだ。

白衣男「さて、一つ聞きたいことがある」

男「なん、だ?」

白衣男「お前はどこを目指す。調和か支配か。この戦いをお前はどう、止める?」

男「俺は………止めないさ、止めるのは―――」

男「れい、む」

444ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/27(金) 11:49:59 ID:sET4db6.



















目を覚ます。夢は見なかった。

意識が戻るのと同時に頭痛とめまい、そこからくる吐き気。

状況を思い返すと、白衣男から渡された酒で酔いつぶれたらしい。

あんな酒飲んで平気でいられるか。

445ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/07/27(金) 11:52:56 ID:sET4db6.
星「目を覚ましましたか」

男「ほ、星さん!?」

気づかなかったが俺は布団に寝かされていたらしい。

正座をしてこちらをのぞき込む星さんの隣でナズーリンが呆れて俺を見ている。

ナズ「酒を飲んで倒れた君を、酒屋のとこの甲冑をきた変な奴が連れてきてくれたんだよ。まったく酒に飲まれるというのは愚かな行為だ。恥を知り給え恥を」

男「あれは、なんというか騙されたに近いな。注意してなかった俺も俺だけど」

覚えているのはこの戦いの終わり。

現実的に考えれば俺たちで戦いを終わらせるが正しかったのだろう。なのになぜか脳裏によぎったのは孤独に戦う霊夢の姿だった。

男「………なぁ、星さん。ナズーリン」

星「はい、なんでしょう」

ナズ「なんだい」

男「俺、頑張るよ。頑張ってみんなのために頑張るから」

ナズ「それは当たり前のことだ。そんな当たり前のことを今更口に出す必要はないね」

星「ナズーリン」

ナズ「でもまぁ。覚悟を決めないものを愚者と呼ぶなら、君はどうやら愚者よりはましのようだね」

446以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/27(金) 21:58:07 ID:ye1INuKg
キターーーー!!!

447ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/02(木) 13:53:14 ID:dMRob1y2
ナズーリンが珍しく褒めてくれた。照れ隠しの悪態を交えながらだけれど。

その頬はかすかにだが赤く染まっており相変わらずのその性格がほほえましく感じる。

星「あなたは今まで頑張っていましたね。そしてこれからも努力をすると誓いを立てました」

星「そんなあなたに対し私はなにもしてあげられないことを歯がゆく思います」

ナズ「相変わらずご主人は自分を責めるのが得意だね。こいつはご主人様に救われているよ。救われていないとは言わせないさ。ねぇ」

男「星さんには助けられてもらってばかりです。俺を信じてくれて、支えてくれて。なにもしてないだなんてそんなことありませんよ。感謝しています。ナズーリンにも」

ナズ「なっ、ふ、ふんっ! ずいぶんと殊勝な態度だね。気絶をして少しは素直になったのかな?」

事実だ。今まで俺の助けになってくれた人すべてに感謝をしている。だからこそみんなを助けたい。その数がどんどん膨れ上がっていつか抱えきれなくなる時がくるかもしれないが、それでも今は助けれる人を助けていたい。

ナズーリンに言わせれば甘い節操なしの人間らしい。長い時を生きてきた妖怪からみればその通りなのかもしれないがそれでも俺は人間らしく、無茶を無茶と思わずに刹那的でもいいから生きていたい。

なんでもない人間の俺が唯一人生に意味を持てるのが今なんだから。

448ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/02(木) 14:14:40 ID:dMRob1y2
次の日のことだった。

俺はあんな酒を飲ませてきた白衣男に文句の一つでも言ってやろうと息巻いて白衣男がいる酒屋へと向かった。

しかし白衣男はおらず、代わりにいたのは河童のにとりだった。

今の憤りをにとりに熱く話すがにとりは困惑するばかりで、この思いに同調してくれやしないし、この気持ちをぶつけるべき相手の居場所もしらない。

それどころか射命丸達や甲冑を付けた人もおらず、みとりは家の奥に引きこもっているらしい。

男「ったく。あれは絶対わかってやってたな。酔いは良くも悪くも人の本音を引き出すがだからと言って自白剤的な使い方をするとは人間の考えとはおもえん」

にとり「は、あはは………。えっと君の気持ちはよぉくわかったけど、それを私に話されても困るというか、なんというか。いや盟友の話を聞くのが苦痛ってわけじゃないんだよ? えぇっと、なにがいいたいのかというと………えと、あはは」

男「言いたいことがあるならはっきりと言ったほうがいい時もあるぞ。嘘も方便でよく使うこともあるが」

素直に言っていけない場合のほうが多いとは思う。

にとり「君ほど度胸はないんだよぉ………。というか君はお世辞でも強いとは言えないのにその強者に立ち向かっていく意思はどこから湧いてくるのかなぁ。鬼に吸血鬼にあの尼に。
まるで自分の命がいくつもあるかのように………人間なんだよね?」

男「どこからどう見ても人間だろう」

にとりも一見人間に見えるし、幻想郷の妖怪は人間にしか見えないものも多い。なので人間らしい見た目というと疑問がわくが、今までの人生の記憶からして妖怪ではないことは確かだ。

449ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/02(木) 14:32:32 ID:dMRob1y2
あ―――ただ

男「そうだ。にとりならこれの弾を作れるんじゃないか?」

紫から渡された時間を戻す拳銃。俺の生命線だった銃。俺の唯一の人とは違う部分。

弾切れのため、おどし程度にしか使えなかったが銃弾さえ手に入れば強力な武器になる。霊夢と小町が命を落としたときしか使えないが、それでもだ。

河童の技術力は確かなものだと聞いている。外の世界の科学とは違う魔法のような化学力だと。

にとり「ん? なんだい、これは」

男「時間を戻す銃だ。弾切れだから使えないけどな」

にとり「えっ、そんなものが……いやないとは言い切れないけど、とんだ大妖怪クラスでもそれは………うーん」

しかし実際に経験している。だからこそ俺は未来を知れている。

にとり「ちょっと見せてもらうよ」

にとりが眉をひそめながら俺から拳銃を受け取る。しばらくの間回してみたり解体してみたり天にかざしてみたりしたにとりだったが拳銃を机に置いて首を横に振った。

にとり「これ、ただの拳銃だよ。たしかに抽筒板が歯車の形になってるのは珍しいけど、珍しいだけのただの銃弾だよ。時間を巻き戻せるだなんて、無理だよ」

――――――え?

だけど、その銃は今まで何度も時間を巻き戻して。

………科学的なものではない?

450ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/02(木) 14:53:07 ID:dMRob1y2
考えてみればそれは当然のことだ。時間の逆行はSFの題材としてよく用いられるがその現象は科学よりも魔法的なものに近い。

ならば技術力に長けた河童より、魔術に富んだ誰かに見せたほうがいいのかもしれない。

魔術に長けるといえば―――パチュリーだ。他にはアリスがいるが今ごろアリスは幽香と一緒に逃げているはずだ。

レミリアに頼めばパチュリーと会わせてくれるだろうか。

男「ちょっと、パチュリーのところに行ってくるか」

にとり「それを持って? 本当に魔術的なものなのかなぁ。確かに軽くそんな残滓を感じるような、感じないような気がするけどさぁ」

どちらにせよ、俺が経験した時間逆行の原因はわかるかもしれない。

もしこの拳銃が原因でないのなら

俺はだれでも救えるようになるのかもしれないのだから。

451ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/02(木) 16:36:10 ID:dMRob1y2
レミリアは主を失った屋敷に陣取っている。つまりはさとりの屋敷にだ。

以前見たときは庭は荒れ果て、バラは鬱蒼と生い茂る雑草に埋もれていたが雑草はすべて抜かれ、綺麗になっている。

色とりどりの薔薇が咲き乱れているが、その中でも優しいまなざしを向ける薄青色のバラに眼を惹かれた。

美鈴「見たことない品種のバラですよね。すごい綺麗で優しい青色。助けてあげれて何よりです」

いきなり真横から声が聞こえる。美鈴さんが足音も気配もなく真横にいた。

美鈴「ご用はなんでしょうか。男さん」

男「こんにちは、美鈴さん」

美鈴「………? 私名乗りましたっけ?」

男「あー、えっとレミリア、さんから聞いてます」

452ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/02(木) 16:40:33 ID:dMRob1y2
俺が美鈴さんを知っているということ。それは美鈴さんの未来を知っていること。

なら知らせなくていい人には俺のことは知られなくてもいい。

美鈴「なるほど。今日はどんなご予定ですか?」

男「パチュリー…いえ、レミリアさんに用事がありまして」

美鈴「わかりました。あ、お嬢様は今は温泉にいるのでご案内しますよ」

男「温泉に?」

美鈴「はい。ご令嬢様と妹様とお風呂に行かれました」

男「………豪胆ですね。こんな状況なのに」

美鈴「温泉が目の前にあるなら入らない理由はないんじゃないかしら? その温泉が凶暴な人食い温泉なら別だけど、とお嬢様なら仰りそうですね」

確かに。したり顔で言いそうだ。

だけどその通りで、温泉に入ったからと言ってなんら不利益があるわけでもない。

その通りなのだが、人というものは無駄なことをしてしまいがちだ。

俺なら気にせずゆっくり入浴を楽しむだなんてことできそうにない。

453以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 02:18:43 ID:t/Gn.ioI
待ってた

454ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/08(水) 14:33:51 ID:i1DbwrZ.
美鈴さんに案内され、温泉へと向かう。

もちろん温泉の場所は知ってるが、俺が一人で会いに行ったと美鈴さんに付き添われていったとじゃあ印象は全く違う。ある程度認めてくれた(と思いたい)とはいえ、楽しく過ごしている時間を邪魔できるほど親密な関係にはなっていないからだ。

美鈴「あの、変なこと聞きますけど。お会いしたことありますか?」

男「いえ、会ったことはないと思いますが」

少なくとも今回は。

美鈴「すんすん。でもなんだか嗅いだことのある匂いだったので。どこか懐かしいような」

男「はぁ、そうですか」

前回の美鈴さんにも同じようなこと言われた気がする。俺にはわからないが何かしらのフェロモンでも出ているのだろうか。

男「って、匂いで判断ってできるもんなんですか?」

美鈴「私、達人なので」

自慢げな顔をしているが、あまり意味は分からなかった。妖怪は人間より嗅覚が発達しているのだろうか。

ためしに深呼吸をしてみたが、土ぼこりとかすかなアルコールの匂いしかしなかった。

455ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/08(水) 15:22:19 ID:i1DbwrZ.
美鈴さんはそのあとも首を傾げ、唸っていたが結局思い出せなかったらしい。

俺に心当たりもないので人違いかなにかだと思うが、どこかひっかかるものはある。

まぁ、何が引っ掛かっているのかすらわからないから美鈴さんにひかれてなにか心当たりがあるように感じるだけだろう。

男「もしかしたら何か運命でもあるのかもしれませんね」

ときには直観的に感じたものが正しい道ということはあるものだ。レミリアがその通りに我が道を進んでいる通り、もしかしたらこの感覚は俺を導くなにかなのかもしれない

美鈴「はっ。軟派はだめですよっ。私には夫がいるのでっ」

腕でバッテンを作り、拒絶の意思を示す美鈴さん。たしかにそうとらえることも可能、というかどちらかというと口説き文句にしか聞こえないがそういうつもりで言ったのではない。

笑いながらため息をつき、その誤解を解く。

そもそも出会ってすぐの人を口説くような性格ではないし。

美鈴「なるほど。でもなんでしょう、直観とかじゃないんですよねぇ」

再度首をかしげる美鈴さん。その答えがわかるときは来るのだろうか。

男「もうすぐ温泉につきますよ」

美鈴「あっ、本当ですね。お話をしていると時間が経つのが早く感じますね」

美鈴「あとは寝てても時間が経つのが早く感じて、昼寝をしたらいつのまにか夜だったりしますよね」

しない。

456ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/08(水) 15:31:02 ID:i1DbwrZ.
旅館に入り、美鈴さんがずんずんと温泉に向かって歩く。

ほこりにまみれていたはずの廊下はいつのまにか掃除され、メイド服を着た妖精や小さな小鬼が忙しなく動き回っていた。

もう数日もすれば再び旅館として動き出すことが可能に思えたが、おそらくレミリア達のためにこの騒動は起こされているのだろう。

美鈴「お嬢様はこの中にいらっしゃいます」

ひらひらと揺れる赤い暖簾。そこには達筆で「女」の文字。

妖怪よっては性別による常識や倫理観に縛られないのかもしれないが、俺は人間であり、男である。

つまり女湯に入ることはできないということだ。

男「………どうしろと?」

美鈴「あっ。そうですね。入れませんね、あはは」

その通りだ。いくらレミリアが幼児体形であったとしてもだ。

それに、レミリアが素肌を人にさらすだなんてこと許しそうにないしな。

せっかく培った関係をこんなことで壊そうとは思わない。

本当だよ?

美鈴「男性用の水着持ってきますね!」

男「待って! そういう問題じゃないですから!!」

457ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/08(水) 15:44:32 ID:i1DbwrZ.
美鈴「でしたら上がられるのを待つしかありませんね」

男「初めからそのつもりでしたよ」

覗きの趣味はない。堂々と入っていけば覗きではない?

確かにその通りかもしれないが、それはそれでまた別の犯罪です。

いや、魔理沙とかぬえとは入ったことあるよ? でもそれはまた別じゃない?

って、俺はだれに言い訳をしてるんだ。

咲夜「よかったわね。もし一歩でも入ってたら切り取るところだったわ」

男「ひっ」

突然首元にあてられる冷たい何か。十中八九ナイフ。

いつの間にか後ろに立っていた咲夜が首にナイフを当てていた。

確かに初対面の印象はよくなかったかもしれないが、咲夜を害するような行動をとったつもりはない。

そして

458ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/08(水) 15:51:05 ID:i1DbwrZ.
吸血鬼「ウィル様を覗こうものならがおーしてたところだぞ。がおー!」

眼前にはこちらに鋭い目と尖った歯を向けるメイド服を着た吸血鬼。

前門の虎後門の狼よりも恐ろしい二人に挟まれていた。

男「下心は一切ないんで、助けてください」

美鈴「お客人に無礼を働いたらいけませんよ二人とも!?」

咲夜「今は客人として認めてあげるわ。だけどこの暖簾を一歩でも跨いだら」

吸血鬼「練って捏ねて肉団子にして、ご飯にするぞ」

なぜこうも信用がないのだろうか。

というかここに案内したのは美鈴さんなのに。

咲夜「お嬢様のお体を見るだなんて、下賤のものには許されないことで」

レミリア「いいお湯だったわ! 広い風呂は最高ね!!」

ウィル「お母さま! 服着て!!」

咲夜「ふんっ」

男「また目つぶしかっ!!」

咲夜に抱きしめられるようにして両目にナイフの柄をえぐりこまれた。一瞬裸のレミリアが見えたが、覗いたわけじゃないし、事故みたいなもんだし、興奮しなかったし、だから俺に非は一切ないはずなのに。

459ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/08(水) 16:09:25 ID:i1DbwrZ.
レミリア「なるほど、パチュリーに会いたいのね」

男「それをお願いしにきただけです。覗きにきたわけじゃありません」

なぜか下手人のごとく囲まれ事情を話すことになった。咲夜と吸血鬼は完全に敵を見る目で俺を見ている。こっちの完全な味方は美鈴さんのみであり、その美鈴さんも見当違いな弁護しかしない。

被害者(?)であるレミリアはあきれた目で俺を見てるし、娘のウィルヘルミナは娘を守る母のように後ろからレミリアを抱きしめている。

レミリア「こっちに落ち度があったんだし、怒るようなことじゃないし、というかなんで縛って転がされてるの?」

実にその通りである。

咲夜「こいつはお嬢様の裸を見ました。有罪です」

吸血鬼「ウィル様を狙ってる可能性もある。有罪だ」

レミリア「その理屈なら私が全裸で外を歩けば全員犯罪者にできるわけね。ナイトウォーカーであってストリーキングじゃないからしないけどね。それに全裸で歩いて、見た人を有罪にできるって私はゴダイヴァ婦人かっての。ゴダイヴァ婦人もピーピングトムに見せつけたわけじゃあないからちょっと違うわね………いや、この騒ぎ何よ」

レミリア「とにかく、咲夜と吸血鬼は下がる事。美鈴は書斎にこもってるパチュリーのところへ連れて行ってあげて。それとこれ以上の男への私の許可なき暴行は一切禁ずるわ」

話が分かる吸血鬼だ。勇儀さんよりは話しやすいがその周りが厄介でもある。勇儀さんもこっちに落ち度が一切ない状態で暴力をふるうことはないから、常識的なだけかもしれないが。

咲夜「わかりました」

レミリア「仕置きは暴力の範疇よ?」

咲夜「……………わかりました」

なんで咲夜は俺に暴力を振るいたがるんだ。

460ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/08(水) 16:23:44 ID:i1DbwrZ.
咲夜と吸血鬼から睨まれつつ、美鈴に案内されてその場から去る。

どうやらパチュリーがいるところはさとりさんの書斎らしい。

書斎について重い扉を開けるとまだ甘い匂いが残っていた。

先日のこと。たった1時間程度のこと。

だけどそれでも俺が放った最大の一手。

上手く、さとりさんを救えたのだろうか。

美鈴「パチュリー様―。お客人ですよー」

「………」

反応はなかった。

いや問題は反応がなかったことじゃない。

美鈴「わぁ。本の山ですね」

さとりさんの書斎がすっかり荒れていたことだ。

男「一体なにが?」

「……む、むきゅ。そ、そこにいる誰か、た、助けて」

男「本の山がしゃべった!?」

461以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/11(土) 17:09:57 ID:2UubuVwg
ついに紅魔館勢の登場、そして主人公は能力持ちだった?...

462ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/22(水) 16:17:16 ID:NwFz.mzQ
美鈴「パチュリー様!?」

もちろん本の山がしゃべるわけがない(幻想郷ならありえそうな話だが)。

なぜか本の山の中に埋もれているパチュリー・ノーレッジを本をかき分けて助け出した。

パチュリー「し、死ぬかと思ったわ」

パチュリーは本の雪崩に飲み込まれたせいか、あちらこちらに擦り傷やあざを作っていた。しかしどれも重大なものではなさそうで安心した。

パチュリー「あなたたちちょうどいい所に来たわね。あのままだと小悪魔が戻ってくるまで埋もれたままだったわ。それで、あなたは、えーっとレミリアのお気に入りだったかしら?」

男「お気に入りではないだろうけど、レミリアが話す人間ならおそらく俺のことだと思う」

美鈴「ところでなぜパチュリー様はあのようなことに?」

パチュリー「興味を惹かれる本が多くてね。高い所にある本をとろうとしたら成大にひっくり返ってこの様よ。いつもは小悪魔にとってもらってるから油断したわ」

美鈴「体を鍛えましょうパチュリー様。筋肉がその事件を解決してくれますから」

パチュリー「筋肉ができる前に私の命が燃え尽きるわ。確かに体を鍛えたほうがいいとは思うのだけど、実行に移すのは難しいものね」

美鈴「ところで小悪魔さんはどこへ?」

パチュリー「さぁね。気が付いたらいなかったわ。あの子たまに私に意味もなく反抗するときがあるから」

パチュリー「レミリアと違って従者に恵まれないわね。私は」

はたしてレミリアは従者に恵まれているのだろうか。

463ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/22(水) 16:27:55 ID:NwFz.mzQ
パチュリー「………体が痛いわ」

男「なら薬を貰って―――」

こようとする前にパチュリーがさっと軽く腕を振るった。

青い光。水疱のようにはじける光がパチュリーの体を薄く覆うと痣や擦り傷がみるみる内に消えていく。

さすが、魔法使いだ。

あっけにとられている間にパチュリーの肌は元の不健康な青白い肌へと戻っていた。

美鈴「その魔法を使って筋肉痛を治しながらトレーニングをすればいいのでは?」

さっきから美鈴さんの謎の筋トレ押しはなんなんだろう。間違ったことは言ってないのだが。まぁ、美鈴さんらしいといえばらしい。

健康的の代名詞ともいえる人だしな。

パチュリー「私は被虐趣味じゃないの。治せるけど、治す前は確かに痛いのよ。なかったことにできるからってなくなる前にはそこに『存在』したことは否定できないわ」

対して不健康の代名詞と表現できそうなパチュリー・ノーレッジ。

………なくなる前にはそこに確かに『存在』した。か

俺に対して言っているわけではないと知っているが、それでもその言葉はずきりと心に響いた。

464ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/22(水) 16:32:01 ID:NwFz.mzQ
パチュリー「それで、私に用事みたいだけどなにかしら」

男「………あっ。えっと、この銃なんだけど」

パチュリー「機械関係は河童に頼んだほうがいいと思うけれど」

男「時間を戻せる銃なんだが」

パチュリー「………これが?」

怪訝そうな顔をして拳銃を見るパチュリー。

なんでもありのこの世界で時間を逆行させることだけはどうやら受け入れられないみたいだ。

いや、こんな何でもない男が言ってるからかな。

パチュリーはじーっと拳銃を見て、数度左右に首を傾げた。

パチュリー「確かにその拳銃には魔術的な痕跡はあるわね」

男「やっぱり―――」

パチュリー「でも時間を逆行させるようなものじゃない」

男「――――――」

パチュリー「あなたのいう通りその拳銃で時間を逆行したことがあるとして、おそらくその原因はこれじゃない。他の要因が必ずあるはず」

パチュリー「例えばあなた自身が特別な存在。とかかしらね」

465ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2018/08/22(水) 16:42:06 ID:NwFz.mzQ
俺が特別な存在?

だとしたらその時間逆行に付与するものだ。

俺自身は決して特別な存在ではない。

ただのどこにでもいる人間だ。

今まで特別な人生を送ってきたわけではない。一般的な家庭環境で一般的な生活を送り一般的に成長して

―――そして一般的に何も成し遂げられなかった。

美鈴「男さんになにかすっごい力があるんですか?」

パチュリー「さぁね。だけどもの凄い力の持ち主っていうのなら私が―――いや私じゃなくてもレミリアが気付いているでしょうね」

男「ご期待に添えなくてすまないが俺は見た通り平凡な人間だ。下手したらこの世界では平凡にすらなれないかもしれないぐらいの」

パチュリー「でも原因があることは確かよ。どうする? 頭の中でも覗いてみましょうか?」

その言葉で脳裏に頭蓋が砕かれる光景が浮かぶ。スイカ割りのようにも見えるがぞっとしない光景だ。

パチュリー「大丈夫。治るから」

男「治ったとしても痛みは確かにあるんだろう!?」

パチュリー「冗談よ。本気にしたいならやってあげるけど」

男「やめてくれ」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板